スタジオジブリ待望の最新作『レッドタートル ある島の物語』は同スタジオにとって、初の海外共同制作。米アカデミー賞短編アニメーション映画賞に輝いた『岸辺のふたり』にほれ込んだ鈴木敏夫氏が、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督に長編制作をオファーしたのは10年前のことだ。長編制作の経験がないヴィット監督は「尊敬する高畑勲監督から助言を受けること」を条件にオファーを快諾。「人生最大の感激でした。私自身は短編アニメーションを独立したアートだと捉えていました。これまでに長編の話はほかからもありましたが、ジブリだからこそ、一緒に長編を作りたいと思ったのです」(ヴィット監督)シナリオや絵コンテ作り、効果音や音楽に至るまでジブリ側との濃密な打ち合わせを経て制作を進めていき「結果的には高畑さんの『かぐや姫の物語』がもつ8年という記録を更新して(笑)、10年かかりましたけど。僕は待つのは苦ではない。週刊誌出身の人間だから、長い時間をかける映画に憧れていましたし」(鈴木氏)2010年にはヴィット監督が来日し、小金井市のスタジオジブリ近くに部屋を借りた。約4週間の滞在で、高畑氏と直接やりとりを交わし、作品の世界観を深めていったのだ。本編が完成したのは今年の3月。無人島に漂着した男の孤独なサバイバル、そして突然目の前に現れた女性との愛の軌跡を81分間、全編セリフなしで描く本作について、ヴィット監督は「自然と人間が向き合う姿を通し、自然への尊重と人間の尊厳を伝えたかった」という。今月はじめに行われた完成披露試写会の席では、高畑氏も「優れた作品ができて安心している」と太鼓判を押した本作。「たった1人で制作を進める短編とは違い、今回は個性あふれるアーティストたちを束ねて、実力を発揮してもらう過程に不慣れさも感じつつ、人と人との信頼関係の大切さを改めて学びました。それはジブリとの関係性にもあてはまります。当初、私たちの間には契約書もなく、ただ信頼の念があったのです」(ヴィット監督)男はどこから来たのか?突然現れた女性の正体は?そしてレッドタートル=赤い亀が意味することとは?謎は謎のままに、観客の想像力に委ねるスタイルは「実は宮崎駿の作品に似ているんじゃない?一見、わかりやすくても非常に複雑な構造で、すべてを説明するわけじゃないですから」と鈴木氏。結果的に『思い出のマーニー』以来2年ぶりのジブリ作品となり「いいタイミングでマイケルが作品を完成させてくれた」と本音を語る。「宮崎さんは長編を引退しましたが、現在は(三鷹の森ジブリ)美術館で上映する短編を作っていますし、スタジオにはスタッフもいて、企画も出てきている。いまはそれをどう進めるか考えている段階です。時代が手描きからCGに移行するなか、大きな転換期にあるのは事実ですが、どんな手法であれ面白い作品をつくっていきたいですよ」(鈴木氏)(photo / text:Ryo Uchida)
2016年09月15日「とても嬉しかったよ。バズの作品が好きだったからね、撮影に入るのが待ちきれなかったよ」。1977年のサウスブロンクスを舞台に、ヒップホップ黎明期を生きる若者たちを描いたNetflixオリジナルドラマ「ゲット・ダウン」。本作への参加が決まった当時のことを、ジェイデン・スミスは興奮を隠しきれない様子で語った。思わずバズ・ラーマンでお気に入りの映画は?とたずねると、ジェイデンはなんとも嬉しそうに頭を抱えて答える。「うーん…そうだな…『ロミオ+ジュリエット』かな。いや、『華麗なるギャツビー』も同じくらい大好きだ。『ロミオ+ジュリエット』は本当に純粋な初恋を描いたラブストーリーなんだ。シェイクスピアという古典から、バズは全く新しいものを生み出している。それは『ゲット・ダウン』にも言えることだよね」。『ロミオ+ジュリエット』『華麗なるギャツビー』など、美しい衣装や斬新なサウンドトラックで彩られた独自の映像世界を描くバズ・ラーマンが製作総指揮を務める本作。ジェイデンが演じる“ディジー”は、グラフィティアーティストとして活動する傍ら、主人公たちと結成する「ゲット・ダウン・ブラザーズ」でラップを披露するという、登場人物の中でもとりわけクールでアーティスティックな雰囲気をまとうキャラクターだ。自身もラッパーとして活動し、ファッションブランド「MSFTSrep」や、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の広告モデルを務める彼にとって、本作はぴったりの役柄とテーマだと言える。「アフリカ系アメリカ人としてアメリカで生まれた僕にとって、ヒップホップっていうのは人生において本当に重要なことなんだよ。この作品で学んだことは、これからの人生でも追求していきたいと思ってる」。かつて「ザ・フレッシュ・プリンス」の名前でラッパーとして活動していた父ウィル・スミスの影響で、幼少期からヒップホップは身近なものだったという語るジェイデンだが、本作に臨むにあたって、あらためて1977年のヒップホップについて勉強したのだそう。中でも、本作で監修に参加した伝説のDJ、グランドマスター・フラッシュや、ラッパーのNas(ナズ)、グラフィティアーティストのレディ・ピンクからは、大きな刺激を得たようだ。「とにかく勉強して、様々なことを吸収したんだ。フラッシュ、バズ、そしてNasの言うことに耳を傾けて、彼らのビジョンや世界観を自分で理解した上で、自分にできるベストな方法でどう表現できるか考えたよ。その中でも、グラフィティアーティストのレディ・ピンクが言っていたことがとても印象的だった。そのひとが本当のグラフィティアーティストかどうかは、靴と手を見ればわかるんだ。もしそのどちらかがペンキで汚れていたとしたら、そのひとはグラフィティアーティストなのさ。どこでどんな表現をしているか、ペンキの汚れを見るだけでわかるんだよ」。ジェイデンが演じるディジーをはじめ、同年代のキャストたちからなる主人公たちの若々しくエネルギッシュな演技アンサンブルは、本作のストーリーを魅力的に引っ張っていく。そのポジティブな雰囲気は映像からもひしひしと伝わってくるが、実際にジェイデンは撮影を大いに楽しんだようだ。「撮影現場は素晴らしいヴァイブだったよ。彼らと一緒にいるときは楽しくてしょうがなかった。バカなことしたりね。一緒に仕事ができて本当に楽しかったよ」。登場人物それぞれが自分自身のスタイルを見つけていく過程は、本作におけるハイライトのひとつだ。ヒップホップという音楽がまだ産声をあげたばかりの時代に、彼らが自分という存在を表現の中で見出していく姿は、ストーリーをドラマチックに引き立てている。「ディジーのラップのスタイルは、彼がグラフィティアーティストであることに基づいているんだ。実際にラップを書くのはエゼキエルなんだけど、ディジーのスタイルや世界観は彼が描くグラフィティに基づいている。ほかのメンバーも、ブーブーは女の子について、ララはスキニーなファッションについてラップしてる。エゼキエルは詩人であることについてラップするんだ」。最近はめっきりフランク・オーシャンのニューアルバム「Blonde」に夢中だというジェイデンだが、近々アルバムのリリースや、世界中のひとがアイデアを共有することができるアプリのローンチも予定しているのだという。そんな彼が考える、ヒップホップの精神とは?「反抗だよ!でもそれと同時に、誰かに伝えること、表現すること、優しく、知的であることも大事なんだ」。「僕はこの世界がよりよくなるために貢献したいと思っている」。そう語るジェイデンの言葉は、表現することに対するまっすぐな気持ちと、アーティストとしての気概に満ち溢れていた。そしてそれは、彼の名前の前に語られがちな“ウィル・スミスの息子”であるという言葉に頼ることのない、一人の表現者としての逞しさを感じることができる。1977年に生きる青年を演じた彼は、現代に生きる観客へ力強く語りかける。「1977年、サウスブロンクの人々が、2つのターンテーブルと2枚のレコードで新しいものを生み出したんだ。2つのものを組み合わせることで、全く新しいものが作り出せるんだよ。この作品を見た世界中の人に、その可能性を感じて欲しい」。(photo:MIchimaro Takeuchi)
2016年09月15日スティーブン・スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』で第88回アカデミー賞の助演男優賞に輝いたマーク・ライランスが、再びスピルバーグとタッグを組むファンタジー大作『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』を引っさげ、来日を果たした。いまなお挑戦を止めない映画界の巨匠が、初めてディズニー作品を手がけ、久しぶりに本格的ファンタジーに復帰した本作。英国人作家ロアルド・ダールの名作児童文学を原作に、ロンドンの孤児院に住む好奇心旺盛な少女ソフィーが、子供たちに夜ごと“夢”を届ける巨人(愛称BFG)と出会い、イギリスを襲いかかる最大のピンチに立ち向かう。マークは最新のパフォーマンス・キャプチャー技術を駆使し、身長7mの巨人を演じている。握手を交わしながら「初めまして。巨人じゃなくてゴメンなさい。ご覧の通り、普通の人間なんだよ」と早速お茶目な一面を見せてくれたマーク。紳士的な応対と知的な語り口は、心優しいBFGそのものである。「技術的に初めての挑戦で、最初は不自由なんじゃないかと思ったけど、実際はその逆。自由な演技が細部にまで活かされ、とてもクリエイティブな体験だったよ」とパフォーマンス・キャプチャーを用いた撮影にも柔軟に対応した。それにしても、いまさらながらスピルバーグ作品のふり幅の大きさには驚かされるばかりだ。米ソ冷戦時代、実際に起きた人質交換劇を描いたサスペンス『ブリッジ・オブ・スパイ』の次に完成させたのが、21世紀の『E.T.』と呼ぶべき“子どもと異界の住人”の絆と信頼を問いかける本作なのだから。両作品に出演するマークも、さぞ戸惑ったのではないか?そう質問すると「彼は作品によって、演出を変えたりしないんだ」と教えてくれた。「その代わり相手、つまり俳優に合った演出をするんだ。例えば『ブリッジ・オブ・スパイ』のトム・ハンクスは監督との親交も深いし、(日本語で)スバラシイ俳優だから、最小限の言葉で通じ合える。片や今回、主人公のソフィーを演じるルビー・バーンヒルは初めての大役で緊張もしていた。現場では『少しだけ集中してみようか』『ちょっと想像してごらん』とシンプルな指示を出していたね。俳優の考えやペースを尊重してくれるんだ」。もちろん、マーク本人もスピルバーグ監督の“魔法”に何度となく魅了されたという。「彼の“道具箱”にはたくさんのツールが入っていて、作品ごとに使い分けている。だから大人に向けたシリアスなドラマから、子どもを夢中にさせるファンタジーまで自分のスタイルを貫き通せる。まるで千手観音だよ(笑)。常に熱意にあふれて、エモーショナル。それでいて、俳優を置いてきぼりにせず、瞬間を共有してくれる」とその素顔を語ってくれた。長年、イギリスの演劇界で舞台俳優、芸術監督として活躍してきたマークの人生はスピルバーグとの出会い、そしてオスカー受賞を機に大きく変わった。「以前に比べると、街中で声をかけられることも増えたのは確かだね(笑)。そんな状況を楽しみつつ、あまり真に受けないようにしているよ。役者は自分の価値を把握するのが難しいので、受賞はありがたいけど、あくまで結果。たとえ無冠であっても、すばらしい役者はたくさんいるからね」。(photo / text:Ryo Uchida)
2016年09月13日今回のインタビューを通して強烈に感じたのは、ヒップホップの立役者でもあるフラッシュが抱く、若い世代へこの物語を伝えなくてはいけないという確固たる使命感だった。「俺たちにとってこのことが何のプラスになるか?それは彼ら(ジェイデンとシャメイク)のような若者だよ。俺が思うに、俺やネルソンの年代の者たちだけがこの作品を作っていたら、限界があったんだと思う。でもこの若者たちが、このような驚くべき方法で作品を作ったから、視点を拡大することができたんだろう」。フラッシュは、ジェイデン、シャメイクの方へ身体をぐっと傾けて問いかける。「ところで、この作品のパイプとなる役を担っている君たちは、自分の演じている役についてどう思うんだ?」。ジェイデンが演じるエゼキエルの親友ディジーは、主人公たち“ゲット・ダウン・ブラザーズ”の中でも独特な雰囲気を持つキャラクターだ。主人公のグループとは別に、スプレー缶を持ち歩き、グラフィティライターとして活動するディジーは、アフロヘアにリメイクのデニムジャケットという出で立ちで、いかにもアーティストといった風格。これまで『幸せのちから』における子役から、『ベスト・キッド』におけるカンフー、『アフターアース』におけるSFアクションなど、様々な作品に出演してきたジェイデンだが、音楽やファッションといった様々なフィールドで活躍する彼にとって、本作の役は最も彼らしいキャラクターなのではないだろうか。フラッシュの問いかけに対してジェイデンが答える。「世界中の若者たちにとって、この作品を見ることはものすごく重要だと思うよ。みんな、グランドマスター・フラッシュがいなければドレイク(※1986年生まれのトロントのラッパー)も存在しないということを知らない。若者たちは現代の音楽に熱中しているけれど、それがどこから来たのか、起源を知る必要があるんだ。そうすれば理解が深まり、もっとありがたみがわかるようになるから。この作品は若者たちにそういったことを教えてくれるはず。それにもっと上の年代の人たちで、この物語を知っている人たちにとっても、生き生きとした映像で見ることによってもっとよく理解できるのではないかと思うよ。この作品は音楽のありがたみを得られるための情報を与えてくれる。全てのジャンルの音楽に対してね」。続いて話し始めるのは、そこにいたもうひとりの若者、シャメイク・ムーアだ。今年になって日本公開された彼の主演映画『DOPE/ドープ!!』では、90年代のラップに夢中な若者という役柄を、本作のワイルドなキャラクターとは真逆と言えるナードな佇まいで演じている。リラックスした穏やかな口調で、シャメイクは話し始める。「まさにこの作品を見たときに、これは若者たちにとっては教育になると思ったよ。若者だけではなく、観るもの全てが学ぶものがあると思う。何も知らない人にとって、まるで学校で授業を受けているみたいに。みんなきっとグランドマスター・フラッシュの名前くらいは聞いたことがあるとしても、彼が実際に何をしたのかということは知らないだろうしね。僕が言おうとしていることは、いま、現代のヒップホップに傾倒している人は、この作品を見て学ぶことができるということさ。彼らの目を覚まさせてくれると思うよ」。本作でシャメイクが演じるシャオリン・ファンタスティックは、ジェイデン演じるディジーたちグラフィティライターの憧れの的であり、ギャングのファミリーとともに生活を送っている。グランドマスター・フラッシュとの出会いが彼をDJへの情熱へと向かわせるのだが、ギャングとしての人生と音楽との間で苦しむ姿は、観るものの心をなんとも締めつける。表現することの自由さと、人生に捕らわれてしまう苦しみ、そのどちらもが描かれる本作において、シャオリンという役を通した感慨をシャメイクは述べる。「多くのラッパーたちは自ら選んでこの道を進んでいるけれど、シャオリンには選択肢はなかったんだ。この作品を観た人には、学校には行きたい、でも自分のクリエイティビティを表現したい、その両方選ぶことはできるのだろうか?と思っている人たちもいると思う。僕の中国の友だちにも、自分が置かれた環境から抜け出そうとしている奴がいるよ。フラッシュが、僕らがこの役を演じていることによって、観るものが自分と同じだと共感するはずだと言ったけど、この70年代の話のように、いまでも僕らも同じことを感じているんだよ」。ヒップホップ黎明期をフィクションとして克明に描くこと、そういったミッションに加え、フラッシュと同様にバズは、本作における主人公の若者たちに、ある思いを託している。「シーズン1全体を通して、全登場人物が常に選択肢の間でバランスを取っている。エゼキエルの学校の先生は、彼に『インターンシップをしなさい』と勧める。でも彼の両親は『ダメだ。インターンシップなんてバカバカしい。音楽をやりなさい。これはもっとリアルだ。素晴らしいものだ』と言う。でも、これを観ている我々は、彼らがやろうとしているヒップホップが、今後世界を変えるものだと知っているんだ。何が正しくて何が間違っているか、若いときはみんな自分自身に問いかけるよね。我々が提供してあげられることは、それは必ずしも思っているほどシンプルではないということさ。そうすればみんな孤独を感じなくても済む。ふたりともこの若者たちをとても上手く演じているよ」。さらに、話さずにはいられないとばかりにフラッシュとネルソンが語り始める。フラッシュ:人生で起こるいろんなことに対して、この若者たちは必死に努力しているんだ。それぞれが違うゴールを目指しているし、抱えている問題も違うものかもしれないが、それでもみんな何かを達成しようとしている。それこそが、この作品を見る若者たちがこの物語から得るものだろう。何かを得るために努力する姿勢さ。普通の家庭の子どももいれば、素晴らしい両親を持つ子どももいる。みんながどこかにたどり着くために頑張っている。バズはこの作品に様々な感情を盛り込んでいるんだよ。この主人公たちのストーリーは、誰でもない(Nobody)ものが、何者か(Somebody)になってく様子を描いているんだ。そういうことは現実に起こるんだよ。ネルソン:ちょっと話させてもらっていいかい?この若者たちが当時のステップを踏み、スラングを使い、あのムーブメントを再現するとき、僕はあの時代に戻ることができたんだ。ジェイデンやシャメイク、ジャスティスたちが時代を変換して、物語を超越しているんだ。この作品は過去と現在を表している。彼らは「ああこれは僕の父たちの話だ」とは思わないだろう。「この登場人物たちも僕と似ている」と思うはずだ。興味やムーブメントや文化が、この若者たちのエネルギーによって変換されているんだよ。フラッシュ:この作品は何層にもなっているんだ。バズは全てのエネルギーを調和させている。最初の頃、俺は彼の仕事をただ見ていたんだよ。「どうやって仕上げるんだろう」と思っていた。作品を観ればわかるけど、あらゆる要素の全てが繋がって、交差するんだ。これこそさっき言ったように、俺が彼にDJを思い起こさせた部分さ。俺がどうやってDJのテクニックを思いついたかというと、違うジャンルの音楽を交差して繋げたんだ。バズはこれを映像でやっている。これは大変な仕事であるし、誰もができることではないと思う。近年、映画監督の制作のフィールドとして、「Netflix」をはじめとする動画配信サービスでのオリジナル作品が、新たな表現のかたちとして大きな注目を集めている。資金面での違いはもちろん、これらの表現フォーマットの変化は、今後のクリエイターたちにとっては大きな焦点となることは間違いないだろう。「ゲット・ダウン」においても、これまで映画監督としてのキャリアを積んできたバズが手掛けるドラマだということは、大きな注目を集める要因のひとつだ。実際にバズが監督としてクレジットされているのは第一話のみだが、話を進めていくと、ほかのシーンにおいてもクリエイティブを統括する役割として、バズの存在は大きく影響しているようだ。「僕たちはこの作品を製作するにあたって様々な言語やスタイルを構築したんだ。だから、(第二話以降のエピソードで)たとえどんなに素晴らしい監督が撮影しても、僕がかなり関わって撮影中にフィードバックを与えなければならない。言語やスタイルがこの作品独特のものだからね。だから、基本的な部分をそれぞれの監督が演出しているだけど、僕もかなり参加している。僕としてはずいぶん静かにしているつもりだけど。横柄な態度ではなく、静かに、ね(笑)。僕が言えることは、どんな作品でも、僕はとても野心的に作る。僕の時間は全て捧げるよ。完全に週7日間、昼も夜もね」。同じNetflixオリジナル作品「ハウス・オブ・カード」においても、デヴィッド・フィンチャーが制作総指揮を務めており、フィンチャーが監督としてクレジットされているのはわずかだが、全体としては統一されたトーンが貫かれている。本作においても、バズ・ラーマンが描き出す世界が全6話において一貫したものとして描かれており、今後ドラマシリーズ製作におけるクリエイターたちの関わり方に、バズの言葉はヒントを与えてくれるかもしれない。「僕だけがやることを考案するのじゃないんだよ。みんなのやることを考案するんだ。でもそれをどうやってやるかは、前例がないんだ。たくさんの人が来て助けてくれているけど、結局は(製作総指揮の)僕が中心にいなければならない。そうでなければ、この物語で語ろうとしている人々が受けるにふさわしいレベルの基準とリスペクトを受けられないんだ。僕はフラッシュをがっかりさせるわけにはいかないし、歴史をがっかりさせるわけにもいかないんだよ」。10年の歳月を経て本作の企画を温めてきたというバズだが、やはりこのタイミングでNetflixと手を組んだことは、Netflixへの注目度とその勢いに寄るものが大きいのではないかと思われる。Netflixとのパートナーシップについて、率直にバズは語った。「Netflixはいま独特な立ち位置にいると思うよ。TVはきっとダメージを受けるだろうね。Netflixの作品はTVではない。映画かと言うと、それもわからない。とにかく長編だ。Netflixはとても興味深いよ。韓国もヨーロッパも、日本も、世界中を相手にしている。それに、創造性の基準を高くすることに献身している。いまの映画界では、もし最近のヒット作が恐竜を描いたものなら、『バズ、恐竜の映画を作れるか?』と言われる。しかもきっとミュージカルのね(笑)。Netflixの場合、もし最近のヒット作が大統領の話だったら、それとは全く違う作品で何か作れるか?と聞いてくるんだ。ほかの人がやっているものと全く違うものを作れるか?と。だからNetflixはクリエイティビティへの自由を提供してくれるところだ。とてもよくサポートしてくれる」。「僕にとっては、これまでで最も大規模なコラボレーションだった。こんなに多くのアーティストたちをチームに迎えたことはない」。そうバズが語るように、本作のクレジットにはこの上なく豪華な名前が並んでいる。インタビューに応じてくれたフラッシュ、そしてネルソンをはじめ、クール・ハーク、カーティス・ブロウ、Nasといったヒップホップ界におけるレジェンドが本作の意思に賛同し、ヒップホップの黎明期を描く本作を、よりリアルに、よりドラマティックなものに仕上げている。「ブロンクスの何も持っていなかった若者たちが、2枚のレコードに情熱を捧げ、執着したということ…この作品では、若者たちのストーリーを神話のように描いているんだ。そうして彼らが作り上げたものが世界を変えた。このことは素晴らしいメッセージだと思う。何も持っていなくても、一生懸命やることで、小さいものから美しいものを作り出すことができるんだ」。昨年大ヒットを記録した『ストレイト・アウタ・コンプトン』をはじめ、これまでにも『Style Wars』(1983)、『ワイルド・スタイル』(1983)、『8マイル』(2002年)、『ハッスル・アンド・フロウ』(2005年)、Nasのドキュメンタリー『タイム・イズ・イルマティック』(2014年)など、多くのヒップホップを描いた映画は作られてきたが、本作で最も印象的なのは、バズが語るように、ヒップホップのはじまりを神話的に描くことから生まれる、希望に満ち溢れた生き生きとした力強さだろう。主人公たちは、それぞれの葛藤の中から、自らの力と仲間たちとの協力で、自分自身のスタイルを見出していく。物語が進むにつれ、次第に輝きを増していく主人公たちの表情には、思わず胸に迫る感動を覚えざるをえない。「今日はここで全てのヒップホッパーに言いたい。別に説教しようとか、ああしろこうしろと指図するつもりはない。視点が変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。ただ、見て欲しいんだ。それだけだ」。フラッシュは最後に力強くそう語った。この言葉は、決してヒップホッパーだけに向けられたのではないと思う。これは、いまこそ“Somebody”になろうと必死にあがく、すべての“Nobody”に向けられた言葉なのだ。「ゲットダウン」はNetflixにて配信中。協力:Netflix(text:cinemacafe.net)
