野菜の捨て漬けや毎日のかき混ぜは不要の手軽なぬか床が続々発売され、自家製ぬか漬けにハマっている人が増加中。ぬか床生活のポイントと、今日からすぐ始められる、ぬか床&グッズをご紹介します。こんなに簡単に!最先端のぬか床事情。塩麹、甘酒に次ぐ、発酵食第3次ブームで、今人気のぬか床。コロナ禍のおこもり生活と健康志向の高まりから、ぬか漬け作りを始める人が増えているそう。人気の理由は、忙しい現代人でも続けられるようになった、ぬか床の進化。「従来のぬか床は、自分でイチからぬか床を育てるので、毎日かき混ぜたりとお手入れが大変、ぬか床を置く場所が必要などハードルが高かったのですが、今のぬか床はストイックにならなくても大丈夫。あらかじめ発酵させているタイプを使えばすぐに漬けられて、冷蔵庫で保管すれば毎日混ぜなくてもいいので、気軽に始めて、ぬか床生活を楽しめるようになってきています」(管理栄養士、フードディレクター・安中千絵さん)簡単とはいえ、何度か漬けるうちにぬか床が水分でゆるくなったり、匂いが変わってくることも…。「ゆるくなったらぬかを足すか、水分を吸収して旨味もプラスしてくれる、干ししいたけや昆布を入れてみて。接着剤のようなニオイがしたら悪い菌が繁殖している証拠なので、処分してもいいけれど、植物性乳酸菌を含む食品などを足したり、よくかき混ぜたりと手をかければまた復活しますよ」野菜だけでなくさまざまな食材を漬けて楽しめるのも魅力。「ピクルスにして美味しい野菜はどれも、ぬか漬けにもよく合います。生で食べられる野菜はそのまま漬けて大丈夫。きのこはレンチンして少し火を通してから。玉ねぎなど香りが強いものは、ラップで包んで個別に漬けるとニオイ移りの防止に。ゆで卵やチーズも美味しいですし、意外なところではフルーツも合います。まだ熟していない青パパイアや、りんごなどの硬いフルーツは、水分が抜けて甘みが凝縮してとても美味。ぬか漬けは、野菜の皮や芯など普段食べない部分や、余った部分も無駄なく食べられるのもいいところ。皮ごと野菜を漬けてそのまま食べられてフードロスも減らせる、究極のサステナブルですね」現代版ぬか床のココが新しい!1. 現代の暮らしに合った量を冷蔵庫で育てるスタイルに。昔は大きな樽や素焼きの壺で漬けて常温保存していたので管理も大変だったが、今は冷蔵庫に入る大きさの容器やジッパー付きの保存袋などを使って、少量ずつ作れるように。2. 基本はほったらかし。ストイックにならなくても大丈夫。冷蔵保管すれば菌の働きが活発になりすぎないので、2~3日混ぜなくてもOK。もし失敗したとしても、また市販のぬか床を買い直してスタートすればいいので気楽にどうぞ。3. サラダ感覚でぬか漬けを楽しむ人が増えてきた。ぬか漬けの塩分が気になる人は、3~4時間くらいの浅漬けにしてサラダ感覚でいただくのもおすすめ。アスパラガスやカリフラワーも生のまま漬けられるので手間なし。ライフスタイルに合わせて選べる、さまざまなぬか床&グッズをご紹介します。スタンドパックタイプすぐに野菜を漬けられてパックごと冷蔵庫に保管ができるので手軽。パック型ぬか床ブームの火付け役!2018年の発売以来、気軽にぬか漬けを楽しめると大ヒット。材料は米ぬか、食塩、昆布、唐辛子、ビール酵母とシンプルで、あらかじめ発酵させているので、初めてでも失敗しない。抗菌性の高い乳酸菌を使って発酵させているため、週に1度のかき混ぜでいいのもラク。無印良品 発酵ぬかどこ1kg¥890(無印良品 銀座 TEL:03・3538・1311)エゴマの栄養や風味が深みのある味わいに。明治6年創業の麹専門店から新発売。有効活用されていなかったエゴマ油を搾ったあとの種実をアップサイクルしたぬか床。エゴマのα‐リノレン酸などの栄養素も含まれるほか、ぬか漬け特有のツンとした香りが少なく、まろやかな味に仕上がるのが特徴。山口こうじ店 荏胡麻ぬか床1kg¥1,814(山口こうじ店 TEL:0248・34・2728)ぬか床メーカーが冷蔵庫専用に商品開発。国産米ぬかを100%使用。冷蔵庫で美味しく漬かるよう、厳選した10億個の植物性乳酸菌を長時間熟成発酵させたことによる豊かな風味が魅力。16ページの詳細なガイドブックと無料メールサポート付き。3~4日に一度のかき混ぜでOK。こうじや里村冷蔵庫で育てる熟成ぬか床800g¥1,000(コーセーフーズ TEL:0585・35・2118)ぬか床セット届いたその日から、すぐに本格的なぬか床生活が始められます。ワンランク上のぬか床生活用スターターキット。水抜きの手間がいらない吉野杉の専用箱、奈良県産の伝統野菜・大和まななど季節の新鮮野菜4~6種(種類は季節により変わる)、有機栽培米で作った米ぬかや沖縄の塩「シママース」など厳選素材を使ったぬか床がセットに。Kii STYLE 今日から始める発酵ぬか漬け生活¥11,000(Kii STYLE)和歌山県の漬物屋発、プロの味を自宅でも。国産原料100%使用、添加物を一切使わず半年以上熟成させたぬか床、ぬか床容器、好みの味に調整できる専用調味料(昆布、唐辛子、みかんの皮)付き。長年ぬか漬けを作ってきた漬物屋にしか出せない絶妙な旨味と塩気、まろやかさと酸味を再現。樽の味 カンタンぬか床セット800g×2¥1,880(樽の味 TEL:0738・23・2156)安中千絵さん管理栄養士、フードディレクター。ヘルシー食品の企画開発プロデュースやレシピ開発などを手がける。現在使っているぬか床は、母親の友人のお母さんから種床を分けてもらった100年以上の歴史があるもの。※『anan』2022年3月23日号より。写真・山口 明中島慶子取材、文・岡井美絹子(by anan編集部)
2022年03月19日ダンス&ボーカルグループ・FANTASTICS from EXILE TRIBEが9日、10枚目のシングル「サンタモニカ・ロリポップ」をリリースした。ボーカルの中島颯太に、同シングルの魅力とともに、個人としての目標などを聞いた。冠番組『FUN!FUN!FANTASTICS SEASON2』(日本テレビ)の主題歌に起用された「サンタモニカ・ロリポップ」は、懐かしさを感じさせつつも現代的で洗練されたシティポップサウンドと、サンタモニカの初夏のさわやかでカラフルな景色や恋愛模様を描いた歌詞が魅力。カップリングには、メンバーの佐藤大樹が声優を務めるアニメ『錆色のアーマ -黎明-』エンディング曲「Tie and Tie」、同じく佐藤が出演するドラマ『liar』(MBS/TBS)のエンディング主題歌「Turn to You」など、全4曲を収録している。――「サンタモニカ・ロリポップ」のお気に入りポイントを教えてください。「サンタモニカ・ロリポップ」は、デモをいただいたときに、ずっと聴いても飽きなかった。エンドレスで流しても飽きないというのはいい曲の証なのかなと。何度聴いてもパワーをもらえる曲にしたいという思いで僕もレコーディングに挑んだので、ずっと聴いていただきたいです。――『FUN!FUN!FANTASTICS SEASON2』の収録で印象に残っていることは?中山秀征さんの面白くて早いトークは、さすがだなと思いました。かくし芸を披露するときに最後のチャンスで決めるところもかっこよかったです。――今年は個人としてはどのような年にしたいですか?ボーカル力を高め、ボーカリストとしてガッツリかましたい年ですね。グループとしてもLDHとしても新しいエンタテインメントを届けている中で、ボーカルとしての歌唱力をしっかりつけていきたい。いろんなお仕事をさせていただくと思いますが、その中でもしっかり軸を持ち、大好きな音楽にどっぷりハマりたいなと。ピアノやギターもやって、作詞作曲にも挑戦しながら音楽の年にしたいです。――特に今年、かましたいと強く思ったきっかけを教えてください。コロナの影響で、昨年は自分の歌にしっかり集中できていない気がしましたが、色々な経験を経て、最近は自分のやりたいことや理想の歌い方が、どんどんできるようになってきたので、今が挑戦しどきかなと。この勢いでかましたいという気持ちでいます!■中島颯太1999年8月18日生まれ、大阪府出身。FANTASTICS from EXILE TRIBEのボーカル。2017年5月~12月に行われた、約3万人が参加した「VOCAL BATTLE AUDITION 5 ~夢を持った若者達へ~」に合格し、ボーカルとして加入。2018年4月~6月、メジャーデビューに向け「夢者修行FANTASTIC 9」を敢行。デビュー前にも関わらず、全国33会場78公演で約7万5000人を動員。2018年12月5日、「OVER DRIVE」でメジャーデビューした。
2022年03月18日儚くも美しい、忘れられない恋を描く中島健人主演映画『桜のような僕の恋人』より、中島さんとヒロイン役・松本穂香のオフショットが公開された。今作で中島さんは、素朴で生真面目な主人公、松本さんは明るく溌剌とした女性だが、ある日突然難病に冒されてしまうという難役に正面から向き合い、それぞれ魂のこもった芝居を刻んだ。公開されたオフショットでは、公園で2人が遊具で遊ぶカットや、松本さんが笑顔や優しい表情を見せる自然な姿が切り取られた。また元々、原作の大ファンであったという中島さんは、「役者人生の中でもっとも泣いた宝物のような脚本」「僕の人生を変えた映画」と本作について語っている。Netflix映画『桜のような僕の恋人』は3月24日(木)Netflixにて全世界独占配信。(cinemacafe.net)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-
2022年03月14日アイドルグループ・Sexy Zoneの中島健人が主演を務めるNetflix映画『桜のような僕の恋人』(2022年3月24日全世界独占配信)。このたび、中島とヒロイン・松本穂香のオフショットが公開された。2017年に発売され、泣ける恋愛小説として話題となり、さらにTikTokで人気に火が着き発行部数70万部を突破した宇山佳佑氏作の同名小説を映画化。かねてより原作ファンを公言し、本作の制作発表時には「震えるような感動と同時にずっしりと重い責任を感じました。僕の役者人生の中でもっとも泣いた宝物のような脚本です。僕の26年の人生の最高傑作にしたいと強く思っています」と熱いコメントを寄せた中島が主人公・朝倉晴人を演じ、松本が有明美咲を演じる。このたび公開されたオフショットでは、公園で中島と松本が遊具につかまり、幸せそうな視線をカメラへ向けるカットや、松本が陽光の中での笑顔や優しい瞳でこちらを見据える、オフショットでしか見ることのできない自然な表情が切り取られている。主演を務める中島は、元々原作の大ファンであり「役者人生の中でもっとも泣いた宝物のような脚本」「僕の人生を変えた映画」とまで言い切る本作。中島はトップアイドルとしてのオーラをあえて消し去って素朴で生真面目な主人公を、松本は明るく溌剌とした女性が、ある日突然“人の何十倍もの速さで老いていく”という難病に冒されてしまうという難役に正面から向き合い、それぞれ魂のこもった芝居を刻んでいる。移ろいゆく四季の中で懸命に生きる2人を、今回のオフショットのようにドラマティックに切り取った儚くも美しい世界観、そして俳優たちの真摯な芝居に胸を打つ本作。ホワイトデーを記念して、本日よりInstagramでは映画『桜のような僕の恋人』オリジナル“桜フィルター”が登場。記念すべき第1弾投稿に、中島健人×松本穂香が登場する。
