吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。心地よい、を選ぶ映画『かもめ食堂』が好きで、もう10回以上は観ています。群ようこ原作のこの映画は、フィンランドのヘルシンキの小さな『かもめ食堂』をめぐる人々の物語。登場人物たちの感情を抑えたやりとりは何とも味があり、リラックスして観られるのが魅力です。小林聡美、もたいまさこらの抑制された演技に不思議に惹きつけられます。癖になると言っていいかもしれません。取り立てて物語のアップダウンはないのに、また観たくなる、奇妙で平和なムードのある映画です。はらはらしたり、シリアスな物語に疲れてしまうようになりました。体のどこかに力が入ってしまうのか、観終わるとぐったり。新しいものを追いかけるのではなく、心地いいことを選んでいく。そんな年代なのかもしれません。『かもめ食堂』を観ていて心地いいのは、登場人物が多くを語らないということがあるかもしれません。説明も感情を吐露し合うこともない。言葉の間合いや、抑えた表情で伝わってきます。そして、『日本人のソウルフード』としておむすびが出てきます。またサーモンの網焼き、唐揚げ、シナモンロールも登場します。一つ一つの食材を丁寧に扱い、丁寧に調理していく描写に静かな感慨を覚えます。この映画の心地よさは、私たちの日常を心地よくするヒントになります。登場人物たちが丁寧な言葉で会話していること。それは小津安二郎の映画で交わされる父と娘の丁寧な言葉づかいのようです。丁寧であることの心地よさ。丁寧に接することは、相手を大切に思っているというメッセージでもあるのです。丁寧にすると、自分自身も心地いいはずです。この循環が、世界をまろやかにしていくでしょう。世界が穏やかであるには、ひとりひとりの言葉や態度から始まるのですね。『かもめ食堂』の中に、こんな会話があります。「フィンランド人はとても穏やかです。どうしてでしょう?」そこでお客のひとりである青年がこう言います。「フィンランドには、すぐ近くに森があります」ここにも気づきがあります。森は、無意識の象徴でもあります。静かな、自然豊かな場所で自分を見つめる。自然に癒され、身体も心も緩める。自然と共にあるという感覚は、日本人と近いのかもしれません。自分が心地よいと思うことを大切に。『かもめ食堂』は、リラックスしたいときの処方箋なのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年11月27日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。『木守り』色鮮やかに、そして、たわわに実をつけた『柿』の姿が消え、灰色の枝だけになり、もの寂しい晩秋の景色になりました。でもよく見ると、柿の実一つ、伸びた枝につき、塀越しにその色つやの良い姿を見せてくれております。本日のタイトル『木守り』の風景です。それは、柿の木そのものの気持ちとも考えられます。来年も今年のように、沢山の実をつけてほしいという、持ち主の願いともとれますね。当方が田舎にいた時には、この『木守り』の風景を晩秋には、あちこちで見かけたものですが、大都会では柿の木があるお宅は少ないので、先ず見かけることは少ないですね…。でも、柿の木をお持ちの方であれば、持ち主と実をつけた柿との会話です。晩秋にぴったりの風景にもなるので、昔の風景、塀から覗く柿の実との『コラボ』は、今にも是非是非 残していただきたいと思います。当方は昭和の人間ですし、その昭和の風景や景色を若い人達に伝えたいと思っています。『木守り』もその一つですが、『木守り』の風景や、ことば を若い方が、その景色を想像し、或いは、この時季、柿の木の『木守り』を探して歩くとか、昭和のアナウンサーの『つぶやき』を心に留めて置いて下さればこんなに嬉しいことはありません。果実などの話が出たときに、自慢話でこの『木守り』の話しなどをして下されば、なお嬉しいですね。当方のご近所には、柿の木が塀から覗いているお宅が数軒ありますので、この晩秋の散歩は『木守り』探しでたのしむ予定であります。<2022年11月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年11月25日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。神様と約束した時間を生きる神様と約束した時間が、あと120日だとしたら……。元気で過ごす120日なのか、それとも弱っていく120日なのか。どう生きるかはそれ次第ですが、それまで体験したことのない体の衰えと共にある時間と考えるのが妥当でしょう。大好きな友人が若くして亡くなったとき(これが、彼女が神様と約束した時間だったんだ)と思って、その死を受けとめようとしました。受け入れ難いことであっても、それは起こってしまった現実です。そのとき私の胃腸は動かなくなり、食べたものを消化できなくなりました。その症状は、現実を消化できないことと重なります。悲しい現実と自分の心の折り合いをつけることがこんなにも難しいことか。身体も教えてくれました。直木賞作家の山本文緒さんは、2021年に膵臓がんで亡くなられました。58歳、それが、山本さんが神様と約束した時間でした。膵臓がんと診断され、余命4ヶ月を宣告されました。抗がん剤治療がうまくいって9ヶ月。山本さんが余命を宣告されてから綴った日記『無人島のふたり』(新潮社)には、命を終える日へ向かう悲しさ、葛藤、焦燥、諦め、希望……そして、アップダウンを繰り返しながら弱っていく体調が記されています。肩に力の入った文章ではなく、後世に何かメッセージを残さなければという気負いもなく、ただ余命を告げられた日常と、胸の中に吹き荒ぶ思いが綴られています。書くことを手放さない作家の矜持も感じます。1994年に亡くなった安井かずみさんも、最後の日々を綴った『ありがとう!愛』(大和書房)という詩集を残しました。出版されることを前提に書かれたのかどうか、それはわかりません。最期まで夫の加藤和彦さんを愛し、キリスト教の洗礼を受け、ただただ愛と感謝を綴った詩集です。「金色のダンスシューズが散らばって私は人形のよう」この言葉が絶筆となりました。最後の言葉に、安井さんの無念さが閉じ込められているようで、胸が痛みます。言葉を綴るということは、ただただ自分を見つめ続けることだと思っています。アーティストのための作詞をするために物語を作りますが、すべて『自分』を通して生まれるものです。それは自分の経験を通して……ということではなく、自分がどのように世界を見つめているか、ということの表れでもあります。ですから、言葉を生業とするものは、書くことを手放せない。自分がこの状況の中で何を感じ、どんな感情を抱くのか、それを見ずにはいられない。それを記録せずにはいられないのです。なぜなら、書くことが自分に向けての存在証明だからなのです。神様と約束した時間がどのくらいあるのかわかりません。私たちは常に『余命』を生きているのかもしれません。時間を、そして自分を大切に大切に抱きしめながら、生きていきましょう。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年11月20日女性たちの本音を代弁、考察し、鼓舞する小説を書き続ける柚木麻子さん。『きょうの料理ビギナーズ』などでの連載をまとめた、単著での初エッセイ集『とりあえずお湯わかせ』も、必ずや共感を呼ぶだろう一冊だ。タイトルの由来は、お母さまの口癖。重い腰を上げるとっかかりとして、家訓のように柚木さんにも引き継がれているという。人気作家の初めてのエッセイ集は、元気を取り戻すためのカンフル剤。「連載の最初にそう書いたのですが、すぐに、実は母が桐島洋子さんのベストセラー『聡明な女は料理がうまい』から、ある部分のエッセンスをとったものだとわかって。小耳に挟んだところでは、料理家の故・小林カツ代さんも『お湯わかせ』と言っていたらしいです。’80年代から女性たちをエンパワーメントしてきた彼女たちの核にもなった名言であり、コンビニもSNSも時短アイデアも便利家電もいまほどないとき、まずはお湯というのは、家事を担っていた人にとってのライフハックでもあったのだなと。それを聞いて読んで育った私も、見習っています」エッセイのテーマは広く、料理やワンオペ育児のこと、小さなイベント、コロナ禍、思い出、フェミニズム…。どれも、むちうちが心配になるほど首肯してしまう。「私の理想のエッセイとは何かと考えてみたら、妄想が暴走するものなんです。私自身が、うっかり『良さそうなこと』に飛びついて、実行してしまうタイプですし」連載中に、女子教育に貢献した河井道の半生を軸にした長編小説『らんたん』を執筆。資料として、戦時中の婦人雑誌などを読み込んだ。「戦争の苦しい状況を楽しくする工夫とかが面白くて。それによかれと飛びついて、後悔することになってもいい。大切なのは声を上げること、連帯することだと言いたいですね」読むと、この4年ほどに日本で何が起きたかが、ありありとわかる。「子どもに野菜を食べさせなきゃとか、ものすごい工夫していましたね、私。子どもは『野菜は大人になったら食べる。いまはまだそのときじゃない』と理屈で抵抗できるくらいに成長していますが(笑)。ただ、私だけでなく社会もメディアも変わった。私への仕事のオーダーも、ジェンダーに関するものが増えました」現在もエッセイは連載中。柚木さんの書く“いま”には、読者の“いま”を見つめるヒントもてんこ盛り。『とりあえずお湯わかせ』連載エッセイ(2018年~’22年3月)、他誌に書いたもの、書き下ろし(章ごとに「後日談」、各編にセルフコメント)を合わせた59編。NHK出版1650円ゆずき・あさこ1981年、東京都生まれ。2010年にデビュー短編集『終点のあの子』を刊行。’15年、『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。