2016年09月11日若手実力派と言われるなかで、とりわけ生彩を放っている広瀬すずと山崎賢人。初共演の彼らが挑むのは“泣けるラブストーリー”として人気を集めているベストセラー漫画の映画化『四月は君の嘘』だ。自由奔放で個性的なヴァイオリニスト・宮園かをり、彼女と出会うことでもう一度ピアノと向きあう天才ピアニスト・有馬公生をそれぞれ演じている。青春ラブストーリーであり、本格的な音楽映画でもあり、2人は撮影開始の半年前からヴァイオリンとピアノを猛特訓。役者の意地を見せた。半年前から練習に入ったとはいえ、広瀬さんも山崎さんも超売れっ子。仕事の合間を縫っての練習となったが、日々お互いがどれだけ練習したのかどれだけ上達したのかを聞かされることが「やる気に繋がった」と山崎さん。「“今日、すずちゃんは5時間ぐらい練習を頑張っているよ”と聞くと、こっちも負けてられない!と思って、もうちょっとやります!って練習時間を延ばしていました。ピアノは初めてでしたが、指導してくださった先生が、練習漬けで僕がピアノを嫌いにならないようなプランを作ってくれたので、楽しかったです」。せっかく始めたピアノを「できれば続けていきたい」と、すっかりピアノ男子だ。一方、広瀬さんは自他共に認める負けず嫌いな性格が功をなした。「“賢人くんは1時間練習して休んでいるよ”って聞くと、よしっ!ここで差をつけちゃえーって、休憩はいりません!と言って頑張りました(笑)。練習中、もう無理…と思うこともありましたが、一度やると決めたことを途中で止めるのは許せない性格なので、絶対にやってやろうって」。自由に、生き生きと、楽しそうにヴァイオリンを奏でるかをりに観客は惚れるだろう。2人揃う演奏シーンについては、監督がOKを出しても「もっと行けます!」「私も!」「僕も!」と撮影現場はつねに熱気に包まれていたそうで「セッションは本当に興奮しました、緊張もしました」とふり返る。「お芝居と演奏が重なる高揚感をリアルに感じることができました」と語るのは広瀬さん。「撮影の直前まで、どうしよう…どうなるんだろう…と不安を感じていても、いざ本番になると自然と入り込めました。その感覚はとてもリアルで興奮しましたね。賢人くんのピアノに向かったときの座り方、演奏の仕方がものすごく様になっている。なのに私は、自分が思い描く格好良さを出せていない…そういうときはすごく悔しかったです…」。負けず嫌いであるからこそ乗り越えられた役でもある。劇中で描かれる4度のコンサートシーンはそれぞれ数日間かけて撮影された。広瀬さんの一生懸命な姿を一番近くで見ていた山崎さん。「共演する前は、すごく可愛らしくて柔らかい雰囲気がありましたが、ヴァイオリンを一生懸命に演奏している姿、役に向きあっている姿からはもの凄い芯の強さを感じました」と感想を伝えると「嬉しい~!」と天真爛漫な反応をみせる。また、広瀬さんにとって山崎さんは“超多忙な人”のイメージだったそうで「私のなかでは、睡眠時間が少ない人、第1位(笑)。でも、忙しいはずなのに現場ではいつも元気でムードメーカー、凄いなぁって感心していました」。青春映画としては、かをり、公生、椿(石井杏奈)、渡(中川大志)、4人が紡ぐ友情もみどころのひとつだ。海岸沿いを自転車で走るシーンや橋から川に飛びこむシーンなど、十代だからこそのキラキラした出来事は瑞々しく美しい。そのなかで一番思い出深い撮影エピソードは、山崎さんの携帯の水没事件だと広瀬さんが明かす。「川に飛びこむシーンは本当に楽しかったです。私の方が最初に飛びこむ設定だったので、先に川に入ってびしょ濡れ。それを賢人くんが携帯で撮影していたんです。その後、賢人くんも川に飛びこんだんですけど、携帯をポケットに入れて飛び込んじゃったんだよね(笑)」。苦笑いしながら山崎さんが続ける。「そう…。で、撮影を終えて着替えをしていたら、隣の部屋からスタイリストさんの“うわぁあーっ!”っていう叫び声が聞こえてきて、あっ…携帯ポケットに入れっぱなしだった…と(笑)」。携帯は残念なことになったが、それほど楽しい撮影だったということ。さすがはムードメーカーにしてエピソードメーカーの山崎さん。そんなふうに撮影秘話を面白可笑しく話す2人だが、演技の話になると表情が引き締まる。今回、彼らの演じたかをりと公生は17歳で、物語は17歳の年がメインとなっているが、ひとつの役を演じるということは、短い撮影期間のなかでその役の人生を生きること。「かをりにも公生にも17歳までの生活が当然あって、それは直接描かれないけれど、それまでの16年間をどう演技に取り入れるのかは考えました。かをりに関しては“ある嘘”をついているので──嘘をついている“かをり”、そうじゃない“かをり”をどう演じ分けるのか、難しかったですね」。広瀬さんの言葉に深く頷く山崎さんは「以前と少しだけ演じ方に変化が生まれた」と言う。「少し前は、演じる役の格好いい所や憧れている所に、いかに近づけるか…という気持ちが強かったんです。最近は、そういう所に自分を近づけるのではなく自分自身の内側から出てくるものを大切にするようになりました。その方がリアルで面白くて。その人になって、その人を生きて演じた方が言葉ひとつとってもリアリティがあるし、観ている人にも伝わると思うんですよね」。それはきっと大きな変化だ。そんな若き俳優たちの才能に驚かされ、青春の素晴らしさに感動し、そして“切ない嘘”に涙するだろう。(text:Rie Shintani/photo:Nahoko Suzuki)
2016年09月11日「僕らはフィルムメーカーたちと、素晴らしくクリエイティブな関係を築いているよ」。「DCエンターテインメント」において“チーフ・クリエイティブ・オフィサー”という肩書きを持つジェフ・ジョンズは、笑顔を浮かべながらそう話す。『バットマンvs スーパーマンジャスティスの誕生』『スーサイド・スクワッド』において製作総指揮を務める彼は、若干43歳にして、80年にも渡る歴史を誇るDCコミックスのクリエイティブを司る、最重要人物の一人だ。シネマカフェでは、DCコミックス本社へ赴き現地取材を敢行。第1弾レポートでは、ジェフ・ジョンズのインタビューをお送りする。今後の「DCエクステンデットユニバース」の展開のキーを握る人物である彼に、『スーサイド・スクワッド』をはじめとする今後の公開作のヒントを伺った。スーパーマンやバットマンといったアメリカン・コミックスのヒーローを擁する「DCコミックス」は、アイアンマンやキャプテン・アメリカなどのヒーローが所属する「マーベル」コミックスと共に、アメリカにおける2大コミック出版社のひとつとして知られている。「マーベル」コミックスは、2008年の『アイアンマン』の実写映画化を皮切りに、様々なスーパーヒーローたちが共通の世界観の中で活躍する「マーベル・シネマティック・ユニバース」の展開をスタートさせ、のちに公開されたスーパーヒーローチームの活躍を描く『アベンジャーズ』では驚異的な興行収入を記録。多くの観客から高い満足度と支持を獲得し、アメコミ原作による映画の大きな可能性を世界に提示した。そして「DCコミックス」は2013年に公開された『マン・オブ・スティール』から、「DCエクステンデット・ユニバース」の展開をスタート。いよいよその第3弾となる『スーサイド・スクワッド』が公開され、来年には『ワンダーウーマン』、DCコミックスのスーパーヒーローチームが登場する『ジャスティス・リーグ』の公開が決定しており、2020年まで続々と公開作が控えている。今回、シネマカフェのインタビューに応じてくれたジェフ・ジョンズは、2010年よりDCコミックスにおけるチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして、今後のDCエクステンデット・ユニバースの展開において、様々な立場でコミックの映画化におけるプロセスで重要な役割を担ってる。かつては『リーサル・ウェポン』シリーズや『グーニーズ』を手掛けた映画監督リチャード・ドナーに師事した経歴を持つジェフは、のちに「DCコミックス」「マーベル」のライターとしても活動を始め、これまでに数多くのコミックス作品を手掛け、アメリカン・コミックスの発展に大いに貢献してきた人物だ。「僕はリチャード・ドナーの下で働いていたんだけど、同時にコミックを書き始めたんだ。DCコミックスに書いたものを送ったら、彼らはその1本を買い取った。それで僕は、副業で書く仕事をしようと思ったわけだよ。小さな仕事をね。それが、どんどん大きくなっていって、彼らは僕にもっと書くようにと頼んできた。最終的には、フルタイムのライターになるために、リチャード・ドナーの会社を去ったんだ」。リチャード・ドナーといえば1978年に公開されたクリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』を手掛けた監督としても知られている。『スーパーマン』が大好きだったという彼は、リチャードと共に働いた4年半のことを回想する。「僕は毎日『スーパーマン』についての質問を彼に投げかけていた。どうやってやったの?どうやって彼を飛ばしたの?どうやって脚本をベストなかたちにしたの?とかね。彼と一緒に仕事が出来てとてもラッキーだったよ。子どもの頃、彼は僕の大好きな監督だったんだ。いまでも彼とは会っているよ。2週間ほど前も、僕の家に来たんだ。彼は僕のメンターであり、父親みたいな存在なんだ」。すると、控えめな笑みを浮かべながら少しだけ自慢げにジェフは付け足す。「ちなみに、幸運なことに僕はクリストファー・リーヴと一緒にランチをしたことがあるんだ。とてもクールでスペシャルな経験だよ」。バットマンやフラッシュなど、DCコミックスのスーパーヒーローたちによって逮捕されてしまった悪役=ヴィランが、政府の指揮官の提案によって寄せ集めのチームとして活躍する姿を描いた『スーサイド・スクワッド』。いよいよ日本公開を迎える本作では、ジェフは製作総指揮として作品に関わっている。映画ではウィル・スミス演じるキャラクター、“デッドショット”がお気に入りだという彼は、ヴィランたちを中心に添えた本作の“予測不可能”な魅力について語る。「僕はずっと80年代のオリジナルの『スーサイド・スクワッド』のコミックブックが大好きだった。キャラクターたちの何がとても素晴らしいかというと、彼らが予測不可能だということだよ。彼らは悪いこともするし、良いこともする。どんな状況においても、彼らのことは予測出来ないんだ。中でもデッドショットは本当に興味深いキャラクターだよ。彼は殺し屋だけど、家族への愛があって…ただの悪いやつじゃなかった。『スーサイド・スクワッド』は、すべての悪いやつらを集めて、彼らはただの犯罪者じゃないことを提示したんだ。映画の中でキャラクターたちはとてもうまく表現されているし、役者たちによって完璧に演じられているよ」。中でも、強力な個性を発揮するヴィランたちの“予測不可能性”の中心とも言えるのは、マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインだ。バットマンシリーズの中で圧倒的な存在感を誇るヴィラン、ジョーカーに心酔するキャラクターとして描かれる彼女を、鮮烈なビジュアルとセクシーな存在感で演じたマーゴットに、ジェフは惜しげない賛辞を送る。「マーゴット・ロビーは、完璧なハーレイ・クインだよ。彼女は、キャラクターへリスペクトを持って演じていて、まさにあのキャラクターそのものさ」。さらに、そんなハーレイ・クインの“予測不可能性”を象徴するかのように、もととなるコミック版「スーサイド・スクワッド」のメンバーとしてハーレイ・クインが抜擢された経緯について尋ねると、ジェフ自身も把握していないという意外な答えが返ってきた。「実は、誰がハーレイをスクワッドのメンバーに入れることを決めたのかはわからないんだ。なぜ、そして誰がハーレイ・クインを『スーサイド・スクワッド』に入れることにしたのか、真実は闇の中だよ。それにしても素晴らしいアイディアだ。誰が決めたにしても、そうしてくれてよかったよ」。映画版『スーサイド・スクワッド』は、『エンド・オブ・ウォッチ』『フューリー』などを手掛けたデヴィッド・エアーがメガホンをとっている。ロサンゼルス市警として働く警察官の日常や、戦場における兵士たちの現実など、これまでの作品における、目を背けたくなるほどのリアルな現実の中でタフに生きていかざるをえない人物を描いてきた彼の作風からすると、コミック原作の映画を手がけるのは少し意外な印象を受けるひとも多いかもしれない。彼の起用に至るまでの過程をジェフは語る。「ワーナー・ブラザース・ピクチャーズの社長のグレッグ・シルバーマンが、デヴィッドに会って、『君は『スーサイド・スクワッド』の監督にすごくいいと思う』と言ったんだ。彼らはそれについて大きなミーティングをして、デヴィッドはとても興味を持っていた。僕は彼に会って、オリジナルのコミックをたくさん渡して、それがどういうものか話し合ったんだ。彼はとても興奮していたよ。彼は軍隊にいた経歴があるから、すぐこの世界に入り込んでいったよ」。「彼はキャラクターたちのことがとても気に入っているんだ。彼がコミックを読んだときに反応したのは、キャラクターたちがとてもグレイな存在で、オルタナティブで、典型的なスーパーヒーローとは違うことだったんだ」。デヴィッド・エアーがこれまで描いてきた登場人物は、観客に対して不快感を抱かせるような行動をとりながらも、物語が進むにつれて、彼らの人間的側面や、優しさとも呼べる表情が示され、様々な現実を生きる登場人物たちのアンビバレンスな魅力をたたえているものが多かった。ジェフが指摘するデッドショットが見せる家族への愛など、『スーサイド・スクワッド』のヴィランたちが見せる人間的な一面やその描写の奥深さは、映画作家としてのデヴィッド・エアーに本作のメガホンを取らせる大きな要因だったのかもしれない。1999年にDCコミックスにてライターとして招かれたジェフは、これまでにも様々なコミックスの執筆に関わり、グリーンランタンやフラッシュ、アクアマン、スーパーマンなど、様々なキャラクターたちに新たな命を吹き込んできている。「DCエクステンデッド・ユニバース」において彼は、それぞれの作品における企画開発をはじめ、クリエイターたちが参考にするクラシックのコミックブックのセレクトや、キャラクター構築に関わるなど、コミックスの世界観を映画に変換する上で重要な役割を担っている。「もっとも大切なことは、キャラクターを正しいものにするということだ。なぜそのキャラクターがこれほど長く続いてきて、なぜそのキャラクターに人気があるのか。僕らは、クリエイターがアイコニックなキャラクターたちの伝説を見つける手助けをするんだよ」。『スーサイド・スクワッド』におけるデヴィッド・エアーの起用など、映画ファンとしては今後の公開タイトルの発表と同じく、どの監督がクレジットされるのかにも注目したいところだ。ジェフは、監督決定に至るまでの“有機的”なプロセスについて説明する。「『フラッシュ』のリック・ファイムーア(『ブラウン・シュガー』『DOPE/ドープ!!』など)は、多くの監督たちと会う中で出会ったんだよ。映画に対する彼のビジョンについて聞いて、とても説得力があったんだ。『アクアマン』のジェームズ・ワン(『ソウ』『死霊館』シリーズ)は、アクアマンの熱狂的なファンで、どれほどアクアマンのことが大好きかということをスタジオのトップと話していたんだ。そして、『バットマン』のベン(・アフレック)については、もちろん、彼はバットマンを演じているからね(笑)。僕らは、僕らと同じくらいキャラクターが大好きで、本当にそのキャラクターを描きたいと思っている人を見つけるんだよ」。「ジェームズ・ワンと僕は、いま『アクアマン』のストーリーに取りかかっていて、それを分析している段階だ。それと、ベン(・アフレック)と『バットマン』の映画の仕事をしている。ベンとは脚本を一緒に書いたんだ」。今後も続々と公開を控える「DCエクステンデッド・ユニバース」において、ますます忙しくなるであろう彼に、少しでも公開予定作についての情報をもらうべく尋ねてみると、幸いなことに、わずかではあるが『グリーン・ランタン』についてヒントを与えてくれた。「いま、企画開発をしているところだよ」と断りを入れながら、2020年に予定されているリブート作では、宇宙の平和維持軍である「グリーン・ランターン・コァ」が描かれる物語であるとコメント。「つまり、グリーンランタンが一人以上登場するということだよ。それ以上のことは言えないんだ」。「僕は、スーパーヒーローたちが希望に満ち溢れていて、楽観的なところが大好きなんだ。彼らが表わしているポジティブな理想や、それらを称賛する希望にあふれたストーリーは、DCユニバースの重要な要素だと思うよ」。DCコミックス、マーベルを台風の目として、少なくとも2020年まではスーパーヒーローの活躍を描いた映画がますます勢いを増していくことだろう。アメリカン・コミックスの伝統を引き継ぎ、革新を生み出し続けてきたジェフは、DCコミックスの魅力としての“神話性”について語る。「僕がいつもDCのスーパーヒーローが大好きだったのは、彼らがとてもアイコニックで、神話的で、僕らが努力して目指すべき理想を表しているからだ。僕らは彼らのことを尊敬し、彼らみたいになりたいと願う。彼らは、意思があり、人々に感動を与える、象徴的な存在なんだよ」。アメコミ映画黄金期のいま、DCコミックスが描き出す希望の物語が、私たちに多くの感動をもたらしてくれることを期待したい。協力:ワーナー・ブラザース(text:cinemacafe.net)
2016年09月10日「田舎町でニューヨークの方を見つめていたあの15歳の頃――何年もの間、ニューヨークこそが優れたクリエイティブな場所だと思っていた。そんなあるとき、ここにいるふたりの男が、若いときにどうやってこの最も純粋かつ独創的な表現方法を思いついたのだろう、という疑問が湧いてきたんだ」。1977年を舞台に、ヒップホップの黎明期を描いたNetflixオリジナルドラマ「ゲット・ダウン」。シネマカフェでは、「ゲット・ダウン」の撮影が行われたクイーンズのスタジオにて、製作総指揮を務めたバズ・ラーマンをはじめとするスタッフ、キャストにスペシャルインタビューを実施。歴史が生まれる瞬間を描こうと情熱を注いだ彼らの言葉に、現地ニューヨークにて耳を傾けた。製作総指揮を務めるバズ・ラーマンは、その日インタビューに同席した目の前にいる“ふたりの男”に尊敬の眼差しを向ける。1977年のニューヨークで、ヒップホップという新たな音楽があげた産声をまさに聞いた人物であり、その発展に貢献をしてきたふたりの人物だ。ひとりは、クール・ハーク、アフリカ・バンバータと並び、ヒップホップ黎明期における3人の重要なDJ、グランドマスター・フラッシュ。もうひとりは、当時のヒップホップシーンの目撃者であると同時に、ヒップホップという音楽を批評的なフィールドで初めて論じた、ネルソン・ジョージである。フラッシュはアソシエートプロデューサーとして本作に関わり、ネルソンはスーパーバイジング・プロデューサーとして参加。同年代のふたりは、1977年という時代を生きた人物として、本作のリアリティーに大きく寄与している。「ある日、バズが俺のところにやって来て、『僕はあなたのレコードの成功やスター性などには興味がありません。成功してからの時代ではなく、これが内在していた時代のことが知りたいのです』と言ったんだ。俺が『なぜだ?』と尋ねると、彼は『これまで誰も試みたことがないから、それを敢えてやってみたい』と」。今年で58歳とは思えないエネルギッシュな語りに圧倒されながら、フラッシュはバズとの制作当初のことを語り始める。全身を黒と白で統一したスタイル、靴はもちろん、シャオリン・ファンタスティックをはじめとする劇中の登場人物たちと同様、プーマだ。そのときにずしんと足を踏みならしながら、巨大な体躯から発せられる彼の力強い言葉にただ耳を傾ける。「長い間、こういった作品が出来て欲しいと思っていた。どういうわけか、この70年代の物語を世界に示す作品がこれまでなかったんだ。ブロンクスという町が、いまとなっては巨大なビジネスとなっているものを創造したという事実を伝えることさ。そして、いまの全てのヒップホッパーたちに『君たちがヒップホッパーとしてやっていることをこれからも続けてくれ。でも時間があるときに座ってこれを見てくれ。そしてどう思ったかを教えてくれ』と言うことさ」。1977年に何が起こったのか――『サタデー・ナイト・フィーバー』の公開とともにディスコ・ミュージックは全盛を迎え、世界が『スター・ウォーズ/新たなる希望』に熱狂した年。また、音楽ファンであるならセックス・ピストルズが「勝手にしやがれ(Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols)」をリリースした、パンク・ミュージックにおける象徴的な年としても記憶しているかもしれない。本作では、ヒップホップとディスコという当時のブラックミュージックが辿ることになる分かれ道が、エゼキエルとマリーンというふたりの主人公によって描かれていく。まずは、バズをはじめ、ネルソン、フラッシュら3人が、1977年という年について語り始める。バズ:77年は特に並外れた年だった。フラッシュは75年も74年もこういうことをやっていたけれど、77年はまさに中核の年で、エルビスが死んだ年でもある。ネルソン: ニューヨーク市長選挙もね。バズ:もちろん。ニューヨーク市は破産しかけていたし、悲しい出来事もたくさん起こった。もしそこで起こっていた全てのことに目を向けても、77年という年を語るのは不可能なくらいだ。あまりに様々なことが何層にも重なって起こっていたからね。ディスコが全盛で、レコード業界にとって史上最高の年さ。音楽の売り上げは20億ドル。映画は15億ドル。スポーツは5億ドルしかなかった。それくらい音楽ビジネスは大きかったんだ。その一方で、ビッグなバンドが出てきた。ネルソン:「バッドカンパニー」とか、「フォリナー」とか「カンサス」とか…。バズ:それと同時に、パンク・ムーブメントがあり、世界が変わりつつあった。この年、ヒップホップはすでに十分に生まれていたんだけど、まだ多くの人々には知られていなかった。ヒップホップと呼ばれるようになったのは3年後だ。ブロンクスという小さな町では、全く独創的なものが起こり始めていた。この2人は、あの頃実際にそこにいたんだ。危険な時代だった。ストリートは荒れていた。暴力がはびこっていた。でも当時若者だった彼らは、ネガティブなものは一切感じていなかったと思うよ。フラッシュ、そうだろ?フラッシュ:正直なところ、80年代の一部のジャーナリストたちが、この場所をいつも火事が起こっていた危険な場所として型にはめてしまったと思うよ。でも、俺たちにとってブロンクスは真っ白なパレットだった。音楽の部分ではね。1970年代、当時のニューヨークは経済的な破綻を迎え、街の治安は悪化の一途を辿っていた。ブロンクスでは、無人となってしまったアパートの所有者が保険金目当てにギャングに放火させ、至るところから炎が立ち昇っていた。本作では、当時のニュースや記録映像の数多くが本編中に幾重にも差し込まれており、街の荒廃した様子がアリティーのある映像とともに示される。劇中において、テクスチャーの異なる様々な映像をコラージュ的に展開させていく手法は、これまでのバズ・ラーマンの作品にも多く見られる表現方法であった。『ロミオ+ジュリエット』や『ムーラン・ルージュ』における、その独自の感性によって繰り広げられる大胆で華美な意匠、耽美なアレンジメントの数々に感じられる斬新なミクスチャー感覚は、サンプリング主体の音楽であるヒップホップとフィーリングとして通じるものがある。フィルモグラフィー的に前作にあたる『華麗なるギャツビー』においては、1920代=ジャズエイジを舞台にしたフィッツジェラルドの古典において、ヒップホップ界の“キング”であるJAY-Zをクレジットに配し、華やかな当時の時代性に現代的な解釈を織り交ぜ、豪華絢爛な3D映像で仕上げるという、まさにバズ・ラーマン節ここに極まれりといった作風が話題を集めた。本作では製作総指揮として全体のクリエイティブの手綱を引く立場のバズだが、一作目では実際にメガホンを取っている。一話目を撮り終えたときのことをバズは回想する。「第一話を仕上げたときに、フラッシュがどう思うかとても緊張したんだ。そしたら彼は『ああ!バズ!君はDJだね!』と言ったんだよ。たぶん気に入ってくれたということだと思う」。