どこにでもある石が宝物!?出典 : アスペルガー症候群のある娘がまだ幼稚園生だった頃の話です。ある日、園から帰ってきた娘のポケットがパンパンに膨らんでいました。私「ポケットに何が入ってるの?」娘「あのね、今日もとってもいい石を見つけたの!」私「石?お庭にいい石があったの?」娘「うん!鉄棒の後ろの方にね、すごくいい石がごろごろ転がってたんだよ!先生が持って帰っていいって!」自由時間に園庭でお友だちと遊ぶこともなく、ただひたすら砂場で砂を触っていた娘が、その日を境に毎日石を持って帰ってくるようになりました。なんの変哲もない、どこにでも転がっているようなただの小さな石ころです。ポケットを大切そうに撫でながら、「今日もいい石があったよ!」と話す娘の顔は今までになくキラキラとしていて、私もとっても嬉しくなりました。「あなたにとって大切なものは、もちろんママも一緒に大切にするからね!」そういって2人で家中の引き出しを探って空き瓶を見つけ、そこに娘が拾ってきた石ころを保管することにしました。来る日も来る日も、1人で園庭の隅にしゃがんで“いい石”を探す娘の姿を想像して切なくなったこともありました。でも、それが本人にとってステキな時間ならば、別にお友だちと一緒に遊ばなくてもいいか・・・・と思えるほど、娘が宝物の入った瓶を見る姿は輝いていたのです。しかし、園からお持ち帰り禁止を受けた娘は…出典 : しかし幼稚園の方から「たとえ石だとしても園の所有物を持ちかえるのは禁止します」という旨が伝えられ、娘にとっての自由時間は砂場に座って、ただ砂を触るだけのものに逆戻りしてしまいました。私「石は園の所有物だから、これからは持って帰ってはいけないことになったの」娘「え!?先生はいいって言ってくれたのに」私「先生も毎日あなたが石を持って帰ることは想像してなかったんだよ。宝探しのつもりで石を見つけて、自由時間が終わったらお庭に戻せばいいんじゃないかな?」娘「せっかくいい石を見つけても帰りにお庭に置いて帰らなければいけないのはすごく悲しいから、それなら初めから探さない!」何度か話をしてみましたが、娘の態度は頑なでした。思い返せば、お友だちと一緒に遊べなかったのも、他人から見ればどうでもいいようなものに価値を見出して集めたがるのも、アスペルガーの特性であったのだと思います。でも、当時の私には何の知識もなく、ただせっかく見つけた幸せな時間の過ごし方がダメになってしまって残念だなという強い思いがあっただけでした。所有物がダメならこれはどうだ!幼い娘がたどり着いた答え出典 : ある日、娘がまた目を輝かせて私に言いました。娘「ねえ、ママ!ポケットになにが入っていると思う?」私「えっ?パパと公園に行っていい石を見つけてきたの?」娘「違うよ!誰かのものは勝手に持って帰ったらダメなんでしょ?だからコレだったらいいでしょ?すごくステキなの!!」そういって娘がとり出したのは、道端に落ちていたラムネの包み紙。透明のセロファンで出来たその包み紙は、きれいな色が大好きな娘の心を鷲掴みにしたようでた。それ以後「ゴミは持って帰っても叱られない。道もきれいになってちょうどいい!」と色々なものを拾ってくるようになりました。あまりに不潔なものは処分しますが、それ以外の物は娘にとっての宝物ですので、大きな瓶がいっぱいになるまで集めては一緒に眺めて楽しんでいました。そのうち、幼稚園で工作をした後に床に落ちている毛糸の切れ端やおりがみの切れ端を集めて、先生の許可を得てから持ちかえるようになりました。「誰かの所有物を持ちかえってはダメ」というルールを理解すると、そのルールを厳格に守ろうとするアスペルガーらしい特性がまたここでも見えていたように思います。いくつかの空き瓶が満杯になり、箱や引き出しもいっぱいになった頃、「このままではお家がゴミ屋敷になっちゃう!」と娘と話し合うことに。そして、その段階で思い入れが薄くなっているものは写真を撮った後に思い切って処分しました。以後、「写真に残せば納得して処分できる」という図式が出来上がったようです。あちこちから集めてきた娘のお宝は、物を整理する練習にもつながると感じています。全部揃ってないと気持ち悪い!子どもの「収集癖」とどう付き合うか出典 : アスペルガー症候群に限らず、収集癖が強いお子さまがいるご家庭も少なくないと思います。私自身も、文房具が好きなのでペンは全色揃えたい、本などシリーズで出ているものはすべて揃えたいという願望があります。どうしてそのような欲が湧いてくるのかと考えてみたことがありますが、やはり「規則的なものを好む」という特性が強く影響しているような気がします。規則的なものや完璧に揃っているものを見ると安心して居心地がよいのですが、少しでも欠けていたり変則的であるものに対してはとても居心地が悪く、完璧な姿でないことにイライラしてしまうのです。いまでは小学4年生になった娘も、ひとたびシルバニアファミリーなどを収集し始めると、おもちゃ屋さんに行くたびに「すべてを手に入れたい」という思いに駆られ、お小遣いを使ってどんどん集めていきます。娘を見ていると、集めること、手に入れることを目的にしている様子です。家に帰ってパッケージを開けるだけで満足し、またおもちゃ屋さんに行くと「完璧にそろえなければ」という欲求に飲み込まれてしまっていました。出典 : そこで良い機会だと思い、娘と話し合ってみました。私「ママも同じだからよくわかるんだけど、ここにあるシルバニア、全部集めたいよね~!」娘「やっぱりそうでしょ!私もひとつ残らず自分のものにしたいの!」私「うんうん!想像するだけでワクワクするね~!!全部ここに揃ったら圧巻よね!」娘「でも、もう置き場所がないから全部は無理かも知れない」私「いい所に気がついたね!このまま集め続けたら、私たちが住む場所がなくなっちゃうよ~!お家がシルバニアに乗っ取られちゃう」娘「もっと広い家に引っ越してよ~!」私「そうできればいいんだけど、やっぱり生活のことを考えると出来ることと出来ないことがあるんだよ」娘「うーーーーん」私「お小遣いやお年玉もせっかく貯めてきたけど、今どんどんシルバニアに使ってるよね。あなたが満足するならいい事ではあると思うんだけど、全部使っちゃうと、次にお金が必要なときに一銭もない状態になっちゃうよ?」娘「うーーーーん、確かにそうだけど、まだアルバイトをして自分では稼ぐこともできないし、どうしたらいいの?」私「たとえば、『シルバニアは一ヶ月に一つだけ、800円以内』とか、きちんと自分でルールを決めて、欲しい気持ちをぐっと我慢することも大事だよ?集められないものはカタログを集めて、切り抜いて自分専用に冊子を作るとか、工夫して楽しんでみたらどうかしら?」娘「なるほど、冊子を作るのはいいね!いつでも見られると思えば安心できるし、家にあるような感じもするし!」そんなわけで、娘は今せっせと欲しいおもちゃや楽器のカタログを集め始め、挙句の果てに電化製品などのカタログもお店の方に断っていただいてくるようになりました。それを眺めることで「すべてを手に入れたい」という欲求をずいぶん抑えられるようにもなりました。もちろん収集癖自体が収まったわけではなく、今度は家にカタログが溢れるようになったわけです。でも、自分の欲求を認識した上で実現可能かどうかを冷静に判断し、工夫をして我慢をするという一連の作業ができるようになっただけでも、ずいぶん成長できたのではないかと思います。また、「すべて集めたい」という欲求を私に理解してもらえている、という部分も娘にとっては大きいようです。まず「全部集められたら夢みたい!確かにステキだよね!」とお子さまの気持ちに寄り添った上で、どこまでが実現可能かどうか話し合っていくことで、「実現不能な欲求に歯止めをかける」という練習になるかも知れません。「こんなもの集めてどうするの!?」と本音を口にしてしまう前に、ゆっくりとお子さまの宝物を一緒に眺めて、当人にとってそれがどれほど大切なものなのか聞き出してみませんか?思わぬところにお子さまの成長の種が隠れているかも知れませんよ。
2017年04月11日支援級って、実際どうなの?出典 : 「支援級って、実際どうなの?」「どんな雰囲気で、何をやってるところなの?」…と、特別支援学級という「未知の世界」が気になっているお母さんも多いかと思います。うちの長男は、発達障害に気づかずに通常学級で入学し、4年生まで過ごしました。そして、5年生になった時、自分の意思で支援級に転籍。さらに今年の4月からは、また通常級に戻る予定でいます。今まで繰り返しお伝えして来た通り、本当に支援級を巡る状況は千差万別です。これは「あくまで一例」ではありますが、長男と私が経験した「うちの」支援級ルポを、楽々かあさんこと、大場美鈴がお伝えします。うちの支援級の1日の流れ出典 : まず、朝の風景から。うちの支援級の登下校は、お母さんが付き添って歩いたり、車で送り迎えをしていたりする場合が多いです。我が家では、行けるときは登校班で歩いてゆき、不安定な時期や、行事などで心身の負担が大きな時期は、車で送って行きます。うちの学校の支援級は2クラス。身体・知的障害のあるお子さんのクラス(以下、A組)と、長男が在籍していた、主に発達障害の傾向のあるお子さんが中心となる、情緒クラス(以下、B組)に分かれています。通常級の出席番号とは違い、支援級のそれぞれの子には「専用カラー」が決められています。下駄箱やロッカーには、名前と共に、その子カラーのテープが貼られて目印になっているのです。そこに靴を入れて、クラスに向かいます。うちの支援級は、一階の保健室近くに配置されていて、普通級とはやや離れています。逆に、職員室、1年生のクラスとは同じフロアです。登校すると、子ども達はその日の予定を確認します。スケジュールボードに、それぞれの子の時間割がマグネットで並べられています。時間割はそれぞれの子で違うものになっています。教科によって支援級で過ごしたり、交流級に行ったり、運動場や音楽室に行ったりと、けっこう移動が多いです。交流級というのは、通常級のクラスでの授業・活動に参加することです。「協力学級」「親学級」などとも呼ばれています。B組在籍の子どもは、全部で6人程ですが、B組の教室に常時いるのは2〜3人。なかには1日中交流級で過ごす子もいます。A組、B組の子達が揃うのは給食の時間。机を全部くっつけて、2クラス合同で先生方も一緒に食べています。その様子は、カオスと言っても過言ではないくらい賑やかです。両クラスの最上級生である、A組の6年生の男の子は人気者。下の学年のお子さん達が慕って、おんぶをせがんだり、給食を配ってあげていたりと、微笑ましい様子も見られます。下校時刻は、それぞれの学年に準じたものになっています。上級生になるほど、6時間目の授業も増え、クラブ活動などもあります。低学年の子達が下校する6時間目には長男と先生のマンツーマンになることも多く、学習が捗るようです。チームで子ども達を見守る、先生達出典 : 支援級の担任は、A組はしっかりした女性の先生、B組はベテランの男性の先生です。そして、それぞれのクラスに副担任の先生がつきます。介助員さんも、両クラス合わせて常時2~3名が学校にいる感じで、主に身体介助の必要なお子さんのお世話や、交流級に行っている子の付き添いなどをして下さっています。子ども1人当たりの大人の数が多く、チームで手厚く見守って頂けます。とはいえ、クラスに不安定になっているお子さんがいる時には、複数の先生がその子にかかりきりになる状況などもありました。そして、支援級の担任の先生は、前回の記事でもお伝えしましたが、必ずしも、支援に詳しいとは限りません。長男のクラスの担任の先生は定年間近の大ベテランの先生でしたが、4月の時点では支援について、ほとんど何もご存知ではありませんでした。ですが、「お母さん達のほうがお詳しいでしょうから…」と、親の話を一人ひとり、謙虚に丁寧に聴いて下さり、私は本当に頭の下がる思いでした。その姿を見て、私は「あ、大丈夫だな」と思いました。先生は多少のことには動じないタイプで、個性の強い子ども達に忍耐強くつき合って下さり、長男も信頼している様子で、私は安心して見ていることができました。知識・経験以前に、先生自身が安定していること、子どもと基本的な信頼関係が築けることが、私はまず必要なように思います。そして、その子に合わせたり、親の話に耳を傾けてくれる姿勢があれば、例え支援に対する知識・経験が十分ではなくとも、次第に「プロ」になって下さるように思えます。気になる学習内容は…?出典 : うちの支援級の学習内容は、その子の進度に合わせたプリント学習です。プリントは本当にオーソドックスな問題を、教科書の順に添ってひたすら取り組むような形です。私は支援の本にあるような手作り教具やICT機器などをジャンジャン使って、体感的な授業がそれぞれの子に行われる様子を夢見ていたので、正直、やや肩すかしでした。それでも、通常級の一斉授業のスピードについていけず、ノートも取らずにぼーっと過ごしていた時に比べれば、私にはずっと有意義な時間のように感じられました。算数は、長男がつまづいている九九や、筆算の手順など、何学年も前のところから戻ってスタートし、少人数の環境の中、自分のペースでじっくり取り組んでいました。国語は、学習内容はほぼ理解できるものの、漢字がどうしても出て来ないので、学習補助用のiPadを持ち込んで辞書アプリで調べながら進めました。ただ慣れて来ると、プリント中心の学習はつまらなくなったのか、苦手科目以外のプリントに落書きが増えてきました。その時は先生に相談して、もう少し学習内容を調整して頂けるようお願いをしました。課題のレベルは「大体できるけど、定着してないこと」から「やや難しいけれど、なんとかできそうなこと」くらいが、その子にちょうど良い学習レベルだと思います。長男は「やさし過ぎる」「難し過ぎる」ものは、どちらも集中できないようです。長男の場合は、パソコンなど興味の強い科目から交流級で参加し始め、体育や図工などの実技教科、2学期には理科・社会も…というように、長男の様子をみながらこまめに連携し、徐々に交流級を増やして頂きました。そして算数もマイペースにコツコツとプリントに取り組み続けた結果、学年相応まで進めることができ、3学期には、全科目交流級での授業になりました。通常級でできてしまった大きな段差を、支援級で長男自身のステップで徐々に上がっていったことにより、学習への自信がついたのです。異年齢・多種多様!支援級の子ども同士の様子は…?Upload By 楽々かあさん休み時間、B組(発達障害の傾向のあるお子さんが中心となるクラス)の男の子達は、手作りカードゲームなどをして楽しく遊んでいました。時折、通常級の次男も、支援級に顔を出して、一緒に遊んでいたようです。次男曰く「エアコン、効いてるんだよね~」とのこと。体温調節が身体の機能的に苦手なお子さんもいるため、うちの両支援級はエアコンが完備されています。転籍前、精神面の凸凹差の大きな長男は、通常級の同年齢のお子さん達と、やや話が合わないようでもありました。でも、異年齢で多種多様なお子さんの集まる支援級では、年下のお子さんと気が合ったり、年配の先生方とたくさん雑談できるので気が楽だったようです。とはいえ、B組の子同士の関係は、仲のいいときはすごく良いけど、ちょっとしたきっかけで大げんかするという、ジェットコースター式。気持ちを言葉で伝えたり、妥協することが苦手な子が多いため、実際の所、衝突事故も多かったです。でも、その中で長男は、「ゆずってあげる」「合わせてあげる」ことの大切さに少しずつ気づけたようにも思います。また、B組では長男は一番年長。クラスのお子さん達をまとめたり、お手本になる役割も与えられました。それよって学校での「居場所」ができたようです。支援級で過ごしたことは、長男の心の成長にも大きなプラスになったように思います。支援級に移ったことを、通常級の子たちはどう受け止める…?出典 : 交流級に行くことで、支援級と普通級を行き来していた長男は、通常級の先生の目から見てもさほど違和感なく溶け込んでいたようです。また、支援級にいても、運動会などの行事では今までクラスメイトだった通常級の子達と一緒でした。運動会の組み体操も林間学校での野外活動も、支援級の先生方に見守られながら、不安に思うことをひとつひとつクリアしながら参加しました。少しだけハードルを下げたり、大人が見守ってあげたりすることで、皆と一緒にできることはたくさんあると思います。長男が支援級に移った時は、それまでと態度が変わった子もいました。長男に対して以前より距離を置く子もいれば、かえって優しくなった子もいるし、何も変わらない子もいました。でもさまざまな機会を通して、一緒に過ごすことで、普通級の子達も支援級の子たちに慣れていきます。多感な年頃の子達の間には、お互いに取り扱いが難しい面も少なくありません。さらに、空気を読めなかったり、集団の中で目立つ行動を取ってしまう長男にとって、コミュニケーションのハードルが高いであろうと思う部分は今でもあります。それでも長男は、6年生に進級したら、居心地良さそうにしていた支援級を卒業して、皆と同じクラスに戻ると言います。私は、支援級に転籍したときのように、長男に通常級の良い点、そうでない点の両方を伝えましたが、今回も長男の決意は変わりませんでした。そこには、好奇心の強い彼にとって今の成長に必要な刺激があるのかもしれません。また、合理的に物事を判断する長男にとって、考えられるデメリットを上回る何かを、今は感じているのかもしれません。子どもの成長と学び方は、一律一様ではないのだから…。ここまで3回に渡り、私達親子の実際の体験から、支援級と通常級の間にある選択肢、支援級を検討する際の判断のポイント、そして、うちの支援級の実際の様子をお伝えして来ました。支援級は本当に千差万別で、私には「うちの」支援級が標準的かどうかも分かりません。でも、具体的な情報が開かれてゆくことで、もっと支援級が身近で気軽に感じられる場所になってほしい、と私は願っています。また、支援級と通常級、それぞれにメリット・デメリットがあり、私にはどちらがいいとも言えません。でも、通常級にいる子達にとっても、長男が5年生を過ごした支援級を「別世界」と感じてるわけではないと感じています。そして、一つだけ確かなことは、日々成長する子どもたちによって、その個性の発達のスピードやその子に合った学び方は、一律一様ではない、ということです。これは長男の今までの育ち方と、興味関心のあり方を見守って来た私が、実感として思うことです。柔軟に、臨機応変に、その子に合った学び方が、どんなお子さんにも安定して提供される日が、なるべく早く来ることを、同時代を生きる子を持つ一母親として、私は願ってやみません。Upload By 楽々かあさん大場美鈴(著), 汐見稔幸(監修), 『発達障害&グレーゾーンの3兄妹を育てる母のどんな子もぐんぐん伸びる120の子育て法』ポプラ社, 2017年
2017年04月10日発達障害の娘と息子にとって、映画館は恐怖の館!?出典 : わが家には自閉症スペクトラムと診断された9歳の娘と6歳の息子がいます。まだ発達障害の疑いすら持っていなかった頃、娘の幼稚園のお友達に誘われて「シュガーラッシュ」という映画を観に行ったことがありました。初めての映画館でしたが、子ども向けの映画だし、お友達も一緒だからきっと楽しめるだろうなぁと軽い気持ちで出かけたのですが…結果は大惨敗!我が家の子どもたちは、まず映画が始まる前のCMの大音量で固まってしまいます。その間に本編が始まり、暗闇に恐怖を感じたかと思うと、今度はめくるめく色と音の洪水に翻弄されます。全身ガチガチに力が入った状態で何とか座席に座り続けたものの、子どもたちは映画が終わると同時に私にしがみつき、静かに泣いていました。それ以来、子どもたちにとって映画館というのは「恐怖の館」でしかありません。時々お友達に「観に行かない?」と誘ってもらっても、首を横に振って黙り込むばかりでした。しかし、映画を観ること自体が嫌いなわけではないのです。家でDVDを借りて来て、安心して過ごせる家で部屋を明るくし、いろんな映画を観て過ごしてきました。映画館であれほど泣いていた「シュガーラッシュ」も、今ではDVDを購入して何度も観るほどお気に入りの映画となっています。「子どもが大きくなったら、一緒に映画館で映画を観たいなぁ」と漠然とした夢を持っていた私ですが、別に映画館に行けなくても、家で楽しめれば十分だと思っていたのですが...どうしても映画館に行きたい!子どもたちが自分で乗り越えると決めた壁出典 : この春、『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』という映画が公開されました。我が家の子どもたちはドラえもんが大好き。それでも昨年公開された『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』は、映画館への恐怖に打ち勝つことが出来ませんでした。DVDが発売されるのを待ちに待って、家で何度も何度も繰り返し鑑賞したのです。しかし今年は、「DVDが発売される秋まで待てる気がしない!映画館に観に行きたい!」と頻繁に言うようになりました。これは大きな成長の証。映画館で映画を楽しむために払う犠牲が大きすぎることは、子どもたち自身もよく分かっています。その上で、どうしても行ってみたい!という気持ちが湧いてきたお陰で、苦手なことに挑戦するチャンスがやって来たのです。さらにこれは、親の方から「頑張ってみなさい」と声掛けをされたのではなく、子どもたちが自ら挑戦すると決めたことです。強いストレスを感じると出やすくなる娘のチック症状にも変化はなく、自分から進んであれこれ対策を練って楽しみにしています。子どもたちが考えた対策は以下の3つです。・ 大きな音が出ると覚悟しておく・ 光が眩しい時は目を閉じて音だけ聞く・ 暗くなっても怖い人は絶対に来ないと念じるこれに加えて私から、・怖い!危ない!もうダメ!と思っても、『きっとハッピーエンドだから大丈夫』って自分に言い聞かせよう・怖くなったらいつでもママの手を握っていい・席を立ちたくなったら、いつでも一緒に退席するということも伝えました。こんな準備を進めながら、とうとう映画を見に行く日がやってきました。どちらか1人が退席する可能性を考慮して、主人にも一緒に来てもらいます。準備は万端、いざ家族で映画館へ!その結果は…出典 : ただでさえ人混みが苦手な子どもたち。負担を少しでも軽くするために、春休みに入る前の平日に映画鑑賞に出かけると、とても空いていて座席も選び放題でした。発達障害があるお子さまの映画デビューを考えていらっしゃる方の中で、幼稚園や小学校を休むことにあまり抵抗のない方は、長期休暇中ではない平日の朝かお昼(お子さまが疲れていらっしゃらない時間帯)にチャレンジされても良いかも知れませんね。前後のお客様から離れた席を選択すれば、盛り上がったところで少し声を上げてしまったりしても、映画の大音響にかき消されます。あまり迷惑にはならないはずですし、退席もしやすいと思います。緊張と不安と喜びで始まる前からテンションがおかしかった子どもたち。さて、最後まで映画を見られるのでしょうか…?鑑賞中、息子はずっと私の手をすごい力で握り締めていました。娘もずっと張りつめていたのでしょう。誰かのセリフだけが劇場の左右からドーンと聞こえてくる演出があるのですが、驚いてびくりと肩を震わせ、緊張の糸が切れたように私にもたれかかっていました。ストーリー自体はとても楽しめたようです。ただ覚悟はしていたとはいえ、やはり心身に及ぼされる影響は強かったように見えました。二人ともぐったりとして機嫌が悪くなり、私とも目を合わせずに下を向いて歩き、自分の殻に閉じこもっしまいました。実は夕方から習い事の予定があったのですが、とても出掛けて行けるような状態ではなく、お休みすることにしました。子どもたちが、自分自身の成長を振り返るいい機会に出典 : を待たずに映画が観れたことを考えると、また来年も観に行きたい!でも、こんなに疲れるなら正直なところ、もう二度と映画館には行きたくない…。そんな相反する思いが二人にはあるようです。今のところ、「また来年も挑戦してみる」と言っていますので、その際には・ 一日の予定は映画だけにして、帰宅後にしっかり心を回復させる・ 目の前がスクリーンでいっぱいになると刺激が強すぎるので、少し後ろの方の座席を選択する・ タオルやぬいぐるみなどの安心グッズを持ち込んで、緊張を緩和させるなどの対策を取ろうと話し合っています。子どもは急には成長しません。ですが、一年に一度「映画館に挑戦してみる」というミッションをこなすことで、「最初は泣いていたのにね」「去年はこうだったのにね」と子ども自身も、自分の成長を確かめられるいい機会になるのではないかと思います。親が「やりなさい」と押し付けるのではなく、子ども自身の「やりたい」をサポートする形で、親子で一緒に成長し楽しめるものが少しずつ増えていくといいですね。
2017年04月04日発達障害の息子の天敵…それは「病院」出典 : もうすぐ小学生になる長男は大の病院ギライ。風邪で「きょうは病院に行こう」と伝えただけで大パニックを起こします。ようやく病院に連れて行っても、ロビーでは大暴れ。「順番を飛ばしてください」とお願いし続け、気づけば最初に呼ばれてから1時間経っていることもザラでした。そして診察室でも脱走を繰り返し、なかなか指示に従えず時間を取り、しまいには先生に叱られてしまうことも。長男が病院を嫌う理由に「押さえつけられるから」というものがあるようです。ただ、暴れる長男を押さえなくては処置ができない。押さえられるから更に暴れるという負のスパイラル。長男も辛いが、私も辛い。そしていつしか、ちょっとやそっとでは病院には行かなくなりました。ついに来てしまった…!「予防接種のお知らせ」出典 : 幸い、通院が必要なほどの病気にかかることもなく、最後に病院に行ってから数ヶ月が経ったときのこと。区からある通知が来ました。【予防接種のお知らせ】年度末までに受けなければいけない予防接種があるというのです。ついにきてしまったか…そう思いましたが、こればかりは仕方ありません。それから時々、「◯◯くん、今度病院で注射をしに行こうね。」と注射を匂わせる会話をしてみるものの、「いやだ!!びょういんはいかない!ちゅうしゃはしない!!」と絶叫…。予想はしていましたが、「病院にはあした電話しよう」「やっぱり週明けにしよう」と予約すらためらってしまうのでした。とは言え、期日は刻一刻と迫っています。主人にも同伴をお願いできる日に予約をとることにしました。恥ずかしながらそのときの私には、「夫婦で長男の両脇を羽交い締めにして、泣き叫ぶ長男を”押さえ込む”」という方法しか思いつかなかったのです。予防接種の前日。泣かれることを覚悟で長男に注射のことを伝えると、思いもよらぬ言葉が出典 : いよいよ明日は予防接種。「いやだー!いかない!ちゅうしゃはしない!!!」…と毎度のごとく言われることを覚悟しながらも、私は長男に伝えました。「明日は病院で注射をするんだよ。病気にならないように、元気でいられるために注射するんだよ。」すると、長男は小さい声でこう言ったのです。「なかないようにする。」私はこれまで長男に、「泣くことは恥ずかしい」とか「格好悪い」「やめなさい」などと言ったことは一度もありません。彼が「なかないようにする」と言った背景に何があるのかはわかりませんでしたが、驚きと頼もしさで涙が出る思いでした。いよいよXデー。さて、息子の様子は…?出典 : いざ予防接種へ!息子が暴れても大丈夫なように、動きやすい服装とコンパクトな荷物で出かけます。私「今日は何をする日?」長男「びょういんいって、ちゅうしゃ」意外や意外、パニックを起こすことなく答える長男。病院に着いてからも、私「ドキドキしてるんだね。一人で行く?抱っこでいく?」長男「だっこしない、ひとりでいく」と落ち着いた様子でした。私「どこに注射するの?」長男「(腕をまくって)ここにする」そんなやりとりでできるだけ見通しをつけ、自分の言葉で次の行動を宣言してもらいます。そしてついに「◯◯さ〜〜ん、診察室へ」と、名前が呼ばれました。出典 : 長男は診察室に入るや否や、「パパとママはそとにいて」と私たちの入室を拒みました。押さえられる予感がしたのでしょう。三歩進んでは二歩下がりながらも、長男はひとりで先生の前の椅子に座りました。ところが両サイドを固めるナースさんが腕を押さえようとした瞬間、「いやだ!!やめろ!!あっちいへいけ!!」と払いのけました。これはいよいよマズい予感…やっぱり大暴れしちゃうかな?ヒヤヒヤしながらも、私と夫は遠巻きに見つめていました。そのとき先生がこうおっしゃいました。「わかったわ。先生が一人で注射します。誰も押さえない。代わりに、あなたじっとしててよ。先生、あなたを信じるわ。」そのあと、なんと長男は本当に少しも動かずに、自分でしっかりと椅子に座り、予防接種を受けたのです。一滴の涙もこぼさずに。子どもはいつの間にか成長している。「信じる」「待つ」という選択を大切にしたい。出典 : もちろん、毎回このようにうまく行くことばかりではないと思います。病院が混んでいたら、このようにじっくりと対応していただくのも難しかったかもしれません。何より、私がついつい周囲の目を気にして、長男のタイミングを「待つ」ことができなかったでしょう。それでも今回の注射のあと、長男はとっても嬉しそうにナースさんや先生方、事務の方全員に挨拶をしていました。「嬉しいね、今嬉しいんだね」と、先生もナースさんもみんなが長男の姿を喜んでくれました。今回の一件で、私が知っている姿が子どもの全てではないこと、子どもは親も知らぬ間に小さな胸の中に自分のポリシーを育てているということを思い知りました。親はついつい子どもの考えや行動を「それは無理だ」と先回りしてしまいがちです。でも「なかないようにする」と言った彼の言葉を、気持ちをもっと信じよう。大切にしよう。そう思えたのでした。反省とともに、小学校進学へ向けてまた新しい希望が見えた気がしました。
2017年04月03日学校に行かない息子についイライラ…思い切ってこう宣言!出典 : 我が家の息子が不登校になり、約1年半になります。学校に行かなくなったばかりのころは、その事実を受け入れることができたものの、「好きなことばかりやって過ごしている」「勉強させなきゃ…学校に行ってる子たちより遅れちゃう」「進路は?受験はどうなるの?!」などなどやはり不安だらけでした。一方で息子のほうはというと、合わない環境で過ごすストレスから解放され、悠々と生活しています。そんな息子を見るとどうしてもイライラしてしまうこともありました。そんな我が家がその後どうしたのかと言うと…私はある日息子に、「もう勉強もやらなくてもいい!ネットやパソコン使用、ゲームの制限もぜーんぶもう無し!とにかく好きな事を好きなだけやっていい!ただ、ご飯はちゃんと食べて、少しは眠ること。あと、私やパパ、他の身近な人の誘いにはとりあえず乗って外へ出てみること!」と選手宣誓の如く、ハッキリと宣言したのです。理由の1つは、家事や他の仕事の合間に、息子の勉強やその答え合せをしたり、「これだけ勉強したから〇分パソコンやっていいよ」と時間を計測したり、終了時間を告げては「まだやりたい」「もうおしまい」を押し問答を繰り返したり…そんなやり取りに疲れてしまったこと。そして2つ目の理由は、息子を思いっきり自由にさせる不安より、「こうすると息子はどう変化するのか?」という好奇心とワクワク感の方が私の中で勝っていたことです。「息子本人のペースに賭けてみよう」という気持ちが私の中で生まれたのでした。宣言のあと、息子の生活に変化が…出典 : そんな生活を始めると、息子は私や主治医が驚くほど落ち着きました。かなり酷かった噛み癖も癇癪もいつの間にかほぼ消えたのです。大げさかもしれませんが、やっと「本来の息子に戻った」という気がしました。フリースクールに週に2日通うようになり、自分より年齢が上の高校生たちと大好な音楽の勉強に打ち込んでいます。他の習いごとでも、いろいろな年齢の友だちが増えたようでとても楽しそうです。Skypeなどでコミュニケーションをとることも多いのですが、息子なりに考えなかなか上手く出来ているようです。案の定、ゲームには長時間没頭していましたが…「いくら大好きなゲームでも長時間続けるのは飽きることもあるし、それなりにキツイことだ」ということも身をもって体験したようです。周りに言われなくても、本人なりに気分転換や別のことを間に入れる工夫もできるようになりました。私にとっても、息子が「いくら周りが説明したところで、本人が納得しないとほとんどのことは聞かないタイプ」ということを再確認できた出来事でした。また、息子は日々興味があることに対して、途中で投げ出すことなく自分一人で長時間パソコンに向かい黙々と解決・達成しようと没頭しています。その姿を見て、息子の学び方が基礎から積み上げていくタイプではなく、最終的な目標や目的に惹かれてこそ、そこから掘り下げていくタイプなのだと気づかされました。好きなことに対する熱量を目の当たりにし、私は「息子にとっての学びとは一体なんなんだろう」ということを深く考えさせられたのです。みんなとは違う一歩を踏み出すのは怖い。だからこそ嬉しかった、息子の一言出典 : こんな選択をしてみたものの、私自身は、ごく一般的に「学校へ行く」という経験しかしていません。それ以外の選択など考えたこともありませんでした。やはり最初は、「学校へ行かない、しかも好きに過ごすなんて本当に許されることなのか?」「あちこちから批判されるのでは…」と、世間の一般的なレールから一歩踏み外すのが怖かったです。それでも息子の不登校を受け入れた今、息子にとっての幸せとは?経験すべき試練とは?乗り越えるべきものとは?と純粋に考えた時、今の方向以外考えられなくなっていました。先日息子がこんなことを言いました。「あー、俺、変人で良かったー!」自分がいかに幸せなのかを噛み締めるように言ったのです。話を聞くと、周りの友達の愚痴や悩みを知り、自分のような生き方やそれを認める私のような親は珍しいと感じたようでした。さらに息子は、「自分と同じような境遇の友だちが、奇異な目で見られないためにはどうすればいいのか?」「自分が大人になってから、自分たちのような選択が当たり前になるためにできることは何か?」ということまで考え始めたようです。とても頼もしく思えました。息子にとっての幸せを考え抜いた選択。親がこれから出来ることはなんだろう出典 : もちろん進路や就職など、心配なことはまだまだあります。しかしその分、息子の今の生活を大事にしつつとれる進路には何があるのか考え、動いています。本人とも、「自分自身の強みは何か?」「これからどう生きたいか?」また「君の選んだ道は自由な分、厳しさもあるから正直選択肢はこれとこれだけになりそうだよ。そういう事も頭に入れて置いてね」など、具体的に日々話し合っています。息子の様子を見ていると、今は「何とかなるかも」と思えるようにもなってきました。今でも息子のこの生活に、苦言をいただくことも少なからずあります。それもまた正論でもあることはよく分かっていますし、以前の私だってそう思ったと思います。ですが今は、そんな声は聞こえないふりをして、振り払って目の前の息子を支えるべく自分に喝を入れて踏ん張っています。周りからの声に心身を消耗するのも事実です。もっともっと味方になってくれる方や、説得力のある後ろ盾がどうしても欲しくなってしまいます。そんな中で私にできることは、・息子のような生き方も「あり」なんだと、「一大人として」認め続けること・「生き方は人それぞれで当たり前」という世の中に一歩近づけるための一員になることなのかなという気がしています。
