【音楽通信】第88回目に登場するのは、これまでに8度のワールドツアーを成功させ、音楽活動以外にも俳優としてハリウッドデビューを果たし、ワールドワイドに活躍している、世界的ギタリストのMIYAVIさん!バンドの花形であるギターを選んだ理由【音楽通信】vol.88エレクトリックギターをピックを使わずにすべて指で弾く、独自の“スラップ奏法”でギタリストとして世界中から注目を集め、これまでに約30か国 350公演以上のライブとともに、8度のワールドツアーを成功させている、MIYAVIさん。音楽活動の一方では、アンジェリーナ・ジョリー監督の映画『不屈の男 アンブロークン』(2016年日本公開)で俳優としてハリウッドデビューを果たし、2017年には日本人として初めてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の大使に就任。そんなさまざまなかたちでワールドワイドに活躍するMIYAVIさんが、2021年9月15日にニューアルバム『Imaginary』をリリースされるということで、お話をうかがいました。ーーおさらいとして、まずギターを始めたきっかけから教えてください。もともと小学生の頃からサッカーをやっていて、プロを目指していました。大阪にあるプロチームのジュニアユースに入ったのですが、14歳ぐらいのときに怪我で挫折して。そこから地元の友人たちとバンドでもやるか、となって。ーーいろいろと楽器はありますが、なぜギターだったのでしょうか。やっぱギターはバンドの花形、ある種ロックの象徴。バンドといったらギターだろう! と単純な思考で選びました。ーーユースチームに入るほどの才能もあり、そこからさらにこうして音楽活動などでもご活躍されていてすごいですね。サッカーのほうはそんな才能ないですし、とはいえ音楽のほうも才能ではなく、これは僕に限らずですが、一つの物事にどれだけの熱量と時間をかけているか、ということだと思うんです。サッカーでは僕よりも才能のあるプレーヤーはいましたし、だから僕はキープアップできなかった。そういう意味では、その挫折で得たものを音楽活動に活かしている部分はあると思います。ーー当時よく聴いていたアーティストの音楽はなんでしょうか。(アメリカのブルースギタリスト)スティーヴィー・レイ・ヴォーンですね。他とは違う、一度音を聴いたら「あっ、スティーヴィーだ!」とわかる音の強さと、唯一無二の存在感が好きでした。(エリック)クラプトンや、ジミ・ヘンドリックスも好きでしたね。アルバムを聴いて「未来を感じてほしい」ーーMIYAVIさんは9月14日が40歳のお誕生日ということで、おめでとうございます。ありがとうございます。ーーお誕生日の翌日、2021年9月15日に13枚目のアルバム『Imaginary』をリリースされるということで、30代最後の作品となりますね。仕上がった手応えから教えてください。実は、このアルバムはもともと去年4月に発表した前作『Holy Nights』に続けてすぐリリースしようと思っていた作品なんですが、コロナでツアーなどが延期になり、やっぱり自分にとっては、こういった音楽作品ってライヴでオーディエンスの皆に届けてはじめて完成する部分もあるので、改めて2021年に発表することになりました。前作は『世界に目を向けると世界は燃えている、この時代で何を歌えるのか、歌うべきなのか』というテーマで制作して、今作では『その後の世界、どんどん価値観がシフトしていく中で僕たちの新しい在り方、存在意義』をテーマに作りました。今、このコロナ禍でこの時代に生きていて思うことは、『音楽家として何ができるのか』僕たち音楽家は少なからず影響力を持っていて、その力を持って作品を通じて、救える人がいるとしたら、少しでも未来への希望を持てるものを作りたい。僕たちの持つ想像力や創造性、これこそが未来へのキーなんじゃないかと。『Imaginary』というタイトルをつけたのも、未来を指し示すためです。ーー昨年リリースするつもりだったということは、制作期間は長かったのですか。はい、昨年の段階で作り上げていました。でもリリースするタイミングを延ばすとなって、そのまま一度冷凍保存したんです。やっぱり時代が変わると、言いたいことの温度感も変わってくるので。そして今年の2月ぐらいから制作を再開しました。ーー収録曲についてもいくつかうかがいます。2曲目「Imaginary (feat. Kimbra)」は9月1日に先行配信された楽曲で、アルバムのタイトル曲でもあります。もっとも今作を表す楽曲ということになるのでしょうか。そうですね。Imaginary、想像力、イマジネーション、これこそが、僕たちの未来を切り拓いていくうえでの武器だと強く感じています。1曲目「New Gravity」も、アルバムのタイトルにしようかなと思っていたくらいの曲で。新しい重力、既存のルールや在り方、自分たちが作ってきたもの自体が自分たちを縛り付ける重力そのものだったんじゃないかと。そこから解き放たれて、新しい価値観、新しい世界の中で、僕たちがどう飛べるのか、を歌っています。ーー6曲目「Hush Hush (feat. Kang Daniel)」は韓国の男性アイドルグループのWanna Oneの元メンバーである、韓国の歌手、カン・ダニエルさんとの楽曲ですね。MIYAVIさんが、コラボのお声をかけたということですか。そうです。コロナ禍での制作期間だったので、直接会わずにリモートで制作していって。