2022年9月8日に亡くなった、イギリスのエリザベス女王。崩御を受けて、バッキンガム宮殿や特設の献花場となった王立公園は、女王を追悼する多くの人が訪れ、花などの供え物で埋め尽くされました。花やメッセージなどのほかに供えられていたのは、クマのぬいぐるみ『テディベア』。特に、イギリスの人気キャラクター『くまのパディントン』のぬいぐるみが多く置かれていたそうです。エリザベス女王は生前、即位70周年を祝う『プラチナ・ジュビリー』の記念イベントで公開された動画のなかでパディントンと共演しており、チャーミングなやりとりが話題になっていました。供えられたテディベアの行く先は同年10月16日、王立公園はTwitterを更新。女王に供えられた大量のテディベアを、イギリス最大の子供の慈善団体『Barnardo’s』に寄付することを公表しました。We’re pleased to announce that over 400 teddy bears left as a tribute to Her Majesty Queen Elizabeth II are to be donated to @barnardos .After being collected & stored in the Hyde Park nursery, the teddies will now be professionally cleaned. Read more — The Royal Parks (@theroyalparks) October 16, 2022 王立公園のウェブサイトでは、次のよう発表しています。王立公園の慈善団体は、ボランティアの助けを借りて、献花場を片付け始めました。花はケンジントンガーデンズに運ばれ、堆肥化されます。今後数年間で王立公園の土壌が豊かになるでしょう。片付けの過程で400体以上のテディベアが集められ、ハイドパークの保育園に保管されました。そのうちの100体はパディントンベアです。ロイヤルレジデンスの外に置かれていたテディベアは、バッキンガム宮殿とクラレンスハウスで保護されており、残りのテディたちと一緒にクリーニングされ、バーナード・チルドレン・サービスに寄付されます。The Royal Parksーより引用(和訳)今回、テディベアが寄付される慈善団体『Barnardo’s』は、恵まれない子供たちや若者をサポートしており、30年以上エリザベス女王が活動を支援してきました。『Barnardo’s』の最高経営責任者は次のようにコメントを寄せています。人々が女王の思い出に残したテディベアに家を与えることができることを光栄に思います。私たちは、子供たちに愛され、喜びをもたらすクマの世話をすることをお約束します.国内の弱い立場にいる子供や若者のニーズに対する意識を高め、私たちがサービスを通じて彼らを支援し続けることができるよう資金集めを支援してくれた女王陛下に、心から感謝をしています。The Royal Parksーより引用(和訳)現在、『Barnardo’s』の支援事業はカミラ新王妃が引き継いでおり、イギリス王室のInstagramでは、テディベアを抱く王妃の写真を投稿。「クマたちは新しい家に引き渡される前に、ベストな状態にするためにきれいにしました」とつづられていました。王室でもよく世話をされていることが伺えます。 この投稿をInstagramで見る The Royal Family(@theroyalfamily)がシェアした投稿 王立公園のスタッフたちは、数週間もの間、公園に残されたテディベアたちの『家探し』に奔走していたとのこと。子供たちが、テディベアを大切にかわいがってくれると思うと、ひと安心ですね。投稿には、多くのコメントが寄せられていました。・感動。ぬいぐるみを喜んでくれる子供たちに寄付するのは素晴らしいと思います!・なんて素敵な後日談。温かい気持ちになりました。・粋で優しい心遣い。なんだか、エリザベス女王陛下からの贈り物みたいですね。人々の気持ちが込められたテディベアたちは、きっと、子供たちの『お守り』となってくれることでしょう。[文・構成/grape編集部]
2022年10月17日2022年9月19日、イギリスのロンドンにあるウェストミンスター寺院でエリザベス女王の国葬が執り行われました。国葬を終えた女王の棺は、ロンドン郊外のウィンザー城にある礼拝堂に埋葬されました。女王に最後のお別れをする『家族』の姿がエリザベス女王の国葬には日本の天皇・皇后両陛下ら、世界各国から王族や首脳、およそ2千人が参列。王室のメンバーもそろって出席し、亡き女王を偲びました。女王の棺がウェストミンスター寺院からウィンザー城へ運ばれる間、沿道では大勢の人たちが葬列を見送りましたが、その中に女王にとってかけがえのない『家族』の姿がありました。それは、女王の最後の愛犬となったコーギーのミックとサンディ、そしてフェルポニーのエマです。ミックとサンディは、ウィンザー城の中庭で宮殿のスタッフとともに、女王の棺を出迎えました。また、エマはウィンザー城へ向かう『ロング・ウォーク』と呼ばれる並木道で、静かに女王の葬列を見送りました。Her Majesty The Queen’s coffin makes its final journey down the Long Walk to Windsor Castle for the Committal Service at St George's Chapel. pic.twitter.com/vqczfMENlM — The Royal Family (@RoyalFamily) September 19, 2022 海外メディア『BBC』によると、犬が大好きだった女王が最初に飼ったコーギーは、18歳の誕生日に贈られたスーザンという犬だそうです。それ以来、生涯で30匹以上のコーギーを飼っていたといいます。また、エマは女王のお気に入りの馬で、90歳代になるまで定期的にエマに乗っていたということです。沿道で女王の棺を見送るエマのサドルには、女王のヘッドスカーフがかかっていました。The funeral of Her Majesty The Queen.⚫️ pic.twitter.com/mcYyxYChXu — The Royal Family (@RoyalFamily) September 19, 2022 自分たちをかわいがってくれた女王に最後のお別れをするペットたちの姿は涙を誘い、ネット上では多くのコメントが寄せられました。・大人しく女王の棺を待っているコーギーたちを見て、涙が止まらなくなった。・女王がペットたちを愛していたのと同じくらい、彼らも女王を愛していたのでしょうね。・2匹のコーギーとポニーにとっては、最愛の母親を失ったということ。さびしいだろうな。ミックとサンディは、次男のアンドルー王子が引き取ることになったそうです。女王の棺がミックとサンディ、エマに見送られる瞬間は、動物を愛した心優しい女王を思い出させるシーンとして、人々の心に残ることでしょう。[文・構成/grape編集部]
2022年09月22日2022年9月8日に亡くなった、イギリスのエリザベス女王。崩御を受けて、ロンドンのバッキンガム宮殿からほど近い、ハイドパークやケンジントンパーク、グリーンパークなどの王立公園が献花場として特設され、連日多くの人が訪れています。If you are planning to visit Buckingham Palace today, please note you will not be able to access the area in front of the main gate. Those wishing to pay their respects can visit the Floral Tribute Garden in Hyde Park. pic.twitter.com/TqB5VqgYwK — The Royal Parks (@theroyalparks) September 18, 2022 大量の花はどうなるの?公園には、手向けられた大量の花やカードなどが並べられており、女王がいかに国民に親しまれてきたかが分かります。しかし、人々の思いが込められた献花は、この後どうなってしまうのでしょうか。王立公園は、献花の『行く先』についてウェブサイト上で「ラベルやカードを取り除き、花は堆肥にして王立公園の植え込みや造園事業で使用します」と公表。また、堆肥にするために、献花に訪れる人に次のようなお願いをしていました。環境保全のために、有機または堆肥にできるもののみで、お願いしています。献花用の花の包装はすべて取り除き、用意されたビンに入れるようにしてください。包装を取り除くことは花の寿命を延ばし、葬儀の日から1~2週間後に開始される堆肥化にも役立ちます。The Royal Parksーより引用(和訳)あらかじめ、プラスチックの包装や堆肥にできないものを供えないように指示するなど、環境に負担をかけない細やかな心遣いが感じられますね。さらに、Twitterでは公園内で自発的に包装紙を取り除き、花をきれいに並べなおす市民の姿も投稿されていました。ネット上では、こうした取り組みに多くの称賛の声が上がっています。・どうするのかと思っていました。隅々まで行き届いていて、すごくいい案だと思います。・ただ捨てるのでなく、植物を豊かにする肥料に還元。これを当たり前にできるところが、素敵すぎる。・素晴らしい。女王もきっとそうしてほしいと思っただろうな。環境にも配慮することで、人々の想いを無駄にせず次の世代につなげることができるのでしょう。イギリス国民の哀悼の姿勢から、学ぶべきものがありますね。[文・構成/grape編集部]
2022年09月21日日本時間2022年9月19日、イギリスのロンドンにある、ウェストミンスター寺院でエリザベス女王の国葬が執り行われました。国葬には世界各国から王族などの要人、およそ2千人が出席し、日本からは天皇皇后両陛下が参列しています。バグパイプ奏者の演奏に、感動の声英国王室のTwitterアカウントは、国葬の様子などを投稿。その中で、こちらの動画に多くの反響が寄せられています。As The Queen's Committal Service comes to a close, Her Majesty's Piper plays a lament. pic.twitter.com/4DVIUuCoPO — The Royal Family (@RoyalFamily) September 19, 2022 葬儀が終わりに近付くと、女王陛下のバグパイプ奏者が哀悼を奏でます。@RoyalFamilyーより引用(和訳)動画では、1人の男性が民族楽器『バグパイプ』を奏でながら、その場を立ち去る姿が映し出されていました。実はこの男性は、女王専属のバグパイプ奏者とのこと。伝統文化を大切にしてきた女王は、毎朝寝室の窓の下で奏でられる15分間のバグパイプの音色を合図に起床をしていたそうです。女王の目覚ましとして演奏をしてきた奏者が、永遠の眠りについた主人を哀悼し静かに去っていく様子が、なんとも感動的ですね。国葬の終盤、バグパイプによる哀悼曲『Sleep Dearie Sleep』が奏でられ、続いて国歌『God Save the Queen』が斉唱されました。男性によるバグパイプの演奏は多くの人の感動を誘い、ネット上でもたくさんのコメントが寄せられていました。・本当に素晴らしかった。段々と遠ざかっていく後ろ姿と音色に、涙が出ました。・人生で最も心に残る場面でした。・ライブ放送で観たけど、荘厳で鳥肌が立った。女王の棺は葬儀後、ロンドン郊外のウィンザー城に運ばれ、城内の礼拝堂に埋葬されるとのこと。バグパイプの美しい音色は、天国にいるエリザベス女王にもきっと届いていることでしょう。[文・構成/grape編集部]
2022年09月20日2022年9月8日に96歳で亡くなった、イギリスのエリザベス女王。同月19日の日本時間19時、ロンドンのウェストミンスター寺院でエリザベス女王の国葬が執り行われました。国葬には、各国の王族や国家元首、首脳らが参列。およそ2千人ほどが出席し、その様子は日本でもテレビなどを通して中継されました。国葬後、イギリス防衛省の公開した写真に称賛の声エリザベス女王の棺を議事堂に公開安置する際、棺を囲むように衛兵が配置され、交代制で24時間常に警備が行われました。背筋を伸ばして周囲を常に警戒し、直立不動でい続けるという、一般人から見ると過酷に感じる任務。国葬の中継を見た日本人からは、「微動だにしなくて、すごい…」「疲れないのかな?」といった声が上がっていました。同月18日、イギリスの防衛省は、Twitterアカウントに4枚の写真を投稿。「70年にわたって在位したエリザベス女王に敬意を表し、警備を行っています」というメッセージとともに、警備を担う衛兵たちの姿を公開しました。しかし、写っているのは直立不動で警備を行う衛兵たちの姿ではなかったのです。The UK Armed Forces are continuing to honour their Commander-in-Chief of 70 years, Her Majesty The Queen, as they stand vigil alongside The King's Body Guard. pic.twitter.com/1iJi4xGGbJ — Ministry of Defence (@DefenceHQ) September 18, 2022 写っているのは、なんと衛兵たちが休憩をする姿!彼らは上着や帽子を脱ぎ、椅子に座ったり、笑顔で談笑をしたりと、各々心身を休めているようです。国葬という重大な場の警備を担う人たちの、休憩中の写真をネットで公開するのは、日本ではにわかに信じがたい行為といえるでしょう。イギリスの防衛省がこういった写真を公開したのは、任務をまっとうするためには休憩も必要であると考え、衛兵をしっかりと休ませていることを世間に伝えるためなのかもしれません。投稿は拡散され、多くの日本人から驚く声や称賛する声が上がりました。・こういう写真を公開できるのは、すごい。日本では考えられないな。・あの服の下が私物っぽいTシャツなことに驚き!確かに、中まできっちり着込むのは大変だもんね。・ハードな仕事こそ、休憩は本当に重要。こういうのが日本でも当たり前になればいいのに…。日本ではたびたび、警察官や救急隊員が休憩をとることに対し、心ない苦情が寄せられるといいます。どの仕事も、心身の健康があってこそのもの。多くの日本人が、イギリス防衛省の投稿を見て「日本も、これが当たり前になってほしい」と思ったようです。[文・構成/grape編集部]
2022年09月20日2022年9月8日、イギリスのエリザベス女王が96歳で崩御しました。エリザベス女王が逝去新国王チャールズ3世が声明を発表「この上ない悲しみ」イギリスのロンドンにあるバッキンガム宮殿には、女王崩御を受けて多くの国民が訪れ、哀悼の意を示しています。駐日英国大使館は、同月11日にTwitterを更新。1枚の写真を投稿していました。駐日英国大使館ならびに在大阪英国総領事館に寄せていただいている多くの方からの弔意に心から感謝いたします。We would like to express our sincere gratitude for all the flowers and messages of condolence we have received at the British Embassy in Tokyo and Consulate General in Osaka. pic.twitter.com/RSZ9mOTboV — UK in Japan (@UKinJapan) September 11, 2022 公開されたのは、大使館前に手向けられた、たくさんの献花の写真。投稿には「献花に行きました。安らかなご冥福をお祈りします」「近くに立ち寄ったら花があってうるっとした。心の中で合掌しました」などの声が寄せられています。駐日英国大使館は、同月12~16日(金)の日程で、一般の人を対象とした、記帳台を開設しています。On the occasion of the death of Her Majesty The Queen, we are opening an official condolence book for members of the public to sign at the British Embassy Tokyo.エリザベス二世女王陛下の崩御に際し、一般の方々を対象とした駐日英国大使館での記帳台の開設についてご案内いたします。 pic.twitter.com/7po04WLGGr — UK in Japan (@UKinJapan) September 9, 2022 日本の皇室とも関係が深く、東日本大震災の際には、お見舞いのメッセージを寄せていたエリザベス女王。国内外問わず、多くの人に親しまれ愛されていたことが分かりますね。[文・構成/grape編集部]
2022年09月12日2022年9月8日、70年にわたって在位していた、イギリスのエリザベス女王が亡くなりました。96歳という天寿をまっとうし、滞在していたスコットランドのバルモラル城にて旅立ったという、エリザベス女王。イギリスの女王であると同時に、無類の犬好きとしても知られており、中でもコーギーには愛を注いでいました。エリザベス女王とともに生活するコーギーたちは『ロイヤル・コーギー』と呼ばれ、これまでもさまざまな場で愛らしい姿を見せています。そのため、エリザベス女王の逝去が報じられると、ネットからはコーギーたちを心配する声が上がっていました。エリザベス女王の『ロイヤル・コーギー』の新しい家族が決定同月11日、エリザベス女王が飼っていた2匹のコーギーの新しい家族が、次男のアンドルー王子に決定したことが明らかになりました。産経ニュースによると、2匹のコーギーのうち1匹は、フィリップ殿下が生前に入院していた際、王子らがエリザベス女王を元気付けるため贈ったのだそうです。夫であるフィリップ殿下は2021年に亡くなっています。きっとエリザベス女王は、これまで2匹のコーギーに励まされてきたのでしょう。コーギーたちの引き取り先が無事に決まったことに、ネットからは「本当によかった!」「新しい家族ともお幸せに」といった声が上がっています。生涯で計30匹以上のコーギーと生活をともにしてきた、エリザベス女王。きっと雲の上では、かつての愛犬たちと再会を果たしていることでしょう。[文・構成/grape編集部]
2022年09月12日2022年9月8日、イギリスのエリザベス女王が、滞在していたスコットランドのバルモラル城にて逝去しました。96歳でした。同月9日にイギリス王室のInstagramアカウントは、エリザベス女王の写真とともにコメントを発表。「女王は本日の午後、バルモラル城で穏やかに亡くなりました。国王と王妃は今晩、バルモラルにとどまり、明日ロンドンに戻ります」とつづっています。 この投稿をInstagramで見る The Royal Family(@theroyalfamily)がシェアした投稿 エリザベス女王の逝去により、長男であり、王位継承権1位のチャールズ皇太子が国王チャールズ3世として即位しました。チャールズ3世は、女王の逝去を受け、次のように声明を発表しています。最愛の母である女王陛下の死は、私と家族全員にとって、この上ない悲しみです。私たちは大切な君主であり、多くの人々に愛された母の死を深く悼みます。女王の喪失は、国内全体、王国とイギリス連邦、そして世界中の無数の人々によって深く感じられることでしょう。この喪と変化の時期に、私と家族は、女王が広く敬意と深い愛情を抱かれていたことを知ることで慰められ、支えられていくことでしょう。theroyalfamilyーより引用(和訳) この投稿をInstagramで見る The Royal Family(@theroyalfamily)がシェアした投稿 1952年に即位した、エリザベス女王。70年に及んだ在位期間はイギリス君主の中でも歴代最長を誇ります。訃報を受けて世界中から悲しみの声が上がり、ネット上でも追悼コメントが続々と寄せられていました。・小さい頃からエリザベス女王をテレビで見ていたから、本当に悲しくさびしいです。・強く優しく、時には厳しいお顔をされていても、大好きでした。心からご冥福をお祈りいたします。・もうこの世にいないなんて、驚き、哀しい気持ちです。ご高齢でのご公務、大変お疲れさまでした。生涯を通してイギリス文化の伝統と価値を守り、国民に献身をしてきた、エリザベス女王。その功績は、後世に渡り語り継がれていくことでしょう。心よりご冥福をお祈りいたします。[文・構成/grape編集部]
