小さい子どものいる家庭って、毎日が戦争ですよね。とくに、朝や夕方の時間帯などはバタバタするあまり、子どもについ「早くしなさい!」と叱ってしまう方も多いのではないでしょうか?2015年の『保育科学研究』によると、全国の保育園・幼稚園などで保護者3,669名に社会福祉法人 日本保育協会 保育科学研究所がアンケートを実施したところ、子どもに「早くしなさい!」と言うことが「よくある」「時々ある」と回答した人が83%にものぼっています。でも、実は「早くしなさい!」と親が子どもに言うのは逆効果なんです。そこで今回は、7万部のベストセラーを記録した『発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉かけ』(講談社)の著者shizuさんに、叱らなくても未就学児の子どもが自分から動いてくれる声かけのコツについてお伺いしました。■子どもも心地がいいと恩返しをしたくなるたとえば朝、子どもがなかなか起きないとしますね。その寝ぼけ眼なところで「じゃあ、絵本を読もうか」と親が声をかけて、その子が好きな絵本を読んであげる。目が覚めてきたところで、「お着替えができたら、もう1冊読もうね」と声をかけると、叱らなくても朝の準備がスムーズにいくのだとか。「子どもといえども、心地いい気分にさせてもらったら恩返しをしたくなるもの。モチベーションが上がれば、行動にもうつしやすくなるんです」とshizuさん。しかし、「もう1冊読んであげるから、着替えなさいよ」のような声のかけ方だと逆効果になってしまうので、言い方には注意が必要です。また、ホワイトボードを利用したお仕度表で視覚的に自分から取り組みやすくする方法もあります。■子どもが心の準備できるような声かけを!たとえば公園で遊んでいるときに、帰る時間になっていきなり「帰るよ」と言っても、子どもの心はついていきません。「子どもにも心の準備というものが必要なんです。『ママ、ご飯作らないといけないから、30数えたら帰ろうね』などと、事前に話をしてあげてください」とshizuさんは言います。ただしこのとき、子どもが聞き流していたら意味がありません。そのため、目線をしっかり合わせて言うのがコツなのだそうです。「わかった?」と子どもに質問して、しっかり「うん」という返事をもらいましょう。子どものほうも、「自分が言ったことには責任を持たなきゃ」と思うようになるので、ちゃんと約束を守ってくれるようになるのだとか。■非言語でほめることでも子どもは落ち着くshizuさんは著書の中で、「1日30回ほめる」ことを推奨されています。この数字だけ見ると、「1日30回もどうほめたらいいの?」と思われるかもしれませんね。しかし意外にも、回数は重要ではないとshizuさんは言います。「これはあくまでも目安。特に発達障害の子どもを抱えるママはどうしても子どもの『できない』部分に目が行きがち。だからその意識を変えたかった。30回は無理でも、『10回はできた!』なんて思ってもらえたらうれしいですね」(shizuさん)たとえば『宿題、がんばっているね』『○○ちゃんの笑った顔かわいいね』などの具体的な言葉はもちろんですが、子どもと目線が合ったときにニコッとしてあげるということも『ほめる』ことになるそうです。「そういった『非言語でほめる』ことも、子どもを認めてあげることにつながります。すると、子どもの絶対安心感が高まり、子どもは落ち着いて行きます」(shizuさん)言葉で表さなくても、「あなたを見ているよ」というメッセージを発することによって、「できる・できないに関係なく、あなたの存在自体が大事だよ」と伝えることができるんですね。■子どもの心に届きやすい声かけのコツとは子どもというのは、大きくなるにつれてだんだんと自我が目覚め、親の思い通りにはならなくなってくるもの。子どもに自ら行動してもらうようにするには、子どもも一人の人格として尊重した上で、声かけをしていくことが大切だとshizuさんは言います。「例えば、『早く着替えなさい!』という命令形の言葉は、『早く着替えようね♪』『お着替えできたかな~?』という丁寧語や疑問形に変えていくこともポイントです。そうすれば子どもも『責められている感』がなくなり、動作が早まります」(shizuさん)あとは、きちんとママの気持ちを説明することもいいそうです。「『ママね、◯◯ちゃんが××してくれないと、会社に遅れちゃうかもしれなくてドキドキしてるの』と話してあげると、子どものほうも『しょうがないなぁ。じゃ、やろうか』という気になるんですよ」(shizuさん)「キレイなママ」より、周りに何を言われても動じない「肝っ玉母ちゃん」になりたいというshizuさん。そんなshizuさんが本の中で紹介している声かけの方法は、どれもすぐに実践できるものばかり。全国のパパ・ママのみなさん、ぜひ今日から実践してみてくださいね。(取材・文/あさき みえ) 【取材協力】※shizu・・・自閉症療育アドバイザー、『発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉かけ』(講談社)の著者。2児の母。講演会などで、子どものことで悩んでいる保護者に、日常生活のなかでできる楽しいかかわりや言葉かけを紹介している。 【参考】※shizu・平岩幹男(2013)『発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉かけ』講談社※発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉:ABAで自閉っ子と楽しく生活※叱らなくても子どもがサクサクやることをしていく仕掛け(やること表)-発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉:ABAで自閉っ子と楽しく生活※ABAで発達障害の子どもと楽しく生活する7つのコツ-発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉:ABAで自閉っ子と楽しく生活
2016年06月17日夏本番前に!キレイを作る電子書籍が半額に学研グループのデジタル事業会社 株式会社ブックビヨンドは、「学研リレーSALE」の一環として、ダイエット・美容関連の電子書籍28タイトルを半額で提供している。「夏の準備はこれからが勝負!! ダイエット・美容関連本【50%OFF】!」と称して、通常324円~1260円(税別)の電子書籍が今だけ半額だ。期間は5月26日まで。SALE対象タイトルを一部紹介たとえば、小顔を作る方法がお得に(価格は税別)。『ぐるぐる押してみるみる10歳若返る!整顔マッサージ』著者は脳梗塞によるマヒを、自力で克服した「整顔師」。1日たった5分のマッサージで、シワ、たるみ、むくみなど、女性が気になる顔の悩みをみるみる解消してくれる「整顔マッサージ」を、誰でも自分でできるように詳しく解説する。通常価格1260円→SALE価格630円食生活改善ならこちら(価格は税別)。『体重&体脂肪を落とす食べ方1週間プログラム』体重や体脂肪を食事法で落とすためのプログラム。1週間ごとに「食事量を知ろう」「リバウンドしない食習慣を知ろう」などのテーマを設ける。書き込み式のワークブックの要素や、その日すぐに作れるレシピなど具体例満載でやせる食べ方の基本を学べる一冊。通常価格450円→SALE価格225円気になっていたあの本もセールになっているかも?ぜひチェックしてみて!(画像はプレスリリースより)【参考】※株式会社ブックビヨンドプレスリリース※学研BookBeyond
2016年05月20日好きな人の言葉って気になりますよね。ふとしたときにカレのセリフを思い出し、「あれってどういう意味だったんだろう?」なんて悶々と考えてしまうこともあるのでは?実際のところ、相手の頭の中はどうなっているのでしょうか?恋愛科学研究所所長の荒牧佳代先生が監修するモバイルサイト『究極の恋愛科学』より、言葉のウラに隠された男性の本音を少しだけご紹介します。彼氏、できた?【言葉のウラ】→「君の愛、もらいっぱなしで返すつもりは全然ないよ」これを言う男性は、多少なりとも相手の女性に関心を持っています。なぜなら気にも留めていない相手なら、恋人がいようといまいと関係ないから。ただし、友達以上恋人未満のカレに言われたとなると事態はかなり深刻。これはカレの「将来、君の結婚相手になるのは僕じゃない」というアピールが込められているからです。このような言葉を口にできるカレは、相手の女性よりもかなりレベルの高い男性と考えられます。【真実はこれ】とりあえず…こう言われたときは残念ながら、ただの友達で終わる可能性大。楽しかったね。また電話してよ【言葉のウラ】→「暇なときなら、相手してやってもいいよ」この言葉を前向きに解釈すると、「また電話してきてほしい。楽しみに待ってる」と取れなくもありません。しかし男性は、口説き落としたい女性にはたいていの場合、自分からしつこいぐらい電話をするもの。「しつこくして嫌われたらどうしよう」という心配よりも「この子をモノにしたい」という欲求のほうが勝つからです。そう考えると「電話して」と女性に言えるのは、自分からかけなくても相手からかかってくる状態を示しています。自分よりも魅力の低い女性にしか、この発言はできないと言えるでしょう。【真実はこれ】要は本気ではないってことですね…。君って意外と○○だよね!?【言葉のウラ】→「惚れちゃうよ~」一般的に男性は、女性に比べ洞察力が鋭くないので、異性の表面的なイメージから内面を想像したり、勝手に思い込んだりする習性が強くなります。なので、「この子はきっと真面目だ」「気が強いわけがない」「家庭的な雰囲気だ」といった思い込みをしがち。当然、勝手な想像に基づく思い込みですから、「あれ?意外と○○だなあ」と期待が裏切られることが多くなります。裏切られたと言っても「意外と○○だよね」というセリフを発すること自体は、脈ありです。なぜなら、よほど悪い評価でない限り、その女性に対してあれこれと想像を膨らましていた=興味があり、なおかつ、それを口に出すということは、それほど悪い感情は抱いていないと言えるからです。本当に裏切られた場合は言葉には出しづらいでしょう。更に、このセリフは言い回しが丁寧なほど脈あり度が高くなります。「~~さんって意外に○○なんですね」>「~~ちゃんって意外に○○なんだね」>「~~って意外に○○じゃない?」>「オマエ、意外と○○なんだな」という具合です。【真実はこれ】丁寧に言われたときは、ひと押ししたらオチるかも?何カン違いしてんだよ、あの子はただの友達だよ【言葉のウラ】→「今はただの友達。でも、これからどうなるかはわかんないな」こちらは男性にとって非常に都合のいいセリフです。「あの子誰?」と聞かれたときに「友達だよ」と言っておけば、たいていの女性はそれで納得するしかないでしょう。しかし、「友達」には様々な種類があり、場合によっては、肉体関係はあっても表面的には友達なんて場合もありえます。男性はときに「友達」という言葉を利用して、あたかも下心が全くないフリをして女性に接近することがあります。従って、言い訳としての「友達」は、「あくまでも現時点では」という注釈がつくことを念頭に置いてください。【真実はこれ】あくまでも「現時点」の友人関係であるってこと。怖いわー…。カレの本音がわからず、「両思いかと思っていたのに違った…」なんて嘆く女性は少なくありません。でも、男性の言葉にも本音と建前があることを知り、本心を見抜く術を知れば、カン違いしてジタバタしたり、必要以上に傷ついたりすることを回避できるはず。荒牧先生のサイト『究極の恋愛科学』には、男心の本当と嘘がわかるコーナーがいっぱい。みなさんも科学的根拠をもとに確立された「恋愛科学」を活用して、カレのさりげない一言に隠された意図を読み取ってみてはいかがでしょうか?モバイルサイト究極の恋愛科学監修者紹介荒牧佳代(あらまき かよ)恋愛科学研究所所長、恋愛科学カウンセラー。脳内ホルモンと個人の性格や行動を関連させたロジックでさまざまなテーマを分析する恋愛科学(行動科学)のプロフェッショナル。2013年、avex(エイベックス)×DocomoのBeeTV「声感☆ラブメッセージ」全12話監修。2014年、Yahoo女子向けニュースアプリ「ポストピ」にて業界通のタレントとして恋愛記事をチョイス!コメント付きでピックアップ中。「Yahoo、ツヴァイ、ブックビヨンド(学研)」3社の新メディアブランドプロジェクト【恋活サプリ】にて毎週金曜日コラム更新、当プロジェクトより電子書籍「モテに興味ある男、モテに興味ないフリする女」も出版。他、テレビ・ラジオ・ネットTVゲスト出演、Webサイトのコラム執筆、雑誌特集企画監修、恋愛&婚活セミナー講師、映画トークショーなど多方面で活躍中。