2017年04月02日難病とは?出典 : 難病とは、原因がわからず、治療法が確立していない上に、患者数が少ない病気の総称です。病気自体の認知度が低いものが多く、周りからの理解を得るのが難しいこともあります。世間では、治すのが難しい病気や症状が重い病気などを総称して難病と呼ぶことがあります。一つひとつの病気を見てみると、原因や症状もバラバラです。国は「難病の患者に対する医療等に関する法律」において、難病の定義に4つの要素を重視しています。難病(発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるものをいう。以下同じ。)(引用:『難病の患者に対する医療等に関する法律』)上記の4つの要素を満たす疾患の調査研究・患者支援を推進することが明記されています。それぞれの病気に対してではなく、上記の項目を満たすものすべてを難病と捉えて、支援制度の整備や新薬の研究などが進められています。国が「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づいて、認定した難病を「指定難病」と呼びます。患者は、「指定難病」であることを各都道府県に申請すると、特定医療費として医療費助成を受けることができます。「指定難病」の認定基準は以下の通りです。ー指定難病ー難病のうち、以下の要件の全てを満たすものを、患者の置かれている状況からみて良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、厚生科学審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定○患者数が本邦において(注)に達しないこと○客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)が確立していること(注)人口の0,1%程度以下であることを厚生労働省令において規定している。(引用:第14回指定難病検討委員会資料参考資料2 指定難病の要件について|厚生労働省)指定難病の定義の中では、診断基準があるかどうかが重要になります。病気によっては、明確な診断基準を持つことが難しい場合もあるので、医師によって診断が分かれることも起こり得てしまいます。診断されること自体が難しい疾患があることを考えると、正しい診断による疾患の早期発見は難病支援の重要なポイントになります。今回は、国が定める「指定難病」を中心に、難病の種類や支援とサポートをまとめていきたいと思います。平成29年度4月からは、330疾患が「指定難病」となりました。その「指定難病」には15種類のカテゴリがあります。症状が、身体のどの個所に現れるのかによってカテゴリ分けが行われています。具体的な病名や症状は難病情報センターの以下のリンクから見ることができます。難病情報センター|病気の解説「指定難病」の認定基準では、患者数が人口の0.1%程度以下となっています。この0.1%程度を具体的な日本の人口で考えると約12.7万人になります。パーキンソン病のように患者数が10万人以上の疾患もあれば、同じ指定難病でも患者数が10人以下の疾患もあります。また、同じ「指定難病」でも、抱える悩みや必要になるサポートは疾患ごとに異なります。患者数に差はありますが、一度指定難病に認定されることで受けられる支援の幅は広がります。「指定難病」として受けられる支援制度を知ることで、その他の医療費給や福祉サポートが行いやすくなるはずです。参考パーキンソン病とは? | 絵で見る脳と神経の病気 | 東海大学病院脳神経外科指定難病の支援制度出典 : 難病に関する支援制度の方針は、昭和47年に定められた難病対策要綱に基づき決められています。国が難病に関する支援として示している方針は以下の3つです。(1) 調査研究の推進(2) 医療施設の整備(3) 医療費の自己負担の解消(引用:難病とは?||難病情報センター)難病治療においては、高度な医療機関や高額な薬の使用によって医療費が高額になってしまうことがあります。そこで、患者が負担している高額な医療費を軽減するために難病医療費助成制度というものあります。指定難病の患者に対して医療費が助成される制度です。平成27年の制度改定により、多くの難病を抱える方が難病医療費助成制度を利用できるようになりました。この難病医療費助成制度とは、どのような受給者証制度なのでしょうか?この制度を利用することで、患者が負担する医療費は一定になります。制度改正によって、自己負担割合は3割から2割に引き下げられました。この負担金額は、世帯の所得によって決められています。さらに、ここで助成される医療費は、受診した複数の医療機関などの自己負担をすべて合算した上で適用されます。詳しくは下のリンクをご覧ください。Upload By 発達障害のキホン所得によって負担金額は異なりますが、医療費の負担額は一定金額に収めることが可能になっています。治療法や薬の処方などで、保険外になってしまう難病治療において、金銭的負担は避けられない問題です。難病に関するサポートとして、難病医療費助成制度は重要な役割を果たしています。助成制度を利用するために必要な医療受給者証を都道府県の窓口から受け取る必要があります。そのための手続きの中で、主なやり取りを行うのは都道府県の窓口(保健所など)と難病指定医の2つです。必要になる書類○臨床調査個人票○住民票○世帯の所得と確認できる書類○保険証(コピー)○医療保険の所得区分確認書類○そのほか必要に応じて必要な書類・医師の診断書(重症患者認定用)・人工呼吸器装着者であることを証明する書類・世帯内にほかに指定難病または小児慢性疾病医療費の受給者がいることを証明する書類・医療費について確認できる書類(「高額かつ長期」または軽症者特例に該当することを確認するために必要な領収書など)(引用:助成を受ける申請手続き |大日本住友製薬)◇まずは都道府県の窓口へまずは、都道府県の窓口にて住民票などの必要な書類を受け取ります。本人の生年月日や住所、疾患の症状の度合いなどを医者が記入する「臨床調査個人票(診断書)」もここで受け取れます。都道府県によっては、HPで書類をダウンロードして記入する必要がある場合もあります。聞きなれない書類も多く、初めての申請は戸惑うこともあるかもしれません。各都道府県ごとに、難病医療費助成制度に関する疑問点や不安なことも相談することができる窓口も設置されています。少しでも分からないことがあれば、窓口に相談することでスムーズな申請を行うことができることでしょう。全国の窓口は以下のリンクでまとまっているのでご参照ください。難病情報センター|都道府県担当窓口一覧◇難病指定医からの診断先ほどの「臨床調査個人票(診断書)」を記入できる権限がある医師を「難病指定医」と呼びます。5年以上の勤務歴や、国が定めた研修などを受けて「難病指定医」になることができます。医療受給者証には有効期限があるため、初めて申請する新規申請と期限を更新する更新申請の2種類の申請があります。「難病指定医」は新規申請・更新申請の両方に対応することができます。他にも「協力難病指定医」という医師も存在します。この医師は、更新申請に使う臨床調査個人票(診断書)のみを作成することができます。医師からの診断も終え、必要な書類を揃えて各都道府県の窓口に提出することで、医療受給者証が交付されます。指定難病ではない場合の医療支援制度出典 : 指定難病に認定されていない難病は、患者数がとても少ないものや、診断基準が確立されていないものがほとんどです。それらの疾患を「希少難病」と呼びます。希少難病とは上記の難病の定義に加えて、「希少性」があるものを希少難治性疾患、一般に希少難病(Rare Disease : レアディジーズ)と呼び、その数は世界に7000種類以上ある言われています。なお、「希少性」の概念に関しては、各国によって差異があります。日本の希少疾患に対する取り組みとして、その医薬品開発を促す「希少疾病用医薬品等の研究開発促進制度」が進められています。薬事法に基づき希少疾病用医薬品等として厚生労働大臣の指定を受ける要件の一つに、「国内対象患者数5万人未満」が挙げられており、これが日本の希少疾患の概念になっています。ただし、日本では該当する疾患の全容やその数は明確になっていません。実際には世界の人口のおよそ17人に1人が何らかの希少疾患に罹患しているとみられ、これを日本に当てはめると、患者数は全国で合計750万~1000万人と推計されています。(引用:希少難病について | 特定非営利活動法人 希少難病ネットつながる)国が定めている「希少難病」の制度としては、「希少疾病用医薬品・希少疾病用医療機器・希少疾病用再生医療等製品の指定制度」というものがあります。難病に関する調査研究の推進の面で国が支援を行うためのものです。目に見えにくい形ではありますが、「希少難病」に関しても研究支援を行い、新薬の開発や治療法の確立に向けて日々、取り組まれています。金銭面の負担をサポートする制度も用意されています。難病などに限らず、医療費が高額になってしまった場合の支援として高額療養費制度と医療費控除の2つがあげられます。それぞれの制度の利用方法と違いを見てみましょう。健康保険制度には、思わぬ入院等によって、加入者の方々が一定の金額(自己負担限度額)を超える医療費を支払った場合、申請することで、その超えた部分を払い戻しする「高額療養費」という仕組みがあります。また、税法には、納税者本人や生計を一にする家族のために医療費を支払った場合、申告することで、一定の金額(多くの場合は10万円を超える金額)を所得から差し引く「医療費控除」という仕組みがあります。この二つの仕組みは、多額の医療費を支払った場合の負担を軽減するために設けられたものです。(引用:「高額療養費」と「医療費控除」ってなんだろう? | 全国健康保険協会)高額療養費では、保険の範囲内の医療費が自己負担限度額までになります。自分が受けている治療が保険の範囲内なのかを知ることが重要になります。医療費控除での助成は確定申告を通して助成されるので、一時的に医療費を負担しなければいけない期間が長くなるので、日常生活の中で負担になることは避けられません。制度を利用するためにも、不明な点があったら窓口にご相談ください。医療費が高額になりそうなとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会税についての相談窓口|税について調べる|国税庁子どもの難病への医療支援は?出典 : 歳未満の児童を対象にした医療費助成制度として「小児慢性特定疾病医療費助成制度」があります。指定難病と同じように、国によって定められた疾患に対して医療費が助成されます。平成29年4月1日から722疾病が認定されています。この中には、指定難病と小児慢性特定疾病の療法に認定されている疾患も含まれます。小児慢性特定疾病(以下)にかかっており、厚生労働大臣が定める疾病の程度である児童等が対象です。1.慢性に経過する疾病であること2.生命を長期に脅かす疾病であること3.症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること4.長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること上記の全ての要件を満たし、厚生労働大臣が定めるもの。(引用:小児慢性特定疾病情報センター|小児慢性特定疾病の医療費助成について)歳未満の児童等でが対象です。「小児慢性特定疾病医療費助成制度」を受けていた子どもが18歳を超えた場合はどうなるのでしょうか?厚生労働省が公開している資料を見てみると以下のように述べられています。18歳到達地点において、本事業の対象となっており、かつ、18歳到達後も引き続き治療が必要であると認められる場合には、20歳到達までの者を含む。(引用:小児慢性特定疾患児等の状況及び支援の現状に関する参考資料|厚生労働省)「小児慢性特定疾病医療費助成制度」から「難病医療費助成制度」へ移行している患者数はどれほどなのでしょうか。今回は、「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の給付人数が発表されている平成23年度の資料を用いています。平成23年度の時点で「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の給付を受けていたのは110,269人。「難病医療費助成制度」の給付を受けていたのは13,384人。同じ世代でありながら、制度を利用している人数の差は大きく開いています。同じ病気が指定されているわけではないので、一概には分かりませんが、18歳を超えて助成制度を継続して利用していない人たちが90%ほどです。身体の成長に伴って症状が改善される疾病等もありますが、18歳を超えても継続的な治療が必要で、医療費助成制度を必要とされている方もいるはずです。難病医療費助成制度の年齢別の人口をみると、うまく年齢に合わせて、制度を移行できるのかは現状の制度が抱えている課題にもなっています。参考小児慢性特定疾患対策関係資料|厚生労働省参考特定疾患医療受給者証所持者数|難病情報センター難病患者が受けられる福祉サポート出典 : 難病医療費助成制度だけではなく、さまざまなサポートを利用することができます。受けられるサポートは地域ごとに異なりますが、障害者手帳と同じ割引が受けられるものが多いようです。平成25年4月より、難病等が障害者総合支援法の対象となったため、障害者総合支援法で定められた支援を難病患者の方も利用できるようになりました。疾患の症状と医師の診断によっては、障害者手帳を取得することができます。詳しくは以下のリンクをご覧ください。障害者手帳の有無に限らず、障害者総合支援法に認定を受けている疾患であれば、福祉サポートを受けることができます。指定難病が全て追加されたわけではないですが、平成29年度から追加される疾患もあり枠組みは広がっていきます。障害者総合支援法によって利用できる支援などに関しては以下のリンクを参照ください。平成27年度4月障害福祉サービスの利用について定期的な通院で必要になるタクシーの乗車割引券や、ガソリンにかかる燃料費を助成してくれる制度もあります。さらに、大手携帯電話会社では、難病患者の利用料金が割引になる制度を導入しています。地域の美術館や水族館が無料になるサポートもあるので、使える場所を探してみると意外なところで割引になることがあるかもしれません。参考京都市:障害福祉施策情報 - 税金・公共料金の減免等参考相模原市公式ホームページ「特定医療費(指定難病)医療費助成制度」参考スマイルハート割引 | 料金・割引:スマートフォン・携帯電話 | au難病患者のための就職サポート出典 : 難病を抱える方々が抱える問題として、就職・転職があります。小児慢性特定疾患と指定難病の両方で就労支援は行われています。最近では、障害者の枠組みが見直され、必要なサポートが受けられるようになりました。ハローワークに難病患者向けの窓口として「難病患者就職サポーター」が設置されています。新しい職場探しはもちろん、今の仕事を続けるかどうかに関する悩みにも対応してくれます。難病患者就職サポーターとはハローワークに配置されている「難病患者就職サポーター」は、難病相談支援センターと連携しながら、就職を希望する難病の方に対して、症状の特性を踏まえたきめ細やかな就労支援や、在職中に難病を発症した方の雇用継続などの総合的な支援を行っています。(引用:難病の方の就労を支援しています|厚生労働省)他にも、就職を行う上での支援として職業訓練等を行っています。職場を探すサポートはもちろん、職に就くための支援も行われているのです。自分に必要な支援が分からない場合も、先ほどの「難病患者就職サポーター」に相談してみるとよいかもしれません。職業訓練(求職者支援制度)雇用保険を受給できない求職者に対して、職業訓練を実施するとともに、訓練期間中、一定の要件(収入・資産等)を満たす者に対して、職業訓練の受講を容易にするための給付金を支給するとともに、ハローワークで就職支援を行うことにより、早期の就職を支援。(1コース3~6月、給付金は月額10万円と交通費(所定の額))(引用:小児慢性特定疾患対策の関係資料|厚生労働省)平成27年7月からは「障害者総合支援法」が改正され、難病患者の方も福祉サポートが受けられるようになりました。サポートが利用できる疾患は、以下のリンクよりご確認くださいい。「障害者総合支援法」の対象となる 疾病を332に拡大します|厚生労働省「障害者総合支援法」における就労支援は大きく分けて就労継続と就労移行の2つがあります。働くために必要な知識や能力を養ったり職場体験を行うのが就労移行支援です。就労移行支援を利用したけれども就労に繋がらなかった場合は、就労継続支援サービスを利用することによって、福祉事業所で仕事をすることができます。・就労移行支援の利用就労移行支援の利用者は、就労移行支援事業所に通所してサービスを利用します。そこでは、スタッフとともに個別の支援計画を作成し、働くために必要な知識・能力を身につけるトレーニングや、その人に合った職場探しのサポート、就労後の職場定着までのアフターケアなどを受けることができます。詳しくは以下の記事をご参照ください。・就労継続支援A型・B型の利用就労継続支援A型とは支援を受けながら、施設と利用者で雇用契約を福祉作業所と結び働くことを指します。就労継続支援B型は、就労移行支援や就労継続支援A型の利用経験をした上で、年齢や体力の面で雇用が困難な方を対象としたサービスです。施設との雇用契約は結びませんが、生産性にこだわらず自分のペースで働くことができます。障害者手帳がない場合でも、「障害者総合支援法」の対象になっている疾患であることを証明できる書類(特定疾患受給資格証などの病名がわかるもの)を見せることで、就労継続支援A型やB型の施設を、住んでいる地域の市役所の福祉課から紹介してもらうことができます。・職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業の利用「ジョブコーチ」とは■ジョブコーチは、一定期間職場を訪問し、『障害者が職場に適応し、事業主が主体となって障害者を雇用管理できる体制に移行すること』をめざして支援を行います。(引用:特定非営利活動法人くらしえん・しごとえん|ジョブコーチ支援)新しい職場で、うまく病気の症状と向き合いながら働くことにはさまざまな困難があるはずです。そんな困難をサポートしてくれるのがこのジョブコーチです。働き始めてから困った時はこのジョブコーチを利用してみてもいいかもしれません。難病の方が抱える悩み(相談先は?窓口は?)出典 : 多くの方が抱える悩みとして、周りの人々に「難病のことをどう伝えるのか?」というものがあります。ある日突然、難病になった際に、自分自身が病気とどのように向き合うのかも重要なポイントです。変化する生活の中で正しく病気のことを伝えることは難しいはずです。誰に相談すればよいかわからない時や支援制度に関する相談は、各都道府県に用意されている難病相談支援センターをご利用ください。以下に、連絡先がまとまっています。都道府県難病相談支援センター一覧|難病情報センター・難病ピアサポート難病を抱える患者さん同士のつながりとしては、「難病ピアサポート」というものがあります。「難病ピアサポート」とは、同じ悩みや経験を持っている人が当事者と接し、お互いに支え合うサポートのことを指します。同じ疾患の患者と出会う機会が少ない難病では、患者さんは孤立感を感じることもあるはずです。同じ経験がある方々からの「共感」は大きな支えになるかもしれません。・難病カフェ同じ病気の人が抱える課題もあれば、病気の種類に限らず共通の課題もあります。当事者の数が著しく少なくなってしまうのも難病の特徴といえるかもしれません。難病に関する経験者からのアドバイスなど、病名は違えど難病という共通の課題について情報交換することが必要になっています。そんな当事者からの思いから「難病カフェ」というコミュニティが運営されている地域もあります。病気、世代にかかわらず、難病に関する悩みや疑問を共有できる居場所が運営されているのです。参考「難病相談支援センターとピア・サポート」(2527KB)参考「難病カフェ新たなコミュニティー病名問わず気軽に交流和やかに「悩み」交換」|毎日新聞まとめ出典 : 平成29年4月から認定される疾患が追加されることからも、まだまだ難病への支援制度は完ぺきとは言えないはずです。これからも、多くの難病患者の方がよりよい支援とサポートが受けられるように支援制度の充実に向けて課題を解決していかなければならないものでしょう。今後も、病気を認定するために、診断基準を明確化したり、書類申請を少しでも分かりやすくすることは支援制度の充実のためには欠かせないでしょう。少しでも当事者の悩みや不安を軽減するためにも、今ある支援制度について考えてみることには大きな意味があるのではないでしょうか?
2017年03月31日乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)とは?出典 : 乳幼児揺さぶられ症候群とは、赤ちゃんが激しく揺さぶられることによって脳内が傷ついてしまう状態、またそれによって重大な障害が残る状態を指します。乳幼児揺さぶられっ子症候群、Shaken Baby Syndrome (SBS)とも呼ばれます。赤ちゃんは頭が重く首の筋肉が未発達のため、激しい揺れで脳が衝撃を受けやすい状態にあります。また、新生児の脳の大きさは大人の3分の1ほどの大きさと言われています。この大きさから赤ちゃんの脳は成長に伴いどんどん大きくなっていきます。このような脳の発達に備えて、頭蓋骨と脳の間にはある程度のすきまがあります。つまり、赤ちゃんの頭の中は、頭蓋骨の中に脳が浮いているような状態にあるのです。そのため、激しく揺さぶられると頭蓋骨の内側に何度も脳が打ちつけられ、脳の血管や神経に損傷が起きてしまいます。このため、パパ・ママが赤ちゃんをあやしたり抱っこしたりする時は、新生児期・乳児期を通じて赤ちゃんの頭がぐらぐら揺らされていないかどうか、力強くすばやく揺らしてしまってはいないか、注意する必要があります。特に、首が据わると言われている生後4ヶ月頃までは、首で支えることができないので揺さぶりに頭がそのままもっていかれてしまい、乳幼児揺さぶられ症候群のリスクが高くなると言われています。埼玉県ホームページ第 86 回子ども学公開シンポジウム厚生労働省DVD「赤ちゃんが泣きやまない-泣きへの理解と対処のために-」乳幼児揺さぶられ症候群の症状って?出典 : 赤ちゃんが激しい揺さぶりを受けると、脳細胞が破壊され、脳の中が低酸素状態になります。揺さぶりを受けた直後、赤ちゃんが以下のような症状を見せた場合、乳幼児揺さぶられ症候群の可能性があります。・元気がなくなる。・機嫌が悪くなる。・傾眠傾向(すぐに眠ってしまう状態)・嘔吐(ウイルス感染による嘔吐症と間違われやすいです。)・けいれん・意識障害(呼んでも、応えない)・呼吸困難・昏睡(強く刺激しても目を覚まさない状態)・死このように、乳幼児揺さぶられ症候群は死に至る可能性もあります。赤ちゃんを激しく揺さぶってしまい、このような症状が現れた場合は、すみやかにかかりつけの小児科か最寄りの救急救命センターへ子どもを連れていきましょう。また、命が助かった場合でも、以下のような症状・後遺症を起こしてしまうこともあります。・脳の周りの出血(硬膜下血腫、クモ膜下出血など)や脳の中の出血・失明、視力障害・言葉の遅れ、学習の障害・後遺症としてのけいれん発作・脳損傷、知的障害・脳性麻痺初めにあげた硬膜下血腫やクモ膜下出血とは、脳の表面で起きた出血が原因で起こります。頭蓋骨と脳の間には、頭蓋骨側から「硬膜」「クモ膜」「軟膜」の3つの膜があります。硬膜下血腫やクモ膜下出血は、硬膜・クモ膜と脳の間に血液が溜まってしまう状態を指します。乳幼児期という脳の発達においてとても重要な時期に、乳幼児揺さぶられ症候群で脳内が傷ついてしまうと、身体機能や精神機能、学習機能などさまざまなところに影響が出てきてしまうことがあります。東海大学医学部脳神経外科ホームページ東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座ホームページどうして乳幼児揺さぶられ症候群が起こってしまうの?出典 : 周りから見ても「あんなに赤ちゃんを揺らしては危険ではないか…?」と思うほどの激しい揺さぶりによって引き起こされる乳幼児揺さぶられ症候群。なぜ、赤ちゃんをそんなにも激しく揺さぶるということが起きてしまうのでしょうか。乳幼児揺さぶられ症候群が起きた過去の事例を見てみると、赤ちゃんを揺さぶってしまった原因として多いものは「育児ストレス」です。パパ・ママやおじいちゃん・おばあちゃんなど、子どもの周りにいる大人が子どものことでイライラしたり、腹を立ててしまったりする時に激しく揺さぶってしまうようです。特に、子どもが泣きやまない時に、ただあやすつもりが「どうして泣きやんでくれないの…?」といったストレスと相まって、激しく揺さぶってしまった、というケースが過去の事例で多く挙げられています。また、赤ちゃんをあやす力加減がわからない、突然ママに赤ちゃんをみることを頼まれて戸惑うパパが乳幼児揺さぶられ症候群を起こしてしまうことも多いと言われています。子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第11次報告)の概要日本小児眼科学会ホームページどのくらいで乳幼児揺さぶられ症候群になるの?出典 : では、具体的にどの程度激しいと赤ちゃんが乳幼児揺さぶられ症候群になってしまうのでしょうか。目安として、1秒間に2~3往復以上揺さぶり、それを5~10秒続けると乳幼児揺さぶられ症候群は起こると考えられています。これは周りから見ると誰もが子どもの安全を危ぶむほど、かなり激しい揺れです。つまり、赤ちゃんの身体を支えてゆっくりと揺らす、膝の上でピョンピョンとさせてあやす、などといった通常のあやし行為で乳幼児揺さぶられ症候群が起きることはありません。また最近、「ベビーカーに子どもを乗せている時に段差がありガクンと揺れてしまった。」「チャイルドシートに子どもを乗せているときに大きな振動を与えてしまったが大丈夫?」というような、パパ・ママからの心配の声が増えつつあります。ですが、ベビーカーやチャイルドシートなどによる乳幼児揺さぶられ症候群の発症の多くは使用方法の間違い、過剰な使い方によるものです。正しい使い方を守り、注意事項を十分に理解していれば、このような機器による乳幼児揺さぶられ症候群のリスクを過剰に心配する必要はありません。乳幼児揺さぶられ症候群を防ぐには?出典 : 乳幼児揺さぶられ症候群は子どもの周りの大人の意識によって十分に防ぐことができます。以下で、何に気をつければよいのかについて説明します。■子育てにおける知識・注意事項を家族全員で共有する乳幼児揺さぶられ症候群を引き起こしてしまう原因の一つとして、子育てに関わる大人が赤ちゃんをどのように扱えばいいのか、どういったことが危険なのかわからないということが挙げられます。特にパパや他の家族は、子育てについて直接教えてもらえる機会があまりありません。そのため、赤ちゃんの正しい抱っこの仕方や泣いた時のあやし方などはママの見よう見まね、または独自の方法でやってしまっていることがあります。家族の誰であっても安心して赤ちゃんの抱っこやあやしをお願いできるように、以下のようなことを子育てする家族全員で共有することが大切です。・赤ちゃんをどのくらい揺さぶってしまうと揺さぶられ症候群を発症してしまうのか?・赤ちゃんをどう扱えばよいのか?・抱っこやあやす際には何に気をつければよいのか?正しい赤ちゃんへの接し方を家族全員が知っておくことで、乳幼児揺さぶられ症候群へのリスクが減るだけでなく、ママに重くかかりがちな子育ての不安も家族みんなで分け合うことができます。■自分なりのストレス解消法・リラックス方法を知っておく乳幼児揺さぶられ症候群は、育児者が「ついカッとなって」、「ストレスが溜まって我慢の限界に達して」という精神状態に陥ることで起きてしまうことも多くあります。「自分だって疲れているのにこの子はどうして泣きやんでくれないの」「泣き声のせいでまともに寝ることができない」など、子育てはうまくいかないことやイライラしてしまうことが誰だってあるものです。そんな状態になった時に、つい子どもに八つ当たりしてしまった。それが原因で、乳幼児揺さぶられ症候群になり、子どもにけがや後遺症などを引き起こしてしまった……。そのような悲しいことが起きてしまう前に、自分が疲れた時・ストレスを感じている時にどうリラックスするかをあらかじめ考えておきましょう。・ストレスでカッとなりそうになったら他の家族に赤ちゃんの面倒を頼み、自分は赤ちゃんと距離を置いて一人になってみる。・短時間でも自分の趣味を楽しむ時間をつくってみる。・小児科や保健所で専門家に相談してみる。・地域の子育て支援センターなどへ出向き、他の親子と交流してみるこのほかにも、人それぞれ疲労・ストレス解消法はあると思います。自分に合った解消法を見つけて、子育てもリラックスしながら行うことができたら良いですね。乳幼児揺さぶられ症候群は子どもが泣きやまない時に多く発生します。子どもが泣きやまない時には何をしてあげればよいのでしょうか。・赤ちゃんが泣いたら落ち着いて、何を求めているのか確かめる。(お腹が空いているのかな?おむつが汚れているのかな?暑いまたは寒いのかな?)・赤ちゃんが落ち着くような環境を再現してみる。(おくるみなど)・何をしても泣きやまない場合は赤ちゃんを安全な場所で寝かせたうえで、少し離れてみる。そしてちょっとしたら様子を見てみる。赤ちゃんが泣きやまない原因は、空腹やおむつなどの生理的なものから、特に訳もなく泣いている、外からの刺激にびっくりして泣いているといったものまでさまざまです。特に、生後1~2ヶ月の赤ちゃんは泣く頻度がピークに達すると言われています。泣いている原因が何か色々確かめても分からない時は、ただ見守ってみる、優しく抱っこし続けると自然と泣きやむ場合もあります。以下に載せている動画は、厚生労働省が公開している乳幼児揺さぶられ症候群を防止するためのものです。乳幼児揺さぶられ症候群の詳しいメカニズムや予防法、また赤ちゃんが泣いている時の対処法がわかりやすくまとまっています。ぜひ参考にしてみてください。まとめ出典 : 乳幼児揺さぶられ症候群は赤ちゃんを激しく、一定時間以上揺さぶると発症する脳の損傷です。脳へ大きなダメージが与えられるので、子どものその後の発達に大きな影響が出ることがあります。赤ちゃんをあやす際には頭や首をしっかり支え、激しい動きをしないようにしましょう。また、パパ・ママ自身がひどく疲れている時やストレスが溜まっている時に赤ちゃんに接することは、乳幼児揺さぶられ症候群を引き起こす激しい動きにつながる恐れがあります。子育てに疲れ・悩み・ストレスはつきものです。ですが、赤ちゃんに対する基本的な知識がしっかり理解できていて、パパ・ママや周りの大人が協力し、労わり合う環境ができていれば、乳幼児揺さぶられ症候群を引き起こしてしまうリスクは減らせます。子育てに関する基礎的な知識を、ママだけでなくパパや周りの大人も共有し、みんなで助け合って子育てをしていきたいですね。
2017年03月31日世界自閉症啓発デーとは?出典 : 月2日は世界自閉症啓発デーです。2007年12月18日にひらかれた国連総会において、カタールのモーザ妃殿下の提案により決議され、毎年4月2日を世界自閉症啓発デーにすることが世界共通で定められました。世界自閉症啓発デーは、自閉症に関する理解を深め、自閉症のことについて知ることで、自閉症のある人を含めたすべての人が過ごしやすい世界を実現していくための日なのです。さらに日本では、4月2日から4月8日を発達障害啓発週間と決められています。その目的のもと、日本を含め世界中でさまざまなイベントが行われます。この記事では、2017年に行われる世界自閉症啓発デーのおすすめイベントをご紹介します!ぜひ、世界自閉症啓発デーのイベントに参加し、一人ひとりが自閉症について理解し、行動する日にしませんか?世界中を青い光でつなごう!ライト・イット・アップ・ブルーUpload By 発達ナビニュースライト・イット・アップ・ブルー(Light It Up Blue)は世界自閉症啓発デーに合わせて、世界中のランドマークや名所旧跡を青色でライトアップするイベントで、近年日本での認知度も上がっています。なぜ青いライトアップなのでしょうか?青色は「癒し」や「希望」をあらわすとして、世界自閉症啓発デーのシンボルカラーなのです。自閉症はわかりにくい障害と言われています。また障害を知らない人がいることで、誤解を受けたりうまくいかないことに直面することもあります。そんな彼らの存在に気づいてほしいという願いから始まったのがこの青いライトアップなのです。ニューヨークに本拠地のある世界最大の自閉症支援団体「Autism Speaks」が2010年にはじめて以来、日本でもNPO法人あっとオーティズムが呼びかけライトアップだけではなく、さまざまな取り組みが各地で行われています。2016年は7大陸157ヶ国がライト・イット・アップ・ブルーに参加しました。日本でも169ヶ所でライトアップが行われました。今年は、さらに会場が増え、日本国内200ヶ所以上でライトアップされる予定です。以下におすすめの会場をご紹介します!※以下イベントの画像は過去のイメージです。実際のものとは異なる場合があります。 It Up Blue Japan - NPO法人あっとオーティズムUpload By 発達ナビニュース大阪市の象徴となっているのが、大阪城天守閣。豊臣秀吉が作った大阪城を復元したもので、登録有形文化財にも指定されています。公園は桜の名所としても有名で、当日は桜と青く染まるお城の共演が見られるかも!?大阪では大阪城天守閣のほかにも通天閣・天保山大観覧車のブルーライトアップが実施されます。【内容】ライトアップ・啓発ウォーキング【所在地】大阪市中央区大阪城1-1【日時】ライトアップ:2017年4月2日(日)日没~23:00(一部~22:00)、啓発ウォーキング:2017年4月9日(日)9:30集合(要事前申し込み)【問合せ】大阪自閉スペクトラム症協会(電話:06-4862-4144)一般社団法人大阪自閉スペクトラム症協会Upload By 発達ナビニュース神戸の景色を360度楽しめるモザイク観覧車。 観覧車に乗って青く照らされた神戸の夜景を楽しむのもおすすめです。【内容】ライトアップ【所在地】兵庫県神戸市中央区東川崎町1丁目51−27【日時】2017年4月2日(日)00分、30分からそれぞれ3分間のライトアップ【問合せ】LIUB Japan 2017 実行委員会(メール:world.happy.mamas@gmail.com)神戸ハーバーランドモザイク大観覧車Upload By 発達ナビニュース世界自閉症啓発デー日本実行委員会主催のイベントで、いつもは赤い東京タワーのライティングが青くなります。ライトアップのほか、日本自閉症協会等の関係団体により組織された「東京タワーブルーライトアップ実行委員会」によるワークショップなども行われます。【内容】東京タワー・ライト・イット・アップ・ブルー【所在地】港区芝公園4-2-8東京タワー【日時】2017年4月2日(日)15:15 ~18:15各種イベント、18:15 ~18:30点灯式、18:30 ~22:00ライトアップ世界自閉症啓発デー日本実行委員会Upload By 発達ナビニュース日本で初めて飛行場ができた街「所沢」のランドマークである日本初国産プロペラ旅客機YS-11をライトアップして啓発活動を行っています。ステージでは楽器やダンス、ジャズなどの演奏も。【内容】ライトアップ・ブルーデコレーション・演奏会【所在地】埼玉県所沢市並木2丁目航空公園駅東口駅前広場【日時】2017年4月2日(日)15:50 ~19:30ステージイベント、18:00 ~18:10点灯式、18:00 ~20:00ライトアップ【問合せ】Light it up blue所沢実行委員ライト・イット・アップ・ブルー所沢Upload By 発達ナビニュース備中国分寺の五重塔は吉備路のシンボルとして親しまれています。ライトアップは発達障害啓発週間に合わせ4月2日~8日まで行われます。【内容】ライトアップ【所在地】岡山県総社市備中国分寺 五重塔【日時】2017年4月2日(日)~8日(土)日没~22:00Upload By 発達ナビニュース1995年にユネスコの世界遺産に登録された五箇山の合掌造りの集落が青く幻想的にライトアップされます。当日は自閉症体験や講演なども予定されています。【内容】ライトアップ&ワークショップ【日時】2017年4月2日(日)19:15~21:00【問合せ】NGOダイバーシティとやま(メール:t-asj@tym-ariso.org)ダイバーシティとやま自閉症のことをもっと知りたい!シンポジウム&イベント出典 : シンポジウムや講演会で自閉症についての知識を深めましょう。一緒に盛り上がれる参加型のイベントもご紹介します。4月8日ですが、世界自閉症啓発デー2017・シンポジウムが開催されます。『たいせつなことを あなたに きちんとつたえたい ~発達障害のこと~』をテーマに「地域作りのリーダーの思い」、「効果的な伝え方の工夫(マスメディア)」、「身近な人の理解」の3つのシンポジウムが行われます。【日時】 2017年4月8日(土)10:00 ~16:20【会場】東京都千代田区霞が関3-3-2全社協・灘尾ホール(新霞が関ビル内)【参加】要事前申し込み世界自閉症啓発デー日本実行委員会<公式サイト>自閉症啓発活動の一環として柔術の練習会とプロファイターとの交流会が開催されます。バルト選手や格闘技イベント「RIZIN」のファイターと体を動かすプログラムが行われます。【日時】2017年4月2日(日) 14時00分(13時30分開場)〜16時30分【会場】中央区立 総合スポーツセンター 第1武道場【参加費】大人1,000円子ども(高校生以下)500円「みんなで青いものを身につけて街に出よう!」がイベントのテーマ。青い服や帽子、小物などを身につけて、Warm Blue キャンペーン賛同イベントへ出かけませんか?東京を中心にさまざまな参加型のイベントが行われます。希少なブルーカーと、ブルーでデコレーションされた世界の名車、バイクなどが街を駆け抜けるBlue Car Driveは4/2の13:00に渋谷区役所仮庁舎からスタートし、青山、東京タワーをめざして走ります。4月2日の14:00~は伊藤忠青山アートスクエア、東京タワーには、プロのカメラマンがみんなをかっこよく撮影してくれるフォトスポットが設置されます。「東京タワー」「伊藤忠青山アートスクエア」「渋谷区役所仮庁舎」「神南小学校」「渋谷モディ裏通り」「渋谷ミライラボ」のうち、3ヶ所をまわってスタンプを押してもらうとオリジナルブルーグッズがもらえるスタンプラリーも。伊藤忠青山アートスクエアでは4月3月11日~4月5日まで「今年はコラボだ! MAZEKOZE ART 3」も開催中。障害のある作家のアート作品とファッションメーカーや企業がコラボした商品、デザインの原画などを展示します。このほかにも3月中旬から東京各地で様々な関連イベントがあります。詳細は以下の公式サイトをご確認ください。 Blue 2017今年はコラボだ! MAZEKOZE Art 3お住まいの地域ではどんなイベントがある?検索はコチラ出典 : 日本各地で様々なイベントがあります。お住まいの地域でどんなイベントがあるか調べてみましょう。ライトアップイベント|世界自閉症啓発デー公式サイト自治体啓発イベント|世界自閉症啓発デー公式サイト年 ブルーライトアップする施設とLight It Up Blueキャンペーン参加施設のご紹介ひとりでも、お家にいても参加できることはある?出典 : 「お子さんが小さくてイベントへの参加はハードルが高い」「近くでイベントがやっていない」なんて人もいらっしゃるのではないでしょうか?そんな方に、一人でも家にいてもできる世界啓発デーへの参加方法をご提案します!・青いものを身につけようまずは世界自閉症啓発デーのテーマカラーである青いものを身につけることからはじめてみませんか?・自閉症について理解を深めてみよう世界自閉症啓発デーの一番の目的は、自閉症について思いをはせ、知ろうとすること。自閉症についての本や記事を読んだり、映画のDVDを見たりして家族で話し合ってみてはいかがでしょうか?・ツイッター・フェイスブックで世界とつながろう世界最大の自閉症支援団体Autism Speaksが、TwitterとFacebookのプロフィール写真に世界自閉症啓発デーのデザインをいれるサービスをしています。利用してみてください。 Speaks Light It Up Blue Frame / Autism Speaks・発達ナビのアンケートに参加しよう発達ナビでも世界自閉症啓発デーに向けて、アンケートを実施しています。4月2日には、身の回りの青いものを写真にとって発達ナビのタイムラインに投稿してみませんか?発達ナビみんなのアンケートまとめ出典 : 自閉症は、外見からはわかりにくいこともあり、未だに「心を閉ざしている」「親の育て方のせい」「後天的な病気」などといった誤解や偏ったイメージを受けることが少なくありません。また、自閉症のある人はコミュニケーションをとるのが苦手であったり、こだわりがあったり、いつもと違うことが苦手であったりといった特性があります。またこの特性も一人ひとり違うため、誤解されたり、困ってしまう場面もあるようです。でも、このような自閉症の人の困りごとは、周りの人が自閉症について理解し、接し方や環境調整といった工夫をすることで減らせるのです。世界自閉症啓発デーを機会に、自閉症のことをより多くの人に知ってもらい、一人ひとりが自閉症について思いをはせるきっかけをつくれるとよいですね。なにか一つ青いものを身につけるだけでも、青く彩られた美しい街を見に行くだけでもよいのです。自閉症のある人もない人も、全ての人が暮らしやすい世界になることを願って、2017年の4月2日のイベントに参加してみませんか?