2022年09月09日いまやインターネットで検索すれば、世界中のどんなニュースでも簡単に知ることができる時代。とはいえ、文字だけでは伝わらない思いがその裏に隠されていることもあります。そこで、今回ご紹介するのは、激動の時代を生きた香港の人々に迫る話題のドキュメンタリー作品です。『Blue Island 憂鬱之島』【映画、ときどき私】 vol. 503一国二制度が踏みにじられ、自由が失われつつある香港。2014年に起きた民主化要求デモ「雨傘運動」のあと、やるせない思いが憂うつさとなって覆っていた。そんななか、異なる時代を生きた実在の3人が若者たちに語るのは、文化大革命や六七暴動、天安門事件といった世界を震撼させた事件の記憶。激動の歴史を乗り越え、自由を守るために闘ってきた彼らが、時代を超えて現代の人々に伝えたい思いとは……。今回、香港と日本による共同製作によって完成した本作。北米最大のドキュメンタリー映画祭「Hot Docs 2022」では最高賞を受賞するなど、大きな注目を集めています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。チャン・ジーウン監督2016年に発表した長編ドキュメンタリー第 1 作『乱世備忘僕らの雨傘運動』では、山形国際ドキュメンタリー映画祭で小川紳介賞を受賞したのをはじめ、台北金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされるなど、高い評価を得ているチャン監督。本作を制作するに至った思いや撮影時の苦労、日本との共同作業で感じたことなどについて語っていただきました。―本作の構想は、いつ頃から監督のなかにあったのでしょうか。監督2014年の雨傘運動も終わり、少し落ち着き始めていた2017年頃に本作のことを考えるようになりました。特に、前作『乱世備忘僕らの雨傘運動』のラストシーンで、主人公の男性に「自分の将来はどうなると思いますか?」とたずねているところがあったので、その続きになるような作品ができたらいいなと。なかでも、彼らと同じような運動に参加し、似た経験をしてきた年配の方々がどうなったのかを見せることで、若い世代の人たちに、これからの20年、30年、さらに50年後の未来について考えてほしいと思いました。―本作は通常のドキュメンタリーとは違い、再現シーンでは当事者たちを現代の若者に演じさせている構成も非常に印象的でした。そのようにした意図についても、お聞かせください。監督2019年に大規模な反政府デモが起きたので、ただ歴史的な話を入れるのではなく、その運動に参加した若者たちの困難も描きたいと思うようになりました。なぜなら、本作に出演している若者たちは、裁判を控えていて、刑務所に入るかもしれない不安を抱えていたり、香港を離れることも考えたりしているような状況だったからです。撮影に関していうと、70~80年代の衣装や美術の準備をすることも、俳優ではない彼らにパフォーマンスしてもらうことも、とても難しくて大変でした。とはいえ、それによって映画が豊かになっていくような感じはあったと思います。一人一人の意志と精神を引き継ぎたい―いっぽうで彼らは政府に目をつけられているような立場に置かれている状況でもあるので、こういった映画に参加するリスクなどもあったのではないかと想像してしまうのですが……。監督僕自身も、彼らの安全に関してはいろいろと考慮しました。ただ、2019年のデモが終わったあと、彼らが過ごしていたのは何もできない状態の日々。それだけに、「何かやりたい」という思いからこの作品に参加してくれた人がほとんどでした。もちろんリスクも考えなければいけなかったので、どこまでできるかはそれぞれと相談しながらでしたが、できるだけみんなの思いを尊重しています。今回も日本にこの作品を持ってくることで、彼らに影響を与えてしまうのではないかという心配もありました。でも、いまは一人一人の意志と精神を引き継ぎたいという思いです。―監督自身が本作を制作するうえで、当局から制限されたり、圧力をかけられたりしたことはなかったですか?監督僕が唯一残念だと思っているのは、香港で上映ができないこと。どこでもいいから上映したいと考えていましたが、2020年に反政府的な動きをする人々を取り締まる香港国家安全維持法、そして2021年に映画の検閲を強化する条例が改正されたことによって実現できなくなりました。日本以外にもアメリカやカナダなどで上映されますが、香港の映画を撮ったにも関わらず香港の人々に観てもらえないのは悲しいことですね。あとは、将来的な資金面において、香港からもらうことは難しいので、今後も海外に頼ることになるのではないかと考えています。ただ、いまの香港はさまざまな変化をしているときでもありますし、難しければ難しいほど撮る意義があるということでもあるので、今後も香港のドキュメンタリーを撮っていきたいです。香港人のアイデンティティは、つねに変化し続けている―香港の方々は、“香港人のアイデンティティ”をつねに追求しているところがあり、そこが日本人とは大きな違いだとは思います。監督にとって、香港人としてのアイデンティティとは何ですか?監督確かに、日本では日本人のアイデンティティについて普段から考えることはあまりないかもしれませんが、香港といえば、1997年までイギリスの植民地で、そのあと中国に返還されたので、僕たちからすると別の植民地に移ったような感覚。そのため、香港のなかでも、自分のことを「中国の香港人だ」という人がいたり、「イギリスの香港人だ」という人がいたり、「どちらでもないただの香港人だ」という人がいたり、本当にいろいろです。しかも、僕も含めた香港人はみな流動的なところがあるので、今日思っていたことと、明日思うことが違う場合もあるほど。今回の撮影中に、僕自身もその答えを模索しようと考えていましたが、いまだに結論には達していないので、香港人のアイデンティティはつねに変化しているものだと感じています。―なるほど。また、今回は3世代にわたる方々に取材をされていますが、上の世代の方と話をしてみて、印象に残っていることはありましたか?監督先輩たちが思う香港といまの香港が全然違うので、こういう考え方もあるのかと、いろんな気づきはありました。そのほかに興味深いと感じたのは、彼らが経験してきた天安門事件や六七暴動などの運動というのは、短くて1日、長くても数か月くらいのものでしたが、そんな短期間だったにもかかわらず、いまでも彼らの人生に大きな影響を与えていること。そういった運動をきっかけに弁護士になった人もいましたが、彼らはいまでも香港人のために何かしたいという姿勢を崩していないですし、誰かのためになることを考え続けているのです。運動から何十年経っても引きずってしまうほど、当事者にとっては一生忘れられないほどの出来事だったのだと改めて感じましたし、そんな彼らの姿からは学ぶこともありました。これからの香港は、もっと暗い色になる可能性もある―タイトルの「Blue」には悲しみや落胆、そして香港が感じている憂うつを表しているということですが、今後の香港にはどんな色に変わってほしいと願っていますか?監督僕は毎回作品には色をつけようと思っているので、前作では黄色、そして今回は青色を使いましたが、正直に言うと、これからの香港はもっと暗い色になる可能性があるのではないかと感じています。次回作では黒を使おうかと考えていますが、黒というのはいろんな色が混ざり合って出来上がった色でもありますからね。黒のなかにも、鮮やかな色も入れられたらと思っています。―これまで何度か日本にはいらっしゃったことがあるそうですが、日本での思い出といえば?監督今回が5回目の来日ですが、一番印象に残っているのは、山形国際ドキュメンタリー映画祭で賞をいただいたこと。どうしても仕事の思い出ばかりではありますが、いろんなところをブラブラしてラーメンを食べたり、お寿司を食べたり、買い物なども楽しんでいます。―ちなみに、本作は日本との共同製作となりましたが、日本人と仕事をしてみた印象についても教えてください。監督今回は、「なぜ香港の若者たちはこんなに政治に興味があるのか」というところに興味を持っていただき、協力を申し出てくださったことで合作となりました。日本の方は時間に正確で、仕事もすごく的確。おかげで、いろんなことが本当にスムーズに進みました。香港もそこまでルーズではありませんが、適当なところもあるので、そこは日本と違うところかなと。ちなみに、仕事では大丈夫でも、香港の人たちはプライベートでは基本的に時間に遅れる人が多いですよ(笑)。―それでは最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。監督香港だけでなく、いまの世界が共通して抱えている問題や人々の思いというのが、日本のみなさんにもわかりやすく見ていただけると思っています。あとは、ジェネレーションの違いも見せているので、それがどのようにつながっているのかも感じていただけたらいいなと。香港と日本というのは、遠そうで近い場所でもあるので、いまの香港の若者たちがどんな困難に見舞われ、何に苦戦しているのかといったことを見て、みなさんにも考えていただきたいです。過去を知ることで、未来を考える!住む場所は違っていても、激動の時代を生きた人々から学ぶべきこと、そして同じ時代を生きる若者たちがどんな思いを抱えながら闘っているのかを知ることができる本作。それによって、自分の置かれている環境や生き方を改めて見直す機会を与えられるはずです。取材、文・志村昌美心を揺さぶられる予告編はこちら!作品情報『Blue Island 憂鬱之島』7月16日(土)より、渋谷のユーロスペースほか全国順次公開配給:太秦️©2022Blue Island project
2022年07月15日仕事やプライベートで思うようにいかないとき、誰もが経験したことがある我慢の限界。そこで、今回ご紹介するオススメの1本は、“沸騰寸前”の人々を映し出し、ハラハラと共感が止まらない注目作です。『ボイリング・ポイント/沸騰』【映画、ときどき私】 vol. 502一年でも、最も賑わうクリスマス前の金曜日。ロンドンにある人気高級レストランでオーナーシェフを務めるアンディは、妻子と別居したことで疲れきっていた。そんななか、店内では次々とトラブルが起き、スタッフたちの間も一触即発状態になってしまう。そこに追い打ちをかけるように現れたのは、アンディのライバルシェフ。店内で予期せぬトラブルが続出するなか、アンディは脅迫まがいの取引を持ちかけられる。すでに心身の限界点に達していたアンディは、波乱に満ちた一日を切り抜けることができるのだろうか……。編集もCGも一切なしの90分間ワンカットによって制作されたことでも話題の本作。驚異の映像に各国で絶賛の声が巻き上がっていますが、その舞台裏についてこちらの方にお話をうかがってきました。フィリップ・バランティーニ監督俳優としてのキャリアを積みながら、現在は監督としても注目を集めているバランティーニ監督。過去には、シェフとしても15年ほど働いていたことがあり、本作は当時の経験からアイディアが生まれた作品となっています。今回は、実体験から痛感している社会的な問題や撮影時の苦労、そして日本から受けている影響などについて、語っていただきました。―本作で描かれているエピソードというのは、すべて実際にご自身が経験したことや周りから聞いた出来事を基に構成されたのでしょうか。監督そうですね。この作品では、僕が見たことや経験してきたことすべてを入れています。僕はシェフとして働き始めてから10年で料理長になりましたが、その業界のなかでは早いほうだったので、“集中コース”みたいな感じで働いていました。もちろん、おもしろさと情熱があったからできたことでしたが、劇中のアンディが経験していたようなストレスもあり、非常に大変な思いをしたことも……。僕がお酒を飲まなくなって7年が経ちますが、キッチンで働いているときはアンディと同じくアルコール依存症になったこともありました。そういう意味でも、僕自身に近い作品となっています。みんなが共感できるリアルな映画を作りたかった―依存症以外にも、過酷な労働環境や低賃金、人種差別、ハラスメントなど、さまざまな問題を描いています。それらを映画にしたいと思うようになったきっかけはいつですか?監督映画を作りたい気持ちはつねにあったので、何かあればメモに残したり、エピソードを頭の片隅に記憶したりしていました。ただ、自分に自信がなかったため、監督に挑戦できないままでいたというのが実際のところです。そんななか、大きなきっかけとなったのは、6年前に母の死を経験したこと。そこから、自分の夢を追求しようという思いに駆り立てられるようになりました。僕がこの題材を取り上げたいと思った理由のひとつは、サービス業界にはエンターテインメントになりやすい要素が多いから。とにかくスリリングでエキサイティングですが、そのいっぽうで悲しいことも起きますよね。悲喜こもごも、いろんな出来事があるので、映画にしやすいと感じました。―レストランを舞台に描いたほかの作品とは、かなり違う印象を受けましたが、意識されていたことは?監督サービス業界やレストランについて描かれているこれまでの作品に関して言うと、僕はあまりリアルではないと感じていました。だからこそ、みんなが共感できるほどリアルな映画を自分が作りたいなと。本作で描いていることは、サービス業界だけでなく、金融や銀行、建築など、強いプレッシャーがかかりやすいさまざまな業界の人たちにも通じることなので、多くの方に共感してもらえるのではないかなと思っています。撮影はすべてが大変だったが、毎日楽しかった―また、本作の大きな特徴といえば、90分間のワンカット。店内の構造などの点においても、かなり大変だったと思いますが、どのようにして撮影されたのでしょうか。監督ワンカットで撮ること自体とてもチャレンジングなことでしたが、なかでも一番大切にしていたのは、自然に見せること。そのために、多くのプランを事前に準備する必要がありました。そこで、まず初めにしたのは、カメラマンと僕の2人による練習。撮影場所となるレストランの営業時間外、つまり早朝と深夜に、レストランのなかでリハを行いました。内容としては、僕がすべてのキャラクターをひとりで演じ、それをカメラマンが追いかけるというもの。それを4週間近く続け、全体の流れが決まってきたら、俳優たちを入れ、セリフを作りながらのワークショップとリハをしました。―撮影を振り返ってみて、特に苦労されたことといえば?監督すべてが大変でしたが、35人にも及ぶ登場人物全員がその場にいるというのは難しかったところかなと。というのも、通常の映画を撮る場合は、話している人というのは数人で、カメラに映らない人は控室で待ってもらうことが多いですよね?それに比べて、この映画では全員がレストラン内にいて、しかも同時にしゃべってもいるので、そこが苦労したところでした。あと、本当は8テイク撮る予定でしたが、スケジュールの変更が原因で4テイクしかできなかったというのもありましたね。本編では3回目の映像を使用しています。ただ、すごく楽しくもあったので、大変ではあるけれど、毎日笑顔で仕事ができていたのでよかったです。素晴らしいチームに支えてもらいましたし、「みんなで最高の映画を作ろう!」と一致団結していたので、とても充実した時間になりました。光を当てた社会問題について、人々に考えてほしい―今回は即興やアドリブをかなり取り入れて撮影されたそうですが、それだからこそ生まれたシーンというのがあれば、教えてください。監督自身が驚いたこともありましたか?監督特に驚いたのは、副料理長のカーリーがマネージャーに叫んでいるシーン。モニター越しでもすごい緊張感が伝わってきて、息もできないほどでした。即興の部分は、リハでも何度かしましたが、回を重ね過ぎて新鮮味がなくなってしまわないように気をつけています。撮影中は何が起こってもおかしくないので、撮影中は身を乗り出して構えていたほど。それくらい、最初から最後まですべてが刺激的でした。―劇中では飲食業界のみならず、社会が抱えているさまざまな問題を次々と見せています。それらを改善するためにはどこから取り組んでいくべきとお考えですか?監督ここで描いていることは、どれも早急に改善しなければいけないものばかりですが、残念ながらいまの世の中ではこれらの問題がすぐに解決するのは難しく、常にあるのが現状だと言わざるを得ないでしょう。ただ、はっきりと目に見えない場合もあるので、そんななかで僕ができることといえば、社会のなかにある問題に光を当てて浮き上がらせ、人々に考えてもらうことだと思っています。そのほかに重要なものとしては、メンタルヘルスに関して。イギリスではだいぶ援助の手が広がってきたところもありますが、まだ解決したとは言い難い状態だと感じてます。この10年でイギリスの料理は進化を遂げた―日本のカルチャーで影響を受けているものや好きなものがあれば、教えてください。監督残念ながら、日本にはまだ行ったことがありませんが、絶対に行きたい国のひとつです。何が大好きかというと、日本の食べ物。お寿司も好きですが、一番はラーメンですね。特に、僕はシェフだったこともあって、日本の料理には大きな影響を受けました。ある時期には、日本とイギリスの料理を組み合わせてフュージョンのような料理を作っていたほど。日本の材料を使って料理をすることを楽しんでいました。もし日本に行ったら、観光客向けではないリアルな経験をしたいと考えています。大好きな映画のひとつに『ロスト・イン・トランスレーション』があるので、いつか日本で映画が撮れたらいいですね。とにかく、僕のやりたいことリストの上のほうにあるのが、日本に行くことです。―昔から「イギリス料理はマズい」というイメージは根強くあり、正直に言うと、私も20年以上前には現地でそのような印象を受けました。ただ、個人的にはここ10年ほどで料理の質が上がっているだけでなく、ジャンルの幅も広がっていると感じています。日本の観客にも、いまのイギリス料理の良さについて教えてください。監督本当にその通りで、イギリスの食事情はここ10年くらいでかなり進化しました。いろんな食材が手に入るようになりましたし、ロンドンに行けば世界中の食べ物も楽しめるようになったほど。そんなふうに、さまざまな国の食文化が入ってきたからこそ、イギリス料理も成長せざるを得ない状況になったのだと思います。そのなかでもカギとなってるのは、何といっても食材の素晴らしさ。お肉や魚、オーガニックの野菜、パンなど、質の高いものが手に入るようになりました。それと同時に、健康的なものを食べたいという人々の意識も高まってきたのも、この10年でイギリス料理がステップアップした理由だと思います。驚異の没入感に興奮も高まり続ける!これまでのレストラン映画にはないようなスリリングな展開と、ワンカットによる圧倒的な映像力でも話題沸騰の本作。リアルを追求したことで生み出される臨場感と息を飲むような緊迫感が“最高のスパイス”となり、味わったことのない映画体験へと誘ってくれるはずです。取材、文・志村昌美目が離せない予告編はこちら!作品情報『ボイリング・ポイント/沸騰』7月15日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開配給:セテラ・インターナショナル️© MMXX Ascendant Films Limited
2022年07月14日2022年を語るうえで欠かせないひとりといえば、英国君主のエリザベス女王。今月初旬には、在位70周年を祝う記念行事「プラチナジュビリー」が行われ、世界中から祝福の声が上がりました。そこで、まさにいま観るべき注目のドキュメンタリー映画をご紹介します。『エリザベス女王陛下の微笑み』【映画、ときどき私】 vol. 4921952年に25歳の若さで即位し、いまや“世界でもっとも有名な女性”とも呼ばれるエリザベス2世。100年近くになる人生のなかで、さまざまな歴史や文化、そして事件と向き合ってきた。“お城に住むお伽話の主人公”のような存在であり、実態はベールに包まれてきたが、1930年代から2020年代までのアーカイブ映像で明かされるのは、ゲームや競馬にはしゃぐキュートな姿や各世代のスーパースターたちとの華やかな様子。そこから垣間見ることができるエリザベス女王の素顔とは……。本作は、『ノッティングヒルの恋人』などを生み出し、多くの映画ファンに愛されたロジャー・ミッシェル監督が手掛けた最後の作品。コロナ禍で次回作の撮影ができないなか、2021年9月に急逝する直前まで新たな試みに挑戦し続けた意欲作です。そこで、監督の思いを誰よりも知るこちらの方にお話をうかがってきました。ケヴィン・ローダーさんロジャー・ミッシェル監督(写真・左)から声をかけられ、企画の立ち上げから携わってきたプロデューサーのケヴィンさん(同・右)。今回は、完成までの道のりやエリザベス女王の魅力、そして監督が伝えたかったことなどについて語っていただきました。―当初、監督と話し合いをする際に用意されていたテーマリストには、幅広いジャンルが並んでいたそうですが、そのなかからエリザベス女王を選んだ一番の決め手は何でしたか?ケヴィンさん もともとロジャーから言われていたコンセプトは、「アーカイブ素材を使ってドキュメンタリーを作ろう」というものでした。そこで、一番映像が不足しない題材といえば、エリザベス女王ではないかなと。何といっても、90年分以上はありますからね(笑)。そういった理由もありましたが、もうひとつにはフィルムメイカーとして大胆なものを作れるチャンスでもあると感じたからです。特に、王室に関してはこれまでさまざまな映像作品が制作されていますが、どこか同じような慣例的なものばかり。それをまったく違うやり方で作ったら、おもしろいことになるのではないかと思ったのです。もちろん、女王は僕らにインスパイアを与えてくれる存在でもありますが、本作では女王という概念を掘り下げるものしたいと考えました。―本作がありきたりなドキュメンタリーではないのもうなずけます。とはいえ、王室サイドから細かくチェックされることもあったのではないでしょうか。ケヴィンさん 彼らから制限や変更を求められることはもちろん、そういったことを匂わせることすらありませんでしたね。ただ、王室のホームビデオや普段なら見られないような映像に関しては、権利を持っている王室に許可をもらわないと使えない素材だったので、事前にこちらの意図を聞かれることはありました。その際に、これまでの王室モノとは違うものになるという話はしていましたが、リスペクトと愛情が表現された作品になることもしっかりと説明していたので、きちんと理解もらえてよかったです。あとは、王室関連の映像が揃っているライブラリーのなかから、おもしろい映像が出てこないかをひたすら探し続けるという作業をしました。見習うべきは、他人や世界に対する好奇心―そういった努力があったからこそ、あれほど興味深い映像がそろったのですね。リサーチを進めるなかでは、女王の知られざる一面に驚くようなこともありましたか?ケヴィンさん 以前から、ユーモアのセンスをお持ちだと思ってはいましたが、ここまでとは予想していませんでしたね。女王は本当に機知に富んでいて、物事を楽しむ気持ちに溢れている方だと思っています。劇中で「女王は自分のことをコメディアンだと思っているに違いない」と言うコメディアンのシーンがあり、それは会う人みんなが女王に対して笑顔を向けることへのジョークですが、実際の彼女も成熟したユーモアをお持ちではないかなと。公務などでつねに行儀よくしていないといけない立場だからこそ、正気を保つためにも女王にはユーモアが必要だと感じました。直接お会いしたことはありませんが、もし一緒に過ごすことができたら、きっとすごく楽しいと思います。―では、ananwebの読者がエリザベス女王の生き方から学ぶとしたらどんなことが挙げられますか?ケヴィンさん 「健康的な生き方が長い人生につながる」というのを実践されている方ですが、僕からすると女王から見習うべきは、他人や世界に対する好奇心。