この春始めたい、習い事ことはじめ。ここでは“陶芸”に注目します。「作る」を習う。モノづくりや料理など、何かを作るということは、そこに自分の感性やセンスが反映され、表現力も磨かれる。好きなもの、おいしいものに囲まれ、生活もグッと豊かに!習い事:陶芸習っている人:モデル・長澤メイさん油絵、写真など、クリエイティブな趣味を持つモデルの長澤メイさんが、今ハマっているのが陶芸。「昔からモノづくりが得意で、図工の成績は5以外とったことがありません(笑)。さまざまなモノづくりに興味があり、陶芸は約4年前に始めました。都内のさまざまな工房の陶芸体験に行きまくり、しっかり基礎を学べて、自分の感性やスキルを高めてくれるなぁと思える先生に出会えたのが2年前。今は2つの工房を掛け持ちして、月に2~3回のぺースで通っています。工房によって扱っている土や釉薬も異なるし、窯の大きさも違うので、複数の工房で腕を磨きながら、自分の表現の幅を広げています。4月からは金沢にある工房にも通う予定です。年末にその工房にひとりで訪れて、4日間ずっとろくろを回していました。まさに修業(笑)。陶芸はその土地の風土がすごく反映されるものだし、金沢は空気も水もキレイで、今までとまた違う表現ができて面白いんです。環境も良く、作品づくりに集中できるから、今後は毎月通いたいと思っています」モノづくりも自己表現も得意な長澤さんがそこまでハマる陶芸の魅力はどんなところなのだろうか。「陶芸は、焼き上がるまでどんな作品になるか全くわからない。その待っている間のドキドキワクワク感がたまらないんです。それに作りながら好きなように形も変えられるし、釉薬ひとつで表面の色を多種多用に変えられて、垂らし具合で面白い変化をつけることもできる。まさに自由自在。そこに自分の今の思いが乗っかって、偶然の表情を持つ作品を生み出せた時が一番うれしい。だから毎回何を作るかは決めずに、その時の気分で作るようにしています。土に触っていると、自分が表現したいものがひゅーと上から降りてきて、手が勝手に動くんです(笑)。それに土に触れることで、体内のエネルギーバランスが整う『アーシング』効果も。陶芸をしている時間はメディテーションにもなっていて、すごく心が落ち着きます」長澤さんの作品は、シックなものもあるが、心がウキウキしてくるようなカラフルでキラキラしている、ポップで軽快な作品が多い。「展覧会に行くと、ネガティブなテーマを表現したアート作品が昔から多くてビックリ。私だったら絶対にポジティブなものしか作らない。だって自分が生み出すものは絶対に自分が好きなものだし、それに囲まれるだけでそこがハッピースポットになって、すごく幸せを感じられるじゃないですか…。作品にはその人のエネルギーが宿るので、作品を通して私のポジティブパワーをみんなに届けて、世界中をハッピーにしたい!それが私の野望です。まずは近々の目標として、今秋に国内で個展を開くために、今まで以上に作品づくりを頑張らなきゃと思っていて、大きな作品にも挑戦中。そしていつか海外で展覧会を開きたい。本気と書いて、マジです(笑)」偶然から生まれたユニークな鉢植え今にも歩きだしそうな鉢植えは、釉薬が垂れて自然とこんな形に。「偶然が作り出した奇跡の作品。キラキラの釉薬とクリスタルの天然石を用いているので、光が当たるととてもキレイ!」愛犬そっくり!陶器のお香立て長澤さんの愛犬“uni”をモチーフにした作品も。「お香をたくと、uniの口から煙がもくもく出てきます。uniの姿形は頭にしっかり入っているから、写真も何も見ずに成形しました」ながさわ・めいモデル。1990年12月8日生まれ、愛知県出身。名古屋PARCO開業30周年広告「LOVE PARCO」をはじめ、TVCMやMVなどに多数出演。写真展「Sammy」を開催したり、吸水ショーツをプロデュースするなど、マルチに活動中。※『anan』2022年4月20日号より。写真・小笠原真紀取材、文・鈴木恵美(by anan編集部)
2022年04月17日「出版120周年 ピーターラビット(TM)展」が世田谷美術館で開催される。会いに来たよ!世界で一枚だけのピーター。1902年に英国で初版刊行、日本では’71年に出版以来、愛されてきた『ピーターラビットのおはなし』。出版120周年の今年まで、日本語版の絵本では掲載されなかった挿絵の原画を含め、『ピーターラビットのおはなし』の彩色画全点が作者のビアトリクス・ポター(TM)の思い描いた姿で展示される初めての機会だ。そのほかにも見逃せないのが、ビアトリクスが少年に宛てた絵手紙のオリジナル。これは絵本の出版から遡ること約10年前、自分の家庭教師だった女性の子どもである5歳のノエル少年へお見舞いとして描いたもの。後に彼のもとで保管されていた絵手紙をもとに、ビアトリクスはピーターの物語を描き上げることになる。そして出版されるや大評判に。「当時、擬人化された動物を主人公にした絵本はありましたが、ピーターの姿は決してデフォルメされていません。もしウサギが2本足で立って歩くとしたら、どのように描けば自然なのかということがよく考えられていて、喜怒哀楽も姿勢や仕草で表されています。その頃、博物学が流行し、その影響を受けてビアトリクスが小動物の実際の骨格を調べていたこともわかっていますが、そうした博物学的な知識と目を持っていなければ描けない絵だと思います」と本展の監修を務める大東文化大学教授の河野芳英さん。「ヴィクトリア朝の英国の裕福な家庭の常として、ビアトリクスも乳母や家庭教師に育てられました。子ども部屋に弟と二人で『秘密の動物園』を作り、カメや小鳥、ウサギなどのペットを飼い、そのスケッチがたくさん残されています。そのような環境で優れた観察力が培われたのでしょう」出版の翌年にはビアトリクスはピーターのぬいぐるみを自作し、特許を申請。本展には100年以上前に作られたアイテムの数々も登場する。「自分の絵本のキャラクターをグッズとして販売するために特許を申請した初めての人といわれています。先見の明を持ちグッズとともに歩んできたことも、絵本がベストセラーであり続けた要因かもしれません」絵本、キャラクターグッズのビジネスで大成功を収めたビアトリクスは、幼い頃から避暑に訪れ親しんだ英国・湖水地方の自然景観を守るため、東京ドーム約360個分の土地を購入。亡くなった後はナショナル・トラストに寄贈、2017年には世界文化遺産に指定されている。「ビアトリクスが湖水地方の自然を残そうとしたのは、ピーターラビットの舞台となった場所が残れば、自分の絵本も残ると考えていたからとも。今回展示される原画は水彩で描かれた繊細なもの。印刷に表れないすばらしい魅力があります。ご覧いただければ心が洗われるような体験になると思います」原点は小さな友達に送った絵手紙。1893年に療養中の少年を慰めるため送ったお見舞いの絵手紙が『ピーターラビットのおはなし』の原点。最後はピーターがベッドに寝かされ、煎じ薬を飲ませてもらう絵本と同じ場面も。《ノエル・ムーア宛ての絵手紙》 ビアトリクス・ポター 1893年 ピアーソン PLC ©Victoria & Albert Museum,London,2015「ピーターラビット(TM)」シリーズとは?1902年の『ピーターラビットのおはなし』を皮切りに’30年までに全23冊を刊行。主人公はリス、カエル、ネコ、アヒルなど。ビアトリクスが子どもの頃から親しんだ小動物が、湖水地方などを舞台に物語を繰り広げる。《『ピーターラビットのおはなし』初版(濃茶色厚紙装丁版)》 フレデリック・ウォーン社 1902年ウォーン・アーカイブ/フレデリック・ウォーン社 ©Frederick Warne & Co.Ltd,2021『ピーターラビットのおはなし』彩色画全点が一堂に。《『ピーターラビットのおはなし』挿絵原画》 ビアトリクス・ポター 1902年 ウォーン・アーカイブ/フレデリック・ウォーン社 ©Frederick Warne & Co.Ltd,2017「出版120周年 ピーターラビット(TM)展世田谷美術館」東京都世田谷区砧公園1‐2開催中~6月19日(日)10時~18時(入場は17時30分まで)月曜休(5/2は開館)一般1600円ほか※会期中の土・日・祝日および5/2は日時指定券を販売。詳細は展覧会公式サイトを確認。TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)ビアトリクス・ポター1866年、ロンドンに生まれる。幼い頃から絵の才能を発揮。ウサギなどの小動物が主人公の「ピーターラビット」シリーズは2億5000万部を超えるロングセラー。英国・湖水地方の景観を守ることにも尽力。1943年没。写真:1892年 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 Courtesy of the Victoria and Albert Museum※『anan』2022年4月13日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年04月11日人気の若手歌舞伎俳優、中村壱太郎さんと尾上右近さんが、『没後50年 鏑木清方展』のイベントに登場!歌舞伎をテーマにした展示室で、トークとフォトセッションが行われました。さらにその後、インタビューも実施。アートやエンタメの魅力、東銀座界隈の思い出など語っていただきました!中村壱太郎さん、尾上右近さん、登場!左:尾上右近さん右:中村壱太郎さん《道成寺 鷺娘》の前で撮影【女子的アートナビ】vol. 239東京国立近代美術館『没後50年 鏑木清方展』の展示室に登場したお二人。さすが歌舞伎俳優さん、立ち姿がとても美しいです!中村壱太郎さんは、歌舞伎俳優だけでなく日本舞踊の吾妻流七代目家元、さらに現代劇でも活躍。尾上右近さんも、歌舞伎俳優と家業である日本古典音楽の清元、映画やバラエティ番組にも出演し、多方面で活躍されています。まずは、鏑木清方の華やかな作品《道成寺(どうじょうじ) 鷺娘(さぎむすめ)》の前でフォトセッション。《道成寺 鷺娘》とは、歌舞伎の演目『京鹿子娘道成寺』と『鷺娘』をテーマに描いた作品。お二人とも、歌舞伎では女方を中心に演じられているので、作品にも興味津々なご様子。撮影の合間にも、絵に描かれている着物や仕草などについて、楽しそうに話されていました。続いてのトークセッションは、《京鹿子娘道成寺》の作品が並ぶ展示室で実施。お二人が鏑木作品の魅力について、語りました。壱太郎さん清方先生の作品は、一言で言うと、眼福。幸せになれます。美しいものを見ると人間は幸せになれる、と改めて感じました。特に、僕らは着物や日本の文化に触れて仕事をしているからかもしれませんが、日本人のどこかに眠っているものと紐づけられるのかなと思います。右近さん品格が高いと思います。画家がどんな人だったのか、絵を見ながら僕はよく人物像を想像してみるのですが、清方作品には品格があふれ、知性があります。江戸っ子の粋や風流、時代からくるモダンさなどに楽しみを感じます。心静かにカブいているのがいいですね。お二人にインタビュー!続いて、本展覧会の目玉作品である清方の美人画三部作《築地明石町》、《新富町》、《浜町河岸》が並ぶ展示室でインタビューを実施。まずは、三部作について、お聞きしてみました。――こちらの美人画で、どの作品、どの女性がステキだと思いますか?右近さんやはり、築地明石町のお姉さんでしょう。この凛とした姿。この瞳で見つめられたいです。男目線でも、女方の役者として見てもステキです。男性の画家が描く女性は、理想の女性の姿で、男が演じる女方も理想の女。そのリンク性も作品から感じられますし、とにかく断然美しいです。男としては、こういう女性に振り返られたいですね(笑)。壱太郎さん浜町のおぼこさんもいいと思う。僕らも踊りを習うと、この絵のように「振り」をおさらいするのです。「今日習ったことは、こんな振りだったのかな」とこの絵を見てすぐにわかります。着物の袖を持ち、扇子を口に当てるというのは、日常にはないしぐさ。これを切り取っている清方先生のセンスはすばらしいですよね。右近さん確かに、浜町の作品もいいですね。どの作品も凛としてさわやか。そして、首がキレイ。九州系だね。――九州系とは?右近さん九州の女性は色白で、首が細くて、毛の流れがきれいというのが僕の勝手な思い(笑)。尾上右近の統計。九州の女性は色白で、輪郭がいいのです。壱太郎さんハハハ。でも、これ大丈夫?九州以外の人を敵に回していない?右近さん大丈夫、大丈夫!「想像させる絵がステキ」――全体を通して、お好きな作品はどれですか?右近さん僕は《墨田河舟遊》(※筆者注:屋形船で姫や若侍が楽しむ様子を描いた屛風)。人間が生き生きと描かれ、楽しそうでワクワクします。当時の時代の最先端が感じられ、若いエネルギーで楽しんでいる。僕らも結局、同じことを繰り返していますよね。カラオケ行ったり、クラブ行ったりするのと同じです。上品に遊んだほうが楽しいよ、ということもこの絵から感じます。壱太郎さん僕は、《佃島の秋》(※男性が女性に花を手渡している場面を描いた絵画)。勝手な解釈だけど、下に描かれている美しいアヒルと女性がリンクしていると思うのです。ぶっきらぼうな男の人が、白くてきれいなアヒルに花をあげてみた、という感じで、この絵をもとに芝居を書けるくらいの情報量があります。想像させる絵がステキです。見る楽しさを感じさせてくれます。「エンタメは、非日常を感じるのがいい」――お二人は、とても楽しそうにこの展覧会をご覧になっていますが、一般的に、特にanan世代の多くは、「日本画の展覧会ってハードルが高そう」と感じているような気がします。右近さんハードルが高い、とすでに存在を認識しているのなら、そのハードルを越えてみたらいいんじゃないのかな。触れてみたらいいと思います。知らないよりは知っているほうが絶対いいです。見に行ったら、「知っている」というステイタス以上に「おもしろい」という純粋な感情が生まれる。ハードルが高いと認識しているものは、もっと触れてみたほうが楽しいですよ。壱太郎さん歌舞伎も、同世代や若い方に「勉強しに行きます」とよく言われます。でも、別に勉強するものではないんですよね。右近さんそうそう。勉強するのは僕らの仕事ですから。壱太郎さんまさにそう。清方先生の《佃島の秋》みたいに、想像する楽しさをみんながもてる。絵を見ていると、それ以上のものを感じるのが絵画のおもしろさで、歌舞伎も一緒。「この人どうしてこんなにきれいなのかな」と素朴な疑問をもつとか、それだけでいいのです。そのきっかけさえ見つければ、それ以上のものをもって帰れると思います。右近さんエンタメは、非日常を感じられるのがいいです。美術館という空間自体いい。おならもできない静寂な空間(笑)。壱太郎さんもうちょっとananらしい良いたとえはないの(笑)。でも、展覧会なら、好きな絵をひとつ見つけに行こうと思って友達と出かけて、感想を伝え合うのもいいよね。朝イチで山盛り海鮮丼!――鏑木清方は築地界隈で暮らしたことがあるので、それらの地域が作品にも描かれています。歌舞伎座からも近いエリアですが、お二人にもなにか築地の思い出はありますか?右近さん以前、二人で歌舞伎座に出ていたとき、朝の築地に行きました。一幕目は昼の11時に開演するので、だいたい10時に楽屋入りします。その前にということで、朝7時に集合して行きました。壱太郎さんあれはよかったね。海鮮丼食べて。右近さんそう。高いのを食べました。よかったですよ、山盛りで(笑)。あの界隈のあの空気感も独特。浅草とか上野の江戸っ子も僕らは知っていますが、築地あたりの江戸っ子の空気は、また違うんですよね。河岸の人間の時間軸を感じて、いいなぁと思いました。『芝浜革財布』という芝居があり、河岸に通う男の話なのですが、築地にいると「こういう空気なんだな」とわかります。夕方には寝るという雰囲気。僕も、いつも午前中はちょっと眠いのですが、築地に行った日は、朝7時から食事をしているものだから、元気モリモリで(笑)。みんなと時の流れ方が違って、すごく充実感がありました。うまいもの食って来ているから(笑)。壱太郎さんこっちはもう始まってんだぜ!っていう感じだったね(笑)。「過去の自分は常に良くない…」――鏑木清方は、自分の作品を自己評価し、その記録が残っています。本展では、その記録をもとに、会心の出来には三ツ星など、作品に星がつけられていますが、そのような画家の姿勢をどう思いますか?右近さん目に見える絵画作品の場合は、いやでも冷静に評価が見えてきますよね。僕らは毎日同じことをやっていても、毎日コンディションも違うしお客さまも違うし、お互いのコンディションも違うし、状況が毎日違うので、自己評価の仕方が難しいです。常に揺れ動いているものなので、実態がわからない。後から振り返るとわかるときもありますが、この時が良かったというのは120パーセントないです。壱太郎さん清方先生の絵は、このまま一生残っていきますが、僕らの演技はその瞬間でしか残らない。だからこそステキさがあると思うので、その意味で評価の仕方は絵とは違うと思います。ただ、自己評価というより、仲間がいるから目指せるものはあるので、高め合いは常に意識しています。右近さん例えば過去の映像を見ると「ひどいな」と自分で思うのです。なんでこんなに拙いことやっているんだ、と。過去の自分は常に良くない、というのが植え付けられているので、冷静に判断ができない。成長がどこにあるのか、自分ではまったくわからないのです。へたに過去の映像など見てしまうと、進歩していない自分が目の前に立ちはだかって舞台に立つのが嫌になる。今日はいい舞台ができるぞという自己催眠がかけられなくなるのです。壱太郎さんこれは役者の宿命。今はビデオがあるから、僕らも頼るし必要だとは思います。でも、あまりにも見すぎると、自分は果たして何なのか。わけがわからなくなる。そこの難しさは僕らにはあります。右近さん客観性を持つのが難しいです。自分で三ツ星つけては取り消しての繰り返しです(笑)。アートとは「極上の…」――絵画作品だけでなく、歌舞伎などの舞台芸術もすべてアートといえると思うのですが、お二人にとってアートとは?右近さんアートとは、「人間の証明」。芸は人なり、という言葉から置き換えてみました。壱太郎さん人生においてのいろどり。人間のいろいろないろどりを総称すると、アートになるのではないかなと。時代時代において、いろいろな人や作品と関わり見ることによって人間力が増していく。これは生きた証です。右近さん僕、先ほどプレーヤー目線で言ってしまいました。すみません、はき違えました(笑)。アートとは、「極上のひまつぶし」です。壱太郎さん「人間の証明」からの落差がすごいね(笑)。右近さん生きるうえでは、いらないのかもしれないけれど、暇ができたら、その暇をやはり上質につぶしたい。それが、生きることへのこだわり。例えば、おにぎりとピカソの絵なら、食うに困るときはおにぎりしか選ばない。でも、食うに困らなくなったらピカソの絵に気づく。おにぎりもいいけど、この絵を見て心を潤うのもいいと気づく。だから、「極上のひまつぶし」です。「先に死なないで!」――お二人の関係、とてもいい感じですね。プライベートでも仲が良いのですか?右近さんいちゃこらしています(笑)。anan読者の女性たちも、僕らを見習って、いちゃこらしてください!壱太郎さん僕らは盟友、親友、ボイスメッセージ友達。同じ時代に生きて、同じものに取り組み、同じ感覚があります。もしかすると、今は追い求めるもの、求められているものが違っているかもしれないけど、いつかのゴールは絶対一緒のものを見ていると思います。一緒の思いをもてることに「ありがとう」と言いたい人です。右近さん僕にとって(壱太郎さんは)うれしいときも悲しいときもすべて報告したい人です。そんな人、清方先生にはいなかったのかな。(ここで、担当学芸員の鶴見香織さんが登場)鶴見さんそれは奥さまだと思います。奥さまは、清方が亡くなる数年前に他界され、その後、清方もがっくりとされていたそうですよ。右近さんがっくりきますよね。(壱太郎さんに向かって)先に死なないで!たとえ死ぬとしても、同じ年の同じ月の同じ日じゃ!壱太郎さん同じ刻限でね(笑)。右近さん芝居のようだね(笑)。――本当にステキなご関係ですね。楽しいお話、ありがとうございました!インタビューを終えて…立ち居振る舞いがとにかく美しいお二人。スーツを着ているとふつうにカッコイイのですが、少しでも動くと足の運びや指先の動きなど、一つひとつの所作が本当に優雅で、見とれてしまいました。くだけた話や楽しい話をしていても、品格が漂っているお二人。固い絆が感じられる友情にも感動しました。『没後50年 鏑木清方展』は5月8日まで開催。ぜひハードルを越えて、美しいアートに触れてみてください!Information『没後50年 鏑木清方展』会期:~5月8日(日)休館日:月曜(※5月2日は開館)会場:東京国立近代美術館1F企画展ギャラリー開室時間:9:30-17:00(金・土曜は9:30-20:00)(入館は閉館30分前まで)観覧料:一般¥1,800、大学生¥1,200、高校生¥700、中学生以下無料撮影:山本 嵩