『BUTTER』など著書多数。※『anan』2022年11月16日号より。写真・土佐麻理子(柚木さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年11月14日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。この波立つ時代を生きるためにこの地球に住む79億人(2022年)の人間が同じ方向を目指して歩んでいたら……。世界のあちらこちらで波立っているような今、79億人の人間が共通して持っているものがあるとしたら、それは命と愛ではないでしょうか。そんな理想主義者のような、夢を見るようなことを思ってしまうのは、この混沌とした時代に少し草臥れているからなのかもしれません。30年ほど前、1曲のクリスマスソングに出会いました。友人が是非観てほしいとプレゼントしてくれたデヴィット・フォスターの長編ミュージックビデオの中で、ナタリー・コールが歌った『クリスマス・リスト』です。デヴィット・フォスターのピアノでナタリー・コールが語りかけるように歌っている場面を、今でもよく覚えています。大人になったけれど叶えたい願いがあるの。必要としている人のために。戦争が起きないように。奪い合わないように。みんなに友達がいて、正義が勝つこと。いつも愛があること。これが私のクリスマスの願い。『クリスマス・リスト』がリリースされた1990年、イラクがクウェートに侵攻し湾岸戦争が起こりました。砲撃が開始された時のニュース映像を今でもよく覚えています。科学は進歩しても、人間の精神は進化しないのだと落胆しました。そんな時期にこの歌を聴き、今、私たちに必要なのはこういうことなのだと強く思ったのです。『クリスマス・リスト』は、エイミー・グラント、バーブラ・ストライサンドなど多くのアーティストによってカバーされました。16年後、この歌を平原綾香さんに歌ってほしいとプロデューサーにプレゼンをし、日本語詞による『CHRISTMAS LIST』を発表することができたのです。自分に何ができるのだろうか。大きなことでなく、自分の小さな両手でできること。79億人の人間が問い続けていけば、波立つ世界に穏やかな風が吹き渡るのではないか。今ならまだ間に合うのではないか。悲しいニュースに触れるたびに、こんなことを考えます。考えなくては、と思います。誰もが持っているものを、大切にすればいいだけのこと。シンプルに、原点に立てばいい。大切なものを、大切にするだけ。命を大切にすることは、愛することを学ぶことなのかもしれません。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年11月13日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「そうか、君はもういないのか」と思うとき「そうか、君はもういないのか」作家の城山三郎氏が妻の容子さんが亡くなった後に書いた随筆を読みました。容子さんとの出会い、結婚生活を書いたいくつかの未完の原稿を次女の井上紀子さんの手によりまとめた随筆です。最愛の人が、本当に最愛であったことを知るのは、失ったときなのかもしれません。城山氏は容子さんと出会ったとき、「間違って、妖精が天から妖精が落ちてきた感じ」と思い、その思いは結婚生活を通して変わることがなかったそうです。容子さんに先立たれ、城山氏はその現実を心の中にのみ置いていたと、次女の井上紀子さんは語ります。お葬式で喪服を着ず、お墓参りもせず。そして自宅に帰ることなく、ずっと仕事場で寝起きしていたそうです。「そうか、君はもういないのか」このつぶやくような一行を、私は母が亡くなって、愛犬のラニが亡くなってからふと思い出します。死が生命活動の終わりだとわかっていても、私は不思議でなりません。もういない、もう会えないという現実の凄みに、胸を掻きむしられるような喪失感を覚えます。私の腕の中で力なく身を委ねていたラニが、ある瞬間、くっと首をもたげ、驚いたような顔をして私を見たあの瞬間に、ラニの心臓は止まってしまいました。どこに行ったの?と何度も叫びました。いままで名前を呼べば私を見たラニは、どこに行ってしまったのか。空のハウスを見るたびに、いつも寝ていたソファの片隅に目をやるたびに、「もういないんだ」と、わかっているはずの現実を確かめる。すると、胸の奥にあるぽっかりとした空洞に気づくのです。この空洞を埋めるのは、悲しさよりも出会えたことへの感謝なのでしょう。たくさんの贈りものをもらったことに気づいていくことなのだと思います。母が亡くなってしばらくしてから、日常の中に母の愛が宿っていることに気づきました。母がしてくれたことを娘にしている。母が苦しいときも希望を見出しながら前を向いていたように、私もそうしている。ラニは私に無償で愛することを教えてくれた。この世界から旅立ったとしても、大切なことを残してくれている。それでも「そうか、君はもういないのか」と思うことがあります。振り子のように思いを行ったり来たりさせながら、時が経てばいつかその現実に馴染んでいく。でも、それもせつないのです。いないことに慣れていくのが怖い気もするのです。喪失感は執着なのでしょうか。まだその答えは、私の中でまだ見つかりそうもありません。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年11月06日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。女郎花(オミナエシ)はいかが花ウンサーの押阪 忍です。秋深し、秋を代表する花、『萩、尾花(ススキ)、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗』が秋の七草です。万葉集にあるそうですが、「秋の野に咲きたる花を指折りて、かき数ふれば七種の花」この中の一つ、女郎花。これは、『女』という意味を持つ『オミナ』と、古語の『(圧)ヘシ』が変化した『エシ』が合わさって付けられた名前です。「美女を圧倒する程 美しい花」という意味でつけられたそうですが、「え?それ程インパクトのある花!?」とは思えませんよね。漢字ですと『女郎花』と書きますが、『女郎』という漢字が女性を意味するようになったのは、平安時代。当時は貴族の女性、つまり高貴な女性を表す言葉が『女郎』だったのです。言葉の由来としては、他に、白いもち米を男性が食べていたことから、それを『男飯(おとこめし)』と言っていたのに対し、女性は黄色の粟飯(あわめし)を食べていたので『女飯(おみなめし)』と呼んでいました。そして黄色の粟飯とオミナエシの花が似ていることから、やがて、『オミナエシ』とよばれるようになったという説もあります。先日、知人女子学生に「『オミナエシ』を知っている?」と聞きましたら「聴いたことはあるけど、見たことはない。知らない」と返ってきました。若い人で女郎花を見た方は少ないかもしれませんね。まして、『女郎花』を、『おみなえし』と詠むのですから。「知っているか?」と聞く方がヤボかも知れませんね。でもでも、日本女性の代表花と評される『女郎花』。秋の七草の一つとして 若い方に覚えていて欲しいと 花ウンサーは願っております。<2022年11月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年11月05日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。小さな命の大きなドラマベランダのイタリアンパセリの鉢に、蝶々の幼虫を2匹見つけました。グリーンの体に黒の横縞。その縞にオレンジ色のドット。足?に黒のドット。葉を食べている様子はなく、動かずにじっとしている。昆虫にまったく詳しくないのですが、これはただものではない感じがして、そのままそっとしておきました。調べてみると、どうもキアゲハのようです。キアゲハはセリ科の葉を好むとのこと。イタリアンパセリについていたところを見ると、やはり間違いはなさそうです。冬に向かうこの時期に幼虫だとすると、蛹(さなぎ)になって越冬するのでしょうか。寒さよけはいらないか。何か蛹になりやすい木の枝を鉢に刺した方がいいのか。無事に羽化してほしく、いろいろ調べています。20年近く前の夏のこと。無農薬野菜に緑色の立派な青虫がついてきたことがありました。飼育箱に野菜の葉を入れ、木の枝も立てるようにして入れ、飼ったことがあります。蛹になってからどのくらいの日数が経ったか忘れましたが、夜遅く、ガサゴソと音がして飼育箱を覗いてみると、蛹の裂け目から明るい浅葱色の羽が現れたのです。アオスジアゲハでした。蛹から出て、新しい自分を確かめるようにしばらく羽を開いたり閉じたり。しばらくその様子を家族で眺め、飼育箱を開いて放しました。アオスジアゲハは私たちのまわりをひらひらと回り、そしてゆらゆらと飛んでいきました。浅葱色の紋様が月明かりの中でひらめいて。変容する命の不思議を味わった満月の夜でした。蝶は蛹の中で体を溶かし、体を作り変えます。正確に言うと不必要な部分が溶け、それは体を作り変える栄養分となります。あの小さな蛹の中で、大変なことが起こっているわけです。違う姿に変容する。これは私たちにも起こることです。私たちは何度となく苦しい気持ちを味わい、困難な時期を迎えます。どうにもならない気持ちをどうしていいかわからずに、悶々としてしまう。そんな真っ暗なトンネルを抜けるためには、心を成長させなければなりません。意識を変える、古いやり方を手放す。新しい自分になる。それは思うよりも難儀なことです。腹に落ちる、目から鱗が落ちる、という言葉の通り、頭でわかっているだけでは変われない。蝶のように、じっと自分という蛹の中で、より成長した自分に作り変えていく、変容していく。一つずつ、いまできることから始めてみる。