2017年03月31日急性脳症とは出典 : 急性脳症は主にウイルス感染症に感染したのをきっかけに、急激に脳に浮腫(むくみ)が生じ、意識レベルが低下する疾患のことをいいます。病原となるウイルスに感染し、ウイルスに対して過剰な免疫反応が全身の血管に炎症をおこすことにより、意識障害、けいれん、嘔吐、血圧・呼吸の変化などが起こります。ウイルスは身近なインフルエンザウイルスや、突発性発疹を引き起こすヒトヘルペスウイルス、急性胃腸炎を引き起こすロタウイルスなどが主な病原となっています。突発性発疹や急性胃腸炎は乳幼児や子どもに多く発症する疾患ということもあって、急性脳症は生後6ヶ月~1歳代に多く発症します。実は急性脳症という名称は正式な学術用語としては使われていません。したがって、何らかのウイルスに感染し急性脳症を起こした場合は「けいれん重積型(二相性)急性脳症」か「急性壊死性脳症」などの症候群の名称、または「インフルエンザ脳症」など病原ウイルスに関連した名称で診断されます。病原体による分類と臨床・病理・画像所見による症候群分類があるため診断名に違いはありますが、どのウイルスにかかっても「けいれん重積型(二相性)急性脳症」または「急性壊死性脳症」「可逆性脳梁(かぎゃくせいのうりょう)膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症」などの病理がみられるため、分類には大きな違いはありません。これら3つの病理は画像所見などが異なりますが、症状には特異的な違いは見られません。ですので、下記では急性脳症の症状や原因などをまとめて紹介していきたいと思います。参考:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)参考:痙攣重積型(二相性)急性脳症|難病情報センター参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター参考:『急性脳症の分類とけいれん重積型』|水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の主な症状出典 : 急性脳症は主にウイルス感染症に罹患し、何らかの原因で重篤化することで脳機能全般に障害が生じる疾患です。例えば意識障害、けいれん、嘔吐、血圧・呼吸の変化、などが子どもに現れ、救急で病院を受診することで発覚します。ここでは子どもがウイルスに感染してから、どのような症状が起こるのかまとめていきたいと思います。◇インフルエンザ・・・インフルエンザはA型またはB型のインフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状(風邪の症状)が出てきます。約1週間の経過で回復するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いことが特徴です。参考:インフルエンザとは|NIID国立感染症研究所◇突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス)・・・乳児期に発症するのを特徴とする熱性発疹性疾患といわれています。38度以上の発熱が3日間ほど続いた後、解熱とともに鮮紅色の発疹が体幹を中心に顔面、手足に数日間出現します。また下痢、まぶたの腫れ、大泉門(乳児特有の額の上にある骨と骨のつなぎ目)の膨隆、リンパ節の腫れなどがありますが、多くは発熱と発疹のみで経過します。参考:突発性発疹とは|NIID国立感染症研究所◇急性胃腸炎(ロタウイルス)・・・主に発熱、下痢、悪心、嘔吐、腹痛などがみられます。はじめは発熱があり、嘔吐、下痢など腹部症状が遅れて出現することもあります。参考:感染性胃腸炎とは|NIID国立感染症研究所それぞれのウイルス症状のほかに、・頭痛や周囲からの刺激に反応するものの、すぐに意識が混濁する状態・周囲への警戒心が強く、興奮したり、大きな声で叫んだり、暴力を振るったりしやすい状態などが表出します。参考:脳症の治療における留意点|水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)ウイルスに感染してから初期症状を経て、主症状に変わっていきます。けいれん重積型急性脳症、急性壊死性脳症、どちらの場合も意識障害、けいれんを主として嘔吐、血圧・呼吸の変化、発熱などが生じます。下記では主症状が起こってから予後までの症状を時系列にまとめました。<主症状が発症してから予後まで>・ウイルスに感染し発熱から24時間以内・・・主症状のけいれん・意識障害が起こります。けいれんは「けいれん重積(15分~1時間程度続く長いけいれん)」が起こる場合がほとんどです。※初めてのけいれん、またはけいれんが約5分継続した時点で救急車を呼んでください。・けいれん後・・・意識障害が生じる場合があります。・発熱から4~6日後・・・2回目の短いけいれんが群発して起こります。このとき意識障害を伴う場合もあります。・回復期・・・目的のない運動を繰り返すことがあります。(反り返り、手足を振り回す行為、口をもぐもぐさせる行為など)・予後・・・急性脳症が起こった後、てんかん、知的障害、運動障害など何らかの後遺症が残る割合は、けいれん重積型急性脳症では66%、急性壊死性脳症では46%といわれています。障害の程度は人それぞれですが、リハビリによって回復することもあります。後遺症に関しては追って説明していきます。参考:痙攣重積型(二相性)急性脳症|難病情報センター参考:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の原因出典 : 急性脳症の原因はまだ分かっていません。現在分かっている急性脳症のメカニズムは、主にウイルス感染をきっかけとしてサイトカインストーム、代謝異常、興奮毒性などの病態が進行し、脳や各臓器に異常をきたす、ということです。サイトカインストームとは、免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化の調整作用などがあるサイトカインという細胞間情報伝達機能をもつタンパク質の多くが、ウイルスや細菌などが原因で調節不全を起こすことを言います。興奮毒性とは、興奮性神経伝達物質としてのはたらきをもつグルタミン酸が、過剰に存在することによって細胞毒性を示すというものです。急性壊死性脳症ではサイトカインストームが進行することが多く、けいれん重積型急性脳炎は興奮毒性が多いと推定されています。インフルエンザなどのウイルスに感染してもほとんどの人は病態は進行しません。まれに病態が進行すると急性脳症となります。急性脳症のメカニズムは解明されていますが、どのような条件が揃うと病態が進行し、急性脳症になるのかは分かっていません。しかし、近年の難病情報センターの研究班による研究によって、これらの病態の背景には複数の遺伝的要因が存在するのではないかという仮説が立てられ解明が進められています。特定の遺伝子に特徴があることによって、前述の病態の進行を引き起こし、急性脳症も引き起こす関連があるのではないかといわれています。参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター以上のことから根本的に急性脳症を予防することは難しく、考えられる予防策はインフルエンザや突発性発疹、ロタウイルスなどの感染症を予防することです。ウイルス感染は日々のうがい・手洗いなどによって防ぐことができます。また予防接種などを行うことで、できる限りウイルス感染を予防しましょう。急性脳症の診断/検査出典 : 急性脳症の診断基準と検査方法について紹介していきます。◇臨床診断2章で紹介したけいれん、意識障害などの症状がみられる場合に急性脳症だと臨床診断されます。また重症化すると昏睡状態にともなって次の症状がみられることがあります。・発熱を伴うインフルエンザなどの感染症に罹患している・意識障害がある・けいれんがある(15分以上続くけいれん重積の場合もある)・発熱後に異常言動・行動がある(両親が分からない・急に笑い出すなど)また上記の他には出血傾向や血圧低下、尿の排出量の低下などの全身症状をともなうこともあります。参考:AESD診断基準参考:ANE診断基準参考:MERS診断基準参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班◇確定診断急性脳症において特徴的な脳浮腫が頭部画像所見でみられる場合は、けいれん重積型急性脳症または急性壊死性脳症などの急性脳症として確定診断がなされます。髄膜検査、血液検査などによって確定診断を行うことはできず、頭部画像所見の検査が行えない場合などは意識障害の程度や持続性を観察したうえでの臨床的・総合的な診断を行います。◇頭部画像検査(CT,MRI)急性脳症の特徴である脳浮腫があるかどうかを確認するために行います。◇髄膜検査髄膜刺激症状と30分以上の意識障害が伴う場合には髄膜検査を行います。髄膜刺激症状とは首の硬直や膝を曲げた状態で股関節を直角に屈曲し、そのまま膝を伸ばそうとすると抵抗があることをいいます(ケルニッヒ徴候などがあります)。これは急性脳症と似た症状がある髄膜炎や急性脳炎との鑑別のために行います。◇血液検査発症12~24時間後、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下AST)の軽度上昇がみられることがあります。ASTは細胞内でつくられる酵素のひとつです。肝臓もしくは心臓や腎臓などの臓器に多く存在し、体内でのアミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程で重要なはたらきをします。このASTが何らかの異常で肝臓にある肝細胞が破壊されることにより、血液中に漏れ出します。急性脳症が疑われる場合はこのASTの値が上昇するといわれています。◇脳波夜間や何らかの理由により頭部画像検査ができなかった場合、脳波検査が用いられることがあります。また症状の経時的変化を把握する上でも脳波検査は有用といわれています。急性脳症の場合に特徴的な、びまん性の脳波などを示すといわれています。この他にも医師が必要と認めた検査を受けることがあります。参考:急性脳炎・急性脳症|MyMed参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班急性脳症と似ている病気って?出典 : ◇熱性けいれん熱性けいれんとは38℃以上の発熱に伴って、意識を失い全身がけいれんすることを指します。小児期にみられる一般的な発作性疾患のひとつです。よく「ひきつけ」とも呼ばれています。生後6ヶ月~5歳の乳幼児期に発症し、日本では7~11%前後の割合で発症するといわれています。発熱から24時間以内にだいたい1~3分間のけいれんが起こります。けいれんは一過性のものであることが多いですが、乳幼児期には発熱の度にけいれんを起こす場合もあります。熱性けいれんは発熱やけいれんなど急性脳症と似ている症状が発症しますが、短時間のけいれんで治まり、発熱時に1度だけ起こるだけで治まります。急性脳症のけいれんの場合、多くは15分~1時間程度続く長いけいれんである「けいれん重積」が起き、数日後には2回目のけいれんを群発的に起こします。参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター参考:「公益社団法人 母子健康協会」参考:「熱性けいれん診療ガイドライン2015(日本小児神経学会,2015)」◇髄膜炎髄膜は脳や脊椎を覆っている膜です。髄膜が炎症することによって高熱、激しい頭痛、悪寒、嘔吐など風邪に似た症状が発症し、けいれんや意識障害を引き起こす場合も珍しくありません。髄膜炎も急性脳症と似た症状を引き起こします。急性脳症は脳の浮腫が原因で各症状が発症しますが、髄膜炎は髄膜の炎症によって症状が発症します。症状を引き起こす原因が異なるため、髄膜炎と急性脳症は違う疾患といえます。参考:細菌性髄膜炎とは|国立感染症研究所 NIID◇脳炎脳炎はウイルスが直接脳に感染し、炎症を起こすことによって発症する疾患です。脳症と同様に高熱やけいれん、意識障害がおこります。脳炎と脳症の違いは脳内でウイルスが増殖することによって中枢神経に障害を起こしていると考えられれば脳炎で、脳以外の場所で起きている感染が、免疫異常などにより間接的に脳へ障害を起こすものが脳症です。◇てんかんてんかんとは慢性的な脳の疾患(障害)で、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで発作が起こり、てんかんによる発作が繰り返しみられる状態を言います。てんかん発作は突然倒れて意識を失い、けいれんを起こすといったいわゆる大発作だけではありません。体の一部が勝手に動いたり、会話の途中にぼんやりしたと思ったら意識を失っていたりといった症状もてんかんの発作として考えられます。てんかんは急性脳症とは異なり慢性的な脳の疾患です。さらに発熱時以外にもけいれんや意識障害などが引き起こされます。出典:「脳炎と脳症」|岡山大学大学院 小児医科学教授 森島 恒雄急性脳症かも?と思ったときの受診先と対応出典 : 急性脳症の場合は長時間のけいれんや意識障害など分かりやすい症状が表出します。できる限り早く救急車を呼んでください。けいれんが長引くほど後遺症が残る確率も高まります。発熱して24時間以内に長時間のけいれんが起き、発熱後4~6日の間に2回目のけいれんが起こるのが急性脳症の特徴です。しかしはじめに起こる長時間のけいれんがまれに1~2分程度で終わってしまう場合があります。その後意識障害も続かない場合は熱性けいれんであると見立てられることがあります。その数日後に2回目のけいれんが群発して起こるようなことがあれば、急性脳症である場合が高まります。もし、熱性けいれんと診断されてから4~6日後に2回目のけいれんを起こした場合は直ちに病院を受診してください。<救急車を呼ぶタイミング>・5分以上けいれんが続く・けいれんが終わったが、その後も意識障害が続く(睡眠とは別)<病院に行くタイミング>・はじめてのけいれんが起こって5分以内に治まった・2回目の短いけいれんが起こった急性脳症の専門科目は脳神経外科や神経内科なります。けいれんが群発して起こっている場合が多いため、抗てんかん薬などでけいれんを治める必要があります。ですので、できる限り早い処置を行えるように救急などを受診するようにしてください。急性脳症がおよぼす後遺症出典 : 急性脳症では約36%の割合で何らかの後遺症が残るといわれています。主にその後遺症は知的障害、運動障害、難治性てんかんなどが発症します。知的障害とは発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。単に物事を理解し考えるといった知的機能(IQ)の低下だけではなく、社会生活に関わる適応機能にも障害があることで、自立して生活していくことに困難が生じる状態です。運動障害とは運動神経経路の疾病によって体の運動機能に障害が生じることです。急性脳症後に大きな後遺症がなく回復し、リハビリを経て歩く・走るなどはできるようになった場合も、今までできていた跳び箱が跳べなくなる、縄跳びができなくなる、坂上がりができなくなるなどの障害が生じる場合があります。また重度の後遺症が残ってしまった場合は歩くこともままならず、日常生活の介助が必要になることもあります。なお、しばしば難治性てんかんというてんかんが後遺症として残ることがあります。ほとんどのてんかんが抗てんかん薬などを投与することにより、けいれんが治まりますが難治性てんかんは薬が効かないてんかんのことです。以上が急性脳症で起こりうる可能性が高い後遺症です。脳に生じた機能障害の程度などによって後遺症は多様であり、回復もそれぞれ個人差があります。出典:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の治療出典 : 急性脳症の治療はそれぞれの症状の状態などによって異なりますが、ここでは主な治療について紹介していきます。■急性期の治療急性脳症では長時間のけいれん(重積けいれん)が起こります。そのけいれんを止めるために急性期では抗てんかん薬による治療が行われます。その後は様子をみながら、症状に合わせた治療を行っていきます。■予後の後遺症に対する治療前章で急性脳症の主な後遺症として知的障害、運動障害、難治性てんかんなどを挙げました。主にこれらの症状に対する治療やリハビリテーションを行っていきます。しかし障害の程度は一人ひとり異なるため、治療の内容も様々になってきます。例えば運動機能の障害には食事介助ないし経管栄養や胃ろうが必要となるケースがあり、摂食リハビリテーションを行うこともあります。知的障害に関しても程度が異なるため、療育や生活介助などのサービスを利用することもあります。難治性てんかんの場合は薬物治療以外の方法で、手術やACTH療法、ケトン療法などを用いて治療が行われます。実際はどのような後遺症が残るか、どの程度の後遺症が残るかは分かりません。その時々の医師や専門家の指示に従って治療を行うようにしてください。急性脳症の後遺症が残った場合の社会的なサポートって?出典 : 急性脳症が発症した後、主に後遺症が残ってしまった場合に受けられる社会福祉制度について紹介していきます。◇難病医療費助成制度けいれん重積型急性脳症は国の指定難病にされているため、医療費の助成を受けることができます。指定難病の医療費の自己負担割合は2割です。また、その他の制度による医療費がすでに1割負担となっている患者さんの場合、負担割合は1割のまま変わりません。難病医療費は世帯の所得に応じた医療費の自己負担上限額(月額)が設定されます。自己負担上限額は、受診した複数の医療機関などの自己負担をすべて合算したうえで適応されます。医療費助成制度を利用するためにはお住まいの都道府県へ申請が必要になります。申請方法などは次の厚生労働省のリンクを参考にしてみてください。参考:難病医療費助成制度の対象疾病について|厚生労働省◇障害者手帳の取得障害者手帳は急性脳症による後遺症などが残ってしまった場合などに取得することができます。障害者手帳があると、受けられる支援の幅が広がります。障害者手帳には「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3つの種類があります。身体障害者手帳は身体障害がある方を対象にしています。精神障害者保健福祉手帳は精神障害や発達障害、てんかんなどがある方を対象にしています。療育手帳は発達障害や知的障害がある方を対象にしています。急性脳症の後遺症としてどのような症状が残ったかによって、取得できる手帳の種類が変わってきます。また手帳は数年ごとに更新がなされるため、その後の障害の程度に変化が生じた場合、受けられる支援も変わる場合があります。障害者手帳に関して、相談や申請などの問い合わせ先はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口になります。また障害者手帳に関する詳しい内容は下記を参考にしてみてください。◇知的障害・運動障害の療育サポート療育は障害のある子どもに対して、それぞれに合った治療・教育を行い社会的に自立することを目標にした社会的なサポートです。後遺症が発症した子どもは、通所施設や入所施設などで療育サービスを受けることができます。その子の障害の程度や特性に合わせて個別に支援計画が立てられた上で、療育サービスを利用することになります。コミュニケーションの取り方や身辺動作など、その子どもが日常生活を送る上で必要なスキルを身につけるためのトレーニングなどが行われます。障害の程度にもよりますが、障害者手帳がなくても支援の必要性が認められば、受給者証を取得してサービスを受けることができます。◇障害者総合支援法に基づいた障害福祉サービスなどの利用障害者総合支援法は障害がある方もない方も住み慣れた地域で生活するために、日常生活や社会生活の総合的な支援を目的とした法律です。障害がある子どもから大人を対象に、必要と認められた費用の給付や支援を受けることができます。移動支援や生活介助など障害者総合支援法に基づいたサービスは多岐に渡ります。関連記事を参考にしながら利用を検討してみてください。参考:「障害者総合支援法」の対象となる疾病を332に拡大します|厚生労働省まとめ出典 : 急性脳症はウイルス感染をきっかけに発症する疾患です。近年の研究では特定の遺伝子の型が関係しているのではないかと言われていますが、遺伝子検査で未然に子どもの急性脳症の傾向を知ることはまだ一般的ではありません。現在、考えられる唯一の予防策は感染症の予防です。感染症のなかでも急性脳症と親和性が高い代表的なものは毎年流行するインフルエンザです。また、乳幼児期は子どもの免疫機能が完全に発達しきっていないために、急性脳症の他にもさまざまな病気になりうる可能性があります。インフルエンザやその他のウイルス感染を防ぐため、できうる限りの予防をおすすめします。
2017年03月31日「できること」を増やしたい!発達障害のある子どもを持つ親心出典 : 自分の子どもが発達障害だと診断を受けたならば…。「発達障害児でもできること」「発達障害児の発達を促すこと」を血眼になって探すのが、親心なのかもしれません。私もその1人でした。発達障害児を育てていると、どうしても出来ない部分ばかりが目についてしまいます。「協調運動ができない」「手先が不器用」「跳び箱やマット運動ができない」「字をマスの中におさまるように書けない」「きちんとした姿勢を維持できない」…他の子どもと並べては、「うちの子だけこんなこともできない…」と落ち込む日々が続いていました。「出来ることを褒めてあげて」と育児本には当たり前のように書いてあります。けれども、保育参観やちょっとした行事で「できない息子」を目の当たりにするたびに、「一体どこを褒めればいいんだろう…」という気持ちにすらなります。そんなとき、インターネットには心ひかれる文言が出典 : そんなどん底の気分になりながらも、「なんとか息子のできることを増やしたい」と思いネットを検索してみます。すると、キラキラときらめく言葉たちが並んでいるのです。「発達障害児向け○○!」「○○は発達障害児の発達を促してくれます!」「○○をすれば、発達障害は治る!!」こんな煌めくような魅力的な言葉たちが、私の親心をがっちり掴んでしまいました。「発達障害向け」の文言をみると居ても立っても居られなくなり、私はすぐに申し込みのメールを書き始めていました。それがどんな内容の習い事や塾であっても、息子に意思を確認することはありませんでした。これが原因で、私がしてしまった失敗を2つ、ご紹介します。出典 : ネットでの検索に取りつかれていたころ…私が一番に心惹かれてしまったのは、「発達障害を治す能力開発塾」でした。この「発達障害を治す」という触れ込みに惹かれてしまうのは私だけではなかったようで、中には新幹線や飛行機に乗って相談に訪れる人も後を絶たないそうです。ところが相談に伺ってみると、その塾の目標は「子どもを支援級に入れないこと」でした。私は当時、まだ小学校就学後のことまで考えてはいませんでした。その目標が果たして本当に適切かどうか、まだ分かっていなかったのです。その塾が何を目指しているのか、発達障害児がどう育っていくことを望んでいるのかという点について意見が合致しない場合は、私は入塾はやめたほうがいいと思いました。結果的に、入塾はお断りしました。「発達障害児向け」「発達障害が治る」という文言だけに飛びついてしまい、実態をきちんと把握していなかった失敗例です。出典 : 他にも、「これは発達障害児の発達に良い」「前頭前野の発達を促す」という言葉に、私は飛びついてしまいました。そんな私を突き動かしたのが、「乗馬は発達障害の発達に良い」「カヌーは発達障害児の発達に良い」という情報でした。私は息子を連れて、発達障害児を対象とした乗馬教室とカヌー教室に出かけました。その教室では他に参加する子どもたちもみんな同じように特性がある子どもたちだったため、息子だけが浮いてしまうこともないだろう…という期待もありました。ところが…。感覚が過敏な息子は、馬の臭いと大きさと肌触りにパニックです。泣いて泣いて暴れて暴れて、止まらなくなってしまいました。そんな息子を横目に、他のお子さんたちは悠々と馬に乗っています。カヌーはカヌーで、救命胴衣の感触にパニックになり大泣き。さらに、前日雨が降って川岸がぬかるんでいたのが嫌だったようで、足に泥がつくたびに大泣き。ここまで来て、こんなに息子を泣かせて、自分はいったい何がやりたかったんだろう…。私は帰りの車でため息しか出ませんでした。この教室以後、息子は馬が怖くなってしまい、今でも馬に近づけません。大切なのは、「発達障害児向け」ではなく「息子向け」だった出典 : 数え切れないほどの失敗を繰り返して、私が学んだのは、大切なのは「発達障害児向け」ではなく「息子向け」のものを選ぶことだということでした。いくら「発達障害児向け」と銘打ってあっても、息子に合った環境整備がされているとは限りません。いくらそのアクティビティ自体が発達障害児の発達に良いとしても、息子は盛大なパニックを起こし、それが失敗体験になってしまいました。逆に、発達障害児対象のアクティビティでなかったとしても、息子に合った環境整備がきちんとできていれば、息子は楽しくこなすことができます。成功体験につながることもあるでしょう。「発達障害児向け」「発達障害児の発達に良い」というのは、あくまでも理論的な話です。脳回路の話などが出てくると、どうしても飛びついてしまうのが親心。でも、理論と実践は違うのです。適切な環境整備と子どもに「やりたい」という気持ちが少しでもあれば、それが一番「その子の発達に良い」ことなのだということを忘れてはいけないのだと思います。
2017年03月30日特別支援教室とは?出典 : 特別支援教室は、発達障害のある子どもたちをはじめとした個別のニーズに対応し、より適切で効果的な教育を行うために、小・中学校への導入が予定されている設備・制度です。文部科学省は、特別支援教室構想を掲げ、それに伴い全国各地でモデル事業が行なわれてきました。とりわけ、2016年4月からは、東京都内の小学校で本格的な導入が始まりました。具体的な導入計画については、後に詳しく説明します。2005年以降、文部科学省は「インクルーシブ教育」の推進に力を入れてきました。インクルーシブ教育(または単にインクルージョン)とは、障害の有無にかかわりなく子どもたちに教育をするという理念・制度・実践をいいます。インクルーシブ教育では、障害のある子どもたちが、単に障害のない子どもたちと同じ学校に通うだけでなく、本当の意味で他の子どもたちと同じ教育を受けるということが目指されています。こうした教育を実現するためには、障害のある子どもだけが「特別なニーズ」を持っているという考えを見直し、「すべての子どもに等しく教育をし、その中でニーズのある子どもには適切に対応する」ことが重要です。たとえ障害のある子どもたちが通常校に通っているとしても、障害のない子どもたちから区別され、普段から別の教室で勉強しているなら、それは同じ教育を受けているとは言えない、これがインクルーシブ教育の基本的な考え方です。文部科学省の特別支援教室構想も、その一環として位置づけられています。文部科学省は、発達障害の診断を受けていない子どもたちの中にも、実際には「特別なニーズ」とされてきた個別のニーズを持つ子どもたちが少なくないのではないかと考えています。そして、そうしたニーズに気づき適切な教育をするために、また、その他の子どもたちが発達障害をよりよく理解できる環境を作るために、特別支援教室の導入を進めています。参考: 中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」(2005年12月)特別支援教室という制度では、「障害のある子ども」と「障害のない子ども」を分けて支援するのではなく、必要に応じて誰にでも支援やサポートを提供します。これは、「障害のある子どもが障害に応じて支援を受ける」という、特別支援学級や「通級による指導」のスタンスとは大きく違うものです。参考:Frank Bowe, Making Inclusion Work (Upper Saddle River, NJ: Pearson, 2005).参考:Gary Thomas and Andrew Loxley, Deconstructing Special Education and Constructing Inclusion, 2nd ed. (Open University Press, 2007).参考:高橋純一、松﨑博文「障害児教育におけるインクルーシブ教育への変遷と課題」『人間発達文化学類論集』19号(2014年)13–26ページ特別支援教室って、どんな制度?出典 : 全国に先駆けて東京都の小学校で特別支援教室が2016年4月から順次導入されています。ここでは東京都の小学校におけるモデル事業をもとに、特別支援教室が実際にはどのような制度なのかを説明します。特別支援教室とは、情緒障害や発達障害のある子どもたちを中心に、教育の場でサポートを必要とする子どもたちにサポートを提供しようとする制度です。基本的には、現在の「情緒障害等通級指導学級」(以下「通級」とする)を置き換えるものだとされています。ただし、「通級」には、情緒障害や発達障害以外の障害(吃音や難聴など)に関連したサポートを行うものもあります。ここで紹介する特別支援教室は、主に情緒障害や発達障害に関連した制度ですので、それ以外の「通級」までまとめて特別支援教室に置き換わるわけではないことに注意が必要です。特別支援教室の最大の特徴は、子どもたちが普段通っている学校でそのまま支援を受けられるということです。これまでは、障害のある子どもたちが特別な支援・サポートを受ける際に、普段通っている学校とは別の学校の「通級」に通ったり、特別支援学級や特別支援学校に籍を置く必要がある場合も少なくありませんでした。しかし、特別支援教室は各小学校にそれぞれ導入されます。2つの学校に通う必要がなくなることで、特別支援教育を受ける子どもたちの負担が軽くなることが期待されています。また、特別支援学級や特別支援学校でのサポートまでは必要としない通常学級に在籍する子どもが、個別のニーズに合わせて弾力的な支援が受けやすくなると考えられます。特別支援教室で教える内容は、基本的には情緒障害等通級指導学級(通級)と同じです。つまり、子どもの障害に応じて、障害の状態に応じて「自立活動」や「教科の補充指導」などが、それぞれに合った方法で指導されます。特別支援教室で指導を受けられるのは、情緒障害や発達障害のあるお子さんです。東京都は、対象として通常学級での学習におおむね参加できる「高機能自閉症・アスペルガー症候群」「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」「学習障害(LD)」を挙げています。例えば高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもがコミュニケーションを取るのが苦手な場合、ロールプレイなどで適切な会話を学んだり、相手の気持ちを考えるなどの指導が行われます。また、学習障害がある場合、自分に合った学習方法を習得するための指導なども行われます。現在のところ、それ以外の障害(吃音や難聴など)に関連して「通級」に通っているお子さんについては、特別支援教室での指導は想定されていません。出典 : 特別支援教室に携わる人として、「巡回指導教員」「特別支援教室専門員」「臨床発達心理士等」という役割が新たに定められました。「通級」の担当教員は、役割の名前が「巡回指導教員」に変わります。巡回指導教員は、「通級」と同じように特別支援教室で子どもに指導をするほか、在籍する通常教室の担任と密に連携し、特別支援教育を受ける子どもだけでなく子どもが在籍するクラスでも連携して支援を行い、担任に助言をします。「特別支援教室専門員」は、特別支援教室の導入によって新しく配置されます。非常勤の職員で、特別支援教育で必要になる教材を作ったり、対象となる子どもの行動を記録したりします。新たに「臨床発達心理士等」も巡回することになります。「臨床発達心理士」「特別支援教育士」「学校心理士」の資格を持っている人が子どもの行動観察を行い、障害の状態を把握し、巡回指導教員や担任教員に専門的な指導を行います。東京都教育委員会「東京都公立学校特別支援教室専門員について」特別支援教室のメリットとデメリットは?「通級」と比べると?出典 : 保護者にとって最も気になるのが、既存の「通級」から何が変わるのか、また何が変わらないのかということではないでしょうか。ここでは、メリット・デメリットとともに説明します。「通級」が地域の拠点校にのみ設置されたのに対し、特別支援教室は各学校にそれぞれ設置されることが予定されています。つまり、これまでであれば、通級による指導を受けるために定期的に別の学校に出向く必要があったのに対し、これからは普段通っている学校で同じような指導を受けることができるようになります。