【音楽通信】第108回目に登場するのは、ピチカート・ファイヴの3代目ボーカリストとして90年代に一斉を風靡、現在はソロシンガーとして活躍し、デビュー40周年を迎えた野宮真貴さん!子どもの頃から歌うことやお洋服が好き【音楽通信】vol.1081981年にソロデビュー後、音楽ユニット「ポータブル・ロック」の活動を経て、1990年に加入したピチカート・ファイヴの3代目ボーカリストとして、国内外で渋谷系ムーブメントを巻き起こした野宮真貴さん。2021年にデビュー40周年を迎えた野宮さんが、2022年4月20日に40周年のアニバーサリーとなるニューアルバム『New Beautiful』をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――子どもの頃から歌が好きだったのですか。小学生の頃は、学校に行っても一言もしゃべらないで帰ってくるようなシャイな子でした。でも、歌を歌うことやお洋服は好きだったので、歌手になったら好きな歌が歌える、キレイなドレスも着ることができるなって。好きな歌を歌って自分を伝えていくわけだからしゃべらなくていいですし、将来は歌手になろうと決めて実際になりましたが、こうやって取材でお話ししたり、ステージでもMCをしたり、意外と話すことが多かったです(笑)。――確かにそうですね(笑)。小さい頃はどんな音楽を聴いていたのですか。テレビを通じて、グループサウンズなどの昭和歌謡を聴いていましたね。小さい頃は、当時のブラウン管の中にいる歌手になりたいという感じで、後になって「いい曲だなあ」と思うものは、洋楽の影響を受けている曲が多かったです。11歳の頃、父がステレオを買ってきたのですが、私のためにカーペンターズとセルジオ・メンデスとミシェル・ポルナレフという3枚のレコードも買ってきました。そのとき私は洋楽を聴いて「世界には素晴らしい音楽がたくさんあるんだな」ということを知って、だんだん洋楽を聴き始めて。ただテレビを観ているだけではなく、歌手になりたいと思い始めて、ロックを聴いてからはロックバンドをやりながらコンテストに出たりしていましたね。――お父さまも洋楽がお好きだったのでしょうか。その頃は好きだったみたいです。父は自分のためにクラシックのレコードを買いながら、娘には洋楽やポップスのレコードを買ってきてくれました。当時は、洋楽の番組が始まりだした頃だったので、レコード屋さんでおすすめされたものを買ってきたのかなと思っていたら、自分で聴いて好きなものを買ってきた、と言っていました。後になって考えれば、その洋楽がソフトロックだったり、フレンチポップスだったり、ボサノバだったり、たまたま渋谷系のルーツになった音楽なので面白いです。――デビュー40周年を迎えて、これまでを振り返っていかがでしょうか。1981年にデビューして、1990年にピチカート・ファイヴに入って2001年に解散して、それからソロになりますが、40年を振り返るとピチカートで過ごした10年間が一番濃かったですね。子どもの頃から歌が歌いたくて、歌手になって、ソロでデビューして。ピチカートに入る前の10年間は、自分の持ち歌だけでは食べていけないので、CMの歌を歌ったりもしながら活動していました。ピチカートに入ってからは、海外公演などまで連れて行ってもらったので、想像していた以上の世界を見せてもらいましたね。デビュー40周年のアニバーサリーアルバム――2022年4月20日にニューアルバム『New Beautiful』をリリースされますね。アニバーサリーのアルバムになります。2014年から「渋谷系を歌う」と題して、渋谷系の曲やルーツになった曲、幼い頃に聴いていたカーペンターズなどの曲を歌い継いでいくというテーマで活動していたので、これまではカバー曲を歌う機会が多かったんです。でも、40周年の記念に、私のキャリアに深く関わっていただいたアーティストの方に「いまの私に曲を書いてください」と、新曲を書いていただきました。それと同時に「World Tour Mix」として先行配信した3曲があって。ピチカートの名曲をいまSNS界で話題になっている方にリアレンジしてもらったのですが、世界の若い人たちに発見してもらえるんじゃないかなという思いからスタートした3曲になっていますね。40年前にデビューしたレーベルがビクターで、今回のアニバーサリーアルバムも同じビクターからまたリリースできるという、自分にとってはとても素敵なことが実現しています。――世界で活躍するネオシティポップアーティストとのコラボレーション作品が「World Tour Mix」の3 曲となっていますね。そのうちの1曲、ピチカート・ファイヴの「東京は夜の七時」を韓国人プロデューサーでDJのNight Tempoさんと組んでいます。Night Tempoさんは80年代の日本の歌謡曲やニューミュージックに詳しくて、そういうものをリミックスしてアメリカなどでDJをやって人気の方。昨年、彼がオリジナルアルバムを出す際、わたしに「歌詞と歌で参加してほしい」というオファーがあったんです。彼が歌詞を書いて、わたしが歌ってという形で、アルバムに参加しました。そして今回わたしのアルバムをリリースするタイミングで、「World Tour Mix」をやってほしいなとお願いしたら、彼はピチカートの「東京は夜の七時」のアレンジをやってみたいと。コロナ禍で実際に行き来できないので、リモートでこの曲を作っていきました。――Night Tempoさんの曲「Tokyo Rouge」のミュージックビデオに、野宮さんご出演されていますね?そう(笑)。なんか楽しいですよ。世代も国も違いますが、それも関係なく共演して、彼のおかげでわたしの歌が若い方の耳に届くということもあります。彼が言うには、わたしと「性格が似ている」と。彼は80年代のものが好きで集めていたり。わたしは60年代のものが好きで集めていたり。彼は80年代生まれ、わたしは60年代生まれ。ふたりで「生まれた頃のルーツに惹かれるんですかね?」という話もしました。リモートで話したり、曲を作っていたりするので、実はまだ1度も直接会ったことはないんです。彼が今夏にライブで来日するそうなので、日本に来たら昭和なカフェとか、連れていってあげようかなと思っています。――そして2曲目の「陽の当たる大通り」はタイのポップスター、プム・ヴィプリットさんと組んでいます。以前から、タイにはよく旅行で行っていますし、昔はタイのバンドとレコードを作ったこともあって好きな場所。プムさんは、タイで海の近くに暮らしていて、のんびりした生活をされているので、音にもそれが表れています。彼のアレンジは、ギターサウンドなんですがすごくチルな印象もあって、海辺の陽の当たる大通りを歩いているような感じがしてうれしいです。――3曲目「スウィート・ソウル・レヴュー」は、日本のシティポップ次世代バンドのevening cinemaのアレンジで、そしてYouTubeでシティポップを歌ってバズった女性シンガー、レイニッチさんとデュエットしていますね。レイニッチさんはインドネシアの方なので、実際にお会いはしていないんですが、ミュージックビデオでは共演しているような演出になっています。すごく人気のある方で、わたしのイメージでは、妖精のような人。この曲はピチカートの代表曲ですけれど、原曲もハッピーな曲ですが、evening cinemaの原田夏樹さんが中心になってお話をして。最近底抜けに明るい楽曲が少ないので、ピチカートのさらにもっとハッピーなアレンジでお願いしました。――新曲も5曲収録されています。4曲目「CANDY MOON」は、作詞作曲とプロデュースをGLIM SPANKYの松尾レミさんが担当した渋谷系サウンドです。最初に聴いたとき「すごくいい曲だな」と感じましたね。レミさんには以前から「いつか曲を書いてもらいたいな」と思っていて、ようやく叶いました。レミさんはわたしの娘や息子世代ではありますが、ピチカートや渋谷系をちゃんと聴いて育っていて、リスペクトしてくれている部分があって、そういう気持ちが音にも表れていると思います。わたしの歌のバリエーションをわかっているので、キュートな部分を引き出すような楽曲を作ってきてくれました。――5曲目「おないどし」は、作詞作曲とプロデュースを横山剣さんが担当し、クレイジーケンバンドが演奏している男女デュエットの新定番ソングですね。実際も剣さんと同じ1960年生まれの同い年、デビューも1981年で同期なので、ずっと仲良くさせてもらっていて、ライブでもアルバムでも最多共演回数という感じです(笑)。何年も前から、剣さんに「デュエットソングを書いてほしい」とお願いして、今回40周年のお祝いに書いてもらいました。カラオケのデュエットの定番ソングになったらいいですね。――7曲目「Portable Love」は、ポータブル・ロックの新曲となるテクノポップです。野宮さんが作詞をされていますね。40年前にソロデビューしたあとに組んだユニットがポータブル・ロックですが、90年にわたしがピチカートに入ったので活動休止になっていて、でも解散はしていなかったなと思い出して(笑)。今回、メンバーが新曲を書いてくれまして、とってもいい曲ができましたし、歌詞はわたしが担当しました。イメージとしては、映画『ブレード・ランナー』に出てくるレプリカントのヒロイン、レイチェルの恋みたいな気持ちで書きました。――4月には、「野宮真貴 40th Anniversary Live」と題したビルボードライブを大阪と東京で開催されます。アルバムに参加してくださったゲストをお迎えする3日間ですね。4月24日の大阪公演に松尾レミさん、東京公演の2日間は29日に横山剣さん、30日にデビュー時のプロデューサーでもあったムーンライダーズの鈴木慶一さんとお届けします。3日間とも雰囲気が違うので、どの日でも、3日間すべてでも、楽しいライブになると思います。29日の2ndステージは生配信もあるので、ぜひ全国の皆さんにもご覧いただきたいと思います。「みなさんを癒せる存在として歌い続けたい」――お話は変わりますが、野宮さんがいまハマっているものを教えてください。コンディショニングのジムに通っています。家にいると運動不足になりますし、コロナ禍でライブが中止や延期になったこともあったものの、いざライブができるようになってから慌てないよう、いつでもパッとステージに立てる準備のためにジムへ。歌もそうですが、衣装やビジュアルも楽しみにしてくださっている方が多く、わたしも衣装が素敵だと良い歌が歌えるので、衣装を完成させるためにはハイヒールが必要になってくるんです。若い時は筋トレしなくても、軽々とハイヒールを履いて闊歩していましたが、年齢とともに長時間ハイヒールを履くのは厳しくなってきて。ステージでハイヒールの靴を履き続けるために、コンディションのジムでは、ハイヒールを履いて筋トレをしています。――抜群のプロポーションを維持されていますが、普段からダイエットなどされますか。ダイエットしたこともありますが、年齢を重ねると、ダイエットは危険です(笑)。栄養のあるものを食べることが大事。太るときは、きっと栄養のないものでお腹を満たそうとするときではないでしょうか。運動するにしても、ジムまで行かなくても、少し外に出て歩くことを意識するだけでもいい。フランス人は痩せている方が多いですが、バターたっぷりのソースを使った料理を食べている印象がありますよね。でも、それは多分、時々しか食べないんですよね。普段は粗食だったりします。そういう意味において、日本食もいいですよね。わたしの場合は職業柄、人に見られる仕事だから、そういう緊張感もあります。みなさんも、一歩外に出たら少し背筋を伸ばすなど、誰かは見ているということを意識すると、お腹も締まってきます。――とてもスタイリッシュでおしゃれな野宮さんですが、ファッションのこだわりはありますか。基本的に、古いものが好きなんです。とくに60年代のもので、ファッションに限らず、音楽、映画、デザインも。洋服だと、ウエストをマークしたような服が好きです。いまはオーバーサイズや長いスカートなどの体型がわからない服が主流なので、現在のトレンドとは違いますよね。でも、わたしはキレイなラインの服が好きなので、そういう服を持っていると、着るために気合も入ります(笑)。体型を隠す服装ばかり着ていると、ウエストがどんどん育っていくので、たまにベルトをしたほうがいいと思いますね。だから、よく「ベルトはウエストの監視役」と言っています(笑)。自分のウエストがどこだったか思い出すためにも、ときどきベルトをしてほしいな。――年齢を重ねていっても、自分なりに美しくいられるコツはあるでしょうか。わたしは年齢のことは気にしませんね。「この年齢だから落ち着かなきゃ」とは、全然思う必要もないと思いますし、何でも楽しんじゃったほうが勝ち。年齢を重ねて変化していくことは、新しい体験です。そんな新しい体験ができるって、面白いことですよね。いまの悩みは首のシワなんですが、横に出るのかと思いきや、縦に出るんです(笑)。そういう発見も面白くて、良い美容液を顔ではなく首に塗ったり、シワが目立たないためにはシャツを着るといいと発見したり。シャツの襟が立っていると、横からは首が見えないんですよね。ちょっと前を開けると顔がスッキリ見えるとか、そのほうがシワが目立たないこともわかってきて。日々そうやっていろいろと考えることも楽しみながら、自分の変化に合わせてアップデートしてくと、年齢を重ねていくことも、面白いですよ。――いろいろなお話をありがとうございました!では最後に今後の抱負をお聞かせください。40周年という節目で、素敵なみなさんに協力してもらって、素敵なアルバムを作ることができました。もしもストレスフルな日々を送っていても、音楽を聴いたりライブに行ったりすると、細胞が活性化すると思うんです。わたしの場合は、音楽を聴くと疲れが取れるんですよね。わたしの仕事は、そんな歌をみなさんに届けること。歌う立場としても、みなさんを癒せるような存在でいられたらいいなと思うので、いつまで歌えるかわかりませんが、しぶとく歌える限り歌い続けていきたいです。まだ渋谷系のルーツとなる曲もいっぱいありますし、こうやってオリジナル曲も歌えるようになりましたから、今後も歌を届けていきたいですね。コロナ禍で行けなかったので、全国ツアーもしたいしですし、いろいろな場所に行って、みなさんにお会いしたいです。取材後記80年代のニューウェイヴシーンや90年代の渋谷系ムーブメントなど、これまでにも時代を牽引する存在だった野宮真貴さん。いまもさまざまな世代に支持されている野宮さんの歌はもちろん、容姿も美しくエレガントですよね。ananwebの取材では、音楽のお話以外にも、女性としてもためになるお話もたくさんうかがうことができました。そんな野宮さんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり野宮真貴PROFILE北海道生まれ。1981年、アルバム『ピンクの心』でデビュー。1982年に結成したポータブル・ロックの活動を経て、80年代のニューウェイヴシーンを代表する存在となる。1990年に加入したピチカート・ファイヴの3代目ボーカリストとして、90 年代に一世を風靡した「渋谷系」ムーブメントを国内外で巻き起こす。2001年からソロアーティストとして活動。2021年、デビュー40周年を迎え、音楽、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストなど多方面で活躍中。2022年4月20日、ニューアルバム『New Beautiful』をリリース。「野宮真貴 40th Anniversary Live」と題して、4月24日ビルボードライブ大阪、4月29日と30日ビルボードライブ東京にて開催。InformationNew Release『New Beautiful』(収録曲)01.東京は夜の七時(feat. Night Tempo)02.陽の当たる大通り(feat. Phum Viphurit)03.スウィート・ソウル・レヴュー(duet with Rainych, feat. evening cinema)04.CANDY MOON05.おないどし06.大人の恋、もしくは恋のエチュード07.Portable Love08.美しい鏡09.夢で逢えたら(duet with 鈴木雅之)from『野宮真貴、還暦を歌う。』ライブ10.サンキュー from『野宮真貴×矢舟テツロー ~うた、ピアノ、ベース、ドラムス』ライブ2022年4月20日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)VICL-65698(CD)¥3,300(税込)(初回生産限定盤)VIZL-2055(CD+Blu-ray+ブックレット)¥8,030(税込)【付属Blu-ray収録内容】<『野宮真貴、還暦に歌う。』華麗なるダイジェスト>01.スウィート・ソウル・レヴュー 02. 東京は夜の七時 03. 中央フリーウェイ 04. 三月生まれ 05. T字路(ゲスト:横山剣) 06. 渋谷で5時(ゲスト:鈴木雅之) 07. Twiggy Twiggy 08. 陽の当たる大通り<MUSIC VIDEO>東京は夜の七時(feat. Night Tempo)、陽の当たる大通り(feat. Phum Viphurit)、スウィート・ソウル・レヴュー(duet with Rainych, feat. evening cinema)【付属「野宮真貴スタイルブック/ファッション・クロニクル」】(アナログ盤)2022年5月25日VIJL-60279(LP)¥4,950(税込)取材、文・かわむらあみり
2022年04月16日世界標準のライブレストランといわれる『Billboard Live』。国内外の一流アーティストが招かれ、上質な空間と食事が楽しめる場として、世界的に有名です。俳優と歌手の二刀流で活躍している中村雅俊(なかむら・まさとし)さんは、2022年6月に『Billboard Live』公演を行います。デビュー50周年が近づいている中で、どんな想いで臨んでいるのか、インタビューをしました。中村さんの胸中とは…。中村雅俊「歌って本当に力がある、『すごいな』と思って歌わせてもらってる」中村さんは2021年に、初となる『Billboard Live』公演と、初の全篇フルオーケストラとの競演『Billboard Classics』を成功させました。中村雅俊【Masatoshi Nakamura "DAWN"】at Billboard Live YOKOHAMA※動画は2021年の『Billboard Live』の様子です。2022年は大阪・神奈川・東京の3会場で『Billboard Live』公演が決定!2022年に開催する中村さんの『Billboard Live』公演の日程は次の通りです。会場:大阪・Billboard Live OSAKA日程:2022年6月9日(木)・10日(金)1stステージ:OPEN 14:30 / START 15:302ndステージ:OPEN 17:30 / START 18:30詳細:公演詳細はこちら会場:神奈川・Billboard Live YOKOHAMA日程:2022年6月13日(月)1stステージ:OPEN 14:30 / START 15:302ndステージ:OPEN 17:30 / START 18:30詳細:公演詳細はこちら会場:東京・Billboard Live TOKYO日程:2022年6月24日(金)・25日(土)1stステージ:OPEN 14:30 / START 15:302ndステージ:OPEN 17:30 / START 18:30詳細:公演詳細はこちら中村雅俊「『Billboard Live』は、みんなと久しぶりって感じで会いたい」6月の『Billboard Live』公演を控えた中村さんに、取材をしました。デビュー当時と今の自分の変化を受け入れながら、歌に込める想いとは…。――中村さんにとって『Billboard Live』はどんな場所?実際に『Billboard Live』へ行って、外国のアーティストを見たことがありました。だから俺の中で『Billboard Live』は、格式ある特別な場所ですね。コロナ禍でいろいろな変化があった中で、『Billboard Live』公演ができるのは幸せなことです。――コロナ禍による変化とは?そうですね…。45年間続けていたコンサートツアーがなくなったのはショックでした。1974年に出した『ふれあい』という歌からコンサートツアーを始めて、ずっと毎年欠かさずにやってきたので、ガッカリしますよね。2021年からコンサートツアーができるという話になり、そこで初めての『Billboard Live』公演とフルオーケストラをやらせていただけて、すごく楽しかったです。――今年の『Billboard Live』公演への思いは?今年は東京でも公演をするんですけど、東京はステージの後ろが大きなガラス窓になっているんです。カーテンが開くと、後ろにある夜景が見えて感動的なんですよ。なかなか見ない、滅多にない作りですよね。そこに自分が立つというのは楽しみでしかないです。――今年の『Billboard Live』公演のタイトル『Come and get it!』の意味は?「ほら、ちょっと食事を食べていきなさい!」という、海外では日常的に使われる言葉なんですよね。ちょっとカジュアルに、じゃないですけど、「『Billboard Live』に来て、一緒に食事を楽しみましょう!」という想いがあります。タイトルを決めるのに、いつもどうしようって悩みますね…。――ほかにもタイトルの候補が?うん、『暇?』とか考えた。「暇だったらライブに来ない」という、ニュアンスを含めて考えたんですよ。タイトルが『暇?』だったら、なんだろうって思うでしょうから。でも、普通がいいだろうとなりました。――セットリストは決めている?今回のタイトルが『Come and get it!』なので、食事をしながら一緒に楽しい時間を過ごせる、そんなライブにしたいです。俺の曲で人気があるのは、バラードが多いんですよ。だけど楽しげな歌っていうのが、ヒット曲にはちょっと少ないので…。アップテンポの曲、アルバムの中の曲、シングルで出した曲、バランスよく組み立てるつもりです。ただ、どうしても『ヒット曲』といわれるものを、入れないといけないんですけどね。――ヒット曲を歌うのは苦手?ぜんぜん、好きだよ!人気の曲にはヒットした理由が当然ありますし、俺自身の思い入れもあります。お客さんも俺の曲にストーリーがあるかもしれないですけど、一緒ですよね。例えば『ふれあい』なんかは、もう48年も前の作品なんです。20代の頃から今の70代まで、それぞれの年代で、表現は変わってきました。昔の自分の姿をたまに見たりすると、変化は顕著といいますか…。意識はしていないです。けど、自分の歩んできた人生や歴史が、そういうふうにさせるんじゃないですかね。中村雅俊「『一発屋』かって、チラッと横切るものはあった」数多くのテレビ連続ドラマ主演を始め、NHK紅白歌合戦・日本武道館の単独公演などを成功させてきた中村さん。華々しい経歴を持っていますが、意外にも不安を感じていたことがあったそうです。――これまでの芸能人生を振り返ると?ちらほら『デビュー50周年』という話が、出るようになってきました。「すげえな、50年か」というのは、俺の中でもありますね。『われら青春!』という連続ドラマの主役でデビューしました。5代目の先生役だったんですけど、先生役の人はみんな歌を出すことが決まっていて、俺ももれなくという感じでした。それで出した『ふれあい』が、オリコンで10週間トップだったんです。やっぱり考えるんですよ、チラッと横切るものがある…。――横切るもの?『一発屋』かって。最初から主演でデビューをして、歌まで出して、「これを何年も続けられないだろうな」という思いは、チラッとありました。だけど、持ち前の楽観的な性格が、よかったところもあると思います。ほかにもヒット曲を残すことができましたし、コンサートツアーもできましたし…。ドラマに関しても、自分のデータを確認したら、連続ドラマ主演が34本ありました。「俺ってけっこう、頑張ってやってきたじゃん」みたいには、思いますね。中村雅俊「主役を演じ、歌を出すという運命から始まって、今の自分がいる」最後に、中村さんからメッセージをいただきました。過去を振り返ってみて、分かることは多いです。実は、これまでの自分が前へ進んでいくエネルギーになっているんですよ。ガソリンですよね。自分自身がどうなるのか、未来になにが待っているのかは、まったく分かりません。でも、主役を演じて歌を出すという運命から始まり、今もこうしてやってるんだなと感じます。今年の『Billboard Live』公演も、そうした軌跡があったからこそでしょう。今は地方へ行けることも少なくなりましたが、「久しぶり」という感じで、みんなに会いたいです。一緒に楽しい時間を過ごせる『Billboard Live』公演にしますよ。ステージに立つ中村さんの、歌と食事を楽しめる『Billboard Live』公演。今だからこそ表現できる奥深さが曲に乗り、歌の本当の力を伝えてくれることでしょう。『Billboard Live』公演は、新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインを遵守し、開催されます。生涯忘れられないであろう特別なひと時を過ごしてみてくださいね。中村雅俊『Billboard JAPAN』オフィシャルサイト[文・構成/grape編集部・撮影/奥西淳二]
2022年04月11日悪人が報いを受けるのは当然かもしれません。ですが、違法な手段を使って、悪人をさばいてきた人は、どうなのでしょうか。ある出来事がきっかけとなり、悪事の『報い』を一度は受け入れた2人の詐欺師。悲しみに暮れる中、2人はもう一度出会い、暗闇から希望の光を見つけていく…。俳優で歌手の中村雅俊さんが出演する舞台『富士見町アパートメント 2022』は、どん底まで落ちた2人が、再び前を向いていく物語です。中村雅俊にインタビュー!『富士見町アパートメント 2022』とは2022年4月28日~5月8日に、東京都港区六本木にある俳優座劇場で上演予定の『富士見町アパートメント 2022』。2部制になっており、第2部の『フーちゃんのこと』に、中村さんは出演します。※出演者は変更になる場合があります。中村さん演じる藤田風太郎こと通称『フーちゃん』は稀代の詐欺師。かつて詐欺師コンビを組んでいた秋山実智(半海一晃)の前に、ふらっと姿を現します。それは、また一緒に詐欺をするため。熱心に誘うフーちゃんですが、妻の死を機に隠居した秋山実智は、「もう足を洗った」と突っぱねます。ですが、秋山実智の孫娘である亜美(越後はる香)が、詐欺師にだまされたと聞いて…。舞台『富士見町アパートメント 2022』特設サイト中村雅俊「今回の舞台は、美しい裏切りがあってもいいかな」『フーちゃん』役として舞台に立つ中村さんに、インタビューをしました。中村さん自身が「美しい裏切りがあってもいい」と語る、ストーリーの見どころをうかがいます。――『フーちゃんのこと』はどんな物語?『フーちゃん』『実智さん』の、2人の詐欺師の話で、フーちゃんが実智さんを仕事に誘うところから物語が動き出します。実は、過去の出来事から、2人には確執ができているような状況なんですよね。だから実智さんはフーちゃんに誘われても、簡単に「いいよ」とは、いえません。でも、実智さんは孫娘の亜美ちゃんから、「詐欺師にだまされた」と相談をされて、物語が展開していきます。――過去の出来事とは?これが面白いんですよ!フーちゃんは詐欺師なので、人をだますことが得意ですよね。実智さんももれなく、フーちゃんにしてやられたことがあったんですよ。実智さんから「あの時のことは、なんだったんだ」と追及されますが、この場面での2人のやりとりが秀逸なんです。――フーちゃんはどんな人?フーちゃんが口にするのはウソばかり。だけど、ウソの背景には悲劇や切なさがあるんです。照れ隠しじゃないですけど、かっこつけたい時が人間にはあるじゃないですか。「フーちゃんは悪だけど、いいこともしていた」と、実智さんとのやり取りで、見ている人は感じるかもしれません。――実智さんはどんな人?実智さんは表向きは公認会計士として働いていました。でも、裏の顔はフーちゃんと同じ詐欺師です。表と裏の顔を、使い分けていたんでしょうね。実智さんは、妻を亡くしてしまうんですけど、結局、最後まで真実は伝えられませんでした。妻を亡くしてから実智さんは、まるで屍のようになり、塞ぎ込んだ生活を送っているんです。中村雅俊「諦めかけた自分たちの人生に、希望を見つけていく」フーちゃんは、塞ぎ込んでいる実智さんの前に姿を現します。過去の出来事から確執ができているような状況で、再び出会う2人はどんな物語を作っていくのでしょうか。――フーちゃんと実智さんはどうなっていく?お互いに「自分たちの人生なんて」と、諦めにも近い感情を抱いていた時もありました。でも、最終的には太陽を見上げられるくらいの希望が見えてきて、「人間って素晴らしいな」「生きてることっていいじゃない」と感じられるようになるんですよ。最低から希望に変わる、その間に複雑なストーリーがあって、けっこう楽しいんじゃないかと思っていますよ。――複雑なストーリーとは?実智さんの孫娘、亜美ちゃんが、詐欺師にだまされたという流れがあるんですけど、ここが1つのポイントでしょう。俺が演じるフーちゃんの策略があって…と、これを話すとネタバレになっちゃいますね。思い返すと「あれはそういうことか!」っていう、面白みや発見がありますよ。ウソとホントが入り交じる会話の所どころに、「素晴らしいな」と感じる小さなストーリーが散りばめられていて、じわじわと胸に響きました。――どんでん返しがある?『フーちゃんのこと』は、謎解きの要素があると思っています。後から気付けることも多いのではないでしょうか。それに、3人の絶妙な掛け合いが素晴らしいです。フーちゃんも、実智さんも、亜美ちゃんも、それぞれがそれぞれを案じていますし、物語を通してチャーミングに見えてきますよ。今回は、美しい裏切りがあってもいいかな。――中村さんにとってフーちゃんは?最初はフーちゃんのことを、よくいるお調子者かと思っていました。いい加減だし、そういう意味では面白そうな役だなという印象です。本読みの段階からニュアンスや心理的な流れを、理解しながら役作りをしていますね。フーちゃん、それに実智さんも、詐欺師だけど善玉というか、悪いやつらからしかお金をとりません。悪は悪なんだけど、演じていて救われるところがありますね。出てきた時はいい加減なやつに映っても、重要な場面では、別人に見せたいです。中村雅俊「誰にでもウソや秘密はあるから、共感できるんだろうね」最後に、中村さんからメッセージをいただきました。複雑なストーリーなので、見ている人には難しいところがあるかもしれません。演じている時も、ウソと分かった上でアクションやセリフを発し、二転三転することも多いので…。ですが、最低までいったフーちゃんと実智さんが、亜美ちゃんを巻き込みながら、希望を見つけていくストーリーは面白いです!まだ稽古が始まって数日しか経っていないですが、素晴らしい作品になる予感しかありません。ぜひ見に来てほしい。中村さんが出演する舞台『富士見町アパートメント 2022』は、2022年4月28日~5月8日に上演予定。第2部の『フーちゃんのこと』で、中村さんがどんな演技を披露してくれるのか楽しみですね。舞台の詳細は下から確認できます。絶望が希望に変わるストーリーに感動できるでしょう。舞台『富士見町アパートメント 2022』特設サイト[文・構成/grape編集部・撮影/奥西淳二]
2022年04月11日熱気が作品を包み、押し上げた。2020年10月クールに放送スタートした大人気マンガが原作のドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」は、30歳を迎えても童貞でいた主人公・安達清が、触れた人の心が読める魔法を使えるようになったところから始まる物語だった。その能力をフルに使い、人をやり込めることや騙すこと、ずる賢く計らうこともなく、安達は誠実に人の心と向き合う。結果、同期の黒沢優一の心に触れたことで、やがて恋に落ちていくのだ。ふたりのやり取りから感じる何ともいえないみずみずしさ、心が洗われるような真っすぐさが、深夜にドラマを見る層のハートを浄化したといわんばかりに、がっちりつかんだ。回を追うごとに熱気が旋風のように巻き起こり――冒頭に記したように、作品を包んでいった。そして、劇場版『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』として、華々しくカムバックする。安達を演じた赤楚衛二、黒沢役の町田啓太も作品の注目度とともに、どんどんスターダムへと導かれていった。…とはいえ、ふたりは、そんな状況はさておきといった具合で、とにかく映画完成の喜びや、かけがえのない経験について、うれしそうに言葉にする。ドラマ版から続投するキャスト、多くのスタッフとともに大切に結実した作品という実りを祝福するかのように。本作を心待ちにしているすべての方へ。赤楚さん、町田さんが丁寧に紡いだ役柄についてのエピソードや思いに加え、今の彼らのキャリアに対する向き合い方、それぞれが最近プライベートで楽しんだ作品まで、幅広く語ってもらった。世界中で注目された深夜ドラマ「チェリまほ」をふり返る――ドラマ放送時には世界中から注目を集めた『チェリまほ』です。反響について、おふたりはどう感じていましたか?赤楚:うれしいのはもちろんなんですけど、当時、「木曜の深夜に頑張っている人たちに向けて」というつもりでやっていたんです。今は手元から羽ばたいていっちゃったというか、制御不能なところまでいってしまったような感覚はあります。「本当に僕らがやってきたもの!?」みたいな、何だか不思議で夢見心地です。町田:そうなんだよね。実際『チェリまほ』好きな方たちとまだお会いできていないというのも大きいので。赤楚:そうですよね。町田:もちろんたくさん声は届いていますし、うれしい気持ちはあるんですけど、僕も赤楚くんと一緒でまだふわっとしているところはあるんです。いつかは生のお声やお顔を聞いたり、見たりできれば…ご挨拶できたらいいなと、すごく思っています。――本当に、そうですね。改めて演じている中で、安達は黒沢の何に惹かれ、黒沢は安達の何に惹かれていると感じましたか?町田:ドラマ当初からそうだったと思うんですけど、純粋にパッと見た印象や外見、目に見えているところではなくて、内面の心の部分をしっかりと見てくれているところに惹かれたんだと思います。自分もそれを望んでいたわけだし。だからこそ、本当の深いところでのつながりができたんじゃないかな、と思うんです。赤楚:僕もドラマ版から変わらずですが、ずっと想ってくれているところかなと思います。本人(黒沢)は完璧そうに見えますけど、実はすごく葛藤していたり戸惑っていたり傷ついていて。…という部分を見ていて、そうした人間味みたいなところで親近感が湧くところもあって。その中で想ってくれているうれしさだったり、楽しませようとしてくれているアプローチ、マインドが本当に魅力的だなと思っています。何より、一緒にいて楽しいのがすべてだと思うんですよね。役・作品を通しての変化「すごく学ばせてもらいました」――おふたり自身が役そのものから教えられたこと、影響を受けたことなどもありますか?赤楚:安達に関しては、人を想うということで、喜びや切なさ、嫉妬といういろいろな感情が動いていくんですよね。それは恋愛ならではのものなので、改めて「恋愛っていいな」と思いました!あとは、一歩踏み出す勇気です。アクションを起こしていくことで、自分の視野が広くなるところは学ばされました。劇場版だと、黒沢と一緒にいたいから仕事を頑張るとか、誰かのために強くなる部分がすごく描かれているんです。自分ひとりだと限界はくるのかなと思いつつ、誰かのためにというのがあったら強くなれるのかなと感じて。そこがいいなぁと思いました。町田:人と接する上で大切なことが、たくさん詰まっていたと思います。その中でも、自分自身の自己理解と自己発見が大事だなと思いました。普段なかなか客観視できないですし、人と関わることで見出せたり、気づかされたりすることはたくさんあると思うんです。そのあたりを、役や作品を通してすごく学ばせてもらいましたね。あとは…安達も黒沢もすごく頑張っているんですよね。人に優しくできるということは、たぶん自分を大事にしていたり、自分自身に優しくしてあげることが大切だと思うんです。そこは、すごくはっとしました。自分もまだできていませんが、意識するようになったのは作品のおかげです。人から見られて恥ずかしくないようにではなく、自分が自分自身に恥ずかしくないことをすれば、周りにも恥ずかしくないのかなと。相手に対しても恥ずかしくないアプローチができますし、すごく大事だなと思いました。そういうことを学べただけでも、僕の中ですごく大きなことでした。――お互いの俳優としての表現力のすごさや、チャーミングなところなど、撮影中に気づきはありましたか?赤楚:作品では黒沢の面白おかしさを、町田くんは間や表情だったりできちんと表現するんです。絶妙な部分を狙ってされるからすごいなと思います。…でも、何より普段からめちゃくちゃ面白くて(笑)。町田:本当!?僕、昔は友達や先輩に「面白くない」って言われていたから(笑)。赤楚:えーっ!?町田:そう。「つまんない」、「話にオチもない」と言われていたし(苦笑)。自分自身も「別に面白くても、面白くなくてもいいや」と思っていたんです。でも、お芝居だと自由にやれるのでそういうときに楽しいなと思うんですよね。だからやれることもあるし、普段もちょっと楽しみながら過ごすのが好きだったりして。『チェリまほ』では、赤楚くんもみんなも本当によく笑ってくれるからよかった(笑)。だから何をやっても(大丈夫)というか、甘えちゃうんですよね。赤楚:いやいや!みんな、笑いには厳しいんじゃないですか?僕はそんな大ウケしたことないですよ…。町田:いや、赤楚くんは面白いよー!その狙っていないっていうのが面白いんですよ。いいよね。キャリアは「ひとつに決めなくてもいい」「マルチでいい」――劇場版では、キャリアか、一緒に過ごすかという選択がふたりに降りかかります。30代前後では多くの人がキャリアについて、いろいろ選択の時期を迎えます。おふたりはキャリアについて今どのように考えますか?赤楚:キャリアですか。僕は今ご縁で役者をやらせていただいていますが、別の道があったかもしれないな、とも思うんですよね。その場合、僕は人話すのが好きなので、営業をしてみたいです。ばりばり働いて、「仕事命」みたいな感じで。――もう少し年を重ねたら、またちょっと考え方も変わってくるかもしれない、ということですよね。赤楚:そうですね。すべてに余裕が生まれてくるのが、もう少し先だと思うんですよね。30代ぐらいになったら、そうなるんですかね…?何となくですけど、きつい時期や苦しみを経験しなければ、その後の余裕はできてこないと思うんです。なので、若いうちは本当に仕事命でやって、あとあとプライベートを楽しめたらなと。…もし僕が違う人生を歩んでいたら、の話をしていますけど(笑)。――赤楚さんと町田さんはあまり年齢差もありませんが、赤楚さんからご覧になって30代の町田さんは「余裕のある大人」と見える感じですか?町田:待ってください!それ、「見えない」って言えないじゃないですか(笑)。赤楚:はは!見えます!今回もいろいろ助けていただいていたりしていて。そうした振る舞いや生き方は、30代ぐらいから出てくるのかなって、思っているんです。ご本人は「変わらないよ」と言いつつも、ちゃんと人や物事、仕事にも向き合っている町田さんは、やっぱり大人に見えます。…とかは感じつつも、やっぱりおちゃめなところはあるので、そこら辺にちょっと安心感を覚えています(笑)。――非常に実感のこもった素敵な回答でした。町田さんはキャリアということに関して、どう考えますか?町田:キャリア形成は人それぞれですし、何より環境によるのかなと思います。独り身か、家族がいるかでもまた違うでしょうし。選択するときはあるんだろうな、とは思います。でも、今はなんかひとつに決めなくてもいいかな、マルチでいいかな、と思うんですよね。赤楚:確かに!町田:やりたかったら、よくばってもいいんじゃないかなと。手を付けてみてダメだったらダメでもいいと思うんですよ。もう少しポジティブに、身軽にやるっていうのがいいのかなと最近は思うようになってきました。あとは、最終的には自分の心に従うしかない、というところです。結局はお芝居にしてもそうですし、あれこれ考えても結局は自分自身が、相手とどうアプローチをとるかや、どういう行動をとるかによって変わっていくと思うので。信頼していたり、自分の味方だと思う人に話してみるのもいいでしょうけどね。俯瞰してどう思うか意見を尋ねてみるとか。そうした中でいろいろな選択肢を自分の中で増やしていくのも大事なことなんだな、と思います。おすすめのエンタメ作品は?――いろいろなお話をありがとうございました。インタビューを掲載するシネマカフェはエンタメ・映画媒体なのですが、おふたりが最近観た中でよかった作品や、何度も観ているお気に入り作品などがあれば、ぜひ教えてください。赤楚:はい!僕は『ロッキー・ザ・ファイナル』なんですけど。町田:言ってたねー!赤楚:息子に対して説教するシーンを、たまに観返します。――そこのシーンが観たくて、ということですよね?赤楚:そうです。あと、試合のシーン。引退してしばらくたっているのに、息子や自分のために立ち上がろうとするロッキーを見て、「頑張れー!!」ってなるんです。そのロッキーの熱さに、先ほどの話じゃないですけど、僕は「やっぱり男は仕事だ!」みたいな気持ちになっちゃうんです。顔に似合わず僕も、変な謎の闘争心みたいなのが湧いてしまうんですよ…!町田:そうかー!僕もいっぱいあるんですけどね。今パッと出てきたのは『隔たる世界の2人』かな。ブラック・ライヴズ・マター(BLM)を基に作った短編で、去年アカデミー賞で短編実写映画賞も受賞しているんです。素晴らしく、ゾワゾワしました!伝えたいことはわかるので作品化したことにすごく意味があるし、勇気があるなと思いますし、出ている俳優さんたちも本当に素晴らしくて…すごくリスペクトしました。そういう作品が僕は好きだな、と改めて思いました。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~ 2022年4月8日より全国にて公開©豊田悠/SQUARE ENIX・「チェリまほ THE MOVIE」製作委員会
2022年04月08日『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』で、シリーズはいよいよ佳境に。闇の魔法使い、グリンデルバルドは世界支配に向けて着実な動きを見せ、ニュートやダンブルドアは彼の企みを阻止すべく決意を固める。そんな物語世界で鍵を握るのはやはり、すべての元凶となるグリンデルバルド。さらには、彼を演じるマッツ・ミケルセン。そこでリモートインタビューを行い、作品について、現在の彼自身について話を聞いた。ダンブルドアとの違いは「夢の追い方」シリーズ最大の悪役として、前2作でも存在感を放ったグリンデルバルド。互いを無二の存在と認めながら、やがて道を分かつグリンデルバルドとダンブルドア(ジュード・ロウ)の関係が、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』ではこれまで以上に影を深く落とす。「かなり若いころからお互いを知り尽くしてきた2人だからね。2人とも非常に強い魔力を持ち、それゆえに生まれる孤独を抱えている。そんな2人が出会い、相通ずるものを見出し、よく似た夢を追い、友情を育んだ。知っての通り、ある事件を境に別々の道を行くのだけど。夢の追い方の違いが、2人の道を分けた原因の1つだと思う。とは言え、彼らには強いつながりがあるし、相手の中に自分自身を見ているところがある。だからこそ、互いへの落胆を隠せないんだ。分身同士でありながらも、全く違う2人だから」。ダンブルドア先生がニュート(エディ・レッドメイン)らに慕われるように、グリンデルバルドにも人を惹きつけて離さない魅力がある。ただし、魅力的であると同時に、危険なのがグリンデルバルドの厄介なところ。ダンブルドアとの違いであるという「夢の追い方」も、あまりに残忍だ。「人を惹きつける魅力を持ちながら、非常に危険な思考も持ち合わせている。権力を手にした者にとって、それほど最高の資質はないだろうね。そんな権力者は現実の歴史上にもいたし、身近にも意外といる。人はなぜか、そういった力を持つ人に惹かれるんだ。賢さや身体能力の高さを見出し、パワフルな存在だと捉えるのだろうね」。例えば「ハンニバル」でマッツが演じたハンニバル・レクター博士も、魅力と危険が混在する人物だった。魅力的、けれど危険。魅力的、けれど危険。その複雑さ、危うさをどうしようもないほど巧妙に演じるのも、俳優マッツ・ミケルセンだ。「演じていて楽しいかは…どうだろう?(笑)興味深いキャラクターたちではあるよね」と笑う。「これはよく言っていることなのだけど、グリンデルバルドと同じ資質はダンブルドアにもあると思う。面白いことにね。何を美しいと見なすか、醜いと見なすか。それこそが映画作りにおけるジレンマなんじゃないかな。何が善で、何が悪か。それを決めるのも決めないのも映画。もちろん、僕たちの人生においても同じことが言えるのだけどね。だから…、そうだね。そういったキャラクターを演じるのは確かに楽しいことかもしれない」。「どう演じたらいいか、答えをずっと探し続けるのが俳優の人生」「現実世界で起きていることに注意を向けられるのもエンターテインメントなら、現実逃避をさせてくれるのもエンターテインメント」とも語るマッツは、近作の『アナザーラウンド』や『ライダーズ・オブ・ジャスティス』でも名演を披露。すでに撮影済みの『インディ・ジョーンズ』最新作にも期待が高まっている。まさに、「現実世界で起きていることに注意を向けられる」作品から「現実逃避をさせてくれる」作品まで。幅広い作品に望まれ、巡り合う秘訣でもあるのだろうか。もちろん、名優であること以外に。「どうだろう?正直なところ、秘訣は分からない。指(人差し指と中指)をクロスして、幸運を祈るくらいはしているかもしれないけど。『役が僕に来ますように!電話がかかってきますように!』ってね(笑)。でも、それはきっとみんなやっていることだと思う。確かに君の言う通り、いまのところすごくいい流れで来ているし、これが続けばいいなと願っている。いい流れが来た理由は本当に分からないけど、僕の仕事を気に入ってくれているのだと思いたいな。『マッツが演じるキャラクターがいる』といろいろな作品で思ってもらえたり、『マッツならどんな企画も可能だ』と思ってもらえたりしていたらすごくうれしい」。“いい俳優とは?”の答えは、「いまだに分からない」という。「俳優としてどうあるべきか、どんな俳優が理想なのか。一言でシンプルに言い表すことはできない。むしろ、俳優にとってはすごく難しい問題なんだ。なぜなら、どう演じたらいいか、答えをずっと探し続けるのが俳優の人生。ある意味、探し続ける旅の道のり自体が俳優であることを指すと思う。もちろん、その過程で小さな方法や手段には出会えるのだけど、『これ!』という正解に出会うことは絶対にない。そう考えると、僕の俳優としてのモットーは、『仕事をし続けること』かもしれないね。仕事をし続けてさえいれば、何か学べることがあるかもしれないから」。(text:Hikaru Watanabe)■関連作品:ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 2022年4月8日より全国にて公開© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved Wizarding World™ Publishing Rights © J.K. Rowling WIZARDING WORLD and all related characters and elements are trademarks of and © Warner Bros. Entertainment Inc.