自然は、偉大な先生です。自然が教えてくれることに耳を傾ける。目を見張る。心で学んでいく。キアゲハの幼虫が無事に羽化するために何かできることはないか調べてみましたが、自然のままに、彼らのあるがままに。小さな命の大きなドラマを見守ろうと思います。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年10月30日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。思わず口ずさむ童謡『赤とんぼ』皆さん 如何でしょう ふと口ずさむ童謡、お気に入りの童謡ってありますか…好きな童謡は、年代によって違うとおもいますが、私の好きな童謡は、やはりこの時季にぴったりの『赤とんぼ』です。『七つの子』『チューリップ』などと1位、2位を競うのでしょうか…。実は先日、こんな情報を見つけました。1989年『日本のうた・ふるさとのうた』全国実行委員会が、NHKを通じて、公開アンケートを実施した『あなたが選ぶ日本のうた・ふるさとのうた』で、第1位を獲得したのは『赤とんぼ』でした。さらに2003年『日本童謡の会』で実施した『好きな童謡』の調査でも『赤とんぼ』が第1位に選ばれたそうです。三木露風・作詞、山田耕作・作曲による『赤とんぼ』。ちょうど今頃の季節の夕暮れ時に、赤とんぼを見て作った作品でしょうね…。作曲の山田耕作さんは、発音ですが、『アカトンボ』と平板ではなく、『アカトンボ』と頭にアクセントを付けて発音して欲しいと仰っていました。『アカトンボ』です。『アカトンボ』と平板に歌われると、よごれた赤トンボに聴こえるから「ダメだ!」仰っていたことを思い出します。何一つ混じりっけのない純粋な赤!その綺麗な赤色で飛び交う赤とんぼ!それが作曲家のイメージだったのでしょうね。都会で生活をなさっている方、この秋どこかで、きれいな赤とんぼと出会う機会がありますように期待をしております。赤とんぼは日本の空の象徴ですものね。<2022年10月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年10月25日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。素直な気持ちを言葉にのせてマスクを手放せなくなって3年。野外ではマスクを外すよう厚生省からお知らせがありましたが、まだほとんどの人がマスクをして歩いています。コロナ禍が始まった頃は異様な光景でしたが、いまではすっかり日常です。やはり顔の下半分を隠してしまうと、表情がわかりません。見様によっては怒っているようにも、無感情のようにも見えます。すると街全体がどこか殺伐とした雰囲気に包まれます。目は口ほどにものを言う……と言葉の通り、目には感情が現れるものです。表情も『言葉』であり自分の『表現』なのですね。マスクをしていても口角をあげていると、目の表情が柔らかくなります。少しでも和らげることができたら……と思い、マスクをつけながら写真を撮るときに優しい気持ちで、口角をしっかり上げたのですが、表情のない写真になってしまいました。表情力とでも言うのでしょうか、私の力不足なのかもしれませんが。まだまだ息苦しさが残るこの世界の中で思うのは、いつにも増して気持ちを伝えることの大切さです。この3年の間で、リモートでの仕事、コミュニケーションの便利さを知りました。家にいながら仕事も、打ち合わせもできる。セミナーにも参加できる。確かに便利なのですが、リモートで講座をするときには、いまひとつもどかしさを感じます。人が集まる『場』はエネルギーです。『気』という表現がわかりやすいでしょうか。いい雰囲気になったり、気まずいムードになったりするものです。リアルで面と向かっていると、表情や雰囲気から相手の気持ちなどを受け取りやすい。しかし画面を通してとなると、受け取りづらいことがあります。ですから、リモートの場合はいつもよりも声かけをし、お互いに意思の疎通を図ることが大切になります。言葉にして気持ちを伝える。それは決して大袈裟なことではなく、感謝の気持ち、うれしさ、楽しさ、つらさ、淋しさ……日常の中で私たちの心の中に湧き上がる気持ちに素直に向き合うことでもあるのです。作詞を手掛けたあるアーティストのCDを聴きながら、この曲を書いたとき愛しかなかったなあ、と思いだしだしたことがありました。そのアーティストが輝ける歌を書く。自分の仕事への熱さではなく、アーティストへ思いをこめて書いたこと。先日、ご本人にその気持ちを伝えると「私も歌うときに胸がいっぱいになる」と言われました。伝えてよかった。私たちの間の水路に、豊かな流れができたような気がしました。お店で、レストランで、仕事場で感謝を伝える。友達、家族の中で素直に交流する。息苦しい時期を脱したとき、この交流はさらにあたたかいものになるのではないか。そう時代が進化しますように。私たち一人ひとりが、進化の担い手なのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年10月23日豊橋カレーうどん、炙りマシュマロ、生ハムとチーズのカスクート…。食べることが大好きという松井玲奈さんの初エッセイ集『ひみつのたべもの』に出てくるのは、レストランの特別な味からカップ麺まで多種多彩。それがどれも美味しそう。料理好きで、プライベートでもほぼ毎日何か作るという。「いちばん多いのはお味噌汁。あとは肉じゃがや豚バラ大根。煮物が多いなと思います。魚を焼いたり。作ると大体3~4人前できてしまうので、小分けして何日かに分けて食べています。野菜を切ったり、煮込んだり、決められたことを順序立ててやると集中できる分、イヤなことや悩みもその瞬間は忘れていられますよね。料理してる時間に気持ちをリセットして、でき上がったものを食べる。その一連の流れが、自分にとっては必要な時間なんです」美味しいものには目がないが、人と食事をするのに少し苦手意識がある、と松井さん。「五感を全部使って味わって食べたいという思いが、たぶん人より強いんです。誰かと一緒は楽しいけれど、食べる早さも気にしなくちゃいけないし、食べるよりしゃべる方に意識がいってしまって、後で思い出すと『あれってどう美味しかったんだっけ?』と惜しいことをした気持ちになる(笑)。ひとりで食べるのもわりと得意です。抵抗がある人がいるのもわかるんですけれど、意外と周りの人は自分を見ていないんだなって」松井さんにもごひいきのお店がいくつかあり、できれば月に一度くらいのペースで、頑張った自分へのご褒美のように、ひとりごはんの贅沢なひとときを味わえたら幸せ、と思っている。「外食って、出てくるまで待ってる間も何が食べられるんだろうと楽しみですし、一口一口味わいながら、その日あったことや『この食材、誰々と食べたな』『子ども時代は苦手だったのにな』などをふと思い出すのもいい。もちろん、人とごはんを食べているときにもそういう発見はあるけれど、ひとりの方が自分自身と会話できますよね。黙々と味わってる時間は自分と向き合ってる時間でもあり、一種のメディテーションみたいなものかもしれない。考え事や日常の些事から解放され“味”だけに向き合って楽しむ。それは私にとってすごく大切なひとときなんだと感じるようになりました」食は、その人の価値観や生き方を映し出す。お弁当箱に詰めたオムライスや果汁がしたたる桃、手作り餃子など、松井さんの小説にはしばしば、食べものが巧みなモチーフとして登場する。「単純に、私が食べものが出てくるお話が好きというのもありますが、作家さんによって食事のシーンて全然書き方が違いますよね。マンガ家さんでも、お茶碗によそわれたご飯を、細かく米粒を立たせるように描く人もいれば、全体の形をていねいに描く人もいて。著者の食べものに対する価値観みたいなものが伝わってくるところが面白い。だから私も、自然と作品の中に織り込みたくなるのかもしれないです」「ハンドメイド」(『カモフラージュ』に所収)という短編では、24歳の女性が、手作りのお弁当を、ひと回り年上の不倫相手とホテルで食べる。「女性は、空のお弁当箱を家に帰って洗うんですよね。虚しいなと思いながら書いた場面。食を、人物像や関係性、心情などを描くのに効果的に使えたらいいなと思っています」いままた少しずつ新しい小説を書き溜めているところらしい。「その中でも、たとえば、紅茶をティーバッグで淹れる人なのか、茶葉をポットに入れて時間まで計って淹れる人なのかで、その人物の性格や暮らしぶりなどが見えてきたりしますよね。今回は“自分を発見する”をテーマにしようかなと思っていて、そこでも食をうまく使いたいです」現在公開中の映画『よだかの片想い』(原作:島本理生)では、理系大学院生・前田アイコを演じた。料理上手という役柄だ。「料理を作ったり食事するシーンは結構緊張しますね。包丁さばきや箸の使い方などの所作は、みなさん気にされますから。特に食べるのは並行してしゃべらなきゃいけないシーンでもあり、役者は、内心では『どれが箸で掴みやすいか、飲み込みやすいか』を見極めながら演じています。味わう以前に、自分のセリフのときに、もごもごしないでちゃんとしゃべれる状態になることを想定して食べているはず」そんなこぼれ話を聞くと、映画やドラマで食事のシーンを見る目が変わりそうだ。ちなみに、無類のスイーツ好きだという松井さんは、ふだん、好きなものや美味しいものを、どうやって見つけるのだろう。「人に教えてもらったり、あと、SNSで見つけることも多いですね。見た目が綺麗なスイーツはもちろん、表面が真っ白でシンプルなショートケーキかなと思わせておいて、切ったら全然違うものが飛び出してくるみたいなサプライズのあるケーキとか、見つけたときの喜び!そういうわくわく感の鼻は利きます」そうして見つけた特別な一品は、まずひとりで食べに行く主義。「『この美味しい気持ちをいま誰かとシェアできないなんて悲しい』というよりは、次回、誰かを連れてきて『どうこれ、信じられないくらい美味しいでしょ』と喜ばせたいタイプなんですよね。