パーソナリティ障害とは出典 : パーソナリティ障害とは、一般の人と比べて著しく偏った考え方や行動パターンのために家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたした状態を指します。どんな人にでも性格の偏りはあるものですが、その偏りによって二次障害が現れたり、日常生活に支障が生じることではじめて「障害」と判断されます。米国精神医学会によって作成される『精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)』では、パーソナリティ障害は以下のように説明されています。パーソナリティ障害とは、その人が属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛または障害を引き起こす内的経験および行動の持続的様式である。出典:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)以上のように「苦痛または障害を引き起こす」という特徴により定義されるパーソナリティ障害ですが、周囲から見てパーソナリティ障害であるかどうかを見分けることは極めて困難であるとされており、パーソナリティ障害は理解のされにくい病気と言われています。パーソナリティ障害に対する理解を深める前に、「そもそもパーソナリティって何?」という疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。人間は誰でも、考え方や行動のパターンに何かしらの特徴・偏りを持っていて、そうした「その人らしさ」といえるような特徴を“パーソナリティ”と呼びます。「人付き合いの好きな人」「自己中心的な人」「神経質な人」「怒りっぽい人」などさまざまなパーソナリティがあります。今日の精神医学・心理学の分野では、パーソナリティは「性格」と「気質」という2つの要素が合わさったものと考えられています。「性格」はパーソナリティの心理社会的側面を、「気質」は遺伝的・器質的素因といった生物学的な側面を意味します。アメリカの精神科医ロバート・クロニンジャーは、性格を形作るものとして「自己思考」「強調」「自己超越」という3つの要素を、気質を形作るものとして「新奇性探求」「損害回避」「報酬依存」「固執」という4つの要素があると考え、合計7つの要素からなるパーソナリティ理論を提唱しました。この理論は、前者の3つの要素は体験からの学習として得られ、後者の4つは生まれつき備わっている要素なのではないかということを示唆しています。参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.22, 23以前は、パーソナリティ障害は英語名である“Personality Disorder”を直訳する形で「人格障害」と呼ばれていました。しかし、日本語の「人格」という言葉は人としての道徳観や良心の有無といった意味合いを含むため、「人格障害」という呼び名を用いることは当事者に対する否定的なイメージや偏見につながりかねない、と考えられるようになりました。現在は使われる頻度も減少しているようです。本記事では、それぞれ異なった特徴を持つパーソナリティ障害のタイプ別分類、各種パーソナリティ障害の概要やパーソナリティ障害の原因といった基本情報に加えて、パーソナリティ障害と発達障害との関連、具体的な治療法、周囲の接し方などについて、わかりやすく解説します。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:パーソナリティ障害(境界性/自己愛性)について|すぎうらメンタルクリニックパーソナリティ障害の分類出典 : 現在、精神科医療の現場で広く用いられている診断基準である『DSM-5』では、パーソナリティ障害は10のタイプに分類され、それぞれの特徴・傾向をもとにA・B・C群という3つのグループに分けられています。Upload By 発達障害のキホンそれぞれのタイプの詳しい症状などについては、関連記事を参照してください。A群:奇妙で風変わりに見えるA群は「オッド・タイプ」という別名を持ち、非現実的な考え方にとらわれやすいという特徴があります。統合失調症や妄想性障害といった精神疾患とのつながりが指摘されています。A群には以下の3タイプがあてはまります。・猜疑性パーソナリティ障害/妄想性パーソナリティ障害・シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害・統合失調型パーソナリティ障害B群:演技的で情緒的に見えるB群は「ドラマチック・タイプ」とも呼ばれ、感情的かつ衝動的なのが特徴です。そのため、周囲を巻き込んで迷惑をかけることが多いタイプであるといえます。B群には以下の4タイプがあてはまります。・反社会性パーソナリティ障害・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害C群:不安または恐怖を感じるC群は「アンクシャス・タイプ」と呼ばれることもあります。不安・恐怖心などが強く、自己主張は控えめなのが特徴です。自己本位というより他社本位なタイプといえるでしょう。A群には以下の3タイプがあてはまります。・回避性パーソナリティ障害・依存性パーソナリティ障害・強迫性パーソナリティ障害新たな種類のパーソナリティ障害上で挙げた10種類のパーソナリティ障害に加え、近年では「循環病質」という病前性格、すなわち疾患を発症する以前の性格をベースとしたパーソナリティ障害も増えていると言われています。この種類のパーソナリティ障害には、普段は社交的・活動的だが激しい気分変動が起きるという特徴があります。この種類には以下の2つのタイプが当てはまります。・サイクロイド・パーソナリティ障害・サイクロタイパル・パーソナリティ障害以上、DSM-5に従ってパーソナリティ障害の3つのグループと10の下位分類、そしてDSM-5にはない、新たな種類のパーソナリティ障害について紹介しましたが、世界保健機関(WHO)により作成される疾病分類であるICD-10など、他の診断マニュアルにおいては分類のしかたや下位分類の名称が違うこともあります。参考:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)パーソナリティ障害(人格障害)|慶應義塾大学病院複数のパーソナリティ障害が重なり合うこともある出典 : パーソナリティ障害は10のタイプに分類されていますが、実際のところ、パーソナリティの特徴が明確に見られる「典型例」といえるような患者さんばかりではなく、複数のパーソナリティの傾向を同時に持ち合わせている人もいるため、どのパーソナリティ障害なのかを見極めることが困難な場合もあります。もともと何らかのパーソナリティの偏りを持っていた人が、その偏りが原因で問題を抱えるようになった結果、二次的に新たなパーソナリティ障害の傾向を示すようになることもあります。なかには3~4つのパーソナリティ障害を併発する人もおり、そのようなケースではその人がもともと持っていたパーソナリティを特定することが重要となります。パーソナリティ障害のなかには、重複しやすいタイプがあると言われています。例えば、・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害・反社会性パーソナリティ障害といったパーソナリティ障害は「対人関係に支障をきたす」「自己中心的な考え方をする」「反社会的な行動をとる」など共通した特徴を持っており、相互に重複の可能性が指摘されています。さらに、自己愛性パーソナリティ障害と強迫性パーソナリティ障害が重なるケースも指摘されているようです。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害 正しい理解と付き合い方』ナツメ社 (2011)参考:パーソナリティ障害|厚生労働省パーソナリティ障害の原因出典 : パーソナリティ障害は、誰でもなる可能性があるといわれています。しかし、パーソナリティ障害の原因に関して、現時点では十分なことは明らかになっていません。それでも、さまざまな研究が進められていて、生物学的な特性や発達期の経験がパーソナリティ障害の発症に関与することなどが指摘されています。例えば、衝動的な行動パターンには脳内の神経物質の関与が認められること、幼少期の辛い経験が発症に影響を及ぼすといった研究結果が報告されています。パーソナリティ障害の原因に関する研究でしばしば用いられるのが遺伝的要因と環境的要因という分類です。遺伝的要因とは遺伝子による影響だけを指し、それ以外の要因はすべて環境的要因として捉える考え方です。すなわち、環境要因のなかには生まれ育った環境、親との関係、病気やケガ、社会的影響などすべてが含まれます。遺伝的要因が関与する割合については、双生児による研究を通して推定されることが多いです。ある疾患の遺伝率を求める場合、一卵性双生児と二卵性双生児で、一人がその疾患にかかっているとき、もう一人の兄弟がその疾患にかかる割合(一致率)を調べます。遺伝性が高い疾患では、二卵性に比べて一卵性双生児での一致率がとても高くなります。一方で、遺伝率が低い疾患だと、一卵性双生児と二卵性双生児との間で一致率にあまり差は見られません。このような方法を用いた研究によれば、パーソナリティ障害の遺伝率は50~60%ほどという結果もあるようです。このことから、程度遺伝的要因はパーソナリティ障害に関連するが、それだけではない環境要因も影響すると言われています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82子どもの性格の形成に関して、親との関係は大きな影響を与えるといわれています。そのため親子関係の変化する各段階におけるなんらかのつまづきによって偏ったパーソナリティが形成されて行く可能性も少なくないと考えられます。例えば、乳児期に適切な世話や愛情を受けることができないと、安定した愛着が構築されず、外界や他者に対して不安や恐怖を抱くなるようになってしまう可能性があることが専門家によって指摘されています。しかし、その可能性は様々にあるパーソナリティ障害の要因の一つにすぎません。また、どのような要因があるにせよ、原因探しが必ずしも治療の手助けになるわけではありません。時をさかのぼって過去をやり直すことができない以上、原因は原因として客観的に受け止め、「現実の問題に対して対応していく方法」について考えていくことが大切なのではないでしょうか。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)パーソナリティ障害と関連するその他の障害出典 : パーソナリティ障害には、合併しやすい障害や疾患があると言われています。また、その他にも症状が似ている障害の存在も指摘されています。本章では、前半で合併しやすい障害・疾患について、後半で症状の似たものについて紹介します。それぞれの障害・疾患について詳しく知りたい方は、関連記事をご参照ください。■うつ病気分障害の一つであるうつ病は、パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。■双極性障害双極性障害はうつ病と同じく気分障害の一つであり、気分が高まる「躁(そう)状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。サイクロイド・パーソナリティ障害、サイクロタイパル・パーソナリティ障害の場合、双極性障害へと進展するケースが指摘されています。■統合失調症幻覚や幻聴、気分の落ち込みがある統合失調症。妄想性パーソナリティ障害、スキゾイド・パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害から進展することがあるといわれています。■不安障害不安が異常に高まってしまう疾患である不安障害はパーソナリティ障害と合併することがあります。不安障害とはどのような疾患なのか|せせらぎメンタルクリニック■強迫性障害自己愛性パーソナリティ障害に合併しやすいといわれています。■摂食障害摂食障害の症状の中でも、「過食」は境界性パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害に合併しやすいようです。摂食障害|厚生労働省■アルコール依存・薬物依存アルコールや薬物への依存症状は、反社会性パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82■妄想性障害妄想性障害は、妄想性パーソナリティ障害や妄想型統合失調症と症状が似ています。妄想性障害(パラノイア)とはどういう病気なのか|せせらぎメンタルクリニック妄想性障害のほかにも、発達障害はパーソナリティ障害と似た特徴・傾向がみられることがあります。パーソナリティ障害と発達障害との関係については、次章で解説します。パーソナリティ障害と発達障害の関係は?出典 : 発達障害とは脳機能に先天性の障害があるために、幼児期から発達に何らかの遅れや困難が生じることを指します。その症状は、通常低年齢の発達期において発現することが多いといわれています。他者と考え方や感じ方か違う、自己中心的になりやすい、衝動的な言動がみられるといった特徴・傾向は、パーソナリティ障害・発達障害の両方でみられることがあるため、見分けるのは容易ではありません。また、発達障害のある子どもは、学校でいじめを受けたり、勉強についていけなくて周囲に叱責されたりと、自尊感情が損なわれやすい傾向があります。そのために自我がうまく育たず、他者と友好関係を築くのが苦手になり、しだいにパーソナリティに偏りが生まれてしまう場合もあるようです。上記のように、発達障害をベースとして二次的にパーソナリティ障害と同様の症状が現れている場合には、発達障害の治療と並行してパーソナリティ障害への対応に準じた対応策が必要とされます。パーソナリティ障害かもと思ったら?相談先は?出典 : パーソナリティ障害であるかどうかを、当事者本人が自覚したり、周囲の家族や友人が判断することはきわめて難しいといわれています。身近な人に抑うつ症状や衝動行為をしていて、それが心配になるレベルである場合には、精神科か心療内科に受診して専門医の診断を仰ぐことが好ましいでしょう。すぐには診断は出ませんが、それでも相談したり、強い症状をある程度治療によって抑えることができる場合もあります。精神的に安定した状況を取り戻し、ほかの障害の併発を防ぐためにも、できるだけ早期の受診が望まれます。はじめから医療機関に行くことに対して抵抗を感じる場合は、精神保健福祉センター・保健センター・地域活動支援センターなどといった地域の相談窓口を利用してもよいでしょう(名称は地域によって異なることがあります)。地域にある相談先|厚生労働省全国の保健福祉センター一覧|厚生労働省パーソナリティ障害の診断の流れと診断基準出典 : 前章でも述べた通り、パーソナリティ障害の疑いがある場合は精神科もしくは心療内科を受診するとよいでしょう。基本的に、初診でパーソナリティ障害の判断がつくことはあまりありません。初診時の面接では現在困っていること・悩んでいること・気分の状態などについて聞かれることが多いようです。医師は、面接を繰り返す中で、気持ちや考え方に変化がないかなどを確認しながら診断を進めていきます。また、患者さんは過去の出来事や幼少期の親子関係などについて聞かれることもあります。患者さんの話だけでは性格や気質を捉えきれないと医師が判断した場合には、心理テストを行い、その結果を判断材料とすることもあります。問診や心理テストの結果を分析し、DSM-5、あるいはWHO(世界保健機関)が作成する疾患の分類であるICD-10の診断基準に照らし合わせながら最終的な診断が下されます。DSM-5では、パーソナリティ障害の全般的基準は以下のようにまとめられています。A. その人の属する文化から期待されるものから著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)(3)対人関係機能(4)衝動の制御B. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。C. その持続的様式が、臨床的に意味のある著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。D. その様式は安定し、長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。E. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。F. その様式は安定し、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理的作用によるものではない。引用:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)この診断基準に当てはまる場合、さらに10タイプある下位カテゴリーそれぞれの診断基準に照らして、慎重に診断されます。パーソナリティ障害の経過と治療法出典 : パーソナリティ障害は自然に治るものではありませんが、症状や困難性は、適切な治療を受けることで改善させることができます。しかしながら、すべての人に有効な決定的な療法は見つかっておらず、同じ治療法でも人によって効果は異なります。根本的な治療法は精神療法、対症療法としては薬物療法が用いられるのが基本ですが、さまざまな治療法を組み合わせながら、その人に合った方法で治療が進められます。より具体的には、以下のような治療法が代表的といわれています。■個人精神療法医師や心理技術者といった治療者が患者さんとの面接を通して患者さんのパーソナリティ障害に対する理解を促したり、認知や思考・行動パターンの偏りや問題点の改善を目指していく根本的な治療です。面接は、治療者と患者さんの1対1で1週間に1~2回、30分~1時間程度行われるのが一般的なようです。この治療法では、患者さんと治療者の間に信頼関係があることが前提条件になります。■集団精神療法その名の通り、集団で行うことが特徴の治療法です。患者さん、治療者に加え、ほかの患者さんも交えたグループで話し合いをしたり、共同作業を行ったりという活動の中で生まれる患者さん同士の相互効果を治療に生かします。同様の障害を持つ人と交流することで、障害を客観的に理解したり、「人の振り見て我が振り直せ」効果を期待することができます。■家族療法家族療法では、患者さん本人のみならず、家族に対しても治療を行います。患者さんと家族との関係性を捉え、そこに存在する問題の解決を目指す治療法です。家庭における家族一人ひとりの役割を見直し、正常化することで、患者さんの精神的な安定をはかります。具体的には、治療者が家族と面接を行ったり、家族内での問題への対処法に関する助言や指導を行ったりします。パーソナリティ障害を根本から治す薬は現在のところありません。薬による治療はあくまで対症療法になりますが、強い不安や緊張、抑うつなどといった精神症状を一時的に和らげる目的で投薬治療を行うことがあります。認知行動療法とは、患者さんの認知のしかたの「ゆがみ」の改善をはかる治療法です。患者さんに自分を客観的に観察してもらい、認知のゆがみがいつ、何をきっかけに起きたのかを記録し、そのゆがみについて自覚してもらいます。そのうえで、そうしたゆがみを改善するための認知のしかたや行動の取り方を、ロールプレイングなどを通して実践的に身につけていきます。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)パーソナリティ障害のある人に対する、周囲の接し方は?出典 : パーソナリティ障害は、本人にとっても周囲にとっても理解しにくい障害であり、本人に対する接し方においてもさまざまな配慮が求められます。家族が医師の話を聞きながら適切な対応をとっていくことが大切です。家族がパーソナリティ障害の患者さんと向き合い、支えていくうえで最初のステップとなるのが、パーソナリティ障害について正しく理解することです。程度に差はあれど誰もが持っている「考え方の偏り」によって社会活動に支障が生じるパーソナリティ障害は、誰にでも起こりうる障害であるといえます。「治療には時間がかかる」「本人には自覚が乏しいこともある」「治療においては周囲のサポートが重要」といった特徴について理解しておくことで、治療が進みやすくなります。本人が医療機関の受診を拒むケースも少なくありません。患者さんが、自分が抱えるトラブルの原因は自分ではなく周囲にあると捉えていることも多いです。そうした状況下で周囲によって受診を強くすすめられると、「どうして自分が病院に行かないといけないんだ!」とますますかたくなになってしまう可能性もあります。家族は、本人が医療機関を受診する前から「病気」や「障害」と決めつけるようなことはせず、「あなたの悩みを軽減・解消するために行ってみない?」といった促し方をしてみましょう。受診について切り出すタイミングに関しては、患者さんの気持ちが安定していて、落ち着いて会話ができる状態が好ましいでしょう。パーソナリティ障害の人のなかには、家の中にひきこもり、社会活動に参加を拒む人もいます。患者さんがひきこもるのには、さまざまな理由が考えられます。例としては、自分が他者に受け入れてもらえるか・どう評価されるのかということを過剰に心配してそとの社会との関わりを避けるケースや、もともと人付き合いが嫌いもしくは苦手で、対人関係のストレスを避けるケース、仕事上の失敗などが原因で自信を失い社会に戻ることを拒むケース、外の世界に興味・関心が持てなくて外に出る気持ちが起こらないケースなどが挙げられます。患者さんがひきこもっているとき、家族が無理に外へ連れ出すのは好ましくないとされています。その人がひきこもっているのにはそれなりの理由があるはずなので、その気持ちを尊重し、理解しようとする姿勢を示すほうが解決につながりやすいでしょう。社会での対人関係やコミュニケーションをとることに対する不安からひきこもり状態になっているときには、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)を受けることが状況の改善につながることもあります。パーソナリティ障害の人のなかには、激しい怒りなどの感情とともに、暴力を振ったり暴言を吐いたりする人がいます。こうした暴力や暴言も衝動行為の一つで、自分の感情をうまくコントロールできないために直接的な行動によって発散している状態です。親や交際相手、自分の子どもなど、身近な人ほど対象になりやすいです。パーソナリティ障害の人が粗暴な言動をしたとき、周囲の人は極力冷静に対応することが求められます。家族まで感情的になって同じように暴力や暴言で対抗してしまうと、患者さんはさらに動揺し、不安を強め、精神が不安定になり、さらに衝動的になるという悪循環に陥ってしまう可能性があります。解決を目指すうえでは、容易なことではないとは思いますが、専門家との連携をとりながら、患者さんをつねにあたたかく見守っていく姿勢をくずさないようにすることが重要です。患者さんを安心させることで衝動行為の抑制をはかりましょう。まとめ出典 : 人はみなそれぞれ異なる性格を持っています。それぞれ異なる考え方を持っています。ただ、同じような傾向の性格を持っていたとしても、その性格の偏りによって家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたしてしまう場合は、パーソナリティ障害と判断されます。治療に際しても、一人ひとりの症状や考え方の違いに応じて、異なった対応が必要になります。専門の医師による治療やアドバイスを受けながら、患者さん本人や周囲の人たちもその症状を理解し、焦らずじっくりと対応していくことが大切です。
2017年05月28日目が勝手に動く…眼振(がんしん)とは?出典 : 眼振(がんしん)とは、以下の3つの条件を満たしている眼球の動きのことです。・動き方に規則性がある・周期性がある・本人が意図しているわけではない眼振と聞いて、なじみのない人が多いとは思いますが、実は健康な人も含めてすべての人が日常生活のなかで眼振を行っています。例えば、電車に乗っているときに、目の前を次々と通り過ぎていく建物を見ようとすると、動くものを追跡するゆっくりした動きと、次の建物に視線をずらすためのはやい動きが交互に行われます。このように、日常生活で目のゆっくりした動きとはやい動きが交互に起こっている場合も眼振の一つだと言えます。他にも、ぐるぐると回ったときや、急に立ち上がったときなどの場面でも眼振は起こっています。こうした、日常生活のなかで起こりうる特に困りごとのない眼振を生理的眼振といい、困りごとのある眼振を病的眼振といいます。病的眼振はさらに、先天性の眼振と後天性の眼振の2種類に分類できます。眼振の患者さんは、例えば、視力の低下が伴ったり、「眼球が動く」という見た目が目立つことから、将来のことや他人とのかかわりに対して不安を感じたりして困っています。この記事では、病的眼振を中心に扱っていき、その要因や症状、治療法などを紹介していきます。参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)眼振による眼球運動の種類出典 : 眼振とひとくくりに言っても、さまざまな眼球の動き方があるため、眼球の動き方によって眼振は分類されています。具体的には、眼球が動く方向・眼振特有の動きである緩徐相(かんじょそう)の有無・眼球が動く頻度・眼球がどれくらい揺れるかなどによって分類されます。ここでは、眼球が動く方向と緩徐相について詳しく紹介しています。眼球が動く方向は、おおまかに水平方向・垂直方向・回旋性の3種類に分けることができます。水平方向は右や左に、垂直方向は上下に眼球が動きます。回旋性というのは、眼球の位置は変わりませんがその場で回転します。ペットボトルのふたを閉めるときの、キャップのように眼球が動くとイメージするとわかりやすいかもしれません。ですが、眼球の動く方向は、水平方向と回旋性が合わさっていることもあり、きれいに3つに分けられるということではないので注意が必要です。眼球には、緩徐相と呼ばれる特徴的な動きがあり、この動きがあるかないかで律動眼振と振子眼振の2種類の眼振に分類されます。緩徐相は、眼球のゆっくりとした動きのことです。ゆっくりとした動き以外にすばやく眼球が動く急速相もありますが、急速相は緩徐相によってできたズレをなくすために生じます。よって眼振で重要に考えられているのは、緩徐相の方です。緩徐相と急速相の目の動きは、イメージとしては「仕事中や勉強中など椅子に座っているときにうっかり寝てしまうとき」に似ています。うたた寝の際、ゆっくり頭が下がっていき(緩徐相)、突然目が覚めて元の姿勢に戻った(急速相)ような動線を描いて、眼球が動くのです。◇律動眼振律動眼振は、上述の緩徐相と急速相が区別されて現れる眼振のことを言います。律動眼振の中でも、ゆっくりとした眼球の動きの速度が一定なのか、それとも少しずつ速くなったり、遅くなったりするのかでさらに分類されることもあります。◇振子様眼振振子様眼振は、緩徐相と急速相の区別がつかず、眼球が往復運動をするときに、往路と復路の揺れ方が等しい眼振のことを指します。このように眼振は、いろいろな観点から分類することができますが、詳細な分類ができないケースも多くあります。参考書籍:三村治/著者『神経眼科学を学ぶ人のために』(医学書院・2014)先天性の眼振が発症する要因は?出典 : 眼振が発症する要因は遺伝によるものもあるとされていますが、細かい原因やメカニズムはまだ判明していないものも多く見られます。先天性の眼振は、ヒトがものをしっかりと見るために必要な3つの要素のうちのどこかに問題があると発症します。次の3つのうちいずれかまたはいくつかに異常が見られると、眼振の症状が起こりえます。・固視固視とは、じーっとなにかを見ることです。「見たいものを眼球の中心に置いておけるかどうか」と言い換えることもできます。ヒトの眼は無意識のうちに常に少し動いていたり、視線をうつすときに一直線ではなく微妙にぶれながらうつしたりしています。このような眼の動きのなかで、見たいものから視線が外れてしまうような動きを抑制することも固視するためには必要です。・固視の継続1度、見たいものを眼球の中心にいれることができても、その状態を維持できなければものを見ることはできません。眼と脳をつないでいる中枢神経のはたらきがうまくいかなかったり、眼の周りの筋肉が麻痺してしまったりすると維持することが困難になります。・正常な前庭眼反射前庭眼反射とは、頭の位置が変わっても、それにあわせて眼の位置を調整する仕組みのことです。例えば、目の前にあるモノをじーっと見ながら、少し首を回してみてください。もし眼の位置が調整されなければ、モノから視点がずれるはずですが、前庭眼反射によってモノを見ながら首を回せるのです。参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)先天性の眼振の特徴出典 : 先天性の眼振は、生後まもなく発見されることが多いですが、軽度な眼振の場合にたまに成人になるまで気づかず、大人になってから眼科検診等で見つかることがあります。先天性の眼振には、以下のような特徴が見られます。・両眼性である。・振れ幅は左目、右目で差が見られない。・眼振はじっと見つめようとすると目立つようになる。・周期性後退眼振を除いて、視界が揺れたりめまいを起こしたりしない。・目を閉じたり、暗いところにいくと眼振の症状が軽くなる。・両目を内側に寄せる(=輻湊)と眼振の症状が軽くなる。・頭位異常や異常な頭部運動が多くみられる。・視力が悪く、乱視を合併しやすい。・静止位(=眼振の症状が軽くなる視線方向(null point))があることが多い。先天性の眼振は、律動眼振、振子眼振、周期性交代眼振や新生児点頭痙攣(けいれん)などの種類があります。律動眼振と振子眼振は、先天性の眼振のなかで、緩徐相があるかないかで分けられる眼振です。詳しくは先の章で紹介しましたので、以下では周期性交代眼振と新生児点頭痙攣の特徴を紹介します。◇周期性交代眼振周期性交代眼振は、100~240秒ごとに眼振の方向を変える水平方向の眼振です。先天性の眼振だけでなく、後天性の眼振でも見られることがあります。先天性の眼振では、視界が揺れているなどの自覚症状が見られないのが一般的ですが、周期性交代眼振では先天性であっても周期的に変化する見え方を自覚している人がほどんどです。◇新生児点頭痙攣この眼振にかかった子どもは点頭という、首をこっくりと頷くような動作や首をひねるようにまわす動作をすることが多いです。新生児点頭痙攣は、生後3ヶ月から1歳半までに発症し、多くは数年以内に、遅くとも8歳までには自然に治ります。しかし、最近では新生児点頭痙攣は内斜視や弱視を引き起こすという報告もされており、眼振は自然に見られなくなるが長期的な検査や治療が必要だと考えられています。弱視は、メガネやコンタクトを使っても視力が上がらないような状態のことを言います。参考書籍:三村治/著者『神経眼科学を学ぶ人のために』(医学書院・2014)眼振がある子どもに見られる特徴出典 : 眼振のあるひとは、眼球が揺れているため、ふだんからものが揺れて見えていると思われがちです。しかし、上の章で見てきたように先天性の眼振では、ものが揺れて見えることは珍しく、ほとんどめまいや耳鳴りがみられません。そのため、本人みずから不調を訴えることは少なく、子どもの場合は特に気づきにくいです。眼科に行ったときや第三者に眼球が動いていることを指摘されたときにはじめて眼振かもしれないと疑うことになります。視覚的に眼球が動いていることが確認できた場合以外にも、子どもの眼振が疑われるケースがいくつかあります。◇注視・追視が見られない赤ちゃんは生まれた直後から、目の前のものを見つめること(=注視)ができます。また、生まれた直後は視力が低く、目の前を動いているものを目で追うこと(=追視)はできませんが、数か月すると視力が発達して動くものを目で追えるようになります。眼振のある子どもは、注視や追視ができないことがあるので、ずっと目がきょろきょろしていたり、目の前で手を振っても目で追わなかったりします。これらの様子が見られるときは眼振の可能性があり、注意が必要です。◇不自然に頭を動かしている子どもが、不自然に首を傾けていたり、あごを上下に動かしたりしているときも眼振が疑われます。先天性の眼振の多くでは、眼振の症状が軽くなる静止位(null point)という視線方向があります。先天性の眼振には視線の方向によって、眼の揺れ方がひどくなったり、おさまったりすることがあり、静止位は、もっとも眼振がおさまる視線方向のことです。子どもはその視線方向でものを見るために、顔を動かして調整しようとします。そのため、不自然に頭を傾けるなどの様子が見られます。これらの様子が見られたからといって、必ずしも病的な眼振というわけではありません。しかし、万が一のために、もし子どもにこのような様子が見られたときは、眼科で相談することがおすすめです。先天性の眼振の治療法は?出典 : 先天性の眼振に対して、さまざまな治療法が考えられていますが、いまだに眼の揺れそのものを治す方法は見つかっていません。先天性の眼振の治療は対症療法になります。子どもの視力がメガネやコンタクトで矯正できる場合には、できるだけ矯正することが推奨されています。具体的な対症療法を紹介します。プリズム療法は主に、乳幼児を対象に行われます。プリズム療法は、メガネをかけると視力が矯正できるのと同じように、特殊なメガネを使うことで眼振の症状を軽減する療法です。そもそもプリズムは、光の進行方向を曲げるものです。ヒトがなにかを見えたと感じるのはすべて、光が目の中に入り、その情報が処理されるからです。プリズムによって光を曲げるというとイメージがつきにくいかもしれませんが、光の進む向きが変わることは身近なところで起きています。例えば川の底を見て浅いと思ったのに意外と深かったケースも実は水によって光が曲げられているために起こります。このように、目と見たいものの間に、水やプリズム、ガラスなどがあると光の進行方向が曲げられてしまいます。プリズム治療はこの光が曲げられる性質を利用した療法です。プリズム治療のメカニズムは大きく2つあります。1.静止位にあわせる眼振の子どもには、見やすい位置(=静止位)があります。その位置で見るために不自然に頭を動かすので頭位異常が起きていました。それなら、特殊なメガネで目に入ってくる光の位置を調整してあげれば、頭を動かさず正面を向いたままでも見やすくなるのではというのが1つ目の考え方です。2.輻湊(ふくそう)による眼振の軽減を利用する先天性の眼振では、眼を内側に寄せる(=輻湊)と眼振の症状が軽くなったり視力があがったりすることが多いとされています。この療法では、特殊なメガネで遠くのものを見るときでも、まるで近くのものを見ているかのように光の進行方向を変化させ、目を内側に寄せるように促します。そうすることで、眼振の症状を軽くするという治療です。バイオフィードバック療法は、プリズム治療の2つ目と同様に、輻湊を利用した療法です。眼球運動を音に変える装置をつかって、子ども自身が聞こえてくる音で判断しながら、輻湊を意識的におこなって眼振の症状を軽くするコツを体で憶える方法です。この療法は、眼振を完治させるのではなく、子どもが眼球運動を止める必要があるときに意図的に眼振を止めることができるようになるのが目的です。眼振の治療方法の1つとして、薬が用いられる場合があります。近年、内服薬や目薬によって、眼振の症状が抑えられるという報告はいくつかされています。例えば、てんかん治療で使われるガバペンチンが乳児の眼振に、筋肉の硬調に有効なバクロフェンが周期交替制眼振に有効だと報告されています。しかし、それらの薬が眼振に有効だという明確な証拠は見つかっておらず、さらなる研究が必要です。出典:抗痙縮剤劇薬、処方箋医薬品(注意ー医師等の処方箋により使用すること)日本薬局方バクロフェン錠ギャバロン錠5mgギャバロン錠10mg|独立行政法人医薬品医療機器総合機構出典:抗てんかん剤処方箋医薬品(注意ー医師等の処方箋により使用すること)ガバペン錠200mgガバペン錠300mgガバペン錠400mg|独立行政法人医薬品医療機器総合機構出典:三村治谷原秀信/編集『知っておきたい神経眼科診療』(医学書院・2016)p223手術療法が行われるのは以下の場合です。顔の向きが正面を向いていない。かつ、顔の向きが正面でないほうが、視力がよかったり眼球が動きにくくなったりする。手術療法は、眼球の周りの筋肉を調整することで、眼振の症状が治まる顔の向きが正面でなかったのを正面に変える療法だといえます。こうすることで、眼振自体を治療することはできなくても、眼振が原因で生じていた頭位異常を抑えることができます。参考書籍:三村治/著者『神経眼科学を学ぶ人のために』(医学書院・2014)参考書籍:三村治谷原秀信/編集『知っておきたい神経眼科診療』(医学書院・2016)参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)後天性の眼振の特徴出典 : ここまで、先天性の眼振を見てきましたが、この章では後天性の眼振についてみていきます。後天性の眼振は、先天性の眼振とは異なり、めまいや耳鳴りなどの症状が起こりやすいのが特徴的です。後天性の眼振は大きく5つの原因に分けることができます。3章で触れた、ものを見るときに必要な・固視できるかどうか・前庭眼反射が正常かどうか・固視を維持することができるかどうかのいずれかに異常が見られる場合と、これらの他に、以下で説明する・薬剤性眼振・てんかん眼振の2種類が加わります。◇薬剤性眼振薬剤性眼振は、水平性と垂直性が混ざったような眼球運動がおこります。薬剤性眼振は中枢神経を抑制するような薬を服用していることが原因で発生する眼振です。ヒトは全身に神経を張りめぐらしていますが、中枢神経はそれらのなかで中心的な働きをするもので、脳や背骨のなかにある神経のことです。◇てんかん眼振てんかん眼振は、てんかん発作中に生じる水平性の律動眼振(目がゆっくりずれていき、急に元の位置に戻る)です。てんかん眼振には次のような傾向が見られます。・通常、数分間でおさまる。(持続する場合もあるので注意が必要)・けいれんが止まったときに、両目が同じ方向を向いたままになるが、眼振は静止する。・脳波を調べると、てんかん特有の波長が見られることがある。・こわばりからけいれんが起こる強直(きょうちょく)間代(かんたい)発作が伴う。また、てんかん眼振の治療は抗けいれん薬で行われます。後天性の眼振の治療法は?後天性の眼振は、さまざまな原因が考えられ、多岐にわたるため、まずはその原因を追究することが大切です。頭位異常が見られる場合には手術が行われたり、後天性の眼振のもとになっている疾患を治療したりすることで、眼振を治療していきます。参考書籍:江本博文清澤源弘藤野貞/著者『神経眼科臨床のために第3版』(医学書院・2011)まとめ出典 : 眼振は、その原因や症状の表われ方に非常に多くの種類がある疾患です。人によってはめまいを訴えたりすることもあるほか、本人の自覚症状がなくとも、眼振によって頭位異常が起きて、周りから目つきが悪いと思われたり、そっぽを向いていると勘違いされたりしてしまうこともあります。現在、眼振そのものの治療法は確立されていませんが、眼振の種類によっては後遺症もなく治る場合もあります。それに、眼振そのものを治すことが難しくても、眼振の症状にアプローチしていくことで、眼振のある子ども自身が生活しやすくすることはできます。もし、子どもに少しでも眼振が疑われるような様子が見られたときには、眼科にかかり専門家に診てもらうようにしてください。
2017年04月28日筋ジストロフィーとは?出典 : 筋ジストロフィーとは、遺伝子が変異することによって筋肉の性質が変わったり、壊れたりする疾患の総称で、国の指定難病の一つです。筋ジストロフィーが進行し筋力が低下すると、身体の各部分の運動機能に障害がみられるようになります。それによって日常生活に支障が出たり、他の病気との合併症がひき起こされたりします。この疾患と似ているものに、筋委縮性側策硬化症(ALS)という病気がありますが、筋ジストロフィーとALSでは、病気を引き起こしている場所に違いがあります。ALSは筋肉自体に原因があるのではなく、筋肉に指令を出す運動神経に原因があるとされています。一方で筋ジストロフィーは、筋肉の細胞自体の変異によって筋力の低下が起こるという違いがあり、2つの病気は区別されています。今回は筋ジストロフィーの原因や種類、診断方法や治療方法について、詳しくご紹介します。筋ジストロフィーの原因は?出典 : 筋ジストロフィーは遺伝や、遺伝子の突然変異によって発症します。原因となる遺伝子は多数発見されていて、それを責任遺伝子と呼びます。筋ジストロフィーを引き起こす遺伝子変異は、親から子へと遺伝する場合もありますし、親に筋ジストロフィーがなくても突然変異によって発症する場合もあります。遺伝形式は大きく分けて以下の3種類です。・X染色体連鎖・常染色体優性遺伝・常染色体劣性遺伝それぞれの遺伝の仕方にはどのような特徴があるのでしょうか。X染色体連鎖は、母親のX染色体のうち1つに原因遺伝子がある場合に、その遺伝子が男の子に引き継がれると発症するという遺伝形式です。原因となる遺伝子が女の子に引き継がれた場合は発症しません。常染色体優性遺伝は、ペアになっている遺伝子のうち一つに原因遺伝子があった場合に、それが子どもに受け継がれることで発症するという遺伝形式です。片方に原因遺伝子があると発症するため、親が原因遺伝子を持っているときは2分の1の確率で子どもに発症します。X遺伝子とY遺伝子の区別はないため、男女両方に遺伝の可能性があります。常染色体劣性遺伝は、1対の遺伝子の両方が原因遺伝子の場合に発症します。そのため、両親が原因となる遺伝子を持っている場合は4分の1の確率で子どもが発症します。この遺伝形式も上の常染色体優性遺伝と同じく、X遺伝子とY遺伝子の区別がないため、男女ともに遺伝の可能性があります。筋ジストロフィーはどのように発症するの?出典 : そもそも筋肉は、筋肉を構成する細胞によって構成されています。そしてその細胞を作っている要素の一つには、タンパク質があります。タンパク質は、決まった遺伝子の決まった配列によって作られているため、その遺伝子に何か異常があると、タンパク質の構成から、筋肉の構成にまで影響が出るのです。その結果、筋力が低下し、体の様々な機能に障害が現れる病気がこの筋ジストロフィーです。筋ジストロフィーの種類・特徴出典 : 筋ジストロフィーとひと口にいっても、その中にはデュシェンヌ型、ベッカー型、エメリー・ドレイフス型、福山型、肢帯型、顔面肩甲上腕型、筋強直性、眼咽頭筋型など、多くの種類が存在します。そしてそれぞれの種類によって遺伝の仕方や、症状、進行の程度などが大きく異なります。ここでは代表的な筋ジストロフィーであるデュシェンヌ型、ベッカー型、エメリー・ドレイフス型、福山型先天性筋ジストロフィーの3つを取り上げ、その特徴をご紹介します。デュシェンヌ型(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、発症するのが男の子に限られている筋ジストロフィーです。ジストロフィン遺伝子変異により、筋繊維膜直下に存在するジストロフィンたんぱく質が欠損することで生じます。日本に生まれてくる男の子のうち約3500人に1人が発症するといわれています。歩き始めるのが遅かったり、階段を嫌がったりという特徴から病気に気づく場合もありますが、多くの場合は血液検査によってたまたま発見されるようです。発症した人の中には知的な遅れが見られることもあり、場合によっては自閉傾向を示すこともあるようです。参考:日本神経学会「デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン」デュシェンヌ型と同じく、ベッカー型(Becker mudclar dystrophy:BMD)の筋ジストロフィーも男の子のみに発症し、DMD遺伝子に変異が生じる疾患です。症状はデュシェンヌ型に似ているものの、成人を過ぎても歩行が可能であるなど比較的軽い症状が多いのが特徴です。中には運動をするときの筋肉痛が唯一の症状というケースもあるようです。出典:日本神経学会「未成年で発症する疾患」福山型(Fukuyama type congenital muscular dystrophy: FCMD)筋ジストロフィーは先天性の疾患で、日本に生まれてくる全ての子どものうち1万人に1人が発症するとされています。この福山型に関しては常染色体劣性遺伝という遺伝形式から男の子女の子問わず発症する可能性があります。出典: 日本筋ジストロフィー協会東京支部「先天性筋ジストロフィー研究の進歩」福山型の筋ジストロフィー患者さんには知的な遅れを伴っている人が多くいると言われています。しかしその程度には個人差があり、単語を複数つなげた言葉を話す人もいれば、普通の会話ができる人もいます。また、約半数の人にけいれんの症状がみられることもこの福山型の特徴です。公益財団法人精神・神経科学振興財団「福山型筋ジストロフィーの子育て」エメリー・ドレイフス型((Emery-Dreifuss:EDMD)もしくはエメリー・ドレイフェス型)筋ジストロフィーは、関節拘縮、humero-peroneal 型の筋萎縮、心伝導障害など、心筋症が起こる筋ジストロフィーです。心筋症が軽微な場合は発見が遅れる場合があります。遺伝子検査によって早期に診断し、必要に応じて心臓ペースメーカなどを導入します。参考:発症 42 年後に Emery-Dreifuss 型筋ジストロフィーと診断され両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(cardiac resynchronization therapy defibrillator; CRT-D)挿入となった 1 例筋ジストロフィーの診断方法出典 : 生後1歳未満に発症する筋ジストロフィーは先天性筋ジストロフィーと呼ばれています。親御さんが子ども低緊張の症状がみられる、歩きだすのが遅い、転ぶことが多いなど、複数の要素に気付いた場合に先天性筋ジストロフィーを疑って病院に行くことが多いようです。病院では採血・筋電図・DNAテスト(デュシェンヌ型やベッカー型の診断)・筋生検等を実施して筋ジストロフィーがあるかを調べます。筋ジストロフィーを診断できる病院は、現在全国に60ヶ所以上あります。また、もし専門病院が近くにない場合でも、神経内科において診療が可能です。筋ジストロフィーが診断可能な病院はこちらで見ることができます。日本筋ジストロフィー協会「協会で紹介する筋ジストロフィー(筋萎縮症)の専門病院」参考:「福山型先天性筋ジストロフィーの粗大運動機能と年齢の関係について」参考:一般社団法人日本筋ジストロフィー協会筋ジストロフィーの診断には、以下のような検査が用いられます。血液検査筋ジストロフィーの検査ではまず、血液検査が使用されます。血液検査では、「血清クレアチンキナーゼ」という値が見られ、この値が高い場合、筋細胞が壊れている可能性が考えられるため、筋ジストロフィーの診断に使用されています。遺伝子解析筋ジストロフィーは、遺伝子の異常によってひき起こされます。そのため、血液中の遺伝子を調べる遺伝子解析は、自分や自分の家族が筋ジストロフィーを発症する/している可能性を調べるのに有効です。また、筋ジストロフィーだと分かった場合は、その種類についての判別もすることができます。筋生検筋生検とは、筋肉の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。この検査は、症状の原因が筋肉にあるのか、神経にあるのかの判断に役立ちます。同時に筋肉に原因があるとしたら筋肉中のどこに原因があるのかを調べることができます。この検査には痛みが伴うため、局所麻酔が使用される場合が多いです。他にも筋ジストロフィーの診断には、症状の原因を探る筋電図検査や、筋肉の状態を見る筋肉CT等、さまざまな検査が使用されます。筋ジストロフィーと出生前診断出典 : 筋ジストロフィーの中には、出生前診断で確認できるものがあります。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの場合では、遺伝子の変異があらかじめ分かっている状態(保因者)においてのみ、検査を受けることが可能です。また着床前診断も認可されており、受精卵の状態で検査をすることが認められていますが、100%の確率で確定診断することはできません。また、出生前診断は、命の選択にも関わる大きな問題です。医師だけでなく遺伝カウンセラーなどセカンドオピニオンからも十分な情報を得ること、また診断をするしないについても家族と話し合いを重ねていくことが欠かせません。日本神経学会「未成年で発症する疾患」筋ジストロフィーの治療方法出典 : 筋ジストロフィーの完全な治療方法は、今も研究途中にあります。しかし、筋ジストロフィーを発症した人がよりよい生活をしていくための方法は、次々と開発されてきています。今回はそれらの治療方法のうち2つをご紹介します。デュシェンヌ型の筋ジストロフィーには、ステロイド(プレドニゾロン、プレドニゾン)という薬が有効であることが分かっています。この薬には筋力の低下が始まってから筋力や筋能力を改善させる効果があると言われています。出典:日本薬局方 プレドニゾロン錠出典:日本神経学会「ステロイド治療」ステロイド治療は、筋力低下が著しくなった時から歩行が不可能になるまでの期間において行うのが一般的ですが、処方を始める時期や、終了する時期については、明確には定められていません。歩行が難しくなったあとでも効果を示すという実例があることからも、患者の方や家族の方の希望を考慮して治療を続けることも可能なようです。しかし歩行期間の延長という効果を発揮する一方で、高血圧や血糖値の上昇、体重増加などの副作用がみられることもあります。日本小児神経学会「筋ジストロフィーのステロイド治療について」もう一つは、リハビリテーションです。リハビリテーションには、関節が拘縮したり、変形したりしてしまうのを予防するものや、転んだり事故を起こしたりするのを予防するもの、また車いす等を使って生活をするための訓練や、肺や胸の動く範囲を保つ呼吸のリハビリテーション等があります。そのほかにも、呼吸不全に対する人工呼吸法、心不全に対する薬物治療等もあり、最近ではデュシェンヌ型の筋ジストロフィー治療に対する遺伝子治療も研究されています。医療の発達と共に、より効果的な治療が可能になってきていると言えるでしょう。筋ジストロフィーに知的障害は合併するの?出典 : 筋ジストロフィーの中のいくつかの種類には、知的障害が見られることがあります。例えば、デュシェンヌ型では、軽度から重度の知的障害が見られることがあります。また、先天性筋ジストロフィーの福山型には、比較的重度の知的障害を伴うことが多いことが分かっています。知的障害の程度や困りごとは人によってさまざまです。お子さんが筋ジストロフィーを発症した場合は、学校の先生や医師と相談しながら、本人が快適に学習できる環境を整えていくことが大切でしょう。筋ジストロフィー患者のための医療・福祉制度出典 : 筋ジストロフィーが発症した場合、治療には多大な費用がかかります。その際に役に立つのが医療費の助成です。・指定難病医療費助成制度筋ジストロフィーは国の定める指定難病です。そのため、筋ジストロフィーであることを申請し、特定医療費(指定難病)受給者証が交付されれば、指定難病に対する支援を受けることができます。・小児慢性特定疾病医療費助成制度18歳未満の児童を対象にした医療費助成制度として、国によって定められた疾患に対して医療費が助成されます。平成29年4月1日から722疾病が認定されています。各型の筋ジストロフィーのうち7つの型の筋ジストロフィーが対象になっています。(以下、出典をご参照ください。)出典:小児慢性特定疾病情報センター・自立支援医療(育成医療・更生医療)身体に障害を抱えており、その症状が手術等の治療によって確実に改善されるという見込みがある場合に、医療費の自己負担額が補助されます。筋ジストロフィーがある人の身体介護サービスなどに適用されています。・高額療養費の助成高額療養費は、医療機関で払った額が1ヶ月間で一定額を超えていた場合、超過分の金額が支払われるというものです。年齢や所得によっても支給額が変動します。筋ジストロフィーがある人の入院や手術などに適応されます。厚生労働省患者の自立:筋ジストロフィー患者の事例から知っておきたい公費負担医療制度筋ジストロフィーの患者には医療費の助成だけではなく、手当や貸し付け等も充実しています。・障害基礎年金国民年金に加入している間に初めて医師の診療を受けており、障害等級1、2級の状態にある場合に支給されます。平成29年4月現在、1級は年額97万4125円(77万9300円×1.25)、2級は77万9300円となっています。・特別児童扶養手当精神または身体に障害のある子どもを家庭において育てている方に支給される手当です。支給額は障害等級が1級の子どもに対して月5万1450円、2級の場合3万4270円となっています。(平成29年4月現在)所得に関する条件があるため、注意が必要です。障害基礎年金厚生労働省:特別児童扶養手当についてこれらの他にも、障害児福祉手当や障害児・者扶養救済制度、特別支援教育修学奨励費の支給等様々な手当があります。ご本人のご家庭の状況や症状の状態に合わせて、上手く利用していくとよいでしょう。また筋ジストロフィーの患者を支援するものの中には、金銭面での支援だけではなく、日常生活用具の貸出や給付をするもの、日常生活の介助のサービス、各種割引の制度などもあります。さまざまなサービスを上手く使いながら、より負担の少ない生活を送りましょう。まとめ出典 : 筋ジストロフィーは、その種類から症状、治療法に至るまでさまざまな病気です。根本的に病気を治す方法は今も研究途中ですが、医療やテクノロジーの発達、また手当などの制定によって、患者さんを支える幅広い選択肢とサポートはさらに広がってきています。リハビリや薬物療法など専門家の協力を得ながら、多岐にわたる課題を日常生活を通じて少しでも緩和できるよう、取り組んでいけるとよいですね。参考:日本筋ジストロフィー協会参考:難病情報センター参考文献:宮本信也/著、竹田一則/編『障害理解のための医学・生理学』2010年明石書店/刊参考文献:河原仁志/編著『筋ジストロフィーってなあに?』2008年診断と治療社/刊
