学習障害(LD)とは?学習障害の特徴をまとめると、以下のようになります。Upload By 発達障害のキホン例えば、通級による指導の対象を示す場合など、教育現場で使われることの多い、文部科学省の学習障害の定義は以下の通りです。基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。他にも、医学的な診断基準による定義と行政的な定義などで若干の違いがあります。以下の図に示すように、使われるシーンや困りごとの傾向によってさまざまな名称が使われる場合があります。Upload By 発達障害のキホン「読めるのに書けない」など苦手や困りごとは、人によって一部だけに極端に表れることもあれば、いくつか重複していることもあります。自閉症スペクトラム障害やADHD、協調性運動障害や感覚過敏などの他の障害を合併している人もいます。特定の学習にだけ困難がある場合、周りから理解されにくく、「怠けている」などと誤解され、苦しんだり、不登校やうつなどの二次障害に陥ってしまう子どもも少なくありません。障害の名称や診断の有無などにこだわりすぎず、一人ひとりどのような特性や困りごとがあるか理解し、対処していくことが非常に重要になります。学習障害(LD)の3つのタイプと特徴・症状学習障害の困りごとには以下の3つのタイプがあります。症状や困りごとが全てあてはまる人はかえって少なく、特徴は人それぞれです。年齢によって困りごとや特性が変化したり軽減することもあります。複数のタイプが混じっていることもあります。※以下で紹介する症状・困りごとは年齢や学習の習熟度などによって、誰にでも見られるものもあります。当てはまるからといって学習障害であるとは限りません。学習障害と診断された人の中で一番多く見られるタイプで、見た文字を判別して読んで理解したり、音にするのが苦手です。読むことに障害があると、結果として文字を書くことにも困難を感じる場合が多いため、読み書き障害と呼ばれることもあります。Upload By 発達障害のキホン読字障害(ディスレクシア)を詳しく知る「文字が書けない」「書いてある文字を写せない」などの書く能力に困難があるタイプです。文字が読めるのにもかかわらず書けない場合もあります。Upload By 発達障害のキホン書字表出障害(ディスグラフィア)を詳しく知る数字や数式の扱いや、考えて答えにたどり着く推論が苦手な学習障害のタイプを算数障害・ディスカリキュリア(dyscalculia)と呼びます。数字に関する能力にのみ障害がある人が多いため、算数の学習を始めてから発見される場合がほとんどです。「1」「2」「3」などの基本的な数字や、「x」「+」などの計算式で使う記号を認識することに困難をもっていることもあります。Upload By 発達障害のキホン算数障害(ディスカリキュリア)を詳しく知る学習障害の原因は?学習障害の原因は、医学的にはまだはっきりとは解明されていませんが、以下のようなことが研究から分かってきています。Upload By 発達障害のキホン中枢神経は脳や脊髄、体のさまざまな部分の働きを指令する部分です。学習障害の症状は、情報を伝達し処理する脳の機能がスムーズに働いていないことで引き起こされると考えられています。学習障害の症状・困難の理由を理解しようじっと見つめたり、視線を上手に動かすことが困難で、行を飛ばして読んだり黒板の文字を写すのが苦手な場合があります。見た情報を脳が処理する視覚認知の機能が弱く、文字を認識するのが難しいこともあります。また見え方に特性があり、文字がぼやける、黒いかたまりになって見える、逆さまに見える、歪んで見えるなど違った見え方になってしまう人もいます。Upload By 発達障害のキホン文字と音を結びつけるのが難しいため、音声を聞いて文字を書いたり、文字を見て即座に読み上げるのが難しいことがあります。文字を書くという動作自体が苦手です。脳内で身体に指示を出し手を動かすという伝達機能がうまくいっていないからだという説が有力です。文字を揃えて書く、バランスを考える、筆圧を調整する、文字間の距離感を取るなどが苦手です。そのため、筆算の際に桁がずれることも多くなり、間違えやすくなることもあります。一度にいろいろなことをするのが苦手で、聞きながら書く、読みながら意味を考えるなどが難しいこともあります。記憶するのが苦手な場合、漢字の形や読み方をなかなか覚えられないこともあります。記憶や推論することが苦手だと、数字そのものの概念、規則性、推論が必要な図形の領域を認識するのが難しかったり、文章題を読み、意味を理解することや、グラフや表、図形などからイメージすることが苦手だったり、算数障害につながることもあります。Upload By 発達障害のキホン視覚過敏があって紙の白さが眩しく見えるなどで、文字が見えづらいことも。聴覚過敏・鈍麻のために話が聞き取りづらかったり、集中できないケースもあります。その子の困難の背景を考え、寄り添ってサポートを苦手さの理由や原因は一人ひとりのケースで違います。その子がどこに困難を感じているのか、またその理由はどこにあるのかを観察してみるとよいでしょう。環境を調整したり、やり方を工夫したりすることで対処法が見つかることがあります。現在は、見分けやすいチョークやユニバーサルフォント、音声読み上げ機能のある電子教科書、タブレットやキーボードなど、学習障害のある子をサポートする道具や機器もあります。その子がうまくいきやすい方法があれば、学校での合理的配慮を求めることもできますので、ぜひ、学習障害について理解を深め、サポートしていきましょう。学習障害をもっと知るためのリンク集学習障害についてもっと詳しく知る学習障害の診断・検査通級指導教室について知る障害者手帳の取得法、利用できるサービスを知る障害児が受けられる福祉サービスを知る障害者が受けられる福祉サービスを知る合理的配慮の受け方、具体例を知る学習障害の子どもへの接し方親子のヒント発達障害者支援法、ADHDの教育|文部科学省参考書籍:『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』(医学書院)参考書籍:『ICD-10精神科診断ガイドブック』(中山書店)参考書籍:「怠けてなんかない!ディスレクシア~読む書く記憶するのが困難なLDの子どもたち」品川 裕香
2018年09月06日高次脳機能障害とは人は、周囲にあるものを見たり聞いたりして情報を得て、これまでの経験も踏まえながら考え、行動をしています。このような脳の働きを、高次脳機能または認知機能と言います。病気やけがなどによって、この脳の機能がうまく働かなくなった状態を認知障害と言います。高次脳機能障害は、そのうちの一つです。高次脳機能障害を起こす主な原因は、脳梗塞などの脳血管疾患や、事故による頭部外傷、窒息などで起こる低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍の手術後などがあげられます。これらの病気やけがの後遺症として、高次脳機能障害が起きるのです。高次脳機能障害の主な症状出典 : 高次脳機能障害には、主に「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会行動障害」の4つの症状があります。それぞれ詳しく解説していきましょう。記憶障害は、物事を覚えられなくなったり、覚えていたことを忘れてしまったりする状態(=健忘)のことを言います。この健忘には主に2種類あります。・前向性健忘:脳に障害を負った時点から後に新しい物事を覚えられなくなる状態。受傷から時間が経っていくと、受傷時に近い記憶ほど思い出せなくなる。・逆向性健忘:脳に障害を負った時点より前のことを思い出せなくなる状態。昔のことほど思い出すことができ、受傷時に近い日の記憶は思い出せない。軽度であれば、部分的に記憶は維持されており、複雑な出来事でも思い出すことができます。中等度だと、古い記憶や学習したことは思い出せるものの、複雑な記憶や新しい出来事は思い出しにくくなります。重度になると、前向性健忘と逆向性健忘のどちらも起こり、ほぼ全ての記憶に影響が出てしまいます。人は、日常生活においてさまざまな情報を選択して注意を向けたり、同時に複数のことに注意をしたりしながら、行動しています。この注意に関する機能が障害されるのが、注意障害です。注意障害には、以下の2つがあります。・全般性注意障害:注意を向けるものを選ぶ「選択機能」、向けた注意を維持する「維持機能」、いったん向けた注意を別のものへ移す「転換機能」、複数のものへうまく注意を振り分ける「配分機能」を全般性注意と呼びます。これらが障害され、注意散漫になったり集中力が保てなくなったりする状態です。・方向性注意障害:損傷を受けた脳の反対側の空間のみ注意を向けられなくなった状態です。左側の半側空間無視が多く、左側にあるものを認識できず、食事時に右側にあるものだけを食べたり、絵を描いても右側しか描かなかったりします。このほか、一度に1つのものにしか注意が向けられない「同時失認」もありますが、比較的珍しい症状とされています。遂行機能障害は、物事の計画を立てて、その通りに行動することが難しくなる状態を言います。人は何かをするときに、頭の中でその順序を決めたり、必要なものを準備したりすることができます。しかし、この遂行機能が障害されると、物事を達成するのに何が必要なのか、何をすればいいのか、その順番の組み立てはどうするのか、などの判断が難しくなってしまいます。マニュアルや工程表などがあれば、その通りに実行するのは可能です。ただし、イレギュラーなことが起きたときに、再度その場で計画を立て直すということができないので、臨機応変な対応は難しくなります。社会的行動障害にはさまざまな症状がありますが、それらによって社会的生活を営むことが難しくなる状態を言います。中でも代表的な5つの状態について説明します。・対人技能拙劣(せつれつ):相手の気持ちや立場を配慮することができず、人間関係をうまく築けない。・依存性、退行:まわりの人を頼る傾向が強くなったり、子どもっぽくなったりする。・意欲、発動性の低下:運動障害や精神的なうつ状態がないのに、自発的に何かをしようとしなくなる。・固執:一つの物事に対してこだわりが強くなる。・感情コントロールの低下:すぐに怒り出したり、暴力的になったりする。そのほか、気分が落ち込んでしまう抑うつや、性的逸脱行為、食欲や物欲などを抑えられない欲求コントロールの低下などが起きることもあります。高次脳機能障害の診断基準出典 : 国立障害者リハビリテーションセンターが作成した行政上のガイドラインでは、以下のように高次脳機能障害の診断基準が定められています。Ⅰ.主要症状等1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。Ⅱ.検査所見MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。Ⅲ.除外項目1.脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。Ⅳ.診断1.I〜IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。なお、診断基準のIとIIIを満たす一方で、IIの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。高次脳機能障害と診断するためには、脳に損傷があることを確認する必要があります。そのため、まずはCTやMRIなどの画像検査をします。ただし、検査をしてもはっきりとした病変が確認できないこともあります。その場合には、問診やそのほかの検査などを参考に、評価を慎重に行うことになります。また、どんな障害が起きているのか、障害の程度はどのくらいかを具体的に把握するために、神経心理学的検査を行う場合もあります。これは診断そのものには必須ではありませんが、診断書を作成する場合には必要となります。各症状において、必要となる主な神経心理学的検査は以下の通りです。・知的機能障害:MMSE、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、WAIS-III・記憶障害:WMS-R、三宅式記銘力検査、RBMT、ベントン視覚記銘力検査、Rey-Osterrieth複雑図形検査・注意障害:Trail Making Test、標準注意検査法(CAT)、PASAT・遂行機能障害:BADS、Stroop Test、ウィスコンシンカード分類検査(WCST)高次脳機能障害と似ている疾患として、認知症が挙げられます。認知症も認知機能が低下していく病気ではありますが、全体的に機能低下していくのが特徴です。高次脳機能障害の場合は部分的に機能が障害されるため、全体的な機能低下でないことが多いとされています。高次脳機能障害の治療方法出典 : 高次脳機能障害を起こす原因となった病気やけがの治療が終わったあとは、高次脳機能障害に対する治療を行っていくことになります。高次脳機能障害は、発症から数年以内であれば、リハビリテーションなどの治療によってある程度改善することが期待できます。また、発症年齢が若いほうが改善の度合いはより良いとされています。しかし、脳の損傷の程度によっては、十分な治療をしても大きな後遺症が残ってしまうことがあります。そうした場合は、日常生活や健康管理、コミュニケーションなどの面で、家族や専門職による継続した支援が必要になります。高次脳機能障害の治療においてメインとなるのが、リハビリテーションや社会生活に対応するための訓練です。このリハビリテーションや訓練は、大きく分けて3つの種類があります。・医学的リハビリテーション:病気やけがなどの急性期の治療が終わったあと、医療機関で行われるリハビリテーション。認知リハビリテーションとも言う。認知機能の回復や、残された能力を使って生活ができるようにするために行われます。・生活訓練:日常生活を送る上で、必要な行動をできるようにするための訓練。・職能訓練:生活訓練がある程度進んだ段階で、状態にあった職業を選んだり環境を整えたりするために行われる訓練。生活訓練と職能訓練は、障害者支援施設や障害者職業リハビリテーションセンターなどで行われます。個々の障害の種類や程度によって必要な訓練は異なるため、それぞれに合わせたゴールを定めて、訓練を行っていきます。リハビリテーション以外にも、状態に応じて薬を使った治療が行われます。高次脳機能障害で注意が必要なのが、てんかん発作です。てんかん発作は脳の損傷も原因となります。その発生を抑えるために服薬することも少なくありません。また、感情のコントロールがうまくいかずに人間関係に影響を及ぼしている場合などにも、薬物治療が行われることがあります。高次脳機能障害のある人の困りごと出典 : 高次脳機能障害は、見た目には分かりにくい障害です。そのため、周囲に理解されにくいほか、障害のある本人も状態を認識できていないことが多くあります。また、障害によって不便が生じるのは日常生活の中であるため、診察時に具体的に見てもらえません。それによって、医療機関で診察を受けても見落とされてしまう場合があります。物事が思い出せない、感情のコントロールができないなど、生活の中でうまくいかないことがあるのに、原因が分からなかったり、周囲から理解してもらえなかったりということも珍しくありません。高次脳機能障害のある人が受けられる支援出典 : 高次脳機能障害と診断された場合、公的支援を受けることができます。高次脳機能障害は精神障害に分類されているため、障害の程度によっては精神障害者保健福祉手帳の取得が可能です。身体障害を合併している場合には身体障害者手帳、受傷した年齢が18歳未満で知的障害があると診断されれば療育手帳が、それぞれ申請対象になります。障害者総合支援法に基づき、生活の援助や生産活動の場を提供する「介護給付」、就労や自立した生活を目指す「訓練等給付」を受けられます。利用するには、市区町村の障害福祉担当窓口へ申請します。精神障害者保健福祉手帳または自立支援医療受給者証(精神医療通院)など、詳しい必要書類についてはお住まいの自治体の福祉窓口にお問い合わせください。年齢によっては介護保険制度を利用して、介護サービスを受けることも可能です。介護保険制度を利用できるのは、65歳以上で支援・介護が必要と認められた方、または40〜64歳で脳血管疾患などによって要支援・要介護状態となった方です。介護サービスは、障害福祉サービスよりも優先されます。しかし、就労移行支援などは介護サービスで利用できないため、障害福祉サービスを利用することになります。障害の有無に関わらず受けることができるのが、職業リハビリテーションです。職業相談や職業評価、訓練、指導、職業紹介のほか、就職してから能力を維持・向上させるためのサービスを受けることもできます。これらのサービスは、ハローワークや地域障害者職業センターなどで提供されています。高次脳機能障害のある人の相談先出典 : 高次脳機能障害のある人の相談は、各地域の健康福祉センターや地域包括支援センターなどで受けつけています。また、高次脳機能障害の治療やリハビリテーションを行っている医療機関にも相談窓口が設けられています。地域によっては当事者会や家族会などがありますので、そういった場で気持ちを共有したり、情報を得たりすることも有用です。参考:相談窓口の情報|国立障害者リハビリテーションセンター家族が高次脳機能障害になったときのサポート方法出典 : 家族が高次脳機能障害になったとき、以前とは違う姿に戸惑ってしまうことも少なくないでしょう。まずは、以前と比べてどのように変化したのか、どのような障害を負ったのかなどを理解することが大切です。医師などの専門家に詳しく話を聞き、理解をした上で対応を検討していきましょう。高次脳機能障害は人によって、症状は異なります。本人がどんな場面でつまずくのかを確認し、環境調整をしたり、本人の持つ能力でできるように工夫をしたりしてみましょう。そして、家族だけで問題を抱えていると、疲弊してしまいます。相談機関や家族会などもうまく利用しながら、無理なくサポートできる体制を整えることが重要です。まとめ出典 : 高次脳機能障害は見た目には分かりにくいため、本人が気づきにくいだけでなく、周囲にも理解されにくい障害です。しかし、まわりの人が一つひとつの行動を観察したり、自身で振り返ったりすると、どんなことで困っているのかが見えるようになります。障害の程度にもよりますが、早い段階で治療を開始すれば、ある程度の回復も期待できます。医師やリハビリテーションスタッフ、行政の担当者などと相談しながら、対応を検討していきましょう。参考:高次脳機能障害情報・支援センター|国立障害者リハビリテーションセンター参考書籍:中島 八十一 (著), 今橋 久美子 (著)『福祉職・介護職のためのわかりやすい高次脳機能障害原因・症状から生活支援まで』(中央法規出版・2016年)参考書籍:橋本 圭司 (著)『高次脳機能障害―診断・治療・支援のコツ』(診断と治療社・2011年)
2018年08月31日脊髄小脳変性症(SCD)とは出典 : 脊髄小脳変性症(SCD)は、小脳を中心に、脳幹、脊髄、大脳が徐々におかされる進行性の神経変性疾患のことです。主に歩くときにふらついたり、ろれつが回らなかったりする運動失調と呼ばれる症状があります。脊髄小脳変性症は数十の疾患を含む総称で、その病型によって運動失調のほか、パーキンソン症状や認知症などさまざまな症状が同時にあらわれることもあります。病型は、遺伝性とそうではない孤発性に大きく分けられます。発症年齢などにもよりますが、進行すると数年で車いすが必要になり、寝たきりになったり死に至ることもあり、家族や医療・福祉などのサポートが必要不可欠です。◇小脳のはたらき小脳は四肢の運動がなめらかになるように、また、歩行の安定を調整する機能などがあります。そのため、小脳が障害されると、筋肉に異常はないのに手足がうまく動かせなくなり、歩行時にふらつくといった運動障害が起こります。参考書籍: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会(編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)脊髄小脳変性症(SCD)の主な症状出典 : 脊髄小脳変性症は数十もの病気が含まれているので、症状もさまざまあります。ここではその中でもよく見られる症状について、紹介します。1. 小脳性運動失調脊髄小脳変性症でもっとも代表的な症状です。筋力の低下、麻痺といった筋肉の異常はないものの、筋の協調運動の障害が生じて、体をうまくコントロールできない状態です。・歩行障害…歩行時のふらつき、歩けないなど・四肢失調…腕や手がうまく使えない、箸がうまく使えない、文字が下手になったなど・会話障害…声の大きさやリズムが不整、言葉が不明瞭になる・眼振…眼球が細かく揺れる2. 不随意運動本人の意思に関係なく体が動く症状です。・素早くピクッとする動き・踊っているように見える・姿勢の異常などが起きるジストニア3. 自律神経系の障害血圧や呼吸などを調整する自律神経系の障害によって引き起こされる症状で、脊髄小脳変性症のなかでも患者の多い多系統萎縮症(MSA)によく見られます。・起立性低血圧…起立時に血圧が急に下降し、立ちくらみ、耳鳴り、頭痛などが起こる。重症例では失神することもあり、寝たきりになるケースもある・発汗障害…下半身から発汗の機能に影響が出て汗が出なくなる一方で、上半身では汗が多く出るなど、体温調節がうまくできなくなる。最終的には全身で汗が出なくなる・排尿障害…十分に尿を膀胱に溜めていられない頻尿などの蓄尿障害と尿を排出させることが困難となる尿排出障害があり、同時に生じることもある・睡眠時無呼吸…眠っている間に10秒以上呼吸が止まるのを1時間のうち5回以上繰り返す脊髄小脳変性症(SCD)を発症する原因は?出典 : 遺伝性のものとそうでない孤発性と呼ばれるタイプがあり、原因も疾患によって様々です。疾患ごとの原因遺伝子の特徴などは研究によって明らかになってきていますが、脊髄小脳変性症を引き起こすはっきりとした原因はまだ解明されていません。孤発性の場合、生活習慣や食習慣の関係はないと考えられ、疾患の進行を左右するような食習慣などもありません。遺伝性の場合は、遺伝の仕組みや疾患ごとの原因遺伝子が分かってきており、親子で伝わっていく常染色体優性遺伝性の疾患、きょうだいのみで発症する常染色体劣性遺伝性が知られています。脊髄小脳変性症(SCD)の病型病型がはっきりと分かることでその後の進行の見通しや、治療などの道筋も立てられます。そのため、病型の分類などを把握することは大切です。病型は、遺伝性かいなかによって大きく区別されます。Upload By 発達障害のキホン遺伝性ではない孤発性は脊髄小脳変性症患者全体の半数以上を占めます。その中でも多系統萎縮症(MSA)は最も多く、かつて別の疾患と考えられていた、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群も多系統萎縮症に含まれています。小脳以外にも脳幹の萎縮が目立ち、進行すると車いすの使用や寝たきりになるなど日常生活が難しくなります。一方で、皮質性小脳萎縮症は小脳失調症以外のパーキンソン症状や自律神経症状などがない純粋小脳失調型です。予後や進行は多系統萎縮型と大きく変わってきます。Upload By 発達障害のキホン遺伝性の場合、多くは常染色体優性遺伝性です。日本で発症の頻度が高いのはマチャド・ジョセフ病や脊髄小脳失調症6型(SCA6)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症などがあげられます。常染色体劣性遺伝性は、両親が未発症でも発症します。十分に家族歴などの情報を得られないと、孤発性と思われる可能性もあります。脊髄小脳変性症(SCD)の発症の頻度や年齢の特徴出典 : 脊髄小脳変性症の患者は、全国で3万人を超えると言われています。また、2003年の「運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究班」の解析結果では、脊髄小脳変性症の67.2%が孤発性、27%が常染色体優性遺伝性、1.8%が常染色体劣性遺伝性、残りが「その他」と「痙性対麻痺」でした。出典: 診断・治療指針(医療従事者向け) 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)|難病情報センター発症年齢の傾向は、病型によっても変わってきます。全体では小児から70歳以上の高齢までと幅広く、特に30歳前後の中年以降に多くなります。出典: 脊髄小脳変性症 概要|小児慢性特定疾病情報センター主に見られる多系統萎縮症と皮質性小脳萎縮症は、ともに成年期以降に発症します。そのうち、多系統萎縮症が64.7%、35.3%が皮質性小脳位縮小と臨床診断されています。出典: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 (編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)日本における遺伝性脊髄小脳変性症は、90%以上が常染色体優性遺伝性、数%が常染色体劣性遺伝性、さらにまれにX連鎖性が認められています。常染色体優性遺伝性に含まれる疾患別では、マチャド・ジョセフ病、脊髄小脳変性症6型(SCA6)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳変性症31型(SCA31)の4疾患だけで70〜80%を占めます。出典: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 (編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)常染色体優性遺伝性であれば、祖父母、両親、患者の各世代には男女ともに発病者が分布していることになります。成人発症の遺伝性疾患は、患者のきょうだいや子どもの世代に未発症の保因者がいることも十分に考えられます。一方、常染色体劣性遺伝性の場合、両親が未発症でも保因者となります。患者のきょうだい、両親が近親婚でその血縁に罹患者がいる場合には、劣性遺伝である可能性が高いと思われます。また、一見孤発性と思われても、常染色体劣性遺伝性である可能性もあります。常染色体劣性遺伝脊髄小脳変性症3、4、6型の疾患では、多くが幼少期から若年発症です。しかし、一部には出生時にすでに小脳萎縮があり、非進行性であるなどの特徴から奇形・低形成、またはそれを基盤とした発達障害との異同が問題となっています。ほかにも、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症は、祖父母、父母、子、孫…と世代を経るごとに発症年齢が早まるのが特徴です。成年発症では、ふらつき、震えなどの小脳失調、舞踏アテトーゼなどの不随意運動が主症状とされてます。一方で、20歳以下の発症では、てんかん、精神発達遅滞、小脳運動失調といった症状がみられます。脊髄小脳変性症(SCD)の検査・診断出典 : 脊髄小脳変性症の診断は神経内科で行われ、臨床症状や頭部MRI、CTスキャンの画像検査から非遺伝性・遺伝性の違い、病型を調べます。診断を受けることで、症状に対応した治療を受けられます。皮質性小脳脊髄小脳変性症は、診断のための決定的な所見がないため、検査によって他の疾患の可能性を除外していきます。・画像検査…MRIやCTスキャンで小脳などの萎縮の有無、脳血流シンチグラフィーで小脳の血流低下の有無などを調べます。・神経学的な診察…本人の意思と関係なく体が動く反射や反応、麻痺などの神経症状がないかを調べます。・遺伝子検査…家族の中で脊髄小脳変性症の人がいる場合、採血をして遺伝性かどうか、どの病型に属しているかを調べます。予後の見通しなどにか変わってくるほか、治療可能な疾患の処置を適切に行うためにも、別の病気ではないかどうかの鑑別は重要です。症状が似ている疾患は以下のようなものがあります。・ビタミンB1やB12、葉酸の欠乏・アルコール中毒・甲状腺機能低下症・多発性硬化症・エイズ関連の神経疾患など多くの原因遺伝子が分かってきたこともあり、遺伝子検査によって正確に診断できるようになってきました。正確な診断ができることで、臨床的に有用な情報が提供されます。また病型の確定は予後の判定、合併症の予測に有効です。遺伝子検査をしない場合、原因究明のために他のいくつもの検査を繰り返すことになりますが、それが必要なくなるという長所もあります。しかし、遺伝性の場合、親族に保因者がいたり、患者の子ども以降の世代にも影響したりすることが考えられ、診断の受容における心理的影響についても配慮が必要であることが知られています。そのため、遺伝子検査は、患者本人の意思に基づいて行われるものとされています。参考: 脊髄小脳変性症の診断 | 健康長寿ネット参考書籍: 水澤 英洋 (監修) 月刊『難病と在宅ケア』編集部 (編集)『脊髄小脳変性症のすべて』(日本プランニングセンター・2006年)参考書籍: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 (編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)脊髄小脳変性症(SCD)の進行・予後は?出典 : 脊髄小脳変性症の進行は、病型ごとに傾向があります。小脳症状のみがみられる病型の場合、孤発性、遺伝性を問わず、おおむね10〜15年など長い時間をかけてゆっくり進行します。発症年齢が高齢の場合は、余命にあまり影響を与えない場合もあります。ただし、小脳だけでなく多系統を障害するタイプの病型では、孤発性、遺伝性の両方で、進行が早く重症になることが分かっています。出典: 独立行政法人国立病院機構 宇多野病院 『難病ケアガイド』(日総研出版・2005年)多系統萎縮症の予後は個人差はあるものの、一般的には、発症から3年ほどで歩行補助具、5年ほどで車いすが必要となります。その後は、発症から10年程度のうちに寝たきりとなり、血圧や呼吸、排尿、嚥下などの機能が衰えることで、肺炎や窒息などによって死亡する場合があります。出典: 月刊 難病と在宅ケア4月号脊髄小脳変性症のすべて「多系統萎縮症の現状と課題」(日本プランニングセンター・2018年)対して同じ孤発性でも、皮質性小脳萎縮症では、歩行時のふらつきや字がうまく書けないといった上肢の運動失調、ろれつが回りにくいなどの小脳症状のみがみられます。発症から4〜5年後に一人で歩ける人は76%だったという国内の研究の報告もあります。長い年数をかけてゆっくりと進行し、多くのケースで車いすが必要になります。出典: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 (編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)遺伝性も同様で、常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症のなかでも、小脳症状のみがみられる脊髄小脳変性症6型(SCA6)や脊髄小脳変性症31型(SCA31)は、発症から車椅子が必要になるまでの平均が20年余りという報告もあり、進行はゆるやかであることが多いです。出典: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 (編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)脊髄小脳変性症(SCD)の治療やリハビリは?出典 : さまざまなアプローチで、根本的治療の実現に向けて研究が進められていますが、まだ確立した治療法はありません。薬で症状を和らげる対症療法や生活の質を維持していくためのリハビリが中心となっています。一般的に、薬剤による治療開始は早ければ早いほど、運動機能が維持でき、身体機能も良好な状態をより長く保つことができる可能性があります。主症状である運動失調に対しては以下のような薬が使用されます。注射液…プロチレリン酒石酸塩(ヒルトニン®)錠剤…タルチレリン水和物(セレジスト®)その他、足のつっぱり感、めまい感など、症状に応じて薬で治療します。ヒルトニン®セレジスト®うまく体が動かせなくなっていくことで、症状の進行とともに患者が転倒などを恐れて動く時間が減っていく傾向があります。それに伴い、筋力や体力の低下につながり、さらに症状を悪化させます。しかし、小脳失調を主体とする脊髄小脳変性症に対して、バランスや歩行に対する理学療法を集中的に行うと、小脳失調や歩行が改善することができます。病院などでのリハビリテーションをはじめ、自宅での日常生活でも自分でできることを継続的に行うなど前向きに体を動かしていくことが大切です。介護者が専門的技術を指導してもらうことも、介護者負担を軽減するために重要です。外来や訪問リハビリテーションの際に歩行時や車いすなどへの移乗時の介助方法に関して、介護者が指導を受けて習得することで、負担感の軽減、腰痛や転倒事故の予防にもつながることが期待されます。参考書籍: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 (編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)家族も知って安心。利用できる福祉制度・相談先出典 : 脊髄小脳変性症は、厚生労働省の認可する指定難病に認定されており、医療費の補助や福祉・介護サービスなどを受けることができます。患者本人や家族の生活を支えてくれる制度や相談先を知り、頼るようにしましょう。◇医療ソーシャルワーカー病院の医療ソーシャルワーカーは、病気やけがで生じる心理的・社会的問題、経済的問題を患者や家族が解決できるようにお手伝いしてくれます。診断された本人や家族がどう受け止めたらいいか悩んだり、進行して働くことができなくなる不安、身の回りのことが一人でできにくくなっていくといった問題に専門的な立場から寄り添い、改善の糸口を考えてくれます。参考: 医療ソーシャルワーカーとは|公益社団法人 日本医療社会福祉協会◇特定医療費(指定難病)受給者証認定申請によってお住まいの都道府県から交付されます。受給者証があると、医療費について、所得に応じて一部が助成されます。◇障害者総合支援法「障害者総合支援法」では、障害者の定義に難病等も含まれます。そのため身体障害者手帳を持たない難病患者にも、障害福祉サービスが公費負担されます。お住まいの市町村区の担当窓口で申請をすると、障害福祉サービス・相談支援・補装具及び地域生活支援事業 (障害児の場合は、障害児通所支援と障害児入所支援も含む)が利用できるようになります。参考: 障害者総合支援法が施行されました| 厚生労働省◇介護保険介護を必要とする人に対し、その費用の給付を受けられます。介護保険に必要な要介護認定は本来、65歳以上が対象ですが、脊髄小脳変性症は40歳以上から対象となります。お住まいの市区町村の窓口で要介護認定を申請してください。医療保険と介護保険で重複しているサービスは介護保険が優先されます。ただし、訪問看護は医療保険となります。参考: 特定疾病の選定基準の考え方 | 厚生労働省◇傷病手当金病気療養のために仕事を休み、給料が減った・もらえないなどの場合、健康保険から支給されます。◇障害年金国民年金の加入者が、病気やけがで障害が残った時に受け取れる障害基礎年金と障害基礎年金に上乗せして支払われる障害厚生年金があります。脊髄小脳変性症では、障害が重くなり仕事を継続することが困難になった際などに申請できる場合があります。障害認定日や障害程度、年金の加入期間など、細かい決まりがあるので病院で相談してみてください。参考: 難病対策| 厚生労働省参考: 指定難病患者への医療費助成制度のご案内 | 難病情報センターまとめ出典 : 脊髄小脳変性症は、病型によって症状や進行などが変わってきます。根本的な治療法がまだなく、介護などで家族や周りの支援が必要となる可能性が高い進行性の難病ですが、検査をしっかり受けることで、症状に対応した治療を受られ、リハビリで体の機能をなるべく維持することもできます。医療費の補助や介護サービスを受けられるので、制度を理解してサポートを受けることで、一緒に過ごす家族の不安や負担を減らすこともできます。診断後の日常生活は、患者本人が行えること、周囲のサポートを必要とすることを見極めながら、治療やリハビリをして過ごすことが大切です。参考: 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)|難病情報センター参考書籍: 独立行政法人国立病院機構 宇多野病院 『難病ケアガイド―筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン病・脊髄小脳変性症・多発性硬化症』(日総研出版・2005年)参考書籍 : 水澤 英洋 (監修) 月刊『難病と在宅ケア』編集部 (編集)『脊髄小脳変性症のすべて』(日本プランニングセンター・2006年)参考書籍: 月刊 難病と在宅ケア6月号脊髄小脳変性症のすべて「脊髄小脳変性症の病態と治療〜現状と展望〜」(日本プランニングセンター・2018年)参考書籍: 日本神経学会厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」(監修)「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 (編集) 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018 』(南江堂・2018年)
2018年08月28日起立性調節障害(OD)とは?出典 : 起立性調節障害(OD)とは、思春期に起こりやすい自律神経機能不全のことです。人が立ち上がると、血液が下半身に集まり、血圧の低下や心拍数の増加が起こります。通常、これらの変化ができるだけ少なくなるように、自律神経が働くようになっています。しかし、それがうまく行かないためにさまざまな症状が現れるのが、起立性調節障害なのです。具体的な症状としては、立ちくらみや失神、朝起きられない、倦怠感(だるさ)や動悸、頭痛といったものがあります。軽症であれば治療が必要ないことも多いのですが、重症になると日常生活に支障が出て、不登校やひきこもり状態になることもあります。症状が長く続くと、その後の社会生活にも大きな影響を及ぼすため、早い段階で適切に対処することが重要です。しかし、一部ではまだ理解が進んでおらず、周囲に「ただのなまけ」「気持ちの問題」と誤解されてしまう場面も多いといわれています。起立性調節障害の主な症状出典 : 日本小児心身医学会によると、起立性調節障害には主に以下のような症状があるとされています。・立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛など。症状は午前中に強く午後には軽減する傾向があります。・症状は立位や座位で増強し、臥位にて軽減します。・夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができるようになります。しかし重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともあります。・夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。実はこれらの症状は、生活習慣の乱れや、不登校でも起きうる症状です。そのため、体の病気ではなく気持ちの問題だと誤解されることが多くあるのです。日本小児心身医学会が定めたガイドラインでは、起立性調節障害の診断方法が定められています。1)立ちくらみ、失神、気分不良、朝起床困難、頭痛、腹痛、動悸、午前中に調子が悪く午後に回復する、食欲不振、車酔い、顔色が悪いなどのうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。2)鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患など、基礎疾患を除外します。3)新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定します。(1)起立直後性低血圧(軽症型、重症型)(2)体位性頻脈症候群(3)血管迷走神経性失神(4)遷延性起立性低血圧起立性調節障害が疑われる場合、まずは他の病気が原因になっていないかを調べる必要があります。貧血や心臓の病気などでも、立ちくらみなどの似たような症状を起こすことがあるためです。病気の有無を調べるためには、血液検査やレントゲン検査、超音波検査などが必要に応じて行われます。この時点で原因となっている病気が分かれば、適切な治療を行うことで改善する可能性があります。他の病気でないことが分かった場合、起立性調節障害と確定するために新起立試験が行われます。新起立試験とは、起立前後の血圧や心拍数がどのくらい変化するかを見る検査のことです。この変化の度合いによって、起立性調節障害の中でどのサブタイプに属するか、重症度はどのくらいかを見ることができます。起立性調節障害の4つのタイプ新起立試験によって分類されるサブタイプは4つあります。それぞれのサブタイプについて、以下で説明していきましょう。起立直後性低血圧は、立ち上がった直後に血圧低下や血圧回復の遅れが見られる状態のことを言います。通常、人間は立ち上がったときの血圧低下を予防するため、交感神経が活発になってノルアドレナリンという物質が出るようになっています。しかし、起立性調節障害の子どもは、このノルアドレナリンの分泌量が少ないために、血圧を維持することができないのです。起立直後性低血圧と診断する具体的な値として、以下のような条件が定められています。・起立後血圧回復時間≧25秒または、・起立後血圧回復時間≧20秒かつ、非侵襲的連続血圧測定装置で求めた起立直後平均血圧低下≧60%軽症型の場合は、起立中に徐々に血圧が回復していきますが、重症型の場合は血圧低下が一定時間持続すると言われています。体位性頻脈症候群の場合は、立ち上がるときに血圧低下が見られません。その代わり、心拍数に著しい増加が見られるのが、体位性頻脈症候群です。立ち上がったときに、下半身に血液がたまっていると、上半身の血液量が少なくなるため、心臓の動きは遅くなります。この動きを維持しようとするため、心拍数が速くなってしまうのです。具体的な数字としては、以下のように定められています。・軽症〜中等症: 起立時心拍数≧115または心拍数増加≧35・重症: 起立時心拍数≧125または心拍数増加≧45起立直後性低血圧や遷延性起立性低血圧といった、別のサブタイプと合併していることもあります。血管迷走神経性失神は、起立中に突然血圧が下がって意識レベルが下がったり、意識を失ったりする状態を指します。立ち上がったときに、静脈を流れる血液量が少なくなって、心臓が激しく動くようになると、反射的に自律神経が興奮し、活動を止めてしまうことがあります。その結果起こるのが、血管迷走神経性失神なのです。ひどい場合には、心停止することもあるとされています。軽症であれば、約4割の人が大人になるまでに経験すると言われており、治療をする必要がないことも多いです。しかし、起立直後性低血圧や体位性頻脈症候群と合併していることもあり、その場合には治療が必要となります。遷移性(せんいせい)起立性低血圧は、起立直後の血圧や心拍数は正常であるものの、3〜10分たってから血圧低下(収縮期血圧が横になっているときの15%以上、あるいは20mmHg以上の低下)が見られるというものです。軽症であれば日常生活への影響は少ないものの、中等症ではやや影響が見られるようになり、重症ではほぼ毎日支障をきたすようになります。起立性調節障害の多い年代出典 : 起立性調節障害は、思春期特有の病気と言われています。発症する年齢は10〜16歳が多く、小学生の約0.5%、中学生の約10%にこの病気があるとされています。男女比で見ると女子の方が多く、男子よりも1.5〜2倍多いです。出典:起立性調節障害(OD)|日本小児心身医学会起立性調節障害の合併症出典 : 起立性調節障害の合併症としては、以下のようなものが挙げられます。・身体面: 睡眠障害、ときに痙攣を伴う失神、著しい頻脈・心理面、行動面:: 集中力や思考力の低下、日常生活の活動量の低下、長期間にわたる欠席また、発達障害のある子どもが起立性調節障害を発症することも少なくありません。発達障害のある子どもは、ストレスを感じやすい傾向があると言われています。これが原因で自律神経に影響を及ぼし、起立性調節障害を起こしやすいと言われています。起立性調節障害と似た病気出典 : 起立性調節障害と似た症状が現れる病気がいくつかあります。その中から、「うつ病」と「脳脊髄液減少症」についてご紹介します。起立性調節障害では集中力の低下や活動量の減少などが見られるため、しばしば心の病気=うつ病と診断されることがあります。しかし、うつ病は昼夜問わず無気力などの症状があるのに対して、起立性調節障害では夜になると元気になるという傾向があります。起立性調節障害ではなくうつ病だと診断された場合、抗うつ薬の服用によって起立性低血圧が起きてしまうこともあり、症状が悪化する可能性もあります。起立性調節障害と間違えられやすい病気として、脳脊髄液減少症も指摘されています。脳脊髄液減少症とは、脳や脊髄のまわりにある脳脊髄液が、何らかの原因で漏れることを言います。脳脊髄液が減少すると起こる症状の中に、起立したときの頭痛やめまい、血圧・脈拍の異常などがあります。このような症状があることから、起立性調節障害と間違えられやすいのです。発症する原因には、交通事故でのむち打ちといった外傷などがありますが、原因不明な場合も少なくありません。病気としてはまだ広く知られておらず、発見されるのに時間がかかることも多いようです。起立性調節障害が疑われるとき、病院はどこを受診したらいい?出典 : 起立性調節障害は思春期特有の疾患であることから、診察は主に小児科で行われています。診断は、日本小児心身医学会が定めたガイドラインに沿って行われます。ただし、サブタイプを診断するために必要な機械が備わっている医療機関は、まだ全国でも数ヶ所しかありません。そのため、機械がない医療機関では簡易的な方法を用いて検査を行っています。診断か可能かどうか、事前に医療機関に確認してみても良いでしょう。起立性調節障害は治るの?出典 : 起立性調節障害は、軽症であれば適切な治療によって2〜3ヶ月程度で改善すると言われています。しかし、中には学校生活や日常生活に支障をきたす重症例もあり、その場合は社会復帰に2〜3年以上という長期間を要することもあります。起立性調節障害の治療と対処法出典 : 起立性調節障害の治療と対処法は、大きく以下の4つに分けられます。・疾病教育・非薬物療法・学校との連携・薬物療法これらに加えて、必要に応じて心理療法が行われることもあります。それぞれの内容について、以下で具体的に見ていきましょう。起立性調節障害を治療する上で重要なポイントは、本人と保護者が「起立性調節障害は体の病気である」と理解できることです。本人がいくら不調を訴えても、保護者が「夜更かしするからだ」「なまけているだけだ」として叱ったり、無理やり起こそうとすることも多く、親子関係が悪化している場合も少なくありません。まずは、起立性調節障害がどのような病気なのか、治療して改善するには時間がかかることなどを説明します。本人と保護者が治療が必要であることを理解した上で、正しい治療が行えるようにしていきます。起立時に症状が起こる起立性調節障害では、日常生活の中で動作や食事に気をつけることで、症状を起こしにくくすることができます。▪️体を起こすときの動作に注意する寝た状態や座った状態から急に立ち上がると、脳の血流が一気に低下して気分不快などを生じやすくなるため、ゆっくりと体を起こすようにします。特に、朝は脳の血流が悪い状態なので、注意が必要です。頭を起こさず、下げた状態でゆっくりと立ち上がることが大切です。▪️水分と塩分をしっかりととる水分摂取量が少ないと、体の中の血液量が少なくなり、血圧を維持することが難しくなってしまいます。塩分は通常であれば控えた方が良いとされていますが、起立性調節障害の子どもは塩分摂取量が少ない傾向にあります。塩分を摂取すると体は水分を維持しようとするため、血圧低下を防ぐことができるとされています。水分は1日1.5〜2リットル、塩分は1日10〜12gを目安に摂取します。▪️生活リズムを整える起立性調節障害の子どもは、朝起きられないために起床が遅くなり、寝る時間も遅くなりがちです。寝る時間が遅くなりすぎないよう、毎日23時には布団の中に入るようにしましょう。できるだけ入眠しやすくなるよう、環境を整えることも大切です。寝る前には早めに部屋の明かりを落としたり、朝は早い時間にカーテンを開けて、日光に当たるようにします。▪️適度な運動を行う毎日の適度な運動も、起立性調節障害を治療する上で大切です。筋力が低下すると血圧が下がりやすくなるほか、自律神経のバランスを崩しやすくなって、症状が悪化してしまいます。▪️暑い場所を避ける気温や室温が高いと、血管が広がって血圧が下がりやすくなります。さらに汗をかくと体内の水分が少なくなり、より症状を悪化させてしまいます。外にいる場合は日影にいるようにしたり、空調を調節したりといった工夫をするようにします。起立性調節障害と診断された場合、学校との連携も大切なポイントです。教師も起立性調節障害について十分な知識がないために、「なまけている」「気の持ちようだ」と思われてしまうことも少なくありません。起立性調節障害は体の病気であること、いつ体調不良が起きてもおかしくないことを理解してもらい、子どもが適切なサポートを受けられるよう、協力を仰ぎましょう。学校側に依頼する具体的なサポート方法としては、以下のような項目が挙げられます。・体調不良が起こったときには速やかに横にする・静止した状態での立ちっぱなしの姿勢を3〜4分以上続けない・暑さは避け、水分補給を欠かさないようにする・登校する時間は本人の体調に合わせるようにする・登校を促すために、教師やクラスメートが迎えに行くことはストレスとなる可能性があるので、本人と保護者の希望を聞く・欠席が何日も続くようなときは、毎日の連絡は保護者の負担になることがあるため、行ける日の朝に連絡をするようにする適切なサポートをすることで、起立性調節障害を持つ子どもの精神的な負担は軽減することができます。実際にどのようなサポートを依頼するかについては、担当医とも相談して、学校側に伝えると良いでしょう。薬を使った治療は、非薬物治療を行った上で進めていきます。起立性調節障害の治療に使用される薬にはいくつか種類があり、ガイドラインではサブタイプごとに適した薬剤が掲載されていますが、効果は個人差があるので、必ずしもこれでなければならないというわけではありません。薬の種類は、主に以下のようなものがあります。・ミドドリン塩酸塩: 血管を収縮させて、血圧を上げる薬。起立直後性低血圧と対位性頻脈症候群の第1選択薬・アメジニウムメチル硫酸塩: 交感神経の機能を亢進させる薬。副作用として、起立時に頻脈を起こすことがある・プロプラノロール: アドレナリンなどの作用を弱め、心拍数を低下させて、血管を収縮させる薬。起立性調節障害では、対位性頻脈症候群だけに使われる効果が現れるまでに1〜2週間かかることもあるため、その点を子どもにも理解できるように説明しておきましょう。ミドドリン塩酸塩アメジニウムメチル硫酸塩プロプラノロール塩酸塩子どもが起立性調節障害と診断されたら、どんなことに気をつけたらいい?出典 : もしもご自身の子どもが起立性調節障害と診断された場合、まず気をつけたいのが「平常心を保つ」ことです。起立性調節障害の治療には時間がかかるため、「どのくらいで良くなるのか」「学校に行けるようになるのか」など、保護者が不安になってしまうことも少なくありません。起立性調節障害は体の病気であると分かっていても、不安を感じることはあると思います。しかし、不安から子どもを叱ってしまったり、イライラした気持ちを表に出したりしてしまうと、子どもとの関係が悪くなってしまうかもしれません。まずは平常心を保つという心構えを大切にした上で、日常生活のサポートをしていきましょう。毎日の生活の中では、起立性調節障害の治療の中で説明した、「非薬物療法(日常生活における注意点)」を工夫して行っていくことが大切です。起立性調節障害の子どもは朝起きるのが苦手なので、生活リズムの改善は難しいことが多いです。すぐに改善することはできないと理解した上で、子どものサポートを行っていきましょう。また、家族全体でルールを共有し、一定の生活パターンを送ることも有用です。テレビを見る時間を決める、夕食は全員で食べるなど、家族と話し合って可能なものからルールを作ってみると良いでしょう。それらの生活パターンが、子どもの体のリズムにも良い影響を与えてくれます。起立性調節障害を持つ子どもは、脳の血流量が少なくなっているため、授業に集中できずに学力が低下したり、欠席が続くと授業に遅れてしまうこともあります。起立性調節障害の場合、夕方から夜は比較的元気に過ごせることも多いです。学業面が心配な場合、学校に放課後の補習をお願いしたり、塾や家庭教師を活用したりしても良いでしょう。起立性調節障害の子どもをサポートする上で、子どもに無理をさせないこと、家族でしっかりと話をすることも大切なポイントです。保護者が良かれと思って、朝無理に起こしたり登校を促したりすることが、反対に子どものストレスとなってしまうことも考えられます。また、保護者が心配しすぎないようにしましょう。起立性調節障害の治療には時間がかかりますし、考えすぎると保護者も精神的に疲れてしまいます。治療やサポートは、子どものペースに合わせて進めていくことが大切です。まとめ出典 : 起立性調節障害は、気持ちの問題だと誤解されやすい病気ですが、体の病気です。人によっては治療が必要なこともあり、回復するまでに時間を要することも少なくありません。病気そのものの認知度もまだ低いため、起立性調節障害と診断されずに、苦しい思いをしている子どもや保護者も多くいると考えられています。適切な治療をすることで、起立性調節障害の症状は改善する可能性があります。もし該当する症状や心配な症状があるようであれば、診断が可能な小児科のある医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。起立性調節障害(OD)|日本小児心身医学会