そういったことをつねに意識し、興味を持って向き合うことができるからこそ、96歳になったいまなおアクティブでいられるのかなと思います。なので、みなさんにも好奇心と興味を持つことはいつまでも大事にしていただきたいですね。少女時代に学んだことを自身の人生で体現している―在位から70年間は、楽しいことばかりではなく、さまざまなプレッシャーやスキャンダルにも見舞われてきました。そんななかでも、エリザベス女王を支えていたものは何だと感じましたか?ケヴィンさん どんなことがあっても尊厳を失わずに凛とされているのは、強さを持っているからだと思いますが、おそらくそれは少女時代の戦争体験によるものではないでしょうか。特に、女王の両親は、ロンドンが爆撃を受けてもほかの場所に避難することなく、被害に遭った方々に会いに行ったりされていましたので。10代の頃にそういう姿を目の当たりにし、自分も戦争を生き抜いてきたのは大きかったのではないかなと思います。そういったことをきっかけに、尊厳を持ちながら強くいなければいけない、そして周りの人たちに対して思いやりを持ち、つねに仕事熱心に励むべきだ、と自分で思われたのかもしれないですね。実際、ご自身の人生を持ってそれを見事に体現されていると感じています。―また、本連載では昨年『ブラックバード家族が家族であるうちに』でロジャー・ミッシェル監督へ取材をさせていただいており、映画作りの楽しさなどを教えていただきました。本作の制作過程で、監督との忘れられない思い出についてもお聞かせください。ケヴィンさん 今回、女王の報道担当官と事前に朝8時半からブレックファーストミーティングをする機会があり、当初はバッキンガム宮殿で行われる予定だったので、ロジャーも僕もすごくワクワクしていたんです。ところが、直前で「宮殿内に工事が入ってしまったから近くのカフェでやりましょう」と。残念な思いのままカフェに行ったら、まだカフェが開いていない。そのときに、「これは作品にとって悪い兆しなんじゃないだろうか」と2人で一緒に心配な気持ちになってしまったことを思い出しますね(笑)。でも、担当の方ときちんと話をすることができ、僕たちのビジョンも理解していただけたのでよかったです。観客のみなさんと一緒に歩んでいる感覚を味わえる―まもなく公開を迎える日本についておうかがいしますが、ケヴィンさんはどのような印象をお持ちですか?ケヴィンさん 日本にはまだ行ったことがないのですが、“死ぬまでに行きたい場所のリスト”には入れています。というのも、僕の子どもたちがアニメ好きで、家でもよく日本のアニメを観ていることもあり、僕自身も興味を持っているからです。自分が10代の頃はまだ日本に関する情報があまりありませんでしたが、いまはロンドンにも日本レストランはたくさんありますし、若者たちが日本のカルチャーから影響を受けているので、そういったところから学ぶことはいろいろとあります。僕個人としては、学生時代に溝口健二監督や小津安二郎監督をはじめとする日本の素晴らしい映画作家たちの作品を数多く観て、インスピレーションを受けました。そのため、日本の歴史的な部分について知っていることは、すべて20世紀の名匠たちによる傑作からの知識です。いずれにしても、日本の文化というのは、ワクワクするような鮮烈な文化だと思っています。―日本にもエリザベス女王のファンは多いので、見どころなどを含めてメッセージをお願いします。ケヴィンさん 本作は王室を題材にしたこれまでの作品とは違った形で描いているので、人間としてまたシンボルとしてのエリザベス女王について考えるきっかけになればいいなと思っています。そして、彼女といえば、ここ90年にわたる歴史の真っ只中にいた存在。そういう意味でも興味深いですし、観客のみなさんも自分の人生と一緒に歩んできた感覚が味わえるはずです。とても温かい気持ちになりますし、それが感動にもつながると思うので、ぜひ楽しんでください。人々が愛さずにはいられない理由がある!ミステリアスでありながら親近感があり、強靭でありながらチャーミングでもあるという多面的な魅力に溢れるエリザベス女王。これまで見たことのない女王の新たな素顔に驚くとともに、その生きざまには誰もが魅了されてしまうはずです。取材、文・志村昌美もっと知りたくなる予告編はこちら!作品情報『エリザベス女王陛下の微笑み』6月17日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開配給:STAR CHANNEL MOVIES©Elizabeth Productions Limited 2021
2022年06月15日「恋」とひと口に言ってもさまざまですが、人々を魅了する恋のひとつといえば秘密の恋。そこで、今回ご紹介するのは、人生を一変させてしまったある身分違いの恋を描いた傑作ラブストーリーです。『帰らない日曜日』【映画、ときどき私】 vol. 4871924年、3月のある日曜日は、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される母の日。しかし、ニヴン家でメイドとして働く孤児院育ちのジェーンに帰る家はなかった。そんな彼女のもとへ、秘密の関係を続ける近隣のシェリンガム家の跡継ぎであるポールから、家に来るようにと誘いが舞い込む。幼馴染のエマとの結婚を控えていたポールは、前祝いの昼食会への遅刻を決め込み、邸の寝室でジェーンと愛し合うことに。やがてポールが昼食会へと向かうと、ジェーンはひとりで広大な無人の邸を一糸まとわぬ姿で探索する。ところが、ニヴン家に戻ったジェーンを待ち受けていたのは、思わぬ知らせだった……。作家のカズオ・イシグロ氏が絶賛したことでも知られる話題の小説『マザリング・サンデー』を映画化した本作。胸を締めつける愛の物語は、カンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭でも高く評価されています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。エヴァ・ユッソン監督Vittorio Zunino Celotto『青い欲動』や『バハールの涙』で注目を集めたのち、テレビドラマなども手掛けているユッソン監督。生まれ育ったフランスのみならず、アメリカ、イギリス、スペイン、プエルトリコといったさまざまな国で暮らした経験を持ち、今後幅広い活躍が期待されています。今回は、いまの時代に生きる人たちに伝えたい思いや撮影の裏側などについて、語っていただきました。―脚本を読んだとき、この作品にはすぐにつながりを覚えたそうですが、どのあたりに魅力を感じたのかを教えてください。監督私が最初に読んだのは、脚本ではなく小説のほうでしたが、思わず涙してしまったほど感動しました。私は普段からいろいろな本を読んでいるので、泣くほどの作品というのは決して多くありません。ちょうど自分の身近な人を亡くした喪失感を味わっていたときだったというのもありますが、この作品にはエモーションを感じていたのです。そして、それと同じ感覚をアリス・バーチの脚本からも感じ取ることができたので、どうしてもこれを映画にしたいと思いました。―そういった思いを映像化するうえで、意識されたこともあったのでしょうか。監督まず、現代社会というのは分断されているところがあるので、自分が抱えている痛みや悲しみを周りの人たちと分かち合うことができる機会が少ないと感じています。だからこそ、芸術を通じてそれらを昇華できるようにしなければいけないと考えました。つまりそれは、アリストテレスが言うところのカタルシスみたいなものではないかなと。それができずに痛みや悲しみを抱え込んでいると、カラダに影響し、病気になってしまうこともあるので、芸術のなかに共感できるものを見つけ、そこから癒しを得ることは人にとって必要だと私は思っています。自分を制限することなく、自由を手にしてほしい―この作品で描かれているのは、身分違いの恋。これまでもさまざまな作品で取り上げられてきたテーマですが、監督がこだわったのはどのようなところですか?監督いまだに社会では男性優位的な考え方になりがちなところがあるので、おそらくジェーンのような自由な価値観を持っている人物というのは、ananwebを読んでいる女性のみなさんには、非常に興味深いところだと感じています。階級的にはポールが支配する側で、ジェーンが支配される側ですが、裸で向き合っているときは対等な関係。屋敷のなかを裸で歩き回るシーンでも、彼女は誰に許可を求めることなく、自分の意志でそこに存在しているのです。そういった彼女の姿を通して若い女性たちに伝えたいのは、社会的な階級や性別といったもので自分を制限することなく、自由を手にしてほしいということ。これから先の人生では、みなさんの自信を打ち砕くような言葉と直面することもあるかもしれません。実際、社会では女性にとってはまだまだ障害があるのが現実ですが、そんななかでもジェーンのように自分にふさわしい場所というのを見つけてもらえたらと願っています。―本作では、そういった意味を持つセックスシーンやジェーンが裸で屋敷を歩くシーンが本当に美しく描かれていたのが印象的でした。センシティブな場面を撮影する際、どのようなことに気をつけて取り組まれているのでしょうか。監督まず、私が女性監督であることと、女優活動をしていたときにヌードシーンの経験があるという点において、すでにほかの監督とは大きな違いがあると思っています。そして、信頼関係も必要になってきますが、特に男性監督だったら、女性に対してよりデリケートな対応が求められることもあるかもしれませんね。ヌードシーンを撮る際、理解してもらわないといけないのは、俳優のカラダというのはあくまでも役を演じるためのツールであって、本人の私生活を見せるものではないということです。そのため、セックスシーンにおいては、振付をするように細かいところまですべて計画的に動きを決めてから撮りました。最初のうちはヌードになることに神経質だったジェーン役のオデッサ(・ヤング)も、きちんとした信頼関係を築くことができたからこそ、安心して演じることができたと言ってくれたのです。俳優たちのタイプに合わせて演出を変えていった―今回は、そのオデッサとジョシュ・オコナーの若手による瑞々しい演技と、コリン・ファースとオリヴィア・コールマンによるベテランの重厚感ある演技の対比も素晴らしかったです。どのような演出を行ったのかについても、教えてください。監督まず、私は俳優の年代によってアプローチを変えるのではなく、彼らのタイプに合わせて演出することを意識しています。たとえば、オデッサは知的な人なのですべてのことを頭で理解し、お互いの考えを活発に話した合いたいタイプ。ジョシュはデリケートな人なので、“共犯関係”を結ぶような感覚に重きを置き、あとは自由に演じてもらいました。コリンはたくさんフィードバックを求めましたが、こちらの意見もきちんと聞きながら私にスペースを与えてくれる人。と同時に、素晴らしいチームワークを作ってくれたので、彼との仕事は本当に喜びでした。そして、すごく引っ込み思案で、まったくタイプが違っていたのはオリヴィア。彼女はカメラが回ってスイッチがオンになると毎回的確な感情をバッと出せるので、それはすごかったですね。実際、ジェーンに「あなたは恵まれているのよ」と言いながらキスをする後半のシーンでは、何度やっても同じように涙を流していたほど。そこで、私はそれを利用して、涙が枯れ果てるまで何テイクかやってもらいました。そして、目が腫れて、まさに迫真の表情をした瞬間を捉えた映像を本編には使用させてもらっています。両親の影響もあり、日本文化を愛している―興味深い裏話をありがとうございました。少し話は変わりますが、まもなく公開を迎える日本に対しては、どのような印象をお持ちですか?監督日本にはまだ行ったことがなく、この作品とともに訪れたいと思っていたので、コロナ禍で行くことができず、本当に残念です。でも、私は昔から日本の文化をとても愛しています。特に、私の両親が日本映画をすごく好きだったので、その影響で黒澤明監督や大島渚監督の作品をよく観ていました。実は、いま準備している映画のひとつでは、大部分が日本で起きることを描いているので、ぜひその機会に初来日を実現させたいです。―それは非常に楽しみです!ちなみに、可能な範囲でいいので、どんなストーリーが教えていただけますでしょうか……。監督あまり多くは言えませんが、火山がテーマの映画なので、歴史的な火山の大爆発に関する場面で日本が登場しています。ぜひ、楽しみにしていてください。厳しい時代だからこそ、芸術に目を向けるべき―この作品では、戦争による痛みや喪失感も描かれているので、まさにいまの時代とリンクするところがあるのではないかなと。この作品を通して、伝えたいことをananweb読者へメッセージとしてお願いします。監督戦争のような悲劇というのは、ひと昔前の世代の人たちが経験したものだと思っていたので、死が目前にあるようないまの時代というのは、若い人たちにとっては心理的にショックな状況だと感じています。特に、これから世界に乗り出していこうとしている世代にとっては、輝かしい未来が暗く閉じてしまうような感覚を味わっているかもしれません。それくらい、非常に厳しいときだと思っています。だからこそ、私はみなさんに「もっと強くなれ」ではなく、「芸術に目を向け、しっかりと“自己武装”してからこの世界に乗り出していくことが大切だ」と言いたいです。そして、重要なのは、この映画のテーマのひとつでもある人と人との親密さ。特にこれだけ情報があふれ、便利になったデジタル社会だからこそ、人間同士の間にある距離が分断されていると感じています。たとえば、フランスでは若い世代がバーチャルな関係に重きを置くあまり、肉体的に触れ合ったり、セックスしたりすることが減っているという統計が出ているほど。バーチャルにもいい側面はありますが、やはり人間にとっては直接コミュニケーションを取ることも大事だと思っています。私にとってエネルギーの源は世界の美しさや素晴らしさなので、若いみなさんにも「悲しまずに、熱くなれ!」という言葉を送りたいです。色褪せることのない“愛の真実”に胸が震える息をのむほど官能的で、切ないほどに美しい愛の物語を惜しげもなく映し出した本作。才能豊かな俳優たちによる圧倒的な演技と、心に刻み込まれる珠玉のラブストーリーは見逃せない。取材、文・志村昌美引き込まれる予告編はこちら!作品情報『帰らない日曜日』5月27日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開配給:松竹© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021
2022年05月26日日常をより豊かなものにするうえで欠かせないものといえば、音楽。そこで、いまオススメしたい映画は、音楽によって人生が変わった女性たちの実話を描いた感動作です。『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』【映画、ときどき私】 vol. 4842009年、愛する人を戦地へと送り出していたのは、イギリス軍基地で暮らす軍人の妻たち。最悪な知らせが届くことを恐れながら、その帰りを待っていた。そこで、大佐の妻ケイトは、同じ立場にいる女性たちを元気づけ、ともに困難を乗り越えるために、合唱団を結成することを提案する。方針の違いから、初めは衝突を繰り返していたメンバーだったが、バラバラだった心と歌声は徐々にひとつになっていく。そこに届いたのは、毎年大規模に行われる戦没者追悼イベントのステージへの招待状。ところが、浮足立っていた妻たちのもとにある知らせが届くことに……。イギリスの駐屯地に住む軍人の妻たちが始めた合唱団の物語は、女王陛下の前で歌唱をしたり、オリジナル曲で全英チャート1位に輝いたりとイギリス全土で大きな反響を呼んだ実話。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。ピーター・カッタネオ監督本作を手掛けたのは、日本でも大ヒットを記録した『フル・モンティ』で知られるカッタネオ監督。今回は、映画化するまでの道のりや作品を通じて伝えたい思いなどについて、語っていただきました。―まずは、この合唱団のことを知ったきっかけやどういったところに魅力を感じたのかについて、教えてください。監督最初に彼女たちのことを知ったのは、あるドキュメンタリーを観ていたときのこと。途中から泣いてしまった僕は、これをベースに映画を作ったら素晴らしいものができるのではないだろうかと考えるようになりました。なぜなら、エモーショナルな映画体験を生み出す“ハートの部分”が音楽になる作品だからです。その後、実際の合唱団に会いに行ったとき、そこで目の当たりにした彼女たちから生まれるエネルギーが素晴らしかったので、ますますやる気に火がつきました。―彼女たちに映画化のことを伝えた際、アドバイスやリクエストなどもあったのでしょうか。監督まずは、「見ていてつまらないようなキャラクターにはしないでね」と言われました。特に、家でただパートナーの帰りを待っているだけの女性像にはしないでほしいと。自分たちの人生もしっかり持っているし、そこには笑いもあるものだから、と教えてもらいました。そういったこともあって、この映画ではしっかりとユーモアを描いています。そのほかに、気をつけなければいけないと思ったのは、映画のトーンについて。あまりセンチメンタルになりすぎてもいけないし、重すぎてもいけないというのは意識しました。実際の基地では、パワフルな体験をした―撮影は、本作のモデルとなった駐屯地のなかで行ったということですが、実際に基地で暮らす人々の生活に触れてみて、どのような印象を受けましたか?監督最初にセキュリティのゲートを通って入っていくのですが、あの瞬間というのは僕にとってパワフルな体験でした。あとは、子どもたちが走り回っている隣に戦車があったり、軍人がいたりする光景は普段見ないものだなと感じたのを覚えています。基地のなかはすごく静かで、戦地とはかけ離れていますが、それでもその様子を見ていると、前線のことが頭をよぎりますし、こういう生活のなかで悲しい知らせが来る瞬間とはどんなものなのかと改めて考えさせられました。そういうことを知るだけでも、とても強いインパクトを受けたと思います。―ちなみに、基地の方々は最初から受け入れてくださったのか、説得までに苦労した部分もあったのか、撮影中の様子についても教えてください。監督初めからとても協力してくれました。おそらく、合唱団が活動を始めてから10年ほど経っていたというのもよかったんだと思います。結成当初は軍からあまりよく思われていないところもあったようですが、いまでは合唱団が完全に軍の一部となっているからです。軍自体も以前に比べると、ひとりずつのメンタルヘルスに気を配ったり、しっかりとフォローするようになっていたりして、オープンな体制に変わっていたので、それもよかったのかなと。軍のみなさんも、この作品に協力することをとても喜んでくれました。音楽のシーンでは、リアルな瞬間を捉えられた―素晴らしいですね。そして、この作品では音楽シーンも見逃せませんが、どういったところにこだわったのでしょうか。監督今回は、本物のサウンドを表現するため、すべての歌唱シーンは撮影現場でライブ録音しています。また、初期の頃は、アマチュア合唱団の不完全な状態を見せるためと荒削りな自然さを大切にするため、リハーサルを行わずに撮影しました。そのほかに大変だったのは、俳優さんたちが歌に対する自信のレベルがかなり違ってたこと。歌うことに恐怖心を持っている人もいれば、うますぎるくらいの人もいたので、それを揃えていく必要はありました。そんななかで、彼女たちが曲にグッと入っていく瞬間はそのままを捉えられたので、リアルなものが映っていると思います。―だからこそ、彼女たちの歌には込み上げてくるものがありました。本作には、個性豊かなキャストが揃っていたと思いますが、彼女たちと合唱を通じて学んだこともありましたか?監督本当に幸せオーラの溢れる現場で、みんながすごく仲良くなったのですが、一緒に歌を歌うことによってお互いのことを知れたのがよかったのかなと。人前で合唱するためには、自分の“仮面”を外し、さらに自分を解放しなければいけないですからね。そのおかげで非常にうまくいったところがあったので、今後はほかの現場でも、リハーサルの1日目にはみんなで歌を歌ってもらおうかなと(笑)。チームを作るうえでは、とても素晴らしい方法だと思いました。日本とイギリスには、似ている部分が多いと感じた―なるほど。実際、イギリスのみならず、海外にも合唱団を作るムーブメントが広がったということなので、どんな方にも有効な方法かもしれませんね。私たち日本人にとっても興味深いところですが、監督は日本に対してどのような印象をお持ちですか?監督日本には映画のプロモーションで行ったことがありますが、とにかく時差ボケがひどくて街をフラフラと歩き回っていた覚えがあります。そんななか、魚河岸でお寿司を食べた思い出がありますが、あれ以来、あんなに美味しいお寿司は食べてないですね(笑)。そのときに世話をしてくださった方から、日本とイギリスは同じ島国であることや人間関係の築き方などが似てる部分があると言われましたが、確かにそうだなと。実際、まるでイギリスにいるような感じで日本の滞在を経験することができました。―本作は2020年にイギリスで公開されていますが、日本で公開を迎える2022年は、戦争について改めていろいろと考えさせられるタイミングとなりました。それによって、この作品に対する見方も変わってくるところはあるのではないでしょうか。監督確かにそうですね。2年前は、いまほどの大きな戦争はありませんでしたが、それでも戦争というものがいかにいろんな人に影響を与えているかというのは描きたいと思っていました。愛する人が何千マイルも離れたところで戦っていたとしても、その戦いは家のなかにまで伝わってきてしまうものですから。そして、誰かのことを心配する気持ちは、まるで前線で起きたことが断層線のように伸びて、戦地から遠く離れた人にまで届いていくような感じだと思っています。そういった悲劇に対してどう対応していくかというのを描くのが重要だったので、今回は政治的な局面や戦地で何が起きているかについては、あえて描きませんでした。立ち上がって、周りより頭が出てもいい―劇中で、「従順な妻路線はナシ!謙虚なヒナゲシじゃなくて、ヒマワリになってやろう」 という彼女たちのセリフに心を動かされる女性も多いと思うので、最後にananweb読者へメッセージをお願いします。監督英語には「出る杭は打たれる」の出る杭のように、「背の高いヒナゲシになるな」という表現がありますが、それは実際に彼女たちが言われていた言葉だと聞きました。それが面白いと思って取り入れたので、実はタイトルも「背の高いヒナゲシ」を意味する「Tall poppies」にしようかと思っていたほど。だからこそ、みなさんにも「背の高いヒナゲシのように、立ち上がって頭が出てもいいんだよ」とまずは伝えたいと思っています。あとは、ひとりよりも大勢で何かすることで生まれるパワフルさも感じていただけたらいいなと。合唱団というのは、まさにそれを体現しているものですが、みんなで力を合わせて歌うからこそ、あそこまで美しい声になるのだというのも楽しんでいただきたいです。一緒に笑って泣いて、前を向く!ひとりでは抱えきれない悲しみや不安があるときこそ、互いに支え合うこと、そして歌って笑い合うことの大切さを教えてくれるハートフルストーリー。苦しみのなかでも強さを身に着けた彼女たちから、勇気と元気をもらえる珠玉の1本です。取材、文・志村昌美歌声に魅了される予告編はこちら!作品情報『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』5月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・有楽町、グランドシネマサンシャイン池袋他全国順次公開配給:キノフィルムズ© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019