さらに、今回のインタビューに応じてくれたキャストのひとり、本作で主人公たちのクルーのひとりを演じたジェイデン・スミスも、バズの手腕への賛辞を送る。「この作品全体の繋がり方は、ストーリーから何から全てシームレスで、フラッシュが言うように、本当にバズはDJだと思うよ。全ての映像が一体になっていて、特にオリジナルのフッテージの映像の荒々しさが、新しく撮影した映像に移り変わるつなぎ目とか、そういったもの全て僕は大好きなんだ。本当に素晴らしいと思うし、僕の目には全く非の打ち所のないものに映るよ」。バズ・ラーマンがなぜヒップホップ?という疑問を抱いた映画ファンがいたとするならば、まさにフラッシュやジェイデンが送る賛辞の言葉とバズ自身の言葉が、見事な回答を与えてくれる。バズ・ラーマン映画における独自のミックス感覚は、まさしくヒップホップの影響から培われたということが、本作におけるヒップホップへの愛として表現されている。「僕はこれまでの人生でもずっとコラージュ・アーティストだったんだ。ブロンクスで生まれたものが、僕に作品の作り方を教えてくれたんだよ。こういう部分とこういう部分を併せて、新しいものを作り上げる。大人になってからのクリエイティブな人生全てに大きな影響を与えてもらったという気がしている」。「ゲット・ダウンを知らないのか?」――シャオリンは、エゼキエルたち主人公にそう問いかけ、その音楽が鳴らされるクラブへと彼らを連れていく。劇中では、本作で本格的にデビューを飾る新人、マモウドウ・アシーが演じる若きグランドマスター・フラッシュが登場し、彼がどのようにして“ゲット・ダウン”を見つけたのかが、驚くほど鮮明にストーリーの中で描かれていく。“ゲット・ダウン”とは、楽曲の中で歌やメロディが鳴らされるメインのパートではない、ドラムとベースといったビートの部分のみ鳴らされ、リズムが強調されるわずかなパートのことを意味し、のちに“ブレイクダンス”、“ブレイクビーツ”などといった言葉で広まることになる“ブレイク”と同義でもある。DJは、あるレコードの中で“ゲット・ダウン”を見つけると、同じもう一枚のレコードを用意し、2つのターンテーブルとミキサーがあれば、ブレイクの部分を永遠にまで引き延ばすことができる。こうしてヒップホップのビートは“発明”され、MCはそこにライムを乗せ、ダンサーたちは新たなダンスを披露するようになり、ヒップホップというアートフォームが生まれたのだ。フラッシュ:ブロンクスでは、この時期は俺たちにとっての実験的な期間だったんだ。いろいろなことを試すためのね。さっきバズが言ったように、当時はディスコが盛り上がっていた頃だ。最初、俺たちはポップやロック、ジャズ、ブルース、ファンク、ディスコ、R&B、オルタナティブ、そしてカリビアンのドラムなど、いろいろな音楽における“ブレイク”を、それまでこういうものを聞いたことがないかたちで観客に対して試すことができたんだ。バズ:劇中で、若いときのフラッシュがこの主人公たちに向かって「これは魔法の力だ。でもただ渡すわけにはいかない」と言う。そうして神話を語るんだ。まるでカンフーのようなものさ。フラッシュがやっていたことは、ほかの人たちが音楽を作り出すのとは全く違うものだ。誰も考えつかなかったし、コラージュなどという言葉もなかった。彼は同じレコードを2枚使ってビートを繋げなければならなかったんだ。彼は片方のレコードを逆回転させて戻し、手で押さえておいてもう片方に繋げ、この感動的なフレーズを継続させていた。まるで循環呼吸のようなものさ。ネルソン:フラッシュがバズに自分の秘密について話していたときのビデオを僕は持っているんだ。いまもどこかにあるよ。そのときの会話が作品の中にそのまま入っている。だからそのセリフは作り上げられたものではない。過去と現在を生きている彼の言葉さ。ほぼ同年齢のフラッシュとネルソン。当時のことを語りだすと、自然と音楽談義に花が咲いていく。本作の劇中で使用される様々な楽曲の数々――それは77年当時を象徴する楽曲はもちろん、新旧交えた様々な楽曲が使用され耳を楽しませてくれるが、これらの選曲はネルソンが行っている。止まらない音楽談義の中で、日本人である取材陣を意識してか、「YMO」の名前まで飛び出した。ネルソン:その夏のことが忘れられないよ。僕はニューヨークのブルックリンにいたんだけど、突然道の向こう側から大きなサウンドシステムの音がしたんだ。僕はちょうど寝ようとしていたところだったんだけど、向かいに住む男が「チッチチチッチチ…」と音を出し始めて、それが一晩中続いた。そして僕たちは「ヨーロッパ特急」(※ドイツのテクノグループ「クラフトワーク」による77年リリースのアルバム。のちにブロンクスのDJであるアフリカ・バンバータの「プラネット・ロック」にてサンプリングされた)を聞くようになった。僕はイースト・ニューヨークのフッド(黒人街)に住んでいたのに、そこにいる奴らはドイツのコンピューター化された音楽をかけていたんだ。バズ:日本のバンドもあったよね。ネルソン:「イエロー・マジック・オーケストラ」だよ!フラッシュ:彼らのレコード手に入れたのを覚えてるよ。ダラス・ダンス・レコードのニックから電話をもらった。日本のレコードを手に入れたよ、と。「すぐ行く!」と言って、俺は電車に乗って行った。それで黄色いシースルーのレコード(※「YMO」のファーストアルバム「Solid State Survivor」のこと)を手に入れたんだ!ネルソン:ああ、あの黄色いやつだ!フラッシュ:それをブロンクスでかけたよ。ネルソン、お前が言ってるブロンクスでテクノをかけたやつっていうのは、きっと俺のことだ(笑)。こういう話をして何時間も笑っていられね。ブルックリンで1枚、マンハッタンで1枚っていう感じで、俺たちがレコード屋を回って集める楽しさを味わっていたことを知って欲しい。ブレイクがあると思って買ったのに無くて「くそっ!」と叫ぶんだ。それで、出来の悪いレコードを良いレコードの間に入れていたよ(笑)。ネルソン:それ、ドラマに入れるの忘れてたな!フラッシュ:みんなが俺のレコードをこっそり見て、真似をして買おうとするんだけど、間違ったものを買ってしまうんだよ。そういうことやってDJは楽しんでいたんだ。ほかの奴らより秀でるためにね。―劇中の「CAN」の「Vitamin C」が印象的でした。バズ:そう。日本人のリードボーカル(※ダモ鈴木のこと)だよね。ドイツのバンドで、音楽がイケテる(笑)。フラッシュが「CAN」のブレイクを使っていたんだよ。フラッシュは(ブレイクの)変な部分にしか興味がない。彼が興味あるのは「ブン、チッ、チャッチャ、ブン(ビートを口で真似して)」だけ。フラッシュ:(「Vitamin C」の歌い出しを口ずさんで)「ヘイ、ユー!」、でもほかの部分はくだらないじゃないか(笑)。バズ:そう、とても過激だ。この作品では、古い音楽も新しい音楽も使っているよ。神がかり的なディスコのスタイルも取り入れている。参加してくれたナイル・ロジャース(※音楽プロデューサー。ドナ・サマーなどの、数々のディスコヒッツを手掛ける。近年では「DAFT PUNK」の「Get Lucky」に参加し、レジェンドとしての風格を見せた)は、ヒップホップにとってのフラッシュのような存在だ。それに、ぼくたちは昔の曲から新しい曲を作ったよ。すでにある曲と他の曲を取り入れて、全く別のものを作る。それがヒップホップというものだからね。ネルソンがスピーカーから大音量で鳴らされる「クラフトワーク」に衝撃を受けたと話す中で、劇中でも描かれるニューヨークの大停電についても話が及んだ。「あんな音を出せる機材は、その2年前にはなかったんだよ。ブルックリンでそんな大きな音を夜中にかける人はいなかった。つまり、停電の波及効果なんだ。ニューヨーク中の機材があちこちに散らばったんだよ」。1977年の7月、雷による大々的な停電がニューヨークを襲い、街は一夜にして混沌に陥った。一晩で1,000件を超える放火や盗難が相次ぎ、多大なる経済的損失があった報じられている。しかしながら、それはニューヨークの闇の時代を象徴する事件であると同時に、ヒップホップにとっては必ずしも悪いことではなかったことは、正面切って明言しづらいことではあるが、事実として否定できないところである。劇中においてこの停電のことが描かれ、主人公たちはこの停電のおかげで、ターンテーブルをはじめとする機材を手に入れることになる。当時のことについて、今回のインタビューに応じてくれたもうひとりのキャスト、本作でシャオリン・ファンタスティックを演じたシャメイク・ムーアがフラッシュに尋ねると、なんとも苦笑いを浮かべながらフラッシュは答えた。シャメイク:ぼくはあの停電(1977年7月13日に起こった)のことを知らなかったんだ。劇中では、停電が起こったとき、みんなターンテーブルとかを持ち出してるけど…あれは本当に起こったこと?フラッシュ:そうだな…俺は…。バズ:フラッシュ、まだ時効ではないらしいよ(笑)。フラッシュ:(笑)停電が起こったとき、俺の隣人が、「フラッシュ、スピーカーたくさん必要だろ?」と言ったんだ。「そうだね。多分ね。僕が持ってるのはゴミだからな」と答えた。そしたら彼らが俺に(スピーカーを)持ってきた。僕は「どこから持ってきたんだ?」と聞いたが、「そんなことはどうでもいい。欲しいか?」「う、うん、欲しい」(笑)と。決して良いこととは言えないけどね、(小声で)まあ助かったんだよ。<後編へ続く>協力:Netflix(text:cinemacafe.net)
2016年09月10日可愛いだけじゃない、セクシーなだけじゃない、アクロバティックなだけじゃない──なんともクレイジーなヒロイン、“悪カワ”という新しいジャンルを作り上げた『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン。演じるのは、マーゴット・ロビー。少し前に公開した映画『ターザン:REBORN』のジェーン役と同一人物とは思えないほどのギャップを披露している。キャラクターはもちろん、衣装もメイクも奇抜すぎだが「自分とは思えなかった」ことは、役を演じるうえで「パーフェクト」だと説明する。「ハーレイ・クインの衣装を着てメイクをしてもらって(鏡のなかの自分を見て)思ったのは、ぜんぜん私じゃない!ということね(笑)。それは役者としてとても良いことなの。キャラクターと自分に少しでも似ている部分があると、ふとしたときに自分自身のリアクションに立ち戻ってしまうことがある。今回のハーレイ・クインは自分と全然違うからこそ演じやすかったし、楽しかった」。「楽しかった」という言葉のなかには解放感、爽快感も含まれている。有名女優として活躍するからこそ溜まっていくフラストレーション、それがハーレイ・クインを表現する原動力の一部になっているのだ。「仕事とプライベートを分けられたらいいけれど、女優である以上、発する言葉から外出するときの格好までプライベートの行動にも気を遣わなくてはならなくて…。だからハーレイ・クインのように周りに何も気を遣わなくていいキャラクターを演じるのは、とても爽快だったのよ!」と興奮気味に語るが、その爽快感ある演技のためには6か月間のハードなトレーニングが必要だった。「肉体面では撮影の6か月前から準備を始めたの。毎日パーソナルトレーニングをこなし、週3回は体操と柔術を、一日置きに拳銃の練習もしたわ。ただ、当時は別の映画の撮影をしていたこともあって、トレーニングをこなすのはかなり大変だった。いよいよ撮影が近づいてくると、加えてつり下がるアクションや水中に潜るシーンのために息を止める訓練もした。さらにフィジカルトレーニングに加えて、撮影の6週間前にはデヴィッド・エアー監督によるメンタルトレーニングもあって。エアー監督は独特な方法で私たち俳優を精神的に追い込んでいくの。それぞれが持っているトラウマな出来事や恐いと思っていることを事前に聞き出して、ここぞというときにその話を持ち出して恐怖を煽ってくる。なかなか強烈な経験ではあるけれど、素晴らしい演技に繋がったわ(笑)」。見た目が強烈なキャラクターは“外見”に目を奪われてしまいがちだが、たしかにハーレイ・クインをはじめどの悪党も“中身”にも惹かれる。特にハーレイ・クインは、真面目な精神科医からジョーカーと出会いクレイジーな女になるまで、そして何があってもジョーカーを愛し続ける女へ──。実は変化に富んだキャラクターだ。「そうなの!ハーレイ・クインは誰も予測ができないような言動のあるキャラクターで、それが面白さのひとつだけれど、そもそも彼女は精神科医だったというバックグラウンドがある。だから予測不可能に見えたとしても、実は戦略的だったりする。だって、精神的な病について、人の性質や癖、犯罪者の心理を理解しているわけだから、たとえジョーカーに変えられたとしてもどこか計算しているんじゃないかって思うの。どうやって人を操るのかを考えているキャラクターなのよ」。そんなふうに準備と撮影あわせて約1年間、身も心もハーレイ・クインとして生きたマーゴット・ロビー。撮影を終えた後はどんな気持ちになったのだろう──。「1年間ずっとエクササイズ漬けだったこともあって、あまりにもつらくって、撮影を終えた後は『もうエクササイズはしたくないわ!』と自由な生活を送っているわ。ふだんは食事制限していないのよ!でも、元フィギュアスケート選手のトーニャ・ハーディングを演じることが決まったから、オリンピックレベルの身体作りのために、そろそろエクササイズを始めないと…(苦笑)。そういった準備は大変だけれど、どんなに大変であっても女優をやめられないのは、やっぱり演じることが楽しいから。心から楽しいと思えるからね。いま、出演作品やプロデュース作品を含めて約8本の作品に関わっていて休みはないけれどとても楽しいし、寝る前に大好きな『ハリー・ポッター』の小説を読むことで仕事脳をリセットしているの。もちろん、ハーレイ・クインを演じてDCコミックスにもハマって、コミックも愛読書よ!」(text:Rie Shintani/photo:Michimaro Takeuchi)
2016年09月09日Women Willサポーター企業であるモーハウスが展開する子連れママのための授乳服。その魅力は歩きながらでも授乳ができること。ランチ、お買い物、公園など…お出かけしても、いつでもどこでも授乳ができます。まさに子連れママの悩みがダイレクトに解決されたアイテム。そんな授乳服を扱うモーハウスの社員は本社・ショップスタッフを含め全員が女性。赤ちゃん連れでも安心して働ける環境があるから女性が多いのです。今回は、モーハウスの土田さんにお話を伺いました。モーハウス青山店ショップスタッフさんの勤務風景「Women Willレポート」バックナンバー第1回:働くママだけじゃない。Google が目指すのは、誰もがHappy に働ける社会第2回:「子連れ出勤」がもたらすかけがえのない“体験”とはWomenWillサポーター企業「ソウ・エクスペリエンス株式会社」第3回:柔軟な発想力は柔軟な働きかたから生まれる WomanWillサポーター企業「株式会社スペースタイム」モーハウスの授乳服の魅力とは?モーハウスは授乳服をはじめ、ブラジャーやインナーなどのアイテムも取り扱っています。同社のアイテムを組み合わせて使用することで、赤ちゃんが1秒でおっぱいにたどり着けるというから驚きです。「私が今着ている服は授乳服なんです。普通のお洋服に見えますけど布が二重に重なっています」(土田さん)そう言って布をめくる土田さん…。一瞬戸惑いますが、全く肌が見えることはありません。これがモーハウスの授乳服の秘密で、布の重なりや形の設計により“胸を見せずに授乳ができる”ようになっているのです。「布をたっぷり使って国内生産にこだわっていますし、もちろん洗濯機で洗えます。授乳服の中にはケープが必要になるものもあるそうですが、弊社の授乳服はケープはいりません。ケープの中には二酸化炭素が溜まってしまい、赤ちゃんにとっては不快なんです。ケープ内の二酸化炭素濃度の計測など、様々な機関と一緒に研究し、ママにも赤ちゃんにも快適なアイテムを開発しています」(土田さん)授乳服は身につける授乳室、“ウェアラブル授乳室”という感じ。普段、デパートやショッピングセンターで授乳室を探していたママも、授乳服を着れば歩きながらでもその場ですぐ授乳できるようになります。肌が見えないので周りに気を遣う必要も、いっしょに外出したパパや友人を待たせることもありません。授乳がどこでも気軽にできる……小さなお子様を持つママがそれまで感じていた様々なストレスから解放される糸口になるはず。「モーハウスは授乳“服”の専門店ではあるのですが、自分たちではあんまりアパレルの会社だと思っていないんです。『授乳中は家に閉じこもっていよう』という女性の気持ちやライフスタイルを変えたい。ライフスタイルを提案する会社だと思っています」(土田さん)ママの、ママによる、ママのための会社そんなモーハウスは会社自体がママのアイデアから生まれています。代表の光畑さんが子どもを連れてお出かけしているときに体験したある出来事がきっかけだったそうです。「代表の光畑がつくばから中央線沿線のお友達の家へ電車で向かっているとき、当時1ヶ月だった次女が車内で泣きだしたそうです。仕方なく胸をはだけて授乳をしたのですが、とても恥ずかしかった……ただ、それは幼い子を持つママであれば誰にでもあること。『こういうのが気になってママたちが出かけられなくなってしまうのでは』と気づいたのが弊社のスタートです」(土田さん)女性専用車両や授乳室が登場するなど“社会が変わる”のを待つのではなく、自分ができることは何か?そう考え、当時日本では珍しかった授乳服の製作を始めました。当時の光畑さんは3歳と1ヶ月、2人の娘を育てながら、子どもを連れて代表として会社を引っ張っていたそうです。授乳をしながら仕事をして、周りのママ友にも声をかけて、みんなで協力して……創業から19年、当初から子連れ出勤は当たり前。普通の風景だそうです。本社オフィスにある子どもスペース。お昼寝したり、時々は遊んだり「モーハウスは最初からママたちが作った会社。だから自然にママが働きやすい環境が生まれて現在でも続いているんです。“子どもがハイハイなどで動き回れるように、オフィスは土足禁止”と、会社としての大きなルールはそれだけ。あとは子連れ出勤を続けるうちに社員から上がってきた小さな問題を解決するために少しずつルールを作り、日々改善を行っています」(土田さん)子連れママが勤務する会社とは?「小さな子どものいる女性が短時間で働く」、こう聞けばパートタイマーのイメージが浮かびますが、、モーハウスでは新しく“短時間正社員”などオリジナルの制度を設け、ママたちが働きやすい職場を作り上げています。「子連れだからといってなにも特別なことはありません。モーハウスにとって、子どもと働くことは“当たり前”なんです」(土田さん)授乳しながら働く……というと想像しにくいかもしれません。でも、家で育児をしながら家事をこなすのと同じで、育児をしながら仕事をする姿を思い描いてください。預けていた子どもが熱を出して急いで迎えに行かなければならない……働くママによくあるこうした悩みもモーハウスさんではきちんと対処します。ほかのスタッフに引き継ぐ、自宅での作業に切り替えるなど柔軟に対処することで、仕事をとめないようさまざまな工夫、細かな調整をしているそうです。「“子どもがいるから働けない、でも働きたい”といった思いを持つママは仕事に対する意識が高いかたが多いんです」(土田さん)時間にも立場にも制限があるからこそ、やりたいことを思いっきりやろうという想いを持てるのかもしれませんね。本社オフィスにある身長記録ボード。みんな少しずつ大きくなり、モーハウスを卒業していきました「仕事の引き継ぎ、人の入れ替わりの調整は正直言って大変です。子どもが成長していくとママの環境も変わっていくので、会社も対応していかないといけません。例えば、運動会の時期はみんな休みをとりたいので本当に大変です。でも、モーハウスが扱っている授乳服は『子育て中にしかできないことを思いっきり楽しんで欲しい』という想いを込めています。子どもがいるから仕事を諦めないと……社員にもそう思って欲しくないのでなんとか調整します」(土田さん)子育て中のママさんへモーハウスのモットーは“授乳服があれば 子育てはもっと楽しめる”。自分が自分らしくあるために……授乳服を着て自分らしくママを楽しんでもらいたい。「運動会だって、子どものために諦めることが多ければ面倒なイベントに思えてしまいますが、授乳服で『諦めること』をひとつでも減らせれば、『ママだからこそ楽しめるイベント』だと考えられると思うんです。授乳中だから家にこもってなきゃ、お母さんだからこういうことしなきゃ……そうではなく、子どもがいるからこそ、ママを楽しんじゃいましょう!」(土田さん)モーハウス青山店では子どもが素足で歩き回っていました。なんともいえない表情(笑)ライター所感:実はWomen Willレポート第2回のソウ・エクスペリエンスも、モーハウスを参考に子連れ出勤を実施したそうです。モーハウスでは子どもがいるのが自然で、特別なルールを設けずとも当たり前のように子どもと一緒に働く。ママだからこそ生まれた授乳服というアイテムですが、ママだからこそ「子どもがいる自然な仕事風景」を生み出すこともできたのかもしれませんね。有限会社モーハウス「Women Willレポート」バックナンバー第1回:働くママだけじゃない。Google が目指すのは、誰もがHappy に働ける社会第2回:「子連れ出勤」がもたらすかけがえのない“体験”とはWomenWillサポーター企業「ソウ・エクスペリエンス株式会社」第3回:柔軟な発想力は柔軟な働きかたから生まれる WomanWillサポーター企業「株式会社スペースタイム」ライター:山口聖子