2016年05月17日いま、所得格差が社会問題になっています。国税庁の平成26年度調査では、民間の企業に勤める人のうち年間給与所得300万円台の層が17.3%で最多。女性に限って見ると年間給与100万円台が26.2%で最も多く、年間給与300万円台までの層が女性全体の8割を占めるなど、まさに“年収300万円時代”といえます。多くの人が「幸せになるために、もっと豊かになりたい」と願うなか、「生活の豊かさを最優先課題にすると、幸せにはなれません」と警鐘を鳴らす人がいます。哲学者・ソクラテスの思想を下敷きにしたフィクション『ソクラテスに聞いてみた人生を自分のものにするための5つの対話』(日本実業出版社)の著者・藤田大雪さん。京都光華女子大学で教鞭をとるかたわら、訳書『ソクラテスの弁明』(kindle版)がAmazon kindleの哲学・思想部門で1位を獲得するなど第一線で活躍する古代ギリシア哲学の研究者です。『ソクラテスに聞いてみた』でもお金と幸せの問題を取り上げている藤田さんに、幸せになるための「お金とのつきあい方」をお聞きしました。■「幸せ」には魂の健康が欠かせない「じつは、最初に“お金”が人々の生活に不可欠なものになったのは、ほかでもないソクラテスの生きた時代なんです」と藤田さん。ソクラテスが生まれる200年ほど前にリュディア(今のトルコ)で発明されたお金(貨幣)が、紀元前5世紀ごろのアテナイで歴史上初めて一般市民に普及したのだそう。やがて「もっとお金を手にして豊かになりたい」という思いにとりつかれる人も出はじめ、ソクラテスはそんな人々を“金銭愛好家”と呼びました。「プラトンの『国家』という本のなかで、ソクラテスは金銭愛好家の心理について詳しく語っています。金銭愛好家はとにかくさもしくて、どうすればお金が増えるかということにしか頭を使わない。富める者しか尊敬せず、財貨の所有にしか名誉心の満足を覚えない、と。ソクラテスはそんな心の状態を“魂の病気”と呼んでいます」“魂の病気”といわれるとドキッとしてしまいますが、現代でもお金が価値観の中心になってしまうことはあります。では、魂の健康とは?藤田さんによれば、ソクラテスの答えはこうです。「人間の心には、本来優れた能力がたくさん備わっているもの。それらが本来の役割を果たし、善いものを善い、美しいものを美しいと感じられる状態が“魂の健康”で、魂が健康でないかぎり幸福はありえない、とソクラテスは考えました。彼の哲学的問答は、魂を健康にする治療のひとつだったんです」■豊かな生活はあくまで“おまけ”!そして、ソクラテスの時代から2400年後の現代。日本では雇用が不安定だったり、老後の生活資金が不安だったりとお金に関する悩みが尽きません。「もっと生活を豊かにしたい」という願いも、多くの人が持つ切実な思い。それでも、豊かさを願うことで魂は傷ついてしまうのでしょうか。藤田さんにそう伺うと、「私も30歳を過ぎるまで大学の非常勤講師で年収200万円台の期間が長かったので、もっと生活を豊かにしたいという思いはすごくよくわかります。だけど、わかるからこそ、その思いは危険だと、あえていわせていただきたいのです」とのこと。ソクラテスの思想の根幹をなすのは“自分はどういう人生を生きたいか”という問いかけ。藤田さんは「豊かな生活とは、その問いかけに答えて真剣に生きたときについてくる“おまけ”であるべきなんです。もっと生活を豊かに、という願いにつき動かされて人生を組み立てることは、やっぱり優先順位を間違えてしまっているんじゃないかと思うんです」と指摘します。魂を健康に保ち、幸せに生きるには、人生の基準を「お金」ではなく、善いものや美しいものに置いてみること。貧しい人を蔑んだり、“お金持ち”という理由で誰かをあがめたりせず、お金以外の価値を理解できる人と交流して、お金では量れない価値にたくさん触れること。それらが大切だと藤田さんはいいます。そのことを忘れさえしなければ、魂を傷つけることなく生活の豊かさを追い求めることも、不可能ではないのです。■プラトンが伝える“ソクラテス像”ソクラテス研究者として活躍する藤田さんがソクラテスに興味を持ったきっかけは、プラトンの著作だったのだとか。「じつは、ソクラテスは1冊も本を書いていません。私たちが知ることのできるソクラテスとは、おもに“プラトンの本に登場するソクラテス”のことです。プラトンの著作『パイドン』は、裁判で死刑判決を受けたソクラテスが最後の一日に友人たちと哲学の対話をするというフィクションですが、そのソクラテスのかっこよさに完全にノックアウトされてしまいました。誰もが心の中にヒーローを持つものだと思いますが、私にとってのヒーローはソクラテスで、そのソクラテス像をつくったのが『パイドン』でした」著書『ソクラテスに聞いてみた』は、現代の若者とソクラテスを名乗る老人とのやりとりを描いたフィクション。気軽にソクラテスの哲学のエッセンスに触れることができます。本書をきっかけにソクラテスに興味を持った人へのおすすめの哲学書を伺うと「プラトンの『ゴルギアス』がおすすめです」と藤田さん。「ゴルギアスというのは当時の有名な知識人の名前で、プラトンの『ゴルギアス』には、このゴルギアスをはじめ、3人の知識人が順番に登場して、主人公のソクラテスとガチンコ対決をします。とくに、最後に登場するカリクレスというキャラクターが強烈で、“哲学なんてなんの役にも立たない”とか、日本の財界のお偉いさんみたいなことをいうんです(笑)。このカリクレスとソクラテスの対話が本当におもしろいんですね。プラトンの本は難しい哲学用語がなくて誰にでも読めるものです。ぜひ本家本元のプラトンの本も読んでみてほしいと思います」*とっつきにくいと敬遠されがちな哲学ですが、本来は“よりよい人生”を考えるためのもの。『ソクラテスに聞いてみた』を入り口に、よりよい人生について、豊かさと幸せについて考えてみませんか?(文/よりみちこ) 【取材協力】※藤田大雪・・・1980年京都府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程を修了。日本学術振興会特別研究員、京都大学非常勤講師、大阪体育大学 学習支援室主任を経て、現在は京都光華女子大学キャリア形成学部専任講師。専門は古代ギリシア哲学。博士(文学)。主な論文に「プラトン『パイドン』における自然学批判について」(『西洋古典学研究』2011年)、訳書に『ソクラテスの弁明』『クリトン』『大ヒッピアス―美について』(いずれもkindle版)。 【参考】※藤田大雪(2016)『ソクラテスに聞いてみた人生を自分のものにするための5つの対話』日本実業出版社※平成26年分 民間給与実態統計調査―国税庁
2016年04月15日順天堂大学は4月6日、悪性リンパ腫細胞や成人T細胞白血病細胞を今まで知られている仕組みとは異なった機序で死滅させる抗体を樹立したと発表した。同成果は、順天堂大学 医学部 病理・腫瘍学講座 松岡周二助教、理化学研究所 統合生命医科学研究センター ワクチンデザイン研究チーム 石井保之チームリーダーらの研究グループによるもので、3月31日付けの米科学誌「PLOS ONE」に掲載された。B細胞リンパ腫や成人T細胞白血病において有意な治療効果を示す抗体医薬はこれまでにも開発されているが、一部の効果がみられない患者や、一度寛解しても標的分子を欠失した耐性株が出現し再発する患者も多いという問題があった。同研究グループは今回、通常行われているように標的分子のペプチドを免疫したり、1種の悪性リンパ腫で免疫したりするのではなく、複数の悪性リンパ腫で免疫したマウスの抗体産生細胞を用いて融合細胞を作製し、悪性リンパ腫細胞への細胞傷害活性を指標にスクリーニングした。この結果、複数の分子(HLAクラスII分子群のDP、DQ、DR)に結合し、多くの悪性リンパ腫に傷害活性を有する抗体「4713モノクローナル抗体(mAb4713)」を得た。同抗体は、短時間で巨大な穴を血液がん細胞に直接あけるという作用をもっており、同抗体を注射することにより、悪性リンパ腫細胞を移植したマウスの生存を有意に延長したという。さらに正常な細胞に対しては傷害活性がないことも確認している。同研究グループは、今までの抗がん剤や分子標的薬で治療できなかった患者や再発した患者に対し、効果的な治療薬の開発が見込まれるとしている。
2016年04月07日【ママからのご相談】もうすぐ幼稚園に入園する娘がおります。子どもの食物アレルギーについて心配があります。これまでは食物アレルギーの傾向はなく、離乳食も順調に進められました。入園予定の幼稚園では毎日給食です。今までは大丈夫だったのに、 急にアレルギーを発症することもまれにあると聞き、心配になっています。母としてどのようなことに注意していけばいいのでしょうか?●A. 子どもの食物アレルギーについては、3つの重要ポイントがあります。ご相談ありがとうございます。ママライターのあしださきです。食物アレルギーについて、漠然とした不安を持ちつつ入園を迎えるというのは気がかりですよね。「給食で急にわが子がアレルギーを発症したらどうしよう」というご心配、とてもよく分かります。私自身がそうなのですが、食物アレルギーという言葉は知っていても、実は詳しく教えてもらったことはない というのが漠然とした心配の理由かもしれません。そこで今回は、そんなママが押さえておくべき3つのポイントをご紹介いたします。●子どもの食物アレルギーは乳幼児期に多く発症する食物アレルギーは子どもに多く見られるのが特徴である、というのはよく知られています。具体的には6歳以下の乳幼児が患者数の80%近くを占め、1歳に満たない子どもでは10〜20人に1人の割合で発症 しています。なぜ子どもに多く発症するのか。子どもに食物アレルギーが多いのは、成長段階で消化機能が未熟であるからで、アレルゲンであるタンパク質を小さく分解(消化)できないのがひとつの要因として考えられています。そのため、成長するにともなって消化吸収能力が発達し、原因食物に対する耐性が付く可能性が高いのです。ですから、1歳の時点で食物アレルギーと診断されても、約9割の患者さんが遅くとも小学校入学時までに自然寛解する と言われています。ご相談者様のお子さんは、離乳食も順調に進めることができたということでした。厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの診療の手引き2014」に詳しい調査結果が示されています。調査によると年齢別の原因食物の内訳は、2〜3歳では鶏卵が1位で29.0%、2位が牛乳で25.6%、以下小麦10.0%、魚卵7.4%となっています。これらの食材に関しては離乳食で食べても問題なく、その後も現在までアレルギー症状が出ないということであれば、幼稚園の入園後に給食でこれらの食材を食べることへの心配はあまりされなくてもいいと思います。