結果はどうあれ、失敗を恐れずなにごとにも意欲的に挑戦できる人間になってほしいと親は子どもに願います。その願いをかなえるためのアドバイスをしてくれたのは、発達臨床心理学、保育学、児童学を専門とする東京都市大学人間科学部教授の井戸ゆかり先生。井戸先生は「親が子どもの『安全基地』になり、子どもに『失敗してもいい』と思わせることが大切」だといいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親が子どもの「安全基地」になる自己肯定感の低下に伴って、いまの子どもたちは挑戦意欲も失っているように感じます。自己肯定感が低ければ、「どうせ自分にはできない……」と思ってしまって、なにかに挑戦することができません。あるいは、自己肯定感が低いがために、まわりの目を気にすることも子どもが挑戦意欲を失う要因でしょう。友だちや親の前で失敗して恥ずかしい思いをしたくない――。その気持ちが、挑戦から子どもを遠ざけてしまうのです。逆にいえば、自己肯定感が高い子どもには挑戦意欲も備わっているといえます。自分に自信があり、「たとえ失敗してもいい」となにごとにも前向きに取り組むことになりますからね。その、「失敗してもいい」という気持ちを子どもに持たせてあげるには、親が子どもと信頼関係をしっかり築いておく必要があります。どういうことかというと、「失敗してもいい」という気持ちの裏には、なにか問題が起きても「お父さんとお母さんのところにいけば大丈夫」という思いがあるのです。これは、親子が強い信頼関係で結ばれていて、子どもが親を「安全基地」だと感じているということ。その安心感が子どもの挑戦意欲を高めるのです。ときにはおだて上手になって子どもに挑戦させる子どもの挑戦意欲を高めたいと思うのなら、日頃の親子の対話によって信頼関係を築くことがもっとも大切となります。もちろん、なにかに挑戦して子どもが失敗したときにも親がするべきことはあります。そこできちんと対応しておかないと、子どもが「次の挑戦」をしなくなってしまう可能性もありますからね。親がすべきこととは、子どもがどこでどうつまずいたかという分析をすること。たとえば、子どもが目玉焼きをつくろうとして失敗したのなら、そのプロセスを分析するのです。フライパンの熱し方や油の引き方、卵の入れ方はどうだったのか、火の加減や焼き時間は適切だったのか。そういった子どもが行ったプロセスを分析し、つまずいた箇所を発見できれば、そこだけを手伝ってあげればいい。そうすれば、失敗を乗り越えて成功体験を得ることができ、次の挑戦につなげることができます。気をつけてほしいのは、あくまで「失敗した部分」だけを手伝ってあげること。全部を親が手伝ってしまうと、子どもは「お母さんにやってもらえばいいや」と思ってしまって、挑戦しない子どもになってしまうからです。また、なにかがうまくいかなくて子どもが困っているときは、上手に「おだてる」ことも効果的でしょう。わたしが自分の子どもによく使ったのは「格好いいところ、見てみたいな」という言葉です。幼い子どもがうまく着替えができなくてまごまごしているなら、「格好良く着替えるところ、見せてほしいな!」というふうに声をかけるのです。そういう言葉で、子どもは途端にやる気を出します。それでうまく着替えられたら、「格好良かったね」「すてきだね!」というふうに、ちょっと「オーバーアクションかな」と思うくらい大げさに褒めてあげましょう。「格好いい」というと、男の子に向けての言葉のようですが、女の子にもこの言葉は有効であることが多いので、ぜひ使ってみてください。「親だってスーパーマンじゃない」と子どもに教えるそして、親御さんには「失敗してもいいんだ」ということを子どもに教えてあげることも強く意識してほしい。先にお伝えしましたが、親との信頼関係があって「失敗してもいい」と思える子どもはなにごとにも前向きに挑戦できます。もっといえば、失敗した経験がない子どもは、失敗を乗り越える経験もできないのですから、失敗経験がある子どもと比べて弱い人間になってしまいます。そういう意味では、失敗してもいいというより、「失敗する経験も大切」といったほうが正しいかもしれません。その意識を子どもに伝えるためには、きちんと子どもに挑戦させたうえで、ときには親御さん自身の失敗経験を教えてあげることもおすすめです。たとえば、食後の食器の片づけを子どもが手伝ってくれようとしたとします。共働き家庭が増えているいまの忙しい親なら、「子どもが失敗してお皿を割ったりしたら面倒だな」なんて思って、つい自分でやってしまおうとするかもしれません。それでも、まずはきちんと子どもに挑戦させてあげましょう。そして、子どもがお皿を割るなど失敗したときを「チャンス」ととらえるのです。そのとき、頭ごなしにお皿を割ったことを叱ったりしてはいけません。子どもは二度と自分からすすんでお手伝いをしようとは思わなくなるでしょう。そうではなくて、まずは「ケガしなかった?」と子どもを心配してあげる。それから、「お母さんも小さいときにお皿を割っちゃったの」というふうに自分の失敗談を話してあげるのです。子どもからすれば、お父さんやお母さんはなんでもできるスーパーマンのように見えています。でも、そのお父さんやお母さんも失敗したことがあると知れば、たとえ失敗しても挑戦を続けることで、「いつかお父さんやお母さんのような人間になれる」と失敗を恐れない力を得ていくはずです。『保育の心理学 実践につなげる、子どもの発達理解』井戸ゆかり 編著/萌文書林(2019)■ 東京都市大学人間科学部教授・井戸ゆかり先生 インタビュー一覧第1回:あなたの子どもは大丈夫?絶対に見過ごしてはいけない「自己肯定感」低下のサイン第2回:「失敗を恐れない力」の育て方。子どもに「挑戦したい!」と思わせる、効果抜群な言葉かけ第3回:「辛抱強い子」を育てるヒント。「我慢する力」を伸ばすのは“○○上手な親”だった!(※近日公開)第4回:「先生に言いつけるよ」がダメな理由。自己主張できない子が育つ“4つのNGなしつけ”(※近日公開)【プロフィール】井戸ゆかり(いど・ゆかり)東京都出身。東京都市大学人間科学部教授。専門は発達臨床心理学、保育学、児童学。学術博士。横浜市子育てサポート研修講師、渋谷区子ども・子育て会議会長などを務める。二児の母。著書に『子どもの「おそい・できない」にイライラしなくなる本』(PHP研究所)、『「気がね」する子どもたち-「よい子」からのSOS-』(萌文書林)、編著に『保育の心理学Ⅱ 演習で学ぶ、子ども理解と具体的援助』(萌文書林)』、監修書に『1さいのなあに? のびのび育つ! 親子ふれあい絵本』『2さいのなあに? 「知りたい」がいっぱい! であい絵本』(ともにPHP研究所)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月13日現在の子ども教育の重要なキーワードとして、教育メディアでも頻繁に取り上げられる「自己肯定感」。日本人の場合、そもそも自己肯定感が低いことが問題ともされますが、その原因はどんなところにあるのでしょうか。お話を聞いたのは東京都市大学人間科学部教授の井戸ゆかり先生。二児の母でもある先生に、子どもの自己肯定感を高めるために親が果たすべき役割も含めて教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの自己肯定感を下げてしまう親の「先回り」日本人の自己肯定感は低いとよく指摘されます。それどころか、いまの子どもたち、若い人たちを見ていると、自己肯定感はさらに低くなっているように感じてしまいます。学生に自分の長所と短所をそれぞれ10個挙げるようにいってみても、すぐに挙がるのは圧倒的に短所のほう。一方、長所はなかなか挙がってきません。その要因のひとつとしては、謙虚であることを美徳とする日本の文化があるでしょう。本当は自分でいいところだと思っていても、それを口にすることがはばかられる。加えて、長所というからには、誰からもいいところだと思われるようなものでなければいけないという考え方もあるように思います。でも、長所というのはもっと身近なところ、日常生活のなかにでもあるもので、なにか大きなことを成し遂げたといったことでなくてもいいのです。でも、日本人の場合はやっぱり謙虚ですから……そういうふうに自分を見ることができない場合があるようですね。また、親が先回りしてしまうことも、いまの子どもたちの自己肯定感を下げている要因かもしれません。子どもがなにか問題にぶつかりそうになったら、その問題の芽を事前に摘んでしまう親が多いのです。その先回りを、親は子どものためだと思っています。でも、子どもは成長過程でさまざまな問題に直面し、解決するなかで自信を持つと同時に達成感を感じたり、周囲の人に認められる言葉かけをされたりすることで自己肯定感を高めていくわけです。そのきっかけを奪ってしまっては、子どもの自己肯定感が高まるわけもありません。自己肯定感の高低による子どものちがい自己肯定感の高低によって、子どもにはさまざまなちがいが表れます。自己肯定感が高い子どもは、自分に自信があるのでどんなことにも積極的に取り組むことができます。それから、自分のいいところも悪いところも含めて「いまの自分でいいんだ」という思いがあるので、気持ちにゆとりがあり、情緒が安定して他人にも優しくできます。しかし、自己肯定感が低い子どもは、人からどう見られているかという評価を気にして自分に自信を持てません。すると、友だちに対するジェラシーもあって、大人が見ていないところで友だちに対して意地悪をするといった問題行動を起こすこともあります。自己肯定感が低いというと、ただ自分に自信がないおとなしい子を想像するかもしれません。もちろん、そういうタイプの子どももいますが、自己肯定感が低い子どもであってもどこかで「認められたい」という気持ちがあり、それが友だちへの意地悪などゆがんだかたちで出てしまうこともあるのです。子どもに役割を与えて褒めるきっかけをつくるこれらの話を聞けば、あたりまえですが「自己肯定感が高い子どもに育ってもらいたい」と考えるのが親心でしょう。自己肯定感は、とくに小さい子ども同士の関係性のなかではなかなか育まれません。つまり、子どもの自己肯定感を育てるには周囲の大人、とくに親のかかわり方が重要になってくる。親はしっかりと子どもを観察する必要があるのですが、なかでも注意してほしいのは、「どうせ」という言葉です。だいたい4歳後半くらいから出てくる言葉ですが、子どもが「どうせできない」なんていいはじめたら要注意。「どうせ」という言葉が出たら、子どもを認めたり褒めたりするような言葉かけを増やす必要があると考えてください。あるいは、家のお手伝いなど役割を子どもに与えてあげることも効果的です。ポイントは、その子どもの力では「簡単ではないけどなんとかできる」という無理のないハードルの役割にすること。そして、そのお手伝いを子どもがしてくれたなら、「頑張ったね!」「すごいね!」「ありがとう!」とたくさん褒めてあげましょう。そうすることで、子どもは自己評価が上がり、自然と自己肯定感も高まっていきます。幼児期から小学校低学年くらいまでの子どもの自己肯定感は、親の言葉かけ次第で高くもなれば低くもなります。お手伝いなどの役割を子どもに与えることは、子どもに「自分は必要とされている」と自信を与えるとともに、親が言葉かけしやすい状況をつくる意味もあるのです。「自分の良さ」に目を向けることを教えるまた、親が子どもを見る「ものさし」を意識することも大切です。子どもは4歳頃から「あの子は足が速い」とか「この子は絵が上手」といったものさしで友だちと自分を比べるようになります。小学生になると勉強やテストもはじまるので、子ども自身もつい「できる・できない」のものさしで自分を見てしまうものです。でも、そのものさしのなかで育つと、できる子と自分を比べてしまう傾向が強まり、自己肯定感は高まりません。そこで親の出番です。誰もが万能ではないし、得意なことも苦手なこともあってあたりまえだということを子どもに教えてほしいのです。子どもにとって苦手なことがあれば、「一緒にやろうか」と手伝って達成感を味わわせてあげましょう。そして、なによりも「自分の良さ」に目を向けることを教えてあげてください。たとえば、図工の課題で工作をするにも要領がいい子はささっと終わらせてしまうのに、苦手な子、あるいは丁寧な子はどうしても時間がかかります。その子が居残りまでして作品をつくり上げて、しかもひとりできちんと片づけまでしたとしましょう。最後まで手を抜くことなく頑張れたこと、みんなで使う教室をきちんと片づけたことは間違いなくその子の「良さ」であるはずです。親としては、完成した作品の評価だけでなく、むしろ、完成するまでのプロセスをしっかり褒めて、「お母さんがちゃんと見ていてくれた」と子どもに思わせ、自信を持たせてあげてほしいと思うのです。『保育の心理学 実践につなげる、子どもの発達理解』井戸ゆかり 編著/萌文書林(2019)■ 東京都市大学人間科学部教授・井戸ゆかり先生 インタビュー一覧第1回:あなたの子どもは大丈夫?絶対に見過ごしてはいけない「自己肯定感」低下のサイン第2回:「失敗を恐れない力」の育て方。子どもに「挑戦したい!」と思わせる、効果抜群な言葉かけ(※近日公開)第3回:「辛抱強い子」を育てるヒント。「我慢する力」を伸ばすのは“○○上手な親”だった!(※近日公開)第4回:「先生に言いつけるよ」がダメな理由。自己主張できない子が育つ“4つのNGなしつけ”(※近日公開)【プロフィール】井戸ゆかり(いど・ゆかり)東京都出身。東京都市大学人間科学部教授。専門は発達臨床心理学、保育学、児童学。学術博士。横浜市子育てサポート研修講師、渋谷区子ども・子育て会議会長などを務める。二児の母。著書に『子どもの「おそい・できない」にイライラしなくなる本』(PHP研究所)、『「気がね」する子どもたち-「よい子」からのSOS-』(萌文書林)、編著に『保育の心理学Ⅱ 演習で学ぶ、子ども理解と具体的援助』(萌文書林)』、監修書に『1さいのなあに? のびのび育つ! 親子ふれあい絵本』『2さいのなあに? 「知りたい」がいっぱい! であい絵本』(ともにPHP研究所)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月12日「リベラルアーツ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本ではまだ浸透しているとはいえませんが、アメリカの大学ではごく一般的な教育のことです。そのリベラルアーツのエッセンスを子どもに吸収させることが大切だと語るのは、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開し、全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集めました。ボーク重子さんが、これからの子育てにおいてリベラルアーツを重視する理由はどんなところにあるのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)リベラルアーツの本質は「どう生きるか」と考えること辞書を見れば、リベラルアーツは「一般教養」と訳されています。ですから、わたしも最初は「なんだ、難しい本を読んで知識を得る勉強のことか」と思いました。でも、実際はその真逆といっていいものです。「知識の集積」という側面の強い日本の一般的な勉強とはちがって、リベラルアーツが目指すものは「問いを立てる力」「考える力」を育むこと。その力を身につけるために哲学書などの本を使うのです。哲学書を読むのも、アリストテレスやプラトンなど過去の哲学者たちがどんなことを述べたのか、彼らの生涯がどんなものだったのかといった知識を得るためではありません。そうではなくて、そこからさらに進んで、「彼らはこう考えてこんな答えを出したが、自分はどうだろう」「自分にとっての正義とはなんだろう」というふうに、疑問を持つ、そして考えてみる――。それこそが、リベラルアーツです。具体的には、授業はほとんどがディスカッション形式で行われます。ですから、教官が教壇に立って学生に教えるというものではありません。教官は学生の考えを引き出す進行役です。学生たちは、授業までに教材本の指定箇所を読んできて、それに対する自分の考えを述べる。そして、さらにそれぞれの考えについて各自が意見を述べる。そうして、自分の考えを構築し、相手に伝えるすべを学んでいきます。以前、日本の一般的な勉強とリベラルアーツのちがいについて、娘が面白いことをいったことがあります。彼女いわく、「日本の大学は専攻を決めて専門知識を学ぶところだけど、アメリカの大学は『これから自分がどうやって生きていくか』『自分にとっての幸せとはなにか』と考える、その期間なんじゃないかな」と。「これはリベラルアーツを完璧に表現している言葉だな」とわたしは思いました。リベラルアーツでは、なにを読むのか、なにを知るのかということが重要なのではありません。なにかを読んだり知ったりしたことで自分はなにを感じたのか、そしてそれをどう応用して生きていこうと考えるのか、それこそが大切なのです。これからの社会で必要とされる、考える力と表現する力わたしがこのリベラルアーツを重要だと考える理由は、「考える力」「自分の意見を表現する力」を伸ばすということに尽きます。わたしたちは、すでに多様化したグローバル社会に生きています。にもかかわらず、日本人のなかには「僕は海外で働く予定はないから、グローバルな教養なんて必要ない」という人もいるのは少し残念なことです。グローバル社会というのは、外国だけにあるもの、外国の社会を指すものではありません。そうではなくて、国境を越えた文化や人、お金などの流動のなかにある社会のことなのです。つまり、日本はもう立派なグローバル社会なのです。日本で働き生きていく外国人は、今後ますます増えていきます。しかも、わざわざ日本を目指す外国人の多くは優秀な人材だと思ったほうがいいでしょう。リベラルアーツ教育を受け、しっかりと自分の考えを伝えることができる人たちなのです。そんな社会に能力的には彼らと互角という日本人がいたとしても、自分の意見を論理的に表現することができなければ、彼らと競い合う、あるいは協働することなんてできませんよね。しかも、これからの社会は変化のスピードも増していきます。よく指摘されることですが、AIの進化によって今日まではあった仕事が明日にはなくなるかもしれません。小さい頃に、「タクシードライバーになりたい」といっていた子どもが大人になったときには、自動運転車が普及してタクシードライバーという仕事がなくなっているかもしれないのです。そうなったとき、どうすればいいのかと考える力を持っていなければ、自分の人生を切り開くことはできないでしょう。また、人生にはいいときもあれば悪いときもあるものです。悪いときには置かれた状況を打開しなければなりません。そういう場合も、たとえ誰かがアドバイスをしてくれたとしてもその意見を鵜呑みにすることなく疑問視し、自分できちんと精査してどんな可能性や選択肢があってなにがベストなのかと、やはり考える力が求められるのです。まず親がリベラルアーツの基本姿勢を身につけるただ、日本では、リベラルアーツを行っている大学はいくつかあるものの、公教育の小学校や中学校で行っているところはないといっていいでしょう。それでも、リベラルアーツの考え方を家庭教育に生かすこともできます。学校ではディスカッション形式の授業で学ぶものですが、家庭教育でなら、それは「親子の対話」に置き換えられるでしょう。ただ、親子で対話をする、つまり自分の意見をいうにも、自分の考えがなければそうできません。子どもと対話し、子どもの考える力、意見を表現する力を伸ばすには、まずは親自身が自分の考えをしっかり持って伝えられる必要があります。そこで、パートナーがいる場合なら、お父さんとお母さんでいろいろな意見を交換し、しかもその様子を子どもに見せてあげてください。そのとき、「ディスカッションだから」と変に身構える必要もありません。ちょっと変な意見をいってしまってもいいのです。それを見れば、子どもは「どんな意見を伝えたっていいんだ」と思ってくれるはずです。アメリカで暮らしていてやはり気になるのは、自分の意見をいえない日本人がいかに多いかということ。もちろんわたしもかつてはそうでした。でも、どんなに素晴らしい考えを持っていても、それを表現できなければ意味を持ちません。意見の内容を問わず、まずはとにかく表現できる人間に子どもを育ててほしいと願っています。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月11日家族といってもそれぞれちがう人間同士の集まりですから、家庭にも「ルール」は必ず必要なものです。全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことで注目を集め、ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さんは、「家庭におけるルール」についてどんな考えを持っているのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)ルールは子ども主導で決めさせる家族というのはひとつのチームです。そして、チームには必ず目的があります。では、家族というチームが目指す目的というと、やっぱり「家族の幸せ」ですよね。だとしたら、その目的のためにそれぞれの家族はなにができるのか――。そういう視点でつくるべきものが家庭におけるルールなのだとわたしは思っています。親はもちろん、小さい子どもであっても、「宿題は自分ひとりでやる」「靴紐は自分で結ぶ」というふうに、やれることはいくらでもあるはずです。その際、親が子どもに押しつけるのではなく、家族全員で相談しながら「あなたは家族のためにどういうことができると思う?」と子どもに聞いて、子ども主導でルールを決めさせることが大切です。なぜならば、押しつけでは子どもの責任感が育たないからです。ただ、子ども自身が決めたルールであっても、問題が起きて守れないということも出てくるでしょう。そういうときに叱ってはいけません。ルールを守れなかった理由を聞けば、「もっともだ」ということも多いものです。大人だって、公私を問わず理由があって約束を守れないということもあるでしょう。家族のルールもそれと同じです。日本人は真面目ですから、「ルールは絶対に守るべきもの」と考えがちです。でも、例外のないルールというものはありません。家庭のルールというのは、あくまでも家族の幸せを目指すための「ガイド」だととらえましょう。子どもは遊びのなかでルールの重要性を学ぶ「ルールは守るべきもの」という考えを持っている人にとっては、ルールの対極にあるように思えるものが「遊び」かもしれません。そういう人からすれば、遊びは禁じたり制限したりするものというとらえ方をしてしまうはず。でも、じつは遊びには子どもの成長を促す大切な要素がたくさん詰まっています。そもそも、「ルールを守る」という姿勢だって、遊びが伸ばしてくれることのひとつです。女の子がお友だちとふたりでおままごとをしていたとしましょう。どちらもママ役をやりたいのに、ひとりだけがママ役をやっていれば、もうひとりは「楽しくないな……」なんて思いながらパパ役ばかりをさせられる。当然、喧嘩になりますよね。でも、そのうち、パパ役とママ役を交代しながらやるというふうに、子どもは自分たちでルールを決めるでしょう。これは、「ルールを守る」ということにとどまらず、問題解決能力を伸ばすということにもつながるものです。この例なら、喧嘩というその場で起きている問題を、ルールを決めることで子どもたちは見事に解決したわけです。それから、ルールというと多くの人がイメージするのがスポーツではないでしょうか。野球やサッカーなどのスポーツは幼い子どもにとっては遊びといっていいものでしょう。でも、それらのスポーツはルールを守らないと成立しません。子どもたちはスポーツという遊びを通じてルールを守ることの重要性を学ぶわけです。さらにいえば、スポーツは子どもの社会性を身につけるためにも大切です。スポーツに親しむ子どもからすれば、もちろん「上手になりたい」と思いながら練習に励むものでしょう。でも、年上のお兄さんやお姉さん、年下の子どもたちと同じスポーツを楽しむというコミュニティーのなかで、子どもは社会性も自然に学んでいるのです。しかも、その学びは大好きなスポーツを通じて楽しみながら得られるのですから、それこそ最高じゃないですか。親の重要な役割は機会を与えることただ、気をつけてほしいのは、子どもの成長に遊びが大切だからといって、「はい、これで遊びなさい!」と親が押しつけてしまってはなんの意味もないということ。この考えは、ルールを決めるときと同じですね。子どもは自分で「こうしよう」と思ったことでなければ、熱中するものではないのですから。ちょっと乱暴ないい方かもしれませんが、ほうっておけばいいのです。というのも、子どもは退屈すれば自分で楽しくしようとするからです。子どもはつねに動いていたいものですから、ぼーっとさせておくとなにかをはじめて自然に遊びだすのです。しかも、そういうときの子どもはものすごく考えています。つまらないからこそ、「なんとか楽しくしよう」と考えてなにかをはじめる。当然、これは考える力を育むことにもなりますよね。子どもにとっては、退屈な時間ってそれほど悪いものではないのです。ただ、ほうっておけばいいとはいいましたが、「機会を与える」ことは親の大事な役割です。本来なら外遊びが大好きになるはずの子どもや、あるお稽古事に強い興味を示すはずの子どもも、それらに触れる機会がなければ自分の好奇心に気づくことはないでしょう。子どもは自分で遊びを見つけますが、自由に出かけることはできません。ですから、なるべくさまざまなものに触れる機会を与えてあげることを心がけてください。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”(※近日公開)【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月10日ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集め、出版された本は軒並みベストセラーになっています。