2018年07月22日最近は発達障害の情報が多く提供されていることから、「我が子も?」と心配なママも多いのではないでしょうか?発達障害の症状や、診断された場合親が注意すべき点、改善のためどんなことが出来るのでしょうか。発達障害がありながら活躍している人も沢山います。子どもの可能性を広げるために親が出来ることは?専門家にお話を伺った「ママテナ」の記事からまとめました。その1●発達障害とは?おもな発達障害は自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、発達性協調運動障害の4種類があります。それぞれの症状を詳しく解説しています。また「発達障害かな?」と心配になった時の相談先を紹介しています。▼続きはこちら▼その2●「グレーゾーン」と診断された時親が注意しなくてはいけないこと最近は「グレーゾーン」と診断されるケースも増えています。専門家に、この背景や、「グレーゾーン」と診断された時にとってしまいがちな親の行動や注意点を伺いました。発達障害であることを受け入れられず、特別支援学級ではなく、通常学級に通わせることで、問題が複雑化するケースもある、と言います。▼続きはこちら▼その3●発達障害改善のための方法発達障害と診断された場合、「療育」という障害をもつ子どもが社会的に自立することを目的として行われる治療と保育があります。医師の診察後、検査などでお子さんの状態を把握し、診断が出てから、作業療法士や言語療法士などによる訓練を療育センターで受けることになります。また習い事は改善に効果があるのか、専門家に聞きました。また学校で身近な「道具」を使う事で子どもの負担が軽減する方法もあります。▼続きはこちら▼その4●子どもの可能性の芽を摘まないためにできることアインシュタイン、トム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ、ジョン・レノン、これらの有名人の共通点は、知的には問題ありませんが、読み書きに著しい困難がある学習障害「ディスレクシア」として知られている人たちなんです。学習障害と診断された場合、子供の可能性を親はどのように育ててあげればいいのでしょうか?専門家にお聞きしました。▼続きはこちら▼
2018年06月16日便の異常とつらい腹痛が続く「潰瘍性大腸炎(UC)」とは?出典 : 潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)は、大腸の粘膜に炎症が起きて、びらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。びらんも潰瘍も粘膜が傷ついた状態を指しますが、傷の深さが異なります。びらんは粘膜の表面がただれている程度なので、傷は浅く症状も比較的軽めです。一方で潰瘍は傷が深く、粘膜の深部まで傷が及んでいるので重症な場合が多いです。潰瘍性大腸炎は、病変の広がりや症状の重さなどによって下記のように分類されています。1)病変の拡がりによる分類:全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎2)病期の分類:活動期、寛解期3)重症度による分類:軽症、中等症、重症、激症4)臨床経過による分類:再燃寛解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型炎症は一般的に肛門に一番近い直腸から広がっていき、その範囲によって大きく3つに分けられます。・大腸全体に炎症が広がる「全大腸炎」・直腸から大腸の左側部分(左側結腸)まで炎症が及ぶ「左側大腸炎」・直腸のみに炎症が起こる「直腸炎」潰瘍性大腸炎は完治が難しく、治療は、症状が一時的に軽くなる、もしくは消える「寛解」と言う状態を目指します。また、症状がおさまる寛解期(かんかいき)と、治療によって落ち着いていた症状が再燃する活動期を繰り返すのが特徴です。再び悪化する可能性もあるため、定期的な検査や寛解を維持する治療をしていく必要があります。潰瘍性大腸の患者数は増加傾向。男女比率や発症年齢は?出典 : 日本での患者数は毎年増えていて、平成25年度末時点では16万6,060人を超えました。その後も急速に増加し続け、潰瘍性大腸炎の患者数は指定難病の中で最も多くなっています。出典:潰瘍性大腸炎(指定難病97)|難病情報センター発症年齢のピークは男女ともに20代で、性別による差はありません。0歳から高齢者まで、どの年齢でも発症します。参考:特定疾患医療受給者証所持者数|難病情報センター潰瘍性大腸炎の症状は?重症になるとどうなる?出典 : 潰瘍性大腸炎で多く見られる症状は、便の異常(血便、下痢、軟便など)や腹痛です。「軽症」であれば、1日の排便回数も4回以下と少なく、下痢や血便の程度も軽いです。ただし「重症」になると、1日の排便回数が6回以上と多くなり、37.5度以上の発熱や体重減少、強い腹痛、貧血などの症状も現れます。潰瘍性大腸炎は、起きている間だけでなく寝ている間も症状が出るので、質の良い睡眠が取れなくなってしまいます。またトイレに自由に行けない環境に不安を感じる場合も多く、生活の質は著しく下がります。精神的に落ち込む人も少なくありません。ちなみに軽症と重症の中間の症状を「中等症」、重症よりもさらに重篤な状態を「劇症」と呼びます。劇症になると、38.5度以上の持続する発熱や1日に15回以上の排便などの症状が起こり、早急な治療が必要になります。出典 : 潰瘍性大腸炎になると、合併症を発症することもあります。合併症には、腸管(小腸・大腸)に起こる合併症と、腸管外に起こる合併症があります。腸管の合併症では、腸管に穴があいたり(穿孔:せんこう)、狭くなったり(狭窄:きょうさく)、大量出血したりといった症状から、中毒症状を引き起こす中毒性巨大結腸症などが見られます。これらの合併症が出た場合は、緊急手術が必要になる可能性が高いです。腸管外の合併症としては、皮膚症状、関節や眼の痛みがあります。例えば口内炎や関節炎、脊椎炎、結膜炎などがあり、全身に症状が現れます。手術率は、発症時の重症度と炎症範囲によって決まります。重症で炎症範囲が広いほど、手術率は高くなります。潰瘍性大腸炎の死亡率はきわめて低く、潰瘍性大腸炎の患者とそうでない人の平均寿命は大体同じです。ただし、重症の場合の早期手術、大腸がんの早期発見が重要です。潰瘍性大腸炎の原因は?ストレスや食生活の乱れは関係があるの?出典 : 潰瘍性大腸炎のはっきりとした原因は、いまだに分かっていません。しかし、潰瘍性大腸炎の炎症に白血球が関わっていることは確認されています。白血球は本来、体内に入ってきた異物を食べて体を守る働きをします。ところが、免疫機能の異常が起こると、白血球が自分の腸管粘膜を外敵だと判断して攻撃してしまいます。その結果炎症が起き、潰瘍性大腸炎の発症につながってしまうのです。どうしてこのような免疫機能の異常が起こるのかは不明です。最近では、遺伝的要因、食生活の変化、環境要因など、さまざまな要因が絡み合って潰瘍性大腸炎を発症すると考えられています。潰瘍性大腸炎の診断・検査出典 : 潰瘍性大腸炎の診断はたいてい以下の流れで行われます。1.症状の経過と病歴などの問診…便の状態、排便回数、お腹の調子、これまでにかかった病気を聞かれます。いつから調子が悪いのか、血便は出ているか、発熱はあったかなど、答えられるようにしておくことがポイントです。2.血液検査…炎症の程度や栄養状態を調べるために行われます。3.便潜血検査 / 便培養検査…便に血液が混ざっていないか、血便を起こす菌がいないかを調べます。4.大腸内視鏡検査や注腸X腺検査、腹部X腺検査など…どの部位まで炎症が広がっているのか、炎症状態はどの程度か、腸内ガスは溜まっていないかを調べます。これらの検査から総合的に診断されます。潰瘍性大腸炎とクローン病の違いは?出典 : 潰瘍性大腸炎と見分けにくい疾患としてクローン病があります。どちらも原因不明の慢性炎症性疾患であり、難病に指定されている病気です。患者数も増加傾向で、現れる症状(下痢、腹痛、体重減少)も似ています。潰瘍性大腸炎とクローン病の大きな違いは、炎症が起こる部位です。潰瘍性大腸炎は大腸のみですが、クローン病は口から肛門までのすべての消化管の部位に炎症が起こります。特に炎症が起きやすい部位は小腸や大腸ですが、どの消化管にも炎症が起こりうるのがクローン病です。発症年齢や男女比も違います。10歳代~20歳代の若年者に好発します。発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳が最も多くみられます。男性と女性の比は、約2:1と男性に多くみられます。また、クローン病は合併症が伴うケースも多く手術率も高い病気です。潰瘍性大腸炎と同様、再燃にも気をつけたい病気で定期的な検査が重要です。潰瘍性大腸炎では薬物療法がメイン。具体的な治療法は?出典 : 潰瘍性大腸炎の治療は、活動期にはまずは大腸の炎症を抑えて寛解させる治療を行います。症状が落ち着く寛解期には、寛解状態を維持して再燃させないための治療に移行します。・薬物療法と食事改善薬物療法では、大腸の炎症を抑える薬を使います。食事は、腸に刺激を与えるような食べ物や飲み物を控えることが重要です。例えば脂っこいものや香辛料は避けて、食物繊維を多く含む食品や発酵食品を摂取するようにします。・血球成分除去療法薬物療法で改善が見られない場合に用いられます。腕から抜いた血を専用の装置に通すことで、炎症を起こす白血球を取り除き、浄化された血を再び体内に戻す治療法です。1回の治療時間は1時間程度で、副作用に吐き気、発熱、頭痛などがありますが、一過性のものです。・手術(大腸の全摘出)最終手段として、切除手術が考えられます。大腸に穴があく(穿孔)、大量出血、重症なのに薬物療法や血球成分除去療法の効果がない、ガンの疑いがある場合などは、切除手術が必要な場合が多いです。術後は、潰瘍性大腸炎でない人とほぼ変わらない生活を送れます。潰瘍性大腸炎は再燃しやすい病気。普段から気をつけておきたいことは?出典 : 潰瘍性大腸炎は一度症状が良くなったと思っても、再び悪化することが多い病気です。ですが、自分に合った治療をきちんと続け、コントロールしていくことで、再燃させずに寛解を保つことができます。実際に、潰瘍性大腸炎にかかっていても、多くの人は仕事や学業を続けていて、妊娠や出産も可能です。再燃させないためには「質の良い睡眠」「規則正しい生活」が基本です。症状が落ち着いている寛解期に、食事の制限は特にありませんが、普段からバランスの良い食事を心がけておくと良いでしょう。腸を刺激しやすいアルコール、香辛料、脂っこい食べ物、冷たい飲み物、乳製品などはとり過ぎないようにして、よく噛んで食べるのも大切です。また発病後7、8年経つと、大腸がんを合併する可能性もあります。たとえ症状がなくても、1~2年に1回は内視鏡検査を受けることをすすめます。潰瘍性大腸炎は「医療費助成制度」を受けられる病気出典 : 潰瘍性大腸炎は国の指定難病に定められています。中等症以上の場合に限られますが、申請手続きをして認定されると「医療受給者証」が交付され、治療費の助成が受けられます。受給者証の有効期間は申請日から1年間で、医療費の自己負担割合が3割負担から2割負担になります。指定難病医に診断書を書いてもらい、お住まいの都道府県に指定難病であることを申請すれば手続きは完了です。所得や治療状況により、1ヶ月あたりの自己負担上限額が決まり、超過分は公費で助成されます。まとめ出典 : 潰瘍性大腸炎は原因不明の指定難病ですが、症状をコントロールできる病気の一つです。血便が出たり、排便回数が異常に増えたり、ひどい腹痛が襲ってきたりと、不安がつきまといますが、自分に合った治療を受けることで、再燃せずに過ごせる場合も少なくありません。治療には薬や手術だけではなく、普段の生活習慣(規則正しい生活リズム、バランスの良い食事)の見直しも有効です。中等症以上の患者さんは医療費助成制度を受けられるので、検討してみるのも良いと思います。
2018年06月11日ウエスト症候群とは出典 : ウエスト症候群は「点頭てんかん」とも呼ばれ、多くは1歳未満(生後3ヶ月~8ヶ月がピーク)に発症する、全般てんかんのことです。"てんかん発作"のタイプは右脳と左脳が同時に興奮状態に巻き込まれる全般発作に分類されます。脳波が全体として「バラバラで混とんとした」波形になるのも全般てんかんであるウエスト症候群の大きな特徴の一つで、精神運動発達の退行(発達とともに習得した精神的・運動的技能ができなくなってしまうこと)をきたす、特異かつ稀少な難治性のてんかん症候群で、難病指定もされています。発症率は、出生数 1,000人に対して 0.16~0.42人と言われています。参考:ウエスト症候群の診断・治療ガイドライン|日本てんかん学会ガイドライン作成委員会ウエスト症候群は「点頭てんかん」とも呼ばれていますが、「点頭」と言う言葉は「うなずく」と言う意味があり、首の屈曲がうなずくような動きに見えるためです。原因はあるの?出典 : ウエスト症候群の原因は、検査を行っても原因の特定が難しい潜因性のものと、何かしらの疾患などの原因が考えられる症候性のものがあります。原因と考えられる基礎疾患としては、脳形成異常、低酸素性虚血性脳症、外傷後脳損傷、脳腫瘍、代謝異常、染色体異常、先天奇形症候群、遺伝子異常などが挙げられます。しかし、潜因性のてんかんと症候性のてんかんに共通するはっきりとした病態は、まだ見出されていないのが現実です。さて、潜因性と症候性とはなんでしょうか。潜因性は、非症候性ともいわれ、基礎疾患やその他の神経学的な兆候および症状がみられません。それに対して症候性は、生まれる前あるいは出生直後に起こった脳障害の合併症が原因となって起こるものです。治療効果や予後も、潜因性か症候性かで大きく変わってきますが、症候性のほうが予後が悪く、レノックス・ガストー症候群というてんかんに移行していく場合もあります。ウエスト症候群の症状は?出典 : ウエスト症候群の様子や、どんなときに起こりやすいかなどを知っておけば、「この動きはもしかしたら?」と見逃すことなく、早期発見につながるかもしれません。前述したように、ウエスト症候群かもしれないと思ったら、なるべく早く小児科を受診しましょう。頭をカクンと前屈させ、上下肢をビクンと振り上げる動作など、両側対称性の四肢・体幹のけいれん発作を、数秒間隔で繰り返します。繰り返し起こることを「シリーズ形成」とよびます。このウエスト症候群のシリーズ発作は0.2~2秒程度の短い発作が数秒間隔で、20~40回ほど繰り返されるのが特徴です。多い時には、100回以上繰り返されることもあります。シリーズ発作は1日に10回以上起こることもあります。子どもによって違いはありますが、寝起きや寝入りに起こりやすいといわれています。発達とともに取得した精神的および運動的技能ができなくなる「退行」も、ウエスト症候群の特徴のひとつです。たとえば、お座りができていたのにできなくなった、単語を言えていたのに言わなくなった、など。「あれ?最近〇〇ができなくなったな」と思ったら、赤ちゃんの様子をしっかり観察してあげましょう。ウエスト症候群の動きかも?と思ったら親がすること出典 : 「子どもが頭をカクンとさせるんだけど、なんだろう?」、「この動きはもしかしたらウエスト症候群?」生後数ヶ月の赤ちゃんの小さな動き、気になってもそれがなんなのか、迷いますよね。こんなふうに迷ったとき、保護者はいったいどうすればいいのでしょうか。「たぶんこの動きはなんでもないな」などと判断したり、放っておいたりしないで、まずはかかりつけの小児科に行きましょう。そして、動きのほかにも「首がすわっていたのに、最近すわりにくくなってきた気がする」、「お座りができていたのに、できなくなった」など、少しでも気になることはすべて伝えることが大切です。保護者が伝えたことすべてが、ウエスト症候群かそうではないかの、大切な判断材料にもなるのです。親が見たことや気になったことを伝えることももちろん大切ですが、どうしても偏ったものになったりあいまいなものになってしまう場合も多いので、客観的に見ることができる「動画」を撮って持っていくことをおすすめします。その場合、「寝入るときに撮った」、「寝起きに撮った」など、そのときの状況を伝えることも忘れないようにしましょう。「この動作はウエスト症候群かな?」と思ったら、抱きしめたり大声で名前を呼んだりせず、まず落ち着いて様子を見ましょう。てんかんかな?と思ったら動揺したり焦ってしまいがちですが、全身のけいれんが長く続くことがなければ、救急車を呼んですぐ病院へ搬送!という必要はありません。もちろん早期発見が大切なてんかんですが、一度起きたからすぐに命にかかわる、脳へ甚大な影響があるというものではありません。とにかく、しっかりと様子を観察しましょう。モロー反射とは、赤ちゃんの原始反射のひとつで、大きな音を聞いたときなどにビックリして起こる動作です。指を広げて腕を伸ばし、何かに抱きつくような動きが特徴です。一見すると、ウエスト症候群とモロー反射の動きはとても似ているので、判断するのは難しいのです。モロー反射の特徴としては、音などのきっかけによりビクッとなったり、寝ている時にビクッとなったりします。それに対して、ウエスト症候群の発作は、寝起きや寝入り前の目が覚めている時に起こることが多く、発作時も無表情でビクッとするだけでなく、頭をカクンと前に倒すという特徴があります。ウエスト症候群を診断するための検査出典 : 「ウエスト症候群の可能性がある」と言われ、診断されるまでには、いったいどんな検査をするのでしょうか。まだ生後間もない小さな赤ちゃんを検査するとなると、不安になってしまうかもしれませんが、検査内容や具体的な方法を知ることで不安も軽減されると思います。ウエスト症候群は脳波に高振幅の徐波と棘波・鋭波(点頭てんかん特有の異常脳波でヒプサリズミアという)が不規則に出現し、全体的にバラバラと混とんとした状態になるのが特徴で、脳波は最も大きな判断材料と言えます。「こんなに小さいのに、脳波なんてとれるの?」と心配になるかもしれませんが、人体への影響が少ない「トリクロリールシロップ」などの睡眠導入剤を使って、眠らせた状態でとることができます。ウエスト症候群が、脳形成異常や脳室周囲白質軟化症(側脳室周囲白質に局所的な虚血性壊死による多発性軟化病巣ができる疾患、早産児や低体重児に多くみられる)が原因となっている場合もあるため、頭部CTやMRIの検査を行い、基礎疾患がないかをくわしく調べます。原因がはっきりすれば、有効なアプローチ方法を見つけられる可能性が高くなるのです。ウエスト症候群の治療法は出典 : ウエスト症候群は難治性のてんかんです。ウエスト症候群だと診断されると、不安が先に立ちますが、有効な治療法はいくつかあります。決して心配しすぎず、赤ちゃんのためにも早期治療に取り組んでほしいと思います。治療法にはどんなものがあるのか、どんな効果があるのかなど詳しく解説していきます。ウエスト症候群の治療法として、まずはビタミンB6やバルプロ酸などの抗てんかん薬を1~2週間程度投与して様子をみることもあります。それでも効果がみられない場合は、すぐにACTH療法に移行します。ウエスト症候群の最も有効な治療法として、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)投与があげられます。日本では、作用時間の長い人工合成ACTH製剤であるコートロシンZが使われて、太もも(左右交互)に注射投与します。一般的には、最初の2週間程度は毎日投与(この過程で発作が消失または激減する効果が表れ始める)し、効果があれば徐々に投与回数を減らしていき、効果がなければ3~4週間程度まで毎日投与を延長し、その後に投与回数を減らしていきます。基本的には入院が必要な治療です。副作用として、ムーンフェイス、高血圧、電解質異常、易感染性などがありますが、それも含めて量や投与方法などをコントロールしながら治療を進めます。日本てんかん学会では、ACTHについて下記のようなガイドラインを作成しています。1.West症候群の治療に最も有効なのは、ACTHである。2.ACTHの最適投与量、投与方法、期間については十分なエビデンスがないが、副作用を軽減するために、可能な限り少量、短期間の投与が推奨される。3.ACTHは、West 症候群発症後出来るだけ早く使用すべきである。非症候性 West症候群については、1か月以内が望ましい。4.ACTH治療中は、副作用をモニターし治療する。重篤な副作用が出現した場合は、ACTHを中止する。5.他の療法をACTH治療前に行う場合は、2 週間以内に効果判定を行い、無効であればACTH療法を行うのが望ましい。療法が有効でなかった場合、第二選択としてビガバトリンを使用します。1989年に英国で抗てんかん薬として最初に承認され、英国ではウエスト症候群の第一選択薬のひとつに位置づけられていますが、日本では視野狭窄の副作用があるため、遅れること2016年3月に承認されました。ACTHより効果が弱いとされていますが、ACTHに反応しない、あるいはACTHでいったん発作が消失したものの再発してしまったという場合でも有効な可能性があります。また、結節性硬化症をともなうウエスト症候群にも高い効果を発揮します。上記の投薬・服薬の治療法のほかにも、ケトン食という食事療法があります。脂肪が多く、炭水化物(糖質)が少ない食事で、脂肪、たんぱく質、糖質・炭水化物の比率を一定になるように毎食計算します。まだ乳幼児のため、特殊専用ミルクも併用しながら医師と栄養師の管理のもとで実施します。1921年から使われていますが1995年以降にはアメリカで急速に普及し、ケトン食療法に関する研究報告は飛躍的に増加しています。ウエスト症候群をはじめ、さまざまなタイプのてんかんに有効である可能性があり、発作頻度が半分以下になるという報告も多くあります。ウエスト症候群の予後は出典 : 難治性のてんかんと言われて、親が一番気になるのはその後の発達や再発の可能性についてではないでしょうか。治療後の予後はどうなのか、再発の可能性はどのくらいあるのかなどを詳しく見ていきます。ACTH療法はほかの療法よりもその後の知的な発達が良好であり、また、発症1か月以内にACTH療法を開始したほうが、知的発達が良いともいわれています。また、さまざまな症例から、症候性よりも潜因性のほうが知的および発作予後が良く、早期治療の方が発作予後が良かったと報告もあります。症候性か潜因性かでも変わってきますが、発症後すぐ治療を始めた場合、5~8割くらいは症状が軽くなる(発作の消失、あるいは今後の発達に影響がない程度の激減)と言われています。しかし、時間が経ってから治療した場合、約半数は発作が残ったり、すぐに再発する可能性が高いといわれています。ウエスト症候群という病気と長期間向き合い、赤ちゃんの様子をみながら支えていくと言う姿勢と覚悟が大切になります。再発した場合は、ACTHの再投与や他の抗てんかん薬による治療もありますが、それらの治療も有効でない場合、レノックス・ガストー症候群という難治性てんかんに発展する可能性も高くなります。レノックス・ガストー症候群とは、発症時期が1~8歳(ピークは3~5歳)であり、新生児期・乳児期に発症したウエスト症候群が移行することもあります。強直発作、非定型欠神発作、脱力発作など多彩な発作がみられ、精神発達遅滞をともないます。まとめ出典 : ウエスト症候群は、難病・小児慢性特定疾患に指定されているため、医療費の助成や療育相談・自立に向けた育成相談など、さまざまな支援を受けることができます。ウエスト症候群と診断されても、その後の治療やリハビリ、そして受けられる支援をうまく活用することで、子どもの成長は大きく変わっていきます。一番大切なのは、早期の発見と治療です。まだ未熟な乳幼児の動きを観察して判断するのは非常に困難であり、つい見逃してしまうことがあります。ウエスト症候群を理解することで、小さな「気になる」動きがあったら、小児科へ行くなどすぐに行動してほしいと思います。参考文献:『病気がみえる vol.7 脳・神経』p.470(医療情報科学研究所/メディックメディア)/2011年参考:ウエスト症候群(指定難病145)|難病情報センターHP参考:ウエスト症候群の診断・治療ガイドライン|日本てんかん学会ガイドライン作成委員会HP参考文献:『小児科学レクチャー』3巻6号p.1419-1430(総合医学社)2013年11月参考文献:『小児内科41巻第3号』(東京医学社) 2009年3月1日参考:ケトン食療法と実際について|岡山大学病院|参考文献:『専門外の医師のための小児てんかん入門』p.50(白石秀明/中外医学社)2015年参考:小児慢性特定疾患センターHP
2018年05月29日お腹の不調がつらい「過敏性腸症候群(IBS)」の具体的な症状とは?出典 : お腹が痛い、下痢や便秘が長引いている、お腹にガスが溜まっているような気がする。腸の疾患がないのにお腹に痛みがあったり、調子が悪く、それに関連した下痢や便秘などの異常が数ヶ月以上続くなどの症状に悩まされているなら、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome: IBS)かもしれません。過敏性腸症候群の症状は多岐にわたります。代表的なお腹の痛み、腹部不快感、下痢・便秘が続く症状のほかにも、腹部膨満感(腸内に水分やガスが溜まりお腹が張って苦しい状態)、おならがよく出る、食欲不振、頭重感、お腹がゴロゴロ鳴るといったさまざまな身体症状が現れます。夜寝ている時に症状が出ることはほとんどなく、排便すると一時的に症状から解放されるのも特徴です。過敏性腸症候群には身体症状だけでなく、精神症状が伴うケースもあります。特に重症になると、トイレに自由に行けない環境に不安を感じたり、見た目では理解されない苦しみを抱え込んだりします。過敏性腸症候群は命にかかわる病気ではありませんが、日常生活に支障をきたし、生活の質が著しく下がる病気です。学生であれば、授業中やテスト中に何度も教室を抜け出すのがつらい人もいます。働いている人であれば、通勤には各駅停車を使って、いつでもトイレに駆け込めるように対策している人もいるほどです。こういった不安や苦痛を隣り合わせのため、勉強に集中できなくなったり、働く気が起きなくなったりすることもあるようです。さらには外出を控えるようになり、不登校になったり、仕事を辞めることまで考える人もいます。参考:過敏性腸症候群(IBS)患者さんとご家族のためのガイド「Q1 過敏性腸症候群(IBS)ってどんな病気ですか?」|日本消化器病学会ガイドライン実は10人に1人が過敏性腸症候群。4つのタイプや性別・年齢との関係は?出典 : 過敏性腸症候群は、便の形状や排便頻度によって4つのタイプに分かれています。・便秘型: 週に3回以下の排便で便が固くなる。お腹にガスが溜まりやすい。・下痢型: 1日に3回以上の排便で便が水っぽくなる下痢型。急に襲ってくる便意があるため、トイレに自由に行けない環境に不安を感じやすい。・混合型: 便秘型と下痢型の症状を繰り返す・分類不能型: 以上3つのタイプには当てはまらないタイプ過敏性腸症候群は10人に1人がかかっている病気で、決してめずらしい病気ではありません。男性より少し女性に多く、加齢とともに患者数は減少すると考えられています。一般人口の11.2%(95%CI,9.8%-12.8%)が IBS を発症しており,男性に比べて女性が発症しやすいことが示された(男性:女性=1:1.67)。年から,1991年から,2001年からの各10年間にわたるIBSの有病率は変化していない. しかし,30歳未満,30歳代,40歳代,50歳代,60歳以上の有病率は各々11.0,11.0,9.6,7.8,7.3%であり,全体として,50歳以上ではそれより若年者に比して有病率が低い傾向が認められた.過敏性腸症候群を発症する原因は?ストレスとの密接な関係が指摘出典 : 過敏性腸症候群の発症の原因は解明されていません。ただし、腸の検査や血液検査をして、腸に明らかな異常(潰瘍や腫瘍など)がある病気ではないため、ストレスが原因ではないかと考えられることも多くあります。実際に、過敏性腸症候群はストレスと密接な関係があり、強いストレスを感じたときには症状が強く表れ、ストレスが軽減されたときには、症状が軽くなる傾向があります。これは脳と腸が自律神経でつながっていて、脳が不安やストレスを感じ取ると、その影響を受けて腸の動きが乱れ、痛みを感じやすい状態になるためです。特に過敏性腸症候群の患者はこの状態が強く現れる傾向があり、腸の動きの早さによって下痢や便秘などの症状につながります。精神的なストレスを感じていなくても、過労や睡眠不足、乱れた食生活が続いている場合は腸に負担がかかっているため、過敏性腸症候群を発症しやすくなります。また細菌やウイルス性の胃腸炎から回復した後は、過敏性腸症候群にかかりやすいと言われています。そのほか、腸内細菌のバランスが崩れて発症することもあります。善玉菌が減って悪玉菌が増えることによって腸が過敏になるためです。参考:過敏性腸症候群(IBS)の病態・診断・ 治療|日本内科学会雑誌 第102巻 第 1 号・平成25年 1 月10日過敏性腸症候群の症状にあてはまったら…出典 : 過敏性腸症候群の症状が続いている場合は一度病院の受診を検討するとよいでしょう。まずはかかりつけ医もしくは内科医に行き、重症で内視鏡検査などの精密検査が必要になる場合は消化器内科か胃腸科をおすすめします。もし大きなストレスがかかる状態が続いていて、抑うつ状態や気分の落ち込みがある場合は、心療内科やメンタルクリニックの受診も視野に入れてみましょう。診察の際、飲んでいる薬があれば必ずお薬手帳を持参してください。また、直近の健康診断の結果が手元にあれば合わせて持参すると、診断がスムーズになります。腹痛、下痢・便秘を繰り返す腸の病気は、過敏性腸症候群以外にもあるため、医師の診察をしっかり受けることが必要です。過敏性腸症候群の診断にはどんな検査がある?出典 : 過敏性腸症候群の診断は、国際消化器病学会の専門委員会が作成した診断基準で、国際的にも多くの医師が用いている「ローマⅢ基準」によって行われます。IBSの診断基準(ローマⅢ基準)最近3ヵ月の間に、月に3日以上にわたってお腹の痛みや不快感が繰り返し起こり、下記の2項目以上の特徴を示す1)排便によって症状がやわらぐ2)症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)3)症状とともに便の形状(外観)が変わる(柔らかくなったり硬くなったりする)「ローマⅢ基準」による診断を確定するために尿・便検査、血液検査のほか、症状や過去にかかった病気(既往歴)や家族の既往歴によって、腹部X腺検査、大腸内視鏡検査、超音波検査、CT検査などが追加されることもあります。急激な体重減少・血便・寝ている間もトイレに行きたくなる場合は、過敏性腸症候群ではなく他の病気の可能性もあるため、追加の検査が必要となることもあります。潰瘍性大腸炎やクローン病などの初期症状は過敏性腸症候群の症状に似ていること、細菌・ウイルスに感染していることも考えられるため、自己診断ではなく必ず病院で診察を受けましょう。検査以外にも、心理状態や生活状況を聞き出して総合的に診断することもあります。市販薬で乗り切れているから自分は大丈夫だ、と思っていても重大な病気が隠れている場合もあります。胃に違和感を感じたり、下痢や便秘などの症状に悩まされている場合は、早めに医師による診断をしてもらいましょう。治療法はさまざま。症状に合った治療法を選ぶことが大切出典 : 過敏性腸症候群の治療は、たいてい以下の順番で行われます。1 生活習慣の改善・朝、排便をする習慣をつける・夜更かしをせずに十分な睡眠をとる・運動不足であれば適度な運動をする(運動療法)※運動することでストレスが減り、便通も促されるため2 食事指導(食事療法)・香辛料、冷たい飲み物、脂っこいもの、コーヒーやアルコールなど、腸に刺激を与えるようなものは控える・食物繊維を多く含んだ消化に良い食べ物を食べる・食事は早食いしない、食事を抜かない、1日3食決まった時間にとる3. 薬物療法・生活習慣や食事を改善しても症状が変わらない場合は、症状(身体症状・精神症状)に合わせて薬や漢方を使う4. 心理療法・薬を使ってもあまり症状が改善されないときやストレスが強い場合は心理療法が用いる・心理療法には認知行動療法やストレスマネジメント、対人関係療法などがある※薬を使いながら心理療法を併用する治療もある過敏性腸症候群の治療では、自分の症状に合った治療法を選び、症状を改善させます。日常生活の工夫で過敏性腸症候群を予防することはできる?出典 : 過敏性腸症候群を予防できるという研究はありませんが、普段からの心がけで症状を避けたり軽減したりすることはできます。十分な睡眠、心地よい睡眠環境、規則正しい食生活、お酒やたばこを避ける、ストレス解消法を見つける(休む時間を作る)、胃に優しいものを飲む・食べるなどさまざまな方法があります。もし運動不足であれば、軽い散歩をすることで、腸の働きを整えるだけでなくストレス解消になります。こうした規則正しい生活習慣や自分なりのストレス解消法を取り入れて過敏性腸症候群を改善していきましょう。まとめ出典 : 過敏性腸症候群は、めずらしい病気ではありません。ただし、お腹の不調を伴う病気は過敏性腸症候群以外にも多くあるため、一度病院で医師の診察を受けることが重要です。下痢や便秘が長引けば、ストレスや不安も大きくなり、生活の質も落ちてしまいます。現在過敏性腸症候群の治療法はたくさんあり、自分の症状に合わせて治療ができます。もしもお腹の不調に悩んでいるのであれば、なるべく早めに病院に行って症状を軽減していくことをすすめます。
2018年05月15日春は入園・入学・進級の季節。子どもはストレスを感じやすい?出典 : 入園・入学・進級をむかえた親子も多いこの季節。「うちの子も〇年生かあ…」など、子どもの成長をしみじみと実感している保護者の皆さんもいるのではないでしょうか。一方、入園や入学となると、新しい園や学校、知らない先生など、初めての環境で、変化を大きく感じる親子も多くいるのではないかと思います。例えば、この春幼稚園などに入園した子どもは、初めての集団生活やいつも一緒にいた母親がいないといった変化、学校に入学した子は、友達・先生との関係構築がいままでより複雑になったり、学習が始まったりといった変化をむかえます。また、保護者にとっても、本格的なママ友・先生とのつきあいやPTA参加など初めて経験することがあります。子どもにも保護者にも、分からないことや初めてのことだらけの新学期は、疲れやストレスがたまりがちな季節でもあります。特に発達障害があると、環境の変化に不安を感じやすいことが多く、ストレスを過剰に感じてしまった結果、登園・登校しぶりにつながったり、放っておくとゆくゆくは二次障害につながったりする場合もあります。子どもが新たな環境に慣れ、快適に過ごしていくには、ストレスサインや症状を感じ取り、適度に発散させていくことが重要です。この記事では、子どものストレスサインや気をつけたい症状、親子それぞれのストレス発散方法について紹介します。子どものこんな様子に要注意!不安・イライラ…心のSOSサインとは?出典 : 子どもがストレスを感じているサインは、生活場面から分かるものから、細かな行動・しぐさの変化までさまざまです。・学校での活動への意欲がない・挨拶に元気がない・体調不良をよく訴える・保健室へ行く回数が増える・友達と関わろうとしない・他学年の子とばかり遊ぶようになった・赤ちゃん返り・幼児退行のような行動が見られるなど・発熱・腹痛が多くなった・息苦しさを感じている様子が見られる・嘔吐、気持ち悪さを感じる頻度が多くなった・アレルギー症状の悪化、新たな症状の出現・睡眠の質の低下(寝つきが悪くなった、「眠れない」とよく言うようになった、怖い夢を見る、過度に睡眠時間が増えた、朝すんなり起きられないなど)・チックや自傷行為が見られるようになった・急激にやせた、あるいは太ったなど・感情の起伏が激しくなった・ちょっとのことで癇癪を起こしたり、反抗したりすることが増えた・無表情の時が多くなった・何もしないで長い間ぼんやりしている・挨拶をしなくなった・独り言を言うようになった・元気がない などここで述べた症状や状態の変化はあくまでも一例です。子どもが新学期に入って、明らかにこれまでとは違う言動や反応を見せるようになったら、少し注意して見てあげた方がよいでしょう。参考:こころのSOSサインに気づく|厚生労働省参考:学校における子供の心のケア|文部科学省新学期、子どものストレスサインを感じたら…サポート・発散方法は?出典 : では実際、子どものストレスサインを感じたら、どのような発散方法があるのでしょうか。一例をご紹介します。新学期は、親子ともにバタバタとした生活を送ってしまいがち。なかなか親子でゆっくり過ごす時間が取れていない、と感じている方も多いのではないでしょうか?入園や入学などを経て、少しお兄さん・お姉さんになったとはいえ、まだまだ子どもです。慣れない環境にへとへとになってしまったり、学校では気を張ったりしていることもあるかもしれません。親子でゆっくりお話をしたり、スキンシップをとったりするだけでも、子どもの安心感が高まります。また「いつもと違うかも?」という子どもの変化を確かめることもできます。忙しい時期ゆえに、親子でゆっくり過ごす時間は見逃してしまいがちです。少し意識して、子どもと接する時間を増やしてみましょう。特に発達障害のある子どもは、新学期に発生しやすい流動的な時間割のような、「いつもと違う」「見通しがもてない」ことに対してとても不安に感じてしまうことがあります。また、子どもの特性にあった合理的配慮が、新学期になりたてでなかなか受けられず、どうしても学校でうまく活動できずに落ち込んでしまうこともあるかもしれません。家庭でも、子どもの特性にあったサポートを心がけることが大切です。例えば、新しい教室の場所や新学期の予定をあらかじめ伝えておくなど「できる限り事前に伝える」ことで、新しい場所に一歩踏み出せるようサポートしてみるとよいでしょう。また、家庭で子どもの特性に合ったサポート方法を探ることができれば、その方法を学校でも同じように先生に実行してもらうなど、合理的配慮の導入もスムーズになることがあります。園や学校での活動以外にも、好きで熱中している活動がある、というお子さんもいるのではないでしょうか。好きな活動を存分にさせることがストレス発散になることもあります。新学期で疲れて、少しやる気や元気がない様子の子どもでも、もともと好きだったことに誘ってみて、乗り気になれば、この活動がストレス発散や、生活のモチベーション維持のきっかけになるかもしれません。学校終わりや休日などを見て、子ども自身が好きなことに思いっきり熱中できる環境を用意するのはいかがでしょうか。新学期は登園・登校しぶりが多くなる時期。登園・登校しぶりをされてしまうと、親としても仕事に行けなかったり、園や学校に連絡するのに気が引けてしまったりなど、困ってしまうことも多いかと思います。今まで親元を離れた経験がない場合や低年齢の子どもの場合は、慣れるまである程度時間がかかることもあります。次第に学校や園に馴染むケースも多いので、過度に心配しすぎずしばらく様子を見ることも必要です。ただ、登園・登校を嫌がる子どもを無理に行かせることが続いてしまうと、園や学校へのイメージがどんどん悪いものになっていってしまいます。登園・登校しぶりを見せた場合は、まず「行きたくない気持ちを受け止めること」を心がけることが大切です。子どもの気持ちに共感し、認めてあげることで、子どもの感情の波や不安定さが落ち着いて、登園・登校できることもあります。どうしても行きたがらない場合は、強制せず、家で過ごせるように工夫することも一つの手です。そのかわり、園や学校に行かないという選択をした日も、ただ、だらだらさせてしまう・放っておくのではなく過ごし方を工夫することをおすすめします。例えば、その日やることを子どもに決めさせたり、感じていることを紙に書きだしてもらったりするなど、子ども側の活動を促してあげることを心がけましょう。発達障害の子どもの場合、ストレス耐性が弱いことがあり、なかなかストレスを消化できないまま、二次障害につながってしまうこともあります。二次障害には以下のようなものがあります。・うつ・対人恐怖・ひきこもり・不登校環境が変わる新学期は、ストレスがたまりがちです。もし、上記のような症状の傾向が見られたら、スクールカウンセラーや臨床心理士、精神科医などの専門機関に相談しましょう。子どものサポートで余裕がなくなる前に…保護者が気をつけたいことって?出典 : 子どものストレスサインに気づき、サポートをするには、保護者自身もストレスをうまく解消していく必要があります。子どもだけでなく、保護者にとってもストレスを感じがちなこの時期に、どんなことを気をつければよいのでしょうか。「子どもが辛い・苦しいと思っている時は寄り添ってあげたい」「子どもが新しい環境で頑張っているんだから、私も頑張らなきゃ!」子どもに対して、このように感じている保護者の皆さんも多いと思います。ですが、「親の私が『疲れた』『休みたい』など弱音を吐いてはいけない」「ストレスサインがあったかもしれないのに、どうして気づいてあげられなかったんだろう…」このように自分自身を追い込んでしまったり、責めてしまったりすると、保護者の心もどんどん疲れてしまいます。この時期、特に不安定になりがちな子どもを支えるには、保護者自身が心に余裕をもつことが大切です。余裕がなくなると、子どもから伝えられているささいなサインに気づくことが難しくなりがちです。また、登園・登校しぶりが起きた時に、子どもの感情に共感できなくなってしまうこともあります。「子どもも新しい環境で頑張っているし、親の私も新しい環境・年度初めで頑張っている。お互い疲れてしまうことも、休みたくなってしまうこともある」などと、少し肩の力を抜いて、自分の今の状況や心身の状態を認めてあげることが大切です。園や学校の先生をはじめ、スクールカウンセラー、保健室の先生など、保護者以外の大人に、子どもの今の状態や心配事を共有しておくことも大切です。連絡帳や、時には面談などで、子どもに対して感じている不安や、新学期前後での変化を相談してみましょう。そうすることで、担任など複数の大人が子どもに対して目を向ける機会を多くできることがあります。子どもに目を向けてくれる大人が1人増えるだけで、子どもの変化にも気づきやすくなりますし、「自分が子どもをしっかり見なきゃ…!」と追い込まれがちな場合も、「先生と協力して子どもを見守っていこう」と少し気を楽にすることができます。子どものこの季節の登園・登校しぶりやストレスによる症状は、多くの保護者が経験してきています。先輩パパ・ママに「実は今登園・登校しぶりが激しくて…」「新学期に入ってから子どもの様子が変で…」と話してみると、意外と「うちもそうだった!」「こうやって乗り越えたよ」など共感やアドバイスがもらえることもあります。また、発達ナビユーザーの方も、新学期の登園・登校しぶりに関する悩みを投稿し、他の方がご自身の経験談を共有しています。ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。お子さんを取り巻く環境が一変したことで、落ち着かないのでは?と感じました。交流級と支援級と先生がいて、複数の先生がか関わることで、一番にどの先生を頼ったらいいのかわからない、支援級で受ける授業と普通級で受かる授業とがあり混乱している…またあるいは、1年生のときの同級生から「どうして支援級にいるの?」と聞かれて答えられないでいる…ということがあるかもしれません。転籍時は、自己肯定感が下がりやすいんです。なぜ僕だけ、私だけ、みんなと違うクラスで勉強するのだろう…みんなと何が違うんだろう…なんとなく心の中でもそうした気持ちがあるのだと思います。落ち着かないのは、不安のせいではありませんか?一学期は混乱するものだと割り切って、ちょっと長い目でみられるのも大事かもしれません。うちも一学期は毎年「地獄の一学期」と覚悟してました。落ち着かないまま夏休みに入り、残暑きびしい二学期最初までずっとつらい、10月くらいからやっと様子がつかめてきて、三学期に軌道にのる・・の繰り返しでした。これから何度も一学期がめぐってきます。たくさん一度に新しい先生に求めるとうまくいかないので、一個ずつ確認しながら・・がいいかな、と思います。学校内にお子さんの避難場所を確保する必要があると思います。保健室、図書室、支援クラス、プレイルーム……使える部屋がなければいっそ校長室でもいいです。登校しぶりが出ているのでスクールカウンセラーさんに相談したい、学校での様子を見てもらいたい、と担任の先生に聞いてみてください。スムーズに手配してくれるか、少し様子見がいるかもしれません。あくまでも担任の先生を輪に入れつつ、保健室の先生、主任先生、教頭先生、と相談を広げていけるといいかな、と思います。繰り返しになりますが、子どものストレス症状に気づいたり、登園・登校しぶりに対応するためには、保護者自身もストレス解消を定期的にしていくことが大切です。日々の子育ての中ではなかなか難しいことではありますが、自分の趣味やストレス発散方法(もともと好きなこと・趣味など)を実践できる時間を、短時間でもいいので定期的に設けるよう意識しましょう。自分の親に子どもを少しだけ見てもらう、一時預かり・ファミリーサポートなどの利用検討も含めて、時には子育てから離れ、リフレッシュする時間を作り出すのもよいですね。まとめ出典 : 新学期は、子どもにとって環境が大きく変化するため、子どもにとっても、親にとってもストレスや不安を抱えがちな時期です。「新学期がはじまったばかりだし、そのうち落ち着くだろう」と思ってしまいがちですが、実は子どもの強いSOSサインが隠されていることも。また、発達障害のある子どものなかには環境変化に強い不安感を抱いたり、何気ないことでストレスを感じたりする子どももいます。慣れて次第にストレスがなくなる場合もあるので神経質になりすぎる必要はありませんが、大切なのは、子どもや自分自身の心のSOSがあった時に気づけることです。子どもがストレスや不安を感じた時には、身体・行動・情緒面にどんな変化が現れるのか、あらかじめ把握しておくこと。また、子どものちょっとした変化に敏感に気づくためには、親にもある程度の余裕があることが重要です。新学期は親も子も、新しい環境からくるストレスや不安を感じやすいです。「無理をしすぎない」ように、親子それぞれにあったストレス発散方法を試していくことをおすすめします。