ひとりで下見を済ませて、保証できる味を誰かとシェアしたい」詰まるところ、松井さんにとっていちばん美味しいものとは何なのだろう。「エッセイにも書いたことがありますが、美味しいものって食べ始めは幸せなのに、美味しければ美味しいほど、『最後の一口を食べてしまうのがもったいない』という気持ちが強くなります。小さいときからずっとそうで、半分ぐらい食べたあたりから『もう終わっちゃう(涙目)』と言い始めるんです、私。友人からも『もー、うるさい』とか呆れられてます(笑)」美味しいもので満たされつつも、目の前から減っていくさまに、一抹の悲しさが。松井さんのそんなジレンマに、共感する人は案外、多いのでは。「食べちゃったらお別れですからね。食べ切ってしまったという名残惜しさと、やっぱりきょうも美味しかったという幸福感とが入り交じると、最後の一口がより美味しく感じる気がします。それが私にとって、心と体へのいちばんの栄養になるのかもしれません」『ひみつのたべもの』松井玲奈著2020年5月~11月に小誌で連載していた食エッセイに加筆修正、書き下ろしを加えた初エッセイ集。スイーツや激辛好き、幼少期から現在までの食をめぐる思い出話、家庭の味、旅先でのグルメ、ソウルフードのことなど、食欲を刺激する50編を収録。マガジンハウス1540円まつい・れな1991年、愛知県生まれ。俳優。作家としては、短編集『カモフラージュ』と『累々』も上梓している。現在、主演映画『よだかの片想い』が全国ロードショー。マルチカラージャンプスーツ¥69,300ニット¥35,200(共にCFCL )ピアス、右耳¥53,900左耳¥30,800リング、〈右手〉薬指(上)¥176,000薬指(下)¥9,900中指¥9,900人差し指¥9,900〈左手〉¥366,300(以上ビジュードエム ギンザシックス TEL:03・6264・5436)※『anan』2022年10月19日号より。写真・山越翔太郎(TRON)スタイリスト・鬼束香奈子ヘア&メイク・白石久美子取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2022年10月17日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。遠い記憶を手のひらで転がして人は、忘れてもいいことは忘れてしまうのでしょうか。もしも脳の中にフィルターがあり、本当に必要な記憶だけを抽出するというのなら、そういうものかと思えるのですが、どうもいろいろと忘れてしまっているような気がしてなりません。手にとるように覚えていたことも、いつの間にか指の間から滑り落ちてしまった感じです。旅に出るときには、必ず日記をつけます。旅の記録、そして思ったことを徒然なるままに、自動書記をするように。先日、30年くらい前にパリに行ったときの日記が出てきました。たいてい一人で旅をしていたので、日記は話し相手でもあるのです。旅日記を読み返しながら、パリの石畳の道を歩いているような気がしてきます。いまはもう味わうことのない気持ちが綴られているのを読むと、遠い日の自分が愛しくなります。そんな日記の中に、ぽっかりと記憶から抜け落ちた出来事について書いてありました。それはパリに住んでいる友人とのことだったのですが、私はそれを初めてページを開く小説のように読みました。その出来事について、すっかり忘れていた自分にも驚いて、何度も何度も読み返しました。でも、遠い日の記憶の尻尾をつかまえられない。そして思い出したのが、その話を聞いたイタリアン・レストランと、オーダーしたイベリコ豚の生ハム。そして「夜は会えないから赤ワインを飲もう」という友人の言葉でした。何かの形でしるしを残す。備忘録。思うよりも早く、時は過ぎていきます。昨年から5年日記をつけ始めました。1日数行の小さな日記帳は、何年か前にニューヨークのソーホーの文具店で求めたもの。同じ日付のページにある1年前の日記を読み、その日のことを綴りながら、いまここにいる自分と向き合う。時を重ねていく自分を感じながら、1日を終える。人生の折り返し地点はとうに過ぎてしまったのですから、1日という時間の手触りを味わいながら過ごすのも悪くありません。時の流れは優しいものです。忘れることは、自分を楽にしてくれることもあるかもしれません。忘れてもいいこと。忘れたくないこと。それを選ぶわけにはいかないかもしれません。手のひらの上で遠い日の記憶を転がしながら、なんとか生きてきたことを愛しく思う。そんな優しい時間を過ごすのもいいものです。忘れてもいいことは忘れていく。昨夜何を食べたかなんて些細なことですが、いまはまだそれを忘れては、なりません。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年10月16日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。金木犀の香りキンモクセイの香りを町中でも感じるようになりました。拙宅には二本のキンモクセイがありますが、窓を開けると、実にいい匂いを届けてくれております。町中を歩いていてもこの匂いを嗅ぐと、何処にその木があるかと探します。黄色の小花が密に咲き、そんなにキレイとは思いませんが、その『匂い』は特段の香りだと思います。金木犀だけでなく、銀木犀もありますが、銀は金ほどのにおいはしませんね。拙宅の修善寺の山荘に、金木犀と銀木犀を並べて植えたのですが、銀木犀は、かすかな匂いがするだけでした。銀木犀には『銀』なりの風格はありますが・・・。ところで毎年、この時季にぶつかり、はね返されているのが、この金木犀の『木犀』の字です。覚えていた筈が、見事に忘れています。『薔薇』の字に挑戦したことがありますが、見事に失敗、失念したのと同様です。木犀は、この時季でしか使わないので、どうやらすぐ忘れるようです。植物は今、片仮名書きですので、漢字の金木犀は、きょう覚えても、明日には忘れているような気持がしております。『金木犀』と『キンモクセイ』。やはり漢字の方が重みや存在感があるような気持ちですね。『キンモクセイ』だと、路端の小花のような感じです。『金木犀』だとその樹木の形や花の匂いまでが伝わってくるようです。本日は紺碧の秋の空、秋到来を爽やかに告げてくれている金木犀の匂いを感じてみようと、それではこれより ぶらり散歩にでかけて参ります。<2022年10月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年10月14日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『ふとした瞬間』に『自分』を感じる花の香りは、黄昏から夜に立ってくるのでしょうか。夜に閉ざされることで、嗅覚が敏感になるのか。少し街が静かになり、夜が降りてくる頃、ふわりと金木犀の香りが。金木犀の香りに、人々は本格的な秋の訪れを感じます。小さな花のひとつ一つから、あの微かに甘く、どこかエキゾティックな香りが立ち上る。香りは目に見えませんが、小さな花がそうっと開くと同時に香りが霧のように放たれるような。風に溶け込み、空気に溶け込み、消えていく。どこへ行ってしまうのでしょうか。もしかしたら、香りは、感じた人それぞれの心の中に入っていくのかもしれません。目にするもの、香り、手触り、音、味覚。五感を通して感じたものが記憶に結びついたり、胸のあたりが熱くなったりすることがあります。それは、心の奥の弦を弾くような、そんな感覚です。「ふと思い出す」「ふと涙が出る」「ふと悲しくなる」といった、予期しない、脈絡もなく起こる「ふと〜」という様。自分でもなぜそうなるのかわからないこの「ふと〜」という心の動きは、とても大切なものです。その心の動きこそ、その人の感受性であり、感性となり、人生という物語を語るのではないかと。私たちは、実に忙しい現実の日々を送っています。世界の情勢も予断を許さない。時間に追われるように過ごしている生活の中のエアポケットのようなこの「ふと〜」という瞬間は、私たちを大切な場所につなぎとめてくれるような感があるのです。論理性もない、何の根拠があるわけでもない、「ふと」何かを思い出し、「ふと」感情が動くという『現象』は、それぞれの人生の物語の『どこか』『何か』に紐づいているものです。それが悲しみであろうと、懐かしさであろうと、理由など分からなくても、自分の物語を思い出させる小さなトリガーとなる。そこで心の中で思いをめぐらせるのは、感性を育む素敵な時間です。『自分』を感じる瞬間なのです。少し大袈裟な言い方になりますが、人生は現実目標を達成するためにあるわけではない、と私は考えます。現実の生活を通して、目に見えない心を成長させていく。生きるということは、いくつもの体験を重ねながら、自分という物語を紡いでいく。長い人生の中の「ふと〜」と思った瞬間からつながる場所に、物語がある。金木犀の香りにふと思い出した遠い秋の日にも。そんな物語を味わうこと、ささやかでも豊かな時間になるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年10月09日『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』と来て、『そして誰もゆとらなくなった』。朝井リョウさんが、エッセイ集三部作を完結させた。全20編書き下ろしだ。このエッセイを書いたことで人生第一部完、の感覚になりました。「前作までは連載モノも入っていましたが、連載となるとどうしてもその媒体の色を意識した文章になっていたんです。今作は三部作の最後だし、自分が書くエッセイの、ある種、到達点的な一冊にしたい。最後は純粋な書き下ろしで全編いこう、とだいぶ前から決めていました。