2022年03月14日人生の先輩的女性をお招きし、お話を伺う「乙女談義」。3月のお客様は、ブライダルデザイナーの桂由美さん。おとぎ話好きだった少女は演劇に心をときめかせます。プロデューサーを夢見たものの、なぜブライダルに?!第2回目は、そんな桂さんの紆余曲折のお話です。実は過去に、演劇の道を志そうとしたことが。小学校を出た私は今の共立女子中学校に入学します。しかしここでも裁縫の先生に、「親の仕事を継ぐの?それにしては不器用ね!」と言われ、全然裁縫に気が向きません。そんなときに友人たちと樋口一葉の「たけくらべ」の演劇をやることになり、お話好きだった私が脚本と演出を担当。それが大好評で演劇の虜になりました。高校卒業時にはこっそり文学座研究生に応募し、合格!が、すぐに母親に見つかり、話し合いの結果「1年だけなら」となり、大学と劇団研究生の二足のわらじを履くことに。しかし同じ劇団の芥川龍之介氏のご子息・芥川比呂志さんに「今の演劇界で大事なのは知性。卒業後に戻ってきて」と言われ、1年後に大学に復学。その後私は授業を通じファッションに興味を持つのですが、あれは、“才能がないから諦めなさい”という意味だったのか、本当に知性が大事と言ってくださったのか…。どっちだったのか、今となってはわかりません(笑)。学校の先生を経て、いざブライダルの世界へ。大学で学ぶ中で、洋服づくりも学校の先生も、裁縫が上手い必要はないのかもしれない、と気が付きました。つまり私が考えた服を、私より上手に縫える人はいる。人には向き不向きがあり、自分に向いている道で頑張るべき、ということに気が付きました。それで、結果的には母の学校で先生になりました。当時2000人ほどいた生徒のうち300人から「あと1年学びたい」という希望があり、新たに特別専攻科を作り、卒業制作にウェディングドレスの課題を出したんです。しかし、生徒たちと材料を買いに町に出たものの、生地もなければ靴や手袋や下着などの小物もない。でもそりゃそうで、’60年代、結婚式を挙げた人のうちドレスを着た人は、たった3%程度、まったく根付いてなかった。その状況を見た生徒たちの、「先生がお店を開き、ドレスを着たい人を助けてあげればいいのに」という言葉から、私はブライダルの道に踏み出す勇気をもらったのかもしれません。かつら・ゆみブライダルデザイナー。1965年の創業以来、パリコレを含む世界30以上の都市でショーを開催。今年4月には日本のウェディングドレスの変遷を展示するミュージアム『YUMI KATSURA MUSEUM WAKASA』を福井県にオープン。※『anan』2022年3月16日号より。写真・中島慶子(by anan編集部)
2022年03月13日『ハケンアニメ!』のスピンオフ集『レジェンドアニメ!』について、作者の辻村深月さんにお話を聞きました。『ハケンアニメ』から『レジェンドアニメ』へ、出会った人たちが一緒に大きくしてくれた。「『ハケンアニメ!』を書き終えてから、スピンオフをいつかまた書きたいと言い続けていました。小説のご依頼が来るたびに、その機会を探っていたのですが、そうやって書いてきたものが形になって、しかも映画の公開のタイミングで送り出すことができて、とても嬉しいです」アニメ業界で働く人々の奮闘を描きanan連載時から反響を呼んだ辻村深月さんの『ハケンアニメ!』。連載スタートから10年の時を経て、実写映画版が公開されるのに先立ち、スピンオフ集『レジェンドアニメ!』がリリース。天才監督と称される王子千晴、デキるプロデューサーの有科香屋子、新人監督・斎藤瞳などハケン(覇権)を取るためにしのぎを削った面々の、ときに意外で、ときに納得しかない過去や未来のエピソードを楽しめる。「最初に書いた『九年前のクリスマス』と『夜の底の太陽』は、『ハケンアニメ!』を一緒に送り出してくれたananチームの人たちが、『こういう話が読みたい!』と言ってくれたのがきっかけになっています。私にはない発想でしたが、書いてみると『ハケンアニメ!』の裏で起こっていたとしか思えないような話になっていて。いろんな立場の人が集団でクリエイトするところに惹かれ、アニメ作りを小説の題材に選んだのですが、多くの人が関わるからこそ余白の部分がこんなにもあったことを『レジェンドアニメ!』を書きながら実感しました」王子の新人時代を描いた「音と声の冒険」は、彼の恩人であるベテラン音響監督・五條とのやり取りとともに、音響監督というアニメを見る側からは一見イメージしにくい仕事についても掘り下げている。余白から、スピンオフとしてはもちろん、独立した短編としても楽しめるほど豊かな物語を生み出すことができるのは、辻村さんのアニメに対する思いの“深化”もあるからだろう。「『ハケンアニメ!』は、ただただアニメが大好きで書いたのですが、その後、『映画ドラえもん』の脚本をやらせてもらうなど、制作に関わる機会がいくつかありました。そういった現場に行くと、私が小説で書いたことを本当にやってる!と嬉しくなって(笑)。登場人物たちの気持ちに沿って言わせていたセリフのなかにも、あとから知る感情などがいっぱいあって、なかでも音の現場により惹かれたんです。特に音全般を見る音響監督は、直接声を吹き入れたり、作曲をするわけじゃなくても、その仕事にかなり個性が出るし、経験を積まないとできない仕事なのだろうなと思いました。それを五條で描くのであれば、若いときの社会性ゼロな王子も描いてみたいと思ったのですが、私も30代から40代になったことで下の世代を見る目が変わったと思うんですよね。だから前作で五條と王子の関係をもっと書いていたら、こうはなっていなかったかもしれないし、私自身の仕事観が変わったからこそ、今回書けた人たちもたくさんいると感じています」一方、連載終了直後から辻村さんが温めてきたテーマのひとつが、今回書き下ろした「ハケンじゃないアニメ」。その期一番とされる「覇権アニメ」を争うフィールドにはいないものの、誰もが必ず通ってきたような長寿アニメを作る現場の話だ。「これも『ドラえもん』のスタッフのみなさんと会って、次に向けてバトンを渡していく姿を見られたことで、出てきた発想でした。『名探偵コナン』の元企画プロデューサーの諏訪(道彦)さんに取材を受けていただいたことも大きかったですね。『コナン』はこれまで何回も覇権を取っている作品ですし、アニメを長く続けていくことは継承なのだと感じることができました。この10年でアニメを取り巻く状況も変わってきているので、当初は瞳も王子も出てこない次世代の話を書くべきなのかなと思っていました。だけどその傍らで続いてきたものを書くことにこそ、意義を感じたんです」「ハケンじゃないアニメ」に登場するのは、『お江戸のニイ太』という30周年を迎える国民的アニメ。プロデューサーの和山は、『ニイ太』のように安定を求められる制作現場でモチベーションを保つ難しさを感じていた。そんななかOPアニメを担当することになったのが、旬の監督と目される斎藤瞳。しかし和山の過度な期待とは裏腹に、瞳は『ニイ太』をほとんど知らないことが判明。「『ハケンアニメ!』はアニメ愛の話だと、私自身も言ってきたのですが、だからといって愛を言い訳にするのもカッコ悪い。愛情とか自分の思い出などには寄りかからない仕事のしかたを、瞳を通して描いてみたかったんです。愛を押し出して仕事をするやり方ではないけれど、作品やファンに対して敬意を持っている瞳が、長く続いているアニメの現場にゲストとして加わることで、見えてくるものもあると思うのです」辻村さん自身は、愛と敬意の両方を持って仕事をする人であることを窺えるエピソードがもうひとつある。『ハケンアニメ!』は2019年に舞台化されているのだが、舞台オリジナルのキャラクターが『レジェンドアニメ!』に登場しているのだ。「私が描ききれなかったアニメーターの感情の機微などまで、原作という設計図通りに表現してくださっていたので、そのときすでに構想していた短編『次の現場へ』に彼らにも“出演”してもらいたくなって。同じように、今度は映画を通して書きたくなるものが、きっとまた出てくるんでしょうね」『ハケンアニメ!』から『レジェンドアニメ!』へ。チームで進めるアニメ制作に対し、小説の執筆は孤独な作業といえるが、辻村さんが抱いている本作の印象はちょっと違う。「自分が書いた話ではあるんですけど、取材させてもらった人が共に大きくしてくれた話なんですよね。しかも映画になることで、旅の仲間がさらに増えていく感じがあって、その人たちからもらった影響が、また原作に返ってくる。10年前、心細い気持ちで最初の取材をさせてもらったクリエイターの方たちが、今回、劇中アニメの制作に関わってくれているのも感無量です。とても幸運な小説だと思っています」辻村深月『レジェンドアニメ!』いつかの仲間がライバルになり、その逆もしかりのアニメ制作現場。おなじみのキャラクターの別の一面を楽しみつつ、再び熱い思いが湧き上がる。書き下ろしを含む6作品を収録。3月3日発売。マガジンハウス1760円辻村深月『ハケンアニメ!』アニメ業界の舞台裏を描いたお仕事小説。『レジェンドアニメ!』を読んでから再読すると、また発見が!マガジンハウス968円5月20日公開!映画『ハケンアニメ!』も待ちきれません!アニメの力を信じ、チャンスを掴んだ新人監督・斎藤瞳を吉岡里帆、彼女を振り回すプロデューサー・行城理を柄本佑、崖っぷちに立たされた天才監督・王子千晴を中村倫也、王子の才能に人生を懸けるプロデューサー・有科香屋子を尾野真千子が熱演。彼らが作る劇中アニメ『運命戦線リデルライト』と『サウンドバック 奏の石』のプロットを辻村さんが手がけ、制作にはProduction I.Gをはじめ、日本を代表するトップクリエイターが参加。声優陣も豪華!監督/吉野耕平脚本/政池洋佑出演/吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子ほか5月20日より全国公開。©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会つじむら・みづき小説家。2004年、「冷たい校舎の時は止まる」でデビュー。’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。’18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。近著に初の本格ホラーミステリー長編『闇祓』。※『anan』2022年3月9日号より。写真・土佐麻理子(辻村さん)中島慶子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年03月07日人生の先輩的女性をお招きし、お話を伺う「乙女談義」。3月のお客様は、ブライダルデザイナーの桂由美さんです。第1回目は、日本ブライダルの第一人者の、少女時代のお話から。運動と裁縫は苦手、お姫様を夢見る少女でした。私は東京の下町の小岩生まれで、太っていた母に似てぷっくりした子供だったようです。最初はぷくぷくしたところが「かわいい!」と褒められていたんですが、小学校に入ってからは体型と運動神経の悪さがコンプレックスに…。その反動から、おとぎ話やお姫様に強い憧れを抱くようになった気がしますね。友だちと外で遊ぶより、家で絵本を読みながら、決して自分には手が届かない夢のような世界に思いを馳せるのが好きでした。学年が上がるとさらなるコンプレックスが私を襲います。5年生になり裁縫の授業がスタート。実は私、今はデザイナーですが、いわゆるお裁縫が大の苦手。しかも当時母が地元で洋裁学校の校長をしていたこともあり、先生から「お母さんの後を継ぐならもっと上手にならないと、あなたが困るわよ」と言われるのが本当にイヤでイヤで…。もともと嫌いな裁縫の時間でしたが、そんなことを言われてますます大嫌いになりました(笑)。押し入れで寝ていれば空襲が避けられた?!小学校から中学校にかけての時期に、太平洋戦争が起こりました。夜、空襲警報が鳴るとみんな防空壕に逃げるんですが、私は寝ているところを起こされるのがイヤで、「押し入れで寝るから起こさないで」と言って、母親を困らせていました。いつも渋々防空壕に入ったことを覚えています。1945年の3月10日、今でいう江東区や墨田区、台東区、中央区を襲った下町大空襲がありました。翌日、学徒動員で通っていた工場に行く途中に見た街の景色は、今でも忘れられません。そこかしこにマネキンがあるように見えたのは遺体で、大きな馬の死体を見たのもとても怖かった。その年の8月15日に戦争が終わるわけですが、そのあとも食料不足、教科書がなくて勉強ができなかったりと、大変な時期がしばらく続きました。どんな道を歩んでも私はブライダルデザイナーになったと思いますが、あの戦争がなかったら、道筋や速度は違っただろう、と思います。かつら・ゆみブライダルデザイナー。1965年の創業以来、パリコレを含む世界30以上の都市でショーを開催。今年4月には日本のウェディングドレスの変遷を展示するミュージアム『YUMI KATSURA MUSEUM WAKASA』を福井県にオープン。※『anan』2022年3月9日号より。写真・中島慶子(by anan編集部)