2022年04月03日東京・町田にあるスヌーピーミュージアムで、企画展『しあわせは、みんなの笑顔』が開かれています。スヌーピーと仲間たちの楽しそうな笑顔、ニヤニヤ笑い、やさしい微笑みなど「笑顔」がテーマの本展は、この春のお出かけにもぴったり。ワクワク感いっぱいの館内や、映えるフォトスポット、楽しい作品を一挙ご紹介!笑顔のスヌーピーがお出迎え【女子的アートナビ】vol. 238スヌーピーミュージアムの最寄り駅は、東急田園都市線の「南町田グランベリーパーク駅」。そこから歩いて4分ほどで、大きなスヌーピーが描かれたかわいい建物に到着!外観も、今回の企画展に合わせて「笑顔」だらけ。建物だけ見てもワクワクします!館内では常設展と企画展を開催中。まずは、常設展から見てみましょう!常設展では、スヌーピーが登場するコミック『ピーナッツ』の作者、チャールズ・シュルツ氏の創作の歴史を知ることができる「チャールズ・シュルツ・ギャラリー」や、「ピーナッツ・ギャング・ギャラリー」などがあり、スヌーピーたちの基本情報を知ることができます。最初は四足歩行で、ふつうにペットの犬っぽかったスヌーピー。初期の複製原画や貴重なフィギュアなど、お宝がいっぱいあります。映えるフォトスポット!常設展エリアには、映えるフォトスポットもいっぱいあります!まず、3階にある「スヌーピー・テラス」。南町田グランベリーパークを一望でき、天気が良ければ富士山も見える気持ちのいいテラスです。ここにあるのが、かわいいスヌーピーがいっぱいのフォトスポット。雑誌やテレビなど、いろいろなメディアの撮影にも使われているそうです。モデル気分で撮影すると楽しいかも!2階の人気撮影スポットは、「スヌーピー・ルーム」。全長約8メートルの巨大スヌーピーをはじめ、お腹でスケートをしたり、ハロウィンの変装をしていたりするユニークなポーズのスヌーピーがずらりと並んでいます。さまざまな「笑顔」が集結!続いて企画展エリアへ。入り口でスヌーピーとウッドストックが、めちゃくちゃ楽しそうに笑っています!企画展『しあわせは、みんなの笑顔』では、スヌーピーたちの豊かな笑いを描いたコミック『ピーナッツ』の貴重な原画や複製原画約60点を展示。6つのグループにわけて、さまざまな笑顔が紹介されています。まずは、『笑わせておくれよ、チャーリー・ブラウン』のコーナーから。いつも何をしてもうまくいかない残念なチャーリー・ブラウン。ジョークを言った覚えがないのに笑われてしまうなんて、ちょっとかわいそうですが、逆に彼はみんなを笑顔にする才能があるのかも。開き直って笑ってしまえ、という豪快なスタンスをとるキャラたちも憎めません。『笑って笑って吹き飛ばせ!』のコーナーには、ペパーミント パティやマーシーたちのポジティブ思考が満載。ストーリーを読むと、自然に頬が緩んで元気になれます。ちなみに、作品が飾ってあるケースにもご注目。スヌーピーの犬小屋スタイルになっています!ブラックなスヌーピーも…!『ニヤニヤがとまらない』では、歯をむき出してニヤッと笑うスヌーピーが登場。ウラがありそうなアヤシイ笑顔にも出会えます。スヌーピーは、ちょっとしたイタズラが大好き。本気の意地悪ではないのですが、おふざけしているときは、歯を出して笑っています。ときどき、短いセリフでブラックなジョークをボソッとつぶやくことも。グッズのキャラクターとして、癒し系のかわいいスヌーピーに見慣れている人は、ちょっとビックリするかもしれませんが、本来のコミックとしてのおもしろさを味わえます。スヌーピーは小説家!?続いてのコーナー、『ハッピー!ハッピー!ハッピー!』では、「いい仕事して、笑おう」というストーリーの原画などを紹介。小説家のスヌーピーが、いいものを書いたときの喜びの笑顔を見せています。『ピーナッツ』ファンにはおなじみかもしれませんが、スヌーピーは屋根の上でタイプライターを打ちながら小説を書いたりしています。文豪トルストイの名著『戦争と平和』の続きも打っているとか。犬であることを誇りに思いながら、犬小屋の屋根の上でさまざまな夢を見ているのです。続く『ついニコニコしちゃうしあわせ』のコーナーには、友情や小さな幸せなど、ほっこりするストーリーがいっぱい。スヌーピーをハグしたり、膝の上に乗せたりしている仲間たちと過ごす穏やかな日常の姿を描いた絵は、見ているだけで優しい気持ちになれます。スマイルの連鎖…最後は、『スマイルの連鎖』。毎日コミックを描き、いつもおもしろいことを考えていたシュルツ氏は、アメリカだけでなく世界中に笑いをひろめていきました。このコーナーには、キャラクターたちのハッピーな笑顔があふれています。いろいろな出来事がある今、特にこのコーナーは刺さります。『ピーナッツ』の世界に触れて、楽しく笑ってスマイルが連鎖していけば、みんなハッピーになれるはず。スヌーピーのストーリーは、大切なことを教えてくれます。企画展のあとに続く展示室には、スヌーピーの「ベリー・ハッピー・ホーム」が登場!ここも「映えスポット」です!ショップもかわいい!展示を見終わったら、ぜひ立ち寄りたいのが「ブラウンズストア」。チャーリー・ブラウンをイメージしたおしゃれな店内には、ステーショナリーや雑貨など、ここでしか買えないオリジナルグッズがいっぱい!2022年の今年は、チャールズ・シュルツ生誕100周年を記念した限定商品もあり、どれもこれも集めたくなります。特に心を惹かれたのが、箸置き。四足歩行タイプと、ニコニコ笑顔で背中を丸めたタイプの2種類あったので、ひとつずつゲット。どちらも本当に愛らしく、食事をするたび笑顔になれます。春のお出かけにぴったりなスヌーピーミュージアム。南町田グランベリーパークには、アウトレットモールやレストラン、映画館、鶴間公園などのアクティビティがあり、一日中楽しむことができます。ぜひぜひ足を運んでみてくださいね!© Peanuts Worldwide LLCInformation<スヌーピーミュージアム企画展『しあわせは、みんなの笑顔』概要>会期:~7月10日(日)会場:スヌーピーミュージアム時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)観覧料:前売り一般・大学生¥1,800、中学・高校生¥800、4歳~小学生¥400当日券一般・大学生¥2,000、中学・高校生¥1,000、4歳~小学生¥600
2022年03月31日「特撮」のリアリティはこうして生まれた!?『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』に注目します。東京湾から襲来するゴジラ、デパートの屋上に舞い降りるラドン。昭和の子どもたちが胸躍らせた怪獣映画の破壊シーンがすべて手作りだったと聞くと驚くかも?「CG映画のなかった時代、戦争や怪獣、自然災害によって破壊される市街地など実写では撮影不可能な場面をミニチュアセットや模型を使って撮影したのが特撮(特殊撮影)と呼ばれる手法です。1954年公開の『ゴジラ』をはじめ、特撮の先駆者といわれる円谷英二監督を支え、監督が描くイメージを“実装”する役割を果たしたのが美術監督の井上泰幸さんでした」(東京都現代美術館学芸員・森山朋絵さん)徹底したロケハンと綿密なスケッチをもとに実景に忠実なセットを作り上げ、数々の名場面に貢献したほか、自ら設計した撮影所のプールで模型を使った海戦シーンを撮影、波起こし機を考案するなど、新しい手法を果敢に切り開くパイオニアでもあった。本展ではそうした業績とともに、井上さんの「表現者」としての個人史にもスポットを当てる。「太平洋戦争で片足を失い帰国した井上さんは、紆余曲折を経て28歳で大学に入り、バウハウスで学んだ山脇巌氏のもとでデザイン教育を受けています。初期の作品からは、テクノロジーを戦争ではなく芸術に向けられる喜びが伝わってきますし、同時代の前衛美術グループ〈実験工房〉が舞台パフォーマンスの装置に電飾やプラスチックなど、新しい素材を進んで用いた“総合芸術”の姿勢とも共通するかもしれません」会場ではスケッチや図面、ミニチュアなど数百点に及ぶ資料や貴重なメイキング画像が見られるほか、「昭和の特撮が令和の技術で蘇る」(森山さん)さまも見逃せない。『日本海大海戦』(1969)で使われた戦艦三笠の6mの模型も原寸大の3D画像で会場に登場する。また『シン・ゴジラ』(2016)で特撮美術監督を務めた三池敏夫氏が『空の大怪獣ラドン』(1956)の名場面、福岡・天神のデパートにラドンが舞い降りるセットを復元。このセットのみ限定で写真撮影OKなので、ぜひ自分だけの特撮シーンを!福岡・岩田屋周辺ミニチュアセットのメイキング写真、「空の大怪獣ラドン」(1956)より©TOHO CO., LTD.CGがかつて苦手としていた物体の重みを感じさせる空気感が特撮の強み。地元のデパートに本当に怪獣が舞い降りたかと九州の子どもたちを驚かせた名場面の撮影風景。怪獣・建造物設定対比図、「モスラ対ゴジラ」(1964)より©TOHO CO.,LTD.名古屋のテレビ塔、天守閣、ゴジラ、モスラの大きさの比率を示した手描きの図面。万能潜水艦アルファ号 デザイン画、「緯度0大作戦」(1969)より©TOHO CO., LTD.戦時中、海兵団に所属した井上さんは海戦ものを得意とした。この潜水艦は肖像写真で井上さんが手にしている模型と同じ「アルファ号」。いのうえ・やすゆき1922年生まれ。円谷英二(1901‐1970)のもと、特撮美術スタッフの一員としてキャリアを本格的にスタート。井上に学び協働した三池監督に加え、庵野秀明監督、樋口真嗣監督ら最前線で活躍するクリエイターたちに大きな影響を与える。2012年没。井上泰幸 アルファ企画にて、1994年 撮影:斎藤純二『生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展』東京都現代美術館 企画展示室 地下2F東京都江東区三好4‐1‐1開催中~6月19日(日)10時~18時(入場は17時30分まで)月曜休一般1700円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年3月30日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年03月29日大判カメラの「アオリ」と呼ばれる機構を駆使して、都市をジオラマのように撮影する写真家・本城直季さん。まるでミニチュアセットのように見える写真だが、実はすべて現実世界を撮影したもの。彼のマジックに魅了されたファンも多いだろう。まるでジオラマ?広がる不思議な風景。写真家・本城直季初の大規模個展。「大学の写真学部4年生の時、学校の備品だった大判カメラを自由に借用できるようになって。スタジオマンとして働いた経験などもなかったので、固定観念なく自由な撮影にトライできた。それがこの撮影法を習得したきっかけかもしれません」東京に生まれながらも高層ビルが乱立する都市に違和感を覚えていたという本城さん。この世界を知りたい、俯瞰したい。そんな想いが彼の創作の原動力となった。「実際にヘリコプターから空撮すると驚かされるのは人の痕跡。例えば、広大なサバンナにも車の轍は残っているし、東京のビルや人が密集する様には衝撃を受ける。地球上で人間がいない場所はないと感じるし、そこにあるのは美しさだけじゃなく、リアルな人の営みだと実感します」今回、彼が2年かけて準備をした初の大規模個展では、代表作「small planet」シリーズで日常の風景を俯瞰することから始まり、そこから「kenya」「tohoku 311」など、彼が注目するエリアへとフォーカスする展開に。注目は本展のため新たに撮り下ろした「東京」の風景。国立競技場や東京の摩天楼、長時間露光によって住宅街の路地裏を撮影した「LIGHT HOUSE」まで約200点の作品を展示し、その活動を振り返る。自分の住んでいる世界は、はたして理想的なのかをずっと問い続けてきたという本城さん。「かわいいと言われることが嬉しい半面、都市が抱え込んでいる陰の部分も表現されているのが僕の作品。そんな都市生活の奥深さを感じてもらえたら」small planet / Tokyo, Japan / 2005 © Naoki Honjosmall planet / Tokyo, Japan / 2002 © Naoki Honjoplay room / beach / 2005 © Naoki Honjokenya / giraffe / 2008 © Naoki Honjo本城直季(un)real utopia東京都写真美術館 地下1階展示室東京都目黒区三田1‐13‐3恵比寿ガーデンプレイス内3月19日(土)~5月15日(日)10時~18時(木・金曜は~20時。入場は閉館の30分前まで)月曜(3/21、5/2は開館)、3/22休一般1100円ほか(日時指定予約推奨)TEL:03・3280・0099ほんじょう・なおき1978年、東京都生まれ。2004年、東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。『small planet』(リトルモア)で第32回木村伊兵衛写真賞受賞。ANA機内誌『翼の王国』の連載も担当する。※『anan』2022年3月23日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年03月20日国内外のメディアに多数取り上げられるトリックアート作家・服部正志によるトリックアートミュージアム『トリック3Dアート in COEDO』(埼玉県川越市)は、最新作6点を含む当ミュージアム初登場の3Dアート作品11点を、2022年3月5日から入替展示しています。魔法のトラック1■川越観光に!参加型トリックアートミュージアムに新作が登場!『トリック3Dアート in COEDO』は、2018年に不思議な写真を撮って楽しめる参加型のトリックアートミュージアムとしてオープンしました。川越観光に訪れるファミリー、カップル、グループが楽しめる場所として多くの方にお楽しみいただいております。この度、最新作6点を含む当ミュージアム初登場となる3Dアート作品11点を2022年3月5日から入替展示しています。好評につき延長展示となる3Dアート作品も6点あります。その他にも不思議な錯視作品が10点ほどあるため、様々なトリックアートをお楽しみいただけます。館長であり全ての展示作品の作者である服部正志の作品は強い錯覚効果があります。作品を展開しているトリックアートミュージアムは国内外に合計4館あります。2018年にヨーロッパ主要国では初のトリックアートミュージアムがドイツ/ハンブルクに開館して行列が出来るほどの人気ミュージアムとなっています。現在ドイツ/ロストックにもあります。トリック3Dアート in COEDO MINDWAYS 3D TRICKART ■トリック3Dアート作家/服部正志(はっとりまさし)プロフィール1962年生まれ。多摩美術大学絵画科卒。2010年からは主にトリック3Dアートのイベントを展開。派手なトリックと斬新な表現で国内を代表する3Dアート作家として知られるようになる。国内外で100回以上の「トリック3Dアート展」「魔法の絵画展」を開催。ヨーロッパや日本国内のメディアにも多数取り上げられている。NHK「高校美術1」、日テレ「世界の果てまでイッテQ!」、ドイツのTV「ガリレオ」など多数出演。ドイツ/ハンブルクとロストックにて大型ミュージアムを開催中。国内では川越、湯布院にてミュージアムを開催中。作者ホームページ: 【店舗概要】店舗名 : トリック3Dアート in COEDO所在地 : 埼玉県川越市元町1-13-1(札の辻交差点すぐ)定休日 : 火曜日価格 : 大人(高校生以上) 800円小人(4歳~中学生) 500円3歳以下 無料営業時間: 10:30~17:30(最終入館17:00)TEL : 049-298-4727URL : ■会社概要屋号 : アートテイラー服部代表者 : 服部正志所在地 : 〒350-1328 埼玉県狭山市広瀬台1-9-21設立 : 1990年4月事業内容: トリックアートの製作URL : 【店舗・作品に関するお客様からのお問い合わせ先】服部正志TEL:090-3346-9844 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年03月16日春のお出かけにぴったりの展覧会が、都内各所で次々とはじまっています。今回は、特に日本が誇る美しい芸術品を見られる場所にフォーカス。サントリー美術館、山種美術館、アーティゾン美術館と東京国立近代美術館の企画展をまとめてご紹介!サントリー美術館『よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―』【女子的アートナビ】vol. 237御大典記念特別展『よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―』では、奈良にある正倉院宝物の精巧な再現模造のなかからセレクトされた逸品をまとめて展示。近現代の一流工芸家により再現された天平時代の技と美をたっぷり楽しめます。正倉院宝物とは、東大寺の重要な資財を納める「正倉」に伝わった約9,000件の品々のこと。聖武天皇ゆかりの品をはじめ、奈良時代の貴重な宝物が多く、調度品や楽器、武具、仏具、染織品など多彩な品があります。でも、なぜ本物の宝物ではなく再現模造を展示するのでしょうか?宮内庁正倉院事務所保存課長・飯田剛彦さんによると、正倉院宝物は壊れやすく、全国各地の展覧会で積極的に作品を公開するのは難しいとのこと。代わりに再現模造で理解を深めてほしい、とのお話でした。明治期の模造製作は、宝物を修理するための試作品としてつくられたことが多く、今では万が一の際のスペアとしての役目や、今回のような展覧会に出品する役割も担っているそうです。例えば、正倉院の国宝「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」の模造をつくる際、まず製作前にレントゲンやCTスキャンなども駆使して徹底的な調査を実施。痕跡を探り、さらに当時と同じ材料も各地から探し集め、そのうえで当代の名工たちが当時の技法を再現しながらつくりあげたそうです。「螺鈿紫檀五絃琵琶」は、正倉院宝物を代表する名品のひとつ。楽器としても大変珍しく、世界で現存するのは正倉院の現宝物のみ。それと同じものをほぼ完ぺきに再現した模造も、やはり素晴らしい芸術品といえると思います。前出の飯田さんは、この企画展の楽しみ方について、次のように教えてくれました。飯田さん再現模造には変色や欠けている部分もなく、ストレートな美しさがあります。また、現代の一流工芸作家が失われた技術をどのように再現したのか、という部分も注目点です。模造のパーツなども展示されているので、製作過程も含めて楽しんでみてください。本展は3月27日まで開催。その後、長野に巡回します。山種美術館『上村松園・松篁 ―美人画と花鳥画の世界―』渋谷区広尾にある山種美術館では、美人画の巨匠として知られる上村松園と、その長男・松篁(しょうこう)に焦点を当てた展覧会『上村松園・松篁 ―美人画と花鳥画の世界―』が開催中。気品あふれる日本画を心ゆくまで堪能できます。上村松園(1875~1949)は、京都で活躍した女性画家。葉茶屋の娘として生まれ、京都府画学校(現:京都市立芸術大学)で鈴木松年に、その後は竹内栖鳳などのもとで日本画を学びます。1902年に長男・信太郎(のちの松篁)を出産。家業の茶商を廃業して画家に専念し、シングルマザーとして息子を育てます。1948年には、女性初の文化勲章を受章。格調高い美人画で人気を博し、日本画家として成功を収めました。上村松篁(1902~2001)は、花鳥画で有名な画家。特に鳥の絵に定評があり、アトリエで多くの鳥を飼って観察しながら描いていたことで知られています。1984年には文化勲章を受章。息子の上村淳之も、日本画家として活躍しています。会場では、山種コレクションの上村松園作品全18点・松篁作品全9点を一挙に公開。さらに、淳之も含めた三世代の作品を見ることができます。なかでも時期的に必見なのが、松園の《春芳》(しゅんぽう)。梅の木の前でたたずむ女性の姿が描かれた大変美しい作品です。芳しい梅の香りが漂ってきそうで、作品の前に立つだけで一気に春の空気に包まれます。本展は4月17日まで開催。アーティゾン美術館『はじまりから、いま。1952ー2022』公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館では、現在『はじまりから、いま。