2017年04月14日サイトメガロウイルスとは?出典 : サイトメガロウイルスとは、人の体液に多く潜伏していて、その体液に接触することで感染していくウイルスです。略してCMVと呼ばれることもあります。日本では成人の60~90%が過去にサイトメガロウイルスに感染したことがあると言われているため、ほとんどの人がこのウイルスに対する抗体を持っているとされています。抗体を持っていて、健康で免疫力が高い状態の時はサイトメガロウイルスに感染したとしても特にこれといった症状は現れません。ですが現在、生活環境が以前より改善され、清潔なものに囲まれることが多くなったため、サイトメガロウイルスに感染したことがなく、抗体を持っていない女性の割合が増えていると言われています。そのため、妊娠中にサイトメガロウイルスに初感染してしまい、そのままお腹にいる赤ちゃんにも感染してしまうことがあります。その場合、低出生体重児で生まれてきたり、視覚障害・聴覚障害・発達障害など体のさまざまな部分に障害が現れたりすることもあります。先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」TORCH症候群とは、妊娠中の女性がかかった場合、胎児に奇形や臓器、神経、感覚器などの障害をもたらす可能性のある感染症の総称を指します。「TORCH」は5種類の感染症の頭文字をとっています。TはToxoplasma gondii(トキソプラズマ原虫)、Oはothers(その他)ということで梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)などを含み、RはRubella virus(風疹ウイルス)、CはCytomegalovirus(サイトメガロウイルス [CMV])、そしてHはHerpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス [HSV])を示します。このように、妊娠期に注意すべき感染症は数多くありますが、この記事ではサイトメガロウイルスについて詳しくご説明します。サイトメガロウイルスに感染するとどうなるの?出典 : 冒頭でも触れたように、サイトメガロウイルスに感染したとしても、正常な免疫機能を持っていれば症状が出ることはありません。出たとしても軽い風邪程度の症状であることが多く、特別な治療をしなくても治ることが多いです。ですので、サイトメガロウイルスに感染することに対して特別神経質になる必要はありません。一度感染することでサイトメガロウイルスへの抗体がつくられるので、感染すること自体は悪いことではないのです。サイトメガロウイルスの感染について気をつけるべきことは、妊娠中の方が初めてサイトメガロウイルスに感染してしまうことで起きる先天性サイトメガロウイルス感染症です。加えて、免疫機能が低い方が子どもの体液に触れてそのままにすることで起きる後天性サイトメガロウイルス感染症も注意する必要があります。以下、詳しくご説明します。先天性サイトメガロウイルス感染症とは、サイトメガロウイルスの抗体を持っていない女性が、妊娠中にサイトメガロウイルスに初めて感染することがきっかけで起こります。お腹の中の赤ちゃんにも胎盤を介して胎内感染し、さまざまな症状が出ます。近年、妊娠可能年齢の女性が、サイトメガロウイルスの抗体を持っている割合は90%台から70%台程度に減少してきていると言われています。このような、サイトメガロウイルスの抗体がない女性のうち、妊娠した時に初めてサイトメガロウイルスに感染する女性は1~2%います。先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構成及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究妊娠したタイミングで初めてサイトメガロウイルスに感染したとしても、生まれてくる赤ちゃんに何かしらの症状が現れる割合は1割程度と言われています。現れる症状は、軽いものから重いものまでさまざまです。また、生まれた直後から発症することもあれば、生まれた時は特に問題がなくても成長につれて発症することもあります。先天性サイトメガロウイルス感染症では、次のような症状が発症することがあります。低出生体重:赤ちゃんが軽い体重で生まれてきます。小頭症:頭の大きさ(頭囲)が小さくなります。紫斑(皮下出血):出血を止める働きのある血小板が減少して、皮下に出血が起こります。肝炎:肝臓の細胞が壊れる肝炎の状態になります。難聴:耳の聞こえが悪くなります。片耳の場合も両耳の場合もあります。発達障害:軽度のものから重症のものまで、その重症度には大きな差があります。てんかん:けいれん発作を起こすことがあります。視力障害:網膜の炎症や眼球形成自体に異常が起こり、視力に影響が出ます。死亡:多くはありませんが、最重症の場合は死亡することもあります。生まれた赤ちゃんが先天性サイトメガロウイルス感染症になっているかどうかは、生後3週間以内に赤ちゃんの尿や唾液を調べることでわかります。生後3週間が経った後でも、へその緒の一部や、赤ちゃんが生まれながらに病気をもっているか調べる先天代謝異常スクリーニング検査で採取したろ紙血検体で検査することもできます。しかし、これらは尿や唾液よりウイルスが少ないので、正確な検査結果が出ない可能性もあります。一方、後天性サイトメガロウイルス感染症は、子どもが生まれた後に何かしらの経路でウイルスに感染し、発症します。子どもだけではなく、子どものお世話をする大人が子どもの唾液や尿などを介して感染することもあります。サイトメガロウイルスの影響で何かしらの障害を伴う症状が出るのは、多くが先ほど説明した先天性サイトメガロウイルス感染症です。後天的にサイトメガロウイルスに感染した場合、特に症状は現れないということがほとんどです。ですが、子どもであれば母親から十分にサイトメガロウイルスの抗体をもらえなかった時、大人であれば免疫機能が低下している時にサイトメガロウイルスに感染すると、症状が伴うことがあります。特に、早産児や低出生体重児の場合は、母親がサイトメガロウイルスの抗体を持っていたとしても、抗体を十分に受け取る前に生まれることが多くあります。赤ちゃんは、胎盤を通して母親からさまざまな抗体を受け取ることで、生まれてすぐに感染症などを発症するリスクを減らすことができています。そのため、抗体を受け取る量が減ってしまっていると、後天性サイトメガロウイルス感染症による重い症状が現れることがあります。後天性サイトメガロウイルス感染症の症状としては、肝臓の細胞が壊れる肝機能異常、肺胞の壁や周辺に炎症が起こる間質性肺炎、発熱やのどの痛みを伴う伝染性単核症などが挙げられます。公益財団法人母子健康協会第31回シンポジウム 「保育園・幼稚園における感染症と対応」サイトメガロウイルスの感染経路とは?出典 : サイトメガロウイルスはどのように感染していくのでしょうか。サイトメガロウイルスは唾液や尿、母乳、血液などさまざまな体液に多く排出されています。これらの体液と密接に接触することで感染することが多くあります。例えば、以下のような感染経路が考えられます。・尿や唾液などに触れてそのまま目・鼻・口などに触ることによる感染・性交による感染(子宮頸管・粘液、腟分泌液、精液)・母から子へ、胎盤や母乳などによる感染・輸血や臓器移植などによる感染先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」Q&A一番考えられるのは、尿や唾液のついた手で目や鼻、口を触った時です。赤ちゃんのおむつ替えや、食事の際に同じ箸やフォークを使うなど子どものお世話をするうえで何気なく行ってしまっていることが、サイトメガロウイルスの感染につながっていることがあります。また、感染経路の1つとして胎盤や母乳などによる母子感染を挙げましたが、これを知って「赤ちゃんに母乳を与えるとサイトメガロウイルスに感染し、何か症状を引き起こすことがあるの?」と不安に思う方もいるかもしれません。既にご説明したように、多くの人はサイトメガロウイルスの感染経験があり、抗体を持っています。そのため、母乳をあげることでサイトメガロウイルスの感染による何かしらの症状につながってしまう、ということはありません。母乳によるサイトメガロウイルスの感染・感染症の発症は、早産児や低出生体重児などの未熟児の場合、少し気をつける必要があります。先ほども説明したように、未熟児はサイトメガロウイルスの抗体を母親から十分に受け取ることができていないケースが多くあります。母親が妊娠時に初めてサイトメガロウイルスに感染した・それ以前に感染していたに関わらず、母乳には一定数のサイトメガロウイルスが含まれています。サイトメガロウイルスの抗体が少ない未熟児が母乳を飲むことで、サイトメガロウイルスによる何かしらの症状が現れる可能性もあります。ですが、母乳には生まれたばかりの赤ちゃんにとって重要な栄養素や病気に対する抗体が多く含まれています。このような栄養素や抗体は、未熟児で生まれたからこそ、健康に育つために必要なものでもあります。ですので、生まれてきた赤ちゃんが未熟児であった場合、産婦人科や小児科の先生と相談し、母乳をどのように与えていくか考える必要があります。新生児のCMV感染症感染経路に関して、加えて知っておきたいことは、サイトメガロウイルスは空気感染や飛沫感染はしないということです。空気感染とは、ウイルスが空気中に浮かんで感染していくことで、飛沫感染はウイルスなどを含んだ分泌物(例えばくしゃみ、咳など)を吸いこんで感染することです。このため、サイトメガロウイルスに感染し、それにより症状が現れている人が近くにいるからといって過剰に避けたり隔離したりする必要はありません。トーチの会母子感染予防啓発パンフレットサイトメガロウイルスの診断方法って?治療費用や保険は?出典 : これまで紹介した症状に関して、サイトメガロウイルスの感染によるものかどうか診断するには、採血による抗体検査が一般的です。抗体検査では、自分の体内にサイトメガロウイルスの抗体がどのくらいあり、どのくらい免疫力があるのか調べます。抗体検査は主に産婦人科で受けることができます。先ほどもご説明したように、妊娠した方にサイトメガロウイルスの抗体がないと、生まれてくる赤ちゃんが先天性サイトメガロウイルス感染症になることがあります。ですが、サイトメガロウイルスの抗体検査は妊婦健診には含まれてない産婦人科が大多数です。そのため、もし検査をしたい場合は自分から産婦人科医に申し出て検査を受ける必要があります。また、中には結婚前に治療が必要な病気があるかチェックする、ブライダルチェックの項目に含まれていることもあります。レディースクリニック山原先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構成及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究‐妊婦サイトメガロウイルス感染の検査とカウンセリング‐妊娠中にサイトメガロウイルスに初感染した、と診断された時に対する有効な治療法は研究段階にあり、まだ確立されていません。ただ、妊娠中に初感染したからといって全ての赤ちゃんに症状が現れるというわけではありません。サイトメガロウイルスによる感染症が認められた場合、薬物治療という方法が取られます。しかし、使われる薬は副作用が強いもの、効きが強いものが多く、小さな子どもに服用させるには危険なことがあります。子どもに先ほど挙げたような症状が見られた場合、まずは産婦人科や小児科へ相談しましょう。そこでサイトメガロウイルスによる影響である、と認められた場合、どのような治療法を選択し、実際に行っていくか納得したうえで治療を進めていきましょう。トーチの会Q&A-先天性CMV感染症の治療方法は日本にありますか?-トーチの会Q&A-妊娠中のCMV初感染が判明した場合、何か対応策はありますか?-サイトメガロウイルスの検査や感染後の治療は保険が適用されないものが多くあります。そのため費用は基本的に自己負担となります。費用は病院ごとに異なっていますが、先ほど説明した抗体検査の場合、妊婦健診を受ける時などに別途3000円から4000円支払うとできるところが多くあります。造血細胞移植ガイドラインサイトメガロウイルス感染症第2版おおひらレディースクリニックホームページまた、先天性サイトメガロウイルス感染症の検査を無料で行ってくれる病院もあるので、活用してみるのもよいでしょう。東京大学医学部附属病院小児科ホームページサイトメガロウイルスの感染を予防するには?出典 : 繰り返しになりますが、普段生活を送る上でサイトメガロウイルスの感染を気にしすぎる必要はありません。サイトメガロウイルスの感染を予防すべきなのは、妊娠中の女性、妊娠を考えている女性が対象になります。予防策として、以下のようなことが挙げられます。・乳幼児の唾液、排泄物を触った時は必ず石鹸を使って手を洗う・食べ物や飲み物は子どもとは別にする・同じ箸やスプーン、フォークをなるべく使わないようにする・子どものよだれやおしっこがついてしまったオモチャや家具などは石鹸やアルコール消毒薬などを使ってきれいに拭き取る・敷物や布団類は天日で十分に乾燥させる・抗体検査を受ける(妊娠する前が理想的)・妊娠中の性行為の際には、コンドームを使う特に、妊娠中ですでに小さい子どもがいるママは、子育てをしながら妊娠期間を過ごすことになります。子どもの体液に触れないようにするということは無理に近いことですよね。ですが、サイトメガロウイルスの感染経路や予防策を知っているだけで、先天性サイトメガロウイルス感染症などのリスクを減らすことができます。子どもやパートナーと過ごすうえで日々気をつけていきたいですね。サイトメガロウイルス・トキソプラズマ感染予防についてまとめ出典 : サイトメガロウイルスは、日本では半数以上が感染経験のあるウイルスです。大抵の場合はこれといって重い症状が現れることはありません。近年サイトメガロウイルスの抗体を持っている人が減少傾向にあります。なので、妊娠している方や妊娠を考えている方は、一度自分がサイトメガロウイルスの抗体を持っているのかどうか検査してみるとともに、感染予防の方法を知ることが大切です。お腹の中の赤ちゃんへの先天的な感染を防ぐためにも、まずはサイトメガロウイルスについて知っていくことからはじめましょう。正しい感染経路、症状、予防方法についての理解を深め、安心したマタニティライフを送りたいですね。
2017年04月07日先天性ミオパチーとは出典 : 「先天性」とは「生まれつき」、「ミオパチー」とは「筋肉に現れる病気」を意味する言葉で、先天性ミオパチーとは、生まれつき筋肉に何らかの異常がある疾患の総称です。日本には1,000人~3,000人の患者がいると考えられているものの、正確な数字は把握できていません。推計によると10万人に3.5~5人が発症するきわめて稀な疾患で、国に難病として指定されています。筋肉にかかわる遺伝子の異常で発症すると考えられており、乳児期に発見される場合や、成人になって診断される場合など、発症時期は人それぞれ違います。乳児期に症状がみられる場合には、体を支える筋肉の張りが弱く、体がくにゃくにゃとしていることが多いようです。幼少期には座ったり歩いたりする運動発達の遅れ、成人期には疲れやすかったり、力が入らなかったりする自覚症状がみられます。先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター先天性ミオパチーにはさまざまな病型があります出典 : 先天性ミオパチーは遺伝子の異常が原因で発症しますが、遺伝子検査で病型を分類することはせず、顕微鏡で筋肉の組織を詳しく調べ、その特徴からおもに4つの病型に分類します。同じ遺伝子に異常があっても筋肉組織に共通の特徴がみられない場合もあり、原因となる遺伝子を遺伝子検査で確定することはできても、病型を判別することはできません。また、あらわれる症状も病型ごとに決まっていないことからも、病型を確定する際には筋肉の組織を調べる方法を採用しています。・ネマリンミオパチー先天性ミオパチーのなかでも、発症頻度のもっとも高い疾患です。顕微鏡で筋肉の組織を見ると、糸くずのようなもの(ネマリン小体)が筋繊維の中にあるかどうかでわかります。心臓の筋肉に異常を引き起こすことはほとんどないと考えられています。・セントラルコア病、ミニコア病ネマリンミオパチーの次に発症頻度が高いことで知られています。軽症の方が多く、多くは乳幼児期の発達の遅れから発見されます。顔の筋肉にはあまり異常がみられず、体幹に近い筋肉に異常がみられることが多いため、この病型では側弯症や関節がかたくなってしまうことがあります。筋肉の組織は大きさが均一ではなく、細胞の真ん中にコアと呼ばれる果物の芯のようなものが見えることが特徴です。・ミオチュブラーミオパチー、中心核病遺伝形式から、男性だけに発症すると考えられており、軽症から重症まで症状の程度はさまざまです。筋肉の組織をみてみると、筋肉繊維になる前の段階の筋管細胞(ミオチューブ)に構造が似ていることが特徴です。・先天性筋線維タイプ不均等症、全タイプ1線維ミオパチー筋肉には、赤筋と白筋というふたつのタイプの繊維があります。この病型では、2つの筋肉繊維の量が均等ではなく、サイズも小さいことが分かっています。筋繊維が細く、未熟なことが多いために症状を発症するのではないかと考えられています。・その他、分類不能な先天性ミオパチー詳しい検査をしても病型がわからない場合には、分類不能な先天性ミオパチーと診断される方もいらっしゃいます。先天性ミオパチー(congenital myopathies)|日本筋ジストロフィー協会筋肉の障害や筋力低下をきたす難病『先天性ミオパチー』の新たな原因遺伝子を発見|横浜市立大学先端医科学研究センター市原靖子他/著『悪性高熱症とセントラルコア病』(日臨麻会誌26(2)、2006年)先天性ミオパチーはどんな症状がみられるの?出典 : 以下の2つの症状は、どの病型でも共通しています。・筋力低下、筋緊張の低下、運動発達の遅れ筋力が低下することで、転びやすかったり、階段の昇降がつらかったり、すぐに疲れやすかったりする症状が出ます。乳幼児では、筋肉の張りが弱いために姿勢を保てない症状のほか、首の座りや自立歩行など体を動かす発達に遅れがみられます。・深部腱反射の減弱または消失膝をたたくと、足がぽーんと上がる反射を深部腱反射と呼びます。先天性ミオパチーの人では、この反射が弱いか、もしくは反射がみられません。病型や重症度によって症状や合併症は異なります。以下におもな症状をご紹介します。・顔筋肉の異常:顔にある筋肉が弱いために細長い顔立ちとなり、表情が乏しくなることが多いようです・高口蓋:上あごのドームが高い形をしています・呼吸障害:呼吸不全や、痰が出しにくい症状などがあらわれます・心臓に関連した合併症:心臓が収縮するときに使われる筋肉の異常で心筋症、不整脈などがみられます・関節に関連した合併症:関節がかたくなってしまったり、側弯症など脊椎が変形してしまったりすることがあります・飲み込む障害:飲み込むための筋肉が弱いため、乳児では哺乳障害、離乳期以降では摂食障害がみられることもあります・てんかん:突然意識を失ってしまうなどの「てんかん発作」を合併する場合があります。脳のある部分の神経細胞が、異常な電気を突然発射してしまうことで発作が起きます。どのような発作が起こるかは、電気発射の部分で異なります。・知的障害:てんかんを繰り返すことで知的障害がすすんでしまうこともあります。先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センターインターネット講義:神経内科|浜松医科大学第1内科てんかん|厚生労働省各病型では、「重症先天型」「良好先天型」「成人型」と3つの重症度で区分されています。・重症先天型:新生児期から症状があらわれるのが重症先天型です。呼吸をすること、おっぱいを飲むことが自力では難しいので、人工呼吸器や経管での栄養補給が必要となります。・良好先天型:先天性ミオパチーを発症する方の大半は、この良好先天型です。良好先天型では、多くが乳幼児期の運動発達の遅れから発見され、特に首のすわりが遅いことが特徴です。他にも、歩き始めが2~3歳と遅いことが多く、転びやすかったり、階段で手すりを使わないと上り下りできなかったりという特徴がみられます。なお、筋力の低下は進行しないか、進行してもゆっくりであることが分かっています。心臓の筋肉に影響がある場合は少ないものの、呼吸筋が弱いこともあるので呼吸管理は重要です。良好先天型では、本人や周りも気づかないほど軽症のために、大人になってから診断される人もいます。目立った症状がない場合でも、アキレス腱が短い、高口蓋などの症状はあるようです。・成人型:成人になって全身の筋力、もしくは体幹に近い部分の筋力が突然低下してしまい、先天性ミオパチーを発症する場合には成人型に区分されます。なお、肺炎となって診断されることもあるようです。呼吸に関係する筋肉が低下して、飲み込むことが難しくなってしまった結果、誤嚥による肺炎を引き起こして診断につながるのかもしれません。先天性ミオパチー|一般社団法人先天性ミオパチーの会先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター石黒 卓、他『呼吸不全と右心不全が初発症状であった成人型ネマリンミオパチーの 1 例』(日呼吸会誌 47(2)、2009年)先天性ミオパチーの原因は?出典 : 遺伝子の異常が原因で、筋肉をつくりだすたんぱく質がうまくつくられない、うまく働かないことで、筋肉の症状として発症します。先天性ミオパチーを発症している人を調べると、筋肉にかかわる遺伝子のひとつが異常が見つかるのが一般的のようです。なお、先天性ミオパチー全体でみてみると、発症にかかわる複数の遺伝子が発見されていますが、研究途上にあるために未解明の部分も多いのが現状です。遺伝子の異常ですので遺伝するものの、原因となる遺伝子の遺伝形式によっては発症しないこともあります。また、突然変異で発症する可能性もあります。ヒトは22対(44本)の常染色体と、1対(2本)の性染色体を持っています。先天性ミオパチーの遺伝形式は、「常染色体優性遺伝」「常染色体劣性遺伝」「X染色体劣性遺伝(性染色体の遺伝形式)」の3つのタイプがあります。同じ遺伝子であっても、「常染色体優性遺伝」と「常染色体劣性遺伝」のどちらかを取る場合があるなど、その遺伝形式はさまざまです。・常染色体優性遺伝:対になっている遺伝子のうち、片方が異常だと発症します・常染色体劣性遺伝:対になっている遺伝子のうち、2つとも異常だと発症します・X染色体劣性遺伝:X染色体上に遺伝子の異常があると発症します。ミオチュブラーミオパチーでの遺伝形式で、男性50%で発症する可能性があり、女性では通常では発症しません。女性の性染色体は「XX型」ですので、両方のX染色体に異常がないと発症しないためです。ただし、XX染色体のどちらかに異常遺伝子を持っている場合には、発症せずに保因者となります。先天性ミオパチー(指定難病111)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター先天性ミオパチーかなと思ったら専門家に相談を出典 : さまざまなかたちであらわれる症状に対して適切な処置を行うためにも、先天性ミオパチーを早期に発見することがとても重要です。そこで、幼少期に以下のような症状があれば、まずは小児科で相談をしてみてください。・体がグニャっとしていて首が前に起きない。(右写真)・ジャンプができない。・階段を昇るときに手すりを使う。・床から立ち上がるときに膝を使って立つ。・走ると遅い。・立ち上がるときにおしりをちょっと上げて立つ。先天性ミオパチーを疑う症状|一般社団法人先天性ミオパチーの会だた、先天性ミオパチーは、筋ジストロフィーなど、ほかの筋肉の病気と症状が似ていることも多いこともわかっています。精密検査をしなければ病気を確定できませんので、お近くに小児神経内科の病院があればそちらで相談してみましょう。遺伝カウンセリングで相談することができます。家族や親戚に先天性ミオパチーの方がいらっしゃるなど、不安な方は相談してみるのも良いと思います。遺伝カウンセリングは、大学病院など大きな医療機関に併設されていることが多いので、相談にあたっては紹介状が必要です。まずは、遺伝カウンセリングの希望を受診する医師に伝えましょう。先天性ミオパチーの診断出典 : 医師の診察では、顔立ちの特徴や体の動かし方を診るほか、高口蓋、頸屈筋の筋力低下があるかどうかなどを診るようです。医師の診察にくわえて、血液検査や筋電図検査、心電図、骨格筋画像検査なども行われます。これらの検査結果から、先天性ミオパチーの可能性が考えられる場合には筋肉組織の精密検査を行い、病気の確定と病型を判断します。また、遺伝子解析をしてどの遺伝子に異常がみとめられるのかについても分析します。埜中征哉『ここがポイント! 筋疾患患者の診察』第54回日本神経学会学術大会配付資料|一般社団法人日本神経学会先天性ミオパチーの治療出典 : 遺伝子の異常は、残念ながら現状では治せません。そこで、あらわれている症状や疾患にあわせて治療を進めていきます。筋肉は体全体にあるため、全身に症状があらわれます。そこで、複数の専門科の医師が医療チームを組んで、包括的に治療を行うことが多いようです。難病でもあることから、複数の専門科がそろっている大きな病院での治療が中心となります。・筋力低下の症状筋力が低下するのをできるだけ防ぐ、また今ある筋力量を維持するために、リハビリテーションでの治療が行われます。筋力低下で、歩くことができないなどの場合には人工装具や車いすを使います。・顔筋肉の異常、高口蓋(口の中の空間が広い。上あごのドームが高い)歯に影響が出ることもあるので、歯科治療が必要な場合もあります。・呼吸障害( 呼吸不全、痰が出しにくい)呼吸リハビリテーションを行ったり、非侵襲的人工呼吸器などを使ったりします。(非侵襲的人工呼吸器とは、気管切開をせずに鼻マスクを使って人工呼吸ができる器具のことです。)呼吸にかかわる筋肉に異常がみられると、呼吸障害を引き起こしてしまうため、早期の呼吸リハビリテーションがとても大切です。また、痰を出しやすくすることで、感染症を予防するも目的のひとつです。呼吸リハビリテーション施設の一覧のリンクで、お近くにある施設を探してみてください。呼吸リハビリテーション施設一覧|一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会・心臓が収縮するときに使う筋の機能が低下することで心筋症や不整脈などの合併症がある場合には、薬の処方など内科的処置をします。・関節がかたくなってしまう、側弯症など脊椎が変形してしまう症状には、定期的なリハビリーションで関節を柔らかく保つ、人工装具を使うことなどで対処します。・飲み込むための筋力が弱いと、乳児では哺乳障害・離乳期以降では摂食障害を引き起こします。言語療法や、栄養管理が必要になるかもしれません。・知的障害を併発している場合には、環境作りや療育など、本人にあった支援方法を実践することが大切です。・てんかんがある場合には、薬を服用して予防するといった内科的処置をする必要があります。症状が軽い場合には、日常生活を支障なく送れる人が多いようです。そのため、つらい時でも周囲にあわせなければ・・・と、つい無理をしてしまうこともあるようです。まずは体の負担を増やさないように無理はしないようにしましょう。体の負担が大きい場面、たとえば、長時間歩く遠足、体育の授業などでは、車いすを使う、見学するなどの配慮をしてもらうことも考えてみてください。体育で疲れ果てる、息がしづらくなる時には、もしかしたら呼吸筋の異常があるかもしれません。定期的にかかりつけの医師に相談しましょう。筋疾患では、筋ジストロフィーでの臨床研究が進んでいます。先天性ミオパチーでも、厚生労働省による「難治性疾患制作研究事業」が進められ、研究体制が整備されているところです。また、国立精神・神経医療研究センターが運営する患者登録サイト「Remudy」で、先天性ミオパチーのためのページが2016年8月に起ち上がりました。登録すると、最新の臨床研究や、ワークショップ、治験の情報などを受け取れるようです。Remudy(Registry of Muscular Dystrophy)は、臨床試験/治験を目的として、患者さまと製薬関連企業・研究者との橋渡しをする登録システム神経・筋肉疾患患者登録|国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターこのほか、患者会に登録して、同じ先天性ミオパチーの方とつながりをもち、悩みなどを共有するのも良いかもしれません。先天性ミオパチー|一般社団法人先天性ミオパチーの会先天性ミオパチー患者会以外にも、筋肉疾患全体の患者会があり講演会や交流会が開かれているようです。ミオパチーの会オリーブ先天性ミオパチーの人が受けられる支援出典 : 国の指定難病のなかでも医療費助成の対象です。助成を受けるためには、医療受給者証が必要です。医療受給者証を発行してもらうためには、診断書と必要書類を合わせて、都道府県の窓口に医療費助成の申請をします。なお、「臨床調査個人票」と呼ばれる診断書が必要になるので、まずは医師に相談してください。参考リンク:平成27年7月1日施行の指定難病(新規・更新)|厚生労働省先天性ミオパチーは、小児慢性特定疾病にも指定されているので、通院や入院を問わず18歳未満の子どもの治療には医療費が助成されます。症状や検査の結果によっては、対象と認められない場合がありますので医療機関に相談してください。反対に、「重症」と認められた場合には自己負担金がなくなります。医療費助成のほか、日用生活用具の給付や、ピアカウンセリング(当事者やその家族などとのカウンセリング)も受けられる場合があります。支援内容は、自治体で異なるため、お住まいの地域のの保健センターに相談してみましょう。参考リンク:小児慢性特定疾病の医療費助成について|小児慢性特定疾病情報センター小児慢性特定疾病 重症患者認定基準|小児慢性特定疾病情報センター1ヶ月にかかった医療費の自己負担分が、一定の限度額を超えたときに高額療養費として返金される制度です。所得金額で自己負担分の限度額が異なるので以下のリンクを参照してみてください。高額な医療費を支払ったとき|全国健康保険協会症状によって、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳などの取得も可能です。障害者手帳を取得することで、障害の種類や程度に応じて様々な福祉サービスを受けることができます。障害のある子どもを対象にした国の支援制度です。支給される金額や必要書類は、障害の状態で異なるので、発達ナビでは制度の概要と申請方法を詳しく紹介しています。障害年金は、障害のある方を対象とした国の年金制度のひとつです。申請すると、障害の程度によって決められた一定の金額を毎月受給することができます。制度の概要や申請方法や支給金額などについて詳しく解説していますので、申請をお考えの方は参考になさってください。障害のある人とその家族への税金には、障害者控除などの優遇措置がとられています。障害のある人を対象とした税の優遇制度についてまとめた記事がありますので、ぜひご一読ください。ときには、医療型短期入所(ショートステイ)を利用して家族もリラックスしましょう。医療型短期入所は、重い障害のある人を自宅で介護している場合、医療型の施設に一時的に預けることで、介護している人も休息できるようにするサービスです。レスパイトケアサービス・子どもホスピスとも呼ばれていて、重い障害のある人と家族をともに支援をする動きが増えています。レスパイトとは「休息」「息抜き」「小休止」という意味です。また、親子のお出かけや旅行などのサポートをしているNPO法人もあるようです。親子レスパイトケアとは|特定非営利活動法人 親子はねやすめ家族もしっかり休めるように、施設をいくつか探しておくと良いかもしれません。以下のリンク先で、施設を検索できますので参考になさってください。短期入所(ショートステイ)|独立行政法人 福祉医療機構まとめ出典 : 遺伝子の異常が原因で発症する筋肉の病気、先天性ミオパチーをご紹介しました。非常に希少な疾患ですので、情報も少なくまわりに同じ病気の方がいらっしゃらず不安に感じていることも多いかと思います。分からないことや不安なことがあれば、医療機関で相談してみましょう。また、患者会などに参加し患者さん同士のつながりをもつのも良いかもしれません。国による研究体制が整いつつある段階です。運用が始まった国内の患者登録システムは、国際的な患者登録システムとの連携も想定しているそうです。すでに研究が進んでいる筋ジストロフィーの研究とともに、先天性ミオパチーの治療研究も進むことを願っています。
2017年03月31日乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)とは?出典 : 乳幼児揺さぶられ症候群とは、赤ちゃんが激しく揺さぶられることによって脳内が傷ついてしまう状態、またそれによって重大な障害が残る状態を指します。乳幼児揺さぶられっ子症候群、Shaken Baby Syndrome (SBS)とも呼ばれます。赤ちゃんは頭が重く首の筋肉が未発達のため、激しい揺れで脳が衝撃を受けやすい状態にあります。また、新生児の脳の大きさは大人の3分の1ほどの大きさと言われています。この大きさから赤ちゃんの脳は成長に伴いどんどん大きくなっていきます。このような脳の発達に備えて、頭蓋骨と脳の間にはある程度のすきまがあります。つまり、赤ちゃんの頭の中は、頭蓋骨の中に脳が浮いているような状態にあるのです。そのため、激しく揺さぶられると頭蓋骨の内側に何度も脳が打ちつけられ、脳の血管や神経に損傷が起きてしまいます。このため、パパ・ママが赤ちゃんをあやしたり抱っこしたりする時は、新生児期・乳児期を通じて赤ちゃんの頭がぐらぐら揺らされていないかどうか、力強くすばやく揺らしてしまってはいないか、注意する必要があります。特に、首が据わると言われている生後4ヶ月頃までは、首で支えることができないので揺さぶりに頭がそのままもっていかれてしまい、乳幼児揺さぶられ症候群のリスクが高くなると言われています。埼玉県ホームページ第 86 回子ども学公開シンポジウム厚生労働省DVD「赤ちゃんが泣きやまない-泣きへの理解と対処のために-」乳幼児揺さぶられ症候群の症状って?出典 : 赤ちゃんが激しい揺さぶりを受けると、脳細胞が破壊され、脳の中が低酸素状態になります。揺さぶりを受けた直後、赤ちゃんが以下のような症状を見せた場合、乳幼児揺さぶられ症候群の可能性があります。・元気がなくなる。・機嫌が悪くなる。・傾眠傾向(すぐに眠ってしまう状態)・嘔吐(ウイルス感染による嘔吐症と間違われやすいです。)・けいれん・意識障害(呼んでも、応えない)・呼吸困難・昏睡(強く刺激しても目を覚まさない状態)・死このように、乳幼児揺さぶられ症候群は死に至る可能性もあります。赤ちゃんを激しく揺さぶってしまい、このような症状が現れた場合は、すみやかにかかりつけの小児科か最寄りの救急救命センターへ子どもを連れていきましょう。また、命が助かった場合でも、以下のような症状・後遺症を起こしてしまうこともあります。・脳の周りの出血(硬膜下血腫、クモ膜下出血など)や脳の中の出血・失明、視力障害・言葉の遅れ、学習の障害・後遺症としてのけいれん発作・脳損傷、知的障害・脳性麻痺初めにあげた硬膜下血腫やクモ膜下出血とは、脳の表面で起きた出血が原因で起こります。頭蓋骨と脳の間には、頭蓋骨側から「硬膜」「クモ膜」「軟膜」の3つの膜があります。硬膜下血腫やクモ膜下出血は、硬膜・クモ膜と脳の間に血液が溜まってしまう状態を指します。乳幼児期という脳の発達においてとても重要な時期に、乳幼児揺さぶられ症候群で脳内が傷ついてしまうと、身体機能や精神機能、学習機能などさまざまなところに影響が出てきてしまうことがあります。東海大学医学部脳神経外科ホームページ東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座ホームページどうして乳幼児揺さぶられ症候群が起こってしまうの?出典 : 周りから見ても「あんなに赤ちゃんを揺らしては危険ではないか…?」と思うほどの激しい揺さぶりによって引き起こされる乳幼児揺さぶられ症候群。なぜ、赤ちゃんをそんなにも激しく揺さぶるということが起きてしまうのでしょうか。乳幼児揺さぶられ症候群が起きた過去の事例を見てみると、赤ちゃんを揺さぶってしまった原因として多いものは「育児ストレス」です。パパ・ママやおじいちゃん・おばあちゃんなど、子どもの周りにいる大人が子どものことでイライラしたり、腹を立ててしまったりする時に激しく揺さぶってしまうようです。特に、子どもが泣きやまない時に、ただあやすつもりが「どうして泣きやんでくれないの…?」といったストレスと相まって、激しく揺さぶってしまった、というケースが過去の事例で多く挙げられています。また、赤ちゃんをあやす力加減がわからない、突然ママに赤ちゃんをみることを頼まれて戸惑うパパが乳幼児揺さぶられ症候群を起こしてしまうことも多いと言われています。子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第11次報告)の概要日本小児眼科学会ホームページどのくらいで乳幼児揺さぶられ症候群になるの?出典 : では、具体的にどの程度激しいと赤ちゃんが乳幼児揺さぶられ症候群になってしまうのでしょうか。目安として、1秒間に2~3往復以上揺さぶり、それを5~10秒続けると乳幼児揺さぶられ症候群は起こると考えられています。これは周りから見ると誰もが子どもの安全を危ぶむほど、かなり激しい揺れです。つまり、赤ちゃんの身体を支えてゆっくりと揺らす、膝の上でピョンピョンとさせてあやす、などといった通常のあやし行為で乳幼児揺さぶられ症候群が起きることはありません。また最近、「ベビーカーに子どもを乗せている時に段差がありガクンと揺れてしまった。」「チャイルドシートに子どもを乗せているときに大きな振動を与えてしまったが大丈夫?」というような、パパ・ママからの心配の声が増えつつあります。ですが、ベビーカーやチャイルドシートなどによる乳幼児揺さぶられ症候群の発症の多くは使用方法の間違い、過剰な使い方によるものです。正しい使い方を守り、注意事項を十分に理解していれば、このような機器による乳幼児揺さぶられ症候群のリスクを過剰に心配する必要はありません。乳幼児揺さぶられ症候群を防ぐには?出典 : 乳幼児揺さぶられ症候群は子どもの周りの大人の意識によって十分に防ぐことができます。以下で、何に気をつければよいのかについて説明します。■子育てにおける知識・注意事項を家族全員で共有する乳幼児揺さぶられ症候群を引き起こしてしまう原因の一つとして、子育てに関わる大人が赤ちゃんをどのように扱えばいいのか、どういったことが危険なのかわからないということが挙げられます。特にパパや他の家族は、子育てについて直接教えてもらえる機会があまりありません。そのため、赤ちゃんの正しい抱っこの仕方や泣いた時のあやし方などはママの見よう見まね、または独自の方法でやってしまっていることがあります。家族の誰であっても安心して赤ちゃんの抱っこやあやしをお願いできるように、以下のようなことを子育てする家族全員で共有することが大切です。・赤ちゃんをどのくらい揺さぶってしまうと揺さぶられ症候群を発症してしまうのか?・赤ちゃんをどう扱えばよいのか?・抱っこやあやす際には何に気をつければよいのか?正しい赤ちゃんへの接し方を家族全員が知っておくことで、乳幼児揺さぶられ症候群へのリスクが減るだけでなく、ママに重くかかりがちな子育ての不安も家族みんなで分け合うことができます。■自分なりのストレス解消法・リラックス方法を知っておく乳幼児揺さぶられ症候群は、育児者が「ついカッとなって」、「ストレスが溜まって我慢の限界に達して」という精神状態に陥ることで起きてしまうことも多くあります。「自分だって疲れているのにこの子はどうして泣きやんでくれないの」「泣き声のせいでまともに寝ることができない」など、子育てはうまくいかないことやイライラしてしまうことが誰だってあるものです。そんな状態になった時に、つい子どもに八つ当たりしてしまった。それが原因で、乳幼児揺さぶられ症候群になり、子どもにけがや後遺症などを引き起こしてしまった……。そのような悲しいことが起きてしまう前に、自分が疲れた時・ストレスを感じている時にどうリラックスするかをあらかじめ考えておきましょう。・ストレスでカッとなりそうになったら他の家族に赤ちゃんの面倒を頼み、自分は赤ちゃんと距離を置いて一人になってみる。・短時間でも自分の趣味を楽しむ時間をつくってみる。・小児科や保健所で専門家に相談してみる。・地域の子育て支援センターなどへ出向き、他の親子と交流してみるこのほかにも、人それぞれ疲労・ストレス解消法はあると思います。自分に合った解消法を見つけて、子育てもリラックスしながら行うことができたら良いですね。乳幼児揺さぶられ症候群は子どもが泣きやまない時に多く発生します。子どもが泣きやまない時には何をしてあげればよいのでしょうか。・赤ちゃんが泣いたら落ち着いて、何を求めているのか確かめる。(お腹が空いているのかな?おむつが汚れているのかな?暑いまたは寒いのかな?)・赤ちゃんが落ち着くような環境を再現してみる。(おくるみなど)・何をしても泣きやまない場合は赤ちゃんを安全な場所で寝かせたうえで、少し離れてみる。そしてちょっとしたら様子を見てみる。赤ちゃんが泣きやまない原因は、空腹やおむつなどの生理的なものから、特に訳もなく泣いている、外からの刺激にびっくりして泣いているといったものまでさまざまです。特に、生後1~2ヶ月の赤ちゃんは泣く頻度がピークに達すると言われています。泣いている原因が何か色々確かめても分からない時は、ただ見守ってみる、優しく抱っこし続けると自然と泣きやむ場合もあります。以下に載せている動画は、厚生労働省が公開している乳幼児揺さぶられ症候群を防止するためのものです。乳幼児揺さぶられ症候群の詳しいメカニズムや予防法、また赤ちゃんが泣いている時の対処法がわかりやすくまとまっています。ぜひ参考にしてみてください。まとめ出典 : 乳幼児揺さぶられ症候群は赤ちゃんを激しく、一定時間以上揺さぶると発症する脳の損傷です。脳へ大きなダメージが与えられるので、子どものその後の発達に大きな影響が出ることがあります。赤ちゃんをあやす際には頭や首をしっかり支え、激しい動きをしないようにしましょう。また、パパ・ママ自身がひどく疲れている時やストレスが溜まっている時に赤ちゃんに接することは、乳幼児揺さぶられ症候群を引き起こす激しい動きにつながる恐れがあります。子育てに疲れ・悩み・ストレスはつきものです。ですが、赤ちゃんに対する基本的な知識がしっかり理解できていて、パパ・ママや周りの大人が協力し、労わり合う環境ができていれば、乳幼児揺さぶられ症候群を引き起こしてしまうリスクは減らせます。子育てに関する基礎的な知識を、ママだけでなくパパや周りの大人も共有し、みんなで助け合って子育てをしていきたいですね。
