新型コロナウイルス対策として、3密の「密閉」「密集」「密着」を徹底的に避けよという今日この頃。肉体接触を控え、抱きしめることやキスすることはもちろん、握手もNG。スーパーのインターネット宅配も対面せずに受け取りができるサービスが開始されました。けれども私たちは心を落ち着けたり、幸福を感じるためには触れ合いが欠かせない生き物というのは多くの心理学者が明かすところです。ではどうすれば? アイスランド林野局が提案したその画期的な解決策と、その科学的根拠についてレポートします。文・土居彩【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 33仕事はリモートワークが推奨され、名古屋の有名老舗居酒屋ではテイクアウトサービスが始まり、人気を博しているとか。都内でもスーパーに向かう10分間に、今まで見たことの無かったUberEatsの自転車便を3台見かけました。一人蕎麦をゆがいて家ですすれば、たまたま隣接した見知らぬ客と談笑したあの日が遠い過去のように感じられます。新型コロナウイルスの感染予防対策として、人との物理的な距離をとること(ソーシャル・ディスタンシング)が推奨されていますが、人間同士が離れて過ごすことによるストレスもまた問題視されています。有名な心理学者ハーロウの実験でも、赤ちゃん猿はミルクを与えてくれる針金で作られたサルのおもちゃよりも、温もりを与えてくれる柔らかい毛布で作られたサルのおもちゃにしがみつくように、長い時間を一緒に過ごしたといいます(1)。私たちにはやはり触れ合いが必要なのです。しかし今は自分の健康を守ることと同じかそれ以上に、他の人にうつさず、他の人を守ることが大切な時期です。そこで社会的ひきこもりが招く不安や苛立ちを癒すための対策として、アイスランド林野局(The Icelandic Forestry Service)が提案したのが、人の代わりに木を抱きしめるという方法(2)。東アイスランドに位置するハットルオルムススターザスコゥガルは、アイスランドで一番大きい森林面積を有する、85種類の樹種に恵まれた美しい国立公園です。そこの森林警備隊の一人、フォール・フォルフィンソンさんはストレスフルなこの時期を、木を抱きしめることで乗り切ろうとオススメしています。フォールさん 5分もあれば大変良いですよ。もし1日に5分間でも木を抱きしめることができるなら、十分です。抱きしめている間は、目をつぶってください。私の場合は幹に頬を寄せ、木の温かさとそこから流れてくるものを感じるようにしています。とてもリラックスした気持ちで、1日をスタートできますよ。だまされたと思って試してみてください。本当にそう感じられますから。確かに神社などに行って大きく立派な木があると、その神々しさにあやかりたいと、思わずその幹を抱擁したくなります。日本では森林浴という言葉がありますが、科学的にも自然から心と体に無数の利が得られるとされています。例えば48名の日本人男性を治験者とした、木々によるストレス軽減効果を立証した実験があります。彼らは二日間、森林もしくは街なかで1日12-15分程度の散歩をしました。その結果、森林の中で歩いた人たちのほうが心拍数は低く、心拍変動数は高く(*心拍変動数の高さはリラックス度の高さとストレス度の低さを示す)、アンケートの結果でもより多くの気分の良さと不安の少なさを申告されました(3)。とはいえ感染拡大防止のためにGW中も遠出は避け、家で過ごすようにと言われています。家の窓から緑を臨む環境に無く、近隣にゆったり過ごせるような神社や公園、木々や緑がない場合はどうしたらいいでしょう? その不安に対し、自然の動画を見ることでも心と体のストレス効果があるという研究結果があります。研究では治験者が幸せな気分になれる1分間の動画か、壮大な自然の1分間の動画を観ました。壮大な自然の動画を観て自然の美しさに気づき、畏怖の念を感じた人はそうでない人に比べて、より免疫機能に関連のあるバイオマーカーであるIL-6の値が低く、このことは心臓疾患、うつ病、自己免疫疾患にかかる可能性の軽減に働くとされています(4)。ところでこの新型コロナウイルスが蔓延する前には、16歳の環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが気候変動に対する大人たちの認識の甘さを、胸を打つスピーチで訴えました。ローマ法王はこのウイルスを、「環境危機に対する自然の反応」の一例だと警鐘を鳴らしましたが(5)、確かにパンデミック以降、各国が経済活動を抑制した結果としてNASAや欧州宇宙機関(ESA)の衛星画像では、二酸化窒素の排出量が激減されていることが確認できます(6)。この機会に改めて自然を目にし、触れて、その力を感じ、新型ウイルスによる不安を癒されながら、これからの自然との共生について改めて見つめ直してみませんか。土居彩©福元卓也(Botanic Green)編集者。東京の薪割り暮らしをイラストとともに綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤務し、anan編集部に所属。退職後に渡米しカリフォルニア大学バークレー校心理学部ダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。その後2年間のハウスフリー生活を行って、ウパヤ禅センターやタサハラ禅センター、エサレン研究所などのスピリチュアルセンターで暮らす。現在は帰国し、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。参考1. Harlow, H.F. (1959). Love in infant monkeys. Scientific American, 200, 68-86.2. Lee et.al. (2014). Influence of Forest Therapy on Cardiovascular Relaxation in Young Adults. Hindawi Publishing Corporation Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. Melanie Rudd, Kathleen D. Vohs, and Jennifer Aaker. (2011) ,”Awe Expands People’S Perception of Time, Alters Decision Making, and Enhances Well-Being”, in NA – Advances in Consumer Research Volume 39, eds. Rohini Ahluwalia, Tanya L. Chartrand, and Rebecca K. Ratner, Duluth, MN : Association for Consumer Research, Pages: 262-263.5.
2020年04月22日非常事態宣言のなか、庭のウグイスはひたむきに鳴き続けた結果、少しずつ美しい鳴き声を奏でられるようになりました。一方耳や目にする新型コロナウイルス情報で、心穏やかであることは難しいです。信頼できる情報を定め、優しさや思いやりを保つにはどうしたら良いのでしょう。ビル・ゲイツ氏や『サピエンス全史』のユヴァル・ハラリ氏を始めとする世界の有識者たちは事態をどう捉え、今私たちに何ができるというのでしょうか。彼らはこのウイルスに立ち向かうためには、自分を守ることと同じかそれ以上に、他の人にうつさず、他の人を守ること。一致団結することが大切だと言います。では明日の不安を抱えながら、信頼しあって協力出来るような心をどう育んでいけばいいのでしょうか。今回は彼らの意見のまとめと、世界的スピリチュアルリーダーたちが強調する「今に在る」という心、全ては変化し続けるという不変の真理についてご紹介します。文・土居彩【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 32ビル・ゲイツ氏は自身のブログ「ゲイツの覚え書き(Gates Notes)」で、新型コロナウイルス対策として、アメリカの政治指導者たちがとるべき3つのステップを提案しました(1)。簡単にまとめると以下です。日本だったら、とみなさんはどう思われますか?1. 全国的な封鎖措置一貫して全国封鎖しなければ州をまたいだ移動が出来るために、感染を完全に防止することはできない。その期間はアメリカだと、全土で感染者が減少し始めるまで(10週間程度〜)。2. 感染テストの強化検査を増やして、医療従事者、症状の強い人、潜在的リスクの高い人の順に実施。検査による感染拡大を防止するため、自分でサンプルを採取できる検査キット(self-swab)などを利用する。ちなみにニューヨーク州はテスト量を1日あたり25,000超に拡大(4/2執筆時時点)。3. 治療法とワクチンの噂やパニック買いを煽らない治療法やワクチンの開発はデータに基づいて行う。また政治指導者は薬のパニック買いを控えさせること。アメリカではヒドロキシクロロキンという薬が、新型コロナの緊急治療薬として承認される前に買い占められてしまい、必要な別の病気の患者の手に行き渡らなくなる事態が起きた。私たちが正しく対処すれば、見込み18か月先よりも早くワクチンが手に入る可能性もある。またワクチンが供給されるまで、家々が密集するインドのスラム街やサハラ以南のアフリカで暮らす人々はより大きなリスクに晒されていることを忘れてはいけない。ゲイツ氏は、今なにを決断するかが新型コロナウイルスの成り行きを左右すると、適切なステップを提案しました。コロナの嵐が去った数年先にも今決断したことがその後の私たちの未来になるというのがベストセラー本『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏です。個人情報の開示やそれを政府がどう取り扱うか、多国間との協働の有無など、私たちが今決めたことが未来を定めると言います。彼が寄稿したFinancial Timesの記事は大変読み応えがあり、日本語訳も出ているのでぜひ全文を読んでいただきたいです(2)。ハラリ氏は、この事態は世界規模で協力し合わないといけないと強調しています。ケンカし合っていた国もこれを機に協力し合って、体験して学んだことを情報提供する。そして他の国からの助言を謙虚に求めるべきと。また感染例の少ない豊かな国は感染者が多発する貧しい国に機器や物資を進んで送ること。これは人道的な意味だけではなく、経済やサプライチェーンがグローバル化する今、経済的にも重要なことなのだとか。ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授もYOSHIKIさんとのYouTube対談のなかで、私たちが諸外国と共通の敵であるコロナをきっかけにいかに協働できるかも対策の鍵を握るとお話されています。そこではスペイン風邪から100年経った今、新型ウイルスに人類の賢明さを試されているのではと(3)。有識者たちは口を揃えてこの未曾有の出来事の解決には、「私」や「私の国」という、「私」という垣根を超えた、より大きな視点が必要になると助言します。そうでなければ、取り返しのつかない悲劇になると。明日の生活、私、家族、会社を守ることすらままならない瀬戸際で、経済的な損失や、健康情報などを政府に開示すること、ときに自国第一ではなく他国を優先するという選択は痛みを伴います。心が縮こまって、買い占めたい欲求も起こります。けれどもやはり私たちは世界の有識者たちが口を揃えるように、社会をパニックにしないために、垣根を超えて団結していく必要があります。でも家にこもって目にするのは不安になる情報がいっぱい。そんななかで一致団結の心をどう育めばいいのでしょう。全体の公益が求めるなかで、とはいえ個人のそれが踏みにじられてはいけません。他の人への思いやりと柔らかい心をどうやったら両立できるでしょうか。そこでは物事の本質を深く見る、マインドフルネスの実践が大きく役立ちます。これは、すべての存在がお互いにつながり合っているそして変わらないものは何もないという真理を実感させてくれるものです。セールスフォース・ドットコムCEOのマーク・ベニオフ氏は、YOSHIKIさんと山中教授が出会ったきっかけを作った人物です。マーク氏は熱心な瞑想の実践者であり、欧米を中心にマインドフルネスを広めるティク・ナット・ハン師(タイ)についてその学びを深めてきました。私はタイのもとで出家奉公するシスター・チャイに紹介してもらい、彼に『BRUTUS』誌で一度「ビジネスの世界で慈悲の心を広げるとは」をテーマにコメントをいただいたこともあります。タイは自分を知り、生きる強さを育むためには、マインドフルネスの実践が不可欠だとしました。それは「今ここに在る」ことです。言い換えれば、最悪の状況の中の自分も直視すること。私が初めてそれを彼に学んだのは2012年のゴールデンウィーク、韓国の観音信仰の聖地 百潭寺(ペクダムサ)で開かれた彼のマインドフルネス合宿に600人の韓国人参加者たちと参加したときでした。それは日本では東日本大震災、そして個人的には離婚した翌年のことでした。拠りどころのない心を大丈夫だと言い聞かせながら、「本当は不安で辛い」と感じていました。でも一度それに耳を傾けてしまうと後には引き返せなくなりそうで、毎日を忙しくすることでやり過ごしていました。でも600人規模の合宿の中では、外部の刺激が閉ざされ、自分の内側に向かわざるを得なくなりました。食べるときは黙って食べることだけに集中する。山道では大地を踏みしめながらみんなで歩く瞑想をし、森の中でブラザー(僧侶)とシスター(尼僧)が奏でる「G線上のアリア」に耳を傾ける。輪になって今の自分の思いを話し合う。聞く人は心を込めて耳を傾け、それに対して意見や判断、助言はせず、ただ安全に話せる場所を作ることに集中する。そしてタイの法話をみんなで聞いて坐禅。メールも電話も無し。無駄な私語も無し。自分でも驚くほど、ずっと泣いていた5日間でした。このときに私は初めて、見たくない本音を受け止めました。それは他の人への怒りと、自分自身への怒りでした。マインドフルネスで見てこなかったことが浮き彫りになって、その暗闇から救ってくれたのはタイが教えてくれた空(くう)という考えでした。彼はその難解で堅苦しいイメージの仏教の考えを、私たちになじみやすく、詩的に美しく説明されました。「美しい海があって、その水が雲になります。その雲が雨になって、木になります。木は紙になって、やがて本になり、詩や物語になります。ですから、詩や物語は海であり、それが書かれた紙に私は雲を見ます。空は詩であり、詩は空なのです。私たちは全てこのように、私たち以外のものからできています。ですからあなたがご自分のことを愛せない、憎むというのなら、あなたは空や虹や鳥、そして私や仏のことを憎むということです。他の誰かを憎むというのも、あなた自身を憎むということです」。あるとき別の機会にジャーナリストが、キャベツ畑で精を出していたタイに「畑仕事をする時間を使って、詩や作品をもっと生み出されたほうが有効ではありませんか? それがあなたの天命なのではありませんか?」と言ったそうです。それに対してタイは、「キャベツを育てなければ、私は詩を完成させることができません」とお答えになったそうです。私たちが頭の中で「海」「雨」「キャベツ」「詩」「あなた」「私」と区別して、優劣をつけているあらゆる存在とは自分が捉えた解釈の産物にすぎない。その真の姿とは無常であり、相互に存在し合うもの、そこに隔たりは無い。今ここに心を傾けて、肉体感覚を通じたライブ体験をしていくことで、自分の(世間の、他人の)物差しを超えて、このように物事をあるがままに認識する練習をしようというのが、このマインドフルネス合宿でした。彼自身もマインドフルネスに救われた一人です。タイはベトナム戦争を止めようと僧侶として平和社会活動をしてきましたが、仲間たちは投獄されたり、殺されたり、プロテストの一環として焼身自殺したり。大変心を痛めた彼は重度のうつ病を患います。世界中の名医たちの尽力も及びません。最終的に彼は足裏の感覚に集中し、一歩一歩大地を「今」「ここ」「今」「ここ」と踏みしめ続けることで、うつ病を完治させました。平和のための行進とは、平和な心で歩くことでのみ始まる。変容を起こすのは何をするかではなく、どう在るかなのだと、彼はマインドフルネスをたくさんの人と実践しようと決めたのです。精神世界の世界的指導者たちも同様に、例えばラムダスはBE HERE NOW (今ここ)、エックハルト・トールはThe Power of Now (今この瞬間の力)を強調します。長年重度のうつ病で苦しんだエックハルト・トールは、「ただ在る」という感覚に至り、深い喜びの状態を体験しました。鬱とは心の怒りが自分に向かった状態です。私たちの意識を過去や未来ではなく、今ここに向ける。存在や生きていることに意味や目的を見出そうとせず、無理に前向きになろうともせず、ただ在るという感覚のみを感じる。そこから「私」と「私以外」という区別性からの解放や癒しが始まると世界的なスピリチュアルリーダーたちは強調します。緊急事態宣言によって、外出は最小限にとどめられています。そこでは我慢も痛みも伴います。封じ込めていた恐れや怒りも浮上してくるでしょう。私も不安です。けれどもそれは待ったり許したりしながら普段の境界線を広げて、すべては変化の中にあることを体験するという大いなる授業だとも言えます。スティーブ・ジョブズの愛読書『禅マインド ビギナーズ・マインド』の言葉は、国境の壁を超えてアメリカに日本の禅の教えを広めた鈴木俊隆老師という人のものです。彼は太平戦争を体験し、妻は寺に出入りされた人に滅多刺しにされて殺されたりと数奇で不条理な運命を辿った人でもありますが、「問題を考察するに当たっては、自分自身をもその中に含めなければならない」(5)と言います。嵐の中に身を置いて、現実をありのままに直視する。その中で自分にとって栄養になることは何か。今の自分で何か役に立てられることがあるか。どんな未来を創造したいのか。それに今必要なことは何か。私たちはやはり一人では生きていけません。家で過ごすこの機会を、そんな内観の時間にしてみませんか。全ては変化し続けるという不変の真理の中で、私たちは何度でもやり直せます。そして私たち一人ひとりの決断が、未来を作ります。土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。参考1. Thich Nhat Hanh 『Understanding Our Mind』(Parallax Press)5. ディヴィッド・チャドウィック著・浅岡定義訳・藤田一照監訳『まがったキュウリ 鈴木俊隆の生涯と禅の教え』(サンガ)NHKラジオ「宗教の時間 疫病が世を覆った時代に」
2020年04月11日右へ進んだらいいのか、左なのか。自粛すべきか、前に踏み出すべきか。元サヤなのか、破局か。チーズケーキか、リンゴか。人生とは選択にあふれています。でも、これまで通りの感覚では判断しにくく、ますます先も見えないという今。いまこそ野生の勘の直感力を磨くチャンスです。「もうダメだ」というときほど直感の女神は微笑んでくれるもの。ピンチは直感力を味方にする絶好のタイミングです。では直感とは何か? どう役立つのか? そしてどうやって磨くことができるのか。成功者たちの実話や心理学研究をもとにズバリ検証していきます。文・土居彩【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 31直感で一歩先を見抜く成功者たち。「直感はとてもパワフルなものだよ。思うに、知性よりもずっと。私の仕事に大きなインパクトを与えてくれた」と語ったのは、アップル創業者のスティーブ・ジョブズです(1)。実はプログラミングもろくにできなかったジョブズでしたが、石油会社大手のエリクソン・モービルを抜いてアップルの時価総額を一位にして世界をアッと言わせました。そんな彼は、直感の力で一歩先の未来を見抜く天才だともてはやされました。今では誰もが知る大企業のアップルですが、巨大コンピューターが一部の機械マニアだけに愛されていたころ、「ノートみたいに薄くて軽くて、家電みたいに洗練されたデザインで。家計簿をつけたり絵を描いたり、誰でも使えるコンピューターを販売して世界を変える」とひらめいたジョブズが、天才エンジニアの親友を口説き落として、物語は父親のガレージから始まりました(2)。ジョブズ自身、自分で作った会社を追放されるなど、さまざまな局面を迎えるのがビジネス世界です。それを生き抜いた彼の直感スタイルは、大学を中退してインドを放浪したことがきっかけ。インドの田舎で暮らす人たちが理性的な考えよりも直感に従う姿に衝撃を受けて、大きな決断の際にも直感の力を信頼するようになりました(1)。また世界的成功者として有名な、お騒がせパリスのおじいちゃん、ヒルトンホテルチェーンの創業者のコンラッド・ヒルトンも直感力で成功した人物と知られています。その逸話のひとつから、競売中のシカゴのホテルを16万5,000ドルで入札したコンラッド。彼の直感が「金額が低すぎる」と言って、ベッドの中で胸騒ぎがしました。そこで思い切って直感に従って、翌朝新たに18万ドルとして入札します。その結果コンラッドは入札に勝つことができ、世界でもっとも大きなホテルのひとつを所有することになりました。蓋を開けてみれば、その入札額はなんと次点の入札者よりたった200ドル高いだけのギリギリでした。この取引で、彼は最終的に200万ドル以上の純利益をあげたそうです(3)。直感とは、あれこれ考えや分析を挟まずに答えを出す直接のカンのことです。意識と無意識のギャップを埋める架け橋で、英語ではガット・フィーリング(gut feeling)と言われますが、日本語で言う肚の感覚、つまり理由なく腹の底からわき起こる「ソレ!」みたいな感覚のことです。直感力は誰にでも備わるもので、なにもジョブズやヒルトンに特別与えられたものではありません。とはいえ直感だけで決めるのは不安だし、誤ちを犯すリスクもあります。でも過去のデータと照らし合わせてもうまくいく保証が見えづらい。そんな混沌とした今は膿出し、そして生み出しのタイミングだと思います。不要なものは削ぎ落とされて、本当に必要なものが見えてくるとき。そこで今こそ直感の持つ力も信頼してみませんか。社会的な引きこもりが推奨されるときだからこそ、一旦無作為に流れてくる情報を削ぎ落として野生の勘を磨きませんか。成功者たちの行動を分析すると、正しい直感に従うためには、3つのステップがありました。正しい直感力とつながる3つのステップ。直感力を磨く方法その1まずはやれるだけやってみるホテル王のコンラッド・ヒルトンは、「直感というのは、祈りの答えのようなもの。できる限り考え、確かめ、計画もやって、もう祈るしか他はない、となったときに与えられるものさ」と言っています。また、ワクチンの開発など細菌学の基礎を築いたパスツールも「幸運は用意された心のみに宿る」という言葉を残しています。成功者たちの行動から、直感の女神は「もう四方八方やり尽くした」「これ以上は無理だ」とやるだけやって、コントロールを手放したときに微笑んでくれるようです。その1の具体的なやり方例えば英語が話したかったら毎日ドラマのセリフを1つ覚えてみるなど、今の自分ができる小さなゴールを着実にこなしましょう。目標が大きいほど、ゴールに向かうプロセスが思い通りに運ばない場合がありますが、そのときどきで自分が最善だと考える行動をとりましょう。また自分とは違って、もうそのゴールを達成している人の話を聞いてみることも、正しい直感とつながるために有効です。直感力を磨く方法その2いったん思考を止めるステップ1でとった自分らしい思考に基づいた行動を、ここではいったん一休みさせます。ジョブズの永遠のライバルとされるビル・ゲイツがのちに明かしたところによると、ジョブズはこみいった大事な話をするときには必ず歩きながら話したそうです(2)。脳には情報を処理するための容量があります。歩くことで全身を使いながら肉体感覚を感じると、思考のためのキャパシティが減って思い込みによるハイジャックが避けられます。またジョブズは禅仏教に傾倒し、瞑想を日課としていました。瞑想には心の中のダメ出しを鎮める効果もあり、坐禅によって知識や実験で割り出されるデータよりも、肚の感覚とつながるための実体験を重んじるトレーニングを積んでいたのではと思います。その2の具体的なやり方瞑想がオススメですが、苦手な場合は、散歩、良い花の香りをかぐ、ランニング、ゆったりとお風呂につかるなど、思考よりも感覚に意識を向けられることをするのも効果的です。直感力を磨く方法その3「なはず」を疑ってみるThink Different(違った考えをしよう)とは、アップルの有名な広告スローガン。頭にいっぱいの考えをウォーキングや瞑想で引き算したら、次に行いたいのは「これが正しい」「それは当たり前」という個人的な判断を一度疑ってみることです。いつもと違う角度から物事をとらえてみるのです。ジョブズは39歳の頃、アメリカの公共放送PBSのインタビューで「あなたの生活のすべては、あなたより頭の悪い人が作ったものなんだ」と断言し、(だから考え方をちょっと変えてみることで)「周りの状況は(自分で)変えられるし、自分が周りに影響を与えることも可能になる。自分のものを自分で作ることも、他の人にそれを使ってもらうこともできる。それを一度学んだら、もう同じことをしなくなりますよ」と語っています(4)。ジョブズが特に警鐘を鳴らすのが、自分以外の複数の人の意見に影響を受けて、それに合わせてしまう心理です。これを「同調」と言います。その判断は、直感の腹の底からやってきたものなのか、みんなが言うからなのか。これを実験したのが心理学者のソロモン・アッシュです。さて以下の線で、左と同じ長さなのはA、B、Cどれだと思いますか?明らかにCですよね。でも実験で他の全員(サクラ)が一貫して「A」と間違った答えを言うと、治験者たちは「Cと言っていいのか!?」と自信を無くし、「A」と答えてしまう人が約4割にも達したそうです。人間は無意識のうちに大多数の考えに染まる生き物です。それは一種のサバイバルスキルで、空気を読むことだって社会生活では大切だからです。でもさまざまな情報があふれる今、自分的にピンとこないものは鵜呑みにしない。そういうトレーニングも正しい直感力を磨き、これからの時代を生き抜くために大切です。その3の具体的なやり方日記をつけてみましょう。起こった出来事に対して、自分がどう考えるのかというパターンが見えてくるからです。話題がホットなときは、「こうなはず」と譲れませんが、数日、1か月、1年ほど経って日記を見返してみると「別にそんなふうにしなくてもよかったな」と違った視点で見返すこともできます。日記をつけるときは、自分を批評したり、あえて第三者になろうと文章を検閲したりせず、コントロールを失って自由に思いを綴ることが大切です。この手法は心理療法でも用いられ、ジャーナリングと言われています。「自由に書いて思いを発散し、後から見返す」を繰り返すうちに、違ったものの見方に自然とオープンになっていきます。不確かさのなかでもやるだけやって、いったん一呼吸つき、ちょっと違ったオプションにもオープンになってみる。過去に直感に従ったために間違えた選択をしたと思っていても(私は直感で会社を辞めてアメリカに行ったとき、何度も後悔した張本人です)、時間の経過とともにそれが最高の経験だったとわかることがよくあります。だから直感を信頼することを止めないで。そして直感力を味方につけつつ、成功者たちが成功したのはまた、成功するまでやり続けたから。彼らは七転び八起きどころの騒ぎではありません。「ダメだ」と諦めてしまうまでそれは失敗にはならず、祝福すべき成功へのプロセスのひとつです。周りからは「終わってる」と思われ、自分自身も自分のことを信じられないなら、まずは頭は低く今あることに感謝しながら、肚の底の炎は着火して、3つのステップを踏む時間としましょう。そして直感がチャンスの到来を察知したら、迷わずヒュンと飛び乗って!土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。1. ウォルター・アイザックソン著、井口耕二訳『スティーブ・ジョブズ』(講談社)3. J. Randy Taraborrelli著 『The Hiltons: The True Story of an American Dynasty』(Grand Central Publishing)4. Ash, S.E.(1955). Opinions and Social Pressure. Scientific American. Vol.193. 5.P.31-35. 、無藤隆, 森敏昭, 遠藤由美,&玉瀬耕治著『心理学 新版』(有斐閣)5. ©David_Ahn/Gettyimages©Constance Bannister Corp/Gettyimages
2020年04月02日自宅で気軽に瞑想体験株式会社ザッパラスは、2020年3月31日(火)から4月10日(金)までの期間限定で、自宅でマインドフルネスを体験できるオンラインプログラムを無料で公開します。自分の心に向き合おう新型コロナウイルスの感染が広まる中、休校やテレワークなどにより自宅にいる時間が増えています。そんな中、自宅で行うマインドフルネス瞑想で脳と心を休ませ、心と身体の健康を促す無料プログラムが限定公開されます。同プログラムは初心者の人でも継続しやすいよう組み立てられています。科学的アプローチをもとにした本格的な内容です。セッションの前には簡単なストレッチで身体をほぐすことからスタートします。無料で参加できるのは、先着1,000名まで。1セッションでは100名までです。希望者は参加申し込みフォームから申し込み可能です。(画像はプレスリリースより)【参考】※株式会社ザッパラスのプレスリリース※参加申し込みフォーム
2020年03月30日新型コロナウイルスが運んできたもの。大型イベントの中止、テレワーク、世界的不景気、棚から消えるマスク、ごった返しのスーパー…。そこに元恋人からの突然の「体調大丈夫?」テキストを加えた人も少なくないのでは。元カレからの突然の連絡。その目的はただただ生存確認なのか、リモートワークの暇つぶしなのか、イケてる俺を再確認したいのか、はたまた未練によるものか。動揺して相手の心理を汲み間違えると、治癒した恋のウィルスに再び感染し、罹患しかねません。そこで今回は、有名社会心理学者が生みだした恋愛関係における投資モデルを用いて、元恋人へのヘルシーな向き合い方をご提案します。文・土居彩【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 30忘れた頃にやってくる、元カレの連絡。自然消滅だったのか、はたまたしっちゃかめっちゃかの騒ぎの末の別れだったのか。恋愛のみならず、人生には出会いと別れがつきものです。「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な恋はいずれもそれぞれに愛憎劇がある」と言ったのはトルストイだったか、どうだったか。さて、天災は忘れたころにやってくると言いますが、半年ぶりの元カレからの連絡もしかりです。着信を見て浮き足立ったり、「何をいまさら」と憎悪の念に駆られたり。全くもって日頃のマインドフルネス瞑想の成果も試されるというもの。袖振り合うも多生の縁とはまさにそうで、浅い関わり、深い関わりと、私たちはいろいろな人との関係性のなかで生きています。そこでは恋愛でもビジネスでも、人間誰しも損せず得したいという気持ちが無意識に働くというのは、心理学者が考えるところ。もう金輪際関わりたくないとか、薄〜くLINEするぐらいならいいとか、月イチぐらいで会いたいとか、他に気になる人がいるとか、恋の病で一瞬たりとも会えないと何も考えられないとか。恋愛ではこれぐらいでコミットするのが理想だという具合があります。そこで「恋愛は投資と同じ」と、カリル・ラズバルトという社会心理学者は、人が恋愛関係の深さを定めるための3つの要因を発見しました(1)。この3つで高得点を獲得する恋愛関係は、長く続くのだとか。一度別れた相手だとはいえ、元カレとどう関わっていくかを見定めるのにもこのモデルが適用できそうです。長続きする恋の3つのポイント。1. 満足度の高さ私たちは無意識に「笑顔がかわいいな」「ほっとできる」という相手のプラス面から、「口先ばかり」「ケチ」といったマイナス面を差し引き、二人の関係の満足度を決めています。満足度が高いほど「ずっと一緒にいたい」「もっと深く関わりたい」という気持ちになります。別れは、付き合いが進むにつれて新鮮さがなくなり、お互いの欠点が目立つようになって、どちらかもしくはお互いに、二人の関係を「プラスマイナス」の計算がここでも働いているのです。復活愛CHECK実は彼、今仕事がうまくいっていない、新しい恋が長続きしていないんじゃない? そこで向かったのが元恋人への思いというのは、往々としてあることです。それはそれで良いのですが、じゃあそこがうまくいった後の態度はどうなるでしょう。真剣な交際が始まりそうになったとたん、突然スパイのように再び姿をくらましはしないでしょうか。そこを冷静に見極めつつ、合わせて自分のニーズも確認する必要が。あの夏、砂浜で夕焼けを見ながら交わしたキス……なんていう情景はいったん白紙にして、自分自身ときちんと向き合ってみたら、実は現時点では相手との時間は「プラス