2016年09月08日ウィル・スミスと言えば『インデペンデンス・デイ』や『メン・イン・ブラック』をはじめ世界を救うヒーローを演じてきた名俳優。そんなヒーローの似合う男がDCコミックのスーパーヴィラン(超悪役)ばかりを集めた『スーサイド・スクワッド』で、狙撃の名手にしてクールな殺し屋・デッドショットを演じている。正義感の塊みたいなウィル・スミスが悪党役!というだけでも心躍るが、本人にとっても嬉しいオファーとなった。「実は、私自身はあまりコミックを読んで育ってこなかったこともあって、コミックの世界=マイナー感があったんだ。でも、スーパーヒーローというジャンルの大ファンではあるから(ヴィランでありヒーローでもある)デッドショットのオファーはとても嬉しかった。この役を演じることができて本当に幸せだよ」。ある日、世界崩壊の危機が訪れ、悪党には悪党をという理由で政府は投獄中の悪党たちを集めてチームを結成。それがデッドショットを含む“スーサイド・スクワッド”だが、そもそも悪党。正義感ナシ、やる気もナシ──彼らがどうやって悪と戦うのか、世界を救うのかが面白い。ウィル・スミスがデッドショット役でアンサンブル・キャストを引っぱっていく。そのなかでひときわ異彩を放っているヒロインが“カタナ”役の福原かれん。ウィル・スミスとの共演は当然「大きなプレッシャーがあった」と語る。「多くのDCコミックファンが期待している映画であることも当然プレッシャーでしたが、撮影現場で緊張したのは、ウィルさんをはじめとする凄い俳優たちの演技力に、果たして自分はついていけるのだろうか…という不安からくる緊張です。でも、リハーサルを通して徐々に仲間に入ることができて緊張はほどけていきましたし、ウィルさんは本当に優しい!私が現場でどうしていいのか分からずオロオロしていると『かれん、こっちにおいで!一緒にご飯を食べよう、一緒に写真を撮ろう!』と誘ってくれる。本当に素晴らしい経験をさせてもらいました。キャストのみんなからは『こんな素晴らしい経験をしてしまったら、これからは下り坂だね(笑)』なんて冗談を言い合えるほど、仲良くさせてもらいました」。ロサンゼルス生まれでアメリカ国籍ではあるが、日本人俳優がハリウッド映画で活躍する姿は嬉しくも誇らしい。彼女にとって『スーサイド・スクワッド』は映画デビュー作、ウィル・スミスは「初めての映画なのに、かれんは自信に満ちあふれていて驚かされた」と言う。「私がかれんの立場だったら、これだけの俳優が揃っていたら、撮影現場は脅威に感じるだろうね。事実、いまから20年以上前になるけれど、私の初めての映画の現場はストッカード・チャニングとドナルド・サザーランドと共演した『私に近い6人の他人』。自信なんてまったくなかったし、現場は恐ろしかったよ。ちゃんと演技ができるか心配で…心配し過ぎて気持ち悪くなって、家に帰ると具合が悪くなったり(苦笑)。それに比べて、かれんは本当に凄い」と彼女を賞賛し、自分を謙遜するところがウィル・スミスの人としての素晴らしさだ。映画デビュー後まもなくドル箱スターとなり、いまも第一線で活躍、やはり大スター。そんな世界の大スターですら驚く世界感が『スーサイド・スクワッド』にはあると言う。ひとつは、『エンド・オブ・ウォッチ』『サボタージュ』『フューリー』といった作品を監督してきたデヴィッド・エアーがメガホンを取っていることだ。「コミックの世界に彼がどういうビジョンを持ち込むのか、とても興味深かった」とウィル・スミスの興味も膨らんだ。たとえば、キャラクターそれぞれのコスチューム──。「ジョーカーにしても、この『スーサイド・スクワッド』のジョーカーはロックスター風なんだ!しかもブラックミュージックをベースにしたキャラクターになっていて、ローマ法王の指輪のようなものを着けていたりする。ほかのキャラクターに関しても、ギャングのような、軍人のような、ストリートのような(決してヒーロー風のコスチュームではない)ファッションをDCコミックのなかに持ち込んでいる。要は、現実の世界にあるような衣装と言えるね。そこに新しいものは一切なくて、擦れていたり古くて使い込まれていたり…デッドショットの銃にしても、ものすごく使い込んでいる感がある。そういう演出、世界感はとても面白いと思った」。福原さんも続ける──。「カタナが着けているマスクにも刀で切られて後が残っていて、もちろん私の顔にも傷(のメイク)があります。カタナのコスチュームに関しては、途中で大きく変更がありました。最初は、首から足先まで黒いスキンタイトのつなぎのようなものでしたが、胸もとのさらしや暴走族のジャケットなど、日本独特の文化を感じさせるアイテムを取り入れた衣装になっています」。カタナだけでなく、ハーレイ・クイン、アマンダ・ウォラー、エンチャントレス。女性キャラクターがものすごく強烈であることもこの映画の魅力のひとつ。女性がDCコミックに触れるきっかけにもなるだろう。また、ヒロインが多いだけでなくさまざまな国籍の俳優たちが揃っている、ワールドワイドであることも魅力的だとウィル・スミスは説明する。「ジョエル・キナマンはスウェーデン出身だし、アドウェール・アキノエ=アグバエはロンドン出身のナイジェリア人、マーゴット・ロビーはオーストラリア人、僕はアメリカ人で、かれんは日本人…レインボーのようなキャスティングなんだ。そして、俳優も彼らが演じるキャラクターもそれぞれ確立している存在であるのに、ひとつの作品として素晴らしくまとまっている。本当に凄いこと。それもデヴィッド・エアー監督の凄さだよ!」。これまでの常識をとことん崩してくれるはちゃめちゃな映画のその“凄さ”、必見!(text:Rie Shintani/photo:Michimaro Takeuchi)
2016年09月07日時代劇として異例のヒットを記録したコメディ映画『超高速!参勤交代』の続編、その名も『超高速!参勤交代 リターンズ』が完成。本作で晴れて夫婦となった“殿”内藤政醇とお咲に再びピンチが襲い掛かる。演じるのはもちろん、佐々木蔵之介と深田恭子だ。前作で通常8日間かかる行程を「半分の日数で参勤せよ」とムチャぶりされた磐城国の湯長谷藩の藩主・内藤政醇は、仲間らと知恵を振りしぼり、なんとか江戸にたどり着いた。めでたし、めでたし…と思いきや、今度は湯長谷で一揆が勃発!事態収拾のために、わずか2日間(つまり前回のさらに倍速)で故郷を目指すハメに。参勤(行き)より怖い交代(帰り)の旅路。映画の冒頭で祝言を挙げる政醇とお咲は、早速“夫婦愛”を試される。「いろんなことが起こり過ぎて(笑)弱っているダンナさんを『大丈夫だから』とそばで励ましてくれる奥さんの存在は本当に心強いですよ。お咲はもともと芯が強い女性で、政醇もそこに惚れこんだ。女性の強さが男の背中を押してくれるんです。しかも(演じるのが)深田恭子ですよ!本当にね、現場で美しい姫になった深田さんを目の前にすると、『もう、野郎どもと走らず、このまま終わってほしい』と思いました(笑)」(佐々木さん)「前作でケガをしたお咲を、殿が助けてくれるシーンは、いま見ても大好きなんですよ。それにお咲には、殿に対して『色のない世界から救い出してくれた』という思いもあるので、今回はお咲がいかに弱っている殿を支えられるか、というテーマがありました。ただ、映画はあくまで“帰り道”で前作からさほど時間が経っていないので、急にキャラクターを変えるのも変かなと。そのあたりは本木(克英)監督とも相談しました」(深田さん)今回、念願だったご当地・いわき市でのロケが実現。佐々木さんと深田さんは、地元のエキストラ総勢150人とともに同市の無形民俗文化財である「じゃんがら念仏踊り」を披露している。「僕らを殿と姫として『おかえり』という雰囲気で迎え入れてくださり、とても力をもらいました。いわきの皆さんには、前作をとても応援していただいたし、そのおかげで続編が作れるわけですから、僕らも恩返しをしなくちゃいけないですよ」(佐々木さん)知恵と支え合いを武器に、幕府からの無理難題を乗り越える政醇らの奮闘が胸を打つ本シリーズ。俳優として、高いハードルに向き合う心構えを尋ねると佐々木さんは「しんどさを笑いに昇華できるかが重要ですね。ときには“負ける”ときもありますが、やれることはやって、ちゃんと負けることができれば」。深田さんは「たとえ難しい役どころも、私を信じてくださる方、待っていてくださる皆さんの存在が励みになります」と話してくれた。(photo / text:Ryo Uchida)■関連作品:超高速!参勤交代リターンズ 2016年公開(C) 2016「超高速!参勤交代 リターンズ」製作委員会
2016年09月06日7月の第4日曜日「親子の日」は約6000組もの親子写真を撮影してきた写真家のブルース・オズボーンさんが提唱する「親と子の関係を見つめ直す日」です。活動開始から14年目を迎える今年は、親子の日普及推進委員会のもと「第10 回 親子大賞 授賞式」と「第 14 回 親子の日スーパーフォトセッション」を開催。今回はイベントのレポートと「親子の日」発起人であるブルース・オズボーンさん、佳子さん夫妻からのメッセージをお届けいたします。第10回親子大賞授賞式7月23日(土)、新宿にあるオリンパスプラザ東京で親子大賞の授賞式が行われました。実は「親子大賞」自体は10年前から開催されているものの、授賞式は今年が初。授賞式はいきなり2016年の親子大賞を受賞した親子の発表から始まりました。今年一番ホットだった親子は誰なのか…!?まさかのウルトラセブンとウルトラマンゼロ親子。会場では両者に受賞の感想を聞いた映像が流されました。「受賞の感想は?」「ジュワッ」「印象深い親子エピソードは?」「ダァッ」※コメント部分は字幕つきでした。ほかにも親子にちなんだエッセイや写真のコンテストも開催、受賞者にはオズボーン夫妻から賞状と景品が手渡されました。受賞者のスピーチでは、「実は、まだこのこと親には言っていなくて…怒られるかも(笑)」、「子どもに『授賞式に一緒に行こうね』と言ったら『用事があるから無理』と断られました…」といった驚きのエピソードが飛び出し、会場の笑いを誘っていました。> 親子の日 エッセイコンテスト2016 入賞作品> 親子の日 写真コンテスト2016 入賞作品「どの作品にもいろいろな家族の想いが込められていて、選ぶのが大変だった…」と語ったオズボーン夫妻。授賞式は東京のみの開催ですが、写真の展示自体は地方の写真館など様々な場所で実施していますので、みなさんも是非お立ち寄りください!!会場に展示された写真コンテスト入賞作品イベントの最後には、親子大賞の特別賞としてサックスプレイヤーの平原まことさん・歌手の平原綾香さん親子が登壇。「親子が仲良くする秘訣は?」という質問に対し、平原綾香さんは「父の影響で私も中学1年生のときからずっとサックスを吹いていたので、父は親であると同時に師匠のような存在。尊敬していたので反抗する暇がありませんでした(笑)」とコメント。そんな娘に対してお父さんは「サックスを吹いているときはすごく素直に言うことを聞いてくれるんです。歌は敵いませんけど、サックスでは勝っています!」と、“音楽”という共通項を持つ親子らしい掛け合いが見られました。親であると同時に尊敬できる存在であるというのは、親子が円満な関係を保つ秘訣のひとつなのかもしれません。> 第10回親子大賞の詳細はこちらから第 14 回 親子の日スーパーフォトセッション翌7月24日(日)、親子の日当日には写真家でもあるブルース・オズボーンさんによる100組の親子を撮影するフォトセッション。写真スタジオでの撮影というので、少しかしこまった撮影風景を想像していたのですが、会場に入ってビックリ。スタッフさんが生茶パンダのパペット、マラカスなどを使って歌ったり踊ったり…小さい子どもでもなんなくリラックスできるような盛り上がりでした。実際にメオトークの山川編集長自ら撮影に参加(きちんと予約しました)。その様子を見ていると、いい大人同士気恥ずかしいのか、当初はこれだけ距離のあった親子が…ちょっと寄りましょう!とスタッフさんからぐいぐい来るリクエスト…しかし照れる山川親子。撮影するオズボーンさんまで出てきて…最後は照れながらも肩を組むほどに!!!!さすが親子写真のプロフェッショナル…!!たった数分の間に写真を通して親子の距離をぐんと縮めることに成功していました。物理的な距離だけでなく、心の距離も縮まったようです。(お母さんの腕がかたいですが、編集長との身長差でとまどったそうです)※ブルース・オズボーンさんが撮影した第 14 回 親子の日スーパーフォトセッションの写真は、こちらからご覧いただけます。(2016年8月30日現在は準備中)発起人が語る「親子の日」について最後に「親子の日」発起人のブルース・オズボーンさん、佳子さん夫妻に今年、そしてこれからの「親子の日」について語っていただきました。今年の「親子の日」を終えてみて今年も全国から様々な想いを持った親子が集まってきてくれました。遠方に住むお母さんを誘って撮影に参加してくれた娘さん、「久しぶりに親子写真を」と撮影会に参加した親子、海外出張前の記念として参加してくれた家族、病気の回復を願って参加してくれたかた。全国からサポートに駆けつけてくれた応援団も。みなさんのおかげで一日中にぎやかな「親子の日」の会場となりました。今年はとくに新聞、テレビ、ラジオ、Webなど様々なメディアで「親子の日」を取り上げていただき、たくさんの人たちに「親子の日」を知ってもらうことができてとても嬉しく思っています。これからの「親子の日」「親子」という単語は英語には存在しません。(編集部註:英語にはfamily=家族はありますが、親子はparent and child=親と子で分かれている)「親子」というのは日本の特別な言葉。この言葉のように「親」と「子」をひとつの単語につなげ命の連鎖の一体感を表す…そんな日本の文化を日本の“誇り”として海外に発信したいです。誰もが生まれて来たことに感謝できる社会になって欲しいというのが、「親子の日」に込めた願い。この願いを叶えるために、活動の場をもっと広げていきたいと考えています。記事を読んでいるみなさまへ年齢が進むにつれ、「親子」と言うとついつい「自分」と「自分の子ども」をイメージしてしまいます。でも、「自分」と「自分の親」もそうである意識を忘れないでほしいと思います。「親」のいない命はいませんから、「親子」は世界中の誰もが共有できるテーマ。世界が不安定で悲しいできごとも多い時代だからこそ、命の原点である「親子」という最も基本的なテーマについて考えることが大切です。みなさんもぜひ「親子の日」を親子の関係を見直す機会のひとつにしてください。「1+1は?」「にーっ」という掛け声にも代表されるように、最後が「い」の段で終わると口角が上がり自然と笑顔の写真を撮ることができます。親子の日の掛け声はもちろん「おやこのひー」。「親子の日」と言うだけで笑顔になれるのです。授賞式でもフォトセッションでも、会場にはそんな「親子の日」の笑顔がたくさん溢れていました。> 親子の日について詳しくはこちら:親子は自分の原点、「親子の日」を自分に自信を持つきっかけにして欲しい−−ブルース・オズボーンさん、佳子さん夫妻のインタビュー> 親子の日公式サイトライター:山口聖子
2016年09月05日「東方神起」のチャンミンが、煌びやかなステージの上で歌い、踊るアジアのトップスターの姿とは、ひと味もふた味も違った新たな魅力を魅せるファンタジー・ラブロマンス時代劇「夜を歩く士〈ソンビ〉」。俳優として、妻夫木聡主演の映画『黄金を抱いて翔べ』(’12)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した彼は、チョン・ウソン主演ドラマ「ATHENA-アテナ-」へのゲスト出演ほか、初主演ドラマ「パラダイス牧場」ではハマリ役のような御曹司、続く「Mimi」では抜群のルックスを持つ28歳の人気漫画家と初恋を経験する18歳の高校生を一人二役で演じるなど、説得力のある演技で、少しずつ、着実に実績を重ねてきた。そして、入隊前最後の作品となった本ドラマでは、朝鮮王朝の時代劇に初挑戦。口元にヒゲをたくわえ、韓服に身を包んだ姿を披露しながら、一見遊び人で、幼少期につらい過去を持ち、内なる闘志を胸に秘め、弓術に長ける…という萌えポイント満載の王の孫=“世孫”イ・ユンを熱演している。このキャラクターについて、チャンミンは、「イ・ユンは将来、朝鮮の王になる世孫です。王宮の中の権力争いを嫌い、また王である祖父との関係が悪く、王宮の外で放蕩三昧の生活を送っています。しかし、これは好きでそういう生活をしているというよりも、敵を油断させるために意図的に宮中での生活を避けているわけです。実に頭のいい、将来優れた王になれるキャラクターですね」と説明する。劇中では、遊び人として、軽妙で色気のある演技を魅せるチャンミン。男装して本売りをするヒロイン・ヤンソン(イ・ユビ)に、優しい笑顔で積極的にアプローチを仕掛けるお茶目な一面は注目しておきたいところだ。「僕と似ている点を探すなら、僕も若い友人と一緒に外で遊ぶのが好きですが、同時に、イ・ユンがカリスマ性を発揮して仕事をするように、僕も仕事に集中する両面性を持つ部分があります。そこが似ている部分として、あるいはイ・ユンに学びたい部分だといえると思います」とチャンミンは言う。確かにそのカリスマ性は、トップスターとしての彼の姿にも通じるものが。特に本作では、馬上からクールに弓を射るシーンの凛々しさも評判を呼んだ。「撮影が始まる前に乗馬練習をしたのですが、時間がなくて、あまりできませんでした。それで、馬に乗っている姿がぎこちないと、監督にも叱られました(笑)。撮影中にも、時間を見つけては乗馬の稽古を続けました。武術の練習も、時間を作ってアクション監督と一緒にアクションスクールに行き、一緒に練習に取り組みました」と、その裏側を明かす。「ユンは学問と同時に、武術にも長けた多芸多才なキャラクターです。カメラに不出来な姿が映し出される訳にはいかないと思って、自分なりに一生懸命にやりました。幸い、監督と撮影監督が素晴らしい映像をカメラで切り取っていただいて、感謝しています」と、謙遜しながらふり返っている。初めての時代劇には苦労が多かった様子だが、「この作品は真夏に撮影が行われたのですが、屋外のシーンの撮影の場合、分厚い衣装を着て、付け髭を付けて演技をしなければならないので、それが大変でした。汗だくになり、疲れも半端ではありません。そして、時代劇の台詞は、普段使わない言葉を使用するので、ぎこちなくなりがちですが、スタッフのみなさん、監督、先輩俳優のみなさんの助けもあり、無理なく無事に撮影を終えることができたと思います」と真摯にコメント。さらに、「世孫の衣装、王の衣装、それと同時に一般人に変装をするときの衣装まで、多くの衣装を着てみました。僕は個人的に、ユンのカリスマ性に満ちた姿がうかがえる、弓術場での狩りの服装が一番気に入っています」と語り、本人も弓のシーンはお気に入りとなっているようだ。そんな本作で主演を務めるのは、『王の男』「アラン使道伝」など、美しい容姿と圧倒的な演技で数多くの時代劇を大ヒットに導いてきたイ・ジュンギ。王朝を陰で支配する悪の吸血鬼クィ(イ・スヒョク)の陰謀によって吸血鬼となってしまった主人公ソンヨル(イ・ジュンギ)と、チャンミン演じるイ・ユンは、密かにクィを倒すことを画策する、いわば同じ宿命を背負った“同志”であり、ヤンソンをめぐる恋敵でもある。「イ・ジュンギさんは、まさに長兄としてリーダーシップを発揮しながら、ムードメーカーの役割も果たしていらっしゃいました。しかし、いったんカメラが回りはじめると、顔つきが一変し、役に入り込んで演技に没頭するところは、誰が見ても素晴らしい演技者の姿です。本当に俳優として学ぶ点が多いと思いました。また、ムードメーカーとして現場を盛り上げ、リードしていく姿にも、先輩であるイ・ジュンギさんに学ばなければと感じました」と、その姿勢にすっかり心酔した様子。一方、対立するクィを演じたイ・スヒョクについては、「そのイメージから、冷たくて暗くて言葉もあまりしゃべらない、静かで大人しい人だろうという先入観がありました」と、チャンミン。「しかし、実際に撮影現場を共にしてみると、意外に話もたくさんしますし、面白くてクールで男らしいんですよ。また、僕が悲惨な目に遭うシーンを撮らなければならないときは、僕のところにやってきて、どうすればより悲惨に見えるか、一緒に考えてくれました。積極的に僕の手助けをしてくれる同僚であり友人、学ぶことの多い同い年の俳優です。本当に一緒にいて楽しい、いい男だと思いました」と、劇中とは打って変わって仲を深めたことを明かす。撮影では「気に入った台詞や場面はとても多いのですが、なかでも記憶に残るものが2つあります」と言うチャンミン。「1つは、ヤンソンと2人で居酒屋に座り、済州島(耽羅)へと旅立つヤンソンを前に、独り言で自分の思いを吐露する場面です。自分の本心を隠して、ヤンソンにいたずらっぽく振る舞うシーンですね。あと1つは、それとは反対に、宮殿の中で世孫としてのカリスマ性あふれる姿が表現された場面です。弓道場で王に対して、『これが私が追っていた間者です』と告発するシーンですが、ユンの男らしさがよく表現されているかなと思いました。この2つの場面を選びたいですね」と語ってくれた。今後、兵役を経た2017年後半には「東方神起」としての活動再開も予想されているが、「また演技をする機会がありましたら、具体的な目標は何かというよりも、もっともっと演技がうまくなりたいですね」とチャンミン。「再び演技をする機会をいただけたら、自分の成長した姿、上手くなった姿をお見せしたいです。そして、尊敬する演技者の皆さんから学んだことを自分のものにして、さらに成長する演技者になる、これが僕の目標です」と、力強く思いを込める。最後に日本のファンへ、「僕がイ・ユン役を演じているドラマ『夜を歩く士』は、朝鮮時代にもしヴァンパイアがいたら、という想像から始まった物語です。宮廷の中で巻き起こる戦い、そして若い男女のロマンスなど、おもしろいストーリーに満ちたドラマですので、皆さんにたくさん愛していただけたらと思います」とメッセージを贈るチャンミン。謙虚で努力を惜しまず、さらなる成長を目指し続ける男は、やはり、人を惹きつけて離さない唯一無二のカリスマ性を放っている。「夜を歩く士〈ソンビ〉」DVD-SET1/Blu-ray SET1は発売中、DVD-SET2/Blu-ray SET2は9月2日(金)より発売。(text:cinemacafe.net)
2016年09月01日夫婦とはなんだろう。いろいろ考えてみますが、理想の夫婦像はなかなか見えてきません。実際に夫婦のお話を聞いてみれば、自分にとっての理想型が見つかるかもしれない。本インタビューではそんな身近な夫婦にお話を聞いていきます。最初に登場してくれたのは海外でバリバリ働き、現在は山梨で農家を営んでいる水上篤さん。簡単にものを買い与えるのではなく、まずは自分で作ってみることを子どもに教えていると語る、良い意味でこだわりのある子育てをする彼は奥様とはどんなふうに向き合っているのでしょうか。水上篤さん現在の仕事農業生産法人 株式会社hototo 代表取締役農業生産法人株式会社白州郷牧場取締役保健農園ホテル運営アドバイザー勤務曜日と帰宅時間特に決まっておらず、朝は8時~9時に出かけ、18時~19時に帰宅することが多い。子どもを保育園に送っていくこともある。家族構成妻、子供3人(男5歳、女2歳、女0歳)奥様の職業株式会社hototoの事務系の仕事を必要な時のみお手伝いするほか、個人的な活動を平日10時~15時のみ行っている。理屈じゃなく、一生一緒にいても大丈夫な気がした—結婚の決め手になったことは何でしたか?水上:普通、結婚するかしないかって迷うじゃないですか。でも、妻は、「結婚する?」「良いよ!」くらいの即断即決の人。そこがすごいと思いました。性格的には自分とは正反対の人間で、人前に出たがらないですし、空気や場の雰囲気が読めて周りの人のことも考えられる女性です。プロポーズまでは付き合い始めてから1ヶ月ぐらい。根拠はないけど、一生一緒にいても大丈夫だと思いました。収入や学歴を全く気にしないですし、僕が食いっぱぐれたらどうしようってことも考えないような人です。「農業をやってるんだから、食べられなくなったら畑だけやっていけば良いじゃん、ほかの仕事は辞めちゃえば良いじゃん」って感じなんです。–結婚前に人生観や仕事観について何か話をしていましたか?水上:そんなにきちんと話してはいないですけど、妻は、「森とか木が好きだから、そういうものに関わる仕事がしたい」とは言っていました。僕は、「お金お金ばかりじゃなく、“面白い”の多い生きかたができないかな?」という話はしていました。二人ともお金に依存していなくて、お金なんてなくても生きていけると思っているところは似てますね。買う前にまず自分で作ってみることを大事にしているそうです。もちろん水上さんも手伝います。結婚したら自分の時間がなくなると思っていたけど、してみたら楽しかった—奥様と結婚して良かったと思ったエピソードを教えてください。水上:目指しているところがほとんど同じだから、話題も同じなのが良いことです。妻が読んだ子育ての本と僕が読んだ人材育成の本を交換しても、同じことが書いてある。「そんなの面白いの~?」って言いながら交換するんですけど、読んでみたら「超面白かった!」ってなるんです。—では、奥様のどんなところが好きですか?水上:一言では表せません(笑)深い海のような存在です。–深い海とは??水上:「かわいい」とか「ワクワク」も言葉で説明できないじゃないですか。だから、どこかひとつのパーツを言い表そうと思っても難しいし、違和感があります(笑)—なるほど。ちなみに夫婦生活は、独身時代に想像していたものと同じでしたか?水上:もともと想像してませんでした(笑)あんまりあーだこーだと考えると大変だから、明日のことは明日考える。目の前に来たものを楽しもうと思ってるので、先のことはあまり考えてないです。結婚は、してもしなくてもどっちでも良いものだと思うんですが、夫婦として生きていくほうが人生は2倍3倍面白いと思います。自分と違う考えかたに出会えますから。言葉のコミュニケーションだけではなく、もっと同じ体験を—「色々細かく考えてない」水上さんが、夫婦生活を円満に保つために日々の生活の中で実践していることは何かありますか?水上:相互理解ですね。そのための一番簡単な方法は、「共同作業」です。世の中は、相互理解力が弱すぎる人が多いと思います。「あれは自分に合わない」とか、「この人は喋りにくい」とか、「だから嫌だ」って。基本が「自分に合わせてください」っていうスタンスじゃないですか。でも、自分に合う人やモノなんて世の中にないんですよ。違うものを相互に理解して楽しんでいく社会だから、「私にぴったり合う人がいるはず」ではなくて、「合わないから良い」んだと思います。コミュニケーションは口だけじゃ無理なので、一緒に体験しないとだめです。–お出かけするときは、どんなところに行っていますか?水上:妻が行きたいイベントに一緒に行ったり、逆に自分のイベントも見に来てもらったりしています。農業もやるし、同じものを見聞きしていますよ。仲良くいようなんて考えたことがない。お互いに思ったことははっきり言う。—水上さんから奥様に「こうしてほしい」と言うことはありますか?水上:ありますよ。