会わずしても、こうしてつながって、完成できたのもご縁だと思います。自分だけでは出せない表現をしてくれたと思いますし、曲の世界観が広がったので、すごくうれしいです。ーー4曲目「Smells Like Teen Spirit」はニルヴァーナのカバー曲です。7曲目にもカバー曲はありますが、このニルヴァーナの曲を選んだ理由はなんでしょうか。カラオケで得意なんで……というのは冗談ですが(笑)、やっぱり歴史を変えた楽曲ですから。同じギターミュージックとして、新しい解釈で挑ませていただきました。7曲目「Youth Of the Nation (feat. Troi Irons) 」(P.O.D.の「Youth of the Nation」カバー)は、ちょうどアメリカで学生運動が盛んになっていた時期に作りました。やはりいつの時代も未来を作るのは、若い世代。これもオリジナルと全然ニュアンスが違うし伝え方は違うけれど、現状を打破する、熱量の大きさという意味では負けていない曲になっています。ーーすでにアルバムから先行配信された楽曲もありますし、みなさんの反響も楽しみですね。そうですね、やっぱり、自信はありますよね。歌うべきことを歌っている自信はあるし。マイナーチェンジですけど、自分のなかでの成長というか。エクスプレッションの部分、表現力やコンポーズ能力は上がってきていると感じていますーー9月30日から10月は、アメリカ合衆国とカナダで19都市をまわる北米ツアーを予定されていますね。現在の状況下ではライヴを行う際、大変なこともありませんか。正直、コロナで先が見えないところもありますが、やるしかないですし、何よりやれることに感謝したいです。日本では、アルバム『Imaginary』のリリース前日が誕生日なので、節目を祝うバースデーライブをUSEN STUDIO COASTで開催します。そのあと、もうひとつ、京都の清水寺で新たなバーチャルライヴを行う予定で、その後に北米ツアーとなります。ーー清水寺でのライヴは、配信されるのですか。配信します。とくにオリンピックの開閉会式を観て強く思ったこともあったので、僕だったら、日本のライヴをこうしますよ、ということを表現したライヴになる予定です。日本から世界に対して、メッセージを発信します。ーー日本から発信されるというのは、日本人としてもうれしいですね。清水寺でロックするのは、初めてのことみたいです。何より神聖な場所ですし、僕たちも気を引き締めて臨みたいと思います。「目の前にいる人たちに音楽を届けたい」ーー音楽活動以外では、2021年9月10日から配信されたデヴィッド・リーチ製作総指揮による、アメリカのアクションスリラーでNetflix映画の『KATE』にもご出演されていますね。日本人キャストとしては、他に浅野忠信さん、國村隼さんもご出演されています。『KATE』は監督と出会って、オーディションを受けて、役柄がハマったというのもあって、参加させていただきました。タイで撮影しましたが、他の日本人のキャストの方とはシーンが別だったので、そんなに絡んでいないですね。作品自体は、初めてのガチアクションなので、面白かったです。なかなかギタリストで、アクションもやれる人はいないと思うし、こんな挑戦をさせてもらえること自体、とても光栄でした。ーーその一方で、9月3日から配信された新しい音楽バラエティ番組、Amazon Prime Video「ザ・マスクド・シンガー」では、パネリストとしてご出演しています。全米で大ブームだった人気番組の日本版だそうですね。この日本版は大泉洋さんがMCで、パネリストは他にPerfume、水原希子ちゃんたちも一緒に出演しています。マスクをかぶったパフォーマーが歌い競い合い、僕たちは誰もその正体を知らずに観るんですが、今回日本の曲がほとんどで、70〜90年代の邦楽の強さをあらためて感じました。NetflixやAmazon Prime Videoといった新しいメディアの台頭もあって、世界中で観ることができる。作品の作り方も変わってきていますよね。こういったメディアを通じて、今この瞬間に地球の裏側の人にコンタクトできる。これは、文明のパワー。それを良い形で使うのか、そうじゃない形で使うのかは、僕たち次第だと思っています。ーーではお仕事以外で、おうちにいる間はどのようにお過ごしですか。キッズたちと遊ぶことが多いですね。生まれたばかりのベイビーもいるし。ーーお子さんにはギターを教えることも?ギターも教えますし、歌も一緒に歌います。皆でファミリーバンドもやります。夏はプールも行ったりキャンプに行ったりしました。いまは日本にいるので、できるだけ日本の文化を経験させてあげたいですね。ananwebをご覧の方のなかには、僕と同じようにお子さんがいる方もいるかもしれないですが、子を持つというのは、やっぱり大変だし、もう一度自分の人生をやり直すような不思議な感覚もあります。自分のDNAが入っている子どもたちの軌跡を見ながら、うまくガイドしていくのは大変だけど、自分たちもまた人として成熟していく、その過程だと感じます。ーーMIYAVIさんは日本だけでなく、海外でもご活躍されていますが、そのエネルギーの源はどこからきているのでしょうか。うーん、どうだろう。小さいときから、人が驚いたり喜んだりする顔を見るのが好きなので、「ワオ!」という体験を共有したい、という思いからかなと。「ワオ!」を感じたときに、未来を感じる。