2022年04月08日「誠実に」というワードがインタビュー中、何回か杉野遥亮から発せられた。俳優という職業においても、プライベートでも、彼が大切にしている“誠実”。杉野さんの映画デビューは2017年に公開された『キセキ -あの日のソビト-』だった。GReeeeN結成と、その後デビューし名曲「キセキ」が作られるまでの実話をベースにした同作において、杉野さんは菅田将暉、横浜流星、成田凌とともにGReeeeNのメンバーとして演じ切った。あれから5年、年を追うごとに人気も知名度も実力も、もしかして本人が予想だにしないほどジャンプアップしている。引っ張りだこの人気者は、今、何を思うのか。「自分的に、この1年は濃かったなと思っています。目の前のことに精一杯だった感じがして。充実なのかな、振り返ったときに“あ、あの1年頑張ったな”と思える1年ではあったと思います。けれど100%楽しめていたかと言われると、判らなくて。なんか必死だったんです」それは「自分探しをしている感覚」と杉野さんは言う。「自分探しは自分自身もだけれど、役者として(の自分)も探しているんです。“どうあるのがいいんだろう”、“どこにどうやって向かっていくんだろう”ってずっと模索しながら、毎日目の前のことに一生懸命向かっていた感じがしていて。しんどかったといえばしんどかったから、この1年は」そう言い切ると、一息ついた。忙しさ=作品のオファーが多く、充実の俳優人生と変換できるようにも捉えられる。杉野さんも本音は、「本当の理想は、やっぱり真剣に楽しくものづくりを続けていけたらいいな、と思ったりします。そういうことを常に考えてしまうというよりも、結構ちゃんと誠実に、真剣に生きているだけなのかもしれないです。どうやったら目の前のことを楽しめるようになるかなって、常に模索していった1年でした」。悩みながらも着実に歩みを進めた1年。では、遠い未来の10年後だったら?杉野さんはどんな自分になっていたい?「35歳とか36歳か…!もうだいぶ大人ですね。正直“未来は絶対こうなっていたい!”とかはありません。願望とかはなくて、なるようにしかならないしな、と思っていて。ただ、なんか…誠実に生きていてくれればいいかな、とは思います。俳優の仕事をやらせてもらっているんだから、自分に嘘をついたり、何かに執着して自分に無理をするような10年後ではいたくないなと思います」颯爽とした雰囲気を持つ彼だが、伝える言葉は非常に明快で、かつ気持ちがこもっていた。ふたりの関係値をふたりで探している感じに、僕はとても共感をするTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開中の『やがて海へと届く』は、岸井ゆきの主演、浜辺美波が共演する物哀しくも美しい感動の映画だ。ある日、ひとり旅に出て行ったきり突然いなくなってしまったすみれ(浜辺さん)。その不在をずっと受け入れられない親友の真奈(岸井さん)と、すみれの恋人だった遠野敦(杉野さん)たちの物語。真奈とすみれの出会いから蜜月、敦が関わり様々なことが変わっていく様子が描かれていく。敦はすみれの恋人でいながら、真奈からはあまりよく思われていないポジション。すみれは達観したような雰囲気を持つ女性だが、敦は彼女の全貌を掴んでいるようで、いない、しかしどうなのか…と演じ方次第で印象が変わる存在だ。敦と向き合った杉野さんは、「自分がひとつ思っていたのは、この人はわかったようなふりをして弱いところがあるな、と。その表現ができればいいなと思っていたのと、すみれに対する気持ちがどの程度なのか、いなくなってから数年経ってからの真奈と遠野の関係値はどこまでなのかを探りました。監督に調整してもらいながらやっていたんです」と撮影時を振り返る。作品において真奈とすみれはいわゆる親友関係だが、中川龍太郎監督は「この物語が岸井さん演じる真奈と、浜辺さん演じるすみれの時間や空間を超えた“ラブストーリー”だと思っています」としている。ふたりの関係性は観客の想像に委ねられているが、杉野さんから見ると、単純に「とてもいいふたりだなって思う」という。当てはめることはせずに。「どういった関係値なんて(決めないで)よくないですか、と思うんです。最近、友達とか恋愛とか親友とか、その括りがよくわからないなと思っています。女性同士とか男性同士とかも別に何だっていいよねという価値観は、自分も理解できるんです。本人たち次第だし、僕からしたら、このふたりはみずみずしくていいなとただただ思うから。僕は何よりも、人として心があることが大事かなと思っていて。相手を思いやれることや、相手を大切に思う気持ちが大事だから、僕自身もあまり区分けとかをしたことがないんです。自然と今、自分の周りにいる人は大事にしている人なんです。だから枠組みから決めるのって違うよな、と思う。“彼女を作る”“親友を作る”というのもおかしな話で、気づいたらもういた、気づいたら大切だった、みたいなことのほうが自然だと思います。外側で決め込むことがおかしいから、このふたりの関係値をふたりで探している感じに、僕はとても共感をするんです」。杉野さんの仕事とプライベートの切り替え方法とは?最近編み出したことは…映画には、様々な楽しみ方がある。例えば、『やがて海へと届く』は尊い人と二度と会えなくなってしまった経験をした人には、心が抱えた鈍い痛みに寄り添ってくれるような、どこか救いになるような感慨を抱く。一方で、非現実的なアドベンチャー的面白さを味わえるような作品、恐ろしさにハラハラする作品など、多彩なジャンルを我々は普段、映画から享受している。出演者側の杉野さんは、普段どのような楽しみ方、映画との向き合い方をしているのだろうか。「演じる側としては、エンタメとして届けたいという思いと、メッセージ性を伝えていけたらというどちらもあります。でも、僕個人にとって映画は…今はエネルギーをもらうものなのかな。エネルギーをもらいたいし、明日の活力になることを、今自分自身は求めているかもしれないです」。「例えば」と前置きし、杉野さんは「『グレイテスト・ショーマン』みたいな作品は、本当にザ・エンタメで、エネルギーをもらえますよね!」とうれしそうに話す。俳優という立場を思うと、観ているうちに「自分も興行師のバーナム(ヒュー・ジャックマン扮する)を演じたい」などの思いも湧いてきそうだが?「あ、僕はエンタメとして楽しむためにしか観ないので、そういう考えには行かないかも。観ていて“こういう役をやりたい”とかも、あまりないんです。スイッチを切って観ているからかな…?逆にオファーをいただいたりして、“あ、やりたい!”と心が動くことが多いです」。「スイッチを切る」とは、実に俳優らしい言葉だ。どんな作品や役をやっていても、自分に戻る瞬間が一番ホッとできるとき。杉野さんは、「実は切り替え、下手です」とはにかんだ。「切っているようで切れていないな、とか、切っているように思っていたけど切れていなかったな、と思うことが結構あるんです」。だからこそ、あえて切り替えられるように最近は作戦を立てている。「家に帰ったら本来の自分に戻れるように、自分の好きなもので囲まれたらいいのかもと思ったので、家具もいいと思ったものをこだわって置いたりしています。オシャレかは…わからないです。あとは、まだ叶っていないけれど、ちょっと郊外に行ってゆっくりしたいなと思ったりもしています。仕事や自分に負担にならない感じで、ぼーっとしたいです」。誠実に俳優業を邁進する、杉野さんの進化がますます楽しみだ。(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)■関連作品:やがて海へと届く 2022年4月1日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開©️2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
2022年04月06日【音楽通信】第106回目に登場するのは、アイドルユニットとしての活動などと並行しながら、ソロアーティストとしても本格始動されたニュースター、ゆっきゅんさん!姉の影響で女性アーティストの音楽を聴いて育つ【音楽通信】vol.1072016年、オーディション「ミスiD 2017」で男性初のファイナリストとなり注目を集め、同年から男女2人組のアイドルユニット「電影と少年CQ」としても活動している、ゆっきゅんさん。そこにいるだけでパッとまわりを明るくするような華やかさと、チャーミングなキャラクターで、“ゆっきゅんワールド”に惹き込まれる人が後を絶ちません。2021年5月からは、セルフプロデュースの「DIVA Project」をスタートし、「DIVA ME」「片想いフラペチーノ」の2曲を配信リリースと、ソロアーティストとしても活動を始めています。そんなゆっきゅんさんが、2022年3月30日、1stアルバム『DIVA YOU』をリリースされたということで、お話をうかがいました。――小さい頃に音楽に触れたきっかけや影響を受けたアーティストから教えてください。4、5歳ぐらいのときから、7歳上の姉が大好きでよくかけていた浜崎あゆみさんなどの曲に触れる機会が多く、女性アーティストの曲を聴いて育ちました。子どもの頃は、親が運転する車に乗っていると、いつもカーステレオからは浜崎あゆみさんのアルバム『LOVEppears』(1999年)や、宇多田ヒカルさんのアルバム『First Love』(1999年)と『Distance』(2001年)、Every Little Thingのベスト盤の曲が流れていましたね。姉の影響もあって、浜崎さんのことが大好きになって。子どもの頃はCDをたくさん購入することはできませんでしたが、休みの日はケーブルテレビの音楽専門チャンネルで流れている、邦楽ヒットチャート100といった番組をずっと観ていて、2000年代の邦楽ヒットチャートは全部頭に入っていました。いま思えば、何気なく車で流れていた曲を聴いたりヒットチャート番組を観てきたりしたことは、けっこう大きな音楽のインフラだったんだなと思います。当時はいまよりも音楽番組がたくさんありましたし、テレビを観ると浜崎さんが歌っていたりと好きな人が出演していたので、幸せな時代でした。aikoさんとか、YUKIさんとか、安藤裕子さんとか、椎名林檎さんとか……「歌姫」「DIVA」と呼べるような歌手の音楽が大好きになって、そのまま大人になってからも、ずっと聴いていますね。――音楽に親しまれていたということで、お姉さんとライブに行くことはありましたか。なかったですね。好きな人はテレビで観ることができるので、コンサートに行くという発想もなかったです。岡山県に住んでいたからだと思いますね。高校のとき、友達と広島にPerfumeを観に行ったことはあったけど、基本的に音楽はひとりで聴いて楽しむものだと思っていました。岡山や倉敷市の市民会館には中高所属した吹奏楽部でよく出てましたけど。――楽器との触れ合いはそのときが初めてですか。5歳ぐらいからピアノを習っていました。でも、全然練習ができなかったので、ピアノは弾けないです。作詞をするようになってから、他の人が書いている詞を見ていると「すごいな」と思うことや、歌うようになってから他の方の歌唱法を見て勉強になることも。でも、作曲に関してはそれがわからないので、損している気がして(笑)。いまからでも少しは弾けるようになりたい気持ちがありますね。――2016年にポップユニット「電影と少年CQ」として、音楽活動をスタートされましたね。2016年に「ミスiD 2017」でファイナリストになった時期に、映画をテーマにしたユニットの募集があったんです。それが「電影と少年CQ」で、いまもルアンちゃんという女の子とふたりで活動をしています。いわゆるアイドルライブらしいものではなくて、曲と曲の間にお芝居があって、毎回違う物語を表現するライブをしています。――もともと表舞台に出たいと思った理由は何ですか。中学生の頃にハロー!プロジェクトが好きになって、その後、アイドルやアイドルの音楽が大好きになりました。2014年、大学の進学のために上京したんです。大学では比較芸術学科というところにいて、そこは美術も音楽も演劇も映像も幅広く学べる学科だったので、そういったものにも興味がありました。岡山にいても誰もライブに来ないので、いろいろな芸術やライブが観たいという気持ちで上京しましたが、いざライブに行くようになったら観る側ではなく「あれ?ライブに出たいな」とすぐ気づいて(笑)。東京への期待もありましたが、思ったよりも面白い人は珍しいから、自分でも活動できるんじゃないかなと。カバー曲でライブに出たり、写真集を作ってみたり、自分なりにできる活動を模索してから、、ユニットの活動へとつながっていきます。――2021年から始まった「DIVA Project」でのソロ始動はどんなお気持ちからですか。それまでの活動だけでは、本当にやるべきことはやれていないと自覚していました。ただ、大学院にも通っていて学業との両立が大変だったこともあり、まだ計画の段階で。2021年の春に大学を卒業したので、本格的にセルフプロデュースでのソロ活動を始めることができました。それまでは一番好きな音楽を届けることにまだ自信はなかったんですが、昨年はまわりに協力してくださる方もいて、「いまならやれる」と感じたので、やっとそのタイミングが来たと思っています。日常生活に地続きで寄り添う1stアルバム――2022年3月30日に1stアルバム『DIVA YOU』をリリースされますね。初めてのアルバムなので、今後も活動を続けるなかでの大きな第一歩になると思っています。収録曲の2曲目「DIVA ME」は、セルフプロデュース第一弾の楽曲として昨年5月に出したソロデビュー曲で、いままでとは違う反応や新しい期待を多くの方にいただくことができました。その手応えもあったので、次はアルバムを作ろうと思ったんです。これまでに自分自身ではいつ音楽を聴いていたか、いつ音楽に救われてきたかを考えると、音響のいい部屋で聴いてウットリするというよりも、電車の中や移動中や駅までの道のりでした。そんな日常生活のなかで聴いてほしい、というのが大前提にあったイメージで、アルバムのコンセプトで浮かんだのは“ワンルームディーバ”ということ。歌を歌っていなくても、踊っていなくても、豪邸に住んでいなくても、みなさんが自分をDIVAだと思うならDIVAですし、そもそもがDIVAだと言いたい。DIVAというのは、誇り高くあろうとする精神性のようなことです。わたしの衣装のようにキラキラしたものは距離を感じるかもしれませんが、この衣装を着て歌うのは日常的なことなんです。頑張りたい人を応援したいので、ワンルームに住んでいるDIVAたちを想像したり、自分のことを書いたり。日常生活と地続きで、みなさんに寄り添いたいから。「DIVA ME」という曲を聴くことによって、DIVAに変身するというのではなく、みなさんの心のなかにあるDIVAがもしいるならば、もともと存在していたそれを解放したいという気持ちがあって。ゴリゴリ、ギラギラした踊れる曲が多いですが、この曲たちで生活を彩ってほしいという願いを込めた作品になりました。――アッパーな曲がメインですが、5曲目「歌姫」は王道のミディアムバラードですね。このアルバムはともすれば、わたしがやりたいことをやろうとすると「DIVA ME」100連発とかをやってしまうので危ないと思って(笑)。だから「歌姫」は、緩急の緩にあたる役割として、ちょっとミディアムで憂いのある曲にしてほしいとオーダーしました。通っていた青山学院大学から渋谷駅までの道のりを歌った歌で、歌詞に「寂しくないけど帰りたくない」とあるんですが、そういう寂しがり屋じゃない人の孤独を歌にしています。あと東京について一度歌っておきたい気持ちがあって、自分なりの渋谷をイメージした歌を書きました。――アルバムのリード曲となる6曲目「DANCESELF」は、ダンサブルなナンバーです。ミュージックビデオでは、ダンサーさんと一緒に踊っていますね。ミュージックビデオを監督してくれた今原電気さんは、8年前のでんぱ組.incの武道館ライブでたまたま隣の席にいて「ゆっきゅんさんですか?」と声をかけてくれた方なんです。それからの知り合いで、いまでは乃木坂46などの映像作品を手がける映像監督になっていたので、お願いしてもどうかなと思っていたのですが、わたしの活動には興味を持っていただいていたのでご相談したら「ぜひ」とノリノリで取り組んでくださって。夢をたくさん叶えてくれましたね。でも、DIVAのことはあまりわからないということで、50曲ぐらい映像プレイリストを解説付きで送ったら、完全に理解してくれて、わたし以外が作ったとは思えない企画書をいただけたので進めて完成しました。「DANCESELF」は、「DIVA ME」の先にあるような曲にしたくて書きました。――ゆっきゅんさんは、全曲の作詞を担当していますが、いつもどのように作詞をしていますか。思いついたフレーズをときどきメモしていますが、それがいつ役に立つかはわかんないって感じで(笑)。歌い出しやAメロが上手く書けてからじゃないと全く進めないですね。「DIVA ME」と「DANCESELF」に関しては、ワンコーラスぶんの詞を先に書きました。でも、基本的にはメロディがきてから詞も浮かんでくる感じです。作詞をすることになって、歌詞というのは独立した作品ではなく、メロディと歌あってこそのものなんだと改めて感じましたね。こういうことを伝えたいなと思って書く歌詞もありますが、「何でこのフレーズが出てきたのかわかんない」という詞のほうが、気に入ることは多いですね。――数々の著名な方々もアルバムにコメントを寄せていますね。みなさんに直接コメントをお願いしました(笑)。藤井隆さんは憧れの存在で、『DIVA ME』をリリースしたことで私のことを知ってくださって、それだけでも嬉しかったのですが、今回「ゆっきゅんからの愛の挑戦状、受け取りました」などと言ってくださっていて……本当に感激しました。Base Ball Bearの小出祐介さんは、(昨年11月に先行リリースした)収録曲の3曲目「好きかも思念体」を聴いて昨年のベストアイドルソングとして褒めてくださったりして。みなさん本当に有り難いお言葉をくださいました。「大事なところは譲らず規模を広げていきたい」――お話は変わりますが、いまハマっているものを教えてください。今日もご自身できれいにメイクされていますが、コスメなどにもご興味があるのですか。アイドルのライブ活動のときなどは基本的にセルフメイクなので、メイクにも興味ありますね。雑誌『anan』の「Beauty News」というメイクのページ(3月23日発売号)もやらせてもらいました(笑)。最近ハマっているのは、ちょうど「大都会の愛し方」という本を読んでいます。韓国のパク・サンヨンという作家の連作小説なんですが、「コレ、わたしの好きなヤツ!」と思いながら読んだり、家では動画配信サービスで映画を観たり、これまで聴いていなかった音楽を聴き直したりしていますね。――衣装も私服もキラキラしていて素敵ですが、お好きなファッションはありますか。洋服は、襟のあるものばかり着てしまいますね。あまりTシャツとかは似合わなくて、これからはブラウスの季節なので、今年もたくさん襟付きのブラウスを買いたいです。キラキラしているものやピンク、フリルとレースとリボンがあれば何もいりません。2年前ぐらいから、もっとおしゃれになろうと思って、服の着方が変わりました。高価な洋服でも、デザイナーの思いが伝わる服、ずっと大切にしたいと思える服を選んでいます。――いろいろなお話をありがとうございました!では最後に、今後の抱負をお聞かせください。このアルバムがどんなふうに転がっていくのか、予想を超えてほしいですね。もともと子どもの頃や中高生だった頃に、「こういう人がいてくれたらよかった」と思い描いていたような存在になろうと活動しているところがあって。孤独な心を持つ人たちに響くような活動が実現するといいなと思っています。いまこうしてインディーズ活動をしていても、インターネットで調べれば誰でも知ることができますが、やっぱり大きな規模で活動しないと届けたい人にまでは届かないと思っていて。音楽をテレビで知ったり、映画をシネコンで観たり、そうやって知識を蓄えていったから、わたしもメジャーデビューしたいですね。そして昨年リリースされた、でんぱ組.incの曲で作詞を担当したんですが、これからはもっと多くの方に作詞提供したいですし、自分でも歌を歌いたい。このまま大事なところは譲らないまま、規模を広げていきたいです。今年の5月にはワンマンライブも開催するので、楽しみにしていてください。取材後記アイドルユニットとして、ソロアーティストとして、文筆家として、さまざまなフィールドでの表現者として活動されている、ゆっきゅんさん。ananwebの取材では、撮影時は素晴らしいポージングを披露され、インタビューではありのままの思いを語ってくださいました。まるで令和時代の新しいディーバ像を見せてくださったゆっきゅんさんのこれからのご活躍も楽しみです。そんなゆっきゅんさんの1stソロアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・北尾渉取材、文・かわむらあみりゆっきゅんPROFILE1995年5月26日、岡山県生まれ。2014年よりアイドル活動を開始。2016年からポップユニット「電影と少年CQ」としてのライブを中心に、個人では映画やJ-POPの歌姫にまつわる執筆、演技、トークなど活動の幅を広げる。2021年5月より、セルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。「DIVA ME」「片想いフラペチーノ」の2曲を配信リリースし、インディーズデビュー。また、夢眠ねむが運営する夢眠書店の出版レーベル「夢眠舎」にて、水野しずとともにカルチャー雑誌『imaginary』の編集長を務めている。2022年3月30日、1stアルバム『DIVA YOU』をリリース。5月にワンマンライブを開催予定。InformationNew Release『DIVA YOU』(収録曲)01. DIVA ME & YOU -Introduction-02.DIVA ME03.好きかも思念体04.BAG IN BAG05.歌姫06.DANCESELF07.NG08.DIVA ME -ウ山あまね reMEx09.DIVA ME – RYOKO2000 reMEx10.DIVA ME – 田島ハルコ R@VE DiVA remex2022年3月30日発売GKR-002(CD)¥2,420(税込)写真・北尾渉 取材、文・かわむらあみり
2022年04月03日世界中の映画祭や映画賞で受賞を重ね、今月27日(現地時間)に発表される第94回アカデミー賞でも日本映画初の作品賞、脚色賞ほか、監督賞、国際長編映画賞と計4部門にノミネートされている濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』。この評価の高さは国境を越えて作品の強さやメッセージが伝わったことの証しであり、それらは英語字幕を介して届けられている。2年前には、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の北米ヒットの裏に、韓国独特の単語を巧みに英訳した字幕の妙があることも話題になったが、日本映画がより多くの人の目に触れるための英語字幕の重要性は、動画配信サービスの普及等もあり、ますます高まっていきそうだ。『ドライブ・マイ・カー』の英語字幕翻訳を手がけたのは、字幕翻訳に従事して25年以上の礒崎美亜さん(正しくは、「崎」は「たつさき」)。劇中劇、多国籍の俳優による多言語での掛け合いなど、本作のセリフは多様で情報量が多い。そのうえ、上映時間は2時間59分。観客の心を捉えて放さない英語字幕ができるまでの裏側を語っていただいた。――英語への翻訳というと、日本語ネイティブにはハードルが高いイメージがあります。礒崎さんは英語圏での暮らしが長かったのですか?生まれは東京なのですが、6歳から15歳頃までアメリカで暮らしていて、大学時代にも2年間カナダで過ごしました。「どのくらい英語が話せるの?」とよく聞かれるのですが、「今、行っているこの会話を、日本語と変わらない感覚でできます」と答えています。――早速『ドライブ・マイ・カー』の話をうかがっていきます。英語への翻訳に、濱口竜介監督はどのくらい関わられたのですか?事前の指示や要望などは特にありませんでした。監督には初稿が整った段階で字幕原稿を提出し、細かいニュアンスのチェックーー例えば、私が使った英語の表現の確認だったり、私が映像を見ただけでは拾いきれなかった部分の表現だったりーーをいただいて、修正するという作業を行いました。――監督からのチェックは多かったですか?濱口監督は、そうでもないんですよ。中には、びっしりチェックを入れて戻してくる監督もいらっしゃるのですが、濱口監督は本当に、要所要所の細かい表現の確認だけでした。『寝ても覚めても』でも英語字幕を担当させていただいたのですが、その時も同様だったと記憶しています。『ドライブ・マイ・カー』では、クライマックス部分のひとつ、家福(西島秀俊さん)とみさき(三浦透子さん)の2人のシーンで、たとえば「家福は、ここの時点で気づいているから時制を変えてほしい」など時系列に関する細かい指摘があったりしましたが、あとはそれほどなかったですね。――韓国、台湾、フィリピンなどさまざまな所から俳優が参加する多言語演劇が大きな要素です。手話も加わって9言語が飛び交う作品になっていますが、字幕の出し方にご苦労はありましたか?1つ1つ言語を識別できるようにすべきなのか、もし、そうするとしたら、どういう形で表示しようかなど、初稿の段階でいろいろと考えました。でも、字幕そのものの情報量が多くなると、観客は内容から気がそれてしまいます。結局、「ここは外国語で話している」と分かる程度の情報量でいいということにして、シンプルに日本語以外の言語はすべて括弧でくくりました。手話の部分は斜体にしています。――劇中劇の感情を乗せない本読みのシーンのような淡々としたセリフや、書き言葉っぽいセリフが多い作品ですよね。英語字幕には、あのようなトーンも反映させたのですか?喋っているトーンを出すことは意識していなかったですね。あくまで内容がちゃんと伝わるかということだけを考えました。字幕翻訳者がこういうことを言うのもあれなのですが、字幕って、本当はない方がいいじゃないですか?字幕なしで伝わるなら、それが一番。でも、字幕を付ける以上は“透明”になるようにする。そこに出ていることを忘れるような感じになるよう意識する。それは、この作品に限らず、常に心がけていることです。また、別の作品のプロデューサーに言われたことなのですが、母語が英語ではない人も見るので、内容から大きく乖離しない限り、できるだけ簡単な言葉で訳すことを心がけています。例外として「すごく知的レベルの高いキャラクターなのに簡単な言葉ばかり使っている」みたいな字幕は変ですけど、できるだけシンプルな言葉、わかりやすい言葉を使いますね。――劇中劇の形で、「ゴドーを待ちながら」「ワーニャ叔父さん」という2つの戯曲のセリフが重要な役割を果たします。英語翻訳はオリジナルですか?「ワーニャ叔父さん」はもともとロシア語の戯曲で、その英語訳は既にパブリックドメインになっているのでネットなどにも出ているのですが、字幕的にそのまま使うわけにいきません。長さを調整した上で、きちんと内容が伝わるようにする修正や編集などを行う必要がありました。古い作品なので、現代語とは少し違う感じになるようにも心がけましたね。「ゴドーを待ちながら」は、オリジナルがフランス語で、劇作家の(サミュエル・)ベケット本人が英訳しているんです。その権利がまだ切れていなくて、許可をとった上で使用しているので、元の英訳をカットしないよう頑張って字幕に入れ込みました。――人間の心理に迫る、意味を含んだセリフが多いですよね。翻訳は難しかったのでは?こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、面白い映画って、訳していて面白いんですよ。後出しジャンケンみたいな言い方ですけど、この作品は最初に見た時から、「すごいな」「いいな」と思ったので、翻訳は面白くて、そんなに苦労してないというか……(笑)。当然、私が見て分からない映画は訳せません。だけどこの映画は心にすごく響いたので、「こういうことが言いたいんだな」「こういう英語にすればいいんだな」という感覚が、たまたま当たったという感じです。――私も字幕翻訳をすることがあるのですが、脚本に破綻があると訳しづらいと感じます。優れた脚本は訳しやすい、と言えるのかも……。そうですね。脚本が詰められていないと意味が分からなくて苦労します。例えば、リアクションがすごく唐突だったり、「なぜ、そこでそんなことを言うの?」という流れになったりすると、なんと訳せばいいのかすごく悩みますね。『ドライブ・マイ・カー』のように、脚本や俳優の演技がちゃんとしていて、なぜそれがそうなっているのか、きちんと分かる作品は訳しやすいです。――第94回アカデミー賞の結果も楽しみです。ノミネートを聞いた時の気持ちはいかがでしたか?本当に「ほっとした」というのが感想です。作品の持つ力が伝わったんだなという安堵ですね。私はただ、作品が持っているものを、そのまま英語にしただけです。決して私がものすごく優秀な翻訳者であるということではなくて、そこにあるものを、そのまま英語にしたら、それがうまく伝わったというだけのこと。すべて作品が持っている力だと思います。(text:Rie Nitta)■関連作品:ドライブ・マイ・カー 2021年8月20日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
2022年03月26日【音楽通信】第105回目に登場するのは、来年結成20周年を迎える4人組ロックバンド、シドのみなさん!音楽的ルーツもさまざまな4人が集結写真左から、Shinji(G)、明希(B)、マオ (Vo)、ゆうや(Dr)。【音楽通信】vol.105マオさん(Vo)、Shinjiさん(G)、明希さん(B)、ゆうやさん(Dr)からなる4人組ロックバンド、シド。2003年にバンドを結成し、2008年にメジャーデビュー。東京ドーム公演では4万人を動員し、初のベストアルバムはオリコンウィークリー1位を獲得、そしてアジアツアーを行うなどコンスタントにリリースやライブ活動を続け、人気を博しています。そんなシドが、2022年3月23日にニューアルバム『海辺』をリリースされたということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。ーー小さい頃に音楽や楽器に触れた経緯と、バンドをやるようになったきっかけから教えてください。マオ最初に歌いたいと思ったのは、小学校6年生ぐらいの頃です。カラオケが流行りだして、友達と行くようになると「上手だね」と言われることが多くて、「じゃあ歌ってみるか」という感じで歌を始めました。それまではあまり人に褒められた経験がなかったので、うれしかったんです。子どもの頃は、(4人組バンドの)LINDBERGの歌をよく歌っていました。カラオケでは、当時流行していた歌をいろいろと歌っていましたね。僕はパンクロックが好きだったんですが、あんまりカラオケに入っていなかったので、幅広く音楽を聴いていました。バンドをやり始めたのは、高校生のときからで、初めて立ったステージは高校の文化祭です。Shinji中学2年生になるまでは、あまり音楽には興味がなくて、野球などのスポーツが好きだったんです。でも、中学の給食の時間に有線で日本のヒットチャートが流れていて、B’zの「ZERO」という曲を聴いてビビッときて。その場で友達を集めて、じゃんけんをして担当するパートを決めて、バンド人生が始まりました。ーーB’zにビビッときたからギターを担当されたのですか。Shinjiいえ、じゃんけんして最後まで負けてしまい、それでギターになりました(笑)。僕はバンドをやりたかったのですが、ただそばにいる友達をかき集めただけのメンバーだったので、みんなそこまでバンドに興味がなくて。ギターは弦が6本もあるから弾くのは難しそうだと言われて、最後まで不人気だったギターを担当して、今に至ります。明希最初に楽器に触れたのは、小学生ぐらいのときからやっていたピアノです。それまでは習い事も続かなかったのですが、ピアノのレッスンはずっと続いて、そこからどんどん音楽が好きになって。その後、バンドをやりたいと思って好きになったきっかけは、LUNA SEAを観て衝撃を受けて、それでベースを始めました。ゆうや僕はずっとサッカーしかしていなくて、地元でもバンドや音楽が流行っていなかったので、まわりに影響されることもなく、あまり音楽に触れる機会がなかったですね。当時はテレビっ子だったので、初めて買ったCDも、とんねるずさんがやっていたテレビ番組で歌っていた「がじゃいも」でした。音楽に触れるようになったのは、高校に入ってからです。学校に軽音同好会があったのですが、サッカーの練習が終わった後に、暇だったからそこを覗くようになって、少しずつバンドに触れるようになっていきました。10の愛の物語をコンセプトにしたアルバムマオ(Vo)。福岡県出身。10月23日生まれ。ーー2022年3月23日にニューアルバム『海辺』をリリースされました。今回のリリースにあたっての思いからお聞かせください。マオこの『海辺』は、10の愛の物語をコンセプトに作りました。コロナ禍の時代に、僕たちもファンのみんなも世の中としても、きっと愛が足りていないんじゃないのかなと。まるで愛を見つめ直すような、ひとりの時間が多くなったこの2年間だったと思うんです。そういうなかで、僕自身、愛とは何かをあらためて作詞家としても見つめ直す機会がありました。そのなかで生まれた言葉たちを中心に、今回はアルバムを作っていこう、というところから制作が始まりました。ーーマオさんはすべての作詞を担当されていますが、アルバムのタイトル曲となるドラマチックなナンバーの10曲目「海辺」は、どのような気持ちを込めた曲ですか。マオ10の愛の物語が、最後に集まってきて、流れ着く場所。そして最後の曲なので「海辺」というタイトルにしました。タイトルが決まったあとにアルバムタイトルを決める際、あらためて別のタイトルをつける案もあったんですが、僕はどうしても「海辺」というタイトルにしたくて。作っていくなかで、どんどん気持ちが入っていきましたし、今はこのタイトルをすごく気に入っています。ーー明希さんは、「海辺」を作曲されていますが、どのようなイメージで作られましたか。明希今回は、マオくんの考えたテーマというものがあって、そのなかで作曲に取り掛かりました。テーマに沿ったイメージで曲を作っていって、自分としては「最後にふさわしい曲になったらいいな」というイメージを先行して持っているなかで、作っていった曲になります。Shinji(G)。埼玉県出身。2月8日生まれ。ーー9曲目「揺れる夏服」は、マオさん作詞、Shinjiさん作曲のキャッチーでポップなナンバーですが、どのように生まれた楽曲ですか。マオこれは、陰と陽があれば、このアルバムのなかでは陽の曲。キラキラしている曲なんですが、シドの曲の中では、実はキラキラしている曲も多くて。そういう歴代やってきたキラキラした曲の流れを取り入れつつも、やはり新しい挑戦もしたくてたくさん取り込んだ曲と歌詞になっています。Shinji今回“令和歌謡”という新たなジャンルを提示しながらも、けっこうライブのことを意識して作ったところもあります。もともとマオくんからの「キラキラした楽曲が欲しい」というリクエストがあって、さらにライブの後半でこういうノリのいい曲が欲しいなと思いながら、作っていきました。ーー2曲目「大好きだから…」は、マオさん作詞、ゆうやさん作曲の切ないナンバーですが、どのようなテーマから生まれた楽曲でしょうか。マオ僕、読書が好きなのですが、ミステリー小説を読んだときに「そういう要素が入っている歌詞を書いてみたい」と書き上げました。一見、普通の悲しい歌詞に見えるんですが、よく見るとある謎が解けていくので、謎解きも楽しんでいただければと思います。明希(B)。神奈川県出身。2月3日生まれ。ゆうやこの曲は、アルバムの中で最後に作った曲ですね。いろいろなコンセプトが上がっているなかで、これはまだコンセプトがなかった状態で、途中で「こういう曲が欲しいね」となって作り始めて。これまでやったことのないイメージと、和風を合体させたようなテイストにして、新しいタイプの曲を作ってみたいと思い、作り上げていきました。ーーマオさんは、いつもどのように作詞をしているのですか。マオ例えば、本や映画から影響を受けるということは、まれなんです。どちらかというと、インスパイアを受けたとしたらそれを僕の日常に取り入れることで「じゃあ、書くぞ」となったときに、バーっと出てくるというイメージ。フィクションかノンフィクションかも関係なく、自分の頭の中にあるもの、僕でしかないものが、言葉となって仕上がっていくということですね。ーー歌詞には、女性目線のものと男性目線のものがありますが、何か切り替えがあるのでしょうか。マオあまりこのテーマだから女性目線でというような決まりはなく、自然と生まれてくるものなんですよね。それは曲に導かれるときもありますが、リアルタイムで書いてみたいテーマがパッと浮かんだら、そのときに決めているので、自分軸の中でどのような主人公をテーマにして歌詞を書くかは決まるという感じですね。だから、女性目線で書いている曲も、明日書いていたら、もしかすると男性目線になっていたかもということも楽しみながら、リアルに書いています。ーー歌詞を書かれているときに大事にしていることはありますか。マオ歌詞がわかりやすいことは大事ですが、わかりやすいのと、ひとつしか答えがない、というのは全然話が違うと思っていて。自分が詞を書いて、歌って、そこで終了ではないと思っています。お客さんが受け取って、詞を読んでくれて、その人なりの解釈が出てきて、そこで初めてゴールですから。いろいろなゴールが作れるような歌詞を目指して書いています。ゆうや(Dr)。千葉県出身。12月9日生まれ。ーー明希さん、Shinjiさん、ゆうやさんは、作曲を担当されていますが、曲作りで大事にしていることはありますか。明希大切にしていることは、みんな共通して、メロディの良さだと思います。個人的には、最近はメロディはもちろんですが、アレンジや自分たちらしさ、冒険というか遊び心も同じぐらい大切だと思っていて。もうすぐ結成20年になりますが、年を重ねるほど、保守的なイメージに見られるのがいやになってきているというか。これまでもいろいろなジャンルや音楽性を表現してきたつもりですが、これからもずっと自分たちらしく挑戦していきたいというのがありますね。Shinjiメロディが一番大事ですね。最近意識するのは、例えば「この曲、10年後、20年後も聴いてもらえているかな?」ということ。曲調によってもキャッチーさを求めるのか、それとも新しさを求めるのかと、視点が違うと変わってきますし、流行っている曲も素晴らしいですが果たしてどれだけの曲が何十年後も聴かれているかというとどうだろうと。日々、残っていく曲、長く聴いてもらえる曲を作りたいと思っていますね。ゆうや昔からずっとそうなんですけれども、僕自身は歌を歌っていないので、歌うとどうなるのかを一番意識して作っています。あとは、直感的に生まれた曲は、すぐに手をつけないようにしていますね。直感で曲ができたときは、すごくいいなと思っているんですが、何日後かに聴いてみると全然よくないな、ということもいっぱいあって。そのため、曲ができても、1回寝かせて、その何日後かに聴いてみるようにしています。「4人で健康に楽しく続けていくことがすべて」ーーお話は変わりますが、みなさんがいまハマっているものや趣味を教えてください。マオうちにはトイプードルがいるんですが、犬も行けるカフェやレストランも多くて、一緒に出かけることですね。今は海に連れて行って、一緒に遊んだり、人があまりいないような場所に出かけたりしています。めちゃくちゃかわいいです。Shinjiラーメンが好きで、以前はお店をまわっていましたが、今はコロナ禍なので全然行っていませんね。家にいても、基本的にあまりテレビは見ないのですが、観るとしたら好きな野球です。野球はまだシーズンが始まっていないんですが、地味ながらキャンプや練習試合の様子をBS番組などで観ていますね。好きな巨人の様子を中心に、巨人の放送がやっていないときは、他の球団のキャンプの様子を観ています。明希最近、動画配信サービスを観るようになって、たまたま観たことから韓国ドラマにどっぷりハマっています。面白かったのは『今、私たちの学校は…』という韓国ゾンビドラマと、いまさらながら主役のふたりが結婚したと知ってから『愛の不時着』を観ました。ゆうや外出自粛になった2020年の4月ぐらいから、この際、見直そうと思って、家の中の改築をするようになりました。防音の部屋を作ったり、ついていなかった壁に窓をつけたり、二重窓にしたり、オーダーメイドのガラス窓をつけたり。家を見直して「こうしてみようかな」とやり始めたら、わりとけっこうな改築になったのですが(笑)、ゆっくりと自分でやることにハマりました。ーーいろいろなお話をありがとうございました。最後に、代表してマオさんから、今後の抱負をお聞かせください。マオシドは、今年19周年、来年20周年を迎えます。ここまできたら、4人で健康に楽しく続けていくことがすべてだと思うので、そこだけをがんばっていけたら。そのなかでいいアルバムができたり、いいライブができたり、いろいろなご褒美が待っていると思うので、これからもシドを楽しく続けていきたいですね。取材後記胸に響く歌詞とメロディで、ヴィジュアル系というジャンルを超えて、さまざまな音楽ファンを獲得し続けているシドのみなさん。ananwebの取材では、マオさん、Shinjiさん、明希さん、ゆうやさんのメンバー全員にいろいろなお話をうかがうことができました。新しい挑戦を続けるシドのみなさんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりシドPROFILE2003年結成。マオ(Vo)、Shinji(G)、明希(B)、ゆうや(Dr)からなる4人組ロックバンド。2008年、TVアニメ『黒執事』オープニングテーマ「モノクロのキス」でメジャーデビュー。 2010年の東京ドーム公演では4万人を動員。2013年、初のベストアルバムをリリースし、オリコンウィークリー1位を獲得。 同年、横浜スタジアムで10周年記念ライブを開催。夏は初の野外ツアーで4都市5公演で5万人を動員し大成功を収める。2014年、香港・台湾を含む全国ツアーを開催。2018年、バンド結成15周年とメジャーデビュー10周年のアニバーサリーイヤーとして、計50本以上もの全国ライブハウス公演やアジアツアーを行ったのち、 2019年3月にグランドファイナルとして横浜アリーナ公演を大成功に終えた。2021年、5月に河口湖ステラシアターで開催したスペシャルライブ「SID LIVE 2021 -Star Forest-」の同タイトルのテーマソング「Star Forest」をリリース。2022年3月23日にニューアルバム『海辺』をリリース。InformationNew Release『海辺』(収録曲)01. 軽蔑02. 大好きだから…03. 13月04. 街路樹05. 液体06. 騙し愛07. 白い声08. 慈雨のくちづけ09. 揺れる夏服10. 海辺2022年3月23日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)KSCL-3353(CD)※各盤の品番ご確認ください。¥3,190(税込)(Poetic盤:初回生産限定盤))KSCL-3348~49(CD+BOOK)¥4,950(税込)【BOOK】・ハードカバー 上製本仕様・マオによる全曲解説などを含む、全100ページの『海辺』ブックレット。(Artistic盤:初回生産限定盤)KSCL-3350~52(CD+BD+PHOTO BOOK+BOX仕様)¥6,490(税込)【PHOTO BOOK】全40ページに及ぶメンバーの写真を収めたフォトブックレット。【Blu-ray 収録内容】01.“騙し愛” Music Video02.Making of Music Video “騙し愛”03.“海辺” Music Video04.Photo Session & Making of Music Video “海辺”取材、文・かわむらあみり