2018年04月21日今回は、我が家の夫まことくんが付き合っている病気「強迫性障害」についてです。うつ病やパニック障害などに比べると認知度はイマイチなのですが、ひと口に強迫と言っても本当にさまざまな症状がありまして…。夫の症状を簡単に紹介したいと思います。専門書には以下のように書かれています。強迫性障害とは、自分でもコントロールできない不快な考え(強迫観念)が浮かび、それを振り払おうとして様々な行為(強迫行為・儀式)を繰り返して日常生活が立ち行かなくなってしまう不安障害です引用元:図解 やさしくわかる強迫性障害(ナツメ社刊)例えば、玄関の鍵をかけたかどうか気になって途中で引き返すという行為が1回だけならば、それはよくあることだし、ちょっとした心配性のレベルでしょう。しかし、強迫性障害になると、その行為が2~3回では済まなくなり、10回20回と同じ確認行為を繰り返すのです。そうなると、会社にも約束事にも遅刻するようになるでしょうし、日常生活のほとんどの時間を強迫行為にとられてしまうことになる。こうなると、もう日常生活にかなりの支障が出てきます。そこが、「心配性」との大きな違いだと思います。漫画に描いたように、まことくんは「車のサイドブレーキ」が強迫対象になりやすく、勝手に車が動いているんじゃないかというあり得ないようなことを怖がっては、何度も駐車場を確認しに行っていた時期もありました。そして調子が悪くなると…。 こういうことが、冗談ではなく我が家ではしょっちゅう起きます(笑)。決して本人はふざけているわけでもないし、わざとでもありません。そして、自分が不条理なことをやっていることも、わかっているのです…!!さっき免許証を返してもらったのは覚えている。だけど「確信」が持てない。「確信」が持てないのが不快だから、確認行為をせずにはいられない。こんな感じだそうです(本人いわく)。他にも、スーパーの買い物かごの中身が空になったか確信が持てなくて、いつまでもじっと見たり触ったりして確認を続けたり、コインロッカーの中に忘れ物がある気がしていつまでもその場を離れられなかったり、本当に様々なところに強迫の影響が出てきます。まだ認知度が浅い病気ですので、ただの心配性で片付けられることが多いのですが、日常生活に影響を及ぼすのであれば、一度専門機関に相談するのも1つの解決策になるかもしれません。※強迫性障害の症状は人それぞれです。ここに書いてある症状がすべての人に当てはまるわけではありません。
2018年03月27日突発性難聴とは出典 : 突発性難聴は、突然片耳の聞こえが悪くなる病気です。2000年以降、何人もの人気歌手が発症を公表したことで、多くの人にこの病気が認知されました。何の前触れもなく生じた難聴のうち原因が不明、もしくは不確実なものが突発性難聴とされています。診断も治療法も確立していないという、まだまだ分かっていない部分の多い病気でもあります。耳の奥、内耳という部分に何らかの障害が起こっていると考えられています。突発性難聴の原因は分かっていませんが、いくつか有力な説はあります。一つはウィルス感染です。ウィルスと言っても、難聴を引き起こすウィルスがあるわけではありません。インフルエンザやはしかなどのウィルスに感染し内耳が炎症、結果として難聴につながってしまうという説です。もう一つは内耳循環障害説です。内耳に十分な血液が届かない、血流に問題があるとされる説ですが、ほかの器官は正常です。ほかにはストレスも関係しているとも言われます。体調不良や過労を含めたストレスは多くの病気の一因となりますし、直接の原因とはならなくとも、発症をしやすくすることはあります。とはいえすべて原因としては可能性の域を出ません。この原因不明なところが、突発性難聴の特徴なのです。突発性難聴の症状出典 : 突発性難聴の代表的な症状は病名の通り、突然耳が聞こえにくくなるというものです。朝起きたときや店を出たときなど、本人には聞こえにくくなった瞬間がはっきりと分かります。「まったく聞こえない」から「なんとなく聞こえづらい」まで、聞こえにくさの程度は人によって異なります。突発性難聴の診断を受けるまで難聴の自覚がないこともあります。共通しているのは、片耳にだけ症状が表れるということです。両耳の場合は別の病気である可能性が高いです。ほかに突発性難聴でよく見られる症状は、耳鳴りとめまいです。キーンという高音、ジーというセミの鳴くような音などの耳鳴りが起こることがあります。飛行機に乗った時のような、耳の詰まった感じを訴える人もいます。耳鳴りの強さや種類は様々ありますが、それで突発性難聴かどうかを鑑別することはできません。難聴は軽度でも、耳鳴りがあることで突発性難聴と診断されることもあります。めまいには、目が回る感覚の「回転性」、体がフワフワ浮いているように感じる「不動性」、立ちくらみのような「失神性」などの種類があります。突発性難聴で現れるめまいは「回転性」です。耳の病気によく見られるもので、ふらついて立っていられなくなったり真っすぐ立てなくなったりします。嘔吐や吐き気を伴うこともあります。突発性難聴と症状が似ている病気出典 : 突発性難聴は突然片耳が聞こえにくくなる病気ですが、原因がはっきりしていません。難聴、耳鳴り、めまいなどの症状だけでは他の病気の可能性もあるのです。突発性難聴と症状が似ている病気には以下のようなものがあります。・外リンパ瘻(ろう)・メニエール病・急性低音障害型感音難聴・加齢性(老人性)難聴・聴神経腫瘍・騒音性難聴・音響外傷・内耳炎外リンパは内耳の中を満たす液体のことで、それが内耳から中耳に漏れてしまう病気が外リンパ瘻です。主な症状は難聴やめまい、水の流れるような耳鳴りなどで、突発性難聴と誤診されやすい病気でもあります。突発性難聴とは違い、原因ははっきりしています。原因は内耳と中耳を仕切っている部分が破れてしまったこと。気圧の変化や外傷などきっかけが分かることもあれば、はっきりとは分からないこともあります。仕切り部分が破れてしまうときに「ポン」「パチン」という破裂音(ポップ音)が聞こえる人もいます。薬物治療や点滴治療で治らなければ、手術で治療を行うこともあります。激しいめまいが特徴のメニエール病。吐き気や冷や汗、頻脈をともなうこともあります。回転性のめまい、耳鳴り、難聴と、症状が突発性難聴とよく似ているうえ、多くは片耳だけにその症状が見られることも似ています。しかし、メニエール病には繰り返し症状が起こるという特徴があり、発症が一回限りの突発性難聴とはこの点で異なっています。原因は内耳にリンパ水腫ができたことだと考えられていますが、水腫が発生する原因はまだ解明されていません。過労やストレスがメニエール病を引き起こすとも言われ、その点でも突発性難聴と共通しています。低音の難聴や耳鳴り、耳の詰まる感じが特徴の急性低音障害型感音です。突発性難聴の男女比がほぼ同じであるのに対して、急性低音障害型難聴は圧倒的に女性の患者が多いのも特徴です。突発性難聴と比べると症状は軽く、再発の可能性もあります。ストレスや過労で発症しやすくなりますが、原因はメニエール病と同じく内耳の蝸牛部分の水腫です。めまいの有無がメニエール病との大きな違いです。難聴の中では最も一般的なもので、名前の通り原因は加齢です。徐々に聞こえが悪くなるのが突発性難聴との大きな違いです。聞こえの悪さにも特徴があります。年齢を重ねたことで聞こえなくなるのはまず高音で、交通機関のアナウンスが聞き取りづらくなります。また、聞き間違いも増えます。加齢によるものなので治療はできません。日常生活の不便を取り除くため、補聴器をつける人もいます。内耳から脳へ情報を送る聴神経に腫瘍ができる病気が聴神経腫瘍です。腫瘍が神経を圧迫することで、難聴、耳鳴り、めまいといった症状が生じます。聴神経のすぐ近くを通る顔面神経を圧迫すると、顔面マヒが起こる場合もあります。良性の腫瘍で発育のスピードも遅いため、腫瘍が小さければ診断後は経過観察となることもあります。腫瘍が大きくなった場合は耳鼻咽喉科で摘出手術をしたり脳神経外科で開頭手術をします。どちらも音が原因で起こる難聴です。騒音性難聴は、長期間騒音にさらされていたことで徐々に進行する難聴です。内耳にある蝸牛の膜が破れたり血流が滞って細胞が傷ついたりすることで起こります。両耳に症状が現れる点や徐々に進行する点が、突発性難聴とは異なります。長時間騒音を発する場所で働いている人によく見られることから、職業性難聴とも呼ばれます。コンサートの大音量や爆発音など、短時間の騒音が原因で耳鳴りや難聴を感じるのが音響難聴です。耳の痛みを感じることもあります。騒音性難聴と同様、蝸牛の細胞が傷ついて起こります。軽度であれば、時間の経過で細胞は修復され、元に戻ることもあります。主に中耳炎の症状が内耳に広がって起こるのが内耳炎ですが、おたふくかぜやインフルエンザなどのウィルスが内耳に感染する場合もあります。内耳には痛みを感じる神経がないため、炎症があっても痛みは感じません。症状は突発性難聴と同じく、難聴、めまい、耳鳴りなどです。内耳炎は診察や画像診断で判断します。突発性難聴の治療法出典 : 突発性難聴の治療には内服や点滴での薬物治療が一般的ですが、症状に合わせて追加治療を行うこともあります。発症後すぐや症状が重い場合は入院を勧められることもあります。薬物療法の代表はステロイド薬の投与ですが、「米国耳鼻咽喉科頭頸部外科アカデミーが提唱した診療ガイドライン(2012年)」によると、ステロイド投与は選択肢の一つという程度です。強く推奨されるものではないということです。しかしステロイド投与以上に科学的根拠の裏付けがされ、有益で害のない治療法は確立しておらず、難聴に伴うハンディキャップを考えると、ステロイド投与が一般的な初期治療になっています。【参考】突発性難聴治療のEBM(2014) Practice Guideline: Sudden Hearing Lossほかに血管拡張薬や血流改善薬、ビタミン剤などを併用することもあります。原因がはっきりと分かっていないため、薬物といっても直接病気の元を絶つものではありません。内耳の血液循環を良くし、細胞や神経に栄養を与えて動きを活性化させる働きがあるものを用います。発症からの時間や症状に合わせて、薬物治療と並行して別の治療法が用いられることがあります。たとえば内耳に大量の酸素を送る高気圧酸素療法や星状神経節ブロックなどです。高気圧酸素療法は循環改善を目的に行われます。地上よりも気圧の高い環境で高濃度の酸素を吸入し、内耳へ多くの酸素を送り、症状の改善を促します。脳梗塞や一酸化炭素中毒などの治療に使われていましたが、突発性難聴にも活用されるようになりました。同じ循環改善でも交感神経(星状神経節)を麻痺させて緊張を緩めるのが星状神経節ブロックです。交感神経が過緊張になると血管は収縮し、血流が悪くなります。星状神経節の近くに局所麻酔を注射して交感神経の働きをブロックすることで、緊張がゆるんで血流も良くなるという治療法です。突発性難聴の治療は通院でも可能ですが、症状が重い場合は特に入院を勧められることがあります。集中して治療に努めることができ、安静にもしやすいというのが理由です。一般に早期に治療を始めたほうが治りが良いとされています。突発性難聴の診断後すぐに服薬や点滴で治療を開始すると考えると、入院は有効な手段と言えます。また、ストレスも一因と考えられます。家事や仕事などをせず休養や睡眠をしっかりとって安静にする環境を作るのにも、入院は有効です。たとえ重症でなくとも、入院できると治療も安静もしやすくなります。病院で診断を受けるときには入院という選択肢も考えておきましょう。突発性難聴は完治するのか出典 : 年の論文には、121例を観察したところ76%が聴力改善に至ったとのデータがあります。聴力改善とは完治以外に、ある程度回復したという状態も含みます。突発性難聴で完治する、つまり以前の聴力まで戻るのは約3割です。残りはある程度まで聴力が改善した、もしくは変化なし(不変)です。参考:突発性難聴における聴力改善経過と改善率に関する検討(2016年)症状が軽ければ治りやすいと思われがちですが、一概にそうとも言えません。確かに難聴の初期症状が軽いほど治療によって完治する可能性は高いと言えます。しかし同時に、まったく症状が改善しないことも多くあるのです。たとえ症状が軽くとも、しっかりと治療をするのが良いでしょう。参考:突発性難聴の治療成績(2016年)突発性難聴は原因、治療法とも確定されていませんが、できるだけ早く治療を受けることが良いとされています。特に「発症から2週間以内の治療を」という文言は多くの病院で言われています。ですが、早期に治療を開始すると治りが良いというデータの中には、自然治癒の症例が含まれている可能性もあります。治療が早かったことで症状が改善されたのか、自然治癒によるものかは判別できません。もちろん治療は早く始めるに越したことはありませんが、発症から時間をおいてしまったからといって諦める必要はないのです。参考:突発性難聴 ―診断・治療の問題点とそれに対する対応―(2010年)後遺症には、程度に差はありますが聴力障害や耳鳴りが挙げられます。高齢であったり難聴の症状が重かったりした場合は回復しにくいと言われます。また、発症して2週間以降に治療を開始した場合も同様です。聴力が改善せず、日常生活に不便さがあるなら補聴器を使うという選択肢があります。補聴器を使うことで会話もスムーズになり、仕事や人間関係での不便が緩和されます。難聴と一口に言っても、聞こえの状態は様々です。補聴器も耳穴に収まる小型のものや耳にかけるタイプのものなど、さまざまな種類があります。症状の変化に応じて再調整も必要です。最近ではインターネットで手軽に買うこともできますが、補聴器を検討する場合はまず耳鼻科で聞こえの状態をチェックしましょう。病院に補聴器外来があったり補聴器相談医がいたりするなら、相談してみるのが良いでしょう。参考:補聴器相談医名簿 | 一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会販売店で補聴器を購入する場合は以下の項目が参考になります。・日本補聴器販売店協会の加盟店・認定補聴器技能者の在籍店・認定補聴器専門店しっかりと話を聞いてくれ、対応にあたってくれるお店を選びましょう。参考:補聴器が必要になったら | 一般社団法人日本補聴器販売店協会ストレスも突発性難聴の一因とされているため、治療と並行して生活習慣も見直してみると良いかもしれません。家事に仕事に子育てと、ストレスは気づかないうちにどんどんたまってしまいます。趣味や休養などで定期的に発散させましょう。突発性難聴の症状としてあげられるめまいや耳鳴りのせいで、寝つきが悪くなったりすぐに起きてしまったりすることもあります。ですが、まとまった睡眠がとれないことを気にしてしまうのは逆効果です。時間ではなく、自分が寝られたと感じられる睡眠をとることが重要です。突発性難聴の治療法に血流を良くするものが多くあります。その点では適度な運動や入浴も効果的です。食生活では塩分を控え、血流を促進させる食材を積極的にとりましょう。お酒は適量であれば良いのですが、たばこは血管を収縮させてしまうので避けます。まとめ出典 : 突発性難聴は、ある日突然発症します。まったく聞こえない状態ならすぐ病院へ行く人がほとんどでしょうが、少し聞こえないくらいだとそのまま放置してしまう人もいるかもしれません。ですが、早めに受診することで症状が改善することもあります。発症に気づいたらすぐに耳鼻科へ行きましょう。同時に、しっかりと休養をとる準備もしましょう。家事や育児、仕事など、毎日を忙しく過ごしていた場合はストレスがたまっている可能性もあります。リラックスしてゆっくり休める環境を作ることも大切です。
2018年03月24日遅発性ジスキネジアとは出典 : 遅発性ジスキネジアは、統合失調症などの精神病やパーキンソン病の治療に使われる薬などの服用によって起こる場合がある症状です。ジスキネジアとは「自分では止められない」、「止めようとして止めたとしてもすぐにあらわれる」異常な動き(不随意運動)のことを指す言葉です。服用してから3ヶ月以上後になって副作用があらわれるため、「ジスキネジア」の前に「遅発性」という言葉がついています。具体的には、以下のような異常な動きがみられます。「繰り返し唇をすぼめる」「舌を左右に動かす」「口をもぐもぐさせる」「口を突き出す」「歯を食いしばる」「目を閉じるとなかなか開かずしわを寄せている」「勝手に手が動いてしまう」「足が動いてしまって歩きにくい」「手に力が入って抜けない」「足が突っ張って歩きにくい」引用リンク:重篤副作用疾患別対応マニュアル「ジスキネジア」|厚生労働省平成21年5月これらの動きの他にも「足を組んだり外したりする」「ドアノブを回すような動きを繰り返す」「椅子から立ったり座ったりする」など、同じ動きを異常なほどくりかえしてしまうこともあります。症状が軽い場合には日常生活に支障が出ないことも多く、副作用に気づかず見過ごされてしまうことあるようです。そこで抗精神病薬を服用していて、このような症状がみられた場合には、精神科・神経科の専門医をすぐに受診するようにしてください。遅発性ジスキネジアを発症する原因出典 : 遅発性ジスキネジアを発症する原因は、現段階では残念ながら明らかになっていません。しかしこれまでの研究から、特に「ドーパミン」が関係しているのではないかと推測されています。ドーパミンとは脳の中枢神経系にある神経伝達物質のことです。抗精神病薬のなかには、ドーパミンを受け取る場所である「ドーパミン受容体」に作用して、ドーパミンの受け取りを阻害する薬があります。この働きをもつ薬を長期間使うとドーパミン受容体が過敏になりすぎてしまい、遅発性ジスキネジアを発症するのではないかと考えられているのです。統合失調症の治療薬は、遅発性ジスキネジアをもっとも発症しやすいといわれています。抗精神病薬を服用している統合失調症の患者さんでは20~50%、平均すると約20%の割合で副作用として発症しているのではないかと考えられています。比較的高い発症割合のため、心配になってしまう方もいるかもしれません。しかし開発が新しい薬剤は、遅発性ジスキネジアを発症しづらいことが分かっています。第一世代と呼ばれる古い薬剤では32.4%の発症率であるのに対し、第二世代の新しい薬では13.1%と、発症率が2/3と低くなっています。なお、子どもに処方されることがあるリスペリドン(リスパダール)やアリピプラゾール(エビリファイ)はどちらも第二世代の薬です。遅発性ジスキネジアを発症する可能性のある薬剤は、以下の通りです。〇定型抗精神病薬(第一世代)フェノチアジン系(クロルプロマジン,レボメオフロマジンなど),ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)〇非定型抗精神病薬(第二世代)①セロトニン・ドパミン遮断薬(リスペリドン,ブロナンセリンなど)②多元受容体作用抗精神病薬(オランザピン,クエチアピンなど)③ドパミン部分作動薬(アリピプラゾールなど)〇抗うつ剤(三環・四環系,SSRI、SNRIなど)〇気分安定薬(リチウム製剤)〇制吐薬(メトクロプラミドなど)〇抗てんかん薬(カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタールなど)〇Ca拮抗薬(ジルチアゼムなど)(Khouzam HR:Postgrad Med 127(7):726-737,20155)より引用)引用文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017遅発性ジスキネジアについて、これまでに分かっていることをいくつかご紹介ます。まず高齢者や糖尿病を合併している人、脳になんらかの器質的な病気のある人では、遅発性ジスキネジアを発症しやすいことが明らかになっています。また若年層の発症は少なく、加齢とともに発症する人が多くなることでも知られています。遅発性ジスキネジアの発症平均年齢は65歳くらいであるとの報告が多いようです。発症する人の平均年齢が高い理由には、服用歴が長ければ長いほど遅発性ジスキネジアの発症が増加することも関係しているかもしれません。口をもぐもぐさせるような運動は、高齢になると薬を飲んでいなくとも起きてくることもあるようです。そのため高齢者での見極めには注意が必要です。心配なときは、かかりつけの医師に相談しましょう。参考リンク:重篤副作用疾患別対応マニュアル「ジスキネジア」|厚生労働省平成21年5月参考文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017遅発性ジスキネジアの診断・検査出典 : 遅発性ジスキネジアの診断には、血液検査、CT・MRI、脳波検査、眼科的検査のほか、必要であれば遺伝子検査も行われます。先ほど紹介した不随意運動は、遅発性ジスキネジアにだけみられる症状ではないからです。ハンチントン舞踏病・ウィルソン病・プリオン病、脳梗塞、脳腫瘍などでも似たような不随意運動があらわれます。また遅発性ジスキネジアと同じように、薬で誘発されるパーキンソン症候群とも区別されなくてはなりません。そこで様々な検査を行って、遅発性ジスキネジアかどうかを診断します。血液検査では、甲状腺機能、セルロプラスミン、血清銅、梅毒検査、抗核抗体、血清Caなどが調べられます。なお遅発性ジスキネジアではCTやMRIで脳画像は正常を示すことから、脳の検査も詳しく行われます。参考文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017遅発性ジスキネジアの治療方法出典 : 現時点では、原因薬剤の中止・他の薬剤への変更・重症な時の不随意運動そのものへの治療の3段階があります。ですが、一度症状が出てしまうと治療が難しいと考えられているため、症状を出さないよう予防することが一番の治療とも言えます。アメリカのガイドラインには遅発性ジスキネジアの治療薬として、いくつかの薬が推奨されているのですが、残念ながら日本では適応がありません。そこで、副作用として遅発性ジスキネジアを起こしづらい第二世代の薬剤で、自分の症状に合っているものはないか医師と十分に話し合うことが重要です。また早期発見がとても重要なので、抗精神病薬を服用していて少しでも変化があるようであれば、かかりつけの医師に相談するようにしましょう。参考文献:渡辺昌祐編著、『遅発性ジスキネジアの臨床 』新興医学出版社 , 1991参考文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017遅発性ジスキネジア治療薬の研究出典 : 現在、治療が難しいと考えられているものの、抑肝散という漢方薬が遅発性ジスキネジアの治療に効果があるとの報告がいくつかあります。また、2017年4月には、世界で初めて遅発性ジスキネジアの治療薬がアメリカで承認されました。続いて同じ薬が日本人にも効果があるかどうか、また安全性に問題はないかを確かめる試験が始まっています。小胞モノアミントランスポーター2阻害剤MT-5199の遅発性ジスキネジア患者を対象とした 国内第2/3相臨床試験開始のお知らせ(2017年7月27日発表)|田辺三菱製薬堀口淳著、『遅発性ジスキネジアの薬物治療~抑肝散の投与工夫を中心に~』新薬と臨牀、Vo.65(7)、958-965ページ、2016年まとめ出典 : 抗精神病薬を長期服用することで生じる副作用「遅発性ジスキネジア」を解説しました。自分の判断で急に服用をやめると、かえって症状が悪化することがあります。そこで、もしかしたら遅発性ジスキネジアではないかと、心配に思う人は必ず医師に相談しましょう。ほとんどの場合、あごや顔の筋肉の不随意運動から症状がはじまるようです。抗精神病薬を服用している人や家族は、顔の動かし方などに少し注意をしてみると良いかもしれません。これまでの研究から、若い人には発症が少ないことが明らかになっていますので、服用しているからといって過度に心配しすぎないことも大切です。また副作用を予防するために、副作用を発症する割合が比較的低いとされている第2世代の薬を選ぶことができないか、主治医に相談することも考えてみましょう。
2017年12月29日こんにちは。メンタルケア心理士の桜井涼です。親は、子どもの病気を重症化させないために、体調不良の状態を見てあげることが必要です。年齢の低いお子さんは、言葉で症状を説明するのはとても難しいです。また、話せるようになったとしても、子ども自信がうまく説明ができないため、泣いたりだまってしまったりすることもあるでしょう。●子どもは「具合悪い」を具体的に言えない子どもは体調の悪い場所は言えても、「どのように」や「どんな具合に」というところをうまく伝えられません。年齢が低いうちは、言葉のボキャブラリーが少ないことが大きく関係しています。年齢が高くなると、「親に心配をかけたくない」という気持ちが働いて、言わないようになってくることもあります。そのため子どもが「大丈夫」と言ってもどの程度なのか見極めることが『重症化させない』・『早期発見』のポイントになってきます 。●『見る・聞く・触る』で見極める8つのポイント見極めるためには、『見る・聞く・触る』が一番確かな情報となります。その中で、必ず確認したいのは8ヶ所です。1.顔:顔色や表情、顔つき(目がトロンとしているなどいつもと違いがないか)2.熱:体温計を使って測りましょう。3.皮膚:湿疹やただれなどが出ていないか。(皮膚の柔らかいところから重点的に見ましょう)4.呼吸:咳の状態や呼吸音(痰がからむような音やヒューヒューするなど)5.口の中:喉が腫れていたり、口内炎があったり、舌が赤くなっていたりなど6.リンパの腫れ:首筋・脇の下・脚の付け根にコリコリしていないか7.食欲:食べ方や量はいつもと違っていないか8.姿勢:まっすぐ立てるか、立った時にどこかおかしいところはないか子どもが「具合が悪い」と言ってきたときなどに、この8つのポイントをチェックしてみることで、複数の症状が出ていればすぐに受診させることができます。熱を測るだけでは見過ごしてしまいがちなことも見つけられるでしょう。子どもにとって、親に気にして見てもらえること、触れてもらえることは、癒やしにも なります。●自己判断しないで、状態は医師に伝える注意したいのは、チェックをしたあと、おおよその病気を自己判断してしまうことです。母親はホームドクターだと言われることも多いですが、医学を学んだ医師でない限り、自己判断は危険です。受診をしたら、発見したことは、問診や受診の際にしっかり伝えましょう。普段とどんなことが違うのかを伝えることで、医師も診断するのに役立つはずです。----------「熱があって咳をしているから風邪だな」などの判断をしてしまいがちですよね。こういった自己判断をすることが多いでしょう。市販の薬で済ませて大丈夫と思われる方もいるかと思います。ただ、年齢が低かったりケアを間違ったりすることで、重症化してしまうことや長引かせてしまう可能性が高くなることを知っていただきたいのです。親にとって、子どもが病気にかかることは大変ですよね。早い段階で受診や適切なケアができれば、親も子もつらい思いをせずにいられます。また、子どもは親の愛情を感じられると、良いことずくめですので、やってみてほしいと思います。【参考書籍】子どもの病気がよくわかる本著: 大澤真木子●ライター/桜井涼●モデル/赤松侑里
2017年11月15日新生児けいれんとは?出典 : 新生児けいれんとは、生後28日未満の新生児に起こるけいれん症状のことを指します。出生体重3000グラム以上の成熟児での発症率は1000人のうち2~2.8%、2500グラム未満の低出生体重児では9.37~13.5%となっており、低出生体重児に多く発症します。けいれん発作は、広義には体を強張らせて震えることを指します。「けいれん」と聞いて、まず「大発作」などの突然倒れてしまうイメージを浮かべる方も多いでしょう。しかし、新生児けいれんの特徴的な発作は「微細発作」です。まばたきの繰り返し、もぐもぐ口を動かす、自転車をこぐような動きなど、一目でけいれんとは分かりにくい発作が特徴的です。いつもと違う、違和感のある動きをしていれば微細発作の可能性があります。新生児けいれんの原因は低酸素性虚血性脳症や頭蓋内出血、脳梗塞、感染症などが原因でけいれんが発症するため、早期治療が必要です。また新生児けいれんの発症をきっかけに、その後てんかんが発症する可能性もあります。新生児けいれんに関わらず、けいれんが長く続くと後遺症が残りやすいと言われています。適切なけいれん時の対処や、必要ならば救急車を呼ぶなど、瞬時に判断できるように知識を身につけておくことをおすすめします。出典:新生児けいれん|日産婦誌57巻7号研修コーナー新生児けいれんの症状出典 : 新生児けいれんには、頻度の高い順に微細発作、強直性けいれん、間代性けいれん、ミオクローヌスけいれんの4つのけいれんの種類があります。最も多いとされている微細発作は、発作症状が分かりにくく、見つかりにくいといわれています。<微細発作>・眼球運動の異常水平眼球偏位(眼球が水平に動くがまばたきがない状態)・口や頬(ほほ)、舌の異常運動舌を出す、しかめっ面を繰り返す、ウインクの様な動き・四肢の異常行動自転車こぎ、水泳のクロールのような動き・自律神経症状血圧上昇、チアノーゼ(体内の酸素濃度が低下し、唇などが青紫色になること)、紅潮、多呼吸など・呼吸運動の異常無呼吸発作、発作性過呼吸<強直性けいれん>・突然意識を失い白目をむく・身体が急に強張り手足をピーンと突っぱる・口を固く食いしばり呼吸を止める・チアノーゼを起こすこともある<間代性けいれん>・膝を折り曲げる格好をしながらバタバタと手足をばたつかせる・あごがガクガク震える・一定のリズムでけいれんが起きる<ミオクローヌスけいれん>・全身または手足の一部分の筋肉が一瞬ピクッと収縮する・光によって誘発されるため、寝起きや寝入りに起こりやすい・症状を自覚することは少ない新生児けいれんの原因出典 : 新生児けいれんの原因は新生児期にかかりやすいさまざまな疾患が原因となっています。けいれん症状はおおむね、大脳の神経細胞の異常興奮によって、不必要な神経回路にまで情報が伝達され引き起こされます。新生児けいれんの原因疾患もほとんどが脳に関わる疾患となっています。ここでは新生児けいれんの原因疾患を紹介していきます。・低酸素性虚血性脳症妊娠中や出産の際に、何らかの原因で赤ちゃんの脳に酸素を十分に含んだ血液が回らなくなり、低酸素、虚血がおこります。それによって、けいれんや意識障害などの神経症状を伴うさまざまな脳神経障害を起こします。新生児けいれんの原因として最も多いとされています。・頭蓋内出血頭蓋内出血は頭蓋骨の内部に出血が起こった状態を指します。出血が起こった場所によって、くも膜下出血や硬膜外出血などに分けられています。分娩外傷や仮死が原因で起こりますが、けいれんが起こる前の全身状態は良好であることが多いといわれています。・脳梗塞脳の血管が詰まるなど、何らかの原因で脳内の血液のめぐりが低下し、一部の脳組織が壊死することをいいます。仮死、多血症、血栓などができることによってけいれんが起こります。・中枢神経感染症細菌性髄膜炎やウイルス性脳炎などが原因で脳の中枢神経に異常をきたし、けいれんが起こります。・発達異常・奇形先天的な遺伝子変異が原因の疾患によって、大脳皮質の形成異常がみられることから、新生児けいれん、てんかん、発達障害などの症状を併発します。・代謝異常代謝活動あるいはこれを調節する機能が、何らかの原因で妨げられて生じる異常状態のことを言います。低血糖や低カルシウム血症などの代謝異常は糖尿病母体児や低出生体重児などに多く、先天性代謝異常がある子どもが新生児けいれんやてんかんなどのけいれん症状を起こしやすいと言われています。・新生児てんかん新生児てんかんは乳幼児期に発症するてんかんのことで、2つに分類されます。良性家族性新生児けいれんは遺伝性のてんかんです。約4割は生後3日目前後に発作が起こり、そのうちの約7割は生後6週間以内に発作がおさまるといわれています。無呼吸発作が起こることもあります。良性突発性新生児けいれんは、生後5日目前後に間代発作や無呼吸発作を何回も繰り返すものの、明らかな原因がないてんかんです。この時期を過ぎると発作は再発しません。新生児けいれんとてんかんなどとの関係は?出典 : 新生児けいれんを発症した子どものうちの56%は、てんかんが発症する可能性があるといわれています。てんかんとは慢性的な脳の疾患(障害)で、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで発作症状を引き起こす疾患です。年齢・性別・環境に関わらず発作は発症します。てんかん発作は突然倒れて意識を失い、けいれんを起こすといったいわゆる大発作と体の一部が勝手に動いたり、会話の途中にぼんやりしたと思ったら意識を失っていたりといった小発作などがあります。てんかん発作はほとんどが完治することはなく、長年付き合い続けなくてはいけない疾患です。現在、新生児けいれんを発症した子どもにてんかんが多い原因は研究中で解明されていません。他にも、子どもに起こりやすいけいれん症状に、熱性けいれんや急性脳症などがありますが、新生児期に発症することはまれです。熱性けいれんは高熱によってけいれんが起こり、急性脳症は代謝異常などによってけいれんが起こります。表出する症状はけいれんですが、原因疾患などによって鑑別され、それぞれに合った治療を行っていきます。出典:新生児けいれん|日産婦誌57巻7号研修コーナー新生児けいれんの診断・検査方法とは出典 : 新生児けいれんの診断にはいくつかの検査を行います。次の検査は新生児けいれんの診断において、一般的に行われている検査になります。◇頭部画像検査(CT、MRI)新生児けいれんの原因疾患があるかどうかを確認するために行います。どちらも検査服に着替えて、ベッドに横たわり筒状の機器の中に入るだけで検査は行えます。MRIは電波を使って身体の断層を撮影する方法です。CTスキャンはX線を用いて身体の断層を画像にします。◇髄膜検査髄膜刺激症状と30分以上の意識障害が伴う場合には髄膜検査を行います。髄膜刺激症状とは、首の硬直や膝を曲げた状態で股関節を直角に屈曲し、そのまま膝を伸ばそうとすると抵抗があることをいいます(ケルニッヒ徴候などがあります)。これは新生児けいれんと似た症状がある髄膜炎との鑑別のために行います。◇血液・髄液検査血液検査で血糖、カルシウムやナトリウムなどの電解質、感染徴候などを確認し、その他に必要と認められた項目の値を検査します。さらに髄膜炎などとの鑑別を図るために、髄液検査も行います。◇脳波検査脳波検査はけいれんの診断や後遺症の予測に非常に有用な検査です。しかし、けいれんの種類によっては必ずしも脳波で診断が行えない場合もあります。この他にも医師が必要と認めた検査を受けることがあります。新生児けいれんが起こったら出典 : 子どもに突然けいれんが起こったら、しかも生まれたばかりの新生児期に起こった場合、驚いてしまう保護者の方も多いのではないかと思います。しかし、正しい知識を持っていれば冷静に対処することができます。子どもが新生児けいれんを起こしたときには、以下のような対処法を実践してください。<けいれん時の対処法>・首の周りなどを締め付けないように衣服を緩めてください・抱きかかえず、平らなところに寝かせてください・嘔吐や口の中に固形物がある場合は、顔を左に向けて吐いた物が気道に詰まらないようにしてください・口や鼻の周りの吐物を拭き取ってください・診察時にそなえて、けいれんの様子(左右差)や持続時間、体温などを確認しておいてください。余裕があれば不謹慎だと思わずに動画などを撮影し記録してください(診察時、てんかんとの鑑別に役立ちます)。<してはいけないこと>・大声で名前を呼んだり、身体を揺すったりしない(刺激となり、けいれんが長引く場合があります)・「舌を噛まないように」と口の中に物を入れたりしない(けいれんで舌を噛むことはほとんどありません)けいれんの持続時間によって、その後に後遺症が残る可能性の割合が変わってきます。新生児けいれんの場合は原因疾患が早急に治療を必要とするため、救急車を呼ぶか、病院での診察が必要なケースがほとんどです。そうはいっても、けいれんを起こす疾患は他にもたくさんあります。救急車を呼んだり、病院に連れていったりする基準として下記を参考にしてみてください。Upload By 発達障害のキホン【救急車を呼ぶ】・5分以上けいれんが続く・けいれんが終わったが、その後も意識障害が続く(睡眠とは別)【病院へ行く】・初めてけいれんを起こしたとき・全身けいれんではなく、体の一部または左右非対称なけいれんがある【保護者がパニックで判断しにくい場合】・小児救急電話相談(#8000)に電話相談をする小児救急電話相談は厚生労働省がすすめる相談事業です。#8000番に電話すると、お住まいの都道府県の相談窓口につながります。そこで小児科医師・看護師から、お子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や、受診する病院などのアドバイスを受けることができます。新生児けいれん以外にも使用することができます。#8000番に電話をして状況を伝えることで、医師や看護師の適切な指示を受けることができ、子どもの保護者も、その場の対処や救急車・通院の判断を行いやすくなります。参考:小児救急電話相談事業(#8000)について|厚生労働省新生児けいれんの後遺症が心配…。治療法はあるの?出典 : 新生児けいれんの治療は正式なガイドラインが設けられているわけではありません。原因疾患によって治療方法が異なってくるため、それぞれの疾患に必要とされる医療が行われることになります。原因疾患の治療は、薬物治療を主として行われています。新生児けいれんを発症した子どものうち、25~35%が知的障害や運動障害を発症するとされています。新生児けいれんは原因疾患の種類やけいれんの持続時間などによって、後遺症の発症率や程度が異なります。けいれん症状は長ければ長いほど、後遺症の発症率や障害の程度は重い傾向に引き上げられます。医療の進歩によって新生児けいれんの死亡率は改善されてきています。以前は約40%あった死亡率ですが20%と減少し、今後も死亡率は減少していくでしょう。ここでは、あくまでこれまでの研究による統計的な数値をもとに紹介しました。新生児けいれんを発症した子どもの中にも、定型的な発達を歩む子どもは多くいます。出典:新生児けいれん|日産婦誌57巻7号研修コーナーまとめ出典 : 新生児に起こるけいれんは、良性で2週間~半年ほどで完治するものもあれば、原因によっては後遺症を残すほど重度化するものもあります。またてんかんを引き起こしやすいのも特徴的です。実際にけいれんが起こった際は、保護者がパニックになってしまうこともあるかもしれません。できることならば事前に情報収集などを行っておくことと、緊急性が高く、その場に頼れる人がいないときは#8000に電話し、落ち着いて最善の判断を行えるとよいですね。このコラムがいざという時のお守り代わりになることを願います。
2017年10月05日双極性障害(躁うつ病)とは?出典 : 双極性障害は、気分が高まる「躁(そう)状態・軽躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。この特徴から、かつては「躁うつ病」と呼ばれていました。他に、双極性感情障害と呼ばれることもあります。躁状態のときには、短い睡眠時間でも活発に活動できたり、普段より自信を持って行動できたりと仕事で成果をあげることもあります。その反面、集中力に欠けたり、高額な買い物をしたりしてしまうことがあります。うつ状態になると、一変して、すべてのことに対して無気力な抑うつ状態になってしまいます。症状には個人差があり、程度や現れ方によっていくつかのタイプに分類されます。双極性障害のうち、躁状態とうつ状態を繰り返すものをI型、軽躁状態とうつ状態を繰り返すものをII型といいます。Upload By 発達障害のキホン双極性障害は、およそ100人に1人がかかる病気で、20代から30代前後に発症することが多いとされています。また、女性の発症率が高いうつ病とは異なり、男性と女性の間での発症のしやすさに大きな違いはありません。双極性障害は本人に躁状態の自覚がない場合も多く、さらに発症当初はうつ病との識別が難しいため、正しく診断されるまでに比較的長い期間を要します。しかし、双極性障害は気づかずに放置してしまうと、社会的地位や信頼を失ったり、最悪の場合、自ら命を絶ってしまったりする危険性があります。そのため、周囲ができるだけ早く異変に気づき、適切なサポートをすることで早期発見・早期治療につなげることが重要です。また、双極性障害は完治するのが非常に困難とされているうえ、再発率もとても高い病気です。症状をコントロールし、再発のリスクを低く抑えるためには、周囲の理解と規則正しい生活の維持が不可欠となります。出典:躁うつ病/双極性障害|前田クリニック参考:厚生労働省HP双極性障害の症状出典 : 初めの章で触れたように、双極性障害は、躁状態(軽躁状態)とうつ状態を繰りかえす疾患です。躁状態とうつ状態は、ある日を境に突然切り替わるわけではなく、症状が落ち着いている「寛解期(かんかいき)」を経てから切り替わります。この寛解期は、初めのうちは平均して5年程度だと言われています。寛解期になり、双極性障害が治ったと勘違いして、治療を途中でやめてしまうと、次第に寛解期が短くなり、場合によっては、1年の間に4回以上気分の変動が起きる「急速交代型」へと発展することもあります。症状の現れ方と継続期間に関しては、躁病エピソード(病相)は急に発症することが多く、2週間から5ヶ月間ほど持続すると言われています。一方、抑うつエピソードは徐々に発症し、躁病エピソードに比べて発症期間が長い傾向にあります。ここからはそれぞれの状態について説明します。躁状態になると、気分が著しく高揚した状態が持続します。陽気で開放的・活動的になる、すぐに興奮する、怒りっぽくなるなど、普段とは違った状態が続きます。自分を最高の人間と思い、「自分ならなんでもできる」という「万能感」を感じ、他人を見下すような態度が見られることもあります。具体的な行動面では、ほとんど寝ることなく動きまわったり、多弁になって周囲の人に次から次へと様々な話題についてしゃべり続けたりします。さらには買い物やギャンブルに大金を使うなど、周囲からすると異常な行動が見られますが、本人は無自覚であることが多いです。この状態の問題は、気分が高揚して様々な活動を行うものの、それはあくまでも病的な気分高揚によって引き起こされている行動であるため、内容に乏しく、活動の結果が良いものにならないということです。また、気分が大きくなった結果、暴力行為や性的逸脱行為のような法的な問題を起こしてしまうなど、社会生活に甚大な支障をきたすこともあります。軽躁状態は、読んで字のごとく「軽い躁状態」を指します。躁状態ほどの明らかな高揚感はないものの、やはり気分は高めで、普段と比べて人間関係に積極的になったり、やや高圧的になったりといった症状が見られます。躁状態と比べると症状は軽いため、周囲の人は「今日は機嫌がいいね」「最近テンション高いね」程度にしか感じず、病気とは気づかないことも多いようです。躁状態と共通して言えることは、多くの場合、本人は自分の症状に対して無自覚であるということです。そのため、自分の言動によって周囲が困惑していても、そのことに気づきません。 College of Psychiatrists HPうつ状態は、気分が高揚する躁状態の対極にある症状です。異常に気分が沈んだ状態が続き、何をやっても「楽しい」「嬉しい」という気分が持てなくなります。双極性障害の人が具合が悪いと感じるのはこの状態のときです。憂うつな気分になり、やる気や気力を失います。過剰な心配症になったり、自分を責めたりします。行動面の変化としては、口数が減る、なにもせずごろごろすることが増える、など明らかに元気のない状態が見られます。さらに、睡眠時間・食欲が減少し、苦痛を訴えたり、簡単に疲労感を感じたりするようになります。注意力・集中力も低下し、仕事の能率も悪くなります。うつ状態のときには、自殺願望を口にしたり、実際に自殺を試みることもあります。最初に現れる病相は人によってさまざまで、躁、軽躁状態であったり、混合状態やうつ状態であったりしますが、男性の場合、躁状態から始まることが多いと言われています。全体的には、うつ状態から始まるのが割合としては高いとされています。双極性障害とうつ病の違いは?出典 : 双極性障害もうつ病も、同じようなうつ症状があり、誤診されることも少なくありません。けれども、2つはまったく異なる病気です。双極性障害かうつ病なのかによって、後に解説する治療法も異なるため、違いを知っておくとよいでしょう。もっとも大きな違いは、気分が高まる「躁状態」「軽躁状態」があるかどうかです。病状がうつ状態で始まる場合、双極性障害であると見分けることは困難なため、経過を見ていく必要があります。うつ病と比べて、双極性障害のうつ状態には「急激に発症する」「比較的重症である」「妄想や幻覚などの精神症状を伴う」といった傾向があると言われています。日本国内において双極性障害の患者数の割合は約0.7%とされており、この数字はうつ病と比べておよそ10分の1です。発病しやすい年代は、うつ病が平均40歳であるのに対して、双極性障害は20歳前後で、10歳での発症も見られます。双極性障害のほうが若年齢で発症しやすいのは、遺伝的な影響を受けやすいためです。また、双極性障害とうつ病では発症率の男女比にも違いがあります。うつ病は女性に多く男女比が1:2である一方で、双極性障害の発症率には男女間でほとんど差はありません。男女の間でうつ病の発症率にこのような差が生じるのは、女性ホルモンの増加、妊娠、出産など女性に特有の事柄が理由でないかと考えられています。参考:双極性障害|みんなのメンタルヘルス(厚生労働省)双極性障害と間違えやすい病気出典 : うつ病以外にも双極性障害は、統合失調症や境界性パーソナリティ障害など他の病気と間違って診断されやすいと言われています。「躁」と「うつ」という二面性を持つうえ、躁状態では本人に自覚がないことが多い双極性障害は正確に診断するのがとても難しいといわれています。そのため、症状によって生活に支障が出て医療機関を受診しても、ほかの精神疾患と診断されることが少なくないのです。以下では、双極性障害と間違えやすい3つの病気について詳しく解説します。統合失調症には「陽性症状」と「陰性症状」という2つの型があります。発症当初は陽性症状が現れ、少しずつ陰性症状へと変わっていく傾向があります。この二面性が双極性障害との大きな共通点です。陽性症状では幻覚・妄想・興奮状態が起きるのに対して、陰性症状では自発性が乏しくなる・感情表現が鈍くなる・人づきあいが苦手になるといった状態になり、うつ症状にも見えます。自己愛の強い人たちの行動は、ときに躁状態に見えることがあります。