2017年03月31日急性脳症とは出典 : 急性脳症は主にウイルス感染症に感染したのをきっかけに、急激に脳に浮腫(むくみ)が生じ、意識レベルが低下する疾患のことをいいます。病原となるウイルスに感染し、ウイルスに対して過剰な免疫反応が全身の血管に炎症をおこすことにより、意識障害、けいれん、嘔吐、血圧・呼吸の変化などが起こります。ウイルスは身近なインフルエンザウイルスや、突発性発疹を引き起こすヒトヘルペスウイルス、急性胃腸炎を引き起こすロタウイルスなどが主な病原となっています。突発性発疹や急性胃腸炎は乳幼児や子どもに多く発症する疾患ということもあって、急性脳症は生後6ヶ月~1歳代に多く発症します。実は急性脳症という名称は正式な学術用語としては使われていません。したがって、何らかのウイルスに感染し急性脳症を起こした場合は「けいれん重積型(二相性)急性脳症」か「急性壊死性脳症」などの症候群の名称、または「インフルエンザ脳症」など病原ウイルスに関連した名称で診断されます。病原体による分類と臨床・病理・画像所見による症候群分類があるため診断名に違いはありますが、どのウイルスにかかっても「けいれん重積型(二相性)急性脳症」または「急性壊死性脳症」「可逆性脳梁(かぎゃくせいのうりょう)膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症」などの病理がみられるため、分類には大きな違いはありません。これら3つの病理は画像所見などが異なりますが、症状には特異的な違いは見られません。ですので、下記では急性脳症の症状や原因などをまとめて紹介していきたいと思います。参考:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)参考:痙攣重積型(二相性)急性脳症|難病情報センター参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター参考:『急性脳症の分類とけいれん重積型』|水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の主な症状出典 : 急性脳症は主にウイルス感染症に罹患し、何らかの原因で重篤化することで脳機能全般に障害が生じる疾患です。例えば意識障害、けいれん、嘔吐、血圧・呼吸の変化、などが子どもに現れ、救急で病院を受診することで発覚します。ここでは子どもがウイルスに感染してから、どのような症状が起こるのかまとめていきたいと思います。◇インフルエンザ・・・インフルエンザはA型またはB型のインフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状(風邪の症状)が出てきます。約1週間の経過で回復するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いことが特徴です。参考:インフルエンザとは|NIID国立感染症研究所◇突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス)・・・乳児期に発症するのを特徴とする熱性発疹性疾患といわれています。38度以上の発熱が3日間ほど続いた後、解熱とともに鮮紅色の発疹が体幹を中心に顔面、手足に数日間出現します。また下痢、まぶたの腫れ、大泉門(乳児特有の額の上にある骨と骨のつなぎ目)の膨隆、リンパ節の腫れなどがありますが、多くは発熱と発疹のみで経過します。参考:突発性発疹とは|NIID国立感染症研究所◇急性胃腸炎(ロタウイルス)・・・主に発熱、下痢、悪心、嘔吐、腹痛などがみられます。はじめは発熱があり、嘔吐、下痢など腹部症状が遅れて出現することもあります。参考:感染性胃腸炎とは|NIID国立感染症研究所それぞれのウイルス症状のほかに、・頭痛や周囲からの刺激に反応するものの、すぐに意識が混濁する状態・周囲への警戒心が強く、興奮したり、大きな声で叫んだり、暴力を振るったりしやすい状態などが表出します。参考:脳症の治療における留意点|水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)ウイルスに感染してから初期症状を経て、主症状に変わっていきます。けいれん重積型急性脳症、急性壊死性脳症、どちらの場合も意識障害、けいれんを主として嘔吐、血圧・呼吸の変化、発熱などが生じます。下記では主症状が起こってから予後までの症状を時系列にまとめました。<主症状が発症してから予後まで>・ウイルスに感染し発熱から24時間以内・・・主症状のけいれん・意識障害が起こります。けいれんは「けいれん重積(15分~1時間程度続く長いけいれん)」が起こる場合がほとんどです。※初めてのけいれん、またはけいれんが約5分継続した時点で救急車を呼んでください。・けいれん後・・・意識障害が生じる場合があります。・発熱から4~6日後・・・2回目の短いけいれんが群発して起こります。このとき意識障害を伴う場合もあります。・回復期・・・目的のない運動を繰り返すことがあります。(反り返り、手足を振り回す行為、口をもぐもぐさせる行為など)・予後・・・急性脳症が起こった後、てんかん、知的障害、運動障害など何らかの後遺症が残る割合は、けいれん重積型急性脳症では66%、急性壊死性脳症では46%といわれています。障害の程度は人それぞれですが、リハビリによって回復することもあります。後遺症に関しては追って説明していきます。参考:痙攣重積型(二相性)急性脳症|難病情報センター参考:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の原因出典 : 急性脳症の原因はまだ分かっていません。現在分かっている急性脳症のメカニズムは、主にウイルス感染をきっかけとしてサイトカインストーム、代謝異常、興奮毒性などの病態が進行し、脳や各臓器に異常をきたす、ということです。サイトカインストームとは、免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化の調整作用などがあるサイトカインという細胞間情報伝達機能をもつタンパク質の多くが、ウイルスや細菌などが原因で調節不全を起こすことを言います。興奮毒性とは、興奮性神経伝達物質としてのはたらきをもつグルタミン酸が、過剰に存在することによって細胞毒性を示すというものです。急性壊死性脳症ではサイトカインストームが進行することが多く、けいれん重積型急性脳炎は興奮毒性が多いと推定されています。インフルエンザなどのウイルスに感染してもほとんどの人は病態は進行しません。まれに病態が進行すると急性脳症となります。急性脳症のメカニズムは解明されていますが、どのような条件が揃うと病態が進行し、急性脳症になるのかは分かっていません。しかし、近年の難病情報センターの研究班による研究によって、これらの病態の背景には複数の遺伝的要因が存在するのではないかという仮説が立てられ解明が進められています。特定の遺伝子に特徴があることによって、前述の病態の進行を引き起こし、急性脳症も引き起こす関連があるのではないかといわれています。参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター以上のことから根本的に急性脳症を予防することは難しく、考えられる予防策はインフルエンザや突発性発疹、ロタウイルスなどの感染症を予防することです。ウイルス感染は日々のうがい・手洗いなどによって防ぐことができます。また予防接種などを行うことで、できる限りウイルス感染を予防しましょう。急性脳症の診断/検査出典 : 急性脳症の診断基準と検査方法について紹介していきます。◇臨床診断2章で紹介したけいれん、意識障害などの症状がみられる場合に急性脳症だと臨床診断されます。また重症化すると昏睡状態にともなって次の症状がみられることがあります。・発熱を伴うインフルエンザなどの感染症に罹患している・意識障害がある・けいれんがある(15分以上続くけいれん重積の場合もある)・発熱後に異常言動・行動がある(両親が分からない・急に笑い出すなど)また上記の他には出血傾向や血圧低下、尿の排出量の低下などの全身症状をともなうこともあります。参考:AESD診断基準参考:ANE診断基準参考:MERS診断基準参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班◇確定診断急性脳症において特徴的な脳浮腫が頭部画像所見でみられる場合は、けいれん重積型急性脳症または急性壊死性脳症などの急性脳症として確定診断がなされます。髄膜検査、血液検査などによって確定診断を行うことはできず、頭部画像所見の検査が行えない場合などは意識障害の程度や持続性を観察したうえでの臨床的・総合的な診断を行います。◇頭部画像検査(CT,MRI)急性脳症の特徴である脳浮腫があるかどうかを確認するために行います。◇髄膜検査髄膜刺激症状と30分以上の意識障害が伴う場合には髄膜検査を行います。髄膜刺激症状とは首の硬直や膝を曲げた状態で股関節を直角に屈曲し、そのまま膝を伸ばそうとすると抵抗があることをいいます(ケルニッヒ徴候などがあります)。これは急性脳症と似た症状がある髄膜炎や急性脳炎との鑑別のために行います。◇血液検査発症12~24時間後、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下AST)の軽度上昇がみられることがあります。ASTは細胞内でつくられる酵素のひとつです。肝臓もしくは心臓や腎臓などの臓器に多く存在し、体内でのアミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程で重要なはたらきをします。このASTが何らかの異常で肝臓にある肝細胞が破壊されることにより、血液中に漏れ出します。急性脳症が疑われる場合はこのASTの値が上昇するといわれています。◇脳波夜間や何らかの理由により頭部画像検査ができなかった場合、脳波検査が用いられることがあります。また症状の経時的変化を把握する上でも脳波検査は有用といわれています。急性脳症の場合に特徴的な、びまん性の脳波などを示すといわれています。この他にも医師が必要と認めた検査を受けることがあります。参考:急性脳炎・急性脳症|MyMed参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班急性脳症と似ている病気って?出典 : ◇熱性けいれん熱性けいれんとは38℃以上の発熱に伴って、意識を失い全身がけいれんすることを指します。小児期にみられる一般的な発作性疾患のひとつです。よく「ひきつけ」とも呼ばれています。生後6ヶ月~5歳の乳幼児期に発症し、日本では7~11%前後の割合で発症するといわれています。発熱から24時間以内にだいたい1~3分間のけいれんが起こります。けいれんは一過性のものであることが多いですが、乳幼児期には発熱の度にけいれんを起こす場合もあります。熱性けいれんは発熱やけいれんなど急性脳症と似ている症状が発症しますが、短時間のけいれんで治まり、発熱時に1度だけ起こるだけで治まります。急性脳症のけいれんの場合、多くは15分~1時間程度続く長いけいれんである「けいれん重積」が起き、数日後には2回目のけいれんを群発的に起こします。参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター参考:「公益社団法人 母子健康協会」参考:「熱性けいれん診療ガイドライン2015(日本小児神経学会,2015)」◇髄膜炎髄膜は脳や脊椎を覆っている膜です。髄膜が炎症することによって高熱、激しい頭痛、悪寒、嘔吐など風邪に似た症状が発症し、けいれんや意識障害を引き起こす場合も珍しくありません。髄膜炎も急性脳症と似た症状を引き起こします。急性脳症は脳の浮腫が原因で各症状が発症しますが、髄膜炎は髄膜の炎症によって症状が発症します。症状を引き起こす原因が異なるため、髄膜炎と急性脳症は違う疾患といえます。参考:細菌性髄膜炎とは|国立感染症研究所 NIID◇脳炎脳炎はウイルスが直接脳に感染し、炎症を起こすことによって発症する疾患です。脳症と同様に高熱やけいれん、意識障害がおこります。脳炎と脳症の違いは脳内でウイルスが増殖することによって中枢神経に障害を起こしていると考えられれば脳炎で、脳以外の場所で起きている感染が、免疫異常などにより間接的に脳へ障害を起こすものが脳症です。◇てんかんてんかんとは慢性的な脳の疾患(障害)で、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで発作が起こり、てんかんによる発作が繰り返しみられる状態を言います。てんかん発作は突然倒れて意識を失い、けいれんを起こすといったいわゆる大発作だけではありません。体の一部が勝手に動いたり、会話の途中にぼんやりしたと思ったら意識を失っていたりといった症状もてんかんの発作として考えられます。てんかんは急性脳症とは異なり慢性的な脳の疾患です。さらに発熱時以外にもけいれんや意識障害などが引き起こされます。出典:「脳炎と脳症」|岡山大学大学院 小児医科学教授 森島 恒雄急性脳症かも?と思ったときの受診先と対応出典 : 急性脳症の場合は長時間のけいれんや意識障害など分かりやすい症状が表出します。できる限り早く救急車を呼んでください。けいれんが長引くほど後遺症が残る確率も高まります。発熱して24時間以内に長時間のけいれんが起き、発熱後4~6日の間に2回目のけいれんが起こるのが急性脳症の特徴です。しかしはじめに起こる長時間のけいれんがまれに1~2分程度で終わってしまう場合があります。その後意識障害も続かない場合は熱性けいれんであると見立てられることがあります。その数日後に2回目のけいれんが群発して起こるようなことがあれば、急性脳症である場合が高まります。もし、熱性けいれんと診断されてから4~6日後に2回目のけいれんを起こした場合は直ちに病院を受診してください。<救急車を呼ぶタイミング>・5分以上けいれんが続く・けいれんが終わったが、その後も意識障害が続く(睡眠とは別)<病院に行くタイミング>・はじめてのけいれんが起こって5分以内に治まった・2回目の短いけいれんが起こった急性脳症の専門科目は脳神経外科や神経内科なります。けいれんが群発して起こっている場合が多いため、抗てんかん薬などでけいれんを治める必要があります。ですので、できる限り早い処置を行えるように救急などを受診するようにしてください。急性脳症がおよぼす後遺症出典 : 急性脳症では約36%の割合で何らかの後遺症が残るといわれています。主にその後遺症は知的障害、運動障害、難治性てんかんなどが発症します。知的障害とは発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。単に物事を理解し考えるといった知的機能(IQ)の低下だけではなく、社会生活に関わる適応機能にも障害があることで、自立して生活していくことに困難が生じる状態です。運動障害とは運動神経経路の疾病によって体の運動機能に障害が生じることです。急性脳症後に大きな後遺症がなく回復し、リハビリを経て歩く・走るなどはできるようになった場合も、今までできていた跳び箱が跳べなくなる、縄跳びができなくなる、坂上がりができなくなるなどの障害が生じる場合があります。また重度の後遺症が残ってしまった場合は歩くこともままならず、日常生活の介助が必要になることもあります。なお、しばしば難治性てんかんというてんかんが後遺症として残ることがあります。ほとんどのてんかんが抗てんかん薬などを投与することにより、けいれんが治まりますが難治性てんかんは薬が効かないてんかんのことです。以上が急性脳症で起こりうる可能性が高い後遺症です。脳に生じた機能障害の程度などによって後遺症は多様であり、回復もそれぞれ個人差があります。出典:急性脳症の全国実態調査 |水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学 教授)急性脳症の治療出典 : 急性脳症の治療はそれぞれの症状の状態などによって異なりますが、ここでは主な治療について紹介していきます。■急性期の治療急性脳症では長時間のけいれん(重積けいれん)が起こります。そのけいれんを止めるために急性期では抗てんかん薬による治療が行われます。その後は様子をみながら、症状に合わせた治療を行っていきます。■予後の後遺症に対する治療前章で急性脳症の主な後遺症として知的障害、運動障害、難治性てんかんなどを挙げました。主にこれらの症状に対する治療やリハビリテーションを行っていきます。しかし障害の程度は一人ひとり異なるため、治療の内容も様々になってきます。例えば運動機能の障害には食事介助ないし経管栄養や胃ろうが必要となるケースがあり、摂食リハビリテーションを行うこともあります。知的障害に関しても程度が異なるため、療育や生活介助などのサービスを利用することもあります。難治性てんかんの場合は薬物治療以外の方法で、手術やACTH療法、ケトン療法などを用いて治療が行われます。実際はどのような後遺症が残るか、どの程度の後遺症が残るかは分かりません。その時々の医師や専門家の指示に従って治療を行うようにしてください。急性脳症の後遺症が残った場合の社会的なサポートって?出典 : 急性脳症が発症した後、主に後遺症が残ってしまった場合に受けられる社会福祉制度について紹介していきます。◇難病医療費助成制度けいれん重積型急性脳症は国の指定難病にされているため、医療費の助成を受けることができます。指定難病の医療費の自己負担割合は2割です。また、その他の制度による医療費がすでに1割負担となっている患者さんの場合、負担割合は1割のまま変わりません。難病医療費は世帯の所得に応じた医療費の自己負担上限額(月額)が設定されます。自己負担上限額は、受診した複数の医療機関などの自己負担をすべて合算したうえで適応されます。医療費助成制度を利用するためにはお住まいの都道府県へ申請が必要になります。申請方法などは次の厚生労働省のリンクを参考にしてみてください。参考:難病医療費助成制度の対象疾病について|厚生労働省◇障害者手帳の取得障害者手帳は急性脳症による後遺症などが残ってしまった場合などに取得することができます。障害者手帳があると、受けられる支援の幅が広がります。障害者手帳には「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3つの種類があります。身体障害者手帳は身体障害がある方を対象にしています。精神障害者保健福祉手帳は精神障害や発達障害、てんかんなどがある方を対象にしています。療育手帳は発達障害や知的障害がある方を対象にしています。急性脳症の後遺症としてどのような症状が残ったかによって、取得できる手帳の種類が変わってきます。また手帳は数年ごとに更新がなされるため、その後の障害の程度に変化が生じた場合、受けられる支援も変わる場合があります。障害者手帳に関して、相談や申請などの問い合わせ先はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口になります。また障害者手帳に関する詳しい内容は下記を参考にしてみてください。◇知的障害・運動障害の療育サポート療育は障害のある子どもに対して、それぞれに合った治療・教育を行い社会的に自立することを目標にした社会的なサポートです。後遺症が発症した子どもは、通所施設や入所施設などで療育サービスを受けることができます。その子の障害の程度や特性に合わせて個別に支援計画が立てられた上で、療育サービスを利用することになります。コミュニケーションの取り方や身辺動作など、その子どもが日常生活を送る上で必要なスキルを身につけるためのトレーニングなどが行われます。障害の程度にもよりますが、障害者手帳がなくても支援の必要性が認められば、受給者証を取得してサービスを受けることができます。◇障害者総合支援法に基づいた障害福祉サービスなどの利用障害者総合支援法は障害がある方もない方も住み慣れた地域で生活するために、日常生活や社会生活の総合的な支援を目的とした法律です。障害がある子どもから大人を対象に、必要と認められた費用の給付や支援を受けることができます。移動支援や生活介助など障害者総合支援法に基づいたサービスは多岐に渡ります。関連記事を参考にしながら利用を検討してみてください。参考:「障害者総合支援法」の対象となる疾病を332に拡大します|厚生労働省まとめ出典 : 急性脳症はウイルス感染をきっかけに発症する疾患です。近年の研究では特定の遺伝子の型が関係しているのではないかと言われていますが、遺伝子検査で未然に子どもの急性脳症の傾向を知ることはまだ一般的ではありません。現在、考えられる唯一の予防策は感染症の予防です。感染症のなかでも急性脳症と親和性が高い代表的なものは毎年流行するインフルエンザです。また、乳幼児期は子どもの免疫機能が完全に発達しきっていないために、急性脳症の他にもさまざまな病気になりうる可能性があります。インフルエンザやその他のウイルス感染を防ぐため、できうる限りの予防をおすすめします。
2017年03月31日大人のチック症とは?出典 : チック症とは、まばたきや首振り、咳払いなど、一見癖のように見える行為が間欠的に持続して現れる症状が特徴の、脳と神経の機能障害です。チックが出る子どもは10人に1,2人くらいと多く、その95%は脳の発達・成長に伴い症状が減少するといわれています。日常生活に困難がなく、周囲が受け止めてくれる環境なら、基本的に薬物治療は不要とされています。ただ、大人になってもチックが続いたり、治まっていた症状が環境や体調の変化をきっかけに再発したりするケースもあるそうです。2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患のための診断と統計のマニュアル』第5版)においては、チック症群/チック障害群という疾患分類に位置づけられます。かつてチック症は、家族関係の不調和などをきっかけとした精神疾患とされてきましたが、近年になって脳と神経の発達のアンバランスさが引き起こす症状であり、発達障害の一群と分類されることも増えてきました。参考リンク:厚生労働省|みんなのメンタルヘルス本記事では疾患の呼称を「チック症」、症状からくる動作や言動を「チック」と定義して説明していきたいと思います。『DSM-5』では、チックは以下のように定義されています。チックは, 突発的, 急速, 繰り返される不規則な運動もしくは発声(例:瞬目, 咳払い)である.(DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 日本精神神経学会医学書院p239より)チックの種類は多種多彩で、首をかしげる、瞬きをするといった単純な動きから、モノに触る、相手の言葉を何度も繰り返すといった、複雑な動きを伴うものまであります。チックが起こる部位も様々で、脚に出ればジャンプ、口に出れば不自然なあくびなど、バラエティが豊富です。共通する特徴は、日常風景になじまない動作や声が、本人の意思では止め難く出てしまう、ということです。Upload By 発達障害のキホン『DSM-5』によると、チック症は1種類またはいくつかの運動性チックか、音声チックのみが18歳未満で発症し、1年以上継続しているもの、と定義しています。複数の動作のチックと音声のチックが重なって出現すると、トゥレット症候群と呼び名が変わります。こちらも発症の時期は小児~青年期が多いそうです。トゥレット症候群の発症率は10000人に4,5人で、神経系疾患の難病に認定されています。参考リンク:難病情報センター『DSM-5』によれば、チック症の診断基準には18歳未満で発症したものという定義があり、大人になって初めてチックが発症するケースは非常にまれだそうです。大人でチック症が出た場合は、小児期に未診断だったものの継続・重症化、あるいは再発である場合がほとんどだといわれています。大人になってから初めて症状が出た場合、チック症ではなく以下のような別の病気やその後遺症、薬の副作用の可能性があります。・ハンチントン病やウイルス脳炎などの後遺症による脳の中枢神経障害・コカインなどの薬物使用による副作用・てんかん、ジストニアなど、別の脳神経疾患また、チック症は他の発達障害や強迫性障害などの精神疾患を併発しているケースが一定数あるという指摘がされていて、研究が進められています。チック症は症状が多彩で一見すると癖と見分けがつかないため、本人も周囲も深刻にならずに生活しているケースは多々あります。また、チック症であるという認識があってもなくても生活に違いが出ないのであれば、診断や治療を受けなくても問題ない障害ともいえます。チック症の原因は?大人でチックが出やすくなる誘因は?出典 : チック症は脳の発達のアンバランスさによって引き起こされる障害です。なぜ突発的で生活風景になじまない動きや声が出てしまうのかは、いまだに解明されていない部分も多いそうですが、近年の研究によるとチックには以下2つの原因と3つの誘因があると考えられています。原因1: 神経伝達物質の代謝や分泌が影響している脳から分泌されるドーパミンという神経伝達物質の働きを抑える薬を服薬すると、症状が改善することが臨床医学的に証明されています。このことから、チック症はドーパミンを代表とする神経伝達物質の代謝と、代謝に反応した神経回路の活動過剰が原因ではないかという仮説が立てられ、研究が進められています。出典:チックとトゥレット症候群がよくわかる本星加明徳/監修(講談社,2010)P48より参考リンク:心療内科:前田クリニック|チック症原因2:神経が過剰に活動しやすい体質であるチックを起こしやすい体質には遺伝が関わっているとも考えられていますが、チックは子どもの10人に1,2人に症状が出るという事実から、体質自体は特に珍しいものではない、といえるようです。出典:星加明徳/監修「チックとトゥレット症候群がよくわかる本」(講談社,2010)P22~28より誘因1:成長や一時的な体調の変化がチックの増減に関係するチックが出た子どもの95%は、成長に伴いチックが目立たなくなるそうです。言い換えれば、第二次性徴期を過ぎると症状が落ち着くということになります。その一方で、臨床で月経前緊張症がチックの再発や悪化に関係したとみられる症例や、慢性的な頭痛、腹痛、長びく睡眠不足がチックの増減に影響したと推測される症例も確認されているそうです。誘因2:環境の変化がきっかけで症状の出方が変わるチックは精神的ストレスで症状が変わることから、環境要因が関与していることが指摘されています。具体例をあげると、親しい人との離別や転職、昇進などのプレッシャーをきっかけにしてチックが出て、環境に慣れるにつれて症状が減っていく、というようなケースです。誘因3:性格的にまじめで、繊細、誠実な人に出やすい環境要因と重複しますが、性格とストレス感受性は関係が深いため、繊細な人ほどプレッシャーを強く感じることが多く、チックを誘発しやすいという臨床心理的な推論があるそうです。参考書籍:森谷寛之著「チックの心理療法」(金剛出版,1990)大人のチック症の困り事って?出典 : チック症によってもたらされる困り事で、大人にも子どもにも共通するのは以下の4つです。・自分の意思では止められない/止めにくい・周囲に障害だと理解してもらえない・場合によっては誤解されたり悪意をもたれてしまう・苦しいのに援助の求め方がわからないこれまで述べてきたとおり、チック症は学校や仕事を休むほどの症状にならないことも多く、癖と見分けにくいため「障害」と認知されにくいのも特徴です。また、「発達障害」や「精神障害」に対する社会の誤解と偏見から、当事者や周囲の人々もチック症の理解や受容が困難になりやすいという面があります。つまり、チック症当事者のいちばんの困難は、「見えない障害」であるがゆえに誤解され、社会から排除される恐怖を感じること、と言えるのではないでしょうか?そして大人にとっては、社会から排除されることは生活困窮に直結しやすいため、その恐怖はさらに増すと推測されます。チック症のいちばん効果的な対処法は、前述の通りストレス回避とそのための環境調整です。しかし、大人は自活のために仕事上のストレスを慢性的に抱えています。それはチック症当事者も同様です。つまり、チック症の大人はストレス回避がしにくく、そのため症状が長引きやすく、それが当事者の困難をさらに助長するという悪循環になっているのです。言い換えれば大人のチック症の困難は社会が生んでいるともいえるわけです。実際に、チック症とその重症例であるトゥレット症候群で悩む人たちは、長い間、情報と治療法の少なさ、周囲の誤解と偏見に苦しんできたそうです。しかしこの10年来、障害の研究と理解は徐々に進み、当事者や支援者による訴えも実を結びつつあります。今ではNPO法人が運営する当事者支援協会も発足し、自助グループの活動も各地域に広がってきています。参考:日本トゥレット協会参考:トゥレット友の会このように長い間苦しみを抱える人がいた一方で、人生のうち1度でもチックが出たことのある人は10人中1,2人いて、そのうち5%は慢性化したり再発したりすることから、計算上は200人に1,2人が間欠的にチック症に悩んでいることになります。この人数から考えると、実はチックはごく一部の人の悩みではない、ともいえるのではないでしょうか?大人のチック症、医療機関で受診したほうがいい?出典 : チック症は本人に生活上の不便がなく辛さも少なければ、必ずしも受診が必要なわけではありません。しかし、仕事や学校生活に支障が出る可能性があるようでしたら、対処法を知るために一度受診してみることをおすすめします。チック症は心療内科や精神科で診察を受けることができます。チック症は脳神経の働きの乱れで症状が出るので、精神神経科、神経内科がある病院はさらにおすすめです。上で紹介した日本トゥレット協会のHPには治療・診察ができる病院のリストがあるので、どうぞご利用ください。参考:日本トゥレット協会|医療機関リスト大人のチック症、どんな治療をするの?出典 : チック症の治療は、一人一人の症状の程度に応じて治療方針が決められます。軽度の場合:身体や心理的なストレスを減らす本人に対してはまず、ストレスを減らすための環境調整の工夫が提案されます。具体的には医師や臨床心理士による本人へのカウンセリング、箱庭療法・認知療法・行動療法などの心理療法です。本人だけでなく家族やパートナーへの症状理解を促すガイダンスも治療の一環になることもあります。重度の場合:服薬や認知行動療法の指導を受ける環境調整だけではつらさが解決しない場合は薬物療法が有効です。症状が長期・慢性化していて頻繁だったり激しかったりする場合には、ドーパミンに作用する抗精神病薬が処方されることが多いそうです。これらの薬はふらつくなどの副作用が出ることもありますが、チックが出る回数が減ったり、動きや声が小さく目立ちにくくなったりすることが確認されているそうです。薬物療法の他に、チックをコントロールしやすくする認知行動療法も最近では注目されています。参考:前田クリニックチック症がある大人の方の、暮らしの工夫は?出典 : チック症は一時的に激しくなっても時間が解決することもある病気です。しかし、脳神経の働き方の癖が原因であるため、環境が変わったり体調が変化したりすると症状が再発する可能性があります。ケガや風邪のように薬や安静で完全に治癒する、とはいえないのがチック症の悩ましいところです。ただ、チック症はもともと自然経過のなかで軽減していくことも多く、環境調整が効果的な治療なので、本人がリラックスできる生活習慣を身につけておくことに一定の効果はあると思われます。そこで、以下に3つの生活上の工夫を提案します。周囲の人に理解をしてもらえると、不安や緊張感にさいなまれる気持ちはだいぶ軽くなるのではないでしょうか?チック症を診察してくれる医療機関や自助グループでは、症状理解のためのパンフレットを作成し、啓発を促しています。下記に参考リンクを2つ紹介するので、ぜひご覧ください。参考:厚生労働省|障害者対策総合研究事業「チック」や「くせ」をよく知ってうまくつきあっていけるように参考:NPO法人 日本トゥレット協会|もしかして「トゥレット症候群」ではありませんか?チック症の説明を自分ですることが難しい時に、これらのリンクをメモしておいたりパンフレットを印刷して携帯しておいたりすることも、理解者を増やしていく工夫の1つです。しかし、現実には周囲の理解は得にくい、チック症が出ていると伝えること自体に羞恥心や恐怖心があるとお悩みの方も、中にはいらっしゃることでしょう。そのような、一人で悩まれている方々には、ぜひお知らせしたい言葉があります。それは「合理的配慮」という言葉です。合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別の調整や変更のことです。障害者差別解消法では、合理的配慮の対象は“法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない”としており、様々な社会の誤解や偏見により困難がもたらされている人も含むと規定しています。不安や緊張感にさいなまれるチック症当事者には配慮を求める権利があり、配慮は行政や事業者の義務であると法律が定めています。また、当事者を支援するために家族やパートナーが代理で配慮を求めることも認めているのです。このような法律を持ち出さなくても、人間の多様性を認め互いに合理的な配慮を行うことで社会は円滑に運営できる、社会はそこまで成熟しつつある、という考えは今後も広まっていくことでしょう。チック症においては孤立しないということも広い意味での心理的治療になるといえるので、支援の手を憶することなく利用できるとよいですね。チックの兆しを感じたら一人になれる場所をあらかじめ作っておくのもおすすめです。個別の状況によりますが、上記で紹介した合理的配慮の具体例として、学校では保健室や空き教室、会社では会議室や備品置き場などを一時避難場所にしてもらったケースもあるそうです。ストレスをためない工夫や自分にあうリラックス法を見つけておくことは、長期的にわたるチック症の軽減、再発防止に役立つのではないでしょうか?リラックス法の例として、睡眠や深呼吸、ストレッチ、好きな香りのする小物や飲み物を携帯するなどがあります。ヨガなどの軽い運動は「体が心地よい状態」を自発的に作れるので、心身を整える効果があると言われています。リラックスした状態を自分の意思で再現できるようになれば、緊張することは減り、脳神経の反応も安定していくかも知れません。ご紹介した工夫以外に、最近では「ハビット・リバーサル」と呼ばれる認知行動療法がチック症の治療に有効であると言われています。具体的には、まばたきのチックが出そうな時、あえて指先など一点を凝視し、まばたきをしないように意識するというような行動訓練で、衝動を感じた時にあえて逆の行動をすることでチックを打ち消すという方法です。参考:トゥレット障害を含むチック障害ただし、ハビット・リバーサルはあえてチックを意識する行動療法なので、軽いチックには逆効果になることもあります。治療としてとり入れたい場合は、専門家の指導を受けながら計画的に進めていきましょう。大人のチック症、周囲の人にできることは?出典 : チック症はわざとではないのにやめられない、止まらない動きや発声が主な症状です。この症状に誰よりも苦しんでいるのはチック症の当事者です。ここでは、チック症に悩む当事者を支援するために周囲の人ができることを考えていきます。1. まずはチック症を理解する当記事でここまで述べてきたとおり、チック症は脳の機能障害で、脳の神経活動の不安定さが引き起こす症状です。チック症特有の言動の繰り返しに、とまどいやイラ立ちを覚えることもあるでしょうが、故意や悪意でやっているのではないことをぜひ理解してください。2. 日常生活では「温かい無視」を「温かい無視」とは、簡単に言うと症状を理解した上で見て見ぬふりをするということです。チックに苦しむ当事者にネガティブな感情をぶつけるのは論外ですが、はれものに触るような扱いも当事者を傷つけることはあります。症状のささいな変化には目をつぶり、チックは当事者の特徴の一つでいつかは消える、消えなくても大したことはない、とおおらかに受け止めることは、じゅうぶんな当事者支援になります。3. 求められた時には手助けする大人のチック症はまだ認知度が低いため、周囲の人がなかなか理解できないのと同様に、場合によっては当事者自身も気づいていなかったり、受容できずに苦しんでいたりすることがあります。周囲の人にできることの基本は「温かい無視」なので過度の手助けは考えものですが、チック症であるという自覚や受容ができないまま苦しんでいる場合は、相談に乗るなどの支援をしてもよいかもしれません。支援の仕方はチック症当事者との関係・距離感に応じて変わりますが、症状を抱えながらも努力し成長しようとする人が、社会に阻まれることなく暮らしていける世の中こそ、誰にとっても暮らしやすい社会であるはずです。チック症のあるなしに関わらず、すべての人がのびのびと暮らせる社会になるとよいですよね。まとめ出典 : チックは一見するとただの癖に見えるため、自分の意思でやめられると勘違いされやすいのですが、脳神経の発達のアンバランスがひき起こす障害です。時にはわざとやっていると誤解されたり、悪意を向けられたりすることもあるため、当事者は社会適応に困難を感じているのが現状です。チックは子どもによく見られますが、大人でも症状がある人はいます。学校や会社を休むほどの症状ではなくても、本人が苦しいと感じているのであれば、一度病院へ行き、相談をしてみてください。周囲の人々はチック症の特徴を理解し、当事者の困りごとに寄り添った「温かい無視」を心がけてあげてください。チック症の根本的な治療法はまだ確立していませんが、研究も日々進められています。チックとのつきあい方を知り、服薬などの治療を受ければ症状は緩和できます。その症状や当事者の暮らしぶりは少しずつ周知され、支援の輪も広がってきています。社会適応に困難を感じているチック症の方々は、「合理的配慮」という考え方をこの機会にぜひ知ってください。当事者も周囲の人々もチック症の知識と対応を学んで、チックで孤立する人を生まない社会を目指していきましょう。
2017年03月08日長男が受けた2度目の発達検査。そのとき受けた問診で…出典 : 約2年半前、長男が2度目の発達検査を児童精神科で受けたときのことです。知能検査と心理士さんによる問診が終わり、ホッと一息ついたところに、心理士さんから「気になることがあるので検査を追加したい」と言われ、たくさんの質問でいっぱいの問診票を渡されました。問診票には乳幼児・幼児期・学童期の年齢のグループごとに、それぞれ質問が並んでいました。質問の内容は、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚など五感全てに関するもので、同じようなものが繰り返して出てきたため、さっきはなんて答えたっけなんて、少し混乱しながらチェックしていきました。初めて知った「感覚過敏」のこと。長男はどれほどつらかったのだろう出典 : 約4週間後、検査結果を聞きに行くと、長男の検査結果は、軽度の自閉症スペクトラムと強い「感覚過敏」があると言われました。このとき、初めて「感覚過敏」という言葉と症状を知りました。この日、主治医からは「これだけ感覚過敏が強いと、感覚過敏だけで不登校になってもおかしくない状態」「学校生活は、しんどくて大変だったはずだ」だと言われびっくりしました。主治医は、長男の聴覚過敏の状態を「長男が私語などでざわざわとした状態の教室で過ごしている状態=感覚過敏のない人が工事現場の中にいる状態」と私にもわかりやすいように具体的な説明をしてくれました。当時、長男からは、クラスの教室の状態はかなりうるさく、「後ろの席では先生の声がきちんと聞こえない」と聞いていましたし、立ち歩いたりちょっかいをかけてくる子もいるほど落ち着きのない時間もあったようです。そんな教室の状態に感覚過敏が加わっていたとは、どれほど辛い毎日だったのかと胸が苦しくなりました。長男に落ち着きがなく気が散りやすいのは、ADHDというより視覚過敏(目に入るもの全てが刺激になり集中しにくい)の影響が強いとも言われました。長男を苦しめた、感覚過敏の激しい症状とは出典 : 長男は、二次障害を起こして2年前の冬頃に体調の悪化が激しくなり、不登校になりました。体調が戻り始めるまで、いろんな感覚過敏の激しい症状が出ていました。感覚過敏の症状は、本人の体調やメンタルの状態によっても変わってくるようでした。たとえば一番体調の悪かった時期は、「服が肌に当たると痛い」と言って、真冬でも半袖でいました。本当は何も着たくないほど辛かったようです。食事は、味がなく「砂を噛んでいるみたいだ」と言いながらも頑張って食べていました。他にも、ちょっとした匂いが不快で気分が悪くなるようで、真冬に自室の窓を全開にしたりする日も結構ありました。雑音が辛くて、好きな音楽を大音量でかけることでかき消したりもしていました。他人にはなかなか理解してもらえない感覚過敏のつらさ。存在を知ることで変わることもある長男の感覚過敏を知り、それがきっかけで次男の感覚過敏にも気づきました。それから感覚過敏についても情報を集める中で、Twitterでの交流で知ったのが「ひといちばい敏感な子」という本です。Twitterでの交流やこの本を読むことで、息子たちだけでなく自分自身も感覚過敏を持っていることに気づき、とてもびっくりしました。Upload By でめきんちゃん『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン (著), 明橋大二 (翻訳)、2015年、1万年堂出版息子たちの感覚過敏を知り、視点を変えて関わる中で感覚過敏への理解や対応の難しさを感じています。まず、「感覚過敏」そのものが世間にまだあまり知られていません。そして、知っていてもあくまで個人の「感覚」なので他者にはそのつらさが伝わりにくく、理解も得にくいのです。こうした状況だと、感覚過敏から起きる症状や言動が、神経質やワガママと誤解されやすいのだと思います。そのため、違和感や苦痛を感じながらの集団生活で我慢の限界を超えてしまい、二次障害を起こしたり不登校などになる子もいるのです。感覚過敏は、自分の感覚なので他者との比較をすることなく過ごしていることが多く、知らなければ本人や家族も気づきにくいことが多いことも、追い詰められてしまう一因になっていると思っています。実は次男も、味覚過敏で給食が食べられないことからイジメに発展し、不登校になりかけました。でも次男の場合は、先生の適切な対応で危機を乗り越えることができました。それは先生が、感覚過敏を知っていたからこその対応でした。周囲の理解と少しの配慮で、感覚過敏があってもしんどい思いをせずに過ごす事もできるのです。だから、まず「たくさんの方に感覚過敏というものの存在を知ってもらいたい!」と強く願っています。給食が苦手じゃダメですか?その偏食、もしかして感覚過敏かもしれません|Conobie
2017年03月05日失読症とは?どんな障害?出典 : 失読症は、脳の損傷によって言語・記憶・行為・学習・注意など認知機能に障害が起こるいわゆる「高次脳機能障害」の一つとして分類されています。もう少し詳細に説明すると、失読症は、高次脳機能障害の分類の中で代表的な障害として知られている失語症の中の一つです。この失語症では、「話す」「聞く」「読む」「書く」4つの言語機能の1つあるいは複数に影響が生じますが、中でも「読む」機能に障害が現れるものを失読症と呼びます。つまり失読症とは、脳梗塞や脳卒中、脳出血などによって脳の中の言語をつかさどる領域が損傷することで、文字や文章を正しく認識したり理解したりする能力が損なわれてしまう障害のことを指します。失読症は、脳の病気の中でも脳梗塞の後遺症として現れることが多いといわれています。これは、脳内の「脳梗塞を起こしやすい部分」と「視覚に関する領域」が重なっているためです。失読症は多くの場合、左脳の後頭葉から側頭葉が損傷した場合に引き起こされます。言語能力は、左脳がつかさどっており、後頭葉から側頭葉は視覚情報を扱う領域です。そのため、左脳のこの領域が損傷してしまうと視覚情報を言語と結び付けられなくなり、その結果文字がうまく読めなくなるというメカニズムです。脳梗塞はこの側頭葉から後頭葉で起きることが多いため、失読症の原因となることが多いのです。参考:土本亜理子『純粋失読』2002年、三輪書店失読症の症状とは?出典 : 失読症の人は、文字が読み取りづらく、語句や行を抜かしたり、逆さ読みをしたり、音読が苦手な傾向があります。また、平仮名と漢字の両方の読む機能が侵されたり、平仮名の読みの障害の方が漢字より強く現れるようなケースも報告されています。このような読みの障害の多様性は、病変部位や病変の大きさの違いによって左右されると考えられています。以下では具体的な症状をいくつかご紹介します。■文字がにじむ・ぼやける水に浸したように文字がにじんで見える、目が悪い状態のように文字が二重になる、あるいはぼやけて見えたりします。■文字がゆがむ文字がらせん状にゆがんだり、3Dのように浮かんで見えたりします。■逆さ文字(鏡文字)になる鏡に映したように文字が左右反転して見えることがあります。■点描画に見える文字が点で描いているような点描画に見えることがあります。言語や記憶の障害は、肢体不自由のように明らかな身体障害がなく、外見からうかがい知るのが難しいことから「見えない障害」とも呼ばれます。失読症もこうした特性を持つため、病気を知らない周囲の人から誤解されてしまうこともあります。残念なことに日本での失読症への認知度は依然低いままであり、今後社会全体による「見えない障害」を持つ人への配慮がより広がっていくことが待たれています。参考:土本亜理子『純粋失読』2002年、三輪書店同じく「字が読めない」障害、ディスレクシア(読字障害)と失読症の違いは?出典 : 「文字が読めない、読みにくい」という症状をもたらす障害としては、失読症のほかにもディスレクシア(読字障害)というものがあります。両者はどちらも脳の機能上の問題によって引き起こされ、似たような症状が現れるため混同されることも多いのですが、実はその根本原因は全く異なります。障害の種類という側面から見ると、ディスレクシアは発達性の学習障害の一つであるのに対して、失読症は後天的な脳の損傷によって起きる高次脳機能障害の一つであるという説明ができます。学習障害とは、全般的な知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうちいずれかまたは複数のものの習得・使用に著しい困難を示す発達障害のことです。つまり、ディスレクシアは先天的な脳の特徴が原因で起こる、生まれつきの発達障害のために文字を読むことに困難が生じているのです。参考:土本亜理子『純粋失読』2002年、三輪書店ディスレクシアはこの点において、後天的な脳の損傷が原因で文字通り「読」む力を「失」ってしまう失読症とは全く異なっているのです。また、ディスレクシアは発症も、就学などによって文字を読む場面が出てくる学童期の子どもに多く見られます。ディスレクシアの治療・対処法は失読症のリハビリや対処法と類似している部分もありますが、相違点もあります。詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧になってみてください。失読症で困る場面は?出典 : パソコンやスマートフォン、SNSが普及した現代社会では、日々の生活やコミュニケーションにおける文字情報の役割はとても大きなものとなっています。あなたが今読んでいるこの記事も、家族や友人などからのメールやチャットも、ソーシャルメディアの投稿も、電車内に掲げられた車内広告も、すべて多くの文字と文章によって成り立っていますね。以下に、失読症の人が困難を感じる日常生活の場面をいくつかご紹介します。「自分がある日突然文字を読めなくなってしまったら...」想像しながら読むと、失読症の方々の大変さがよりわかるのではないかと思います。■仕事をするとき書類作成など文字を扱う業務が難しいことがあります。他にも、資料を利用しながら進む会議、メモが必要となる電話対応などで苦労する場合もあります。■買い物をするとき値札が読めない場合、値段を知ることができません。さらに、商品表示が読めず類似する商品の違いが判断できないという場合もあります。■電車に乗るとき駅にある路線図や運賃表示を読めないと、目的地までの行き方や値段を知ることが大変です。切符の自動販売機も文字情報が多く、切符を買うだけでも一苦労なのです。■趣味を楽しむとき小説や漫画、洋画であれば字幕など、もともと持っていた趣味を楽しむ上でも障害が生じます。上記のように、文字が読めないことは日常生活のさまざまな場面で影響を与えます。また、失読症の人の中には「文字が怖い」とまで感じる人もいるようです。参考:土本亜理子『純粋失読』2002年、三輪書店失読症の困難への対処法出典 : 失読症の中には、文字を読みにくく感じている人が多くいます。そうしたとき、例えば、文字を大きく分かりやすい字体(フォント)にしたり、読む範囲以外の上下左右を隠したりすることで、本人にとって文字が読みやすくなることがあります。ほかにも、文字が小さすぎて読むのが困難に見受けられる場合は拡大コピーなどの工夫が効果的です。また蛍光ペンで重要と思われる部分にだけ色をつけることで、読む情報量を調整できます。これにより文章を読むことに対しての抵抗感を減らせます。国立特別支援教育総合研究所 「平成25年度インクルーシブ教育システム構築モデル事業 (モデル地域(スクールクラスター))報告書 成果報告書(Ⅱ)」 2015年耳からの情報は理解できることが多いため、問題文などの文章を音声にして聞くと問題なく理解できる場合も存在します。文字を見ながらその音声を聞くことにより、文字・音・意味が繋がる可能性があります。最近では電子書籍も普及し、音声での読み上げシステムが備えられている場合も多くなってきています。漢字などが分かりづらい場合、ふりがな(ルビ)を振ることが効果的な場合もあります。例えば、職場で使用する器具や資料などにふりがなを振ってもらうという方法が効果的な場合があります。しかし、周囲の理解を得ることが難しいこともあるため、しっかり話し合い、合理的配慮をお願いするとよいでしょう。また、文章のどこまでがひとまとまりなのか理解できないことがあります。このような場合は「スラッシュ」(/)を引き、どこが文章の区切りとなっているのか、明確に表すことで文が読みやすくなる場合があります。背景が白である文字よりも、青や緑など色がついていた方が見やすいという人もいるようです。色つきメガネなどをかけると、目が疲れずに文字が読める場合があり、文字を読むスピードが上がったなどの報告もあります。合理的配慮の一環として、教科書に黄色のクリアファイルを重ねて音読させたところ、読みやすさが上がったとも報告されています。国立特別支援教育総合研究所 「平成25年度インクルーシブ教育システム構築モデル事業 (モデル地域(スクールクラスター))報告書 成果報告書(Ⅱ)」 2015年スマートフォンやタブレットなどのICT機器を使うと、文字を拡大できたり、音読機能があったりと便利です。音声検索によって検索をし、検索結果を読み上げてもらう設定を活用することで、文字を読むことなしに情報を得ることができます。以下のサイトでは、スマートフォンの中でも使用率が高い、iPhoneで「読み上げ」機能を設定する方法を紹介しているので、参考にしてみてください。 「読み上げ」機能の設定方法失読症の相談先は?出典 : 本記事の序章で説明した通り失読症は高次脳機能障害の一つであり、検査にはMRIやCTが必要とされます。そのため、脳卒中や脳梗塞を経て失読症の症状が現れた場合、まずはかかりつけの脳神経内科や脳神経外科に相談することをおすすめします。その後、視空間認知能力や、言語機能についての検査をします。脳の損傷によってどの言語機能がどの程度の影響を受けているのかを明らかにするのが目的で、言語聴覚士という言語リハビリテーションの専門家などによって行われます。具体的には、標準失語症検査(SLTA)、標準高次視知覚検査(VPTA)などといった検査が行われる場合があります。「読む」機能だけではなく複数の認知あるいは言語機能に問題が生じている場合などもあるため、症状の程度や種類に合った言語リハビリテーションが施されます。標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia;SLTA)標準高次視知覚検査(Visual Perception Test for Agnosia;VPTA)高次脳機能障害の診断基準は、国立障害者リハビリテーションセンターHPにおいて以下のように示されています。I 主要症状等1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。II 検査所見MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。III 除外項目1.脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I- 2)を欠く者は除外する。2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。IV 診断1.Ⅰ~Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。また、以下の東京都福祉保健局のサイトのように、高次脳機能障害に対応できる医療機関をまとめて紹介している団体や地方自治体もあります。東京近辺にお住まいの方は参考にしてみてください。「高次脳機能障害に対応できる医療機関一覧(東京都内)」東京都福祉保健局失読症は治るの?治療法は?出典 : 程度に個人差はあるものの、本人の努力やリハビリによって失読症の症状が改善することは多くあるといわれています。言語脳は非常にフレキシブルで、たとえ元々言語をつかさどっていた領域が損傷したとしても、他の部分が働くことで言語能力を取り戻せる可能性があるのです。失読症のリハビリに関する報告はあまり多くはなく、また一致して効果を得たという方法はないようです。脳の損傷部位や損傷の大きさなどにより文字が見えにくくなる細かいメカニズムは異なる可能性があり、そのために同じ訓練をおこなっても、人によって違った結果になるのではないかと考えられています。リハビリの具体的な方法としては、小学生用の国語のドリルを使って読み書きの練習をしたり、新聞の見出しの書き写しなどをすることが多いようです。読みの訓練をするときには「なぞり読み」という方法によって読めなかった文字が読めるようになることがあるようです。なぞり読みとは、文字通り、書いてある文字を指でなぞりながら読む方法を言います。不思議なことに、文字をなぞるとそれまでわからなかった文字そのものの音や意味を思い出せることがあるのです。参考:「言語の認知科学 第3回配布資料」地道なリハビリの結果、見事職場復帰を果たせるレベルまで回復したという事例もあるようです。参考:土本亜理子『純粋失読』2002年、三輪書店まとめ出典 : 失読症は、脳の損傷によって言語、記憶、行為、学習、注意など認知機能に障害が起こるいわゆる「高次脳機能障害」の一つです。脳卒中などによる脳の損傷の結果、文字がうまく読めなくなってしまう障害です。言語や記憶の障害は、肢体不自由のように明らかな身体障害がなく、外見からうかがい知ることが難しいことから「見えない障害」と呼ばれます。失読症もそのような特性を持つため、その認知度の低さも相まり、周囲の人に誤解されたり、不思議がられたりして苦しい思いをすることも少なくないようです。特に近年は、インターネット・PC・スマートフォンの普及により、コミュニケーションにおける視覚的言語の役割は以前と比べ非常に重要になっているため、文字が読めない障害のある人は、想像以上にさまざまな場面で苦労をしています。しかし同時に、そんな人々を手助けする技術とかツールも日々生みだされているのも事実です。そうした日々の技術進歩と、人々の認知度や配慮の向上により、「障害の無い社会」をつくっていくことが大切です。本記事が少しでもその役に立つことを願っています。