人を喜ばせたくて、自分もエネルギーが湧いてくるのかもしれません。ーーいろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。9月のバースデーライブをやったあと、日本から世界に届けるプロジェクトにチャレンジします。それはきっと(VRを使用したリアルとバーチャルをつなぐパフォーマンスイベントの)「Virtual LIVE」の延長線上になるはず。そして、いよいよアメリカツアーがはじまります。年内には、日本でもツアーをしたいですね。いまはライヴに行きたくても行けない方もいるじゃないですか。ライヴをやることだけが正解ではないと思うんです。だけど僕のやれることはやっぱり、目の前にいる人たちに音楽を届けること。なので、また早くライヴで皆に会いに行きたいですね。取材後記その志の高さで、ギタリストとしてはもちろん、俳優としても、ボーダーレスに国内外でご活躍されているMIYAVIさん。ananwebの取材では、未来を見据える力強い瞳が印象的でした。そんなMIYAVIさんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・山本嵩取材、文・かわむらあみりスタイリスト・櫻井賢之[casico]<スパンコールセットアップ>ジャケット¥869,000、シャツ参考商品、パンツ¥385,000、ソックス参考商品、スニーカー参考商品/グッチ(グッチ ジャパン クライアントサービス 0120-99-2177)MIYAVIPROFILE1981年9月14日、大阪府生まれ。バンド活動を経て、2002年からソロ活動を開始。以降、コンスタントに作品を発表し、国内外でのライブも成功に収めている。2019年7月、アメリカのドジャースタジアムで行われた大リーグ始球式での国歌演奏で観客を魅了し、日本、アメリカで話題騒然となった。アンジェリーナ・ジョリー監督映画『不屈の男 アンブロークン』(2016年日本公開)では俳優としてハリウッドデビューも果たした他、国内では『BLEACH』『ギャングース』(ともに2018年公開)、国外では『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年日本公開)、『マレフィセント2』(2019年日米同時公開)などにも出演。2020年6月、GUCCIがグローバルに展開する「Gucci Off the Grid」コレクションの広告に起用される。GUCCI創設以降、約100年の歴史のなかで広告に日本人の著名人が起用されるのは初の快挙となった。2021年9月15日、アルバム『Imaginary』をリリース。アルバム発売前夜の誕生日となる9月14日、バースデーライブを東京・STUDIO COASTにて、9月18日、京都・清水寺でライブを開催。9月30日からは、カナダ・アルバータ州カルガリーを皮切りに、ロサンゼルス、ニューヨークを含む北米19都市を巡る、北米ツアー「MIYAVI North America Tour 2021」を行う。InformationNew Release『Imaginary』(収録曲)01.New Gravity02.Imaginary (feat. Kimbra)03.Warrior04.Smells Like Teen Spirit05.Living In Fire06.Hush Hush (feat. Kang Daniel)07.Youth Of the Nation (feat. Troi Irons)08.I Swear09.Are You With Me?10.Dance With Me11.Super Hero2021年9月15日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)TYCT-60176(CD)¥3,080 (税込)(完全生産限定盤A)TYCT-69206(CD+DVD)¥4,400 (税込)(完全生産限定盤B)TYCT-69207(CD+DVD)¥4,400 (税込)(UNIVERSAL MUSIC STORE 限定セット)通常盤+Tシャツ¥5,500(税込)*サイズ:Lサイズ(ワンサイズのみ、身丈 73cm,身幅 55cm,肩幅 50cm,袖丈 22cm)。写真・山本嵩 取材、文・かわむらあみり スタイリスト・櫻井賢之[casico]
2021年09月14日恋に奥手な『建築学概論』の大学生、過去と繋がる「シグナル」の捜査官、悪を成敗する「模範タクシー」の運転手、遺品整理業に関わる「Move To Heaven:私は遺品整理士です」のボクサー。イ・ジェフンには様々な顔がある。けれど、モニター越しにニコニコと微笑む彼は、どの役とも印象が異なる。その理由は、「この作品なくして、今の僕はいません」と言い切る1作、『BLEAK NIGHT 番人』の中にあるようだ。遡ること10年以上前に製作された『BLEAK NIGHT 番人』は、イ・ジェフンの出世作とも言える映画。この作品で彼は各映画賞を受賞し、トップ俳優への道を歩み始めた。その日本初配信がWATCHAで実現したのを記念し、韓国からリモート取材に応じることに。出世作は「演技人生の基盤を作ってくれた」「演じる姿勢というものを僕に教え、演技人生の基盤を作ってくれたのがこの作品です。カメラが回っているときだけ演技をし、カットがかかった途端に元の自分に戻るのではなく、常に役のまま生きていく。