2022年03月25日『勝手にふるえてろ』(2017)、『美人が婚活してみたら』(2019)、『甘いお酒でうがい』(2020)、『私をくいとめて』(2020)など、人生の様々な局面でもがき、葛藤しつつ、生きる道を模索していく女性の姿を描いてきた大九明子監督。近年、映画のみならず「時効警察はじめました」、「捨ててよ、安達さん。」、今年1月より放送中の「シジュウカラ」などの話題のドラマに脚本や演出で参加しており「大九監督の作品なら見たい!」というファンも多い。とはいえ映画界、ドラマの世界全体に目を向けると、大九監督のように毎年のように作品を発表することができている女性監督は決して多いとは言えない。長く世界で活躍してきた河瀬直美に、2度にわたって日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞している西川美和をはじめ、蜷川実花、三島有紀子、タナダユキ、荻上直子、山戸結希……など、独自の世界を紡ぎ出すクリエイターとして、大九監督同様に高い評価を受け、知名度やファンを獲得している女性監督はここ十数年で着実に増えているのは事実である。その一方で、2000年~2020年の21年間に発表された映画の中で興行収入が10億円を超えた作品は796本で、そのうち女性監督による作品は25本、割合にしてわずか3.1%だったというショッキングな現実も発表された(非営利団体「Japanese Film Project(JFP)」の調査による)。さらに先日、男性映画監督によるキャスティングをちらつかせての性行為の強要・暴行事件が明らかに。女性の地位向上、ハラスメントの根絶、労働環境の改善など映画界が向き合うべき課題は多い。映画の世界で働く人々に話を伺う【映画お仕事図鑑】。今回は3月が女性史月間(Women’s History Month)であることにちなみ、先日、最新作『ウェディング・ハイ』が公開を迎えた大九監督に、映画界における女性監督の地位や劇中における描写などについて話を聞いた。――いきなりですが大九監督はご自身が“女性監督”であるということを意識される(させられる)ことはありますか? 批評家や観客から作品について「女性ならではの視点」といった言葉で評価されることも多いかと思いますが…。私自身が“女性監督”であるということを意識することは全くなくて、というのも、私はこれまで女性としての人生しか送っていないので、私の作品が「女性としての人生を送ってきている私」が作っている映画になってしまうのは必然だと思います。ことさら「女性監督としての視点を盛り込まなきゃ!」ということを意識することはありませんが、知らず知らずのうちにそうした視点を盛り込んでるところはあると思いますし、あくまでも呼び方として「女性監督」と呼ばれているな…くらいにしか自分の中では捉えていないですね。――20代後半で映画美学校に通われて映画監督を志した当時は、女性の映画監督の数も現在ほど多くはなかったかと思います。キャリアを積み重ねていく中で、女性を取り巻く環境も少しずつ変わってきたかと思いますが、ご自身の意識にも変化はありましたか?若い頃はただがむしゃらに自分のことだけをやっていたので、その点については、昔のほうが意識や自覚が希薄だったなと思います。ただ、本数を重ねてきて、長く映画というものに関わり続けている中で、ふと気づけば、女性で映画監督であるという人間が、男性の映画監督よりも圧倒的に少ないというのを考えさせられるように年々なってきました。そのとき、これは私だけの問題ではないんだといろんなことを受け止めるようになりました。例えば、あまりに“女性監督”という視点で見られたり、「女性監督ならではの内容になってましたが…」みたいなことを言われる続けることは、果たしてどうなんだろう?と考えたり…。もちろん一般の観客の方がご覧になって、そう感じるのは自由だと思います。でも、監督と近い立場の人間が、そういった言葉を安易に使っていては、いつまで経っても変わらないなぁというか「そんなに珍しいもんでもないだろ、もうそろそろ」という気持ちになったりしますね。そういう部分に関しては、意識的に変えていかないといけないなという気持ちを抱くようになりました。――特に何かきっかけがあって、そうした意識や自覚の変化があったのでしょうか?漠然と「イヤだ」と思っていたことをハッキリと「イヤだ」と言っていいんだということを、世の流れと共に学習してきたということですかね。作品を依頼されるときに、昔は当たり前のように「女性監督でどなたか探してたんですよ」なんて言われていました。「女性だから依頼されたんだ? へぇ…」という気持ちにこちらがなるということをあんまり考えてないんだろうなぁ…と思っていました。さすがにいまはいないですけどね、そういう言い方をされる方は。自分がひとりの観客として映画を観る中で「この作品、面白いんだけど、なんかモヤモヤするな…」ということが多々あって、それは女性の描かれ方がすごく偶像的だったり、便利な玩具みたいだったり、神様みたいだったり、お母さんみたいに何でもやってくれる存在になってたり、傷つけられてもにっこり微笑んで許してあげたり…。せっかくこの映画、面白いんだけど、なんかこの女性の描き方がモヤモヤするなぁ…ということはやっぱりまだまだあって、それに対して「あの映画は面白いんだ」と思って、自分でも気づかないことにしていたのを、気づいた私は「あの描写がイヤだ」と言っていいんだと思えるようになったのは、ここ数年で大きな変化として感じています。――先ほど、「女性監督としての視点を盛り込まなきゃ!」ということを意識することはないとおっしゃっていましたが、監督の作品には様々な女性が登場しますが、彼女たちは社会のために戦ったり、正義や使命を背負うというよりは、もっと自然体でニュートラルに、自分の幸せを探しているように感じられます。そうですね。シンプルに「女性である」ということを特に意識していない人間を描いているからこそ、そういうふうに見ていただけるのかなと思います。おっしゃる通りニュートラルにそのひと個人が、幸せになるためだったり、何かの目的のために動いているだけであって「女としてどう見られるか?」ということを意識して生きている人間は一度も描いたことはないですね。――その一方で、大九監督の作品を観た観客からはよく「なんでこんなに私たちの気持ちがわかるのか?」という熱い共感が寄せられます。監督ご自身はそういった声をどう受け止めていますか?それがですね、意外と女性からだけでなく、男性からもそういう声をいただくんですよ。「この主人公は僕です!」とか(笑)。老若男女問わず、海外の映画祭でそういう声をいただくことも多いです。どちらかというと、メインストリームを走らないタイプの人間を描くことが多いので、男性であれ女性であれ自分のことだと感じてくださる方が多いのかもしれませんね。そこに関しても、特に義憤をもってそうした人々を描いているのではなくて、私自身が普段から、そうした人たちのほうに目が行くんですね。性格が悪いんでしょうけど(笑)、成功者とか、うまいことやってる人にはホントに興味ないんで(笑)。むしろ何か問題を抱えてるような人たちのほうが立体的に見えてきて、そっちに吸い寄せられて、そういう人たちばかり描いてしまうんです。本当は男性も描きたいんですけどね…(苦笑)。男性主人公の脚本も書いているんですけど、なかなか作品として着地せず、女性主人公のものが多くなってしまっているんです。――商業映画デビュー作となった新垣結衣さん主演の『恋するマドリ』(2007)の頃から本作『ウェディング・ハイ』に至るまで、登場人物たちが「誰かと生きる」ということ、もしくは「ひとりで生きる」ということを選択するさまを描くことが多いですが、そういったテーマ、題材に惹かれるんでしょうか?誰といようとも、いつでも圧倒的に孤独を感じている――それは私自身もそうだし、登場人物もそういう人たちが多いですよね。誰かといることが安心ということでは決してなくて、結婚したら、その先にまた別の地獄が待っているわけです。ある作品で、臼田あさ美さんが発するセリフで「ひとは生まれながらのおひとり様なので、誰かといるためには努力が必要だ」という言葉を書いたんですけど、それは身をもってわかっていることであり、その努力は本当に大変なことだなと思います。私は映画を作るということを通じて、他人とのコミュニケーションを学ばせてもらっているという思いがあるんですけど、「ひとりで生きること」が正解でもないし、「ふたりで生きること」や「群れをなす」ことが正解でもない――どこにいようとも、人間は孤独であり、常に寂しいものだと思います。質問の答えとして「どういう人を描きたいか?」ということで言うと、満たされていない人を描くということが常にやりたいことなんです。オリジナルの脚本でも原作がある作品でも、書いていくうちにどんどん寂しい人が出来上がっていくんですよ(笑)。いまも、ある小説を原作にシナリオを描いている最中なんですけど、なぜかどんどん寂しい人になっていく(苦笑)。そういう意味で、ひとりでいようと、誰かといようと寂しい人に安心するんですね、自分で作っていて。※以下、映画『ウェディング・ハイ』のネタバレを含む表現があります。ご注意ください。≪映画『ウェディング・ハイ』は、ある一組のカップルの結婚式で次々と巻き起こるトラブルやドラマを様々な視点で描き出したコメディで、脚本をバカリズムが担当。篠原涼子がウェディングプランナーの主人公・中越を演じている≫――篠原さんが演じた中越は、自分が結婚式を挙げた際の担当のウェディングプランナーの仕事ぶりに感動し、彼女が働く会社に転職し、プランナーになったというキャラクターです。ただ、この仕事に誇りを持つ一方で、中越自身の結婚生活は数年で破綻し、離婚という結末を迎えており、かつて憧れたウェディングプランナーは、上司となったらウマが合わず…ということを告白します。この設定はバカリズムさんの脚本に最初からあったんでしょうか?離婚しているという設定は、こちらからバカリズムさんにお願いして盛り込んでもらって、その流れの中で、脚本が戻ってきた際に、上司となったプランナーとは仲が悪いという設定も盛り込まれていました。――先ほどの「人間は常に寂しい」という言葉に通じるというか、この設定にホッとするひとも多いのではないかと思います。そうかもしれませんね(笑)。作っている人間からすると、何かのプロパガンダで映画を作っているわけじゃないし、どこかのとある人間の人生をブツっと持ってきて描いているというくらいの感覚なんですが、それを観た方が、そこで描かれたことを人生の教科書みたいに思ってしまう向きもあって、それは怖いことでもあると思います。そういうことを考えたとき、あまりにツルっとした、形の上であまりにうまくいっている人間を提示して終わるってすごく危険だなと思っていて、そういう意味でもちょっとした毒っ気みたいなものを盛り込みたいなと思いました。些細な設定だし、特に普段の作品であれば、登場人物のひとりがバツイチなんて本当にごく些細なことなんだけど、この映画においては、彼女の仕事がウェディングプランナーであるということがすごく意味を持つなと思ってそうしました。――『勝手にふるえてろ』でやや自意識の強いヒロインの恋を描き、『甘いお酒でうがい』、『私をくいとめて』では独身、“おひとり様”の女性を、そして『美人が婚活してみたら』では婚活女性を描いていますが、本作ではついに(!)、結婚を迎える人々を描いています。どのような思いで本作に臨まれたんでしょうか?そういう意味では、“結婚礼賛映画”にしないことですね。ご依頼をいただいて、私がやるなら、こういう作品だなという形が見えてきて、それを面白いと感じていただけるならぜひご一緒したいとお伝えしました。自分がゼロからオリジナルでこういう物語を作れるかといえばできないと思います。もちろん、笑いの天才・バカリズムさんの書かれた脚本だから、誰にも書けない唯一無二の世界観であることは大前提ですが、結婚式を題材に私がシナリオを書いたら、めちゃめちゃ暗い内容になりますから、絶対に。スサンネ・ビア監督の『アフター・ウェディング』(マッツ・ミケルセン主演)が、私のベストウェディング映画なんですけどめっちゃ暗いんですよ(笑)。だからこういう陽気な映画に関わるチャンスをいただけたのは感謝しています。――制作チームの座組という点で、撮影を担当されたのはこれまで監督が何作もご一緒されてきた中村夏葉さん。そして製作陣に4人もの女性プロデューサーが名を連ねています。そこに関しても、先ほども言いましたように特に「女性が作る映画だから!」ということを意識した部分はないんです。夏葉さんは、何度も一緒にやってきて、お互いに男とか女とかを意識して生きるタイプでもなく、“同志”として組ませていただいています。女性が便利な存在に描かれている部分であったり、夏葉さんも私も「イヤだ」と感じる視点はあるので、そういう部分は絶対に拾いにいかないというコンセンサスは私たちの間でとれています。夏葉さんは、カメラマンとしての技術や知識があるのはもちろんですが、加えて脚本を読み解く力が素晴らしくて、そこは常に信頼しています。脚本に対してめちゃくちゃツッコミますからね(笑)。変な忖度などなしに、言いたいことをハッキリと言ってくださるので、いい距離感で気持ちよく仕事ができるんですね。――女性監督と女性カメラマンのタッグとなると、どうしても「女性ならではの感性が光る…」などといった、安易な言葉での評価も多くなるかと思いますが…。夏葉さん自身、師匠のカメラマンさんが男性だったこともあって「女性らしい画をお願いします」と言われることはないかもしれませんが、評価の際は「女性らしい視点」というのはやはり言われがちですね。そこは、言う人は言えばいいかなというか、不快感というほどの感情はありません。だって私たち、本当に女性なわけで、女性同士で作った作品がこうなっているので、それをどう見るかはやはり見る人次第なのかなと思います。――先ほど「男性も描きたい」とおっしゃっていましたが、どんな男性像を切り取られるのか、見てみたいです。撮りたいですね。でも、先ほど男性監督が描く女性像にモヤモヤするということを言いましたが、その逆のことを自分がしないように気をつけなくてはいけないと思っています。女性が抱く“ファンタジー”で男性を便利に描くようなことはしちゃいけない。それはいま地上波でやっている「シジュウカラ」というドラマで、18歳年下の男の子と大人の女性の恋愛を描いてますけど、そこでもすごく気を付けています。若い男の子を餌食にするような、便利な描き方をしちゃ絶対にいけないな、わけもなく恋に落ちて、みたいな描き方は今回は絶対にしないようにするとか。年の差はあっても、大人同士が惹かれ合う理由がしっかりあって、恋に落ちたと。映画を作るって、必ず傷つく人がいることだと思ってます。何気ない道ひとつを撮っても、そこで誰かが交通事故で死んでるかもしれない。作り手がふとカメラを構えて撮ったもの、それを油断して見てた人が、ここは大事な人が亡くなった道だと思ったらたちまち悲しくなってしまうし、子どもを産めない人の中には、子どもが幸せそうな姿を映画で見たら傷つく人もいるかもしれない。映像って不用意に人を傷つけるものを持っているし、物語なんてなおのことです。大前提として、誰かを傷つけていると自覚してないとやってられない、やってはいけない仕事だと思っています。だからこそ、そこで作り手のエゴになるようなやり方は絶対にしちゃいけないんだとますます思います。ここ数日、男性監督のすごく不愉快な事件のニュースが流れてきて、本当に頭にきたし、いまも頭にきています。こうしたニュースに触れた時、まさに私自身も「女」として経験して来た様々なハラスメントや、犯罪に巻き込まれそうになった経験をふつふつと思い出してしんどくなります。まず己のしんどさを飲み下して、監督として我が身を律する必要も生じてくる。ちゃんと監督という人間が、自分のことに置き換えて、自分の問題として見ていかなきゃいけない、自分も気を付けていかないといけない問題だと思っています。そこは男性だから、女性だからというのは関係ないと思いますし、気を付けながらも面白いものを地道に作り続けられたら幸せだなと思います。――最後に映画監督を志している若い人たちへのメッセージをお願いします。どんどん作ってどんどん恥をかいてほしいですね。恥ずかしいんですよ、ものを作るって。そりゃ誰だって恥ずかしいですよ、自分の中をさらす行為だから。でも、それがだんだん快感になってくるんで(笑)。いまはまだ下手で当たり前なので、いまの時代、スマホで撮れるんだから、ものを紡ぐということを監督になりたい人はやっておいてほしいです。プロになったら、素敵なカメラマンさんや優秀なスタッフに出会えるし、そういうことは後からその道のプロが助けてくれるので、いまは1本でも多く恥をかいて物語を紡ぐことしてみたらいいと思います。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:ウェディング・ハイ 2022年3⽉12⽇より全国にて公開(c)2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
2022年03月25日笠松将の活躍が目覚ましい。作品においてスパイスとなるような人物でも、裏がありそうなあやしい人物でも、クールにたたずむ人物でも、それがどんなキャラクターであろうと、笠松さんはすべて生き生きと、どんなものだとやり切る。こちらが思わず見惚れてしまうほどに。近々の出演作「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」、「岸辺露伴は動かない」、「青天を衝け」、「君と世界が終わる日に」、「FOLLOWERS」などざっと振り返ると、どこでミートしたかにより、彼の印象は大きく変わりそうだ。事実、「ムチャブリ!」の颯爽とした雰囲気の御曹子・野上豪からは、到底「岸辺露伴」の肉体改造に憑りつかれた橋本陽馬の姿は想像もできない。そのふり幅は大きな武器と言えるし、研鑽を積んだ演技力のたまもののはずだ。「そんな風に言ってくださることは、すごく嬉しいです。 “よかったよ”“おもしろかった”という声をかけられることもありがたいんですけど、実は…自分ではよくわからないことも多くて。でも“笠松くんってこういう感じだよね、こういう芝居だよね”と思われると、真逆にしたくなる気持ちが湧いてくるんですよね」。その言葉は、まだまだ可能性を秘めている自身の伸びしろ、自分のできることを探っていきたいという笠松さんの俳優としての渇望や挑戦心のあらわれと取れる。まだ見ぬ運命的な作品との出会い、毎回訪れる刺激的な人たちとの出会いへの期待。だからこそ、出演作については毎度担当マネージャーさんと「むちゃくちゃ話し合う」そうだ。「時間は有限ですし、身体もひとつなので、どの作品をやるのかは本当に、もう…すごく迷います!たっくさん面白そうな作品があるから、マネージャーと毎回むちゃくちゃ話し合って決めます。結果、自分がやりたい作品が選ばれることもあれば、今の自分に足りないから選ぶ作品、というのもある。いろいろなパターンがありますね」。ひとつひとつ真剣に選び向き合った作品の積み重ねで、キャリアが形成されてきた。「何人もの俳優がいて、ピンポイントで僕にこの役が合うと信じてくださる、それってすごいことだなと思うんです」と語る生き生きとした表情が、何よりも充実の今を物語っていた。「共演者の皆さんや監督、いろんなスタッフの顔を見たら、何でもできる気になる」そんな笠松さんが主演する映画『リング・ワンダリング』が、2月19日より全国にて公開中。漫画家を目指す主人公・草介(笠松さん)が、アルバイト先の工事現場で発見した遺物をきっかけに、同じ土地でかつて生きていた人たちの世界へ迷い込み、命の重さを知るという幻想的な物語。現実と過去、漫画という3つの世界が交錯し、静かに熱を帯びる展開に心が奪われる。笠松さんの丁寧で繊細な表情、演技も光った。「僕が言うのもおこがましいんですけど、金子監督の魅力がつまった、本当に面白くて、いい作品だと感じています。完成作を観たとき、自分の過去も回想して、いろいろなことを考えたんです。メッセージを押しつけるわけではなく重くならずに、これからの自分の在り方を考えられるようなきっかけになる1本になっていて。観た方が、それぞれ違った感じ方ができる作品になったんじゃないかな、って」。撮影したのは2020年の冬とおよそ2年前。撮影中は金子監督とコミュニケーションをよく取っていた。「監督はすごく静かで、僕みたいに口数の多いタイプではありません。現場で“監督、僕はこうしたいんですが、どうですか?”と提案しても、譲らないところは絶対譲ってくれませんでした。監督が“いや、これでいきます。これが面白いです。笠松さん、大丈夫ですよ”とずっと言ってくださっていて。しっかり取捨選択してくださった結果、完成した作品を観て“本当にそうだ!監督すごい!”と興奮しました」。演じた草介は、強いこだわりを持ち漫画家を目指している青年。草介のための役作り、行ったことはと聞くと、特別なことはしていない、という。草介に限らず、ほかのどの役でも笠松さんは「事前に意識して感情は作らないし、その役というものもまったく作らないんです」と説明した。「もちろん、その役に必要な特殊スキルは僕に足りないものだから習得する必要があるけれど、それは役作りでも何でもなく、セリフを覚えるのと同じだと思うんです。役については、何て言うか…脚本を読んだら勝手にその気持ちになるんです。少年漫画を読んだらワクワクするし、恋愛の映画を見たらちょっと恋したくなるじゃないですか?その感じに近くて。だから『リング・ワンダリング』の脚本を読んで、そのことばかりを考えて現場に行ったら、もうその気持ちなんです」「あとは、僕がどんなに作っていったとしても、一朝一夕で作ったキャラクターなんて、お客さんに絶対バレるし、監督にも見透かされる。だったら、そこにいてくれる共演者の皆さんや監督、いろんなスタッフの顔を見たら、そういうモードになるんです。きれいごとっぽいですけど、本当にそう。その人たちの顔を見たら、何でもできる気になるから」。おしなべて、どの作品においても、その人物になり切っている印象を受ける笠松さん。彼の演技のヒントが、その姿勢から少し見えたような気がした。謎めいた私生活、最近の笠松さんの“喜怒哀楽”とは…?本稿では俳優・笠松将について、自身の語るいくつかの言葉で、ほんの一部を覗かせてもらった。饒舌に話し続けてくれた笠松さんだが、スクリーンを離れたところの素顔はと言うと、意外に知られていない。素の笠松さんに迫るべく、最近の“喜怒哀楽”を尋ねると、「表で言える用ですよね(笑)?」と楽しそうな表情を浮かべ、次々に答えてくれた。最後にお届けしたい。【喜】ネコを2匹飼っているんです。白い男の子がサメ、女の子がウニ。朝起きたとき、両隣りに美男美女がいてくれたときは、“俺、めちゃくちゃ幸せだな~~”と思います!【怒】サメはお腹がちょっと弱いので、毎日薬を飲ませなきゃいけないんです。毎日サメくんと「ちょっと頑張ろうか」と話し合っています。頑張って錠剤を飲んだらどういうメリットがあるのか、飲まないと今後どうなるか、全部話してから飲ませるんです。…でも、口に入れたものを吐くのが、むっちゃうまいんですよ(笑)。そうしたら抱きかかえて、1回怒ります。毎朝やっていますから、大変です…。【哀】そのサメくんが、うんちをするときに、お腹が弱いから苦しそうなんです。僕も近寄っていって、サメをさすりながら「頑張ろうねー」と言っています。本当に大変そうだから、「頑張って薬をあげよう、病院に連れて行こう」と思うので、ちょっと哀しくなるかな。【楽】へったくそなんですけど、趣味でギターを今弾いています。ネコって、ギターの音や動きがめっちゃ好きみたいで、僕が弾いていると隣で2匹が「ニャー、ニャー」と歌ってるんですよ、まじで!やめると、「もっとやってー」という感じで言ってくるから、そのときはやっぱり嬉しいですね。全部猫でまとめた軽妙なトーク。オンとオフのギャップも魅力の笠松さんから、今後も目が離せない。(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)■関連作品:リング・ワンダリング 2022年2月19日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国にて公開Ⓒ2021 リング・ワンダリング製作委員会
2022年02月26日もしも「ゲーム・オブ・スローンズ」の熱心なファンであれば、キャスト総出演のチャリティ番組で魅惑のバリトンを響かせる“ティリオン・ラニスター”を目にしているかもしれない。しかし、多数の人はピーター・ディンクレイジとミュージカル映画の組み合わせに新鮮な驚きを覚えたはず。不朽の戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」を原作にしたミュージカル映画『シラノ』で、彼は主人公の剣豪シラノを演じた。「僕がすべきは、物語を語るため歌にハートをのせること」「僕にとっても新鮮で楽しい挑戦だった。ミュージカルは幼いころに出たことがあるだけだし、パンクバンドを組んでいた時期もあるけど、そのときは歌うというより叫んだり飛び跳ねたりしていた(笑)。だから、もちろん恐れはあったよ。でも、とても美しい脚本があり、心に響く楽曲もあった。その中で僕がすべきは、物語を語るため歌にハートをのせること。それなら、真のブロードウェイスターでなくとも務まると思ったんだ」。「ボブ・ディランも、ジョン・レノンも、ポール・マッカートニーも、音楽を通して僕たちに何かを語りかけてきた。音楽は強い。間違いなくね。人に愛を伝えるときこそ、歌にのせるべきだ」ともリモート画面越しに語り、音楽と言葉の幸せな関係を説くピーター。「すべての曲が台詞の延長線上にあり、物語と歌がスムーズにつながっている」という脚本は、ディンクレイジ夫人でもある劇作家エリカ・シュミットが手掛けたもの。映画『シラノ』が製作される以前、好評を博した舞台版のシラノ役もピーターだった。「舞台版はもっと抽象的で、歴史的背景が明確に描かれることはなかった。それに比べ、映画には17世紀フランスという時代がもう少し正確に反映されている。自由があるのは舞台も映画も同じだけどね。例えば、物語の中盤でシラノは戦地に行く。僕のようなサイズの人間が軍隊にいるのは幸いにも現実味のないことだけど、その展開は舞台にも映画にもある。あと、映画はより親密な作りになっていると言えるかもしれない。アップのショットもあるし、シラノ、ロクサーヌ、クリスチャンの関係により焦点があたっているから」。切なくやるせないストーリー「隠れず、恐れず、想いを伝えたほうがいい」基となった戯曲では大きな鼻にコンプレックスを持つシラノが、幼なじみのロクサーヌに恋心を抱く。だが、彼女が恋に落ちたのは輝く容姿のクリスチャン。恋の橋渡しを頼まれたシラノは文才のないクリスチャンに代わり、美しい恋文を何通も何通もしたためる。あまりにも有名なストーリーラインはそのままだが、ディンクレイジ版シラノは大きな鼻ではなく、肉体そのものに引け目を感じている。「僕の体はこの通りのサイズなので、このまま演じればよかった。それにより、物語に説得力が生まれたと思う。これまでのシラノは容姿端麗な俳優が大きな鼻をつけて演じることも多かった。それはそれで構わないし、役を演じるにあたって特殊メイクに頼った経験は僕もある。でも、この物語にその選択は相応しくない。物語が放つ愛のメッセージが、より伝わるようにしたかったんだ。僕自身に響いたようにね」。「物語が放つ愛のメッセージ」は美しくもあるが、あまりに切なくやるせない。本作の脚本家のハートを射止めて早20年近く、2人の子どもの父親でもあるピーターは「少なくとも、シラノを真似すべきではないね」と優しく笑う。「隠れず、恐れず、想いを伝えたほうがいい。自分に正直であるべきだ。そうすれば愛は芽生えるし、愛は育つ。信じた心を表現すること。それが愛だと思う。そう考えると、この物語は今の時代にも通ずる。シラノの手紙で、クリスチャンは自分をよく見せようとするのだから。オンラインで大勢がやっているだろう?欠点を隠し、どれだけ魅力的かをアピールし、実際に会って失望する。正直に自分を伝えず、作りたいイメージの中に隠れるからそうなるんだ。それに対する答えが、『シラノ』だとも思う」。自身の大事な分岐点は「子供を持ったこと」シラノの物語の中には、多くの「あのとき、ああすれば」が存在する。ロクサーヌに想いを伝えておけば、クリスチャンに素直な気持ちを明かしておけば…。「“あのとき、ああすれば”は思い当たらないけれど、“あの瞬間がいまの自分を形作っている”と思えることはある」と、ピーター自身にも大事な分岐点が人生に存在したことを明かす。「子供を持ったことは、僕の人生における最大のターニングポイントだった。誰にとってもそうであるようにね。子供の誕生によって、僕は無条件の愛を知った。愛の定義とは何かも。自分のことを考える前に、自分以外の人のことを考えるようになったんだ。シラノのように選択を誤らなくてよかったよ。大事な大事な分岐点だ」。良き父にして、良き夫にして、良き俳優。冒頭にタイトルを挙げた大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」から『X-MEN:フューチャー&パスト』(14)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)といった大作映画まで、活躍ぶりが留まることはない。撮影済みのものから撮影を控えたものまで、公開待機作も常に数本を超える。「“Ever tried. Ever failed. No matter. Try again. Fail again. Fail better.”敬愛する劇作家のサミュエル・ベケットがこう言っている。“何度挑戦し、何度失敗しても問題ない。また挑戦し、また失敗すればいい。前より上手に失敗すればいいだけだ”とね。結局、失敗なんてものはない。ミスをして失敗したら、さらに努力してもう一度やればいいだけの話なんだ。そうすれば、いつかは成功する。この言葉を信じ、自分を信じ、僕はここまでやってきた。演技というものは抽象的で、奇妙で、とらえどころのないもの。正解はないし、間違いもない。本能を信頼し、それがベストだと願うだけ。最高の人たちと仕事をしながらね」。(text:Hikaru Watanabe)■関連作品:シラノ 2022年2月25日より全国にて公開© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
2022年02月25日孤独なストリート・ミュージシャンが1匹の茶トラ猫と出会い、支え合いながら困難を乗り越えた奇跡を綴ったベストセラーノンフィクションを映画化した『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』。その続編となる『ボブという名の猫2 幸せのギフト』がついに日本上陸。前作同様、ボブ“本人”がボブ役を演じ、とあるクリスマスに起こった実話が基になっている。残念ながら映画の完成を見ることなく、2020年6月に天国に旅立ってしまったボブ。今回、スクリーンに刻まれたボブとの日々に思いを馳せながら、モデルとなった原作者のジェームズ・ボーエンが“ボブが遺してくれたもの”について語ってくれた。描かれるのは「路上で過ごした最後のクリスマス」2017年、前作『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』の日本公開前に親日家のジェームズとボブは初来日、多くのテレビ番組でも取り上げられた。「来日したときの全てが思い出深いです。サムライミュージアムや渋谷のスクランブル交差点に行ったり、ボブは神戸牛フレーバーの『ちゅーる』をプレゼントされ、お気に入りになりました」とジェームズ。「ロケで、ベンチの下に猫がいたのもよく覚えています!」「新海誠監督の娘さん(新津ちせさん)にお会いできたのも嬉しかったです」と思い出話は尽きない。野良猫だったボブとの出会いと、薬物依存から立ち直るジェームズ(演:ルーク・トレッダウェイ )に寄り添うボブの姿が描かれた前作。「今作の舞台になっているクリスマスは、僕らが路上で過ごした最後のクリスマスで、その後の生活に大きな変化が訪れました」とジェームズは説明する。「欧米でクリスマスというのは、特に家族が集まる時期なんです。なので、ホームレスや家族と疎遠な人間にとっては1年中で、生きるのが最も厳しい時期になるわけです」と語り、「当時は1日を終えるだけでほんとに感謝していました。ボブと2人で同じように戦っていました。いつも言っていたのですが、ボブって普通の猫じゃないんですよね、だから自分たちにいま何が起きているのか、しっかり分かっていて、そして毎日、一緒に戦ってくれていました」と厳しかった日々をふり返る。『ボブという名の猫2 幸せのギフト』その象徴的な出来事が、劇中でも描かれる動物福祉局がボブとジェームズの生活に干渉してきたことだった。「映画で描かれる動物福祉局とのやり取りは実際に起きたことが基になっています」とジェームズ。「コヴェント・ガーデンはもともと人の往来が多いエリアなんですが、そこの住人なのに人通りが苦手で、ミュージシャンたちによくクレームを言う人がいて。いろいろあり、動物福祉局が『猫を不当に扱っている』と連絡を受けてやってきました」と明かす。だが、実際は映画とは少し違ったようだ。「そのとき、僕らの言い分は聞かずに何かされるんじゃないかと勝手に身構えていたんですが、彼らは僕に話しかける前に、ボブに話しかけたんです。まず猫に話しかけて、次に僕の話に耳を傾けてくれた。動物福祉局は、僕とボブに関しては正しいことをしてくれました。時々彼らも間違った判断をしてしまうけれど、やはり人間というのは表層的な部分で、自分たちの知っていることだけで物事を判断してしまうことがあるからだと思います」と言葉を続ける。『ボブという名の猫2 幸せのギフト』また、「日本ではこの20年、生き物に関する権利などがすごく進歩してきているんじゃないかという印象を、僕は受けてます」と話し、「ロンドン(英国)がものすごく進歩的なわけではないと正直思っています。どこであろうと、どういうふうに生き物たちと伴侶として仲間として付き合っていくかはもっと向上できる、もっといいものにできると思っています」と力を込める。『ボブという名の猫2 幸せのギフト』「看るべき人がちゃんと猫と一緒に暮らしているのであれば、猫だって健康であると思います。例えば映画の中で、ボブが毎日無理やり街に連れ出されているのでは?と危惧されていますが、ボブの場合はみなさんご存知のように積極的に外に出たいという猫でした」。ボブと出会って「魔法のようにすべてが変わっていった」「ストリートキャットだったボブがあなたを選んだ」。劇中にはそんな印象的なセリフも登場する。なぜ、ジェームズはボブに“選ばれた“のだろうか?「それについては毎日考えていることです。特別な小さなボブがなぜ僕を選んでくれたんだろうか?」とジェームズ。「でも、僕の人生は、ボブを優先して考え始めてから魔法のようにすべてが変わっていったんです。ボブのような猫はきっといないだろうし、ボブが起こしたようなことを起こせる猫なんていないだろうし、そんなボブと出会えるなんて全く想像もしていませんでした。だってボブは2本の映画を生み出し、アニメシリーズを生み出し、そして世界中を旅し、東京にも行きました!そして、去年(ボブの)銅像がたったんです」と、ボブと過ごした1つ1つの思い出を噛みしめるかのよう。猫と人間がそこまで絆を築けるわけがない、そう考える人もいるかもしれない。だが、ボブとの出会いは間違いなくジェームズの人生をガラリと変えてしまった。彼はいまや世界的なベストセラー作家であり、慈善活動家だ。「ビッグイシューのための資金集めに関わったり、イズリントン・グリーンにボブの銅像を建てるため(みんなが忘れないようにしたくて)、その資金集めもしました」と言う彼は、「音楽活動のほか、ドキュメンタリーを作りたい」と意欲的だ。「世界の様々な土地へ行って、その土地のホームレスがどのように扱われているのか、ホームレスから話を聞きたいと思っています。英国ひとつとってもその町がホームレスとどう向き合っているか、町によって全く違うんです。東京へ行った時もその向き合い方が違って、例えば公園に泊まっても、朝、一般の人が来る前に公園から姿を消すのを見て胸を痛めたのを覚えています」とジェームズ。『ボブという名の猫2 幸せのギフト』「こういうドキュメンタリーをシリーズで作ることができれば、何かきっと学びがあるんじゃないかと思います。ホームレスの方、社会に関わる方、彼らの介護や福祉をする方、あるいはホームレスを見ないふりをするのか。彼らが泊まれる場所を提供したり、メンタルのケアをしたりしているのか。そういうことを知ることで私たちも学べることがあるんじゃないかなと考えております」と、これからの活動を前向きに、そして真摯に語る。いつかは必ず訪れる“人生の伴侶との別れ”に言いたいことそんな現在のジェームズを見ていると、ボブが遺してくれたものはまさしくギフトだったと思えてくる。「ボブからたくさんのものをもらいました。屋根がある家に暮らせるようになり、世界中を旅することができ、ボブと出会ったことで再び誰かを愛することを学びました。それから、世界をシニカルなものと見ないことも学びました」とジェームズ。「(いま)コロナというパンデミックで、誰かと一緒にいることの大切さを感じます。希望を失わないということも大事。また映画のメッセージでもある“一緒にいることで私たちは強くなれる”ということを改めて考えています」と話す。『ボブという名の猫2 幸せのギフト』だが、誰の身にも、大切な存在と“お別れ”する日がいつか必ず訪れる。ジェームズは涙を堪えた様子で、「大切な人生の伴侶を失ったとき、(その人に)どんな言葉をかけたらいいのかは、とても難しいです」と言う。「自分の一部を失うのと同じことだから。僕もボブが逝ってしまった時、すべてのものを失ってしまった気持ちになってしまったけれど、その時期を乗り越えられた時、ボブは僕がネガティブなことを考えることを望んでないだろうなって思いました。それぞれのやり方で自分の中の強さを見つけて、そして彼らのことを忘れないことが大事なんじゃないかと思います。彼らの自分たちへの愛情というものが、命や肉体に限ったものではないんだ、この世に生きていないからといって愛が消えたわけではないんだと覚えておくことも大事だなと思います」と伝えてくれた。『ボブという名の猫2 幸せのギフト』は2月25日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ボブという名の猫2幸せのギフト 2022年2月25日より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国にて公開© 2020 A GIFT FROM BOB PRODUCTION LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
2022年02月24日都心のタワーマンションの最上階のバスルームでシャワーの水を滴らせながら激しく求め合う男女。Netflixオリジナルドラマ「金魚妻」は、そんな濃厚なラブシーンで幕を開ける。このシーンをはじめ、本作における性的な描写や激しい露出を伴うセンシティブシーンにおいて “インティマシー・コーディネーター”として、俳優陣をケアする役割を担っていたのが浅田智穂である。アメリカでは米HBOの「The Deuce」(2017)で初めて採用され、#MeToo運動(※)の広がりもあって、俳優の安全と尊厳を守るためにとハリウッドでも広く導入されるようになったというインティマシー・コーディネーター。日本では現時点で公式に2人しか存在しないインティマシー・コーディネーターのひとりが浅田さんである。6組の夫婦を軸に、禁断の恋に落ちていく妻たちの姿を赤裸々に描いた「金魚妻」だが、俳優たちが渾身の演技を見せている美しく激しいセンシティブな描写も見どころのひとつである。こうしたシーンの撮影の裏で、浅田さんが果たした役割とは?インティマシー・シーンという仕事の意義、今後の課題なども含め話を聞いた。※ハリウッドの有名プロデューサーによる長年の性的虐待疑惑の報道に端を発し、それまで沈黙を守ってきた多くの被害女性たちが「#MeToo」というハッシュタグをつけて性暴力、セクシャルハラスメントの被害を告発したことで、こうした流れが世界中に拡大し、人々の連帯を生み、性犯罪に対する意識の変革、女性の地位向上を求める大きなムーブメントとなった。「俳優と制作チームの明確なコミュニケーションと同意が得られるよう両者の連携を図る」――浅田さんはアメリカの大学を卒業され、エンタテインメント業界で通訳などをされてきたそうですが、どのようなきっかけでインティマシー・コーディネーターになったのでしょうか?きっかけは昨年Netflixで配信された映画『彼女』という作品でした。Netflixがキャストやスタッフが安心して働くことができ、何よりも気持ちよく作品づくりに集中できる環境を整えたいという考えから、「インティマシー・コーディネーターをつけたい」と考えており、W主演のひとりである水原希子さんからも「インティマシー・コーディネーターを導入したい」という申し出があったとのことで、日本でインティマシー・コーディネーターを探されていたという状況でした。その時点で、日本にはまだインティマシー・コーディネーターがいなかったのですが「トレーニングを受けて、インティマシー・コーディネーターを務めてほしい」というお話をいただき、私のほうも「ぜひやりたいです」とお伝えして、オンラインで講習を受けるなどして『彼女』の現場に入らせていただきました。――オファーが来る以前からインティマシー・コーディネーターという職業についてはご存知でしたか?いえ、知りませんでした。いま思えば、そういう記事を目にした機会はあったと思いますが、まさか自分がなると思っていなかったのであまり意識していなかったんですね。お話をいただいて“インティマシー・コーディネーター”という言葉を聞いた時、それを初めて耳にしたかというとそうではなかったと思いますが、詳しい内容や意義について、わかっていませんでした。――講習やトレーニングでは、具体的にどのようなことを学ばれたんでしょうか?コロナ禍ということもあり、すべてオンラインだったのですが、まずはセクシャリティやジェンダーについて、それからどういうことをハラスメントと考えるのか?どんなことがトラウマとなってしまうか?といったことを勉強しつつ、監督や俳優との向き合い方、脚本を読んで、そこから何を抽出し、どういったことを考えなくてはいけないか?現場での役割、あとは実際の前貼り(※俳優が局部を隠すために使用するシール)や保護アイテムの使い方や種類について。それから、疑似セックスシーンをいかに安全な形でリアルに見せるか?といったことも勉強しました。――TV局ですと「考査部」という部署があり、性描写や暴力シーン、セリフなどで使われる言葉や番組の内容について、指摘や指導を行ないます。基本的にコンプライアンスに沿って、番組や描写がTVで放送するのが適切か否かを考える仕事ですが、インティマシー・コーディネーターという仕事は、あくまでも俳優をサポートし、寄り添うために存在するということでよろしいでしょうか?私たちの仕事は、俳優と制作チームの明確なコミュニケーションと同意が得られるよう両者の連携を図ることです。俳優やスタッフが安全かつ安心して撮影を行なうための仕事であり、あくまでも“コーディネーター”ですので、脚本の内容に関しては基本的には口出しはしません。――依頼があってから実際に撮影が行われるまでのインティマシー・コーディネーターの仕事の流れについて教えてください。まず依頼をいただいたら、脚本をもらって読み込みます。“インティマシー・シーン”、もしくは“センシティブ・シーン”という言い方をするんですが、脚本の中から肌の露出や身体的な接触があるシーンを抜粋していきます。その上で、脚本上のト書きではわかりづらい部分などを含め、それらのシーンでどのような演出や描写を考えているか、監督からヒアリングをします。このシーンで何を見せたいのか?もし決まっているのであれば、カメラアングルやサイズをヒアリングをして、次は俳優とその内容について確認します。「ここまではできるのか?できないのか?」「できないのであれば、どのような変更をすれば可能なのか?」といったことを伺って、撮影内容に本人の同意を得て、同意書を作成します。その後、メイク部や衣装部のスタッフと、撮影までにどのような準備が必要か、撮影当日は何をするかといったことを確認します。ここまでが基本的な撮影前の準備ですね。撮影の当日は、前貼りを着けるお手伝いなどもします。また、センシティブ・シーンは俳優が2人以上いる――つまり相手役がいる場合が多いですが、彼らがその日「はじめまして」の場合もありますし、会ったことや共演経験はあっても、その日撮影するシーンについては話をしていないという場合もあります。ですので、撮影当日はそのシーンに関わる俳優と私とで、お互いの許容範囲をきちんと確認して、勘違いや行き違いがないようにします。現場では、センシティブ・シーンをクローズドセットで撮りましょうという方針を取っています。クローズドセットというのは、撮影人員を必要最小限の人数に抑えて撮影をしましょうということですが、そのルールがきちんと順守されているかをプロデューサーとチェックし、確認しつつ、俳優部を側でサポートします。他部署や監督と必要なことを相談したりもします。――インティマシー・シーン、センシティブ・シーンというのは、どのくらいの範囲を指すのでしょうか?ラブシーンはわかりやすいですが、「金魚妻」でいうと、男性がひとりでシャワーを浴びているシーンや、雨に濡れて女性の下着が透けて見えるようなシーンもあります。一般的にはラブシーン以外でも、シャワーで全裸になっているなど、前貼りを貼らないといけないようなシーンは確実に範囲に入ります。濡れて下着が見える場合は、下着の種類やどの程度、見えるのか?という部分に関して俳優部やプロデューサーと相談していく形になります。下着に関しては、事前にどういう下着なのかということは必ず確認します。あとはキスシーンですね。キスの時に舌は入れるのか?口は開けるのか?といったことも大事な部分なので必ず確認します。それ以外でも、肌の露出が多い時点で、そこにセックスが絡んでいなくともセンシティブ・シーンとして私たちが入るものと考えていただければと思います。――男性のみのシーンであっても、インティマシー・コーディネーターが現場に入るということでしょうか?そうですね。肌の露出ということに関しては、女性であればビキニの水着で隠れる部分、男性も水着で隠れている部分を見せる場合に「露出がある」という考え方です。逆に男性の上半身の裸に関しては、基本的にインティマシー・コーディネーターの仕事の範疇には入っていません。――『彼女』、本作「金魚妻」に続いて、大相撲を題材にしたNetflixシリーズ作品「サンクチュアリ-聖域-」でもインティマシー・コーディネーターを務めているそうですが、これは相撲でお尻が露出するからということですか?