2017年02月28日結節性硬化症とは出典 : 結節性硬化症とは遺伝子の異常によって皮膚、神経系、腎、肺、骨など全身に良性の腫瘍ができる先天性の疾患です。新生児から大人まで幅広く症状がでることがあり、国が認める指定難病に登録されています。新生児期に心臓に腫瘍ができたり、子どもから大人まで皮膚症状や脳・肺・腎臓などに腫瘍ができたりします。現在のところ、この疾患を根本的に治すための治療法はありません。よって表出した症状への対処療法が主な治療になります。結節性硬化症がある子どもには、てんかんや知的障害が合併して現れる場合が多いです。てんかんや知的障害がない場合は軽度の結節性硬化症と呼ばれ、日常生活に大きな支障を感じることなく生活する人もいます。発症する年齢や性別などによって、問題となる病変が異なるのが特徴です。それでは詳しい症状について紹介していきます。参考:結節性硬化症|難病情報センター子どもの時の結節性硬化症の症状Upload By 発達障害のキホン結節性硬化症では子どもの時に表出する症状と、大人になってから表出する症状があります。上記の図のように、いくつかの症状が同時期に起こることもありますので、常に注意が必要になってきます。それでは、子どもの時に起こりやすい主な症状について紹介していきます。<乳幼児期>◇心臓腫瘍心臓の心房、心室に良性の腫瘍が発生する疾患です。発生する腫瘍の9割が良性ですが、腫瘍の大きさや発生する場所によっては心機能に悪影響を与え、後遺症を残すケースがあります。参考:心臓腫瘍|小児慢性特定疾病情報センター◇てんかん発作てんかんとは慢性的な脳の疾患で、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで発作が起こり、またその発作が繰り返しみられる状態を言います。てんかん発作は突然倒れて意識を失い、けいれんを起こすといったいわゆる大発作だけではありません。体の一部が勝手に動いたり、会話の途中にぼんやりしたと思ったら意識を失っていたりといった症状もてんかんの発作として考えられます。◇知的障害知的障害とは、発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。知的障害には軽度知的障害、中度知的障害、重度知的障害、最重度知的障害の4つの障害の程度に分類されています。「知的機能(IQ)」の数値のみによって診断がくだされるという印象がありますが、「適応機能」という日常生活能力、社会生活能力、社会的適応性などの能力を測る指数とも合わせて診断が下されます。◇白斑(はくはん)白斑は非色素性の皮膚病変で、本来の皮膚色より白い皮膚色が3か所以上に発生します。結節性硬化症患者の87~100%に見られ、出生時から生後数ヶ月以内の早期に表出すると言われています。参考:皮膚病変|結節性硬化症.jp<学童期>◇顔面血管線維腫顔面血管線維腫は白斑と並んで結節性硬化症がある方によく現れる皮膚病変です。皮膚の結合組織成分と血管成分の増加によって良性の腫瘍ができます。鼻部、鼻唇溝部、頬部を中心に顔面の中央部に左右非対称に蝶型に現れます。参考:皮膚病変|結節性硬化症.jp◇脳腫瘍(上衣下巨細胞性星細胞腫)上衣下巨細胞性星細胞腫は側脳室の上衣下層にできる良性腫瘍です。腫瘍はゆっくり増大していくために十分な大きさになるまで発見されないことが多く、小児期には腫瘍が急速に増大することがあるため注意が必要といわれています。増大するとてんかんの悪化、視力障害、認知障害などを引き起こすことがあります。参考:脳病変(SEGA、大脳皮質結節、SEN等)|結節性硬化症.jp◇腎臓腫瘍(血管筋脂肪腫)血管筋脂肪腫は腎臓にできる腫瘍で、結節性硬化症がある方の70~90%にみられます。初発年齢は通常3歳以降にみられ、痛みなどはなく無症状のまま年を重ねるごとに腫瘍は増加します。腫瘍が大きくなりすぎると側腹痛や血尿、しこりが現れ、自然破裂や急性出血による大量出血性ショックや腎機能低下のリスクが高まります。参考:主な腎病変(腎AML)|結節性硬化症.jp◇網膜過誤腫網膜過誤腫は網膜にできる腫瘍のことです。痛みなどは無く視力に影響を与えることはありません。しかしまれに増大して網膜剥離(網膜が破れて視力が低下する疾患)や硝子体出血(出血によって視力低下を招くことがある)などの合併症を伴う場合があります。早期幼児期頃から表出するといわれていて、年を重ねるごとに出現頻度が高くなる傾向があります。その他に結節性硬化症の眼病変として、網膜の白斑に類似した網脈絡膜脱色性の病変や網膜無色素斑などが起こることがあります。参考:眼病変(網膜過誤腫)|結節性硬化症.jp大人になってからの結節性硬化症の症状出典 : 結節性硬化症の大人になってから発症する症状について紹介していきます。◇リンパ脈管筋腫症(LAM)リンパ脈管筋腫症(LAM)は、主に20~40歳の女性に多くLAM細胞と呼ばれる細胞が、肺、リンパ節、腎臓などで、比較的ゆっくりと増える疾患です。LAM細胞が両側の肺に散在して増加し、それに伴ってのう胞と呼ばれる小さな肺の穴が複数生じ、進行した場合は息切れなどが生じます。呼吸不全という状態になり酸素療法が必要になることもあります。リンパ脈管筋腫症は以前「肺リンパ脈管筋腫症」と呼ばれていましたが肺だけの病気ではないので名称が変わりました。参考:リンパ脈管筋腫症(LAM)(指定難病89)|難病情報センター◇多発性小結節性肺細胞過形成(MMPH)多発性小結節性肺細胞過形成(MMPH)は肺内にある2型肺胞上皮細胞が固まることによって腫瘍が発生する疾患です。病変がはっきりと限定されずに、全身や臓器全体など広範囲に広がる状態になります。しかし痛みなどもなく無症状であるために気づきにくい疾患です。リンパ脈管筋腫症と違って男女差はありません。参考:肺病変(肺LAM)|結節性硬化症.jp結節性硬化症の原因出典 : 結節性硬化症は9番目(TSC1)と16番目(TSC2)の遺伝子上に異常があることによって、腫瘍をつくるタンパク質(mTOR)をコントロールできなくなることが原因です。TSC1とTSC2はハマルチンとチュベリンという腫瘍を抑制する機能を持ったタンパク質をつくりだします。mTOR(エムトール)は働きが強くなりすぎると腫瘍をつくりだすため、このハマルチンとチュベリンがうまく働かなくなると腫瘍が表出するのだろうと考えられています。またmTORは腫瘍の他にてんかん、自閉症などの発達障害を発症させる働きもあるといわれています。結節性硬化症の方にてんかんや自閉症などの発達障害がある方が多いといわれているのは、結節性硬化症によってmTORをコントロールすることができなくなるために起こるのではないかと考えられています。参考:結節性硬化症|難病情報センター結節性硬化症は遺伝するの?出典 : 結節性硬化症は両親からもらった遺伝子の中に異常が起こることによって起きる遺伝性の疾患です。疾患を発症する可能性は、男女を問わず50%とされています。しかし調べてみると両親に結節性硬化症の症状が全く見つからないというケースが約60%以上あったことが分かりました。このような場合は両親からの遺伝ではなく、両親の精子または卵子の遺伝子に突然変異が起こり、子どもが発病したと考えられます。突然変異が起こる原因は残念ながらまだ分かっていません。またてんかんや自閉症や知的障害などが発症しない軽度の結節性硬化症がある方の場合、また突然変異によって結節性硬化症になった場合でも同じく50%の確率で遺伝子の異常がみられます。また両親が遺伝子異常を持たずに、突然変異によって結節性硬化症が表出した子どもの次に生まれてくる子どもが罹患する確率は、遺伝子異常がない方の出産とだいたい同じだといわれています。出典:結節性硬化症|難病情報センター結節性硬化症の確定診断はどうやって行うの?出典 : 結節性硬化症は遺伝子検査で診断することができますが、実際は遺伝子検査での病変の検出率は低く、臨床診断に頼らざるをえない状況になっています。症状もバラつきがあり、特殊なものばかりではなく結節性硬化症でなくとも一般的に発症することがあるものがほとんどです。したがって、診断はいくつかの症状の組み合わせによって判断していくことになります。臨床診断の他にもさまざまな検査結果と合わせ医師が総合的に診断を下します。下記の要素をもとに臨床診断を行います。・結節性硬化症であることが確実 :大症状 2つ、または大症状 1つと小症状 2つ・結節性硬化症の可能性が高い :大症状 1つと小症状 1つ・結節性硬化症が疑われる :大症状 1つ、または小症状 2つ以上◇大症状1.顔面の血管線維腫または前額部,頭部の結合織よりなる局面2.非外傷性多発性爪囲線維腫3.3つ以上の白斑(hypomelanoticmacules,threeormore)4.シカグリパンチ(shagreenpatch/connectivetissuenevus)5.多発性の網膜の過誤腫(multipleretinalnodularhamartomas)6.大脳皮質結節(corticaltuber)7.脳室上衣下結節(subependymalnodule)8.脳室上衣下巨大細胞性星状細胞腫(subependymalgiantcellastrocytoma)9.心の横紋筋腫(cardiacrhabdomyoma)10.肺リンパ管筋腫症(lymphangiomyomatosis)11.腎血管筋脂肪腫(renalangiomyolipoma)◇小症状1.歯エナメル質の多発性小腔(multiple,randomlydistributeddentalenamelpits)2.過誤腫性直腸ポリープ(hamartomatousrectalpolyp)3.骨シスト(bonecyst)4.放射状大脳白質神経細胞移動線(cerebralwhitematterradialmigrationlines)5.歯肉の線維腫(gingivalfibromas)6.腎以外の過誤腫(nonrenalhamartoma)7.網膜無色素斑(retinalachromicpatch)8.散在性小白斑(confettiskinlesions)9.多発性腎嚢腫(multiplerenalcyst)結節性硬化症を診断するためには、表出している疾患や症状の根本的な原因が結節性硬化症であることを断定していく必要があります。その際にMRIやCTといった画像検査などを行います。結節性硬化症は遺伝子検査または次の項目を含む一連の検査により診断されます。・脳の磁気共鳴画像診断(magnetic resonance imaging、略してMRI)・コンピューター断層撮影 (computed tomography、略してCTスキャン)・心電図(electrocardiogram、略してEKG)・心エコー図検査・腎臓の超音波検査・目の検査・ウッドランプ(紫外光)の下で皮膚を観察する出典:『結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン』|結節性硬化症の診断基準・治療ガイドライン作成委員会結節性硬化症の症状かも?と思ったら出典 : 結節性硬化症の症状は多種多様なため特定の医療機関を受診するというよりは、症状に合わせてその都度、最適な医療機関を受診することをおすすめします。結節性硬化症の専門分野は主に脳神経外科、神経内科、皮膚科、小児科、泌尿器科になります。発症している症状によって受診する科目を決めて受診するようにしてください。これまでに紹介した病変に関しては下記を参考にしてみてください。◇てんかん・・・小児科または救急◇知的障害・自閉症などの発達障害の疑いを感じた場合・・・精神科◇顔面血管線維腫・・・皮膚科◇心臓腫瘍・・循環器科◇脳腫瘍・・・脳神経外科、神経内科◇腎臓腫瘍・・・泌尿器科◇肺腫瘍・・・呼吸器科◇網膜・・・眼科などまた日本結節性硬化症学会に記載されている結節性硬化症の専門医リストを受診の参考までに紹介します。参考:結節性硬化症を専門的に診療している医師|日本結節性硬化症学会結節性硬化症によってできる腫瘍は良性が多く、また痛みなどもなく気づきにくいです。日常生活に支障がなければ医療機関を受診することはないため、発見が遅れ治療が困難になるケースも少なからずあります。そのため定期的に検査を受けるなどの注意が必要です。結節性硬化症の治療って?出典 : 結節性硬化症を治す根本的な治療はなく、それぞれの症状に対しての対症療法が基本となります。◇てんかんてんかんの治療は主に薬物療法によって行われます。てんかんは脳の神経細胞が過剰に興奮することで起こります。脳に病変があることによって発作が引き起こされているケースでは病変を手術で取り除くことで、てんかんが完治することがあります。しかし多くの場合は神経細胞が過剰に興奮しやすい体質であったり、取り除けない病変であったりするため薬物療法によって発作を抑える治療を行います。◇白斑・顔面血管線維腫白斑の場合、通常は経過観察となります。しかし美容上、気になる場合は紫外線治療や化粧品などでカバーすることができます。紫外線治療に関しては保険が適用になるものもあるので、医師または専門家に相談してみてください。顔面血管線維腫の場合は機能障害や出血を伴い、美観を損なう症例が治療対象となります。液体窒素療法、レーザー療法、外科的切除などの治療法があります。◇心臓・脳・腎臓・肺におこる腫瘍各部分にできる腫瘍は良性であることが多いのですが、腫瘍が大きくなりすぎると機能に異常をきたすため、多くの場合は腫瘍の切除を行います。各部位や程度によって切除をしない場合もありますので、現場の医師の指示に従ってください。結節性硬化症の医療費助成制度や障害者手帳は受けられるの?出典 : 結節性硬化症では腫瘍ができやすい体質のため一度腫瘍を切除しても再発することがあります。するとその度に医療費がかかり、家計を圧迫しかねません。そこで結節性硬化症の方のための医療費補助制度や障害者手帳などについて紹介していきます。結節性硬化症は国の指定難病にされているため、難病医療費助成を受けることができます。指定難病の医療費の自己負担割合は2割です。また、その他の制度による医療費がすでに1割負担となっている患者さんの場合、負担割合は1割のまま変わりません。難病医療費は世帯の所得に応じた医療費の自己負担上限額(月額)が設定されます。自己負担上限額は、受診した複数の医療機関などの自己負担をすべて合算したうえで適応されます。難病医療費助成制度を利用するためにはお住まいの都道府県へ申請が必要になります。申請方法などは次の厚生労働省のリンクを参考にしてみてください。参考:難病医療費助成制度の対象疾病について|厚生労働省参考:結節性硬化症にかかわる医療制度活用ガイド|ノバルティス ファーマ株式会社障害者手帳は指定難病がある方でも取得することができます。障害者手帳があることで支援の幅が広がるため、取得することをおすすめします。障害者手帳には「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3つの種類があります。身体障害者手帳は身体障害がある方を対象にしています。精神障害者保健福祉手帳は精神障害や発達障害、てんかんなどがある方を対象にしています。療育手帳は発達障害や知的障害がある方を対象にしています。結節性硬化症はてんかんや知的障害なども発症し、障害の程度によっては身体障害を引き起こす可能性もあります。本人の症状の特性に合わせて必要な手帳を取得することをおすすめします。障害の程度に変化が生じても、障害者手帳は数年ごとに更新されてるため、その都度適切なサービスを受けられます。障害者手帳に関して、相談や申請などの問い合わせ先はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口になります。また障害者手帳に関する詳しい内容は下記を参考にしてみてください。障害者総合支援法によって定められた在宅支援や入所支援、移動支援などがある障害福祉サービスを受けることができます。申請先はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口になります。相談支援なども受けることができるため、子育てや病気のことで困ったことが生じた場合には利用してみてください。参考:『「障害者総合支援法」の対象となる疾病を151に拡大します』|厚生労働省まとめ出典 : 結節性硬化症は表出する症状や程度が人によって異なる先天性の疾患です。さらに腫瘍ができやすい体質のために生涯にわたって腫瘍と付き合っていかなければなりません。症状は全身に起こるので、日ごろから健康診断などを受けて健康状態には気をつけることが大切です。結節性硬化症は遺伝性の疾患のため親が責任を感じることがあるかもしれません。しかし遺伝子の突然変異によって疾患にかかる子どももいます。突然変異は人為的に起こるものではないですし、親である自分を責めることはせず、その子どものために親として何ができるのかを前向きに考えていくことが大切ではないでしょうか。家族だけで抱えこまず、専門機関への受診や相談などを受けるなど、周りを頼りながら病気への備え、適切な対応を心がけていってください。
2017年02月28日愛着障害(アタッチメント障害)とは?出典 : 一般的に愛着障害とは、養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子どもの情緒や対人関係に問題が生じる状態のことを言います。主に虐待や養育者との離別が原因で、母親を代表とする養育者と子どもとの間に愛着がうまく芽生えないことによって愛着障害は起こります。愛着とは、主に乳幼児期の子どもと母親をはじめとする養育者との間で築かれる、心理的な結びつきのことです。専門用語でアタッチメントともいいます。子どもはお腹が空いたとき、オムツが汚れたとき、恐怖や驚きを感じたときなどに泣くことで自分の気持ちや欲求を表現しますよね。そのとき通常は決まった養育者がくりかえし子どもに駆け寄り、不快にさせる要因を取り除きます。ここでいう養育者とは、母親や父親など、身近で世話をして育ててくれる人を意味します。養育者は頻繁に子どもと抱っこなどで触れ合ったり、声かけなどでコミュニケーションをとったりもします。子どもは生後3ヶ月ころまでは誰に対しても微笑んだり見つめたりします。しかし、こういった日常的なお世話と愛情あふれるスキンシップ、コミュニケーションを受けとる中で、子どもは「この人は自分の要求を敏感に感じ取り、正しく対応してくれる」「この人は自分によく声をかけてくれるし、抱っこしてくれる」などと特定の養育者を認識するようになります。このような認識のもと、生後3ヶ月を過ぎてくると、子どもはいつも自分をお世話してくれる養育者とそうでない人を識別できるようになってきます。これが愛着形成の第一歩です。子どもは養育者と生活していく中で養育者との愛着をどんどん深めていきます。この愛着を土台に、子どもは成長していくため、養育者と子どもが愛着を形成するということは、子どもの発達に欠かせないことなのです。では、愛着を形成することは子どもの成長においてどんな意味があるのでしょうか。子どもの成長における愛着の重要性は大きく分けて3点あります。◇人への基本的信頼感の芽生え子どもは特定の養育者との間に愛着を築くと、その養育者に甘え、依存するようになります。養育者に甘え、受け入れられる。このようなやりとりを通じて、人とかかわる楽しさや喜びを体験することができます。◇自己表現力、コミュニケーション能力を高める愛着を形成した相手に対して、自分の要求を伝える、また時には相手の要求を受け入れるということを通して、子どもは自分が求めていることを表現することの楽しさや難しさを知ります。これにより表現力やコミュニケーション能力の向上が期待できます。◇自己の生存と安全を確保する子どもは不安や危機を感じた時に、愛着の対象者を「安全基地」と見なして、自分の身を守ろうとします。安全基地とは、自分の見知らぬ世界に対して好奇心を抱き、それらを探索しようとする時に、子どもが拠り所とする存在を指します。つまり、子どもが母親との愛着を形成した場合、母親を安全基地と見なすのです。自らの好奇心のもと、見知らぬ世界を探索したときには、不安や恐怖、心理的・身体的苦痛を感じることがあります。そんなときに安全基地である母親のもとに戻って、安心感を得るのです。子どもはこのような探索と避難をくりかえすことよって好奇心や積極性、ストレスに耐える力を身につけていきます。愛着障害の医療的な定義と診断基準とは?出典 : ここまで一般的に知られている愛着障害についてご紹介しました。医療の面から愛着障害を見てみると、愛着障害は「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」と「脱抑制型愛着障害」に診断が分けられます。「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」も「脱抑制型愛着障害」も、5歳以前に発症するとされています。この2つの愛着障害の何が違うのか簡単に説明すると、人に対して過度に警戒するのが「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」、過度になれなれしいのが「脱抑制型愛着障害」です。世界保健機関(WHO)が定める『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)という診断分類ではこのように定義づけられています。「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」5歳までに発症し、小児の対人関係のパターンが持続的に異常を示すことが特徴であり、その異常は、情動障害を伴い、周囲の変化に反応したものである(例:恐れや過度の警戒、同年代の子どもとの対人交流の乏しさ、自分自身や他人への攻撃性、みじめさ、ある例では成長不全)。この症候群は、両親によるひどい無視、虐待、または深刻な養育過誤の直接的な結果として起こるとみなされている。「脱抑制型愛着障害」5歳までに発症し、周囲の環境が著しく変化しても持続する傾向を示す、異常な社会的機能の特殊なパターンである。たとえば、誰にでも無差別に愛着行動を示したり、注意を引こうとして見境なく親しげな振舞いをするが、仲間と強調した対人交流は乏しく、環境によっては情動障害や行動障害を伴ったりする。引用文献:中根 允文、岡崎祐士/著ICD-10「精神・行動の障害」マニュアル (医学書院,1994年刊)同様に、『ICD-10』では反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)と脱抑制型愛着障害について、以下のような診断基準を示しています。「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」A.5歳以前の発症B.いろいろな対人関係場面で、ひどく矛盾した、両価的な反応を相手に示す(しかし間柄しだいで反応は多様である)C.情緒障害は、情緒的な反応の欠如や人を避ける反応、自分自身や他人の悩みに対する攻撃的な反応、および/またはびくびくした過度の警戒などにあらわれるD.正常な成人とのやりとりで、社会的相互関係の能力と反応する能力があるのは確かであること「脱抑制型愛着障害」A.広範囲な愛着が、5歳以前の(小児期中期にまで持続していなくてもよい)持続的な特徴としてみられること。診断には、選択的な社会的愛着を十分に示せないことが必要であり、次の項目に明らかとなる。(1)苦しいときに、他人から慰めてもらおうとするところは正常であり、(2)慰めてもらう相手を選ばない(比較的に)というところは異常である。B.なじみのない人に対する社会的相互関係がうまく調節できないこと。C.次のうち1項目以上があること(1)幼児期では、誰にでもしがみつく行動(2)小児期の初期または中期には、注意を引こうとしたり無差別に親しげに振る舞う行動D.上記の特徴については、状況特異性のないことが明らかでなければならない。診断には、上記のA,Bの特徴が、その小児の経験する社会的な接触の全範囲に及んでいる必要がある。引用文献:中根 允文ら/訳ICD-10精神および行動の障害-DCR研究用診断基準 新訂版子どもが愛着障害である場合の具体的な傾向とは?出典 : 子どもが愛着障害の場合、どういった態度・素振りを見せるのでしょうか。具体例を見てみましょう。◇反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」の場合、相手が養育者であっても極端に距離をとろうとするために以下のような様子が見られることがあります。・養育者へ安心や慰めを求めるために抱きついたり、泣きついたりすることがほとんどない・笑顔が見られず、無表情なことが多い・他の子どもに興味を示さない、交流しようとしないなど◇脱抑制型愛着障害「脱抑制型愛着障害」の場合、養育者に限らず誰に対してもべったりくっついてしまったり、自分に目を向けてほしいがために不注意や乱暴な行為に走るなど、困りごとが生じることがあります。・ほとんど知らない人に対してもなんのためらいもなく近づく・知らない大人に抱きつき、慰めを求める・落ち着きがなく、乱暴など◇どちらにも見られる態度・素振りまたどちらの愛着障害にも見られることとして、強情・意地っ張り・わがまま、といった態度が挙げられます。「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」も「脱抑制型愛着障害」も子どもと養育者との愛着形成が不安定であることによって起こるので、愛着障害の子どもは養育者を頼りにし、甘えることが上手にできません。そのため意地っ張りになってしまったり、極度にわがままになってしまったりすることがあります。・強情、意地っ張り・度が過ぎるわがままなどまた、子どもが特定の養育者を安全基地と見なしていないために、子どもの視線や行動に違和感を感じることもあります。・養育者との別離・再会のときに、養育者に対して視線をそらしながら近づく・抱っこされている間、全然関係ない方向を見つめている・見知らぬ場面において、特定の養育者を頼りに(安全基地に)する素振りが見られないなど愛着障害の原因は?出典 : 愛着障害の原因は、子どもと養育者との間に愛着がうまく形作られないことが大きく関係しています。具体的には、以下のような原因が挙げられます。・養育者との死別・離別などで愛着対象がいなくなってしまう・養育者から虐待やネグレクトを受けるなど、不適切な養育環境で育てられた・養育者が子どもに対して最低限の世話はするものの、無関心であったり放任したりしていた・養育者のような立場の大人が複数いて、世話を焼いてくれる人が頻繁に変わってしまっていた・兄弟差別など、他の子どもと明らかに差別されて育てられたこのように、本来愛着を形成する対象に危害を加えられたり、それによって自分が育った環境が安全でなかったりすると愛着の形成が阻害されてしまいます。特に、愛着を形成する大事な時期である生後6ヶ月から1歳半ころの間に上で紹介したような愛着形成が阻害されるようなことが起こると、子どもの成長に大きな影響が及びます。子どもは養育者との愛着を形成できないだけでなく、人に対する基本的な信頼感がうまく芽生えなくなってしまいます。そしてこうなると後から愛着形成を取り戻そう、修正しようとしても難しいことが多いのです。これによって先に述べたような困った態度・素振りが表れることにつながります。愛着関係をはぐくむには?出典 : 子どもの健やかな成長に必要不可欠な愛着。では、パパ・ママなど子どもの養育者が子どもとしっかり愛着を築くためにはどのように子どもに接すればよいのでしょうか。・だっこなど、親子でのスキンシップをこまめにとる・授乳、オムツかえなど、子どもの欲求に敏感に反応してあげる・親子での細やかなコミュニケーション(まだ話せないような年齢の子どもに対しても、子どもと会話をしているように声掛けをしてあげましょう)以上に示したように、愛着を築くために特別難しい技術は必要ありません。大切なのは、実際に肌と肌で感じあうことができるようなふれあいの機会を多く設ける、顔を見合わせてコミュニケーションをとる、子どもを常に見守り、細やかにお世話するというような、基本的な子育てに対して丁寧に優しい気持ちで取り組むことです。一見単純なことのように思われがちですが、基本的な子育ての姿勢を忘れずに、真摯に子どもに向き合うことが、子どもとの愛着をしっかりと構築するために重要なことなのです。愛着障害には治療法があるの?出典 : 愛着障害は、発達障害などと違って、子どもの育つ環境や養育者の子育て方法に原因がある、後天的なものです。それゆえ、投薬などを利用した治療は基本的には行いません。子どもが愛着障害と認められた場合にまず行うことは、安全基地の形成です。子どもとの間で愛着がしっかりと築かれることで、子どもは養育者のことを安全基地、すなわち困った時・不安や恐怖を感じた時に守ってもらえる拠り所として認識するようになります。愛着障害の子どもは養育者を安全基地と見なせていない場合がほとんどです。ですので、子どもに「養育者=安全基地」と認識してもらえるように、親族やかかりつけの医者など、まわりの人々が親子を支援していくことが必要です。安全基地の形成が足がかりとなって、子どもの人と接することへの安心感や信頼感を生み、他の人との接し方・距離感も改善することができます。また、子どもが愛着障害を発症するということは、養育者や家族も何らかの支援を必要としていたり、問題を抱えている場合も少なくありません。その場合、子どもだけに治療の焦点を当てるのではなく、養育者や家族を含めて幅広くアプローチすることがあります。例えば、虐待が原因の場合は子どもと養育者の距離を一回遠ざけてみたり、親へのカウンセリングや心理療法的・家族療法的アプローチを取り入れたりすることで、子どもの愛着障害の改善につながることがあります。また、養育者の抱えるさまざまな悩みや状況により、子どもを十分に育てられず、子どもに愛着障害の症状が表れた、ということもあります。その場合は生活保護や、行政や民間で提供されている育児・家事サービスの利用を視野に入れるなど、愛着障害を取り巻くすべての要因から解決策を探しだすことが必要となってきます。「子どもが愛着障害かも・・・」「子どもとの愛着形成に不安がある」と思ったときは、精神科のある病院やクリニック、カウンセリングセンター、地域の子育て支援センター、児童相談所で一度相談してみるのも良いでしょう。大人の愛着障害出典 : これまで子どもが愛着障害を発症した場合を見てきましたが、愛着障害は子ども時代を過ぎれば関係なくなるものではありません。子どものころに発症した愛着障害が治療されないと大人になっても愛着障害の症状が続くことがあります。子どもの時に養育者と愛着を築くことができなかった、ただそれだけのことのように思われることもあるかもしれません。ですが、愛着が形成されない、またそれをそのままにしておくということは、子どもが大人へと成長していくうえでの人格形成や心の持ちようなどにおいても影響を与える大きな要因になることがあるのです。実際のところ、大人で愛着障害があるということは珍しいことではありません。ただ、大人になってからも情緒や人との関係づくりで苦労することがあってもその原因が愛着障害であるという自覚が少ないケースもあります。まず大人が愛着障害を発症している場合どのような特徴があるのかご紹介します。◇情緒面・傷つきやすい・怒りを感じると建設的な話し合いができない・過去にとらわれがち、過剰反応・0か100かで捉えてしまう・意地っ張りなど情緒面では主にこのような症状が表れます。他人の何気ない発言に対して過剰に反応してしまい、傷ついてしまったり、過去の失敗や恐怖を極度に引きずってしまったりすることがあります。また、一度頭に血が上ってしまうと何に怒っているのか整理することができず、当たり散らしてしまう。「ある・ない、好き・嫌い」など物事や人を極端に捉えることしかできず、「この人は苦手な部分もあるけど、良いところもある」というように柔軟で折り合いをつけた考え方ができないということが挙げられます。◇対人関係・親などの養育者に対して敵意や恨みを持つ、または過度に従順になったり、親の顔をうかがう・親の期待に応えられない自分をひどく責める・人とほどよい距離がとれない・恋人や配偶者、また自身の子どもをどう愛すればいいかわからないなど対人関係の面では、第一に愛着障害の原因をもたらした養育者に対しての態度に症状が見られることがあります。養育者に激しい敵意・恨みをもつことでいつまでも反抗的な態度を取り続ける。反対に親に従順すぎるほどの態度を取り、大人になっても親に言いなりになってしまっているというような症状が表れます。また、子どもの場合と同じように、人とほどよい距離を保つことができない、恋人や配偶者、そして自分の子どもに対してどのように愛情を注げばいいかわからず、関係づくりに苦労することがあります。◇アイデンティティが確立できない・キャリア選択がうまくできず時間をかけた割にわずかな見聞や情報で決めてしまう・自分の選択に対する満足度が低い大人になると、仕事やプライベート、さまざまな場面で自分自身で選択することが求められます。愛着は他人との基本的な信頼感の基礎であるだけでなく、好奇心や積極性、自己肯定感の基礎ともなるものです。その愛着が子どもの時に十分に形成されず、大人になっても愛着障害が続くと、アイデンティティを獲得・確立する青年期や成人期で決断を求められる場面において苦労してしまうことがあります。大人の愛着障害が他の疾患を発症の原因になってしまうことがあります。・うつ病・心身症・不安障害・境界性パーソナリティ障害などこのように、愛着障害がある大人は生活を送るうえでさまざまな困りごとが起こるだけではなく、二次的に他の疾患を引き起こすこともあります。ですが、大人になってからでも工夫次第では症状をやわらげることができたり、困りごとを克服できたりすることもあります。最も大切なこととして、幼少期に満足に得られなかった、愛着形成のための愛情深いスキンシップやコミュニケーションを補ってあげることが挙げられます。大人になってしまうと実の親と子どものころのように密にやりとりをする、ということが難しいかもしれません。その場合は、恋人やパートナー、教師や友人などとのやり取りが愛着障害の克服の第一歩となることがあります。また、職場など対等な人間関係をつくることができ、自分の存在価値が認められるような環境に身を置くことや、自分が「理想の親」のような存在となって後輩を指導するということもアイデンティティの確立や自信をもつことにつながり、結果的に愛着障害が改善していく可能性があります。愛着障害と発達障害の関連はあるの?出典 : 発達段階の年齢にある子どもの愛着障害の症状は、発達障害の症状に似ているため、しばしば混同されることがあります。しかし、発達障害は先天性のもの、愛着障害は後天性のものである、という決定的な違いがあります。そのため愛着障害は適切な環境(愛着がきちんと形成される環境)で子どもを育てれば、症状が改善するケースが多いのです。以下、愛着障害を「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」と「脱抑制型愛着障害」をわけて、それぞれ間違えられやすい発達障害との違いをご紹介します。◇自閉症スペクトラム自閉症スペクトラムと愛着障害は、養育者と目が合いにくい、嬉しい・楽しいといった情動表現をあまり見せない、認知と行動に遅れが見られる、対人関係を円滑に築くのが苦手といった共通点があります。しかし、自閉症に見られるこだわりや反復行動は、多くの場合愛着障害には見られません。また、自閉症児の場合、知的機能は高くてもコミュニケーションに苦手意識があったり、相手の気持ちを察したりすることができないということもあります。それに対して愛着障害は、知的機能に見合った社会的コミュニケーションが見られます。つまり、愛着障害は愛着の不足によって子どもの発達が遅れているということなので、養育環境を改善すれば知的、社会面の両面を含む発達の遅れを取り戻すことができます。◇注意欠如・多動性障害(ADHD)脱抑制型愛着障害のある子どもにも、不注意や多動といったADHDのような症状が現れることがあります。ですがADHDのように、子ども自身とりわけ意識していないにもかかわらず常に不注意や多動が続く、という状態とは少し違います。脱抑制型愛着障害の場合、大人の気を引きたいがためにわざとそういった行動・態度を示すという点で、ADHDとは区別することができます。まとめ出典 : 愛着障害は乳児期に母親をはじめとする養育者ときちんと愛着を形成できていないことにより発症します。愛着がきちんと形成できないことは、子どもの知的・社会的発達に大きな影響を与えることとなります。愛着障害の治療は早期であればあるほど効果がありますが、何もせず放置してしまうと大人になっても愛着障害をずっと抱え続ける可能性があります。養育者の抱えるさまざまな悩みや困難な状況がある場合には、愛着障害を取り巻くすべての要因から解決策を探しだすことが必要となってきます。パパ・ママは子どもが生まれた直後から、声掛けやスキンシップなどの子どもへのコミュニケーションを積極的にとるようにしましょう。また、子どもに常に目をかけ、あたたかく寄り添ってあげることが、子どもとの強くしっかりとした愛着を築くために大切なことなのです。参考文献岡崎尊司/著『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』岡崎尊司/著『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』
2017年01月19日失語症とは出典 : 失語症とは言語障害の一つで、脳の言語中枢が何らかの損傷を受けることによって、言語を操る能力に障害が残った状態を言います。具体的には、言いたい言葉が浮かんでこない、思ったことと違う言葉を口にしてしまうことなどが症状としてあげられます。私たちが言葉を覚えるとき、言葉そのものを覚えることに加えて、その言葉が指し示している「もの」はどのようなものかを同時に学んでいます。そして脳の中には「クルマ」「リンゴ」といった言葉そのものを貯蔵する「言葉の貯蔵庫」と、「クルマ」「リンゴ」がどのようなものを意味しているのかを貯蔵する「意味の貯蔵庫」の2つがあります。この貯蔵庫には無数の引き出しがあり、またそれぞれの引き出しが相互につながっています。私たちが「話す」とき、膨大な言葉の引き出しと意味の引き出しが適切に対応しているため、表現したいこととぴったりの言葉を選ぶことができているのです。しかし失語症になると、この言葉の引き出しと意味の引き出しのつながりが混乱してしまいます。言葉の貯蔵庫も意味の貯蔵庫も頭の中には残っているのですが、一つひとつの意味の引き出しに対応している言葉の引き出しをすばやく探すことが困難になります。そのため言いたい言葉が浮かばず何も言えなくなったり、「テレビ」と言いたいのに「メガネ」と言ってしまったりするのです。「失語症」という名称から、言葉を発することや話すことに困難が生じている状態だととらえられがちです。しかし失語症になると話すことだけでなく、聞く・読む・書く・話す・計算するといった言葉にかかわるすべての作業が難しくなります。失語症はよく、「言葉の分からない国に放り出された状態」にたとえられます。私たちが外国に行ったとき、現地の人とは言葉が通じず、相手が何か言っていることは聞こえますがその内容を理解することはできません。看板などに何か書いてあることは分かりますが、音読したり意味をつかむのは難しいです。相手に伝えたいことや自分の考えはあるのですが、それをすらすらと伝えることも困難です。このように、失語症になっても聴力や視力、記憶力や判断力などには問題がないのですが、言葉にかかわる働きのすべてがうまくいかなくなってしまいます。失語症と構音障害・失声症・学習障害の違いは?出典 : 失語症と症状が似ているため混同されやすい障害・疾病に構音障害、失声症、学習障害があります。それぞれ失語症とは何が違うのかを見ていきましょう。失語症と同じ言語障害である構音障害は、「言葉が出にくい」という点で失語症とよく似ています。しかし失語症と構音障害では、ダメージを受けている脳の部分が異なります。私たちは話す内容は言語中枢で考えますが、話すという行為のときには、呼吸筋や口を動かす運動中枢を使います。構音障害は、運動中枢がダメージを受け、言葉を話すのに必要な唇、舌、声帯など発声・発語器官の麻痺などによって発声や発音がうまくできなくなる状態をいいます。失語症は言語中枢がダメージを受けている状態のため、麻痺がなく口を動かすことができても、言語中枢からの指令が不十分なため言葉が出なくなったり、正しくない単語が口から出たりします。失声症とは、主としてストレスや心的外傷などによる心因性の原因から、声を発することができなくなった状態を言います。「発声器官に問題はないのに、話すことができなくなった」という点は失語症と共通していますが、失語症の原因は脳の損傷であり、心理的なショックや精神的なストレスなどが原因ではない点で異なります。参考:心因性失声症|心身条件反射療法協会失語症と同様に、読む・書く・話す・計算するといった能力に困難が生じるもののひとつに、学習障害があります。学習障害とは、全般的な知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうちいずれかまたは複数のものの習得・使用に著しい困難を示す発達障害の一つです。学習障害の原因ははっきりとは解明されていません。しかし学習障害は先天的な脳の機能障害であるのに対して、失語症は、脳の言語中枢が何らかのきっかけで損傷を受けた結果生じる後遺症であり、症状もその損傷を受けた後に現れる後天的なものである点が、学習障害とは異なります。失語症の原因は?出典 : 失語症の原因は、脳の言語中枢が傷つくことです。この損傷の原因の9割以上が脳出血、くも膜下出血、脳梗塞といった脳卒中です。脳卒中の患者は中高年が多いため、失語症も中高年に多くあらわれます。そのほかは交通事故や転落による頭部外傷、脳腫瘍、脳炎などになっています。出典:加藤正弘・小澤知幸監修『失語症のすべてがわかる本』(講談社,2006)失語症になるとどんな症状があらわれるの?出典 : 失語症になると、話すことだけでなく聞く、読む、書く、計算することすべての能力に困難が生じます。しかしその症状やその重さは一様ではなく、脳の損傷の場所と大きさによって違いが生じます。失語症の症状を「話す」「聞く」「読む」「書く」「計算する」の5つの側面に分けて説明します。・言いたい言葉が浮かんでこない思ったことを言葉ですらすらと表現できなくなります。特に人名や地名などの固有名詞が出にくく、「ここまででているんだけど」というもどかしさを感じます。また、「包丁」と言いたいのにその言葉が思い浮かばないため「魚を切るやつ」と遠回しな回りくどい表現をすることもあります。この症状は記憶力の低下によるものではなく、意味の引き出しと言葉の引き出しがうまく対応していないために起こっています。・思ったことと違うことを言ってしまう「病院」を「学校」、「みかん」を「りんご」のように単語を言い間違える場合と、「メガネ」を「メダネ」、「時計」を「トテイ」というように違う音に言い誤る場合があります。言葉の言い間違いがひどい場合は、まったく意味不明の言葉(ジャルゴン)が続くようになります。・文章で話すことが難しくなる「オトーサン…カイシャ…ヤスミ…」のように単語でポツリポツリとしか話せなくなってしまったり、「お父さんは会社へ休みでいます」のようにすらすらと話せても正しい文章ではないことがあります。・同じ言葉が言えたり言えなかったりする一度言えた言葉でも、もう一度言おうとすると言えないことがあります。反対に、さっき言えなかった言葉が今度は言えるということもあります。・前に言った言葉が続いて出てくるいったんある言葉が出始めると、その言葉ばかり繰り返し出てしまうことがあります。例えば、名前を聞かれて、名前が言えたあと、続いて年齢を聞かれても名前を言い、次に住所を聞かれても名前を繰り返すような状態です。・唇や舌に麻痺がないのに発音がたどたどしくなるすんなり正しい発音ができなくなり、たどたどしい話し方になります。耳は聞こえているのに、聞いた言葉の意味が理解できなくなるというのも失語症の症状です。・大勢の人が集まっているところで会話を聞きとるのが難しい症状が軽い人の場合、日常的には聞き誤ることはほとんどありませんが、大勢の人が集まっているところで集中して会話を聞きとることが難しくなります。・早口や回りくどい言い方、複雑な内容や長い文章の理解が難しい講演会で話されるような複雑な内容の文章を理解することが難しくなります。また、もう少し症状が重くなると「冷蔵庫から牛乳と卵を出して」という程度の長さの文章を理解することが困難になります。これは聞いた内容を頭にとどめておくことが難しくなるためです。この場合、「冷蔵庫から牛乳をとって」といい、牛乳を取り出したところで「卵も取って」というと分かりやすくなります。・身の回りの品物の名前を言われても意味が分からない障害が重くなると、身の回りの品物の名前を言われても意味が分からずきょとんとしていたり、間違った理解をしてしまうこともあります。しかし、判断力が低下しているわけではないため、言われた単語の意味が分からなくても状況から推察して適切な行動をとることができます。そのため周りの人からは失語症の症状があると分かりにくいことがあります。失語症になると、目は見えているのに文字や文章の意味の理解が難しくなります。・複雑な内容の文だと意味を読み取れない症状が軽い人の場合、簡単な読み物など楽しむことができますが、複雑な内容になると文の意味を読み取ることが難しくなります。・単語の意味を理解できない症状が重くなると、文章だけでなく単語の意味を理解するのが困難になります。失語症の人は一般的に、かな文字に比べて漢字のほうが理解しやすい傾向があります。かなは表音文字であり、発音を表しているだけなので、その文字を見ただけでは意味はとれません。一方漢字は表意文字であり、文字を見ただけで直接大まかな意味を取れることが多いので、かなよりも漢字のほうが理解しやすいのです。・難しい漢字が思い出せない、文法を間違える症状が軽い人の場合、文章を書くことはできますが、難しい漢字を思い出せなかったり、濁点や拗音(ようおん)が抜けることがあります。また、助詞を誤るなどの文法上の問題もみられます。・自分の名前が書けない症状が重くなると、自分の名前も書けなくなることがあります。自力では書けないときに漢字のへんやつくりの部分を書き示すとあとを続けて書くことができたり、見本の文字を示すと書き写すことができる場合があります。・数字を言い間違える・聞き間違える数字は失語症の人にとって聞き間違えたり言い間違えたりしやすいものの筆頭にあがり、軽度の人にとっても難しいものと言えます。数字の桁数が上がるほど理解も表現も難しくなり、たとえば電話番号や金額、日付や時間を言い間違えたり聞き間違えることがよくあります。・計算が難しい計算は一般的に九九を使う掛け算・割り算が難しく、足し算や引き算でも繰り上がり・繰り下がりがあると難しくなります。失語症にはどんなタイプがあるの?出典 : 失語症の症状は人によって千差万別ですが、脳が損傷を受けた場所や症状の程度によっていくつかのタイプに分けることができます。運動性失語症は、脳(左脳)の比較的前の方の部分に障害が起き、運動性言語中枢(別名:ブローカ中枢)に障害がある状態です。このタイプの失語症は、イメージが言葉になる過程で障害がおこるため、話すことがうまくできず、ぎこちない話し方になります。また、言葉の発音が不明瞭になったり他の音に置き換わることがあります。軽度の人は文章で話せますが、話すスピードは遅く、言葉の発音はしにくいです。重度の人は単語や短い言葉を話しますが、文章を話すことは難しくなります。感覚性失語症は、脳の比較的後ろの部分に障害が起き、感覚性言語中枢(別名:ウェルニッケ中枢)に障害がある状態です。このタイプの失語症は、なめらかにぺらぺらと話すことができますが言い間違いが多く、また相手の言ってることが理解できず会話が成立しないことがあります。話すことよりも聞いて理解することが困難になるのがこのタイプの失語症です。軽度の人でも複雑な文章は聞き取りにくくなり、重度の場合は日常の意思疎通が大変困難になります。比較的軽度の失語症です。聞いて理解することはでき、会話も口頭で楽しめますが、物の名前が出てこないため、回りくどい話し方が多くなります。例えば、「スイカ」という単語が思い出せず「ほら夏に食べる、大きくて、丸くて、おいしいの」と言いたいものを抽象的に表現します。「聞く・話す・読む・書く」のすべての言語機能に障害がある、重度の失語症です。聞いて理解するのは困難ですが、その人の感情に強く訴える言葉は理解できることもあります。意味のある言葉を言うことがほとんどできなくなり、決まりきった言葉しか言えなくなったり、相づち程度になります。失語症の診断から検査に至るまで出典 : 失語症の原因は脳の損傷です。言葉が出ない、呂律(ろれつ)が回らないなどの言語症状も、脳の機能の異常を示す症状の一つであり、本格的な脳卒中の前触れかもしれません。少しでも疑いがある場合は、神経内科や脳神経外科への受診をおすすめします。脳卒中や事故による頭部外傷などで脳に損傷が起こった場合、主治医はその主となる病気やけがの治療にあたります。その後、後遺症として失語症が起こった場合、主治医の紹介により言語聴覚士が検査や診断、治療にあたります。言語聴覚士は言語治療のプロフェッショナルです。失語症によって患者さんの気持ちが混乱したり落ち込んだりすることもあるため、失語症の検査は病状が落ち着いたころに始めます。日本の代表的な失語症検査のひとつは「SLTA(標準失語症検査)」です。言語聴覚士が患者さんに質問をして答えられる割合を調べます。この検査では患者さんの聞く力・話す力・読む力・書く力・計算する力を測ります。回復の程度を調べるために、治療中にも一定期間ごとに何度か行います。失語症の治療・リハビリテーションはどんなことをするの?出典 : 失語症の治療では、言葉の働きを取り戻すための言語訓練を、言語聴覚士と行います。言語訓練にはさまざまな方法があり、症状に合わせて最適な組み合わせが選ばれます。まず、脳の障害の範囲や検査の結果などから重症度を判断します。まずは、患者の趣味に関することや過去に撮った写真などを用いてコミュニケーションの方法を探します。同時に、周囲の人も失語症の患者さんにどう対応すればいいかを学びます。こうした活動を通じて脳の状態がある程度落ち着いてくると、言語治療がおこなえるまでコミュニケーション力が回復する場合があります。言語聴覚士の口の動きを見たり、鏡で自分の口の動きを確認しながら話すなどの発音動作の練習を、他の失語症の治療と並行して実施します。短い単語から長い言葉を思い浮かべる訓練をします。「火」や「目」など、1文字の単語の発音練習から始め、少しずつ長い単語に変えていきます。長い単語も、最初は「え」「ん」「ぴ」「つ」というように、一音ずつゆっくりと確実に発音してから「えんぴつ」とつなげて言えるように訓練します。みかんを「りんご」と言ってしまうような症状のときは、言葉と意味を結ぶ訓練を重点的に実施します。耳で聞いた単語やかなで書かれた単語がどれか、絵の描かれたカードの中から選ぶ練習から始めます。これは一般的な失語症でおこなわれる訓練でもありますが、このタイプの失語症では特に大切な練習です。りんごを「ごりん」と言ってしまうような症状のときには、音を正しく並べる訓練を重点的に実施します。絵を見て、その名前をゆっくり思い出しながらかなで書く練習をします。かなが一文字ずつ書かれたカードを並べる方法もあります。また、漢字の単語にふりがなをつける練習も効果的です。これらの言語訓練の進め方はあくまで目安です。正しい治療法の決定には、医師や言語聴覚士の助言が欠かせません。失語症の治療は症状の程度、タイプによって進め方もさまざまなので、他の人と内容や進み具合を比較することは意味がなく、また患者さんにとってもプレッシャーになります。失語症の人が受けることのできる支援出典 : 失語症になると、治療や仕事への影響で経済的な負担が大きくなります。失語症の人が受けられる支援にはどのようなものがあるのでしょうか。患者さんが40歳以上である場合、介護保険によるサービスを受けられることがあります。主治医からの意見書の提出や本人の状態の調査をしたのち、非該当、要支援1・2、要介護1・2・3・4・5の区分に分けて認定が下りますが、失語症の程度によっては認定が下りないこともあることに注意が必要です。認定が下りて介護の必要性が認められると、デイケアやデイサービスといった通所サービスや、訪問介護、訪問看護や訪問リハビリテーションといった在宅サービス、入所介護などのサービスを受けることができます。認定の程度によって受けられるサービスは異なりますが、施設を選ぶときは言語聴覚士がその施設にいるかどうかを確かめるようにしましょう。介護保険のサービスは、介護保険の被保険者以外の人は受けることができません。40歳未満で介護保険の対象にならない場合や介護保険にはないサービスを受けたい場合、障害者福祉のサービス活用が考えられます。1.身体障害者手帳取得により受けられるサービス身体障害者手帳を取得すると、身体障害者福祉のサービスを受けることができるようになります。受けられるサービスは認定された等級や住んでいる地域によって多少異なりますが、下記のようなものがあげられます。・医療費の助成や手当・補助具や生活用品の給付や貸与・住宅改善のための費用の給付・交通費などの割引制度・障害者施設の利用・美術館、音楽会、映画館などの割引・公共料金の減額、免除、携帯電話の割引身体障害者手帳の等級には1級から6級まであり、数が小さいほうが障害の程度が重いことを意味します。現在、言語障害が該当する等級は3級と4級のみであり、言語を「完全喪失」した場合が3級、「著しい障害」がある場合が4級になります。これに手足の麻痺の程度などが重ければ肢体不自由の障害の分が加わって等級は重くなります。逆に、失語症があって言葉が出にくいけれど、手足に麻痺がなく、家族や近隣の人との会話が成立している場合は身体障害の認定を受けられないこともあるので注意が必要です。手帳取得を考えている人は、まずは主治医に相談することをおすすめします。2.障害者総合支援法によるサービス2013年に成立した障害者総合支援法ににより、居宅介護や機能訓練を始め、補装具や自立支援医療費の支給や日常生活用具の給付などのサービスを受けられます。どのサービスを受ける場合でも、サービスの窓口は市町村の障害者福祉の窓口になります。サービスによっては介護保険と同様に、認定調査を経る必要があります。障害のある人を支援するNPO、地域の社会福祉協議会や民間の団体でも特徴あるサービスを行っているところがあります。地域のボランティアセンターなどに情報が集まっているので、確認してみることをおすすめします。また現在、全国で135の「失語症友の会」が活動しています。「失語症友の会」は失語症の患者さんとその家族でつくられたものであり、同じ病気をもつ患者さんやその家族が交流する場を設けたり、失語症についての知識を広げる活動を行っています。同じ病気の人と交流することで患者さんの孤独感を軽くでき、家族同士でアドバイスを交換することもできます。失語症友の会失語症の人とコミュニケーションをとるときに気をつけたい、6つのポイント出典 : 失語症が起こった直後は、患者さんは混乱して気持ちの変化が激しくなることがあります。また、自分の言いたいことがうまく言えなかったり、相手の話を理解出来ない自分の状態に気づいて落ち込み、「どれくらい良くなるんだろう」「自分はずっとこのままなのだろうか」という不安でいっぱいになったりします。家族や周りの人は、失語症について正しく理解し、適切なコミュニケーションをとることで患者さんの支えになることが大切です。周囲の人が「言葉を取り戻してほしい」という思いからついやってしまうことが、患者さんの心を傷つけたりいらだたせたりすることがあります。たとえば、身近なものだからすぐに思い出すだろうという思いから、「これなんだ?」と名前あてクイズをする人がいますが、これは歩けない人に「ここまで来て」というのと同じようなものです。失語症は単なる度忘れでなく脳の機能障害であり、このようなクイズを何度繰り返してもできるようにはなりません。また、「”コ”から始まるあなたの好きな飲み物だよ」というヒントを出すようなことも控えましょう。患者さんは、言いたいものが「どんなものなのか」というイメージを頭の中で描けている場合がほとんどです。それを周囲の人から言われても、「それは分かっているけれど言葉が出てこない…」という患者さんのいら立ちを余計強くしてしまいます。失語症の患者さんと話すときは、ゆっくり、はっきり話すことが大原則です。早口で話したり、突然話題を変えたりすると患者さんは話についていくことができません。1対1で落ち着いて会話できる場を設けたり、患者さんの表情やしぐさを見逃さないよう目を見て話したり、伝わっていない様子のときは繰り返し話したりするようにしましょう。このとき、患者さんは耳が遠いわけではないので、大声で話しかける必要はありません。また、記憶力や判断力が低下しているわけでもないので、患者さんを子ども扱いすることのないように気をつけましょう。言葉を正しく選んで話す作業は、失語症の人にはとても難しい作業です。しかし相手の話を理解できる患者さんの場合には、質問して答えを引き出すことができます。でもこのとき、例えば「何が食べたい?」と漠然とした質問をしてしまうと、患者さんは答えるときに言葉を選ぶ必要があり、好ましくありません。「あっさりしたものがいい?」「ご飯がいい?」「麺がいい?」「そばがいい?」というように、「はい」「いいえ」で答えられる質問を繰り返すことで、患者さんの意図をくみ取ることができます。言葉以外のコミュニケーションを患者さんととることは非常に大切です。時間や場所を伝えたいとき、時計やカレンダー、地図といった道具は「何を伝えようとしているのか」がはっきりわかるので、より患者さんに分かりやすいコミュニケーションをとることができます。また、「野球」という言葉を伝えたいとき、漢字で端的に「野球」と書いたり、バットとボールの絵を描いて見せるのも良いでしょう。ほかに、バットをスイングする仕草といった身振りで伝えることも効果的です。患者さんにとって、話すことは勇気と強い気持ちが必要です。そんなとき、周囲の人が「聞こうとしてくれている」という姿勢を見せてくれると、患者さんの励みになります。患者さんが何かを話そうとしているときは、まずは黙ってじっくりと待ちましょう。沈黙が続いている間も、患者さんは一生懸命考えています。先回りして患者さんの言いたいことをこちらが言ってしまうと、患者さんの話そうとする意欲を削いでしまいます。それでも患者さんが困り果てているときは、助け船を出すことも有効です。ただし、「○○でしょ」ときめつけることはせず、「○○?それとも××?」と質問して答えを引き出すようにしましょう。患者さんの日常生活をよりすごしやすくするために、日常よく使うものや生活に必要なものをまとめた「会話ノート」があると便利です。たとえば食事について、「カレー」「寿司」「うどん」などのイラストや写真と、名称をいっしょに載せたノートをつくっておくと、会話の幅がぐんと広がります。また、患者さんは自分の体調について明確に言葉で伝えることができません。しるしをつけるだけでコミュニケーションがとれるチェックシートがあると便利です。パソコンや電子辞書は、漢字を探したり読みを調べたりするときに便利です。また、外出先から家にいる患者さんに伝えたいことがある場合はファックスをつかうとスムーズに伝言ができます。まとめ出典 : 失語症になると、住み慣れた環境は変わらず、また判断力などが衰えないまま、突然周りの言っていることが理解できなくなったり、自分の考えや言いたいことを言葉で表現できなくなってしまいます。そのショックは大変なものであり、誰よりもつらいのは患者さんです。家族や周りの人も、突然うまく話せなくなった患者さんの様子に戸惑うこともあるかもしれません。しかし、本人も家族も焦ることなく、あきらめずにコミュニケーションをとり、自信を取り戻すことが大切です。患者さんの気持ちに寄り添って、治療やリハビリテーションに向き合うようにしましょう。参考:加藤正弘・小澤知幸監修『失語症のすべてがわかる本』(講談社,2006)参考:NPO法人言語障害の社会参加を支援するパートナーの会・和音『改訂失語症の人と話そう』(中央法規、2008)参考:脳卒中と言葉の障害|国立循環器病研究センター循環器病情報サービス