芝居がかった言動の数々で周囲の人たちに迷惑を及ぼすという特徴も躁状態の人に見られる傾向の1つです。自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の才能や業績を誇張し過剰な称賛を求めます。他人に嫉妬したり、尊大かつ高慢な態度で振舞います。このような症状は、躁状態の人が「自分にはなんでもできる」と万能感を感じて行動するのと似ています。「境界性」とは、もともと神経症と統合失調症の「境界」を意味していました。神経症をはるかに超える症状が現れるけれども、統合失調症ほど重症ではないと診断されてきた障害です。不安定な対人関係という特徴が双極性障害と似ています。はしゃいでいたのに急に落ち込むといった症状が典型です。ほかにも、過食・過量服薬・リストカットなどを繰り返す重大な障害です。以上で紹介した病気はいずれも双極性障害とは治療法が異なります。そのため、症状を回復させるためには正しい診断に基づいた適切な治療が重要になります。児童期の双極性障害を診断するうえでの大変さは、その症状がADHDの症状の多くと重なっている点にあるでしょう。じっとしていられない、衝動的、不注意、注意がそれやすい、などの特徴は、双極性障害のある子どもにも見られる傾向ですが、これらの様子が観察された場合には双極性障害よりもADHDと診断されてしまうこともあるようです。参考:「子どもの双極性障害―親と専門家のためのガイド 」ディミトリ パポロス双極性障害の原因出典 : 過去の研究から、双極性障害の発症には「遺伝」と「ストレス」が関連していることが指摘されていて、これら2つの要素が重なった結果として双極性障害が発症するという「ストレス脆弱性モデル」が双極性障害の原因の一つとして考えられています。ストレス脆弱性モデルとは、「その人の病気へのなりやすさ(脆弱性)と、病気の発症を促す要因(ストレス)の組み合わせにより、精神疾患は発症する」という仮説です。ここでいう脆弱性とは、遺伝などの先天的な要素と、どのような環境でどのように対応してきたかという後天的な要素により決まるといわれています。ですが、中にはこのモデルに当てはまらない患者さんもおり、双極性障害の原因のすべてを説明することはできてはいません。もともとの性格が要因となるのではと考えている研究者もいますが、明らかにはされていません。さまざまな研究が進められているものの、双極性障害の原因に関してはまだわかっていないことが多いようです。参考:躁うつ病(双極性障害)の原因|前田クリニック College of Psychiatrists HP双極性障害かもと思ったら?出典 : 双極性障害は、誰でもかかる可能性のある病気です。気分が上がらず憂鬱な気分のまま数週間が経ってしまったり、逆にテンションの上がり下がりにムラがあり不安を感じる場合は専門機関に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。医療機関を受診する場合、精神科が第一候補になります。総合病院の精神科よりは精神科クリニックなどが受診しやすいでしょう。ただし、激しい躁状態の場合には入院が必要となる可能性もあるため、はじめから精神科救急の設備を備えた専門病院がよいでしょう。精神科に似た診療科に心療内科があります。本来は心身症が専門の心療内科ですが、近ごろは精神科という診療科名に抵抗を感じる人を受け入れるために、あえて心療内科としている場合があります。精神科医がいるのかどうか、事前に調べてみるとよいでしょう。いきなり医療機関を受診するのに抵抗がある場合、どの病院のどの診療科に行けばいいのか迷ったり、そもそも受診すべきか迷ったりすることもあるのではないでしょうか?そんな時は、お近くの精神保健福祉センターや保健所に連絡すると、専門家が相談に乗ってくれますので、気兼ねなく連絡してみましょう。以下のリンクで、全国の精神保健福祉センター、保健所を検索できます。また、お子さんに双極性障害の疑いがある場合には児童相談所などに相談してもよいでしょう。全国の精神保健福祉センター一覧|厚生労働省HP保健所一覧|全国保健所長会HP全国児童相談所一覧 l 厚生労働省厚生労働省HP双極性障害の診断基準は?出典 : 米国精神医学会の診断基準『DSM-5』(精神疾患の精神疾患の診断・統計マニュアル)では次のような特徴を挙げて、・双極I型障害・双極II型障害という2つの型に区別して診断されます。(i) 躁状態が少なくとも7日間つづく場合はI型、4日間つづく場合はII型とする。(ii) II型の軽い躁状態では、社会生活の機能はあまりそこなわれないですむ。しかしI型の躁症状は、社会生活の機能を必ず障害し、問題になっていく。・以下で引用する「躁病エピソード」A~Dのうち、少なくとも1つ以上に該当すること・躁病エピソードと抑うつエピソードの発症が、その他の精神性障害によるものでないことが双極I型障害の診断基準となります。・現在または過去の軽躁病エピソードの以下の基準を満たすこと・現在または過去の抑うつエピソードの以下の基準を満たすことが双極II型の診断基準となります。●躁病エピソードA.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。B. 気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。自尊心の肥大、または誇大睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)C. この気分の障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である、または精神病性の特徴を伴う。D. 本エピソード、物質(例:薬物乱用、医薬品、または他の治療)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。注:抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達してそれが続く場合は、躁病エピソード、つまり双極I型障害の診断とするのがふさわしいとする証拠が存在する。● 軽躁病エピソードA.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した活動または活力のある、普段とは異なる期間が、少なくとも4日間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。B. 気分が障害され、かつ活力および活動が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており、それらは有意の差をもつほどに示されている。自尊心の肥大、または誇大睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)C. 本エピソード中は、症状のない時のその人固有のものではないような、疑う余地のない機能的変化と関連する。D. 気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。E. 本エピソード、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり、または入院を必要としたりするほど重篤ではない、もし精神病性の特徴を伴えば、定義上、そのエピソードは躁病エピソードとなる。F. 本エピソードは、物質(例:薬物乱用、医薬品、あるいは他の治療)の生理学的作用によるものではない。注:抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な軽躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達して、それが続く場合は、軽躁病エピソードと診断するのがふさわしいとする証拠が存在する。しかしながら、1つまたは2つの症状(特に、抗うつ薬使用後の、易怒性、いらいら、または焦燥)だけでは軽躁病エピソードとするには不十分であり、双極性の素因を示唆するには不十分であるという点に注意を払う必要がある。● 抑うつエピソードA.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)ほとんど毎日の不眠または過眠ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画B. その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。C. そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。注:診断基準A~Cにより抑うつエピソードが構成される。抑うつエピソードは双極I型障害でしばしばみられるが、双極I型障害の診断には必ずしも必須ではない。 注:重大な喪失(例:親しい者との死別、経済的破綻、災害による損失、重篤な医学的疾患・障害)への反応は、基準Aに記載したような強い悲しみ、喪失の反芻、不眠、食欲不振、体重減少を含むことがあり、抑うつエピソードに類似している場合がある。これらの症状は、喪失に際し生じることは理解可能で、適切なものであるかもしれないが、重大な喪失に対する正常の反応に加えて、抑うつエピソードの存在も入念に検討すべきである。その決定には、喪失についてどのように苦慮を表現するかという点に関して、各個人の生活史や文化的規範に基づいて、臨床的な判断を実行することが不可欠である。引用:『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)双極性障害の治療法出典 : 双極性障害の治療には、躁状態やうつ状態の治療と、再発を防ぐための治療があります。それぞれ見ていきましょう。双極性障害の治療において第一の大きな柱となるのは、薬物療法です。薬は、気分安定薬と非定型抗精神病薬が第一選択となりますが、患者さんによって効く薬が異なるため、他にも多くの種類の薬があります。気分や意欲が周期的に変化し、高い再発率で知られる双極性障害の患者さんが安定した生活を送るためには、症状をコントロールしながら再発予防に努めることが双極性障害を治療するうえでのポイントとなります。そこで、再発を防ぐ維持療法の段階に入ると、もう1つの柱として心理社会的治療が重要になります。以下では薬物療法と心理社会療法のそれぞれについてもう少し詳しく紹介します。◇薬物療法双極性障害の薬物療法では人によって効く薬が違うため、さまざまな選択肢がありますが、気分安定薬の一つであるリチウムの使用が基本中の基本とされており、双極性障害の患者の約7割から8割に対してはっきりとした効果があるとされています。躁とうつは対極の症状なので、薬も正反対の作用のものを用いると思われることが多いです。しかし、躁・うつはどちらも気分が大きく乱れた状態です。そのため、薬で気分を安定させることで両方の症状に対して効果が見込めるのです。これを気分安定薬といいます。気分安定薬の他にも抗精神病薬・抗うつ薬が用いられることはあり、それぞれ以下のような効果がありますが、ほとんどの場合、気分安定薬が第一選択となります。気分安定薬・・・躁状態の改善・予防、自殺予防に有効抗精神病薬・・・躁状態、幻聴・妄想に有効抗うつ薬・・・基本的に用いられないが、気分安定剤と併用することでうつ状態に有効な場合もより詳しい薬の情報については、以下のガイドラインをご参照ください。参考:「日本うつ病学会治療ガイドライン」参考:「双極性障害の診断と治療」◇心理社会的療法(精神療法)心理社会的治療は広い意味での精神療法で、再発を予防する上では薬と同じように重要な役割を果たします。心理社会療法では、患者さんが療養に取り組む上での精神面をサポートしていくことが目的になります。双極性障害の精神療法の中でも中心となるのは心理教育です。患者さんは心理教育を通して双極性障害に対する知識を深めるとともに、その「再発しやすい」性質を理解し、日々の生活の中で再発のリスクを減らす方法について医師と話し合っていきます。再発率の高い双極性障害はの治療においては、薬物療法によって症状を改善してからが本番であるとも言われます。症状が落ち着いた後も、毎日をどう過ごすのかがとても重要です。服薬を継続しながら、運動や睡眠、ストレスへの対処法などを工夫することで気分の波をコントロールすることができます。参考:文部科学省HP参考:よくわかる双極性障害(躁うつ病) (セレクトBOOKS) 貝谷 久宣再発を防ぐ治療は、症状が落ち着く寛解期に行います。双極性障害の治療において、再発を防ぐことは非常に大切です。というのも、双極性障害を再発すると、同じような症状が繰り返されるわけではなく、症状が重くなることが多く、何度も再発をしているうちに、社会的にさまざまなものを失ってしまう可能性があるからです。再発を防ぐ治療といっても、なにか特殊なことをするわけではありません。最大の再発を防ぐ治療は、今までどおり薬を飲み続けることです。症状が治まってきたからといって、自分で薬を減らしたり、飲むことをやめたりしてはいけません。医師の指示に従うようにしましょう。双極性障害の人に対して周囲はどのように接するべき?出典 : 序章で触れたとおり、双極性障害の完治はとても難しいと言われています。また、最悪の場合には自ら命を絶つ可能性もある病気です。そして双極性障害は、誰でもかかる可能性のある病気でもあります。家族や結婚相手、恋人、親友など、大切な人が双極性障害であるとわかったとき、どのように支えていくべきなのか、必要な心構えと注意すべきポイントについてお話します。このような認識の違いは家庭内でストレスを生み、それが病気の再発へとつながってしまう可能性があります。そうならないためにも、本人と話し合うことによってこのような認識のギャップについて、互いに把握しておく必要があります。また、再発の際にどのような症状が現れるのかを周囲の人が知っておくことも大切です。過去に躁状態になったときのことを振り返り、最初にどんな症状が現れたのかを共有しておくことで、早くから再発の兆しを発見し早期対処できるようになります。躁状態のときには、普段のその人とは全く違う態度や言動を取ったり、信じられない額の浪費をしてしまったりします。そのため周囲も驚いたり、困惑したり、ときには感情的になってしまったりすることもあるのではないかと思います。しかし、そうした普段とは違う態度・言動はいずれも病気によって引き起こされている「症状」であるため、できるだけ早期に受診あるいは担当医に相談することが望まれます。ですが、躁状態の場合、本人の自覚が乏しく、病院へ連れていくのが難しいことがあります。そのようなときには、できるだけ刺激しないように心がけながら、「あなたのことを心配している」という事実を伝えましょう。その人が信頼・尊敬している人から説得してもらうという方法もうまくいくことがあるようです。他にも様々な手段が考えられますが、本人を騙して病院に連れていくことは避けましょう。騙されたと知ることでさらなるストレスがかかり症状の悪化へとつながったり、以降の関係にわだかまりが残り治療が困難になる可能性があります。うつ状態は、本人にとって最も辛くて厳しい期間です。まずはそのことをしっかりと理解しましょう。うつ状態のとき周囲の人が注意すべきポイントは、・責めるようなことを言わないこと・自殺の予兆に気づき、予防することの2点です。繰り返しになりますが、うつ病で一番苦しい思いをしているのは患者さん本人です。そのため、「ダラダラするな」「甘えるな」など怠け者扱いするような言動や、「がんばれ」「いつ治るの」といった元気になるのを無理に急かすような発言はしないようにしましょう。さらに、悲しいことに双極性障害の症状によって自殺をしてしまう人もいます。・「死にたい」「消えたい」と口にする・遺書を書く・周囲の人にお礼や別れを告げる・身辺整理をする・お酒を暴飲するなどのサインが見られたら早急に主治医に相談し、予防策を取ることが求められます。参考:加藤忠史先生に「双極性障害」を訊く|日本精神神経学会参考:躁うつ病の人とのつきあい方(友人・家族)|特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構(COMHBO)双極性障害の人が受けられる可能性のある支援出典 : 双極性障害の症状が原因で働くことができないと収入が減ってしまうだけでなく病気の治療代も支払わなければならないため、経済的に苦しい思いをしてしまう患者さんもいます。以下では、そのような方々が利用できる可能性のある公的支援を紹介します。◇障害年金年金の障害給付、障害基礎年金ともいいます。障害が認められれば、年金が早期から支払われます。◇精神障害者保健福祉手帳税金の減額や、自治体によっては公共交通機関が無料で利用できるようになります。患者さんの状態に応じて等級が決まり、その等級にあった福祉サービスが受けられます。◇自立支援医療精神科の病院やクリニックなどに通っている場合、支払った医療費の一部が補助されます。また、低所得世帯に対しては医療費負担軽減措置が設けられていいます。高額治療継続者であれば、一定の負担能力がある場合でもひと月の上限が設定されます。◇生活保護精神疾患に限らず病気やけがなどを理由に働くことができず、収入がない、もしくは不十分である場合に最低限度の生活を保障する制度です。また、双極性障害の患者さんやその家族によって成る互助団体もあります。当事者同士でしか話せない悩みの相談をしたり、治療や支援を受ける方法についての情報交換なども行われているようです。法人ノーチラス会関東ウェーブの会東京うつ病友の会また、以下のリンク先では、上記で紹介した以外の地域で活動を行う双極性障害患者の互助会の情報のほか、そうした互助会によるイベントをまとめたカレンダーを見ることができます。「双極性障害(双極症)全国自助会カレンダー」まとめ出典 : 双極性障害はその症状がわかりにくく、本人に自覚がない場合があったり、他の疾患と間違えやすい障害です。ですが、双極性障害は今まで築いてきた社会生活や、時には命にまで関わる重大な病気もあります。それでも、薬物治療に加え、双極性障害とうまく付き合っていく方法は確かに存在し、世の中には双極性障害でありながらも社会生活を送っている人がいるのも事実です。本人だけではなく、周囲も一緒になって病気の性質についてよく理解することで、双極性障害との上手な付き合い方を見つけ、さらに、予兆を感じた時にはすぐに担当医に相談することが大切です。気分の波をうまくコントロールし、再発のリスクを抑えながら毎日楽しい生活を送れるように、本人も、周囲も、互いを思いやりながら治療を進めていけるといいですね。
2017年10月02日摂食障害とは出典 : 摂食障害とは、体重や体形へのこだわりや自己評価の低さなどの心理的要因によって引き起こされる、食行動に関する障害をいいます。その症状は人によりさまざまですが、代表的に極度に食事を取りたがらない拒食(神経性過食症)と過剰に食べ物を摂取する過食(神経性過食症)、特定不能の摂食障害の3つにわけられます。摂食障害の特徴として、体重や体型に関する認知(考え方)が歪んだり、自分で食欲がコントロールできず、極端なやせ願望や太ることに対する恐怖心が強くなったりすることがあります。また、見た目に現れるくらいの体重の変動、過度な運動や下剤の使用といった代償行動が表れることもあります。代償行動とは、一度に大量の食べ物を食べてしまい、そのことを非常に後悔し、食べた分だけ体重が増えないように、下剤をたくさん使ったり、自分で吐き出したりすることです。摂食障害は、身体面だけでなく、精神面にも影響を及ぼします。例えば極度な不安や気分の落ち込み、怒りっぽくなるなど心の動きの異変がありえます。その関係から、精神疾患とも深く関わっていることが多くあり、抑うつや不安症状などが現れ、時には自傷行為や自殺に至ることもあります。このようなさまざまな症状が一時的ではなく、繰り返し発症する可能性があることも摂食障害の大きな特徴です。次から摂食障害の具体的な症状や治療法、サポートの方法を順に見ていきましょう。参考文献: 日野原 重明、宮岡 等 /編 『脳とこころのプライマリケア4子どもの発達と行動』 2010年 シナジー/刊摂食障害の分類出典 : 摂食障害は拒食症、過食症、特定不能の摂食障害の大きく3つに分けられます。それぞれを詳しくご説明します。一般的に知られる拒食症は、医学的に神経性無食欲症または神経性やせ症と呼ばれます。特徴としては極端なやせ願望と肥満恐怖があり、ダイエットや食欲不振などをきっかけに発症することが挙げられます。発症時期は10~19歳に最も多く、拒食症の90%が女性であると言われています。神経性無食欲症は食べることを拒否する"制限型"と、一度は過食をした後の無理な嘔吐・下剤の大量使用によって、食べた分を排出し、低体重を維持する"むちゃ食い/排出型"に分けることができます。特に後者は、過食・自己嫌悪・無理な排出を繰り返してしまい、悪循環してしまいがちです。過食症は、医学的には神経性過食症または神経性大食症と呼ばれます。過食症の人は食べることをやめられず、人よりも明らかに多い量を摂取することが特徴です。これは食べることを自分でコントロールできないことから起こります。また摂食行動とは反対に嘔吐・利尿を行い、体重を減らすような代償行動も行います。むちゃ食いし、健忘を伴うケースも報告されています。そのため、過食症は"過食と嘔吐を繰り返すパターン"と、"過食のみを繰り返すパターン"の2つのパターンにわけることができます。過食症は20~29歳に多く、90%の患者が女性と考えられています。発症前にダイエットをしたことがあり、拒食症から移行するケースも多くあります。過食や体重の急激な増減、下痢や嘔吐などが症状として挙げられます。日本精神神経学会/監修 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』 2014年 医学書院/刊生活習慣病予防のための健康情報サイトl厚生労働省特定不能の摂食障害という診断は、拒食症、過食症いずれの診断基準にも当てはまりませんが、摂食の障害のために何かしらの診断名をつける必要がある場合に使われます。例えば女性で拒食症の診断基準にほぼ当てはまりますが、月経は問題なくあるという状態の場合、特定不能の摂食障害の診断になります。摂食障害を引き起こす要因出典 : 摂食障害を引き起こす要因としては体型に関する周りの見方、風潮といった社会的要因と性格や考え方の癖、対人関係などから来るストレスといった心理的要因が関連していると考えられています。「痩せていることが美しい」「痩せているほうが望ましい」という風潮があります。これにより、痩せていることは自己実現や成功の証として考えられがちです。テレビや雑誌、インターネットなどマスコミなどの影響が大きく、ダイエットの流行も摂食障害の要因として考えられています。性格や考え方、ストレスは摂食障害に大きな影響を及ぼすといわれています。そのストレスを引き起こす要因として下記の5つが要因として考えられます。◇自尊心が低い摂食障害になる人には自尊心が低い人が少なくありません。過去に太っていることを指摘された、痩せることで褒められたといった経験があることや、周囲の人から認めてもらいたいという気持ちが強い場合が多いです。また、ありのままの自分を肯定することが難しく、努力が結果として数字であらわれるダイエットにのめりこみがちです。◇完璧主義あらゆることに対して完璧であることを求め、自分に要求します。それは時に過度なストレスとなり、ダイエットのきっかけになることもあります。体型に対して不満がある場合は極限まで食事制限などをしてしまうことがあります。◇八方美人他人から良く思われたい、嫌われたくないと強く思う人は、自分の希望や気持ちを抑えてしまう傾向にあります。周囲の人の顔をうかがうことに気を遣い、知らないうちにストレスをため込んでしまうことがあります。◇家族関係保護者が過干渉あるいは支配的な場合、子どもは自分の気持ちを主張できないことがあります。そのとき、子どもは伝えたいことを伝えられず、ストレスを感じてしまうことがあります。◇決めることが苦手幼少期に過保護な生育環境におかれた場合、何も自分で決められなくなってしまうことがあります。自分は何をしたいのか分からず、心の中に葛藤を抱えることがあります。切池 信夫/著 『拒食症と過食症の治し方 (健康ライブラリーイラスト版)』 2016年 講談社/刊参考文献: 切池 信夫/著 『拒食症と過食症の治し方 (健康ライブラリーイラスト版)』 2016年 講談社/刊摂食障害と関連のあるこころの病気出典 : 摂食障害にはその他のこころの病気が併存しやすいと考えられています。その中でもうつ病や不安障害、強迫性障害、パーソナリティー障害が高い確率で併存するといわれています。それぞれのこころの病気に関してもっと知りたい方は、下の発達ナビコラムもご覧ください。◇うつ病うつ病とは軽症を含めると最も多い精神病で、繰り返し気分が落ち込んだり、意欲がなくなったりすることが特徴です。うつ病の症状は精神面だけではなく、身体面にも影響を及ぼし、その一つとして拒食や過食につながることがあります。◇不安障害不安障害とは、状況や具体的なものに対して、過剰に不安、恐怖を感じ、それによりさまざまな影響が身体と精神に現れ、社会生活を送ることに支障が出てしまう疾患です。不安障害と摂食障害が併存している場合、他者と一緒に飲食する場面において強い不安や恐怖を感じることもあるそうです。◇強迫性障害強迫性障害とは自分の意思に反して不安・不快な考えが浮かび、抑えようとしても抑えられない、もしくはそのような考えをなくそうと無意味な行為を何度も繰り返すことで日常生活に支障が出てしまう、こころの病気です。強迫性障害と摂食障害が併存している場合、「食べてはいけない」という強い強迫観念を持つことが多くあります。◇パーソナリティ障害パーソナリティ障害とはパーソナリティの著しい偏りにより社会生活を送る上で不適合や困難が生じる状態のことをいいます。奇妙で風変わりなタイプ、感情的で移り気なタイプ、不安で内向的なタイプの主に3つに分けられます。特に、境界性パーソナリティ障害では、不安からの逃避・他者の興味を引きたい思いから摂食障害の症状が現れることがあります。摂食障害がもとで生じる精神疾患の多くは、体重や栄養状態の回復により改善します。しかし症状が特に強い場合や摂食障害が快方に向かっても改善しない場合は個別に薬物療法が必要になることがあります。摂食障害を疑うサインは?出典 : 摂食障害には、急激な体型・体重の変化、食生活の変化、心理的・身体的な変化といったいくつかのサインがあります。発症に早く気づき適切な治療を施すと、回復が早くなると考えられています。次のようなサインを見逃さないようにしましょう。◇拒食症拒食症の場合は特に、体重が急激に減少します(嘔吐などの排出行為を伴わないと、目に見えて身体的な変化が見られない場合もあります)。本人が異常なほどに体重計に乗ったり、鏡で体型を気にしたりする場合は注意が必要です。拒食症の場合、体重÷(身長×身長)で求めるBMI(Body Mass Index)という指標から肥満度合い・重症度を判断します。BMIが17kg/㎡を下回るようになると、軽度の拒食症と診断され、15kg/㎡を下回ると最重度の拒食症となり、入院の可能性も出てきます。日本精神神経学会/監修 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』 2014年 医学書院/刊◇過食症過食症の人は多くが体重は平均的な値を取っていることが多いです。そのため拒食症より体重や体型の変化が目で見てわかりにくい傾向があります。過食症の場合は食事量や食欲にわかりやすい変化が表れることが多いので、その点を先に見つけることで過食症による体重・体型の変化が見つかるかもしれません。◇拒食症拒食症の食生活の変化として、急激な食事量の減少や偏った食事内容があげられます。拒食症はダイエットが極端化して発症することが多いので、食事量を異常に減らしたり、食欲がなかったり、特定の飲食物しか食べなかったりする様子が見られることがあります。◇過食症過食症は拒食症とは反対に、明らかに多い食事量、食欲コントロールの不制御が食生活の変化として表れます。また、過食と不適切な代償行動(過度な運動、服薬、嘔吐など)が週に1回以上、3ヶ月間以上続いていると過食症の可能性があります。◇拒食症拒食症の場合、他に次のような身体症状が表れることがあります。・低血圧、低体温・無月経・便秘・皮膚の乾燥◇過食症一方過食症はこのような症状が見られます。主に嘔吐の繰り返しによる二次的な身体症状が多いです。・歯が弱くなる、歯の表面が溶ける・唾液腺の腫れ・不整脈・吐きダコ吐きダコとは摂食障害の身体的特徴の一つで、手の甲あたりの皮膚がただれている状態をいいます。これは口の中に手を入れて刺激し、前歯が手に当たることできます。周囲の人が摂食障害に気づく一つのサインとして考えてよいでしょう。摂食障害情報ポータルサイト‐摂食障害について心理的な変化としては、拒食症・過食症ともに以下のような症状があげられます。・ちょっとしたことでイライラする・精神的に不安定になる・体型の変化(特に太ること)に対して異常な恐怖・不安を感じる・体型や体重に過度なこだわりを持つなど摂食障害は心と密接な関係があるので、心理的にもかなり不安定になる人が多くいます。摂食障害かも?と思ったら、まずは内科、子どもの場合は小児科に相談することをおすすめします。摂食障害の治療を担当する診療科は他にも、精神科や心療内科、児童精神科などがあるので、必要に応じて紹介してもらうとよいでしょう。これらの診療科に受診すると、多くは患者自身と、患者が子どもの場合その親にも食行動や普段の生活、心身の諸症状を聞き取ります。会話をする中で目や歯、皮膚の状態を観察します。また体重測定も行いますが、摂食障害の傾向がある人は体重測定に関して敏感な人が多くいます。そのため数値が見えないようにしたり、強制的に行わないようにしたりと配慮しながら行います。摂食障害情報ポータルサイト‐摂食障害のサイン医療社団法人雅会前田クリニック摂食障害の治療って?出典 : 摂食障害は再発することが多く、慢性化してしまう方が少なくありません。身体的・精神的な症状は人によりさまざまなので、一人ひとりにあった治療が求められます。状況に応じて、入院か通院を決定しますが、体重の減少が極めて著しく重症な場合、緊急入院することもあります。本人の意思を尊重し、医師と相談しながら治療方針を決定しましょう。以下では、摂食障害に効果的な治療方法をご紹介します。特に体重の減少が著しい場合は、食生活の指導や栄養補給を行い、標準的な体重への回復を目指します。最低限必要な体重を定め、治療を行います。治療が進むにつれて体重が増加し、不安を感じる方が少なくありません。治療とともに、拒食・過食、不適切な代償行為を行わないよう、注意が必要です。体重の増加に加えて、心理的な治療も併せて行う必要があります。心理社会学的治療とは、食生活に対する理解を深め、摂食障害の原因となるものを取り除くことなどを目的とした治療です。体重が増加し始めると、この治療方法が開始されます。薬物療法とは身体症状・合併症を治し、不安や抑うつなどの情動面の改善を図ることをいいます。これはあくまでも対症療法であり、いまの段階で摂食障害を根本的に治療する薬はありません。体重に対する考えのゆがみや摂食障害のもととなる、こころの問題に向き合うことが最も重要になります。カウンセリングを通して自分は太っているという思い込みなどの認知の歪みを改善します。また適切な食習慣をおくることができるよう、指導を行います。健康体重の20~30%を下回るような体重が著しく減少している場合は、入院することもまれではありません。入院にはいくつかの判断基準がありますので、ご紹介します。・著明な、もしくは急激な体重減少が認められる・外来治療努力にも関わらず体重増加がない、あるいは、むちゃ食い/嘔吐/下剤乱用が持続している・重篤な身体合併症(低カリウム血症、心臓異常所見、糖尿病の合併)がある・重篤な精神疾患の合併を伴っている(うつ病、強迫性障害、境界性人格障害、自傷行為など)※・治療環境として問題のある家族環境あるいは心理社会的に不適切な環境である(摂食障害 | 厚生労働省)参考文献: 日野原 重明、宮岡 等 /監修 『脳とこころのプライマリケア4子どもの発達と行動』 2010年 シナジー/刊入院の場合、食生活の改善を図りながら栄養補給を行います。摂食障害の人をサポートするには?出典 : 摂食障害と付き合うには周囲の理解とサポートが欠かせません。摂食障害という病気を正しく理解し、あせらず長い目でゆっくり見守りましょう。摂食障害の治療をしていく、また支えていくためには以下のような考え方を意識することが大切です。・安心でき、十分に休養できる家庭環境をつくる・ありのままを受け入れ、自己肯定感を高める・否定するようなことはせず、話を聞き、共感していることを伝える・言葉や行動で愛情を表現し、サポートしていることを伝える・適切な距離を保ち、コミュニケーションをとる・完璧主義や白黒思考など、本人の考え方の癖を本人も周囲も把握できるようにする・日常生活の背景にあるストレスの解消法を幅広く探してみるなどファミリーサポートの会「摂食障害の理解と治療のために」厚生労働省‐みんなのメンタルヘルス「摂食障害患者さんへのアドバイス」摂食障害の人は「治したい・治さなければならない」自分と「治せない・治したくない」自分の間で葛藤したり、少し治療に失敗すると全てうまくいかないというような考え方に陥ったりすることが多くあります。また治療が進むにつれて、摂食障害の裏にあった、不安や憂うつ感、自尊心の低さ、ストレスなどが強く出てくることもあります。摂食障害と精神疾患を併発している場合、精神疾患への公的サポートを受けられることがあります。精神疾患の診断がある場合、このようなサポートを利用するのも一つの手段です。◇精神障害者保健福祉手帳精神障害者保健福祉手帳は、なんらかの精神疾患があり長期にわたり日常生活又は社会生活への制約がある場合に取得できます。摂食障害はICD-10の「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群」に含まれるため、障害の程度によって取得が可能です。精神障害者保健福祉手帳を取得していると、税金の控除や福祉サービスを受けたり公共料金の減免といった支援を受けることができます。参考:自立支援医療|厚生労働省参考:精神障害者保健福祉手帳障害等級判定基準◇自立支援医療(精神通院)自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。摂食障害の治療のため通院による精神医療を継続的に必要とする場合、その通院医療にかかる自立支援医療費が支給されます。通常の医療保険では3割の自己負担ですが、この制度を利用することで1割に軽減されます。また世帯の所得に応じて1か月の1割負担額の上限も定められており、それ以上の負担がかからないようにもなっています。受給するには精神疾患があるという医師の診断を受け自立支援医療受給者証(精神通院)を申請・取得する必要があります。◇障害者総合支援法の支援精神障害のある人は障害者総合支援法による支援の対象となります。摂食障害も以下に該当する場合、精神障害があると認定され、必要な障害福祉サービスを受けることができます。・精神障害者保健福祉手帳を持っている・精神障害を事由とする年金を受けている・自立支援医療受給者証(精神通院)を持っている・18 歳未満の場合で、保護者が特別児童扶養手当等を受給しているそれぞれの支援の利用方法や対象になるかどうか、またどのような支援が受けられるか、詳しくはお住まいの市区町村の福祉担当窓口でご確認ください。障害福祉サービスの内容|厚生労働省摂食障害に関連したホームページや当事者の集まりである自助グループを、いくつかご紹介します。同じ悩みを持った人との交流は憩いの場となることもあるので、活用してみてはいかがでしょうか。@メンタルヘルス「摂食障害(拒食症・過食症)診断チェック」摂食障害治療おすすめクリニック・病院 「摂食障害のセルフチェック」つばめの会(摂食・嚥下に問題のある小児の親の会)医療法人菅野愛生会摂食障害の相談室NABA(ナバ)日本アノレキシア(拒食症)・ブリミア(過食症)協会未来蝶.net「摂食障害回復助け合いサイト」摂食障害自助グループ情報Eating Disorders Group Information「「摂食障害自助グループ情報」のページへようこそ!」オーバーイーターズ・アノニマスJAPANファミリーサポートの会「摂食障害の摂食障害の理解と治療のために」まとめ出典 : 摂食障害は不安やストレスなどに基づいて現れる食行動の障害です。他のこころの病気とも関連があることが多いことから、治療には長い時間が必要なこともあります。摂食障害は、ただ食生活の不全から健康を損なうだけではなく、心もどんどん疲れていってしまいます。重症化すると自傷行為や自殺につながることもあります。単なるダイエットと楽観視せず、周囲の人は変わったことがあれば気にかけ、精神科などの専門機関に相談しましょう。参考文献参考文献: 日本精神神経学会/監修 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』 2014年 医学書院/刊参考文献: 中根允文、山内俊雄/監修 『ICD-10精神科診断ガイドブック 』 2013年 中山書店/刊参考文献: 切池 信夫/著 『拒食症と過食症の治し方 (健康ライブラリーイラスト版)』 2016年 講談社/刊参考文献: 日野原 重明、宮岡 等 /監修 『脳とこころのプライマリケア4子どもの発達と行動』 2010年 シナジー/刊
2017年09月29日自律神経失調症とは?出典 : 自律神経失調症とは、検査しても身体に明らかな異常がみられないのに、肩こり、めまい、頭痛などの自律神経の乱れが関係する身体の不調がある状態のことです。実は「自律神経失調症」は日本独自に定着した疾病概念で、国際的・医学的な病名としては、その定義や診断基準は確立していません。そのため医師によって捉え方が違うだけでなく、自律神経失調症の存在自体を認めない医師もいます。また、医師によっては、原因不明の症状に診断名を与える場合に便宜的に診断する場合もあります。このように、自律神経失調症を取り巻く言説は、未だ整理されていません。しかし、実際に自律神経失調症と診断された方がおり、「自律神経失調症」という名称は多くの方に認知されています。そこで、この記事では日本心身医学会の暫定的な定義に基づき自律神経失調症を説明していきます。参考文献:福永伴子/監修『図解すぐできる! 自律神経失調症の治し方 』2015年ナツメ社/刊日本心身医学会における暫定的な定義は以下の通りです。種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの(引用:心身症と自律神経失調症の違い|医療法人中沢会上毛病院HP)自律神経失調症の症状出典 : 自律神経失調症は、人によって症状の現れる箇所や度合いがかなり異なり、身体面にも精神面にも影響を及ぼす可能性があります。ここでは、自律神経失調症の症状の一部を紹介いたします。■全身に現れる症状・だるい、疲労感・多汗あるいは汗が出ない・食欲増加もしくは低下・睡眠障害・立ちくらみ・めまい・微熱・発熱・血圧の異常(低血圧・高血圧)など■特定の箇所に現れる症状・頭痛・動悸・耳鳴り・咳・肩こり・手足のしびれ・息苦しさなど■精神面・情緒不安定・不安・パニック症状・集中力の低下・イライラなど参考文献:筒井末春/著『月刊「医学と薬学」』――自律神経失調症1985年10月自然科学社/刊参考文献:大塚邦明/著『月刊医道の日本』―ー自律神経失調症に対する鑑別、診断、治療2015年1月号医道の日本社/刊自律神経失調症の原因出典 : 自律神経失調症は自律神経が乱れることにより生じますが、その最大の原因はストレスであるとされています。職場環境、人間関係や生活リズム、災害、気圧などのその人を取り巻く環境と、その人自身が持つ体質や性格、持病などの要因が複雑に絡み合ってストレスとなります。そのため、治療においてもストレスをいかに軽減するかが重要になってきます。出典 : 参考文献:伊藤克人ら/編『専門医が治す!自律神経失調症―ストレスに強い心身をつくる、効果的な療法&日常のケア (「専門医が治す!」シリーズ) 』2001年高橋書店/刊参考ページ:自律神経失調症とうつ病・パニック障害・心身症の違いとは?|せせらぎメンタルクリニックHP自律神経失調症かもと思ったらどこを受診すればいい?出典 : 自律神経失調症に心当たりがあるときは、頭痛なら内科、肩こりなら整形外科など、まずは身体的な症状にあわせて受診する科を決めましょう。自律神経失調症には明確な診断基準がありません。そのため医師によって診断の仕方は異なりますが、1.からだの病気がないことを確かめる検査2.こころの病気がないことを知るための面接や心理検査3.自律神経系の検査この3種類の検査をして診断の材料とすることが多いとされています。受診の結果、別の診断名がついたとしても、まずは医師の指示に従った上で、様子をみましょう。それでもなかなか治らない場合や以前にも何度か同じ症状がでている場合には、総合病院や大学病院などで検査を受けることを検討する必要があります。検査で原因が見つからなかったり、再発を繰り返す、精神的な症状が現れてきた場合は、身体面からだけでなく心理面からも診療する心療内科を受診することをおすすめします。参考文献:伊藤克人ら/編『専門医が治す!自律神経失調症―ストレスに強い心身をつくる、効果的な療法&日常のケア (「専門医が治す!」シリーズ) 』2001年高橋書店/刊自律神経失調症の治療法は?出典 : 自律神経失調症の治療には、以下の4つの療法を中心に行われます。■薬物療法めまい、頭痛などの身体症状や、不安感などの心理的な症状を取り除くために、薬を用いる場合があります。自律神経調整薬や抗不安薬、ビタミン剤、漢方などが処方されることがあります。参考ページ:自律神経失調症|前田クリニックHP・漢方の留意点自律神経失調症により現れる症状を和らげることを目的として漢方薬が処方される場合もあります。ただし、個人の体質や抵抗力などにより調合される薬も異なるので、漢方薬を試してみたい場合は必ず医師に相談することが必要です。漢方外来などの専門外来だけでなく、心療内科の医師も漢方を処方してくれる場合があり、保険が適応される可能性もあるので、気になるときは医師に相談してみるのもひとつの手です。■心理療法(精神療法)心理療法では、医師との会話を通じて心理的なケアをしていきます。認知行動療法や簡易精神療法、自律訓練法など様々な種類があるので、患者一人ひとりに合わせた療法をすることになります。■理学療法肩こりやなどの身体の痛みや手足のしびれをやわらげるために、指圧、マッサージ、鍼灸(しんきゅう)、温熱治療、電気治療などの理学療法が取り入れられることがあります。その場合、病院などにおいて医師の指導のもとに理学療法士が行うことになります。・心理療法、理学療法を受ける際の医療費における留意点理学療法や心理療法を医師が治療の一環として認め、病院内で受ける場合なら、ほとんどの場合保険適応になります。しかし、それ以外の場所で治療を受ける場合は保険適応にならず全額自己負担となる場合が多いため、注意が必要です。その他にも、専門の治療院で症状の改善を目的とした施術が行われていることもあります。中には自律神経失調症を治療対象とした保険適応の施術を行う治療院もありますので、一度お近くの治療院を調べてみるのもおすすめです。ここで注意したいのは、理学療法によって一時的に身体が楽になることはあるとはいえ、根本治療ではないので、他の治療法と合わせて行う必要があるということです。■生活指導食生活や睡眠時間、運動などの生活リズムを見直し改善するためのアドバイスを受けます。自律神経失調症を改善したいとき、自分で出来るセルフケアは?出典 : 乱れた生活スタイルは自律神経が乱れる大きな要因の一つです。この章では、自分でできる生活スタイルの改善方法の一部を紹介します。ポイントとなるのは、できる範囲で少しずつ改善していくことです。生活リズムを改善しようと気を張りすぎると、それが逆にストレスとなることがあるからです。気を楽にして、一歩一歩生活を改善していきましょう。■食事時間を一定にする食事をできるだけ決まった時間にとることで、自律神経失調症と深い関係をもつ体内時計が正常になります。■朝食は抜かずに1日3食食事は1日3食とるようにしましょう。朝食をとることで、心身の活動に必要なエネルギーを得られます。また、朝食をとることにより交感神経への切り替えが行われ、身体を目覚めさせます。■栄養バランス自律神経失調症のある方は、食事のバランスが崩れがちであることもあります。健康維持のためには、日頃からバランスのよい食生活をすることが大切です。ご飯やパンなどの主食、肉や魚などの主菜、野菜や海藻などの副菜、スープや味噌汁などの汁物の4構成を意識した食事をすることで、バランスの良い食事をとることができます。参考ページ:「食事バランスガイド」について|厚生労働省HP■早寝早起きをする自律神経のバランスと深い関わりがあると言われる体内時計を整えるためには、昼は活動、夜は休息という生活リズムを整えることが大切です。朝に光を浴びることで体内時計がリセットされるので、体内時計の狂いを修正していくには、早寝早起きを続ける必要があります。早寝早起きをするためには、あらかじめ就寝時間と起床時間を決めておくことや、就寝前に入浴やストレッチなどをして十分リラックスすること、寝る前の飲酒を控えることが効果的です。それでもどうしても眠れない場合は担当の医師に相談してみることや、睡眠外来に行くのもひとつの手でしょう。参考ページ:体内時計と睡眠のしくみ|武田薬品工業株式会社HP参考文献:大塚邦明/著『月刊医道の日本』―ー自律神経失調症に対する鑑別、診断、治療2015年1月号医道の日本社/刊まとめ出典 : 自律神経失調症は、症状を説明しづらいため、なかなか周囲の理解を得ることができずにつらい思いをされている方も多いでしょう。適切な治療を受けることに加え、食生活や睡眠など、自分でできる改善方法を意識することが大切です。あせらず、気持ちに余裕をもって療養しましょう。