2020年03月22日カッとしたり、クヨクヨしたり。誰でもそんな気持ちになるものだけど、やっぱりしんどいですよね。瞑想は不安やあせり、恐怖を和らげて、気持ちをスーッと落ち着かせてくれます。さらに巷で人気のマインドフルネス瞑想は免疫力を高めたり、アンチエイジングにも効果的とか。今こそトライするベストタイミングです! でも難しそう? そこで今回は禅センターやエサレン研究所などに住み込み、日米仏韓20箇所以上のスピリチュアルセンターでいろいろ瞑想してみた元anan編集者が、わかりやすくマインドフルネス瞑想を解説します。文・土居彩【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 29マインドフルネスってなに?マインドフルネスのマインドフルとは「心を配る」とか「気に留める」という意味の英語で、仏教の念(サティ)という言葉が元になっています。では何に心を配るのかというと、それはいまの瞬間に自分が何を感じているのかということ。自分が今感じていることぐらいわかっているよ。当たり前でしょう。と思われるかもしれません。私もマインドフルネス瞑想を始めるまではそうでした。でも瞑想をやっていくうちに気づきますが、感じていることと、考えていることはまた別物。マインドフルネス瞑想で今感じている現実と、頭の中で考えていることを切り離せるようになるにつれて、腹が立ちにくくなったり、悩みが長引かなくなったりします。体は眠たいのに、頭は起きたいと言う板挟み。ところで私が瞑想を始めたきっかけはシンプルで、ぐっすり眠れるようになりたかったからです。当時は女性誌の編集者でしたが、深夜まで入稿して体はクタクタでも、さぁ寝るぞーと帰宅したら眠れない。「明日の撮影の買い出しは……」とか「さっきの原稿、やっぱり見出しが悪かったかなぁ」とか「隣の物音がウルサイ」とか。次から次へ頭にいろんなツッコミが入るんです。眠っちゃダメよと頭がささやくようで、これには困りました。でも瞑想していくうちに、「いま体は寝たいと言っています」「撮影の買い出しは、明日1時間前に起きてやることだ」「週末に部屋の模様替えをしてみよう」と割り切れるようになり、不眠症が少しずつ解消されていきました。だからプレッシャーなどに心が奪われて寝つきが悪いという人は、就寝前に瞑想するのもオススメです。今私は毎晩爆睡ですし、たとえ眠れない日があってもそれがあまり気にならなくなりました。ウィルス抗体が上がり、アンチエイジング効果も。さてこのマインドフルネス瞑想、科学研究でも心や体をヘルシーにすると言われます。例えば6週間のマインドフルネス瞑想プログラムでインフルエンザウィルスへの抗体が上がり、さらに4か月行うと前向き脳が活性化される(1)。瞑想歴の長いエキスパートにもなればアンチエイジング効果まであるのだとか(2)! これは瞑想で目の前の出来事への捉え方が変わるからだろうと実感します。マインドフルネス瞑想で、過去に後悔しすぎたり、未来に不安を抱きすぎたりしにくくなるからです。さて、前置きが長くなりました。実際に行ってみましょう!1. 基本の座り方姿勢はまっすぐ、ラクに座る。無理がない姿勢で座ってください。心地よく座るために外せないポイントは2点です。上半身はリラックスさせ、下半身をどっしりと安定させること。背筋をスッと伸ばすこと。そのため坐骨と両膝の4点をしっかり地面につけます。坐骨、背骨、首と積み木を重ねるように乗せていき、自然にまっすぐ立つ場所を見つけます。両手でガチョウの卵を作る。手のひらを上向きに、左手を右手に乗せて、4本の指を重ねます。親指同士の先端を優しくつけて、大きなガチョウの卵を作りましょう。場所は下腹のあたりに。無駄な力を抜く。とにかく気持ち良いのが大事。肩、顎、首、腹部の力を抜いて、リラックスします。お腹の力みは、人差し指で前から胃のあたりを優しく押して1cmぐらい体を後ろに引くと抜けやすいです。目は閉じるか、半眼で。私は大抵目を閉じますが、そのほうがいろいろ考えてしまいそうなときや寝てしまいそうなときは、1mぐらい先に視線をぼんやりと落とします。2. 呼吸に集中し、心を静かに。(心落ち着き瞑想)呼吸は全て鼻で行います。息を吐くたびに肩の力を抜きます。10回ほど深呼吸したら、普通の呼吸に戻します。「吸う」「吐く」の息に集中します。そのとき鼻の下と上唇の上の場所だけに意識を向けます。ここが意識が帰るためのホームになります。ホームの場所。鼻の下と上唇の上のホームにかかる息の流れを感じてみましょう。「今で何分かな?」など注意がそれたら、必ずここに意識を戻します。息の流れを感じにくいときは、少し強めに息を吐いてみて。息を感じられるまで何度も辛抱強く呼吸します。感じられたら元の強さに息を戻します。意識がそれたら、ホームに戻ります。2〜5分ほど心が落ち着くまで繰り返します。私は、これを「心落ち着き瞑想」と呼んでいます。詳しく心落ち着き瞑想について知りたい方は、まずこちらを読んでみることをオススメします。マインドフルネス瞑想を行う前に、心落ち着き瞑想だけを4日間ほど練習すると、よりマインドフルネス瞑想がやりやすくなります。心が落ち着いてきたら、いよいよ5分間のマインドフルネス瞑想です!3. お腹の息を感じてみる。手をそっと下腹部に重ねてみます。息を吸うとお腹が膨らみ、吐くと凹んでいるのが感じられます。息を吐くたび肩の力をゆるめます。なにも力む必要はないし、うまくやる必要もありません。ただ膨らんだりしぼんだりするお腹の動きを感じます。お腹のあたりが少し温かくなってきましたか? ちなみにそれが元気のもと、気です。お腹の動きを感じながら10回ほど深呼吸をしたら、手をゆっくりもとのガチョウの卵の形に戻します。4. 全身をくまなくライブ中継する。「今の私はどんな状態なんだろう?」。ライブ中継中のアナウンサーのように興味を持って、頭のてっぺんから足の先まで体をくまなく調べてみましょう。頭のてっぺんからスタートします。なにかジワジワするな。では「ジワジワ、ジワジワ…」と中継します。おでこはどうでしょう?「かゆみ、かゆみ」。このように足先まで中継していきます。集中しても感じられない場所があってもかまいません。私がやっている目安としては、2㎝ぐらいの範囲ごとに4、5呼吸、辛抱強く観察します。すると突然どこかが「痛い!」ですか? 瞑想ライブ中には、必ずこういう思わぬ邪魔が入ります。でも体は動かせない。人生でも起こる、こういった一見厄介な状況をライブで楽しんでみようというのがマインドフルネス瞑想なのです。痛みが「気づいてー!」と呼びかけているので、「いえ私は瞑想中で、ただいまおでこを中継中なもので…」とムシをするほど「聞こえとるかー?」と、音量2倍増しで凄んできます。そこで、「よしよし、気づいていますよ」といったん迎え入れてください。例えば足が痛くなってきたとします。痛む部分に意識を集中させます。このとき、「痛い」ではなく、「痛み、痛み、痛み…」と客観的に観察するように実況中継します。場所は?「その中心は、外くるぶし。外くるぶし、外くるぶし…」。痛みの質は?「ヒリヒリ、熱…熱…」。逃げない。無視しない。批評しない。感じていることを考えるのではなく、注意を向けるだけです。自分で実況中継しながらうるさく感じるなら、ただ感じるだけでもいいですよ。重要なのは、意識を向けること。ただ感じたままにすると痛みはピークを迎えて、やがて過ぎ去っていきます。「明日の企画書、どうしよう…」と今度は全然関係のない考えが浮かんできたら、また鼻下・唇上のホームに戻って呼吸に集中。「考え」から「感覚」にバトンタッチできたら、ライブを中断した場所から実況中継し直します。足先までいったら、また頭のてっぺんへ。シンプルに、この繰り返しです。こんな単純作業にいったい何の意味が? と思いますよね。マインドフルネスでは呼吸と感覚に注意を向けて体全体に気づくことで、今この瞬間を体験していきます。イライラ、クヨクヨの原因である考えに注目するのをいったん休止するため、いま体が感じている感覚のほうに意識を移すという手法をとっているんです。というのも考えることと感じることは同時に行えないから。また考えとは違って、感覚はずっと続かないことにも気づくことができます。たとえ嫌な感覚でも。それに気づいたとき、私はとてつもない安心感を持ちました。そして、このマインドフル瞑想のあとは、いつもいっぱいの考えぶん、頭の中の重さが軽くなったような気分がしますよ。瞑想は、苦行修行ではありません。心を一休みさせるご褒美タイムです。私はだいたい毎日20分〜40分ほど瞑想しています。長く感じる? だから、自分の好きな時間で行ってください。難しいとか、しんどいとか、うまくやらなきゃと思ったら当然やる気も失せます。リラックスして、あくまでも気分良く。お気に入りのアロマスプレーをシュッとしたり、お香を焚いても楽しいですよ。眉間にシワが寄ってきたら、まずはスマイルを自分に贈ってくださいね。土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。参考1. Davidson, R.et.al(2003). Alterations in Brain and Immune Function Produced by MindfulnessMeditation.Psychosomatic Medicine 65:564–570. DOI: 10.1097/01.PSY.0000077505.67574.E32. Alda, M. et. al (2016). Zen meditation, Length of Telomeres, and the Role of Experiential Avoidance and Compassion. Mindfulness , 7, 651–659 DOI 10.1007/s12671-016-0500-5『自分を変える気づきの瞑想法』A.スマナサーラ著(サンガ)『親と子どものためのマインドフルネス』エリーン・スネル著/出村桂子訳(サンガ)
2020年03月18日レディー・ガガ、ビル・ゲイツ、ミランダ・カー、ジャック・ドーシー(Twitter創業者)、松下幸之助……と名前を挙げだすとキリがありませんが、美しいセレブやビリオネアの成功者に、瞑想が日課という人がたくさんいます。忙しい毎日の中で普段の行動をストップする瞑想が、イライラやストレスが減ったり、仕事の能率やクリエイティビティが高まったり、周りや自分に優しくできると良いことづくめ。さらにはアンチエイジングや免疫力が高まることも科学的に解明されているので、今この時期こそ試したいものです。でもやっぱり難しそう…。そこで今回は禅センターやエサレン研究所などに住み込み、日米仏韓20箇所以上で瞑想してみた元anan編集者が、すぐできる瞑想のコツを解説します。文・土居彩【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 28瞑想で免疫力も、リラックス効果も高まる。マインドフルネス瞑想という言葉を聞いたことがありますか? これはもともと仏教の瞑想法がルーツですが医療分野に広めたのは、ジョン・カバット・ジンという博士です。彼が今から40年ほど前に、マサチューセッツ大学のメディカル・スクールでMBSRというマインドフルネス瞑想を取り入れたストレス軽減プログラムを開発しました。そこで患者たちの痛みへの向き合い方、感じ方、ストレスの度合いが瞑想の力で変わることがわかって証拠が取れたことから、教育、ビジネスの分野にも取り入れられるようになりました。前置きが長くなりましたが、さてこの瞑想、心だけではなく体の健康にも良いとされるんです。例えばさきほどのカバット・ジン博士と、ダライ・ラマ14世と瞑想研究を行ってきたリチャード・デイビッドソンという博士が共同で、6週間のMBSR瞑想でインフルエンザ ウィルスへの抗体が上がり、さらに4か月間続けると前向きな気持ちに関係する脳の部分(前側左部分)の活動が活性化されると発表し、世界をあっと言わせたことがあります(1)。また歳をとると短くなるという染色体のキャップのようなテロメアが瞑想で短くなりにくくなるのではという、アンチエイジング効果があるとするものも(2)。そこでマスク、手洗いに合わせて、免疫力も沈みがちの気分も上げたい今こそ、瞑想を習慣化したいものです。難しくて当然! 瞑想には大きく2種類ある。でも、なんだか瞑想って難しそう。やってみたけど続かなかったという人も多いのでは? その理由は巷のマインドフルネス瞑想では、1ステップ飛び級して教えられているからです。まず瞑想には大きくわけて以下の2種類あるんです。1. 呼吸に集中して、静かな心に落ち着けるタイプ(サマタ瞑想)2. 起こっていることをクリアに理解してそれを受け入れるタイプ(ヴィパッサナー瞑想)ちなみに1の瞑想のサマタとは「落ち着く」という意味です。そこでここではわかりやすく「心落ち着き瞑想」と呼びますね。医療やビジネス分野などで行われるマインドフルネスは、2のヴィッパサナー瞑想法をベースとする場合が多いです。これは「心落ち着き瞑想」で心を静かにしたことを前提としています。つまり1の瞑想法をマスターしていないところで、いきなり2のマインドフルネス瞑想と言われても難しいのは当たり前なんです。ということで今回は5分間の「心落ち着き瞑想」を解説します。心落ち着き瞑想だけでも、リラックス状態の脳波 α波が出てきて、ストレスが軽減され、免疫力もアップすると考えられているので(3)、まずこれを一途にやってみましょう。瞑想は、軽い気持ちでやるのがコツ。私がいろいろと教わったなかで、自分一人で瞑想するときにはこれがしっくりくるなと思った方法をお伝えします。そこで楽しくストレスなく、みなさんが気持ち良いスタイルにアレンジしてください。続けるコツは、とにかくまずは軽い気持ちでやることです。難しいとか、しんどいとか、うまくやろうとか、目標を抱きすぎて現実とのギャップに辛くなると当然やる気も失せますので、必死にならず心を一休みさせるためのご褒美タイムだと思ってやってください。そこで眉間にしわが寄ってきたら、まずスマイルから。場所は、一人で5分間静かに座れるところを見つけましょう。時間はいつでもみなさんの好きなタイミングで。でも初めは「朝起きて直ぐ」とか「寝る前に」と決めておいたほうが続けやすいと思います。私は夜寝る前と、原稿を書きながら頭がこんがらがってきたり、心がザワザワしたときもそのままメールや電話を返さないように2分間ほど座ることもあります。朝起きたときはまた別のことをやっているのですが、それは別の機会にでもご紹介しますね。座りかたは何度も言いますが、まずは瞑想が気持ちいいと思えることが大事です。だからフリースタイルでいきましょう。ここでは参考までに私がしっくりくると思った方法をご紹介していますが、好きにアレンジしちゃってください。ベッドの上でも椅子に座ってもOK。けれどもラクに座るために外せないポイントはやっぱりあります。上半身をリラックスして、下半身はどっしり安定させる。背筋はスッと伸ばす、この2点は出来るだけ守ってください。基本の座り方。1. 姿勢をまっすぐ、ラクに座る。あぐらでもいいですし、とにかく無理がない姿勢で座ってください。私は自分がラクに感じるほうの足を片方だけ反対側の太ももの上に乗せています。坐骨と両膝の4点をしっかり地面につけるように座ると安定します。専用の坐布がなくても、座布団やタオルを使って、高さを調節すると座る時間が長くなってもラクに座れます。また、背筋をスッとさせるのもラクに座るためのコツ。筋力でまっすぐしようとせず、積み木を重ねるように坐骨、背骨、首と乗せていきましょう。坐骨の二点の出っ張りが立つように座り、首は自分が思うより少し後ろに引くのがポイント。普段の生活の中でこの姿勢が定着すると疲れにくくなったり、お腹が引き締まるという嬉しい効果もありますよ。坐骨を立ててまっすぐ座った状態。2. 両手でガチョウの卵を作る。手のひらを上向きに、左手を右手に乗せて、4本の指を重ねます。親指同士の先端を優しくつけて大きなガチョウの卵の形にします。私は下腹部の少し下あたりに手を置いていますが、とんでもなく疲れていて肩の力を極限まで抜きたいときは、ズボンに乗せたりもします。禅では手の形は心のバロメーターだと考えられています。例えば力んでいたり、イライラしていると親指が上がり、眠かったり、集中していないときは親指が下がってしまいます。3. 無駄な力を抜く。肩、顎、首、腹部の力を抜いて、リラックスします。お腹の力は、前方から胃のあたりを人差し指で優しく押されたように1cmぐらい後ろに引くと抜けやすいですよ。4. 目は閉じるか、半眼で。私は大抵目を閉じて行っていますが、そのほうがいろいろ考えてしまいそうなときや、とても眠たいときは、目をぼんやりとして視線を落とし、1mぐらい先を見つめます。準備ができたら、5分のタイマーをスタート! 瞑想が終わった後はα波というリラックス状態の脳波になり、ちょっとまどろんだようなボーッとした状態になります。以前にビーッッッ!とアラームが鳴って「おおおおぉっっ!」と通常以上にけたたましく感じ、恐怖体験になってしまったことがありました。そこでチャイムの音は穏やかな鐘など優しい音色を選んでくださいね。いったん姿勢を作ったら、体はなるべくもう動かしません。鼻下・唇上は、意識が帰るマイホーム。呼吸は全て鼻で行います。まずはゆっくりと深呼吸します。お腹が大きく膨らんだり小さくしぼんだりします。息を吐くたびに肩の力を抜きます。それを10回ほど繰り返したら、普通の呼吸にもどします。「吸う」「吐く」の呼吸に意識を向けます。鼻の下と上唇の間の場所だけに集中します。ここをホーム、愛しき我が家だと思ってください。この我が家ゾーンにかかる空気の微細な動きを感じます。意識が逸れたら、必ずまた我が家に戻ります。心がさまよったら戻る、ホームゾーンはココ!「あー、今日のランチ何にしよう」「明日、企画書の締め切りだ!」「本当、〇〇がムカつく」「一体、今で何分経ったのかな…?」と、当然頭の中に何かが浮かびます。浮かびますよ、それはもう! 坐禅堂などで座っていると、みんな涼しそうな顔をして、大仏みたいに身動きせず結跏趺坐(右足を左腿、左足を右腿にのせるという、超絶に体の柔軟性が問われる座り方)を組んでいたりするので焦りますが。禅センターで聞きまわったところ、みーんな誰しも頭の中はパレード状態とのことでした(笑)。だから安心して!浮かんだものを追わず、払おうともせず、鼻の下と上唇の間の我が家、ホームに出直します。呼吸は自然のままに、ホーム上の「吸う」「吐く」に意識を向けます。意識がそれたら? ホームです。これを繰り返します。するといずれ5分のタイマーが鳴るので、ゆっくりと目の前に焦点を合わせてください。まずはこの「心落ち着き瞑想」を4日間、好きな時間に5分間やってみてください。この心落ち着き瞑想にもマインドフルネス瞑想にもリラックスしたり、問題を抱えていてもテンパりにくくなる効果があると実感しますが、山の登り方と山頂からの景色の味わい方が少し違います。この心落ち着き瞑想に慣れたところで、次回はマインドフルネス瞑想のやり方をお伝えしますので、ぜひご一緒しましょう。土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。参考1. Davidson, R.et.al(2003). Alterations in Brain and Immune Function Produced by MindfulnessMeditation.Psychosomatic Medicine 65:564–570. DOI: 10.1097/01.PSY.0000077505.67574.E32. Alda, M. et. al (2016). Zen meditation, Length of Telomeres, and the Role of Experiential Avoidance and Compassion. Mindfulness , 7, 651–659 DOI 10.1007/s12671-016-0500-53. 『自分を変える気づきの瞑想法』A.スマナサーラ著(サンガ)©filadendron/Gettyimages
2020年03月12日もしどんなあなたでも愛してくれる、大好きなパートナーが手に入るとしたらどうですか? そのためには、心理学やスピリチュアル世界では、まず徹底的に自分を大事にせよとよく言われます。そこで必要になるのは、世間の常識のまま自分で作った「男性だったらこうすべき」「女性だったらこうあらねば」という思い込みを壊すことです。実は最善のパートナとの出会いに、一見関係ないように見えるテイラー・スウィフトの最新MVが訴えかける”男性性優位社会”の闇やセクハラ問題。これが最高のパートナーシップ実現の大きなカギを握るんです! そこで今回はトランスジェンダーで父になった友人から受けたアドバイスをもとに性別の壁を超えて、恋愛や仕事、友情などにおけるベストパートナーとの出会い、その育み方についてご提案します。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 27いつだって、どんなふうでも応援してくれて、ありのままのあなたの魅力を自分以上に愛してくれる人。そしてその人と一緒にいると、自分の可能性に気づくことができて、もっと良くなるように努力することが苦労じゃなく、そこに喜びや幸せを感じられる。そんな最高の友達やパートナーが手に入るとしたら、どうですか? ほしい!!!!愛されたいなら、人を変えようとしない。そのためにどうしたら良いでしょう? その鉄則としてよく語られるのが、人も自分も変えようとしないことです。心理学やマンドフルネスの世界では、これをアクセプタンス(すべてを受け容れる)と言いますが、それは人のイジワルや、自分自身に向けた暴力を見逃し、じっと耐えることではありません。腹が立ったら怒ってもいいんです。大切なのは、自分の心や体で起こっている変化に気づいて、コントロールせずにそれを受け容れること。ありのままの自分に抵抗せずに受け容れることで、不思議と自分も周りの人も変わっていくのです。ありのままの人や自分を受け容れるというのは、実は自分のなかの男性性と女性性のバランスを整えることとも言えます。そう言われると「えっ、私は女性だけど?」「俺は男だよ?」という疑問が当然わきますね。でも私たちは100%男性性でできているわけではないし、女性性オンリーでも無いんです。「性別の壁」というワナ。ここでいう男性性とは、決断する強さや論理的に行動する力、そして女性性とは受け容れるしなやかさや思いやり、ときにインスピレーションに従える力のことです。生物学的に男性であっても女性であっても私たちは全員、その両方を持っていて、あなたとあの人の違いは、そのバランスの違いの現れです。世の中が考える、ひとつの男性像と女性像を極端な形で描いてくれたのが、このテイラー・スウィフトの「ザ・マン」の新作ミュージック・ビデオです。この主演男優は、なんと特殊メイクで男性に扮したテイラー!男装したテイラー・スウィフトが大暴れ!彼女(彼)がオフィスで部下に賞賛させて悦に入り、満席の地下鉄では大股を開き、豪華ヨットにモデルをはべらせ仕事の電話で怒鳴り散らし、立ちションするとやりたい放題。出てくる女性と言えば拍手喝采するイエスマンな女性社員、ヨットに寝そべるモデル、行為のあとの美女です。そして「男だったら、もっと(今の場所に)ラクにたどり着けたのに」と男性性優位社会に生きる女性の苦しさを歌います。そしてビデオの最後では、女性監督(テイラー演)が主演男優(男装テイラー演)に「もっとセクシーにできる? みんなにもっと気に入られるような感じでね」と演技指導するなんて、風刺が効いてる。社会常識で自分を小さくしない。ここで彼女が「オカシイんじゃない?」と問いかけているのは、「男性が」「女性が」といった性別の違いではなく、男性性優位の社会システムです。「男性はこうで、女性はこう」と批判、判断してしまうのも、それは偏見です。私が暮らしていたセレブや心理学者が集まる、カリフォルニアにあるエサレン研究所というスピリチュアルセンターは、かなりエッジの効いた場所でした。そこのスタッフたちに「私のことをshe(女性代名詞)でもhe(男性代名詞)でもなく、they(性別関係無い代名詞の複数形)で呼んでね」と言われることがよくありました。さて「ザ・マン」の歌詞にある “アルファ”(Alpha)という言葉に注目してください。これは英語のアルファ・メール(Alpha Male)という言葉が略されています。アルファ・メールは男性ホルモンのテストステロンがばりばり、攻撃性も自己権威欲もエベレスト並みに高い猿山のボスのようなものです。ちなみにアメリカではトランプ大統領は、その代表格として殿堂入り。テイラーが問題提起しているのは、猿山のボス自体でなく、それを良しとする社会常識なんですね。私が日本で会社勤めをしていたとき、女性誌をたくさん出す出版社で働いていました。そこで上司が女性の編集長ってことも多かったし、取材相手のタレントさんの好物を調べ上げて取り寄せ、撮影に持っていくような細やかな気配りがサッとできる男性社員に学ぶことも多かった。会社を辞めてからも親身になって助けてくれた男性上司もいます。当時は会社の看板と、チームと家族の間みたいな関係性で守られていたから、退職するまでこういう社会常識を自分ごととして考える機会はありませんでした。実は身近にいる「アルファ」たち。でもフリーになってから、ずいぶん前の話ですけど、知人を介して別会社の男性編集長たちと数人で食事する機会があったんです。二次会が焼肉で、三次会がホテルのバーで。妙な雰囲気だったので三次会を辞退したら「そんなんじゃ、この業界でやっていけないからな!」とタクシー越しに叫ばれたことがあります。「こういうこと、本当にあるんだぁー」と驚きました。最後まで付き合った友人の後日談によると「タクシー代って1万円もらっちゃった」とケロッとしていたので、単に私が世渡り下手なだけかもしれませんが(汗)、どうにも気持ち悪かったんですねぇ。だからアクセプタンスでドロンと撤収です(笑)。アメリカではこのようにジェンダーにパワーが絡むと大論争になります。例えばUberって会社を知っていますか? アメリカだと普通のタクシーよりも安いし、携帯アプリで予約から支払いまで済むしと便利で人気のオンデマンド配車サービスをしている会社です。セクハラでも、仕事ができたらいいの?ここのエンジニアだった元社員の女性に、その上司が「うちはオープンリレーションシップ(ほかの男女と自由にセックスしてもかまわない自由なパートナー関係のこと)だから」と社内チャットで性的な誘いをしたんです。困惑した彼女が人事部に相談したら「セクハラだけど、彼は優秀だから」と一蹴されてしまい、彼女のほうが望まない部署に異動せざるをえなくなったとか。のちに退職した女性がこの一件をブログに書いて大論争を招き、セクハラを容認していたUberのCEOは涙ながらに謝罪。昨年末にはいろいろあって取締役を辞任しました。外側の出来事は、自分の内側の現れ。アメリカではこういった話があると「あなたはどう思うの?」「日本はどうなの?」と聞かれます。のちにトランスジェンダーであることを告白した一児の父の友人とも議論したことがあります。すると「僕個人の体験から話すと、自分のなかの男性性と女性性のバランスが崩れていると、ジェンダー絡みのパワーゲームに巻き込まれやすくなる」と言われました。それを聞いて最初は「えーっ、私や彼女のせいじゃなくて、あのオッさんたちがおかしいんじゃないのー!?」と思いました。けれども、スピリチュアルセンターや禅センターを渡り歩き、老師に学び内省していくうちに、全てがそうとは言い切れ無いし、事件の場合は加害者が圧倒的に悪いと思うけど、私に起こったことに限ってはそれも一理あるなと。例えば当時の私は依存心が強く、自分で決めるよりもどこか「誰かになんとかしてもらいたい」と男性性が弱まっていました。それで心地よければいいのですが、自分的にハマっていなかった状態です。未だに「アレが正解だったのかなぁ」なんて思うところもあるから、嫌な思い出として記憶に残っているのでしょう。さてトランスジェンダーでありながら、理解ある素敵な美しい女性と出会うまでに彼が実行してきた秘密を教えてくれたので、ここにシェアします。私も実践中なので、みなさんもその仲間になってもらえると心強いです。ベストパートナーを手に入れる方法。1. 自分の男性性と女性性のバランスを整える。「これがしたい!」と決断して実行する力(男性性)と、思いやりをもって相手を受け容れる力(女性性)。自分にどちらもありますよね? 誰かに言われるから、世間一般ではそうだから、ではなく、自分がしっくりくるバランスで行動しましょう。願うだけじゃ、最善のパートナーも欲しい関係性も手に入りません。どんな関係性を求めているのか、そのために今の自分に何ができるのか。行動をして、実行して(男性性)、一歩前を踏み出した自分をひとまず労い(女性性)、どんな結果も自分にとって必要な経験だと受け入れましょう(女性性)。2. 自分のなかの官能性を認める。性的なもの=エロと決めつけず、そこに自分の生命力や野生とつながる神聖さを見出しましょう。例えば日帰り温泉に行って、広〜い温泉にホッとつかり、自分の裸をくまなく観察してみると、あの人は胸が大きい、私の方がウエストは細い。なんて人と比べちゃったりするけど、姿形は本当に人それぞれ。それと同じように性への欲求だって、その表現の仕方だってみんな違っていいんです。あなたにとって何が気持ちよくて、何が気持ち悪いのか。タブーと捉えすぎず自分を探求したり、パートナーに求めてもOK! 官能性を楽しみましょう。3. 自分の本質とつながる。あなただけの官能性を認めた先に、「女性だったらこう」「男性だからこうすべき」という性別による偏見を超えたエネルギー、自分の本質とつながることができます。すると相手の官能性にも祝福できるようになり、あなたにとってぴったりの相手と最適な関係性を創造できますよ!彼がいうにはこんなふうに生きて行くうちに、男性だから、女性だからという区別性を超えた「唯一無二のあなた」という存在と向き合いたい人との最適な関係が築けるようになるのだとか。だからちょっと勇気がいるけど、世の中がいう「女性だったらこう振舞って」「男性ならこう行動すべき」という決め事もちょっと疑ってみてもらいたいんです。そういえば夫が定職につかないとぼやいていた友人がいましたが、彼は掃除も洗濯も料理だってバッチリ作ってくれる最良のパートナー。「そういえば私、家に居るより働くほうが好きだったわ。男だったら外で働け、って勝手に思い込んでいただけかも」と気づいた彼女は復職し、子宝にも恵まれ、彼と幸せに暮らしています。だって彼女と彼はぴったりの相性だから!彼や彼女のベストパートナーのように、社会常識とはちょっと違うかもしれないけど「私だったらこう」を生きた先に、バランスが整った状態の自分に一番必要な関係性が芽生えていきます。また最善なパートナーとは恋愛関係に限りません。仕事や友情、親子関係においても、最適な相手や関係性を育んでいけるはずです。土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。