2016年12月28日ジストニアとは出典 : ジストニアとは、筋肉の緊張の異常によって筋肉が勝手に動いたりすること(ジストニア運動)によって、姿勢の異常などが起きる神経系の疾患です。また、日本神経学会の用語では「ジストニー」と表記され、世界神経学連合(WFN)が1981年の特別臨時委員会においてまとめた「錐体外路性障害の国際分類と用語集の提案」では以下のように定義されています。身体のひとつ以上の部位の不随意な持続する筋収縮で、しばしばねじるような反復する運動や異常姿勢の原因となると特徴付けられる運動障害ジストニアは知能が侵されたり命にかかわるような病気ではないものの、日常生活に支障が出ることもある疾患です。また、いまだに病態の解明が進んでおらず、根治的な治療法もまだ見つかっていないのが現状です。患者数は全国で約2万人といわれていますが、まだまだ認知度の低い病気であり、周囲の理解が得られず患者さんが悩んでしまうこともあります。ジストニアは、特定の動作を反復的かつ高頻度で行っている、特定の向精神薬を服用している等、外部要因が特定できる続発性ジストニア(二次性ジストニア)と、外部要因が特定できない本態性ジストニア(一次性ジストア、主に遺伝性と診断される)に大別されています。中でも遺伝性ジストニア(変形性筋ジストニーとも呼ばれる)は発症率は少ないのですが、厚生労働省によって「難病」と「小児慢性特定疾病」に指定されており、前者は障害者総合支援法、後者は児童福祉法に基づいて国からの支援を受けることができるほか、その他のジストニアでも症状や障害の程度によっては身体障害者手帳や障害年金を受給できる可能性があります。ジストニアの症状出典 : ジストニアの症状は、脳や神経系統における機能異常により筋肉の異常緊張が起きることによって、無意識な体の動きや異常姿勢となって現れます。そうした症状は顔面・四肢・体幹筋など様々な部位に現れ、その分布により身体の一部分に限定して症状が現れる局所性ジストニアと、下肢を含む体幹部など広範囲にジストニアが発症する全身性ジストニアに分けられます。また、身体の一部を酷使する人が発症する職業性ジストニアのように特定の動作をするときだけ症状が現れるということもあります。ジストニアの症状の例として、具体的には、・字を書くときにしびれや震え、こわばり、脱力といった症状が現れて文字を書くことが困難となる「書痙(しょけい)」・ピアノやギターなど特定の楽器を弾く時だけ手指が震えたり勝手に動いたりするケース・脚の筋肉に異常が見られ歩行困難となるケース・顎や口、唇や舌が勝手に動いたり、口が開かなかったり、物が飲み込みにくかったり、しゃべりにくかったりするケースなどがあります。ジストニアの原因と、原因別の分類出典 : 筋肉の自由がきかなくなってしまうジストニアの根本原因は、脳内の神経に起きる変調にあり、そうした変調はそれぞれ以下のような理由で引き起こされます。以下の分類のうち遺伝性は本態性に、それ以外の3つは続発性に属します。遺伝性ジストニアは両親から受け継いだ特殊な遺伝子が原因で起きるジストニアを指します。この種類のジストニアは早くから発症し、下肢を含む体幹部など広範囲にジストニアが発症する全身性ジストニアに発展しやすいという特徴があります。遺伝性ジストニアの患者は希少で、患者数は全国で500人ほどと言われています。病因となる遺伝子を持っていても発症しないケースもあり、病態に関して未解明な部分も多いです。職業性ジストニアは、同じ動作や姿勢を反復的かつ高頻度に繰り返すことによって脳の神経になんらかの影響が生じた結果起きるといわれており、音楽家・アスリートなど身体の一部を酷使する職業を持つ人に多く発症します。職業性ジストニアは、症状が身体の一部にのみ現れる局所性ジストニアであることがほとんどで、その場合「フォーカルジストニア」とも呼ばれます。最近では人気バンドRADWIMPSのドラムを務める山口さんが、ドラム演奏時に使う右足に現れたジストニアを理由に休養を発表しました。数年前には、コブクロのギターボーカルを務める小渕さんが歌うときに声がうまく出せない「発声時頚部ジストニア」を発症しましたが、約1年間の投薬療法とリハビリの後、見事復活を果たし現在も活躍を続けています。参考:コブクロ及び、オフィスコブクロからのご報告参考:株式会社ワーナーミュージック・ジャパンコブクロに関するご報告参考:RADWIMPSからの大事なお知らせ脳卒中、脳炎、脳梗塞といった脳の疾患の後遺症がジストニア運動として現れることがあります。抗精神病薬・抗パーキンソン病薬などの副作用としてジストニア運動が現れる場合もあります。ジストニアの診断・検査方法出典 : ジストニアは神経の病気です。そのため、ジストニアの疑いがある場合は脳や神経、筋肉の病気を扱う神経内科に相談するとよいでしょう。ただ、ジストニアは医療従事者の間でも認知度が低く、別の病気として診断されたり、特に問題がないと誤診されたりすることも多い病気のためジストニアの検査ができる病院を受診することをおすすめします。以下のリンクはジストニアを専門で見られる病院の一覧です。ジストニアの診療が可能と思われる病院|NPO法人ジストニア友の会ジストニアは神経の病気であるうえ、ジストニアと似た症状の病気も多く存在します。そのため、ジストニアと確定診断されるまでにはいくつもの検査を要する場合が多いです。頭部CT・MRI検査…二次性ジストニアの原因となる脳血管障害や、腫瘍といった病気の有無を確認します。筋電図検査…ジストニアの特徴である筋肉の収縮を記録し、異常が見られるか確認します。血液検査…肝臓・腎臓などの臓器の状態や他の病気の兆候を推測できます。遺伝子検査…遺伝性ジスト二アは、CT検査や血液検査では異常を確認できないことが多いです。一方、遺伝子検査は一般的に費用が高く検査結果が出るまでに時間がかかることが多いものの、確定診断に役立てることができます。ジストニアの治療法出典 : ジストニアは未だに症例が少なく、確立された治療法はまだ存在していません。根本原因に対処する根治療法はなく、対症療法によって症状の緩和を目指します。病型によって有効な治療法が異なるため、専門知識を持つ主治医に相談し、治療方針を立ててもらう必要があります。副交感神経を活発化させるアセチルコリンという物質の作用を抑える「抗コリン薬」の投与が行われることがあります。あるいは、一般的ではないもののドーパミン遮断薬の投与による治療が行われる場合もあります。その他の経口薬物としては緊弛緩薬や向精神薬、および一般的な鎮痛薬が用いられることがあります。参考:GRJジストニア概説「ボツリヌス毒素」というヒトの神経毒を、症状が出ている部位の筋肉に注射します。注射によって、神経筋の結合部分でのアセチルコリンの放出を阻害し、症状の緩和をはかります。筋肉の局所的な弛緩性麻痺を生み、効果は数週間から数ヶ月間持続します。成功率が高く合併症の頻度も低いため、専門家の間で広く容認されています。参考:GRJジストニア概説ジストニアの症状が重い場合、部位や症状によっては末梢あるいは定位脳手術という手術を行うことがあります。ジストニアに対して行われる末梢手術の例としては、選択的末梢神経遮断術(SPD)という、神経の末梢部分を選択的に遮断する手術法があり、有効かつ安全な治療としてヨーロッパ神経内科学会や英国のガイドラインにも明記されています。参考:ジストニアの外科治療(平孝臣)定位脳手術は、脳の中の特定の構造物をターゲットとして、そこへ電極を留置して治療を行う方法のことです。細い電極の先端を、1mm単位で正確に特定の場所に留置する必要があることから、定位(位置を定める)脳手術といいます参考:東京女子医科大学脳神経外科定位脳手術:凝固術と脳深部刺激療法定位脳手術によって、不随意運動の改善が期待できます。ジストニアの人が受けられる支援は?出典 : 「遺伝性ジストニア」のみ、厚生労働省が指定する難病として認定されています。遺伝性ジストニアの患者であれば、ジストニアの医療費の自己負担割合が3割から2割に引き下げられるほか、世帯の所得に応じて医療費の自己負担上限額(月額)が設定されるので、経済的負担を緩和することができます。詳しい内容は以下のリンクをご参照ください。難病情報センター遺伝性ジストニア難病医療費助成制度遺伝性ジストニアの中でも、DYTシリーズとして指定されている特定の遺伝子が原因のジストニアを持つ18歳未満の患者であれば、小児慢性疾患として医療費の自己負担分の一部が助成される可能性があります。詳しくは以下のリンクを確認してみてください。小児慢性特定疾病の医療費助成について小児慢性特定疾病情報センター変形性筋ジストニー身体障害者福祉法に基づいて発行される身体障害者手帳の認定基準においては、身体の「機能」の障害を中心に認定の可否が評価されるほか、その障害が将来に渡っても回復する可能性が極めて少ないものという条件も挙げられています。ジストニアは症状が改善する場合も多いため、身体障害者手帳の習得が比較的難しいと言われていまが、症状が重い場合は手帳が発行されるケースもあるようです。一度自治体の福祉担当窓口に問い合わせてみるとよいでしょう。ジストニアの症状は一人ひとり違います。そのためジストニアであるからといって障害年金を受けられるわけではありません。しかし、眼瞼痙攣(がんけんけいれん)や歩行困難など、障害年金の障害認定に当てはまる症状がある場合は受給できる可能性があります。障害年金の受給条件としては以下の5点が挙げられます。・初診日(初めて医師の診察を受けた日)に国民or厚生or共済年金に加入していること・初診日までに一定以上保険料を払っていること・障害の程度が受給条件を満たしていること・初診日当時の年齢が20歳以上65歳未満であること・20歳未満だが先天性の障害を持つ、あるいは20歳前に障害を発症していること上記の条件を満たしていれば、身体障害者手帳を持たない人でも障害年金を申請することができます。実際に自分の症状が認定基準に当てはまるかどうかは、以下のリンクからご自身で確認してみてください。国民年金・厚生年金保険 障害認定基準まとめ出典 : 神経の異常が原因で起きるジストニアは、生命や知能を脅かすような病気ではありません。しかしその症状は、日常生活や仕事に支障をきたすことも少なくありません。病態の解明が進んでおらず、いまだに根治治療が確立されていないため、医療機関では薬物や注射療法、手術による対症療法によって症状の緩和を目指します。希少な遺伝性ジストニアが難病指定されているほか、その他のジストニアでも症状の程度によっては身体障害者手帳や障害年金の対象となり、各種支援を受けられる可能性があります。最後に、ジストニアを紹介するドキュメンタリー映画や、ジストニアを持ちながらも「左手のピアニスト」として活躍する智内威雄さんを以下に紹介します。ジストニアに関心のある方は、ぜひご覧になってください。ドキュメンタリー映画「ジストニア」左手のピア二スト智内威雄さん
2016年12月28日素行障害・行為障害(CD)とは?出典 : 素行障害・行為障害(Conduct Disorder)とは別名「素行症」と呼ばれる精神疾患であり、社会で決められたルールを守らず反抗的な行動を起こし続けてしまうという特徴があります。具体的な症状には人や物への暴力的な攻撃、窃盗や長期・複数回の家出などが挙げられます。素行症/素行障害はアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において用いられている診断名です。一方、行為障害は世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)で用いられている名称ですが、ここでは「素行障害」という疾患名に統一して説明します。素行障害の主な症状出典 : 素行障害の主な症状として年齢相応の社会のルールを守ることができない、もしくは明らかに他者の人権を侵害していると考えられる行為を繰り返し、持続して行うことが挙げられます。素行障害の症状は下記の4パターンに分けられます。素行障害と診断されるには、加えて12ヶ月の間にいくつかの症状が継続していることや、6ヶ月の間に少なくとも1つの症状が発症していることなど様々な条件が定められています。1. 人または動物に対して攻撃的:いじめや取っ組み合いのけんか、凶器の使用、強盗、一方的な性行為を通して人や動物に対して残酷な行動を起こします。2. 所有物の破壊:わざと放火したり、自分の所有物ではないものを破壊したりすることで、相手に重大な損害を与えようとします。3. 人に嘘をつく・物を盗む:建物や車など無断で入ってはいけないところに侵入したり、自分の利益のためにとっさに嘘をついたり、万引きなどをして価値のある物を盗んだりします。4. 決められたルールの違反:門限が決められているにも関わらず夜に外出したり、学校をさぼったり、家出をしたりします。参考:素行障害l ハートクリニック参考書籍:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)年代別の素行障害出典 : では素行障害には3種類あり、発症した年齢によって種類が分けられるとしています。小児期発症型の素行障害は10歳になるまでに素行障害の症状が発症することが特徴です。通常男の子に多く発症する傾向があり、発症すると暴力的になり、同世代集団の対人関係に障害を抱えることがあります。また小児期発症型の素行障害を抱えている人は、小児期早期に反抗挑戦性障害(ODD)に診断されている場合が多く、ADHD(注意欠如・多動症)や他の神経発達上の困難を抱えている傾向があります。この小児期発症型の素行障害は青年期に発症するよりも長引く傾向があります。参考:素行障害l ハートクリニック青年期発症型の素行障害は、10歳になるまでに素行障害の症状を発症していないことが条件です。小児期発症型の素行障害に比べて症状は軽く、成人になる前に症状が治りやすい傾向にあります。青年期発症型の素行障害を抱えている人はあまり攻撃的な行動は示さず、同世代集団のなかでも大きな対人関係の障害を抱えない傾向があります。素行障害の基準は満たしているが発症年齢が10歳より前か後か分からない場合には、特定不能の発症年齢と診断されます。素行障害を発症しやすい人出典 : 素行障害の発症率は小児期から青年期にかけて上昇し、女性よりも男性のほうが高いという研究結果が報告されています。素行障害を発症しやすい性格としてはネガティブであることと、自己制御を苦手とすることが挙げられ、具体的には下記のような行動を起こす傾向にある人を指します。・怒りっぽい・かんしゃくを起こしやすい・あまり人を信用できず、疑い深い・悪いことに対して罪悪感をあまり感じない・スリルを追い求める・先のことを考えずに強引に行動する素行障害の主な原因出典 : 素行障害は研究の結果、生物学的要因と環境の両方に原因があるとされており、これらが複雑に作用し合うことで発症すると言われています。素行障害の生物学的要因に関してはまだ研究途中であるため、決まった原因があるとは限りません。しかし、素行障害がある人はドパミンβヒドロキシラーゼ濃度が低かったり、セロトニン濃度が通常よりも異なる数値で見られる傾向があると言われています。また副腎でつくられる男性ホルモンの一種、デハイドロエピアンドロステロン(DHEA)が攻撃性と関連しており、素行障害をかかえている人はこのDHEAの数値が高い可能性があるという研究結果もあります。その他にも中枢神経の機能障害や損傷が原因となり、性格が変化してしまったり、情緒不安定な行動を起こしている場合は素行障害を併存している可能性があります。参考:素行障害l ハートクリニック環境要因としては家庭関係や周りの友人からの影響が大きいと言われています。家族や仲間から拒絶されているなどの孤独感を感じてしまうことで、反抗心が生まれ最終的に反社会的な行動を起こしてしまうことがあります。具体的に下記のような環境は素行障害を発症するきっかけになる恐れがあります。・親の子どもに対する拒絶や無視・厳しすぎるしつけ・身体的虐待・周囲の友人からの拒絶や暴力・夫婦が別居しているなどの不仲・家庭内の経済状況の悪化参考書籍:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)素行障害の診断基準出典 : 以下はアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害の診断・統計のマニュアル』第5版)での診断基準です。以下のうちどの程度基準が当てはまっていたか、その症状がどのくらい重症かによって軽度・中等度・重度と判定されます。A.他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または帰省を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の15の基準のうち、どの基準群からでも少なくとも3つが過去12カ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6カ月の間に存在している。人および動物に対する攻撃性1.しばしば他人をいじめ、脅迫し、または威嚇する。2.しばしば取っ組み合いの喧嘩を始める。3.他人に重大な身体的危害を与えるような凶器を使用したことがある。4.人に対して身体的に残酷であった。5.運動に対して身体的に残酷であった。6.被害者の面前での盗みをしたことがある。7.性行為を強いたことがある。所有物の破壊8.重大な損害を与えるために故意に放火したことがある。9.故意に他人の所有物を破壊したことがある。虚偽性や窃盗10.他人の居住、建造物、または車に侵入したことがある。11.物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく。12.被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、ただし破壊や侵入のないもの、文書偽造)。重大な規則違反13.親の禁止にもかかわらずしばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる。14.親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった。15.しばしば学校をなまける行為が13歳未満から始まる。B.その行動の障害は、臨床的に意味のある社会的、学業的、または職業的機能の障害を引き起こしている。C.その人が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の基準を満たさない。出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)反社会的パーソナリティ障害(ASPD)とは、法や倫理にかなった行動に従わなかったり、自己中心的で冷淡な他者への配慮が欠如していたり虚偽性、無責任さ、操作性や無謀さが特徴にある疾患です。18歳以上である場合、その診断基準を満たさないことが素行障害の診断条件となります。これに加え重度な素行障害がある人は「向社会的な情動が限られている」ことがあります。向社会的な情動が限られているとは、以下のような症状を指し、これらの症状のうち2つ以上を過去12ヶ月の中で発症していることが必要です。・後悔または罪責感の欠如:何か間違ったことをしたときに悪かったまたは罪責感を感じない(逮捕されたり、または刑罰に直面した場合だけ後悔することを除く)。自分の行為の否定的な結果に関する心配を全般的に欠いている。例えば誰かを傷つけた後で後悔しないし、規則を破った結果を気にしない。・冷淡-共感の欠如:他者の感情を無視し配慮することがない。その人は冷淡で無関心な人とされる。自分の行為が他者に相当な害を与えるような時でも、その人は他者に対してよりも自分自身に与える効果をより心配しているようである。・自分の振る舞いを気にしない:学校、仕事、その他の重要な活動でまずい、問題のある振る舞いを心配しない。期待されていることが明らかなときでもうまくやるのに必要な努力をすることがなく、典型的には自分のまずい振る舞いについて他者を非難する。・感情の浅薄さまたは欠如:浅薄で不誠実な表面的な方法(例:示される情動とは相反する行為、情動をすばやく入れたり、切ったり切り替えることができる)以外では、他者に気持ちを表現したり情動を示さないか、情動の表現は利益のために用いられる(例:他者を操ったり威嚇するために情動が表現される)。出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)これらの向社会的な情動が限られているかどうか診断する場合には、本人と長期間関わりがある親・教師・友人などからの報告も必要になります。「素行障害」とはDSM-5で主に用いられる疾患名です。(本コラムはこれに照らし合わせ記述しています。)これに対し、ICD-10では主に「行為障害」という疾患名が用いられていますが、診断基準や原因などに大きな差はありません。しかしICD-10は反抗挑戦性障害を含める4つの疾患を行為障害の下位分類として定めている点が、DSM-5とは大きく異なっていると言えます。以下がICD-10の行為障害に含まれる下位分類の疾患です。1. 家庭限局性行為障害:家庭限局性行為障害とは家族が精神的にまいってしまうほどの、激しい家庭内暴力をおこしてしまう疾患です。この暴力的な行動は家庭内だけでみられ、学校生活や友人間では問題なくうまくやっていくことができることも特徴です。しかし、これらの家庭内暴力は統合失調症や強迫性障害、家庭関係がよくないことでおこる場合もあるため、見きわめることが重要です。2. 個人行動型行為障害:個人行動型行為障害とは、行為障害の症状を一人で行うことで診断される疾患です。つまり親しい友人がおらず、グループに所属しないことが条件であるといえます。3. 集団行動型行為障害:集団行動型行為障害は行為障害の症状を満たしているにもかかわらず、人間関係に問題を抱えておらず、友人がいることが特徴の疾患です。4. 反抗挑戦性障害:反抗挑戦性障害とは、親や教師など目上の人に対して拒絶的・反抗的な態度をとり、口論をしかけるなどの挑戦的な行動をおこしてしまう疾患です。反抗挑戦性障害は『DSM-5』では独立した疾患として扱われていますが、『ICD-10』では行為障害に含まれます。素行障害の合併症出典 : 素行障害の代表的な合併症として反抗挑戦性障害が挙げられますが、これは小児期発症型の素行障害をもつ子どもによくみられます。反抗挑戦性障害が重度になるにつれて素行障害の症状もあらわれてきてしまうのです。反抗挑戦性障害とは、親や教師など目上の人に対して拒絶的・反抗的な態度をとり、口論をしかけるなどの挑戦的な行動をおこしてしまう疾患です。合併してしまう主な原因は、自分より偉い人との間に挑戦的な感情をもってトラブルを起こしてしまうという、共通の症状があることと言われています。しかし素行障害は反抗挑戦性障害に比べて、人や動物に向けた殴るなどの攻撃的な行動や、物の破壊、または盗みや詐欺など違反行為がみられるため、両者をしっかりと区別することが重要です。また、そのほかの代表的な合併症としてADHD(注意欠陥・多動性障害)があげられ、ADHDをかかえている人が”人間不信的行動”という二次障害として素行障害を発症することがあります。大阪市立大学の児童精神科外来を受診した7歳から14歳のADHD41例を対象にした研究では、37%に反抗挑戦性障害が、22%に素行障害が認められました(Takahashi et al.,2007)。とは、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。 年齢や発達に不釣り合いな行動が、社会的な活動や学業に支障をきたすことがあります。人間不信的行動とは、自尊心・自己肯定感が低下して「自分はダメな人間かも知れない」と思い、「そんな自分のことを誰も理解してくれない」という気持ちから、周囲の人を信じれなくなったときに起こしてしまう行動のことを指します。ADHDを発症している人は、自分自身がADHDであることを認識していないケースも多く、周りから理解が得られていない場合も多いです。そのため知らない間に人間不信になり、素行障害を発症しているということも少なくないのです。その他にも素行障害は・うつ病や双極性障害などが含まれる気分障害・いきなり攻撃性が爆発したように発症する間欠爆発症・ストレスに適応できないためにさまざまな心身症状が表れる適応障害の合併のリスクも高いと言われています。その理由は怒りっぽい、気分の波が激しいなどの症状が一致している傾向にあるからです。ADHDから始まり、”人間不信的行動”という二次障害として反抗挑戦性障害、素行障害、反社会的パーソナリティ障害へと展開していくことがあります。この一連の流れは破壊性行動障害(DBD)マーチと呼ばれ齋藤万比古らによって発表された概念です。しかしDBDマーチに対しては様々な考えがあり、まだ確立していない概念であると言えます。参考:青少年の心の障害と自立支援l 国立国際医療センター国府台病院齊藤万比古素行障害が気になった時の相談先出典 : 素行障害は反抗挑戦性障害やADHD、うつ病などの、様々な合併症と関わりあっている場合が多く、年をとるにつれて症状が複雑化しやすい傾向があります。それに加えて年齢が上がってからの治療は、素行障害がある子どもが治療に対して抵抗することがあるため早期に診察・治療することが推奨されています。年齢相応の社会のルールを守ることができない、もしくは明らかに他者の人権を侵害していると考えられる行為を繰り返ってしまう場合は以下の相談先に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。■児童相談所:児童相談所は、すべての都道府県と政令指定都市に最低1つ以上設置されている児童福祉の専門機関です。主に、「子どもの養育に関する相談」、「障害に関する相談」、「性格や行動の問題に関する相談」などの育児に関する相談ができる機関となっています。全国児童相談所一覧l 厚生労働省■全国精神保健福祉センター:各県、政令市にはほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、予約制、健康保険の適応があるところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センター一覧l 厚生労働省■精神科:心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは具体的に不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などのことです。心の症状に対して治療を行います。■心療内科:心と体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。上記の心の症状だけでなく、ほてり、動悸などの身体的症状とその人の社会的背景、家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、素行障害の場合は精神科を受診しても、心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。素行障害の治療法出典 : 素行障害の治療法として主に薬物療法、ペアレント・トレーニング、認知行動療法など様々な方法が挙げられます。なぜなら素行障害を発症する原因は一人ひとり異なる場合が多く、その原因に応じた治療法が選ばれるからです。そのため素行障害では一人ひとりに合った原因をしっかりと特定し、根本的な治療をすることが大切になっていきます。■薬物療法:薬物療法に関しては素行障害の原因に直接的な効果を発揮する薬はまだ開発されていないため、興奮や衝動性などの症状を抑える薬が処方されます。■ペアレントトレーニング:ペアレントレーニングとは、保護者の方々が子どもと良好な関わり方ができるように学ぶ保護者向けプログラムです。親は子どもの反抗的な行動の動機、行動のパターンを理解・分析する訓練をすることによって、問題行動に対して上手く対応できることを目指します。具体的には以下のような基本的な考え方を導入することがあります。・子どもの良い行動をほめる・望ましくない行動をした場合定めたルールに沿って一貫した対応をする・達成しやすい指示をし、積極的にほめる機会を作る・指示をできるだけスモールステップで目標を定める■ソーシャルスキルトレーニング(SST):素行障害のある年少者本人に対する支援策として実施されることが多いトレーニングです。ソーシャルスキルトレーニングとは、人が社会でほかの人と関わりながら生きていくために欠かせないスキルを身につける訓練のことを指します。具体的には遊び、勉強、スポーツなどを通してゆっくりと社会性を身につけていきます。しかし根本的な原因の解消が難しい場合、例えば子どもがおかれている環境の改善が困難な場合などは、上記の治療法だけではなく自宅を離れて治療にあたることも考えられます。まとめ出典 : 素行障害は成長に見合った社会のルールを守ることができず、他者の人権を侵害する行為を繰り返し、持続して行ってしまう疾患です。症状が悪化することによって最終的には退学や職場適応の問題、性感染症、身体的負傷など様々な問題を引き起こしてしまう恐れもあります。一方で、素行障害は原因を早期に解明し適切に対処することができれば治療・改善していくことができる疾患です。素行障害の症状が当てはまる場合は身近にいる専門家に相談することをおすすめします。
2016年12月27日コミュニケーション障害とは出典 : 近年コミュニケーション障害は“コミュ障”として一般的に知られるようになりました。いわゆる“コミュ障”という言葉は、2ちゃんねるなどのBBS(掲示板)やSNS(ソーシャル・ネットワーク)で作られたネット用語です。この“コミュ障”の特徴としては、重度の人見知りで人とまともに話すことができない、緊張して異性と話すことをむずかしいと感じる、同じ言葉を連呼する、どもってしまう、他人に興味がなく自分の意見を押しつけてしまう、などの傾向にある人のことを指すことが多いようです。しかし医学的な観点から見たコミュニケーション障害は、この“コミュ障”とは少し異なります。アメリカ精神医学会による診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)においてコミュニケーション障害とは、ことばを扱うことに対して障害が発生する複数の疾患が一つにまとめられた、コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(Communication Disorders)という総称として認識されているのです。『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)/2014年医学書院コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群とはことばを扱って他者とコミュニケーションをとることに困難が生じる疾患群です。具体的には、・言葉を相手に伝わるように発声することが困難である・すらすら、止まらずに話すことが困難である・他の人と円滑に会話することが困難である・相手の話していることを上手くくみ取ることが困難である・正しい言葉の使い方をすることが困難であるといった症状が挙げられます。人は認知や発声など多くの機能・能力をつかって他者とコミュニケーションを図ります。そのためコミュニケーションに何かしらの障害が生じている場合は、特定された一つの原因が作用している訳ではありません。その上、発症する症状は疾患によってさまざまです。そこで症状に合わせた5つの疾患が定められ、コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群としてまとめられているのです。5つの疾患とは言語症、語音症、小児期発症流暢症(吃音)、社会的(語用論的)コミュニケーション症、および特定不能のコミュニケーション症群です。これらの疾患は主に幼児期、小児期、青年期に発症する傾向があり、成人になった後にいきなり発症することはあまり認められていません。本コラムではコミュニケーション症群/コミュニケーション障害群を、以下コミュニケーション障害と表記します。コミュニケーション障害の種類出典 : 言語症とは話したり、書いたりするために言語を取得することの困難さを特徴とする疾患です。それに伴い、使える語彙が少ない、正しい文章を作る力が弱く主語と述語の順番がぐちゃぐちゃになる、相手に自分の思ったことを正しく伝える表現力が弱いなどの症状が発生します。具体的には、・過去の話を話すことが困難である・話題に応じた適切な単語を選ぶことが困難である・電話番号や買い物リストを覚えることが困難である・一番伝えたいことをずれのないように伝えることを難しいと感じたりするといった症状が挙げられます。こうした症状は、その人の成長の段階に応じて、社会参加、学業成績、職業的能力など様々な場面に影響を与える傾向があります。言語症は通常発達期初期に発症することが多いため、言語症を発症しているのか、言語能力の取得のスピードの正常な範囲内での遅れであるのかが分かりにくい場合があります。そこで言語能力の個人差が安定すると考えられている、4歳を基準として診断することが多いです。4歳以降に言語症と診断された場合には個人差はありますが、成人期になっても持続する可能性があります。語音症とは、言葉をうまく発声できないことで引き起こる疾患です。語音症がある人が話している内容を周囲の人が完全には理解することができず、意思伝達が正しく行われない場合があります。語音症と診断される条件の一つとして社会参加、学業成績または職業的能力に対して少なからず1つ以上に影響が発生していることが挙げられます。人は話すとき、言葉がどういう響きを持つのかという音韻的知識と、会話のために呼吸と発声をしながら顎、舌、そして唇の運動を調整する能力の両方が求められます。語音症はこれらがバランスよく発達しない場合に引き起こされます。言葉の発音がその子の年齢及び発達と比較し、期待されるものになっていない場合に診断されます。症状の始まりは発達早期ですが子どもの成長スピードには個人差があるため、見極めの基準は3歳で分けられています。定型発達の場合、3歳では会話の大部分が分かりやすいものであることが求められます。また、8歳までにはほとんどの単語が正確に発音できることが求められますが、それまでに発音違いがある場合は正常範囲とみなされます。語音症は治療することができない疾患ではなく、治療をすれば会話の困難は改善することが多い傾向にあります。しかし、言語症が語音症と併存している場合は限局性学習症が発症していないかチェックする必要があります。『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)/2014年医学書院出典 : 小児期発症流暢症とは吃音(きつおん)とも呼ばれ、どもったり、会話の途中でいきなり話せなくなったりしてしまう症状を中心とした疾患です。2016年度の月9ドラマ『ラヴソング』にも取り上げられ知名度も上がっている疾患です。具体的には・あー、あーというように音声や音節を頻繁に反復したり、延長したりする・単語が不自然な区切りで途切れる・会話の途中でいきなり無言になる・過剰な身体的緊張を伴って話す・苦手とする言葉を避けた、遠回しの言い方を用いるなどの症状が挙げられます。小児期発症流暢症は人前に立つとき、就職の面接のときなどストレスや不安が伴う場面でより症状が重くなる傾向があります。一方音読したり、歌ったり、置物や動植物に話しかけるときは症状が現れないことが多いです。小児期発症流暢症を抱えている80~90パーセントの人が6歳までに発症しているといわれており、発症するときの年齢は2~7歳である場合が多いです。小児期発症流暢症は本人や周囲の人が気づかない間に急に発症する傾向があります。そのとき本人は急に話すことが苦手になってしまったことに戸惑いを感じ、徐々に人前で話す機会を避けたり、短く単純な発言を用いたりし始めます。最終的には社会との関わりをできるだけ断とうとする場合があります。しかし65~85パーセントの子どもたちが、小児期発症流暢症から回復するという研究結果もでており、決して症状の治療や改善ができない疾患ではないと言えるでしょう。またいわゆる“コミュ障”の主な症状であるどもりが、青年期またはそれ以降に出現する場合があります。それは小児期発症流暢症ではなく“成人期発症の非流暢性”です。これはその他の身体・精神疾患、神経損傷と関係している場合があるため、固有の疾患名は存在しません。『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)/2014年医学書院社会的(語用論的)コミュニケーション症は、社会生活においてのコミュニケーションを難しいと感じてしまうことが特徴の疾患です。本コラムは以下、社会的コミュニケーション症と記載します。代表的な症状としては以下の4つが挙げられます。1. 周りの人との挨拶、情報の共有など、社会生活を送る上で重要なコミュニケーションをとることが困難である2. 自身が置かれている状況に応じて適切な話し方を選択することが困難である話す相手が大人か子どもか、授業中と遊び時間など状況の変化に対して堅苦しすぎる言葉の使用を避けるなど、場面に応じてスムーズに話し方を変えることに難しさを感じる傾向があります。3. 人とコミュニケーションをとる上でのルールに従うことが困難である相手の話を聞かず自分の話ばかりしてしまったり、相手の理解を得られていないにもかかわらず繰り返しの説明を避けてどんどん話を進めてしまったり、身振り手振りのコミュニケーションを理解できなかったりすることが挙げられます。4. 相手が言いたいことを推測、察することが困難である相手がはっきりとは言わないけれど何かを要求している”ほのめかし”、論理的では無い文脈や、たとえ話などの曖昧な言葉の理解ができない場合があります。社会的コミュニケーション症がある人は過去に言語の発達に遅れがあったり、言語症を患っていた場合もあります。また重度の症状になると、コミュニケーション上の失敗を恐れ、徐々に社会的な関わりあいを避けるようになる傾向もあります。社会的コミュニケーション症は社会生活における、高度なコミュニケーションスキルに影響を与える疾患です。そのため言語や社会的交流がより複雑になる青年期早期まで発症していることが分からない可能性もあります。上記の疾患のどれにも当てはまらないけれど、日常生活においてコミュニケーションの障害が引き起こされたり、コミュニケーション症に特徴的な症状が発症していたりする場合に診断されます。コミュニケーション障害とその他の疾患の違い出典 : コミュニケーション障害は一般的にアスペルガー障害や自閉症と呼ばれる広汎性発達障害の特性に伴うものや、他の精神疾患、知的能力障害に伴うものには含まれません。しかし他の精神疾患、知的能力障害から生じることばの障害の症状よりも、明らかにコミュニケーション障害の症状が重度である場合があります。その際にはコミュニケーション障害を併存・合併していると判断されます。コミュニケーションに困難が発生するといわれている代表的な疾患として以下のものが挙げられます。■医薬品の副作用:医薬品の副作用としてどもりなどの吃音が生じる場合があります。■構造的欠陥:口蓋裂(こうがいれつ)などにより、会話をすることを困難に感じることがあります。口唇口蓋裂についての基礎知識l 愛知学院大学■構音障害:構音障害とは脳性麻痺によって音を作る器官やその動きに影響が与えられ、発音がうまくできない状態が引き起こされる疾患です。■選択性緘黙(かんもく):選択性緘黙とは1つまたは複数の状況や環境で会話ができず、黙り込んでしまうことが特徴の不安症の一つです。選択性緘黙を抱えている人の多くは、家庭内や親しい友人と一緒にいるなどの安心できる状況下では正常な会話ができることが多いです。■トゥレット症:児童期から青年期にみられるチック症の一種で、多様な「運動チック」と1つ以上の「音声チック」が1年以上持続することを特徴とする精神・神経疾患です。この疾患は小児期発症流暢症の反復的な音声と似ている症状であるため注意が必要です。■自閉スペクトラム症:自閉症スペクトラム障害とは対人コミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動がある障害です。自閉スペクトラム症では、行動、興味、及び活動の限定された反復的な様式が存在し、社会的コミュニケーション症ではそれらの症状がが存在しないことで区別されます。■社交不安症:社交不安症とは、対人関係に対する不安、恐怖、そして苦痛のためコミュニケーションスキルが発達しているにもかかわらず、人と会話をすることに問題を抱えてしまう精神疾患です。コミュニケーション障害の原因出典 : コミュニケーション障害の原因はストレスや、遺伝など諸説ありますが未だ明確にされていないのが現状です。その理由として対人コミュニケーションを取る際に必要となる能力の種類の多さが挙げられます。人は認知などの脳の働きや、聞く・発声するなどの運動能力など、様々な能力をつかって他者とコミュニケーションを図ります。そのためコミュニケーション障害が生じている場合は、一人ひとりの背景に異なった原因があると考えることが大切です。その事例としてSLP(Speech Language Therapist)が行っている、コミュニケーション障害の診断評価が挙げられます。SLPとは、アメリカで主に活躍していると呼ばれる言語に関する療法を行う専門家です。そこでの分析の手法はSLPの数だけ、患者の数だけあると言われており、コミュニケーション障害の原因は多様に広がっていることが分かります。についてl The Nemours Foundation子どもの言語・コミュニケーション障害の臨床と語用論/ 大井学/ 金沢大学1994年コミュニケーション障害の相談先出典 : コミュニケーション障害は幼少期・小児期・青年期初期に主に発症する疾患ですが、決して症状の治療・改善ができない疾患ではありません。例として小児期発症流暢症を挙げると65~85パーセントの子どもたちが回復するという研究結果がでています。しかし年齢が上がってからの治療は、子どもがすでに話すことに対して強い抵抗感を覚えてしまい、治療が思うように進まない可能性があるため、早期に診察・治療することがすすめられています。コミュニケーション障害の場合は以下の相談先に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。■児童相談所:児童相談所は、すべての都道府県と政令指定都市に最低1つ以上設置されている児童福祉の専門機関です。主に、「子どもの養育に関する相談」、「障害に関する相談」、「性格や行動の問題に関する相談」などの育児に関する相談ができる機関となっています。全国児童相談所一覧l 厚生労働省■全国精神保健福祉センター:各県、政令市にはほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、予約制、健康保険の適応があるところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センターを探すl 厚生労働省■耳鼻咽喉科:言語聴覚士がいるケースも多いですので、吃音の場合でも耳鼻咽喉科に行く場合もあります。特にお子さんが吃音の場合は耳鼻咽喉科をご選択ください。■精神科:心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは具体的に不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などのことです。心の症状に対して治療を行います。■心療内科:心と体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。上記の心の症状だけでなく、ほてり、動悸などの身体的症状とその人の社会的背景、家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、コミュニケーション障害の場合は精神科を受診しても、心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。コミュニケーション障害の治療方法出典 : コミュニケーション障害の治療方法として投薬による治療法と、精神療法が主に挙げられます。投薬に関しては現在研究中の段階であるため、コミュニケーション障害を直接的に治療する薬が処方されることはあまりないでしょう。しかし明らかに精神的な問題によって、どもりなどのコミュニケーション障害の症状が出ているという場合は、気分安定剤、抗不安薬などを処方される場合もあります。また、コミュニケーション障害のストレスによって発症する不安障害やうつ病などの二次障害には個々の症状にあった薬を処方されることがあります。コミュニケーション障害の治療のための精神療法として、認知行動療法が挙げられます。認知行動療法とは物事の受け止め方や考え方である“認知”に働きかけ、こころを楽にする療法の一つです。人間はストレスとなる出来事が起こると、それを認知し、認知が感情・気分や行動にも影響を及ぼすようになっています。認知行動療法では、認知を通して、人間の感情・気分と行動の両方にアプローチし、良い循環を起こせるように働きかけていきます。コミュニケーション障害はストレスや不安により更に症状が悪化し、最終的に重度のコミュニケーション障害を抱えている人は社会との関わりを避けるようになる傾向があるといわれています。そこで認知行動療法を行うことによって、コミュニケーション障害によって引き起こされるネガティブな感情やストレス、ことばを扱うことへの不安感を軽くすることを目指します。また、子どものコミュニケーション障害の治療として言語能力を鍛えるために読書や計算問題を繰り返し解く方法も行われています。発達障害のある子どもに見られるコミュニケーションの特徴l LITALICOジュニアまとめ出典 : コミュニケーション障害とは、人前でしゃべったり、人と会話したりするときに、自身が思った通りに話すことを苦手とする複数の疾患が一つにまとめられた総称です。言語症、語音症、小児期発症流暢症(吃音)、社会的(語用論的)コミュニケーション症、および他の特定されるまたは特定不能のコミュニケーション症群が含まれており原因や治療法は様々です。コミュニケーションは語彙の知識、認知や発声など多くの能力を必要とする行為です。上手く話すという基準は人それぞれであり、話すということにはその人の個性が出ます。話すということに対して、周囲と比べて過度に劣等感を感じたり、考えすぎたりするのではなく、自分に合った話し方を探していくと良いでしょう。また、周囲の人も、「話し方はこうあるべき」という基準を押し付けず、その人の話し方と、自分の話し方の違いを尊重し合いながらコミュニケーションを試みて行きましょう。しかし、話すことの抵抗感がとれず、日常生活や身体の調子に支障が出ているなどの場合は、早めに専門家に相談して、適切なサポートを受けることをお勧めします。
