連載第185回目は、この季節になると食べたくなる、素麺を使った沖縄の定番家庭料理、ソーメンチャンプルーです。特に決まった材料はなく、お家にある食材を使って素麺と炒めるだけのお手軽料理です。今回は夏の定番野菜、ゴーヤを使って作ります。シンプルな味付けで、アレンジもしやすいのでぜひお好みのお野菜などで作ってみてはいかがでしょうか。『ソーメンチャンプルー』【旬を味わう 美人レシピ】vol. 185旬食材は、ゴーヤ!ゴーヤの旬は6月~8月です。未熟な果実を野菜として利用するウリ科の植物です。沖縄料理ブームの影響から暑い夏の活力源として広く知られるようになったゴーヤですが、正式名は生物学ではニガウリ、農学ではツルレイシといいます。独特の苦みが特徴的で、「体に良い」というのは何となく知っているけれど、具体的な栄養価については知らない人が多いのではないでしょうか。なんと、ゴーヤは健康だけではなく、女性の美容に嬉しい効果をもたらしてくれる優秀なお野菜なんです!ゴーヤは、一般的に栄養価が高いと言われる野菜をも上回るほどの栄養価があります。ビタミンCにおいては、トマトの5倍、レモン2倍という高含有率です。しかも、加熱しても壊れにくいのです。まさにゴーヤチャンプルーがおすすめなんですね!また、高い抗酸化作用があり、活性酸素を除去してメラニンの生成を防ぐので、夏に特に気になるシミ、そばかすを防止することができます。優れた美肌効果のほか、ダイエット効果もあるゴーヤ!苦みが苦手な方もこの夏に食事に取り入れれば、美肌をサポートしてくれそうですね。この夏はぜひゴーヤパワーを体感しましょう!材料はこちら!【材料(二人分)】素麺:100~150gツナ缶(オイル漬け):1缶ゴーヤ:1/4本ニンジン:1/4本もやし:ふたつかみ程度卵:1個ゴマ油:適量だし汁またはお酒:大さじ2塩:適量コショウ:適量しょうゆ:小さじ2(仕上げ用)削りぶし:適量※お好みでラー油:適量※お好みでまず、下準備を始めます。~その1:野菜を切ります。ゴーヤはわたを除き、薄切りの半月切りにします。人参は千切りにします。まず、下準備を始めます。~その2:素麺を茹で、水で洗います。素麺は袋の表示に従い、熱湯でゆでます。ゆで上がったら、流水で軽く洗いぬめりを取りのぞきます。では、作ります! フライパンまたは中華鍋にゴマ油を入れ熱し、卵を炒めます。卵を割りほぐし、フライパンでさっと炒め、バット等に上げます。同じフライパンで野菜を炒めます。ゴマ油を加えフライパンを熱し、ゴーヤとニンジンを加え塩をひとつまみ程度加え炒めます。続けてもやしも加え炒めます。ゴーヤとニンジンに油が回ったところでもやしも加えさっと炒めます。同様にバットに取り出します。ソーメンをツナと一緒に炒めます。フライパンにごま油を熱し、ソーメンとツナを加え炒めます。ほぐすように炒めます。だし汁としょうゆを回しかけます。麺がほぐれたら、だし汁としょうゆを加え、炒めあわせます。ゴーヤとニンジンを戻し入れ、一緒に炒めます。ゴーヤとニンジンを戻し入れ、一緒に炒めます。ここで味を見て、塩コショウで味を調え、卵も戻し入れ、さっと混ぜ合わせます。器に盛り付けます。器にこんもりと盛り付け、お好みで削り節を散らします。おいしさのアレンジポイントお野菜はお好みの野菜を使ってください。しょうゆの代わりに市販のめんつゆやナンプラーで味付けしてもおいしく仕上がりますよ。
2021年07月23日婚活で約1000人の男性と出会い、年下夫を射止めたライター・かわむらあみりがお届けするコラム【結婚引き寄せ隊】連載第79回は、好みがハッキリしすぎているタイプの女性が、出会いをつかみやすいコツを3つご紹介します。1.とにかく出会いの場へ出向くこと【結婚引き寄せ隊】vol. 79「どんな人でもいいから出会いたい!」という女性は少ないはず。例えば理想のタイプが明確にあったり、自分の趣味嗜好がハッキリしていたりすることも。なんだかんだ言って、やっぱり、好みのタイプって、ありますよね。そんな好みがハッキリしすぎている女性だと、出会いを探してもピンポイントすぎて、恋のチャンスがないことも。ですが、婚活中に見聞きした、そんなタイプの女性が出会いをつかんだコツのひとつめといえば、とにかくたくさんの異性と出会える場へと出向くことです。筆者の場合も、趣味も仕事も同じようにエンタメ好きで、そのなかでもさらに好きなものは細分化していて、その気持ちを分かち合えるような男性を探すとなると、けっこう難しいところがありました。だから、結果として1,000人もの男性と出会ってきてしまったのかもしれませんが、とにかくいろいろなタイプの男性がいる環境に出向くことって、大事です。自分の好みに近い男性に出会うこともあれば、趣味を共有できなくてもリラックスできる男性を見つけることもあったり、どんな男性だったら自分に合うのか、つまるところは自分のことをよく知ることができました。わかっているようで、わかっていないのが、自分自身のこと。相手探しをしているようで、実は自分のことを深堀りしていく作業が、婚活でもある気がします。同じように、好みがハッキリしている女性は、ドンピシャの男性を探したいなら四の五の言わずに、多くの出会いが期待できる場へ出向くのがベスト。いまの時期だと、リモートでできるオンラインお見合いなどもありますから、どんどん活用してみるのも手です。2.堂々と好みを言うこと出会いを探し続けていても、なかなかいい人に出会えないときって、凹みますよね。そんな状態が続くと、本当はどうでもよくないのに、相手選びが適当になってくることもあるでしょう。それに、もし出会いがあって「あんまり合わないかな……」と心の中では感じていても、本心を言い出せずに、相手の男性に合わせてしまうこともあるかもしれません。ですが、自暴自棄になったり、ガマンしたりして男性に合わせても、そのシワ寄せは自分にふりかかってきます。あとになって「こんなはずじゃなかった」とならないように、堂々と自分の好みを出してしまったほうが、実は気持ちがラク。例えばアニメが好きな女性が、最初はそれを隠していたのですが、あるときから好きなキャラクターの話を男性にしたところ、「そういうのが好きだったんだね。全然知らないから教えて」と言われて、そこからは遠慮せずに話すようになったそうです。好きなアニメの作品について話していると自然と笑顔も増え、男性も一緒にいると楽しいと思う機会も増えていったようで、その後の展開もスムーズでした。こんなふうに自分の趣味などを隠さないことだったり、異性の好みもハッキリとしているなら先に言っておいたりすると、「好みに近いかも」と紹介の話が舞い込むこともあるかもしれません。3.趣味に特化した場へ参加すること先ほどご紹介したように、先に自分の好みを言っておくことで、その後の展開がうまくいくことも少なくありません。そういう意味でいえば、最初から自分の趣味に特化した場へ参加しておくと、共感できる男性と出会いやすくなります。のんびりウォーキングしたい人ならお散歩コン、アートが好きなら美術コン、映画が好きなら映画コンなど、趣味のコンパを展開している場も多いので、探してみるのもいいでしょう。とはいえ、趣味が同じで話が合うからといって、ガチに語りすぎて反発しあう仲になることもあるかもしれませんし、趣味がちょっと同じというだけでも、相性がぴったりの男性も存在することも。ですので、まずは共通する趣味をきっかけに、お互いのことを知る機会となる場へ足を運ぶのも、新しい発見につながりますよ。出会いを探していると、いろいろなタイプの人たちに会うこともになるず。そんななかから、「この人は!」と思える人に、みなさん出会いますように!文・かわむらあみり©Paul Bradbury/Gettyimages©Hinterhaus Productions/Gettyimages©Valentin Casarsa/Gettyimages
2021年07月19日連載第184回目は、ひよこ豆を使った、具だくさんのインド風サラダ。パクチーと青唐辛子を加えて、くせになる味わいに仕上げます。切って和えるだけのとってもお手軽レシピ、おつまみにもぴったりですよ。ぜひトライしてみてはいかがでしょうか『ひよこ豆のサラダ』【旬を味わう 美人レシピ】vol. 184旬食材は、キュウリ!キュウリは1年中手に入るお野菜ですが、旬は初夏~残暑の残る9月頃です。夏場は露地、秋から春にかけてはハウス栽培が行われています。ちなみに露地栽培された旬の夏のキュウリは、ハウス栽培のものよりもビタミンCが多く含まれています。また、濃い緑色でハリやツヤのあるもの、表面のイボがピンととがっているものが新鮮とされています。キュウリの95%は水分で体を冷やす作用があり、夏の水分補給に効果的です。また豊富な水分とカリウムで利尿作用が期待でき、むくみケアにも効果的です! まさに夏バテなどで食欲がない時にはもってこいのお野菜ですね。暑い夏に大活躍しそうなキュウリ。生で食べられるので調理も楽ちんなのが嬉しいですね。さっぱりとしたキュウリを食べて夏バテ予防に努めましょう!材料はこちら!【材料(二人分)】ひよこ豆(ゆで):100gタマネギ:1/8個ミニトマト:4~6個キュウリ:1本青唐辛子:1本香菜:適量チリパウダー:ひとつまみレモン:1/4個塩:小さじ1/4まず、下準備を始めます。~その1:野菜を切りわけます。トマトとキュウリは小さめに切りわけます。タマネギと香菜はみじん切りにします。青唐辛子は小口切りにします。では、作ります。ボウルに野菜を合わせます。ボウルにひよこ豆、キュウリ、タマネギ、トマト、香菜を入れます。チリパウダー、塩、レモン汁を加えます。チリパウダー、塩、レモン汁を加えます。ざっと混ぜ合わせます。ざっと混ぜ合わせます。盛り付けます。グラス等に盛り付け、仕上げに香菜を添えます。おいしさのアレンジポイントチリパウダーの代わりにカレーパウダーを加えても美味しく仕上がりますよ。
2021年07月19日不平や不満を抱えていても、「自分ひとりでは世の中を変えることはできない」と諦めてしまうことはありませんか?そこで今回は、インターネットもSNSもない時代に、国家権力にひとりで立ち向かった沖縄のおばぁが繰り広げた衝撃の実話を基にしたドキュメンタリーをご紹介します。『サンマデモクラシー』【映画、ときどき私】 vol. 4001963 年、米軍の占領下にあった沖縄では、祖国復帰を願う人々が日本の味としてサンマを食べていた。サンマには琉球列島米国民政府の高等弁務官布令によって輸入関税がかけられていたが、関税がかかると指定されていた魚の項目にサンマの文字がないことが発覚。そこで声を上げたのは、魚卸業の女将である玉城ウシ。なんと、琉球政府を相手に徴収された税金の還付訴訟を起こし、現代の貨幣換算で7000万円もの額を要求することに。そして、ウシおばぁが起こした“サンマ裁判”は、いつしか統治者アメリカを追い詰める、民主主義を巡る闘いへと発展するのだった……。沖縄史のなかでも、埋もれていた“伝説”に迫っているノンストップドキュメンタリー。そこで、本作誕生のきっかけについて、こちらの方にお話をうかがってきました。山里孫存監督沖縄テレビで、長年にわたってさまざまな番組の企画や制作を手がけてきた山里監督。これまでも沖縄の歴史と向き合い続けてきた監督ですが、今回は沖縄の人たちでも知らなかった驚きの実話を切り口に、新たなドキュメンタリーを完成させました。そこで、取材を通じて得た気づきや次の世代に伝えていきたいことについて語っていただきました。―高校時代の同級生がFacebookに上げた投稿を見たことが本作のきっかけだったということですが、そのときのことを教えていただけますか?監督沖縄テレビに入社して以来、ずっと報道や制作の現場にいたので、沖縄のことなら大抵のことは知っているつもりでいました。そんななか、友達が「うちの亡くなった父は、“復帰運動の起爆剤”と言われているサンマ裁判を裁いた裁判官でした」と書き込んでいたんです。そこで、「サンマ裁判ってなんじゃそれ?」となって調べ始め、一気に企画書を書きました。ただ、最初は裁判官を主人公にした法廷モノのような方向性で考えていたんです。―では、そこからどのようにして、ウシさんへと繋がっていったのでしょうか?監督改めて調べ直したときに、サンマ裁判には第一と第二があることがわかり、そこで玉城ウシという魚屋の女性が起こした裁判があることを知りました。そこでもまた、「なんじゃそれ?」と(笑)。しかも、サンマ裁判を“ウシ”が起こしたなんて、それだけでおもしろいですよね。それをきっかけに、もっと庶民の側からの抵抗を描くものにしたいと思うようになりました。当時のエネルギーを若い世代にも知ってほしい―企画書を出したとき、すでに手ごたえもありましたか?監督そうですね。ウシさんが起こしたサンマ裁判については、沖縄に詳しい人や大学の教授でさえも知らない人がほとんどだったので、コンペでも「これはいいネタを見つけたね」という反応がありました。“掘り出し物”を見つけたなと思いましたが、それよりも僕自身がものすごく知りたいという気持ちのほうが強かったです。5月に沖縄で試写会をしたときには、復帰前のことを知らない人が増えているので、初めて知ることがたくさんあったという意見が多かったですね。沖縄が1972年に日本に復帰したとき、僕は小学2年生なので覚えていますが、そんなふうに実感を持って当時のことを話せるのは、僕らが最後の世代なんじゃないかなと。そういう意味でも、あの当時の戦っていたエネルギーみたいなもの若い人たちに伝えたいというのは、この作品を作りながら感じていたことでもあります。―当時をリアルに体感した世代として、次の世代に引き継いでいきたいという気持ちがより強くなったんですね。監督それはすごくありました。来年の5月15日で復帰から50周年となるので、個人的には勝手にこの作品も「復帰50周年記念作品」としています。そこに対するこだわりがあるので、先ほどの試写会も49年目となる5月15日に開催したほどです。いまから来年の5月に向けて、この作品をしっかりと日本各地に届けられたらと。復帰前の沖縄の姿と、復帰へと向かっていった沖縄の人たちの思いや現実をみなさんにも知っていただきたいです。―『サンマデモクラシー』というタイトルは非常にインパクトがありますが、どのようにして決められたのでしょうか?監督僕は普段からタイトルを先に考えるタイプなので、今回もタイトルから決めましたが、『サンマデモクラシー』というのはいい響きだなと思ったので、かなり早い段階でひらめきました。このタイトルに引っ張られる形で内容もポップな感じになっていったところがあるので、作品自体にもかなり影響を与えています。沖縄で決定権と発言権を一番持っているのは、おばぁ―時間が経っているだけに、ウシさんについてリサーチには苦労されたのではないですか?監督ウシさんのことを直接知っている人をなかなか見つけ出すことができず、断片的な証言やまた聞きした話などが多かったですね。だからこそ、「じゃあ、ウシさんが過ごしていた時代はどういう時代だったのだろうか?」というところからいろいろなデータを集めて調べ始め、落語をベースにして表現することを考えつきました。ウシさんを調べているつもりが、そこで見えてきたのは、当時の歴史的な事実やいろいろな人たちの生きていた時代。結果的にこの作品ではウシさんというひとりの沖縄の女性を通して、時代背景を全体的に見ることができるようになっていると思います。―不満があっても、政府を相手に裁判を起こすにはかなりの原動力がないとできないことですが、ウシさんを支えていたものは何だったのでしょうか?監督映画化するにあたって、僕もそこは強化しないといけないと感じていました。調べて行くと、ウシさんは娘を5歳で亡くし、夫と妹も亡くなっていたので、ひとりで生きていた女性。おそらく、多くのものをなくしてしまったからこそ、強くならざるを得なかったのだろうなと。僕はウシさんのことをそう理解したので、彼女の「相手がアメリカだろうが何だろうが、納得のいかないものはいかない」「もう私は何もなくしたくないんだ」という部分を描こうと思いました。―沖縄といえば、おばぁのイメージが強いですが、監督にとっておばぁはどんな存在ですか?監督僕が山里家の長男というのもありますが、うちのおばぁはとにかく厳しかったですね。ちなみに、沖縄ではどの家庭でも、だいたいおばぁが決定権と発言権を一番持っています。なので、おばぁが納得しないと何も前に進まないことも……。それは、伝統的におばぁや女性を敬う文化が沖縄にはあるからだと思いますが、沖縄の男がだらしないからというのもあるかもしれないですね(笑)。この作品を観ていただいてもわかると思いますが、沖縄で一番強いのはおばぁです。ただ、おばぁがいてくれるからこそ、受け継がれてきた沖縄のしきたりが次に伝えられているのだと思います。作品には、唯一無二の“川平節”が必要だった―そういった部分は、これからも引き継いでいってもらいたいですね。監督そうですね。おばぁは、沖縄ではある意味“アイドル”でもありますから。僕が立ち上げたバラエティ番組に沖縄あるあるを視聴者の方に投稿してもらう名物コーナーがありますが、お題として一番盛り上がるのは、おばぁにまつわる笑い話。ものすごくたくさんの投稿がありますし、どれもみんなで大笑いできるようなものばっかりなんですよね。―おばぁの力はすごいですね。また、劇中では、川平慈英さんのナレーションも素晴らしかったです。オファーされたきっかけは?監督慈英さんとは10年ほど前にも別の番組でがっつりと向き合ったことがあったので、お願いしました。それと、今回の作品は歴史的背景や沖縄が置かれていた状況を情報として詰め込んでいることもあり、普通にナレーションしていたら絶対に退屈してしまうので、唯一無二の“川平節”が必要だったというのもあります。「ムムッ」はこっちにとっておきましょうとか、現場でいろいろと話し合いながら慈英さんの感覚を取り入れてナレーションしていただけたのは大きかったと思います。―監督は大学時代に、慈英さんの叔父さんで沖縄の放送業のパイオニアとして活躍された川平朝申さんに卒論のインタビューをされていたご縁もあったそうですね。監督朝申さんは沖縄のマスコミ界のレジェンド的な方で、僕の質問に3日がかりで答えてくださいました。将来テレビに関わる人間になると想像はしていなかったと思いますが、沖縄のことを聞きに来ている目の前の学生にしっかりと答えようとしてくださったのではないかなと。僕にとっては、一生忘れられないインパクトのある出来事になりました。そんなふうに、川平家とは関わりがあったので、こうして一緒にお仕事できたのはものすごく感慨深かったです。恩返しというほどではありませんが、あのとき朝申さんが僕に伝えたかったことの一部でもこの映画で表現できていたらいいなと思っています。―ナビゲーターであるうちな~噺家の志ぃさーも印象的でしたが、落語の要素を取り入れた意図についても教えてください。監督落語は日本が磨いてきた話芸の最たるものだと思いますが、落語のスタイルを借りれば、宇宙の果てだろうが、江戸時代にでも未来にでも、どんな垣根でも自由自在に飛び越えていけるのではないかと感じたほど。改めて、落語のすごさを実感しました。沖縄にあることを知って、一緒に考えてほしい―劇中で高等弁務官のキャラウェイによる「自治は神話」「日本政府は二枚舌だ」という発言がありました。取材をするなかで、現代が抱えている問題に改めて気づかされることもあったのでは?監督それはすごくありましたね。知っていたことでも、当時のことを知っている方のお話をうかがうことで、自分の解釈や物の見方が変わることもありましたから。なかでも、今回の取材を通して、沖縄を統治する“めんどくさい部分”は日本政府に返して、基地だけを自由に使えるための復帰だったのかなと改めて感じました。もちろん、アメリカの高等弁務官を務めた方にも彼らなりの正義があったとは思いますが……。だからこそ、みなさんもこの作品を通していまの沖縄のニュースへの見方が変わってくれたらいいなと思っています。―今後の沖縄に期待していることはありますか?監督この作品で描かれているようなことはいまでもありますが、沖縄は民主主義から取り残されているように感じている部分が強いからこそ、日本のどこよりもそういった戦いがいまでも続いているんだと思います。沖縄のことを大好きだと言ってくださる方は多いですが、そういうところにはあまり意識が向かない方が多いのかなと。沖縄がどう変わりたいかということよりも、沖縄に起きていることを知ってもらい、少しでもみなさんに自分のこととして考えていただけたらと思います。―最後に、観客へのメッセージをお願いします。監督いまは復帰についてあまり知らない方も多いと思いますが、来年は50周年という節目の年でもあるので、こんな時代があったんだということをみなさんにもおもしろおかしく体感していただきたいです。この作品は何かを突き付けたりする意図はないので、気軽に観ていただけたらと。ただ、観終わったあとに沖縄に対しての気持ちが変わるのであれば、その思いを大事にまた沖縄と向き合っていただけたらうれしいです。未来のために、戦わなければいけないときがある!学校の教科書やニュースでは、知ることのできない沖縄のさまざまな実情を垣間見ることができる本作。信念を貫き通したウシおばぁのように声を上げることの大切さ、そしていまでも続いている戦いに私たちひとりひとりがもっと目を向けるべきだと感じるはずです。取材、文・志村昌美目が丸くなる予告編はこちら!作品情報『サンマデモクラシー』7月17日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開配給:太秦©沖縄テレビ放送
2021年07月16日ベルリン国際映画祭の銀熊賞をはじめ、世界中の映画祭を席巻している話題作『17歳の瞳に映る世界』。劇中では、予期せぬ妊娠をしてしまった17歳の少女オータムが両親にその事実を伝えることができず、自らの力だけで中絶手術を受けようと決意する姿が描かれています。そこで今回は、本作のテーマについてこちらの方にお話をうかがってきました。シオリーヌさん【映画、ときどき私】 vol. 399現在、「性の話をもっと気軽にオープンに」をテーマに正しい知識を明るく楽しく学ぶための動画を配信している“性教育YouTuber”のシオリーヌさん。看護師や助産師として働いてきたシオリーヌさんが、日本における中絶の現状や性教育が必要な理由、そして女性たちに伝えたい思いについて語ってくれました。―まずは、今回の作品から受けた印象について教えてください。シオリーヌさん大きな印象としては、社会の現状が子どもたちに影響を与えていることを改めて可視化している作品であるということ。なぜ彼女たちが親に隠れてこういったことをしなければならなかったのか、というのを考えると、背景にはいまの子どもたちが抱えている問題があることを感じずにはいられませんでした。これはアメリカを舞台にした映画ではありますが、日本でも同じような境遇にある子どもたちは決して少なくないので、この映画を通じてそういった問題に思いをはせてくれる人が増えればいいなと思っています。―作品を観て、アメリカと日本の違いを感じることもありましたか?シオリーヌさんアメリカでは中絶に関しては、中絶反対派の「プロライフ」か、それとも中絶権利擁護派の「プロチョイス」かという価値観が医療機関の対応にも大きく反映されているのが実情だと思います。アメリカでは州や病院によって異なるというのが特徴かなと感じました。それに比べて、日本ではどちらかというとそれぞれの医療者の持っている価値観によって、かけられる言葉も違ってくるのかなと思っています。実際、私と同じ助産師のなかにも、中絶は悪いことという考えの人もいれば、女性の人生を守るための大切な選択肢のひとつという考えの人もいましたから。ただ、それによって子どもたちが理不尽な思いを強いられることが無いように、社会の環境を整えていかなければいけないと改めて感じているところです。普段から話せる関係性を築くことが大切―助けを求めにいったはずの病院で、つらい思いをしてほしくはないですね。自分に合う病院はどのように見つければいいのでしょうか?シオリーヌさんいまは、多くの病院が公式HPを持っているので、そこに書かれている病院の理念を読むことは大事なことかなと思います。ほかにも術後のカウンセリングが用意されているかどうか、女性の権利に寄り添った診察を大切にしているかどうか、といった病院が出しているメッセージを事前に読むことはオススメしたいです。―なるほど。では、望まない妊娠をしてしまった場合、相談できる場所はありますか?シオリーヌさん若い方々にぜひ知っていただきたいと思うのは、「妊娠SOS」という相談窓口です。各都道府県に窓口が設置されているので、そこに電話やメールで連絡をすると、妊娠検査薬の使い方から今後の選択まで、さまざまなことに対応してくれる専門のスタッフがいます。両親や身近な大人に相談できないときは、ぜひそういった専門機関を頼っていただけたらと。また、妊娠が性被害によるものであれば、「ワンストップ支援センター」で相談することも可能です。―妊娠してしまったことを親に言えない子は多いと思いますが、そういう状況に陥らないためにすべきこととは?シオリーヌさん子どもたちにというよりも、親御さんたちに「普段から大切なことを話しやすい関係性を築いていってほしい」と伝えたいです。性の話題をタブー視している方や自分の子どもにそんなことは話せないと思っている方は多いですが、それは避妊に失敗してしまったときや妊娠してしまったときに親に言えないというトラブルにつながる可能性があります。過去には、「アフターピルをもらいに行かないといけない状況なのに、親に言えなくてどうしていかわからない」と私に連絡がきたこともありました。なので、できれば「そういうことがあったら味方になって助けてあげるからちゃんと言ってね」と日頃から伝えていただけたらいいなと思います。大切な子どもに伝えるのは当たり前のこと―ただ、親御さんもどういうふうに話をしていいのかわからない方が大半だと思います。円滑にできる方法はありますか?シオリーヌさんそもそも大人たち自身が性教育を受けたことがあまりないので、上の世代の方々からすると、性教育は恥ずかしいものやタブーだから人前で話すものではない、という印象を持っている人が多いと思います。とはいえ、受けてきた教育を思うと、そういう考え方になってしまうのは不思議なことではありませんよね。でも、だからこそまずはそういった大人のみなさんに性教育を受けていただきたいと思っています。たとえば、私の動画を見てくださった方のなかに、「普通に大事なことを話しているんだと気がついた」と言ってくださる方がいました。ぜひ、みなさんにもその“気づき”を得ていただきたいですね。もし、性教育が大事なことだとわかっていただければ、それを大切な子どもたちに知ってほしいと考えるのは、当たり前のことだと思うはずです。つまり、決して変なことを教えようとしているわけではないのだと。そこを理解していただきたいので、まずは親御さんたちから性教育を受けていただきたいと伝えたいです。―「教えなきゃいけない」というプレッシャーを感じるのではなく、「一緒に学んでいこう」くらいの気楽さでいいということですか?シオリーヌさんはい、それでいいと思います。私の動画を子どもと一緒に見ましたと言ってくださる方がいますが、いきなり自分の口から完璧に説明することはできないと思うので、私の動画もそういう使い方をしていただけるといいのかなと。どうしていいかわからなければ、一緒に話を聞きに行くとか、一緒に本を読んでみるとか、一緒に動画を見てみるとか、そういうところから始めるのでまったく問題ないと思います。―コロナ禍で10代からの妊娠相談が増えているそうですが、この現状に対してどうお考えですか?シオリーヌさん学校の友達と直接会う機会が減り、ひとりで家で過ごすことが増えたので、いまは人と意見交換をして価値観や視野を広げたり、自分の間違った知識を正したりすることができなくなっているのではないでしょうか。こういうときこそ、私のようにオンラインで発信している人たちがもっとがんばって適切な情報を届けるための努力をしなければいけないんですよね。来月には10代の学生を集めて、「性教育CAMP」というイベントをオンラインで行う予定ですが、そこではお互いにディスカッションをしてもらおうと考えています。そんなふうに、お家にいてもいろいろな人と関われるような機会は積極的に作っていけたらいいなと思っているところです。偏見や誤解が性教育の遅れに繋がっている―日本の性教育の遅れは昔から言われていますが、どうしてここまで遅れていると思いますか?シオリーヌさん政治的な理由が大きい部分もありますが、教育のシステムを決めている大人のなかには、「子どもたちには性に関する情報を具体的に与えるべきではない」とか「それまで興味のなかった子を刺激してしまうのではないか」といった偏見や誤解を持っている方も多くいるのが現実です。そういった部分が日本の性教育の遅れにつながっているのではないかと思っています。―“性教育YouTuber”として活動するなかで、どのような反響を感じていますか?シオリーヌさんYouTubeを始めて、1年で登録者数が10万人を突破したので、それだけ多くの方が性に関する情報を求めていらっしゃったんだなというのはそのときにも実感しました。実際、「こういうことを学校で教えてほしかった」というコメントが多く見られたほど。みなさんの人生や生活の役に立っていると聞くとうれしいですね。ただ、私が問題だと思っているのは、いまの子どもたちはすでにさまざまな情報に触れられる状況に置かれているにもかかわらず、何が適切で何か不適切なのか、というのを自分で判断しなければいけない必要に迫られていること。だからこそ、何か適切な情報なのかを見極めるリテラシーを育てるための教育を大人が届ける努力をしなければいけないと考えています。―現在の日本では全体の人工中絶件数は減少傾向にあるそうですが、20歳未満で中絶をする件数についてはどのような状況ですか?シオリーヌさん令和元年度のデータで、人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)は19歳以下では4.5。前年度の4.7から低下が見られていました。数字だけを見ると、件数としては減少していますが、10代で妊娠した方の過半数が中絶を選択しているという現状があるので、問題が軽くなっているわけではないと捉えています。―未成年で妊娠する子たちが抱えているのは、どのような問題でしょうか?シオリーヌさんいまの状況では、10代で子どもを育てるのは難しいと思います。たとえば、妊娠を継続するとなれば、女子生徒だけ学校を退学しなければいけないとか、そうするとそのあとに正規雇用の仕事に就きにくくなって結果的に貧困に陥ってしまうとか。そういった連鎖を引き起こさないための社会制度や福祉の部分が十分ではないと思うので、学業と育児を両立できる制度や子育てをしながらキャリアを積めるサポートがきちんと充実していれば、もしかしたらもっと産みたいと思う方は増えるのかなと。ただ、10代で計画的に妊娠した子は多くないので、まずは予期しない妊娠を経験しないための性教育をしっかりすることが大事だと思います。人生を楽しむ権利は誰にでもあるもの―中絶をした女性は心身ともにダメージを受けると思いますが、アドバイスはありますか?