NHK「あさイチ」シリーズ発達障害“ほかの子と違う?”子育ての悩みNHKが1年を通してさまざまな番組で、発達障害の多様な姿を伝えていく「発達障害プロジェクト」7/24(月)にも「あさイチ」で特集が放送されました。今回のテーマは、「“ほかの子と違う?”子育ての悩み」朝の番組で、発達障害のある子どもの子育てを取り扱ったことから、特に保護者の方々の視聴・感想が多かった様子です。発達ナビ編集部でもTwitterで番組の内容を実況し、視聴していた方々の感想もまとめました。以下の、Twitter「モーメント」機能によるまとめをご覧ください。「あさイチ」シリーズ発達障害“ほかの子と違う?”子育ての悩みワガママと発達障害の境界線は…?番組で投げかけられた問いと、視聴者の声今回の番組では、発達障害のある小学生の子どもが二人いるご家庭が取材されました。小学6年生の女の子が、学校から帰って来た場面。直前までお友達とおしゃべりしていた内容が心に残って、なかなか気持ちや行動の切り替えをすることができない、結果、宿題を始めるまでに50分もかかったという様子が映されます。お子さんの発達に違和感を感じたのは3歳児の頃。癇癪が激しく周囲に相談したが、その時は周囲から「大丈夫だよ」と言われるだけで、お母さんはギャップに苦しんだそうです。その後4歳児になったとき病院を受診、発達障害と診断されました。お子さんが「宿題をなかなかやろうとしない」「学校に行きたがらない」といった状況や悩み自体は、子育てしているご家庭なら大抵、一度は直面することかもしれません。ですが、発達障害のあるお子さんの場合、気持ちや行動の切り替えの難しさ、困りごとが起こる頻度や程度には大きな差があり、なかなか簡単には困りごとは解消されません。番組で映されるお子さんとお母さんのやり取りから、診断されてから今に至るまでの日々、積み重ねて来た工夫や理解、お子さんの成長の足跡も感じられます。それでもやはり、思うようにいかなくて、パニックや癇癪を起こしてしまうこともある。同じく発達障害のあるお子さんを育てる保護者の方や、ご自身も幼少期に似たような状態になっていたと語る、成人の発達障害当事者の方など、視聴者の方々から共感の声が寄せられていました。一方、スタジオゲストの方からは、「これが単なるワガママなのか、発達障害によるものなのか、わからない」という意見も出てきました。ワガママと障害はどう違うのか。そんな疑問に対して、Twitter上でも視聴者のさまざまな声が寄せられます。番組中でも、一見して誰にでも起こるような困りごとでも、発達障害の場合は、生活に支障がでるぐらい、程度や頻度が大きいという説明がなされていました。ですが、程度や頻度は違えど、起こっている症状や困りごと自体は、どんな子どもにも見られうるものであるゆえに、周囲の人からすると一見してその違いはわかりにくいのでしょう。どこまでがワガママで、どこからが障害なのか…発達障害が身近でない人からそのような疑問が呈されること自体は、無理もないことかもしれません。また、性質や程度の違うさまざまな凸凹のある人々が、連続体(スペクトラム)のように存在していると言われる発達障害それ自体の特性からも、明確な線引きをすることは非常に難しいと言えます。目に見えにくい、わかりにくい障害としての発達障害の性質を示すようなエピソードだったように思います。こうしたジレンマに対して、具体的にはどのように対処すれば良いのか。番組のゲストコメンテーターとして出演された、鳥取大学大学院の井上雅彦教授のコメントがヒントとなります。わがままと障害の線引きはどこかと線引きすることは、厳密には難しい。それよりも大切なのは、周りがどういう風に対応して工夫すれば本人が頑張れるようになるのか、という観点だと井上先生は語ります。線引きをすること自体を目的としても、議論にキリをつけることは難しいですが、その子が何に困っていて、周囲の人たちには何ができるのかと、個別具体的な対応・行動をベースに考えることができれば、発達障害かどうかに関わらず、どんな子どもにとっても有効な困りごと解決のアプローチが見つけられるはずです。番組の後半には、下のような声も寄せられました。どんな状況であれ、お子さんも、親御さんも、それぞれのありのままを受け止めて認めて合うことを願う声です。あさイチ出演、古山さんより保護者の方々へのメッセージ最後に、今回の番組のVTRに出演された古山さんからのメッセージをご紹介します。番組終了後、発達ナビ編集部宛にご連絡をいただき、いま、子育てに頑張っている保護者の方々へ伝えたい思いを語ってくださいました。Upload By 発達ナビ編集部「7月24日のあさイチで取り上げて受けていただいた、古山です観ていただいた皆様、本当に本当にありがとうございます井上先生はじめ、スタジオの皆様が沢山協力して下さり、短い時間でしたが、濃い内容になっていたと思います放送後も沢山の反響をいただき驚いています発達障害の子育てをしているママの沢山の方が涙を流しながら共感してくださったメッセージをいただき、勇気を出して良かったと思っています我が子の姿をさらけ出すことに抵抗がなかったわけではありませんその中で取材を受けた理由は、育児に悩んでいるママに伝えたい想いがあったからです毎日毎日、育児に行き詰まり悩んでいるかもしれません発達障害の子育ては育児上級者コースを受講しちゃったと私は捉えていますだから、もう、毎日100点は目指さないでください今日が20点だった日も落ち込んだり自分を責めたりしないで20点だったなら次の日60点以上を目指せばいい一週間で平均60点取れたら、花マルだから、40点が続いたらお休みの日に80点目指せばいいんですそれだって、1人で頑張らないで家族総出でかき集めたっていいんですあ、失敗した、言いすぎたって時は、素直に謝っちゃえばいいんですママが悪かったです、言い直すからさっきの言葉、消しゴムで消して欲しいっていま、悩んでいるママたち毎日、育児に奮闘していると一人で闘っている気持ちになるかもしれません誰にもカミングアウト出来ず誰にも共感してもらえず苦しくて寂しくて辛い毎日を過ごしているかもしれません私もそんな風な光の見えないトンネルの中にいた経験がありますでも少し勇気を出して周りを見てみてくださいあなたには必ず味方がいるはずですあなたは毎日毎日、子供に向き合い悩みながら色々なことを選択していることでしょうもしかしたら世間一般的には間違いかもしれない選択をしていることもあるかもしれません私自身が、子供達に学校以外の場所に行かせることを決めたように…でもあなたが真剣に子供達の幸せを想いながら出した選択ならたとえ、間違いかもしれない選択だとしてもあなたの決めたことなら応援してくれる人がいるはずです私にとっての実母のように味方がいればたとえ一緒に生活していなくても頑張れるチカラになります勇気を出してみてくださいまたもしも味方がみつからなくても覚えていてくださいあなたが真剣に子供達と向き合い孤独と闘いながら子育てしているとき同じ空の下で私も同じように過ごしていますあなたが今日も上手く対応してやれなかったと子供達の寝顔を見ながら涙しているとき同じ空の下で私も同じように涙していますあなたが真剣に子供達の幸せを想いながら頑張っているなら私はあなたの味方ですあなたは一人ではありませんつらいときくるしいとき良かったら私を思い出してくださいあなたとお子様達の幸せを心から願っています」
2017年08月07日先日、NHK 「あさイチ」 で「発達障害の子育て」についての特集が放送された。番組に出演した古山さん一家は、小6の長女と小3の長男が共に発達障害と診断されている。元気にあいさつしてリポーターを出迎える2人の姿は、障害があるとは思えないほどだが、3日間生活に密着しているうちに、「あれ?」と思うことが見えてくる。古山家のお母さんは、子どもとのコミュニケーションに、言葉ではなく筆談でそっと気持ちを伝えたり、タイマーを使って時間をわかりやすく提示するなど、随所に工夫を凝らしていた。また、お母さんは「長女の子育てに悩んだ末、4歳の時に1人で決めて1人で病院に行った」「旦那は診断を受け入れられず、障害者のレッテルを張ったのは私なのか? と悩んだ」とのこと。それから6年、今も整理できない気持ちを抱えながら、夫婦で手探りの子育てが続いているという。じつは筆者にも、8歳になる娘(定型発達)と4歳の息子(自閉症スペクトラム)がいる。決して感情的にならず、子どもの気持ちを受け止めて待つという古山家のお母さんの姿は、とても学ぶところが多かった。■子どもが発達障害と診断。その時、夫は……?しかし、今回の番組を見ていて私が一番気になったのは、子どもでもお母さんでもない。それは、お父さんの存在だ。当事者として出てくるのはほとんどがお母さんで、お母さんの話を通してからも、お父さんの存在があまり見えてこなかったのが気にかかった。個人的には「夫婦や家庭内の葛藤をもっと掘り下げて聞きたい!」と感じた。今回は放送時間の都合上、残念ながら「お父さんの存在」にはあまりフォーカスされていなかったようだ。次回以降のNHK「あさイチ」特集を含む、 NHK「発達障害」プロジェクト で、このテーマが深堀りされることを期待したい。「お父さんの存在」という問題。じつはこれ、療育ママの間では、よく聞く話である。「夫が子どもの障害を認めてくれない」「旦那が『就学先は絶対普通級』と言っている」「旦那が、幼稚園での発表会の様子を見てショックを受けちゃった…」などなど。他に、義理両親や自分の両親から理解してもらえないという話も時々聞く。「義理母に、あなたがちゃんと躾ければなおると言われた」「母親に、『あなたは甘やかしすぎ。このままじゃわがままな子になる』と注意された」などなど。こういう発言にはイラッとくるけれど、百歩譲って、祖父母世代に発達障害の理解は難しいのかもしれない。自分たちが子育てしていた頃には、きっと聞いたことのない話だろう。でも、同居していたらちょっとキツイ問題だけど、別々に住んでいるならうまくわかすこともできるし、子育てにそれほど強い影響もないはずだ。だが、夫の場合はそうはいかない。夫がきちんと向き合ってくれなければ、お母さんのストレスは2倍、いや数倍にも膨れ上がる。日々の小さなことまでフォローする必要はないと思うが、「ここぞ!」という時には、真剣に向き合ってほしい。意見が衝突することもあるかもしれないが、いざという時に一緒に本気で問題に取り組んでくれる同士(夫)がいると感じられれば、それは、お母さんにとって何よりも大きな心の支えになるはずだ。 ■他の子と比べすぎるお母さんと、比べすぎないお父さんまた、一般的に、子育てはお母さんが主役になることが多いので、同世代の友達と関わることも増えるが、お父さんは集団でのわが子の姿を見る機会がほとんどない。なので、年相応の発達状態を把握しにくく、「男の子なんてこんなもんじゃない?」とか「俺も子どもの頃そうだったよ」などと問題を見逃しがちな面がある。でも、これって悪い面もある反面、意外と良い面もあると思うのだ。わが家の場合は、私が他の子と比べてばかりいて、「普通」であることに縛られ、ふさぎ込んでしまっていた時期があった。だが、夫は、他の子と比べることは一切しなかった。「他の子と同じである必要はまったくない」、「比べることには何の意味もない。もし比べるなら、『他の子と』じゃなく『過去の息子と』」「『普通』の定義って何?」と、落ち込んでいる私を容赦なく詰めて(励まして?)くれたものだ。そんな夫に、「あなたは他の子のことを全然知らないからそんなに呑気なの!」と噛みついたこともあった。だが、文句を言いつつも、わが子のことだけをしっかり考えるという夫のブレない姿勢は、どこかで、とても心強い支えになっていたのだ。また、夫と私では子どもについての見方も全然違ったので、多面的に話し合えることもありがたいことだった。お父さんというポジションは、お母さんより、子育てを冷静かつ客観的に見られる位置にいると思う。お父さんには、ぜひそういう強みも活かしてほしいのだ。■「わがまま」と障害の線引きは?最後に、番組を見ていて、もう一つ気になったことがある。「わがまま」と障害の線引きは? ということだ。番組に出演した古山家のお父さんも、「どこまでが発達障害の特性なのか個性なのか切り分けが難しい」と葛藤していたし、スタジオの出演者たちもそのことについては判断つかないようだった。このことは、私も、よく健常児のママから聞かれるのだが、私も答えがわからずに困っている。専門家の井上雅彦さんも、「(線引きは)厳密には難しい」と言っていたので、かなり悩ましいテーマなのだろう。ただ、重要なのは、障害との線引きにこだわることではなく、「どう工夫すれば(生きにくさを感じている)子どもたちの努力が報われるか?周りがどう対応するか?ということの方に目を向けるべき」(井上雅彦さんコメント)とのこと。そう、私たちの目的は、子どもをカテゴリ分けしたり、レッテルを張ることではない。困っている子どもたちが、いかに生きやすくなるかを考えぬくことなのだ。まちとこ出版社N【発達障害についての記事一覧】▼大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界(全4回)▼「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら(全9回)
2017年08月01日7月24日(月)、NHK 「あさイチ」 では、子どもの発達障害についての特集が放送される。「あさイチ」からの事前情報によると、「これまで番組に寄せられたメールやファックスの中でも特に多かった、発達障害の子どもを持つ親の悩みに徹底的に向き合う」とのこと。じつは筆者にも、8歳になる娘(定型発達)と4歳の息子(自閉症スペクトラム)がいる。5月の NHKスペシャルの放送 から、ぜひ次回は、発達障害の子どもや子育て中の親にフォーカスした企画を! と思っていたので放送が楽しみだ。■当事者が語る、発達障害の子育てのリアル今回の放送では、3人(うち2人が発達障害)の子育て真っ最中の家庭を訪問し、発達障害の子育ての大変さや、それに対してどう向き合い、対応しているのかを伺っていくのだそう。子どもが診断された時の気持ちや、夫や祖父母、周囲の反応、子どもの将来への不安など、様々な角度から、当事者たちに発達障害の子育てをリアルに語ってもらうそうだ。さらに、番組では、ペアレントメンターなどの親を支援する仕組みなど、当事者の親に役立つ情報も紹介する予定だという。■娘とは桁違いの大変さだった、息子の子育て筆者のケースをお話しよう。定型発達児(娘)と発達障害児(息子)の両者を育ててみて思ったが、その子育ての大変さは、まさに桁違いだった。もちろん娘だって、成長の過程では、当然大変なこともあった。イライラして頭が沸騰しそうになったことだって、多々ある。でも、娘の怒りや泣きのツボはだいたい理解できたし、コミュニケーションもしっかり通じたので、私の理解の範囲内で対処することができた。ところが、息子の場合はまったく違った。指示が通らない。言葉の説明を理解してくれない。急に走り出したと思ったら、今度はテコでも動かないなど、動きが読めない。保育園ではイベント事が大の苦手で、隙あらば逃走。歯磨きやお医者さんの診察では毎回大暴れ…。何より困ったのは、コミュニケーションが通じないこと。変な言い方だが、言語も思考も違う異星人を相手にしているようで、本当にお手上げ状態であった(4歳過ぎた今では、ずいぶんマシになってくれたが)。■3歳で確定。「だから大変って言ったじゃん!」周囲に相談しても、「男の子なんてそんなもの」「上が女の子で楽だったんだよ~」などと言われ、なかなか理解してもらえなかった。だから、3歳で息子が自閉症スペクトラムと診断された時は、もちろんショックではあったが、同時に、「だから大変って言ったじゃん!」と、周囲にちょっと毒づきたいような気持ちも生まれた。今思うと、周囲は私が思い詰めないように、気を使ってくれていただけだろうに…。不健康な考え方に陥っていた当時は、ひねくれたとらえ方しかできなかった。 ■周囲にガードを張っていのは、私の方?息子は1歳半検診から疑いをかけられていたので、宙ぶらりんの期間が長かった分、私にとって診断は、腹をくくる良いきっかけになった。その頃には、この障害についてしっかり勉強して、一生向き合っていこう! という覚悟もできた。また、さまざまな専門書を読んで勉強するうちに、息子の特徴や対処法が少しずつわかるようになり、突飛な行動にも笑えるような余裕も出てきた。周囲にも、息子のことを説明しやすくなった。仲の良い園ママにはすでに話していたが、診断がおりるまでは、息子のことをクラス全体にどう説明したらいいのかわからなかった。保護者会で息子のことを説明した時はちょっと緊張したが、幸い、クラスのママたちからの理解も得られ、温かい言葉もかけてもらった。私の方も、長年抱えた秘密(?)をやっと言えたような気がしてとてもスッキリした。それまでは、保育園のイベントで息子が突飛な行動をするたびに、「他のお母さんにどう思われてるんだろう…」とビクビクしたり。お迎え時、他の子がお母さんと楽しそうにおしゃべりする姿を見るのが辛くて、園から逃げるように帰ったり。そんな日々の連続だった。だが、今にして思うと、周囲に対して変にガードを張っていたのは私の方で、私は、勝手に傷ついていただけだったのかもしれない。■自分の物差しだけに縛られない。意識して視野を広げることこうして振り返ってみると、一番辛かったのは、息子のことを周囲に話せず、ひとりで抱え込んでいた時期だった。そんな状況を変えてくれたのは、オープンにしたことと、やはり人との関わりであった。家族や両祖父母、療育の先生、取材で会った方々、そして、同じ悩みを持つお母さん仲間と繋がれたことはとても大きかった。発達障害の子育ては、子どもに手がかかる分、心も生活も余裕をなくし、周囲が見えにくくなってしまう。自分の偏った考えだけに浸食されて、それがすべてのように感じてしまいがちだ。でも、自分の物差しだけがすべて、なんてことは決してない。物事は、捉えようによって、どうにでも変わるし、世の中には変わった人(?)がいっぱいいて、いろんな考え方がある。発達障害の子育て中は、特に、自分とは違った考えを持つ人に会ったり、新しい考え方を学んだり、自分の視野を広げるという気持ちを、常に意識してもち続けた方が良いと思うのだ。今回の特集に関して、担当ディレクターからは「外からは『見えにくい障害』と言われる発達障害の子育ての苦労や、当事者のリアルな姿や声を伝えることで、少しでも誤解を解いていきたい」という、力強いメッセージをいただいた。また何か新しい発見があるかもしれないと、私も放送を心待ちにしている。・NHK「あさイチ」 シリーズ発達障害 「“ほかの子と違う?”子育ての悩み」 2017年7月24日(月)放送予定 ※内容は変更になる場合があります文:まちとこ出版社N【発達障害についての連載一覧】大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界(全4回)「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら(全9回)
2017年07月21日「正しい発達障害理解」を追求しつづける当事者たちの戦いUpload By 宇樹義子ここ数年、世間での発達障害についての認知は高まりつづけているように感じる。今年に入るとついにNHKが1年がかりの発達障害特集を開始し、当事者界隈はたいそうざわついた。NHKは「とにかく当事者の声を届けたい」という熱意を前面に出していたので、私も本気になった。特に第1弾のNHKスペシャル生放送時には、ブログで事前の情報記事を用意し、当日はTwitterで実況。後日、感想をやはりブログでまとめた。そもそもテレビが苦手な私が、仕事そっちのけでかじりつくようにテレビを見つめ、仲間といっしょに、放送される内容の正誤やニュアンスについてTwitterで意見する。「えっ? 正しくは『自閉症スペクトラム』だよねえ?」「これは誤解を招くからやめてほしいなあ…」「取り上げられた人たちばかりが当事者なわけではない。もっとこういうケースにもフォーカスを!」タイムライン上をいつ終わるともしれず流れ続ける、「もっと完璧な、正しい発達障害理解を!」という叫び。よく考えたらあたりまえだけど、発達障害者についてであろうがなかろうが、私が100%満足できる番組なんて世の中に存在するわけないんだし、仲間たちにとってもそれはそうだったと思う。私自身も皆も、どこか「どこでやめたらいいのか」「こうする代わりにどうしたらいいのか」をつかめずに困っているようにも思えた。「敵」と戦った日々と、「敵」と手をつなぐまでの日々Upload By 宇樹義子そこからの私は、いま振り返ってもずいぶん必死だったと思う。テレビやネットの発達障害特集の内容に誤りがあれば指摘し、親や当事者の不安につけ込むニセ医学を批判し、成人発達障害当事者の生きづらさを理解してくれない社会にブログで警鐘を鳴らし…そうやって毎日、戦っていた。「自分と同じような思いをする人たちを一人でも減らしたい」。先に述べた思いの通り、これまで発信してきたこと自体は後悔していない。だけど、そうして戦いつづけている間、いつもどこか虚しさのようなものを感じていた。…いまここで告白すると、この記事を書かせてもらっているLITALICO(りたりこ)も大嫌いだった。過去に、LITALICOが運営する就労移行支援「LITALICOワークス」を利用したことがある。結論としては、当時の私が納得できる支援は受けられず、私の心には大きな傷が残った。ここ「LITALICO発達ナビ」でも、サイト立ち上げ当初にライターに立候補したものの断られたことがある。保護者向けのコンテンツが多く、私たち成人発達障害当事者が無視されているような気がして、悔しかった。それで私はますます、LITALICOに負けるものかと、たったひとりでの「戦い」に必死になった。「絶対に発達ナビよりもいいコンテンツを作ってやる。彼らが見捨てた成人当事者の益となるコンテンツを」… そんな気持ちを原動力に猛然と仕事した。だけどそのうち、そんなやりかたも限界だと思った。きっかけは、NHKの発達障害特集だ。Upload By 宇樹義子私が必死にNHKの番組を実況しているとき、当然発達ナビも大きなリソースを注いで実況していた。今や発達ナビは、世間の発達障害者へのイメージを左右するような影響力と、それを実現できる経済的人的資源を持ったメディアに成長していた。発信するコンテンツも、大人の発達障害者をもカバーするようになってきており、質も日々上がってきている。私がずっと望んできた、発達障害者が一般の人たちに広く理解される大きなチャンス。私がこの期に及んで発達ナビに対してそっぽを向き続けるなんて、バカバカしいし不自然じゃないか。もうこんなことはやめよう…ある夜突然、発達ナビの編集長の鈴木さんに連絡をとった。そしていま、こうしてここで書いている。たったひとりで「発達障害者代表」の看板を背負う必要なんてない以上は、「いち成人発達障害当事者としての宇樹義子」のごくごく個人的な物語だ。けれど、私と同じように、自分が「マイノリティ」であることへの意識が大きくなりすぎて、かえって自分を追い詰めたり、苦しめたりしている発達障害当事者は少なくないんじゃないかと思う。だからこそ伝えたい。仮にあなたが発達障害当事者であったとしても、たったひとりで当事者全体を「代表」して戦う必要なんてないんだ、と。社会の発達障害への関心が高まったことはいいことなんだと思う。誰もが生きやすい社会のために当事者として声を上げること、誤った情報に対して批判を加えていくことにも、ある程度の範囲内であれば大きな意味がある。けれど、最近までの私がそうだったように、自分自身がその狂乱に飲み込まれ、もしかすると手をつなぐことができるかもしれなかった人たちを「敵」として、24時間戦闘状態に陥ってしまっては本末転倒だ。Upload By 宇樹義子誰かが何かの属性の看板を背負い、「お前はここが違うから仲間じゃない」「お前にわかってもらえるはずがない」などと声を枯らして叫びつづけることは、皮肉にもコミュニティをバラバラにしていってしまうことがある。なぜって私たちは、何かの属性を持つ者たちである前に、バラバラな違った個人の集まりだから。戦闘的になって違った属性を指摘しつづけていったら、最後には誰も残らなくなってしまう。たまねぎの「皮」を剥き続けたら最後には消えてしまうのと同じだ。言葉づかいの丁寧さの問題じゃない。発信に向かうときの心の態度の問題だ。私はこの点で、長いこと間違ったことをしていた、と思う。言葉は丁寧なものの、私は間違いなく「看板を背負って戦っていた」からだ。私がこよなく尊敬する精神科医・臨床心理士であり、日本におけるPTSD治療の第一人者である白川美也子先生の本がある。この本ではまず、トラウマを抱えた人は「3つのF」と呼ばれる症状を示すようになると説明される。・Fight(戦う)・Flight(逃げる)・Freeze(固まる)Fight(戦う)の項ではこんな説明がされている。私は上のくだりを読んだとき、ああ、これは私と仲間たちにそっくりだと思い、ひとしきり涙が止められなかった。そして、そのあとに出てくるこんなメッセージに、とても楽になった。やがて自分の苦しさをそっちのけにして、同じような被害に遭う人をなくすため、果敢に立ち上がり、戦い始めます。その戦いによって自分の身近にいる人を暴力や虐待から守ることができたとしても、世界にはたくさんの傷ついた女性や子どもたちがいて苦しんでいることに気づきます。戦いには終わりがありません。大切なことは、被害者にも加害者にも、そしてそれを傍観する人にもならない、三角形の3つの角の真ん中にしっかりと立つことなんだよ回復の過程において、あなたが誰かに過去のトラウマ体験を語ることだけが、誰かを救うメッセージになるのではありません。それを生き延びたあなたの身体の動きや声や、あなたの創る詩や奏でる音楽や描く絵が、人に何かを伝えます。あなたが生きているだけで本当に十分なのです。私たち発達障害者は、生きてきた中でたぶん、人よりも少し多くの傷を抱えてきた。だから、つい戦いに身を投じてしまうこともある。もちろん、それは本当に切実な情熱と願いのこもった行動だ。だけど、もしそれがつらいとか、虚しいとか、疲れたとか思う瞬間があるのなら… ときどき、ゴールがあまりに遠く感じられたり、ますますゴールから遠ざかっていくような気がするのなら…私は、あなたは、重たい戦士の鎧を脱いでもいいはずだ。Upload By 宇樹義子そして、どこかに傷を抱え、それをなんとか乗りこなしている「ひとりの人間」として、もっと自由に、軽やかに生きたとき、きっといつか、私やあなたが、そして仲間たちが願った「ゴール」が近づいてくるんだと思う。
2017年07月10日神経発達症とは?出典 : 神経発達症(neurodevelopmental disorder)は、情動・学習能力・自己コントロール・記憶といった様々な知的活動に影響する、脳機能の障害です。この言葉は、米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に採用されたことで、広く知られるようになりました。『DSM-5』の日本語版では、正式には「神経発達症群/神経発達障害群(neurodevelopmental disorders)」という形で使われています。「神経発達症」と「神経発達障害」が併記されている歴史的経緯については、「DSM-5」の記事をご覧ください。以下、この記事では「神経発達症」で統一します。神経発達症には、いくつかの障害が含まれます。『DSM-5』では、以下のような障害がまとめて神経発達症と呼ばれています。・知的能力障害群(知的障害)・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(吃音など)・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害・限局性学習症/限局性学習障害(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」)・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)・他の神経発達症群/他の神経発達障害群どうして、これらの障害がすべて「神経発達症」という一つの障害にまとめられるのでしょうか。それは、これらの障害は別々のものではなく、神経の発達阻害という共通の原因を持つ連続的な障害なのだという考え方に基づいています。「神経発達症」という言葉は、そうした連続的な障害の全体を指すための言葉です。近年、この考え方が広まりつつあります。神経発達症と発達障害は、どう違うの?出典 : これまで、自閉症スペクトラム障害・学習障害・ADHDをはじめとするいくつかの障害の総称として「発達障害」という言葉が使われてきました。発達障害という言葉も、神経発達症と同じように、いくつかの障害を統一的に理解するための言葉です。それでは、神経発達症はこれまでの発達障害と何が違うのでしょうか。結論から言えば、「神経発達症」は「発達障害」よりも広い範囲を指す言葉だと言ってよいでしょう。日本での「発達障害」の定義として、「発達障害者支援法」の中で使われている定義がよく知られています。それによると、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」です。発達障害者支援法(2004年)|文部科学省「政令で定めるもの」とは、ここでリストアップされたもの以外の「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害」です。発達障害者支援法施行規則(2007年) |厚生労働省「発達障害」という言葉の範囲は、それほどはっきりと決まっているわけではありません。実際には、リストアップされなかった障害も、必要に応じて「発達障害」に含められてきました。こうした多くの障害を、発生原因に注目してグループ化しなおすために持ち出されたのが「神経発達症」という言葉です。神経発達症の原因は?出典 : 障害と神経発達を関連付ける見方そのものは、『DSM-5』(2013年)で初めて現れたわけではありません。精神医学の中では、一部の障害が中枢神経系の発達阻害に関連しているという仮説が以前から持たれており、研究が進められてきました。近年とりわけ注目されているのは、神経発達症と染色体との関連です。たとえば、“Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children”(編集部訳題『児童期の神経発達症・遺伝子疾患ハンドブック』)(初版1999年)では、個々の障害(自閉症やターナー症候群など、約20件)について、それぞれ神経の発達阻害をもたらす遺伝学的性質に関する研究がまとめられています。 Goldstein and Cecil R. Reynolds, eds., Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children (New York: Guilford, 1999).こうした研究に関連して、昨年、大阪大学が発表したプレスリリースが話題になりました。この研究では、ある染色体の重複が多動に関連するということを、マウスを用いた実験で示すことに成功しました。もちろんこの研究は、神経発達症全体の原因を完全に明らかにするものではありません。しかし、原因の一部を明らかにする研究を積み重ねることによって、原因全体の解明に一歩ずつ近づいているということは確かです。 Fujitani, S. Zhang, R. Fujiki, Y. Fujihara, and T. Yamashita, ’A chromosome 16p13.11 microduplication causes hyperactivity through dysregulation of miR-484/protocadherin-19 signaling’, Molecular Psychiatry 22 (2017): 364–74.神経発達障害群の染色体重複による発症の機序を解明|RESOU Research at Osaka Universityところで、障害の原因を遺伝学的なものに求める立場は、歴史的にずっと中心的だったわけではありません。