2022年03月05日文政期、江戸の芝居小屋で起きた怪異を、鳥屋の藤九郎(ふじくろう)と元人気女形の魚之助(ととのすけ)が解き明かす『化け者心中』で、一躍脚光を浴びた蝉谷めぐ実さん。ファン待望の新刊『おんなの女房』では、一級の芸道小説でもあったデビュー作同様、芸を極めようとする者とそれを支える者の葛藤を、主に一組の夫婦を軸に描いていく。〈女より美しい“女形”〉と評される喜多村燕弥(えんや)と、歌舞伎を知らないまま燕弥に嫁いだ武家の娘・志乃。選ぶのは女形の妻としての道か、一人の女としての道か。迷い、貫く。「魚之助もそうでしたが、燕弥も舞台を降りた日常の中でもずっと、女性の姿をして女性として生きている役者です。そんな役者の女房になるというのはどういう心情や感覚なのだろうと、興味が湧いたんです」執筆のもう一つの大きな動機になったのが、歌舞伎役者の女房評判記『女意亭有噺(めいちょうばなし)』の存在だ。「前作を書くために資料を漁っているときに知った本です。『顔や性根で勝手に位付けしたりしていたのか』と面白かった。当時は女性の地位は低く、ものを言うことすら憚られていました。けれど、それに甘んじている女性ばかりではなかったのではないか、ちゃんと女性としてどう生きるかを考えて貫いた人もいたのではないか。そこを掘り下げて、私の思う“女性についてのいいところも悪いところも”全部入れようと決めて、書き進めました」志乃、寿太郎の女房・お富、理右衛門の女房・お才。本書で描かれる役者の女房たちのあり方も、性格も、根っこにある悩みも、三者三様だ。一見ウマが合わなそうな3人が、少しずつ連帯し、関係を深めていくのが読みどころ。お富やお才をめぐるいくつかの出来事は、『女意亭有噺』が下敷きになっているらしい。「全部空想で書いたら、時代小説の意味がないと思うんですね。むしろ嘘をちゃんと形にするために、史実に基づくべきところは調べて沿うようにしたい。もともと、歌舞伎の演目以上に、役者や周囲のエピソードが好きなんです。河原者(かわらもの)と呼ばれて蔑まれていた一方で、憧れの対象でもあった彼らの生き方自体が、芸談にもなっていて興味は尽きません」何よりもすばらしいのは、志乃の視点を通し、燕弥の変化までを細やかに描写している点だ。この夫婦の愛がどう昇華するのか。それを見届けるのは、読んだ人だけのお楽しみ。蝉谷めぐ実『おんなの女房』4つの章それぞれに、燕弥がそのときに挑戦する役として、歌舞伎の有名な演目に登場する姫を据え、物語の展開と重ねていくのも見事。KADOKAWA1815円せみたに・めぐみ1992年、大阪府生まれ。2020年、『化け者心中』で小説野性時代新人賞を受賞し、デビュー。同作で、’21年に日本歴史時代作家協会賞新人賞、中山義秀文学賞も受賞している。撮影:小嶋淑子※『anan』2022年3月2日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年02月27日本年1月より2年目に突入した中島健人(Sexy Zone)がMCを務める映画情報番組『中島健人の今、映画について知りたいコト。』。3月4日(金)放送の#15では来たる第94回アカデミー賞授賞式に向け、アカデミー賞の魅力や名場面をゲストとともに語り合う。その放送に先駆けてWOWOW公式YouTubeチャンネル、番組オフィシャルサイトにて、#14の放送に入らなかった貴重なエピソードが公開される。中島が一斗缶やビンなどの様々な音に挑戦し、映画音楽を体感している様子や中島の意外な作曲方法も明らかに。そして#15の予告を含むプロモーション動画も公開中だ。『中島健人の今、映画について知りたいコト。』は、ハリウッドをけん引する映画監督やクリエーター、さらに世界へ羽ばたく日本の映画監督へのインタビューや、映画制作現場の取材等を通じて、中島が知りたい“映画の今”について学ぶ月1のレギュラー情報番組。第15 回は「アカデミー賞座談会~感動&ユーモア溢れる超貴重シーンを厳選!~」と題し、映画制作者の立場からアカデミー賞授賞式を独自の視点で見つめ続けてきた大友啓史監督、アカデミー賞をおよそ40年間リアルタイムで追ってきたという映画評論家の松崎健夫さんとともに、アカデミー賞授賞式伝説の名場面をとことん語り尽くす。3月13日(日)にWOWOWで放送・配信する事前総予想番組でMCを務め、そして授賞式当日はスペシャルゲストとしてアカデミー賞を盛り上げる中島を中心にアカデミー賞フリーク3人が取り上げる過去の名場面とは、そして日本初の作品賞にノミネートを果たした『ドライブ・マイ・カー』の快挙をどう見るのか。この模様をぜひ放送・配信でチェックしてほしい。<中島健人・コメント>日本の映画人の方々は今、世界に対して同じことを皆様思われているんだなと感じます。 日本映画『ドライブ・マイ・カー』のノミネートにより、今年のアカデミー賞は今まで以上に盛り上がりを見せると思いますが、その興奮を分かち合う大友監督と松崎さんと僕の会話を是非、映画ファンだけでなく、多くの皆様に味わってほしいと思います! これを見たら、明日、あなたは映画人を目指したくなるかと。。。【番組情報】『中島健人の今、映画について知りたいコト。』#15 アカデミー賞座談会~感動&ユーモア溢れる超貴重シーンを厳選!~放送日:3月4日(金) 夜10:00 [WOWOWプライム] [WOWOWオンデマンド]MC:中島健人(Sexy Zone)ゲスト:大友啓史松崎健夫ナレーション:津田健次郎番組オフィシャルサイト: 映画公式ツイッター: @wowow_movie ()『中島健人の今、映画について知りたいコト。』公式インスタグラムアカウント: @wowow_nkeiga_official( )
2022年02月25日Sexy Zoneの中島健人が主演を務める映画『心が叫びたがってるんだ。』(17)が、dTVで配信スタートした。2015年に上映され大ヒットした同名の劇場版オリジナルアニメを実写化した同作。『君に届け』『近キョリ恋愛』などの熊澤尚人氏が監督を務めた。高校3年生の坂上拓実(中島)は、「地域ふれあい交流会」(=ふれ交)の実行委員に任命されてしまう。 一緒に任命されたのは、おしゃべりができない少女・成瀬順(芳根京子)。 彼女は幼い頃、自分の一言で、両親が離婚してしまい、それ以来誰にも心を開かなくなっていた。実行委員には拓実と順のほか、優等生の仁藤菜月(石井杏奈)、野球部の元エース・田崎大樹(寛一郎)が選ばれるのだが、二人は実は元恋人。自然消滅した後、お互いに気持ちを確認できずにいた。そして担任の思惑で、“ふれ交”の出し物はミュージカルに決定。 「ミュージカルは奇跡が起こる」という一言に、勇気を出した順は詞を書くことを決意し、さらに主役に立候補する。そんな彼女の姿に感化された拓実が曲をつけることに。順は拓実の優しさに好意を寄せるようになり、菜月は自分の思いを諦め、そして夢を追う順の姿に大樹は好意を寄せ始める――。(C)2017 映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ
2022年02月21日「赤ちゃんの誕生はどんなときも寿ぐべきことだと思われていますよね。私自身は、そんな社会の空気にずっと違和感がありました」李琴峰さんの芥川賞受賞後第一作としても注目を集める『生を祝う』。寓話的な雰囲気があった『彼岸花が咲く島』とはがらりと変わり、出産には胎児の同意が必要な〈合意出生制度〉や同性婚が法制化された近未来の日本が舞台になっている。会社員の彩華は、一つ年上の小説家・佳織と〈子どもの意思は、絶対尊重しようね〉と誓い合い、手術で得た子どもを妊娠中だ。だが、生まれてくることに同意してくれると信じていた胎児から、9か月目の〈コンファーム〉時に出生を拒否されてしまい、幸せな日々が一変する。「合意出生制度というものを、頭ではわかっていたはずの彩華ですが、実際に体を張り、胎児を育ててきた後では簡単にあきらめきれない。一方、制度ができる前に生を受けた佳織は、意思を確認されることなく生まれたことで、さまざまな傷を抱えています。〈産意〉を手放せない彩華が、子どもの意思を第一に考えようとする佳織と対立していくのは必然だと思います」〈『人から命を奪う』殺人と同じで、『人に命を押し付ける』出生強制は、絶対にやっちゃいけないこと〉であり、違反すれば刑事責任さえ問われるこの時代において、産意は、親側の厄介な欲望であり意思だ。それを肯定する彩華の姉の彩芽や、新興宗教団体の天愛会なども登場し、問題はいっそう複雑に。広く正しいとされている法や規範でさえ、常にそこから期せずしてはみ出し苦しむ人がいる社会を、李さんはリアルに描き出していくのだ。果たして、ふたりはどんな選択をするのか。彩華や佳織が楽しそうに食卓を囲み、刻一刻とお腹の中で育っていく子どもを思う場面がディテール豊かだからこそ、最後まで見届けずにはいられない。「“祝う”は“呪う”と字が似ているし、アイロニックなところがあるタイトルではあると思います。思うに、いい小説は、現代社会に対して何かしらの批評性を持っていることがとても大事。〈生を祝う〉とは本当はどういうことなのか、現実に照らし合わせながら考えてもらえるとうれしいですね」『生を祝う』同性婚や〈合意出生制度〉など人権に配慮した近未来の価値観が新たな苦悩を生み出し…。ここはユートピアなのかディストピアなのか。朝日新聞出版1760円り・ことみ1989年、台湾生まれ。作家、日中翻訳者。早稲田大学大学院修了。2021年、『彼岸花が咲く島』で芥川賞受賞。『ポラリスが降り注ぐ夜』で芸術選奨新人賞を受賞。撮影・加藤夏子(朝日新聞出版写真部)※『anan』2022年2月16日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年02月14日周囲に馴染めない人、馴染まない人。孤独な心を温めてくれる、寺地はるなさんの初短篇集『タイムマシンに乗れないぼくたち』。「一篇一篇が独立した話の短篇集を読むのがすごく好きで、自分でも書いてみたかったんです」と、寺地はるなさん。そんな希望が叶ったのが、新作作品集『タイムマシンに乗れないぼくたち』だ。「書き終えて、どれも孤独な人の話になったなと思いました。孤独や不幸って“その程度ならたいしたことない”などとランク分けされがちですが、比べる必要はないんじゃないかと感じていました」他人から理解されなかったり、疎外されている人々が登場する本作。巻頭の「コードネームは保留」は、心の中で“自分は殺し屋”などと設定を作っている女性の話。「現実に向きあって生きるのは正しいと思いますが、やり過ごす方法があってもいいかなと思うんです」表題作は古生代好きの少年が博物館でお喋りな男と出会う話だ。「子どもの頃って学校と家がすべてだった。別の世界があるんだって知る話にしようと考えました」他の短篇でも、主人公が接点のなかった相手と交流を持ったり、相手の意外な一面を知る場面が描かれる。「相手を深く知ったり親しくなったりしなくても、幸せを願うことはできる。それくらいの関係が書けたらいいなと思いました。ちょうど森川すいめいさんという精神科医の『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』という本を読んだんです。そのなかに、人間関係がわりと希薄な街の話があって。