「食事は手作りが良いよね」とか、「子供にジャンクフードは食べさせないでね」って言っているんですけど、妻自身がファーストフードに行くので、子供が「○ッピーセット、○ッピーセット」って言うんです。(笑)しょうがないですよね、そうなったら。そんなに怒ることでもないですし。日々やることが多すぎて、ストレスを感じている暇もないですしね。—いつまでも仲の良い夫婦でいるために、日々の生活スタイルや考えかたなど、結婚してから自ら変えたことは何かありますか?水上:なるほどね~。—なるほど?水上:無理してまで仲良くしていたいと思ってないんです。—こちらが「なるほど」です(笑)水上:「これを言ったらこの人と関係が崩れるであろう」という気持ちがそもそもないんですよ。「この人に嫌われたくない」とか、「この人に好かれたい」っていう想いがない。その人のためを思えば言うべきことは言うし、お互いにこれからも一緒にやっていかなきゃいけないので。だから、仲良くしようって努力していることはまずないです。たぶん、妻にもないと思います。そんなところに気は遣ってないです。—世の中では、惚れた弱みみたいな感じで、どちらかがどちらかに合わせてしまっている組み合わせって実は結婚前も結婚後も多い気がするんですが、お二人の根底にある信頼関係はすごいですね。水上:うーん。たとえば、「子供に嫌われたくないからこれを言わない」って考えることってないじゃないですか。叱るときはしっかり叱るし、その子自身を否定しているわけじゃないので、何か言ったからってお互いの信頼関係は絶対に崩れないっていう中で思っていることをきちんと言葉にすることは必要ですよね。「本当はこうしてほしかった」とか、自分の考えていることを普段から相手にきちんと言わないとズレます。言わないとわからないことはいっぱいあるし、「察してほしい」なんて無理だと思う。「ただいま~」「おっせえよ!」みたいな感じで、思ったことは思った時に言ったほうが良いですよ。自分の人生でもあるし奥さんの人生でもあるから、誰かが無理するっておかしいじゃないですか。合わせるって大変ですよね? どうせ合わないのに。2015年11月に三人目が生まれました。水上さんのご両親も一緒なので、家族は7人になったそうです。うまくいかない夫婦はコミュニケーション不足なんじゃないかな—仲が良さそうだから、これまでに離婚の危機なんてないですよね?水上:ないです。離婚なんて考えたことがない。離婚する・されると思っていたら毎日オドオドになっちゃうと思います。たとえば、「明日クビになるかも」ってオドオドしながら働いている従業員が良いパフォーマンスを出すことはない。仕事の中には査定で評価が上がったり下がったりする制度もありますけど、結婚でいったらそれが離婚なんじゃないかな。そんなこと気にしていたら疲れますよね。うまくいかない夫婦は、コミュニケーション不足なんだと思います。先ほどの話にも出ましたが、都心に住んでいると夫婦の共同作業がないから、一緒にご飯を食べているだけになりやすい。でも、それじゃ相手への理解は深まらないですよ。ホントは、一緒にキャンプに行ったり海に行ったり、一緒にジョギングしたり、マッサージしたり、小さな事でもいいので何かを一緒にやったほうが良いと思います。同じ体験をすることでコミュニケーションが深まるから、「同じことをやってみる」ことは大事です。家事だって、実際にやってみればわかります。世のお父さんたちはやらなすぎる。家事は楽だと思っている男性が多いと思いますけど、家事や子育ては、絶対に仕事より大変です。—水上さん自身がこれからも変わらずにいたいこと、奥様に変わらずにいてほしいことは何かありますか?水上:常に考えは変わるだろうから、変化していく日々を楽しみたいです。そのほうが良いですよね!「独身のときみたいに常に化粧をしていてほしい」って考えかたなんて理解できません。これまでも、今も、これからも、その時々の「今」に注目している—これからの夫婦生活についての希望・目標はありますか?水上:突然来年は海外に行くかもしれないし、沖縄に移住するかもしれない。どうなるかわからないですけど、僕も妻も、どうなっても人生を楽しむ自信はあります。あとは、子供に受けさせたい教育やサービスがないので、それを自分たちがつくらなきゃいけないと思っています。子供はどんどん大きくなりますから、時間も迫っているので「いつか」なんて考えていない。だから、未来にも過去にも注目していなくて、「今」に注目しています。今を楽しめなかったら10年後は楽しくないはず!ライター所感:実は水上さんと私は友人です。このインタビューのやり取りだけを見れば、水上さんを「あっけらかんとしていて、必要以上に人に気を遣わない、ダイナミックな人」だと感じるかもしれません。でも、彼は非常に面倒見が良く、人の気持ちに気づいて細かな配慮ができるタイプです。今回、このインタビューもふたつ返事で受けてくれました。ダイナミックに構えながらも関係が壊れない夫婦でいられるのは、水上さんご夫妻がお互いを信頼し本音で向き合っているからなのかもしれません。理想の夫婦像だけではなく、コミュニケーションってなんだろうってところも深く考えさせられる、良い機会になりました。ライター:藤宮 ありさ
2016年09月01日ミラ・ジョヴォヴィッチが主演する「バイオハザード」シリーズ最終章『バイオハザード:ファイナル』。12月23日(金・祝)の日本最速公開を前に、急ピッチで仕上げ作業が進むなか、シリーズ全作の製作に関わったポール・W・S・アンダーソン監督が取材に応じた。2002年の第1作公開以来、世界中で一大ムーブメントを巻き起こした映画『バイオハザード』シリーズ。その約15年にわたる歴史は、主演女優のミラと夫であるアンダーソン監督がクリエイティブな夫婦愛を貫いた長い歳月でもある。ハリウッドきっての“おしどり夫婦”である2人の関係性について、アンダーソン監督はこう語る。「疑いの余地なく、ミラは僕にとってのミューズだね。これまで彼女とは7本の映画を一緒に撮ってきたし、いまや自分が手がける脚本に登場する女性キャラクターは、どれも大なり小なりミラに影響を受けている。不思議だけど、必然なのかもしれないね。今回はミラの妊娠で、撮影が予定より9か月先延ばしになったけど、おかげで入念な準備ができたんだ」そんな2人を結びつけるのは、ほかならぬ映画への愛情だといい「例えば、自宅で一緒に過ごしていても、つい映画について熱く語り合ってしまうほど。プライベートでは映画のことを忘れた方がいいって言う人もいるけど、我が家ではありえないよ!仕事でも家庭でも、愛する人との時間が続いているというのは幸せなことだと思うね」としみじみ。出演の有無に関わらず、ミラはアンダーソン監督が手がける企画すべてに目を通すそうで、「ミラは思ったことをズケズケ言ってくれるから(笑)、僕としても助かっているよ。『これって、成立していないんじゃない?』なんて言われることもしょっちゅうだし、僕もしっかり意見に耳を傾けている」と全幅の信頼を寄せている。ついに最終章を迎える『バイオハザード:ファイナル』について、ミラ&アンダーソン監督が下した結論は、「ざらざらとしたリアリティを追及すること」だった。「今回は(ミラ演じる)アリスをよりエモーショナルな存在として描き、彼女の体験が観客に響くような作品にしたいと思ったからね。演出面でも、これまで以上に現実味を大切にしたから、仮想空間が舞台になることが多かった過去の『バイオハザード』シリーズと比べて、異質な雰囲気を味わってもらえるはずだよ。具体的にはグリーンバックでの撮影は極力控えて、屋外でのロケーションが増えた。その分、準備は大がかりだったけど、おかげでリアルな映像が撮れたよ」(アンダーソン監督)日本生まれのゲームを原作にした映画『バイオハザード』シリーズは、洋画不振の日本にあって、安定した興行成績を残し、何より多くのファンから熱い支持を集めている。『バイオハザード:ファイナル』は日本最速公開が実現し、有終の美を飾る舞台が整った形だ。「当然、映画のシリーズ全体を通してデザイン性、環境、クリーチャー、カメラアングルなどが、ゲームから強く影響されているのは間違いない。作品によっては、ゲームの設定からかけ離れることもあったけど、それでもゲームファンに『なるほど』と思ってもらえたと自負しているよ」とアンダーソン監督。自身も親日家を公言しており、「映画作家として日本文化に影響を受けた面が多々あるんだ。安藤忠雄をはじめとして、建築やグラフィックデザインの分野で日本は最高峰だと思うし、若い頃に見た『鉄男』(塚本晋也監督)といった日本のSF映画も大好きだよ。それにプロモーションで世界各地を旅するけど、いつも日本版のポスターこそ世界で一番クールだと感じるよ。どうしてほかの国もこういう風にデザインしなかったんだろうと思うくらい。本当に心から日本を愛しているよ」『バイオハザード:ファイナル』12月23日(金・祝)より全国にて公開。(text:Ryo Uchida)
2016年09月01日「調教」「復讐」――そんなキーワードで彩られる主人公。ひとりの女性として、中山美穂は彼女の行動や心理を「理解できない」と突き放すが、一方で女優・中山美穂はこの役にどうしようもなく惹きつけられ、出演を即決したという。WOWOWにて放送中の連続ドラマ「賢者の愛」。かつて親友に初恋の男性を奪われた女性が、その親友・百合(高岡早紀)と初恋の男性(田辺誠一)の間に生まれた息子・直巳(竜星涼)を、復讐のために自分好みの男に調教し、育て上げていくさまを描き出す。そこには妖艶で、深い闇を心の内に抱えた、誰も見たことのない中山美穂がいた――。原作は鋭い感性で数々のベストセラー小説を送り出してきた山田詠美。中山さん自身「20代の頃に、山田さんの本は結構、読んでいたし、憧れもあったので嬉しかった」とのこと。山田さんは、自身が生み出した「賢者の愛」のダークヒロイン・真由子を「中山美穂が演るのか!」と驚きをもって受け止めたという。確かに、最愛の人を奪った親友への憎しみを糧に、20年もの歳月を復讐のために費やす女性を演じる中山美穂というのは、なかなか想像できない。だが、中山さんは、こうした役を演じたいという思いは「以前からずっとあった」と明かす。「どうしても、これまで演じてきたのはいわゆる(典型的な)ヒロインというのが多かったので(苦笑)。ようやく、やらせてもらえるんだなという思いでした」。実際、これまで演じてきた役柄とは全く異なる真由子という役を演じたことで、女優として新たな境地が開けたという実感は?「正直、この役をやることで何か、これまでと変わった一面が出せるかもって思ってたんです。でも、実際に演じながら『あれ? あんまり変わっていないのかな…』と少しガッカリした部分もあり…(苦笑)。それを埋めるべく、どうしたらいいのか? と悩みながら演じていたところはあります。ただ、完成した作品を見て、自分で思っていた以上にちゃんとできていたんだなという実感はあります 」。繰り返しになるが、中山さん自身は20年にもわたる真由子の復讐の炎を「想像も理解もできない」という。親友でありながら、愛憎によって深く結びついた真由子と百合の関係性や、いわゆる女たちのマウンティング争いについても同様。「やっぱり理解できないですね(苦笑)。2人の関係に関しては、“友情”という言い方をしますけど、家族的でもあるなと感じてます。家族って、少しの齟齬で大きくずれちゃうことってあるじゃないですか。そういう関係性なんじゃないかなって」。下世話な言い方かもしれないが、真由子の直面する“女の戦い”を、10代の頃から時に同世代の女性と比べられながら芸能界を渡り歩いてきた“女優・中山美穂”とどうしても重ね合わせて見てしまう視聴者も多いのではないかと思うが…。「そうかもしれないですね(笑)。私自身は、特に何も気にしてないですが…。高岡早紀ちゃんが20代の真由子の登場シーンを見て『中山美穂だ!』と思ったと言ってましたが(笑)、同じように感じながら見る人もいるでしょうね。まあ、それはしょうがないかな(笑)」。「愛」「欲望」「復讐」と真由子を表す要素は複数あるが、中山さんが真由子を演じる上で一番軸となったのは?そんな問いに少し思案し「やはり、愛なんでしょうね…」と漏らす。「そもそも復讐を目的としつつも、どんどん心が動いていくというところに魅力を感じました。どうしようもないという思い。でも、いまさら引き下がれないという思いもあって…。そういう部分はすごく人間的だなと思います」。では、中山美穂にとっての愛とは?「うーん、なんでしょうね…?コミュニケーションというか、自分の一方的な思いだけではやはり成立しないものだなと思います。人を育てようとしたり、理解し、分かり合おうとする――そういう努力をできることが愛なのかな?無関心にならず、突き放さず…でも『想ってる!想ってる!』『好き!好き!』というだけじゃ愛とは言えないですよね。真由子と直巳の関係?まあ、これもひとつの愛ですかね…」。中山さんは真由子の心理が理解できないという点について、自身はそこまで長く復讐心を持続させることができないと語っている。実際、中山さんはネガティブな感情や憎しみが心にわいた時、どのようにしてそれを忘れたり、乗り越えたりするのだろうか?「時間は必要だと思いますけど、大変ですよね(苦笑)。ゆるすしかないかな」。「忘れる」のではなく相手を「ゆるす」?「うん、ゆるしに近いんだと思います。時間とゆるしですね。どんなに心を痛めても、結局、ゆるさなければ前には進めないんじゃないかと思います」。真由子は今後、中山さんが口にするような「ゆるし」の境地にたどり着くのか? それとも…? 改めてこれからの展開を踏まえて、見どころを聞いた。「“共感”とは言わないまでも、わかってもらえる空気感を感じられるんじゃないかと思います。人間の汚さ、醜さがふんだんに出てきますが、そこに人間らしさ、きれいごとじゃ済まない部分を感じていただければ。これから、真由子と百合の過去についてもどんどん明かされていきますし、最後まで…凄いです(笑)!」WOWOW土曜ドラマ「連続ドラマW 賢者の愛」は毎週土曜22時より放送中。9月9日(金)深夜0時より、1~3話を最終話直前に一挙放送。(text:Naoki Kurozu)
2016年08月31日働くママたちの悩み。それは、毎日帰宅後に作る晩ごはんのレシピ。仕事で疲れた身体でお迎えダッシュ!家に着くやいなや、お腹を空かせたこどものために「さぁやるぞ!」とエンジンをかけてキッチンへ直行。こんな時、パパッと手早く、彩り豊かなおいしいごはんが作れたら……。そんな願いを日々抱えつつ、キッチンに立つママたちにぴたりとハマるお鍋が、ホーロー鍋のパイオニア「ル・クルーゼ」から登場した進化系モデル「シグニチャー」シリーズです。そこで、このお鍋を使って帰宅後約20分で作れる「簡単、おいしい、見た目よし!」な愛情レシピを、代々木上原で「chioben(チオベン)」を営む人気料理人・山本千織さんが指南。働くママ必見の晩ごはんレシピを教えていただきました。大切なのは、「料理のストレス」から解放されること千織さんといえば、バラエティ豊かなおかずを軸に、彩り良し、センス良しなお弁当で編集者たちにも大人気。「chioben」を開業して以来、お弁当を1度食べてからハマってしまったというリピーターの口コミでまたたく間に評判となり、一昨年には満を持して著書を刊行。現在、昼夜問わずお弁当やパーティーケータリングで多忙な日々を送っています。「長年料理をしてきた身ゆえに最近特にそう思うのですが、キッチンではできるだけストレスフリーでいることが大切なんですよね。小さなお子さんを抱える働くママたちはただでさえ時間に追われている日々ですから、これ以上ストレスを蓄えたくない、キッチンではストレスからできる限り解放されたいと願っているはず」そんなママたちが抱えるキッチンでのお悩みは「思っている以上に簡単な方法で解決できる」と千織さんは言います。「たとえば、前の晩にパパッと簡単な下準備を仕込んでおく。特に眠っている間の<漬け込み>は時間の有効活用術としてテッパンです。今回ご提案するレシピは、前の晩、夕食の片付けついでにパパッと仕込んでおくだけで、翌日は帰宅後たった20分で、調理の手間やストレスもほとんどなく作れるおいしい煮込み料理。レシピの要となるのは、食材のおいしさを短時間でぐいぐい引き出してくれる鋳物ホーロー鍋『ル・クルーゼ』の進化系モデル “シグニチャーシリーズ” です」帰宅後たった20分で完成! 「鶏肉のスイートスパイス煮」2歳~3歳の小さなお子さんと大人たちが一緒に楽しめる、甘めのカレー風味の煮物。前の晩、夕食の片付けついでに、またはお子さんを寝かしつけたあとに、鶏肉の漬け込みまでを下準備。翌日、帰宅後はその漬け込みタレごと鍋にあけ、パパッとカットした野菜を加えて合計約20分煮るだけ。熱伝導性・蓄熱性が高い「ル・クルーゼ」鍋だからこそ、おいしく簡単に仕上がるレシピです。<材料>(2.5人分)※大人2人とお子さま1人でちょうどよい量です・鶏もも 2枚(460g)A.漬け込みダレ ・酒 1/2カップ ・プレーンヨーグルト 1/2カップ ※脂肪0タイプでもOK ・砂糖 大さじ2弱 ・カレー粉 大さじ1弱 ・ウスターソース 大さじ2 ※とんかつソースでもOK ・醤油 大さじ2 ・酢 大さじ1 ・おろしにんにく 大さじ1弱 ・生姜 一片(スライス)B. 季節の野菜・きゅうり 1~2本・茄子 2~3本・玉ねぎ 1/2個・ミニトマト 10個 <下準備>Aの漬けダレの材料を用意し、よく混ぜたうえでファスナー式の保存袋に入れ、ひとくち大にカットした鶏肉を5時間~ひと晩、冷蔵庫で漬け込む。<作り方>前夜に仕込んでおいた「漬けダレ」ごと鶏肉を鍋に入れて、中火にかける。蓋をして8~10分、鍋全体がぐつぐつするまで煮る。その間、野菜をひとくち大にカットする。(きゅうり、茄子は乱切り、玉ねぎはクシ切り)鍋が煮立ったら蓋を開け、野菜を投入。中火のままさらに約10分ほど煮る。途中、焦げないよう木べらなどで全体をまんべんなく混ぜながら、それぞれの野菜がしんなりする程度を目安に煮つめて完成。【千織さんの4つのTIPS】1. 煮込み方はお子さんの好みに合わせて野菜が苦手であれば、お肉を煮込むタイミングで一緒に野菜を投入。そのまま20分ぐつぐつ煮込めば、野菜とろとろのカレー風煮込みが完成します。2. 野菜のゴロゴロ感をもっと出したいときは?野菜を鍋に投入する前に油をひいたフライパンでサッと火を入れるひと手間を加えれば、野菜のゴロゴロ感がもっと引き立ちます。3. 余裕があれば、トマトは最後にトマトは煮過ぎると煮くずれし過ぎてしまう。甘みと酸味をほどよく引き出すためにも、トマトはできるだけ最後の仕上げ時(完成する3~4分前くらい)に投入するのがベストです。4. 一度で二度おいしい!前日、鶏肉を多めに漬け込んでおけば、スイートスパイス煮を作った翌日は、残しておいた鶏肉でカレー風味の唐揚げに。保存袋から取り出した鶏肉の水分を軽くとり、片栗粉をまぶして揚げるだけ。これもこどもたちに人気です。あの「ル・クルーゼ」が進化した! その魅力とは?千織さんのレシピがおいしく仕上がる秘訣は、新改良された「ル・クルーゼ」の進化系モデル「シグニチャー」シリーズだからこそ。「ル・クルーゼ」本来の魅力と併せて、注目すべきポイントをご紹介します。その1. 高い熱伝導性と蓄熱性「ル・クルーゼ」の魅力は、その高い熱伝導性と蓄熱性にあります。平日夜は特に、じっくり時間をかけて調理する余裕がないママにとって、短時間でも食材の甘みや旨みを最大限に引き出してくれる鍋はとにかく強い味方!その2. 「フタ」はさらに使いやすく改良さらに進化したドーム型のフタは「効率的な蒸気の循環」を叶える従来の機能はそのままに、重さやデザイン性などを新改良。人間工学に基づいた新デザインのツマミもよりふっくらと肉厚なフォルムに新改良され、掴みやすくなりました。その3. 旨みを引き出す「スチームポイント」最大の特徴とも言えるのが、フタの内側3カ所にある小さな突起「スチームポイント」。このスチームポイントが生み出すわずかな隙き間が効果的に蒸気を逃し、食材の雑味を外に逃しながら旨みをぐいぐい引き出します。その4. エナメルコーティングも進化汚れや臭いがつきにくくお手入れも簡単! 進化したエナメルコーティングは美しい色だけでなく耐久性も叶えます。「何度洗っても臭いが取れない」なんてストレスからも解放してくれます。今ならお得な「お鍋買い替えキャンペーン」実施中!千織さんも使い勝手の良さに驚いたという「ル・クルーゼ」の最新モデル「シグニチャー」。ホーロー鋳物鍋のパイオニアとして91年の歴史の中で細部にわたり進化を遂げた「ル・クルーゼ」は、まさに “一生ものの鍋” として働くママたちの毎日を応援します。その「ル・クルーゼ」を手に入れたい! というママたちに朗報です。日常でより長く使いやすく進化した最新モデル「シグニチャー」の発売を記念して、ル・クルーゼでは2016年8月24日(水)より 「鍋買い替えキャンペーン」 を実施中。その内容は、なんとお手持ちの不要になった鍋と引き換えに、「ル・クルーゼ シグニチャー」全製品を10,000円引きの価格で提供するというもの。引き取り対象は、ブランド、種類、材質、購入価格、サイズを問わず、どんな鍋でもOKという、なんとも太っ腹なキャンペーンです。「キッチンでのストレスフリー」を叶えたいと願うママたち、ぜひこのチャンスをお見逃しなく!ル・クルーゼ シグニチャー発売記念鍋買い替えキャンペーン、実施中! 実施期間:2016年8月24日(水)~9月20日(火)対象商品:「シグニチャー・ココット・ロンド」16cm 18cm 20cm 24cm、「シグニチャー・ココット・ジャポーネーズ」 24cm、「シグニチャー・ココット・オーバル」 25cm 27cmキャンペーン実施店:ル・クルーゼ ショップ、オンラインショップ ※百貨店や専門店は対象外お問い合わせ:ル・クルーゼ ジャポン株式会社 (取材・文/松浦明、撮影/林ひろし)
2016年08月31日エディターであり古書店&ギャラリーを営みながら、1歳半の男の子を育てている赤木真弓さん。 <前編>赤木さんの「やさしさのヒミツ」 に続いて<後編>では、息子の温くんのために愛をこめて選んだという、こだわりの「子育てアイテム」をご紹介します。赤木真弓さん / 息子さん:温(おん)くん(1歳半)ライター、編集者。横浜のショップ「greenpoint books & things」店主。旅好きユニット「auk(オーク)」としても、雑誌の記事や本作りを行っている。著書に『ラトビア、リトアニア、エストニアに伝わる温かな手仕事』(誠文堂新光社)、共著に『ブルックリン・ネイバーフッド』、『オランダ・ショート・トリップ』(ともにスペースシャワーネットワーク)ほか。 やさしいママのモノ選び:手づくりや、素朴で安心素材のおもちゃを選ぶ赤木さん夫婦のお部屋にいると、なぜかついついリラックスしてしまいます。足場板を使ったフローリング、ヴィンテージの家具、蚤の市で見つけた置物など、ひとつひとつに二人の“好き”が感じられるからでしょうか。「新品より、味のあるものが好きなんです。アーティストの友人が作った手作りのモノや絵画など、ここにあるのは趣味で選んだものばかり。子どもができてからは、おもちゃも増えましたが、やっぱり手作りのものを与えて、その感覚を伝えたいと思うんです」赤木さんが子どものために作ったというお手玉は、あずきを布で包んだオリジナルのもの。手にした時の感触も、心地よいおもちゃです。「木の積み木は友人からの贈り物。minä perhonenのデザインで、色使いが気に入っています。積み木は子どもの脳の刺激にもよいと言われていますが、ナチュラルな素材ややさしい色彩の感触は、子どもの五感にもよい刺激になるのではと思います。いつか、子どもがもう少し大きくなったら、一緒に美術館にいって、いい刺激をたくさん吸収して欲しいんです」 やさしいママのモノ選び:「せいろとホーローバット」でつくるシンプルなおやつとごはん温くんのご飯は、野菜中心のヘルシーごはん。「せいろを使って、ごはんも野菜も全部蒸して作ります。おかゆもすべて一緒に作れるので、せいろは重宝しています。蒸した野菜は軽く塩をふってオリーブオイルをかけるだけ」 野菜好きの温くんは、お皿一杯の野菜も、ぱくぱく平らげてしまいます。お菓子も、できる限り手作りにしたいと心がけているそう。「最近、よく作るのはホーローバットを使った簡単デザート。バターを使わずに作るホーローバットのショートブレッドなどは、子どもも大好きです。味付けはきび糖と塩だけのシンプルなものですが、全粒粉を使っているので噛みごたえもあります。他にプリン、アイスなど、ホーローバットで簡単に作れるんです」赤木さんが食べ物にこだわるには理由があります。「子どもの健康を考えたら、やっぱりカラダにやさしい食べ物を手作りするのが一番。味覚は子どものうちに育つといいます。工夫次第で簡単に作れますから、仕事しながらでも手作りご飯にはこだわっています」 やさしいママのモノ選び:使うほど好きになる、自然派の「ヤシノミ洗剤」シリーズお子さんの五感を大切にしたり、肌にやさしい自然素材を選んだりと、「やさしさ」にこだわってモノ選びをしている赤木さんに、“人と地球にやさしい” 「ヤシノミ洗剤」シリーズ3点を体験してもらいました。「今まで、自然派洗剤ってあまりきれいに落ちないんじゃないかと心配していましたが、ヤシノミ洗剤は泡立ちがよく、食器もきれいに洗浄できますね。片手でワンプッシュで使えるのも、使いやすいです。キッチンに置いても絵になるボトルデザイン。コレだったら継続して使いたいなと思いますね」子どもたちの集う本屋さんを夢見て「子どもと一緒に過ごすことで、仕事の価値観も変わってきました」という赤木さん。これまでは自分の好みで、本も、雑貨も選んできたけれど、子どもができてからは、「子どもに喜んでもらえるもの」というものの見方をするようになったそう。「子どもがもう少し大きくなったら、私のお店、greenpoint books & thingsも変わっていくと思います。近所の人たちが集う商店街にある本屋ですから、いつか子どもたちが学校帰りに『ただいま』『遊びに来たよ』と立ち寄ってお店にくるようになったら、嬉しいですね。子どものうちにいろんな本を見て、刺激を受けて、視野を広げてくれるようになって欲しいと願っています」取材/文:東ミチヨ 撮影:林ひろし[PR]サラヤ株式会社 【やさしいママのひみつ 一覧】
