国立情報学研究所(NII)は2月15日、日本の社会や産業界に変革をもたらすようなコグニティブ・テクノロジーによるイノベーションを推進する研究部門「コグニティブ・イノベーションセンター」を2月1日付けで設置したと発表した。同研究所の11番目となる研究施設(センター)で、東京大学 名誉教授でもある早稲田大学 基幹理工学研究科 情報理工専攻の石塚満 教授がセンター長を務める。同氏は、長年にわたり人工知能に関する研究を行ってきており、人工知能学会の会長などを務めるなど、人工知能分野で高い業績を有しており、2015年12月よりNIIの客員教授に就任している。NII所長の喜連川優氏は、「同研究センターに期待することは、3年後にイノベーションを生み出すとは言っているが、それ以上の、こういったことを行っていく、という具体的なことについては述べていない。逆に考えると、機動的に考えるフレームワークを作っており、変化の激しいITの1年先を見据えながらターゲットを絞り込んでいくというNIIとしてもエキサイティングな取り組みを行うことになる」とその役割を説明。NIIとしても新たな挑戦としての位置づけにあることを強調する。具体的な取り組みとしては、日本アイ・ビーエム(日本IBM)と研究契約を締結し、同社より支援を受ける形で複数の参画企業とともに、コグニティブ・テクノロジーを活用し、社会への展開力や活用力といった人間の認知や判断の支援を促進する新たなイノベーティブを生み出すことを目的に、参画企業のCEOやCOOといった経営判断に直接関与するレベルの役員などが参集し、新たなビジネスコンセプトの創造などを行っていくことを目指すとする。2016年2月15日時点での参画企業は以下のとおり(五十音順)。アルパインイオンフィナンシャルサービスオリンパスエイチ・アイ・エス小松製作所みずほフィナンシャルグループ三井住友銀行三越伊勢丹ホールディングス三菱東京UFJ銀行キッコーマン食品キリンビール第一生命保険帝人DIC東京海上日動火災保険日揮日産自動車日本航空パナソニック三菱自動車工業明治安田生命保険相互会社今回用いられている「コグニティブ」という言葉は、近年、IBMが良く活用することで知られるようになっているが、同センターが語る「コグニティブ・テクノロジー」は、IBMが語る「コグニティブ・コンピューティング」と同義語ではなく、学術的な意味も含めた広い考えでの、機械学習や自然言語の処理と理解、ビッグデータや知識ベースの構築と利用などの知的情報処理の集合体を指しており、日本の産業界のトップレベルたちとの対話を通じて、広い活用を図っていきたいとする。NIIは専任スタッフとして、数名の特任助教やインターンを用意するほか、NII内部での人工知能系研究者や各大学・研究機関の研究者、IBMのグローバルで活躍するコグニティブ・コンピューティング研究者たちの協力も得る形で研究を進めていく予定としている。研究期間としては3年間をめどとしているが、イノベーションの創出具合により、その後の継続も検討していくとしており、まずは初年度の取り組みとして、参画を決めている21社を中心に話し合いを進め、6月~7月を目安にターゲットを絞って、デモシステムの構築を進め、評価を行っていくとしている。また、2年目以降は、初年度の反省点や良かった点を踏まえて、新たな参画企業を募り、イノベーションの創出に向けた取り組みを進めていく計画だという。なお、IBMは、今回の取り組みに対し、研究者やコンサルタントによる支援のほか、「IBM Watson」やアプリケーションの構築・管理・実行を行うためのクラウド基盤「IBM Bluemix」の提供などを行うほか、2015年10月に開設したばかりの「戦略共創センター」を研究会の開催場所として提供するとしている。
2016年02月16日国立情報学研究所は2月4日、記者向け懇談会を開催した。テーマは「深刻化するサイバー攻撃が及ぼす影響と対策」で、同研究所のアーキテクチャ科学研究系 教授を務める高倉 弘喜氏が説明を行った。高倉氏は、情報セキュリティの現状として、サイバー攻撃が金銭・情報目的となり、手法が多様化するとともに、マルウェアの侵入を100%阻止するのは不可能になっていると指摘した。サイバー攻撃の被害を食い止めるには、侵入を前提とした対策やそのためのネットワーク構築が必要だという。また、近年広がりを見せる、いわゆるIoT(Internet of Things)だが、多様なデバイスがネットワークに接続されるために、アンチウイルス製品が存在しない製品がネットに接続されていることこそ問題になっていることを指摘していた。これについては、JPCERT/CCが2月4日に公開した「インターネット定点観測レポート」でも、IoT端末のボット化が指摘されている。以前よりセキュリティ業界内で指摘されている「サイバーセキュリティ人材不足」に関しては、単純に「人員が足りない」というよりも、「要求されている項目(フォレンジックやイベント管理能力)の人材が足らない」のだという。また、特定分野に特化した人物がほかの分野の問題に気付かないことがあり、その弱点を結果として突かれることもあることから、「幅広い知見を持つ人材が望まれている」としていた。また、セキュリティチームをまとめる指揮官についても提言があった。指揮官は、全体を俯瞰し、スタッフをうまくマネジメントする能力と、現在の問題点や対応策を経営陣にわかりやすく伝える能力が重要になる。しかし現状は、指揮官が使う言葉は技術用語主体の"宇宙語"となっており、必要とされる人材の育成も遅れていると指摘していた。
2016年02月05日大阪大学(阪大)、東京大学、日本医療研究開発機構は2月3日、細胞内タンパク質輸送の異常が記憶・学習などの脳高次機能に障害を与える分子メカニズムを発見したと発表した。同成果は、大阪大学大学院 薬学研究科 中澤敬信 特任准教授、東京大学大学院 医学系研究科 狩野方伸 教授、大阪大学大学院 連合小児発達学研究科 橋本亮太 准教授らの研究グループによるもので、2月3日付けの英科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。神経細胞間で信号の受け渡しをしているシナプスには、その構造を形成・維持するための分子群や信号を受け渡すために必要な分子群が集積している。記憶・学習・情動・運動などの高次機能が正常に働くためには、シナプスの適切な形成やシナプスの機能調節、環境に適応した神経回路形成や神経回路機能の調節が重要であるといわれており、これまでの研究で、シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質、細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群、あるいはグルタミン酸やドーパミン系分子といったシナプス伝達を調節する分子群の異常が精神疾患の発症と関連している可能性があることが明らかになりつつある。同研究グループはこれまでに、神経細胞に豊富に発現するARHGAP33分子が、シナプス形成を制御していることを明らかにしてきたが、ARHGAP33分子がどのようなメカニズムでシナプス形成やシナプス機能を調節しているかについてはわかっていなかった。今回の研究では、HGAP33分子欠損マウスを作製し、同マウスではシナプスの形成およびシナプスの機能に異常があることを明らかにした。また、マウスはY字型の3方向の通路があると、その通路を順番に入ることが多く、直前に入った通路を記憶していると考えられているが、ARHGAP33欠損マウスでは、順番に入る成功率が低く、直前に入った通路を記憶することができない可能性があることがわかった。このほか、マウスは音を聞かせるとビクッとして驚いたような反応を示すが、直前に小さい音をあらかじめ与えておくと、その後に続く音に驚く反応が減る。これは脳の情報処理能力が関与していると考えられているが、ARHGAP33欠損マウスでは、音に驚く反応の減少量が少なく、脳の情報処理障害があることが示唆された。また今回の研究では、ARHGAP33がシナプス形成や記憶を制御していることを説明する分子メカニズムとして、神経細胞のゴルジ体に存在するARHGAP33分子が、神経栄養因子受容体「TrkB分子」のシナプス部位への輸送に関与していることを見いだした。ARHGAP33分子の欠損によりTrkBがシナプス部位に輸送されなくなり、シナプスの機能が低下し、脳高次機能に障害が出ると考えられる。さらに、大阪大学医学部附属病院神経科・精神科の精神疾患のリサーチリソース・データベースを用いて、統合失調症とARHGAP33遺伝子との関連性を調べたところ、ARHGAP33遺伝子座に統合失調症と関連する一塩基多型を同定し、ARHGAP33遺伝子が統合失調症と関連することがわかった。ARHGAP33遺伝子のリスク型を持つ患者では、左中側頭回、右内側前頭回、および右下側頭回の脳体積が小さいという。同研究グループによると、今後、細胞内のタンパク質輸送機構の障害という分子レベルの変化が精神疾患につながるメカニズムを明らかにするためには、神経回路レベルの研究が重要になるというが、今回の成果により、細胞内のタンパク質輸送を標的とした統合失調症の新規創薬への道が開けたとしている。
2016年02月04日アスタミューゼは2月3日、ロケット・宇宙航行システムにおける研究テーマ別の科研費獲得ランキングを発表した。科研費(科学研究費助成事業)は、人文・社会科学から自然科学まですべての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」を発展させることを目的とする「競争的研究資金」であり、ピア・レビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行うもの。同社が今回発表したロケット・宇宙航行システム市場における研究テーマ別の科研費獲得ランキングの結果は下記のとおり。1位は名古屋大学の「Fly By Light Power:低パワーによる飛躍的な高速空力性能の向上」で2億2373万円。研究代表者は同大学大学院 工学研究科 佐宗章弘 教授。超音速旅客機の陸地上空での商用飛行を実現するため、新しい流体力学的機能を創成し、その原理実証を行ない、飛躍的な空力性能の向上を実現、応用への展望を開くことを目的としている。2位は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「ペタフロップス級計算機に向けた次世代CFDの研究開発」で2億1424万円。3位は東京農工大学の「ヘリコン源を用いた先進的無電極プラズマロケットエンジンの研究開発」で2億891万円となっている。