Upload By 発達障害のキホンUpload By 発達障害のキホン2つの制度の違いは、基本的にはこの点に尽きます。たったこれだけの違いですが、「通級」から特別支援教室に変わることのメリットやデメリットは、必ずしも小さなものではありません。以下ではそれをいくつか紹介します。特別支援教室は、そもそもインクルーシブ教育を推進するための構想です。そのため、特別支援教室のメリットは、何といっても日本の教育をインクルーシブなものに変えるという点にあります。つまり、障害のある子どもたちと障害のない子どもたちが、それぞれに必要なサポートを受けつつ、基本的に分け隔てなく教育を受けることができる、そのような社会の実現に向けた第一歩が、この特別支援教室なのです。しかし、障害のある子どもたちや、その親御さんにも、直接的なメリットがあります。それは、これまでの「通級」とは違い、普段通っている学校でそのままサポートを受けられるということです。子どもにとっては別の学校に通う負担が減り、また障害に関連したサポートをする先生と、クラスの担任の先生との連携が、「通級」の場合よりも一層密になることが期待されます。しかし、特別支援教室にはデメリットや課題も指摘されています。まず、これまでの「通級指導学級」と同じ水準のサポートが特別支援教室で提供されるのかどうか、必ずしも明らかではありません。というのも、各学校に特別支援教室を導入するためには、これまでよりも明らかに多くのスタッフが必要です。加えて、特別支援教室では、将来的には「障害」の有無にかかわらず子どもたちの支援・サポートを行うことを目標としています。裏を返せば、これまでと同様に限られた資源の中で、これまでよりも多くの子どもたちにサポートをしようとしています。つまり、もしスタッフが十分に増えないまま特別支援教室を導入すれば、少ないスタッフでより多くの子どもを支援することになり、サポートの質が低下するおそれがあります。このことから「障害のある子ども」としてこれまで特別に支援を受けてきた子どもたちに対して、従来の特別支援教育が提供してきたサポートの質が保たれなくなるのではないか、と懸念する声もあります。もう一つ、重要な点があります。特に変化が苦手な自閉傾向がある子どもたちにとって、サポート環境が変わるということそのものが重大な出来事となりえます。この観点から見ると、特別支援教室という制度の良し悪しとは別に、制度の移行にスムーズに適応できるような仕組みについて考えていくことが求められます。特別支援教室とその他の制度との違いは?出典 : 障害のある子どもの学びの場は、今までご紹介してきた特別支援教室や「通級」だけではありません。日本の制度では、代表的なものに「特別支援学校」や「特別支援学級」があります。これらの制度は、それぞれどのように違うのでしょうか?特別支援学校とは、かつて「盲学校」「聾学校」「養護学校」と呼ばれていた学校で、現在でも学校名にこうした言葉がついている場合があります。一部の例外を除いて、基本的には障害のある子どもたちだけが学ぶ学校です(一部に、障害のない子どもたちが学ぶ学級を併置した「併置校」も存在します)。また、学校数自体が少ないので、寄宿舎がある特別支援学校もあります。特別支援学校では、特別支援学校学習指導要領に従い、その他の学校で教えられる教科に加えて、それとは異なる特有の教科が教えられます。こうした教科の多くは、学校を卒業した後に就く職業に関連した、職業訓練的な性格の強いものです。また、教える先生の資格という面から見ても、特別支援学校で教える先生は「特別支援学校教諭」という、一般の学校の先生とは異なる免許を持っています。特別支援教室と特別支援学校の最大の違いは、そもそも通う学校が違うという点です。これは比較的わかりやすい違いでしょう。ところで、自閉症・発達障害・学習障害などがある子どもたちを対象とする特別支援学校はあるのでしょうか。基本的には、現在のところありません。ただし、お子さんに別の障害がある場合には、その障害に応じて特別支援学校に通うことができるでしょう。たとえば、視覚障害と発達障害があるお子さんや、知的障害が合併した発達障害のあるお子さんのような場合です。特別支援学級は、かつては「特殊学級」と呼ばれていました。現在でも、関連条文から「81条学級」と呼ばれることがあります。(以下では「特別支援学級」に統一します。)特別支援学級は、一般の小中学校に置かれます(制度上は高校にも設置できますが、実例は多くありません)。多くの場合、障害の種類ごとに分かれ、学校ごとに「あすなろ学級」「なかよし学級」など様々な名前がついています。お子さんが特別支援学級で教育を受ける場合、その学校の通常学級ではなく特別支援学級に在籍することになります。そして、特別活動などを除き、通常学級の子どもたちとは違う教室で授業を受けることになります。制度上は、特別支援学級での教育は一般の小中学校と同じ学習指導要領に則った教育ですが、子どもの実態に応じて特別支援学校を参考にしたカリキュラムが組まれることもあります。先生の資格という面から見ると、特別支援学級で教える先生に求められる資格は、「特別支援学校教諭」ではなく「小学校教諭」や「中学校教諭」です。特別支援教室と特別支援学級の最大の違いは、お子さんがどの教室に所属するかです。特別支援教室の場合は、お子さんは通常学級に在籍し普段は他の子どもたちと同じ授業を受けつつ、必要に応じて別の教室で別の教育を受けることになります。これに対して特別支援学級の場合は、お子さんは特別支援学級に在籍し、別の教室で別の授業を受けることが基本となります。出典 : 最も違いがわかりにくいのが、特別支援教室と「情緒障害等通級指導教室」の違いではないでしょうか。情緒障害等通級指導教室は、「通級指導教室(情緒障害等)」「通級教室」「通級学級」などと書かれる場合が見られますが、どれも制度上は同じものです。以下ではまとめて「通級」と呼ぶことにします。先に説明したように、「通級」には、吃音や難聴のある子どもたちへのサポートを行うものもあります。通級と特別支援教室は、どちらの制度も、お子さんが障害のない子どもたちと同じ学校の同じ教室で学びつつ、必要に応じて別の教育を受けるという点で共通しています。どちらの制度も、特別支援学校(障害のない子どもたちとは別の学校に通う)とも、特別支援学級(障害のない子どもたちと同じ学校に通うけれども、普段から別教室で学ぶ)とも、大きく違う制度です。その上で、「通級」と特別支援教室の最大の違いは、その「別の教育を受ける」教室がどこにあるかです。「通級」の場合には、お子さんは別の教育を受けるために普段とは違う学校に出向く必要がありました。これに対し、特別支援教室は各学校に設置されますので、「通級」とは異なり別の学校に行く必要がありません。現在、特別支援教室は導入に向けたモデル事業が行われている段階で、その形態や指導内容についてはまだ研究や検討が行われています。そのため、自治体や学校によって、今回ご紹介した東京都の特別支援教室とは違う方法で導入されていたり、今後導入される可能性もあります。また、横浜市は、2004年に「横浜市障害児教育プラン」を定め、独自に先駆的な特別支援教育を進めてきました。その中で「特別支援教室」という言葉を使っています。しかし、この「特別支援教室」は、名称は同じでも文部科学省が推進する「特別支援教室」(この記事で説明しているもの)と必ずしも同じではありません。具体的な説明は省きますが、横浜市の「特別支援教室」は文部科学省の「特別支援教室」よりも少し狭い概念だと考えていただければよいでしょう。どのように特別支援教室が導入されているか、また今後導入されるかはそれぞれお住まいの地域によって異なるので注意が必要です。横浜市特別支援教育推進会議「「特別支援教室」の展開方策などについて 」(2006年8月)特別支援教室を利用するために必要なことは?出典 : 一例として、東京都中央区の事例を紹介します。ただし、実際に必要な手続きは自治体ごとに異なりますので、詳しくは学校や各自治体の担当者にお問い合わせください。まず、すでに「通級」を利用されていて新年度も継続して指導を受けたい場合です。この場合は、原則そのまま移行しますので、特別な手続きは必要ありません。新年度も継続して指導を受けたいという旨を、在籍校の担任教員や通級指導教員にご相談ください。次に、まだ「通級」を利用されていない場合についてです。新年度に新たに入学する子どもについては、就学相談でご相談ください。それ以外の子ども(すでに学校に通っており、新たに特別支援教育を受けようと考えの場合)については、在籍校の担任教員にご相談ください。このように、特別支援教室で指導を受けるためにまずすべきことは、新入生の場合は就学相談、それ以外の場合は担任教員への相談だといえます。繰り返しになりますが、具体的な手続きにつきましては学校や各自治体にお問い合わせください。特別支援教室|東京都中央区特別支援教室の今後は?出典 : 最後に、特別支援教室構想の展望について簡単にご紹介します。東京都の小学校では、モデル事業として特別支援教室の導入が既に始まっています。都の計画では、平成28年度以降、準備の整った市区町村から順次導入され、平成30年度までには全ての市区町村に特別支援教室が設置されることとなっています。これに対して、中学校への特別支援教室の導入は、まだ始まっていません。都の計画では、平成30年度以降、準備の整った市区町村から順次導入され、平成33年度までには全ての市区町村に特別支援教室が設置されることとなっています。東京都以外に目を向けると、いくつかの自治体では特別支援教室の導入に向けた動きが見られます。しかし、それらの動きは、基本的にはまだ本格化していません。東京都のモデル事業にならった特別支援教室が全国的な制度となるかどうかは、まだ未知数だといえます。東京都教育委員会「東京都特別支援教育推進計画(第二期)・第一次実施計画――共生社会の実現に向けた特別支援教育の推進」(2017年2月)まとめ出典 : 特別支援教室は、インクルーシブ教育を実現するための制度として、長年の構想を経てようやく実現に向かいつつある制度です。今後の展望にはまだ不確定な面が多くありますが、これから少しずつ、障害のある子どもたちが少ない負担で適切な教育を受けられる制度として確立していくことでしょう。既に「通級」で指導を受けられている場合はもちろん、そうでない場合でも、また「障害」という診断の有無にかかわらず、少しでもお子さんにとってメリットがあるとお考えであれば、一度担任の先生や各自治体に相談されることをおすすめします。
2017年03月30日私が「障害」という漢字表記を使う理由出典 : 最近ではいろいろなメディアや個人の意向によって「しょうがい」という単語の表記が様々です。スタンダードに「障害」であったり、または「害」の字に抵抗があるとのことで「障がい」または「障碍」と表記されたり…。「障がい」や「障碍」を使う方は特に、それぞれに思いや考え、配慮が詰まっているのだと感じます。ちなみにこの発達ナビが「障害」と表記するのにはこんな理由があるそうです。障害児の表記について当ホームページでは、「障がい児」を「障害児」と表記しています。「障がい児」という表記の場合、音声ブラウザやスクリーン・リーダー等で読み上げる際、「さわりがいじ」と読み上げられてしまう場合がございます。そのため、「障害児」という表記で統一をしています。私は基本的に「障害」という表記を使います。それには、一応こんな理由があります。・「障がい」という書き方がなんだかビジュアル的にアンバランスで「がい」だけ妙に目立つから・「障害」は当事者にあるものではなく、当事者と社会の間にあると感じるから。つまり障害の「害」が当事者を指すとは考えていないから。・ちょこっと文字を書き換えるだけで「障害」という単語のイヤな雰囲気からは逃れられない、そして単語の一部を変えることでは結局何も変わらないから。特に私が強く思うのは3つ目の理由です。「障害」であろうが「障がい」であろうが「障碍」であろうが、「しょうがい」という言葉にはなんだかネガティブな響きがするように私は感じてしまいます。その原因はなんなのでしょうか。「障害」という言葉そのものに、ネガティブな響きがあるのはなぜだろう出典 : なんとなくいやな響きがする理由の一つとして多くあげられるのが、やはり「害」という漢字の影響力でしょう。だからこそ、「害という字を使わないで」という意見が生まれているのだと思います。しかし私はそれだけではない気がしています。結局は、「障害」という言葉に対してついてしまったイメージが問題なのではないでしょうか。歴史的にも障害者は排除され、隔離されてきた事実があります。「障害」または「障害者」という言葉にネガティブな物事がひも付けられてきたからこそ、この「障害」という言葉を敬遠したくなる気持ちが生まれるのではないかなあ、と感じています。そう考えると、これからも「障害」「障害者」という言葉やイメージはやはりネガティブなままなのでは?と思ってしまいます。いくら表記を変えたところで、言葉そのものに対するイメージを覆すことは難しいでしょう。だったら、言葉そのものを変えちゃおう!出典 : そこで私は、「表記をちょこっと変えるのではなく、『障害』という言葉自体変えちゃったらいいんじゃない!?」と考えました。若い方はご存知無いかもしれませんが、今「認知症」と呼ばれている病気は以前「痴呆症」と言われていました。「障害」よりもよっぽど差別的な言葉だと個人的に感じていた「痴呆」という単語。私と同じように考えていた世の中の流れとともに、「認知症」へと変化しました。だったら、「障害」も他の言葉になるんじゃない?世の中の流れで変えちゃえばいいんじゃない?では、どんな言葉がいいでしょうか。ちょっと考えてみました。■外国の「スペシャルニーズ」から頂いて「特要」?■状態を表す言葉として「大変者」「困難者」?…でもこの決めつけ方は良くないなぁ。■「ちょっと(Chotto)違う(Chigau)ところが(Tokoroga)あります(Arimasu)」で「CCTA」?…私ごときの語彙力ではまったく浮かばないものです。発達障害に関して言えば、「発達凸凹」という書き方をされる方もいらっしゃいます。発達に凸凹があるということで起きる困り感を表しているのかと思います。ただ私にとってみれば、子ども達の凸凹から生まれる社会的な困難さは凸凹とかそんな可愛いレベルじゃありません。「発達ロックだし発達パンクというか発達デスメタルだよ!」なんて感じる日々です。無意味な議論かもしれない。それでも、考え続ける必要があると思うから出典 : すっかり取り留めもないことを書いてしまいましたが…。私はこの議論が無意味だとわかっていても、終わりがないことだとわかっていても、「障害」という言葉やこの言葉の持つイメージで傷つく人がいるのであれば、考え続ける必要はあるのではと思っています。もしもこの障害という言葉に変わる言葉があるとしたら、皆さんはどんな言葉だと思いますか?
2017年03月29日発達障害の特徴がもとで幼稚園を辞めた息子出典 : 春を迎えるにあたり、新しいステージへ進む準備で慌ただしくなってきましたね。息子が途中退園することになった幼稚園でも、3月中旬に卒園式が行われたそうです。息子には、他人との境界が曖昧であるという発達障害の子に見られる特徴があります。たとえば、自分ではなく他のお友だちが叱られていても、自分が叱られているように受けて止めてしまいます。また、とにかく叱られないように気を使うあまり過度に緊張してしまうのです。このことが原因で、息子は幼稚園を退園することになりました。詳しくは、以前コラムにも詳しく書かせていただいています。そんな初の雰囲気の中、ふと娘の卒園式の様子が頭をよぎりました。当時の娘は「1年生になったら〇〇ができるようになりたいです!」と堂々と発表していたことを覚えています。もしも息子が退園せずに卒園式に出席していたら、どんな夢を語ってくれたのでしょうか。それを知ることができないのはちょっぴり寂しい気もします。それでも幼稚園を辞めてしまったことに後悔はありません。退園してから毎日楽しそうに過ごしている息子を見ているとそう実感します。それよりも気にかかっていたのが、小学校への入学です。小学校に入学すれば、幼稚園以上に困難や緊張を経験するかもしれません。息子にはどんな選択肢があるのか、私は何度も考えました。小学校に「行く」「行かない」も息子にゆだねることに出典 : 「もうすぐ一年生だね!」「ランドセルは何色にしたの?」「お友だちたくさん作って、しっかりお勉強しないとね!」そんな風に声をかけられることが増えた息子。本人も「もうすぐ一年生になるから、もうお兄ちゃんだよ!」と嬉しそうに返しています。でも、後でこっそりと「でも小学校には行かないかも知れないけどね」と私にささやきます。去年の秋頃から、「小学校に通う」ということについて何度か息子と話をしてきました。うちでは日頃から「自分が安心して過ごせる場所以外は、無理をして行かなくて良い」と話してあり、小学校に行く行かないもその延長で考えています。息子は「小学校も先生に怒られるから行かないことにする」と言うこともあれば「1回ぐらいは行ってみようかな」と返事をする事もありました。息子なりに小学校で起こることを想像して、自分がどうするか迷っていたのだと思います。小学校の先生方とも何度か話し合いを行いました。先生たちは「自ら学校に行きたいと思った時が無理なく通えるタイミングなのだろうから、息子さんの意思を尊重しましょう」と言ってくださいました。なので私も「行ってもいいし、行かなくてもいい」というスタンスで気長に息子の気持ちが固まるのを待っていたのです。息子の出した結論。それを尊重する理由は…出典 : 息子が数ヶ月かけて出した答えは、「やっぱり、学校には行かない」というものでした。ランドセルを背負った初々しい姿は見られないのか・・・。という気持ちはもちろんあります。お友だちとわいわい学校へ通っているお子さんたちを眺めて、どうしてあの輪の中にうちの子は入れないんだろう?と考えると少しさびしくもなります。それでも、一番強く思うのは息子の人生を決めるのは息子自身であるべきだということです。安心して遊んだり学んだりできる環境に身を置くことが、息子が一番成長できる手段なのだと私は信じています。レールを外れることは不安。大切なのは「どう生きるか」出典 : 幼稚園を辞めるときに、「今から逃げていて、小学校は?中学校はどうするつもりですか?」と言われたことがありました。確かに息子は、この国で暮らす多くの方が進む道を通らないことになります。レールを外れるということに不安はあります。でも、レールに乗ったとしても幸せになれる保証はどこにもありません。ならば、今から自分で考えて、いろんな選択肢の中から自分にあった道を選ぶ練習をしてもいいのではないでしょうか。大切なのは、どこで生きるかということではなく、どう生きるかということだと思うのです。今私が親としてできることは、たくさんの選択肢があることを、子どもに提示してあげることなのかもしれません。「小学校に行く場合は全力でサポートする」「小学校に行かない場合は家庭で勉強面をサポートする」「フリースクールや療育施設に通ってみる」「やりたいと思ったことは何とか実現できるように家族で協力する」など、選択肢は無数にあります。成長するにつれ、息子が選ぶ道は変わってくることでしょう。そうしたら、またたくさんの選択肢を一緒に探し、息子が選んだ道を全力で応援する。合っていなければ、何が合っていないのかをきちんと分析し、新たな道を探す。いつの場合でも、基準になるのは息子自身が安心して過ごせるか、やりたいことに向かって努力できる環境であるかどうかだと考えています。そうしているうちに、きっと自分の足で歩いてくれるようになると私は信じています。これからも明るく楽しく子どもたちをサポートしていきたいと思います。
2017年03月28日世界自閉症啓発デーとは出典 : 世界自閉症啓発デーは2007年12月18日にひらかれた国連総会において、カタール国のシェイカ・モーザ・ビント・ナサ・アル・ミスネッド首長妃殿下の提案により決議された記念日です。毎年4月2日を世界自閉症啓発デーにすることが世界共通で定められました。さらに日本では、4月2日から4月8日は発達障害啓発週間と決められています。世界自閉症啓発デーにはそれぞれの加盟国が、自閉症のある子どもについて、家族や社会全体の理解が進むように意識啓発の取り組みを行うことなどが求められています。現在、日本には自閉症についての偏ったイメージやあいまいな情報が数多く存在しています。自閉症は脳機能の発達の仕方が少し異なることから生じる発達障害です。「心を閉ざす」病気ではありませんし、育児の方法や環境など後天的な原因で生じるものでもありません。自閉症のある子どもは一見ふしぎな行動をとることや、感覚が過敏なことがあります。そのため、育てにくさがあり、適切な接し方が難しい場合があります。また周囲の子が自閉症について知らないために、自閉症の子独特の行動や感性を必要以上に避けてしまうことも少なくありません。しかし周囲の自閉症についての理解や支援が十分であれば、自閉症であっても住みやすい環境で障害をあまり感じずに生活することができます。大人のなかでも、実は自閉症であるのにそのことに気づいていない人がいます。そのため、必要な支援を受けられず、自閉症の二次障害であるうつや不安障害などの精神疾患にかかる人も多くいます。世界自閉症啓発デーは、自閉症に関する理解を深めたり、自閉症のことについて知ったりすることで、自閉症のある人を含めたすべての人が過ごしやすい世界を実現していくための日です。世界自閉症啓発デーに行われる「ライト・イット・アップ・ブルー(Light It Up Blue)」とは出典 : 世界自閉症啓発デーのシンボルカラーは青色です。青色は「癒し」や「希望」をあらわすと言われています。ライト・イット・アップ・ブルー(Light It Up Blue)は世界自閉症啓発デーに合わせて、世界中のランドマークや名所旧跡を青色でライトアップするイベントです。ライト・イット・アップ・ブルーはニューヨークに本拠地のある世界最大の自閉症支援団体「Autism Speaks」が2010年にはじめたのが起源です。ライトアップだけではなく、さまざまな取り組みが行われています。現在では、誰でも参加できる活動として世界中に広がっています。2016年は7大陸157ヶ国がライト・イット・アップ・ブルーに参加しました。日本でも169ヶ所でライトアップが行われました。今年は、日本国内192ヶ所でライトアップされる予定です。ライトアップの様子を2分程度の動画で紹介します。世界自閉症啓発デーを自閉症について理解を深める日にしよう出典 : 世界自閉症啓発デーは自閉症についての理解を深め、世界に広く知ってもらうことを目的にしています。ぜひ、世界自閉症啓発デーをきっかけに、記事や書籍を読んで自閉症に関する知識を得たり、自閉症を描いた映画を見たり、自閉症の理解を深めてはいかがでしょうか。この章では自閉症について説明します。自閉症は先天的な発達障害の一つで、社会性と対人関係の障害、コミュニケーションや言葉の発達の遅れ、行動や興味の偏りの3つの特徴が発達段階で現れると言われています。自閉症の原因は、まだはっきりとは解明されていませんが、先天的な脳機能の偏りであると考えられています。親の育て方や接し方、愛情不足によって自閉症になるのではないことが医学的にわかっています。また、自閉症の根本的な治療は現在のところできませんが、親や周りの人が環境を整えたり、接し方を変えたりすることで、症状や困りごとを緩和できる場合も多いと言われています。もともと自閉症は、広汎性発達障害という発達障害カテゴリーの一つと分類され、知的発達の遅れを伴うカナー症候群や、知的発達の遅れのないアスペルガー症候群などとは区別されていました。しかし近年は自閉症とアスペルガー症候群などは明確に区別することができないのではないかということから、これまで広汎性発達障害のサブカテゴリーとして分類されてきたいくつかの発達障害をまとめて、「自閉症スペクトラム(ASD)」と呼ばれるようになったり、診断されたりするようになりました。◇社会性・対人関係自閉症の人は、会話の途中に目線を合わせることや相手の身ぶりや表情から心情を読み取ることが苦手な場合があります。そのため、周囲から空気が読めないと思われたり、他人に興味がないように見られたりする傾向があります。雰囲気のわずかな変化を察したり、比喩やたとえを理解したりすることが苦手なので、自閉症のある子に対してはあいまいな表現を避けてはっきりとわかりやすい言葉だと伝わりやすくなります。◇コミュニケーションや言葉の発達の遅れ言葉を習得するのが遅い場合があったり、たとえや皮肉を理解できず言葉通りの意味を受け取ってしまったりすることもあります。ほかにも、自分の話したいことを話してしまうなどの行為がみられることもあります。相手に自分の気持ちがうまく伝わらず、もどかしい思いをしてしまうこともありますが、本人が理解しやすく伝えやすい方法を工夫すれば、コミュニケーションが取りやすくなります。周りの人もあいまいな表現を避けたり、絵や写真などの視覚的な表現をすることで伝わりやすくなる場合もあります。◇行動と興味の偏り行動と興味に偏りがあり、毎日決まった行動をとることを好む傾向があります。予定外のできごとや初めての経験に対して嫌悪感を抱くことがあります。その一方で、自閉症の人は自分の興味のあることに熱中する傾向もあります。自分の興味のある物事をとことん調べ、深く専門的な知識を活かして活躍している人も少なくありません。自閉症のある人が困っている具体的な事例をいくつか紹介します。自閉症の症状は幅広く、全員が同じ症状を発症するわけではありません。◇いつもどおりじゃないことに対して強い不安にかられる自閉症のある子どもは、自分のおもちゃがいつもの場所においてなかったり、授業を受ける教室が普段と異なったりすることに対して不安に感じます。誰でも、いきなり言葉が通じない見知らぬ土地で一人になったら先行きがわからず不安になると思います。自閉症のある子どもは、想像することが苦手なため些細に思われることでも今後の見通しがつかず不安に思ってしまいます。この不安を取り除くために、自閉症の子が見通しがたてられるように絵や写真を使って今後の流れを示すといいでしょう。◇感覚過敏たとえば、味覚過敏がある場合、特定の味付けや食材を食べると砂やゴムを食べているように感じてしまうこともあります。聴覚障害だと、人ごみでのざわつきが耳元で楽器を鳴らされているように感じて耳をふさいでしまう人もいます。感覚過敏のもとを減らしたり避けたり、落ち着くことができるスペースを確保すると、感覚過敏のある人が生活しやすくなります。周りの人は、自分とは感覚の受け取り方や物事の感じ方が違うことがあると理解することが大切です。◇全身運動が苦手自閉症の子は、脳からの指令がうまく手足に伝わらず、不器用になってしまうことがあります。テレビで見たスポーツ選手のうごきをその場ですぐ再現できないように、自閉症の子は座る・歩く・走るなどの動作がうまくできないことがあります。自閉症のある子ども一人ひとりにあわせて、療育を行ったり発達課題を設定したりすることが大切です。世界自閉症啓発デーに参加してみよう世界自閉症啓発デーへの参加の仕方をいくつか紹介します。出典 : 出典 : ライト・イット・アップ・ブルーでライトアップされた施設を見に行ったり、自閉症のシンポジウムに参加したり、各地域で行われているイベントに参加したりしましょう。各地域でのライトアップ予定地は以下のサイトから確認できます。世界自閉症デーライトアップ施設一覧/世界自閉症啓発デー日本実行委員会各地域自治体の啓発取り組みは以下のサイトから確認できます。世界自閉症啓発デー自治体の活動/世界自閉症啓発デー日本実行委員会出典 : 月2日に青い服を着たり、ネクタイを青にしたり、アクセサリーでワンポイント青を取り入れたりしましょう。SNSのプロフィール写真に青色のフレームを付けるなどもいいかもしれません。世界最大の自閉症支援団体Autism Speaksが、TwitterとFacebookのプロフィール写真に世界自閉症啓発デーのデザインをいれるサービスをしています。利用してみてください。 Speaks Light It Up Blue Frame / Autism Speaksメッセージを募集しているイベントもあります。応援や共感の気持ちを伝えてみてはいかがでしょうか。NPO法人あっとオーティズムのサイト上では、セルフィサインをダウンロードすることができます。印刷して、署名するだけですので気軽に参加してみてください。セルフィサイン/NPO法人あっとオーティズムUpload By 発達障害のキホンUpload By 発達障害のキホン世界自閉症啓発デー日本実行委員会の公式サイトでは、応援メッセージを募集しています。以下のサイトで、過去の応援メッセージを見たり、応援メッセージを投稿したりすることができます。応援メッセージ/世界自閉症啓発デー日本実行委員会4月2日~8日は発達障害啓発週間でもあります出典 : 日本では4月2日から4月8日までは発達障害啓発週間とされています。この発達障害には自閉症以外の障害も含まれています。たとえば、学習障害(LD)やADHD(注意欠陥・多動性障害)があります。自閉症を含む広汎性発達障害と学習障害、ADHDの複数の傾向がある人も多くいます。発達障害かどうかは明確に線引きできるものでなく、グレーゾーンの方も多くいらっしゃいます。そのため、発達障害の診断を受けていない人のなかにも発達障害の特徴的な行動や思考のくせが見られることは珍しくありません。まとめ出典 : 近年、発達障害への正しい理解が進んだり社会的関心が向けられたりし始めましたが、まだまだ十分だとは言えません。自閉症がどのような障害で、どのようなことに気をつけるべきかを理解するまでは時間がかかるかもしれません。また、自閉症のある人の特性や困りごとは個々に違います。しかし自閉症について知ったり身近に感じたりする中で、自閉症のある人一人ひとりのことを考え、一緒に過ごしていくことができれば、自閉症のある人もない人も、生きやすい世界になっていくかもしれません。世界自閉症啓発デーを通して、自閉症をはじめ発達障害への自分自身の理解を深めたり、発達障害の認知の輪を広げていきましょう。