2017年09月05日緊張病(カタトニア)とは?出典 : 緊張病(カタトニア)は、長時間動きが止まってしまう、動作が遅くなってしまう、同じ動作を繰り返してしまう、自発的な動きができなくなるといった体の動きが低下する症状を起こす症候群です。あがり症や緊張症といわれるような、人前で緊張してしまうこととは異なり、医療機関での治療が必要な疾患/症候群です。緊張病は15歳から19歳頃に発症することが多いといわれています。様々な原疾患(カタトニアの病態の原因となる個別の病気)がありますが、緊張病の症状自体は一定の治療法が有効とされていて、数か月で症状が消失することが多いといわれています。ですが、中には症状が何年も続いたり、治療後も自発性がなかなか改善されないケースもあります。2012年までカタトニアは、緊張型として統合失調症(思考や感情、行動などの脳の機能がうまくまとまらない)の一亜型に分類されていました。参考:DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引しかし統合失調症だけでなく、むしろ気分障害や器質性疾患に合併することが多いことが報告されるようになり,2013年に 改訂された最新版の『DSM-5』(米国精神医学会が発行する『精神障害の診断と統計マニュアル第5版』)からは緊張病という一つの疾患分類となりました。記事の後半で詳しく説明していきますが、カタトニアの過程で発熱や自律神経失調症を合併する悪性カタトニアといった、より症状が深刻になってしまうケースもあるため、早期治療がとても大切になっていきます。緊張病(カタトニア)の原疾患は?出典 : 緊張病(カタトニア)には様々な原疾患があります。「原疾患」とは病態の原因となる個別の病気に使われる言葉で、緊張病(カタトニア)は病態の進行や予後が原疾患によって異なることがあります。カタトニアの原疾患は主に精神疾患、神経疾患、身体疾患の3つに分類されています。1. 精神疾患: 急性ストレス障害、自閉症、双極性障害、気分障害、統合失調症、PTSD2. 神経疾患: てんかん、パーキンソン病、ハンチントン病、プリオン病、進行性核上性麻痺、進行性多巣性白質脳症、可逆性 後頭葉白質脳症、脳腫瘍3. 身体疾患: 自己免疫性疾患(SLE)、代謝障害(ファブリー病、テイ=サックス病)、薬剤性(シクロスポリン、セファロスポ リン、コカイン)、感染症(結核、梅毒、HIV)原疾患の中で総合失調症が占める割合は5%以下であるのに対して、気分障害で3~31%(特に双極性障害に関連して認められる)で、特に双極性障害に関連して認められることが多いということが分かっています。出典|カタトニア(緊張病)症候群の診断と治療大久保善朗(疫学調査より)参考|統合失調症の治療中に悪性カタトニアを来たした1例p890緊張病(カタトニア)の症状は?出典 : 緊張病(カタトニア)には様々な症状と、それぞれに応じた名称があります。また、これらの症状は日によっても変化していきます。DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)では以下の12の症状のうち3つを満たす場合に緊張病と診断できるとしています。◇カタレプシー誰かに受動的に取らされた姿勢のまま、抵抗したり姿勢を変えたりせず全く動かない症状です。腕をあげたり、首を曲げたらずっとそのままの姿勢を保ちます。◇蝋屈症(ろうくつしょう)一定の姿勢から自分の意思で動かせず、ろう人形のように固まってしまう症状です。◇昏迷(こんめい)身動きせず、周りが話しかけても無反応な状態です。通常の昏迷の場合意識はあるため、周りがどのような状況か理解しています。対して、意識が無くなってしまう状態を昏蒙・昏濛(こんもう)と言います。◇焦燥理由もなく苛立ったり焦ったりする症状です。◇無言症言語障害が無いのに、発語などの言語反応が無かったり、わずかな発声しか見られなかったりする症状です。◇拒絶症外部からの支持や促しや刺激に対して理由も無く拒絶などの反対をする、または全く反対をしないといった症状です。拒食してしまうこともあります。◇不自然な姿勢天井に向けて手や足を上げ続けたり、体が辛いであろう姿勢を自発的または受動的に保持し続けたりする状態です。◇わざとらしさ - 衒奇(げんき)症不自然だったりわざとらしい表情や動作などを取る症状です。大きなリアクションや芝居がかった話し方や身振り手振りをする事もあります。◇常同症特定の行動や発生を何度も長時間にわたって繰り返して行う症状です。同じ動作を繰り返す、同じ姿勢をとり続ける、同じ言葉を繰り返す、同じ場所から離れようとしないなどの症状が見られます。動くまでに時間がかかる分、止めることにも時間がかかります。◇しかめ面特に理由も無くしかめ面を取ってしまう症状です。◇反響言語他人がの言葉を繰り返して発声することです。エコラリアやおうむ返しと呼ばれることもあります。◇反響動作他人の動作や動きや表情や仕草をまねる症状です。これらの症状は一日のうちでも変化すると言われています。基本的に他者からの働きかけや言葉による指示に対し拒否的になってしまうなど、自発性を持って行動することが難しいです。他の精神疾患に関連する緊張病(緊張病の特定用語)A.臨床像は以下のうち3つ(またはそれ以上)が優勢である.(1)昏迷:すなわち、精神運動性の活動がない。周囲と活動的なつながりがない(2)カタレプシー:すなわち、受動的にとらされた姿勢を重力に抗したまま保持する(3)蝋屈症:すなわち、検査者に姿勢をとらされることを無視し、抵抗さえする(4)無言症:すなわち、言語反応がない。またはごくわずかしかない(既知の失語症があれば除外)(5)拒絶症:すなわち、指示や外的刺激に対して反対する、または反応がない(6)姿勢保持:すなわち、重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持する(7)わざとらしさ:すなわち、普通の所作を奇妙、迂遠に演じる(8)常同症:すなわち、反復的で異常な頻度の、目標指向のない運動(9)外的な刺激が影響によらない興奮(10)しかめ面(11)反響言語:すなわち、他者の言葉を真似する(12)反響動作:すなわち、他者の動作を真似する緊張病(カタトニア)の治療法出典 : 緊張病(カタトニア)は原疾患の如何にかかわらず、一定の治療法が有効とされています。主に薬物療法と電気けいれん療法(ECT)の2つの治療法があります。緊張病の治療に用いられる代表的な薬物としてベンゾジアゼピン系のロラゼパムがあげられます。ロラゼパムは以下の4つの作用を持つといわれています。・強い抗不安作用・中等度の筋弛緩作用・弱~中等度の催眠作用・弱い抗けいれん作用カタトニア症候群の原因疾患の場合、様々な精神疾患や身体疾患で80%を越える効果がみられますが、統合失調症のカタトニアに対しては20~30%にとどまるという研究結果も報告されています。ロラゼパムは抗不安作用が強く、即効性も期待できたり肝臓への負担も少ないですが、効果を実感しやすい分、耐性・依存形成を起こしやすいといったリスクもあります。医師と相談してご自分の症状に適した薬物療法を行うことが大切です。出典|ロラゼパム電気けいれん療法(ECT:Electro Convulsive Therapy)は、頭の左右のこめかみに電極を当て、電気を流す治療法です。麻酔を使って痛みや苦しみを感じず、また危険な状態にならないように呼吸や循環をしっかりと管理して行っていきます。大きな副作用が生じる可能性はほとんどなく、一時的なせん妄や頭痛などは生じることがありますが、後遺症が残ることはありません。電気けいれん療法は、基本的に1回だけでなく、継続的に行います。疾患や症状によって異なってきますが、週2~3回、合計で6~15回ほど行われます。電気けいれん療法の特徴には以下の3つがあります。・治療効果は高い・即効性がある・効果は短期しか続かないことが多いまた、研究でETC治療において統合失調症における緊張病は71%、気分障害では96%の寛解率(症状が落ち着く度合い)が報告されています。さらに最終章で説明する悪性カタトニアには薬物治療(ベンゾジアピン治療)よりも電気けいれん療法のほうが効果が高いという報告もあります。悪性ではないカタトニアの場合は、まずは簡便なベンゾジアゼピンを低用量で服用していき、高用量→ECT治療と移行していくケースが一般的です。ですが身体疾患に伴うカタトニア症候群の場合は、身体疾患に対する治療が必要であったりと、それぞれ原疾患によって適切な治療が異なります。悪性カタトニアの場合はあくまで本章で紹介した治療法は代表的なものにすぎないということを留意して、医療機関で相談してみましょう。これらの治療についての相談先としての「精神科」医療機関には、精神科専門病院、総合病院の精神科、精神科クリニックなどがあります。入院の可能性がある場合は、入院施設のある精神科専門病院がいいでしょう。また、身体の病気を併発している時は、内科などがある総合病院が便利です。出典|カタトニア(緊張病)症候群の診断と治療 p398参考|せせらぎメンタルクリニック身体合併症を伴うことも?悪性カタトニアって?出典 : 悪性カタトニアとは、カタトニアの経過で、発熱や自律神経失調症を合併する場合をいいます。これまでは治療が難しく致死性カタトニアと呼ばれていましたが、現在では適切な治療法と身体管理によって救命できることから悪性カタトニアと診断されるようになりました。カタトニア症候群の原疾患が統合失調症や気分障害の場合、原疾患の治療としては非定型抗精神病薬が有効なためそれらを投与することもあります。ですが、その抗精神病薬にドーパミンが遮断されることが原因となって悪性カタトニアが誘発されてしまうと考えらています。悪性カタトニアになってしまった場合は、抗精神病薬を使用するのではなく、ベンゾジアゼピン高用量の服用と同時に電気けいれん療法も同時に開始することがすすめられています。おわりに出典 : 緊張病はかつて統合失調症の一亜型として捉えられていましたが、統合失調症だけでなく、むしろ気分障害や器質性疾患に合併することが多いことが報告されるようになり、今日では緊張病という一つの疾患分類として扱われています。動けなくなってしまったり、動作を繰り返してしまったり、それに対して指示をしてもそれを拒絶してしまうこともあります。それに対して無理に言葉や動作で行動を促しても治療にはなりません。緊張病は一定の治療法が確立されており、予後良好と言われています。原因疾患の違いによって有効な治療法にも違いがあり、合併症を伴うケースが多いことからも、早めに医師に相談し適切な治療を受けることが大切です。参考|緊張病(カタトニア)症候群の診断と治療
2017年08月30日ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?出典 : (注意欠陥・多動性障害)は不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。年齢や発達に不釣り合いな行動が仕事や学業、日常のコミュニケーションに支障をきたすことがあります。人口調査によると、子どもの20人に1人、成人の40人に1人にADHDが生じることが示されています。以前は男性(男の子)に多いと言われていましたが、現在ではADHDの男女比は同程度に近づいていると報告されています。出典:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル文部科学省はADHD(注意欠陥・多動性障害)を以下のように定義しています。ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。上記の文部科学省の定義では7歳以前に症状が現れるとされていますが、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、診断年齢は12歳に引き上げられています。。また、ADHDの日本名については、日本精神神経学会の定めた「注意欠如・多動性障害」が用いられることもありますが、現在でも「注意欠陥・多動性障害」を使う場合が多いので、本記事ではこちらを障害名として使っていきます。近年では、子どもだけではなく大人になってからADHDと診断される人も多く、注目を浴びています。日本精神神経学会「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」 2014年ADHDの3つの症状ADHDの症状は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分けることができます。それぞれの具体的な特徴を見ていきましょう。Upload By 発達障害のキホン・忘れ物が多い・何かやりかけでもそのままほったらかしにする・集中しづらい、でも自分がやりたいことや興味のあることに対しては集中しすぎて切り替えができない・片づけや整理整頓が苦手・注意が長続きせず、気が散りやすい・話を聞いていないように見える・忘れっぽく、物をなくしやすいUpload By 発達障害のキホン・落ち着いてじっと座っていられない・そわそわして体が動いてしまう・過度なおしゃべり・公共の場など、静かにすべき場所で静かにできないUpload By 発達障害のキホン・順番が待てない・気に障ることがあったら乱暴になってしまうことがある・会話の流れを気にせず、思いついたらすぐに発言する・他の人の邪魔をしたり、さえぎって自分がやったりするADHDの3つのタイプとそれぞれの特徴出典 : 前の章でADHDには3つの症状があることを説明しましたが、人によってその現れ方の傾向が異なり、大きく3つのタイプに分けることができます。また、性別によっても多いタイプが変わってきます。多動と衝動の症状が強く出ているタイプです。次のような特徴が現れることがあります。・落ち着きがなく、授業中などでも構わず歩き回ったり、体を動かしてしまうなど、落ち着いてじっと座っていることが苦手・衝動が抑えられず、ちょっとしたことでも大声を上げたり、乱暴になったりしてしまい、乱暴な子、反抗的だととらえられやすい・衝動的に不適切な発言をしたり、自分の話ばかりをする・全体的にみるとこのタイプは少ないが、男性(男の子)に現れることが多い不注意の症状が強く出ているタイプです。次のような特徴が現れることがあります・気が散りやすくて、物事に集中することが苦手・やりたいこと、好きなことに対してはとても集中して取り組むが切り替えが苦手・忘れ物や物をなくすことが多く、ぼーっとしているように見えて人の話を聞いているのか分からない・幼い子どもの頃は、ADHDではなくとも忘れ物が多い人が少なくないため、ADHDと気づかれにくい。不注意の特性は女性(女の子)に現れることが多い。多動と衝動、不注意の症状が混ざり合って強くでているタイプです。次のような特徴が現れることがあります・多動性-衝動性優勢型と不注意優勢型のどちらの特徴も併せ持っており、どれが強く出るかは人によって異なる・忘れ物や物をなくすことが多く、じっとしていられず落ち着きがない・ルールを守ることが苦手で順番を守らない、大声を出すなど衝動的に行動をすることがあるこれらの分類はアメリカ精神医学会のDSM-4-TRによって規定されたものです。現在でもADHDの分類はこれらの3つのタイプによって分けられることが多いのですが、2013年に出版されたDSM-5においては、新たな診断基準が規定されています。詳しくはADHDの診断方法の章を参照してください。また、ADHDはアスペルガーや自閉症を含む自閉症スペクトラム(ASD)や学習障害(LD)などのほかの発達障害や睡眠障害などと合併することもあります。その場合は上記に挙げた以外の症状が見られる場合もあります。年齢別に見たADHDの症状の現れ方出典 : ■生後すぐから診断ができるの?ADHDは発達障害のひとつですが、発達障害は、言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳児では、症状が分かりやすくでることはありません。ですから、生後すぐにADHDの診断がでることはありません。また、ADHDの症状は他の発達障害の症状と共通するものもあるので、判断には注意が必要です。しかし、ADHDと診断された人たちは、乳児期に共通して特徴的な行動をとっていることが多くあります。・なかなか寝付かない・寝返りをうつことが多く、落ち着きがない・視線が合わない・抱っこされることを嫌がる乳児のADHDは見分けにくいですが、傾向として、後から振り返るとこのような行動が見られたケースも多いと言われています。■必ずしもADHDということではない上記の行動が共通して見られていますが、このような行動は定型の成長過程でも見られることがあるので、一概にADHDと結びつけることはできません。特に多動に関しては、生後まもなくから多動が気になる場合はごく少数です。気になるような場合には児童センターといった身近な相談機関や小児科などで相談してみましょう。ADHDの症状は小学校に入る頃までに現れる子が多いと言われています。■トラブルの原因となる行動をとることが多いこの時期のADHDの子は、以下のような行動をとることが多いです。ただ、前述の通り、ADHDの症状は他の発達障害の症状と共通するものもあります。必ずしもADHDだとは限らないので、特徴はあくまで参考程度にしましょう。・他の子をたたいたり、乱暴をすることがある・落ち着きがなくてじっとしていることができない・我慢ができないので癇癪(かんしゃく)をおこすことが多くみられる・物を壊すなど乱暴・破壊的な遊びを好むことがあるこれらの行動については、いくら言葉だけで注意しても同じ行動を繰り返してしまいます。■言葉の遅れがみられることも幼児期のADHDの子どもは他の発達障害との合併症状として、言葉の遅れなどの特徴が見られることもあります。■しつけの問題なの?幼児期になると、落ち着きがなかったり癇癪を起こしやすいといった行動から、ADHDに気づくことが多いようです。また、保育園や幼稚園でも他の子どもとトラブルを起こしがちになってしまいます。そのような行動が原因となり誤解され、しつけがされていないなど言われることがありますが、ADHDは先天的な脳の機能障害によるもので、しつけや育て方の問題ではありません。出典 : ■症状が顕著に現れてくるADHDの子どもが小学校に入学する頃には、以下のような症状が顕著に現れてきます。・授業中でもじっと座っていることができず、歩き回ったりする・注意力が散漫になって、興味の対象も次々と変化する・物を忘れたり、なくしてしまうことが多い・突然話しかけて他の人の邪魔をしたり、他の人に話しかけられてもぼーっとしてうわの空に見られる・突発的な行動をおこすことがあり、自分の怒りの感情をコントロールできない・友達と仲良くできずトラブルを引き起こしてしまうことが多い・不器用で何度やってもダンスが上手く踊れない、工作が苦手などがみられる■結果的に周りから問題視される何度も同じことを繰り返し注意されたり、授業態度などから周りからは問題視されたり、怠けていると思われることがあります。しかし、本人からすれば悪気があってしていることでもなければ、怠けているわけでもありません。■ADHDの診断がはっきりと下される時期小学校に上がる頃になると、ADHDの症状が顕著に現れるためADHDの診断が下される場合が多くなります。文部科学省の定義では7歳前、DSM-5によるとADHDは12歳前に症状が現れるとされていますが、必ずしもこの年齢で診断が下されるわけでなく、この年齢以前から症状がはっきりわかる場合には診断が下されます。神尾 陽子 「成人期の発達障害の臨床的問題」 2013年出典 : ■思春期のADHDは、合併症状にも注意思春期にはADHDの症状が治まる代わりに、学習障害(LD)などの発達障害との合併症状が目立ってくることがあります。対人関係がうまく築けない場合、自閉症との合併症状がある疑いもあります。ADHDの症状がみられる人は他の発達障害を合併している可能性もありますので、よくチェックして疑いがある場合には診断を受けてみましょう。例えば、・親・教師への強い反抗・友人とうまく付き合えず、トラブルになることが多い・ルールに従うことができないなどの行動がみられることがあります。■他人と自分を比較する思春期になると、他人と自分を比べて悩みやすくなります。ADHDの子どもも例外ではなく、他人と自分をよく比べるようになります。完璧主義の傾向が強いと“できないこと”に過敏になることもあります。そして、他人にはできて自分ができないことにコンプレックスを感じてしまいがちです。コンプレックスから次の行動をとる場合があります。・勉強への意欲の低下、学力の低下がいちじるしくなる・やる気がなく投げやりな態度・自分の世界に引きこもりがちになる場合もある知的機能に問題がない場合でも、不注意の特性が強いと、集団での学習に集中できず、学力の低下に結びつくこともあります。この結果、不登校やひきこもりなどの二次障害が現れることもあります。■薬の服用を嫌がる自分の障害を受け止めることができず、薬の服用を避けたり量を勝手に変えて服用することがあります。思春期の不安定な気持ちに寄り添いながら、家族が上手にサポートしましょう。出典 : ■大人になるとADHDはどうなるの?子どもの頃にADHDと診断された人の中には、成長につれて症状が目立たなくなったり、軽くなる人もいます。自分の特性を理解し、苦手な場面にもどのように対処するかを学ぶことで、日常生活の困難を乗り越えているひともいると考えられます。ですが、ADHDのある大人は、子どもの頃より困難が多いと感じることも多いようです。・親や教師のフォローがなくなる・やることが多くなる・大人としての行動や責任を求められるなど、周囲の環境の変化が大きいことがその理由と考えられます。そのため、大人になると社会生活を送るのが難しくなった、と感じるADHDの人が多くいます。また、大人になってADHDと診断を受けたり、診断を受けていない人でも同じ症状で困っている人も多くおり、大人の発達障害のなかではADHDの割合がもっとも高いと言われています。■大人のADHDに現れる症状大人の場合、ADHDによる特徴にはどのようなものが多くみられるでしょうか。・計画を立てたり、順序立てて仕事や作業を行うことが苦手・細かいことにまで注意が及ばないので、仕事や家庭でもケアレスミスが多い・約束などを忘れたり、時間に遅れたり、締め切りなどに間に合わない・片づけが苦手で乱雑になってしまう・同時に多くの情報を取り入れるのが苦手なので、一度に多くの指示や長い説明をされると混乱する・手間がかかったり、時間がかかったりして、集中が必要なものは後回しにしがち・何かに「はまる」と、ほどほどで止めることができず、なかなか抜け出せない(読書やネットサービス、ゲームなど)・長時間座っていることが苦手で、手足がむずむずしてくるADHDの診断方法出典 : 以下は、アメリカ精神医学会のDSM-5(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)に載っている診断基準です。該当項目が多い場合には、専門機関に一度相談してみるとよいでしょう。(DSM-5や日本精神神経医学会では「注意欠陥」ではなく「注意欠如」の表記に変更されましたが、前者の方が一般的に使われるため、本記事では前者の言葉を使用しています。)DSM-5における注意欠如・多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の診断基準A.(1)および/または(2)によって特徴づけられる,不注意および/または多動性-衝動性の持続的な様式で,機能または発達の妨げとなっているもの:(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ケ月持続したことがあり,その程度は発達の水準に不相応で,社会的および学業的/職業的活動に直接,悪影響を及ぼすほどである:注:それらの症状は,単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。(a)学業,仕事,または他の活動中に,しばしば綿密に注意することができない,または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり,見逃してしまう,作業が不正確である)(b)課題または遊びの作業中に,しばしば注意を持続することが困難である(例:講義,会話,または長時間の読書に集中し続けることが難しい).(c)直接話しかけられたときに,しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ,心がどこか他所にあるように見える).(d)しばしば指示に従えず,学業,用事,職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる,また容易に脱線する).(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい,資料や持ち物を整理しておくことが難しい,作業が乱雑でまとまりがない,時間の管理が苦手,締め切りを守れない).(f)精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題,青年期後期および成人では報告書の作成,書類に漏れなく記入すること,長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいやいや行う.(g)課題や活動に必要なもの(例:学校教材,鉛筆,本,道具,財布,鍵,書類,眼鏡,携帯電話)をしばしばなくしてしまう.(h)しばしば外的な刺激(青年後記および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう.(i)しばしば日々の活動(例:用事を足すこと,お使いをすること,青年期後記および成人では,電話を折り返しかけること,お金の支払い,会合の約束を守ること)で忘れっぽい.(2)多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。注:それらの症状は、単なる反抗的態度、挑戦、敵意などの表われではなく、課題や指示を理解できないことでもない。成年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。(a)しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりする。またはいすの上でもじもじする。(b)席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる。(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)。(c)不適切な状況でしばしば走り回ったり高いところへ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)。(d)静かに遊んだり、余暇活動につくことがしばしばできない。(e)しばしば”じっとしていない”、またはまるで”エンジンで動かされているように”行動する(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる:他の人たちには、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。(f)しばしばしゃべりすぎる(g)しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人たちの言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことができない)。(h)しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)。(i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)B.不注意または多動性ー衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた。C.不注意または多動性ー衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場;友人や親戚といるとき;その他の活動中)において存在する。D.これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある。E.その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒または離脱)ではうまく説明されない。これらの結果から、不注意と衝動性が見られるタイプ、不注意が優位に見られるタイプ、多動性と衝動性が見られるタイプに分類され、さらに重症度が3段階に分かれて診断が下されます。この診断基準は、年齢によって障害の症状の現れ方が変わり、区分も流動的であるということを考慮したものだと考えられます。専門機関での診断は、上で述べたアメリカ精神医学会のDSM-5や世界保健機関(WHO)のICD-10による診断基準によって下されますので、正式に診断を受けたい場合には専門機関でも診断や検査を受けることをおすすめします。ADHDの疑いを感じたらどうすればいい?出典 : もしかしてADHDなのかな?と疑問を持ったら、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。子どもか大人かによって、行くべき機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センター【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所知能検査や発達検査は児童相談所などで無料で受けられる場合もありますし、障害について相談することも可能です。その他、発達障害者支援センターで障害についての相談ができます。自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談にものってくれることもあります。以下は小児神経学会が発表している、発達障害診療医師の名簿です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。まず身近な相談機関に行って、障害の疑いがあればそこから専門医を紹介してもらいましょう。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」ADHDの治療出典 : を根本的に治療することはできません。しかし、ADHDによる困難の乗り越え方を学ぶ教育・療育や、ADHDの症状を緩和する治療薬は存在します。また環境調整をしたり、周囲が普段からの対応法を考えることによって、本人が生きやすい環境を作ることも可能です。療育とは、社会的な自立をめざしてスキルを習得したり、環境を整えるアプローチのことです。この方法ではソーシャルスキルトレーニング、ペアレントトレーニング、環境調整などの手法が用いられ、本人の苦手な行動を調整し、のぞましい適応的な行動や得意な部分を磨いていくことができます。ADHDの治療には薬物療法が用いられることもあります。ADHDの治療薬には不注意・多動性・衝動性の症状を緩和する効果があります。しかし、この効果は服薬している間だけです。薬の効き方は個人によって違いがあり、また副作用の出方もまた同様です。そのため、医師と相談しながら使用する必要がありますADHDで使われる主な治療薬は主に2種類あり、ストラテラ(正式名アトモキセチン)や、コンサータ(正式名メチルフェニデート)などが用いられます■適切なサポートがない場合…ADHDと診断された子どもの経過は、以前は比較的楽観視されていました。しかし、ADHDの人が適切な治療やサポートを受けられない場合、ADHDの主症状とは異なる症状や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような合併症を、「二次障害」と言い、下記のような症状・状態が見られることがあります。・うつ病・行為障害・不安障害・反抗挑戦性障害・不登校やひきこもり・アルコールなどの依存症などまた、ADHDの本人を支える人たちへのサポートも重要となります。特にこどものADHDの場合は、親が周囲との対応に追われて疲弊してしまっていることもあるため、心理的なサポートが重要となります。参考:今村明先生に「ADHD」を訊く | 日本精神神経学会,JSPNまとめ昔からADHDの特性がある子どもは多くいましたが、ちょっと変わった子や問題児として扱われていることが多くありました。現在は、ADHD(注意欠陥多動性障害)という名称も広がり、脳の機能障害が原因の発達障害だと広く認識されています。ADHDの子どもの場合、突然道路に飛び出したり、保育所や幼稚園、学校から呼び出されたり、友達とトラブルをおこしてしまったりと。保護者としては、困ってしまうことも少なくないかもしれません。ですが心身の成長や、適切なサポートを受けることによって、すこしずつ改善してゆくこともできます。また、ADHDの症状でいちばん困っているのは「本人自身」ということと「わざとやっている訳ではない」ということを忘れないであげてください。他の発達障害との合併や二次障害に目を配りながら、慎重に見守りサポートしていきましょう。
2017年08月30日ナルコレプシーとは出典 : ナルコレプシーとは、日中、場所や状況にかかわらず強い眠気が発生する睡眠障害です。別名「居眠り病」といわれています。学業や職業にも影響がありますが、日常生活での転倒や交通事故などの危険性もあるため、早期の治療が望まれます。ナルコレプシーはそれほど珍しい病気ではありません。欧米では2000人に1人、日本では600人に1人程度がナルコレプシーと診断されており、男女間での差はあまり見られません。15歳前後に発症することが多く、40歳代以降での発症率は低いとされています。ナルコレプシーは思春期のころに発症した場合、重症化しやすく、肥満や性的早熟につながることも少なくありません。症状自体は年齢を重ねるにつれて明らかに軽くなるとされています。単なる眠気と区別しにくいことから、ナルコレプシーの発症時から診断されるまでには、平均的に15年と長期にわたる可能性があります。また、ナルコレプシーは精神障害を伴うこともあり、双極性障害、抑うつ障害、不安症や統合失調症などが認められる場合もあります。大川 匡子/著『睡眠障害の子どもたち』2015年,合同出版/刊日本ナルコレプシー協会ナルコレプシーの症状ナルコレプシーには、4つの代表的な症状があります。ナルコレプシーの人であれば誰にでも見られるのが、日中の強い眠気です。ナルコレプシーであるかどうかに関わらず、急に眠気に襲われるような経験をしたことがある人は多いと思います。しかし、ナルコレプシーの場合、前日に十分な睡眠をとっていたとしても眠気に襲われてしまう点で多くの人とは異なります。また、ナルコレプシーの人は、眠ることが許されない場面であっても、突然の眠気に逆らうことができません。人によっては、学校のテストや大事な会議で眠ってしまったり、車の運転中に眠気に襲われて事故を引き起こしてしまったりすることがあります。ただし、過去3ヶ月間にわたり少なくとも週に3日、この症状が起こっている場合のみナルコレプシーの可能性が疑われます。情動脱力発作とは、大笑いしたり興奮した時など、プラスの感情が強く働いたことがきっかけで、からだの筋肉の緊張が突然消失する発作のことです。ほほが緩む、ろれつが回らない、まぶたが下がるなど周囲の人に気づかれにくいものから、膝ががくんとする、身体が崩れ倒れるなど重いものまであります。このときは意識は保たれており、呼吸困難や失禁などになることはありません。カタプレキシーはナルコレプシー以外の睡眠障害では、ほとんど見られません。入眠時に通常の夢よりも現実的で、また、その幻覚の中で刺されたら痛みを感じる、といった体感幻覚を伴うこともあります。時に恐怖感も伴い、現実とリアルな夢との境目がわからなくなり、うなされることもあります。睡眠麻痺の際、意識はありますが手足を動かしたり声を出すことはできません。ナルコレプシーの原因出典 : ナルコレプシーの原因はいまだにはっきりとはわかっていません。しかし、主な要因としてオレキシン神経系をつくりだす神経細胞のはたらきが低下することが挙げられています。オレキシンとは、欲求達成時の快感を与えたり、睡眠や覚醒を制御するものです。ナルコレプシーに特有なカタプレキシーが生じるときに、オレキシン神経系を作り出す細胞が働かなくなることが確認されています。最近の研究では、オレキシン神経系を作り出す細胞のはたらきの低下は、自己免疫疾患や遺伝が組み合わさって生じていると考えられています。◇自己免疫疾患ヒトの体にとって敵のみを攻撃するはずの自己免疫システムに障害があり、オレキシン神経系を作り出す細胞を誤って攻撃してしまうことがあります。◇遺伝ナルコレプシーを患っている人が家族にいる人は、平均的な人よりも10倍程度ナルコレプシーにかかりやすいという研究データがあります。白血球の血液型であるHLA(ヒト白血球抗原)による遺伝的な要因が関与しているという考えもあります。しかしナルコレプシーとの関連づけには至ってなく、今もなお検討されています。日本ナルコレプシー協会ナルコレプシーと間違えやすいADHDの症状出典 : (注意欠陥・多動性障害)とは、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害です。ナルコレプシーとADHDは似ている症状がみられる場合があります。たとえば、ナルコレプシーの過眠が居眠りとして出現せず、不注意症状や多動症状などのADHDのような症状として出現することも多いです。ナルコレプシーの20%ほどにADHDのような症状があるとされています。ADHDとナルコレプシーの症状の区別は難しく、治療方法も異なるため、専門機関での受診をおすすめします。児童精神科疾患に併存する睡眠障害の特徴|精神経誌ナルコレプシーのセルフチェック出典 : ナルコレプシーには、エプワース眠気尺度というセルフチェック方法があります。エプワース眠気尺度は、医療現場でも用いられている日中の眠気を評価するためのテストです。以下の状況になったことが実際になくても、その状況になればどうなるかを想像してお答えください。(1~8の各項目で、○は1つだけ)すべての項目にお答えしていただくことが大切です。うとうとする可能性はほとんどない:0うとうとする可能性は少しある:1うとうとする可能性は半々くらい:2うとうとする可能性が高い:3問1.すわって何かを読んでいるとき(新聞、雑誌、本、書類など)問2.すわってテレビを見ているとき問3.会議、映画館、劇場などで静かにすわっているとき問4.乗客として1時間続けて自動車に乗っているとき問5.午後になって横になって、休息をとっているとき問6.すわって人と話をしているとき問7.昼食をとった後(飲酒なし)、静かにすわっているとき問8.すわって手紙や書類を書いているとき(または、自分で車を運転中、交通渋滞などで2-3分停車しているとき)【ESSの使用目的に応じてどちらを使用しても可】項目での質問で合計点数が11点以上であれば、ナルコレプシーなどの睡眠障害が原因で強い眠気に襲われている可能性が疑われます。なにか気になることがあれば、お近くの医療機関に相談しましょう。エプワース眠気尺度テスト|総合南東北病院 広報誌こんにちわナルコレプシーの診断・治療はどこでできるの?出典 : ナルコレプシーは睡眠外来で診断を受けることができます。睡眠外来は、不眠症などの睡眠障害を改善するための治療を行っている睡眠治療の専門の医療機関です。いびきや寝相から不眠症や仮眠症まで、その人の睡眠障害の原因を特定し、それに合った治療法を見つけることができます。不安なことや心配なことがある場合は、下記のリンク先でお近くの医療機関を探してみましょう。全国の睡眠障害専門病院|日本ナルコレプシー協会ナルコレプシーの診断方法出典 : 日中の眠気がナルコレプシーによるものなのかどうかを診断するためには、問診や過去の病歴、検査結果が参考になります。ナルコレプシーに特有の症状であるカタプレキシーがあれば、「情動脱力発作を伴うナルコレプシー」と診断されます。カタプレキシーが見られない場合には「情動脱力発作を伴わないナルコレプシー」かどうかを確かめます。ナルコレプシーの検査方法には2種類あります。終夜睡眠ポリグラフィー検査(PSG)では、1泊2日で病院に入院し、脳波や眼球運動などを終夜にわたって連続で記録をします。これらの測定で、夜間の睡眠を検査します。これはナルコレプシー以外にも睡眠時無呼吸症候群の検査にも用いられる検査方法で、睡眠障害の検査手段の中では一番メジャーなものです。健康保険が適用されている検査方法です。反復睡眠潜時検査(MSLT)は、日中の眠気を客観的に調べる検査です。前日に十分な睡眠(6時間以上)を取った後、入眠にかかるまでの時間、レム睡眠までの時間、入眠できた際に15分以内にレム睡眠が出現するかを観察します。現在、ナルコレプシーと特発性過眠症の検査だと保険が適用されるようになっています。ナルコレプシーの治療法出典 : ナルコレプシーの治療には、薬物治療と生活指導の2種類があります。ナルコレプシーは薬物治療をすることで、昼間の眠気を抑えたり、情動脱力発作を防ぐことができる場合があります。しかし、ナルコレプシーの治療薬の中には、副作用があるものも少なくありません。そのため服用の際には、必ず医師の指示に従うようにしましょう。ナルコレプシーは、日常生活を送るうえで工夫すれば、症状を軽くすることができます。・昼寝をする強烈な眠気を感じることが多い時間帯に、習慣的に短い昼寝をとるようにしましょう。・毎日の生活のリズムを同じにする平日・休日にかかわらず、就寝と起床の時間を同じにしましょう。・寝る直前は、カフェインとアルコールを控える就寝時間の数時間前からは、カフェインとアルコールは控えるようにしましょう。・たばこを吸わないようにするとりわけ夜は避けるようにしましょう。・毎日、適度な運動をする就寝時刻の4~5時間前に、少なくとも20分間の運動を毎日するようにしましょう。・寝る直前は食事をとらないようにする寝る直前の食事は、睡眠をとることを妨げます。・寝る前はリラックスする入浴するなどして、リラックスすることは、快適な睡眠をとるうえで役に立ちます。このように規則正しい生活をすることが、ナルコレプシーの症状を抑えることに役立ちます。【参考】Narcolepsy Fact Sheet|National Institute of Neurological Disorders and Stroke【参考】ナルコレプシーの診断・治療ガイドラインまとめ出典 : ナルコレプシーは「居眠り病」と別名があるように、居眠りとの区別が難しいです。そのため周囲の人や本人が昼間の眠気が睡眠障害から生じているものだと考えられないことがあります。授業中や会議中に、うたた寝をしてしまうと、だらしないと批判されたり、やる気がないとみなされてしまうことがあります。本人も、起きていようと思っているのに寝てしまうことから、「自分はだめな人間」だと自分を責めてしまうことも珍しくありません。しかし、ナルコレプシーをはじめとする睡眠障害による眠気は、気合いや根性だけで解決できるようなものではありません。適切な治療や規則正しい生活リズム、場合によっては短い昼寝をすることで改善されていきます。そのため、上記のセルフチェックで点数が高かったり、日々の生活の中で強烈な眠気に困らされていたりする場合には、気軽に専門医を訪ねて相談してみるといいかもしれません。
2017年08月28日こんにちは、1歳の息子の母親でもある金融ライターの齋藤惠です皆さんは自分の体に不調を感じたときどうしますか?まずは、ネットや医学書で症状を照らし合わせながら調べる人が多いのではないでしょうか?今回はぜひ今後の選択肢に加えてほしい、自治体による無料電話健康サービスのご紹介です!●独自の判断は危険! 情報は選択力と判断力を見極めて!現代はネットや書籍で手軽にたくさんの健康に関する情報が入手できます。それはとても便利ですが、全てを信じ鵜呑みにするのは危険をまねくことにもなります。中には根拠のない情報が混ざっていたり、人によっては逆効果または副作用を起こすような健康法も存在したりするからです。また病気やケガの場合、独自で判断してしまうと治りが遅くなったり、かえって悪化してしまったりというリスクも考えられます。情報が大量に手に入るようになった今こそ、私たちの情報選択力と判断力 が重要になっているのです。●迷ったら無料で専門家に聞くのが一番!では、数ある健康情報の中からどれを選べば正解なのでしょうか?一番のおすすめは直接病院や専門のクリニックへ行って、症状や悩みを相談することです。しかし、いつでも相談できるわけではありませんよね。そこで第2の手段としておすすめなのが、自治体で行っている無料電話を利用する ことなのです!各都道府県や市町村のHPをたどっていけば、多くの場合健康相談のフリーダイヤルがあります。相談できる内容は自治体によって微妙に違うようですが、おおよそ医療、メンタルヘルス、介護、栄養、育児など、多方面にわたって専門家が電話の向こうで話を聞いてくれます。無料で相談できるというのも、大事なポイントですよね!●無料電話健康サービスはどんどん活用すべし!実際に私も、育児の悩みを地域の保育士さんに相談できたことでずいぶん気持ちが救われました。そして今や自治体の医療フリーダイヤルを電話帳に記録して、子どもが熱を出したときなどにすぐに相談できる体制を整えているほどなんですよ!初回の電話は勇気がいるかも知れませんが、慣れてしまえば闇雲に自分で情報を集めるよりも、すぐに聞いてしまった方が気楽になります。しかも相手はその道のプロであり、これまで大勢の相談を受けてきたベテラン なのです。そんな専門家たちが常に電話の向こうで私たちを待っていてくれるのですから、必要なときには臆せず大いに頼るべきだと思います。●電話でどんなサービスが利用できるの?最後に、自治体が行っている無料電話健康サービスの一例をご紹介します。あなたがお住まいの地域でも、きっと似たようなサポートが受けられるはずです。探し出して、いつでも相談できるように記録しておきましょう!【座間市24時間健康電話相談】24時間体制で保健師、看護師、管理栄養士などの有資格者が対応。必要に応じて医師と相談も可能。【大阪府「すこやか教育相談24】大阪府教育センターが行っている「すこやか教育相談」の電話のうち、平日の相談時間外や土、日、祝日に対応。教育の悩みに関して、子どもだけではなく親や教師も相談できる。【伊豆市健康ほっとライン】24時間利用可能。旅先や伊豆市外での病気やケガによる市外・県外の医療機関情報にも対応可能。【参考リンク】・座間市24時間健康電話相談 | 座間市HP()・すこやか教育相談の案内 | 大阪府教育センター()・伊豆市健康ほっとライン(24時間無料・電話健康相談) | 伊豆暮らし()●ライター/齋藤惠(金融コンシェルジュ)●モデル/KUMI(陸人くん、花音ちゃん)