2016年02月04日日本にも、病気を抱え、臓器移植を待っている子どもたちがいます。ですが日本では臓器移植はほとんど行われておらず、心臓に持病を抱えた子どもたちは、大金を支払ってアメリカに渡り、心臓移植の手術を受ける場合も少なくありません。しかも莫大な費用は、寄付などで賄われていることがほとんど。日本ではアメリカよりも、臓器移植の手術が20年遅れているとされています。医療先進国でもある日本で、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?背景にどのような問題が隠れているのかを探ってみました。■日本では臓器提供が難しい日本は保険制度が行き渡っており、お金のある人もない人も、少額の負担で医療行為が受けられます。一方、アメリカでは、貧しい人は治療を限定した保険にしか入れなかったり、保険そのものに入れなかったりなど、格差が大きくなっています。医療は非常に進んでおり高度な医療が受けられるのですが、お金があることが前提なのです。しかし臓器提供に関しては、日本のように意思確認が難しくないため、新鮮な臓器の供給が可能になります。アメリカでは、ボランティア活動をすることが当たり前。そこで、経済的な理由で病気の治療を断念した人が「自分の臓器が使われれば」と臓器提供するケースが多いのです。そのため、臓器移植を受ける側にとって有利な環境にあります。そもそも日本では、終末医療において、死亡時以外の医療行為の停止は認められていません。この点について、神戸大学大学院法学研究科の丸山英二氏も自身のサイト上で指摘しています。どんな人でも限界まで最大限の医療を受け、治療を長引かせるため臓器の状態が悪くなり、移植に対応できる臓器の供給が難しいという面があるのです。いま、「異色の漫画」として注目を集めているナガテユカさんの『ギフト±』では、女子高生が犯罪者の臓器を闇ルートで販売に関与します。ドラマ化もされた大人気漫画『エンジェル・ハート』では、主人公が心臓移植で一命をとりとめます。フィクションでは驚くほど簡単に臓器移植をしていますが、現実の日本ではほとんどありえない状況なのです。■日本では脳死が死ではない臓器移植の問題は、脳死の問題でもあります。みなさんは、脳死を人の死とするかについては医者の間でも議論が分かれていることをご存知でしょうか。日本では特に倫理上、脳死をまだ人の死とはみなさず、臓器移植は人道に反する行為だと感じて反対する考え方もあるのです。たとえば哲学者の梅原猛氏は、脳死は人の死ではないとして反対しています。この問題は国会議員も巻き込んで大論争となり、脳死を人の死とする立法を目指す活動もはじまりました。ですが、脳死は脳死後ただちに臓器の移植が始められるという誤解が一般に浸透しています。アメリカではむしろ、人の死よりも「人の生のはじまりはどこか」という議論が主流で、妊娠中絶などについて激論が交わされています。そういった文化の違いもあって、日本では議論そのものがかなり欧米に比べて未成熟なのだといえるでしょう。そこが日本の臓器移植が遅れている点でもあります。社会全体がこの問題に向き合い、正確な医学的知識を持って、命と死に関して向き合っていく必要がありそうです。日本人には、「できるだけ死に向きあいたくない」という国民性もあります。しかし、いまこそ議論を進めるべきなのではないでしょうか。(文/渡邉ハム太郎)【参考】※(社)日本看護協会・神戸研修センター「終末期医療とこれからの課題―救急医療から緩和ケアまで―」-神戸大学大学院法学研究科 丸山英二※脳死は人の死か-永井俊哉ドットコム※臓器移植と人工中絶-RELNET(レルネット)
2016年02月02日理化学研究所(理研)は2月1日、フッ素原子を持つ医薬品から分子プローブを簡便かつ迅速に合成する新しい手法を開発したと発表した。同成果は、同研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門イメージング化学研究グループ 分子標的化学研究チーム 丹羽節 研究員、落合秀紀 特別研究員、細谷孝充 チームリーダー、渡辺恭良 グループディレクターらの研究グループによるもので、11月18日付けの米科学誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。医薬品を開発する際には、医薬品の候補となる分子が生体内のどの場所で、どの分子と相互作用するかを調べるため、人工的に機能を付与した「分子プローブ」が用いられることがある。しかし、医薬品やその候補分子に新たな機能を付与する化学変換には、複雑な化学反応や長い合成時間が必要な場合があり、これまでに多彩な機能を持つ分子プローブが開発されてきたが、報告された合成手法の多くはほかの分子の化学変換に応用できていなかった。今回、同研究グループは、既存の医薬品の多くがフッ素を含むことに着目し、フッ素を反応性の高いホウ素に置き換えた後に、さまざまな機能を持つ原子や官能基を導入する方法を着想した。しかし、フッ素を分子につなぎとめている炭素-フッ素結合は、反応性が低い化学結合のため、フッ素の化学変換は困難が予想される。そこで、古くから炭素-フッ素結合を切断するために用いられるニッケル錯体と、近年ホウ素化反応によく利用される銅錯体に着目。触媒としてニッケルと銅の2種類の錯体を同時に用いる手法を試みたところ、最高収率99%という極めて高い効率で、フッ素をホウ素に置き換える化学反応の開発に成功した。さらに同研究グループは、今回開発した化学反応を用いて、高脂血症治療薬「スタチン」のひとつである「フルバスタチン」の誘導体を医薬品のモデル化合物として、分子プローブの簡便な合成を行った。フルバスタチンはひとつのフッ素原子(フッ素19)を持つが、実験の結果、効率よくフッ素をホウ素に置き換えることができた。さらに、2014年にイギリスの研究グループが報告した手法を得られた分子に用いることで、このホウ素をフッ素18へ置き換えることができた。つまり、わずか2つの化学変換で、医薬品の持つフッ素19をフッ素18に置き換えたPETプローブを合成できたことになる。また、光親和性標識プローブとして標的タンパク質の同定に利用できる可能性があるアジド基を持つ分子の合成にも成功。さらに、ホウ素を芳香環や酸素原子、ヨウ素原子に変換することにも成功し、さまざまなフルバスタチンの誘導体を簡便に合成できることを示した。同手法を利用することで、入手が容易な医薬品から簡便に分子プローブを合成できるようになり、創薬研究や生命科学研究の進展が加速することが期待できるという。
2016年02月01日東北大学(東北大)は2月1日、質量ゼロの「ディラック電子」の流れを制御できる新しい磁石を発見したと発表した。同成果は、大阪大学大学院理学研究科 酒井英明 准教授(研究開始時:東京大学大学院 工学系研究科 助教)、東京大学大学院 工学系研究科 石渡晋太郎 准教授、修士課程2年 増田英俊 氏、東京大学 物性研究所 徳永将史 准教授、東京大学大学院 工学系研究科 山崎裕一 特任講師、東北大学 金属材料研究所 塚﨑敦教授らの研究グループによるもので、1月29日付けの米科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。通常の金属や半導体中の電子の運動は、質量を持った粒子として振る舞うことが知られているが、近年、黒鉛の単原子層であるグラフェンでは、質量のない粒子として電子が伝導することが明らかとなっている。このような固体中のディラック電子は、極めて高い移動度を有するため、エレクトロニクス分野への応用などが期待されており、実際の応用例として、ハードディスクのような磁気的情報メディアにおけるデータの超高速書き込み/読み込みを、ディラック電子の外部磁場制御により実現することなどが考えられる。そのためには、ディラック電子による高い伝導性と磁場に対する高い応答性を併せもった新しい磁性体を開拓する必要があるが、このような物質は極めてまれであるため、固体中の磁性とディラック電子の伝導性との相関は未解明な点が多く、現在スピントロニクスの分野における重要な問題のひとつとなっている。今回、同研究グループは、比較的融点の低い融剤(フラックス)に、合成したい化合物の原料を溶かしこみ、過飽和の条件で析出させて単結晶を得る「フラックス合成法」を高真空中で行うことにより、ディラック電子と磁石の性質が共存すると予想される高品質単結晶の層状物質(EuMnBi2)の合成に成功。同物質は、ディラック電子状態を担うビスマス層と、磁石の性質を担うユーロピウムなどからなるブロック層が積層したハイブリッド構造を特徴としている。また今回の研究では、この物質においてディラック電子と磁気状態が互いに強く結びついていることを実証するために、東京大学 物性研究所附属 国際超強磁場科学研究施設、および東北大 金属材料研究所 強磁場超伝導材料研究センターにおいて、約30~60テスラの強磁場中で電気抵抗測定を行った。さらに磁気状態の解明に向け、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 フォトンファクトリーにおいて、放射光エックス線の磁気散乱実験を行った。この結果、ユーロピウムの磁気秩序に伴い、電気抵抗率が大きく変化することを発見した。特に面直方向へ磁場を加え、磁気モーメントの方向を90度回転させると、面直方向への伝導が1桁近く抑制されたという。さらにこの効果を利用して、ディラック電子を電気伝導層であるビスマス層(二次元層)内に強く閉じ込めることにより、ディラック電子層が積層したバルクの磁性体において初めて、ホール抵抗値が離散的となる半整数量子ホール効果を実現した。同研究グループは今回の研究成果について、今までになかった強相関ディラック電子物質という新しいスピントロニクス材料を切り拓く結果であり、今後は超高速かつ省エネ動作が可能なハードディスクのヘッドや磁気抵抗メモリMRAMなどへの応用が期待されると説明している。