エゴ丸出しでいこう、と」友人の結婚式の余興でなぜか人体交換マジックに挑み、催眠術のセミナーで思いもよらぬ人格否定の憂き目に遭って、クリスマスのだいぶ前からホールケーキ三昧の果てに脂質異常症を来し…。ananで昨年3月まで連載していた古市憲寿さんとの対談「紙のラジオ」で披露されたエピソードも幾つか登場するが、喋り言葉ではなく書き言葉で語り直されると、こうまで面白いものか。「謎の状況ほど、淡々とした表現で描写するとおかしみが増すんですよね。芸人さんでいうと、1作目の頃は勢いや大声、動きとかで笑いを取ろうとする感じで、今回はエピソードトークでじっくり楽しませるイメージ。文章そのものの完成度を高めようと努めました」ばかばかしい~と楽しく読み進めていると、〈本当に、人生とはいつだって「あのときの自分、死ね」の連続だ〉といったズキッとくる思弁が顔を出す。30代となった人生の厚みは、前2作にはなかったものだ。「この体で、この自分でこれからも生きていくんだ、みんなそうなんだ…と、人生への諦めがいい意味で滲み出ました。ここで人生の第一部完、という感覚が個人的にあります」実は、昨今の出版界はYouTuberのエッセイ集が全盛だ。小説家のエッセイ集は、なかなかベストセラーリスト入りしない。だが、小説家としての脳と技芸を十全に発揮した朝井さんの本は、出版界にとって起爆剤になるかもしれない。「小説を読むのはメンタル的にしんどい時期でも、このエッセイだったら読めるし楽しめる――子供の頃、さくらももこさんのエッセイ集に抱いていた感覚を、自分の本でもなんとか表現したいと心を砕いてきました。シリーズ3冊、ぜひご贔屓にしていただければと思います」あさい・りょう1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年、『何者』で第148回直木三十五賞を、’14年、『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を、’21年、『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。朝井リョウ『そして誰もゆとらなくなった』エッセイ集三部作完結編は、全20編書き下ろし。日常の中に出現する異常事態を前に、誰からも気付かれず世界にも記録されない心の叫びを、こと細かに綴る。文藝春秋1540円※『anan』2022年10月5日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・吉田大助(by anan編集部)
2022年10月02日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『自分の歌』を創るという物語今日は主宰している『ソングライティング・クラス』の受講生作品のレコーディングでした。クラスでは作詞法、感性を磨くワークなどを取り入れながら、歌詞の添削を重ねて作品に仕上げていきます。わずか20行、30行の歌詞ですが、そこには1篇の短編小説ほどの物語が凝縮されています。すべてを言葉にすることができない代わりに、比喩や情景描写、心情だけではなく、行間や余韻にも言葉がこめられています。もちろん、音楽も物語を語ります。そして、聴き手の心に響き、聴いた人の数だけの物語が生まれる。自分のワールドに浸れるのが、音楽の楽しみです。希望があれば、歌詞に曲をつけ、本格的なレコーディングをするプログラムもあります。私のクラスの強みは、『ヒット曲を出した作曲家』に曲をつけてもらい、プロのアーティストに歌ってもらうこと。もちろん自分が歌う場合もあります。「歌を書く」というのは、多くの人にとって憧れです。そんな憧れをかたちにし、人生を彩る体験をしてもらいたいと思い、このレコーディング・プログラムを始めました。今日は2曲のレコーディング。記憶が曖昧になっていく母親を思う歌、林住期とも言える人生の後半に出会った、愛する人への歌の2曲です。ここに作者の人生の物語があります。もちろん、作品にするにあたっての作りこみがあるとはいえ、作品にこめた思い……言い方を変えると、書かずにはいられなかった作者の思いがあるのです。私も作詞家として『熱』をこめて書きますが、クラスで書いた歌詞に曲をつけてもらい『歌』として残したいという『熱』には、また違う熱さがあります。これまでに10作品ほどレコーディングしました。高校生の息子さんを交通事故で亡くされたKさんは、その悲しみを2曲の歌にこめました。このことがきっかけで、小さなライブを開催し、歌を通して同じような悲しみの中にいる人たちと思いを分かち合いました。若い頃から音楽が好きで、いつか自分の歌を歌いたいと思っていたMさんは、定年退職後にライブ活動を始めました。みんな『自分の歌』を書くことで、それぞれの人生に新しい物語を創っていったのです。これも歌の力なのでしょう。これまでに1000曲ほどの歌詞を書いてきましたが、考えてみると私は『自分の歌』は書いていないのです。アーティストに提供した歌詞にちょっとずつこめてはいましたが、自分のための歌はありません。いつか、自分のためにこのテーマを!という熱が湧き上がってきたとき、書いてみようか。人生を新しい物語で彩るために。誰に曲をお願いし、誰に歌ってもらうか。想像をめぐらせるだけでわくわくしてきました。吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY 作品集※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年10月02日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。秋に映える花『りんどう』まだまだ暑い夏! とは言え、9月の声を聴きますと、秋の花が目につき始めましたね…。コスモス、キク、ダリアなどがあげられますが、今回の『りんどう』も欠かせませんよね…。かつて島倉千代子さんは「りんりんりんどうは濃むらさき…」と唄ってこの花をヒットさせました。私もこのりんどうの濃い紫色の小花が大好きです。秋を代表する花は、キク、コスモス、ダリアなどをあげる方が多いと思いますが、りんどうは、高山植物のイメージがあるかも知れませんね…。りんどうは、昭和に入って量産が始まって、秋のお彼岸の仏花として、使用されるようになりました。今は6月頃から11月頃まで、長い期間流通しています。色も青や紫だけでなく、なんと、白やピンクなど、色の種類もグンと増えて、アレンジメントや花束にも使われています。日本では園芸用として親しまれているりんどうですが、中国では、種類の違う『トウリンドウ』という種類のものが栽培されています。苦味で良く知られる『熊の胆(くまのい)』より苦いという意味で、竜胆(りゅうたん)と名付けられました。この竜胆は、消化機能の改善、食欲増進などが期待できるとして、漢方薬局で使用されているようです。キキョウもそうですが、青や紫の花は、貴重ですよね。花好きの私にはそう思えます。季節の色と言ってもいい訳ですかねぇ…。きょうは、日常生活では、やや忘れかけた、懐かしの『りんどう』取り上げさせていただきました。一輪差しにでも活けて、飾っていただければ、幸いです。<2022年9月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年09月30日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。手を差し伸べる『反射力』を先日、マーケットの駐車場に車を停めたときのこと。駐車場は遊歩道の生垣に接しており、左からおじいさんが、右方向からは30代くらいのカップルが歩いてくるのが見えました。全身が見えるわけではなく、生垣の上に胸から上が見える……という感じでしょうか。すると、突然おじいさんが視界から消えました。転んだのでしょうか。右側から歩いてきた二人は立ち止まることなく、おじいさんの横を歩いて行ってしまいました。私はその一部始終を見ていたのですが、一瞬意味がわかりませんでした。おじいさんが目の前で転んだ。駆け寄ることも、手助けすることもなく通り過ぎていった。それは、とても奇妙な光景でした。そう言えば、3年前に転んで手首を折ってしまったとき、まわりに何人も人はいたのですが、駆け寄ってくれたのはおじさん一人でした。抱き起こしてくれ、救急車を呼んでくれました。とても心強かったことを覚えています。とても自分で救急車を呼べるような状態ではなかったですから。まわりには、ただ無表情に私たちを眺めている人もいました。それもまた奇妙な光景でした。私はとりあえずティッシュペーパーを持って、おじいさんのところへ行きました。おじいさんはよろよろと自力で立ち上がり、手についた土をはらっていました。大丈夫ですか?お怪我はないですか?と声をかけると、おじいさんは困った顔をして言いました。「大丈夫です。いつもつまずいて転んでしまうのです」91歳の父の姿が重なりました。つい先日、父は転んで肋骨を折ったばかりでした。足が上がっているようで、上がっていない。老齢になると、イメージと現実の体の動きにずれが出てきます。まだ老齢とまではいかない私も、時々ちぐはぐな体の動きをしていることがあります。転んだとき、父は誰かに助けてもらっただろうか。戸惑っていなかっただろうか。土をはらうおじいさんを見守りながら、これは他人事ではないと思いました。困っている人がいることをわかっていながら素通りしたとき、いつも小さな罪悪感を覚えます。道に迷っている人、重い荷物を持って階段を登っているお年寄り……。さっと手を差し伸べるのは、そんなに難しいことではないでしょう。自分も誰かの助けを必要とすることがある。他人事は、いつか自分事になるかもしれない。誰かの助けを必要とすることがあるかもしれない。そんな想像に及ばずとも、考えるまでもなく、さっと声をかけ、手を差し伸べる反射力が、世の中を穏やかにするのではないか。