2017年08月17日レット症候群とは?出典 : レット症候群とは、いったん習得した発語や運動機能が次第に退行していく症状がある、遺伝子変異が原因の疾患です。具体的な症状には、意味のある手の動きの喪失、言葉によるコミュニケーションの喪失、歩行障害、手の常同行動(一見無目的にみえる同じ動きを繰り返す行動)などがあります。レット症候群は、一旦獲得した発達が退行していくという特徴を持った疾患であり、生まれた時には運動発達・身体的成長ともに問題が見られることはありません。症状はおおむね生後6ヶ月~1歳6ヶ月ぐらいに現れはじめます。またこの疾患は、女児にのみ発症する疾患です。レット症候群は1966年にオーストリアの小児精神科医Andress Rettにより発見されました。日本の厚生労働省の調査によると、全体の推定患者は約5,000人、20歳以下の患者の数は約1,020人であり、1万人のうち0.9人の割合の女児がレット症候群にかかると報告されています。残念ながらレット症候群には、治療法や詳しい発症理由は見つかっていません。現在研究が進められていますが、まだまだ病態の解明には至っていないのが現状です。その患者数の少なさや治療法が確立されていないことから、国によって難病に指定されています。国際疾病分類『ICD-10』とアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、レット症候群のとらえ方や名称が異なっています。WHOによる国際疾病分類『ICD-10』ではレット症候群は「広汎性発達障害」のカテゴリーとして分類されています。これは書籍の内容が採択されたのが1990年であり、原因が特定される前であるためです。しかしアメリカ精神医学会が2013年に発行した『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)にはレット症候群の記載はなく、精神障害とは一線を画するものだという見解であることが読み取れます。厳密には、第4版である『DSM-IV』にはレット症候群はレット障害の名称で広汎性発達障害の一つとして記載されていましたが、染色体の遺伝子の異常が疾病の原因でであることが発見されたことによって、『DSM-5』から除外されることとなりました。このように研究が進んでいくとともにレット症候群にまつわる情報は日々更新されています。この記事では、現在の時点でレット症候群の明らかとなっていることについてご紹介いたします。レット症候群の診断と予防・治療法確立のための臨床および生物科学の集学的研究|厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)総括研究報告書レット症候群の症状出典 : レット症候群は、特徴的な症状のパターンが見られる疾患です。以下では具体的な症状についていくつかご紹介します。「発達の退行」「特徴的な手の動き」「歩行の障害」という主に3つの症状があります。レット症候群のある子どもは生まれたときにはその身体的な成長や運動・発語の発達に滞りは見られません。6ヶ月を過ぎたころから筋緊張低下、自閉傾向など初期症状が見られるようになります。徐々に運動・発語面でも、できていたことができなくなってくる「退行」という現象が起こってきます。6ヶ月以前から発達に明らかな遅れのある場合には、レット症候群ではなく、その他の疾患や障害となる可能性が高いといえるでしょう。ものをつかんだり、手を伸ばすなどの目的をもった手の動きが少なくなり、消失します。その後、手を口にもっていったり、揉んだり、こすったりするしぐさが出てきます。これは「常同行動」と呼ばれる行動であり、自閉症の子どもにも同じような行動として手をひらひらさせたりくるくるまわったりというような行動が見られることがあります。症状の軽い場合には、歩いたり小走りできますが、重篤な場合は運動機能の低下により、歩行障害、歩行失行が見られます。歩行できるようになる以前から、運動発達の遅れがみられることが多く、早い場合には寝返り、四つ這いの獲得が遅れます。また「筋緊張」という身体の筋肉を支える部分の問題も絡んでくるため、場合によっては歩行異常のほかにも、身体が硬くなったり、座位が保てなくなったりすることもあります。歩くことが困難となるため、疾患が進行してくると移動の際に車いすを使用したり、座るときには補装具を必要とすることになります。「あうあう」などの喃語(なんご)、あるいは意味のある言葉を習得したあとに、言語機能が部分的、あるいは完全に消失します。発語ができなくることによって外界とのコミュニケーションが難しくなります。これは構音機能の低下が原因のひとつには考えられるものの、さらに詳しい原因についてはまだわかっていません。これらの主な3つの症状のほかには、呼吸異常や歯ぎしり、睡眠障害、身長・体重が伸びない成長障害、手足が小さく冷たい、不適切な場面で笑ったり叫んだりする、痛覚が鈍い、一点を比較的長く見つめている、などの症状が見られることがあります。レット症候群の症状の経過は?出典 : レット症候群は、発達が退行したあとに、症状が一旦安定し、その後再び進行するという決まった流れがあります。レット症候群は、時期によって症状がさまざまであるために、以下の4つのステージに分けて理解するのがよいでしょう。症状が発症してくるのはおおむね生後6ヶ月~1年6ヶ月ごろです。この時期には主に、運動・言語発達の遅れと自閉的な症状が特徴として見られます。それまで順調だった運動発達や発語などに遅れが生じます。そして、一度は喃語や四つ這い、歩行などを行っていた場合にもそれ以上の発達が見られにくくなります。また、日中の睡眠時間が以前よりも長くなり、外部の刺激に対する反応が少なくなり、急に手のかからなくなることがあります。他には、おもちゃへの興味がなくなったり、視線が合いにくいなどの様子が見られたりするなどの特徴が出てくる場合には注意が必要です。だいたい1~4歳ごろの間で、数ヶ月続きます。この時期の特徴は運動・言語発達の急激な退行と、本人の意思とは関わりない手の常同行動です。運動機能、言語発達に急な退行が見られ、おもちゃやスプーンを持つことができなくなり、おしゃぶりをするなどの目的のある動きをとれなくなることもあります。また、起きている間のみ、両手を揉んだり、ぎゅっと絞るようにしたり、口に持っていったり、片手で胸を叩く、などの常同行動が出ます。乳児期にこのステージとなった場合には、筋緊張の低下が起こるために、寝返りから遅れることが多く、特に四つ這いの移動はできない、または遅れることが多いです。歩行ができていた場合には、この時期に歩行が不安定となり、体を横へ揺らすような歩き方となります。また周囲とのコミュニケーションをとることが難しくなり、睡眠障害や呼吸障害やけいれんが起こることもあります。退行ののち、発達面での症状が安定したように見える時期があります。イライラやかんしゃくなどは少なくなり、視線もよく合うようになります。一方この時期には、身体的問題がより顕著に見られるようになります。例えば、手の常同運動や呼吸障害、歯ぎしりなどです。また患者の約40~80%に、てんかんが発生します。筋緊張の症状が進んでくるので背骨の側弯への対応が必要となってくる時期です。レット症候群(指定難病156)|難病情報センターこの4つ目のステージにはだいたい発症から10年以上たって入ります。運動機能がさらに低下します。手や足を動かすことができないために、身体が細くなってきます。場合によっては、歩行が難しくなるために車いすが必要となることもあります。筋緊張の状態が進んで背骨がゆがむ脊柱側弯が進行し姿勢を保つことが難しくなります。また「ジストニア運動」という筋肉の異常によって無意識に体が動いてしまう症状も生じることがあります。食事の際に飲み込むのに時間がかかったり、胃や食道の逆流症が発生してきたりするために、外科的な治療が必要となることもあります。レット症候群の原因出典 : 発達の退行が見られるレット症候群は、遺伝子性の疾患であることが近年わかってきました。私たちの身体の2本の性染色体のうち、X染色体の中に存在する「MECP2」という遺伝子があります。この遺伝子が何らかの要因で病的な変異を起こすことによってレット症候群が起こります。しかし遺伝子に変異が起こったからといって必ずしもレット症候群を発症するわけではなく、「MECP2」という遺伝子に病的な変異が起こっている人のうち、レット症候群と診断がつくのはそのうち90%ほどです。また近年の研究では、病因としてCDKL5やFOXG1という遺伝子も新たに発見されています。レット症候群は、家系や両親からの遺伝では起こるのではなく、何らかの原因による遺伝子の突然変異であると考えられています。家庭内で親から子どもへ遺伝することはほぼないということが調査によって明らかになっています。レット症候群の遺伝子異常について|認定NPO法人 レット症候群支援機構レット症候群の合併症出典 : レット症候群の合併症として最も気を付けたいのがてんかんです。てんかんは、レット症候群のある子どもの70~80%と高い確率で起こります。そのうちの約30パーセントは、けいれんの薬が効きにくい難治てんかんだと報告されています。てんかん発作は、歩行ができない重度の子どもに多いとされています。重症の場合には、日常から合併症の注意が必要です。合併症として挙げられているのは、感染症、誤涎(ごえん)性肺炎、胆石、吐気症などです。食べ物の摂取がうまくできないために、栄養摂取のために胃瘻(いろう)という「お腹に口をつくる」手術が必要となることもあります。骨の発達にも滞りが出るので、ちょっとした衝撃でも骨が折れてしまうこともあります。レット症候群が進行していると、本人は言葉を発したり、思うとおりに身体を動かしたりできないので、周囲にいる人の理解と支援が大切です。レット症候群|難病情報センターレット症候群の診断基準出典 : 年から2002年にかけて、レット症候群についていくつかの診断基準が発表されてきました。この章では、現在日本の病院で実際に使用されている診断基準をご紹介します。『ICD-10』は、世界保健機関(WHO)の定める国際疾患分類です。ただし、1990年の改訂を最後に情報がまだ更新されていないために、それ以後の研究結果により明らかになったことが反映されていない古いバージョンだと捉えておくとよいでしょう。現在、多くの医師が採択しているのはこちらの診断基準となります。特に、「小児慢性特定疾病指定医」の登録を行っている医師は必ずこの診断基準を使用しているようです。A.胎生期・周産期は明らかに正常、および生後5カ月までの精神運動発達も明らかに正常、および生下時の頭囲も正常であった。B.生後5カ月から4歳までの間に頭囲の成長は減速し、また5~30カ月の間に目的をもった手先の運動をいったんは獲得していたのに喪失すると同時に、コミュニケーション不全、社会的相互関係の障害を伴い、また体幹の協調運動障害/不安定さがあらわれる。C.表出性および受容性言語の重度の障害があり、重度の精神運動遅滞を伴うこと。D.目的をもった手先の運動の喪失時またはそれ以降に現れる、正中線上での常同的な手の運動(てもみや手洗いのようなもの)がある。中根允文ほか/訳『ICD-10 精神および行動の障害ーDCR研究用診断基準新訂版ー』1994年/医学書院/刊人のレット症候群患者の診察・遺伝子解析などの研究によって作成されたのがこの診断基準で、レット症候群の本質的な症状が明瞭・簡潔に載っています。現在、この改訂版の診断基準を医師に広めようという動きや活動もあり、これからより本質的な診断に期待ができそうです。①診断基準(表1)に最新の診断基準を示す。表1.レット症候群診断基準最新版(2010年版)現在まで、世界で統一した診断基準は確立されていない。近年、Nuel JF,等は819例の検討で、下記の基準を提唱しています。A-1. 退行のエピソードがあること(但し、その後、回復期や安定期が存在する)A-2. すべての主要診断基準と、すべての除外診断基準を満たすこと注)最後に述べる11の支持的診断基準は必須ではないが、典型例レットでは認めることが多い。主要診断基準・合目的的な手の機能の喪失:意味のある手の運動機能を習得した後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること・言語コミュニケーションの喪失:言語(有意語、喃語)などを習得後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること・歩行異常:歩行障害、歩行失行・手の常同運動:手を捻じる・絞る・手を叩く・鳴らす、口に入れる、手を洗ったり、こすったりするような自発運動典型的レット症候群診断のための除外基準明らかな原因のある脳障害(周産期・周生期・後天的な脳障害、代謝性疾患、重症感染症などによる脳損傷)生後6か月までに出現した精神運動発達の明らかな異常A.典型的レット症候群の診断要件は上のすべてを満たすこと。そして退行のエピソードがあること。(但し、その後、回復期や安定期が存在する)B.非典型的レット症候群の診断要件退行のエピソードがあること(但し、その後、回復期や安定期が存在する)4つの主要診断基準のうち2つ以上を満たすことB-3. 11の支持的診断基準のうち5つ以上を満たすこと典型的レット症候群診断のための支持的(補助的)診断基準1.覚醒時の呼吸異常、2.覚醒時の歯ぎしり、3.睡眠リズム障害、4.筋緊張異常、5.末梢血管運動反射異常、6.側弯・前弯、7.成長障害、8.小さく冷たい手足、9.不適切な笑い・叫び、10.痛覚への反応の鈍麻、11.目によるコミュニケーション、じっと見つめるしぐさ※アメリカ精神医学会『DSM-5』(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)での除外についてアメリカ精神医学会の出版する『精神疾患の診断・統計マニュアル』の第4版においてはレット症候群はレット障害の名前で「広汎性発達障害」のカテゴリとしてその診断基準が記載されていました。しかし、その後レット症候群はX染色体の遺伝子の問題であるという事実が判明し、2013年の第5版改訂の際に広汎性発達障害のカテゴリーからレット症候群の名前は除外されました。子どもがレット症候群かも、と不安を感じたら出典 : ◇乳幼児健康診査乳幼児健康診査は乳児健診とも呼ばれ、母子保健法の定めにより各自治体が実施するものです。各市区町村の保健センターなどで行い、赤ちゃんが順調に発達しているかどうかを確認し、病気の予防や早期発見をするための検査です。3ヶ月、6ヶ月、1歳半といった乳幼児の発達の節目に受けることができます。レット症候群の場合には、初期症状が生後6ヶ月~1歳半ごろから出始めるので、3、6ヶ月の時点ではもちろん、1歳半健診の際にも、見過ごされてしまうことがありますので注意が必要です。乳幼児健診では普段の子育てで疑問に思っていることや、なかなか話す機会がない不安などを専門家に相談できる場でもあります。乳児健診は同じ月齢の赤ちゃんを育てるほかの保護者も来ており、育児の工夫や悩みを共有したり情報交換したりできる場としても利用できます。検査を受けるには、出生届を出した自治体から送られてくる受診票の案内に従います。指定された日時に集団で受けるケースがほとんですが、事情があれば日付の変更や受診場所の変更をしてもらえることもあります。また、以下のサイトでは、全国の発達相談にのってくれる施設を検索することができますので参考にするとよいでしょう。発達相談に関する検索サイト|国立障害者リハビリセンター◇地域子育て支援センター行政や自治体が主体となって運営している施設です。子育ての不安・悩みに対し専門的なアドバイスをしてくれる保健師が在籍または巡回しています。日時によっては乳幼児の発達相談を無料で行っています。地域の母子向けに子育てサロンを開催や発達に合わせたセミナーを主催していることもあり、気軽に利用できます。◇児童相談所児童相談所では、育児の相談、健康の相談、発達の相談など、0~17歳の児童を対象としたさまざまな相談を受け付けています。必要に応じて発達検査を行う場合もあり、無料で医師や保健師、理学療法士などからの支援やアドバイスをもらうことができます。基本的に予約制なので、あらかじめお住まいの市区町村のHPなどを見て、スケジュールを確認するようにしましょう。全国児童発達相談所一覧|厚生労働省上記で紹介したレット症候群の症状が明らかである時には、すみやかに医療機関で診察を受けることをおすすめします。医療機関の受診を考える場合には、まずはお近くの小児科で相談してみてもよいでしょう。レット症候群は、認知度の低い疾病であり、一般の病院を受診しても残念ながら確定診断に至らない場合があります。ですので、受診の際にはお近くの「指定難病特定医師」を訪ねることをおすすめします。以下のサイトから指定難病特定医師のいる病院を検索できます。参考にしてみてください。都道府県別指定医師一覧|難病情報センター「小児神経医のいる施設|一般社団法人日本小児神経学会」レット症候群の治療法出典 : レット症候群は、残念ながら根本的な治療が確立されていません。ですので、レット症候群のある患者さんに対しては、それぞれの症状をケアする対症療法により症状の緩和を目指します。例えば、運動機能の低下に対しては理学療法が行われ、発話に関しては言語療法が行われます。また症状として多く見られるけいれんには、抗けいれん薬の調整などです。ほかに、背骨がゆがんでくる側弯に対してはコルセットを使用して姿勢の維持を行うなど、一つひとつの症状に対してアプローチを行っていきます。レット症候群のあるお子さんの保護者の方へ出典 : レット症候群のある子どものケアや子育てで気を付けたいことをご紹介します。レット症候群のある子どもは、うまく身体を動かすことはできませんが、耳で捉えた音はしっかりと聞こえていますし、においや触られた感覚はあります。しかしレット症候群のある子どもは、自らの意思により体を動かすことが難しいので、自分の意思を伝える方法が限られてきます。ここで重要になるのが、視線を動かすことです。疾病の度合いが重度の場合には、外界からの刺激に対して反応をできるのは視線を動かすこの方法のみとなります。声をかけてあげるときには、目を見ながらやりとりを行うのがよいでしょう。近年では視線入力装置などの代替コミュニケーションの手段も開発されています。安価で視線入力装置の貸し出しを行うプロジェクトが行われています。詳しく知りたい方は以下のサイトをご覧ください。視線入力装置|NPO法人 レット症候群支援機構レット症候群のある子どもは嚥下が困難なために、食事にかかる時間が長く必要です。食事の際には、誤嚥(ごえん)を防ぐためにトロミをつけて、便秘を抑えるためにも、食物繊維の多い食事が推奨されます。身体の中に管を入れて栄養をとっている場合には亜鉛、必須アミノ酸、カルニチンなどの不足にならないように注意が必要です。また骨密度の低下により骨折することが多いので、定期的に骨密度などを測定し、活性型ビタミンDやカルシウム摂取などを心がけたいものです。症状が進行してくると、筋緊張の異常や側弯によって歩行が困難となります。お子さんのレット症候群に気が付いた場合には、歩行機能を失わないうちに、整形外科に相談してコルセットや補装具を作成する相談をすることが望ましいです。レット症候群に対する医療費の補助制度出典 : レット症候群は、原因がわからず、治療法も確立されていないという点から難病に指定されています。国は充実した難病対策を行うため、医療費の助成制度を準備しています。ここではレット症候群の患者が受けることができる3つの医療費の補助制度をご紹介します。医療費助成の対象になると、自己負担割合が下がり、自己負担上限月額があるので、それを超える負担はなくなります。高額な治療を長期にわたって行う必要があれば、負担はさらに軽くなります。難病法では、患者の医療費の負担金は2割が上限です。例えば、難病に関する医療費が10万円だった場合、窓口で払うのは2割の2万円です。難病法では、「重症度」をポイントにしており、一定の症状がある人が助成の対象となります。指定難病の患者であっても、症状が軽いと助成は受けられません。しかし、症状が軽くても、高額な医療費がかかる治療が継続して必要な人は「軽症者の特例」として助成が受けられますので、都道府県の担当窓口(保健所など)に問い合わせてみましょう。1.臨床調査個人票(診断表)の書類をもって、難病指定医を受診する2.受診後、難病指定医に書類に記入をしてもらう3.必要な書類とともに都道府県に提出する4.受給の認定がおりる5.医療受給者証が交付され、自宅に届く医療費受給がおりることが確定しても、自宅に医療受給者証が届くまでに時間がかかります。受給者証が手元に届くまでにかかった医療費は、支給申請を行えば自己負担額上限を超えた額があとから戻ってきます。指定医療機関の療養証明書や指定医療機関の領収証などはとっておくようにしましょう。指定難病の医療費助成|難病情報センターレット症候群は小児慢性特定疾病に指定されており、医療費の自己負担分の一部の助成を受けることができます。この制度は児童福祉法に基づいており、児童の健全育成のために患者家族の医療費の負担軽減を図る目的があります。医療費の助成を受けることができるのは、18歳以下の患者です。また、以下の4つ全てを満たす程度の疾病であることが条件となります。・慢性に経過する疾病であること・生命を長期に脅かす疾病であること・症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること・長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること医療費助成を受ける場合には、行政機関への申請が必要となります。申請は以下の流れとなります。1.指定医療機関(※)を受診し、医師から小児慢性特定疾病の意見書を書いてもらう。2.お住まいの都道府県、指定都市の窓口へ意見書と申請書を提出する。3.小児慢性特定審査会にて審査が行われる。4.医療助成の対象の通知が自宅に届く。※指定医療機関は、都道府県・指定都市の定める特定の医療機関であり、自治体ごとに定められています。お近くの指定医療機関を折理になりたい場合はお住まいの自治体のHPをご覧ください。小児慢性特定疾病の医療費助成について|小児慢性特定疾病情報センター◇高額療養費補助制度この制度は入院など、高額の医療費を支払った時に払い戻しを受けることができる健康保険制度です。月の支払いのうち、負担の上限金額を超えた支払いをした場合には、その超過分が支給されます。高額療養費の支給は、診療の月から3ヶ月以上の時間がかかります。その間の家計の負担が考えられますので、以下の2つの制度を利用することで入院の間の負担を減らすことが可能です。70歳未満の方で、入院費が高額となることが事前にわかっている場合には、限度額適用認定証を病院に提示することで、負担額に限度を設けることができます。所得により異なりますが、支払額の上限の目安は平均44,000~140,100円/月です。この場合には高額療育費を申請する必要がなくなります。健康保険 限度額適用認定|全国健康保険協会◇高額医療費貸付制度家計の負担を軽減させるために、一時的に治療費を借りることもできます。この制度では、高額療育費で支給される見込みの約8割の料金を無利子で貸し付けを行っています。すべての申請は郵送で行うことができます。申請者の方が窓口に足を運ぶ必要がなく簡単に申請することができますので、ぜひご活用ください。詳しく知りたい方は以下の全国保険協会のHPをご覧ください。高額医療費貸付制度|全国健康保険協会まとめ出典 : レット症候群は現在、病態や根本治療を解明するための研究が日々行われています。レット症候群の症状に対して、根本的な治療を行う方法はなく、それぞれの症状に対してひとつずつケアを行っていくのがレット症候群の患者に対する現状です。このように、合併症を含むさまざまな症状に対してひとつひとつケアを行っていくことが地道ととらえられるかもしれません。しかしレット症候群には「CareToday,CureTomorrow」というスローガンがあります。これは国際レット症候群協会の会長のKathy Hunterさんの言葉です。現在はできる限りのベストの治療を行って、来たる根本的な治療方法の開発の日々を待とうという前向きな意味がこめられています。レット症候群の原因遺伝子が発見されてから10年の月日がたち、基礎研究は着実に進んでいます。基礎研究の進歩によって、レット症候群に対する治療法が確立される日も来るかもしれません。参考:レット症候群の新しい治療戦略の可能性|NPO法人 オール・アバウト・サイエンス・ジャパン
2017年07月22日ゲルストマン症候群とは出典 : ゲルストマン症候群とは、失書・失算・左右識別障害・手指失認などの症状が出る脳機能障害です。4つの症状すべてが出る人は少なく、大体の人は部分的な発症となります。ゲルストマン症候群は、脳の頭頂葉などの領域の損傷が原因とされており、脳卒中や交通事故で脳が傷ついた後に発症することが多い障害です。大人に発症することが多く、原因や症状が似ているため、アルツハイマー症候群との区別がつきにくいと言われています。子どもに発症する場合は発達性ゲルストマン症候群と呼ばれますが、その原因はよくわかっていません。文字の読み書きや計算ができず、学校生活についていけなくなった際に見つかることが多いです。症状が似ているため発達障害(特に学習障害)との見分けがつきにくく、対処法を決める際には医療機関での詳しい検査が必要となります。身体的な健康問題にかかわる病気ではありませんが、日常生活の基本的な動作に大きな不便が起きる場合もあります。それでも医療機関や家族の協力を得れば、生活の質を上げることができます。ゲルストマン症候群の症状出典 : ゲルストマン症候群の4つの症状について、より詳しく説明していきます。ゲルストマン症候群は、その他の脳機能の不調が併発する可能性があり、ここで出てくる症状以外の異変が見られる場合もあります。・失書失書とは、文字を書くこと・文章を組み立てることに障害があることを言います。例えば漢字が思い出せない、文字を書くことができない、それぞれの言葉にイメージを結び付けられず文の意味を理解できないといった症状があります。生活上では、相手の話をよく理解できない、思っていることを文字に起こせないなどの困りごとが生じます。・失算失算とは、基礎的な計算能力が低下することです。数の大小関係や「1、10、100...の順に大きい数を表す」という順序性の把握が苦手になります。数字の概念の理解が難しくなることで、日常的に数の計算が難しくなる以外にも、時計が読めなくなるという困りごとも生じます。・左右識別障害左右識別障害(左右誤認、左右失認とも言う)とは、自分や他人の体の左右の違いを認知できず、空間的な位置関係の把握が難しくなることを言います。集団行動の際に指示を理解することが難しかったり、ネクタイをしめたり絵を書いたりすることが苦手になるといった困りごとが生じます。・手指失認手指失認とは、手指に関する言語・視覚・触覚の刺激が働かなくなることです。例えば、目を閉じた状態で誰かに指を触られ「これは何指?」と聞かれても認知できなかったり、「親指を出してください」と言われても理解できなかったりすることがあります。指を上手に操作できないため、爪切りや料理をするなどの動作が難しくなります。ゲルストマン症候群かな?と思ったら...出典 : 気になる症状がある場合は、医療機関に相談してみましょう。ゲルストマン症候群については、大人は脳外科や脳神経外科、子どもは小児感覚器科などが担当になります。次のような検査を用いて診断をします。・脳の異変の調査脳に異変が生じていないか、脳を写し取って調べます。この場合に用いられる検査はCTスキャンやMRIがあり、担当する医師がそのときの状況に応じてどの方法を利用するか決定します。・手指認知テスト手指認知テストとは、手を触られ、どの指を触られているかを答える検査です。目を開けた状態や閉じた状態など、さまざまな状態のもと検査を行い、手指に関するどの感覚に異常があるのかを調べます。・左右認知テスト左右認知テストは、自分・他者の体に対して「右手を挙げてください」という単純命令と「右手で左耳を触ってください」という二重命令によって左右認知の程度を調べます。・読み書きテスト読み書きテストでは、「指示に従って書く」「音声を聞いて書きとる」「漢字単語の書きとり、仮名単語の書き取り」「五十音・数字を書きだす」「写字」「自分の考えを書きだす」などの方法で読み書き能力を測ります。・数の認知・操作・計算テスト数の認知・操作・計算テストでは、足し算・引き算などの基礎的な計算問題や、月・日・年・時刻などの数的情報を認識すること、数字を正しい順番で数えることなどを通して数字を扱う能力を測ります。これらの方法の以外にも、さまざまな検査があり、調べたい症状によっていくつかの検査を組み合わせて行います。ゲルストマン症候群の検査においては「この指標がどれくらいだと確定」といった明確な指標はありません。そのため、医療機関ごとにその評価基準が変わる可能性があるのが現状です。診断がつくかどうかよりも「どういった動作にどのような困りごとがあるのか」を確かめてリハビリに臨めるようにするとよいでしょう。ゲルストマン症候群とアルツハイマー、発達障害との違いは?出典 : ゲルストマン症候群が疑われる場合に、区別がつきにくい疾患があります。アルツハイマー型認知症と発達障害がそれにあたり、症状や病巣が似ているため医療機関で詳しく検査をする必要があります。症状が似ていても対処法はそれぞれ違うため、見分けた上で適切な処置を考えられるといいでしょう。アルツハイマーは脳に様々な問題が生じ、記憶力の低下や被害妄想などの症状が起こる病気です。・具体的な症状:判断力の低下、発話困難、記憶力の低下、「誰かが私の物を盗んだ!」というような被害妄想などがあります。・原因:脳のニューロンの機能低下、神経伝達物質の減少、ホルモンバランスの乱れなど、様々な要因があります。・対処法:アルツハイマーは明確な治療法が見つかっておらず、介護が必要となる場合があります。しかし、薬を飲むことで症状が軽減した例もあります。参考書籍:中根充文・山内俊雄/監修『ICD-10 精神科診断ガイドブック』(中山書店、2013)発達障害とは、先天的な脳機能の発達の凸凹と、その人が過ごす周りの環境とのミスマッチから、社会生活に困難が生じる障害です。ADHD、自閉症スペクトラム障害、学習障害(LD)といった種類があり、ゲルストマン症候群は、特に学習障害と見分けがつきにくいとされています。・具体的な症状:集中力の欠如、学習の困難、落ち着きがない、癇癪を起こす・原因:脳の発達の特性と言われていますが、詳しいことはわかっていません。・治療法:現在のところ根本的に治療する方法はありません。環境調整や周りの接し方、スキルトレーニングなどで困りごとが緩和される場合があります。または症状を緩和するための投薬が行われる場合があります。ゲルストマン症候群・アルツハイマー型認知症・発達障害の症状は似ている点があるため、見分けをつけることが難しいとされています。3つの疾患とも、脳の機能に異常が生じて起こる病気のため、判断が難しくなる場合があります。また、その症状も似ています。ゲルストマン症候群の4つの症状は、アルツハイマー型認知症での服を着ることが難しくなる「着衣失行」という症状や、発達障害での計算、文字を書くこと、手先を使う動きが苦手になる症状によく似ています。原因や症状が似ていたとしても、3章で挙げたような検査をしていくと違いを見つけることができます。問診や検査、脳のどの部分に異変が生じているのかなどを詳しく調べることで判別していきます。疑わしい症状が出たけれども、どの病気に当てはまるかわからない場合は、専門家に相談し検査を受けてみることをおすすめします。ゲルストマン症候群の治療法とリハビリ方法は?出典 : ゲルストマン症候群は治療法が見つかっていませんが、時が経つにつれて症状が和らいでいくと言われています。自然の回復を待つ以外にもリハビリによって日常で必要な動作ができるようにもなります。リハビリを希望する場合は、医療機関のリハビリテーション科に相談するとよいでしょう。ゲルストマン症候群のリハビリの一例を紹介します。作業療法では、検査で確認できた症状の中で、日常生活での困り度合いが大きいものを選び、具体的な行動目標を設定します。例えば、「箸を使ってご飯が食べられるようにする」「自分の名前を自分で書けるようにする」などです。目標を設定した後は、作業形式の練習を繰り返します。・文字を書くまず、ひらがなを書く練習から始めます。練習する文字を要素に分けます。そしてそれをなぞったり、模写をして慣れたら見本無しで書く練習をします。ひらがなが書けるようになったら、漢字も同じ過程に沿って練習します。・数字を理解する「1の次は2、3の次は4」「4から1つ減ったら3になる」などの数の変化をイメージしやすくなるための練習をします。例えば、積み木やおはじきを使って数の変化を視覚でとらえられるようにします。・その他の日常動作日常動作の練習をする際には、まず動作を単純化することから始めます。その後、簡単な動きから段階的に練習をしていきます。例えば、爪を切る練習では、安全な詰め切りの持ち方を覚えるために洗濯バサミをつかんで動かすことから始めたり、はさみで物を切る練習をする際にはまずはさみを平面に置いた状態で、穴に指を入れ、動かしてみることから始めます。日常動作の練習のときには、自助具(物を掴みやすくするグリップなど)を使う、いきなり空間操作ではなく、平面上で動かす練習をする、動きを単純化する、ということがポイントです。訓練による回復は、退院後も継続しないと効果が持続しないと言われています。なので、家族がサポートをしながら動作の練習を続けることをおすすめします。他には脳に高圧の酸素を注入する高圧酸素療法や、計算機を使うこと、ワープロを使って文章入力をする練習なども行います。計算機やワープロといったツールを使うことで、文章を組み立てることや、計算をすることの練習を負荷が少ない状態ですることができます。まとめ出典 : ゲルストマン症候群とは、脳の損傷や病変により、失語・失算・手指失認・左右認識障害などが現れます。命にかかわる病気ではなく、詳しい原因や治療法が発見されていませんが、症状の組み合わせによっては日常生活に大きな支障をきたします。少しでも生活上の不自由を解消するためには、作業療法や高圧酸素療法などを受けることがおすすめです。診断基準や療法が明確に統一されておらず、情報収集が難しいゲルストマン症候群ですが、専門家と相談しながら療法を続けていくことで困りごとの改善につながるでしょう。ゲルストマン症候群のような脳の分野の異変が原因となっている病気は、近くの脳分野が関係する病気を併発することも珍しくありません。そのため、専門家に症状や不自由を感じる点を相談しながら、自分に合った対処法を見つけられるとよいですね。
2017年07月14日学習障害(LD)とは?主な症状と3つの種類出典 : 学習障害とは、全般的な知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうちいずれかまたは複数のものの習得・使用に著しい困難を示す発達障害のことです。英語ではLearning Disabilityと呼ばれ、LDと略されることも多いです。文部科学省は、学習障害を以下のように定義しています。基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。学習障害は、基本的には知的発達に遅れが見られない発達障害であるため、知的障害とは全く別の障害となります。また、医学的な学習障害の診断基準と、文部科学省が定める学習障害の定義の間には、若干の違いがあります。ここでは、文部科学省の定義に近い、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)とアメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版テキスト改訂版)での3つの分類に従って、学習障害の特徴を解説します。なお、アメリカ精神医学会の新しい診断基準である『DSM-5』では、これら3つの分類はすべて限局性学習症/限局性学習障害という診断名に統合されています。こちらは後ほど詳しく説明します。学習障害の種類は主に■読字障害(ディスレクシア)・・・読みの困難■書字表出障害(ディスグラフィア)・・・書きの困難■算数障害(ディスカリキュリア)・・・算数、推論の困難の3つに分類されます。苦手分野以外の知的能力に問題が見られないことが多いため、学習障害は発達障害の中でも判断が難しい種類の障害でもあります。読み書きや計算能力は、ほとんどの子どもが就学前には学んでいません。そのため、本格的な学習に入るまで判断が難しく、障害に気づかないことも少なくありません。中にはその人の学習困難が発達障害によるものではなく単なる苦手分野だと判断され、大人になるまで気づかれないことも多くあります。学習障害の人は「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」という5つの能力の全てに必ず困難があるというわけではなく、一部の能力だけに困難がある場合が多いです。読む能力はあっても書くのが苦手、他の教科は問題ないのに数学だけは理解ができないなど、ある特定分野に偏りが見られます。また、同じ「読む」ことの障害でも、ひらがなは問題なくても漢字が苦手など、その状態はさまざまです。一方、読字と書字の障害など、複数が併せて現れる場合も多く見られます。種類別の学習障害の特徴出典 : 学習障害で大きく分類される「読字障害」「書字障害」「算数障害」の3つの学習障害の特徴を紹介していきます。それぞれの学習障害の人に見られる主な特徴を紹介しますが、学習障害の特徴は人それぞれであり、同じ障害に分類されていても、その中の全ての特徴があてはまるわけではありません。また、他の発達障害がある人は、その特徴が合わさって出ることもあります。Upload By 発達障害のキホン読む能力に困難がある読字障害は、学習障害と診断された人の中で一番多く見られる症状であり、別名でディスレクシア(dyslexia)と呼びます。欧米では約10~20%の人がこの症状があると言われています。ディスレクシアは、ギリシャ語で「読むのが困難」という意味です。読字障害があると、結果として文字を書くことにも困難を感じる場合が多いため、読み書き障害と呼ばれることもあります。読字障害の人の中には「見た文字を音にするのが苦手」という症状があります。その原因は、情報を伝達し処理する脳の機能がスムーズに働いていないことだと考えられています。文字の見え方にも特徴があり、文字がぼやける、黒いかたまりになっている、逆さまに見える、図形に見えるなど違った見え方になってしまい、認知の仕方が異なります。また音韻認識が弱く、ひらがなやカタカナのひとつずつは理解していても、漢字(単語)になると理解できなくなってしまうこともあります。漢字の音読みと訓読みの使い分けができなかったり、単語や文節の途中で区切った読み方をするなど、変わった読み方をしてしまいます。【読字障害の特徴】・形態の似た字である「わ」と「ね」、「シ」と「ツ」などを理解できない・小さい文字「っ」「ゃ」「ょ」を認識できない・文章を読んでいると、どこを読んでいるのかわからなくなる・飛ばし読み、適当読みをするなど文章をスムーズに読めず、読み方に特徴がある・音声にするなど耳から情報は理解しやすい場合が多いなど英語圏ではディスレクシアの発現率は10%から20%といわれているが、日本ではディスレクシア単独の調査がない。(障害保健福祉研究情報システム) By 発達障害のキホン「文字が書けない」「書いてある文字を写せない」などの書く能力に困難がある学習障害を書字障害・ディスグラフィア(dysgraphia)と呼びます。文字が読めるのにもかかわらず書けない場合も書字障害に分類されます。書字障害の人は、自分では文字を正確に書いているつもりなのに鏡文字になってしまうなど、文字を書くという動作が苦手です。原因としては、脳内で身体に指示を出し手を動かすという伝達機能がうまくいっていないからだという説が有力です。そのため、文字が書けなかったり、文字を書く速度が遅くなってしまうのです。【書字障害の特徴】・鏡文字や雰囲気で「勝手文字」を書く・誤字脱字や書き順の間違いが多い・黒板やプリントの字が書き写せない、時間がかかる・漢字が苦手で、覚えられない・文字の形や大きさがバラバラになったり、マス目からはみ出したりするなどUpload By 発達障害のキホン数字や数式の扱いや、考えて答えにたどり着く推論が苦手な学習障害を算数障害・ディスカリキュリア(dyscalculia)と呼びます。数字に関する能力にのみ障害がある人が多いため、算数の学習を始めてから発見される場合がほとんどです。「1」「2」「3」などの基本的な数字や、「x」「+」などの計算式で使う記号を認識することに困難をもっています。算数障害の人は数字そのものの概念、規則性、推論が必要な図形の領域を認識するのが難しいです。また、視覚認知の機能が弱く、数字を揃えて書く、バランスを考える、文字間の距離感を取るなどが苦手です。そのため、筆算を書く際に桁がずれることも多くなります。【算数障害の特徴】・簡単な数字、記号を理解しにくい・繰り上げ、繰り下げができない・数の大きい、小さいがよく分からない・文章問題が苦手、理解できない・図形やグラフが苦手、理解できないなど年齢別に見た学習障害の症状の現れ方出典 : 学習障害は、本格的な学習に入る小学生頃まで判断が難しい障害です。子どもの成長速度は人それぞれ。「なかなか歩かない」「全然しゃべらない」といった子どもの行動の一つ一つは気になりますが、ただ成長がゆっくりである可能性もあります。学習障害の人の中にはADHDや自閉症などの他の発達障害の合併症状を持っている人も多く、その場合は、乳幼児期に特徴があらわれる場合もありますが、合併が無い場合は、この時期にはっきりと判断をするのは難しいと言えます。ある程度知能が育ち、行動に特徴が現れやすい学習を始める小学生頃にならないと、学習障害とは判断しにくいのです。特に乳児期は学習障害の特徴は見分けにくいといえます。他の発達障害の特徴として、抱っこされるのを嫌がる、視線を合わせない、言葉を真似する行為が見られないなどの症状がみられるなど、他の発達障害の症状を目安にし、学習障害の確実な診断は学習を始める年齢以降にするしかありません。以下では年齢別に見られる学習障害の特徴を紹介します。幼児期の目安もあくまで他の発達障害を合併している場合です。出典 : 就学前なので学習障害の特徴はまだ現れにくいですが、この頃から子どもは言葉を話し始めたり、学習を始めます。少しずつ学習障害の子の多くが持つ特徴が見えてきます。【幼児の学習障害の特徴】・言葉、文字を覚えるのが遅い・折り紙が折れない、ボタンがとめられないなど手先が不器用・身体の使い方がぎこちないなど出典 : 小学生になると本格的に学習が始まります。勉強において特定の科目が苦手な場合や読み書きに困難がある場合、学習障害の可能性があります。同年代の子どもと比べて学習の習得が著しく遅い場合、学校の先生や専門機関で相談してみることをおすすめします。ここからは就学期に入るため、「読字障害」、「書字障害」、「算数障害」ごとに特徴を分けて書いていきます。【小学生の学習障害の特徴】・授業を真面目に聞いていても勉強が苦手、ついていけないなど■読字障害・ひらがな・漢字が読めない・たどり読み・推測読みになってしまう・行を飛ばして読んでしまう・文章を読むのを嫌がるなど■書字障害・うまく文字を書くことができない(線を抜かしたり、鏡文字を書いてしまう)・板書ができない、時間がかかる・行やマス目からのはみ出しが大きい・文字を書くのを嫌がるなど■算数障害・数が数えられない、とばして数えてしまう・時計が読めない、時間が分からない・計算ができない・筆算をするときに数字がずれて間違えてしまう・計算を嫌がるなど出典 : 中高生になるとはっきりと学習能力の偏りが見えてきます。何かの能力が極端に低い場合には、単なるなまけや得意・不得意だとは判断せず、学習障害である可能性も考えましょう。英語の学習が始まると、国語にはあまり不自由しなかった子どもも、英単語の読み書きなどに極端に困難さを感じる場合もあります。【中高生の学習障害の特徴】■読字障害・小学生で習うような漢字であっても読めない場合がある・英語の単語が読めないなど■書字障害・卒業作文などの長い文章がかけない・英単語が書けないなど■算数障害・計算はできるが、文章題が解けない・図形関連の問題が解けないなどこれらの特徴も、発達障害の合併症として現れることもあります。出典 : 最近では、大人になってから学習障害だと診断される人も少なくありません。もし大人になってから様々な学習困難に直面したら、学生時代や子どもの頃を振り返ってみて、学習障害と疑われる特徴があった場合には、一度、発達障害者支援センターなど、専門機関に相談しましょう。また、学習障害以外の発達障害との合併症を持っている可能性も考えられます。早めに診断を受けに行きましょう。【成人の学習障害の特徴】・上司の注意を聞いてもうまく理解できず同じ失敗をする・電話で聞きながらメモを取れない・話がうまくまとめられず企画案を作成できない・集団で指示されるのが苦手で会議で辛い思いをする・レポートが書けない・お釣りの計算や金銭管理ができないなど学習障害の特徴チェックUpload By 発達障害のキホン学習障害を早期発見することで子どものやる気の低下、自信喪失などの二次障害を避けることができます。参考までに「読字障害」「書字障害」「算数障害」ごとの特徴を以下に記載します。特徴が当てはまるかチェックをしてみてください。チェックする大切なポイントは「年齢に見合った動きができているか」です。年齢相応の習得の度合いと比較してチェックしましょう。また、これはあくまで学習障害の可能性があるかどうかという参考程度のチェックリストであることに注意してください。多く当てはまる場合は、診断を受けてみることをおすすめします。診断は子育て支援センターなどの専門機関の窓口に相談した上、専門医師によるものを受けてください。■読字障害□漢字の訓読みと音読みを使い分けるのを苦手とするように見受けられる。□単語の単位をつかむのを苦手とする。一文字ずつ読んでしまい、まとまりのない読み方をすることが多い。□文字や行を飛ばして読むことが多い。□特殊音節(拗音・長音・促音)であらわされる文字を発音できない。■書字障害□漢字を書く際に、鏡文字を書くことが多い。□文字を書く際に、余分に線や点を書いてしまうことが多い。□年相応の漢字を書くことができないことが多い。□間違った助詞を使ってしまうことが多い。□文字の大きさや形がバラバラ・マス目からはみ出る。■読字・書字障害の合併(読み書き障害)□上記の読字・書字障害のチェック項目に当てはまるものが多い□ひらがなの読み書きを苦手とする。例えば「ね」「れ」「わ」が一緒に見えてしまうように見受けられる。□カタカナの読み書きを苦手とする。例えば「ソ」「ン」、「シ」「ツ」が一緒に見えてしまうように見受けられる。□特殊音節(拗音・長音・促音)の読み書きを苦手とすることが多い。■算数障害□数を覚えるのに時間がかかることが多い。□数の大小の概念を理解できていないように見受けられる。□九九を習得している年齢なのにも関わらず、九九を覚えられていない。九九を暗記しても計算に応用できない。□繰り上がり繰り下がりの筆算ができないことが多い。学習障害の診断方法・基準出典 : 医療機関での診断は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)や、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)による診断基準に基づいて診断されます。医療機関では脳の異常はないか、知的な部分に障害がないか、困難な能力に偏りがないかを調べます。『DSM-5』の1つ古いバージョンである『DSM-IV-TR』では学習障害は「読字障害」「書字表出障害」「算数障害」の3つに分類され診断されていました。最新版である『DSM-5』では、すべて「限局性学習症・限局性学習障害」とひとくくりにされ診断されます。以下が『DSM-5』の診断基準です。A.学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6ヶ月間持続していることで明らかになる:(1)不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉を当てずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ)(2)読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)(3)綴字の困難さ(例:母音や子因を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)(4)書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)(5)数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数字的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)(6) 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)B.欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも、著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床消化で確認されている。17歳以上の人においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてよいかもしれない。C.学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない(例:時間制限のある試験、厳しい締め切り期間内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に思い学業的負荷)。D.学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または精神疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。これらの判断基準をもとに心理専門家など複数の専門家が慎重に判断してくれます。この診断が出た上で、以下の基準から「読字障害」「書字障害」「算数障害」のうち、どれが強いかが特定されます。315.00(F81.0) 読字の障害を伴う:読字の正確さ読字の速度または流暢性読解力315.2(F81.81) 書字表出の障害を伴う:綴字の困難さ文法と句読点の正確さ書字表出の明確さまたは構成力315.1(F81.2) 算数の障害を伴う:数の感覚数学的事実の記憶計算の正確さまたは流暢性数学的数理の正確さ診断の流れは、医療機関などによっても異なりますが、まずは問診で現在の症状や困りごと、赤ちゃんの時から今までの生育・養育歴、既往症や家族歴などを調べていきます。脳波検査、頭部のCT、MRIなどでてんかんや脳の器質的な病気といった異常がないかを検査します。そして知能検査や認知能力検査などの心理検査を行います。知能検査では「WISC-Ⅳ」が代表的です。「WISC-Ⅳ」では本人のもつIQ水準をチェックし、言語理解、知覚推理などを検査します。(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」という知的検査を受けることによって検査結果がでます。)認知能力検査では日常生活や学校で習得できた知識や情報を認知的に処理する能力を調べ、認知処理能力と習得度を比較できる「KABC-Ⅱ」などを行います。これら様々な情報を元に、総合的に学習障害であるかを判断するのです。また、こうした過程でADHDや高機能広汎性発達障害などが合併していないかも確認します。学習障害の疑いを感じたらどうすればいい?Upload By 発達障害のキホン学習障害は専門家でさえも判断するのが難しい障害です。そのため、チェック項目で当てはまる症状が多いからと言って個人で決めつけず、まずは専門家に相談をしてみましょう。就学児であれば担任の先生に相談してみても構いません。学校へ相談すると学校での生活の様子などを配慮し、それらを考慮した専門家を紹介してくれます。また、障害だとわかりにくいため、周りから理解も得られず、本人がつらい思いをしていることも多いと言えます。できるだけ早期に、小さい頃から学習障害に対する教育方法や療育などの対処法を始めると、その後の発育に大きな違いがみられます。はじめの一歩を踏み出すのには勇気がいるかと思いますが、一歩を踏み出すことによって色々な悩みが軽減されます。学習障害ではないと診断された場合でも、困難を乗り越えるための様々なアドバイスをしてもらえることが多いので、一度相談してみることをおすすめします。診断を受ける前に、まずは専門期間で相談を出典 : 発達障害なのかな、と疑問を持った場合、いきなり専門の医療機関に行くのは難しいので、まずは身近な専門機関の相談窓口で相談するようにしましょう。発達障害の疑いがある場合には専門医を紹介してくれます。子どもか大人かによって、行くべき専門機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など知能検査や発達検査は児童相談所などで無料で受けられる場合もありますし、障害について相談することも可能です。その他、発達障害者支援センターで障害についての相談ができます。自宅の近くに相談機関が場合には、電話での相談にものってくれることもあります。以下は小児神経学会が発表している、発達障害診療医師の名簿です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」まとめ出典 : 学習障害は軽度、重度によって発見時期が異なります。さらに、軽度な場合は本人や周りが気づかずに成長する場合も少なくはありません。知能には問題がなく、学習面である「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」といったある特定の能力の困難を「苦手な分野」と判断されてしまうため、発見しづらい障害なのです。また、学習障害の症状は人それぞれです。学習障害のある人の中でも文章を構成するのが得意な人もいれば、算数が得意な人もいます。学習障害の早期発見は子どもの健やかな未来を創り上げます。そのためにもお子さんのサインを見逃さず、成長過程を優しく見守っていきましょう。