仲良しになる一歩手前の関係があるのっていいなと思ったので、その影響もあるかも」他には、見下していた隣人に対する見方が変わる話や、いつも誰かの人生の脇役的存在になる女性を主人公にした話、変人扱いされる叔父を持つ青年の話など。また、「深く息を吸って、」は自身が書いたエッセイが出発点にあったという。「中学生の頃にリヴァー・フェニックスが好きだったことを書いたら、編集者に“これで短篇を書かないか”と言われて。個人的な思いが強すぎてなかなか書けなかったんですが、“きみ”という人称を使ってやっと書けました」好きなものについてからかわれ、周囲に理解されずにいる少女に語りかける文体は、孤独を経験した人の心にも深く響くはず。自分を励まし、他人が愛おしくなる一冊だ。『タイムマシンに乗れないぼくたち』著者初の短篇集。同世代の同僚と馴染めない女性や、友達ができない少年ら孤独な人々が、ちょっとした視点の変化を迎える姿を描き出す。文藝春秋1650円てらち・はるな2014年「ビオレタ」でポプラ社小説新人賞を受賞してデビュー。’20年、若手芸術家に贈られる「咲くやこの花賞」、’21年『水を縫う』で河合隼雄物語賞受賞。著作に『ガラスの海を渡る舟』など。写真提供・読売新聞社※『anan』2022年2月9日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2022年02月09日ルールやマナーを尊び、自ら規律に依拠する人間の自己愛を、独特の筆致で描くのが遠野遥さんの小説スタイル。新刊『教育』でも、安易に共感できない主人公たちの言動が、読者の胸をざわつかせる。規律と欲望の相克から変質していく主人公を追う新感覚のディストピア。本書の舞台は、超能力の成績が校内での待遇も居心地の良さも左右する、奇妙な寄宿制の学校だ。「Perfumeの『Spending all my time』は、部屋に閉じ込められている3人が、制服のような衣装を着て、超能力の訓練をしているようなMVなんですね。そこから着想を得ました」主人公の佐藤は、ルームメイトの羽根田や、仲のいい女子の真夏、同じ翻訳部に所属する海らと、正しさや幸せを求めてサバイブしていく。だが、1日3回以上のオーガズムを推奨するこの学校では、寄宿生たちにポルノビデオを供給するし、性的な交流は盛んで、半ばオープンな部屋で行われる。透視のような超能力試験は重要科目だ。抑圧と自由がねじ曲がった彼らの日常を見届けたくて、ページを繰る手が逸る。「集団内の規則や慣例は、外から見たら驚くほど変な話も結構ありますよね。けれど『それがルールだから』と言われている空間内にいると、さしたる疑問も持たずに従ってしまったり。その滑稽さや歪みを、アンプにつなぐ感覚で増幅させています」カメラで監視され、思考能力を奪われていく状況は、あの傑作ディストピア小説にオーバーラップする。「実はジョージ・オーウェルの『1984年』は書き上げた後に読んだので、私自身驚いたくらいです」さらに、昨今のジェンダーギャップや性暴力などの女性問題を潜ませているところに独自性が際立つ。「上級の待遇を受けられるクラスには女生徒はほとんどいないとか、安全面からもあった方がいいのに階段に蹴込板がなくて下から覗き放題だとか。食堂のメニューも、主人公にはちょうどいいが女子生徒は食べ切れずに残している」スポーツ、セックス、規律、協調性…。圧倒的な「正」が「危」に転じる怖さが迫ってくる本作。そんな遠野作品から、当分目が離せない。「次回作は、30歳くらいの美容外科医と女子中学生が交互に語り手を務めて進むお話です」とおの・はるか作家。1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒。2019年、「改良」で文藝賞を受賞し、デビュー。’20年、『破局』で芥川賞を受賞。本作が受賞後第一作となる。『教育』佐藤が邦訳に取り組む「ヴェロキラプトル」で初めて作中作にも挑戦。「本筋と違う流れで書くのは気分も変わって楽しかったですね」。河出書房新社1760円※『anan』2022年2月2日号より。写真・土佐麻理子(遠野さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年01月30日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「野党」です。監視や批判は大事な役割。高い調査能力を求む。政権を運営するのは与党。野党は、その運営をしっかり監視し、暴走に歯止めをかけたり、不正や隠蔽があれば、国会という開かれた場のなかで、情報を表に出して追及、改善を求めるという大きな役割を担っています。法案は、国民にとって最善の法律にするために与野党の議員が様々な角度から意見を交わし、実際には約8割は与野党合意の上、成案しています。ですから、「野党は批判ばかりしている」という非難は批判には当たらないと思います。けれども、そう言いたくなる気持ちはわからないでもありません。2009年に自民党から民主党に政権交代する前の野党は、「消えた年金問題」や「居酒屋タクシー」(霞が関の官僚を乗せた個人タクシーの運転手が、ビール券や現金をバックし、その代わりにタクシーチケットの金額を上乗せして書いてもらっていた)、外交機密文書の開示など、様々な問題を掘り起こし、証拠を突きつけて国や与党にプレッシャーをかけていました。国会議員には、「国政調査権」といって、国政に関する問題が起きた際に、資料の要求や参考人の招致、証人喚問をする権利が与えられています。国政調査権を使いこなし、隠された真実を暴き出して改善できる力があるはずなのに、最近では問題提起のネタ元が週刊誌の記事だったりするなど、野党の独自調査の物足りなさに、世間は不満を抱えているのではないでしょうか。同じく野党の共産党は、機関紙の『しんぶん赤旗』が「安倍内閣の桜を見る会私物化」や「菅内閣の学術会議人事介入」をスクープし、ジャーナリズムの賞をとるほど監視の目を光らせており、強い地歩を固めています。野党第一党の立憲民主党の関係者に取材をすると、調査能力という点では党内でも課題を感じているとのこと。しっかりと志を持った、調査能力に長けた人材のリクルートや育成を求めたいところです。与党と野党、政治とメディア、司法や大衆社会がお互いに正当な批判をしあって、緊張関係を持ち続けることがとても大事です。夏には参議院選挙がありますから、みなさんもしっかりと与野党の動きをウォッチしましょう。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年2月2日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月28日WOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて放送・配信中の番組『中島健人の今、映画について知りたいコト。』の#13の放送に入らなかった貴重なエピソード、#14の予告を含むプロモーション動画が解禁となった。本番組は、WOWOWで放送され、ハリウッドをけん引する映画監督やクリエーター、さらに世界へ羽ばたく日本の映画監督へのインタビューや、映画制作現場の取材等を通じて、中島が知りたい“映画の今”について学ぶ月1のレギュラー情報番組。全12回の予定でスタートしたが、2022年からは放送2年目に突入している。2月4日(金)放送の#14では「物語を最大限に輝かせる~映画音楽の生み出し方~」と題し、映画音楽について学んでいく。そこで中島は『舟を編む』にて第37回日本アカデミー賞優秀音楽賞にノミネートされる等、数々の作品の音楽を手掛ける作曲家の渡邊崇と共に作曲に挑戦。以前アクション回で作成したVTRに渡邊監修の下、中島が作曲した音楽を当てていく、という内容。そして『1917 命をかけた伝令』にてスコアミキサーを務める等、ハリウッドで活躍するプロフェッショナル、宮澤伸之介にもインタビュー。さらに迫りくる第94回アカデミー賞に向け、作品賞などでのノミネートが有力視されている注目作『ドリームプラン』のレイナルド・マーカス・グリーン監督の特別インタビュー映像も。プロモーション動画は、この放送に先駆けて解禁されたもの。WOWOW公式YouTubeチャンネル、番組公式サイト( )にて、#13の放送に入らなかった貴重なエピソードが公開されている。是枝裕和監督が語る「スゴい役者たち」や「こだわり」等、対談の中で中島が創作の源に迫った様子、そして#14の予告を含むプロモーション動画は必見だ。<中島健人・コメント>この番組は、僕の夢がとことん叶う番組だ。今日、映画音楽について学んだ上でこんな事を思いました。今回、映画音楽の作曲をさせていただいたのですが、普段Sexy Zoneにいる時の感覚とは違う作曲感覚だと思いました。なので、自分のソロ曲にはないエッセンスの曲が今回の放送では、僕のアクションムービーと共に流れるのでぜひお楽しみに。今回は数々の作品を手掛けている渡邊さんにご指導、フォローしていただきながら新しい音に出会いました。パワフルな僕の音作りにも注目してください。そしてハリウッドで活躍されている宮澤さんとスピルバーグについて貴重なお話をしてきました。こうご期待です。『中島健人の今、映画について知りたいコト。』毎月第1金曜 22:00よりWOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて放送・配信(#14は2月4日(金)22:00〜)
2022年01月28日「今回は、恋愛小説を書こう、というところから始まりました。もともと片想いを書くのが好きなんです」と、奥田亜希子さん。新作長編『求めよ、さらば』は、あるカップルの物語だ。翻訳家の志織には、結婚して7年になる誠太という優しく誠実な夫がいる。唯一の悩みは、不妊治療に励んでもなかなか子どもができないこと。だがある日突然、誠太が置き手紙を残して失踪してしまう――ここまでが第1章。第2章では時が遡り、彼らの馴れ初めが明かされていく。「志織と誠太がお互いに好きになる過程では、一般的に欠点とされるところにも惹かれるようにしました。相手が自分にとっていかに特別な存在かが読者に伝わらないと、後半に説得力がなくなりますから」この恋愛過程が、なんともキュンとさせる。鍵は、惚れ薬。実は本書の出発点はそこにあったという。「以前、雑談で“惚れ薬があったら使うか”という話になったんです。使うとしたらどういう気持ちなのか、使われた側もそれを知ったらどう思うのか興味がありました」惚れ薬とまでいかなくとも、誰でもおまじないをしたり、神様に祈ったりした経験はあるはず。でも、何かを強く望む思いが必ずしも報われるとは限らない。「片想いでも不妊治療でも“求めよ、さらば与えられん”というわけにはいきませんよね。そのことがひっかかっていて、タイトルにしました」望みが叶って好きな者同士で結婚したはずの志織たち。ではなぜ、誠太は姿を消したのか。「書いているうちに、これはコミュニケーションの話でもあるな、と感じました。相手を傷つけないように気遣っていると、なかなか一歩踏み込めないことがあります。それで表面的にはうまくいっていても、何かあった時に乗り越えられる力は育ってないですよね」“対等に傷つけ合うことの価値”に気づいた、と奥田さん。「互いに相手を傷つけるかもしれない覚悟で求めないと得られないものもあると思いました。ただ、欲しいものが得られたらハッピーエンドなわけじゃない。それでようやくスタート地点に立てるのかもしれません」さて、もし惚れ薬があったら、あなたは使いますか?『求めよ、さらば』翻訳家の志織の夫・誠太は、友人たちが羨むほど理解があり誠実な男性。しかしある時、彼は置き手紙と離婚届を残して失踪した――。KADOKAWA1760円おくだ・あきこ2013年「左目に映る星」で第37回すばる文学賞を受賞しデビュー。他の著書に『ファミリー・レス』『リバース&リバース』『青春のジョーカー』『彼方のアイドル』など。