過去には、「子どもの発達障害は、親の育て方が悪いせいだ」という立場が主流だった時期もありました。自閉症研究のパイオニアであるレオ・カナーも、はじめは自閉症の原因が母親の育て方にあると考えていました。すなわち、母親が子どもに愛情を十分に注げなかったとき、子どもの情緒的発達に悪影響が出て自閉症になる、という見方でした。この考え方は「冷蔵庫マザー」と言う象徴的な言葉とともに広まりました。 Kanner, ‘Autistic Disturbances of Affective Contact’, Nervous Child 2 (1943): 217–50.「冷蔵庫マザー」論は、およそ1970年代までは一世を風靡していました。このことにより、自閉症の親たちは長く批判され責められてきました。しかし、その後はこの見方は多くの専門家によって否定され、またカナー自身もこの見方を自ら放棄しました。そして、自閉症をはじめとする障害の原因は、親子の情緒的関係にあるのではなく、子どもの神経発達のありかた(さらには、その発達を方向づける遺伝学的性質)にあるのではないかという考えが広まり、現在の研究につながっています。DSM-5でも、おおむねこの考え方が採用されています。実際の診断・臨床の場面における神経発達症出典 : 実際の診断では、「自閉症スペクトラム障害」や「限局性学習障害」といった言葉が使われていて、「神経発達症」よりも細かい診断がなされます。これは、「神経発達症」という言葉でいくつかの障害をまとめるという考え方がまだ新しく、今まで使われてきた言葉が浸透しているためであると思われます。しかし、2013年に『DSM-5』が発表されてから数年が経ち、「神経発達症」という言葉も徐々に広まりつつあります。これから先は、診断の中で「神経発達症」が使われていくかもしれません。古荘純一、磯崎祐介『神経発達症(発達障害)と思春期・青年期――「受容と共感」から「傾聴と共有」へ』明石書店、2014年。もともと、『DSM-5』は精神科医の診断マニュアルとして使われています。また、精神科医が実際に使うことを通して問題点を発見し、改訂することによって、精神医学の発展が目指されています。「神経発達症」のような言葉を使って障害をグループ分けすることには、精神医学を単なる精神科医の「カン」ではない体系的なものにする上で大きな意味があります。いくつかの障害に共通点があることがわかれば、それに対するアプローチを考えるにあたって大きなヒントになります。たとえば、自閉症スペクトラム障害は本人のやる気の問題なのか、それとも親の育て方の問題なのか、はたまた染色体の状態に関係しているのか――これがわかれば、障害のある子どもに対して周囲が何をできるのか、あるいは何をできないのかを知ることができます。神経発達症は治るの?出典 : 神経発達症には、根本的な治療法はありません。近年の研究によって、神経の発達阻害を引き起こす因子がいくつか特定されつつあります。しかし、これは神経発達症の原因の一部がわかるにすぎません。また、研究のレベルでわかったことが臨床の現場に応用されるまでには、さらに多くの研究が必要になります。「治す」ことは難しいですが、症状や困難を軽くすることはできます。その具体例として、ここでは3つの例を挙げます。1.環境調整本人の能力や特性に合わせて、接し方・環境・ルール・課題を変えることができれば、障害のある子どもが感じる困難は軽くなります。これまでも行われてきた「合理的配慮」は、神経発達症のある子どもにももちろん有効でしょう。「神経発達症」には様々な障害が含まれていますので、合理的配慮を考える上では、一人ひとりの特性に合わせるということが一層重要になります。2.療育とトレーニング本人の特性に合わせてトレーニングを行い、子どもが認知や行動についての能力を習得できれば、社会生活において感じる困難が軽減されます。この療育についても、今まで行なわれてきたものが同じく有効でしょう。3.薬物療法神経発達症に関連するいくつかの症状は、投薬によって症状を抑えることができます。重要なことは、投薬によって神経発達症そのものを治療できるわけではなく、症状を緩和することと、症状によって生じる不利益を避けることを狙っているということです。投薬による症状緩和についても、これまでと同じように、主治医の先生によく相談することをおすすめします。ここまで見てわかるように、神経発達症に対する向き合い方は、基本的にこれまでの発達障害と大きく変わりません。変わったのは、精神科医が使う診断マニュアル(DSM-5)で使われる名称にすぎません。神経発達症という名前がつくことそれ自体で、障害のある子どもたちの症状が変わったり、困りごとが軽くなったり重くなったりするわけではありません。このことは、神経発達症について考える上で、非常に重要な点です。おわりに出典 : 「神経発達症」という耳慣れない言葉に戸惑っている方は、少なくないでしょう。たとえば、お子さんに自閉症スペクトラム障害があって、そのお子さんの障害を説明するとき、「自閉症スペクトラム障害」「発達障害」「神経発達症」をどのように使い分ければ良いのでしょうか?重要なことは、障害の名前が変わっても、子どもたちの症状や困りごとまで変わるわけではないということです。とりわけ、発達障害は一人ひとり症状が少しずつ違うということが、これまで知られてきました。神経発達症という言葉が登場しても、そのことは同じです。一人ひとりの特性と能力に合わせたサポートが求められます。精神医学はまさに発展の途上にあり、今後も多くの言葉が新たに広まることが予想されます。その新しい専門用語は、実際のサポートにあまり関係ない場合もあれば、サポートのあり方を大きく変える場合もあるでしょう。簡単ではありませんが、こうした見極めが大切です。
2017年05月30日先週末(2017年5月21日)、NHKスペシャルで発達障害の特集が放送された。( NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~」 )番組内では、最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、発達障害の人にはどんな風に世界が見えているのかを映像化したり、発達障害の人がどんな悩みを抱えているか、ひとつひとつの事例を丁寧に紹介。発達障害でない人にとっても、とてもわかりやすい形で解説していた。筆者は発達障害の子を持つ親として放送を楽しみにしていたが、期待を裏切ることのない、とても良い内容だったと思う。当事者の親として私なりの感想をまとめてみた。■やっぱり映像の力はすごい!まず、「おぉ!」と思ったのは、発達障害当事者の視点を再現した映像力だ。発達障害は外見からはわかりにくい障害だ。それゆえ、よく「我慢が足りない」「わがまま」などと言われ、なかなか理解してもらえないことも多い。だが、今回の番組の映像化により、一般の人にとっても発達障害の人が見ている世界がどんなものかわかり、ずいぶんと認識が変わったのではないだろうか。■もしかして、あれが息子の見ている世界なの…?私自身も、大きな発見があった。自閉症スペクトラムでADHDの傾向もありと言われている筆者の4歳の息子は、集団に向けた一斉指示が入りにくい傾向がある。確かに同世代と比べると、言葉の理解度は低いところもある。だが、決して言葉の意味が分からないというわけでもない。その証拠に、療育などで先生が目の前で1対1で説明すれば、指示に従うことができる。番組では、教室でいろいろなものが気になってしまい黒板に集中できない女の子の例や、カフェの雑踏の中で相手の話がうまく聞き取れない女性の例などが紹介されていたが、あれが息子が見ている世界なのかもしれない……と考えさせられた。今、保育園のクラスで集まる時、息子はたいてい後ろではじっこの方に配置されている(おそらく、もう一人の先生がフォローに入りやすいという配慮でこの場所になったのだと思う)。もちろん先生方がいろいろ考えた上での場所であり、それもありがたいのだが、先生が遠くなると先生の声はますます聞きとりにくくなってしまうし、注意も向けにくくなってしまう。番組を見て、例えば、集まりの時は思い切って席を先生のど真ん前に配置したら、注意力が変わってくる可能性もあるのでは? などと、息子をとりまく環境について、改めて見直すきっかけをもらった気がした。「この子には無理」「この子はやる気がない」ではなく、子どもの状態に合わせて環境を変えてあげれば、解決できることがもっとあるかもしれない。そして、息子ももっと今より楽しい生活が送れるようになるかもしれない。■みんなが楽になれる配慮は、障害にかかわらず真似したいまた、番組にはモデルの栗原類さんをはじめ、発達障害と診断された当事者たちが出演していた。みな、なんらかコミュニケーションに苦手を抱えており、スタジオのセットをより心地よい環境に変えたり、ずっと相手の目を見ないで話してもOKというルールを作ったり、ぬいぐるみを抱っこして気持ちを落ち着かせるという工夫もされていた。これ、発達障害にかかわらず、もっと広げてもいいのでは?だって、程度の差こそあれ、健常の人だってコミュニケーションで苦手なことを抱えていると思うのだ。健常の人だって、思った以上にコミュニケーションで必死に気をつかって戦っていると思うのだ。■どこからが個性で、どこからが障害?自閉症スペクトラムのスペクトラムとは、連続体のことだ。よく、虹に例えられる。虹は微妙に色が変わっていくが、その境界線ははっきりせず、基本的には連続している。 「今(番組で)見てきたような特徴は、どんな人でも多かれ少なかれありますよね。問題は、それがどのくらい程度が大きいのかということと、一番重要なのは、それによって自分やまわりの人にどれくらい生活に支障があるかということだと思うのです。逆に言うと、本人に特徴が強くても、まわりが全面的に受け入れてくれるような生活環境ならばあまり苦痛にならない場合もあるんです。(中略)本人と環境との関係というのが大きいですよね」出典: (NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~」番組出演者・本田秀夫医師のコメントより) このことは、以前取材した放課後デイを経営されている(株)アイム代表の佐藤典雅さんの「発達障害の子育ても健常児の子育ても、本質的には何ら変わりはない」や「普通って何だろう?」という話に通じるところがあった。 参考:【連載】大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界 出演者たちも、「発達障害というものでひとくくりにしないでほしいこと。一人一人の特徴は違うということ」を繰り返し伝えていたように思う。発達障害に目を向けるということは、一人一人の特性にきちんと目を向けるということ。それはすべての人へとっての、生きやすい環境作りにつながるのではないだろうか?■「社会の役にたつから認めるっていうのは、ちょっと違う気がする」今回の番組では、自分のことをきちんと話せるような高機能な人たちを中心に、発達障害が紹介されたように思う。後半では、発達障害の人の能力に注目した就労支援の話にまで展開した。もちろん、その取り組み自体はとても素晴らしいことだと思う。だが、今回はあまり紹介されなかったが、発達障害の中にはどんなにがんばっても就労が困難な人たちもいるのに…と、ちょっとモヤッとしたところで、有働由美子アナウンサーのこのひと言。「(発達障害の)能力が注目されると、能力があって社会の役にたつから認めるっていうのがあって、それもまた違うのかな…?と思って」ちょっとめでたしめでたしで終わりそうな流れの中、こういう意見をしっかりはさんでくれる有働さんのコメント、個人的にとてもうれしかった。NHKが1年かけて取り組んでいくという「発達障害プロジェクト」、今後はぜひ、自己表現がまだうまくできない子どもや、知的障害を伴う発達障害、コミュニケーションをとることが難しいような重度の自閉症の世界なども、取り上げてほしいと思っている。そして、司会はぜひ有働由美子アナウンサーとイノッチのコンビに続けてほしいと願っている。文:まちとこ出版社N 【発達障害についての連載一覧】大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界(全4回)「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら(全9回)
2017年05月26日人口の9割が「定型発達症候群」!?NHKが発達障害プロジェクトをスタート「およそ20年前に、アメリカの研究所が残した報告から、全人口の9割以上がある深刻な症状にあることが判明しました。」Upload By 発達ナビニュースとあるニュース番組で、キャスターが紹介した「衝撃のレポート」以下のチェック項目に一つでも当てはまったら、人間関係に深刻な問題を引き起こしかねない、「定型発達症候群」の可能性があるというのです。・暇な時はなるべく誰かと一緒に過ごしたい・集団の和を乱す人を許せない・社会の慣習にはまず従うべきだ・はっきりと本音を言うことが苦手・必要なら平気でウソをつけるUpload By 発達ナビニュース…実はこれは、NHKが制作した架空のニュース動画なんです。NHKが2017年5月から1年をかけて展開する、「発達障害プロジェクト」のページ上で公開されています。Upload By 発達ナビニュース「発達障害プロジェクト」「定型発達症候群」という言葉にびっくりした人もいるかもしれませんが、これは、医学上の病名でも、公式に定められた障害の名前でもありません。1998年、発達障害のひとつASD(自閉スペクトラム症)と診断された海外の一般女性が、ASDに関するさまざまな報道への皮肉の意味で「創作」した言葉が発端であると言われています(諸説あり)。「定型発達」とは、発達障害と対比して、心身の発達が「定型(平均的)」という意味で、「発達障害ではない人」をさす言葉として用いられます。つまり「定型発達症候群」とは、発達障害の人から、いわゆる「普通の人」を見た視点です。でも、「普通」ってそもそもなんでしょうか?全人口の大半の人が定型的(平均的)に感じているから「フツウ」?それじゃあ、違った感じ方をしている人は「フツウ」ではないの?そんな問題提起の意味も込めて、冒頭の架空のニュース動画はつくられました。NHKの発達障害プロジェクトでは、これまで当たり前に考えられてきた「普通」の概念にとらわれず、発達障害のある人々の感じ方・考え方を様々な角度から紹介していくことで、発達障害のあるなしに関わらず、一人ひとりの多様な感じ方や生き方への理解の促進をめざしていきます。NHKスペシャル、あさイチ、ハートネットTVをはじめ、番組横断で、継続的に発達障害を取り上げていくことが今回のプロジェクトの特徴です。知ってるようで知らない発達障害のこと、みんなの投稿で“トリセツ”をつくろうUpload By 発達ナビニュース生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)によって、社会生活に困難が発生する発達障害。「なんとなくは知っているけど、結局どういうことかわからない」「漠然としたイメージはあるけど、何に困っているのかわからない」という方も少なくないのではないでしょうか。プロジェクトページでは、「この際、はっきり知っておきませんか?」という呼びかけと共に、発達障害の定義や特徴、困りごとなどが、イラスト付きでわかりやすく紹介されています。コンテンツ監修は、LITALICO発達ナビの監修も務める、鳥取大学大学院の井上雅彦教授です。また、「みんなで作る発達障害の“トリセツ”」と題したコーナーでは、日常生活の様々な場面での困りごとや対応策を、発達障害の当事者やその家族、学校や職場などの周囲の人々の投稿を通して集め、公開していく企画もスタート。「生活・暮らし」「対人関係」「学校・職場」と、大きく3つのカテゴリーの中で、様々なテーマに対するみなさんの投稿を募集しています。サイトオープン時の2017年5月16日現在では、事前に集めた投稿の中から「聴覚過敏」に関するエピソードを18件公開しています。以下のリンクの投稿フォームから、それぞれのテーマに対する体験談を随時投稿することができます。Upload By 発達ナビニュースみんなで作る発達障害の"トリセツ"投稿フォーム5/21(日)21:00から「NHKスペシャル」で生放送特集!Upload By 発達ナビニューススペシャル, 「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」ウェブ上のプロジェクトページと連動して、NHKの様々な番組で、継続的・多角的に発達障害について取り上げていくのが、今回のプロジェクトの特徴。テレビ特集の第1弾は、NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」。初回放送は、2017年5月21日(日) 午後9時00分~9時59分です。これまで、主に社会性やコミュニケーションに問題がある障害として知られてきた発達障害ですが、最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、生まれつき、独特の「世界の見え方・聞こえ方」をしているケースが多いことがわかってきました。多くの人にとっては何でもない日常空間が、耐えられないほどまぶしく見えたり、小さな物音が大音量に聞こえてパニックになったり…NHKスペシャルでは、こうした発達障害当事者の方々の独特の感覚・認知や、それによって生じる生きづらさを映像を通して再現し、「目に見えにくい」障害の実態を伝えることに挑戦します。番組中では、大阪大学と東京大学が共同研究・開発した「自閉症知覚シミュレータ」も登場。発達ナビでは、当事者やご家族の方をお招きしての体験会兼取材・撮影に協力しました。今回のNHKスペシャルの最大の特徴は、生放送・リアルタイムで視聴者からのコメントを紹介しながら展開していくこと。たとえ同じ診断名でも、一人一人の特性や感じ方は、本当に様々です。十把一絡げに「発達障害」をまとめてしまうのではなく、一人一人の多様な暮らしぶりや思いを紹介していくことこそが、発達障害への理解・関心を広げていく上で大切だという趣旨からの企画だそうです。ご自分の経験について伝えたい思いやご経験、発達障害に対する疑問や悩みがある方は、ぜひ以下のメールフォームからご投稿ください。スペシャル, 発達障害特集メール投稿フォームUpload By 発達ナビニュース 「発達障害プロジェクト」また、NHKスペシャルの生放送終了直後から、「発達障害プロジェクト」ページ上でライブストリーミングが始まり、番組のアフタートークが催されるようです。ここでは、生放送中に紹介し切れなかった視聴者からの投稿を追加で紹介していくとのこと。あなたの投稿も紹介されるかも…!?発達ナビTwitterでNHKスペシャル&アフタートークを実況中継!発達ナビ編集部では、5/21(日)21:00からのNHKスペシャル及びアフタートークを実況中継予定!Twitterをご利用の方は、ハッシュタグ #NHKスペシャル #発達障害 でぜひ感想をご投稿ください。番組前の予習に、発達ナビの関連記事はこちら!プレスルーム: 5月21日(日)放送 NHKスペシャル「発達障害~解明される未知の世界~」の制作にLITALICOが協力しました。
2017年05月17日私って発達障害?気づいたのは42歳の時でした。出典 : 子どもの発達障害の場合、まず親や周りが気づいて、子ども自身は何の検査をされているのかわからないまま、診断を受けることが多いと思います。診断を聞くのも受け入れるのもまず親で、そこからタイミングを図って告知するというのがよく見られる流れではないでしょうか。それに比べて大人の場合は、仕事や日常生活で「なんだか変だな。どうしてうまくいかないのだろう?ひょっとして『私って発達障害?』」と疑ったうえで、自分の意志で検査を受けることが多いと思います。私は娘がアスペルガー症候群と診断されてから2年後、42歳の時にコンビニでのバイト中にパニックを起こしたのがきっかけで、発達診断を受けることになりました。しかし、その結果を受け止め、自身のことを理解するまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。9年の付き合いの主治医の診断は・・・出典 : 当時の主治医は、それまで9年にわたって私を診察してきてくれた精神科の先生でした。でも、その主治医は発達検査の結果を見て「うーん、ヨーコさんが発達障害とは思えないんだけどなぁ」と言うだけでした。このままじゃらちが明かないと思った私は、同じ病院内にいる娘の主治医に事情を話して、検査結果を見てもらいました。ざっと目を通した先生は「ああ、アスペルガー症候群ですね」と言いました。その後、私の特性も説明してくれてとても納得したのですが、それを主治医に伝えても「そうかなぁ?」とまだ納得できない様子。私の主治医の先生は発達障害には詳しくない様子で、長い付き合いの間でも先生の口から「発達障害」という言葉を聞いたことがありませんでした。だから、今まで長い間見てきて私の様子から「発達障害とは思えない」と言ったのではないかと思っています。私はあきらめずに先生やカウンセラーに「こんな困りごとがあってずっと苦しかった」、「娘が診断を受けたときの説明がそのまま私に当てはまる」と訴え続けました。そして「精神障害者手帳を取りたい」と先生にお願いしたのです。その時出してもらった診断書を見ると「広汎性発達障害」という診断名が記載されていました。こうして私は診断書を得るところまでこぎ着けることができました。しかし私は、ちゃんとした診断の上で広汎性発達障害と言われたのか疑問を抱くことになりました。それは診断が出たとはいえ、発達障害に詳しくない先生からの診断であることと、半ば無理やり勝ち取った診断のように感じられたからです。私が「ちゃんとした診断」を求めたわけ出典 : ひとまず診断を受けた私は、仕事を辞め、障害者福祉を受けながら暮らしていく道を選ぶことにしました。そんなときに、相談支援員から気になる話を聞きました。ある病院に発達障害に詳しい医師がいて、その病院で発達検査を受けたら、ものすごく詳細な所見をもらえて、説明の時も自分の特性や向いている職業まで教えてくれるらしいというのです。私はその"完璧"とも言える診断にひどく心惹かれました。「広汎性発達障害」の診断は出ていたものの、改めて発達障害に詳しい医師にきちんと診てほしいと思っていたからです。それは、「あなたはこういう人ですよ」という自分に関する説明書が欲しかったからでもあります。それまでの人生は謎だらけでした。どうしてみんなのように友達と打ち解けて遊ぶことができるのか、どうして他の人は分からないことは適当にしておいたまま勉強していい成績をとれるのか。社会に出てからは、なぜ他の人は会社の方針に溶け込んで洗脳されたようにふるまえるのか、なぜ自分はみんなと同じように仕事ができないのか、なぜミスばかり繰り返してしまうのか…。私はなぜ、他の人と同じようにできないのかと何度何度も悩んだのです。ずっと苦しかった。ずっとさみしかった。その診断があれば、今までの謎が解けてこれからの人生が開けるかもしれないと思ったのです。そして、期待に満ちあふれてその病院に転院することしたのです。「こんなことまで聞かれるの!?」驚きながらも、その専門性に感動!出典 : その病院は今までとは違うところばかりでした。事前に渡される問診票では、ハイハイした月齢や喋りだした月齢など乳幼児期の様子も事細かく聞いてきます。「人の臭いや物の臭い、ものの見え方や感触や音に極端な興味を持つことが、これまでにありましたか?」など、0歳から5歳くらいまでの成育歴の質問が多いので、親に見せて聞きながら回答を書きこみました。病院に問診票を持っていくと、それを見ながら「何か好きな素材や逆にこれは受け付けないというものはありましたか?」「学校では得意・苦手な教科は何でしたか?」「忘れ物は多かったですか?」「臭いや光、味に敏感ですか?」「仲の良い友達はいますか」など次々と追加の質問を受けました。その答えを聞いた先生は納得したように頷き「今ついている診断で間違いないでしょう。それに加えて注意欠陥障害もあるでしょうね」と言われました。この診察に私は感銘を受けました。というのは、質問は自閉症の子どもに特有の症状について的確に尋ねられており、追加の質問でも問診の答えを確かめるように進めてゆくことが分かり、先生の専門性の高さに感心したからです。ただ正式な発達検査を受けることはできませんでした。これは発達検査に使われるWAIS-Ⅲは、一度受けたら次は2年間は空けなければいけない決まりがあるためです。療育手帳取得挑戦の際にすでにWAIS-Ⅲを受けたことがあった私は、この2年間のインターバルが経過していなかったのです。それでもなお、憧れの診断にこだわる私に、ソーシャルワーカーはこう言いました。「とことん気になる、知りたがるというのは、生きづらさにつながるアスペルガーの特性からきてると思う。憧れの診断書が手に入らなかったら次に何が欲しいの?」その問いは、私が医療に何を求めているのかを問うものでした。自分の説明書はやっぱり欲しいけれど、2年待たなければならないのはどうしようもない。その現実をこの問いで突きつけられたのです。このとき初めて前を向いて、いま困っていることを何とかしてもらうことが大事だと思うことができました。その上で私の答えは「今の心のしんどさをやわらげてほしい。発達障害であるという視点から二次障害の精神症状やうつの治療もしっかりしてほしい」でした。こうして、先生の専門性を信じてその病院に通い続けることを決めました。自分の特徴を知ることで、今までの謎が解けてゆくように出典 : 今は二次障害である精神症状やうつの治療を受けつつ、自分の困りごとの原因は何なのか、先生の解説で謎が解けていっている感じです。そして生きづらさの解消のため、それまで飲んでいた薬は大幅に見直され、ADHDの治療薬のストラテラを服用することに。新しい主治医を始め、ソーシャルワーカーなど理解ある人に関わってもらっているおかげで、自分の特性が生活や仕事のどんなところに影響を与えているのが理解することができるようになってきたのです。自身の弱点や、疲れ切ってキレてしまう前の予兆なども分かるようになり、意識して自分をコントロールすることできるようになったと感じています。診断を生かしていくために出典 : 発達障害の診断を受けたら、具体的な自分の特性をじっくりと説明してもらうことをお勧めします。そうすることで、今までの生きづらさの理由が氷解し、自分の特徴をしっかりと理解することができるはずです。その上で、医療や福祉の支援を受けて理解者・支援者を増やし、困っているときは助けてもらうことができれば、自分の直面した困難にくじけてしまうことも防げるはずです。繰り返しになりますが大切なのは、診断を受けっぱなしで終りではなく、自分の特徴を知り、より自分をコントロールできるようになることです。診断を受け、なにが自分の生きづらさを作っているのか。自分で工夫できるところはあるのか。どんなサポートを受けたらいいのか。それを知ることが、生きづらさの解消につながるのではないでしょうか。
2017年04月28日「発達障害啓発週間」(4月2日~8日)にあわせ、発達ナビでアンケートを実施厚生労働省が定める「発達障害啓発週間」(4月2日~8日)にあわせ、LITALICO発達ナビでは発達障害に関する意識調査を実施しました。ご協力してくださった皆様どうもありがとうございました。この記事では、調査結果の一部を抜粋しお伝えします。<調査対象について>「LITALICO発達ナビ」会員へのメールから、アンケートフォームにて回答いただいた発達障害当事者:101名、発達障害の子どもをもつ保護者:788名の回答を集計しました。(調査期間:2017年3月7日~3月15日)※調査結果の構成割合は四捨五入をしているため、合計が100 にならない場合があります。発達障害児の子育てで困り感を感じている保護者は約8割お子様の発達障害の特性と思われることによって、保護者であるあなたご自身は、どの程度日常生活で困っていますか?という質問に対して、「とても困っている/やや困っている」と答えた保護者は80.7%、「全く困っていない/あまり困っていない」と答えた保護者は19.3%と、日常生活に困りを感じている保護者は8割を超えました。Upload By 発達ナビニュースどういったことに困りを感じているかに関しては、「障害の特性ゆえの言動が周囲から理解されず、しつけをしていないといつも白い目を向けられ精神的に追い詰められる場面が多い(ASD・6~12歳の親)」「他人について行く、母子分離が難しい、訓練会やセンターでも体操や手遊びを嫌がる(ASD・3~5歳の親)」「本人の生きづらさを変える手助けをしてやりたいが、その方法がわからない。気持ちが不安定になり荒れているのを見ても、寄り添って落ち着くのを待つしかできなくて苦しい。(ASD・13歳以上の親)」「将来が心配。毎日息子が朝ブツブツ文句を言って大変。何でも決めつける。こだわりが強すぎて疲れる。(ADHD・6~12歳の親)」「指示が入りにくいため、同じ事を何度も伝えなくてはいけないが、上手く伝わらない。思い立つと行動してしまうため迷子になることが多い。(ASD・6~12歳の親)」などといった意見があげられました。発達障害の診断を受けると楽になる?苦しくなる?お子様が発達障害と診断・告知された後の心境に、どのような変化がありましたか?という質問に対しては、「とても楽な気持ちになった」が12.1%、「やや楽な気持ちになった」が32.9%、「特に変化はなかった」が11.5%、「やや苦しい気持ちになった」が21.1%、「とても苦しい気持ちになった」が22.5%と、楽な気持ちになった親御さんは計44.9%、苦しい気持ちになった親御さんが43.5%とほぼ同数になりました。Upload By 発達ナビニュース楽な気持ちになった理由としては、「子どもの行動の理由がわかったから(ASD・13歳以上の親)」「今後の子育てをどのように進めていけばよいかがわかったから(ASD・3~5歳の親)」「自身の育て方に問題があったのではないことがわかったから(ASD・6~12歳の親)」などが挙げられました。苦しい気持ちになった理由としては、「もっと早く診断されていればよかったと思ったから(ADHD・13歳以上)」「子どもの将来が心配になったから(ASD・3~5歳)」などが挙げられました。周囲の無理解を感じる理由は…お子様の発達障害の特性について、周囲の人たちから理解されていると思いますか?という質問に対しては、「理解されている」が50.7%、「理解されていない」が49.3%と、ほぼ同数となりました。Upload By 発達ナビニュースどういうときに理解されていないと感じるかに対しては、「見た目がふつうに見られるから(ADHD・6~12歳の親)」「厳しく躾ければやれるようになると思われている(ASD・6~12歳の親)」「本人の困り感が見た目には分かりにくく、助けてもらえない。(ASD・6~12歳の親)」「勉強もでき、多動もないため一見なんともなく見えるため、親が気にしすぎだと考えられがち。(ADHD・6~12歳の親)」「見た目は普通なので、親が甘やかしているからワガママなだけなんじゃないかと思われる。(ASD・3~5歳の親)」などといった意見が挙げられました。発達障害のある子どもの保護者は、世間の発達障害に対するイメージをどう思ってる?発達障害に対する世間のイメージと実態にギャップを感じることはありますか?という質問に対しては、「ギャップを感じる」は80.8%、「ギャップを感じない」は19.2%と、約8割の保護者がギャップを感じているという結果になりました。Upload By 発達ナビニュースどのようなことにギャップを感じるかに関しては、「発達障害と診断されたらお先真っ暗と思っている方が多いけど、そんなことない!わかることでできるフォローがある!(ASD・3~5歳)」「考えるプロセスや、行動というアウトプットが異なるのでなく、そもそも感じ方というインプットの段階が異なっており、しつけや訓練でどうなるものでもないこと(ASD・6~12歳の親)」「1つの診断名でもいろんなタイプの人がいることを知らない人が多いなぁと思うし、自分も息子のことだけをみて発達障害を理解してはいけないなぁと自戒の念も含め思う。(ASD・6~12歳の親)」「発達障害そのものを知らない人が多いと思う。もっと重くてコミュニケーションがとれないような障害と思われているように思う。(ASD・6~12歳の親)」「発達障害は天才だと思われているせいで、親の育て方で変わると思われているところ(ASD・13歳以上)」などといった意見が挙げられました。さらなる調査結果はプレスリリースにてその他の回答に関してはLITALICOのプレスリリースに記載しています。発達障害の当事者・発達障害児の保護者へ意識調査を実施 過半数の当事者・保護者が「発達障害」に対する社会の理解は「進んでいない」と回答LITALICO発達ナビでは今後も発達の気になるお子さんや親御さん、当事者のさまざまなご意見やご経験を参考にしながら、よりよいサービスづくりと世の中に対する情報発信を続けていきます。今後ともLITALICO発達ナビをよろしくお願いします。