2016年02月01日理化学研究所や東京大学などは1月28日、日本人の2型糖尿病の発症に関わる7つの疾患感受性遺伝子領域を新たに同定したことおよび、同領域内の遺伝子と2型糖尿病治療薬のターゲット遺伝子とのつながりを調べ、新規治療薬候補を同定したことを明らかにした。2型糖尿病は、生活習慣などの環境要因とともに、遺伝要因が発症に関与することが知られている。共同研究チームは、日本人集団のみを用いた2型糖尿病の「ゲノムワイド関連解析」(GWAS)としては最大規模となる約4万人のゲノムの「一塩基多型」(※SNP)を網羅的に解析し、別の日本人集団約1万3,000人のゲノムを用いた検証解析を行った。Biobank Japanに登録されている2型糖尿病患者1万5,463人と非患者2万6,183人の日本人集団のDNAサンプルを用いてGWASを実施。ヒトのゲノム全体をカバーする約580万のSNPを調べたところ、疾患感受性との関連を示す遺伝子領域を新たに17カ所発見した。この遺伝子領域について、患者7,936人と非患者5,539人からなる別の日本人集団で再現解析を行い、GWASと再現解析の結果を統合した結果、疾患感受性との強い関連を示す7つの遺伝子領域(CCDC85A、FAM60A、DMRTA1、ASB3、ATP8B2、MIR4686、INAFM2)を同定した。これらの遺伝子領域に含まれるSNPのうち、発症しやすいタイプのSNP(リスクアレル)を持つ人は、リスクアレルを持たない人に比べ、1.1~1.2倍程度、2型糖尿病にかかりやすかったという。研究チームはさらに、これまでに解明された疾患感受性遺伝子領域の情報と多様な生物学的・創薬データベース上の情報を照合。新たな2型糖尿病治療薬のターゲットとなりうる遺伝子を探索した。2型糖尿病に関連する83の既知の遺伝子領域と、今回新たに同定した7つを合わせた計90の遺伝子領域の遺伝子について、多様な生物学的データベースとの網羅的な照合を行った。その結果、既存の糖尿病治療薬に加え、糖尿病以外の病気に対する治療薬として開発中の薬剤の中にも、2型糖尿病疾患感受性遺伝子をターゲットとしているものが複数存在していることが判明した。その中でもKIF11、GSK3B、JUNはそれぞれがんや白血病などに対する治療薬として、いずれも臨床試験中の薬剤のターゲット遺伝子で、2型糖尿病の治療にも適応できる可能性があることがわかった。理化学研究所は、「2型糖尿病発症のより詳しい機序を解明することで、個人の体質に合わせた治療法の確立につながる可能性があります。また、今後新たに得られるゲノム情報とさまざまな生物学データベースや創薬データベースの情報を総合的に活用することで、より多くの治療薬の開発が期待できます」としている。※一塩基多型(SNP)…ヒトの染色体にある全DNA情報は、30億にもおよぶ文字の並び(塩基配列)で構成されている。この文字の並びは暗号(遺伝情報)となっているが、その99.7%は全人類で共通。0.3%程度に個人差(遺伝子多型)がみられるが、遺伝子多型の違いが病気のなりやすさなどに関係していると考えられている
2016年01月29日理化学研究所(理研)は1月28日、日本人約4万人を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った結果、日本人の2型糖尿病の発症に関わる7つの疾患感受性遺伝子領域を同定したと発表した。同成果は理研統合生命医科学研究センター腎・代謝・内分泌疾患研究チームの前田士郎 チームリーダー(琉球大学医学研究科 教授)、今村美菜子 客員研究員(琉球大学医学研究科 准教授)と東京大学大学院医学系研究科/東京大学医学部附属病院の門脇孝 教授らの共同研究チームによるもの。1月28日に英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。2型糖尿病は、生活習慣などの環境要因とともに遺伝要因が発症に関与することが知られている。これまで、疾患感受性遺伝子を見つける代表的な手法であるGWASを使って、数多くの2型糖尿病の疾患感受性遺伝子領域が報告されている。しかし、その多くは欧米人を対象に行われた解析であり、日本人での遺伝要因を解明するためには、日本人を対象としたGWASを行う必要があった。同研究チームは、約4万人の日本人2型糖尿病のGWASを行い、新たに同定された疾患感受性領域を別の約1万3千人の日本人集団を用いて検証した。その結果、2型糖尿病疾患感受性と関連するこれまでに報告されていかった7つの遺伝子領域を同定することに成功した。また、同定した7領域を含む90の疾患感受性遺伝子領域内の遺伝子について、さまざまな遺伝子情報データベースと照合したところ、既存の2型糖尿病治療薬に加え、他の病気の治療薬として開発された薬の中にも2型糖尿病の疾患感受性遺伝子領域をターゲットとしているものが複数あることがわかった。この結果によって、これらの薬が2型糖尿病の治療にも適応できる可能性があることが示された。今後、新たに同定された7つの領域内の遺伝子について、その働きを詳細に解析することで、2型糖尿病患者の個人の体質に合わせた治療法の確立につながることが期待される。
2016年01月29日大阪大学(阪大)と国立遺伝学研究所はこのほど、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas システム」と「一本鎖オリゴ(ssODN)」を利用し、マウスやラットの遺伝子改変効率を向上させる新技術を開発したと発表した。同成果は阪大大学院医学系研究科附属動物実験施設の真下知士 准教授、国立遺伝学研究所マウス開発研究室の吉見一人 助教らの研究グループによるもので、英科学誌「Nature Communications」に掲載された。「CRISPR/Casシステム」は、DNAを切断する酵素Cas9と、ゲノム上の編集箇所を見つけ出すgRNAをマウスやラットなど動物の受精卵に注入することで、特定の遺伝子を破壊(ノックアウト)したり、特定の箇所へ導入(ノックイン)することができる技術。Cas9/gRNAと一緒に、ドナーDNA となる「ssODN」を導入すると、1~数十塩基(bp)のDNA配列をノックインすることができる。しかし、これまで動物の受精卵では、遺伝子などの大きなDNA配列の導入効率が低く、ノックイン動物を作製することが困難だった。今回の研究では、受精卵でのCas9タンパク質の発現を上昇させ、ゲノム編集効率を向上することに成功したほか、1~3kbp程度の長い一本鎖オリゴを作製した。これらにより、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子の効率的かつ正確なノックインに加え、これまで不可能だった大きなサイズのゲノム領域(約200kbp)の導入、ラット遺伝子のヒト由来遺伝子への置き換え(遺伝子ヒト化動物)に成功した。同研究グループは同成果について「マウスやラットなどのみならずさまざまな生物種における遺伝子改変操作の効率を向上させ、新しい遺伝子組み換え生物の作製に非常に有用な技術になることが期待されます。また、作製された遺伝子改変動物は、創薬研究、トランスレーショナル研究、再生医療研究などへの幅広い利用が期待されます。」とコメントしている。
2016年01月21日1年のはじまりに、「ことしこそ家計簿をつける!」と目標を立てた人も多いはず。でも、日々の仕事や子育てに追い立てられて、やっぱり今年もダメだった……なんて、早くもあきらめていませんか?そこで、『片づけたら1年で100万円貯まった!』(リベラル社)の監修を務めた整理収納アドバイザー・小川奈々さんに、忙しい女性でも長続きする「おすすめ家計簿」を教えていただきました。ことしはこれらの家計簿を習慣化して、去年よりしっかりお金を貯めていきましょう!■3つのステップで“お金を片づける”家計簿の前に、まずは貯金の考え方を知ることが大事。一体どうすれば、お金を貯めやすくなるのでしょうか?小川さんは、「モノとお金の管理(=片づけ)のしかたはよく似ているんです」と話します。整理収納アドバイザーとしてお部屋とモノの片づけアドバイスを行うかたわら、モノの片づけ方を応用して家計簿アプリの講座や家計簿の個別相談も行っています。そんな小川さんの提案する“お金の片づけ方”は、極めてシンプルな3ステップ。(1)家計簿をつけてお金の流れを把握する・・・モノの片づけに例えると、片づけたい場所からモノを全部出す段階。なににいくら使っているか明確にし、ムダ遣いもチェック!(2)貯金の計画を立てる・・・不要なモノ(=支出)は捨て、予算を立てる。先に貯める仕組みをつくることがポイント!(3)予算内でやりくりする・・・残ったモノを使いやすく収納し、上手に使う段階。うまく整理されれば、再びムダが増えることもない!この3ステップでお金を片づけたら、貯金の目的をはっきりさせましょう。「基本はざっくりでいいんです。それよりも、とにかく目的をはっきりさせることが大事。車を買う、家を買う、子どもの教育など。家計がうまく回ればいい、という目的もアリです」とのこと。■家計簿は“見える化”するためのもの目的をはっきりさせたら、家計簿の出番です。「見えないと気がゆるんで『まぁ、いいか』と思いがちです。家計簿をつけて家計を見える化することで、膨らみがちな支出を引き締めることができるんです」(小川さん)普段は家計簿アプリの活用講座も行う小川さんですが、紙の家計簿にもメリットがあるとのこと。「冠婚葬祭費やスーツ購入などといった特別支出は、ボーナスで補てんしがち。ボーナスに頼る家計は“貯まらない家計”の典型です。でも、アプリでは特別支出を組み込むのに工夫が必要な場合が多いんです。特別支出を管理しやすいのは、紙の家計簿の方ですね」小川さんが考える「長続きしやすい家計簿」とは、とにかく『シンプルであること』。基準は(1)何日からでも始められる、(2)薄い、(3)わかりやすい、の3点です。意外にも、日記が書き込めたり、食材や献立が細かく記録できたりと多機能な家計簿は避けた方がよいとのこと。「女性はていねいな方が多く、支出の記録だけでなく毎日の思い出も一緒に、と思いがち。でも、機能が多くなるほど続けるのが難しいのも事実です。家計簿に求めることはただ一つ、『なににいくら使ったか書き出す』ことだけ。それが長続きのコツです」薄くてシンプルな家計簿は300円ぐらいと安価なものが多く、気負わずに取り入れられるのもメリット。「家計簿を買ったんだから、しっかり続けなきゃ!」と自分自身を追い込むこともありません。■安くて長続きしやすい家計簿ベスト3そんな小川さんがおすすめする、ノートタイプの家計簿は以下の3冊。どれも300円前後で買えます。(1)シンプル・イズ・ベスト → 『シンプル家計ノート2016』(オレンジページ、310円)「自分流に項目分けができる記入ページがあったり、日にちもフリーで記入できたりするので365日いつでも始められます。タイトル通り、シンプルで薄い・軽い・書きやすい1冊。おこづかい帳感覚でつけられ、初心者にピッタリです」(小川さん)(2)特別支出の管理もラクラク → 『いちばんおトクで使いやすい!