2017年03月27日ボク、普通のお父さんですけど、一緒に話をしてもいいですか?出典 : 姫路まさのりさんは、「ダウン症は不幸ですか?」という番組(ABCラジオ)の制作に携わり、ラジオ放送番組部門最優秀賞を受賞された放送作家・ライターです。今回のコラムでは、姫路さんの書籍・処女作となる『ダウン症って不幸ですか?』をご紹介します。姫路さんはライフワークとしてダウン症のあるひとたちと向き合い、社会に発信しています。しかし姫路さん自身は福祉や教育に携わる支援者でもなく、ご自身にダウン症があるお子さんがおられるというわけでもありません。また私も同じく、ダウン症があるわけでも、ダウン症がある家族がいるわけではありません。いわゆる「当事者」ではないという共通点を持つ人による書籍という点で、同じ距離感に立って読み進めることができました。ダウン症の子どもを持つ家族、それぞれの真実出典 : 『ダウン症って不幸ですか?』では、5つのご家族の物語がインタビュー形式で掲載されています。姫路さんの筆致は柔和でくすっと笑える部分も多く、取り上げているご家族の情景はとても暖かです。私にとっても、感動し共感を覚えるシーンというのは、ありふれた日常的なエピソードの部分でした。第2章に書かれている2つ目のご家族、梶原さんの娘さん・文乃ちゃんとそのクラスメイトとのラブラブ仲良しシーンは、自分自身の小学校時代を思い出して「ふふふ」と笑いがこみ上げてきたほどです。私にとってダウン症がある子との原体験は、同じ学校でお昼休みに一緒に遊んだA子ちゃんです。普通に喋ったりトランポリンで遊んで…というほのぼのとありふれた日常の記憶です。お昼休みが終わっちゃうのが惜しく、後ろ髪惹かれ、特別支援の教室を後にする前にぎゅーっとみんなでハグをする…そのぬくもりを思い出しました。ひとと触れ合った暖かさというのはいつまでも心に残り、そのことが物事を考え行動する起点にもなります。世代にもよると思いますが、このように日常にダウン症がある子がいる生活を経験している人は少なからずいらっしゃると思います。しかし、それがどんな感じだったか話してシェアしたり、この本のように当事者やご家族以外がまとめた経験談を読む機会というのは、あまり多くはないかもしれません。私も自分の原体験を思い出すきっかけを得て、引き込まれるように読み進めましたが、特に姫路さんが文中で「ダウン症のある子どもはまるでコタツの様な存在。温かくひとなつっこさに引きつけられ子どもたちが自然に寄ってきてしまう」と言っていたのはとてもうなづけました。それは一般的な「ダウン症がある子どもは天使のような存在」と恣意的に美化する文脈とは違います。"普通のお父さん"として等身大でダウン症のある子どもたちと向き合った姫路さんならではのユーモアとやさしさに溢れた表現だと思います。ありふれた日常の情景なのに、どうして胸が熱くなるのか出典 : この本を読まれた方は、ダウン症がある子と関わった自分の原体験をふと思い出すような、優しい気持ちになるエピソードにたくさん出会えることでしょう。もちろんその原体験が特にない方にとっても、胸を熱くさせる部分がとても多いと思います。たとえば、第2章のおおとりを飾る喜井さんご家族のエピソード。ダウン症がある娘・晶子さんの仕事帰りを待っている、定年退職されたお父様。晶子さんから毎日かかってくる「帰るコール」。そして時間ぴったりに始まる二人の晩酌、冗談を飛ばし合いながら楽しむ様子は、ありふれた日常の情景です。それなのに、毎日がそうして巡っていること自体になぜか目頭が熱くなりました。私が流すこの涙は一体何でしょうか。ありていにいえば「やっぱりどこかで偏見があった、ごめんなさい」という、社会を構成するひとりとしての懺悔の涙、なのかもしれません。書籍の冒頭、姫路さんが引いている新出生前診断の示すショッキングな数字とその分析が端的に示すように、実際のダウン症のあるひととの生活像と、妊婦の立場でイメージするそれとのギャップは、決して小さくはないのが現状です。新出生前診断をめぐっては、賛否両論含め様々な見解が混在する昨今ですが、新出生前診断を受けるか受けないかの選択をする前に、姫路さんのこの書籍を読んでもらいたい。いまここ・現在の日本で、こんなに幸せを分かち合いながら暮らす家族がいるという事実こそ知ってほしい、そう願ってやみません。「ダウン症って不幸ですか?」大規模調査が示す当事者の答え。そして私たち読者は…出典 : 厚生労働省は2015年、日本ダウン症協会の全面的な協力のもと,予算を投じ全国的なアンケート調査を行いました。このアンケートはDown症候群がある人の家族からの調査と, Down症候群を持つ本人の自己認識に関する調査の二つを行った。本調査の結果, Down症候群がある人では,多くの人が高校を卒業して働いているが,就労においては収入の問題が存在した.一方,Down症候群がある人は,幸福感を持ち,周囲との人間関係にも満足している状況が認められた.DSのある人の多数が自己肯定感を有していることが明らかになったのは,社会において重要な情報になったと考える.---出生前診断における遺伝カウンセリングの実施体制及び支援体制のあり方に関する研究つまり、姫路さんの書籍タイトル「ダウン症って不幸ですか?」に対する答え、厚生労働省は「NO」と明言しています。さて、わたしたちはどのようにこの結果を受け止めるべきでしょうか。答えのヒントは姫路さんの書籍の中にちりばめられています。インタビューをしたご家族の力強い言葉に触れてみてください。「ダウン症って不幸ですか?」その答えはこの本を読み終わったのちに読者の皆さんの心の中にみつかるでしょう。それを楽しみに、ぜひ読んでいただきたいです。Upload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)書籍名:『ダウン症って不幸ですか?』著者:姫路まさのり発行:宝島社価格:本体1300円+税『ダウン症って不幸ですか?』(著) 姫路 まさのり
2017年03月26日発達障害におけるグレーゾーンとは出典 : 発達障害におけるグレーゾーンとは、明確な定義は存在しませんが、定型発達と発達障害の間の境界領域を指す俗称を指します。医学的な診断基準を全て満たすわけではないものの発達障害のいくつかの特性を持ち、日常生活を送る上でも困難を抱えている状態であるとき、グレーゾーンと言われることが多いようです。グレーゾーンはあくまで俗称のため、様々に形容されますが、以下のような説明がイメージしやすいのではないでしょうか。保育や教育の場で不適応行動が見られるものの、診断がつかないあるいは未受診引用:鍛冶谷 静『DSM‐5 の改訂とグレーゾーンの子ども達の支援』四條畷学園短期大学紀要2015年定型発達との境界が曖昧で、複数の行動特性を併せ持つ引用:黒住早紀子『特別支援教育に関する教育心理学的な研究動向と展望』日本教育心理学会年報第52集2013年また、グレーゾーンと同じような状態を指す言葉として「パステルゾーン」「カラフル」「スペクトラム」などの表現をすることがあります。グレーゾーンという言葉は暗くてネガティブな印象を与えるため、明るくポジティブなイメージの「パステルゾーン」「カラフル」などの呼び名を使うべきという意見もありますが、一般的にはグレーゾーンという呼称が用いられることが多いようです。幼少期にグレーゾーンと言われた場合、年齢を重ね再度診断を受けた場合、特性に関する情報が増えたり困りごとが顕在化するなどして改めて発達障害の診断名がつくこともあれば、そのまま発達障害の診断はつかないというケースもあります。はっきりと診断の出る発達障害と比べれば症状が軽く、したがって親の困りごとも少ないと思われがちですが、グレーゾーンならではの悩みや問題事が存在するのは確かです。精神障害者保健福祉手帳や療育手帳がなくても受けることのできる公的支援を利用したり、学校や職場で合理的配慮をお願いしたりすることで困難の解消を目指していくことが大切です。発達障害グレーゾーンの症状・特徴出典 : グレーゾーンの症状は「どの発達障害の傾向を持つグレーゾーンなのか」によって異なるため、グレーゾーンに特定の症状というものが存在するわけではありません。またグレーゾーンには、その人の持つ症状や特性の程度やその現れ方が、体調や環境・場面によって左右されるという特徴があります。例えば、学校にいるときは症状が強く出るが、家では比較的症状が弱くなるといったことが起こりえます。グレーゾーンの場合、発達上の問題や困りごとが気づかれにくかったり、気づいていながら放置してしまう親御さんなどもいます。そうして適切な対処が行われない期間が続くと、元々の症状や特性がさらに強くなり、発達障害として診断名のつく「診断域」に入ってしまう可能性があります。さらに、同じような状況が原因で生じてしまう問題として「二次障害」の発現があります。発達障害グレーゾーンにある人が注意したい二次障害出典 : 発達障害の特性があることに気づかなかったり、気づいていても適切なサポートを受けられなかったりすると、周囲に理解されず怒られたり非難を受けたり、失敗体験を積み重ねてしまいます。その結果、本人の自尊心ややる気が失われ、新たな障害が生じることがあります。こうして副次的に生まれる問題を「二次障害」といいます。二次障害の例としては、以下のようなものが挙げられます。・いじめ・うつ病などの精神疾患・不登校・ひきこもり・家庭内暴力・アルコールなどの依存症これらの二次障害は、発現に気づかなかったり、気づいても適切な対処をしなかったり、あるいは放置したりすることで状況が悪化・長期化する傾向にあります。発達障害の診断基準を満たす場合と比べ一次的な症状が軽いことが多いグレーゾーンでは、この二次障害を防止・改善することが一つのポイントとなります。二次障害を防ぐためには、まず子どもの持つ発達上の特性を家族など周囲が認識し理解している必要があります。子どもの行動や困りごとが発達上の問題によるものだとわかっていれば、学校や専門機関などの協力を得ながら適切な対応策を打てるからです。二次障害は、一度生じてしまったとしても早期に発見・対処することで、症状の悪化あるいは長期化を防ぐ可能性を大幅に高めることができると言われています。発達に問題があることが気づかれにくいグレーゾーンは、対応が遅れがちになってしまうことも多いです。子どもは一人ひとり成長の速さや仕方が違うので、あまり神経質になりすぎるのも問題ですが、子どもの言動に関して気になることが多い場合は以下で紹介する専門機関に相談してみることをおすすめします。・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所など自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にものってくれることもあります。まず身近な相談センターに行って、より専門的な相談や受診の必要があればそこから専門医を紹介してもらいましょう。発達障害グレーゾーンと言われたら?出典 : 自分の子どもが「グレーゾーン」や「発達障害の疑いがある」などと言われたら、とても複雑な気持ちになる親御さんも少なくないと思います。一方、「発達障害の診断基準は満たさない」として診断を受けられなかったことで、十分な支援や治療が受けられるのか不安になる親御さんもいるかもしれません。そんなときに知っていただきたいのは、グレーゾーンの場合、家族や学校をはじめとする周囲が本人の持つ特性を理解し適切なサポートを行うことで社会にうまく適応できる可能性は高いということです。また、この事実はあまり知られていませんが、医学的な診断基準を満たしておらず診断名がついていなくても(障害認定されていなくても)受けられる支援もたくさんあります。グレーゾーンは、適切な支援によって困難が解消される確率が高いこともその特徴の一つです。障害認定されないからといって諦めず、子どもの困難を少しでも解消するための支援を受けられるよう行動していくことが重要になります。以下の2つの章では、具体的な支援の例として「療育」と「合理的配慮」の受け方について紹介していきます。療育とは?グレーゾーンの子どもが療育を実際に受けるためには?出典 : 療育は「治療」と「保育・教育」を合わせた言葉です。障害のある子どもが社会的に自立できるように専門的な教育支援プログラムを通して行われるトレーニングのことを指します。グレーゾーンの場合、療育を通して困難が解消される可能性が高いと言われており、小学校就学以前の障害児が通うことのできる「児童発達支援」や、障害のある就学児(小・中学生、高校生)が学校の授業後や長期休暇期間に利用できる「放課後等デイサービス」などの施設を利用することもできます。これらの施設における支援は、診断がなくても受給者証の発行を受けることで、少ない自己負担額で利用できるようになります。詳しくは以下の関連記事からご確認ください。また、療育センターについての詳細や、療育について定めている児童福祉法や療育を受ける上で必要な手続きについては、以下の記事をご参照ください。子どもに療育を受けさせる上でひとつ忘れてはならないのは、本人の意思を尊重することです。子ども自身が療育センターなどでトレーニングを受けることを拒んだり、前向きではなかったりする場合は、無理強いせずに、まずは家庭内でできる環境調整や工夫をしてみることをオススメします。家庭におけるトレーニングを通して成功体験を積み重ねたり自己肯定感を育んだりすることで、次のステップへとつなげることができます。また、保護者向けのペアレントトレーニングを受けるなどして家庭での接し方を学ぶのもよいでしょう。参考:親子のヒント|発達ナビグレーゾーンの子どもが学びの場で受けられる配慮・支援出典 : 発達に特徴がある子どもが困りごとを抱えずに生活をおくるためには周囲のサポートが必要になる機会も生まれます。グレーゾーンの子どもであれば、通常学級に通うケースも多いため、担任の先生の発達障害への理解が十分でないこともあります。そうした場合、保護者のほうから学校側への働きかけによって子どもが適切な支援や配慮を受けられるよう協力をお願いしてみるとよいでしょう。こうした働きかけを行う上で大切な考え方に「合意的配慮」という概念があります。合理的配慮とは、グレーゾーンを含む障害のある方々の人権が障害のない方々と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮のことです。2016年4月に施行された「障害者差別解消法 (正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」により、この合理的配慮を可能な限り提供することが、行政・学校・企業などの事業者に求められるようになりました。文部科学省のホームページでは、小中学校教育における合理的配慮の提供内容として以下のように記されています。(ア)教員、支援員等の確保(イ)施設・設備の整備(ウ)個別の教育支援計画や個別の指導計画に対応した柔軟な教育課程の編成や教材等の配慮引用:文部科学省HPあらかじめ子どもの得意・不得意を学校側に伝えておくことで、子どもの特性に合わせた支援や配慮を得ることができます。学校で子どもの特性に合わせて行われる合理的配慮の例としては、・読み書きに困難がある子の場合、拡大教科書やタブレット、音声読み上げソフトを利用して勉強できるようにする。・周りの刺激に敏感で集中し続けることができない子の場合、仕切りのある机を用意したり、別室でテストを受けられるようにしたりする。・指示の理解に困難がある子の場合、指示を1つずつ出すようにしたり、見通しが立つようにその日の予定をカードや表にしたりする。などが挙げられます。学校での「合理的配慮」 ハンドブック(LITALICOジュニア)学校側に合理的配慮を求める相談を行う前に、子どもの得意・不得意を把握しておくことが重要です。どのような状況下でどのようなことをするのが苦手なのかを伝えることで、学校側も子どもの特性に対する配慮を行いやすくなります。また、子どもの特性に関する客観的な指標も役に立ちます。学校側にアセスメントの結果などを提出することで、納得して支援を行ってもらいやすくなります。グレーゾーンの子どもを通常学級と特別支援学級のどちらに通わせるべきか、または通級指導教室を併用するかなど、悩む方もいるのではないでしょうか。診断がないために先生や他の保護者から理解されず親のしつけが悪いと非難されてしまったり、「通常学級の授業にはついていけないが特別支援学級の授業だと物足りない」など、授業の内容・レベルが本人の学力とマッチしなかったりといった、グレーゾーンならではの悩みも多くあるのではないかと思います。しかしやはり、最終的に子どもの学びの場としてどちらを選択するのかは、親の判断に委ねられています。子どもの特性、学習の進み具合、学校・先生との関係などについて考慮しながら、子どもの成長に合うと思う環境を選びましょう。このとき忘れてはならないのが、本人の意思を尊重することです。多人数は苦手なので特別支援学級に行きたい、特別扱いをされるような気がするから通級や特別支援学級は嫌だ、など本人はどんな環境を好むのか、きちんと話し合うことで親子にとってよりよい選択ができるのではないかと思います。以下では通常学級か特別支援学級か、悩んだときに役立ちそうな記事をまとめました。ぜひ参考にしてみてださい。まとめ出典 : 発達障害グレーゾーンの子どもは、その症状が軽度であることも多いために、親の悩みも「大したことない」と思われがちであったり、診断がないために「親のしつけが悪い」「甘やかすな」と親戚や学校から非難されたりと、なかなか周囲に理解されず孤独を感じてしまうこともあるかもしれません。しかし未だ不十分であるとはいえ、発達障害のグレーゾーンに対する社会の認知度や、受けられる支援・配慮の度合いは以前と比べれば高まりつつあるのではないかと思います。また、グレーゾーンの子どもに対する支援に関する国の姿勢は、法律の文面を通して読み取ることができます。発達障害者支援法の第5条 第3項では、発達障害児に対する支援に関して、以下のように記されています。市町村は、児童に発達障害の疑いがある場合には、適切に支援を行うため、当該児童の保護者に対し、継続的な相談、情報の提供及び助言を行うよう努めるとともに、必要に応じ、当該児童が早期に医学的又は心理学的判定を受けることができるよう、当該児童の保護者に対し、第十四条第一項の発達障害者支援センター、第十九条の規定により都道府県が確保した医療機関その他の機関(次条第一項において「センター等」という。)を紹介し、又は助言を行うものとする。この記述において重要な点は、支援の対象者を説明する上で「疑いがある場合」という言葉が用いられていることです。このことは、発達上の特性により困難を抱えている子どもは診断のあるなしに関わらず支援されるべきだ、していこう、という国としての考え・方針の表れであり、本記事で触れたような支援も実際に拡充されつつあります。これらの支援の利用や、合理的配慮を要請することで、子どもが自分の特性による困難を乗り越え、特性による長所を活かして自分らしく育っていけるよう、子どもを信じて支えていきましょう。
2017年03月26日構音障害とは?出典 : 人は、下顎(したあご)・舌・唇・軟口蓋(なんこうがい)などを動かし、声の通る道の形を変えることで話しことばを生み出します。この、話しことばを生み出す過程を「構音」と言います。「構音」は、一般的には「発音」と呼ばれています。ことばの発達は、一定の決まった順序でおおむね進んでいきます。同様に、構音の発達にも順序性があり、年齢に応じた発達段階があります。以下、発音を獲得する年齢のおおまかな目安です。2~3歳代:ア・イ・ウ・エ・オ、タ・テ・ト、パ行、マ行、ヤ行、ン3~4歳代:カ行、ガ行、ナ行、チ、チャ行、ダ・デ・ド、ハ行、ワ4~6歳代:サ行、ザ行、ツ、バ行、ラ行出典 : 「構音障害」とは、同じ発達年齢の人が正しく発音できる音を習慣的に誤って発音している状態を指します。もちろん、幼い子どもたちはうまく発音できないことばがあります。周囲のお子さんと比べて多少不明瞭な発音があっても、身近な人とであればコミュニケーションを図ることができている場合「問題はない」と思われることもあるでしょう。ですが、その発音がうまくいかない背景に、発音に関わる器官や発達を支えるものに何らかの課題が隠れている可能性があります。また、成長するとともに、発音がうまくいかないことで地域や集団におけるコミュニケーションや学習に支障をきたしてしまったり、自信を無くしてしまったりすることがあります。発音の誤りや不明瞭さの原因は一人ひとり異なるため、背景を丁寧に探る必要があります。そして、適切なアドバイスや治療、指導を受けることで改善する可能性が広がります。そのため、早期に専門機関に相談し、専門家のサポートを受けることが大切になってくるのです。「構音障害」は発達障害や知的発達の遅れなどを合併している場合もありますが、本記事では合併の場合を除いた純粋な構音障害について述べていきます。構音障害の原因による分類出典 : 構音障害には、原因が特定できる場合と、そうでない場合があります。特に子どもの構音障害の場合、様々な要因が重なり合っていることが多くあります。◇器質性構音障害生まれつき、あるいは事故や病気など後天的な理由により、唇・舌・口蓋(こうがい)・顔面などの形に問題があり、うまく発音ができない場合をいいます。・口蓋裂・口唇裂・口唇口蓋裂先天性異常のひとつで、日本では500人~600人に1人の頻度で発現します。口蓋とは口腔内の上の部分、口唇とはくちびるをさします。乳幼児から就学時までの期間中に何度か手術を施し、同時にことばの指導を行うことで、現在では80%以上が正常構音を獲得できると言われています。・舌小帯(ぜっしょうたい)短縮症先天性異常のひとつで、口腔底から舌の下面へ走っている小帯(舌の裏側のスジ)が舌の先に近く付着していて、舌の動かしづらさがある状態です。保険適応で手術や訓練をすることができ、多くの場合、正常構音を確立できると言われています。出典:「口蓋裂・構音障害」日本聴能言語士協会講習会実行委員会(共同医書出版社)・その他の器質性構音障害器質性構音障害には、鼻咽腔閉鎖不全症や口腔腫瘍等による発語器官の切除後に生じるものなどもあります。◇運動性構音障害脳卒中や頭部外傷、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ジストニアなど、神経や筋に病変が生じることにより、話すことに必要な運動機能が障害される場合をいいます。構音障害だけではなく、声やリズム・速さ・アクセント・イントネーションの異常を併発することもあります。◇聴覚性構音障害聴覚の障害により、正しい構音を獲得することが難しい場合を、聴覚性構音障害という場合があります。器質性構音障害には、鼻咽腔閉鎖不全症や口腔腫瘍等による発語器官の切除後に生じるものなどもあります。参考:「口蓋裂・構音障害」日本聴能言語士協会講習会実行委員会(共同医書出版社)◇機能性構音障害構音にかかわる器官の形態、神経や筋、聴力に問題が見出されない、また、その他の疾患や障害が無いにもかかわらず構音に問題がある場合、機能性構音障害に分類されます。主に幼児期にみられます。自然治癒が望めない場合も、早期に指導・訓練を受けることで改善する可能性が広がります構音障害なのかな?と思ったら専門家に相談を出典 : 構音障害は、成長とともに自然に治る場合もありますが、気になる場合は園や学校の先生、子育て支援センターや児童発達支援センターなどの専門機関に相談してみましょう。言語聴覚士(ST)などの専門家に相談できる場合があります。また、言語聴覚士協会のホームページから言語聴覚士のいる施設を検索することができるので参考にしてください。参考:こども発達支援センター杉並区参考:(社)日本言語聴覚士協会ホームページ全国の施設検索医師などに、ことばの問題を相談することもできます。受診できる病院の科は以下の通りです。・小児科・耳鼻咽喉科・脳神経外科・神経内科・形成外科・リハビリテーション科・言語外来を設置している各科構音障害の原因は様々であり、医師や言語療法士などが相談や検査などを行い一人ひとりの背景を探り、それに応じた対処法がみつかることもあります。参考:国立特別支援教育総合研究所「子どものことばについて相談すると、一体どんなことを聞かれるんだろう」と不安に思う親御さんが多いと思います。気がかりなことやお子さんの様子をメモに書いておくなど、事前に準備しておくと良いかもしれません。ここでは例として、耳鼻科の言語外来で言語聴覚士が行う聞き取りや検査項目をあげます。1.生育歴などの聞き取りこれまでの育ちや現在の様子についてお聞きします。大きな病気やけがなどの有無、身体やことば・発音の発達はどのようであったか、現在のお喋りやコミュニケーションの様子、本人の自覚などと合わせて、親御さんが心配していること・気がかりなこともお聞きします。2.構音検査お子さんの構音の状態を捉えるために、検査を行います。3.その他の検査・聴力検査:聴力に問題はないか・構音にかかわる器官の形態や運動をみる検査:鼻・唇・舌・歯・顎・喉などの形や動きをみる・言語発達の検査:ことば・コミュニケーション発達の検査、発達検査や知能検査の言語性課題など上記のような、構音検査以外の検査も行われます。4.鑑別診断構音障害といえるのかどうか、また、他の疾患や障害(知的障害・ことばの遅れ・聴覚障害など)の有無を判断します。以上のような聞き取りや検査を行うことで背景や原因を探り、その後の対応を見極めます。参考:「新版構音検査」参考:「子どもの発音とことばのハンドブック」山崎祥子/著(芽ばえ社)構音障害かなと思ったら、アドバイスはどこでもらえるの?言語聴覚士とは?出典 : ことばや構音については、診断の有無にかかわらず、言語聴覚士(ST)と呼ばれる専門家からアドバイスや指導を受けることができます。言語聴覚士は、一人ひとりに合わせたやり方で、ことばや構音の育ちをサポートしてくれます。家庭での接し方や、本人の気持ちを尊重しながら楽しくできる練習方法へのアドバイスも期待できます。発達ナビの以下のリンクを参考になさってください。言語聴覚士がいる施設出典 : ◇公的機関のサービス・教育・療育施設子どもの場合、「ことばの教室」などと呼ばれる小学校などの通級指導教室や特別支援学級、特別支援学校、児童発達支援などの療育機関などで言語療法を受けられる場合もあります。園や学校に相談するか、自治体に問い合わせましょう。健診や就学前健診で個別に相談できる場合もあるようです。その後、面談や審査など、所定の手続きに従います。地域によっても制度が異なりますので、お住まいの自治体に問い合わせましょう。・医療機関主治医の指示により言語聴覚士のアドバイスや指導を受ける際、健康保険が適用される場合があります。医療機関に問い合わせてみましょう。・福祉施設施設・地域によって異なりますので、各施設や自治体の定める手続きをとります。大人の構音障害の場合、訪問リハビリテーションなど介護保険の適用になる場合もありますので、福祉窓口、ケースワーカーや民生委員に相談してもよいでしょう。◇民間の教室などことばに関する指導を行う民間の教室です。利用する場合は、施設に直接申し込みを行います。発音を育てるために家庭でできること出典 : 家庭での生活や遊びのなかで、お子さんの様子を観察し、楽しく練習する機会を作りましょう。◇構音器官をどのように使っているか構音に関わる器官は、ことばを話す以外にも使われています。例えば・息を吸う、吐く・息を吹きかける・口を開ける、閉じる・噛む・なめる・のみこむなどがあげられます。これらの様子を観察してみましょう。周囲のお子さんと比べてうまくいかない、力が入らない、あるいはどこかに力が入りすぎる場合は、その様子を記録しておくと良いでしょう。口を閉じる練習・いろいろなものを噛む練習・息を長く吹く練習などが有効な場合と、余計な力を取り除くためまずはリラクゼーションの練習が必要な場合とがあります。お子さんによって取り組むと良い動作が違うため、これまでの記録とともに専門家に相談し、アドバイスをもらいましょう。◇音への意識を高める、聴く力を育てる遊びを通じて、音に注目する力、音に耳を傾ける力を育てましょう。・しりとりしりとりは効果的なあそびです。ルールの理解が難しい場合は、絵や写真、ひらがなやマス目などを手がかりとして見せながら、無理ない範囲で一緒にやってみましょう。「さかな」「なす」「すいか」「からす」などの絵カードや文字カードを用意します。カードを指しながら「さかな」と言った後、「な・な・な…」と言いながら次に続くカードを探すのも良い方法です。・かるたかるたも、音への意識を高める遊びです。正しい札を選んだあとに、1文字ずつ指をさしながら一緒にゆっくりと文章を読んでみるのも良いかもしれません。・じゃんけんすごろくサイコロの代わりにじゃんけんを使ってすごろくをします。グーで勝ったなら「ぐ・り・こ」、チョキなら「ち・よ・こ・れ・い・と」、パーなら「ぱ・い・な・つ・ぷ・る」と言いながら1文字ずつ進みます。大きな紙にスタートとゴールを描き、その間をマス目でつないだすごろくを親子でするのも良いでしょう。階段を使って、勝った人が出した手に応じて1段ずつ進むゲームもあります。◇コミュニケーション手段の確保構音の獲得や改善に効果的な方法を探る一方で、「自分の思いを伝える」という機会を確保することも大切です。話しことばに限らず、表情や視線、ジェスチャーや指さし、写真や絵、文字や記号などあらゆる手段を使って伝えたい思いを相手に伝える経験を積み重ねることは、コミュニケーションの力を育むうえで不可欠です。まとめ出典 : 構音を獲得するまでには、様々なステップがあります。お子さんの構音の育ちにつまずきがあると感じられる場合、言語聴覚士など専門家にアドバイスや支援を得ることが近道といえます。周囲よりも構音の育ちが遅いと、親御さんもお子さんも焦りや苛立ちを感じるかもしれません。「それは違うでしょ!○○って言いなさい」と指摘し言い直させてしまうこともあるかもしれませんが、それだけでは喋ることそのものを嫌いにさせてしまう可能性があります。上手に発音することだけではなく、様々な人と関わりコミュニケーションすることが楽しいと感じられるような工夫も取り入れながら、成長を応援する姿勢も大切かもしれません。専門家と相談しながら、実践できる方法を探り、取り組んでみましょう。参考:「子どもの発音とことばのハンドブック」山崎祥子/著(芽ばえ社)参考:井出歯科医院
2017年03月24日幼稚園が決まった直後、発達障害の診断が下りた、3年前のあの日。出典 : 月、ついに別れの季節です。3年間お世話になった幼稚園を、息子は卒園します。思い返せば、息子の発達障害の診断が下りたのも3年前。地元でもかなり人気のある幼稚園に入園が決まって家族全員胸をなでおろしていたときに、息子に発達障害の診断が下りたことを、私は鮮明に覚えています。それは、入園3ヶ月前の1月のこと。既に1日入園などで酷いパニックを起こすなどしていた状況でした。「とにかく診断が下った以上は黙って入園させるわけにはいかない…。」私と夫は診断が出た後にそのまま入園予定の幼稚園に向かい、状況を説明することにしたのです。不安に押しつぶされそうになりながら幼稚園へ…すると…出典 : 幼稚園に向かう道すがら、私の頭にいくつものも不安がよぎります。私は夫に何度も問いかけました。「入園を断られるかもしれないね」「黙ってたほうが良かったんじゃないかな」「せっかく、入園できることになったのに」「入園が断られたら、またイチから探さなきゃだね」私の問いかけに対して、夫は何度も「大丈夫だって…」と返事をしてくれました。でも、私と同じ不安な思いを抱いていたのだと思います。不安に押しつぶされそうな中、幼稚園に到着。幼稚園の先生方に息子の発達障害についてお話したところ、入園を断られるどころか、先生方は一生懸命メモを取って息子のへの対応を検討してくださいました。息子の特性に配慮した保育ができるように、知恵を尽くしてくださっていたのです。入園してから知ったことですが、他の園が断るような重度自閉症児やアレルギーのある子も差別なく受け入れ、先生方は他の子と変わらず全力を尽くして保育をしてくださる幼稚園でした。泥まみれになりながら思いっきり遊べる環境で、少しずつ成長!Upload By モビゾウ幼稚園では、毎日泥まみれになるまで遊ばせてくれます。裏山には園長先生手作りのアスレチック、園庭は掘り返し放題、水流し放題、どの子どもも帰る頃にはぐちゃぐちゃのヌットンヌットン状態です。感覚過敏で泥を触れず、ぬかるみに足が入ってしまうだけで大泣きしていた息子も、あっという間に泥まみれになって帰ってくるようになりました。この幼稚園では、年長の後半になるまで「お勉強」や「早期教育」のようなものは一切しないのも特徴で、息子にとっては良い環境だったのかもしれません。幼稚園に入ってから、靴は3ヵ月に1回は買い替えなければならないほどドロドロになって帰ってきました。ちょっと疲れた日は、砂に埋もれて空を眺めるのだそうです。紺色の制服が真っ白になって帰ってくる日は、大抵空を眺めていた日です。真っ白になってしまった制服も、泥まみれで穴があいてしまった靴も、見るたびに私は幸せでした。Upload By モビゾウ適度な負荷の大切さ。発表会が息子を成長させてくれた。出典 : 息子の幼稚園は、各行事に力を入れていることで有名でもあります。1つの行事のために、1ヵ月以上前から子どもたちは練習に練習を重ねます。特に年長さんの行事は大人から見ていてもすごいレベルです。「うちの息子は年長に上がる前に挫折するかも…」と私はいつもドキドキしていたものです。そんな心配をよそに、先生方は「ほんのちょっと頑張れば乗り越えられるぐらいの負荷を与えてみる」ということに気を配ってくださいました。「苦行に近いような負荷を与えてしまうと、子どもの自信にはつながらない。これならちょっと頑張ればできるかも、ということをやらせるようにしている」とのことでした。息子は何度も「もう無理~」と言ったそうですが、そのたびに先生方は息子にカレンダーを見せてくださったそうです。「あと何日だね」と言うと、息子は「頑張る~」と起き上がったそうです。それでも身体が疲れてどうしようもないときは、職員室のベッドで眠っていたそうです。決して特別扱いはせず、けれども適度な配慮をして頂けたと思います。そして最後の発表会で、息子は笠地蔵のおじいさん役をやらせて頂きました。それまで本人の負担を少しでも軽くするように、劇ではなるべく大勢でめだたない役をしていました。しかし、この最後の発表会は、セリフも多く出番も多い、主役をやらせて頂いたのです。これは息子にとって大きな自信になったと思います。年長になった息子が、卒園式を前に言ったことUpload By モビゾウ充実している息子の姿を見ても、もしかして辛さを隠しているのではないか、という私の気持ちがなくなることはありませんでした。感覚過敏の息子にとって、泥まみれになるのは実は嫌だったんじゃないか、行事のたびに荒れることが多かったから、本当はものすごく辛かったけど黙っていたのかもしれない…。英才教育系の園のほうが本人に合ってたかもしれない…。私の頭の中には常にそんな心配がありました。ところが、卒園式を前に、息子がこんなことを私に聞いてきたのでした。「お母さん、幼稚園の先生ってどうやってなるの?」「僕は将来幼稚園の先生になって、この幼稚園に戻りたい」「先生たちもお友達も、みんな僕を助けてくれた」「あんな風に、僕もみんなを助けたい」これを聞いて、私は涙が止まらなくなってしまいました。「そっか、楽しかったんだね、本当に楽しかったんだね」「みんなに助けてもらったんだね。幸せだったんだね」3年間、息子がどんな思いで毎日を送ってきたか、息子の言葉で私にはわかりました。4月からは小学校1年生。今までとは勝手の違うことがたくさん出てくるでしょう。息子にとっては辛いことも増えていくかもしれません。でも、幼稚園の3年間で得た自信の貯金で、きっと乗り越えていけると私は信じています。息子の新たな門出の日は、もうすぐそこです!