2017年04月07日「できること」を増やしたい!発達障害のある子どもを持つ親心出典 : 自分の子どもが発達障害だと診断を受けたならば…。「発達障害児でもできること」「発達障害児の発達を促すこと」を血眼になって探すのが、親心なのかもしれません。私もその1人でした。発達障害児を育てていると、どうしても出来ない部分ばかりが目についてしまいます。「協調運動ができない」「手先が不器用」「跳び箱やマット運動ができない」「字をマスの中におさまるように書けない」「きちんとした姿勢を維持できない」…他の子どもと並べては、「うちの子だけこんなこともできない…」と落ち込む日々が続いていました。「出来ることを褒めてあげて」と育児本には当たり前のように書いてあります。けれども、保育参観やちょっとした行事で「できない息子」を目の当たりにするたびに、「一体どこを褒めればいいんだろう…」という気持ちにすらなります。そんなとき、インターネットには心ひかれる文言が出典 : そんなどん底の気分になりながらも、「なんとか息子のできることを増やしたい」と思いネットを検索してみます。すると、キラキラときらめく言葉たちが並んでいるのです。「発達障害児向け○○!」「○○は発達障害児の発達を促してくれます!」「○○をすれば、発達障害は治る!!」こんな煌めくような魅力的な言葉たちが、私の親心をがっちり掴んでしまいました。「発達障害向け」の文言をみると居ても立っても居られなくなり、私はすぐに申し込みのメールを書き始めていました。それがどんな内容の習い事や塾であっても、息子に意思を確認することはありませんでした。これが原因で、私がしてしまった失敗を2つ、ご紹介します。出典 : ネットでの検索に取りつかれていたころ…私が一番に心惹かれてしまったのは、「発達障害を治す能力開発塾」でした。この「発達障害を治す」という触れ込みに惹かれてしまうのは私だけではなかったようで、中には新幹線や飛行機に乗って相談に訪れる人も後を絶たないそうです。ところが相談に伺ってみると、その塾の目標は「子どもを支援級に入れないこと」でした。私は当時、まだ小学校就学後のことまで考えてはいませんでした。その目標が果たして本当に適切かどうか、まだ分かっていなかったのです。その塾が何を目指しているのか、発達障害児がどう育っていくことを望んでいるのかという点について意見が合致しない場合は、私は入塾はやめたほうがいいと思いました。結果的に、入塾はお断りしました。「発達障害児向け」「発達障害が治る」という文言だけに飛びついてしまい、実態をきちんと把握していなかった失敗例です。出典 : 他にも、「これは発達障害児の発達に良い」「前頭前野の発達を促す」という言葉に、私は飛びついてしまいました。そんな私を突き動かしたのが、「乗馬は発達障害の発達に良い」「カヌーは発達障害児の発達に良い」という情報でした。私は息子を連れて、発達障害児を対象とした乗馬教室とカヌー教室に出かけました。その教室では他に参加する子どもたちもみんな同じように特性がある子どもたちだったため、息子だけが浮いてしまうこともないだろう…という期待もありました。ところが…。感覚が過敏な息子は、馬の臭いと大きさと肌触りにパニックです。泣いて泣いて暴れて暴れて、止まらなくなってしまいました。そんな息子を横目に、他のお子さんたちは悠々と馬に乗っています。カヌーはカヌーで、救命胴衣の感触にパニックになり大泣き。さらに、前日雨が降って川岸がぬかるんでいたのが嫌だったようで、足に泥がつくたびに大泣き。ここまで来て、こんなに息子を泣かせて、自分はいったい何がやりたかったんだろう…。私は帰りの車でため息しか出ませんでした。この教室以後、息子は馬が怖くなってしまい、今でも馬に近づけません。大切なのは、「発達障害児向け」ではなく「息子向け」だった出典 : 数え切れないほどの失敗を繰り返して、私が学んだのは、大切なのは「発達障害児向け」ではなく「息子向け」のものを選ぶことだということでした。いくら「発達障害児向け」と銘打ってあっても、息子に合った環境整備がされているとは限りません。いくらそのアクティビティ自体が発達障害児の発達に良いとしても、息子は盛大なパニックを起こし、それが失敗体験になってしまいました。逆に、発達障害児対象のアクティビティでなかったとしても、息子に合った環境整備がきちんとできていれば、息子は楽しくこなすことができます。成功体験につながることもあるでしょう。「発達障害児向け」「発達障害児の発達に良い」というのは、あくまでも理論的な話です。脳回路の話などが出てくると、どうしても飛びついてしまうのが親心。でも、理論と実践は違うのです。適切な環境整備と子どもに「やりたい」という気持ちが少しでもあれば、それが一番「その子の発達に良い」ことなのだということを忘れてはいけないのだと思います。
2017年03月30日発達障害があると「生きづらい」?出典 : 歳の発達障害の息子を育てていると、ごく当たり前のように「この子が生きづらくないように」と考えている自分がいます。「生きづらさ」という言葉は、発達障害児を育てていると頻繁に見聞きするものではないでしょうか。大人になっても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。発達障害でなくても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。でもやはり、発達障害の息子を見ていると、私はいつも「この子は生きづらいだろう」と感じてしまうのです。そして、「どうやったらこの子の生きづらさが取り除けるだろう」とそればかり考えています。では一体、発達障害児の「生きづらさ」って何なのでしょうか。発達障害特有の困難さは、支援で克服できることも増えてきた出典 : 息子には発達障害児特有の様々な困難があります。言葉の使い方が変わっているのでお友達に不思議がられたり、お友達の輪に入るのが好きではなかったり、聴覚や触覚が過敏だったり、運動が苦手だったり、手が不器用だったり…。これらの困難のために、息子は集団の中で様々な苦労をしているようですが、それは息子が自己肯定感を落とす直接的な原因になっていないようなのです。今は、支援方法がかなり確立されています。運動が苦手だったり、手先が不器用だったりしても、先生方や私たち親の工夫次第で結構頑張れてしまうようです。例えば息子は運動会で足が遅いことをずっと気に病んでいましたが、今は発達障害児専門のスポーツ支援の本などが結構出ています。先生方はそれに基づいて、息子に走り方の指導をしてくださいました。おかげで、運動が苦手なことで息子がひどく落ち込むようなことはありません。また、気にして見ていると、発達障害児向けの学習支援グッズなども沢山発売されています。私はそのようなグッズを探して購入したり、自分で作ってみたりしました。ですから、息子が手先の不器用さでひどく生きづらさを感じているようなことはありませんでした。また、私も幼稚園の先生も決して息子に友達の輪に入ることを強制しませんでした。周りが「この子はこういう子だ」と淡々としていれば、本人はそれほど気に病まないのです。運動や手先の不器用さなどについては支援で克服できることは結構多く、それが即息子の「生きづらさ」に繋がるわけではないように思いました。では何が「生きづらさ」につながっているのだろう。私が息子を見ていて気付いたこと出典 : けれども、どんなに支援をして息子の困難を取り除いても、私はやっぱり「この子は生きづらいだろうなあ」と感じてしまう瞬間があるのです。それは何かといえば、息子の「認知のズレ」です。例えば、息子とのやり取りで以下のようなことが毎日のように起こります。・誰かが息子の言ったことが可愛くて笑った。→「僕のことをバカにして笑っただろう」と激怒orパニック。・何かについて「ダメだよ」と注意された。→ 「この人は僕を嫌っている」と激怒。・何かの問題が難しくて解くことができなかった。→「僕はどうしようもないバカなんだ」と落ち込んで立ち直れない。・先生に「これはいけないよ」と注意される→「僕はいつも先生に叱られているダメな奴だ」と思う。・誰かが息子をからかう。→「みんなが自分を嫌っている」と落ち込む。このように、息子には認知のズレがあり、物事を過度に一般化したり、そうかと思えば突然自責の念にかられたりするところがあります。また、物事を白黒極端に捉える傾向もあり、「え?どうしてそんな風に考えちゃうの??」ということが頻繁にあります。その思考を助長するのが、相手に否定語で何か言われたり、ちょっと笑われたりということなのです。「認知のズレ」は支援することが難しい。私が息子に接するときに心がけていること出典 : 息子の生きづらさの根本的な原因について考えたとき、この「認知のズレ」が大きいのではないかと思うのです。そして、こういった認知のズレは、支援することがとても難しいです。手の不器用さや学習上の困難などは、支援グッズを使いながらなんとか解決の糸口を見つけ出すことができました。けれども、「認知のズレ」だけは、長い時間かけて手探りで修正していくしかないのです。支援グッズを使うでもなく、支援方法が確立しているでもない。私たち親ができることは、ただただ失敗したり落ち込んだりしている子どもに辛抱強く語りかけていくことだけです。だからこそ、認知のズレは親にとっても子ども本人にとっても「生きづらさ」へとつながっていくのかもしれません。けれども、だからこそ、発達障害の子には、なるべく大きな失敗をしないように環境調整をすることに意味があるのだと思います。私は息子の生きづらさを知ったうえで、人間関係や学習などで大きな失敗をさせない、挫折をさせない、本人が乗り越えられるハードルをうまく設定しながら成功体験を増やすことに集中しています。なかには、それは過保護だという人もいます。けれども、認知にズレがあるからこそ、ひとたび大きな挫折でボッキリと折れてしまうと、それを立て直すのに大変な労力がいるのです。また息子の場合、大きな失敗をすることで、他者への不要な憎しみや恨みが長いこと心に残ります。大きな失敗や挫折の体験は、発達障害の子どもの生きる糧にはなりづらいと私は思います。私は失敗を乗り越えさせることに力を振り絞ることよりも、成功体験を積ませることに力を使っていきたいです。発達障害の子どもにとって、小さな成功体験の積み重ねが心の体力になっていきます。心の体力があれば、多少の認知のズレがあっても、自分で態勢を立て直すことができるはずです。認知のズレそのものを修正するために躍起になるよりも、小さな成功体験を増やしていくことに重点を置いていくほうが、親も前向きに取り組むことができるのではないでしょうか。生きづらさは、心の体力で克服できるものだと私は信じています。
2017年02月23日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら のつづきです。「発達障害」をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回は、「発達障害の子育てを楽しむコツ」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■子どもの障害は親のせいではありません―― この連載もいよいよ最終回。いろいろ伺ってきましたが、ずばり、佐藤さんが思う発達障害の子育てを楽しむコツって何でしょうか?佐藤典雅さん(以下、佐藤さん): まず、親自身がハッピーであること、充実した楽しい人生を送ることです。人が他人を幸せにするのは無理。幸せって自分が作り出す状態だから。状態である以上、自分で作り出すしかないんですよ。―― 子どもの障害に対して、親は自分の人生すべてを捧げるべきという風潮がありますよね。そういう中、親は自分のことを優先しにくいのかもしれませんね。佐藤さん: でも、親が療育に必死になって、「子どもには充実した人生を送ってほしい」ってボロボロな状態になっていたら、それを見た子どもがうれしいわけがないよね? こんなの、子どもにとっては重荷でしかない。―― 自分を犠牲にしてまでがんばってしまうのは、もしかしたらお母さんは「自分に責任があったのでは?」と感じてしまうからかもしれません。「妊娠中に無理したのが良くなかったのかな?」とか「早くから預けて働いたのがいけなかったのかな?」とか、いろいろ考えて自分を責めてしまうのかもしれません(※)。※もちろん発達障害の原因にそんな根拠はありません。佐藤さん: 子どもの障害は親のせいではありませんよ。僕は、それぞれの人にはそれぞれの生まれ持った宿命と人生があるのだと思っています。そして、その子どもが自分の人生の使命をまっとうできるようにサポートするのが親の役割。後は、親自身が自分の人生を楽しむのが、親の仕事だと思っています。―― 障害者の親って他の保護者より制限があるように思えるのですが、人生を楽しむことってできるのでしょうか?佐藤さん: 大切なのは、子どもに障害があろうがなかろうが、いかに、自分が今の状態を楽しめるか? なんですよ。お母さんが自分の人生を謳歌していれば、子どももその姿を見ていて楽しくなるでしょう。もちろん、普通の子育てより大変なことは多いですよ。でも、地獄で幸せになれない人は、天国にいっても絶対幸せになれませんから!―― どういう意味でしょうか?佐藤さん: 地獄で「暑い、暑い」って言ってる人は、天国に行けったら、絶対「暇だ~、なんかつまんない~」とか言い出すから。―― おもしろい考えですね(笑)。また、お母さんが生き生きとするためには、お父さんの存在も欠かせませんよね?佐藤さん: もちろんです。でも、残念ながら、うちの放課後デイに親子が面談にやってくる時、夫婦そろって来られるのは一割以下。平日の昼間、お父さんは仕事だから仕方がないにしても、お母さんの話からお父さんの存在が見えない家庭が多いのです。―― 療育センターなんかでも、付き添いはお母さんばっかりですものね。佐藤さん: 父親がちゃんと関わってくれないと、母親のストレスは2倍になります。日々の小さいことまでフォローする必要はないのかもしれないけど、重要なことには決断を下し、時々、お母さんの頭の中を整理してあげてほしいと思います。それに、話を聞いていると、お父さんの意見は結構合理的で的を得ているんですよ。なので、お母さんたちも、もう少し素直にお父さんの意見を聞いてあげてほしいと思います。■先輩お母さんとつながろう。人脈をどんどん広げよう―― 旦那が一緒になって考えてくれる、それだけでお母さんは十分心強いと思います。あと、私が心強かったのは、同じ悩みを持つお母さん仲間とのつながりです。佐藤さん: ただ、療育センターでは同じ年頃の子どもを持つ親同士でしか接点がないよね? 特に、就学前は一番不安な時期だし、子どもの先の姿が想像できない。だから、同世代だけで集まると不安を交換しあって、不安だけが増幅してしまうという難点もあります。―― 確かに。いつも同じメンバーで、ぐるぐると同じ話になってしまいがちなところもありましたね。佐藤さん: 一番有効なのは、発達障害をもつ未就学児のお母さんは、同じ発達障害を持つ中学生の親から話を聞くこと。すでにいろいろ経験してきたお母さんたちは、いろいろな情報を持っているので役立つアドバイスをくれます。わが子の将来のイメージもつかみやすいので、お母さんもあんまりパニックにならないですむ。違う世代とつながりを持つことをおすすめします。―― でも、なかなか違う世代とつながる機会がないのですが……。佐藤さん: うちの放課後デイに遊びにいらっしゃい! いろんな先輩お母さんがいるから。みんな仲が良くて、よくバーベキューやクリスマスパーティーしたり、頻繁に交流会をしていますよ!ただ、おもしろいんだけど、うちのお母さんたちが集まっても、みんな誰も子どもの話をしないんですよ。子どもそっちのけで、爆笑トークで盛り上がってるの(笑)。でも、これこそが健全な姿だと思うわけ。―― みなさん、佐藤さん同様、笑い飛ばす力を持っているんですね!佐藤さん: 発達障害の子育てをする親は、特に、開かれた視点で物事をみつめなおす必要があります。療育に通うのに夢中になっていると、気づいたら、接するのは療育センターの先生か学校の先生かママ友だけになってしまいますよ。意識的に努力して、開かれたマインドをもっておかないと。―― 人脈もどんどん広げるべきなんですね。佐藤さん: 例えば、子どもが興味のある業種に人脈を作って、その企業にインターンできるようにするとか、どうでしょう? うちの長女は将来ゲームクリエイターになりたいと言っているので、僕はプロが使うAdobeのフォトショップを覚えさせたり、夏休みは友達の会社でインターンさせたりしています。もちろん、中学生だからたいしたことはできないんだけど、興味ある業界で普段接することのない大人と過ごすことができるのは刺激的でしょう。それができたのは、僕に人脈があったから。―― なるほど! 子どもの興味があることにつながる人脈力か……。佐藤さん: 世の中にはいろんな人います。いろんな人と会って話して、どんどん外の世界に出て行ってほしい。自分の親とか同じ学校とか、同じマンションとか、同じ世帯年収とか、そういう狭い世界だけでみて、こうあるべきだと決めつけないでほしい。臨機応変に考えられるように、いろいろな情報収集をしてほしいと思います。 ■運命を受け入れることも、大切―― ところで、ここの子どもたちはとても自由に寛いでいますね(取材中の様子を見ながら)。図鑑に没頭している子もいれば、ボール遊びをしている子もいるし、寝ている子もいれば、カラオケで熱唱している子もいる(笑)。佐藤さん: 僕は、自分の放課後デイを「川崎のNASA」と呼んでいます。なぜなら、発達障害の子は宇宙人みたいなものだから。僕の役割は地球側の外交官みたいなもので、彼らの地球滞在が充実したものとなるように努めること。そして、いつか彼らが宇宙船に乗って地上に降りてきた時に、「あの時はありがとう」と言ってくれればいいな、と妄想しています(笑)。―― その妄想、素敵です(笑)。佐藤さん: 発達障害はガンダムのニュータイプみたいなもんで、既成概念の外にいる子どもたちなのだから、親の方も子どもに常識を求めるのはナンセンス。期待すればするほどドツボにはまるだけ。そしてもっというと、親自身も「こうあるべき」「こう育つべき」っていう規制概念の呪縛から出る必要があります。―― そう考えると、発達障害の子どもたちは、親に、子育てで忘れがちな、とても大切なことを教えてくれているのかもしれませんね……。佐藤さん: ちょっと話それるけど、みんなよく「結婚して幸せになりたい」とか言うじゃない? でも、結婚したって離婚する人もいるし、結婚は幸せを保証するものじゃない。「結婚すれば老後がさみしくない」っていう人もいるけど、うちのお祖母ちゃんはお祖父ちゃんが早く死んじゃったから、30年間ひとりだったわけ。結婚はさみしくない老後も保証しない。つまり、人生は何が起こるかわからない。だから、一生懸命人生の方程式を作ったって無駄なんですよ。―― では、どこを目指したらいいのでしょうか?佐藤さん: 死ぬときに本人が充実した人生だったと納得して死ねるか、そこしかないと思うんです。だから、子どもに障害があっても、お母さんは自分の人生を思いっきり生きるべきなんですよ! ―― 「やりたいことがあったなら、とりあえずやっておけ!」と?佐藤さん:そう。そして、運命というのか宿命というのかわからないけど、ある程度、受け入れることも重要だと思っています。自分にそういうカードがまわってきたということは、巡り合わせだと。―― 佐藤さんがまったくの異業種から福祉の世界に入ったのも、運命なのですね。佐藤さん: 福祉が大嫌いだった僕が、今福祉の世界で仕事をしているのも、きっと何か理由があるから(笑)。だとしたら、グダグダ文句言ってないでしっかりやりきろう、と。今目の前のことをやりきらないと、次のステージは見えてきません。それに、僕は一生福祉の世界で生きていくつもりはないので、せめて「他の福祉施設よりも結果を出してから辞めてやる!」と思っています(笑)。長時間にわたり、自身の熱い思いをしゃべり倒してくれた、佐藤さん。時に、厳しい指摘もあったが、ユーモアたっぷりの話しぶりで、発達障害の子育ての凝り固まった偏見や閉塞感を気持ちよくブチ壊し、勇気を与えてくれた。そして、著者は何より、佐藤さんのポジティブな姿勢と、常に息子さんの幸せな人生を考え、全力で取り組んでいる行動力に深い感銘を受けた。「この子なりの楽しい生き方ってなんだろう?」「この子が充実した人生を送るために、親として何ができるだろうか?」発達障害の子育てで、本当に親が悩むべきところは、そこにあるはずだ(もちろん、普通の子育てだって変わらない)。そして、大切なことは「子育てを楽しむ」ということを、常に忘れないでいたい。取材・文・撮影/まちとこ出版社 【大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界】 全4回・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら ・ 【第4回】発達障害の子育てを楽しむコツ
2017年02月18日発達障害の専門的医療機関が不足している!?出典 : 年1月20日、総務省は、文部科学省と厚生労働省に対し、発達障害者支援に関する行政評価と監視の結果に基づく勧告を行いました。この調査は、保育所・学校現場を含む、都道府県・市町村における発達障害者支援の実態を初めて調査したものとなります。これまでの記事では、①早期発見について、②発達障害発見後の支援と引継ぎについて、それぞれ総務省による調査の結果と勧告内容についてお伝えしてきました。今回の記事では、発達障害の専門的医療機関の確保に関する調査・勧告内容についてご紹介します。調査対象の18.5%で発達障害の専門的医療機関が確保出来ておらず出典 : 各都道府県において、専門的に発達障害の診断及び発達支援を行うことができると認める病院又は診療所を確保しなければいけないことは、発達障害者支援法に定められています。「都道府県は、専門的に発達障害の診断及び発達支援を行うことができると認める病院又は診療所を確保しなければならない。 」発達障害者支援法第19条(専門的な医療機関の確保等)では実態はどうでしょうか。今回総務省が19都道府県及び8指定都市の計27団体に関して調査したところ、専門的医療機関を確保していたものは22団体(81.5%)で、残る5団体(18.5%)は確保できていなかったことが明らかになりました。また、専門的医療機関を確保済みの22団体の管内に所在する専門的医療機関から、27機関を抽出し、発達障害に係る初診待機者数及び初診待機日数も調査しました。その結果、約4割の医療機関で初診待機者数が50人以上となっており、その中には最大316人が待機している例も存在しました。加えてその初診待機日数は、半数以上の医療機関で3か月以上となっており、その中には最長で約10か月の例もみられるなど、専門的医療機関の更なる確保が必要な状況がみられたとのことです。なぜ発達障害を診ることができる医者は少ないのか?出典 : 総務省の調査した医療機関の中からは、以下のような意見があがったとのことです。①小児科医が発達障害を診断する場合、風邪等の診察と違って、幼児期の状況や成育歴などを聴き取る必要があり、手間と時間を要するため、診療報酬上のメリットを与えてほしい。②発達障害児に対する精神科医による診察は、その特性上、1 人に対し1 時間から 2 時間費やすことが多く、30 分を大幅に超えるため、現行の「通院・在宅精神療法」の時間区分(30 分未満の場合は 3,300円、30分以上の場合は 4,000 円の 2区分のみ)のうち30分以上を細分化し、その時間区分に見合った診療報酬にしてほしい。③発達障害児に対する小児科医の診察による診療報酬では、「小児特定疾患カウンセリング料」(月の1回目は5,000円、月の2回目は 4,000円)が算定可能であるが、発達障害という特性上、長期にわたり通院が必要であるにもかかわらず、2年を限度にしか算定できないことから、2年という期限を設けないようにしてほしい。太字は引用者注発達障害の専門医となるのは難しい上に、診療の旨味も少ないため、医師にとっても魅力を感じにくい領域なのかもしれません。市町村によっては不安解消のため独自の取り組みを行っています出典 : この度総務省が調査した都道府県及び指定都市の中には、初診待機者の不安解消を図るための取り組みを実施しているところもあったとのことです。ひとつは市町村が医療機関と連携して小児科の診察優先枠を毎月1日設定し、保護者の了解のもと県職員も医療機関の診察に同席、医師、保護者及び県の三者で情報の共有を図っている事例です。そしてもうひとつは、医療機関の受診前や療育前に、市町村の主催で臨床心理士等による親子小集団活動、保護者同士のグループワーク等を「にこにこ教室」として実施している事例です。医療機関の受診などを待っている保護者の不安感の解消が図られていることがメリットとして挙げられています。総務省は専門的医療機関の確保を勧告こういった現状に対し、総務省は厚生労働省に対し、発達障害が疑われる児童生徒が専門的医療機関を早期に受診できるよう、専門的医療機関の確保のための一層の取組を行うことを勧告しました。また専門的医療機関の受診までの間、保護者の不安解消を図る取り組みを都道府県等に示し推進するようにも勧告しています。以上、いかがだったでしょうか。発達障害者支援者法は施行されてからまだ10年と少し。発達ナビではこれからも国の取り組みと状況についてお伝えしていく予定です。
2017年02月02日総務省による、発達障害者の支援に関する実態調査。その結果は?出典 : 年1月20日、総務省は、文部科学省と厚生労働省に対し、発達障害者支援に関する行政評価と監視の結果に基づく勧告を行いました。この調査は、保育所・学校現場を含む、都道府県・市町村における発達障害者支援の実態を初めて調査したものとなります。前回の記事では、早期発見に関する実態の調査報告と総務省の勧告内容についてお伝えしました。今回の記事では、発達障害がある子どもへの支援状況と情報の引継ぎに関する調査・勧告内容についてご紹介します。発達障害児に対する支援「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」とは出典 : 発達障害を含む障害のある児童生徒の指導について、学校等では、児童生徒それぞれに「個別の教育支援計画」(以下「支援計画」)と「個別の指導計画」(以下「指導計画」)を「必要に応じ」作成し、指導と支援を行っていくこととされています。(4) 関係機関との連携を図った「個別の教育支援計画」の策定と活用特別支援学校においては、長期的な視点に立ち、乳幼児期から学校卒業後まで一貫した教育的支援を行うため、医療、福祉、労働等の様々な側面からの取組を含めた「個別の教育支援計画」を活用した効果的な支援を進めること。また、小・中学校等においても、必要に応じて、「個別の教育支援計画」を策定するなど、関係機関と連携を図った効果的な支援を進めること。(5) 「個別の指導計画」の作成特別支援学校においては、幼児児童生徒の障害の重度・重複化、多様化等に対応した教育を一層進めるため、「個別の指導計画」を活用した一層の指導の充実を進めること。また、小・中学校等においても、必要に応じて、「個別の指導計画」を作成するなど、一人一人に応じた教育を進めること。特別支援教育の推進について(通知)なお、2016年の改正発達障害者支援法においても、発達障害児が年齢及び能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるようにするために必要な措置として、これらの支援計画及び指導計画の作成を推進することが具体的に明示されています。法律第六十四号(平二八・六・三) ◎発達障害者支援法の一部を改正する法律支援計画や指導計画、実際にどれくらい作成されているの?その効果は?出典 : しかし支援計画に関していうと、必ずしも発達障害のある児童全員に作成されていないのが現状のようです。この度の総務省の調査で調査対象となった111の保育園および幼小中高校において、発達障害児(発達障害が疑われる児童生徒を含む)は計2,431人でした。そのうち支援計画作成が「必要」と判断された児童生徒は829人であり、さらにそのうち支援計画を作成済みの児童生徒は690人でした。支援計画作成が「必要」と判断されたものの、未作成の生徒が139人いることが明らかになりました。未作成の理由としては、教員の業務が多忙で作成する時間の確保が困難であるため、保護者の同意が得られないため、などとされています。また、支援計画作成が「必要」と判断する範囲に関して、111の調査対象のうち19の保育園および幼小中高校では、医師の診断がある児童生徒のみなど、計画の作成対象をかなり限定した範囲にとどめている例がみられました。そしてこうした計画作成対象が限定されていたことの結果として、支援計画や指導計画が作成されていなかった生徒の中には、不登校等の二次障害が生じている例がみられたとのことです。問題行動の度合いが高くない生徒には支援計画及び指導計画を作成することとしていないため、発達障害の診断を受けているにもかかわらず、両計画とも作成されず、結果として、学習障害等で授業についていけずに、平成22年度から26年度までの間に、不登校4人、休学1人、退学1人が発生した。一方、調査した保育所及び学校において、支援計画又は指導計画を作成したことにより、特別支援学校など関係機関による助言や保護者との連携等が図られ状態が改善するなど効果的な支援が行われている例が30事例みられました。総務省は文部科学省と厚生労働省に対し、保育所及び学校において、一律の基準によって支援計画及び指導計画の作成対象を限定するのではなく、個々の児童生徒の特性や状態を踏まえ、支援が必要な児童生徒に対して着実に作成されるよう、作成対象とすべき児童生徒についての考え方を示すことを勧告しました。継続的な支援のために欠かせない、進学先等への情報の引き継ぎ。しかし現状は…出典 : 支援計画や指導計画の作成だけでなく、支援の前提となる子どもに関する情報の引き継ぎ共有も重要です。こうした情報共有の実態についても調査がなされました。具体的には、・乳幼児健診の結果として発達障害の疑いがあるとする情報を保育所へ渡す取り組み・保育所や幼稚園で作成された支援計画等に適宜資料の追加等を行った上で、障害のある児童生徒等に関する情報を一元化し、支援計画や相談支援ファイル等として小・中学校等に引き継ぐ取り組みなど、関係機関同士の情報の引き継ぎ・共有が十分ではないという勧告がなされています。しかし、情報共有が十分に進まない背景には、個人情報保護の観点からの障壁もあるようです。そのことが明らかになったのは、調査対象となった31市町村が実施した乳幼児健診結果の引き継ぎ状況の調査からです。平成26年度に実施した乳幼児健診の結果の、進学先(保育所、幼稚園等)への引き継ぎ状況をみると、30市町村で「引継ぎを行うこと」という方針を立てているものの、個人情報保護の観点から、保護者の同意が得られた場合であって、保育所等から情報提供の依頼があった児童のみ引き継ぐとしている自治体が14市町村にのぼりました。つまり、半数近くの市町村では、保育所等からの働きかけがなければ引継ぎが行われない状況であるということです。調査した市町村の中には、乳幼児健診の結果の進学先への引継ぎ時における保護者の同意取得については、次のような取組を行っている例がみられたとのことです。乳幼児健診の問診票の中に、健診結果等について、保育所等の関係機関と連絡を取り合う場合がある旨をあらかじめ記載し、これに同意するか同意しないかを選択させることとしている。児童が幼稚園に入園する前に、心配事のある保護者に「保護者との連携シート」の記載を依頼しており、同シートにより、幼稚園が保健師等の関係機関等から情報を入手する旨の同意を得ている。また、乳幼児健診の結果が引き継がれなかったことにより、対応が困難になった例もみられたとのことです。市外からの転入により入所した児童について、転出元の市町村での乳幼児健診結果(発達障害の疑いあり)を把握できなかったため、支援計画の作成、個別の配慮、小学校への引継ぎ等を行わなかったところ、小学校で集団行動になじめない状況となり、急遽支援が必要となった歳児健診及び3歳児健診で紹介された親子教室において、軽度な知的障害を伴う発達障害の疑いを指摘されたが、それらの結果が、入園先の幼稚園に伝わらず、児童の知的障害の把握が遅れた。その結果、児童は、特別支援学級へ入級したが、知的学級ではなく、自閉・情緒学級へ入級することとなり、児童に対する教育的配慮や課題設定を行うのに数箇月要した同様に、進学の際や転校の際における引き継ぎの不備も指摘されており、総務省は厚生労働省に対して、市町村に乳幼児健診の結果等の進学先への引継ぎの重要性を周知し、積極的な引継ぎを促進することを勧告しました。他にも総務省は、厚生労働省と文部科学省に対して、保育所・幼稚園から大学・就労先までの各段階において、発達障害児に対する必要な支援内容等が文書により適切に引き継がれるような呼びかけを行なっています。都道府県、市町村、都道府県教育委員会及び市町村教育委員会に対しては、・具体例を挙げて支援内容の引き継ぎを周知すること・支援計画及び指導計画については、引継ぎまでの適切な保存・管理を求めるとともに、具体的な引継方法を提示し、確実に引き継がれるよう徹底を図ることを勧告しました。「切れ目のない支援」を実現するための課題は出典 : 情報の引き継ぎは、切れ目のない支援を推進する上で不可欠だと言われています。そして文部科学省でも障害のある子どもに対して小学校から高校まで一貫した支援ができるよう、進学先の学校へも引き継げる「個別カルテ(仮称)」の作成を学校に義務付ける方針を固め、推進しています。また逆に保育所から専門機関に相談するようすすめられる場合もあるようです。現在、4歳の男の子を持っていますが、引越しして、2ヶ月前ほどから、転園した先の、保育園の先生から、落ち着きがなく、みんなと一緒のことができない、話す単語が少ない、との指摘を受けて、療育センターに問い合わせをするように、言われました。保育園で発達障害を疑われました。3歳1ヶ月の男児です。保育センターの心理相談の結果、問題はなさそうでした。しかしモヤモヤと心配が晴れず、何か息子のためにできることはないかなと焦っています。親や支援者が発達障害をどう理解するか、そして個人情報保護や当事者、家族の不安に配慮する仕組みの構築が、実際に切れ目のない支援を実現するためには必要なのではないでしょうか。