2016年12月25日生理の遅れから、多くの女性が妊娠に気付くのは妊娠2ヶ月目以降です。妊娠2ヶ月とは、妊娠週数でいうと妊娠4週目、妊娠5週目、妊娠6週目、妊娠7週目にあたります。着床からおなかの中で赤ちゃんとして生命が育まれる大切な時期といえるでしょう。妊娠が判明してうれしい半面、精神的にも情緒不安定になったりしやすい時期でもあります。妊娠2ヶ月目の女性は何に気をつければよいでしょうか。症状や注意点をご紹介します。妊娠2ヶ月目に見られる体の変化■生理がこない生理が来ないことで妊娠に気付く方も多いでしょう。生理の周期が28日など定期的であれば、遅れに気付くことは難しいことではありません。しかし、生理の周期が不安定なのであれば、必ずしもこの時期に妊娠に気付くわけではありません。場合によっては妊娠3ヶ月、妊娠4ヶ月…まで気づかないケースも。■熱っぽい黄体ホルモンの分泌から、高温期が続きます。高温期が続くことで熱っぽいと感じる方も多いでしょう。通常であれば、生理とともに高温期は終了しますが、妊娠をしている場合、胎盤が作られる妊娠12~15週まで高温期が続きます。常に微熱があるように感じてしまうのはこのためです。身体が内側から火照るような感覚になります。■眠い高温期が続き体温が上がっていることから、いつもよりも眠気を多く感じる方が多いようです。また、妊娠初期に分泌されるホルモン自体も眠気を生じさせるといわれています。眠い時には無理をせず仮眠をとるのが一番ですが、仕事をしているなど、自由に仮眠が取れない方も多いと思います。少しでもよいので目をつぶったり、頭を休ませたりすると、よいかもしれません。■妊娠初期は情緒不安定にも月経前症候群(PMS)はご存じでしょうか。生理前に黄体ホルモンの分泌により、イライラしたり感情的になったり落ち込んだり。妊娠初期では、ホルモンの分泌により、月経前症候群の状態がずっと続くということになります。ホルモンの影響に加えて、出産への恐怖、赤ちゃんを育てるプレッシャー、金銭的な心配など、妊娠の発覚には喜びと共に大きなストレスもつきものです。必要以上に心配せず、出産までの間に徐々に準備を進めましょう。不安やストレスを感じたら、妊娠初期は特に精神的に不安定になりやすいと自覚を持って、無理をしないように準備を進めてください。▼関連記事 ホルモンが増え体や心に変化が! つわりの症状も妊娠2ヶ月目から妊娠2ヶ月目からつわりの症状が出始めることもあります。つわりには、さまざまな理由が考えられます。ホルモンの急激な分泌はそのひとつです。精神面だけではなく、身体的にも不快感を与えることがあります。妊娠初期の5~6週ごろになると、つわりの症状が現れ始めます。妊婦さんにより個人差はありますが、吐気や嘔吐が多くなる吐きづわり、食欲が旺盛になる食べづわりなどのほか、食べ物の嗜好の変化、嗅覚の変化、1日を通しての食欲不振などがあります。つわりの原因は解明されていませんが、大きな見解としては、ママの体が栄養不足の際に症状が悪化するような傾向があります。つわりは病気ではなく、妊娠の生理的現象ですが、つわりの症状が悪化し、食事や水分を摂取できなくなったら、受診が必要があります。▼関連記事 妊娠するとなる、つわりってどんな症状? 原因は? 妊娠の初期症状がない場合も何も妊娠初期の症状が出ない、という場合も産婦人科にかかり、問題なく着床、成長の確認ができていれば心配は不要です。全員が全ての妊娠の兆候に当てはまる訳ではありません。全くつわりがないからといって、赤ちゃんが成長していないという訳ではありません。▼関連記事 妊娠初期症状がないのはおかしいこと? 妊娠検査薬で陽性! 初めての産婦人科、健診の内容とは?妊娠検査薬で陽性反応も出て、いよいよ妊娠を確信しました。正常に妊娠が進行しているか、産婦人科で診察を受けましょう。初めての産婦人科ともなると緊張するものですね。まずは、そもそも本当に妊娠をしているのか、そして正常に妊娠をしているのかを調べる検査が行われます。再度尿検査を行う場合と、市販の検査薬で陽性が出ているとを伝えると、内診やエコーの検査へ進む場合もあります。検査に不安のある場合は、あらかじめ受診予定の産婦人科に聞くとよいでしょう。▼関連記事 妊娠初期検査。妊婦健診って何をするの? 妊娠6週以下の場合は、胎嚢がうまく確認できない場合もあります。その場合は、1週間後に再受診となります。胎嚢、そして心拍が確認できると妊娠確定となります。子宮内膜ではなく卵管や卵巣のまわりに着床してしまう子宮外妊娠(異所性妊娠)になってしまうと、生理予定日の1週間後くらいからピンク色のおりものや少量の出血が続き、下腹部の痛みが生じるため生理と勘違いすることもあります。放置すれば受精卵の成長とともに症状が強まり、卵管流産や卵管破裂によるショック症状を引き起こすので、一刻も早い処置が必要となります。▼関連記事 「子宮外妊娠」に関する記事一覧 ■妊娠6週の赤ちゃんの成長は?妊娠6週の赤ちゃんは、頭殿長(頭からお尻までの長さ)がまだ1cmにも満たない大きさです。しかしこの時期は、「器官形成期」と呼ばれ、体の重要な器官が形成される時期なのです。目、口、鼻をはじめ、手や足、指の原型となる小さな芽がかたち作られていきます。さらに耳の神経や脳、脊髄、生殖器も急速に発達します。心臓・腎臓・肝臓などの臓器が形成され始めるのもこの時期です。母子手帳はいつ、どこでもらえるの?妊娠確定となったら母子手帳を受け取りましょう。母子手帳はお住まいの自治体の役所の窓口に「妊娠届出書」を提出すると交付されます。「妊娠届出書」には、「妊娠週数」「出産予定日」「妊娠の診断を受けた医療機関名」などの記入が必要です。印鑑や医療機関の証明書は必要ありません。▼関連記事 「母子手帳」に関する記事一覧 妊娠初期に運動してしまった! 赤ちゃんへの影響は?赤ちゃんができたことを知らず、今まで通りの生活を続けてしまっていたという方も多いのではないでしょうか。いつも通りにジムに行ってしまったという方や職業上少々ハードに動いてしまったという方は心配もあるでしょう。以前は、妊娠初期は安定期に入るまでは運動はしてはいけないなどと言われてきました。実際は妊婦本人の体調が悪くなければ、軽く体を動かすのは問題ありません。妊娠が判明してから以降は、事故や強い接触などを避ける意味でも激しい運動は避けた方がよいでしょう。普段運動する習慣があっても、走る、ジャンプするといった激しい運動は控えるようにしましょう。妊娠初期は、胎盤が完成していないので流産をしやすい時期といえます。運動不足と感じる方には軽いウォーキングがおすすめです。▼関連記事 妊娠初期に運動をしても大丈夫? 妊娠後も仕事は続けたい!働く女性が増える中、臨月まで仕事を続けるケースも珍しくはなくなりました。妊娠初期だとまだまだ外見ではわかりにくく、本人も仕事ができるうちはまだバリバリと働きたいと希望する方も多いでしょう。安定期に入る前に職場に妊娠の報告をするのは気が引けてしまうかもしれません。しかしその半面、妊娠初期こそつわりの症状も出やすく、赤ちゃんの器官形成期で大切な時期ともいえますので、業務の負担を軽減するお願いが必要かもしれません。職場の雰囲気や業務内容、また体調により、報告のタイミングを決めるのは自分以外にありませんが、あくまでも無理は厳禁です。職場に配慮しつつも、おなかの赤ちゃんは自分で守るという強い意思表示は、この先、出産後にもきっと役立つでしょう。▼関連記事 妊娠初期に仕事をしていても大丈夫? 妊娠しているとは知らずに薬を飲んでしまった!だるい、熱があるのではないかと妊娠初期に風邪薬を飲んでしまうこともあるでしょう。市販薬であれば、きちんと用法・容量を守って服用していれば、お腹の赤ちゃんの成長へ影響を及ぼすことはありません。しかし、胎盤が完成する前の妊娠初期の段階では、胎盤に備わるフィルター的な機能も未完成で、胎児を巡る血液は母親の血液になります。妊娠判明後は、風邪や頭痛などの不調でも、かかりつけの産婦人科に相談しましょう。▼関連記事 妊娠初期に市販の薬を飲んでも大丈夫? 妊娠中のお酒とタバコの本当のところ妊娠がわかったとはいえ、今まで続けてきた飲酒や喫煙を急に控えるのは難しいかもしれません。お酒やたばこが、赤ちゃんに悪影響を及ぼすとわかっていてもやめられないという方もいるかもしれませんね。では、お酒、タバコは実際にどのように赤ちゃんに悪影響を与えてしまうのでしょうか。おなかの中で何が起きるかをしっかりと知ることで、控えることができるかもしれません。▼関連記事 「妊娠中に飲酒しない」ことが大切な理由とは タバコは一度吸い始めてしまうと、常習性が身についてしまう可能性も大きいものです。しかし、喫煙により摂取するニコチンやその他の有害物質は確実におなかの赤ちゃんにも届きます。特に妊娠初期では、母親の血液が大事な器官を生成する元となるのです。▼関連記事 ママが「妊娠を機に禁煙する」ことが大切な理由とは 妊娠2ヶ月、週数別の注意点では、細かく妊娠週数別にママの症状や胎児の様子を見て行きましょう。■妊娠4週生理が止まります。高温期が続き、眠気やだるさを感じます。赤ちゃんは、早くも脳・脊髄・心臓・中枢神経など生命としてのベースがつくられます。この時期は、まだ「胎芽」と呼ばれます。▼関連記事 妊娠4週 ■妊娠5週胸が張るなどの症状も。子宮が大きくなり、チクチクとした痛みを下腹部に感じることもあるでしょう。胎芽の大きさは約1.5ミリ程度。胎嚢という袋に入っています。人類の進化を追っての成長が見られる時。頭部と腹部がはっきりとわかるようになります。▼関連記事 妊娠5週 ■妊娠6週黄体ホルモンの分泌が続き、さらに高温期も続きます。体の不調と共に精神的にも不安定になりやすい時期です。胎児には、心拍が確認されはじめる時期。心拍が確認されると初期流産の確立がぐっと下がります。目・鼻・口などのパーツも徐々に成形されます。▼関連記事 妊娠6週 ■妊娠7週つわりが始まるころです。吐き気・おう吐・食欲不振、もしくは食べづわりの症状が出る場合があります。妊娠前と味覚や嗜好が変わることもあるでしょう。胎児は14ミリ程度にまで大きくなっています。エコーでも赤ちゃんとわかる姿に成長しています。▼関連記事 妊娠7週 一気に器官形成が進み各パーツもハッキリ 妊娠2ヶ月のエコー(超音波)写真 妊娠、出産までの費用とは?妊娠が確認できたら、気になるのは実際にかかる費用や金額。出産まで一体いくら費用がかかるのでしょうか。入院、出産にかかる金額は地域などにより違いがあります。東京都の平均が平成25年調べで約59万円でした。分娩や入院にかかる費用以外にも、毎月の定期検診代、マタニティ用品代、ベビー用品やオムツ代などの費用も考慮しなければなりません。家庭によって、必要なものも変わります。自分の家庭で必ず必要なものを書きだしてみましょう。また、出産育児給付金など自治体からの給付金と支払いの手続きも確認しましょう。▼関連記事 妊娠がわかったら、妊娠・出産にかかる費用の相場をチェック まとめ妊娠初期は、流産しやすい時期でもあります。流産は全妊娠の約15%に起こることで、そのうち約80%が12週未満。これらの流産の多くは胎児の染色体異常によるものなので、残念ながら、避けがたいこと。妊婦さんのせいではありません。2ヶ月目だと、つわりなどの症状が出始めたとしても、まだまだおなかの中に赤ちゃんの存在を実感できないかもしれません。しかし、この4週間で赤ちゃんは驚くべき成長を遂げています。妊娠することで、身体的にも精神的にもさまざまな変化が訪れます。また、生活も妊娠前とは変ってしまいますが、変化に目を向けつつもマタニティライフを楽しみましょう。
2016年12月23日子どもの低緊張とは出典 : 低緊張とは、自分の体を支えるための筋肉の張りが弱い状態のことをいいます。専門的には、筋緊張低下症といわれており、その状態の子どもをフロッピーインファント(floppy infant)ということもあります。フロッピー(floppy)とは「ぐにゃっとした」、インファント(infant)は「子ども」という意味で、それらをつなげた言葉です。低緊張の子どもは、姿勢がよくなかったり、体がふにゃふにゃとしていたりするという印象がもたれます。というのも、低緊張の子どもは体を支えるための筋肉の張りが弱く、思うように体の動きをコントロールすることができないためです。低緊張の子どもは、体の筋肉の張りの弱さゆえに、運動発達に遅れがみられる傾向にあります。首や腰がすわるのが遅れることにより、その症状が顕在化し、乳幼児健診の際に医師から指摘されることが多いようです。低緊張には2つの種類があります。一つめは、良性筋緊張低下症といわれるもので、生後間もなくは、体がだらんとした状態にあるものの、発達の経過とともに低緊張が改善される場合です。二つめには、何らかの疾患や障害があり、その症状の一つとして体がだらんとした低緊張の状態が現れる場合です。例として、筋ジストロフィーやダウン症候群などが挙げられます。体がふにゃふにゃしている、長い間立っていられない、など低緊張の状態に気付いた場合には、原因となる疾患や障害がないかどうか調べ、専門的なアプローチを行うことが必要です。疾患や障害の程度にもよりますが、適切なリハビリを行い、筋肉を十分に使うことで少しずつ改善されていきます。低緊張の子どもの具体的な症状出典 : 低緊張の具体的な様子を知る前に、体の筋肉の緊張について理解しておくとよいでしょう。筋肉の緊張は、テントの張りに例えられます。テントがきちんと立つためには、適当な力でロープを張らなければなりません。ロープが緩んでいる状態だとぐらぐらとしてしまいます。筋緊張が低いお子さんの場合は、ロープの役割をする筋肉の張りが弱いために、テントとなる体は不安定になります。低緊張の子どもの特徴としては以下のようなものが挙げられます。◇口元・よだれがよく出る◇姿勢・うつぶせの姿勢から手だけで体を起こそうとする・立ち上がるときに、足の小指が浮いている・移動するときに、おしりを床につけてずりばいする・歩くときにおしりを後ろに突き出し、足を横に大きく広げている◇関節の極端な柔らかさ・足首を曲げたときに、足の甲がすねにつく・手のひらを内側に曲げたときに、腕につく低緊張の子どもの中には、同時に関節や靭帯(じんたい)の機能が弱い場合もあり、股やひざの関節に脱臼(だっきゅう)を起こすことがあります。足や手の左右に形の差がないかどうかを確認してみてください。立てた膝の高さや、足や手のしわが非対称の場合には、脱臼を起こしている可能性があります。低緊張の子どもは動くのを嫌がることがあります。筋肉の張りが弱く、体がぐらぐらとするために体を動かすことに対して不安を抱きやすいのです。また、低緊張の子どもは、疲れやすいという特徴もあります。というのも、不安定になる姿勢をなんとかまっすぐに保とうとするために、力が入る部分を過度に緊張させるからです。そのような行為が生活の中で幾度となく繰り返されるため、体の筋肉がアンバランスになることもあります。安藤忠/編『新版ダウン症児の育ち方・育て方』2002年 学研/刊 p173-175低緊張に関わる疾患、障害出典 : 低緊張には二つの場合があります。一つは、病気が原因ではなく、単に筋緊張や筋力が弱い場合です。このタイプの低緊張は、時間の経過とともに筋肉の緊張は元通りになります。二つ目には、疾患、障害の症状の一つとして低緊張が現れている場合です。それらは、筋肉に関する疾患、染色体異常による症候群、中枢神経系の障害という3つに分けることができます。このタイプには、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、先天性筋強直性ジストロフィーなどの病気が含まれます。これらは、筋細胞膜を安定させる遺伝子が変異することによって筋肉の性質が変わったり、壊れてしまったりする疾患です。筋力の低下により、体がだらんとする低緊張の症状が現れます。また、他に見られる症状としては、母乳やミルクがうまく飲めない、呼吸困難がある、転倒しやすい、などが挙げられます。疾患が進行して筋力が低下すると、体の力が入らなくなったり、歩けなくなったりなど体の各部分の運動機能に障害がみられるようになります。合併症がある場合もあります。具体的に合併しやすいのは、中枢神経の障害や難聴、知的障害、発達障害、けいれん、白内障や網膜症などです。筋ジストロフィー/医学小知識通常の場合、人には46本の染色体があります。ですが、何らかの原因により染色体に異常が起こると、その数が多くなったり少なくなったり、変形したりします。染色体の異常は、妊娠中または出生後まもなく、血液検査により発見されることが多いです。染色体異常があって生まれた子どものうち、低緊張の状態が表れるのは、ダウン症候群、プラダー・ウィリ症候群などです。◇ダウン症候群通常、21番目の染色体が1本多くなっていることから「21トリソミー」とも呼ばれます。筋肉の緊張度が低く、場合によっては知的な発達に遅れなどを特徴とする症候群です。心疾患などを伴うことも多いです。ダウン症の出現率は、国や人種によらず800~1000人に1人といわれています。◇プラダー・ウィリ症候群低緊張、また、お乳を吸うための筋肉が弱い哺乳障害、幼児期からの過食と肥満、発達の遅れ、低身長などを特徴とする症候群です。15000人に1人の頻度で発生します。ダウン症を授かったご家族へ|公益財団法人 日本ダウン症協会プラダー・ウィリ症候群|難病情報センター中枢神経系の障害とは、脳の機能に障害が起こることです。脳の中枢神経系が未成熟な場合には、発達全般に遅れが生じます。筋肉の緊張が低く、だらんとした姿勢になることがあります。運動発達面の他には、言語、認知面にも遅れが生じる場合があります。低緊張が引き起こる中枢神経系の障害には主に以下の2つが挙げられます。◇脳性まひ中枢神経系の障害の一つです。脳性まひは出生前、もしくは直後に脳のダメージを受けることにより起こる運動障害のことです。同時にてんかんや知的障害を併発する場合もあります。◇広汎性発達障害・自閉症スペクトラム障害アスペルガー症候群などを含む広汎性発達障害(『DSM-5』では自閉症スペクトラム障害と診断名が変更されました)のある子どもの中には、身体的発達に遅れが見られる場合もあります。身体的発達の遅れている子どもが、同時に低緊張の状態を見せることがあります。広汎性発達障害・自閉症スペクトラム障害に関して、その特徴や診断方法が以下のページに詳しく載っているので、ご覧ください。筋疾患患者の診察|国立精神・神経医療研究センター病院乳児健診で運動発達遅延を指摘されたフロッピーインファントの神経学的予後について低緊張が心配な場合には、専門家に相談を出典 : 低緊張かな、と思った場合や子どもの発達について気がかりなことがある場合には、以下に紹介する専門機関に相談するとよいでしょう。診断や医学的な診察を受けたい場合には、小児科へいくとよいでしょう。運動発達以外にも心配がある場合には、子どもの発達に関する悩みごとの相談にも乗ってくれます。また、子どもの発達に詳しい療育機関などの情報も持っており、地元の専門機関を紹介してくれる場合もあります。行政や自治体が実施主体となって行っている事業です。子育て中の親子が気軽に集い、交流や子育ての不安・悩みを相談できる場を提供することを目的として各地域に設置されています。無料で相談をすることができます。リハビリを受けたい場合には、ここに相談をしてみましょう。0~17歳の児童を対象として、育児の相談、健康の相談、発達の相談など、さまざまな相談を受け付けています。必要に応じて、発達検査を行う場合もあり、無料で医師や保健師、心理士、言語聴覚士などから支援やアドバイスをもらうことができます。基本的に予約制なので、あらかじめお住まいの市町村のHPなどを見て確認するようにしましょう。児童発達支援施設とは、小学校就学前の6歳までの障害のある子どもが主に通い、支援を受けるための施設です。日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、保育園や幼稚園のように遊びや学びの場を提供したりといった障害児への支援を目的にしています。児童発達支援は、支援が必要であると認められた未就学の障害のある子どもが対象の福祉サービスです。利用は有料となりますが、自治体に申請を出し、通所受給者証を取得することで、1割以下の自己負担でサービスを利用することができます。受給者証の取得については、以下で詳しくご紹介しています。また、以下のリンクから、全国の子どもの発達支援を専門に行っている施設や機関を検索することができます。児童発達支援事業所の情報|LITALICO 発達ナビ低緊張の治療法って?出典 : 低緊張が、何らかの疾患が原因となっている場合には、もととなる疾患に対する治療行為を行うことで、体の機能を向上させることを目指します。また、低緊張そのものを改善するために、理学療法と呼ばれるリハビリを行うことも多いです。筋肉の緊張を含めて、体の機能全体を向上を目指した支援を受けることができます。理学療法は、運動機能に改善の余地のある人に対して、体を動かしたり、筋肉に電気や熱をあてたりするなどして、運動機能を向上する治療法です。理学療法では、生活をする上で欠かせない基本的な動きをスムーズにこなせるようにリハビリを行います。例えば、歩く、座る、立ち上がる、寝返りをうつ、などです。リハビリを行うことで、全身の筋肉の活動を活発にしていき、運動能力の向上や、血流の改善といった効果を目指します。理学療法を行うのは、国家資格をもつ「動作のプロ」と呼ばれる理学療法士です。乳幼児期には、寝返り、お座り、ハイハイなどの基本動作をできるようになるための訓練を行います。そして、幼児期から学童期にかけては、歩行や走行、階段の上り下り、ボールを使った遊びなどをしながら、体を大きく動かす運動を中心に行い、体の不器用さを軽減するためにリハビリを行っていきます。また、施設によっては、リハビリだけではなく、ご自宅や学校などで行えるトレーニングや、生活で取り入れられる工夫の提案や、必要に応じて靴や椅子などの補装具の検討などを行ってくれる場合もあります。理学療法を受けたい場合には、かかりつけの主治医や、市町村保健センターや保健師へご相談ください。まとめ出典 : この記事では、低緊張の子どもの具体的な症状、発達障害との関連、治療法、相談先などをご紹介しました。低緊張とは、自らの体を支える筋肉の張りが弱い状態であり、その後の運動面の発達に影響を及ぼします。低緊張の子どもは、自分の体を支えるための筋肉の張りが弱いために疲れやすく、動くことを嫌がることもあります。周囲の大人が無理に動くことを強要するのではなく、低緊張ゆえに生じる疲れや心理的な不安を理解してあげることが大切です。体の基礎となる筋力は理学療法などの専門的なリハビリだけでなく、遊びを通して養うこともできます。保護者が抱っこして、くるくる回ったり、おんぶをして背中にしがみついたりするなど、大人が子どもの体を支えながら、自分の体を使う経験をさせてあげましょう。
2016年12月15日軽度知的障害とは?出典 : 軽度知的障害とは、発達期までに生じた知的機能の障害により、知的発達が実年齢よりも低い知能指数(IQ)50~69の水準にとどまり、適応能力は正常またはやや遅れがある状態を指します。ことばや抽象的な内容の理解に遅れがみられることがありますが、身の回りのことはほとんど一人で行うことができます。学業面では遅れを感じることもありますが、年齢を重ねながら考える力を身につけられます。よって幼少期には気づかれにくく、小学校高学年~中学生までの間に軽度知的障害と分かる場合もあります。またストレスなどによる二次障害や自閉症スペクトラム障害などの合併症を伴っていることもあり、二次障害や合併症の方が目立って表出しているケースもあります。なお発達期とはおおむね18歳までを指し、それ以降に事故や病気などで知的機能の低下が発症しても、知的障害および軽度知的障害とは言いません。現在の精神医学書で使われている知的障害の定義は、アメリカ精神遅滞協会が提唱した定義を参考にしていることが多くなっています。以下はアメリカ精神遅滞協会が定めた定義です。知的障害は、知的機能および適応行動(概念的、社会的および実用的な定期追うスキルで表される)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は、18歳までに生じる (AAMR,2002)知的障害は、染色体異常を原因とするダウン症のように出生後にすぐ診断できる疾病に合併する場合もあれば、自閉症のように生後すぐには診断できない障害に合併することもあります。出典:ICD-10精神および行動の障害-DCR研究用診断基準 新訂版 (2008)|中根 允文知能指数とは人の知能の基準を数値化したものです。ここでいう知能(IQ)とは、いわゆる学力ではなく、目的に沿って合理的に考え、効率的に環境を処理する総合的な能力のことをいいます。IQ90~109が平均の知能指数であり、そこからどのくらい高いか・低いかと考えます。軽度知的障害のある人は、概ね知能指数(IQ)が50~69にとどまると考えられています。適応能力とは身辺の自立(食事・着替え・排泄など)や家事、社会的な対人関係の構築、読み書き・コミュニケーションなど日常生活や社会生活上における全般的な能力のことを指します。能力の測定は、自分の強み・弱みを理解するために行います。出典:主な心理・発達検査の種類と特徴・WISC-Ⅲの概要出典:ICD-10精神および行動の障害-DCR研究用診断基準 新訂版 (2008)|中根 允文Upload By 発達障害のキホンこの図は知的障害の程度・区分を示した図です。横軸に「日常生活能力水準」、縦軸に「知能指数(IQ)」の程度を表しています。日常生活能力水準がaに近づくほど自立した生活が難しく、dに近づくほど自立した生活ができることを表します。同様にⅠに近づくほどIQが低く、IVに近づくほどIQが高くなります。知的機能が低かったとしても日常生活への適応能力が高ければ、ひとつ軽度の程度で判断されることがあります。IQ36~50の方でも生活能力が高ければ軽度知的障害に含まれます。一方で、IQ51~70の方でも日常生活への適応能力が低い場合は、中度知的障害に含まれる場合もあるということです。このように、知的障害は知的機能検査だけで判断されるわけではなく、知的機能と適応機能の2つが評価された上で診断が下されます。またこの程度を分類する方式は、療育手帳を取得する際にも用いられています。療育手帳については8章で詳しく説明していきます。軽度知的障害の原因って?出典 : 知的障害の原因は一つではなく、原因不明の知的障害の人も多いとされています。原因解明の研究が進んでいますが、現段階では内的原因と外的原因に分類することができるといわれています。内的原因とは遺伝子や染色体の異常など、子どもが先天的にもつ原因のことをいいます。病気や外傷など脳障害をきたす疾患で、これらの合併症として知的障害が一緒に起きることを病理的要因と呼びます。この中にはてんかんや脳性まひなどのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。軽度知的障害および知的障害の原因の約8割が出生前に発生していることが分かっており、以下のような疾病があげられます。・ダウン症・多因子性疾患・てんかん・脳性まひなどまた、中には特に疾病名などがなくても内的原因によって知能水準が知的障害の範囲内にあるといった場合もあり、生理的要因と呼んで区別されます。外的原因とは出生前後に起こった事故や養育環境などによる外的な要因が、原因となることをいいます。具体的には出生前に母体を通じて感染症や薬物・アルコールなどの大量摂取などにより、子どもに影響を及ぼす場合があります。中には軽度知的障害だけでなく、発育の遅れや中枢神経に何らかの異常をきたす恐れもあります。また出産時のトラブルでの頭蓋内出血、出生後の感染症への感染、交通事故などによって意識を失うほどの頭部外傷が原因になることもあります。このことを環境要因と呼びます。・感染症・出産時、出産後に起こった頭部の外傷・出産時のトラブルなど出典:知的障害のことがよくわかる本軽度知的障害の特徴の現れ方出典 : 軽度知的障害は知的機能と適応能力にやや遅れがあるものの、身の回りのこと(食事・洗面・着衣・排泄など)は自分で行うことができます。空間・時間・数量の認識に特徴はありますが、自ら学び取る力もあり、経験を重ねることで得られる知識や学びは広がります。軽度知的障害の方は空間・時間・数量の認識にどのような特徴があるのでしょうか。順番に説明していきます。◆空間の認識:「今いる場所」「何度か行った場所」「行ったことがない場所」と、自分と空間の関係を分類した場合、軽度知的障害の方は、自分が行ったことのない場所でも、その場所が存在していることを理解することできます。知的障害があると、目に見えないものや、抽象的な概念を理解することは苦手と言われていますが、軽度知的障害の場合はある程度はその概念を理解することもできるといえるでしょう。◆時間の認識:時計を見て「ご飯を食べる時間」「寝る時間」「学校へ行く時間」などと、時間帯とやるべきことを関連づけて理解できます。また過去や未来という概念も理解できます。一方で、時間の長さを計ったり、何時間後は何時になるという計算などになると、とまどうことがあります。しかし、トレーニングを積むことである程度は解消できるようになります。◆数量の認識:「100円玉2枚で飲み物を買うことができる」というように、自分の経験と結びつけて理解することができます。おつりがいくらになるかなど、細かい計算を瞬時に行うことは難しいですが、足し算や引き算などのトレーニングを積むことによってある程度のスピードでできるようになります。軽度知的障害がある子どもは、自分が経験してきたことを元に物事を理解していきます。認識できる世界を広げていくためには、さまざまな経験をすることが重要です。知的障害がある子どもは言葉の遅れ、物事を記憶することが苦手といわれています。言葉の遅れに関しては、「言葉」という概念を認識するまでに時間がかかるために生じます。言葉を認識するためには、経験の一つ一つを「言葉」として理解できるように工夫するとよいといわれています。例えば料理を一緒にしていたら「料理をする」「キャベツをとる」「野菜を切る」「煮込む」など、実際に経験しながら、具体的な物や行動の名前を覚えていきます。また物事を記憶しておくことも苦手です。記憶には「短期記憶」と「長期記憶」が存在しますが、短気記憶を繰り返し思い出すことにより、長期記憶として蓄えられていくと言われています。軽度知的障害があっても、身のまわりのことは年齢を追うごとに問題なく発達します。しかし、上に述べたような空間や時間の認識に特徴があるため、周りからは学習面やコミュニケーション面で遅れがあると感じられるようになります。よって経験の範囲を超えた知的な要求が増える小学校高学年~中学生の頃に障害があることに気づくことが多い傾向があります。出典:知的障害のことがよくわかる本軽度知的障害の診断基準と検査方法出典 : 軽度知的障害の確定診断は臨床診断と各種検査の結果によって総合的に診断されます。医療機関を受診した際の臨床的な診断として、生育歴と行動観察について聞き取りを行います。■生育歴産まれてから今までの社会性や対人コミュニケーション、言葉の発達、幼稚園・保育園での様子や1歳半健診・3歳児健診での様子などをヒアリングします。発達面で知的障害の疑いがありそうか、発達にどんな特性がありそうかなどを見立てていきます。■行動観察遊びの空間で子どもを遊ばせ、それを注意深く観察することと保護者の方へのインタビューに基づいて行われます。知能検査では主に田中ビネー知能検査とウェクスラー式知能検査によってIQを計測します。また2歳未満の子どもの場合や医師から必要と認められた場合は新版K式発達検査などの発達検査を受けることもあります。適応能力の検査ではvineland-II(ヴァインランド)がよく使われています。■田中ビネー知能検査 V(ファイブ)2歳から成人まで受けることができます。就学する5~6歳の年齢にフォーカスをあて、特別な配慮が必要かどうかを判断するための「就学児版田中ビネー知能検査V(ファイブ)」という検査もあります。子どもが興味を持てるように、検査に使われる道具が工夫されています。日常生活において必要な知能と、学習する上において必要な知能の2つを測定します。■ウェクスラー式知能検査ウェクスラー式知能検査は、年齢ごとに3つのテストに分類されます。・幼児(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月)→WPPSI・学生児(5歳から16歳11ヶ月)→WISC・成人(16歳〜)→WAISIQが求められるだけでなく、脳の発達具合を下位検査を用いて導出し、総合的に判断することができます。■新版K式発達検査年齢において一般的と考えられる行動や反応と、対象児者の行動や反応が合致するかどうかを評価する検査です。検査は、「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価されます。検査結果としては、この3領域の「発達指数」と「発達年齢」が分かります。検査者は検査結果だけでなく、言語反応、感情、動作、情緒などの反応も記録し、総合的に判断します。■vineland-II(全年齢)0歳から92歳の幅広い年齢帯で、同年齢の一般の人の適応行動をもとに、発達障害や知的障害、あるいは精神障害の人たちの適応行動の水準を客観的に数値化する検査です。対象者にどんな特性があるのかを評価してくれます。また教育や福祉分野の個別支援計画の立案はVinelandの評価に基づいて行われることがあります。その他にも適応能力の検査として、以下の検査がよく使われています。・ASA旭出式社会適応スキル(幼児〜高)・S-M社会生活能力検査(乳幼児〜中学生)軽度知的障害の疑いを感じたら?出典 : 自分の子どもには軽度知的障害があるかもしれない、と疑問を持った場合、いきなり専門医を自分で探すのは難しいですよね。まずはお住まいの地域にある身近な相談機関や窓口に行ってみましょう。子どもか大人かによって、相談先が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童相談所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業生活支援センター・相談支援事業所など先に挙げたような知能検査は、児童相談所などで無料で受けられる場合もありますし、相談機関では、知的障害のことだけでなく子どもの発達全般について相談することも可能です。自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談にものってくれることがあります。軽度知的障害ならではの戸惑いや合併症などの悩みって?出典 : ここでは、軽度知的障害ならではの戸惑いや合併症などについて考えていきます。軽度知的障害は幼少期に気づかれにくく、概ね小学校高学年~中学生の時期に気づかれることが多いとされています。また障害の症状が基となって様々なトラブルを誘発し、ストレスによる二次障害や合併症を起こすことがあります。■軽度知的障害を受け入れることへの本人・保護者の戸惑い思春期に発覚することが多い障害であるがゆえに、本人や保護者が障害を受け入れることに戸惑いを感じることがあります。勉強についていけなかったり、対人関係が上手くいかなかったりなど、本人が「どうしてだろう?」と悩み、場合によっては相談もできずに自尊感情が低下することがあります。また、保護者も子どもに対しての接し方や周囲の理解や環境のつくり方、また子どもの将来のことなどの不安要素によって戸惑いを感じることがあります。息子の経歴を簡単に記載します。小学校、中学校、高校ではただただ勉強が出来ない程度の子供と思っていましたが高校卒業時に就職活動、卒業試験、普通免許の取得等の活動をしていましたが思うようにいかずに精神的におかしくなり、引きこもるようになりました。また、持病にてんかんをもっており、発作の回数が増えて主治医に相談したところ、専門の病院を紹介され、診察を受けたところ、18才で初めて知的障害であることがわかりました。■周囲への理解をどうやって得ていく?思春期に障害が明らかになるケースでは、以前から症状がありながらも診断を受けていなかったケースと、はじめて症状が明らかになってきたケースがあります。前者の場合は、症状がある程度みられていたため家族・親戚や学校なども、それぞれで既に本人に合わせた対応をしていることもあります。改めて話し合い、接し方や合理的配慮を考えていく必要があります。一方で後者のケースの場合は、一から周囲への理解を仰がなければならないため、「何からどうすればいいのか分からない」など、戸惑うことがあります。■二次障害や合併症が原因で問題行動が起きているとき軽度知的障害は、その特性が基となって周囲とのコミュニケーションが上手くいかないことや、不適合な環境やストレスなどが原因となって問題行動を起こしたり、行動障害や反抗挑戦性障害などの二次障害が引き起こされる可能性があります。問題行動とは周りの人を困惑させる行為のことをいいます。例えば自傷行為、徘徊、他人への攻撃、喧嘩を仕掛ける、あるいは不登校やひきこもりなどがあります。場合によっては軽度知的障害の症状よりも二次障害の症状が目立って表出する場合もあるため、問題行動の根幹原因を見極め、調整や変更などを行うことが求められます。軽度知的障害との向き合い方・学校等での配慮のポイント出典 : ■軽度知的障害との向き合い方保護者をはじめ本人にとっても、軽度知的障害を受け入れるには時間が必要です。無理に急いで受け入れようと焦っても心理的な負担になりかねません。一般的にゆっくり段階を追って障害を受容していくと言われています。最初のうちはショックや葛藤が生じることがありますが、本人や周囲の人が、それぞれのペースで身体的・社会的・心理的に障害を受け入れていくまで、焦らず時間をかけて関わり合うことが大切です。困った時は発達障害者支援センターや専門医など、専門家に頼りながら落ち着いた対応を心がけましょう。■合理的配慮という観点合理的配慮とは障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別の調整や変更のことです。2016年4月1日に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称、「障害者差別解消法」)により、行政機関や事業者には、障害のある人に対する合理的配慮を可能な限り提供することが求められるようになりました。本人を取り巻く周辺の人が合理的配慮を考える上での重要なポイントは、「その人が具体的にいつ、どんな場面で困っているのか」「その困りごとを解消するための適切な配慮は何か」の2点です。これらを踏まえながら学校や職場などの合理的配慮を検討・実施することが大切です。合理的配慮に関しては次のリンクを参考にしてみてください。■問題行動の背後にある原因の探り、解決を目指していく問題行動をとる子どもを「困った子だ」といって疎んじたり叱ったりするのではなく、その子ども自身が何に「困っている子」なのか、その子が問題行動をとらざるを得ない原因は何なのかを理解しようとすることが大切です。問題行動をとる子ども自身、その行動がよくない行動だということ理解している場合も少なくありません。それでもなお、数少ない自己主張の方法のひとつとしてその行動をとっていたり、心理的・身体的なストレスからその行動に移ってしまう場合があるのです。カウンセリングを通して子どもをケアしたり、学校・家庭の環境をもう一度見直すことなど、解決に向けた方法を探っていきましょう。軽度知的障害でも療育手帳は取得できるの?申請方法もご紹介します出典 : 療育手帳とは知的障害者に発行される障害者手帳で、知的障害のある方が一貫した療育・援護を受けられるよう、さまざまな制度やサービスの利用をしやすくすることを目的にしています。・おおむね18歳以前に知的機能障害が発症し、それが持続している。・標準化された知的検査によって測定された知能指数(IQ)が75以下。(70以下に規定している自治体もある)・日常生活に支障が生じているため、医療、福祉、教育、職業面で特別の援助を必要とする。上記の目安に従い、18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所において知的障害と判定された方に対して交付されます。療育手帳制度の概要(厚生労働省)障害の程度などによって、交付される療育手帳の区分がわかれ、受けられるサービスの適用範囲が違ってきます。各自治体が判定基準に基づいて、知能検査による知能指数(IQ)と日常生活能力などから、知的障害の程度を総合的に判断し、療育手帳の区分を決定しています。軽度・中度・重度・最重度といったように知的障害でも4つの程度に分けられます。その分け方に関しては1章で図を用いながら紹介しました。療育手帳の区分は基本的に重度「A」と重度以外の中・軽度「B」の2つの区分にわけられますが、自治体によって区分の分け方もより細かく区分している場合などがあり、さまざまです。より細かい区分は自治体によって、また本人の年齢によって変わりますが、おおよそ以下の基準を目安に判定されています。ただし、これらは判定基準の一部分について例示したものであり、最終的には自治体の独自の基準によって区分が決められます。■重度(A)・最重度・重度■軽度(B)・中度・軽度(B/B2/4度など)療育手帳の区分について(自治体別一覧)/東京大学大学院経済学研究科READ療育手帳を申請に関する細かい点はお住まいの自治体によって異なりますので、申請される際には福祉担当窓口にお問い合わせください。■申請に必要な書類・療育手帳交付申請書:自治体の福祉事務所・福祉担当窓口、またはPDFのダウンロードや郵送での取り寄せができる場合もあります。・写真:サイズなど規定が決まっている場合があるので確認しましょう。その場で撮影してくれる自治体もあるようです。・印鑑・その他添付書類:通知表、成績証明書、医師による診断書などが必要な自治体もあります。詳しい申請の流れは以下の記事をご参照ください。まとめ出典 : 軽度知的障害がある方は日常生活を送る上では支障はなく、学校での授業など知的能力を問われる場合にならないと分からないことがあります。ですので、多くの方は小学校高学年~中学生の時に症状が明らかになります。学校の勉強に追いつけない、友達とのコミュニケーションが上手くいかない、友達関係も上手くいかないなど、年齢を追うごとに自然と困難な場面に出会うことが多くなるのも一種の特徴です。学校で受けた、そういったストレスが家庭で爆発してしまうケースもあります。また、その逆のケースもありえることです。軽度知的障害があっても、本人の認知特性に合った学習機会をつくれば、言葉や計算の力を伸ばしていくことができます。具体的な経験を積める機会を増やしたり、時間や空間などの概念は本人の経験に結びつけて説明をするなど、自信を持って理解や行動ができるような支援を行なっていきましょう。
2016年12月15日小児期崩壊性障害とは?出典 : 小児期崩壊性障害とは、それまで問題なく発達していた子どもが、突然、成長の過程で覚えた能力を喪失していき、知的障害を伴った自閉症のような状態になる障害です。ヘラー症候群、幼児性認知症、崩壊性精神病、共生精神病とも呼ばれるこの障害は、小児の0.005%に発症するまれな障害であり、男性に多いとされています。参考ページ:小児期崩壊性障害|ハートクリニックHPこの障害は、広汎性発達障害が含む5つの障害のうちの一つとして位置づけられます。(下図参照)広汎性発達障害が含む5つの障害とは、自閉性障害(自閉症)、アスペルガー症候群、レット障害、小児期崩壊性障害、PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)を指します。Upload By 発達障害のキホン小児期崩壊性障害はアメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版テキスト改訂版)という診断基準により分類された障害です。しかし、2013年に出された、この診断基準の改訂版である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、小児期崩壊性障害は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに包括されました。そのため、現在は小児期崩壊性障害という診断名が下されることは少なくなりつつあります。とはいえ、すでにこの名称で診断を受けた人も多いこと、行政などで小児期崩壊性障害の名称を使用している場合も多いことから、本記事では『DSM-Ⅳ-TR』において定義されている小児期崩壊性障害についてご説明します。アメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版テキスト改訂版)による小児期崩壊性障害の定義は以下の通りです。小児期崩壊性障害の基本的特徴は,少なくとも2年の見かけ上正常な発達の期間に引き続く,多くの領域の機能における著名な退行である(基準A).見かけ上正常な発達は,年齢に相応した言語的および非言語的コミュニケーション,対人関係,遊び,適応行動に示される.生後2年以降(しかし10歳以前に),子供は,以下の各領域の少なくとも2つにわたり,以前に獲得した技能の臨床的に明らかな喪失を示す:表出性または受容性言語,対人的技能または適応行動,排便または排尿のコントロール,遊び,または運動技能(基準B).最も典型的には獲得された技能はほとんどすべての領域で失われる.この障害をもつ者は,自閉性障害をもつ者に広く観察される,対人的およびコミュニケーションの欠陥と行動的特徴を示す(82頁参照).対人的相互反応(C1)およびコミュニケーションにおける質的障害(C2),限定的,反復的,常同的な行動,興味,活動の様式(基準C3)がある.障害は他の特定の広汎性発達障害または統合失調症ではうまく説明されない(基準D).この状態は,ヘラー症候群,幼児痴呆,または崩壊性精神病とも呼ばれてきた.参考文献:高橋三郎ら/訳『DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』2003年医学書院/刊小児期崩壊性障害という診断区分を定めている『DSM-Ⅳ-TR』は最新の診断基準ではありません。そのため現在、この障害に相当する症状がある場合は、別の診断名が下されることが多くなってきています。ここでは、小児期崩壊性障害に相当する症状が、別の診断基準ではどう診断されるのか紹介します。・『DSM-5』における小児期崩壊性障害『DSM-Ⅳ-TR』の改訂版であり、2013年に発行された『DSM-5』において、小児期崩壊性障害は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。Upload By 発達障害のキホン参考文献:日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)・『ICD-10』における小児期崩壊性障害世界保健機関(WHO)が定める『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(以下、本文中の表記は『ICD-10』とする)という診断基準では、『DSM-Ⅳ-TR』における小児期崩壊性障害は「他の小児期崩壊性障害」というカテゴリーに相当するとされています。『ICD-10』で言われる「他の小児期崩壊性障害」の概念・診断基準と『DSM-Ⅳ-TR』における「小児期崩壊性障害」の概念・診断基準はほとんど同じとされています。参考文献:融道男 /著『ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―』2015年医学書院/刊小児期崩壊性障害の3つの特徴出典 : 小児期崩壊性障害は、1. 発症時期は2歳から10歳までの間で、それまでは明らかに正常に発達する2. 発症後、それまでの成長で覚えたことを喪失していく3. 発症後は自閉症と似たような症状を示すという3つの特徴があります。以下において、小児期崩壊性障害の3つの特徴についてそれぞれ説明します。1. 発症時期は2歳から10歳までの間で、それまでは明らかに正常に発達する小児期崩壊性障害は、2歳から10歳までの間に発症します。発症までは、言語的および非言語的コミュニケーション、対人関係、遊び、社会適応における年齢に相応した正常な発達が続きます。つまり、定型発達の子どもと同じように順調に成長していくのです。2. 発症後、それまでの成長で覚えたことを喪失していく発症後、成長の過程で覚えた能力を失います。以下の能力のうちの2つ以上を失うとされています。・言葉の使用と理解・対人的技能または適応行動・排便または排尿の機能・遊び・運動能力発症の前兆として、よく動いたり、イライラしたり、不安になったりすることがあります。また、言語やその他の能力の喪失の兆しや、周りの環境に対する興味、関心が薄くなることもあります。これらの能力が失われていく期間は、多くの場合数ヶ月で止まります。その後は、能力が失われた状態が一生にわたり続きます。しかし、脳や神経の病気もある場合には、これらの能力は失われ続けるとされています。3. 発症後は自閉症と似た症状を示す小児期崩壊性障害は発症後に、以下に説明する自閉症(『DSM-Ⅳ-TR』では「自閉性障害」)にみられる3つの特徴のうち少なくとも2つの特徴が当てはまるとされています。(1)対人的相互反応における障害・目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなどの非言語的な行動ができない・他人と満足のいく関係を築けない・対人的ないし情緒的な気持ちのやりとりの困難・他人の気持ちの共感・理解の困難(2)コミュニケーションの障害・話し言葉の発達の遅れ、または完全な欠如(身振りや物まねのような代わりのコミュニケーションの仕方により補おうという努力を伴わない)・会話の頻度が高い場合、他人と会話を開始し、継続する能力の明らかな障害がある・常同的で反復的な言語の使用または、独特な言語・発達の水準に相応した、変化に富んだ自発的なごっこ遊びや、社会性をもったものまね遊びの欠如(3)運動性の常同症や衒奇症(げんきしょう)を含む限定的、反復的、常同的な行動、興味、活動の型・特定の習慣や儀式にかたくなな興味をもつこと・特定の対象に持続的に熱中すること・芝居じみた挨拶や身振りを繰り返すこと・複雑な全身の動きを続けるなど、型にはまった同じ運動を不自然に繰り返すこと小児期崩壊性障害の原因出典 : 小児期崩壊性障害の原因は現段階では解明されていません。現状では、脂質代謝異常や結節性硬化症など、さまざまな疾患と関連があるのではないかと考えられています。小児期崩壊性障害と似ている障害出典 : 小児期崩壊性障害と似ている障害として、小児統合失調症や認知症、この障害と同じ広汎性発達障害のひとつである自閉症が挙げられます。・小児統合失調症統合失調症は妄想や幻覚などの症状が続く疾患です。ほとんどが思春期以降の発症ですが、まれに幼いころに発症することがあります。小児統合失調症の症状にも感情的な反応の欠如が見られるなど、小児期崩壊性障害と似ている症状が見られることがあります。・認知症小児期崩壊性障害と似ている障害として、成人期における認知症があげられます。しかし、小児期崩壊性障害は、頭部外傷などの身体的な要因が原因ではないこと、技能喪失の後ある程度の回復がみられること、自閉症に典型的にみられる特徴がみられることなどの点において認知症とは異なっています。・自閉症小児期崩壊性障害にも自閉症のような症状がみられます。しかし、自閉症も発達の遅れがみられるとはいえ、一度獲得した技能を失う退行は見られない点において異なっています。小児期崩壊性障害かな?と思ったら…出典 : 上記で述べた症状が見受けられる場合、医療機関や専門家に判断してもらうことをおすすめします。いきなり専門医に行くことが難しい場合は、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するとよいでしょう。・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センター・児童相談所など児童相談所などでは無料で知能検査や発達検査を受けられることも多いので、児童相談所で相談するパパ・ママも多くいます。まず身近な相談センターに行って、診断をすすめられたら、そこから専門医を紹介してもらいましょう。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にのってくれることもあります。以下のリンクにおいて全国の発達障害者支援センターを検索できます。相談窓口の情報|発達障害情報・支援センターHP発達ナビ「地域情報」: 全国の発達障害者支援センターの一覧・どの診療科にいけばいいの?小児期崩壊性障害の診療が可能な診療科は、小児科、精神科、児童精神科、小児神経科、心身医療科、心療内科、発達障害外来など、病院により様々な名前となっています。どの病院に行けばいいか少しでも迷った場合は、まずは市町村の窓口や都道府県等の発達障害者支援センター等の相談窓口に電話で相談することをおすすめします。発達障害の専門機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者支援法などの施行によって年々増加はしています。以下のリンクは発達障害の診療を行える医師の一覧です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。担当者との相性も大切なので、納得のいく医療機関を選ぶようにしましょう。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」・ 診断・検査の流れ本人や保護者に対する問診(面接)や行動観察、家族・学校の先生による提供情報の精査などを行う他、専門機関によっては筆記や口頭質問などを通した知能検査や発達検査などを実施する場合もあります。こうした様々な情報を総合的に評価して、診断がくだされます。検査は複数回に分けて行なわれたり、慎重に経過を見ながら行われるため、一度の受診ですぐに診断されることはあまりありません。知能検査は、田中ビネー知能検査Ⅴ(ファイブ)やウェクスラー式知能検査(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」)などの検査を受けることによって検査結果がでます。特性の現れ方や発達段階などを評価するため「CARS」や「新版K式発達検査2001」、「PEP-R」などを行う場合もあります。・診断に必要な準備や持ち物初診時に必要な物として保険証、子どもであれば母子手帳などがあります。服用中の薬などがあれば、お薬手帳なども持っていくとよいでしょう。また、生育や発達歴についての問診がありますので、言葉を話し始めた時期や日常生活での困りごとなどをメモして持っていくと質問に答えやすいかもしれません。発達外来などの専門機関によっては保育園や幼稚園の連絡帳、小学校の通信簿やホームビデオなどを参考にする場合もあります。事前に問診票をプリントアウトして持参する機関もありますので、専門機関の公式ホームページをチェックしたり、予約時に電話にて必要な持ち物を問い合わせてみてください。小児期崩壊性障害は治療できるの?出典 : 広汎性発達障害のひとつである小児期崩壊性障害の根本治療はできませんが、症状を緩和するためには療育的アプローチと薬物療法の2つが効果的です。障害のある子どもが、社会的に自立できるように取り組む治療と教育のことです。自分の問題を自分で解決できるようになるには、療育によりコミュニケーションスキル等の能力を身につける必要があります。療育は何歳からでも始めることができ、なるべく早くから通うことが推奨されます。療育とは、以下のように定義されています。療育とは医療、訓練、教育、福祉などの現代の科学を総動員して障害を克服し、その児童が持つ発達能力をできるだけ有効に育て上げ、自立に向かって育成することである。出典:療育と教育の接点を考える|障害保健福祉システムHP参考ページ: 療育とは何か|LITALICOジュニアHP小児期崩壊性障害そのものを根本的に治す薬はありませんが、特定の症状を緩和するために使用することがあります。薬によって開始できる年齢や症状が決まっており、人によって副作用がある場合もあるので、主治医とよく相談し、用法用量を守って服薬していくことが大切です。薬物療法は、症状を一時的に抑えるためのものであり、症状が軽減している間に、教育や支援をあわせて行うと効果的であるともいわれています。小児期崩壊性障害の場合、障害者手帳は取得できるの?小児期崩壊性障害を含む広汎性発達障害と診断された場合、2種類の障害者手帳を取得できる可能性があります。・療育手帳小児期崩壊性障害と診断されただけでは療育手帳付与の対象とはなりません。しかし、療育手帳を申請し、知的障害があると認められた場合は療育手帳が取得できます。・精神障害者保健福祉手帳小児期崩壊性障害は発達障害者支援法第二条において発達障害に指定されていて、さらに発達障害は精神障害に含まれます。そのため、小児期崩壊性障害により長期にわたり日常生活又は社会生活への制約があると認められた場合は精神障害者保健福祉手帳を受けることができます。もし、知的障害と精神障害のどちらもあると判断された場合は、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳を両方取得することは可能です。まとめ出典 : 小児期崩壊性障害は、発症前までは子どもが問題なく元気に成長する障害であるため、発症時にはご家族の驚きも大きいかもしれません。しかし、小児期崩壊性障害は他の広汎性発達障害と同じく、早期発見と早期療育、通院治療等を通した支援が可能です。お住まいの地域の発達障害者支援センターなどの相談窓口や医療機関では、お子さんのことだけでなく、ご家族の方のためのアドバイスも専門家からもらうことができますので、お子さんの発達の仕方に何か違和感を覚えた段階で連絡をとることをおすすめいたします。悩みや疑問を解消し、お子さんの特性を理解することで、適切な支援方法を探していきましょう。