シオリーヌさん中絶する方のなかには、自分の人生を守るためにどうしても必要な選択だったという場合もあります。ただ、中絶をしたことで自分を責めたり、世間から批判的な言葉を投げかけられたりすることもあるので、そのあとの人生を楽しんではいけないのではないか、という気持ちになる方が多いようです。でも、中絶を経験された方にも自分の人生を楽しむ権利も、前に進めていく権利もあるので、「幸せになってはいけないんだ」と思わないでほしいというのは伝えたいなと思います。―今後の夢はありますか?シオリーヌさんはるか先のことになるかもしれませんが、文部科学省の教育指導要領が変わり、世界的にスタンダードな性教育が日本でも当たり前にカリキュラム化されることが大きな目標です。そうなるために、世の中に訴えていくのが私の役割なので、これからも「性教育は必要なものだよね」と言ってくれる仲間を増やしていけたらいいなと。本や歌を作ったりと、クリエイティブの力を使って性の話をすることにやりがいを感じているので、さまざまなツールを使って、関心がなかった方にも目に留めてもらえるような幅広い活動を心がけたいです。ゆくゆくは、私の仕事の必要性がなくなる社会になってくれるのが、一番の夢かもしれないですね(笑)。―ananweb読者のなかには、仕事と育児の両立に対する不安や母親になる準備ができていないことに悩んでいる女性もいると思います。ぜひ、シオリーヌさんからメッセージをお願いします。シオリーヌさん私もいままさにそういう年代なので、実感を持ってみなさんに共感しています。妊活したほうがいいかなと考えるいっぽうで、仕事も好きなので難しいかなと思うこともありますが、自分が親になれると自信を持てる日なんて、もしかしたら来ないんじゃないかなと感じることもあるくらいです。そのうえで思うことは、そんなにがんばらなくてもいいのではないかということ。なぜなら、子育てというのは、社会でするものだと思っているからです。私が児童思春期病棟で働いていたとき、子どもたちのことについて親御さんと一緒にたくさん悩みましたが、そんなふうに社会にいる大人がみんなで子どもを育てていけばいいんだといまは考えています。自分だけですべてを抱え込もうとせずに、頼れるところは全部頼っていいんですよ、というのはぜひみなさんにも伝えたいです。インタビューを終えてみて……。どんな質問にもわかりやすく、丁寧に答えてくださるシオリーヌさん。「この映画を通じてそういった問題に思いをはせてくれる人が増えればいい」など、明るく穏やかな口調のなかにも、性教育に対する熱い思いがひしひしと伝わってきて、改めてその大切さを実感しました。何から始めたらいいのかわからない人も多いと思いますが、まずはシオリーヌさんの動画で基礎から学び始めてみては?社会が抱える問題を一緒に考える17歳の少女たちの目を通して見える世界がつらいものから、美しいものへと変わっていくために、いまの社会と大人たちがすべきことは一体何かを突きつけられる必見の1本。多くを語ることなく立ち向かう彼女たちの姿は、多くの問いと気づきを私たちに与えてくれるはずです。取材、文・志村昌美ストーリーペンシルベニア州に住む17歳の女子高生オータムは、愛想がなく、友達も少なかった。ある日、オータムは予期しない妊娠をしてしまったことに気がつく。しかし、ペンシルベニア州では、未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。そんなオータムの異変に気がついたのは、いとこであり唯一の親友スカイラー。そこで、ふたりは自分たちだけで事態を解決するため、親に内緒で家を飛び出し、ニューヨークへと向かうことに……。心に刺さる予告編はこちら!作品情報『17歳の瞳に映る世界』7月16日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー配給:ビターズ・エンド、パルコ©2020 FOCUS FEATURES, LLC. 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2021年07月15日現在、音楽やドラマなど勢いが止まらない韓国エンタメ界。そんななか、まもなく日本に上陸するのは、韓国映画界が誇るスターのコン・ユと絶大な人気を誇る青春スターのパク・ボゴムという豪華共演が実現した話題作です。『SEOBOK/ソボク』【映画、ときどき私】 vol. 398かつて情報局でエージェントだったギホンは、脳腫瘍を患い、余命宣告を受けていた。死を目前にしていた彼に舞い込んだ任務は、国家の極秘プロジェクトで誕生した人類初のクローンであるソボクを護衛すること。しかし、任務早々に襲撃を受けてしまう。なんとか逃け切ったギホンとソボクは、危機的な状況のなかで衝突を繰り返しながら徐々に心を通わせていくのだった。ところが、人類の救いにも、災いにもなり得るソボクを手に入れようと、闇の組織の追跡はさらに激しくなっていくことに……。韓国では初登場1位に輝くなど、大きな注目を集めている本作。今回は、その舞台裏について、こちらの方にお話をうかがってきました。イ・ヨンジュ監督2012年に、恋愛映画としての歴代最高興行を達成する大ヒットを記録した『建築学概論』で知られているイ・ヨンジュ監督。9年振りの監督作となる本作で、韓国映画史上初となるクローンを題材にしたSFに挑戦しています。そこで、作品に込めた思いや現場の様子などについて、語っていただきました。―本作の構想はいつ頃、どのようなきっかけから生まれたものでしょうか?監督企画を立ち上げたのは、2013年頃。その当時は、私の姉ががんの宣告を受けて闘病していたのですが、姉が亡くなってしまい、私と家族は大きな衝撃を受けていたときでもありました。本当につらくて、この映画に漂っているような空気感が家中に漂っているような感覚を味わうことに。そこから抜け出すのにはかなり時間がかかりましたが、抜け出したいまでもまだ考え続けていると言えるかもしれません。そういった個人的な理由からも、この映画は絶対に撮りたいと思っていました。この作品は、自分にとって意味のある挑戦になった―劇中では「永遠の命」や「死の恐怖」が描かれていますが、それによって誰もが「生」について考えさせられるように感じました。監督が作品に込めた思いについてもお聞かせください。監督もちろん、以前から人はいつか死ぬとわかってはいましたが、どこかで自分とは関係ないことだと思って過ごしていたところがあったと思います。それが姉の死を経験してから、死というのは身近にある問題だと感じるようになりました。昔は目を背けていたところもありましたが、この映画を撮ることでようやく正面から見ることができるようになったのではないかなと。そのなかで、いつまで怖がっていなければいけないんだろうと考えたときに、「死は明確にあるものであり、寿命は受け入れるしかない運命でもある。だから、必ずしも怖がる必要はないのではないか」ということに気がつきました。そんなふうに、死をめぐる恐怖について見つめ直すうえで、この映画を作ることは私にとって癒しになったようにも感じています。もちろん、こういう映画を撮ることに対する怖さはありました。でも、それ以上に死を見つめることの大事さを痛感していたので、勇気を出して撮ることを決意したのです。いままで逃げていたことと向き合うことによって、本来の自分を発見できたところもあったかもしれません。私にとっては、意味のある挑戦だったと思っています。人間は欲望のために、限界を超えようとしている―今回、クローンをモチーフとして選んだのはなぜですか?監督当初は、突然変異してしまったキャラクターなど、ほかの設定も考えていましたが、韓国では10年ほど前に幹細胞が作られて非常に大きな社会問題になったことがありました。そこからクローンを思いついたのです。リサーチをして知ったのは、倫理的な観点から国際的に規制されてはいますが、幹細胞からクローンを作ることは技術的にはあまり難しくはないということ。もしかしたら、どこかで誰かが作っているのではないか、とも言われているそうです。そういったことを調べていくなかで、クローンは私のなかで身近なものだと感じるようになりました。そして、私が関心を向けたのは、「クローンは、ある意味人間が作った“神”なのではないか」という考え。人間がクローンを作り出そうとすることは、“神の領域”につながっていると思われていることがわかりました。とはいえ、人間は自らの欲望を満たすために限界を超えようとするものの、結局は自分でも制御できない状況を生み出してしまっているように感じています。―そこには、今後に対する危機感も監督のなかにはあるのでしょうか?監督『ターミネーター』のような映画でもすでに描かれていますが、将来的にはAIでも同じことが起きてしまうかもしれないという危惧はあります。つまり、人間が自分たちの領域を超えようとすることで、より大きな問題へと発展してしまうのではないかという心配です。ただ、そういう恐怖をつねに抱えているからこそ、私は本作の舞台を未来ではなく、現在にしたいと思いました。そして、現時点で人間を超えた神のような存在には、クローンが当てはまると感じて、このモチーフを選ぶことにしたのです。理想の2人に演じてもらえて、運がよかった―では、コン・ユさんとパク・ボゴムさんをキャスティングした理由を教えてください。監督最初に伝えておきたいのは、コン・ユさんとパク・ボゴムさんは、監督であれば誰もがキャスティングしたい俳優であるということですね(笑)。なので、おふたりともに出演していただくことができて、今回私は本当に運がよかったと思っています。コン・ユさんは、以前から「いつか自分の作品に出演してほしい」とずっと頭のなかに置いていた俳優のひとり。俳優としてもすばらしいですし、主演としても影響力のある方なので、今回の脚本ができたときはすぐに渡したいと思いました。そのあと、ソボクの役にぴったりだと思って浮かんだのがパク・ボゴムさん。もしも断られてしまったら、新人から探そうかと考えていたほど、私のなかではほかに代案はないくらいでした。結果的に、私が理想としていたおふたりにそれぞれの役を演じていただけて、光栄に思っています。―おふたりは初共演でしたが、現場での様子はいかがでしたか?監督コン・ユさんは大人で、すごく優しい方なので、現場にいてくださって本当にありがたかったです。彼は私よりも年下ですが、あるときは兄のようで、またあるときは友達のように接してくれました。パク・ボゴムさんとは年が離れていますが、コン・ユさんは「自分がそのくらいの年齢だったときを思い出す」と言って、本当によく面倒を見てくださったので、パク・ボゴムさんもコン・ユさんのことをすごく慕っていましたね。特に、パク・ボゴムさんにとっては、これほど大きな役を演じるの初めてだったので、責任感からかなり緊張していたんです。そんなときに、コン・ユさんがたくさん話しかけて、緊張をほぐしてくれていました。本来であれば、監督の私がすべきことまでコン・ユさんがやってくれたと言ってもいいかもしれません(笑)。彼のおかげで現場の雰囲気はとても和気あいあいとしたものになりましたし、スタッフともいい関係を築いてくれました。撮影現場がとても満足のいくものになったので、おふたりには本当に感謝しています。誠意を込めて作った作品を楽しんでほしい―撮影以外にも、おふたりとの印象的なエピソードがあれば、教えていただけますか?監督コン・ユさんとはいまでもよく連絡を取っていて、釣りにハマっている彼からは大きな魚を取ったときにいつも写真が送られてきます。「今度大きな魚を釣ったら、宅配で届けますね」と言ってくれたので、いまは魚が届くのを待っているところです(笑)。パク・ボゴムさんは、いま入隊されているので休暇で出てきたときに電話で何度か話せたくらいですが、言葉遣いが変わっていて驚きましたね。以前は柔らかい感じの話し方でしたが、いまは軍隊式の堅い感じになっていましたから。除隊されたら、また一緒にご飯でも食べに行けたらいいなと思っているところです。―それでは最後に、観客へのメッセージをお願いします。監督このたび、『SEOBOK/ソボク』が日本でも公開を迎えることになりました。この映画は、時間をかけて準備をし、私の誠意を込めて作った作品なので、ぜひ楽しんでご覧いただけたらうれしいです。特別なパワーに惹きつけられる!観る者をスクリーンに釘づけにしてしまう俳優陣の熱演と、映像の放つ圧倒的なエネルギーに惹きつけられる本作。背景にあるのは壮大な物語ではあるものの、ギホンとソボクの絆が生み出す人間ドラマと2人が迎える結末には心が揺さぶられるのを感じられるはずです。取材、文・志村昌美圧倒的な予告編はこちら!作品情報『SEOBOK/ソボク』7⽉16⽇(⾦)新宿バルト9ほか全国ロードショー配給:クロックワークス©2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED
2021年07月15日森美術館で『アナザーエナジー展』が開かれています。世界14か国出身の50年以上のキャリアをもつ女性アーティスト16名による代表作や新作など約130点が集結。88歳の現役アーティスト、三島喜美代さんのしびれる生コメントもご紹介!どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 214『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』では、現役で活躍する71歳から106歳までの女性アーティスト16名による作品を展示。絵画をはじめ、彫刻、映像、大型インスタレーションなどさまざまな作品が紹介されています。森美術館館長の片岡真実さんによると、本展は「ジェンダーや年齢、ダイバーシティの意識を高く喚起するものでありながら、そうしたアイデンティティからも解放され、個々のアーティストの芸術性、個々人の尊厳に意識が向かうような展覧会を目指した」とのこと。16名の参加アーティストは、近年国際的な評価が高まっている人や、それぞれの国や地域で長年高い評価を得ながらも国際的な評価が待たれる人たちで、世代やテーマの多様性などのバランスを考慮して選ばれたそうです。入り口から圧倒…!それでは、展示品をいくつかピックアップしてご紹介していきます。まず入り口を抜けると、フィリダ・バーロウさん(1944-)のインスタレーション《アンダーカバー 2》が登場。空間いっぱいに広がる巨大な作品に度肝を抜かれます。28本の柱の上に34枚の布と77個の玉が乗っているこの作品は、詳細な設計図があるわけではなく、現場で素材と向き合いながら組み立てられているそう。ご高齢のアーティストたちによる展覧会と聞いてイメージしていたものとは真逆の、とても力強い作品に最初から驚かされます。美しい作品に描かれているものは…ミリアム・カーンさん(1949-)の油彩画《美しいブルー》も見逃せない作品のひとつ。タイトルどおり、鮮やかな青色が目を引く美しい絵なのですが、よく見ると右側に両手をあげた人影のようなものが描かれています。実は、この人たちは難民。自国から逃げていく難民が海に沈んでいくところを描いた作品です。ユダヤ系であるカーンさんは、戦争や人権、社会問題などに関心をもち、その強い思いが作品にも投影されています。命を削って仕上げた作品最後は三島喜美代さん(1932-)の迫力ある作品群をご紹介。うずたかく積み上げられた新聞の束や、ドラム缶からあふれた新聞……これらはすべて陶でつくられた焼き物です。三島さんは1960年代に新聞や雑誌の切り抜き、チラシ、蚊帳や着物などを使ったコラージュ作品を制作。70年代には、社会に氾濫する膨大な情報に対し不安感や恐怖感を覚え、新聞を独自の技法で焼き物に転換し、進展する情報化社会への危機感を表現していきました。取材会に登壇された三島さんは、88歳になる現在も「毎日朝起きるとすぐに仕事(作品制作)をしている」といい、「命がけで作品をつくって遊んでいます」と笑顔でコメント。さらに次のように語りました。「命を削って仕事をしていますが、苦になりません。自分のつくりたい作品ができあがったときのほうが喜びが大きいからです。今回もずっと立ったまま新作をつくっていたので足が動かなくなりましたが、リハビリをすればいつか足は動きます。仕事をとるか体をとるか。私は仕事をしていると自分の気持ちが落ち着いて、楽しいのです」「好奇心を失わず、おもしろいと思ったらすぐにやる」と語った三島さんの作品からは、「現代社会への警鐘」といった重いテーマだけでなく、ふわっと温かいユーモアも感じられます。何より、88歳になっても毎日体を張って楽しく仕事をしているという生き方がカッコよく、しびれました。女性アーティストたちのパワーを感じられる『アナザーエナジー展』は9月26日まで開催。取材・文:田代わこInformation会期: ~9月26日(日) 会期中無休会場:森美術館開館時間: 10:00~20:00(最終入館 19:30)※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)※当面、上記の通り時間を短縮して営業いたします観覧料:※事前予約制(日時指定券)を導入、詳細は公式サイトをご確認ください平日 一般 ¥2000 / 65歳以上 ¥1700 / 大学・高校生 ¥1300 / 4歳~中学生 ¥700土日祝 一般 ¥2200 / 65歳以上 ¥1900 / 大学・高校生 ¥1400 / 4歳~中学生 ¥800※7月31日(土)まで、学生および子供料金が一律ワンコインの¥500で入館できるキャンペーン中※最新情報は、美術館のウェブサイトをご確認ください
2021年07月11日婚活で約1000人の男性と出会い、年下夫を射止めたライター・かわむらあみりがお届けするコラム【結婚引き寄せ隊】連載第78回は、婚活していると出会う“男性”についてのエピソードです。なかでも、いまでも印象に残っている「婚活男性3選」その26をお届けします。1.無言電話の男【結婚引き寄せ隊】vol. 78それは婚活サイトで出会いを探していたときのこと。年収、年齢、居住地、趣味……といった希望条件で絞っていき、気になったのは、ある30代のサラリーマンの男性。何度かサイトのメッセージでやりとりをして、その後、実際に会うことになり、お互いの携帯電話の番号も伝えていました。数日後に約束の日を控えていた、ある日。日中に何度か、その男性からの着信履歴が携帯にありました。その頃はちょうど仕事がたてこんでいて、日中はなかなか電話に出られず、夜に時間があるときにかけ直そうと思ったまま、結局その日は多忙で折り返せませんでした。すると、翌日もまた、気づくと着信履歴が……。留守番電話を確かめたら、ため息まじりの無言の様子が聞こえます。その日はまだ余裕があったので、着信があってからすぐ電話したら「電波が届かないところに〜」というアナウンス。うーん、と思って放っておいたら、5分後に電話が。このときすぐ電話に出たら、「……」。あれ?私、電話かかってきたよね?と電話を取ったはずなのに出ても、無言電話で混乱。でも、「もしもーし!」と何度か言うと、「……もし…もし」と消え入りそうな声が聞こえてきます。要は、約束の日に都合が悪くなったという話だったのですが、「……日が近いので……メールじゃなく電話を……」という男性。その男性の対応は丁寧だともいえますが、無言電話のような間合いの取り方も気になり、結局のところ、それからお互いにタイミングが合わず会うことはありませんでした。もしかすると会ったらまた印象が違ったかもしれませんが、その前の段階で、「アレッ?」と直感的に違うと感じたら、時間は有限なので、どんどん取捨選択していくのも婚活には大事だと思ったのでした。2.親に会わせたがる男それは少人数でのプチお見合いに行ったときのこと。半個室になっている場所で、パーティよりも長めにそれぞれ会話ができるスケジュールになっていて、ひとりずつの結婚観や仕事についてなどの話をじっくり聞くことができました。そんななかで、誠実そうな印象を受けた40代前半の男性とは、会話していても戸惑うこともなく、スムーズ。男性から「これが終わったら、お茶でもしませんか」とお誘いを受け、とくにあやしいところや不快感もなかったので、その後カフェへとふたりで移動しました。「仕事ひと筋で出会いがなくて気づいたら40代になっていたんです」と話す男性に、「私も仕事ばかりしてきていまに至ります」と話して、意気投合。だったのですが、会話の途中から、だんだんと親の話が多くなってきました。とくに母親が結婚について心配しているという男性は、両親とも距離が近い様子。私も家族はとても大事で、親を大事にする男性の姿勢は共感できましたし、婚活なのに遊び相手を探しに来るようなとんでもない男性もいるなか、きちんと親と将来について話しているのは、話が早くていいと思いました。ただ、「だから今度は、まず僕の母にも会ってほしいんです」という男性。へ?と思わず聞き返しますが、返答はやっぱり同じ。でも、出会ってまだ付き合ってもいないのに(!)すぐ親に会わせたがるなんて、いくらなんでも早すぎる……。なんだか急ぎすぎていることに違和感を覚えて、その場でやんわりお断りして、結局その後会うことはありませんでした。3.少食な男それは30代の男女が集まる飲み会で出会った、30代前半の男性のこと。最初のうちは遠くの席に座っていたその男性は、席替えをしているうちに、目の前の席に移動してきました。見るからに細めのちょっと弱々しく見えるその男性は、メガネの奥の細い目が常に笑っているような、やさしそうな雰囲気。ずーっと、おかわりせずに同じコップに入った飲み物を少しずつ飲み続けているので、何を飲んでいるのかたずねたら、「ウーロン茶」という返事が。「飲み会なのに、お酒を飲まないんですか?」と言ったら「すぐ酔っ払うし、食事にも興味がなくて」というのです。よく見ると、ウーロン茶1杯をちょびちょび飲み続けているようで、出された料理にもほとんど手をつけていません。だったら、飲み会ではない場所に参加したほうがいいのではと思いつつも、男性は「人が酔っ払う姿を見るのがおもしろいから」といった参加理由だそうで。それを聞いて、楽しく一緒にお酒が飲めず、食事にも興味がないとなると、自分には合わないなあ、と感じました。婚活していると、こういったさまざまなタイプの人たちに会うこともあるかもしれません。くれぐれも、みなさんもお気をつけて、すてきな出会いをつかんでくださいね。文・かわむらあみり©svetikd/Gettyimages©Mami_HG/Gettyimages©pixelfit/Gettyimages
2021年07月09日三菱一号館美術館で『三菱創業150周年記念 三菱の至宝展』が開かれています。三菱を創業した岩崎家が4代にわたり守り育ててきた美術工芸品など約100点が一堂に集結。世界に3碗しかない“奇跡の茶碗”も登場します!どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 213『三菱創業150周年記念 三菱の至宝展』では、三菱を創業した初代の岩崎彌太郎(1835-1885)から4代社長の小彌太(1879-1945)までの岩崎家4代の社長たちが築き上げ、現在は静嘉堂、東洋文庫所蔵となっている国宝12点、重要文化財31点を含むコレクションと三菱経済研究所の所蔵作品をあわせた約100点を紹介。完品は世界に3碗しかない“奇跡の茶碗”、国宝《曜変天目(稲葉天目)》をはじめとした美術工芸品から、絵画、刀、歴史書に至るまでの幅広いジャンルにわたる貴重な作品を見ることができます。日本の文化を守った…!岩崎家が本格的に美術収集をはじめたのは、2代目社長、彌之助(1851-1908)のとき。彼は若いころから学問や研究、芸術文化に興味をもち、アメリカにも留学。帰国後は兄の彌太郎が築いた三菱商会に入り、事業をさらに発展させながら、芸術家や研究者たちとも交流していきます。当時、明治維新後の日本では西洋文化をさかんに取り入れ、日本や東洋の文化は軽んじられていました。廃仏毀釈の影響を受け、日本の重要な文化財が海外に流出していたのもこの時期です。芸術文化を深く愛していた彌之助は、日本の文化財が散り散りになってしまうことを防ぐため、自ら積極的に美術品を収集し、保護していきます。また、彌之助は、経済的に余裕のある人間が文化や学術を保護し、社会に還元していく使命があるという考えをもっていました。単なるお金持ちの道楽ではなく、社会貢献活動のひとつとして美術品を集めていき、それらを収蔵するために静嘉堂文庫を創設。息子の小彌太がコレクションを拡充させ美術庫を築き、財団法人静嘉堂を設立しました。現在、静嘉堂には国宝7点、重要文化財84点を含む6,500点の東洋古美術品が収蔵されています。鳥肌が立つほど美しい…!奇跡の国宝そんな彌之助父子がつくりあげた静嘉堂のなかで、もっとも有名なのが国宝《曜変天目(稲葉天目)》。茶碗の中がまるで宇宙空間のようで、鳥肌が立つほど美しい作品です。中国福建省の建窯でつくられ、焼成のとき“偶然に”青色や虹色に輝く光彩が現れた茶碗を曜変天目といいます。完全な形で存在するものは世界に3碗しかないという大変貴重な作品です。(ちなみに、3碗とも日本にあり、すべて国宝に指定されています)静嘉堂の曜変天目が「稲葉天目」と呼ばれているのは、この茶碗が3代将軍徳川家光から乳母の春日局に下賜され、その後稲葉家へ伝えられたため。歴代の所有者が超一流という点も、この作品の魅力のひとつです。アジア最大級の研究図書館もつくった…!本展には、東洋文庫の所蔵品も出展されています。東洋文庫とは、彌太郎の息子で3代社長の久彌(1865-1955)が1924年に設立した、東洋学分野の研究図書館。若いころから読書家だった久彌は、東洋の古典にも親しんでおり、美術品ではなく文献資料を収集し活用することで社会貢献する道を選んだのです。現在、東洋文庫は約100万冊を所蔵するアジア最大級の東洋学術研究図書館となっています。社会貢献活動を明治のはじめから実践してきた岩崎家。彼らが守り、現代まで大切に受け継がれてきた至宝の数々をぜひご覧になってみてください。取材・文:田代わこInformation会期: ~9月12日(日) *展示替えあり前期:8月9日(月・振休)まで/後期:8月11日(水)から会場:三菱一号館美術館開館時間: 10:00〜18:00※入館は閉館の30分前まで※夜間開館日あり。開館日、営業時間は変更の可能性があります。詳細は公式サイトをご確認ください。休館日:月曜日展示替えの8月10日(火)(ただし、祝・振休の場合、7月26日、8月30日、9月6日は開館)観覧料: 一般¥1,900、高校・大学生¥1,000、高校生¥900、小・中学生無料※マジックアワーチケット:毎月第2水曜日17:00以降に限り適用 :¥1,200