2017年03月23日特別なニーズにもこたえる、通信制サポート校「しんあい高等学院」って?出典 : 今春から大阪府大阪市に設立される通信制サポート校「しんあい高等学院」。日本でもまだ珍しい発達障害のある子どもたちの受け入れに特化した通信制サポート校です。これまでの通信制サポート校と、一体どのような違いがあるのでしょうか。しんあい高等学院/明蓬館SNEC 大阪・玉造入学試験には作文と心理検査結果の提出、そして子どもと保護者それぞれの面談があります。事前に障害特性・認知特性・学習特性などを見極めたもとで授業カリキュラムを作成していきます。入学前から生徒ひとり一人のニーズを見極め、万全な受け入れ態勢を作っています。もし心理検査を受けたことがない場合は、見学や入学相談とあわせて専門職員による検査を受けることも可能です。SNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)とは、特別支援教育のための通信制サポートシステムです。このシステムは、「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」で有名な東田直樹さんや、学習障害の理解を広げる活動を行っている講演家の南雲明彦さんなど社会で活躍している人たちを輩出した、福岡県にある明蓬館高等学校の日野校長によって発案されました。専門職員による面談・心理検査を通じ、入学前の検査結果をもとに個別のニーズにあわせて支援・指導計画を作成し、学習面を中心に身辺自立や人とのかかわり方、就労観など将来を見据えた訓練を含めてサポートをしていきます。また、進級にともなう試験も点数評価だけでなく各自にあわせた提出課題をつくることで着実に学習の定着をおこなっていけるようにしているのも特徴です。学習環境に関しても、通信制なので年1回(4日間)のスクーリング以外はサポート校への通学と自宅学習を自由に選ぶことができます。ひとクラスで一斉授業を行うのではなく、本人の望む環境で課題に集中することができる点は魅力的です。ただ高校に通うのではなく、それぞれの個性を生かせるような教育を目指しているのです。東田直樹オフィシャルウェブサイト南雲明彦オフィシャルウェブサイトそして何より注目したいのは、高校には臨床心理士・社会福祉士・特別支援の知識を持つ専門スタッフが常駐している点。学力面だけでなく生活支援もあわせたサポートを目的として動いてくれるので、思春期特有の問題があったとしてもすぐに相談できるところが魅力的です。気になる卒業後の進路もしっかりとバックアップする体制をつくっています。大学や専門学校への進学支援はもちろんのこと、就労の際は連携先の企業とのインターンシップ制度を用意していたり就労継続支援へつなぐこともできるようになっているのです。明蓬館高等学校品川・御殿山SNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)学院長にインタビューしました学校を運営するのは法人事業で福祉に15年携わってきた真田明子学院長。今回、発達障害に特化した通信制サポート校を開設するに至った経緯について、発達ナビ編集部がインタビューを行いました。Upload By 発達ナビニュース―なぜ「しんあい高等学院」を設立しようとお考えになったのでしょうか?真田明子さん(以下、真田さん):わたしたちは15年間、福祉事業に携わってきました。2006年からは児童デイサービスを開始し発達障害のお子様や親御様と接する機会が増える中で、高校以降の進路があまり用意されてない現状に気付いたんです。そんなとき、明蓬館高等学校のSNECを知り、ぜひ関西でも同じような高校が作れないかと思いたちました。―これまで関西にはSNECのような発達障害のお子さんをサポートするような高校はなかったのですか?真田さん:実は、関西は全国で比べても通信制高校が多い地域なんです。発達障害や不登校のお子様は自然と通信制高校に進学する流れができていたので問題があまり表面化しなかったんですね。ですがその裏で、進学後に最後まで通えずまた不登校になってしまったというケースも、多く発生していたのです。その大きな要因は、お子様の障害ケースに合わせられる専門家がおらず、適切なサポートを受けられなかったからではないかと推測しています。―だから、SNECサポートシステムの通信制サポート校の設立が必要だったんですね。真田さん:そうですね。しんあい高等学院には、臨床心理士や社会福祉士などの専門資格を保有した職員を常に配置しています。教育面だけでなく生活面のサポートも行っており、お子様が困っていればすぐにこちらからフォローを入れられるようにしています。―とても手厚いサポートが受けられるようになっているんですね。なぜ、ここまで万全のサポート体制を敷いているのでしょうか?真田さん:SNECサポートシステムを考案した明蓬館高等学校の日野校長から、以前こう言われました。「多感な思春期こそ大切にしなくてはならない」と。10代に受けた考えや環境は後々大きな影響を及ぼします。この時期をしっかりサポートすることにより生徒たちが安心して社会に出られるようにしたい、と。この考えに非常に感銘を受けまして、本校でもその精神を大切にするため発達障害に詳しい専門スタッフをおくようになりました。今後も本校のように遠隔授業を用いてサポートできるような通信制サポート高校が全国に広がり、より多くの支援を必要としている子どもたちに届けばと考えております。これからの新しい通信制サポート校のカタチに期待出典 : 真田学院長にインタビューした際、このようなこともおっしゃられていました。「海外では不登校という概念自体がない国もあるんです。」学校に通うということ自体を目的とせず、どういう学び方ができるかを本質的に探っていくという考え方が根付いていれば、子どもが「不登校」かどうかを問題とする必要もなくなるのでしょう。しんあい高等学院のように「それぞれの発達にあわせた学び方」を掲げる高校が全国に広がり、新しい学びの選択肢として定着していけば、子どもたちの進路にも新しい道が開けていくのではないでしょうか。しんあい高等学院、入学についての詳細はこちら
2017年03月23日友達との遊びでも刺激を求め続ける、ADHDの息子出典 : わが家には、自閉症スペクトラム+ADHDと診断されている6歳の男の子がいます。息子は基本的に自分から進んで他人と関わるということはなく、幼稚園でも「友達に誘われれば遊ぶ」「たまたま隣にいた誰かと遊ぶ」ということが多かったようです。積極的に関わって来てくれるお友だちに関しても『仲良しのお友だち』という意識はないようで、誰と遊んでいたかもすぐに忘れてしまいます。楽しそうにしているのは、ADHDの特性の一つでもある「刺激を求める」という部分が満たされるからではないかと考えています。そしてその「刺激を求める」という特性が、一歩間違えるといじめの原因になってしまうのではないかと思う出来事がありました。ある日プールで見た、友達と「遊ぶ」息子の様子出典 : 先日、水泳教室で泳ぐ練習をしている息子を眺めていた時のことです。10人ほどのグループレッスンで順番待ちをしている際、後ろにいた女の子たちが息子に声をかけ、楽しそうに遊び始めました。そのうち、女の子の一人が息子の持っていたビート板を取り上げたのです。息子は「新しい遊びが始まった!」とばかりにぴょんぴょん跳ねてビート板を取り返そうとしました。女の子は隣の女の子にビート板を渡し、息子はいつまで二人の間を行ったり来たりしましたが、なかなか取り返せません。そのうちに、女の子が息子の頭をビート板で叩き始めました。やめて、という素振りを見せながら逃げる息子。女の子はケラケラ笑いながら息子を叩き続け、その様子を見ていた隣の女の子も同じようにビート板で息子を叩きはじめました。息子は水に潜って逃げます。でも女の子は息子をビート板で上から押さえつけます。息が続かず水面に顔を出したいけれど、押さえつけられて出れず、息子はもがいていたのです。担任の先生は順番が回ってきた子を指導しており、監視員はあいにく反対側にいて気づいていません。私が慌てて別フロアのスタッフに止めてもらうようにお願いに走っている間も、それは何度も繰り返されたそうです。ようやく注意が届き、一連の行為は治まりました。しかし驚いたことに、息子はまだその女の子たちと遊ぼうとしています。遊びがエスカレートし、いつの間にか暴力を受けていたり、命が危険にさらされているということに気がついていないのです。息子はどうすれば「嫌なことをされている」ことに気づいて、逃げることができるだろう出典 : 女の子の行為にも問題はあります。しかし、刺激を受けて喜んでいる息子の様子が、行為をエスカレートさせてしまったという側面も見逃してはいけないのだと思います。決して「いじめられる方にも原因がある」という意見を受け入れているわけではありません。発達障害やその疑いのあるお子さまを抱える小学生のお母さん方から、「周囲から自分の子どもがいじめられていると報告を受けて、自分の子どもに話を聞いてみても『遊んでいるだけ』という返事ばかり」「トイレやロッカーに閉じ込められたり、殴ったりされても笑っている」という話を何度も聞いてきました。そのたびに、子どもが「自分が今どういうことをされているのか」という視点を持つことは、とても大切なことだと思うようになったのです。息子の場合も、「いじめ」が始まる前段階で、「こいつは何をしてもいい奴だ」という認識が周囲に行き渡ってしまうのを阻止する必要があります。そのためには、ADHD要素の強い息子の「刺激を受けると無条件に喜ぶ」という部分に何らかの働きかけをしていかなければならないと思いました。ではどうすれば、「嫌な事をされている」ということに気づき、行為がエスカレートする前にその場から逃げたり、毅然とした態度でNOが言えるようになるのでしょうか。出典 : 家に戻ってから、息子と話をしてみました。私「今日、水泳教室で女の子と遊んでいたね」息子「うん!ビート板をね、取られたの。返してって言っても返してくれないんだよ~」私「頭も叩かれてたね」息子「バンバンってね、二人でやるから逃げたんだけど追いかけてくるんだよ~」私「水に潜って出られなかったでしょ?」息子「そうそう!僕が逃げられないように邪魔するんだよ~」息子はあくまでも「遊んでいた」としか認識していないようで、のんびりと楽しそうに話しています。私「あのね、叩かれて痛くなかった?」息子「もちろん、痛いに決まってるよ」私「息が出来なくて苦しくなかった?」息子「そりゃ苦しいよ!いっぱい体を動かしたけど出れなくてさ~」私「あのね、あなたは自分の大切な人に痛いことや苦しいことをする?」息子「え、そんなの絶対にしないよ?」私「そうだよね。でも今日はずっとそんなことをされてたでしょ?」息子「うん、そうだよ。あれ?おかしいね?」私「それはね、遊んでるって言わないんだよ。あなたはずっと嫌なことをされていたんだけど、わかる?」息子「そうなの?だからやめてって言ってもやめてくれなかったの?」私「そうだね。お友だちっていうのはね、あなたのことをちゃんと大切にしてくれる人だと思うの。痛いことや苦しいことをしてくる人はお友だちじゃないよ。すぐに離れないとダメだよ」息子「逃げても追いかけてきたら?」私「そんな時はね、周りの人や大人に助けを求めてるんだよ。プールの場合だったら、プールサイドに上がって先生を呼びなさい。どこかの道だったら、知らない人にでもいいから『助けて』って言ってごらん?ずっとママが助けてあげられたらいいけど、そうじゃない時もあるでしょ?自分の身は自分で守る練習をしていかないとね!」息子「わかった!今度から痛いことと苦しいことをする人からは逃げたらいいのね?」母親の私が、今の息子に伝えられること出典 : たった一度の話し合いで、息子が刺激を受けて喜ぶのを止められるとは思っていません。これからも他の子どもたちからの悪ふざけを、喜んで受け取ってしまうことがあるかもしれません。「強い刺激を受けて喜ぶ」というのは脳の構造の問題で、幼い息子がそれを理性でコントロールできるはずがないからです。それでも今、私が親として息子に伝えられることは何だろう。息が出来ずに水中でもがいている息子を何度も思いだし、胸が張り裂けそうになりながら考えました。「あの時、君はいじめられていたんだよ」私は息子にそうはっきりと伝えました。殴る蹴る突き飛ばすなどの暴力行為、心を傷つけるような暴言を吐かれる、やめてと言ってもからかわれ続けるなど、今の時点で私が「嫌がらせ」「いじめ」だと思うものを紙に書いて教えました。「遊び」と「いじめ」の違いが自分のなかでも曖昧な上、刺激を受けて喜ぶ特性を持つ息子には、どんな行為が嫌がらせやいじめなのかをきちんと教えておかなければならないと思ったからです。今から繰り返し情報をインプットすることによって、いつか「あれ?これは嫌がらせをされているのかな?」と気づく場面が出てくると思います。その時には、その場所や人から離れたり助けを求める必要あるので、その方法も合わせて伝えておくことにしました。なかなか改まってお子さまと「いじめ」についてお話をする機会は少ないと思いますが、子どもがいついじめの被害者になったり、逆に加害者になってしまうのかは、誰にもわかりません。わからないから、情報をしっかりと伝えておくことが必要なのではないかと思います。もうすぐ新学期が始まります。周囲の環境やお友だち関係ががらりと変わってしまう今が、お子さまとゆっくりとお話しをされるいい機会かも知れませんね。
2017年03月21日不登校は、「乗り越える」ものじゃない。僕たち「JERRY BEANS」は、全国の小中学校を回って、講演と音楽ライブを組み合わせた「講演ライブ」という活動を実施している。講演ライブを行うのはほとんどが道徳や人権の授業で、僕たちの不登校経験をもとにメッセージを伝えている。多い年は年間で約130件。こうやって書くと、「不登校経験者が過去を乗り越えて教育活動へ…」という感動ストーリーに見えるかもしれない。だけど、僕の中では、不登校っていうのは「乗り越える」ようなものじゃない。学校に行くと“講師”や“先生”だなんて呼ばれるけど、正直、心は今も“当事者”だと思っている。自分が特別な経験をしているとは思っていないし、「人に元気を与える」なんて言えるほど立派な人間じゃない。でも、講演に行くたび、当時の自分と同じような悩みを抱えている人に出会う。「自分と一緒の思いを持って生きている人がいるんだ」って知ってもらえたら、その人の気持ちがほんの少しでも楽になるかもしれない。そう思って活動を続けている。そして何より僕自身が出会った人たちに沢山心や命について教わったから。そのことを伝えたい。「どうして人と違うんだろう…」自分のペースを認めてもらえなかった幼少期出典 : 子どもの頃から他人に自分の気持ちを伝えることが苦手で、友達もずっといなかった。同じく不登校を経験している、双子の弟の史朗とは、そこが違うところ。史朗には友達がたくさんいた。幼稚園の時は、毎日親に引きずられて泣き叫びながら通園していた。小学校1年生になって、泣き叫ぶことはなくなったけれど、はじめて他人と自分との距離というか、違和感があることに気づいたんだと思う。楽しいのに笑顔になれなかったり、悲しいのに涙が流れなかったり。うまく表現できないまま、自分の気持ちを置いてけぼりにしてしまう、そんな冷めた子どもだった。自然が大好きで、段ボールで秘密基地を作って自然の中で遊んだりしていた。アースカラーの民族衣装を好む、今のファッションスタイルにもつながっているかもしれない。学校でも好きな授業は理科。とにかくマイペースな性格だった。学校にいて一番しんどかったのが、そんな“自分のペース”をまわりに認めてもらえなかったこと。自分では行きたいと思って登校するんだけど、時間が違うというだけで出席を認められなかったり、絵を描くことが好きで特に妖怪やホラーを好んで描いていた。その絵を見て、腫れ物をさわるように扱われたり。当時、不登校は本当に珍しいことだったから、先生も友達もそれを認めること自体が難しかったんだろう。今だからこうやって振り返ることができるけど、当時はわけもわからずしんどかった。自我が不確定でぼんやりしていて、なんとなく「人と違う」ってことしかわからなかった。毎日の居残り授業。先生の一言で、ついに心が折れる出典 : 年生の時、ある日学校に行こうとすると腹痛が襲ってきた。病院にいっても原因不明。でも、翌日からも身体のあちこちが痛くなって、それからは毎日遅刻して学校へ行くようになった。3年生から5年生までの2年間は、遅刻しながらも登校を続けていたけれど、だんだん自分が悪いことをしているような気持ちになっていった。同級生から「どうしたん?」とか「なんで遅れてくるん?」と軽いノリで聞かれるけど、うまく答えられない。医者に行っても「病気でもなんでもない」と言われるから、身体は本当に痛いけど、嘘ついていると思われたくなくて、何も言えなかった。そのうち、周囲の子からも「ズルしてる」って思われるようになって、遅刻する前よりもますますひとりぼっちになった。その疎外感といったら。5年生の頃、勉強が遅れていたので、担任の先生と1対1で放課後にも勉強するようになる。熱血先生で、毎日居残り授業をすることを、帰りの会でみんなの前で宣言するような人だった。そんな状況が、ますます僕を限界に追い込んでいったんだと思う。ある日の居残り授業で、その先生に「字が汚いな」と言われたとき、完全に心が折れてしまった。先生には、励ましてくれる味方でいてほしかったのに、その一言で全人格を否定されたように感じたんだろう。今思えばきっと先生に悪気はなく、むしろ僕の事を思って言ってくれていたんだと思う。翌日から、僕は不登校になった。「今日は終わりの日だ」睡眠薬を飲もうとしたその瞬間学校へ行かなくなると、罪悪感で自分を責めるようになった。先生や親にとって、自分は迷惑な存在で、「ここには自分のいる価値なんてないなぁ」と思っていた。しばらくして、いじめを苦に自殺をした少年のニュースをテレビで観て、“自殺”に興味を持つようになる。「もう僕は愛されていないし、愛される資格なんてないから、いなくなった方がいい、みんな喜ぶやろうな。誰か一人でも泣いてくれるんかな。」そんな考えが生まれるぐらいに迷走してしまっていて、自殺を愛されるための方法の一つだと思うようになった。「今日は終わりの日だ」ある朝、ふとそう思った。母親が飲んでいた睡眠薬をこっそり部屋に持って行き、自殺をしようとした。全く怖さはなく、むしろ無感情だった。睡眠薬を飲もうとしたその時、ものすごい音がして、扉が開いた。母だった。いつもと違うぼくの様子に、母は感づいていたのだ。母はすぐに僕をもの凄い力で抱きしめた。そしてボロボロに泣きながらこう言った。「学校に行かへんて死ななあかんほど悪いことなんか?あんたが元気に生きていてくれたら、それだけで十分なんや。あんたが何をしたって、誰がどう思ったって、お母さんはあんたの味方やねんで」そう言ってずっと僕を抱きしめてくれた。怒られると思っていたのに、自分は愛されてないと思っていたのに、どうして……。ボロボロと泣く母の涙に自分の背中が濡れていく。今までほとんど感情が出てこなかったのに、気づけば僕も、止められないくらいめちゃくちゃに泣いていた。
2017年03月20日特別支援学校高等部に入学した、自閉症の息子。その時間割を見てみると…出典 : こんにちは。『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』の著者の立石美津子です。2000年に生まれた、知的遅れを伴う自閉症の息子は2016年4月7日に特別支援学校高等部に入学しました。息子が高等部入学したばかりのころ、私は時間割を見て驚きました。「あれ?数学、国語はこんなにちょびっとなの?」そこにあったのは、作業、作業の連続の時間割でした。Upload By 立石美津子特別支援学校高等部は正式には高校ではありません。就労するための職業訓練校的色彩が強いです。障害も重い子、軽い子がいます。それぞれの能力に合った就労先を見据えて、園芸班、紙工作班、清掃班、接客班、事務班などに分かれて訓練しています。仕事=つらい?息子が学校で習った内容は…出典 : ある日、息子が学校から持ち帰ったファイルを開いてみると、「仕事頑張ります」と書いてありました。社会に出るということも仕事の意味もわかっておらず、ただ担任に言われたことをそのまま写してているような気がしました。何だか切なくなりました。Upload By 立石美津子更にそのファイルには、仕事に関する穴埋め式の問題が入っていました。○のなかに回答を書くものです。問題:高等部を卒業したら?○○→○○をもらう→生活する息子が書いた答えには、「働く」「給料」の文字が入っていました。問題:お給料をもらうためには、仕事をしなくてはならない!仕事は遊びではないので○○仕事や嫌な仕事もある○○には「辛い」という文字が入っていました。Upload By 立石美津子息子の精神年齢は5歳くらいです。この穴埋め問題の意味をどれくらい理解しているのでしょうか。先生が模範解答として示したものを、そのまま書き写したんだと思います。確かに書いてあることは正しいことなのですが…。障害のある息子にとって、仕事はただつらいだけ?社会に出れば学校時代のような見守られる環境ではなく、厳しい面もあります。嫌でもしんどくてもやらなくてはならないことも多々起こります。でも…。「‟仕事は辛い“と最初にインプットしないでほしい。仕事が始まる前から‟苦しいもの”という先入観を持たせないほしい」と思いました。仕事をするのは給料のため、生活のためだけではありません。息子には卒業後、障害があってもやり甲斐や張りのある毎日、「こんな僕でも誰かの役に立っている」という充実感を持ちながら働いてほしい。そう感じました。「仕事は楽しい、だから頑張って技術を身に付けて仕事ができるように頑張ろう」そんな穴埋め問題だったら良かったのに…と母として思いました。働くことはゴールではない。むしろ、その先の人生のほうがもっと長い出典 : 特別支援学校高等部では、生徒達がきちんと就労できるよう、訓練することに必死です。でも、就労はゴールではありません。それから先も人生は続きます。むしろその先の方が学校生活よりもずっと長いのです。企業は法定雇用率に基づいて、障害者を雇うようになりました。2013年からは、従業員数が50人以上の会社は、雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者の割合が2%以上になるよう義務付けられています。このパーセンテージは、将来もっと上がると言われています。厚生労働省『平成25年4月1日から 障害者の法定雇用率が引き上げになります』企業は義務として障害者を雇いますが、企業の側に障害に対する理解が十分あるとは限りません。例えば“アスペルガー症候群”の人にはどのような特性があり、物事をどう捉える傾向があるのか、正しく把握している人が企業にどれだけいるでしょうか。このような状況だと、孤立し虐められ退職してしまう障害者も多くなるでしょう。一方で親御さんの中には、「どうか子どもが今日もクビになりませんように」と神棚に祈っている人もいます。そこには、わが子が将来一人で生きていくためには、職場になんとか雇用されていてほしいという切実な願いがあるのだと思います。そんな親の気持ちを知った子どもが、合わない職場でも嫌と言えず、働き続け、もがき苦しむという場合もあるかもしれません。就労できたからといって、その先の人生が保障されているわけではないのです。だからこそ、特別支援学校も「訓練して、就労させて、はいさようなら」とならないでほしいんです。卒業後のフォローはあると学校側からは聞いていますが、ずっと見ていてくれるわけではありません。障害のある子に対して、長期にわたり見守る制度が充実することを願っています。Upload By 立石美津子毎朝、慣れないネクタイの制服で悪戦苦闘している息子です。これも就労訓練の一貫なのかもしれません。そして、「ああ、どんどん年齢を重ねないで就労なんて考えないでずっと可愛い子どもでいてほしいなあ。」「毎日楽しい学校生活のようなことを一生経験できる場があったらいいなあ」なんて思ってしまうのでありました。Upload By 立石美津子『立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方』2016年、すばる舎
2017年03月19日興味のあることしか覚えられない娘。嫌いな「社会」、どう勉強する?出典 : 視覚優位の傾向があるけれどそれが生かせるのは興味のあることだけ。これが、当時小学3年生だった娘に対する私の認識でした。実際、形を覚えて書き写すのは得意ですが、興味のないことはなかなか覚えられません。小学校の科目の中でも、「社会」が嫌いだという娘。そんな娘がが日本の都道府県を覚えられるようになるまでのあの手この手を、このコラムではご紹介します!娘の視覚優位を生かそう!ケータイアプリを駆使してみるも…社会の科目が嫌いな娘がまずは地図に慣れ親しめるよう、早くから地図のアプリなどを使わせていました。「あそんでまなべる日本地図パズル」は、日本地図の型に都道府県のピースをはめ込んでいくもので、視覚優位の娘はあっという間にスラスラと解くようになりました。Upload By SONOあそんでまなべる日本地図パズル(Android版)あそんでまなべる日本地図パズル(iOS版)それならと、姉妹品の「あそんでまなべる日本地図クイズ」も勧めてみました。こちらは都道府県名と県庁所在地がクイズ形式で出てくるのですが、こちらは嫌だと拒否。嫌なものは仕方がありません。あそんでまなべる日本地図クイズ(Andoroid版)あそんでまなべる日本地図クイズ(iOS版)スラスラ解けるようになったものはつまらないそうで、日本地図パズルも使わなくなりました。ゲーム性の高い「地図エイリアン」を勧めてみましたが、こちらはゲームのノリに合わず拒否…。周りの子たちが楽しそうにやっていても見向きもしませんでした。「とりあえず日本地図パズルができるってことは、結構覚えているってことだよね、形を覚えるのも得意だし…。」そう思って一旦地図学習は幕を閉じた娘小3の春でした。地図エイリアン(Andoroid版)地図エイリアン(iOS版)興味のないことは、やっぱりなかなか覚えられない!思考錯誤の末、辿りついた勉強法は…出典 : しかし小4冬休みの宿題で「(都道府県名を)5個しか書けなかったー」という結果に。やっぱり興味のないことは覚えないんだね…と思いつつ、対策を考えました。「またアプリで地図の勉強をやってみようよ~」と言ってみるものの、娘は「ヤダ」の一言。5個しか書けなかったということは、覚えるまで毎回何十個も分からないものがあるということだよね…。娘が日本地図を覚えるまでの苦痛を考えると、毎回分からなかったところを調べさせたり書き写させたりするのも心苦しい。しかもそれって効果あるのかな…?というよりますます地図嫌いになっちゃうかも!?私はしばらく考えました。そうだ!沢山じゃなくなればいいんじゃないの?私「地方に分けてやってみようか」娘「いいけどどうするの?」私「白地図を探してみるよ」調べてみると、地方別に印刷ができる白地図のページがありました。テクノコこれだと北海道は東北地方とは別の用紙、沖縄も沖縄と先島諸島で一枚で九州地方には入ってないけれど、ひとまずはこれでいいかな…娘に話すと「北海道と沖縄だったら1問だけで満点だね。キャッキャッキャ」と笑っていましたが、まんざらでもない空気になってきたので、東北地方からプリントしてあげました。Upload By SONO結果は6問中4問正解。宮城県は何とか思い出しましたが、静岡はそんな寒いところじゃありませんよ。都道府県記憶術、番外編。好きなもので覚えるのがイチバン!?そうそう、実は娘はお笑いコンビの「ラーメンズ」が好きなので、ちょっと各都道府県に失礼なところはありますが、「不思議の国のニポン」を何度も見ておりました。娘は「主食さくらんぼ、おかず西洋梨、おやつ…」と聞くと「将棋の駒!」と即答できるのに、「山形県」は覚えられないんですね。エピソード記憶の方は、しっかり残っているというのに…どの形の県がどこにあるかも覚えているようなので、あとは何県かを覚えればいいことになります。地方別にプリントしながら、エピソード記憶を結び付けていこうと思いました。いまや嬉々として県庁所在地を覚える娘。大切なのは子どもに合った勉強法を探すことUpload By SONO漢字への取り組みでも分かったことですが、なかなか覚えられないことでも何度も出会ううちに記憶が定着してきます。そして、定着できた記憶はそう簡単には消えません。娘は定着するまでに時間がかかるので、毎日少しずつ取り組むことがいいようです。定着したものが増えることによる負担の軽減と、少しずつ取り組むことによる負担の軽減が効果的でした。日本を一周するころには、北海道・東北地方、九州・沖縄地方のまとまったプリントのサイトも見つけました。最近リニューアル公開されて見やすいページになっています。小学校社会科問題集都道府県暗記用無料白地図&ミニテスト娘に見せたところ、「答え書くところが別でやりにくい」とのことでしたが、「学校で問題解く時も、地図の上じゃなくて回答欄に書くよね。その力も必要だよ。」と言うと納得してくれました。ワーキングメモリの少ない子は、問題の場所と回答欄が違うと解き辛いそうです。コグトレ(認知機能強化トレーニング)の「あいう算」などをしてみると、苦手さが分かったりトレーニングができたりするそうですよ。コグトレ研究会こうして年末から取り組むこと1月ちょっと。漢字まで完璧にとはいきませんが、娘は全ての都道府県を覚えました。そして、できるようになったことの嬉しさから「県庁所在地も覚える」といい1週間足らずで覚えています。県庁所在地を覚えようという時には工夫も見られました。「都道府県と同じ名前のところはどれくらいあるかな?」と、地図にマーカーで印を付けていました。苦手だからとあきらめていたら見ることは出来なかった娘の楽しそうな姿に、苦手を感じずにできる形の勉強法を探すことの大切さを学びました。