2020年03月06日どうすれば幸せになれるの? それは全世界すべての人の願いで、たくさんのスピリチュアル・マスター、学者、宗教家、成功者などもその仕組みについて語り続けています。仏教の教え、引き寄せの法則などのスピリチュアルメソッド、心理学研究などー幸福の山頂への登り方はそれぞれだけど、すべてに共通する幸せの法則は、今この瞬間に幸せを感じればいいということ。それは老子の教え、「足るを知る人こそが豊かな人である」にも通じます。そこで今回は、ちょっぴり恐怖体験な珍事件をご紹介しながら、肩の力を抜いて幸せになるための真髄をご提案します。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 26アメリカで体験した、新月の夜の謎の儀式。アメリカの禅センターで暮らしていたとき、毎月新月の夜にハングリー・ゴースト(餓鬼)の儀式というものがありました。その夜はみんなでゴシック音楽のような英語のお経を唱え、食べ物をお供えし、法螺貝を吹いて銅鑼を叩き、祈りを捧げて踊るのです。それは暗い禅堂に蝋燭が灯され、禅仏教とハロウィーンが混じったような不思議な世界。東西どちらともつかない雰囲気に度肝を抜かれ、ハングリー・ゴーストと餓鬼が一致せず、思わず禅センターの先生に「ハングリー・ゴーストって何なんですか?」と尋ねました。先生の答えは、世の中と自分の中にある貪りの心を象徴するもの、でした。ハングリー・ゴーストってなんぞや?仏教画などに描かれるハングリー・ゴーストの姿は喉が針ほど細く、手に取るものすべてが炎に変わってしまうので、いつも喉を乾かし、お腹を空かせています。儀式はこの飢えと乾きの心を留め、懺悔して、分をわきまえて必要以上に求めず、満たすことを目的としていました。足るを知る人こそが豊かな人。私たちが幸せになれないのは煩悩のせいだと仏教では言われます。ハングリー・ゴーストのようにいつも満たされない欲望、怒り、執着が苦しみを生むのだとか。ところで「足るを知る」という言葉がありますよね。これは老子の「足るを知る者は富み、つとめて行う者は志有り」が由来とされています。その意味は、満足することを知っている人こそが豊かな人で、結果に執着せず志を持って努力し続けなさい、ということ。思考は現実化する!満足できる人は豊かであるという教えは、思ったことが現実になるという引き寄せの法則に通じるものがあります。引き寄せの法則は、量子力学の考えをベースにした幸せを叶えるためのメソッドです。量子力学では、この世界のすべては最も小さな単位で見れば素粒子という物質です。そして、それは物質であると同時に振動する波なのだそうです。この記事が載る画面、座る椅子、口にしたラテ、あなた自身、そして隣の人など、見た目も性質も違う存在は、それぞれ固有の振動数を持つ波、波動を持っています。素粒子レベルで言えば、目には見えない思いや感情もまた、物質と同じように固有の波動を持っています。引き寄せの法則では、同じ波動のものが共鳴して引き合うと考えられています。そこで、願う現実を物質化(引き寄せ)するには、目の前の現実がどうであれ願いが叶ったときの意識状態(波動状態)の心地よい気分を保つ必要があるといいます。「嫌だ」「不満だ」と思い続けていると、愛するべき人たち、咲き始めた梅の花、好物のラテもハングリー・ゴーストのように炎にしてしまい、いつまでたっても満たされる現実が訪れないというのです。幸せの4割を決める、私たちの行動。この教えを科学研究も形を変えてサポートします。例えば心理学研究によると私たちの幸福度は、楽観主義だったり悲観主義だったりと、同じ状況でどれだけ幸せを感じられるかという遺伝要因が50%を決定します。ところが意外なことにお金持ちかそうではないか、彼氏がいるかいないかという現実の状況、環境要因が占めるのはたった10%。代わりに「どう行動するか」がその4倍の40%を左右し、変わらない現実の中でいかに幸福になるかのカギを握ります(1)。つまり科学的に言っても幸せを現実化するには、なるべく心地よい気分を選択することが肝なのです。ストレスなら、もう無理をしない。そこで無理をして高級ホテルに行ったり、手が届かないようなブランド服を買おうとしたり、特別なことをする必要はありません。そうなるとハングリー・ゴーストの目論どおりで、心理学でいうヘドニック・トレッドミル(快楽のトレッドミル)状態となり、ひとつ願望が達成されるとその喜びを味わずしてまた次を追い求め、いつまでたっても心が満たされず、止まらないランニングマシンで走り続けるような状態になります。それで楽しければいいのですが、それって疲れませんか?そこで無理のない範囲で心地よい気分(波動)を選択するように意識を矯正していくと、やがてそれが現実と同調していきます。目の前に喜びを見つける訓練とも言えます。例えば温かいお風呂につかってホッとする。お気に入りのラテを飲んで「美味しい」と寛ぐ。元気になれる漫画を読んだり、キレイな夕焼けを見る。大笑いできる動画を見るなど。心と体の緊張を解きほぐして、目の前の現実と調和できることならなんでもいいです。そして忘れてならないのが、満たされない気分を転換させてくれる「ありがとう」という感謝の心や言葉の力。感謝研究の権威ロバート・エモンス博士は、感謝がなぜ幸せを叶えるのか、4つの理由を挙げています(2)。感謝の心が幸せを叶える4つの理由。1. 今この現実を祝福できる。目の前に与えられているものを当たり前ととらえて不感症にならず、その喜びに気づくことができます。2. ネガティブ感情を遮断する。仏教では人間の苦しみの根源は、貪り、怒り、愚かさの3毒とされています。ある人に対して感謝の心を抱くとき、毒となる感情を同時に持つことはできません。3. ストレス耐性が高まる。トラウマや試練研究において、感謝の心を持つ人は逆境からの回復が早いことがわかっています。感謝の視点を持って、一見ネガティブな人生体験を解釈できたとき、トラウマや続く不安感から立ち直れるようになるでしょう。4. 自尊心が高くなる。誰かがあなたの人生に貢献してくれたことに気づいて感謝することで、自分はその有難い行為に価するような、大切に扱われる人間なのだと再認識し、自己価値を上げられます。もののけ姫の怪。©土居彩先日ちょっとした怪事件がありました。その朝なんと野生のタヌキが庭にやってきました。東京でもいるのだなと驚いて、朝食のリンゴを一緒に食べました。その夜中、言葉にならない、つんざくような女の人の悲鳴で、目を覚ましました。その女性は家の周りをぐるぐる回って「助けてぇー!!」「燃えるうぅーー!!!」と叫んでいるようです。それは大変だと、恐ろしい気分を抑えて1階へ降りると、「私は、グルと共にいます!」という叫び声がしたので、中から様子を伺うことにしました。玄関の電気をつけると声が止み、その夜は外に出ないことに決めました。翌日、ドアの前に大きなリュックとスニーカー、コートに紙袋、玄関あたりの裏通りに黒い革靴が揃えて置かれ、ちょうどお風呂がある場所に脱いだ服、さらには汚れた下着まで脱ぎ捨てられています。まるで間取りを把握するようなその置き方に恐ろしくなって、すぐ110番しました。すると警察官が3名来て、うち一人がリュックの中を確認すると『もののけ姫』のDVD……。神妙な顔をした警察官の方とすっかりビビっていた私は思わず顔を見合わせ、クスッと笑ってしまいました。このとき、体と心の緊張が少し緩みました。というのも自然がいっぱいのこの家はある意味、もののけ姫気分になるのに絶好のシチュエーションだからです。不法侵入されると怖いし嫌だけど、ここに入りたくなる気持ちがわからなくもないな、と。翌日は家を清め塩で掃除し、裏通りに塩をまきました。新月は気持ちを新たにするとき。カリフォルニアのバークレー市で暮らしていたとき、奇声、銃声は日常茶飯事でした。だからいつも背中にも目があるような意識で生活していました。日本に戻ってまだ数か月ですが、今はすっかり平和に慣れて気も緩み、安全で清潔な街に感動していた感謝の心も薄れて、あるものよりも無いものに目が行くようになっていました。この一連の出来事は、ハングリー・ゴースト化している私に気づかせてくれる一件でした。そして幸せというのは結局、目の前の現実をどう思うかという体験であって、幸福という完璧な現象があるわけではないということも。そしてその夜は偶然にも、うお座の新月でした。土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。参考:1. Lyubomirsky, S. Sheldon, M. K., & Schkade, D. (2005). Pursuing Happiness: The Architecture of Sustainable Change. Review of General Psychology. Vol.9, 2, 111-131. DOI: 10.1037/1089-2680.9.2.1112.
2020年02月27日マイケル・ジャクソン、ブライアン・ウィルソン、ニッキー・ミナージュといったレジェンドと呼ばれる超有名アーティストたち。彼らはみな子ども時代にトラウマになるような体験をしています。心の傷を抱えながら、彼らはいったいどうして多くの人を感動させるような創造性を開花していったのでしょうか。その鍵となる心理状態に入る方法は、なんと約800年前の日本ですでに説かれていました。そこにはうまくいかない日々でも、私たちが最善を尽くすためのヒントがありそうです。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 19ジャジャジャジャーン! このイントロを文字で見るだけで、「『運命』?」とわかりましたか? それほどベートーヴェンが作曲した交響曲第5番はクラシック音楽のなかでも特に有名です。ところがそんな名作を生んだベートヴェンの幼少期は恵まれず、飲んだくれの父親にしばしば殴られていたと言われています。またTIME誌で最も影響力のある100人のひとりに選ばれたラッパーのニッキー・ミナージュも薬物中毒の父親を持ち、母とともに彼の暴力に怯えながら暮らしていたのだそうです。幼少期のトラウマから芸術を生む鍵、フロー状態。そんな子ども時代の心の傷を抱えながら、彼らはどうやって多くの人を感動させるような芸術を創造できたのでしょうか。科学者たちがトラウマ的な幼少期を経験した234人のアーティストたちを分析したところ、そこにはフロー(FLOW)という心理状態が鍵を握るようです(1)。フローが辛い実生活から逃れるための別の世界への入り口となり、芸術を生み出すプロセスになったというのです。彼らに共通していたのは創作の過程で完全に没頭し、我を忘れた状態になっていたということ。これがフロー状態です。フローという心の状態を提唱した心理学者、ミハイ・チクセントミハイ博士によればフローには8つの要素があります。フローに至る8つの条件。1. タスクに完全に集中している2. タスクのゴールとそれで得られる報いが明確で、すぐにフィードバックが得られる3. 時間を超えた感覚(時間が経つのが早かったり、遅かったり感じられる)4. やっていること自体に報い、やりがいがある5. ほとんど努力を要しない6. チャレンジがありつつも自分が持つスキルとの間の絶妙のバランスで行える7. 行為と意識が溶け込んで一体となり、忘我の境地になる8. 自分の力でコントロールしているという感じがある(PositivePsychology.comより抜粋翻訳)博士によると、人の神経系は毎秒110ビット以上の情報を処理できないといいます。例えば人の話を聞いて理解するには60ビットが必要とか(2)。簡単すぎるタスクに退屈しながら他のことが頭に浮かんでも、逆に難しすぎて110ビットのキャパシティオーバーになってもフロー状態には入れません。意識が処理できる情報量をフルで扱うような完全没頭状態に入ると、もはや空腹感や痛み、明日への不安、「わたし」という感覚でさえ処理する力が残っていません。そのため、それらを捉えることができなくなります。そこではトラウマを抱えたアーティストたちを苦しめる恥の意識や不安、落ち込みといった否定的な感情も薄れていくのでしょう。そこでフローは、創造性につながるだけではなく、幸福の鍵であるとも博士は考えています。得意のピアノを弾くなり、友達と夢中で過ごすなり、ジャンガをするなり、没頭できる仕事をするなり、どんな方法でも良いのですが、自分を感じられないほど集中することができるとそれはフロー状態になっています。800年前の日本で、”フロー”の秘伝は説かれていた。さてこのフローですが、実は約800年前の日本で「ある方法だと毎日の生活でキープできるよ」と教えた人がいます。鎌倉初期の禅僧 道元禅師です。お寺という狭い空間でたくさんの人たちが共同生活するためには、日常の動作は調和的なものでなければなりません。そこで道元は、顔の洗い方、食事の仕方、布団の敷き方に至るまで細かな作法をしっかりと定めました。道元が建立した永平寺で修行するお坊さんたちの生活の様子はこちらで少し垣間見ることができますが、そこではひとつひとつの動作に一心に心を傾けるお坊さんたちの姿が見られます。そして彼らが動作と自分が一体となるような完全没頭状態で勤めているのがわかります。今は効率的であることが良いとされる時代ですよね。1日にどれだけ企画書が書けるとか、電話しながらメールを返して調べ物をしてと、いろいろなことが同時に行える多動力こそが良いとか。でも、もしもそれであなたの心が疲れているとしたら、やることを少し減らしてみてはどうでしょう。そして我を無くすほどひとつの行為に全身全霊で没頭してみませんか。そうすることであのアーティストたちが到達したような創造性の扉が開いて、思わぬ解決法がハッとひらめくかもしれませんよ。土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。参考(1)Thomson,P.& Jaque.V.S.(2018).Childhood Adversity and the Creative Experience in Adult Professional Performing Artists. frontiers in Psychology.doi:10.3389/fpsyg.2018.00111(2)
2020年01月12日コスメやエステ、最先端の美容皮膚科技術で見た目を若く見せる方法もお役立ちですが、心身ともに若返りの能力そのものをアップさせる術もあります。しかも無料! それはずばり、瞑想です。なぜ瞑想がアンチエイジングに効く? その鍵となるのは、染色体を守るキャップのテロメアです。テロメアと瞑想、永遠の若さとの関係を研究データとともに解説します。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 18わたしがアメリカの禅センターで暮らしていたころ、いっさい化粧をしていませんでした。別に禁止されていたわけではありませんが、誰もしていないのでひとり化粧しても変な感じだったからです。化粧もエステも無いかわりに、当時は1時間の坐禅を毎日3回、合計3時間瞑想していました。瞑想三昧の日々が5か月です。総勢13人ぐらいのレジデントと一緒に瞑想したり作務をしたりという毎日。そこへワークショップやリトリートに参加するために3日間や1週間のスパンで世界中からたくさんの人がビジターとして訪ねてきましたが、みんな口を揃えて言うんです。「あなたたちはなぜ、そんなに若く見えるの?」と。僧院生活ですし、特に若く見せようとしていたわけでもないのに、周囲があっと驚くような若さが手に入っていたというのは興味深いことです。よくよく考えてみれば、わたしの知っているお坊さん尼さん、瞑想を日課にしている人たちはみんな驚くほど肌がキレイ。最先端の技術を駆使したコスメやエステの力で見た目年齢を下げるアプローチはアンチエイジングに効果的でしょう。それに加えて毎日の生活のなかで、心身ともに若返り能力を復活させる瞑想も取り入れてみてはいかがでしょう。余分なお金はかかりません。瞑想が若返りに効くワケ。そこで、なぜ瞑想がアンチエイジングに効くの? という疑問を持たれるかと思います。 その鍵を握るのはテロメアです。テロメアとは、染色体の端を守るキャップのようなもの。染色体が擦り切れないように保護するものです。その様子はダブルチップの綿棒をイメージしてみてください。ありがたくない例えですが、その耳垢を取る箇所がテロメアです。ところでわたしたちの体は60兆個の細胞からできています。例えば皮膚を作る細胞は、日焼けをしたあとに新しい肌を生み出したり、ケガした傷口を修復するときに分裂しますがそのたびにテロメアは短くなります。そしてある程度短くなると細胞老化と呼ばれる状態になります。細胞老化になると細胞分裂はストップ。これが細胞の寿命です。つまりテロメアが短くなることが老化の原因のひとつ。加齢とともに肌のターンオーバーが遅くなってシワやシミができてしまう原因も、ここにあると考えられています。瞑想者はテロメアが長い。さてヨーロッパの科学者たちが20人の長く禅瞑想(坐禅)を行ってきた人たちと、20人の同様に健康で瞑想をしない人たちのテロメアの長さを比較しました。すると瞑想者たちのほうがテロメアが長いという結果が。そして科学者たちはさらに分析します。瞑想で育まれたであろう、どういった心の状態がテロメアの長さに関係するのかを。そこでわかったのは、嫌な感情や経験を回避せずにありのまま受け容れられる心、そして自分に優しくできる心があるほどテロメアが長かったということです(1)。こういった若返りの力を呼び覚ます心の状態。それがなぜ瞑想で育くまれるのでしょうか。その理由は、瞑想では体の感覚を使いながら自分の内側で実際に起こっていることに気づき、思いやりの心で見つめながらそれを手放すことが体験のなかで行えるからです。わたしの体験でこんなことがありました。禅センターの集中瞑想期間、接心でのことです。プレジデントの隣の席に坐ることになったので、「いいところを見せなくちゃ」と欲が出ました。ところが朝食前の瞑想では腹の虫の大演奏。さらには寒暖差アレルギーによる鼻水が滝のように流れてしまうというありさま。「恥ずかしい! こんなはずではなかったのに」と体験に抵抗しようとするほど、嫌な気分が増すばかりで全然坐禅にも集中できません。心と体の真の若さを手に入れる瞑想のコツ。そこでプレジデントに正直に打ち明けました。すると彼は「素晴らしい。その体験をありのまま感じてみなさい。嫌な気分も『そうか』と感じて、ずっと握ろうとしないで手放したらいい」と助言してくれました。それから肩の力を抜いて、勝とうとかうまくやろうという気持ちを手放すように心がけました。となると瞑想中に体験するのはこんなものです。お腹が鳴る。恥ずかしい。体が熱くなる。一番熱いのは頬だな。熱い。熱い。熱のピークを迎える。やがてその熱は消える。そういった一連の流れを「そうか」と観察していきます。それになんの肉づけもしません。そして吐く息とともに手放すと、また次の体験がライブでやってきます。このエンドレスです(笑)。これを繰り返すことで、実際の体験とより親密な関係が築けるようになってきます。最終的に手放しているにも関わらず、もっと深く体験と関われるなんて不思議ですよね。これは日常生活に当てはめることができます。なにも毎日3時間も坐禅をする必要はありません。日常生活でこうした心の観察を行うだけでも瞑想的な効果があります。さて心と体のアンチエイジング、テロメア・ケアのためにまずは1日5分、坐ってみませんか。0円で、毎日、今すぐできますよ!土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。参考(1)Alda, M. et. al (2016). Zen meditation, Length of Telomeres, and the Role of Experiential Avoidance and Compassion. Mindfulness , 7, 651–659 DOI 10.1007/s12671-016-0500-5
2020年01月10日年末年始の暴食でデニムがきつくなってヤバい。なのにハッと気づくとスナック菓子を袋ごと完食して大後悔…。お腹が減っているわけじゃないのにイライラや気分の落ち込みで甘いものやジャンクフードを大量に食べてしまうなんてことはありませんか? 食事制限よりもこの「心の飢え」を満たすことがダイエットに先決というのが“エモーショナル・イーティング(感情摂食emotional eating)”専門の心理学者ファーカス博士。そこで「心の飢え」を治し、憂さ晴らし暴食から脱出する方法をお伝えします。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 17今日も残業、はぁー疲れた。予算は厳しいし部長はうるさいし。これからスーパーに寄って食材調達して料理するなんて余力全然無いわ。当然帰ってダニエル・デルプシュ(元フランス大統領専属シェフ)の温かい手料理が待っている、なんてことは無いし。箸持つ気力すら残ってないよ。コンビニにでもとりあえず寄っておくか。そして「ひと口だけ」と買った唐揚げと、「朝ならいいでしょ」とお疲れな毎日のご褒美に朝食用の新作スイーツ。部屋に入ってお気に入りのYouTubeチャンネルや友達のインスタをチェックしていたら、いつのまにか唐揚げを完食。濃厚ホイップがついた新作スイーツのプラスチックの蓋がテーブルに物悲しく転がっているのはなぜ? ぎょ、誰がこれ全部、食べたの? この家には、魔法の小人がいる??暴飲暴食の罠、エモーショナル・イーティング。残念ながら、いません。エモーショナル・イーティング(感情摂食emotional eating)という言葉をご存知ですか。それは「お腹が空いた」と体が欲したからではなく、感情のおもむくままに食べること。「楽しいなぁ」「幸せだなぁ」というポジティブな感情で食欲が増す場合もありますし、「ムシャクシャする」「心寂しい」というネガティブな感情で過食のスイッチが入ることもあります。ダイエット外来では特に後者のエモーショナル・イーティング、つまりイライラや気分の落ち込み、不安や孤独感というネガティブな気持ちを紛らわせるための食べすぎを治療します。ハワード・ファーカス博士は、エモーショナル・イーティング専門の心理学者で 『エモーショナル・イーティングを終えるための8つの鍵(8 Keys to End Emotional Eating)』という本を出版しました(1)。彼はセラピストとして、嫌な気分を和らげるために食べ過ぎてしまう人を何年も診てきて、彼らの性格には共通する4つのパターンがあると言います。それはストレス過食してしまう4タイプ。*他の人の気持ちをなだめるために自分の欲求を二の次にし、怒りを感じている。*自分は人生で成功するに値しない人間だと思い、恥をかくことを恐れている。*完璧主義で自分の行動で間違いを犯すことを心配している。*コントロールを失うことを恐れて、ネガティブな感情すべて抑圧している。これって、世に言う周りを気遣う、真面目ないい人ですよね。このなかでどれかあなたにも当てはまる項目はありますか? ファーカス博士によるとこんな人たちがエモーショナル・イーティングの過食に陥りやすいというのです。私たちの心は“何かを奪われる”ということに対して抵抗するもの。とくに誰もが根源的に持つ「外部の力に振り回されずに自分で決めたい」という自律性への欲求は手放したくないものです。それはすでに1歳半から3歳頃から芽生え、「なんでも自分でやりたい」とコップから水を飲もうとしてこぼしたりと失敗しながら「できた!」を重ねて子どもの心は大人へと発達していきます。食事制限によるダイエットは、意志の力で自律性への欲求を抑えるという手法です。そこで当然ながら必死にダイエットの厳しいルールに従っていても、疲れていたりストレスで意志の力が弱まれば、食べるという手軽な憂さ晴らしで「好きに行動できる自分を再認識したい」と無茶食いしてしまうのです。これが俗に言うリバウンド。ストレスホルモンが食欲をどーんとアップ!短期的なストレスは食欲を抑制する可能性がありますが、長引くと副腎がコルチゾールというストレス・ホルモンを出して食欲をアップします。そして「丸ごと食べてしまえ!」が蒸し野菜やローカロリーなタンパク源などに素敵なデザートを少し、と淑女のテーブルのようにバランス良ければいいのですが、エモーショナル・イーテイングの場合そうは問屋がおろしません。数多くの研究結果でも「ホッとする食べ物」として選ばれるのは、糖分の多い、高脂肪・高カロリーの食品になりがちです (2)。ファーカス博士は心の飢えで太ってしまうパターンを克服するには、意志の力を駆使したダイエットではなく、エモーショナル・イーティングという心理状態を終焉することこそが必要だと考えます。食べ物を良い悪いで判断していませんか?「痩せたい」目線になると食べ物を「食べても良いヘルシーな食べ物」と「太りそうな悪い食べ物」という分類で捉えるようになります。「食べていいのは良い食べ物だけ」と頭でっかちに食事制限しては、何をどれだけ食べたいのかという体のサインをキャッチできなくなり、エモーショナル・イーテイングの思うツボ。それに対して食べ物にどんな風味や食感がするのか、また空腹や口にする欲求をどう満たしてくれるものなかという感覚に意識的になることで、ひと口の喜びも最大化するのだそう。その結果、少量でも満足度が高まって食べ過ぎなくなるのだとファーカス博士は言います。お気に入りスイーツで、食べる瞑想を。ではあなたの大好きなスイーツを五感で味わう「食べる瞑想」(マインドフル・イーテイング)を練習してみませんか。教材費として1粒500円する高級ボンボンショコラを選ぶと「絶対やりとおす!」と本気スイッチが入っていいかもしれません。恐れ多くて二個目の誘惑をそう簡単には受け入れられない感じもいいですよ。1. スイーツをひとつとり、手のひらにのせます。どんな感触がしますか?2. 生まれて初めて見るもののように観察してみます。どんな色や形ですか?3. 少し顔を近づけてみます。どんな香りですか? 今までそれに気づきましたか?4. 口に含んで舌にのせます。少しずつ味わいが強くなっていきます。唾液が出ます。少しずつ味わいが薄れていきます。噛んでみるとどんな食感ですか?5. ゴクンと飲み込む音に耳をすませましょう。喉から気管へとスイーツが移動していく様子はどんな感じですか?これは私がティク・ナット・ハン師というお坊さんに食べる瞑想を習ったときの内容をアレンジしたものです。600人の合宿中は毎食このように全員肩を並べて無言で食べるわけですが、本当にびっくりしたのが日を追うごとに食事量が減っていくこと。私は5日間で2.5キロ体重が減りました。さらに素晴らしいのは、食べる瞑想を毎食行うお坊さんも尼さんもファンデいらずのピカピカ肌なのです。私たちの多くは、コントロールを抑制と同一視しています。しかしファーカス博士は、食べ過ぎないためには別のタイプのコントロール、自律性を目指すべきだと言います。「自律的であることは、自分の責任で処理できる能力と自由を持つことを意味し、外からコントロールされていると感じることはその反対です」とはファーカス博士。あれを食べちゃいけない、これだけダイエットではなく、むしろ“私はこれを食べている”としっかり気づきながら食事することがリバウンド知らず、マインドフル時代の幸せなダイエットの鍵ということです。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。
2020年01月05日今年も残りわずか。忘年会やクリスマスも終えて、いよいよ大掃除ですね。部屋や職場の片付けと並んで、ココロの整理整頓のほうは進んでいますか?私はスッキリしたり荒れ狂ったりと日々バラエティに富んでいます。あなたもそうだとしたら、もしやサンクコスト効果の罠に陥っているのでは。本当は今にでも解約したい全然見ていない有料チャンネル、別れたいのにズルズル付き合っている不毛な関係なんてありませんか? 無意識にやってしまう不合理な決断というサンクコスト効果の蟻地獄から、一年の締めくくりにすっきりと脱却して、ピカピカの心で新年を迎えてはいかがでしょう。心理学研究からそのコツを紐解きます。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 16損のループにがんじがらめ! サンクコストの蟻地獄とは?サンクコスト(埋没費用)とは過去に支払ってしまい、もはや取り戻すことができないお金や労力のこと。サンクコストにとらわれて意思決定を間違えやすくなる心理状態のことをサンクコスト効果(sunk-cost bias)といいます。「今までの苦労がパァになってしまう」と支払い済みのお金や費やした時間、労力を惜しんで、赤字を生み続ける事業を継続したり、不毛な人間関係にのめりこんでしまうのです。この半年ほとんど通っていない会員制ジム、本当はすぐにでも解約したいのにそのままの有料チャンネル……。ほかにも恋愛関係だったり仕事でも「あんなに奢ったから」「時間も手間も尽くしたし」という気持ちに縛られてしまうと、正直いってもう続けたくないのに関係性をストップできないというのはよくある話です。このままだと痛々しい主人公の生きざまを描いたウディ・アレンの映画『ブルージャスミン』を観たあとのような気分。「リターンが出ないままでは諦められない」、「過去の決断が過ちだったと認めたくない」といった心理が働き、ずぶずぶとサンクコストの蟻地獄にハマっていくのです。何かを払うと精神的な苦痛が伴うという心理。なぜ冷静に考えれば不合理であるのに、それを続けてしまうのか。その理由は私たちには「出費の痛み(pain of paying)」という心理があるからです。何かを支払うときに、私たちは精神的な苦痛を感じるようにできています。例えば一般的に現金払いよりも、電子マネーやクレジットカードのほうが羽振りよくお金を使うものだというのはよく言われること。物理的に「財布からお金が減っていく」のが実感しにくくなるからです。ちなみに10月から政府が行っているキャッシュレス消費者還元事業はこういった人間の行動心理をうまく利用しながら還元金も振る舞い、出費の痛みの強さを小さくして消費活動を高めようと試みています。また、心理学者のナオミ・アイゼンバーガー博士によると、脳には心の警報装置とも喩えられるACC(前帯状皮質)という場所があります。さて、ここは肉体的な痛みや嫌な肉体感覚を感じたときに活性化されますが、人間関係における拒絶、別れ、排除という社会的な痛みでも反応します。つまりサンクコスト効果は、出費の痛み、そして「今までの関係性がムダになる」といったゴールや意図に反した社会的な痛みを避けるために、目の前の現実を「損していない」と歪めて認識する心のサバイバル本能なのです。マインドフルネスがサンクコストの罠を救う?さてINSEADという経営大学院(余談ですが、一年の学費1000万円超え!)とペンシルベニア大学の研究者たちは次のように提唱します。「サンクコストは過去にやってしまった出費。だったらマインドフルネスで“今ここ”に目を向ければ、サンクコスト効果に影響されにくくなるのでは?」と(1)。そして実験には109人の大学生が参加します。全員15分間の録音を聞きますが、うち半分がマインドフルネス(今ここに心を集中)の録音、残りの半分がマインドワンダリング(心ここにあらず)の録音を渡されます。マインドフルネス・グループは呼吸が体の中を入ったり出たりする体の感覚に集中し、何度も呼吸に意識を向けなおすように指示されます。心ここにあらず(マインドワンダリング)グループの人たちは、なんでも頭に浮かぶままに心をさまよわせるようひっきりなしに命じられます。そして参加者たちは以下の筋書きを渡されます。あなたはレーダー航空機の開発に10億円を投じた航空会社の社長です。ところが9億円を使った後に、ライバル会社がより優れた性能と低コストのレーダー航空機を発表しました。あなたは残りの1億円を使って、引き続き今のレーダー航空機の開発を行いますか?冷静に考えれば、劣悪なレーダー航空機の開発を継続することは経営的に無意味ですよね。でもすでに9億円も使っちゃったから、「失敗しました」と引き返すのはかなりハードな出費の痛みが伴います。そこで「継続します」と参加者が答えた場合は、サンクコスト効果に屈しているとみなします。たった15分の瞑想で損のループから自由に。結果は、マインドフルネス・グループの人たちは心ここにあらずグループの人に比べて、過去や未来ではなく、今ここに心が向かってネガティブな気持ちが減ったことで、サンクコストの影響を受けづらいというものでした。たった15分間意識を今に向けるだけでサンクコスト効果から少し自由になれたのです。「逆に、今得たものはなんだろう?」という視点が処方薬。「今ここ」に意識を向けるためにこのようなマインドフルネス瞑想を日課とするのもいいでしょう。ほかにも「逆に今何を得ている?」という視点を持てばいいのです。「失うだけ」と思うから、できた隙間を埋めようといらないものが手放せないのです。深く世界を見渡すと、“支払うだけ”という関係性が無いことに気がつきませんか? 例えばパスモにお金をチャージしたら、財布からお金が無くなります。でもその代わりに、歩けば2時間かかる場所へ20分たらずで移動できます。しかも車内は暖房が効いていて、あったか。コーヒーショップで購入したお気に入りのラテもそうですね。何かを差し出すと必ず何かを手に入れています。それは物の交換という形をとらないかもしれません。例えば得られるのは笑顔だったり「ありがとう」という言葉かもしれません。相手から何も得られなくても究極的には何かを贈るには、受け取ってくれる相手がいないことには成立しません。関係性を終えたとしても、それはあなたの何かを失うことではなく、与えることができた自分に出会えるということ。また、不安や苦しみ、重い気分というコントラストを体験したおかげで、望みもクリアになっていきます。それは経験を学びとして「今こんな風に生きたい」という願望を得たということ。支払ったものは何も無駄になっていない。逆に得るものがたくさんあった。そんな視点に立って初めて「もし時間もお金も失っていなければ、今ここでどんな決断をする?」と問いかけます。最後に私がお守りにしている『ニーバーの祈り』をお贈りします。神よ、変えられないものを受け入れる心の静けさと、変えられるものを変える勇気と、その両方を見分ける英知を与えてください。今年も大変お世話になりました。どうぞ良いお年を!土居彩編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ 『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』 株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。参考(1) Hafenbrack et al. Debiasing the Mind Through Meditation: Mindfulness and the Sunk-Cost Bias(2013). Psychological Science(2014) 25(2) 369–376 DOI: 10.1177/0956797613503853