2021年07月09日2019年12月12日から始まり、100日間毎日Twitterに投稿された4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」。何気ないワニの日常が大きな反響と感動を呼び、話題となりました。連載終了から1年以上が経ついまなお高い人気を誇る本作が、ついにスクリーンに登場します。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。上⽥慎⼀郎監督 & ふくだみゆき監督【映画、ときどき私】 vol. 397今回、本作の共同監督を務めたのは、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督とアニメーションの分野で活躍するふくだみゆき監督。仕事の同志であり、プライベートでは夫婦でもあるおふたりに、制作過程で見たお互いの新たな一面や夫婦ならではの強み、そして作品に込めた思いについて語っていただきました。―まずは映画化するうえで、社会現象にもなった原作を扱うことへのプレッシャーはありませんでしたか?上田監督最初は、どちらかというとワクワクのほうが大きかったですね。僕は連載開始の2日目から読み始め、30日目くらいにはすでに映画化の企画を出していました。ただ、100日目に炎上したこともありましたからね……。そういうことに対する不安みたいなものは少しあったとは思います。そこからは、より気を引き締めていこうという感じにはなりました。―どういう結末を迎えるかわからない段階で映画化したいと思った決め手はどこですか?上田監督一番は、「映画を感じたから」です。4コマ漫画という限られたなかで、すごく“余白”があるなと。語りすぎないところが映画的な漫画だと感じたので、映画化したいと思うようになりました。ふくだ監督そうですね。連載中からそう言っていたのを聞いていました。―なるほど。ただ、最初はアニメではなく、実写で考えていたそうですが、どのようなイメージでしたか?上田監督別に、俳優がワニの被り物をするとかではないですよ(笑)。単純に、人間に置き換えて撮ったらどうかなと考えていたんですが、変えたきっかけは「アニメでふくだ監督と2人でやるのはどうですか?」という提案を受けたから。いまはアニメにしてよかったなと思っています。―ふくだ監督は、そういうオファーを受けていかがでしたか?ふくだ監督最初は上田がひとりで監督すると思っていたので、「私も!?」という驚きのほうが大きかったです。でも、2人で共同監督をしたことも、原作がある作品を手掛けたこともなかったので、チャレンジという意味でもおもしろそうだなと思って受けることにしました。2人だったからこそ生まれた作品になった―実際に共同監督をしてみて、夫婦ならではの強みもあったのではないでしょうか?上田監督まずは、コミュニケーションが早いことです。特に、コロナ禍でいままでよりも人と会うことができない状況のなかで、同じ屋根の下に住んでますからね(笑)。やりとりが早く、しかも密に取れたことはよかったんじゃないかなと。ふくだ監督それは大きかったですね。あとは、これまでも一緒に映画づくりは10年続けてきているので、すでにお互いの得意不得意や感覚的なことがわかっているおかげでスムーズに物事を運べたと思います。―その過程で、意見がぶつかり合うことはなかったですか?上田監督「ケンカしないんですか?」とよく聞かれるんですけど、ほとんどないですね。ふくだ監督 そうですね。上田監督さっき言っていたように、お互いの得意不得意がわかっているというのが大きいのかなと思います。たとえば、映画の構成的なところは僕で、細かな日常のやりとりはふくだ、みたいな感じでお互いを信じていますから。ふくだ監督確かに、作風的に私のほうが日常系で、上田のほうがエンタメ系なので、そこでお互いのいいところをまとめていった感じですね。上田監督なので、いまはふくだがいてくれてよかったなと本当に思います。というのも、「俺に日常が描けるのか?」と自分に問いかけていたくらいですからね(笑)。ふくだ監督特に今回は、アニメだったからバランスがよかったというのもあったかもしれません。もしこれが実写作品だったら、おそらく上田のほうが圧倒的に強いので、そっちに引っ張られていたかなと。私のほうが強いアニメだったからこそ、うまくいった部分はあったといまは感じています。―おふたりの絶妙なバランスがあって、生まれた作品なんですね。ふくだ監督もしどちらかが単独で作っていたら、全然違うものになっていたと思うので、いまの形に仕上がったのは、2人だったからこそというのは間違いなく言えますね。―キャスティングも大きなポイントだったと思いますが、どのようにして決めて行かれたのでしょうか?上田監督まず、ワニとネズミから決めました。最初から「ワニは神木隆之介さんで」と2人の意見は一致していました。理由としては、ワニの持つまっすぐさやひたむきさ、ピュアさがぴったりだと思ったからです。ネズミには幼なじみとしての距離感が大事だと考えていたので、実際に仲の良い人から選びたいなと。それでいてネズミのキャラクターに会う人は誰かということで、中村倫也さんにお願いしました。邦画みたいなアニメにするために俳優を起用―今回は、全体的に声優ではなく、俳優陣を多く起用していますが、俳優だからこその良さというのもありましたか?ふくだ監督この作品を映画化する目標のひとつとして掲げていたのは、「邦画みたいなアニメにしたい」ということ。そういったこともあって、声優さんよりも俳優さんによる生っぽい演技のほうが今回は合うんじゃないかということになり、俳優のみなさんにお願いすることになりました。―実際に、アフレコをしてみていかがでしたか?上田監督たとえば、声優さんは台本を持ちながらやる方が多いですが、中村さんはスタンドに台本を置いて、実際に体を動かしながらやっていたので、芝居と体が連動しているんだなと感じました。画面を見ながら芝居をするというよりも、どちらかと言うと横にいる人と芝居をする感覚ですね。そういう部分で、声優さんと俳優さんではいろいろと違うところもあるのかなと。あとは、お互いにディスカッションしている様子なども含めて、実写の映画の現場っぽいなと思って見ていました。ふくだ監督通常、実写よりもアニメのほうが、セリフとセリフの間合いが短いですが、今回の作品はアニメの間合いでも、実写の間合いでもなかったので、そこがちょっと難しかったかもしれません。でも、みなさんいろいろと考えてやってくださいました。あとは、アドリブを取り入れる部分などもあったので、すごく独特な撮り方をしていた作品だと思います。―アニメでアドリブというのは、どのようにして入れていったのでしょうか?上田監督おそらく、アニメでは「この10秒はアドリブでお願いします」みたいなお願いの仕方はないと思いますが、今回はワニと先輩が路上でばったり会うところやワニたちがコンビニの前で話している場面の後半5~6秒はアドリブです。―「アドリブでお願いします」と言われて、キャストの方々は戸惑っていなかったですか?上田監督・ふくだ監督(声をそろえて)はい、戸惑ってましたね(笑)。上田監督「え?アドリブ?」みたいな感じで。とはいえ、1回やってもらって、少し話し合ってからのアドリブではありました。ふくだ監督アドリブだと、時々キャラクターよりもご本人がでてきてしまうことがあったので、「ちょっとキャラクターからはみ出てますね」などと相談しながら調整していきました。いまを生きる人を否定したくなかった―そこはぜひ注目していただきたいですね。また、後半はオリジナルストーリーが展開されていますが、そのような構成にした理由を教えてください。上田監督去年の4月に脚本の初稿があがったときは、原作が95%で後日談が5%くらいの割合でした。でも、その後コロナ禍が本格化したとき、「この先の物語を描かなければいけない。自分もその先が見たい」と思うようになったので、オリジナルの部分を増やしました。―そのなかで、映画オリジナルキャラクターとしてカエルが登場しますが、カエルに込めた思いとは?上田監督これだというのを監督の僕から言うと、それが正解みたいになってしまうので難しいですし、ひと言では言えませんが、まずは「新しい風を吹かせたかったから」というのは大きかったかもしれません。特に、カエルは原作の世界観から少しはみ出しているようなキャラクターなので、もしかしたら抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、それを受け止めるのも受け止めないのも、どちらでもいいと思っています。観る方の経験によっても、受け取り方が違ってくる部分ですからね。人は新しい生活や日常をすぐには受け入れられないところがありますが、そこで前に進むのも、進めないのもいいと僕は思っているので、なるべくいまを生きるすべての人たちを否定したくないという思いを込めました。ふくだ監督私も上田と同じで、正解をひとつに絞るようなことはしたくなかったので、そこに描かれているグラデーションの部分が伝わればいいなと思いながら作りました。―声を担当された山田裕貴さんには、どのような演出をされましたか?ふくだ監督山田さんだけでなく、ほかのキャストの方々にも共通していますが、事前に私たちがどういう映画にしたいか、どういう気持ちで作っているのか、というお話をさせていただきました。それを受けて山田さんがカエルを作ってきてくださったのですが、それがすごくイメージ通りで。なので、こちらから大きく指示することもなく、山田さんご本人が持つ資質と解釈がピッタリ合っていると思います。共同監督を経て、お互いのより深い部分が見えた―共同作業を経て、お互いに新たに発見した一面もありましたか?ふくだ監督ここまで並んで映画を作ることは初めてだったので、「こんなにもいろいろと考えていたのか」と改めて感じました。特に、上田は本当に細かいところにまでこだわりがありますが、それをしっかりと伝えて、周りを引っ張っていくのが得意なんだなというのは、今回改めて気がついた部分ですね。上田監督一緒に仕事した人からは細かくて驚かれることはありますね。でも、限られた時間と予算のなかでどこまでできるかという葛藤は、すべての映画監督が感じていることだとは思います。ふくだ監督確かに、映画をよりよくしたいという一心で全部していることですからね。でも、初めてその姿を目の当たりにしたので、「みなさん、ついてきてくださってますか?」と少し心配にはなりました。上田監督(笑)。僕も共同監督をすることで、より深い部分が見えたと感じることはありました。いまの話からもわかるように、ふくだはみんなに気を遣っているので、「やってください」と言えばいいところを「できなければいいんですけど、できたらしてほしいんですが、大丈夫ですか?」みたいに言うんですよね。僕からしたら、「めちゃくちゃクッション挟むやん」みたいな(笑)。いつもは毒舌キャラで売っているのにね。ふくだ監督いやいや、別に毒舌キャラで売ってませんよ(笑)。上田監督でも、そこがいいところでもありますけどね。ふくだ監督私が言いたいことをうまく言えずに躊躇してしまっていたので、バシッと言ってもらえたのは心強かったです。―ちなみに、家での関係性は全然違いますか?上田監督家の中ではやっぱりふくだのほうが強いと思います。でも、「映画にこれだけ力を使っているから生活がこうなるのは仕方ないよね」と言ってくれているのでありがたいです。ふくだ監督そうですね。上田は映画に脳みそを使っているぶん、日常がおろそかになりがちなところはありますね。映画に関しては、すごく尊敬できるんですが……。でも、映画監督としてのこの人を好きになってしまったので、仕方ないですね。人としては、ちょっと諦めようかなと思っています(笑)。―いいご関係でうらやましいです。それでは最後に、観客へのメッセージをお願いいたします。上田監督もちろん、ひとりで観ていただいてもいいですが、この作品は誰かと一緒に観て、終わったあとに感想を語り合うところまでを含めての映画になるのかなと思っているので、どなたかを誘って行っていただけたらいいかなと。いまだからこそできた物語でもあるので、ぜひいま観てほしいです。ふくだ監督上田が言っているように、いまの時期にぴったりの作品になっているので、映画を観て、ご自身の世界とのつながりを感じていただけたらうれしいなと思います。インタビューを終えてみて……。さすが夫婦という息の合ったやりとりで、取材を盛り上げてくださった上田監督とふくだ監督。映画監督として認め合っていることも、お互いに対する絶大な信頼感も伝わってくるおふたりの姿がとても素敵でした。本作からは、そんなおふたりの思いと愛を感じられるはずです。変わってしまった日常で、自分を見つめ直す!当たり前が当たり前ではなくなった時代の渦中にいるからこそ、改めて感じる日常のありがたさや喜び、そして大切な人への思い。失って初めて気づくのではなく、いまをもっと大切に生きて行きたい、そんな気持ちにさせられるいま必見の1本です。取材、文・志村昌美ストーリー桜が満開の3月。みんなで約束したお花見の場にワニが現れず、心配した親友のネズミはバイクで迎えに行くことに。その途中、満開の桜を撮った写真を送るが、それを受け取ったワニのスマホの画面は割れて道に転がっていた。遡ること100日前。ワニは入院中のネズミを見舞い、大好きな一発ギャグで笑わせていた。毎年みかんを送ってくれる母との電話、バイト先のセンパイとの淡い恋、仲間と行くラーメン屋など、ワニの日常は平凡でありふれたものだった。そして、お花見から100日後。ワニとの思い出と向き合えず、お互いに連絡を取ることも減っていた仲間たち。そんななか、積極的なカエルが現れ、ネズミたちは戸惑っていた……。胸が熱くなる予告編はこちら!作品情報『100⽇間⽣きたワニ』7⽉9⽇(⾦)全国公開配給:東宝©2021「100⽇間⽣きたワニ」製作委員会
2021年07月08日梅雨真っ只中だと、つい気分までジメジメしてしまうことはありませんか?そこで、今回ご紹介するのは、フランスから届いたカラッと晴れやかな気分にしてくれるオススメの注目作です。『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』【映画、ときどき私】 vol. 396オリンピックの銀メダリストとして活躍していた水泳選手のマチアス。ある日、同性愛者への差別発言によって世界水泳大会への出場資格をはく奪され、罰としてゲイのアマチュア水球チーム「シャイニー・シュリンプス」のコーチをすることとなる。彼に課されたミッションは、弱小チームを3か月後にクロアチアで開催されるLGBTQ+のオリンピック“ゲイゲームズ”に出場させることだった。ところが、メンバーは勝ち負けにこだわらないパーティ好きなお調子者ばかり。マチアスは適当にやり過ごそうとしていたが、悩みを抱えながら明るく生きるメンバーたちと触れ合うなかで、少しずつ心を開いていくことに。次第にまとまってきた彼らを待ち受ける結末とは!?本国フランスでは、2019年に公開され、初週動員数No.1に輝くなど、大ヒットとなった本作。そこで、実在するゲイの水球チームにインスパイアされて誕生した物語の裏側について、こちらの方々にお話をうかがってきました。セドリック・ル・ギャロ監督 & マキシム・ゴヴァール監督共同で監督と脚本を務めたのは、実生活で「シャイニー・シュリンプス」に7年間所属しているセドリック監督(写真・左)とプロデューサーの紹介によってセドリック監督と運命の出会いを果たしたマキシム監督(写真・右)。作品が完成するまでの道のりや実際のメンバーたちによる驚きのエピソード、そして日本への思いについてお話いただきました。―今回、おふたりでの共同作業は、どのように進められたのでしょうか?2人だったからこその強みなどがあれば、教えてください。マキシム監督まず、僕はセドリックとは違ってチームのメンバーでもないし、ゲイでもないので、脚本を書くにあたっては、僕が彼にインタビューをするような形式を取りました。そうすることで、彼にとっては普通のことでも、外から見たらおもしろいと感じることを見つけられるのではないかなと。それから、最初に同性愛者へ理解のなかったマチアスを描くうえでも、当事者ではないからこそ僕の意見が活かせると思ったのも理由です。なので、セドリックが素材で、僕が視点というバランスで作業を進めていきました。―なるほど。その過程で、意見が食い違うことはありませんでしたか?セドリック監督どういう流れでストーリーを展開させるかということや映画のトーンに関しては、最初から僕たちの意見は同じでしたね。もちろん、細かい部分やセリフの言い回しなどで話し合わなければいけないときも多少ありましたが、作品の方向性やアイディア、ユーモア、感情の部分などの本質的なところは一緒だったかなと。違いといっても、本当にちょっとしたことでした。ただ、フランスでは「悪魔はディテールに潜む」と言いますからね……。マキシム監督そうだね(笑)。世界選手権の結果については意見が正反対にわかれましたが、それぐらいかなと思います。今回、僕たちが目指したのは、LGBTQ+のコミュニティの人たちだけではなく、誰もが楽しめる作品にすること。そのために、お互いにインスピレーションを与えながら、修正をかけていくことを心がけました。結果的に、現実を裏切ることのない楽しい作品に仕上がったと思っています。勝つことより大事なのは、一緒に体験すること―映画のなかに、実際のチーム内で起きた出来事が反映されているシーンなどもありますか?セドリック監督具体的なエピソードというのはありませんが、チームのスピリットや雰囲気というのは、そのまま活かされていると思います。特に、試合に勝つことよりも、みんなで一緒にいることや笑い合って過ごすことの大切さを重視しているところは、まさに僕のチームと同じですね。―個性豊かなメンバーが繰り広げるウィットに富んだ会話のやりとりも、非常に面白かったです。モデルになっている方はいますか?セドリック監督実際のチームには35人のメンバーがいて、20代の学生からすでに退職した60代の人まで、幅広い年代で構成されています。本当に多様性に富んだ人たちが集まっているチームなので、映画のキャラクターはそれぞれのメンバーの個性を散りばめて作り上げました。劇中で、ジャンという人物が「世の中には、ゲイじゃないのに不幸な人もいるんだよ」といったことを言いますが、それは僕のチームメイトがよく「ゲイで幸せだ」といった言葉を口にするので、それが基になって生まれたセリフです。―マキシム監督は、実際のチームと一緒に時間を過ごすなかで新たな発見もありましたか?マキシム監督僕が驚いたことは、2つありました。まずひとつめは、スポーツに対する考え方がまったく違うこと。僕は体育会系なので、どうしても勝つことに重きを置いていますが、彼らは勝つことに全然興味がないんですよね。なぜなら、彼らにとって大事なのは、行動をともにし、体験をシェアすることだからです。それを知ったとき、「この映画を撮る価値はある」と確信しました。もうひとつは、おもしろかった話なんですが、セドリックの友達のひとりにコスプレ好きがいて、トーナメントに出発する際、衣装を詰め込んだ大きなスーツケースを持ってきたんです。それほど衣装を持ってきたにもかかわらず、唯一持ってくるのを忘れたのが競技用の水着でした(笑)。でも、これこそまさにチームの精神性を体現している出来事だなと感じたので、僕の大好きなエピソードです。理解し合うのに必要なのは、お互いに対する寛容さ―ますます「シャイニー・シュリンプス」を好きになるお話ですね。セドリック監督は、チームに入ったことでご自身の人生にどのような変化がありましたか?セドリック監督実は、このチームに入るまで、僕にはゲイの友達がいませんでした。もちろん普通に友達はいたので、決して不幸だったわけではありません。でも、同じ価値観や思考を持っている友達の存在が、人生においてこんなにも大事なことだとは知りませんでした。それまで自分が経験してきたことを自由に話せることも、それを共有してお互いにアドバイスし合えることも、自分にとってこんなに大きなことだったとは考えもしなかったので。それに、彼らは他人と違うことに対してとてもオープンマインドなので、これまでだったら人と違うと敬遠されていたものが、むしろ違うことを褒めてくれるのです。そういう考え方のおかげで、自分のことをより“開拓”できるようになったのではないかなと思います。あとは、こうして日本から取材を受けていること自体、人生が大きく変わった証拠ですよね(笑)。―劇中では、同性愛者に偏見があったマチアスがどんどん変わっていく姿が描かれていますが、そんなふうに違う者同士がお互いを理解しあうのに必要なことは何だと思いますか?セドリック監督まず大切なのは、寛容な心だと思います。ただ、どちらかが寛容さを持てばいいというわけではありません。つまり、お互いが相手の社会に対して寛容な心を持つことが必要だという意味です。たとえば、いまはSNSで相手を中傷した場合、傷つけられた人はすぐに激しく反論してしまいがちですが、その前に「なぜ自分は傷ついたのか」ということをきちんと説明するべきだと僕は思っています。社会にはまだ同性愛に嫌悪感を抱いている人や道理が通じない人もいますし、そもそも同性愛に対してまったく知識がない人もいるので、そういう人たちには、まず教えるところから始めるべきなのかなと。特に、SNSだとヒートアップしやすいので、対立してしまうかもしれませんが、罵倒し合うのではなく、わかってもらう努力をする必要もあるように感じています。だからこそ、それぞれの人物の人生をじっくり描ける映画を通して理解してもらいたいです。マキシム監督セドリックが言ったことに付け加えるなら、大切なのは好奇心。相手のことを無視したりすることなく、好意的な目線を持つことも重要だと僕は考えています。日本での撮影がいまから楽しみで仕方ない―ありがとうございます。話は変わりますが、エンドクレジットでセーラームーンのコスプレをしている写真が非常に気になりました。実際の試合のときに撮られたものですか?セドリック監督セーラームーンの衣装は、パリのトーナメントのときに僕たちが実際に着ていたものです。僕のチームはみんなコスプレがすごく好きで、つねに新しいアイディアを探していますからね。おそらくそれは、メンバーのひとりに日本のカルチャーオタクのような人がいて、彼が日本のアニメや歌が大好きなので、その影響もあると思いますが。とはいえ、フランスでも僕らの世代は日本のアニメが大好きで、小さいころは「セーラームーン」はもちろん、「キャッツ・アイ」とかもよく見ていました。そういったこともあって、劇中にも取り入れることにしたんです。マキシム監督もしかしたらですが、第2弾でセーラームーンが再登場するかもしれませんよ。―それはどういう意味でしょうか?セドリック監督実は、本作の続編は日本での撮影を予定しているんですよ!そのときにセーラームーンを登場させるかどうかをいま話し合っていて、アイディアとして盛り上がっているので、みなさんがスクリーンで見れる可能性は高いんじゃないかなと思います。―次回作でのコスプレも、日本を舞台にどのような展開が繰り広げられるのかも楽しみにしています!セドリック監督うまく行けば、今年の10月に日本で撮影をすることになりますが、僕たちもキャストたちも日本のカルチャーのファンなので、「早く日本に行きたいね!」と話しているところです。マキシム監督そうだね。僕は日本の伝統と近代性のコントラストや料理、音楽など、すべての文化が大好きです。もちろん、日本の女性もね(笑)。なので、日本に行けることが夢のようです。セドリック監督僕は日本の楽しいゲイのみなさんのことも好きですよ(笑)。以前、1度だけ仕事で日本には行ったことがありますが、滞在時間が48時間くらいしかなかったので、また絶対に戻ってきたいと思っていました。本当に、楽しみにしています。笑いと感動が止まらない!さまざまな悩みを抱えつつも、ユーモアとノリで我が道を突き進む「シャイニー・シュリンプス」のメンバーたち。自分が目指すべき“ゴール”とは何かを決められるのは、自分だけだと気づかせてくれるはず。笑いながら、思わず涙が出ちゃう最高のラストシーンも必見です。取材、文・志村昌美笑顔にしてくれる予告編はこちら!作品情報『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』7月9日(金)全国公開配給:ポニーキャニオン、フラッグ© LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS
2021年07月08日仕事でうまくいかないことがあると、「自分には無理かも……」とつい弱気になってしまうこともありますよね?そこで、そんな気分を一気に吹き飛ばしてくれる映画としてご紹介したいのは、実際に起きた重大事件をもとに、巨大な組織に立ち向かったある女性たちを描いたオススメの話題作です。『サムジンカンパニー1995』【映画、ときどき私】 vol. 3951995年、ソウル。サムジン電子に勤めるジャヨン、ユナ、ボラムの3人は、実務能力は高いのに高卒であるがゆえに、お茶くみや雑用ばかりをさせられていた。ところが、そんな彼女たちにもチャンスが到来!それは、会社の方針でTOEIC600点を超えたら、昇進できるというものだった。ステップアップを夢見て英語を学んでいた彼女たちだったが、ある日、自社工場が有害物質を川に排出していることを偶然知ってしまう。解雇の危険を顧みず、事実を隠蔽する会社を相手に力を合わせて真相解明に向けて奔走する3人。はたして、不正に立ち向かう彼女たちの正義は、勝利することができるのか……。1991年に起きた斗山電子のフェノール流出による水質汚染事件をモデルに、グローバル化時代を迎えた1990年代の韓国を描いている本作。韓国でも大きな注目を集めた作品が、いよいよ日本でも公開を迎えます。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。イ・ジョンピル監督これまでに『花、香る歌』などで高く評価されているジョンピル監督。今回は、本作を通じて訴えたいことやキャストとの秘話、そして働く女性たちの現状などについて、語っていただきました。―本作は実話が基になっていますが、そのときのことはどのように記憶していましたか?監督事件が起きた当時、工場の下水溝から黒い水が流れ出る様子が毎日のようにニュースで映し出されていたので、深刻なことなんだろうなと思って見ていたのは覚えています。ただ、まだ中学生だったので、正直あまり詳しいことはわかっていませんでした。そういったこともあり、この映画を作るにあたっては、改めて調べ直すことが多かったです。そこで気がついたことは、いかに当時の人たちが無知だったかということ。いまでこそ、「環境汚染は間違っていることだ」という認識が誰のなかにもありますが、当時は多くの人がそういうことを理解していなかったんだと思います。―その事件が韓国の方々に、影響を与えたこともありましたか?監督個人的に興味深いなと思ったことのひとつは、飲み水に関して。実は、この事件の前まで韓国ではミネラルウォーターは販売されておらず、人々は水道水を飲んでいました。それがこのことがきっかけとなり、ミネラルウォーターが販売されるようになり、いまではみんなミネラルウォーターを飲むようになったのです。そのことは、今回の調査のなかで知り、非常に驚きました。―モデルになっている斗山電子は、韓国最長寿企業で財閥の斗山グループのひとつです。映画化にあたって、劇中でも描かれているような妨害はありませんでしたか?監督そういうことは、まったくありませんでしたね。もしもそんなことがあったとしたら問題ですから、もはや大企業ではいられなくなってしまうでしょうね(笑)。働く女性たちの環境は改善されていると感じられた―では、この題材を取り上げると言ったとき、周囲の反応はいかがでしたか?監督当時のことを知っている人たちは「昔はあんなこともあったよね」と言っていましたが、若い世代の人たちからは「こんなすごい事件が過去にあったの!?」という声が上がりました。ただ、映画のなかで焦点を当てているのは、事件そのものよりも、どのようにして環境汚染が引き起こされたのかということ。この事件は、韓国では非常にインパクトがあったので、汚染事件としてはかなり大きく取り上げられましたが、日本でも水俣病やイタイイタイ病がありましたし、アメリカでもミシシッピ川の汚染などがありましたよね。つまり、こういった事件というのは、国や年代を問わずどこでも起きていることなのです。そして、いずれも初期段階の無知がきっかけとなっているところも、注目すべき点だと改めて感じました。―確かにそうですね。今回、劇中で描かれている女性社員たちの様子は、当時の日本でも同じような状況だったと思います。1990年代と現代を比べると、改善された部分は多いですが、いまの女性たちの働く環境についてはどう感じていますか?監督映画でもあるように、昔は女性たちが雑用をしたり、コーヒーを入れたりと男性たちを助けるような仕事ばかりしていましたよね。でも、いまの若い女性たちはそういった過去を知り、「どうしてこんなことがありえるの?」と怒っていたようです。私はその様子を見たときに、だいぶ昔とは変わったんだなと感じていました。とはいえ、そのいっぽうで「いまでもまだ変わっていないところがある」という見方があるのも事実かなと。ただ、明らかな違いがあるとすれば、働く女性たちに何か問題が起きたとき、昔ならひとりで抱え込んでしまったり、周りも見て見ぬ振りをしてしまったりすることがありましたが、いまはそれを改善していこうと声を上げられる状況になったのということではないでしょうか。それは、昔と大きく変わったところだと思っています。コ・アソンさんは共感力と表現力に秀でた人―主人公のジャヨンは、親近感の持てるおもしろいキャラクターでした。今回、コ・アソンさんを起用した理由について教えてください。監督私はあまり多くの俳優たちと交流があるわけではないのですが、コ・アソンさんに関しては、以前からたまたま面識がありました。そのなかで受けた印象は、彼女には相手のことを思いやる力があり、共感能力に優れたすごい人だなということ。それに加えて、俳優としての表現能力も秀でている方だと思っています。そして何より、彼女の大きな目に見られていると、「間違ったことをしてはいけないのではないか」と思わずにはいられないところがすごいなと。そういったことが決め手となりました。―そのうえでどのような演出をしましたか?監督まず、コ・アソンさんが言っていたのは、ジャヨンとは決して自分に自信があるわけではないけれど、自己肯定感の強い女性ではないかということ。そういった要素を踏まえたうえで、私たちがたどり着いたのは、正義感にあふれている女性ではあるが、ただ怒っているのではなく、「どうしてこんなことが起こるのだろうか?」と考えている姿を描くことでした。本当はやりたくないかもしれないけれど、自分がやるしかない状況に追い込まれることで、平凡なジャヨンが立ち上がってヒーローのようになっていくさまを見せたいなと。そのうえで、親しみやすいキャラクターに見えるようにも意識しています。コ・アソンさんとは、そういったキャラクター作りに関するポイントについて、準備段階でたくさん話し合いました。イ・ソムさんのツンデレなところがハマると思った―ユナ役のイ・ソムさんは、監督が俳優として出演した『青い塩』で10年前に共演されていたそうですね。そのときから「いつか自分の作品に出てほしい」とお考えだったのでしょうか?監督共演をしたあと、イ・ソムさんと特にやりとりがあったというわけではありません。ただ、『青い塩』の現場で印象に残っている出来事があるとすれば、ある朝、ヘアメイクを一緒にしてもらったときのこと。当時の私はマネージャーもおらず、車の免許も持っていなかったので、次の現場までどうやっていこうか悩んでいました。そしたら彼女が現場にはどうやっていくのか聞いてきたので、「適当に行きますよ」と答えたら、自分の車に乗って行くことを提案してくれたんです。そのときは、本当にありがたいと思いました。ただ、そのお返しとして今回キャスティングしたわけではありませんよ(笑)。―(笑)。では、決め手となったのは?監督今回、シナリオを書いているときに、助けなさそうな素振りをしながら結局助けるユナのキャラクターを書いていて、イ・ソムさんのイメージと重なると思ったからです。というのも、10年前に車に乗るように誘ってくれたとき、実は彼女の言い方は親切そうにというよりも、どちらかというと冷たく突き放すような感じだったので(笑)。そんなふうに、彼女にはツンデレなところがあるので合うと思いましたし、実際に彼女の演技は素晴らしいものでした。10代の頃から日本の小説が好きで読んでいる―みなさん、非常にハマり役だったと思います。本作では、人々の中にある“ファイト”を描いているということですが、監督自身が困難に立ち向かうとき、支えになっている言葉はありますか?監督せっかく日本のみなさんにお話をするので、日本に関連したエピソードをひとつ。以前、読売ジャイアンツで野球選手として活躍していたイ・スンヨプさんのインタビューでの言葉で、印象に残っているものをご紹介したいと思います。彼は日本に行ったあと、スランプに陥っていたのですが、あるときサヨナラホームランかヒットを打ち、インタビューを受けていたのです。そこで、「どうやってこのスランプに打ち勝ちましたか?」と質問されたとき、「ホームランを打てなければヒットを打てばいい。ヒットが打てなければ守備をしっかりやればいい。試合に出られなければベンチで応援をすればいい。とにかく、自分がいまできることに最善を尽くせばいいのです」と答えていました。いまでも、その言葉は私の大きな力となっています。―素敵な言葉ですね。ちなみに、監督は日本の文化から影響を受けていることもありますか?監督私は10代の頃から日本の小説が好きで、いまでもよく読んでいますよ。たとえば、太宰治や松本清張、村上春樹などの作品が好きですね。もちろん日本映画も好きで、実は今回の作品のなかでも自己紹介をする場面では、自分でも無意識のうちに岩井俊二監督の『四月物語』を意識していたことに撮り終わってから気がつきました。それから、シナリオを書いていたときには、益田ミリの『OLはえらい』という漫画を参考に読んでいたこともあるくらいです。―そのあたりは、意識しながら観たいポイントですね。では、観客へメッセージをお願いします。監督本作で描いているのは、生きていくなかで直面する大小さまざまな問題を諦めず、文句を言わずに解決しようとする人々の物語。「はたして、こんなことで世の中は変わるのか?」と考えながらも、自分を守るために前に進んでいく人たちの話を作りたいと思いました。「たとえ小さな存在でも、私たちは偉大なのだから」という信念とともに、自分の仕事に責任感と誇りを持った彼女たちの姿を楽しく、かっこよく描いたつもりです。彼女たちの堂々と、そして凛々しく突き進む姿をぜひご覧ください。諦めずに声を上げる大切さを知る!ひとりずつが持つ力は小さくても、知恵と勇気さえあれば、大きな力を生み出すことを教えてくれる本作。不可能を可能に変えてしまう爽快な女性たちの生き方と言葉に、上を目指すことの喜び、そして「自分がやらなきゃ誰がやる!」と明日からの活力をもらえるはずです。取材、文・志村昌美痛快な予告編はこちら!作品情報『サムジンカンパニー1995』7月9日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー配給:ツイン© 2021 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.