2017年01月30日もっと自由に、もっと気軽に、語り合える場所にしていきたい。Upload By 発達ナビ編集部本日1月26日、LITALICO発達ナビはオープン1周年を迎えました!オープンから今日まで、たくさんのユーザーさんからの応援の声やアドバイスをいただきながら運営して参りました。1年間、本当にありがとうございました!記念すべき1周年の日に、発達ナビから新しい機能をリリースしました!【新機能はこちら】発達ナビトップページからオレンジ色のボックスをチェックしよう!「発達障害にかかわりのある発達ナビユーザーさん同士だからこそ、共に語り合えることがある」という趣旨のもと、気軽に投稿し、交流できる新たな機能です。発達ナビの新コーナー「みんなのアンケート」って?Upload By 発達ナビ編集部気になる新機能の名前は「みんなのアンケート言いたい!聞きたい!」というアンケートコーナーです!現在、発達ナビのトップページである「タイムライン」には、FacebookやTwitterのようにフリーテーマで気軽にだれでも投稿ができるようになっています。今回の新機能は、「発達ナビユーザーさん同士だからこそ、他のみんなにも意見を聞いてみたい、考えや工夫を教えてほしい!」という具体的なテーマを設けて、みなさんから投稿を募集するというものです。これまでのようなフリーテーマでの投稿だけでなく、発達ナビユーザーさん同士で、同じテーマに紐付けて子育ての考えや出来事を共有していくことができます。笑いあり、涙あり、学びあり…!と様々なテーマを考えておりますので、ぜひみなさんも参加してみてくださいね。例)・これってADHDだから?何年たっても変わらない「わたしあるある」を募集!・子どものかんしゃくはいつ起こる?!発生エピソードを5・7・5で大募集「かんしゃくカルタ」・療育手帳の取得、家族でどんな話しをした?みんなの体験談を教えてください「みんなのアンケート言いたい!聞きたい!」はどこにあるの?「みんなのアンケート」の募集テーマは、タイムライン上に以下の図のようなオレンジ色のボックスで掲載されています。テーマは一定期間で次々と変更していく予定です。Upload By 発達ナビ編集部「みんなのアンケート」にはどうやって投稿するの?オレンジ色のボックスをクリックしていただくと、アンケート投稿の一覧ページにうつります。一覧ページにある投稿フォームを使って、投稿内容を書き込んでいただく仕様になっています。Upload By 発達ナビ編集部投稿していただいた内容は、タイムライン上、アンケート投稿一覧、ご自身のマイページの3つに表示されます。タイムライン上は、新着の投稿から表示されるようになっていますので、マイページの投稿履歴からの確認がおすすめです。タイムライン上かご自身のマイページから、アンケート投稿のグレーボックスをクリックしていただくと一覧でみることができます。Upload By 発達ナビ編集部マイページの投稿履歴にはこのように表示されます。Upload By 発達ナビ編集部タイムライン上かご自身のマイページから、アンケート投稿一覧へ移動します。そこにある投稿フォームより再度入力をお願いします。Upload By 発達ナビ編集部みなさんの投稿、お待ちしております!さっそくアンケート投稿をしてみるご利用上の注意事項のご案内 利用規約・ガイドラインについて投稿いただく際の注意事項は以下の通りです。【1】タイムラインの投稿は、誰にどこまで公開されるの?・ログインをしていないユーザーさんも一部閲覧可能です・コメントや♡を出来るのは、会員ユーザーさんのみとなります【2】 テキスト・画像を投稿するときの注意事項は?タイムラインにご投稿いただく際は、他者の著作権を侵害することの無いよう、以下の点にご留意ください。◇テキストについて書籍や記事等で他者が執筆した文章を投稿する場合、"引用符"で区切った上で出典を明記するなど、引用の要件に注意して、無断盗用・剽窃の無いようご注意ください。気軽な日常の投稿はじめ、ご自分で書き下ろしていただいた文章はお気軽にご投稿いただいて大丈夫です。◇画像について他者の著作物である画像の無断転載はご遠慮ください。・ご自分で撮影された写真など、ご自分に著作権がある画像・フリー素材サイトの写真など、自由利用が許可された画像などはご投稿いただいて大丈夫です。文化庁: 「著作権なるほど質問箱」【3】利用上の規約やガイドラインはあるの?LITALICO発達ナビ全体で、ユーザーの皆さまに守っていただくルールとして、「利用規約」がございます。一人ひとりの権利を守り、サービスを安全に維持・運営していくための、運営会社である株式会社LITALICOと、お客様であるユーザーの権利義務関係を定めた大切な「お約束」です。こちらも併せてご確認の上、タイムライン投稿をご利用ください。りたりこ)発達ナビ利用規約また、医療情報を含む投稿に関しては、以下のガイドラインもご参照ください。ユーザーさまによる医療情報に関する投稿の取り扱いについてこちらは2017年1月26日時点の仕様となっており、以降デザインや機能などの変更をする場合もございます。ご理解のほどお願いいたします。
2017年01月26日発達指数とは出典 : 発達指数とは、日常生活や対人関係などにおける子どもの発達の規準を数値として表したしたものであり、DQ(Developmental Quotient)とも言います。子どもの成長には個人差があり、一人ひとり異なる特性を持っています。しかし個人差がある一方で、発達の道筋や順序には共通して見られる特徴があります。子どもは成長するにつれて、視野を広げ、認識力を高め、まわりの人との関わりを深めていきますが、その経験が次の成長のステップにつながります。子どもが成長していくには、それぞれの発達段階に合った生活を送ることが大切です。そのため、発達を客観的に知るものさしの一つとして発達指数が使われています。発達指数は発達検査と呼ばれる検査によって知ることができます。発達検査で分かる「発達年齢(発達の状態がどのくらいの年齢に相当するか)」を「生活年齢(実年齢)」で割り、100を掛けて算出します。発達年齢と実際の年齢が同じ場合、発達指数の値は100と計算できます。そのため平均は100前後とされていますが、発達指数の値だけで子どもの発達状態を判断をすることはありません。あくまでものさしの一つであり、発達検査から分かる能力のバランスや日常生活の様子などを総合して子どもの発達状態を把握します。参考:子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題|文部科学省参考:発達検査とは?|てんかん情報センター発達指数を知ることができる年齢は?出典 : 発達指数を計ることができる検査としては、主に「新版K式発達検査」と「遠城寺式乳幼児発達検査」の2つが挙げられます。新版K式発達検査であれば生後100日後から成人まで、遠城寺式乳幼児発達検査であれば0歳0ヶ月から4歳8ヶ月まで、発達指数を計ることができます。適用年齢は幅広いですが、主に就学前の子どもが発達検査を受けることが多いです。小学生以上であれば、発達状態を計るよりも、知能検査によって知能を計るほうが一般的だからです。ただし知的障害がある場合など、知能検査だけでは発達の状態や障害の度合いを把握することが難しいケースでは、成人でも発達検査を受けることがあります。参考:発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン|厚生労働省発達指数を調べる目的出典 : 発達指数を調べる主な目的は、1. 子ども一人ひとりの発達状況を理解すること2. 発達段階に合った適切な学習指導や支援を受ける際のヒントを知ることの2つです。注意点として、乳幼児においては、検査を受ける際の子どもの状態や環境に左右されるため、発達指数の値は変動しやすいといったことが挙げられます。そのため1歳6ヶ月健診などにおいて、発達指数の値が低く出てしまったために、軽度の知的障害の可能性を指摘される場合もあるようです。しかし知的障害があるかどうかの判断は、発達検査や知能検査の結果を長期的に把握しながら行う必要があります。発達指数はあくまで発達状態を知るものさしの一つです。発達指数だけでなく、発達検査から分かる発達の特徴、検査を受けている時の様子、日常生活の様子を総合して発達状態を判断することが大切です。発達指数の値だけにこだわるのではなく、定期的な検査結果から分かるお子さんの発達のペースや発達の特徴に注目するようにしましょう。発達指数と知能指数の違い出典 : 発達指数が子どもの発達の基準を数値化したものであるのに対し、知能指数とは人の知的能力(認知機能)の基準を数値化したものです。ここではそれぞれがどのように使われているのか、適用年齢に差はあるのか、検査内容の違いについてご紹介します。・目的発達指数は一人ひとりの子どもの発達状態を知る、知能指数は知的能力の発達に遅れがあるかどうかを知るために使われるものです。適切な学習指導や支援を受ける際のヒントを知るという目的はどちら検査にも共通していると言えます。知能指数と発達指数のどちらを用いるかは、年齢や障害の程度、疾患の種類などによって変わってくるため、専門家の判断によります。また知能検査と発達検査の両方を受ける場合もあります。・適用年齢発達指数は0歳から成人まで計ることができます。就学前の子どもが発達検査を受けることが多いですが、成人でも発達や障害の程度を知るために発達検査を受けることがあります。一方、知能指数は2歳から成人まで計ることができます。子どもに発達障害がある場合、乳幼児期からその兆候が表出することも少なくありません。しかし発達初期の乳幼児の発達状態を、通常の知能検査によってとらえることは困難だとされています。乳幼児は心理的、身体・運動的、社会的側面の発達が十分でないため、知能のみを検査によって測定することは難しいからです。・検査内容発達指数は発達検査によって知ることができ、知能指数は知能検査によって知ることができます。発達検査はガラガラや積木、ミニカーといった乳幼児にとってなじみのある材料を用いた検査です。それに対して知能検査は主に小学生以上を対象としているため、言語や書字などを用いて回答する問題が多くあります。知能指数も発達指数もその数値だけで、障害や疾患の確定診断をすることはありません。発達検査や知能検査を受けたとしても、診断を受けるかどうかは、本人や保護者の希望によります。乳幼児健診などにおいて、発達の遅れの可能性を指摘された場合も一度の検査だけでなく、定期的な発達検査の結果によって疾患や障害を見分けたり、診断していく場合が多いようです。さらに2歳からは知能検査を受けることができるため、だんだんと知能検査を中心に受けることになります。障害や疾患によっては、年齢が上がらないと見分けられない場合もあるため、長期的にお子さんの成長を把握していくことが大切です。発達検査を受けることで広がるメリット出典 : 発達指数と発達検査から分かることを組み合わせてどのようなメリットがあるかご紹介します。・相談機関で子どもの成長に対するアドバイスをもらえる児童相談所などの相談機関では、「検査報告書」をもとに今後のお子さんの成長に対してアドバイスをもらえます。「検査報告書」は発達検査を受けたあとにもらえるもので、検査結果や今後日常生活において注意すべきことが記載されています。発達指数の値は「数値結果」欄にあります。相談機関によるアドバイスによって、例えばお子さんの苦手な部分に対し、「なぜ苦手なのか」を知ることができます。また苦手なことだけでなく、お子さんの検査に取り組む姿勢やプロセスなども教えてもらえるため、「総合的にどう成長しているか」を把握することができます。・小学校就学のヒントを得ることができる発達検査から分かることを小学校就学の際に活かすことができます。家庭では特に気になることがない子どもでも、幼稚園などで集団生活に参加することで困りごとが現れる場合もあります。そのような場合、小学校就学を前にして不安になる保護者の方も少なくないようです。お子さんの発達に気になる点があれば発達検査を受け、早めにお子さんの得意・不得意を把握しておくことで、小学校就学後にもどのような支援をしていけば良いか、検討しやすくなるでしょう。さらに発達検査の結果や発達指数の値によっては、療育手帳をもらえる場合があります。療育手帳があることで、特別支援学級といった就学の選択肢を広げることができます。療育手帳については、記事の後半で詳しくご説明します。発達指数を知りたい時は?出典 : 小さいお子さんの場合は、乳幼児健診の際に相談してみましょう。乳幼児健診では、お子さんの身長・体重測定や診察のほかに、日頃の疑問点や悩みごとについて質問できます。特に保健センターで受ける場合は、医師、保健師、心理士などの専門のスタッフに相談することができます。また乳幼児健診では、発達の遅れの可能性を見極める精密検査が必要かどうかを判断するスクリーニングが行われます。スクリーニングにおいて気になる兆候が見られた場合は、保健機関での相談、発達検査の受検、医療機関での2次スクリーニングなどをすすめられることがあります。そのほかで発達検査の受診を検討する際は、まずはお住まいの地域にある身近な相談窓口に行くと良いでしょう。子どもか大人かによって、行くべき相談機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童相談所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談をすることができる場合もあります。発達検査は、公的病院や民間病院で受けることができます。精神科や臨床心理士による検査が受けられる病院を受診すると良いでしょう。「児童発達支援センター」などで受けることもできます。発達検査の受け方、費用は、検査内容や病院によって異なります。検査は基本的に誰でも受けることができますが、特に発達に関して気になる点がないと医師が判断した場合は自費となります。検査を受ける際は、まず病院に問い合わせてみましょう。さらに発達検査の結果を受けて、専門機関で確定診断を受けたい場合は発達検査を受けた機関に問い合わせるか、もしくは改めて相談機関(保健センター、子育て支援センターなど)に問い合わせてみてください。発達指数を知ることができる発達検査の内容出典 : 発達検査にはさまざまな種類がありますが、この章では主に発達指数を知ることができる2つの検査について紹介します。これらの検査は、任意で受検することも可能ですが、基本的には相談機関や病院ですすめられて受検することが多いです。適応年齢:生後100日後~成人検査項目:328項目(「姿勢・運動領域」、「認知・適応領域」「言語・社会領域」の3領域で構成)それぞれの年齢において、一般的と考えられる行動や反応と、対象となる方の行動や反応が合致するかどうかを評価する検査です。検査は、「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価されます。なお、3歳以上では「認知・適応」面、「言語・社会」面の検査に重点が置かれます。検査結果としては、この3領域の「発達指数」と「発達年齢」が分かります。適応年齢:0歳0ヶ月~4歳8ヶ月検査項目:151項目(移動運動、手の運動、基本習慣、対人関係、発語、言語領域)「運動」「社会性」「理解・言語」の3領域6の質問項目から構成されています。上記の発達検査は発達指数や発達の全体像を知る検査です。これらの検査結果をふまえたうえで、特定機能の発達を計る検査と組み合わせることもあります。なぜなら発達指数の値が正常だった場合でも、異なる検査によって発達における課題を見つけることができるからです。例えばIPTA言語学習能力診断検査であれば、学習障害や言語発達の遅れを見つけることができます。発達検査を受けてもお子さんの発達に心配な点がある場合は、他の検査を検討してみても良いでしょう。発達指数の値によって療育手帳をもらえることも出典 : 発達指数の値だけで受けられる支援はありませんが、発達指数の値は療育手帳の取得判定の際に参考とされます。療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された場合や、知能指数が75以下(自治体によっては70以下)の場合にもらうことができるとされています。乳幼児の場合は、知能指数の代わりに発達指数を指標とすることができます。療育手帳を貰う流れとしては、まず発達検査を受けて発達指数を知り、指定された医師による診断書を用意する必要があります。注意点として、知的障害の程度は年齢とともに改善が見られることがあるため、療育手帳の更新ごとに障害の等級が変わるということが挙げられます。特に乳幼児においては、発達指数の値は変化しやすいので、更新期限までに必ず再判定を受け、適切な支援を受けられるようにしましょう。障害の判定は発達指数に加えて、日常生活における能力を総合して行われます。療育手帳の基準は地域によって異なりますが、参考までにここでは東京都が交付している「愛の手帳」の例をご紹介します。◇判定基準知能測定値、運動、社会性、意思疎通、身体的健康、基本的生活の6項目を0歳~6歳の子どもの判定基準としています。知能測定値として、知能指数や発達指数を用います。◇区分知能指数や発達指数の値と日常生活における能力を総合し、最重度~軽度の4区分に判定されます。参考:愛の手帳|東京都福祉保健局療育手帳を貰うことで以下のようなメリットがあります。・保育園入園時など保育・教育面での援助・公共交通機関などの割引・レジャー・スポーツ施設などの割引・給付・税の減免や控除に役立つ・就労に向けての支援さらに療育手帳を持っていることで特別支援教育を受けたい際に役立ったり、特別児童扶養手当を貰えたりする場合もあります。自治体によって異なるため、地域の相談機関に相談してみることをおすすめします。まとめ出典 : 発達指数はあくまで発達の度合いを計るものさしの一つです。発達指数の値が低いからといって障害があると決めつけることはできませんし、年齢によって改善されることもあります。そのため発達指数の値だけを見て思い込みをせず、発達検査から分かるお子さんの得意・不得意にも注目し、サポートにつなげることが大切です。客観的、総合的に成長を捉えることで、お子さんに合った学習指導や支援を見つけることができるでしょう。お子さんの発達が気になる場合は、児童相談所などの相談機関に相談し、長期的にお子さんの成長を把握していくようにしましょう。岩﨑 清隆・岸本光夫/著『発達障害の作業療法実践編』2015年三輪書店小山正/著『乳幼児臨床発達学の基礎』2006年培風館/刊
2017年01月09日発達障害で働いている人はどのくらいいる?出典 : 発達障害とは、先天的な脳機能障害によって、発達に何らかの遅れや偏りなどの症状が、通常低年齢において発現する障害です。日本における発達障害の定義は平成16年に制定された発達障害者支援法によって定められており、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の基準に準拠しています。発達障害者支援法における発達障害の定義は以下になります。この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。そもそも発達障害のある大人が日本にどのくらいいるか、はっきりした統計的なデータはありません。文部科学省の2012年の調査によると、通常学級に在籍する児童・生徒の中で発達障害の特徴を示す子どもは全体の約6.5%、つまり約15人に1人の割合でという結果になりました。これは、診断を受けている人の数ではありませんが、障害の傾向のある人まで含めると、社会の中にもかなりの数の発達障害のある人がいることを示唆しています。発達障害がある人の中には成人して特性を生かした職業に就いたり、能力にあう職業を選び、雇用されている人もたくさんいます。2011年の障害者職業総合センターの調査によると、- 障害者を積極的に雇用している特例子会社105社のを対象にしたアンケートで、特例子会社で働く療育手帳(知的障害のある方が取得する手帳)所有者が1798人、精神障害者保健福祉手帳を所有している人が198人いて、両者の中で発達障害があると把握されている人は203人という報告があります。ですが、発達障害のある人の中には療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を取得していない人や、障害を開示しないで働いている発達障害の人が多いと考えられます。そのため、実際にはより多くの発達障害のある方が、様々な仕事に携わり、様々な職場で働いていると言えるでしょう。出典:「 発達障害者の企業における就労・定着支援の現状と課題に関する調査研究」(2011年)|障害者職業総合センターHP大人の発達障害、いつ診断された?きっかけは?Upload By 発達障害のキホン発達障害は発達期(~18歳)に発症するとされていますが、障害に気づくタイミングはそれぞれです。子どものころから診断結果が出ている人や、大人になってから何かをきっかけに診察を受け、気づいたという人もいます。母は私が小さい時から「おかしい」と思っていました。小学1年生の時、担任に「学習障害」を相談しましたが「違う」と言われ、中学でも担任に相談しましたが違うと言われました。私自身も、小学生の時点で自分の「変さ」には気づいていました。辛かったです。でも、「発達障害」という言葉自体なく診断されませんでした。近年、発達障害が広く知られるようになってきましたが、かつてはあまり理解を得られず、見過ごされていた人も多いようです。大人になって発達障害に気づくきっかけになるのは、例えば仕事上のミスや、社会人として生活する上で人間関係がうまく築けないなどの悩みなどです。これらのストレスからうつ病などの二次障害を発症し、精神科などを受診して発達障害に気づく人も少なくありません。ですが、大人になってからでも専門家の支援を受けることで自分の特性に気づけたり、対処法を学ぶことは十分にできます。もちろん、日常で問題や障害を感じずに社会に適応している発達障害の人もいますし、現在発達障害の根本的な治療法もないため、必ずしも診断を受けなければいけないわけではありません。私は13年前にうつ病と診断され、6年後に双極性障害と再診断されました。現在は双極性障害2型とパーソナリティー障害が病名になっています。解離性障害で入院していた時期もあり、過去10人以上の医師に診てもらいましたが誰1人私の「発達障害の可能性」を指摘しませんでした。今までのどの診断名も自分にしっくり合わず間にあわせ的な違和感を感じていた私が自ら調べた結果、「根底にあるのは発達障害で双極性障害その他はその二次障害である」という結論にたどり着き、医師にそれを相談したところ診断に「発達障害疑いあり」が加わりました。このように大人になってから新たに発達障害だと医師から診断されることもあります。大人になってからでも、なんらかの困りごとに直面したり、疑いを持った場合はまず専門機関に相談しましょう。発達障害者支援センター・一覧検診で子供の発達障害の疑いを指摘されたことをきっかけに、自分もWISC検査と診察を受け、自閉症スペクトラムグレーゾーンと診断されました。お子さんの発達障害をきっかけに、自分の障害に気付いた方もいるようです。大人の発達障害、特性に合った仕事・難しい仕事は?出典 : 注意欠陥/多動性障害(ADHD) の人の特徴は、集中力が長時間保てなかったり、落ち着きがない、物忘れをしがちといった行動が目立つため、周囲からやる気がないというような誤解を受けがちです。仕事上では、不注意から同じミスを何度もしてしまうこともあります。また「臨機応変に対応を」と言われ、本人は工夫したつもりが、やりすぎてしまい相手の意図とそぐわないことをしてしまうこともあるかもしれません。しかし、一方ではアイデア力、行動力や独特の感性を発揮し、営業職や企画・開発などで評価され活躍している人もいます。ADHDの人全員に当てはまるわけではありませんが、一般的にミスが絶対に許されないような作業などは不向きともいえます。一方で、ADHDのある人は以下のような強みがある人も多いのです。・興味のあることに対して情熱を持ち、高い集中力を発揮する・アイデアが豊富で、固定概念にとらわれず自由に考えられる・行動力がある・素晴らしいひらめきをすることができる・独特の感性をもち、考えることができるなどどちらかというと、芸術家・音楽家やデザイナー、CGアニメーター、ゲームソフトやコンピューターソフトの製作者、研究・開発者などクリエイティブな仕事が向いています。また行動力を活かしセールスマン・営業職や起業家・企業家として活躍する人もいます。自分の特性に合った職業に就くことができれば、注意欠陥/多動性障害(ADHD) の人も強みを活かして活躍しやすくなります。時間や仕事のリズムにも自由度が高く、うっかりミスも取り返しがつくような、新しいアイデアや変化を問う仕事が向いています。自閉症やアスペルガー症候群などを含む、広汎性発達障害(PDD)・自閉症スペクトラム(ASD)の人は、相手の気持ちや場の空気を読んだり、コミニュケーションをとるのが苦手ということが多いです。また、イレギュラーなことやはじめての経験にスムーズに対応するのが難しいこともあります。これらはあくまで傾向にしかすぎず、全ての広汎性発達障害の人がこの特徴に当てはまるわけではありません。併存する知的障害の重さや一人一人の特性にもよりますが、対人関係が苦手な人は接客業はストレスが多いでしょう。現場で臨機応変な対応が求められる職業は向いていないかもしれません。広汎性発達障害の人の中には、こだわりを持ち、パターン化されたものを好む人が傾向としては多いそうです。そのため、同じ作業を繰り返すルーティンワークで強みを発揮する場合があります。一度仕事のやり方を覚えると効率よくこなす人も多く、職場で高評価を受ける人も多いのです。また、自分にしかわからないような強いこだわりを持っているので、研究や創作などでは群を抜いた能力を発揮することも多いのです。具体的にはデザイン関係の仕事やプログラマー、コンピュータ関連の仕事で力が発揮できると思われます。集中力があり、普通の人では集中力をきらしてしまうような細かい仕事もコツコツと続けることができ、物事を深く追求したりルールに基づいて整理・分析したりするエンジニアや研究者といった仕事、校正者や職人などの特殊技能を必要とする仕事などに向いています。学習障害は、能力の凸凹や特性の偏りが多く、苦手なことにかなり個人差がある障害です。そのため、向いている仕事、向いていない仕事も人によって様々であると言えます。本人の特性を理解し、得意な分野を活かせる仕事につけることが理想ですね。向いていない仕事は一概には言えませんが、苦手な業務が多い仕事内容だと、困難な場面も増え、ストレスを感じることも多くなるかもしれません。一方、別の手段で代替できたり、職場の理解や協力があれば乗り越えられる可能性も大いにあります。たとえば、算数障害(ディスカリキュリア)のある人の場合、日々、多くの計算が業務に必要な仕事は苦手かもしれません。ですが、計算機で解決できる場合もあります。同じ小売業でも、暗算が苦手な場合、お釣りを計算しなければいけないお店の会計業務は向いていないと言えますが、バーコードを読み取るだけのレジであれば、問題ないこともあるでしょう。また、書字障害のある人は、文字を書く業務が苦手かもしれませんが、パソコンでタイプしてプリントすればよいこともあります。読字障害のある人も、音声読み上げソフトを使用したり、録音することで困難が解消できることもあります。苦手な分野を避けることは働き続ける上で大切ですが、テクノロジーや手段を替え工夫することでうまくいくこともあるので、「この仕事は無理」と決めつけてしまう前に検討するのがよいでしょう。実際に、様々な障害特性を乗り越えて作家、映画監督、発明家、俳優など様々な職業で活躍している人もいます。障害特性と向き合いつつも、自分が希望する仕事に目を向ける、という進路も選択肢の一つかもしれません。人のストーリー|発達ナビ大人の発達障害、仕事の探し方は?Upload By 発達障害のキホン発達障害に関する就労支援は、現在、よりよい対応体制を整えている状態です。特別支援学校などでは、卒業後に就職できる企業の紹介もあります。通常学級でも高校、大学ともに進路指導の先生に相談することも可能です。まず、最寄りのハローワークでの相談をおすすめします。障害者雇用の窓口もあるので、そこでご自身の発達障害の特性について伝え、仕事を探していること、仕事をする上で不安に感じていることなどの相談をすることができます。障害者を対象とする障害者合同就職面接会などの情報を得ることもできます。障害者向けの支援を希望しない場合でも、ハローワークできめ細やかな相談・支援を実施してくれます。適職があれば求人に応募してもよいでしょう。「若年者コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」として、発達障害などでコミュニケーションに困難を抱えている場合の支援も行っており、不安がある場合には、発達障害者支援センターや医師との連携をとってもらうことができます。