※『anan』2022年1月26日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2022年01月24日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「失われた30年」です。日本は次第に貧しくなった。その自覚を持って。日本経済は、バブルが崩壊した1990年代の初めから低迷が続いており、「失われた30年」と呼ばれています。1990年と2020年のGDPを比べると、アメリカは3.5倍、中国は37倍になったのに、日本はわずか1.5倍にとどまります。平均賃金もアメリカは47.7%、イギリス44.2%、ドイツ33.7%増なのに、日本は4.4%増と、ほとんど上がっていません。日本は新自由主義のスタンスをとり、平成時代は積極的に規制緩和を行い、経済成長を企業の自由競争に任せていました。そうすることにより企業活動は活発になり、欧米諸国同様、個人の所得も次第に上がるはずでしたが、そうはなりませんでした。理由の一つは、日本が産業構造の転換に乗り遅れたことが挙げられます。この30年の間に、世界のメインプレイヤーは様変わりしました。トップはIT関連が占め、かつて勢いのあった日本の家電メーカーは軒並み力を弱めました。また、若い世代や新しい科学技術への投資が行われず、日本独自の新産業の育成がうまくいきませんでした。政治の責任と言われますが、僕は、企業が投資先を見誤った結果ではないかと思います。海外からは情報や通信産業の市場を解放してほしいという強い要望があり、規制緩和の末に、気づけば通信業界はGoogleやAppleの主戦場となり、テレビ業界はNetflixやAmazonに市場を奪われてきています。「ビッグマック指数」という、ビッグマックの価格を比較し、その国の物価や貨幣価値を測る指標があるのですが、アメリカでは日本の1.5倍以上の値段でビッグマックが売られています。アメリカは企業が成長し、国のGDPも個人の所得も上がっているので、値段を上げても売れるのです。日本は逆にデフレが続き、値段を下げないと売れず、企業の収益も上がっていません。日本が貧しい国になってきているという事実を、私たちは自覚しなくてはなりません。今年は参議院選挙があります。税金をどう使うのか、私たちの所得を上げるための政策を打ち出しているのはどの政党か。危機感を持って選挙に臨んでほしいと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年1月26日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月21日新撰組隊士・中島登が箱館戦争終結の後に静岡県・浜松で暮らした日々を描く『中島鉄砲火薬店』が、1月20日(木)から新国立劇場小劇場で開幕する。作・演出はミュージカル『刀剣乱舞』シリーズや舞台『幽☆遊☆白書』など、2.5次元舞台でヒットを生み出している伊藤栄之進。本作は2012年に劇団スーパー・エキセントリック・シアターの劇団員が立ち上げた「ブレーメンプロデュース」に書き下ろした作品で、今回が待望の再演だ。初日を前に熱気を帯びる稽古場を訪ねた。舞台は明治時代の浜松。元新撰組隊士の中島登(唐橋充)は、後妻にヨネ(福永マリカ)を迎え、その妹ヨシ(市橋恵)と共に静かに暮らしていた。道場で剣術を教える生活も落ち着き、登は先妻との間に生まれた息子で、離れて暮らしていた登一郎(小西成弥)を呼び寄せる。そんなある日、かつての仲間・大島(栗原功平)が訪れ、元新撰組隊士たちが不審な死を遂げていると切り出す……。スタジオに足を踏み入れると、稽古は登と登一郎が久しぶりの再会を果たすシーン。唐橋の飄々としつつも誠実さを醸し出すたたずまいは、登が多面的な人物であることを伝えるようだ。一方の小西も、初めは父親に鬱屈した思いを抱えるものの、次第に心を開いてゆく登一郎役にピッタリ。ところどころで見せる素直な表情が、登と登一郎が親子であることに説得力を持たせていた。一方で、登をつけ狙う甘利(田村心)と内山(松井勇歩)のシーンは、笑いも取り入れてテンポ良く進む。登と土方歳三(高木トモユキ)の対話シーンも同様だが、新撰組の史実も多く語られ、観ているうちに幕末の志士たちの“その後”が浮かび上がってくる。薬売りの石田(飯野雅彦)を含むそんな骨太な男たちに対して、甘利たちの命で動く鶴太郎(松本寛也)と亀吉(大見拓土)兄弟は、農村出の少年たちの葛藤をストレートに表現。それも当時の現実のひとつだったのだろうと思わず見入ってしまった。稽古の後半では、登と大島のやりとりや、甘利の父親との秘密など、次第にシビアなシーンが展開。歴史の転換期に自分の“道”を模索した男たちを等身大で描く……とはいえ、そこは伊藤演出のこと。シリアスな場面と共に笑いあり殺陣ありのメリハリあるストーリー運びに引き込まれているうち、取材の時間はあっという間に終了。1人ひとりの演者が丁寧に人物像を創り上げていく様子と和やかなチームワークが感じられる現場に、ますます本番が楽しみな稽古場見学となった。取材・文/佐藤さくら
2022年01月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「オミクロン株」です。ワクチンが世界に回らないと根本的解決にはならない。昨年11月、新型コロナウイルス感染症のデルタ株を凌駕する変異株が南アフリカで発見され、オミクロン株と名付けられました。新型コロナウイルスにはスパイク(突起)が多数ついていますが、オミクロン株はスパイクに30か所の変異があることがわかりました。重症化しやすいかどうかは未だ不明。しかし、世界的に急速な勢いで感染が拡大。12月21日時点でオミクロン株の感染は106か国に拡大しました。ヨーロッパでは、オミクロン株が注目される前から感染が広がっており、ドイツやフランスで過去最高の感染者数を出しています。深刻なのはイギリスで、12月22日には新規感染者が過去最多の10万6122人に。ロンドンでは、検出される新型コロナの9割がオミクロン株とみられます。岸田政権は、オミクロン株が発見された直後から、強固な水際対策をとりました。すべての国と地域からの外国人の新規入国を原則停止。また、濃厚接触が疑われる人たちに対しては、隔離の時間をきっちりとってもらい、アプリで管理。従わない場合には名前を公表すると強い姿勢を示しました。オミクロン株感染者のなかには、ワクチン接種済みの人もいますが、ワクチンには重症化を防ぐ効果があるとみなされ、欧米ではブースター(追加)接種を国民に訴え、日本も3回目の接種の開始時期を予定よりも早めました。このように、オミクロン株が急速に世界に広まったのは、ワクチンがアフリカに十分に回ってきていないというのが理由の一つです。先進国では3回目の接種が始まるなか、南アフリカのワクチン接種率は1回目がまだ約30%です。アメリカや中国は世界各国にワクチンの無償提供を行っていますが、それでも追いついていません(日本もアジア地域には無償提供済み)。先進国が経済活動を再開しようとしても、後進国で新たな変異株が広がれば、国際的な経済活動はストップしてしまいます。オミクロン株のあとにも変異株は出現し続けますから、自国だけではなく、世界的に感染を抑えるように、ワクチン格差をなくすなどの国際協調策をとらないと、根本的解決にはならないのです。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年1月19日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月15日昨年、短編集『スモールワールズ』で話題をさらった一穂ミチさんが長編『パラソルでパラシュート』を上梓した。大阪で暮らし、お笑いが好きな一穂さんらしい題材の一冊。「何年か前から漠然と、芸人さんを書きたいと思っていたんです。当事者としての芸人さんを描くのは難しいので、彼らを外側から見ている主人公にしました」大阪の企業の受付で働く29歳の柳生美雨(やない・みう)が出会ったのは、売れない芸人の矢沢亨。彼や、彼と古い一軒家に暮らす芸人仲間や、亨の相方の弓彦との交流が始まって…。「漫画の『じゃりン子チエ』が好きなんです。癖の強い人がたくさん出てきて、みんな自分勝手でクール。あの他者との距離感が私にとってすごく心地いいので、ああいう感じを自分でも書きたかった」美雨は30歳になると仕事の契約が切れるが、この先、特にやりたいこともなく、結婚願望もない。「目指すものがあって頑張るのは素晴らしいけれど、目標がないと人間として何か欠落しているように語られてしまうのは息苦しい。もうちょっと、ふらふらしたり、ゆっくり考えて決める自由みたいなものがあってもいいなと感じています」舞台で漫才をやりたいだけの亨をはじめ芸人たちの人生観もさまざま。「大会を目指す人もいれば序列をつけられるのが馴染まない人もいる。厳しい状況の中でみなさん自分の道を模索されていると思います。ただ、彼らにしてみたら、30歳になったからなんやねん、結婚せんかったらなんやねん、という感覚ですよね」亨が漫才やピンのネタを披露する場面も描かれる。これがどれも、笑いと哀愁がまじって秀逸な内容。「苦しみながら考えました(笑)。大阪の人って悲しいことでも笑いにくるんで自分を守るところがある。だから、自然とそういうニュアンスになったんだと思います」このタイトルにしたのは?「昔、鳥人間コンテストで、飛べるわけがないのに傘だけ差してぴょんと湖に飛び込んだ人を見た記憶があって。それが素敵な映像として私の中で残っています」気を楽にして、ぴょんと飛んでみよう、そんな気持ちになれる本作。「窮屈な結末にはしたくなかった」という美雨の1年間を見届けて。『パラソルでパラシュート』美雨が勤める企業は、受付で働く契約社員は30歳で退職する決まりだ。29歳の誕生日、彼女が出会ったのは売れないお笑い芸人の青年で…。講談社1760円いちほ・みち2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。昨年『スモールワールズ』が直木賞、山田風太郎賞の候補、収録された短編「ピクニック」が日本推理作家協会賞の候補となり話題に。※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2022年01月14日ミネオラに住む双子の姉妹・マーナとマイラ。これが大原櫻子さんがシス・カンパニー公演『ミネオラ・ツインズ~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~』で演じる役。マーナは、結婚こそが最上の幸せと信じて疑わない保守的で“善良”な女子高生。かたやマイラは、周りの良識なんかものともせずに自由奔放に生きる“邪悪”な問題児。ウィッグと衣装を取っ換え引っ換えしながら、真逆な性格のふたりの30数年の経過を演じていく。物事の価値観が大きく変動した時代に、思いもよらない運命をたどる双子の物語。「最初に戯曲を読んだときは、物語の軸が全然見えなくて戸惑いました。何度も読んでいくうち、ふたりの像がおぼろげに掴めたような気がしていたんですが、稽古に入ってみたら思っていたのとはどうやら違うようで…正直、まだ迷っている最中。今は真っ暗な部屋に閉じ込められていて出口が見当たらない状況です」当初はふたりの対比を明確に演じていたというが、演出の藤田俊太郎さんから「もっと普通の大原櫻子でいいんだよ」と言われたのだとか。「それってどういうことだ?って思っています。戯曲の中ではそれぞれの役の説明に極端に善良とか邪悪と書かれているので、今はとまどいながらも全力で、役として生きている感じです。ひとつ考えているのは、難しいことを考えず、言葉で説明できないことを全身のエネルギーを使って演じている女優の様が、コメディになるということなのかなと」考え方も生き方も性格も、まるで真逆な双子の置かれる状況は、時間の経過による社会や価値観の変遷によって大きく変わっていき、ふたりの人生は予想もしない方向へ。