2021年07月07日東京国立近代美術館で『隈研吾展』がはじまりました。米タイム誌の「2019年世界で訪れるべき最も素晴らしい場所100選」に選出されたスコットランドの博物館《V&Aダンディー》をはじめ、多くの建築物を手がけてきた隈研吾氏。日本を代表する建築家のひとりである彼の作品が一堂に集まる注目の展覧会をご紹介!世界の隈作品が集結!【女子的アートナビ】vol. 212『隈研吾展新しい公共性をつくるためのネコの5原則』では、世界中にある隈作品から公共性の高い建築68件を建築模型や写真などで紹介。さらに、第一線で活躍するアーティストによる映像作品や、前庭に展示されたトレーラーハウスなども含め、全74件を楽しむことができます。隈研吾氏は1954年生まれ。東京大学建築学科大学院を修了し、1990年に隈研吾建築都市設計事務所を設立。2009年から2020年3月まで東京大学教授をつとめ、現在は東京大学特別教授・名誉教授です。これまで20か国以上の国で建築を設計し、国際的な建築の賞も数多く受賞しています。この展覧会で、まず気になるのがタイトルにある「ネコの5原則」。本来絵文字が正式表記なのですが、いったいなぜネコなのでしょう?隈氏の解説によると、コロナ禍でハコ(建築物)から外に出て町を歩くようになったとき、多くのネコたちと出会い、彼らの生態を観察するうちに人間もネコから学ぶべきことがあると思い至った、とのこと。本展後半では、ネコの視点から都市での生活を見直すリサーチプロジェクト《東京計画2020ネコちゃん建築の5656原則》も発表されています。世界で訪れるべき最も素晴らしい場所!会場内では、隈氏本人が選んだ公共性の高い建築68件を、「孔」「粒子」「斜め」「やわらかい」「時間」という5原則に分類して展示されています。いくつかピックアップしてご紹介します。まずは「孔」。文字をそのまま解釈すると穴の開いたデザイン?と思いそうですが、そんな単純なものではありません。隈氏は、孔を介して人と物をどうつなぐかを考えているようで、例えば中庭やアトリウムのような空間も孔となるそうです。「孔」での一番の見どころは、《V&Aダンディー》の模型。スコットランド初のデザインミュージアムとして2018年にオープンしたこの建物は、米タイム誌で「2019年世界で訪れるべき最も素晴らしい場所100選」にも選出された話題作です。川に面した土地に建てられ、しかも建築の一部が川の中にはりだしているので、角度によっては川に浮かぶ島のようにも見えます。建物の中央には、水平に貫通する大きな孔が設けられています。模型だけ見ても美しい作品ですが、ぜひ背景に映し出されているタイムラプス映像とあわせてご覧ください。この映像はアイルランドのアーティスト、マクローリン兄弟によるもの。建築と映像のコラボ、超クールです!かわいい…!やわらかい茶室「やわらかい」項目に分類されている作品のうち、もっとも目を引くのが茶室の《浮庵》。こちらは展示室内ではなく、エントランスホールに展示されています。ころんとした形がかわいく、半透明で中が透けて見える感じがおしゃれです。世界最軽量の布といわれる新素材とヘリウムガスのバルーンを組み合わせてつくられた本作は、布の下端に石を置いて床に固定されています。ワシントンの日本大使館で行われる茶会のためにデザインされたもので、日本から運ぶ際には折りたたんでトランクに詰めて持っていったそうです。日本国内に建てられている隈作品も数多く紹介されています。例えば東京なら、高輪ゲートウェイ駅や国立競技場、根津美術館など、実際に現物を見たことがある建物の模型や写真を探してみるのも楽しいですよ。会場の展示デザインは隈研吾建築都市設計事務所が手がけ、作品解説なども隈氏本人が執筆。すべての解説をじっくり読めば、隈氏の建築物についての考え方や今後の建築のあり方なども知ることができます。ぜひゆっくり時間をとって、スター建築家の作品を楽しんでみてください。取材・文:田代わこInformation会期:~9月26日(日)会場: 東京国立近代美術館1F企画展ギャラリー開館時間: 10:00-17:00(金・土曜は10:00-21:00)*入館は閉館30分前まで休館日: 月曜日[ただし7月26日、8月2日、9日、30日、9月20日は開館]、8月10日(火)、9月21日(火)観覧料: 一般¥1,300、大学生¥800※高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料
2021年07月02日人生とはつねに選択の連続であり、さまざまな岐路に立たされることばかりですが、不安で前に進めなくなってしまうこともありますよね?まさにいまも、先が見えない状況のなかで過ごしている人も多いと思います。そこで、そんなときにオススメしたい映画は、悩める人に優しく手を差し伸べてくれる珠玉の1本です。『わたしはダフネ』【映画、ときどき私】 vol. 394明るくて社交的なダウン症の女性ダフネは、スーパーで働きながら、アンティーク店を営む父のルイジと母のマリアと平穏に暮らしていた。ところが、3人でバカンスを楽しんでいた最中に、突然マリアが倒れ、帰らぬ人となってしまう。母の死によって、一変したダフネとルイジの生活。それでもダフネは徐々に本来の明るさを取り戻していったが、悲観論者のルイジは喪失感と不安にさいなまれてふさぎ込んでしまうのだった。そんな父の姿を見て、ダフネはある提案をすることに……。ベルリン国際映画祭で公式上映された際には、多くの称賛と拍手を送られて話題となった本作。日本公開を目前に、こちらの方にお話をうかがってきました。フェデリコ・ボンディ監督本作が長編2作目となるボンディ監督は、イタリア映画界でも今後ますますの活躍が期待されているひとり。今回は、監督自らがSNSで見出したダフネ役のカロリーナ・ラスパンティさんとの裏話や日本に対する熱い思いについて語っていただきました。―この作品は、数年前に年老いた父親とダウン症の娘さんが手をつないでバス停にいた姿を監督が見かけたことがきっかけだったそうですが、何がそこまで監督の心をとらえたのでしょうか?監督そのとき僕は大渋滞にはまった車のなかにいたんですが、ふと外を見たらその親子が目に入ってきたのです。そこで何よりも僕の心をとらえたのは、2人が手をつないでいたこと。それによって、彼らがヒーローや何かの生存者のように見え、そこからいろいろと自問自答し始めるようになりました。そして、手と手を取り合う父と娘の姿を映画にできないだろうか、と考えるようになったのです。なかでも不思議に思ったのは、「母親はどこにいるのか?」ということと、「父親が娘を支えているのか、それとも娘が父親を支えているのか。どっちがどっちを支えているのだろう?」ということでしたが、そういった疑問がスパークして映画になっていきました。なので、おそらく彼らが手をつないでいなかったら、そんなふうに僕の心に残ることも、映画になることもなかったと思います。―では、以前からダウン症をテーマに映画を撮ろうと考えていたというわけではなかったんですね。監督実は、その親子を目撃するまで、僕にとってはまったく未知の世界でした。それどころか、ダウン症について無知だったと言えるかもしれません。その後、リサーチをするなかでダフネ役のカロリーナと知り合うことができましたが、この映画に関係なく、僕の人生において彼女のような素晴らしい友人と出会えたことは、大きな収穫だったと感じています。すべてを受け入れて生をまっとうすべきと教えられた―カロリーナさんの存在感は圧倒的でしたが、彼女から影響を受けていることはありますか?監督まず彼女がすごいところは、ダウン症であることをネガティブにとらえるのではなく、前向きな気持ちで受け入れ、つねに自分と対話を繰り返しているところ。だからこそ、ダウン症によって自分に限界があると考えることもありません。彼女は本当に明るくて成熟した性格の持ち主なんですよ。いまの僕たちは、効率重視の世の中に生きているので、苦しみや悲しみを乗り越えるためにいろんなツールを使ったり、薬まで飲んだりしますよね?でも、そういうものに頼るのではなく、つらい状況があったとしても、そのまま受け入れ、そのなかで生をまっとうすべきなんだということを彼女が教えてくれたように思います。―驚くことに、今回カロリーナさんは脚本を1ページも読まずに撮影に挑まれたと聞きました。どのようにして撮影していたのでしょうか?監督彼女が読まなかったというよりも、僕が彼女に脚本を渡さなかったというほうが正しいかもしれませんね。というのも、事前に脚本を渡していたら、おそらく彼女はセリフや演技をかっちりと覚えてきてくれたと思います。でも、僕としてはそうではなくて、あまりいろいろ考えずに彼女にリアクションを取ってほしいと思っていたので、あえて渡しませんでした。その結果、毎朝「今日はこういうシーンを撮るよ」と話してから撮影を進めたので、通常よりは複雑な手順にはなることも。でも、彼女は記憶力と洞察力が素晴らしいので、すぐに覚えてくれましたよ。そんなふうに、とにかくカロリーナのコンディションを整え、彼女のリアクションをうまく引き出すことに一番力を注ぎました。とはいえ、その方法だと脚本に書いてあることと違う動きをしてしまうこともありますし、ときにはセリフがすぐに出てこないときもあったので、このチャレンジを一緒に引き受けて、柔軟に対応してくれた父親役のアントニオ・ピオヴァネッリには本当に感謝しています。カロリーナは偏見やステレオタイプを壊す存在―そのなかでも、思い出のシーンはありますか?監督たとえば、母親が亡くなったあと、車のなかでカロリーナに泣いてもらうシーンを撮ろうとしていたときのこと。彼女に泣いてもらうために、ある方法を取りました。撮影の数か月前に、彼女から「私、ある曲を聞くと必ず泣いちゃうの」という話を偶然聞いていたので、事前に伝えずに突然車内にその曲を流したんです。イタリアで人気のポップスグループ「883」の曲なんですが、彼女にとってはうまくいかなかった初恋の思い出がある曲なんだとか。実際、彼女は本当に涙を流してくれました。そのほかにも、彼女が職場に復帰するシーンで同僚がお帰りパーティをしてくれるシーンがありますが、それも彼女には教えていなかったので、驚いている彼女のリアクションは本物です。―確かに、リアルな表情が印象的でした。また、劇中で彼女が放つセリフには、人生における“名言”のような言葉がたくさんあり、どれも心に響きましたが、それらはどのようにして生まれたのでしょうか?監督脚本の執筆段階から、カロリーナがガイドのように僕を導いてくれていました。実際、彼女と信頼関係を築いていくとともに、脚本もどんどん変化していきましたから。彼女のご両親ともお会いする機会がありましたが、本当に素晴らしい方々で、僕のことをとても歓迎してくれました。そんな彼らとやりとりをするなかで、セリフが生まれていったように思います。あと、もともとカロリーナの言葉遣いや語彙がとても特徴的だったので、僕にとってはものすごく想像力を掻き立ててくれる存在でした。だからこそ、言葉に対する彼女の反応を映画に落とし込みたいと考えたのです。―なるほど。また、監督は「異なる人と対峙したときに感じる偏見や恐れから抜け出してほしい」ということも観客に伝えたいそうですが、そういった状況から抜け出すために私たちがすべきこととは?監督カロリーナには偏見やステレオタイプを突き崩して、消滅させてしまうようなところがあるので、彼女には本来あるべき人間関係を築く力があるのだと思いました。魔法使いのように相手の意識をパッと明るくしてしまう人でもありますが、彼女自身が自分の感情に素直で弱さも認めているので、彼女と対話する人は鎧を脱いで裸にならざるを得ないんですよね。劇中のダフネにも同じことが言えますが、僕たちは彼女のそういう部分を見習うべきかもしれません。自分にとって日本はとても思い入れのある国―本作は、監督にとっては日本で劇場公開される初めての作品となりますが、日本で公開されることに対してどのようなお気持ちですか?監督すごく光栄なことだと思っています。ベルリン国際映画祭でこの映画が日本に売れたと聞いたときは、ほかの国で公開されることが決まったときよりも特別な喜びがありました。というのも、僕は日本に何度も行ったことがあり、友達もたくさんいるので、とても思い入れが強い国でもあるからです。―ちなみに、これまでに日本の作品や文化で、監督が感銘を受けたものなどはありますか?監督まずは、黒澤明監督ですね。僕の本棚には黒澤監督の伝記がありますが、本当に傑作です。いま、大学でデザインを教えていますが、日本人の感性や美意識に惹かれるイタリア人は多いので、20人いるクラスのうち15人は日本好きですよ!―うれしいですね。私もそのひとりですが、日本人もイタリア好きは多いです。監督ということは、相思相愛ですね(笑)。―そうですね(笑)。それでは、そんな日本の観客に向けてメッセージをお願いします。監督できることなら、映画を携えてカロリーナと一緒に日本に行きたかったので、本当に残念です。でも、自分の映画が日本まで旅をして、日本のみなさんと対話することになって誇らしいですし、何よりもうれしく思っています。この作品では、他者を認めるという国を超えたユニバーサルなテーマも描いているので、それが日本のみなさんにも届くことを願っています。どんなときも前を向いて歩いていく!人生は思い通りにいかないことはたくさんあるものの、近くにいてくれる人と手を取りあえば乗り越えられるものもたくさんあるのだと教えてくれる本作。ダフネが届けてくれる“幸せになるためのヒント”は、きっと誰の心も温かく包み込んでくれるはずです。取材、文・志村昌美優しさに満ちた予告編はこちら!作品情報『わたしはダフネ』7月3日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー配給:ザジフィルムズ© 2019, Vivo film - tutti i diritti riservati
2021年07月02日人間関係が希薄になりがちな現代だからこそ、欠かせないのは人と人の相互理解。そんななか、まさにいまの時代だからこそ観るべき1本としてオススメの映画は、まもなく公開の注目作『アジアの天使』です。今回は、主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。池松壮亮さん【映画、ときどき私】 vol. 393劇中で池松さんが演じているのは、妻を病気で亡くしたシングルファーザーの青木剛。兄に誘われるまま、ひとり息子とともに韓国へ渡るところから物語は始まります。そこで、本作出演のきっかけや撮影時の忘れられないエピソード、そしてこれからにかける思いについて語っていただきました。―今回、池松さんは石井裕也監督と一緒に韓国へロケハンにも行かれたそうですが、主演を超えた関わり方をすることになったいきさつについて教えていただけますか?池松さん始まりは石井監督が2014年に釜山国際映画祭で審査員を務めたときに、本作の韓国側のプロデューサーであるパク・ジョンボム監督と出会って意気投合したことでした。僕は石井さんとはこれまでに映画を介して深く、親交を深めていきました。翌年パクさんが日本に遊びに来たときに紹介してもらい、石井さんとパクさんと、今作の日本側のプロデュサーの永井さんと僕が出会いました。その後、年に1度は日本か韓国のどちらかで会って、交流を深めてきました。たくさんの対話を繰り返すなかで、真ん中につねにあるのは、映画。いつかここから映画が始まるんだろうなということは感じていました。―背景には、濃密な時間がみなさんの間にあったのですね。では、シングルファーザーという役に関しては、どういう印象を受けましたか?池松さん私生活で父親になった経験がないので、最初はどうしようかなと思いましたが、設定がとてもおもしろいなと思いました。この映画の主人公には何か決定的な損失を抱えている必要がありました。それが過去に妻を亡くしていることです。時代の転換期を迎えて、多くの損失を抱える私たち自身の世界とリンクが起こります。そして石井さんは実際に7歳のときにお母さんを亡くされています。劇中での息子役の年齢設定は8歳です。石井さんのオリジナル作品、海外進出の一作目として、強いメッセージを受け取りました。とにかく今回向き合う学役の(佐藤)凌と2人のベストを尽くそうと思いました。互いが父親と息子であることを心から信じることさえ出来れば親子に見えてくるというのは、これまでの人生経験である程度分かっていました。それは映画を作ることとも似ていますが、ゼロから何かを作り上げ、同じ物語を一緒に信じることができれば、生命共同体のように、または家族のようなものになっていくだろうと信じてトライしました。普段とは言葉や文化が違う韓国の人たちとそれを目指すことは、大きなチャレンジでした。オダギリさんにはたくさん背中を見せてもらった―兄役のオダギリジョーさんの存在も大きかったと思いますが、俳優としてのオダギリさんの魅力はどのようなところだとお感じになりましたか?池松さん同じ俳優という目線から見ると、俳優としての技術と物事を選ぶセンス、それからユーモアの深み等においてはるかに次元が違うところに到達している方だと思っています。オダギリさんの手にかかればどんなキャラクターでも起き上がります。この国でもっとも優れた俳優のひとりだと思っていますし、とても尊敬しています。―そのなかでも、今回の現場で刺激を受けた瞬間として思い出すことといえば?池松さん俳優というのは、無限の選択肢のなかから選択してお芝居を積み重ねていくものですが、オダギリさんの圧倒的なセンスとさりげなさには毎回驚かされます。あと、オダギリさんと言えば、以前から韓国やアジアの映画と深いつながりがありますが、韓国での人気がすごかったです。どんな田舎に行っても、みんなが「オダギリジョーだ!」と大騒ぎになっていました(笑)。おそらく韓国における有名な日本人のトップ5には入っていると思います。オダギリさんは、それくらい映画を通して韓国に影響を与えてきた人で、その様子を間近で見ていてとても面白かったです。あの時代の日本映画が海を渡って、韓国の人に好まれていたかということですよね。そういう部分も含めて兄貴として見せてくれた背中がたくさんありました。現場では“親子ゲンカ”してしまったこともあった―池松さんが見たオダギリさんの知られざる一面などがあれば、教えてください。池松さんもしかしたら、こういうことを言うとオダギリさんは嫌がるかもしれないですし、本人はそういうところを見せるのが好きではないと思いますが、愛情深さで言ったらトップクラスですね。真に愛情深い人はそれを表でひけらかすようなことはしないんですよ。むしろ隠します。愛情深さと知性とユーモア、パンクな精神と表現者としての色濃い資質が混在している方です。―現場でそういった部分を目の当たりにしたような出来事もあったのでしょうか?池松さん実は、撮影の合間に僕と凌が一度大喧嘩をしてしまい、お互いに「お父さんなんて嫌いだー!」「お前なんか日本に帰れー!」みたいな感じになってしまったことがあったんです(笑)。理由は、ヒロイン役のチェ・ヒソさんに凌が本気で恋をしてしまい、僕がヒソさんと2人で話をしていたら、嫉妬で怒り狂ってしまったからなんですけど(笑)。その後、凌は現場を離れてひとりで遠くで泣いていたんですが、僕も心を鬼にして声をかけずにいました。しばらくするとオダギリさんがゲラゲラ笑っている声が聞こえてきて、いつの間にか凌の相手をしてあげていたんですね。なんて優しい人なんだろうと思いました。後からオダギリさんに聞いたら、「誰誰が凌のことをブタだって言ってたよ」って言って、凌が、「ぶっ飛ばしてやるー!」と叫んでいる動画を見せてくれました(笑)。そんなふうに日本側の家族と韓国側の家族をさりげなく気遣ってくれていた姿を撮影中たびたび見ました。リスクを冒してくれた韓国チームには感謝しかない―さりげない優しさが素敵ですね。ananwebでは、以前チェ・ヒソさんにも取材させていただいており、本当に魅力的な方だったので、凌くんが恋に落ちるのもわかります。池松さんから見た韓国の俳優陣はどのような印象でしたか?池松さんこの企画が立ち上がってから準備を経て撮影に入るまでの期間、日韓関係は戦後最悪と言われる状況でした。日々悲しいニュースを目にしましたし、僕たちが撮影のために韓国入りした頃は日本製品の不買運動が最も盛んな時期でした。そんな状況下で、この作品に携わった韓国のキャストやスタッフのみなさんにとっては非常にリスクが高かったと思います。日本よりも韓国社会の方がそのことはシビアに感じました。にもかかわらず、リスクを冒してでもこの映画がやろうとすることに共感し、ひとつの共同体として国を超えて一緒に映画を作り上げてくれたことに対して、心からの感謝しかありません。何よりもまずは、そのことを言いたいです。現場では95%以上が韓国チームだったので、いろいろな問題が起きましたし、何よりも言葉が通じないことや通訳を介することで解釈が変わってしまうこともあって、互いの共通認識を得るまでに、互いのルールや価値観を理解し合うまでには多くの時間がかかりました。そんななか、ヒソさんは日本語が堪能だったこともあり、自ら通訳を買って出てその困難に立ち向かってくれたことがたびたびありました。韓国の俳優さんたちはとてもピュアな方が多く、哲学的なアプローチで物事に対する解釈が深い印象を受けましたが、なかでもヒソさんは人格者であり、とても愛情深い方でした。今回の現場ではヒソさんに助けられた部分はたくさんありました。俳優としてできることをつねに模索している―池松さんも2年半ほど前にananwebにご登場いただいていますが、そのときは今後について「時代の転換期のなかで、これから世の中はどんどん良からぬ方向に向かってしまう可能性もあるから、そのなかで自分が何をできるか考えたい」とおっしゃっていました。実際そういう社会になりましたが、心境に変化はありましたか?池松さんここまで世界がひっくり返るとは思ってもいませんでしたね。まだまだ世界各地で破壊は続いていますし、長引く混乱に世界が疲弊していることを感じます。映画に何が出来るのか、何をなすべきなのか日々考えています。映画には様々な価値がありますが、社会に漂っているものを察知し、それに対して切り込んだり、カバーしたりする力があります。世界の先進国に遅れをとる日本では、未だ映画と社会との結びつきが非常に薄く、なかなか理解されない部分も多いです。ですが、これ以上この国の映画が衰退してゆくところを見たくないですし、暗いトンネルを抜けるために映画を通して何ができるか、自分が俳優としてできることは何か、といったことについて、これからも模索していきます。この作品では、緩やかな団結と再生を描いています。新しい時代を切り拓くための冒険を共にし、異質な奇跡に出会い、希望を得て、2つの家族が再生へと向かう。そういうことを見てもらえるのではないかと期待しています。課題は誠実にポジティブに映画と向き合うこと―30歳という節目を迎えたことも、池松さんに何か影響を与えていますか?池松さん20代も終えて、いよいよ30代に入り、世界もこういった状況で、日々思うことはたくさんありますが、これからどれだけ誠実に、真摯にそしてポジティブに俳優として映画と向き合っていけるかは課題です。30代はもう誰もが認める大人ですから、遠慮せずにどんどん責任を取るつもりで、自分の好きなことや、社会や未来に対してやるべきことをやっていきたいと思っています。―ちなみに、俳優としてではなく、素の池松さんが挑戦したいことがあれば、教えてください。池松さんうーん、映画以外は特にないですね(笑)。挑戦ではありませんが、コロナが落ち着いて一番にしたいのは、今回の現場でたくさん愛情を注いでくれた韓国のみんなに会いに行くこと。辛い食べ物とかも、あれだけ痛い目にあったのにちょっと恋しくなってますから(笑)。なので、まずは韓国の風を感じに行きたいなと思っています。インタビューを終えてみて……。映画に対する真摯な思いが、言葉の端々からあふれ出ている池松さん。撮影時の様子をうれしそうに話す姿からも、本作に対する愛を強く感じました。ぜひ、劇場でその思いをしっかりと受け取ってください。珠玉のラストシーンに胸が熱くなる!言葉を超えたコミュニケーションや家族の新しい形など、さまざまな気づきを与えてくれる本作。縛られたルールや固定概念を打ち壊したあと、目の前に新たな景色が広がるのを感じるはずです。写真・大内香織(池松壮亮)取材、文・志村昌美ヘアメイク:FUJIU JIMIストーリー妻を病気で亡くした小説家の青木剛は、「韓国で仕事がある」という兄の言葉を頼って、ひとり息子の学とともにソウルへとやって来た。ところが、いざ到着してみると、当てにしていた仕事は最初からなかったことが判明する。代わりに怪しげなコスメの輸入販売の話を持ち掛けられるが、兄の相棒に商品を持ち逃げされ、全財産を失ってしまう。そんな兄弟は、わらをもつかむ思いで“最後の切り札”を求めて海沿いの江陵を目指す。その旅の途中で、元人気アイドル歌手のソルと兄妹の3人と出会い、行動をともにすることに……。惹きつけられる予告編はこちら!作品情報『アジアの天使』7月2日(金)テアトル新宿ほか全国公開配給:クロックワークス© 2021 The Asian Angel Film Partners写真・大内香織(池松壮亮)