ボーク重子さんが子育ての軸としたのが「非認知能力」でした。非認知能力とは、回復力、やり抜く力、自信、リーダーシップ、主体性、社会性、共感力……など、数字では測れないさまざまな力のことですが、なかでもボーク重子さんは「自己肯定感」の重要性を強く説きます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)「べき」にとらわれる大人が子どもの自己肯定感を下げてしまう日本人の自己肯定感が低いということは耳にしたことがある人もいるかもしれません。その理由を考えると、多くの人が「『べき』にとらわれている」からだと思うのです。男性はこうあるべき、女性はこうあるべき、親は……、子どもは……というふうについ考えていませんか?それを子どもにあてはめるということは、ひとつの決まったサイズの服をすべての子どもに着せようとするようなものだとわたしは思うのです。子どもの体の大きさは一人ひとりちがいますから、その服がぴったり合うとは限りませんよね?ブカブカだったり窮屈だったり丈が足りないという子もいるでしょう。そんなふうにして、「どうして僕はこの服が全然似合わないんだろう」なんて考えさせてしまっては、その子の自己肯定感が高まるはずもありません。そうではなくて、「合う服というものはみんなそれぞれにちがう」「それが個性なんだ」と思わせてあげなければいけないのです。そうすれば、いいところも悪いところも含めて自分をありのままに認めることになる。「これが自分だ!」といえるようになる。それが、自己肯定感を高めるためのスタート地点なのだと思います。どんな子どもも同じように育て、一丸となって国力を上げるといった時代は終わりました。これからは「個の力」が求められる時代です。そういう意味では、子どもを育てる親、大人が子どもの個性をいかに認めるかということを考えなければなりません。多民族国家で「一人ひとりがちがうことが普通」のアメリカとはちがって、日本の場合は基本的に単一民族国家ですから、個性を認める意識が育ちにくいのかもしれませんね。でも幸い、いまも現在進行形で進んでいることですが、日本に移住してくる外国人はさらに増えるでしょう。そうなると、個性があたりまえのように認められ、日本人の自己肯定感も上がってくるということも考えられますよね。自己肯定感を高める最善策は家庭でのお手伝いにありでは、自己肯定感が低い人間にはどんな特徴が見られるのでしょうか。「自己」肯定感という言葉から、自己肯定感の影響は個人のなかで完結しているものと考えてしまう人もいるでしょう。でも、そうではありません。自己肯定感が低い、つまり自分を認められない人間は、「他人も認められない」のです。すると、「僕はなんて駄目なんだ」「また失敗しちゃった」という思いが、「あなたは駄目だね」「あなた、それは失敗だよ」とまわりの人間に向かい、どうしても他人を攻撃したり批判したりしがちになります。そうなると、周囲から煙たがれてしまうことは明白ですよね。自分の個性を生かして他人と協働していくことが求められるといわれるこれからの時代を生きるには、それは致命的なことといっていいかもしれません。では、どうすれば子どもの自己肯定感を高められるのでしょうか?先にお伝えしたように、子どもが、いいところも悪いところも含めて自分をありのままに認める、「これが自分だ!」といえるようになることが、まずは大切なこと。そして、子どもにそうさせるためのベストの方法が、「誰かの役に立つ」という経験をさせることにあるとわたしは考えています。自分の行動によって、まわりの誰かが「ありがとう」といってくれてよろこぶ姿を見る。「自分は誰かの役に立てるんだ!」という思いが、自己肯定感を高めていくのです。そういう経験を得るには、社会貢献活動やボランティアなども考えられますが、小さい子どもの自己肯定感を高めるということを考えれば、わかりやすく周囲から肯定されることが大切です。そうなると、やはり最初は家庭でのお手伝いがベストの方法でしょう。子ども自身が自分の役割として決めたお手伝いをしたのなら、親御さんは「ありがとう」と伝えて、たくさん褒めてあげてください。子どもは親御さんに認められることで自分を認められる。そうやって、自己肯定感が高まるという好循環を生んでいくはずです。叱るときは必ず理由もきちんと伝える加えて、子どもの自己肯定感を高めるにあたってのNG行動もお伝えしておきます。それは「否定する」ということ。頭ごなしの否定は、認めることの対極の行動です。それを繰り返せば、子どもが自分を認められるようになるはずもありません。たとえば、親がつくった料理に対して子どもが「これはあまり美味しくない」といったとします。そこで「そんなこと、いわないの!」なんていってはいけません。意見というものには正解も間違いもないのですから、その意見、子どもの思いをしっかり受け止めてあげるべきです。否定するのではなく、「へえ、そうなんだ」と子どもの発言を認めて、「ほんとに?どんなふうに美味しくない?」と質問してみるのです。そのやり取りは子どもを肯定しているということですから、子どもの自己肯定感を高めていくことにきちんとつながります。とはいえ、危険な遊びをしようとしたときなど、どうしても叱らなければならない場面もあります。そういうときに大切なことが、「必ず理由も伝える」こと。大人だってそうでしょう?「やめなさい!」とだけいわれたら、「どうして?」と思うじゃないですか。小さい子どもにはまだ論理を理解する力がないと思っている人も多いかもしれませんが、そうではありません。丁寧に理由を伝えれば、子どもはその論理をきちんと理解するものです。イコールそれは、子どもと「同じ目線に立つ」ということでもあります。親と子どもではなく、人間対人間という関係性を意識することが大切です。子どもというのは、すべてを親が教えなければならない存在ではなくて、人間同士としてどうやって一緒に生きていくのかと考えるべき存在なのだと思います。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”(※近日公開)第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”(※近日公開)【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月09日「非認知能力」とは、テストの点数や偏差値など数字で測れる認知能力に対して、数字では測れない力のこと。そこには、回復力、やり抜く力、自信、自己肯定感、リーダーシップ、主体性、社会性、共感力……など、さまざまな力が含まれます。その非認知能力との出会いによって自身の人生を変えたのが、ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集め、出版された本は軒並みベストセラーになっています。もちろん、ボーク重子さんの子育ての軸となったのも、子どもの非認知能力を伸ばすことでした。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)はじめての失敗で心が折れた子ども時代子どもの非認知能力の有無によってどんなちがいが生まれるのか――。親であればとても気になるところですよね。ここでは、わたし自身を例にしてお伝えしましょう。子どもの頃のわたしは、「いい高校、大学、会社に入って、いい結婚をすれば一生安泰だから、とにかく勉強をしなさい」といわれて育ちました。わたしの親は少し教育熱心だったかもしれませんが、当時の「幸せへ向かうレール」に子どもを乗せようとする、ごく普通の家庭だったと思います。わたしはいわれるままに勉強をしましたから、最初は学校の成績も優秀でした。ところが、中学生のある日、急に数学ができなくなったのです。いつも100点だったテストがいきなり70点になってしまった。そして心が折れた。いまならその理由がわかります。それは、わたしの非認知能力がまったく育っていなかったからです。当時のわたしは、「やりなさい」といわれたことになんの疑問も持たずに従っていました。いわゆる「いい子」です。だからこそ、自分で考えるということをまったくしたことがありませんでした。勉強も親や先生にいわれたことをやって、とにかく暗記を繰り返すだけ。学習内容の本質を理解していませんから、学習レベルが上がると一気に成績が落ちてしまったのです。そこでわたしがどうしたかというと……勉強をやめてしまいました。というのも、賢くないと思われるのがすごく嫌だったからです。「勉強をしなければ、『やればできるのに』と思ってもらえる……」。そう考えたわけです。そのときのわたしに回復力ややり抜く力といった力があれば、そこで立ち止まって「どうすればいいか」と考えられたでしょう。でも、当時のわたしにはそれらの力はなかった。要するに、わたしには勉強での失敗経験がなかったのです。なにかをして失敗するという経験は、非認知能力を育てるためにはとても大切なものです。あたりまえですが、失敗しないことには回復力なんて育つわけがありませんからね。そもそも、それ以前に主体性が育っていれば、親や先生のいうことにただ従うのではなく、自ら考えて勉強に励むこともできたかもしれません。さらに、そういった主体的な勉強で成績が上がったのなら、自信をつかむこともできたでしょう。でも、当時のわたしはそうではなかった。だから、たったひとつのテストの結果でポキッと心が折れてしまったわけです。教育法のちがいが子どもの人生を大きく変えるそれからはどんどん成績は下がる一方で、自分は「なんてダメなのだろう」という気持ちを拭うことができませんでした。そこからわたしが回復するには、15年ほどの時間がかかりました。20代はそれこそ暗黒時代。ずっと「どうして自分はこんなに駄目な人間なんだろう?」「どうせわたしなんて……」と思いながら過ごしていました。その後、回復するに至ったのは、30歳になる直前に、当時お付き合いしていた男性にフラれたことが大きなきっかけです。そのとき、真剣な顔をしている彼を見たわたしは「プロポーズかな?」と思った。でも、彼は「君は僕と結婚したらどう生きたい?」と聞くのです。当時のわたしは、「え?そんなの決まってる」と思いました。その答えは、「あなたのお世話をして、あなたの子どもを生んで、一緒に年を重ねたい」です。わたしの返事を聞いて、彼はこういいました。「僕、それだけの人はいらない」と。幼い頃から凝り固まった人生観を刷り込まれ、自分というものを持てていないわたしに彼は愛想を尽かしたというわけです。そうして「幸せへ向かうレール」から外れたことで、わたしは一念発起しました。ずっと心のどこかで「いつかやりたい」と考えていたアートの勉強をするため、イギリス、続いてアメリカに渡ったのです。そのうち結婚して娘が生まれると、また強い不安に駆られました。「わたしに育てられたら、いつも自信を持てなくて誰かの指示を待つわたしみたいな人間に娘が育つのではないか」と――。そして、娘のための学校を探しているうちに出会ったのが非認知能力でした。当時のアメリカにおけるいわゆるエリートコースにある幼稚園や小学校は非認知能力教育に重点を置くようになりつつありました。そして、ある研究によって、その潮流は決定的なものとなった。従来の教育を受けるか、非認知能力を高める教育を受けるかによって、その後の子どもたちに大きなちがいが生まれることがはっきりとわかったのです。非認知能力を高める教育を受けた子どもたちの学習は、機械的にやらされるようなものではありません。学習内容に興味を持ち、自ら能動的に学ぶ。勉強したくないときも、責任感があるから「やらなくちゃ」と勉強をする。もちろん、学習成績も上がります。さらには、自分がやったことを肯定してもらえるため、自信を持つようにもなる。子どもたち一人ひとりが認められるから、いじめも減る。やる気、主体性、パッションがあって、自分がやりたいことをやるためにそれ以外のことも自然にできるようになるし、やり抜く力も身についていく――。まさにいいことずくめなのです。親は子どものロールモデルという役割から逃れられないさて、肝心の非認知能力を高める教育ですが、特別な学校でしかできないというわけではありません。むしろ、家庭教育のほうが重要だともいえます。娘を通わせた学校の先生からは、「いちばん小さいけれど最強のコミュニティーである家庭での教育、親との対話が子どもにもっとも影響を与える」といわれました。親は子どものロールモデルという役割から逃れることはできません。親の姿を見て育つ子どもは、ふとしたときに出るしぐさや口癖などまで親に似るものです。子どもは必死に生きて親を愛して、いずれ親のようになる。それだけ親という存在は子どもにとって大事なものなのです。そう気づいたとき、わたしは思い至りました。「だとしたら、まずわたし自身が自分の非認知能力を高めなければいけない」と。それから、わたしはいろいろと行動をはじめました。アートギャラリーを立ち上げたこともそのひとつでしょう。とにかく行動することが大切で、ずっと家にこもっていても心は強くなりません。家でご飯を食べてテレビを観ているだけなら、誰かに共感したり、失敗して回復したりする必要もないし、主体性やリーダーシップを発揮する場面もありませんからね。そして、「ママ、いまはこういうことをしてるんだよ」というふうに、自分の行動を子どもとシェアするのです。子どもは親を見て育つといいますが、見えやすくするのも親の役目です。子どもには、いわれなければわからないこともたくさんあるのですから。親の行動をシェアする際には、「失敗こそシェアする」と心がけてください。当時のわたしはなにもわからないままビジネスをはじめましたから、当然、失敗の連続です。それらの経験を娘に伝え、ときには娘からアドバイスをしてもらうこともありました。それは、失敗か成功かという結果ではなく、なにがどうしてどうなったかというプロセスを娘に見せるということです。そうすることで、子どもは、失敗は通過点であってやり直しができるということ、方法はひとつじゃなくてもしひとつの方法が駄目でも他の選択肢や可能性を試せばいいといったことを学んでいくことができます。それは、回復力ややり抜く力といった非認知能力そのものですよね。そう考えていたわたしは、娘には成功より失敗を重点的に見せてきましたから、娘にとってはじつは格好悪いママなんです……。はじめて「子育ての本を書くんだ」といったときに、いちばん驚いていたのが娘でしたね(笑)。娘のスカイさんと。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動(※近日公開)第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”(※近日公開)第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”(※近日公開)【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月08日「成人後の経済状態や生活の質を高めるためには、就学前の教育が最も効率的である」ことが、ノーベル経済学賞受賞者・ヘックマン教授の研究により明らかにされています。「教育投資」という中長期的な視点から、幼児期に必要な働きかけは何でしょうか。発達心理学に詳しいお茶の水女子大学名誉教授の内田伸子さんに聞きました。イラスト/柴田ケイコお話を聞いたのは:内田伸子さん(うちだ・のぶこ)環太平洋大学教授、お茶の水女子大学名誉教授。発達心理学、言語心理学、認知科学、保育学を専門とし、「おかあさんといっしょ」(NHK)の番組開発や「しまじろうパペット」(ベネッセコーポレーション)の開発に携わる。「子どもの見ている世界」(春秋社)など著書多数人格の基礎となる重要な幼児期、“主体性”を大切にした関わりを昨年4月に施行された子ども・子育て関連三法に共通して、改定された大きな特徴が「子ども一人ひとりの発達状況に配慮した保育を行う」こと。これからの社会を生き抜く子どもたちのために、親や保育者により求められているのが、未就学期の子どもの“主体性”を大切にした関わりです。発達段階において、子どもの脳が成長するのは全部で3回。「第一次認知革命」と呼ばれる生後10か月~3歳にイメージが誕生し、記憶機能が活発に働き始めます。5歳半ごろから小学1年生にかけて起こるのが「第二次認知革命」。ママに「なぜ?」と質問されると、理由や根拠を言葉で伝えることができるようになり、他人の気持ちを想像して思いやる心も育ちます。「第三次認知革命」は9~10歳ごろ。意志力や判断力、モラル、情緒、アイデンティティーが育まれます。脳はその後も、意志や判断力を担う前頭連合野は65歳ごろまで(コロンビア大学脳科学のチーム・2017年)、記憶を担う海馬(歯状回)も90歳ごろまで(ウェブスラ大学脳科学のチーム・2015年)、緩やかに発達し続けるという研究結果もあります。第一次認知革命から、第二次認知革命が始まるまでの3~5歳は子どもの成長にとても重要な時期。4歳ごろに自信の土台のようなものが築かれ、その後の人格に影響を及ぼすと言われています。内田さんより五感を使った直接体験が多いほど、豊かな想像力が身につきます。私たちが人生で出合う課題で、答えが決まっているものはほとんどありません。絵本や図鑑といった疑似的な経験も含め、直接体験は見えない未来を思い描く材料となり、よりよい解決につながるはずです。幼児期の遊び体験が未来の学力につながる子どもの力を伸ばすアプローチの例をいくつか挙げてみましょう。アジアの5か国合同で1万5000人に「幼児の読み書き能力調査」を行ったところ、読みと書きといった模写能力では5歳になると家庭の所得による差はなくなりますが、語彙力においての関連は見られました(※1)。そこで、さらに調べたところ、習い事をしていない子よりも、している子の方が語彙能力は好成績という結果に。芸術系、運動系、語学・学習系の塾に通っている子どもの語彙力には差がなく、習い事の数による差も見られませんでした。つまり、所得そのものや習い事の種類、数と語彙能力には因果関係がなく、習い事を通じた多様なコミュニケーションにより、語彙は豊かになることが推測されます。また、難関試験を突破した子をもつ親に、幼児期に意識して取り組んだことを調査(※2)したところ、「思いっ切り遊ばせた」「一緒に遊んだ」「趣味や好きなことに集中して取り組ませた」と答えた親が多く、絵本の読み聞かせも十分に行っていました。幼児期の遊びや熱中体験は、頭のいい子に育てるための大切な経験です。子どものためになるしつけとは?しつけのスタイルには2種類あり、学力にも影響を与えることがあります。自己肯定感と考える力を育むコミュニケーション法を実践しましょう。子どもそのものを認める受容の接し方を語彙力が高い子どもの傾向として「共有型しつけ」を受けていて、語彙力が低い子どもは「強制型しつけ」を受けていることが明らかになりました(※1)。また、東京学芸大学・杉原隆名誉教授が、幼稚園・保育園に通っている子どもを対象に行った研究によると、自発的な遊びを大切にした子どもの語彙力には優位性が見られました。子どもの生活や遊びに、自ら考え、判断する余地を残すこと。こうした大人の適切な働きかけにより、主体性や考える力が育まれるのです。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、脳の扁桃体が「おもしろい」「楽しい」と感じると、脳内のワーキングメモリーに情報伝達物質が送られ、海馬を活性化し、情報を記憶貯蔵庫に蓄えることができます。好きなことを一生懸命すると、意欲や探求心が増すという好循環が起こります。これが「共有型しつけ」を受けている子どもの脳の状態。気持ちを否定したり、拒絶したりする言葉ではなく、子どもそのものを認める受容の接し方が大事です。絵本「きつねのおきゃくさま」の読み聞かせを題材に行った観察(※3)で、「きつねさん、どうして死んじゃったの? かわいそう」と言う子どもに対し、「共有型しつけ」のママは「そうね、かわいそうね。どうして死んじゃったのかしら」と気持ちに寄り添う一方、「強制型しつけ」のママは「今のお話はどういうお話だった? 言ってみて」と読後の余韻を奪い、言動を制限する傾向が見られました。「共有型しつけ」を行う親の特徴◉ 子どもに考える余地を与える言いまわしや、援助的で共感的なサポートを行う◉ 子どもの反応に敏感で、子どもに合わせてやり方を柔軟に調整している◉ 子どもが自分の気持ちを言うのを待つ◉ 3つのH(ほめる・はげます・ひろげる)の言葉かけが多い言葉かけの典型例=洗練コード「~してくれてありがとう」「おもしろそうだね」「(失敗を慰めて)次に生かせる経験になったね」⇒ 小さな成功経験を重ね、自信と考える力が身につく「強制型しつけ」を行う親の特徴◉ 子どもに考える余地を与えない◉ 頭ごなしに叱る◉ トップダウンで指示的な介入をすることが多い◉ 3つのH(ほめる・はげます・ひろげる)の言葉かけがない言葉かけの典型例=制限コード「ダメ」「いけません!」「ママが言った通りにすればよかったのに」「あなたにはできっこないわ」⇒ 親の顔色を窺い指示待ちに。自信や意欲を失う難関試験突破組は「共有型しつけ」を受けていた(※2)子どもの自発性を大事に共感してくれる親は、子どもにとって何よりもの安心感。難題を突きつけられても「きっと自分は解決できる」という気持ちになり挑戦心も湧きます。こうして問題解決力や達成力が身についた結果が、難関試験を突破する力につながっていったのでしょう。しつけの不安や工夫をママに直撃!読者アンケートでは、子どものしつけに不安が「ある」「結構ある」という声が多く寄せられました。ママの声を紹介します。不安● 親の言うことを素直に聞く子どもたち。わがままを言わない分、自主性がちゃんと育っているのか? 自分を抑えつけて親に遠慮していないか? など心配です。(京都府、6歳・4歳・8カ月のママ)● 私はよく感情的に怒ってしまう傾向があるので、ただ単にダメ!や強い言葉で言うのではなく、優しい言葉やきちんと伝わるように諭した言い方をしている友人はすごいと思います。(東京都、6歳・2歳のママ)● 元気過ぎるのがこの子の個性かもしれないけれど、ついまえわりの目を気にして怒ってしまい、抑圧されてストレスをため込んでないか不安です。(兵庫県、5歳のママ)工夫● 何かしてくれたら必ず「ありがとう、めっちゃ助かったよ~」とお礼を言ったり、「挨拶は大事だよ。挨拶するだけで仲良くなれたりするよ」「昨日より今日の方ができてるじゃん!」など、本人以外との比較はしないで、過去の本人と比較するようにしています。(神奈川県、6歳・4歳・2歳・9カ月のママ)● ママも失敗したり、苦手なものがあるひとりの人間として、完璧なお母さんを演じず、子どもに自然体で接するように意識しています。学校や外では、頑張らなきゃいけないときがあるけれど、家では頑張り過ぎないよう子どもにはやりたいことを中心に、順番や時間は自由にさせています。(千葉県、8歳・5歳のママ)● ほめる言葉を意識して、NGワードは手帳にメモして使わないようにしています。(青森県、11歳・10歳・5歳のママ)子どもが変わる「3つのH」のススメ3つのH(ほめる・はげます・ひろげる)は、子どもを伸ばす魔法の言葉。日常生活に意識して取り入れてみましょう。今からでも遅くありません! 子どもの声に耳を傾け、一緒に過ごす時間を大切に子どもは常に同じスピードで成長しているわけではなく、行きつ戻りつ、時に停滞しているように見えても、心・頭・体の中で見えない大事な力が育っています。「教育投資」をするために、家庭の収入を変えるのには限界がありますが、しつけのスタイルは自分の力でコントロールできます。「今まで強制型しつけをしていたわ」と焦ってしまうママも心配することはなく、今から変わればいいのです。聞き上手になって、子どもと一緒に遊んだり笑ったり、好きなことに関心をもってわが子との時間を共有することで、子どもは自ら学び育っていきます。ほかの子と比べず、わが子自身の進歩を認め、未知の可能性を伸ばしてあげてください。(※ 1)日本・韓国・中国・ベトナム・モンゴル各国3000人の3 ~ 5歳児を対象に個人面接調査を実施。さらに、テストを受けた子どもの保護者全員と幼稚園・保育園の保育者全員に、文字環境やしつけ、塾や習い事の種類、子どもの学歴への期待度、家庭の蔵書数、所得などについてのアンケート調査を実施。同じ子どもに小1の3学期にPISA 学力型テストを受けてもらう追跡調査を実施(2012年)(※ 2)受験偏差値68以上の難関大学・学部を卒業して難関試験(司法書士や国家公務員試験・調査官試験・医師国家試験など)を突破した子どもをもつ親に、乳幼児期のしつけ(乳幼児期~児童期に何に配慮して子育てしたか)についてWeb 調査を実施。23~28歳までの成人の息子や娘を2~3人育てた家庭2000世帯を抽出(2013年)(※ 3)「共有型しつけ」30組と「強制型しつけ」30組の母親と子どもを対象に各家庭で読み聞かせを行い、その様子を観察出典元:「子どもの見ている世界」(内田伸子著・春秋社)