2017年07月08日適応障害とは出典 : 適応障害とは、その名の通りストレスに適応できないためにさまざまな心身症状が表れ、日常生活をうまく送れなくなってしまう疾患です。ある特定の状況や出来事が、その人にとってストレスとなり、耐えがたく感じられることで、気持ちや行動にいつもとは違う症状が現れます。ストレスの感じ方やそのとらえ方は人それぞれです。大きなストレスを感じていても、気持ちの問題だなどと我慢し、知らず知らずのうちに適応障害になっている人も少なくありません。さらに、ストレスを我慢したり、耐え続けたりすると重症化し、うつ病や不安障害などの深刻な疾患を発症してしまうことがあります。気持ちや体に不調が出てきたら、我慢や無理をせず、早めに病院に行くことが大切です。適応障害は、他の精神疾患の基準を満たしていないこと、すでに存在する精神疾患の単なる悪化でもないことが分かって初めて診断されます。例えば、うつ病などの気分障害や不安障害などの診断基準を満たす場合はこちらの診断が優先され、適応障害とは診断されません。つまり、気分障害や不安障害ほど重い症状ではないけれど、健康な状態とは言えない場合、適応障害となるのです。なお、この記事ではアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に準拠して、適応障害を説明していきます。適応障害の症状って?出典 : 適応障害に見られる症状として、大きく分けて、精神症状・身体症状・年齢や社会的役割に不相応な行動の3つがあります。■精神症状精神症状には主に、憂うつ感や気分の落ち込みなどの抑うつ症状と不安症状があります。例えば、次のような症状が現れます。・強い憂うつ感、涙もろさ、落ち込み、絶望感を感じ、思考力・集中力・判断力が低下する・感情がコントロールできない時があり、泣き叫ぶことがある・出来事や環境に対して神経質になり、漠然とした不安感を感じたり、心配になったりするなど■身体症状適応障害による身体症状には、以下のようなものがあります。・肩こり・頭痛・疲労感・不眠・激しい動悸、発汗・めまいなど■年齢や社会的役割に不相応な行動適応障害の人の中には、社会的に禁止されていることや、良しとされていないことをしてしまう人もいます。例えば、以下のような行為です。・万引き・行き過ぎた暴飲暴食・危険運転・友達や家族への暴力・無断欠席・公共施設への落書きなどこのような、年齢や社会的役割にふさわしくない行動がみられます。また、子どもが適応障害になった場合、指しゃぶりや赤ちゃん言葉といった「赤ちゃん返り」が見られることもあります。適応障害 | 豊中市 千里中央駅直結の心療内科「杉浦こころのクリニック」厚生労働省みんなのメンタルヘルス-適応障害-適応障害の原因適応障害の原因には、ストレス(外的要因)と個人の資質(内的要因)があると考えられています。外的要因であるストレスとはどのようなことでしょう。出典 : 私たちは日頃、さまざまなストレスに囲まれて生活しています。一般的にストレスとは、外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態をいいます。例えば、結婚のように一般的に良いとされることであっても、その変化によりある種の緊張を私たちは感じます。こうした日々の緊張のとらえ方や、ストレスを受けた時の対応方法によって、ストレスは私たちに良い影響を与えることもあれば、悪い影響を与えることもあります。適応障害は、ストレスが私たちの心身に悪い影響をもたらした場合に発症します。そのストレス源が一つの出来事であるとは限らず、さまざまな状況が重なって原因を形成することがあります。また、大きな出来事からくる単発的なストレスだけでなく、長年にわたり続いていたり、反復したりするストレスもあります。では、例えばどんなことが私たちのストレスとなりうるのでしょうか。以下に代表的なものをご紹介していきます。・家庭での問題家族内における病気、介護、別居、子育て、子どもの反抗期、過干渉・過保護など・友達・恋人との関係上の問題浮気の発覚、離別、喧嘩、絶交など・学校、職場、近所関係上の問題いじめ、パワハラ、セクハラ、不信など・心理社会的問題家族や友人などの親しい人との死別、一人暮らし、異文化を受け入れる(留学など)、転校、仕事上の問題(失業・復業、勤務条件、業務量が過度に多い、決定権のなさ、業務の目的が不明)など・大きな節目や行事結婚、妊娠・出産、就職、昇進、卒業、子どもの独立、クリスマスなどの行事など・本人の健康の問題病気、リハビリ、禁酒、禁煙、重病の疑いなど・環境的な問題引っ越し、経済状況、天災や戦争に遭遇など出典 : 人生において上記のようなストレスに遭遇することはよくあることでしょう。ストレスに遭遇した時、重く受け止めるか、さらっと受け流すか、心がそのストレスをどのようにとらえるかは本人の気質によっても変わります。また、ストレスを感じた時に、そのストレスにどのように対応、対処していくかも人それぞれです。ストレスの捉え方・受け止め方である気質と、ストレスへの対応・対処法の2つを合わせて、本人の資質であると言えます。適応障害の発症を左右する原因の一つにその資質が関係しています。では具体的にどんなことがあるでしょうか。・感情の揺れ幅が大きい喜怒哀楽の表わし方、処理の仕方が分からず、感情の起伏が激しいなどです。・傷つきやすい周囲に言われた些細なことを気にしすぎて傷つきやすい気質です。プライドが高すぎる場合も傷つきやすいと言われています。・自立神経のコントロールがうまくいかないストレスは自律神経を介して脳に影響します。もともと自律神経のバランスが乱れやすい人は適応障害になりやすいと言われています。・0か100かで判断してしまう別名、白黒思考や悉無律思考(しつむりつしこう)などといいます。物事を白か黒で判断し、グレーゾーンを認めない気質です。・頼みごとなどを断れない相手に悪印象を与えると思い、頼みごとなどを断れない人はストレスをため込みやすい傾向があります。・まじめだが頑固まじめにコツコツ仕事や勉強を進めるため、いい加減が許せずなかなか許容ができないという気質です。この他には、ストレス経験が不十分なために、ストレス耐性が弱かったり、ストレスへの対処能力が低かったりする場合も考えられます。適応障害はどのぐらいの期間続くの?出典 : 適応障害は、ストレスのもとである明確な出来事や状況の始まりから3ヶ月以内に気持ちの面または行動面の症状が出現します。しかしそのような出来事や状況が終わったり離れることができれば、6ヶ月以内に症状は治まると言われています。つまり、適応障害の期間は、ストレスの原因と状況次第であると言えます。その期間が6ヶ月未満の場合には急性、6ヶ月以上の場合には持続性と呼ばれます。・急性(6ヶ月未満)ストレスの原因が急に起こった場合はすぐ発症し、その原因がなくなれば比較的短い間(数ヶ月以上は続かない)で症状は消えます。・持続性(6ヶ月以上)ストレスの原因またはその結果として起こった出来事が長引く場合、障害も長期間存在し持続性の病型となります。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014/医学書院/刊他の疾患との違い・関わりは?出典 : 先に説明したように、適応障害は、他の精神疾患の基準を満たしていない・すでに存在する精神疾患の単なる悪化でもないという条件に当てはまった場合に診断されます。以下で紹介する疾患の中には、適応障害とよく似た症状が見られる疾患もありますが、その疾患の診断基準を満たしている場合、適応障害ではなくその疾患の診断がつきます。うつ病とは、繰り返し気分が落ち込んだり、意欲がなくなることが特徴の精神疾患です。とくに適応障害の精神症状はうつ病の症状によく似ていると言われています。うつ病という診断を下すほど重症ではない場合、適応障害の診断がされます。しかし一度適応障害と診断されても、5年後には40%以上の人がうつ病などの診断名に変更されていることから、適応障害はより症状の重い疾患に至る前段階とも言えます。適応障害ではストレスの原因から離れると症状が改善することが多くみられますが、うつ病の場合ストレスの原因から離れても気分は晴れず、持続的に憂うつ気分は続き、何も楽しめなくなります。厚生労働省みんなのメンタルヘルス-適応障害-パーソナリティ障害とは、一般の人と比べて著しく偏った考え方や行動パターンのために家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたした状態を指します。パーソナリティ障害は、回避性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害などをはじめ10のタイプに分類されるほど、人によってかなり違いが見られます。適応障害との鑑別に関しては、一般的に、適応障害発症以前から、どのような症状が見られていたかによって、パーソナリティー障害との区別や、合併の有無を判断します。例えば、感情が不安定であり些細なことでも大きく反応してしまう場合、急に怒ったり反社会的な行為が見られたりする場合などは、パーソナリティー障害との合併が考えられます。不安障害とは、状況や具体的なものに対して、過剰に不安、恐怖心を感じ、それによりさまざまな影響が身体と精神に現れ、社会生活を送ることに支障が出てしまう疾患です。症状も適応障害ととてもよく似ていて、憂うつな気分、不安感、意欲や集中力の低下、イライラ感などといった精神的な反応や、頭痛、動悸、汗が異常に出るなどの身体的な反応が現れます。適応障害との違いは、症状の持続する期間が一番わかりやすいかもしれません。急性適応障害の場合、6ヶ月未満であるのに対し、不安障害は6ヶ月以上症状が確認されることが診断基準の1つでもあります。ただ、6ヶ月以上症状が続いても持続性の適応障害であると判断されることもあるため、自分がどちらに当てはまるかわからない場合は専門家の判断に従いましょう。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014/医学書院/刊発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と、その人が過ごす環境や周囲の人との関わりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害のことです。発達障害の特性から生きづらさを感じたり、生活を送る上で困難が生じたりすることがあります。そんな困り感からストレスを多く感じ、適応障害になることもあります。友達とのコミュニケーションがうまくとれなかったり、自分の居場所を見つけられず孤独感を感じたりといった、発達特性と周囲の環境との不適応経験が、本人にとっての強いストレスとなる場合があります。そのため、発達障害の二次障害として適応障害が発生することは考えられます。適応障害かもしれないと思ったら?出典 : もしかしたら適応障害かも?と思ったら、早めに専門家に相談することが重要です。どこに相談すればよいのかについて解説します。まずは、全国精神保健福祉センターや身近な精神科、心療内科へ行き相談しましょう。病院へ行くことに抵抗を感じる方は、電話での相談もおすすめです。相談できる時間帯は自治体によりますが、全国精神保健福祉センターには相談ダイヤルが設置されており、電話で相談できる環境が整っています。全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省心療内科、精神科、プライマリーケアクリニックなどの総合的な診断ができる病院、メンタルクリニックなどを受診しましょう。適応障害は、頭痛や倦怠感、体の部分的な痛み、かぜの症状などの症状が表れるので、はじめは内科や整形外科に相談へ行くこともあるかもしれません。しかし、適応障害ゆえの身体症状である場合、内科や整形外科では数値的異常が認められず、問題ないといわれてしまうことがあります。内科や整形外科で問題ないといわれても症状が続き、またストレスの原因となることが思い当たる場合は、心療内科などを受診することをおすすめします。適応障害の治療方法出典 : 適応障害の治療は、ストレスの原因を突き止めることから始まります。ストレスの原因を取り除く、または解決することができれば、適応障害は6ヶ月以内に回復することがほとんどです。中には、ストレスの原因を特定できても、それを除去できないケースも存在します。たとえば、身近な人の死別や離婚などは、原因となるその出来事自体を無かったことにすることはできません。そのような場合は、本人のストレスに対する考え方、捉え方を変えていきます。精神療法により、ストレスの受けとめ方を変えていく一方で、薬物療法により現在現れている症状を軽減していきます。薬物療法は必ず行うわけではありません。カウンセリングなどを中心とした精神療法とともにストレスへの対処を中心に治療します。とくに、支持療法を中心に行うことが多いです。支持療法とは、医師が本人の話を聞いて、医師と信頼関係を築きながら、自尊心や自信、適応力を身につけていくことを目指す治療法です。その他にも補助的に認知療法や暴露療法、生活療法を取り入れる場合があります。薬物療法では、不安、抑うつ、気分、興奮、睡眠を安定させるために薬を使用します。ストレスによって起こるつらい精神症状を軽減することが目的の薬を、向精神薬といいます。主な向精神薬としては、抗不安薬、抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬、睡眠薬の5つがあります。これらの薬は脳に直接作用するため、医師の指示通りに用法用量を守った正しい服用を心がけましょう。また体質によっては副作用が起こることもあるため、こまめに医師に相談しながら服用することをおすすめします。適応障害のある人のために、周囲の人はどう対応すべき?出典 : 適応障害のある人は、ストレスを自覚せずに考えすぎてしまうことがあります。ストレスでないと思い込み、頑張りすぎてしまうことがありまうす。周囲の人は、本人の相談や話を聞き、抱えている問題やストレスに気づいてあげましょう。適応障害は、それ自体が重い精神疾患ではありませんが、重症化するとうつ病や不安障害を発症します。そうならないために、休みを十分とり、本人が主体的にストレスに適応できるように環境を調整・支援することが大切です。「気持ちの問題だ」、「甘えではないか」、「元気を出して頑張れ」、「薬ばっかり飲んで」などの言動を避けましょう。適応障害は疾患です。本人がストレスに感じていることをしっかり考え言葉がけをしましょう。そのほかにも、過剰な同情、支援、配慮をすることは本人の主体性を奪い、社会的責任を回避させることとなり現実逃避を助長させることになります。注意しましょう。まとめ出典 : 適応障害とは、ストレスに適応できないためにさまざまな心身症状が現れ、日常生活をうまく送れなくなってしまう疾患です。よく健康状態と病気の中間と表現されますが、適応障害をそのまま放置しておくと重症化し、うつ病や不安障害、またパーソナリティー障害などといった精神疾患へと発展してしまうことも少なくありません。適応障害の原因であるストレスは普段だれもが感じるものです。だからと言って我慢したり、無理をせず早めに周囲の人たちや専門家に相談しましょう。
2017年07月04日強迫性障害とは出典 : 強迫性障害は自分の意思に反して不安・不快な考えが浮かび、抑えようとしても抑えられない、もしくはそのような考えをなくそうと無意味な行為を何度も繰り返すことで日常生活に支障が出てしまうこころの病気です。具体的な症状としては、汚れているのではないかと不安になって手を異常なほどに洗ったり、鍵をかけたか何度も確認して生活に支障が出てしまったりするような例があります。そういった行為には何にも意味がなく、やり過ぎだと自分で分かっていてもやめられないことが特徴です。英語ではObsessive Compulsion Disorderと表記され、略してOCDと呼ばれます。発症率は100人あたりおよそ2.3人といわれていて、決してまれな病気ではありません。10代~20代に多く発症しますが、小児期から症状が始まることもあります。原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』強迫性障害の症状とは出典 : 「手をいくら洗っても、きれいになった気がしない」「ドアの戸締りが気になり、無意味に何度も確認してしまう」など、なんらかの考えが自分の意思に反して繰り返し浮かび(強迫観念)、それによって生まれる不安や恐怖などの感情を解消するために、同じ行動を繰り返すことを自分に強いる(強迫行為)のが「強迫性障害」の症状です。強迫観念は繰り返し、そしていきなり浮かんでくるもので、コントロールするのは困難とされています。強迫観念によって引き起こされる不安や恐怖は強迫行為を行うことで一時的に和らぐものの、強迫観念の出現は時間をおいて繰り返されます。強迫行為を行うと、一時的には不安を抑えることができますが、特定の場面に遭遇すると再び強迫観念が現れ、また強迫行為を繰り返してしまいます。この悪循環にはまってしまうと、自分で症状をコントロールすることが困難になり、強迫行為の程度が悪化していく人もいると言われています。一口に強迫性障害といっても、人によって症状の現れ方はさまざまです。以下では、中でも代表的な3つの症状を紹介します。■不潔恐怖汚染への強い恐怖により、長時間洗浄してしまうことをいいます。身体が汚れる、もしくは健康を害してしまうという強迫観念が、汚れや細菌汚染に対して恐怖を感じさせ、過剰に手を洗ったり繰り返し入浴・洗濯するといった強迫行為を引き起こします。またドアノブや手すりなどを不潔と感じ、手を触れることができないこともあります。■確認行為鍵をかけたか不安になり、何度も確認するような症状が出現します。「もしかしたら開いているかもしれない」「実は消えていないかもしれない」という強迫観念が玄関の施錠や、ガス栓・電気器具のスイッチを異常なほど確認する強迫行為を引き起こします。確認しても大丈夫だと確信を得ることができず、心配になって頭から離れません。自分で確認することに満足せず、家族に確認させる「巻き込み型」となることも少なくありません。その場合重症化することも少なくないので、注意が必要です。■加害恐怖誰かを傷つけたり犯罪を犯してしまったという思いに駆られ、確認したり罪の意識に苦しむことをいいます。誰かに危害を加えたかもしれないという強迫観念が新聞やテレビ、警察や周囲の人に確認する確認行為を引き起こします。危害を加えていないことを確認しても安心することができず、何度も確認してしまいます。このほか、自分の決めた手順でものごとを行なわないと恐ろしいことが起きるのではないかという不安を抱く儀式行為や不吉な数字・幸運な数字、配置や正確性・対称性に異常なほどこだわることなどが挙げられます。強迫性障害は、症状が重くなることで日常生活や社会生活に大きな支障をきたす可能性のある病気です。強迫性障害の人の中には、強迫行為に大半の時間をとられて他のことをする余裕がなくなってしまったり、自宅の外に感じる汚染への恐怖や戸締りの心配を理由にひきこもりになってしまったりする人がいるのです。強迫性障害の症状について理解するうえで重要なのは、患者さん本人は自分自身が強迫行為をしてまうことに対して精神的な苦痛を感じているということです。頭では意味のないことを繰り返しているとわかっていながら、それでもやめることのできない自分に対してネガティブな感情を抱いてしまうのです。症状に苦しむ生活が続くことで、気分が落ち込みやすくなるなど精神的に不安定な状態に陥ってしまうこともあります。そのため、強迫性障害の患者さんはうつ病を発症する可能性も高いと言われています。強迫性障害を引き起こす要因出典 : 強迫性障害の発症に関わる決定的な要因は、未だに特定されていません。しかし、気質要因、環境要因、遺伝要因・生理学的要因が何らかの形で影響を与えることがわかっています。■気質要因幼少期に教え込まれたこと、または感情や行動を強く否定されたことがあることが考えられます。■遺伝要因・生理学的要因セロトニンという神経伝達物質との関連や脳の部位に機能的な異常がみられる可能性も指摘されています。これにより強迫性障害が発症する背景には、脳の部位を結ぶ神経ネットワークに問題があると推定されています。■環境要因強いストレスを引き起こすような出来事や虐待などは強迫性障害の発症の危険性を高めると考えられています。また神経免疫機能との関連が考えられています。以上のような要因に加え、受験や結婚、育児などのライフイベントによる強いストレスから発症することもあります。強迫性障害になりやすい人出典 : 強迫性障害を世界的に研究している機関OCCWG(Obsessive Compulusive Cognitions Working Group)によると、几帳面な人や完璧主義などの性格の人が強迫性障害になりやすいと言われています。しかし、こういった性格があるからといってすべての人が強迫性障害を発症するわけではなく、その他の要因や環境との相互作用によって症状があらわれます。自分の性格を理解し、ストレスをためこまないよう上手にコントロールしましょう。原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』強迫性障害と併発しやすい病気出典 : 強迫障害の人は他の精神疾患を併発することが多いと言われています。不安障害、強迫性パーソナリティー障害、チック症の併存が見られる場合があります。原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』不安障害とは不安を主症状とする神経症で長時間続く病的な不安をいいます。強迫性障害と関連のあるものとして、人との接触を恐れる社会不安障害や特定のものや場所・条件を恐れる恐怖症、突然パニック発作が生じるパニック障害が挙げられます。強迫性パーソナリティー障害とは秩序や規則に対して強いこだわりを持ち、本人や周りの人が日常生活を送る上で支障が生まれることをいいます。強迫性障害と似ていますが、異なります。両方の症状がある場合は、両方の診断を下すことができます。チック症とはまばたきや首振りなど一見癖のように見える行為が現れる精神疾患です。摂食障害とは食行動に関する障害で、一般には拒食症、過食症と呼ばれます。食欲が単に増減するということではなく、体重や体型の認知が歪み、自分で食欲がコントロールできず、極端なやせ願望や太ることに対する恐怖心があることが特徴です。摂食障害のある人は食について、「食べてはいけない」という強い強迫観念を持つようになります。強迫性障害の診断におけるチェックポイント出典 : 国際連盟の専門機関の一つであるWHO(世界保健機関)が作成する疾患の分類である『ICD-10』によると、強迫性障害において重要とされるのは以下の3つのポイントです。・強迫観念や強迫行為といった症状が2週間以上の間、ほとんど毎日現れること・自分が行う強迫行為は過剰で無意味なものであると自覚していること・症状が社会生活や日常生活の妨げになっていること診断基準によって細かい違いはありますが、もし何らかの強迫観念にとらわれることがあり、症状の様相が上記のポイントを満たす場合には強迫性障害と診断されることがあります。強迫性障害に関する相談先出典 : 強迫性障害かもしれないと思った時は精神保健福祉センターなどの専門機関へ相談、または精神科もしくは心療内科を受診しましょう。強迫性障害はうつ病や統合失調症の初期や脳炎、脳血管障害、てんかんなど、脳器質性疾患と似たような症状をもっています。医療機関では識別するため、血液・髄液(ずいえき)などの検査や頭部CT、MRIなどの画像検査をする場合があります。全国の精神保健福祉センター一覧|厚生労働省他の強迫性障害の患者さんとの交流を通して、普段は話さないような悩みに共感し合ったり、治療法や症状への対処法に関する知識を共有を行うのもよいかもしれません。強迫性障害に特化した自助グループやコミュニティがありますので、ご紹介します。■OCDの会強迫性障害で悩む患者と家族のサポートグループです。の会■OCDサポート 強迫症/強迫性障害の案内板強迫性障害の症状をかかえる人や家族が、他の患者さんや家族と交流し、情報交換をしています。サポート強迫症/強迫性障害の案内板■強迫友の会OBRI(オブリ)強迫性障害という個性を持った子どもたちと家族のための自助グループです。情報交換や啓発活動を行っています。強迫友の会OBRI(オブリ)強迫性障害の治療方法出典 : 強迫性障害の治療法としては、薬物治療と認知行動療法の2つがあります。この2つを併用すると、より効果的であるとされています。強迫性障害は発症の仕方や症状が人によって異なります。本人の状態や併存する他の疾患を考慮に入れたうえで、治療方針を相談しましょう。薬物療法とは投薬することにより治療する方法です。一般的には「SSRI」という脳内のセロトニンに効果のある薬が使われます。一定期間継続して服薬しすることで、強迫行為をしたくなる衝動が薄れ、気分に余裕が生まれるといった効果が期待できます。強迫性障害では、薬のみの治療で症状をある程度改善できる人とそうではない人がいるようです。『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』原田 誠一認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方を見つめなおし、気持ちを楽にする精神療法です。そのなかでも、強迫行為を引き起こす不安な状況に慣れる訓練をする「曝露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)」という方法がよく取られています。認知行動療法は、実施できる専門家がまだまだ少ないのが難点ですが、薬物と同等以上の効果があります。認知行動療法を希望する場合は、かかりつけ医もしくは保健所や精神保健福祉センターなどに相談しましょう。強迫性障害に対する望ましい周囲の対応出典 : 強迫性障害のある人は、家族に不審がられることをためらって相談できないケースも少なくありません。またクセや強いこだわりと捉え、心の病気だと気付かないことがあります。放っておくと症状がエスカレートしやすくなるので、普段とは異なる行動がみられる場合や、生活に著しく支障を及ぼす場合は、早めに専門医を受診することを促しましょう。一方で、強迫行為を無理やり止めることは避けましょう。本人も止めたいと思っているのに止められないのが強迫性障害です。無理強いさせてしまうとパニック状態に陥ったり暴力をふるってしまうことがあります。薬物療法や認知行動療法などにより改善するものなので、強迫行為を無理に止めるようなことはせず、早めに医療機関などに相談しましょう。また、強迫症状が進むと自らの強迫行動を監視させる、強迫行為を強制するなど家族を巻き込むような行動がみられ、家族の日常生活に影響を及ぼしてしまうこともあります。こういった、「巻き込み型」の強迫性障害は約3人に1人が発症すると言われています。拒絶すると本人の不安を強めてしまいますが、むやみに従うと、かえって症状を悪化させるおそれがあります。そのため、基本的に家族は強迫行為や、患者本人の強迫観念を一時的に和らげるための行為に協力しないことが重要になります。主治医と相談し、適切な治療方法を相談した上で対応しましょう。出典:強迫性障害|厚生労働省まとめ出典 : 不安や恐怖にさいなまれたり、自分の意思と反して同じことを何度も繰り返したりしてしまうのが強迫性障害です。強迫性障害の治療には、本人はもちろんのこと家族や学校など周囲の理解・支援が不可欠です。正しい知識を得るとともにお互いに適切な距離感を保ちながら生活しましょう。症状の再発・悪化を予防するには、強迫性障害の悪循環にはまらないことが大切です。強迫観念→強迫行為→強迫観念→強迫行為・・・・という悪循環にはまりそうになったら一度落ち着き、深呼吸をしましょう。また、強迫観念が現れた時への対処法としては、「他のことに注意を向ける」のも有効とされています。あえて他のことを考えたり、気分転換に音楽を聞いたりするのです。このとき、「強迫観念をなくそう」と意識してしまうとかえって頭から離れなくなってしまうので、「この曲を聞きたいから聞くんだ」というように、強迫観念とは別の動機で他のことに注意を向けるようにすることがポイントとされています。さらに、疲れを溜めないよう、適度な休憩をとるようにすることも大切です。ストレスとうまく付き合い、無理のない生活を送ることで、少しずつ症状をコントロールできるようになることを目指しましょう。厚生労働省「知ることからはじようみんなのメンタルヘルス強迫性障害」「若者のこころの病 情報室「強迫性障害」ってどんな病気?」国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター「認知行動療法とは」原田 誠一『強迫性障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』原井 宏明、岡嶋 美代『図解やさしくわかる強迫性障害』
2017年06月23日カナー症候群とは?出典 : カナー症候群(カナー型自閉症)とは、自閉症の中で知的障害を合併する場合を指す用語で、医学的な診断名ではありません。カナー型自閉症、カナータイプなどと呼ばれることもあります。「言葉の発達の遅れ」「コミュニケーションの障害」「対人関係・社会性の障害」「パターン化した行動、こだわり」などの自閉症の特徴と知的機能の発達の遅れをもつ障害で、3歳までには何らかの症状がみられると言われています。1943年にアメリカの児童精神科医レオ・カナーによって報告されたため、カナーの名前をとって呼ばれています。現在、最新の診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、自閉症状のある障害は「自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」(ASD)という診断名に統一されています。しかしかつては、症状によってカテゴリー分けされており、アスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症、小児自閉症などさまざまな名称で呼ばれていました。そのような中でカナー症候群という用語が生まれ、広がった背景には、アスペルガー症候群や高機能自閉症という用語の広がりとの関係があるようです。アスペルガー症候群や高機能自閉症という、知的障害を伴わない自閉症の概念が拡大するにつれ、それに対する、知的障害のある自閉症を表わす概念としてカナー型・カナー症候群・低機能自閉症などの用語が使用されてきたと考えられます。つまり、スペクトラム(連続体)と捉えられるようになり、知的障害がない自閉症のタイプが広く知られるようになったことで、逆説的に知的障害のあるタイプを指す用語が必要とされる場が増えてきたということです。またこれらのタイプは認知機能や言語面での発達に遅れが見られることから、自閉症に対する支援と知的障害に対する支援の両面が必要になり、一様な「自閉症スペクトラム」への支援だけでは不十分なことも多いです。そのため、この記事では「カナー症候群」という用語を用い、その症状や特徴、対処法や受けられる支援を具体的に説明します。カナー症候群をはじめ、さまざまな自閉症状のある障害が自閉症スペクトラム(ASD)と総称されるようになりましたが、知能指数(IQ)と自閉症状の程度の関係をみると、カナー症候群は以下の図のように位置づけることができます。Upload By 発達障害のキホン【図表は『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』を元に作成】【図表は『自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識』( )を元に発達ナビ編集部にて作成】図にもあるようにそれぞれのボーダーラインは曖昧で、一人ひとり特徴の表れ方もそれぞれです。障害名や疾患名に基づいて治療・療育をするのではなく、一人ひとりの子どものニーズや特徴にあわせた療育やサポートを柔軟に行っていくことがとても大切になっていきます。カナー症候群の原因は?出典 : さまざまな議論が交わされていますが、 カナー症候群(自閉症スペクトラム)の原因はいまだ特定されていません。しかし、親のしつけや愛情不足が直接の原因ではないことがわかっています。カナー症候群をはじめ、自閉症スペクトラムは生まれつきの脳機能障害であると考えられており、その機能障害を引き起こすそもそもの原因は遺伝子にあるとみられています。しかし、遺伝子が関与しているからといって親から子に必ず遺伝するタイプの「遺伝病」ではありません。また遺伝的要因だけではなく様々な環境要因も関わっていると考えられています。現在の医学では妊娠中の羊水検査、血液検査、エコー写真などの出生前診断でカナー症候群と判明することはありません。また、出生後も遺伝子検査や血液検査といった生理学的な検査では診断できません。これは自閉症スペクトラムの原因が完全には解明されておらず、またその原因も複雑で単一ではないと考えられるためです。生理学的な検査方法を確立するのはかなり難しいとも言われています。参考:鶴田一郎『自閉症スペクトラムの臨床心理』ふくろう出版(2008)p.24, 25カナー症候群の年齢ごとの特徴出典 : カナー症候群のある人は、成長していくにつれて症状の特徴も人それぞれ変化していきます。自閉症状や知的障害の程度の重さや特性は人によって違いますが、乳幼児期から成人以降までのライフステージに分けて、それぞれよく見られる症状や特徴を説明します。0歳から1歳までの乳児期は・声をたてて笑うこと・「いないいないばぁ」への反応・抱っこへの積極的欲求・指さしなどにおいて同月齢の子どもと比べると表出に遅れがみられることがあります。また、人見知りが強い場合もあります。他にも、個人差がありますが、バイバイの動作や後追い、喃語の発声においても遅れがみられることがあります。2歳から就学までは以下のような特徴があります。・こだわりや興味関心の偏りが見られる気にいったものを見続ける、特定の数字やマークを好む、ドアや窓の開け閉めを繰り返すなどの強いこだわりが見られる場合があります。遊びもミニカーを並べるなどの一人遊びを好み、他の人の介在を拒むこともあります。・周囲にあまり興味を持たない傾向があるコミュニケーションの中で視線が合いにくいと感じられる子が多いです。また他の子どもに興味をもたなかったり、聴力に問題がないにも関わらず、名前を呼んでも振り返らないことも多いです。また、他の人の動作を模倣するのが苦手な子もいます。・コミュニケーションを取るのが苦手満2歳までは言語理解がなかなか進まないなどの言葉の遅れや、オウム返しなどの特徴がみられることがあります。自発的になかなか声を発さず、指さしをして興味を伝えることをしない代わりに、クレーン現象といって相手の手をそこに持っていって意思表示をすることがあります。集団での遊びにあまり興味を示さず1人で遊ぶこともよくみられる特徴です。勝ち負けの概念やゲームのルールの理解が難しい場合は他の子との遊びに参加できないこともあります。・パニック・自傷行動が起こりやすい要求がうまく伝わらないときや、好きなことやこだわりをやめさせようとすると突然泣き出したり、わめいたり、自分の手を噛んだり、頭を殴りつけたりといった行動が生じることがあります。コミュニケーションの発達に伴い改善されることもありますが、学童期にも夏の暑い時や、スケジュールの変更時、勉強中などにパニックを起こしてしまうこともあります。・視覚、聴覚、味覚などの感覚に特徴がある視覚に関しては、横目でじっとみつめたり、自分の顔になにかを極端に近付けたりする傾向がある場合があります。鏡、光の点滅、扇風機のような円運動に夢中になったりすることもあります。聴覚に関しては、騒音や大きな音、サイレンのような不快な音を避けようとして耳をふさぐ傾向がある子もいます。その逆で、紙などでカサカサと小さな音をつくり耳元で聞いて落ち着くケースもあります。味覚に関しては、極端な偏食がある子も少なくありません。このような光や音などをはじめとする特定の刺激を過剰に受け取ってしまう状態のことを感覚過敏(過剰反応性)と呼びます。逆に、刺激に対する反応が低くなることを「感覚の鈍感さ(鈍麻・低反応性)」といいます。どちらも感覚のはたらきに偏りがあることが原因です。これらの特徴は学童期に落ち着くことも多いとされています。・こだわりが強く臨機応変に対応するのが苦手きちんと決められたルールを好む子が多いです。言われたことを場面に応じて対応させることが苦手な傾向があり、時間、道順、手順、物の位置など習慣化されたものを変更することに抵抗を示すこともあります。・集団になじむのが苦手年齢相応の友人関係が少なく、周囲にあまり配慮せずに、自分が好きなことを好きなようにしてしまう傾向があります。人と関わる時は何かしてほしいことがある時なだけのことが多く、基本的に1人遊びを好む傾向があります。また、学校などの集団生活の中で他者のペースに合わせるのが難しい場合、パニックや自傷が増えてしまうこともあります。・話を聞いて、理解するのが苦手視覚的な認知能力が聴覚的な認知能力より優れた人が多く、目に見える物事の理解は得意な場合があります。認知力の発達の遅れから、抽象的な概念の理解が困難であったり、過去の出来事や自分の気持ち、行動の理由の説明などがうまくできないこともあります。相手の話を聞いて内容を理解したり、相手の気持ちを想像したりすることが難しい場合も多いです。子どもに合わせた視覚支援を行い、適切な教育環境を整えることによって、できることも増えてきます。自己コントロールや集団参加も少しずつできるようになり、知的障害の程度により個人差はありますが、認知能力やコミュニケーションも発達してきます。改善されにくい特徴として、1人でいることを好む、興味や関心の偏り、変化や変更に対する困難などは、成長や療育によっても改善されにくいことがあります。思春期に癲癇(てんかん)などを発症する場合もあります。心配な症状があれば医療機関に相談しましょう。てんかん発作については以下の記事をご参照ください。参考:自閉症とてんかんQ&A|茨城県自閉症協会知的障害の程度や自閉症状の重篤度によって大きな幅があり、生活で必要とする支援の内容は変わってきます。身辺自立に加えて簡単な調理や買い物、洗濯などの日常生活スキルを学ぶとともに、本人に合うように構造化された環境の中で安定した生活を送れるように支援していく時期です。しかし、周りに理解を得られなかったり、ASDの特性に配慮されない環境だったりすると、自傷・他害、パニックなどの行動の問題が生じたり重篤化してしまうこともあります。このような場合は、早めに支援機関・医療機関に相談するようにしましょう。参考文献:鶴田一郎/『自閉所スペクトラムの臨床心理』(ふくろう出版,2008)カナー症候群(自閉症スペクトラム)かな?と思ったら出典 : 「カナー症候群(自閉症スペクトラム)ではないか?」と気づき始めるのは生後6~7ヶ月頃です。この頃になると、親と目を合わせない、呼んでも反応しないなどの症状が目立つようになります。しかし、こうした特徴がみられるすべての子どもがカナー症候群(自閉症スペクトラム)と診断されるわけではありません。一般的に自閉症スペクトラムと診断されるのは2~3歳になってからですが、知的障害のあるカナー症候群の子どもの場合は、早くて1歳代から診断が可能なケースもあり、知的障害のないアスペルガー症候群よりも早期の診断が可能といわれています。いきなり医療機関を受診するのには抵抗があったり、ハードルが高いと感じられることがあると思います。そのような場合、まずは身近な相談機関に行ってみるとよいでしょう。自分の子どもが困っていることに気づけたり、参考にできる子育てや支援方法を知ることができたりなど、メリットがたくさんあります。専門的に相談や診断を行っている機関を紹介します。【子どもの場合】・児童精神科・子ども発達クリニック・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センターなど日本児童青年精神医学会認定医一覧発達障害者支援センター一覧【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所などカナー症候群の診断出典 : 近年は、カナー症候群やその他の自閉症もひとまとめに「自閉症スペクトラム」と診断されることが定着してきています。カナー症候群は医学的な診断名としては使われることはあまりありません。診断は、本人の年齢や状態によって検査のボリュームが変化します。以下、具体的な診断方法を紹介していきます。医療機関を受診した際の臨床的な診断として、行動観察と生育歴について聞き取りを行います。自閉症スペクトラム障害について、より専門的な診断を行う場合には以下の検査が用いられることが多いです。・ADOS(エイドス)検査用具や質問項目を用いて、自閉症スペクトラム障害(ASD)の評価に関連する行動を観察するアセスメントです。発話のない乳幼児から成人の方まで、幅広く対応しています。・ADI-R対象者の行動の系統や詳細な特徴を捉える検査です。精神年齢が2歳0ヶ月以上であれば、幼児から成人まで、幅広い年代に対応しています。社会性、対人コミュニケーションや限定的な行動・興味・反復運動などに焦点を当てて構成されています。・PARS-TR自閉症スペクトラム障害がある方の特性理解を深め、一人ひとりに合った支援を可能にしていくために、日常の行動の視点から簡単に評価できるアセスメントです。1)対人、2)コミュニケーション、3)こだわり、4)常同行動、5)困難性、6)過敏性の6つの領域に関する全57の評価項目から構成されています。自閉症スペクトラム障害には知的障害、てんかん、感覚過敏、鈍麻などの合併症を伴う場合があります。合併する障害があるかアセスメントを行ったうえで検査する場合が多いです。その際に以下の検査が用いられることが多いです。・知能検査知能検査は心理検査のひとつであり、精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値などによって測定されます。最近では、ウェクスラー式知能検査、田中ビネー知能検査、K-ABC知能検査などがよく使われています。・脳波検査自閉症スペクトラム障害はてんかんとの合併症を伴っている場合があるため、CTやMRIといった脳波検査を行ういます。自閉症スペクトラム障害の子どもの場合は狭い空間に入るとパニックになることもあるので、検査をする際には注意が必要です。・感覚プロファイル自閉症スペクトラム障害をはじめ、発達障害の人たちの感覚特性を客観的に把握するためによく使われている尺度です。質問票は保護者と本人が記入し、聴覚、視覚、触覚、口腔感覚など、幅広い感覚に関する125項目で構成されています。・Vineland(ヴァインランド:社会生活能力検査)0歳から92歳の幅広い年齢帯で、同年齢の一般の人の適応行動をもとに、発達障害や知的障害、あるいは精神障害の人たちの適応行動の水準を客観的に数値化する検査です。対象者にどんな特性があるのかを評価してくれます。また教育や福祉分野の個別支援計画の立案にも役立てることもできます。カナー症候群の治療・療育出典 : カナー症候群の根本的な治療法や手術といった医学的な方法は確立していません。しかし、子どもに、社会で暮らしていくために必要な技術や技能を教えたり、生活上の問題点を軽減させる方法を見つけたりするなどの教育的な援助を行うことが、カナー症候群をはじめとした自閉症スペクトラムに対する効果的な治療法になります。こうした対応の方法を「療育(治療・教育)」といいます。療育は、薬による治療のようにすぐに効果が表れるものではありませんが、長期的に続けることによって自閉症の子どもの生活を安定させ、社会への適応力を養うこともできるようになっていきます。代表的な自閉症スペクトラム障害の療育方法を紹介します。・ABA(エービーエー、Applied Behavior Analysis/応用行動分析)人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、問題解決に応用していく理論と実践の体系です。・TEACCH(ティーチ、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children)自閉症スペクトラム障害の当事者とその家族を障害支援する総合的なプログラムです。自閉症児のためのTEACCHハンドブック・PECS(ペックス、Picture Exchange Communication System)主に話し言葉に遅れがある場合に、話し言葉の代わりに絵カードや写真カードを使ったコミュニケーション援助プログラムです。・SST(エスエスティー、ソーシャルスキルトレーニング)対人関係をうまく行うための社会生活技能を身につけたり、障害の特性を自分で理解し自己管理をしたりするためのトレーニングの総称です。その他にもDIR、感覚統合療法、太田ステージ、VB(言語による行動変容法)、PRT(機軸反応訓練)、RDI(アールディーアイ、Relationship Development Intervention/対人関係発達指導法)などさまざまな療育方法があります。子どもの症状の特徴を考慮して、子どもにあった療育方法を選んでいきたいですね。自閉症の根本的な原因と推測される脳の機能障害を薬で治すことはできません。ですが、子どもに厳しい症状があらわれたときに、それを抑えるために薬を用いることがあります。たとえば、昼夜問わず走り回っている、こだわりやパニック症状が強い、自傷行動が激しく親子ともに苦しんでいる場合などは服薬したほうがよいと判断される場合があります。このようなケースでは「向精神薬」(精神安定剤、抗うつ薬、抗精神病薬)が使われます。また、症状を緩和するための薬が用いられることもあります。最初は少量からスタートして効果や副作用の有無を観察しながら、医師の指示に従って調節していくとよいでしょう。また、ただ薬を利用するのではなく、症状が緩和されている時には必ずスキルトレーニングなどを行いましょう。カナー症候群の子育てにおいて大切な考え方や悩みと対処法出典 : 子育てをしていく中で、ときに子どものことがわからなくなってしまったり、自分の子育てに不安や悩みを抱えることが多いと思います。子育てにおいて「正解」や「こうすべき」という決まりはありませんが、子どもの特性に合った適切な接し方を知ることが子育てにおいてとても重要となります。1. カナー症候群の子どもは、自分とは物事の感じ方が違うことを理解するカナー症候群を含め自閉症のある人の中には、定型発達の人と比べて特定の感覚に過敏性や鈍さ(鈍麻)があったり、独特の物事の理解の仕方や受け止め方があったりする場合が多いです。そのため、子どもが「自分とは違う感じ取り方をしているかも」ということを意識し理解することが重要です。「このくらい言わなくてもわかるだろう」「この程度の音なら我慢できるはず」と思わずに、子どもがどう感じているかに耳を傾け、何に困っているかを想像して接するようにしましょう。2. 本人がわかりやすい方法で具体的に伝えてあげる自閉症の中でも特にカナー症候群のある人は認知機能や言葉の発達の遅れがみられることが多く、言葉でのコミュニケーションに大きな困難を持つ人がいます。言葉でくどくど説明しても、子どもは混乱してしまうだけです。子どもにとってわかりやすい指示や対話の方法は一人ひとりの特性によって違います。本人が理解しやすいやり方を考え、説明して納得させてあげてください。以下は代表的な方法です。◇短い言葉で具体的に指示する「椅子に座って」「靴を履いて」など、短い言葉で具体的に伝えます。状況や理由などの説明をしたり、一度にあれこれ指示をしたりするとわかりにくくなってしまいます。シンプルなステップに分け、一つが終わってから次の指示をします。◇視覚的な方法で説明する自閉症のある子どもは、耳で伝えられる情報は理解することが難しいことが多い一方、絵や写真といった視覚的な情報による理解は得意であることが多いようです。言葉の指示や説明に加えて、絵や写真を補助的に使用すると、言葉だけでなく視覚でも理解ができるようになります。言葉でのコミュニケーションが苦手な自閉症の子どもにとって理解しやすい環境になり、何をして欲しいのか明確にわかるようになります。予定や約束ごとなども、絵にして知らせると、理解しやすく安心できます。3. ほめることで「できる」を増やしていく自閉症のある子どもに教える上では「ほめる」ことが大きなポイントになります。