2019年12月27日一年の締めくくりに「ありがとう」の気持ちを綴るクリスマスカードや新年に向けた年賀状。感謝の気持ちを感じることで健康と幸福度が上がることは、科学研究で明かされています。また感謝の心を表すことでさらに関係性が強くなるということも。50歳の誕生日から毎週1通、合計50通の「感謝の手紙」を贈るという計画をスタートした作家は、認知症を患う母親を最初の受取人にします。彼女の心温まるストーリーとともに感謝の手紙の書き方、届け方をあなたへの「感謝の手紙」としてお伝えします。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 15クリスマスカードや年賀状書きのラストスパートを迎えられているころでしょうか。一年の締めくくりに「ありがとう」の気持ちを込めて送るこの手紙にも、あなたを幸せにするカギがあります。幸福学のエキスパート、ソニア・リュボミアスキー博士によると、私たちの幸せを決める要因として、幸せを感じられる遺伝的な力である遺伝要因は5割。どんな仕事をしているか、パートナーがいるかいないか、美人かそうでないかという環境要因は1割。それに対して「どう行動するか」という行動要因は4割を占めるといいます。また、感謝の気持ちを感じることは、健康と幸福度を高めると考えられています。そしてその感謝の気持ちを表すことは、さらにお互いの関係性を強くします(1)。けれども感謝を表すことはどこか形式的で、表面的に終わりがちでもあります。そこでこのエクササイズで「書く」力の助けを借りて、相手に対する感謝の心をより深く感じる行動をとってみましょう。受け取り手には、とても感謝しているけれど、今まで特に深い感謝を表したことがない人を思い出してみてください。それは親かもしれないし、親戚やパートナー、子ども、友達、先生、または同僚や隣人かもしれません。しばらく連絡を取っていないけれど、お世話になった恩師などもいいでしょう。そして「感謝の手紙」を書くときには、以下のステップを踏んでください。幸せになる「感謝の手紙」の書き方。・相手に直接話しかけているように書く。(例:親愛なるさんへ)・文章の完璧さを求めて不安にならない。大切なのは感謝の心を伝えること。・相手があなたにしてくれたこと、なぜあなたが感謝をしているか、どのようにその行為があなたの人生に影響を与えたのかを具体的に説明する。・あなたの現在の暮らしぶり、そして相手が心を砕いてくれたことをあなたが今どのようによく思い出すのかを説明する。なかなかハードルが高いけれど、さらに力強い効果があるのはその手紙を直接相手に届けることです。以下のステップで行います。心がぐっと近づく「感謝の手紙」の届け方。・「特別なことをシェアしたいので会いたい」とアポを取る。この時点ではそれがなんなのかを明かさない。・相手に会ったときに感謝していること、そしてそれを表す手紙を読みたいと伝える。また読み終わるまでは遮らないようにお願いする。・手紙を読んでいるあいだは、自分と相手のリアクションに注意する。・手紙を読んだ後に、お互いの気持ちを語り合う。・去るときに、手紙を渡すことを忘れないこと。作家のナンシー・デイヴィス・コーは50歳の誕生日に「サンキュー計画」を立てました(2)。それは毎週1通、計50通のこの「感謝の手紙」を書くというものです。現在の彼女に至る道程で、ナンシーを助け、形作り、インスパイアしてきた人々がその手紙の受取人です。そして50通の手紙は、『サンキュー計画(The Thank You Project)』という本になりました。最初の手紙の受取人は、ナンシーのお母さんでした。彼女は計画の5年前に認知症と診断され、月を重ねるごとにものがわからなくなっていました。そこでナンシーは「善は急げ」と彼女に1通目の感謝の手紙を書きます。そこには「感謝の手紙」の書き方に習って、二人のエピソードが具体的に書かれています。以下は手紙の内容をかいつまんだものです。ナンシーが贈る、母への「ありがとう」の気持ち。ナンシーが22歳のとき、彼女は外国であるドイツで仕事を見つけます。その知らせを母親に電話で知らせたとき、彼女は「素晴らしい! ちょっと待ってね。かけ直すから」と言って一度電話が切られます。そんなふうに途中で電話が中断されることは初めてで、今までありませんでした。遠い外国で就職して離れて暮らすことになる娘。母親として温かく祝福するために、「寂しい」「心配」などといった複雑な気持ちをしっかりと受け止め、娘の門出を一緒に祝う力を総動員する必要があったのでしょう。若く経験が浅い22歳のナンシーでも、それは理解できました。そして彼女の母親は約束どおり数分後にちゃんと電話をかけてきて、一緒に喜んでくれました。ナンシーは感謝の手紙を以下のように結びます。今私は50歳。親になって自分の子どもが遠く離れた大学へ行くことに少々ビビっています。母親として、あなたはどうやってこういったことをやりこなしてきたんでしょう。とても優雅に。私も実際に感謝の手紙を書いてみると、受け取った相手の顔を思い浮かべて温かな気持ちになれました。またソニア博士によると感謝の気持ちを綴ることで、自分は人の優しさや思いやり、寛容さを受け取ることができる、愛されるに価する存在なのだということが再認識でき、幸せになれるのだそうです。年末年始、帰省される方もいらっしゃるでしょう。この機会にあなたとあなたの大切な人を幸せにする、感謝の手紙を書いて届けてみてはいかがでしょうか。一緒に暮らすパートナーに贈ってみてもいいでしょう。私もちょっと冒険ですが、今まで心配をかけてきた親にやってみたいと思っています。そしてこれは、私からあなたへの「感謝の手紙」です。いつも読んでくださって、本当にありがとう。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。参考(1) Seligman, M. E., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: empirical validation of interventions. American Psychologist, 60(5), 410.(2)Thank You Project
2019年12月20日毎日に行き詰まりを感じるなら、朝の歯磨きを変えてみてはいかがでしょう? ものの1分もかかりませんし、とりあえずやってみて損はありません。1日のスタートに明るく気持ちがいい自分像を意識のうちに叩き込むことで、あなたの行動だけではなく、周りの現実も変わっていきます。世に言う引き寄せの法則、なぜ意識が現象を形作るのかという仕組みを心理学的に解説します。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 12生きてりゃ、消えたい気分の朝もある。生きていれば当然のこと、最悪な気分で目覚める1日もあります。「もう、このまま消えちゃいたい」と。でも、そんなときも私が毎朝必ず行っているのは、鏡の前でニコニコと笑顔で歯磨きをすることです。ちょっとバカみたい? でも歯を磨くのはものの1分程度の話ですし、どのみち毎朝行うことなので余分な手間だってかかりません。試しにやってみたところで失うものは何もありませんよ。当然笑えないぐらい落ち込んでいるときもありますよね。すごくわかります。そんなときは、口角の筋トレだと捉えましょう。腹筋みたいなものです。無理に笑顔を作ろうとするのではなく、歯を磨きやすくするためにイーーッと口角を引き上げるんです。そうして鏡の中の口角の上がった自分の顔を朝一番の意識のうちに叩き込みます。スマイル歯磨きで朝イチの意識を変える!そんなスマイル歯磨きで1日をスタートすることをオススメしたいのは、意識には絶大な影響力があるため。ところで意識といえば、海に浮かぶ大きな氷山によく例えられます。「今日のプレゼン嫌だな」「太ったからダイエットしなきゃ」と、自分がこう考えていると意識しているのは顕在意識といって意識の氷山の1割にも至りません。つまり、恐ろしいことに私たちの意識の大部分である9割を占めるのは、まったくの無意識。気づいていない無意識の領域で人生にかかわるような大事な物事を決断したり、価値判断をしているということです。そうだとすれば、私たちはまるでコントロールを失って踊る悲しい操り人形だともいえるでしょう。そこで自分らしく生きるためには、顕在意識と無意識のパイプを太くして連携させていくことが重要です。そうすることで「私は損な役回りばかり!」「あの上司はヒドイ」とうまくいかないことをコントロールできない周囲の人や不当な状況のせいにして被害者意識にどっぷりとハマってしまうのではなく、「私はどうしたい?」「何が今できる?」と状況を課題中心的に見て作戦が立てられるようになります。どうやったって手に負えないなら、きっぱりと手を放すということもアリなんですよ。無意識に振り回されずに決断をするためには、ビリーフといういらない自分の思い込みを外すということも有効ですし(※第9回参照)、毎日の行動の中で気づきをなるべく増やして、「今」と「自分」を肯定する作業も必要です(※第10回参照)。笑顔があなたそのものになるプライミング効果。今回ご紹介しているスマイル歯磨きは、いわば鋳型に溶けた金属を流して固めてコインを作るようなもの。明るくて気持ちがいい「なりたい自分」をその日のデフォルトにして、まず顕在意識に叩き込むんです。すると心理学ではプライミング効果と言いますが、一般的に人は無意識のうちにアクセスしやすい情報の影響を強く受けて、決断・行動すると考えられています。つまり、プライミング効果を受けて笑っているあなたのほうが、ムッとしているあなたよりも自分の意識の引き出しから知らずうちに出やすくなることで、しだいに自分が笑顔でいられる選択を自然にとれるようになります。また、笑えない場面が続いたときには「何かがおかしいな」とチェック・インできるようにもなっていきます。意識の鋳型で周りの人の判断も作り変える!そして笑顔の鋳型には自分の意識を形作るだけではなく、周りの人の意識と行動を変える力もあります。それは自己充足的予言(Self-fulfilling Prophecy)と言う、ロバート・K.マートンというアメリカの社会学者が提唱した、自分の思い込みが現実を創造するという考えに基づきます。例えばあなたに「この上司はいつも私を叱る」と思い込みがあるとします。そこであなたは無意識ではありますが、なるべく上司との接触を避けようとしてホウレンソウを怠ってしまうかもしれません。また表情もどことなくぶっきらぼうだったり、逆にオドオドして円滑なコミュニケーションがはかれないかもしれません。それは、結果的に怒られてしまうような行動をとっていることになり、予想通りに叱られてしまうという現実を招いてしまいます。自分が期待した筋書きに通りに無意識に行動してしまった結果、想定通りの物事が現実化するのです。まるで、世紀末を予言したノストラダムスのように!逆に、地道なスマイル歯磨きで1日をスタートし続け、笑顔でいられるチョイスを何気なくとれるようになり、「あの上司はヒドイ!」という思い込みからも自由になって行動し、上司との関係性が改善されるということがあるのです。実際にパワハラ上司に悩んでいた友人にこのように助言したところ、効果がありすぎて上司に好感を持たれて、ひっきりなしにカラオケに誘われるようになってしまったという結果に二人で苦笑いしたこともあります。そしてスマイル朝歯磨きの一番素晴らしい効果は、前より笑える時間が増えていくということ。「毎朝笑顔で歯磨きする」といった、どんな小さなことだったとしても、自分が決めたことを毎日粛々と続けられている私、と意識せずともセルフ・イメージが上がることで、少しづつ自分にOKが出せるようになるのです。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。
2019年12月03日口は災いの元とも言われますが、耳には「牛耳る」なんていうパワフルな言葉があります。「良い印象を持たれたい!」と思うなら、躍起になって話すことよりも、深く聞くほうが有効です。全身全霊で聞くことはディープリスニングやマインドフルリスニングとも呼ばれ、聞く瞑想だとも考えられています。そこで今回は、仕事やパートナーシップで相手の心をつかむ「聞き方」6つのポイントをお伝えします。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 11誰だって自分の話を聞いてくれる人は、好き。突然ですが黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』(講談社)を読まれたことがありますか? 出だし一番で主人公トットちゃんはADHDぎみの“問題児”とされ、小学1年生で退学になってしまいます。そして転入先のトモエ学園の校長先生 小林宗作さんとの面接のシーン。小林校長はトットちゃんに「さあ、なんでも、先生に話してごらん」と言って、4時間ずっとトットちゃんの話に耳を傾け続けます。話し終えたトットちゃんは、生まれて初めて本当に好きな人に会った気がするのです。その理由は、だって、生まれてから今日まで、こんなに長い時間、自分の話を聞いてくれた人は、いなかったんだもの。(この人となら、ずーっといっしょにいてもいい。)「良い印象を持たれなくちゃ!」。そう思って私たちは、相手に何を話すべきかと一生懸命になるものです。面接だったら、有能な人材だと見なされなきゃいけないし、デートだったら魅力的だと好意を持ってもらわないとダメですからね。でもその結果、どうしようもないことを口走ってしまったと後悔することもありませんか? 私はしょっちゅうです。しゃべりすぎたと気づかなくても、次の誘いが無かったりしてね。面接官は、聞く力をかなり見ている。面接に関して、話すよりも聞くことの力を感じたエピソードが二つあります。ひとつ目は、新卒で就職したマガジンハウス。採用されたあとに人事担当者に「君はいつも隣の面接者の話を興味深そうに聞いていた。面接での上級テクニックなのかと思ったよ」と明かされました。当然そんなスキルは持ち合わせておらず、蓋を開けてみれば単に相手の能力に圧倒されて「中国語のバイリンガルなんだ、すごいなぁー!」と感心していただけなのでした。私には取り立てて自己アピールできるものはありませんでしたから。でもそれがかえって印象的だったようなのです。アメリカでインターンに採用されたときも社長に「君を選んだのは、候補者の中で唯一話の腰を折らず最後まで真剣に聞いて、言葉を選びながら質問に答えたからだ。ほとんどの候補者は“自分はこれができる、アレができる”とアピールするばかりで、キチンとこっちの話を聞かないものだからね」と言われました。これに関しても種を明かすと、別に私に傾聴力があるわけではありません。ネイティブではないので最後まで聞かないと質問の意味がよくわからなかったためだし、深く考えて答えているように見えたのも、頭のなかで日本語を英語に翻訳するタイムラグがあっただけ。のちにそれを告白すると、社長に大爆笑されました。ところで私はニューメキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターというところで暮らしていたことがあります。ウパヤではカウンシルという円陣を組んで座ってそれぞれ正直に話して、それをみんなが偏見を持たずに聞くという時間が定期的にありました。そのカウンシルで、相手の”聞く力”で完全に心をつかまれ、自分の行動が変わったことがあります。当時私は禅修行に疑問を感じていました。仏教では”私たちはそもそも仏である”と言うけれど、じゃあなんで修行するんだと。そこでカウンシルで初対面であった僧院長のジョアン・ハリファックス老師に「どうしようもない自分を律するために早起きしてみんなのためにご飯を作って、一生懸命坐禅しています。そもそもぐうたらで気前が良いわけでもない私が仏であるなんて信じられませんよ!」とぶちまけたのです。第一印象としても、弟子としても最悪ですよね。でも偉い先生に気に入られたいという気持ち以上に、モヤモヤを晴らしたかったのです。すべてを聞いて、相手の不安を包んで溶かす。老師は、私の疑惑、不安、悲しみ、恐れ、恥、拒絶、期待などすべてを包み込むように、ただじっと見つめてきました。口もとは優しく微笑んで、目は温かい空気が伝わってくるような目尻を少し下げ、でもまっすぐな眼差しで。沈黙のなかで力強く見つめられた私は、時が止まったように感じました。20人の輪の中で老師と私にスポットライトが当たったような気分です。「彼女は、全身全霊で私とともに完全にいてくれている」。そう感じました。老師は「美しい…。素晴らしい…」と言って、もっと修行しなさいとも、そんな考え方は未熟だと批判もしません。実はわたし自身自分のなかでダメ出ししていて、「人に指摘されたら嫌だな」と思っていた一面をあえてさらけ出したのですが、それを彼女は私の代わりに受け入れてくれたのです。「そういった至らなさを率直にわかち合おうとするのは、あなたの価値ですよ」と。アドバイスもないし、こうしなさいと命じる言葉も無い。だからこそしっかりと支えられていると実感した私は「老師のもとで頑張ろう」と新たな気持ちで修行に取り組めるようになったのです。これはカウンセリングでも受容(アクセプタンス)という手法として取り入れられています。誰にもわかってもらえないと思っているクライエントの思いに寄り添うことで、クライエントは安心できる。そして自己探求を始め、やがては受け入れることが出来なかった自分の一面を自己受容(セルフ・アクセプタンス)できるように成長していくのです。このように相手を癒してその成長を促す、全身全霊で傾聴することはディープ・リスニング(深く聞くこと)やマインドフル・リスニングと言われ、聞く瞑想だとも考えられています。アメリカではビジネスシーンやパートナーシップ、子育てにおいても相手の心をつかむ力があるとされて、たくさんのハウ・ツー本でも取り上げられています。その中で私が実際に効果を感じたポイントは6つあります。ディープ・リスニング6つのポイント。1. 相手が話しているときは遮ったり、中断しない。2. 話の内容を深く理解することにすべての意識を向ける。そこでうわの空になったら、注意を向けなおす。3. 「相手が話すための安全な場所を作るぞ」と話の内容がなんであれ、まず受け入れると決意する。4. 価値判断を入れず、自分の考え、気持ち、過去の記憶などはいったん脇にのける。5. 大切なのは全身全霊で聞くこと。相手にどう見られるかを意識して相槌を打ったりしない。真剣に聞けば工作をしなくても、自ずと相手にそれが伝わる。6. 意見を求められた場合は、完全に理解できたら答える。そうでない場合は質問し、相手がうまく思いが伝わっていると感じられるまで確認する。職場でも、苦手な取引先やどうしても緊張してしまう上司っていますよね。しかも自分は口下手で気の利いたことも言えない。そういうときは焦点を少し変えて、相手をよく知るための聞く瞑想の時間としてみませんか。過去のいざこざも一旦はまっさらにして、今ここ目の前の相手と向き合います。もちろん無理に人を喜ばせようとしたり、自分の気持ちをないがしろにする必要はありません。ただひたむきに耳を傾ける練習をするんです。誰だってありのままの自分のことを受け入れてもらいたいという強い欲求があるもの。「この人はわかってくれる」と感じたら? トットちゃんが校長先生に感じたように、あの人にとってあなたは”本当に好きな人”になれるかもしれません。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。
2019年11月30日アイディアがひらめいたり、悩みを手放すのに実は毎日の皿洗いが効果的だってご存知ですか? 簡単な5つのポイントさえおさえれば、瞑想のような魔法の薬になるんです。お金がかからず、面倒臭い家事が楽しみになるちょっとしたコツをお伝えします。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 10家事でハッピーになれる!仕事で疲れきってようやく帰宅。するとシンクには汚れた食器が溜まっている……。「あぁあああああ、もう嫌ぁああああ!!!!!(なんなら、私の人生全般も!)」。となりますよね、わかります。家事は面倒臭くて嫌なもの、余分な仕事です。無ければ無いほど良い。でもちょっとしたコツさえつかめば、アイディアが湧いたりストレス発散してくれる強い味方になるんです!教育に必要な3つのHって?イギリスの思想家で、40年に渡ってエコロジー&スピリチュアル雑誌『リサージェンス(再生)』の編集長を務めたサティシュ・クマールさんという人がいます。彼はマハトマ・ガンジーの非暴力と自立の思想に共鳴し、大学院「シューマッハ・カレッジ」を創設した非常に高名な教育者でもあります。”手に勝る道具は無い”という有名な言葉もありますが、サティシュさんは教育に必要なのは3つのH (頭/head、心/heart、手/hand)だとし、学生たちに哲学や経済について学ぶ前にまずキッチンで働くことを指導します。台所仕事では教養オタクにとどまらず、机上では得られない「手」による学びが得られるというのです。ところで私は会社を辞めて5年弱アメリカで暮らしていたのですが、その際に合気道の開祖である植芝盛平先生に習った書道家で禅研究家の棚橋一晃先生(カズさん)に学んだことがあります。たくさんの人に尊敬されるカズさんは私が知る人物の中で3本の指に入るほど「人に言っていること」と「実際に自分が実践していること」が一致している方です。そんな彼が大切にされていたことのなかに炊事がありました。「こんな有名な先生でも自炊されるのだ」と意外でしたが、15分以上はかけないという独自のメソッドで豆腐やチャードを86歳というお歳で見事に調理していく。そして食事が終われば丁寧にお皿を洗われます。アメリカに行く前は忙しいと料理をすることはほとんどなかった私ですが、彼に習って炊事したり、5か月ほど暮らした禅センターで典座と呼ばれる料理長と台所で手を動かすうちに、心のモヤモヤが少しずつ晴れていくと体感したんです!皿洗いで名案が浮かぶ!ところで食器洗いをしっかり集中して行うことでインスピレーションが湧いたり、ストレスが著しく下がったという研究結果もあります(1)。フロリダ州立大学が行ったもので、51人の生徒たちに皿を洗わせました。皿を洗う前に半分の学生に以下のような説明書きを渡します。皿を洗う間は、皿洗い以外はしてはいけません。つまり皿を洗っているという事実に完全に気づくということです。これは一見ちょっと馬鹿馬鹿しいことだと思われるかもしれませんね。なぜこんな単純な作業にそれほどの力を注ぐのかと。でもそこがまさにポイントなんです。今その場に立って、皿を洗っているという素晴らしい事実。完全に自分自身で在り、呼吸に従い、自分の存在、考えや行動を意識しているという事実です。絶対に波の間であちらこちらと揺れるガラス瓶のように心なくさまようことはありません。説明書きを読んでしっかり集中して皿洗いをした人たちは、インスピレーションが25%高まり、ストレス値が27%下がったといいます。これは瞑想で得られると期待される効果でもありますね。その一方で単なる皿洗いとして特に意識せず行った人はなんの効果も得られなかったのだそうです。では具体的にでは食器を洗っているという事実に完全に気づくとはどういうことでしょう? 5つのポイントがあります。マインドフルな食器の洗い方。1. 台所に立つ足の感覚に意識を向ける。2. 洗剤や石けんの色、香りや手触りを感じる。3. ガチャガチャと大きな音を立てず、大切な宝石を扱うように食器を洗う。4. 食器を洗いながら思考や嫌な気持ちが湧いてきたら、洗う水の温度、食器の手触りに集中し直す。5. キレイになった食器を眺めて、心もスッキリ!日々のプレッシャーの中で、静かで安らかな生活を求めることは自然なことです。毎日の生活から脱出して旅に向かったり、ヨガや瞑想スタジオにいくことも素敵ですね。私も大好き。でもそれに加えて「食事の後に気づきを保ちながら皿洗いをすることでも安らぎを得られる」と知っていれば安心です。なによりお金がかからないし、面倒くさい家事が楽しみになるなんてとってもおトク! 日常の小さなことや面倒臭いことをひたむきにやってみると思わぬ面白さが発見できますよ。だからといってパートナーと食器洗いの争奪戦を繰り広げる、なんてことにはならないように注意してくださいね。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。(1) Hanley, A.W., Warner, A.R., Dehili, V.M. et al. Mindfulness (2015) 6: 1095. ©pixelfit/Gettyimages
2019年11月22日「病は気から」と言われますが、この目には見えない「気」。古来中国では生命力の源だと考えられています。冬本番に備え体調管理に努めたい今日この頃。でも年末に向けて忙しく、頭も体もパンク状態!さらには疲れていてもパソコン、スマホで頭がギンギンに冴えて寝付けなかったり、眠りが浅くて翌朝疲れが抜けないというアナタ。明日があるのに、困る〜!ご安心ください。動きはゼロ、型を習う必要もナシ。寝る前のほんの少しの時間でいい、寝たまんま気持ちいい〜「気」の力を利用した安眠リフレッシュ法をお伝えします。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 9病は気から。気のせい。本気を出せ! 気持ちがいい。科学の世界とはいっても、当たり前のように言い交わされる目に見えない「気(正字は、氣)」なるもの。改めて「気」っていったいなんなのでしょう。気、って何?古来、中国思想や医学では、生命力の源となる物質のことを「気」と呼んでいました。それは宇宙に惑星や恒星を配置して動かしている力、地球上に生命を誕生させて育む力。すべてがこの「気」と呼ばれるエネルギーの成せる技だと考えられています。それに加えて日本語の「気」は「気のせい」「気持ち」など心理的、情緒的なニュアンスも含んでいます。また文字通り”気が病む”とする病気は、中国医学では「気」の流れがスムーズにいかないのが原因だと考えられています。そして「気」のめぐりを良くして健康になるための方法が、気功。『黄帝内経(こうていだいけい)』というもっとも権威のある最古の医学経典によれば、気功には病気の予防、治療、延命という3つの効果があるとされています。「気」の力は科学的にも効果あり!そんな医療気功のなかで、姿勢、呼吸、瞑想などによって体の内側の「気」を活性化するというのが「内気功」です。内気功は科学的にもその効果が研究されています。例えばハーバード大学が出したレビュー論文でも、心拍数(1)、血圧(2)、ストレスホルモンを下げ(3)、体の免疫機能を向上させる(3、4)とあります。とはいえ早朝に公園で気功を、なんて「気」合いは入らない。本を読みながら型を習うのもなおさら面倒くさい。ということで、今回はなーんにも動かなくてオッケー! 寝たまんまできる「気」持ちいい〜イメージ療法「内観法」をご紹介します。安眠できる、寝たまんま「内観法」5つのポイント。1. 布団に入ったら、両脚を伸ばしてしっかりと揃える。2. 「最悪眠れなくても死にはしない」とリラックスする。3. 全身の「気」をへそ下から指2本分ぐらいの場所(気海)、へそから握りこぶし一つ分下の場所(丹田)、腰、股、足裏とどんどん足先に向かって流れていくと一心でイメージする。4. 3を繰り返し、しばらくすると足先がポカポカ温かく感じられるように。5. 温かく感じたときはほとんど入眠状態。気づいたら翌朝です!ところで赤ちゃんや小さな子どもに触れていると、眠くなる前に手足が温かくなっていると感じませんか。この状態を「頭寒足熱」と言いますが、血行が十分に働いて手足の末端まで行きわたり、頭が涼しくなっていないと眠れないもの。一方で現代の暮らしは、スマホやパソコンなど「気」が頭に上る習慣が中心となっています。そこで意識的に「気」を下へ向かわせるようにイメージして、巡らせるのがポイント。心に強く描けば、体はそれに従ってくれます。丹田を温め、困難への免疫力をつける。ところで気功では丹田(へそから握りこぶし一つ分下の場所)は大変重要な役割を担っています。のぼせた頭を鎮めるために、両手をここに重ねて当て、吸った息を吐き下ろして下腹を膨らませながら丹田が温かくなっていくのを体感するというテクニックもあります。これを丹田の気といいますが、病気の免疫力になるとも考えられています。加えて”肚が坐る”という表現もありますが、丹田に心を鎮めて集中することで、不運や困難にフラットに対処できる動じない精神力を養うとも考えられています。こちらは通勤電車でもオフィスでも手軽にできるエネルギーチャージ法なので、ぜひ毎日の生活に楽しみながら取り入れてみてくださいね。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。[1] M. S. Lee, M. S. Lee, E. S. Choi, and H. T. Chung, “Effects of Qigong on blood pressure, blood pressure determinants and ventilatory function in middle-aged patients with essential hypertension,”American Journal of Chinese Medicine, vol. 31, no. 3, pp. 489–497, 2003. [2] M. S. Lee, M. S. Lee, H. J. Kim, and E. S. Choi, “Effects of Qigong on blood pressure, high-density lipoprotein cholesterol and other lipid levels in essential hypertension patients,” International Journal of Neuroscience, vol. 114, no. 7, pp. 777–786, 2004. [3] H. Ryu, H. S. Lee, Y. S. Shin et al., “Acute effect of Qigong training on stress hormonal levels in man,” American Journal of Chinese Medicine, vol. 24, no. 2, pp. 193–198, 1996. [c] [4] J. M. Manzaneque, F. M. Vera, E. F. Maldonado et al., “Assess- ment of immunological parameters following a Qigong training program,” Medical Science Monitor, vol. 10, no. 6, pp. CR264– CR270, 2004.