「どっちも、少し前までは赤だって話をしていたのに、次の瞬間には青の話をしているくらい感情が目まぐるしく動いていく役なんですね。戯曲のプロダクションノートに“常にホルモンの影響で興奮しているような状態で演じること”って書かれているんですが、そういう部分のことを言ってるんじゃないのかな?と説明されて、ちょっと納得したんです。ふたりは普通の人だけど普通じゃなくて、それぞれが自分の理想に向かって進めば進むほど、周りが見えなくなっちゃう感じがあるんですよね。物語的には社会問題だったり、ジェンダーの問題だったりが絡んできてシリアスではあるんですけれど、その中で生きている人たちは、ただただ必死で、その様子が笑えるのかもしれないです」発せられる言葉は、迷いや悩みではあるけれど、これまでにだって、レズビアンをカミングアウトする少女や、出世のために夫をけしかけ王殺しをさせる妻など複雑な役に扮してきた大原さんだ。どちらの役も、わかりやすい苦悩で言い訳するのではなく、役の抱える運命に対する諦観を含んだ覚悟に、自ら全身で飛び込むように演じていた。その潔い姿を見ていれば、この役もやってのけるのだろうと確信させられる。「自分でもわからないんですが、お芝居をやっていると自分の本当の姿が出てくる感じがするんです。生きているうえで、思っても口に出せない本音がありますよね。お芝居をしていても観ていても、それがえぐり出されて浄化される感じがして、私はそれが好きなのかもしれない」共演するのは、小泉今日子さんと八嶋智人さんというユーモアを持ち合わせる達者なふたり。「今回、17歳から51歳までを演じるんですが、この物語をご覧になった方が、これまでの人生にあった恥だったり隠したいことだったりを作品に垣間見て、エグいけど笑ってもらえたらなと思っています」シス・カンパニー公演『ミネオラ・ツインズ~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~』NYの郊外の町・ミネオラに暮らす双子のマーナとマイラ(大原)は、容貌は同じだが真逆な性格。1950年代から始まり、’69年、’89年と、変わりゆくふたりの姿が描かれる。1月7日(金)~31日(月)表参道・スパイラルホール作/ポーラ・ヴォーゲル翻訳/徐賀世子演出/藤田俊太郎出演/大原櫻子、八嶋智人、小泉今日子ほか全席指定1万円シス・カンパニー TEL:03・5423・5906(平日11:00~19:00)おおはら・さくらこ1996年1月10日生まれ、東京都出身。俳優として活躍する傍ら、歌手としても活動。近作に主演ドラマ『つまり好きって言いたいんだけど、』など。※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子ヘア&メイク・植木 歩(OTIE) インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2022年01月11日“婚約”してから始まる恋……。初々しさにニヤニヤが止まらない!雨隠ギドさんによるコミック『おとなりに銀河』をご紹介します。アニメ化もされた『甘々と稲妻』では、料理でつながる父娘の成長を温かく描いた雨隠ギドさん。「前作とは違うものを、と思ってラブコメになりました。だけど蓋を開けてみたら家族の要素も意外と出てきて、描きたいものってブレないんだなと思っているのですが(笑)」両親がいなくなり、幼い妹弟を養うべく、売れないながらも少女マンガ家として励む久我一郎。そんな彼のもとに、美人で仕事もできるアシスタント・五色しおりがやってくる。……と、ここまでは現実的な展開なのだが、五色さんは自称「流れ星の民の姫」だそうで、とあるハプニングでふたりは婚姻関係に。「強制的な許嫁とか、出会ってすぐに恋人になるような展開は、ラブコメのお決まりですよね。ハプニングの描き方は、実際に起こったらどうなんだろうっていう視点を持ちつつ、一方が嫌な思いをすることのないようにしたいと思っています」しかもこの婚姻関係は、五色さんにとって不都合と思える行動を久我くんがとると、体調が悪くなるなど彼に何らかの罰が下されてしまう、なかなか厄介なもの。それでもふたりは焦ることなく、誠実に愛を育んでいくのだが、その純粋さに読む側は当てられっぱなしなのだ。「『こっ恥ずかしすぎる』みたいな感想をいただくと、普通はもう少し抑えようとするのかもしれないですけど、私はギアを上げてアクセルを踏みたくなります。恥ずかしい話を描きたいんです(笑)。照れる理由ってパーソナルで、その人にとって大事な部分だったりもするので、なぜ照れてしまったのか考えてもらえたら、めちゃくちゃ嬉しいですね」一体どんなふうに想像して、ギアを上げるのかも気になるところ。「のろけ話を聞くのが好きなんです。恋愛じゃなくても、夢中になっている物事や楽しかったことを話しているときって、その人自身も魅力的に見えますよね。島から来た五色さんはほぼ全部が初体験だから、その喜びを私たちが追体験して、新鮮な気持ちになれるのだと思います」最新刊の3巻では、五色さんを連れ戻そうとする両親も登場して、これまでとは一転して不穏な空気も。「ラブコメでありがちなことを、あえてこのふたりがやったらどうなるのか、これからも“恥ずかしく”描いていきたいです。この初々しさがずっと続いたら立派ですよね(笑)」『おとなりに銀河』3婚姻契約の解除方法を探るなか、五色さんを島に呼び戻すべく両親がやってきて、久我くんとも対面!互いを思いやる気持ちに心が温まる、ラブストーリー。講談社748円©雨隠ギド/講談社あまがくれ・ぎど2007年デビュー。代表作に『甘々と稲妻』『終電にはかえします』『まぼろしにふれてよ』など。本作のほか「ゆらゆらQ」を連載中。※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年01月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新自由主義」です。国の成長には大事な過程。競争が進みすぎたことが問題。「新自由主義」とは、国がさまざまな規制を取り払い、市場に委ねて、自由に競争を促す社会のあり方、経済の思想です。ほかに「市場原理主義」「小さな政府」「民営化」「規制緩和」という言葉でも言い表されます。対になる「大きな政府」は、国が規制をかけて、国民生活を守りながら経済活動をコントロールします。究極の大きな政府は中国。高い税金を取るかわりに、国が社会保障政策をしっかり行う北欧も大きな政府です。日本もかつては大きな政府でした。鉄道や電力、石炭、通信などは国家が担ってきましたが、新しいビジネスやサービスを生み出す民間にまかせたほうがいいと、国鉄はJR、電電公社はNTTというふうに民営化が進みました。とくに小泉政権以降は規制緩和を大胆に進め、郵政民営化も実行されました。安倍政権でも新自由主義的な政策がとられました。規制緩和をし、国家戦略特区を作り、成長戦略を投入。しかし、それが一部の、政府に近い企業だけ優遇されているのではないかという批判も出ました。新自由主義では、企業は競争に勝ち抜くために徹底した合理化を求めます。やがて、人をコストとみなし、人件費は引き下げられ、稼げる人はいいけれど、稼げない人は徹底的に安く使われるようになってしまいました。企業は人を育てる余力を失い、正規雇用と非正規雇用の格差は広がる一方です。国が成長していく過程ではある時期、新自由主義は必要なのだと思います。ただ、競争が行きすぎた結果、一億総中流社会と言われた日本でも、中間層が分かれていなくなり、国の活力も奪われました。グローバル企業はますます成長し、国のコントロールとは程遠い場所に行ってしまいました。こうした問題は民主主義国家のどこでも起きており、2020年代は世界的に、行きすぎた格差をなくし中間層を取り戻そうと再分配政策に力を入れています。SDGsでは「働きがいも経済成長も」と、新自由主義的な経済の修正も目標に掲げています。実現には、私たち働き手も、問題ある労働環境には声を上げたり、同じ思いの人と連携することが大事になると思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月07日亡くなった両親が住んでいた東北の家に戻り、いまは一人暮らしをしている妙。水回りの不具合を見てもらおうと便利屋の青年、忍を呼ぶ。雑用で妙の家に呼ばれるうち、ふたりの距離は少しずつ縮まる。もっとも、ひと回りほど妙が年上で、恋愛や友情などとは程遠い。それでもふたりのささやかな連帯に希望がにじむ。木村紅美さんの『あなたに安全な人』は、そんな物語だ。「これまで書かれたことのない関係が書けていたらいいなと思います」妙と忍とが交互に語りを務める。どちらも東京近郊からのリターン組というだけでなく、他にも共通点がある。元教師の妙は夏休みに、忍はデモの警備をしているときに、それぞれ事件が起きて人が死に、「自分はその死に関わっているのではないか」という負い目を背負うことになったのだ。近所では東京からの移住者が不審な孤独死をしたばかりで、コロナ禍でのその出来事もまた、彼女たちの感情をかき乱す。「『そんなつもりはなかったけれど、もしやあのとき、自分はあの人を傷つけてしまったのではないか』という罪悪感を持ったり、『この人を傷つけたい』という衝動にからめ取られたりって、わりと誰にでもある経験のような気がします。そうした負の感情から目を逸らさず、書いていきたいと思いますね」互いの苦境や本音を打ち明け合ったりもしないため、ふたりの間に漂うのは、ただ訳ありげに思える気配だけ。それにうっすら気づきつつ、問い詰めたりしないその距離感が好ましい。実際、妙と忍の交流は、ときにユーモラスにさえ映る。そんなふうに、木村さんの小説はいつもどこか人間が本質的に持つ寂しさと滑稽さがないまぜになって進む。実は、20代のころから『楢山節考』で知られる深沢七郎が好きだと聞いて、合点がいった。「『みちのくの人形たち』という短編集が特に好きです。東北の村での間引きなど暗い因習についての物語ではあるんですが、私は、そこにむしろ生きる気力をもらったんですね。死んでいたかもしれない、生まれていなかったかもしれないと思うことで、逆に生きることを受け入れることができたというか」本書からも、そうした逆説的なたくましさをもらえる気がする。『あなたに安全な人』意味深なタイトルは、木村さん自身が好きな韓国の現代文学の影響や、安全という言葉の持つ危うさから考えついたものだとか。河出書房新社1837円きむら・くみ1976年、兵庫県生まれ。現在は岩手県盛岡市在住。2006年、「風化する女」で文學界新人賞を受賞しデビュー。著作に『まっぷたつの先生』『雪子さんの足音』などがある。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年01月07日エンタメの“今”を切り取った、男子のみの歌劇団の舞台裏。町田 粥さんによる、コミック『吉祥寺少年歌劇』をご紹介します。タイトルから「宝塚」を連想するが、こちらは男子のみの歌劇団。高倍率を突破した選ばれし少年たちが夢を追う、付属音楽学校の物語だ。「私自身、宝塚歌劇が好きで、音楽学校時代も含めたストーリーに熱いものを感じるんです。そこに男子のギムナジウム的な要素が合体したら面白いだろうなというアイデアが以前からあって。国内にいくつかある歌劇団のひとつという設定で男女を逆転させることで、創作にも幅が生まれると思いました」歌が得意な主人公の進藤瑞穂は、地元で観た吉祥寺歌劇団の公演に感動して、その勢いで入学。男役をやりたい一心でこの世界に飛び込んだものの、娘役が向いていると判定を下され、出鼻をくじかれてしまう。「時代的には減っていく考え方かもしれませんが、舞台に立つ人は特に、生まれ持ったものである程度決まってしまうシビアさがあると思うんです。10代でそういったシビアさに直面して、振り分けられたらどうなるんだろうと想像しました」そんな瑞穂と運命的に出会うのが、ある意味、彼よりもずっと早く人生を振り分けられてしまっている、主席候補の白井寿。