2016年08月30日人気アニメ「デジモンアドベンチャー」の15周年を記念して製作された、初代「デジモンアドベンチャー」シリーズの続編を全6章で描く最新作『デジモンアドベンチャー tri.』。第1章「再会」、第2章「決意」ともに大ヒット公開を記録し、前半のクライマックスとなる第3章「告白」が、9月24日(土)より公開される。この度、第3章「告白」のEDテーマを歌う劇中バンド「KNIFE OF DAY(ナイフ・オブ・デイ)」のボーカル&ベース担当・石田ヤマト役を演じる声優・細谷佳正が、EDテーマをキャラクターとして歌うことに決まった際の心境や、楽曲の印象などについて語ったインタビューが到着した。声優・細谷さんといえば、「刀語」鑢七花役でテレビアニメ初主演を飾り、以降、「ちはやふる」綿谷新役、「坂道のアポロン」川渕千太郎役、「黒子のバスケ」日向順平役、「ダイヤのA」結城哲也役、「ハイキュー!!」東峰旭役、「亜人」海斗役など数々の話題作でメインキャストを担当。また『トワイライト』シリーズのテイラー・ロートナーの吹き替えをはじめ、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』ジェイ・コートニー扮するカイル・リース役、『インディ・ジョーンズ /クリスタル・スカルの王国』のシャイア・ラブーフの声ほか、洋画や海外ドラマの吹き替えでも活躍している。人気・実力共に兼ね備えた細谷さん。今回の起用について「『デジモンアドベンチャー』という長い歴史のある作品の中で、EDテーマを歌わせていただくということは、アニメに関わらせていただいている者として非常に大きな出来事だと思います。石田ヤマトとして僕を選んでいただいたというのは、製作陣の方々、スタッフの方々など、いろんな人の意志があるし、EDテーマを歌うことを想定して選んでいただいたと思いますし、それはすごくありがたいし、感謝しています」と胸の内を明かした。これまでも多くのアニメでキャラクターソングを歌ってきた細谷さんだが、「映画の終わりでテロップとともに曲が流れるんだなと思うと、ちょっと恥ずかしかったですね(笑)」と、特別な思いを感じたそう。「最近は同じ声優の仕事をされている方でもアーティスト活動をされている方がたくさんいらして、その方々の音楽を聴くと、すごく本格的で…。僕は全然そういうことをしていないので、大丈夫かなという不安がありました」。さらに、「長く続いてきた作品で、第1章が劇場上映される際もすごいニュースになっていましたし、キャストが変わったこともあって、僕がヤマトを演じるということに対して、マイナス意見のほうが多いと思っていたんです。だから第1章のアフレコのときは、気を張ってる部分がありました」と、キャスティングについても不安な気持ちがあったそう。「でもその後、参加させてもらったデジフェスというイベントで和田光司さんの手紙が読まれて、会場には色々な年代の方がいらっしゃっていたんですけど、すごく涙している方が多かったんです。そのときに、好きなアニメが最終回になって、泣いていた自分の子どもの頃を思い出して、あぁ、こんな純粋な方たちが見てくれているんだなと思ったら、第2章からプレッシャーに感じ始めました(笑)」。様々な思いを抱いて挑戦したEDテーマ「僕にとって」。細谷さんは本楽曲をこう分析する。「いままで自分が関わらせていただいたキャラクターソングというのは、セリフだったり展開だったりを直接的に歌詞にしたものが多かったんですけど、『僕にとって』はそうではなく、ストーリーの大きな流れを歌詞にしていると思ったし、具体的に語り過ぎてないところが多くの人に共感していただける曲になっていると思います」。「キャラクターソングだけど、劇場のスケールに合わせた音質にもなっていくだろうから、そこは楽しみではありますね」と仕上がりに期待を寄せつつ、「デモを聴いたときにとても楽しい気持ちになったので、ただただ一生懸命歌って、その思いが伝わればいいな、響いてくれたらいいな」と、本楽曲をアピールした。最後に、ファンへメッセージをこう綴った。「エンターテイメントは見られて、そして聴いてもらってなんぼなので、ここからだと思うんですよね。だからその第一歩として、『デジモンアドベンチャー tri. 第3章「告白」』を見ていただいて、EDテーマを聴いたお客さんに喜んでいただけることが、僕を選んでいただいた方が望んでいることだと思うので、まずは劇場で、いい音響で作品の一部としてのEDテーマを楽しんでいただければと思います。そこで僕もやっと胸をなでおろせると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います!」。KNIFE OF DAY「僕にとって」は9月21日(水)よりリリース。『デジモンアドベンチャー tri.』第3章「告白」は、9月24日(土)より公開。(text:cinemacafe.net)
2016年08月29日「やさしいママのヒミツ」第一回目は、エディターであり古書店&ギャラリーを営みながら、1歳半の男の子を育てている赤木真弓さんです。赤木真弓さん / 息子さん:温(おん)くん(1歳半)ライター、編集者。横浜のショップ「greenpoint books & things」店主。旅好きユニット「auk(オーク)」としても、雑誌の記事や本作りを行っている。著書に『ラトビア、リトアニア、エストニアに伝わる温かな手仕事』(誠文堂新光社)、共著に『ブルックリン・ネイバーフッド』、『オランダ・ショート・トリップ』(ともにスペースシャワーネットワーク)ほか。 悩みながらもたどり着いた自分らしい子育て、愛を込めて選んだわが子のための厳選アイテムとは? <前編>では、赤木さんの「やさしさのヒミツ」に迫ります。■「絵本」がつなぐ、ママと子どもの大切な時間ひだまりで、ほっこり。子どもと一緒に絵本を読みながら過ごす赤木さん。使い古されたテーブルや、木の温もりがやさしい家具、雑貨など、まるで外国のカフェみたいな和み空間は、書店オーナーの赤木さんならでは。「子どもの頃から本が好きでした。いつか自分の店を持ちたいと思っていましたが、ご縁があり、今は横浜の商店街でギャラリーを併設した書店を営んでいます」昔ながらのお店が今も立ち並ぶ商店街、山元町商店街で、国内外の古書と雑貨を扱うお店「greenpoint books & things」を経営する赤木さん。パリの古本屋さんみたいなお店の感性は、お家のインテリアやキッチンにも生かされています。■おやすみ前の「絵本遊び」で、仕事の疲れも癒される「子どもが生まれる前から、絵本が好きだったんです。絵本ならではの独特の色彩感覚や、シンプルな物語は、眺めているだけでも楽しいですよね。でも子どもが生まれてからは、『どんな本だったら喜んでくれるかな?』と選ぶ基準が変わりました。息子は、気に入った本があると、自分から『ママ、読んで』と言わんばかりにカゴから絵本を持ってきてリクエストするんです。まだ文字は読めない年齢ですが、そのときどきに好きな本があるみたいで」うちの猫、どれ? の問いに大はしゃぎしながら、絵本の猫を指さす1歳半の温(おん)くん。猫の絵本はお気に入りのひとつです。「お風呂上がりの、お休み前のちょっとした時間が絵本タイムなんですが、それは息子とコミュニケーションを楽しむ大切な時間。仕事の疲れも癒されます」そんな温くんとの大切な時間に寄り添うのが、やさしい肌触りのベビー服やタオル。「子どもの洋服やタオルに限らず、家族のお洗濯にはできるだけ肌にやさしい洗剤を使いたいと思っていたんです。だから、植物性で余計なものが入っていないヤシノミの洗濯用洗剤と柔軟剤は、発売された時から気になっていました。洗濯用洗剤は、一般的な洗剤となんら遜色ない洗浄力で不満はありませんし、特に気にいったのは柔軟剤です」「ヤシノミ柔軟剤でふっくら仕上げたベビー服やタオルは、無香料でナチュラルな感触が心地よく感じられます。うちには息子のほかに猫もいますので、香料のない柔軟剤をずっと探していたんです。今までの柔軟剤は、香りが強いものばかりで、子どもの洗濯には使えませんでしたから。これは余計な添加物が入っていないので、子どもの肌に触れても安心ですね。子どもにも動物にもやさしい点が、気に入っています」 ■自分の時間を作ると、子どもにやさしくなれる仕事をしながら子育てする赤木さんにとって、温くんと一緒に過ごす時間は、大切な時間。朝8時半に保育園に送り出したあと、9時から4時まで家事、仕事をこなし、夜の5時から8時半までは子どもの時間。一緒にご飯をたべたり、お風呂に入ったり、遊んだり。「以前は子育てに一生懸命になって、子どもとずっと一緒に過ごしていましたが、保育園に預けるようになってから、私自身、変わりました。いくらかわいい子どもとはいえ、ずっと一緒にいると、イライラしたり、疲れたりってありますよね。でも少し離れることで、愛おしい存在に思えて、少々のわがままも受け入れてあげようという心の余裕が生まれました。だっこしたり、愛情を注げるのも今のうちですしね」自分の時間をつくることで、子どもにもやさしくなれる。それが赤木さん流のやさしいママの秘密。「仕事をしたり、映画を見たり、友人とお茶したり。そういう何気ない自分の時間が、心の余裕となって、子育ても変わるということに気づきました」 ■「本」から学ぶ、 “都合のいい” 子育てそんな心の余裕を学んだのも、本から。「いくつもの育児本を読みましたが、本が言ってることはそれぞれ。だから自分にとって都合の良さそうなものだけを選んで、参考にしました」赤木さんが最近よく読んでいる本は、次の4冊。『子どもはみんな問題児』(新潮社)ぐりとぐらの作者、中川李枝子さんの書いた本。「そうか、子どもってみんなこうなんだ!」とおおらかな気持ちになれる本です。『毎日続くお母さん仕事』(後藤由紀子著/SBクリエイティブ)「静岡県・沼津市で雑貨店『hal』を営む、後藤さん流の家事や子育て術。まだ仕事と子育ての両立が上手くいかない私にとって、無理せず、頑張りすぎないという姿勢がとても参考になります。小学6年生まで抱っこして、愛情を注いでいたというエピソードは、私も真似したいと思います」ほかにも『チョッちゃんはもうじき100歳』(黒柳朝、黒柳徹子 著 / 主婦と生活社)、『子どもと一緒にスローに暮らすおかあさんの本』(藤田ゆみ 著 / アノニマスタジオ)などもおススメだそう。子育てに決まりはなく十人十色、自分らしいやり方を試行錯誤しながら楽しむ心の余裕があれば、働くママもいきいき暮らせそうですね。<後編>では、赤木さんが温くんのために愛をこめて選んだ「子育てアイテム」をご紹介します。 ※今回ご紹介した書籍・ 『ねこ ねこ こねこ』 ・ 『こねこのぴっち』 ・ 『ねこが いっぱい』 ・ 『子どもはみんな問題児』 ・ 『毎日続くお母さん仕事』 ・ 『チョッちゃんはもうじき100歳』 ・ 『子どもと一緒にスローに暮らすおかあさんの本』 取材/文:東ミチヨ 撮影:林ひろし[PR]サラヤ株式会社 【やさしいママのひみつ 一覧】
2016年08月29日この夏、新海誠旋風が日本中で吹き荒れる!監督最新作『君の名は。』はそう断言したくなる驚きと感動にあふれた、フレッシュな傑作だ。新海監督本人も「過去作はこの作品のためにあった」、さらに「これが新しいスタートラインになる」と強い手応えを示す。日本アニメ界の次代を担う存在として、国内外で熱い視線を浴びる新海監督が、最新作で選んだ題材は<夢で出会った少年少女の恋と冒険>。山深い田舎町に暮らす女子高校生の三葉と、東京で暮らす男子高校生の瀧が、夢の中で“入れ替わり”互いが生きる世界を通して、次第に惹かれあう。遠く離れた2人が夢の中で出会う意味とは?淡い恋愛ストーリーかと思いきや、後半には予断を許さないめくるめく一大スペクタクルが展開する。「自分の集大成として、ベストアルバムのような作品にしたかった」と新海監督。その言葉通り、『君の名は。』には新海監督の過去作に登場する印象的なモチーフが随所に散りばめられた。<デジタル時代の映像文学>とも評される透明感あふれるビジュアル、繊細なストーリーテリングといった独特な作風も健在だ。「物語を紡ぐという経験を重ね、『いまだからこそできる』と確信した」と複雑な物語構造にも、果敢なチャレンジを仕掛けた。その上で「誰もが楽しめるエンターテインメントのど真ん中を作りたかった。観客への“サービス”を強く意識しました」とも。国内大手の東宝が配給を手がけ、公開スクリーンも新海作品では過去最大になる予定で「今回は僕のことを知らないお客さんが圧倒的に多いわけですし、そういった観客層に向けた作品でもある。ぜひ『アニメでこんなにドキドキできるんだ』『こんな新鮮な表現があるんだ』という感覚を味わってほしいですね」。長年追い続けてきた熱心なファンにとっても、“新海作品初体験”の新たな観客にとっても「絶対に楽しんでもらえる自信がある」と新海監督。「後半はシリアスな展開も待っていますが、それでも切実になり過ぎるのは良くないし、思春期の男女の逆転が生む笑いの要素も手放したくなかった。(先の展開を)予想させず、飽きさせもせず、さらに喜怒哀楽を動かしながら、107分の上映時間をコントロールするのは大きな挑戦でした」と誇らしげに語る。すでに媒体編集者やライターの間では「新海監督の新作、見た?」が挨拶代わりとなるほど、映画業界内で沸騰している本作。その熱狂は必ずや全国に広がるはずだ。「そう言ってもらえるとうれしいです。自分としては今後『君の名は。』と同じように、サービスを詰め込んだ長編を1~2本は作らなければと思っています。僕の40代はそういう時期であるべきだし、そこをクリアして初めて次のステップに進める…。そんな気がします」(新海監督)(photo / text:Ryo Uchida)
2016年08月28日共演した声優たちが「瀧がそこで“息をしている”と感じた」と、口をそろえて評した映画『君の名は。』での神木隆之介の芝居――ところが本人にそのことを伝えると、「本当ですか!そんなことを言っていただいていたんですね。嬉しいです」とまるで無自覚な様子で、「僕は、島崎(信長)さんと石川(界人)さんのお芝居を横で聞いていて、声が良すぎて耳が溶けそうでした」と無邪気に言葉を続けたのだった。「芝居のリアルさはあまり…考えていなかったかもしれないです。ただ今回は…新海監督の作品は、実写により近いアニメーションだと思っています。例えばひとりごとのところとか、“もし自分が実写の現場でひとりごととしてお芝居するなら、どういうふうに話すだろう?”というのは、すごく考えました。掛け合いでは信長さんと石川さんが両隣にいて、僕が真ん中だったのですが、画面を通して話しかけるというよりは…司に話すときは信長さんに話しかけているような感じで、高木に話すときは石川さんに話しかけているような感じで演じていました」。それこそが、芝居のリアルさに繋がってくるのではなかろうかと思ったが、神木さんは「信長さんたちが僕を引っ張って下さったので(笑)、すごく安心しました。本当にすごいです、職人です」と心底感心した様子で、ひとりごとのように小さくつぶやいている。なるほど、神木隆之介という役者は基本的には“感覚の人”なのだろう。特に今回主役を演じた『君の名は。』では、いくつかの理由によって彼のセンスがピタリとはまり、立花瀧というキャラクターがより一層鮮やかに、みずみずしく浮かび上がったのではないだろうか。ひとつは、神木さんが新海誠監督の大ファンだったということ。高校生のときに『秒速5センチメートル』と出会い感銘を受け、ほかの作品も全て観たという神木さんは、新海監督が描く世界を“色彩のイメージ”で捉えたうえで、『君の名は。』はこれまでとは少し違ったものになっていると感じたようだ。「これまでの新海監督の作品は、深い色、もしくは白と黒というようなモノクロのイメージだったんです。それが今回、監督の声でセリフが入っているビデオコンテをいただいて観たときに、“なんてカラフルなんだろう!”と思ったんです。表情が豊かというか…楽しかったり、笑えたり、切なかったり、感情がすごく鮮やかになるような作品だなと思いました。しかし、モノローグの節々には、やはり新海監督の独特な間や表現が折り込まれているので最初は、どのぐらい芝居をカラフルにしていいのか、監督とすごく話しました」。そもそも神木さんは、自分の声が新海監督の世界には合わないと思っていたという。「僕は自分の声を、“特徴のある声だな”と思っているんです。というのも以前、ドラマで周りの声を録ったときに、ふざけて入ったら一発でバレてしまったんです(笑)。そのとき、“僕は人と少し違う声質なのかな?”と思ったからこそ、新海監督が描く日常の、あのモノトーンな感じが絶対合わないと思っていました。前作の『言の葉の庭』を観て、次回作が“早く出ないかな”と、とても楽しみにしていました(笑)。いまだになぜ僕が『君の名は。』にキャスティングしていただけたのか、まったく分からないのですが…今作はモノトーンだけではなくて“色分けだ”と思いました。三葉のときはオレンジや黄色の声です。滝のときは青という感じで、モノローグは黒か白かグレー。でもたぶん僕は、モノトーンな声は出ないと思うので、モノローグはとてもがんばりました(笑)。できるだけモノトーンをイメージしながら」。もうひとつ、神木さんがアニメ好きということも大きかった。共演した声優陣について――それまでの会話よりも、わずかに声のボリュームを上げつつ――楽しそうに語る神木さんを見ていると、現場でもイキイキとした表情で、心から楽しんで芝居していたのだろうなあと容易に想像できる。「声優の方々はすごいです。何十回も同じトーンで声が出せますし、監督の指示にも的確に対応して、そこから絶対ブレないんです。本当に職人だなと思います。横で聞いていて“畑が違うって、こういうことなんだろうな”と思いましたし、勉強させていただくことも本当にたくさんありました。勉強させていただきながら、すごい心地良い時間を過ごさせていただきました(笑)。本当にアニメが大好きなので、幸せの場でした」。一方で、アニメが大好きだからこそ、高度な技術を要する声優という仕事を十分に理解していた神木さんは、彼らと同じ舞台に立つことに戸惑いがあったようだ。「役者が本業の声優の方々と一緒に、声に関わる仕事をするのは本当に緊張します。違う畑にお邪魔しているような。なので最初は、すごく緊張していたのですが、信長さんが話しかけてくださって、石川さんが同い年だということが判明して。同じアニメを好きで観ていて、ほぼ同世代で同じようなアニメを辿ってきたという話をしたら、一気に仲良くなりました(笑)。そうやって距離が近くなって打ち解けてから、3人でのお芝居に入れたので…打ち解けられずに“この場を僕はどうしたらいいんだろう?”というようにならなかったので、信長さんと石川さんには本当に感謝しています」。最後に、たくさんのオススメシーンがあることは承知の上で、神木さんに「ネタバレしない程度に」という条件で、『君の名は。』の見どころや、印象に残っているシーンを聞いてみた。「瀧と三葉が入れ替わったときの上白石さんの声がカッコイイです。『あれ、私のことだよね?』と言って机を蹴飛ばすところとかもカッコイイですし。あと印象に残っているところは、歩道橋での奥寺先輩とのシーンです。憧れの先輩と男の子の、絶妙な、理解しあえていない、少しズレた感じっていうのが、やはりリアルだなと思いました。長澤(まさみ)さんの“先輩っぽさ”もすごく良いので、観ていただきたいです。長澤さんとは初めてお会いしたのですが、役者同士だからという違和感も特になかったです。役を通して、きちんと受け入れていただいていたんだろうというのはすごく思いました。ぎこちない感じでもないし、気持ち良く瀧を演じさせていただくこともできました」。これまでいち(熱狂的!?)ファンとして新海監督の作品を観ていたためだろうか、「公開されてから、新海監督のファンの方にどう思われるか、すごく不安です。自分ではやっぱりまだ…客観的に観れないです」と語っていた神木さんだが、みなさんも観ていただければ分かるだろう。新海誠監督の最新作『君の名は。』には、俳優・神木隆之介の溢れる想いがこぼれ落ちそうなほど、詰まりに詰まっていることを。(text:とみた まい/photo:Nahoko Suzuki)