2019年11月11日「病は気から」と言われますが、この目には見えない「気」。古来中国では生命力の源だと考えられています。冬本番に備え体調管理に努めたい今日この頃。でも年末に向けて忙しく、頭も体もパンク状態!さらには疲れていてもパソコン、スマホで頭がギンギンに冴えて寝つけなかったり、眠りが浅くて翌朝疲れが抜けないというアナタ。明日があるのに、困る〜!そこで動きはゼロ、型を習う必要ナシ。寝る前のほんの少しの時間でいい、寝たまんま気持ちいい〜「気」の力を使った安眠リフレッシュ法をお伝えします。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 8病は気から。気のせい。本気を出せ! 気持ちがいい。科学の世界とはいっても、当たり前のように言い交わされる目には見えない「気(正字は、氣)」なるもの。改めて「気」とはいったい何なのでしょう。気、って何?古来、中国思想や医学では、生命力の源となる物質のことを「気」と呼んでいました。それは宇宙に惑星や恒星を配置して動かしている力、地上に生命を誕生させて育む力。すべてがこの「気」と呼ばれるエネルギーの成せる技だと考えられています。それに加えて日本語の「気」は「気のせい」「気持ち」など心理的、情緒的なニュアンスも含んでいます。また文字通り“気が病む”とする病気は、中国医学では「気」の流れがスムーズにいかないのが原因だと考えられています。そして「気」のめぐりを良くして健康になるための方法が、気功。『黄帝内経(こうていだいけい)』という最も権威のある最古の医学教典によれば、気功には病気の予防、病気の治療、延命という3つの効果があるとされています。「気」の力は科学的にも効果アリ!そんな医療気功のなかで、姿勢、呼吸、瞑想などによって体の内側の「気」を活性化するというのが「内気功」です。内気功は科学的にもその効果が研究されています。例えばハーバード大学が出したレビュー論文でも、心拍数(1)、血圧(2)、ストレスホルモンを下げ(3)、体の免疫機能を向上させる(3、4)とあります。とはいえ早朝に公園で気功を、なんて「気」合いは入らない。本を読みながら型を習うのもなおさら面倒くさい。ということで、今回はなーんにも動かなくてOK!、寝たまんまできる「気」持ちいい〜イメージ療法「内観法」をご紹介します。安眠できる、寝たまんま「内観法」5つのポイント1. 布団に入ったら、両脚を伸ばしてしっかりと揃える。2. 「最悪眠れなくても死にはしない」とリラックスする。3. 全身の「気」をへそ下から指2本分ぐらいの場所(気海)、へそから握りこぶしひとつ分下の場所(丹田)、腰、股、足裏とどんどん足先に向かって流れていくと一心でイメージする。4. 3を繰り返し、しばらくすると足先がポカポカ温かく感じられるように。5. 温かく感じたときはほとんど入眠状態。気づいたら翌朝です!ところで赤ちゃんや小さな子どもに触れていると、眠くなる前に手足が温かくなっているなと感じませんか。この状態を「頭寒足熱」と言いますが、血行が十分に働いて手足の末端まで行きわたり、頭が涼しくなっていないと眠れないもの。一方で現代の暮らしは、スマホやパソコンなど「気」が頭に上る習慣が中心となっています。そこで意識的に「気」を下へ向かわせるようにイメージして、巡らせるのがポイント。心に強く描けば、体はそれに従ってくれます。丹田を温め、困難への免疫力をつける。ところで気功では丹田(へそから握りこぶしひとつ分下の場所)が大変重要な役割を担っています。のぼせた頭を鎮めるために、両手をここに重ねて当て、吸った息を吐き下ろして下腹を膨らませながら丹田が温かくなっていくのを体感するというテクニックもあります。これを丹田の気といいますが、病気の免疫力になるとも考えられています。加えて、”肚が坐る”という表現もありますが、丹田に心を鎮めて集中することで、不運や困難にフラットに対処できる動じない精神力を養うとも考えられています。こちらは通勤電車でもオフィスでも手軽にできるエネルギーチャージ法なので、ぜひ毎日の生活に楽しみながら取り入れてみてくださいね。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。[1] M. S. Lee, M. S. Lee, E. S. Choi, and H. T. Chung, “Effects of Qigong on blood pressure, blood pressure determinants and ventilatory function in middle-aged patients with essential hypertension,”American Journal of Chinese Medicine, vol. 31, no. 3, pp. 489–497, 2003. [2] M. S. Lee, M. S. Lee, H. J. Kim, and E. S. Choi, “Effects of Qigong on blood pressure, high-density lipoprotein cholesterol and other lipid levels in essential hypertension patients,” International Journal of Neuroscience, vol. 114, no. 7, pp. 777–786, 2004. [3] H. Ryu, H. S. Lee, Y. S. Shin et al., “Acute effect of Qigong training on stress hormonal levels in man,” American Journal of Chinese Medicine, vol. 24, no. 2, pp. 193–198, 1996. [c] [4] J. M. Manzaneque, F. M. Vera, E. F. Maldonado et al., “Assess- ment of immunological parameters following a Qigong training program,” Medical Science Monitor, vol. 10, no. 6, pp. CR264– CR270, 2004.
2019年11月08日5年弱のアメリカ生活を経て、禅修行していた山を降りて大都会 東京暮らしを再スタートした筆者、土居彩。ところがひょんなご縁で山伏の先生との半共同生活が始まり、再び毎日祈りを捧げることになります。五感を超えた気配を察知出来る達人の先生と過ごすうちに、都市生活でペースがつかめずに鬱々していた気持ちも晴れて行ったのだとか。そして先生と繰り返し行う”祈り”という見えないものが持つ力を実感します。心のクセが創り上げたマインドコントロールに気づき、頭のなかのイジワルが現実ではないと気づき始めたというのですが…。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 7「かんじんなことは、目では見えない」。『星の王子さま』のなかで、キツネが王子さまに言った有名な言葉です。目に見えないものが現実に影響を与える実質的な力。それが本当にあるんだと日に日に実感しています。私は会社をやめてアメリカで5年弱生活していたのですが、最後の2年間は禅センターやスピリチュアル・コミュニティで暮らしていました。山でのスピリチュアルな生活といったら、超常現象に触れたり、大いなる空に食らいつくといったどんな非凡で特別な体験なんだろうと想像されるかもしれません。ところが、その大半は草むしりや料理という日常的でありふれたことの繰り返しでした。坐禅を組んだり、お経を詠んだり勉強もしますが、そのほとんどは毎日の当たり前の仕事に没頭するという時間。単調な肉体労働を繰り返すことは、初めは物珍しく、しばらくすると退屈で苦痛になりました。けれどある段階を超えると、不思議とすがすがしい気持ちになっていきました。東京暮らし、ときどき山伏付き。そしてビザが切れてこのたび山を降りて帰国し、東京暮らしが再スタート。街での生活が始まりました。と同時に家主である恩人が山伏だったことで、偶然にも彼女が師として仰ぐ山伏の先達との半同居生活が始まったのです。そこで禅センターを出ても、毎朝祈りを捧げることになりました。「お祈り?」。なんだか怪しいですよね、わかります。実際に父と一緒に禅寺へ坐禅を組みに行ったときに、五体投地(坐具をしいて額、両肘、両膝を地面につけてお拝すること)してから般若心経というお経を詠んだ後に、親である父からでさえも「あんな宗教クサイのはゴメンだわ」と言われてしまいました。そんなこんなで日常生活に戻って、なんとなく唱えることもなくなっていたお経。ところが実家を出て、大都会の東京生活が始まったことで、再びそれを詠むことになったのです。そこで改めて実感したのは、祈りの力。目に見えないものの持つ影響力です。プロポーズは、言葉より音で聞け。正直言えば「有名な山伏の先生と暮らすことになるなんて! 緊張するなぁ」と思っていたのですが、一緒にいるだけでものすごくエネルギーがもらえる。「偉い先生なはずなのに、なぜ気疲れしないんだろう?」と不思議にも感じていました。というのも「考えるより、感じなさい」「プロポーズを受けたら、言葉じゃなくて音を聞きなさい」なんて。ふとしたときに絶妙の助言をしてくださるのですが、とにかく先達は状況察知能力が驚くほど高いのです。つまり、気疲れさせないように自然に気遣うことができる人。久しぶりの日本で仕事も人間関係も思うように運ばず落ち込んだり、にっちもさっちもいかずうつうつしていたのですが、先達と一緒に過ごす時間が長くなるほど暗い気持ちが晴れていき、日々のゴタゴタも笑って流せるようになりました。映画『マトリックス』はお経の世界。それに対して先達は「わしがどうこうというより、それは祈りの力だ」と言います。たしかに毎朝唱える般若心経というお経は、私と捉えるものは条件付きの現実で、確実な実体を持たないこと。それを手放せれば大きな自由が得られるといった教えです。ところで『マトリックス』という映画はご覧になられましたか? ホストコンピューターが創るデータ(マトリックス)という仮想現実のなかで人間が暮らしているという物語です。主人公のネオが現実だと感じている、狭いアパートも面倒くさい仕事も、味気ない食事も、嫌な匂い、そしてセクシーな異性ですらも、何もかもが実は、コードを延髄に繋がれてコンピューターから送り込まれた情報。それを脳が処理して「ホンモノだ」と感じている、実際の体験を伴わないニセモノの現実だったという恐ろしいストーリーです。仮想現実で生きるネオに対して、現実世界で生きるモーフィアスという登場人物が「現実とはなんだ? “現実”をどう定義する? 感じるとか、匂いをかぐとか、味わうとか、見るとかを現実とするなら、それはお前が脳で解釈した電気信号にすぎん」という台詞がありますが、これはこのお経の内容がベースにされていると感じます。考えは、現実ではない。自分の思考や感覚とは解釈のひとつで、完全な現実ではないというアドバイスには、ホッとさせられませんか? 自分へのダメ出しは、単に頭のなかのマインドコントロールかもしれない。「お前はダメだ」と自分を傷つけるような思考が浮かんだとしても、それはあくまでも実体無き心のクセのようなもの。私の場合、般若心経を繰り返し唱え続けると、ベタついた思考がさらっとしていくんです。そう実感できたのは、禅センターを出てずいぶん経ったあと。「前に気になっていたアレが、いまは流せるな」なんてふと思ったときに、気づくことができました。さらにこのお経がすごいのは、「ぎゃてい ぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」という最後の部分。ここはサンスクリット語が音写されていて、唱えることで癒しや浄化をもたらす力があるとされる短い言葉、マントラ(真言)です。つまりたとえ意味を理解しなくても、詠唱することでお経の音によるヒーリング効果が得られると考えられています。アメリカで心理学の勉強をしていたときに科学的な根拠が無いものは”有る”とは言えないと繰り返し教えられました。そこで、その論は重々承知しています。けれども科学は人間の長い歴史のなかでほんの少しの間の学問に過ぎないのも事実。それに対し、昔からずっと信じられてきたことは経験がもとになっているので、やはりそこには何かがあるのではと思うのです。毎日何十年も祈りを捧げている先達は、明らかに五感では感じられないものを捉えていると思います。私の気配のようなものを察知しているから、困っているときにさりげなく気遣ったり、受け取りやすい形で助けてくれるのでしょう。それに対して「感じたままやっているから、気なんかなんも遣っておらんよ」とひょうひょうとしている。先日も荷物を運ぶのを手伝おうとしたら「お前は腰が弱そうだから、大丈夫だ」とおっしゃったのです。腰痛持ちだと見抜かれることはほぼないので、びっくりして「なんでわかるんですか?!」と聞いたら、「それぐらい、わかる」と笑って軽やかに去って行かれました。達人!セレブが集う名物センターでもベッドメイキングの後にお祈り。ところで、私が働きながら学んでいたもうひとつのスピリチュアル・センター、エサレン研究所。エマ・ワトソンなどのセレブがお忍びでステイしていたり、世界最大の砂漠の奇祭『バーニング・マン』が誕生した場所で、アメリカにおける最先端文化の発源地です。エサレンでもベッドメイキングをした後に、ゲストのためにblessingsと言われる祈りを捧げ、スペース・クリアリングをしていました。著名人やIT起業家などが集う場所なのであえてそれを公言しませんが、場を整えるためにスタッフたちが目に見えないものを大切にし、当たり前のように祈りが行われていたんですよ。修行のなかで自然に習い、祈りを捧げながら毎日を送る先達を見ていると、目に見えないものには物質に影響を及ぼす力が確実にあるのだと感じます。特に祈りの力はその最たるものでしょう。先達の祈りは全世界の存在に始まり、自然災害で被害を受けた方々、先祖たち、そして自分自身と、全体から個へと向かうもの。その逆はありません。その祈りを聞いていると、大きなつながりのなかで生かされているのだと、感謝と厳かな気持ちが自然と芽生えてきます。そしてただひたすら黙々と行う、一見地味で単調な行為である祈りを毎日繰り返し行うことが力となり、その大いなる力とつながる心と体を作っていくのだということも。土居彩編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。
2019年10月30日毎日瞑想していると話すと、「難しそう」「そんなヒマは無い」と言われることがあります。でも、それが実はたったひと呼吸だとしたら? 息を吐くと活性化される瞑想ならぬ迷走神経は、心と体をリラックスさせてくれるだけではなく、信頼感や愛情も深めてくれるというツワモノ。しみじみ幸せホルモンの分泌を促す迷走神経をオン!する簡単な呼吸法 ルナブレスで、頭の中のいじわるなおしゃべりを手放してみませんか。取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 6瞑想って、どうやったらいいの? なんだか難しそう。「たった10分でいい」と言われたって、10分でさえも座り続けられない! その気持ち、よくわかります。それに対して、Google社の元エンジニアでマインドフルネスをベースにした研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ(Search Inside Yourself)」を開発したチャディー・メン・タンさんは画期的な答えを出します。「ひと呼吸を瞑想に」と。彼の著書『ジョイ・オン・デマンド』(NHK出版)に書かれている「マインドフルなひと呼吸」はとても簡単、そのポイントは3つです。1. 目は閉じていても開いていてもいい。2. ゆっくりと深呼吸。3. 息を吸ってから吐くまで、すべての注意を呼吸に集めて感じる(鼻からお腹の感覚に意識を向けてみるといい)。以上! これなら時間が無くても、できるでしょう? チャディーさんによると、10分、20分、1時間……という瞑想は、言うならばこれの繰り返しなのだとか。不思議なことですが、ゆったりとしたひと呼吸を感じてみると、吐く息とともに肩の力が少し緩み、ゆったりとした気持ちになります。ため息をついたときの感覚にも少し似ていますね。何度かこの呼吸を繰り返すと、「こうじゃないといけない」という思考の声が静かになっていくことにも気づかされます。生涯を禅修行に捧げられた内山興正老師は、それを「思い手放し」とおっしゃいました。頭のなかの考え、つまり思いを手放し、思いを手放し、と繰り返していくことで、頭で思っている自分ではない自己、生命そのものに目覚めていくのだとか。けれどもなぜ深い呼吸に意識を向けることに、思いを手放し、本当の自分を目覚めさせる力が備わっているというのでしょうか。その鍵は、私たちの体の成り立ち、神経系にあるようです。ピースフルになれる鍵は、瞑想ならぬ迷走神経。その神経の名前は、瞑想神経? おしい! 字が違って迷走神経です。ユニークな名前でしょう? 道草続きの人生を送る私にとっては、親近感を覚えるほどです。迷走神経(vagus nerve)は、脊髄のてっぺんから始まって体じゅうを走り巡り(なので迷走神経と言います)、発声に関わる顔筋組織、胸、肺、腎臓、肝臓そして消化器官とつながるという、とっても長い神経です。息を吐くときに活性化され、心拍数を下げて私たちの心と体をリラックスモードにしてくれます。また迷走神経は、信頼感と愛情を司る“しみじみ幸せホルモン”オキシトシンを受け取り、私たちが利用できるように変換してくれる受容体とも直接結びついています。カリフォルニア大学バークレー校心理学部教授のダチャー・ケトナー博士によれば、迷走神経が活発になると、声は仲良しモード、そして心臓血管の働きはゆったりとしてオキシトシンの発生を刺激し、「他の人に対する温かな気持ち、信頼感、献身的な愛を!」と全身を駆け巡って指令を出すのだとか(1)。つまり吐く息とともに思いを手放すことで、ホッとできるだけでなく、友好モードになって、相手ともっとつながることもできるのです。私がカリフォルニア州エサレン研究所という場所で暮らしていたときに、この迷走神経を活性化するための特別な呼吸法を教わったことがあります。それはルナ・ブレス(月呼吸)と呼ばれ、ポイントは以下の3つ。こちらも、とても簡単です。1. スターターに数回普通よりも少しゆっくりめの呼吸をする(吸う息も吐く息も鼻から)。2. 吐く息をほんの少し長めにし、完全に鼻から吐き切る。3. 息を吐いている間は、声帯から響く微かな音に耳をすませる。吐く息を通じて聞こえてくるのは、微かなそよ風に吹かれた木々から生まれた風のささやきのような音。小さい頃にやった、貝殻を耳に当ててその奥の音に耳をすませたときのように、聞こえるか聞こえないかというそのわずかな振動に心を傾けていると、しだいに頭の中のおしゃべりが遠ざかっていくのが感じられます。百聞は一見にしかず。試しにルナ・ブレスを数回やってみてください。目は閉じても閉じなくてもお好みで大丈夫です。ゆったりとした呼吸を続けながら、耳を傾けてみてください。ところでとても尊敬していた編集の大先輩が会社を辞められるときに、一枚の葉書きを贈ってくださったことがあります。そこに書かれていたのはひとこと「ときどき、深呼吸」。彼が日常的に瞑想をやっていたという話は一度も聞いたことがありませんが、とても的確なアドバイスでした。というのも私には記事を書いていてときどき「いい人に見られたい」とか「賢そうだと思われたい」という気持ちがわき起こることがあるからです。昔はその思いがもっと強くありました。それを認めるのは恥ずかしいし辛かったですが、無視し続けるのはもっと居心地が悪かった。そこで、今は気づいたら大先輩の言葉を思い出して、ひとつ深呼吸。吐く息と一緒に、こう見られたいという思いを手放すようにしています。それは原稿が面白いか、読んだ人の役に立つかには関係ないことだからです。そしておそらく、その思いを手放した先で、読み手であるあなたとも出会えるのかもしれないと感じるからです。土居彩編集者、ライター、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。1.Keltner, D. Born to be Good The Science of a Meaningful Life. (New York,NY:W.W.Norton & Company,Inc, 2009)
2019年10月23日意識の潜在力を使いながら、胸のドキドキ、下腹部のざわざわといった体の感覚を鋭くさせ、あなたを守って強めてくれるという手法『フルボディ・プレゼンス』。哲学や心理学、瞑想ワークなどを中心とした斬新な教育プログラムを提供するエサレン研究所で筆者が学んだ、日本未上陸のエネルギー・ワークです。頭ではなくて体を感じ切ることで、ダメ男やブラック企業の罠から抜け出し、新しい可能性の扉が開けるかも!取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 4理由のわからないザワザワ感は体からの贈りもの。この物件、予算も見合っているし、間取りも悪くない。決めたものの、なんか契約書にサインする手に力が入らないなぁ。条件ぴったりの男性からプロポーズされたのに、みぞおち辺りがザワザワする……。そんな感じがしたことって、今までにありませんでしたか?単なる気のせい?いいえ、それは体が贈ってくれたピンチを救うためのサインかもしれません。©Cat Mapper (Max Ogden) on Unsplashエサレン研究所で学んだ、日本未上陸の手法。スザンヌ・スカーロック・デュラーナは、クラニオセイクラル・セラピー(頭蓋仙骨療法)、瞑想、ヨガ、アメリカ先住民の智慧などを組み合わせ、体の感覚と意識の潜在力を使いながら思考や行動パターンを癒し、ベストな決断を下すというメソッド、『ヒーリング・フロム・ザ・コア(芯からの癒し)』を開発しました。その核となるのが身体感覚をフル稼働させて“今ここ”に完全に存在する『フルボディ・プレゼンス』という手法。不健全な関係や幸せを阻むような選択から身を守ってくれるだけでなく、流れに乗って可能性を広げるためのパワフルなセルフ・ヒーリング法です。私は昨年カリフォルニア州にあるエサレン研究所という場所で、住み込み学生として草むしりやベッド・メイキングに精をだしながら暮らしていたのですが、そこで彼女からこの『フルボディ・プレゼンス』を指導されました。授業中に「体の声を聞くのはあなた〜」と腹の底から発せされた、和田アキ子さんのようによく通るスザンヌの声で導かれ、大好物のChocoloveのチョコレートを振舞われ続けたせいで、どえらく太ってしまったという余談もありますが。内なる知恵にアクセスする、『フルボディ・プレゼンス』5つの原理。さて! 日本未上陸のフルボディ・プレゼンスは、以下の5つの原理で行います。1. 命を育む、生命パワーの存在を信頼する。太陽の光が降り注ぎ、呼吸するための空気が……というように、この世界は光や熱など命を育むエネルギーに満ちあふれています。全世界が敵のように見え、袋小路だと感じられる状況でも、自覚するしないに関わらず、この無限の生命エネルギーはいつも存在しています。その存在を信頼すると決め、負のサイクルを断ち切る一歩を踏み出しましょう。2. 生命パワーの流れを身体感覚で感じる。深呼吸したり、自然の中で過ごしたり、祈りや瞑想、思い切り歌を歌ったり、無心で楽器を演奏していると、感じるものはありませんか?力強い安心感、エネルギッシュで流れに乗っている、穏やか、至福感を抱いたときの身体の反応とはどのようなものでしょう。心地よいゾクゾク感、温かさ、胸が開くような感じ、下腹部が据わる感覚でしょうか。これが1の生命パワーであり、それと繋がっているときに体が抱く感覚です。意識してそこに向かうための体内センサーを始動させましょう。3. 生命パワーの流れを全身につなげる。両足をなるべく平行に、足の裏をしっかりと地面につけます。目は閉じるか、半眼にして深呼吸してください。椅子に座っても、立っていても寝そべっていてもかまいません。何度かゆったりとした呼吸を繰り返したら、生命パワーを大地から吸い上げるようイメージして、足の裏の感覚に注意を向けます。足裏が微かにチリチリしたり、くすぐったく感じるかもしれません。足裏からエネルギーを吸い上げて、脚、骨盤、腹、胸、喉、眉間、頭上と流れていく生命パワーを感じて、それを統合させます。心地よく感じるのは体のどの部分ですか?逆に何も感じられなかったり、流れがブロックされているような感覚がする場所はどこですか。それは冷たさ、石のような重み、圧迫感、痛みや麻痺したような感覚でしょうか?例えば誕生、成長、事故、手術、または挫折したり、自信の喪失など、私たちは過去に心や体にトラウマが残るような影響の強い体験をすると、防衛反応の一種として身体感覚を鈍らせます。その結果、育むような生命パワーとつながることも困難になり、健康を維持する力を低下したり、恐れ、不安、絶望、圧倒感、挫折感、悲しみ、無価値観、自己否定などの感情や思考を抱くようになります。痛みや重み、気だるさなど不快な感覚がしても、ブロックした場所で感じるありのままの状態をただ観察してください。隠したり、克服しようとせず、素直に感じ切ると、もがきは姿を現わすことで、やがて昇華されていきます。4. 視点を拡大し、目の前に広がる世界を捉え直す。私たちが現実を理解するとき、「熱い・冷たい」といった体の感覚、「嬉しい・悲しい」という感情、他には「こうしたい」という期待や「そうあるべき」という信念などのさまざまなフィルターを通して認識します。このような判断材料には、思い込みや傷ついた過去の記憶の再生といった、幸せな選択を阻むものもあります。そこで一度フラットな意識で目の前の現実を捉え直すクセをつけましょう。例えば「もしも”私は十分ではない“”私は醜い”という思いが真実ではなかったら? ”私は今のままで十分”“この世界は安全”だと捉えたら、どんな感じだろう?」と視点を一新させます。そして肉体を感じましょう。全く新しい視点で現実を見たときの、体の反応に注目してみてください。目の前の現実のパターンは無数にあります。その可能性にオープンになりましょう。5. 毎瞬、生命パワーを育むリソースを選ぶ。リソースとは生命パワーの源のこと。それは信頼感や自信、強さを引き出してくれるものです。リソースは人それぞれ違い、あなたが経験して見つけていくもの。探すヒントは、ホッとできたり、元気を回復させてくれるな、といった心と体の感覚です。それは例えば自然、人生のパートナーや友人との語らい、心の深いところからやってくる信念、カプチーノとスコーン、ゆったりとバスタブに浸かること、お気に入りのリネンワンピース、波の音、洗い立てのブランケット、深呼吸などかもしれません。パワーの源探しを楽しんだら、目の前の選択肢の中で、できる限りリソースを選ぶことを自分に許してください。そうすれば、あなたが自分らしく幸せでいるために必要な生命パワーとつながる魂ナビをいつも始動させた状態を維持できます。「エネルギーを与えてくれるものを選ぶ」をルールにすることで、心や体、魂を感じながら自分らしい人生の羅針盤に沿って生きられるようになりますよ。土居彩編集者、ライター、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。