歌舞伎の女形の役者である父を持つ白井は、いわば娘役のサラブレッド。だからこそ、娘役を男役の引き立て役としか見なしていない瑞穂のことを、冷たくあしらってしまう。「男性が演じる女性として、歌舞伎はイメージしやすいですよね。白井は昔の少女マンガの王子様みたいな華のあるキャラクターですが、彼も伝統的な歌舞伎の家系と、自分がやりたい道で葛藤を抱いています」ほかにも、オタクとしてこの世界を誰よりも敬愛しているからこそ、理想とかけ離れている自分に劣等感を抱いてしまうサワや、入学以前は自分を特別な人間と思っていたものの、才能に埋もれて苛立つカジなど、仲間たちの苦悩も立体的に描かれていく。日々の厳しい稽古や規律を重んじる集団生活を経て、少年たちは成長していくのだが、後半、新型コロナウイルスによって世の中が陥った現実を彷彿とさせる展開も。「やっぱり連載中、コロナ禍というのはずっとついて回りましたし、劇場に行きたくても行けない歯がゆさがありました。役者さんたちの気持ちを代弁するつもりはなかったけれど、胸にぽっかり穴が空いた感覚を描き留めておきたかったんです」エンタメの力を信じ、救われた経験のある人なら、きっと胸を打つフィナーレ。フィクションとリアルが溶け合う演出に、拍手を送りたい。『吉祥寺少年歌劇』男子のみで構成される「吉祥寺少年歌劇」。華やかな舞台に立つことを夢見て、音楽学校で切磋琢磨する少年たちの群像劇。一冊にドラマが詰まっている!祥伝社1012円©町田粥/祥伝社フィールコミックスまちだ・かゆ著書に『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』。『フィール・ヤング』にて「発達障害なわたしたち」が連載スタート。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2022年01月06日人生の先輩的女性をお招きし、お話を伺う「乙女談義」。美内すずえ先生の登場も今回でひと区切り。最終回となる第4回は、長期連載ゆえの時代との難しい関係、そしてヒロインと同じくらい人気のあの人のお話です。普遍性と流行、そのバランスに悩んだ結果…。私は、雑誌は時代を反映する“生き物”のような存在だと思うので、雑誌で連載されている以上、マンガも時代を取り込むべきものだと思っています。でも『ガラスの仮面』が10年続いたとき、流行を取り入れることで逆に作品が古くなると思い、10年後、20年後に面白いと思ってもらうために、時代性を一切排除することを決めました。でもどうしても抗えなかったのが、携帯電話問題(笑)。私もすごく悩みましたが、いつまでも公衆電話では、新しい読者さんは違和感があり物語に入れませんよね。結果、42巻で初めて携帯電話を描き、今はスマホも登場しています。マヤはいまだにアパートの黒電話ですが(笑)、ピンク色の公衆電話、カード式、折りたたみの携帯、そしてスマホ。改めて考えてみると、電話は本当に時代の影響を受けていますよね。なるべく違和感なくその変化を描くよう工夫はしているつもりなので、そういったところも楽しんでもらえたら嬉しいです。仇討ち以降、亜弓さんの人気は高まるばかり。『ガラスの仮面』は、ルックスは平凡ながら天才肌の北島マヤと、恵まれた環境に美しい容姿を持つ姫川亜弓、演劇を志す2人の女優の物語です。作者としてはどのキャラクターも好きで、誰を描いても楽しいのですが、どちらかというと私はマヤのボケボケした感じと重なるところがあるので、ライバルである亜弓さんは、まったく別人格のキャラにしたんです。なので、キリッと凛々しい亜弓さんを描くのはマヤを描くのとは別の楽しさがありますね。そういえば、マヤを陥れた乙部のりえに亜弓さんが仇討ちをする『カーミラの肖像』のエピソードを描いたあと、亜弓さんのファンが一気に増えてしまい、主人公であるマヤの人気を回復しなきゃ!と焦ったこともありました(笑)。最近でも、作品を読んでくれている大人に聞くと、亜弓さんの人気が高いんですよね。今を生きる人たちには、実は努力家で一生懸命生きている亜弓さんの姿勢が響くのかもしれません。みうち・すずえマンガ家。1951年生まれ、大阪府出身。’67年デビュー。代表作に『妖鬼妃伝』『ガラスの仮面』など。公式サイト「オリーブの葉っぱ」内のキャラクターインタビューは必読。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・中島慶子(by anan編集部)
2021年12月31日2021年Jリーグの覇者、川崎フロンターレのベテラン・小林悠選手と、プロ2年目で弱冠20歳の宮城天選手にインタビューしました。初めてといってもいいくらいの接近トークに最初は戸惑うふたりでしたが…。彼らの素顔とフロンターレの強さの秘密に迫ります。小林悠選手&宮城天選手が登場!14歳差、何を話す?写真左から、小林悠選手、宮城天選手。2021年シーズンのJリーグで、前季に続き連覇を達成した川崎フロンターレ(以下、フロンターレ)から、ここぞという時に決めてくれるエース・小林悠選手と、今季J1初出場にして初ゴールを決め、それが評価されて月間ゴール賞にも輝いた新星・宮城天選手による対談が実現。フロンターレのずば抜けた強さの秘密のほか、おふたりの関係性や人柄、プライベートもお話しいただきます。ーーポジションこそ違いますが、どちらも攻撃型プレーヤー。通じるものがあるかと思いきや…あれ、ちょっとぎこちなくないですか?小林僕が34歳で天は20歳。ひと回り以上も違うから、何を話題にしたらいいのか…正直、じっくり話したことないよね。(ツーショット撮影では)こんなに近づいたこともない(笑)。宮城悠さんはもう大先輩ですから、なかなか接点がないです。フロンターレって、若手というと26、27歳くらいのイメージなんですよ。で、僕はそこにも到達していなくて、まだ子どもって感じです。小林天は、ぐいぐい来るタイプじゃないから普段はどんな様子なのかよくわからないけれど、見ていて“今どきの子”というのが一番しっくりくる言葉じゃないですかね。サッカーはかなりうまくて、技術やシュート力など、20歳の頃の僕とは比べものにならないくらい、スゴいものを持っているんですよ。彼は高校卒業後プロになったけれど、大学に行っていたら、スーパースターだったと思います。宮城(照れながら)マジ嬉しいです…。小林でも、ピッチから離れると、ホントにスマホが好きだよね(笑)。きっと自分の時間を大切にするタイプなんだと思います。僕はチームメイトがいる場面では周囲の空気に合わせますが、天は関係なくしょっちゅうスマホを…マイペースだなぁと思います。宮城スマホは依存症に近いかもしれないですね(笑)。webマンガを読み始めるとどんどん次に進みたくなっちゃって。でも、見過ぎはよくないと思っています。ただ、悠さんも指摘してくれましたが、人からよくマイペースとは言われていて、誰かと一緒に何かをするのは得意ではないです。流されるのはあまり好きではない、という感覚でしょうか。ーー宮城選手は、ひょっとしてプライベートではあまりお友達がいない?宮城そんなことないですよ(笑)。橘田健人君や遠野大弥君、田邉秀斗君などは歳が近くて寮が一緒なのもあり、よく話します。また、車屋紳太郎君や大島僚太君とも、ボーリングやゲームなど趣味が同じなので盛り上がっています。悠さんがよく話している人たちは…。小林のぼり(登里享平)、長谷川(竜也)、視来(山根)とかと一緒にいることが多いかな。おいしいものを食べたり、家が近いので遠征時は車を乗り合わせて駅や空港に行ったり。でも、コロナ禍になって食事は気軽に行けなくなったよね。ストレス発散や気分転換、リラックスできるもののひとつだったのでそれはとても残念。宮城空いた時間やオフは何をしているんですか?小林テレビもYouTubeもほとんど見ないなぁ。テレビをつけたとしても、子どもがいる時はEテレだし、子どもが寝た後に奥さんとNetflixをちょっと観るくらい。でも、そもそも家族と一緒にいること自体がリラックスにはなっているね。ーー小林選手といえば、ご家族思いで有名です。小林子ども中心の生活ですね。この2年、家族と過ごす時間がより増えて、子どもの成長をじっくり見られているのは嬉しいです。いま小1の長男がサッカーを頑張っているんですよ。朝練も欠かさずしていて、僕はサッカースクールの送迎をしているんですけど、車の中でアドバイスしたり、息子の練習している姿を見たりするのがすごく好き。子どものサッカー観戦がマイブームです。我が子はもちろんですけど、僕は子どもが好きなんです。ーー優しいパパさんなんですねぇ。では、“まだ子ども”の宮城選手、どうですか、この機会に甘えてみるのも…。宮城えぇっ!えーと、悠さんのファッションが好きです。だから、お下がりがほしいです…。小林おぉ(笑)。服はめちゃめちゃあったんだけど、こないだ古着屋に出しちゃったんだよ。サイズも一緒だからあげたいけど、今はないや、ごめん。でも、天はおしゃれだよね。僕が大学の頃は高い服なんて着られなかったのにって考えたら、そうか、金がなかったんだ(笑)。宮城物を買えるくらいのお金をいただけたので、最近、服が好きになりました。悠さんや泰君(脇坂泰斗)は、大人カジュアルなコーデを上手に着こなしていて憧れます。僕もシンプルだけど上質な服を着たいんですよね。川崎フロンターレは優等生。強さの秘密は…ーーやり取りを聞いていると、お二人とも穏やかで人柄の良さを感じます。フロンターレ全体も、優等生のイメージがありますよね。小林フロンターレは優等生ってよく言われますね。Jリーガーという響きが、少し前はよく遊んでいるというイメージにつながっていたと思いますが、そう考えるとフロンターレの選手はみんなまじめだと思います。僕はコロナ禍に関係なくお酒を飲まないですし。宮城お酒が嫌いな選手が多いですよね。僕は飲んでもいい年齢ですけど、サッカーを優先して飲むのを控えていたら、そのうち嫌いになりました。悠さんもそうですけど、長い休暇中でも練習しにグラウンドに来る選手が多いんですよ。そうでもしないと、フロンターレは試合に出られないんです。上の人たちの向上心がものすごく強いから、その背中を追いかけるようになりました。悠さん個人に対しても、試合への心構えなど見習いたいことがたくさんありますね。悠さんは、浮き沈みせずいつも同じテンションでいることが大事と教えてくれたんですよ。感情も体調も波があってはいい選手とは言えないですし、悠さんは多少あったとしても修正できるんです。僕もそうならないといけないと思います。小林そう聞けただけで、もう幸せですね。こういったフロンターレならではのマインドが生まれたのは、中村憲剛さんや伊藤宏樹さんなど、かつてこのクラブを支えてくれていた方々がしっかりとされていたからだと思います。僕はベテランという立ち位置で、その伝統を守らないといけないと感じています。フロンターレってこういうチームだよと若い選手に教えていきたいですね。また、フロンターレは大卒の選手も多く、スカウト担当が実力や将来性だけじゃなく、人間性も見ているというのもあります。それに、素行が悪いというか、そういう選手は残らないんですよね。ただ、サッカーに対してはみんなまじめですが、ふざけるときは振り切る(笑)。そういうメリハリをつけられるクラブだと思います。宮城悠さんくらいの歳になって自分がどうなっているのか、全く想像がつかないです。小林もちろん俺も最初はそうだったよ。試合に出ることだけで必死だった。そこから、出るだけじゃなく貢献することもできるようになって、ようやく責任感が出た。そういうもんだよ。ーー初優勝を遂げた2017年より前は、あと一歩という成績が多かったと思います。それが、この4年間での優勝回数はなんと3回。しかも、今季は第11節からずっと首位を維持し、史上最速優勝という記録を作りました。追う立場から、追われる側へ。意識の変化は?小林初タイトルを獲った時から、一気に変わりましたね。