2016年08月27日エンドロールが流れるなか感じた、胸がしめつけられるような切なさ。そして、自分のこれまでの人生において、そういった類いの切なさが果たしてあっただろうか? と、つい柄にもなく思い返してしまうこの気持ち──『君の名は。』にはなぜ、こうもリアルに自分ごととして入り込んでしまう力があるのだろうか。「今回俳優さんたちとご一緒させていただきましたが、基本的にやることは普段の声のお芝居の現場とあまり変わらなかったので、そんなに戸惑うことはなかったですね。作品の世界観に適合するお芝居をするために、主演の神木さんをはじめ、みなさんが作り上げる空気感に正面から向き合って、同じ場所に立とうとしたら自然とお芝居が出てきたのかなあと思います。でも、普段よりも“同じ場所に立つ”ということはよく考えました」。こう語るのは、神木隆之介演じる立花瀧の友人・藤井司役の島崎信長だ。メインキャストに俳優陣が並ぶ『君の名は。』だが、加えて、島崎信長、石川界人、悠木碧といった、アニメの第一線で活躍している実力派若手声優ががっちりと脇を固めているのも見どころである。なかでも島崎さんの演じる司は、物語が核心へ迫っていく重要なシーンをはじめ、多くの場面に登場する役どころだ。普段は演じるフィールドが異なる俳優と声優が、声の芝居で掛け合いをする際に、現場ではどのような化学反応が起こるのだろうか。島崎さんに尋ねてみたが、“俳優と声優が掛け合う”ということよりもむしろ重要なのは、“新海誠監督の作品を演じる”という部分にあったようだ。「“同じ場所に立つ”というのは…新海監督の作品って、地に足がついているというか、現実に近い感覚のリアリティーがあるように思うんです。そのうえで、アニメにしかできないことや、アニメにおけるファンタジーみたいなものも織り交ぜている。そういったなかで、僕は主人公・瀧くんの同級生というキャラクターで、しかもよく絡む役どころだったから、普段のやり方や常識に囚われすぎると…実際の現実に近い世界観のなかで、急にファンタジーからやってきた人になってしまうかもしれない。だから僕は、『君の名は。』という作品のなかで、同じ世界に住んでいる、同級生で距離感も近い、対等な立場の人間なんだっていうところを、観ていただいた方にきちんと違和感なく伝える必要がある。そういう意味では、ちょっと気は遣ったかもしれませんね」。「新海監督が描くリアリティーを、アニメーションに乗せて違和感なく伝える」というのは、デフォルメされた世界を演じることの多い声優という職業柄、なかなか難しいことのように思えるが、『君の名は。』という作品においては絵の持つ力が大きいため、自然と芝居が引き出されていったと島崎さんは語る。「なにより、絵がものすごく芝居をしてくれているのが大きいですね。キャラクターの表情や動きで十分伝わっているから、説明を盛るような芝居をする必要がない。そこに生きている人間の生のリアクションとして、突き詰めて考えることができるんですね。その場でのやりとりに集中できるんです。神木さんが演じる瀧がいて、彼と会話する司としての僕がいて。瀧に話しかけられて、反応する。もうちょっとこの感情を盛ったほうがいいかな? とか、伝えやすくしたほうがいいかな? とか、そういうのを加味せずに、純粋にそこに生きている司という人間が、実際にこう話しかけられたらこう返事するだろうなってところに集中できました。盛る部分や伝える部分は、絵や演出にお任せできる環境だったから、本当にその場に行って会話してきた感じです。そこでの会話や、“そこに生きている”ことに集中できたのが大きいんじゃないかなあ」。島崎さんが“そこに生きている”ことに集中できたのは、絵の力に加えて、俳優・神木隆之介の力も大きかっただろう。まさに“そこに生きている”ことを演じるプロフェッショナルともいえる神木さんとの掛け合いは、島崎さんにとっても刺激的な体験だったようだ。「声で演じるお仕事のときって、なんとなくのお約束や型みたいのがあって。もちろんそれは紛うことなき必要な技術で、とっても素敵なことなんですけど、『君の名は。』に関しては、神木さんがそういうものに良い意味で染まっていない、等身大のお芝居をされていました。イメージとしては、アニメーションだけど…それこそ日本人が演じている実写映画の声をあてる、と言っても違和感がないくらい、現実世界に近いリアリティーに寄せているんだろうなって思いました。だから神木さんとの会話は、本当に等身大でぶつけてくれるからやりやすかったですし、気持ちがよかったですね」。楽しそうに語る島崎さんの話を聞いて、冒頭に挙げたような、リアルに自分ごととして『君の名は。』の世界に入り込んでしまうような感情をなぜ自分は抱いたのか、分かったような気がした。演者たちの、キャラクターがその場に息づいているような芝居で表現されるリアリティーの上に、新海監督が創造する魅力的なファンタジーが乗り、観客はその生き生きと描かれる物語に共感し、心を動かされるのだろう。「もう“観てください!”ってことが一番ですね。観て、聞いて、絶対に伝わる作品になっていると思います。さらに言えば…解釈の余地がある作品だから、観た方によって、観た年代によって、観た性別によって、もしかしたら感想も解釈も変わってきたりするかもしれません。全部が全部説明しているわけではないし、想像する余地や、考える余地がある作品なんで。ぜひご覧いただいて、自分が感じた感想とか、自分が思った解釈を、大事にしてほしいなあって伝えたいです。それは、あなただけの感想だし、あなたの感性で得た、あなただけのかけがえのない感情だと思うので。だから、最初は変に構えずにフラットな気持ちで観ていただいて、そこからいろんな人と話してみたり、視点を変えてもう一度観てみたり、いろんな楽しみ方をしてもらえたらいいんじゃないかなあって思います」。ところで、インタビューのなかで島崎さんが最も破顔したのが、新海監督について語ったときだった。そこには、芝居や作品について語った際の適度な緊張感はなく、穏やかな表情を浮かべ、とても嬉しそうに話してくれる島崎さんの姿があった。「新海監督は、とっても優しくて…成人男性に使う言葉かどうかわからないんですけど、ちょっと可愛らしいくらい(笑)。あと、作品にも通じる温かみをすごく感じるような素敵な方でしたね。やっぱり、すごい作品をたくさん作られている方だし、ちょっとだけ…初めてお仕事するにあたって身構えてしまう部分とか、覚悟を決めて挑むみたいな気持ちがあったんですけど、“そんなもの必要ないよ”と言わんばかりに、すごく気さくに、柔らかく接していただきました。でも、ものづくりに対する情熱はやっぱりすごいものがありましたし、なにより、楽しんで作ってらっしゃるんだなあって感じました。仕事をご一緒すると“新海監督と一緒に、もっといいものを作りたい、もっと楽しいものを作りたい”ってたぶん…みんなが思うような、そんな方なんじゃないかなあ。だからすごい作品がたくさん作られてきたんだなあって納得させられるような、そんな方でしたね」。さらに島崎さんは、「これ言っていいかわからないんですけど」と前置きしつつ、新海監督の人柄を表すような、とっておきのエピソードも教えてくれた。「僕が主演していた『寄生獣 セイの格率』をご覧になっていたみたいで、“いやあ、信長さんの声好きなんですよ”って直接言われて、すごくビックリしました(笑)。監督に直接“声好きなんですよ”って言われることなんて、なかなかないじゃないですか。それを普通に、改まることもなく素直に伝えてくださる。たぶん、お人柄が成せる技というか…僕はとても嬉しかったけど(笑)、恐縮でもあり、ビックリもしましたね(笑)。とっても素直で、凝り固まったものとか、固定概念とかがないんだろうなって。柔軟な方だと思いました」。まさにその新海誠監督の伸びやかさが随所に散りばめられている最新作『君の名は。』。ストーリーはもちろん、“そこに生きている”キャストたちの芝居にも注目してほしい。(text:とみた まい/photo:Nahoko Suzuki)
2016年08月26日現在放送中のNHK連続ドラマ「とと姉ちゃん」で主人公・小橋常子役を好演している高畑充希。ドラマ初主演にして、名だたるキャストがそろった歴史ある朝ドラの座長に抜擢され、混乱するほどの重責に悩むこともあったというが、やがてプレッシャーをはねのける極意を得たそうで、その表情はなんとも清々しい。亡くなった“とと(父親)”に代わって2人の妹と母を守りながら、戦後一世を風靡することになる雑誌「あなたの暮し」を創刊した小橋常子の激動の人生を描いた同ドラマ。現時点で高畑さん演じる常子はおよそ30歳だが、初登場時はなんと15歳。それも含めて、「すごく変わった感じがします。妹の鞠子(相楽樹)を嫁に出したことに達成感があって、いまも(わたしは編集部の)社長ですけど、現役から退いた感じがします」と率直な思いを口にする。加えて、常子の悩みや経験したこと全てが、役を通して自身の中に植えつけられていることを明かすと、「“おばちゃん”と呼ばれることに違和感はありません。見た目は追いつかないけど、感覚としては繋がる部分があるのかな…」と、24歳の自分が演じる“とと姉おばちゃん”に違和感が無いよう。そして、「ここから大事なシーンがいっぱいあるので、最後までエネルギーを失わずに行きたい」と力を込めると、「常子が大人になってから話が大きくなったり悩みも増えたりして徐々にヒートアップしているので、すごく楽しいです」と笑顔も見せた。にこやかになる理由は共演者にもあり、「すごく楽しい方なので、ちゃんとついていきたい」と、「あなたの暮し」編集長で常子の“魂のパートナー”でもある花山伊佐次役の唐沢寿明に絶大な信頼を寄せる。「たぶん、朝ドラ(「純ちゃんの応援歌」1988年放送)をやっていたのでヒロインを気遣ってくださる」と想像しつつ、「わたしが息切れしかけると、アミノ酸やクエン酸をくださるんです。この前も台本3ページ分くらいの演説シーンのときに、ブドウ糖をくださったので隠し持ちながらやりました(笑)」と知られざるエピソードも披露。また、「ものすごく頼っているし、ものすごくご飯に連れて行ってもらっています」と打ち明けると、「(食事の席では)お芝居の話もしますけど、結局なんだかんだ最後はカラオケに行って一緒に熱唱しています」と唐沢さんのパワフルな一面を暴露した。舞台や映画では主演経験があるが、ドラマ主演が初めての高畑さんは、約10か月にわたる撮影期間のゴールが見えてきたいま、“朝ドラヒロイン”という貴重な体験をふり返り、「次から次へと出てくださる凄い方々を受け止めなければいけないと思い込んでいたから、すごく混乱してしまいました」と述懐する。しかし、監督から「受け止めるのではなく、受けて流せ」、唐沢さんからは「主役はそこにいろ」とアドバイスをもらい、「なるほど」と納得し、実践してからは「より常子に近づけた気がしました」と胸を張る。さらに、「ドラマの真ん中に立つことの極意を、失敗したり、いろんな人に教えてもらったりしながら経験することで知ることができました。こんなにも時間をかけて教えてもらえることはなかなかないから、初主演が朝ドラというのはすごく恵まれていると思います」としみじみ。本ドラマに携わり、役者として何か変わったことがあるかと尋ねたとき、「変わっていないことは絶対にないと思うけど、終わってみないとまだわからなくて…」と語る高畑さんだが、自分自身の変化に大いなる期待を持っていることは手に取るようにわかる。「立ち止まらずに、ギリギリ最後まで進化したいです!」。力強い言葉と輝く目がそれを物語っていた。(text : Rena Nishiki)
2016年08月25日「くじけそうな時もありましたけど、アニメーターにならないっていう選択肢はなかったので。なれるだろうと思ってたし、根拠のない自信みたいなものを持つのは大事だと思うんですよね」。ピクサー・アニメーション・スタジオで働く原島朋幸さんは、ピクサーに入社するまでに、サラリーマンやデジタルハリウッドやアメリカでの大学生活、そして「ドリームワークス・アニメーション」にて『ヒックとドラゴン』に関わるなど、様々な経歴を持つアニメーターだ。「自分が本当にやりたいのは、キャラクターアニメーションだ」という確信と共にアメリカに渡ったという原島さんは、まさに夢を叶えた日本人クリエイターである。シネマカフェが実施したピクサー現地取材レポート最終回の今回は、前回の小西園子さんに引き続き、『ファインディング・ドリー』で活躍している日本人スタッフの原島朋幸さんのインタビューをお届けする。1993年、『ジュラシック・パーク』を観たことをきっかけにハリウッド映画とVFXに興味をもち、エンジニアとして勤めていた会社を退職した原島さん。その後デジタルハリウッド東京本校に入学し、2001年にアメリカへ語学留学、2003年には「Academy of Art University」(サンフランシスコ)の大学院に進学し、通称“ピクサークラス”でピクサー・アニメーション・スタジオのアニメーターからキャラクターアニメーションを学ぶ。2006年より「DreamWorks Animation」にて『ヒックとドラゴン』などの制作に参加し、2015年3月に晴れてピクサー・アニメーション・スタジオへ移籍している。『ファインディング・ドリー』では、キャラクター・アニメーターとして様々なキャラクターの制作に関わったという原島さんは、ピクサーならではの入念なリサーチ活動を経て、ニモやマーリン、ドリーをはじめとする様々なキャラクターたちが水中で動き回る姿を、リアリティと共にキャラクターとして生き生きと表現する過程に大きく寄与している。「『ファインディング・ニモ』の時と同じく、今回も水槽で魚を飼って観察したり、実際に魚が泳いでいる映像を撮ってきて、海の中の物理や魚の動きをキャラクターの動きとして表現するためのアサインメントを実施しました。魚がヒレを動かしているタイミングをはじめ、魚は実は左右のヒレをバラバラに動かしているということや、前に進む時も後ろ向きにヒレを動かしていることなど、実際にちゃんと見てみないとわからないんです。ほかにも、ドリーとマーリンでは魚の動きの質が違うので、アニメーターたちはそういうことにも気をつけて作っています」。制作過程の話を伺う中で印象的だったのは、魚がターンする動きを制作する際に使われたという“ある言葉”に関するエピソードだ。「よく“it looks like fish on a stick(これは魚と棒の動きみたいだね)”という言い方をされることがあるんです。魚がターンする動きを表現するときに、魚がスティック(棒)の上に乗って動いているように見えてしまうことがある。実際の魚は、ヒレを動かして棒の周りを回るようにターンしてるんです。経験のあるアニメーターでも、気にしていないとそういう表現をしてしまいがちなんですよね。実際に魚の動きを見てからじゃないと、何か足りない、違う動きになってしまうんです」。ほかにも、ヒレを動かしていない時に魚たち自らの重みで沈む動きや、生き物たちの大きさや重さの違いを表現することが、全編に渡って海の中の世界が舞台である本作のリアリティへと大きく影響しているのだとういう。「重さっていうのはすごくキーになるので、アニメーターにとってはチャレンジですね。ウミガメのクラッシュとスクワートでも重さが違いますし、デスティニーや、ニモ、ドリーではスケールが全然違うんですね。例えば、デスティニーがヒレを動かすときに起こる対流を受けて、ドリーやニモが動く表現をしなくちゃいけない。だって、波が来たのに魚が流されたり横揺れする表現がないとおかしいじゃないですか。そういった微妙なこだわりが、すごくリアリティに貢献していると思います」。前作『ファインディング・ニモ』に引き続き、アンドリュー・スタントンが監督を務める本作。傑作として知られる『ウォーリー』なども手掛けるアンドリュー監督の仕事ぶりは、アニメーターとして参加した原島さんの目線からはどう映ったのだろうか。「アンドリューがよく言ってたのは、“ナショナルジオグラフィックのようにリアルに”ということでした。演技は当然大事なんですが、キャラクターが演技をした上で、動きはきちんとリアルな魚じゃないとダメだということです。キャラクターが演技しているのはほかのアニメーションでもあると思うんですけど、本作ではキャラクターたちが魚だっていうことが、観客が観ていて疑いのないレベルで説得力がないといけない。そこにすごくこだわりがありましたね」。さらに、『アーロと少年』にて監督を務めたピーター・ソーンとアンドリューの監督としての違いについて、興味深い比較を原島さんは語る。「アンドリューはあるシーケンスを制作する前に、監督の中でキーとなる部分だけ説明して、細かい説明はあんまりしないんですよ。すごく“loose(ゆるい)”な状態で、アニメーターはいろいろ考えながら、ラフなアニメーションを監督に見せるんですね。監督はそれを見てから個別に細かく作り込んでいく。ピーターの時は最初からすごく細かったですね。でも彼はオープンだったので、アニメーターの方から監督に意見を提案すると、受け入れてくれる部分もあるし、『そのアイデアはすごくいいけど採用できない』っていう時もある。アンドリューもそうですね。彼は彼のアイデアがあるので、曲げないときは曲げない」。「諦めたら終わりじゃないですか。壁に当たっても、とにかく好きなことがあるんだったら、それに向かって続けることですね」。そう語る原島さんは、昨年の入社に至る前にも、一度ピクサーの面接を受けたことがあるそう。その時は採用に至らなかったが、「ドリームワークス・アニメーション」のサンフランシスコ郊外のオフィスで7年半の間働いた後、『アーロと少年』の制作スタッフとしてピクサーへの入社が実現。晴れて念願のスタジオでのキャリアをスタートさせた。「“努力すればば報われる”っていう言葉と同じくらい、“努力しても全てが報われるわけではない”っていう言葉を聞くんですけど、どっちも正しいと思うんですよね。でも努力は裏切らない。もし目標にたどり着けなくても、努力したことは自分の血と肉になるし、何をやっても人生損はないんですよね」。脱サラを経て、世界一のアニメーション・スタジオで働く原島さんの言葉には、ずしんとくるものを感じた。観客である私たちにとって、『ファインディング・ドリー』のキャラクターたちの生き生きとした姿の裏に、原島さんをはじめとする夢を叶えたクリエイターたちの表現する喜びがあると思うと、鑑賞後にはまた異なる感動が生まれてくる。これまでも、シネマカフェが実施した現地取材レポートを通して、本作に関わった様々なクリエイターたちの思いを紹介してきたが、本特集を通して、『ファインディング・ドリー』があなたにとって忘れられない作品になってくれることを切に願う。『ファインディング・ドリー』は全国にて公開中。協力:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(text:cinemacafe.net)■関連作品:ファインディング・ドリー(原題)
2016年08月21日夏休み映画の大本命として大ヒットを記録している『ファインディング・ドリー』。これまで、シネマカフェが実施したピクサー・アニメーション・スタジオの現地取材レポートを通して、本作で活躍している数々のクリエイターのインタビューを紹介してきたが、実は本作には、ピクサーで働く日本人のスタッフも制作に関わっている。現地取材レポート第7弾の今回は、本作でキャラクター・テクニカル・ディレクターを務めた小西園子さんのインタビューをお届けする。「ニモにもう一度会いたい!」――前作『ファインディング・ニモ』への参加後も、長らくニモたちとの再会を待ち望んでいたという小西さん。本作で小西さんは、水中に漂うプランクトンや塵を表現するシミュレーションを担当しており、『ファインディング』シリーズの大部分を占める、水の中の世界のリアルな表現に一役買っている。小西さんがテクニカル・ディレクターのアシスタントとしてピクサー・アニメーション・スタジオで働き始めたのは、世界初の長編CGアニメーションとして公開された『トイ・ストーリー』の、まさに制作真っ只中だったという1994年8月のこと。「その時は、ピクサーがソフトウェアの会社だっていうのはわかってたんですけど、アニメーション作品としては短編『ルクソー Jr.』を作っていたのを知っていたぐらいで、『CGで長編作品?』っていう感じでしたよ」と当時を述懐する。その後、セット美術や照明、コマーシャル制作、キャラクター・モデリング、モデリングの関節制御など、様々な仕事を通して『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『Mr. インクレディブル』『メリダとおそろしの森』『インサイド・ヘッド』といった、ほぼすべてのピクサーの長編作品に関わっている。本作の制作にあたって、13年前となる前作の制作時との技術的な変化について尋ねると、「使っている技術はかなり進歩して変わっているんですけど、続編としての世界観を壊さないようしています。前作よりもキャラクターたちの泳ぎは綺麗になったし、表情も豊かになって、水中や水面の表現も、かなり本物のように見えると思いますよ」と、表現力の向上と複雑さを増したという制作過程について語る。これまでの様々なクリエイターのインタビューにおいても、本作で登場する新キャラクター、ハンクのチャレンジングな制作過程について語られてきたが、小西さんも同じくハンクの制作について、「ぬるぬるとしたタコの皮膚感や、吸盤が吸い付いて離れる様子を表現しています。それぞれが早いショットであまり見えないかもしれないですけど、ちゃんとやってるんですよ」と、その大変さとやりがいについて語った。「私たちシミュレーションの仕事は、『気づかなかった』と言われるのが一番いいんです」と話す小西さん。「パイプの中などの狭いシーンでも、きちんと水が流れていることがわかるような表現や、キャラクターの動きに合わせた水の流れを加えたりしながらも、決して画面上がうるさくならないようにしています」。観客である私たちが、キャラクターやストーリーに夢中になることができるのは、あまりに自然すぎて意識することがないほど繊細な表現を担っているシミュレーションという影の立役者のおかげなのだ。年々フォトリアルと呼ばれる本物と見紛うほどアニメーション表現すらも実現しているピクサーだが、『ファインディング・ドリー』の同時上映作品である『ひな鳥の冒険』でも、実写と勘違いしてしまうほどのリアリティが多くの観客を驚かせている。今後のピクサー作品における表現と技術の関係について小西さんは、「デザインやお話によって世界観が変わっていくので、全部がフォトリアルにはならないです」と語る。「『アーロと少年』の時に本当にリアルな世界を作ったんですけど、それがずっと継続するかというと、そうじゃないんですね、全てストーリー次第なので」。これまでのインタビューでも何度か同様の質問を投げかけてきたが、全てのクリエイターがキャラクターとストーリーの重要性についてまず指摘し、あくまで技術はそれを表現するためにあることを共通して語っており、改めてピクサーで働くスタッフが同じ価値観のもとでチームワークを発揮しているのだという事実に驚かされる。世界初の長編CGアニメーション作品である『トイ・ストーリー』に関われたことを、「おそらく人生で一番の経験です」と語る小西さん。ピクサーで働く上での心意気について尋ねると、「仕事のほかにも、自分の趣味とか興味を必ず持っていないと、燃え尽きちゃう人も多いと思います。自分らしさを持っていないと新しいことにも興味が湧かなかったり、与えられた仕事で満足して、そこから先に進めなくなってしまうと思うので」と話す。そんな小西さんは、もともと裁縫やコスチューム作りが趣味のようで、それがそのまま服の質感などを表現するシミュレーションへの興味へとつながっているようだ。ちなみに最近は3Dプリンターに夢中なのだそう。ピクサーがその歴史的な歩みを刻み始めた『トイ・ストーリー』から、20年以上に渡ってクリエイティブに関わり続けている小西さん。同じ日本人であることにどこか誇らしい思いも感じながら、ぜひ劇場で『ファインディング・ドリー』の美しい世界を体感してみて欲しい。『ファインディング・ドリー』は全国にて公開中。次回で最後となる現地取材レポートでは、ピクサーで働くもうひとりの日本人クリエイター・原島朋幸さんのインタビューをお届けする。協力:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(text:cinemacafe.net)■関連作品:ファインディング・ドリー(原題)