2022年05月18日東京・六本木のサントリー美術館で『大英博物館北斎』がはじまりました。本展では、大英博物館が所蔵するクオリティの高い北斎作品が集結。さらに、北斎を愛したイギリスのコレクターたち6名にもフォーカス。アートの目利きである彼らが絶賛&狂喜した、日本人が気づいていない“北斎のスゴさ”もご紹介!イギリスでも大人気…スゴい北斎!【女子的アートナビ】vol. 240『大英博物館北斎―国内の肉筆画の名品とともに―』では、大英博物館が所蔵する北斎作品を中心に、国内にある肉筆画も展示。イギリス人コレクターたちの“北斎愛”にも触れながら、彼の画業、特に数多くの代表作が生み出された後半生の作品群を一覧できます。葛飾北斎(1760-1849)は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師。彼の作品は、日本だけでなく世界でも有名で、例えばモネやドガなどフランス印象派の画家たちや、ゴッホにも影響を与えています。フランスで人気があったというイメージが強い北斎ですが、実はイギリスでも大人気。すでに1870年代から北斎コレクターや研究者がいて、特に大英博物館には多くの作品が所蔵されています。本展のプレス説明会では、アルフレッド・ハフト氏(大英博物館アジア部日本セクション学芸員)のビデオメッセージが流れ、100年以上前に大英博物館の学芸員だったローレンス・ビニョン(1869-1943)の言葉が紹介されました。とても印象的でしたので、以下に抜粋します。「1908年、ローレンス・ビニョンは、北斎の風景画を見たときの体験を『美と驚きがひとつになった衝撃』と表現し、『世界は我々の想像を上回る驚きに満ち、我々を狂喜させる力の源であることを北斎は明らかにした。それは、これから我々自身で発見していくことができるものでもあるのだ』と語っています」これほどの衝撃をイギリス人に与えていた北斎、すごいです!「芸術家として北斎こそ正真正銘の日本人」では、展覧会のおもな見どころをご紹介していきます。第1章「画壇の登場から還暦」では、貴重な初期作から還暦近くの年齢で描いた作品が登場。ここでの見どころは、北斎が直接筆をとった「肉筆画」の名品《為朝図》。曲亭馬琴の読本『椿説弓張月(ちんせつ ゆみはりづき)』の主人公・源為朝を描いたもので、絵のなかには作者馬琴の祝詞も書かれています。本作品を購入したのは、イギリスの医師、ウィリアム・アンダーソン(1842-1900)。彼は解剖学と外科の教授として明治期に来日し、東京の海軍軍医学校の校長を務めました。さまざまな美術品も入手し、そのうち約2100点が大英博物館の所蔵品になっています。また、アンダーソンは、日本美術についての本も執筆。著書の中で、「芸術家として北斎こそが正真正銘の日本人」と絶賛しています。代表作が次々と…!第2章「富士と大波」では、《富嶽百景》や《冨嶽三十六景》シリーズの作品群などを紹介。大波が印象的な北斎の代表作《冨嶽三十六景神奈川沖浪裏》や、「赤富士」として親しまれている《冨嶽三十六景凱風快晴》もここで見ることができます。また、第4章「想像の世界」では、偉大な歌人や詩に読まれた景色、さらに目に見えない妖怪を描いた作品などが登場。不気味な見た目でも、どこかユーモラスさが感じられる人気作品《百物語こはだ小平二》も展示されています。「これが一人の画家の作品だとは信じがたい」最後の第6章「神の領域―肉筆画の名品―」では、晩年に描かれた肉筆画が登場。特に、88歳のときの作品《流水に鴨図》は必見です。2羽の鴨と水面に落ちた紅葉が描かれた作品で、鴨の描写が本当に細かいのです!近くで見ると、その精緻な美しさに圧倒されます。あの時代の88歳、大家の北斎先生でも老眼になっていると思いますし、集中力や持続力も若いころに比べれば低下しているはず。でも、線のブレもムラもなく、まさに“神の領域”に達した作品です。本作品を所蔵していたのは、イギリスの小説家アーサー・モリソン(1863-1945)。彼は2000以上の浮世絵版画を入手したほか、日本絵画も約600点購入。また、日本美術の研究書も出版し、その中で北斎について「複数の優れた絵師による作品でなく、すべて北斎一人によるものだということが、実に信じがたい」と語っています。究極の“推し活”展覧会本展では、北斎の名品を堪能できるだけでなく、日本美術好き・北斎大好きイギリス人コレクターたちによる究極の“推し活”も楽しめます。彼らが書いた北斎の推しポイントを読むと、今まで気づかなかった作品の魅力も発見でき、改めて北斎の偉大さを実感しました。100年以上前に北斎担当のファンたちが熱心に集めたコレクションを、現代の日本人が見るなんて、考えてみたらステキなこと。推し活をしていたコレクターたちも、きっと喜んでいると思います。究極の“推し活”展覧会、ぜひ足を運んでみてください!Information会期:~6月12日(日)※会期中展示替を行います。※会期は変更の場合があります。休館日:火曜日(5月3日、6月7日は開館)会場:サントリー美術館開室時間:10時~18時※金・土および4月28日(木)、5月2日(月)~4日(水・祝)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで観覧料:一般¥1,700、大学・高校生¥1,200、中学生以下無料※最新情報は公式サイトでご確認ください
2022年04月30日2019年に世界中で社会現象を巻き起こした映画『ジョーカー』で、驚異的な怪演ぶりを見せた名優ホアキン・フェニックス。次回作への期待が高まるなか、最新主演作『カモン カモン』では狂気とはかけ離れた人物に扮し、話題を呼んでいます。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。ウディ・ノーマンくん【映画、ときどき私】 vol. 474本作では、ホアキン演じるラジオジャーナリストのジョニーが、ある日突然9歳の甥・ジェシーの面倒を見ることになるところから物語が始まりますが、ジェシーを演じているのがウディくん。英国アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたのをはじめ、さまざまな賞を受賞し、ホアキンにも衝撃を与えた新星の天才子役として注目を集めています。今回は、現場での様子やホアキンとの共演エピソード、そして13歳となったいま抱いている将来の夢などについて、語ってもらいました。―事前に行われたオーディションでは、マイク・ミルズ監督とホアキン・フェニックスさんは、ウディくんのアドリブに衝撃的な感動を覚えたそうですが、どんな演技を見せたのでしょうか。ウディくん僕はあまりはっきりとは覚えていないんですけど、即興というよりは、セリフのやりとりをするなかでちょっとセリフを足したぐらいだったかなと。ホアキンとは演技をするというよりも、セリフを言い合いながらなんとなく演じていくような感じて進めていきました。―撮影中もアドリブは多く取り入れていましたか?ウディくんいくつかの場面ではアドリブでセリフを足していますが、基本的には脚本に忠実です。でも、そのときどきで変化や追加が必要だと感じたときには、判断してアドリブを入れています。ホアキンは優しい人で、すぐに打ち解けられた―ウディくんはイギリス出身ですが、劇中では完璧なアメリカ英語で話されていたので、ホアキンさんもイギリス人であることに気がつかないほどだったとか。どうやって身につけたのですか?ウディくん実は、数年前に別の役のオーディションを受けるためにアメリカ英語のアクセントを練習したことがあったんです。そのときは役をもらえませんでしたが、当時の経験があったおかげで今回すんなりと入っていくことができたのだと思います。もちろんいくつかの“壁”はありましたが、繰り返し練習したので、いまでは第二外国語みたいに話せるようになりました。―すごいですね。では、思い出のシーンと言えば?ウディくんそれは、ニューヨークで撮影したレスリングのシーンです。というのも、僕が数年前にレスリングにハマっていた話をしていたら、じゃあ取り入れてみようとなったシーンなので。もともと脚本には書かれていませんでしたが、そういう経緯で追加されたので、僕にとっては特別で思い出深いシーンとなりました。―そのあたりは、ぜひ観客の方々にも注目してもらいたいですね。伯父役のホアキンさんはハリウッドでもトップクラスの俳優ですが、初共演で緊張しませんでしたか?ウディくん初めて彼と会ったのはオーディションのときでしたが、なんとパジャマ姿で現れたんです(笑)。そういったこともあって、すぐに打ち解けられたのではないかなと。すごく優しい人でもあるので、一緒に演じていてもまったく緊張することなく接することができました。共通点を見つけながら、役に入り込んでいった―ちなみに、彼の過去作は観たことがありましたか?ウディくん5歳くらいのときに、『ブラザー・ベア』というアニメーションを観ましたが、そのときはホアキンが声優をしていることは知らずに観ていました。そのほかの作品については、お母さんから「撮影が終わるまでは観てはいけない」と。なぜなら、ホアキンがスターであることを僕が意識してしまったら、圧倒されてしまうと考えたからです。―確かに、それはあるかもしれないですね。現場では彼からたくさんのことを教わったそうですが、具体的にはどんなことですか?ウディくんまず彼から学んだのは、共演者と打ち解けることの大切さです。どれだけ仲良くできるかによって、演じる際にいかにいろんなことがスムーズに運んでいくかを知りました。演技に関して具体的に何かを教わったりはしていませんが、彼を観察するなかで、カメラ前での振る舞いなどは参考にしています。―劇中のジェシーは、ちょっと変わった子どもとして描かれていますよね。普段のウディくんと似ているところもありますか?ウディくん答えは、イエスでありノーですね。共通点は音楽がすごく好きなところですが、内向的なジェシーと違って、僕はすぐに相手と仲良くなって自分を出すことができるので、そこは似ていないかなと。とはいえ、演じるうえでは、共通点を見つけていきながらジェシーという役に入り込んでいきました。今後20年で、いろいろなことが改善されていくはず―劇中ではラジオジャーナリストのジョニーが、取材として子どもたちにいろいろな質問をしていたので、いまから映画のなかで出てきたものと同じ質問をいくつかさせてください。まずは、ウディくんが怖いものは何ですか?ウディくんたくさんありますけど、一番怖いのは海。あとは、蝶々も怖いですね(笑)。―では、何に怒りを感じますか?ウディくん話を聞いている振りをして、内容を聞いていない人に対してです。特に、あとになってから、「そんなこと聞いてないよ」と言われると、イラっとしてしまうこともあるので。―わかります(笑)。ウディくんを幸せにしてくれるものといえば?ウディくん具体的には挙げられませんが、いま僕の周りにあるものはみんな僕のことを幸せにしてくれています。―素敵ですね。もし、スーパーパワーが1つ持てるなら何がいい?ウディくんテレポーテーションですね。いろんなところに、素早く移動できるようになりたいので。―自分の何かを1つ変えられるなら、変えたいものは何ですか?ウディくん僕は年齢のわりに背が低いほうなので、できればあと数センチは高くなりたいです!―これからの未来はどうなると思っているか、考えたことはある?ウディくん僕は地球が滅びることはないと思っていますし、未来はいい方向に進んでいるんじゃないかなと。たとえば、いま海にゴミを捨てている人たちも、それが間違いだと気がついているはずなので。今後20年でそういったことも改善されていくと感じています。俳優だけでなく、監督や脚本にも挑戦したい―ありがとうございます。今後も役者は続けていきたいということですが、もしほかにもやってみたい職業があれば、教えてください。ウディくん映画業界に関わるすべてのお仕事が楽しそうに見えるので、監督もやってみたいし、脚本も書いてみたいと思っています。実際、すでに脚本は書いているのですが、まだ自分が楽しむ程度のものなので、いつか本格的に取り組んでみたいです。―もう脚本を書かれているのですか!?ちなみに、どんなタイプの作品か教えてもらえますか?ウディくんすでに4~5本は書いているんだけど、最後に書いたのは1か月くらい前で、自分でも内容を忘れてしまいました(笑)。―いつか作品になるのを楽しみにしています。ほかには、どんなことに興味があるのでしょうか。ウディくん僕が一番ハマっているのは、音楽です。いまエレクトリックベースを弾いているのですが、いろいろなジャンルの根源をたどっていくと同じところにつながっていたりして、そういうところもすごくおもしろいですよね。ミュージシャンというのは、音楽によってその場の空間を満たすクリエイティビティを作り出しているので、すごく尊敬しています。日本にはいつか絶対に行きたいと思っている―ちなみに、いままで日本に来たことはありますか?ウディくんまだ行ったことはありませんが、 旅行するのが大好きですし、日本はいつか絶対に訪れてみたいと考えています。ロンドンと東京は似ているところがあるんじゃないかなと想像していますが、世界の反対側にあるくらい離れている都市なので、その違いを知るためにも行ってみたいです。映画のなかで見る日本や日本に行ったことのある友達から聞く話から、とても楽しそうな場所だなという印象です。―それでは最後に、日本の観客へ向けてメッセージをお願いします。ウディくんこの作品はロックダウンになる前に作ったものですが、それがこうして世界中の人に観てもらえるのは、とても光栄ですし、多くの方に届けられるのをうれしく思っているところです。ぜひ、日本のみなさんの感想も楽しみにしています。ありがとうございました!インタビューを終えてみて……。お茶目な笑顔を見せつつ、終始大人顔負けのしっかりとした受け答えをしてくれたウディくん。俳優としての実力はすでに名優からのお墨付きですが、計り知れない才能で将来は監督や脚本家、さらにはミュージシャンとしても私たちを楽しませてくれそうです。驚きと優しさに満ちたかけがえのない時間となるデトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズといった異なる景色を見せる都市を舞台に繰り広げられる心温まるロードムービー。年の離れた天才俳優による“奇跡のケミストリー”に魅了されるだけでなく、悩みも怒りもすべてを優しさで包み込んでくれる珠玉の感動作です。取材、文・志村昌美ストーリーNYに1人で暮らすラジオジャーナリストのジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることになる。LAにある妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる。そのいっぽうで、ジョニーの仕事や録音機材にも興味を示し、2人は次第に距離を縮めていく。そして、仕事のためにNYへと戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるのだが……。愛おしさが詰まった予告編はこちら!作品情報『カモン カモン』4月22日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー配給:ハピネットファントム・スタジオ© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.Maggie Shannon
2022年04月20日・みんなが楽しんでいるのが伝わってくる!・音楽に言葉は不要だなと思いました。・たとえ言葉が通じなくとも音楽で伝わるものってあるんですね。ピアニストの中瀬真依(@mai_nakase)さんがTwitterに投稿した1本の演奏動画をきっかけに、感動の輪が広がっています。ロンドン駅で始まった合唱2022年3月現在、イギリスのロンドンに留学中の中瀬さん。ロンドンの駅に設置されたストリートピアノで、日本でもよく知られている『威風堂々』を演奏していました。『威風堂々』は、イギリスの作曲家エドワード・エルガーによる行進曲。イギリス人にとっては、馴染み深い1曲といえます。だからなのでしょうか…中瀬さんたちが演奏を始めると、通行人たちが加わり、素敵な展開になりました。ロンドンの駅ピアノで威風堂々弾いてたら偶然周りにいた人たちが歌ってくれたやはりイギリスでこの曲愛されているのかな❤️楽しかった〜!!! pic.twitter.com/1fkryRSudo — Mai Nakase 中瀬真依 (@mai_nakase) March 13, 2022 ピアニストである中瀬さんの演奏技術はもちろん、突如加わってきた男性たちの歌声も素晴らしいもの。さらに、後ろにいる着ぐるみのようなものを着た人物もノリノリで踊り始めるなど、その場にいる全員が『威風堂々』を通して音楽を楽しんでいることが伝わってきます。言葉は必要なく、音楽を介したコミュニケーションに心を打たれた人は多く、絶賛の声が寄せられました。寄せられているコメントに対して、「音楽でつながれる楽しさを改めて感じました」とも語っている中瀬さん。音楽の持つ可能性を実感できる、素敵な出来事ですね![文・構成/grape編集部]
2022年03月15日氷の上で行われるウィンタースポーツ、カーリング。2022年2月に開催された世界的なスポーツの大会では、日本を含め各国の代表選手が熱い戦いを繰り広げました。バケツを使ってカーリング?その大会中、イギリスのエイボン・サマーセット警察がカーリングのイギリス女子チームを応援しようと、Twitterに動画を投稿しました。すると、5千件近くリツイートされるほど反響が上がったのです。その動画をご覧ください。Good luck to @TeamGB in the curling today and tomorrow @evemuirhead pic.twitter.com/E6DJolqXxN — ASPoliceHorses (@ASPoliceHorses) February 18, 2022 真剣な表情で、ストーンならぬバケツを滑らせる人。続いて2人がデッキブラシで床をゴシゴシしています。実際のカーリングさながらのかけ声も上がり、緊張感はマックス。ところが最後は…標的となるハウスではなくウマが登場!予想外のオチに、見た人たちは大笑いしています。・オチが最高!声を出して笑ったわ。・天才かよ。この競技を考えた人に金メダルをあげたい。・最後でコーヒー吹き出した!エイボン・サマーセット警察は騎馬隊があり、Twitterにはしばしばウマたちの写真が投稿されています。ほっこりする結末で、多くの人を笑顔にした『バケツカーリング』。もし得点をつけるなら、間違いなく10点満点をあげたいですね![文・構成/grape編集部]