おはよう!家計簿2016』(学研プラス、257円)「『出ていくことが決まっているお金』というネーミングが素敵。どうせ出すなら気持ちよく。月給で支払えない特別支出や『10年間のライフプランニング』『おつき合い・贈答のひかえ』も記入できる、中級者にもおすすめの1冊です」(小川さん)(3)確実に貯めたいならこの1冊 → 『みるみる貯まる!カンタン家計ノート2016』(ベネッセコーポレーション、298円)「貯めたいお金を先取りすることで、漠然ではなく確実に貯めるというコンセプト。使える お金を『やりくり費』と表現するのがおもしろいです。カラフルで視覚的に分かりやすく、書くのが楽しそうな印象を受けます。『今年こそは本気で貯めよう』という方にいい家計簿です」(小川さん)*最後に小川さんから、「忙しいと『家計簿をつける時間なんてない!』と思いがちですが、懸命に働いて手にするお金だからこそ大切に使うことも、今年は意識してみてはいかがでしょうか。働く意味まで見えてくるのが、家計簿に取り組む醍醐味です」とアドバイスをいただきました。『片づけたら1年で100万円貯まった!』では、モノの片づけ方だけでなく、お金の片づけ方も丁寧に解説。これ1冊で身の回りがスッキリ、「1年で100万円貯まった!」も決して夢ではありません。家計簿は“貯まる家計”への第一歩。『1月1日からつけられなかったから今年もダメ』と早々にあきらめず、まずは給料日などわかりやすい日を起点に、気負わず取り入れてみましょう。(文/よりみちこ)【取材協力】※小川奈々・・・1976年、広島県生まれ。横浜国立大学卒業後、病院の事務職で3度の転勤を経験。2007年、結婚を機に退職し、写真・料理・テーブルコーディネートを研究。2011年に整理収納アドバイザー1級を取得し、2013年に『感動の整理収納in Nagoya』を設立。整理収納サービスや自宅見学&セミナー、個別相談業務などを行う。2014年、「整理収納コンペティション2014本選プロフェッショナル部門」グランプリ受賞。ホームページでは、「幼稚園児が自分で片づけられる部屋作り」などの実例も紹介。【参考】※シンプル家計ノート2016-オレンジページnet※いちばんおトクで使いやすい!おはよう!家計簿2016-学研出版サイト※みるみる貯まる!カンタン家計ノート2016-口コミサンキュ!※小川奈々監修(2015)『片づけたら1年で100万円貯まった!』リベラル社
2016年01月18日理化学研究所(理研)と熊本大学は1月18日、エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルスである「HIV-1」が細胞から細胞へと感染拡大する際の新たなメカニズムを解明したと発表した。同成果は、理化学研究所 統合生命医科学研究センター 粘膜システム研究グループの大野博司 グループディレクター、環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループの長田裕之 グループディレクターと熊本大学 エイズ学研究センター・国際先端医学研究拠点施設(鈴プロジェクト研究室)の鈴伸也 教授らの研究グループによるもので、1月15日付けの米科学誌「Journal of Immunology」に掲載された。免疫系細胞は、細胞膜が細長く伸びた細胞膜ナノチューブ(TNT:Tunneling NanoTube)を作り、離れた2つの細胞を物理的に連結して、細胞間で物質交換を素早く確実にやりとりする機能を持っているが、この性質を逆手に取り、エイズウイルスなどのウイルスやウイルスの病原タンパク質が細胞から細胞へと移動することで、感染を拡大させたり、免疫機能を抑制して病態を悪化させたりすることが知られている。HIV-1は、CD4という表面分子を持つTリンパ球(CD4+Tリンパ球)とマクロファージという2種類の免疫細胞に感染し、これらの免疫細胞の中で増殖。未感染のCD4+T細胞やマクロファージへと感染することで、免疫細胞の機能不全や減少を引き起こす。このようにHIV-1が感染拡大していく経路には、一度HIV-1が感染細胞の外に出て周囲の未感染細胞に感染する経路のほかに、TNTを介してHIV-1が感染細胞から未感染細胞に移る経路が知られていたが、そのメカニズムは明らかにされていなかった。今回の研究では、ヒト血液由来のマクロファージにHIV-1を感染させ、TNTの形成促進を観察した。この結果、ウイルスタンパク質であるNefを欠損した変異HIV-1を感染させるとTNTの形成促進は観察されなかった。一方、HIV-1をCD4+Tリンパ球に感染させても、このHIV-1によるTNTの形成促進は見られなかった。そこで同研究グループは、マクロファージには発現しているが、CD4+Tリンパ球には発現していないTNT形成因子「M-Sec」に着目。マクロファージ細胞株にNefを強制的に発現させるとTNTの形成促進が見られたが、M-Secの発現を抑制したマクロファージ細胞株では、Nefを強制的に発現させてもTNTの形成促進が見られなかったことから、NefによるTNTの形成にはM-Secが必要であることを明らかにした。同研究グループはさらに、理研の化合物バンクを用いて、6800の化合物の中から、M-SecによるTNT形成の抑制活性を指標として、TNT形成を可逆的に阻害する「NPD3064」という化合物を見いだした。この化合物を用いたTNT形成の抑制により、HIV-1の産生は約2分の1に減少したという。このメカニズムが解明されると、HIV-1の感染やそれによる病態形成の詳細がわかり、エイズの治療や発症予防に貢献すると考えられる。さらにTNTの形成阻害薬が、これまでの抗エイズ薬と異なる作用メカニズムにもとづく、新たなエイズの治療薬の開発につながる可能性があると同研究グループは説明している。
2016年01月18日どんなに頑張ってもモテない、好きな彼が振り向いてくれない…。その原因は「押し引き」のバランス、つまり“加減力”なのかも。「女性が“頑張りすぎて”失敗するケースは少なくありません。“女性は黙って尽くすべき” “恋愛は駆け引きが重要”なんて古い常識は捨てて、本当の意味で男性に求められる存在になることが大事」(心理学研究家・秦由佳さん)そこで、モテる女の秘密を探るべく、覆面座談会を開催。彼氏がほとんど途切れないという、彼女たちの日々の行動から見えてきた、目からウロコの“加減力”とは?* **B嬢:合コンの話でいうと、例えばサラダとか取り分ける系の料理が運ばれてきた時に、二人ならどうする?A嬢:私は絶対に取り分けたりしない!苦手だし、女子力アピールには無理に力を注がないな(笑)。C嬢:だよね。そこで変に「女子力高い」って思われても後でツラくなるのは自分だし。B嬢:じゃあ焼き肉デートでも、お肉は“焼いてもらう”派?A嬢:もちろん。ただし、彼が焼いてほしいタイプだったら自分が頑張ることもあるよ。C嬢:私も、相手に気に入られるための無理はしない。その代わり、男性がしてくれたことをちゃんと褒めるようにしてる。「サラダ取り分けてくれたんだ~、ありがとう!」とか「私の好きなお店探してくれて嬉しかったな」とか。A嬢:男の人ってけっこう単純なところがあるから、ちょっと褒めただけで嬉しくなるみたい(笑)。下手に駆け引きするよりも、そのほうがずっとアピールになると思うし、自分自身も正直な気持ちでいられるからラク。B嬢:うん。そう考えると駆け引きって本当に必要ないよね。よく言われているような恋愛テクニックって、使ったことある?A嬢:それって例えば、「好きな人へのメールには即レスしない」とかってやつ?ないない(笑)。そんなこと計算している暇があったらすぐに返事しちゃうよね。ただ、よっぽど忙しい時とか疲れている時には無理に急がない。連絡って、自分ができる時にすればいいだけだと思うんだけど…。C嬢:でも、ちょっとだけなら心当たりあるかも。例えば男の人にメールかLINEをする時、なんとなく相手の文章の長さに合わせて返信しない?男性側が送ってくれた文章が3行なら私も3行で返すし、長ければ頑張って長い文章を打つようにしたり。A嬢:それはテクニックっていうよりは“マナー”みたいなものかもね。私も、誰かとLINEする時に、相手がスタンプを使う人なら自分もスタンプを、絵文字を使う人には絵文字をつけて返すようにしているよ。これは男女限らずのことなんだけど…。C嬢:“駆け引き”っていうと、なんとなく相手を騙しているイメージがあるけど、“相手に合わせる”だけなら罪悪感もないから気楽。私は男性と二人で飲んでいる時に、同じタイミングでお酒を飲んだり、同じお酒をオーダーしたりするかな。そのほうが相手とも親密な雰囲気になれる気がして。B嬢:それ、いいね!今度、試してみようっと。◇はた・ゆか株式会社Bunill代表取締役。独自の恋愛術を提案する心理学研究家。著書に『“尽くすオンナ”をやめれば、あなたは一生愛される!』(大和出版)など。※『anan』2016年1月20日号より。写真・中島慶子イラスト・長谷川まき文・瀬尾麻美
2016年01月15日理化学研究所や科学技術振興機構は1月12日、がんや細胞内病原体に対する免疫に重要な「樹状細胞」の働きを、生体内で可視化するイメージング解析技術の開発に成功したと発表した。今回開発された技術を用いて、感染症やがんの種類に応じ、最適な樹状細胞を効率的に活性化するワクチンの設計・開発に役立つ可能性があるという。同研究は、理化学研究所 統合生命医科学研究センター 組織動態研究チームの岡田峰陽チームリーダーや和歌山県立医科大学 医学部 先端医学研究所 生体調節機構研究部の改正恒康教授らが共同で実施した。体内に侵入した病原体や接種されたワクチンは、免疫細胞の一種である樹状細胞によって認識される。その樹状細胞がリンパ球の一種である「T細胞」を活性化すると体を守る獲得免疫が働くが、樹状細胞には多くの種類があり、病原体やワクチンの種類に応じて異なった役割を果たす。ウイルスやある種の細菌は、体内のさまざまな細胞の中に寄生するが、このような細胞内病原体やがんに対する免疫には、「キラーT細胞」による攻撃が重要となる。がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃するキラーT細胞は、そのほとんどが「CD8陽性T細胞」と呼ばれる細胞が、樹状細胞に活性化されることで形成される。「CD8陽性T細胞」を活性化する能力の高い樹状細胞は2種類ある。1つはリンパ節やパイエル板、ひ臓などのリンパ組織に常在しており、もう1つは皮膚や腸、肺などさまざまな組織に存在し、そこからリンパ組織へと移動していく。