●新たなアレルゲンとの出会いに注意〜年齢による原因食物の違い〜アレルギーの原因食物は年齢により異なり、乳児では鶏卵、牛乳、小麦が多く、学童期以降では甲殻類、果物類、小麦が多くなるということをご存じでしょうか。このように、入園前までは鶏卵や牛乳、小麦といったアレルゲンへの心配を主にしますが、幼児期に入ると食べ物の幅も広がりますので、新たなアレルゲンとの遭遇が気になります。子どもたちが新たに出会う食材の中でアレルギーが心配されるのは、エビ、カニ、ピーナッツ、そば、イクラなどが一般的に有名です。世の中のママたちは情報が豊富な環境で子育てをしており、「この食材は危ない」という知識がたくさんあるのですが、逆にそれが仇となっているということもあります。アレルギー反応を引き起こす危険がある食材は、家庭で積極的には子どもに与えない傾向があるというのが問題なのだ という専門家の指摘があります。つまり、幼稚園入園前に家庭でこれらの食材を食べる機会がなかったお子さんが、給食で初めて食べることになるということがご相談者様のような心配の原因にもなってしまいます。そこで、給食が始まる前にさまざまな食材を家庭で食べるということが、その心配を解消するひとつの方法でもあると言えると思います。もちろん、すでにアレルギーの診断を受けているお子さんの場合は、必ず医師の指導のもとで慎重に行う必要があります。●口腔アレルギー症候群前出の「食物アレルギーの診療の手引き2014」の中に、年齢別新規発症例の内訳が示されています。4〜6歳の子どもの新規発症例1位は果物で16.5%となっていますが、この調査は非常に興味深い結果を表していると思います。食物アレルギーはタイプにより大きく4つに分けられますが、その中のひとつである“特殊型”に分類されるのが『口腔アレルギー症候群 』というものです。どんな症状なのか?果物や野菜を食べた直後に口の中がイガイガしたり、口の中が腫れたりする症状が特徴的です。その他、花粉症の症状に似たくしゃみや目のかゆみなどもあります。果物や野菜の中には花粉症の原因となる物質と同じものが含まれる場合があり、それらを食べると花粉と同じ抗原だと勘違いしてアレルギー反応が出ることがあるそうです。症状がひどい場合、吐き気や腹痛、喘息のある人だと呼吸困難を起こし、いわゆるアナフィラキシー状態でショック死することもある そうです。口腔アレルギー症候群に特に注意しなくてはならないのは、大人はもちろんのこと、近年増えてきている子どもの花粉症です。4〜6歳の新規発症例の1位が「果物」ということからも、ご相談者様のお子さんがこれからの幼稚園の給食で気をつけるべき食材のひとつに果物を覚えておいていただくといいのではないでしょうか。----------いかがでしたか?今回のコラムで触れた食物アレルギーについての知識を上手に活用して、ご家庭や幼稚園での食生活の心配を少しずつ解消していってくださいね。お子さんとママにとって、楽しい幼稚園生活になりますように!【参考文献】・公益財団法人母子健康協会 機関誌『ふたば』No.74(2010)【参考リンク】・食物アレルギーってなあに? | ファイザー()・食物アレルギーの診療の手引き2014 | 厚生労働科学研究班(PDF)(’%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E9%A3%9F%E7%89%A9%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC+%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E9%A3%9F%E6%9D%90’)●ライター/あしださき(元モデル)
2016年04月04日NECと大阪大学は4月4日、大阪大学の吹田キャンパス内に「NECブレインインスパイヤードコンピューティング協働研究所」(以下、協働研究所)を本年4月1日に開設し、脳科学の研究に基づく新しいコンピューティング(脳型コンピューティング)技術に関する共同研究を開始した。両者は研究所の開設により情報通信研究機構の脳情報通信融合研究センター、理化学研究所の生命システム研究センターと連携強化を通じ、新しい情報通信産業を創出する「脳情報科学活用型」産業イノベーション拠点を構築する。近年、少子高齢化による労働力不足の深刻化と、IoT(Internet of Things)のさらなる拡大によるデータ量の爆発的増加がグローバル規模で進む中、これからのICT技術には省エネルギー性と柔軟な適応性に優れた人と地球にやさしい、新しいコンピューティングの発想が求められている。協働研究所では、脳が持つ優れた環境適応力、認識力、判断力、ならびに高効率な消費電力性など、脳の特性に学ぶ新しい情報処理技術として脳型コンピューティングの研究を開始する。この考え方のもと、NECと大阪大学が協働し、情報科学、脳科学の最先端の知見を融合することで、新しい脳型コンピューティングシステム(Brain-Inspired Computing System)の実現を図る。さらに、協働研究所では、これらのイノベーション活動を支え、学術・産業の両面で事業化を推進する人材(アントレプレナ)の育成に中長期的な視点で取り組む。これまでNECは、大阪大学と情報通信研究機構の共同による脳情報通信融合研究センター、ならびに、分子レベルでの動態シミュレーションにおいて世界的にみてもトップクラスの理化学研究所の生命システム研究センターと個別に共同研究を進めてきたが、その連携をさらに強化していく体制が整った。研究所長は大阪大学大学院 特任教授の柳田敏雄氏、副研究所長は大阪大学大学院情報科学研究科 教授の村田正幸氏、NEC 主席技術主幹の加納敏行氏の2人、人員は3人を含め、計12名(2016年4月1日時点)。
2016年04月04日理化学研究所(理研)、オーガンテクノロジーズ、北里大学は4月2日、マウスiPS細胞から、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ「皮膚器官系」を再生する技術を開発したと発表した。同成果は、理研 多細胞システム形成研究センター 器官誘導研究チーム 辻孝チームリーダー、オーガンテクノロジーズ 杉村泰宏社長、北里大学 医学部 武田啓主任教授、佐藤明男特任教授、東北大学大学院 歯学研究科 江草宏教授らの研究グループによるもので、4月1日付けの米科学誌「Science Advances」に掲載された。皮膚には、皮膚付属器として毛包や皮脂腺、汗腺などの複数の器官が一定の規則性を持って配置されており、体の中で最も大きく複雑な器官系である。皮膚に関わる疾患は、外傷や熱傷、先天性乏毛症、脱毛症、分泌腺異常など数多く知られているが、皮膚器官系が複雑なために皮膚の完全な再生はいまだ実現していない。同研究グループは今回、皮膚疾患に対する新たな再生治療法の確立に向け「Clustering-Dependent embryoid Body:CDB法」を開発した。CDB法は、マウス歯肉の細胞から樹立したiPS細胞株を、1週間低接着培養することにより胚葉体(EB)と呼ばれる凝集塊を形成。コラーゲンゲル内に30個以上のEBを立体的に配置したものを免疫不全マウスの腎皮膜下に移植するというもの。移植されたEBは、移植30日後にはテラトーマ様の組織を形成していた。この移植物を組織学的に解析したところ、移植物は外胚葉や内胚葉性の上皮組織からなる空洞構造(嚢胞)を多数持っており、これは、iPS細胞単独移植や単一のEBを移植した場合と比較して、約4倍の上皮組織からなっていたという。同上皮組織をより詳しく解析すると、移植物の上皮組織の一部に、天然の皮膚と同等の組織構造が形成され、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ皮膚器官系が再生されていることがわかった。この皮膚器官系には、毛穴を介して毛幹が萌出している様子も観察されたという。これら再生皮膚器官系に含まれる付属器官の組織構造を詳しく解析したところ、毛包器官内に毛包上皮性幹細胞や毛乳頭細胞が正常に再生され、毛包に付随する立毛筋も適切な位置に配置されていることがわかった。また再生皮膚器官系が正常な機能を持つかどうかを解析するため、再生皮膚器官系から毛包を10~20本含む全層組織をひとつの再生皮膚器官系ユニットとして外科的に分離し、ヌードマウスの皮下へ移植した結果、移植した再生皮膚器官系は、移植されたヌードマウス(レシピエント)に生着し、少なくとも3カ月にわたりがん化することはなかったという。移植14日後には、再生毛がレシピエントの皮膚表面より萌出し、その後、天然毛と同様に成長していく様子が観察された。この再生毛は、iPS細胞に由来することが実験で確認されている。なお、マウスの体毛はおよそ20日間という一定の毛周期で生え替わるが、再生毛包の毛周期を解析したところ、マウスの天然の体毛と同様に約20日間の毛周期で生え替わることが明らかとなり、機能的な毛包再生が可能であることも示されている。同研究グループは今回の研究について、将来、皮膚の重度の外傷や熱傷などの完全な再生を可能にするとともに、先天性乏毛症などの深刻な脱毛症や皮膚付属器に関する疾患の再生治癒につながることが期待できるとしている。
2016年04月04日自分の本命星に基づいた、いい方位へ旅に出る。それだけでさまざまな運が大きく開く“方位学”。吉方旅行の6つのポイントを守りながら、いざ出発。あなたの吉方位で催されるお祭りやイベントもチェックして!“開運のコツ”はどの本命星の人も一緒。「紹介している6つを実践すれば、もたらされる幸運の量が上がります」と手相家、方位学研究家・西谷泰人さん。さぁ、この春から夏の旅の計画を立てよう!■Trip for good luck1:移動距離が遠いほど開運効果が高い。吉方旅行の基本は、自宅を起点にそこからの移動距離が100km以上であること。「そして、自宅からの距離が遠くなればなるほど、比例して幸運を引き寄せる効果が上がります。行けるなら、思い切り遠くに行きましょう!帰ってきてから1年間、大きなツキに恵まれます」■Trip for good luck2:理想は3 泊4日。できないときはより遠くへ。吉方旅行によってもたらされる幸運の量は、距離×滞在期間で決まります。「体に吉方位のパワーを定着させるには、滞在期間は現地3泊以上が基本です。どうしても3泊できないときは、なるべく遠くに出かけることで、近場の3泊と同じか、それ以上の効果が期待できます」■Trip for good luck3:1泊目は22時40分までに部屋に入る。初日は楽しくて、ホテルに帰るのが遅くなることも。でもそれは絶対ダメ!「方位学の暦では、23時前後で日付が変わる。その時間を越えると、行程上は3泊でも、方位学的には2泊になってしまうので、ご注意を!初日の夜は早めに部屋に帰りましょう」■Trip for good luck4:毎日必ずお風呂に入る。できれば温泉へ!開運効果アップには、その土地の“気”を含んだ水に体を浸すことが大事。「なので、お風呂には積極的に入ること。それが温泉なら、大地のパワーがたっぷり入っているので、なお良し。また吉方位で採取されたミネラルウォーターなどを飲むことも、とっても良いですよ」■Trip for good luck5:泊まる場所が吉方位なら、観光地はズレてもいい。行きたい観光地があるけれど、微妙に自分の吉方位とズレてる…。「そのときは、ホテルなど宿泊先を家から見て吉方位にすればOK。好きな場所で遊び、吉方位に泊まり、お風呂に入る。そんな旅行を計画しましょう。とにかく寝る場所が吉方位なら、大丈夫です」■Trip for good luck6:今年4~8月の大凶方位、東北と西南は避ける。9つの本命星ごと、月々の吉方位は違います。しかしどの星にとっても大凶方位になる場所が存在。それは東北と西南。「凶方位に行くと失敗に見舞われたり、災難に見舞われたり、ジリジリ不幸になったりと、良くない影響が表れます。旅行先としては、避けたい方位です!」◇にしたに・やすと手相家、方位学研究家。『すぐに使える実践方位学』(SOBUN)ほか、著書も多数。WEBで吉方位検索も。※『anan』2016年4月6日号より。イラスト・いぬんこ