おじいさんが歩き出す姿に、日頃の反省と共に思いました。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年09月25日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。曖昧な言葉に寛容さが宿っている日本語には、曖昧、または玉虫色的なニュアンスを持つ言葉がたくさんあります。「ほどほどに」「よしなに」「そこそこに」「適当に」「適度に」「無理なく」など。どの言葉にもはっきりとした基準はありません。その人の価値観や判断に任せた言葉です。ですから、同じ「ほどほど」も、人によって違うでしょう。言い方を変えると、その人の価値判断に委ねる。その価値判断の守備範囲は広くても、なんとなくわかりあえるようなものではないでしょうか。言葉の使い方でも日本語は曖昧であると批判されることがあります。イエスなのかノーなのかわかりづらい表現もあり、国際社会では通用しないと言われることもあります。言葉はその民族が培ってきた文化です。そこには精神性も反映されるでしょう。白か黒。善か悪。物事を二極で判断せず、その間の緩衝地帯もあるのではないかといにしえの人は考えたのではないでしょうか。これをある意味優柔不断と見るのか、おおらかさ、優しさと見るか。自然に畏敬の念を持ち、自然によって生かされていると考えていたいにしえの人たちは、「白か黒」ではないものが見えていたのだと推察します。地震、噴火、台風……多くの自然災害に見舞われ、復興を繰り返してきたことで、日本人の忍耐力、受け入れる力は培われたと考えられています。そこには、白か黒で判断できるようなことも、善か悪で判断できることはなかった。自然に生かされている。その自然が猛威を振るう。そこで生きてきた人間は、謙虚に平伏すしかなかったのではないでしょうか。また、日本人は『割れ』や『欠け』の中にも美を見出していました。金継ぎという修復は、『修理』ではありません。『割れ』や『欠け』に漆と金を施すことで、また美を作り出していく。言ってみれば、『失敗』を許し、『失敗』を美へと進化させることです。これもいにしえの人たちの精神性から生まれた文化だと思います。さて、現代の日本はどうでしょうか。白か黒かで分断していく。敵か味方か。自分の正しさを主張するばかりで、相手を真っ向から否定する。世の中をよく眺めてみると、緩衝地帯がなくなりました。寛容さが失われつつあるのです。どちらの考えに賛同するのか、そこで線引きをしたがる。これが、『分断』です。「ほどほど」が許されなくなり、「なんとなく」に対してエビデンスを求める。口汚い言葉が公の場で飛び交う。そして論破する達成感が、さらに相手を倒すことに拍車をかける。日本はこれからどうなっていくのか。言葉は文化であり、精神性の表れです。日本は、今、岐路に立たされていると感じています。「ほどほど」というゆとりを持った気持ちは、人と人を結び、自分を許し、諌めることにつながっているのではないでしょうか。白と黒の間にあるグラデーションに、大切な「何か」があるように思います。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年09月18日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。ビールと枝豆の濃い関係夏と言えばビール! ビールと言えば枝豆、というように、ビールと枝豆はもう一体感がありますよねぇ…。今夜も仕事帰り、その冷たいビールで、乾杯!を楽しみにしている男女社員の方も大勢いらっしゃると思います。昔は男性色の強かったビールですが、今は女性社員も堂々半分を占めています。結構なことだと思いますねぇ…。女性社員が加わると、やはり華やいだ楽しさが加わりますから…。さて、このビールには、枝豆がつきものですが、これはとても理に叶った組み合わせなんですが ご存知だったでしょうか…。枝豆のたんぱく質に含まれるアミノ酸の一種『メチオニン』は、ビタミンB1、ビタミンCと共に、アルコールの分解を促し、肝機能の働きを助けてくれます。従って、飲みすぎや二日酔いを防止する働きがあるんですね。夏場に、枝豆がビールのつまみとして好まれるのは、そんな立派な理由があるからなんですね。また枝豆は、他の野菜より、ビタミンB1、B2が多く含まれています。これらのビタミンは、体内で糖質・脂質・タンパク質などを分解してエネルギーに変える効果も期待できます。さらに高血圧の原因となるナトリウム(塩分)の排出を助けます。そして利尿作用を促すカリウムも多く含んでいるため、体内の水分量を調節して、むくみ解消にも働く、優れものなんですね。こうして枝豆のお話をしていますと、やはり今夜は、冷たいビールに枝豆をとお考えでしょうね…。お風呂上りに、ゆでた枝豆をつまみに、キューっと冷えた1杯のビールを飲み干す! もうたまりませんねぇ~。今夜は皆さん、この1杯で大いに楽しみましょう!<2022年9月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年09月13日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。時にはゆっくり歩いてみようゆっくり歩くと、いつも見えていないものが目に入ってきます。散歩をするときも、考えごとをしているとただ歩くだけ、まわりをあまり見ていないものです。季節が変わっていくのを感じるのは気温だけではない、街路樹やご近所の庭に咲く木や花の様子、空の色、雲の形……すべて自然からのメッセージです。8月の終わり、青森県の奥入瀬渓流を歩きました。憧れの奥入瀬渓流、8月初めの大雨の影響で渓流の水は少し濁っていましたが、川の流れの音や森の豊かな木々は混沌とした日常を忘れさせてくれました。ゆっくり歩くと見えてくる……いろいろな苔の形、ふわりとした手触り。風で葉が揺れると、小さな水滴が転がり落ちる。ブナのしっとりとした木の肌。空を指差すように朽ちた木の幹。足元を確かめるように、一歩進むたびに見えてくる光景を確かめるように渓流沿いを歩きます。すぐ近くの木で蝉が鳴いていました。どの木で鳴いているのだろうと見上げて、見回します。でもそう簡単に見つかるはずもありません。そして鳴き声を頼りにふっと目線の先にある細い木を見てみると、翅(はね)がぼろぼろになった蝉が止まっていました。エゾゼミという焦茶の体に山吹色の紋様が入った蝉です。私が近づいても飛び去る気配はなく、ギーンギーンと力強く鳴いています。翅を震わせながらギーンと鳴きます。夏の終わり、傷ついた体を精一杯震わせて力強く鳴いています。ひとしきり鳴くと、次はお尻を持ち上げるようにしてギイィーン、ギイィーンと鳴き始めました。そして、ゆっくり木の枝を登ったり、下りたり、心地のいい居場所を探すように動いています。今にも力尽きてしまいそうな体のどこに、あんなに大きな声を出す力が残っていたのでしょうか。暑い暑いと言っていた夏が終わります。ひと色ではない渓流の流れのように、人生もさまざまな流れに巻き込まれ、流れに乗りながら時を重ねていく。思っているよりも、その流れは速いものだとひと段落した暑さに思います。時にはゆっくりと歩みを緩めて、これまで見えていなかったことに目を向けてもいいかもしれません。夏の終わり、命の証を知らしめるように鳴いていたエゾゼミに教えられました。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年09月11日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。生きること、生きていくこと〜夏の終わりの山寺にて京都の山寺でのこと。山門を入り、苔むした境内を歩いていると、ころっとした一匹の蜂に出会いました。その蜂は木に登ろうとするのですが、登っては滑り落ち、登っては滑り落ち。地面に落ちて転がっても、また登りはじめる。それでもまた滑って落ちてしまう。今度は、木の根を越えながら歩きだす。どこへ向かおうとしているのか、くねくねと地を這う木の根をよろよろと越えながら、やがて見えなくなりました。けなげです。触覚や翅が傷ついて飛べなくなったのか、命の終わりが近づいているのか。飛べなくなったら、歩くしかありません。そうして蜂は生きていく道を見つけて進んでいく。蜂に思考能力があるのかわかりませんが、生き抜くために本能が歩くことを選択したのです。そこには欲も得もなく、ただ命の営みがあるのでした。8月も終わりに近づいた山寺の木立の中で、時折、思い出したように蝉が鳴き始めました。夏の盛りであれば、境内には蝉の大合唱が響いていたことでしょう。土の中で長い時間を過ごし、短い夏を謳歌するように鳴き、そして命を終える。蝉の幼虫は約7年間土の中で過ごし、成虫になって土から出ると2週間から1か月で命を終えます。その2週間は、子孫を残す使命を果たすために使われます。それを儚い一生という見方もありますが、土の中の幼虫はゆっくりと幾度かの脱皮を繰り返しながら変容しているのです。自由に飛び回り、大きな声で鳴き、そしてからからになって死んでいくのもドラマチックですが、土の中で変容を繰り返す命には壮大なドラマがあります。私たちの人生もひと色ではありません。年老いて体が衰えることは、決して嘆くようなことではありません。何十年もの時間、喜びがあり悲しみがあり、さまざまな努力や苦労があったはずです。時代に翻弄され、思うように生きられなかった時もあったかもしれない。よくここまで生き抜いてきた。母が人生を終える姿を見、父が老いていく姿を見ていると、命を全うしていくことの尊さに胸が震えます。木に登ることを諦め、歩いていった蜂も、短い夏を飛び回った蝉も、変容しながら命の営みのままに。人は、どのように変容するのでしょうか。自分をより進化させ、作り替えていく。それは心の仕事です。