いえ、相撲のまわしに関しては、あくまでもスポーツのユニフォームということになるので、そちらは私の範疇外です。ただ、この作品でもインティマシー・コーディネーターが必要なシーンがありましたので、参加することになりました。信頼関係を築くためのコミュニケーションの必要性――実際の現場でのコミュニケーションについて伺います。現場において、脚本に書いてある以上のことをアドリブで行なうことを良しとする風潮であったり、「撮影は生モノだ」という考えの下で、インティマシー・コーディネーターの存在をクリエイティブを阻害する存在として煙たがられることなどはないですか?実際の現場で苦労される部分などについて教えてください。たしかに日本ではそういう風潮は強いですし、そういう信念を持ってらっしゃる方も多いと思います。その中で、私はとにかく「同意を得る」ということを大切にしています。先ほども言いましたが、インティマシー・コーディネーターは、あくまで“コーディネーター”なので、何か権限を持っているわけではありません。ただ私がその作品に呼ばれたということは、プロデューサーや制作会社が、インティマシー・コーディネーターの必要性を認識して、俳優の尊厳や安全を守っていこうとしているんだと信じて、現場に入るようにしています。とにかくきちんと話をして、そこで信頼関係ができれば、撮影当日もうまくいくと信じています。とはいえ、まだこの職業が理解されていないこともあって、煙たがられることも当然、あります。ただ、そこできちんと「何のためにインティマシー・コーディネーターが入っているのか?」をお伝えすることで、理解者は確実に増えていると思いますし、特に俳優部のみなさんからはたくさんの好意的な感想をいただいています。俳優のみなさんには、撮影前の最初のヒアリングの面談で「インティマシー・コーディネーターという職業をご存知ですか?」という話から入るんですけど、正直、警戒されていることが多いです(苦笑)。「この人に説得されて、脱がされることになるんじゃないか?」と構えて面談に来られる俳優さん、マネージャーさんもいますが、そうではなくて俳優を守るため、そして良い作品を作るためにいますということを丁寧に伝えることで、インティマシー・コーディネーターという存在を理解していただけています。――「露出が多い=よくやった!体を張った」と評価されがちな傾向がありますが、もちろん「どこまでOKか?」は人それぞれです。でも、なかなかそれを現場で俳優さんから伝えづらいという空気もあると思います。俳優さんにとって、浅田さんは“味方”であると認識してもらうというのは、大事なことですね。はい。特に男性の俳優に対して、どういったケアをしているのか?というところは、想像しづらい部分もあるかと思いますが、実際に話を伺うと、センシティブシーンの相手役の女性を傷つけないようにと気遣いをされている男性の俳優は非常に多いんです。ただ、そうした気遣いをあれこれとしなくてはいけないことによって、その俳優さんの仕事が増えてしまうわけで「お芝居に集中したいけれど、相手のケアもしないと…」という部分に関して「そこは私に全て任せてください。きちんとサポートさせていただきますので」と伝えることで「すごくやりやすくなった」、「負担が軽減された」とおっしゃっていただけることが多いです。――先ほど、講習の段階で疑似セックスシーンについても学ばれたという話でしたが、必要に応じて現場で監督に「こういう撮り方はどうか?」などと提案されることもあるんでしょうか?そうですね。事前に絵コンテなどがある場合は、基本的にその内容を確認しつつ「ここからここにいく時の流れはどんな感じですか?」など必要な質問をし、そこで逆にアドバイスを求められることもあります。そういう時は私なりの考えをお伝えします。また「こういうシーンにしたいけど、この俳優さんが見せられるのはここまでだったら、どうすればいいのか」といった場合に「じゃあ、こういうやり方はどうでしょう?」とか「こういう見せ方なら大丈夫そうです」と監督にお伝えします。あとは実際に現場に行ってみたら、何らかの事情で予定していたカメラ位置が難しかったりとか、さまざまな事情で変更が加わることもあります。そうした場合に新たに提案をすることもあります。俳優が見せられない部分を隠さなくてはいけない時、不自然な隠し方にはしたくないので、それをより自然に見せるための工夫・理由が必要になります。そういった部分で少しアドバイスさせていただくことはありますね。――現場で監督から「できればこっちからの角度でも撮りたい」とか「カメラをこうしたい」など、事前の打ち合わせになかったアイディアをやりたいと言われることも…?ありますね。あまり大々的な新しい提案が当日にあると難しいですが、私のほうで事前にある程度まで想定した上で、俳優さんとのヒアリングをするようにしています。「絵コンテではこうなってるので、こういう撮り方になっていますが、もしかしたら、こういう感じの撮影もあるかもしれません。その場合、ここがもう少し露出することになるかもしれませんが…」といったことはお伝えしておきます。もし当日に監督から「こうしたいんですけど」と変更を提案されても「もう一度、確認はしますが、大丈夫なはずです」と言えるように、全くのゼロからの確認とならないように、ある程度のバッファを想定して準備するようにしています。――「金魚妻」では1話ごとに複数のセンシティブシーンがあり、バリエーションもさまざまですが、特に苦労されたり、印象に残っているシーンを教えてください。やはり冒頭の安藤政信さんと長谷川京子さんのシーンは、作品の大きな「顔」とも言える、この作品を印象づける重要なシーンでしたので制作陣、キャスト全員で「素敵なシーンにしよう!」と頑張りました。そこはすごく印象に残っています。特にシャワーなどで水を使うとなると、撮影はすごく大変なんです。水に濡れると前貼りの粘着力も弱まりますし、濡れた衣装や小道具を乾かすとなるとまた俳優部・スタッフの負担になるので、大変な部分ではありましたが、苦労のかいもあって素敵なシーンになったんじゃないかと思います。このシーン以外にも、たくさんの恋愛のパターンが出てきて、だからこそセンシティブシーンのバリエーションも本当にさまざまで、そこは監督もシーンごとにどんな見せ方、感情表現をするかを考えてらっしゃったので、そこに協力して一緒に良いものを作り上げられたかなと思います。――現場でのコミュニケーションで特に印象深いことがあれば教えてください。現場ではなく、事前のヒアリングの面談の時のことなんですが、先ほども言いましたように、みなさん、どうしても不安な感じで「どんな話をするんだろう?」という感じで来られる方が多いんです。そんななかで、松本若菜さんはすごくニコニコしながら入ってこられたんです。私が「インティマシー・コーディネーターという職業を知っていますか?」と尋ねたら「知ってます!この間、インティマシー・コーディネーターの記事を読んで、こんな素晴らしい職業があるんだ!?と知ったと思ったら、こんなに早くご一緒できる機会があるなんて嬉しいです!」ということをおっしゃってくださって、それは本当に感激しました。今後の課題・改善点「いかに日本のやり方に合わせていくか」――『彼女』「金魚妻」「サンクチュアリ-聖域-」とインティマシー・コーディネーターとしての活動する中で、浅田さんの中でインティマシー・コーディネーターの仕事について考えが変わった部分などはありましたか?また日本において、インティマシー・コーディネーターの重要性がより認識されるために必要なことは何だと思いますか?いま、公式にインティマシー・コーディネーターは私を含めて2人しかいませんので、インティマシー・コーディネーターという職業の向上や成長という意味では、私が成長するしかないという状況なのですが…(笑)。そもそもアメリカにおけるインティマシー・コーディネーターは、俳優組合という後ろ盾があって、そのルールを遵守して仕事をすればよいのですが、日本にはルールやガイドラインがありません。なので、私のほうから「こうしてください」とお願いすることはできても、相手がそれを聞かなくてはいけないというルールも罰則もないんです。私自身、アメリカ式のトレーニングを受けてインティマシー・コーディネーターになったので、1本目の『彼女』のときは、アメリカ式のルールの下でインティマシー・コーディネーターをやらなければいけないという意識が強かったです。日本とアメリカでは映画づくりの慣習などでさまざまな違いがあるということは理解しつつも、どこまで日本の現場に合わせるべきなのか?ということがわかりませんでした。その後、今回の「金魚妻」や「サンクチュアリ-聖域-」、他にNetflix以外の作品でもこの仕事をさせていただくようになっていますが「いかに日本のやり方に合わせていくか?」というのはすごく大事な部分だと感じています。とはいえ、柔軟性をもって日本の現場に合わせたいと思いつつも、柔軟過ぎて個々の現場によってあまりにも違いが出てきてしまってはいけないと思っています。「あの現場ではOKだったのに、この現場ではNGってどういうことなんだ?」となっても困ってしまうので、柔軟に現場に合わせつつ、やはり最も守らなくてはならないのは、俳優の尊厳であるという、そのバランスが大事だと思います。確実に理解者は増えていますし、加えてオーディエンスのみなさんもインティマシー・コーディネーターの存在を知り始めたこともあって、「現場に入っていると安心する」という声を実際に耳にすることも多いです。それは嬉しい変化ですね。――やはりガイドライン、共通のルールなどを策定することが必要となってくるのでしょうか?そうですね。現場によって環境が違うので難しいですが、個人的にはどの現場においても「俳優の同意を必ず得ること。そこに強制が絶対にないこと」、「必ず前貼りをすること。それは衛生面や安全性も考えてのことで『着けません』というのは認めない」、そして「クローズドセットと呼ぶ最少人数で撮影するスタイル」の3点を現場スタッフに守っていただくよう心がけています。この3つの点に関しては、既にきちんと機能し、守られていると言えますが、守るべきルールはそれだけではないので、そこは今後、改善を重ねていかなくてはいけないと思っています。私自身、インティマシー・コーディネーターとして関わった作品はまだ多くはなく、いまの私の経験値では「こういうルールでやっていきましょう」と決められるところにまで到達していませんので、今後、インティマシー・コーディネーターが入ったことによって作品がより良いものになったという事実を積み重ねて、インティマシー・コーディネーターの需要が増えていくという流れになっていけばいいなと思っていますが、現状は自分が経験値を増やしているというところですね。――最後に映画業界を志す人たちにメッセージやアドバイスをお願いします。インティマシー・コーディネーターをする上で、やはり一番大切なのはスタッフや俳優とのコミュニケーションです。いかにきちんと話し合えて、お互いを理解できるか?というのが大事だと思っています。いろんな人と会って、いろんな状況で、いろんな話をするという経験が活きてくると思います。もし、私が20代だったら、今のこの仕事はおそらくできていなかったんじゃないかと思います。俳優と話す時も表面的な話だけではなく、しっかりといろんなことを話し、こちらも相手が言うことを受け止めなくてはいけません。その土台をつくるためには、いろんな人と会い、いろんな経験を積むことが大事だなと思います。それから、自分がこのような職業につくとは想像していませんでしたが、今までの経験とご縁でインティマシー・コーディネーターのお話をいただきました。振り返ってみると、本当に今までの経験すべてが活かせていると思います。その時その時に興味があることに全力投球した経験は、何かにつながるのではないかと思います。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-
2022年02月21日【音楽通信】第104回目に登場するのは、やさしさあふれるバラードから力強いロックチューンまで、多彩な歌声を届けてくれる、シンガーソングライターのmiwaさん!幼い頃から歌手になりたいと思っていた【音楽通信】vol.1042010年の大学1年生のときにメジャーデビューしたmiwaさん。翌年にリリースした1stアルバム『guitarissimo』は、平成生まれのシンガーソングライターとして、初めてアルバムチャート1位を獲得。以降、透明感がありながらも力強い歌声で、数々のヒット曲を聴かせてくれています。そんなmiwaさんが、2022年2月23日に5年ぶり、6枚目となるニューアルバム『Sparkle』をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――小さい頃やデビューする前によく聴いていた音楽から教えてください。親やまわりの友達が聴いているようなJ-POPや洋楽をよく聴いていましたね。親世代が聴くような年代のものから、友達が聴くような当時の流行の曲まで、幅広く音楽を聴いていました。――15歳の頃からギターでオリジナル曲を作り始めたそうですが、そもそも楽器を始めたきっかけがあったのですか。クラシックピアノを10歳までやっていたのですが、やめてしまって。その後、シェリル・クロウやアヴリル・ラヴィーンなどの女性アーティストが、自分でギターを弾きながら歌っている姿を見て「かっこいい!」と影響を受けて、15歳から自分でもギターをやりたいなと思って始めました。――19歳のとき、シングル「don’t cry anymore」でデビューされましたが、実際にアーティストになろうと意識されたのはいつ頃なのでしょうか。歌手になりたいというのは、幼い頃から思っていました。でも、歌手になりたいというのは漠然とした夢だったんです。成長して、自分で作詞作曲をするようになってからは、「シンガーソングライターになりたい」と、具体的に目指す夢になっていきました。新作は“自分らしく輝く”ということがテーマ――2022年2月23日に6枚目となるニューアルバム『Sparkle』をリリースされます。タイアップ曲や新曲が収録された今作ですが、どんな思いが込められていますか。まず1曲目に「Sparkle」というタイトル曲があるのですが、この曲は“自分らしく輝く”ということをテーマにしています。いまの世の中、なかなか自分を解放したり新しいことを始めたりという前向きでポジティブな気持ちになりづらい状況で、ふさぎこんでしまう瞬間も多くある感じがするのですが、そんなときにこそ音楽が少しでも励みになって背中を押せればいいなと。曲自体はかなり前に書いた曲なんですが、いま聴いてみると、こういった世の中で同じ時代を生きる人たちに響くメッセージになっているのではないかなと感じています。――アルバムのジャケットもきらめいていて、タイトルのお話でもお聞かせくださいましたが、こちらも“輝く”というコンセプトでしょうか。そうですね。外に向かって輝いていくようなきらめき、自分の内側からあふれる輝きのようなイメージを大事にしました。手に取る方がハッとするようなポジティブさや、未来に向かって進んでいける希望を持てるジャケットにしたくて。こだわりを持ってスタッフの方たちも含めてみんなで作っていきました。衣装も着たことのないようなものだったり、メイクもホログラムをたくさんつけてみたりしています。――では4曲目「UUU(ユーユーユー)」はどんなふうに生まれた楽曲でしょうか。曲に出てくる主人公は学生で、恋愛をテーマにした曲です。いま10代の方は、もっとSNSが身近で、スマホが生活に密接にリンクしていますよね。わたしが10代だったときはLINEがまだなく、携帯のメールが中心だったと思うのですが、いまはTwitterもInstagramもLINEもなんでもあって、ある意味スマホの中の世界がリアルのような気がしていて。そんなSNS上のやりとりに一喜一憂して、スマホを手放せなくなっているということが起きているんじゃないかなと思うんです。わたしが学生の頃はメールの返信がきていないと、折り畳み式の携帯電話の画面をパカパカ開く時代で、そんな気持ちを思い返していました。そういったスマホの中の恋愛、相手とのやりとりに夢中になっている瞬間をとらえている曲になっています。――では、いつも曲を作られるときは、主人公を設定して、物語を作り込んでいらっしゃるのですね。この曲のようにテーマを決めて書くときと、曲にひっぱられてテーマができあがっていくときと、両方ありますね。いろいろなアプローチで作っています。――10曲目「Storyteller」は強い信念を感じる歌詞のロックナンバーですね。こちらはどのように作っていかれたのですか。最初からタイトルとテーマを決めてから作った曲ですね。「Storyteller」というタイトルから連想する自分らしさや、自分の人生を主体的に生きるというような意味を込めています。誰かに「こういう生き方だよね?」と言われるのではなく、自分から「これが私の人生です」と自分で言える力強さを表したいと思って書きました。ある意味、シンガーソングライターという仕事も、自分の考えや信念を曲に込めていける職業だと思うんです。そういったなかで、自分の思いをかたちにするという視点から、この曲が生まれてきました。――12曲目「君の声が」は、miwaさんの歌声がダイレクトに届くバラードですが、どんなシチュエーションから生まれましたか。実はアルバムの中で、もっとも昔に作った曲です。当時、(イギリスのシンガーソングライター)エド・シーランに感化されて、彼のようにエレキギターでラブソングをロマンチックに歌うことをやってみたいと思って。そんなことを一緒に曲を作ってくれているプロデューサーのNAOKI-Tさんと話しながら作っていったので、あらためてこのアルバムを作るときに歌詞を完成させていきました。そのときに、当初思い描いていたすごくロマンチックな部分を大切にしようと思って、何度でも出会って、何度でも恋をする、出会いの奇跡と運命みたいなものを歌っている曲です。――ラストを締めくくる13曲目「Who I Am (Album Version)」は、一度2020年に配信された楽曲でもありますが、今回あらたに収録されたのはどのような思いからですか。今回、頭のサビの部分を英語にしたのですが、この英語のテイク部分は2019年の1月に、ロサンゼルスで作った曲なんです。2017年にリリースした「We are the light」という曲があるのですが、その曲はLA在住のプロデューサーher0ism(ヒロイズム)さんやTova Litvin(トヴァ・リトヴィン)というメンバーと日本で制作して。そのときのメンバーと今回、LAで再会して、また3人で作ったんです。なかでもTovaとは、以前も初めて会ったのにすぐ意気投合して、今回LAでの再会もお互い楽しみにしていて。私がショートヘアにしてからの再会でしたが、偶然Tovaさんも髪を何十センチも切っていて「お互い髪切ったね」という話から近況を話していくうちに、同性で同世代ということもあって共感する部分がありました。そのなかで「私たちらしさってなんだろう」と、自分の人生の進め方について、親友のように語り合ったままの気持ちで作った曲なので、私にとっても人生のターニングポイントとして大事な曲です。自分自身もすごく励まされましたし、力がわいてくる気がしていて、そのときにLAで録ったデモが、今回のアルバムバージョンに入っているものになります。実は東京でも英語バージョンも日本語バージョンもレコーディングし直しているのですが、聴き比べてみると、やっぱりLAで録ったデモのほうが作ったときの感情が詰まっている気がして、すごくよかったんです。そのときのパッションを大切にしたいと思って、そちらを今回入れてみました。――2月からは「miwa concert tour 2022 “Sparkle”」と題した全国ツアーも開催されます。どのようなステージになりますか。久しぶりにバンドでまわるツアーになるので、すごく楽しみにしています。東名阪で行うのですが、とくに名古屋公演は久しぶりで、数年ぶりに会う方もいるでしょうし、いまライブができること自体が貴重なことですから、無事に開催できることを祈るばかりです。来ていただける方々も、体調に気をつけていただきながら、こちらもできる限りの対策をして、安全にみんなで楽しめるライブにしたいと思っています。東名阪ツアーでみなさんに会えるのが楽しみ――Tovaさんとのエピソードでもお話しくださいましたが、以前はロングヘアのイメージもあったmiwaさんですが、いまショートカットで、今後はどんな髪型をお考えですか。一度ショートから伸ばして、ボブにしてみたのですが、なかなか長くなるまでの途中段階が難しくて、髪を伸ばすのはけっこう大変だなあって(笑)。もし今後髪を伸ばすとしたら、肩につくぐらいの長さにしようかなと。――では普段のスキンケアなどで意識されていることはありますか。スキンケアではそれほど意識していることはないのですが、けっこう敏感肌なんです。いまはマスクの時代じゃないですか。私はどうしても不織布マスクだと肌が荒れてしまうので、マスクの中に洗えるタイプの布を入れてから、不織布マスクをつけて二重にしてつけています。――では最後に、今後の抱負をお聞かせください。今年は5年ぶりに、『Sparkle』というオリジナルアルバムをリリースできるのが本当にうれしいんです。アルバムには未発表曲も入っていて、シングルとしてリリースした曲も含めて聴いていただけると、前向きになったりほっこりしたり奮い立ったり。バリエーションのある曲が入っているので、知っている曲も知らない曲も、ひとつの作品として全部聴いていただければうれしいです。東名阪ツアーで、みなさんに会えるのを楽しみにしています。取材後記華奢な印象ながら、歌や楽曲ではパワフルなパフォーマンスで活躍されているmiwaさん。ananwebの取材では、アルバムのタイトルではないですが、どこかキラキラとした輝きを感じさせるさわやかさでインタビューに応えてくださいました。そんなmiwaさんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりmiwaPROFILE1990年6月15日、神奈川県葉山生まれ。15歳の頃、シェリル・クロウやキャロル・キングなどの女性シンガーソングライターの影響を受け、オリジナル曲を作り始める。自宅で弾き語りしたデモテープを手にライブハウスへ飛び込みで出演をブッキング、ライブ活動をスタート。下北沢のライブハウスで演奏する姿が関係者の目にとまり、デビューに向けて本格的な楽曲制作に入る。2010年、大学1年の3月にシングル「don’t cry anymore」でメジャーデビュー。2011年4月、1stアルバム『guitarissimo』をリリースし、オリコンアルバムチャート1位を獲得。平成生まれのシンガーソングライターとして初となった。2012年、シングル「ヒカリヘ」が大ヒット、大学卒業と同時に初の日本武道館公演を開催。2013年から2016年まで、4年連続でNHK紅白歌合戦出場を果たす。2022年2月23日、6枚目となるニューアルバム『Sparkle』をリリース。同日より、東京・大阪・愛知、全国3箇所を巡るツアー「miwa concert tour 2022 “Sparkle”」を開催。InformationNew Release『Sparkle』(収録曲)01. Sparkle02. CLEAR03. リブート04. UUU05. DAITAN!06. ティーンエイジドリーム07. Holiday08. Aye09. アイヲトウ10. Storyteller11. 神無-KANNA-12. 君の声が13. Who I Am (Album Version)2022年2月23日発売*収録曲は全形態共通。(初回仕様限定盤)SRCL-12058(CD)¥3,300(税込)(初回生産限定盤A)RCL-12054-12055(CD+Blu-ray+豪華ブックレット)¥6,100(税込)<特典:Blu-ray収録内容>miwa Billboard Live Tour 2021 “miwa CLASSIC”:1.Delight、2.friend 〜君が笑えば〜、3.アイヲトウ、4.みんなでお楽しみメドレー(春になったら/ミラクル/シャイニー/君に出会えたから)、5.月食 〜winter moon〜、6.片想い、7.オトシモノ、8.Faith、9.ヒカリへ、10.神無-KANNA-(初回生産限定盤B)SRCL-12056-12057(CD+Blu-ray)¥5,500(税込)<特典:Blu-ray収録内容>“miwa clips vol.3”:1.Princess、2.結 -ゆい-、3.シャイニー、4.アップデート、5.タイトル、6.RUN FUN RUN、 7.リブート、8. Storyteller、9.ティーンエイジドリーム、10.DAITAN!、11.神無-KANNA-、12.アイヲトウ、13.Sparkle、14.Sparkle(Music Video Making)取材、文・かわむらあみり
2022年02月18日【音楽通信】第103回目に登場するのは、歌に芝居に大活躍するなか、今年デビュー20周年というアニバーサリーイヤーを迎える、森山直太朗さん!心象風景は子どもの頃に舞台袖から見た景色【音楽通信】vol.1032002年10月、ミニアルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』でメジャーデビューし、2022年10月でデビュー20周年を迎える、森山直太朗さん。これまで胸に響く数々の名曲を世に送りだすアーティストとして、ドラマや映画では鮮烈な印象を残す役者として、わたしたちにたくさんの感動を届けてくれています。そんな直太朗さんが、2022年3月16日、オリジナルアルバム『素晴らしい世界』をリリース、その収録曲から「愛してるって言ってみな」が2月14日に先行配信されたばかりということで、あらためて音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――あらためまして、そもそも森山さんが幼い頃、音楽に触れたきっかけはなんですか?ずっと心象風景として心に残っているのは、子どもの頃、母のコンサートに行った際、舞台袖を通るときに、ふと舞台を見ると、照明がたかれて真っ白くなったあの景色を子どもながらに覚えています。今では普通の風景になりましたが、あの時のそういう原風景に未だに心を焦がしているというか、音楽というよりも、舞台というものの魅力や、神秘的な場所という感覚が強かったのかもしれません。そのあと紆余曲折あって、音楽は親がやっていることだから、音楽なんか絶対やるもんじゃないと、どこかすごく斜めに見ていた時期もありましたね。――自然とご家族から、音楽的な影響を受ける機会は多くなりますよね。5歳上の姉からも、いろいろな音楽を聴かされました。僕が小学校4年生の頃、岡村靖幸さんやTHE BLUE HEARTS、大江千里さんとか。当時はバンドブームでしたし、ニューミュージックも盛り上がっていた時期で、好きとか嫌いといった分別がつく前の段階で、ライブにも連れていかれました(笑)。あとはたまに母がカレッジフォークのイベントに出ると、古き良きフォークシンガーたちが一堂に会していて、ギター1本持って、みんなで歌ったりハモったりしているのが、自分の原風景です。音楽に対して、斜め後ろから見ていた時期には、玉置浩二さんが家によく来ていました。その度に、ザ・ビートルズの曲とか、玉置さんが何か酔っ払って、ギター弾いて歌うんです。歌詞とかは、今思い返すとめちゃくちゃなんだけど(笑)、もうね、それでも素晴らしいんですよ。だから、そういうものを間近で見られたっていうのは、すごく貴重な体験でしたし、心のどこかで「こんなふうに声を出せたら、さぞ楽しいし、気持ちいいだろうなあ」という憧れはありましたね。だから、影響を受けたといえば、玉置さんじゃないかなと思います。ーー最初に演奏された楽器は、ギターですか。幼稚園と小学校の頃、ピアノのレッスンを受けていました。でも不真面目で、いつもピアノの先生にキャッチボールしてもらって遊んでいましたけど(笑)。能動的に楽器をやりだしたのは、中3ぐらいから始めたギターになりますね。――今年はデビュー20周年というアニバーサリーイヤーとなりますが、あらためて振り返っていかがですか。正直、実感がないというか……。でもこうやって新しいアルバムを作ったり、取材をしていただいたりするなかで、「いよいよもう20年か」と。取材を受けながら、ちょっとずつ帯を締め直している状態です。感覚としての意味でいえば、20周年は、通過点ですね。パーソナルな20周年のオリジナルアルバム――2022年3月16日にニューアルバム『素晴らしい世界』をリリースされます。いつ頃から制作されていたのですか。昨年の今頃には、今年の3月にリリースするということは決まっていました。制作でいうと、レコーディングスタジオでプリプロみたいなものをやりだしたのは9月下旬。でもそのきっかけになったのは、「素晴らしい世界」という曲ができたことが、すごく大きかったんじゃないかな。――アルバムのタイトル曲「素晴らしい世界」が、一番思いのこもった曲となるのでしょうか。そうですね。「素晴らしい世界」という曲ができたときに、「これでアルバムを作っていける」と感じた今作の軸となる曲です。それは狙ってもできないですし、限られた時間の中で探していくしかない。自分の思いや姿勢を表せるものが、アルバムの指針となります。昨年の夏に僕がコロナになって、寝込んでいたとき、大袈裟かもしれないけど、外に出れず、誰とも会えず、社会と断絶された孤独のようなものも体験して、すごく不安でした。でも、社会や人間関係から遠ざかって、音楽をするしないどころじゃない状況で、同時に今まで縛られていたしがらみのようなものから解かれていく感覚もありました。結局、孤独や大きな闇の向こうにあったのは、ただの“解放”だったんです。まるで無重力で宇宙に浮いているような感覚。それは普段の生活では毛頭得られないものですから、どこか思考がぶっとんでいるんです。すべてのことがどうでもよくて、何にも気にならなくなる。解放された後は、いつもならなんでもない景色が、本当に懐かしく、あたたかく自分の目に飛び込んできて感動したんですよね。それは感情的な感覚ではなくて、シンプルに「ただ生きているんだ」という実感。そうなったときに、(共作者の)御徒町凧から渡されていた「素晴らしい世界」という言葉の響きがピンときて、メロディがふと降りてきました。どうやら世界は「自分自身の外側にあるものではなくて、内側に存在しているものなんだな」と。――今回先行配信される「愛してるって言ってみな」は、森山さんによる作詞曲のポップチューンですね。タイトル曲の「素晴らしい世界」とは相反する曲調でありながらこの2曲は、共通する思いがあるのですか。この曲は、アルバムの軸となる「素晴らしい世界」という曲ができたときに、寝込んでいるベッドの中で「愛してるって言ってみな」をふと思い出したんです。10年前ぐらいから自分の中にモチーフにあった曲なんですが、当時はあまりにもポップな曲なので、自分らしくないかな、カッコ悪いかなと思ってリリースにまで至らなかった。だけど、もう自分の中で自意識みたいなものが良くも悪くも気薄になっているから、「素晴らしい世界」と「愛してるって言ってみな」という、この対照的な2曲がアルバムの指針になると、その時なぜか実感していて(笑)。いつもサポートしてくれるピアニストの櫻井大介くんにアレンジしてもらって、さらに確信が深まりました。今回、この2曲がどれだけ励みになったか計りしれません。「いつか体が良くなったら、この2曲をレコーディングするんだ」という思いが自分の唯一のモチベーションでした。――アコースティックな新曲の6曲目「boku」と10曲目「papa」も、では寝込んでいるときにひらめいて……?いえ、10月ぐらいかな。「boku」という曲を作り始めて、ちょっと時を遅れて「papa」という曲ができました。実は「papa」という曲は、20歳ぐらいからモチーフがあって、最初は「mama」というタイトルだったんです。母性に対する、言葉にならない普遍的な感覚を歌う曲なのかなぁと思いながら形にならない時期を経て、ある意味パーソナルでもある今回の20周年のアルバムができる中で、この曲を見つめ直すきっかけがありました。この曲をアルバムに入れようとなったときに、「待てよ、自分の中にある強烈なコンプレックスや愛情は、もしかしたら親父に向いているものなのかもしれない」という思いに気づいて、「mama」ではなく迷わず「papa」に変換してみたら、いろいろなことがつながったんです。例えば、お母さんと娘って独特じゃないですか、ある時はライバル、ある時は姉妹みたいに。父と息子にも、そんなような言葉にはできない“つながり”みたいなものがあって、自分で今まで掘り下げることを避けてきたけれど、ここを通らないとダメだなって、音楽だったら答えが見つけられるんじゃないかなと。昔だったら、その答えにたどり着いていなかったかもしれない。さまざまな経験を経て、自分の中に抱いていた大きなしがらみのようなものから抜けられたんです。雨に濡れて重たくなった荷物をおろした感覚。今まで人間関係や曲作りなどで、踏み込んだり向かったりすることをしているつもりで、できていなかった部分があるんだなと、今回のレコーディングでわかりました。今までとはちょっと違う世界観にはなりましたが、今だからこそというものにもなったんじゃないかなって。その象徴が「papa」や「boku」という曲。でも、もう45歳にもなって、20周年のアルバムで“パパ”と“僕”っていう曲があるなんて、やばくないですか(笑)?でも、そういう気持ちさえも、もう、どうでもいいやっていう感覚なんですよね。最後のアルバムだと思って(笑)、リリースします。――今年から来年にかけて、全国を100本もまわるツアーを開催されるそうですね。どんなステージになるのでしょうか。新作からの曲はもちろん演奏しますし、大きくは自分のルーツを辿っていくようなツアーになるんじゃないかなと思います。「100本」というのは、とてもわかりやすい数字ですし、母親もそうですがフォークシンガーの先輩たちは、ギター1本持って100本でも200本でもツアーをやっていた時代があったんですよね。こういう時期ですから、各会場で細心の注意と準備をして、「前編、中編、後編」の3段階に分けて、違う種類のステージをいろいろな楽しみ方で披露していく全国ツアーを100本まわろうと思っているんです。まずは、インディーズ時代によくお世話になった、東京の吉祥寺にある「曼荼羅」というライブハウスで6月5日から、スタートする予定です。どんなときも粛々と歌を届けていきたいーーお話は変わりますが、音楽活動以外のときは普段、なにをしていますか。日課やご趣味があれば教えてください。日課といえば、飼っている小鳥の世話になりますね。あとはビールより日本酒派なので、家でゆっくり日本酒を飲むこともあります。趣味は、家具屋巡りでしょうか。古着や古家具を見るのがすごく好きで、やっている音楽もそうですが、アンティークなものがとても好きなんですよ。誰かにとってのゴミみたいなものが、誰かにとっての宝物になる、という瞬間が良いなって。骨董市などに行くと、そういうものがたくさんあって、たとえば「こののっぺらぼうの木彫りの仏像、なんか訴えかけてくる……」というようなものが好きなんです(笑)。休みになると、そういうところに赴いて、ぶらぶらしていますね。――ステージ衣装などもおしゃれな印象がありますが、ファッションへのこだわりはありますか。とくに普段も意識しているところはないんですよ。衣装は、スタイリストさんについていただいていて、ステージでは、アーティストをどう見せるかではなく「曲がよく伝わるにはどんな背景が一番良いのか?」ということを考えることが大事なので、曲によって自分がどういう立ち位置でいられるかという観点で衣装を選んでもらっています。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。このような状況下でもありますから、どうなっていくかはわかりませんが、とにかくどんな状況でも最善の注意と感度を保ちながら歌っていけたらと思っています。今年は100本ツアーがありますから、始まってしまうとめまぐるしい毎日だと思うので、それまでにどれだけ準備ができるかなのだとも思っています。何より行った先々で、みなさんにお会いできることを楽しみにしています。取材後記2022年にメジャーデビュー20周年という、記念すべき年を迎えた、森山直太朗さん。ananwebの取材では、新作のお話から普段のご様子まで、時に凛々しく時に楽しくお話ししてくださいました。「20周年は通過点」と語る直太朗さんのこれからのご活躍も応援しています。そんな直太朗さんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・北尾渉 取材、文・かわむらあみり森山直太朗PROFILE1976年4月23日、東京都生まれ。少年時代より一貫してサッカーに情熱を傾ける日々を送るが、大学時代より本格的にギターを持ち、楽曲作りを開始。その後、ストリートパフォーマンス及びライブハウスでのライブ活動を展開。2001年3月、インディーズレーベルより“直太朗”名義でアルバム『直太朗』を発表。2002年10月、ミニアルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』でメジャーデビューを果たし、2003年「さくら(独唱)」のヒットで一躍注目を集めた。2005年に音楽と演劇を融合させた劇場公演『森の人』を成功させ、2006年は御徒町凧の作・演出による演劇舞台『なにげないもの』に役者として出演。劇場公演としてはその後も2012年『とある物語』、2017年『あの城』を上演。音楽だけにとどまらない表現力には定評がある。2018年10月~2019年6月まで、全51公演のロングツアー、“森山直太朗コンサートツアー2018~19「人間の森」”を全国各地で開催。2020年1月からNHK土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』、4月からNHK連続テレビ小説『エール』に出演し、その演技力が評価された。2021年8月からテレビ東京ドラマプレミア23『うきわ -友達以上、不倫未満-』に俳優として出演。9月には、歴代名だたるアーティストがカバーしてきた名曲「遠くへ行きたい」、10月には同年1月に全国公開され、森山も出演した映画『心の傷を癒すということ』主題歌として書き下ろした「カク云ウボクモ」、11月にはテレビ東京系ドラマ24『スナック キズツキ』エンディングテーマ「それは白くて柔らかい」を配信リリース。2022年2月14日、シングル「愛してるって言ってみな」配信。3月16日にオリジナルアルバム『素晴らしい世界』をリリース予定。6月5日から「全国100本ツアー」を開催。10月には、デビュー20周年を迎える。InformationNew Release「愛してるって言ってみな」2022年2月14日配信New Release20周年オリジナルアルバム『素晴らしい世界』(収録曲)01. カク云ウボクモ02. 花(二〇二一)03. 愛してるって言ってみな04. 素晴らしい世界05. boku06. papa07. 落日(Album Ver.)08. すぐそこにNEW DAYS09. 最悪な春(Album Ver.)10. さくら(二〇一九)11. されど偽りの日々12. それは白くて柔らかい2022年3月16日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)UICZ-9213(CD)¥3,300(税込)*ダブル紙ジャケット仕様。*初回プレス出荷終了次第、同価格の通常仕様(UICZ-4598)に切り替わります。(初回限定盤)UICZ-9207(CD+詩歌集)¥5,500 (税込)【初回限定盤特典】・ボーナストラック3曲:さくら(二〇二〇合唱)、最悪な春(弾き語り)、ありがとうはこっちの言葉。・「森山直太朗 詩歌集」(全100曲、約200ページ)。*紙ジャケット&スリーブケース仕様。(ファンクラブ限定盤)D2CT-1737(CD+詩歌集+DVD)¥7,700(税込)*ボーナストラック、詩歌集は、初回限定盤と同内容。【ファンクラブ限定盤特典】・DVD(森山直太朗ファンクラブツアー2020「十度目の正直」ツアーファイナル配信公演 完全収録)・ファンクラブ限定盤オリジナル ビジュアルしおり。*ファンクラブ盤はファンクラブ会員限定販売。写真・北尾渉 取材、文・かわむらあみり