2016年12月01日こんにちは、佐原チハルです。肌寒い季節になり、冬が深まると、気になってくるのが感染症です。インフルエンザ、溶連菌、ノロウイルスなどさまざまありますが、忘れてはいけないのが『マイコプラズマ肺炎 』です。特に幼年期や学童期のお子様 がいる方、また青年期までの年齢の方 は注意しておきたいものです。そこで今回は、『マイコプラズマ肺炎』の特徴をはじめ、症状・対策のポイントをまとめてみました。●マイコプラズマ肺炎ってどんな病気?マイコプラズマ肺炎は、『マイコプラズマ・ニューモニア』という細菌によって引き起こされます。とても小さな細菌だそう。通常、肺炎というと乳幼児や高齢者に多い印象があるかと思いますが、それらの細菌性肺炎とは違います。マイコプラズマ肺炎にかかりやすい年齢層は、幼児・学童期・青年期が中心 なのです。感染報告は1年を通してありますが、秋〜冬にかけてが多めだということです。特徴としては、・潜伏期間が長め(2~3週間)・乾いた咳が出る(風邪と間違いやすい)などがあげられます。●マイコプラズマ肺炎の症状って?マイコプラズマ肺炎の始まり方は、通常の風邪ととてもよく似ています。熱が出る、頭痛がする、乾いた咳が出る、だるいなどです。そのため、マイコプラズマ肺炎であると気づけるタイミングが遅くなることも多いそうです。風邪よりも長引くことが多い ので、咳がなかなか治らない、などのときには、マイコプラズマ肺炎であることも想定しながら病院に行ってみるのがよいでしょう。保育園・学校など、周囲でマイコプラズマ肺炎にかかった子どもがいた場合には、その旨を医療機関にも伝えておいた方が安心です。またマイコプラズマ肺炎の場合は、風邪とは違い、重症化したり、中枢神経系の症状が出たり、中耳炎になるようなこともあります。合併症のリスクがある 、ということです。ただの風邪だと思われても、長引くようであればしっかりと病院に行けるようにしたいですね。●マイコプラズマ肺炎を予防するには、どうしたらいい?インフルエンザやおたふく風邪などとは違い、マイコプラズマ肺炎には予防接種がありません。感染経路は「飛沫感染(せきやくしゃみの際の唾などに含まれる病原菌による感染)」「接触感染(病原菌のついた部位で口や鼻などを触ってしまう)」です。通常の風邪と同様、手洗い・うがい・マスクの着用などで気をつけておくようにしましょう。なお、マイコプラズマ肺炎自体を治療するには、抗生物質の服用が必要 です。必ず、お医者さんに指示されたものを、指示された通りに飲むようにしましょう。自己判断で飲むのを途中でやめてしまったり、以前に出されていたものを飲んだりするのは危険ですので、いけません。できる範囲で予防をしっかり行うことが大切ですが、お子さまの年齢がまだ小さいと、うがいが難しかったり、マスクをしてくれなかったりして、予防が難しくなることは多いです。家族に二次感染することも多いので、一家でかかってしまった……という事態にもなりかねません。重症化も避けたいです。長引く風邪や、不安があったときには、早めに医療機関を受診し、早期対策ができるようにしたいですね。【参考リンク】・保育所での集団発生が起こりやすいのに、あまり知られていない!? マイコプラズマ肺炎 | (財)日本病児保育協会()・マイコプラズマ肺炎 | 東京都感染症情報センター()・マイコプラズマ肺炎とは | NIID国立感染症研究所()●ライター/佐原チハル(フリーライター)●モデル/沖まりね
2016年11月29日こんにちは、ライターの齋藤惠です。みなさんは『リーキーガット症候群 』という病気をご存じですか?日本ではその名前こそ知られてはいないものの、じつに70%もの日本人がかかっていて慢性的な症状に悩まされているという報告もあります。アメリカではすでに深刻な問題となっているとか……。そんなリーキーガット症候群とは、どんな病気なのでしょうか?●こんな症状ならリーキーガット症候群かも?リーキーガット症候群とは腸の病気です。英語では『Leaky Gut Syndrome』といい、直訳すると“Leaky=漏れる”、“Gut=腸”、“Syndrome=症候群”となります。腸の粘膜が傷ついたり穴が空いたりして未消化の物質や有害菌が体内へ漏れ出してしまう病気です。英語を省略して『LGS 』、または『腸管壁浸漏症候群 』とも呼ばれています。代表的な症状には、以下のものがあります。【腸】……便秘、下痢、胸焼け【皮膚】……にきび、発疹、湿疹、じんましん、アトピー性皮膚炎【脳】……慢性頭痛、うつ、自閉症、ADHDこれらはあくまで多くの人に共通して見られる症状の例であり、実際にはもっと多様な症状が起こる 場合があります。一つひとつを取ると独立した病気のように思われがちですが、根底にリーキーガット症候群という深刻な病が潜んでいる可能性があるのです。そう考えると、便秘も頭痛も軽視できませんね。●原因となる生活習慣『栄養医学研究所』によると、リーキーガット症候群は、乱れた生活習慣によって引き起こされる場合が多いようです。例えば、以下の過剰摂取が原因となる可能性があります。・アルコール類やカフェインなどの刺激物・(風邪薬などに含まれる)抗生物質・着色料、防腐剤、酸化防止剤などの食品添加物・精製食品炭水化物食品(白米、パン、砂糖など)・避妊用ホルモン(ピル)日常で多く摂り過ぎているものがあれば要注意です!なお、抗生物質があげられる理由は、“胃腸器官系の細菌、寄生虫、カンジダ、真菌類の異常繁殖を促すため ”だそうです。アルコールやカフェイン、精製食品などはとくに私たち現代人にとって身近な存在であるだけに、普段から過剰摂取しないよう気をつけなければいけないですね。●“腸の不調は万病のもと”と心得て!腸は人間の健康をつかさどる臓器の中でもとくにデリケートな部分 と言われています。腸の働きは単に食べ物の消化吸収だけにとどまらず、栄養をエネルギーに変えたり、解毒作用があったり、感染症に対抗する免疫を持っていたりと、生きるために必要な機能をたくさん担っています。そんな重要な腸のバリア機能が壊れ、栄養も病原体も漏れ出してしまう恐ろしい病気がリーキーガット症候群なのです。栄養過多やストレスによって日々、私たちの腸は病気の危険にさらされているかもしれません!そうならないために、毎日の生活習慣を見直しましょう!具体的にできることは、・胃に負担をかけない食生活をする・精製食品よりも玄米や黒糖などを食べる・食品添加物が多く含まれた食品を避ける・風邪薬やピルの気軽な使用は避けるなどです。できるところから実行して、健康な腸を保つ生活を送りましょうね!【参考リンク】・LGS(リーキーガット症候群)について | 栄養医学研究所()●ライター/齋藤惠(金融コンシェルジュ)●モデル/大上留依(莉瑚ちゃん)
2016年11月28日パニック障害とは出典 : パニック障害は突然の動悸やめまい、発汗とともに恐怖を感じる精神障害です。また、発作を繰り返すにつれて、「また発作が起こるのではないか」という不安と、「発作が起こる状況に対する恐怖」とを感じるようになります。パニックを回避するために、今までは出来ていたことが出来なくなったり、行けていた場所に行けなくなるといった症状も生じることがありますが、周囲からは単に怠けていると誤解されてしまいやすい疾患であると言えます。パニック障害が進行すると、うつ病を発症する可能性が高苦なるとも考えられています。この記事では、パニック障害についての基礎知識、支援や治療方法などを紹介します。パニック障害の症状の分類出典 : パニック障害は不安障害のひとつです。不安障害とは、生活に支障が出るほどの過剰な不安を感じる疾患全般をさします。不安や恐怖を、その対象に釣り合わないほど過剰に大きく感じ、状況や具体的なものに対して、過剰に不安、恐怖心を感じ、それにより様々な影響が身体と精神にあらわれ、社会生活を送ることに支障が出てしまう疾患です。パニック障害は不安障害の中で理由もなく不意に起こるパニック発作を発端とする疾患をさします。パニック発作そのものは、恐怖や緊張などなんらかの引き金があって起こりえますが、パニック障害の発作はきっかけがないのに起こるのが特徴です。繰り返し発作が起こり、検査をしても体の異常は見つからないことも多く、また昼夜問わず24時間いつでも起こる可能性があります。パニック障害は、パニック発作を発端として、また同じような発作が起きるのではないかという予期不安や、「同じシチュエーションで発作が起きるのではないか?」という場所と状況に対する不安すなわち広場恐怖の症状が現れ、悪化していく可能性があります。「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」というそれぞれの症状が一体どのようなものなのか以下で見ていきましょう。パニック発作とは繰り返される予期しない発作で、自覚されるきっかけが何もなく突然起こります。パニック障害の症状の中でも最も代表的なもので、これはパニック障害と診断される条件となっています。多くは強い不安や恐怖を感じます。特定の状況で生じることが多いですが、再発にはムラがあることもあります。パニック発作の主な症状として次のようなものがあります。動悸、心拍数の増加、発汗、身震いまたは震え、息切れ感または息苦しさ、窒息感、胸痛または胸部の不快感、嘔吐または腹部の不快感、めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ、寒気または熱感、異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)、現実感喪失、離人感(自分が自分でなくなるような感じ)、抑止力を失うなどがあげられます。予期不安とはかつて発症した症状がもう一度起きたらどうしよう、などと次の発作への恐怖を抱くことをいいます。これは一度パニック障害を発症すると、その恐怖心や不安を忘れられないという性質と関係があります。予期不安は一般的に長期間続くことが多く、約1ヶ月続くことがほとんどです。病気の急性期には、パニック発作が起こったときの状況がフラッシュバックとなって甦ることがありますが、治療が進み発作が起こらなくなると、自然に消えていきます。予期不安では、主に次のような感情があらわれます。・病気になってしまうかも?・気絶してしまうしまうかも?・死んでしまうかも?・運転中に起きたら、交通事故を起こしてしまうかも?・誰も助けてくれないかも?・発作が起きた場所から、すぐに逃げられないのかも?・取り乱したり錯乱して、恥をかいてしまうかも?・人前で吐いたり倒れたりして、恥ずかしい姿を見せてしまうかも?・他人に迷惑をかけてしまうかも?広場恐怖とは、一般名詞の「広場」の意味に限った恐怖ではなく、ここでは「パニック障害における場所に関係する恐怖」を意味する医学用語です。以前発作を起こした場所、もしくは似ているところに行くと「また発作が起きるのではないか」という恐れを抱くことです。次の特徴を持つ場所が広場恐怖になりえると考えられています。・発作が起きても、誰も助けに来れないところ・逃げたくてもすぐ逃げられないところ・発作が起きたら恥をかく、もしくは恥をかくと思われるところなど広場恐怖が進行すると、行けない場所が多くなり行動範囲が狭くなることが多くあるので注意が必要です。パニック障害の要因とは出典 : パニック障害の要因には、気質要因、環境要因、遺伝子要因・生理学的要因があります。否定的な感情や不安に対して敏感であることは、パニック障害を発症する要因の一つであると考えられています。それをもとに、パニック障害になりやすい性格がいくつかあります。・完璧主義な性格・几帳面な性格の人自分が満足いく状況でないとき、とてもストレスを感じます。また周りの人に頼らずに全てを完ぺきにこなそうとした結果、心も体もパンクしてしまいパニック障害を発症することがあります。・素直で従順な性格の人物事に対してひたむきに取り組んだものの失敗してしまい、そのまま立ち直れなくなってしまうことがあります。・マイナス思考、不安や恐怖観念が強い性格の人自分を責めたり落ち込んだりすると、ストレスや不安が溜まりパニック障害を発症しやすくなります。・利他的な性格、自分の気持ちをがまんしてしまう性格の人自分の気持ちを押し込めたり、他人のために尽くし過ぎたりすることもストレスがたまり、発症のもととなります。2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)によると、小児期に性的および身体的的虐待の経験があると、パニック障害の要因となり発症の可能性が高まると示唆しています。また、喫煙はパニック発作とパニック症の危険要因です。パニック障害がある人のほとんどが最初のパニック発作の前数ヶ月の間に特定できるストレス因があったと報告しています。現在複数の遺伝子が、パニック障害になりやすい特性に関係があると考えられていますが、遺伝子に関連する機能に関してはまだ詳しく特定されていません。また、喘息をはじめとする呼吸器系の障害もパニック障害と関連があるといわれています。パニック障害の診断ガイドライン出典 : パニック障害は米国精神医学会の診断基準である『DSM-5』などを用いて「パニック症/パニック障害」という名称で診断されることが多いです。『DSM-5』におけるパニック症/パニック障害の診断基準は以下の通りです。A繰り返される予期しない/パニック発作、パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。注:突然の高まりは、平穏状態、または不安状態から起こりうる(1)動悸、心悸亢進、または心拍数の増加(2)発汗(3)身震いまたは震え(4)息切れ感または息苦しさ(5)窒息感(6)胸痛または胸部の不快感(7)嘔気または腹部の不快感(8)めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ(9)寒気または熱感(10)異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)(11)現実感喪失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)(12)抑制力を失うまたは”どうかなってしまう”ことに対する恐怖(13)死ぬことに対する恐怖B発作のうち少なくとも1つは以下に述べる1つまたは両者が1カ月(またはそれ以上)続いている(1)さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:制御力を失う、心臓発作が起こる、〝どうにかなってしまう")(2)発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)Cその障害は、物質の生理学的(例:乱用薬物、医薬品),または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症、心肺疾患)によるものではないDその障害は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例:パニック発作が生じる状況は、社交不安症の場合のように、恐怖する社交的状況に反応して生じたものではない:局所性恐怖症のように、限定された恐怖対象または状況に反応して生じたものではない:強迫症の様に強迫観念に反応して生じたものではない:心的外傷後ストレス障害のように、外傷性出来事を想起させるものに反応して生じたものではない:または、分離不安症のように、愛着対象からの分離に反応して生じたものではない)(日本精神神経学会:編『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院:刊P207より引用)パニック障害の治療を受けるまでの流れ出典 : パニック障害かもしれないと思ったら、精神科、神経科心療内科へ受診することをおすすめします。発作の症状は、体の病気やほかの精神疾患によっても起こるので、専門の医師による見極めが必要です。治療を受けるまでの流れは以下の通りです。・体の病気がないか調べる内科的な検査をして異常がないか、脳波や脳の画像検査を行う場合もあります。・問診・パニック発作の確定発作ではどんな症状があらわれたか、どんな状況でおこったか、発作の前後の状況などを詳しく聞いて「パニック発作の診断基準」と照らし合わせ、確定診断を行います。・パニック障害の診断パニック発作の確定診断があれば、次は「パニック障害の診断基準」と照らし合わせます。「症状が1カ月以上ある」「予期不安がある」などを調べ、場合によっては他の不安障害などによらないか調べることも必要になります。・広場恐怖の有無「広場恐怖の診断基準」に照らして、広場恐怖があるかどうか調べ、あれば治療法を検討します。・問診など不安の度合い、日常生活や仕事など、またどのように育ってきたか(成育歴)を質問し、情報はカウンセリングなどの治療に生かします(守秘義務に基づく)。パニック障害の治療方法出典 : パニック障害の治療には、主に薬物治療と精神療法の2つがあります。症状や状態によって飲む量や薬の組み合わせを調整していきます。薬物療法とは薬を使って治療する、最も一般的な治療方法です。パニック障害にはパニック発作を抑える抗うつ剤と精神を安定させる抗不安剤があります。・カウンセリング病気にとってはマイナスとなる考え方やものの見方を、自分自身で変えていけるよう医師からアドバイスを受けることです。まず、ベースとなるカウンセリングが繰り返し行われ、医師あるいは臨床心理士が患者さんの本心を聞きます。病気につながる問題点を明らかにし、専門家としてアドバイスしていきます。・認知行動療法物に対する考え方・受け止め方を改善することです。少し心臓がドキドキしても「死ぬのではないか」と思ってしまうような、薬では治せない「考え方のくせ」があることを自分自身が自覚(認知)し、行動を改善していきます。不安や恐怖が発生しやすい場所や状況に身をさらし(曝露し)徐々に慣れていくことで不安が解消されるようにする行動療法(曝露療法/エクスポージャーとも呼ばれる)もあり、パニック障害にうつ病を併発した場合でもよく取り入れられる療法です。・自律訓練法自分でリラックスできる方法を身につけ、予期不安や広場恐怖などの症状をやわらげる精神療法です。刺激に対して過敏に反応しないようになり、不安や恐怖を自分でコントロールできるようになります。パニック障害とストレス障害(PTSD)の関わり出典 : パニック障害と同じ不安障害の病気にPTSD(心的外傷後ストレス障害)があります。パニック発作やフラッシュバックなど共通の症状があらわれたり、パニック障害の二次障害としてPTSDが合併する場合があったり、関係性の深い病気です。PTSDとはトラウマになるような体験によって、強いストレスにさらされたあとに、特徴的な症状があらわれる疾患です。以下2つの疾患の相関関係を見ていきましょう。・パニック発作があるパニック発作自体はパニック障害でもPTSDでも起こりますが、PTSDの発作はトラウマ体験と重なる場合のみ起こります。・フラッシュバック症状がある両方の疾患で起こり得ますが、PTSDでは事故や災害など死に直面するような激烈な記憶ですが、パニック障害ではパニックが起こったときの状況がよみがえるのが特徴です。・脳にみられる特徴が共通している両方の疾患でノルアドレナリン(不安や恐怖に関わる神経伝達物質)や海馬(情動や記憶にかかわる部位)の働きに異常や不安定さを抱えています。よって効果をあらわす薬物も似ています(SSRIなど)。PTSDのある人はパニック発作があっても、パニック障害を併発することはほとんどありません。しかし、パニック障害のある人はパニック発作の経験がトラウマとなり、PTSDに進むケースがままあります。パニック障害の体験談出典 : こちらでは、パニック障害の体験談を紹介します。実際にどのようなパニック障害の症状があるのか見ていきましょう。最初はめまいみたいな感じで、フラフラとなりました、え?何?頭の病気?と思ったとたんものすごい不安感に襲われました。そうなると過呼吸になり手足がしびれ、そして指が動かなくなる・・・そうなると、ますます不安が押し寄せてきて、逃げたい、どこに?でも怖い、誰か助けて、でも変な奴と思われる、どうしよう、どうしよう・・みたいな感じの発作です。発作がくると、あ・・・きたかもという実感はあります、でも大丈夫、数分後、やっぱりなんか変、いや落ち着け、落ち着け、あ、大丈夫、でも・・・みたいに繰り返しているうちに、あれ?おさまった、ん、もう大丈夫、よかった、ほっ・・みたいな。でもいつくるかもわからなくて、拘束されたり(美容院、電車、会社など逃げ場がないときは特に)すると余計引き起こすような気がします。私もパニック障害です。パニック障害って、とても説明が難しい病気で・・・、人によってこれは大丈夫、これはダメっていうのがあるんですよね。自分でもその線引きが分からないときがあります。電車に乗れない人もいれば、電車は大丈夫っていう人もいます。症状の重さ・種類にもよるので何とも言えませんが・・・、(中略)・・・難しいですね。パニック障害の症状があると、いろいろと融通が利かなくなって、「できない」ことが多くなってしまうんですよ。やりたくてもやれない・・・という感じで。そんな自分にもイライラしちゃって。買い物に出られないのはなんとなく分かります。おそらく、人の居る場所に1人で行くことがダメなんじゃないかと(広場恐怖)。.・・・(中略)何よりもまずは、元気になることをみつけてそれをやるのが一番かなと思います。お友達と喋ったり、実家に甘えたり。以上のことからパニック障害が、突然自分の意思と反して生じることが分かります。また症状の種類や程度は人それぞれで、臨機応変に治療を行い周囲の人は支援を行うことが大切になります。そのためにも、どのような症状が起こるのか自分で把握することが、治療する上でも重要な姿勢となっていきます。パニック障害と付き合う上で気をつけること・再発防止のために出典 : パニック障害の症状は理由がなく不意に起こることから、本人はすぐさま救急車を呼ばなければならないという気持ちになり、連絡を急ぐケースも少なくありません。パニック発作が起こったと認められたら、次のように行動しましょう。・呼吸が浅く、過呼吸になっていたら、ゆっくりと腹式で呼吸するように指導する。・窮屈な衣類を緩める(呼吸をしやすくするのと、からだの熱を逃がすためです)。・室内や車内のときは、窓をあけて外の空気を入れる。・太陽の下のときは、日陰に移動する(暑くて湿度の高いモワッとした空気はパニック発作を引き起こしやすいのです)。(パニック障害患者さんのご家族の方へ受診を勧めるときには | こころの陽だまりパニック障害情報サイト)周囲の人は突然の発作に驚くかもしれませんが、慌てずに上記の対応をして本人を安心させてあげ、症状が落ち着くのを待つことが大切です。パニック障害と付き合う上では、生活上のストレスをなるべく減らし、規則正しい生活を送ることが大切です。人間関係だけではなく、過労や睡眠不足もストレスの原因となります。回復をあせらないようにしましょう。発作が治まってもすぐに治療が終了するわけではありません。急に服薬などを止めると、再発する可能性もあります。治療をどのように、どの程度継続していくかは、必ずかかりつけの医師に相談し、独断で治療を中止しないようにしましょう。また、治療には家族をはじめとする周囲の人たちの理解と協力が不可欠です。病気や困りごとについて説明し、落ち着いて治療に臨めるようなサポート体制を築きましょう。まとめ出典 : パニック障害とは、突然の動悸やめまい、発汗とともに恐怖を感じる精神障害です。いきなりの発作に周囲の人は驚きますが、本人はいつ次の発作が起きるかと不安に駆られながら生活しています。周囲の人たちは、完治を焦らせずに、長い目で見守りながらサポートしていきましょう。パニック障害・不安障害 | 厚生労働省パニック障害 | CBTセンターリラクゼーション療法とは? | パニック障害克服・治療・治し方マニュアルパニック障害ってどんな病気? | こころの陽だまりパニック障害情報サイト
2016年11月25日こんにちは。メンタルケア関係を中心に執筆しているメンタルケア心理士の桜井涼です。気温の寒暖差や気圧の変化を強く感じることで、体調を崩すことが多い季節になりました。長く続いた夏の暑さから、急激な寒さと乾燥といった気候の変化に体がついていけないことがあります。そうすると、さまざまな症状を引き起こすだけでなく、風邪などの疾患を起こしやすくなるのです。●秋風邪の原因と症状秋風邪をひいてしまう原因は、寒暖の差が大きく関係しています。それが体温調節に影響し、自律神経のバランスを崩してしまうことにつながるのです。自律神経のバランスが崩れてしまうと、ゆっくり睡眠がとれない、体力低下、だるさなどといった症状を起こします。そこに日常生活で起こるストレスが影響し、免疫力が低下してしまうという状態が起こってしまうのです。症状は、・発熱(38度を超えることもあります)・呼吸器系のトラブル(咳・鼻水・痰・喉の痛みなど)・頭痛やめまいなどです。この中でも特につらく感じるのが、発熱と喉の痛みと咳ではないでしょうか。晩秋になると、気温が下がります(日によって気温の差が激しく変わることも関係)。また、空気も乾燥してきます。免疫力が低下しているときに冷たく乾燥した空気を吸うことで、喉にウイルスが定着しやすく、炎症を起こしてしまうのです。ひどいと、気管支炎などにかかってしまうこともあります。●花粉症との違いこの時期、咳や鼻水といった呼吸器系のトラブルが出るため、「風邪をひいたかも?」とすぐに思ってしまうかもしれません。しかし、自己判断は危険です。風邪ではなく、花粉症である可能性もあるからです。花粉症というと、春のスギを思い浮かべる人が多いかもしれません。けれど、秋になるとブタクサ、ヨモギ、カナムグラといった植物が花粉を飛ばします。これらの植物に対してアレルギー反応を起こしてしまう人もいます。症状が強いと微熱を出す人もいるくらいです。秋風邪と花粉症の違いは、目のかゆみと高熱です。花粉症の場合は、目のかゆみと共に呼吸器系のトラブル が出ます。熱は出たとしても微熱程度です。秋風邪の場合は、呼吸器系のトラブルと高熱 が出ます。目のかゆみはありません。この2点に気をつけて、秋風邪なのか花粉症なのかを仮判断し、早めに医療機関を受診することをお勧めします。●予防方法秋風邪に対する対処法は、手洗い・うがいの他に次のことがあります。・体を冷やさない・マスクをするなどして冷気を思い切り吸い込まないようにする(気管支が弱い人は特に!)・ストレスを溜めない(免疫力の低下につながります)・軽い運動をして体力をつける・水分補給をこまめにして乾燥から身を守るなどです。特に体を温めることは、心に安らぎを感じさせることにもつながります。少々のストレスなら、温かみで癒やすことができるでしょう。コーヒーなどの温かい飲み物でもいいですが、根菜がたっぷり入っている味噌汁や豚汁、ポトフなどのスープ類を食べることをおすすめします。また、ホッカイロや腹巻きなどの腹部を温めるものを早い段階で使うのもいいですね。●おわりに秋はどうしても風邪をひきやすくなってしまいます。夏風邪と違って、喉に炎症を起こしやすい のでつらさが強いと言えます。油断していると長引きもします。気圧や気温など、少しでも「冷えるな」と感じたら、予防方法としてご紹介したことを試してみてください。つらい風邪を早い段階でくい止めましょう。【参考文献】・『non・no生活基本大百科』集英社・発行●ライター/桜井涼(メンタルケア心理士)●モデル/椎葉咲子(苺乃ちゃん、胡桃ちゃん)
2016年11月23日こんにちは、保育士でライターのyossyです。皆さんは、『先天性心疾患』についてどれくらい知っているでしょうか?実は、100人に1人 の割合で先天性疾患の赤ちゃんが産まれてくると言われています。意外に多いですよね。 生後すぐに見つかる場合もあれば、大人になってから気づく人もいるのだとか。今回は、先天性疾患のなかでも最も多い『心室中隔欠損 (しんしつちゅうかくけっそん)』(『心室中隔欠損症』とも言われます)について解説します。●心室中隔欠損は500人に1人の病気先天性心疾患の約20%が心室中隔欠損だと言われており、500人に1人程度に起こる病気 ということになります。具体的に、どういう病気なのかをみていきましょう。心室中隔欠損というのは、左心室と右心室を隔てる筋肉の壁に、生まれつき穴があいている病気のこと。心臓が4つの部屋に分かれていることはご存じのかたが多いでしょう。右心室、右心房、左心室、左心房という4つの部屋があります。心臓はポンプのような役割をしていますが、全身からの血液(酸素が少ない)↓右心房↓右心室↓肺(酸素を取り入れる)↓左心房↓左心室↓全身へという順序で巡っていくのです。全身を巡ると血液中の酸素は減ってしまいますが、右心室から肺に行くことで、また酸素を取り入れているのですね。右心室と左心室は隣り合っていますが、壁があるため、本来直接血液が流れ込むことはありません。しかし、心室中隔欠損の場合はそこに穴があいているので、左心室の血液が右心室へ流れ込んでしまうのです。その結果、心臓は余分な血液を送らなくてはならなくなり、負担がかかってしまいます。●呼吸が速くなる、体重が増えづらい等の症状が出ることも心室中隔欠損の場合、生後1週間程度で心雑音が現れることが多く、1か月健診時に診断されることも多いようです。穴の大きさや位置によっても症状はさまざまですが、心雑音以外の症状が全くと言っていいほどないケースも。穴が小さければ、1~2歳ごろまでに自然閉鎖することも多い と言われています。ただし、・呼吸が速くなる・脈が速い・母乳・ミルクの飲みが悪く、体重が増えづらいといった症状が出る場合もあり、手術が必要になることもあります。手術をすれば、問題なく園生活・学校生活を送れるケースが多いようです。●原因は遺伝子の異常であることが多い妊娠中の風疹感染、タバコやお酒、赤ちゃんに有害な薬などの影響で先天性心疾患になることもありますが、赤ちゃんの遺伝子の異常が原因のケースも多いと言います。症状が軽い場合、通常の生活をしているうえでは気づきにくいケースも多い先天性心疾患。筆者の子の場合は、生後4日目の診察で2つの心疾患がみつかり、そのうちの1つが心室中隔欠損症でした。定期的に検査を受け、3歳を過ぎてから完治の診断を受けています。定期的な診断を受けていれば、異常が出ても早期に発見できるケースが多いはず。医師から心雑音などを指摘されたら、早めに専門医を受診しましょう。【参考リンク】・心室中隔欠損症 | 日本小児外科学会()・心室中隔欠損(VSD) | 国立循環器病研究センター病院()・[73]こどもの心臓病 | 国立循環器病研究センター()●ライター/yossy(フリーライター)●モデル/倉本麻貴(和くん)
2016年11月17日こんにちは。心理食育インストラクターのSAYURIです。空気が乾燥し始めると症状が強くなると言われるアトピー性皮膚炎。自分にアトピーがあると、「子どもに遺伝したら……」と不安になる人も多いようです。そこで今回はNPO法人予防医療推進協会の理事でアトピーアドバイザーとして全国で公演活動や2,000人を超えるメルマガ会員さんにアトピー情報を発信している、桑野やすし氏にお話を伺いました。●アトピーは遺伝するってホント?桑野氏によると、『「アトピーは遺伝するのか?」については、いくつもの研究・調査があるようですが、概して「遺伝する 」と言ってよいでしょう。研究によって幅がありますが、片親がアトピーの場合で30〜50%程度、両親ともアトピーの場合で50〜80%程度の子どもがアトピーになると言われています。日本皮膚科学会の『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版』にも、アトピー素因の一つとして“家族歴”が記載されていますね。遺伝が重要なファクターだと認識されているということです。僕自身3か月の息子がいますが、いずれ彼にもアトピーが発症することを覚悟しています。今できることとしては、3つあると思って実践しています』とのこと。以下に桑野氏が実践している対策法をご紹介します。●子どものアトピー発症に備えた対策●(1)保湿をこまめに丁寧に乳幼児期の子どもの肌は非常に乾燥しやすいので、カサついていたらすぐに保湿。化粧水と乳液の組み合わせで行っています。離乳食が始まったら、食事前に口の周りにワセリンを塗って、食品が口周りの皮膚に付着しないよう保護する こともお勧めします。●(2)動物園や牧場へ行く家畜などの動物が身近にいる環境で育つと、アレルギーの発症率が5分の1になるという研究があります。さすがに家畜は飼えませんが、動物園や牧場へは連れて行ってあげようと思っています。●(3)親の食卓での振る舞いを見直すアトピーの子どもさんの多くは早食いで姿勢が悪い。そうすると消化・吸収に負担がかかります。ですから、姿勢良く、ゆっくり食べるという習慣を身に着けさせる ことが大切。そのためには、ご両親がそういう食べ方を実践する必要があるわけです。子は親の姿を真似しますからね。一口ごとに箸を置いてよく噛み、食事中は席から立たない。落ち着いた食卓を築いてください。●親が心の準備をしておくことも大切また同氏によると、親の心の準備も大切とのこと。桑野氏がこれまで数多くのアトピーのお子さんを見てきた中で、アトピーの子どもを持つ親のメンタルについても以下のようにお話しされています。『アトピーのお子さんを抱える家族を見ていると、多くの場合、子どもよりも親の側に心理的な不安定さが見え隠れしています。親が自分を責めていたり、わが子を過剰に“かわいそう”に感じていたり、周囲の目が気になってアトピーであることを隠そうとしていたり。そういう心の“ぐらつき”があると、それは子どもにも伝わります。そうすると、ストレスの影響で症状が悪化・長期化する こともありますし、親子関係にしこりを残す ことにもなりえます。「アトピーになってもならなくても、この子に幸せがたくさん降り注ぐことを祈っていよう」というくらいの心の準備をしておきたいですね。遺伝する確率が高いということは、“準備ができる”ということです。お子さんがいる方も、これからという方も、今からできることがあると思います』----------いかがでしょうか。自分がアトピーであったり子どもにアトピーがあったりすると、どうしても不安やつらい気持ちが大きくなりがちですが、桑野氏のアドバイスによって少しでも心が軽くなればと思います。【取材協力/アトピーアドバイザー・桑野やすし】・アトピー改善アドバイザー 桑野やすし オフィシャルブログ●ライター/SAYURI(心理食育インストラクター)●モデル/神山みき(れんくん)
2016年11月17日うつ病(大うつ病性障害)とは?出典 : うつ病とは、繰り返し気分が落ち込んだり、意欲がなくなることが特徴の精神疾患です。これらの症状がただの気分の落ち込みではなく病的なうつ状態であることを意味しています。人間は誰しも、身の回りで起きる出来事によって気分の落ち込みを感じたり、やる気がなくなってしまったりすることがあります。しかし何もないのに気分が落ち込み、感情を自分自身でコントロールできないときはうつ病を発症している場合があります。軽症を含めると日本の人口のうちの15人に1人がうつ病を発症したことがあると考えられており、現代社会では珍しい疾患ではありません。しかしながら、うつ病は自然治癒が難しく、治療が必要な障害という認識が重要となります。うつ病は、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)の診断基準においては、双極性障害(そううつ病)とはっきり区別するため、大うつ病性障害という診断名に分類されています。本記事では、一般に普及しているうつ病という表記で説明していきます。うつ病の症状出典 : うつ病の症状には精神症状と身体症状に大きく分けられます。それぞれ代表的なものを中心に紹介します。■持続的な抑うつ気分:うつ病の代表的な症状です。症状として、気分がひどく落ち込む、憂うつ、ひどく不安になる、落ち着かない、イライラするなどの抑うつ気分が持続的に生じます。症状の多くは朝方が最もひどく、夕方になると少し良くなるという傾向があります。症状が進むにつれて、罪悪感などを感じ自分を責めてしまうようになり、悪化すると自殺願望を起こしてしまう場合もあります。■意欲の低下:何事にもやる気をなくしてしまいひきこもりがちになったり、趣味などに対してこれまでと同じような興味がもてなくなります。意欲の低下が進行すると日常生活に支障が出るようになり、外出や家族以外の交流をしなくなる傾向があります。■思考・行動の抑制・抑止:物事に集中することができなくなり、注意力・判断力が低下し、決断したり行動したりすることが難しくなります。これにより、・感情の動きが小さくなる・自己評価の低下・自分を責めてしまう・不安・焦燥感・妄想・自殺願望などの症状が現れやすくなります。■全身のだるさ・疲れやすさ:激しい運動をしていないのに、全身がだるく感じられ、疲れやすくなります。この疲労感は休憩しても回復せず、慢性化することが特徴です。■睡眠障害:うつ病のほとんどの人が睡眠障害になります。代表的な症状としては、不眠(眠ってもすぐに目が覚めるなど)が全体の8割、過眠(眠っても眠り足りない)が2割を占めます。特に、いつもより早く目が覚める人が多いようです。■食欲低下とそれに伴う体重低下:食欲低下もほとんどのうつ病がある人が経験します。味覚が分からなくなることで、食事の楽しさを感じることができなくなるなどの症状を発症します。食欲低下に伴い、人によっては体重が大幅に減少することがあります。こちらではうつ病を体験された方の経験を紹介します。うつ病で休職中の会社員です。私の経験では脳がつかれる感覚がすごくわかります。睡眠でも疲れが取れないようなら軽いうつの可能性もあるかもしれません。精神科にかかるのでしたらしっかりと医師に相談するのがいいと思います。かりにうつ病でも必ず治りますし早い段階で治療を開始するのはいいことだと思います。人によっていろいろな症状から現れます。まず不眠になる人や、憂鬱感が酷くなる人、拒食、不安、出社拒否、酷い倦怠感など、うつ病になるきっかけは個人によって違います。これらの症状が一度に出る人もいますし、「ただ泣きたくなる」とだけ言う人もいたりしますよ。上記のように、うつ病の症状は人により大きく異なります。長期間気持ちの落ち込みが続き、日常生活に支障をきたす場合は、一度うつ病を可能性を考えてみましょう。そして、うつ病かもしれないと思った場合は、早めに医療機関を受診しましょう。うつ病に伴う身体症状l ヤンセンファーマ株式会社うつ病症状チェックシートl シオノギ製薬ライフステージごとのうつ病出典 : ■学童期(6~12歳):子どもがうつ病を抱えてしまう可能性は低いですが、まれに発症する場合があります。学童期のうつ病では頭痛や腹痛、吐き気・嘔吐、チック症、おねしょが特徴となります。また、ひねくれたり、反抗的な態度を起こしてしまったりする問題行動が現れることもあります。■思春期・青年期(11~20歳):思春期や青年期は精神的な葛藤を抱えやすく、うつ病の症状も成人とあまり変わりません。身体とこころの成長バランスが崩れやすいので、突然の発症・症状の進行が一気に進むことがたまにあります。また、登校拒否やひきこもりの状態、アルコールや薬物に手を出してしまうなどの問題行動を起こすこともあります。■青年期・壮年期(21~64歳):青年期・壮年期は、仕事や人間関係、夫婦・親子関係など、生活のあらゆる場面でプレッシャーを感じやすいため、比較的うつ病にかかりやすくなる時期です。そうした背景もあり、うつ病の平均発症年齢は20歳台となっています。またホルモンバランスの崩れにより、更年期障害の症状としてうつを発症することもあります。女性の場合は、女性ホルモンの増加、妊娠、出産をはじめとする女性特有のうつ病があります。■老年期:老年期になると、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、アルツハイマー病などの疾患からうつ病を合併することが多くあります。その他にも退職や家族・友人との死別などの喪失体験から来る精神的ストレスも、発症の原因となります。老年期のうつ病は、身体の不調などの身体症状が前面に出ることが特徴ですが、妄想などがみられることもあります。発達障害の二次障害としてのうつ病出典 : (注意・多動性障害)、アスペルガー症候群や広汎性発達障害(PDD)などの発達障害がある人は、うつ病が合併する確率が比較的高い傾向があります。そのときは、“人間不信的行動”という二次障害としてうつ病を発症する場合が多いです。人間不信的行動とは、自尊心・自己肯定感が低下して「自分はダメな人間かも知れない」と思うようになり、また、そんな自分のことを周りは誰も理解してくれないという気持ちから、周囲の人を信じられなくなったときに起こしてしまう行動のことを指します。発達障害がある人は、自身が発達障害であることを認識していないケースも多く、周りから理解が得られていない場合も多いです。その結果、人間不信になり、身の回りの環境に対してストレスを感じてしまい、知らない間にうつ病を発症しているということも少なくないのです。二次障害にうつ病が多い理由とはl 朝日新聞デジタルうつ病の原因出典 : うつ病の発症には、主に性格、ストレス、生物学的要因が大きく関与しているといわれています。かつてはうつ病は性格や遺伝の問題であるとされていました。しかし近年患者数が急増するとともに研究が進み、性格や遺伝の問題だけではないことが徐々にわかってきました。近年ではストレスや生物学的要因がうつ病に深く関与していると言われていますが、まだはっきりと解明されたわけではなく、研究が進められている過程にあります。■性格:主にきまじめな性格や、社交的な反面気が弱い性格の人がうつ病になりやすいと言われています。熱心に仕事に打ち込み、責任感が強くすべてのことに対して正直に取り組む人や、親しみやすくいい人として周囲からは見られるが、実は気が弱いために他者を優先させてしまう一面を持つ人が例として挙げられます。性格がうつ病の原因となる理由として、きまじめな性格により身の回りに起こる出来事をより重く受け止めてしまう傾向があることが挙げられます。深く考えすぎてしまうために、その出来事がストレスとなったり、対処しきれなくなるまで抱え込んでしまうのです。■ストレス:近親者の死亡、病気、家庭内のトラブル、出産、結婚・離婚、会社の人事異動や転勤、仕事上のトラブル、過労などさまざまなストレスがうつ病の発症の大きな誘因となっているという研究結果が出ています。■生物学的要因:上記の性格やストレス要因が当てはまる人のなかで、うつ病を発症する人としない人の違いは、主に生物学的要因によると言われています。脳の中で重要な情報伝達の働きをしているセロトニンやドーパミンなどの異常が、うつ病の発症と深く関わっているのではないかという有力な説があります。うつ病の診断基準出典 : アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計のマニュアル』第5版)による診断基準は以下の通りです。A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。(1)その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される。ほとんど一日中、ほとんどの毎日の抑うつ気分注:子供や青年では易怒的な気分もありうる。(2)ほとんど一日中、ほとんど毎日の、すべてまたはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)(3)食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヶ月で体重の5パーセント以上の変化)、またほとんど毎日の食欲の減退または増加。注:子どもの場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ。(4)ほとんど毎日の不眠または過眠(5)ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単におちつきがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)(6)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退(7)過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)(8)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の説明による、または他者によって観察される)。(9)死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企殺、または自殺するためのはっきりとした計画B.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を起こしている。C.そのエピソードは物質の生物学的作用、またはほかの医学的疾患によるものではない。注:基準A~Cにより抑うつエピソードが構成される注:重大な喪失(例:親しいものとの死別、経済的破綻、災害による損失、重篤な医学的疾患・障害)への反応は、基準Aに記載したような強い悲しみ、経済的破綻、災害による損失、重篤な医学的疾患・障害)への反応は、基準Aに記載したような強い悲しみ、損失の反芻、不眠、食欲不振、体重減少を含むことがあり、抑うつエピソードに類似している場合がある。