2016年04月03日宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月31日、金星探査機「あかつき」の試験観測について、中間報告を行った。あかつきは2015年12月7日に金星に到着。4月からの定常観測に向け、これまで試験観測を行ってきた。あかつきの観測機器の状態は良好ということで、まだ試験観測ながら、興味深い成果が得られつつある。あかつきは金星到着後、12月20日に軌道修正を実施し、現在、遠金点36万km、近金点1,000~10,000km、周期10.5日の軌道を周回している。今後、大きな軌道修正は予定しておらず、定常観測も、この軌道のまま行う計画だ。搭載した観測機器は、順次立ち上げを実施しており、現時点で概ね順調だという。あかつきの設計寿命は4年半。金星周回軌道への投入失敗があったため、観測の開始が5年も遅れてしまったが、これまでのところ、特に故障は見つかっていない。放射線による劣化が予想より低かった理由について、JAXAの中村正人・あかつきプロジェクトマネージャは、「この5年間、太陽活動が低下していたせいでは」と推測する。当初の計画よりも遠金点が高い軌道であるため、観測画像の解像度が低下する時間帯が長いものの、これはあまり大きな支障とはならないようだ。ミッション達成度を示すサクセスクライテリアにおいて、すでにミニマムサクセスを達成。フルサクセスには2年間の観測が必要なため、しばらく時間がかかるものの、試験観測を始める前に比べると、達成できる可能性は「高まったと思う」と中村プロマネ。エクストラサクセスについても、「いけるんじゃないか」との見通しを示した。現在の燃料の残量は3kg(最大7kgの可能性も)。今後、軌道制御に1kg、姿勢制御に1kg使い、残りの1kgは予備としておき、5年間観測できる可能性があるという。前回の失敗で、一時は金星観測の実現すら危ぶまれていた。もちろんまだ楽観はできないものの、ここまで状況を持ち直したことには驚くほかない。あかつき搭載の観測機器の状況については、それぞれ担当者から説明があった。「1μmカメラ(IR1)」については、東京大学の岩上直幹教授が説明した。IR1は、すでに金星の昼側と夜側の撮影に成功。昼側の観測では、金星最大の謎であるスーパーローテーションを観測するが、撮影データを画像処理すると凹凸が良く見えており、問題なく下層大気の雲の追跡ができそうだという。一方、夜側の観測では、地上付近の水蒸気を観測することが主目的であったが、実際に観測されたデータを調べてみると、主に地形が見えていることが分かった。このデータから、地表面の鉱物組成が分かると期待されている。金星に火山があるのかないのか議論されているが、IR1の観測により、この議論に決着を付ける可能性もあるとか。「2μmカメラ(IR2)」については、JAXA宇宙科学研究所の佐藤毅彦教授が説明した。IR2はスターリング式の冷凍機で検出器を冷やす必要があるが、経年劣化のため、最初はなかなかうまく冷却できなかったという。その点には苦労したものの、最近になってようやく解決、昼側も夜側も撮影できるようになったそうだ。夜側の観測では、下層からの熱放射により、雲の濃淡がシルエットのように浮かび上がる。実際に撮影した画像には、南北に広がりを持つ巨大な雲の塊が見えている。昼側の撮影では、緯度50°より高緯度側で劇的に雲の高さが変わっており、複雑な構造があることが分かった。これらは今まで、よく知られていなかったことだという。「中間赤外カメラ(LIR)」については、立教大学の田口真教授が説明した。LIRは雲自身からの熱放射を撮影するため、昼側も夜側も同じように、雲頂の温度を観測することができる。すでに定常観測に近い連続的な撮影も行っており、これまでに数10枚もの画像を取得したとのこと。LIRでは、金星到着直後に撮影された、弓状の模様が写っている画像が大きな話題となった。この大きな構造はその後4日間に渡り観測されたものの、その後は見つかっていない。何か突発的な現象だったと見られているが、そのメカニズムについては現在検討中とのことだ。「紫外イメージャ(UVI)」については、JAXA宇宙科学研究所の山﨑敦助教が説明した。UVIは雲頂で反射された太陽紫外線を観測するため、昼側でのみ使用する。これまであかつきは夜側の軌道であったため、ほとんど撮影チャンスが無かったとのことだが、4月以降は昼側の軌道になるため、本格的な観測が開始できる見込み。紫外線は、雲に含まれる吸収物質の量により反射光の明るさが変わるため、その濃度の違いによる模様が表れ、これを追うことで、雲の速度を算出することができる。紫外線観測はこれまで、他国の金星探査機でも行われてきたが、あかつきでは違う波長域も使った観測を行い、雲の成因にも迫っていくという。「雷・大気光カメラ(LAC)」については、北海道大学の高橋幸弘教授が説明した。LACはあかつきの観測機器の中で唯一高圧電源を使っているため、10日に1回、1時間程度しかない日陰時に運用が限られている。現在、慎重に電圧を上げていく運用を行っているところで、本格観測の開始は6月あたりになる見通しだ。「金星にも雷はあるのか?」というのは、30年以上も続く大論争。未だに決着が付いていないのは、これまで雷専用のカメラが無く、ノイズと雷の区別が難しかったためだが、LACは1秒間に3万回も計測することで、時間変化から両者を区別することが可能だ。あかつきでこの長年に渡る論争に決着が付けられるか、期待されている。「超高安定発振器(USO)」を使った電波掩蔽(えんぺい)観測については、JAXA宇宙科学研究所の今村剛准教授が説明した。あかつきが金星の背後に隠れるときに電波を出せば、電波は金星大気の中を通って地球に届く。この電波の周波数と強度の変化から、大気の高度方向の構造を調べることができる。電波源として搭載されているのがUSOであるが、周波数安定度が劣化していないことを確認。試験観測を、3月4日と3月25日に実施した。周波数の時間変化から気温の高度変化を算出したところ、複雑な層構造が存在することが分かった。今後、他のカメラで得られた水平方向の情報を補完する役割が期待されている。
2016年04月01日国立遺伝学研究所(遺伝研)は3月25日、ヒト培養細胞で特定のタンパク質を素早く分解除去する方法を開発したと発表した。同成果は、同研究所 新分野創造センター 分子機能研究室 鐘巻将人准教授らの研究グループによるもので、3月24日付けの米科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。タンパク質の機能を理解するためには、特定のタンパク質が消失した際の影響を観察することが有効であり、従来は短鎖干渉RNA(siRNA)を利用しタンパク質の発現を抑制することが多かった。しかし同手法では、タンパク質の消失に数日の時間を要するという問題がある。また、近年開発されたCRISPR/Casを利用した遺伝子ノックアウト細胞も使われるようになってきたが、細胞の中には約10%ほどノックアウトできない「必須遺伝子」が存在するため、現在の技術では機能の解明が難しいタンパク質が数多くあるといえる。そこで同研究グループは2009年に、植物細胞が持つオーキシン依存的タンパク質分解の仕組みをヒト培養細胞に移して、任意のタンパク質をオーキシン添加時に消失させる「オーキシンデグロン(AID)法」を開発している。AID法は、目的とするタンパク質を1時間程度で消失できることに加え、可逆的にタンパク質の「ある」「なし」を制御できることが特徴だが、同方法を行うためには、標的タンパク質の情報を持つ遺伝子を人為的に改変し、目印となる"分解タグ"の情報を持つDNA配列を導入する必要があった。そこで今回、同研究グループは、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas法を応用して分解タグを簡便に導入する技術の開発に成功し、これらの技術を組み合わせることにより、任意のタンパク質の「ある」「なし」を自在に制御できる技術「AID変異細胞の作成法」を完成させた。またこのタグを導入する技術を利用して、蛍光タンパクタグなども任意の遺伝子に導入することが可能になった。これにより、マウスなどのモデル生物でしかできなかった精緻な遺伝学研究が、ヒト細胞でも行うことができるようになる。同研究グループは、同技術により今後、がん細胞を含めたヒト細胞におけるさまざまな仕組みが解明されることが期待できるとしており、またマウスES細胞への技術応用も進めているという。
2016年03月25日東北大学(東北大)は3月23日、低コストな高品質単結晶シリコンの製造方法を開発したと発表した。同成果は、東北大学 金属材料研究所 結晶物理学研究部門 藤原航三教授、結晶材料化学研究部門 宇田聡教授、FTB研究所、産業技術総合研究所、福島再生可能エネルギー研究所 再生可能エネルギー研究センター 太陽光チーム 福田哲生招へい研究員、高遠秀尚チーム長らの研究グループによるもので、3月19日~22日に東京工業大学で行われた「第63回応用物理学会 春季学術講演会」で発表された。単結晶シリコンの製造法であるCZ法は、石英ガラス製の円形るつぼで原料シリコンを融かしてシリコン融液とし、あらかじめ準備した細い棒状の単結晶をその表面に浸漬し連続的に上方へ引き上げることによって行うというものだが、シリコン融液は非常に活性であるため、接触した石英るつぼ壁を溶かし出してしまい、また融液は熱対流を起こしており、これが石英るつぼの溶解を加速させる。石英るつぼには酸素や重金属などの不純物が含まれるので、高品質の単結晶シリコンを製造するには、石英るつぼの溶解を抑制して不純物を減らした融液にする必要がある。従来の高品質化技術として、石英るつぼの外部から磁場を作用させて対流を抑止するMCZ法が知られているが、超伝導磁石の設備が必要なため、コストダウンを強く求められる太陽電池用には不向きであった。今回、同研究グループは、磁場を作用させることなく、るつぼ内壁の表層シリコン融液をはじく特殊な処理を行った「溌液るつぼ」を用い、CZ法で溌液性が最も効果的に発現される結晶製造方法(LCZ法)を確立。これを用いて実用サイズの直径200mmの単結晶シリコンを製造することに成功した。同技術は磁場を用いることなく通常のCZ法でるつぼの溶解を抑止するので、より安価で高品質の単結晶シリコンを製造できるというメリットがある。同研究グループは、LCZ法を用いることで、新規の投資をほとんどせずに石英るつぼと結晶成長条件を変更するだけで高品質の単結晶シリコンが得られるため、現在の標準型太陽電池の変換効率を向上できるとしており、今後は需要に応じて溌液るつぼの製造設備の拡充を行い、るつぼの低コスト化を図る予定であるという。