2022年02月14日その“大怪獣”の名前は「希望」。最全長(頭から尻尾の先までの長さ)は380メートルで、これは東京ドームの長径の1.5倍で、渋谷駅前の忠犬ハチ公像から渋谷パルコまでの距離(徒歩約5分)とほぼ同じ。映画の中で描かれる足を空に突き出して倒れた状態での高さは155メートルで、通天閣の約1.5だという。映画『大怪獣のあとしまつ』に「怪獣造形」という立場で参加し、この大怪獣を作り上げたのが、1990年代から2000年代にかけての東宝の『ゴジラ』シリーズや円谷プロダクションの『ウルトラマンコスモス』シリーズ、『ガメラ2 レギオン襲来』などの特撮映画に携わり、数々の怪獣、モンスターたちを手掛けてきた若狭新一である。映画・エンターテインメントに携わる人々に話を聞く連載【映画お仕事図鑑】。今回は若狭さんにインタビューを敢行! 日本の特撮映画においても類を見ないほど巨大で、しかも“死体”として登場することになった大怪獣はどのように生まれたのか?スタッフクレジット:怪獣造形監督のリクエスト:昔の恐竜図鑑に載っていた恐竜のような巨大な怪獣――若狭さんがこれまで携わってきた映画のクレジットを見ると「怪獣造形」「特殊造形」「クリーチャークリエイト」など様々な名称で表記されていますが、若狭さん自身はご自身ではどういった肩書きを名乗ってらっしゃるんでしょうか?特殊メイクから今回のような怪獣の造形までいろんなことをやっていますし、仕事の場も映画やTV、CM、最近ではテーマパークの着ぐるみまで様々なんですが、基本的な仕事の内容は“キャラクターを作る”ということなんですね。その意味で、作品によってクレジットのされ方はいろいろですが、仕事の名前としては「造形」であり、僕自身を紹介していただく場合「造形師」という肩書きで表記していただくことが多いですね。――今回の映画『大怪獣のあとしまつ』では「怪獣造形」とクレジットされています。このクレジット自体が、日本でいかに怪獣映画が当たり前の存在かというのを感じさせますね。「怪獣造形」と書いてあれば、それだけでほとんどのみなさんが、なんとなく「怪獣を作ってる人なんだな」とわかってくれますよね。海外の映画だと、「造形」という言葉はわりと抽象的な言葉なので、どう表記するかって難しくて、直訳すれば「model」とか「modeling」なんですけど、実際にそう表記されるかというと、そうでもなくて「Special Make Up Artist(特殊メイクアップアーティスト)」みたいな表記になったりしますね。実際、僕自身も特殊メイクの仕事もしているので、遠からずという感じではあるんですけど。――若狭さんが造形師を志すようになったきっかけを教えてください。僕は1960年生まれですから、5~6歳で「ウルトラQ」、小学生に上がったら「ウルトラマン」の放送が始まって、空前の怪獣ブームがあって…。1960年代生まれの少年の基本という感じで、大人になるまでそういう存在を激しく味わってしまったというのが大きいと思います。こうしたブームのおかげで、当時は「少年サンデー」や「少年マガジン」といった漫画雑誌のグラビアで、怪獣を作るスタッフの人たちが紹介されていたんですよね。「ウルトラマン」の怪獣にせよ、「仮面ライダー」の怪人にせよ、それらがどうやって作られたのか? ということは、ベールに包まれているわけでもなく明らかになっていたんです。それもあって僕自身は、小学生の低学年の頃から、この仕事に興味はありました。――以前は着ぐるみで撮影されていた怪獣ですが、本作『大怪獣のあとしまつ』を含め、いまや怪獣映画に登場する怪獣は、ほとんどがCGで制作されているそうですね? 改めて「怪獣造形」という仕事は、映画制作のプロセスにおいてどのようなことをする仕事なのでしょうか?まず、監督やプロデューサー陣が打ち合わせをして「こんな怪獣にしましょう」というデザインを決定し、その上でプロダクションが「誰にこの怪獣を作ってもらうか?」というのを決めます。監督やプロデューサーの過去の人脈やこれまでの実績などを元に「怪獣造形」のスタッフを決めるわけです。――その依頼が今回、若狭さんの元に来たということですね?ただ、今回の三木組で言うと、その前の段階の最初の怪獣のデザインがなかなか決まらなかったんです。デザイナーが描けども、描けども、決め手に欠けて三木さんは「うーん…」という感じだったそうで…。スタッフの中に特撮監督の佛田洋さん(「スーパー戦隊」シリーズや「平成仮面ライダー」シリーズ、『男たちの大和/YAMATO』などの特撮を担当)がいて、佛田さんから僕のところに「最初のデザインのところから一緒に入ってほしい」という連絡があり、通常とは少し異なる形ですが、最初の怪獣のデザインから参加することになりました。――大怪獣を一から形にするところから、若狭さんが入ったわけですね? 具体的にどのように怪獣をデザインしていったのでしょうか?まずはコンセプトですね。この映画に登場する怪獣、映画の中では“希望”と名付けられることになりますが、基本的に死んだ状態で登場するわけです。これまでの僕の仕事で「怪獣の死体を作る」というのは、あまりないことでした。映画全編を通して「死んでいる」わけですから、そのありよう――どういう姿勢、デザインで死んでいるのか? というのを考えるところから始めました。――三木さんから特にリクエストや絶対にゆずれないポイントなどは伝えられたのでしょうか?僕が入る前の段階で、佛田さんが三木さんに「どんな怪獣が良いんですか?」と聞いたところ「昔の恐竜図鑑に載っていた恐竜のような怪獣がいい」とのことでした。佛田さんが三木さんにも見せたという昔の恐竜図鑑の写真をいくつか見て、それが“怪獣化”したものということでデザインを考えていきました。アプローチの仕方としては、僕は1993年以降の「平成ゴジラ」シリーズの敵怪獣(※メカゴジラ、スペースゴジラ、デストロイアなど)を担当しているんですが、その頃と同じやり方でした。当時、東宝の特撮を束ねていた川北紘一さんという方がいたんですが、この方もなかなかデザインが決まらない方だったんですね(笑)。東宝のスタッフルームに7~8人のデザイナーがいて毎日、絵を描いては、川北さんがチョキチョキとそれを切って、モンタージュ写真のように切り貼りして、それをクリーンアップする形でデザインを決めていくというやり方をされていたそうなんです。僕が93年の『ゴジラvsメカゴジラ』の怪獣造形に参加したときは、あまりに時間がなくて、撮影開始の3週間前の段階でデザインがまだ決まってなかったんです。(撮影前の)怪獣の制作期間が3週間ほどしかない状況で、このままでは間に合わなくなってしまうということで、決まっている部分から、粘土で怪獣の模型を作っていくというやり方をしたんです。今回、まるっきりそれと同じアプローチで、怪獣が死体となって倒れているさまを粘土で作っていき、それから細かい部分…ポーズのディティールや表情などを三木さんのリクエストに沿って制作していきました。三木さんが一貫しておっしゃっていたのが「僕(三木監督)の作品なので、バカバカしい感じにしてほしい」ということ。もちろん、リアリティが必要なのは当然なんですが、それに加えて「バカバカしさ」がほしいと。例えば、死後硬直によって足がポンっと天に向いて伸びているような姿勢も三木さんからのリクエストでした。あとは“巨大なもの”を表現するという中で、三木さん自身が牛久大仏(茨城県牛久市)をご覧になったそうで、牛久大仏(※台座を含め全長120メートル)くらいの高さにはしたいとおっしゃってました。死体の足が天に向かって伸びてて、それがとにかくバカでかいんだと。――とてつもなくデカい怪獣という画で、三木監督の言う“バカバカしさ”が一発で伝わってきます。僕がこれまで携わってきた多くの作品では、(怪物やヒーローの身長は)たいていは50メートルか100メートルの二択でした。以前はいまのようにデジタルで合成するのではなく、25分の1の大きさのミニチュアの美術を組んで、その中を着ぐるみの怪獣やヒーローが暴れ回っていたんですけど、それも元をたどれば「ウルトラマン」なんですよね。ウルトラマンの身長は約40メートルという設定になっているんですけど、それは身長180センチのスーツアクターが、25分の1の大きさのミニチュアにちょうど収まるようになっているんですね。ただ、時代と共に街並みも変化して、新宿に高層ビルが立ち並ぶようになってくると、25分の1のミニチュアでは、ウルトラマンや怪獣がビルの陰に埋もれてしまうので、平成の『ゴジラ』シリーズで「ゴジラの身長は100メートル」と設定が変更されたんです。それが今回の映画では、最全長(頭から尻尾までの長さ)で380メートル、倒れた状態での高さが155メートルですから、かなり大きいんですよね。これほどの大きさの怪獣が、しかも死体として転がっているって、誰も見たことがないわけで、想像がつかないんですよ。この“サイズ感”に関しては、最初に打ち合わせをしていた段階から「そんなに大きいのか…」という思いはありましたね。――公式のインタビューなどで、三木監督は怪獣の制作にあたって様々な“制約”があったと話されていますが、若狭さんも苦労した点などはあったんでしょうか?正直、僕自身は制約を感じるようなところはなかったですね。もちろん、今回の作品は三木聡監督による、松竹と東映の合作映画なので、僕が長年、関わってきた東宝の怪獣(ゴジラ)と同じものになってはいけないというのはありましたけど、それは当然ですよね。それ以外には特に制約と感じるようなことはなかったですね。なぜCGではなく事前に粘土で怪獣の模型を作る必要があったのか?――先ほどのアプローチのお話で、粘土で実際に怪獣を形作るところから行なわれたとありましたが、あえてそうしたプロセスを採用した理由は…。正直、佛田さんからお話をいただいて、その話を聞いたとき、僕自身も「何でいまの時代に、いちいちそんな作り方するんだろう?」とは思いましたね(笑)。――いまの時代、通常はCGでデザインしていき、実際の映画本編でも合成されたCGの映像が使用されるということですよね?そうです。デザインする段階から3DCGで作っていくというのが、いまの時代の怪獣造形のやり方ですね。ただ、この映画でVFXをスーパーバイザーとして束ねている野口光一さんがおっしゃっていたことなんですけど、CGで作り始めると、“終わり”がないんですよね。良くも悪くも、CGだといつまででも作業をすることが可能で、ゴールが定かではなくなってしまうと。先ほど説明したように、まず最初に怪獣のデザインを決定しないといけないというのもありました。どこかに“指標(ゴール)”を定めなくてはいけない。佛田さんが、なぜ僕のところに今回の話を持ってきてくれたのかというと、僕はこれまでにいくつもの怪獣の造形に携わってきているので、その指標を作ることができるからだと。(3DCGではなく)粘土でブレない“指標”としての怪獣を作ることが必要だったのかなと思います。――あくまでも映画本編における怪獣はCGですが、若狭さんが最初に粘土で作った怪獣は、デザインの“完成形”を示すものとして必要だったと。約80センチの模型(マケット)を作り、さらに、この模型を3Dスキャンして、約6メートルの美術の造形物を作ったのですが、ただ、これらにはきちんとした使い道があります。今回の映画は、ある意味で旧来の20世紀の撮影と21世紀の撮影のハイブリッドとも言えるやり方をしたと思っていて、昔であれば、この80センチの模型を元に紙の上に図面を引いて、発泡スチロールを削って美術を作ったりしてたんですけど、それだと手作りなので、職人さんの感性によって、大きさがバラバラになったりすることもあったわけです。僕としては、最初に80センチの模型を作る時点で、できる限りの情報はそこに詰め込んだつもりでした。理想と言えるものをこの模型できちんと作ることができれば、いまの技術で、それを基準にして、より大きなものもブレることなく正確に作ることができるし、そのデータをロケハンや打ち合わせで活用することもできます。“プリビジュアライゼーション”と言われる、撮影の前の段階での「こんなカットを想定しています」というイメージの共有、シミュレーション作業も可能になるんです。実際、この模型を元に6メートルの造形美術を作ったと言いましたが、そちらに関しては、佛田さんは東映のスタジオの屋上で、これを使って全ての怪獣のカットを一度、撮影しています。もちろん、映画本編の怪獣は基本的にCGなので、ここで撮影されたカットで実際に本編で使われているものは多くはないと思いますが、(カット割りや構成の参考、イメージの共有のために)一度、6メートルの美術で全てのカットを撮っているんです。――怪獣造形のスタッフとしては、できることなら“死んでいる”状態ではなく、生きて暴れ回っている姿を作りたかったのでは?それは…(笑)、当たり前ですけど、僕らは仕事として怪獣の造形をやっているわけですから、自分の中でいくら「これ、生きて動いたらいいのになぁ…」と思ってもしょうがないですからねぇ…(苦笑)。いまでも「キャンペーン用に着ぐるみを作ったりしないのかなぁ?」とか思ってますけどね(笑)。――この作品に限らず“怪獣”の造形を行なう上で、大切にしていることはどんなことですか?それは難しいなぁ…。まず一番は、その映画のスタイルに合う怪獣はどんな怪獣か? ということ。それは常に考えますよね。映画を観に来るお客さんが、その怪獣を見てどう感じるのか?今回の映画に関してはあまり関係ないですが、これまで僕が携わってきた怪獣映画の場合、怪獣は映画の中に登場するだけでなく、マーチャンダイジング(商品化)が深く関係します。デザイン性も求められるし、それが“商品”として認められるのか? というのも重要なポイントです。そこに関しては、頭の片隅どころか、それなりに脳内の大きな割合を占めることになりますね。――若狭さんが、この仕事をやっていて喜びを感じるのはどういう瞬間ですか?いまの時代、30年前、40年前の作品を簡単に見られるじゃないですか。自分がやった仕事に関して、後になって「良い仕事でしたね」と言ってもらえるとやはり嬉しいですね。ものすごい数の作品に関わってきて、僕自身が忘れている仕事もいっぱいあるんですけど、それをいまだに「好き」と言ってくれる人もいて、時に感謝されたり、称賛のお言葉をいただけたりすると「あぁ、やっぱりやっててよかったな」って思いますね。――怪獣造形に限らず、映画の世界での仕事を志す若い人たちに向けて、メッセージやアドバイスがあればお願いします。大事なのはあきらめないことだと思います。僕自身、これまでやってこれたのは、あきらめなかったから。辞めるのは簡単ですからね。いまの時代、昔と比べて映画の世界で働くということの敷居が低くなっている部分も確実にあると思います。社会も変わって、昔のようなパワハラや過酷さは減っていると思います。この業界に入ること自体、難しいことでは決してなくて、僕が知る限りでは、むしろいつも人手不足で「誰かいないか?」って探してる状態なので。僕らがこの世界に入った頃は、理不尽なこともいっぱいあったし、最初の頃は貧乏しながらやってきましたし…。もちろん、いまでもそういう部分が完全にないとは言わないし、大変な部分も多いと思います。でも、環境は確実に良くなってはいるので、大事なのは自分が「何がやりたいのか?」ということを明確にし、そこに向けてきちんとアプローチすることだと思います。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:大怪獣のあとしまつ 2022年2月4日より全国にて公開Ⓒ2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会
2022年02月12日【音楽通信】第102回目に登場するのは、国内外で活躍し、豪華なアーティストとのコラボレーションでも話題を呼んでいる、MONDO GROSSO(モンド・グロッソ)!歌番組とジュークボックスから音楽を知る【音楽通信】vol.102音楽家、DJ、プロデューサーなど、幅広く活躍する大沢伸一さんのソロプロジェクト「MONDO GROSSO」。1991年に京都でバンドとして結成、1993年にメジャーデビューし、ヨーロッパツアーを行うなど国内外で活動。1996年のバンド解散後は、大沢さんのソロプロジェクトとなり、2021年に結成30周年、2023年にデビュー30周年が控えています。常に革新的な音楽性を届けるMONDO GROSSOが、2022年2月9日にニューアルバム『BIG WORLD』をリリースされたということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――あらためまして、そもそも大沢さんが小さい頃音楽に触れたきっかけや、影響を受けたアーティストからお聞かせください。僕の小さい頃というと、1970年代になるのですが、テレビの歌番組から聴こえてくるものが、音楽の一番のインプットでした。いまのようにインターネットがない時代ですから、テレビやスーパーマーケットでかかっている音楽に触れる機会が多かったんです。意外かもしれませんが、スーパーや百貨店と大きな違いはなく、大きなスーパーにはブティックみたいなものがあったりするんですね。そのフロアには、2台ぐらい、ジュークボックスがあったんです。当時、感度の高い人はそういったお店の音楽を共有する感じがあって、音楽をかけに行く人が多くて。お店に有線放送もなければ、BGMもなかった時代のことです。そういうところで自分の好きな音楽をかけていましたね。そこでおねえさんと仲良くなったり、「この曲何?」と聴いたり。そういう意味では、マセガキだったかもしれませんね(笑)。洋楽に出会ったのもそこでしたし、年の離れた兄と姉もいるので、家族からの影響も大きかったです。わりと小さいときから、音楽に興味を持っていました。――当初MONDO GROSS0はバンドで、いまは大沢さんのソロプロジェクトとなりますが、もともと楽器に興味を持たれたのはいつ頃からなのですか。楽器自体は、小学校高学年からブラスバンド部に入って、トランペットをやるようになりました。学校で習うことだけなので、たいしたことはできなかったんですが、楽器が好きで。僕はいまでも楽譜が読めませんし使わないのですが、トランペットのようなマウスピースがあるような楽器は、口のかたちと指との組み合わせで音階を作るので、たとえば隣の人と指で押さえるところが違っても同じ音が出せるんですね。なので、楽譜を見なくても曲を覚えて、自分の型で自由にできるところが気に入って「楽器っておもしろいな」と。それからは、中学生ぐらいのときに、家にあった父親のクラシックギターを弾いてみたりしていました。――2021年に結成30周年、2023年にデビュー30周年が控えていますが、振り返っていかがでしょうか。初期はバンドだったので、僕ひとりのものじゃなかったのですが、そのあと自分ひとりになって、とりもなおさずMONDO GROSSOというプロジェクトはひとりでは何もできないんですよね。誰かと出会って、コラボレーションすることで、何かケミストリーが生まれて音楽になることがほとんど。バンドのグループのなかにいてもいなくても、さまざまな人たちと交わって何かやってきたという歴史だと思います。音楽を通して現状をどう考えていくかがテーマ――2022年2月9日にニューアルバム『BIG WORLD』をリリースされましたが、どのような思いをこめた作品でしょうか。いま人類が一斉に同じ条件のもとに行動を制限されていますが、この状況に居合わせたひとりとして、世界が変わってしまったけれど、もとに戻るのではなく、変わり続けていくという事実に直面したときに「音楽の役割はなんだろう、僕にとっての音楽はなんだろう」と思ったんです。これまでもアルバムをリリースするごとに、音楽のスタイルが変わることは多かったのですが、今回は「音楽を通してこの状況をどう考えていくのか」ということが、僕の制作のテーマになりました。――2曲目「IN THIS WORLD feat. 坂本龍一」は、病気療養中の坂本さんがピアノで参加され、UAさんの歌詞を満島ひかりさんが歌うという面でも注目を集めていますが、こういったコラボレーションのアイデアやオファーはどのようにしていったのでしょうか。僕を含む制作チームとともに、コンセプトに参加するスタッフがいて、その仲間と人選しています。僕の役割は、音楽をきちんとかたちにすること。だから、音楽以外の部分では、外部の意見を大胆に取り入れています。実は「IN THIS WORLD feat. 坂本龍一」は、最初このキャスティングにしようと思っていたわけではありません。僕が最初にピアノでメロディをつけたスケッチを作って「この曲どうしたもんかね?」とスタッフに聞くと、「歌メロのつもりで大沢さんが作ったのかもしれないけれど、ピアノのメロディ自体は残して、歌をのせて坂本さんとやるのはどうですか?」という提案があって。「じゃあボーカルは(満島)ひかりちゃんに頼んでみようか」となり、「UAに歌詞を書いてもらったら」とみんなから意見が出てくるということです。僕が出すアイデアもありますが、キャスティングに関しては、みんなの声を入れて採用していくようになりました。いまと違って、以前は「この人とこの曲をやりたい」という気持ちが強い時期もありましたが、大きな変化ですね。――どうしてお気持ちが変化されたんでしょうか?自分で全部決めることに飽きたんですよね。自分の考えだけで構築していくのも面白いのですが、どこかでマンネリ化してしまうことを危惧してスタイルを変えたというのが一番かもしれないですね。自分だけだと、こんなコードを作ると、僕だったらこうするという定石が決まってくるから。僕は決まったことの形を変えて何度も出すタイプのクリエイターではなく、1ミリでも新しいものを作りたいので、新しいアイデアのもと、変化させていくものを自分以外に求めていくほうが得策だなと。ましてやMONDO GROSSOは外部を巻き込んでやっていくアメーバのようなプロジェクトなので、一番中核にある音楽の作り方ですら、外部の意見を取り入れたほうがもっと大きくなれる、細胞分裂に近いかたちだと考えています。――5曲目「OH NO!」は4人組バンドのCHAIと、9曲目「幻想のリフレクション」は(Original Loveの)田島貴男さんとの楽曲ですが、若手からベテランの方まで多彩なアーティストの方々が集結していますね。今回、大沢さんご自身がお声がけされたのはどの方なのですか。具体的に「この人でやろう」と決めたのはCHAI、どんぐりず、田島くんですね。たとえばCHAIは、非常におもしろい存在だと思っていて、一緒に何かやってみたいとお願いしました。田島くんは、今回の曲の前に、ずっとお蔵入りになっていたデモがあって。スタッフから「あの曲もったいないからやりましょう」とすすめられて、僕は「この曲だったら田島くんに頼むのがおもしろいかな」という話をしたんです。でも、そこからメロディを考えてもしっくりこなくて。田島くんが歌うことが決まった、レコーディングの2週間ぐらい前に曲を書き直して、当初の曲とは違うまったく新しい曲になりました。こうして3段階ぐらい内容が変わっているんですが、制作がギリギリのときでもやれるということも、MONDO GROSSOの醍醐味です。――8曲目「迷い人」は、EGO-WRAPPIN’の中納良恵さんがバラードで語りかけるように歌う楽曲ですが、中納さんとも初コラボですね。そうです、スタッフから出たアイデアで、「MONDO GROSSOと中納さんの声は合うはずだから」と。僕も昔からもちろんEGO-WRAPPIN’は知っていますし、前作でもオファーをさせていただいたのですが、タイミングが合わなくて。中納さんも慎重な方なので、何度もご依頼して、今回はタイミングが合って、受けていただきました。コラボレーションとしては、昔ながらの手法もありながらのすごく実験的な曲にもなっています。――以前も起用されていますが、7曲目の「STRANGER」は、乃木坂46の齋藤飛鳥さんがボーカリストとなりますね。今回は共同プロデュースでクレジットもされている友人から、「大沢さんの楽曲でもう1度、齋藤さんに歌ってもらい、なおかつシューゲイザー(浮遊感もある歪ませた轟音ギターサウンド)をやってみたい」という曲のスタイルの提案まであったんです。ここまでくると、MONDO GROSSOというものの許容性も問われているといいますか、どこまで外部のお題を取り入れてすら、MONDO GROSSOとしての根幹が揺るがない音楽ができるのか。音楽プロジェクトでもありますから、これからも大胆なアイデアの取り入れ方をしていくと思います。――2003年に「Love Addict」をプロデュースされるなど交流のある中島美嘉さんが歌う11曲目「OVERFLOWING」は、以前アレンジを担当されたシンガーソングライターの大森靖子さんが共作詞となりますね。この曲は、アルバムで最初にスケッチを始めた曲で、最初は自分で詞も書いていたんです。詞とメロディがなんとなくできあがったものの、コロナ禍の初期に書いたもので詞に感情が入ってしまいすぎて、誰に歌ってもらうかを決める頃には、けっこう自分とは歌詞が遠いものになっていったんです。だから、これを引き受けてもらえて、なおかつ(中島)美嘉ちゃんが歌うということを考えたときに、詞は「大森さんしかいないだろう」と僕がキャスティングしました。そんななかで、どうしても僕がここだけは使ってほしいという歌詞の一部だけを残して、大森さんの詞を採用して。後日、当初僕が書いたけれど採用しなかった歌詞のパートと、彼女が書いたものが重なっていたり、同じような文言が使われていたりしたことがわかりました。――具体的にいいますと歌詞のどの部分でしょうか?「昨日、今日、東京、妄想、そう」という部分。“東京”というキーワードは彼女も最初のラフの段階にあったそうで、あまりにも自分の色が出すぎてMONDO GROSSOに合わないかと書かなかったと。「大沢さんがここを残してほしいと言ってきたときにびっくりした」と言っていましたね。「溢れ出す」という言葉も歌詞にあるのですが、彼女も最初に同じ文言を入れて歌詞をあげてきたときは、共感覚といいますか、同じようなインスピレーションをこのメロディから感じていたのかなと思いました。――12曲目は、アルバムのタイトル曲でもある「BIG WORLD」となりますが、大沢さんのユニット「RHYME SO(ライムソー)」のRHYMEさんが歌っている曲ですね。RHYMEが「BIG WORLD」という曲を作ってきたのですが、MONDO GROSSOを英語で言い直すと「BIG WORLD」でもあり、おもしろいのでタイトルにしました。これはRHYMEの世界ですね。もっと活動の場を広げていきたい――お話は変わりますが、よろしかったら普段のご様子もお聞かせください。音楽活動以外のときはどのようにお過ごしですか。いまはスタジオに来てこの取材を受けていますが、結局は普段もスタジオに来て音楽を作っていますね。家の中にも何か所かに音楽をスケッチできる場所を設けておいて、時にスケッチすることもあります。あとは、家にテレビがないので、プロジェクターで映画やドラマを観ることもありますし、本も読みます。そしてこの2年ぐらい、独自で環境問題に取り組むようになって、古着のリメイクプロジェクトなどにも携わっているので、あまり家でじっとすることが少ないですね。表に出ていろいろな人と打ち合わせをしたり、オンラインで話をしたりしています。――大沢さんは、たくさんの才能あるアーティストと組まれていますが、たとえば自分にそれほど自信がないとしても、才能を磨きたいときにはどうしていけばよいと思われますか。日本の女の子は、自己肯定感が少ないと聞いたことがあります。たとえば音楽のクリエイションを考えるとしたら、日本に限ってですが、実際に音楽を始めようと行動する人と、音楽がめちゃくちゃ好きで詳しくていろいろなものを聴いて日々楽しむ人の違いを比べると、実は音楽をたくさん聴いている人のほうがおもしろいものを作れる素養が高いと感じています。音楽を始める人の中には、カラオケに行って好きな曲をたくさん歌って、まわりの人から「うまい! プロになれるよ、オーディションに行きなよ」と言われてオーディション行ってしまうような例があったりします。でも、本当に音楽が好きな人はそうではなく「いやいや、私なんてそんな」と行動しない。すごく音楽が好きで、いろいろなところで音楽を聴いている人の感性のほうが、音楽を生み出すうえでは非常に重要。だから今回のアルバムにしても、僕のまわりのそんな人たちの意見を採用するのは、そういうところなんですよね。もし自分で自分の才能に気づいていないとしても、すごくニッチに何かを追求しているようなことがあるとすれば、それはもしかしたらまわりの人や専門の人からみたら、その深さはすごいものなのかもしれません。だから僕は、好きなことがあるんだったら、誰かの評価を気にするのではなく、極めてみるのが一番だと思います。たとえば古着が好きだったら、古着の知識を極める。いまはインターネットでなんだって情報を集められますし、東京にある古着屋を全部制覇してみるとか。人から見たら、何をやってるの? ということでも、真剣に達成してみることは、意外と悪くないと思います。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。今後、MONDO GROSSOとしてのDJツアーも予定していますし、その後はRHYME SOや大沢伸一としての個人名義のアルバムも考えているんです。そして音楽以外のクリエイションや、いままでやってこなかったようなコラボレーションも企画しているので、もっと活動の場を広げていきたいと思います。取材後記多彩なアーティストとコラボレーションされ、常に魅力的な音楽を放ち続ける、MONDO GROSSOこと大沢伸一さん。カラーの違うボーカリストたちの個性がより輝き、聴き手のほうへと響くサウンドを届けてくれるのは、大沢さんだからこそですよね。そんなMONDO GROSSOのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりMONDO GROSSOPROFILE大沢伸一がリーダー兼ベーシストのバンドとして93年にメジャーデビュー。世界的なアシッドジャズのムーブメントの中、ヨーロッパツアーも行う。1996年にバンドは解散し、大沢のソロプロジェクトとなる。以降も常に革新的な音楽性を求めながら、「LIFE feat. bird」を収録した『MG4』、「Everything Needs Love feat. BoA」を収録した『NEXT WAVE』などヒット・アルバムをリリースして2003年に休止。2017年に14年振りとなるアルバム『何度でも新しく生まれる』、2021年に結成30年の軌跡を辿る『MOMDO GROSSO OFFICIAL BEST』をリリース。2022年2月9日、ニューアルバム『BIG WORLD』をリリース。InformationNew Release『BIG WORLD』(収録曲)01. INTRO02. IN THIS WORLD feat. 坂本龍一 [Vocal:満島ひかり]03. FORGOTTEN [Vocal:ermhoi (Black Boboi / millennium parade)]04. B.S.M.F [Vocal:どんぐりず]05. OH NO! [Vocal:CHAI]06. 最後の心臓 [Vocal:suis (ヨルシカ)]07. STRANGER [Vocal:齋藤飛鳥 (乃木坂46)]08. 迷い人 [Vocal:中納良恵 (EGO-WRAPPIN’)]09. 幻想のリフレクション [Vocal:田島貴男 (Original Love)]10. CRYPT [Vocal:PORIN (Awesome City Club)]11. OVERFLOWING [Vocal:中島美嘉]12. BIG WORLD [Vocal:RHYME]2022年2月9日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)RZCB-87060(CD)¥3,300(税込)(初回生産限定盤)RZCB-87060/B(CD+Blu-ray Disc)¥4,950(税込)*スマプラ対応。【Blu-ray収録内容】01. IN THIS WORLD feat. 坂本龍一 [Vocal:満島ひかり] MUSIC VIDEO02. STRANGER[Vocal:齋藤飛鳥 (乃木坂46)] MUSIC VIDEO03. FORGOTTEN[Vocal:ermhoi (Black Boboi / millennium parade)]MUSIC VIDEO取材、文・かわむらあみり
2022年02月09日【音楽通信】第101回目に登場するのは、世界中から注目を集めている、国内外で活躍する“NEOかわいい”4人組バンド、CHAI(チャイ)!日本はもちろん世界のトップを目指す写真左から、ユナ (Dr&Cho)、カナ (Vo&G)、マナ (Vo&Key)、ユウキ (B&Cho)。【音楽通信】vol.101双子のマナさん(Vo&Key)とカナさん(Vo&G)、ユウキさん(B&Cho)、ユナさん(Dr&Cho)からなる、4人組ガールズバンドのCHAI。アメリカやイギリスのインディーレーベルから海外デビューも果たし、世界各国でライブを行っている彼女たちは、コンプレックスさえも愛して、ポジティブかつカラフルにこれからもますますボーダーレスに飛躍していくに違いありません。そんなCHAIが2022年1月12日に、ニューシングル「まるごと」をリリースされたということで、メンバーのみなさん全員にお話をうかがいました。――小さい頃に憧れていたアーティストから教えてください。マナ小さい頃は、DREAMS COME TRUEがすごく好きでした。実は、人生で初めて行ったライブは、ママと一緒に行ったドリカムです。本当に曲が大好きで、ドリカムを聴くと踊っていました。カナ小さい頃から歌手になることが夢で、当時はモーニング娘。が好きでした。ミニモニ。に入りたいときもあったかな(笑)。家で、マナと一緒にモー娘。を聴いて歌って踊ったりとか、ママの好きなドリカムを聴いて歌って踊ったり。テレビに出ている人たちの音楽を聴く環境でしたね。ユウキ私もみんなと同世代なので、モー娘。は好きでした。ただ、アイドルにハマったのは、このときが最初で最後という感じです。ユナ小さい頃はすごくJ-POPを聴いていましたし、超テレビっ子でした。テレビに出ていた人たちにハマって、当時放送されていた音楽番組に出ているモー娘。を観て「超おもしろい!」と思って(笑)。最終的にはORANGE RANGEにどハマりして、バンドという存在に惹かれて、ドラムという楽器を知って、実際にCHAIで担当することになっていまに至ります。――マナさん、カナさん、ユナさんが同じ高校の軽音部で、後から知り合ったユウキさんが加わって、CHAIを結成されましたね。海外のレーベルからのリリースやライブ活動などもされていますが、もともと日本だけではなく、海外も視野に入れていたのですか。マナもちろん海外を視野に入れていました。CHAIを始めたときから「日本はもちろん世界で売れたほうがトップだよね?」という単純な考えから、世界を目指すことにしたんです。――では大人になってからは海外のバンドの曲も聴くようになって、参考にすることもあったのですか。マナはい、CHAIを始めてからは、ほぼ洋楽を聴いていました。それこそ、聴いているアーティストがグラミー賞を獲っていることが多かったから「夢はグラミー賞!」と、わたしたちもずっと言っています。「これがトップの音楽なんだな」と思いながら、洋楽を聴いているうちに、CHAIでも目指すようになりました。ニューシングルは初めてのドラマ主題歌書き下ろし――2022年1月12日にニューシングル「まるごと」をリリースされました。キュートなポップソングですが、曲にこめた思いを教えてください。マナそれぞれの人が持っているいろいろな愛のかたちを認め合うことができたら、本当に最高だよね、という思いを込めた曲になっています。――今作は現在放送中の岸井ゆきのさん、高橋一生さんのW主演となる、よるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合 毎週月曜 午後10:45)の主題歌ですね。音楽ファンだけではなく、お茶の間にもCHAIの曲が広く浸透します。マナリアルタイムでドラマの第一話を見ていましたが、ドラマの主題歌を書き下ろしたのは初めての経験だったので、オンエアを見て感動しました。カナやっぱり地上波のドラマの主題歌を担当すると、誰よりも親や親戚が喜んでくれるから、感謝したい身近な人たちに届くこともすごくうれしいです。お茶の間に響くのも、CHAIを知ってもらえるいい機会ですし、「紅白歌合戦」にもいつか出演できたらいいな(笑)。ユウキ私はこの曲で歌詞を担当したのですが、ドラマ放送前に5話ぐらいまでの台本を読ませてもらって歌詞を書いていたから、実際にドラマを見ると映像と音楽があわさったときに、まず感動しました。良い映像を引き立てる言葉で歌詞が書けたと思えましたし、ドラマにも合っていたのでうれしかったです。ユナ私は本当にテレビっ子でいままで数々のドラマを見てきたなかで、まさか自分たちの曲が、ドラマを見ていてワッと出てくるなんて、この衝撃と感動といったらもう……(笑)! テレビの前でひとりで鳥肌が立って、あたふたしていたぐらいの喜びです。――2月2日には、EP『WINK TOGETHER』をリリースされましたね。EPのリミックス陣として参加しているカリフォルニア在住のアーティストのスクーバート・ドゥーバートが、「まるごと」のサウンドプロデュースも担当していて、CHAIとの好相性を感じます。マナスクーバートは、もともとSpotifyのNew Music Fridayというプレイリストに入っていたところを見つけました。彼の曲がすごく良くて、ストーリーにあげたら本人から連絡がきたので、連絡を取り合うようになって。スクーバートの曲はCHAIの曲にも合いそうで、アレンジも上手だなと思っていたので、今回「まるごと」のアレンジをお願いしました。スクーバートには、ロマンチックだったり、ノスタルジックだったりする雰囲気にしたいとイメージを共有して、そこから一緒に曲を仕上げていったので、いいマッチングになったと思います。――EPのほうはどんな仕上がりになっていますか?マナすっごく面白いと思います。もうねえ、ジャンルがよくわからない感じになっていて(笑)。カナそうだねえ(笑)。世界のトップアーティストたちも参加しています。マナいろいろな国のアーティストたちが参加してくれていて、CHAIの3 rdアルバム『WINK』の中から曲を選んでリミックスをしてくれた人もいれば、バンドアレンジをしてくれた人や歌で参加してくれた人も。とにかくさまざまな言葉や音楽が聴ける作品です。――曲作りをする際やレコーディングのときなど、いつも歌うとき、演奏するときに心がけていることがあればえてください。マナいろいろな自分を出せたらいいな、その自分がたくさんの人に届けばいいなと思って、いつも歌っています。カナレコーディングとライブでは、歌うにしても、全然感覚が違う面もありますね。レコーディングのときは、マナも言っていましたが、声だけで自分をいろいろと表現できたらいいな、それをみなさんにも楽しんでもらいたいな、スッと誰かの感情の中に入れるような歌が歌いたいなって。ライブでは、表情や動きといった見ていて伝わるものが多いですよね。だから、レコーディングのときよりも、声のニュアンスにおいても、ダイナミックになるようにしています。ユウキわたしは歌詞を作ることが一番メインの担当になるので、ドラマ主題歌ならその世界に沿ったことを意識していたり、CHAIだけのオリジナルの曲はわたしの中から出したいものをテーマとして持ってきたりしていますね。どんな場合でも、CHAIの言いたいことは一貫して「セルフラブを一番伝えたい」ので、そこにはつながるように作っています。ユナたとえばスクーバートがアレンジしてくれている曲なら、まず自分の中に曲をインプットして、プレイでユーモアや遊び心を表現してから、アウトプットするようにしています。レコーディングもライブも、日本でも海外に行ったときも、音楽は共通。グルーヴが強かったら、どこの国の人も踊ってくれるんだろうなという感覚があるので、どれだけ気持ちいいビートがたたけるか、そして曲に即したアウトプットで表現できるかということを最近は意識してトライしていますね。――2月からは、日系女性シンガー・ソングライターMitskiさんとの「Mitski 2022 tour」、そして「WINK TOGETHER NORTH AMERICA TOUR」と題した北米ツアーがあります。どのようなステージになりそうですか。マナ 2年ぶりの海外ツアーですね。ステージは、とにかくエンターテインメントの場なので、刺激と感動をみなさんにお届けして、驚かせまくります(笑)。それは日本も海外も共通する、CHAIのライブのテーマです。――日本と海外のライブでのパフォーマンスの違いはありますか。マナ多少はありますね。文化が違えば、音楽の楽しみ方も違いますし、海外の方のほうがけっこう踊るんです。日本のように、アーティストをずっと見ていないから。海外の方だと、遊びに来た、飲みに来た、という感覚でライブに来てくれるので、見方が違うんですね。だから、踊ってほしい曲が多いですし、ライブアレンジもちょっと変えたりします。CHAIの音楽がもっと世界に届くよう活動していく――新曲「まるごと」には「違いさえもまるごと愛せたらなあ」という歌詞もありますが、みなさんが現在“まるごと愛している!”と思える“推し”を教えてください。マナ私は実家にいる、犬のロイちゃんですね。ミニチュアシュナウザーなのですが、犬の考えていることを知りたい。だから一緒にいると家からなかなか出られないんです(笑)。実家に帰ると、ロイと過ごす時間が一番多くて、ロイが何をしたいんだろうって、まるごと愛しちゃってます(笑)。カナ私も一緒です(笑)。動物全般がすごく好きで、何を考えているのかわからないところもすごく面白くて、動物は人間が思い浮かばないことを考えているから見ていておもしろいんですよね。ロイとも、ずっと一緒にいたい。ユウキ私は、推しがないんですよ。何かをずっと追いかけるようなハマり方が1回もなくて、絵を描くことは好きですが、毎日描きたいわけではなく、描きたいときがそのときという感じ(笑)。でも、人の推しの話を聞くことは好きなんです。ポッドキャストで、ジェーン・スーさんらの番組『OVER THE SUN』があって、すごく推しのことを語っていて、私に推しがまったくないから聞いていると、おもしろいです。ユナ私は推しがありすぎて、何から言おうかな(笑)。食べ物も観葉植物もドラマも推しがありますが、なかでも俳優だと吉沢亮さんを推しています。美形はもちろん、原作がある作品の実写化では勝つものがいなくて、なんでも自分のものにしていくところが魅力的です。馬も、推しています(笑)。コロナ禍になる前に、ユウキと乗馬クラブに行ったんですが、そのときの感動がいまだに忘れられなくて、密かにいまも馬を推しています。ユウキ乗馬はすごく楽しかったね。間近で馬の顔を見たら、恐竜並みに大きくて、筋肉もすごく美しくて、毛並みもきれいでした。でも、ユナがそこまで推しているとは(笑)。――おふたりで乗馬に行かれたということですが、外出自粛する前だと、プライベートで4人でどこかへ行ったりした思い出はありますか。マナ東京へ引っ越してきたばかりのときに、4人で東京ディズニーランドに行きましたね。カナ行ったねえー。ユウキそんなこともあったねえ。ユナ夜からのパスポートで。ユウキプーさんの乗り物にみんなで並んだりして。マナこんなに近くにディズニーランドがあるなら行っておこうと、みんなテンション爆上がりで、楽しかったです。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。マナ2022年は寅年なので、弱肉強食を恐れず、ぜーんぶ、寅のように噛みつきまくって、最後は全部笑える年にしたいですね。いままで通り挑戦し続けて、感謝しつつ、刺激ももらう年になる気がします。CHAIの音楽がもっと世界に届くといいなという願いを込めて、これからも活動していきます。取材後記日本のみならず、海外でも活躍されるバイタリティを持ちながら、ポジティブにキュートに音楽を放ち続ける、CHAIのみなさん。ananwebの取材では、マナさん、カナさん、ユウキさん、ユナさんのメンバー全員にいろいろなお話をうかがいました。マナさんいわく寅のように、今後も勇敢に挑戦し続ける、CHAIの音楽を聴かせてくれるはず。そんなCHAIの新作をみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりCHAIPROFILE双子のマナ(Vo&Key)とカナ(Vo&G)、ユウキ(B&Cho)、ユナ(Dr&Cho)からなる、“NEOかわいい”4人組バンド。2017年、1stアルバム『PINK』が各チャートを席捲、音楽業界のみならずさまざまな著名人からも絶賛される。2018年、アメリカ、イギリスの人気インディーレーベルから海外デビューも果たし、自身のワールドツアーや世界各国のフェスへの出演も精力的に行っている。2019年、2ndアルバム『PUNK』が世界中の音楽サイトで軒並み高評価を獲得。2020年、コロナ禍で活動が制限されるなか6作シングルをリリースし、10月にはUSインディーレーベルSUB POPと契約。2021年5月、3rdアルバム『WINK』をリリース。2022年1月12日にニューシングル「まるごと」、2月2日にリミックスEP『WINK TOGETHER』をリリース。InformationNew Release「まるごと」2022年1月12日配信New Release『WINK TOGETHER』(収録曲)01. Nobody Knows We Are Fun (STUTS Remix)02. PING PONG! feat. YMCK (Busy P Remix)03. END (Confidence Man Remix)04. Miracle (Scoobert Doobert Remix)05. ACTION (with ZAZEN BOYS)06. Donuts Mind If I Do (with Beenzino)2022年2月2日発売取材、文・かわむらあみり