1952ー2022 アーティゾン美術館の軌跡―古代美術、印象派、そして現代へ』が開かれています。本展では、石橋財団コレクションの歴史を約170点の作品とさまざまな資料で紹介。古代美術や日本東洋古美術から現代美術まで、幅広いジャンルの名作を楽しめます。展覧会は3部構成。第1章「アーティゾン美術館の誕生」では、近年収蔵された作品や、これまで開催された展覧会のポスターなども展示。ブリヂストン美術館時代の懐かしい企画展などを思い出しながら、美術館が歩んできた歴史に触れられます。第2章「新地平への旅」では、中国出身の画家ザオ・ウーキーによる墨で描かれた大作が登場。また、新所蔵作品《平治物語絵巻 常磐巻(ときわのまき)》も初公開中です。これは鎌倉時代に制作された作品で、清盛勢が内裏に討ち入りする場面などがドラマチックに描かれています。さらに、みんな大好きな“日本の宝”も第2章に登場!国宝《鳥獣戯画》(京都・高山寺蔵)甲巻の一部だった作品《鳥獣戯画断簡》も、石橋財団コレクションの所蔵作品です。最後の第3章「ブリヂストン美術館のあゆみ」では、開館初期のコレクションを紹介。モネやマネなどの絵画やギリシア彫刻などを楽しめます。本展は4月10日まで開催。東京国立近代美術館『没後50年 鏑木清方展』最後にご紹介するのは、美人画の大家として活躍した鏑木清方(1878~1972)の日本画約110点を集めた展覧会『没後50年 鏑木清方展』。こちらは3月18日からはじまります。鏑木清方は東京・神田生まれ。浮世絵系の画家に師事したあと挿絵画家としてデビューし、新聞や小説雑誌などの挿絵を手がけます。その後、人物画を中心とした日本画にも取り組み、庶民の暮らしや文学などをテーマに絵画を制作。関東大震災後、清方は再開発で失われていく明治の景色をテーマに作品を描き、代表作のひとつ《築地明石町》が誕生します。明石町は、明治時代に外国人居留地だった場所。本作の背景には洋館の垣根が描かれ、黒い羽織姿の女性の髪形は、明治期に流行した「イギリス巻」になっています。鏑木清方は、先にご紹介した上村松園と並び称されることも多く、特に美人画の雰囲気が似ているので違いがわかりづらいと思う人もいるかと思います。でも、山種美術館の企画展と本展を見れば、その違いがきっとわかるはず。ぜひ、どちらにも足を運んで、じっくりと本物の作品をご覧になってみてください。本展会場の東京国立近代美術館は千鳥ヶ淵にも近く、周辺にお花見スポットがたくさんあります。アートとお花見と一緒に楽しむのもおすすめです!Information御大典記念特別展『よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―』会期:~3月27日(日)※火曜休館※3月22日は開館会場:サントリー美術館開室時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)※3月20日(日)、3月21日(月・祝)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで※開館時間は変更の場合があります観覧料:一般¥1,500、大学生・高校生¥1,000『上村松園・松篁 ―美人画と花鳥画の世界―』会期:~4月17日(日)※月曜休館※3/21(月)は開館、3/22(火)は休館会場:山種美術館開室時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)観覧料:一般¥1,300、春の学割 大学生・高校生¥500、中学生以下無料 (付添者の同伴が必要)『はじまりから、いま。1952ー2022 アーティゾン美術館の軌跡―古代美術、印象派、そして現代へ』会期:~ 4月10日(日)※月曜休館※3/21(月)は開館、3/22(火)は休館会場:アーティゾン美術館開室時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)※金曜日は20:00まで観覧料:ウェブ予約チケット¥1,200、当日チケット¥1,500、学生無料(※要ウェブ予約)『没後50年 鏑木清方展』会期:3月18日(金)~5月8日(日)休館日:月曜(※3月21日、28日、5月2日は開館)、3月22日(火)会場:東京国立近代美術館1F企画展ギャラリー開室時間:9:30-17:00(金・土曜は9:30-20:00)(入館は閉館30分前まで)観覧料:一般¥1,800、大学生¥1,200、高校生¥700、中学生以下無料
2022年03月13日春爛漫の桜の世界へ。日本初、ダミアン・ハーストの大規模個展『ダミアン・ハースト 桜』とは?ダミアン・ハースト《神聖な日の桜》2018年カルティエ現代美術財団コレクションPhotographed by Prudence Cuming Associates Ltd©Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022『ダミアン・ハースト 桜』イギリスを代表する現代美術家の巨匠ダミアン・ハースト。彼は30年以上のキャリアの中で絵画や彫刻、インスタレーションと様々な手法で芸術、宗教、科学、そして生や死といったテーマを深く掘り下げてきた。なかでも彼が特に見つめてきたのが死。彼の名を聞いて〈Natural History〉という、死んだ生物をホルマリン漬けにしたシリーズ作品を思い浮かべる人もいるだろう。そんな彼の最新作〈桜〉のシリーズでは、19世紀のポスト印象派や20世紀のアクション・ペインティングなど、西洋絵画史の成果を独自に解釈し、色彩豊かでダイナミックな風景画を完成させている。昨年、カルティエ現代美術財団は本シリーズを世界で初めて紹介し、国際的に高い評価を得た。そして今春、ついにこの作品が日本に上陸。日本初のハーストの大規模個展となる。「本展は昨年7月から今年1月までパリで開催されていたもの。現地で大好評だったこの展覧会の日本開催をカルティエ現代美術財団より提案いただきました。ハーストの最新作を日本で紹介することに大きな意義を感じています」(国立新美術館主任研究員・山田由佳子さん)本展では107点から成る〈桜〉のシリーズからハースト自身が24作品を選抜。天井高8m、2000平方メートルの展示室の開放的な空間を生かし、大きいものでは縦5m、横7mを超える風景画の配置を彼自身が考案。大迫力の展示空間を作り上げている。「〈桜〉のシリーズは美と生と死についての作品です」とハースト。桜という具体的なモチーフを使いながら、作品は具象と抽象の間を常に揺れ動く表現に。その絵画世界は、生や死、さらに再生を感じさせる。一歩会場に入れば、咲き誇る桜の下に身を置いた時のように春爛漫の気分を満喫できるはずだ。ダミアン・ハーストのスタジオ風景ダミアン・ハースト2019年Damien Hirst1965年、英国ブリストルに生まれ、’84年からロンドン在住の英国を代表する現代美術家。’90年代に頭角を現してきたヤング・ブリティッシュ・アーティストと呼ばれる存在の代表。’95年、ターナー賞受賞など受賞歴多数。『ダミアン・ハースト 桜』国立新美術館 企画展示室2E東京都港区六本木7‐22‐2開催中~5月23日(月)10時~18時(金・土曜は~20時、入場は閉館の30分前まで)火曜(5/3は開館)休一般1500円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年3月9日号より。取材、文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年03月08日『エーミールと探偵たち』『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』などの児童文学作品を筆頭に、世界的に知られるドイツの詩人、作家のエーリヒ・ケストナー。第二次世界大戦後、戦いや争いをやめない人類を彼の絵本『動物会議』では痛烈に批判。ケストナーはユーモアと皮肉を絵本に込め、人類が抱える大きな課題をわかりやすく訴えた。「争いをやめ、未来のため、子どもたちのために、大人たちが話し合う」という彼の問題提起は、作品の出版から70年以上が経った今日の世界にも通じると、本展は企画された。愛らしい動物たちが伝える、人間への痛烈なメッセージ。会場でまず目を引くのは、『動物会議』を描いたヴァルター・トリアーの原画(複製)の展示。カナダのオンタリオ美術館に所蔵されている原画と寸分違わぬサイズ&画質で用意された本品は、簡潔でふくよかな線、親しみやすい表現で描かれた動物が可愛らしい。見る人を惹きつけ、想像の世界へと誘ってくれる。さらに本展では、ケストナーのメッセージを現代へ問いかけるべく、様々な分野で活躍する8人のアーティストたちが集結する。『動物会議』のストーリー8場面を、絵画や立体、インスタレーション、映像などの手法で全員がリレーして描き出した。物語はチャド湖のライオン、ゾウ、キリンの集まりからスタートする。動物会議の招集、へんてこな動物ビルへの移動、人間と動物の会議や駆け引き、そして最後に動物たちがとった一手とは……。参加アーティストは絵本作家のヨシタケシンスケ、アニメーション作家の村田朋泰、画家のjunaida、イラストレーターの秦直也、映像作家の菱川勢一など、子どもと縁深く活躍する気鋭の作家が勢ぞろい。彼ら現代作家がミュージアムの空間全体をフルに使って紡ぎ出す、現代版『動物会議』に注目したい。What’s?『動物会議』1949年、エーリヒ・ケストナーとチェコ生まれの挿絵画家ヴァルター・トリアーが共に作り上げた絵本。第二次世界大戦後、各国の首脳は世界平和のために国際会議を重ねるが、成果が上がらない。それを見て怒った動物たちが自分たちで会議を開き、人間に平和の道を示そうと試みる名作。「どうぶつかいぎ展」メインビジュアル1.「闇の世界夢の世界」junaida/2021年ボローニャ国際絵本原画展をはじめ数々のコンクール受賞歴を持つjunaidaの描き下ろし作品が。2.「無題」秦直也/2021年シャープペンシルで描く繊細な動物のイラストで有名な秦直也作品も登場。3.「ケストナーとトリアー」ヨシタケシンスケ/2021年絵本作家ヨシタケシンスケは長年の盟友だったケストナーとトリアーの関係を作品で紹介。4.「めざせ動物ビル」村田朋泰/2021年へんてこな動物ビルに集う動物たちをアニメーション作家・村田朋泰は得意のコマ撮り映像で表現。どうぶつかいぎ展PLAY! MUSEUM東京都立川市緑町3‐1GREEN SPRINGS W3‐2F開催中~4月10日(日)10時~18時(平日は17時まで。入場は閉館の30分前まで)2/27休一般1500円ほかTEL:042・518・9625※『anan』2022年3月2日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年02月28日黒塗りの画面に亡霊のような顔が浮かびあがる絵など、心に深く突き刺さる作品を数多く残した画家、香月泰男(1911-1974)。彼の生誕110年を記念した展覧会『香月泰男展』が、練馬区立美術館で開催中です。画家から兵隊になり、戦後はシベリアに送られ、帰国後再び画家に戻った香月は、自身のつらい体験を20年以上も描き続けました。展覧会の様子と彼の人生をあわせてご紹介します。画家として認められたが…【女子的アートナビ】vol. 236香月泰男は、代々医業を営む家の長男として山口県に生まれます。幼いころから絵を描くのが好きで、20歳のとき東京美術学校(現・東京藝術大学)西洋画科に入学。学生時代は、ピカソやゴッホの作品などから影響を受けます。卒業後は、美術教師として北海道に赴任。その後、故郷の山口県にある女学校に転任し、教師をしながら公募展に絵を出品していきます。27歳で結婚し、1939年には第一子が誕生。また、文部省美術展覧会で特選を受賞するなど、画家としても認められはじめましたが、そのころ第二次世界大戦が勃発していました。中国からシベリアへ…1942年に召集令状を受け、翌年、32歳のとき満州国(現・中国東北部)に配属されます。絵具箱を持っていった香月は、軍務の間にも絵を描き、また家族あてにスケッチ入りの郵便を数百通も出していました。終戦後の1945年11月、香月はシベリアの収容所に送られます。極寒のなか、森林伐採や運搬作業など過酷な重労働に従事。食糧事情もかなり悪く、多くの収容者たちが亡くなります。2年間の抑留後、1947年に帰国。香月は山口の学校に復職し、油彩画も描きはじめます。戦争体験のほか、草花や食材など、さまざまなテーマで描きながら、技法の研究にも取り組みました。しだいに作品に使われる色彩が限られるようになり、モノトーン系の画風になっていきます。悪夢のような体験をアートに…1959年から、香月は兵役とシベリアの経験を本格的に描きはじめます。現地で見た景色や強制労働の様子を描いたもののほか、私刑にされた日本人の姿、収容所で亡くなった仲間の顔など、苛烈な作品も制作。悪夢のような体験をした香月にとって、この重いテーマをアートにするまでには長い時間が必要でしたが、1960年代以降、シベリアの作品が一気に増えていきます。例えば、黒い塊に足が生えたような作品《運ぶ人》(1960年)は、60キログラムもある麻袋を運んでいる抑留者の姿を描いたものです。近くで見ると、黒い部分に亡霊のような顔が浮かんでいます。「シベリアの画家」に香月が描いた戦争・抑留体験の絵は注目されはじめ、1967年には画集『シベリヤ』を刊行。それらの作品は「シベリア・シリーズ」と呼ばれるようになり、香月は「シベリアの画家」として評価を確立していきます。晩年になると、黒や茶色のモノトーン系の作品に少しずつ色が戻りはじめます。特に、鮮やかな青を使った作品は印象的。《青の太陽》(1969年)は、戦争中、匍匐(ほふく)前進の演習をしていたときに見た地面のアリの巣から着想した作品で、地中から空を見上げる構図になっています。新たな画風が表れはじめた1974年、心筋梗塞により急逝。62歳でした。心が震え続ける…この展覧会では、香月の作品が制作順に展示されています。情感豊かな戦前の作品から、どのように画風やテーマが変わっていったのか、その流れを画家の人生と重ね合わせながら見ることができます。テーマも画面も重々しいものが多いのですが、目をそむけたくなるような残酷さは感じられません。恐怖や苦痛、鎮魂、祈りなど画家のさまざまな思いがアートに昇華され、作品の前に立つと、静かな感動が押し寄せてきます。美術館を出てからもその余韻は残り、ずっと心が震え続けました。会場には、香月が残した言葉もところどころに記されています。ぜひ足を運んで、作品を通して画家の思いを感じてみてください。Information会期:~3月27日(日)※途中展示替えあり前期:~3月6日、後期:3月8日~3月27日※休館日は月曜日。ただし3月21日(月・祝)は開館、3月22日(火)は休館会場:練馬区立美術館開室時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)観覧料:一般¥1,000、大学生・高校生、65歳~74歳¥¥800、中学生以下、75歳以上は無料その他割引制度あり
2022年02月27日2010年のデビュー以来、作品制作と並行して、数々のクライアントワークに携わってきた写真家・映像監督の奥山由之さんが、12年間の仕事をまとめた『BEST BEFORE』を刊行。ポカリスエットをはじめとする広告写真、米津玄師や星野源などのアーティスト写真、エディトリアルワークなど、見た人の記憶に残る一枚が詰まっている。出来上がったばかりの写真集を手にした奥山さんは、「12年間のいろんな思い出が蘇ってきて…。まずはクライアントの方や媒体の方、スタッフの方、被写体の方、一緒に物作りをしてくださったみなさんに、感謝の気持ちでいっぱいです」と、感慨深げな表情を浮かべた。「ポスターや雑誌など、世の中に初めて出た時とは違った見え方にならないと本にする意味がないと思い、一度、一点ずつの写真に解体し、再構築しました。基本的には感覚で、時に言語的に組んだレイアウトもあるのですが、クライアントワークとして撮影した写真の、明確にある個性や目的を取り払う作業が難しかったです。でも、企画も撮影時期も被写体も異なるのに意味がリンクしている写真もあり、奇跡的に感じました。今、出来上がった一冊を見て、自分で言うのは恥ずかしいですが、素晴らしい仕上がりです。アートディレクターの平林(奈緒美)さんには、挑戦しているエッジーな様相はありつつも、アーカイブとして機能している整頓されたものにしたいと依頼しました。サイズ等含めて、重厚感とユーモアが共存したベストなものになりました」『BEST BEFORE』とは、「賞味期限」の意味。「クライアントワークは作品制作とは違い、広告なら商品、雑誌なら服やタレントさんと伝えるべきものが起点になり、それを伝えるための機能として写真が存在します。写真は見る時どきによって見え方が変わるものなので、そういう意味でクライアントワークには、最大限に機能を発揮するタイミングがあると思ってつけました。ただ、賞味期限は決して消費期限ではない。そうした意図の違いを伝えたかったんです」クライアントワークに取り組むうえで大切にしているのは、真摯に向き合い、期待に応えること。「“奥山に頼んでよかった”と思ってもらいたいんです。なぜ僕なのかということを理解したうえで、全力を尽くす。この一冊を見ていただくと、写真の手法やアプローチ、スタイルがバラバラなことがわかると思います。その理由は、オーダーメイドのような感覚で、一つ一つの仕事における最適な答えを導き出そうと、新しいトライをしているから。同じクライアントさんでも打ち出したい企画意図は毎回違うので。独りよがりに撮っているから作家性があり、それを一冊にまとめたと思う人がいるかもしれませんが、僕の場合は逆です。一人から出てくるものやアイデアは、そんなに種類がないと思っているし、自分が得意ではないことをやるべき時もあります。僕が撮った写真は、クライアント、スタッフ、被写体の方々と物作りを突き詰めていく過程で生まれた、コミュニケーションの痕跡だと思っています。真剣に考えているからこそ、『こうしたほうがいい』と議論もするけれど、コミュニケーションを交わしたことにより、たとえ結論が最初と変わらなかったとしても、出来上がったものの質量は違いますから」被写体となる人やモノとのコミュニケーションも大事だと奥山さん。「クライアントワークで撮られた写真は、見る人に伝える目的が明確であるがゆえに情報的になりすぎて、被写体が一面的に見える場合が多い印象があります。でも、世の中に存在している人やモノは、もっと多面的で表裏一体だったりする。僕は、そのことを写したい思いがあるんです。そのためには、まず、撮影前に被写体のインタビューを読んだり、作品を見聞きして相手のことを掘り下げる。そして、コミュニケーションや会話を交わし、信頼してもらい、相互理解を深めるようにしています。作家性があるといわれている方々は、実は、他者を理解する力に優れていると思うんです。これは写真や映像に限らず、例えば陶芸をやっている人であれば、土の気持ちを感じ取っているでしょうし。すごく大事なことだと思っています」POCARI SWEAT「踊る修学旅行」篇(2017)米津玄師 アーティスト写真(2020)『BEST BEFORE』クライアントワークに焦点を絞った今作の作品総数は400点以上、500ページを超える。アートディレクションは平林奈緒美さん。「寄稿文やクレジットも、見たことのないレイアウトに」(奥山さん)。青幻舎8800円おくやま・よしゆき写真家、映像監督。1991年1月23日生まれ、東京都出身。第34回写真新世紀優秀賞受賞。主な写真集に『BACON ICE CREAM』(PARCO出版)など。※『anan』2022年2月23日号より。写真・土佐麻理子(奥山さん)インタビュー、文・重信 綾(by anan編集部)