撮影期間中はそうあるべきだと学びました。言ってしまえば、メソッド演技というやつですね。役にできるだけ近づき、なりきる努力こそが大事。以降、どんな作品でどんな役を演じるときも、役になりきってきました」さらっと語る表情からは信念と強さすら感じられるが、その演技法が俳優、とりわけ若い新人俳優にとってどれほど過酷だったかは、『BLEAK NIGHT 番人』の物語を知れば容易に分かる。イ・ジェフンが同作で演じたのは、自ら死を選ぶ高校生。物語が進むにつれ、生前の彼に何があったのかが浮き彫りになってくる。「正直、本当に不安で、つらくて、大変でした。その感覚を維持するよう、ユン・ソンヒョン監督は撮影中の僕を導いていたのだと思います。完成した作品を見たときも、僕が演じたギテにその不安やつらさが投影されているのを感じました。俳優としてどうあるべきか、その宿命を学ばされた気もしています。技術だけでもある程度の演技はできますが、より深みのある演技をするには役として経験し、感じなくてはならない」(C) COMPANY ONギテにはかけがえのない友人が2人いた。けれども、友人との幸せな時間は続かなかった。彼らの青春には若さゆえの痛みが詰まっていて、ギテの抱える問題も若さゆえにひどく重い。年齢を重ねた現在のイ・ジェフンは、物語をどう捉えているのだろうか。「おっしゃる通り、“若さ”ですよね。この年齢になるまで人間関係を構築してきた僕には、経験があります。でも、高校時代は未熟さとともに、人間関係を保っていかなくてはならない。幼いですしね。だから、友人との間でも思いやりが欠如してしまう。相手を大事にできず、それに気づくことすらないまま学生時代を過ごしがち。大人になったいまは人間関係の大切さを実感できていますが、僕自身、学生時代には仲のいい友人もいれば、それほど仲のよくない友人もいました。けれど、当時の交友関係が僕という人間の成長や人格形成に大きく影響しているのは事実。誰かに関心を持ってほしい、誰かに愛情を持ってほしいという若さゆえの焦燥もまた、自分の一部なんです」常に挑戦的な役柄に「見せたことのないイ・ジェフンをお見せしたい」“あのころ”から時間を経たことは、痛みからの脱却だけでなく、イ・ジェフンにさらなる喜びをもたらした。2020年、Netflix映画『狩りの時間』でユン・ソンヒョン監督と再タッグ。『BLEAK NIGHT 番人』ではギテと心が通わなくなる友人を演じたパク・ジョンミン、ギテの死を悔やむ父親を演じたチョ・ソンハとも再共演を果たした。「そうです。今度はずっと仲のいい役です(笑)。『狩りの時間』の撮影中は、『BLEAK NIGHT 番人』当時の話に花を咲かせていました。何せ、撮影状況が全く違いますから。かたや低予算の独立系映画で、真冬の撮影現場に暖房器具すらない。『(日本語で)寒い~。寒い~』と嘆いていました。一方、『狩りの時間』も実は冬の撮影でしたが製作費は潤沢で(笑)、俳優たちが演技に集中できるような環境が整っていました。でも、笑いながら苦労話ができる仲間との再共演はうれしいものです。彼らは“映画の同志”ですから」(C) COMPANY ONそんな『狩りの時間』を含め、イ・ジェフンのフィルモグラフィーがバラエティに富んでいるのは前述の通り。メソッド演技法で身を捧げるのが困難な役も、決して少なくない。「日本でもリメイクされた『シグナル』は、大変だった役の1つと言えるかもしれません。過去と交信しながら事件を追うプロファイラーの役ですから。実際に事件を感じつつ、冷静に捉えなくてはならない。感情を抑えながら、理性と感性を衝突させるんです。精神的な苦痛がないとは言えませんね。しかも、視聴者に感情移入させないといけませんから。現実的にアプローチしようとはするけど、ファンタジー要素は消せない。リアルに演じたからと言って、リアルに受け止められるか。すごく不安でした。様々な要素が絡み合う中、様々な感情と向き合わなくてはならなかったんです」(C) COMPANY ONそれでも、様々な感情に進んで身を置き、挑戦的な役柄を好んでいるようにも。役柄ごとのイ・ジェフンを存在させながら。「何よりも大事なのは、脚本です。僕は面白く感じたけど、皆さんはどうだろう?そんなことを考えます。できれば、すでに演じた役柄と重ならない役がいいですね。今までの演技を生かす方法も有効だとは思いますが、個人的には、別の領域に足を踏み入れ、新しい自分に出会いたい。いつもそんな気持ちでいます。ご覧いただく方にも、見せたことのないイ・ジェフンをお見せしたいですから。それが、僕にとっての探求心ですね」「対面でお目にかかれる日を楽しみにしています。(日本語で)ありがとうございました~」と、冒頭と変わらない朗らかな調子でインタビューは終了。そんな状況が訪れるころまでに、彼の顔はいくつ増えているだろうか。(text:Hikaru Watanabe)