2022年02月25日世の中には知られざる驚きの実話が数多く存在していますが、今回映画化されたのは、名画盗難事件の真相。犯人でありながら、イギリス中を感動の渦に巻き込んだ男の嘘のような本当の話をご紹介します。『ゴヤの名画と優しい泥棒』【映画、ときどき私】 vol. 461イギリスが誇る“世界屈指の美の殿堂”として多くの人を魅了しているロンドン・ナショナル・ギャラリー。ところが、1961年にゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれ、前代未聞の大事件が発生する。その犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン。孤独な高齢者にとってテレビが唯一の娯楽だった時代に、彼らの生活を少しでも楽にしたいと盗んだ絵画の身代金で公共放送の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。しかし、事件にはもうひとつの隠された真相が……。本作は、残念ながら2021年9月に急逝した『ノッティングヒルの恋人』で知られるロジャー・ミッシェル監督にとって最後の長編映画作品。そこで、その思いを受け継いだこちらの方にお話をうかがってきました。ニッキー・ベンサムさん映画業界で長年キャリアを積み、本作ではプロデューサーを務めているニッキーさん。今回は、映画化にいたった経緯やロジャー監督から学んだことなどについて、語っていただきました。―もともとはケンプトンのお孫さんからニッキーさんに送られてきたメールがきっかけだったそうですが、どういった内容だったのでしょうか。ニッキーさん ある年のカンヌ国際映画祭のプロデューサーリストを見た彼から、「僕の家族に関するすごい話があります」と突然メールが送られてきたんです。私以外にも何名かのプロデューサーに送っていたようですが、書かれていた簡単なあらすじに魅了された私はすぐに返信をしました。―つまり、その時点で「これはいい映画になる」という手ごたえを感じていたと。ニッキーさん そうですね。家族モノで、実話に基づいていて、絵画の盗難もあるというのはおもしろいので、いい映画になる可能性はいくつも秘めているなと。しかも、それがあまり知られていないというのも大きかったですね。まずは自分で調査を始め、すべての事実がはっきりしてから企画に取り掛かることにしました。ロジャーの姿勢から学ぶことは多かった―その後、本作の監督としてロジャー・ミッシェル監督を指名した理由についてお聞かせください。ニッキーさん 彼の過去作には素晴らしい作品が揃っていますが、彼の映画はたとえ規模が大きくても必ずパーソナルな部分にフォーカスしているのが魅力だと感じていました。この物語も背景にあるのは当時大きく取り上げられたスキャンダルですが、核心となるのは家族の温かみやユーモア。そういった家族ドラマを作るには、ロジャーが一番だと思ったのが理由です。彼ほどバランスの取れる監督はなかなかいないので、完璧な人選だったなと思います。なぜ彼がそこまで温かいストーリーを描けるかというと、彼自身が人間や俳優を心から愛しているから。だからこそ、俳優たちの才能を引き出し、心地よく演技できるような演出ができるのです。―ananwebでは2021年に『ブラックバード家族が家族であるうちに』でロジャー監督へ取材をさせていただき、映画作りに対する興味深いお話をたくさん聞かせていただきました。実際にロジャー監督と一緒にお仕事をされてみて、感銘を受けたこともありましたか?ニッキーさん 企画が動き始めるといろいろな混乱に陥りやすいものですが、そのときにロジャーがよく言っていたのは、「何かあったら脚本に戻れ。答えはそこにあるから」ということ。どれだけ周りが騒いでいても、そういったノイズはすべて消して、脚本をガイドとして歩んでいけばいいんだと教えてくれました。そういう彼の姿勢から学ぶことは多かったですね。それからロジャーの撮影方法はすごく効率的で、だいたい1回撮ったらOK。私としてはクローズアップや別の角度からも撮り直さなくて大丈夫かなと思っていたのですが、ロジャーは「最初の純粋な演技が一番なんだよ」とつねに自信を持って言っていました。そんなふうに、何よりも脚本と俳優を信じることを彼から教えてもらいました。ゴヤの絵には何か惹かれるものを感じた―また、本作でもうひとつの主人公と言えば、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」。ニッキーさんはこの絵に対してどのような印象を抱かれましたか?ニッキーさん 最初にこの絵を見に行ったとき、すでに事件についてすべてのことを知っていたので、まるで有名人にでも会えたような気分でしたね(笑)。正直言って、ナショナル・ギャラリーのなかで一番素晴らしい作品だとは思いませんでしたが、絵の存在感やパワフルさという意味では、何か惹かれるものがあるとは感じました。ゴヤの作品においても、もっとも素晴らしい作品とは言えませんが、インパクトはありますし、こういったストーリーのもとにもなっているので、魅力のある作品ではないかなと。依頼をした脚本家たちと初めて会うときに「事件の現場で会いましょう」と言って絵画の前で待ち合わせしたのもおもしろかったです(笑)。―では、何か日本にまつわるエピソードについても教えていただけますか?ニッキーさん 私はオーストラリア出身なのですが、子どものころに家族旅行として初めて訪れた東京や京都、そして富士山の横を通ったときの記憶はいまでも鮮明に覚えています。それから、オーストラリアでは有名なベン・リーというシンガーソングライターがいますが、大学の同級生であった彼が日本でツアーを行ったときに撮影担当として来日したことも。日本の食事はおいしいし、人々は優しいし、地方の景色は美しいので、いろんなJ-POPのアーティストたちと一緒にツアーを回るのは素晴らしい経験でした。最近、私の子どもが日本の文化にハマっているので、旅行ができるようになったらぜひ一緒に日本へ行きたいですね。女性たちに必要なのは、自分の体験談をシェアすること―ニッキーさんは育児や介護をしながらでも女性たちが映画業界で働けるような活動にも力を注いでいますが、ご自身もそういった困難を味わったことがあるのでしょうか。ニッキーさん もちろん、私自身の経験に基づいているところもありますが、周りの女性たちの声にも耳を傾けてみたら、「キャリアは積みたいけれど、この業界にいるのは難しい」という意見が多く上がりました。そういったことが発端となりこの活動を始めることになったのですが、問題はどうすれば女性が映画業界に来てくれるかよりも、どうすれば女性たちが映画業界に残ってくれるか。それに改めて気づかされました。実際、若い世代の男女比は半々ですが、監督や上のポジションになると女性の数は減ってしまいますからね。ただ、私は文句を言うだけで終わりにするのは嫌なので、解決策を見つけて変化をもたらしたいという思いから女性たちをサポートする方法を考えました。映画業界の未来のためにも、才能のある女性たちを失わないような活動をこれからも続けていきたいです。―日本の働く女性でもキャリアと家庭との両立に悩んでいる人は多いので、アドバイスをお願いします。ニッキーさん 私が育児や介護をしながら働く女性たちのための団体を立ち上げたとき、まず初めに作ったのは、女性たちがそれぞれの体験をシェアできるコミュニティ。そこで多くの女性たちが自分の失敗談や成功談を語り合っていたのですが、そうすることで「大変なのは自分だけじゃない」と勇気づけられたと聞きました。おそらく日本の女性のみなさんも、同じような苦労があると思うので、お友達や同僚、もしくはそういった話ができるコミュニティでそれぞれの体験をシェアし合うことが大切なのではないかなと。ただ、それが一部の間だけで行われるのではなく、より多くの人の間で語り合うことができるような社会になるための働きかけも必要だと考えています。笑って泣いて心まで盗まれる!他人に対して無関心になりがちな時代だからこそ、忘れたくないのは、互いを思いやる優しさと人が寄り添い合っていくことで生まれる温もり。何ものにも代えがたい夫婦や親子の絆だけでなく、弱者のために1人で戦うケンプトンの姿は、いまの私たちに大切なものは何かを教えてくれるはずです。取材、文・志村昌美驚きの詰まった予告編はこちら!作品情報『ゴヤの名画と優しい泥棒』2月25日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開監督:ロジャー・ミッシェル出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード配給:ハピネットファントム・スタジオ©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
2022年02月24日街がネオンで色づきはじめるこれから時期、華やかで刺激的な体験を味わいたいと思う人も多いのでは?そこで、そんな気分にオススメの話題作をご紹介します。『ラストナイト・イン・ソーホー』【映画、ときどき私】 vol. 434ファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、小さな田舎町を出て、ロンドンのデザイン学校に入学する。しかし、寮生活では周囲となじめず、孤立してしまう。そこで、ソーホー地区の片隅で一人暮らしを始めることに。新居のアパートで眠りに着くと、夢の中で60年代のソーホーにいたエロイーズは、歌手を夢見る魅惑的なサンディに出会い、身体も感覚も彼女とシンクロしていく。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズは、タイムリープを繰り返していたが、“ある殺人事件”を目撃したことで事態は徐々に変わり始める……。映画『ジョジョ・ラビット』のトーマシン・マッケンジーとNetflixシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』で脚光を浴びたアニャ・テイラー=ジョイという映画界が注目する若手女優の共演でも話題の本作。今回は、こちらの方に見どころをうかがってきました。エドガー・ライト監督2017年に『ベイビー・ドライバー』で多くの観客を熱狂させ、世界中の映画ファンが新作を待ち望んでいたライト監督。本作では現代と60年代を行き来するタイムリープ・サイコ・ホラーを完成させています。そこで、物語が誕生したきっかけや撮影秘話について、語っていただきました。―まず本作の着想はどこから得たものなのか、教えてください。監督そもそも僕は、昔から60年代に取りつかれているようなところがあるんです。きっかけは両親が60年代の音楽のアルバムをコレクションしていたからでもありますが、両親は兄が生まれてから音楽を聴くことをやめてしまったため、70年代以降の音楽が家になかったんですよね(笑)。そういったことから60年代の音楽にハマり、徐々に映画やアート、ファッションを通して60年代への思いが強くなって行きました。―では、男性の主人公を多く描いてきた監督が、2人の女性を主人公にしようと思ったのはなぜですか?監督60年代を舞台にしたこれまでの映画では、小さい田舎の町から大きな夢を抱いて都会に出てくる若い女性が、どこか罰せられるように描かれている作品が多いと感じていました。わかりやすく言うと、進歩的な女性が大胆な夢を見ることを許さないというか、道徳観を押しつけられているように、僕には見えていたのです。そこで、「それをひっくり返したら面白いんじゃないか?」という発想から、この物語を思いつきました。つまり、現代のロンドンにいる女性が60年代に夢を持っていた女性と同じことをしたらどうなるか、というのを描いてみたいと考えたのです。そういった思いから、時代の違う2人の女性を主人公にしました。60年代を再現したムービーマジックを味わってほしい―ロンドンのソーホーが舞台となっていますが、監督自身にとっても思い入れの強い場所だとか。監督そうですね。僕も27年前にロンドンに出てきて以来、多くの時間をソーホーで過ごしました。それが今回舞台に選んだ理由のひとつでもありますが、ソーホーといえば、エンタメ業界やナイトライフの中心地でもありますから。それも大きかったとは思います。あと、僕が引っ越してきた当時はショウビズ界と裏社会がつながっている場所でもあったので、何かザワザワするような雰囲気も非常に興味深いところだと感じています。―本作には、過去の作品からインスパイアされた部分やオマージュが散りばめられています。そのなかでも、ご自身がこだわったシーンについてお聞かせください。監督今回は、特に60年代という時代に対してオマージュを捧げているところが多いですが、なかでもヘイマーケットといってロンドンの中心地で撮影したシーンでは、野心的なカットを撮れたと思っています。なぜなら、ロンドンのなかでも交通量も人通りも多い場所にもかかわらず、60年代の車を入れ、映画館も当時の装飾にすべて変えて、実際に撮影を行ったからです。このシーンを撮影するにあたって、5か月も前から許可を申請して撮影を実現させたのですが、許された時間はたった4時間だけ。時間的にやり直しはきかないという厳しい状況だったので、正直に言うと、僕のなかにも「はたしてこのシーンを撮れるのだろうか」という不安はありました。だからこそ、CGではなくリアルな60年代をとらえることができたシーンを撮れて、いまは誇らしい気持ちです。ソーホーのなかを車で走っているシーンも、外に見える景色は実際に建物の装飾をすべて60年代に変えて作り上げました。ぜひみなさんにも、このムービーマジックを味わっていただきたいです。姉妹のような関係性を築いて演じてくれた―エロイーズ役のトーマシン・マッケンジーとサンディ役のアニャ・テイラー=ジョイの現場での様子はいかがでしたか?監督最初に2人が一緒にリハーサルをしたのは、鏡を挟んで同じ動きをするシーン。すぐに姉妹のような関係性を築いていましたね。お互いの動きをコピーし合っていたこともありますが、2人の間に絆が生まれる様子を目撃したときは、まるで魔法が起きているのを見ているような気分でした。それが観た方にも伝わっていたのか、劇中で2人が言葉を交わすシーンはほとんどないにもかかわらず、世界中のファンの方々が作ってくれたファンアートを見ると、どれも彼女たちを1組のペアとして捉えてくれているものばかり。それくらい2人が心理的につながっているのを感じてもらえたのはうれしいです。―劇中で見どころのひとつといえば、エロイーズとサンディがダンスをしながら入れ替わるシーン。トリック撮影を駆使して撮影されたそうですが、撮影時の裏側を教えていただけますか?監督あのシーンは実際にワンカットで撮っていますが、いろいろなセクションのスタッフたちのコンビネーションのおかげで作り上げることができました。実は、脚本でも絵コンテでも、当初は2人が入れ替わるのは1回だけの予定だったんです。でも、VFX担当と振り付け担当、それぞれのスタッフからいくつかの提案があり、6回は入れ替えられるんじゃないかと。そこで、「じゃあ、全部の提案を入れてやってみよう!」となり、いまの形になりました。そのほうが観客のみなさんも「一体どうなってるの?」と楽しんでもらえるだろうという期待も大きかったですね。日本には仕事ではなく、ホリデーで遊びに行きたい―なるほど。実際、素晴らしいシーンに仕上がっていたと思います。監督あともうひとつ裏話があって、それは本番の前の夜に、2人の代役を務めてくれたダンサーによるリハーサル映像を僕のガールフレンドに見せていたときのこと。彼女が「ちょっと待って!2人がどこで入れ替わっているかわからない!」とすごいリアクションを見せたんです。ダンサーの2人は金髪と黒髪で髪の色が違っているにもかかわらず、よくわからないと。当初はエロイーズもサンディも、金髪にピンクのドレスを着せて撮影するつもりでしたが、その反応がすごく印象的だったので、2人に同じ格好をさせないほうがいいんじゃないかと気がつきました。そこで、メイクと衣装のスタッフに「本当に申し訳ないんだけど、トーマシンを元の茶色の髪とパジャマ姿に戻してほしい」と急遽お願いしたんです。直前での変更にはなりましたが、新しいアイディアを形にしたことで、よりよいシーンになったと思っています。―ぜひ、注目していただきたいですね。それでは最後に、まもなく公開を迎える日本に関して、どのような印象をお持ちなのか教えてください。監督東京にはすでに7回くらい行ったことがあって、これまでにフジロックフェスティバルやサマーソニック、クラブクアトロなどに行ったのをよく覚えています。そのなかでも、僕が好きなのはゴールデン街や小さなバー。渋谷のグランドファーザーズとか、オーナーがかける曲にこだわっているようなところはすごくいいですよね。とはいえ、日本には仕事でしか訪れたことがないので、次はぜひホリデーとして遊びに行きたいと思っています。スリリングな展開に、歓喜と悲鳴が交錯する!エドガー・ライト監督ならではの映画愛と音楽愛が詰め込まれた本作。妖艶な映像美と斬新なストーリーテリングで、観る者を一気に異世界へと誘ってくれるはず。夢と恐怖がシンクロする新感覚をエロイーズとともに、体感してみては?取材、文・志村昌美魅惑的な予告編はこちら!注目のシンクロダンスシーンをひと足先に解禁!作品情報『ラストナイト・イン・ソーホー』12月10日(金)、TOHO シネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開配給:パルコ ユニバーサル映画© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
2021年12月07日『イギリストースト』って何?ユニオンジャックに赤と青のラインがデザインされた、まさに「イギリス」なパッケージの『イギリストースト』。でも、イギリスで作られたものではありません。『イギリストースト』を製造しているのは青森県のパンメーカー、工藤パン(@kudopan_aomori)。テレビ番組でも紹介され、話題となっている『イギリストースト』。青森県民ならその名前を聞いただけで味が蘇ってくる、そんな県民のソウルフードなのです。どんなパンなのかというと、表面にマーガリンを塗り、グラニュー糖をかけた山型の食パンを2枚合わせたシンプルなもの。このシンプルなパンがどのようにして青森県民の誰もが知らぬ者がいないほどのソウルフードとなったのか。なぜ「青森」で「イギリス」なのか。『イギリストースト』の謎を紐解いていきます。『イギリストースト』の始まり〜「青森」で「イギリス」の謎『イギリストースト』を製造しているのは青森市の『工藤パン』。昭和7年に青森県むつ市の赤川駅前で開業した小さなパン店が始まりでした。そして、戦後もっと多くの人に美味しいパンを届けたいと昭和23年に青森市に移転。現在の株式会社工藤パンを設立したのです。『イギリストースト』が生まれたのはそれから20年近く経った昭和42年。創業者である工藤半右衛門氏によって考案されました。きっかけは、工藤パンが創業したむつ市の大湊地区にあった食習慣。この地域では食パンにバターを塗って砂糖をかけて食べるという習慣があったことを参考に、半右衛門さんが山型食パンにマーガリンとグラニュー糖をかけた商品を開発したのです。工藤パンの那須尚幸さんにお聞きしたところ、パンの厚さには特にこだわり、『イギリストース』を食べる上で一番美味しく食べられるよう研究して決められたとのこと。だから既存の8枚切りなどの厚さには当てはまりません。あえていうなら「8枚切りと10枚切りの中間くらい」です。もちろん、マーガリン、グラニュー糖の量もバランスに徹底的にこだわっており、なんとマーガリンは『イギリストースト』専用に開発(配合は秘密)。そして、現在でもマーガリンとグラニュー糖の量のバランスは変えていないといいます。工藤パンの那須さん:食パンは山型食パンを使用しています。山型食パンは「イギリスパン」とも呼ばれるため、創業者工藤半右衛門社主によって『イギリストースト』と名付けられました。ただ、トーストしていないのに「トースト」と名付けた理由は、当時の資料がないため定かではないとのこと。「トーストするとさらに美味しく食べられる」という意味が込められているという説があるそうです。なるほど。「青森」なのに「イギリス」なのは、「イギリスパンを使った商品」だからなのですね。『イギリストースト』の人気の秘密では、そんな『イギリストースト』がなぜこんなにも長い間支持されているのか。それは「青森県民が好きな味」にあるようです。工藤パンの那須さん:青森県民は甘いものを好む習慣があります。例えば赤飯は全国的にはごま塩などをかけて塩味で食べるのが一般的ですが、青森の特に津軽エリアでは甘い赤飯が食べられているんですよ。甘い赤飯!「それはもはやデザートでは?」と思いますが、れっきとしたご飯として甘い赤飯が好んで食べられているのだそう。ほかにも、全国的には塩味のものが甘くなっている食べ物があるようで…。工藤パンの那須さん:茶碗蒸しも甘いです。通常茶碗蒸しには銀杏が入ることが多いですが、青森では大粒の栗の甘露煮が入っています。「銀杏は邪道」という人もいるくらいです。塩味の出汁で作られたものしか食べたことのない身としては、試してみたいような怖いような気もしますが、このように甘い赤飯や茶碗蒸しを好む青森県民にとって、『イギリストースト』の甘いグラニュー糖とマーガリン、そして食パンのハーモニーはまさにツボにハマったのかもしれませんね。というわけで発売当初から人気商品だった『イギリストースト』ですが、さらに青森県内の中学高校の売店でも販売していたため、学生を中心に人気に火がつき、54年ものロングセラーとなったのです。また、発売当初は一枚の食パンの表面にグラニュー糖とマーガリンを塗っていましたが、昭和51年からはその食パンを2枚にスライスして間に挟むようになり、より食べやすくなりました。グラニュー糖がかかっていると聞くと、どれほど甘いのかと気になりますよね。実際に食べてみるとじゃりっとしたグラニュー糖とマーガリンがふんわりしたパンとマッチして、思いのほかあっさりとしています。薄い食パン2枚の量ですが、ペロリと食べられてしまいました。発売からずっと人気の秘密は、この「あっさり」にもあるようです。つまり「甘すぎず、専用のマーガリンがさらっとしていてくどくない」。だから毎日のように食べても全く飽きることがないのです。工藤パンの那須さん:そのまま食べても美味しいのですが、「トースト」という名前の通り少し焼くとグラニュー糖とマーガリンは溶け、パンはがクサクになって美味しいですよ。青森ではそのまま派とトースト派は50:50です。お勧めのトーストにして食べてみると、おっしゃる通りパンがサクサクで中がじゅわ〜。焼かないものとは全く違う食べ物に変身して、これまた美味!そのまま派とトースト派が拮抗するのも頷けます。『イギリストースト』製造のこだわりしっとりふわふわ食感のパンと、マーガリンとグラニュー糖のバランスが絶妙なハーモニーを奏でる『イギリストースト』には、製造過程にもこだわりがあります。2019年からはパン生地に自家製の発酵種ルヴァンを使用し、しっとりとした『イギリストースト』専用の山型食パンを製造しています。そして、2021年7月には生地のさらなるリニューアルを実施。ルヴァン種の量を増やすことなどによって、よりしっとり感が持続するようになりました。工藤パンの那須さん:看板商品のリニューアルはかなりチャレンジだったのですが、しっとり感が増して小麦の風味がより感じられると好評をいただいてホッとしています。また、食パンは切った瞬間から水分が飛んでいくために、製造ラインにも工夫があるとのこと。工藤パンの那須さん:食パンの乾燥を防ぐために通常より短い10mの製造ラインで全ての工程を行い、食パンをスライスしてから包装までを2時間半で仕上げています。歴代で200種類以上!『イギリストースト』のバリエーション発売当初は定番の味のみだった『イギリストースト』ですが、いつしかいろんな味を開発するように。これまで販売してきた味は200種類以上にもなるそうです。その中でもネットをざわつかせたのが、2017年に発売した『イギリスフレンチトースト(ピザ風)』。「イギリス?フランス?イタリア?多国籍すぎる!!」と話題になったのだそう。確かに「イギリスフレンチトースト」と聞くだけでも「ん?」と引っかかるのにさらに「ピザ風」。ざわつくのも当然です。この『イギリスフレンチトースト(ピザ風)』は、パンの間にピザソースとクリームチーズを挟んでから卵液をまとわせ焼いたもの。「とても人気でバカ売れだった」と那須さん。聞くだけで美味しそうですね。残念ながら「イギリスフレンチトースト」は現在販売していないのですが、工藤パンでは毎月2種類の新商品を開発、販売。2021年11月現在、販売している種類は10種類にも及びます。・イギリストースト・イギリストースト(ブレンドコーヒークリーム)・イギリストースト(小倉&マーガリン)・イギリストースト(ザクザクチョコクリーム&ホイップ)・イギリストースト(焼いもあん&マーガリン)・イギリストースト(ストロベリー&レアチーズ風味クリーム)・イギリストースト(ツナサラダ)・イギリストースト(たまごサラダ)・スペシャルイギリストースト(もっとジャリまし)・スペシャルイギリストースト(チョコスプレー&ホイップ)※歴代のイギリストーストはこちら。「ブレンドコーヒークリーム」と「小倉&マーガリン」「スペシャルイギリストーストもっとジャリまし」は、人気になったために定番化された味。中でも「もっとジャリまし」はお客様のご要望に応えた形で開発されました。グラニュー糖の量を減らしザラメ糖を入れることで、よりジャリっと感が増したスペシャルなイギリストーストです。これからも毎月、旬の食材や青森の地元の食材をアレンジした様々な味を展開していくとのこと。楽しみですね。ぜひ青森だけでなく全国でも販売してほしいと思いますが、それは難しいと那須さんはおっしゃいます。工藤パンの那須さん:時間が経つごとにどうしてもパンが乾燥してパサついてしまうため、製造日にプラス3日の消費期限を設定しています。でも本当は製造日当日か翌日くらいで食べていただかないと本当の美味しさは味わえません。だから東京より西で販売することは今のところ不可能なんです。東京のアンテナショップを除いては、青森を含む東北6県でしか手に入らない『イギリストースト』。これはぜひ青森に行って味わうしかありません。コロナ禍でなかなか県を跨ぐ旅行が難しい日が続いていますが、青森に行った際にはぜひ探してみてください。スーパーやコンビニなどの工藤パン取扱店で購入可能です。工藤パンの那須さん:青森といえば「りんご」「ねぶた」を思い浮かべる人が多いですが、『イギリストースト』を新たな青森の顔として浸透させていくのがこれからの目標です。工藤パン公式ウェブサイト工藤パン公式Twitterアカウント[文/ハラアキコ・構成/grape編集部]