2022年02月19日27年の沈黙を破り、あの大芸術家が帰ってくる。その名は楳図かずお。「グワシ!!」の決めポーズで知られるギャグ漫画の主人公まことちゃんの生みの親であり、『おろち』など一連のホラー漫画で一世を風靡した漫画界の巨匠が、85歳にして新作をひっさげ展覧会『楳図かずお大美術展』を開くという。目玉は101点の連作絵画「ZOKU‐SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」。1982~1986年に連載された『わたしは真悟』の続編であり、B4サイズ(漫画原稿用紙と同じ大きさ)の紙にアクリル絵の具で描かれている。「最初に見たのは鉛筆で描かれた素描。タッチの一つ一つからアーティストの原初的なエネルギーや情熱が直接的に伝わってきました」と本展キュレーターを務める窪田研二さん。一方、それらを一枚一枚コピーし、着彩したものからは、さまざまなチャレンジが窺えるという。「細かな筆致もあればアクションペインティングのように大胆な筆遣いもあり、飽きさせない。蛍光色や金色が入る独特の色使いも魅力です」ペンを筆に持ち替え、「画家」として、思う存分腕を振るった新境地。会場ではカラー作品を鑑賞した後、アーティストの冨安由真が手掛ける幻影的な空間の中で、モノクロの素描101点とも対面できる。さらに本展では作家の歩みをたどる代表作として『わたしは真悟』のほかに『漂流教室』(1972~1974年連載)、『14歳』(1990~1995年連載)にフォーカス。「この3作品には私たちの生活に直接結びつくような状況が凝縮して描かれています。意識を持つようになったロボット、環境が破壊され荒廃した地球に教室ごとタイムスリップした小学生たちのサバイバル、培養肉を作る工程で、突然変異により生まれた鳥人間、ウイルスの蔓延など、極めて現代的なリアリティを持つ作品ばかり。楳図さんのシャーマン的ともいえる予見性に驚かされます」しかし、物語は決して終末的な絶望で終わらない。主人公の少年少女たちが勇気を振り絞り、力を合わせて現実に立ち向かう姿は胸を打つ。「楳図さんにとって子どもとは、純粋性の象徴なのかもしれません。勇気や愛を発露させることができる存在として、希望を込めて描かれているのだと思います」「わたしは真悟」小学6年生の悟と真鈴は工場で出会った工業用ロボットに言葉を教える。やがてロボットは自らを「真悟」と呼び始め…。インターネット社会やAIの到来を予見したといわれる傑作。上は東京タワーから飛び降りようとする二人を描いた場面。©楳図かずお/小学館「ZOKU‐SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」そもそも「漫画とは物語を語る絵画である」と楳図さん。本展のために4年かけて連作絵画を描き上げた。芸術家のパレットから生まれる独特の色彩が描き出す、悟と真鈴のもう一つのストーリーに引き込まれてしまう。101枚すべてがメインディッシュだ。楳図かずお《ZOKU‐SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館》(一部)2021年アクリルガッシュ、紙©楳図かずおうめず・かずお小学4年生で漫画を描き始め、高校3年生でデビュー。“ホラー漫画の神様”と呼ばれる一方、ギャグ漫画やSF漫画でも異才を発揮。『漂流教室』で小学館漫画賞、『わたしは真悟』で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」受賞。『楳図かずお大美術展』東京シティビュー東京都港区六本木6‐10‐1六本木ヒルズ森タワー52F開催中~3月25日(金)10時~22時(入館は21時30分まで)会期中無休一般2200円ほか※日時指定事前予約推奨TEL:03・6406・6652※『anan』2022年2月16日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年02月14日話題のドラマや舞台などで活躍中の俳優、杉野遥亮さんが、『ミロ展―日本を夢みて』の展覧会ナビゲーターに就任!今回、音声ガイドの収録を終えた杉野さんに、アート体験やご自身の活動などについて語っていただきました。杉野遥亮さんが展覧会ナビゲーター!【女子的アートナビ】vol. 235東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開かれる『ミロ展―日本を夢みて』では、スペインが生んだ巨匠、ジュアン・ミロ(1893-1983)の初期作品や代表作を展示。さらに、日本好きのミロが所有していた民芸品や、日本と深いつながりを示す資料なども含め、約130点の作品と資料が紹介されます。ミロが生まれたのは、スペイン・カタルーニャ地方にある都市バルセロナ。1888年に当地で開かれた万国博覧会の影響で、ミロの幼少期にもジャポニスム・ブームが続いており、生家近くには日本美術の輸入販売店もありました。日本にあこがれて育ったミロは、美術学校で学んだあと、画家として創作活動を開始。浮世絵をコラージュした作品を制作するなど日本への興味は尽きず、また、第二次世界大戦後は日本でもミロの展覧会が開かれるようになり、彼は二度も来日しています。本展では、相思相愛となったミロと日本の関係を、作品や資料を通して楽しむことができます。杉野遥亮さんにインタビュー!――まず、『ミロ展―日本を夢みて』のナビゲーターに就任されたご感想をお聞かせください。杉野さん光栄です。とってもうれしいし、このような経験ができたことは自分にとって、とてもよかったなと思っています。その“就任”という言葉、なんだかいいですね。――音声ガイドの収録もされたのですよね。いかがでしたか?杉野さん音声ガイドの収録は、はじめての経験でした。良いものをつくりたいという意識で臨みましたが、結果的に、それがどうなっているのか、自分でも気になります。この仕事でインプットできるものがとても多くありましたし、良い経験となりました。――展覧会がはじまったら、ご自身で音声ガイドを聞いてみたいですか?杉野さんそうですね、聞きながら作品を見てみたいです。でも、内容は知っているので、自分の仕事を確認する感じになっちゃいますね。どうして日本を愛してくれたのか…――特に見てみたい作品はありますか?杉野さん全部見てみたいです。(展覧会チラシを見ながら)この絵(《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》)とか、あと新聞など切り貼りしたコラージュ作品も気になります。でも、資料だけではわからないので、ちゃんと展覧会で実物を見てみたいなと思いました。――この展覧会には、誰と行きたいですか?杉野さんひとりがいいです。展覧会で、自分が何かを感じたり思ったりするときに、誰かに対して意識がいくと集中できないので……。じっくり、ひとりで見てみたいです。――ミロは日本好きとのことですが、ミロの作品を通して、日本を感じられそうでしょうか?杉野さん日本を感じる、というところまでいくのかどうかはわからないけど、ミロがなんで日本をリスペクトしてくれたのか、どうしてこんなにも日本を愛してくれていたのか、という点は、自分で調べたり感じたりしてみたいです。それが、改めて日本の文化に目を向けて見る、ということになるかもしれません。相思相愛のお相手とは…――ミロは書道風の絵も描いています。杉野さんも、書がとてもお上手ですよね。杉野さん書道は、今はやっていないです。昔も、特に習っていたわけではありません。――以前ラジオ(『杉野遥亮の今夜もオフトーク』『杉野遥亮の「今度は長ズボン」』)で、小学生のころ何度か書道で金賞をとったと話されていたのを聞きました。ほかにも、英語のコンテストにも選ばれたとか。杉野さんあれっ、僕、ラジオで話しましたか!その話は、僕の「あるある」なのです。不思議なのですが、いつも“やっつけ仕事”みたいに「はい!」と提出したものが、たまたま評価されてしまうんです。英語も、スピーチコンテストに出るということを口実にして、みんなで部活をサボろうとしたのですけど、なぜか僕だけ受かってしまって。結果的に、夏休みは部活のあと、英語の練習もしなければならないという超ハードスケジュールになりました。サボろうとしたので、バチがあたったんです(笑)。――いやいや、書道でも英語でも、賞をもらえるというのは本当にすごいことだと思います。ところで、この展覧会には「ミロと日本は相思相愛」というキャッチフレーズがあるのですが、杉野さんの相思相愛体験について、教えていただけますか?杉野さんえーっ、相思相愛ですか……。人、ですよね?誰かなぁ。あ、でも以前、テレビの仕事でバルセロナに短期滞在していたときに、僕は相思相愛だと思っていましたよ、蝶野正洋さんと(笑)。――なるほど、蝶野さん!お二人で共同生活をするという番組ですよね。確かに、楽しそうでした。バルセロナでは、アート体験もしましたか?杉野さんバルセロナは、芸術のなかに住まわせていただいた感じだったので、それが当たり前になっていました。今となれば、とても貴重な経験だったし、ちゃんと目に焼き付けるべき場所だったと思います。本当に贅沢な環境でしたよ。だって、歩いていたら世界遺産があるのですから。サグラダ・ファミリアをはじめ、いろいろなガウディの建築物が見られますし、町中にアートがあふれていました。『恋です!』出演で味わったこと――2021年は、さまざまなドラマや舞台でご活躍でしたが、印象に残った出来事を教えていただけますか?杉野さん2021年は、全体通して、すごく駆け足でした。いろいろなことを経験させてもらい、どの仕事にも愛着があります。初めて舞台に立つ経験もしましたし、そのあとは『恋です!』に出て、いろいろな人に自分のことを知ってもらえました。初めて小さい子どもに声をかけられたり、おじいちゃんに「見てるよ」といってもらえたり。温かい気持ちになりました。――2022年になったばかりですので(取材時は1月初旬)、今年の抱負も聞かせていただけますか?杉野さん自分のペースで、自分の軸をぶらさずにやっていけたらいいなと思います。忙しかったり、疲れたりしているときは、どうしても自分自身に戻れない時間、自分がわからなくなる瞬間があるので、そういったときに、どうやって自分を保てるのか、というのが目標かなと思っています。――社会貢献にご興味がある、というお話も以前されていましたが、今年やってみたいことはありますか?杉野さん興味はあるのですけど、実際にそれができるのは、まだ自分的にはもう少し先かなと。まだ、自分のなかでも人間的に確立されていない部分があったりとか、ちゃんと整っていないことがあったりするなかで、人のために何か、というのはまだ自分には早い気がしています。時機がきたら、ですね。――杉野さんの言葉には、誠実さがあふれていますね。ラジオを聞いていてもステキな言葉が多いです。実は、心に響いた杉野さんの言葉をリストアップしているのです。杉野さん(リストを見て)へぇ、これ、すごい!でも、こういうのは、自分から出た言葉でも、自分だけでつくった言葉ではないですからね。誰か、例えば番組にメッセージをくれるリスナーさんと心を通わせてわかったこととか、例えば父親からもらった言葉とか、そういうものなので。――今のお話も、とてもステキです。最後に、展覧会を見る読者のみなさんにメッセージをいただけますか?杉野さん『ミロ展』は、展覧会に足を運ぶことが好きな方も、そうでない方も楽しめるようになっていますし、魅力がつまっています。何か気持ちをもらえたり、感じるものがあったり、人それぞれかもしれないけれど、受けとめられるものが何かあると思います。こんな時期だからこそ、芸術に触れることをしていただきたいなと思います。――ありがとうございました!インタビューを終えて…小顔で背が高く、信じられないほどスタイルの良い杉野さん。話し方に誠実なお人柄が表れ、どんな質問にも丁寧に答えてくれました。インタビュー中はクールで落ち着いた雰囲気でしたが、雑談になると表情が少年のような雰囲気に変化。そのギャップがまたステキでした。『ミロ展』では、声も「イケボ」な杉野さんが収録した音声ガイドを聞きながら、ぜひ作品を楽しんでみてください!※展覧会の最新情報など詳細は、公式サイトをご覧ください。Information会期:2月11日(金・祝)~4月17日(日)※2/15(火)、3/22(火)は休館会場:Bunkamura ザ・ミュージアム開室時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)観覧料:一般¥1,800(¥1,600)、大学生・高校生¥1,000(¥800)、中学生・小学生¥700(¥500)※カッコ内は前売り券の価格です。※会期中すべての土日祝および4月11日(月)~4月17日(日)は事前に【オンラインによる入場日時予約】が必要です。※状況により、会期、開館時間、日時指定予約対象日等が変更となる可能性があります。ご来場の際は最新情報を公式サイトにてご確認ください。
2022年02月02日茨城県日立市大甕町で「ものづくり×アート」をテーマに活動するおおみかアートプロジェクト(所在地:日立市大甕町、代表:東弘一郎)は、町全体を使ったアートイベント「星と海の芸術祭」のクラウドファンディングを「Motion Gallery」にて2022年1月28日(金)より開始しました。「星と海の芸術祭」クラウドファンディングサイト おおみかアートプロジェクト■イベント概要アーティストと地域がものづくりの技術を通じてつながり、芸術祭を作りながらまちの魅力を発信!茨城県日立市大みか町の企業や町工場と、東京藝術大学の学生がともに作り上げる「星と海の芸術祭」を2022年夏に開催します。大みか町の歴史・自然と工業を可視化してつなぎなおす、「ものづくり×アート」による新たなまちづくりの第一歩です。■特徴*地域活性化×アート大みか町には、歴史、自然、技術力など様々な魅力があります。これらの魅力を生かした作品や企画を通して、たくさんの人に大みかの魅力を知ってもらいながら地域の活性化を目指します。*地域とともに作るおおみかアートプロジェクトはこのイベントの開催だけではなく、まちづくりの長期的な展開を目指しています。地域との関わりを大切にし、町の人々も主体となれるような、地域の人々と共に作り上げる芸術祭を作ります。*作家×職人のタッグアーティストの奇想天外なアイデアはいつも簡単に実現できるものとは限りません。展示する作品は、高い技術力を持った地域の職人とアーティストの共同作業によって作られます。企業の技術力を発信するとともに、職人の新しい創造体験も生み出します。■リターンについて・4,800円 :「星と海の芸術祭」アーカイブ映像、お礼メッセージ・9,800円 :「星と海の芸術祭」ご招待、作品のポストカードなど・19,800円:「星と海の芸術祭」ご招待、ツアー企画ご招待、公式図録へのお名前掲載※その他数量限定のユニークなプランもご用意しております。詳細はサイトをご覧ください。■プロジェクト概要プロジェクト名: 星と海の芸術祭 クラウドファンディング期間 : 2022年1月28日(金)~3月31日(木)URL : <開催概要>星と海の芸術祭日時 : 2022年8月場所 : 茨城県日立市大みか町(JR大甕駅西口駅前+久慈漁港・久慈浜海水浴場)参加アーティスト: 東弘一郎、浅野ひかり、小山真徳、關田重太郎、鷹取詩穏、林奈緒子、深田拓哉URL : 浅野ひかり《あの日見た景色》東弘一郎《無限車輪》五研工業での見学■団体概要商号 : おおみかアートプロジェクト代表者: 東弘一郎所在地: 〒319-1221 茨城県日立市大みか町3-7-4-サトウヤス住宅2URL : 【本件に関するお客様からのお問い合わせ先】おおみかアートプロジェクト担当 : 平野お問い合せフォーム: info@hitachi-omika.com 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年01月31日東京ステーションギャラリーで『ハリー・ポッターと魔法の歴史』展が開かれています。本展では、ファンタジー文学の世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの背景にある「魔法」をテーマに、大英図書館が所蔵する貴重な資料や原作者J.K.ローリングの直筆原稿、スケッチなどを展示。物語の世界にどっぷり浸れるステキな展示空間をご紹介します!東京駅から魔法学校へ!【女子的アートナビ】vol. 235『ハリー・ポッターと魔法の歴史』展の会場は、東京駅丸の内駅舎内にある東京ステーションギャラリー。この美術館には、物語に出てくる「9と3/4番線」のような、東京駅創建当時(1914年)の赤レンガが残る趣のある展示室もあり、「ハリー・ポッター」の世界を楽しむには絶好のロケーションです。展示は10章で構成。ハリーが通ったホグワーツ魔法魔術学校の科目「魔法薬学」「錬金術」「呪文学」「天文学」などに沿って、大英図書館が所蔵する貴重な資料やJ.K.ローリングの原稿、スケッチなど約140点が紹介されています。「ハリー・ポッター」とは、主人公である魔法使いの少年ハリーが、ホグワーツ魔法魔術学校で学んだ魔法や魔術を駆使して仲間たちと協力し、邪悪な魔法使いと戦う物語。スリリングな冒険や、仲間との友情がドラマチックに描かれ、さまざまな魔法アイテムも登場します。担当学芸員の柚花文さんは、「魔法はファンタジーのなかにしか存在しないもののように思えるのですが、実は人類が何世紀にもわたって研究して書物に記録してきた例がたくさんある」と解説。「この展覧会では、大英図書館などの資料を通して、現実に記された魔法の歴史と、物語の創造世界とをつないでいる。このつながりを楽しんでほしい」と語りました。本展は、大英図書館が2017年に企画・開催した"Harry Potter : A History of Magic"の国際巡回展。2017年から2019年にかけてロンドンとニューヨークで人気を博した展示を、いよいよ東京で楽しめます。「賢者の石」のレシピ登場!では、いくつか見どころをピックアップしていきます。展示は、3階の展示室にある第1章「旅」からスタート。J.K.ローリングの本がどのようにして誕生したのか、主人公のハリーの旅立ちとともに紹介されています。作家がタイプした「あらすじ」やスケッチ、原作の挿絵を担当したイラストレーター、ジム・ケイの《『ハリー・ポッターと賢者の石』の9と3/4番線の習作》などが展示されています。第3章「錬金術」では、必見作『リプリー・スクロール』が登場。これは16世紀にイングランドで記された写本です。科学が発展する以前、ヨーロッパでは、卑金属を黄金に変えたり、不老不死の薬を生み出したりすることができる「賢者の石」のつくりかたを真剣に研究していました。4メートルを超える『リプリー・スクロール』には、その製造工程が美しい色彩で描かれています。ほかにも錬金術関係の資料や絵画、書物を展示。物語のなかでも重要な役割を果たす「賢者の石」のリアルな歴史がわかります。“美”魔女も…!第6章「天文学」では、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿「天体にまつわるメモとスケッチ」や、太陽系の模型「大太陽系儀」、「天球儀」などを展示。特に、側面に装飾が施された「大太陽系儀」は大変美しく、見ごたえがあります。「大太陽系儀」は昔から教材に使われ、ホグワーツ魔法魔術学校でも天文学や星座占いで使用されています。資料類だけでなく、絵画も楽しめます。第8章「闇の魔術に対する防衛術」では、イギリスの画家、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの作品《魔法円》が展示されています。中世ヨーロッパの魔女は、醜悪なイメージで描かれることが多かったのですが、ウォーターハウスの魔女は青く美しいドレスを身につけ、神秘的な美人風に描かれています。彼女は、身を守るために杖で周囲に円を描き、魔法円の外には不気味な動物や頭蓋骨が見えています。「ハリー・ポッター」のなかでも、ハーマイオニーが円を描きながら保護呪文をとなえる場面が出てくるので、この作品でも物語世界とリアルな魔法史とのリンクが感じられます。創作の秘密も…!原作ファンにとってうれしいのは、J.K.ローリングの創作資料やスケッチの展示作品です。特に、最後の章で展示されている「『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の構想」は必見作のひとつ。時系列で登場人物の居場所などが書いてある資料で、名作が生まれるまでの試行錯誤が伝わってきます。リアルな魔法の歴史を紹介する本展を見終わると、きっともう一度、原作で「ハリー・ポッター」を読んでみたくなるはず。今まで以上に、物語世界をより深く理解でき、楽しめると思います。『ハリー・ポッターと魔法の歴史』展は3月27日まで開催。※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。Information会期:~3月27日(日)会場:東京ステーションギャラリー開館時間:10:00 - 18:00※金・土曜日は20:00まで開館※入館は閉館30分前まで観覧料:一般¥2,500、高校・大学生¥1,500、小・中学生¥500※日時指定予約制※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。