2021年09月14日夫婦や不倫をテーマにした作品は数多くあれど、夫婦間の心理戦にぐぐっと迫った映画として、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は一線を画す。W主演で夫婦役を務めた黒木華&柄本佑も、「とにかく脚本が面白くて!」と、巧みな心理描写&あっと驚くストーリーに舌を巻いたとインタビューで伝えてくれた。売れっ子漫画家の佐和子(黒木さん)は、優しい夫の俊夫(柄本さん)をアシスタント代わりに、仕事を手伝ってもらう日々。結婚5年目、夫婦生活は順風満帆に見えた。…が、俊夫は佐和子の担当編集者・千佳(奈緒)と不倫関係にあった。ふたりの仲を知った佐和子は、新作のテーマを現実そっくりの不倫漫画にすることを思いつく。果たして、その漫画は創作なのか?復讐なのか?――真意を読み取らせないままどんどん書き進めていく佐和子、まさかの展開が続く内容に恐怖が止まらない俊夫。ふたりの息の合った演技バトルが物語をリードする本作、共演経験を振り返ってもらった。気持ちよく騙される本作、「俊夫は黒木さんに引き出してもらった」――『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM」の2018年準グランプリに輝いた作品です。脚本を読まれての印象から教えていただけますか?黒木:ホンがとても面白くて!佐和子が本当はどう思っているのか、俊夫さんの振り回され加減まで全部が面白かったので、「佐和子という役をやってみたい」と思いました。それに、漫画パートと現実パートが映像になったときにどうなるのだろう、と気になりました。完成した作品を観たとき、想像していた以上に流れがよく見え、わかっていたはずの私でもいろいろ気づかされることが多く、本当に面白かったです。柄本:僕も、初めてホンを読ませてもらったとき、展開の面白さをすごく感じました。何よりも偏りのない、観る人を選ばない、老若男女が楽しめる王道のエンターテインメント作品を監督がやろうとしてるんだ、と感じたんですよね。コメディ要素あり、ミステリー要素もあり、で、楽しく気持ちよく騙される作品だと思ったので、やってみたいなと思いました。――本当に、いろいろな要素が混じって引き込まれ、ハラハラしながらも楽しめる作品ですよね。柄本:入り口は“不倫映画”と謳っていますけど、なんかね、観終わった後、「あれ?これ不倫だったよね!?」ぐらいの爽やかさがあって(笑)。とにかく映画の中での黒木さん演じる佐和子の、何か確信めいたときの女性の強さみたいなもの、突き進んでいく姿は、観ていて非常に気持ちがいいと思うんです。女性の格好良さがとっても目立った映画じゃないかな、と思います。身を任せていただければ、非常に気持ちよく騙されますから。――素晴らしい脚本を体現したおふたりの演技合戦もあまりに秀逸で、鳥肌が立ちました。ご一緒されてみて、いかがでしたか?黒木:私、もともと柄本兄弟(柄本佑&柄本時生)がすごく好きで、映像作品も観ていますが、ふたりでやられている舞台が特に大好きで。今回、現場でご一緒してみて、柄本さんは最初からとても優しい方で、どっしりと、そして常にフラットに構えてくださり、待ち時間も気負わず、お互いにいい距離感でいられました。柄本:本当!?それを言われるのはうれしいなあ。ここまで同じシーンをやるのって、ほぼほぼ初めてなんだよね。黒木:はい、そうですよね。柄本:なんだけど、初めてな気がしないというか。勝手にですけど、僕は近しい距離感を感じていて。だから自然と夫婦感というところには入っていけたし、同じくふたりで黙っていても全然平気というか。それに今作に関しては、黒木さんの持つミステリアスさがあったからできたんです。僕が何かをやったというより、黒木さんの表情なり声のトーンなり、その場で素直に反応さえしていれば、このホンの面白さが自然に出るようになっていたような気がします。俊夫は黒木さんに引き出してもらっているところが、すごく多かったです。心理戦は得意?黒木さんは“ハイブリッドタイプ”柄本さんは…――おふたりの“不倫相手”に位置する金子大地さん、奈緒さんもぴったりでした。共演されて、いかがでしたか?柄本:金子くん、めっちゃいいやつなんですよ!なのに、抜け感もあって、寡黙だけじゃない、みたいな。すげえやついた、なんか欠点見つけたいな…って(笑)。黒木:金子さん、本当にいい子でチャーミングですよね。お芝居に対しても、すごく真面目ですし。奈緒さんもですが、年下のみんなが可愛く見えてしまって(笑)。「みんな可愛い、頑張れ、頑張れ!私も頑張ろう!一緒に頑張ろうぜ!!」みたいな感じでした。柄本:それは偉いよ。俺は14のときからこの仕事をやっているけど、いつも一番年下で。そのときは別に話す必要もないし、黙っていてもいい、みたいな感じだったの。後輩が出てくると、段々黙っているだけではいけなくなってきて。でも俺、そういうのをやってきたことがないから、本当に後輩とどう接していけばいいかわからなくて(笑)。変わったのは結婚して子どもが生まれてから。何となく現場で年下のこと接することが大丈夫になってきたんですよね。――そうだったんですね。奈緒さんは、いかがでしたか?柄本:奈緒さんは、俺、割と「ベテラン感あるなあ」と思っていました!非常にチャーミングな悪女をやってくれたんですよね。黒木:安心感ありましたよね。俊夫さんの不倫相手だけど、スカッとしていてカッコいいな、と見ていて思いました。悪女ではあるんですが、「しょうがないか、俊夫さんだったら、引っかかるかな」とさえ思えてくる(笑)。――本作は心理戦が見どころのひとつですが、おふたりとも、心理戦は得意なほうですか?計画的なタイプです?柄本:僕は割と先に先にって考えられるタイプじゃないな。黒木:私も、得意なほうではないですね。柄本:しょっちゅううちの奥さんに言われるんだけど…、「一緒にあそこに行こう」と家を出るじゃないですか。