これらの症状は、喪失に際し生じることは理解可能で、適切なものであるかもしれないが、重大な喪失に対する正常な反応に加えて、抑うつエピソードの存在も入念に検討すべきである。その決定には、損失についてどのように苦痛を表現するかという点に関して、各個人の生活史や文化的規範に基づいて、臨床的な判断を実行することが不可欠である。D.抑うつエピソードは、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、またはほかの特定および特定不能の統合失調症スペクトラム障害およびほかの精神病床がイ軍によってはうまく説明されない。E.躁病エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。注:躁病様または、軽躁病エピソードのすべてが物質誘発性のものである場合、またはほかの医学的疾患の生理学的作用に起因するものである場合は、この除外は適応されない。診断名を記録する際、各用語は以下の順に記載する:うつ病、単一または反復エピソード、重症度/精神病性/寛解の特定用語、そしてその後に現在のエピソードに当てはまる、以下に列挙するコードのない特定用語が来る。不安性の苦痛を伴う、混合性の特徴を伴う、メランコリアの特徴を伴う、非定型の特徴を伴う、気分に一致する精神病性の特徴を伴う、緊張病を伴う、周期発症、季節型などに分類される。うつ病に関する相談先出典 : うつ病かもしれないと思ったり、不安を感じる場合は専門機関などに相談することをお勧めします。■精神福祉保健センター:心の健康相談や医療機関への受診に関する相談、社会復帰相談や精神疾患の相談などを行っています。心の問題や病気で悩んでいる方そのや家族向けに無料で相談を受け付けているほか、電話にてこころの健康相談も行っています。全国精神保健福祉センター一覧l 八千代病院■保健所うつ病の治療や社会復帰に関する相談に、医師などの専門医がアドバイスを行います。お住まいの地区の保健所へ電話し、場合によっては家庭訪問を行うこともあります。■日本産業カウンセラー協会働く人のホットラインという無料電話相談をおこなっています。相談料金は無料です。職場、暮らし、家族、将来設計など、働くうえでのさまざまな悩みなどを相談することができ有料のカウンセリングも受けることができます。相談・カウンセリングをご希望の方へl 日本産業カウンセラー協会■U2plus:認知行動療法をベースにした無料のうつ病コミュニティです。無料のうつ病コミュニティl U2plus■いのちの電話自殺予防を目的として、日本いのちの電話連盟が運営しています。各都道府県ごと設置され、相談員が応対します。一般社団法人日本いのちの電話またうつ病の診断の際には、主に精神科や精神神経科で受診が一般的です。また、心療内科やメンタルヘルス科、メンタルクリニックなどの医療機関でも受診することができます。よく分からない場合は事前に電話やインターネットなどで確認することをおすすめします。うつ病の診断・治療の流れ出典 : 診断の際には、まず軽い問診を行います。うつ病を発症している可能性があると判断されると、身体検査から心理検査の流れで症状の程度などを検査し、うつ病かどうかを特定し定期ます。1.問診:うつ病の診断基準と照らし合わせ、どのような症状があるのか、どのような人なのかを聞いていきます。必要に応じて家族や周りの人にも質問し、さまざまな角度から本人と向き合っていきます。2.身体検査:その後身体の状態と他の合併症の有無を確認するために、必要に応じて身体検査を行います。代表的なものとして、尿検査、血液検査、画像検査(頭部CT・MRI)、心電図検査、脳波検査などが挙げられます。3.心理検査:心理検査は、うつ病の重症度を数値化するときに用います。ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)という質問表に従って質問が行われます。質問にはそれぞれ3~5個の答えが用意されいて、その中で一番当てはまるものを選択します。検査には15~20分ほどの時間を要し、重症度を5段階に分類します。うつ病は一人ひとりの症状に合わせて薬物治療、精神療法や電気けいれん療法などを行っていきます。■薬物療法:薬物療法の場合、うつ病に対してはうつ症状を改善する「抗うつ薬」が用いられたり、不安を抑える「抗不安薬」が処方されたりすることがあります。代表的な抗うつ薬として三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などが挙げられ、十分な量を十分な期間服用することが重要であるとされています。うつ病は再び症状が出現することの多い病気です。回復後1年の間に約20パーセントの患者さんに再び症状が出現する上に、その後の再発も含めると、その割合は約40~50パーセントに上がります。薬物療法は継続することが大切であり、途中で治ったと感じて治療することをやめてしまうと半年後に再び症状が出現する危険性は2倍になるという研究結果がでています。しかし、治療法には個人差があり薬物療法に関してはことさら注意が必要です。■精神療法:現在様々な精神療法が開発されていますが、うつ病に有効であると考えられているのは認知行動療法と対人関係療法です。精神療法では、医師やカウンセラーとの対話を通して、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのか、物事をどのように捉えているのか自身の思考のクセを把握していきます。そして、不安を感じる状況をどのように捉え、対処していけばいいかを考え、自身の感情をコントロールできるようにしていくことで治療を進めます。また対人関係療法は、うつ病を抱えている人だけではなく、その人の家族や恋人などの重要な他者との関係に焦点を当てて、他者との関わり方を考えていく精神療法です。最終的には身近な他者との関係だけではなく、より広い範囲の人々に対してもよりよい関係を築けるようになることを目的とします。■修正型電気けいれん療法(m-ECT):頭皮から電流を流すことで意図的にてんかん発作を発生させ、抑うつ症状を改善します。この治療法が用いられるのは薬物療法をはじめ、認知行動療法、その他の治療では効果が認められない場合、あるいは妄想をしてしまうなど症状が非常に重く治療の緊急性が高い場合です。軽、中度のうつ病の場合、あるいは他の治療法によって効果が認められている場合には原則使用されません。電気けいれん療法がなぜうつ病や、双極性障害の症状に効果があるのかについては未だ解明されていません。しかし、多くの医療機関においてその有効性が確認されており、日本においても保険の適応となっています。以前は治療の過程で生じる全身のけいれんが骨折などの怪我につながるリスクがありました。しかし、1980年代頃から施行されるようになった「修正型電気けいれん療法(m-ECT)」では麻酔科医の同伴のもと麻酔薬及び筋弛緩剤を投与し、けいれんを防ぐことができます。治療を受けることができる医療機関は必要な薬剤や人員の確保ができる病院に限られるようです。うつ病l 慶應義塾大学病院出典 : うつ病の治療には時間がかかることも多く、場合によってはそれなりのお金もかかってしまいます。医療費については、個人の症状に合わせて治療が行われるため、一概には言えませんが、うつ病で初診の際にかかる費用は、診療費と薬代を合わせ、大体1万円前後というのが平均的です。ということは、保険を使わず自費負担の場合は、その全額を支払うことになります。保険を使った場合には、健康保険(健保)では本人は2割負担(2003年4月より3割負担(3~69歳))なので2000円前後、健保家族と国民健康保険(国保)では3割負担なので3000円前後を支払うことになります。平均的な通院ペースは2週間おきで、薬も2週間分処方されることが多いようです。2回目以降(再診)は、初診の頃より、薬の処方量が増えることも多く、その分薬代はかかりますが、初診料はかかりませんので、合計の支払金額は若干安くなるようです。このような治療費の負担を抑えるために、経済的な支援をおこなう制度があります。■自立支援医療制度:障害のある患者さんに必要な医療を確保し、継続して治療を受けられるように支援することを目的として定められたものです。医療費の自己負担額が原則として1割に減額されると同時に、所得に応じて1ヵ月あたりに支払う金額に上限が設けられます。■健康保険の傷病手当金(健康保険加入者向け):病気・ケガのために勤務先を連続して3日間休んだ場合、4日目以降から支給されます。支給金額は日割給与(標準の報酬日額)の100分の60であり、最長1年半間受け取ることができます。受給条件や受け取れる金額は場合により異なる場合があるので加入している保険組合に確認しましょう。また、国民健康保険の場合は任意支給となり、傷病手当金制度がない場合がほとんどです。■精神障害者保健福祉手帳:税制上の優遇措置をはじめ、さまざまな支援サービスを受けることができます。交通機関の運賃や公共施設の料金が割引となるサービスもあります。■精神障害労災:これは労働者災害補償保険法に基づく制度で、仕事中にケガや病気、後遺症もしくは死亡した等の場合、本人や遺族に対して一定の保険給付を行う制度です。うつ病になった時の、本人・周囲の人々の対応法出典 : うつ病の治療には十分な休養と休息を取ることが、最も重要となります。早く治そうと焦らず、規則正しい生活を送りましょう。栄養バランスのとれた食事、適度な運動・睡眠時間を取ることが望ましいです。また、うつ病を抱えている人は自分自身では気持ちをコントロールすることをすることを難しいと感じ、自身が思うように行動することができていない場合が多いです。そんな中、周囲の人がうつ病を抱えている人に”頑張れ”などの声をかけたとき、更にその人を追いつめてしまう恐れがあります。そのため、うつ病を抱えている人に対しては励ますより、少し休んでみるなどの提案を行い、その人がリラックスできる環境づくりをすることをおすすめします。まとめ出典 : うつ病は日本において、15人に1人が発症したことがあるといわれている、決して珍しくはない疾患です。一度うつ病を経験すると、ストレスのもととなる要因が多い現代社会において、他のストレス要因も敏感に感じ取るようになり悪循環に陥ってしまう場合も少なくはありません。そのため、悪循環に陥る前の初期治療、そして症状が治まった後の再発予防がとても大切になっています。近年研究が進んでいることにより治療法の種類も増えてきています。そのため疾患や症状の程度を考慮した上での一人ひとりに合わせた治療法が選択できるようになっています。最近気分が晴れず、ずっと暗いまま自分をコントロールできないなど、不安を抱えている場合はうつ病を抱えている可能性があります。気になることがある場合は、専門家に相談しながら、症状の見極めや対応方法を検討すると良いでしょう。
2016年11月12日こんにちは、ライターの齋藤惠です。2016年10月22日に放送されたラジオにて、歌手の和田アキ子さんが『シェーグレン症候群 』という病気にかかっていることを発表しました。あまり聞き慣れない病名ですが、いったいどんな症状になってしまうのでしょうか?また、私たちにも起こり得る病気なのでしょうか?●難病『シェーグレン症候群』とは?難病情報センターの説明によると、『シェーグレン症候群』とは、『1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンの発表した論文にちなんでその名前がつけられた疾患』だそうです。また、『日本では1977年の厚生労働省研究班の研究によって医師の間に広く認識されるようになりました』とのことです。一般の人々にはほとんど知られていない病気という印象がありますが、意外にも、潜在的な患者さんやアメリカでの報告を含めると年間10~30万 もの人々がこの病気によって病院にかかっているそうです。●具体的にどんな症状?シェーグレン症候群になると、下記のような症状があらわれます。・目の乾燥(ドライアイ)・口の乾燥・鼻腔の乾燥・唾液腺の腫れと痛み・全身の疲労感人によって個人差はありますが、実にさまざまな症状が起こってしまいます。ちなみに和田アキ子さんの場合は、涙や唾液が出にくいとのことで、常に水を手放すことができない生活を送っているそうです。歌手にとっては直接仕事に影響しそうな症状ばかりで、つらそうですね。●どんな人がかかりやすい?シェーグレン症候群の患者さんは、とくに50歳代の女性に多い と言われています。ただし、少数ですが子どもから高齢者まで広範囲にわたり発症する可能性はあるとのことです。女性ホルモンの変化や遺伝、ウイルス、免疫異常など複数の原因が考えられるようですが、やはりこれから更年期などをむかえる女性は特に気をつけたほうがよいでしょう。●どんな治療をするの?現在のところ、残念ながら病気そのものを治療する方法は見つかっていない ようです。ただ、患者さんの症状に合わせて乾燥対策を行うことで、10年後も20年後も現状と変わらない生活を送ることができるといいます。そのためには、定期的な健康チェックを行い、医師の指示にしたがって生活習慣を改善していけばよいとのことです。具体的には規則正しい生活や、過労を避け休息をたっぷりとること、適度な運動など、シェーグレン症候群に限ったことではなく、誰もが健康を維持するために理想的な生活をすれば自然と病気の悪化を防ぐことにつながります。根本的な治療方法がわかっていない難病と言われているだけに、かかってしまった人は極度の不安に陥ってしまうこともあるようですが、体の免疫力を落とさないためにも事態を暗く考えてはいけません。今回、和田アキ子さんが病気を公表したことで、シェーグレン症候群への理解が一般へと広がり、治療の研究が大きく進展することに期待したいですね!【参考リンク】・シェーグレン症候群 | 難病情報センター()・シェーグレン症候群 | 大阪大学 免疫アレルギー内科(大学院医学系研究科・医学部)()●ライター/齋藤惠(金融コンシェルジュ)
2016年11月07日気分障害とは出典 : 気分障害とは常に気分が落ち込んだり、逆に高まることで日常生活に様々な支障をきたしてしまう心の病気です。この障害名は世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)により定められています。気分障害とは気分に関する障害がある病状・疾患を一群としてまとめたものをさしますが、主に以下が含まれます。・うつ病エピソード・躁(そう)病エピソード・双極性障害(躁うつ病)・反復性うつ病性障害・持続性気分障害「エピソード」とは、症状が現れている状態であるということを表す用語です。上記の分類に当てはまらない場合は、その他の気分障害や特定不能の気分障害と診断されます。人は生活を送っていると少なからず嬉しいことや悲しい出来事に直面しますが、その際に気分が上がったり、気分が落ち込んだりしてしまうことは当たり前のことです。しかしこのように発生した感情を、自分でコントロールできなくなることがあります。こうした状態が一定期間以上続いて仕事や私生活など普段の生活に支障がでている場合は、気分障害の可能性があります。参考文献: 『ICD-10』 2013年 中山書店/刊気分障害の種類と症状出典 : 『ICD-10』によると気分障害は大きく分けて5つに分類することができます。うつ病エピソードは気分の持続的な落ち込みを主体とした症状が現れている状態のことです。医師によってうつ病エピソードが確認されると、いわゆるうつ病と診断されます。うつ病エピソードが当てはまると診断された場合は、他の細かい基準が用いられ障害の程度が判断されます。厚生労働省のデータによると、日本においては「一生のうちにうつ病になる頻度は約15人に1人と考えられている」とされるとてもメジャーな疾患ですが、その中の4分の3の人は治療を受けたことがないと言われています。症状としては、・通常なら快楽を感じる活動に対して興味または喜びを感じなくなる・喜怒哀楽などの感情の変化が顕著に無くなってしまう・通常より2時間以上早く起床する・重度の抑うつ気分が午前中に現れる・食欲が激しく低下する・体重の減少・様々な欲求への著しい減退が挙げられます。現れる症状は人それぞれですが、『ICD-10』によるとこれらの症状のうち4つ以上の症状が2週間以上つづくとうつ病の基準を満たしていると診断されます。また、うつ病が重症になると妄想の症状が出ます。代表的なものは体の過度な不調があると妄想する心気妄想、自分はまずしいと思い込んでしまう貧困妄想、自分は犯罪など悪いことを行ってしまったと確信してしまう罪業妄想です。1990年のWHOの研究では「健康な生活を障害する疾患」の4位として発表されていましたが、2020年には虚血性心疾患に次いで2位に上昇すると言われています。その理由として社会のストレス要因が増えてきていることがあると言われています。また慢性疾患を抱えているとうつ病が合併しやすいといわれていることも挙げられます。例えばがんを発症している人のうちの20~38パーセント、糖尿病は25パーセントの人がうつ病を合併していると言われています。こころの耳l 厚生労働省気分障害l 慶応義塾大学病院躁病エピソードは爽快感、身体の快調感、幸福感があり、自信に満ち溢れ楽観的な考えに支配される症状が現れている状態のことです。医師によって躁病エピソードが確認されると、いわゆる躁病と診断されます。躁病エピソードが当てはまると診断された場合は、他の細かい基準が用いられ障害の程度が判断されます。躁病の症状としては、・活動的になる・口数が多くなる・注意不足、集中力低下によるミスが増える・睡眠欲求の低下・性的欲求が高まる・リスクを考えない浪費や無謀な運転などの常識をはずれた行動を起こす・社交的になる、または過度に馴れ馴れしくなるが挙げられます。『ICD-10』によると躁病の診断には上記の症状のうち3つの症状が4日以上持続していること、日常生活に本人が感じる程度のトラブルを起こしてしまっていることが条件となります。多くの場合、躁病の症状は徐々に始まり、何となく元気がみなぎってきたり、仕事の能率が上がったりすることで調子がいいと感じていきます。症状が重くなっていくと活動性が増加し、多くのアイデアを実行しようと一日中活動し続けます。この場合に睡眠時間が短くなってしまったとしてもあまり疲れたと感じません。当初は意識的に活動量を調整するように気をつけることができます。しかし、次第に調子が出すぎているという認識がなくなり周囲の人を考えない言動をするようになります。最終的には口数が多く、自己主張が強くなり、しきりに他人の世話を焼こうとし、対人関係トラブルを起こしてしまう傾向にあります。生涯にわたって躁病の症状しか発症しない単極性躁病はとても珍しく、躁病エピソードを発症している人のほとんどは双極性障害を発症しているといわれています。うつ病エピソードのみを2週間以上継続し、2回以上繰り返すと反復性うつ病性障害と診断されます。反復していると診断される基準として、先述したうつ病を発症した後2ヶ月以上同じような症状が現れない期間が存在することがあげられます。反復性うつ病性障害の一例として季節性感情障害が挙げられます。季節性感情障害とは主に秋から冬にかけて抑うつ状態となり、春には症状が改善するなど、抑うつ症状になる期間と回復する期間の転換が1年のうちの特定の時期に起こる疾患です。双極性障害とは一般的に躁うつ病と呼ばれる疾患です。双極性障害はうつ病エピソードと躁病エピソード両方を反復する場合、基準に当てはまると診断されます。初めのエピソードを発症してから次のエピソード発症するまで平均5年程度かかるといわれますが、エピソードを繰り返すごとに再発までの期間は短くなり、一つ一つのエピソードの継続期間はながくなるといわれています。躁病エピソードは急に発症することが多く、2週間から5か月程度持続します。一方うつ病エピソードは徐々に発症し、躁病エピソードに比べて発症期間が長い傾向にあります。双極性障害によって気分が高揚し、いらいらしたり、注意散漫になったり、誇大的になったりするなど対人関係などにも様々な障害を引き起こすことがあります。双極性障害は再発率が高いと同時に、自殺をしてしまう確率が精神障害の中で最も高い精神疾患の一つといわれています。双極性障害(躁うつ病)l 前田クリニック主に気分循環症・気分変調症をまとめて指す疾患です。躁病やうつ病の症状は当てはまらないけれど、明らかに気分が変わっていることが分かる状態をさします。■気分循環症通常は成人早期までに発症する双極性障害の軽症型です。うつ病エピソードと双極性障害の症状すべての条件を満たさない程度で、数日単位で落ち込んでいる状態と気分が良い状態が不規則に反復する期間が2年間以上続きます。気分循環症の症状としては、うつ病期間と気分高揚期間にそれぞれ3つ以上の症状が当てはまることが条件となります。うつ病期間:・エネルギーあるいは活動性の低下・自信が急に無くなるなどの自己評価の激しい変化・不眠・集中ができなくなる・引っ込み思案になり、社会からひきこもる・欲求の低下、喜びの感情の喪失・口数が少なくなる気分高揚期間:・エネルギーがありあまり、活動性が高くなる・睡眠欲求がなくなる・自己評価が過大になる・頭の働きがとてもよくなる・社交的になり、人付き合いがとてもよくなる・口数が多くなる・欲求を追い求めるようになる・過剰に楽観的になったり、過去に成し遂げたことに対して過大評価をしてしまう軽うつエピソードが優位の抑うつ型、軽うつエピソードと軽躁(そう)エピソードが同じ頻度で出現する定型的な気分循環症、軽躁(そう)エピソード優位の軽躁型の3つのパターンがあります。抑うつ型を発症している人が一番多く、割合としては気分循環症を発症している人の50パーセントを占めていると言われています。■気分変調症うつ病の診断基準を満たさない程度の軽度の抑うつ状態が2年以上持続する疾患です。うつ病と違い比較的短期間であれば気分が落ち込まない正常な期間が存在しても診断内容に影響がないと言われています。気分変調症の症状としては、気分循環症のうつ病期間に発症する症状に加えて、・涙もろい・物事に対して絶望感を感じる・日常生活でこなさなければいけない課題を対処しきれないという考えに陥る・将来や過去の出来事に対して考え込んでしまうなどの症状を発症します。これらの症状のうち3つ以上が当てはまると気分変調症を発症していると診断されます。持続性気分障害を発症している人自身は無気力感や気分の大きな落ち込みを感じていますが、社会的・職業的にはトラブルが発生していない場合が多いです。そのため本人も周囲の人も疾患を発症していると認識できず、本人は不調をそのままにしてしまう傾向があります。参考文献: 『ICD-10』 2013年 中山書店/刊気分障害を発症しやすい年齢出典 : うつ病はいかなる年齢においても発症しますが、発症率は思春期以降に大きく増加します。平均発症年齢は20歳代ですが、高齢者になって初めて発症する人も少なくはありません。厚生労働省研究班のデータによると、日本においては「一生のうちにうつ病になる頻度は約15人に1人と考えられている」とされています。女性のほうがかかりやすく、有病率は男性の1.5倍~3倍であると言われています。これは女性ホルモンの増加、妊娠、出産など女性に特有のトラブルが多いことが原因の一つであると考えられています。うつ病をしっていますか?l 厚生労働省双極性障害の発症年齢をみてみますと、15~19歳が最も多く、20~24歳がそれについで多く、それ以上では50歳以上も稀にあると言われます。発症平均年齢は30歳と言われています。5、6歳くらいの子どもについても双極性障害の発症が認められていますが、ADHD(注意欠陥・多動性障害)との識別が難しく、まだ研究が進められている段階です。双極性障害l 前田クリニック気分循環性障害は通常青年期または成人期早期に始まる疾患です。性別関係なく発症すると言われており、子どもの気分循環性障害では症状発症の平均年齢は6.5歳です。気分循環性障害がある人が双極性障害を発症する可能性は15~50パーセントです。気分変調症は小児期、青年期、あるいは成人期早期に発症し、慢性化する場合が多いです。『DSM-5 』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)2014年医学書院/刊気分障害の原因出典 : 気分障害が発症してしまう理由として遺伝子、ストレス、環境、性格などの様々な要因が複雑にかかわりあっていることが挙げられます。主な要因は抑うつ症状の強いうつ病・気分変調症、もしくは躁うつ症状がでる双極性障害・気分循環性障害のどちらかによって異なります。しかしまだはっきりとした原因は解明されておらず、今後更なる研究が必要とされています。うつ病・気分変調症は主に性格、ストレス、生物学的要因が大きく関与しているといわれています。かつてはうつ病や気分変調症は性格や遺伝の問題であるとされていましたが、近年患者数が急増するとともに研究が進み、性格や遺伝の問題だけではないことが徐々にわかってきました。近年ではストレスや生物学的要因がうつ病に深く関与していると多く言われています。■性格:主にきまじめな性格や社交的な反面気が弱い性格の人がうつ病になりやすいと言われています。熱心に仕事に打ち込み、責任感が強くすべてのことに対して正直に取り組む人や、親しみやすくいい人として周囲からは見られるが、実は気が弱いために他者を優先させてしまう一面を持つ人が例として挙げられます。■ストレス:近親者の死亡、病気、家庭内のトラブル、出産、結婚・離婚、会社の人事異動や転勤、仕事上のトラブル、過労などさまざまなストレスがうつ病の発症の大きな誘因となっているという研究結果が出ています。■生物学的要因:上記の性格やストレス要因が当てはまる人のなかで、うつ病を発症する人としない人の違いは主に生物学的要因にある傾向があります。脳の中で重要な情報伝達の働きをしているセロトニンやドーパミンなどの異常が、うつ病の発症と深く関わっているのではないかという有力な説もあります。しかし、この生物学的要因もまだ解明されたわけではなく、研究が進められている過程にあります。双極性障害・気分循環性障害の発症要因と考えられるものは遺伝子、ストレス、性格、生物学的要因で、もっとも深く関与していると言われているのが遺伝子です。■遺伝子:双極性障害は同じ家系に発症する確率が高いことから、何らかの遺伝子が発症にかかわっているのではないかと指摘されています。しかし、ある特定の遺伝子ではなく、いくつかの遺伝子の組み合わせによって発症するのではないかと推測されています。■ストレス:身の周りで起こることを本人がストレスに感じてしまうことも大きな原因の一つであると言われています。例として結婚や引っ越し、出産などのライフイベントに対する受け止め方や重なり具合、職場の人間関係などが挙げられます。このような生活環境の変化がストレスとなり、こころの安定の成分をつかさどるセロトニンに影響がでてしまったり、様々な支障が発生します。■性格:うつ病・気分変調症を発症する人と違い、双極性障害・気分循環性障害を発症する人は社交的で明るい、ユーモアのある性格という傾向があります。このような性格を一般的に循環気質と表現します。気配りも上手で、常に周囲の人の中心的役割を果たしていますが、気分が高揚しているときと沈み込んでいるときが周期的に訪れるため、状況に応じながら気分や思考がポジティブになったり、ネガティブになったり変化します。しかし、現在では循環気質の性格だけではなく様々な気質の人も発症することが分かっており、執着気質がその一つです。執着気質とは一つのことにたいして徹底的に自分を追い込む頑張り屋さんのような人です。「疲れてなんかいない」といって自分自身を鼓舞し、さらに頑張り過ぎることを継続することで双極性障害を知らない間に発症している場合があります。■生物学的要因:近年双極性障害には生物学的要因もあることが明らかになってきています。それは、脳細胞内にあるミトコンドリアの機能異常です。ミトコンドリアはエネルギー物質を生産する働きの他に、情報伝達にかかわるカルシウムの濃度を調整する機能をもつ物質です。ミトコンドリアの異常によってカルシウム濃度の調整がうまく行われなくなると細胞内の情報がうまく伝わらず、双極性障害の発症を誘因するものと考えらます。しかし双極性障害は発症する確率も低くはっきりとした原因はまだ解明されていません。研究が今後進んでいくことが期待されます。気分障害l 前田クリニック気分障害の相談先と治療先出典 : 気分障害に区分される疾患はストレスが多い現代社会ではいつ、誰が発症してもおかしくない疾患です。気分が上がらず憂鬱な気分のまま数週間が経ってしまったり、逆にテンションの上がり下がりにムラがあり不安を感じる場合は以下の行政機関に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。■児童相談所:児童相談所は、すべての都道府県と政令指定都市に最低1つ以上設置されている児童福祉の専門機関です。主に、「子どもの養育に関する相談」、「障害に関する相談」、「性格や行動の問題に関する相談」などの育児に関する相談ができる機関となっています。全国児童相談所一覧l 厚生労働省■全国精神保健福祉センター:各県、政令市にはほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、施設によって予約が必要な場合や健康保険の適用が可能なところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センターを探すl 厚生労働省■精神科:精神疾患をはじめ、精神障害や睡眠障害、依存症を診療する科です。具体的には不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などの症状を扱います。■心療内科:心と体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。前述の精神症状だけでなく、ほてりや動悸などの身体症状、また社会的背景及び家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、気分障害の場合は精神科を受診しても、心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。気分障害の治療出典 : 気分障害の治療法として現在主に効果的であると考えられ、用いられているのは薬物療法、精神療法、そして電気けいれん療法です。発症している疾患により細かい治療法は異なるので詳しい情報は専門家に相談することをおすすめします。薬物療法の場合、うつ病に対してはうつ症状を改善する「抗うつ薬」が用いられます。一方、双極性障害に対しては激しい移り変わりがある感情を安定させる「気分安定薬」が中心的に用いられます。いずれの場合も、不安を抑える「抗不安薬」が同時に処方されることがあります。代表的な抗うつ薬として三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などが挙げられ、適切な量と期間で服用することが重要であるとされています。抗うつ薬は主にうつ病・気分変調症に処方されています。双極性障害・気分循環障害を発症している人が抗うつ薬を服用するとかえって気分が不安定になったり、躁状態になってしまったりすることがあるため、躁うつの症状に対しては抗うつ薬は基本的に使用されせん。気分安定薬には気分が上がりすぎる躁状態を抑える効果、沈みすぎてしまう抑うつ状態を改善させる効果、いったん安定した気分を維持させる効果があります。現在、双極性障害・気分循環障害の薬物療法は気分安定薬が中心となっていますが、飲み始めてからしばらくは重い副作用を防ぐために血液検査が数回必要です。また検査後も一定期間ごとに採血をすることで効果と安全性が確かめられるため、継続して受診することが大切です。うつ病は再び症状が出現することの多い病気です。回復後1年の間に約20%の患者さんに再び症状が出現する上に、その後の再発も含めると、その割合は約40~50%に上がります。また、途中で治ったと感じて治療することをやめてしまうと半年後に再び症状が出現する危険性が2倍になるという研究結果もでています。しかし、いずれの場合も治療法の効果や必要な量・期間には個人差があるため、自分だけで判断することは危険です。治療の際には、専門家の指導を受けながら用量・用法を守って行うことが大切です。気分障害l 慶應大学病院気分変調症l前田クリニック現在様々な精神療法が開発されていますが、気分障害に有効であると考えられているのは認知行動療法と対人関係療法です。一般的には医師やカウンセラーとの対話を通して、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのか、物事をどのように捉えているのか自身の思考のクセを把握します。そして、不安を感じる状況をどのように捉え、対処していけばいいかを考え、自身の感情をコントロールできるようにしていく治療法です。また対人関係療法は気分障害を抱えている人だけではなく、その人の家族や恋人などの重要な他者との関係に焦点を当てて、他者との関わり方を考えていく精神療法です。最終的には身近な他者との関係だけではなく、より広い範囲の人々に対してもよりよい関係を築けるようになることを目的とします。頭皮から電流を流すことで意図的にてんかん発作を発生させ、抑うつ症状を改善します。うつ病、双極性障害に有効といわれています。この治療法が用いられるのは薬物療法をはじめ、認知行動療法、その他の治療では効果が認められない場合、あるいは妄想をしてしまうなど症状が非常に重く治療の緊急性が高い場合です。軽、中度のうつ病の場合、あるいは他の治療法によって効果が認められている場合には原則使用されません。電気けいれん療法がなぜうつ病や、双極性障害の症状に効果があるのかについては未だ解明されていません。しかし、多くの医療機関においてその有効性が確認されており、日本においても保険の適応となっています。以前は治療の過程で生じる全身のけいれんが骨折などの怪我につながるリスクがありました。しかし、1980年代頃から施行されるようになった「修正型電気けいれん療法(m-ECT)」では麻酔科医の同伴のもと麻酔薬及び筋弛緩剤を投与し、けいれんを防ぐことができます。治療を受けることができる医療機関は必要な薬剤や人員の確保ができる病院に限られるようです。気分障害l 慶應義塾大学病院まとめ出典 : 気分障害がある人は少なくとも世界に3億5000万人以上もいると言われており、世界的に増加傾向にあります。日本も例外ではなく厚生労働省によると、平成26年度時点で約112万人の人が発症していると言われています。気分障害の症状により日常生活に悪い影響をきたしてしまうと、何かとうまくいかないことがストレスにつながり悪循環に陥ってしまう場合も少なくはありません。そのため気分障害は悪循環に陥る前の初期治療、そして症状が治まった後の再発予防がとても大切になっています。近年研究が進んでいることにより治療法の種類も増えてきています。そのため疾患や症状の程度を考慮した上での一人ひとりに合わせた治療法が選択できるようになっています。最近気分が晴れずずっと暗いままであったり、気分の上がり下がりが激しく自分をコントロールできない時があるなど、不安を抱えている場合はこころの風邪である気分障害を抱えている可能性があります。気になることがある場合は、専門家に相談しながら、症状の見極めや対応方法を検討すると良いでしょう。平成26年度患者調査の概要l 厚生労働省
2016年10月26日情緒障害とは出典 : 「情緒障害」とは、子どもが何らかの要因により感情面に問題が生じ、社会に適応できない状態にあることを指す言葉です。広義に解釈すると上記の意味ですが、実は「情緒障害」は、厳密かつ普遍的な定義がなく、その意味や内容は時代や社会的な背景とともに大きく変遷してきました。そのため現在実際に使われている「情緒障害」という言葉も、文部科学省、厚生労働省、医学のそれぞれにおいて定義や概念にばらつきがあります。情緒障害に含まれる具体的な障害もそれぞれの定義によって異なるため混乱を招くこともままあり、必要に応じて関係機関の定義を参照し、確認する必要があります。以下でそれぞれの定義を見ていきましょう。教育、福祉、医学、それぞれ違う「情緒障害」の定義出典 : ・情緒障害の教育的定義主に特別支援教育の場面で使われる、文部科学省による「情緒障害」の定義は以下の通りです。状況に合わない感情・気分が持続し、不適切な行動が引き起こされ、それらを自分の意思ではコントロールできないことが継続し、学校生活や社会生活に適応できなくなる状態をいう。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP・情緒障害の教育的定義に当てはまる症状教育の場で用いられる情緒障害にあてはまる症状の具体例としては、主に選択性緘黙(かんもく)を指し、その他、集団行動・社会的行動をしない、引きこもり、不登校、指しゃぶりや爪かみなどの癖、常同行動、離席、反社会的行動、性的逸脱行動、自傷行為をあげています。・教育的定義における情緒障害と発達障害の関係文部科学省では、情緒障害は心理的な要因から生じる後天的な問題であり、先天的な問題から生じる発達障害とは違うものと定義しています。・「情緒障害」の教育的定義の成り立ち教育の場で言われる「情緒障害」は、教育上の概念・分類であり、医学用語の「情緒障害」の定義とは必ずしも一致しません。現在、このようなわかりにくさを生んでいるのは、情緒障害という障害の概念が時代によって変遷していることと、特殊支援教育の歴史的背景に由来しています。公立学校に現在の特別支援学級の前身である情緒障害特殊学級が成立した1969年当時、自閉症などの先天性由来の障害も含めおおまかに「情緒障害」と定義していました。のちに、先天的な障害である自閉症は「情緒障害」から除外されたため、「情緒障害」は後天的な心理的問題により社会に適合していない子どもを分類するための概念と修正されました。平成18年には「学校教育法施行規則の一部を改正する省令」が発令され、平成21年には「情緒教育特別支援学級」の名称も「自閉症・情緒障害特別支援学級」と変更され、特別支援教育の場でも自閉症が情緒障害から分けられるようになりました。・情緒障害の福祉的定義厚生労働省管轄の情緒障害児短期治療施設などの福祉の場面で用いられる「情緒障害」は、厚生労働省が定義したものに沿っています。厚生労働省の情緒障害児の定義は以下の通りです。情緒障害児とは,家庭,学校,近隣等での人間関係のゆがみによって,感情生活に支障をきたし,社会適応が困難になった児童をいう。厚生白書(昭和53年版)・情緒障害の福祉的定義に当てはまる行動や状態不登校、引きこもり、かん黙、軽度の非行、チック、発達障害による二次障害、虐待により心理的に傷ついた状態など参考ページ:厚生白書(昭和43年版)第3章社会福祉|厚生労働省HP・福祉的定義における情緒障害と発達障害の関係厚生労働省が定義する「情緒障害」(情緒障害の福祉的定義)は、同省が定義する発達障害に含まれる、としています。参考ページ:発達障害者支援法の施行について|厚生労働省HP医学的な用語としての「情緒障害」は、主として、心理的な反応として起きる、情動が著しく不安定で激しい現れ方をする状態であり、病名ではないとするのが主流です。国立特別支援教育総合研究所によると、医学的な用語としての「情緒障害」は次のようにまとめられます。1)厳密で普遍性のある定義はない。2)病名ではなく症状もしくは状態像を指して用いられることが一般的。3)現在では、心理的要因が原因と想定されるものに主に用いられるが、例外もある。世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)においては、「情緒の障害」と表記されているものが、医学的な用語としての情緒障害とほぼ同義とされ、病名に相当する診断カテゴリーとされています。参考:発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究・医学的見地における情緒障害と発達障害の関係基本的に、医学的には情緒障害と発達障害は別の区分とされています。就学相談などで使われる「情緒障害」のさす意味とは?出典 : 教育の場で「情緒障害」とされる状態は、具体的には2種類の問題行動があります。一つは、周囲から介入しない限り周囲に迷惑や支障を生じない、内向性の問題行動、もう一つは、周囲からの介入がなければその行動自体が周囲の人に迷惑や支障を生じる外向性の問題行動です。専門用語で「内向性行動問題」と呼ばれるもので、周囲が介入しない限り迷惑や支障を生じないものをさします。具体的な例として、・選択性緘黙(かんもく)・不登校、集団行動・社会的行動をしない・ひきこもり、指しゃぶりや爪かみなどの癖・身体を前後に揺らし続けるなどの同じパターンの行動を反復すること(常同行動)・自分の髪の毛を抜くことなどです。一般的にはただの「癖」と考えられているものでも、この行動が長期間頻繁に続き、学校での学習や集団行動に支障をきたすほどの場合には情緒障害としてとらえられます。専門用語で「外向性行動問題」と呼ばれるもので、周囲からの介入がなければその行動自体が周囲の人に迷惑や支障を生じる場合をさします。具体的な例は、・離席、教室からの抜け出し・集団逸脱行動・犯行、暴言、暴力、反社会的行動・非行、性的逸脱行動などです。これらの行動から、学校での学習や集団生活に支障をきたしてしまいます。攻撃性を示す場合が多く、その攻撃性が自分に向った場合である自傷行為も情緒障害としてとらえられます。教育の場で「情緒障害」としてあがることの多い、選択性緘黙と不登校について紹介します。・選択性緘黙文部科学省が定義する選択性緘黙は、以下の通りです。選択性かん黙とは,一般に,発声器官等に明らかな器質的・機能的な障害はないが,心理的な要因により,特定の状況(例えば,家族や慣れた人以外の人に対して,あるいは家庭の外など)で音声や言葉を出せず,学業等に支障がある状態である。(平成25年文部科学省教育支援資料)・不登校文部科学省の教育支援資料において、不登校は、以下のように定義されています。不登校の要因は様々であるが,情緒障害教育の対象としての不登校は,心理的,情緒的理由により,登校できず家に閉じこもっていたり,家を出ても登校できなかったりする状態である。そして,本人は登校しなければならないことを意識しており,登校しようとするができないという社会的不適応になっている状態である。したがって,一般的には,怠学や学校の意義を否定するなどの考えから,意図的に登校を渋る場合は,学校に登校しないという状態は類似しているが,ここでいう情緒障害の範囲には含まない。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP「情緒障害」の子どもには、どのような支援があるの?出典 : 自閉症・情緒障害通級指導教室通級指導教室とは、通常学級の学校に籍を置いて、通級指導の時間のみ通級指導教室に通って支援を受けるという制度です。子どもが在籍する学校に通級指導教室が無い場合は、通級指導教室がある他の学校に通って通級指導を受ける場合もあります。障害の種別に分かれ、その子に合った指導が受けられますが、情緒障害のある子どもは「自閉症・情緒障害通級指導教室」に通うことになります。・対象者通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導(社会的適応のための特別な指導や強化の補充指導など)を必要とする程度のものであるとされています。・どのような指導がされるか基本的には、特別支援学校などにおける、障害がある生徒の自立を目指した教育的な活動を参考とした指導が中心で、社会的適応性の向上が目的とされています。通級指導を受ける場合、大半の時間を通常学級で過ごし、通級指導を受ける時間は限られています。そのため、必要に応じて各教科などの補充的な指導は行っていますが、個別の指導内容を設定することはできません。自閉症・情緒障害特別支援学級特別支援学級とは、通常学級ではなく特別支援学級に籍を置き、よりきめ細かな指導を受ける少人数の学級です。もし、子どもに手厚い指導が必要な場合は、上記の通級指導教室ではなく特別支援学級に通う場合が多いです。情緒障害のある子どもは「自閉症・情緒障害特別支援学級」で指導を受けることになります。・対象者文部科学省は、自閉症・情緒障害教育の対象を以下のように定めています。一 自閉症又はそれに類するもので,他人との意思疎通及び対人関係の形成 が困難である程度のもの二 主として心理的な要因による選択性かん黙などがあるもので,社会生活へ の適応が困難である程度のもの平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP選択性かん黙や不登校などの感情面での問題のために、通常の学級では学習を行うことが難しく、社会的適応のための特別な指導を行う必要がある子どもが対象者であるとされています。・どのような指導が受けられるか情緒障害や自閉症のある子どもなどが、人とのかかわりを円滑にし生活する力を育てることを目標に指導を受けることができます。 特別の教育課程を編成することができることが特徴です。基本的に主な授業は特別支援学級で受けますが、体育や図画工作、給食の時間は通常学級の子どもたちと過ごすこともあります。特別支援学校基本的には、情緒障害であるというだけで特別支援学校の支援対象となることはありませんが、情緒障害とされている子どもが、知的障害や病弱・身体虚弱を伴う場合は、知的障害、病弱などの区分での支援対象となることもあります。特別支援学校と特別支援学級・通級指導教室の違いについては、以下のコラムに詳しく解説されています。・放課後等デイサービス幼稚園・大学を除いた学校に就学中で、かつ障害のある子どもが、学校の授業終了後や長期休暇中などに通い、生活能力向上のための訓練および、社会との交流促進を行う施設です。施設利用にあたって療育手帳や障害者手帳は必須ではなく、障害児通所支援受給者証を申請し、認可が下りれば利用することができます。施設のタイプは、習い事型、学童保育型、療育型の大きく分けて3つのタイプに分けられます。詳しくは以下の記事をご覧ください。・情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)情緒障害短期治療施設とは、学校教育との緊密な連携をとりつつ、医学的な心理治療を行う総合的な治療・支援施設です。情緒障害児短期治療施設の対象児童は、心理的困難や苦しみを抱え日常生活に生きづらさを感じている子どもたちであり、心理治療が必要とされる子どもたちであるとされています。知的障害児や重度の精神障害児は基本的に対象ではありません。利用方法は、宿泊入所、通所、外来相談の3つがありますが、施設によっては外来相談が設置されていない場合もあるため、一度お近くの情緒障害児短期治療施設に電話などで相談してみることをおすすめいたします。・児童相談所児童相談所とは、家庭や学校などから18歳未満の子どもに関するあらゆる相談に応じ、また、子どもおよび家庭に対して医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定や調査、調整を行う場所のことです。各相談所には精神科医師、児童心理士、児童福祉司などの専門職員が配置されています。・児童家庭支援センター児童家庭支援センターは、児童心理療育施設、児童養護施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設、乳児院に設置されているもので、18歳未満の子どもに関する様々な相談を、子ども、家庭、地域住民から受け付けます。また、児童福祉施設などの関係する機関との連絡調整も行います。学校で子どもが直面する「情緒障害」の原因は?出典 : 教育的定義における「情緒障害」とされる状態を引き起こす原因としては、対人関係のストレス状況、学業・部活動の負担、親子関係の問題などが考えられるとされています。友人同士や教師との関係において、対等な人間関係が崩れた場合大きなストレスが生じます。いじめがその最たるものとされています。一方的、威圧的に教師や友人に接されることによりストレスが生じ、情緒障害とされる状態に陥る原因になります。学業、部活などにおいて、本人の能力に見合わない要求をされ、かつその環境から抜け出すことができない雰囲気がある場合、それがストレスとなり情緒障害の原因となると言われています。親子関係において信頼関係が築けていない場合に、教育的定義における「情緒障害」の原因となる可能性があります。親子の信頼関係が築かれていないパターンで、児童虐待なども含まれます。子どもと過ごす時間を十分にとることが信頼関係の構築において大切です。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP子どもが情緒障害の疑いがあるとき、どう対応すべきなの?出典 : 生活上の問題が生じたときは、できる限り早い段階でなんらかの対応をとることが必要です。・毎日の基本的な生活環境を整える子どもの成育には、障害の有無、障害の種類にかかわらず、安心して過ごせる環境作りが必須です。毎日の生活のなかで、家族関係の安定を意識し、なるべくお子さんをほめてあげること、そして、できるだけ一緒に過ごしてあげること。このような安心して過ごせる基本的な環境作りを心がけることこそが、お子さんの症状の回復のための基礎づくりとなります。・いじめはすぐ対処もし、お子さんがいじめを受けているように感じたら、本人に対処させるのではなく、いじめが起きている環境から保護することが最優先です。まず、教師に相談し、お子さんのいる環境を変えるなどの対応をし、それに加え児童精神科などで専門的な治療を受けることで、心の傷がこれ以上深まらないようにする必要があります。・医療機関を受診する身体症状が強い場合は小児科、情緒面の問題が強い場合は児童精神科を受診することをおすすめします。専門家の指示を仰ぎ、適切な指示を受ければ、ご家族もお子さんも、無為に苦しむことなく解決の糸口を見つけることができます。どうしても、医療機関の受診への敷居が高い場合には、スクールカウンセラーや各相談機関を利用するのも一つの手です。もし、近くに児童精神科がない場合は、大学病院や総合病院の精神科でも診療してもらえます。少しでもお子さんが何らかの問題を抱えているように感じたら、どうか一人で抱え込まずに、専門家の助けを求めてください。参考文献:杉山登志郎 /著『子どもの発達障害と情緒障害』2009年講談社/刊まとめ出典 : 「情緒障害」の定義はさまざまですが、一般に情緒障害とされる状態は、主に対人関係などの後天的なストレス要因から生じるとされています。先述の通り、お子さんの成育の基本となるのは安心して生活できる環境づくりであり、それには家族からの理解が不可欠です。お子さんをあたたかい目で見守ってあげることこそが、問題解決のための近道となります。とはいえ、保護者の方が、何のストレスも感じずお子さんに接し続けるのは難しいこともあります。専門家からアドバイスしてもらうことで、今までずっと悩んでいた問題から抜け出す解決の糸口が見つかることもありますので、少しでも悩み事がある場合は一人で抱え込まず、医療機関や相談窓口に連絡を取ることをおすすめします。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HPあなたのそばの相談機関|情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)ネットワークHP発達障害者支援施策について|厚生労働省HP厚生白書(昭和53年版)|厚生労働省HP情緒障害児短期治療施設運営指針|厚生労働省HP特別支援教育について|文部科学省HP 自閉症・情緒障害とは|国立特別支援教育総合研究所HP
2016年10月24日めまぐるしいけど愛おしい、空回り母ちゃんの日々
こどもと見つけた小さな発見日誌
育児に遅れと混乱が生じてる !!