それぞれの役割やその連携は、病原体やワクチンの種類や感染部位、接種方法などによって異なると考えられているものの、その詳細はわかっていなかった。研究グループは今回、2種類の樹状細胞だけが特定の波長の光を当てることで蛍光色が変化する光変換蛍光タンパク質KikGRを発現するマウスを作成。このマウスの体内に存在する2種類の樹状細胞は、もともとすべて緑色の蛍光を発する。このマウスの皮膚に青紫色の光を照射すると、皮膚にいる交差提示(一部の樹状細胞が細胞外の異物を取り込んで、その抗原を主要組織適合性複合体クラスI上に提示できること)能を持つ樹状細胞だけが、赤色の蛍光を発するようになったという。そして、赤色蛍光を発するようになった皮膚の樹状細胞が、時間とともにリンパ節へと移動してくる様子が観察できたとのこと。この成果により、これらの樹状細胞がリンパ節に移動してきた後の動きなどが判明。マウスにおいては、約3日間のうちにリンパ節内の一番深い部分まで移動する点、リンパ節内で約1週間生存する点などが明らかになったという。理研などは、キラーT細胞の分化に重要な2種類の樹状細胞を、生体内で区別することおよびイメージング解析をする技術の確立に成功したことは、今回が初としている。今回開発された技術を用い、さまざまな種類のワクチンや感染に対する免疫応答を解析することで、効果の強いワクチンが、どの種類の樹状細胞とCD8陽性T細胞の相互作用を最も強く誘導しているかを知ることが可能となる。理研などは「得られた知見を蓄積することにより、感染症の種類に応じて、最適の種類の樹状細胞をターゲットとする新しいワクチン設計・開発の道が開かれることが期待されます。こうした戦略は、感染症に対するワクチンだけでなく、さまざまな腫瘍に対するがん免疫応答を誘導するワクチンの設計・開発にも応用できると考えられます」としている。
2016年01月13日広島大学は1月8日、不整脈により突然死を起こすブルガダ症候群(ポックリ病)の発症リスクが低減する遺伝子を発見したと発表した。同成果は広島大学病院の中野由紀子 講師、同大大学院医歯薬保健学研究院の木原康樹 教授、越智秀典 講師、茶山一彰 教授と理化学研究所らの研究グループによるもの。米科学誌「Circulation:Arrhythmia and Electrophysiology」に掲載された。ブルガダ症候群は、2000人に1人発症する病気で、普段は全く症状がなく、致死的不整脈により突然死を起こすため、ポックリ病と呼ばれる。近年、検診時の心電図(ブルガダ型心電図)などで症状の無い(無症候性)ブルガダ症候群患者を早期発見できるようになり、無症候性ブルガダ症候群患者の一部に対し、突然死予防のために植え込み型徐細動器というデバイスの埋め込みが行われている。しかし、無症候性ブルガダ症候群の突然死のリスクの予測判断材料が確立されているわけではない。今回の研究では、ブルガダ症候群患者は健康な人に比べHEY2遺伝子多型(rs9388451)の変異型が多いことを確認。中でも無症候のブルガダ症候群に多いことを初めて発見した。また、HEY2遺伝子多型の変異型を有するブルガダ症候群患者は、平均63カ月の観察期間内に致死的不整脈を起こす割合が有意に少なく(変異型有6% vs 変異型無19%)、この遺伝子がブルガダ症候群の発症を抑える役割を果たしている可能性が示唆された。同研究グループは「今回の結果は、突然死を起こすブルガダ症候群のリスクの層別化に有用であり、突然死の予防や不要な治療侵襲の抑止に役立つ可能性があり、患者さんに大きなメリットとなります。」とコメントしている。
2016年01月08日理化学研究所(理研)は12月31日、理研 仁科加速器研究センター超重元素研究グループの森田浩介グループディレクター(九州大学大学院理学研究院教授)を中心とする研究グループ(森田グループ)が発見した「113番元素」を、国際機関が新元素であると認定し、同グループに同元素の命名権が与えられたと発表した。欧米諸国以外の研究グループに命名権が与えられるのは初めてで、元素周期表にアジアの国としては初めて、日本発の元素が加わることとなる。同グループはこれまで3度、新元素の合成を報告していたが、ロシアと米国の共同研究グループも同元素の合成を別手法により行い、その発見を主張していた。今回の決定は、国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)」と「国際純粋・応用物理学連合(IUPAP:International Union of Pure and Applied Physics)」が推薦する委員で組織された合同作業部会「JWP(Joint Working Party)」が、2つの研究グループの研究結果を審議し、森田グループが観測した113番元素が確実に既知の原子核につながっているなどの理由から、発見者であるとIUPAPに報告し、IUPAPがそれを認めたことによる。今後、森田グループは113番元素の名前および元素記号を提案し、それをIUPAC/IUPAPが審査。妥当と認められれば、約1年後に新元素名がIUPAC/IUPAPより発表される予定だという。なお、これまでの研究から元素番号1の水素から同112のコペルニシウムまでの112種類と原子番号114のフレロビウム、原子番号116のリバモリウムの合計114種類が認定されているが、未発見の119番以上の新元素探索や未知の領域にある原子核の探索など、まだ未踏分野が多く残されており、理研では、今後も加速器の改良を進め、そうした研究を進めていきたいとしている。
2015年12月31日北海道大学(北大)は12月25日、データサイエンスの最新の手法を開発し、細胞内の分子モーター「F1-ATPase」における高効率なエネルギー変換の重要な仕組みを解明したと発表した。同成果は、北海道大学 電子科学研究所附属社会創造数学研究センター 李振風 准教授、小松崎民樹 教授、東京大学 工学研究科 応用化学専攻 野地博行 教授らの研究グループによるもので、12月17日付けの英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。F1-ATPaseは、化学エネルギーを使って回転するモータータンパク質で、分子構造変化と複数の中間反応を巧妙に組み合わせることで、効率よく化学エネルギーを回転の力学エネルギーに変換している。この中間反応は、ATPがF1-ATPaseに結合する過程、F1-ATPaseに結合したATP(結合ATP)が加水分解してアデノシン二リン酸(ADP)が生成する過程、ADPがF1-ATPaseから解離する反応、無機リン酸が解離する反応などから構成されているが、高効率なエネルギー変換を実現するための反応順序がどのように制御されているかなどは未解決問題となっていた。なかでも、結合ATPの加水分解については、反応生成物の結合解離過程と比べて回転に必要なトルク発生への寄与が少なく、放出するエネルギーも全体から見てわずかであることがわかっていたが、結合ATPの加水分解がF1-ATPaseの反応サイクルのなかでどのような役割を果たしているのかについてはよくわかっていなかった。今回の研究では、F1-ATPaseの回転時系列データから回転停止時間とその間の回転角度揺らぎの統計を解析するため、ノイズの性質をできるだけ仮定しない変化点解析とファジークラスタリングを組み合わせた手法を開発。同手法とマイクロ秒時間分解能でのF1-ATPase一分子の回転観察を組み合わせて、結合ATPの加水分解反応およびリン酸解離待ちに相当する階段状の回転時系列データの回転停止プロセスの詳細な速度論に着目し、その加水分解反応が果たす役割を詳細に調べた。この結果、結合ATPの加水分解反応に伴って、回転停止プロセスの間に回転角度が反時計回りに20度ほど有意に変化していることがわかった。これは同反応が、回転角度の変化によりリン酸解離反応の反応障壁を大きく減少させることで、ATP加水分解→リン酸解離といった正しい反応順序を維持するための「鍵」としての役割を担っているものと捉えることができる。この成果はF1-ATPaseだけでなく、V-ATPase、キネシン、ミオシン、ダイニンなどのモータータンパク質における高効率の分子メカニズムの解明に繋がるものと期待されている。
2015年12月25日理化学研究所(理研)と東京医科歯科大学は12月24日、歯のもととなる原基「歯胚」の分割操作を行うことで歯の数を増やす技術を開発したと発表した。同成果は、理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 器官誘導研究チーム 辻孝 チームリーダー、東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 顎顔面矯正学分野 森山啓司 教授、大学院生の山本直 氏らの研究グループによるもので、12月17日付の英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。今回、同研究グループは、胎齢14.5日のマウスの臼歯歯胚をナイロン糸で結紮することでひとつの歯胚を2つに分割し、この分割した歯胚が口腔内で正常な歯に発生するかどうか、また、再生した歯が天然の歯と同等の生理的機能を持つかどうかを検証した。この結果、6日後には上皮組織に囲まれ、完全に分断された2つの歯胚が発生。また、分割された歯胚が口腔内で正常な歯に発生するかを確認するため、結紮歯胚をマウス腎皮膜下に移植したところ、30日後にはエナメル質、象牙質、歯槽骨を持ち、歯根膜や歯槽骨に囲まれた正常な組織構造を持つ独立した2つの歯が形成されたという。歯の再生では、分割歯胚が天然歯胚と同等の組織構造を持つだけでなく、口腔内に移植したときに、移植を受ける個体の顎骨と正常に生着し、さらに周囲組織と連携し機能することが重要となっている。そこで同研究グループは、マウスの口腔内に分割歯胚を移植し、歯の発生過程をマイクロCTで観察。移植約2カ月後には反対側の歯と咬合し、機能していることを示した。さらに、分割歯に対して歯列矯正の際に加える力(矯正力)を加え、歯根膜の機能である骨リモデリングによる歯の移動について解析。矯正力を加えることによって十分な歯の移動が認められ、骨リモデリングを介した歯の移動がなされていることから、歯根膜機能も天然歯と同等であることを示した。また、分割歯では神経が再生し、中枢と接続して機能的であることもわかっている。同研究グループによると、今後はこの方法をヒトに応用することで、先天性歯胚欠損や歯の喪失患者の自己歯胚を用いて、免疫学的拒絶反応を受けることなく歯の数を増やせる可能性があるとしている。