2021年07月01日日に日に暑さが増していくなか、次々と話題作が公開を迎え、映画界も熱く盛り上がっているところ。そのなかでも、じっくりと味わいたい映画としてオススメしたいのは、コリン・ファースとスタンリー・トゥッチという映画界が誇る名優がダブル主演を務めた1本です。それは……。『スーパーノヴァ』【映画、ときどき私】 vol. 392古いキャンピングカーで旅に出るピアニストのサムと作家のタスカー。車内で繰り広げられる皮肉たっぷりのジョークは、20年来のパートナーである2人にとってはお決まりのやりとりだった。かけがえのない思い出とともに添い遂げようとしていた2人だったが、タスカーが抱えている病がそれらを消し去ろうとしていた。そんななか、サムはタスカーのある秘密を見つけてしまう。大切な愛を守るため、それぞれが下した決断とは……。実際に20年来の親友であるコリンとスタンリーだからこそ、本物の絆が映しだされている本作。今回は、そんな2人がほれ込んだ脚本を生み出したこちらの方にお話をうかがってきました。ハリー・マックイーン監督もともとは俳優としてキャリアをスタートさせていたマックイーン監督。2013年から製作も手掛けるようになり、本作が監督、脚本を務めた2作目となります。そこで、作品誕生のきっかけや現場での様子、そして日本への思いについて語って頂きました。―まずは、本作のアイデアから教えていただけますか?監督ストーリーの着想を得たのは、いまから5~6年前のこと。僕は絵に描いたような売れない俳優だったので、複数のバイトに明け暮れながら人生の選択を見直していたんです。そんなときバイト先の1つで、ある女性と同僚になりました。最初は社交的で楽しくてすてきな人だった彼女ですが、1年後には気難しくて怒りっぽい人になり、仕事ができなくなってクビになってしまったのです。でも、その半年後、車いすに乗っている彼女を見かけ、若年性認知症を患っていたことを知りました。そんなふうに認知症によって人格が崩壊していくさまを目の当たりにした僕は、病気や周囲への影響について、もっと知りたいと思うように。それくらい心を動かされた経験でしたし、以前から死に直面したときの選択肢や権利についても興味があったので、これらのテーマを融合させて本作のアイデアを育てていきました。―この作品は、サムとタスカーのキャスティングがまずは大きなカギだったと思いますが、最初に決まっていたスタンリーさんが監督には秘密でコリンさんに脚本を送っていたそうですね。それを聞いたとき、どう思われましたか?監督はじめは、スタンリーが冗談で言っているのではないかと思っていたんですが、そうではないとわかったときは信じられない気持ちでした。でも、喜びのほうが大きかったですね。というのも、コリンは地球上でもっとも素晴らしい俳優のひとりだとずっと思っていましたから。キャスティングは最大にして最高の判断だった―監督にとって、おふたりの俳優としての魅力はどのようなところだと感じていますか?監督スタンリーもコリンも、幅広い役どころを数多く演じていますが、どんな役でも責任と思いやりを持って演じているところに、僕はつねにインスピレーションを受けていました。今回の現場でも、自分たちが持っているものすべてを注ぎ込むことでキャラクターをひとりの人間として作り上げてくれたほどでしたから。―当初はおふたりの役どころが逆だったそうですが、最終的にはどのようにして決定したのでしょうか?監督まずは2人が読み合わせをしていたときに、「ちょっと逆で読んでみようか?」となったそうです。その後、おふたりから読み合わせを聞いてほしいと話があり、僕のところに来てくれました。自分の脚本をあの2人がそれぞれの役で2回も読んでくれるのを聞くことができるなんて……。本当に光栄なことでした。もちろんどちらでも素晴らしかったのですが、関係性やリズムを考えてみると、逆にしたほうが自然に感じたので、最終的には僕が決めました。いま考えると、準備段階で最大にして最高の決断だったんじゃないかなと思っています。―確かに、完璧な配役だったと思います。俳優として世界でもトップクラスにいるおふたりと実際にお仕事をしてみて、いかがでしたか?監督今回、俳優としても、フィルムメイカーとしても彼らからはたくさんのことを学ぶことができたと思います。この作品で一番おもしろい要素のひとつは、2人の関係性が複雑であることですが、そのあたりは3人でいろいろと考えながら準備をしました。本当に興味深いコラボレーションができたと感じています。それから、何よりも彼らは人柄が素晴らしく、他人の意見に対してもすごくオープンで寛大なので、たくさんの刺激をもらうことができました。あと、スタンリーはカクテルを作るのがすごく上手なので、それが長い一日の最後に癒しを与えてくれました。見たことのないキャラクターを作り出したい―それだけでなく、撮影期間中はスタンリーさんがコリンさんに毎晩ご飯を作ってあげていたそうですね。監督そうなんですよ。コリンの料理の腕に関しては、あえてコメントしませんが、どちらが料理上手かと言ったら、その答えはスタンリーでしょうね(笑)。2人ともとても楽しい人たちなので、よくお互いにふざけあったり、からかいあったりしていました。本当に大親友なんですよ。―そういうおふたりだからこそ、撮影中もあうんの呼吸で演技をされていたところもありますか?監督今回は実際に運転をしながら撮影をしていましたし、ロードムービーという作品の性質上、その場の状況に合わせてリアクションを取るようなこともありました。それがこの作品を作るうえで、ユニークだったところじゃないかなと。ただ、完成した作品で見ることができるシーンの大半は脚本に書かれていたことなので、アドリブはほとんどないんですよ。もし作品を観ていて「アドリブかな?」と感じることがあるとすれば、それは2人の演技がうまいからですね。―なるほど。また、サムとタスカーのキャラクターを作り上げるだけでも2年ほどかかったそうですが、こだわっていたのはどのあたりでしょうか?監督僕はなるべく自分を投影するようなキャラクターは書かないようにしているんです。なぜなら、自分のことはそんなに興味深い人間だと思っていないので(笑)。そういったこともあって、なるべくオリジナルで有機的なキャラクターを作り上げるように意識しています。そのうえで、できるだけ同じような経験をしている人の真実に迫れるようなものにできたらいいなと。すごく難しい作業ではありますが、観客の方々がこれまでにあまり観たことのないようなキャラクターを目指しています。今回は2人の状況が状況なだけに、重要だったのは深くてヘビーな部分と喜びがある軽い部分とのバランスをいかに取るか。気持ちを抑えきれないところや軽妙なところは、カップルとしての彼らから出てこなければいけないものだったので、そのバランスをどうするかは挑戦でもありました。定義づけできないのが愛の美しいところ―同性カップルという設定にした意図はありますか?監督僕が映画を作るとき、つねに心がけているのは、進歩的で先進的であること。なぜなら映画であれ何であれ、それが芸術の仕事だからです。本作の根底にあるテーマは、主人公たちの性的志向にはまったく関係のない愛の普遍性。重要で独創的なことだからこそ、挑戦すべきなのではないかと。性的指向に言及すらしない映画を作ることで、同性愛をごく自然で普通なものにしたいと思いましたし、そういう映画がまだまだ足りていないと感じています。―改めて愛の尊さを感じましたが、監督にとって愛とはどんな存在ですか?監督愛にはいろいろなものが含まれているんじゃないかなと僕は思っています。愛を定義づけるのはなかなか難しいけれど、定義づけられないところがまた愛の美しさでもあるのかなと。そして、愛はとても親密で、ほかの人には見せられない部分を自分にだけ見せてくれるものだからこそ、貴重なんですよね。本作では認知症を描いた物語ということもあり、病によって少しずつ自分が奪われていきますが、だからこそその過程で愛の本質が重要な問いとして訴えてくるものがあると考えています。そして、彼らのように相手のことを深く理解することも愛のひとつかなと。ぼくにとっての愛は何かまだわからないですが、これがこの作品を通して出た答えだと思います。日本は世界でもっとも好きな国のひとつ―日本の観客も本作の公開を非常に楽しみにしていますが、監督は日本から影響を受けているものはありますか?監督実は日本がすごく好きで、日本の文化は僕の人生の大きな一部だと言ってもいいほど。決して、日本の取材を受けているから言っているわけではありませんよ(笑)。本当に、世界でもっとも好きな国のひとつなんです。実際、日本には何度も行っていますし、大学で書いた論文も「黒澤作品に見られるシェイクスピア劇」みたいな感じで、すべて日本映画に関するものにしていましたから。僕が世界で一番好きな映画監督は、小津安二郎監督。好きな日本映画を選べと言われたら決められないくらいたくさんありますが、小津監督の『麦秋』、『晩春』、『東京物語』をはじめ、是枝裕和監督の『幻の光』、黒澤明監督の作品も全部好きです。そんなふうに、日本の映画からはつねに多くのインスピレーションをもらっています。あとは、写真家の杉本博司さんも僕にとっては、刺激を与えてくれる存在です。―ありがとうございます。ちなみに、次はどのような作品を考えていらっしゃいますか?監督ちょうどいま3作目の脚本を書いているところなんですが、もとになっているのは、2017年に徳島の祖谷渓谷に滞在していたときの僕自身の経験。実は、日本を舞台にした作品なんです。なので、早く日本に戻りたいなと思っています。今回も『スーパーノヴァ』と一緒に来日できなかったことがとても残念です。―次の来日と次回作の両方を楽しみにお待ちしています。それでは最後に、観客に伝えたい思いを教えていただけますか?監督主人公たちは胸をえぐられるほどつらい状況に直面していますが、ありのままを描写したいと考えました。それに、追い詰められたからこそ、愛は想像以上に美しく、すべてを超越するものだと気づけたのかもしれません。つまり、お互いに思いやりを持って誠実に向き合えば、人はどんな大きな困難も乗り越えることができるのだと。この作品には、そういった希望があるロマンチックなメッセージが込められているので、みなさんにもそれを受け取っていただきたいです。愛の深さに胸が張り裂けそうになる!星が進化の最後に起こす大爆発である「超新星」という意味を持つ『スーパーノヴァ』に映し出されているのは、まさに愛が持つ星の瞬きのような美しさと消えゆく儚さ。名優たちによる繊細な演技とともに、心の奥で愛が輝きを放つのを感じてみては?取材、文・志村昌美真に迫る予告編はこちら!作品情報『スーパーノヴァ』7月1日(木)TOHO シネマズ シャンテ 他 全国順次ロードショー配給:ギャガ© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.
2021年06月30日人と会う機会が激減し、家で過ごす時間が増えたこともあり、単調な日常に刺激を求めている人も多いはず。そこで、ノーベル文学賞の候補にも名を連ねる作家アニー・エルノーが自身の実体験を赤裸々につづった愛と官能の物語を映画化したオススメの話題作『シンプルな情熱』をご紹介します。今回は、こちらの方にお話をうかがってきました。セルゲイ・ポルーニンさん【映画、ときどき私】 vol. 391パリの大学で教鞭をとるエレーヌが年下で既婚者のロシア人男性アレクサンドルと運命の恋に落ちていく様が描かれている本作で、アレクサンドルを演じているのが“孤高の天才ダンサー”として知られるセルゲイさん。いまやバレエ界のみならず、映画界でも幅広い活躍をみせています。そこで、自身の恋愛観やラブシーンの裏側、さらには日本での忘れられない思い出について語っていただきました。―最初にオファーがあったとき、ダンサーではない役を演じることに興奮したそうですが、物語としてはどのようなところに魅力を感じましたか?セルゲイさんまずは、主人公たちのロマンチックな関係が描かれているところがいいなと。なかでも、2人の人間が純粋に、そして自分たちの愛の情熱のままに求め合う姿には心を惹きつけられました。あとは、エレーヌ役のレティシア・ドッシュという素晴らしい女優と一緒に演じられることも魅力的に感じた理由です。―アレクサンドルを演じるうえで、何か意識したことはありましたか?セルゲイさん「ロシア人男性ならどうするか」ということを考えていたので、念頭に置いていたのは、ロシア人男性が持つ一面や重みを出すことでした。ただ、キャラクターの印象としては、映画『ナインハーフ』のミッキー・ロークのような弱さをも持った男性であり、フランスを舞台にした映画『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のマーロン・ブランドを彷彿とさせるようなところのある男性だなと。そういったものも参考にしながら演じていきました。愛する人とだけ一緒にいたい一途なタイプ―恋愛にすべての情熱を捧げてしまうエレーヌの姿に、多くの女性たちが共感すると思いますが、セルゲイさんの恋愛観について教えてください。セルゲイさん僕もどちらかというと一途なほうで、「誰かを愛したらその人だけ」となるタイプ。そういったこともあり、今回の作品では自分とアレクサンドルを重ねることはありませんでした。なぜなら、僕はアレクサンドルのように浮気をするような人は許せませんからね(笑)。とはいえ、もちろん人生というのはそんなに簡単なものではなく、とても複雑で人によっていろんな生き方があるので、そういうことに対してオープンではあります。ただ、僕は愛する人と一緒にいたいタイプというだけです。最近、僕には息子が生まれたのですが、それによって愛する人との間にさらに大きな深い愛を感じています。―素敵ですね。では、セルゲイさんにとって情熱の源とは?セルゲイさんいまは、やっぱり息子の存在です。泣かれてしまったら、大変ですから(笑)。育児もしっかりとしていますよ。―いいお父さんですね。では、今回ここまで身も心もさらけ出す役に挑戦してみていかがでしたか?セルゲイさん監督のダニエル・アービッドが本当に素晴らしく、現実的なところと芸術的なところとのバランスはもちろん、物事に対する見方がとても明確だと思いました。なので、彼女の指示のもとで演技をしていると、どんなにハードなシーンでもそんなことを感じることなく、気がついたらできていたみたいなことがあったほど。本当に心地よい現場でした。濃厚なラブシーンはお酒に助けてもらった―とはいえ、レティシアさんとのラブシーンは、かなり濃厚なものだったので大変だったのではないでしょうか?セルゲイさん確かに、容易ではないシーンはいくつもありました。というのも、撮影の最初からハードなラブシーンがあり、まだお互いをあまり知らない状態のなかで大勢のクルーに囲まれてやらなければいけませんでしたからね。何もかもが新しくて、ときにはストレスを感じることもありました。―どのようにしてその状況を乗り越えたのですか?セルゲイさん僕の場合、助けになったのは高級なコニャックです(笑)。劇中のアレクサンドルは、ずっとお酒を飲んでいる設定だったので、おかげでお酒を飲むことができ、僕はリラックスできました。―ということは、劇中で飲まれているのは本物のコニャックだったんですね。セルゲイさん撮影で必要かなと思って、実は自分でコニャックを3本用意していたんです(笑)。アレクサンドルはつねにお酒を飲んでいますが、おそらくそれは彼のなかにある弱さを表現しているものだと考えました。僕はそこを利用させてもらったと言えるかもしれませんね。―そのあたりも注目ですね。ちなみに、バレエだと事前に相手と何度も練習して息を合わせてから本番ですが、今回のようにいきなり本番で相手とぶつかり合うような経験をして、何かご自身のなかに発見はありましたか?セルゲイさんまず痛感したのは、もっともっと演技の勉強をしなければいけないということ。ダンスと同じように、基礎の部分をしっかりと持ちたいという気持ちが湧き上がりました。演技というのは、ダンスに比べると、その場の雰囲気や新しい環境に、本能あるいは感性を持って挑むもの。だからこそ、そのためには揺るぎない土台が必要なんだと思いました。そんななかで思い出したのは、俳優のマシュー・マコノヒーが以前メディアに話していたこと。彼は1作目で即興と自分の感性だけで演じて非常に高い評価を受けたので、その成功を受けて2作目も同じようにしようと思ったら、全然ダメだったそうです。おそらく僕も今回は自分の感じるままに演じたことがよかったかもしれませんが、おそらく今後はきちんとした演技が必要になるだろうということに気づかされました。日本での経験はアーティストとしての糧となった―次回作も楽しみにしております。セルゲイさんはこれまで何度か日本にいらっしゃったことがあると思いますが、日本で思い出はありますか?セルゲイさん実は僕にとってはウクライナを離れて、初めて訪問した外国が日本でした。そのときは京都に行きましたが、まだ幼かったこともあり、すべてが強烈な印象として残っています。ホテルに泊まったのも初めてでしたし、街の美しさや異なる建築物、お寺などにも魅了されました。あと、もちろん和食も大好きです。料理の盛り付け方や配膳の仕方など、すべてが洗練されていて、考え抜かれているのが素晴らしいですよね。大人になってからも日本を訪れることがありましたが、そのときもユニークな人々、伝統、芸術、映画などと出会い、それらはすべてアーティストとしての僕にとって糧となりました。皇室の方の前で踊る機会にも恵まれましたが、そのときには伝統的な礼儀についても触れることができ、とても印象に残っています。世界が画一的になる傾向にあるなかで、日本には今後もそういった部分を持ち続けてほしいです。―ありがとうございます。それでは、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。セルゲイさんまず、僕のファンの方には「どうかショックを受けないでくださいね」と最初に伝えておきますね(笑)。でも、とてもクオリティが高い映画で、俳優も素晴らしく、映像も美しい作品になっています。監督の特出した感性、そして全編通して描かれている愛をみなさんにも楽しんでいただきたいです。インタビューを終えてみて……。“バレエ界きっての異端児”と言われてきましたが、とても柔らかいオーラを放っていたセルゲイさん。特に、愛する人への思いや息子さんのお話をされているときの優しい笑顔が印象的でした。劇中では、ミステリアスで色気が漂うセルゲイさんに誰もが釘付けになること間違いなしです。落ちたら抜け出せない“恋の沼”にはまる!このうえない喜びを味わわせてくれると同時に、心の奥をかきむしるような痛みを与えるのが愛のなせるわざ。アレクサンドルに見つめられるだけで、あなたもエレーヌとともに欲望の渦に巻き込まれてしまうかも。あらがえない情熱が湧き上がる瞬間を体感してみては?取材、文・志村昌美ストーリー「去年の9月から何もせず、ある男性を待ち続けた」と追想しているのは、パリの大学で文学を教えるエレーヌ。彼と出会って以来、仕事をしていても、友だちといても、彼と抱き合うこと以外に何の意味も持てずにいた。その彼とは、あるパーティで出会った年下で既婚者のロシア人アレクサンドル。友人からのめり込まないように忠告されていたエレーヌだったが、彼女にとってはいまの恋を生きることがすべてだった。そして、「3週間フランスを離れる」とアレクサンドルから告げられたエレーヌは、徐々に彼の不在に耐えられなくなってしまうことに……。鼓動が高まる予告編はこちら!作品情報『シンプルな情熱』7月2日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー配給:セテラ・インターナショナル©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction©Julien Roche©Magali Bragard
2021年06月30日連載第183回目は、みんな大好きな海老をスパイスで仕上げる簡単メニュー!夕飯のおかずやおつまみとして、また冷めても美味しいのでお弁当の一品としても大活躍間違いなし。刺激的なものが食べたいときに作ってみてはいかかでしょうか!『海老のスパイス焼き』【旬を味わう 美人レシピ】vol. 183旬食材は、海老!海老は、消費量の世界1位が日本で、数多くの品種が出回っています。 旬は4月~11月ですが、養殖や輸入も盛んなので、伊勢海老やクルマエビ、家庭でも食べやすい流通量の多いブラックタイガーなど、旬に限らず1年中、さまざまな種類のものが食べられています。代表的な栄養素はタウリン。これは、魚介類や軟体動物に豊富に含まれているアミノ酸の一種で、血中の悪玉コレステロールを抑え、善玉コレステロールを増やす作用があります。血圧を正常に保ったり、動脈硬化を予防し、さらに肝機能強化や眼精疲労の改善にも効果が期待できます。また、アルギニンなどを含む良質なたんぱく質が豊富です。たんぱく質は疲労回復、滋養強壮、免疫力向上などの効果があるので、体調が優れないときには海老を食べて体力を回復させるのもおすすめです。栄養満点の海老!しかも女性に嬉しい老化防止効果も期待できるのは嬉しいですね。1年中食べることができますが、旬のこの時期に積極的に用いて、パワーをつけましょう!材料はこちら!【材料(二人分)】海老(ブラックタイガー):6尾ズッキーニ:1/2本オリーブ油:適量(スパイス調味料)ターメリック:小さじ1/4チリパウダー:小さじ1/4塩:小さじ1/4ショウガ:1/2かけニンニク:1/2かけ青唐辛子:1/2~1本レモン汁:1/4個分オリーブ油:大さじ1/2(仕上げ用)レモン:適量まず、下準備を始めます。~その1:野菜を切ります。ズッキーニは輪切りにします。ショウガとニンニクはすりおろします。青唐辛子はみじん切りにします。まず、下準備を始めます。~その2:海老は殻と背ワタを除きます。海老は尾を残し、殻を取り除きます。背に切り込みを入れ背ワタを除きます。では、作ります!スパイスを混ぜ合わせます。小さめのボウルにスパイス用調味料(ターメリック、チリパウダー、塩、ニンニク、ショウガ、青唐辛子、レモン果汁、オリーブ油)を全て入れ、混ぜ合わせます。海老の背の部分に合わせたスパイス調味料を塗ります。海老の背の部分に合わせたスパイス調味料を塗ります。フライパンに油を熱し、海老を焼きます。フライパンに油を熱し、海老を両面焼きます。一緒にズッキーニも焼きます。両面しっかりと焼き、火が通ったら器に盛り付けます。両面しっかりと焼き火が通ったら器に盛り付け、レモンを添えます。おいしさのアレンジポイント海老だけでなく、ホタテや白身魚、お野菜などにスパイスを合わせて焼いても美味しくいただけます。ターメリックとチリパウダーの代わりにカレー粉でも美味しく仕上がりますよ
2021年06月30日東京・上野の森美術館で『キングダム展 -信-』が開かれています。会場には、大人気漫画『キングダム』の生原稿や新作イラストなど多くの作品が集結。臨場感あふれる展示の様子や、作品を鑑賞した俳優の山﨑賢人さんのコメントもご紹介!山﨑賢人さんも鑑賞!『キングダム展 -信-』【女子的アートナビ】vol. 211この展覧会では、『週刊ヤングジャンプ』で連載中の漫画『キングダム』の直筆生原稿や描きおろしのイラストなどを紹介。本展は作者の原 泰久氏が全面監修され、原画だけでなく巨大グラフィックや音響効果も加わり、感動の名場面を全身で体感できる展示構成になっています。『キングダム』の舞台は、紀元前の中国春秋戦国時代。中華統一を目指す若き王と、「天下の大将軍」を目指す少年がさまざまな戦いを繰り広げながら夢に向かっていく物語です。テレビアニメでも放映され、劇場版実写映画も大ヒット。この映画で主人公の信(しん)を演じたのが、俳優の山﨑賢人さんです。山﨑さんは開幕前に展覧会を鑑賞し、「展示を見て何度も泣きそうになりました。美術館という空間に、漫画を読むのとはまた違う原画展ならではの世界が広がっていて、没頭してしまいました」とコメント。さらに「新たに描きおろされた作品もどれも魅力的で、信が王騎の矛を受け取る絵の前に立った瞬間、目が離せなくなって立ち尽くしてしまいました。『キングダム展 -信-』というタイトルの通り、信の成長を感じることができる構成で、信を演じた自分にとって本当に幸せな空間でした」と感想を述べました。山﨑さんと一緒に鑑賞!では、山﨑さんの鑑賞風景写真とともに主に前半部分の展示をご紹介していきます。「第0章無名の少年」では、物語の始まりの部分にフォーカス。信と漂(ひょう)が夢を語り合うシーンや別れのシーンを見ることができます。上の写真は、作品の前に立つ山﨑さん。映画の最初のシーンがよみがえってきてドキドキします。続く「第1章蛇甘(だかん)平原の戦い」では、巨大な描きおろしの戦場パノラマで臨場感あふれる場面を再現。モノクロ原画19点と描きおろし4点が展示されています。「第2章秦の怪鳥」では、物語で重要な役割を果たす天下の大将軍・王騎(おうき)の描きおろし原画が登場。高さ約3メートルもある巨大な和紙パネルを見ると、思わず「でかすぎ!」と叫びたくなります。王騎と出会ったときの信と同じ気持ちを味わえます。山﨑さんが立ち尽くした場面は…「第5章受け継ぐもの」では、王騎の最期のシーンが登場。さらに、王騎の想いを受け継ぐ信の姿が描きおろし原画で表現されています。信が王騎の矛を手にして涙する場面は感動的。山﨑さんもこの作品の前で立ち尽くしてしまったそうです。「第8章函谷関(かんこくかん)の戦い」では、楚(そ)・趙(ちょう)・魏(ぎ)・韓(かん)・燕(えん)の5国が合従軍となり、秦に侵攻する場面が出てきます。2021年6月現在、NHK総合で放映中のテレビアニメ『キングダム』第3シリーズでも、ちょうど函谷関の合戦部分を放送しています。自分の好きなアニメシーンを原画で探してみるのも楽しいですよ。会場では各国の武将同士の戦いが色で分けて展示されているので、とてもわかりやすいです。太鼓のリズムが流れるなか、名場面を原画とグラフィックで堪能できます。ほかにも、原 泰久氏の貴重な資料や、登場人物画像の一覧も展示されており、キングダムの世界を存分に味わえます。最後に、原氏のコメントをご紹介。「ようやく開幕を迎えることができたいへん嬉しく思います。この展覧会は、信の物語を“空間”で体感できる内容にしました。原画や描きおろし、巨大グラフィックを一緒に鑑賞することで、原作コミックスを読むのとはまた違う体験を楽しんでもらいたいです。展示作品の数も非常に多いので、一度と言わず、何度も足を運んでもらえたらと思います(笑)」ぜひ、美術館を訪れて物語の世界を体感してみてください。会期は7月25日まで。取材・文:田代わこInformation会期:~7月25日(日)会場: 上野の森美術館開館時間: 10:00~20:00 ※最終入館は閉館の1時間前まで休館日:会期中無休 ※全日日時指定制観覧料: 日時指定券一般¥2,500、大学生・専門学生¥2,000、小中高生¥800