2017年03月19日軽い気持ちで始めたバイトで、自分の発達障害に気づくことに出典 : まず、どうして私がコンビニでアルバイトをすることになったのか、説明したいと思います。娘が小学校2年生の時に不登校になり、私は保育士の仕事を退職することになりました。それから約2年半の間、私は在宅で内職程度の仕事をするくらいで、ずっと家で娘と過ごしていました。この後、娘はアスペルガー症候群であると診断されます。そして娘が5年生になる頃、娘の主治医から「そろそろ、お母さんパートに出られても大丈夫ですよ」と言われたことが、私がアルバイトをはじめようと思うきっかけになります。それは、娘がアスペルガー症候群と診断されて1年が経ったタイミングでもありました。いきなりフルタイムの仕事をするのは心配だったので、近場のコンビニでバイトをすることにしました。今までやってきた仕事は事務・パソコン系と保育系のみ。でも、私の頭の中では「コンビニのバイトだったら私にでもできるだろう」という考えがありました。しかし、それはあまりにも甘い考えだったとすぐ知ることになります。 そして、自らも発達障害であることに気づくきっかけにもなりました。やることありすぎ!多彩過ぎるコンビニの仕事内容出典 : さて、コンビニのバイトってどんな仕事をするのでしょう。実際に私が経験した内容をまとめてみました。・レジ打ちもはやパソコンといっていいくらい高度なレジ。現金だけでなく、クレジットカード、Quoカード、Icoka、Suicaなど電子マネーも扱います。 交代した時にレジのお金を合わせるのもバイトの仕事。・タバコ販売ものすごい種類のタバコの名前を覚えるのは大変。番号が付けられているので「〇番」と言ってくれると助かるんですけどね。・公共料金や携帯料金など代行収納これはものすごく数が多いです。手早くしないといけないのに処理に時間がかかることや、1度に何件も出してくる人も多く、控えを確実に渡し、店舗控えも保存しないと大変なことになるので気を使いました。・切手・収入印紙販売たまに注文が入るので、やり方を忘れてよくオタオタしてました。・チケット発券お客様がスマホで見せてこられる番号を入力してコンサートのチケットなどを発券します。これもレジや連動する機械の操作を覚えるのが大変でした。・おでん・中華まん・揚げ物の調理中華まんと揚げ物は一年中。冬場はそれにおでんの調理が加わります。残っている品物の数や廃棄のタイミングも考えながら調理しなければなりません。おでんも何時にだしを入れ替えるなどマニュアルがあるので、かなりバタバタしました。不器用な私はよく火傷したものです。・掃除交代してレジのお金合わせが終わると、一人は掃除に入ります。床だけでもホコリ取り、水拭き、乾拭きを3回。さらに、店内のあちこちにあるガラスを磨き、外回りの掃除、灰皿の交換、トイレ掃除をこなさなければなりません。しかも、45分以内で終わらせないと大変怒られました。・品出しおにぎり、弁当、パン、ほかにもいろいろな大量の商品がシフト中に1回は納品されます。それをチェックする機械にかけて商品名と数を確認しながら、素早く棚に補充していきます。また、新聞も別に納品されますので、それも台帳にチェックして素早く棚に補充します。・コンビニコーヒーの販売2012年からコンビニの入れたてコーヒーの販売が活発になり、私がバイトしていた店でも導入されることになりました。導入時にはメーカーの本部から来た人に研修を受け、導入してからはキャンペーンで大忙しでした。・その他コピー機やATMの使い方をご案内することもありました。レジでじっとしていることは許されません。ちょっとでもヒマができたら商品をきれいに並べ替えたり 、お菓子の補充をしたりとやることは無限にあります。努力しているのにどうしてもできない。私のやらかした失敗の数々出典 : そんな過酷なコンビニで、私がうまくいかなかったことを紹介します。・仕事が遅い、手際が悪いバーコードを読み込んでレジをするわけですが、バーコードが商品のどこについているのか全然覚えられず、商品をくるくる回してお客様に「ここよ」と指摘されることもしばしば。袋詰めも遅く、必死で早くしようと思っているのに「アイスクリームが溶けちゃう」と怒られることもありました。掃除のやり方は、まずオーナーの奥さんから細かく指示がありました。でもそのやり方では45分では終わりません。同じシフトに入るバイトは私を含めて2人なので、「いつまでも掃除してられたら困る」と先輩バイトに怒られました。でも、みんなはどうやって手早く終わらせているのかどうしてもわかりませんでした。「適当でいいのよ」と言われてもその「適当」がわかりません。・ミスが多い代行収納でお客様に渡す控えを忘れたり、お弁当を温めるときにソースまで温めてしまい爆発寸前になったりと、ミスには事欠かず。常にメモを持ち歩いて、ミスを書きだして繰り返さないよう気を付けたのですが、それでもミスは減らすことができませんでした。・仕事が覚えられないマニュアルを読みこんだり、先輩に教えられたことはメモして、そのメモを清書して読み返したりしましたが、仕事を人並みのスピードで覚えることはできませんでした。おそらく、作業量が多すぎてメモするくらいでは追い付かなかったのでしょう。業務内容が私の処理できる限界を超えていたので、努力でカバーするのは無理だったのだと思います。・マルチタスクに弱すぎるレジにいるときにも、揚げ物のチェックをしたり、値下げの用意をしたりと仕事はいっぱいだったのですが、一つの仕事をすると他のことを忘れてしまったり、熱中するあまりお客様に気づかなかったりしました。初めて経験したパニック状態で発達障害と気づくきっかけに出典 : 「もう無理かも」と思いながら仕事をしていたある日のことです。その日のことはなんだかもやがかかったようでよく覚えていないのですが、とても店は忙しく、私は例によって仕事でミスをして先輩に怒られていました。その時にお客さんからも声をかけられ、なんというか私の脳みそはそこで焼き切れたようです。先輩の言葉もお客さんの言葉も日本語として聴き取れなくなりました。意味のない音がワーッと向けられているような感じで、頭はグラグラ、身体がスーッと冷えていくような感覚になり、しゃがみ込むか、その場から逃げたくなりました。だけど、根性で「とにかくレジを打つんだ」と作業しているうちに、徐々に元の感覚が戻ってきてパニックは収まりました。おそらく周りの誰にも気づかれることはなかったと思います。この出来事があり「あれ、私が困っていることって娘の診断に当てはまるわ」と思い至り、発達障害の検査を受けようと決意したわけです。そして受診した病院で、私自身も発達障害であると診断を受けました。4ヶ月目で退職勧告。そして私の出した結論。出典 : バイトを始めて4ヶ月目のことです。仕事を終えてバックヤードへ戻るとオーナーの奥さんから「話がある」と言われました。「実はね、あなたのことで困っているの。普通のバイトの子に比べて仕事を覚えるのが遅くて、もうこの段階ではみんなできていることがあなたにはできていない。一緒に組んでいるバイトの子も困ってるようだし…。どうしてあなたは成長しないのかしら?」叱責されるわけでもなく、しみじみと本当に困ったという風に話す様子を見てすっぱり決めました。「実は、最近検査を受けて発達障害があると診断されました。私はこれ以上、この仕事で成長することはできません。だからもう辞めさせてください。」もういくら頑張っても無理だというのが私の結論でした。そして、それはあっさりと受け入れられました。頑張っても、頑張ってもできないことがある。今まで認められなかったけど、この仕事で初めてその事実を受け止めることができたのでした。これからコンビニで働こうと思う人へのアドバイス出典 : 最後に、私が働いた店は特に売り上げがいい店で、勤務時間は昼の1時~夕方5時という業界では忙しい時間帯でした。よく下見をして、あまり忙しくない、本部直営店舗ではない店を探したり、バタバタすることは少ない深夜の時間帯などのシフトに入ることで対応できる人もいるかと思います。私も、勢いで決める前にネットなどでよく情報を集めておけばよかったと思いました。繰り返しになりますが、この経験が私が発達障害と向き合うきっかけを作ってくれました。決して良い思い出ではありませんが、自分の特性を知り、「頑張っても、頑張ってもできないことがある」という学びを得ることができた時間だったと感じています。
2017年03月17日療育センターを舞台にした演劇、「わたしの、領分」わたしの、領分療育センターを舞台に、発達障害がある子どもにかかわる「心理士」の視点で描く、演劇『わたしの、領分』。2年前の初演で好評を博し、このたび再演が決定しました(3/28~4/2 東京・下北沢/小劇場楽園)。LITALICO発達ナビでは、公演に先立って、演出の松澤くれはさんにインタビューを行いました。Upload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)松澤 くれは(まつざわ くれは)脚本家・演出家。1986年、富山県生まれ。早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒業。演劇ユニット<火遊び>代表。芥川賞作家・中村文則氏『掏摸[スリ]』の舞台化にはじまり、『殺人鬼フジコの衝動』『天帝のはしたなき果実』『くるぐる使い』など、人気小説の舞台版を手がける。オリジナル作品では「あなたとわたしが[We]に近づく物語」をテーマに、言葉で分かり合おうとしながらも分かり合えないことを受け入れる、人間の生き方を一貫して描く。現実のような生々しい会話劇で、観客の日常につながるラストシーンを目指している。大学院を卒業し、都内の療育センターに配属されたばかりの心理士・萩野は、発達障害児を中心に面談を行っている。「いつか治りますよね?」「うちの子を障害者にする気か!」 親たちは口々に言いながら、救いを求める眼差しを彼女へ向ける。認識の齟齬から生じる軋轢に悩みつつも、萩野は実直に、進むべき道を探してゆく。ある日。定期面談を終えたはずの青年が、センターにやってくる。勤務先での生活を嬉々として語る彼に、まとわりつく悪意の存在。青年が起こした傷害事件は社会を巻き込んだ「自閉症をめぐる問題」 へと発展し、偏見と差別が膨らみ続けるなか、萩野は一人「こころ」と対峙する。世界のあいまいさを許容して生きるための。はるかから、わたしの物語。療育センターの心理士が紡ぐストーリー誕生のきっかけ出典 : 編集部(以下、編):はじめまして。今回療育センターを舞台にしたお芝居『わたしの、領分』再演ということで、ぜひお話を伺えたらと思います。まずはじめに、このお芝居を作るそもそものきっかけは何だったのでしょう。松澤くれはさん(以下、松):もともと、僕の知り合いに療育センター勤めの心理士がいたんです。その人から現場サイドの悩みや葛藤を知る機会がありました。そのときはじめて「支援する側にも葛藤や悩みがある」ということを知りました。療育施設という場所には常々舞台として関心があったのですが、そこでの話というと、既存のものはどうしても親御さんや子ども当人からの視点で描かれがちで。療育施設には心理士さんもいます。知人の話を聞いて「心理士の視点から書きあげることで新しい作品がつくれるんじゃないか」と思ったのです。もともと僕は作品を創るときに「視点を変える」ということにこだわってきました。別な角度、いわゆるニッチな視点ですね。うちが手掛けた他の作品でも、例えばオリンピックを描く時、ドーピング商品を選手に売るバイヤー視点でつくるなど取り組んできました。視点を変えて紡ぎだすことによって、新しい問題提起が何かみえてくるのではないかとは常に考えて素材を選んでいます。今回の作品の着想もその範疇(はんちゅう)で生まれました。「当事者意識」の境界線は?発達障害の子どもとその周縁をどう描いてゆくのか出典 : 編:既存のイメージから視点を変えて芝居を紡ぎ出すということですが、今回、療育センターの職員と発達障害の子どもという題材の中で、どのようなテーマを持たれていたのでしょうか。松:「当事者意識」というものに対する興味関心です。「当事者」という言葉はよく使われますが、一体、どこからどこまでが当事者なんだろう、と。たとえば発達障害のある本人がいて、その親御さんまでが当事者なのか、それとも支援にかかわるすべての人もふくめるのか…。実際、劇中でも「あなたに足りないのは当事者意識だ」というシーンがあるんですが、じゃあ、あなたはどうなんですか?と、問い返すこともできる。何があれば「当事者だ」と言えるのか…心の持ち方なのか、血が繋がってることなのか、本当は誰も定義できないからこそ、難しいのだと思います。本人がどれだけ相手を思って行動しても、「いや、あなたは部外者だ」と言われてしまえばそれまで、何もできないというもどかしさがある。その、定めきれない「当事者意識」の境界線を作品で描くには、なるべく広く関係性を作るべきだと思ったんです。子どもと子どもの親がいて、民間のセラピスト、センターの人、ドクター、心理士の夫、などなど。自分は当事者なのか?と悩みながらも相手にかかわっていく、あるいは、この人は当事者ではないと相手に思いながらも頼っている、この状態やそんな関係性そのものを描きたいと思ったのです。編:なるほど…では、劇中の登場人物たちがその人なりの「当事者性」を追求していくような形で物語が進んでいくのでしょうか?松:いえ、自分が当事者と思っているか思ってないかは、バラバラに設定しています。それぞれのシーンで、観る人が「『当事者』というものを考えることに直面する」ように演出しています。たとえば、「息子を障害者にするつもりか!」「あなたに足りないのは当事者意識だ」といった台詞を聞いたときに、ハッとする人もいるかもしれないし、疑問を持つ人もいるかもしれない。観る人それぞれが考える余地を残して、シーンを描いています。編:「これが当事者だ」と答えを出すというより、当事者性そのものを”考える”ために劇がすすむようにしているということですね。松:そうですね。基本的に答えを出したり作り手のメッセージを出していくタイプの劇は作っていないんです。登場人物の悩みそのものを持ち込み、悩みと悩みがぶつかり葛藤がおきる、人間関係のうまくいかなさ、その場面をそのまま提示していこうと。その中で、互いに争わず、妥協ではない前向きな折り合いをつけるにはどうするか、今この瞬間の現実の悩みをどうするかを、描いていきたいと思っています。そもそも80分の劇で人間の悩みなんて簡単に解決できないとも思っていますしね。稽古中、セリフにつまづいて黙ってしまう役者を褒めます。その訳は…Upload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:役者さんとは普段どのようなコミュニケーションをとりながら稽古をしているのですか?松:「嘘はつかないでほしい」と、まず最初に言っています。セリフがあるからって言わないでほしい、言えないのに言わないでほしいと言っています。セリフを覚えてないわけでなく、うまく出なかった。そんな時には立ち止まって、なぜ出なかったのかを考えてほしいと伝えています。なんでその演技ができないのかということを考えてほしいんです。とりあえずで無理やり話を進めないで、セリフを言うきっかけを探してほしいって言っています。ピンとこないセリフがあったら、じゃあ今どんな気持ちになっているのかを共有して前段階から演技を考えていきます。なるべくお互いにごまかさない、その代わり稽古なんだから失敗していきましょうと。そう伝えると、ホントにセリフ言わない人も出てくるんですよ。そこからは、この人物がセリフを言う動機はどこにあるのか、どれくらいのイメージを持ってやっているのか、お互いのイメージをすり合わせるようにして進めていきます。編:松澤さんが今のような演出スタイルをとることになったきっかけはなんですか?松:そうですね。人はそれぞれ違う、という意識がそうさせたかもしれません。自分と他者という違いに少しずつ気付いてきた時期があって。昔は男主人公でやっていましたが、一挙手一投足が気になりすぎてしまって、役者にも細かく指摘し過ぎてしまうんですね。だんだん、「このままじゃ駄目だ」と思うようになって、女主人公の芝居にチャレンジしたんです。そしたら、女性のしぐさに対してなかなか想像が及ばず、わからないことだらけだったんです。そこで気づいたんです。そもそも演出家も役者も、芝居に挑むバックボーンが違うし、みんなバラバラの意思や体を持っているのだということに。でもそれは、一緒に芝居を作っていく上では、実は大した問題ではないんですよね。大事なのは同じ目標を持って、ひとつのことに向かうこと。そこに至るまでに各々が違う役割を全うすればいいだけ。そこから今のような演出スタイルや、役者とのコミュニケーション方法が築かれていきました。編:人はみんなバラバラで、違った意思を持っている。当たり前のことなのに、人はつい自分の信念や、一般的な社会通念にとらわれてしまう…発達障害のある人の中には、そんな周囲からのプレッシャーに苦しんでいる人も少なくないと思います。演出家、役者、監修者、一人ひとりの「ちがい」を前提として芝居をつくりあげていくスタイルは、きっとこのテーマにぴったりの手法なのだと感じました。自分のフィルターは、視点が異なる他者との密なかかわりで、外していけるUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:今回の作品の話に戻りますが、創作していくうえで、松澤さんの築いたスタイルはどう生かされましたか?役者さんにとっては、発達障害のことや心理士の仕事は未知の世界でしょうし、イメージしにくいところからのスタートだと思うのですが。松:初演の稽古の際、きっかけになったできごとがあります。くまさんがいて、うさぎさんがいて、箱にビー玉を入れるという、子どもへの発達検査のシーンでのことです。最初は、検査で子どもが間違えてしまったことで生じた、発達障害の可能性に対して、両親が失望するという台本にしていたのです。しかし、父親役の役者の意見からは「間違えてしまった子どものことは、僕には正常に見えた。子どもだから複雑な指示に従えないのは当たり前だと思います」といったのです。そこで活路が見えました。こうなるから、こうとこだわらず、なるべく自分のフィルターをはずして、バラバラにして組み立てていくようにしたんです。実際に演じる役者さん、監修をしてくれた心理士、自分と視点が異なる他者の視点を取り入れていくことで、リアリティが生まれていきました。そんななかで、たとえば観客席の最後列から聞くと声が聞き取れない役なども出てきました。登場人物のテンションもそれぞれ違うので、役ごとにバラツキをもたせたのです。普通のお芝居だと、なるべくはっきり、後ろまで声が通るようにしますよね。でも今回、それをやらなかった。あと、余談ですがうちは円陣も組みません。そしたら同じテンションになっちゃうから。それではリアリティを消してしまいます。そこまですると演出がバラバラに見えることもあるかもしれません。しかし、現実では同じテンションはありえないんです。揃えてしまうことではリアリティは生み出せないことになります。なるべく誰かのペースに巻き込まれないでと、役者には言ってます。ストーリーばかりを勝手に進めないようにと。正しいと思ってなくても言ってほしい。自信のなさでもいいので、なるべく決めつけずに進めてほしい。だから達成感がない芝居だと役者から言われることもあるんですけどね(笑)。伝わりにくい「生きにくさ」の正体。観客に「いたたまれない…」と思わせる、ぎりぎりの表現を生み出すには出典 : 編:テーマにかかげてある「生きにくさ」を身体表現と会話劇で繰り広げるのは大変だと思いますが、どういう点で苦労しましたか?松:一般的には芝居って筋書きが決まっているものなので、稽古すればできるようになるじゃないですか。出来不出来はともかく、とりあえずストーリーは追えると思うんですよ。でも、それだけでは安定してしまう。だからぎりぎりを攻めてほしいと、役者さんに伝え続けました。セリフをとちってほしいというわけではないんですが、ぎりぎりまで忘れているんだけどぽろっとセリフが出てくる、それぐらいの状態でいてほしいと。そこでリアリティがでてくるので。矛盾と戦い続けることで出来るようになっていくことですよね。稽古していることを稽古していないことのようにやること。100回練習したことをはじめてやるかのようにやる。「生きにくさ」とは、「うまくいかなさ」ですからね。たとえば、ここで突然御二方(発達ナビ編集部員)に怒られたとするじゃないですか。インタビュー受けなきゃよかったな、早く帰りたいなぁ、言ったこと間違ってたのかなという気持ちになって、ここにいにくくなると思うんです。「いたたまれなさ」です。そのあり様をそのまま舞台上に、その気持ちで立ってもらいたいと思っています。やっぱりお芝居って、自分の出番で自信を持って体を大きく動かしてセリフをバシッということができるほうが気持ちいいんですよ。自分も役者だったんでわかるんです。そっちのほうがある種の安心感があるというか。でも目指すのはそっちじゃない。ここ全然うまくいってない、相手との掛け合いがうまくいってない、っていうときほど「今日よかったですね」って僕は言いますし、逆に役者が「今日は調子いいぞ」と思っているときほど駄目で、「今日は予定調和でした」と言いますね。演劇によっていろいろなジャンルがあるので、秒単位で筋書きが決まってるようなものでこういうことをやるのは駄目ですが、「わたしの、領分」のようにありのままを見せるような芝居では、その人自身がちゃんと傷ついてその場にいたくないという気持ちになることが大切だと思ってます。心のどこかで本当に「ここにいたくない」と思うことが大事なんです。そういうところが身体表現の大事なところなんじゃないかと思います。いるとき、いなくちゃいけないときの境目を分けてふるまうことも大事です。いなくていいときはすぐ舞台上から去ることも大切ですね。編:戸惑うお客さんもいるんでしょうね。松:芝居に親しんできた人は斬新にみえるらしいですね。現代口語演劇の延長線でやってきているので、それに親しんでいる人は受け入れられると思います。アンケートで、「私がいつも観ている帝国劇場より声がでてない」とか(笑)、「結論がない、結論を出せ」といわれることもあります。もともとある価値観を変えることはなかなかむずかしいし、それこそ多様性を認めろというのも押しつけでありエゴでもあります。でもこういう人がいるんだということを知るというのはいいと思っています。登場人物にどこか自分と共通した変なところが見えてくるといいと思います。たとえば、作中に登場する心理士も変な人が多くて、ちょっとずれてるところを持っていることが多いように描きました。登場人物の荻野もシャーペンのカチカチする音がきらいで、年の離れたドクターにおもわず切れてしまうことがあったり。それをお客さんもみて「ここわかる」「ここわからない」と自分の中にもある変わったところと重ねながら観てもらえたらと考えています。相模原殺傷事件の匿名報道への憤り。少しずつ歩き続けようと、すぐ再演を決めたUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:少し話を社会的な事象の時系列から掘り下げて、作品の真相に迫っていきたいと思います。2015年に初演があって、その後、相模原障害者施設殺傷事件がありました。そして今2017年に再演することになったわけですが、松澤さんの中であの事件は偶然の重なりといえますか?どう事件を咀嚼して再演するにいたったのでしょうか?松:誤解を恐れずに言うと…ついに起きたかと思ったんですね、相模原は。ヘイトスピーチや優生思想が最近増えており、それに賛同する人が増え一定の共感を得てしまい社会に浸透しつつあったところでこの事件が起きました。その中での匿名報道、やっぱりそうなったかと思いました。遺族に配慮した、と言って19名全員の被害者名を警察が伏せたというのがそのような社会になってしまっていることの表れで。伏せざるを得ないのが社会の在り方なんだなと思いました。19名全員の遺族が出さないでくれといったわけではないのに、とっさにそのような判断がくだってしまうという。そこには顔がないと思うんですよ。命を奪われて、そのあとに冥福を祈るというときに「個」をはく奪されてしまう。被害者たちは、19という数字になってしまう。まだそういう社会なんだ、平気でそういう判断を下して「悲惨な事件でしたね」という感想で終わってしまう。その近くにいた人だけが解決しないまま問題意識を持っている状態になってしまう。それで、すぐ再演を決めたんですが、再演を決めた後もすぐに批判されたんですよ。「あなたが芝居して何が変わるんですか?」「お金儲けしたいだけでしょ」と言われて。そこに当事者意識の違いを感じました。被害者じゃなければ語れないのであれば、何も変わらないと思うんですよ。結局見て見ぬ振りを続けていく、ひどい事件が起きたね、終わり、にするわけにはいかない。何よりああいう犯人を出さないようにするためにも、あまり議論が尽くされない中での匿名報道などにも待ったをかけるように働きかけていかないといけないんじゃないかと思ったんですよね。そこで再演に関してですが、まず相模原事件が起きたあとに設定を変えたんです。現実に起きた事件をないがしろにできないので、名前は出してないのですがその事件の後だとわかるようにしています。なので時系列は2016年にしました。あとは、ラストシーンを変えました。初演を見た人はびっくりするくらいの全く別物になると思います。まったく見え方が変わるはずです。タイトルも変えたんです。「わたしの、領分。」だったのを「。」をとったり。この違いからこの作品の意味がわかってもらえたらと思います。初演は、立ち止まることが大事、というイメージでしたが、再演は、少しずつでいいから歩き続けよう、というイメージにしています。これは初演から2年たって変わった心境と思ってもらえるといいかもしれません。編:これまでお話を聞いていて、松澤さんが手掛けるお芝居は、非日常の娯楽というよりは、むしろ日常の延長の中にある芝居というような印象を受けます…松:芝居のラストシーンがお客さんの日常につながっていってほしいんですね。家に帰った時にじわじわ効いてきてほしい。演劇は新しい視点をお客さんにあたえることができると思ってます。芝居をみて、「心理士っていう仕事があるんだ」くらいの感想でもいい。あるいは、街中で発達障害かもしれないなという人を見かけたら、見て見ぬふりではなく「あ、昨日のお芝居で…」と思い出してもらえるなら嬉しい、ほんの一歩でもいいので、今まで自分の中になかったものを受け入れるキャパシティが広がれば、と願います。日常忙しい親御さんにも、肩の力を抜いて楽しんでもらいたい出典 : 編:発達ナビは発達が気になるお子さんの保護者の方向けメディアです。何か直接伝えたいことはありますか?松:ここで今、取り立てて伝えたいことはないんですよね。というのも、この芝居は終わる物語ではないので、メッセージも答えもないありのままのものなので。親御さんたちは、ご自分やお子さんに引きつけて見られる部分もあるとは思いますが、一方でまた別のお話、別の人生であると、少し離れて肩の力をぬいてみてもらえたらと思います。こういう生き方もあるんだ、こういう人もいるんだ、というふうに感じ取ってもらえたらいいなと思ってます。編:普段育児に忙しくしている方々も、少し肩の荷をおろせる時間になるといいですね。松:そこまで言い切れるかどうかはわからないんですが、きっと日常で悩みやご負担も多いと思うので、普段なかなか自分のことにかまえずにいるなかで、演劇を純粋に物語として見てもらい楽しんでもらえたらと思います。心理士と親御さんの面談シーンを第三者として見るってのもあまりないと思うので。編:本当に楽しみな舞台ですね。本日はお話ありがとうございました!インターネットを通じて様々なプロジェクトへの活動サポート・寄付ができるクラウドファンディングのプラットフォーム「CAMPFIRE」にて、「わたしの、領分」の公演規模拡大、地方公演の実施に向けた資金を募るプロジェクトを実施中です!わたしの、領分クラウドファウンディングUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)わたしの、領分松澤くれはプロデュース『わたしの、領分』2017年3月28日(火)~4月2日(日)@小劇場 楽園作・演出松澤くれは出演者善知鳥いお岡村いずみ江幡朋子尾﨑菜奈倉冨尚人今駒ちひろ野下真歩早山可奈子坂内陽向宮川智司柴田淳(ブラックエレベータ)室田渓人(劇団チャリT企画)濱田龍司(ペテカン)スタッフ舞台監督:吉倉優喜舞台美術:小林裕介音響:葉暮呉一郎照明:タカハシカオリ小道具:定塚由里香宣伝美術:イラスト…谷川千佳/デザイン…milieu design制作:森永たえこ協力:特定非営利活動法人アートシアター株式会社アイビー・ウィーウォーターブルー株式会社大沢事務所株式会社スチール・ウッド・ガーデン株式会社パワー・ライズ(有)No.9UTYリベルタ(五十音順)製作:「わたしの、領分」製作委員会公演日程2017年3月28日(火)~4月2日(日)タイムテーブル3/28(火)19:303/29(水)19:303/30(木) 15:0019:303/31(金)19:304/1 (土) 14:0018:004/2 (日) 13:0017:00※上演時間は約80分を予定しています。※受付開始・当日券販売は開演の40分前、開場は30分前からです。※開演10分前までにお越しいただけない場合、キャンセル扱いとなる場合がございます。チケット前売り4,000円 / 当日券4,300円(全席自由席・日時指定)お問い合わせpro.watashi@gmail.com050-5319-3493(森永)
2017年03月16日いざ支援級へ進学!と思いきや…就学相談の担当者から1本の電話が出典 : 発達障害のある長男の進学先選び。発達が気になるお子さんがいるご家庭の多くの例に漏れず、一悶着二悶着・右往左往ありましたが…結果的に長男の「支援学級」進学へと方向性は決まっていきました。就学相談でも支援級の方向性でまとまり、学級の体験も完了。あとは委員会でお墨付きをもらって進学先決定!お疲れ様!!…のつもりでした。毎年恒例の家族旅行の途中で、就学相談担当者の方から留守電が入っていました。「お話があるので、折り返しお電話いただけますか。」いつもなら用件も留守電に入れてくださる方なので、「これはちゃんと話さなければいけない事態に違いない…」。そんな予感を抱えながら折り返しの電話を入れました。見学時の長男の振る舞いが理由で…委員会には支援学校を勧められる出典 : 折り返して掛けた電話口で、担当者の方から告げられたのは、「委員会で検討した結果、支援学校をお勧めします」との言葉でした。どうやらヒアリングや発達検査の段階では支援級が適切とされていたのですが、支援級に体験に行った際に長男が暴れてしまったことに引っかかったようで…。支援学校が適切との判断が下りたようです。そして色々と電話で説明を受けた最後に担当者の方がこう仰いました。「追って書面で通知が届きますが、決断されるのはご家庭ですから。」そして届いた書面。そこにあった言葉は…我が家としては、「自分たちの視野だけで子どものことを決めず客観的な意見を取り入れながら子育てを」と思っていたので、委員会の判定は受け入れ、支援学校進学へとすぐに気持ちを切り替えました。そしてそんな折に届いたのが、先日の電話で伝えられていた『通知書』です。封筒の中にはA4の紙が一枚、そしてそこあったのは、Upload By OKASURFER『特別支援学級(固定)不適切』の文字。わかってはいたけれど…強く強く拒絶されたような気持ちでした。支援級への進学が難しかったことはショックじゃない。傷ついたのは「不適切」という言葉出典 : 我が家は別に判定を不服だと訴えるつもりもないし、騒ぐつもりもありません。それでも「不適切」という言葉は「とにかく黙ってろ」というような有無を言わさない強さがありました。告白してもいないのに酷く振られたような理不尽な気持ちもこみ上げます。これがもし「支援学校に適しています」という通知であればどれだけ前向きになれたか。自分の子どもを「不適切」とされて、落ち込まない親がいるでしょうか?支援学級への進学が難しかったことはショックでもなんでもなかったのに、「不適切」という言葉はとてもショックでした。そこまで拒絶しなくったっていいのにな。もやもやした気持ちは今でも残っています。まずは教育機関から、伝え方を見直してみてほしい。出典 : 障害のある子どもを育てる中で、「走らない!」→「歩きます」「そんなことしないの!」→「〇〇をしようね」というように、「肯定的な言葉がけ」がとても大切だと言われてきました。それは教育の現場でも同じはずです。そして教育機関であるからこそ、一つ一つの言葉に教育的な信念を持って欲しいと思うのです。特別支援学校は、支援学級に「不適切」だとされた子どもたちが「仕方なく」通う場所でしょうか?決してそうでは無いと私は思います。そんなイメージを作らないような取り組みを、教育機関にはしてほしいのです。障害者差別解消法が施行されていくぶん月日も経ちました。そろそろ昔のテンプレートを見直してみてほしい。ほんの少し言葉尻を変えるだけで障害や支援に対して前向きな気持ちになれるのだと知ってほしい。今はそんな気持ちでいっぱいです。
2017年03月15日「ママ、靴下脱いでもいい?」私の許可を求め続ける、アスペルガーの娘出典 : 「ママ、お茶飲んでもいい?」「ママ、このおもちゃで遊んでもいい?」「ママ、工作でセロテープ使ってもいい?」「ママ、靴下を脱いでもいい?」春から小学4年生になるアスペルガーの娘。毎日何度もこのような「許可」を母親である私に求めてきます。私「あなたはどう思うの?」娘「お茶は飲むためにあるから、別に飲んでもいいと思う」私「ママもそう思うよ。みんなが飲むためにお茶を沸かしてあるんだから、いちいち聞かなくても好きなときに飲めばいいんじゃないかな?」そんなやり取りをすると、娘もその時は納得するのですが、また「ねえママ、喉が渇いたからお茶飲んでもいい?」が始まります。挙句の果てには「靴下を脱ぐ」という行動にまで許可を求めてくるので、いちいち対応しなければならないこちらの神経もすり減ってきます。一体どうして娘は執拗に「許可」を求めるのでしょうか?そこにあったのは、「もう2度と傷つきたくない」という娘の切実な思いだった出典 : 疲れ果てた私は、娘と話し合ってみました。「ねえ、どうして『ママの許可』が必要なの?」「もう自分でいろんな事をしっかりと考えられるようになっているんだから、許可を取る必要はないんだよ?」「自分で考えて行動して、もし失敗しちゃったら、その時にどうすればいいのか一緒に考えてみようよ」すると、娘から思いがけない答えが返ってきました。「私も考えてみれば、靴下を脱いじゃいけない理由なんてないと思う」「でも、前に勝手に靴下を脱いでママに怒られたことがあってすごく悲しかった」「もうあんな辛い思いをするのは絶対に嫌だから、先に聞いて安心してから脱ぎたいの」確かに4~5年前、娘がまだ幼稚園生の頃、ピアノのレッスンを先生のお宅でしてもらっている最中に娘が靴下を脱いだことがありました。その時私は、「汗いっぱいの靴下を触った手でピアノを弾くと汚れて迷惑でしょ!」「どうしても脱ぎたかったらママが脱がせてあげるから、今度からママに言いなさい」と叱ったのです。あの時の叱責が娘を傷つけたのでしょう。娘は「靴下を脱ぐ」という行動を起こそうとするたびに辛い感情が胸をよぎり、「もう二度とあんな思いをしたくない」という強い思いから、私の許可を求めるようになったのです。同様のことがいろんな場面であったのだと思います。セロテープを床に貼りまくって叱られたこと、自分でお茶を飲もうとしてこぼしてしまったこと、好きなおもちゃを出して遊んでいたらお出かけ前だったので「ダメでしょ」と注意されたこと…。それに加えてアスペルガーの娘は、つらい記憶をいつまでも忘れられないという特性を持っています。他の子どもだったら遠い記憶として消えていくはずの数々の出来事が、娘の中では消化されずに燻り続けます。その結果、「また叱られるかもしれない」という恐怖心と人知れず戦っていたのです。自分のことは、自分で決められるようになってほしい。我が家で採用したのは…出典 : 娘と話し合っているうちに、「もう許可は取らなくていいんだよ」と諭すだけでは不十分だと気付きました。娘の「また怒られるかもしれない」という不安を取り除かなければ意味がありません。そこで、「許可を取る」という行動を別の行動に置き換えてみることにしました。私「今度からママは、『〇〇してもいい?』って聞かれたら、『ダメ』って言うことにするね」娘「えっ!?どうして?」私「許可を取るっていうことは、相手に自分の行動を委ねるっていうことでしょ?それは『ダメ』でも受け入れますっていうことじゃないかな?」娘「確かにそうだけど…。じゃあお茶を飲みたいときや靴下を脱ぎたいとき、どうしたらいいの?」私「そうねぇ。これからは、許可を取るんじゃなくて『提案と確認』にしてみたらどうかな?」娘「提案と確認?」私「そう!例えば『今から〇〇で遊ぼうと思うんだけど、お出かけの予定はなかったかな?』とか、自分が不安だと思っていることをママに確認してみるの。それだと、ママはあなたが何に不安を感じているかが分かるし、あなたは自分の行動を自分で決めることができるようになると思うの。」娘「自分で決めるの?」私「そりゃそうだよ!自分の時間は自分のもの。自分の人生も自分のもの。誰かの許可を取らなきゃ生きていけないなんて、そんなのおかしいよ。自分で考えて行動する。誰かに手伝ってもらったり、予定を変更してもらう時は、それをきちんと確認したり伝えたりする。そうやって、自分の人生は自分の足で歩いて行かなきゃ楽しくないよ!」娘「そっか!なるべくがんばってみる!」こうして、わが家では『許可』制度の変わりに、予定の変更を提案したり、自分の選んだ行動で不都合が起きないかの確認をしていくシステムを採用することになりました。少しずつだけど…これが「自立」への第一歩!出典 : もちろん、すんなりと今までの行動が改善されるわけではありませんので、まだまだ娘が「許可」を求めてくることはよくあります。娘「今日の夜、映画を観てもいい?」私「ダ~メ!」娘「えっ!?あ、そっか!えっとえっと、今日の夜、映画を観ようと思うんだけど、何かやらないといけないことが残ってなかったかな?」私「やらないといけないことは全部終わったよ!後は映画の時間を逆算して、お風呂を済ませれば自由に過ごしていいと思うよ」娘「そっか!そうだよね!じゃあ、8時までにお風呂から出てきて映画を観ようっと!ママ、ありがとう!」はじめの頃、娘は「ダメ」と言われると傷ついた顔をしていました。でも段々とこのやり取りに慣れてきて、少しずつ「私はこうしようと思う。不都合はない?」という確認ができるようになってきました。今は私への提案と確認になっていますが、この思考回路が定着すれば、大きくなったときに『自分自身への提案と確認』という形にスムーズに移行できるのではないかと思っています。そして、なによりも自分の行動を自分で決めるという自立への第一歩を踏み出せたのではないかと思います。子どもたちが何度もしつこく確認を行ったり、許可を求める背景には、外から見ただけではわからない大きな不安や恐怖が隠れている場合があります。「何度言ったらわかるの!」と声を荒げる前に、少しでもその不安を取り除ける方法をお子さんと見つけ出せるといいですね。