2015年12月25日基礎生物学研究所と生理学研究所は12月24日、温度によってオスとメスが決まる「ミシシッピーワニ」の性決定の仕組みを解明したと発表した。同成果は、基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門/総合研究大学院大学の大学院生 谷津遼平 氏、宮川信一 助教、荻野由紀子 助教、井口泰泉 教授、生理学研究所 細胞生理研究部門 齋藤茂 助教、福田直美 氏、富永真琴 教授、米サウスカロライナ医科大学 河野郷通 助教、Louis J. Guillette Jr 教授、Innovative Health ApplicationsのRussell H. Lowers 博士、北海道大学 勝義直 教授、鳥取大学 太田康彦 教授らを中心とする研究グループによるもので、12月18日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。ヒトを含む多くの動物は、性染色体の組み合わせなどといった遺伝的な要因によって性が決まるが、ワニやカメなど一部の爬虫類では、卵発生中の環境温度によって性が決まる「温度依存型性決定」があることが知られていた。たとえば、ミシシッピーワニは、33.5℃で孵卵するとすべてオス、30℃ではすべてメスになる。今回の研究では、ミシシッピーワニの卵発生中の胚がどのように外部温度を感じるのか、温度受容因子の実体の探索とその仕組みの解明を目指し、温度を感じるセンサータンパク質である「TRPイオンチャネル」を環境温度を感じる分子の候補として解析を進めた。この結果、ワニの性決定時期の生殖腺では、受容温度域が異なる5種類のTRPチャネル遺伝子が働いており、なかでもTRPV4というTRPチャネルが一番顕著に存在することがわかった。TRPV4チャネルは哺乳類では30℃から34℃付近の温度を受容することが報告されており、ワニの温度依存型性決定と関連する温度域に相当している。そこで実際にTRPV4チャネル遺伝子をワニからクローニングし、どのような温度域で活性化されるかを調べたところ、ワニのオスが産まれる温度付近で活性化されることがわかった。また、野生のワニの卵を採取して、TRPV4チャネルの阻害剤あるいは活性化剤を塗布し、オスになる温度とメスになる温度で卵を育て、数週間後に性分化への影響を調べたところ、TRPV4チャネルの活性を操作することで、特にオス化に重要な遺伝子の発現が変化することが明らかになった。さらに、オス産生温度で孵卵しても、TRPV4チャネルの阻害剤を塗布すると、メス化した個体が認められたという。同研究グループはこれらの結果から、ワニの性決定においては、TRPV4イオンチャネルが環境温度を感じる実体として関与すると結論づけた。今後、動物の性決定様式の多様性や、環境と生物の間の相互作用を考えるうえで、発生学・生態学・環境学に大きく貢献できるとしている。
2015年12月24日理化学研究所(理研)は12月24日、多様な臓器のがんで異常な発現を示すRNAを多数発見したと発表した。これらのRNA群はがん診断の新たなバイオマーカーとなる可能性があるという。同成果は、理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター ゲノム情報解析チーム ピエロ・カルニンチ チームリーダー、ボグミル・カチコフスキー 国際特別研究員と、オーストラリア・ハリー・パーキンス医療研究所 アリスター・フォレスト 教授らの研究チームによるもので、11月9日付けの米科学誌「Cancer Research」オンライン版に掲載された。同研究チームは、理研が主導する国際研究コンソーシアム「FANTOM5プロジェクト」の一環として、さまざまな臓器・組織のがんに由来する225種の細胞株と、それらに対応する339種の正常細胞を対象に、がん細胞で発現が変化するRNAを解析。この結果、多くのがん細胞株で発現が上昇、もしくは低下する2108種のRNA群を発見した。RNAにはタンパク質を作る情報を持ったメッセンジャーRNA(mRNA)と、タンパク質を作る情報を持たないノンコーディングRNA(ncRNA)があるが、上記2108種のRNA群のうちmRNAについては、米国主導のがんゲノム解析プロジェクト「がんゲノムアトラス計画」の臨床検体解析データと照合し、がん細胞で発現が上昇する76種のRNA群と、発現が減少する52種のRNA群を同定した。また、ncRNAを詳細に解析したところ、がん関連遺伝子近傍のロングノンコーディングRNA(lncRNA)や、特定のエンハンサーの活性化を示すエンハンサーRNA(eRNA)、反復配列由来のRNAの発現が、多くのがん細胞で上昇しており、ncRNAとがん化との関連を示唆する多くのデータが得られた。理研によると、今回同定したmRNAやncRNAは、多様な臓器のがんで汎用的に活用可能なバイオマーカーとしての応用が期待できるという。また、これらのRNA群と発がんとの関係を明らかにすることで、抗がん剤の新たな標的となる可能性もあるとしている。
2015年12月24日東京大学(東大)は12月22日、4個の中性子だけでできた原子核の共鳴状態「テトラ中性子共鳴」を発見したと発表した。同成果は、東京大学 原子核科学研究センター 下浦享 教授、理化学研究所仁科加速器研究センター 木佐森慶一 日本学術振興会特別研究員、上坂友洋 主任研究員らの研究グループによるもので、2016年1月29日付けの米科学誌「Physical Review Letters」に掲載される予定。今回同研究グループは、エネルギー1500MeVの8Heのビームを液体ヘリウム4Heに照射し、二重荷電交換反応により生じる8Beから崩壊する2つのα粒子を、SHARAQ磁気分析装置を用いて精密分析。天然に存在する安定核を用いた通常の核反応では、ビームが持つ運動エネルギーを内部エネルギーに転換させる必要があるため、生成核へ大きな衝撃を与えるが、不安定核8Heの大きな内部エネルギーを用いることでほとんど衝撃を加えず、実験室中でほぼ静止した4つの中性子を生成し、共鳴状態「テトラ中性子共鳴」を発見した。発見された共鳴は、3つの中性子に同時に働く「三体力」を無視した従来の手法による理論的解析からは説明が困難なものであり、逆に共鳴のエネルギーはこの三体力の強さに制限を与えるものとなる。さらにこの三体力は中性子物質の状態方程式を決定づけるパラメータであり、今回の発見は、主に中性子から構成される「中性子星」の構造解明への道をひらくものと期待されている。
2015年12月22日東京大学は12月22日、メタホウ酸銅という青色の結晶が、ある向きに進む赤外光に対して透明なのに対して、逆向きに進む同じ波長の光に対しては不透明であることを発見したと発表した。同成果は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 有馬孝尚 教授、東京大学物性研究所 松田康弘 准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻博士後期課程2年 豊田新悟 氏らの研究グループによるもので、来年1月に米科学誌「Physical Review Letters」に掲載される予定。物質の中を進むある波長の光は通常、光の進む向きを反転させても同じ割合だけ吸収されるが、近年この一対の光の吸収に差が生じる「方向二色性」が存在することがわかってきた。これまで発見された最大の方向二色性は、メタホウ酸銅中のものであり、一対の光の吸収の強さの比は最大で3倍となっていた。この値が無限大となれば、一方向に進む光にとっては透明だが、逆向きに進む光にとっては吸収体となる場合が実現することを意味する。同研究グループは、メタホウ酸銅の中を進む光の吸収が、温度、磁場、光の伝搬方向にどのように依存するかを定式化。東北大学 金属材料研究所附属 強磁場超伝導材料研究センターにおいて、磁場を与えることによる光吸収の変化を実測し、物質パラメータを決定したうえで、電気が原因となる光の吸収と磁気が原因となる光の吸収が足し合わせられたり打ち消しあったりする効果に着目。非常に強い磁場のもとでは一方向透明現象が生じる可能性を理論的に予測した。そこで、メタホウ酸銅を-269℃に冷却したうえで一瞬だけ強い磁場を作用させて、光の吸収を測定したところ、波長879nmの赤外線がメタホウ酸銅の結晶のある方向に進むとき、53テスラ磁場のもとで吸収がなくなることを発見した。一方で、光の進行方向を逆転させると、同じ波長879nmの光を強く吸収することがわかった。この結果は、光の一方向透明現象が実現できたことを意味する。研究グループによると、今回の一方向透明現象は、低温強磁場下という特殊な条件で生じるため、そのまま応用につながることはないとしているが、今後の研究の進展によって、特殊な光学素子として、光通信、光コンピューター、マジックミラーに変わる特殊な窓材などへの応用が期待される。
2015年12月22日産業技術総合研究所(産総研)は12月21日、生きた細胞内に導入したDNAが分解される機構をリアルタイムに可視化する技術を開発したと発表した。同成果は、同研究所 バイオメディカル研究部門 バイオアナリティカル研究グループ 佐々木章 研究員と、北海道大学 先端生命科学研究院 金城政孝 教授ら、理化学研究所 生命システム研究センター 神隆 チームリーダーらの研究グループによるもので、9月24日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。今回の研究では、最先端の顕微鏡技術であるラスター画像相互相関分光法(ccRICS)の原理を利用し、多数のタイムラプス顕微鏡画像を一括して解析し動画とするプログラムを開発した。これにより、生きた細胞のなかでダイナミックに進行する生命現象である「外来DNAの分解」を時空間的に可視化することに成功した。DNAが分解されたかどうか判別するためには、導入する外来DNAを2色の蛍光色素で標識し、ccRICSで分子の運動を観測する。この2色の蛍光シグナルが同時に変動するか、別々に変動するかを解析することで2色の蛍光色素の分離、すなわちDNAの分解を検出することができる。今回は研究対象としてMEF細胞とHEK293細胞を使用。MEF細胞は遺伝子導入の効率が悪く、HEK293は遺伝子導入によるタンパク質発現が容易な細胞として知られている。この効率の差には、細胞内のDNA分解活性が関与しているという仮説を立て、作製した蛍光標識DNAをMEF細胞とHEK293細胞に注射しccRICSでDNAの分解を可視化した。この結果、MEF細胞ではDNAが細胞質において5分以内に分解を受けており、一方でHEK293では顕著な分解は見られなかった。これは見いだした細胞内でのDNA分解活性が外来遺伝子発現効率と負の相関を持つという仮説を支持することに加え、細胞の種類によって細胞質内のDNA分解活性が異なるという新しい概念の発見であるといえる。また、遺伝子導入に用いるDNAは今回のモデルDNAよりも大きく移動速度が遅いため、細胞質での滞留時間が長くなる。したがって、このような分解を制御することは外来遺伝子発現効率の向上につながる可能性がある。同研究チームは今後、DNAの分解メカニズムがどの分子によって担われているかを明らかにし、遺伝子治療や核酸医薬だけでなく、DNA代謝と疾患の関係などに広く展開していくことを目指すとしている。