2019年06月06日10歳くらいで学習面における壁にぶつかることを意味する、「10歳の壁」という言葉を知っている人も多いでしょう。「壁」という言葉のイメージも手伝って、乗り越えるべき難しい時期だと考えてしまっている人もいるかもしれません。でも、発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学の専門家である法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生は、「10歳は子どもにとって大きな飛躍の年」だと語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)学習面以外にも現れるさまざまな変化「10歳の壁」というと、一般的には小学3、4年生になった子どもたちがぶつかる学習面での壁を指します。たとえば、算数の問題でもそれまでは「リンゴがいくつ」といったふうに具体物で表されていたものが、突然、○(丸)や□(四角)という抽象的なもので表されることが増えてくる。そこで理解が止まってしまう子どもが非常に多いのです。ただ、10歳という年齢における子どもの変化は、そういった学習面の変化に伴って出てくるものだけではありません。たとえば、ある研究データによると、「人を助ける思いやりの行動」にも変化が見られます。9歳までは困っている人を見れば素直に「助けてあげたい」と行動できていた子どもたちが、10歳になるとなぜかそういう行動を起こさなくなるのです。友だちへの意識も10歳前後で大きく変わります。9歳頃までの子どもの場合、誰もがなんの疑いもなく「みんなと仲良くできる」と思っています。でも、10歳になると「バスの隣の席は○○ちゃんがいい」「○○ちゃんには座ってほしくない」というふうに思いはじめる。ずっと「みんなと仲良くできる」と思っていた自分自身と、自己矛盾を起こすようになるのです。「10歳の壁」をポジティブにとらえようその時期を境にして子どもに見られる変化は他にもいろいろあります。たとえば「時間的展望」がそう。未来や過去、現在といった時間的なものさしが格段に伸びる時期であり、将来のこともしっかりイメージして考えられるようになります。さらに、たとえば中東で起こっている紛争のニュースを見れば、その地域に住む同年代の小学生の生活を想像して心配するように、会ったこともないような人間の気持ちまで考えられるようにもなる。これは、とらえられる対人関係が大きく広がったということを意味します。その広がりは自分自身にも向かいます。自分をモニターして客観視し、「僕はこういう良くないところがあるから、直していかなきゃ」といったふうに、自己コントロールしようともしはじめるのです。そのような自分の内面に向かう視点の獲得によって、作文にも大きな変化が表れます。たとえば明日に運動会を控えているという状況なら、「明日は運動会だけどワクワクするような気持ちだけじゃなくて、不安な気持ちや絶対に負けたくないという気持ちもある。気持ちってひとつだけじゃないんだな」といったことも書けるようになる。これは、しっかり自分の内面をとらえられるようになったということであり、成長の証ですよね。そう考えると、「10歳の壁」を「学習面で行き詰まること」とネガティブなとらえ方をするのはもったいない気がします。子どもは10歳前後でさまざまな面で大きな成長を遂げます。内面が変化する分、行動が停滞したように見えますが、じつは内面が深化しているのです。すなわち、「10歳の壁」ではなく「10歳の飛躍」ととらえれば、親としてもすごく面白い時期に感じられるのではないでしょうか。着実に大人へと成長する子どもの姿を楽しむもちろん、それだけ大きな変化、成長の渦中にいる子どもたちは強いストレスも感じているはずです。当然、親はしっかり子どもを見守って、ときには導いてあげる必要があります。ですが、あまり難しく考える必要はありません。親になったからといって、その瞬間にどこかから親に必要なスキルが降って湧いてくるものではないのですから、子どもと一緒に親も成長していけばいいのです。大切なのは、しっかり子どもを見て、ともに悩み、そして人生の先輩として「こうして教えてあげればいいかな」と親自身が思える方法で導くこと。少しずつ親としての自信をつけていきましょう。そして、子育てをもっと楽しむ姿勢を持ってほしいと思います。たしかに、10歳頃から子どもは難しい時期に入っていきます。でも、裏を返せば子どもが急激に大人に向かって成長している時期でもある。子どもが抱える悩みも大人と同じようなものになってきて、子どもの友だち関係や勉強での悩みを親の人付き合いや仕事の悩みに置き換えて考えることができるようになる。そうすると、悩みの解決方法を親子で一緒に考えたり、あるいは子どもに「なるほど!」と思わされたりするなど、子どもと接する面白味が一気に増してくるのです。もちろん、10歳以降になれば行動範囲も広がってなんらかの危険に巻き込まれるという可能性も高まりますから、そういった点では注意も必要です。難しい時期の子どもに拒絶されないようにちょっと距離を置きながらもしっかりと子どもを見て、「なにかあればいつでも相談に乗るよ」「いつもあなたのことを考えているからね」という気持ちを伝えてあげてください。あとは子どもの成長を存分に楽しめばいいのです。そもそも、10歳頃の子どもの「飛躍」は、それまでの親による教育、インプットが花となって開きはじめたということの表れに他なりません。その花が開くようすを楽しむことこそ、親としての醍醐味ではないでしょうか。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月06日幼い頃はいつでも天真爛漫だった子どもが、小学生になって難しい顔をすることも増えてきた――。子どもが悩みを抱えるようになると、それに比例して親の悩みも増えるものです。悩み多き思春期に差し掛かろうとしている子どもに対して、親はどう接するべきなのでしょうか。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学の専門家である法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生にアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもが悩みはじめることは成長の証子どもが小学生になると、幼児の頃と比べてさまざまな悩みを抱えるようになります。でも、それは「いいこと」なのです。なぜかというと、幼い頃には悩まなかったようなことにも、心が発達したことで「悩めるようになった」からです。未来を展望し過去を振り返る力を得て、対人関係が広がると、悩みも多くなるものなのです。ですから、悩みを抱えている子どもが、家族のふとした言動によって「うるさい!」なんていってバタンとドアを閉めたりすれば、親として子どもの成長を感じてよろこんでほしいのです。子どもにとって悩みやトラブルは成長の糧です。たとえば、少しは喧嘩もしないと本当の意味で友だちと仲良くなることはできません。何気なくいったことでも「ここまでいうと相手を傷つけちゃうんだ」とか、良かれと思っていったことでも「ここまでいうとおせっかいになっちゃうんだ」というふうに失敗して学ぶのが人間であり、未熟な部分をぶつけ合うことが子どもにとっては大切な学びなのです。ネガティブな感情も人間には必要そうした子どもの悩みには、怒りや嫉妬、それから劣等感といったネガティブな感情から生まれるものもあります。小学生でも中学年、高学年くらいになると、テストの点が悪かったりスポーツがなかなかうまくならなかったりして、誰もが人と自分を比較するようになります。ネガティブな感情を持つのはあたりまえのことですし、もっといえば人間として必要なものです。というのも、それらの感情は進化の過程で人間がサバイバルするために必要なものだったからです。怒りは外敵と戦うときに必要だったでしょうし、嫉妬や劣等感だって他人と自分を比較することでより良い人間になろうとするモチベーションになったことでしょう。また、ネガティブな感情があるからこそ、ポジティブな感情の意味もより感じられるようになるということもあります。日本人の場合は、子どもにも親が「怒っちゃ駄目」というといった具合に、ネガティブな感情を封じ込めようとする傾向にあります。でも、アメリカのドラマなどを観ていると、親友同士や家族が怒りをぶつけ合っていい争うシーンをよく見ますよね。それが彼らにとってあたりまえのことであり、アメリカ人には相手のネガティブな感情に寛容なところがあるのです。そもそも、子どもがネガティブな感情をすでに持ってしまっていれば、どんなに封じ込めようとしてもゼロにはなりません。でも、封じ込める必要はなくとも、ただ感情任せに振る舞うとさらにトラブルを招くこともありますから、やはりマネジメントする力を教える必要はあります。そういうとき、親は子どもに「寄り添う」ということをいちばんに考えてください。「やっぱり怒っちゃうよね」「悔しいよね」と共感し、次に、「そういうときはこう考えたらどう?」「こうしてみたらどうかな?」と、具体的にやれそうな策を教えてあげるのです。とくに道徳的な考えなどは、しつこいくらいに説明してあげないとなかなか子どもの心には入っていきませんから、子どもの成長に合わせてわかるように言葉をかけてほしいと思います。「情けは人の為ならず」という言葉の真意は、子どもにはすぐには実感できないものですからね。劣等感に負けないための「4つのトレーニング」先に劣等感などのネガティブな感情も必要だとお伝えしました。ただ、あまりに劣等感が強くて自尊心を持てなくなってしまっては大問題です。ここで、劣等感に負けないためのトレーニングを紹介します。これは、「レジリエンス」、いわゆる「心の回復力」を鍛える「4つのトレーニング」です。心の力を回復するうえで鍛錬しておく4種類の「筋肉」をイメージするよう子どもに伝えてトライさせてみましょう。【レジリエンスを鍛える「4つのトレーニング」】■1:「I am」マッスルわたしは◯◯(自分を肯定する言葉)例:わたしは優しい■2:「I can」マッスルわたしは◯◯ができる(自分ができること)例:わたしは泳げる■3:「I like」マッスルわたしは◯◯が好き(自分が好きだと思うこと)例:わたしは野球が好き■4:「I have」マッスルわたしには◯◯がいる、わたしは◯◯を持っている(自分が大事にしている人や宝物)例:わたしには頼りになるお父さんがいる、わたしはアイドルのサインを持っているこれは、自分が持ついいところ、いいものをつねに「見える化」することで劣等感に打ち勝ち、自分の強みを資源にするトレーニングです。子どもには、寝る前にそれぞれ3つくらいを思い浮かべさせる、あるいは書き出させてみてください。それこそ、内容は本当に簡単なことで大丈夫。2なら、「歯みがきができる」なんてことでいいのです。きっと、子どもは「できそうだ!」「やれそうだ!」とポジティブな気持ちを持って眠りにつくことができるはずです。子どもの短所は長所の裏返しこういったトレーニングの良さとして、親子問わずに「性格のせいにする」という考え方を変えられることが挙げられます。とくに親の場合、子どもになにかうまくいかないことがあると、「あなたが怒りっぽいから」「暗いからよ」などと性格のせいにするということが見られます。そうすると、子どもにそのレッテルを貼って、むしろその方向に子どもの背中を押すことになりかねません。「怒りっぽい」といわれた子どもは「怒りっぽい人間として生きていかないといけない」と思ってしまうのです。でも、性格ではなく「トレーニング不足だから」ととらえられればどうでしょうか。子どもは「トレーニングしてスキルさえゲットすればいい」とゲーム感覚でとらえ、自分の性格に悩むこともなくなります。親も「こういう性格の子に産んじゃったから」と思うとなにもしようがありませんが、「まだこの子はトレーニングが不足しているだけ」ととらえれば、子どものためになにかやれることがないかと工夫しようと考えられますよね。もっといえば、一見、あまり良くないように思える性格というのは、ポジティブにとらえてみると、実はその子のリソース(資源)で、強みなのです。たとえば、「怒りっぽい」子どもは、見方を変えれば「情熱的」ともいえます。他人から短所だと思われているところはたいてい長所でもありますし、それがその子の本来的なキャラクターなのですから、それを抑えるのではなく生かす方向に考えてあげるのが親の役目ではないでしょうか。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由(※近日公開)【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月05日人がきちんと社会生活を営むために欠かせない、ありとあらゆる力を指す「ソーシャルスキル」。ソーシャルスキルが欠乏すると「人とうまくかかわれなくなる」と語るのは、法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生。そうであるなら、子どもにきちんとソーシャルスキルを身につけさせたいと親は考えます。その方法を聞いたところ、渡辺先生の答えは「『なんとなく』でいいんです」という意外なものでした。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)必要なソーシャルスキルは年齢によって変わらない親が変に不安ばかりを抱えるのではなく、ポジティブな発想で家庭教育をすれば、子どもは自然にソーシャルスキルを身につけていきます。親がいつもニコニコして「人生って面白いよ!」と伝えてくれたなら、子どもは自然とワクワクした気持ちで毎日を過ごし、友だちや先生といい関係を築くことができるからです(インタビュー第1回参照)。ですが、ソーシャルスキルを子どもに教えるために意識しておいてほしいこともあります。まず、子どもの年齢によるちがいをお伝えします。そもそもソーシャルスキルは人間が社会生活をきちんと営むために必要なものですから、例外こそあれ、基本的には年齢によって必要なスキルは変わりません。たとえば、「人の話はきちんと聞く」ということが大切だということは、大人も子どもも変わりませんよね。でも、年齢によって理解力にはちがいがありますから、それに合わせて教え方も工夫する必要があります。3歳、4歳くらいの幼児なら、「お口はチャックね」というふうに、まずは静かにするということを教えるべきでしょう。年齢が上がって中学生くらいになれば、「相手の方に体を向けて、話の内容に注意しながら」といったように、内面的な部分も含めて教えるという具合です。また、「上手に断る」スキルも年齢を問わずに必要とされるものでしょう。生きている限り、断らなければならない場面はたくさんありますからね。仕事をしている大人ならよくわかると思いますが、なんでも引き受けて結局できないと逆に迷惑をかけることになる。断るスキルも重要なソーシャルスキルのひとつです。なにかを頼まれて断らなければならない場合、大人であれば、まずは「それはお困りでしょうけど……」など相手に共感する言葉をいって、理由と謝罪を添えて断り、できれば代案も出す。これが上手な断り方といえます。でも、幼い子どもがこんな断り方をしたら逆に変ですし、友だちから浮いてしまうかもしれません(笑)。幼児であれば、「駄目〜!」でもいいんです。あとは「どうして駄目なのかを教えてあげてね」と理由を添えることを教えるくらいで十分でしょう。親は子どもに見返りを求めてはいけないしかし、そういった教え方にもガチガチにルールがあるわけではありません。「なんとなく」でいいのです。自分の子どもをしっかり見て、いまの子どもには「『なんとなく』こんなことを教えてあげたらいいかな」という感覚で教えてあげてほしいのです。教育熱心な親たちには、「なんとなく」や「ぼちぼち」「まあいいか」「このくらいで」みたいな感覚が必要だとわたしは思っています。みなさん、教育に対して真面目過ぎるように感じるのです。真面目であることは悪いことではありませんが、その真面目さが弊害を招くことだってあります。真面目な人は一生懸命に努力しますが、人間というのは努力すればするほど相手にも期待してしまうものです。たとえば子どものお弁当に手が込んだキャラ弁をつくったら、やっぱり子どもには「かわいかった!」「美味しかった!」「全部食べたよ!」といってもらいたくなりますよね?でも、子どもからすれば、たとえ幼くてもその期待を感じますから、「『美味しかった』っていわないといけない」「全部食べないといけない」などと思って、伸び伸びと毎日を送れなくなるものです。しかも、子どもがお弁当を残すなどして期待を裏切られると、親は「わたしのお弁当が駄目だったのかな……」なんて無駄に落ち込んだり、不機嫌になったり、ときには理不尽に子どもを怒ったりもする。でも、そもそも親は子どもに見返りを求めてはいけないのです。親が身につけるべき「応答するスキル」子どもに見返りを求めるということは、先に親がなにかをして子どもが応答するというかたちですよね?でも、本来、子どもが発するたくさんの欲求に対して親が応答してやることが大切です。この「応答するスキル」こそ、親に必要とされるもっとも重要なソーシャルスキルです。赤ちゃんの泣き声に対して「なーに?」と応答することは、そのスキルを発揮するべき代表的な場面です。子どもの泣き声を聞いて、なにをしてほしいのか、その要求を親は感じ取ってあげなければなりません。これはソーシャルスキルのなかでいちばんコアなものである、コミュニケーションスキルにも通じるものです。コミュニケーションが上手な人というと話し上手な人をイメージするかもしれません。でも、そうではなくて、「相手にきちんと注意を向けられる」人なのです。子どもを育てる親にはこの力が絶対に必要です。犬を見た幼い子どもが「あ、ワンワン!」といったとします。親は子どもの言葉に応答して犬に注目しながら、「ほんとだ、ワンワンだね」と答えるでしょう。簡単にいえば、これがコミュニケーションです。自分や、自分が関心を向けている「コト」や「モノ」に、相手も関心を持って応じてくれることが、人はもっともうれしいことなのです。コミュニケーションを通じて、子どもは自分が提供した話をちゃんと親が聞いてくれたことの喜びや、親とのつながりを感じます。そして、「自分はここにいていいんだ」と自分の存在価値を感じ取ることになるわけです。これは人間にとって重要なソーシャルスキルである「自尊心」「自己肯定感」を育てることに他なりません。子どものソーシャルスキルを育ててあげたければ、まずは親がきちんと応答してあげること――。それが基本中の基本となります。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法(※近日公開)第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由(※近日公開)【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月04日「ソーシャルスキル」という言葉を知っているでしょうか。直訳すると「社会的な技能」となりますから、なんとなく意味も想像できるかもしれません。いま、子どもたちのソーシャルスキルが不足している、あるいは未熟なままであると危惧しているのが、法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生。きちんと社会生活を営むために欠かせないというソーシャルスキル。具体的にはどんなものなのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「バイバイ」のハンドサインもソーシャルスキルソーシャルスキルというと、なにか特別な技能を想像するかもしれませんね。でも、これはみなさんすべてが日常的に使っているしぐさや行動なのです。たとえば、手の振り方次第で相手に「こっちに来て」とも「バイバイ」とも伝えられますよね?このように、社会生活をうまく営むために「こういう場合はこういう振る舞いをする」というフォーム(モジュール:人間の行動のうえで、まとまった社会的機能を有する単位)のようなものです。「うまく営む」というと、「要領良く生きていく」ためのスキルだと勘違いする人もいるでしょう。でも、そういうものではなくて、ある社会に暮らすために誰にも求められているものなのです。電車に乗るときのマナーをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。電車でのマナーは、社会生活をスムーズに営むためのものであって、要領良く生きるためのものではないですよね。それらは、かつては親やおじいちゃん、おばあちゃん、近所の大人たちが子どもたちに教えてきたものです。でも、地域との接点が薄れ、核家族化が進んだいまはそれが難しくなってきています。極端にいえば、家庭教育を担うのは親だけという状況。その親が教えることができなければ、子どもはソーシャルスキルを学ぶことができないのです。遊びが多くのソーシャルスキルをもたらすまた、子どもがソーシャルスキルを身につけることが難しくなってきている原因としては、子どもたちが自由に遊べる時間が激減しているということも挙げられます。いまの時代の親は本当に教育熱心です。子どものためを思って塾はもちろんさまざまなお稽古事に子どもを通わせますから、子どもが自由に友だちと遊べる時間はどんどん減っています。でも、本来、子どもは遊びからさまざまなソーシャルスキルを学ぶのです。たとえば、近所の子どもたちと遊ぶうち、年上のお兄さんやお姉さんに優しくされれば、「思いやる力」を学べます。そうして学んだスキルを、今度は年下の子どもたちを相手に発揮することもあるでしょう。また、山の急勾配を登るような遊びなら、何度転げ落ちても粘り強く挑戦を続けるうちに、子どもは「あきらめない力」を身につけます。逆に、遊びのなかで「あきらめる力」を身につけることもあります。たとえば、本当はもっと遊んでいたいのに、日が暮れてしまって遊ぶことを「あきらめた」という経験はみなさんにもあるでしょう?これも立派なソーシャルスキルです。「あきらめる力」は「粘り強さ」の対極にあるものではありません。ときと場合によっては、どこかで妥協することも必要なのです。そうできなければ、次のステップに進んで頑張るということもできないでしょうからね。そういった「決断」が「あきらめる」ということなのです。ソーシャルスキルの不足が招く悪影響ソーシャルスキルは、いってみれば「生きるための総合力」です。それらが不足してしまうと、当然、子どもたちにはさまざまな影響が表れます。その筆頭は、「人とうまくかかわれなくなる」ということ。人間は社会生活を営む動物ですから、「ひとりで生きていける」なんて思っている人であっても、実際にはどこかで人とかかわって生きています。それなのに、人とうまくかかわることができなければ、まわりから「迷惑な人だ」と思われるなどして、幸せな人生を歩むことが困難になります。それから、「うまくかかわれなくなる対象」には「自分」も含まれます。「ソーシャル」というからには他者とのかかわりをイメージすると思いますが、先に挙げた「あきらめない力」や「あきらめる力」がそうであるように、ソーシャルスキルが欠乏すると、自分ともうまくかかわれなくなるのです。「不安ありき」の家庭教育では子どもも不安になるでは、子どもにソーシャルスキルを身につけさせるために親はどうすればいいのでしょうか。わたしは、変に難しく考える必要はないと思っています。なによりも楽しく子育て、家庭教育をすることを心がけてほしいのです。先に、ソーシャルスキルが不足すると人とうまくかかわれなくなるとお伝えしました。すると、「うちの子がそうなったらどうしよう」と思った人もいることでしょう。いまの親を見ていると、多くの人が「不安ありき」の家庭教育をしているように思えてくるのです。自分の子どもが「不登校にならないか」「いじめに巻き込まれないか」といくつも不安があって、そうならないための家庭教育になっているのではないでしょうか。それはすごく残念なこと。子どもは無限の可能性を秘めています。だとしたら、起きてもいない問題をイメージして不安を取り除くような発想ではなく、子どものいいところをどんどん伸ばしてあげるためになにをすべきなのかという発想で、もっとポジティブに家庭教育をしてほしいですね。親が毎日のように不安な顔をしていたら、子どもだって不安になります。でも、お父さんとお母さんが人生を楽しんで、いつもニコニコして「人生って面白いよ!」と伝えてくれたら、子どもはワクワクした気持ちで毎日を過ごせるにちがいありません。「情動感染」という言葉がありますが、気持ちは即時に影響し合うところがあるのです。そうすれば、幼稚園でも小学校でも友だちがどんどんできて、先生ともいい関係を築けるし、自己肯定感が高まり、結果として自然に必要なソーシャルスキルを学んでいくように思うのです。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!(※近日公開)第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法(※近日公開)第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由(※近日公開)【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月03日親であれば、訪れる前から気になるのが子どもの反抗期ではないでしょうか。すでに反抗期を迎えた子どもとの接し方に悩んでいるという人も多いはずです。そこで話を伺ったのは、アンガーマネジメントの専門家であり、「キレやすい子ども」をテーマにした著書も多い早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生。反抗期とはいったいどういうものなのか?その意義も含め、反抗期の子どもとの接し方についてアドバイスをもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもに訪れる3つの反抗期子どもの反抗期には大きく3つの段階があります。ひとつは3歳くらいで訪れるもの。いわゆるイヤイヤ期と呼ばれるもので、これは自我が出てきたことによるものです。もちろん、自我がなければひとりの人間としてきちんと成長していくことなんてできませんから、イヤイヤ期は親としては歓迎すべきものでしょう。次が10歳頃の反抗期。これはさまざまな試行錯誤をして創造力が伸びる時期だからこそ出てくる反抗です。この時期にはルールで縛りつけ過ぎないように注意しなければなりません。「こうしたほうがいいよ」と親の理想を押しつけると、お手本どおりの解答はできるけど、独自性がない子どもに育ってしまうからです。独自性がないまま育つと、作文を書くにも、綺麗だけど面白みはない、どこかの誰かが書いたような文章しか書けなくなる。「個性が大事だ」とよくいわれますが、そう願うのなら、この時期の子どもには思い切り自由に発想力や創造力を働かせてあげてほしいのです。そうさせるうち、子どもは自分で自分なりのルールをつくるようになっていくでしょう。最後が14、15歳で訪れる反抗期です。