適職を自分では探すことが難しい場合には、適職を探す方法や調べてもらえるところも紹介してもらえます。就職に不安をかかえている場合には、就労移行支援という方法で就職をすることもできます。これは障害者総合支援法に基づいた支援で、就労移行支援事業所が各都道府県や政令都市の認可を受けて民間が運営しています。この就労移行支援は手帳を取得していなくても医師の診断書や意見書など、支援の必要性を示す情報があれば利用することができます。まずは最寄のハローワークや就労移行支援事業所に連絡をとってみましょう。ハローワークでは、発達障害のある人が就職された場合、その事業主に対して助成を行う「発達障害者雇用開発助成金」という制度を設けています。他にも「障害者トライアル雇用奨励金」という短期間の施行雇用を行い、仕事に慣れることで実際の雇用につなげる制度もあります。詳しい情報は以下のリンクを確認してください。実際に働いてみると仕事が想像していた仕事内容と大きく異なった、と離職を希望される場合も少なくありません。仕事を探す際には、似たような職種で職務経験を積んでいく方法や、希望の会社でまず一定期間働くことが可能なのか、聞いてみる方法もいいでしょう。より自分の得意・不得意を理解し、どの仕事ならこなせるか、やりがいを持てるかどうかを把握するヒントになるかもしれません。発達障害者支援センターでも「就労支援」を行っています。本人や家族からのあらゆる相談ができ、必要に応じた施設や医療機関の紹介もしてくれます。就労に関しては特性や障害の状況に適正な就労先を紹介してくれたり、雇用後にも個人の必要に応じて支援を行ってくれます。発達障害者支援法第3章第14条に基づき、都道府県・指定都市に設置されています。就職後も相談に乗ってほしい場合はジョブコーチによる支援を受けることもできます。これは、就職後、職場にジョブコーチが出向き、職場でうまく仕事をしていくための支援をしてくれる制度です。若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム発達障害者支援センター・一覧参考:障害者就業・生活支援センター療育手帳や精神障害者福祉手帳を取得している場合はいわゆる「障害者雇用制度」の対象となります。・手帳所持者を事業者が雇用した際の、障害者雇用率へのカウントの対象となり、障害者雇用枠での就職ができる・障害者職場適応訓練を受けられるなど、就職への支援が受けられます。実際に障害者雇用制度を利用して就労する人の数は年々増加しています。ですが、希望している職種や企業が障害者雇用枠で募集しているとは限らないこと、賃金などの面で希望と合わないこともあるでしょう。一般の求人に応募したい場合などには、手帳を持っているからといって必ずしもこの制度を利用しなくてもよいですし、手帳取得者であることを報告する義務はありません。制度を利用するかどうか、よく考え、支援機関などと連携し、相談しながら進めていくとよいでしょう。障害者雇用対策|厚生労働省障害者雇用対策|厚生労働省大人の発達障害、会社や同僚へ開示・報告はした方がいいの?自身に発達障害があることを職場に伝えた方が良いかどうか、迷う方が多いのではないでしょうか?会社へ障害があるということを報告するかどうかは、一人ひとりの状況によるので一概には決められません。診断のみでは雇用上「障害」としては認められない現状があることも考慮したほうがよいでしょう。そのため診断とともに障害者手帳を取得しているかどうかでその意味合いが変わってくる場合もあります。一般就労をしている場合、会社に報告するか否かは、障害に理解のある会社であるかどうか、報告することで仕事をしやすくなるかなどを考慮して決めた方が良いと言われています。会社に報告する人が多くなってきていることは事実ですが、周りや会社には報告しないことを選択している人も少なくありません。一方、報告することによって周りからの理解が得られ、離職率が低下するということも考えられます。報告した際のメリットとしては、サポートを受けやすくなったり、フォローしてもらえるようになるということがまず挙げられます。また業務の相談もしやすくなると思いますし、以前より職場環境を快適に感じることにつながるかもしれません。2016年4月に障害者差別解消法が施行され、不当な差別的取扱いを行ってはいけないこと、企業や行政はできる範囲で合理的配慮を行う努力義務があることが定められました。このため、職場でも合理的配慮をお願いしやすくなりました。しかし中には偏見を持ったり、あまり障害に対して理解をしてくれない人がいないとは限りません。発達障害について詳しい知識のある人は少ないので、仕事上での困難や起こりうる問題と、要望などを伝えるようにしましょう。また、障害があるという報告をする場合は人を選んで報告し、仕事のどういうところで具体的にフォローが必要かを伝えるのが良いと思います。デリケートな問題ですので、迷ったら自分だけで決めずに、発達障害者支援センターなどの専門機関に相談することをおすすめします。一方で、発達障害を開示・報告した場合でも、職場や周囲に偏見が無理解があれば、職場で差別・虐待を受けてしまう可能性もゼロではありません。こうした深刻なケースでは、本人から周りに助けを求めるのが難しい場合もあるので、周囲の人が虐待に気づいた場合、各市町村の障害者虐待防止センターなどの専門機関に虐待の存在を知らせましょう。本人からの申告も可能性です。またこの虐待は就業場に限らず家庭内の虐待も含みます。障害者虐待防止センターに虐待を相談すると、支援・指導を受けることができ、問題の糸口を探す手伝いをしてくれます。強制的に仕事や家族から隔離されたりすることはありませんので、安心して相談することができます。発達障害の仕事での困りごと・よくあるミスと対処法出典 : 発達障害のある人の中には、社会的な「暗黙のルール」というものに気づきにくいという特性も持っている方も多く、周りの人が忙しくしている時や、助けを必要としている状況に気づかず、手伝うことができない場合があります。また決められたこと以外のイレギュラーなことが苦手な特性のある場合、指示をされないと動かない・自分の仕事が終わったら他のことは何もしようとしない、などと周りから見られてしまうことがあります。【対処方法】具体的な指示があると動きやすいという特性を伝え、「具体的に今時点で何を手伝ってほしいのか」指示してもらうようにします。その仕事を終えたら、次の仕事をまた具体的に指示してもらうようにします。複数の仕事を同時に並行して行うことや、脳と体の複数部を同時に動かすことが苦手なこともあります。一つの業務の間には、わずかな時間でも休憩を挟み、終わった仕事に対して評価をしてから、次の仕事をするといった工夫をするとよいでしょう。時間の管理が苦手で、遅刻しがだったり、仕事の手順が就労時間で計画できない場合があります。スケジュールの調節、優先順位だけでなく、仕事に対して熱心に取り組んではいても、こだわりが強すぎて自分の納得いくまで作業を終わらせることができずに、納期が守れないといったこともあります。【対処方法】仕事の完成度が高いことも重要だが、納期を守ることも大切だということを理解しましょう。「納期」とはなにか、具体的にして再確認し、作業のスケジュールを「見える化」すると良いでしょう。またスケジュールは自分だけでなく、複数の人に管理してもらうなどがあります。具体的には以下のような工夫をするとよいでしょう。・作業内容を細分化して書き出し、それを見えるように張り、作業終了目標時間の5分前にアラームをセットする。・終わった作業にはチェックをし、終わった作業への充実感を感じられるようにする。・仕事の計画や優先順位を決めることが苦手な場合、スケジュールをほかの人に管理してもらい、ひとつの仕事を終えたら、次の仕事を具体的に指示してもらうようにする。周りが気になってしまって、やるべき仕事に対しても集中力が続かない場合があります。また、興味がない仕事の場合、会議中などの大事な席でも居眠りしてしまうことも。頼まれていたことを忘れてしまったり、集中力が続かないことが原因で、仕事がスムーズに終わらなかったり、やる気のないような印象を与えてしまい、接客などで様々なトラブルを起こしてしまうことも少なくありません。【対処方法】怠けているという訳でもなく、集中力が続かないという特性を持っている場合は、周りの人に自分の特性を説明し、理解してもらえるようにつとめます。何か別の考えごとをしているな、と感じたら、声をかけてもらえるようお願いしてみましょう。他のことを考えはじめたことに気付いてもらい、今やるべきことがあるのに他のことを考えてミスしてしまうのを防ぐためです。指示を忘れないようにメモの習慣をつけましょう。集中力低下時の居眠り防止には、睡眠不足にならないように心がけることも大切です。またデスクワークなどで気が散ってしまうときは、集中できるよう環境調整をすることも効果的です。デスク周りを片づけて集中できるようにしたり、聴覚過敏がある場合は相談してイヤーマフなどの使用許可をお願いするのもよいでしょう。「想像力の障害」や「コミュニケーション能力の障害」により、敬語の使い方が困難な場合もあります。本人が正しいと思って使っていた言葉使いが、仕事の上では失礼にあたったということに気づけないことがあります。また距離感をうまくつかめないという特性もあり、近くにいるのに声のボリュームが大きすぎて相手を驚かせてしまうこともあります。【対処方法】自分中心の話ばかりでなく、相手が話しているときは意識的に相づちをうつようにするとよいでしょう。場所やその場の雰囲気、相手に合った会話の内容や態度、表情などを意識するということを、ひとつずつクリアしていくようにします。相手のお世辞を正直に受け止め過ぎてしまうことがあるので、注意しましょう。まとめ出典 : 参考:『発達障害者と働く』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)発達障害のある人が就業する場合、多少の困難はもちろんつきものです。職場の方から偏見を受けたり誤解されてしまうこともあります。発達障害は、一見して外からは見えにくいため、他人には障害があることが理解されにくい場合があります。自分でも自覚が少なく、仕事ができないと他人と比べて落ち込むこともあるかもしれません。しかし、自分の障害特性を理解することで適切な支援も受けられますし、必要な配慮を周囲の人に伝えやすくなります。発達障害だということを職場に告白し理解してもらうのは勇気のいることですが、仕事の円滑さやストレス軽減のための手段のひとつであるとも言えます。仕事がスムーズにいかないのは、本人の能力不足や怠け心があるというのではありません。今勤務している職場環境を改善したり、適職を見つけることのできる相談機関が全国にありますし。それによってサポートを受けながら、働きやすい仕事の環境で継続的に働いていくことも可能なのです。深呼吸し、ひとつずつ課題をクリアしていくように、業務の手順や対人関係の工夫を身につけていきましょう。自信をもって働ける職場環境をつくったり、より適切な職場を見つけたりすることで、仕事や生活全体の充実が得られるようになるでしょう。頑張り過ぎず、自分のペースでいられる時間を持つことで、バランスをとっていきましょう。参考:法令データ提供システム「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」2012年
2016年12月15日LITALICO初の書籍が発売!Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)発達ナビの運営会社である株式会社LITALICOの代表、長谷川敦弥の新著が発売されました。SB新書から、『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。』というタイトルでの発売です。LITALICOがこれまで学習支援や就労支援のサービスの中で出会ってきた方々のエピソードを中心に、それぞれ違った個性を持った方たちが、どのように自分にあった学び方、働き方を見つけていったのかをご紹介するとともに、多様な個性が活かされる「障害のない社会」とはどのような社会なのか、私たちのビジョンや想いを記した書籍です。発達ナビ編集長である私も、この書籍の構成・編集に携わりました。これまで、発達が気になる子どもたちの学習支援教室や就労支援センターの現場スタッフとして、また自分自身の特性に悩んだ日々も思い出しながら、同じようにご自身やお子さんの将来について悩める方々に届けられるようにと編集させていただきました。『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。』新著の構成と見所は?以下では、書籍の構成とともに、各章の見所をご紹介します。『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。 』第1章:ADHDはぼくの強み第2章:子どもが一番の先生だ!第3章:子どもの心に火をつける第4章:「多様性」を力に変えていく働き方第5章:障害のない社会をつくる-------------第1章は、LITALICO代表である長谷川敦弥自身の人生のエピソードです。ADHDの特性を強く持つゆえに、周囲との関わりに悩んだ幼少期の学校生活。人生の転機となる焼肉屋の店長夫妻との出会い。上京後、自身のADHD的特性を活かして働き、LITALICOを運営するに至るまでの歩みをお伝えします。第2章は、発達支援の教室「LITALICOジュニア」で出会った子どもたちのエピソードです。「困った子だ」「問題児だ」と言われているその子自身が、実は一番困っている。お子さんの特性を理解し、その子が過ごしやすい環境づくりをしたり、その子ならではの学習方法を探して成功体験を積み重ねることの重要性などについてお話します。第3章は、IT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」で出会った子どもたちのエピソードです。学校で決められた「枠」からはみ出る子どもたちが、自分の「好き」や「得意」を伸ばしていくことで、苦手を克服したり、新たな進路を切り開いていったエピソードをご紹介します。第4章は、働くことに障害のある方を支援する「LITALICOワークス」の利用者さんのエピソードです。困難と直面しながらも自分らしい働き方を諦めずに探し続け、一人一人違う自分だけの「天職」を掴み取るまでの過程をご紹介します。ご自分の特性や働き方に悩まれている大人の発達障害当事者の方だけでなく、お子さんの将来について悩まれている保護者の方の姿を思いながら、執筆・編集いたしました。第5章は、こうした取り組みを続ける中でLITALICOが大切にしている思い、発達ナビなどのメディア発信や、研究・政策提言活動を通して、「障害のない社会」をどのように実現していきたいかを記しました。発達ナビ読者のみなさまにも、ぜひお読みいただきたい内容となっております。書店やネットショップで手に取っていただけると幸いです。『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。』立ち読みページ『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。』
2016年12月12日発達障害とは出典 : 発達障害とは、先天的な脳機能の障害で、想定される時期に年齢相応の発達が見られない、または年齢相応のスキルが獲得できないことで起きる障害を指します。その症状は、通常低年齢の発達期において発現します。2005年4月に制定された発達障害者支援法では発達障害は以下のように定義されました。この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。発達障害はいくつかのカテゴリーに分類され、診断基準によって多少異なりますが、大きく分けて「広汎性発達障害(PDD)」「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」「学習障害(LD)」の3つに分類されます。広汎性発達障害には自閉症やアスペルガー症候群などのコミュニケーションの障害が含まれますが、アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)という障害名に統合されています。また『DSM-5』ではADHDは注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害、学習障害は限局性学習症/限局性学習障害という診断名となります。これらの発達障害の中には知的障害が併存する場合もあります。Upload By 発達障害のキホン発達障害の原因は?出典 : 発達障害の症状は、先天的な脳機能障害が原因となって生じます。ですが、その詳細なメカニズムや、なぜその脳機能障害が引き起こされるのかははっきりとは解明されてはいません。研究が進み、発達障害の一部について証明された事実であったり、関連が指摘された要因については少しずつわかってきました。ですが発達障害の症状は様々であり、原因も多様であると考えられ、全ての人に当てはまる原因はないのではないかとも言われています。一方で、かつて言われていた「親のしつけ方・育て方が悪い」「親の愛情不足」といった心因論は現在では医学的に否定されています。以下に、現在考えられている発達障害の原因とそのメカニズムをご紹介します。発達障害の原因はまだはっきりとは解明されていないものの、発達障害を引き起こす脳機能障害には遺伝的要因が関連している可能性が指摘されています。例えば、広汎性発達障害に関しては、1970年代から盛んに双生児研究が行われ、一卵性双生児間では発現率が5~7割ほどという研究結果が多くあります。この数値は二卵性双生児の場合より高いと言われています。一卵性双生児は遺伝子情報が同じです。その一卵性双生児で一人が広汎性発達障害だと二人とも広汎性発達障害になる可能性が高いという結果が出たことは、何らかの遺伝子要因が広汎性発達障害と関連があることを示唆しています。また現在では、遺伝子研究が進み、染色体の一部分の重複により生じる発達障害があることや、それに関連する遺伝子がいくつか発見されています。ですが、一卵性双生児間での一致率が100パーセントではないことなどから、発達障害が単純な遺伝的要因だけで発現するわけではなく、現在では関連する遺伝子が複数あることもわかってきました。また、「親の育て方」という説や、MMRワクチンの接種が原因とする説など、研究の結果否定された環境要因もありますが、子どもの心身は、胎児期から発達期にとる睡眠や栄養、周りの人との関わりといった様々な要因によって支えられ、発達していきます。そのため、環境要因が全く関わりがないと考えることはできません。これらのことから、現在、発達障害にはなんらかの遺伝的要因が関わっているが、その他のさまざまな環境要因と複雑かつ相互に影響し合って発現するという考えが主流になっています。つまりある特定の遺伝子があれば必ず発症するというわけではなく、また遺伝的な要因と言っても親から子へ単純に遺伝するという意味ではないのです。さらに発達障害は、1つの原因による1つの道筋ではなく一人ひとり違った道筋を経て発症すると考えられ、全ての人にあてはまる要因を解明するのは難しいのではないかとも言われています。発達障害はどうやって発症するの?出典 : 発達障害が発症し、それが明らかになるまでには以下のようなステップがあります。1. 発達障害のもととなる脳機能障害が生じる発達障害はなんらかの遺伝的要因をもつ、つまり発達障害になりやすい体質が先天的にある人が、胎児期や出生後に脳や心身が発達する中で様々な要因の影響を受け、脳機能障害を生じることで起こると言えます。2. 脳機能障害により認知や感覚の偏りを引き起こされるそうした脳機能の障害や偏りによって、認知の方法や感じ方に違いが生まれ、それが様々な行動特性を引き起こすのではないかと言われています。例えば、情動を認知したりコントロールをする前頭葉や扁桃体などの機能に障害があり、そのために気持ちのコントロールやコミュニケーションをとるのが難しいのではないかという説もあります。また、発達障害のある人は記憶の仕方に特性があるといわれています。そのために非常に記憶力が高かったり、ワーキングメモリと呼ばれる情報の処理や記憶の仕組みにトラブルがあったりする人がいます。刺激を認識する機能になんらかのアンバランスが生じる人もいます。たとえば刺激を感じやすい感覚過敏や、逆に刺激を感じにくい感覚鈍磨がある場合もあります。3. 発達の遅れなどの症状が現れ、問題や困りごとが明らかになる発達障害の症状の発現時期は人によって異なります。最近では早期にそのリスクを発見するため、特に自閉症スペクトラムや広汎性発達障害などではアイ・トラッキング・システムなどを使い、初期症状を見つけるための研究も進められていますが、一般的には症状が顕著に発現するのは幼児期頃からと言われています。乳児期には周りの子どもとコミュニケーションをとったりすることもあまりなく、また個人差も大きい時期なので、はっきりとはわからないことも多いのですが、集団参加や社会的な機能が要求される時期になると、行動面や対人関係・社会性の側面でなんらかの症状が目立ち始めると言われています。きっかけとしては以下のような場合に、発達障害がある可能性に気づき、なんらかの支援を受けることが多いようです。・1歳半や3歳健診などの乳幼児健康診査や小児科などで発達の遅れを指摘される・園や学校に進んで集団生活がはじまり、コミュニケーションなどで困りごとが起きる・子育ての悩みを相談するまた、学習障害の症状の発現時期については、目立った症状が見られるようになるのは読み書きを覚え始める就学前の年齢になり、学習を開始してからだと言えます。また、幼少期の特性の偏りは単にその子どもの苦手や不得意に分類される可能性があり、区別が難しいため診断が遅れる傾向があります。障害が軽度の場合や特に困りごとが起きなかった場合など、見過ごされてそのまま成長することもあります。中には子どもの頃に気づかず、大人になってから広汎性発達障害と診断された方もいます。不安障害やうつ病などの気分障害・睡眠障害などのいわゆる二次障害と呼ばれる症状や状態となり、その検査を通して発達障害に気づく人もいます。発達障害の理解とl対応広汎性発達障害/自閉症スペクトラム・ADHD・学習障害、それぞれの原因は?出典 : 自閉症スペクトラム(ASD)や広汎性発達障害に含まれるグループについては、現段階では正確な原因は解明されていませんが、脳機能の障害により症状が引き起こされるといわれています。その脳機能障害は、先天的な遺伝要因と、様々な環境要因が複雑かつ相互に影響し合って発現するというのが現在主流となっている説です。最も中心的な関連遺伝子と考えられているのが、シナプスの形成とシナプスの機能にかかわるタンパク質をつくるために必要な情報にかかわる遺伝子です。たとえば、シナプスの形成に関与する遺伝子であるNLGN3やNLGN4、これらと機能的にかかわりの深いSHANK3などが自閉症スペクトラムとの関連が指摘されています。つまり、シナプスにおける神経伝達の軽微な異常によって、自閉症スペクトラムに見られる精神発達に障害が引き起こされると考えられています。(飯田順三/編・著『アスペルガー症候群の子どもたち』合同出版,2014年/刊p.95~96より引用)上記を含め、自閉症スペクトラムの関連遺伝子が数多く報告されています。ですが、さまざまな遺伝子が複雑に関連しているため、現時点では、原因となる遺伝子を完全に特定することはできてはいません。かつて広汎性発達障害に含まれていたレット障害(レット症候群)についてはX染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因だということが発見されました。1999年にMECP2という遺伝子が主な原因遺伝子であることが発見され、その後2004年にCDKL5、2008年にFOXG1という原因遺伝子も発見されています。そのため自閉症スペクトラム障害の概念から除外されました。また、広汎性発達障害や自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の症状を引き起こすと考えられる脳機能の偏りとしては以下のような説があります。1. 脳領域間の機能的連結低下脳内のネットワークの連結機能がうまくいかず、定型発達の人の場合と比べて機能が低下していることから自閉症スペクトラム障害になるのではないかという説があります。2. 社会的な活動をするための脳の部位の機能異常人の脳には部位ごとに役割があります。その中に社会的な活動をするために使う部位もあり、以下のような部位に異常が起きたり働きが弱かったりするため、うまく人の表情や感情が理解できないのではないかと言われています。・扁桃体(へんとうたい)…人の表情を認識し感情を読み取る部位です・紡錘状回(ぼうすいじょうかい)…紡錘状回は人の顔を認識する部位です・上側頭溝…人の目や口などの部位の動きを認識する部位です・前頭葉…前頭葉にはミラーニューロンと呼ばれる神経が存在しており、人に対する「共感」の感情に関わっています3. 小脳の異常小脳は、平衡感覚や強調運動などに関わっていると言われています。そのため小脳に異常が起きると、バランス感覚をあまり持てなくなると言われています。ほかにも、小脳に異常が起きると感情や認知にも影響があるのではないかと報告されていますし、自閉症スペクトラム障害の中には実際に小脳への異常が見られた人もいます。4. 脳内物質の異常自閉症スペクトラム障害では、脳内物質に異常があるという報告があります。普通の人と比べて、血中オキシトシンが低い、セロトニンが高い、血中グルタミン酸が高いという違いが見られたという研究があります。ADHDの症状が起こる確かな原因はまだ解明されていませんが、ADHDには複数の関連遺伝子が素因としてあり、それらが様々な道筋をたどって、このような特有の脳機能の偏りを引き起こし、ADHDの症状につながるのではないかと言われています。現在有力だとされている素因は脳の前頭野部分の機能異常です。近年の研究から、ADHDの人は行動等をコントロールしている神経系に機能異常があるのではないかと考えられています。前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり論理的に考えたりする働きをします。この部位は注意を持続させたり行動などをコントロールさせたりします。ADHDの人は、この部分の働きに何らかのかたよりや異常があり、前頭葉がうまく働いていないのではないかと考えられています。前頭葉が働くためには、神経伝達物質のドーパミンがニューロンによって運ばれなくてはいけません。しかしADHDの人の場合ニューロンによってドーパミンがうまく運べず前頭葉の働きが弱くなってしまい、それが原因で「多動」「衝動」「不注意」の3つの特徴が現れると考えられています。ADHDの人は五感からの刺激を敏感に感じ取ってしまう傾向がありますが、それも前頭葉の働きが弱いからだと言われています。思考よりも五感からの刺激を敏感に感じ取ってしまい感覚を過剰に感じてしまうので、論理的に考えたり集中するのが苦手となると考えられています。出典 : 学習障害の症状を引き起こす具体的な脳機能障害としては、中枢神経のトラブルが仮説の中でも最も有力と言われています。脳は無意識に感覚器官から入ってきた情報を処理し、整理して記憶します。そして必要に応じてその情報を取り出します。文字を読んだり書いたり、計算をしたりといった学習にはこれらの働きが必要です。中枢神経は脳や脊髄、体の様々な部分の働きを指令する部分であり、これらの情報処理を担っています。そのため、この機能のトラブルが学習障害の困難を引き起こすのではないかと考えられています。この説の検証が難しい理由は、医学的に検査を行っても分からないほどの小さな異常が原因とされているからです。発達障害を検査する方法はあるの?出典 : 現在の医学では妊娠中の羊水検査、血液検査、エコー写真などの出生前診断で判明することはありません。また、出生後も遺伝子検査や血液検査といった生理学的な検査では診断できません。これは、発達障害の原因が完全には解明されておらず、またその原因も複雑で単一ではないと考えられるためです。今後も生理学的な検査方法を確立するのはかなり難しいとも言われています。発達障害の人の多くが幼児の頃から12歳ぐらいの間に何らかの困りごとや症状をきっかけに専門機関を相談・受診し、医師によって発達障害だと診断されます。診断は問診と心理検査・知能検査などの様々な検査を総合的に判断して行われます。その他MRIを使い脳の器質的な疾病がないかを確認する場合もあります。検査や診察は一度ではなく、何度か行われたうえで慎重に診断が下されることが多いのです。発達障害は治療できるの?出典 : 発達障害を完全に治療する薬や手術などの医学的な方法は現在ありません。しかし、障害の特徴を緩和させたり、本人の困りごとを改善する方法はいくつかあります。例えば環境調整を含めた心理・社会的アプローチや症状を和らげるための薬の使用などです。早期からの療育は症状改善に大きな効果があるとされています。各都道府県に設置された「保健福祉センター」などで相談すると、適切な医療機関や児童発達支援なども紹介してもらえます。療育的支援では、苦手な部分をサポートしたり得意なことを伸ばすような訓練を受けることができます。適切なコミュニケーションの取り方や自己コントロールを学び、苦手な部分に対する対処法を身に付け自信をつけることで、困りごとを減らし二次障害の予防に繋がります。二次障害とは、適切な治療やサポートを受けられない場合に、うつや不安障害、不登校やひきこもりなど障害の主症状とは異なる症状や状態を引き起こしてしまうことを指します。ペアレントトレーニングと言って、発達障害の子どもを持つ親のためのトレーニングを実施している機関もあります。親が適切に接することで、子どもが日々感じている困難を軽減し、症状の改善に繋げます。また、特別支援教育や通常の教育のなかでも環境調整や合理的配慮を行いながら、一人ひとりに合わせた支援が行われます。発達障害の人の中には、こだわりや集中力を活かして高い専門性を身につけたり、優れた才能を持っている人もいます。才能・いいところを伸ばせるような教育が求められます。多動性や衝動性が強い子どもの場合、服薬を取り入れることもあります。脳内の神経伝達物質の不足を改善する働きがあり、症状がやわらぎます。症状が緩和することで、衝動的な行動で周りの友達と関係が築けず、孤立してしまう悩みなどが要因ともなる二次障害も予防できます。薬の服用で困難さが軽減されることで、本来の能力を発揮できるようになり、自分に自信が持てるようになるケースもあります。薬を服用している間は落ち着いて話を聞くことができるので、その間にスキルトレーニングを行い、本人の能力を高められるように親は努めましょう。しかしながら薬には合う合わないもあり、副作用が働いてしまう場合もあります。薬の利用は主治医とよく相談し、納得した上で用法・用量を守って進めるようにしましょう。また薬を利用したとしても、行動面や学習面での親や教育者からのサポートは引き続き必要です。まとめ出典 : 発達障害の原因を探ることは、治療法の開発・研究のためにはとても大切であり、世界中の研究者が日々、研究を進めています。その成果が少しずつ明らかになってはいるものの、いまだにわからないことが多いのが現状です。また、発達障害が発症する道筋は一つではなく、複雑な要因が絡み合っていると考えられるため、すべての人に当てはまるたった一つの原因は今後もわからないのではないかという考え方が主流となっています。ただ、ひとつ確かなことは、発達障害は、親や本人のせいで起きるものではないということです。目の前の子どもにとって大切なことは、どうしたら本人の困りごとがなくなるか、特性を生かしていけるかという対応方法を考えてみることです。一人ひとりの子どもの発達障害の特性は様々なバリエーションがあります。保護者や支援者が一人で悩み考えるのではなく、地域の相談機関や専門家と繋がりながら解決していきましょう。地域情報|発達ナビ日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」参考文献:鷲見聡/著『発達障害の謎を解く』日本評論社/刊参考文献:日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 』医学書院/刊参考書籍:宮本 信也 , 竹田 一則 /編著『障害理解のための医学・生理学』明石書店/刊参考書籍:服部 陵子/著『Q&A家族のための自閉症ガイドブック―専門医による診断・特性理解・支援の相談室』明石書店,2011年/刊飯田順三/編・著『アスペルガー症候群の子どもたち』合同出版,2014年/刊せせらぎメンタルクリニック 「アスペルガー症候群の原因。アスペルガー症候群はなぜ生じるのか」松浦こどもメンタルクリニック 「ADHD」参考書籍:中山和彦・小野和哉/著『図解よくわかる大人の発達障害』ナツメ社,2011年/刊