玄関を出て、右に行くか左に行くかのルートなんだけど、俺、本当に何も考えないで歩くから、そのとき思った方向に行っちゃうんです。そのときの足の運びによって行っちゃう、みたいな。だから、よく「そっち全然遠回りじゃん!」とか言われる(笑)。着くからいいじゃん、とこっちは思っちゃうんだけど。…女性のほうが気にするのかな!?黒木:私はあまり気にしないかもです。――黒木さん、計画的だったり、せかせかしていないタイプなんですか?黒木:私は計画的ではないところと、せっかちなところが両方あるハイブリッドタイプです(笑)。人がそこに入ってくるとどちらでもいいと自由になれるんですが、自分自身だけだとせっかちです。柄本:一番いいと思う!結婚後は「自分が一番じゃない」「お互いを尊重していければ」――「夫婦の数だけ、【事件】がある!」というキャッチコピーも踊りますが、ご結婚されている柄本さんは「そうそう」と同意するところはありますか?柄本:おそらく、あるんじゃないですか。いい事件も、悪い事件も。まず「結婚」自体がある種、事件ですから。それに、子供がいたら日々事件だらけですよね。――先ほど、お子さんが生まれてから変わったというお話もされていらっしゃいました。柄本:思いましたね。僕が意外だったところなんですけど、結婚して子供もいると、明らかに自分が一番じゃなくなるんです。人との接し方が変わったのが明確になったのは、自分がどこかで一番じゃないと思っているから「人にどう思われてもいいや」と思うようになったからなんですよね。それまでは、かっこつけとか自意識がすごい高かったんです。「人見知り:6、自意識過剰:4」ぐらいで、よく思われたいと思って生きてきた部分があって。そういうのが今まったくなくなったので、まずはバーンと出す!みたいな。すごく楽になりました。黒木:それ、すごくいいですね。柄本:もちろん見栄とか、かっこよく思われたい、みたいな思いのベースはあるけど、その順位がすごい下のほうになったから、結構意外でした。自分の中でのいい出来事です。――黒木さんも、もし今後、結婚などをされたら自分にとっては「いい事件!」となりそうですか?あくまでも想像のお答えで。黒木:もしも、誰かと一緒に歩んで行くとしたら、楽しいほうがいいと思っているので。いい事件が多いほうが、嬉しいですよね。「面白いよね」と言いながら生きていければいいな、というのが理想ではありますが、人と一緒に住んだことがないので未知です(笑)。育った環境が全然違う相手と一緒に住んだり、同じ姓を名乗ったりするんですもんね。今は「結婚」という形だけでなく、籍を入れずにパートナーという形もありますし、自分がどういう選択を取るにせよ、お互いをちゃんと尊重していければいいなと思います。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:先生、私の隣に座っていただけませんか? 2021年9月10日より新宿ピカデリーほか全国にて公開(C)2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
2021年09月06日初めてのデートで行った劇場、講義をさぼって通ったミニシアター、子供の頃、大好きなアニメの劇場版をいつも観ていたシネコン…。映画好きであればきっと、忘れられない思い出の映画館・劇場がある。高畑充希にとって、忘れられないその場所は地元・大阪の梅田芸術劇場だという。「小っちゃい頃、そこでしょっちゅうミュージカルを観てましたし、楽屋の出待ちをしたこともありました。演じる側として初めてあの舞台に立たせてもらったのは10代の頃でしたが、楽屋から舞台に通じるエレベーターに特有の“匂い”があって忘れられないんですよ。あれは何の匂いなんだろう…(笑)? その後も何度も立たせてもらってますけど、あの匂いは変わらないし、私にとっては特別な劇場ですね」。高畑さんが主演を務める映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は、福島県南相馬市にある、経営が傾いた小さな映画館「朝日座」を立て直すために現れたヒロインと彼女の熱意に心を動かされていく周囲の人々の姿を描いた作品。観終わった後に、自分の心の中の思い出の映画館…いや、映画館に限らず、大切な場所や存在に思いを馳せる――そんな作品に仕上がっている。高畑さんは、どのような思いを持ってこの作品に臨んだのだろうか?破壊されてから気づく「すごく貴重なこと」撮影が行われたのは昨年の夏のこと。高畑さんにとっては最初の緊急事態宣言の解除後、1本目の仕事であり、コロナ禍という唐突にやってきた“非日常”の中で感じたことが、作品と強く結びついたという。「みなさん、そうだったと思うんですけど、あの当時、明日がどうなるかわからない状況で、いままで当然だったものが急に消えたり、人間関係も急に変わっていった時期だったんですね。台本の中で個人的に好きだったセリフに『みんな、なくなるとわかってから騒ぐ』というのがあって、朝日座がなくなると決まってから、みんなあれこれ言うけど、それまで普通に(映画館が)あったときはありがたがらないんですよね。それって本当にその通りだなと思いました。ちょうど、いろんなものが破壊されていった時期で、破壊されてから騒いでいるけど、普段、普通にそれがあったことが実はすごく貴重なことだったんだなぁということを感じました」。本作の脚本、監督を務めたのは『百万円と苦虫女』『ロマンスドール』で知られるタナダユキ監督。