悲しみがあっても苦労があっても、変容のプロセスなのだと解釈すると、また人生の向き合い方が違ってくるかもしれません。夏の終わり、生きものたちの姿に、ふと自分を重ねてみました。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年09月05日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。心の旅をしながら思うこと〜孤独〜「人はみんな孤独だから」30代の初めの頃だったか、ひどく落ち込んでいる私を、友人がこう言って慰めてくれました。そうなのかもしれない。でも、その言葉は私の中に落ちていきませんでした。「みんな孤独」とは何を言うのか、わからなかったのです。『孤独』という言葉を口にするとき、耳にするとき、胸の奥がざわっとしたものでした。それは、孤独であること、孤独になってしまうことへの微かな怖れがあるからでしょう。30代はまだまだ若く未熟だったのです。歌詞を書くとき、例えば「愛する」とはどういうことなのか、「悲しむ」とはどういうことなのかといった物語の核となる感情について深掘りしていきます。孤独についても考えました。孤独とはどういうことなのか。腹に落ちる気づきを得るまで、自分に問い続ける。若さに足りないのは『経験』です。経験とは大きな出来事だけではなく、日々の中でふと感じるささやかなことも含みます。思わず立ち止まって空を見上げてしまう美しい夕焼けを見たとか、小説を読んで泣けてしまったとか、それも経験です。大人になるとは、そんな経験を積み上げながら、「生きる」ということを体験する。悩み、答えを出せずに心は彷徨う。喪失感。乗り越えていけないもどかしさ。怪我の痛み。病気の辛さ。焦り。そのどれも、自分にしかわからないことであって、自分でしか解決できないことなのです。2年前、右手首を骨折したとき、ものすごく痛かったこと。それを誰にもわかってもらえない。痛いことは伝わっても、どのくらいの痛さなのかはわからない。悲しみも自分だけのもの。同じようにわかってもらえない。他人の悲しみも同じように分かち合うことはできない。孤独とは、こういうことなのだと、今は思っています。誰もが、自分ひとりで引き受けていく。どんなに友達がたくさんいても、大家族でも、誰もが孤独を抱えている。同じ痛みを味わうことができないからこそ、互いに優しくなれる。慮ることができるのではないかと思います。海で泳ぐことが好きな親友が、遠泳の隊列から逸れてしまったときのことを話してくれました。「まわりを見回したら誰もいない。海にひとりきり。泳がなくては生きていけない。このとき、これが孤独なのだと思った。自由なんだな、と思った。そしたら、なんだか楽しくなってきたの」孤独と自由。それぞれの心の旅があり、その時々の境地があります。でも大切なことは、孤独であっても、一人きりではないということ。孤独だからこそ、つながっていることが大切なのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年08月28日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。夏の花朝顔のさわやかさ暑い暑い日が続きます。よくぞまあ…と思うぐらいの猛暑の毎日です。『熱中症』で倒れる人が、年齢を問わず増えています。他人事(ひとごと)ではありません。直接の日差しを受けないように注意しましょうね。日中に庭に出るのは控えるようにしていますが、朝、早起きして庭を覗(のぞ)くと、青や紫、薄いピンクの朝顔が花を開いています。早朝、5時前には、もう花を開いているのですね。正に『朝の顔』です。青や紫、薄いピンクの朝顔を朝一番で見ますと、なんとも心さわやかな気分になります。正に夏の朝一番の顔ですね…。奈良時代に中国から渡来したと言われる朝顔ですが、江戸時代には、鑑賞用として大流行しました。ツル性の1年草で、『あんどん仕立』や、ツルを長く伸ばして カーテンのように仕立てる方法が一般的ですね。花の大きさも大輪のものから小さいものまで、変化に富んでいます。我が家の朝顔は ごくごく普通のものであります。朝顔は夜明け前に花が開き、昼にはしぼんでしまいます。こうした咲き方が、粋(いき)を好む江戸の人達に愛された理由かもしれませんね。朝顔愛好家の中で、品種を競う『朝顔番付』も生まれました。そして朝顔の品評会は、関東から関西に広まり、各地で品評会が開催されたそうです。如何に庶民に愛されていたかが分りますね。ツルが延びない『木立』、ひだ状の花弁が細い筒咲(つつざ)きになる『南天』… これまで様々に変化を遂げて来た朝顔。400年の歴史がある、さわやかな『朝の顔』であります。「朝顔に つるべ取られて もらい水」加賀千代女<2022年8月>出典みんなのランキングフリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年08月22日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。8月15日の玉子丼8月15日。朝、靖国神社を参拝しようと思い立ちました。「思い立つ」なんて不敬な表現ですが、なぜか今日行かなくては、と直感的に思ったのです。靖国神社をお参りしたのはずいぶん前のこと。心を寄せてはいても、足を運んではいませんでした。日本が日本でなくなる……そんな危惧があるからなのかもしれません。台風が過ぎ、さらに暑さが戻ってきました。立っているだけでも汗が噴き出てきます。終戦の日だけにまわりの道路は物々しい雰囲気で、多くの警察官が警備にあたっていました。すぐ隣の武道館では、全国戦没者追悼式が行われていることもあり、この日が『日常』ではないことを示していました。神社の塀沿いに歩いていると、私の前をアオスジアゲハがひらりと横切っていきました。蝶は亡くなった人の化身とも言われています。来たことを喜んでくれているのかなあと思いつつ、参拝の長い列に並びました。終戦後77年目を迎えた日本はどこへ向かうのか。亡くなったあまりにも多くの命に報いるような日本になっているのか。それを思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。戦争を美化するつもりも神格化するつもりもまったくありませんが、私たちは「大切にする」「大切に思う」という気持ちを忘れてしまったような気がしてなりません。大切なものを大切にする、大切に思うという『覚悟』です。神社内にある靖國八千代食堂で玉子丼をいただきました。鹿児島県知覧の富屋食堂で『特攻の母』と呼ばれた島濱トメさんの玉子丼です。特攻隊員たちの最後のごはん。隊員たちは最後のごはんにもかかわらず、「母や妹、弟たちに食べさせたい」と話したそうです。知覧特攻平和会館には、隊員たちが残した手紙が展示されています。家族への、美しい字で綴られた手紙には、泣き言も恨み言などなく、ただただ国のために飛び立つこと、家族が健やかであることを祈る思いが綴られています。二十歳前後の若者たち、その心の奥を知ることはできませんが清々しくさえ思える手紙は、涙無くして読めません。そんな若者たちのためにトメさんが作り続けた玉子丼。熱々で、ほの甘く、やさしい味で、散蓮華でひと口食べるたびに涙がこぼれ、最後のご飯一粒までいただきました。胸の中を去来した思いを、今もまだ言葉にできずにいます。ただ、「覚悟する」ということを忘れてしまったような自分を情けなく思うばかりでした。食堂を出て、化粧室へ行っている間に隣のお土産屋さんで『Jupiter』がかかったそうです。アオスジアゲハに迎えてもらい、『Jupiter』で送ってもらった参拝。大切なことを大切にしようと、改めて思ったのでした。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年08月21日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『知ること』は扉を開くこと書店へ行くと、いつも軽い絶望感を味わいます。大型の書店へ行けばなおさらのこと、どれだけの数の書籍があるのか想像もつきません。もちろん、それは恥ずかしいことではないし、書店に足を踏み入れたときの一瞬の『めまい』のようなものです。この世界には一生かかっても辿り着かない『知』があり、知ることのない『物語』がある。そしてそれは、いまこの瞬間にもどんどん生み出され、その領域を広げ続けている。果てしない……宇宙のようでもあります。そんな軽い絶望感を味わいつつも、書店は興味を掻き立てられる場所です。散歩をするように書棚から書棚を見て回る。好きな作家の新刊は迷わず手に取る。まだ知らない知の扉が並んでいるのですから、圧倒されながらも好奇心が湧き出てきます。タイトルや表紙に惹かれて手に取り、ぱらぱらと見てみる。字が小さかったり(ずいぶん目が怪しくなってきたので、ここがハードル…)、目次ですでに難解そうなら書棚に戻す。興味をそそられても、「読み越えられない」本が増えてきました。根気が薄れてきたのかもしれません。東京の六本木ヒルズがある場所に、以前カルチャーの発進地とも言える『六本木WAVE』というビルがありました。1階から4階があらゆるジャンルの音楽を集めたCDショップ、セディックというレコーディングスタジオ、シネヴィヴァン六本木というミニシアターも入っていました。当時、歩いて15分ほどのところに住んでいたので、散歩がてらよく新しい音楽を探しに行ったものでした。それこそ大型レコード店、新しい音楽を探しているうちに1時間、2時間経っていることもありました。このビルの数軒隣りには、アート系の本が多く集められている青山ブックセンターがあり、WAVE散歩の後に必ず立ち寄ったものです。このような文化的な刺激は、作詞をする上でも感性を磨く研磨剤となりました。すでにここにある文化。そしてこれから生まれるアート、そして形成されていく文化。