2017年03月14日うちの学校の支援級、わが子に合ってる…?出典 : 「支援級か、通常級か…迷ってるけど、どうやって判断すればいいの?」「うちの子が通う学校の支援級、どんな環境だろう?どういうところを気にしたらいいの?」現在、希望者急増で過渡期にある、特別支援学級(以下、支援級)をめぐる状況は様々です。情報を探すと、「うちの子も是非お願いしたい!」と思える素晴らしい支援級もあれば、残念ながら、現場の事情が追いつかずに、十分な理解や子どもに合った対応が得られない支援級もあるようです。支援級をご検討の際には、実際に、お子さんが通う「その」支援級がどうなのか、自分の目で確かめてみることが必要です。長男が自ら通常級から支援級への転籍を希望した際、私はまず、特別支援コーディネーターの先生の案内で、実際にクラスを見学させて頂き、事前に疑問な点、不安な点の詳しいご説明をお願いし、長男本人も見学・体験させて頂きました。それでも、後から「もっと早く確認しておけば良かった」と思ったことも少なからずありました。そこで、支援級を選択する前に「確認してよかったこと」「確認しておけばよかったこと」の、判断のポイントを、あくまで「うちの経験上」ではありますが、楽々かあさんこと、大場美鈴がお伝えします。支援級見学の際にぜひ確認しておきたい!4つのポイント出典 : 長男が通っている支援級は、身体・知的に障害のあるお子さんのクラスと、長男のように、大きな知的・言葉の遅れの心配はないものの、発達障害の傾向のある子が中心となる、情緒級に分かれています。学校によっては、どの障害の状態のお子さんも一緒のクラスになる場合もあります。その場合でも、個別に学習内容を調節して頂ける場合はいいのですが、そうでない場合、お子さんに学習面での理解力がある程度あっても、学習内容や課題が簡単過ぎるケースがあります。そうなると本人の理解度とのミスマッチが起こり、その支援級がその子の力を伸ばせる環境とは言いがたくなる可能性があります。逆に情緒級がある場合も、その子の学習の進度に合わせた課題でない場合もあります。本人の能力や理解度に合わせた学習ができるかどうかは、よく確認しておきたいポイントの一つです。万が一合わない場合でも、先生と学習内容を調整して頂けるか、相談の余地があるかどうか、見極めておいたほうがいいでしょう。また、基本的に支援級の成績表は、「国語は漢字ドリルをがんばり、丁寧に漢字を書けるようになりました」というような、言葉による表現がされることが多いようです。特に将来的に、中学受験の可能性がある場合には、念のため希望した際には通常級と同じ評価で対応可能かどうか、確認しておいたほうがいいでしょう。(中学受験の際、全ての学校で成績表の提出が必須という訳ではないようですが、一部の入試日程や推薦、A.O.入試の場合などには、成績表のコピーの提出が必要になる場合があります。)出典 : 次に気をつけたいのは、今のところ、すべての支援級の担任の先生が、特別支援教育の知識・経験が豊富であるとは限らない、ということです。支援級の担任には、特別な資格などは必須ではなく、今まで通常級で担任してきた先生が、急に支援級を受け持つ場合も多いようです。長男の今年の担任も、長年通常級を受け持ったベテランの先生ですが、支援級の担任は人生初でした。ただし私は、支援に詳しくない先生=子どもにとって良くない先生、とは限らないと思っています。確かに、凸凹のある子に伝わりやすい方法を多く知っている先生なら心強いと思います。しかし、詳しい先生1人に負担がかかり過ぎてしまったり、クラスの他のお子さんの状況などによって、少人数であっても十分に子ども一人ひとりを見ることができない…など、先生お一人の力では解決できない現場の事情がある場合もあります。そのため支援に対する知識・経験の有無で、一概には判断できないと思います。もし、先生が支援に詳しくないからと、あからさまに保護者が落胆してしまうと、それが子どもや先生にも伝わって、その後の信頼関係に影響が出てしまうかもしれません。私は、知識・経験の有無よりも、・先生が子どもを肯定的に見ようとしてくれるか・子どもに合わせた指導をしてくれるか・親の話に耳を傾ける余力があるかのほうが大事だと思っています。しかし、見学の時点で気持ちよく応対してくれた先生に会えたとしても、翌年に我が子を担任してくれるとは限らないというのは注意したい点です。通常級に比べれば、支援級の先生は比較的長く同じクラスを担当することが多いようですが、異動がないわけではありません。また、大変残念なことながら、今まで毎年のように支援級の補助教員や介助員の先生が、年の途中で1人、2人とお辞めになってしまうことも、私は学校のお便りで度々知らされてきました。厳しい現場の現実があるように感じます。出典 : 人事異動がある先生方と違い、子どもたちは比較的同じメンバーでともに支援級で過ごすことが多いです。もちろん、入学や卒業、転籍などによる入れ替わりはありますが、クラス替えもなく、ほぼ同じメンバーで何年間も過ごすことになります。支援級は、学年を越えて、多種多様な子ども達の集まりとなるため、それが合う子、合わない子がいると思います。支援級の低学年のお子さんは、かなり自由気ままな印象がしたりで、見慣れてないと「これで大丈夫かしら…」と少々不安に感じられるかもしれません。そういう時は、何年もその環境で過ごしてきた、高学年のお子さんの様子が参考になると思います。その子なりに落ち着いていたり、交流級に意欲的に参加している様子が見られれば、その支援級の環境がプラスに働いていると受け取ってもいいのではないかと私は思っています。また、掲示物が破れっぱなしになっていないか、といった備品の様子、ロッカーに分かりやすいマークなどの工夫があるか、といった教室環境も、その支援級が安定しているかの参考になると思います。(ちなみに私は、教室の備品の乱れが放置されている場合、先生に余裕がなく、かなりお疲れ気味…というシグナルだと受け取っています。)出典 : 私が見学した時、1クラス6~7名と聞いていた支援級の情緒クラスには、いつも低学年の2~3人のお子さんしかいませんでした。他のお子さんは「交流級」に行っているのだそうです。長男の学校の場合、大抵は学年が上がるほど交流級で過ごす時間が増えていき、最終的に通常級に移籍する子も多いそうです。ご家庭で「いずれは、できれば通常級へ」と希望している場合には、交流級の活用状況は要チェックです(また、そもそも支援級から通常級への転籍が可能かどうか、よく確認しておく必要がある学校もあるようです)。交流級の活用状況は学校によって様々です。長男の小学校はかなり積極的なほうだと思います。後に担任の先生からその理由を伺うと、「年々、支援級への希望者が増えているので、◯太郎くんのように、交流級の授業に意欲がでてきたお子さんは、どんどん”卒業”して、通常級に戻って頂けると助かります」…とのこと。なかなか厳しい内情もうかがえます。とはいえ交流級を充分に活用できている学校は、通常級の子達も支援級の子に日頃から馴染んでおり、支援級”卒業”後も、比較的クラスに溶け込みやすいのではないかと思います。交流級の活用については、見学時、私はあまり気にしていませんでした。でも今思うと、重要なポイントだったと思います。どんな状況の支援級も、本人が体験してみるのがイチバン!出典 : 見学をする際には、参観日のようなよそ行きの状態ではなく、支援級のありのままの状態を子ども本人が、できるだけ何回も見られるほうがベターです。長男が普通級から支援級へ転籍する前に、私は長男本人が何度も支援級を見学・体験できるよう、お願いしました。でも見学を予定していたある日、突然見学がキャンセルになったことがありました。先生によると、「今日は、落ち着けてないお子さんがいたので、見学は中止させて頂きました。また日を改めて、予定を調整させて下さい」とのこと。それを聞いて、私はこう言いました。「是非、そういう時も本人に見せてください。ご迷惑になるようでしたら、廊下からでも構いませんので。支援級は、皆が落ち着いている時もあれば、そうでない時もあることを、本人が十分知って、納得したうえで転籍したいです。」支援級は、長男と同じように、あるいはそれ以上に、特別な配慮・支援を必要とするお子さんの集まりです。当然のことながら、少人数とはいえ、いつもクラス全体が落ち着いているとは限りません。そんな支援級で過ごすイメージを本人が持てると、入級後の環境の変化にもついていき易いと思います。長男の場合は実際に何度も授業を見学させて頂き、給食の時間を支援級の子達と一緒に過ごしたり、といった機会を作って頂きました。すると、「今日はすんごい泣いてる子もいたよ」「一年の子が途中で教室出てっちゃった」なんて言うときもありました。私は「支援級はそういう時もあるよ。それでもいい?」と聞きましたが、長男は「それでもいい。支援級に行く」と決心は変わりませんでした。「うちの」支援級には良いところも、そうでないところもあることを、十分納得の上で転籍をした私達。結果的にこの一年は、長男の成長のプラスになりました。実際に自分の目で確かめて、後悔のない選択を出典 : 長男の先生からの話にもありましたが、近年、支援級を希望する子どもが急増している傾向があります。なかなか現場がそれに追いつけないという裏事情もあり、全てが保護者の希望どおり、理想どおりという訳にはいかない場合も、多いかと思います。それでも、事前にメリット・デメリットを良く比較検討し、納得のゆくまで説明をして頂き、実際に自分の目で確かめて、体験して、自分たちの意思で決められれば、後悔するリスクを減らすことができます。学校生活でお子さんが自信をつけてゆける、プラスの選択ができるよう、祈っています。Upload By 楽々かあさん大場美鈴(著), 汐見稔幸(監修), 『発達障害&グレーゾーンの3兄妹を育てる母のどんな子もぐんぐん伸びる120の子育て法』ポプラ社, 2017年
2017年03月13日臨床心理士とは出典 : 臨床心理士とは、不登校や精神障害などのこころの問題をかかえた人に対する療法や、こころの問題を予防するための研究にもとづいて、人のこころにアプローチする専門家です。臨床心理士はクライエント(=カウンセリングや福祉での相談者)の視点に立って、クライエント一人ひとりの独自性や固有の特徴、問題点を見つけることに重きを置いています。これに加えて、どのような援助の仕方が最適なのかも同時に明らかにしようとします。クライエントの特徴によって、さまざまな臨床心理学技法を用いてクライエントのこころを支えていきます。しかし、臨床心理士はこころの専門家ではありますが医師とは異なります。そのため、薬をつかった治療や障害かどうかの診断をすることはできません。また医師にかかる場合は、健康保険が適用されますが、臨床心理士に相談する場合は基本的には健康保険が適用されません。参考臨床心理士の専門業務|日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士の活躍の場出典 : 臨床心理士は発達障害や精神疾患で苦しんでいる患者さんをはじめ、身体疾患のある患者さんや人間関係に悩んでいる人なども対象にしています。臨床心理士は幅広い人を対象にしているため、その活躍の場も多岐にわたります。医療機関や福祉施設だけでなく、学校や会社の相談室で活躍されている臨床心理士の方もいらっしゃいます。家庭裁判所で調査員として関わったり、鑑別所で子どもの特性を踏まえたうえで処遇の検討をしたりする方もいます。他にも、DVで苦しんでいる方の相談にのったり子育てに悩んでいる保護者の相談にのったりしている方もいらっしゃいます。ただ心理学系の資格は臨床心理士以外にも多く、臨床心理士ではない資格でも活躍されている方も多くいます。そのため実際にどの資格をもっているのかを職業から判断することはできないので注意してください。臨床心理士になるための資格取得の方法は?出典 : 平成27年の時点で臨床心理士の資格を持っている人は全国31,291人で、そのうち医師免許を持っている人は573人です。臨床心理士の資格は国家資格ではなく、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会による民間資格です。出典「臨床心理士」資格取得者の推移|日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士の資格を取得するには、受験資格を満たしたうえで年に1度東京で10~12月にかけて行われる資格審査に合格しなければいけません。受験資格は大きく3つの種類にわけることができます。・日本臨床心理士資格認定協会によって指定された大学院を修了している者(ただし、大学院によっては1年以上の心理臨床経験も必要になる場合があります)・諸外国で上記と同等かそれ以上の教育をうけて、日本で2年以上の心理臨床経験がある者・医師免許取得者で、取得後2年以上の心理臨床経験を有する者試験は一次試験と二次試験があり、臨床心理査定、臨床心理面接、臨床心理的地域援助およびそれらの研究調査等に関する基礎的知識と技能について問われます。一次試験は筆記で100問のマークシート型の試験(150分)と定められた字数内での論述型試験(90分)の2種類を1日で実地します。二次面接は2名の面接委員による口述での面接試験です。一次試験、二次試験ともに合格すると、臨床心理士として名乗ることができるようになります。資格取得後も臨床心理士は、5年毎に資格の再認定を受けることが義務付けられています。参考臨床心理士になるには|日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士による相談の流れ出典 : 臨床心理士による療法は心理アセスメント→治療方法の選択→治療開始というおおまかな流れで行われることが多いです。心理アセスメントとは、生活におけるクライエント独自の行動やふるまいを調べたり、さまざまな検査をしたりして、クライエントの状態を理解して判断することです。たとえば観察法、質問紙法、投影法、作業検査法、面接法などの方法を用いて行われます。心理アセスメントの結果から、臨床心理士はクライエントにとってよりベストな療法を提示し、療法をすすめていきます。臨床心理士による、発達障害に対する心理アセスメント出典 : ここからは発達障害の子どもによく行われる心理アセスメントの紹介をします。発達障害の子どもにはよく以下の3種類のアプローチで心理アセスメントが行われます。臨床心理士が子どものことを身近で見ている保護者にいくつか質問をしたり、話し合ったりすることで手掛かりを見つける方法です。保護者が子育てをしているなかで、感じている問題や子ども自身の今までの生活の様子・病歴・家族関係などさまざまなことを聞かれることがあります。他にも、成育歴を聞かれることもあり、出生状況や出産時の子どもの状態といったことから食事・衣服の着脱・排泄・睡眠などの生活習慣がどれくらい身に付いているのかということを質問されることもあります。知能検査・発達検査・スクリーニング検査は、子どもの問題に応じていくつかの検査を使い分けて行われます。それぞれの検査について説明します。◇知能検査知能検査ではおもにIQ(知能指数)の値を指標とすることが多いです。従来は、精神年齢と生活年齢をもとにもとめる比例IQを用いることが多かったですが、最近では、同年代の平均との隔たりをもとにもとめる偏差IQが中心になってきています。知能検査を行う目的は認知発達の水準を科学的・客観的に評価することで、その人の得意分野、不得意分野を分析することです。知能検査の結果からわかる子どもの得意、不得意分野から療法の方向性を決定するために使われます。代表的な知能検査に以下のようなものがあります。・ウェクスラー式知能検査・田中ビネー知能検査・K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー・DN-CAS 認知評価システム◇発達検査発達検査では日常生活や対人関係などにおける子どもの発達基準を数値で表したDQ(発達指数)を算出します。子どもが成長していくには、発達段階に適したアプローチが必要になります。そのため、発達段階を客観的に知るための手段として発達検査は使われます。ただし、発達指数の値だけで子どもの発達状態を判断をすることはありません。あくまでものさしの一つであり、発達検査から分かる能力のバランスや日常生活の様子などを総合して子どもの発達状態を把握します。代表的な発達検査には以下のようなものがあります。・新版K式発達検査・乳幼児精神発達診断法◇スクリーニング検査発達障害に関するスクリーニング検査は、どの精密検査を行うべきかの判断や潜在的な発達遅滞や発達障害の可能性を検査するために行われます。スクリーニング検査は、たくさんある発達障害のうち、子どもの障害として可能性のあるものを絞り込むためのものです。スクリーニング検査には網羅性が重要視されるため、正確性はそれほど高くはありません。かりに検査で陽性が出たとしても精密検査するかどうかの判断基準になるだけで、発達障害であることが確定するわけではないということに注意が必要です。スクリーニング検査は乳児健康診査、1歳6ヶ月健康診査、3歳児健康診査などの場でも活用されています。代表的なスクリーニング検査には以下のようなものがあります。・STRAW・M-チャート・ADHD-RS・LDI-R・PARS臨床心理士は言葉をかけた時の子どもの反応や、話し方、質問を正しく理解しているのかなどのさまざまな反応をできるだけ詳細に観察して、子どもの特徴やくせを見つけようとします。臨床心理士による、発達障害へのアプローチ出典 : 臨床心理士が心理アセスメントをした結果、発達障害の可能性が高いと判断したときや、すでに医療機関で発達障害と診断されているとき臨床心理士はどのような支援をしてくれるのでしょうか。臨床心理士と一概に言っても、臨床心理士の行う療法にはさまざまな種類があり、それぞれの臨床心理士によって療法が異なる場合もあります。ここでは、発達障害へのアプローチとして代表的なソーシャルスキルトレーニングとペアレントトレーニングを紹介します。ソーシャルスキルとは、抽象度が高く明確な定義が決まっているわけではありませんが、他人とよい関係を築き、社会に適応するために必要な能力だといえます。発達障害の子どものなかには、支援を受けないままではソーシャルスキルを身につけることが難しく、友達と良好な関係をつくることが困難である場合や、集団生活が苦手な場合があります。ソーシャルスキルトレーニングは、スムーズに身につけられなかったソーシャルスキルを獲得するための療法です。ペアレントトレーニングは、「親は子どもの最良の治療者」という考えからうまれた保護者向けのプログラムです。ペアレントトレーニングにはいくつか種類がありますが、基本的には臨床心理士などの専門家のもとで講義・ワークを行うことが中心のプログラムです。臨床心理士のもとで学んだことをホームワークとして継続していきます。保護者はホームワークをしていくなかでうまれた不安や悩みを相談することもできます。ペアレントトレーニングの効果として、保護者の不安解消や子育てに対する自信を得られることや子どもが好ましい行動をとる傾向が強くなることが期待されます。臨床心理士による、不安障害に対する心理アセスメント出典 : 臨床心理士は精神疾患で苦しんでいる人への支援もしています。精神疾患のなかでも、発達障害の二次障害としておこりうる不安障害を例にとって心理アセスメントについて説明します。心理アセスメントは、クライエントに絵を描いてもらったり、はい/いいえで答えられる質問を複数聞いたりしてクライエントのこころの様子や性格などを知るための方法です。臨床心理士は心理アセスメントを通して、クライエント一人ひとりの不安障害の原因となる考え方を明らかにしていきます。心理アセスメントは具体的には投影法、作業検査法や質問紙法などの方法が用いられます。臨床心理士は、不安にかられてしまうような場面を具体的に想定して、そのときの無意識な思考をクライエントから読み取ります。さらに、その思考になった原因となる考え方やその場面でのクライエントの行動などを明らかにしていきます。参考社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)臨床心理士による、不安障害へのアプローチ出典 : 臨床心理士による不安障害に対する代表的な療法として、認知行動療法・森田療法・曝露法(エクスポージャー法)があります。認知行動療法では、不安の原因になっている考え方を再構成することで不安をなくしていきます。たとえば、テストであまり点数がとれなくてなにをやってもだめだと不安になっている場合について考えてみましょう。「次回はいい点が取れるかもしれない」と考えたり、「勉強ができなくても歌はうまいから、自分はなにをやってもだめなわけではない」と考えたりすることができるようになると、強く不安にかられることがなくなります。森田療法の特徴は、不安や恐怖を消そうとするのではなく、不安や恐怖を自然な感情として受け入れようとすることです。森田療法には、「自然な感情を自覚して、受容する」などの5つの指針が定められており、それをもとに療法が行われます。曝露法ではあえて不安を感じる場面に身をおくことで、その場面に慣れて少しずつ自信をつけていくものです。いきなり本人にとって強い不安を克服しようとすると、かえって悪化してしまうこともあるので弱い不安から少しずつ克服していくことが大切です。たとえば、人前で話すことが苦手な人であれば、親しい人からはじめて、少しずつ人数を増やしたり見知らぬ人の前で話したりするようにしていきます。臨床心理士にどこで会えるの?出典 : 臨床心理士に発達障害や精神疾患についての相談ができる場所としては、医療施設、学校・園のスクールカウンセラー、福祉施設、大学附属の施設、私設相談室などがあります。◇医療施設精神科医と臨床心理士が連携して治療をしている病院もあります。◇学校・園のスクールカウンセラー学校や園にはスクールカウンセラーのいる相談室がある場合があります。スクールカウンセラーの多くは臨床心理士の資格を持っています。スクールカウンセラーが相談室に常駐せず、毎週決まった時間のみ相談を受け入れているようなケースもありますので、詳しくはお子さんの通われている学校・園にそれぞれお問い合わせください。◇発達障害者支援センター発達障害者支援センターは、発達障害のある人に対して総合的な支援をしている専門機関です。地方自治体によって指名された社会福祉法人、特定非営利活動法人によって運営されており、保険・医療・福祉・教育・労働などの機関と連携することで地域における総合支援ネットワークを築いています。発達障害者支援センターには「発達障害者支援センター運営事業実施要綱」に基づいて障害者支援の専門家が配置されています。しかしセンターによっては、臨床心理士ではなく、言語聴覚士、精神保健福祉士や医師などの専門家が配置されている場合もありますので、相談に行く前に臨床心理士がいるかどうかをご確認ください。◇大学附属の施設多くの大学には、学生向けの相談室を用意してあります。また大学によっては、学生だけでなく一般の方向けの相談室もある場合があります。詳しい利用方法については各大学のホームページで確認できるようになっているのでご確認ください。◇私設心理相談室施設心理相談室は個人もしくは複数人で経営されている相談室です。臨床心理士ではない資格でも同じような相談室を経営している場合もあるので、臨床心理士に相談したい場合は各相談室に確認してください。以下のサイトからお近くの臨床心理士のいる相談室を探すことができます。臨床心理士に出会うには|一般社団法人日本臨床心理士会公認心理師とは出典 : いままでは、心理学系の国家資格はありませんでした。そのため近年、心理学系の国家資格をつくろうとする動きがありました。その結果、公認心理師法という法律が平成27年9月9日に議員立法によって成立して、9月16日に公布されました。公認心理師法は、公認心理師という国家資格を定めるとともに、国民の心の健康を増進させていくことを目的にした法律です。公認心理師法の大部分は公布の日から2年以内に施行されることになっています。厚生労働省によれば、平成29年9月15日までに施行される予定になっています。公認心理師という資格の説明は、以下の通りです。公認心理師とは、公認心理師登録簿への登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいいます。(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析(2)心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供第1回国家試験は平成30年までに実施すると厚生労働省は発表しています。公認心理師が制度化されたことで、臨床心理士や精神科医の仕事内容がかわっていく可能性もあるので今後注意が必要です。参考公認心理師について|厚生労働省まとめ出典 : この記事では、臨床心理士になるための方法から具体的な療法や検査の種類に至るまで説明してきました。臨床心理士について知りたいときや、相談するか迷っているときに参考にしていただければ幸いです。この記事内で取り上げた療法はあくまで一例にすぎないということをしっかり留意して、臨床心理士とよく相談して療法や通う頻度・期間を決めていただけると幸いです。
2017年03月10日切迫早産の可能性のため入院。そして出産後も消えない不安出典 : 妊娠したら、しばらくは普通に妊婦として生活して、直前になったら病院に担ぎ込まれて出産するんだとばかり思っていました。しかし、私の出産経験は、想像と全く違う結果となりました。妊娠4カ月半で切迫早産で入院、その後の検診で大きなトラブルが判明、出産までの長期入院を言い渡されてしまったのです。私が入院した病院では、切迫早産や切迫流産、合併症、胎児の病気などのトラブルを抱えた妊婦がたくさん大部屋で同室入院していました。基本的に体は元気な人が多いので、病室では人間関係のトラブルが耐えません。私が一番苦手な「女の園」の中で、逃げ出せない拘束生活…しかも、いつの間にか私が最古参に。くれぐれもトラブルに巻き込まれないようにと、心すり減らす日々が続きました。いつまで妊娠が継続できるかわからず、緊急手術で取り出さなくてはいけない可能性があるという日々はものすごいストレスを感じるもの。妊婦雑誌を読むと涙が出そうでしたね。やっと生まれた娘は検査のため、すぐに新生児として入院。いろいろとあったものの、幸い退院するころにはすっかり元気になりました。しかし長い間、ストレスを抱えながらも病院の中でスタッフに守られる日々を送っていたのに、出産を終えて病院を出た途端、「さぁ、これからあなたはお母さんですよ。頑張って。」というプレッシャーがかかるこの落差。それまでのストレスとホルモンバランスの崩れもあったのでしょう。私の心はあっという間に故障してしまいました。強迫神経症が悪化してなかなか次の行動に移れなくなったうえに、ひどいうつ状態がやってきたのです。入院中、実家、自宅…私の心を救ってくれたのは保健師さんのネットワークだった出典 : そんな私を見て、入院中から保健師さんとの面談が始まりました。精神的なつらさ、この先の不安な気持ちをしっかり聞いてもらい、退院後も実家から保健師さんに何度も電話してつらい気持ちを聞いてもらいました。時間を割いてしっかり対応してもらい、ずいぶん私の心は救われました。さらにその保健師さんは、実家が管轄下に入っている保健所につないでくれ、実家にも保健師さんが訪問してくれるようになりました。娘の発育状況を診たり、私の話もじっくりと聞いてくれて心強かったです。そして、自宅に帰ってからも保健師さんが訪問するよう手配してくれたのです。入院中から実家、そして自宅へと管轄がそれぞれ違う保健所が、ネットワークをつないで私を救ってくれました。赤ちゃんとふたりきりの生活で壊れた心。保健師さんのおかげで子どもとの時間を楽しめるように出典 : 実家から自宅に戻ると、昼間は赤ちゃんとの二人きりになる生活が始まりました。当時は近所にまだ知り合いがおらず、まだ公園にも連れて行けない赤ちゃんとの二人きりの生活は泣くほどさみしかったです。そんなときに訪問してくれた保健師さんはとても頼りになる存在で、育児のアドバイスをしてくれたり、私の悩み相談にも乗ってくれました。そして孤独に悩む私を、近くの保健所で行われる赤ちゃんとママ教室に誘ってくれました。初めて出会う他の親子たち、そして優しく見守ってくれる保健婦さん。出産してから初めて他のママと会話して、心が緩んでくる感じがしました。だけど、やはり日中のほとんどを赤ちゃんとふたりで過ごす孤独と、赤ちゃんを守らなければならないプレッシャーは私の心を蝕んでいきました。強迫神経症が悪化して日常生活が送れないレベルに達してしまったのです。当時は赤ちゃんを寝かせたまま、何時間もかけて哺乳瓶の消毒、掃除をするまでになってしまいました。私のSOSを聞いて母が世話に通ってくれましたが、その状況を見かねた父から強制帰還命令が出され、実家へ帰ることになりました。このときの父の決断力には今でも感謝しています。あのままだったらきっと親子共倒れになっていたことでしょう。その時も保健師さんは私を助けてくれました。そのころかかっていた実家近くの精神科はどうしても私に合わず、症状がひどくなっても対応してくれませんでした。それを知って自宅から通える精神科を調べてくれ、つないでくれたのです。結果的に紹介された精神科にかかったおかげで、だんだん症状は落ち着き、子どもとの生活を楽しめるようになりました。保健師さんがすすめてくれた親子教室のおかげで、育児がもっと楽しく!出典 : 少し落ち着いたころ、保健センターで1歳半検診がありました。指さしで引っかかってしまった娘を心配していると、育児に不安のある親子のための親子教室を薦められました。そのときは発達障害という可能性は聞いてなかったので、何も考えず娘を連れて親子遊びを楽しんでいました。いまから考えると、保健師さんは一人ひとりの子どもの様子をよく観察していたのだと思います。教室が終わるときには、「もう心配いりませんからね」とニッコリと送り出してもらいました。娘は小4でアスペルガー症候群と診断されましたが、この時点では気づいてもらえませんでした。特性らしきものが目立ち始めたのはもう少し後だったので、仕方ないと今では思っています。この教室のおかげでママ友もでき、地元情報の交換もできるようになって、ずいぶん暮らしも育児も楽しくなりました。本当に参加してよかったです。発達障害と二次障害を抱えていた私。それでも子育てができたのは…出典 : 保健師さんの存在を忘れかけていた、娘が3歳を過ぎたころのことです。私が働きだしてから娘の様子がおかしくなって「仕事を辞めた方がいいのかな」と思い詰めることがありました。そのとき頭によぎったのは、親子教室でお世話になった保健師さん。保健センターに電話して相談したところ、さっそく面談の場を設けて娘の様子を観察し、私に接し方のアドバイスをしてくれました。おかげで娘の問題行動もおさまり、私も安心して仕事に行けるようになったのです。こうして振り返ると、私は保健所と保健センターの保健師さんたちに支えられ、助けられたから、発達障害と二次障害を持ちながらもなんとか娘の幼児期を乗り切れたのだと思います。あのころは、まさか自分と娘が発達障害だとは思いもしませんでしたが…。分からなくても救われることがあるのです。育児で困ったときは保健センターに相談にのってもらうのはおすすめです。「こんなことで電話していいのかな?」とためらわず、まず助けを求めてみませんか?
2017年03月10日