2016年03月24日理化学研究所(理研)は3月23日、形に揺らぎのある糖鎖を特定のタンパク質「レクチン」と結合させて固定することにより、折れ曲がった状態の糖鎖構造を原子レベルで可視化することに成功したと発表した。同成果は、理研 グローバル研究クラスタ糖鎖構造生物学研究チーム 山口芳樹チームリーダー、長江雅倫研究員らの研究グループによるもので、3月14日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。糖鎖は主に細胞の表面に存在している生体分子で、その多くは細胞膜に埋め込まれたタンパク質や脂質に結合し、細胞同士や細胞の外から内への情報伝達、タンパク質の品質管理・機能調節など、生体内における重要な役割を果たしている。また、一般に柔軟な構造をしており、ひとつの糖鎖がいくつもの形をとるという"揺らぎ"があることが知られている。しかし糖鎖の形は非常に速い速度で相互に変換しており、糖鎖の個々の形を実験的に正確に捉えることはこれまで困難だった。そこで同研究グループは今回、揺らぎのある糖鎖を特定のレクチンと結合させることにより、揺らぎを止めた状態の糖鎖構造の可視化を試みた。糖鎖のモデルとしては、これまで折れ曲がった構造をとると予想されていた「バイセクト型糖鎖」を採用。レクチンは、バイセクト型糖鎖に結合する互いに無関係な2種類、「Calsepaレクチン」と「E4-PHAレクチン」を使用した。まずバイセクト型糖鎖と各レクチンとの複合体を作製して、X線結晶構造解析を行った結果、どちらのレクチン-糖鎖複合体においても、糖鎖の2本の枝のうちの1本の「1-6アーム」と「1-3アーム」が反対の向きを向いた折れ曲がり構造をしていることがわかった。また、糖鎖の折れ曲がり構造が水溶液中でも存在することを確認するために、溶液NMR法を適用しその立体構造を調べたところ、水溶液中においてもバイセクト型糖鎖はCalsepaレクチンとの結合時に折れ曲がり構造をとることが確認された。同研究グループは今回の成果について、糖鎖とタンパク質の相互作用原理や、糖鎖がタンパク質を調節するメカニズムの理解につながることが期待できるとしている。
2016年03月23日理化学研究所(理研)は3月19日、グラフェンなどで見られる質量ゼロの2次元ディラック電子系において、電子間の相互作用が引き起こす金属から絶縁体への相転移(金属-絶縁体転移)が普遍的な性質を持つことを、スーパーコンピュータ「京」を用いたシミュレーションにより明らかにしたと発表した。同成果は、理研 計算科学研究機構 量子系物質科学研究チーム 柚木清司チームリーダー、大塚雄一研究員、サンドロ・ソレラ客員主管研究員らの研究グループによるもので、3月18日付けの米科学誌「Physical Review X」オンライン版に掲載された。グラフェン中に存在する電子は、質量がゼロのディラック粒子として振舞うことが知られているが、ディラック電子にも普通の電子と同じ電荷やスピンの自由度がある。ディラック電子の集団は、電子が自由に動き回る場合は「半金属」となるが、電荷間に働くクーロン力が強くなると、質量がゼロであったディラック電子が質量を持つようになり「絶縁体」に相が転移する。またそれに伴い、隣り合う電子の間のスピンが逆向きに整列した「反強磁性体」状態になることが知られていたが、これまで電子間相互作用で引き起こされる「金属-絶縁体」の相転移の普遍的な性質についてはわかっていなかった。同研究グループは今回、金属-絶縁体転移が起きる点(臨界点)で物理量が示す特徴的な指数である「臨界指数」を正確に評価するために、質量ゼロのディラック電子系を構成する「ハニカム格子」と「πフラックスを持つ正方格子」の2つの異なる模型に対し、独自に開発した量子モンテカルロ法によるシミュレーションを「京」で実行した。模型の各クラスタの格子点の数をNとして、N=2592の系までシミュレーションを実行したというが、これは先行研究の計算量の約100倍に相当するという。金属-絶縁体転移に伴う反強磁性相の強さを表す秩序変数に対して有限サイズスクリーン解析という解析を行った結果、臨界指数は統計誤差の範囲内で一致することがわかった。次に、金属-絶縁体転移の指標となる準量子重み(相互作用による電子の絶縁体化の度合いを表す量)に対する計算を行った結果、この物理量から得られる別の臨界指数も2つの模型で一致し、「普遍性クラス」が存在することが示された。さらに、普通の電子系では絶縁体化していくにつれて、波としての群速度がゼロとなっていくのに対し、ディラック電子系では有限のままに保たれるという違いがあることも明らかになった。同研究グループは今回の成果について、銅酸化物高温超伝導体やスピン液体などを示す分子性導体といった、ディラック電子を構成しない電子間相互作用が強い系でみられる金属-絶縁体転移を解明する第一歩となると期待できるとしている。
2016年03月23日ある人を見た瞬間、体中に電気が走ったようになり、その人のことを忘れられなくなる…。いわゆる「一目惚れ」は、科学的に説明できる現象なのでしょうか?3つの専門分野からその謎に迫ります。Q.どうして、何も知らない人に一瞬で恋に落ちることが可能なの?■動物行動学研究家・竹内久美子先生の答え。「動物としての私たちは、ある人の持つ遺伝的性質が外に表れたもの=表現型から、その人が子作りのパートナーとして優れているかどうかを判断します。なので、一目惚れはなんら浅はかなことではありません。長く一緒に過ごせるかに関わる、性格や育った環境などは確かに一目ではわかりませんが、良い子孫を残すという生物の目的を達成するために必要な情報は瞬時に手に入るのです」■脳研究者・池谷裕二先生の答え。「本来『好き』に理由はいりません。ただ脳は物語が好きなので、『好きだ』と思ったら後から理屈をつけるんです。そもそも恋愛とはオキシトシンによる盲目的状態で、相手の良いところも悪いところも見えなくなる。相手を知らずに好きになるのはおかしい、という意見こそがおかしいのかもしれませんよ。僕らはただの生物にすぎないのだから、もっと動物的な直観に従っていいと思います」■法政大学文学部心理学科教授・越智啓太先生の答え。「昔は、まずなぜ好きなのかという理由が先にあってから恋をするという考えが強かったのですが、今は『好き』に理由はいらないという説が有力。男女は理由なく直感的に恋に落ち、後から理由付けをするのです。また、初期分化理論という、関係がうまくいくかは恋愛のごく初期段階に決まるという考えが最近は強い。互いを知る時間がなくても、『この人とは続く』という予想は当たるんです」Q.一目惚れはお互いにしていることもある?■動物行動学研究家・竹内久美子先生の答え。「免疫の型の相違のように、生物的な相性が合っての一目惚れなら、互いにしている可能性が高いです。ただ、一目惚れはその相手の遺伝子を自分の子に伝えたくてするものなので、相手が自分よりはるかにハイレベルで優秀な遺伝子を持っていることもあるでしょう。その場合は、相手にとっては自分は特に望ましい遺伝子の持ち主ではないので、残念ながら一方的な一目惚れかもしれませんね」■脳研究者・池谷裕二先生の答え。「脳科学では、視線が感情を作るといわれます。一目惚れをした時、相手を見る目は交感神経の活発化の影響で瞳孔が開き、いわゆる『きらきらした眼』に。見つめられたほうはその視線に誘導されて相手を見つめ返しますが、ここで『あの子を見てしまうのは、気になるからだろう』と脳が説明付けをし始めます。その結果、一目惚れされた人もした側に好意を抱くことがありえます」■法政大学文学部心理学科教授・越智啓太先生の答え。「生物としての相性の合致を一目惚れで判断しているとしたら、相手も自分に相性の良さを感じているはず。ただ、恋愛感情がいつ育つかというと、相手と会っていない一人の時なんです。これを反芻傾向というのですが、これによって実態から離れて相手を理想化することもあります。この反芻傾向には個人差があるので、それによって“惚れ”の程度に差が出ることは考えられます」◇たけうち・くみこ動物行動学研究家、エッセイスト。著書多数。LCラブコスメのHPでのコラム「竹内久美子のLCセクシャル動物行動学」も人気。◇いけがや・ゆうじ脳研究者。東京大学大学院薬学部教授。近著に『自分では気づかない、ココロの盲点完全版』(ブルーバックス)など。◇おち・けいた法政大学文学部心理学科教授。専門は犯罪心理だが、恋愛や魅力に関する研究も精力的に行う。著書に『美人の正体』(実務教育出版)など。※『anan』2016年3月23日号より。イラスト・師岡とおる文・菅野綾子
2016年03月19日一目見ただけでその人のことを好きになる…そんな経験、ありませんか?多くの人が、名前も職業も知っている相手と恋をするのが普通と考えています。そして、一目惚れはイレギュラーな事態だと。でも実は、一目惚れこそが、恋の本来あるべき姿なのかもしれません…!?なぜ一目惚れは起こるのか?その瞬間、人間の体や心では何が起こっているのか?その謎を科学的に探るべく、動物行動学、脳科学、心理学の3つの分野の先生方に話を伺いました。人間そして恋愛がそれぞれの知見から語られるなかで、突然の恋のからくりが見えてきそうです。一目惚れしたことがある人は謎解きの気分で、まだの人は、これから訪れるであろう出会いの手引として読んでみて。Q.一目惚れした時、私たちの中では何が起こっているの?■動物行動学研究家・竹内久美子先生の答え。「動物行動学の要は、生物はある個体が持っている性質は外見に表れるので、それを手掛かりに伴侶を選ぶという考え方。相手が優秀な遺伝子の持ち主であること、生存確率の高い子供が作れることを一瞬で判断した状態が一目惚れといえるでしょう。とりわけ動物にとって重要なのが、免疫力。体臭を瞬時に嗅ぎ、臭くなければ、臭いの元となる菌を抑えられるほど免疫力が高いと判断されます」■脳研究者・池谷裕二先生の答え。「一目惚れを導く直観とは、経験の蓄積によって形成された神経回路のこと。扁桃体という部分が瞬時の判断を司り、心に響く人を見つけたらオキシトシンが放出され、それがドーパミンの分泌を促す。ドーパミンは恍惚感を引き起こし、相手の印象を強く脳に残します。実はオキシトシンとは本来子供に愛情を注ぐためのホルモンで、人間はこのホルモンを使い回すことで、恋愛しているんです」■法政大学文学部心理学科教授・越智啓太先生の答え。「自身の経験と学習による好みにその人が合致しているか…私たちはこれらをいつもチェックしていて、ある時誰かが総合的な高得点をたたき出すんです。また、異性を見る時には外見と行動の2つの観点があるという研究結果があります。人は、顔や体型などの外見に惹かれるほか、性格が表れるしぐさや行動を見て相手の魅力を判断します。この2つの要素で一目惚れが起こると考えられます」Q.いわゆる「好みのタイプ」に一目惚れするもの?■動物行動学研究家・竹内久美子先生の答え。「先天的な相性を好みだとすれば、イエスです。たとえば免疫の型が違う伴侶は子の免疫のバリエーションが増えるので得だと考えられ、実際、自分と異なる免疫の型を持つ異性の体臭を好ましく思うという実験結果も。また、自分と似た人を好きになる現象はアソータティヴメイティングといわれます。外見や学力などが似たカップルのほうが、生存戦略が子に手堅く受け継がれるからです」■脳研究者・池谷裕二先生の答え。「人の脳では、3歳までに神経細胞の大部分が整理され、本質的な好みもその時に形成されます。本来恋は『好み』の人にするもの。ただ、脳は自分に嘘をつきます。私たちは、社会的な理想の自分像を持っていて、それに合わせて自分の好みを認識しがち。なので、自分でも気づいていない本質的な好みの要素を持つ人に、『好みじゃないのに』と思いながら恋することは十分ありえます」■法政大学文学部心理学科教授・越智啓太先生の答え。「最近は、恋愛の好みはある程度後天的に形成されるという考えが主流。人は経験から、自分に快を与える相手の特徴を学習します。幸せな体験をしたら、その時に一緒にいた人の特徴を、幸せという快感情と結びつけ、次からはその人と似た人を見ると勝手にときめいてしまう可能性が。これをレスポンデント条件づけといいます。一目惚れを学習の帰結としたら、好みの人にしやすいのでは」◇たけうち・くみこ動物行動学研究家、エッセイスト。著書多数。LCラブコスメのHPでのコラム「竹内久美子のLCセクシャル動物行動学」も人気。◇いけがや・ゆうじ脳研究者。東京大学大学院薬学部教授。近著に『自分では気づかない、ココロの盲点完全版』(ブル ーバックス)など。◇おち・けいた法政大学文学部心理学科教授。専門は犯罪心理だが、恋愛や魅力に関する研究も精力的に行う。著書に『美人の正体』(実務教育出版)など。※『anan』2016年3月23日号より。イラスト・師岡とおる文・菅野綾子