2022年01月15日IDÉE とのコラボなど現在も注目を集める99歳の染色家・アーティスト、柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)さん(1922~)。彼の展覧会『柚木沙弥郎life・LIFE』が、立川のPLAY! MUSEUMで開かれています。染色作品や絵本原画が並ぶ展示空間は、ワクワク感であふれています!どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 234『柚木沙弥郎life・LIFE』では、創作活動70年超のアーティスト、柚木沙弥郎さんの作品約150点を展示。温かみのある布作品や、ほっこりする絵本原画、ユーモラスな人形など、彩り豊かな世界が広がっています。柚木さんは、作品制作だけでなく商業意匠も手がけています。最近ではインテリアショップ、IDÉEとのコラボが注目されましたが、ほかにも数多くのデザインを担当。日本各地でロゴやパッケージなどを制作しています。調べてみたところ、筆者の自宅近くにある民藝品店の看板や、よくお取り寄せする和菓子店の包装紙も柚木さん作と判明。きっと、みなさんの身近なところにも柚木さんデザインがあるはずです。本展では、誰もが親しみを感じられる柚木さんの作品群が一堂に集結。優しくて温かい「柚木ワールド」にたっぷりと浸れます。学徒動員、染色家転身、パリで成功…柚木さんは1922年、大正時代に東京・田端で誕生。父親は洋画家で、幼いころから絵を描くのが大好きだった少年は、東京帝国大学(現・東京大学)文学部美学美術史科に入学します。1943年、学徒動員で兵隊となり、終戦後は岡山の大原美術館に就職。そこで柳宗悦の民藝運動に出会い、美術館をやめて工芸・染色の道に進みます。1950年、女子美術大学の専任講師に就任。学生を指導するかたわら、染色家としてさまざまな作品を制作し個展も開きます。1987年には、同大学の学長に就任。1991年に退職した後は絵本原画も手がけ、染色、デザイン、造形など幅広いジャンルで活躍しています。また、柚木さんは国内だけでなく海外でも精力的に個展を開き、2014年にはフランス・パリのギメ東洋美術館で大規模な展覧会を開催し、大きな成功を収めます。99歳になる現在も、毎日絵を描くなど創作活動を続けています。ワクワクする作品がいっぱい!では、本展の見どころからいくつかピックアップしてご紹介。まずは、絵本の原画やスケッチなどを展示した「絵のみち」。柚木さんは72歳のとき、はじめての絵本を刊行。その後、ジャズピアニストの山下洋輔さんや、詩人の谷川俊太郎さんと一緒に本を出したり、宮沢賢治の絵本原画を担当したり、絵だけでなくお話も自ら手がけたりと数多くの本を出版しています。会場には、約80点の原画を展示。シカやネコなどの動物たちが楽しそうに飛び跳ねていたり、生き生きとした人物が描かれていたりして、見ているだけでワクワクします。学生時代に戦争を経験された柚木さんには「戦火に散った友人たちの分も、自分は何かしなくてはいけない」という想いが常にあるそうです。どの作品からも、柚木さんの“丁寧に生きる”というメッセージが伝わってくるようです。作家本人が感動…!「布の森」もうひとつの見どころは、約50点の染色作品が天井からつるされた「布の森」。柚木さんの作品は、初期のころは人物や動物などの模様が多く、近年では抽象画風のデザインに変化。会場には、幅広い年代の作品が集まっています。この空間に入ると、色とりどりの布に囲まれ、まさに森の中にいるような感じ。ダイナミックな展示に圧倒されます。床に敷かれている白い砂利も、作品をより美しく幻想的に引き立たせていて、展示室を歩いていると美術館にいることを忘れてしまいそうです。「布の森」の展示空間については、美術館が実施したインタビューで、作家本人が「涙が出るほど感動する」と述べています(※)。まさに圧巻の展示で、どの世代の人が見ても感激すること間違いなしです!キュートなオリジナルグッズも!最後に、ミュージアムショップにもお立ち寄りください。PLAY! MUSEUMのオリジナルグッズや、IDÉEのグッズも購入できます。特にタイルのデザインは、とってもキュート。全種類揃えたくなります。『柚木沙弥郎life・LIFE』は1月30日まで開催。Information会期:~1月30日(日)会場:PLAY! MUSEUM開館時間:平日:10:00-17:00(入場は16:30まで)休日:10:00-18:00(入場は17:30まで)観覧料:一般¥1,500、大学生¥1,000、高校生¥800、中・小学生¥500※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。
2022年01月10日丘の上の家黒田邸が位置するのは鎌倉でも山と谷間の連なる起伏の激しい地域で、西側には谷をはさんだ向かい側の山に素晴らしい景色が広がる。滅多にお目にかかれないだろうこの景観を見渡せる敷地は丸2年、200件以上の土地を実見したうえで購入を決めたという。「平坦な住宅地はいっさい探さずに、傾斜があってダイナミックな景観が広がるような土地をずっと探しました。それと住宅地から少し離れた奥まったところで静かな場所ということにもこだわりました」(貴彦さん)。東側の少し離れた場所にまた別の山々を望み南側には小さな崖が迫るという変化のあるロケーションもポイントだったそうだ。家の裏(西)側は谷になっている。鎌倉は岩盤が1m程度下にあるため岩盤まで掘って基礎をつくろうと計画したが岩盤までの深さが想定していたほどはなかったため家全体が想定よりも高いレベルにつくられている。ギャラリーのような非日常的な空間設計を依頼したMDSの森さんと川村さんには家づくりのコンセプトをまとめた文章とともにインテリア雑誌の切り抜きからつくったスクラップブックを渡したという。このスクラップブックはよく整理されている上にそれぞれの写真にコメントが付けられていてお2人の目指す世界観がすごく伝わるものだったと森さんはいう。2階リビング側の開口は北側に隣家があるため空に向けて開けられている。床はネコがいるため掃除のしやすいタイルに。幸代さんが選んだものという。方形屋根の下の2階は無柱空間になっている。窓台をつくったのはネコのため。右の収納から移動できる。2階の隅部は吹き抜けになっているが人が立てない高さのため近寄れないうえ、家具が手すりの役目を果たしているので転落の危険はない。2階東側のキッチンを見る。幸代さんは開放感のある明るいキッチンをリクエストしたという。「大きなコンセプトとしては、ホテルかギャラリーのような非日常的な空間をつくってくださいと。とにかく家に帰って気分が上がるような空間をつくってくださいともお伝えしました。居心地が良くて、かつ、生活感の感じられない空間ですね。なので、水回りも全部1階中央の箱の中におさめてもらってベランダもつくりませんでした」(幸代さん)視線が空へと向かうように角度のつけられた開口。ソファの前に置かれたテーブルはアフリカのもの。現地の人がベッドとして使っていたものという。テーブルの下部に見える模様のようなものは人の顔の形に彫られたもの。実はこのお宅、竣工時に一度拝見しているのだが、その際に感じたのはまさしく「居心地が良くて、かつ、生活感の希薄な非日常的な空間」ということだった。そしてこの非日常感は、お2人が集めた骨とう品や美術品が置かれることでさらに増すことになった。建築家には、以前住んでいたマンションでは蒐集したものをディスプレイする空間がなかったためそれらが映えるような空間設計をお願いしたという。階段部分を見下ろす。ソファ側から見る。右の小上がりは今はベッドが置かれているが当初は貴彦さんが使うスペースとして想定されていた。階段途中から見る。蔵書が多いため本は階段部分と1階のライブラリースペースにわけて収めた。北西コーナーにつくられたライブラリー。幅が絞られたこの場所は読書に適した落ち着きのあるスペースになっている。発想を転換してそしてこの「骨とう品などが映えるギャラリー的空間」は2カ月前に本物のギャラリー空間へと模様替えされた。「2人とも美術品が好きで少しずつ古いものを集めていて、この家はそれらを自分たちで楽しもうということで建てた家でもあるんですが、一方で、わたしはギャラリーを経営したいとも思っていて店舗物件を探していたんです。でもタイミング的な問題もあって2年くらい過ぎてしまいどうしようかと思っていた時に、遊びに来る知人が皆さんこの家が“まるで美術館みたいだね”とおっしゃってくださるので“それなら下を開放してギャラリーにすればいい“と発想の転換をして、思い切って1階を予約制のギャラリーにしてみたんです」(幸代さん)。玄関を入ると風除室があるが、これは飼いネコの逃走防止のためのもの。メインのギャラリー側から見る。右が玄関。店名はラテン語で「Quadrivium Ostium」。「十字路の入り口」という意味という。「さまざまな時代のさまざまな場所から縁があって集まってきたものを、また次へと引き継いでいく場所」という思いを込めて名付けたもので、それぞれがもつ「ストーリー性を大切にしていきたい」という。古代のギリシャの壺や後漢の時代の犬を象った像から鎌倉時代の阿弥陀像など幅広い古美術品がしっくりと空間に収まっている。いわゆるギャラリー空間の敷居の高さを感じられないのは「非日常的」とはいえ元々が住空間としてつくられたからだろう。奥の左手の木床の部分がメインのギャラリースペース。このスペースを以前は寝室として使っていた。メインのギャラリースペースの壁にはジョルジュ・ルオーのリトグラフがかけられている。古代ギリシアで紀元前7世紀頃につくられた壺。寝室として使われていたようにはまったく見えない。メインのギャラリースペースに置かれた銅鏡や鎌倉彫の香合など。ユーモラスにも感じられるこの「加彩犬俑」は後漢時代のものという。2階からギャラリースペースを見下ろす。玄関正面のキャビネットには室町時代の獅子・狛犬が置かれ来客を迎える。奥のスペースは南西のコーナーにつくられたアトリエ。幸代さんの希望でつくられたこのスペースも適度な狭さでしっとりと落ち着く。ネコと共生できる家「ギャラリーのような非日常的な空間」とともに大きかったのが、「ネコと共生できる家」というテーマで、黒田邸では実は2匹いるネコのために考えられた仕掛けが随所につくられている。とはいえ、見てそれとすぐわかるネコ用につくられたステップや棚の類はいっさいない。しいていえば1階のトイレの壁に開けられたネコ用の出入り口くらい。幸代さんは「いかにもネコのためにつくりましたとわかるようなものはやめてほしい」と森さんと川村さんに伝えたという。しかしネコも住みやすい空間にしてほしいという、高度なリクエストだ。森さんたちによると家具の間の隙間はネコ用に開けたものだし、家具間の段差もネコのために考えたものという。言われてみてはじめてああそうなのかと気づくようなものばかりだが、これらがネコたちにとってはとっても快適につくられているようで、以前の家よりは明らかにのびのびと暮らしているし、「運動会タイム」になるとぴょんぴょんと家じゅうを走り回って遊び出すという。2階からアトリエ部分を見下ろす。1階は2.1mと天井高が押さえられているが吹き抜けがあるため圧迫感はない。2階からライブラリースペースを見下ろす。説明を受けないとわからないが家具のレベル差はネコのためのもの。右の収納の上にも左の棚からジャンプして移動できる。アトリエから見上げる。2階右隅にネコのために開けた隙間がある。2階の壁・天井も色を付ける希望があったが、白ならきれいに影が映るとの森さんの意見から白にすることに。浴室の壁は細かいタイルが幸代さんの希望で張られている。床は滑って危険なため現状のもので代替した。洗面所の奥にウォークインクローゼットがある。住み始めて2年半が過ぎて・・・「ネコのために家具の高さを変えて段状にしたほかにも、開口や吹き抜けの形の違いとかの2重3重にさまざまな要素が絡み合ったつくりこみ方がすごいなとじわじわと来ています。しかもそれがナチュラルに感じられているので違和感がない」と貴彦さん。「1階をギャラリーにして“自分たちが楽しむ”空間から“人様に楽しんでいただく”空間に切り替わったんですが、その変化にちゃんと耐えられるものだったというところも素晴らしいと感じています」メインのギャラリースペースから見る。左の箱にトイレが、右の箱に浴室・洗面所などが入っている。ともに入口上部がアーチ状になっている。美術展でのカラーリングを参考にして色を付けた壁は黒田夫妻がすべて自分たちで塗ったという。「最初はわからなかったんですが、わたしもこの2年半住んでようやくじわじわと感じはじめてきました」と幸代さん。「主人と同じような話になりますが、ディテールの細やかさ、繊細さをすごく感じるようになりました。2階の天井も光が入るとちょっとした角度の違いによってとてもきれいに見えるんです。そのあたりの美意識のようなものが森さんたちとわたしたちとちょうどマッチして実現できた家なんじゃないかなとも思っています。あと、ギャラリーに変えたように、いかようにも自由に変化できる可能性を秘めた空間、“じゃあ今回はこの部分を引き出そう”とか引き出しがたくさんある空間だなとも感じています」お2人が惚れ込んでいる内部から外へと目を転じると素晴らしい景色を見ることができるが、こちらでも貴彦さんは感嘆する。「家のなかにいても景色がピクチュアウインドウ的に切り取られていて、素敵な景色が家の随所で見られる。切り取り方の巧みさをとても感じています」1階のアトリエからも緑がよく見える。開口の格子はネコの網戸引っ掻き防止のためにつくられている。小上がり部分の開口からはダイナミックな景観が望める。この付近を撮ったカットが先月発売のMDS著『Life &Architecture』の表紙に使われている。黒田邸設計森清敏+川村奈津子/MDS所在地神奈川県鎌倉市構造木造規模地上2階延床面積86.31㎡
2022年01月10日デザイナー、アートディレクター、絵本作家として活躍した堀内誠一さん(1932-87)。2022年に生誕90年を迎えることを記念し、彼の画業を振り返る展覧会が開かれます。『堀内誠一絵の世界』展、開催!【女子的アートナビ】vol. 2322022年1月4日から京都の大丸ミュージアムではじまる本展では、昭和時代に多方面で活躍した“レジェンド”デザイナー、堀内誠一さんの「絵の世界」にフォーカス。今なお愛される名作絵本『ぐるんぱのようちえん』をはじめとした多彩な絵本原画を中心に、雑誌の表紙やデザインの仕事、絵手紙など約150点の作品や資料が紹介されます。堀内さんは、『anan』にとっても“レジェンド”。1970年の雑誌『anan』創刊時に、タイトルロゴや表紙、ページネーションを手がけられました。『BRUTUS』や『POPEYE』など多くのロゴも堀内さん作。それらのロゴは今でも愛され、使われ続けています。20世紀の雑誌や絵本などのカルチャー界で多くの偉業を残した堀内さんとは、どんな方だったのでしょう?その画業をざっくりとご紹介します。14歳で伊勢丹宣伝課に入社!1932年、東京に生まれた堀内さんは、図案家だった父親の影響を受け、幼少期から絵を描きはじめます。少年期に第二次世界大戦が勃発。疎開先の石川県で終戦を迎え、東京に戻ります。1947年、14歳という若さで伊勢丹宣伝課に入社。ディスプレイデザインやPR誌の編集作業に取り組みながら、美術研究所に通って絵画も制作。1949年には現代美術会展に出品し、奨励賞を受賞します。堀内さんは、著書『父の時代・私の時代わがエディトリアルデザイン史』(日本エディタースクール出版部)で「私がエディトリアルデザインに興味を持ったのは6、7歳の頃でした」と述べています。幼少期に自分でつくった詩に絵をつけたり、図案を描いたり、さらには雑誌風に編集もされていたとのこと。それらの記録の一部も、本展で展示されます。絵本画家デビュー!その後堀内さんは、クリエイティブ集団アドセンター株式会社でデザイナーとして活躍。雑誌のエディトリアルデザインや化粧品の広告、パッケージデザインなどを手がけます。1958年には、はじめての絵本『くろうまブランキー』を出版し、絵本画家としてデビュー。さらに『ぐるんぱのようちえん』や『たろうのおでかけ』など人気絵本を次々と生み出していきます。驚くのは、これらの本が今でも書店で購入することができ、正真正銘のロングセラーになっていること。1965年に出された『ぐるんぱのようちえん』は、2021年に大江戸線の「子育て応援車両デザイン」にも採用されています。パリに移住!1960年から61年にかけて、堀内さんはヨーロッパを視察。はじめての海外旅行で、フランス・パリを拠点にイタリア、スペイン、ドイツなどの美術館や教会を巡り、コンサートや芝居にも出かけます。帰国後は再びデザイナー、アートディレクターとして雑誌や広告の仕事を手がけ、当時のカルチャー界をけん引。トップランナーとして最先端のトレンドを生みだし、『anan』の創刊プロジェクトにも携わります。1974年、堀内さんは家族とともにパリ郊外へ移住。約7年滞在し、絵本の仕事に専念します。人気絵本『こすずめのぼうけん』が生まれたのもパリ時代。古今東西、さまざまな文化を吸収していた堀内さんの作風は多彩で、物語にあわせた絵柄で数々の絵本を制作していきます。堀内さんの絵本への情熱は格別だったようです。著書『ぼくの絵本美術館』(マガジンハウス)では、「幼児にとって絵本とは何と素晴らしい人間の発明品か」と述べ、同書で絵本の歴史と絵本愛を余すところなく語っています。また、ヨーロッパだけでなく世界中を旅した堀内さんは、風景画や絵手紙、シチリアやパリの地図なども描き残しました。それらの作品も、今回の展覧会で見ることができます。1981年にフランスから帰国。その後も創作活動を続けていた堀内さんは、1987年、下咽頭癌により急逝。享年54歳でした。ぜひ生の作品を!本記事でご紹介したのは、堀内さんの仕事のほんの一部です。展覧会では、子どものころに描いたスケッチや青年期の油絵、絵本原画、デザインの仕事など、生の作品を通して“レジェンド”の偉業に触れることができます。令和の時代まで色あせずに愛され続けている堀内さんの作品たちを、ぜひ会場でご覧になってみてください。展覧会は、大丸ミュージアム京都のあと、クレマチスの丘 ビュフェ美術館、県立神奈川近代文学館、ひろしま美術館などに巡回予定です。参考文献・参考サイト:堀内誠一『父の時代・私の時代わがエディトリアルデザイン史』(日本エディタースクール出版部)堀内誠一『ぼくの絵本美術館』(マガジンハウス)コロナ・ブックス編集部編『堀内誠一旅と絵本とデザインと』(平凡社)Information会期:2022年1月4日(火)~24日(月)※会期中無休会場:大丸ミュージアム〈京都〉[大丸京都店6階]開館時間:午前10時~午後7時30分まで(午後8時閉場)※最終日は午後4時30分まで(午後5時閉場)観覧料:一般・大学生¥1,000、中高生¥800、小学生以下無料※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。