◇スモールステップで「できた」を増やす日常生活上でできないことに対しては、少しずつ、ステップごとに教えていく方法が効果的です。まずは手順を細かくわけ、分かりやすい方法で一つひとつ説明します。やってみて、一つできたら思いっきりほめてあげます。子どもに「できたら嬉しい」「自分にもできる」ことがある、という成功体験をたくさん味わわせることがとても重要なのです。◇のぞましい行動をほめる自閉症のある子どもは相手の言葉の意図をくみ取ることが難しい場合があります。そのため「してはダメ」なことを叱るよりも、「してはいけない」ことはできるだけスルーし、「してほしい」ことをしたときにストレートな表現でほめるほうが効果的です。うまくいったことや頑張ったことがあれば、どんな小さなことでも思い切りほめます。同じことでも何度もほめることで「よい行動」が印象づけられ、定着していきます。4. 不安な気持ちに寄り添う自閉症のある子どもは環境の変化がとても苦手であることが多いと言われています。「いつもと違う」ことに強い不安と拒否感を感じ安く、例えば、いつもと違う道を通った、部屋の家具の位置が違うといった場合など、他の人には些細に思えることでも気持ちが動揺しパニックになってしまうことがあります。◇見通しを持たせて安心させる先の見通しを立てられるように予告しましょう。これから何をするか理解し、予測できると安心して行動できます。そのためには絵などを使って子どもが分かりやすい方法で、かつその子が安心できるタイミングで伝えるようにしましょう。伝えるタイミングは直前だとパニックの原因になりますし、早すぎると意味がなくなったり、他のことが手に付かなくなったりすることもあります。5.特徴からくる行動を理解するにおいを嗅いだり、くるくるまわったり、ジャンプを続けたり…このように常同行動と呼ばれる変わった行動や癖があると、親としてはやめさせたくなりますが、無理に止めるといっそう落ち着けなくなります。危険な行動や人に大きな迷惑がかかることでなければ、落ち着くために必要であることも理解し、ある程度は容認してあげることも大切です。また、年齢とともに不安に対する適切な対処法、例えば深呼吸、散歩、音楽を聴く、ヨガをするなどを、常同行動に代わる行動として教えていくとよいでしょう。自閉症のある子どもは、何もすることがないと時間をもてあまして不安になる傾向もあります。病院の待合室や電車の中などで手持ち無沙汰を解消できるよう、絵の描けるホワイトボードやパズルなど、好きな遊びを準備しておくと落ち着いて過ごせることがあります。6.感情的に怒らないこちらが感情的になると、いつもと違うできごとに不安を感じ、かえって混乱させてしまいます。何かを伝えたい時は、冷静に短い言葉で簡潔に伝えることを心がけてください。できるだけ否定的な言葉は使わず、「○○してほしい」「○○しましょう」と言い換えるようにしましょう。◇パニックになってしまう原因を避けたり、落ち着くまでゆっくり見守ってあげる親や周囲の大人としては、感情的に怒りたくなることもあるかもしれません。自閉症の子どもにとっては、どうして怒られているのか理解することが難しく、パニックになってしまう場合もあります。パニックになると落ち着くまでに時間がかかりますし、その間は周囲の大人が何を言っても聞く耳を持つことができません。しかし、ゆっくり感情的にならず説明すると、理解しやすくなります。パニックが起きたらおさまるまでしばらく見守ってあげましょう。頭を壁に激しくぶつけるなどして危険な場合は壁にクッションを当てるなどしてけがをしないようにします。更に詳しく自閉症の子どもの接し方について紹介している記事があるので、以下の記事をご参照ください。参考文献:前川あさ美 /『「心の声」を聴いてみよう!発達障害のこどもと親の心が軽くなる本』(講談社,2016)子育てをしていると、周囲に気を使ったり、子どもの様子に気を配ったりと、体力的にも精神的にも毎日へとへとになるパパママも少なくないでしょう。これでいいのか、子育てに自信がなくなることもあるでしょう。そんな時は、誰かに相談したり頼ったりしましょう。公的支援をはじめ、さまざまなサポートがあります。◇専門機関に相談する地域の子育て支援センターや児童発達支援センター、児童相談所などでは、子どものことや子育てについて、気軽に相談ができます。必要があれば医療機関や療育施設などの専門家を紹介してくれます。◇親の会に参加する自閉症の家族を対象とした家族会やサポートグループが全国にあります。親の会は障害のある子どもを持つ親同士がつながり、障害について学んだり情報交換をしていく活動です。また、発達ナビのQ&Aコーナーやコミュニティでも、子育ての悩みを相談することができます。誰かにつらい気持ちを話すだけでも、気持ちが楽になり、一人で悩みを抱え込まずにすみます。◇ペアレントトレーニングを受ける親が子どもとのより良いかかわり方を学びながら、日常の子育ての困りごとを解消し、楽しく子育てができるよう支援する、パパ・ママ向けのプログラムです。子どもをのばすほめ方、環境調整の仕方、指示の出し方、行動の教え方などを具体的に学べます。◇レスパイトケアで意識的に休息をとるがんばりすぎて、余裕がなくなっているときは、リフレッシュが必要です。育児を軽減するサポートを利用するなどして、自分の時間をつくりましょう。児童発達支援、放課後等デイサービスの中には預かり型の支援サービスもあります。また、障害児を受け入れているファミリーサポートもあります。一時的預かりのサービスを行っている地域もあります。地域の福祉相談窓口などで相談してみてください。カナー症候群の人が受けられる支援出典 : 療育手帳とは知的障害者福祉法に基づき、知的障害のあるために日常生活に支障がある方に、適切な支援をすることを目的として作られました。療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所で知的障害であると判定された方が取得できます。そのため、カナー症候群の特徴がみられる子どもの場合、療育手帳を取得できることが多いです。療育手帳制度の概要(厚生労働省)療育手帳の呼び方は自治体によって異なります。多くの自治体は療育手帳としていますが、東京都や横浜市では”愛の手帳”、埼玉県やさいたま市では”みどりの手帳”と呼ばれています。療育手帳は都道府県知事または指定都市市長が交付します。療育手帳を取得することによって、さまざまなメリットがあります。1.保育・教育面の援助を受けられる2.就労に向けての支援を受けられる3.各種サービス・割引を受けられる(交通機関、障害者医療費、災害時の支援、施設・サービスの割引4.給付・税の減免や控除に役立つ申請方法や詳しい申請の流れは以下の記事をご参照ください。通院による精神医療を継続的に受ける人の医療費を、公費で一部負担してくれる制度です。申請が通ると「自立支援医療受給者証」が交付され、外来診療・処方薬・病院での療育等の自己負担割合が原則1割になります(ただし、所得によって窓口負担の上限が定められています)。「特別児童扶養手当」とは、障害のある子どもを対象に、その保護者や養育者へ給付される扶養手当です。この法律は精神、または身体に障害がある児童について特別児童扶養手当を支給することで、生活の豊かさの増進を支援することを目的とします。児童が20歳になるまで、障害の等級に応じて一定の金額が保護者もしくは養育者に支払われます。児童発達支援とは、障害児通所支援の一つで、小学校就学前の6歳までの障害のある子どもが主に通い、支援を受けるための施設です。日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、保育園や幼稚園のように遊びや学びの場を提供したりといった障害児への支援を目的にしています。障害のある子どもが住んでいる地域で療育や支援を受けやすくするために設けられました。それまで障害種別だった施設が一元化されましたが、障害ごとの特性に応じた専門的な支援に特化した施設もあります。具体的なサービス・支援としては以下のようなものがあります。・児童発達支援子どもの個別支援計画に応じて聴能訓練や言語聴覚訓練などの専門的な機能訓練を行います。・地域支援(主に児童発達支援センター)地域の保育園といった障害児を預かる施設の訪問などを行い、連携をとっています。また通所していない子どもについても親の相談を受けるなどの相談支援を行っています。・放課後等デイサービス障害のある就学児童(小学生・中学生・高校生)が学校の授業終了後や長期休暇中に通うことのできる施設です。障害児給付費の対象となるサービスで、受給者証を取得することで国と自治体から利用料の9割が給付され、1割の自己負担でサービスが受けられます。カナー症候群などの知的障害を伴う自閉症スペクトラムの子どもの場合、特別支援教育を受けることができます。特別支援学校は心身に障害のある児童・生徒が通う学校で、幼稚部・小学部・中学部・高等部があります。基本的には幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準じた教育を行っていますが、それに加えて障害のある児童・生徒の自立を促すために必要な教育を受けることができるのが大きな特徴です。小・中学校では障害のある子どもの教育環境として、通常学級・通級・特別支援学級があります。それぞれの対象となる障害の程度に明確な基準はありませんが、一般的に通級・特別支援学級・特別支援学校の順に障害への支援量は大きくなります。そのため、障害が軽度の場合は通級、より専門性の高い支援が必要な場合、特別支援学級や特別支援学校を検討する場合が多いと言えます。学校によっては見学会や説明会を行っているところもあります。また、文化祭などのイベントに行くことでも雰囲気や様子をつかむことができます。お子さんと学校へ見学に行ったり、周りの学校の先生やお医者さんなどに相談しながら、お子さんにとって最善の教育環境を考えてみてください。カナー症候群のある人の家族や周りの人の関わり方で大切なこと出典 : まずは家族全員がカナー症候群の特徴を正しく理解し、同じ認識、同じ方針のもとで子どもに接することがとても重要です。また、家族としては症状や関わり方を理解していても、外に連れていくことには不安を抱いてしまう、ということもあると思います。ですが、外の世界に触れて刺激を受けたり、さまざまな経験をすることは、カナー症候群のある子どもの社会性を伸ばしていくチャンスにもなります。そのためには家族だけでなく、学校や近所の人を含め地域みんなでその子の特性を理解し、関わっていくことが必要です。以下では、カナー症候群のある人と関わる人のうち、保護者以外の存在ーきょうだいや地域の人たちへの情報発信や関わり方についてご紹介します。■きょうだいのためにできることきょうだいたちの中には、カナー症候群のある子どもをケア親の姿をみて「自分はいい子でいないと」と気持ちを我慢して孤独感や嫉妬を抱えている子もいます。また、親も「いろんな我慢をさせている」「親が死んだらきょうだいどうしで支えあっていけるのか」と不安になってしまうこともあります。まずは、障害について正確な知識を共有してあげて、色々な感情を無理に抑え込まなくていいことを伝えることが大切です。親としてはどうしてもカナー症候群のある子どものことばかりに目が行きがちですが、きょうだいが親と一緒にゆっくり過ごせる時間を積極的につくってあげることも大切です。■地域のひとを味方によく会う近所の人や、行きつけのお店などには、子どもの特徴についてあらかじめ説明しておき、理解を得ることで、「見守り役」として手を差し伸べてもらえるようにするといでしょう。見かけたときは、お互い挨拶をして、必要であればなにかあったときに連絡をもらえるようにしておくことも助けになるでしょう。まとめ出典 : カナー症候群とは自閉症の中で知的障害を合併する場合を指す用語で、医学的な診断名ではありません。現在の医学的な診断名として、いくつかの自閉症状のある障害が統合されてできた「自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」(ASD)と診断されることが定着してきています。カナー症候群を含め、自閉症は生まれつきの脳機能障害であると考えられており、親のしつけや愛情不足が直接の原因ではありません。一人ひとり、個性があるようにカナー症候群の特徴の表れ方もそれぞれです。障害名や病名に基づいて治療・療育をするのではなく、その子どもの特徴にふさわしい療育やサポートを柔軟に行っていきましょう。ときに、子育てに悩んだり親として自信を無くしたりしてしまうこともあると思います。一人で抱え込むのではなく、周囲に正しい理解を持ってもらったり、専門機関や同じ悩みを持つコミュニティに相談したり、頼ったりすることが親子にとって重要です。子どもの心の声に耳を傾け、それぞれの親子にあったスタイルで向き合っていくことが大切になってくるのではないでしょうか。
2017年06月21日心身症とは?定義をご紹介します出典 : 心身症は特定の疾患を指す疾患名ではなく、身体疾患のなかでもこころの状態と身体の状態が相互に影響を及ぼしている状態を指す言葉です。例えば、胃潰瘍(いかいよう)とは胃の粘膜がただれて深く傷ついてしまう疾患です。この発症には様々な要因がありますが、仕事がつらい、プレッシャーがあるといった過剰なストレスを受けたことが要因となって関わる場合があります。このような時に心身症であると言えるのです。胃潰瘍であっても心理的な影響がない場合は心身症とはいいません。また、あくまでも心身症は心理的な要因が関わる身体疾患であり、精神疾患ではありません。参考:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学用語事典第2版』2009年 三輪書店/刊参考:筒井末春ら/著『心身医学 (心身健康科学シリーズ)』2008年人間総合科学大学/刊日本心身医学会の定義による心身症の定義は以下のとおりです。「心身症とは身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など,他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(引用:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊)心身症の種類・分類・症状出典 : 心身症には現実心身症と性格心身症という2つの種類があります。◇現実心身症現実の生活における強いストレス環境に影響されるものです。この場合は大方、環境を改善すれば身体の症状も改善されることが多いとされています。◇性格心身症本人のストレスの受け止め方やストレス対処の仕方に問題があるものです。この場合、身体面からの薬物療法だけでなく、認知行動療法などの心理療法により本人の思考パターンや行動パターンの偏りの改善が必要になることもあります。参考:心身症|Kumano’s Information Base HP参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊心身症の症状は胃潰瘍なら上腹部の痛みや吐き気、片頭痛なら激しい頭痛といったように、疾患ごと、そして患者ごとにそれぞれ異なる症状を持ちます。症状が現れる身体の部分ごとに、以下のように分類されます。心身医学的配慮が必要な代表的疾患◇呼吸器系気管支喘息、過換気症候群など◇循環器系本態性高血圧症、本態性低血圧症、起立性低血圧症、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)など◇消化器系過敏性腸症候群、胃・十二指腸潰瘍、機能性胆道障害、潰瘍性大腸炎など◇内分泌・代謝系糖尿病、甲状腺機能亢進(こうしん)症、神経性食欲不振症、神経性過食症など◇神経・筋肉系筋緊張性頭痛、片頭痛、慢性疼痛(とうつう)性障害、チック、痙性斜頸(けいせいしゃけい)、筋痛症、吃音など◇皮膚科領域アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症、皮膚瘙痒(そうよう)症など◇外科領域頻回手術症、腹部手術後愁訴(いわゆる腸管癒着症、ダンピング症候群ほか)など◇整形外科領域関節リウマチ、腰痛症、多発関節痛など◇泌尿・生殖器領域過敏性膀胱(神経性頻尿)、夜尿症、インポテンス、遺尿症など◇産婦人科領域更年期障害、月経前症候群、続発性無月経、月経痛、不妊症など◇耳鼻咽頭科領域メニエール症候群、アレルギー性鼻炎、嗄声(させい)、失語、慢性副鼻腔炎、心因性難聴、咽喉頭部(いんこうとうぶ)異常感など◇眼科領域視野狭窄(しやきょうさく)、視力低下、眼瞼痙攣、眼瞼下垂など◇歯科・口腔外科領域口内炎(アフタ性)、顎関節症など心身症は、一般的にライフステージごとに現れる症状の性質が異なるとされています。小児期の心身症の傾向としては、特定の器官に限定されず全身に症状がでるとされています。思春期、青年期には、偏頭痛や過敏性腸症候群などの身体の機能の障害が、成人期、初老期、老年期になるにつれて消化性潰瘍などに代表される身体の臓器(構造)の障害としての心身症になりやすい傾向があります。子どもがかかりやすい心身症については以下のページで詳しく解説されています。参考:小児の心身症-各論|小児心身医学会HP心身症になりやすい方の特徴出典 : 心身症になりやすい方には特徴があると言われています。性格面では、生真面目、頑張り屋、人からの頼まれごとを断れない、自己犠牲的、模範的な方がなりやすいです。また、空腹感・疲労感などの身体の感覚への気付きが鈍かったり、自分の内的な感情への気づきや、それを言葉で表現することが難しい方も心身症にかかりやすいとされています。ただし、これはあくまで傾向であり、全ての心身症にかかる方がこのような傾向があるわけではありません。参考文献:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊心身症の原因はストレスなの?出典 : 心身症は、強い心理的ストレスが過剰に、長期間持続することが原因になりやすいです。長期にわたり同じストレスが繰り返されることで、身体の弱いところに症状が現れてしまうとされています。ストレスには家庭や職場、学校における人間関係だけでなく、妊娠、出産、災害、親族の死などがありますが、個人により何にどの程度ストレスを感じるかは大きく異なります。参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊参考文献: 小牧元ら/編 『心身症診断・治療ガイドライン〈2006〉2006年協和企画/刊心身症と似ている病気は?仮面うつ病、自律神経失調症との違い出典 : ここでは、心身症と類似する代表的な病気である仮面うつ病と自律神経失調症を紹介いたします。似ている病気と間違えると、適切な治療方法が受けられず、症状が長引いてしまう場合もあるので注意が必要です。仮面うつ病とは、「他の症状という仮面によって、うつ病本来の症状が見えにくくなっている」うつ病のことで、患者本人が身体的な症状を強く訴えているが、実は抑うつ症状が隠れているタイプのことです。心身症と非常に類似している概念ではありますが、仮面うつ病の中心的な治療は薬物療法としても抗うつ薬の使用が中心であるのに対し、心身症は身体とこころの両面からの治療が重視されます。症状の相違点としては、仮面うつ病は倦怠感や食欲不振、頭痛や肩こりなどの多種多様な症状が全身にみられるのに対し、心身症は胃潰瘍にみられるように身体のある箇所に症状が限定されることが挙げられます。自律神経失調症とは、検査しても明らかな異常がみられないのに、肩こりやめまい、不安感等の様々な不快な症状が現れる状態のことです。心理的な問題やストレスが原因である点は自律神経失調症と類似していますが、実際に身体の臓器もしくはその機能に明らかな異常がみられる点において自律神経失調症とは異なります。詳しくは以下の記事を御覧ください。参考文献: 筒井末春,中野弘一/著 『心身医学入門』 1989年 南山堂/刊心身症の診断はどのように行われるの?出典 : 心身症の診断は、いままで罹った病気や現在の症状、検査の結果に基づく身体面からの資料と面接や心理テストなどの心理・社会面からの資料を総合して病気の様子全体を把握します。重大な身体の病気を見逃さないために、まずは十分な身体面の検査が行われます。どのような身体の病気なのか把握したあとは、その症状にこころと身体の相互影響があるかを確かめ、治療の目的や方針が設定されます。こころと身体の相互影響を確かめるため、面接に加え心身両面の全般的健康状態を把握することを目的として行われるCMI(コーネル・メディカル・インデックス)検査、パーソナリティの特性やタイプを把握することを目的とした矢田部・ギルフォード性格検査(Y-G性格検査)などの心理・社会面の検査が行われることがあります。また、心理的ストレスに由来する身体生理反応を調べるために心電図、脳波、マイクロバイブレーションなどの検査が行われることもあります。参考文献:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊)参考文献:小牧 元ら/編 『心身症診断・治療ガイドライン〈2006〉 』2006年 協和企画/刊)参考文献: 筒井末春/著 『心身医学的ケアとその実践』 1989年南山堂/刊心身症に心当たりがあるときの診療科は?出典 : 心身症を対象としている診療科は心療内科です。とはいえ、心療内科と標榜していても実際は心身症ではなく精神疾患を専門としている場合もあるので、もし通いたい心療内科がある場合は、事前に電話して、自分が抱える悩みが対象かどうか調べることをおすすめいたします。心身症の治療出典 : 身体の症状に合わせた治療とともに、薬物療法や各種心理療法などを組み合わせて行われます。治療の期間は一般的には2~3ヶ月から半年、長い場合には1~2年くらいかかるとされています。参考:日本心身医学会用語委員会/編 『心身医学』1991年10月第31巻 第7号 日本心身医学会 /刊胃潰瘍や喘息などの本人が抱えている症状にあわせて、一般内科や各診療科で行われるような身体面からの治療が行われます。食生活や運動、睡眠などにおける生活習慣の歪みも、症状と密接に関連します。生活療法では、規則正しい生活に正すために諸々の生活習慣や症状の経過などの記録を参考にしながら指導がおこなわれます。薬物療法には、身体症状に対応する薬を用いた治療と、抗不安薬や抗うつ薬、睡眠薬などの向精神薬、漢方を用いた治療などがあります。心身症を対象とする心身医学的治療法にはさまざまな理論・アプローチがあります。身体からこころに働きかける自律訓練法やバイオフィードバックなどの行動療法、交流分析などが代表的です。その他にも音楽療法や森田療法などが行われることもあります。まとめ出典 : 心身症がある方は、胃の痛みや頭痛などの身体症状が前面に出ていることがほとんどのため、心理的アプローチを受けることに抵抗がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?心理的アプローチの必要性があるのに放っておくと症状が長引いてしまう可能性もあります。まずは医師に相談してみましょう。参考文献: 矢吹弘子/著筒井末春/監 『心身症臨床のまなざし』 2004年 新興医学出版社/刊参考文献:石津 宏/編『精神科領域からみた心身症 (専門医のための精神科臨床リュミエール)』2011年中山書店/刊
2017年05月31日神経発達症とは?出典 : 神経発達症(neurodevelopmental disorder)は、情動・学習能力・自己コントロール・記憶といった様々な知的活動に影響する、脳機能の障害です。この言葉は、米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に採用されたことで、広く知られるようになりました。『DSM-5』の日本語版では、正式には「神経発達症群/神経発達障害群(neurodevelopmental disorders)」という形で使われています。「神経発達症」と「神経発達障害」が併記されている歴史的経緯については、「DSM-5」の記事をご覧ください。以下、この記事では「神経発達症」で統一します。神経発達症には、いくつかの障害が含まれます。『DSM-5』では、以下のような障害がまとめて神経発達症と呼ばれています。・知的能力障害群(知的障害)・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(吃音など)・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害・限局性学習症/限局性学習障害(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」)・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)・他の神経発達症群/他の神経発達障害群どうして、これらの障害がすべて「神経発達症」という一つの障害にまとめられるのでしょうか。それは、これらの障害は別々のものではなく、神経の発達阻害という共通の原因を持つ連続的な障害なのだという考え方に基づいています。「神経発達症」という言葉は、そうした連続的な障害の全体を指すための言葉です。近年、この考え方が広まりつつあります。神経発達症と発達障害は、どう違うの?出典 : これまで、自閉症スペクトラム障害・学習障害・ADHDをはじめとするいくつかの障害の総称として「発達障害」という言葉が使われてきました。発達障害という言葉も、神経発達症と同じように、いくつかの障害を統一的に理解するための言葉です。それでは、神経発達症はこれまでの発達障害と何が違うのでしょうか。結論から言えば、「神経発達症」は「発達障害」よりも広い範囲を指す言葉だと言ってよいでしょう。日本での「発達障害」の定義として、「発達障害者支援法」の中で使われている定義がよく知られています。それによると、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」です。発達障害者支援法(2004年)|文部科学省「政令で定めるもの」とは、ここでリストアップされたもの以外の「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害」です。発達障害者支援法施行規則(2007年) |厚生労働省「発達障害」という言葉の範囲は、それほどはっきりと決まっているわけではありません。実際には、リストアップされなかった障害も、必要に応じて「発達障害」に含められてきました。こうした多くの障害を、発生原因に注目してグループ化しなおすために持ち出されたのが「神経発達症」という言葉です。神経発達症の原因は?出典 : 障害と神経発達を関連付ける見方そのものは、『DSM-5』(2013年)で初めて現れたわけではありません。精神医学の中では、一部の障害が中枢神経系の発達阻害に関連しているという仮説が以前から持たれており、研究が進められてきました。近年とりわけ注目されているのは、神経発達症と染色体との関連です。たとえば、“Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children”(編集部訳題『児童期の神経発達症・遺伝子疾患ハンドブック』)(初版1999年)では、個々の障害(自閉症やターナー症候群など、約20件)について、それぞれ神経の発達阻害をもたらす遺伝学的性質に関する研究がまとめられています。 Goldstein and Cecil R. Reynolds, eds., Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children (New York: Guilford, 1999).こうした研究に関連して、昨年、大阪大学が発表したプレスリリースが話題になりました。この研究では、ある染色体の重複が多動に関連するということを、マウスを用いた実験で示すことに成功しました。もちろんこの研究は、神経発達症全体の原因を完全に明らかにするものではありません。しかし、原因の一部を明らかにする研究を積み重ねることによって、原因全体の解明に一歩ずつ近づいているということは確かです。 Fujitani, S. Zhang, R. Fujiki, Y. Fujihara, and T. Yamashita, ’A chromosome 16p13.11 microduplication causes hyperactivity through dysregulation of miR-484/protocadherin-19 signaling’, Molecular Psychiatry 22 (2017): 364–74.神経発達障害群の染色体重複による発症の機序を解明|RESOU Research at Osaka Universityところで、障害の原因を遺伝学的なものに求める立場は、歴史的にずっと中心的だったわけではありません。過去には、「子どもの発達障害は、親の育て方が悪いせいだ」という立場が主流だった時期もありました。自閉症研究のパイオニアであるレオ・カナーも、はじめは自閉症の原因が母親の育て方にあると考えていました。すなわち、母親が子どもに愛情を十分に注げなかったとき、子どもの情緒的発達に悪影響が出て自閉症になる、という見方でした。この考え方は「冷蔵庫マザー」と言う象徴的な言葉とともに広まりました。 Kanner, ‘Autistic Disturbances of Affective Contact’, Nervous Child 2 (1943): 217–50.「冷蔵庫マザー」論は、およそ1970年代までは一世を風靡していました。このことにより、自閉症の親たちは長く批判され責められてきました。しかし、その後はこの見方は多くの専門家によって否定され、またカナー自身もこの見方を自ら放棄しました。そして、自閉症をはじめとする障害の原因は、親子の情緒的関係にあるのではなく、子どもの神経発達のありかた(さらには、その発達を方向づける遺伝学的性質)にあるのではないかという考えが広まり、現在の研究につながっています。DSM-5でも、おおむねこの考え方が採用されています。実際の診断・臨床の場面における神経発達症出典 : 実際の診断では、「自閉症スペクトラム障害」や「限局性学習障害」といった言葉が使われていて、「神経発達症」よりも細かい診断がなされます。これは、「神経発達症」という言葉でいくつかの障害をまとめるという考え方がまだ新しく、今まで使われてきた言葉が浸透しているためであると思われます。しかし、2013年に『DSM-5』が発表されてから数年が経ち、「神経発達症」という言葉も徐々に広まりつつあります。これから先は、診断の中で「神経発達症」が使われていくかもしれません。古荘純一、磯崎祐介『神経発達症(発達障害)と思春期・青年期――「受容と共感」から「傾聴と共有」へ』明石書店、2014年。もともと、『DSM-5』は精神科医の診断マニュアルとして使われています。また、精神科医が実際に使うことを通して問題点を発見し、改訂することによって、精神医学の発展が目指されています。「神経発達症」のような言葉を使って障害をグループ分けすることには、精神医学を単なる精神科医の「カン」ではない体系的なものにする上で大きな意味があります。いくつかの障害に共通点があることがわかれば、それに対するアプローチを考えるにあたって大きなヒントになります。たとえば、自閉症スペクトラム障害は本人のやる気の問題なのか、それとも親の育て方の問題なのか、はたまた染色体の状態に関係しているのか――これがわかれば、障害のある子どもに対して周囲が何をできるのか、あるいは何をできないのかを知ることができます。神経発達症は治るの?出典 : 神経発達症には、根本的な治療法はありません。近年の研究によって、神経の発達阻害を引き起こす因子がいくつか特定されつつあります。しかし、これは神経発達症の原因の一部がわかるにすぎません。また、研究のレベルでわかったことが臨床の現場に応用されるまでには、さらに多くの研究が必要になります。「治す」ことは難しいですが、症状や困難を軽くすることはできます。その具体例として、ここでは3つの例を挙げます。1.環境調整本人の能力や特性に合わせて、接し方・環境・ルール・課題を変えることができれば、障害のある子どもが感じる困難は軽くなります。これまでも行われてきた「合理的配慮」は、神経発達症のある子どもにももちろん有効でしょう。「神経発達症」には様々な障害が含まれていますので、合理的配慮を考える上では、一人ひとりの特性に合わせるということが一層重要になります。2.療育とトレーニング本人の特性に合わせてトレーニングを行い、子どもが認知や行動についての能力を習得できれば、社会生活において感じる困難が軽減されます。この療育についても、今まで行なわれてきたものが同じく有効でしょう。3.薬物療法神経発達症に関連するいくつかの症状は、投薬によって症状を抑えることができます。重要なことは、投薬によって神経発達症そのものを治療できるわけではなく、症状を緩和することと、症状によって生じる不利益を避けることを狙っているということです。投薬による症状緩和についても、これまでと同じように、主治医の先生によく相談することをおすすめします。ここまで見てわかるように、神経発達症に対する向き合い方は、基本的にこれまでの発達障害と大きく変わりません。変わったのは、精神科医が使う診断マニュアル(DSM-5)で使われる名称にすぎません。神経発達症という名前がつくことそれ自体で、障害のある子どもたちの症状が変わったり、困りごとが軽くなったり重くなったりするわけではありません。このことは、神経発達症について考える上で、非常に重要な点です。おわりに出典 : 「神経発達症」という耳慣れない言葉に戸惑っている方は、少なくないでしょう。たとえば、お子さんに自閉症スペクトラム障害があって、そのお子さんの障害を説明するとき、「自閉症スペクトラム障害」「発達障害」「神経発達症」をどのように使い分ければ良いのでしょうか?重要なことは、障害の名前が変わっても、子どもたちの症状や困りごとまで変わるわけではないということです。とりわけ、発達障害は一人ひとり症状が少しずつ違うということが、これまで知られてきました。神経発達症という言葉が登場しても、そのことは同じです。一人ひとりの特性と能力に合わせたサポートが求められます。精神医学はまさに発展の途上にあり、今後も多くの言葉が新たに広まることが予想されます。その新しい専門用語は、実際のサポートにあまり関係ない場合もあれば、サポートのあり方を大きく変える場合もあるでしょう。簡単ではありませんが、こうした見極めが大切です。
2017年05月30日全般性不安障害とは?出典 : 全般性不安障害とは、時間や予定のずれ、仕事、学校、家族、健康などに対して、自分自身で不安の感情をコントロールできないほど過剰に心配をし、普段の活動に支障をきたす状態が続いている状態を指す疾患です。身の回りに起こるかもしれない出来事の発生可能性、発生した際にどういう影響が起こるかという本人の予測は、感じる不安や心配の強度、持続期間、発生頻度と必ずしも一致するものではありません。通常の場合、人はいま行っていることに対しての集中を妨げないために、一旦、不安や心配は抑制されている状態を保ちながら活動に集中できるようコントロールすることができています。全般性不安障害は、こうした不安や心配のコントロールにトラブルが生じ、日常生活に支障が出るほどの症状となって現れた状態であり、一般的な「心配性」とは区別されています。・自分の身の回りに起こる様々な出来事に対して大きい苦痛を感じ、それが長続きする傾向がある。・不安や心配の感情が前触れなくいきなり生じる。・不安や心配の感情がからだの不調になって現れる。以上の症状を顕著に感じ、長期化しているとき、全般性不安障害を発症している恐れがあります。全般性不安障害の主な症状出典 : ■共通して現れる症状....すべての人に共通して現れる症状は以下の2つです。・過剰な不安と心配をする日が、しない日よりも多い状態が少なくとも6ヶ月以上続く。・自分自身で心配を抑制することを、むずかしいと感じる。■個人差がある症状....不安と心配の感情と共に、以下のうち3つ以上(子どもの場合は1つ以上)の症状が現れます。・落ち着きのなさ、緊張感、神経の高ぶり・疲労しやすい・集中困難、心がからっぽに感じる・挑発されたと感じると、すぐに頭に血がのぼってしまう・筋肉が震えたり、筋肉痛になったり、収縮感を感じたりするなどして緊張する・寝付きの悪さ、途中で起きてしまうなどの睡眠障害・発汗、吐き気、下痢などの身体症状・突発的に起こった出来事に対して、顔面蒼白、冷や汗、動機、不眠、脱力感などの精神的、身体的反応を生じる極度の驚愕症状日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.221全般性不安障害を発症しやすい人の特性出典 : 全般性不安障害は、生活の全ての要素に対して不安を感じ、その不安が慢性化していくことによって発症します。そのため、時間の経過によって不安の出現がクセになっていく可能性が増え、30歳くらいで発症する人が多いです。そして、年齢を重ねるごとに症状は比較的小さくなると言われています。また、女性の方が男性より2倍経験しやすいとされています。加えて、以下の性格をもつ人は全般性不安障害を発症しやすいといわれています。・周囲の環境を敏感に感じ取ってしまう人・コンプレックスを抱えており、自信がない人・完璧主義者、完璧以外に極端な不満を持つ人・過度の保障を必要とする人しかし、これらの特徴がある人が必ず発症するとは限りません。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.222全般性不安障害は年齢とともに発展していくの?その経過は?出典 : 全般性不安障害による症状は、生涯を通じて慢性化し、よくなったり、悪くなったりを繰り返します。また、心配したり、不安になったりする対象は、年代や自身の置かれているライフステージなどによってその都度変化していきます。子どもは特に、学校の成績や友人関係、スポーツなどにおいて、自分は優秀なのか、できる子なのかと、過剰に心配する傾向があります。自身ができる子なのかという判断は、他人と比べる相対評価からくる判断ではありません。大人は、仕事への責任の重さ、自身・家族の健康、家計、身の周りの人たちに起こりうる災難、日常的におこるささいな時間・予定のずれなどにおいて、毎日定期的に心配します。Upload By 発達障害のキホン全般性不安障害の原因出典 : 原因として、性格からくる要因、環境からくる要因、生物学的要因の3つがあります。性格からくる要因として、我慢強い性格、ネガティヴ思考、リスクをとらない性格などが挙げられます。我慢強い性格が全般性不安障害の原因になってしまうのは、我慢という行動は、他人に嫌われるのが怖いなどといった不安や心配する感情が伴っているからです。また、ネガティヴ思考が原因になってしまうのは、常にネガティヴな気持ちに伴って不安や心配の感情がおこっている場合が多いからです。そして、リスクを取らない性格が原因になってしまうのは、常にリスクに伴う不安や心配が念頭にあり、行動することによって危険にあう可能性をネガティヴに捉えてしまう傾向があるからです。環境的要因として、子どもの頃の逆境や親の過保護を受けた経験が当てはまります。しかし、これらは完全に証明されたわけではなく、必ずしも十分な要因ではありません。生物学的要因として、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが関与している場合があるという説があります。セロトニンの分泌量を調節するセロトニントランスポーター(日本では不安遺伝子と呼ばれている)が作用し、これらは遺伝性が認められています。そのため全般性不安障害は遺伝的要因により発症する場合もあると考えられているのです。しかし、全般性不安障害の原因のすべてについては、まだはっきりとはわかっていない部分も多いため、更なる研究が必要な段階です。参考:非定型 抗精神病薬の効果と脳内レセプター遺伝子に関する神経薬理学的研究全般性不安障害と併存しやすい症状出典 : 全般性不安障害と併存しやすい症状として、不安分離障害、広場恐怖症、パニック障害などの他の不安症や、単極性抑うつ障害(うつ病)が挙げられます。これらが併存症と診断されていない場合であっても、過去~現在にかけて、診断基準を満たしている場合が多く見られます。また、感じている不安や心配を打ち消すためにアルコールを継続して摂取し、アルコール依存症になってしまうケースも多いと言われています。全般性不安障害の診断基準出典 : 年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)によると、全般不安症/全般性不安障害として以下の診断基準があります。A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動について過剰な不安と心配(予期憂慮)が起こる日のほうが起こらない日より多い状態が少なくとも6ヶ月間にわたる。B.その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている。C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヶ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。注:子どもの場合は1項目だけが必要。ⅰ落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶりⅱ疲労しやすいことⅲ集中困難、または心が空白になることⅳ易怒性Ⅴ筋肉の緊張Ⅵ睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または落ち着かず、熟眠感のない睡眠)D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。F.その障害は、他の精神疾患ではうまく説明できない(例:パニック障害におけるパニック発作が起こることの不安又は心配、社交不安症における否定的評価、強迫症における汚染、または他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点の知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配)。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.220より引用全般性不安障害かも?と気になったときは専門機関に相談を出典 : 全般性不安障害は通常、身体の不調の症状を強く感じて内科に診察を受けに行く人が多いです。しかし、検査をした際に異常なし、と診断されることがあり、精神疾患について言及するお医者さんは必ずしも多いとは言えません。他の科で異常がないと診断されたが、身体的、精神的不調が半年以上続いており常に不安なことがある。もしくは、周囲の人に相談したり、打ち明けたりすることに抵抗感を感じたりする場合は、以下の相談先に相談するか受診をおすすめします。■全国精神保健福祉センター....都道府県・政令市には、ほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、予約制、健康保険の適応があるところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省■精神科....心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは具体的に不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などのことです。心の症状に対して治療を行います。■心療内科....心と身体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。精神科で扱う心の症状だけでなく、ほてり、動悸などの身体的症状とその人の社会的背景、家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、全般性不安障害の場合、身体にも心にも症状がでるため、精神科を受診しても心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。全般性不安障害の治療法出典 : 全般性不安障害の治療法として主に薬物療法と精神療法があります。■薬物療法即効性があるといわれている抗不安薬を用いる場合があります。代表例はベンゾジアゼピン誘導体、タンドスピロンなどです。ベンゾジアゼピンは不安や緊張を和らげる効果がありますが、連用すると依存症になりやすいといわれており、アルコールとの併用は厳禁です。また、連鎖的に表れる不安には抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、5-HT1A受容体部分作動薬などが用いられます。全般性不安障害は精神を安定させる働きのある脳内伝達物質、セロトニンの調節安定性も大きく関わっています。そのため、セロトニンに直接作用する抗不安薬が即効性があるといわれているのです。しかし、薬には副作用もありますし、人によって合う合わないがあります。低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で納得して治療を進めるとよいでしょう。精神療法は、即効性はありませんが薬物療法に比べて副作用が少なく、再発率も低くなっています。全般性不安障害に有効な精神療法の2つの代表例は以下の通りです。■認知行動療法(CBT)認知療法・認知行動療法は、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。具体的には、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのかを客観的に観察し、“自動思考”という考えのクセを把握します。そして、そういった状況に直面した際に、どのように考え、対処していけばいいかを考え、考え方をコントロールしていく治療法です。参考:全般性不安障害の治療方法 l 前田クリニック参考:認知療法・認知行動療法マニュアル l 日本認知療法学会■森田療法森田正馬が1910年代に自身の体験から考案した精神療法です。森田療法は全般性不安障害の治療として有効であると言われています。不安や恐怖という感情を、自然な感情と受け入れ、不安や恐怖はダメな感情であるという、とらわれた考えから脱出することを主な目的としています。また、不安や恐怖という感情は、よりよく生きたいという考えと表裏一体という認識をとっています。そこで、自身のあるがままの不安や恐怖を受け入れることにより、自身の中の健康な力や豊かな感情に気づくことができるとされています。全般性不安障害に対して、日常生活でできること出典 : 全般性不安障害に対して、日常生活で行えること。それは生活習慣を整えていくことです。なぜなら、生活習慣が乱れた日々が続くと、いつもよりネガティブになったり、イライラしたりし、精神状態が不安定になってしまうからです。そのため、以下の基本的なことから意識して行っていきましょう。・十分な睡眠をとる・栄養バランスのとれた食事を摂取する・適度な運動をする・アルコール摂取量を控えるまた、生活習慣を整える以外にも有効な対処法があります。・環境を整えるための対人関係の整理・筋肉の弛緩、深呼吸などの個人でできるリラックス法の確立家族や周りの人が全般性不安障害だったとき、どう対応すべき?出典 : 全般性不安障害がある人は、自身の抱えている不安や心配を、周囲の人に相談したり、訴えたりすることが多いです。その際に、不安や心配に伴って、こころだけではなくからだにも不調が長く続いていることを理解してあげることが重要です。では、具体的にどう接することが適切なのでしょうか?・気持ちの問題や、性格だと決めつけない。・否定的なことを言わない、できないことがあっても責めない。・不安を訴えているときは、その対象に対してアドバイスをするより、まずはどんな時も側にいてあげるという意思表示をする。・辛い時は休める環境を整え、安心感を与える。・本人が意識を変えようと努力しているときは積極的に褒める、賛同する。これらを意識して温かい気持ちで支えてあげることをおすすめします。まとめ出典 : 全般性不安障害は、多数の出来事や活動に対して過剰な不安と心配をする症状を発症し、それと同時にからだの不調も現れる疾患です。しかし、 不安という感情は全ての人がもつ感情であり、疾患かどうかを自己判断するのは難しいです。また、慢性化することで治りにくくなるため、早期から治療することが重要です。そこで、周囲の人もただの「心配しすぎ」だと思わず、優しく見守り、場合によっては専門家に相談するよう促すことをおすすめします。
2017年05月29日めまぐるしいけど愛おしい、空回り母ちゃんの日々
こどもと見つけた小さな発見日誌
育児に遅れと混乱が生じてる !!