2016年11月25日発達検査とは?出典 : 発達検査とは、子どもの心身の発達の度合いを調べる検査のことです。検査結果から子どもの発達の特徴が分かったり、普段の接し方のヒントを得ることができたりと、子どもの育ちに関する参考情報を得ることができます。発達の遅れや凸凹からくる困難に応じて子どもをサポートする療育支援なども、発達検査の結果をもとに計画を立てられることが多いです。一般的には、幼稚園や保育園などの教育機関で発達の遅れがあることを指摘されたり、乳幼児健診や医療機関にかかった際に、検査をすすめられることが多いです。もちろん、家庭での様子から、子育て支援センターなどの相談機関に問い合わせて検査を受ける方もいらっしゃいます。発達検査は発達障害の確定診断を行う検査ではありません。発達障害の確定診断に際しては、生育歴や行動観察などの臨床診断と、発達検査・知能検査などの専門診断の結果を経て、総合的に診断されます。よって、発達検査の結果のみで発達障害だと診断されることはありません。確定診断の判断要素として発達検査の結果を参考にしています。発達検査にはさまざまな種類が存在していることから、検査ごとに検査結果の表現方法や評価の仕方が異なります。さらに医師や医療機関ごとに取り扱っている検査も異なるため、受けたい検査がある場合は、お近くの受診機関が対応しているかどうかを事前に問い合わせるとよいでしょう。ここでは発達検査に最も使用されている「新版K式発達検査」と「乳幼児精神発達診断法」について、主に紹介していきます。発達検査って具体的にどんな検査をするの?出典 : 発達検査にはさまざまな種類があります。・新版K式発達検査・乳幼児精神発達診断法・日本版Bayley-III乳幼児発達検査・ASQ-3・KID乳幼児発達スケール・ブラゼルトン新生児行動評価法・日本版デンバー式発達スクリーニング検査など、多種多様な検査があります。この中でも現在、日本で使用されることが多い検査は「新版K式発達検査」と「乳幼児精神発達診断法」です。年齢において一般的と考えられる行動や反応と、対象児者の行動や反応が合致するかどうかを評価する検査です。検査は、「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価されます。なお、3歳以上では「認知・適応」面、「言語・社会」面の検査に重点が置かれます。検査結果としては、この3領域の「発達指数」と「発達年齢」が分かります。また乳幼児向けの検査用具には、振ると音が鳴るガラガラや積木、ミニカーといった乳幼児にとってなじみのある材料が使われています。このような検査用具を使うことによって、子どもの自然な行動が観察しやすい検査となっています。検査者は検査結果だけでなく、言語反応、感情、動作、情緒などの反応も記録し、総合的に判断します。■適用年齢:生後100日後から成人■時間:約15~60分程度■形式:1対1(検査者と被検査者)の個別式検査■料金:公的病院でおおよそ840円(保険診療・3割負担の場合)乳幼児精神発達診断法は、上記と同様に年齢と発達の度合いの比較を行い、実際の年齢とどのくらい差があるかを評価する検査です。新版K式発達検査と異なる点は、面接者が保護者に対して子どもの様子を個別に面接し、各項目について尋ねることで行われる点です。乳幼児精神発達診断法では検査した項目と月年齢を軸にした図である「発達プロフィール」を作成します。子どもに直接検査を実施する方法に比べて、子どもの状態や障害に左右されることがなく、普段の生活の状況に基づいて判断されることになります。なお「津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法」と「遠城寺式乳幼児精神発達検査」のふたつがありますので、追って説明していきます。■津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法「運動」「探索」「社会」「生活習慣」「言語」の5領域の438の質問項目から構成されています。適用年齢別に「1~12か月まで」「1~3歳まで」「3~7歳まで」の3種類の質問紙を用いて検査・面接を行います。なお5領域ごとに「発達年齢」が算出されます。・適用年齢:生後1ヶ月から7歳まで・時間:約20分程度・形式:母親など子どもの養育者に個別面接■遠城寺式乳幼児精神発達診断法「運動」「社会性」「理解・言語」の3領域6の質問項目から構成されています。0歳0ヶ月から検査を受けることができます。・適用年齢:0歳0ヶ月~4歳8ヶ月まで・時間:約15分程度・形式:母親など子どもの養育者に個別面接国立特別支援教育総合研究所発達検査の結果から分かること出典 : 発達検査の検査結果から子どもの発達の度合いが示された「発達プロフィール」と「発達年齢」「発達指数」などの数値結果を知ることができます。発達検査の中でも乳幼児精神発達診断法では検査項目と月年齢を軸にした「発達プロフィール」が作成されます。発達プロフィールは下記の例のように折れ線グラフのように記され、このプロフィールの発達の全般的な遅れや、発達障害の特徴を把握することが可能です。発達障害がある子どもの場合は、一定のプロフィールパターンがあることから診断の参考に使用されています。発達検査の中でも、乳幼児精神発達診断法では検査項目と月年齢を軸にした「発達プロフィール」が作成されます。発達プロフィールは折れ線グラフのように記され、発達の全般的な遅れや、発達障害の特徴を把握することが可能です。発達障害がある子どもの場合は、一定のプロフィールパターンが見られる傾向があることから、診断の参考に使用されています。また津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法では「発達年齢」が分かります。新版K式発達検査では「発達指数」と「発達年齢」の2つの数値結果が分かります。「発達指数(Developmental Quotient:DQ)」は認知面・社会性・運動面などのいくつかの観点から発達の度合いを示していて、「発達年齢(Developmental Age:DA)」は、検査を受けた方の精神年齢を示すものです。のちにADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された3歳2カ月の女の子の検査結果の例です。次女の検査結果は次の通りでした。(1)「姿勢・運動領域」発達指数:96(発達年齢:3歳1ヶ月)(2)「認知・適応領域」発達指数:101(発達年齢:3歳3ヶ月)(3)「言語・社会領域」発達指数:75(発達年齢:2歳5ヶ月)(4)「全領域」発達指数:88(発達年齢:2歳10ヶ月)結果は、検査時点での発達状況を換算した『発達年齢』と、生活年齢と『発達年齢』との比率である『発達指数』で表されます。『発達指数』は、その年齢の平均を100で表されますが、実際にはある程度幅があるそうです。各項目ごとに発達指数と発達年齢が分かります。しかし、これらの数値が分かっても具体的に家庭や学校などで、どのような配慮や療育、学習を行えばいいのか分かりませんよね。そのような具体的な接し方などを示してくれるのが「検査報告書」です。発達検査には検査後にやるべきことを示してくれる「検査報告書」というものを受け取ることができます。「検査報告書」を依頼すると1. 検査結果の数値2. 検査結果からいえること3. 日常生活上配慮していただきたいことなどが記載された報告書を作成してもらえます。子どもに対して、日常的にどのような配慮をしたり、療育支援を行っていくのが良いかの参考となるでしょう。無料で「検査報告書」を発行してくれる機関もありますが、有料で発行している機関もあります。検査形態や「検査報告書」の費用は機関によって異なりますので、詳しくは受診する病院への問い合わせが必要です。「数値結果」欄は「発達年齢」や「発達指数」の数値が記載されています。「検査結果から言えること」欄では、発達の遅れの度合いや理由が下記のように詳しく記載されています。検査者が言った数字を同じ順番で繰り返す課題では、1つの数字を繰り返すことが限界である様子が見られています。このように、相手からことばのみで働きかけられる状況では、検査者のことばに注目を向けること自体が難しい、または「何が求められているのか」がわからないと考えられます。「日常生活上配慮していただきたいこと」欄も、下記のように記載されています。大人が見ている物に(次女)さんの注目を向けて貰うのではなく、(次女)さん自身が”今・現在””その時に”目にしているものや耳にしているもの、手に取っているものなどに対して、「◯◯があったね」「◯◯と聞こえるね」というように要点をまとめた簡潔なことばをつけていく。このように、大人に関心を合わせてもらうのではなく、(次女)さん自身が関心を向けている物に大人が寄り添い、ことばをかけていくことで(次女)さんにとって、把握しやすく、覚えやすい状況となるよう意識していく。発達検査と一緒に知能検査を受けるように言われたけど、なぜ?出典 : 場合によっては、発達検査と知能検査の両方を受けることを勧められる場合もあります。発達の遅れと知能の遅れの両方が疑われている場合など、子どもの発達を多角的に捉えるために使用されます。また医師による発達障害の確定診断を行う際の参考情報として、またその人に合った支援や学習指導の方向性のヒントを得ることを目的として、発達検査と知能検査などの結果は使用されます。現在日本でよく使用されているのは新版K式発達検査、ウェクスラー知能検査、田中ビネー知能検査、K-ABC知能検査などです。では、発達検査と知能検査の具体的な違いはなんでしょうか。知能検査は、知能を精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値によって測定するための検査です。これに対して発達検査は、被検査者の精神年齢を示す発達年齢(DA)と、認知面・社会性・運動面などのいくつかの観点から発達の度合いである発達指数(DQ)を調べます。要するに知能検査は子どもの知能がどのくらいあるのかを計測し、発達検査は年齢と発達年齢の差がどのくらいあるのかを計測する検査なのです。子どもに発達障害がある場合は、乳幼児期からその兆候となるような特徴が表出することが多いです。しかし、発達初期の乳幼児の発達状態を、通常の知能検査によってとらえることは困難だと考えられています。なぜならば乳幼児は心理的、身体・運動的、社会的側面の発達が十分でないため、知能のみを検査によって測定することは難しいからです。発達検査の適用年齢は早いもので0歳0カ月から設定されており、乳幼児期から検査を行うことができます。これに対して知能検査の適用年齢はおよそ2歳から設定されています。両者とも、発達障害の確定診断や、その子の療養支援に役立てるために利用されますが、受検可能な年齢に違いがあることに注意しましょう。なお、どんな場合にどんな検査が適切であるかどうかの判断基準は、専門家の判断によります。発達検査と知能検査のどちらを受けるべきか、まずは専門機関に相談して判断しましょう。発達検査を受ける前にまずは専門機関で相談を!出典 : お子さんやご自身の発達検査の受診を検討する際は、まずはお住まいの地域にある身近な相談窓口に行くといいでしょう。事前に予約が必要な機関もありますので、相談機関に問い合わせてみてください。また、子どもか大人かによって、行くべき相談機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童相談所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など自宅の近くに相談機関がない場合には、電話で相談できる場合もあります。発達検査や知能検査は、公的病院や民間病院で受けることができます。精神科や臨床心理士による検査が受けられる病院を受診するといいでしょう。「児童発達支援センター」などで受けることもできます。発達検査の受け方、費用は、検査内容や病院によって異なります。また診断書もしくは報告書を書いてもらう場合には、別途料金がかかります。こちらの料金は病院ごとに異なりますので、直接病院に問い合わせてみてください。一方、個人のクリニックや診療所で検査を受ける場合には、すべて自費での診療となります。検査は基本的に誰でも受けることができますが、特に発達に関して気になる点がないと医師が判断した場合は自費となります。こちらの料金設定も各病院ごとに設定されていますので、受診する病院に問い合わせてみてください。発達検査の結果を受けて、専門機関で確定診断を受けたい場合は発達検査を受けた機関に問い合わせるか、もしくは改めて相談機関(保健センター、子育て支援センターなど)に問い合わせてみてください。発達障害の診断はなくても療育は受られるの?出典 : 発達障害の確定診断がなくても、子どもに対して何らかの療育支援の必要性が認められた場合には、児童福祉法に基づく児童発達支援を受けることができます。児童発達支援は障害児通所支援の一つで、小学校就学前の6歳までの障害のある子どもが主に通い、支援を受けるための施設です。日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、保育園や幼稚園のように遊びや学びの場を提供したりといった、障害のある児童への支援を目的にしています。療育手帳や身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳を持っていなくても、障害児通所給付費支給申請を専門家の意見書などと一緒に提出し、児童発達支援利用の必要が認められれば、受給者証が市町村から発行されます。この受給者証を取得することで通所の申し込みができ、1割負担でサービスを受けることができます。発達検査によって子どもの発達の遅れや凸凹が比較的大きいと分かったけれども、発達障害の確定診断は出なかった、という場合もあります。また、発達検査は受けさせてみたけれど、確定診断を受けに病院で受診させる気持ちにはなれないといった方もおられるでしょう。実際に確定診断を受けるかどうかは、ご家庭ごとの自由な選択です。しかし、診断を受けなくても、子どもの日常生活上の困難さを緩和させるために、早期から療育支援を受けるということ、選択肢として検討してみることをお勧めします。まとめ出典 : 発達検査は、それ自体が発達障害の診断を行うものではなく、確定診断を行う上での判断要素にすることや、発達が気になる方の特性を理解して療育支援などに役立てることが目的の検査です。発達検査を受けたのちに、専門機関で確定診断を受けるか否かは、自由に選択することができます。また、確定診断を受けなくても、発達の遅れや凸凹による困難を解消するために、療育支援を受けることは可能です。また、発達検査後に発行してもらうことができる「検査報告書」も、子育てや療育のヒントとして活用することができます。発達が気になる点があれば、まずはお近くの専門機関に相談して、発達検査や知能検査を受けてみることをお勧めします。
2016年11月24日初めまして、この記事に目を留めて下さりありがとうございます。これを読まれている皆様は発達障害との縁が多少なりともある方だと思います。お子様への接し方が分からない。学校などの集団生活になじめない。他人と考え方・感じ方が異なるため誤解されやすい。抱えていらっしゃる悩みごとは様々だと思います。そこで発達障害当事者である私が、自分の障害とどのようにして付き合い、受け入れ、いまの仕事をしているかについて書かせていただきました。今回は、私の幼少期の学校生活についてです。「障害」を周りの大人たちが認識したのは小学生のとき出典 : 小学生のころ、私は自分自身に障害があることを認識しておりませんでした。私の異常を最初に気づいたのは周囲の大人達で、小学1年生のときでした。この時期になっても未だに私だけ読み書きができなかったためです。私は文字の形を認識することができず、平仮名が書けませんでした。ようやく書けるようになっても、文章を書くことはとても難しかったです。作文の宿題が出ると、机に向かって書こうとするのですが、2~3時間頑張ってやっと2~3行書けたぐらいでした。読解については、文字を1文字ずつしか読めず、意味も理解できませんでした。例えば「がっこう へ あるいて いく」なら「が、つ、こ、う、へ、あ、る、い、て、い、く」か「が、つこう、へある、いていく」としか読めず、単語の認識ができなかったようです。さらに算数も、数字の意味や計算の仕組みを理解する事ができませんでした。1+1すらできなかったそうです。自分の努力と適切な支援のおかげで、勉強ができるようになった出典 : 私の様子を担任の先生から指摘され、手を尽くして原因を調べた母は、「発達障害」の存在を知りました。当時はまだあまり知られていない障害でしたが、運よく発達障害を研究している機関を見つける事ができました。そこで私に下された診断は学習障害(LD)。でもこのとき私はまだ、自分に障害があるということをきちんと認識できていませんでした。研究機関に通って母と医師が何やら話しているものの、私は内容が自分に関することだとは思いもせず、退屈だったので同じ部屋内で遊んでいました。しかしこの診断があったことで、母は「根気よく繰り返し、できなくてもイライラせずに、できた事があれば必ず褒める」という教育方針のもとで私を勉強させてくれました。最初なかなか進歩は見られませんでしたが、学校の授業で漢字が出てきてから変化が見られました。例えば「つき」という平仮名だけだとその意味がわからなかったのですが、漢字の「月」は三日月の絵が崩れて漢字になったという成り立ちを見ながら教えてもらうことで、漢字の形と意味を理解できました。漢字を覚えたことがきっかけで、「文字を組み合わせて単語をつくる」ということもだんだんと理解できるようになり、これをきっかけに文章も徐々に読めるようになりました。作文はやはりかなり苦手で、宿題はいつも母が隣で手助けをする必要がありました。しかし、私が強く「書きたい」と思ったことについては、周囲が驚くほど筆が進んだそうです。算数については、数を数字以外のもので視覚化する事で分かるようになりました。例えば先ほどの1+1は、りんごを用意して実際に数える事で理解できました。ただし、文章問題は問題を読み解く必要があるため、できるようになるまでかなり時間がかかりました。このように私は、苦手なことを他の子どもたちとは違う方法で勉強することで、学習の遅れを補うことができました。いじめもあった。でも得意なことをがんばることで、周りに認めてもらえた出典 : 同級生達を始めとした人間関係ですが、小・中・高のどこでも入学してから数ヶ月の間よくいじめられていました。幸い私の周りには助けてくれる大人たちがたくさんおり、大事には至りませんでした。ただ、担任の先生は私の扱いに困っていたようで、よく怒られていたのを覚えています。でも私自身は何が問題で怒られているのかさっぱりわかりませんでした。何が原因だったのか、はっきりとした事は不明ですが、私は授業中に逃げ出して行方不明事件になる一歩手前まで大騒ぎになった事がありました。このように、後先考えず衝動的に行動するところが、恐らく周りから見て異質に見えたのではと思います。このように書くと「発達障害のある子どもは学校になじめないんだ」と思われるかもしれませんが、そんな事はありません。そして、私自身の得意分野が周りに認められたことも、同級生たちとの関係が良くなった一因でした。小学校3~4年生のころ、クラスメイトの誕生日カードを作る宿題がありました。私はこの宿題に夢中になり、夜中の12時頃まで絵を描き続けて、本来は作る必要のない表紙の絵まで描いたそうです。そのとき母は「学校の成績ではあまり重要ではないことに時間を割いて…」と思ったそうですが、夢中になって完成させたカードはクラスメイトの間で好評になり、同級生たちと仲良くなるきっかけになりました(ちなみに誕生カードを贈ったクラスメイトとは、特に親しい間柄ではありませんでした)。何かを作りだすと夢中になり、図工や美術の科目で良い評価を受けることは、その後もたくさんありました。こういった経緯で、周りから見た私は「変わり者だが、すごいやつ」という認識になっていき、次第に同級生たちから認められるようになっていきました。周囲には「障害は完治した」と思われた。でも自分の心の中には違和感があった出典 : 多くの支援と私自身の努力により、学校の成績や友達関係などの問題は解決していきました。これにより、先生も母も「学習障害は完治した」と思ったそうです。特に母は、障害に対する忌避感も重なって、私に「障害がある」とハッキリと伝えることはしませんでした。これでめでたしめでたし…のように見えて、実はそうではありませんでした。確かに目に見えて明らかな問題は解決しましたが、私は他人と打ち解けることが苦手で、周りとは何とも言えない壁を感じ続けていました。例えるなら私と他人の間には常にガラスの壁があり、わかり合えず、私の声は向こう側に届いていないようでした。この壁に、長い間私は1人で悩まされていました。「障害は完治した」という周囲の認識は、成人してからの私の生活にも大きな影響を与えることになります。障害を受け入れた今、保護者や学校に思うこと出典 : 障害があっても、今後も社会で生きていく以上、学校など何かしらの社会的な集団に所属しておく必要はあると思います。でも自我が確立していない幼少期に、所属している集団で自分の存在を認めてくれる人がいないと、本人が自分を認められず、社会で生きていくことは困難になってしまうかもしれません。ありのまま生きる姿を、「障害」としてではなく「個性」として接してくれる人がいれば、その子にしかない才能を発揮して力強く生きてくれるでしょう。私はいじめも経験しましたが、個性の一部として周囲の人に受け入れられていたため、自分を異常だなどと追い込んだり、できないことや失敗したことを障害のせいにすることはありませんでした。そこで、発達障害のお子さんを持つ親御さんへ、発達障害の当事者としてお願いがあります。どうか皆さんには、お子さんの最大の理解者になって欲しいと思います。良くいわれている事だとは思いますが、発達障害=悪いことではありません。だから、悔やむことも、恥じ入ることも、責められることも何一つありません。悪い方向に傾くのか良い方向に傾くのか、それはこれからの行動次第です。いじめや学習障害を乗り越えた私ですが、自分自身に障害があるとは認識しておらず、障害と向き合うことをしていませんでした。このことが将来に影響を及ぼすこととなります。次回は私が大人になってから仕事をするにあたり、ぶつかった困難についてお話します。
2016年11月02日発達障害児童の親が何よりも知りたいのは、子どもの将来のこと出典 : 発達障害の息子は6歳。その成長は一進一退を繰り返す日々です。今回は、栗原類さんの書籍『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』を読んで、発達障害児を育てる親として、感じたこと、気付いたことを綴ってみたいと思います。幼い頃に発達障害(ADD)と診断を受けた栗原類さん。類さんが今こうしてご自分の障害を告白し、その生きざまを本にして綴ったことには、大きな意味があると私は思います。まず、私たち発達障害児の親は、毎日毎日が子どもへの支援や配慮に手いっぱいの状態です。肝心の「この先に何があるのか」「この子がどう育っていくのか」ということに対する将来像が全く見えていません。これは、発達障害児を育てている親同士で話すと、よく出てくる話です。発達障害児を育てていると、誰もが思うのです。「ロールモデルが欲しい」と。しかし、一般的に取り上げられる「発達障害の大人」のロールモデルといえば、人より秀でた才能があったり、その才能ゆえに幼い頃から特別だったような、いわゆる「天才型」の人が多いのです。実は、これは親にとって、何の励ましにもなりません。そんな特別な子どもはごく一部で、大抵の親は、「誰にでもできることがなかなかできるようにならない」という発達障害児の育児に、毎日くじけそうになりながらも、自分を励ましている状態ではないでしょうか。等身大のロールモデル、それが栗原類さんだった出典 : そこで彗星のように現れたのが、栗原類さんという存在でした。彼は、感覚過敏や強いこだわりといった、発達障害児独特の特性があったのはもちろんのこと、記憶力の弱さや人の感情の読み取りが苦手といった困難さを持ち、学校の勉強にもとても苦手意識がありました。中学生時代にはいじめに遭って不登校になり、高校受験も失敗、決して順風満帆とは言えない人生を送ってきています。この言い方は語弊があるかもしれませんが、私たち親から見ると、栗原類さんは「とても身近な発達障害児」であり、等身大の発達障害当事者であると言えます。この本の表題には「僕が輝ける場所をみつけられた理由」という言葉が入っています。「輝く」という言葉に、芸能人として、モデルとして、華々しい生活をしている類さんのイメージが湧くかもしれません。しかし、この本を読んでいるうちに、類さんは決して「輝ける場所」という言葉を、才能を生かして大活躍する華々しい場所、という意味で使っているわけではないことが分かります。類さんにとっての「輝ける場所」とは、できないことや苦手なことが沢山あっても、それを補い受け入れながら、好きなことを好きと言える安心できる居場所、そんな場所である気がします。そしてそれこそが、多くの発達障害児にとっての「輝ける場所」なのかもしれません。類さんを支えてきた存在、栗原泉さん。その子育てスタンスとは?出典 : 発達障害児は、よくある曖昧なルールや、空気を読み取るのがとても苦手です。普通の子どもであれば、いちいち口に出して注意せずとも習得してくれる社会的ルールのようなものを、発達障害児には、繰り返し伝えなければなりません。しかも、伝えたとしてもすぐに忘れます。次第に、毎日毎日ガミガミと注意を繰り返す自分が、嫌になってきます。本の中に登場する、栗原類さんのお母さん、栗原泉さん。彼女の強力な支援のもと、類さんは目の前に立ちはだかる数々の困難に、1つひとつ対処していきます。面白いことに、栗原泉さんも、決して特別なお母さんではありません。類さんの教育環境を考え、海外に移住するようなフットワークの軽さはありますが、言われたことをどんどん忘れていってしまう類さんに、何度も何度も同じことを畳みかける一面も描かれています。泉さんは「過保護と言われてもいい。子どもの幸せを優先する」というスタンスで育児をしています。発達障害児の親は、これを読んだらきっと、肩の力が抜けることでしょう。なぜなら私たち親は、いつも自分が過保護になり過ぎていないか?自問自答している状態だからです。手助けをしなければ、当たり前のことがなかなかできるようにならない、しかし、「自分の手助けが、いつかこの子の自立を阻むことになるかもしれない」、と手助けするたび罪悪感を感じる毎日。泉さんの「子どもが今幸せであることを大切にする」という割り切った姿勢は、子育てに葛藤を抱いていた私にとって、涙が出るほど有り難いものでした。子どもの得意なこと、好きなことを無理して探していない?出典 : また、泉さんは、発達障害児の世界観を形作るのは「好きなこと」である、と述べ、いろいろなことを体験させることの大切さを説いているものの、泉さんが類さんに体験させてきたことは決して、「特別な何か」ではないことが分かります。博物館や美術館に連れて行くでもいい、インターネットやゲームをさせるでもいい、テレビで一緒にコメディを見るでもいい、泉さんが類さんに体験させたのは、日常的にできる小さな楽しみでした。この本を読んで、発達障害児にとっての「好きなこと」を探すのは、もっと気楽な気持ちで取り組めばいいのだと分かってきます。発達障害児の親をしていると、なぜか「この子の好きなものは何?」「才能のありそうなものは何?」という質問を、周りから嫌というほどされるのです。この質問は、数学や芸術などの天才的な能力があることを、暗に子どもに期待しているものだと思います。これは、一部の天才的な才能のある発達障害者ばかりが取り沙汰されてきたことに原因があるように思います。他のことが全部苦手でも、1つとんでもなく長けている部分があるはずで、そこを伸ばせば良いじゃないかと。この質問をされるたびに、子どもの天才的な才能を見つけることのできない自分のダメさ加減と、特に飛び抜けたものがないように思える息子への情けなさが募るのです。等身大の泉さんの姿で気付かされる、私たち親が背負ってきた無言のプレッシャー出典 : しかし、ほとんどの発達障害児は、平凡な子どもたちです。いや、平凡なことすらも、普通の人よりも何倍もの努力をしないとできるようにならない子どもたちです。ですから、「特別な才能」をわざわざ探すこと自体が、子ども自身の本来の姿を見ていないように感じるのです。そうではなく、泉さんは、類さんが楽しい経験をすること、ちょっとでも好きだと言ったことをとても大切にしています。そして、そんな毎日の小さな「好き」が、やがて大きくなってからの類さんにとって宝物となります。しかし、泉さん自身は、類さんに好きなことを作らせるために躍起になっているわけでもなく、それを極めさせようとするわけでもなく、類さんの楽しいという気持ちを自然に尊重しています。この本で泉さんという等身大の母親の姿を目にして、私たち発達障害児の親は、子どもに対する目も、自分に対する目も、少し優しくなるのを感じるのです。環境は違っても、泉さん親子が取り組んできたことは、「特別なこと」じゃなかった出典 : この本を読むと、類さんが育ったアメリカという国の教育の包容力や、日本の教育とのシステムの違いがとても印象に残ります。ややもすれば、「アメリカで育ったから類さんは恵まれていたんじゃないか?」というようなことを考える人も少なからず出てくるのではないかと思います。けれども私は、類さんが「輝く場所をみつけられた理由」は、アメリカという環境で育ったことが全てだったとは思いません。類さんと泉さんの凄さは、困難にぶつかるたびにそれを分析し、それにいかに対処するかを冷静に考え続けてきたことだと思います。また、高橋先生という専門家に相談し、自己判断のみに頼らなかったことも重要なことだったと思います。そして、対処法についても、誰もが雰囲気やコミュニケーションの中で察してしまうような些細なことでも、泉さんはしっかりルール化していました。泉さんと類さんが、発達障害である自分と向き合うために日々やってきたことは、決して「何かすごいこと」ではないのです。それは本当に、小さな取組みの積み重ねでした。なぜ私たちは、子どもの成長を待てないのだろうか?出典 : 発達障害の特性を劇的に軽減する魔法なんて、残念ながらありません。けれども私たちは、結果が出るか出ないか分からないような小さな取組みを日々積み重ねることに辛くなってしまって、どうしても劇的に変わる何かを求めてしまいます。そこをグッとこらえ、20年、30年の長いスパンで子育てを見つめながら、今ここでできる小さな行動を積み重ねていく、それが今の「輝ける場所」にいる類さんを作ったのだと思います。泉さんは、「コツコツやることの大切さ」を類さんに教えたい、と言っていましたが、お2人の20年の生きざまこそが、まさに「コツコツやることの大切さ」を表していると思います。そしてそれは、先の見えない毎日をもがきながら歩き続ける、発達障害児とその親を、どれだけ励ますものであるか、想像に難くありません。栗原さんの体験談に、発達障害児を育てる親としてもらったもの出典 : 類さんがアメリカにいた当時、まだ日本では「発達障害」という言葉がそれほど認知されておらず、教育現場でただの問題児として扱われて育った人たちが沢山いました。類さんが1番辛かったという中学校時代は、まだ日本では発達障害に関する認識が薄かった頃かもしれません。そういう意味では、先をいっていたアメリカという国で幼少期をおくり、適切な支援を受けることができた類さんはとても貴重な体験をされたのではないかと思います。しかし最近になって、日本の教育現場でも発達障害についての認知が広まり始め、いろいろな体制が急速に変化してきていることを私は肌で感じています。私の息子が入学する予定の学校では、発達障害児の聴覚過敏に配慮し、運動会のピストルを音が小さいものに変えました。刺激に弱い子どもは、特別支援級のついたての中でテストを受けることもできます。別の学校では、特別支援級の授業にiPadを導入するようになりました。類さんが10年以上前にアメリカで受けていた特別支援教育が、ようやく日本にも少しずつ入ってきています。今この時代は、10年、20年前に辛い思いをして育った発達障害の子どもたちが築いてきたのだと思います。私はこの急速に変化していく過渡期の社会を、発達障害児の親として、しっかり見守っていこうと楽しみにしています。類さんの本は、そんな社会を生きる私たちに、生きるヒントをくれる貴重なものであったと思います。発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由 栗原 類 (著)KADOKAWA出典 :