2016年03月19日東京大学は3月16日、東京大学分子細胞生物学研究所の中村勉講師らの研究グループが、ヤコブセン症候群患者が発症する自閉症の原因は、脳の神経細胞の活動を抑えるGABA受容体の運搬に関与するたんぱく質「PX-RICS」だと特定したと発表した。今後、自閉症の新薬の開発につながる期待が持てるという。自閉症は発達障害の一つ。厚生労働省によると、発達障害にはアスペルガー症候群や注意欠如・多動性障害(ADHD)などもあり、自閉症は80~100人に1人の割合で発症すると言われている。「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「限定的な興味や強いこだわり」などの症状を特徴とする。「社会認知機能」と呼ばれる他者の心情を推し量ったり、他者に共感したりする脳の機能の障害が自閉症の原因であると考えられているが、発症の詳しい仕組みはこれまでにわかっていなかった。研究グループは大脳皮質や海馬など、脳の認知機能に関連する領域の神経細胞に豊富に発現しているたんぱく質・PX-RICSを同定し、その遺伝子を欠損するマウスを作製した。そのマウスは外見的には正常だったが、他のマウスに対する興味が少ないことを確認。具体的には、「他のマウスに対する反応や超音波域の鳴き声を使った母子コミュニケーションが少ない」「反復行動が正常なマウスよりも多い」「習慣への強いこだわりを持つ」など、自閉症の症状に特徴的な行動異常を示していたという。さらに解析を進めたところ、PX-RICS遺伝子が「ヤコブセン症候群」(11番染色体長腕末端部の欠失に起因する先天異常疾患)患者の半数以上が発症する自閉症の原因となる遺伝子であると特定できたとのこと。中村講師はこの結果を受け、「今回、私たちはGABA受容体の輸送が自閉症の発症に関係することを明らかにしました。この輸送メカニズムを標的とした薬剤を開発するなど、今回の成果は自閉症の新たな治療戦略へ貢献できる可能性があります」とコメントしている。
2016年03月17日理化学研究所(理研)は3月17日、アルツハイマー病モデルマウスの失われた記憶の復元に成功したと発表した。同成果は、理研 脳科学総合研究センター 理研-MIT神経回路遺伝学研究センター 利根川進センター長、マサチューセッツ工科大学 博士課程 ディーラジ・ロイ氏らの研究グループによるもので、3月16日付けの英国科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。アルツハイマー病(AD)では、海馬およびその周辺で神経細胞の変性が始まることから、海馬の働きの異常がAD初期の記憶障害を引き起こしている可能性が指摘されていた。しかし記憶障害は、記憶を新しく形成できないために起こるのか、それとも形成された記憶を正しく思い出せないため起こるのか、そのメカニズムは不明となっていた。同研究グループはこれまでに、光感受性タンパク質を特定の神経細胞群に発現させ、その神経細胞群に局所的に光を当てて活性化/抑制する技術「光遺伝学」を用い、海馬の「記憶エングラム」と呼ばれる細胞群に個々の記憶の痕跡が物理的に保存されることを証明している。今回、同研究グループは、ヒトのAD患者由来の遺伝子変異が導入されたADマウスを用い、記憶エングラムがどうなっているのかを直接調べることにした。普通のマウスを実験箱Aの中に入れ弱い電流を脚に流すと、マウスはこの嫌な体験の記憶を形成し、翌日同じ箱Aに入れられるとその記憶を思い出して"すくむ"。一方、7カ月齢のADマウスは、嫌な体験をしてから1時間以内であれば箱A内ですくむが、翌日になるとすくまなくなる。つまり、ADマウスは、嫌な体験の記憶を作ることはできるが、24時間後にそれを想起することができなくなっていると考えられる。そこで同研究グループは、神経が活動するとその発現が誘導される遺伝子の調節領域と標識する期間を限定させることができるTet-offシステムを用いて、ADマウスが箱Aで嫌な体験をしている最中に活動した記憶エングラム細胞において、光感受性タンパク質遺伝子ChR2が発現するよう標識。嫌な体験の翌日、箱Aに入れてADマウスがすくまないことを確認してから、別の実験箱Bに入れ、標識したエングラム細胞群を青色光により活性化すると、ADマウスはすくんだという。これは、ADマウスにおいても記憶エングラムは形成されているが、その記憶エングラムを正しく想起できないことから記憶障害が引き起こされている可能性を示唆している。同研究グループはさらに、このADマウスにおける記憶想起の障害が、神経細胞同士をつなぐシナプスが形成されるスパインという構造の減少と関連していることを突き止めた。シナプスは何度も刺激されると増強されてスパインも増えるため、同研究グループは、シナプスを増強することでADマウスの記憶想起の障害を回復させられるのではないかと考えた。そこで、もともと嫌な記憶と結びついていた実験箱Aに入れながら、標識しておいたADマウスの記憶エングラムへの入力を青色光によって人為的に何度も活性化させ、シナプス増強を起こしたところ、シナプスを増強したADマウスは、2日後に箱Aに入れられると、箱Aという自然な手がかりだけで嫌な記憶を思い出してすくむようになったという。利根川センター長は今回の成果について、「少なくとも、AD病初期の患者の記憶は失われているのではなく、思い出すことができないだけなのかもしれないのです。初期の患者には記憶を保持する細胞が維持されているというのであれば、将来、これらの細胞から記憶を取り出す技術が開発されれば、障害を軽減できるかもしれません」とコメントしている。
2016年03月17日理化学研究所(理研)は3月16日、スーパーコンピュータ「京」を利用した高精度電子状態計算により、C60フラーレン分子および高次フラーレン分子の生成熱を世界最高の精度で理論予測したと発表した。同成果は、理研 計算科学研究機構 平尾計算化学研究ユニット 平尾公彦 研究ユニットリーダー、量子系分子科学研究チーム 中嶋隆人 チームリーダー、シドニー大学 化学科 ブン・チャン リサーチフェローら研究グループによるもので、米国科学誌「Journal of American Chemical Society」の2月3日号に掲載された。生成熱は、物質を構成する単体から化合物1molを合成する反応に伴う反応熱(kJ/mol)のことで、分子中の原子同士の結合の強さなど基本的な物性の指標となる。しかし、フラーレン分子の生成熱は、実験での測定誤差が大きく正確な測定が困難であり、また高精度電子状態計算によって理論的に算出する場合、計算コストが高く莫大な時間を要するため、これまで正確な値は明らかになっていなかった。今回、同研究グループは、スーパーコンピュータ「京」と分子科学計算ソフトウェア「NTChem」を組み合わせ、C60フラーレン分子と高次フラーレン分子C70、C76、C78、C84、C90、C96、C180、C240、C320の合計10種類を対象に、世界最大規模の高精度な電子状態計算を実施。この結果、これら10種類のフラーレン分子の生成熱を高精度に理論予測することに成功した。C60フラーレン分子の生成熱は2520.0 ± 20.7 kJ/mol、C70フラーレン分子の生成熱は2683.4 ± 17.7 kJ/molと予測されている。また得られた知見から「より大きなフラーレン分子の生成熱を算出する一般的な計算式」を導出。計算によって得られる限りなく大きなフラーレン分子の生成熱は、実験によって得られるグラフェン分子2面分の生成熱とほぼ等しくなると考えられていたが、今回の研究では炭素数を増やしてもグラフェンの値には近づかないことがわかった。フラーレン分子では結合の五角形部分の歪みが従来の予想以上に大きくなり、炭素原子間の結合が不安定となる領域が存在するため、安定な六角形のみで形成されるグラフェンとは大きく異なる電子状態を示すという。同研究グループは、今回の研究を発展させることにより、新しい材料設計の指針を計算化学の立場から立てることが期待できるとしている。
2016年03月16日東京工業大学(東工大)は3月15日、8個の陽子と18個の中性子からなる質量数26の酸素同位体26Oを人工的に生成し、その質量を精度よく測定することに成功したと発表した。同成果は、東京工業大学大学院 理工学研究科 近藤洋介 助教、中村隆司 教授、理化学研究所(理研) 仁科加速器研究センター 大津秀暁 チームリーダー、米田健一郎 チームリーダーらの研究グループによるもので、3月9日付けの米国科学誌「Physical Review Letters」電子版に掲載された。天然に存在する安定な原子核は陽子数と中性子数がほぼ等しいが、中性子数を増やしていくと不安定になり、さらに中性子数を加えていくと、中性子を原子核に結びつけておくことができなくなる。陽子の2倍以上の中性子を含む26Oの場合、最後の2個の中性子は結合されていない非束縛の状態にあることが実験的に知られていたが、束縛に必要なエネルギーや非束縛の度合いはこれまでわかっていなかった。今回の研究では、寿命が極めて短い同原子核を、理研RIビームファクトリーにおいて48Ca(質量数48のカルシウム同位体)→27F(質量数27のフッ素同位体)→26Oという2段階の反応で生成し、26Oの基底状態および第一励起状態の質量を高精度で求めることに成功。その結果、基底状態の26Oは、2個の中性子を原子核に結合させるのに、わずかに18KeVだけ足りないだけの特異な共鳴状態であることが明らかになった。これは通常2個の中性子を結合しているエネルギー約16MeVに比べると、1/1000程度の値である。これ以上中性子を束縛しておけなくなる原子核の限界は「中性子ドリップライン」と呼ばれているが、酸素同位体では、付けられる中性子の数が隣のフッ素同位体より6個も少なく、この原因が不明であることが問題となっていた。今回、高精度で決定されたドリップラインを超えた原子核である26Oの質量は、この「酸素ドリップライン異常」という謎を解明するための鍵になると考えられる。また同研究グループによると今回の成果は、いまだに謎の多い陽子と中性子を結びつける「核力」や、中性子が過剰になったときに発現する「魔法数の異常」の理解にもつながることが期待されるとしている。