2016年08月20日可愛いを求めに、越境北上中。木綿とテディベアに出会えた会津若松を離れ、福島最後の目的地は福島駅から徒歩10分にある施設「チェンバおおまち」の1階にある小さなお店。「女子の暮らしの研究所」では、福島の伝統工芸品を可愛くアレンジした雑貨やアクセサリーを販売している。「ふくしまのかわいい」がぎゅっと凝縮された空間だ。出迎えてくれたのは代表の日塔マキさん、ショップスタッフの大内清加さん、店長の林崎知実さんの3人。まるで家族のように仲が良いスタッフたちからは、春先の太陽のような暖かさと親しみやすさを感じた。支援の網から抜け落ちた世代「女子の暮らしの研究所」の前身は「peach heart」という任意団体。代表の日塔さんを含む5人の女性が震災後に女の子が話し合える場を作ろうと立ち上げた。「女の子たちが自由に話せる場所」が必要だと考えた裏には支援の網から抜け落ちた世代の存在があった。震災後に様々な支援があった中で「19歳以上お母さん未満の女の子」たちに対する支援がすっぽり抜けていたのだ。18歳以下は甲状腺の検査が無料(震災当時)で、子を持つ母親だったら母子避難をはじめ、メンタルケアなどのサポートがあったのだが、19歳以上お母さん未満のこれからお母さんになる世代に対するサポートは手薄だった。現在メインスタッフ、そしてショップの店長として活躍する知実さんは震災当時19歳。実家が原発事故の避難区域となった。暮らしの中で感じる不安を打ち明けられる場所が見つからずに悩んでいたという。「そういうデリケートな不安を抱えた福島の女の子たちが、気負いせずに気持ちを晒け出せる場所があればいいなと思ったんです」任意団体peach heartは女の子のコミュニティ作りや県外への保養ツアーなどを企画。震災直後、放射能の心配からマスクをつけたくても「そんなの気にしているの?」と怪訝に思われ付けにくかったことがあり、可愛いからつけているんだと言えるようなおしゃれなマスクのデザインなどを行った。その後メンバーは各自の道を進み、日塔さんは2012年12月、株式会社GIRLS LIFE LABOを立ち上げ、女子の暮らしの研究所の運営をはじめた。女の子が自分で選択できる社会「若い女性が自分自身の暮らしについて自分なりに考え見直し、ちゃんと選択して生きていけるような社会を作ろうというコンセプトのもと活動を始めました。『女子の暮らしの研究所』という名前にはそんな思いが込められています」震災以前は遊んでばかりだったという日塔さんは「自分から半径5メートルの世界で生きていた」と震災以前の自分について語ってくれた。震災が起こったのは日塔さんが27歳の時。当時は県内のイベント制作会社に勤務していた。震災・原発事故後、日塔さんの考えは180度変わったと言う。「原発が爆発した時に国や偉い人たちを責めたけど、あるとき19歳の子に『私って見捨てられたんですかね』と言われて、はっとしたんです。18歳まではサポートがあるのに、彼女たちにはケアがなかった。でも彼女たちは選挙権がない。自分たちで選んだ結果ではなく、大人たちが選んで出来た社会で子どもたちが犠牲になっている事実に直面したとき、なんてことをしてしまったんだろうと後悔しました。そこから、自分の身内だけではなく社会全体のことも考え、意識を持って社会に参加していこうと決めたんです」自分たちの投げやりな選択で未来を潰してはいけない。自ら考えて選択できる権利があるのだからしっかりと選んでいこう。そうやって一緒に福島、日本の未来を考えていく仲間が増えればいいな、と日塔さんは優しい口調で語った。立ち上げ当初から始めたラジオ番組も好評だ。毎週火曜日の午後9時から1時間、郡山コミュニティ放送「KOCOラジ79.1MHz」で「LABOLABO♡ラジオ」を放送中。毎月設けられたテーマに沿って研究員がゲストを交えてゆるくトークしていく。恋バナといったガールズトークの一方、選挙の時には政治に関する話もする。「自分たちで選択して生きていこう。というコンセプトなので、若い女の子たちと一緒に社会のことを考えていけたら嬉しいなって。県知事選の時には立候補予定者の方を呼んで話を聞いたりしています」「わたしたちの声に耳を傾けて」木綿とシルクのピアス彼女たちは福島の伝統工芸品を使用したアクセサリーを製作・販売している。FUKUiro Pierce(ふくいろピアス)と名付けられたピアスは、会津木綿をアクリルで挟んだおはじきのような小さなピアスとイヤリング。金属アレルギーの人でも付けられるようにとキャッチは樹脂でできている。使用している会津木綿はあいくーにも使用されていた山田木綿と原山木綿のもの。福島の素材を使ってものづくりをしようと考えていた会社設立当初、会津木綿を使ってストールを作るIIE(イー)の代表、谷津さんの会社に訪れたのが会津木綿と出会ったきっかけだという。「よく見るとめちゃくちゃ可愛い!って気づいてしまって。色も渋いものだけではなくて、女子が好きそうな淡い色彩もあるんですよ」早速これで何を作ろうかというときに、「私たちの声に耳を傾けてください」という意味を込めて耳につけるアクセサリーにしようと決めた。こうして会津木綿を使用した「ふくいろピアス」が誕生した。自然にちなんだ8色で展開されるシリーズには「8つのいろのはなし」というストーリーが込められている。震災直後の女の子たちの率直な気持ちをガールズボイスとして商品それぞれに託した。外で遊ぶのが不安だったり、庭で採れた野菜を食べるのが怖かったり、福島にいる人なら感じたことがあるかもしれない気持ちは、県をまたいでしまえば伝わらなかった。こうした現実と不安の声に耳を傾けてもらいたい。「聞いて!」と押し付けるようにただ主張するのではなく、単純に可愛いと手に取ったことがきっかけで、この声を聞いてもらいたいのだ。「かわいいがキーワード。たくさんのひとに届くように、いかにポップにするかを大切にしています」第一弾の会津木綿のピアス、第二弾の会津漆のヘアアクセサリーに続き第三弾としてジュエリーラインをスタート。「HITOTOKI -kasumi-」は世界中のラグジュアリーブランドからもラブコールが絶えない福島県・川俣町の老舗「齋栄織物」が作るシルク「フェアリーフェザー」を使用している。1本1本の糸が髪の毛の6分の1の細さという世界一薄いシルクを透き通る水晶の中に閉じ込めた。霧をイメージしたというHITOTOKI -kasumi- は、極薄のシルクが光を通すため、水晶の輝き吸い込むかのように布と肌を輝かせる。縦糸と横糸は先染めした違う色の糸を作っているため、見る方向によって色が変わる不思議なジュエリーだ。女子の共感力「わかる〜!」は最強女子の暮らしの研究所が期待しているのは女の子が持つ “共感力” 。女子の会話でよく出てくる「かわい〜!」「わかる〜!」は棒読みの相槌だと感じるかもしれないが、実は無意識のうちに出ている「いいね!」という共感なのだ。共感はそのまま発信の原動力へとつながっていく。現在30名弱の研究員が在籍。福島出身者から他県出身で福島在住の女の子、学生や社会人、ママさんなど様々な個性が集まった。ファッションの好みも性格もみんなバラバラだそう。「様々なタイプの女の子が集まってお互いを認め合えるようなコミュニティです。それぞれがパワーアップしたり、自信を取り戻したりする場所になってほしい。まだまだ研究員募集中です!」個人が生まれ持った魅力を活かしのびのびと活動できるコミュニティが、福島女子たちの心の支えになっている。これは福島に限ったことではないが、自分以外の誰かに些細なことでも相談できる環境はあまりにも希少だ。「自分の悩みなんて小さなもので、言ったとしても認められないんじゃないかって不安が若い子たちにはあると思うんですけど、それを解消できるのが女子の暮らしの研究所です。真面目な話もしょうもない話もできる仲間がここにはいて、彼女たちがいるから自分に自信が持てた。自分のことも大切にしよう、健やかに生きようって思うようになりました」若干24歳ながら店を率いる店長の知実さんは自身も“じょしくら”に救われた福島の女の子の一人。福島ということがコンプレックスになってしまう子もいる中、地元の名産品や伝統工芸など、「ふくしまのかわいい」を届けることで地元である福島に対して自信を持ってほしいという。現在お店が入っているスペースは1年間限定の出店。間も無く、念願の常設店がオープンする。1階はショップ、2階はイベントを行えるようなコミュニティスペースにするそう。かわいいが持つ魔法、選択する勇気、女子たちの原動力、手仕事の尊さ、女性の多様な生き方。ここで学べることは一人一人違うはずだ。個性豊かな糸が織られることで丈夫な木綿になっていくように、空気のように軽やかなシルクが輝く色を変えるように、彼女たちそれぞれが糸となり「ふくしまのかわいい」を編みだすことで、日本中に輝きを届けようとしている。女子の暮らしの研究所さまざまアプローチで「これからの暮らし方」を考えるふくしまの女の子のためのコミュニティ。研究員として所属する女の子たちが商品開発やツアーガイド、イベントなどを企画・運営し、ふくしまの魅力と今を発信している。HP / Facebook / Twitter / Online ShopText. Azu Satoh
2016年08月19日川原和音のベストセラー少女コミックを実写化した『青空エール』で、いまをときめく若手俳優2人が共演。直接の共演シーンは数箇所のみ、役柄同士の関係はちょっと微妙!?それでも、竹内涼真と葉山奨之の間には得難い絆が生まれたという。『青空エール』の物語は、主人公・小野つばさ(土屋太鳳)が高校の吹奏楽部に入部するところから。初心者ながらも自分のトランペット演奏で野球部にエールを送りたい。そんな夢を抱くつばさは、甲子園を目指す野球部員・山田大介と互いを励まし合う関係になる。その大介を演じる竹内さんは、彼のことをこう分析する。「真っ直ぐで、びっくりするほど優しい。意識せず、自然と人に優しくできちゃう人なんです。ちょっと天然で不器用でもあるけど、それが周りの目には優しさに映る。いそうでいない男の子かなと思います」。一方、葉山さんが演じるのは、本人いわく「クールなトランペットの天才」。名門吹奏楽部のエース、水島亜希は、初心者のつばさにつらくあたりつつも厳しさで導いていく。「つばさと水島は、3年間を経て同志になる。“何だコイツ?って最初は思いました”と皆さんによく言われるんですけど、彼も成長するし、弱い面も見せ始める。そういった部分に共感してもらえればいいなと思いました」。かたや野球部、かたや吹奏楽部。つばさを挟んで顔見知り程度の役柄の2人だが、「面白い関係性の2人なんですよね。お互いに嫉妬しているところもあるのかなって」と葉山さん。竹内さんも、その意見に頷く。「嫌いじゃないけど、全く違うタイプ。でも、お互いのことが気になっているし、ちょっと知りたい気持ちもあるんでしょうね。自分にないものを持っている相手だから。2人とも熱いし、考え方は一緒だったりもするんですけどね」。そんな大介と水島が顔を合わせるシーンでは、「普段の僕たちはすごく仲がいいのに、そのときだけは自然と微妙な距離感になっていました(笑)」と口を揃える2人。ちなみに、竹内さんは「カットがかかった後もちょっとだけ役を引きずる」、葉山さんは「カットがかかったらすぐ自分に戻る」タイプだそうで、役に対するそれぞれのスタンスや普段の関係性からの変化すらも楽しんでいたようだ。役同士の関係性と普段の彼らがいかに異なるか。それは、次の発言が教えてくれる。「撮影が終わってからも、涼真くんとは毎日というくらい連絡を取り合っています。いないと寂しい(笑)。好き度がどんどん増していますし、いまや涼真くんのスケジュールは彼のマネージャーさんよりも把握している自信があります!“涼真くんのスケジュールが空いていたら、ご飯に誘おうっと”って日々考えているので」(葉山さん)。「僕の方が年齢は上ですけど、精神年齢は一緒。性格も結構似ていて、“分かる、分かる”っていう部分が多いんです。要するに、両想いですね」(竹内さん)。ということは、つばさと大介以上にストレートな両想い?こう訊くと、「あっ、そうですね。僕たちは遠回りしないですから!話が早いです(笑)」と竹内さん。葉山さんも劇中のつばさの台詞を引用しつつ、「“好きって言ったら困る?”なんて思わないですもん。好き!好き!ってすぐ言っちゃいます」と笑う。とは言え、やがて惹かれ合いつつも、互いの胸に飛び込めないつばさと大介のもどかしい恋模様はもちろん理解できるもの。「野球を純粋に愛している高校生の男の子だからこそ、大介はつばさの告白を断っちゃうんです」と竹内さんが説明する。「それに、冷静に考えると、あれは告白のタイミングが本当によくなかった(笑)。大介は自分が慕っている先輩の代わりに試合に出て、ミスをしてしまう。それによって甲子園に出られず、先輩の高校3年間を終わらせてしまったわけで、あんな状況で野球も好きな女の子も背負うなんてできないですよね。まだ高校1年生で、器も小さいでしょうし」。では、竹内さん、23歳が大介の状況に置かれたとしたら、「普通に付き合うと思います。彼女の存在もモチベーションにすればいいだろうし」。葉山さん、20歳も「“好きになったら困る?”って、困らないよね!“ハイ!”となる(笑)」と同意。ただし、はたと我に返り、「困ってしまう純粋さが大介にはあるんだけど。僕たちはもう純粋じゃないのかな…」と顔を見合わせもするのだが。恋心あり、情熱ありの青春模様に触れ、自身の高校時代もよみがえったという2人。「高校時代って熱いのがこっぱずかしくなる時期でもありますけど、『青空エール』がそんな気持ちを取り払ってくれる」(竹内さん)、「僕は部活をやっていなかったので、やっておけばよかったなって後悔しました」(葉山さん)と口々に語る彼らが、いまの自分に“エール”を送るとしたら?最後となるこの問いに、2人とも表情をキリリと引き締めた。「“がむしゃらに頑張れ!”と言いたいですね。これだけ若手の俳優さんがいて、みんなライバルというよりは仲間だけど、でもどこかで(ライバルだと)意識している部分もありますし、その中で天狗にならず感謝を忘れずがむしゃらにいきたいです」(葉山さん)。「常にイメージを高く持って、あとはそこに向かうだけ。過ぎたことは気にせずポジティブに。ただ、意識を高く持つのと過信するのは紙一重だったりもするから、自信を持ちつつ、けれども過信せず。難しいけど、そんな自分でありたいです」(竹内さん)。(text:Hikaru Watanabe/photo:Nahoko Suzuki)
2016年08月18日“葉っぱのあんちゃん”が帰って来る!ドラマ「とと姉ちゃん」第10週で、ヒロイン・常子にプロポーズするが断られて大阪へと旅立ち、画面から姿を消した坂口健太郎演じる星野武蔵。それにより“武蔵ロス”に陥る女性ファンを世にあふれさせた彼だが、ついに第20週から復帰する。2人の子どもを連れて…。意外にも父親となってカムバックすることとなった坂口さんが、その胸中を語った。亡くなった“とと(父親)”に代わって2人の妹と母を守りながら、戦後一世を風靡することになる雑誌「あなたの暮し」を創刊した小橋常子(高畑充希)の激動の人生を描いた本作前半で、常子に想いを寄せる植物学者を目指す帝大生の星野を演じた坂口さん。約3か月ぶりに現場に戻った坂口さんは、「第10週でいなくなった時は再登場の仕方がわからなかったけど、時代背景から戦争に行くのかな…となんとなく思っていました」と吐露。そのため、徴兵から戻ってきたという経緯はさして驚かなかったものの、妻に先立たれ、2人の子どもがいることについては「想像していなかったです」と目を丸くする。そのうえで、「こんな過去を持つ状態で常子と再会するのはドラマチック。普通のまま再会しても何もなく終わると思うから…」と星野のキャラクター設定に感心した。また、年齢も40歳になり、「以前は“葉っぱのあんちゃん”として好きなことにまい進していれば良かったけど、いまはカメラが回っていない時でも周囲に意識がいくようになりました」と役に引っ張られて自身も成長したことを報告する。しかし、星野特有の母性本能をくすぐるオドオドした可愛らしいしゃべり方は健在だそうで、「要所要所に慌てっぷりみたいなものは出ています。大人になっても昔の星野を感じてほしい思いはあるので、常子さんと話しているところで出てきます」と断言し、期待をあおった。本格的な父親役は今回が初めての坂口さんは、「僕と常子と子ども2人を交えた4人のシーンは本当の家族のようで違和感がありません。何も知らない人からすると普通の家族に見えると思う」と父としての側面にも自信をのぞかせる。そうなったのは撮影外での交流のおかげで、当初、自分から子どもたちと仲良くなることを目標に掲げるが、「2人の方から、わりとガツガツ、アグレッシブに来てくれたので、簡単に親子の色に染まれました」と述懐。そして、「想像の域を出ないですけど、親としてお芝居をしていることはすごく楽しいです。子どもたちに教えてもらうことが多かったり、子どもに対する目線になったりもするし、面白い感覚ですね」と笑みをこぼす。とはいえ、まだ25歳の坂口さんは「親になることに憧れる歳ではないですね」と打ち明けると、「子どもたちと接していても、実際に自分に子どもができた時に、どんな父親になるかはわからないです…」と首をかしげる場面もあった。互いに様々な経験を通して大人になった星野と常子。そんな2人に対して、「いやぁ、結ばれていいんじゃないかなと思いますよね(笑)」と本音を漏らす坂口さん。さらに、「もう2度と会うことはないと思っていた初恋の人との再会ですからね。視聴者が見入って学校や会社に遅れるくらいのシーンを作らないと」と常子とのロマンスに気合も込めると、「遅刻してください!」と笑顔で呼びかけ。いよいよ始まる星野武蔵待望の第2章で恋のリベンジなるか!?坂口さんが奮闘した父親ぶりと併せて、その成り行きに注目してもらいたい。(text : Rena Nishiki)
2016年08月14日「もし実写映画を作る場合なら、この部屋を描くときに、テーブルや椅子などについて考える必要もありません。それらのものはここにあって、ただ撮影すればいいわけです。でも、僕らがアニメーションを作るときには、すべてをデザインして、材料を自分で用意しないといけません。もしそれをやらなければ、全てのものはそこにはないわけです」。海の中の生き物たちの活躍を描いた『ファインディング・ニモ』の待望の続編として公開中の『ファインディング・ドリー』で、セット・アートディレクターを担当したドナ・シャンクがそう語るように、アニメーションの世界では、キャラクターたちが生活を営む世界そのものを生み出さなくてはいけない。これまでに、様々な人気キャラクターを生み出してきたディズニー/ピクサーだが、それらが生き生きとストーリーの中で動き回る姿に私たち観客が夢中になれるのは、美しくデザインされた背景やセットの存在があってのことなのだ。シネマカフェが実施した現地取材レポート第5弾では、『ファインディング・ドリー』の舞台のデザインに関わった2人のアーティストのインタビューをお届けする。本作で、映画の中の世界の撮影セット及び周辺環境を開発していくセット・アートディレクターを務めたドン・シャンクは、TVアニメの製作を経て、フリーランスのアーティストして長編作品『モンスターズ・インク』『Mr.インクレディブル』のデザイン開発に携わり、その後2004年よりピクサーに所属。引き続きデザイン開発班のアーティスト及びアートディレクターなどを務め、アカデミー賞受賞作『カールじいさんの空飛ぶ家』及び『インサイド・ヘッド』ではセットを担当した。シェーディング・リードを担当したロナ・リューは、2011年に美術部門におけるスケッチ&シェーディングアーティストとしてピクサー・アニメーション・スタジオでのキャリアをスタート。『アーロと少年』や『ファインディング・ドリー』などの作品に関わり、主にキャラクターや風景、小道具の色付けやテクスチャーのデザインを担当した。10歳の時にカリフォルニアに引っ越してきたという中国生まれのロナは、小さい頃からディズニー映画のファンだったという。「これから、『ファインディング・ドリー』の世界をデザインすることについて少しお話ししましょう」と、まずはドンがプレゼンテーションを始める。彼の仕事は、リサーチを元にコンセプトアートを描き、それを物語とカメラワークに合わせて洗練させていくことだ。前回ミズダコのキャラクター、ハンクが生まれる過程をご紹介したが、今回のセット作成においても同様に、制作のはじめには緻密なリサーチが実施されたという。「僕らがリサーチ旅行に行ったとき、何千という写真を撮りました。特定の場所にだけにある、独自の、本物のディテールを、出来るだけ集めようとしたからです」。ここでも、モントレーベイ水族館の協力のもと、ケルプの森や人工水槽など様々な写真や映像素材を用意したという。スクリーンに映し出された美しいケルプの森の写真を眺めながらドンは話す。「ほとんど抽象画のようですね」。その後、それらのリサーチをもとに、コンセプト画が作成される。本作のように規模の大きい作品の場合は、いくつかの分野に分けた制作が行なわれるようで、今回は、マーリンやニモたちが暮らすサンゴ礁をはじめ、魚たちにとって恐ろしいところでもある外洋の空間、ドリーたちが冒険していく中で訪れるケルプ(海藻)の森、そしてドリーがハンクと出会うことになる海洋生物研究所の4つにカテゴライズされて制作が進められた。取材陣が眺めるスクリーンには、プロダクション・デザイナーが作成したそれらの場面を描いた美しいグラフィックが映し出された。それらのグラフィック画を元に、アーティストたちは「モデル・パケット」と呼ばれる、作品の中での舞台セットを作成する。コンピュータを使って繰り返し同じ背景が使われたような仕上がりにならないためには、一つのセットに対して、様々なバリエーションが作成されるのだ。「僕らは、ただどういうふうに見えるものになるかとか、それらをどのように作るかとか、どんな色にするかということを考えるだけじゃなくて、映画全体における、アーティスティックな影響を考えるということです」。そうドンが語るように、ディズニー/ピクサーでは、その空間を生きるキャラクターたちとの感情的な結びつきや、実際にストーリーの展開によってセットに変化を加えるという。「たとえば、ドリーがケルプの森で、水面に向かっていくとき、近づいていくにつれて、もっと希望に満ちてくるように感じたいわけです。多分、彼女は、彼女の疑問に対する答えを見つけようとしているんだ、とね」。さらに、アーティストたちは様々なディテールを描くことにも決して手を抜かない。海洋生物研究所にける非常口のサインや、排水溝、天井、さらには、キャラクターの視点から見た世界など、ありとあらゆる細部にまで注意を払っていく。「たとえば、ここで働いている人々は、あの小さなフックに、ホースをかけたりします。そういう小さなディテールを探しているんです。出来る限りこういったアイディアをたくさん集めて、信ぴょう性があって、生き生きと感じさせるようにします」。次に、「コンテクスト・ペインティング」と呼ばれる行程で、デザインするセットの具体的な長さや高さ、幅など、機能的なデザインについて監督や撮影監督らとの話し合いが行われた後に、具体的に映画のシーンの中でどのようにその場面が見えるのかが描かれていく。また、ここで照明が与えるセットへの影響や、描かれるセットの素材がどのように見えるかなどについても議論が交わされる。ディズニー/ピクサーの映画で描かれる舞台は、ワンシーンの中で、キャラクターたちが動き回る背景として必要な分だけが描かれるだけではなく、監督の要請や新たなアイディアに対応するために、そこに実際にカメラを入れて、どんなカットが撮れるかがシミュレートすることができるように、リアルな空間的な広がりのある舞台として描かれていくのだ。さらに、ドンに続きロナから「カラー・スクリプト」についての説明が行われた。あらゆるデザインに対して一旦監督の承認が下されると、ロナたちシェーディングのスタッフによって、デザインされたセットに色や質感が加えられていく。「カラー・スクリプトの主な目的は、そのシーンのムードを確立することです。そのために、照明はどんな色で、どこに照明が置かれているのか、その照明の強さはどれくらいか、という情報をデザインしていきます」。その後、粘土で図形を作るクレー・スカルプチャーが舞台模型を作成し、それをもとにコンピュータ上で3Dモデラーが作成され、そこにペインティングが施されていくという。そこでも、ストーリーの中を生きるキャラクターたちとの感情的な結びつきを忘れないのが、ディズニー/ピクサーのクリエイションだ。「キャラクターたちは生命に満ち溢れているので、環境も生きているというように感じてもらいたいんです。だから、光が通ったり、カメラがパンする時、これらのキラリとした輝いた金色のものが見える。このエリアに命を吹き込むためです」。「多分、スクリーン上にこの部屋自体が出てくるのは3秒だけだと思います」。仕上げられたセットの画像が映し出された画面を眺めながら、ドンは話す。「でも、もし映画の中のすべての部分のために、これらの作業を全部やらなければ、ストーリーから気持ちがそがれたりするんです。そういうことは出来ません」。たった数秒しか出番がないセットだったとしても、決して手を抜くことがないその姿勢を、なんてことないように語るドンとロナの姿には、なんとも眩しい思いがした。「ここでやっているすべてのことは、常にストーリーをサポートするということです」。これまでの現地取材レポートでも、ディズニー/ピクサーの最先端の技術によるクリエイションの行程を見てきたが、それらがある種の技術的なプレゼンテーションに終始してしまう描写になることを、ディズニー/ピクサーは徹底して否定し続けている。あくまでそこにはストーリーとキャラクターがあり、それらにいかに生命を与えるかということ、それがアニメーションスタジオとしての彼・彼女たちの至上命題なのだ。それが見失われることは決してない。「そこでキャラクターが何をしていて、それがセットにどのように影響しているかということを考えるんです。僕らはいつもストーリーについて考えています。すべてが関連していますからね」。『ファインディング・ドリー』で描かれるあらゆる世界は、一見してとにかく美しいものばかりだ。海の中に漂う細かな塵や、海底に差し込む光の揺らめき、さらに海洋生物研究所内の精緻な描写に至るまで、それらはあくまでストーリーの裏側の役目を果たしながらも、ふとした時に私たちの目を奪うほどの存在感をも発揮している。魅力的なキャラクターに感動的なストーリーはもちろんだが、それらを包み込むセットにも、ぜひ注目してみて欲しい。ディズニー/ピクサーが描きたい美しさが、そこには感じられるはずだ。『ファインディング・ドリー』は、全国にて公開中。協力:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(text:cinemacafe.net)■関連作品:ファインディング・ドリー(原題)
2016年08月13日モラハラ夫図鑑
体調悪い詐欺夫
義父母がシンドイんです!