2016年10月13日息子をよく理解した上で、幼稚園にお願いしていた支援出典 : 現在6歳の息子が、発達障害と診断されたのが3年前。私は息子の育てにくい部分や、幼稚園の先生方のお話などから、息子の苦手な部分、支援が必要な部分について、以下のように把握していました。●言語理解が弱く、指示が伝わりにくい●ワーキングメモリ(短期記憶力)が弱い●気持ちの切り替えが苦手●聞いて理解するよりも、見て理解する方が得意これらのことを踏まえて、幼稚園や習い事などでは、「少ない単語数で簡潔に指示を出さないと、理解ができません」「指示が通らない場合は、絵カードや表などを使って、説明すると理解できます」などの支援をお願いしてきました。ところが、検査を受けて見えてきた特性は出典 : 先日、来年度に迫る就学に向け、息子は発達検査(WISC)を受けました。ところが、WISC検査の結果は、衝撃的なものでした。●「言語理解」は年齢をはるかに上回る値●「ワーキングメモリ」が高い値●「視覚からの情報処理」は低い値このように、私の見立てと全く逆の結果だったのです。支援が必要だ、と考えていた不得意なことは、むしろ息子の得意分野だったという、驚きの結果となりました。自分の子どもなら「似ていて当然」という思い込み出典 : なぜ私はこのように、特性について真逆の思い込みと、支援をしていたのでしょうか。それは、私が「発達障害といっても特性の出方は様々である」という1番大切なポイントを、理解していなかったからだと思います。まず1番最初に考えていたのは、「息子は、自分の子どもなのだから、自分に似た特性を持っているはず」という思い込みでした。私を困らせる息子を見るたびに、「私も小さい頃こうだった」「私も似た特性があった」と、自分の方に寄せて考えていたのです。私にはもともと、聴覚による言語理解に苦手意識があり、いろいろと説明を受けたりしても、ほとんど理解できないままのことが、よくあります。ですから、「息子も当然同じだろう」と思い込んでいたのです。たくさんの情報からも刷り込まれていった、思い込み出典 : また、「ワーキングメモリが弱い」というのは、「発達障害児とは一般的に、ワーキングメモリが弱いものだ」という思い込みがありました。発達障害児への、支援に関する本を読んでいると、必ずといって良いほど「ワーキングメモリの弱さを補うための支援」という項目が、出てくるからです。また、「発達障害児には、数学が得意な子どもが多い」「理系には発達障害の人が多い」というような、インターネット上の情報にも、惑わされていました。息子が「言葉の力が弱い」「国語ができない」という風に思い込んだのは、これが原因だったのです。親の思い込みを払しょくできるのが、発達検査。客観的に子どもを分析するツールとしても出典 : 発達検査というと、数値のアップダウンに翻弄されてしまう、親御さんも多いと思います。現に私も、WISC検査の結果をもらったとき、「全検査IQ」と呼ばれる、総合的なIQ値しか見ていませんでした。でも実は、全検査IQはそれほど大事なことではありません。発達検査の項目ごとの数値を見てみると、その子の得意と苦手が見えてきます。それに応じて、適切な支援の仕方を、考えていくことができます。親は、子どものことをよく見ているようで、実は「一般的な発達障害児の特性」や「自分や配偶者の特性」に判断を引きずられていることがあります。でも、発達検査の結果を見ることで、より客観的に、子どものことを分析できるようになります。つまり、発達検査というのは、子どもを分析するだけでなく、子どもが過ごしやすい環境を、調整するという目的でも、とても大切なものだと言えるのではないでしょうか。
2016年09月08日新版K式発達検査とは?出典 : 新版K式発達検査は、子どもの心身の発達の度合いを調べ、それを療育などの子どもの発達支援に役立てるための検査です。1951年に嶋津峯眞、生澤雅夫らによって、京都市児童院(1931年設立、現・京都市児童福祉センター)で開発されました。最近では、おもに自閉症などの発達障害の診断に使われています。新版K式発達検査の歴史をたどると、1980年に「新版K式発達検査」が刊行されたときの適用年齢は0歳~10歳でしたが、1983年の「新版K式発達検査増補版」では、12歳、13歳までに拡張され、さらに2001年に刊行された「新版K式発達検査2001」では成人までに拡張されていることが分かります。このように、新版K式発達検査は改訂を重ねながら、徐々に適用年齢が拡張されてきています。この記事では、新版K式発達検査2001について紹介していきます(以下、新版K式発達検査と表記します)。発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン国立特別支援教育総合研究所発達検査そもそも「発達検査」とは?「知能検査」との違い出典 : 発達検査は心理検査の一つであり、おもに、乳幼児の発達状態を適切に把握するための判断材料として使われています。発達検査と同じように使われている心理検査に知能検査というものがありますが、発達初期にある乳幼児の発達状態を、通常の知能検査によってとらえることは困難だと考えられています。なぜならば、乳幼児は心理的、身体・運動的、社会的側面の発達が十分でないため、知能のみを検査によって測定することは難しいからです。最近では発達検査や知能検査の検査結果を基に、その人に合った支援や学習指導の方向性のヒントを得ることを目的として、ウェクスラー知能検査や田中ビネー知能検査、KーABC知能検査、新版K式発達検査などが日本でよく使われています。では、知能検査と発達検査の具体的な違いはなんでしょうか。知能検査は、知能を精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値によって測定するための検査です。これに対して発達検査は、被検査者の精神年齢を示す発達年齢(Developmental Age:DA)と、認知面・社会性・運動面などのいくつかの観点から発達の度合いである発達指数(Developmental Quotient:DQ)を調べ、それを療養に役立てるために行う検査です。なお、どんな場合にどんな検査が適切であるかどうかの判断基準は、検査を実施する機関によって異なる場合が多いです。発達検査と知能検査、どちらを受けるべきか、まずは専門機関に相談して判断しましょう。てんかん情報センター発達検査とは?国立特別支援教育総合研究所発達検査新版K式発達検査の特徴出典 : 新版K式発達検査では、被検査者の発達の状態を、精神発達の全面的な進みや遅れ、バランスの崩れなどさまざまな諸側面においてとらえることができます。検査は、「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価されます。なお、3歳以上では「認知・適応」面、「言語・社会」面に重点を置いています。また、乳幼児向けの検査用具には、振ると音が鳴るガラガラや積木、ミニカーといった乳幼児にとってなじみのある材料が使われています。このような検査用具を使うことによって、子どもの自然な行動が観察しやすい検査となっています。検査者は検査結果だけでなく、言語反応、感情、動作、情緒などの反応も記録し、総合的に判断します。新版K式発達検査の対象や実施頻度出典 : ここでは、新版K式発達検査が対象とする年齢の範囲、実施時間や頻度について説明します。■適用年齢の範囲:生後100日から成人新版K式発達検査の適用年齢は成人までとなっています。ただし、知能の発達程度が生活年齢(CA)の何歳に相当するかを示した精神年齢の適用範囲では、14歳、15歳級までとなっています。(生活年齢とは、暦年齢を指します。)なお、どのような発達段階であっても適用可能です。■実施時間:15分~60分程度生活年齢(CA)によって検査用紙が異なるため、実施時間も年齢に応じて異なります■実施頻度:検査結果による検査の結果、とくに発達が遅れていると考えられる子どもの場合は、1回の検査で障害の有無を決めず、検査を受けた後の経過を観察することが必要です。経過観察のための間隔は、1歳未満は1ヵ月以上、1歳~3歳未満は3ヵ月以上、3歳未満は6ヵ月以上、学童期以降は、1年~2年以上あけることが望ましいとされています。経過観察を終えて、再検査する場合が多いようです。発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン国立特別支援教育総合研究所発達検査新版K式発達検査2001の課題と有用性 ─精神遅滞の定義の視点から─新版K式発達検査の検査方法出典 : 新版K式発達検査の検査形式は1対1(検査者と被検査者)の個別式検査です。検査実施の際には、被検査者と検査者は向かい合うのではなく、隣に座ることが原則となっています。新版K式発達検査では、生活年齢(CA)にしたがって、検査用紙が第1葉(よう)から第6葉までの6枚に分かれています。また、検査課題に対し、被検査者が過度に緊張している場合は強要せず、興味や注意が持続させられるよう気を配り、十分に力を発揮できるよう配慮されています。検査では、検査結果だけでなく検査用紙の空白の部分などを利用し、できる限り被検査者を観察した内容を書き留めることが望まれています。『発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン』によると、新版K式発達検査の検査用紙に配置されている検査項目の生活年齢(CA)は以下のようになっています。・第1葉0歳0ヶ月~0歳6ヶ月・第2葉0歳6ヶ月超~1歳0ヶ月未満・第3葉1歳0ヶ月~超3歳0ヶ月未満・第4葉3歳0ヶ月超~6歳6ヶ月未満・第5葉6歳6ヶ月超~14歳0ヶ月未満・第6葉10歳0ヶ月超~成人(第5葉と第6葉は一部重なりがある)実施時間は、検査用紙によって異なります。第1葉は比較的実施時間が短く、第5葉や第6葉は、実施時間が長い場合が多いようです。発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン検査を受ける前にまずは専門機関で相談を出典 : お子さんやご自身の発達検査、または知能検査の受診を検討する際は、まずはお住まいの地域にある身近な相談窓口に行くといいでしょう。事前に予約が必要な機関もありますので、相談機関に問い合わせてみてください。また、子どもか大人かによって、行くべき相談機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童相談所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談をすることができる場合もあります。新版K式発達検査の受検方法・費用など出典 : 発達検査や知能検査は、公的病院や民間病院で受けることができます。精神科や臨床心理士による検査が受けられる病院を受診するといいでしょう。「児童発達支援センター」などで受けることもできます。発達検査や知能検査の受け方、費用は、検査内容や病院によって異なります。総合病院などの公的病院で新版K式発達検査を受ける場合は、保険内診療となり、その際は、診療報酬点数の規定に基づき、負担費用はおおよそ840円(3割負担の場合)となります。また、診断書もしくは報告書を書いてもらう場合には、別途料金がかかります(「検査報告書」については後述の『検査報告書の活用』をご覧ください)。こちらの料金は病院ごとに異なりますので、直接病院に問い合わせてみてください。一方、個人のクリニックなど民間病院で検査を受ける場合には、すべて自費での診療となります。検査は基本的に誰でも受けることができますが、特に発達に関して気になる点がない場合は自費となります。こちらの料金設定も各病院ごとに設定されていますので、受診する病院に問い合わせてみてください。診療報酬点数表サクセス・ベル株式会社医科診療報酬点について日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」発達評価(アセスメント)について出典 : 新版K式発達検査の発達評価(アセスメント)では、被検査者の生活年齢(CA)に合った行動発達がみられるかどうかを観察することによって、発達が標準的な過程をたどっているかを判断します。たとえば、標準的な発達だと1歳前後で歩行を獲得しますが、同じ年齢で獲得していない場合は標準的な過程をたどっていないと判断されることが多いです。また、新版K式発達検査では、検査用具を子どもがどのように扱うか、あるいは検査者の教えに対して被検査者がどのように応答するかといった点にもとづいて、発達の評価をおこないます。なお、この検査は、乳幼児や児童の精神発達の状態をとらえるための検査であって、発達スクリーニングを目的としているものではありません。発達スクリーニングとは、精密検査を要するものと要しないものとをふるい分けることです。つまり、この検査は発達状態を細かく分析するものではなく、精神発達の全体的な進みや遅れ、バランスなどの全体像をとらえるための検査になります。国立特別支援教育総合研究所発達検査国立特別支援教育総合研究所アセスメントについて発達スクリーニング検査検査報告書の活用出典 : 新版K式発達検査には、検査後にやるべきことを示してくれる「検査報告書」というものがあります。機関によっては、検査後に具体的な数値や詳細を示した「検査報告書」を作成していただけない場合があるようです。よって、確実に具体的な数値や詳細を確認したい場合は「検査報告書」の作成を依頼する必要があります。以下に、実際に「検査報告書」を依頼した例として、発達ナビ『家庭での具体的な配慮が分かる!発達検査の「検査報告書」とは?』の記事から引用させていただきます。検査結果の詳細が知りたいと病院へ伝えたところ、有料(2700円)で「検査報告書」を作成することができると聞き、その作成を依頼しました。「検査報告書」には次の内容が書かれていました。(1)数値結果(2)検査結果から言えること(3)日常生活上配慮していただきたいこと(2)では、各課題での取り組み方と課題の通過・不通過の理由について詳しく記載されていました。例えば「ことばのみの質問では、そもそも相手のことばに注目を向けること自体が難しかったり、注目を向けることはできても”何が求められているか”という課題の意図を把握しきれないと言えます。」といった具合です。ここから、次女への問いかけ・指示を言葉のみで伝えた時に理解するのは難しいということを理解することができました。(3)では、日常生活で必要な具体的配慮が10項目も記載されていました。例えば「働きかける際には、何をすべきか、何か求められているのか、が把握しやすい見る手がかりに簡潔なことばを添える形で示していくよう心がける」などです。それまで次女が私の指示を聞かないことに苛立つ場面も多かったのですが、「本人が理解しやすい方法で伝える」必要があることがわかりました。このように、「検査報告書」を依頼すれば、詳しい検査結果を知ることができます。無料で「検査報告書」を作成してくれる機関もありますが、検査形態や「検査報告書」の費用は機関によって異なりますので、詳しくは受診する病院に問い合わせてみてください。まとめ出典 : 新版K式発達検査は、ウェクスラー知能検査(WISC・WAIS)や田中ビネー知能検査などの知能検査と同様に、その人に合った支援や学習指導の方向性のヒントを得ることを目的としています。検査を受けて診断結果を知るだけではなく、被検査者の得意不得意を見極めて、ひとりひとりに合った困りごとへの対応を心がけることが大切です。なお、検査を受ける機関によって診断方法や費用が異なりますので、受検を検討される方は、相談機関に相談してみてください。発達ナビQ&A新版K式発達検査で1歳ほど発達が遅いという結果が出ました
2016年08月22日広汎性発達障害(PDD)の原因は?出典 : 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害があり、限定的・反復的および常同的な行動があることを特徴として分類される発達障害のグループ です。世界保健機関(WHO)の診断基準である『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の診断カテゴリでは、このグループには自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という5つの障害が含まれています。広汎性発達障害は、最新の診断基準であるアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版テキスト改訂版)では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。また、広汎性発達障害の障害名、症状の中には自閉症スペクトラム障害の概念では除外されたものも含まれています。ですが、行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、本記事では『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明します。広汎性発達障害のはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、脳の機能障害がその原因と考えられており、親の子育て方法が原因で起こるものではありません。このうち、レット障害(レット症候群)についてはX染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因であることが分かっています。ほかの障害についても最近では遺伝的要因の関与が有力視されていますが、必ずしも単純に親から子どもへ遺伝するという意味ではありません。遺伝的要因と環境要因が複雑に相互に影響しあっていることが原因ではないかと言われています。しかしながら具体的な障害の原因やメカニズムは分かっておらず、様々な説が議論されている段階です。広汎性発達障害って治療できるの?出典 : 広汎性発達障害を根本的に治療する薬や手術といった医学的な方法はありません。しかし、広汎性発達障害による困難を緩和・解消するための教育・療育によるアプローチは存在します。本人が困難への対応法を学んだり、困難を未然に防ぐための環境調整をすることで、生きやすい環境を作っていくことが可能です。広汎性発達障害のある人はその特性ゆえに、生活する中で様々な困難にぶつかりがちです。他者の感情の読み取りが困難なため、会話の意図を誤解して受け取ったり、コミュニケーションがかみ合わなかったりする場合があります。抽象的な指示が理解できないために同じミスを繰り返したり、こだわりのため順番やルールを守れずトラブルになったりすることもあります。中には自分に自信をなくしたり、周りに強い被害者意識を持ってしまうこともあります。こういった日々の困難さが引き金となって、うつ病やひきこもりなどのいわゆる二次障害が発現することもあるのです。特に思春期以降の不安障害や気分障害の予防が大切です。広汎性発達障害の特性による困りごとを緩和するのに加え、こうした二次障害のリスクを極力なくすためにも、周りが障害の特性についてよく理解し、どのように対応すれば本人が行動しやすいか、生きやすいかなどを考えていくことが必要です。また、てんかん発作や感覚過敏など、一部の症状に対しては薬物療法によって症状を緩和できる場合もあります。うつ病や睡眠障害などの二次障害に対しても精神安定剤などの薬物治療が行なわれることもあります。これらの二次障害に対する治療の一つとしては、心理療法である認知行動療法の有効性が示されています。広汎性発達障害の治療の判断基準は?出典 : 広汎性発達障害は主に「社会性・対人関係の障害」「コミュニケーションや言葉の発達の遅れ」「行動と興味の偏り」の3つの症状が現れると言われています。専門機関においても上記の3つの症状が見られるかを本人や保護者への問診や本人の行動観察などから評価・判断します。親が気づく子どもの症状としては「視線を合わせない、または避ける」「言葉の発達が遅い」などの症状がよく挙げられます。また、広汎性発達障害のある人のほとんどに何らかの感覚過敏が見られます。例えば、小さな物音を怖がったり(聴覚過敏)、抱っこされることを嫌がったり(触覚過敏)、偏食が多い(味覚過敏)などの感覚過敏があります。広汎性発達障害の症状は上記のように複数存在しますが、特定の症状がでたら治療が必要という明確な線引きはできません。また症状ごとに対処法や治療プログラムは異なります。本人が特性による困りごとに直面している場合、専門家による何らかの治療や支援が必要になると言えるでしょう。障害ではないかと気づいた場合には、まずは近くの保健センターや子育て支援センター、児童発達支援センターなどの専門機関に相談するようにしましょう。広汎性発達障害の治療法と治療を行う年齢は?出典 : 広汎性発達障害の根本治療はできませんが、症状を緩和するためには療育的アプローチと薬物療法の2つが効果的です。■療育療育は何歳からでも始めることができ、なるべく早くから通うことが推奨されます。療育とは、以下のように定義されています。療育とは医療、訓練、教育、福祉などの現代の科学を総動員して障害を克服し、その児童が持つ発達能力をできるだけ有効に育て上げ、自立に向かって育成することである。■薬物療法広汎性発達障害そのものを根本的に直す薬はありませんが、特定の症状を緩和するために使用することがあります。薬によって開始できる年齢や症状が決まっており、人によって副作用がある場合もあるので、主治医とよく相談し、用法用量を守って服薬していくことが大切です。薬物療法は、症状を一時的に抑えるためのものであり、症状が軽減している間に、教育や支援を行うと効果的であるともいわれています。治療を終える判断基準については、根本治療ができないため、はっきりと決まっているわけではありません。ですが、本人が特性への対処法を習得したり、環境調整を行ったりすることで困りごとが緩和されれば、治療が必要のない状態になることも少なくありません。しかし、進学や引っ越し、転職などの大きな環境変化によってさまざまな困難が再発する可能性もあるため、十分なフォローが必要です。広汎性発達障害の具体的な療育法・治療法出典 : 療育の遊びを通じてコミュニケーションの取り方を学んだり、友達を作ったりすることができます。また、ストレスを抱えがちな親にとっても療育の場は相談できる場所であり、同じ悩みをもつ親同士の交流の場所にもなっています。療育の効果は個人差があり、子どもに合った療育が必要となりますが、子どもにとっても親にとっても療育は心の面の大きなサポートになると言えるでしょう。広汎性発達障害の療育方法は様々ですが、下記の4つがよく知られています。それぞれの位置づけは異なりますが、ここでは簡単に概要のみを説明します。■ABA(エービーエー、Applied Behavior Analysis/応用行動分析)人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、問題解決に応用していく理論と実践の体系です。広汎性発達障害に対する療育だけでなく他の障害や教育、福祉、医療、スポーツ分野でも利用されています。■TEACCH(ティーチ、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children)米国ノースカロライナ州で生まれた、自閉症スペクトラム障害の当事者とその家族を障害支援する総合的なプログラムです。※自閉症スペクトラム障害とはレット障害を除く広汎性発達障害を指します。■PECS(ペックス、Picture Exchange Communication System)絵カードを使ったコミュニケーション援助プログラムです。上記のABAの原理に基づいて作成されています。■SST(エスエスティー、ソーシャルスキルトレーニング)対人関係をうまく行うための社会生活技能を身につけたり、障害の特性を自分で理解し自己管理をするためのトレーニングの総称です。紹介した療育方法はごく一部ですが、療育機関ではこれらの療育理論や方法を複数組み合わせたり、独自のプログラムを利用して、子ども1人ひとりにあった療育方法が行なわれます。広汎性発達障害の根本的な治療としての薬物療法はありませんが、一部の症状に対しては対症療法として薬を使用することがあります。例えば、パニック症状を緩和するためには抗精神病薬、てんかん発作や感覚過敏には抗てんかん薬などが処方される場合もあります。その他様々な症状に対して薬物療法が行なわれますが、薬は一時的なもので、症状が完全になくなるというわけではありません。また薬には副作用が出ることもあります。薬の使用は必ず医者の指示を守りながら使うようにしましょう。適切な治療やサポートを受けられない場合、広汎性発達障害の主症状とは異なる合併症や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような症状や状態を、一般的には「二次障害」と言うこともあります。注意すべき症状・状態には以下のようなものがあります。・気分障害(うつ病など)・不安障害・睡眠障害・不登校やひきこもり・アルコールなどの依存症などこのような症状や状態が現れた場合には専門の相談機関や医療機関で早期に相談・治療を開始しましょう。二次障害の治療には、それぞれの症状によって認知行動療法などの心理療法的アプローチや薬物療法などが用いられます。二次障害の予防のためには環境調整や周囲の理解、親や家族以外にも本人が信頼して相談できる人間関係を作ることなどが大切です。接し方で大きく変わる!広汎性発達障害の子どもへの接し方のポイント出典 : 広汎性発達障害のある子どもの中には、使っている言葉の意味を理解していなかったり、遊びのルールを理解するのに時間がかかってしまう子もいます。その際は絵や写真を使うと、理解しやすくなる場合があります。また、あいまいな表現は苦手なので、できるだけ具体的な言い方をするようにしましょう。何度叱っても同じことを繰り返してしまうために、親もイライラしてつい大声で叱ってしまうかもしれません。広汎性発達障害のある子どもは恐怖心でトラウマになりやすい傾向にありますので、大声で叱ってしまいそうになったら一度その場を離れるなど、冷静になるよう心がけてみてください。広汎性発達障害のある子どもが適切な行動を習得するまでには、根気強く教える必要があることを理解しましょう。叱るときには感情的にならず、具体的に注意する方が効果的です。上記でお伝えしたように写真や絵を使うなど、どうすれば上手く伝わるかを試行錯誤することも大切です。手をひらひらさせたり、ぴょんぴょん飛び跳ね続けたりするなど、広汎性発達障害のある子どもの中には同じ行動を長時間続ける常同行動が見られる場合があります。これらは視覚支援によって見通しを持てる環境を作ったり、コミュニケーションスキルを学んだり、適切な遊びにかえることなどで改善することが多いです。無理に止めさせようとするとパニックに陥ることもあるため、何回やったら終わりと決めたり、何か違うことに集中するための課題などを与えてあげたりするとよいでしょう。広汎性発達障害の子どもを持つ保護者は、できないことや、やめさせたい行動が多く目につき子育てが不安になってしまうこともあるかもしれません。ですがマイナス面ばかりに目がいかないように、得意分野を見つけて、できることを増やすことが大切です。また、ちょっとしたことでも褒めることが子どもの自信につながります。広汎性発達障害のある子どもの子育ては通常に比べて少しコツが必要になってきます。家族だけで解決しようとするとつまづくことも多いため、プロの手を借りて、子育ての仕方を学んでいくのもおすすめです。ペアレントトレーニングでは褒め方のコツや上手な指示の出し方、危険な行動を予防する方法などを学ぶことができます。まとめ出典 : 広汎性発達障害の根本的な治療方法はありませんが、療育によってコミュニケーションを取りやすくなったり、生活の困難に対処しやすくなります。そのためできるだけ早く療育をスタートしたほうが、本人の生きづらさも減ると思います。日常生活において不安に思ったりすることもあるとは思いますが、何かあった場合は身近な専門機関に相談してみてください。また、本人にとってよい環境を整えて生きづらさを少しでも減らせるように、周囲の人たちは障害の特性を理解した上でサポートするようにしましょう。