2019年10月08日1日1回でも、5秒間、吸って、吐いて〜と深い呼吸に意識を集中すれば、副交感神経が優位になり、過食を防ぐ。マインドフルネスを応用したメソッドで“やせる脳”を目指そう!「生まれてこのかたずっと呼吸を続けていても、『いま私は呼吸をしている!』ってしっかりと意識を向けたことってありますか?1日1呼吸でも、5秒間、吸って、吐いて〜に意識を集中させてください。頭がすっきりして、暴飲暴食をセーブすることができます」このように、「5秒呼吸」で“やせる脳”を作ることができるというのは、著書『やせる呼吸』(二見書房)でマインドフルネス・ダイエットを提唱する、脳神経内科医の山下あきこさん。「いま自分の体がどんなふうになっているか、自分で自分に意識を向け、目の前のひとつのことに集中するのがマインドフルネスです」山下さんが主催するダイエットプログラムの参加者は、1カ月で平均5キロ、なかには4カ月で14キロの減量に成功した人もいたという。その基本となる、呼吸の仕方はごくごく簡単だ。「目を閉じて、または半目にして、自然に鼻から息が入ってくるのを感じて見ましょう。鼻から吐いて、鼻から吸って、一呼吸をおくと、自律神経が整って、暴飲暴食を防ぐことができます」山下さんによると、そもそもストレスや忙しさを日々抱えていると、交感神経が優位になり、脳が緊張状態になるという。結果、気づかぬうちに食べすぎてしまうことになるのだ。「交感神経を鎮めるためには、呼吸に意識を集中させて。そうすると副交感神経が優位になり、脳がリラックス。“やせる脳”になって、食べる衝動を抑えることができます」スラリとしたスタイルを維持する山下さんだが、2児の育児と仕事を両立させるなかで、ついあくせくしがちなこともあったという。「食事をしながら本を読んだり。何事も『ながら』だったために、脳が疲れていたんです。信号待ちやパソコンを起動する数分間に、一呼吸を入れるようになって、何事も落ち着いておこなえるようになりました。人生が変わりましたね」山下さんは病院を退職。いまはマインドフルネスをベースにしたダイエットや心身の健康法を、セミナーやWebなどで配信、伝授している。呼吸に加え、目の前の食事に意識を集中させると、“やせる脳”を作ることができる。参加者からも「やせた!」「リバウンドしない!」とその効果が続々と寄せられているという。「たとえば大好物のチョコレートでも、食べる前にしっかりと意識を向けると、1粒で満たされるようになるのです」山下さんの「チョコレート瞑想」は次のとおり。(1)包み紙ごと手のひらにのせ、1粒の重さを実感(2)包みを開いたら手のひらにのせたり、指でつまんだり触ってみる。硬いとか、べたべたする感覚に集中する(3)よく眺めて視覚でも楽しむ(4)食べる前に少しなめる(5)これを三口で食べる。一口目をかじる。溶けていくのを感じる。飲み込むときに、唾液や甘味が喉を通る感覚に意識を向けてみる(6)二口目は、かんで(咀嚼して)みる。硬さや軟らかさを歯で感じる(7)最後の三口目は好きなようにというように好きな物を、とことん見て、味わって感じることが、少量で満足できる“やせる脳”につながるのだ。
2019年10月05日14年間勤めた出版社を辞めて、なんの保証もないまま女一人アメリカに移住した筆者土居彩。大学で半分ほどの年齢の人たちと肩を並べて心理学を学んだり、先住民のみなさんと暮らしたり、恋をしたり失恋したり、禅センターでは雲水修行も行ったアメリカ生活でした。日本帰国を目前にし、この4年半を振り返って、得たもの失ったものを考察します。写真/文・土居彩【土居彩の会社を辞めて、こうなった。】vol. 75ここまでのあらすじ。私土居彩は離婚し、その後付き合った恋人とも別れ、14年間勤めた会社を辞め(当時は雑誌『アンアン』編集者)4年半前に、スーツケース二つで渡米しました。自分もそれを提案していた人間のひとりですが、世間一般で決められた「幸せ」や「成功」のあり方を見つめ直して、私にとっての幸せとは何かを実体験の中で確かめたかったからです。まずはバークレーで幸福心理学を学び、認知症の女性との暮らしで一緒に食卓を囲むという、もっとも基本的で大切なことを教わりました。そして2年ほど定住場所を持たず、オルタナティブ文化の発祥地であるエサレン研究所でボディ・ヒーリングを学んだり、ジョアン・ハリファックス老師のウパヤ禅センターで5か月間の雲水生活をしたり、タサハラ禅マウンテンセンターでボランティアしたりと女ひとり放浪旅をしていました。ハッピーエンドに執着したけれど…ここでは渡米したばかりで右も左もわからない時期からの暮らしをライブでお届けしてきましたが、ことの発端はアンアン編集部に所属していたときの班のキャップが「土居さん会社辞めてアメリカ行くんでしょ? じゃ、なんか書いてくれない?」と、何気なく放ったひと言です。『会社を辞めて、サンフランシスコへ』と題してスタートしたものの、サンフランシスコで暮らしたのは最初の半年ばかりで、最終回のこちらはサンタフェにあるウパヤ禅センターにて、作務の合間の自由時間に執筆しております。で、最終的にこの4年半、ひたすら思うがまま行動して得たもの、失ったものはいったい何か、ということなのですが。現時点で思うことを書きたいと思います。とはいえ、これは時を経てまた新しい思いや発見があり、変わる可能性は大です。正直言えばどこかで、この連載をキレイに終わらせたいという思いがありました。例えば「紆余曲折ありましたが、素敵なアメリカ人男性と結婚して、かわいいハーフの子どもが生まれました。めでたしめでたし」とか、「大学院に合格し、晴れて心理学者の道を目指しています。チャンチャン」のような。でも、なんということでしょう。スタートした4年半前と同じくパートナーは居ないし、学歴だって変わっていません。むしろ仕事を失って、4年半分歳とっちゃったよ! という……。もっとも恐れていた終焉を迎えようとしております。さらには、貯金も相当使っちゃいました、馬鹿高いアメリカの学費と生活費で(こういう急降下ぶりをnose diveって言います。どうでもいいけど良かったら単語帳に加えてみてください)。留学相談はどうか私にしないで。だから、たまに「留学したいんですけど」というご相談をいただくのですが、私のケースは留学ということに関しておそらく世間的に見て失敗例だと思うので、私には相談しないほうがいいです(でも英語ができなくても、バークレー心理学部でオールAを取る方法という謎のメソッドは助言できるかもしれませんが)。むしろ大学院に実際に通って研究室で良好な関係を築いている人とか、ポスドクのポジションで新しいキャリアを築いている人とか、可能なら教授にあたって情報収集してみてください。アメリカの大学院のサイトには、大抵これらの人たちのメールアドレスが全て明記されていますので、興味がある研究室を見つけたらまずはそこで出している論文をいくつか読んでみてください。そして共感できるものや自分だったらこう発展させたいというものがあったら、あとはだめモトで彼らにコンタクトを取ってみてください。さて、では逆に得たものは何か、ということなのですが。現状に腹がくくれるようになったことでしょうか。先日も禅センターのレジデントのひとりに「締めくくりをハッピーエンドで結べず、連載が書けない。読者の期待を裏切りたくない」と吐露すると、「なんでキレイにまとめる必要があるの? 人生なんて、混沌として、とっ散らかったものじゃない、そもそも。パートナーがいなきゃ幸せじゃない、良い仕事についていないと認められない? それってあなたが囚われていた過去の価値観から何も自由になれていないということじゃない? それをあなたの大事な日本の読者に伝えて何か意味があるの? ビートニクみたいに、そういう価値観と反逆するような現実をありのままに書きなよ」。そう言われ「はい、まさにその通りです」と、とっ散らかった現状を目前にして、これを書いております。えーい、どうにでもなれい!中年で会社を辞め、自分の半分ぐらいの年齢の人たちと肩を並べながら勉強することで、「もっと若かったらなぁ」「もっと英語ができたらなぁ」「もっと自由なお金があったらなぁ」といつも無意識に誰かと自分を比較して、一喜一憂している自分の存在を嫌というほどに気づかされました。プログラムを終えて日本に一時帰国したらしたで、母になったり昇進した知人たちと自分を比べて、自分の現状を恥ずかしく思ったりもしていました。渡米して3年ぐらいこれが続いたと思います。当然まだ比較のトラップにハマることがありますが、今はそれをしているのに気づき苦笑いしているという冷静な自分もいます。このように少しは精神的に自立した自分と出会えたことがアメリカに来て得たものでしょうか。「しゃーないしな」マインドは有責態度。おそらくこれが違うステイタスでの渡米だったら、例えばもっと若い年齢で留学していたり、奨学金で学んでいたり、海外転勤や、パートナーに付き添ってのアメリカ生活だったとしたら、私の場合は、この両手を挙げた「しゃーないしな」という降参マインドに到達できなかったと思います。降参マインドは一見無責任にも感じられますが、私にとってそれは目の前の現実とは、大なり小なり自分が作り上げたものだと受け入れ、100%腹をくくる姿勢だと捉えています。ちなみに先日私は友人と考えていた人をひとり失いました。辛い経験でした。ウパヤ禅センターを出たあとに彼女とその友人と3人でビジョンクエストの旅をする予定をしていたのですが、旅の前に彼女は私が滞在していた禅センターに坐禅を組むためにやってきました。そこで前もって黒い服で訪ねてほしいとリクエストしていたのですが、お尻が見えそうなホットパンツに背中全開のキャミソールでやってきた彼女。慌てて黒の作務衣を貸し出しました。そして坐禅の後、レジデントたちが私たちを昼食に招いてくれました。彼女が共有スペースに設置されたサプリメントを取ったり、禅堂用のヨガマットをキャンプ用に借りられないかとたずねる態度にヒヤヒヤしながらやんわりと諭し、時が過ぎ無事に禅センターを早く出発したいと祈っていました。そしてレジデントたちにキャンプ用のテントを3人分借り、せっせと運び出していると、無許可で寮のシャワーを利用し、肩はむき出し胸元が大きく開いた、左胸に赤い大きなバラが刺繍された黒の超ミニドレスを着てシャワールームから出てきた彼女の姿が。そこで私はついにハッキリと言いました。「強く聞こえたらごめんなさい。ここは僧院なの。私の家だったら何を利用してもらっても、どう自由に過ごしてもらっていいのだけど、ここは共同体の場(Place for community)なの。シャワーだって、食事だって、レジデントは労働と学びの対価として、やってきた人は寄付や滞在費を払うことで利用しているの。タダじゃないのよ。そうやってここは維持されているの。あなたはそのどちらでもない。洋服もあなたに似合っていてとても素敵だけど、ここはみんなが教えを守って実践する場所。ここではみんな、肌の露出はなるべく控えているの。僧院がどういう場所か、という点に関して共通理解があると考えて、その点をきちんと前もって説明しなかった私が悪かった。ごめんなさい。謝ります。で、このスペースをみんなが気持ち良く共有するために、もう少し思いやりを持って配慮して行動してもらえないかな? 私の大事なプラクティスの場所なの」。正しい、間違っているを超えて守りたいもの。すると「あなたは規則を守ろうとする人だけど、私は規則があれば破ろうとする人間なの。人が黒を着ろといえば、私は赤を着る。私にとってのスピリチュアルな実践とは、自分を表現するということなの。集団に身をひそめるというのでは無いのよ。悪い人間だ、至らない人間だと、あなたは私を侮辱したのよ。辱めたことを忘れないでちょうだい。あなたは否定的なものに焦点を合わせる人だけど、私は前向きなものに焦点を合わせる人間なの。喜びや楽しさに焦点を合わせることで、そういう現実を創造してきたのよ。あなたが不快な気分を感じることに対して、私は何もできない。だってあなたが目の前の現実を不快だと解釈して、不快を感じるという選択をしたわけだから。それはあなたの選択で、それに対して私は何もできないの。すべてはあなたの投影よ」と言われました。あまりにも雄弁に返されたものだから、「正しい、間違っているとジャッジする私のほうが狭量な人間なのかもしれない」と一瞬煙に巻かれた感じが。でも、その後彼女たちがキャンプに必要な製品をアウトドア洋品店から“買って”使用した後、90日以内の返却保証ポリシーを利用して故意に返却して、全額返金を得ようとしている計画を「私はできない。どうしても正しいことだとは思えない」と言うと「90日返却保証ポリシーから逸脱した行為ではなく、しかも私たちが返却したことで、この高額な製品はアウトレットになり、安く適正な価格で買える人ができる。これは実際には良いことなのよ」という彼らのロジックにどうしても納得できません。確かに正しいとか間違っているという価値判断は人によるものかもしれない。だったら正しい間違っているを超えて、私は私の信条を守りたい。そこで「やはり、この旅行に参加できない。ごめんなさい。どうしても私の価値観とは一致しない。もしあなたたちが不快な気持ちにならないなら、これを私の謝罪と旅への応援だと受け取って」と100ドル札と彼女が持っていなかったキャンプ用のマットを渡しました。贈ったもののどこかで「受け取れないわ」と断ってくれるのを期待してもいたのですが、「ありがとう。正直レンタカー代に助かるわ」と言われ、レジデントから借りたテントや大量の荷物とともに駐車場で彼らを見送ることとなりました。100ドルをさっとカンパすることは今の私にとって大きなことではありましたが、彼女たちが金銭的に余裕がないなかで旅をしていることはわかっていたし、表面的には彼女たちにそれを贈ったと見えますが、実際は自分の信条に投資したということだと捉えています。禅センターで一度は「さようなら」の涙を交わしたバツの悪さから、レジデントたちが夜の坐禅を組んでいる際に忍び足で寮に入ってキャンプ製品を返却し、図書室でコッソリと、滞在するためのホテルをネット検索していました。©Warrenすると法話の準備のために偶然坐禅に参加していなかった先生にうっかり見つかってしまったのですーー。格好悪い! そこでことの顛末を告白することになり、「で、なぜホテルを探しているの? いくらでもここに居たらいいじゃない。みんなも喜ぶわ」と先生に夕食に連れ出してもらい、涙の別れの4時間後には「新しいレジデントのアヤと言います Nice to meet you!」と爆笑の渦のなか、出戻り状態。滞在を二日間延長させてもらうことになり、翌日にはまた典座とともに30人分の食事をこしらえていました。©Tracy写真は出戻りすることなどみじんも想像できなかった別れの前夜に「お礼に」とベジタリアン巻き寿司を振る舞ったときのもの。「すごい!」「フードトラックを始めるべきだ!」とレジデントのみんなに絶賛されましたが、実は巻き寿司を作ったのはこれが初めてという、大胆にもぶっつけ本番。うまくいって良かったです。後ろは強く、前は柔らかく、大胆な心を。心理学者のルネ・ブラウンが言う、”背面は強く、前面は柔らかく、大胆な心 (Strong Back, Soft Front, Wild Heart)”を持つ人でありたいと心から思います。自分が大切だと思うことを貫くためには、ときには「No」と言う必要があります。行動を取るためには常にイエスマンではいられませんし、嫌われ役を買って出る必要もあります。冷静に考えれば、すべての人から好かれることは、どうやったって無理なのです。この4年半でそれがよくわかりました。でも60年代のフェミニズム運動のように硬いバリアを張ったような「No」では無く、ユーモアだったり、与えられるものは差し出せる寛容さを持ちながら、健康的な境界線(Healthy Boundary)を柔軟に引く在り方を模索していきたいと思います。英語がわかると当然も変わる。あとは月並みなことですが、やはり英語がわかるようになって世界は広がりました。知りたいことがあれば、日本語と英語両方の情報源から探れるので、ちょっと角度の異なった意見も参考にできるようになりました。特にアメリカ生活最後に再び過ごしたウパヤ禅センターでは、いろいろなバックグラウンドや価値観の人がやってくるのですが、例えばベストセラー作家のナタリー・ゴールドバーグや、ダライ・ラマとの研究で有名な脳科学者のリチャード・ディビットソン博士を始め、トランスジェンダーのお坊さんが法話をされたりもして、「こういう形で仏教や瞑想を研究だったり執筆活動だったり、新たな創作活動に繋げる方法があるんだ」という、私の「こうあるはずだ」という、無意識の思い込みが外される新鮮な瞬間が日々ありました。写真はウパヤ禅センターで催された、Kaz Tanahashi先生の書道ワークショップで高校生以来の書道を。まず大切なのは「スマイルです。スマイルができていないなと感じたら、一度筆を置きましょう」というKazさんの教えにビックリ。色彩を書道で使うのも初めてで、新鮮でした。アメリカ人の人たちがたった2泊3日で楷書、行書、草書と見る見る上達していく姿に驚きました。一連の出来事の10日前に撮影した写真ですが、「金」「慈」「道」と、偶然にも何かこれから起こることを暗示するような文字ばかり………。自立だけ、依存だけ、を超えた相互存在。ある日、レジデントのひとりに「私は日本にいるときは自立した人間だと思っていたの。でもアメリカに来てからいろいろな人に助けてもらうばかりで、早く自立しなければという思いが強くなった。でもこの4年半で、日本にいたときも決して自立していなかったことに気がついた。今も昔も、『誰かに認められたい』といつも人の反応に一喜一憂し、彼らからどう見られるのか、彼らから承認されなければとどこか精神的に依存していた。これからはあなたのように本当の意味で自立したい」と告白しました。すると彼女に「『私は誰の助けも必要としないわ!』と毅然と振舞うことって案外簡単なの。一番難しいのは、無防備な自分を晒して、相手を頼り、そして裸になってくれた相手にも頼られるという関係性じゃないかしら。生きていくうえでどうやったって、なんの世話にもならないなんて、無理でしょう。だから私がこれから意識的に取り組みたいのは、単に依存(dependence)するだけでもなく、自立(independence)するだけでもなく、助け合いによる相互存在(inter-being/inter-dependence)という関係性なの」と言われてハッとしました。親切するのに、メリットが必要という隠れた思い込み肩書きなし、職なし、女ひとり海外生活という状況に身を置くことで、いったいどれだけたくさんの人が部屋の鍵を私に貸してくれたことでしょう。「なんの得にもならないのに、なんでここまで私に良くしてくれるんですか?」とカリフォルニア州ベイエリアの恩人のひとり、あきよさんに尋ねたときに「アヤちゃん、どうして親切にするために得になるかどうかが必要なの?」と逆に質問を返され、自分の中の歪んだ価値観に気づかされたことがあります。「何か食べたいもん、ある?」とたずねては、いつも私のリクエストのオムライスを作り、「アヤの独特のブレなさは不器用でも絶対それを手放さずに生きていて、星みたいにキラキラしていて。アヤに良くしているなんて思ってないよ? ただそれ、ずっと見ていたいだけやねん。星を見ていたいみたいに」と、パートナーのショーンと待っていてくれるゆかちゃん。「無料は良くない」と断った時点から、KOMBUCHA2本の取引でとてもパワフルなヒーリングをしてくれ、セッション中に生まれて初めてワンネスを一瞬体験させてくれたペルー祈祷師末裔のエミリオ。旅の間中、2年以上も荷物を預かってくれ「今度またカリフォルニアに戻ってくるときまで置いておいてもいいよ」と、今なお荷物を置かせてくれているよしこさん。「あなたならできますよ。楽しんでやってくださいね」と素晴らしい本の翻訳を、翻訳なんて一度もやったことの無い私に任せてくれたカズさん。「存在価値が無いと思ったら連絡しなさい。アヤがそう思わなくなるまで、君がどれだけ優秀な人材なのかを説明しよう」とことあるごとにチェックインしてくれる、元インターン先の社長。帰国に際して不安を拭えない私を「おばあちゃん心を自分にね」と微笑み、抱きしめてくれたハリファックス老師。あなたは涙を見せる前に去っていく人だけど、私たちは本当はあなたの涙を一緒に見たいのよ」と言って送り出してくれたウパヤ禅センターのみんな。そして、「こうあってほしい」という娘像を破壊し続けている私を、感服の「しゃーないしな」マインドで受け入れ、帰国後に延暦寺家族旅行を企画してくれた両親。ほかにも書き出したらキリが無いほどたくさんの人にお世話になりました。たくさん支えられてきたから、支えられる側が持つ喜びと辛さの両方の想いを身にしみるほど経験できました。支え続けられた私はこれから、いったいどうやって人を支えることができるんだろう。そしてまた誰かに支えられていくのだろう。これからの人生をどう構築していくんだろう。まだ何も見えていませんが、宮沢賢治『雨ニモマケズ』マインドヒッピー風味をそこはかとなく醸すカリフォルニア・ベイエリアの人たちとウパヤ禅センターのみんなは、これから私がどこでどう暮らすことになったとしても、人生の師、そして友として大切にしたいと思います。「私がしたことが、アヤの助けになったのだとしたら、私に早くお返ししなきゃと焦るんじゃなくて、それをいつか、ほかの人にやってあげて」と、たくさんの人に言われました。社会の中で無名の良き隣人として目立とうとはせず、さりげなく手を差し伸べてくれたみなさん。はい、できることから少しずつ。不器用なりに、私もやってみます。アメリカのほうが好きか、日本が良いか、と言われるといまだによくわかりません。もちろんアメリカ人だから、日本人だから、という国民性や国のシステムの違いにイラっとしたり感心したりはします。いまだにアメリカ人の公共スペースの使い方や、自己主張の強さには「もうちょっと周りを見ようよー」と辟易とするところがありますし、そのいっぽうで相手の気持ちを推しはかり、地雷を踏まないように話すばかりに焦点が絞りにくい日本の会議をスピードアップしたいという衝動に駆られてしまうこともあります。とはいえ一概にそれもそうとも言い切れず、4年半経って思うのはその人次第だなというところが大きいと思います。心に従って行動した結果、好きが講じて少しずつではありますがそれが仕事にも繋がり始め、瞑想アプリの会社から“セルフ・コンパッション”に関する執筆依頼が来たり、禅センターの体験をインターネットマガジンに執筆する機会があったり、ZENに関する本の翻訳のお仕事をいただいたことも得たもののひとつです。けれども、まだ生活できるレベルには達していません。だからこれからは、第二の冒険が始まると思っています。ひょっとしたら、この帰国後が本当の冒険になるのかもしれません。苦手だった頼んだり頼まれたり、健康的な境界線を引くことも必要になっていくのかもしれませんね。©Yumiko Hiraiいったいこれからどういう形で生活していくのか? 私にとって正しい生計の立て方(Right Livelihood)って?? 四十路の私に仕事が見つかるのかな?? なんて私はまだ古い価値観に囚われていて、仕事は与えられるものではなく、自分で創造するものだと捉えるべき??? まったく謎だらけです。はい、”背面は強く、前面は柔らかく、大胆な心 (Strong Back, Soft Front, Wild Heart)”を忘れずに。ひとつだけ確かなのは、ここでは機が熟せず書けなかったことを含めての4年半の体験を一年かけてまとめたいと思っていることと、結果生計を立てるのとは別の形になったとしても、なんらかの手段で文章を通じてみなさんにお伝えしたり、いつか一緒に瞑想する機会なんかも持てたらなと願っています。そしてこの一年半取ってきたように「これが人生最後の一年だと思って行動しよう」という思いで過ごしていくということ。人生は思うよりも短いのです。最後に緩和ケア看護師のブロニー・ウェアさんによる、人生の最後に多くの人が後悔する5つのことを紹介したいと思います。彼女は死の床にある人々に「人生でいったい何を悔いているか」とたずねてきた人です。以下の5つがそのトップ5だと言います。多くの人が死に際して後悔する5つのこと。1. 人が私に期待する人生ではなく、自分の人生を生きる勇気が持てたら良かった。2. そんなに働きすぎなければ良かった。3. もっと自分の思いを表現する勇気が持てたら良かった。4. 友達ともっと連絡を取り合えば良かった。5. 幸せになることをもっと自分に許せたら良かった。心から、ありがとうございました。この不定期連載をご愛読していただき、大変ありがとうございました。読んでくださった皆さんがいたからこそ、不定期すぎる不定期だったのにも関わらずこちらを続けることができました。心より御礼申し上げます。どうか良い1日をお過ごし下さい!SEE YOU!またお会いする日まで!ありがとうございました。