頂点に立つ醍醐味を味わったら、もう1回、いや毎年獲りたいという選手がどんどん出て、いまのフロンターレがあるのだと思います。ーーずばり、なんでそんなに強いんですか?小林チーム力、ですね。試合に出ているメンバーの個々のレベルが高いというのもありますが、出ていない選手にも注目してほしいんですよね。それこそ鹿島戦で決めた天、湘南戦で決めた知念(慶)など、普段なかなか出場機会をもらえない選手が、腐ることなくアピールし続けた結果チャンスを掴めた。そして大事なところでチームにちゃんと貢献した。そういう場面が今季すごく多かったと思います。試合への意識の高さを感じますし、みんなが一生懸命やってきた成果が勝利につながったんだと思います。宮城僕は昨年の一年間カターレ富山でプレーしていたんですが、戻ってきて改めて、先ほども言った向上心と勝利への執着がとても強いクラブだと思いました。試合の残り時間が僅かとなっても諦めない粘り強さや、1点を守り切るタフな精神力など、段違いのレベルにあると思いますね。小林みんなの勝ちたいという気持ちが、どのクラブよりも強いんじゃないかなと感じます。ベテランも若手も刺激しあって勝利への本気度が違う。他の仕事にも通じると思いますが、もっと成長したい、上へ行きたいとみんなが貪欲に思っていますね。宮城何より鬼さん(鬼木達監督)の勝ちへのこだわりがすごいですよね。負けは絶対に許さない、そんな空気なんですよ。小林そうだね。上に立つ人がうまく牽引してくれていることも、チームが志高くひとつになれている大きな要因だよね。ーー早くも来シーズンが楽しみです。最後に、試合ではご自分のどんな部分を見てほしいですか?宮城僕は敵陣に向かってピッチの左側にいることが多いです。ドリブルだったり、縦に上がるスピードに注目してください。はやくチームの中心選手になれるよう頑張ります!小林フォワードなので、動き出しやゴール前の争い、シュートなどで勝負しています。そういったところをぜひ見ていただきたいですが、フロンターレはイケメン選手も多いんですよ。彼らを見ることも楽しみのひとつにしてもらえれば。ぜひ足を運んでください!ーー取材時、チームメイトからは「親子でしょ(笑)」とも言われていたおふたり。対談スタート時こそ遠慮し合う雰囲気でしたが、時間が経つにつれて端々から先輩と後輩の素敵な関係が築き上げられていると感じました。チームの性格や強さの秘密を知り、ますます応援したくなりましたね。来季も彼らの勇姿を目に焼き付けましょう!Information川崎フロンターレの2022年の試合はこちら。FUJIFILM SUPER CUP 20222月12日(土)13:35キックオフ川崎フロンターレ vs. 浦和レッズ(日産スタジアム)2022明治安田生命J1リーグオープニングマッチ(第 1 節)2月18日(金)川崎フロンターレ vs. FC東京写真・中島慶子 文・伊藤順子
2021年12月30日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「生活保護」です。自分の命守るため、困ったら、臆することなく利用を。生活保護は、受給条件を満たす誰もが受け取る権利を持っています。憲法によって、国は「国民の健康で文化的な最低限度の暮らしを保障しなければならない」と定められているからです。まず条件は、収入が厚生労働省の定める最低生活費よりも低いこと。金額は地域や同居家族の人数によって変わりますが、東京都内で一人暮らしなら、世帯全体の収入が月13万円、年156万円以下の場合には受給が可能になります。一般に家や車、預貯金や土地などの資産を持っている人は受けられませんし(例外あり)、世に言う「生活保護があれば働かなくても暮らせる」というのは歪んだ意見です。潤沢なお金を手当てしているわけではありませんし、贅沢は認められません。食費、光熱費、服、家具家電の購入費などの生活扶助、家賃を払うための住宅扶助ほか、医療扶助、介護扶助など、使用目的が制限されています。受給条件には、親や親族などから支援を受けられない人というのがあります。たとえば、子供の貧困対策で、子供がNPOから何かサポートを受けた場合、最低生活費が満たされ受給条件から外れたとみなされ、学費が払えず子供が大学を辞めざるを得なくなるというケースも出てきています。ですから、生活保護と子供の教育は切り離して考えるなど、課題はあるんですね。病気や怪我をして働けなくなった場合でも受給は可能です。ワーキングプアで、働いていても収入が最低生活費に満たない人は、全額ではなく足りない差額分を支給してもらえます。不正受給のニュースが広がり、生活保護には悪いイメージがついてしまいました。でも、不正受給は全体の0.4%程度。悪意なく、条件から外れていたのに気づかなかったケースも含まれます。誰しもが、いつ何が起きるかわかりません。突然、鬱になり働けなくなり、頼る先もなく暮らせなくなることもあるでしょう。「自分の頑張りが足りないんじゃないか」「自尊心が傷付けられる」などと思わずに、一時的にでも助けてもらい、生活を立て直せばいいのです。本当に追い詰められる前に、ぜひ住んでいる自治体の福祉事務所に相談してほしいと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月29日2022年から2年目を迎えることとなった『中島健人の今、映画について知りたいコト。』がリニューアル。それに伴い、MCを務める中島健人(Sexy Zone)が製作した新オープニング映像と新ビジュアルが公開された。本番組は、WOWOWで放送され、ハリウッドをけん引する映画監督やクリエーター、さらに世界へ羽ばたく日本の映画監督へのインタビューや、映画制作現場の取材等を通じて、中島が知りたい“映画の今”について学ぶ月1のレギュラー情報番組。全12回の予定でスタートしたが、最終回で中島本人から、番組の継続が発表されていた。この度、公開された新ビジュアルは以前とは打って変わって、白黒を基調としたまるで映画世界に飛び込んだかのようなシックなデザインに仕上がりになっている。2年目の第1回目となる#13の放送は、「是枝監督 独占インタビュー〜今、映画で世界と向き合うというコト〜」と題し、中島がかねてから会いたいと熱望していた是枝裕和監督との対談が実現。第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した『万引き家族』を手掛け、世界の第一線で活躍する是枝裕和監督に、中島が今、勢いづいているアジアのエンタテインメントについて切り込む。さらに、中島自らが編集し、制作した番組の新オープニングもついに公開。中島は「遂に僕が編集した映像が番組のオープニングに!衝撃ですが、とても嬉しいです!」とコメントを寄せている。どのような仕上がりになっているのか、その模様はぜひ放送・配信でチェックしてほしい。また、前回の放送に入りきらなかった未公開映像や今回の放送の予告を含む、プロモーション動画が、WOWOW公式YouTubeチャンネル、番組公式サイトにて公開されている。<中島健人・コメント>遂に僕が編集した映像が番組のオープニングに!衝撃ですが、とても嬉しいです!Sexy Zoneのライブ映像も手掛けていますが、まさかWOWOWで自分の作った映像が流れるとは思いもしませんでした。来年はさらにパワーアップの予感がします。是枝監督との時間はとても貴重な時間でした。アジアのエンタテインメントが勢いづいている状況を今、どのように考えているのかという思い切った質問もさせていただきました。是枝監督と出会えたことは俳優として大きな財産です。次お会いする時は映画の現場でお会いできるように頑張っていきたいと思います。『中島健人の今、映画について知りたいコト。』毎月第1金曜 22:00よりWOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて放送・配信(#13は1月7日(金)22:00〜)番組オフィシャルサイト: プロモーション動画:
2021年12月24日帯に書かれた「二度読み必至!」の惹句は伊達じゃない。青山美智子さんの新作『赤と青とエスキース』は、最後にぎゅぎゅっと心を掴まれる展開が待っている連作集。一枚の絵画と、愛をめぐる物語だ。絵画が生み出す「ふたり」の光景。最後に大きな感動が待つ連作集。執筆依頼がなんともユニークだ。これまで書いてきたような物語の中で場所が替わる横移動や、時間が流れる縦移動の話ではなく「モノが斜めに動く話を書きませんか」という内容だったという。「すぐに絵画が浮かびました。もともと絵は好きですし、学生の頃、美大に進学しようかと考えたこともあったんです。美術と考えるとハードルが高いけれど、絵は喫茶店にも飾ってある。そうした身近なものとして書こうと思いました。エスキースは下絵のこと。芸術も人生もどこまでが下絵でどこからが本番か分からない。それが今回の話にぴったりだと思いました」第一章の主人公はオーストラリアに1年間留学中のレイ。現地に住む日本人の青年と恋に落ちるが、帰国の日、つまり別れが迫ってきた頃、彼女は彼の知人の画家のモデルを務める。そして描かれたのが本作の裏主人公であるエスキースだ。舞台を日本に移した第二章は額縁工房の青年、第三章は元弟子と対談する漫画家、第四章では恋人と別れ50歳を迎えた輸入雑貨店で働く女性が主人公。「第一章は絵のモデル、第二章ではその絵の額縁を作る人、第三章は絵を眺める人、第四章は写真に写ったその絵を眺める人というように違うシチュエーションを考えました」どの章にも恋人同士や師匠と弟子といった2人組が登場。恋愛感情や師弟愛など、さまざまな形の“愛”が描かれる。「愛という言葉を照れくさく感じていた時期もありましたが、最近は愛って大げさなことじゃないと思うようになって。むしろ綺麗なことばかりではなくて、格好つけたり自分を偽ることもある。でも、それは対象があってはじめて生まれる人間らしい感情だということを肯定したかったんです」主人公たちの年齢はばらばらだが、自身が投影されているという。「作家って、自分を脱いでさらけ出していくタイプと、登場人物にコスプレするタイプがいると思うんですが、私は普段は後者なんです。でも今回は、今までで一番、素の私を書いた気がします。第三章の漫画家のタカシマも、第四章の茜もすごく“私”が出ていますね」ちなみにこのタカシマに、売れっ子となった元弟子が「ぼく、タカシマさんが運のいい人だなんて思ったこと、一度もないですよ」と言う場面がある。それに続く彼の台詞は、実際に青山さんが編集者に言われた言葉なのだとか。ぐっとくる内容なので、ぜひ本文でご確認を。ばらばらなエピソードが連なる先に浮かび上がるのは、とても大きな物語。読了した人ならその意味は分かるはず。このように、青山さんは視点人物を替えていく手法を得意としている。「同じものを見ていても、それぞれの頭には違う景色が浮かんでいる。地球上に78億人いるなら、78億個の物語がある。そこに興味があります。それに場所と場所、人と人って実は繋がっていたりする。それはミラクルなことではなく、多くの場合気づかないまま通り過ぎているだけ。そこを物語にするのが、自分がいちばん乗って書ける方法なんです。私はその時書けるものしか書けないので、これからも偽りのない自分を書いていきたいと思っています」青山美智子『赤と青とエスキース』留学先のメルボルンで、期間限定の条件でブーと付き合いはじめたレイ。帰国の直前、彼の知人の画家のモデルを務めるが、その時描かれた絵画がその後さまざまな場所で「ふたり」の物語を生み出す。PHP研究所1650円あおやま・みちこ大学卒業後2年間オーストラリアで生活、帰国後、雑誌編集者を経て2017年『木曜日にはココアを』で作家デビュー。今年『お探し物は図書室まで』が本屋大賞2位に入賞。※『anan』2021年12月22日号より。写真・土佐麻理子(青山さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2021年12月21日