2021年11月05日ロック界のスーパースターにして、稀代のアーティストでもあったデヴィッド・ボウイ。この世を去ってから5年が経ついまなお、多くの人の心で生き続け、各方面でさまざまな影響を与えています。そんななか、新たに誕生した映画『スターダスト』で描かれているのは、若き日のボウイ。そこで、こちらの方々に本作の見どころについて、お話をうかがってきました。主演ジョニー・フリンさん & ガブリエル・レンジ監督『スターダスト』メイキングより【映画、ときどき私】 vol. 417劇中でデヴィッド・ボウイを演じた俳優でミュージシャンのジョニーさん(写真・中央)と、ドキュメンタリー作品やTV映画を数多く手がけて高く評価されているレンジ監督(左)。今回は、ボウイの熱狂的なファンでもあるというおふたりに、ボウイの魅力や日本に対する印象について語っていただきました。―まずは、デヴィッド・ボウイのファンになったきっかけから教えてください。監督10代の頃、多くの人たちと同じように彼の大ファンになり、そこからすべてのアルバムを聴くようになりました。最初は音楽から入りましたが、大人になってから興味を持ち始めたのは、ボウイの人間的な部分。特に、自分をつねに生まれ変わらせようとする姿には、心をつかまれましたね。なかでも驚いたのは、あれだけ有名な人物であるにもかかわらず、彼の人生の初期段階についてはあまり知られていないところ。兄との関係や精神的な病を持ちやすい家系であること、病気に対する恐れを持ち続けていたことなど、ファンでも知らない方は多いのではないでしょうか。本作では、ボウイがたどっていたかもしれない悲劇的な影として兄の存在を描いていますが、そういった部分には、引き込まれるものがありました。演じるうえで興味深かったのは、ボウイと家族との関係デヴィッド・ボウイを演じたジョニー・フリン―では、ジョニーさんがボウイに惹かれたのは、どのようなところですか?ジョニーさん監督が話したことと重なってしまうんですが、僕にとっても興味深かったのは、家族との関係。ボウイも70年代にはあまりそういったことは語っておらず、自らその話題に触れ始めたのは、90年代くらいからだったと思います。この映画のなかでも描かれているように、彼はメンタルヘルスに対する恐怖があまりにも強かったため、語ることすらできなかったのです。そういった彼の姿は、僕にとっては準備の段階で重要なカギのひとつでもありました。当時は心の病には汚名を着せられている部分がありましたが、段々と理解をしようとする気持ちが世の中で高まってきているので、そういう意味ではいまの時代だからこそ響く物語になっていると感じています。ボウイのことを神のように慕っている人は多いと思いますが、そういった人でもこれほどのもろさを持っていたというのを知れることは大事なことかなと。それが彼のモチベーションとなっていたからこそ、あれだけの美しい音楽やアートを作れたんでしょうし、だからこそ私たちの心を動かすんだと思います。―なるほど。デヴィッド・ボウイといえば、親日家としても知られています。劇中でも装飾や衣装に日本の要素が垣間見れましたが、ボウイと日本との関係をどうご覧になりましたか?ジョニーさんこの作品のために監督とニューヨークで会ったとき、ちょうどボウイの展示会が開催されていたので、観に行ったことがありました。そこで目にした衣装から感じたのは、ボウイのなかに日本の影響がいかに色濃くあるかということ。彼は日本に対して本当に鋭い視点を持っていたんだと思います。僕はまだ訪れたことがありませんが、日本は行きたい場所のナンバーワンです。映画にもボウイが受けた日本の影響は取り入れている『スターダスト』のガブリエル・レンジ監督―ありがとうございます!ちなみに、劇中では浴衣のようなものを羽織っていらっしゃいましたが、着てみていかがでしたか?ジョニーさんほかの衣装もすべて気に入っていましたが、なかでもあの衣装はすごく着心地がよくて解放感があったので大好きな1着でしたね。俳優という仕事がおもしろいと思うのは、服を着ることで他人の人生を経験することができるところ。今回も素晴らしいドレスから女性用のブラウス、ヒール、そして日本の衣装までいろいろな服を着ることができました。それらを身につけているだけで、その人物が何をどう感じていたのかが肉体を通して感覚的に理解することができますからね。そういう意味でも、今回の衣装はどれも着るのが楽しいものばかりでした。―監督は演出するうえで、意識していたことがあれば、教えてください。監督確かに、当時の彼は熱狂的に歌舞伎にハマっていたこともあるくらいですからね。日本からは大きな影響を受けていたと思います。それは今回の映画のなかにも、取り入れているので注目していただきたいです。決められた物差しで自分を測らないのが魅力―劇中で、記者が本人に「デヴィッド・ボウイとは何者か?」と聞くシーンが非常に印象的でした。では、おふたりにとってデヴィッド・ボウイとは何者ですか?ジョニーさんおそらくボウイ自身も、この質問の答えはわからなかったんじゃないかなと思います。それくらいつねに自分を再生し続けていましたからね。あれほどまでに自分を見つめ、好奇心と探求心を持ち続けたアーティストは、ほかにはいないんじゃないかなと感じるほど。でも、そのおかげで私たちは彼からたくさんのレガシーをもらうことができたのです。さらに、彼がすごいのは新しいものや自分をワクワクさせてくれるものにもつねに敏感であること。亡くなる直前まで、いろいろなタイプの音楽に挑戦していましたよね。そんなふうに、彼は決められた物差しで自分を測ることをしなかったので、「デヴィッド・ボウイとは何者か?」という質問に自分でも混乱してしまったんでしょうね。でも、そのあとに「変化し続けることこそが自分である」と気がついたんじゃないかなと考えているところです。僕にとってもこの質問に答えるのは不可能ではありますが、だからこそ素晴らしい質問であるとも言えると思います。監督ジョニーがしっかりと答えてくれたので言うことはないけれど、唯一付け加えるとしたら、いまの問いに対する“謎”が少し明かされている部分こそがこの映画の見どころではないかなと。正直、この問いの答えを難しくさせているのは、何度も自分を変えている彼の生きざまそのもの。実際、彼はアルバムごとに新しいバージョンのデヴィッド・ボウイを発表していました。この作品では彼の“分身たち”が登場する前のデヴィッド・ボウイを描いていますが、それこそが何よりもおもしろいところだったと思います。大スターの内面を多くの人に見てほしい―最後に、日本で映画の公開を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。監督劇中で描いているのは、みなさんが知っている曲が世に出る前、つまりボウイが有名になって名声を手に入れる前ですが、それは彼のキャリアにおいては重要なターニングポイントのひとつでもありました。僕にとっても、彼の人生における大きな一章を描けたことは本当におもしろいことだったと思います。さまざまなマスクや人格を作り上げる前のボウイを見ることができる貴重なチャンスでもありますし、誰もが知る大スターの内面をとても親密に描いた映画に仕上がっているので、ぜひアイデンティティが確立する以前のボウイをみなさんにも見ていただきたいです。インタビューを終えてみて……。ひと言ひと言に、デヴィッド・ボウイに対する熱い思いが伝わってくるレンジ監督とジョニーさん。本作には、そんなおふたりの情熱も込められているのだと感じました。劇中では、ジョニーさんが自ら作った楽曲も披露されているので、こちらにも注目です。華やかな舞台裏の孤独と苦悩に心が動かされる!才能あふれる世界のトップスターとして、いまなお名をはせるデヴィッド・ボウイ。成功を手にするまでの苦悩や知られざる一面に触れることで、彼のアーティストとして、そして人間としての魅力をより深く感じることができるはずです。取材、文・志村昌美ストーリー1971年、「世界を売った男」をリリースした24歳のデヴィッド・ボウイ。イギリスからアメリカヘ渡り、初の全米プロモーションツアーに挑もうとしていた。しかしこの旅で、自分が全く世間に知られていないこと、そして時代がまだ自分に追いついていないことを知るのだった。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやアンディ・ウォーホルとの刺激的な出会いがあるいっぽうで、つねに悩まされていたのは兄が抱える病。そして、いくつもの殻を破り、ついに彼は世界屈指のカルチャー・ アイコンとしての地位を確立する最初の一歩として、デヴィッド・ボウイの最も有名な別人格“ジギー・スターダスト”を生み出すきっかけとなった瞬間を迎えることに……。惹きつけられる予告編はこちら!作品情報『スターダスト』10月8日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開配給:リージェンツ©COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED. WILD WONDERLAND FILMS LLCAutumn de Wilde
2021年10月06日どこか重たい空気が漂う日常生活を送るなか、上質な笑いを求めているときはありませんか?そんな気分のときにオススメするのは、長年にわたって愛され続けてきた名作戯曲を映画化した一風変わったコメディです。『ブライズ・スピリット~夫をシェアしたくはありません!』【映画、ときどき私】 vol. 412ベストセラー作家として名を馳せるチャールズ。自作の小説を映画化するため、脚本を書こうとするが、重度のスランプに陥っていた。そこから抜け出すため、チャールズは霊媒師マダム・アルカティに頼んで、7年前に事故死した最初の妻エルヴィラを呼び戻そうとする。なぜなら、実は彼の小説はすべてエルヴィラのアイディアを書き留めただけのもので、チャールズは彼女の力なしでは無理だと悟ったからだった。蘇ったエルヴィラは夫との再会を喜んだものの、自分が幽霊で、チャールズには新しい妻がいると知り、ショックを受ける。それでもチャールズに頼まれるままに“共同”制作するエルヴィラ。しかし、この世にいられる期限は刻一刻と迫っていた……。原案は、俳優・作家・戯曲家・脚本家・演出家・作曲家・歌手・映画監督といくつもの顔を持つ天才ノエル・カワードが手掛けた戯曲「陽気な幽霊」。発表された1941年当時には、なんと2000回も上演されたほどの人気を博した作品です。そこで、80年の時を経て本作を現代に蘇らせたこちらの方にお話をうかがってきました。エドワード・ホール監督世界中で大ヒットを記録したテレビシリーズ『ダウントン・アビー』で、監督を務めたこともあるホール監督(写真・右)。今回はドラマや舞台演出まで幅広く手掛ける監督に、本作の見どころや自身のクリエイティブ活動の秘訣などについて、教えていただきました。―「不朽の名作」と言われる原作を映画化するうえでプレッシャーもあったと思いますが、意識したことはありましたか?監督まず一番にあったのは、「オリジナルのスピリットに忠実でいたい」という思い。今回はノエル・カワード財団のサポートも非常に手厚かったので、写真や手紙を読んだりする時間をかなり取って準備しました。そうやっていくことで、ノエルがどんな意図を持って綴った戯曲なのか、ということを掘り下げていきたいと思ったからです。映画にするうえでストーリーやキャラクターを広げているところはあっても、作品のDNAは変わっていないと自負しています。―監督が思うこの作品の魅力とは、どんなところでしょうか。監督これは死についてのコメディですが、普通だったら「死」と「コメディ」の両方を成立することはなかなかできません。しかし、それをダークに描くことなく、見事にやってのけたのがノエルの素晴らしさだと思います。だからこそ、喪失を描いているにもかかわらず、「死が終わりではないんだ」ということが伝わる作品になっているのではないかなと。誰もが死に対して居心地の悪さを抱いているとは思いますが、あくまでも死によって私たちの“状態”が変わるだけなんだと感じていただけるはずです。表現力とカリスマ性が備わっている俳優だと感じた―そんななかで、この作品を体現しているのは、『ダウントン・アビー』でも知られているチャールズ役のダン・スティーヴンスさんです。彼を起用した決め手について教えてください。監督ダンを初めて見たのは、彼が演劇学校を卒業してすぐの頃。ノエルの別の戯曲で、ジュディ・デンチと共演している舞台を見たときでした。そのときから、コメディを自然に演じるのがうまくて、どんなに長いセリフでもきちんと表現できる俳優だなと感じていたんです。なので、舞台での彼の仕事ぶりに惹かれていたというのが大きかったと思います。あと、彼は映画でコミカルな役をあまりやっていなかったので、ぜひそれを見てみたいというのもあったかもしれません。実は最初は、「ダンで大丈夫なの?」と言い出す人もいましたが、そのときは「ああ、まだ彼の良さをみんな知らないんだな」と思っていました。でも、撮影が始まったときに、彼がいかに役にはまっているかを誰もが感じたはずです。―確かに、彼が演じることでよりキャラクターが魅力的になったと感じました。監督チャールズは決していいやつではないですが、だからこそ必要だったのはチャーミングさ。それがないと、みんなが彼の嘘に騙される説得力がなくなってしまいますし、観客も入り込めなくなってしまいますから。ダンにはそれを表現できる力と周りを惹きつけるカリスマ性が備わっているので、彼を起用して正解だったと思っています。―そして、何と言っても霊媒師役の大女優ジュディ・デンチさんの存在感も素晴らしかったです。監督は昔から家族ぐるみでお付き合いがあったそうですが、旧知の仲だからこそ引き出せた部分もあったのではないでしょうか?監督それができていたかどうかは、僕よりもジュディに聞いてもらったほうがいいかもしれないですね(笑)。ただ、以前からお互いのことを知っていたので、必要以上に気を遣ったり、どう思われるかに緊張したりすることなく、仕事を進められたのはよかったなと思っています。実際、彼女とは馬が合うというか、通じ合っているような感覚を味わうことができましたから。そして、今回の仕事を通して、ジュディは俳優のなかでも本当に傑出した存在だと改めて気づかされました。その彼女と現場で関係性を深められたのは、素晴らしいことだったと思います。最悪なのは、スランプよりも諦めてしまうこと―劇中では、スランプに陥るチャールズの姿が描かれていますが、監督自身はスランプを経験したことはありますか?監督僕はスランプにあまり気がつかないタイプかもしれません。なので、状況が険しくなってきたときでも、とにかく仕事をし続けるようにしています。それで乗り越えられるというわけではないのですが、僕はクリエイティブであるうえで必要だと考えているのは、99%の努力と1%のインスピレーション。仕事に対しては、何よりも努力が大切だと信じています。僕にとってスランプよりも最悪なのは、壁にぶつかって諦めてしまうこと。そうならないために、問題が起きても、そこに向かって突き進んで行くしかないんですよね。なぜなら、クリエイティブな仕事において、“方程式”はありませんから。難しい状況に陥ることがあっても、諦めない心の準備をして、仕事に真摯に向き合って行くのが一番だと思っています。最悪なことが起きても最終的に素敵な瞬間を味わえる可能性もたくさんあるので、僕のモットーは「最後まで気持ちを切らさずにいられた人が勝利できる」です。―素晴らしいお言葉をありがとうございます!ちなみに、監督にはチャールズにとってのエルヴィラのようにインスピレーションを与えてくれる存在はいますか?それとも、降霊会で蘇らせたい人がいますか?監督個人的に会いたい人はたくさんいますが、この仕事をするうえで興味があるのはシェイクスピア。ぜひ、会って話をしてみたいですね。―確かに、興味深いお話が聞けそうです。監督が創作活動をするうえで原動力となっているものがあれば、教えてください。監督僕は鳥がいろんなところを突くように、周りにあるさまざまなものから影響を受けていると思います。ただ、自分ではあまりそういったことを分析しないほうなので、できあがった作品を観て、あとでどこからインスピレーションを受けているかに気づかされることが多いですね。たとえば、僕は1990年代に日本に1年間住んでいたことがありますが、そのときにもたくさんのことを学びました。日本人から教えられたのは、相手を思いやる気持ち―日本からはどのような影響を受けているのでしょうか?監督当時、僕は日本の文楽や歌舞伎、能、狂言といったものを勉強していたので、日本の俳優さんたちとお芝居を作ったり、坂東玉三郎さんのお芝居を見たりして過ごしていました。そういったこともあり、イギリスに戻ってから作った自分の作品のなかに、日本で味わった感情や“シンボリズム”みたいなものから影響を受けている部分があると感じることはありますね。―いま振り返ってみて、日本での忘れられない思い出などがあれば、教えてください。監督たくさんありすぎて選べないですが、日本での生活や文化には尽きないほどの興味があって、その思いは前よりも増している気がします。なかでも素晴らしいと思っているのは、日本語という言語。ひらがなとカタカナと漢字の3つを合わせて使っているだけでなく、漢字は使い方によって読み方や意味も変わってくるのが本当におもしろいですよね。あと、日本で生活していたときに学んだのは謙虚な気持ち。日本のみなさんは他人のことをよく見ていて、自分よりも先に相手を思いやる心を持っていると感じました。僕は「プロペラ」という演劇集団を手掛けていますが、このカンパニーで大切にしていることは「ひとりひとりの仕事がすべての人の助けにならなければいけない」というもの。ほかの人のことも考えながら一緒に作っていこうという意識を持つようにしています。そうすれば、自分が何かを必要としたとき、必ず周りが助けてくれるはずですから。そんなふうに内側だけではなく、外側にも目を向けるという考え方は、日本で生活しているときに教えられたものです。ほかにも、日本人の「本音と建前」はおもしろいなと思っていますし、とにかく語りつくせないほど、日本には興味を持っています。―ありがとうございます。それでは最後に、観客へメッセージをお願いいたします。監督まさに現実逃避というか、あっという間にシャンパンを飲んだような感覚を味わえる作品だと思うので、みなさんにもそういう気分になってほしいです。たとえ自分の人生において暗い時期があったとしても、「そこには笑いがある」と感じ取っていただけたらと。それこそがこの物語の本質と言えるでしょう。そして、登場人物をどん底に押しやりながらも、それをとってもおもしろく表現しているので、みなさんにも生きる希望を与えられるものになっているはずです。観終わったあと、観る前よりも幸せな気分になってもらえることを願っています。時代を超えて届く名作で笑顔が蘇る!キャストたちの軽快なやりとりと刺激的でユーモアあふれるストーリー展開に、一気に引き込まれる本作。現実世界を忘れて、いつまでもこの世界観に浸っていたいと思ういまにぴったりの1本です。1930年代の豪華な衣装やインテリアにも、心が躍ること間違いなし!取材、文・志村昌美続きが気になる予告編はこちら!作品情報『ブライズ・スピリット~夫をシェアしたくはありません!』9月10日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー配給:ショウゲート© BLITHE SPIRIT PRODUCTIONS LTD 2020