反抗期というと、一般的にはこの時期のものをイメージするでしょう。この時期の反抗は、親などの大人や世のなかの価値観に対する反抗で、それらに対して「なぜ?」と疑問を持ち、その解決を通じて大人になっていくわけです。そういう意味でも、とくに14、15歳の反抗期にある子どもには、自分としっかり向き合ってくれて「世のなかとはこうだ」と答えてくれる大人の存在が必要です。そういう大人に対して子どもは自分の論理をぶつけて話し合う。そうしていきながら、大人になるために重要な道徳性や倫理を学ぶのであって、反抗してあたりまえなのです。対立するふたりのあいだに仲介者が入る対立解消法先に10歳頃の反抗期には、思い切り自由にさせてあげることが大切だとお伝えしました。ですが、親からすれば子どもに反抗されるのですから、「話し合いが必要だ」という場合もあるでしょう。でも、14、15歳の子どもとはちがって、10歳の子どもの場合は言葉が未熟なので、自分の論理をきちんと表現できないということもあります。そういう場合には、誰かがあいだに入ってあげるという対立解消の方法があります。仮にお父さんと子どもが対立しているのなら、お母さんがあいだに入って仲介する。こういう親子間の対立の場合、よくよく見てみると揉めているのは「方法論」だけという場合もよくあるケースです。たとえば、「子どもの成績を上げたい」と、お父さんは「あの塾に行くべきだ」と主張しているとします。それに対して、子どもは「別の塾に行きたい」「通信教育を受けたい」と主張しているといった具合です。この場合、「成績を上げたい」という目標はお父さんも子どもも共通しています。そうであるのなら、仲介者であるお母さんが「目標は共通している」ということを指摘して、お父さんと子どもを向かい合わせることができますよね。子どもは親の思いどおりには育たないここまでですでにおわかりとは思いますが、反抗期というのは子どもの成長に欠かせないものであり、あってあたりまえのものです。逆にいえば、反抗期がなければ「うちの子は大丈夫かな」と不安になってしまうかもしれませんね。でも、なかには本当に穏やかに育って反抗期がないという子どもも存在します。それは、子どもの欲求を上手に親が受け止めていた場合です。そういうケースにあてはまるかどうかはともかく、反抗期がないからと不安になる必要はありません。ただ、代わりに自分の言動はつねにチェックしてほしい。大切なのは、子どもの意見をきちんと聞いているかということ。子どもがなにかをいいだしたときに、子どもの言い分を最後までさえぎらずに聞いているか。それだけは意識的にチェックしてください。なぜ子どもの言い分を聞くことが大切なのか。それは、子どもをひとりの人格を持つ人間として考えることの証明だからです。親が自分の思いどおりに子どもを育てようとするのではなく、子ども自身がどのように育ちたいのかということをちゃんと受け止めることが大切です。子どもというのは、親の思いどおりには育ちません。子どもは親とは遺伝子もちがいますし、子どもをめぐる友だちや学校などの環境の影響も大きく受けます。それこそ、ジャガイモという同じ材料であっても、それをコロッケにするのか肉じゃがにするのかを決めるのは子ども自身なのです。そういう意味では、きちんと「自分で決められる」子どもに育てることこそ親が重視すべきことだと思うのです。自分で選んで自分で判断する――その力を子どもにつけてあげることこそ、親にとっての大事な役割だと思います。『キレやすい子へのアンガーマネージメント―段階を追った個別指導のためのワークとタイプ別事例集』本田恵子 著/ほんの森出版(2010)■ 早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生 インタビュー一覧第1回:子どもが「キレやすい」人間に育ってしまう、“絶対にNG”な親の振る舞い方第2回:意外と言いがち!子どもがますます反抗する、親のフレーズ3パターン第3回:「10歳の反抗期」に親がすべきこと。子どもは親の思いどおりには育たない!【プロフィール】本田恵子(ほんだ・けいこ)早稲田大学教育学部教授。中学、高校の教員を経験したあと、教育現場にカウンセリングの必要性を感じて渡米。アメリカにて特別支援教育、危機介入法などを学び、カウンセリング心理学博士号取得。帰国後にスクールカウンセラー、玉川大学人間学科助教授等を経て現職。学校、家庭、地域と連携しながら、児童、生徒を支援する包括的スクールカウセリングを広めている。2000年代からは、矯正教育の専門家を対象としたアンガーマネジメント研修の講師も務める。著書に『改訂版 包括的スクールカウンセリングの理論と実践』(金子書房)、『脳科学を活かした授業をつくる 子どもが生き生きと学ぶために』(みくに出版)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月23日日本でも徐々に浸透しつつある「アンガーマネジメント」という言葉。一般的には「怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング」とされ、ビジネスパーソンやアスリートが自己コントロールのために取り入れているほか、いまでは学校教育の現場にも広まりつつあります。その学校教育向けのアンガーマネジメントプログラム開発に深くかかわっているのが、早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生です。怒りっぽい子どもに手を焼いているという親のために、家庭でもできるアンガーマネジメントのコツを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)キレやすい子どもが増えている時代背景アンガーマネジメントが広まっている要因としては、感情をコントロールできない子どもが増えたことも挙げられます。その背景にあるのは環境の変化です。いまはまさにデジタル全盛の時代で、かつてのアナログの時代とは子どもをめぐる環境は大きく変わりました。携帯電話が普及する前なら、友だちに電話するにも、友だちの親など誰かに取り次いでもらうことが普通でした。そうやって、ふつうにコミュニケーション能力や社会性が育つ時代だったのです。また、当時は「待つ」ということがあたりまえの時代でもありましたよね。電話もすぐつながるわけではありませんし、情報を得るにもニュースの時間や新聞が届くのを待つ必要がありました。でも、いまは別世界。『LINE』を使うにも、子どもたちの場合はそれこそ「数秒ルール」です。いつも「返信しなきゃ!」と思っていますし、友だちから遅れまいとスマホを介して情報に追われ、つねに不安と興奮をいったりきたりしている状況といえます。そんな状況では、感情が安定するわけもありません。それこそ、感情をコントロールできる「キレない子ども」に育てるとなると、そういう状況を変える必要があります。たとえば、家族で食卓を囲むときにはテレビを消すとかスマホは使わないといったルールをつくることも有効でしょう。家族のあいだできちんとコミュニケーションができなければ、自分の感情をコントロールして他人と適切な人間関係を築くことなどできるはずもありません。そういう意味でも、親が子どもとしっかり対話することが大切になります。本来のアンガーマネジメントは多くの時間が必要親子間の対話におけるポイントを紹介する前に、アンガーマネジメントとはどういうものかをまず知ってもらいたいと思います。怒りなどの感情をコントロールできない人は、自分の欲求を間違ったやり方で出してしまうという特徴があります。アンガーマネジメントとは、その欲求の正しい出し方を学び直すという時間がかかる教育プログラムであり、本来なら予防的なプログラムでも最低で6回の講習を受けてもらう必要があります。最低6回のプログラムを受けると聞いて、「そんなに回数が必要なの?」と、ちょっと驚いた人もいるかもしれません。いま、ビジネスパーソンやアスリートに広まっているアンガーマネジメントというのは、そのエッセンスを抜き出して、ちょっと怒りを感じたときなどにその場で対処するための簡易的なテクニックといった側面が強いものですから、意外に思う人がいるのもわかります。でも、すでにキレやすくなってしまっている子どもの場合、そもそも言葉で自分の行動が制御できない状態になっているのですから、それらの簡易的なテクニックは使えませんし、正しく欲求を表現することを学び直すには本当に時間がかかるものなのです。キレにくい子どもを育てるために、親は子どもとしっかり対話することが大切だとお伝えしました。そのためには、親が自分と子どもの気持ちや欲求をわけてとらえる力を持っていることが大切になります。「あなた(子ども)のため」といいつつ、実は「わたし(親)のため」に指示を出したり話したりしていることが多いからなのです。キレやすい子どもに育ててしまう親の言葉アンガーマネジメントプログラムでは、まず、子どもに対するNGワードを親や教員に学んでもらうことにしています。そのなかから、基本中の基本といえる3つのNGワードをお伝えします。【1】事実を確認する前に決めつける言葉例:「あなた、○○したんだって?」「話、聞いてないでしょ」【2】気持ちの代わりに「なんで?」を使う言葉例:「なんでここを汚すの?」「どうしてそういうことをいうわけ?」【3】ものごとを否定的に伝える言葉例:「ルール違反!」「規則を守れないなら、もう来ないで」【1】の例を他に挙げてみましょう。たとえば、子どもの部屋を見たときにテレビゲームの電源が入っていたとします。つい、「またゲームしてるの?」といってしまうのが一般的ではないでしょうか。でも、もしかしたら子どもは、そろそろゲームをやめて勉強をしようと思っていたところかもしれません。すると子どもは、「いま、勉強しようと思っていたのに……」「だったらもう勉強はやめた!」と思ってしまう。決めつけられることを子どもはとても嫌がります。そうではなく、「WHAT」を使って話をしましょう。この場合なら、親からすればたとえゲームをしているところに見えても、「なにしてるの?」と聞くのです。そうすれば、子どもは「いまから勉強するところ」と、安定した状態を保つことができます。【2】の場合は疑問形になっていますが、親の本当の気持ちを考えるとどうでしょうか?多くは理由を知りたいわけではないはずです。ならば、本当の気持ちを伝えてあげればいい。「どうしてそういうことをいうわけ?」では子どもはますます反抗してしまいますが、「そういうことをいわれると、お母さん悲しいな」といわれれば、子どもも素直に「ごめんね」と受け入れてくれます。【3】は比較的わかりやすいかもしれませんね。否定される言葉をかけられれば誰しも気持ちいいものではありません。なかでも、「マイナスとマイナスの組み合わせ」の言葉はとくに注意が必要。たとえば、どこかに出かけなければならないのに、子どもがぐずっていたとします。「来ないんだったらもう知らないわよ」なんて怒鳴られれば、そんなに怒っている親がいる場所に子どもが行きたいと思うわけがないですよね。そこで、その言葉を「プラスとプラスの組み合わせ」に変えてあげればいいのです。この場合なら、「いま来たら、乗りたい電車に間に合うよ!」という感じですね。きちんと自分の感情をコントロールできる子どもに育てたいという願望は親であれば誰にでもあるものです。日頃からこれら3つのNGワードを使っていないか、ぜひチェックしてみてください。『キレやすい子へのアンガーマネージメント―段階を追った個別指導のためのワークとタイプ別事例集』本田恵子 著/ほんの森出版(2010)■ 早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生 インタビュー一覧第1回:子どもが「キレやすい」人間に育ってしまう、“絶対にNG”な親の振る舞い方第2回:意外と言いがち!子どもがますます反抗する、親のフレーズ3パターン第3回:「10歳の反抗期」に親がすべきこと。子どもは親の思いどおりには育たない!(※近日公開)【プロフィール】本田恵子(ほんだ・けいこ)早稲田大学教育学部教授。中学、高校の教員を経験したあと、教育現場にカウンセリングの必要性を感じて渡米。アメリカにて特別支援教育、危機介入法などを学び、カウンセリング心理学博士号取得。帰国後にスクールカウンセラー、玉川大学人間学科助教授等を経て現職。学校、家庭、地域と連携しながら、児童、生徒を支援する包括的スクールカウセリングを広めている。2000年代からは、矯正教育の専門家を対象としたアンガーマネジメント研修の講師も務める。著書に『改訂版 包括的スクールカウンセリングの理論と実践』(金子書房)、『脳科学を活かした授業をつくる 子どもが生き生きと学ぶために』(みくに出版)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月21日17歳前後の少年が相次いで凶行を起こしたことで、「キレる17歳」という言葉がメディアをにぎわせたのは、2000年頃のこと。それから約20年が過ぎましたが、その間にも、いわゆる「キレる」子どもたちの存在による学級崩壊等の問題は報じられ続けています。では、子どもをキレにくい人間に育てるにはどうすればいいのでしょうか。カウンセリング心理学博士であり、アンガーマネジメントの専門家でもある早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生にアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「キレる」人間には3つのタイプがある一般的に「キレる」というと、興奮して怒っている状態をイメージするでしょう。でもそれだけではなく、「キレる」人間には大きく3つのタイプがあります。ひとつは、そのすぐに興奮して怒りっぽいタイプ。わたしは「赤鬼」タイプと呼んでいます。アドレナリンが出やすく、いろいろな刺激に対してすぐに興奮してカッとなるタイプですね。このタイプは、八つ当たりをしやすく周囲に自分の感情をまき散らします。大人でも、パワハラをするような人はこのタイプに属します。その逆にあたるのが「青鬼」タイプ。強い不安を抱えていて、ひきこもる傾向にあります。自分が安心できる場所にいたり活動をしたりしているときは安定していますが、そこに他者が侵入してきてやりたいことを止められたり、無理やり外に出されそうになったりすると、激しい攻撃をすることもあります。さらに「凍りつき」というタイプもあります。これは、虐待やいじめ、それから支配的な家庭に育った子どもに多いタイプですね。子どもは3歳くらいになると、「こういうことをやりたい」といった自我が出てきます。でも、自我を出したときに親に否定されると、子どもは「いい子でいないといけない」と思うようになります。ただ、自我に逆らって「いい子」でい続けるのは大変です。小学校ではずっと「いい子」だった子どもが、中学生になるといきなり不登校になっちゃった――。「いい子」でいることに疲れてしまうと、こういうことが起きるのです。親が怒鳴るときは子どもの脳も怒鳴っているそういった点も含めて、「キレやすい子ども」になってしまうかどうかは、親のかかわり方にかかっているといってもいいと思います。じつは、安定した子どもになるかどうかのまず第1段階は、生まれてから3カ月くらいのあいだに決まってしまいます。生まれたばかりの赤ちゃんは、まだはっきりとものを見ることができません。音は聞こえてにおいも感じられるけど、その正体はわからない。だから、とっても不安です。体も動かせませんから、赤ちゃんができることは泣くことだけ。その泣き声を聞いた親が、しっかりと赤ちゃんの不安を察知して、おむつを替えてあげたりミルクをあげたりするなど、赤ちゃんが感じているいろいろな不快を快に変えることで、赤ちゃんは少しずつ安心して穏やかになっていくのです。その3カ月のあいだに、たとえば未熟児で生まれたりなんらかの病気を持っていたりしたことで親から離される経験をした子どもの場合、分離不安を生じやすくなります。だから、幼稚園や保育所に行く際にもすごく泣く傾向にある。その原因は、生まれてから3カ月のあいだの親との接し方にあるのです。そのあとも、子どもがキレやすくなるかどうかは、親のかかわり方が大きく左右します。3歳くらいになって感情が出そろってくると、子どもは親の感情や行動を真似していくようになります。自分にとってマイナスになる場面では、うそをつくとうまくいくことを見ていると同様の行動をする。また、親から怒鳴られている子どもは、人と接するときや人になにかをしてもらいたいときには怒鳴るようになる、という具合です。だから、親から虐待された子どもは、学校ではいじめっ子になりやすくなるといいます。このことには、脳内にある「ミラーニューロン」という神経細胞の働きが関連しています。これは、文字通り、「鏡の神経細胞」です。これによってどんなことが起こるのか。たとえば、父親が母親に暴力を振るっている場面を子どもが見てしまった。すると、子どもの脳のなかでは、ミラーニューロンによって子ども自身が暴力をしているときと同じ活動をする。つまり、親が怒鳴っているのを見たら、子どもの脳も怒鳴っているというわけです。「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、これは脳科学的にも正しいといえます。頭ごなしの否定は絶対にNG子どもをキレやすい人間にしないためには、親は自分の行動を振り返って見直すしかありません。そのチェックポイントともいうべき行動指針はいくつもありますが、重要なことをいくつかお伝えするならば、まずは「肯定的で具体的な行動を起こす声かけ」を意識することではないでしょうか。頭ごなしの否定の言葉はNGです。「○○しないで」といわれると、子どもはなにをしていいのかわからず不安になってしまいます。電車のなかで静かにしてほしいときなら、「騒がないで」ではなくて「お口を閉じましょうね」「本を読もうか」というといった具合です。また、さまざまな試行錯誤をさせてあげることも大切です。子どもは3歳くらいになると、いろいろと「実験」をしたがります。お風呂で石けんやシャンプーなどを混ぜて遊んでいるなんてこともあるでしょう。もちろん、危険が伴うことはやめさせなければいけませんが、ある程度の試行錯誤、実験は許容してあげてほしいのです。すると、そういった遊びなどを通じて、子どもは「これをやると怒られるんだ」「こういう遊び方はケガをするんだ」と、実体験に基づいた説得力のあるルールやパターンを学んでいくことになる。そのなかには、「うまくお友だちと付き合うにはこうすればいいんだ」というふうに、人間関係にかかわることも含まれます。いずれにせよ、大切なのは子どもに対する親のかかわり方。それを肝に銘じて子どもの目線に立ち、子どもに暴力的な場面を見せていないか、頭ごなしに子どもの欲求を否定していないかと、普段の行動を振り返るようにしてほしいですね。『キレやすい子へのアンガーマネージメント―段階を追った個別指導のためのワークとタイプ別事例集』本田恵子 著/ほんの森出版(2010)■ 早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生 インタビュー一覧第1回:子どもが「キレやすい」人間に育ってしまう、“絶対にNG”な親の振る舞い方第2回:意外と言いがち!子どもがますます反抗する、親のフレーズ3パターン(※近日公開)第3回:「10歳の反抗期」に親がすべきこと。子どもは親の思いどおりには育たない!(※近日公開)【プロフィール】本田恵子(ほんだ・けいこ)早稲田大学教育学部教授。中学、高校の教員を経験したあと、教育現場にカウンセリングの必要性を感じて渡米。アメリカにて特別支援教育、危機介入法などを学び、カウンセリング心理学博士号取得。帰国後にスクールカウンセラー、玉川大学人間学科助教授等を経て現職。学校、家庭、地域と連携しながら、児童、生徒を支援する包括的スクールカウセリングを広めている。2000年代からは、矯正教育の専門家を対象としたアンガーマネジメント研修の講師も務める。著書に『改訂版 包括的スクールカウンセリングの理論と実践』(金子書房)、『脳科学を活かした授業をつくる 子どもが生き生きと学ぶために』(みくに出版)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月20日子供にウソをつかれたら、親はショックですよね。子供が何度もウソをつくことに不安を感じて、叱った経験があるかもしれません。安心してください、子供はウソをつくものです。しかし、子供がウソをつくことに対して、親が何も対応をしないわけにはいきません。子供がウソをついたとき、親はどのように対応すればよいのでしょうか。今回は、子供のウソの種類と対応策について紹介します。子供はウソをつくもの子供はウソをつくものです。そもそも、大人ですらウソをつくのですから、子供がウソをつくことは自然なことですよね。臨床心理士の井上序子さんは、ウソをつく子供について次のように述べます。嘘をついたことがわかっても、嘘をつく悪い子というように性格に原因を求めるのではなく、「何があるのだろう」と考えてあげることが大切です。(引用元:大阪市|【第9号】「子どもの嘘~どう対応する?」臨床心理士・精神保健福祉士井上序子)その子の性格が悪いから、ウソをつくわけではありません。大切なのは、どうして子供がウソをつくのかという原因をわかってあげることです。では、どうして子供はウソをつくのでしょうか?ここからは、ウソの原因とそれぞれの原因に応じた対応策を3つ紹介します。子どもがウソをつく原因1:事実と空想の区別がつかない子どもがウソをつく原因の1つ目は、子どもが事実と空想の区別をつけられないことがです。実は、ウソは心理学的に高度な技術。したがって、子供がウソをつくようになったということは、それだけ子供が成長したということを意味します。井上さんは、子供の成長とウソの関係を次のように説明します。子どもは2歳半頃から嘘をつくようになります。これより幼い頃は、空想や願望を話すことはあっても、嘘をついているという意識はないことが殆どです。3歳頃になると自分の言っていることが現実とは異なっていることや、嘘をつく目的を意識できるようになります。違う見方をすると知能が発達しているということです。(引用元:同上)つまり、心理的な発達が不十分な2歳半までのウソに、「事実を偽ろう」という意識はありません。そして、成長すれば、事実と空想は区別できるようになります。なので、2歳半までの子供のウソに対して過度に敏感になる必要はありません。大人がしっかりと子供を見守って話を聞き、子供の言葉が空想なのか事実なのかを判断しましょう。子どもがウソをつく原因2:かまってほしい子どもがウソをつく原因の2つ目として挙げられるのは「もっとかまってほしい」という気持ちです。子供の中には、親にかまってほしいがためにウソをつく子がいます。具体的には、お腹が痛くもないのに痛いと言ってみたり、学校での出来事を実際より大げさに表現したりしてしまうのです。こうしたウソの原因は、子供とのスキンシップ不足。仕事が忙しくなると、ついつい子供との会話やスキンシップが減ってしまうかもしれません。また、妹や弟ができると、上の子にかまってあげられる時間が減ってしまうでしょう。すると、子供は寂しくなってウソをついてしまうのです。こうしたウソへの対応はシンプル。子供との会話や、スキンシップの時間をつくってあげるとよいでしょう。子どもがウソをつく原因3:自分の身を守りたい子供がウソをつく最大の原因は「自分の身を守りたい」という気持ちです。具体的には自分の失敗を「〇〇くん/ちゃんのせいで、こうなった」と、友達のせいにしたり、まだやっていないのに「宿題はやったよ」と言ったりするウソが当てはまります。こうしたウソを聞くと、ウソをやめさせるために厳しく叱ってしまいたくなりますが、それは逆効果。懲罰的な環境では、上手なウソをつく子供が育ってしまう可能性があるのだそう。心理学者であるTalwarさん(マギル大学)とLeeさん(トロント大学)の論文によると、西アフリカの懲罰的な学校に通う3〜4歳の子供たちは、懲罰的ではない学校に通う子供達よりもウソをつく傾向がありました。したがって、子供が保身のためにウソをついた場合は、子供を追い詰めるほど叱らないほうがよいのです。教育評論家の親野智可等(おやのちから)さんは次のような対処法を紹介します。子どもの愚痴、失敗談、要求、わがままなども、門前払いせずに、まずは共感的に聞いてあげましょう。もちろん子どもの要求に対して、最終的には「ノー」と断る場合もあります。でも、そういうときも、まず取り敢えずは共感的に聞いてあげることが大切です。このように共感的で寛容な親なら、子どもは親を信頼して安心して生きられます。ウソをつく必要もなくなり、正直になんでも言えるようになります。(引用元:親力|親が寛容なら子どもはウソをつく必要がなくて正直になる)どんな言葉でも、子供の言葉をまずはしっかりと聞いてあげるようにしましょう。そうすることで子供は安心して正直な言葉を話せるようになりますよ。***いずれのウソの場合も、常に厳しく叱ることはよくありません。まずはきちんと子供の言い分を聞き、冷静に「自分の身を守るようなウソはよくない」など、よくないウソが存在することを伝えてあげましょう。また、子供が3〜4年生になってくると、ウソに合わせて自分の行動を変えられるようになるため、ウソは見破りにくくなります。それまでに子供とウソについて話し合ってみるとよいかもしれません。文/村瀬裕一(参考)大阪市|【第9号】「子どもの嘘~どう対応する?」臨床心理士・精神保健福祉士井上序子親力|親が寛容なら子どもはウソをつく必要がなくて正直になるAll About|子どもにうそをつかせないための親の心得5カ条All About|嘘つきは泥棒のはじまり?子どもの嘘に気づいたらTalwar, Victoria and Kang Lee (2011), “A Punitive Environment Fosters Children’s Dishonesty: A Natural Experiment”, Child Development, Vol. 82, Issue 6, pp. 1751–1758.