2021年12月27日過去に3度も個展を開催しているタレントのベッキーさんが『BANKSY GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展天才か反逆者か)』のプレス限定イベントに出席。その後インタビューに応じ、バンクシーやアートについて、語ってくれました。ベッキーさん登場!【女子的アートナビ】vol. 231世界で300万人以上動員している話題の展覧会『BANKSY GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展天才か反逆者か)』が、原宿駅前の東京・WITH HARAJUKUにてはじまりました。開幕に先駆けて開かれたプレス限定イベントに、ベッキーさんが登場。キュレーターの山峰潤也さんと一緒にトークセッションが実施されました。まず、展覧会の感想について問われると、ベッキーさんは「会場に一歩足を踏み入れた瞬間バンクシーの世界観に入れて、すごいです!」と興奮気味に回答。また、バンクシーについては「愛がある人。世界のこと、先のことをいろいろ知っている人だと思う」といい、もし会えたら「悩みを相談してみたいです(笑)いいアドバイスをもらえそう」と語りました。山峰さんは、「たくさん作品があり、めまいがするくらいの展覧会。バンクシーはアートの世界で時代の寵児。政治などいろいろなメッセージも含まれているので、若い人たちが感化されるような機会になればいい」とアピールしました。ベッキーさんインタビュー!イベント終了後、ベッキーさんにインタビューを実施。まずは、バンクシーの魅力について、語っていただきました。――バンクシー作品の魅力は、どんなところにあると思いますか?ベッキーさん伝えたいことを100パーセント伝えてくれていない感じがいいです。30パーセントくらいポーンと投げかけられて、あとは人それぞれどうキャッチするか。アートは基本そうだと思いますが、なかでもバンクシーは考えさせられます。こういう意味なのかな、とか。謎解きみたいで、その時間が楽しいですね。――本展のバンクシー作品のなかで、特に《ボム・ラブ》が好きだと仰っていました。少女が爆弾を抱えているというシュールな作品ですが、どんな部分に惹かれましたか。ベッキーさん遠くから見たら全体の色がピンクで、女の子がステキな表情で何か抱きしめているから、「ハッピーな絵かな?」と最初は思ったのです。でも、抱いているのは爆弾なんですよね。それって、すごく胸を締め付けられる。相反するものを組み合わせるのがバンクシーらしさなのかもしれませんけど、いろいろ考えさせられます。しかも、この絵の隣に、軍のヘリコプターをイメージした作品が並んでいたので、ふたつセットで胸にぐっときました。「キュン」とした作品は…――ベッキーさんはお父さまがイギリスの方で、イギリスにもよく行かれていたそうですが、バンクシー作品にもそのお国柄が感じられますか?ベッキーさんすごくイギリスらしいです。イギリスに行ったらよく行く大型スーパーの絵が描いてあったり、国旗も出てきたり、あとはケイト・モスをモチーフにしていたり。レンガの町の雰囲気が作品に出てきたりすると「キュン」とします。今は世界一のアーティストといっても過言ではないバンクシーの作品に、イギリス感が満載なのがうれしいです。――バンクシーの活動スタイルはどう思われますか?神出鬼没で謎が多いですよね。ベッキーさん正直、どこまで言っていいのかわかりませんけど……。建物にアートを描いてしまって、ひょっとしたら困っている人もいるかもしれないですよね。だから100パーセント支持をしてはいけないのかもしれないですけど、でも、「次は何をしてくれるのだろう」と楽しませてくれる感じが最高ですよね。バンクシーは、新作を単に発表するだけでなく、この国に行ったとか、いろいろな舞台裏を考えさせてくれることも含めてアート。彼は、生きざまそのものがアートですよね。代表作は、結局彼自身だと思います。周りの人を幸せにしたい――ベッキーさんはご自身でも絵を描かれ、個展も開かれています。ベッキーさんの作品は、とても明るくて、ハッピー感があふれていますね。ベッキーさん自分のルールとして、ハッピーな気持ちでしか筆を持たないと決めています。見た人の目、心を汚したくないという気持ちがあるので。とはいえ、つらいときもある。つらいときは、「つらいな。でもハッピーになりたいな」という気持ちで描くと、ぎりぎりハッピーゾーンに入るから、なんとか前向きになれます。あと、私自身、色が好きなのです。カラフルな色は、心が躍ります。だから遊園地や子ども服、子どもの遊び場なんかもカラフルなんですよね。昔からイラストとか描いていましたし、子ども服とかデザインの仕事もしていました。やはり、私はカラフルなものが好きですね。――絵だけでなく、ベッキーさんご自身も明るくて元気なイメージがあります。ベッキーさんの元気の原動力は、なんでしょうか?ベッキーさん私は、そんなに自分では元気だと思っていないのです(笑)。お仕事もあるし、子育ても家事もあって、いつもヘトヘトになっています。でも、いつも意識しているのは、「周りの人を幸せにしたい」という気持ちです。それが、原動力になっているのかもしれません。アートは、いい世界――アートというのは、高尚なイメージがあったりして、どんな風に見ればよいのかと考えてしまう場合もあります。ベッキーさんアートは、どう考えてもいいと思います。見る人が解釈したものが、それが答えだと思います。それだから、いいんですよね。「1+1=2」だけが答えではない。「私はこう思う」という感じで、人の数だけ正解があり、それぞれの見方でいいんだと思います。例えば「ベッキーの絵は子どもの絵みたいでしょうがない」といわれても、全然傷つかないです。私が楽しんで描いているのだから、それが私にとっての正解。だから、アートはいい世界です。――これまでに感動したアート体験はありますか?ベッキーさんやまもとしんじさんというイラストレーターの方が、イラストをプレゼントしてくれて、それが私の理想とするカラフルさとかわいさがあるステキな絵なのです。いろんな動物とかお菓子とかあって、よく見ると私や旦那さん、昔飼っていたペットが描いてあって。その絵をもらったとき、絵はこっそりと思いを忍ばせて、手紙のように使えたりするすばらしいものなんだと思いました。その絵は、もう宝物です。とにかく楽しいですよ!――最後に、anan読者にメッセージをお願いします。ベッキーさんananを読んでいるおしゃれさんは、アート大好きという方もいるかもしれませんし、いろいろだとは思いますけど、バンクシーのアートは心がワクワクしたり、考えさせられたり、みんなが触れられるアートだと思います。だから、本当に気軽な気持ちで遊びに来て後悔はないと思います。場所も原宿ですし、とにかく楽しいですよ! 「アートって好きかもしれない」と思えるようになると思います。――ステキなお話、ありがとうございました。インタビューを終えて…インタビュー前、バンクシーの「ケイト・モス」作品やバスキア作品の前で写真撮影が行われました。明るくキラキラした笑顔がステキで、まさにテレビで見せる元気なイメージそのものでしたが、お話をうかがうと繊細な部分も多く感じられました。つらいときも常に前向きになれるよう心がけ、仕事や育児、家事、絵画制作に一生懸命取り組んでいるベッキーさん。彼女の生きざまも、ひとつのアートなのかもしれません。年末年始も開催!『BANKSY GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展天才か反逆者か)』には、貴重なオリジナル作品、版画、立体作品、映像や本など100点以上が集結。アンディ・ウォーホルやバスキアの作品12点も特別展示されています。バンクシー作品のルーツを探る他作家との比較展示は、日本初登場。特に、ウォーホルの「マリリン」作品から影響を受けた「ケイト・モス」は、必見です。本展は、年末年始も開催しています。原宿駅から数分の便利なロケーションで見られる楽しい展覧会、ぜひ足を運んでみてください!Information会期:~2022年3月8日(火)※2月24日(木)休館会場:WITH HARAJUKU開館時間:10:00~20:00 ※入館は閉館の30分前まで観覧料:※日時指定制平日一般¥1,800、大・専・高¥1,600、中学生以下¥1,200土日祝一般¥2,000、大・専・高¥1,800、中学生以下¥1,400※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。撮影 : 安田光優
2021年12月20日檜原村初のアートプロジェクトであり現代アートの展覧会『ひのはらアートプロジェクトβ』が、 2021年12月18日(土)~29日(水)までの12日間、檜原村内特設会場で開催されている。本プロジェクトでは、山郷に佇む築90年の古民家(「ひざと古民家」会場)と廃工場(「旧ガラス工場」仮設会場)が会場として活用され、風土と溶け合った展示を展開。会場を回ることで、訪れた人にも檜原村の魅力が伝わるようなものとなっている。展示を行うのは、菅谷杏樹、副島しのぶ、小城開人、池城安武、Ao.の5組。いずれもさまざまな「芸術と自然と東京」を掛け合わせるフィールドで数多くの栄誉を獲得する実力派の若手ばかりだ。檜原、八重山、どこでもない郷、そんなさまざまな郷から獲れた「アート」に、里山の中でふれることで、その大きな可能性を感じることができる展示となっている。■『ひのはらアートプロジェクトβ(ベータ) 芸術と自然と東京』2021年12月18日(土)~ 12月29日(水) ※開催期間内無休11:00-17:00入場料:500円(中学生以下無料)公式サイト: 【檜原村内特設会場2か所】「ひざと古民家」会場 = 東京都檜原村樋里4258番地「旧ガラス工場」仮設会場 = 東京都檜原村小沢4034番地
2021年12月20日現在、新宿のSOMPO美術館で『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』展が開かれています。日本の風景画などを数多く手がけた版画家の川瀬巴水(1883-1957)。アメリカにもファンが多く、あのスティーブ・ジョブズも作品を購入したことで知られています。今回は、巴水の人生と作品をご紹介します。周囲からは反対され…【女子的アートナビ】vol. 2301883年、東京市芝区(現在の港区)の糸屋兼糸組物職人の長男として生まれた川瀬巴水(本名・文治郎)は、幼いころから絵が得意で、画家になることを夢見ていました。ですが、跡取りであったため周囲から反対され、家業をつぎます。絵の道を諦めきれなかった巴水は、家業を妹夫婦に譲り、25歳のとき日本画家・鏑木清方に入門を希望します。しかし、年齢を理由に断られてしまいます。27歳で、再び清方に入門を懇願。そこで認められ、約2年後に清方から画号「巴水」を与えられます。1918年、35歳で木版画家としてデビュー。風景画を得意とした巴水は、旅に取材してさまざまな景色を写生し、最初の連作『旅みやげ第一集』を発表します。巴水の制作を支えたのは、版元の渡邊庄三郎です。もともと浮世絵商だった渡邊は、大正期に、芸術性の高い木版画「新版画」の制作を開始。才能のある絵師と彫師、摺師と組んで制作を進めていました。巴水も渡邊のもとで、さまざまな作品を生み出していきます。巴水が描いたのは、日本の名所だけではありません。江戸情緒が残る街並みや、ガス燈や電柱など近代化しつつある日常風景など、彼の心に響く場面が題材に選ばれています。例えば、現在の浅草・駒形橋あたりを題材にした《こま形河岸》は、竹屋の情景を巴水独自の視点で切り取り、味わいのある構図で描かれています。竹の間から見える夏空もポイント。場面の空気感までも伝わってくるようです。震災ですべて焼失…風景画の絵師として注目され、創作活動に打ち込んでいた1923年9月、関東大震災が発生。巴水の自宅は全焼し、家財だけでなく、写生帖188冊と画業の成果もすべて失います。しかし巴水は版元の渡邊に励まされ、同年10月から長期の写生旅行に出発。諏訪から木曽、富山、城崎、出雲、瀬戸内、近畿などをめぐる102日間の旅で制作した写生帖をもとに、新しい作品を生み出していきます。巴水版画のなかで最も売れた作品《芝増上寺》も、震災後の写生をもとに誕生。ほかにも、復興途上の東京や、昔ながらの美しい東京を描いた作品も生み出し、国内外で高い評価を受けます。特に巴水らの「新版画」はアメリカで人気があり、オハイオ州では大規模な展覧会が2度も開かれました。スランプや戦争も…人気を博していた巴水ですが、その後もスランプに陥ったり、戦争による空襲の激化で疎開したりと数々の困難が彼を襲います。戦争によりアメリカとの関係も絶たれていましたが、終戦後は進駐軍が“お土産”に版画を買い求め、再びブームが到来。巴水の作品もたくさん売れました。1957年、胃がんにより74歳で逝去。絶筆となった《平泉金色堂》は、死後に版画が完成しました。12月26日まで開催中巴水の作品を見ていると、大正から昭和初期の雰囲気がよくわかり、日本の美しさを再発見できます。また、雪や雨の細かい描写や、夕景や夜景などの深い青の発色も大変美しく、彫師や摺師の技術力の高さにも感動します。なお、会場には「ジョブズと巴水」のコーナーも設けられています。新版画のコレクターだったジョブズは、巴水の風景画を気に入り、1980年代に何度か来日して作品を数十点購入。ジョブズが買った作品と同じ版画も展示されています。アップル社の洗練された製品スタイルに、日本の美が影響を与えたのかも……と想像しながら見ても楽しいです。本展は、初期から晩年までの巴水版画をまとめて見ることができる貴重な機会です。ぜひ心に響く日本の景色をご覧になってみてください。会期は12月26日まで。Information会期:~12月26日(日)※休館日: 月曜日会場:SOMPO美術館開館時間:10:00~18:00(最終入場時間 17:30)観覧料:※日時指定制オンラインチケット一般¥1,300、大学生¥1,000、高校生以下無料当日窓口チケット一般¥1,500、大学生¥1,100、高校生以下無料※入場無料の方もオンラインチケット(無料)を取得のうえ、ご来館ください。オンライン取得が難しい方用に、当日券も一定数ご用意しています。※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。※画像写真の無断転載を禁じます。
2021年12月12日三菱一号館美術館で『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』展が開かれています。イスラエル博物館が誇る珠玉の印象派作品がまとまった形で展示されるのは日本初。「光」をテーマにした“眼福すぎる”美しい絵画たちをご紹介します!どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 229本展では、エルサレムにあるイスラエル博物館から、印象派を中心にバルビゾン派、ポスト印象派やナビ派などの作品69点が来日。そのうちの59点が初来日です。1965年に開館したイスラエル博物館は、古代から現代までの50万点を超える作品を所蔵。なかでも印象派とポスト印象派のコレクションは、画家たちのピーク時の傑作を数多く取り揃えています。コローやドービニーからはじまり、モネ、ルノワール、セザンヌやファン・ゴッホ、ゴーガン、ボナールなど、会場に展示されているのは巨匠の作品ばかり。日本とイスラエルの外交関係樹立70周年を記念して開催されている展覧会ということで、展示内容はかなりゴージャスです。本展のタイトルは『印象派・光の系譜』。印象派の光と色彩が、ポスト印象派以降どのように受け継がれ変わっていったのか、展示を通して画家たちの光の系譜をたどれるようになっています。美しい…!モネの光それでは、展示作品のなかから3点ピックアップしてご紹介します。まずは、クロード・モネの《睡蓮の池》。展覧会のメインビジュアルにもなっている大変美しい作品です。描かれているのは、画家が愛していた庭の池。フランス・ジヴェルニーにあるモネ宅の裏庭には、睡蓮を栽培できるように改修した池がありました。モネは池の水面に映る空や木々、光の美しさに魅了され、後半生に「睡蓮」の連作を制作。本作品も、そのうちのひとつです。モネの睡蓮をさらに深く理解できるよう、本展では特別展示として日本国内にある睡蓮作品3点も見ることができます。ぜひ、イスラエルの作品と見比べて、楽しんでみてください。明るい!ファン・ゴッホの光次にご紹介するのは、フィンセント・ファン・ゴッホの作品《麦畑とポピー》。ファン・ゴッホは、初期のオランダ・ハーグ時代には暗い色調の絵が多かったのですが、パリで印象派の作品に出会ってから色彩が鮮やかに変化していきます。アルルに移り住んだファン・ゴッホが最初に激しい発作を起こし、自分の左耳を切り落としたのが1888年の12月。本作品は、恐らくそれより前の時期に描かれています。赤いポピーの色彩がパワフルで美しく、この絵を見ていると不思議と明るい気分になれます。画家も楽しい気分で描いていたのかな、と思わせるような元気の出る作品です。都会的!ユリィの光最後は、個人的に大好きな作品、レッサー・ユリィの《夜のポツダム広場》をご紹介します。描かれているのは、戦前のドイツ・ベルリンの中心地だったポツダム広場。傘をさした人たちの姿や近代的な建物が暗い色彩で表され、濡れたアスファルトには夜の光が反射しています。100年前の作品とは思えないほど、クールでステキな作品です。ユリィはユダヤ系ドイツ人画家。ベルリン分離派展などに出品し、1922年、60歳のときに開かれた大規模展覧会で名声を確立します。本作品は、ベルリン・ユダヤ人団体美術品コレクションに入り、1933年設立のユダヤ博物館に収蔵されますが、同館は1938年に強制閉館となり作品は没収されます。その後イスラエルに返還され、今はイスラエル博物館のコレクションとなっています。戦時中のドイツで本作品が生き残り、こうして日本で見られるというのも奇跡。この絵を見るために何度も美術館に足を運びたくなる、強く惹きつけられる作品です。どの作品も、写真ではほとんど魅力を伝えることができません。ぜひぜひ美術館で、本物をご覧になってみてください。『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』展は1月16日まで。その後、大阪のあべのハルカス美術館に巡回します。Information会期:~ 2022年1月16日(日)※休館日: 月曜日*と年末年始の12月31日、2022年1月1日*ただし、12月27日と1月3日・1月10日は開館会場:三菱一号館美術館開館時間:10:00~18:00(最終入場時間 17:30)(祝日を除く金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで)観覧料:一般¥1,900、大高生¥1,000、中学生以下無料※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。
2021年12月10日昨年11月、所沢の新名所としてオープンした角川武蔵野ミュージアム。アート、本、博物という異ジャンルをミックスしたこのミュージアムは、図書館の機能も併せ持ち、リアルとバーチャルで人を魅了する異色の存在。そのオープン1周年を記念し始まったのが本展『浮世絵劇場 from Paris』。パリのジャポニスムが360度の体験型コンテンツとして上陸。これはパリを拠点に活動する注目のアーティスト集団ダニーローズ・スタジオの話題作で、デジタル・アート先進国フランスの中でも、2018年~’19年に約200万人を動員した展覧会「Dreamed Japan“Images of the Floating World”」を、バージョンアップさせた作品だ。1100平方メートルを超える展示室は360度スクリーンが取り囲む大空間。足を踏み入れると、浮世絵を題材にした映像が、音楽とともに展示室いっぱいに投影される。第1幕のテーマは「風景」。葛飾北斎「富嶽三十六景」や歌川広重「東海道五十三次之内」などから名作が屏風や扇のように現れては消える。続いて第2幕の「桜」では、桜の木が映し出され、無数の桜の花びらが舞い散り、その風景はやがて神秘的な森へと移り、第3幕「日本の妖怪たち」へと続く。このように第4幕は「海」、第5幕は「魚」、第6幕は「花」…と絶え間なく流れる映像は、全12幕・30分間。伸びやかな音楽とともに現れては消える幻想的な演出が圧巻。特に第4幕の「海」は北斎の絵が臨場感たっぷりで、荒れ狂う海にのみ込まれてしまうような大迫力。終了後は一本の映画を観終えたような充実感に満たされるはず。見どころ1:360度大迫力の浮世絵×映像美!!!カラフルな背景色や浮世絵モチーフの組み合わせの美しさがダニーローズ・スタジオの真骨頂。デジタルアーティストやプログラマー、音楽家といった多領域で活躍する彼らならではの感覚で表現された浮世絵はグラフィカル。©Danny Rose Studio見どころ2:“答え合わせ”も楽しめる。「後室」と呼ばれるエリアでは、映像作品に使用された浮世絵を紹介。吊り下げられた浮世絵の裏には作者と作品名が。また浮世絵にまつわる書籍も展示され、自由に手に取ることができる。見どころ3:進化系・現代の浮世絵師にも注目!大石恵美(BALCOLONY)「桃色四葉乙接吻四人衆大合戦絵巻」UKIYO‐E PROJECT所蔵石川真澄「出火吐暴威変化競 鬼童丸」 UKIYO‐E PROJECT所蔵過去の作品ばかりでなく、フランスや日本で更なる進化を続けているのが浮世絵。会場では日本の現代浮世絵師たちの作品も紹介。演劇ポスター画などで活躍中の若手作品も要チェック。『浮世絵劇場 from Paris』角川武蔵野ミュージアム1Fグランドギャラリー埼玉県所沢市東所沢和田3‐31‐3ところざわサクラタウン内開催中~2022年4月10日10:00~18:00(金・土曜~21:00。入場は閉館の30分前まで)第1・3・5火曜休(祝日の場合は翌日休)一般2400円(当日)ほか TEL:0570・017・396NHK紅白ロケでも話題の本棚劇場。高さ約8m、360度本棚に囲まれた空間は20分ごとに3分プロジェクションマッピングが。※『anan』2021年12月8日号より。写真・土佐麻理子取材、文・山田貴美子(by anan編集部)