2021年09月08日働く女性たちのなかには、キャリアと恋愛の間で悩んだ経験がある人も多いのでは?そこで今回ご紹介するのは、世界的に著名な父を持ち、公私ともに激動の人生を送ったある女性の知られざる真実を描いた注目作です。『ミス・マルクス』【映画、ときどき私】 vol. 4111883年、イギリス。19世紀を代表する哲学者で、経済学者のカール・マルクスが亡くなり、その末娘であるエリノア・マルクスは、父親の葬式で思い出を語っていた。そんななか、エリノアが出会ったのは劇作家のエドワード・エイヴリング。2人は恋に落ちるが、不誠実なエドワードの裏切りに献身的な愛を捧げていたエリノアは深く傷つき、苦しめられていた。社会主義とフェミニズムを結びつけた草分けとして時代を先駆ける存在でありながら、エドワードへの愛と政治的信念との狭間でエレノアの心は引き裂かれていくことに……。2020年のヴェネツィア国際映画祭でベストサウンドトラックSTARS賞を含む2冠に輝き、脚光を浴びた本作。今回は、こちらの方に見どころを教えていただきました。スザンナ・ニッキャレッリ 監督2009年に長編監督デビューを果たして以来、本国イタリアでさまざまな賞を受賞しているニッキャレッリ監督。本作でも見事な手腕を発揮し、高く評価されています。そこで、映画を通して現代の女性たちに伝えたいことや日本に対する思いなどについて、語っていただきました。―エリノアの存在は、マルクス家の資料を読んでいる際に偶然知ったそうですが、最初はどのような印象を受けましたか?監督エリノアは19世紀当時の一般的な女性たちとは違い、非常に現代的な女性だと感じました。なぜなら、彼女はパートナーと結婚することなく、子どもを持たない選択をし、キャリアを追求。さらに男性から養ってもらうのではなく、むしろ自分が経済的に男性を支える側になっていたのです。いろんな意味で、本当に独立した女性だったと思います。―とはいえ、これだけ波乱で複雑な人生を送った方なので、どういう形で映画にするかは苦労されたのではないでしょうか。監督確かに、私にとっては大きなチャレンジだったと思います。彼女の人生のなかでも、いまの私たちに強く訴えかけるものがあると感じたのは、パートナーであったエドワードとの関係性。そういった部分を中心にしながら、この映画では「エリノアは私たちと近い女性である」ということを伝えたいと考えました。だからこそ、そのなかで重要だったのは、エリノアを十分に理解し、私のことをそばで助けてくれるようなキャストを選ぶこと。どんな女優にこの役を演じてもらえるかが、大きなポイントだったと思います。愛とは複雑でコントロールできないもの―実際、エリノアを演じたロモーラ・ガライさんは素晴らしかったです。監督私はこれまで彼女が演じてきた作品を観て、彼女ならこういう役でも十分に牽引できると信じていました。エリノアは非常に知的で、自分をコントロールできている女性のように表面的には見えていましたが、実は非常に暗い側面があり、重いエネルギーを持っている女性。それらを表現するためには、彼女が笑ったり泣いたりする瞬間ひとつひとつをきちんと演じられる女優である必要がありました。なぜなら、細かい動きすべてが“運命的なラスト”へ全部つながっていかなければならなかったからです。―エリノアは公ではフェミニストとして活動していたにもかかわらず、私生活では男性に苦しめられる生活を送っていたため、彼女は矛盾を抱えて生きていた人物と言えます。彼女がそういった状況に陥ってしまった原因について、どう解釈されましたか?監督エドワードはクレイジーで自由で、父親とは違う種類の“軽さ”を持って生きていたので、彼女はそういうところに惹きつけられたのだと思います。さらに、彼は大人の男なら持っているであろう恐れや後悔がない人物。そういう強いエネルギーを彼女は深く愛していたんだと思いますが、同時にそれが彼女を傷つけてもいたのです。そして、彼女のなかで矛盾を生み出したもうひとつの理由は、彼女の母性。劇中にも「あなたって子どもみたいだから、私が面倒みないといけないのよ」といったセリフがあるように、外でどんなに悪いことをしても、帰ってきたら受け入れてしまう。彼女はフェミニストではありましたが、彼を前にすると理屈では説明できないような行動を取ってしまっていたので、「愛とは本当に複雑でコントロールできないものなんだ」と改めて気づかされました。―そんな2人の関係性を描くうえで、気をつけたことはありましたか?監督エリノアはいつでも彼を捨てることができたのに、最後まで別れることができませんでした。でも、彼女は決して被害者ではなかったので、そういった部分はしっかりと描きたいなと。こういう女性になりたいと思ってなったわけではないけれど、彼女自身がああいう男性を選んで自分の人生を歩んでいったのだという彼女の姿は見せたかったところです。いまの私たちなら乗り越えられる―同じような矛盾を抱えている女性は、現代でも意外と多いのではないかなとも感じました。監督だからこそ、彼女の物語はいまの若い女性たちにとっても、大きな意味を与えてくれる物語になるだろうという確信があったんです。ただ、あの当時と違うとすれば、「いまの私たちなら乗り越えられる」ということ。つまり、決められた社会の構造から自分の力で抜け出すことが、あのときは無理でも、いまならできるという意味です。彼女はああいう時代に生きていたため、自ら舞台を降りることになってしまいましたが、いまならひとりでそういう選択をすることなく、みんなと手を取り合って進むことができるのではないでしょうか。何かを変えたり、戦ったりするとき、誰かが与えてくれるのを待つのではなく、自分たちで勝ち取っていかなければならないものですが、いまの私たちにそれができるはずです。それこそがこの映画のなかでも、もっとも大事なメッセージのひとつ。特に、最後の20分で彼女が踊りながら思いを表現する姿に答えがあるので、注目してほしいです。―ぜひ、観ていただきたいシーンですね。そして、ラストではエリノアが子ども時代に家族と「好きな美徳は?」「幸せとは?」「不幸とは?」「好きな格言とモットーは?」と質問しながら言葉遊びをしている様子が印象的でした。もし監督なら、どのように答えますか?監督これは本当のことなんですが、私はエレノアの父であるカール・マルクスとすべて同じ答えになりました。特に好きなのは、「幸せとは?」への答え。彼は「闘うこと」と返しますが、私自身も勝つことよりも闘うことが大事だと思っています。そして、彼はすべてにおいて人間としてどうするかということも訴えていますが、そういった彼の考えにも私は賛成です。ラストで繰り広げられる彼らの会話すべてにも、伝えたいメッセージを込めています。日本から強い影響を受けて育った―それぞれの人物がどんな答えを出すのかも、観客の方々には楽しみにしていただきたいところですね。では、まもなく公開を迎える日本についておうかがいしますが、監督は日本に対してどのような印象をお持ちですか?監督黒澤明監督の大ファンということもあり、私にとっては非常に大きな意味を持つ国のひとつです。黒澤監督の作品のなかで好きなのは、原爆のことを描いている『八月の狂詩曲』。私の前作『Nico,1988』でも戦争に触れていますが、私の心のなかには、第二次世界大戦の記憶や歴史がつねにあるように感じています。そういったこともあり、日本の歴史には以前からとても興味を持っているのです。そのほかにも、私は日本のアニメとともに育ち、そこでいろいろなことを学んできたので、言葉やビジュアルにおいて、日本から強い影響を受けていると言っても過言ではありません。『アルプスの少女ハイジ』や『キャンディ キャンディ』にはじまり、ロボットの漫画など、本当にたくさん観ましたが、なかでも宮崎駿監督は私にとって大きな存在です。いまでは、娘と一緒に日本のアニメを観て楽しんでいます。―ありがとうございます。それでは、観客へメッセージをお願いします。監督エリノアが最後にした選択の本当の答えは、誰にもわからないかもしれません。でも、彼女は決してあきらめることなく闘った人。たとえ結果的にそう見えなかったとしても、私にとっては、最後まで社会を変えるという希望を持ち続けていた人なのだということは伝えたいと思います。何があっても、前に進み続ける!激動の運命に見舞われながらも、最後まで自らの意思と変わらぬ愛を貫き通したエリノア。パンクロックの音楽に乗せて届く魂の叫びは、現代に生きる私たちにとっても、さまざまな問いと向き合うきっかけを与えてくれるはずです。取材、文・志村昌美心に訴えかける予告編はこちら!作品情報『ミス・マルクス』9月4日(土)よりシアター・イメージフォーラム、新宿シネマカリテほか全国順次公開配給:ミモザフィルムズPhoto by Emanuela ScarpaPhoto by Dominique HoucmantPhoto by Eniko Lorinczi
2021年09月03日気軽に海外旅行へ行けない今、世界のグルメを堪能できることからコストコの商品に人気が集まっています。今回は、イギリス気分を味わえる「フィッシュ&チップス」をご紹介。おうちご飯がマンネリ化している人必見ですよ。コストコにイギリスの国民食が登場!出典: Instagram「フィッシュ&チップス」は、白身魚のフライにポテトフライを添えたイギリスを代表する料理。イングランドではファストフードとして親しまれ、国民食として愛されている料理です。加熱するだけで本場の味が堪能できる出典: Instagramコストコのデリカコーナーに新作として登場した「フィッシュ&チップス」は、白身魚のフライ・ポテトフライ・タルタルソース・レモン・パセリがセットになっています。何も用意することなく、白身魚のフライとポテトフライを加熱するだけで、本格的な味わいを楽しむことができますよ。ビッグサイズでボリューム満点出典: Instagram白身魚に使用されているのは「パンガシウス」という魚。淡水に生息するナマズの仲間で、ヨーロッパや中東では、白身魚として一般的に食されているのだそう。淡白な味わいでさっぱりと食べられるのが特徴で、フライにぴったりの魚です。1枚約200gのフリッターが、3枚も入っていてボリュームも大満足!ピクルスたっぷりのタルタルソース出典: Instagramフィッシュ&チップスに欠かせないタルタルソースは、ピクルスがたっぷり入っています。マヨネーズにピクルスの酸味と食感がアクセントになって、クセになるおいしさ。意外とあっさりしていて、ピクルス好きにはたまらないソースです。大容量なので、惜しみなく使えるのが嬉しいですよね。コストコグルメで海外旅行気分を楽しもう出典: Instagramフィッシュ&チップスとして食べるのはもちろん、パンにはさんでサンドイッチ感覚で食べるのもおすすめ。冷凍保存も可能なので、食べきれない分はラップで包んでフリーザーバッグに入れて、冷凍しておくいいですよ。自宅でいつでも海外旅行気分を楽しめる「フィッシュ&チップス」。コストコで見つけたら、ぜひ購入してみてくださいね。本文中の画像は投稿主様より掲載許諾をいただいています。※こちらの記事では、ittoku_channel様の投稿をご紹介しております。記事内の情報は執筆時のものになります。価格変更や、販売終了の可能性もございますので、ご了承くださいませ。また、店舗ごとに在庫が異なるため、お立ち寄りの店舗へお問い合わせください。"
2021年06月30日日に日に暑さが増していくなか、次々と話題作が公開を迎え、映画界も熱く盛り上がっているところ。そのなかでも、じっくりと味わいたい映画としてオススメしたいのは、コリン・ファースとスタンリー・トゥッチという映画界が誇る名優がダブル主演を務めた1本です。それは……。『スーパーノヴァ』【映画、ときどき私】 vol. 392古いキャンピングカーで旅に出るピアニストのサムと作家のタスカー。車内で繰り広げられる皮肉たっぷりのジョークは、20年来のパートナーである2人にとってはお決まりのやりとりだった。かけがえのない思い出とともに添い遂げようとしていた2人だったが、タスカーが抱えている病がそれらを消し去ろうとしていた。そんななか、サムはタスカーのある秘密を見つけてしまう。大切な愛を守るため、それぞれが下した決断とは……。実際に20年来の親友であるコリンとスタンリーだからこそ、本物の絆が映しだされている本作。今回は、そんな2人がほれ込んだ脚本を生み出したこちらの方にお話をうかがってきました。ハリー・マックイーン監督もともとは俳優としてキャリアをスタートさせていたマックイーン監督。2013年から製作も手掛けるようになり、本作が監督、脚本を務めた2作目となります。そこで、作品誕生のきっかけや現場での様子、そして日本への思いについて語って頂きました。―まずは、本作のアイデアから教えていただけますか?監督ストーリーの着想を得たのは、いまから5~6年前のこと。僕は絵に描いたような売れない俳優だったので、複数のバイトに明け暮れながら人生の選択を見直していたんです。そんなときバイト先の1つで、ある女性と同僚になりました。最初は社交的で楽しくてすてきな人だった彼女ですが、1年後には気難しくて怒りっぽい人になり、仕事ができなくなってクビになってしまったのです。でも、その半年後、車いすに乗っている彼女を見かけ、若年性認知症を患っていたことを知りました。そんなふうに認知症によって人格が崩壊していくさまを目の当たりにした僕は、病気や周囲への影響について、もっと知りたいと思うように。それくらい心を動かされた経験でしたし、以前から死に直面したときの選択肢や権利についても興味があったので、これらのテーマを融合させて本作のアイデアを育てていきました。―この作品は、サムとタスカーのキャスティングがまずは大きなカギだったと思いますが、最初に決まっていたスタンリーさんが監督には秘密でコリンさんに脚本を送っていたそうですね。それを聞いたとき、どう思われましたか?監督はじめは、スタンリーが冗談で言っているのではないかと思っていたんですが、そうではないとわかったときは信じられない気持ちでした。でも、喜びのほうが大きかったですね。というのも、コリンは地球上でもっとも素晴らしい俳優のひとりだとずっと思っていましたから。キャスティングは最大にして最高の判断だった―監督にとって、おふたりの俳優としての魅力はどのようなところだと感じていますか?監督スタンリーもコリンも、幅広い役どころを数多く演じていますが、どんな役でも責任と思いやりを持って演じているところに、僕はつねにインスピレーションを受けていました。今回の現場でも、自分たちが持っているものすべてを注ぎ込むことでキャラクターをひとりの人間として作り上げてくれたほどでしたから。―当初はおふたりの役どころが逆だったそうですが、最終的にはどのようにして決定したのでしょうか?監督まずは2人が読み合わせをしていたときに、「ちょっと逆で読んでみようか?」となったそうです。その後、おふたりから読み合わせを聞いてほしいと話があり、僕のところに来てくれました。自分の脚本をあの2人がそれぞれの役で2回も読んでくれるのを聞くことができるなんて……。本当に光栄なことでした。もちろんどちらでも素晴らしかったのですが、関係性やリズムを考えてみると、逆にしたほうが自然に感じたので、最終的には僕が決めました。いま考えると、準備段階で最大にして最高の決断だったんじゃないかなと思っています。―確かに、完璧な配役だったと思います。俳優として世界でもトップクラスにいるおふたりと実際にお仕事をしてみて、いかがでしたか?監督今回、俳優としても、フィルムメイカーとしても彼らからはたくさんのことを学ぶことができたと思います。この作品で一番おもしろい要素のひとつは、2人の関係性が複雑であることですが、そのあたりは3人でいろいろと考えながら準備をしました。本当に興味深いコラボレーションができたと感じています。それから、何よりも彼らは人柄が素晴らしく、他人の意見に対してもすごくオープンで寛大なので、たくさんの刺激をもらうことができました。あと、スタンリーはカクテルを作るのがすごく上手なので、それが長い一日の最後に癒しを与えてくれました。見たことのないキャラクターを作り出したい―それだけでなく、撮影期間中はスタンリーさんがコリンさんに毎晩ご飯を作ってあげていたそうですね。監督そうなんですよ。コリンの料理の腕に関しては、あえてコメントしませんが、どちらが料理上手かと言ったら、その答えはスタンリーでしょうね(笑)。2人ともとても楽しい人たちなので、よくお互いにふざけあったり、からかいあったりしていました。本当に大親友なんですよ。―そういうおふたりだからこそ、撮影中もあうんの呼吸で演技をされていたところもありますか?監督今回は実際に運転をしながら撮影をしていましたし、ロードムービーという作品の性質上、その場の状況に合わせてリアクションを取るようなこともありました。それがこの作品を作るうえで、ユニークだったところじゃないかなと。ただ、完成した作品で見ることができるシーンの大半は脚本に書かれていたことなので、アドリブはほとんどないんですよ。もし作品を観ていて「アドリブかな?」と感じることがあるとすれば、それは2人の演技がうまいからですね。―なるほど。また、サムとタスカーのキャラクターを作り上げるだけでも2年ほどかかったそうですが、こだわっていたのはどのあたりでしょうか?監督僕はなるべく自分を投影するようなキャラクターは書かないようにしているんです。なぜなら、自分のことはそんなに興味深い人間だと思っていないので(笑)。そういったこともあって、なるべくオリジナルで有機的なキャラクターを作り上げるように意識しています。そのうえで、できるだけ同じような経験をしている人の真実に迫れるようなものにできたらいいなと。すごく難しい作業ではありますが、観客の方々がこれまでにあまり観たことのないようなキャラクターを目指しています。今回は2人の状況が状況なだけに、重要だったのは深くてヘビーな部分と喜びがある軽い部分とのバランスをいかに取るか。気持ちを抑えきれないところや軽妙なところは、カップルとしての彼らから出てこなければいけないものだったので、そのバランスをどうするかは挑戦でもありました。定義づけできないのが愛の美しいところ―同性カップルという設定にした意図はありますか?監督僕が映画を作るとき、つねに心がけているのは、進歩的で先進的であること。なぜなら映画であれ何であれ、それが芸術の仕事だからです。本作の根底にあるテーマは、主人公たちの性的志向にはまったく関係のない愛の普遍性。重要で独創的なことだからこそ、挑戦すべきなのではないかと。性的指向に言及すらしない映画を作ることで、同性愛をごく自然で普通なものにしたいと思いましたし、そういう映画がまだまだ足りていないと感じています。―改めて愛の尊さを感じましたが、監督にとって愛とはどんな存在ですか?監督愛にはいろいろなものが含まれているんじゃないかなと僕は思っています。愛を定義づけるのはなかなか難しいけれど、定義づけられないところがまた愛の美しさでもあるのかなと。そして、愛はとても親密で、ほかの人には見せられない部分を自分にだけ見せてくれるものだからこそ、貴重なんですよね。本作では認知症を描いた物語ということもあり、病によって少しずつ自分が奪われていきますが、だからこそその過程で愛の本質が重要な問いとして訴えてくるものがあると考えています。そして、彼らのように相手のことを深く理解することも愛のひとつかなと。ぼくにとっての愛は何かまだわからないですが、これがこの作品を通して出た答えだと思います。日本は世界でもっとも好きな国のひとつ―日本の観客も本作の公開を非常に楽しみにしていますが、監督は日本から影響を受けているものはありますか?監督実は日本がすごく好きで、日本の文化は僕の人生の大きな一部だと言ってもいいほど。決して、日本の取材を受けているから言っているわけではありませんよ(笑)。本当に、世界でもっとも好きな国のひとつなんです。実際、日本には何度も行っていますし、大学で書いた論文も「黒澤作品に見られるシェイクスピア劇」みたいな感じで、すべて日本映画に関するものにしていましたから。僕が世界で一番好きな映画監督は、小津安二郎監督。好きな日本映画を選べと言われたら決められないくらいたくさんありますが、小津監督の『麦秋』、『晩春』、『東京物語』をはじめ、是枝裕和監督の『幻の光』、黒澤明監督の作品も全部好きです。そんなふうに、日本の映画からはつねに多くのインスピレーションをもらっています。あとは、写真家の杉本博司さんも僕にとっては、刺激を与えてくれる存在です。―ありがとうございます。ちなみに、次はどのような作品を考えていらっしゃいますか?監督ちょうどいま3作目の脚本を書いているところなんですが、もとになっているのは、2017年に徳島の祖谷渓谷に滞在していたときの僕自身の経験。実は、日本を舞台にした作品なんです。なので、早く日本に戻りたいなと思っています。今回も『スーパーノヴァ』と一緒に来日できなかったことがとても残念です。―次の来日と次回作の両方を楽しみにお待ちしています。それでは最後に、観客に伝えたい思いを教えていただけますか?監督主人公たちは胸をえぐられるほどつらい状況に直面していますが、ありのままを描写したいと考えました。それに、追い詰められたからこそ、愛は想像以上に美しく、すべてを超越するものだと気づけたのかもしれません。つまり、お互いに思いやりを持って誠実に向き合えば、人はどんな大きな困難も乗り越えることができるのだと。この作品には、そういった希望があるロマンチックなメッセージが込められているので、みなさんにもそれを受け取っていただきたいです。愛の深さに胸が張り裂けそうになる!星が進化の最後に起こす大爆発である「超新星」という意味を持つ『スーパーノヴァ』に映し出されているのは、まさに愛が持つ星の瞬きのような美しさと消えゆく儚さ。名優たちによる繊細な演技とともに、心の奥で愛が輝きを放つのを感じてみては?取材、文・志村昌美真に迫る予告編はこちら!作品情報『スーパーノヴァ』7月1日(木)TOHO シネマズ シャンテ 他 全国順次ロードショー配給:ギャガ© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.