コロナ禍や東日本大震災から10年を経て、いまなお復興の途上にある福島の姿など、社会や個人が抱える決して軽くはない現代進行形の課題に鋭く切り込みつつ、それを哀しみだけで染めるのではなく、笑いやユーモアをもって描き出しているのが本作の魅力といえる。「明るい題材じゃないし、私が演じた役もすごくハードな人生を歩んでいるだけど、絶対に暗くしたくない、“かわいそう”には見せたくないというエネルギーを脚本からも強く感じました。人が死ぬシーンですら、単に悲しい“お涙ちょうだい”にしたくないっていうエネルギーは、文字から浮き出るくらいに感じました」と語る高畑さん。タナダ監督と仕事をしてみて「一度、タナダさんと仕事をした俳優さんがみなさん『またやりたい』とおっしゃるのがすごくわかりました」と目を輝かせる。“継いでいく”ということに意義を感じるように本作で、高畑さん演じるヒロインの魅力を引き出す存在として2人のジャンルの異なる“笑いのプロ”が大きな存在感を放っている。ひとりは朝日座の支配人を演じた落語家・柳家喬太郎。もうひとりが回想シーンで登場し、震災によって心に深い傷を負った莉子を映画好きに染めながら導いてゆく恩師・茉莉子を演じた大久保佳代子である。喬太郎師匠、大久保さんとの会話劇では、高畑さんはそれぞれとお笑いコンビを組んだような、全く異なる笑い、そして活き活きとした表情を見せてくれる。「私自身、10代の頃は(学生時代の莉子のように)すごく閉じてて、殻に閉じこもって他人とコミュニケーションを取りたくないというタイプで、学生時代を演じる時は、その頃のことを思い出しながら演じてました。人の目もあまり見られないし、全てを自己完結しちゃうんですよね。いろんなことを心の中で思ってても、いくつも先回りして『じゃあ、これでいいや』ってひとりで完結しちゃう。そういうところはわかるなと思いながらやっていました」。「喬太郎師匠との会話劇は楽しかったですけど、一発で撮ったので緊張もしました。師匠は師匠で『僕は普段、ひとりでしゃべっているので迷惑をかけるかも』とおっしゃってたんですが、わたしの方が胸を借りてばかりでした。そういう意味で、(喬太郎師匠も大久保さんも)普段のお仕事とはやっていることが違っていて、面白いですね。いろんな方が出てくださって、その方々との会話で物語が転がっていくのが楽しいなと思いました」。恩師である茉莉子の言葉に導かれ、朝日座の再建のために奮闘する莉子。誰かの思いを受け継ぎ、繋いでいくというのも本作の描くテーマのひとつだが、高畑さん自身、そこに感じる部分があったという。「私は“受け継ぐ”みたいな概念はいままでの人生であまりなかったんです。というのは、私は親の職業を継いだわけではなかったので…。本来は私が継ぐべきだったのかもしれないけど、家を飛び出して芸能の世界に入ってしまったので、ある意味で自分は(自分で道を切り拓いていく)初代というか、“受け継ぐ”という立場ではないので。ただ最近、特にミュージカルで、クラシックな作品を後世に伝えていくためにやるということがあって、そのためのひとつのピースになるというチャンスをいただくことが多くて、そこに意義を感じている自分がいるんですね。これまで、何かを“生み出す”ことの美学を感じていたけれど、“継いでいく”という美学もあるんだなと感じています」「傷は消えることはない」その上で大切なこと受け継ぎ、伝えていくという意味で、この作品で重要なテーマのひとつとして描かれているのが今年で発生から10年を迎えた東日本大震災である。撮影は被災地であり、原発事故の爪痕がいまなお深く残る南相馬市で行われた。この作品への参加を通じて、高畑さんは何を感じたのか?「あの震災が起きたとき、私は地元の大阪にいたんです。健康診断のために母と病院にいて、TVで津波の映像を見たんですけど、TV画面を通じて見ていると、どうしても“TVの中の出来事”になってしまっていて。東北に親戚がいるわけでもなく、ニュースではいろんな情報が流れてきて、悲惨な状況を知ってはいましたが、どこか自分のこととしてとらえられる“距離”ではなかったんだなと」。「今回、この作品の現場に入って、津波で全てが流されていまは樹が生えている海辺や、原発事故による立ち入り禁止区域の柵を見て、震災が自分のことになった気がします。(1995年の)阪神大震災は私も実際に経験して、実感を持っていましたが、3.11に関してはこれまでそうじゃなかった――この作品を通じてそこに向き合いたいという思いはありました」。「(実際に被災地を見てみて)10年が経ちましたが、まだ癒えてないんですよね。もちろん、再生・復興してお店も再開されてはいるけど、傷跡の上に希望が乗っかっている感じがしました。これは新型コロナについてもそうだと思いますが、今後、良くなっていくけれど(傷は)消えることはないんですよね。消そうとしても、忘れようとしても無理で、それを踏まえてどう作っていくのか? それが大事なんだなと。完全な修復なんてない――大きく傷つくってそういうことなんだと実感しました」。(text:Naoki Kurozu/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:浜の朝日の嘘つきどもと 2021年9月10日より全国にて公開※8月27日福島県先行©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会