2021年12月06日70代で絵を描きはじめ、80代で一躍スター画家となった女性の作品と生き方を紹介する展覧会、生誕160年記念『グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生』が世田谷美術館ではじまりました。本展の公式サポーターに、タレントの結城アンナさんが就任。ご自身でも絵を描かれる結城さんに、展覧会の楽しみ方や女性の生き方について、お話をうかがいました。どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 228本展では、グランマ・モーゼス(モーゼスおばあさん)と呼ばれ愛されているアメリカの国民的画家、アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)の絵画や愛用品、資料などを展示。最初期の作品から100歳で描いた絶筆、さらに日本初来日作品も含めた約130点が紹介されています。グランマ・モーゼスは、ニューヨーク州の農家に生まれ、27歳で結婚。ヴァージニア州に移住し、農場を営みます。夫の死後、72歳のとき孫に贈るため刺繍絵をはじめますが、リウマチで続けられなくなり、絵筆をとります。やがて絵が評判となり、80歳で初個展を開催。アメリカだけでなく海外でも作品が展示され、大統領からも表彰されます。名声を得た後も農家の主婦として自然体で暮らし続け、101歳で亡くなりました。自然に囲まれた農村での暮らしを愛し、その風景や身近な出来事を描いたグランマ・モーゼスの作品は、素朴で温かく、優しさに満ちています。彼女のステキな生き方や作品の魅力について、公式サポーターの結城アンナさんに語っていただきました。結城アンナさん!モデル・タレントとして活躍されている結城さんは、スウェーデン生まれ。10代から日本で元祖ハーフモデルとして活動をはじめ、雑誌『anan』の草創期にも登場されています。俳優の岩城滉一さんと結婚し、出産されたあと30代で専業主婦となり、60代から芸能活動を再開。北欧スタイルを取り入れた暮らしをインスタなどで発信し、そのシンプルで自然体な生き方は世代を超えて支持されています。ネガティブなことが何ひとつない!――まず、展覧会をご覧になって、全体的な感想を教えていただけますか。結城さんつらいことがいっさい絵に出てこないのが、すごくステキです。農村での暮らしはいろいろ大変なことがあったと思いますけど、いっさい絵に出ていない。すごくポジティブ。見ていて私もハッピーになりました。ネガティブなことが何ひとつないのです。――特に印象に残った作品はありますか?結城さん全部印象に残りましたよ(笑)。でも、すごく好きなのは《美しき世界》という作品。あまり人物は描かれていない風景の絵で、早い朝なのか夕方なのか、空がピンク色になっているのです。それを見ていると、「神様ありがとう。こんな美しい自然をありがとう」という画家の祈りのような気持ちをすごく感じたのです。私もお散歩しているとき、特に朝の早い時間や太陽が沈むときの景色を見て、「神様ありがとう」と思うときがあります。その美しさを絵に表してくれたグランマ・モーゼスは、すばらしいなと思いました。――自然への感謝が絵に表れているのですね。結城さんすべての絵に感謝が出ていると思います。自然に感謝、身近にいる、がんばっている村の人たちに感謝。彼女はすべてに感謝しているということが作品から伝わります。幸せのヒントがもらえるかも…――グランマ・モーゼスは、テーブルなどにも絵を描いています。結城さんも、ご自宅の壁などに絵を描かれていますが、絵描きさんはいろいろなところに描きたくなるのでしょうか。結城さん私は画家ではないけれど、グランマ・モーゼスの気持ちはわかるわ。壁とかに絵を描くと、気持ちいいのよ。そういうことを、してみたくなるの。テーブルの絵などを見て、彼女に一歩だけ近づけたかな、と思いましたよ(笑)。――ananwebの読者は20~30代の若い方が多いのですが、その世代はこの展覧会をどんなふうに楽しめますか。結城さん絵というのは人それぞれ見方が違うので、楽しみ方をお伝えするのは難しいのですけど……。例えば、自分がたまにどこを向いているのか、自分はどういう人生を歩みたいのか、自分を見失ってしまうときがありますよね。そういうときに、このグランマ・モーゼスの作品を見ると、ちょっと安心するのではないかしら。彼女はシンプルに暮らし、一生懸命働いて、遊ぶときは家族で遊ぶ。自然も動物も大事にしている。きっと嫌なこともあったはずですが、「どうにかなるさ」と思って生きていたのだと思います。そんな生き方が表れた絵を見ると、幸せのヒントがもらえるかもしれない。グランマ・モーゼスは、映画館など何もないような自然のなかで、みんなでメープルシロップをつくったりして生活し、それを楽しんでいました。でも、何かつくらなければ食べていけないし、暮らしていけない。生と死が身近な自然のなかで生きているから、危険もある。クマが出るかもしれないし、嵐がきて作物がダメになるかもしれない。だから、みなで協力して暮らしているのです。みなで助け合って生きている様子が作品にあふれています。やりたいことは、やる!――グランマ・モーゼスが、80代でスター画家になったというのもすごいです。結城さん彼女は、子どものころからずっと働いていました。結婚前も、結婚してからも。働かないと、生きていけないのよ。別に絵を描いて稼ぐことに限らず、彼女はきっとなんでも自分ができることにトライしたのだと思います。すごくフレキシブル。自分でジャムを煮て売ったり、絵を描いて売ったり。もし絵がなければ、違うものをつくったのではないかと思います。――グランマ・モーゼスは、リウマチで刺繍ができなくなっても落ち込まず、頭を切り替えて絵を描きはじめています。前向きに生きる姿勢にも驚かされます。結城さん彼女は、落ち込むタイプではないですよ(笑)。以前、老人ホームの社長さんから聞いたお話なんですが、女性はすごく順応力があるらしいです。老人ホームに来て、あまりうれしくはないけれど、ここでがんばる!と女性は前を向く。男性は、しゅんとなってしまうようです。女性は、小さいときから「これは女の子だからダメ」といわれたりしているので、「じゃあしょうがないから、こちらにする」と切り替えることができる。状況の変化に慣れていると思います。グランマ・モーゼスも、困ったり悩んだりせず、先に進む人なのでしょうね。あと、想像力と勇気もある。人に絵を見せるのは勇気がいります。彼女は絵を描いて、それをドラッグストアに置いてみて、値段もつけています。誰かに買ってもらえるかもしれない、という想像ができたのです。――今を生きる女性も、見習える部分がありそうですね。結城さんそうね。あまりクヨクヨしないことよ。やりたいことは、やる!人が何をいっても、やったほうが勝ち。ダメだといわれても、やりたかったらやればいいのよ。もっと怖いのは、自分で自分にダメ出しすること。そんなことはやったらダメ。怒られるからとか、怖いから、失敗するからとか、そんなふうに考えるのは、もったいないわね。若いころは…怖いもの知らず(笑)――結城さんは10代からモデルとして活躍されていましたが、そのころはどんな女性でしたか?結城さんめちゃくちゃ女の子していました(笑)。好きなようにやっていたわ。今考えると、あちこちに迷惑をかけていたと思うのですけれど……。あまり人のいうことを聞かず、好きなようにしていました。だから、怖いもの知らず(笑)。でもね、これをやるんだと思ったら、もうやるしかないの。人が何をいっても関係ない!――すごくパワフルでいいですね。では今、若いころの自分にアドバイスするとしたら、どんなことでしょうか?結城さんもうちょっと勉強しておけばよかったわね。言葉のレッスンもしましたし、良い先生もいましたし、良い学校に行かせてもらいましたけど、自分ではあまり勉強しませんでしたね。やはり勉強は大事。若いころはタダで勉強できるし、脳が柔らかいから、いろいろなことが入っていくでしょ。今やろうと思っても、無理ですからね。――今後、挑戦してみたいことはありますか?結城さん新しいことは50歳のときにいろいろやりましたので、今は、今あることをもっと深く、ちゃんと時間をかけてやりたいと思います。暮らしでも絵でも、すべて磨きたいかなと思っています。――今後のご活躍も楽しみにしています。最後に、読者の方にメッセージをいただけますか。結城さんこの展覧会は、見終わるとすごくホッとします。だから今の時代に合っています。ハッピーで前向きな気持ちにもなりますし、来てよかった、見てよかった、と本当に思いました。グランマ・モーゼスの人生の話も、少し知ってから見るのもいいと思います。画家のフィルターを通して絵になるので、そのフィルターの裏には何があるのか、その部分も大事だと思います。――元気が出るお話を聞かせていただき、ありがとうございました。インタビューを終えて…仕事、恋愛、育児、介護などさまざまな経験をされてきた結城さん。困難なこともあったと思いますが、グランマ・モーゼスの絵と同じように、結城さんの言葉も常にハッピーでポジティブ。聞いているだけでパワーがわいてきました。インスタや書籍などで見られる結城さんのイラストも、ほっこり幸せな気分になるものばかり。まさにグランマ・モーゼスのようなステキな方でした。2月27日まで開催!生誕160年記念『グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生』は2022年2月27日まで開かれています。ポジティブなパワーがあふれる展覧会、幸せのヒントを見つけに足を運んでみてはいかがでしょうか。Information会期:~2022年2月27日(日)※休館日: 月曜日(祝・休日の場合は開館、翌平日休館)、12/29(水)~1/3(月)※1月10日(月・祝)は開館、翌1月11日(火)は休館会場:世田谷美術館1階展示室開館時間:10:00~18:00(最終入場時間 17:30)観覧料:※日時指定制一般¥1,600、大高生¥800、小中生¥500、65歳以上¥1,300※最新情報などの詳細は公式サイトをご覧ください。
2021年12月03日生きているように見える金魚のアート作品を手がける現代美術家の深堀隆介さん。メディアでも数多く紹介され、その美しい作品を見たことがある人も多いと思います。そんな深堀作品約300点が、東京の美術館に集結。12月2日から上野の森美術館で、『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』がはじまります。今回、展覧会を直前に控えた深堀さんに取材を実施。アトリエにお邪魔し、さまざまなお話を伺ってきました!金魚がいっぱい!アトリエで飼われている金魚たち【女子的アートナビ】vol. 226今回の取材で訪れたのは、横浜にある深堀さんのアトリエ「金魚養画場」。まさに名前のとおり、金魚を養って描く場所で、生きている金魚がいっぱいいます!深堀さんがご自身でエサをやったり水を替えたりしながら、大切に育てているそうです。アトリエでは、いくつか作品も見せていただきました。こちらの画像、「生きた金魚」にしか見えませんが、“絵画”なのです!詳しい技法は後ほど紹介しますが、はじめてご覧になった方はリアルさに驚かれると思います。私も、かなりの至近距離で見せていただいたのですが、本物の金魚が泳いでいるようにしか見えず、鳥肌が立ちました。特に尾鰭の繊細さには目を見張るばかり。衝撃レベルの美しさです。このような超絶技巧アートを手がけている深堀さんのご出身は、愛知県。1973年に生まれ、幼少期には日本一の金魚産地で知られる弥富市の金魚を見て育ったそうです。愛知県立芸術大学を卒業後、会社勤めを経てアーティストに転身。2000年から金魚をモチーフにしたアートを制作され、作品は国内だけでなく海外でも高く評価されています。今回、深堀さんに作品制作の詳細や展覧会への思いについて、語っていただきました。絵が動き出した…!深堀隆介さん。後ろに見えるのは、深堀さんが描いた平面の金魚作品。――深堀さんの作品は、本当に驚くほどリアルです。樹脂の上に少しずつ絵を描く独自の技法“2.5Dペインティング”(積層絵画)を使われているとのことですが、なぜ従来の絵画ではなく難しい技法にチャレンジされたのですか?深堀さん僕は平面でも描きますが、自分だけの技法が欲しいと思っていました。芸術の世界は群雄割拠しているので、自分の十八番のような芸がないと生き残れません。実は以前、樹脂工房で働いていたことがあるので、役に立つかもと思い、余っていた樹脂を器に半分入れて固め、その上にアクリル絵具で絵を描いてみたのです。でも絵具が樹脂に溶けて、失敗すると思っていました。一晩待ってみたところ、絵がきれいに残り、しかも水面ができていたのです。絵が自分の手を離れて水面の向こうに行ったようで、絵が動き出したような不思議な感じがしました。アトリエの様子。手前には制作中の作品があります。――水面ができたのがポイントなのですね?深堀さん平面であれば、金魚と自分が同じ世界にいるように感じます。でも水面ができたとたん、彼らは向こう側の違う世界に行くのです。金魚と僕の間に水面ができるのが重要なのです。子どものころから魚釣りが好きだったのですが、なぜ魚が陸にくると死ぬのか不思議でした。水面を越えてくるから死ぬのです。逆に、人間は水の中では暮らせません。水面は生と死の境界線。水面の向こうの世界にずっと興味と畏怖の念がありました。この技法があれば、水面ができる。この中で、自分の描いた金魚を泳がすことができるのです。死んだときだけ金魚を描く…!?――アトリエでたくさんの金魚を育てていらっしゃいますが、この仔たちが作品のモデルになっているのですか?深堀さん僕の作品は、よく写実といわれていますが、そうではありません。僕の品種、心の中にいる金魚、脳内にいる架空の金魚を描いているのです。「こんな金魚が生まれました」という感じ。最近、金魚を育てるブリーダーさんのなかに、僕の描いた金魚を品種改良でつくってみたいという人が出てきているんですよ。逆転現象です(笑)。絵が先で、そこから新しい金魚が生まれるかもしれません。――では、育てている金魚たちは見ているだけなのですか?深堀さん死んだときだけ描きます。彼らを埋める前に姿を見させていただいて、その特徴を描く。デスノートと名付け、今回の展覧会でも展示しますが、どんな仔だったかという記録を残しています。動いている金魚は、暮らしのなかで見て観察しているだけ。泳いでいる金魚を捕まえて描くのはかわいそうですよね。写真でもだめです。克明に描けるのは止まったときだから、死んだときしかないのです。僕が描くのはフォトリアリズムではなく、あくまでも空想の理想の金魚。だから背びれがなかったりするので、「こんな金魚いない」といわれたこともあります。全部、自分が今まで飼ってきた金魚の集合体なのです。そんなふうに空想できるのが、写真やコンピューターに唯一人間が対抗できる能力だと思います。――すごくリアルなのに、現実にはいない金魚。おもしろいです。深堀さん江戸の絵師たちも、想像しながら襖に虎や龍を描いていますよね。脳でビジョンが見えているから、あたかもそこに龍がいるように描けるのです。彼らの絵は泥臭くて、そんなにリアルではないかもしれないけど、龍が生き生きと魂をもっているように見える。それがおもしろいし、僕も魂が宿っているように描きたいのです。昔、展覧会をやったとき、僕の作品のことを詳しく知らないお客さんから、「餌をあげなくていいんですか。口をパクパクしていたわよ」といわれたことがあります(笑)。「あれは絵ですよ」といったら「動いていたじゃない」と。うれしかったですね。その人には動いて見えたのです。CGのようなものを使わなくても、人間には心の中で金魚を動かせる能力が備わっています。ほんの少しなら動いているように見える、僕のはそんな作品なのです。なぜ金魚を描き続ける?――深堀さんは、放置していた水槽で生き残っていた1匹の金魚の美しさに魅了され、金魚を描き始めたとのことで、この体験をご自身で「金魚救い」と呼ばれています。ずっと金魚だけを描き続けているのですか?深堀さん20年前に金魚を描き始めたときは、アーティストをやめようと悩んでいたころでした。祭りの金魚すくいでとってきて以来何年も一緒に過ごし、大きくなった金魚の背中を見ながら、この仔は自分みたいだなと思ったのです。僕の金魚は、この水槽で一生を過ごし、誰とも会えない。当時、自分は部屋にこもって、もんもんと悩んでいたのですが、僕はこの仔と一緒で、まだ誰とも会っていないのではないか、と思ったのです。この仔から「自分の代わりにお前が行け。外はもっと広いぞ。海があるんだぞ」といわれたような感じがして、描き出したのです。20年経って、ようやく描き続けている理由がわかりました。金魚のいる水面に自分の顔が映り、金魚の中に自分が見えたのです。だから、タイやヒラメではなく、金魚に執着して描き続けられたのです。今の自分を描けばいいのですから。自分自身を描くのは照れくさいので、金魚を使って自分を出しているのです。地球と金魚鉢は一緒!?――展覧会についてお尋ねします。『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』というタイトル、地球鉢というのがユニークですが、どのような思いがこめられているのですか。深堀さんコロナだからこそ、この名前になりました。コロナのせいで人間は室内に押し込められ、外に出られなくなりました。小さな、目に見えないウイルスに翻弄されて、苦しめられている。金魚を飼っていて、一番大事なのは水替えです。1週間に最低1回は取り替えないと水槽の水がよどみ、金魚は病気になり、死んでしまいます。地球も水槽と一緒。地球の空気が汚れると、我々人間も免疫が弱まり病気になりやすくなるし、コロナのようなウイルスにも弱くなる。この地球を地球鉢と考えて、汚れた金魚鉢と同じ状況としたら、いろいろなことがわかってくると感じています。人間がこのまま地球を汚し続けたら、自分の子どもたちの世代はもっとひどくなる。僕はずっと金魚を描いてきたので、コロナと金魚もつながるところがあったのです。――私も金魚が好きなので展覧会が楽しみです。日本人は、なぜこんなに金魚が好きなのでしょうね。深堀さんなぜ金魚に惹かれるのかは、深く掘るといろいろあると思います。中国では、どんどん品種改良をして金魚を変えていくのですが、日本はひとつの品種を大切に守っています。日本の金魚は、細かいところまで神経が行き届き、鱗の並び方とか泳ぎ方にまで審査基準があり、すごいのです。でも、原点は金魚すくいかもしれませんね。あれは、ほかの国にはないらしいですよ。みんな、いい思い出になっているのだと思います。僕自身、最初に描いたのは金魚すくいの金魚でしたし、あの仔が僕の究極の金魚。僕を救ってくれましたから。今回のインスタレーションも、金魚すくいの屋台にしてあります。――展示も楽しそうです。いろいろお話いただき、ありがとうございました。深堀さんananの読者さんに、今日の話が少しでも響いたらうれしいです。インタビューを終えて…言葉の端々に金魚愛があふれていた深堀さん。常に水面下にいる金魚たちを慈しみ、その水槽を取り囲む人間社会、地球の未来にも問題意識をもちながら、作品制作をされているようです。深堀さんの熱い想いがこめられた作品は、日本だけでなく世界でも愛され、美しい金魚アートたちが地球のあちこちで泳いでいます。金魚に救われたという深堀さんが、アートの力で人の心を動かし、いつか地球の危機を救ってくれるかもしれません。会場では金魚飴やおみくじも登場!『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』では、樹脂を使った積層絵画(2.5Dペインティング)作品のほか、平面の絵画やインスタレーション、映像作品も展示。さらに、ミュージアムショップでは深堀さん描き下ろしの「金魚飴」やオリジナル金魚おみくじも登場します。縁日みたいに楽しそうな展覧会、ぜひぜひ足を運んでみてくださいね!(アトリエ写真撮影・提供:フジテレビ)Information会期: 12月2日(木)~ 2022年1月31日(月)※休館日=12月31日(金)、1月1日(土)会場:上野の森美術館開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)観覧料:前売券【一般】¥1,400【高校・大学生】¥1,100【小・中学生】¥600深堀隆介描き下ろし 金魚飴付き前売券【一般】¥2,200【高校・大学生】¥1,900【小・中学生】¥1,400当日券【一般】¥1,600【高校・大学生】¥1,300【小・中学生】¥800