2019年08月03日14年間勤めたマガジンハウスを辞めて、女ひとりスーツケースで全米を放浪し続けること早4年。アメリカ先住民のナバホ族のみなさんと生活したり、禅センターでの雲水修行などもありました。さて今回はサンフランシスコで開かれたWisdom2.0に参加し、過去の恋愛関係を見直し、反省するための智慧を授かったと言うのですが……。写真/文・土居彩【土居彩の会社を辞めて、こうなった。】vol. 74私土居彩は離婚し、その後付き合った恋人とも別れ、14年間勤めた仕事は辞め(当時はアンアン編集者)4年ほど前に、スーツケース2つでひとり渡米しました。自分自身もそれを提案しまくっていた人間のひとりですが、世間一般で決められた「幸せ」や「成功」のあり方をもう一度見つめ直して、私にとっての幸せのカタチとは何かを実体験のなかで確かめたかったのです。まずはバークレーで幸福心理学を学び、アルツハイマーの女性との暮らしで一緒に食卓を囲むという、もっとも基本的で大切なことを教わりました。1年ほど前からは定住場所を持たず、オルタナティブ文化の発祥地であるエサレン研究所で暮らしながらヒーリングを学んだり、ジョアン・ハリファックス老師のウパヤ禅センターでは4か月間の雲水生活をしていました。とはいえ、尼さんになりたいわけではない。禅センターに住んでいたというと、必ず次に「で、尼さんになるの?」と聞かれます。そんなつもりないんだけどなぁ。©UPAYA ZEN CENTERでも、スピリチュアルジャーニーとは独りで行うもの。離婚もしているし、当時付き合っていた人に10日間のヴィパッサナー瞑想合宿を終えて、次は4か月間禅センターで暮らしてみると話すと、「俺はリトリートとリトリートの間のつなぎじゃない!」と激怒され別れたという経緯もあったし……。そこで、精神的に成長するまで恋愛は保留です、という思いはあった(いまだにある)ようです。しかしスカラーシップが取れたことで、3月1日から3日までサンフランシスコで開催されたWisdom2.0という会議に参加し、その信念が揺らぎ始めました。Wisdom2.0ってナニ?で、Wisdom2.0とはなんぞや、ということなんですけれども。わかったつもりで使っている言葉、ナニナニ2.0ですが、これってそもそも何なんでしょうか。「10年ぐらい前に流行った言葉だよね」とテックフリークな友人に言われても、ソフトウェアアップデートの通知が出るたびに怯え、『明日再通知する』と後延ばしし続ける超アナログの私には未ださっぱり耳慣れない言葉です。「Web2.0」、つまり発信者と受信者という一方通行ではなく、受信者が発信者になったり、発信者が受信者になったりと多方向に情報を発信できるようになったインターネットの利用法がナニナニ2.0の語源です。そこから、「2.0」という言葉は、当たり前だと思っていた一般常識や価値観がガラッと変わるような新しい考え方、サービスなどを表すのだそうです。創設者の悩めるトレーラーハウス生活が発端。そしてWisdom2.0とは、テクノロジーと新しい「Wisdom(賢さ)」、つまり人生の目的や物事の根本にかかわる深い智慧、を融合させた新しい視点やそのヒントを、スピリチュアルリーダー、心理学、人類学や環境学者、ジャーナリストや作家、政策計画者、社会活動者、企業家などが提案する会議です。見よ! この気の遠くなる程長い受付までの列を。この先もずーーーっと続きます。Perfumeのコンサートじゃないですよ。Wisdom2.0です。そう、大人気なのです。Wisdom2.0は、ホストも務めるソレン・ゴードハマーさんによって創設されました。金髪長身でタイトな黒の上下を着こなし、登壇者たちの言葉を的確かつ優雅に導くソレンさん。その堂々とした姿からは想像もつきませんが、Wisdom2.0の構想が生まれた現場とは、悩める一年間のトレーラーハウス生活だったとか。離婚し、仕事も失い「オレのアイデンティティは何なんだ?!」「いったいオレは何をやっているんだ??」と自問自答する日々を過ごしたそうです。ほぼタダ同然でWisdom2.0コミュニティに紛れ込んでいる私と、そのカースト頂点に君臨するソレンさんとでは現実問題交わるところは全くないのですが、そのエピソードを聞いて妙にソレンさんに親近感が湧いたのも事実(勝手に)。等身大の尼問題について考えてみよう。そもそもこのスカラーシップを申請したのは、私の二人の先生、ウパヤ禅センターのジョアン・ハリファックス老師とUCバークレー心理学部のダチャー・ケトナー博士が登壇するから。社会に関わる仏教(Engaged Buddhism)を実践する老師と、畏怖の念と利他的な行いの相関関係を研究するケトナー博士。そして終末医療におけるドラッグの有用性について新刊を出版したマイケル・ポラン博士による対談を聞いて「畏怖の念と慈悲の心、そして社会変革を」みたいな壮大でかっこいいテーマについて書こうと思っていたのですが。どうもマイクロで申し訳ありませんが、むしろ目前でくすぶっている「尼問題」が緊要なので、Wisdom2.0の中でジョン・ゴットマン博士(写真上)らによって語られた『生涯かけた愛に必須のコミュニケーションとは?』をもとに、恋愛では失敗続き、そのうえ「全ては空である(あらゆるものには自性はなく、変化を続けることが存在の本質)」といった内容のお経を毎日唱えすぎた結果、恋愛に対してすっかり傍観者状態となった私がどうやったら再びモチベーションを上げられるのかを考察することとさせてください。シングルで恋愛も諦めている女。登壇したのは2組の夫婦であり、4人のパネラーです。まずジョン・ゴットマン博士(写真右から2番目)は、ワシントン大学心理学部の名誉教授で、同大学に『The Love Lab(愛研究所。「ラブラブ」と親父ギャグなところがイイですね)』を作って恋愛関係や、パートナーシップについて40年以上研究してきた、まさにラブ街道まっしぐらの権威。ジュリー・シュワルツ・ゴットマン博士(写真右)は、その妻で臨床心理学士として結婚、セクハラ、レイプ、家庭内暴力、同性婚、子育て問題などを取り扱うエキスパートです。ゴッドマン博士の話をリードするのは、ジャーナリストで、ダライ・ラマ、デスモンド・ツツとの共著『よろこびの書-変わりゆく世界のなかで幸せに生きるということ』を出版したダグラス・エイブラハムさん(写真左)。そしてその妻であり、統合医療、セクシャリティや関係性を専門としたレイチェル・カールトン医学博士(写真左から2番目)です(才色兼備!)。まずダグラスさんが会場にジャブを放ちます。「この中で20年以上のパートナーシップにある人はいらっしゃいますか?」「では、10年から20年は?」。ちなみにここで、ダグラスさんが「うわお!」というほど会場過半数の人が手を挙げ、肩身の狭い思いをしました。ダグラスパンチは続きます。「10年以下は?」「シングル?」「シングルで、募集中?」「シングルで、もう恋愛をあきらめちゃってるとか?」(はい、そうですよ。手は挙げませんけどね)。二人だからこそ学べることってなんだろう?禅寺を出たばかり、洞穴でも瞑想したよ、なんていうおひとりさま街道まっしぐらな私は、しょっぱなからダグラスパンチをストレートで食らったワケですが。「私はもう恋愛、キャリア、何に関しても強い望みも執着も、煩悩として手放しました」などと思っていたけれど、パンチの痛みが予想外に強かったので、姿勢を正して真面目に聞くことにしました(若干、前のめり)。そういえば禅センターにいたころ、同レジデントのマリィに「ねぇ、ここでみんなにすごく気にかけてもらって、老師にもいっぱい愛をもらっているのに、なんで寂しくなるのかなぁ? 精神的に満たされているはずなのにそう思っちゃうから、ちょっと罪悪感」と打ち明けると、彼女から「そりゃそうよ。私たち修業したってさ、そもそも動物だもん。スキンシップの無いこの生活は、まぁ孤独にもなるわよ」と言われて、深く頷きすぎて首がもげそうになったっけ。(余談ですが、プロのボディワーカーだったマリィにはクリスマスプレゼントにマッサージしてもらいました。優しいね)。さてジュリー博士も、私たちはそもそも群れで暮らす動物だから、生物学的にもつながりが不可欠であること。1日24時間週7日パートナーと暮らすことで、共感力、調和を育み、良い時間だけではなく、特にストレスや難しい関係から思いやりや分かち合いというもっとも神聖な自分の一面を知り、成長することができるといいます。パートナーは、自分の光と影を写す鏡。ジュリー博士を見つめながら、夫のゴットマン博士は続けます。「パートナーシップから、思うほど自分が聡明じゃないと気付かされますよね。うちの場合も妻はこの世界で知り得ることのすべてを知っていて、私といえば、まぁその残りを知っています。これはマーク・トゥエインがそういうことを言っているのを、盗用したんですけどね」。いいなぁ、いいなぁ。ゴットマン博士、すごい研究者なのに、ちょっとユルくて。好きだなぁ。「二人の関係性のなかで、影響を与え合うこと、そして受け入れることを学び、そこから成長が始まります。つまり、個人の成長ともすべてつながっていますよね」と博士。また、パートナーシップはどうしても心の深い部分に触れることになるので、親子関係など子ども時代にできた傷によって、相手に自分の心の奥底にある恐れを投影してしまうのだとか。才色兼備なレイチェル博士も例外ではないそうで、「見捨てられたり無視されたりすることが怖くて、自分のどうしようもなく酷い部分を夫のダグ(ダグラスさん)に見せつけてしまったりしますよ。パートナーとは、これ以上ないっていうぐらい鮮明に自分の光と影の両方を写す存在です。でもそんな最悪な自分を見せても、ダグは逃げ出さずに私を愛し続けてくれる。そうした関わりから自分の光と影の両方を愛せるようになり、心の奥底に潜んでいた恐れも少しづつ薄れていったんです」。研磨剤として成長を促す。ちなみにダグラスさんとレイチェル博士は全然育ってきた家庭環境が違ったのだとか。「僕はユダヤ系家族で育ったから、言い合いこそが愛、という雰囲気でしたね。いっぽうプロテスタントの家庭で育ったレイチェルからしたら『あなたって、火星から来たの?』という感じで。そこで初めて、『え、みんなこんな感じじゃないの?』って気付かされましたね。このようにひとりではなく二人だからこそ、影響を与えあって、違いを受け入れ合って、さらにはそこでどうやって自分から不純物を省けるかと学んでいけます」。運命の相手、ソウルメイトってどんなヒト?ところで私たちはたったひとりのソウルメイトを求めるものですが、それっていったいどんな人なんでしょうね。「スピリチュアルな男女の道を歩むために、一般的にある種完璧で、カーボン紙で複写された写しみたいに自分にぴったり合うような人をイメージするものですよね。やっぱり自分と同じような人がいいんでしょうか?」とダグラスさんがゴットマン博士に尋ねます。遺伝子型が近い男性のニオイは臭い。「スイス人の生物学者 クラウス・レディケンによって行われたTシャツ研究というものがあります。男性たちが2日間着続けたTシャツをそれぞれ同じ箱に入れて、女性たちにどの匂いが好きか、性的に魅力を感じるのか実験したんです。すると女性たちは、免疫系を司るMHCという遺伝子群があるのですが、自分と異なるMHCを持つ男性が着ていたTシャツの香りを好んだんですね。生物学的に考えて自分の遺伝子を確実に残すためには、異なる免疫系を持っているパートナーを選ぶほうが、生まれてくる子どもが病気にかかる危険を回避できる可能性が増しますよね。そこで遺伝子レベルでは、全く違うタイプの人のほうが相性がいいんですよ」とゴッドマン博士。違うから、相性がいい。さらに最近の研究では、匂いが好みだった男性に女性が実際に会ってみたら気にいるのかを調べたのだとか。「結果は、好きだったんですね。だから全然違う人を実際に選ぶものなんですよ。それなのにうまくいかなくなったときに、『あなたって、違う!』と非難するものですが、そもそも自分と違う人を選んでいるわけですから違っていて当たり前。お互いを気遣い、違いを受け入れ、共通性を作っていくことが円満の秘訣です」。相手選びを誤ったのか、視点が低すぎたのか?前回の恋愛における敗因は、愛されたい症候群の元カレと、愛されているという実感を男性に沸かせるのが下手な女(=私)という最悪の組み合わせによるものだと思っておりました。さらに人種も年齢も生活するコミュニティも全然違ったので、彼の友達の食事会(アジア人ゼロ)に招かれたときに、「えー、日本人なの? 日本人って一番良いアジア人だよね!」と笑顔で言われて、愛想笑いを返しながらも、実は嫌な気分だったと後日打ち明けたら、「えぇ、そうなの?!(良いって言われているのに?)。そういう彼だってメキシカンなんだけどねぇ」と言われて、さらに不快に感じたっけ。あなたと過ごした時間も、ある意味2.0。でも、富士山レベルの高い視点で見れば、苦手パターンをお互いに克服するにはぴったりの相手だったとも言えるかも。猫の毛を逆なでするぐらい、ギャーッな相性の悪さ!と思っていたけれど(ちなみに写真は、親に預かってもらっている猫)心の持ちようでは、スピリチュアルな学びの相手として最高だったとも考えられるのでしょうか(う〜ん……、そこまで宇宙視点で物事を捉えられない)。とはいえ、このところずっと一匹狼的に生きていたので、そんなふうに人に対して怒ったり不安になったりということがあまりなかったので、そんなダークな一面が自分にあると知れたのは、ある意味感謝ですよね。相手無くては、わからないものですから。自分の価値観が全く通用しない場合が往々にしてあると石頭をかち割られ、パラダイムシフトを果たせたという点では、まさに2.0体験でした。どのみち、今はひとりの時間です。先月日本に一時帰国したときには曹洞宗の総本山、総持寺で接心に参禅し、憑き物を落とすように警策を受けてきました。繰り返しますが、総持寺の雲水さんの雑巾掛け姿をFacebookのカバー写真にしているからって、尼さんになるってわけではないんですよ。誤解です。2020年Wisdom2.0日本初上陸さてこのWisdom2.0ですが、来年2020年3月20日、21日、日本に初上陸するとサンフランシスコの会場で発表されました。写真は左から、Wisdom2.0共同創設者の木蔵シャフェ君子さんと荻野淳也さん。お二人は、今ここに生きるマインドフルネスをビジネス、医療、一般の場に活用するための取り組みもされています。「今のまんまなんにも変わりたくないです」という人はヤケドしてしまうかもしれませんが、自由な発想や新しい自分を発見してみたい人はぜひ足を運んでみてはどうでしょうか。Wisdom2.0 Japanについては、以下 YOU!Wisdom2.0 Japanのみなさんとの夕べ。久しぶりのお酒で、顔が寝ています。恋愛全敗中の私にそっと荻野さんが渡してくださった本、ジョン・ウェルウッド著『パートナーシップのマインドフルネス(愛を育てる瞑想のプラクティス)』も、パートナーシップをスピリチュアルな精神成長のための道だと見直すための必読本!
2019年03月15日14年間勤めたマガジンハウスを辞めて、女一人スーツケースで全米を旅し続けること早4年。アメリカ先住民ナバホ族と暮らしたり、’60年代以来、オルタナティブな文化の発信地として世界的に有名なエサレン研究所の毎日、そしてウパヤ禅センターでの癒しと学びの雲水生活、その9か月間をダイジェストで振り返ります。写真/文・土居彩【土居彩の会社を辞めて、こうなった。】vol. 73私土居彩は離婚し、その後付き合った恋人とも別れ、14年間勤めた仕事は辞め(当時はアンアン編集者)4年ほど前に、スーツケース2つでひとり渡米しました。自分自身もそれを提案しまくっていた人間のひとりですが、世間一般で決められた「幸せ」や「成功」のあり方をもう一度見つめ直して、私にとっての幸せのカタチとは何かを実体験のなかで確かめたかったのです。まずはバークレーで幸福心理学を学び、アルツハイマーの女性との暮らしで一緒に食卓を囲むという、もっとも基本的で大切なことを教わり、1年ほど前からは定住場所を持たず、ゴールもあらかじめ設定しすぎない放浪生活をしています。会社を辞めて渡米後にどうなったかをずっとananwebで書かせていただいていますが、ずいぶん音信不通にしておりました。大変申し訳ありませんでした!!!連載をぶっつり9か月間も放置しながら、一体何をしていたかというと…。ヴァレラ シンポジウムに参加する。まず2018年5月にニュー・メキシコ州にある禅センター、ウパヤ禅センターで開催された『ヴァレラ シンポジウム(旧:禅ブレイン)』に参加しました。それは、脳科学者のリチャード・デヴィッドソン博士を始めとする世界的な研究者たちが、非暴力かつ効果的な方法で民族の違いや対立を超えて、解決を導くためのヒントや実例について研究データを交えながら発表、討議するというもの。シンポジウムに参加したのは、大切な友人がつないでくれたご縁で、その後にアメリカ先住民 ナバホ族が暮らす、アリゾナ州にあるビッグ・マウンテンという地での先住民の人々との生活を控えていたからです。彼らは「この聖地は母なる大地の内臓にあたる場所。それを掘り起すなんてもってのほか」と、アメリカ政府の石炭発掘開発に対する反対活動として、水道も電気もガスも走っていない地で暮らす人々です。会社を辞めてから、いろいろと学んだり、瞑想したり、お世話になったりしていくなかで、「で、いったい私に何ができるんだろう?」という気持ちが募っていきました。そんなときに「彼らについて日本のみんなに書いてほしい」とお世話になりまくった友達のリクエストを受けることになって、彼らのことを全く知らない私が「でも、どうしたら?」。そのヒントを得たくてシンポジウムに参加したんです。シンポジウムでは、脳科学的にも人間には本来思いやりの心が備わっていることがデータとともに語られ、ヒマラヤやメコン河での環境保全に携わってきた博士なども登壇し、とても鼓舞されるものでした。ビッグ・マウンテンでの羊飼い生活。シンポジウム後に勢いづいて、「よし!」とビッグ・マウンテンへ向かったのはいいけれど、想像と現実には大きな隔たりがありました。私は単なる足手まとい。そのうえ精一杯でも、ほぼ無収入状態の私が差し出せるお金は僅かなものです。では精一杯働きますと、羊飼いのお手伝いや家事をしながら数日間暮らしたわけですが、羊毛にへばりついた糞やダニを素手で掃除しても、清潔な水では手を洗えず、またその手で料理を作ります。土埃で髪は砂まみれ、体は汗だくでも、当然シャワーなんて浴びられません。そして電気がないので、日の入りとともに床の上に羊の皮をひいて耳栓しながらナバホ族の男性ふたりと一緒に川の字になって雑魚寝します。朝一番には都市から運んできたワイン樽大のプラスチックタンクに入れた水道水を、ホースを使って口で吸い込み大型タンクに移す作業をするも、何度も肺に水が入ってしまい窒息しそうになります。気候変動は、目の前の現実。ある日、頭にべったりと血がついた羊を目にしました。ここ数年続くひどい日照りによって草木が枯れ、ウサギがいなくなり…。餌を失ったコヨーテが極度の空腹に耐えかね、もはや目の前に人がいても、恐れずに羊を襲うのです。気候変動の影響をまざまざと見せつけられる毎日で、このほかにもここでは書けないようなショッキングな体験もしました。たった数日間で、おかしな咳にも悩まされるようになり、やむなく山を降りるという苦渋の決断をしました。その後自己嫌悪に陥り、「私なんてなんにもできない、口先ばっかりの人間だ。そんな私が書くものなんて、なんの救いにもならない」と全く原稿が書けなくなってしまったのです……。エサレン研究所で過ごした1か月。その後、カリフォルニア州ビッグ・サーにある、オルタナティブ文化の発祥地 エサレン研究所で1か月間、施設の仕事を手伝いながら学ぶ学生(ワーキング・スカラー)として暮らしました。エサレン研究所に志望動機エッセイを書いて選ばれると、通常の1/5ほどの費用で滞在できるのです。プログラムを担当する先生は、スザンヌ・スカーロックという30年以上のキャリアを持つクラニオセイクラル・セラピーの指導者でした。彼女はそれに瞑想や西洋心理学、先住民の智慧などを組み込んだ独自のヒーリングメソッド“ヒーリング フロム コア(深部からの癒し)”を開発し、全米を中心に世界でワークショップを行っています。動く瞑想で、号泣する。授業中に身体の声を聴いて何も考えず、ただ手や足の意志に身を委ねて動くという瞑想法も教わりました。私が日常的に取り入れていた身体の動きを固定するヴィパッサナー瞑想とは全く違うアプローチでしたが、両手を目の上に置いたとたん、涙が止まらなくなりました。スザンヌだけではなく、クラスメートたちにも頑張りすぎ、自己批判しがちだとも助言され、これまで見たくないものをたくさん見てきたことをただ認め、自分に寄り添うという自己ヒーリングに集中しました。優しいタッチで触れ合うヒーリングテクニックも学んで、お互いに癒し合いもしました。エサレン研究所では、朝からだいたい15時頃まで草むしりや草木の剪定、道路を掃いたり、ベッドメイキングなどに従事し、授業は夕方から開始。また、週に一度はスザンヌの講座だけではなく、ゲシュタルト療法による公開カウンセリングも受けました。授業の後や週二度の休日には、みんなでギターを弾いたり、歌ったり、エサレン名物の温泉にもつかりました。男女混浴の洗礼。温泉は、男女混浴なので恥ずかしがっていると、「アヤ、体は美しいよ。恥ずかしくなんかない! 見てごらん!」と全裸でミケランジェロ像のように仁王立ちしてくれた同級生(男性)も(笑)。毎日ダンスをしたり、週末には海で子どもみたいに風車をしてもらったり、会話の流れでまじめくさると絶妙なタイミングでオナラをして笑わせてくれたり……。世界的なセラピストによるクラニオセイクラル・セラピーも受け、たくさん泣いてたくさん笑いました。再び青春時代に戻ったような、まぶしい日々を過ごしました。本当は全然大丈夫じゃなかった。実はホームレス旅生活を決行したのは、ここで書いていたほど前向きな理由じゃなかったんです。当時の私は完全に行き詰っていました。バークレー大でオールAを取っても、討議にはついていけない程度の英語力の私は、とてもじゃないけどアメリカで大学院レベルの心理過程へ進むなんて無理だと思い知らされました。UCSFでインターンするも無給で持続不可能だし、日本人を治験者にした研究のアシスタントをしていても、心理過程大学院レベルの学位が無い未経験者だからと重要なデータ分析には参加させてもらえず、あえなく中断。とある会社では就職を打診されたけれど、ワーキングビザが発行できなかったため、断念します。結果、貯金を切り崩しながら暮らす日々で、「本当に伝えたいことだけを書く」と覚悟したのはいいけれど、ライターとしても満足には生活できていません。というわけで、こんな全てが中途半端な状態でビザが切れて帰国したら、どんなに恥ずかしくて、悲惨なんだろう? 親や友達は、そんな私のことをどう思うだろう?? 例えば、一時帰国でウィークリーマンションを借りるも、カード先払いにもかかわらず、どこにも所属せず社会的信用がない私は、親の保証人サインがないと契約できないという有様なのです。消えてしまいたい衝動を抱えながら。応援してくださるみなさんには本当に申し訳ないけれど、「この世界から消えてしまえたら、どんなに楽だろう……」。そんなふうにも考えていました。日々思い詰めて、ふと「ビザが切れるのは約一年後。どうせこの世界からいなくなるなら、その覚悟で残りの時間と貯金を使って生きてみたらどうだろう?」。そして部屋を引き払い、いままでの思考パターン「何かになろうとする」からいったん距離を置き、直感的にただ思いのまま行動してみることにしたのです。というダークな思いを、エサレン研究所でワンワン泣きながら初めてクラスメートに告白することができました。そうして、本当は大丈夫じゃないのに、大丈夫なフリをすることで閉ざしてきた心が少しずつほぐれていったのです。ウパヤ禅センターで4か月間修行。エサレン研究所の後は、ニュー・メキシコ州サンタフェに再び飛び、ウパヤ禅センターで4か月間雲水生活をしました。素晴らしいシンポジウムに参加したのはいいけれど、頭でわかっているだけで実行に移してみたら何もできなかった私。これからまた実社会の中で生活していく前に、コミュニティと一緒にプラクティスしながら、しっかりとした軸を作っていきたいと思ったのです。ウパヤ禅センターでは、作務衣姿で朝6時には起床し、7時から坐禅と朝礼。日本語でも読んだことが無かった、ローマ字で書かれた摩訶般若心経を毎日唱え、侍者として導師に付き添い、参禅中の線香を渡したり、袈裟を整えたり。私はキッチン作務担当だったので、典座と呼ばれる料理長とともに毎日5時間以上かけて20人から100人分の3食を作り続けました。坐禅は朝に加えて、12時、17時半と毎日3度あって、坐りながら開始を知らせるための木版を打ったり、終了の鐘を鳴らしたり。禅センターですが、日本人は私ひとり。アメリカ人を筆頭に、オーストラリア人、ドイツ人、イギリス人、アイスランド人、ポーランド人など老若男女ともに暮らしていました。2か月ほど経ったときに、腰が痛いという母ぐらいの年齢の女性に変わって皿洗い用の水を溜めた大きなたらいを運び続けるうちに今度は私も腰を痛めてしまいました。毎週鍼治療に通っても、そのときはいいのですが、またぶり返してしまいます。今の自分でも、いいんだ。©UPAYA ZEN CENTERそこでプレジデントに「労働と引き換えに、ここに無償で住みこみ、3食いただいたうえに勉強までさせていただいています。それが十分にできない今、ここを去るべきだと思うのですが……」と相談するとビックリされ、「そんな必要はありません。あなたの問題は、コミュニティ全体の問題です。一緒に考えていきましょう」と言われて、今度は私のほうが驚きました。“いい子”じゃなくても、できが悪くても、私を受け入れようとしてくれる人がいる。不完全な私のままでも居場所はあるのだ。それは、ブレイクスルー的な体験でした。ジョアン・ハリファックス老師からの学びと癒し。そして僧院長であるジョアン・ハリファックス老師との出会い。彼女は外国人女性として初めて、昨年曹洞宗の総本山である総持寺で開かれた世界仏教徒会議で基調講演されました。禅センターを作り、何冊もの本を出版し、世界中を飛び回って講演しながら、毎年医師団を連れてヒマラヤの山奥で病院をキャラバンするという老師。こちらでエンゲイジド・ブディズム(社会と関わる仏教)と呼ばれますが、仏教から学んだ教えを社会貢献に活かしている人として全米でとても尊敬され、大変有名な人です。そこで、お会いするまでは勝手に「鉄の女」的な印象を持っていました(笑)。©UPAYA ZEN CENTERそんな老師と初めてお話ししたのは、みんなで輪になって率直な思いを述べ合うカウンシルという集いででした。皆が良い意見を出し合って、では最後の締めくくりをといったタイミングで私が最悪の爆弾を投下しました。それは、仏心があるなんて信じられない!「誰もが仏だと言いますが、私はどうしてもそれが信じられません。だって私はすごく自己中心的だし、できればもっと怠けていたい。朝起きるときも、まだ寝ていたいなぁ、面倒臭いなぁといつも思っています。“もっといい人間になりたい”と思うから、こうして修行しているわけで、どんなに坐っても勉強しても働いても、そんな私がそもそも仏だ、なんてとても思えないんです」というずっと抱いていた困惑をストレートにぶつけたのです。すると老師が、身体全体の慈しみが溢れ出るような思いやりに満ちた目で私をじっと見つめ、ただ「素晴らしい……」「美しい……」と言いました。私を全く否定せず、全身全霊で、ただともに居てくれたのです。それはたった2分程度だったでしょうか。でも、「これが今ここにあるというマインドフルネスの力なのか」、そして「良い悪いと判断せず、ありのままの現実を思いやりの心で見るということが、こんなに癒しになるんだ」と理解するのに十分でした。老師は、本当に包み込むような圧倒的な優しさとエネルギーを持つ美しい人です。頭での理解を超える体験。その体験は、言葉ではうまく言い表せないのですが、頭での理解を超えて、「なるほど」が身体の芯部から突き抜けていくようでした。その日から、私は老師とウパヤ禅センターと恋に落ちたのです。クリスマスには車で2時間ほどいったアメリカ先住民が暮らす集落(プエブロ)へ老師や皆と訪ね、彼らの鹿ダンスを見学しました。寮のドアを開けたら雪が胸の位置まで積もっていて、平泳ぎの手で雪かきしながら朝一番のトイレに行く経験もしました。毎週グルテンフリーのタルトを焼いてくれるレジデントがいたり、安居(あんご)と呼ばれる1か月間の集中修行の後で「髪への執着から自由になりたい!」というレジデントのために急遽ヘアサロンをオープンしたりも(その様子をビデオで記録したら、以来ヨーコ・オノと呼ばれるようになりました、笑)。そんなふうに一緒に笑ったり泣いたり怒ったり支えあったりしながら、ウパヤ禅センターでの4か月間が過ぎて行きました。禅センターを出た今は、まだ少し夢の中にいるようです。しばらくバークレーで翻訳作業に携わりながら生活していますが、今は「こうなりたい」とか「こうしたい」という気持ちがますます薄れていて。価値観や自分の状況がより鮮明に把握できるようになってきたにも関わらず、なんだか少し他人事のような感じなんです、自分の人生が。今ここから自分がどこに向かっているのか全くわからなくて、ちょっと怖いけれど、意外にそれをあまり怖いとも思っていないことがまた怖いというか(笑)。うまく説明できないんですが。でも、目の前のことや人たちにはできるだけ誠実に。今ここに集中して気をそらさず、できる限り、目の前の責任を果たしたいと思います。SEE YOU!