2019年05月19日子どもにおもちゃを片づけしてほしいときや、公園から帰りたいとき、「10〜9〜8〜7〜…」とカウントダウンを始めると、慌てて行動に移すことはありませんか?何度言ってもやってくれないとき、時間がないときに、数を数えると動いてくれるのでラクですよね。では、カウントすることで行動を促すことは、子どもにどんな影響があるのでしょうか?発達心理学・教育心理学が専門の東北文教大学の永盛先生に話を聞いてみました。カウントすることで子どもへ与える心理的影響は?幼児期は、楽しい心情の中でさまざまなことを学びます。ですから「何をしているか」よりも、「どんな気持ちでしているか」の方が重要です。まずはカウントすると、「なぜ動くのか?」に着目してみましょう。例えば、カウントが「0」になったら叱られると思って行動しているのでは、あまりいい影響があるとは言えません。心理学で言えば、ネガティブな「外発的動機付け」、もしくは「罰の回避」によるやる気で、自主性が育ちません。さらに信頼関係に悪い影響が出ることも。子どものやる気を引き出す使い方は?好ましいのは、子どもの中からのやる気、ポジティブな「外発的動機付け」(賞の獲得)、もしくは「内発的動機付け」であること。つまり「カウントに合わせて動くと楽しい・嬉しい」といったやる気の出し方です。カウントがはじまったら「やりたい」「嬉しい」と思ってもらえるような事柄を準備しましょう。例えば、疲れてもう歩きたくないときに、「何歩でおうちまで帰れるか数えてみよう! 1〜2〜3〜」とカウントする。カウントされるのがあまり好きじゃない子には、「この歌が終わるまでにおもちゃを片付けられるかな〜」と代わりに好きな歌を歌ってもいいですね。それを達成できたら、たくさんほめることも大切です。年齢別に得られる効果と気をつけたいポイント年齢によって、カウントされることで受ける感じ方が変わってきます。年齢別に得られる効果や気をつけたいポイントも教えてもらいました。1〜2歳時間に対する概念がまだ芽生え始めの時期なので、カウントしてもあまり理解できません。3〜4歳少しずつ時間に対する理解、ゲームに対する理解が出てくる時期です。「0になるまでにできるかな?」とゲーム感覚で楽しみましょう。楽しさを感じると、挑戦する意欲が刺激され、活動の切り替えができたり、達成感を感じられます。5〜6歳時間の観念が発達してきて、生活の流れを見通すことができる時期。その流れに沿って行動するようになり、言われなくとも動けることに誇りをもったり、できたことで自分自身の肯定感につながります。逆にカウントすることで「自分はできなかった」と感じたり、プライドが傷ついたり、使い方が難しい時期とも言えるでしょう。小学生以降学年が上がるにつれ、親への反発心から、カウントを行うことで行動に移すという効果は得にくいかもしれません。6歳の息子に使ってみた結果…試しに、筆者の6歳になる息子に使ってみました。「今日は時間内に着替えられるかやってみよう」と、ゲーム感覚でカウントを開始したら、いつも以上に早く着替えられました。でも、あとから感想を聞いてみると、「数えられると焦っちゃうからイヤ」という反応が…。できて当たり前のことをカウントされると、「時間内にできなかったらどうしよう」とプレッシャーに感じてしまうようです。逆に、習いごとの先生に、「レッスンが始まるよ〜! 3〜(手拍子2回)、2〜(手拍子2回)、1〜…」とゆっくりカウントされるのは、ワクワクして楽しい気持ちになれるからいいのだそう。カウントでやる気を出してもらうのは、時間の概念がわかり始めた時期に使うと1番効果がありそうです。使う場面や年齢で子どもへの影響も変わってくるので、子どもがどう感じているか確認しながら使いたいですね。<文・写真:ライター三浦麻耶>
2019年05月18日子どもの知能を示す「IQ」とは別に、昨今では「SQ」という指数に注目が集まっていることをご存知でしょうか?SQが高い子どもは、一人ひとりの個性や多様性が重視されるこれからの社会で活躍できるといわれています。今回は、SQの意味や役割、それを高めるポイントについてご紹介しましょう。そもそも「SQ」って?今、子ども達に求められる能力とは「SQ」とよく似た言葉に、IQとEQがあります。しかし、この2つはSQとは少し異なったものです。IQは、Intelligence Quotient(知能指数)の略で、俗にいう「頭の良さ」を指すものとしてよく知られていますよね。そして、EQはEmotional Intelligence Quotientの略で、「感情指数」や「心の知能指数」とも呼ばれています。自分自身の感情を把握してコントロールすることで、その場に合った言動をとれるかどうか、また相手の感情を理解しながら適切な配慮をし、他者との関係を良好にできるかどうかを指しています。SQ(Social Intelligence Quotient)とは、著書『EQこころの知能指数』を通してEQの認知度の向上に貢献したアメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンが発表した概念であり、コミュニケーション能力や社会性の高さを指すものです。「社会的指数」や「生き方の知能指数」などとも呼ばれています。SQが高い人は、自分の考えを相手が理解できるようにまとめて、わかりやすく伝えることができ、人に何かをお願いしたり、されたりといった協力することの大切さをしっかりと理解できる傾向にあります。さらには、自分なりの目標を作って取り組んだり、成功しても謙虚な気持ちを忘れずにまた新たな挑戦ができたりするという特徴も。ダニエル・ゴールマンは、EQの考え方に脳科学研究をプラスすることで、SQを生み出しました。著書『SQ生きかたの知能指数』では以下のように述べています。人生でかかわりあう人々から受ける作用によって、気分だけでなく身体そのものが影響され、形成されることを自覚して、賢明に行動しなければならない。また、逆に自分自身が他人の情動や健康にどのような影響を与えるかも、よく考えてみなければならない(引用元: ダニエル・ゴールマン(2007),『SQ生きかたの知能指数』,日本経済新聞出版社.)人が生きていくためには、家族や友だち、学校の先生や職場の人々など、誰かとコミュニケーションをとることが不可欠です。周りの人々とうまくかかわれるかどうかは、自分がその環境で快適に過ごせるかどうかや、社会に出てからの生き方に大きく影響します。そのため、小さな頃からSQを高めていくことは、子どもが人とのつながりからさまざまなことを学んだり、子ども自身が生きやすくなったりするためにも非常に重要なのです。「SQの低さ」が招きかねない恐ろしい将来とは昨今では、不登校や引きこもり、犯罪行為など、さまざまな問題が子どもたちを取り囲んでいます。こうした問題を回避するためにも、SQを育てることが重要です。SQが低いと、共感力が低く相手の気持ちが理解できなかったり、友だちや家族と信頼関係を結びづらくなったりするなどの弊害があります。さらに、キレやすく攻撃的な性格になって人をいじめたり、周囲から孤立したりしてしまうことも……。こうなってしまうと、子どもは生きにくさを感じるようになり、自己肯定感が低くなったり、強い孤独感を覚えたりするようになります。そこから不登校や引きこもりになってしまったり、危険行為や犯罪行為に走ったりする危険性があるのです。子どもがすこやかで楽しく、安心・安全な毎日を送るためにも、SQを育てることは欠かせないといえるでしょう。SQを育むために重要な3つのポイントSQは「愛情が感じられるやりとり」をすることで育っていくといわれています。具体的には、子どもと接する際に以下のポイントをおさえることが有効です。・愛情をめいっぱい表現する子どもと接する際には、愛情表現を忘れないようにしましょう。愛情表現にはさまざまな種類があります。例えば、アイコンタクトを欠かさない、タッチやハグ、手をつなぐなどのスキンシップを習慣にする、子どもの話にしっかりと耳を傾けてリアクションする、などです。いずれも当たり前のように思えますが、忙しさに追われるとついつい忘れがちになってしまうことでもあります。これらを意識して行うことで、より子どもに愛情が伝わりやすくなりますよ。また、親が子どもに対して表情豊かに接することで、子どもの免疫力が高まるという説もあるのだそう。・「親は子どもの絶対的味方」であることを伝えるどんなときでも、「ママ(パパ)はあなたの味方だよ」「あなたのことが大好きだよ」と伝えてあげましょう。言葉で伝えるのももちろん良いですし、字が読める場合はお手紙にして子どもに渡すのも良いでしょう。子どもにとって「どんな自分でも味方でいてくれる存在」がいることは、精神的な安定はもちろん、他者に優しく接することにもつながります。ただし、お手伝いをした際や、テストで良い点をとった際など、「いい子だったとき」にしか褒めないというのはNGです。この場合、子どもは「『いい子でいる自分』しか受け入れてもらえない」と思うようになり、本音を隠すようになったり、ストレスをうまく発散できなくなったりする可能性があります。・テレビやインターネットはほどほどにテレビやインターネットには、さまざまなコンテンツがあり、「子どもの教育に良い」と謳っているものもたくさんあります。もちろん、これらを観て楽しむのもよいのですが、何時間も見せっぱなしにするのは避けましょう。感情の変化や他者への思いやりなどは、テレビからではなく人間同士のかかわりから学んでこそ、実践できるようになるからです。***SQの高さは、学校の成績や運動能力だけでは測れない、人間としての魅力でもあり、トラブルや悩みにぶち当たったときの助けにもなります。普段の接し方を意識して、子どものSQを高めましょう。文/田口るい(参考)ダニエル・ゴールマン(2007),『SQ生きかたの知能指数』,日本経済新聞出版社.All About|SQ(社会的指数)とは?子育てにおける7つのポイントAll About|子供の性格を「良い子=SQ(社会的指数)高い子」に育てるにはカオナビ|SQとは? 人間の社会性や対人能力を示すSQとEQとの違いについて日本の人事部|SQ
2019年05月11日子どもに人気がある学びのツールといえば、絵本の読み聞かせがあるでしょう。むかしから変わらない、大定番のツールです。発達心理学と認知心理学の専門家である十文字学園女子大学の大宮明子先生によれば、「もちろん、読み聞かせにはたくさんの学びの要素がある」とのこと。ただ先生は、「その学びが読み聞かせの目的だと思ってはいけない」とも語ります。その理由はいったいどんなものでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)読み聞かせがもたらすさまざまな学び幼い子どもに絵本の読み聞かせをする場合、親御さんとしてはどうしてもその「学びの効果」を期待してしまうものですよね。もちろん、子どもは読み聞かせによって多くのことを学び、吸収していきます。第一に、絵本を読み聞かせしてもらうことで、それまで知らなかった言葉やその使い方を知るということが挙げられますし、さまざまな概念も覚えるでしょう。たとえば絵本に「宅配便」が登場したら、「宅配便って荷物を運んでくれるお仕事のことなんだ」と知ることができる。実際にはまだ見たことがないものであっても、絵と文章によって新たな概念を覚えられます。また、読み聞かせのシチュエーションがちがえば、子どもが学ぶことにもちがいが出てくる。たとえば、家庭でなく幼稚園や保育所などでお友だちと一緒に読み聞かせしてもらうことには、マンツーマンになりがちな家庭での読み聞かせとはまたちがった学びがあります。それはなにかといえば、共感するということ。ドキドキするような少し怖いストーリーなら、ひとりだと不安になってしまいますよね。でも、隣に同じようにドキドキしているお友だちがいれば、互いに気持ちが通じ合ってちょっと安心できる。ストーリーが進んで怖い場面を過ぎれば、「ああ、よかった」と一緒にほっとするするかもしれない。そのようにして、お友だちと一緒にドキドキしたり悲しくなったりよろこんだりして、自分自身の心に気づき、心を動かす楽しさを知りながら、共感力を高めることになるのです。子どもは絵本で学びたいわけではない?ただ、それらが読み聞かせの目的だと考えてしまってはいけないとわたしは考えています。子どもが「絵本を読んで」と親におねだりするときは、なにかを学びたいわけではありませんし、もっといえば絵本の内容を知りたいわけでもないという場合もあります。つい昨日も読んだばかりの絵本を子どもが持ってきて、親としては「またこれ?」と思うこともあるはずです。子どもは同じ絵本をなぜ読んでほしいのでしょうか?それは、絵本の内容を知りたいのではなく、絵本を読んでもらうことで親と一緒にいられる時間が楽しいとか、その時間だけは大好きなお父さんやお母さんを独り占めできてうれしいとか、そういう気持ちがあるからなのです。また、子どもには子どもなりの絵本の楽しみ方があります。「昨日は絵本の左ページばかり見ていたから、今日は右ページをよく見てみたい」といった単純なことも、子どもの楽しみ方だと思うことが大切です。それから、親が一生懸命に読んでいるのに子どもは上の空で聞いているように見えることもありますよね。そういうときは、絵本のストーリーを自分で膨らませて、絵本のなかの世界に自分も入っているような想像を広げているということもあります。ですから、学びを意識するのではなく、そういった子どもなりの楽しみ方を大事にしてあげてほしい。「どんなお話だった?」は最悪のNGワードそう考えると、読み聞かせのコツも自ずと見えてくるはずです。ちょっとまずい読み聞かせとしては、大人がただ音読しているようなもの。まるでアナウンサーがニュースを読んでいるようにさらっと読んで「はい、おしまい」という感じの人が少なくないのです。とくに、男性に目立つタイプですね。それでは、子どもが自分なりに楽しむどころではありません。あくまで読み聞かせですから、「聞かせ」に重点を置く必要がある。子どもが聞いて楽しめるかと考えながら読むことがポイントです。保育士さんとちがって、一般の親御さんの場合は恥ずかしさも邪魔します。その恥ずかしさを取っ払って、登場するキャラクター別に声色を変えてみたり、場面によってはゆっくり読んでみたりと工夫をしてみましょう。それから、読むスピードも意識してほしい。まるでルールが決まっているようにどのページも同じスピードで読んでしまう人がいます。そうではなくて、子どもがじっと注目しているなら、そこで止まってあげる。子どもが満足したようなら、「じゃ、次にいこうか」というふうに進んであげてください。逆に、子どもがそのページに興味を示さず、先をめくりたがるという場合もありますよね。そういうときはさっさと進んであげればいいのです。「ちゃんと聞きなさい」「飛ばしちゃったらお話がわからないでしょ?」なんていうのは、単なる大人の理屈に過ぎません。子どもにとっての絵本の楽しみ方はストーリーを追うことだけではありません。子どもが興味を持ったところで止まり、興味の移ろい次第では前のページに戻ってもいい。読み聞かせは子どものためにするのですから、あくまでも主体は子どもにあるのです。そういう意味で、最悪なNGワードは、読み聞かせのあとの「どんなお話だった?」というもの。これをいってしまうと、子どもは絵本を読んでもらったあとは必ずそう聞かれると思って、絵本を楽しむことができなくなります。信じられないことに、「せっかく読んであげたのに聞いていないんだったらもう読んであげない」なんてことをいう親御さんもいます。それでは、親がわざわざ子どもの興味の芽を摘んでいるようなものです。誰かの「おすすめ絵本」は参考程度にどんな絵本を選ぶかも、子どもの興味に合わせていくことがベストです。子どもの好みはそれぞれちがいます。ストーリーものを好む子もいれば、図鑑っぽいものを好む子もいます。ですが、図鑑っぽいものにしか興味を示さない子どもの場合、親御さんとしてはストーリーものを楽しめない子に育つのではないかと心配してしまうかもしれませんね。そういうときにも工夫できることがあります。たとえば、働く車の図鑑ばかりを見たがる子どもだったら、働く車が主人公のストーリーものを選んであげればいい。そういう子どもも、ストーリーものはなんでもかんでも嫌いというわけではなく、たまたま内容物に興味がないだけというケースもありますからね。いずれにせよ、子どもがどんなものに興味を持っているのかをしっかり観察して、夢中になれる絵本を選んであげましょう。どこかの誰かが「おすすめの絵本」として挙げているような名作も、子どもによってはまったく興味を示さないことも大いにあり得ます。そういう名作リストは、参考程度と考えるようにしてください。『幼児期からの論理的思考の発達過程に関する研究』大宮明子 著/風間書房(2013)■ 十文字学園女子大学教授・大宮明子先生 インタビュー一覧第1回:東大・京大・司法試験・医師試験の合格者たちが、幼児期に共通してやっていたこと第2回:「ママがやって」と言われたら黄色信号。子どもの考える力を奪う親のNGワード第3回:「親の言葉遣い」に見る、成績優秀な子が育つヒント。語彙力が伸びる会話の特徴第4回:絵本の目的は学びにあらず。子どもの興味の芽を摘む、読み聞かせ後の「最悪の質問」【プロフィール】大宮明子(おおみや・あきこ)6月5日生まれ、東京都出身。十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科教授。1988年、中央大学法学部法律学科卒業。1997年、お茶の水女子大学教育学部教育学科心理学専攻3年次編入学。2001年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科発達社会科学専攻博士前期課程修了。2008年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻博士後期課程修了。人文科学博士。発達心理学、認知心理学、とくに子どもの思考の発達、乳幼児期の親子の関わりを専門研究分野とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月11日幼い子どもがいる親御さんには、小学校での勉強に子どもが置いていかれないようにと、いわゆる就学前教育を検討している人もいるはずです。でも、発達心理学と認知心理学の専門家である十文字学園女子大学の大宮明子先生は、「いわゆる先取り学習にはあまり意味がない」と語ります。しかし、就学前教育のやり方次第では、その後の学力の伸びを左右する大きな効果も期待できるのだそうです。その鍵を握るのは「語彙力」です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)先取り学習にはあまり意味がない?就学前教育はおおまかに3つの種類にわけられます。ひとつはピアノなどの音楽、お絵描きといった芸術系の習い事。もうひとつがスイミング、体操、リトミックなどの体育系の習い事。そして3つ目が、小学校で学ぶ内容のいわゆる先取り学習、知育系の教育です。就学前教育といった場合、最後の知育教育をイメージする親御さんが多いようです。そして、その効果も気になるところ。たとえば幼児期に先取りして漢字を覚えれば、小学1年の段階ではやっていない子どもよりは国語の成績は良くなります。それは至って当然のことですよね。でも、追跡調査をしてみると、じつは小学2年の1学期が終わる頃にはほとんど差がなくなってしまうのです。つまり、先取り学習にはあまり意味がないといっていいかもしれません。ここで、多くの親御さんが持っている誤解を解いておきましょう。全国には49の国立大学付属幼稚園があります。いわゆるエリートコースの幼稚園と思われているのですから、それらの園では先取り学習をしていると思うのが自然ですよね。でも、実際のところ、いっさい勉強をしていません。ひらがななどの文字学習もまったくやらないのです。これには明確な意図があります。平成30年に幼稚園教育要領と保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改訂され、幼稚園や保育所では「遊びを主体とした学び」を小学校以降の学びにつなげていくという方針が明文化されました。国としても、幼いときには子ども一人ひとりが自主的に好きなことをとことんやっていく、遊んでいくことが将来的な学びの力につながると考えているわけです。幼児期の語彙力がその後の学力を予測するでも、親御さんはやっぱり不安なのでしょうね。「そうはいっても、小さいときから勉強をしたほうがいい」と考えてしまう。もちろん、知育系の教育にしろ、芸術系、体育系の習い事にしろ、子ども本人が「やりたい!」と思っていることなら、さまざまなものを得ることができるでしょう。そのなかでも、わたしが注目しているのが語彙力です。わたしも携わったある研究では、なんらかの習い事をしている子どもは、一切習い事をしていない子どもより語彙力が高いという結果が出ました。大好きな習い事をしていれば、先生や同じ教室に通う友だちとも積極的に話すことになります。そのコミュニケーションによって、語彙力が伸びたのだと推測できます。ただ、面白いことに、知育教育を受けた子どもが、たとえば体操教室に通った子どもより語彙力が高いかというと必ずしもそうではありませんでした。語彙力というと、知育教育で伸びるイメージを持つと思います。でも、なによりも言葉は実際に使わないと身につきません。語彙力の伸びという点では、習い事の種類ではなく、習い事をすること自体に意味があるのです。そして、語彙力と学力には非常に強い相関関係があります。幼児期の語彙力が高いほど、小学校以降の学力が伸びることがある研究であきらかになっているのです。その理由について、わたしの考えをお伝えしておきましょう。語彙力というと、たくさんの単語を知っていることだと思うものですよね?もちろん、ある程度の数の単語を知っていることも重要ですが、その使い方も知っておかなければ、本当の意味で語彙力があるとはいえません。小学校以降になると、たとえばテストの問題文に使われているそれぞれの単語がいったいどういう意味を持ち、ひとつの文としてなにを要求しているのかを理解する必要があります。幼児期に触れる具体物を指す言葉とちがって一気に抽象度が上がり、そういう内容も含めて理解できる語彙力が求められることになる。高い語彙力を幼児期に身につけておけば、勉強の最初の段階(小学校)でつまずくこともないでしょう。だからこそ、幼児期の語彙力が学力の伸びに大きく関与していると考えることができるのです。楽しく豊かな会話が子どもの語彙力を伸ばすそうなると、「幼いときから子どもの語彙力を伸ばしてあげたい」と親御さんは考えますよね。そのために親御さんができることは、日常で豊かな会話をするということ。豊かな会話とは、なるべく具体的な言葉を使う会話です。「こそあど言葉」を多用する家庭で育った子どもとそうではない子どもでは、後者のほうが小学校の成績が優秀だという研究結果があるほどです。「これ」とか「それ」は、会話相手が目の前にいるのなら通じる言葉ですよね。でも、隣の部屋にいる人に「それ、取って」といったところで、話は通じません。はっきりと対象物を名前でいって、どうしてほしいかということまで動作を表す言葉を使っていわなければ意図が伝わらないからです。「それ、取って」ではなくて、「テレビの横にあるリモコンをわたしのところに持ってきて」といった具合です。ちょっと回りくどいようですが、そういった積み重ねが子どもの語彙力を大きく伸ばすことになります。わたしもずいぶんたくさんの家庭を追跡調査してきましたが、やはり親御さんがきちんとした言葉を使っている家庭の子どもの語彙はとても豊富だという実感があります。子どもは周囲の大人を真似して言葉を覚えますから、それも当然のことかもしれませんね。ですが、「きちんと具体的に話さなきゃ……」と思うあまり、親御さんが自然にしゃべれなくなってしまっては本末転倒です。大人でもつねに厳密な日本語を使っているかというとそうではないですよね。こそあど言葉をなるべく使わないようにするという意識は重要ですが、そのことに余計に注意を向けることなく、まずは、子どもとの会話を楽しむことを心がけてください。お父さん、お母さんとの楽しい会話こそ、子どもの語彙を豊かにしていくものなのですから。『幼児期からの論理的思考の発達過程に関する研究』大宮明子 著/風間書房(2013)■ 十文字学園女子大学教授・大宮明子先生 インタビュー一覧第1回:東大・京大・司法試験・医師試験の合格者たちが、幼児期に共通してやっていたこと第2回:「ママがやって」と言われたら黄色信号。子どもの考える力を奪う親のNGワード第3回:「親の言葉遣い」に見る、成績優秀な子が育つヒント。語彙力が伸びる会話の特徴第4回:絵本の目的は学びにあらず。子どもの興味の芽を摘む、読み聞かせ後の「最悪の質問」(※近日公開)【プロフィール】大宮明子(おおみや・あきこ)6月5日生まれ、東京都出身。十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科教授。1988年、中央大学法学部法律学科卒業。1997年、お茶の水女子大学教育学部教育学科心理学専攻3年次編入学。2001年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科発達社会科学専攻博士前期課程修了。2008年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻博士後期課程修了。人文科学博士。発達心理学、認知心理学、とくに子どもの思考の発達、乳幼児期の親子の関わりを専門研究分野とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月10日日常生活のなかで、子どもに対してどのような言葉をかけることが多いでしょうか?「○○しなさい!」「駄目でしょ!」といった類のものであるなら要注意。そういう声かけを続けていると……子どもは自分で考えられない人間になってしまうかもしれません。自ら学び、考えられる子どもに育てるための方法や注意点を、発達心理学と認知心理学の専門家である十文字学園女子大学の大宮明子先生が教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)本を読むだけでは本当の語彙力は育たない子どもというのは、なにかを意識的に学ぼうとするのではなく、自分が好きなことを楽しんだ結果として学ぶという習性を持っています(インタビュー第1回参照)。そういう学びを日常的にできるかどうかは、親御さんのしつけのスタイルの影響がとても大きいといっていいでしょう。以前、2,700人くらいの未就学児とその親御さんを対象にある調査を実施しました。その調査の内容は、子どもには読み書きの力と語彙力の検査、親御さんにはどういうしつけをしているかというアンケートです。結果として、しつけのスタイルは大きく3つのタイプにわけることができました。ひとつが「共有型」で、これは子どもを主体としたスタイルです。子どもの自主性を大事にして、子どもの気持ちに親が寄り添うかたちでしつけをしていくようなイメージでしょうか。そういう親御さんの場合は、子どもに対する日常の接し方を見ても、子どもを認めたり褒めたりすることがとても多いのです。2つ目が「強制型」で、共有型とは対照的に親が主体のスタイルです。親の意のままにしつけをして、「○○しなさい!」「駄目でしょ!」といった指示・命令の言葉がすごく多く、子どもはそれに従うだけです。3つ目が「放任型」。これはただ放任しているというものの他、親御さんが育児不安などで精神的に参ってしまって子どもを放置しているというものも含まれます。興味深いことに、しつけのスタイルのちがいによって、子どもの語彙力にはっきりとしたちがいが見られました。