2021年06月29日現在ヨーロッパ在住のファッションジャーナリスト、平野秀美さんのファッションスナップレポートです。今回は暑い夏にぴったりな、膝上ボトムスや短めスカートのおしゃれな着こなし方を紹介します。出勤にも!清楚で大人可愛いチェックスカート品があり美しいという言葉がぴったりなのが、こちらのチェックの膝上スカート。トップスをインすることで脚長効果もあり、きれいに着こなしている印象。暑い夏にはぜひ参考にしたいオフィススタイルです。上下同じ色のスーツスタイル!特に夏には麻やコットン100%などの上下セットが人気!ショートパンツもカジュアルすぎずお出かけスタイルに変身します。人気の厚底ブーツなどでさらに脚長に見えちゃう!?海外では…ショートパンツにはロングブーツも人気!?ここヨーロッパは、夏でも夜は突然寒くなったりするので、トップスはざっくり編んだニットだったり、ブーツスタイルをよく見かけます。日本の夏は湿気も多くとても暑いので、さすがにニットスタイルは真似できませんが、ショートパンツに実は似合う、風通しのいいロングブーツや紐で足元を巻きつけるタイプのシューズなどで、足元を強調したスタイルもおすすめ。トップスをベルトでイン!ショートパンツにぴったりな着こなし!トップスをベルトでインするだけ。ベルトの位置を調整するだけで腰を高い位置に見せることもできるので、足が長く見えちゃう!?カーディガンやシャツなどで、すぐに真似ができそう。素材を存分に楽しむ!私の大好きなスタイルはこちら。シルキー素材のセクシーなスカートに、個性的なカジュアルスウェードトップスを合わせた、素材を存分に楽しむとっても上級なスタイル。一見トップスとスカートは合わないように見えますが、色を合わせることで、素材違いや雰囲気違いな洋服がとってもぴったりマッチしちゃうんです。参考になる着こなし方です。タイトスカートとフレアスカートでこんなに違う!どちらも黒いスカートに白いTシャツなのに、全く雰囲気が異なるのは、スカートのタイプが違うから!タイトで大人っぽいスカートを選ぶか、ふんわり軽やかなフレアスカートを選ぶかで、こんなにイメージが違うんですね。参考になります。夏は露出が増えてきますが、着こなし方を少し変えるだけで、脚長効果が期待できたりおしゃれ度がアップしたり!上記のスナップが参考になれば嬉しいです。写真、文・平野秀美写真、文・平野秀美
2021年06月28日現在ヨーロッパ在住のファッションジャーナリスト、平野秀美さんのファッションスナップレポートです。今回はヨーロッパでも普段から愛用する人が多いネックレスをピックアップしてみました。夏の素肌にぴったり!華奢でシンプルだけど、上品にかっこいい!日本でも大人気のゴールド系ネックレスの1連使い。一時はとても華奢系ネックレスが人気でしたが、最近では少し厚みのある物が多く見受けられます。夏はTシャツやシャツでシンプルに着こなしたい時も、ネックレスがあればおしゃれに決まります!ゴージャスなパールは、TPO関係なく愛用できるパールというと結婚式や重要な時に着用するイメージも多いかと思いますが、実は普段使いで愛用している方も多数!特に海外では男性がパールネックレスをしているのを見かけるほど、パールは人気のよう。写真のように、重ねづけしてもOK!ゴージャスなパールを存分に楽しんで!何連にも重ねたネックレスで存在感抜群!パール繋がりでもう1つ。こちらのようにパール以外にもほかのゴールドネックレスを何重にも重ねる、ぜいたくなつけ方もおしゃれ!豹柄に負けない存在感がありますよね。チェーン型ネックレスは、今年も人気幅広い年齢層に愛用されているのが、このチェーン型ネックレス。厚みによって雰囲気はだいぶ異なりますが、年齢関係なく海外では愛用されています。また存在感もあるので、これ1本で十分おしゃれに見える!定番の華奢ネックレスの三連使い!やっぱり可愛い…華奢なネックレスは重ねるともっと可愛い。そう思わせてくれるつけ方ですよね。長さやデザインも選べるので、長めや短めを上手に重ねて自己流ファッションを楽しんで。存在感抜群!ゴールドネックレスここヨーロッパではシルバーよりゴールド系ネックレスをよく見かけるような気がします。また1つで十分な存在感を楽しめる太めネックレスも大人気!特に夏はジャラジャラつけるより、1本で勝負するようなデザインをよく見かけますよ。自分だけの秘密が隠れてる!?ような神秘的なシルバーネックレスこちらのペンダントは、中に何が隠れてる?と思わせるような、神秘的で気になってしまうペンダント。実際身につけている人はあまり見かけませんが、全身黒で決めたこちらのスタイルには本当にぴったり!いかがでしたか?ネックレスと言っても種類は数え切れないほどあるので、今年の夏は今までとは異なるネックレスで雰囲気を変えてみてもいいかも!ぜひアクセサリーでおしゃれを更に楽しんでみてください。写真、文・平野秀美写真、文・平野秀美
2021年06月27日東京都美術館で『イサム・ノグチ発見の道』が開かれています。20世紀を代表する芸術家のひとり、イサム・ノグチ(1904-1988)。彫刻だけでなく舞台美術やプロダクトデザイン、造園や作庭など幅広い分野で活躍した人ですが、その内面には多くの葛藤を抱えていました。彼の作品と生涯をご紹介します。どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 210『イサム・ノグチ発見の道』は、彫刻をはじめデザインの分野でも高く評価された芸術家、イサム・ノグチの大型彫刻や光の彫刻など約90件を紹介する展覧会です。展示構成は「第1章 彫刻の宇宙」、「第2章 かろみの世界」、「第3章 石の庭」と3つのテーマ別に分けられ、章ごとに雰囲気の異なる展示空間が登場。最初のフロアでは、光の彫刻「あかり」150灯による圧巻のインスタレーション作品が出迎えてくれます。展示されている作品は、国内外の美術館や個人コレクションから貸し出されたもので、特に香川県高松市牟礼町にあるイサム・ノグチ庭園美術館からは、同館の開館以降初となる21点もの作品がまとめて出展されています。「彫刻とは何か」を追求し続け、さまざまな葛藤の末に自分の芸術を発見していったノグチ。その芸術活動のエッセンスが凝縮された展覧会です。父には妻子が…イサム・ノグチとは、どんな人だったのでしょう。その人生を振り返ってみます。彼が生まれたのは、アメリカのロサンゼルス。父は詩人の野口米次郎、母はアメリカ人作家で教師のレオニー・ギルモアで、誕生したときすでに父は帰国していました。3歳で母と日本に渡りますが、父にはほかに妻子がいるという複雑な環境。さらに通っていた小学校では、国際児として差別を受けます。日本人としてもアメリカ人としても居場所のないノグチは、孤独感を味わいます。母の方針によりアメリカで教育を受けることになり、14歳で渡米。高校卒業後はコロンビア大学の医学部に進学します。医学生のとき、父の知人で世界的細菌学者の野口英世から芸術家になるよう助言されます。彫刻家の道へ20歳のとき、美術学校の夜間クラスで彫刻を学びはじめると、すぐに才能を認められて大学を中退。医者の道を捨てて彫刻家として活動をはじめます。その後、奨学金を獲得してパリに渡り、著名な彫刻家ブランクーシの助手をしながら石彫を習得。アルベルト・ジャコメッティや藤田嗣治など、当時パリで活躍していた芸術家たちとも交流を深めます。1929年、25歳でアメリカに戻ったあとは、肖像彫刻で収入を得ながら積極的に個展を開催。生活に困窮する時期もありましたが、舞台美術や公園の設計なども手がけ、徐々に成功をおさめていきます。ちなみに、ノグチは若いころから恋愛体質だったようで、31歳のときには著名な画家、ディエゴ・リベラの妻で画家のフリーダ・カーロと大恋愛。しかし、ピストルを持ったリベラに追われて結局カーロと別れた……という逸話も残されています。強制収容所へ…1941年、日本がアメリカと戦争をはじめると、在米の日系人たちは難しい立場に置かれます。ノグチは自ら志願して日系人強制収容所(ボストン戦時強制収容センター)に入所。所内の公園や施設のデザインをしたり、入所者に木工を教えたりします。志願入所にもかかわらず、ノグチが出所しようとしたときには許可がなかなか下りませんでした。「どこにも帰属できない」というノグチの孤独感が、この戦争でさらに深まっていきます。女優と結婚!戦後は抽象的な家具のデザインをはじめるなど、活躍の幅を広げていきます。ノグチは「デザインと彫刻の境目はない」との考えをもっていました。また、日本にも訪れ、建築家の丹下健三や画家の岡本太郎など、さまざまな芸術家と親交。さらに、岐阜に立ち寄ったとき岐阜提灯と出会い、ノグチの有名な照明器具「あかり」の誕生につながります。父親との関係は複雑でしたが、父の祖国である日本の文化はノグチの創造に大きな影響を与えていきます。1951年、女優として活躍していた山口淑子と結婚。日本人でありながら中国人の李香蘭としてデビューし、敗戦時には銃殺刑の危機にさらされるという数奇な人生を歩んでいた山口とノグチの夫婦生活は、世界各地を旅したりフランスに滞在したりと国際色豊かなものでしたが、5年ほどで離婚してしまいます。晩年は各方面で活躍晩年は日米を中心に活躍。日本では、香川県高松市牟礼町にアトリエを構え、地元で代々石屋を営む和泉家の三男、和泉正敏と協働してさまざまな石彫を制作します。アメリカでは、ニューヨークの公共空間に彫刻が常設展示されたり、各大学から名誉博士号を授与されたりするなどいっそう評価が高まり、1985年にはニューヨークにイサム・ノグチ庭園美術館がオープン。83歳のときには、レーガン大統領から国民芸術勲章を授与されました。84歳で心不全により亡くなるまで、彫刻の制作に励んでいたそうです。希望を感じる彫刻子どものころから日米どちらにも帰属できない孤独感に苦しみ、父親との関係も複雑で愛に飢えていたノグチ。さまざまな葛藤を抱えた彼が生み出した作品には、希望と優しさが宿っているように感じられます。特に最後の「第3章 石の庭」では、石本来の美しさとクリエイティブを調和させたノグチ芸術の到達点が展示され、この空間にいるだけで心が洗われるような気持ちになれます。『イサム・ノグチ発見の道』は8月29日まで開催。参考文献:展覧会公式図録『イサム・ノグチ発見の道』取材・文:田代わこInformation会期:~8月29日(日)会場: 東京都美術館企画展示室開室時間: 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)休室日:月曜日※ただし、7月26日(月)、8月2日(月)、8月9日(月・休)は開室観覧料: 日時指定券一般¥1,900、大学生・専門学生¥1,300、高校生以下無料
2021年06月25日1児のママでもあるライター・かわむらあみりがお届けするコラム【ママライフばんざい!】連載第29回は、いま共働きのご家庭が増えるなか、ワーキングマザーが働いていて体験した「気まずい思い」を3つご紹介します。1.ママなのに働いていること【ママライフばんざい!】vol. 29昔は夫が一家の大黒柱となって働く家庭が多かったですが、現代は夫婦ともに働く家庭が増えていますよね。でも、子どもが生まれたら、いまもまだママだけが仕事と家庭の両立をやりくりする家庭が多いようです。そんな周りにいるワーママたちを見ていても、独身時代と変わらず働きたいママ、家庭の事情で働かなくてはいけないママ、フルタイムのママや時短勤務のママなど、いろいろなライフスタイルの方がいます。ワーママの仕事が大変になると、育児や家事に影響が出ることもあり、そんなときに理解のある家族ばかりではないことも……。たとえば、義理の両親は働き続けることを快く思っていないために関係が悪くなったり、夫も妻が仕事をするよりも、家庭のことをしっかりやってほしいと考えている場合などは、ママの肩身が狭くなります。ワーママのことを理解してもらえない環境にいると、そもそも「ママなのに働いていること」を責められることもあるかもしれません。ですが、いまは多様性の時代。事情があって働くならもちろんのこと、仕事が好きなママはそのまま胸を張って、パパと役割分担をしながら仕事に育児に家事に奮闘してほしいものです。2.職場で突然の早退や遅刻実際、筆者自身がワーママなのですが、会社員時代は家庭の事情により、早退や遅刻をせざるを得ない場面がありました。子どもが乳児や幼児だと、まだ体の機能がしっかりしておらず免疫力も低いため、思いがけないときに突然熱を出したり、体調が悪くなったりすることがあります。そんなときに対応するのは、まわりのワーママを見ていても、やはりパパではなくママ。急な保育園からの「お熱が出てしまったのでなるべく早くお迎えお願いします」というような連絡に、仕事をどうやって片付けようか、どのタイミングで早退すればよいか、職場の方たちとの連携をどうしようか、そして子どもの体調は大丈夫なのだろうかという、さまざまな心配ごとが頭を駆け巡るのです。家庭と同じく、職場の環境でも、理解のある方ばかりが周りにいるとは限りませんし、何より周囲に迷惑をかけることはママ自身もつらいもの。「職場での突然の早退や遅刻」は、ワーママの肩身を狭くしてしまいます。もしも仕事が大変なようなら、家庭でやりくりを相談する、部署異動を願い出るなど、うまくいくライフスタイルに調整できるといいですね。3.会社を休んでも家で休めていない何かの理由でワーママが会社を休むことになっても、その言葉通り、休めるわけではないことがほとんど。もちろん、ママ自身の体調不良で休養するときは休むことになりますが、育児にまつわることで休むことになるワーママは少なくありません。職場の同じ部署にすでにワーママの先輩がいたり、男性の上司でも妻がワーママの場合、共働きの忙しさを理解してもらいやすいかも。ですが、そうではない場合、会社にいない=休養しているわけではないため、たとえば子どもの病気の看病や家庭のことで休むと、本当の意味での心身の休みには当てはまりません。そんな状態のワーママなので、会社を休むことがあっても、実際には休まっていないため、常に気を張っている状態に。とはいえ、それを周りの人たちみんなにわかってもらうのは難しいため、ワーママは気まずい思いをしてしまうのです。ママがいっぱいいっぱいになってしまうときは、パパや友達のワーママなどに、相談できるといいですよね。ひとりきりで頑張りすぎて、心身の負担が大きくなりすぎないよう、安心できるママライフが送れることを祈っています。文・かわむらあみり©BakiBG/Gettyimages©ArtistGNDphotography/Gettyimages©NoSystem images/Gettyimages
2021年06月24日100年以上にわたって幅広い層から愛され続けている大人気キャラクターのひとつといえば、“世界一愛されているウサギ”と称されているピーターラビット。2018年に大ヒットを記録し、モフカワなピーターラビットと仲間たちが話題となった実写映画が3年ぶりに帰ってきます。そこで、最新作『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』で日本語吹替版を担当されたこちらの方々にお話をうかがいました。千葉雄大さん&哀川翔さん【映画、ときどき私】 vol. 390千葉さんは前作に引き続きピーター役を演じており、哀川さんはピーターの父親の親友だったという新キャラクターのバーナバス役をそれぞれ演じています。今回は、作品を通して感じたことやお互いの印象、そしておふたりにとっての“誘惑”について語っていただきました。―まず、2作続けて出演されている千葉さんから見て、『ピーターラビット』シリーズの魅力はどんなところですか?千葉さん前作同様に本作でも、『ピーターラビット』には風刺や少しブラックなところがありつつ、大人が見ても考えさせられるようなところがあるので、そういう世界観が僕はすごく好きです。特に今回は、哀川さんが演じるバーナバスの登場が“スパイス”となって新たな面白さが生まれていると感じました。―哀川さんは初挑戦となった吹き替えでウサギ役というのは、いかがでしたか?哀川さん役がウサギでも何でも俺は変わらないんだけど、今回は地下街のボスでピーターを悪の道に誘い込む役どころだったので、どこまでピーターを巻き込めるかというのがひとつのテーマでした。都会に住む動物たちも生きていくのに必死なので、その厳しさや相当な道のりを歩んできたんだなという生きざまみたいなものも見せられたらいいなと。あとは、そこにどこまで自分が入り込んでいけるかが大事かなと思いました。―吹き替えならではの難しさに苦労したこともあったのでは?哀川さんまずは、テンポの速さには驚きましたね。俺は普段話すのがそんなに速いほうではないから、そのテンポ感に合わせるのが難しかったです。それは俺が初めてバラエティ番組に出たときみたいな感じだったかな。―周りが早くてついていけない感覚ということですか?哀川さんそうそう。みんな速いから、初めて出たときは何も言えなかったよね(笑)。そこで、「あぁ、ゆっくりとかまえていられないんだな」と知りました。疲れたときに観ると元気になれる―現場によって、テンポ感はかなり違うんですね。千葉さんは、動物ならではの動きに声を合わせるために工夫されたことはありましたか?千葉さんこれは前作のときもしていたことですが、ピーターと同じ表情をしながら声を吹き込むようにしていました。今回は、歌うシーンとバーナバスに向かって行くところがかわいくて気に入っています。―本シリーズへの愛着も人一倍あるのでは?千葉さんそれはありますね。僕は自分の作品をあまり見返さないほうなんですが、実は『ピーターラビット』だけはめちゃくちゃ観ています(笑)。特に、元気がないときや疲れたときに観るとすごく元気になれるんですよね。哀川さん確かに、前向きになれる作品だよね。今回なんてピーターはそんなに悪くないのにあんなことされちゃって……。普通だったらグレちゃうよ!千葉さんあはは!―そうですね(笑)。では、お互いのイメージと実際に会われてみた印象を教えてください。哀川さんもともと好青年だなと思って見ていましたが、イメージ通りでしたね。あと、好奇心旺盛でいろいろなことに興味を持っているような目をしているなと感じていた部分も、まさにその通りだなと。でも、そんなふうにテレビで受ける印象と実際が同じというのは、すごくいいことなんですよ。千葉さん僕たちの仕事だと、役がそのまま個人のイメージになることもあるので、難しいところはありますよね。哀川さん確かに、それはあるね。俺なんか昔、「おはようございます」って言っただけで、「挨拶したぜ」とか「しゃべるのか?」みたいに言われたこともあるくらいだから(笑)。千葉さん(笑)。でも、僕はそうなりたいですね。現場では孤独を味わうこともあった―というと?千葉さんたとえば、「好青年」という印象を持たれると、「いいことをして当たり前」みたいな感じになりますよね。なので、いまのお話にあったように、挨拶しただけですごいと思われるのはうらやましいです。哀川さんまあ、俺の場合はそんな役ばっかりだったからね(笑)。でも、俺みたいなタイプは現場に行ったら孤独になってしまうことも多いんですよ。特に若いときは、周りになじむまでに1週間以上かかることもあったかな。千葉さんでも、今回ご一緒させていただいて、哀川さんは本当にお優しい方だなと思いました。哀川さんいやいや、普通のことを普通にしているだけなんだけどね。―千葉さんは、以前「もっとワイルドになりたい」と発言されていたこともあるようですが、今後はご自分のイメージをもっと変えていきたいですか?千葉さんいまはもう「野となれ山となれ」って感じですね(笑)。そういうふうに言っていたのは29歳のときで、当時は30歳になることに対してすごく身構えていたからそんなことを考えていたんだと思います。でも、30歳を超えてしまったら、別に何も変わらなかったなと。それに、自分に対してのいろいろな目線というのはあって当然ですからね。哀川さん結局は、どれも人からの印象であって、自分でどうこうできるものじゃないからね。千葉さんそうなんですよね。なので、自分の近い人がわかってくれさえすれば、あとはエンターテインメントな存在でいいのかなと思うようになりました。哀川さんでも、30歳になると、けっこう来るものはあったでしょ?千葉さんありましたね。30歳からが“本当の大人”になるとき―哀川さんも30歳で何か心境の変化があったということですか?哀川さん実際になってみると、別に全然変わらないんだけど、俺も30歳になったときは「30歳かぁ、やばい」みたいなことはやっぱり考えましたね。千葉さんそうなんですよね。「大人になったな」みたいな。哀川さんでも、確かに俺も30歳からが“本当の大人”であって、20歳はまだ大人ではないなと感じたかな。というのも、30歳から周りの接し方が変わってくるというか、20歳とは違って完全に大人扱いになるからね。決定的に違うのは、そこじゃないかな?千葉さん本当にそうですね。―確かにそういう違いはありますよね。哀川さんは全然お変わりになりませんが、若さの秘訣は何ですか?哀川さんいやいや、変わったよ(笑)。まあ、強いて言うなら早く寝ることじゃないかな。結婚して、30歳過ぎたくらいから俺はとにかく早寝早起きだからね。寝れるときなんて、夜の8時か9時には寝ちゃうから。―そんなに早く寝ていらっしゃるんですか!?哀川さんでも、その代わり朝の4時くらいには起きちゃうから、睡眠時間で言ったら7時間前後くらいかな。でも、本当はもっと寝たいんだけど、一度起きたら眠れなくて。ただ、ちゃんと睡眠を取ることが若返る一番の秘訣じゃないかな。千葉さん確かに、“睡眠のゴールデンタイム”と言われている時間帯は死守されてますもんね。哀川さんちなみに、早寝するのは難しいと思うんだけど、早起きすれば自然と疲れるから誰でも早寝できますよ。俺は休みのときは朝早くから釣りとかゴルフに行くんだけど、そうすると仕事以上に疲れちゃうからね(笑)。だから、コツは早寝早起きじゃなくて、早起き早寝にしてサイクルを作ることだと思います。休みの日は、アウトドアを夢見るインドア派―なるほど。確かに、健康にもよさそうです。では、サブタイトルの「バーナバスの誘惑」にかけて、おふたりがこれには勝てないという誘惑は何ですか?千葉さんなぜか最近は甘い物がすごく食べたくなるときがあって、それがいま一番の誘惑ですね。いままではあまりそういう欲求はなかったんですけど、お酒を前ほど飲まなくなってから、そうなって来た気がします。あとは、天気のいい日にはどこかに行きたいというのも誘惑ですね。―ということは、アウトドア派なんですか?千葉さんそうではなくて、アウトドアを夢見るインドア派ですね(笑)。―(笑)。では、お家ではどのように過ごすのがお好きですか?千葉さん天気がいいときは、ベランダに置いてある椅子に座ってボーっとしています。家では「何もしない」をしている感じです。そこにタルトとか甘い物があったら最高なんですけどね。砂糖の誘惑ってすごいなと思います。―わかります。哀川さんはいかがですか?哀川さん昔はやっぱりお酒の誘惑かな(笑)。次の日が朝から仕事でも、ギリギリまで飲んでいたので、朝の7時に家を出なきゃいけないときは、5時まで飲んで、6時に家に帰ってシャワーを浴びて、7時に出る、みたいなことをしていました。そういう生活がずっと続いていたんですけど、若いときはしょうがないですよね。―そこからどうやっていまの生活へと切り替えられたのでしょうか?哀川さん子どもが生まれたことが大きかったですね。そこで生活が変わったら、「二日酔いがない目覚めの気持ちよさは何なんだ」と。それに気がつくまで、10年かかりました。いまは、暗くなったら眠くなっちゃうので、勝てない誘惑は眠気ですね(笑)。―(笑)。そのほかに、おふたりがリラックスできる時間はありますか?千葉さん僕は最近けっこう自炊をするんですが、野菜を刻んでいるときが一番無になれますね。たくさん切ってストックしたりします。―確かに、余計なこと考えなくていいですよね。ちなみに、得意料理などはありますか?千葉さん炊き込みご飯とかみそ汁とか和食が多いですね。ただ、最近のイチオシは、ルーを使わずにスパイスで一から作ったカレーです。いつも余りがちなきゅうりや大根を入れてみたら意外とおいしくてびっくりしました。さまざまな監督との出会いは貴重な経験―おもしろい組み合わせですね。哀川さんはお家でどのように過ごされていますか?哀川さん普段だったら夕方5時くらいから飲み始めて、7時にはいろいろなことを終えて、8時には布団に入れるような感じにしています(笑)。特にここ1年は家にいることが多くて、最初はそれまでの生活がバタバタしすぎていたから家で何もしないのも楽でいいなと思っていましたけど、だんだん社会復帰できるのか怖くなったこともありましたね。でも、家族と一緒にいられて温かみを感じられたことはよかったなと思っています。ただ、俺があまり凝ったご飯を作れないので、奥さんがご飯を毎日3食作ることになって大変だったかもしれないですけどね……。―本作では、出会いの大切さといった普遍的なところも描かれていますが、おふたりにも忘れられない出会いがあれば、教えてください。哀川さんやっぱりいろいろな監督たちとの出会いは、すごく貴重なことだったなと。俺も映画監督をしたことが1回あるんだけど、いろいろなことを考えなくちゃいけなくて、こんなにきつい仕事はないなと思ったくらいです。だから、俳優のほうが100倍楽なんじゃないかと感じたほど(笑)。本当にそれくらい大変だったので、たくさんの監督たちと出会えたことはステキなことだなと思っています。千葉さん僕もある監督から言われたことで残っていることがあって、それはうまく泣けなくて目薬を使ってしまったときのこと。撮影場所に縁側があったので、そこにひとりで凹んでいたら、監督が近づいてきて「目薬を本物の涙としてお客さんに届けるのも役者の仕事。それができていたから、気にしなくていいよ」と言ってくれたんです。そのときは「いま?」と思うタイミングで涙が出てしまいました(笑)。哀川さん俺も先輩から勇気が出るひと言をもらったことあったな。そういうことがあるとうれしいよね。自分たちに置き換えて楽しんでほしい―ちなみに、先輩である哀川さんからも千葉さんに何かアドバイスはありますか?哀川さん遊ぶ時間がないくらい忙しい生活がおそらく10年、15年と続くとは思うけど、いまのまま一生懸命やっていけばいいんじゃないかなとは思いますよ。千葉さん今日、哀川さんといろいろお話していているなかで、「嫌なこともやっていくと幅が広がるよ」とか刺さる言葉をたくさんいただいて、これからもがんばろうという気持ちになりました。哀川さんそのときごとに考えなきゃいけないこともあるけど、仕事においては先を見ることも大事だからね。―それでは最後に、作品の見どころなどについてメッセージをお願いします。哀川さん今回はピーターが悪の道に巻き込まれていくわけですが、いったいバーナバスにどうやって誘惑されてしまうのか。そして、ピーターはどうなってしまうのか、というところは楽しみにしてもらいたいなと思います。千葉さん都会のバーナバスも田舎育ちのピーターも違いはありますが、みんな一生懸命に生きているので、そういう世界観は自分たちに置きかえて感情移入できるところではないかなと。あとは、純粋に動物たちを見ているだけで、元気がもらえるので楽しみにしてください。インタビューを終えてみて……。おふたりが顔を合わせたのはこの日が2度目ということでしたが、そんなことはまったく感じさせない打ち解けた雰囲気の千葉さんと哀川さん。楽しいやりとりに、笑いが絶えない取材となりました。そんなおふたりが劇中でどんなやりとりを繰り広げるのかにも、ぜひ注目してみてください。最後までドキドキの展開に目が離せない!おもしろさもブラックさも、そしてモフモフのかわいさもさらにパワーアップした本作。さまざまな葛藤や失敗を経て成長していくピーターとともに、人生において大切なものが何かを改めて見直してみては?写真・大内香織(千葉雄大、哀川翔)取材、文・志村昌美千葉雄大ヘアメイク:堤 紗也香/スタイリスト:寒河江 健ニット¥47,300、シャツ¥39,600(ウジョー/エム)、その他/スタイリスト私物哀川翔ヘアメイク:小林真之スーツ (Twin’s & Co. )ストーリー湖水地方で、優しい画家のビアと暮らすウサギのピーター。3年前に隣に引っ越してきた動物嫌いのマグレガーとの全面抗争は終わりを迎え、大好きなビアと大嫌いなマグレガーは結婚することに。しかし、父親気取りのマクレガーに怒られてばかりの毎日に、ピーターはうんざりしていた。そんななか、ピーターの父親の親友だったと語るバーナバスと出会い、ピーターは頼もしさを感じてしまう。ところが人間に恨みを抱くバーナバスは、人の家で盗みを働きながら、人間への復讐の機会をうかがっていた。そして、ついにある作戦を計画するのだが、ピーターは最大のピンチに陥ってしまうのだった……。ハラハラする予告編はこちら!作品情報『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』6月25日(金)全国ロードショー配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント写真・大内香織(千葉雄大、哀川翔)