2015年12月22日リバウンドしない「最後のダイエット」の提唱者であり予防医学研究者の石川善樹先生に毎日の生活習慣を変えるうえで大事な「マインドフルネス」について聞きました。―自分自身もそうですが、毎日の生活習慣や考え方を変えるのは難しいなと感じます。そうなんです。ひとは基本的に変わるものではないのです。第一世代は、「行動を変える」トレーニング、第二世代で「考え方を変える」というメンタルトレーニングが出てきましたが、「ひとは変わらない」という結論になりました。現在、第三世代の「マインドフルネス」が世界中で流行っていますが、これはしっかりと自分の感情に「注意」を向けるためのトレーニングなんです。―「注意」を向けるというのは、どういうことでしょうか?ひとは怒りの感情が高ぶっているときには、「I am angry」となるものです。これをいかに自分の感情に「注意」を向けて客観視して「I feel angry」と変えることで全く別の価値観に「気づく」ことができるかどうかということです。この状態を自分自身で作り出すのは困難なことなので、誰もが、簡単にメンタルの状態をコントロールができるようにするためのアプリケーションを開発しました。「MYALO」(というアプリケーションです。東洋では「見て覚えろ」というような教えが多いので、瞑想をして自分のメンタルをコントロールすることは体系化されていません。このアプリでは、誰もが簡単に瞑想の状態に入ることができるように体系化を試みたのです。―瞑想が仕事に与える影響についての調査をされましたよね。そうです。まだ日本では瞑想をはじめているひとはごくわずかで「イノベーター」と呼ばれるようなひとたちですけれども、この瞑想が仕事のパフォーマンスを上げるうえで役に立っているという調査結果が出ました。この調査では睡眠よりも瞑想のほうがパフォーマンス向上に関連するという結果になりました。―瞑想が仕事のパフォーマンスに影響を与えるというのはすごいですね欧米のひとにとっては、瞑想というのは珍しく興味深いものなので、ブームとなっているのです。グーグルなどが組織のトレーニングとして取り入れています。実を言うと日本でも昔から経営者など一部のひとは、座禅を組んだりして瞑想を取り入れていたのですが、多くの日本人にとってはお寺で座禅を組む姿などを身近で見てきた経験があるために、珍しくなく楽しめるものではなかったのです。―瞑想を通して「気づく」というのはどういう心理状態でしょうか?自分自身の体験をお話ししますと、あるときに誤ってPCに水をかけてしまったことがあったんです。この時PCがしばらく使えなくなったのですが、これは自分にとって変わるチャンスではないだろうかと考えました。自分は普段、PCで一体何をしているのかと改めて自分に問いかけてみました。そうすると自分は、ただ単に届くメールに反応しているだけではないか?という考えに至りました。もっと本来は周囲とのつながりを大事にすべきなのではないか?ということに気づかされました。PCが壊れてそこから離れることで、自分自身の「注意」を切り替えることができたのです。―自分自身の「注意」の切り替えですか?ええそうです。またこういうようなこともありました。大学のときに僕は運動部だったのですが、いつも後輩に対して「あいつは使えない」というようなことばかりを言っていました。あるひとから、ひとを「使える」、「使えない」ということで判断してしまってはダメだと言われて、自分はなんて愚かだったと「気づいた」というようなことがありました。―「気づき」は組織にとっても有効なのでしょうか?そうだと思います。他人に「気づき」、考えることが大事なんだと思います。また何か怒りを感じるようなことがあれば、忘れること。そして「自分は愚かだ」ということに「気づく」ことが大事なのです。これが大人として成熟するということだと思います。組織が成熟することが強みを生かせる組織となる秘訣ではないでしょうか?―「気づき」はどのようにして組織に生かせるのですか?日本人は元々強みを軸にした経営を行ってきました。人事についてもローテーションを取り入れて、その人が強みを発揮できるようなポジションを探るというようなことをしてきたのです。ドラッカーもこのような強みを生かす経営法を提唱したひとの一人です。上司は部下を「使えない」と考えるのではなく、どうしたら次世代のスターを育てることができるかと考えるべきですし、部下も上司を思いやるべきなのです。―「気づき」が自分自身も変え、また周囲の環境も変えるのですね?そうなんです。「気づき」で変わることで、日中の生活習慣が変化します。そうすると朝ワクワクとした目覚めができるようになるはずです。それによって、おのずと睡眠も満ち足りるというような良い循環が生まれるのではないでしょうか。石川善樹先生予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部を経て、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。現在は株式会社キャンサースキャンおよび株式会社CampusforHの共同創業者。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。【石川善樹先生に聞く第一回】はこちらPhoto by Christopher Michel
2015年12月21日奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と電力中央研究所は12月21日、酸化物半導体「IGZO」を用いた薄膜トランジスタの極低電圧駆動と信頼性の大幅改善を達成したと発表した。同成果はNAIST物質創成科学研究科情報機能素子科学研究室の石河泰明 准教授、藤井茉美助教らと、電力中央研究所の小野新平 主任研究員らの共同研究によるもので、12月18日に英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。IGZOは東京工業大学の細野秀雄 教授グループが開発した透明な酸化物半導体で、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素)で構成されている。透明かつフレキシブルな次世代ディスプレイの研究開発では、駆動に用いられる薄膜トランジスタの活性層材料として注目されているが、実用展開に向けては環境負荷や電界に対する信頼性と、フレキシブル化を実現するための低温プロセスの導入、消費電力の削減が課題となっている。今回の研究では、室温で液体状態であるイオン液体と、室温でも形成可能なIGZOの界面を用いて電気二重層を形成し、通常より多くの電子が利用できる状態で薄膜トランジスタを動作させた結果、一般的に高い信頼性を示す酸化シリコン絶縁膜を用いた素子の性能を大きく超え、駆動電圧が40%以下、劣化量が1/2以下という性能を達成した。同研究グループは「同技術を用いることで、透明かつフレキシブルなディスプレイを長期間安定して動作させることが可能になる」としている。
2015年12月21日京都大学は12月18日、EPAやDHAを含む魚油の摂取が、脂肪燃焼細胞である「褐色脂肪細胞」の増加を促進し、体脂肪の減少や体温上昇をもたらすことを動物実験により証明したと発表した。同成果は、同大学 農学研究科 河田照雄 教授、金珉智 教務補佐員、後藤剛 准教授、自然科学研究機構 生理学研究所/総合研究大学院大学 富永真琴 教授、内田邦敏 助教らの研究グループによるもので、12月17日付けの英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。ヒトには、脂肪を貯めこむ「白色脂肪組織(White Adipose Tissue:WAT)」と脂肪を分解し熱を産生する「褐色脂肪組織(Brown Adipose Tissue:BAT)」が存在する。BATの作用はそのミトコンドリア内膜に特異的に存在する脱共役タンパク質1(UCP1)によるものであり、UCP1の発現を高めることが肥満や関連病態の発症対策に効果的であると考えられている。また最近、白色脂肪が褐色脂肪のような機能を有する褐色化が起こり「ベージュ細胞」と呼ばれる細胞となることがわかってきている。ベージュ細胞の退縮や減少が中年太りの主要因となり、逆に発現誘導や活性化することで成人の抗肥満につながると考えられている。今回、同研究グループは、過体重の抑制に効果があることが報告されている魚油がエネルギー代謝に及ぼす影響について食餌誘導性肥満マウスを用いて調べた。同マウスに高脂肪食または魚油添加食(高脂肪食に1.2%または2.4%魚油を添加)を103週間摂食させたところ、高脂肪食群に比べ、魚油添加食群では酸素消費量が増加し、体重増加および体脂肪蓄積が抑制された。また、褐色脂肪組織および白色脂肪組織でUCP1とβ3アドレナリン受容体の発現量が増加。さらに、魚油添加群において交感神経活動の指標となる尿中カテコールアミン分泌量のおだやかな増加が認められるとともに、迷走神経遮断手術を行ったマウスでは魚油投与による脂肪組織のUCP1発現誘導が認められなくなった。そこで、同研究グループは、魚油による交感神経活性化の作用点として、UCP1の誘導作用をもつトウガラシの辛味成分「カプサイシン」の受容体として知られているTRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)に着目。TRPV1欠損マウスの魚油添加食群では、対照群で認められた魚油の作用が認められなったという。これらの結果から、魚油によるエネルギー代謝の向上は、胃や小腸に分布するTRPV1を介した交感神経活性化と、それにより引き起こされる褐色脂肪、特にベージュ細胞の発現促進によるものであることが示されたといえる。河田教授および後藤准教授は、今回の成果について「今回の魚油の健康機能性とそのメカニズムの解明は、油脂の健康特性の新たな一面を明らかにしました。今後は、健康な食生活に役立つ油脂やその他の食品成分について、特にメタボリックシンドロームの改善が深く関わる健康寿命の延伸への機能に着目して研究を発展させていく予定です」とコメントしている。