2022年02月04日記念すべき【音楽通信】第100回目に登場するのは、日本のみならず海外でも高い評価を受け世代を超えてリスペクトされ続ける、アーティスト活動40周年を迎えた日本を代表するギタリスト、布袋寅泰さん!14歳のときにロックミュージックと出会った【音楽通信】vol.100日本のロックシーンへ多大なる影響を与えた伝説的ロックバンド「BOØWY」のギタリストとして躍進し、1988年のバンド解散後、アルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たした、布袋寅泰さん。以降、国内外でソロアーティストとしてはもちろんのこと、吉川晃司さんと結成したロックユニット「COMPLEX」としての活動や、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで脚光を浴び続け、数多くのミュージシャンからもリスペクトされ続けている存在です。昨年アーティスト活動40周年を迎えた布袋さんが、2022年2月1日に20枚目のニューアルバム『Still Dreamin’』をリリースされたということで、音楽を始めたきっかけや普段のご様子なども含めて、さまざまなお話をうかがいました。――あらためまして、布袋さんの幼い頃の音楽環境やギターを始めたきっかけから、お聞かせいただけますか?僕は幼稚園からずっとピアノのレッスンを受けていましたが、ピアノは練習曲の連続で譜面通りにしっかり弾くという、基本の練習が長くて少し飽きていた部分もあってやめて。そのあとエレクトーンを習ったら、楽しかったですね。そんな14歳のときに、ロックミュージックと出会ったんです。ロックは自由で、どんな音を出してもいい世界。どんどんロックに惹かれていって、ギターにも興味を持つようになりました。でも、その時代はYouTubeもビデオもない時代だったので、ギターを練習するとしたら、レコードを聴きながら合わせて自己流で練習するしかなかったんですね。それから地元である群馬の高崎で、高校の仲間とバンドを組んだりしながら、17歳でプロを夢見て上京しました。はじめはバンドもなかなかうまくいかず、やりたいことすら見つからないような状況のときに、BOØWYのメンバーと出会い、そこから19歳でライブハウスデビューしたんです。6年間 BOØWYをやっていましたが、売れたのは最後の2、3年。最初はまったく売れず、貧困生活を送っていたときは、毎日マヨネーズごはんを食べていました(笑)。そこから、気がつけば昨年40周年を迎えて、いろいろな経験をしてきましたね。昨年はコロナ禍でライブ活動も制限されたなか、ポーズボタンを押して立ち止まるだけではなく、僕も布袋チームも「制約があるなかでも、やれることを力を合わせてやろう!」という気持ちで行動していました。――私が初めて布袋さんのライブに行かせていただいたのは、約30年前ぐらいの「COMPLEX」の大阪城ホール公演でした。「布袋さんだ!」とそのステージに圧倒されまして……。よく「実在するんだ」とか言われますが(笑)。たとえ当時を知らない方でも、最近ではCOMPLEXの1989年の曲「BE MY BABY」が、2019年に川口春奈さんが出演されていたシャンプーのCMで聴いたこともある方や、映画『キル・ビル』(2003年)のテーマ曲「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」は、いろいろなバラエティでもかかっていますよね。今井美樹さんの「PRIDE」という曲は僕の作詞作曲なので、20代の方でも、カラオケに行ったら歌うこともある曲なんじゃないかなと。僕も若い頃、雑誌『anan』を見ていましたし、ananwebをご覧になる若い読者の方は、世代でいえば僕のライブを見たことがない、アルバムを聴いたことがない方もいるでしょう。もし僕の姿を知らなくても、きっとみなさん、どこかで曲は聴いたことがあると思います。そういう方々にも、ぜひいまの自分を伝えたいですね。ライブをやっていても、昔は男性のファンの方が多かったのですが、だんだん女性も増えてきました。親御さんに小さい頃にライブへ連れてこられた子たちが大きくなって来てくれていて、10代や20代の方も多いんですよ。男性は「布袋―!」とこぶしをあげて野太い布袋コールを変わらず送ってくれるのもうれしいんですが、女性の方は一人ひとりが感じるままに踊ったり、楽しんでくれていたりするのもすごく伝わるので、もっと若い方や女性の方にもライブに来ていただきたいですね。――昨年の「第72回 紅白歌合戦」や「東京2020パラリンピック」開会式にもご出演されて、ロックファンの方は布袋さんの姿を見てうれしかったと思いますし、年齢問わず幅広い層の方々も布袋さんのご活躍を目にする機会となりました。「布袋」という名前を聞くことはあっても、実際にギターを弾く姿を見て、やっと「布袋寅泰」だと一致した方も多かったでしょうね。僕のギタースタイルは尖っていて、鋭角的な曲が多いから、「布袋」というと尖ったイメージの方も多いかもしれません。パラリンピックのときの曲は、このために書き下ろした「TSUBASA」「HIKARI」の2曲ということもあって、普段の僕のライブでは見せない、多くの部分を伝えられるいい機会でした。やさしかったり、力強かったり、すごく高揚する部分と静寂の部分、音楽的なギタリストとしての表情を見せることができましたね。そして紅白も、ソロで出演するのは初めてでしたが、今回はコロナ禍でとにかくみんな疲れていて、年が開けて「またがんばるぞ!」という気持ちになってほしい一心での出演でしたので、伝わるものも大きかったと思います。生まれ故郷の群馬の高崎で制作したアルバム――2022年2月1日に20枚目のニューアルバム『Still Dreamin’』をリリースされましたね。いつから制作されていたのですか。昨年の8月からですね。十数年前からイギリスに住んでいるので、ここ数年はイギリスでの音楽制作が多かったのですが、昨年のパラリンピック前から僕ひとりでロンドンから帰国して一人暮らしをしているので、家族とは7か月会っていないんです。コロナ禍で帰れない、予想のつかない状況になっているから、腰を据えて、いまでこそ伝えたいことも必ずあるはずだということで、今作は日本で制作しました。生まれ故郷の群馬の高崎に戻って、曲を書き始めたんですね。パラリンピックの少し前からです。――アルバムの表題曲でもある、1曲目「Still Dreamin’」は、歌詞もサウンドも鼓舞してくれるような力強い楽曲ですね。今回のアルバムは、コロナや環境など問題が山積みの世界のなかで、1日のスタートを軽快に前向きにスタートしようというメッセージを込めた曲が多いんです。いままでの作品には1度もなかった「ハッピー」がテーマ。能天気な意味合いではなく、とにかくうつむいていては何も始まらない、こんなときこそ音楽を聴いて気持ちをポジティブに、元気になってほしいという思いがあります。「Still Dreamin’」の「Still」は「いまもなお」という意味もありますが、思えば10代の頃にプロになりたくて、いつかギターで世界中を旅したくて、その夢を見たときから、僕の音楽家人生は始まりました。そしていまもなお、人から見ると長いキャリアでいろいろなものをつかんだように見えるかもしれませんが、いまだに「もっと知らない世界に向かって冒険していきたい」という思いがあふれていて。ワールドツアーを成功する夢はかなっていませんからね、いまだに夢を追い続けているんです。10代、20代の頃の気持ちを忘れずに、こうやって60代を迎えることができました。だから、同世代や長年のファンのみなさんはもちろん、さまざまな世代の方にも、ストレートにスッと受け入れていただける曲が多いアルバムになっていると思います。――2曲目「Do you wanna dance?」は、実は40年前に作っていた曲だそうですね。BOØWY時代に作っていた曲ですが、そのときのバンドのやりたい方向性と少しずれていて、そのまま引き出しに閉まったままだったんです。昨年になって、ふとこの曲のことを思い出して「待てよ、いまこそ響く曲なんじゃないかな」と再構築しました。でも瞬間冷凍したように、曲を作ったときの自分の生々しい感触は残っていますし、それが色褪せるどころか、むしろデジタル音楽が主流となりつつある現在、この曲が非常に新鮮に響いたので、アルバムに収録しました。――以前作られた曲も膨大な数をお持ちですよね?そう、だから作った曲はいちいち取っておかないで、ボツになるにはボツになる理由があるので(笑)、そういう曲は捨てますけどね。新しい曲もどんどん生まれてきますし。――この曲に限っては、違ったんですね。そうですね。40周年で原点回帰という思いと、群馬で曲を作っていたということもあって、バンド時代に曲を作っていたときのことも、いろいろと蘇ってきたんですよ。これまで作った曲はメッセージ性のあるものが多くて、とにかく夢をあきらめず、自分らしく毎日を自己更新していこう、というメッセージがおもだったんです。でも今回は、コロナ禍のなかでの家族への思いや自分のなかにあるやさしい気持ちも入っていて、いつもより表情豊かなアルバムですし、4曲目の「Starlight」や5曲目の「コキア」といった女性に向かって歌った曲も多いので、布袋は男のものと思わず(笑)、ぜひ女性も聴いてください。布袋というと、ロックギターの印象から荒々しいイメージかもしれませんが、実はどことなく女性的な部分もあるんですよね。今井美樹さんの「PRIDE」なんて、どこか自分のなかで「ギタリスト布袋」ではなく「ピアニスト布袋」という部分があって、できた曲ですし。ようやくいい意味で、表現力のバランスがよくなってきたところもあるので、これからは柔らかい音楽や、柔らかい気持ちも伝えていきたいですね。――昨年発売されたEP『Pegasus』から、アコースティックナンバーの12曲目「10年前の今日のこと」などの2曲がAlbum versionとして収録されています。「10年前の今日のこと」は、いい曲ですよね。この曲は、ロックダウンのなか、ロンドンの家でひとりでマイクを立てて、録音もすべて自分でやって作りました。“十年ひと昔”という言葉もありますが、東日本大震災から10年ということもありましたし、自分たちがイギリスへ移住してから10年ということもありましたし。母が旅立ったり、愛犬もいなくなったり、そんな寂しいできごとの一方で、娘は今年20歳になります。この10年の間にいろいろなことがありました。でもこの先の10年を考えたときに、きっとこれからAIやメタバースの時代になり、世界は変化していくと思いますが、振り返ったときに「いまの自分がどういうふうに映るだろうか」ということも思ったり。この曲は、前のことを振り返りながら、先のことを歌った曲でもあるんですよね。この曲は、みなさんが自分のことと重ねてじっくり聴いてくれる曲なので、ライブでもこぶしをあげて楽しむものとは違うんです。僕のライブはいろいろな表情がありますから、とくにコロナ禍のライブはみなさん声援は出せない、歌えないという状況。昨年のツアーでは、途中でアコースティックコーナーを設けて、この曲や懐かしい曲をアコースティックギターで披露したら、それが逆にすごく新鮮だったようです。笑っている人がいたり、泣いている人がいたり、こちらもすごく胸が熱くなりました。――ツアーといえば、5月に群馬の高崎芸術劇場から始まる全国ツアー「HOTEI the LIVE 2022 “Still Dreamin’ Tour”」はどんなステージになりますか。今回のアルバム『Still Dreamin’』からの曲や、ライブ映えする曲をやります。加えて、昨年の40周年ツアーは制約があって各会場に半分のお客さんしかご覧になれなかったから、そんなみなさんも含めて久しぶりに以前の曲も聴きたいでしょうし、懐かしい曲も披露します。ベストツアープラス『Still Dreamin’』という感じですね。最初から最後まで、おもしろいツアーになると思います。――さらに2月4日から2週間限定で、映画『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』が全国公開となりますが、ドキュメンタリー映画なのですね。僕の40年を辿るような内容になっています。少しファンタジーな部分もあって、自分と自分が向かい合って対話するという、普通のドキュメンタリーとは違う、おもしろい作りなんですよね。いま見るとかわいいもんですが(笑)、ヤンチャで暴れん坊で、でもまっすぐ夢を目指している鋭い目があった若い頃の自分も見れて、昔ながらのファンの方には懐かしい映像もあります。ananwebの読者の方や若い世代の方、僕の名前は知っているけれど僕のことをそれほど知らない方にも、ご覧になっていただきたい。こういう時代だからこそ、音楽が非常に力を持っているということ、また、夢は若者たちだけのものではなく、大人になってもずっと追い続けるものなんだぞ、というメッセージが伝わる映画です。それこそ、ご家族で、親御さんと一緒に見てもけっこう楽しめる映画だと思います。みなさんが元気になる音楽を続けていきたい――アルバムリリースの2月1日は、60歳のお誕生日でしたね。イギリスの家族のもとに帰れないので(笑)、まさか60歳の誕生日をひとりで迎えるとは思いませんでしたね。でも、この日は映画のプレミア上映会があったので、ファンのみなさんとも会えて、ひとりじゃなかったです(笑)。せっかくいい作品を作ったので、ひとりでも多くの人に観てほしいですし、聴いてほしいですし、ここが踏ん張りどきなのでもうちょっとの我慢ですから、がんばります。――音楽活動以外のときの布袋さんのご様子がまったく想像できないのですが、どのように過ごしていらっしゃいますか?そうですよねえ、想像できませんよね。僕は、みなさんがびっくりするぐらい、おだやかな毎日を過ごしていますよ。いまは予期せぬ一人暮らしということもあって、料理も洗濯も掃除も自分でやりますし、花を買うのも好きですし。人目につかないように散歩することもあります。寂しいですが、いまは人に会えないですからね。映画やテレビばかり観ているかといえばそうでもなく、音楽ばかり聴いているかといえばそうでもなく。――お部屋でだらんとされているイメージがまったくないです。いえいえ、そんなときもありますよ(笑)、いつもきっちりしていないです。僕を知っている人たちは、ステージのときだけ、シャキーンとするイメージでしょうね。どちらかというと普段は、ほんわかしたイメージだと思います。いつもみなさんのお目に留まるときは、テレビなど一番オンなときですからね。でも、音楽を聴いてもらえば、僕のイメージの向こう側といいますか、人となりみたいなものも伝わればいいなと思います。――布袋さんは常に日本のロックシーンを牽引し続け、誰もがその背中を追う存在ですが、そのバイタリティはどこからくるものでしょうか。また、夢をかなえるモチベーションを持ち続けるには、どうすればよいと思われますか。夢を目標と置きかえてみても、あまり大きな夢を持ちすぎてもかなわないような気もしますし、かといって、小さな目標は夢と呼ぶにはふさわしくないような印象もありますよね。夢というのは心躍る言葉だけれども、なかなか自分から言葉にできない部分もあると思うんです。止まぬ雨はないわけで、明日は必ず来るわけで、そのときにどんな気持ちで明日を迎えるかが大事ですよね。我慢しなければならないことも多い現代のなかで、立ち止まってじっくり考えることも大事だけれど、ずっと足踏みをし続けるわけにもいかない。やっぱり、一歩前に踏み出す勇気だと思うんです。立ち止まりすぎてもろくなことを考えないですから、扉を開けたり窓を開けたり、同じ通学路や通勤路でも、昨日とちょっと違う気持ちで何かを探そうとすれば、いきいきとする自分もいるはずなんですよね。モチベーションというと、僕は「この先には何があるんだろう?」という好奇心が強くて、ひとつのゴールを超えても「さて、次は何があるか?」と、気持ちを切り替えます。命に関わることではない限り、人生って、どうにかつながっていきますよね。だから、大なり小なり迷った時は、自分のなかの声を聞く。そのほうが、おもしろいことにつながっていくと思うんです。とくに若いうちは、絶対そのほうがいいと思いますし、大人になったときのことを考えなくても、気がつけば大人になっているから。――いろいろなお話をしていただき、ありがとうございました。では最後になりますが、今後の抱負をお聞かせいただけますか。まずは新しく決まった全国ツアーをしっかりやりたいです。そしてコロナ禍によって、予定にあったヨーロッパツアーやアメリカツアーといったワールドツアーの夢が一度閉ざされている部分もあるので、一段落つき次第イギリスに戻って、夢に向かって活動を継続していきたいです。音楽が好きでやっているので、1日でも長くいきいきとみなさんが元気になるような音楽を続けていきたいですし、心身ともにムキムキにはなりたくないですが(笑)、ヘロヘロにはならないように、コントロールしていきたいなと思います。取材後記偉大なるギタリストである、布袋寅泰さん。ananwebの撮影時、布袋さんが部屋に入られる前に、ご準備いただいた幾何学模様のギターを先に拝見しただけでもBOØWY〜COMPLEX〜ソロとそのロックを聴いて育った筆者は息をのみました。「象徴的なあのギターを見るだけで僕だとわかりますし、いろいろな音が聴こえる、歴史を刻んだギター。宝物ですし、僕の身体の一部です」と布袋さん。ステージではカッコよく、お話しされる際はジェントルマンな布袋さんのニューアルバムと映画をみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・北尾渉取材、文・かわむらあみりヘアメイク・原田忠(資生堂)スタイリスト・井嶋 一雄(Balance)スーツ ¥621,500、シャツ ¥69,300、ベルト ¥99,000、チーフ¥29,700/すべて ブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン株式会社)(問い合わせ先)ブルネロ クチネリ ジャパン株式会社 03-5276-8300布袋寅泰PROFILE1962年2月1日、群馬県高崎市生まれ。日本のロックシーンへ大きな影響を与えた伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして、1982年にアルバム『MORAL』でデビュー。1988年のバンド解散後、同年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たす。また、吉川晃司と結成したユニットCOMPLEXとして1989年にシングル「BE MY BABY」でもデビューし1990年に解散。以降、ソロアーティストとして、そして同時に他アーティストへの楽曲提供、プロデューサー、作詞作曲家としても才能を高く評価されており、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍している。クエンティン・タランティーノ監督からのオファーにより提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」 が映画『KILL BILL』(2003年)のテーマ曲となり、世界的にも大きな評価を受け、いまもなお世界で愛されている。2012年よりイギリスへ移住し、4度のロンドン公演を成功させる。2014年にザ・ローリングストーンズと東京ドームで共演を果たし、2015年に海外レーベルSpinefarm Recordsと契約。インターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2021年にアーティスト活動歴40周年を迎え、日本武道館公演を無観客配信にて開催。また、同公演を完全パッケージした映像作品『40th ANNIVERSARY Live “Message from Budokan”』やEP『Pegasus』をリリース。8月24日には、東京2020パラリンピック開 会式にて「TSUBASA」「HIKARI」の2曲を制作/出演。圧倒的なパフォーマンスが世界中から高評価を受けた。2022年、2月1日に20枚目のニューアルバム『Still Dreamin’』をリリース。2月4日から映画『Still Dreamin’ ―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』が全国ロードショー。5月から8月までは全国ツアー「HOTEI the LIVE 2022 “Still Dreamin’ Tour”」を開催する。InformationNew Release『Still Dreamin’』(収録曲)01. Still Dreamin’02. Do you wanna dance?03. Let’s Go04. Starlight05. コキア06. オペラ07. Pegasus (Album version)08. 理由09. Rock & Soul Music10. Pure11. 世界は夢を見ている12. 10年前の今日のこと (Album version)2022年2月1日発売(通常盤)TYCT-60190(CD)¥3,300 (税込)(初回生産限定盤)60th Celebration EditionTYCT-69229(3CD+フォトブックレット+グッズ)¥6,600 (税込)<付属>・29曲合計約150分 2枚組ライブCD・60Pフォトブックレット・メモリアルピックセット・三面デジパック+三方背スリーブケース仕様。写真・北尾渉 取材、文・かわむらあみり ヘアメイク・原田忠(資生堂) スタイリスト・井嶋 一雄(Balance)
2022年02月03日【音楽通信】第99回目に登場するのは、プライベートレーベルを設立するなど、結成15周年を迎えて、さらなる飛躍を遂げようとしている4人組ガールズバンド、SCANDAL(スキャンダル)!ボーカル&ダンススクールでバンドを結成写真左から、TOMOMI(B&Vo)、HARUNA(Vo&G)、RINA(Dr& Vo)、MAMI(G&Vo)。【音楽通信】vol.992006年に大阪で結成された、HARUNA(Vo&G)さん、RINA(Dr&Vo)さん、MAMI(G&Vo)さん、TOMOMI(B&Vo)さんからなる4人組ガールズバンド、SCANDAL。2009年にシングル「少女S」でレコード大賞新人賞を受賞、国内外問わずさまざまな場所でコンサートを行い、メンバー全員がボーカルを務めるなど、その力強いパフォーマンスで人気を博しています。そんなSCANDALが、2022年1月26日にアルバム『MIRROR』をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、メンバーからHARUNAさんとRINAさんにお話をうかがいました。――小さい頃に憧れていたアーティストから教えてください。HARUNA小さい頃から聴いていて、音楽をやろうと思ったきっかけになったアーティストは、安室奈美恵さんです。もともと小室哲哉さんのサウンドがすごく好きで、小さい頃からgloveやhitomiさんなどの小室さんが作った曲をカラオケで歌いながら、「歌って楽しいなあ」と思いました。RINA 小さい頃は、母親の影響で浜崎あゆみさんの曲をたくさん聴いていましたね。他にもEvery Little Thingといった、女性ボーカルの曲がすごく好きでした。それからだいぶん経ってから、歌とダンスのスクールに通うようになって、SCANDALのメンバーとも出会って。スクールの先生が歌やダンスだけでなく、楽器演奏もすすめてくれたので、そこで初めてバンドの音楽や楽器に触れるようになって、気づくとバンドマンになって15年経っていました(笑)。――2006年に大阪でバンドを結成され、2008年にシングル「DOLL」でメジャーデビューされましたね。この15年を振り返っていかがですか。HARUNA長くやってきたなあと(笑)。15年経ってやっとバンドをやっていること、バンドマンでいることが心地よくなってきました。もともとボーカル&ダンススクールでのバンド結成という特殊なきっかけから始まっているので、それ以前の自分と、バンドを始めてからの自分との差を感じてしまうことも多くて。でも、やっとこの2、3年でそういう自分との差がなくなってきた気がします。――それは何か気持ちが切り替わる出来事があったのですか。HARUNA私が30代になったことが大きいと思います。20代の10年間は、オンオフ問わず、いつも完全にギアを入れた状態でバンドをやっていたといいますか。また違う人格を自ら作り出していたような感覚があって、なかなかそういう自分で10年ぐらい続けていると、心がしんどくなってしまうこともありました。でも、これから長くバンドを続けていこうと思ったときに、ありのままの自分でいるのが、一番大事なんだなと30代になってようやく気づき始めました。過去の自分を否定しているわけではなく、生きていることすべてに意味があると思っているので、これまでのいろいろな経験を経て、やっといますごくいい自分にたどり着いた気がしています。RINA 私はこの15年、シンプルに同じメンバーで、ずっと音楽ができていてうれしい気持ちでいっぱいですね。やり続ける度にバンドが大事になっていますし、楽しくなっています。いま自由に自分たちの個性を認めながら、楽しくナチュラルに音楽ができていると思うので、いまが一番楽しいですね。自分たちや時代と向き合って作ったアルバムHARUNA(Vo&G)。1988年8月10日生まれ、A型。――2022年1月26日に10枚目のアルバム『MIRROR』をリリースされます。まずは今作が仕上がっての手応えから、お聞かせください。HARUNAできてよかったーっ! という感じです(笑)。コロナ禍に入ってから、アルバムの制作がなかなか進まなかった時期もあったので、自分たちの心境の変化とともに完成していったアルバムだといえますね。――1曲目「MIRROR」はアルバムのタイトル曲でもありますが、もっとも今作を表す楽曲となりますか。RINA そうですね、収録曲のなかで最後に書いた曲でもあります。光や、自分たちが感じる女性の柔らかさやしなやかさ、繊細さみたいなキーワードを象徴するワンワードをずっと探していて、なかなかタイトルが決まらないなか最後に「MIRROR」という言葉に辿り着きました。これまで音楽の活動がストップした時期もありましたし、世界全体でいろいろな変化のあった時期に、どういうふうに音楽を続けたらいいかもすごく考えて、自分たちそして時代と向き合って作ったアルバムという意味でも、「MIRROR」というタイトルがすごくしっくりきて。リード曲にもなっていますし、このアルバムを象徴する曲でもあると思います。――4曲目「彼女はWave」はRINAさん作詞作曲の楽曲となり、それ以前の曲とはガラリと雰囲気が変わりますが、どんなイメージで作られましたか。RINA 波のように自由に生きている女の子をテーマにして作った曲なのですが、初めてひとりでDTMで作った曲で、家で打ち込みをしながら制作していった作業も新鮮で楽しくて。デモには私の作った仮歌を入れていたんですが、みんなに聴いてもらったときに「これ、RINAが歌っちゃえば?」となって、久しぶりにボーカルもやらせていただいた曲になりました。――7曲目「夕暮れ、溶ける」はHARUNAさん作詞作曲の疾走感のある楽曲ですが、どのようなシチュエーションから生まれた楽曲ですか。HARUNAこれはまず「夕暮れ」「溶ける」というワードが、夕方に犬の散歩をしていたらふと思い浮かんできました。表現としては違和感があると思いながら、でもワードが妙にグッときたといいますか。うまく言葉では説明できないけれどなんかいいな、という感覚は世の中にたくさんあるなあって、そんな感覚や潔さをうまく表現できればと思ってできた曲です。――ではいつも曲を作られるときは、インスピレーションで作られるのですか。HARUNA曲にもよるのですが、今回は1曲作ろうと思って机に向かったというよりは、何気ない日常のなかでふっと言葉が降りてきた感覚を大事に作ってみました。RINA 私の場合は、作詞作曲するときは、作ろうと思って机に向かうタイプです。バンドのなかで歌詞だけ書くことが多いので、好きな歌詞を書き溜めてみたり、ギターのMAMIがメロディを書いてくれることが多いのですが、そこに歌詞をのせていくパターンも多いですね。HARUNA今回のアルバムに関しては、初めてライブを意識しないで作ったかもしれません。RINA(Dr&Vo)。1991年8月21日生まれ、B型。――これまではライブに向けて曲を書くことが多かったのですか。RINA ほとんどライブに向けて曲を書いていて、ライブでお客さんに会って、それがインスピレーションになっていることが多かったんです。でも、コロナ禍でライブの機会がなくなって、今回は曲を書き始めるのが大変でした。だからこそ、自分と向き合う時間がたっぷりあって、自分たち自身を肯定する曲が多くなったんです。人に何かを発信するよりは、自分を発散する感覚、そんな曲が多いなと。あとはテンポを落としたものを作ろうと思って制作しました。HARUNAサウンドにいい丸みがある感じに仕上げたいなって。たっぷり時間をかけて作れたので、いままでとは全然違う意識でも作れた作品だと思います。――そうやって制作されてきた今作は、どんなふうに聴き手に聴いてほしいですか。RINA 仕上がってみて自分たちも気づいたのですが、あまりこの曲はこういう意味です、とかこういうことを言いたいです、とか答えがないような楽曲が多くて。だから、聴き手に委ねたいですね。その人の状況やライフスタイルによって伝わることが違うと思うので、好きに受け取ってくれたらうれしいです。一回振り切ってこういうアルバムを作ってみたかったので、やれてよかったですし、大事な一枚になりました。HARUNAバンドマンでいると、たまに年齢や性別を自分で忘れてしまう瞬間があるんですが、今回はちゃんと30代の女性として、一人の人間として向き合った中でできた作品がたくさんあります。なので、わたしたちをより身近に感じながら、聴いてもらいたいなと思います。――3月12日からは「SCANDAL WORLD TOUR 2022“MIRROR”」と題した全国ツアーを6月まで開催。7月からはノースアメリカツアー、9月からはヨーロッパツアーと、海外でもツアーをまわりますね。RINA 久々にワールドツアーができることがうれしくて、海外のお客さんもたくさんいるので、アルバムをどういうふうに聴いてくれているのかなと、ワクワクしながらまわることになりそうです。ホールも似合いそうなアルバムなので、すごく楽しみですが、ステージの内容はまったく考えていないので詳しく言えません(笑)。ワールドツアーとついたタイトルが自分たちらしいなと思うので、これがやっと戻ってきたな、と思いました。――日本と海外ではパフォーマンスに違いなどはありますか。HARUNAそんなにないですね、現地の言葉を教えてもらって、挨拶するぐらいです。RINA 日本語で歌うしね。HARUNAそう。国によって、お客さんの反応はさまざまだったりしますが、コロナ禍になって海外のライブがどういうふうに変化しているかはわからないので、それは行ってみてのお楽しみだなと思っています。ナチュラルな4人でずっと音楽をやり続ける撮影:ヤオタケシ――おうち時間が長引く現在、ハマっていることはありますか。HARUNA自粛期間にハマったのは、K-POP。BTSからハマって、NCT、ENHYPENとか、いろいろなアーティストの曲を聴いています。十数年前もよく聴いていたんですが、近年のK-POPブームにのってこうしてまた聴き始めたり、韓国チャンネルを予約してドラマを観たりすることも。最近はCSチャンネルでしか観られないドラマなのですが『マウス』(2021年)というサスペンスドラマが面白くてハマっていますね。RINA 叶姉妹のポッドキャストがすごく面白くてよく聴いています。おふたりのトークがすごく親しみやすい感じもありますし、違う世界の人の話を聴く楽しい感覚もありますし、人間力のあるおふたりのお話を聞くと満たされますね。あとはkemioくんのポッドキャストも聴くことがあります。多彩なゲストの方が来ていて、違う職業の方のお話を聴くのもすごく好きなので、力をもらいました。――おふたりのお気に入りのコスメやファッションもお聞かせください。RINA ヴィーガンコスメブランド「mirari(ミラリ)」のパックがお気に入りです。成分がやさしいもので、いろいろな肌質に合う種類もあって、パッケージもすごくかわいいんですよ。ファッションは、ヴィンテージショップでお買い物するのが好きで、古着もエコだからそれもいいなと。新しい洋服にないサイズもあるので、面白いですし、よくヴィンテージショップに行きます。HARUNAずっと使い続けているのは、韓国コスメ「Dr.jart(ドクタージャルト)」のシカペアクリーム。何本もリピートして使っていて、季節を問わずにお肌がなめらかになります。ファッションのこだわりはあまりないのですが「MM6(エムエムシックス)」や「TOGA(トーガ)」あたりのクールでちょっと形が変わった洋服をよく選びますね。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。RINA 2022年は、遊び心を大事にしたいです。いままでバンドだけの人生という感じでここまで来たのですが、昨年後半は違う職業の友人と会ったり遊んだりして癒され、リフレッシュできて、刺激をもらって過ごしました。そういう時間を今後も増やしていけたらいいなと思っています。バンドとしては、いまが最高の状態だと思うので、この状態が続いたらいいなと。ナチュラルな4人でずっと音楽をやり続けたいですね。HARUNA私も仕事とプライベートのメリハリを大事にしたいです。RINAと一緒で、この10年ぐらいはずっと仕事モードだったので、旅行したり、家で犬と過ごす時間を大事にしたいです。プライベートの時間で生まれる心の余裕みたいなものを、ちゃんと音楽に反映していきたいな。ライブをすることも楽しくて大好きなので、これからも少しずつやっていきたいですし、そういう幸せな日々をいっぱい増やしていきたいですね。取材後記女子中高生のときにバンドを結成し、15年間、駆け抜けてきたSCANDALのみなさん。ananwebの取材では、HARUNAさん、RINAさんに登場していただき、新作や普段のご様子までうかがうことができました。30代に突入し、自然体になったみなさんが放つこれからの音楽も期待大です。そんなSCANDALのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりSCANDALPROFILEHARUNA(Vo&G)、RINA(Dr&Vo)、MAMI(G&Vo)、TOMOMI(B&Vo)からなる4人組ガールズバンド。2006年8月、大阪のダンス&ボーカルスクール所属の女子中高生4人で結成。2008年、メジャーデビュー。翌年にはシングル「少女S」でレコード大賞新人賞を受賞。国内外問わずに多くのフォロワーを持ち、世界中でコンサートを実施。2019年、プライベートレーベル「her」を設立。2022年1月26日、10枚目のアルバム『MIRROR』をリリース。3月から全国ツアー「SCANDAL WORLD TOUR 2022 “MIRROR”」を開催。InformationNew Release『MIRROR』(収録曲)01.MIRROR02.eternal03.愛にならなかったのさ04.彼女はWave05.愛の正体06.アイボリー07.夕暮れ、溶ける08.蒼の鳴る夜の隙間で09.プリズム10.one more timebonus track1. Living in the city2. SPICE2022年1月26日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)VICL-65653(CD)¥3,300(税込)(初回限定盤A)VIZL-2001(CD+DVD)¥4,400(税込)<初回限定盤A付属内容>DVD「SCANDAL DOCUMENTARY “her” Diary 2021 SPECIAL EDITION」*ドキュメンタリームービー。(初回限定盤B)VIZL-2002(CD+雑誌)¥4,400(税込)<初回限定盤B付属内容>雑誌「”her” Magazine Vol.3」(完全生産限定盤)VIZL-2003(CD+DVD+GOODS)¥11,000(税込)<完全生産限定盤付属内容>DVD:MUSIC VIDEO CLIPS (「Living in the city」「SPICE」「月」「eternal」「アイボリー」「one more time」を含む計7曲を収録)、GOODS:MIRRORロングスリーブTシャツ(L size)。取材、文・かわむらあみり
2022年01月23日【音楽通信】第98回目に登場するのは、声優としてアニメやゲームなどで数多くの作品に携わりながらも、音楽活動やドラマ出演でも注目を集める、増田俊樹さん!高校生の頃に聴いたロックサウンドが音楽的ルーツ【音楽通信】vol. 992011年から声優活動を本格的にスタートし、『アイドリッシュセブン Third BEAT!』和泉一織役、『僕のヒーローアカデミア』切島鋭児郎役、『ヴィジュアルプリズン』ディミトリ・ロマネ役ほか、洋画の吹き替えやナレーション、舞台など、数多くの作品で活躍中の増田俊樹さん。アーティストとしては、2019年から音楽活動をスタートされた増田さんが、2022年1月26日に1stシングル「Midnight Dancer」をリリースされるということで、お話をうかがいました。――声優では2011年に『遊戯王 ZEXAL』(2011〜14年)で初レギュラーを獲得され、2013年にアニメ『サムライフラメンコ』(2013〜14年)で初主演を務め、その後数多くの作品でご活躍中です。そもそも増田さんが声優を目指されたきっかけ、影響を受けた作品から教えてください。高校生の頃に観たアニメに影響を受けて、「僕もこんなカッコいいことをやってみたい」という思いを持ちました。以前から芸能界に憧れもあったのですが、多感な時期で顔を出すことに抵抗があり、「顔を出さない声優なら自分にも目指せるかも」と興味を持ったことが声優になったきっかけです。TVアニメ『天元突破グレンラガン』(2007年放送)や『コードギアス反逆のルルーシュ』(2006年〜07年放送)などの作品に大きく影響を受けました。ゲームなども好きだったので、こういった「ひたすらカッコいいアニメに出たい!」という気持ちが強かったです。――その後、ご自身名義での音楽活動を2019年3月に発売の1st EP「This One」で開始され、2021年9月リリースの2ndアルバム『origin』も好調です。声優だけでなく、音楽活動をすることになった経緯と、そもそもの音楽的なルーツもお聞かせください。レコード会社のトイズファクトリーとご縁があり、マネジメント所属することになった後、音楽活動に興味はあるかと聞いていただいたことが、音楽活動をすることになった直接の理由です。音楽的なルーツといえば、もっとも自分に影響があると思うのは、高校生の頃に聴いていたロックバンドのサウンドですね。もともとBUMP OF CHICKENさんの楽曲が好きだったので、偶然にも同じレーベルであるトイズファクトリーで音楽に挑戦できるというのは、幸運だと思っています。初めてTVアニメのオープニングテーマを担当――2022年1月26日に、1stシングル「Midnight Dancer」をリリースされます。1月12日から放送中のTVアニメ『殺し愛』(毎週水曜24:00 TOKYO MXほか)のオープニングテーマでもありますね。初めてTVアニメのオープニングテーマを担当するということで、とてもプレッシャーを感じた制作でした。ただ、大変だったぶん、タイアップさせていただいた『殺し愛』のイメージを壊さない世界観を作れたのではないかと思っています。ミュージックビデオやジャケットなどのヴィジュアル面においても、原作を読んでいる方々にも気づいてもらえたらうれしい要素を含んでいるので注目してみてください。――冒頭からホーンがカッコいいアーバンジャズとなっている表題曲ですが、ご自身ではどのようなイメージで今作を歌っていますか。グルーヴ感を大事に、かつダーティな世界観を感じていただけるように、少しスレた歌い方をしているかもしれません。『殺し愛』という作品名から感じるセンシティブなイメージから「どんなストーリーが展開されるんだろう」と、曲と合わせて想像していただけたらうれしいです。――2曲目のバラード「ひび」は、どんな思いを込めて歌っていますか。今回、カップリング曲を作るということも初めてで、タイアップ曲と同じCDに収録されるもうひとつの曲と考えると、どんなバランスで作るのがいいのだろうかと悩みました。最終的には、発売日が冬だということと、1曲目「Midnight Dancer」が持つシリアスさとの対比を狙って、2曲目「ひび」はゴリゴリのウインターソングに仕上げています。みなさんが冬を感じるときに、この曲を聴いてくれたらうれしいですね。――増田さんの音楽活動において、声優として役になって歌を歌うのではなく、ご自身として歌う場合に、心がけていることはありますか。僕と制作チームが一緒に作る音楽を、聴いてくれる方々にしっかり届けたい、という気持ちがより強いです。音楽は、人生に少し変化を与えてくれるスパイスになればいいな、とも思っていますね。どんなときも気分が前を向く作品を作っていきたい――音楽活動の一方、1月クールの連続ドラマ『パティシエさんとお嬢さん』(毎週金曜23:00 テレビ神奈川ほか)に、功至役として出演されますね。どのような役どころとなりますか、また、ドラマの見どころもお聞かせください。パティスリーを舞台にしたラブストーリーなのですが、僕はアルバイト店員として、パティシエさんの奥野丈士(崎山つばさ)や、店長の帯刀稜(村井良大)に茶々を入れる、楽しい役どころです。出演シーンもおもにこの3人でのカットだったので、少しふざけた場面が多いかもしれません(笑)。お互い気になっているのに打ち明けることができず、一向に進展しない丈士と“お嬢さん”こと波留芙美子(岡本夏美)の恋の行方をやきもきしながら見られるドラマになっています。――お話は変わりますが、増田さんはおうち時間をどのように過ごしていますか。ここ2年ほど、自分がふと仕事以外でやっていることを思い返すと、ジムに行くか、家でゲームをするかでしたね(笑)。外食も減り自炊することも増えましたが、どれも自分にとってはこだわりの強いものなので、充実した日々を過ごしています。――楽曲ではさまざまなシチュエーションの歌を歌ったり、アニメ作品ではいろいろなキャラクターになったり、恋物語に触れることもありますが、増田さんが思うすてきな女性像をお聞かせください。男女問わずですが、新しいことも吸収し、努力できる人がすてきな人ではないでしょうか。――では最後に、増田さんの声優としての、そして音楽活動をするうえでの今後の抱負を教えてください。これからも引き続き、見てくださる方に夢を与え、一瞬でもまた頑張ろうと思っていただけるような作品づくりに参加したいです。音楽も同じように、楽しいときも辛いときも気分が前を向くような作品を作っていきたいですね。取材後記声優としてはもちろん、現在放送中のドラマでも俳優としてその姿を見せ、音楽活動でも新たな顔を見せてくれている、増田俊樹さん。今後も、ジャンルレスに活躍の場を広げて、活躍されるのが楽しみですね。そんな増田さんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてください。取材、文・かわむらあみり増田俊樹PROFILE1990年3月8日、広島県生まれ。出演作に、アニメは『コタローは1人暮らし』(狩野役)、『アイドリッシュセブン Third BEAT!』和泉一織役、『僕のヒーローアカデミア』切島鋭児郎役、『ヴィジュアルプリズン」ディミトリ・ロマネ役、その他洋画の吹き替えやゲームなど、数多くの作品に出演。増田俊樹名義での音楽活動は、2019年3月に1st EP「This One」をリリースし、スタート。2022年1月26日、1stシングル「Midnight Dancer」をリリース。InformationNew Release「Midnight Dancer」(収録曲)01.Midnight Dancer02.ひび03.Midnight Dancer (Instrumental)04.ひび(Instrumental)2022年1月26日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)TFCC-89723(CD)¥1,430(税込)(初回生産限定盤)TFCC-89721〜2(CD+BD)¥2,420(税込)<初回生産限定盤付属 BD 収録予定内容>「Midnight Dancer」Music Video、BEHIND THE SCENE「ひび」/Recording Documentary(期間生産限定盤)TFCC-89724(CD)¥1,430(税込)取材、文・かわむらあみり
2022年01月21日映像を見れば、すぐにそうと分かるウェス・アンダーソンの世界。その記念すべき10作目となる長編映画『フレンチ・ディスパッチザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』もまた、石造りの建物が並ぶ20世紀フランスの架空の街や、クセの強い記者たちの仕事部屋を備えた「フレンチ・ディスパッチ」編集部のビルなどにワクワクがたっぷりつまった、見るも楽しい“1冊の雑誌”となっている。スクリーンではカラフルな世界からモノクロへ、画角もワイドからスタンダードへ、描かれるストーリー(記事)に合わせて変幻自在に移り変わる独特の世界観を見事に形づくったのは、アダム・ストックハウゼン。2007年のウェス監督4作目『ダージリン急行』以来、コンビを組んでいるプロダクション・デザイナーのインタビューがシネマカフェに到着した。印象深いのは『グランド・ブダペスト・ホテル』「大変でしたが最高の週末でした」「私は(『ダージリン急行』の美術)マーク・フィリードバーグの依頼でその映画の美術を担当していました。その映画で最初にしたことは列車のシーンの準備でした」とストックハウゼンはふり返る。「何度も同じチームで働けることはすばらしいことです。お互いの理解が深まり、阿吽(あうん)の呼吸が生まれますからね」。ウェスとの創作の中ですぐに心に浮かぶのは、『グランド・ブダペスト・ホテル』だと言う。「ロビーを重層的に造りました。1960年代のロビーを1930年代のロビーの中に造ったのです。ですから、全体としてどのように見えてくるのか、完成するまで分かりませんでした―。他のシーンから頭をひねって想像するしかなかったのです」と話し、「週末に大急ぎでセット替えをすることもありました。60年代調を引っ剥がして30年代風に仕立てるのです。大変な作業でしたが最高の週末でした。今は良い思い出となっています」と回顧する。『グランド・ブダペスト・ホテル』よりそのほかにも、ウェス監督作品の美術を手掛けていて、ふと“思い出してしまうような”楽しい瞬間はあったか尋ねてみると、「たくさん楽しい思い出がありますよ!必ずしも大がかりなセットとは限りません。『ムーンライズ・キングダム』で、ボーイスカウトがカヌーで上陸するときのボブ・バラバンの浜辺のシーンでは、私たちは草むらにロープを持って入り、そのロープでカヌーを引っ張り上げました。こんな場面の撮影にはそう簡単には出会えません」と、確かに楽しそうにふり返る。「脚本を読んでいてめまいが…」膨大なセットの数とはいえ、本作に関しては「脚本を読んでいてめまいがしました!」とストックハウゼンは打ち明ける。「サゼラック(演:オーウェン・ウィルソン)の話で、この街をどう捉えるかが最初の難関でした。調査から取り掛かり、美術の取り組み方を下書きしてゆくことで、他の話も進展しだしました」。複数の短編からなり、複数のセットを要する本作。その数は約130にも及んだという。「この映画の美術の罠はおびただしい数の、細心の注意を要する、幅広いことがらがあったことです。それを切り抜けることができたのは、信じられないほど優秀なチームがあったからです」と話し、「エリカ・ドーンは次々と雪崩のように押し寄せる画像の要求にこたえました。ステファヌ・クレッサン(美術監修)とイラストレーターとアートディレクターから成る先鋭チームは監督の要望を1つずつかなえました。リナ・ディアンジェロ(装飾)は懸命に各セットを彩りました」とスタッフ陣をねぎらった。「すすけた感じがあってこそ美しい」古いフランスの街並舞台となる架空の街“アンニュイ=シュール=プラゼ”は、全てフランス西部のアングレームで行われた。フランスで最も古いバンド・デシネ(漫画)の祭典「アングレーム国際漫画際」が行われる地としても知られる。その町でのストックハウゼンの狙いは「バランス感」だったという。「私たちがよく写真や古い映画で見る美しいフランスはいつもすすけています。そのすすけた感じがあってこそその美しさが成り立っています。その均衡がとれることでフランスの美はさらに増します」と明かし、「実際の街とのバランスを取るように常に気を遣いました。建物に水を撒く場合もありました。小穴がとても多い石でできた建物が多く、濡れると色が濃くなるのです」と教えてくれた。そういった細部へのこだわりを発見するのも、観客の楽しみとなる本作。1回見ただけでは気がつかないような場面はあるか尋ねてみると、「なんと言っても<ビフォー/アフター>の画ですね。肉市場とそれがその後、地下鉄の入り口に変わった姿を隣り合う画で対比させるセクションです。これをどう見せるかを考えるのはとても楽しかったです」とストックハウゼン。「静物画を描く部分もとても気にいっています。<ビフォー/アフター>はとても難しかったですが、とても楽しかったです。その後、監獄の余暇室での争いの場面の美術を手掛けました。オペラの天井画を描く素晴らしい画家のチームが背景画を描いてくれました」と、ベニチオ・デル・トロが監獄の中の天才画家モーゼス・ローゼンターラーを演じるシークエンスも付け加えた。カギとなったのは伝説的名作『赤い風船』さらに、編集長のビル・マーレイをはじめ、ティルダ・スウィントンやフランシス・マクドーマンド、オーウェン・ウィルソン、ジェフリー・ライトら、錚々たる顔ぶれが集う「フレンチ・ディスパッチ」編集部のセットでは、それぞれの記者の個性が映し出される部屋も必見ポイントだ。ストックハウゼンは「それぞれの記者の執筆スペースに関しては、トルーマン・カポーティ、ゴア・ヴィダル、ベン・ヘクト、リュック・サンテ、エミリー・ディッキンソンほかの多くの実在の作家の書斎を参考にし、イメージのテーマにしました」と語り、「編集部全体のイメージには、どの新聞からか思い出せないのですが、参考となる素晴らしい写真がありました。広々としていて、再利用により記者の作業スペースとなった打って付けの佇まいでした」とヒントになった写真があったことを明かす。この編集部のように、すすけた街の雰囲気とは極めて対照的な黄や赤、青が効いた色調も見どころとなる。「(先ほどの)美しさとすすけた感じのバランスという話に通じます。これを実現するために私たちは具体的な方法をとりました」とストックハウゼン。「映画『赤い風船』を参考のカギとしました」と、パリの路地裏に色鮮やかな赤い風船が映えるアルベール・ラモリス監督の1956年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品を挙げる。「『赤い風船』では当時の街のほこりっぽさが背景にあることで、色彩のポップさが鮮やかに浮き上がっていることが分かります。もちろん映画に出てくる風船の色もそうですが、車の色も、お店の店先の色も効いています。最も重要なことは<古いすすけた建物を背景にした明るい対象物>というバランスを保っていることです」と、本作にもつながる色彩のマジックを打ち明ける。現在、「残念ですが、まだあまりお話できない」というウェス監督の次回作をスペインで撮影中というストックハウゼン。次はどんなウェス・アンダーソンの世界を魅せてくれるのか、まずは彼らが創りだした20世紀フランスの街を堪能してみてほしい。『フレンチ・ディスパッチザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は1月28日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:フレンチ・ディスパッチザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 2022年1月28日より全国にて公開©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