2021年06月30日ステイホームが続くなか、家族と過ごす時間が増えたことで、改めて家族としっかり向き合った人も多いのではないでしょうか?そこで、今回ご紹介するのは、ある決断をした母親と家族の姿から生き方や家族のあり方について考えさせられる話題作です。『ブラックバード家族が家族であるうちに』【映画、ときどき私】 vol. 387ある週末、医師のポールと病を患っている妻リリーが暮らす海辺の家に集まってきたのは、娘たちとその家族。彼らの目的は、安楽死を決意したリリーが家族と最後の時間を過ごすためだった。母の意思を受け入れてはいるものの、苛立ちを隠せない長女ジェニファー。いっぽう、次女のアナは母の決意を受け入れられず、姉と衝突を繰り返していた。複雑な思いを抱えながらも、一緒の時間を過ごす家族たち。徐々にそれぞれが抱えていた秘密が明らかになるのだった。そして、ジェニファーとアナは、母の決意を覆そうと試みるのだが……。アカデミー賞受賞経験のあるスーザン・サランドンとケイト・ウィンスレットをはじめ、実力派俳優が顔を揃えていることでも注目の本作。そこで、こちらの方にその舞台裏についてお話をうかがってきました。ロジャー・ミッシェル監督『ノッティングヒルの恋人』や『恋とニュースのつくり方』など、さまざまな人気作を手掛けてきたミッシェル監督。今回は、本作の現場で初めて経験したことや俳優陣から感銘を受けた瞬間などについて、語っていただきました。―オファーをもらってすぐに決断したそうですが、普段から作品の題材を決めるときは、即決するタイプなのでしょうか?それとも、この作品は特別でしたか?監督普段はわりと頭で物事を考えるタイプではありますが、作品に関しては直感が一番正しいガイドになることが多いですね。今回も、すぐに魅力を感じました。ただ、直感なので、オファーを受けたときは自分と題材とがどうしてつながっているのかわからないことも。撮り終わって数年経ってから、「ああ、こういうことだったんだ!」とわかることもけっこうあるくらいなんですよ(笑)。―では、本作に関しては、どのような部分に監督の直感が働いたのか答えは出ていらっしゃいますか?監督題材はもちろんのこと、ひとつの家に家族全員がほぼ丸3日間一緒にいなければいけないという設定がおもしろいと思いました。それはまるでアガサ・クリスティの作品のように、容疑者たちが集まる週末に誰かが死んでしまうことがわかっているような展開だなと。登場人物も、それぞれのキャラクターに踏み込みやすい物語なので、そういった部分に惹かれました。スーザンの存在と演技に助けられた―母のリリーを演じたスーザン・サランドンさんの存在感は、この作品の大きな柱になっていたと思いますが、ご一緒されてみていかがでしたか?監督この映画では死よりも、生を描いているので、スーザン自身の魅力をリリーにも吹き込んでいきたいと考えていました。彼女は機知に富んでいて、洗練されたユーモアを持ち、本当にタフでイキイキとした人なんですよね。撮影中、彼女のアイディアを取り入れながら最終的な脚本を完成させていきました。スーザンのおかげでリリーはセンチメンタルになることなく、リアルでありながらエッジの効いたユーモアのあるキャラクターにすることができたのではないかなと。題材が重いので、なるべくそういった軽妙さを出したいと思っていましたが、アドリブも含めた彼女の素晴らしい演技に助けられました。―対する娘のジェニファー役を務めたケイト・ウィンスレットさんも、素晴らしかったです。監督今回、一番初めにキャスティングされたのは彼女でしたが、「ケイト・ウィンスレット」という名前が自分の企画につくだけでまるでハチミツのようにほかの俳優たちを引きつけてくれました(笑)。そうやって素晴らしいキャストに集まってもらうことができ、より魅力的な作品になったと思います。―ケイトさんの役との向き合い方は、どのようにご覧になっていましたか?監督この役はいままでの彼女が演じてきた役とは違うタイプのキャラクターだったと思いますが、そういう醍醐味も感じながら演じてくれました。実は、公開前に私の知人に作品を見せたところ、驚くことに最後のクレジットになるまで、ジェニファーがケイトであることに気がつかなかった人もいたくらい。つまり、それだけ彼女が役になりきっていたということだと思います。彼女の冒険心や喜びは周りにも影響を及ぼしていて、みんなのお母さんのようでもありました。そんな彼女が言い出しっぺで、キャストも含めたみんなでブラックバードの柄のタトゥーを入れたことも。私にとって人生で初めてのタトゥーとなりましたが、それくらいみんなの仲がいい現場でした。映画作りは予期せぬ出来事を見つける作業の連続―その一体感は、作品からも伝わってきました。監督撮影中はみんなで現場に近くに泊まっていたこともあり、つねに一緒の時間を過ごしていたので、ある種のストックホルム症候群のような状態に陥っていたのかもしれませんね(笑)。ただ、それによって、お互いのことを思いやれる関係性を築くことができました。―舞台となった家にも、そういった空気感を生み出す力があったのではないでしょうか?監督今回は家もキャラクターのひとりと言ってもいいほど、重要な存在となりました。当初はイギリスのあらゆる場所を探しても見つからなかったんですが、そんなときにケイトから「うちの近くにいい家があるから見に来てほしい」と。それを聞いた私は、「現場と自宅が近ければ遅く起きても行けるから、すすめているんだろう」くらいに考えていたんです(笑)。でも、その場に足を踏み入れた瞬間に、「ここで撮影したい」と思うほど素晴らしい場所でした。イギリスにも関わらず、家のデザインはアメリカ的で、海沿いの景色もアメリカの東海岸を思い起こさせるような雰囲気。リリーのキャラクターとも呼応する家になると感じました。―実際に現場では、監督も予期しないような瞬間が生まれたこともありましたか?監督映画作りというのは、毎日現場で自然発生的に起こる予期せぬ出来事を見つける作業でもあると私は思っています。俳優たちの演技に関して言うと、そういった“化学反応”のような瞬間はたくさんありました。特にテーブルを囲んでのランチやディナーのシーンでは、俳優にアドリブを入れてもいいと伝え、長回しにしているので、そこで生まれたものは多かったですね。監督としてはつねに網を持って待ち構え、突然飛び出してきた蝶々をつかまえるような感覚だと言えると思います。そのためには、準備もきちんとしなければいけないですけどね。―とても素敵な表現ですね。監督あと、もうひとつ気がついたことは、本作のようにシリアスでエモーショナルな作品のときほどジョークが飛び交ったりして笑いの絶えない現場になりますが、逆にコメディのときはすごくダークな雰囲気になることも……。そこが反比例するのはおもしろいですが、人生というのはそういうものかもしれないですね(笑)。安楽死の持つ複雑な側面を知ることとなった―なるほど、非常に興味深いお話です。こういった作品と向き合ってみて、監督自身の死生観に影響を与えたことはありましたか?監督この映画を作るにあたって、すごく考えたのは安楽死について。特に、いろんなリサーチをするなかで、「世界中で安楽死を合法にすべき」と主張することがいかに難しいことかを知りました。なぜなら、安楽死には複雑な面がたくさんあり、悪用されてしまう可能性があることもわかったからです。この作品は安楽死に関する政治的な映画ではありませんが、リリーの選択については、誰もが考えさせられるとは思います。英語で安楽死を意味する「Euthanasia」の語源がギリシャ語の「良い死」から来ていることも、興味深いことだなと感じました。―監督にとって、この作品で一番の挑戦だったことは?監督挑戦でもあり利点でもあったのは、家のなかというひとつのロケーションで少人数の俳優たちと撮影したこと。なぜなら、カーチェイスやファイトシーンのような刺激的なカットを入れることができないだけに、俳優とストーリーだけで観客の関心をずっと引き続けなければいけなかったからです。それだけに、どうやって新しい形で撮影できるかをつねに考えながら撮影していました。―これまでに日本の作品や文化で、監督が感銘を受けたものがあれば教えてください。監督黒澤明監督をはじめとする日本映画を築いた方々の作品が非常に好きで、影響を受けています。とはいえ、これは私だけではなく、世界中の方が同じように感じているのはないでしょうか。私はまだアジアを訪れたことがありませんが、近いうちに日本にはぜひ行きたいです。―お待ちしております。それでは、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。監督観たら気持ちが落ち込んでしまうような物語だと身構えてしまう人もいるかもしれませんが、「ぜひ観てください」と心の底から言えるような作品になりました。死についてではなく生についての映画になっているので、コロナ禍を経験したいまの時代にぴったりの1本だと思います。家族だからこその葛藤と秘密に震える静かでありながら、心の奥に鋭い問いを突きつける本作。家族との向き合い方や目に見えない絆、そして生きるうえで自分が譲れないものについて、思いを巡らせずにはいられないヒューマンドラマです。彼らとともに、濃密な時間を過ごしてみては?取材、文・志村昌美胸が熱くなる予告編はこちら!作品情報『ブラックバード家族が家族であるうちに』6月11日(金)より、TOHO シネマズシャンテほか全国ロードショー配給:プレシディオ、彩プロ© 2019 BLACK BIRD PRODUCTIONS, INC ALL RIGHTS RESERVED
2021年06月10日世界中で流行している、新型コロナウイルス感染症。多くの国が、感染予防対策のためマスクの着用を推奨しています。イギリスでは、公共交通機関でのマスク着用を法律で義務付けていて、違反すると罰金を取られる場合もあるそうです。イギリスに住むイセキアヤコ(tinycrown_ltd)さんは、駅で電車待ちをしている紳士たちを撮影。InstagramやTwitter上に投稿したところ、反響が寄せられました。思わず二度見してしまう、その姿とは。マスクが斬新すぎる…!なんと動物のかぶりものをして、通勤していた2人の紳士。口元どころか頭全体をすっぽり覆ったかぶりものは、マスクの代わりにぴったりかもしれません…。シュールな光景に、ネット上では多くのコメントが寄せられました。・英国らしいオシャレな装いとのギャップに吹き出しました。・最高。遊び心にあふれていて好き。・逆境でも楽しむ余裕があるところが、さすがジェントルマン。イセキアヤコさんいわく「思い切って写真を撮らせてもらったけど、何の仕事をされているのかまでは、聞く勇気がなかった」とのこと。ルールは守りつつも、ユーモアを忘れないイギリス紳士は、素敵ですね。[文・構成/grape編集部]
2021年04月22日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「孤独・孤立対策担当室」です。孤独は社会問題。官民協力体制で根本的解決を。長引くコロナ禍で、大学では休講やオンライン授業が続き、アルバイト先の休業や閉店で経済的に困窮。休学・退学する学生が多く出ているというニュースがありますが、実は前年同期比でいえば、中途退学者は2割減。休学者は1割減です。学校側が授業料の納付期限を猶予したり、困っている生徒の授業料の減額や免除を行ったため、この1年は持ちこたえました。ところが今後はどうなるかわかりません。注視しなければいけないのは、学生たちのメンタルヘルスです。日本では新型コロナウイルスによる死者数よりも自殺者数の増加率が高く、とくに若い世代や女性の自殺が増えています。2020年1月~11月の統計では、増減率では20代が最も高く17%増、19歳以下の未成年は14%増。小中高生は479人と1980年以降で最多となりました。人に会えないこと、将来の不安、経済的困窮などが要因になっていると考えられます。コロナ禍で、世代を超え孤立している人が増えている現実を踏まえ、政府は内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を新設。省庁横断で本格的な対策に動きだすことにしました。参考にしたのはイギリスです。イギリスでは、孤独が身体に及ぼす影響を科学的に証明。死亡リスクは26%、脳卒中を発症する率は32%アップ、認知症発症率にも影響があるという数字が。これを機に2018年、孤独担当大臣を設置。約28億円規模の予算を組み、どういう人が孤独を感じ、支援の対象になるかの指標を算出し、相談体制の強化、職の支援や低所得対策を行いました。以前より孤独担当相の創設を訴えていた国民民主党の昨年11月の資料によると、東京23区の単身高齢者の孤独死は10年間で1.7倍に。全国の単身世帯数は34.5%、生涯未婚率は男性23.37%、女性14.09%でどちらも増加中。高齢者の親と無職の子供の“8050”世帯は2013年時点で推計約60万世帯、引きこもりは推計約61万人、シングルマザーは約123万世帯、うち半数が相対的貧困というように、日本には孤独があふれています。これらに対処することが、経済、医療福祉、少子化対策の一助になると思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~8:00)が4/1スタート。※『anan』2021年4月14日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年04月10日2021年4月9日、イギリス王室はエリザベス女王の夫、エディンバラ公フィリップ殿下が99歳で亡くなったことを発表しました。フィリップ殿下は同年2月16日、体調不良で入院し心臓病の処置などを受けた後、3月に退院していました。イギリス王室は公式サイトで殿下の訃報を次のように公表しています。女王陛下は深い悲しみとともに、愛する夫エディンバラ公フィリップ殿下の死を発表しました。殿下は今朝、ウィンザー城で安らかに亡くなりました。今後、さらに発表が行われます。王室は世界中の人々とともに、殿下の冥福を祈ります。The Royal Familyーより引用(和訳)フィリップ殿下は1947年に当時王女だったエリザベス女王と結婚。エリザベス女王が1952年に父ジョージ6世の死去を受け即位して以来、配偶者として史上もっとも長い年月、女王を支えてきました。産経ニュースによると、フィリップ殿下が単独で行った公務は2万2千件以上にのぼり、日本にもたびたび訪れていたそうです。世界自然保護基金(WWF)総裁を長く務めるなどし、環境保護や科学・スポーツ振興などに尽力。高齢のため、2017年に公務から退いた。単独で行った公務は2万2000件以上にのぼる。最近は慈善活動や社会奉仕運動にも注力した。優れた技能を持つ若者を表彰して支援する「英国エディンバラ公国際アワード」を創設し、世界100カ国以上に普及させた。1975年に女王ととも初来日。89年には昭和天皇の大喪の礼にも参列していた。公務の一環でたびたび訪日し、WWFの活動のため北海道や沖縄を訪れたこともあった。産経ニュースーより引用ネット上では「お元気なイメージだったので、驚きました。ご冥福をお祈りします」「女王が気を落として体調を崩されないといいけど…。どうぞ安らかに」などお悔みの言葉が寄せられています。イギリス王室に生涯を捧げた、フィリップ殿下。その死を世界中の人が悼んでいるでしょう。ご冥福をお祈り申し上げます。[文・構成/grape編集部]
2021年04月10日2018年、イギリスのヘンリー王子と元女優のメーガン・マークルさんの結婚式で、世界中の注目を集めた、故・ダイアナ元妃の姪である、キティ・スペンサー。そうそうたる参列者の中でも、圧倒的なオーラと美貌で「あの美女は誰?」と大きな話題となりました。イギリス王室の結婚式で話題謎の美女の正体に「面影を感じる!」ダイアナ元妃もまた、その美しさと類まれなセンスで今もファッションアイコンとして高い人気を誇ります。そんなダイアナ元妃の親戚は、美人ぞろい!ダイアナ元妃の双子の姪、つまりキティの妹たちであるアメリア・スペンサーと、イライザ・スペンサーもまた、「美貌の令嬢」と注目されています。ダイアナ元妃の双子の姪が美しすぎるキティとともに『美しい三姉妹』と呼ばれている、アメリア&イライザ姉妹。過去にはファッション誌の表紙も飾ったことがある話題の美貌をご覧ください。※画像は複数あります。左右にスライドしてご確認ください。 この投稿をInstagramで見る Eliza Spencer(@elizavspencer)がシェアした投稿 この投稿をInstagramで見る Eliza Spencer(@elizavspencer)がシェアした投稿 この投稿をInstagramで見る Eliza Spencer(@elizavspencer)がシェアした投稿 この投稿をInstagramで見る Amelia Spencer(@ameliaspencer15)がシェアした投稿 ダイアナ元妃を彷彿とさせる美貌で注目を集める2人。日本でも徐々に名前が知られるようになり、さまざまなコメントが寄せられています。・ダイアナ元妃の親族はすごいな。・キティ・スペンサーの時もすごい衝撃だったけれど、双子の姪たちもすごい美人!・さすが、ダイアナ元妃の姪。かなりの美人。姉のキティとともに、ファッション業界はもちろん、さまざまな業界から熱い視線が寄せられるアメリア&イライザ姉妹。今後、イギリスの美人姉妹としてさらに注目度が高まりそうな予感です![文・構成/grape編集部]
2021年03月22日