2015年12月18日理化学研究所(理研)は12月18日、呼吸器学者の間で40年近く謎とされていた、神経内分泌細胞(NE細胞)が気管支の分岐点に規則正しく配置され、塊を形成するメカニズムを解明したと発表した。同成果は、同研究所 多細胞システム形成研究センター呼吸器形成研究チーム 森本充 チームリーダー、野口雅史 研究員、同研究所 生命システム研究センター 細胞デザインコア 合成生物学研究グループ 高速ゲノム変異マウス作製支援ユニット 隅山健太 ユニットリーダーらの研究グループによるもので、12月17日付けの米科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。NE細胞は気管支の上皮細胞の一種で、気管から細気管支までの上皮組織に広く観察される。NE細胞は吸気の酸素濃度のセンサーであるとともに、組織の損傷時には組織修復に働く幹細胞のための幹細胞ニッチになることが知られている。また、気管支の分岐点に数個集まって小型のクラスター(塊)を形成する。この特徴的なNE細胞の分布パターンは40年近く前に報告されて以来、吸気の酸素濃度の感知に役立っていると考えられてきたが、NE細胞が気管支の分岐点に規則正しく配置されクラスターを形成するメカニズムは謎となっていた。また、NE細胞は肺がんの1種である小細胞肺がんの起源になることが知られており、同細胞種の制御メカニズムの解明が求められている。同研究グループはまず、肺の上皮細胞およびNE細胞が蛍光で光るマウス系統を作製。このマウス系統の胎児から光る肺を採取し、組織透明化試薬で透明化した後、共焦点顕微鏡と2光子励起顕微鏡で高解像度かつ広範に撮影した。この結果、気管支の立体構造を保ったまま、ひとつの肺葉のすべての上皮細胞とそのなかに存在するNE細胞の分布の観察に成功した。さらに、取得した3次元画像を用いてNE細胞の正確な位置とクラスターの大きさを定量的に解析し、気管支の分岐構造とNE細胞クラスターとの関係を幾何学的に理解することに成功した。画像解析の結果、NE細胞クラスターは気管支の分岐構造においてほぼ同じ位置に形成されること、および発生中に少しずつ大きくなることがわかった。また、より高解像度の画像を取得したところ、分岐点と関係なく単独で出現する「単独NE細胞」を多数発見したという。単独NE細胞は、Notch-Hes1シグナルによって出現数が制限されていることも明らかになった。さらに同研究グループは、NE細胞の分化とクラスター化をリアルタイムで撮影する技術を開発し、NE細胞の挙動の経時観察に成功。その結果、NE細胞は分化するときは単独NE細胞として出現し、その後、自ら歩いて分岐点に向かって移動し、クラスターを形成することがわかった。同細胞を起源とする小細胞肺がん細胞は転移能が高いことが知られているため、今後はNE細胞の移動を制御している因子の同定が課題となる。
2015年12月18日九州大学(九大)は12月14日、カイラリティ選択的で、長く欠陥の少ない高品質な半導体性単層カーボンナノチューブ精製を可能にする脱着型可溶化剤を開発したと発表した。同成果は、同大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所/大学院工学研究院 中嶋直敏 教授、同大学院 工学研究院 利光史行 特任助教らの研究グループによるもので、12月14日付けの英オンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載された。単層カーボンナノチューブは、その炭素原子の配列により半導体性と金属性の性質をもつ二種類のチューブが存在する。なかでも半導体性単層カーボンナノチューブは、理論的にはほぼすべての電子状態を得られることから、次世代のナノエレクトロニクスにおける高効率な素子として重要な存在である。しかし、製造時に発生する構造異性体や不純物に加え、炭素配列の結晶度の良否により、デバイスの性能が制限されるため、高品質でカイラリティ純度の高い精製法の確立が課題となっていた。今回、同研究グループは、脱着型可溶化剤として水素結合ポリマーに着目した。同研究で用いた水素結合ポリマーは、半導体性単層カーボンナノチューブを選択的に認識する小分子を主骨格に、水素結合をするアミノ基あるいはカルボン酸を配した有機物質から形成され、一次元の直線的な構造を取るようにデザインされている。一般的に、単層カーボンナノチューブの可溶化に利用される強力な超音波照射は、もろく細いカーボンナノチューブを破壊し、炭素結晶度や長さなどの品質低下を招くが、今回、この操作をより温和な攪拌に置き換えることで、ほぼ非破壊であると同時に、水素結合ポリマーの効率的な吸着を促進し、従来法では難しかった高品質なカイラリティをもつ半導体性単層カーボンナノチューブの選択的抽出に成功した。水素結合ポリマーは、アセトンなどの水素結合を阻害する溶媒で洗浄するだけで分解・剥離されるため、目的物の表面から完全に除去できる。分離後の水素結合ポリマーはそのまま再利用することも可能だ。今後は、同成果をデバイスへ応用することで、ナノエレクトロニクスにおける単層カーボンナノチューブトランジスタの高効率化が期待されるという。
2015年12月15日京都大学は12月11日、独自に設計した座布団型構造をもつ有機半導体材料を開発し、これをp型バッファ層に用いることでペロブスカイト太陽電池の光電変換効率を向上させることに成功したと発表した。同成果は、同大学 化学研究所 若宮淳志 准教授、工学研究科博士後期課程 西村秀隆 氏、化学研究所 嶋崎愛 研究員、村田靖次郎 教授、佐伯昭紀 大阪大学准教授らおよび米ボストンカレッジ ローレンス・スコット 名誉教授の研究グループによるもので、12月10日付けの米科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に掲載された。ペロブスカイト太陽電池は、材料を基板やフィルムに塗る印刷技術により作製でき、従来の太陽電池に比べて製造コストを大幅に下げることが可能な太陽電池として注目を集めている。これまでは、主に光吸収材料であるペロブスカイト層の作製法の改良により光電変換効率が向上してきたが、光により生成した電荷をペロブスカイト層から取り出すためのバッファ層材料については、優れた特性を示す材料は限られており、製造コストが極めて高い有機半導体材料が用いられている状況だった。今回の研究では、二次元のシート状に骨格を拡張して「座布団型構造」をもたせるという独自の分子設計に基づいて、塗布型の有機半導体材料を新たに開発。これをペロブスカイト太陽電池のp型バッファ層に用いることで、従来の球状の分子である標準材料を用いた場合に比べて、最大で1.2倍の光電変換効率の向上を実現し、16.5%の光電変換効率を得ることに成功した。同材料は、独自の合成ルートにより、簡便かつ安価に製造することが可能で、すでに製造・販売について国内企業との共同研究を開始しており、1年以内に販売を開始する予定だという。若宮准教授は、「本研究で、ペロブスカイト太陽電池の高効率化につなげるための、有機半導体材料の分子設計指針を明確に示すことができました。これに基づいて、今後、安価で優れた特性を示す材料の開発が国内外で活発化し、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた研究が加速するものと期待されます」とコメントしている。
2015年12月11日東京大学は12月10日、老齢ネコの脳にヒトのアルツハイマー病と同一の病変が形成され、神経細胞が減少することを明らかにしたと発表した。同成果は同大大学院農学生命科学研究科のチェンバーズ ジェームズ助教、内田和幸 准教授、中山裕之 教授、京都府立医科大学の徳田隆彦 教授、同大大学院医学研究科の石井亮太郎 助教、建部陽嗣 特任助教、麻布大学獣医学部の高橋映里佳氏、宇根有美 教授、大阪市立大学大学院医学研究科の富山貴美 准教授らの研究グループによるもの。「Acta Neuropathologica Communications」に掲載された。アルツハイマー病では、βアミロイドと高リン酸化タウと呼ばれるタンパク質が蓄積し、海馬の神経細胞が脱落することによって認知症を発症する。βアミロイドの沈着はヒト以外の哺乳類に脳でもみられるが、同研究グループがこれまでの研究でチーターとヤマネコの脳で発見した以外では高リン酸化タウの蓄積と海馬の神経細胞脱落は動物では見つかっていなかった。今回の研究では、ペットとして飼育されていたネコを死亡後に解剖して脳を詳しく調べたところ、8歳頃から脳にβアミロイドが沈着し、14歳頃から高リン酸化タウが蓄積することが判明。高リン酸化タウが蓄積した神経細胞では、神経原線維変化と呼ばれるアルツハイマー病に特有の病変が確認された。また、神経原線維変化を構成するタウ蛋白質のアイソフォームがヒトのアルツハイマー病と同じであり、神経原線維変化が形成されたネコでは、海馬の神経細胞が減少していることがわかった。これらの結果から、老齢のネコではβアミロイドと過剰リン酸化タウが脳に蓄積し、海馬の神経細胞が脱落することが明らかとなった。さらに、ネコの脳に蓄積したβアミロイドは他の動物種と比べて凝集性が弱く、海馬の神経細胞内にβアミロイド-オリゴマーと呼ばれる毒性が高いβアミロイドが蓄積していることが判明した。βアミロイドのアミノ酸配列を動物種間で比較したところ、ネコはほかの動物と異なる配列を有していることがわかった。神経原線維変化が発生するヤマネコやチーターなどのほかのネコ科動物も、このネコ型βアミロイドを共通して保有しており、ヒトのアルツハイマー病患者の脳においてもβアミロイド-オリゴマーが検出されていることから、この結果は神経原線維変化の形成においてβアミロイド-オリゴマーが重要であることを示していると考えられている。同研究グループは今後、ネコの脳を研究することで、βアミロイドとタウタンパク質の関係が明らかにされ、アルツハイマー病の病態解明と治療法開発につながることが期待されるとしている。
2015年12月10日