2016年08月17日そのカミングアウトは誰のため?出典 : 発達障害とわかったら、周囲の人に伝えるべきなのだろうか?子どもの特性をどういう言葉で伝えるか?…と、頭を悩ませる方も多いかと思います。しかし、「何のために、そして誰に、どう伝えるのか?」と整理して考えると、答えが出てくることがあるかもしれません。紆余曲折を経て、「息子のために伝えよう」と思えるようになった、私なりのカミングアウトをお話します。息子の障害を隠し続けた理由出典 : 息子が発達障害と診断されたのは7歳のとき。今から7年前のことです。当時は学校の先生へは診断名を伝えたものの、周囲の人にはひた隠しにしていました。学校の先生からは「同じクラスの子どもたちには、伝えたらどうか?」という提案がありました。ですが私はそれを断り、通級指導教室に参加するために、息子がクラスを抜ける際も、「毎週病院へ行っている」と、苦しい言い訳をしていました。周囲にバレないように、細心の注意を払い、息子の通級の送り迎えをしていたのです。当時の私には、息子の障害をどう伝えたら良いのか分かりませんでしたし、何よりも親としての余計なプライドを捨てられず、周囲の偏見を恐れていました。今思えば、息子の障害を受容したつもりでいましたが、気持ちの根底には障害を認めたくない自分がいたのかもしれません。もうこれ以上は誤魔化せない!出典 : そんな中、あるきっかけで息子の障害をカミングアウトすることになりました。通級のたび「病院へ行くので授業をお休みします」と説明されることに混乱した息子が、「ぼくは病院へ行っていない!」と学校でパニックになってしまったのです。息子に予定を偽るなんて、この頃の私は自閉症の子どもの苦手な事を、まるで分かっていなかったのだと思います。このまま偽り続ければ、息子がまたパニックを起こす可能性があります。こうして私は、クラスの同級生に「担任の先生から伝えてもらう」ことを決めたのでした。相手は同級生でしたし「自閉症」という障害名ではなく「苦手なことがあって、それをお勉強しに行っている」という通級の説明を中心に伝えることにしました。「子どもたちを通して、保護者の中で噂が広がるだろう!」私は内心、とてもハラハラしていました。しかし、そんなネガテイブな考えとは裏腹に、噂や誤解は広がりませんでした。少なくとも私の耳には入りませんでした。それどころか、困っている息子を積極的に手伝ってくれる同級生が何人も現れたのです。通級へ行く息子を見送ってくれる子、通級から戻ったときに先生を呼びに行ってくれる子、教室に入れず、1人で給食を食べている息子に、おかわりを持って来てくれる子…。こんな同級生の様子を見て、息子よりもむしろ私が救われたのです。伝えることが息子のためになる、とわかり…出典 : 息子と同級生との関わりを見て、「カミングアウトすることで生きやすくなる場合がある」と知り、私は息子の障害を隠さなくなりました。でも、はじめから障害名だけを伝えることや、懇談会などで大勢を前に伝えることは、ほとんどありません。大切なのは、息子のために、協力者となって欲しい人に、分かりやすく伝えるという視点。また、伝え方も工夫しています。「あれが苦手」「こういう配慮は混乱しやすい」など、ネガティブな言葉だけで終わらずに、療育で学んでいる話など前向きな情報も一緒に伝えるようにしています。ネガティブで深刻な話というのは、聞くだけでも気持ちが重くなり、相手が負担に思うかもしれません。私の経験から言うと、周囲の人は、親が子どもの障害と向き合っているという事実に安心するような気がします。怖かったカミングアウトだけれど、伝え方を考えることで深まったのは…出典 : 診断前は、息子の行動や私のしつけに関して、批判されることもありましたが、障害を受容し、療育に励むことで周囲からの批判は収まってきました。私は今、発達障害児の保護者のコミュニティを運営していますので、息子の障害については、かなりオープンにしています。不思議なことに息子の障害をオープンにしてから、あれ程心配していた嫌な思いをしたことは、ほとんどありません。そしてオープンにするにつれて、私自身の障害への理解、そして障害を受容することも、深まってきたと感じています。カミングアウトは、家族それぞれの形があって当然ですし、私の経験は一例にすぎません。場合によっては、言わないということが賢明なこともあるでしょう。ですが、言う言わないはひとまず考えずに、「伝え方」だけイメージしてみるのはいかがでしょうか。子どものために、「学校に」「友達に」「保護者に」、そして「身内に」、どうやって伝えるか?それは様々な場面にいて、子どもが過ごしやすい環境を考えることでもあります。子どもにも周囲にも、メリットをもたらす伝え方を考えることで、そのプロセスがより子どもを理解し、受容させてくれるかもしれません。
2016年08月17日広汎性発達障害(PDD)の主な症状出典 : 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害があり、限定的・反復的および常同的な行動があることを特徴として分類される発達障害のグループ です。世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の診断カテゴリで、このグループには自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という障害が含まれています。広汎性発達障害の症状として主に下記の3つが挙げられます。1.社会性・対人関係の障害人に関心を示さない孤立型、言われたことに何でも従う受動型、一方的に話し続ける積極・奇異型、横柄な態度を取る尊大型の主に4タイプに分かれます。孤立型の特徴としてよく言われるのが、視線を合わせない(避ける)などの症状です。2.コミュニケーションや言葉の発達の遅れ他人とのコミュニケーションや会話が苦手で、抽象的な言葉の意味や曖昧な表現、文脈を理解できていないなどの症状があります。言葉の発達が遅れる症状も見られるため、3歳になっても会話ができないということで障害を疑う親も多くいます。3.行動と興味の偏りある特定の物事に強い興味やこだわりをみせることがあります。環境の変化や予定の変更を嫌がったり、普段はできていることも初めての場所だとできないなどの症状があります。その結果パニックを起こしてしまう場合もあります。こだわりが強く偏食になったり、同じ行動を長時間続けるなども見られます。また、機械音やサイレンなど特定の音に苦痛を示したり、抱っこを嫌がったりするなど、聴覚や視覚などの感覚過敏が広汎性発達障害のある人の多くに見られると言われています。広汎性発達障害はいつ分かる?診断の年齢は?出典 : 広汎性発達障害は、なんらかの先天的な遺伝要因と様々な環境要因に起因する何らかの障害が脳が発達する時期に起こり、それが成長段階で「広汎性発達障害」として発見されるとされています。要は先天的な素因によって起こる発達障害の一つとして医学的には捉えられています。広汎性発達障害は親のしつけや育て方の問題で起こっているわけではないことがわかっています。広汎性発達障害は、だいたい3歳までの幼児期に何らかの症状が現れると言われています。広汎性発達障害の子どもをもつ親が、言語能力の遅れやこだわりなどの何らかの症状に気づく時期についても3歳未満が多いとされています。また、1歳半健診や3歳児健診などの乳幼児健康診断で広汎性発達障害を含む発達障害に関する何かしらの指摘があり、その後医師の診断により判明することもあります。中には子どもの頃に気づかず、大人になってから広汎性発達障害と診断された方もいます。思春期以降には、不安障害やうつ病などの気分障害・睡眠障害などのいわゆる二次障害と呼ばれる症状や状態となり、その検査を通して広汎性発達障害に気づく人もいます。まだまだ認知度が低い発達障害ですが、本人に何らかの困りごとや症状があることに気づいた段階で早めに専門機関などで相談し、医療機関を受診するなどして、療育などの必要な支援を受けることが大切と言われています。広汎性発達障害の診断基準は?出典 : 一般的に専門機関での診断はアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版テキスト改訂版)や、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』による診断基準によって行われます。アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』では広汎性発達障害の診断カテゴリ下にあったレット障害を除くすべての障害名が、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害という診断カテゴリに統合されました。そのため今後「広汎性発達障害」という診断名は少なくなっていくと考えられますが、本記事では行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明しています。以下は『ICD-10』における広汎性発達障害の診断基準になります。以下の基準の中で当てはまる項目が多い場合や気になる場合は、専門機関で相談することをおすすめします。F84.2レット症候群Rett’s SyndromeA.胎生期・周産期は明らかに正常,および生後5カ月までの精神運動発達も明らかに正常,および生下時の頭囲も正常であった.B.生後5カ月から4歳までの間に頭囲の成長は減速し、また5~30カ月の間に目的をもった手先の運動をいったんは獲得していたのに喪失すると同時に,コミュニケーション機能不全,社会的相互関係の障害を伴い,また歩行および/または体幹の協調運動障害/不安定さがあらわれる.C.表出性および受容性言語の重度の障害があり,重度の精神運動遅滞を伴うこと.D.目的をもった手先の運動を喪失時またはそれ以後にあらわれる。正中線上での常同的な手の運動(もみ手や手洗いのようなもの)があること.F84.3他の小児期崩壊性障害Other childhood disintegrative disorderA.少なくとも2歳までの発達は明らかに正常であった.2歳時あるいはそれ以後に,コミュニケーション・社会的関係・遊び・適応行動について,年齢相応の正常な能力が存在していたことが診断に必要である。B.発症と考えられる時点において,それまでに獲得していた技能を明確に喪失していること.診断には臨床的に重要な技能について,次に挙げる領域のうち2項目以上の喪失(できなくなる場合があるだけではなく)が必要である.(1)表出性または受容性言語(2)遊び(3)社会的技能または適応行動(4)排尿または排便のコントロール(5)運動技能C.社会的機能の質的な異常が,次に挙げる領域のうち2項目以上に存在すること.(1)相互的な社会関係における質的異常(自閉症で定義した型)(2)コミュニケーションにおける質的異常(自閉症で定義した型)(3)常同運動や奇妙な運動を含む,行動や関心および活動性の,限定的・反復的・常同的なパターン(4)物や周囲に対する関心の全般的喪失D.障害は,広汎性発達障害の他の亜型,てんかんに伴う後天性失語(F80.3).選択制緘黙(F94.0),レット症候群(F84.2),統合失調症(F20.-)などによるものではない。F84.4精神遅滞[知的障害]および常同運動に関連した過動性障害Overactive disorder associated with mental retardation and stereotyped movementsA.重篤な過動が,活動性と中言い関する次の問題のうち2項目以上に明らかであること.(1)走ったり,跳んだり,全身を使った運動に示される,持続する落ち着きのなさ.(2)じっと座っていられない,常同的な活度に没頭しているときを除いて,ふつうは長くて数秒しか座っていられない(基準Bを参照).(3)静かにしていなければならない状況での強度の過動(4)めまぐるしく活動を変え,通常行動は1分未満しか続かない(時々,お気に入りの活動により長い時間を費やしても,除外しない.また,常同的な活動にひどく長い時間を費やすことがあっても,その他のときにこの問題が存在すればよい).B.行動や活動の常同的・反復的なパターンが,次のうち1項目以上に明らかであること.(1)固定して頻繁に繰り返される奇妙な運動,全身を使った複雑な運動ないし,手をひらひらとさせるような部分的な運動のいずれかがある.(2)過剰で意味のない活動の一定の形の繰り返し,単一の物体(たとえば流れる水)との遊びや,儀式的な行為(1人でしたり他人を巻き込んだり)など(3)反復する自傷行為C.IQは50以下.D.自閉的なタイプの社会機能障害はない.すなわち,次のうち3項目以上を示すこと.(1)社会的相互関係を調整するうえで,視線・表情・姿勢を発達的に適切に使用すること.(2)発達的に適切な,同世代の小児と関心や活動などを共有できる関係があること.(3)少なくとも時々は他人に慰めや情愛を求めていくこと.(4)他人の楽しみを時々は分けあうことができる.社会機能障害の他のタイプ,たとえば見知らぬ人に平気で近づくことなどは,あってもよい.E.自閉症(F84.0とF84.1),小児期崩壊性障害(F84.3)または多動性障害(F90.-)の診断基準を満たさない.F84.8他の広汎性発達障害Other pervasive developmental disordersF84.9 広汎性発達障害,特定不能のものPervasive developmetal disorder, unspecifiedこれは残遺診断カテゴリーで,広汎性発達障害の全般的記載には合致するが,十分な情報を欠く,あるいは矛盾する所見があるために,F84の他のコードのいずれの診断基準も満たさないような場合に用いるべきである。(中根允文ほか/訳『ICD-10精神および行動の障害DCR研究用診断基準』2009年,医学書院/刊p158より引用)自閉症・アスペルガー症候群の診断基準に関しては下記の記事をご参照ください。専門機関での診断は受けるべき?どこへ行けばいいの?出典 : 上記で述べた症状や特徴などが見受けられる場合、専門家に判断してもらうことをおすすめしますが、いきなり専門医に行くことは難しいので、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。また、1歳半や3歳児健診などの乳幼児健康診断がある場合は、医師や専門家もいるのでその際に相談してみるのもよいでしょう。子どもか大人かによって、行くべき専門機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など児童相談所などでは無料で知能検査や発達検査を受けられることも多いので、児童相談所で相談するパパ・ママも多くいます。まず身近な相談センターに行って、診断をすすめられたら、そこから専門医を紹介してもらいましょう。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にのってくれることもあります。診断は、子どもの場合、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などで受けることができます。(大学病院や総合病院などにあります)大人になって検査・診断を初めて受ける場合には、精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科や精神科など専門の医療機関を受診することが一般的ですが、大人の発達障害を診断できる病院はまだ数が多くありません。上記の相談機関で紹介してもらえるほか、医師会や障害者支援センター、発達障害者支援センターなどでも調べることができます。発達障害の専門機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者支援法などの施行によって年々増加はしています。以下のリンクは発達障害の診療を行える医師の一覧です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。担当者との相性も大切なので、納得のいく医療機関を選ぶようにしましょう。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」診断の流れ、必要な持ち物は?出典 : 本人や保護者に対する問診(面接)や行動観察、家族・学校の先生による提供情報の精査などと、専門機関によっては知能検査や発達検査などを実施する場合もあり、筆記や口頭質問などの検査が行なわれ、様々な情報を総合的に評価して診断されます。検査は複数回に分けて行なわれたり、慎重に経過を見ながら行われるため、一度の受診で診断されることはあまりありません。知能検査は、田中ビネー知能検査Ⅴ(ファイブ)やウェクスラー式知能検査(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」)などの検査を受けることによって検査結果がでます。特性の現れ方や発達段階などを評価するため「CARS」や「新版K式発達検査2001」、「PEP-R」などを行う場合もあります。初診時に必要な物として保険証、子どもであれば母子手帳などがあります。服用中の薬などがあれば、お薬手帳なども持っていくとよいでしょう。また、生育や発達歴についての問診がありますので、言葉を話し始めた時期や日常生活での困りごとなどをメモして持っていくと質問に答えやすいかもしれません。発達外来などの専門機関によっては保育園や幼稚園の連絡帳、小学校の通信簿やホームビデオなどを参考にする場合もあります。事前に問診票をプリントアウトして持参する機関もありますので、専門機関の公式ホームページをチェックしたり、予約時に電話にて必要な持ち物を問い合わせてみてください。まとめ出典 : 広汎性発達障害の子どもをもつ親の中には子育ての仕方が悪いと自信をなくす方もいらっしゃいます。ですが広汎性発達障害は子育ての仕方が原因ではないことが医学的にわかっています。自信をなくすなど親がストレスを抱えていると、子どもにも気持ちが伝わってしまいます。専門機関に相談したりすることで、同じ悩みを持つ親と知り合える機会も増え、親にとっても子どもにとっても心の面でケアできる可能性があります。まずは相談や診断を受け、少しずつでも広汎性発達障害について理解し、じっくり子どもと向き合っていくことが大切です。広汎性発達障害と診断された場合、年齢に応じた療育相談や、理学療法士・作業療法士などによる個別訓練、てんかんなどに対する薬物療法などが行なわれます(専門機関によって異なる)。一般的に早期療育がよいと言われています。早めに広汎性発達障害と知ることで子どもにあった療育方法を見つけ、生活に必要なスキルを練習することで、子どもと家族にとって生きやすい環境をつくっていきましょう。
2016年08月02日医学的に広汎性発達障害(PDD)の発現時期は分かっているの?出典 : 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害があり、限定的・反復的および常同的な行動があることを特徴として分類される発達障害のグループ です。世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の診断カテゴリでは、このグループには自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という5つの障害が含まれています。広汎性発達障害は、なんらかの先天的な遺伝要因と様々な環境要因に起因する何らかの障害が脳が発達する時期に起こり、それが成長段階で「広汎性発達障害」として発見されるとされています。要は先天的な素因によって起こる発達障害の一つとして医学的には捉えられています。広汎性発達障害は親のしつけや育て方の問題で広汎性発達障害が起こっているわけではないことがわかっています。広汎性発達障害は、だいたい3歳までの幼児期に何らかの症状が現れると言われています。広汎性発達障害の子どもをもつ親が、言語能力の遅れやこだわりなどの症状から何らかの疑いをもつ時期についても3歳未満が多いとされています。また、1歳半検診や3歳児検診などの乳幼児健康診断で広汎性発達障害を含む発達障害に関する何かしらの指摘があり、その後医師の診断により判明することもあります。中には子どもの頃に気づかず、大人になってから広汎性発達障害と診断された方もいます。不安障害やうつ病などの気分障害・睡眠障害などのいわゆる二次障害と呼ばれる症状や状態となり、その検査を通して広汎性発達障害に気づく人もいます。姫路心療内科 前田クリニック 「発達障害とうつの関係」埼玉県総合教育センター 「自閉症の理解と支援自閉症とは」広汎性発達障害の原因は?出典 : 現段階では正確な原因は解明されていませんが、脳機能の障害により症状が引き起こされるといわれています。その脳機能障害は、先天的な遺伝要因と、様々な環境要因が複雑かつ相互に影響し合って発現するというのが現在主流となっている説です。なお、広汎性発達障害という診断名は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版テキスト改訂版)の診断基準では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害という診断カテゴリに変更されています。以下の各症状の中には、自閉症スペクトラム障害の概念から除外されたものも含まれています。しかし、行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、本記事では『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明します。以下の図で広汎性発達障害に含まれている各症状の原因について、それぞれご紹介します。Upload By 発達障害のキホン自閉症は脳の機能障害が原因と考えられていて、これには複数の遺伝子が関わっており、最近では父親の高齢化で自閉症の確率が高まるという研究報告や、妊娠時の体内環境の要因などが関連すると言われることもあります。しかしながら、これらは全てはっきりしたメカニズムが分かっておらず、医学的根拠については解明されていません。アスペルガー症候群も自閉症と同様に脳の機能障害である可能性が高いとされていますが、その全てが解明されている訳ではありません。小脳や脳内物質の異常、環境ホルモンやウィルス感染、成長環境での心理的要因など国内外で様々な研究が進められており、アスペルガー症候群の原因について医学的な裏づけを研究している段階です。レット障害(レット症候群)はほとんどが女児に見られる発達障害です。レット障害についてはX染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因だということが発見されました。1999年にMECP2という遺伝子が主な原因遺伝子であることが発見され、その後2004年にCDKL5、2008年にFOXG1という原因遺伝子も発見されています。女性の性染色体はXX型、男性はXY型であるため、レット障害は女児に多いと考えられています。また、男児の場合、遺伝子の異常で流産や死産してしまう可能性が高いですが、男児のレット障害も少数ながら報告されています。レット症候群|難病情報センター小児期崩壊性障害(CDD)はヘラー症候群とも呼ばれますが、その原因は現段階では解明されていません。今まで話していた子どもが言葉を話さなくなるなど精神発達の退行が症状として現れますが、脳や神経系の感染症などを発現後に小児期崩壊性障害となるケースも多く、脂質代謝異常や結節性硬化症など、さまざまな疾患と関連があると考えられています。特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)は特定不能とあるように、特定の原因は不明とされています。一部では遺伝要因と環境要因による相互作用ではないかと考えられています。自閉症やアスペルガー症候群の診断基準には当てはまらないが、その特徴を一部持っているという場合に診断されることが多いです。広汎性発達障害は親から子どもへ遺伝するの?出典 : 広汎性発達障害は先天的な遺伝的要因が関与している可能性が高いと言われています。双生児研究や家族間研究が盛んに行われてきました。以下のようなデータがあります。広汎性発達障害の一卵性双生児における一致率は70~90%であり、その遺伝率は90%とされている。よって広汎性発達障害は遺伝因子がその発症に大きな役割を果たしていると考えられている。(橋本亮太、安田由華、大井一高、福本素由己、高村明孝、山森英長、武田雅俊「モデル動物を用いた発達障害病態解析」 2009年より引用)一卵性双生児の場合、基本的な遺伝子情報は同じです。その一卵性双生児間で一人が広汎性発達障害である場合、もう一人も広汎性発達障害であるという確率が90%と高いことは、遺伝的要因が影響していると言われている根拠の一つとなっています。一方で、一致率が100%でないということは、遺伝以外の要因があることも示唆しているのです。つまり、広汎性発達障害は遺伝的要因が関係している可能性がありますが、必ずしも単純に親から子どもへ遺伝するというわけではありません。また。遺伝する確率や詳しい原因については研究段階で、発現するメカニズムなどは解明されていないのが現状です。障害のある親から障害のない子どもが産まれる場合もありますし、親族の広汎性発達障害のない場合でも障害のない親から障害のある子どもが産まれる場合もあります。きょうだい間でも上の子が広汎性発達障害だったからといって、下の子も必ず広汎性発達障害になるとは限りません。広汎性発達障害を検査する方法はあるの?出典 : 羊水検査やエコー写真などによって、出生前の妊娠中の段階で広汎性発達障害を検査する方法は今のところありません。原因遺伝子が確定されているレット障害(レット症候群)に関しては、出生後に遺伝子検査ができる場合もあります。しかし、その他の広汎性発達障害については、出生後も血液検査や遺伝子検査といった生理学的な方法で検査することはできません。一般的に子どもになんらかの症状や特性が現れてから、様々な心理検査や知能検査、保護者(親)に対する問診、子ども(本人)の行動観察、学校や家族からの情報提供などによって診断が行われます。診断基準は主にDSM-5やICD-10などが用いられます。診断はさまざまな情報や検査の結果から総合的に行われ、経過を見ながら慎重に行われます。レット症候群の遺伝子異常について|NPO法人レット症候群支援機構HP広汎性発達障害の治療法はあるの?出典 : 根本的な原因が解明されていないため、薬や手術などによる根本的な治療法は存在しません。一般的には環境調整や療育(りょういく)と呼ばれるトレーニングを行い、家庭での対応や専門機関による療育などによって子どもが自立して生活できるよう支援していきます。また、パニック症状やてんかん発作、感覚過敏など一部の症状に対して薬物療法が行なわれる場合もあります。療育は何歳からでも始めることができます。コミュニケーションの取り方がわかったり、療育の遊びを通して友達ができたりする子もいます。ストレスを抱えがちな親にとっても療育の場は相談できる場所であり、同じ悩みをもつ親同士の交流の場所ともなっています。療育の効果は個人差があり、子どもに合った療育が必要となりますが、子どもにとっても親にとっても療育は心の面でもサポートにもなると言えるでしょう。まとめ出典 : 広汎性発達障害の原因は遺伝的要因が有力とされていますが、必ずしも単純に遺伝するという訳ではなく、詳しい原因やメカニズムはいまだ解明されていません。一方で親の子育て方法が原因と言う心因論も誤りです。遺伝かどうか、原因は何かを探るだけではその子の生きやすさにはつながりません。その子が生きやすい環境を作ることがもっとも大切なことです。また、最近では3歳未満で診断されることも多いですが、見た目にも分かりづらいことから大人になるまで広汎性発達障害と気づかなかった方もいます。広汎性発達障害と気づき、療育などの適切なサポートを受けることは本人にとっても親にとっても大切なことです。少しでも気になることがあるようでしたら、専門機関での相談を受けてみてください。
2016年08月01日●連載の目次は こちら から●発達障害についての基本的な知識を持っておくことで、当事者(母や子ども)は、随分と楽になる。それは私が実体験を通じて感じていることだ。けれども、知識があったとしても、やっぱり発達障害の子を育てるのは大変! 最終回の今回は、私のそんな心境を綴ってみます。■「発達障害」の子育ては疲れます発達障害についての特集記事を、さもわかったように書いている私。けれども、私自身、いまだに「発達障害の子を育てること」と完全に折り合いがつけられているわけではない。発達障害の子を育てるのは、普通の子育てより疲れる。それは、紛れもない事実だ。少し息子の調子が良いと、その事実を忘れてしまう。そして、普通の子のようなつもりで接していると、ある日ドカンと現実を突き付けられ奈落の底に突き落とされる。そんなことの繰り返しだ。 ■専門家と繋がろう子どもに親が「キレる」ことが多くなったら、そろそろ限界値。赤信号が点滅していると思い、早めに周囲にSOSを出すよう心がけている。私が頼りにしている方々は、今のところこんな感じだ。・家族・保育園の園長をしている友人(専門知識のある一般人)・司馬先生(専門知識のある医師)・小学校の担任の先生・小学校の特別支援学級(通級)の先生(専門知識のある教員)最初に相談する相手は、発達障害についての知識がある人のほうが良いと思う。たとえば、ママ友に愚痴を言ってガス抜きをするのは大切なことだが(私も、よくやっている)、それはあくまで、「ガス抜き」でしかない。「うちの子、発達障害かも!?」と気になっているのであれば、 しかるべき相談窓口 に、一度行ってみたほうが回り道をすることなく、適切な対応策に辿り着けるのではないかと思う。 ■1人で抱え込まないで!「周囲に助けを求められるかどうか?」は、発達障害の子育ての肝だと思う。繰り返すようだが、「発達障害」の子育ては疲れる。「キレイごと」では、どうにもならない現実の毎日がそこにはある。「もうイヤだ!」と思うことがあるのは、当たり前だ。そんなときは「良いママでなければ!」と一人で抱え込まず、周囲に助けを求めよう。私は、夫や長男に「ママを閉店します」と言い置いてプチ家出をしたり、小学校に行って、「最近、大変です」と状況を正直に話して、担任や通級の先生に支援を仰いだりしている。月1回の司馬先生の診察は、自分を客観視できる良い機会になっている。先日、保育園の園長をしている友人にSOSを出したところ、物言いのストレートな彼女からは、「(虐待だと)通報されない程度に、頑張れ!(笑)」と言われた。「すごい励まされ方だなぁ」と笑ってしまったが、しんどいときは、うんとハードルを下げて自分の生活を眺めてみることも効果がある。「頑張りすぎないようにしよう」。そう日々、自分に言い聞かせている。頑張りすぎて、母の心が不安定になるようでは、本末転倒。お母さんの一番大切な役割は、毎日、機嫌よく過ごすこと。そして、わが子をいつくしむことだと思うから。
2016年07月17日●連載の目次は こちら から●発達障害についての基本的な知識を持っておくことで、当事者(母や子ども)は、随分と楽になる。それは私が実体験を通じて感じていることだ。今回は、私が質問されて答えに困った「発達障害の診断」について、軽度の発達障害クリニックの院長である、司馬理英子先生にお話を伺った。■診断はレッテルを貼るのではなく、対処法を知るため私は息子を支援学級に通わせていたので、ママ友から子育ての相談を受けることがある。そのときに、よく聞かれることは、「発達障害の診断を受ける必要ってあるの?」ということだ。発達障害は病気ではなく、「脳の発達のかたより」。そうだとすれば、「診断は本当に必要なのか?」と思ったり、「わが子に、発達障害のレッテルなんて貼りたくない」と思ったりするのは当然のことだと思う。「診断は子どもにレッテルを貼るためのものではなく、それによってどんなことで困っているのかを教えてくれるものです」(司馬先生)診断は、いわば大きな方向つけ。「これから何をするのか?」「どんな対処方法があるのか?」を考え始めるスタート地点の指標のようなものだ。もちろん、わが子を育てる作戦(司馬先生は、よく“作戦”という言葉を使われる)を立てるのに、診断を受けるだけでは充分ではない。 ただ、ADHDといってもどんなタイプなのか、その子の能力のどんなところにどう影響しているのか、それらがわかればわかるほど作戦(対策)は立てやすくなる。また診断することによって、子どもが専門家から的確なアドバイスを受けられるほか、親が本や勉強会などから、ピンポイントで情報を得ることもできるようにもなる。■診断を受けるための一般的な経路「発達障害かどうかが気になるのだけれど、誰にどんなふうに相談すればよいかわからない」これも、よく相談される内容だ。一般的には、まずは学校の担任の先生に相談するのが良いだろう。学校には、週に1~2回ほど来て、子どもや保護者の相談に乗ってくれるスクールカウンセラーという職種の人もいる。また、自治体の教育相談所や教育センターなどで、相談業務を行なっていることもある。最近では、発達障害の診断や治療の経験がある小児科の先生も増えているので、かかりつけの医院の先生に相談してみてもよいだろう。■大切なのは、早く気づいて二次障害を防ぐこと私が相談を受けたときに必ず言っていることは、「発達障害の子を育てるのは、すごく大変だし、一緒に生活するのはしんどいよね。でも、発達障害の子を育てる上で、一番大切なのは、二次障害を防ぐことだと私は思っている。診断を受けることで、子どもの特徴に早く気づければ、必要とする支援がわかり、より二次障害を防ぎやすくなると思うよ」ということ。二次障害とは、発達障害に対する対応が十分に行われないために、二次的に起こる問題のことだ。たとえば、学校に行くのをイヤがったり、学校に行けなくなったり、うつ状態になって元気がなくなったり、親にひどく反抗したりというのが二次障害だ。発達障害の子は何かにつけて叱られることが多く、「ぼく(私)はダメなんだ…」というように自尊心が低下しがち。いったん二次障害が起きると、もともとの発達障害そのものへの対応以上に、扱いが難しいこともよくあると言われている。次回は、最終回。「発達障害の子育ては疲れます」です。
2016年07月17日