2016年03月15日理化学研究所(理研)、大阪大学、北海道大学は3月9日、細胞内にタンパク質が詰め込まれた分子混雑状態により色が変わる蛍光タンパク質「GimRET」の開発に成功したと発表した。同成果は、理研 生命システム研究センター先端バイオイメージング研究チームの大学院生リサーチ・アソシエイト 森川高光氏 (研究当時は大阪大学大学院生命機能研究科)、渡邉朋信 チームリーダー、大阪大学大学院理学研究科 今田勝巳 教授、同産業科学研究所 永井健治 教授、北海道大学大学院 先端生命科学研究院 金城政孝 教授らの研究グループによるもので、3月9日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。近年、試験管中と細胞中ではタンパク質の折り畳まれ方が異なることが発見されており、また分子混雑がタンパク質の機能にも影響を与える可能性が示唆されている。分子混雑を評価する指標としては、これまで流動性(分子の動き)が使われてきたが、混雑状態と流動性は必ずしも一致せず、その両面から評価する必要があった。同研究グループは、分子混雑が溶液の疎水性と直接関与していることに注目し、溶液全体の疎水性は、分子混雑のうち最も大きなファクターであるタンパク質濃度と見なせると考えた。そこで今回、計測技術の基盤として、生きた細胞中での計測が可能になる蛍光タンパク質を選んだ。蛍光タンパク質は円柱型で、蛍光を発する発光団はその円柱構造の内部にある。同円柱構造は、発光団を水分子との相互作用から守っているため、発光団の蛍光は溶液中の疎水性には依存しない。つまり、蛍光が失われない程度に発光団と水分子を相互作用させることができれば、溶液中の疎水性によって発光の量が変わる蛍光タンパク質になる。蛍光タンパク質の遺伝子改変には通常、アミノ酸を置換する方法が用いられるが、今回、あえて余計なアミノ酸を挿入することで、円柱構造の一部が少しだけ壊れ、数個の水分子だけが発光団に相互作用するような構造を生成。グリシンをひとつだけ蛍光タンパク質に挿入したところ、溶液の疎水性によって蛍光強度が変わる蛍光タンパク質になることがわかった。さらに、蛍光共鳴エネルギー移動法を適応することで、分子混雑が上昇すると、黄色から青色に色が変わる蛍光タンパク質「GimRET(Glycine inserted mutant fRET sensor)」を得た。GimRETから発せられる蛍光の色を解析することで、分子の混雑状態が評価できると同時に、光学顕微鏡を用いることでGimRETの細胞内での拡散速度が計測可能となる。同研究グループはGimRETについて、基礎的な生命科学分野のみならずアミロイド―シスなどの分子混雑が関連する病気の原因解明など、医学分野においても役立つことが期待できると説明している。
2016年03月10日トムソン・ロイターは3月9日、「世界でイノベーションを牽引する国立研究機関ランキングTop25」を発表した。同ランキングは同社が保有する学術論文および特許情報を基にしており、国立研究機関を対象としたものは今回が初めてとなる。日本からは科学技術振興機構(JST)が3位、産業技術総合研究所(AIST)が7位、理化学研究所が13位、物質・材料研究機構(NIMS)が18位にランクインした。国別で見ると米国の6機関が最も多く、日本とフランスが4機関で続いた。今回発表されたランキングは以下の通り。Top 25 グローバル・イノベーター:国立研究機関Alternative Energies & Atomic Energy Commission (仏)Fraunhofer Society (独)科学技術振興機構(JST) (日)U.S. Department of Health & Human Services (米)National Center for Scientific Research (仏)Korea Institute of Science & Technology (韓)産業技術総合研究所(AIST) (日)U.S. Department of Energy (米)Agency for Science, Technology & Research (シンガポール)French Institute of Health & Medical Research (仏)Helmholtz Association (独)U.S. Department of Veterans Affairs (米)理化学研究所 (日)National Research Council of Canada (加)Max Planck Society (独)Chinese Academy of Sciences (中)Pasteur Institute International Network (仏)物質・材料研究機構(NIMS) (日)United States Navy (米)Commonwealth Scientific & Industrial Research Organisation (豪)Spanish National Research Council (スペイン)Academica Sinica (台)United States Army (米)National Aeronautics & Space Administration (米)Russian Academy of Sciences (露)
2016年03月09日熊本大学は3月4日、脳波ではなく心電図をもとに算出した「心拍変動」という指標からてんかんの発作を高精度で予測することに成功したと発表した。同成果は、熊本大学大学院 先導機構・大学院自然科学研究科 山川俊貴 テニュアトラック助教、京都大学大学院 情報学研究科 藤原幸一 助教、東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 宮島美穂 助教らの研究グループによるもので、2015年12月24日付けの米科学誌「IEEE Transactions on Biomedical Engineering」オンライン版に掲載された。てんかんは脳の慢性的な疾患で、脳の神経細胞(ニューロン)に突然発生する激しい電気的な興奮により、発作を繰り返すという特徴がある。患者の約7割は抗てんかん薬の服用などで発作を抑制し、問題なく日常生活を営むことができるが、なかには薬の効きにくい難治性てんかんもあり、発作を予知する仕組みの開発が求められている。てんかん発作の予知の方法として心拍数を用いたものがあるが、従来の変動解析手法による分析方法では、平常時と発作前の差がわかりにくく、また個人差も大きいため、偽陽性が多く、実用化は困難と考えられていた。今回、同研究グループは、多変量統計的プロセス管理(MSPC:Multivariate Statistical Process Control)という工学的手法を用い、てんかん検査のために入院した患者14名の心電図データを解析した。この結果、91%という高い精度で発作を予知することができ、発作が起こる約8分前に予知することが可能であることがわかった。同研究グループは、今回の成果によってウェアラブル発作予知デバイスが開発されれば、発作が起こる前に、患者自身で安全を確保する対策がとれるようになると説明しており、現在、実際にウェアラブルてんかん発作予知装置の開発を進めている。すでに、東京医科歯科大学医学部附属病院や国立精神・神経医療研究センター病院などの複数の医療機関において臨床研究を進めているという。
2016年03月04日理化学研究所(理研)は3月1日、酵母やカビをはじめとする真核微生物約120菌株について、全ゲノムの塩基配列の概要「ドラフトゲノム」を解読したと発表した。同成果は、理研バイオリソースセンター 微生物材料開発室(BRC-JCM) 大熊盛也 室長、遠藤力也 協力研究員、ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能性ゲノム解析部門 眞鍋理一郎 上級研究員らの研究グループによるもので、3月4日~5日に開催される「第10回日本ゲノム微生物学会」で発表される。配列データは、国立遺伝学研究所が運営する公共データベースにて公開されている。またゲノム解読を行った菌株のリストはBRC-JCMのWebにて公開、解読に用いたDNAはバイオリソースセンター遺伝子材料開発室から外部に提供可能な状態に整備されている。ゲノム配列上の遺伝子領域予測やその遺伝子の機能予測を加味したデータについても、BRC-JCMのWeb上で順次公開される予定。解読の対象となった菌株は、未利用バイオマスからのエネルギー生産、環境汚染の原因となる化学物質の分解、食品の生産、真核微生物の進化・生態解明など、幅広い研究分野での利用が期待できるものであるという。
2016年03月01日東京大学(東大)と分子科学研究所(分子研)は3月1日、細胞内輸送に関わる分子モーター「キネシン」が二足歩行運動する際の片足の動きを、従来よりも100倍以上高い時間分解能で一分子観察することに成功したと発表した。同成果は、東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻の大学院生(研究当時) 磯島広氏、分子科学研究所 岡崎統合バイオサイエンスセンター 飯野亮太 教授、東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻・量子相エレクトロニクス研究センター 新谷大和 特任助教、東京大学大学院 工学系研究科 応用化学専攻 野地博行 教授、 東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 富重道雄 准教授らの研究グループによるもので、2月29日付けの英科学誌「Nature Chemical Biology」に掲載された。キネシンは二つの足を交互に動かして、歩くようにして運動する分子モーターと呼ばれるタンパク質で、これまでに一分子計測法によってキネシンがステップ状に運動することが示されてきた。しかし、従来の手法では時間分解能が低いため、ステップの途中の動きを直接観察することは困難だった。今回、同研究グループは直径40nmの金ナノ粒子を観察用の目印としてキネシンの片足に結合させ、その動きを全反射照明型の暗視野顕微鏡を用いて観察し、従来より100倍以上高い55μ秒という時間分解能と1nmの位置決定精度で、片足の動きを可視化することに成功した。観察の結果、キネシンの片足がレールである微小管から離れた後、浮いた足はブラウン運動で激しく揺らいでいることが示されたが、予想外なことに、揺らぎは前後左右に等方的ではなく進行方向に対し右側に偏っていたという。この右側への偏りは、キネシンの両足を繋ぐ「脚」(リンカー)が足の右側から生えているため、そこから伸びたリンカーは自由に揺らぐのではなく、足にぶつかって右に押し出されるということを示している。また、この片足を浮かせた状態は2つのステップからなり、微小管に結合した足へエネルギー源であるATPが結合するのを待つステップと、ATPが結合した後その足の形が変化して浮いた足が前に着地するステップからなることがわかった。さらに、両足を繋ぐリンカーを人工的に長くすると、ATPが結合するまで片足を浮かせた状態を維持することができなくなり、後ろ足が浮いた後すぐに後ろや前に着地するようになった。また後ろに戻るだけでなく左右にも頻繁に移動し、酔っ払いの千鳥足のような無駄な動きをするようになったという。この結果は、リンカーが最適な長さであることが、エネルギーを無駄に消費することなく効率的に二足歩行するために重要であるということを示している。今回の観察手法について同研究グループは、今後さまざまな分子モータータンパク質に応用されることで、多様な生体分子機械の動作機構の解明に役立つと説明している。