2022年01月21日現代の東京を生き抜く29歳独身女性4人の恋、結婚、仕事、性、友情などに斬り込み描くABEMA新オリジナルドラマ「30までにとうるさくて」が1月13日(木)22時より放送される。本作でフリーのクリエイターで同性のパートナーと愛を育む佐倉詩を演じる石橋菜津美に作品への意気込みや撮影中の印象深いエピソードなどについて話を聞いた。――初めて台本を読まれたとき、どんな感想を持たれましたか?私自身が29歳で30歳も目前に迫っている年齢なので、リアルに自分の身近でも溢れている問題が取り上げられていると思いました。だからこそ、読んでいて胸が痛くなることもありました。――演じられる佐倉詩というキャラクターはどんな人物だと思いますか?達観していて気分の浮き沈みがなく誰かに流されるということがない人だと思います。ただ、日々“仕方ない”という気持ちを抱えているんじゃないかとも思っていて。20代前半であれば人に意見をぶつけていたとしても、それでもある程度変わらない現実が見えてきて、今はもがくというよりは「自分は自分」ってことを信条に生きている子だと思います。――ご自身と似ているところはありますか?私自身も人に流されやすかった過去を経て、20代中盤以降は、人も変わらないし自分も変わらないということを後ろ向きではなくそのまま受け入れ“仕方ない”と思えるようになり、「人は人、自分は自分」と思うようになりました。――詩自身はレズビアンであることをカミングアウトしているものの、恋人の真琴はレズビアンとして生きることに葛藤を抱えているという関係性を演じる上で苦労された点や、役作りで意識された点はありますか?私自身、“セクシュアリティの問題って、なんでこんなに世間の認識や意識が変わらないのかな?”と常日頃から不思議に思っているので、今回のキャラクターはずっとやってみたい役でした。私自身は当事者でなくともその役として生きる上で、当事者の方に失礼がないようにどういう葛藤があるのか寄り添って演じたいと思いました。だからこそ、恋人の真琴とはどういう立場でどういう風に出会ったのかなど台本には書かれていないような細かな背景まで考えなければいけないと思いながら向き合いました。――よろしければその裏設定を教えていただきたいです。恋人の真琴役を演じる中田クルミさんとは、どんなことを話し合われたのでしょうか?2人の出会いはマッチングアプリや誰かの紹介ではなく、お互いにとって偶然の運命的な出会いだったんじゃないかなとか。あとは、2人の役割としてどちらが男性的、女性的ということではなく、お互いにただ一人の個人として惹かれ合っているだけというところに誠実に向き合おうということになりました。ただ、詩の方が真琴に対する想いが強くなきゃいけないと思って、そこだけは意識してやるようにしました。「変わらない世の中、積極的に変えられないもどかしさ」に共感――今回は29歳の女性4人の話ということで、皆さんの掛け合いが観られるのも楽しみです!「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレ・フジテレビ系)の翼役でも、とわ子や早良たちとの女子会シーンはとても楽しませてもらいました。今回、同世代の俳優さんに囲まれての現場はどんな雰囲気ですか?みんな大人だからちょうど良い距離感で、付かず離れず個々に自立できているのが本当に心地よく、作中の4人の役柄、関係性通りだなと思います。今回のドラマは会話劇がメインですが、そもそも女子会ってみんな話を聞いているようで聞いていなかったり突然全然違う話になったりするなぁと思うので、話者が常に変わっていく様子も女子会のリアリティーさが詰まっていると思います。――何か撮影中に印象的なエピソードがあれば教えて下さい。皆、今回の設定年齢と実年齢が近いため、台本の言葉や感覚に対してはある意味監督や現場にいる男性スタッフよりも誰よりも実感値としてわかるので、譲れないところが明確にあって、台本のセリフについて話し合うことが多かったです。どの役柄も必死さゆえの痛さを抱えているからこそ、さじ加減次第では同じ悩みを抱える人に対して失礼になってしまったり、不要に人を傷つけてしまいかねないので、ああでもないこうでもないと思いを巡らせながら台本に向き合いました。――石橋さん自身は本作に登場するキャラクターのうち、誰のどの悩みに一番共感できますか?どれも当てはまらなかったかもしれないですが、詩が抱いている“変わらない世の中に対する疑問、それを自分だけでは積極的に変えられないもどかしさ”というのはわかる気がします。でも、どの役もそれぞれにピンポイントでその時々の感情は共感できるものがあって、私は4人を集約したような人間だなって思います。周囲を傷つけない“自分勝手”な選択を――この作品でも恭子の話として「選択的シングルマザー」について描かれますが、石橋さんは昨年ご出産されたことを公表され、“結婚”という形に囚われないご自身の人生の最適解を模索されている印象があります。何か物事を決断する際に意識されていること、優先順位などはありますか?“自分が後悔しないようにする”ことが一番、でもそれによって誰かが傷つくことがないようにと気をつけているつもりです。周囲の目を気にしすぎて自分がやりたいことを我慢したりベストな関係性になれないのは本末転倒なので、周囲への配慮をした上で許される“自分勝手”の範囲内でやりたいことができればいいなと思います。今回の恭子の選択についてもそうですが、人が決断したことにとやかく言う筋合いもないし、自分も否定されたくないからこそ、相手の決断も否定せず肯定して、それがより良い形に進ように全力で応援したいです。こういう話こそタブー視されがちで、なかなか男性には話せなかったりするので、女性同士だからこそ支えになれたらなと思います。――最後に、本作をどんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えて下さい。同世代の方に、悩みを解決できないまでも他にも自分と似たようなことで悩んでいる人がいっぱいいるということを知ってもらえると思います。そうすれば焦らずに、少しずつ視野を広げてもらえると思うので、今はひとつしか選択肢が見えていなくてもこの作品を観ているうちに、それ以外の選択肢の存在にも気が付けるかもしれません。毎週、それぞれ刺さる部分があると思うんですが、痛みを感じながら観て頂きたいです。((text:佳香(かこ)/photo:Maho Korogi))
2022年01月13日Netflixシリーズ「新聞記者」が1月13日(木)より世界同時配信される。第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞ほか、3部門を受賞した映画『新聞記者』を、藤井道人監督自らの手で、新たな物語として築き上げた。真実を追究し続ける東都新聞記者・松田杏奈が、政府が起こした公文書改ざん事件の真相を追う本シリーズ。新聞業界の異端児と呼ばれる主人公の記者・松田を米倉涼子が、エリート若手官僚として職務に邁進する村上真一を綾野剛が演じた。さらに政治には興味も知識もない、新聞配達のアルバイトをしている就活中の大学生・木下亮を横浜流星が担当している。異なる世界に生きてきた3人が、あるスクープをきっかけに交わり始める。そこには、それぞれの正義と意志、思いがうごめきあうのだ。3者3様の輝きを放ち作品に臨んだ米倉さん、綾野さん、横浜さんに「新聞記者」撮影にまつわるエピソードや、彼らが仕事をする上での正義・大事にしていることなどを聞いた。米倉:我慢、ですね。普段、私はボディランゲージがすごく多いんです。話しているときに手がすごく動くし、言葉とともに身体で表現することも多い。けど、松田を演じる上では、思いを溜め込みながら自分の思いは我慢することを意識していました。綾野:自分の精神状態を追体験しない、ということでした。「あのときこうだったら」という感情は完全に捨てました。人は、何でもない会話の中で“たられば”があるからポジティブにもなれたりする。採択していることを捨てたので、きつかったですね。横浜:僕が意識したことは何だろう…一番は素直にいることですかね。まっすぐに。変に「こうしよう」というのを決めずにいました。亮は、いろいろな人たちの言葉や出来事に影響されて揺れ動いていくので、その人たちの言葉をしっかり素直に受け取って、自分がそのとき“思って”行動できたらいいなと。一般市民として若い皆さんにも共感してもらえるように、という役でもあるので、だからこそ自分も亮とともに学んでいけたらと思いました。――それぞれのバックグラウンドを見せながら、シーンが交差していきます。皆さんの出演パートをご覧になって、いかがでしたか?米倉:それぞれのシーンを作品として見たときに、ひとりひとり、それぞれの役作りがものすごく強くて。それぞれの思いが、なんていうか…背中にのしかかっているような気がしました。綾野くんの役と私の役は、最初はそれこそ敵対しているんですけど、それでも見ていると、その人の気持ちになれるというか。流星くんの新聞配達をやっているシーンも、私は1回も(現場で)見ていなかったのもあって、「あ、こんなに穏やかに何の問題もなく生活を送っていた彼に、ふとした瞬間に、あんな出来事がのしかかるんだ」と思いました。辛い経験をし、自分で道を切り拓いていくまでの流れを、ひとりの人生の例としてこの6話で見て追いかけていけるんです。すべての人の見方になれる、すべての人の思いになれるような、細かいところまで設定と演出をしている作品という印象を、すごく受けました。綾野:松田さんが見ているまなざしの先に何が映っているのか、毎話どんどん変わっていきます。もともと断定していたものが、どんどん変わっていく。表情の柔軟さが、今、世の中に足りていない気もしている中で、真実はひとつですが、真実の見方はたくさんあることを体現されている(米倉さんの)お姿に、とても感銘を受けました。流星君の亮さんは、ある種、国民代表としての立ち位置で生きていた。亮さんという青年が、これから自分が国民のひとりであるという自覚を持って進んでいく。6話が終わった後、その先にある彼の瞳には何が映っているのかということが全てです。僕たちが一番大事にしなきゃいけない、国を作り動かし豊かにするのも、やはり国民のまなざしひとつで大きく変わるんだな、と。おふたりに共通して思っているのはまなざしで、その瞳の中に映っている未来でした。横浜:ある大きな出来事が亮に振りかかり、米倉さん演じる松田と出会っていくんですけど、僕は亮と同じ気持ちでした。松田がまっすぐに真実を追究する姿を見て、亮は影響され成長していきます。現場でご一緒させてもらっている僕も、亮と同じで尊敬する気持ちというか「この人についていきたい」という思いになりました。剛さんの村上は、自分の中で一番敵だと思っている人。でも、そんな人にもその人のいろいろな思いがある。そのことを感じたので(共演シーンの)部屋で会ったとき、何も言えない気持ちになったんです。亮としてなのか、自分としてなのか、よくわからなくなるというか。お二方とも言葉よりも行動で見せてくれる人だったので、僕はそれを吸収しないといけない、という思いで現場にいました。藤井監督との現場に、米倉さん「こんなに毎日緊張するってないんじゃないのかな」――藤井監督とのお取り組みについても伺いたいです。綾野さんは『ヤクザと家族 The Family』、「アバランチ」と続いていますよね。綾野:藤井監督とは『ヤクザと家族 The Family』(2021年公開)に次いで本作が2作目。声を掛けていただいたとき、素直に嬉しかったです。新たな「新聞記者」の一員として参加できる事、そして、米倉さんと流星君とご一緒できる事、なにより藤井監督とまた現場で魂を揺さぶり合いながら戦えると思うと。どれだけ苦しくても、どれだけ愛せるか。特に藤井監督とは、そういう想いでやっています。――米倉さんは初めての藤井監督、いかがでしたか?米倉:初めて参加させていただく組だったので、藤井監督のことも、クルーも、すべての方を存じ上げなかったんです。衣装合わせのとき、最初に藤井監督とカフェでお話をしたんですけど、すごく「うんうん」と聞いてくれたので、実は「不思議な方だな」と思っていました(笑)。いざ撮影に入ると、ものすごく入り込みやすくて、見たことのない撮影現場でした。大人になってから、とにかくこんなに毎日緊張するってないんじゃないのかなというぐらい…毎日すごく緊張しましたし、応えたい思いにもなりました。その分、悔しい思いもしたので、どこかでもう1回リベンジしたいです。――横浜さんは『青の帰り道』や、最近では『DIVOC-12』の短編でもご一緒していました。本作では藤井監督から「ベストアクト」ともコメントが出ていますが、いかがでしたか?横浜:藤井さんが「映画版では描き切れなかったところを託したい」と言ってくださったときは、本当に幸せなことだと思いましたし、だからこそプレッシャーも責任もあり、覚悟を持っていました。現場では、藤井さんのチームにはやっぱりすごく信頼感があって、身を任せられました。本当に、ほかにはない雰囲気があるんです。締めるところは締めて絶対に妥協しないので、僕は亮として生きていて、毎回自分の知らない自分みたいなものを引き出してもらえました。だからこそ楽しいし、生きてるな、という感じがしました。米倉さん&綾野さん&横浜さんの正義とは…「嘘をつきたくない」「愛と熱狂」「自分は自分」――普段仕事をしていると、どうしても妥協してしまう瞬間があったりもしたので、「新聞記者」を見て、何よりも自分の正義みたいなものを大事にしていきたいと思いましたし、そう感じる視聴者が多いと思います。皆さんはお仕事する中で、譲れないこと、自分の中の正義など、どういうものでしょうか?米倉:私はメディアやすべてのことに対しても、とにかく嘘をつきたくない、という思いだけかな。別に私自身のことを隠したいとも思っていないのに、なんでわざわざ隠さなきゃいけないことがあるんだろう、とも思うんです。嘘をついてしまうと、理由をくっつけていって、とてつもない大きなサンドイッチみたいになっていっちゃうでしょう。芯が見えなくて倒れちゃいそうになっちゃうと思うので、言わないことはいいのかもしれないけど、嘘をつくことは嫌だなと思います。横浜:僕はまだまだ未熟者だし、この年齢で代わりなんてたくさんいるから、やっぱり比べられることもあります。でも「自分は自分だ」と思って、自分の芯をぶれないようにすること、ですかね。いろいろ言われますけど、ぶれないように。そこは変わらないようにしたいです。綾野:熱狂、です。いつでも愛と熱狂、していたい。妥協されたことがあるというお話をされていましたが、選択の余地もないことは確かに妥協かもしれません。ですが結果どんな小さなものでも選択をしたという事は、きっと妥協ではない気がしています。選択できなくなったときに、自分たちがどう立ち向かうのか。自分たちは常に選択できるような環境作りを、トップダウンではなくボトムアップしていくことがとても大切ですし、いろいろな人たちの言葉を聞いて、感じていくことがとても大切だと思っています。ちゃんと選択していくこと、その環境作りを熱狂を使って、愛を通してやれたらと思っているんです。2021年見た中で、3人がお勧めする作品とは…?――2021年ご覧になった中で、一番ご自身を熱狂させたお勧め作品は何でしたか?綾野:僕は「ペーパー・ハウス」は、かなり熱くなりました。米倉:ああ、私も「ペーパー・ハウス」かな~!スペイン語を練習しているのもあるから。――米倉さん、原語でご覧になっているんですね…!?米倉:そうですけど、もちろんサブタイトルもつけていますよ!…でもね、絶対自分ではやりたくない作品(笑)。泥だらけになりたくないもん~。綾野:泥だらけになりますけど、シーズン1だったらまだ大丈夫じゃないですか?米倉:確かにね。一番最初のバーで教授と飲みながら…ぐらいまでだったら、やってもいいかな(笑)。ドキュメント(「ペーパー・ハウス: 人気の秘密に迫る」)を見ていたら、泥だらけだったから「ああ、無理!!」と思ったの。綾野:俺、デンバー好きなんです。真っ直ぐで。あとトーキョーも好きです。米倉:トーキョーねー!私はナイロビも好きだった!綾野:流星は?横浜:俺、見られてないんです。見たいです!――横浜さんは、2021年印象的だった作品、何でしたか?横浜:僕は、素直に『ヤクザと家族』。綾野:嬉しい。横浜:本当に、心がえぐられましたね。試写室で観たんですけど、終わった瞬間に、藤井さんと剛さんにすぐ(感想を)送りました。そのぐらい、なんかずっと浸っていて、すぐには立ち上がれなかったです。同時に、「なんで自分(出て)いないんだろう」って…。綾野:(笑)。嬉しいよ。そういう意味だったら、「FAMILIA」聴いたときもかな(※『ヤクザと家族』主題歌)。2021年の中では最大の出来事でした、「総合芸術って美しいな」と結実した瞬間でした。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-
2022年01月11日神木隆之介は、常に神木隆之介であることに疲れないのだろうか?いや、神木さんに限らず、俳優やタレント、有名アスリートに政治家…人前で何かをすることを生業とする者であれば誰もが、TV番組や映画、報道などを通じて人々から勝手な“イメージ”を持たれるものではある。ただ、神木さんが他の人々と異なるのは、子どもの頃から現在(28歳)に至るまで、ほぼ休むことなく俳優として活動し続けてきたことで、子どもの頃からのイメージが長く、そして深く人々の中に根付いているということだろう。いまなお、神木さんを“息子”や“孫”を見るような視線で“見守っている”人も多いし、「明るくて人当たりもよく、演技も上手でしっかりしている」という完璧なイメージを抱いている人も多いだろう。そんな<人々がイメージする>“神木隆之介”そのものを主人公としたドラマ「神木隆之介の撮休」が1月7日より毎週金曜よる11時からWOWOWにて放送・配信となる。物語はあくまでフィクションだが、神木さんが演じるのは神木隆之介本人。突然、翌日が撮休(=撮影がお休み)となった神木さんの姿をオムニバス形式(全8話)で描いている。あくまで脚本家が書いたセリフだが、まさに上記のような人々が抱くイメージについて言及されるシーンや「初対面の人からも『神木くん』と呼ばれるんですよね…」とボヤキ気味に語るシーンも…。果たしてこの“本人”役に神木さんはどう挑んだのか?神木隆之介を演じる上で「役作りは全くしなかった」「神木隆之介の撮休」第2話――最初にこの「神木隆之介の撮休」の企画を聞いて、台本を読んでの印象は?台本のト書きに「神木、○○する」とかあったり、自分の名前が台本にあるって、普段はないことなので不思議な気分になりましたね。他の人たちはみんな役名なので、みんなは僕のことを「神木」と呼んで、僕はみなさんを役名で呼ぶという(笑)。他人の撮休を他人が考えてくれるって、なかなかない発想だなと楽しく読ませていただきました。(8話で)それぞれ色が違うなと感じながら読みました。――あくまで脚本家が書いたフィクションではありますが、神木さんが演じるのは神木隆之介本人。神木隆之介を演じる上で、いわゆる役作りなどはあったんでしょうか?役作りは全くしなかったです。でもあえて意識したのは、“ちゃんと”しゃべらないようにしようということ。もちろんセリフはあるんですけど、人間って考えながらしゃべるじゃないですか? “役”を背負うと伝えないといけないことが明確に出てくるので、変なところで途切れたりしたらダメだけど、今回はノンフィクションにも思えるような物語を作っていただいたので、ちゃんと考えつつしゃべっていても、ところどころ、たどたどしかったり、「僕だったらこういうしゃべり方だな」というしゃべり方――芝居をしているというより、僕が私生活でしゃべっている雰囲気で見せたいなということは意識しました。――ある意味で、ここで描かれている神木さんの姿は、人々が抱くパブリックイメージであったり、脚本家がイメージする撮休の神木さんだと思いますが、本人としてはどう受け止めましたか?みなさん、本当に“好青年”に描いてくださって、ありがとうございます(笑)!(劇中の神木さんは)ちゃんとしてる人間ですね。どこにもクズ感がないですよね、本人と違って(笑)。これまで共演者の方に「もっとおとなしい人間かと思ってた」「意外とうるさいんだね」とか言われたことはありましたけど(笑)、そういうのとは違って、脚本家のみなさんが作品を通して僕のイメージを「あなたってこうだよ」と伝えてくださっていて、その意思が作品で届くというのはおもしろかったですね。「こう見えているんだなぁ…」って(笑)。わりとちゃんとした人間で、あんまり、ふざけてないですよね。本来の神木はもうちょっとふざけてますね。(劇中の神木さんは)真面目でまっとうな意見を言うキャラクターだったなと思います。ということは、世間のみなさんのイメージとしても、あまりふざけない感じなんですかね? 「コメントもちゃんとしてるし」みたいなセリフも出てきましたけど「そういうイメージなのか…」とは思いましたね。あと、(普段の神木さんは)あんまり自分のことはしゃべんないかもしれないですね。第4話「夢幻熊猫(むげんぱんだ)」の中でも姪(長澤樹)に「役者ってさ…」みたいなことを言ったりしてますけど、そういうことはあんまり言わないかな? 実際に姪もいるし、最近その姪が「女優になりたい」って言い始めたらしいんですけど、僕は「いいんじゃない?」って。やってみなきゃわかんないし、この仕事に限らずどんな仕事でもつらいことはあるだろうし。想像していたよりつらかったらやめてもいいし、やってみないとわかんないから「がんばれ~」みたいな感じです。この(エピソード)の中では真面目な叔父ですよね。本来は「普通のちょっとテンション高い28歳」「神木隆之介の撮休」第4話――「それはちょっと違うぞ」と否定したい、壊しておきたいパブリックイメージはありますか?僕は、お調子者ですよ(笑)、本当に。すぐふざけるんですよ。外(=仕事)では余計なことは言わないというだけです。落ち着きもないですし「普通のちょっとテンション高い28歳だよ」ってことは言っておきたいですね。周りからは「まあまあ、もう28歳なんだから、無駄にテンション高くしないでもうちょっと落ち着けよ」って言われるかもしれないですけど(笑)。無駄なこと、ふざけることが好きな人間なんです。――周りのイメージと本当の自分のギャップで悩んだりしたことはないんでしょうか?それは全くないですね。そんなに苦しんだりってことはなくて、お会いする相手の方がどんなイメージを持たれていても、実際に会って話していることが真実だと思っているし、会った時から新しく(イメージを)構築していけばいいと思っているので、そんなに気にしたことはないですね。――“国民の息子”のようなイメージを持たれたり、「完璧にそつなく何でもこなす」というイメージを持たれることもあるのではないかと思いますが…。そういうイメージを気にしたことはないんですよね。逆に「なんでこんなに褒められてるんだろう?」って思います(笑)。「え? そんなに過大評価をしていただいて…ありがとうございまーす(笑)!」って感じですね。かといって、それをプレッシャーに感じるってこともないですし。――“いい人”のイメージを持たれやすそうですし、意地悪な言い方をすると「挫折を感じたこともないし、コンプレックスもないんでしょ?」とか思われがちですけど、実際にコンプレックスを抱くことは?あります、あります!「もっと身長が高ければなぁ…」とか「(新田)真剣佑くんとか(山崎)賢人くんみたいな顔になりたかったなぁ…」って思いますもん(笑)。「背が高いと服も似合うし、いろんな髪型も似合うでしょ。いいなぁ」って思います。なぜか僕の周り、背が高くてカッコいいやつばっかりが揃ってるんですよ。過去に「イケメンたちに囲まれて神木、ハーレム状態」とかって記事が出てたのを読みましたから(笑)。志尊淳くんとかもそうですし、主人公性のある人たちばかりが周りにいて「目の保養になるなぁ」「心が浄化される」と癒されつつ「いいなぁ…。うらやましいな…」とか思ってますね。それはずっとコンプレックスですね。縁のある俳優&スタッフとのドラマ製作が実現「神木隆之介の撮休」第7話――今回、神木隆之介役を演じたことで気づいたこと、発見したことはありましたか?やっぱり、普段の自分ってちょっとテンション高いんだなって思いましたね(笑)。しゃべることが好きなんだなと思いました。素の自分と一番近かったのが第7話の「友人の彼女」かな? 結構セリフが多かったですよね。井之脇海くんが親友役で、萩原みのりさんが海くんの彼女で、僕が海くんと仲が良すぎて彼女が嫉妬するというお話で。井之脇海くんとの思い出をずっとしゃべってるというシーンがありましたけど、あのテンションは(自分と)近かったと思います。たしかにしゃべるなって。実は、僕も同じような環境にいたことがあって(笑)、親友とすごく仲が良くて、毎日のように遊んでて、毎日一緒にゲームをやってたんですよ。ふと「この人、彼女とかいないのかな?」って思ったんです。いや、いた場合、どうなんだろう? 俺がかなり独占してるぞ…って。その親友が最近、結婚したんですよ。だから(彼女が)いたんですよ。すごく申し訳ないじゃん!って思って(苦笑)。奥様にも挨拶をさせていただいたんですけど「隆さんとの関係を壊したくないので、どうぞ私のことは気にしないでいままで通り、誘ってやってください」って言ってくださって、すごく優しいなと思いつつ…「でも彼女いたんだ!?」って(笑)。あと、もう別の仲良い友人の話ですが、カラオケを一緒に行き過ぎて、他の人に「今日空いてる? あぁ、でもどうせ神木くんと遊ぶでしょ?」とか「神木くんは大丈夫?」って聞かれるって言ってました。一番優先されてるらしいです(笑)。「神木隆之介の撮休」第6話――今回、全8話でいろんな監督、俳優さんとご一緒しましたが、特に思い出深かったことや出会いは?いっぱいあるんですけど、第6話の「ファン」には松重(豊)さん、田中(要次)さんも出てくださっているし、なんなら大塚明夫さんですよ!(ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズの)スネークが出てくれたんですよ? YouTubeで以前、ゲーム配信でコラボさせていただいて、その時に「お会いしたいですね」と言ってたらこうやってお会いできたんです。しかも、エピソードの中の神木も大塚さんが演じる声優・小野寺修吾のファンという設定で、僕も大塚さんのことは大好きなので、リンクするところがあって嬉しかったです。あとは矢本くん(悠馬/第3話「捨てる神あれば」)もそうですし、仲野太賀くん(第8話「遠くにいる友人」)、成海璃子ちゃん(第2話「嘘から出た何か」)も藤原季節くん(同)もそうだし、仲のいい人たちが出てくれて楽しかったですね。監督の森ガキさん(オープニングと第3話「捨てる神あれば」、第6話「ファン」の演出担当)は、志尊淳くんとSNSで制作してた映像でご一緒したことがあったんですけど、「本格的に映像で一緒にできたらいいね」とか言ってたらこの作品でご一緒できたので、すごく嬉しかったです。繊細な画ですけど、すごく自由にさせていただいて、またご一緒できたらいいなと思います。子役出身の苦労や葛藤は「全く意識したことない」「神木隆之介の撮休」オープニング――毎回、冒頭で明日が撮休になったと知らせるマネージャー役を池田鉄洋さんが演じています。もしも、池田さんが現実でも神木さんのマネージャーだったら…?メッチャ楽しいと思います! 鉄洋さん、本当に優しいですからね。あんなに優しい人いないですよ。映画『屍人荘の殺人』のとき、矢本悠馬くんは「イケテツ」って呼んで、僕は「鉄洋」ですよ(笑)? そんなの許してくれる年上の人、いますか(笑)? 僕がたまに「イケテツさん」って呼んだら「いや、鉄洋でいいよぉ。そっちのほうが落ち着くから」って(笑)。メッチャ良い人です。今回の企画の打ち合わせの段階で「誰と仲が良いか?」といったリサーチがあったんですけど、マネージャー役が必要ということで「誰か候補はいますか?」と聞かれたので、迷わず「池田鉄洋で!」と(笑)。――劇中の関係性が池田さん演じるマネージャーが「神木さん、すいませーん…」という腰の低い感じで、その関係性も毎回、面白いですね。実際、僕と鉄洋さんもそういう“プロレス”をできる関係性なんですよね(笑)。――神木さん以外では、第1話の「はい、カット!」で共演された安達祐実さんだけが唯一、本人役で出演されていて、“元子役”ということについて語り合います。本人同士でフィクションの作品でお芝居をするのはいかがでしたか?楽でした(笑)。安達さんのことを「安達さん」って言えるので。初めてお会いしたのが、何年か前にスタジオで、たまたますれ違ったんですけど、僕が小声で「あ、おつかれさまです」と言ったらペコってしてくれて。僕は休憩で、安達さんは楽屋からスタジオに入る、ちょうどスイッチを入れる時で、僕は心の中で「うわっ! 安達祐実だ!」と思ってました(笑)。「やべぇ!」って。これは今回、ご本人にも伝えたんですけど、ちょうどスイッチが入ったのか、なんか“気迫”があったんですよ。「やっぱり違うな、安達祐実は」って。今回、ご一緒すると聞いて「あの気迫で来られたらとんでもないことになるな…」と思ってたんですけど、おそるおそる話しかけたらすごくニコニコとお話してくださって、すごく優しい方でした。「初めてお会いしたとき『やべぇ、安達祐実だ!』って思ってました」って言ったら、笑ってくれました(笑)。「神木隆之介の撮休」第1話――このエピソードでは、子役出身の俳優ならあるのかも?と思わせる架空の“シンドローム”が描かれますが、神木さん自身は普段からこれは職業病だなと感じることはありますか?あります。ふとした瞬間に「カメラがここにあったら、こう撮っているだろうな」「引きだったらこうで、寄りだったらこうだろうな」というのが頭に浮かびます。歩きながら音楽を聴いてても「この曲だったら、こうやって歩いてるシーンに合うな」とか「この曲が主題歌なら、こういう物語がいいな」とか思いながら歩いてます。それはクセですね。「こういう物語、画の質感で、いま自分が歩いてるカットはスローで…」とか想像しちゃいます。――このエピソードの中の神木さんのように、現実とお芝居の区別つかなくなることはありますか?たしかに、いま言ったような「こういう映像だな」とか考えてる時は基本、ボーっとしてますね。レジで支払いをしてる瞬間も「でもこっちから撮っているなら、こう見えるだろうな」とか「こういう角度で映ってるな」とか考えてて、「ありがとうございました」って出ていく時に「あ、やばい。いま楽しかったけど……あ、ちゃんと買ったか」みたいにはなりますね。――ちなみにそうやって妄想するとき、「カメラがここにあるなら、顔の向きをもう少しこっちに向けた方がいいな」と考えて動かすことなどは…?します(笑)! 「いま、この向きなら…」とか目線をちょっとずらしたり…。――劇中のように「子役出身だからこそ、どこかで一皮むけないと」みたいな焦燥や葛藤を抱えたことはなかったんですか?それはなかったです。全く意識したことないですね。何も考えてこないで生きてきちゃったんで(笑)、周りの人が大変だったみたいです。「子役からやってきた俳優は(大成するのは)大変だよ」という俗説みたいなものが芸能界にはあるので「どういうブランディングで、どんな作品に出て…」みたいなことはマネージャー陣が考えてくれていて。僕は何も考えずに台本を渡されたらとりあえず頑張るという姿勢でやってきたので、僕自身は大変ではなかったし、自分の見え方とか「このまま20代もいけるか?」みたいなことも全く考えてなくて、のんきでしたね。実際に撮休になったらやりたいこと「カラオケが第一優先」――もしも、実際に急に「明日、撮休です」となったら、どんな1日を過ごしますか?午後まで寝て、ダラダラ風呂入って、誰かと一緒にカラオケいけないか探って、誰もいなかったらひとりで行って……。そうなんですよ…(苦笑)。パブリックイメージと全然違うかもしれませんが…。――何はともあれカラオケは最優先事項で外せないんですか?第一優先ですね。「何かした」という、“抗い”なんですかね? カラオケが。1日の中で、かろうじて何かした――「カラオケ行った」と言えるように、行っちゃいますね。――ちなみにカラオケに行ったらどんな歌を?毎回、必ず歌うのは桑田佳祐さんの「可愛いミーナ」、あとは「シカバネーゼ」(jon-YAKITORY)とかボカロ系の曲ですかね。ボカロ系の曲を歌い手さんが結構、歌っていて、そのキーを調べられたりもするので、それで歌ったり。他にもいろんなジャンルを歌いますね。――外出などをせず、何もしないで過ごすということはないんですか?できるだけイヤですね。まあ、外に出ないとなると、1日中ゲームしてますね。「FF(ファイナルファンタジー)XIV」の「暁月のフィナーレ」という新しいストーリーが増えたので、今後はそれをやりながら籠もることになるんだろうなぁ…と思いますけど。ちゃんとPCの横に冷蔵庫があって、飲み物も冷やせるんでね(笑)。2022年は2021年で得たものを「活かす」1年に――これまで過ごした撮休の中で、最も良い過ごし方をしたなと思える過ごし方は?(しばらく考えて)…ないですね。ないなぁ…(笑)。急に撮休になっても買い物と…あぁ、コロナ前ですが、秋葉原に行って、好きなアニメグッズを漁ったり、帰りにカラオケに行ってアニソンを歌ったりしたのは楽しかったです。――劇中でも「神木隆之介を演じてるんだろ?」みたいなことを言われますけど、素に戻れる瞬間ってありますか?ゲーム、カラオケ…。まあでも友だちといるときは素だなって思います。別に普通にいるんでね、一都民なんで(笑)、そんなに意識したことはないですけど。まあ、お店で「神木さま、4名様!」と呼ばれた時は、席に座るまで意識しましたけど(苦笑)。普段はあまり何も意識してないですね。――先ほど、誰も集まれなかったら一人で…とおっしゃっていましたが、「おひとりさま」でカラオケや食事に行くことはわりとあるんですか?ありますね。こないだの舞台の大阪公演の休演日には一人で焼肉に行ってきましたよ。おいしかったです。全然、気にせずにひとりで行けちゃいますね。ちょっと寂しいけど「でも、ひとりでもできるしなぁ」と思うと、ササっとなんでもひとりでやっちゃうんですよね。――現実には撮休どころか、忙しい日々を過ごしているかと思いますが、多忙な中で気持ちを切り替えたり、リラックスのために大事にしていることはどんなことですか?友だちとのご飯。あとは趣味ですね。YouTubeを見たり、ゲームしたり、そこは夜更かししてでもやりますね。時間がない時ほど遊びたくなるんですよね(笑)。「時間があるときに遊べばいいじゃん!」って思いますけど人間、時間がある時ほどボーっとしちゃうんですよ(苦笑)。本当にワガママでないものねだりなんですね。時間がない時に限って、誰かと会いたくなったり遊びたくなるものなんです。だから時間がない時こそ、一緒に友達とご飯を食べたり、ゲームしたり、ひとりでも趣味をやってますね。そこは睡眠時間を削ってでも。――本作を含め、この1年も多くの作品に出演され、多彩な活動をされてきました。改めてふり返って、どんな1年でしたか?すごく大きな刺激をもらいましたね。ドラマ「コントが始まる」で始まって、特に菅田(将暉)くんと仲野太賀くんは「お芝居って楽しいことがいっぱいあるんだな」ということを気づかせてくれた2人ですし、あの作品に出られてよかったなと思います。それから、最近まで舞台(「パ・ラパパンパン」松尾スズキ演出)をやらせてもらいましたけど、まさかの2度目の舞台で、初めての舞台(「キレイ-神様と待ち合わせした女-」)の時とは全く違う、博学でセリフの多い役で「これは無理だよ!」「できるのかな?」と心配だったんですけど、みなさんの支えもあって無事にやることができました。あきらめかけていたことをやり遂げることができたというのが、自分の中の“強み”になったし、すごく大きなものを教えてもらえた1年だったと思います。それを2022年にどう活かせるか? 勝負だなと思います。もちろんやってみて、活かしきれなかったら、それはそれでいいとも思っていて、「活かそう」と思うことが大事なので、とりあえずあがいてみます!「WOWOWオリジナルドラマ神木隆之介の撮休」WOWOWにて1月7日(金)放送・配信スタート(毎週金曜よる11時~放送・配信/各話放送終了後、WOWOW オンデマンドにてアーカイブ配信)。【WOWOWプライム】第1話無料放送/【WOWOWオンデマンド】無料トライアル実施中。(text:Naoki Kurozu/photo:Maho Korogi)
2022年01月07日邦画、洋画と多くの映画作品が公開された2021年。ワクチンの普及によりコロナ禍でも劇場に足を運ぶ人の数が増え、少しずつ活気が戻り始めました。今年は『新感染半島 ファイナル・ステージ』に始まり、『花束みたいな恋をした』のヒット、マーベル作品や『DUNE/デューン 砂の惑星』『マトリックスレザレクションズ』『キングスマン:ファースト・エージェント』など延期となっていた作品も次々と公開されました。そんな中で、シネマカフェでは映画やドラマなど映像作品に関わる様々な方々に取材を敢行。まだまだ来日インタビューは叶わず…ではありますが、今年掲載した記事の中から、多くの方に読まれた人気記事をランキングにして発表します!10位:高畑充希『浜の朝日の嘘つきどもと』高畑充希『浜の朝日の嘘つきどもと』/photo:Jumpei Yamada映画好きであればきっと、忘れられない思い出の映画館・劇場がある。高畑充希にとって、忘れられないその場所は地元・大阪の梅田芸術劇場だという。「小っちゃい頃、そこでしょっちゅうミュージカルを観てましたし、楽屋の出待ちをしたこともありました。演じる側として初めてあの舞台に立たせてもらったのは10代の頃でしたが、楽屋から舞台に通じるエレベーターに特有の“匂い”があって忘れられないんですよ。あれは何の匂いなんだろう…(笑)? その後も何度も立たせてもらってますけど、あの匂いは変わらないし、私にとっては特別な劇場ですね」。高畑さんが主演を務める映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は、福島県南相馬市にある、経営が傾いた小さな映画館「朝日座」を立て直すために現れたヒロインと彼女の熱意に心を動かされていく周囲の人々の姿を描いた作品。観終わった後に、自分の心の中の思い出の映画館…いや、映画館に限らず、大切な場所や存在に思いを馳せる――そんな作品に仕上がっている。高畑さんは、どのような思いを持ってこの作品に臨んだのだろうか?>>>【インタビュー】高畑充希 大きな“破壊”の後に気づいたこと…失う前に気づくことの大切さ9位:有村架純『花束みたいな恋をした』有村架純『花束みたいな恋をした』/photo:You Ishii人気ドラマ「カルテット」(17)の脚本家・坂元裕二と土井裕泰監督が、映画では初タッグを組んだ『花束みたいな恋をした』。運命的な出会いに恋の予兆を感じたふたりが付き合い、同棲を始め、社会人になったことでモラトリアム期間が終わり、恋愛感情にズレが生じていくさまを、坂元氏ならではの“生きた”セリフの数々が彩り、土井監督の優しいまなざしが観客の涙を誘う。菅田将暉と共に、ある男女の5年間を生きたのは、近年ますます活動の幅を広げる有村架純。「有村架純の撮休」(20)や『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(21)など、話題作に引っ張りだこの彼女は、どのような想いで本作に挑み、何を得たのか。>>>【インタビュー】有村架純、菅田将暉との共演で芽生えた責任感「自分たちが次の時代を作っていく」8位:向井理「華麗なる一族」向井理「連続ドラマW 華麗なる一族」俳優の向井理は、2021年でデビュー15周年を迎えた。洒脱な雰囲気は当時から変わらないが、近年においては、少しリラックスしたような温かみまでも、持ち合わせているように見える。「今年で15、16周年なのかな?振り返ることはあまりないですし、“こういう人になりたい”というのも、特にはないんです。ああ…!けど、ドラマ『華麗なる一族』で共演した中井貴一さんのスタンスは、すごく素敵だなと思っています。僕はまだ引き出しが全然足りていないので、もっともっと、いろいろなことを経験していかないと」。向井さん本人はこう話すが、フィルモグラフィーをたどると、その“経験”はとても多彩で、俳優としての確かな歩みが感じられる。>>>【インタビュー】デビューから15年、向井理の引き出しの秘密「いろいろやっていくと、欲が出てくる」7位:岩田剛典&新田真剣佑『名も無き世界のエンドロール』岩田剛典×新田真剣佑『名も無き世界のエンドロール』/photo:You Ishii物語の始まりは、似た境遇で育った幼なじみ、キダとマコトの学生時代から。強い絆で結ばれた2人は転校生のヨッチ(山田杏奈)と出会い、3人で平穏な日々を過ごしていた。そんな彼らの青春は“ある時点”を境に、別々の道へ。しかし、かたや裏社会の人間、かたや実業家となったキダとマコトには、ある目的があった…。ラスト20分の真実。この世界の終わりに、あなたは心奪われる――。こんなキャッチコピーからも分かるように、『名も無き世界のエンドロール』は実に巧妙で厄介な作品だ。友情と恋心がもどかしく交錯する青春映画かと思えば、衝撃をはらむサスペンスの香りも。そのため、初共演の岩田剛典と新田真剣佑も、プロモーションに四苦八苦!?親友同士を演じた親密さを漂わせつつ、物語の秘密を共有する者同士の“共犯感”を匂わせつつ、作品やお互いのことについて語った。>>>【インタビュー】岩田剛典、新田真剣佑は「闇を匂わせる」親友同士を演じて物語の秘密を共有6位:松坂桃李『いのちの停車場』松坂桃李『いのちの停車場』/photo:You Ishii本人が望むか、望まないかは別として、松坂桃李は今や賞レース常連の俳優だ。20代で「がむしゃらに」積み重ねた作品群は、実となり、32歳の自身の背中を押すものとなった。第44回日本アカデミー賞授賞式では新人俳優賞のプレゼンターを務め、「ひとつひとつを積み重ねていくことで、再会も増えてくる仕事。現場での再会を望みます」と、実感がにじむメッセージを伝えていた。そんな松坂さんこそ、今、作品で再会したい人は誰なのか、聞いてみた。「いやあ、いっっっぱいいます!まず、役所(広司)さん。あと、(樹木)希林さんとは、もう1回ご一緒したかったですね。年齢は違いますけど、ほぼ同じ時期に事務所に入った菅田(将暉)とも、『キセキーあの日のソビトー』以来、映画をやってないからまたやりたいですし。同世代で言えば、岡田将生、濱田岳ともやりたいですし、本当にいっぱいいますねえ。もちろん、『いのちの停車場』で関わった俳優部の皆さん、吉永小百合さんをはじめ、またご一緒したいです」>>>【インタビュー】松坂桃李、自分にとっての核を見つめ直す今「生きることは、小さな幸せの積み重ね」5位:鈴木亮平『土竜の唄 FINAL』鈴木亮平『土竜の唄 FINAL』/photo:Maho Korogi俳優・鈴木亮平から滲み出る人柄のよさ、サービス精神は、インタビューの冒頭から垣間見えた。机の上に置かれたペン型のICレコーダーを物珍しそうにしげしげと見つめた鈴木さんは、「あ、じゃあ…」とスーツの内ポケットにしまい込む仕草をして、にやりと笑みを浮かべる。茶目っ気あふれる行動はほっこりした笑いを生み、取材場に漂っていた緊張感を瞬時にやわらげた。「実は関西人なんですよ」と言う鈴木さん、ちょっとだけ“ボケたい”思いは、兵庫県西宮市出身の血が騒ぐということか。「最近、自分が“すごくストイックに役作り”みたいに書かれているのを読むと、そんなわけじゃないんだけどな…と思うことがあります(笑)。例えば『HK 変態仮面』だったら、ああいう(コメディの)作品だから“すごく真面目にインタビューで答えたら面白いのかな?”というのも実はちょっとあり、真面目に答えたりしているんですよ。ボケのつもりで答えていたら“こういう役でも、鈴木はすごく真面目にやってる!”みたいに書いていただいて…(笑)」。>>>【インタビュー】鈴木亮平、挑戦を糧に突き進む新しい自分との出会い「まだ守りに入る段階じゃない」4位:土屋太鳳『哀愁しんでれら』土屋太鳳『哀愁しんでれら』/photo:Jumpei Yamada土屋太鳳が持つ清廉さは『哀愁しんでれら』には1ミリも存在しない。剥き出しの喜怒哀楽と愛情への執着と貪欲さ、人間の尊厳を根底から揺るがす、シンパシーを感じない人物を土屋さんは演じた。「…これって土屋太鳳だよね?」こちらが戸惑うほどに、どぎまぎしてしまうほどに。強烈なインパクトを剛速球でくらう。俳優としての進化を感じさせる、グラデーションの効いた役、土屋さんの圧倒的な佇まいについて感想を伝えると、「うれしい…ありがとうございます。すごくうれしいです。最初、3回お断りした役だったので」と、「ああ、土屋太鳳だ」と認識させてくれるイノセントな微笑みで、土屋さんは同作について語り出した。>>>【インタビュー】俳優としての覚悟と進化、グラデーションを見せる土屋太鳳3位:江口洋介『るろうに剣心 最終章 The Beginning』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(C) 和月伸宏/ 集英社 (C)2020 映画「るろうに剣心最終章 The Beginning」製作委員会「るろうに剣心」シリーズで斎藤一を演じる江口洋介。『The Beginning』で新選組時代の斎藤を演じての感想や、斎藤のトレードマークとなっているタバコへの熱い思いなど、たっぷりと語ってもらった。「ある時期から(武士にとっての)刀じゃないけど、タバコを劇中で吸う事が難しい時代になって、(このシリーズで)また得意なタバコを吸えたんでね、俺としてはこの役はどんどん広げられたつもりではいるんですけど、「タバコと刀」というのは斎藤には切っても切れないものですね。そういう意味で芝居をするにしてもすごく印象的だったし、ここまで深く関わった作品も初めてだったんで、寂しさはありますよね。終わってしまった寂しさっていうのはありますけど、やり切った感もあります」。>>>【るろ剣リレーインタビュー 第5回】江口洋介、リアリズムを持って演じた役は「死神のようなイメージ」2位:佐藤健『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』佐藤健『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の公開初日に緋村剣心演じる佐藤健に再びインタビューを敢行! 「佐藤健にいまだから聞きたいこと、言いたいこと」として武井咲、青木崇高、新田真剣佑、江口洋介、有村架純からの質問に全て答えてもらった。佐藤健の弱点、そして真夜中のストレス解消法とは…?>>>【るろ剣リレーインタビュー 最終回】佐藤健、代表作となった剣心は「どこかにずっといて、切り離せない存在」1位:永野芽郁&田中圭『そして、バトンは渡された』田中圭&永野芽郁『そして、バトンは渡された』/photo:Maho Korogi永野芽郁と田中圭の朗らかな笑い声が上がると、室内のムードが一段と明るくなった。スチール撮影中、永野さんが以前勧めたという韓国ドラマを「観たよ!」と勢いよく告げた田中さん。しかし、その感想は「普通かな(笑)?」と茶目っけたっぷりで、永野さんは思わず「ええ~!本当にちゃんと観ました!?」と目を丸くしつつ食い下がる。田中さんに熱弁をふるう永野さん、笑顔でやさしく見つめる田中さん。いつまでも眺めていたくなるほっこりな姿は、初共演した映画『そして、バトンは渡された』にて演じた、血のつながりのない親子に重なるようだった。>>>【インタビュー】永野芽郁&田中圭、絶妙な距離感から生まれた“親子”の信頼関係(text:cinemacafe.net)