想像できるかもしれませんが、共有型のしつけをされている家庭の子どもの語彙力は、強制型の家庭の子どものそれを大きく上回っていたのです。放任型に関しては一定の傾向はありませんでした。語彙力が高い子どももいれば、そうではない子どももいた。親に放置されていたとしても、たとえば本が好きな子どもの場合は語彙力がある程度伸びたということもあるのでしょう。しかし、それには限界があります。というのも、言葉の力はひとりでは育つものではないからです。なぜ、共有型の家庭の子どもの語彙力が大きく伸びていたのでしょうか。それは、親が子どもに寄り添うことによって、親子間のコミュニケーションが密になっているからです。本を読めば、たしかにある程度の語彙を手に入れることはできるでしょう。でも、言葉ですから、本当の意味で身につけるには、実際にその言葉を使ってやり取りをおこなうことがとても大事になる。かかわってくれる人がいなければ、子どもはせっかく知った言葉を使う練習をすることができないのです。答えを待つ子どもにしてしまう親の「先回り」しつけのスタイルは、これからの時代を生きる子どもに必要とされる「自ら学ぶ、考える」姿勢にも影響を与えます。たとえば、子どもが新聞紙で坂道をつくって、ペットボトルのキャップを転がすという遊びをはじめたとしましょう。子どもはキャップをなんとか真っすぐ転がそうとしますが、新聞紙は柔らかいので、なかなかうまくいかない。そこで、子どもは壁をつくってみるなどいろいろと工夫します。そういった試行錯誤こそ、子どもが「自ら学ぶ、考える」ということなのです。そして、一生懸命に工夫した結果、キャップが真っすぐ下まで転がったら、「やったー!」と大きな達成感を得ることになる。でも、お父さんやお母さんが「それじゃ駄目でしょ」「こうしたほうがいいんじゃない?」なんていってしまったらどうでしょうか?もちろん、親が子どもの遊びにかかわることは悪いことではありません。ただ、子どもが考える前から答えを与えてしまっては、子どもの試行錯誤、粘り強く頑張ること、その結果の達成感などをすべて奪い取ってしまうことになるのです。そんな「先回り」を繰り返していると、子どもに「遊びなさい」といったところで、「ママがやってよ」というようになる。小学校に上がって勉強をはじめる前から、答えを教えてくれることを待つ子どもになってしまうのです。そういう姿勢で育った人間は、残念ながらこれからの時代では活躍できないかもしれません。あちこちでいわれているように、これからの時代は多くの職業が機械(AI)に取って代わられるようになります。そんな時代に活躍するためには、機械にはできないことをできる人間にならなければなりません。そういう人間に必要なものこそ、「自ら学ぶ、考える」姿勢なのです。子どもと遊ぶときは「お友だちになったつもり」ででは、子どもの遊びに対して、親はどうかかわればいいのでしょうか。それは、もちろん子どもの気持ちに親が寄り添う共有型の関わりです。子どもと一緒に遊ぶ際には「大人を捨てる」ということをアドバイスしておきましょう。大人は行動の前につい頭で考えてしまいがちです。でも、子どもは「これをやったらどうなるのか」なんてことを考えず、ぱっと見て「わあ、面白そう!」「なにこれ!?」と感じた途端に動きはじめます。そういう子どもに寄り添うには、大人を捨てて子どもになればいいのです。子どもの仲良しのお友だちになったつもりで、ときにはわざと失敗する、知っていることも知らないふりをするというようなことをしてみてもいい。大人として子どもに接すると、子どもは「この人は大人だ」と思って構えてしまいます。とくに親の場合には、ときには叱る人だと思っていますから、なにか失敗したり変なことをいったりすると「怒られちゃうんじゃないか?」とか「おやつをくれないんじゃないか?」と思ったりもする。そう思った結果の子どもの振る舞いは、本来の自然な子どものものではないですよね。子どもと遊ぶときは、「子どもの仲良しのお友だちになったつもり」で――。そう心がければ、自然と共有型のスタイルで子どもに接することができるはずです。『幼児期からの論理的思考の発達過程に関する研究』大宮明子 著/風間書房(2013)■ 十文字学園女子大学教授・大宮明子先生 インタビュー一覧第1回:東大・京大・司法試験・医師試験の合格者たちが、幼児期に共通してやっていたこと第2回:「ママがやって」と言われたら黄色信号。子どもの考える力を奪う親のNGワード第3回:「親の言葉遣い」に見る、成績優秀な子が育つヒント。語彙力が伸びる会話の特徴(※近日公開)第4回:絵本の目的は学びにあらず。子どもの興味の芽を摘む、読み聞かせ後の「最悪の質問」(※近日公開)【プロフィール】大宮明子(おおみや・あきこ)6月5日生まれ、東京都出身。十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科教授。1988年、中央大学法学部法律学科卒業。1997年、お茶の水女子大学教育学部教育学科心理学専攻3年次編入学。2001年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科発達社会科学専攻博士前期課程修了。2008年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻博士後期課程修了。人文科学博士。発達心理学、認知心理学、とくに子どもの思考の発達、乳幼児期の親子の関わりを専門研究分野とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月09日赤ちゃんとの毎日がもっとラクに、もっと楽しくなる。ベビーカレンダーは、そんな毎日を応援するコラムを絶賛連載中! 今回は、メンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラーのカトウ ヒロコさんからメッセージです。 イクメンが話題の昨今。 わが家の夫もありがたいことに、家事分担の話し合いに応じてくれているし、しかも実行もしてくれる! が……、やってくれるのはいいけれど、どうもやり方に納得がいかない。 洗い物をしてくれるけれど洗い残しがある、洗濯してくれるといっていたのに洗濯機のボタンを押しただけ、洗濯物のたたみ方が荒い、赤ちゃんの面倒は気の向いたときだけなど、イライラを抱えるママは多いのではないでしょうか。 そこで、パパの家事や育児のやり方にイライラしない方法をお伝えします。 「人は変えられない」が前提心理学では、「自分で変わろう!」とその人自身が思わないかぎり、他人がどんなにがんばってその人を変えようとしても、人は変えられないということを前提にします。つまり心理学的には、ママがどんなにパパに変わってほしくても、パパ自身が変わろうと思わないかぎり、パパが変わることはないのです。 そもそも、パパにとっては「家事分担をする」という約束ははたしているわけですから、文句を言われる筋合いはない、というのが考え方の基本でしょう。 では、どうしたらスムーズに、ママが思うような家事や育児をやってくれるようになるのでしょうか。 感謝の気持ちを忘れずにちゃんとやっていると自分では思っているのに、イライラされたり、文句を言われたりしたら、やる気がなくなるのはママでも同じですよね。まずは、やってくれること、やってくれたことに感謝しましょう。「なんで分担なのに、わたしが感謝しなきゃいけないの!」とは思わず、ここは大きな心をもって「ありがとう」の一言を伝えてみましょう。 直してほしいことや、やり方を変えてほしいことがある場合は、「こうしてくれたらもっとうれしい」というように伝えましょう。 焦らず、徐々に! が大切当然のことながら、パパはママではありません。ママと全く同じには、そもそもできないのです。その上で、ママとは違うやり方をやっていたとしても、それでよしと思うようにしましょう。 視点を変えてみたら、パパのやり方のほうが実は効率がよかった、なんてこともあるかもしれません。すぐにパパがママの思うようにしてくれなくても、イライラせず、気長にやってくれるように待つことも大切です。 自分でやったほうが早くかつ思い通りにできるため、自分でやってしまい、結局ママの分担のほうが多いというのはありがちなこと。ママの思い通りの状態の完成度で、分担を均等にするためには、それなりの時間が必要です。 著者:ライター カトウ ヒロコメンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラー。また、フリーのWEBプロデューサー&ライターとして活動中。
2019年05月08日教育熱心な親御さんのなかには、「プレイフル・ラーニング」という言葉を耳にしたことがある人も多いかもしれません。いわゆる詰め込み型教育の対極にあるものとして、「遊びながら学ぶ」というイメージを持っているのではないでしょうか。でも、ちょっとだけ、そのとらえ方のニュアンスがちがうようです。では、そもそもプレイフル・ラーニングとはなにか。そして、家庭教育に生かすための方法にはどんなものがあるのかを、発達心理学と認知心理学の専門家である十文字学園女子大学の大宮明子先生に教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)楽しんでいるなかに学びがあるプレイフル・ラーニングとは、同志社女子大学の上田信行先生が提唱された概念で、一般には2000年代前半頃から認知度が高まってきました。「プレイ」という言葉から、「遊びながら学ぶ」教育手法だと思われがちですが、プレイフル・ラーニングの根底にあるのは「楽しんでいるなかに、そもそも学びがある」という考え方です。「楽しんでいるとき」ですから、いわゆる「遊び」でない場合もあります。ただ、子どもの場合、楽しんでいるときにしていることというと、基本的には遊びが多いですよね。ですから、必然的に子どもにとっては遊びから学ぶことが多くなるのです。親御さんに意識しておいてほしいのは、大人と子どもの学び方はまったくちがうということ。決定的なちがいは、「目的や目標があるかどうか」という点です。大人が学ぶときには、ほとんどの場合はなにかのスキルを身につけたいといった目的や目標がありますよね。そして、その目的や目標を達成するために本を読んだり講座を受けたりするわけです。大人は、「学ぶこと」とはそういうものだと思っています。でも、子どもの場合は多くの学びがある遊びをするにも、なにかを学びたいといった目的や目標を持っていません。ただ楽しくお人形さんごっこをやっていたら、いつの間にか自分の着替えもできるようになった。これも立派な学びですが、その子は「着替えができるようになりたい」と思っていたわけではないのです。子どもの学び方は、あらかじめほしい結果があるのではなく、楽しく遊んでいたら、結果としてなにかを学んでいたというかたちだと思っていいでしょう。好きなことを追求していた難関突破経験者幼いときのプレイフル・ラーニングは、将来的には学力を大きく伸ばすことにもつながります。以前、先の上田先生、お茶の水女子大学の内田伸子先生とわたしの3人でおこなった研究を紹介しましょう。その研究では、東大や京大といった難関大学合格者、あるいは司法試験や医師試験の合格者という「難関突破経験者」とその親にウェブ調査をおこないました。調査内容は、幼児期になにをしていたことが難関突破につながったか、ということです。結果は、見事にプレイフル・ラーニングでした。普通、そういうエリートと呼ばれる人たちなら、小さいときから塾に通って先取り学習をするなど一生懸命に勉強していたのではないかと考えるのが自然です。でも、実際にはそうではなかった。彼らが幼いときになにをしていたかというと、それぞれが好きなことをとことんやり続けた。そして親は、子どもが好きなことに一緒に取り組むなどして、子どもを応援していたのです。たとえば、ある人は虫が大好きでひたすら網を持って虫取りばかりしていたそうです。他には、とことんサッカーをしていた、野球をしていたという人もいます。いわゆるお勉強からは程遠いことをしていた人たちばかりでした。それがなぜ知的なレベルの学習にもつながったのか?その部分にはみなさんも関心があるでしょう。その答えは、その人たちが幼いときにやっていたことは、親に強制されたものではなく、自分が好きなことだったということ。そして、親がそれを止めることなくやり続けさせた。そうして、持続力や集中力が身についたのだろうと推測できます。また、好きなことを通じて、彼らは自分なりに学びに向かうための方略を身につけていきました。虫好きの子どもなら、知らない虫を捕まえてくれば自分で図鑑を開いて調べる。そして、単にバラバラの知識を頭に入れるのではなく、「この虫とこの虫はここが似ているから、きっとこういう似た場所にいるのだろう」というふうにも考えたりもする。つまり、自ら学ぶ姿勢を身につけ、さらには自分で得た知識を体系立てる、構造化するということも、小学校に入る前からしていたというわけです。そんな学びの姿勢がある子どもの興味の対象が教科になったとしたらどうでしょうか?学力が一気に伸びることは明白ではありませんか。ものを過剰に買い与えることも要注意!大切なことは、子どもにとっては遊びのなかに学びがあるからといって、「はい、これで遊びなさい!」と強制してもなんの意味もないということ。子ども自身が「やりたいと思うこと」を思う存分やらせてあげることがポイントです。すると、「なるべく選択肢が多いほうがいいだろう」と考えて、いろいろなものを買い与えようとする親御さんもいるようです。しかし、その考えは要注意。大人にとっては珍しくもなんともないものでも、子どもにとっては「これ、なんだろう?」と思うものが家のなかにはあふれているものです。それこそ、単なるテレビのリモコンだって、幼い子どもにとっては興味の対象になるのです。それなのに、お店で少しでも子どもが興味を示したからと、あれやこれやと買い与えると、子ども部屋はものであふれかえります。すると、ものがあり過ぎるためにものが風景の一部になり、子どもはどこに注意を向けていいのかわからなくなり、かえってものに対して興味を示したり集中したりすることができなくなるのです。意識的にものを与えなくても、子どもは子どもなりに周囲のものに必ず興味を示します。そして、その興味を邪魔することなく、子どもの行動、遊びを見守ることを心がけてください。『幼児期からの論理的思考の発達過程に関する研究』大宮明子 著/風間書房(2013)■ 十文字学園女子大学教授・大宮明子先生 インタビュー一覧第1回:東大・京大・司法試験・医師試験の合格者たちが、幼児期に共通してやっていたこと第2回:「ママがやって」と言われたら黄色信号。子どもの考える力を奪う親のNGワード(※近日公開)第3回:「親の言葉遣い」に見る、成績優秀な子が育つヒント。語彙力が伸びる会話の特徴(※近日公開)第4回:絵本の目的は学びにあらず。子どもの興味の芽を摘む、読み聞かせ後の「最悪の質問」(※近日公開)【プロフィール】大宮明子(おおみや・あきこ)6月5日生まれ、東京都出身。十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科教授。1988年、中央大学法学部法律学科卒業。1997年、お茶の水女子大学教育学部教育学科心理学専攻3年次編入学。2001年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科発達社会科学専攻博士前期課程修了。2008年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻博士後期課程修了。人文科学博士。発達心理学、認知心理学、とくに子どもの思考の発達、乳幼児期の親子の関わりを専門研究分野とする。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月07日【イベント】大きな紙に思いっきりペイント!横須賀美術館 障害児者向けワークショップ「みんなのアトリエ」(神奈川県)Upload By 発達ナビニュース横須賀美術館では、20歳以下の障害児者を対象に、障害児者向けワークショップ「みんなのアトリエ」を毎月第3土曜日に開催しています。このワークショップでは、障害の種類や程度にかかわらず、みんなでアートを体験することができます。毎月行われているワークショップですが、19年5月の活動内容は「みんなで大きな絵を描こう」。アクリル絵の具をつかって、10mの長さのロール紙に自由に絵を描きます。筆を使っても、身体に絵の具がついても平気なお子さまは手足を使ってもOK!自宅ではなかなか体験できない大胆な創作活動を思いっきり楽しむことができます。活動は事前申し込み制で、応募多数の場合は抽選となりますが、6月以降も毎月内容を変えながら開催予定。今後の活動内容もホームページにて確認できるので、ぜひチェックしてみてください。なお、この活動にはきょうだいや保護者も一緒に参加することができます。また当日は企画展「縮小/拡大する美術センス・オブ・スケール展」の開催期間となっているので、家族で訪れて、アートに触れる一日を楽しむことができますね。【日程】2019年5月18日(土)14:00~15:00(1時間程度)【内容】みんなで大きな絵を描こう【場所】横須賀美術館ワークショップ(神奈川県横須賀市鴨居4-1)【定員】10組程度【参加費】無料【参加方法】ハガキもしくはメールによる事前申込制。締切は活動の10日前。申し込み方法などの詳細はホームページをご確認ください。【セミナー】今年も開催!2019年夏のセミナー「自閉症スペクトラムの理解と支援」(東京都)Upload By 発達ナビニュース自閉症スペクトラムのある人たちが日々を安心して過ごせるように、そして自己肯定感をもって有意義な人生を送れるように。よこはま発達クリニックとよこはま発達相談室が毎年行っている夏のセミナー「自閉症スペクトラムの理解と支援」が今年も開催されます。セミナーは3日間にわたり開催されます。内容はそれぞれ、2日(金)『改めて基本特性から考える:理解と評価』、3日(土)『支援の原則と実際:構造化とコミュニケーション支援』、4日(日)『問題行動とそれへの対応』と、自閉症スペクトラムの基本特性を踏まえた支援や関わり方のアイディアから、問題行動への対応方法までを総合的に学べる内容になっています。講義は児童精神科医や公認心理師、言語聴覚士等が講師として行います。専門家から話が聞ける貴重な3日間。保護者、現在療育や支援に関わっている方はもちろん、これから発達障害の領域で仕事をしたいと思っている方も参加できます。【日程】2019年8月2日(金),3日(土),4日(日)10:00-16:45【会場】AP東京八重洲通り東京都中央区京橋1-10-7 KPP八重洲ビル【対象】保護者、実際に療育・支援に携わっている方、発達障害の領域で仕事をしたいと思っている学生などどなたでも【費用】各日10,000円(税込)※賛助会員の方は合計金額から2000円割引【定員】120名(先着順)【お問い合わせ先】一般社団法人発達精神医学・心理学研究会セミナールームseminar@ypdc.net【イベント】障害のあるお子さんとそのご家族をご招待!井の頭自然文化園「ドリームナイト・アット・ザ・ズー」(東京都)Upload By 発達ナビニュース2019年6月8日(土)、東京の井の頭自然文化園で閉園後の時間に「ドリームナイト・アット・ザ・ズー」が開催されます!ドリームナイト・アット・ザ・ズーとは、障害のあるお子さんとそのご家族を閉園後の動物園に招待し、 楽しいひとときを過ごしてもらう趣旨で開催されている国際的な取り組みで、1996年にオランダのロッテルダム動物園から始まり、現在では世界中で実施されています。井の頭自然文化園では当日、特別ガイド「飼育係にきいてみよう」、ヒツジと一緒に記念撮影、いろいろな動物たちに大接近、フェネックの着ぐるみと記念撮影など、さまざまな企画を実施します。視覚障害者向けプログラムや、聴覚障害者への手話対応なども行われるので、いつも以上に動物園を楽しむことができますね。【日時】2019年6月8日(土) 17:30~19:30【場所】井の頭自然文化園動物園(本園)【対象】「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「小児慢性特定疾病の受給者証」をお持ちの方とそのご家族※申請中の方を含みます。【参加方法】事前申込不要※手話対応をご希望の方は、5月8日(水)までにご連絡ください。【問い合わせ】井の頭自然文化園 教育普及係(9時~17時)電話:0422-46-1100FAX:0422-46-1906Eメール:idream@tokyo-zoo.net井の頭自然文化園【ニュース】日本各地でさまざまなイベントも開催!5月5日から11日は「児童福祉週間」出典 : 厚生労働省が定める児童福祉週間についてご存知でしょうか。子どもや家庭、子どもの健やかな成長について国民全体で考えることを目的に、毎年5月5日の「こどもの日」から1週間を児童福祉週間と定めています。子どもたち自身が理想の社会や新しい未来を築く取り組みを進めていくことや、それを応援する環境を整備していくことも大切だという考えのもと、子どもたちから事前に児童福祉週間の標語を募集するなど、子どもも大人もいっしょに児童福祉について考える機会となっています。児童福祉週間の期間中に行われる運動には、「障害のある子ども等に対する理解の促進」も項目として含まれており、「障害のある子ども等に対する地域住民一人ひとりの理解を促進するとともに、障害のある子どもも障害のない子どもも日々の生活や遊びを通じて、共に育ち合うことが大切であり、障害のある子ども等があらゆる活動に参加できるように努める」と実施要領に記されています。期間中には、全国各地の国営公園等の入園が無料になるほか、各地でさまざまな子ども向けイベントが行われるので、近隣の情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。児童福祉週間について(厚生労働省)
2019年05月03日ヘヴィ・メタル(以下、メタル)と聞いて、みなさんはどんな印象を持ちますか?ただ叫ぶだけの音楽?不良が聴くような音楽?そのように、一般的には悪いイメージを持たれるメタルですが、脳科学者の中野信子さんは中学生のころから一貫してメタルを愛聴してきたといいます。そして、むしろ思春期の子どもには、メタルは「心にも頭にも良いかもしれない」と提案します。2019年1月には、メタルが脳に及ぼすポジティブな影響を考察した『メタル脳 天才は残酷な音楽を好む』(KADOKAWA)を上梓した同氏に、メタルを聴くと本当に「心が整うのか」「頭が良くなるのか」を聞きました。構成/岩川悟(slipstream)取材・文/辻本圭介写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)子どもにクラシック音楽を聴かせると頭が良くなる?書店の児童書売り場に行くと、クラシック音楽の「効能」を謳う本や教材がたくさん並んでいます。「クラシックを聴くと情動が落ち着いた子に育つ」「子どもの頭に良い影響がある」……。そんな「クラシック信仰」とでもいうべき見方が、世の中には根強く存在しています。幼い子どものころにモーツァルトを聴かせると頭が良い子に育つという、いわゆる「モーツァルト効果」を頭から信じ込み子どもに聴かせる親もいまだに多いようです。わたしは、こうしたことを「ちょっと問題がある行動では?」と感じています。子どもにクラシックをすすめることにどのような背景があり、聴くと具体的にどんな効果が見込めるのかを理解してすすめるなら問題ないのですが、「うちは落ち着きがないから、なんとか模範的な子どもに育ってほしい」と願って押しつけるような親には、疑問を抱かざるを得ません。「モーツァルト効果」が広まったのは、1993年に『Nature』に掲載された「モーツァルトを聴かせたら大学生の認知力テストの成績が上がった」とする研究報告がきっかけです。「モーツァルトを聴くだけで頭が良くなる」という方法は、子どもの教育に悩む親が欲していた手軽な解決策であり、また「そうであってほしい」と願っていた結果でもあったので、発表されるとまたたく間に全世界に広まりました。「モーツァルト効果」 が存在しないのは研究者のなかでは常識しかし、その6年後、心理学の専門誌『Psychological Science』に掲載された論文によって、その研究結果は再現性がないとして否定されます(※1)。「モーツァルト効果」が、「アーティファクト(人工的に出てきた結果)」であることがあきらかになったのです。「アーティファクト」といっても、けっして悪意のある捏造などではなく、おそらく最初の研究者は、「モーツァルトを聴くと頭が良くなるはずだ」と思い込んで研究したのでしょう。すると、一般的な科学実験でも起こることですが、真実の効果ではなく「研究者が見たいと思う効果」が見えてしまうことがあるのです。つまり、「モーツァルト効果がある」と仮定して実験していると、それを補強するデータだけを拾ってしまう現象が起きるのです。さらに、ハーバード大学のクリストファー・チャベス氏をはじめ、そのほかの研究者たちもモーツァルト効果を否定する論文を発表し(※2)、現在では「モーツァルト効果」など存在しないことは研究者のあいだでは「常識」となっています。でも、古い研究しかご存じない方や、「モーツァルト効果」を謳ったビジネスを展開されている先生たちは、現在でもそうした主張を繰り返している可能性があります。そして、子どもの行いが悪くて勉強もしないといった理由からか、せめて音楽はクラシックのような「良い音楽」を聴かせたいと考える親がいます。子を思う親の純粋な気持ちが謎のビジネスの資金源にされていることを思うと、なんとも残念でなりません。メタルで「不安傾向」を埋めると、「頭が良くなる」可能性が高いそこで、根拠のない「モーツァルト効果」がいまだ音楽産業や教育産業のPR・マーケティングとして使われ続けている現状を見て、わたしは「むしろメタルのほうが、ある思春期の子どもたちには良い効果があるのでは?」と考えるようになりました。もちろん、これもあくまで推論ですが、ある程度のレベル以上の成績優秀者に限っていうと、メタルを聴いている子どものほうがより「頭が良くなる」と考えることができるからです。というのも、成績が良い子というのはちょっと先生に怒られたり、ちいさなミスを犯したりしただけで、「もっと悪いことが起きるかも……」と不安に感じてしまうような不安傾向が高い子どもが多いから。脳科学的にいうと、心のバランスを取る役割を持つホルモンである「セロトニン」があまり出ないような脳の持ち主です。そんな子どもは、勉強においても「ここが悪かったんだ」「次は良くしなきゃ」というように、自分に対してネガティブなフィードバックをする傾向にあります。まさに、それゆえに成績が良くなる面があるのですが、この高すぎる不安傾向をメタルがうまく埋めてくれることで実力を発揮しやすくなったという報告があるのです。ちなみに、不安傾向の高さと成績の良さの関連性も、推論の域を出ないものではありますが、ペーパーテストについていえば、90点で満足する子どもと90点しか取れなかったと悲観する子どもでは、どちらのほうがより成績が伸びるかという単純な比較はできそうです。「なぜまちがったのだろう?」「次は絶対失敗しないぞ!」と思って繰り返し勉強を続ける子どものほうが、モチベーションとしても成績は上がりやすいと推測できるでしょう。激しい音楽を聴きながら手術に臨む外科医たち世間一般的に成績優秀者と認められている医師たちが、じつは手術中に流す音楽は「ハードな音楽がもっとも多い」という面白い調査もあります。この調査ではメタルは広義のロックに含みますが、音楽のストリーミング配信サービス『Spotify』と医師向けInstagram『Figure 1』がアメリカの医師をリサーチしたところ、90%の外科医が手術中に音楽を流していると答え、もっとも人気なジャンルはロックだったのです(49%)。