2016年03月01日理化学研究所(理研)と東京工業大学(東工大)は2月24日、トポロジカル絶縁体表面に形成される質量ゼロのディラック電子が持つ磁気モーメントを精密に測定する新しい手法を開発したと発表した。同成果は、理研 創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チーム 付英双 国際特別研究員(研究当時、現在は中国・華中科技大学教授)、花栗哲郎 チームリーダー、強相関量子伝導研究チーム 川村稔 専任研究員、創発計算物理研究ユニット モハマド・サイード・バハラミー ユニットリーダー、東京工業大学 応用セラミックス研究所 笹川崇男准教授らの研究グループによるもので、2月24日付の英科学誌「Nature Communications」に掲載された。トポロジカル絶縁体とは、固体内部の電子は動くことができないが、その表面に自由に動くことができる質量ゼロの「ディラック電子」という、通常の電子とは異なる性質を示す電子が自然に現れる物質。同絶縁体表面にあるディラック電子は、置かれた環境を磁気的にすると、ディラック電子の持つ磁気モーメントが影響を受け、その結果、ディラック電子が質量を獲得することが知られている。ディラック電子の質量制御はトポロジカル絶縁体の応用にとって重要な鍵のひとつだが、そのためには、ディラック電子が持っている磁気モーメントの正確な評価が必要となる。しかし、その手法はこれまで存在しなかった。今回、同研究グループは、走査型トンネル顕微鏡法/分光法(STM/STS)を用いた磁気モーメントの新しい評価法を開発。2種類のトポロジカル絶縁体 Bi2Se3とSb2Te2Seに適用した。その結果、2つの物質でディラック電子の運動速度がほとんど同じであるのに対し、磁気モーメントは大きさも方向も全く異なることがわかった。この結果は、ディラック電子の磁気的性質だけを選択的に変化させることができることを示しており、磁性を介したディラック電子の制御に役立つという。また今回、磁気モーメントの物質依存性が明らかになったが、その起源はまだはっきりとわかっていない。同研究グループは、今後の研究によってこの問題が解かれれば、トポロジカル絶縁体の新しい利用法につながる可能性があるとしている。
2016年02月25日理化学研究所(理研)と東京大学(東大)、日本医療研究開発機構は2月23日、白質消失病発症の原因タンパク質「eIF2B」の立体構造を結晶構造解析により解明したと発表した。同成果は、理研 横山構造生物学研究室 横山茂之 上席研究員と、理研ライフサイエンス技術基盤研究センター 翻訳因子構造解析研究ユニット 伊藤拓宏 ユニットリーダー、柏木一宏 特別研究員らの研究グループによるもので、2月22日付けの英科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。白質消失病は、幼児期に発症し、ウイルス感染や頭部外傷などのストレスを契機に急速に悪化し、大脳の白質が消失して運動機能の失調をきたす遺伝性の神経変性疾患で、罹患者の多くが死に至るとされている。この疾患の原因となる翻訳開始因子eIF2Bは、本来、細胞がタンパク質を合成する際にほかの翻訳開始因子eIF2を活性化するタンパク質だが、細胞がストレスを受けると、eIF2がリン酸化してeIF2Bの活性が低下し、一般的なタンパク質合成がいったん抑制される。しかし、このストレス応答機構や、白質消失病の発症との関連性は解明されておらず、現在のところ白質消失病に特化した有効な治療法は見つかっていない。今回研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」を用いたX線結晶構造解析で、10個のサブユニットから構成される巨大なeIF2Bの3次元構造を解明。その結果、eIF2Bの変異の大半は、eIF2に働く領域(活性部位)や、サブユニット間の相互作用面に集中していることがわかった。これは、変異によって活性部位や全体構造が損なわれ、eIF2Bの機能が低下することが、白質消失病の発症原因であることを意味している。ストレスを受けて一般的なタンパク質合成が抑制された後、抑制が解除されてストレス状態から通常状態へと回復する際に、eIF2Bの機能が低下しているために回復に必要なタンパク質を十分に合成できず、神経細胞が変性し白質消失に至ると考えられる。さらに、独自開発した技術を活用し、eIF2BとeIF2に非天然型アミノ酸を導入して解析したところ、eIF2Bの3次元構造の上でリン酸化されたeIF2と結合する領域は、通常のeIF2を活性化する際に結合する領域とは異なることを発見。この結合様式によりリン酸化されたeIF2は、自身の活性化を起こさないだけでなく、ほかのeIF2の活性化も妨げることが明らかになった。同研究グループは今回の成果について、白質消失病などの病態の理解、eIF2Bを標的としたストレス応答を制御する治療法の開発へ向けて、有用な基礎的情報となると説明している。
2016年02月23日旅行や出張に行くと、ホテルの寝間着が家のものとまったく違うので眠れなかった、という経験がみなさんもあるのではないでしょうか。それほど、睡眠中に身に着けるものは、私たちに大きな影響を与えているのです。ワコールが出した安眠グッズ最近は、「寝ながら○○もできる」という一石二鳥の睡眠関連商品に注目が集まっています。そのひとつが“下着”です。みなさんは、寝るときの下着にこだわりはありますか?昨年、ワコールが販売開始した「UNDER WEAR BY CW-X」は“テーピングの原理をウェアに取り込む”という考え方から生まれた商品。日常生活の様々な動きをサポートするアイテムで、動きの少ない睡眠時にもその効果が発揮され、姿勢の改善や疲労回復などを期待できるそうです。“テーピングの原理”という言葉通り、この下着が筋肉を正しい位置に固定してくれるため、血行促進にもつながるといわれています。50年以上の人間科学研究所の研究による裏付けワコールがCW-Xのような高機能ウェアを開発できる背景には、ワコール人間科学研究所の存在があります。1964年に設立されたこの研究所は「女性の美しさ」に焦点を当て、「女性のからだを科学的に研究して、ものづくりに生かす」をコンセプトにしています。この研究所で50年以上にわたり研究されてきた情報とデータをベースに、女性下着のガードルの技術とテーピング原理がCW-Xには生かされています。このような科学的な裏付けが明確にあると、安心して着ることができますよね。私たちはウエストのきつい下着やサイズの合っていない服など、身に着けるものでさまざまなストレスを感じるといわれているので、ナイトウェアを変えることは、睡眠時のストレス解消にひと役買ってくれそうです。睡眠中のブラジャーも人気商品ワコール人間科学研究所の研究によって開発された睡眠用下着は、CW-Xだけではありません。2004年に発売され、現在も人気を集めている「ナイトアップブラ」もそのひとつ。この商品は「女性の3割が睡眠中もブラジャーをつけている」というデータをもとに開発したもので、横向きやうつぶせなど、どのような姿勢でもバストを理想の形に支えてくれます。商品開発にあたっては、モニターを集め、「寝ている間にバストがどのような動きをするのか」といったことを真剣に実験し、どうしたらバストの動きを最小化できるかを考え尽くしたそう。今後も、研究者魂が満載のワコールの安眠グッズに注目してみてはいかがでしょうか。photo by Vodibio
2016年02月18日理化学研究所(理研)は2月17日、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」において2本のビームラインで同時にX線レーザーを発振させることに成功したと発表した。同成果は理研放射光科学総合研究センター先端ビームチームの原徹 チームリーダーらの研究チームによるもので2月16日に米国科学誌「Physical Review Accelerators and Beams」オンライン版に掲載された。「SACLA」は理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本初のXFEL施設。XFELはX線領域のパルスレーザーで、半導体や気体を発振媒体とする従来のレーザーと異なり、真空中で高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限がない。従来の放射光源と比較して10億倍もの高輝度のX線がフェムト秒(1000兆分の1秒)の時間幅を持つパルス光として出射され、高い輝度を活かして、ナノメートルサイズの小さな結晶を用いたタンパク質の原子レベル分解能での構造解析や、X線領域の非線形光学現象の解明などのために用いられている。しかし、直線形の線形加速器を使うXFEL施設では、加速した電子ビームを通常は1本のビームラインに送るため、複数の実験を同時に行うことができない。そのため、利用機会の拡大には複数ビームラインの同時稼働が必要とされていた。今回の研究では、線型加速器の終端に高精度キッカー電磁石を設置することで、電子ビームをパルス毎に2本のビームラインへ振り分けることを目指し、「1m先で見たときビームの位置が1000万分の1メートルしかずれない」高い精度で電子ビームパルスを振り分けることが可能となった。ただ、同じエネルギーの電子ビームパルスをただ振り分けるだけでは、2本のビームラインのレーザー波長を独立に大きく変えることができず、実験で大きな制約となってしまう。そのため、線型加速器の一部の加速空洞の繰り返し周波数を変えることで電子ビームパルスごとに異なるエネルギーまで加速させる、マルチエネルギー運転の技術を開発することで、2本のビームラインそれぞれのX線レーザーの波長を、広範囲にわたって独立に制御することに成功した。今回の成果では、30Hzの電子ビームパルスを2本のビームラインに交互に送ることで、同時に2本のビームラインで安定なレーザー発振を達成し、ビームライン間のレーザー波長も4~10keVの広い範囲で変えることが可能であることを実証したが、現行のマルチビームライン運転では、電子ビーム輸送路におけるコヒーレント放射の影響を抑制するため、電子ビームパルスのピーク電流を低減する必要があり、レーザー出力が制限されている。同研究グループは今後、強いレーザー出力を要する実験がマルチビームライン運転下で実施できるよう、電子ビーム輸送路におけるビーム光学系の改善によって、レーザー出力の向上を図るとしている。
2016年02月17日北海道大学(北大)は2月17日、働かないアリもコロニーの長期的存続のためには必須であることが判明したと発表した。同成果は、同大学大学院 農学研究院動物生態学研究室 長谷川英祐 准教授ら、および静岡大学創造科学技術大学院 工学領域 吉村仁 教授らの研究グループによるもので、2月16日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。アリのコロニーにはほとんど働かないアリが常に存在するが、これらはコロニーの短期的な生産効率を下げるため、短期的効率を高める自然選択の存在下でなぜいるのかは大きな謎となっていた。今回、同研究グループは、格子モデルを用いたシミュレーションにより、普段働かないワーカーがほかのすべてのワーカーが疲れて働けないときに代わりに働くというシステムと、全員が一斉に働くというシステムを、疲労の存在下でどちらが長く存続するかを比較した。また実際のコロニーにおいて、よく働いているアリが休んでいるときに、普段働かないアリが働くかどうかを調査した。この結果、疲労が存在しないときには2つのシステムの存続時間に差はなかったが、疲労が存在すると、働かないワーカーがいるシステムの方が長続きした。これは普段働くワーカーが疲れて働けなくなった際、疲れていない普段働かないワーカーが、誰かがこなしていないとコロニー全体が致命的なダメージを受ける仕事を代わりにこなすことで、危機的な瞬間を逃れることができるためであるという。実際のコロニーにおいても、普段働かないアリは、働くアリが休んでいるときに働いていることが示されている。同研究グループは今回の結果について、アリのような社会性昆虫に限らず、人間の組織を含め、組織の短期的効率を求めすぎると大きなダメージを受けることがあることから、組織運営全般に関して、長期的存続の観点を含めたうえで考えていくことの重要性が示されたとしている。
2016年02月17日