2021年06月24日青春時代を振り返ったとき、誰にでもひとつはある忘れてしまいたいような思い出。まもなく公開の最新作『Bittersand』では、高校生活で起きた“ある事件”によって時計が止まってしまった男女が運命の再会をするところから物語が始まっています。そんな注目の青春ミステリーの見どころについて、こちらの方々にお話をうかがってきました。井上祐貴さん&萩原利久さん【映画、ときどき私】 vol. 389『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』などで活躍している井上さん(写真・左)や『3 年 A組 -今から皆さんは、人質です-』などで知られている萩原さん(写真・右)といった次世代の人気俳優が集結している本作。井上さんは高校時代に想いを寄せていた同級生の絵莉子にまつわる出来事がきっかけで前に進めずにいる主人公の吉原暁人を演じ、萩原さんは少し空気の読めないところがある、暁人の“悪友”井葉有介を演じています。7年のときを経て、忌まわしい記憶を塗り替えるために奔走する2人の姿を描いた本作で、それぞれの役を好演している井上さんと萩原さん。今回は、撮影現場の舞台裏や青春時代の思い出、そして塗り替えたい“ビターな記憶”について語っていただきました。―まずは、最初に脚本を読まれたとき、どのような印象を受けましたか?井上さんこの作品では18 歳と25歳という2つの時系列が同時に描かれているので、最初は少し難しいと感じるところもありました。でも、読むほどにそれぞれのキャラクターのことが理解できるようになりましたし、特に暁人と井葉の関係性がおもしろいなと思いました。―萩原さんは、どのように井葉を演じようと考えていましたか?萩原さん今回は、井葉のテンションによって左右されるシーンがわりと多かったので、失敗できないなという思いが強かったです。なので、どうやって空気を読まずにぶち壊せるか、みたいなことをずっと考えていました。あとは、同じ役でも異なる年齢を演じるということが、プレイヤーとしては挑戦だったと思います。スイッチを切り替えながら演じ分けた―おふたりとも、高校生と25歳の両方を演じていらっしゃいましたが、演じ分ける難しさもあったのではないでしょうか?井上さんもちろん、簡単ではありませんでした。ただ衣装に助けられたというか、制服を着れば高校生になれて、スーツを着れば社会人になれたので、目に見えるもののおかげでそれぞれの気持ちの“スイッチ”を入れることができたのかなと。演技では、年代によって声の高さを変えたり、そういったことを意識しながら演じました。萩原さん脚本を読みながら、最初はどういうふうに演じ分けようかなと考えていましたが、登場人物のなかで、井葉だけ変わっていないところがあったので、僕の場合は変わらないことがひとつのテーマなんじゃないかなと。なので、細かいところで変化をつけつつ、井葉が持つ適当さや自由さといったベースは変わらないように気をつけました。ある意味、井葉だけ取り残されているようなところもあったので、周りの人たちに作ってもらった部分も大きかったと思います。合宿みたいな楽しい現場だった―劇中で繰り広げるおふたりのやりとりがすごく絶妙でおもしろかったですが、普段のおふたりの関係性は?萩原さん実際も、あんな感じだよね?井上さんあそこまで高いテンションではないとしても、確かに基本的には変わらないかもね。萩原さん現場でもよくしゃべってたしね。井上さんそうだね。あとは、昼休憩とか夜ホテルに戻ってから一緒にゲームしたり。萩原さん今回、男子はみんなで同じ部屋に泊まっていたこともあって、合宿みたいだったからね。大部屋の和室に布団を敷いて、みんなで並んで寝るみたいな。井上さん大浴場しかなかったから、毎日お風呂もみんなで一緒に入ったよね。萩原さんとにかく、みんな仲が良かったから本当に楽しかったです。井上さんキャストのみんなが自分の役どころとキャラクターが似ていることもあったので、それも撮影の延長みたいに感じていた理由かなと思います。利久くんも自分では井葉とかけ離れているとコメントしてたけど、実際は井葉要素満載だったしね(笑)。萩原さんいやいや、本当に僕としては心外でしたよ。というのも、最初に脚本を読んだときに「自分とは違い過ぎるからどうしよう。かなり作って現場に行かないといけないかな」と心配していたのに、みんなから「井葉っぽい」と言われたので、自分で自分のことがわからなくなったこともありました(笑)。でも、みんなと生活をともにすることで、きちんとコミュニケーション取れたのはよかったなと思います。―撮影は1年半ほど前ということで、コロナ禍の前だったからこそ、そういう密なやりとりができたのかもしれないですね。井上さん確かに、いまだったら難しいので、あのときだからこそできたことだなと改めて感じます。いろいろなことをひっくるめて青春だった―そのなかでも忘れられないエピソードがあれば、教えてください。井上さんクラスメート役の柾⽊玲弥くんがムードメーカーとなって、みんなの間に入ってコミュニケーションを取ってくれていた気がします。萩原さん本当にありがたかったですね。井上さんただ、僕はほぼ全部のシーンに出ていることもあって、ひとりだけ撮影が遅くまであったので、みんなといられる時間も少なくて、けっこう寂しい思いをしました。萩原さんそのとき、僕はみんなとまくら投げとかしてましたけどね(笑)。井上さんだから、それも知らないんですよ……。帰ったときにみんなが人狼ゲームで盛り上がっていたときもあったんですけど、僕だけ朝が早かったので、「いいなぁ」と思いつつひとりで端っこで寝ていることもありました。でも、それも含めて青春を感じれたなといまは思います。―ちなみに、自分の青春時代を思い出といえば?暁人のように女の子をかばった経験はありますか?萩原さんいや、そんな思い出はないですね(笑)。井上さん僕もないですよ(笑)。萩原さん映画みたいなキラキラした青春というよりも、思い出すのは高校3年生の午前授業だった月曜日のこと。毎週友達と一番安いうどんを食べながらジャンプを回し読みしていました。1年間、毎週必ず同じことをしてたので、一番の思い出ですね。井上さん確かに、僕も学校が早く終わる日は楽しみだったな。友達とボーリングとかカラオケに行ったりして、遅くまで授業がある日にはできないことをするのが好きでした。いま思うと、あれが青春だったなと思います。基本的に後悔はしないタイプ―では、本作の暁人のように塗り替えたい“ビターな記憶”はありますか?井上さん僕は基本的にあまり後悔しない性格で、楽しいことだけじゃなくて、辛いこともいまとなってよかったかなと思えるタイプなので、特に塗り替えたいことはないかもしれません。ただ、強いて言うなら、もう少しちゃんと勉強しておけばよかったなとは思います(笑)。萩原さんそれは間違いないよね。井上さん両親がせっかく塾に通わせてくれて、整った環境があったのに、「何をしてたんだろう」とふと思うことはあります。萩原さん僕もやらない後悔をするのが怖くて、とりあえずやるほうなので、あまり後悔はないし、もう一度やり直すほうが嫌かもしれないです。ただ、飲み過ぎて二日酔いになるたびに、「なんで、あんなに飲んじゃったんだろう」という後悔はします(笑)。かなり小さいことですけど、やり直したいと思うのはそのときくらいです。―(笑)。これに関しては、多くの方が共感しているかもしれません。また、本作では暁人と井葉の恋愛模様も見どころですが、登場するのは、ひとりで内に抱える絵莉子とつかみどころのない自由な澄子。おふたりは、どちらがご自分の好みのタイプに近いですか?萩原さん僕は絵莉子みたいに何かを秘めている感じの女の子のほうが、何を考えているんだろうみたいなところから興味がわいて、追いかけてしまうかもしれないです。井上さん僕は地に足がついていて尊敬できる人がいいので、ちゃんと仕事をしているという意味でも絵莉子はステキだなと思いました。休みの日は圧倒的なリフレッシュ感をもとめている―おふたりとも絵莉子派なんですね。萩原さん天真爛漫な子もいいなと思うんですけど、観ていただくとわかるように、澄子はちょっと極端ですからね……。井上さん確かに、澄子は情報がなさすぎて怖いかも(笑)。萩原さんそうそう。ある意味、どんな子なんだろうという興味はあるんだけどね。井上さんそれはあるね。ただ、興味はあっても、付き合うとなると、僕はちょっと疲れちゃうかも。―観客のみなさんにも、そんな女性陣に注目していただきたいですね。では、おふたりが最近ハマっていることがあれば、教えてください。井上さん最近DIYをはじめて、テーブルを作りました。きっかけは、正規品で自分がほしいイメージのテーブルがなかったからなんですけど、昔からDIYに関するテレビとか動画はよく見ていて、すぐに始められるくらい知識はあったんです。それがいまは趣味のひとつになっています。―いきなり家具を作ってしまうとは、すごいですね。萩原さんは息抜きでしていることはありますか?萩原さん僕はひたすら寝ます(笑)。たまに、夕方から翌日の昼間くらいまで、一度も起きることなく、15、6時間寝てしまうこともあるくらいです。起きたときに体のなかが全部入れ替わっているような圧倒的なリフレッシュ感がいいんですよね。誰もがどこかに共感できる作品になった―そこまで寝れるのもすごいです(笑)。それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。井上さん自分の過去のなかで、モヤモヤしていることやひっかかっていることに対して、他人から見たら向き合わなくてもいいこともあるかもしれないですけど、暁人たちのように7年越しに真正面から向き合っていく姿を見て、「自分も一歩踏み出してみよう」とか「いままで目を背けていたことに向き合ってみよう」と少しでも思ってもらえたらいいなと思います。誰もがどこかには共感できる作品なので、楽しんでいただきたいです。萩原さんコロナによって世の中がすごく変わってしまいましたが、この作品もようやく公開できることになったので、ぜひみなさんにも劇場で観ていただけたらうれしいです。インタビューを終えてみて……。劇中で見せている息の合ったやりとりは、実際のおふたりから出ているものだと納得してしまうほど仲の良い井上さんと萩原さん。撮影中のことを振り返る楽しそうな姿から、そのときの様子が浮かぶようでした。おふたりにとっても、新たな青春の1ページとなった本作にぜひ注目です。過去を変えて新たな未来をつかむ!些細なことから人生を変えてしまうような大きなものまで、心のなかに残り続けてしまうのは塗り替えたい過去の記憶。カッコ悪くても立ち向かおうとする暁人と井葉の姿は、いまさらどうすることもできないと諦めるのではなく、いつになっても変える力を誰もが持っているのだと教えてくれるはずです。山本嵩(井上祐貴、萩原利久)取材、文・志村昌美井上祐貴 スタイリスト:西脇智代メイク:松山麻由美シャツ¥19,800/SHAREEF、ジャケット¥85,800/ato、パンツ¥5,500/WYM LIDNM萩原利久 スタイリスト:Shinya Tokitaメイク:松山麻由美シャツ ¥23,100、パンツ ¥17,600/ともにワーダー(デザインワークス イチキュウロクゴ トウキョウ03-3406-7669 )ストーリー25歳になった吉原暁人は、さえないサラリーマン生活を送っていた。そんなある日、高校時代に想いを寄せていた石川絵莉子と思いがけないところで再会を果たす。ところが、彼女にとっては、暁人を含めた高校時代の思い出はすべて、忌まわしい“黒板事件”によって、拒絶すべき過去となっていた。そして暁人自身も、その頃から自分が一歩も前に進めていないことに気がつくことに。そこで暁人は悪友で親友の井葉の力を借りて、自分と絵莉子のために「記憶を塗り替える」企てを進めることになるのだが……。胸がギュッとなる予告編はこちら!作品情報『Bittersand』6月25日(金)シネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺他、全国順次公開配給:ラビットハウス©Bittersand 制作委員会写真・山本嵩(井上祐貴、萩原利久)
2021年06月23日6月は「プライド月間」と呼ばれ、LGBTの権利について啓発を促す活動が世界各地で行われています。そんななかでオススメしたいのは、海外でも高く評価されている話題のドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』。今回は、こちらの方々にお話をうかがってきました。サリー楓さん&杉岡太樹監督【映画、ときどき私】 vol. 388建築デザイナーやモデル、コメンテーターなど、幅広い分野で活躍し、トランスジェンダーの新しいアイコンとして注目を集めているサリー楓さん。本作では、楓さんの新たな挑戦や日常生活だけでなく、初めて家族と対話する瞬間にまで杉岡監督が鋭く切り込んでいます。そこで、おふたりに撮影の裏側や多様性のある社会に必要なものについてそれぞれの思いを語っていただきました。―約1年半にわたる密着となりましたが、ご自身で作品をご覧になっていかがでしたか?楓さん今回は、私のライフイベントが次々と発生するところにたまたまカメラが居合わせていただけなので、私にとっては日常の記録みたいな感じでしたね。ただ、自分では普通だと思っていたのに、私は日常を過ごすことにこんなにもエネルギーを使っていたんだということを改めて知りました。―最初に楓さんに会ったとき、監督はどのような印象を受けましたか?監督まずは、フォトジェニックな存在だと思いました。彼女は外見的な美しさを持ち合わせているだけでなく、内面にあるものが表情や動きにそのまま出るタイプだったので、撮る人間からすると最高の被写体だなと。撮っていて楽しいと感じる人じゃなければ、もしかしたら1回目の撮影でやめていたかもしれませんね。―撮影するなかで、忘れられない瞬間といえばどの場面ですか?監督やっぱりお父さんとのシーンですね。あの場にいた全員が極限状態だったと思います。楓さんとお父さんだけでなく、もし僕にもカメラが向けられていたら僕もすごい表情になったいたんじゃないかなというくらい。でも、あのシーンを見れば僕らがどういうことを訴えたいのかというのは伝わると思っています。当事者とその親御さんにも発信したいと感じた―とはいえ、楓さんとしては葛藤もあったのではないでしょうか?楓さん実は、私は両親が出ることに最初は大反対でした。これまで両親とジェンダーについて話すことをずっと避けていたというのもありますし、そういう気まずいことをあえてカメラの前ですることが嫌だったからです。でも、トランスジェンダーのリアリティを伝えるためのドキュメンタリーなのに、親子関係という一番リアルな部分が映っていなければ、何も伝わらないんじゃないかなと。そこが腑に落ちてから納得はしましたが、内心では「両親が『出るわけないだろ』と断ってくれないかな」と期待していました(笑)。監督あはは!それは残念だったね。楓さん両親が出ると言ってから私にとっての"地獄"が始まったわけですが、それによってトランスジェンダー当事者だけでなく、カミングアウトされた親御さんに向けても発信できるのではないかと思うようになりました。ある日突然、自分の子どもにカミングアウトされたお父さんやお母さんは、当然困惑しますよね。おそらくそこでほかにも同じような親子がいるのかを調べると思いますが、そのときにこういう映画があるのとないのとでは、理解度が違うのではないかなと。当時、私に乗り越えられるかどうかわからない壁でしたが、いまはやってよかったなと感じています。ちゃんと乗り越えられたどうかは自分ではわかりませんが……。監督ゴールはないかもしれないけど、僕から見ると乗り越えていたと思うよ。だから、いまこうしてインタビューを受けることになっているんじゃないかな。楓さん私が勇気を出したとか、努力をしたというよりも、両親がこの話に乗って来たことで、ジェットコースターに乗せられちゃったみたいな感じです(笑)。監督(笑)。ただ、僕からも補足したいのは、彼女が抱えていた親子関係というのは、日本のLGBT当事者における懸念事項の大きな部分を占めていると言われていて、多くの人が共有できることだという思いから撮りたいと伝えました。それともうひとつの理由は、(映画の中で出てくる)講演活動やメディア出演のなかで彼女は「自分のジェンダーを親に認めてもらえない」という話をするのですが、それを一面的に発信するのは、フェアではないと思ったから。なので、もし出演を断られたとしても、お父さん自身の言葉を聞くアプローチはするべきだと考えていました。なぜなら、それが表現をする人間としての責任だと感じていたからです。事なかれ主義で自分だけ逃げたくなかった―なるほど。作品のなかでもお父さんのリアルな表情は非常に印象的でした。監督お父さんが本当にすごいなと思ったのは、初めてレストランで会ったシーンを撮影したとき。映画では空席から始まって、楓さんとご両親が入ってくるんですけど、その前に挨拶や「ここから入ってくる振りをしてください」といった打ち合わせがあったわけではなく、お店に入ったらいきなり撮影が始まっているという状況だったわけですよ。内心はどう思われていたかわかりませんが、何も言わずにそれを受け入れてくれたところに楓さんへの愛や親としての責任といった大きな何かを感じました。―実際、この映画を経て親子関係は変わりましたか?楓さんそうですね。それまではジェンダーについては触れてはいけないとモヤモヤしていましたが、いまはそれがなくなって話しやすくなったようには感じます。でも、以前の私たちのようなぎこちない親子関係というのは、おそらく日本中にたくさんあるんじゃないかというのは、今回の撮影を通じて考えるようになりました。私はたまたまこういう機会があったので、乗り越えられましたけど、実は私もずっと避けてきたことでしたから。同じようなことに思い悩んでいる人はたくさんいるはずなので、いまはそういう方々にこの映画が届けばいいなと思っています。―これまでに私もトランスジェンダーの俳優さんや監督に取材したことがありますが、どこまで踏み込んでいいのかについて悩んだことがあります。監督はどのような意識をされていましたか?監督事前に楓さんにも伝えたのですが、僕はカメラを持ったらブレーキが効かないタイプだという自覚がありますし、そもそもカメラは“暴力的な装置”だとも思っています。なので、もしかしたら傷つけてしまうことがあるかもしれないから、それが起きてしまったときはきちんと教えてほしいというのは伝えました。撮影の合間でも、不当な扱いをされていると感じないか、差別的なことを言われたと感じないか、ということは何度も楓さんに確認しながら進めるようにしました。ただ、そのいっぽうで僕が勝手にボーダーを決めて「これ以上は踏み込まない」とすることは僕のエゴなのではないか、という思いがあったのも事実です。覚悟を決めてカメラの前に立ってくれている人に対して、事なかれ主義で自分だけ逃げるのは失礼なのではないかと。なので、「自分が聞きたいことは聞く、撮りたいものは撮る」という部分も同時に心がけてはいました。ジェットコースターのような作品に仕上がった―そういう監督だから、楓さんも自分をさらけ出せた部分もあったのでは?楓さん私としてはさらけ出さなきゃというよりも、ただありのままでいただけですね。監督が“いじわるな人間”であることは知っていたので(笑)。監督あはは!楓さん最初はカメラの前でいつもよりもメイクをがんばって気合いを入れていましたが、それもだんだん飽きてきて、スッピンを1回撮られたらどんどん気が抜けていってしまって。でも、そういう瞬間が一番リアリティがありますよね。ちなみに、私的に映画に使ってほしくない映像が全体の5%あったとしたら、その5%全部が使われていました……。なので、映画を観たときに「あれもこれも映ってるの!?」みたいな(笑)。でも、最初から“いじわるジェットコースター”に乗ってしまったとわかっていたので仕方ないですよね。監督ただのジェットコースターから、いじわるジェットコースターになってきましたけど……。インタビューの終わりにはすごいことになってそうだな(笑)。楓さん(笑)。まあ、自分からジェットコースターに乗ったのに、「なんでここで落ちるんですか!」とクレームをつけられないですからね。観る方によっては、泣いてスッキリしたという人もいれば、落ち込む人もいるかもしれませんが、ジェットコースターのようだということだけは伝えておきます。監督そうだね。メリーゴーランドやティーカップだと思っていたら、振り落とされるかもしれないね。世の中にある間違ったイメージを払拭したい―では、みなさんには覚悟してご覧いただくということで。劇中で楓さんは、「世の中に広がっているトランスジェンダーのイメージが間違っている」とおっしゃっていましたが、実際にはどのような違和感を抱かれていますか?楓さん私がカミングアウトしたのは大学院生のときですが、当時はまだトランスジェンダーという言葉がいまほど普及していなくて、私もLGBTという言葉を知ったことでようやく自分が何者であるかを知ったほどでした。大学では、私より先にカミングアウトしていた方がいたのですんなり受け入れられたんですが、それ以外のところだと、「どんだけ〜」とか言われたり、「男の声出してみて」とかおもしろいことを求められたりすることが多かったですね。あとは、逆に「それはつらかったね」という反応もありましたが、私としては「そんな山あり谷ありみたいな人生送ってませんけど……」みたいな感じでした。そんなふうに、カミングアウトした瞬間に突然エンターテインメントみたいな扱いをされたり、感傷的に見られたりすることに違和感があったんです。でも、その原因はトランスジェンダーで検索したときに芸能情報のようなものはたくさん出てきても、就職や実生活の役に立つような情報がまったく出てこないことにあるんじゃないかなと。このままだとカミングアウトしようとしている人が私と同じような思いを味わうことになると思ったので、ロールモデルとして参考にしていただけるように、ブログやSNSを使って発信することにしました。カミングアウトされる側にも伝えたいことがある―当事者の方々には大きな助けになったと思います。ただ、いっぽうでカミングアウトされる側の情報が少ないことも、どういう対処をしていいかわからない原因かもしれません。そのことについて楓さんから伝えたいことはありますか?楓さん自分らしくいることや多様性がこんなに肯定される時代ってこれまでなかったんじゃないかなと感じています。だからこそ、誰かにカミングアウトされたときに、「“LGBTフレンドリー”が目指されている時代だから、受け入れなきゃいけない」みたいに気負ってしまって、本当はまた受け入れられていないのに、理解した振りをしている人もいるのではないかなと。でも、そんなふうに装ってしまうことほど悲しいことはないと思っています。たとえば、私の父はカメラの前でも嘘つくことなく、「自分はまだ理解できていない」といったことを言っています。確かに、18年間ずっと息子として一緒に生活してきたのに、突然「女子です」とメイクして現れた息子を急には受け入れられないですよね。多様性が尊重されている時代だから受け入れなきゃというよりも、自分なりに考えてわからないことがあれば、「わからない」とちゃんと伝えたほうがいいと私は思っています。