2021年12月30日大河ドラマ「龍馬伝」(2010年)、「平清盛」(2012年)、大河ファンタジー「精霊の守り人」(2015年~18年)を経て、「岸辺露伴は動かない」(2020年)でも人物デザイン監修を務めることになった柘植伊佐夫。だが原作は独特の世界観、デザイン性が貫かれ熱狂的とも言えるファンを持つ荒木飛呂彦による人気漫画。果たしてこの新たなチャレンジに柘植さんはどう立ち向かったのか? そして岸辺露伴のヘアバンドの色と素材はどのように決まったのか…? インタビュー【後編】をお届け!原作者・荒木飛呂彦からの言葉原作の極彩色からあえてモノトーンの世界へ…そのアプローチの真意は?「岸辺露伴は動かない」で人物デザイン監修を務めた柘植伊佐夫氏――「岸辺露伴は動かない」以前にも、漫画原作の実写化には数多く参加されていますが、小説原作やオリジナル脚本の作品とは違うものですか?やはり違いますね。文字原作ではなく漫画やアニメなどのビジュアルが存在する作品が原作の場合、当然ですが既にファンの方にはイメージが刷り込まれているので、それをまず「裏切らない」ということは大切にしています。実写化されるということは“力”がある作品であり、つまりファンも多いということ。そのファンの方たちを裏切るのは無意味なことだと思います。とはいえ「裏切らない」ということは、単に原作をそのまま“トレース”すればいいというわけでもありません。それでは「その程度ならつくるなよ」と思われてしまいますから(苦笑)。期待以上のものにしないと、やはりファンの方たちに満足していただけないと思っています。具体的につくっていく上で、通過しなければいけない“記号”というものは、原作の中に必ずあります。岸辺露伴であれば、ギザギザのヘアバンドとかですね。とはいえ、漫画は二次元の世界にファンタジー的に虚構として存在するものです。たとえドキュメンタリーを題材にした漫画を描こうが、それは紙の上に描かれている虚構なわけです。でも、その虚構を原作・原案にして映像で描こうとすると、話は全く違ってきます。それこそ、いまこの場で“岸辺露伴”をつくるとしたら、この部屋の壁はどういう素材なの? イスの形状は? といった非常に生々しい現実に沿って虚構の世界を描かなくてはならないんです。単に“記号”を取り出してそこに置けばいいというものではないので、その表現の按配を決めていく必要があります。ものの形や素材はどうするのか? (動きの)滞空時間はどれくらいだとちょうどいいのか? 上着を着せた方がいいのか? 脱がす時間はどれくらいがいいのか? そういった細かい部分を詰めていくことで、二次元の原作で表現されている力と、映像によって描かれる力がイコールになっていくんだと思います。単に形をなぞればいいんだというわけではありません。「岸辺露伴は動かない」第5話――具体的に「岸辺露伴は動かない」の制作において、どのようなことを重視し、岸辺露伴、泉京香といった人物像を作り上げていったのでしょうか?最初にまだプロデューサーが決まっていただけくらいの頃、(渡辺)一貴さんから「これをやろうと思っています」とお話をいただいた時には、既に一貴さんは、原作の極彩色の世界ではなく、モノトーンな感じで収めていきたいってことはおっしゃっていました。それはかなり賢いアプローチだなと思いました。なぜかというと、そもそもこの漫画は、映像化することのリスクの高い原作だと思うんですよね。あまりに虚構性が強いので、この現実の世界でロケーションをやって…となると、嘘が嘘としてバレちゃうんです。でも、そこからある程度の“色” “彩度”を抜いていくことで形になっていくんですよね。結果的にエピソードが進む中で、モノトーンばかりではなくいろんな色彩が出てくるんですけど、まず概念としてモノトーン化していこうというのがありました。――原作者の荒木飛呂彦先生ともお話をされたと伺いました。編集担当の方を通してやりとりさせていただきました。衣装デザインを描いていく中で、荒木先生に目を通していただくプロセスがあったんですが、最初に少し原作に寄せたデザインをお渡ししたところ「わりと原作から離れていただいて大丈夫です」ということをおっしゃってくださって、そこから少しシフトしていきました。こちらもどれくらい切り込めるのか? 「あまりに原作から離れてはいけないだろうな」という思いは当然、ありましたし、一方で「原作から少し離れてもやれるだろう」というせめぎ合い、葛藤もありました。そこで荒木先生が「全然、離れてくれて大丈夫です。なんならヘアバンドすらなくても大丈夫ですよ」とまでおっしゃってくださったんです。漫画のイメージを抽出することがきちんとできれば、“記号”そのものにこだわっているわけではないということをおっしゃっているんだと感じて、そこから一気に描きやすくなりまして、そこから実際のドラマでも使われたルックがすぐに出てきましたね。「岸辺露伴は動かない」第6話――最終的にヘアバンドは残すということを選んだわけですね?そうです。一貴さんとも話をして「残した方がいいだろう」と。あのギザギザの感じを残した方がいいなと思ってて、でもすごくリスキーなアイテムだなとは思いました。ただ、ヘアバンドの色を黒にしたことで、高橋一生さんの髪はある程度の長さがあるので、髪の動きとギザギザのヘアバンドが混ざって渾然一体となるなと思って、そこを狙いました。ギザギザだけが輪郭として出てくるのではなく、髪と混ざってどこからが髪の毛で、どこからヘアバンドなのかわからない状況になるといいなと思ってつくりました。――原作の本編の「ジョジョの奇妙な冒険」において、第三部の主人公・空条承太郎の髪の毛と帽子が一体化しているという描写がありますが、それとも重なりますね。僕もそれは思いました。荒木先生の描くヘアスタイルって、境目がわからないものが多くあるので、そういう意味でもちょうどいいなと思いました。――ちなみにあのヘアバンドの素材は何なんですか?フェイクレザーですね。今回の4~6話でもフェイクレザーなんですけど、今回のほうが素材的には少し硬めになっています。それはパッと見にはなかなかわかりにくい、本当にギリギリの違いなんですけど、前回の1~3話までと今回の4~6話の違いを表しているのかなと思います。――この「岸辺露伴は動かない」における衣装・扮装のチーム編成についてもお伺いします。トップに人物デザイン監修の柘植さんがいて、その下に衣装制作で玉置博人さん、スタイリストで羽石輝さん、ヘアメイクとして荒木美穂さんと金山貴成さんが入っています。それぞれの役割、柘植さんとどのように仕事を進めていくのかということも教えてください。僕はこのチームで動くことが多いんですが、衣装に関しては、まず僕がデザインを描き、素材の方向性も決めていきます。そこで決まったデザイン、クリエイティブディレクションを玉置に落として、玉置は衣装の制作に入ります。玉置の下にはそれぞれの専門分野を持った縫い子がいて、彼がそのチームを束ねています。デザインやクリエイティブに最適な縫い子を玉置が差配し、実際に衣装を制作していくわけです。場合によっては予測がつかない生地になることもあるわけで、僕のほうから玉置に「ここはどういう素材がいいと思うか?」と投げて、玉置から「こういうのとこういうのもありますがどうですか?」と返ってきて、その中から選ぶといったこともあります。制作のプロセスとしては、現代美術の工房に近いかもしれませんね。スタイリストの羽石には、つくりもの(=実際に素材から縫い子が作り上げていく衣装)以外の衣装の“選び”をやってもらいます。こちらから「こういうワンピースがほしい」とディレクションをして、そうすると羽石は候補になるワンピースを選んできます。その中からイメージに合うものを選んでいきます。岸辺露伴が着けているサスペンダーや小物、今回はチェーンなども出てくるんですけど、そういうものも羽石が集めてきます。小物に関しても、こちらが最初にイメージするデザインを描いて渡す場合もありますし、最初に羽石にいくつか集めてもらって、選ぶ場合もあります。今回、カフスボタンをつくっているんですけど、これはストーリーにも関わってくるちょっと特殊なカフスなんですね。それは僕が「こういうのをつくって」とデザインを渡して、作ってもらっています。チェーンに関しては羽石がすごくチェーンが好きで(笑)、「こういう感じですか?それともこんなのはどうですか?」といっぱい持ってきてくれた中から選びました。「岸辺露伴は動かない」第4話ヘアメイクについては、今回の第4話「ザ・ラン」には、原作を読まれている方はわかると思いますが、頭にトゲトゲとしたものが付いたヘアスタイルの登場人物が出てきます。最初の時点で僕から「あの“角”はドラマでも絶対に付けるからね」ということは伝えました(笑)。そうすると当然「じゃあ、角の素材はどうしようか?」という話になるわけです。――角の素材…(笑)。そこにはもはや、理由など存在しないわけです(笑)。あの頭で普通のヘアスタイルとして、存在しうる角ってどういうものなのか――? 僕はとにかく「角は付けるから」ということは伝えるんですが、どういう素材、形状にするかという部分は、ヘアメイクチームが考えてくれました。最終的に、黒い羽根を切ったものを付けています。岸辺露伴、ジムへ! トレーニングウェアはどうあるべきか?「岸辺露伴は動かない」第4話――衣装合わせで実際に俳優さんに衣装を身に着けてもらって、話し合うという機会もあるかと思いますが、どのように進めていくのでしょうか?僕は衣装合わせの回数が多い方だと思います。少なくとも3回はしますし、そこで高橋(一生)さんとも「どういう感じにしようか?」とやりとりをするわけです。前回の1~3話を経たことで、今回の4~6話になると、もう一生さんの好みのパンツの形というのも出てきて、ご自身の体型に一番合うと感じる形があるんですね。今回、第4話の「ザ・ラン」ではジムのランニングマシンで走るシーンが多くあって、体の線とも関係してくるんですね。なので、あえて「高橋さんが普段から履いてらっしゃる好きなパンツを貸してくれませんか?」とお願いして、2本ほど貸していただきました。それぞれ微妙に違うんですが、そこに「なぜそのパンツが好きなのか?」という“解”が詰まっているわけです。それを参考に「ザ・ラン」のパンツの形は決めました。これは前作で築いた関係性があるからこそ、できたやり方だなと思いますね。信頼関係がないとそういうクリエイティブのやり方ってできないですからね。――飯豊まりえさんが演じる編集者・泉京香も個性的で存在感のあるキャラクターであり、前作でも衣装やバッグ類などが大きな話題を呼びました。飯豊さんともいろんなやりとりがありました。前回は好評をいただいたんですが、逆に今回、泉京香の衣装に関しては、非常に難しい局面だなと感じていました。というのも、前作の好評を受けて、調子に乗ってさらに燃料を投下して攻め過ぎてしまうと、たいがい叩かれてしまうものなんですよね。不思議なもので、同じアプローチで同じことをしていても、2度目になると「自意識過剰」というふうに受け取られてしまったりするんです。泉京香というキャラクターのかわいさを飯豊さんを通じて表現するのが僕の役割です。そこで今回は、あえてちょっと引いています。前回のシーズンでは、思い切り前に出していますが、それはなぜかというと、先ほども説明しましたように露伴をモノトーンで引き気味の色調にしているからです。そこでバランスをとるために、あえて泉京香のエネルギーを前に出しているんです。でも今回は、露伴のほうがコーディネート数も多くて、“エネルギー値”も高めなんですよ。特に今回、4話と5話は男性ゲストを迎えての“男の世界”という感じが強めなので、なので、京香は少し抑え気味にしています。これはすごく“音楽的”なチューニングだなと思いますね。「岸辺露伴は動かない」泉京香(飯豊まりえ)――いまお話に出た第5話「背中の正面」のゲストは市川猿之助さんですから、たしかに非常に“強い”画になりそうですね。原作の漫画(「ジョジョの奇妙な冒険」)では、やや弱々しい印象の男性で描かれていたので意外です。すごくおもしろくなってます(笑)。“強い” “弱い”というのは、周りとの関係値の中でどれだけ浮くのか? 混ざれないのか? ということと関係しているんだと思います。例えば猿之助さんも出演されていたドラマ「半沢直樹」だと、猿之助さんが強さを押し出しても、周りのキャラクターも非常に強いので、そこで変に浮き過ぎるってことはないんですよね。今回の作品でも、とても“強い”表現が出てくる部分はあるんですが、それで浮いたり、違和感があるかというとそれはないです。なぜなら、そもそもこの作品自体が“違和感”を醸し出しているからだと思います。“普通”ってすごく難しいことで、作品の世界線に沿った上でのことなんです。ものすごく違和感が漂う作品の中で、「普通のキャラクター」として地味な人物を出したら、それはそれで悪目立ちしてしまったりもします。作品の世界、周囲のキャラクターとの関係の中で強さや弱さを表現しています。「岸辺露伴は動かない」乙雅三(市川猿之助)――作品の世界観や空気感といったものは、前作で築いたものを前提にしつつ、変化している部分もあるのでしょうか?それはあると思います。前回の3話は強烈な原作ということもあって、つくっているこちらにも“恐る恐る”という感じで「これくらいの感じであれば、見てくださるみなさんに納得していただけるんじゃないか?」と測りながら制作している部分はありました。今回はもう少しアクセルを踏めるというところがあって、ドラマ的な世界観を築くことができたので、それに則りつつ、さらに踏み込んだ表現に転換できるので、その分では少し変化があって、今回のほうがより“原作寄り”の表現ができていると思います。原作の“奇妙さ”をより深く表現! 前作からの進化と挑戦「岸辺露伴は動かない」第6話――改めて放送を控える「岸辺露伴は動かない」の4話~6話について、柘植さんの視点で魅力やここを楽しんでほしいというポイントを教えていただければと思います。1話、2話、3話がある程度のご支持を得られたという思いがある中で、今回の続編をつくれることになって、やはり前作よりもさらに踏み込んだ荒木先生の“原作感”をもう少し色濃く入れられていると思います。1~3話で貫かれた文脈を踏襲しつつ、原作にある“奇妙な”世界観、ファンタジー的な世界をより深く描けていると思います。――第4~6話のラインナップ(「ザ・ラン」「背中の正面」「六壁坂」)が発表されて、「これぞ『ジョジョ』の世界! これぞ『岸辺露伴』!」と原作ファンの期待もさらに高まっていると思います。そうなんですよね(笑)。原作が本来持っている怪奇色が強まっていて、楽しんでいただけると思います。「これをやっちゃって、次があったらどうするの?」という感じです(笑)。――ここから再び、柘植さんの仕事観などについてお聞きできればと思います。人物デザイン監修という仕事のやりがい、おもしろさについて教えてください。先ほども説明しましたが、僕自身は自然にこの仕事をやることになってしまったという経緯がありまして、例えば「画家になりたい」みたいな感じで目指してこの仕事に就いたわけではなく、流れ流れてこの仕事をやるようになったんですね。その中で「人物像を美しくしたい」「人物像の本質的な表現をしたい」という思いは、ヘアメイクとしてこの世界に入った頃からいまに至るまで終始一貫していて変わりません。心から美しい人物――表層的な部分だけでなく、本質に近いという意味で美しい人物を作るというのが僕が仕事をする上でのテーマなので、そういう意味でやりがいを感じる仕事だなと思います。とはいえ、僕の場合、受注仕事なので、監督や俳優さん、プロデューサー、局から依頼があって初めてできる仕事で、一貫して受動的なんです。“やりがい”という気持ちは能動的なものですけど、環境的、肉体的な状況は受動的なので、不思議な感じですね(笑)。――柘植さんが現在の仕事をする上で、最も影響を受けた存在(ひと・もの・作品など)は何ですか?すごく月並みなんですけど(レオナルド・)ダ・ヴィンチですね。実家にルーブル美術館の本があって、しかも全集なのにそのうちの1冊しかなくて(笑)、そこに「モナ・リザ」や「岩窟の聖母」があって、それがすごく好きで、子どもながらにずっと見てましたね。なので、自分の中の美的な基準点というのはルネサンスにあって、すごく古典的だと思います。――美容と人物デザインのラボとして、一般の方・プロフェッショナルを目指す方を問わず参加できる「コントラポスト」を主宰されていますが、ご自身のお仕事における次の世代の育成といったことは意識されているんでしょうか?うーん、その意識がないわけではないですし、講師などのお話をいただいたり、実際に以前、ヘアメイクのセミナーを行なって優秀なヘアメイクがそこから輩出されたりということもあったんですが、すごく積極的に若い世代にこちらから何かを教えたいというよりは、尋ねられたら教えるというスタンスですね。自分がやっていることって、すごく伝えにくいことなんです。あと、“縁”が大事だったりもするんですよね。だから「こういうことを教えるから、興味のある人は集まって!」という感じの学校教育型のスタイルには向いてないと思います。つまり、“師弟関係”とか“学び”ということの本質を理解できないと、この仕事って伝えていけないと思うんです。人物デザインであったり、新しいクリエイティブを後世に伝えていこうという関係って、学校教育型のやり方だとあまりに一様なものになり過ぎてしまって、核の部分が伝わりにくいんじゃないかと感じています。一方で、広く薄く、システマティックなやり方であっても、そこから何かを拾いあげることができる人たちというのが、多くはなくともいて、それによって伝わっていくということもありうるので、一概にそのやり方を否定するつもりもありませんが…。――柘植さんがやられているような人物デザインやクリエイティブ、もしくは映画やドラマの世界での仕事を志している若い人たちに何かメッセージや「こういうことを大切に」というアドバイスなどがあればお願いします。そうですね…、このくらいの年齢になると、過去の自分がやったことが、未来の自分を追いかけてくるんですよ(苦笑)。良いことをやれば、それはそれで良いことが追いかけてくるし、悪いことをやれば、悪いことも追いかけてくるんです。でもホルモンバランスのせいなのか、若い頃ってなかなか理性的なことばかりをするわけでもないし、むしろそういう理性的でない部分が良かったりもするわけで、野放図にやるのはいいと思うんです。とはいえ、必ず自分がやったことは、自分の未来に影を落とすので(笑)、そのことだけは肝に銘じて置いたほうがいいよと言いたいですね。必ずですから(笑)!心して行動したほうがいいよと。(photo / text:Naoki Kurozu)
2021年12月28日岸辺露伴はどんな素材のヘアバンドをするべきか――?たかがヘアバンドなどと言うなかれ! それは作品の世界観や方向性を決定づける…ひいてはドラマの成否に関わる非常に重要かつデリケートな問題なのだ。映画やドラマの仕事に携わる人々に話を伺う連載インタビュー【映画お仕事図鑑】。今回、ご登場いただいたのは、映画『シン・ゴジラ』や『翔んで埼玉』、大河ドラマ「龍馬伝」、「平清盛」などで登場人物の衣装・ヘアスタイルといった扮装を統括する「人物デザイン監修」を担当してきた柘植伊佐夫。「岸辺露伴は動かない」12月27日より3夜にわたって放送される、荒木飛呂彦の人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の人気キャラクター・岸辺露伴を主人公に生まれたスピンオフ漫画を実写ドラマ化した「岸辺露伴は動かない」でも、柘植さんは人物デザイン監修を務めており、高橋一生演じる岸辺露伴、飯豊まりえが演じ人気を博した編集者・泉京香ら登場人物たちの衣装、ヘアスタイルなどを緻密に作り上げている。放送を前に柘植さんにロングインタビューを敢行! そもそも“人物デザイン監修”とは何をする仕事なのか? 柘植さんはどのようにこの世界に足を踏み入れたのか? そして「岸辺露伴は動かない」の制作の裏側に至るまで、前・後編の2回にわたってお届けする。まずは【前編】、人物デザイン監修について、そして大河ドラマ「龍馬伝」や「平清盛」に携わっていくことになったエピソードについて。デザインの決定から撮影現場の管理まで――衣装とヘアデザインの“クリエイティブ・ディレクター”「岸辺露伴は動かない」第4話――まもなく放送となるドラマ「岸辺露伴は動かない」などで、柘植さんは「人物デザイン監修」とクレジットされています。この「人物デザイン監修」という仕事の内容について教えてください。まず、衣装とヘアメイクという、扮装全体のデザインを決定するクリエイティブ・ディレクションをしているのと、実際のそれらのデザインワークをするという2点ですね。さらに、プロダクション(撮影)に入った際に現場の差配――準備段階でデザインを決めても、現場でそれを維持していくことって大変なので、そのマネジメントもしています。――事前のデザインの決定に加えて、実際の撮影の段階で現場にも足を運ばれてマネジメントを行なうということですね?そうですね。いま、ちょうど『シン・仮面ライダー』(※扮装統括と衣装デザインを担当)に入っているんですが、現場にもかなり足を運んでいます。ちなみに“扮装統括”と“人物デザイン監修”は基本的に同じことで、プロダクションによってクレジットを載せる際のイメージなどに合わせて言葉を変えているだけです。ただ、現場に出るかどうかは作品や状況にもよって異なります。『シン・ゴジラ』でも扮装統括をやったんですが、デザインとしては、それほど現場で難しいコントロールが必要な作品ではなかったんです。要するに、登場人物の多くは政治家と官僚で、防災服かスーツを着ていることが多かったので。あの時はあまり現場に出ることはありませんでした。今回の『シン・仮面ライダー』ですと、非常に管理が難しい衣装なので、そういう場合は現場に出ています。「岸辺露伴は動かない」第6話――もともと、柘植さんはヘアメイクを学ばれて、この世界に入ったそうですね。そこから現在のように、衣装も含めた扮装の全体をディレクションするようになった経緯を教えてください。僕がヘアメイクの活動をやっていたのは80年代ごろで、自分が担当するのは首から上なんですが、意外と自分で差配をさせてもらえるページが多くて、自分で全体のディレクションをしていくということは多かったんですよね。いま考えてみると、部分的なところではなく、全体的なデザイン像やコンセプチュアルな部分をつくっていくということは、あの当時からやってはいたんですよね。映画で人物デザイン監修の仕事をやるきっかけになったのは、2008年公開の『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』でした。前作の『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年公開)では“ビューティーディレクション”という肩書きで、要はヘアメイクプランナーをやっていたんですが『ゲゲゲの鬼太郎』っていろんな妖怪が出てくるし、半妖怪のような存在もいるし、人間世界もあるので、全部で三層の登場人物たちがいて、すごく大変なんです(苦笑)。この三層をそれぞれ映画的表現にするとなった時、スタッフの担当領域をどうするのか? 人間だけでもヘアやメイク、かつら、爪もあるし、これが妖怪となると特殊メイクも入ってきます。じゃあ妖怪のかつらは、誰が担当するのか? 特殊メイクのスタッフ? それともヘアメイク? とか大変な状況になっていて、全体を仕切るスタッフが必要だということで、プロデューサーから「全体を見てほしい」と僕に白羽の矢が立ったんですね。その時は“キャラクター監修”という肩書きで入ることになりました。すごく大変でしたけど(苦笑)、こんなことをやるのはこの1回きりだろうと思ってたら案外、その後も同じような依頼をいただくことがありまして。三池崇史監督の『ヤッターマン』では“キャラクタースーパーヴィジョン”という名前で同じような全体の統括をやらせてもらいました。名称に関しては、僕の仕事って以前はなかった仕事なので、名前が付けにくかったんですよ。ただ、ファッション業界から見たら、こういう仕事の進め方はいたって普通で、メゾンがあって、そこにデザイナーではなく、クリエイティブ・ディレクターがいるというのはいまでは普通なんですよね。トム・フォード以前は“デザイナー”という肩書きでしたけど、トム・フォードの出現以降、クリエイティブ・ディレクターとして衣装だけでなく全体の世界観を作り出していくという方向にシフトしていきましたけど、それと同じですね。映画やドラマの世界で、扮装面におけるクリエイティブ・ディレクションをしていると考えていただければ、わかりやすいのかなと思います。本木雅弘との出会いで切り拓かれた映画との関わり「岸辺露伴は動かない」第5話――これまで関わってこられた作品を見ると『GONIN』、『双生児 -GEMINI-』、『おくりびと』など、本木雅弘さんが出演されている作品が多いですが本木さんとは以前からお仕事を?そうなんです。もともと、本木さんが独立された頃に知り合って、それからずっとヘアメイクを担当させてもらっていました。『GONIN』(1995年)も本木さんに声を掛けていただいて、当時の僕は映画業界のことは何も知らず、本木さんのヘアメイクだけを担当させてもらったんですが、それが映画業界で仕事をするきっかけになり、その後『白痴』(1999年/ヘアメイク監督)、『双生児-GEMINI-』(1999年/ヘアメイク監督)とたて続けに映画の仕事をやらせてもらいました。――本木さんの衣装とパフォーマンスが大きな話題を呼んだ1992年の紅白歌合戦の際も、ヘアメイクを担当されたそうですね?そうです。あの時はリハーサルでスタジオに行ったら、「こんなことをやろうと思っている」と聞かされて、本木さんらしい強烈な茶目っ気だなと思いましたね(笑)。僕はヘアメイクで入っています。あの当時、流行っていたグランジ(1990年代初頭のパンクとハードロックを融合させたムーブメント)のテイストになっています。――先ほど名前が出た三池崇史監督とも『殺し屋1』(2001年)からという、かなり長いお付き合いなんですね?そうです。『殺し屋1』は浅野忠信さんのヘアメイクデザインで入りました。浅野さんともそれ以前から仕事をさせていただいていたし、あの作品は衣装を北村道子さんが担当されていて、北村さんからのお声がけもありました。「岸辺露伴は動かない」第6話――肩書の名称の話に戻りますが、野田秀樹さんが演出を務めるNODA・MAPの公演(「贋作 桜の森の満開の下」、「Q:A Night At The Kabuki」ほか多数)をはじめ、数々の演劇作品にも参加されていますが、こちらは“美粧”という肩書になっていることが多いですね。「美粧」はヘアメイクプランナーですね。舞台のクレジットの並びって漢字が多いじゃないですか? そこに“ヘアメイク”と入るのも無粋だなと思いまして、美粧という言葉を使わせてもらっています。――「美粧」というのは「美しく装うこと」という意味を持つ言葉で、昔は美容院、ヘアサロンのことを美粧院と呼んでいたとか。この言葉自体、聞き慣れないという人も多いかと思います。こうした肩書に関しては、自分の中で、どこかで「わからなくていいや」という気持ちがあるのかもしれません(笑)。いや、わかってほしいと思ってはいるんですけど、わかってもらわなくてもいいやという、反対の気持ちが働いている部分がある気がします。ただ“人物デザイン監修”という言葉は僕が決めたわけではなく、実はNHKが決めた肩書なんです。大河ドラマ「龍馬伝」という挑戦「平清盛」であえて崩した史実の決まり事「岸辺露伴は動かない」第4話――そのNHKの作品に「人物デザイン監修」という立場で最初に参加されたのが、今回の「岸辺露伴は動かない」で演出を担当している渡辺一貴さんが演出チームに入っていた大河ドラマ「龍馬伝」ですね?そうです。初めてNHKの作品に携わったのが大河ドラマで、NHKにしても人物デザイン監修というポジションを置くこと自体、これが初めての試みでした。そもそもの入口としては、以前から福山雅治さんのビューティーディレクションを担当させていただいていて、福山さんから「大河に出るので柘植さんも関わってもらえないか?」とお声がけをいただいたのがきっかけでした。最初は「いやいや」と固辞したんです。というのも、大河ドラマとなると1年から1年半もプロダクションの期間があるので、それだけ長くひとつの作品に参加するというのが想像がつかなかったんです。正直、ビビったんですね(笑)。衣装・ヘアメイクの全体を見るということは既に映画で経験済みでしたし、自分を表現できる仕事という意味で、そこに関しては躊躇はなかったんですけど、1年半もの間、参加するという点に関しては不安がありました。ただ、福山さん事務所の方たちと一緒にNHKに挨拶に伺って、紹介された時点で「これはこの作品に没入しなくては」と覚悟を決めましたし、演出の大友(啓史/映画『るろうに剣心』シリーズなど)さんや、美術統括の山口類児さんとも意気投合して作品に入ることができました。当初はどういうクレジットで参加するかという名称が決まってなくて、NHKはクレジットを承認する委員会があるんです。そこで議論があって「人物デザイン監修」という名称が出てきたらしいです。――本格的な時代劇に参加されるのは、「龍馬伝」と同じ2010年に劇場公開された三池監督の『十三人の刺客』(人物デザイン)が初めてだったかと思います。時代考証など難しい部分もありましたか?おっしゃるように「龍馬伝」の直前に『十三人の刺客』をやっていまして、時代は江戸時代(『十三人の刺客』)と幕末(「龍馬伝」)ということで、そこまで大きくずれてなかったんですね。映画のリサーチの際に、ある大学の教授にお願いしていろんな文献を見せていただいたり、勉強していて、それが役立ちました。そういう意味で、僕の中ではこの2作品は異母兄弟のような感覚がありますね。――続いて、NHKの作品に参加されたのが、同じく大河ドラマの「平清盛」(2012年)ですね。今度は一気に時代をさかのぼって平安~鎌倉初期という時代です。あれは大変でしたね(苦笑)。当時の貴族の装束や女性で言えば十二単などがありましたが、あの作品ではその史実の決まり事を少し破って、キャラクターに合わせた色にしたりしています。僧侶が大勢出てくるんですが、あまりに多いので(笑)、袈裟を着ているシーンをあえて少なめにしたり、貴族の烏帽子に関しても、本来は漆で何層にも塗り固められているんですが、そうすると烏帽子が画面を占める割合がものすごく大きくなってしまうので、あえて透けさせて中のヘアスタイルが見えるようにしたり、様式を大事にしつつも「生きた」感じを伝えるための工夫を施しました。そうすると烏帽子の強度が落ちるので、烏帽子が倒れることもあります。当時の貴族にとっては、烏帽子が倒れるって、ものすごい恥なんですけど、そういう表現があることで、逆に登場人物たちの情緒を伝えられるなとも思ったんです。権威や強さの象徴である烏帽子を使って、逆にそこに出てくる人間の弱さを表現できた部分があると思います。――NHKの歴史ドラマの場合、史料や史実を厳格に忠実に再現することを重視するのかと思っていましたが、作風やキャラクターに合わせて、あえて変える部分もあるんですね。そうですね。そもそも「平清盛」の頃の時代は“失われた50年”とも言われるくらい、史料的には暗黒の時代なんです。なぜかというと、その直後に鎌倉幕府ができたことで、その前の平家の政権の文献などで消されてしまったものが多いからです。逆に言うと、ある程度の決まり事や様式を守りつつ、自由を利かせることもできました。とはいえ、歴史好きの方からしたら「ここはおかしいんじゃないか?」という攻撃材料にもなりかねないので、難しい部分はありました。ただ「平清盛」の扮装や美術に関しては、放送開始当初から坂東玉三郎さんが非常に好意的なコメントを寄せてくださったんですよね。あれは本当にありがたかったし、すごく大きなよりどころになりました。視聴率面に関して、プロデューサーサイドや局サイドとして一喜一憂する部分はあったかと思いますが、クリエイティブの現場はそこにあまり左右されず、美術や扮装の部分でも「良いものを作っている」という自負を持っていましたし、全体的に非常に士気の高い素晴らしい現場でしたね。――2010年、2012年と1年おきにガッチリと大河ドラマに参加されて、さらにその後、2015年からは3シーズンにわたって大河ファンタジー「精霊の守り人」にまた人物デザイン監修として入られました。今度は小説をベースにしたファンタジーですね。あれもまた大変でした…(苦笑)。あれは地球上ではない世界の物語だと思いますが、どこかアジアを感じさせるような気がしていて、そうであるなら、ご覧になる方々の“既視感”を利用したいと考えて、美術・扮装チームはアジア各国の文化や風土をリサーチしました。日本国内についても、熊野古道や伊勢などの原始宗教や信仰といったものについて勉強したりもしました。――史実に基づく物語であれ、SFであれ、作品ごとにテーマや方向性に沿って、様々な歴史や文化、宗教などについて調べたり、勉強されたりしながらデザインしていくことが必要になってくるんですね。そうですね。デザインって最終的に視覚言語として表に出てくるものですけど、なぜそういうデザインになったのか? という部分の“根”を作っておかないといけないので、そこはリサーチや勉強をして、自分の中で咀嚼しなくてはいけないんですね。仮にそういうことをせずにデザインをしたとしても、見る側は多少は踊らされてくれても深く感動することはない、その程度のものにしかならないと思います。――これらの作品を経て、ようやくここから今回の本題である「岸辺露伴は動かない」についてお聞きしてまいります。「龍馬伝」、「平清盛」でもご一緒された渡辺一貴さんからのお声がけで人物デザイン監修を務めることになったそうですが、原作は荒木飛呂彦の人気漫画で、アート性も高く、熱烈なファンも多い作品です。もちろん「ジョジョの奇妙な冒険」の存在は知っていましたが、僕はもともと漫画はあまり読まない人間なので「ジョジョ」も「岸辺露伴は動かない」も読んだことはなかったんです。お話をいただいて、初めて読ませてもらいました。もちろんメチャクチャ有名な人気漫画で、熱烈なファンがいることも知っていましたから「これはなかなか難題だな…」と思いましたね(笑)。この“難題”に柘植さんはどのように挑んだのか? 【後編】につづく。(photo / text:Naoki Kurozu)
2021年12月27日「奪い愛」シリーズが遂に帰ってきた!鈴木おさむが脚本を担当する泥沼愛憎劇を豪華実力派俳優陣の怪演でたっぷり堪能できる人気シリーズの最新作「奪い愛、高校教師」(ABEMA・テレビ朝日)が12月27日(月)より4夜連続放送される。(12月20日(月)21時~「ABEMA」第1話独占先行無料配信中)今作の主演で看護師の星野露子役を演じる観月ありさに、本作への意気込みや撮影中の印象深いエピソードなどについて話を聞いた。人気シリーズへの出演「“私っぽさ”がどこかに出れば」――初めて台本を読まれたとき、どんな感想を持たれましたか?私自身も前シリーズの「奪い愛、冬」の中毒性にやられて全話を1日で一気見してしまうくらい夢中になってしまって。だから今回も台本を楽しみに待っていたんですが、その期待を超える面白さでした。――台本が想像を超える面白さだったということですが、鈴木おさむさんと初めてお仕事されてみていかがでしたか?“よく考えるよな~、どんなシチュエーションでこれを思い付かれたんだろう?”って思うような設定が沢山あって、鈴木おさむさんならではの独特な台詞まわしも面白くて。特に「~だよ~~~」って語尾を伸ばす台詞が多いので、お芝居しながら場面によって微調整しました。――人気シリーズ出演ということで、前シリーズを意識された部分はありましたか?この世界観に自分がどう溶け込むかを意識しましたね。躊躇するとおかしなことになると思ったので、真剣に振り切ってやり切ろうと思いました。ただ、“私っぽさ”がどこかに出ればいいなと思って、コミカルエッセンスも細かいところで取り入れるようにしました。前作からのシリアス調を崩さずに、ただ要所要所でコミカルさも取り入れて、露子という人間性にどこか親しみやすさも感じてもらえると良いなと思いました。全4話で描くドラマの役作りとは――今回の露子さんという人物像、キャラクターを観月さんはどんな風に捉えられましたか?露子の裏設定をきっちり決めた方が、常軌を逸した最終形が見えやすいと監督とも話し合いました。堅物が故に“こうしなきゃいけない、ああしなきゃいけない”という自分自身の思い込みでがんじがらめになってしまって、きっと元夫にもそれが重くのしかかってしまったんだろうな、とか。そしてこれから娘のこともどんどん束縛してしまうんだろうなと。理想を思い描いて生きてきた露子だからこそ、大谷(亮平)君演じる三太が自分に振り向いてくれないことが引き金になって、どんどん愛情が嫉妬に変わっていくんだろうなと思いました。元々の露子が堅物で真面目だからこそ秘めた凶暴性がより際立って、彼女の人生が崩れていく感じが出れば良いなと思っています。――そんな裏設定を踏まえて露子役を演じる上で苦労された点や、役作りで意識された点はありますか?全4話なので振り切れるまでのスパンが短いんですよね。振り切れていく途中経過や助走期間をゆっくり丁寧に描ききれない分、普通のテンションからいきなりスイッチを入れるのが大変でした。“ホップ、ステップ”がなくていきなり“ジャンプ”というか(笑)さらに、4話通しての撮影で1話を撮ったかと思ったら次に4話の撮影をしたりと順撮りではなかった分、各話のテンションのバランスを逆算しながらお芝居する必要があり、そこは難しかったかもしれないです。――観月さん演じる露子と恋敵になる松本まりかさん演じる華子の掛け合いが見事でした。相乗効果で互いの怪演を引き出し合われていたように見えましたが、共演シーンでは松本さんと何か話し合われたりしたのでしょうか?台本上、(松本)まりかちゃんと同じタイミングで同じ台詞を言って2人の声がハモるというシーンがあって、2人でどっちが高音パートを担当するか話し合ったりしました。“これ、何の打ち合わせ? 歌の打ち合わせ!?”とか言いながら(笑)大谷君演じる三太と(岡田)奈々ちゃん演じる灯を間に挟んで、大体まりかちゃんと私がやり合うシーンになるので、まりかちゃん演じる華子役との対比、立ち位置や台詞のトーンを互いに調整しながら演りましたね。“連ドラ主演”を続けられたのは「人と人との繋がりに恵まれた」――「私たちはどうかしている」(日本テレビ系)の今日子さん役、映画『劇場版 ルパンの娘』の女泥棒役と、パンチの効いた役柄が続いているように思いますが、ご自身ではどんな風に捉えていらっしゃいますか?昔はやりたくてもできなかった役で、30代もなんだかんだ正統派の役柄が多かったので、40代に入って今までとは違う役柄が演じられて面白いです。“狂気的”と一言で言ってもいろんなタイプのお芝居があることがわかってきたので、奥深いなぁと思いますし、作り甲斐があって楽しいです。――観月さんは30年連続“連ドラ主演”を飾られているという記録をお持ちで、ずっと更新し続けていらっしゃいます。長く女優を、しかも主演女優を続けられている秘訣は何だと思いますか?女優20周年まではそれが自分の生活のルーティーンで、毎年連ドラを演るのが当たり前だと思っていたんです。20周年を過ぎた頃から、周りの方々に「毎年連ドラを演っているのってすごくない?」と言われるようになって初めて「そうなんだ!」と思ったというか。年齢とともに役柄が変わっていくのも飽きずに続けられる秘訣だと思いますし、都度スタッフも変わり現場も変わるので、人と人との繋がりに恵まれ、ただただ良い人や作品との出会いがあって続けられたと思っています。――ちなみに、役柄が抜けないというようなことはないのでしょうか? どうやって作品ごとの切り替えやリセットをされているのでしょうか?撮影中はすっごい集中して役柄に入り込んで演技しているんですけれど、終わった後にスコンと抜けるんですよね。幼い頃から作品を次々にやらせて頂くサイクルに慣れているからかもしれないです。クランクアップして3日後には次の作品の現場に入っているというような感じでした。だからなのかもしれないですが、あまり過去を振り返らないんでしょうね。スケジュール的にも“失敗した、上手くいかなかった”と立ち止まっている時間がなかったというのもあるかもしれませんが、目の前にあることだけを追っかけていたのでここまでやってこれたのかもしれません。――最後に、本作をどんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えて下さい。幅広い方に楽しんで頂けると思います。怖いもの見たさや興味本位でも良いので、年齢層問わず沢山の方に見ていただきたいです。続きが気になって4話ともに引き込まれるんじゃないかなと思います。私が常軌を逸した役を演じているというイメージを持っていない人もまだまだ多いと思うので、新しい一面を見て頂けると嬉しいです。「奪い愛、高校教師」は年の瀬の12月27日(月)~ABEMA・テレビ朝日にて4夜連続放送。また、12月20日(月)より先行配信中の第1話と、放送終了後の全話見逃しはABEMAにて独占配信される。(佳香(かこ))
2021年12月27日夫婦の危機
セレブ婚で変わってしまった親友
義父母がシンドイんです!