2019年03月02日第1回、第2回と脳科学を応用したダイエット法についてご紹介してきましたが、第3回の今回はいよいよ実践編!仕事に子育てにと時間がないママでも脳科学ダイエットを上手に生活にとりいれるための具体的な方法について、 『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』 (主婦の友社)の著者、久賀谷亮先生にお話をうかがいました。お話をうかがったのは…医師/医学博士久賀谷 亮 先生イェール大学医学部精神神経科出身。アメリカ神経精神医学会認定医。日本で臨床及び精神薬理、イェール大学で先端脳科学研究に携わる。その後、臨床医として精神医療の現場に従事。2010年、ロサンゼルスで「TransHope Medical」を開業。マインドフルネス認知療法、TMS磁気治療をとりいれた診療を行っている。 ■脳科学ダイエット、いよいよ実践!――マインドフルネスを応用したダイエット理論、食欲との向き合い方などについてご紹介してきましたが、ここからは実践編ということで具体的な方法についてうかがっていきたいと思います。久賀谷亮先生(以下、久賀谷先生):マインドフル・ダイエットはまとめてみると、食べものではなく食べ方を変える「食事改善メソッド」、食欲をおさえつけずに乗りこなす「欲求管理メソッド」、心と脳を満たす「自己充足メソッド」といったステップに大きく分けることができるんですね。――なるほど…。「欲求管理メソッド」の部分は前回お聞きした「RAIN」を取り入れていくということですよね。食事改善、自己充足メソッドはどのような手法になるのでしょうか?久賀谷先生:例えば、食事改善でいうと「食前セレモニー」というのがあります。これは食べる前に「なにを食べるか」を意識するものです。今から食べるものをよく観察して、どうやってこの食卓にきたのかを考えたり、食べる前の自分の体の感覚や反応を確かめたりするんですね。――食べる前に、食べものを観察し、想像して、自分の体の感覚を確かめる…。 久賀谷先生:そうです。そして、おなかがすきすぎて、これ以上我慢できない! という状態を10、満腹の状態を0と考えたら、今はどのくらいおなかが空いているか、どのレベルにあるのかを感じてみます。そして「なぜ食べたいのか?」に思いをはせていきます。食べる前に30秒くらい時間をとって、このようなことを考え、感じてみるんですね。――私、食べるときはなにも考えずに、すぐに口に放り込んでいました…。食べるものに注意を向けることなんて、今までしてこなかったです。久賀谷先生:例えば、忙しいからと食事を手早くすます、スマホを見ながら食べる、なにか考えごとをしながら食べる。こういう場合は「自動運転モード」で食べていることになります。食に注意を向けず、ただなんとなく食べている状態ですね。脳科学ダイエットでは、食べ物にしっかりと注意を向けるトレーニングをすることで、自動運転モードの「太りやすい脳」を変えていくことができるんですね。■「食事の時間すらない!」ママでもできるたったひとつのこと――でも小さなお子さんを持つママの場合、子どもも食べさせて自分も早く食べなきゃいけないから、余裕がないときが多いと思うんです。そうなると、食前に30秒の時間をかける「食前セレモニー」ですらできないこともあるかと思うのですが、なにかいい方法はないでしょうか?久賀谷先生:そうですね。例えば、食前セレモニーをする場合『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』では30秒ほどの時間をかける工程が丁寧に書かれていますが、お母さんたちにはそんな余裕はないですよね。――はい…。久賀谷先生:でしたら、すべての工程をたどる必要はありません。30秒かけずに効果があるのだろうかと心配されるかもしれませんが、マインドフルネスの基本は「注意を向けること」なんですね。だから、なにかひとつのことだけでも注意を向けられれば大丈夫です。例えば、食事の色だけ観察する、香りだけ味わう、味だけに注意を向けるといったことですね。どれかひとつだけに注意を向けるのはお母さんでもやりやすいと思うんです。――じゃあ、バタバタしていても食べる前に一度落ち着いて。口に入れる前によく香りを確かめてから食べ始める…みたいなことでもいいんでしょうか?久賀谷先生:いいですね。――それならできそうです! 食事をお皿に盛りつけたときに「トマトの赤とサラダの緑がきれいだな」と食材の色に注意を向けるだけでもいいなら、子どもと一緒に食事もできそうな気がします。■「自分のため? それとも家族のため?」気づきで満たされる“心と脳”――朝起きた瞬間からやることがいっぱいでフル回転! とにかく自分に向き合う時間がない! という暮らしのなかで、食前セレモニーといった食事手法以外に、ママができるマインドフル行動はありますか?久賀谷先生:お母さんは本当に忙しいですよね。でも時間に追われている間も「なにかに注意を向けられる瞬間」っていうのは絶対にあると思うんですよ。例えば、歩いているときに、空を見る。ああ、空が青くて気持ちいいなと思う。これはもうマインドフルネスになります。あるいは、園の送迎でお子さんと一緒に歩く機会があるなら、つないだ手の感触を確かめてみる。これもマインドフルネスです。仕事に出かける直前に夫と言い争いをしてイラッとしたときは「私、すごくイライラしているな」と自分の感情に注意を向けてみる。これもマインドフルネスなんですね。――ちょっとしたことでも、注意を向ければすべてマインドフルネスになるんですか?久賀谷先生:そうです。自分中心じゃない生活に追われているお母さんたちがマインドフルネスを応用すると、自分のための行動か、そうじゃない行動なのかがはっきり分かってくるんですね。お母さんたちは自分のことがすべて後回しになっていると思うので、1日の活動を見直して、1つでも2つでも自分のための活動をつくってほしいんですね。忙しく子育てしていると「自分のための時間を持つ」という視点がどんどんなくなってきてしまうと思うんです。――そうかもしれないです。家族のためにと思う気持ちも大切ですが、自分のための時間も同じくらい大切だと思います。これが、おなかではなく心と脳を満たす「自己充足メソッド」なんですね。久賀谷先生:自分のための時間をつくるのは、自分にやさしくすることです。自分にやさしくすると心が満たされますよね。満たされた心と脳はつながっています。■「自分にやさしく」がダイエット継続のコツ――とはいっても、子育てしていると「自分にご褒美」と理由をつけて、甘いものを食べてしまうパターンが多いのですが…(涙)。それはいいんでしょうか?久賀谷先生:食べてもいいですよ。――ホッ。でも、食べたことで「なんで食べてしまったんだろう」と罪悪感を感じるときもあります。この連鎖はあまりよくないと自分でも分かっているんですが…。久賀谷先生:食べて罪悪感を感じるんですね。それは皆さん、自分に厳しすぎるんだと思うんです。特に日本人は自分に厳しい。自分のボディイメージしかり、人からどう見られているかもしかり。こうあるべきだという思いが強い。お母さんたちは、自分のことを後回しにしているだけではなく、自虐的だったり罪悪感を持っていたりするのではないでしょうか。それは自分をいじめているような気がしますね。いじめるんじゃなくて、やさしくしてほしいです。――確かに「もっとしっかりしなきゃ」と自分を奮い立たせたり、「私ってなんてダメなんだろう」と落ち込んだり…。自分に甘い瞬間は、ご褒美スイーツくらいで(笑)…案外少ないかもしれません。子育て中はジムにもエステにも行く時間がないけれど、子どもを預けてまで自分の時間をつくるのはどうなんだろう…という罪悪感を抱くママも少なくないような気がします。久賀谷先生:マインドフルネスは、自分にやさしくなって自分をケアできるんですね。ケアすると、内面が満たされてくる。ダイエットってどこかで制限がつきまとっていますけど、ちょっとくらい甘いものを食べてもいいんじゃないかと思いますね。そのくらい皆さん、自分に厳しくしているから。それとダイエットは反しないですよ。自分のなかで満たされないものがあって、そこを満たそうと食べているわけです。シンプルにいうと、自分を厳しくするのは、心の溝をさらに深くしていることになる。では、自分を責めるのをやめて、やさしくするとどうなるか。責めずにやさしくすると依存や渇望、食べても満たされないという思いが減ってくるんですね。――自分にやさしくすると、心が満たされてくる…。もっと自分に甘くなってみようと思います(笑)。ダイエットは続けていくことが大事といいますが、マインドフル・ダイエットを続けていくコツはありますか?久賀谷先生:取り組まれたいろいろな方を見て思うのは、効果を感じることですね。それを感じられた方は、そのあとで非常に続ける確率が高いです。あとは、科学的データがあるので、自分のなかで納得して続ける力にする方も多いですね。実際に、男女関係なくデータが出ているので「それならきっと効果が出るはずだ」と納得されたうえでやるということです。あとは習慣にする。習慣の再学習というか、毎日、同じ時間帯に同じ場所でやると、習慣として組み込まれて続けやすくなると思います。なにかひとつのことに集中して、厳しくしていた自分にやさしくする。脳科学を用いたダイエット法には、満たされていなかった自分の気持ちまでケアする力がありそうですね。参考図書: 『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』 (主婦の友社)著者 久賀谷亮/1,598円(税込) やせにくい脳から太りにくい脳へ。最先端の脳科学を応用した脳から変えるダイエット法をまとめた一冊。巷にあふれるダイエット法は「~してはいけない」「~しなければならない」などの制限や命令がつきもの。けれど科学的研究で効果があると明らかになった脳科学ダイエットなら、そのしがらみから解放されます。人の食行動を変えるマインドフルネスとは何か?ダイエットシェアハウスで共同生活をする5人のストーリー仕立てで教えてくれるので仕組みが分かりやすい! ダイエットとは心と脳を満たすこと。本質的なことを教えてくれるダイエット本です。
2018年11月19日出産を終え、体調も整ってくると「そろそろダイエットでも始めようかな」と思うママも多いことでしょう。でも、小さな子どもとの生活はやることがいっぱい。気持ちも体もついていかず、ダイエットどころではない現実に直面する人もいますよね。それに、なぜだか異常な食欲がわいてきて後悔するほど食べてしまい「どうして食べちゃったんだろう」と落ち込んでしまうことも…。わきでる食欲は、どうやったらとめることができるのでしょう? 第1回に引き続き、長年、脳科学研究に携わり 『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』 (主婦の友社)を出版された医師・久賀谷先生に、脳科学ダイエットから見る「おさえられない食欲との付き合い方」についてお話をうかがいました。お話をうかがったのは…医師/医学博士久賀谷 亮 先生イェール大学医学部精神神経科出身。アメリカ神経精神医学会認定医。日本で臨床及び精神薬理、イェール大学で先端脳科学研究に携わる。その後、臨床医として精神医療の現場に従事。2010年、ロサンゼルスで「TransHope Medical」を開業。マインドフルネス認知療法、TMS磁気治療をとりいれた診療を行っている。 ■「食欲がとまらない!」どうしてこんなに食べてしまうの?――息子が小さいころ、子育ての合間に「ご褒美」と称してコンビニのちょっと高いスイーツを食べるのが大好きでした。それだけですめばいいんですが、夜ごはんのあとにもチョコレートをつまんでしまったり…。食べ過ぎと分かっていても「食べたい!」欲望と向き合うにはどうしたらいいのでしょうか?久賀谷亮先生(以下、久賀谷先生):食欲がおさえられないことを脳科学的に見ていくと、習慣と依存という2つの要素が関係しています。甘いものを食べると満足感がありませんか?――すごくあります!久賀谷先生:脳はその満足感を覚えるんですね。そして習慣にしてしまう。食欲というのは快楽なんですね。甘いものやごはんなど糖質をとると、ドーパミンという快楽物質のようなものが出て脳が刺激されてしまう。脳は無条件にその刺激を欲してしまうんです。そういうメカニズムができているんですね。結果、そこから抜け出せなくなってしまう。習慣と依存という2つの車輪が、我々の「食べたい」をおさえられなくしている。これは、全部脳からきているんですね。――食欲がおさえられない、というのは脳からきている。ということは「どうして我慢ができないんだろう」なんて自分を責めなくてもいいということでしょうか?久賀谷先生:そうですね。食欲をおさえられないのは、脳のなかの自然な反応です。――なるほど…。食欲がおさえられないというのは当たり前なことなんですね。■子育て期に直面する「食欲ムラムラ」どうやり過ごす?――子育て中だと授乳中は手持ちぶさたでお菓子に手がのびたり、子どもが残した食事ももったいないからつい食べてしまいます…。家に子どもと2人きりだと、楽しみが食に向かってしまいがちですよね。食欲がおさえられないときというのは、さまざまなシチュエーションがあるかと思いますが、わきあがる食欲とはどう向き合っていけば良いのでしょうか?久賀谷先生:私がすすめているマインドフル・ダイエットは、基本的に「なにかひとつのことに集中する」ことに焦点をおいています。それと同時に、食べたい欲求はおさえつけずに「乗りこなす」という方法があります。――食欲を乗りこなす…? 食欲はおさえて、我慢しなければならないものではないのですか?久賀谷先生:おっしゃるとおり、食欲があると人間はおさえようとしますし、戦ってしまうものですよね。けれど欲求をおさえようと我慢することは、脳科学から見て、かえって火に油をそそいでいるのと同じことなんです。食べたい衝動、これを我々はクレーヴィングと呼びますが、これを波に例えてみましょう。波と戦おうとすると、正面衝突することになりますよね。波と衝突すると、どうなるでしょうか。――真正面からぶつかったら…飲み込まれてさらわれそうです。久賀谷先生:そう、撃沈しますね。食欲をおさえようとすると悲惨な結果を招くことになる。では、どうしたらいいのか。そんなときは波に乗るようにするんです。もちろん、最初は失敗するかもしれないし、うまく乗れないかもしれません。でも、だんだんうまく乗れるようになる。ぶつかることなく、落ちることなく波に乗って岸に行けるようになる。そのころには衝動はおさまっているんです。――食欲を波に例えて「乗りこなす」。これができるようになれば、食欲をおさえる必要はなくなるんですか?久賀谷先生:そうですね。この方法は「RAIN」と呼ばれていて、具体的に説明すると、次の4つの段階をふみます。1.Recognize:食べたい欲に気づくこと。2.Accept:食べたい欲を受け入れること(食欲とは戦わない)。3.Investigate:そのときの体の感覚を見つけること(クレーヴィング)。4.Note:見つけた体の感覚を書きとめたり言葉にすること(フレーズもしくはネーミング)。フレーズにすると、体の感覚という実態の見えないものが分かりやすくなるんです。それ以外にも感じた感覚をなにかに書いたり、言葉に出したりするのもいいですね。人それぞれやりやすい方法でやってみてください。――RAINですか…。「食べたい!」と思ったら、食べたい欲があることに気づく。そして受け入れる…。体の感覚ってどんなものなんでしょう。今度やってみたいです。久賀谷先生:正直、いきなり完璧にやろうと思うと難しいかもしれません。私もRAINを言葉で説明して、いろいろな方と一緒にやってみるんですが、すぐにはできない方が多いですね。だから何度か練習を重ねていきましょう。――食べたい! と思ったら「お、食欲の波が押し寄せてきたな~」と心のなかで思うだけでも違うかもしれませんね。そのあとで「うん、今日はいろいろ頑張ったもんね。食べたくもなるよ」と受け入れる…とやっていくとコツがつかめてくるかもしれないですね。■食欲コントロール「自分にやさしくする」がダイエットにつながる?――子育て中のママの頭のなかには常に自分以外がいると思うんです。子どものため、家族のため…と考えるのに忙しく、自分のことを考える時間がないような気がします。久賀谷先生:そうですね。子育てをしていると、本当にお忙しいことと思います。お母さんであることもそうですし、ダイエットにおいても「これはダメ」「我慢すべき」「こうしなきゃ」と自分に厳しすぎる人が日本では特に多い気がしますね。――そうなんですね。確かにちょっとできなかっただけなのに必要以上に「できなかった…」と落ち込んでしまうことがあります。そもそも、やせないのは自分のせいだと思っている人もいますね。久賀谷先生:私が脳科学の視点からとらえたマインドフル・ダイエットは、「自分の今」に注意を向けるマインドフルネスを応用しています。自分の今に注意を向けるというのは、自分にやさしくすることなんです。―自分にやさしくする…?久賀谷先生:そうです。いつも誰かのことを考え、向けていた注意を自分に向ける。自分にやさしくなることで食の仕方が変わり、太りにくい脳へと変わっていくことでダイエットにつながるということなんですね。――マインドフルネスを日常に取り入れることは、知らないうちに自分に厳しくなっている状態から抜け出すいいきっかけにもなりそうですね。では、子育て中のママが自分にやさしくなるためには、どのようにマインドフルネスを活用すればいいですか?久賀谷先生:そうですね。やってみてほしいのは1日の活動を見直して、自分のための時間がどれくらいあるのかを知ることです。お母さんの多くは、ほとんどないのではないでしょうか。もしそうであるなら、自分のための時間をつくってみてほしいですね。――それは自分ひとりになる時間ということですか?久賀谷先生:時間もありますし、空間もですね。車の中でもいいし、部屋が複数あるならお子さんや家族のいない部屋に移動して。物理的にひとりになれる空間に身をおいて時間を過ごしてみるといいですね。そこで大好きなスイーツを食べてもいいし、音楽を聴いてもいい。自分だけの自分のための時間をつくって、自分にやさしくしてみるんです。驚くことに、自分の好きなことを忘れているお母さんもいます。好きなこと、やりたいことを思い出すためにも、ひとりになる時間というものをつくってみましょう。それが脳を変えていくきっかけになると思います。次回はいよいよ実践編! ママが脳科学ダイエットを応用して、産後太りを解消するためのやり方についてお話をうかがっていきます!参考図書: 『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』 (主婦の友社)著者 久賀谷亮/1,598円(税込) やせにくい脳から太りにくい脳へ。最先端の脳科学を応用した脳から変えるダイエット法をまとめた一冊。巷にあふれるダイエット法は「~してはいけない」「~しなければならない」などの制限や命令がつきもの。けれど科学的研究で効果があると明らかになった脳科学ダイエットなら、そのしがらみから解放されます。人の食行動を変えるマインドフルネスとは何か?ダイエットシェアハウスで共同生活をする5人のストーリー仕立てで教えてくれるので仕組みが分かりやすい! ダイエットとは心と脳を満たすこと。本質的なことを教えてくれるダイエット本です。
2018年11月18日「脳」をもとにして考えられ、その斬新なダイエット法が数々のメディアで紹介されている「脳科学ダイエット」。先端脳科学研究に携わり、脳科学に関する本を多数手がけている久賀谷亮先生が提唱するこのダイエット法、実は産後太りにお悩みのママにもおすすめできるといいます。今回は、 『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』 (主婦の友社)を出版された久賀谷先生に、脳科学ダイエットとはどんなものなのか、なぜママにおすすめできるのか。その理由についてお話をうかがいました。お話をうかがったのは…医師/医学博士久賀谷 亮 先生イェール大学医学部精神神経科出身。アメリカ神経精神医学会認定医。日本で臨床及び精神薬理、イェール大学で先端脳科学研究に携わる。その後、臨床医として精神医療の現場に従事。2010年、ロサンゼルスで「TransHope Medical」を開業。マインドフルネス認知療法、TMS磁気治療をとりいれた診療を行っている。 ■「太りにくい脳」をつくる脳科学ダイエットとは? ――久賀谷先生、本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、先生は脳科学の研究をされていますよね。先生が書かれた『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』のなかの「脳科学ダイエット」とは一体どのようなものなのでしょうか?久賀谷亮先生(以下、久賀谷先生):このダイエット法は極端にいえば「食べ方改革」なんですね。焦点をおいているのは「食べ方」であって、「食べるもの」ではありません。――食べ方改革…!久賀谷先生:ダイエットに悩んでいる人は感情にまかせてドカ食いしたり、おなかも空いていないのに食べてしまったりして、食べるものがどういうものなのか知らずに食べていることが多いのではないでしょうか。――私も経験がありますが、食べることで気分を紛らわせたいと、どんどん口に入れてしまう…。食べるもの自体には注意を向けていないことが多いですね。久賀谷先生:そうですよね。脳科学ダイエットの基本はそこにあります。今までなに気なくしていた「なにか」に「注意を向ける」ということなんです。なにかに注意を向けることを脳科学では「マインドフルネス」と呼びます。――マインドフルネス…。初めて聞いた言葉です。注意を向ける…とは?久賀谷先生:例えば、目の前に緑の葉をつけた木が生えているとします。目をひかれて見ますよね。注意が向くことで「清々しいな」とか「きれいな緑色をしているな」という思いがわくこともある。これがマインドフルネスです。シンプルに、なにかに注意を向けることなんですね。――なんだかものすごく簡単で、それでいて奥が深そうな…。このマインドフルネスとダイエットがどう結びつくのでしょうか?久賀谷先生:注意を向けることで得られるメリットのひとつは「普段なに気なくやっていることがいかに多いか」に気づけることです。そして「食べること」はその最たるものではないでしょうか。考えごとをしながら数分で食事を終える、おなかが空いてないのに食べる。なにを食べているのか、たいして意識もせずに食べる。マインドフルネスを意識すると、そうした食べ方を変えていくことができるのです。■リバウンドしない「ついつい食べてしまう」を防ぐ食習慣――食べ方が変わると、体も変わっていくということでしょうか?久賀谷先生:そうですね。マインドフルネスをダイエットに応用して食事をする場合、「自分の体の呼吸と感覚を意識する」「食べものをじっと見たり、かいだりして体の反応を確かめる」「なぜ食べたいのかに思いをめぐらす」といった行動があります。そのどれもが好奇心を持って「今あるなにか」に注意を向けていることになるんですね。これは食事の仕方だけではなく、食欲を感じたときにも応用ができます。食欲という衝動があることに気づく、受け入れる、調査する、記述する。注意を向けることで欲求を管理することができるようになるのです。――なるほど。注意を向けると「食べたい!」という欲求とも向き合えるようになるんですね。久賀谷先生:依存と習慣による「ついつい食べてしまう」という行為は継続的な働きかけで変えていくことができるんです。それに有効なのがマインドフルネスなんですね。「今あるなにか」に注意を向ければ、我慢しなくとも「太りにくい脳」へと変化していくことができる。マインドフルネスはダイエットに有効であるという科学的な根拠もありますし、新たな習慣になるから脳が覚えて、内面の本質から変わる。だから、形だけの制限で本質が変わっていないから起こるであろうリバウンドもしにくいと思うんです。■「マインドフル・ダイエット」忙しいママに最適な理由――マインドフル・ダイエットは科学的に見ても集中力アップ、感情調整力アップ、免疫機能アップといった効果があるようなので、ぜひとも試してみたいです。…でも子育てに仕事に忙しいママでも、できるものなのでしょうか?久賀谷先生:お母さんは毎日忙しいですよね。でもマインドフル・ダイエットは時間がなくてもできます。例えば、運動をしてやせようと思った場合は、2~30分などある程度まとまった時間が必要になりますよね。でもマインドフル・ダイエットの基本は「注意を向けること」です。だから子育てしながらの生活でも、やりやすいと思います。――本当ですか! 注意を向けるだけでいいのであれば自宅でも会社でもできそうですよね。場所に左右されないのはうれしいです。久賀谷先生:お子さんを持つお母さんは、毎日やることがいっぱいですよね。余裕がなくなって怒りっぽくなったり、感情的になったりすることもあるでしょう。マインドフルネスは食習慣を変えるだけではなく、自分自身の状態にも注意が向けられるので、ネガティブな感情ともうまく付き合えるようになると思います。――科学的にみてマインドフルネスは「感情調整力があがる」というのがそれですね。アンガーマネジメントにもなりそうな。久賀谷先生:アメリカではマインドフルをつけるのがブームになっているのですが、マインドフル・ペアレンティングといって親子関係を良好に築くために有効な方法としても活用されているんです。――一緒になにかに注意を向けてみることで、親子関係に良い変化を生み出せるんですね。久賀谷先生:そうですね。マインドフルネスには本当にさまざまな効果があるといわれているんです。なかには、10歳くらいの子どもに半年間マインドフルネスを行わせた結果、算数の成績が上がったとのデータもあります。――それはすごい! マインドフルネスのコツをつかめるようになったら、今度はわが子にもやり方を教えてあげたり、一緒にやってみるともっとたくさんの効果を感じられそうですね。マインドフル・ダイエットの基本は「なにかに注意を向ける」こと。そうすることで自分の状態、自分の身に起きていることをじっくりと味わうことができるようになります。次回は「食べたくて仕方ない!」という欲求はどこからくるのか? 脳科学ダイエットから見る「食欲との付き合い方」についてお話を聞いていきます。参考図書: 『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』 (主婦の友社)著者 久賀谷亮/1,598円(税込) やせにくい脳から太りにくい脳へ。最先端の脳科学を応用した脳から変えるダイエット法をまとめた一冊。巷にあふれるダイエット法は「~してはいけない」「~しなければならない」などの制限や命令がつきもの。けれど科学的研究で効果があると明らかになった脳科学ダイエットなら、そのしがらみから解放されます。人の食行動を変えるマインドフルネスとは何か?ダイエットシェアハウスで共同生活をする5人のストーリー仕立てで教えてくれるので仕組みが分かりやすい! ダイエットとは心と脳を満たすこと。本質的なことを教えてくれるダイエット本です。
2018年11月17日今、この瞬間、目の前にあるものに五感を使って向き合う“マインドフルネス”。強いストレスや心身の疲れを解き放ち、心と体を整えてくれます。マインドフルネスで得られる効果を紹介します。しなやかで強い心を持った、美しい女性を目指しませんか?マインドフルネスとは出典:byBirth近年、メディアで“マインドフルネス”が取り上げられることが増えました。実際、ヘルスケアに関する雑誌やWebメディアで紹介される機会が多くなったと筆者自身感じています。注目度上昇中のマインドフルネスについて学んでいきましょう。日本マインドフルネス学会の定義日本マインドフルネス学会では、マインドフルネスを「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義してます。簡単に言うと、その瞬間にひたすら集中して、その瞬間を感じ取ること。“今”を五感をフルに使って感じることです。例えば、お気に入りのお店のケーキを買ってきたとします。友人とおしゃべりをしたり、スマホを操作したりしながら食べることが多いのではないでしょうか?こんな風に「なんとなく食べる」のが、私たちにとっては日常ですよね。1つのことではなく、あれもこれもとアクションが増えてしまいます。マインドフルネスでは、ケーキを食べるときに見た目を楽しむ・甘い香りを楽しむ・一口ずつしっかり味わう・スポンジの風味やふわふわの食感を感じる・クリームのまろやかさやなめらかな舌触りを楽しむといった具合に、今の行動に対して、全身全霊を傾けます。マインドフルネスは多くの分野で取り入れられているマインドフルネスは、ビジネスパフォーマンスのアップやメンタルケアのほか、スポーツや教育など様々な分野で取り入れられています。アメリカではグーグルなどの大企業でマインドフルネスが活用されているそうです。マインドフルネスは心理療法としても注目されています。ストレスによる自律神経の乱れやうつ病の心理療法として活用されています。マインドフルネスで得られる効果出典:byBirthマインドフルネスで物事を捉えるようになると、情報や誰かの意見に流されることはなく、目の前の物事や自分の感情を客観的に受け止められるようになります。五感が研ぎ澄まされて、心はリラックスした状態になるので、さまざまな効果が期待できます。近年の研究では、マインドフルネスには脳の疲労回復・ストレスを減らす・自律神経を整えるなどの効果があると実証されているようです。マインドフルネスの効果を知り、実生活に役立てたいものですね。ストレス解消出典:byBirth仕事の休憩時間のコーヒー、お風呂に入っているとき、眠る前のストレッチなど、リラックスタイムでストレスを解消しているという人も多いことでしょう。ですが、実際はそのリラックスタイムにどれくらい集中していますか?仕事の休憩時間なら、次の業務フローを考えることもあるでしょう。お風呂に入っているときは今日一日を振りかえり、失敗をくよくよすることも。寝る前のストレッチをしながらテレビを見たり、スマホをいじっているなんて場合もあるはずです。マインドフルネスは、“今、この瞬間”にひたすら集中します。雑念によって思考がバラバラになる状態ではなく、集中型のリラックス状態に入るので、心身のストレスをより効果的に解消できます。集中力アップ出典:byBirthマインドフルネス瞑想などで、“今”に深く集中する時間をつくることは集中力をUPさせるトレーニングになります。瞑想を毎日続ければ、1つの物事に集中する思考が身に付きます。また、雑念を取り払って一つの物事に集中するので、思考の整理にも役立ちます。思考がクリアになって、仕事や勉強などのパフォーマンスも向上しますよ。感性が豊かになる出典:byBirth“今”を見て、聞いて、触れて、嗅いで、味わってと五感をフル活用するマインドフルネスを身に着けると、物事に対する感覚が鋭くなります。今まで以上に心を揺さぶられる出来事に出会えるはずです。また、他者とのかかわりにおいても、相手の気持ちにしっかりと寄り添えるようになるでしょう。マインドフル瞑想をしてみよう出典:byBirthマインドフルネスの効果を感じるのに取り組みやすいのが、マインドフル瞑想。心を落ち着かせて瞑想の状態に集中します。雑念がわいても、それを取り払って再度集中を繰り返します。難しく考えずに、リラックスして、楽しみながら行いましょう。姿勢を整えて座る深呼吸を数回行って、呼吸を整える目を閉じるゆっくりと鼻呼吸意識は呼吸に集中させ、呼吸によるお腹の動きを感じる数分から20分程度行う終わったら、ゆっくりと目を開く心の美しい女性を目指そう出典:byBirthマインドフルネスは、決して難しいものではありません。マインドフル瞑想は難しそうと感じるなら、最初は「見る」ことからはじめてみるのがおすすめ。日々の空の美しさ、道端の花、大切な人の表情など普段何気なく見ている物事1つ1つに集中してみましょう。内面の美しさは、外見にもにじみ出るもの。マインドフルネスを続けることで、しなやかで美しい心を育てましょう。
2018年09月08日