鑑賞者でありながら、私たちが作り手であることを意識すると、また新しいものの見方、感性が開いていくかもしれません。『知ること』は、新しい扉を開く最初の一歩。書店に行くたびに軽くでも絶望している場合ではありません……。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年08月15日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。乾 友紀子選手圧巻の舞いブダペストで水泳の世界選手権が始まり、日本の瀬戸、本多選手がメダルを取り、水泳日本を演出してくれているのは頼もしい限りであります。その中で今回は、タイムではなく美しさを演出する『アーティスティックスイミング』に注目してみました。決勝で実に美しく圧巻の舞いを見せた乾 由紀子選手の演技です。フリーのテーマは『大蛇~オロチ~』。オロチが荒れ狂うさまを、激しい音楽に乗り、うねるような手足の動きで大蛇を見事に表現するのです。見ていて誰もがズ~ンと魅き込まれます。その過酷な表現を、鬼コーチと呼ばれる井村 雅代コーチは、こんな風に言っていました。「終わって、内臓まで熱くなった」と…。※写真はイメージ乾選手は演技を終えた記者会見で「今、出来る精一杯のものを出し切れた。私は手が小さいけれど、指先まで少しでも長く見えるように、赤いネイルをつけ 指先の爪を伸ばし、その手で表現する大蛇の顔。どんな表現で、どこを向いているのかまで、細かくこだわった」そうです。予選で出した自己ベストを更に上回る、95.3667点。「自分というものを売り込めた。自信が持てるようになった」と乾選手の弁です。アーティスティックスイミングは、まだまだ私どもには耳新しく、シンクロナイズドスイミングの方が馴染んでいる年代ですが、これからは、アーティスティックスイミングを耳馴れて行きたいと思っています。かつてのシンクロの女王 小谷 実可子選手から、アーティスティックスイミングの時代への流れを象徴するかのような、乾 由紀子選手の『大蛇~オロチ~』。圧巻の舞いでありました。<2022年8月>出典みんなのランキングフリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年08月13日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「癒される」ということ母が亡くなった年のお盆のこと。迎え火の炎が小さくなり、おがらが残り火の中で静かに炭になっていったとき、父がポツリと言いました。「ママ、帰ってきたな」父の中にいろいろな物語があり、心の中のつぶやきがふっとこぼれたような。私も妹たちも胸の中で、それぞれの想いを噛み締めていた、そんな初盆の入りでした。いなくなる、ってすごいことだなあと思うのです。いま、ここで生きていた人が、いなくなる。朝、「行ってらっしゃい」「行ってきます」と言葉を交わし、そのまま会えなくなることもある。脳梗塞で言葉が出なくなった母に「明日、また来るね」と声をかけると、母は弱々しくなった手でぎゅっと私の手を握り返しました。そして置き去りにされる子どもみたいな顔をして、病室を出る私を見ていました。翌日会ったときには、もう手を握り返してくれることはありませんでした。亡くなった人を思うとき、なぜか空を見上げるものです。天に昇る。天国は空の上にある。そんなイメージがあるからでしょうか。「肉体を離れた人の魂は素粒子となり、空気中に溶け込んでいるのではないか」そんな解釈を聞いたことがあります。(もちろん『エビデンス』などありませんが)『千の風になって』の歌のように、風になって愛する人の元へ吹き渡っているのかもしれません。喪失の悲しみを、人はさまざまな『物語』を心に描いて乗り越えていきます。「乗り越える」というのは違うでしょうか。悲しみを小脇に抱えながら、癒していくための『物語』という方が言い得ているかもしれません。その中で私たちが見出していくのは愛なのではないか。その愛によって、私たちは癒され、悲しみではない涙を流すことができるのではないか、と思うのです。母が亡くなった後、あらゆるものに母の愛が宿っていることに気づきました。写真の中に、私という存在そのものの中に。そして、6月に15歳のわんこを見送り、これ以上ないのではないかと思う喪失感の中で、『ただただ愛すること』『いつも一緒にいると感じること、信じること』『エゴを手放していくこと』……多くのことを学んでいます。ぽっかりと空いた心の穴を愛と感謝で満たしていく。『喪の仕事』は自身の心の死と再生の道程であり、『癒し』のプロセスでもあるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年08月07日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。心から「ありがとう」を言えるとき「ありがとう」という言葉が、運を好転させるための魔法の呪文のように言われた時期がありました。いいことがあればありがとう。好ましくないことがあってもありがとう。「ありがとう」とは「有ることが難しいこと」、「めったにない貴重である」ということを表しています。この語源を心に留めてみると、見えてくるものがあります。何かをしてもらったり、頂き物をしたり、親切にしてもらったときに、私たちは「ありがとう」という言葉を自然に口にします。それは目に見えるモノ、コトに対する感謝であることが多いのではないでしょうか。その幅を少し広げ、生活のあらゆる交流の場面で「ありがとう」と伝えてみる。言葉には『言霊』が宿っていると言われます。「有り難い」という感謝の思いが広がります。先日、100歳になられるエッセイストの鮫島純子さんのお話を聞く機会がありました。鮫島純子さんは、渋沢栄一のお孫さんです。人生には良いことばかりでなく、つらく苦しいことが多々ある。そんなときこそ誠実に向き合い、これは心を成長させるありがたい機会を与えられたのだと解釈する。鮫島さんは、「人生とは何か、生きる意味とは?100年生きて、どうやらその答えが見つかったように思えます」とお話しされました。また先日、仕事で加山雄三さんとお会いしました。脳梗塞、脳出血を乗り越え、また若い頃から多くの困難を乗り越えていらした加山さんは「人生、すべて与えられたもの、ありがとうしかないぜ」と明るく言われます。85歳の加山さんの言葉に外連味などまったくありません。人生を登山に例えるなら、遠くの山々も美しく見渡せる峰に到達されたような、そんな印象を受けました。91歳になった父は、「ありがとう」とよく口にします。大丈夫かしら、と様子を聞きたくて電話すると、「ありがとう、大丈夫」と。「ありがとう、楽しかった」「ありがとう、助かった」若い頃の父から、こんなに「ありがとう」と言う言葉を聞いた記憶はありません。「ありがとう」が魔法の言葉でもいいのだと思います。口に出した感謝の言葉は空気を震わせて伝わっていきます。もしかしたら「ありがとう」の心が空気の震えとなって世の中に伝わっていけば、世の中は少し優しくなるのかもしれません。私たちが心の底から生きていること、生かされていることのありがたさに気づくには、さまざまな経験を乗り越える時間が必要なのかもしれません。若いということ。歳を重ねたということ。それぞれが、それぞれの人生の道程のある一点にいる、ということ。若さはすばらしい。人生未踏のチャレンジはこれからですから。そして、多くの経験を重ねたからこそ到達できる境地があるのです。そのとき、心から「ありがとう」という言葉と共に人生の醍醐味を味わえるのでしょう。まだまだだなあ、と自分を振り返り、つくづく思います。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年07月31日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言(ひとりごと)』にお付き合いください。『おにぎり』で夏やせを防ぎましょう汗をかく時季になりましたね…。食欲が細くなる人も多いようです。夏やせは余り誉(ほ)めたものではありませんので、しっかり栄養を摂ることが絶対に必要です。そこで手軽に栄養補給をするのに、当方は『おにぎり』をお奨め致します。特に独身者へは尚更、勿論、栄養面も考えてのことであります。さて、その『おにぎり』は、別名『おむすび』『握(にぎ)り飯(めし)』とも呼ばれ、元(もと)はと言えば、家庭で作るものでした。それが1952年に、コンビニで売り出されるようになり、今では、其々(それぞれ)のコンビニがしのぎを削り、独自のおにぎりを販売するほか、『おにぎり専門店』も出ており、今や『おにぎり時代』となって来ました。では、そのおにぎりの、人気の具材ランキングをご紹介しましょう。ハイ、人気ナンバー1は『ツナマヨ』です。ツナ缶のツナとマヨネーズを和えた具材『ツナマヨ』です。元は、アメリカ生まれのツナサラダが、日本で人気を呼び、やがて、サンドイッチ、調理パン、おにぎり、寿司として広く使われるようになり、今では人気の具材となりました。この『ツナマヨ』が、2位のサケを押えて堂々の第1位です。ツナのほんのり残るオイリー感と、マヨネーズの濃厚さが合わさって、食べ応えはバッチリなんだとか… 洋食の『おかず』にも合いそうですね。そして、ランキングの2位はサケ、3位は梅干し、4位明太子と続きます。イャ~ おいしい『おにぎり』が食べたくなって来ましたねぇ…。この夏は『おいしいおにぎりパワー』で元気に乗り切りましょう!<2022年7月>出典みんなのランキングフリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2022年現在、アナウンサー生活64年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2022年07月25日