49%という数字は、単なる偶然の一致とはいえない数字ですよね?なかでも、メタリカやレッド・ツェッペリンなどの人気が高く、ある医師は「ロックを流すと快適になり、患者に集中できる」とコメントしたほどです(※3)。わたしたちは、手術室は無音、もしくは音楽をかけていたとしてもクラシックやヒーリングミュージックが流れている程度だと想像しがちです。しかし実情は、激しい音楽を聴きながら手術に臨んでいる医師がもっとも多かったのです。医師は若いころは当然成績優秀者であったはずで、そのころに激しい音楽を聴いて不安が解消された情動の記憶を持っている人が多いのでは?とわたしは推測しています。もちろん、手術室に「ぶち壊せ!」と叫ぶこともある音楽が流れているとなると、歌詞ではなくリズムに乗って集中していると思いたいですけどね……(笑)。ストレス耐性を上げて、不安を直視する力をメタルが与えてくれるふだんの学校での勉強や近い将来に控えた受験などを心配して、不安に感じない子どもは少ないでしょう。ただ、不安傾向が高すぎると、「学校や社会から疎外されている」と感じたり、「大事なときに本来の力が出せない」という実行面で影響が出たりすることもあり、その心理的ブレーキをやわらげてくれるなにかが必要になります。不安がパフォーマンスを左右することについては、2011年にシカゴ大学の心理学者シアン・ベイロック氏らが実験を行い、「試験についての不安を試験直前に書き出すことで、成績が向上する」という実験結果を発表しました(※4)。簡単に内容をまとめると、学生をふたつのグループにわけて2回の試験を受けさせて、1回目と2回目の成績を比べました。このとき、まず2回目の試験前に重要な試験であることを伝えてプレッシャーを与えます。そのうえで、片方のグループには10分間時間をとって「試験について不安なこと」を書き出させ、もう一方のグループはただ静かに座らせました。すると、不安を書き出したグループのほうが、1回目のテストより正答率が5%向上し、もう一方のグループは正答率が12%も下がったというのです。つまり、この実験で見えてくるのは、不安をうまく扱うためには、むしろ「不安を直視したほうが良い」ということ。そこでわたしは、子どもに不安を直視させるためにもメタルが役に立つのではないかと考えています。なぜなら、メタルの歌詞や破壊的な音を聴くことで、「自分と同じようなストレスや疎外感を持って生きている人がいるんだ」というメッセージを音楽から得て、一時的にストレスを軽減する効果があると推察しているからです。さらに、イギリスのウォーリック大学の研究チームが成績の優秀な学生を選んでメタルに関する調査を実施したところ、メタルにはストレス発散や欲求不満の解消に役立つ効果が認められました(※5)。成績優秀であることは、自分自身への期待に加え、まわりからの期待によって大きなプレッシャーを抱える場合があります。しかしメタルを聴くことでそんなプレッシャーを一時的に忘れ去り、ストレス耐性を上げる可能性が言及されたのです。「良い子にならなきゃ」というプレッシャーが、子どもの才能を潰すこのようなことからも、「子どもにメタルなんか聴かせるのは良くない!」といった意見が、いかにステレオタイプな見方であるかがおわかりになるはずです。別に成績優秀者に限らず、思春期の子どもはストレスを感じやすい存在です。そんな子どもが、自分自身を過度な不安傾向から守り、「ここぞ!」というときに力を発揮するには、「メタルも役立つかもしれないな」という認識を新たに持っていただけると良いと思いますね。どれだけ美しいクラシックでも、励ましのメッセージが詰まった音楽でも、そんな音楽をきれいごとに感じる子どもにとっては、「ウソをつけ!」となって逆効果です。むしろ、不安傾向が高い子どもには、「現実に向き合え!」「騙されるな!」と歌ってもらったほうが、「うんうん、そうだよな」と納得できることもあります。「世界は残酷で噓だらけの場所なのだ」とあらかじめ認識しておくことで、心の安定に寄与することがあるというのがわたしの考えであり、また偽らざる実感でもあるのです。たしかに、メタルという音楽ジャンルは一般的なイメージこそ良くないかもしれません。でも、「イメージが良くない」ことが大事なのです。「良い子にならなきゃ」という不安やプレッシャーが、子どもたちの成績を落とし、才能を潰します。ノーベル賞を受賞した科学者たちは、ほぼみんな「好きなことをやれ」といっています。むしろ、親のいうことに従ってしまう子どものほうが怖いかもしれない。「うん、わかった」といいながら、とんでもないことする子どもだっているのですから。そこで親は、「清濁併せ呑む」度量を持っていることを示したほうが良いのだと思います。そして、子どもに無条件の愛情を与える。たとえば、成績が良いときはほめて甘やかすのに、落ちたらものすごく叱ったり、「おまえの味方だ」といいながら子どもが悪いことをしたら責めるだけだったりすると、子どもはとても混乱します。「悪いことをしたけど、おまえを信じている」というのが無条件の愛情であり、存在を受け入れるということ。子どもが安定した愛着を築いていくためにも、親は「悪いところも良いところも受け入れる」という真の愛情を示すことが必要なのだと思います。※1:『The Mystery of the Mozart Effect: Failure to Replicate』 July 1,1999, Psychological Science, Kenneth M. Steele, Karen E Bass, Melissa D. Crook※2:『Muting the Mozart effect』Dec 11,2013, The Harvard Gazette※3:Spotify and Figure 1 team up to hear what surgeons are playing in the OR, Figure1※4:Writing about worries eases anxiety and improves test performance, Jan 13,2011, uchicago news※5:『Gifted Students Beat the Blues With Heavy Metal』 March 19,2007, University of Warwick, Stuart Cadwallader and Professor Jim Campbell『メタル脳 天才は残酷な音楽を好む』中野信子 著/KADOKAWA(2019)【プロフィール】中野信子(なかの・のぶこ)脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学特任教授。1975年生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から2010年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。脳科学、認知科学の最先端の研究業績を一般向けにわかりやすく紹介することで定評がある。コメンテーターとしてテレビ番組に出演する傍ら、ベストセラーも多数。近著に『サイコパス』(文春新書)、『あの人の心を見抜く脳科学の言葉』(セブン&アイ出版)、『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館新書)、『不倫』(文藝春秋)などがある。
2019年04月30日先行きが見えないといわれるいまの時代に子育てをしていると、親はこれまで以上に子どもの将来を心配しているかもしれません。そのため、親の注目を集める新しい教育手法が次々に生まれています。アクティブ・ラーニングやプレイフル・ラーニングと呼ばれるものもそれらのひとつです。人の学習について研究をしている慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみ先生に、アクティブ・ラーニングやプレイフル・ラーニングの要素を家庭教育に取り入れるためのアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)学びは夢中になる行為の副産物皆さんは、人がいちばん学べるときはどんなときだと思いますか?それは、自分で「楽しい」と感じていて、それをもっと「知りたい」「やりたい」と思っているときです。もしかしたら、本人は学んでいるつもりがないかもしれません。でも、楽しくて夢中になる行為の副産物として「学び」が残るのです。そういう過程で得た学びがいちばん深く定着する学びになるという考えから、いま教育界には「プレイフル・ラーニング」というものが広まりつつあります。簡単にいえば、遊びと学びが連動していて、「遊びながら学ぶ」というものです。遊びというと、たとえばアウトドアで体を動かすような遊びなどをイメージしがちだと思いますが、じつは学校での授業も内容によってはプレイフル・ラーニングと呼べるものになり得ます。本当に生き生きしている学級では、学び自体が完全に楽しく、ワクワクするものになっているのです。その内容は、先生が睡眠時間を惜しんでひたすら考えてお膳立てをしたというようなものではありません。大切なのは、子どもになにをしたいのかを尋ねて子どもに決めさせること。同じものを学ぶにしても、子どもに主体を持たせるというわけですね。知識は他人が入れようとして入るものではないこれまでの教育のほとんどは、学習指導要領をいかに解釈して、どれだけ効率的に子どものなかに知識を入れられるかという視点でおこなわれていました。そして、そういった授業こそがいいものとして評価されてきたのです。でも、じつは、「生きた知識」は外から「入れ込む」ことはできないものです。とくに、子どもが興味を持っていないことに関しては、外から入れようと一生懸命に教師が頑張っても、それは子どもを素通りしてしまいます。多くの人が、なにかをわかりやすく説明してもらえればすべて理解できると考えます。でも、人がどのように情報処理をするかという観点から考えると、どんなにわかりやすく説明されたとしても、10の内容のうち3くらいが記憶に残れば上出来だといえます。なぜなら、人間の注意や記憶に限界があるからです。説明された直後は、誰もがすべて理解できたつもりになります。でも、10の内容すべてに注意を向けて、そこで得た内容がこれまでの知識と結びつき、10の内容すべてがずっと残るということはあり得ないのです。でも、自分が興味を持っていることなら話は別。自分が主体的に働きかけて疑問に思ったこと、知りたいと思って調べたり聞いたりして発見したことは確実に残っていきます。そういう学びこそ、プレイフル・ラーニングなのです。重要なのは形式ではなく学び手の主体的な行為子ども教育に興味がある人なら、「アクティブ・ラーニング」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。一般的には、議論形式やグループ形式の学習方法を指すことが多いものです。でも、アクティブ・ラーニングは、特定の学習形式を指すものではないとわたしは考えています。座学形式ではなく、グループでわいわいと勉強すればアクティブ・ラーニングになるわけではありません。アクティブ・ラーニングとは、子どもたちに知識を入れるのではなく、子どもたち自身が主体的に知識を得ようとする学習のこと。無理やりグループ形式の学習を押しつければ、子どもがアクティブになるのでしょうか?一方、子どもたちが主体的となり「自ら学ぼう」という姿勢を持てば、これまでと変わらない座学形式であっても、それはアクティブ・ラーニングといえます。そういう学びこそが、本当に実社会で役立つ「生きた知識」を生んでいくのです。もちろん、アクティブ・ラーニングと同様に、プレイフル・ラーニングもある形式を指すものではありません。ダンスや体操を通じて学ぶというプレイフル・ラーニングも存在しますが、子どもが興味を持っていないのに、大人が設定した場に子どもを押し込んでも、プレイフルではないのです。逆に、はたから見れば遊んでいるようには見えなくても、子ども本人が楽しんでいれば、その学びはプレイフル・ラーニングといえます。アクティブ・ラーニングもプレイフル・ラーニングも、学び手の能動的な行為によって定義づけられるものなのです。ここまでの話を聞くと、「子どもがあまり興味を持っていないのに、親が家庭教育をすることにもあまり意味がないのではないか?」と考える人もいるかもしれません。でも、そこであまり難しく考えてほしくはありません。家庭での教育をアクティブでプレイフルなものにすることはそう難しいことではないからです。親が子どもと一緒に遊びながら学ぶ。それがいちばんの方法です。子どもは、無条件にお父さんやお母さんのことが大好き。そんな大好きな親となにかを一緒にすることがいちばんうれしく、ワクワクしながら多くのことを学ぶことができます。家庭で学ぶものは、子どもが興味を持っているものならどんなものでもかまいません。昆虫かもしれないし、怪獣かもしれない。子どもが大好きなものなら、それについてお父さんやお母さんが、逆に教えられてしまうなんてこともあるはずです。そんな時間は、子どもにとっては本当にうれしいもの。そして、「学ぶよろこび」を得ることにも大きくつながっていくのです。『科学が教える、子育て成功への道』キャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ 著今井むつみ、市川力 翻訳/扶桑社(2017)■ 慶應義塾大学環境情報学部教授・今井むつみ先生 インタビュー一覧第1回:我が子の「成功」を願う親が、絶対に伸ばしてやるべき子どもの“力”第2回:小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない第3回:「コミュニケーション能力を重視しすぎ」な親が、犯しかねない過ちとは第4回:家庭での学びが「アクティブ」で「プレイフル」になる、いちばんの方法【プロフィール】今井むつみ(いまい・むつみ)慶應義塾大学文学部西洋史学科卒、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、ノースウェスタン大学心理学部博士課程修了。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。とくに語彙(レキシコン)と語意の心のなかの表象と習得・学習のメカニズムを研究している。著書に『学びとは何か――<探求人>になるために』(岩波書店)、『言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで』(筑摩書房)、『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月29日変化のスピードはどんどん増し、ほんの数年後の世界がどうなっているのかも誰にもわからない時代――。そのなかで、未来を担う子どもには「6つの力」が必要だと提唱している研究者がアメリカにいます。ただ、彼女たちの著書『科学が教える、子育て成功への道』(扶桑社)を翻訳した慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみ先生は、「6つの力を伸ばすことにこだわり過ぎることも危険」とも語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの成功のために必要な能力とはなにかわたしが翻訳した、『科学が教える、子育て成功への道』(扶桑社)のふたりの著者は付き合いの長い友人です。その本では、これからの時代に必要な力として「6Cs」というものを提唱しています。まずは、その6Csを順に説明していきましょう。【これからの時代に求められる「6Cs」】1.コラボレーション(Collaboration)自分をコントロールして他者とコラボレーションすることは、大人、子どもを問わず、わたしたちすべてに求められるスキルの中核であり、社会的に有能であるための基本です。2.コミュニケーション(Communication)コラボレーションを基盤にして築かれるのがコミュニケーション。コミュニケーションスキルの高さが、より健康な状態を育み、学業とかかわるスキルの高さにも関連するという研究結果もあります。3.コンテンツ(Contents)コンテンツとは知識といっていいでしょう。新しい情報に出会ったときに、どんな戦略を取ってアプローチするかという、学ぶスキルもコンテンツに含まれます。4.クリティカルシンキング(Critical Thinking)莫大な情報にさらされる時代、一歩引いて考え、なにが本当に必要かを見極めて、答える必要のある問いを選ぶ、クリティカルシンキング(批判的思考)の力を発揮できる人こそ、これからの時代において目指すべき人物像です。5.クリエイティブイノベーション(Creative Innovation)コンテンツとクリティカルシンキングをともに働かせた結果、生まれるのがクリエイティブイノベーションです。コンテンツを身につけないまま自由に発想しても、創造性は育ちません。6.コンフィデンス(Confidence)問題に直面したときに必要となるのは、すぐにあきらめることなく、自分自身の気持ちと行動をコントロールし、失敗を乗り越えようとするコンフィデンス(自信)です。いかにして「生きた知識」を得るかじつは、これら自体は新しい概念ではありません。ただ、未来を生きていく子どもが成功に至るためには、いわゆる学力と同じくらい、あるいはそれ以上に大事なものがあるとして、綺麗にまとめたことに大きな意味があります。これまで、数値化してランクづけができるハードスキルと呼ばれるものが「学力」と呼ばれてきました。一方、たとえば「他人の気持ちを推し量る」といった、「6Cs」を含むソフトスキルと呼ばれる能力は数値化することが難しいものです。学校という場所では、学力で生徒を評価します。なぜなら、数値化できるので評価しやすいからです。しかし、ハードスキルは人が成功するために必要とされるもののほんの一部に過ぎません。学力は学力テストや大学入試には使えるものです。でも、実社会に出たときの問題解決にはあまり役に立たないという側面も持っています。学力は大事なものですが、使えない知識をいくら持っていてもそれでは意味がありません。いわばそれは、「死んだ知識」です。それに対して「生きた知識」というものは、それを使うことでどんどん新しいことを学習できる知識です。たとえば、言葉の知識は「生きた知識」のとてもよい例といえます。ある言葉を知っていることで、新しく出会った言葉の意味を推論することができるからです。これはまさに、知識を使って新しい知識を生んでいるということ。そういう好循環を生むのが、「生きた知識」なのです。人が学ぶときに注意しなければならないのは、あるコンテンツのピースを単体で学ぶだけではあまり意味がないということ。それでは、単発の知識になってしまい、「使えない知識」「死んだ知識」を得るだけになるからです。そうではなくて、ある一定以上のボリュームのピースを学び、そこにある規則性などを発見していく必要があります。それは、すでに持っている知識と新たに得た知識をリンクさせるということ。それが、知識を「生きた知識」にするための鍵です。「6Cs」にこだわり過ぎることも危険?話を「6Cs」に戻しましょう。たしかに、「6Cs」はこれからの時代を生きていく子どもたちにとって大切なものです。だからといって、6つすべての能力を伸ばすということは難しいですし、完璧を目指してはいけないとも思うのです。さまざまな能力の高さには、個人によって「凸凹」があって当然です。たとえば近年、多くの人が大切だと述べているのが、コミュニケーション能力です。でも、コミュニケーションが得意な人もいれば不得意な人もいる。それはあたりまえのことです。そして、仮にコミュニケーションが苦手であっても、黙々と自分がやるべきことに打ち込んで成功している人も世のなかにはたくさんいます。コミュニケーション能力が大事とはいっても、逆に周囲をシャットアウトして自分の道を自分のスタイルで進んでいけるということも、コミュニケーション能力とは対極にある力だと思うのです。大切なのは、子どもそれぞれの個性を伸ばしてあげるということ。幼稚園にも、他の子どもとのお遊戯にはあまり興味を示さずに、ひとりで園庭に走っていって虫ばかり見ているような子どももいるかもしれません。ならば、その興味を大切にしてあげなければなりません。コミュニケーション能力が大事だからとその子を虫から無理やり引き離してしまうと、本来、伸びるはずだった力が伸びないということになりかねないからです。そういう過ちを犯さないためにも、自分の子どもはどんなことに興味を持っているのか、どんな能力が伸びそうなのかといった子どもの個性をしっかりと見てあげてほしいのです。教育という分野も研究が進み、どんどん新しい考え方が出てきます。「こういう教育が大事だ」と、主流になるようなものもあるでしょう。ただ、いくら世間一般的に重要なことだといっても、不得意なことを無理にさせることは、子どもの成長にとって決していいことではないのです。やはり重要なのは、その子の興味がどこにあるのかということ。まずはその部分を大切にしてください。『科学が教える、子育て成功への道』キャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ 著今井むつみ、市川力 翻訳/扶桑社(2017)■ 慶應義塾大学環境情報学部教授・今井むつみ先生 インタビュー一覧第1回:我が子の「成功」を願う親が、絶対に伸ばしてやるべき子どもの“力”第2回:小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない第3回:「コミュニケーション能力を重視しすぎ」な親が、犯しかねない過ちとは第4回:家庭での学びが「アクティブ」で「プレイフル」になる、いちばんの方法(※近日公開)【プロフィール】今井むつみ(いまい・むつみ)慶應義塾大学文学部西洋史学科卒、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、ノースウェスタン大学心理学部博士課程修了。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。とくに語彙(レキシコン)と語意の心のなかの表象と習得・学習のメカニズムを研究している。著書に『学びとは何か――<探求人>になるために』(岩波書店)、『言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで』(筑摩書房)、『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月27日2020年からはじまる新たな大学入学共通テストは、より「思考力」が問われる内容に変わります。そのことにも表れているように、多くの教育関係者が口をそろえるのが「これからの時代を生きる子どもたちには『思考力』が必要だ」ということ。認知科学の専門家で、人の学習について研究をしている慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみ先生によれば、思考力を育むために有効なものが「絵本」なのだそう。新たな子ども向け教材がどんどん生まれているいま、絵本というむかしながらのメディアにどんな力があるのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親子の対話が子どもの思考力を伸ばす先行きの見えにくいいまの時代、子どもを「成功」に導くには、「言葉の学習を通じて思考力を高める」ことが大切です(インタビュー第1回参照)。では、子どもの思考力を高めるために家庭でなにができるでしょうか?まず、なによりも「子どもと話す」こと。すごく基本的ですが、これはとても大切なことです。いまはたくさんのアプリが存在するなど、子ども向けの教材が豊富な時代です。ただ、それを子どもになんでも手渡せばいいと思っている親御さんが多いことが残念ですね。もちろん、親は良かれと思ってやっていることですが、そういったものをただ手渡されても、子どもはあまり学べないのです。大人の場合はテキストなど教材からも十分に学べます。でも、子どもの場合は「一方通行」の情報では学ぶことはできない。子どもは、親御さんなど周囲の大人が見ているものに注意を向けます。大人と注意を共有しながら、さまざまなことを学んでいくのです。そういう意味では、絵本の読み聞かせは子どもの思考力を高めるためにとても有効だと考えることができます。その学びとは、ただ文字を覚えるといったものではありません。お父さんやお母さんと絵本を読むという場を共有し、絵本を読んでいる親の視線をたどっていく。そのような、絵本に書いてあること以外にもその場にあるたくさんの状況の手がかりがあると、「この言葉はこういう意味なのか」と子どもは理解します。テキスト情報だけではなく、親の視線や表情といった情報を受け取り、推論して理解していくのです。デジタル絵本では子どもは学べない?先に、いまはアプリなどの子ども向け教材が豊富だと述べました。絵本にだってたくさんの種類があります。注意してほしいのは、絵本が子どもの思考力を高めるために有効とはいっても、いわゆる「デジタル絵本」や「動画」は、ただ、子どもにポンと手渡すだけではその効果はあまり期待できないということです。デジタル絵本や動画を与えると、子どもはよろこんで見入ります。しかし、じつはそれらからは子どもはなにも学んでいません。それは、そのように使われたデジタル絵本や動画が一方向性のものになりがちだからです。デジタル絵本や動画は綺麗な絵が動いたり音声も出たりと、すごく情報がリッチで刺激的です。でも、それらをただ一方的に与えられても子どもはそのリッチな情報をうまく消化することができないのです。もちろん、子どもの年齢や使い方によってはデジタル絵本や動画も子どもの思考力を高めるためにいいツールになり得ます。子どもとひと口にいっても、2歳と5歳ではまったくちがう生き物だと理解することが重要です。5歳になれば、子どもがデジタル絵本や動画からもある程度学ぶこともできるでしょう。でも、2歳の場合は効果がほとんど期待できないといっていいかもしれません。そもそも、すごく情報がリッチだということが、じつはネックなのです。情報が多いがために、子どもはなにに注目していいのかがわからなくなってしまう。小さい子どもの場合であれば、むしろ情報はミニマムのほうがいい。そのミニマムな情報のなかから、お父さんやお母さんが見ているものに注目して、子どもたちは学んでいきます。「わからない」は子どもの学びに重要また、大人が紙の絵本を読み聞かせする場合は、読み手が子どもを観察しながら間髪入れずに反応できることも大きなメリットになります。子どもがなにを聞きたいのか、どこに注目しているのか。そういうことを表情などから読み取りながら、たとえばある部分を大げさに読んでみたり、読むスピードを変えてみたりと変化をつけられますよね。そういうちょっとしたテクニックを入れることが、子どもがより深く学ぶことにつながっていきます。もしかしたら、今後、子どもの反応をカメラでとらえ、分析して音声などに変化をつけるというようなデジタル絵本が生まれるかもしれません。それが生の大人の反応と同じ効果を生むのかどうかは、実証的に検証する必要がありますが……。そんなわたしも、テクノロジーを一概に否定しているわけではありません。ただ、デジタル絵本などのつくり手は、どうしても「テクノロジーありき!」という考えを持っているように感じるのです。「テクノロジーがあるから絵本をつくる」ということに主眼を置いていて、子どもがどういうふうに使うかとか、それが子どもの学習をどう助けられるのかという観点が足りていないのではないかと思います。