そうしないと、お互いに学び合う機会を失って、表面的な理解だけにとどまってしまうと感じているからです。―正直に話してくれている相手には、正直な思いを伝えたうえで向き合うことのほうが大事なんですね。監督ただ、これは親子だから言える部分もあるのかなとは思います。他人が同じことをした場合、それが許されるのかな?楓さん確かに、難しいところかもしれないですね。家族や親友にカミングアウトされたとき、受け入れるのが困難な場合もあると思いますが、その裏には「就職活動で不利にならないかな」とか「これが原因でいじめられないかな」といった相手を気遣うがゆえに想像力が働くこともあるじゃないですか。つまり、守りたい相手の幸せを願うからこそ理解が示させない場合もあるので、私は理解が示せないことが一概に悪だとは思っていません。だから、理解できる人がいい人で、できない人が悪い奴みたいな単純な話ではないのかなと。理解できない人にもできないなりの愛や思い入れがそこにはあるのだということも、この映画を通して発信していけたらいきたいですね。無理に自分らしく振る舞わなくてもいい―非常に興味深いお答えをありがとうございます。では、多様性の尊重される社会に必要なのはどんなことだとお考えですか?監督僕は、寛容さだと思います。さまざまな価値観が肯定されようとしているいまの時代は自分が承服できないものであふれているという側面もあるはずなので、ストレスを感じている人も多いかもしれません。でも、そこにストレスがあったら、おそらく多様性がある社会で生きるのは難しいので、自分が受け入れられないものに対しても、「だからこそ世界は豊かだよね」と、でこぼこ道の人生を楽しめるマインドになれたらいいですよね。楓さんまず「多様性」という言葉はLGBTや弱者のためのものではなく、他者を認めず排除しようとしている人や多様性を望まない人たちも含まれると私は考えています。それこそが多様性なので、誰が間違いとかではなく、それぞれが一人称の視点を持つことが必要だと思います。あと、いまは自分らしさや他人と違うことを求められることが多いですが、あまり多様性に理想を抱きすぎないというのも大事かもしれません。もちろん人と違うということが自分らしさにもつながっているところはありますが、「人と違わなきゃいけない」と思いながら発見する自分らしさは、結局のところ自分らしさではないと思います。奪われそうになっても絶対に譲れないものや削っても削っても自分の内側にある”燃え残った芯”のようなもの、それこそが本当の自分らしさだと私は思っています。ただ、「無理に自分らしくしなくてもいいんじゃない?」というのも付け加えたいですね。自分らしくしないという決断もありだと思うので、そういう選択肢がある社会になったら素晴らしいんじゃないかなと。監督確かに、自分らしさなんて自然と生まれてくるものなので、そこで焦らなくていいと僕も思います。いっぽうで、「あれはダメ」とか「こうしなきゃいけない」とか周りから言われることもありますが、これから未来で活躍する人たちには窮屈な思いをせずにありのままの自分でいてほしいですね。そういったこと含めて、まずはこの映画を観ていただければ、わかると思います(笑)。インタビューを終えてみて……。この作品を通して、何でも言い合える“戦友”のような関係になったことが感じられる楓さんと杉岡監督。ユーモアを交えつつも、核心をついたひと言ひと言は、どれも興味深いお話ばかりでした。今後もおふたりがどのような発信をされていくのか、注目していきたいと思います。決められるのは自分自身だけ!誰もが葛藤や挫折を経験する日々のなかで、自らの手で道を切り開いていく楓さんの姿に、自分のなかにも眠っていた“何か”が目覚めていくのを感じられるはず。ジェットコースターのような106分の先に、新たな自分と出会ってみては?写真・安田光優(サリー楓、杉岡太樹)取材、文・志村昌美サリー楓ヘアー&メイク/TAYAストーリー男性として生きていくことに違和感を持ち続けていた楓は、これからの人生を女性として生きていくと決断する。幼いころから夢見ていた建築業界への就職も決まり、新たな人生は動き始めていた。そんななか、ビューティコンテストへの出場や講演活動がきっかけとなり、メディアでも注目を集める楓。セクシャルマイノリティの可能性を押し広げたいと語るいっぽうで、父親に認められたなかった息子というセリフイメージから抜け出せずにいた。そして、自分らしい未来を手にするため、ある決断をすることに……。心を揺さぶる予告編はこちら!作品情報『息子のままで、女子になる』6月19日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開配給:mirrorball works© 2021「息子のままで、女子になる」写真・安田光優(サリー楓、杉岡太樹)
2021年06月18日婚活で約1000人の男性と出会い、年下夫を射止めたライター・かわむらあみりがお届けするコラム【結婚引き寄せ隊】連載第77回は、やっと出会えた男性の“甘い言葉”に惑わされてNG恋愛をしないよう、気をつけたいキラーワード3つをご紹介します。1.「一緒にいると落ち着く」【結婚引き寄せ隊】vol. 77がんばって恋活や婚活で出会いを探して、やっとイイなと思える男性が見つかっても、はたして相手の男性は、女性側のことをどう思っているのか気になるところ。年齢を重ねるにつれて、きちんと告白されて「付き合おう」という言葉を聞かないまま、実質付き合っているように“見えるだけ”の関係もあるようです。それはつまり、遊びの関係ですが、女性だけが本気という状態は避けたいもの。そこで、筆者が婚活中に見聞きした、気をつけたい男性の“甘い言葉”のひとつめは「一緒にいると落ち着く」という言葉。なんだか一見、ホンワカとした雰囲気になりがちな「落ち着く」という言葉は、安心感のあるキラーワードです。でも、それって、付き合っていなくても言える言葉なんですよね。それに、恋は、ドキドキする気持ちも芽生えるものですが、そんな刺激もないまま落ち着くと思われるのは喜ぶところではない可能性も。落ち着く=女性としてあまり意識していないということもあり得るので、きちんと相手の男性の本心を見極めたいところです。2.「すごくカワイイね」誰だってホメられるとウレシイものですし、明らかにお世辞だとわかっていても、相手にイヤな印象は持たないという人は多いでしょう。でも、遊び相手の女性に対しても、やたらとホメてくる男性は要注意です。とくに、女性が自分に好意を持っているとわかるほど、「すごくカワイイね」などと、ホメるのはNG恋愛のキラーワードだといえそう。付き合っていない相手でも、わかりやすくホメておくことで、自分への好意をつなぎとめておけるという、ズルい考えをする男性が使いがち。本当に「カワイイ」と思っていても、軽々しく、いろいろな女性をホメるような男性は、その真意がどこにあるのか注意しておきたいところかもしれません。女性側も、カワイイと言われたからといって、相手のいいように扱われるようなポジションに陥っていないか、気をつけましょう。3.「顔が見たい」続いて、気になる男性から言われたら、つい舞い上がってしまいそうなキラーワードが「顔が見たい」という言葉。相思相愛の相手なら、もちろん毎日だって、顔が見たくなるものでしょうし、会いたくなる気持ちをおさえられないこともあるでしょう。でも、はたして相手の男性は、あなたとちゃんと付き合っているのでしょうか。たとえ「付き合おう」という言葉がなくても、その後スムーズに結婚までいくカップルもいるので、言葉がすべてなわけではありませんし、逆に言葉だけに縛られるより態度を見たほうが真実がわかることも。とはいえ、「顔が見たい」と言われながらも、女性側のスケジュールを聞かずに、男性側の都合のよいときだけ呼び出されているようであれば、それは要注意のNG恋愛です。そう言われてつい喜んで呼び出しに応じていると、その手のタイプの男性はどんどん調子に乗ってしまうでしょう。本当に大切にしたいと思っている相手には、きちんとスケジュールの都合や女性側のコンディションなど、いろいろと気遣ってくれるものです。それに、女性のほうから「顔が見たい」と言ったときの、相手の男性の反応を見てみると、本気度がわかるはず。本命女性なら、真摯な対応をしてくれますよ。恋を探していると、いろいろなタイプの人たちに会うこともあるかもしれません。くれぐれも、みなさんもお気をつけて、素敵な出会いがありますように!文・かわむらあみり©Westend61/Gettyimages©Westend61/Gettyimages©Fotografias de Rodolfo Velasco/Gettyimages
2021年06月16日連載第182回目は、フライパンひとつでできる、トマトと牛肉の簡単レシピをご紹介します。トマトの酸味と牛肉のうまみが絡んでとっても美味しい、くせになる一品です。仕上げにお好みで山椒を散らせば、ぐっと大人っぽい味わいに。ご飯のおかずに、お酒のおつまみとして、ぜひ試してみてくださいね!『トマト牛皿』【旬を味わう 美人レシピ】vol. 182旬食材は、トマト!今回の旬食材は、4月~6月と10月~1月が旬のトマトです。真っ赤に熟したフォルムから、真夏のイメージがありますが、実はトマトは高温多湿を嫌うので、秋冬と春~初夏が旬といわれています。トマトは、最近ではスイーツにも使われる万能食材ですよね!そんな甘くておいしいトマトは、味だけではなく、美容効果も非常に高いといわれています!赤い色のもとになる色素成分、リコピンには、なんと若返りのビタミンと言われるビタミンEの約100倍もの強力な抗酸化作用があるのだそうです。抗酸化作用とは、体内の組織を錆びさせて老化につながる活性酸素を消去する働きのことで、アンチエイジングに大変有効といわれています。さらに、お肌のハリと潤いを保つために必要なコラーゲンを増やす働きもあり、女性の悩みのシワ、シミ、たるみなど、老化サインからお肌を守ってくれます!美容効果たっぷりのトマト! 毎日の食事に取り入れれば、キレイをサポートしてくれそうですね。1日1個トマトを食べて美肌を目指しましょう!材料はこちら!【材料(二人分)】牛細切れ肉:200~250g玉ネギ:1/2個トマト:中2個程度ニンニク:1/2かけ(調味料)酒:大さじ2しょうゆ:大さじ2だし汁または水:大さじ3みりん:大さじ3(仕上げ用)大葉:2枚粉山椒:適量温泉卵:2個※お好みでまず、下準備を始めます。野菜を切ります。玉ネギはくし切りにし、トマトはひと口大程度の大きさ(8等分くし切り)にします。大葉は千切りにし、ニンニクは皮と芯を除き、すりおろします。では、作ります!フライパンに調味料を全て入れます。フライパンに調味料(酒、しょうゆ、みりん、だし汁)を全て入れます。玉ネギも加え、火にかけます。玉ネギも加え、中火にかけます。ぐつぐつしてきたところに牛肉を加えます。ぐつぐつ煮立ってきたところに、牛肉をほぐしながら加えます。すりおろしたニンニクも加えます。すりおろしたニンニクを加え、はしでお肉をほぐしながら煮絡めます。牛肉の色が半分程度色づいてきたらトマトを加えます。牛肉の色が半分程度色づいてきたらトマトを加え、さっと煮絡めます。火を通しすぎず、2分程度さっと絡める程度で、火を消します。お皿に盛り付けます。お皿に盛り付け、大葉を添え、お好みで粉山椒を散らします。温泉卵もお好みで添えてください。おいしさのアレンジポイント粉山椒の代わりにブラックペッパーを散らしても美味しいですよ。ご飯の上に盛り付けてトマト牛丼としていただくのもおすすめです!写真、文・料理家 SHINO
2021年06月16日8月21日から東京の寺田倉庫 G1ビルで開催される『バンクシーって誰?展』のアンバサダーに、俳優の中村倫也さんが就任。その記者発表会が行われ、ananwebでもインタビューをさせていただきました!中村倫也さんがアンバサダー!【女子的アートナビ】vol. 209中村倫也さんがアンバサダーを務める『バンクシーって誰?展』は、この夏開幕する注目のイベント。世界各都市で開かれた『ジ・アート・オブ・バンクシー展』の傑作群が展示される予定で、リアルな街並みを再現した映画セットのような空間で作品を楽しむことができます。ストリートアート界の人気作家、バンクシーの出身地は英国ブリストル。しかし、名前も年齢も顔も隠して活動を続けており、謎に包まれた存在です。2018年には、オークションに出品された《風船と少女》が1億5千万で落札された直後、シュレッダーで作品が切り刻まれる事件が発生しますが、これはバンクシー本人が仕組んだこと。このニュースは世界中で報道されました。さらに都内でも「バンクシー作品らしきネズミの絵」が見つかり、2019年には都庁などで公開。日本でも彼の知名度は急上昇中です。本展では、ストリートや美術館では見ることのできないプライベート・コレクター秘蔵のオリジナル作品も多数出展される予定で、バンクシーをさらに深く知ることができる貴重な機会です。中村さんにインタビュー!今回、展覧会のアンバサダーに就任した俳優の中村倫也さんにインタビューを実施。展覧会の楽しみ方やバンクシーの魅力など語っていただきました。――アンバサダーのお仕事を打診されたとき、どう思われましたか?中村さんバンクシーだったので、おもしろそうだなと思いました。バンクシーって、生では見られない場所にばかり描いていますよね。イスラエルの壁とか。そういう現地にある作品を生で見たことがないので、なんかおもしろそうだな、自分も見たいな、と思いました。――バンクシーを最初に知ったのは、いつごろですか?中村さんあのオークションで作品がシュレッダーにダーッとかけられてしまったというニュース。こんなおもしろいことをやっている人がいるんだなぁと。そこから自分でも作品をいろいろ調べてみました。でも、どこからどこまでが彼の作品なのか、よくわからないんですけどね。バンクシーが自分で「これを描いた」といっているものがそんなに多くはないので。彼自身、描いたことを忘れているようなものも、あるかもしれないですよね(笑)。彼の作品は一つひとつがシニカルで、目線が鋭くておしゃれでセンスがいい。アウトプットの仕方がすごくおもしろいと思うんですよ。作家本人も謎めいていますし、とても魅力的だなと思います。トリップできる場所――展覧会で楽しみにしている作品はありますか?中村さんバカでかい子猫の作品も再現するらしいですよ。壁に描かれている巨大な子猫の作品なんですが、何を意味しているのかな。どんなメッセージ性があるのかわかりませんが。――今回は体験型の展示になるそうですね。中村さん見に行ったら異世界に没入できそうですよね。美術館や展覧会というのは、空間そのものがけっこう異世界で、日常の喧騒を忘れられる瞬間になっている。そういう意味で、今回のように映画セットみたいにつくりこんでいる展示は、トリップできる場所になるんじゃないかなと思います。――この展覧会には、どんな人と出かけたいですか?中村さん僕はひとりで行きたいですね。基本、美術館にはひとりで行くタイプです。ゆっくり眺めて好きな絵があれば、その前で立ち止まるという感じ。直感で見て「これ興味ないな」と思ったらスルーしたり。今まで人と一緒に美術館に行ったことはないです。――好きな画家とかはいますか?中村さん特別に好きな画家とかもいなくて。でも旅先にある美術館は見ておこうかなと思って、ふらっと入ってみることはよくありますが、何かを目がけていくという感じではないです。バンクシーがうらやましい!?――バンクシーは神出鬼没で正体も明かしていませんが、そんな謎の多い活動スタイルをどう思いますか?中村さんどこまでバンクシーが自分で手を出してセルフプロデュースしているのか、よくわからないですよね。けっこう、画商の人が有能らしいですよ。うらやましいです。――うらやましい?中村さん謎のほうが楽しいです。自分の「中村倫也」というのは、どうしたって顔も名前も出す仕事なので、隠しようがない。隠したら商売にならないかもしれないし。でも、例えば、顔と名前が一致している役者が誰も出ていない映画を見ると、例えばヨーロッパの作品とか見ると、役者が誰か知らないですよね。そうなると、すっごい世界観に入り込めたりする。なんかちょっと、そういう“うらやましさ”みたいなものはありますよね。謎があったほうがおもしろい――中村さんも、ご自身のセルフプロデュースは意識なさっていますか?中村さんそこまで意識しているわけではないです。だけど、もともと昔から「よくわからない人」と周りからいわれているので、放っておいても自分自身は「謎」があるのかなと思うのですけど(笑)。でも、例えば「中村倫也ってこういう人だよね」とパキッとわかりやすい存在で、それが世に浸透してしまったら、作品を見ても「なんかマジメな顔しているよ、あんな奴なのに」という入り口がちょっとある気がします。それは作品にとって邪魔だなぁと思うので。そのためにも、よくわからない奴でいたほうが、役者は安心。作品を見て、本当にこういう人なんじゃないかと思ってもらったほうが、役が本当にそこに存在するという感じで、説得力が増します。やはり謎があったほうがおもしろい。自分が客として作品を見るときも、そう思います。体験に勝るものはない――では、中村さんご自身にとって謎の存在は?中村さん謎なのは……昆虫。あの人たちは、わけがわからない(笑)。特に蝶。彼らはサナギの中で溶けているんですよ。イモムシからサナギになって、ドッロドロに溶けて、体の組織をもう一回組み換え直しているんです。最初から成虫で出て来いよ、がんばれよって(笑)。成虫になるためのエネルギーが足りないから、イモムシになって葉っぱを食べるらしいです。謎でおもしろいです。――昆虫の生態もお詳しいですね。最後に、読者のみなさまにメッセージをお願いします。中村さんバンクシーの名前は、みなさんも一度は聞いたことがあると思います。今、世の中便利で、ネットでいろいろなことを調べて知ることもできますけど、体験に勝るものはないので、やはり展覧会で見たら楽しいと思います。展示手法もユニークですし、生で接することができる貴重な機会です。それに、今回の展示は、すごくインスタ映えすると思います。『バンクシーって誰?展』は「バンクシーって映え展」です(笑)――ステキなキャッチコピーもいただきました。ありがとうございました!音声ガイドも担当!また、中村さんは『バンクシーって誰?展』の記者発表会にも出席。展覧会の音声ガイドも担当するということで、「作品にはこういうメッセージがある、という目線を語ることになると思うので、作品を見るうえでの手助けになる」とコメント。「一回は自分の眼で見て感じて、二回目に音声ガイドを手に取っていただければ」と笑顔でアピールしていました。取材を終えて取材中は終始とても気さくな雰囲気で、撮影のときもカメラマンに向かって「ananだったら笑顔のほうがいいかな」と自らステキな笑顔を見せてくれた中村さん。用意された答えではなく、一つひとつ考えながら穏やかな表情で話されていましたが、役者について語るときだけは、真剣な表情をされていたのが印象的でした。そんな中村さんがアンバサダーをつとめる『バンクシーって誰?展』は8月21日から開催。公式サイトでは現在前売券が発売中です。ぜひチェックしてみてくださいね!Information会期: 2021年8月21日(土)〜2021年12月5日(日)会場: 寺田倉庫 G1ビル開館時間: 11:00〜20:00 (金・土・祝前日は21:00まで)※最終入場は閉館時間の30分前休館日:10/5(火)、10/12(火)、10/19(火)※混雑緩和のため、土日祝は日時指定となります。チケット情報の詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。衣装協力:コート¥52,800 (HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE / ISSEY MIYAKE INC.)シューズ¥19,800(オニツカタイガー / オニツカタイガージャパン お客様相談室)その他、スタイリスト私物スタイリスト中井綾子(crêpe)[問い合わせ先] ISSEY MIYAKE INC.(03-5454-1705)オニツカタイガージャパン お客様相談室(0120-504-630)写真:山本嵩(中村倫也)
2021年06月12日元テレビ誌編集者で、地上波では全クールの作品&動画配信のドラマなどもチェックしている、テレビウォッチャーでライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。今回から、毎月1本、注目のドラマをお届けする【テレビっ子の窓】をお届けします。連載第1回は、『コントが始まる』をオススメします。「マクベス」と仲間が選んだもの【テレビっ子の窓】vol. 1現在放送中の菅田将暉さんが主演する土曜ドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系 毎週土曜 午後10時)は、同枠で2019年10月期に放送された『俺の話は長い』で「第38回向田邦子賞」を受賞した、金子茂樹さんによるオリジナル脚本の青春群像劇です。ドラマでは、高岩春斗(菅田)、朝吹瞬太(神木隆之介)、美濃輪潤平(仲野太賀)が、売れないお笑い芸人のトリオ「マクベス」を演じています。そんなマクベスがネタ作りにいつも集まるファミリーレストラン『メイクシラーズ』のウェイトレス、中浜里穂子(有村)と妹のつむぎ(古川)とともに、姉妹はマクベスの3人と次第に縁が深まっていきました。6月12日放送の第9話は、コント『結婚の挨拶』。ステージには、プロレス実況役の春斗、チャラい若者役の瞬太、頑固オヤジ役の潤平がコタツを囲みます。春斗が実況する中、雲行き怪しい結婚の挨拶は「娘さんと結婚したいんすけど」という瞬太。マクベスによるコントの前フリが始まります。里穂子とつむぎの就職祝いのため、マクベス開幕の聖地「ポンペイ」に集まる春斗たち。潤平は奈津美(芳根京子)とともに参加していましたが、奈津美の実家への挨拶を控えて緊張気味。さらに潤平は、奈津美の元彼氏で新進気鋭の実業家として活躍する小林勇馬(浅香航大)とのこじれた関係が気がかり。一方、春斗は、ひきこもりを脱して印刷会社で働くようになった兄の俊春(毎熊克哉)と再会。そして、春斗と瞬太は高校の担任の真壁(鈴木浩介)の家にバーベキューに招待され、真壁の息子の太一から「夢」について、ある問いかけをされるのですが……。若者たちのリアルな感情を繊細に描く毎回、ドラマの冒頭はマクベスのコントから始まり、そのコントが残りの物語の重要な伏線としてつながっていくという、異例の構成で繰り広げられる『コントが始まる』。菅田さん、有村さん、神木さん、仲野さんという、実際に全員が93年生まれという同世代俳優のみなさんが、実年齢と同じ28歳の役を演じるのも興味深いところです。また、劇中で有村さんの妹役を演じる古川琴音さんは現在、24歳。この20代の5人のキャストが、現代の若者の生きざまを体現。人生の岐路に立つ若者たちのリアルな感情の揺れを巧みに描いている点が、このドラマの魅力です。これまで今作を観続けている視聴者のみなさんはもちろん、観ていない方にもおすすめしたい理由はいろいろありますが、まずひとつはマクベスや彼らを取り巻く人たちの言動が人生を見つめるヒントになっていること。苦悩の末、解散することになった、マクベスの3人。偶然入った居酒屋でマクベスと出会い、後にマネージャーとなった楠木実籾(中村倫也)。里穂子からのふとしたひと言で、本当に芸能事務所のマネージャーを志望して就職したつむぎ。会社案内のパンフレットに見事な生花が飾ってあったことで、会社を選んだ里穂子。マクベスの3人も思い描く未来をつかむために闘っていましたが、彼らと関わり合うなかで、まわりの人たちもそれぞれがちょっとした瞬間の行動やふいの言葉にヒントを得て、前へ進んでいきます。わたしたちにも、ありますよね。うんと思い悩んでいる最中に答えを出せないのに、ふとしたきっかけで、まったく違うギアが入ること。生きることに不器用な人たちばかりが登場するからこそ愛らしく、今作を観ていると、共感できる場面がたくさんあるように感じます。また、マクベスの大ファンである里穂子のオタクっぷりにも注目。当初、働いていたファミレスに集まる彼らがいるため仕事に精を出すようになり、さらには隣のマンションに彼らが住んでいることを知り、1週間かけて自力で彼らが「マクベス」という名前のお笑い芸人であることを突き止めます。以降は何かとマクベスを心の支えにし、マクベスの名付け親の奈津美と一緒に記念撮影したり、マネージャーの楠木から、マクベスの第1回単独ライブのチラシをもらって「一生の宝にします!」と歓喜したり(2回以降の単独ライブのチラシもおねだり)。大阪出身でお笑いが大好きな筆者は、ダウンタウンさんが好きで学生時代によく劇場へ足を運んでいましたが(菅田さんも大のダウンタウンさん好きなことは知られていますが)、『コントが始まる』はお笑い芸人がメインとなるドラマというだけでも大変興味をそそられましたし、冒頭のコントが物語にも絡んでくるなんて、金子さんの脚本にうなるばかりなうえ、演技力の高いキャストがそろい、見どころしかありません。さて、これから最終回に向けて、いよいよ壊れた過去に向き合い、止まっていた時間が動き出します。マクベスの解散ライブまで、残りわずかとなりました。夢に敗れた若者たちの先にあるものは、いったいなんなのか。見逃せない展開となる『コントが始まる』。彼らの喜劇的な人生を、あなたも一緒に見守りませんか。Information出演:菅田将暉、有村架純、仲野太賀、古川琴音、神木隆之介ほか脚本:金子茂樹演出:猪股隆一、金井紘(storyboard)、瀬野尾 一(トータルメディアコミュニケーション)チーフプロデューサー:池田健司プロデューサー:福井雄太、松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)制作協力:トータルメディアコミュニケーション製作著作:日本テレビ©日本テレビ文・かわむらあみり文・かわむらあみり
2021年06月12日