2021年11月28日東京国立近代美術館で、柳宗悦没後60年記念展『民藝の100年』が開かれています。日本各地に残されている優れた手仕事、名もなき職人さんたちがつくった生活道具に“美”を見いだした「民藝運動の父」柳宗悦。本展では、柳らが集めた陶磁器や木工など暮らしの道具や同時代資料を展示。驚くほどモダンでかわいい「モノ」も登場します!どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 227本展では、柳らが蒐集した陶磁器や染織、木工、蓑などの生活道具や民画とともに、出版物、写真など総点数450点超の作品と資料を展示。「民藝運動の父」と呼ばれた宗教哲学者の柳宗悦(1889-1961)の没後60年という記念の年に、彼の活動を振り返りながら、時代とともに変化しつづけた民藝の試みを俯瞰的な視点からとらえなおします。日本の美しい「モノ」を守る!1925年、柳宗悦と陶芸家の濱田庄司(1894-1978)、河井寬次郎(1890-1966)は、民衆がふだん使っている生活道具に“美”を見いだし、「民藝(民衆的工芸)」と名付けます。柳らが民藝に注目したのは、工業化が進み、大量生産されるモノが出回りはじめた時代。職人によって生み出された昔ながらの美しい「モノ」が失われていくことに憂慮し、日本の伝統的な手仕事を維持し、文化を守るための「民藝運動」を進めていきます。具体的に、彼らはどんな活動をしたのでしょう?まず、民藝品を集めることから開始。日本各地を旅し、旧家や朝市などを訪れてさまざまな民藝を探し、蒐集していきます。さらに、欧米にも行き、イギリスでウィンザーチェアなどを買い付け、海外の生活スタイルや椅子文化を日本で紹介。東洋と西洋を比較し、世界の工芸やデザインの流れも見ながら、日本各地の民藝を発見していきます。雑誌がおしゃれすぎ!柳らは、集めた民藝を雑誌や展覧会で広めていきます。1931年には、民藝運動の機関誌として雑誌『工藝』を創刊。写真や記事で、民藝の美などを紹介しています。表紙には織物や漆絵が使われ、用紙は各地の手すき和紙を使用。紙や布がテーマとなっている号では、実物が貼り込まれています。会場に展示されている雑誌は、表紙デザインがすごくおしゃれ。装幀や小間絵は、染色家の芹沢銈介や陶芸家の河井寬次郎など民藝の同人が担当し、素材も作り手もかなり贅沢です。1936年には、日本民藝館が完成。集められた作品を展示紹介し、さらに日本各地の作り手と協力して新しい民藝品を売る店も開きます。日本の大事な手作り文化を保存、紹介するだけでなく、新しい民藝品を流通させるという点も民藝運動の大切な活動のひとつでした。鉄瓶も藁沓もかわいい!それでは、展示品のなかから、驚くほどモダンでかわいい民藝を2点ご紹介。ひとつは、展覧会のメインビジュアルにも使われている《羽広鉄瓶》。山形のものですが、このような鉄瓶は寒い地域でお湯を沸かすときに使われていました。持ち手もフォルムもとってもキュート。羽のように広がる部分は、熱が伝わりやすくするための形であり、使いやすさが重視されたデザインです。もうひとつは、《藁沓》。雪の上を歩くためのものです。豪雪地帯の農村で、農作物のできない冬に副業として制作し、販売していました。米粒をとった稲わらを使い、手で編んでいます。素朴でかわいく、とても暖かそうです。手元に残った稲わらを使い、日用品として循環させていく生活はエコライフそのもの。当時のような暮らし方を見習えば、持続可能な社会が実現できそうです。本展のさまざまな民藝や、その歴史に触れることで、今のライフスタイルについても新たな気づきを得られそうです。展覧会は2022年2月13日まで開催。Information展覧会名:柳宗悦没後60年記念展『民藝の100年』会期: ~2022年2月13日(日)※会期中一部展示替えあり休館日:月曜日[ただし、2022年1月10日(月・祝)は開館]、年末年始[12月28日(火)~ 2022年1月1日(土・祝)]、1月11日(火)会場:東京国立近代美術館開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで) *入館は閉館の30分前まで観覧料:一般¥1,800、大学生¥1,200、高校生¥700、中学生以下無料問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)※最新情報などの詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。
2021年11月28日いちはらアート×ミックス実行委員会は、現代アートの芸術祭『房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+』を、2021年12月26日(日)まで開催することをお知らせいたします。里山や閉校した学校の校舎、小湊鉄道の駅舎などを舞台として、「房総の里山から世界を覗く」をテーマに17の国と地域から68組のアーティストが89作品を展開しています。11月下旬から12月上旬にかけては市原市養老渓谷の紅葉が見ごろを迎えます。美しい紅葉に彩られた里山の中を走る小湊鐵道トロッコ列車なども併せてお楽しみください。レオニート・チシコフ《7つの月を探す旅「第二の駅 村上氏の最後の飛行 あるいは 月行きの列車を待ちながら」》1. 開催期間2021年12月26日(日)まで※月・火曜日休場2. 開催エリア千葉県市原市 小湊鉄道を軸とした周辺エリア市原市内9エリア(五井、牛久、高滝、平三、里見、月崎・田淵、月出、白鳥、養老渓谷)、小湊鉄道各駅舎3. 開催概要千葉県市原市内を走る小湊鉄道を軸とした周辺エリアを会場に、閉校した学校の活用や、小湊鉄道駅舎等、交通機関の活用、食や自然等の地域資源の活用などによる、新しい芸術祭を開催。4. 参加アーティスト・作品数参加アーティスト:68組(17の国と地域)、作品数:89点5. 周遊方法小湊鉄道主要駅と会場エリアをつなぐ無料周遊バスを運行。また、土日限定、五井駅発着でガイドとともに作品を巡るオフィシャルツアーを開催。オフィシャルツアー詳細はこちら 6. 鑑賞券・パスポート会期中、本芸術祭の一部のイベントを除くすべての作品を鑑賞できる作品鑑賞パスポートを販売■作品鑑賞パスポート販売料金 一般:3,000円、大高生:1,500円、小中学生:500円※会期中であれば異なる日であっても使えます(1作品1回限り有効)※同一作品を2回以上鑑賞する際は再入場券をお買い求めください7. 主催いちはらアート×ミックス実行委員会実行委員会会長:小出譲治(市原市長)8. 総合ディレクター北川フラム9. 公式ウェブサイト・SNS■公式ウェブサイト ■公式SNSFacebook、Instagram、Twitterにて作品・作家やイベント情報等について発信Facebook : Instagram: Twitter : 田中奈緒子《彼方の家》栗真由美《ビルズクラウド》アイシャ・エルクメン《Inventory》開会式の様子 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2021年11月26日芸術の秋真っ只中ということもあり、アートへの関心がいつも以上に高まっている人も多いのでは?そんななかでオススメの映画は、アート界の裏で行われている闇の金銭取引を暴き、アートとお金の“怪しい関係”に迫った話題のドキュメンタリーです。『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』【映画、ときどき私】 vol. 4322017年、レオナルド・ダ・ヴィンチ最後の傑作とされていた「サルバトール・ムンディ」が、史上最高額の 510 億円で落札。アート界に激震が走る。「購入者は一体何者なのか」「真のダ・ヴィンチ作品だと証明されたのか」など、謎は深まるばかりだった。一般家庭で発見され、13万円という激安で売られていた名画が、なぜ政府やハリウッド・スターのレオナルド・ディカプリオまでも巻き込んだ大騒動へと発展していったのか……。オークションが行われた当時、世界的なニュースとなり、大きな注目を集めた通称「男性版モナ・リザ」。そこで、一連の出来事の背景について、こちらの方にお話をうかがってきました。アントワーヌ・ヴィトキーヌ監督ドキュメンタリー映画監督としてだけでなく、ジャーナリストとしても活躍しているヴィトキーヌ監督。今回は、政治的なテーマを数多く取り上げてきた監督があぶり出すアート界の闇や取引の裏側について、語っていただきました。―まずは、この題材に取り組もうと思った理由から教えてください。監督実は、2018年にサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子のドキュメンタリーを作っていたので、そのときに彼が「サルバトール・ムンディ」を買ったと聞いたのが最初でした。私自身はそれまであの絵に関してはあまり知らなかったので、彼が買ったということに対しての驚きのほうが大きかったですね。調べてみると、当時はルーヴル美術館が鑑定するのかしないのか、展示するのかしないのか、といった噂で持ち切りだったので、僕としてはその“謎”を探るために調査を始めたのがきっかけです。ドキュメンタリーを作るうえでは、オークションの前から始める必要があると思い、2005年までさかのぼって構成しました。―いろいろな方のインタビューやオークションにも密着されていますが、監督にとって予想外の出来事はありましたか?監督一番驚いたのは、この絵が外交問題にまで発展していたこと。ロシアの富豪が登場するあたりまでは、想像の範囲内でしたが、まさか政府が関わるほどになるとは……という感じですね。あともうひとつは、オークションハウスのサザビーズが果たしていた役割が非常に特殊であったこと。サザビーズがロシアの富豪からお金を預かったとき、彼の右腕がしていた怪しげな工作に関与していたとされています。現在、アメリカでは訴訟中ですが、あれほど大きなオークションハウスが合法と非合法のすれすれのところに介入していることに、びっくりしました。利益を求める人たちによって、芸術が貶められている―アートとは崇高なものだと思っていたので、本作で映し出しているようなお金との関係性には驚かされましたが、監督自身はいまのアート業界のあり方をどう感じていますか?監督もちろん、アート業界のなかには崇高な部分もまだ存在しているとは思います。つまりそれはここまで大きなお金が動くことなく、純粋にアートと向き合っているアーティストたちがクリエイトした作品を発表するうえで、オークションハウスやギャラリーの力を必要とする通常の流れのことですけどね。ただ、そのいっぽうで、世界の大富豪たちが芸術的な価値よりも投資目的で落札するという流れが現代のアート界にあるのも事実。本作で映しているように、芸術作品がお金を生んでいる状態となっているのです。不誠実な人ばかりとは言いませんが、そんなふうにアートに利益を求める人たちの存在と行動によって、芸術が貶められているところもあるのではないかなと思っています。―確かに、この作品を観る方の多くがそういう危機感は覚えるのではないかなと。監督名前は伏せますが、実は最近もイギリスの非常に有名なアーティストの展覧会に行ったときに、驚いた出来事がありました。非常に素晴らしい絵だったので、ギャラリーの人にどのくらい枚数があるのかを尋ねてみたんです。そしたら、なんと107枚作っています、と。それほどの枚数だと、もはや工場で作品を製造しているのに近いと思うので、そういう意味では、崇高なアートとは少し違う次元に行ってしまっているように感じました。国を広げるためにいま必要なのは、武器よりも美術館―監督は芸術の国と言われるフランスで生まれ育っています。実際に「サルバトール・ムンディ」をご覧になったときは、どのような印象を受けましたか?監督実は、僕が初めてこの絵を見たときは、すでに皇太子が買ったという事実を知っていたので、「いわくつきの作品だな」という色眼鏡を通して見ていました。悲しいことに、美術館で絵画を見るような純粋な気持ちでは見れなかったので、強い印象を抱くことなく、特に大きな感動もなかったというのが正直なところです。美しいという人もいれば、そうではないという人もいるので、どう感じるかはみなさん次第だと思います。―ちなみに、監督の意見としては、この絵は本物だと思いますか?監督ダ・ヴィンチと彼の工房による共同の作品、というのが僕の想像する正解に一番近いと思う答えじゃないかなと。ただ、この作品に関しては、ダ・ヴィンチの弟子が1人で描いたという説もありますからね。とはいえ、いずれにしてもクリエイションの過程のなかにダ・ヴィンチの存在があったことは間違いないとは思います。―13万円が510億円になるとは、夢のある話だと思いますが、投資目的にアートを使うことに関して、監督はどうお考えでしょうか。監督皇太子ほどお金を持っていないので、自分ならどうするかというのはちょっと想像できないですね(笑)。ただ、ひとつ言えるとすれば、お金があっても「サルバトール・ムンディ」は買わないかなとは思います。今回、僕が一番惹かれたのは、この作品をサウジアラビアの皇太子が買ったことです。彼は自分の国を世界に向けてもっと広げていきたいという希望がありますが、そのためには武器を買うよりも、美術館を建てることのほうが必要だと考えたのは非常に興味深いことだなと。しかも、そこにはヨーロッパの美術史史上一番高額な絵を買うことに価値があるんだ、という彼の意思表示のようなものも感じることもできました。国の統治者として彼がした選択は、まったく無意味だとは思いません。日本に対しては直感的な親しみを抱いている―まもなく日本での公開を迎えますが、日本に対してどのような印象をお持ちかお聞かせください。監督残念ながらまだ一度も行ったことはありませんが、昔からずっと興味のある国で、いつか行きたいと思っています。うまく説明はできませんが、日本には直感的な親しみすら抱いているほど。実は若い頃に10年ほど柔道をしていたことがあり、トレーニングのビデオなどを通して日本の風景を見続けていたので、そういったことも影響しているのかもしれませんね。日本のみなさんはフランスが好きだと聞いていますが、僕たちフランス人も日本が大好き。僕の11歳になる息子はしょっちゅう日本の漫画を読んでいて、日本語も少し離せるくらい本当に日本が好きだと言っています。それくらい、僕たちにとって日本は近い存在となっているのです。―ありがとうございます。それでは最後に、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。監督もちろん、理解することも大切ではありますが、理解しようとし過ぎて頭を使うよりも、まずは世の中には“異なる世界”というのがいくつも共存しているんだというのを体感していただきたいです。アメリカ・ルイジアナ州の一般家庭から始まり、サウジアラビアの砂漠にたどり着くまでの経緯というのは、まさに現代のグローバリゼーションならではの現象だと思うので、そういった部分も含めて、目を大きく見開きながら観ていただきたいです。欲望にまみれた世界で最後に微笑むのは誰か?すべて事実でありながら、まるで先の読めないミステリー映画を観ているかのような錯覚に陥る本作。芸術的感性だけでなく、金銭感覚までも刺激されること間違いなしのこの秋見逃せない注目作です。取材、文・志村昌美謎に満ちた予告編はこちら!作品情報『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』11月26日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国順次ロードショー©2021 Zadig Productions ©Zadig Productions - FTV
2021年11月25日新潟県に生まれ、20世紀後半にはアメリカを拠点に世界で活躍したアーティスト・久保田成子(しげこ)。彼女は映像と彫刻を組み合わせた「ヴィデオ彫刻」で知られ、海外でもヴィデオ・アートのパイオニアとして認められている存在だ。2015年、乳がんで亡くなった直後には、久保田成子ヴィデオ・アート財団がニューヨークに設立されたほど。今回はその財団に加え、国内美術館の所蔵品や作家の遺族からも全面協力を得て、日本では約30年ぶりとなる、没後初の大規模個展『Viva Video!久保田成子展』が開催される。ヴィデオ・アートの先駆者と呼ばれた女性の視点に迫る。展覧会は時系列に展開する。新潟での生い立ちに始まり上京、渡米、前衛芸術家集団「フルクサス」での活動、ヴィデオ・アートへの傾倒…。なかでも見どころはフィギュアスケート選手・伊藤みどりをモデルにした《スケート選手》や現代美術家であった夫ナムジュン・パイクの故郷の墓をモチーフにした《韓国の墓》など、日本初公開の作品たち。様々な作家と交流した写真や手紙などの資料も初お披露目となる。また渡米後の「フルクサス」での活動や、実験的音楽集団「ソニック・アーツ・ユニオン」との関わりなど、これまで知られてこなかった交友関係にもフォーカス。さらに見逃せないのはマルセル・デュシャンとの出会いから誕生した作品「デュシャンピアナ」シリーズを集めた部屋。デュシャンへの敬意と、その想いを糧に新境地を開拓しようとする久保田の挑戦を、肌で感じることができる。晩年は脳梗塞で下半身不随となった夫をテーマに作品を生み出した。人との関わりが創作へと繋がってきた彼女の映像からは、その視線の奥にあったものを感じられるはずだ。色鮮やかな日本初公開作品《スケート選手》1991‐92年久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博1992年のアルベールビル五輪で銀メダルを獲得した伊藤みどりがモデルの作品《スケート選手》。回転するスケーターに向けて投影される映像がリンク上の鏡に反射し、色とりどりの光を放つ。《韓国の墓》1993年久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博韓国の墳墓のフォルムを模した半球形の彫刻の上にちりばめられたモニターから映像が流れる。マルセル・デュシャンへの憧れ《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体》1975‐76/83年富山県美術館蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博《デュシャンピアナ:自転車の車輪1、2、3》と《三つの山》の展示風景(原美術館、1992年)撮影:内田芳孝Courtesy of Shigeko Kubota Video Art Foundation, ©Estate of Shigeko Kubotaデュシャンとの出会いから誕生した「デュシャンピアナ」シリーズ。彼の絵画を映像として再解釈した《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体》(上)や、彼の最初のレディ・メイド作品として知られる《自転車の車輪》を引用した《デュシャンピアナ:自転車の車輪1、2、3》(下)は、今では久保田の代表作になった。《メタ・マルセル:窓(花)》(部分)1976‐77/83年Photo by Peter Moore, Courtesy of Shigeko Kubota Video Art Foundation, ©Estate of Shigeko Kubotaヴィデオ彫刻の拡張《ナイアガラの滝》1985/2021年久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博《河》1979‐81年Photo by Peter Moore, Courtesy of Shigeko Kubota Video Art Foundation, ©Estate of Shigeko Kubota大小10台のモニターが組み込まれた構造物の前にシャワーが置かれた《ナイアガラの滝》(上)や、3台のモニターと揺れ動く水が入ったステンレスの水槽の作品《河》(下)など、1980年頃から水やモーター、プロジェクションによる動きのある作品が登場した。『Viva Video!久保田成子展』東京都現代美術館 企画展示室 3F東京都江東区三好4‐1‐1開催中~2022年2月23日(水)10時~18時(入場は閉館の30分前まで)月曜(1/10、2/21は開館)、12/28~1/1、1/11休一般1400円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2021年11月24日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2021年11月21日