いずれにせよ、現時点のデジタル絵本は紙の絵本での生の読み聞かせには勝てないでしょう。やはり、質という点では、生のコミュニケーションにはかなわないからです。とくに小さな子どもというのは、直接の生のコミュニケーションをとおしてもっともよく理解し、学ぶことができることが多くの研究で実証されています。もちろん、子どもにとって学びになるコミュニケーションは、絵本の読み聞かせだけではありません。普段の会話もとても大切です。そのなかで、子どもの理解度を見極めながら、同じことを別のいろいろないい方で話すように心がけてみてください。使う言葉を変えてもいいですし、構文を変えてみるのもいいでしょう。そのような対話の中で、子どもは「わからない」言葉にたくさん出会います。じつは、子どもの学びにとって「わからない」ことがあるのはすごく大切なことです。わからない言葉を聞き、会話の内容や文脈からその意味を推論する。そうやって子どもは学んでいくのです。語彙力、推論力が高い子どもの親御さんはそういうことを日常で自然にやっている場合が多いのです。親をはじめとしたまわりの大人の語りかけの量と質が子どもの言葉力に大きな影響を与え、それがさらに思考力を磨いていくのです。『科学が教える、子育て成功への道』キャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ 著今井むつみ、市川力 翻訳/扶桑社(2017)■ 慶應義塾大学環境情報学部教授・今井むつみ先生 インタビュー一覧第1回:我が子の「成功」を願う親が、絶対に伸ばしてやるべき子どもの“力”第2回:小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない第3回:「コミュニケーション能力を重視しすぎ」な親が、犯しかねない過ちとは(※近日公開)第4回:家庭での学びが「アクティブ」で「プレイフル」になる、いちばんの方法(※近日公開)【プロフィール】今井むつみ(いまい・むつみ)慶應義塾大学文学部西洋史学科卒、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、ノースウェスタン大学心理学部博士課程修了。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。とくに語彙(レキシコン)と語意の心のなかの表象と習得・学習のメカニズムを研究している。著書に『学びとは何か――<探求人>になるために』(岩波書店)、『言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで』(筑摩書房)、『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月26日「どうして?」「なんで?」と、好奇心旺盛なお子さんはいろいろなことに興味津々。親御さんとしては、何度も同じような質問に答えるのは大変ですし、忙しいときに質問攻めにあうと困ってしまいますよね。しかし、このような子どもの「知りたい」という好奇心はとても大事なこと。そこで、子どもの「もっと知りたい」を大事にしたい理由をご紹介します。子どもの好奇心は “もっと知りたい” の原動力になる何かに夢中になると、子どもは「もっと知りたい!」と考えるようになります。これが、知的好奇心です。知的好奇心とは、物事に対して知ることへの欲求や、知りたいと思う気持ちのことを指します。たとえば、図鑑を見ていて恐竜について興味を持ったら、次々と新しいことを知りたいと興味を広げるお子さんもいるでしょう。「恐竜についてもっと調べたい」「実物の化石を見てみたい」など好奇心が旺盛になり、インターネットで調べたり、博物館へ行ったりと、行動範囲を広げていきます。このとき、脳内ではどんなことが起こっているのでしょうか。実は、子どもが何かに興味を示すとき、脳内で盛んに脳細胞同士のネットワークの道がどんどん作られ、情報伝達が行われています。成長とともに興味を持ったことに関する道は太くなり、興味がないものに関する道は減っていきます。ですから、小さい頃にできるだけたくさんのことに興味を持つことは大切なことなのです。音楽やスポーツなどでも同じことが言えます。子どもの頃から絵を見る機会を作る、ピアノなど楽器を弾く、スポーツを体験するなど、何か興味のありそうなものをさまざまに経験させると、「おもしろいなあ」「もっと知りたいなぁ」と思い、そこに興味のアンテナが張られていきます。好奇心を持つということは、知ろうと思うことの「原動力」になるのです。好奇心はどのようにして刺激されるのだろうか。心理学・行動経済学者のジョージ・ローウェンスタインが提唱した「情報の空白」という考え方がヒントになる。新しい情報よって無知を自覚し、自分の知識の空白地帯の存在に気がついたときに好奇心が生まれるというものだ。ここで重要なのは、「少し知っていること」が好奇心に火をつけやすいということ。好奇心は、何も知らない事柄に対して湧いてくるかのようなイメージを持たれがちだが、実際には、人はまったく知らないことには興味を持ちにくい。「何を知らないか」すら分からない状態では、疑問を膨らませることも難しくなる。(引用元:東洋経済ONLINE|土台の知識の有無が「好奇心格差」を生み出す)つまり、未経験なことが多い子どもの好奇心が刺激されるには、小さい頃にさまざまな経験や体験を広くさせることが大切なのです。知的好奇心が旺盛な子は賢いのはなぜ?最初に興味を持つことは、恐竜でも昆虫でも、動物、魚、鉄道でも、何でもいいのです。まずは、興味を持つこと自体が大切。その次に、興味を持つことができたその何かに対して、さらに知的好奇心が湧いてきて「もっと知りたい!」を積み重ねていきます。それを繰り返すことで、子どもは好きで夢中になることができる何かを見つけます。やがて、この知的好奇心は、学ぶ意欲にも結びつくのだそう。『「賢い子」に育てる究極のコツ』の著者でもある脳医学者の瀧靖之先生によると、賢い子の条件は「自分から“知りたい”と思える、知的好奇心が旺盛な子ども」だと言います。好きなものを極めるために、「これは何?」「なぜ?」「どうしてそうなるの?」ということを自発的に考えるようになります。自分なりに色々な角度から問いを立てて考えていくのです。そして、本を読んだり、人に聞いたり、インターネットで調べたり、様々な手段でその問いを解決していこうとするのです。もしかしたら外国の本を読み始めることもあるかもしれません。子どもの頃のこうした経験が下地となって、勉強にも仕事にも、そして趣味にもつながっていく。だから知的好奇心をもって動く経験を基に、何かに熱中した体験ができると、子どもの「学びに向かう力」が伸びていくのです。(引用元:ベネッセ教育情報サイト|世界最先端の脳研究が解き明かした!「賢い子」の育て方とは?)また、瀧先生によると、小学校のときにとても成績が良かった子のうち、中学校や高校に進学してからも学力が伸びている子と、そうでない子との違いについて調査をした結果、成績が伸びている家庭の大半が子どもの頃に、本や図鑑などのバーチャルの世界を通じて好奇心を引き出されていたことがわかりました。そして、子どもが興味を持ったことをきっかけに、次は親が実際に本物を見せに連れて行くなど、本や図鑑で見た世界が、実際に手を触れられる距離に現れる経験をしているのです。それは視覚だけではなく、聴覚や触覚、嗅覚など脳の幅広い領域を同時に刺激しながら、より多面的な学びを得ることができるようです。また、人は物事に夢中になって「楽しい」と感じると、脳は神経伝達物質のドーパミンを分泌します。ドーパミンには記憶力を高めたり、やる気を出させたりする働きがあると言われており、高次認知機能が活性化されるのです。つまり、好奇心旺盛で何かに夢中になることは、脳の活性化にも大きな影響があるのです。子どもの知的好奇心を高めるためのコツとはでは、親御さんが子どもの知的好奇心を高めるために、何かできることはあるのでしょうか。日常生活の中でできる4つのことをご紹介します。<ポイント1>好奇心を育てる最強アイテムは「図鑑」高校や大学で学力が伸びた子どもは、幼い頃から図鑑を見ていたという分析もあるそうです。特に、3〜4歳ぐらいまでは、図鑑に触れると効果的だと言います。動物や植物、乗り物、宇宙、恐竜など、図鑑をリビングなどにそろえておきましょう。たとえば、テレビを見ていて子どもが何か興味を示したら、それに関する図鑑を開いて見せてみたり、水族館や動物園に出かける前に図鑑を開いてみたりするなど、親子で図鑑を楽しむ時間を持つことも大切です。<ポイント2>いろいろな経験をさせたり、新しい場所に連れて行く水族館で魚を見たり、動物園で動物を見たり、科学館へ出かけたり、美術を鑑賞する、ピアノを弾くなど、子どもが興味のありそうなものを経験させると、興味のアンテナが張られていきます。その中できっと、「これ、おもしろいなあ」「もっと知りたいなぁ」というふうに思えるものがあるはずです。図鑑などで興味を持ったことを、実際に出かけて目で見せる経験も積極的にさせてみましょう。いろいろなものに興味を持つことが当たり前になり、それは大人になっても習慣、そして経験として残っていくのです。<ポイント3>親自身がワクワクする感覚を忘れないお子さんが好奇心を持つように、いろいろな場所へ連れていくといったことをすでに実行している親御さんも多くいるでしょう。しかし、その前に大切なのが、親自身がワクワクするような好奇心を持つことです。好奇心を持ったことに対して、「学ぶ姿勢」を日々の生活の中で表現できているかどうかということが重要なのだと言います。そのような姿勢を日頃から見せることで、親の持つ好奇心は子どもに伝播するのです。<ポイント4>学習を日々の生活とリンクさせるお子さんは、書き取りや計算など単純な学習を楽しんで行っていますか?それだけでは、つまらないと感じる子もいるでしょう。理由は、日々の生活とリンクしていないからだと言います。例えば子どもがお菓子作りに興味をもった場合、作り方が書いてある文章を読むには「字」が読める必要があり、分量を知るには「数字」が必要になりますね。「好奇心」→「興味関心分野」→それに達するための「読み書き計算といった“道具”」という流れができるのです。そして、読み書きや計算の練習をするにつれて、自分がワクワクすることや知りたいことを、もっと知ることができるという手応えが出てきます。こうして、「読み書き計算といった“道具”」→「興味関心分野」→「好奇心」というサイクルが生まれ、さらに好奇心が強化されていきます。(引用元:東洋経済ONLINE|伸びる子の親は日々「好奇心」で生きている)このように、好奇心を持ったことを実現させるためには、学習することが必要だということが分かってくれば、子どもは積極的に学ぶようになります。***お子さんが小さい頃は、好奇心の元となるタネを撒きましょう。リビングに図鑑をそろえておいたり、家族で新しい場所へ出かけたり、子どもにさまざまな体験をさせたりするなど、何でもいいのです。その経験の中で夢中になる何かを見つけ、「もっと知りたい」という知的好奇心が生まれ、それが学ぶ意欲にもつながります。そして何より、親御さん自身が好奇心を持つことを忘れずに、それを楽しむ姿勢を見せることも大切です。文/内田あり(参考)ベネッセ教育情報サイト|世界最先端の脳研究が解き明かした!「賢い子」の育て方とは?ベネッセ教育情報サイト|脳医学者も実践!子どもの「知的好奇心」を伸ばす“たった1つの秘訣”東洋経済ONLINE|伸びる子の親は日々「好奇心」で生きている東洋経済ONLINE|土台の知識の有無が「好奇心格差」を生み出すSTUDY HACKER|好奇心は成長の秘訣!ビジネスにこそ活きる好奇心の “育て方”ソニーライフ|子ども脳も大人脳も「好奇心」で成長する 脳に効く習い事
2019年04月25日我が子の成功を願わない親はいません。ただ、ひとことで「成功」といっても、解釈は人それぞれでしょう。認知科学の専門家で、人の学習について研究をしている慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみ先生は、成功とは「自分で自分が幸せだと思えること」と定義づけます。そして、自らを成功に導くには、「言葉の学習を通じて思考力を高める」ことが重要だと語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの言語学習には学びのエッセンスがたくさん詰まっているまずはわたしが行なっている研究内容についてお伝えします。専門としている「認知科学」は取り扱う分野がたいへん広く、人に関する科学的な研究のすべてともいえます。なかでもわたしがいちばん関わってきたのは、「人の思考や知識の在り方」、そして「学習」です。たとえば、脳のなかに知識はどういうかたちであるのか、知識というのは学びによってどう変わっていくのか、といったことです。その問題に実証的にアプローチするために、主に「子どもの言語の学習」を中心に据えて研究しています。なぜなら、子どもが言語を学習して自分のものにしていく過程には人の学びのエッセンスが凝縮されているからです。大人が外国語を学ぶ場合、「教えてもらう」「覚える」ということが基本ですよね。でも、赤ちゃんが言葉を覚えるプロセスはまったくちがう。大人が話している言葉を理解できないところからはじまり、入ってくる刺激を分析し、大事なことを発見していく。それこそが、学びの純粋なかたちといえます。子どもの言語の学習を研究することで、大人の学習にとってもすごくたくさんの示唆を得られるのです。思考力育成にシフトしつつある学校教育では、本題に移りましょう。親であれば、誰もが子どもの「成功」を願います。でも、その「成功」とはどんなことでしょうか?これは、科学的観点ではなく、人としての視点からの考えになりますが、成功とは「自分で自分が幸せだと思える」ことではないでしょうか。たとえば周囲からはうらやましがられるようなセレブであっても、本人が幸せだと思っていなければ、成功しているとはいえません。世間の基準ではなく、あくまでも自分の主観で幸せだと思い、自分に価値や意味を見出すことができる。また、自分がしていることをもっと深めていきたいと思えて、それが楽しい、生きがいだと思える人こそ成功しているといえるとわたしは考えます。子どもを成功する人間に育てるには、あたりまえですが教育が重要となります。いま、日本の公教育は過渡期にあるように感じます。有名大学に入って大企業に就職するというような古い成功モデルをまだ持っている人も少なくないですが、それに疑問を持ちはじめている人も増えているように思うのです。わたしがかかわっているある自治体の学校では、全国学力調査の結果ではなく、「どれだけ本質的に子どもが深く学べるか」といったことを重視し、教育改革をおこなっています。学力を測るためのアセスメント、評価基準として、「覚えただけの知識」を問うのではなく、思考力を問うようなものをつくっています。そのアセスメントは、子どもの順位づけをするようなものではありません。子どものさまざまな資質を多角的に見ると同時に、資質同士がどのように関係して子どもの思考力、学力をかたちづくっていくのかを理解するためのものです。思考力を高めるためには知識も重要多くの人は、思考力と言葉の力は別物と考えていると思います。しかし、認知科学、学習科学の研究の成果は、言葉の力が思考力の発達に大きな役割を果たしていることを示しています。言葉こそ思考の道具、思考するためにいちばん重要なものだからです。しかし、誤解しないでほしいのは、言葉が大切だといっても、ただ闇雲に語彙のサイズを大きくする、つまり知っている単語の数を増やせばいいわけではありません。子どもは言葉の学習を通じて考える力を高めていきます。言葉の理解のプロセスには思考が存在します。人が知らない言葉に出会ったとき、人はその言葉が使われた文脈にある知っている言葉を手掛かりに、この新しい言葉は「きっとこういう意味だ」という推論をする。その推論の連鎖によって、はじめて新しく出会った言葉の意味を知るのです。つまり、子どもが新しい言葉に多く出会うことは、たくさんの推論の連鎖を経験し、推論力、思考力を深めるということに他なりません。周囲にただ教わるのではなく、自分で意味を見つけた言葉をたくさん知っている子どもというのは、持てる知識を使って、新しい知識を生み出す練習、経験を重ねているということになるのです。これからの時代を生きていく子どもたちは、そういった経験を重ねて思考力を深めておく必要があります。というのも、いまの社会は10年後にどうなっているのか、なにが主流になっているのかが誰にもわからないからです。いま現在主流のものを覚えても、それが10年後に使える保証はありません。とはいえ、誤解してほしくないのは、決して知識が不要というわけではないということです。新しい言葉の意味を推論によって知るプロセスにもいえることですが、新しい情報に注目するにも、いま持っている知識というフィルターをとおしておこなうからです。知識は必要です。でも、さまざまなことをただ覚えただけでは意味がありません。知識をどう使って新しい知識をつくり出していけるか、ということが大切なのです。まさにいま現在、過渡期にある日本の公教育ですが、それこそ学びの基本的な姿勢がつくられる幼稚園や小学校の学習は、そういう視点でのものが中心になっていってほしいですね。『科学が教える、子育て成功への道』キャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ 著今井むつみ、市川力 翻訳/扶桑社(2017)■ 慶應義塾大学環境情報学部教授・今井むつみ先生 インタビュー一覧第1回:我が子の「成功」を願う親が、絶対に伸ばしてやるべき子どもの“力”第2回:小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない(※近日公開)第3回:「コミュニケーション能力を重視しすぎ」な親が、犯しかねない過ちとは(※近日公開)第4回:家庭での学びが「アクティブ」で「プレイフル」になる、いちばんの方法(※近日公開)【プロフィール】今井むつみ(いまい・むつみ)慶應義塾大学文学部西洋史学科卒、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、ノースウェスタン大学心理学部博士課程修了。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。とくに語彙(レキシコン)と語意の心のなかの表象と習得・学習のメカニズムを研究している。著書に『学びとは何か――<探求人>になるために』(岩波書店)、『言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで』(筑摩書房)、『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房)など。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年04月25日成長するにつれて、子どもの個性は色濃く出てきます。長所も短所もその子の個性であり、良いところはどんどん伸ばしてあげたいですよね。一方で、短所になり得る点を早いうちから直してあげるのも、親としての大事な役目です。親の声かけや対応、周囲の環境などは、子どもの成長に大きな影響を及ぼします。今回は、物事が続かない・すぐにあきらめてしまうお子さんを変えるヒントをお伝えしましょう。「すぐにあきらめる子」は将来どうなる?「もういいや」「つまらない」「飽きちゃった」「どうせ僕(私)にはできないよ」ーーこれらの言葉がよくお子さんの口から出てくるとお悩みではありませんか?もしくは、お子さんの普段の様子を観察してみると、次のような傾向があるのではないでしょうか。・遊びや勉強など、最初のうちはやる気満々で夢中になって取り組むが、すぐに飽きる。集中力が持続しない。・あれもこれもと興味の対象が多いわりに、どれにも執着しない。・困ったことに直面しても、すぐに「まあいいか」と言って真剣に向き合おうとしない。たとえまだ小さな子どもでも、少し気になるこれらの言動。しかしこのまま放っておくと、高学年以降の成長過程においてさまざまな悩みの種になりかねません。勉強やスポーツでも、続けることでしか手に入らない結果があります。ちょっと壁にぶつかったくらいですぐにあきらめてしまうようでは、本人が望む成果は得られないでしょう。するとそのうち「自分は何をしてもダメなんだ」「結果が出ないのは自分の能力が低いせいだ」と、自己肯定感が低下していくのです。大人になって就職しても、変化のないルーティンワークからは刺激を感じられず、与えられた業務をおろそかにするようになります。その結果、周囲からの評価を得られないどころか、自分の実力に向き合うことをせずにすぐに環境を変えたがり、転職を繰り返す可能性もあるでしょう。「飽きっぽい」「あきらめが早い」ということは、大きな成功から遠ざかるひとつの要因にもなりうるのです。「あきらめ癖」がついてしまったのはなぜ?そもそも、なぜ「あきらめ癖」がついてしまうのでしょう。脳の仕組みを見てみると、熱しやすく冷めやすいタイプは、行動を促進するドーパミン神経系の活性化を求める傾向があると言われています。新しいものや刺激のあるものを求めることは、脳にとって決して悪いことではないのです。しかし一方で、コツコツがんばって続けられる人や、刺激を追い求めずに安定した日々を送る人もいます。「すぐにあきらめる人」との違いは一体何なのでしょう?そのヒントは、親の日頃の言動に隠されているようです。『ほめると子どもはダメになる』(新潮社)の著者で心理学博士の榎本博明氏は、「親から投げかけられた言葉や親の口ぐせは、自己観や人生観の土台になります」といいます。つまり、親の口ぐせが子どもの人生を方向づけると言っても過言ではないのです。たとえば、何かにつけて「どうせ無理」「きっとダメだよ」と言ってすぐにあきらめてしまう子は、親自身が後ろ向きなものの見方をしていることが多く、親の口ぐせを無意識のうちに心の中に取り込んでいるそう。とくに、次の2つの思考パターンには注意が必要です。■子どもを自分の思い通りにコントロールしようする「なんでできないの!」「こんなこともできないなんてダメね!」常日頃からこのような言葉を投げかけていると、子どもの自信はみるみるしぼんでいきます。それにより「どうせ何をやってもダメなんだ」と、あきらめ癖がついてしまうのです。■すぐに感情的になるたとえば朝、子どもが準備に手間取っているとします。そこで感情的になって「もう!モタモタしないで!」と思いつくままの言葉をぶつけていませんか?すると子どもは萎縮し、本来ならスムーズにできることもうまくできなくなり、ますます自信が失われてしまいます。私が実施した意識調査でも、子育て中の親のほとんどが、「子どもが思い通りにならない」といってイライラしています。社交的な親は、内気な子にイライラしています。神経質な親は、大ざっぱな子にイライラします。でも、子どもは親とは別人格、親の思うようには動きません。このことをしっかりと頭に刻んでおきましょう。(引用元:PHPファミリー|親がかける言葉で、子どもの人生が変わる)今からでも少しずつ親御さん自身の口ぐせや思考パターンを変えるように心がければ、お子さんの「あきらめ癖」も改善されていくはずです。ポイントは、前向きな言葉を口ぐせにすること。「モタモタしないで急いで!」ではなく、「さあ、もう少し急ごうね。がんばって!」と前向きな言葉をかけてあげるだけで、子どもは「自分はやればできる」と自信を失わずにすむのです。あきらめが早い=切り替えが早い!?枠にとらわれない思考法「リフレーミング」とはここでは少し視点を変えて、「あきらめ癖」について考えてみましょう。教育評論家の親野智可等氏は、わが子の短所ばかりが目につき、つい必要以上に心配したり叱ったりすることに悩む親御さんに向けて、「リフレーミング」という手法をすすめています。たとえば、「新しいおもちゃも、最初のうちは夢中になるけれど、すぐに飽きて見向きもしなくなる」「何かをやり始めたとき、ちょっとでも壁にぶつかると途端にあきらめる」「やる気が持続しない」という傾向があるとします。親からすると「こんな調子で将来大丈夫かしら?」と不安になりますよね。それこそが、一定の枠組み=“フレーム”を通してしかものを見ていない証です。「リフレーミング」とは、そのフレームを外して別の角度から見直すことを意味します。そうすることで、マイナスポイントに思えるものが、一転してプラスの側面を見せてくれるのです。「飽きっぽい」「あきらめが早い」といったマイナス要素を、別の角度から見直してみましょう。すると、「気持ちの切り替えが早い」「多様性を受け入れられる」「楽天的」「自分の気持ちに正直」……などの長所が思い浮かびます。それは将来、仕事に就くうえでも確実にプラスにはたらきます。あきらめ癖があるということは、決して悪いことばかりではないのです。その個性をうまく引き出せば、良い方向へと伸びていく可能性を秘めています。必要以上に心配しないようにしてくださいね。あきらめ癖がある子どもが粘り強くなる3つのコツとはいえ、すぐにあきらめて何ひとつまともに続かないのは困りものですよね。世の中には、続けることでしか手に入れられないものがたくさんあります。簡単に投げ出してはいけないものがあるのだということも、小さいうちから知っておく必要があるでしょう。ここでは、あきらめ癖がついてしまった子どもが「あきらめない心」を手に入れる方法をご紹介します。■クリアできそうな目標を常に用意するがんばればクリアできそうな目標に向かって取り組むと、快感にかかわる脳のドーパミン神経系の働きが最大化すると言われています。もっとも効果があるのは、子どもが50~75%の確率で達成できそうな目標を設定すること。スモールステップをクリアすることを繰り返せば、いつのまにか「やり抜く力」が身につくでしょう。■目標は「肯定的」で「具体的」に!否定語を入れないのがポイントです。「宿題が終わるまでゲームをしない」よりも「ゲームをしたくなったら窓の外を見る」というように、肯定的なフレーズを入れると◎。また「1年生のときよりも勉強をがんばる」では達成感がわかりにくいので、「テストでは毎回80点以上をとる」と具体的な目標を立てましょう。■「成功体験」を積み重ねることを意識する本格的なロジカルシンキングを取り入れた学習塾ロジムの塾長、苅野進先生は、「粘り強さを手に入れるためには、何かを成し遂げた『成功体験』が必要です」と述べます。「あのときうまくいったから、次もうまくできるはず」と思うことでさらに頑張れるというわけです。子どもにとって一番身近な成功体験は、親に褒められること。ただし結果を褒めるのではなく、問題に取り組んだことや、少しずつでも前進していることを褒めてあげましょう。たとえ失敗しても、チャレンジしたことを褒められれば、それが成功体験となります。***親の声かけによって子どもの粘り強さが身につくのなら、どんどん褒めてあげたいですね。「がんばって取り組んでるね!」「さっきより進んでるね!」「失敗したけど、ひとつわかったことが増えたね!」と、ありのままの姿や物事に取り組む姿勢を褒めてあげると、子どもの自信につながりますよ。(参考)洋泉社MOOK(2017),『子どもの脳を伸ばす 最高の勉強法』, 洋泉社.PHPファミリー|親がかける言葉で、子どもの人生が変わる東洋経済ONLINE |「いい子」「悪い子」すべては”親の決めつけ”だ洋泉社MOOK(2018),『これからの未来を生き抜く できる子の育て方』, 洋泉社.Study Hacker こどもまなび☆ラボ|才能よりも大切な「GRIT」!子どもの“やり抜く力”の育て方~家庭内ルール~
2019年04月20日ぽこちゃんです&どんちゃんです
子育てはフリースタイル
両手に男児