2021年09月01日「僕は“勝手口”からこの世界に入った人間なので…(笑)」――。そう語るのはミュージシャンの牛尾憲輔。ソロユニット“agraph(アグラフ)”として活躍する一方、「LAMA」としてのバンド活動、「電気グルーヴ」のライブサポートやDJプレイなど、多方面で精力的に活動している。もうひとつ、牛尾さんの音楽活動の一面として、忘れてはならないのが“劇伴(げきばん)”と呼ばれる、映画やTVシリーズ作品の音楽の仕事。冒頭の「勝手口」発言は、この劇伴の仕事を指したもの。20代の頃から仕事として音楽に携わり、ソロアーティストとしても十数年のキャリアを誇る牛尾さんだが、劇伴を担当するようになったのはこの6~7年のこと。2014年のアニメシリーズ「ピンポン THE ANIMATION」を皮切りに、アニメーション映画『聲の形』、『リズと青い鳥』、さらに『麻雀放浪記2020』など、この6~7年ほどの間で次々と話題作の音楽を手がけてきた。昨年末にアニメ化が発表された「チェンソーマン」の音楽も担当しており先日、公開された音楽が入ったティザー映像も大きな話題を呼んだ。そんな牛尾さんが音楽をつけた最新の実写映画『子供はわかってあげない』が公開を迎えた。この機会に牛尾さんにインタビューを敢行。映画の世界で働く人々にその仕事について話を伺う【映画お仕事図鑑】連載第11回のテーマは「劇伴」!映画の音楽ってどうやって作るの? 普段の音楽活動との違い、その魅力は? たっぷりと話を聞いた。「ピンポン」で初めて担当した劇伴それまでの音楽活動とは「全く別物だった」――牛尾さんが最初に劇伴を担当されたのは2014年にフジテレビのノイタミナ枠で放送された「ピンポン THE ANIMATION」(湯浅政明監督)ですね?そうですね。メインで劇伴の全てを手掛けたのは「ピンポン」です。ただ、その前に知り合いのアーティストの方に「劇伴に参加してみないか?と声を掛けていただいて、ちょっとだけ参加したことありました。――「ピンポン」のオファーが来て、劇伴をご自身で手掛けることになったときの心境は?最初は不安でしたね。「できるのかな…?」と。そもそも劇伴というのは特殊な世界なので、ちゃんと劇伴のことを学ばないとできないと思っていましたし、僕はそれまで、基本的に自分のアーティスト活動しかしてこなかったので、白羽の矢を立てていただいたものの「僕(=音楽)がコケてしまったら、何百人という人が関わっている作品そのものにケチをつけてしまうことになるんじゃないか…?」とすごく緊張したこと覚えていますね。――アーティストとしてもともと劇伴に興味はおありでしたか?アーティストとしての活動の中で、テクノロジーをベースにした音楽を作っていたので、映像に音楽をつけるという部分で、技術的にトライしてみたいことはあるなという思いは持っていましたね。「こういう技術を使ってこういうことをやれば、きっとこんなことができるなぁ…」と挑戦してみたいという気持ちはありましたね。――実際「ピンポン」で劇伴を担当されてみていかがでしたか? それまでの音楽制作とはやはり違いましたか?全然違いましたね。とはいえ「ピンポン」の時にそれがきちんとできていたかどうかは怪しいですが…(苦笑)。とにかく全く別物でした。劇伴の場合、作った音楽を「これでOK」とジャッジするのが自分じゃないんですよね、それまでセルフプロデュースでクオリティを研ぎ澄ましていくということしかやってこなかったのですが、劇伴の場合「いかに作品にフィットするか?」ということが評価軸になるので、それはすごく新鮮だったし、そこで自分の足りない部分が見えてきたりもしました。――その後も京都アニメーション制作の映画『聲の形』、『リズと青い鳥』(いずれも山田尚子監督)など、次々と話題作の劇伴を担当されました。こうした活動を通じて、改めて感じた普段の音楽活動と劇伴の違い、劇伴ならではの面白さなどについて教えてください。先ほども言いましたが、これまでソロでアーティストとして活動してきて、単に自分の世界観とか自分のクオリティを研ぎ澄ますということであれば、自由に作れるんですよ。例えば、普段からダンスミュージックや電子音楽をベースにしていると、どうしても2のべき乗(※1,2,4,8,16…という2の累乗数)のリズムで作りたくなるんですね。でも映画ってそんなリズムとは関係ない。「このシーンは20秒と2コマ」と言われても、それは4小節にはならないわけです。音楽って時間軸をコントロールするものだと思いますが、映画の場合、音楽以外のものに主従関係の“主”があるわけで、それは普段の音楽活動とは全く違うものでしたね。そういう意味で、普段からのアーティスト活動も劇伴もどちらも「音楽」という言葉で表現されているけど、全く違う言葉で表さなくてはいけないものなんじゃないか? と思うくらい違うものだったし、それは発見であり、劇伴での経験から自分の活動へのフィードバックもあったし、すごく面白かったですね。――いま、ジャンルの話が少し出ましたが、agraphとしての活動でやられているのは電子音楽ですが、劇伴では作品に合わせて全く異なるジャンルの音楽を手掛けられています。牛尾さんが手掛けた複数の劇伴とagraphとして発表された作品を並べたとき、同じ人が作ったと知って、驚く人もいるのではないかと思います。いやぁ、そう感じていただけるのはすごく嬉しいです。最近、 “牛尾節”的な言い方をしてくださる人もいて、僕としてはそれはあんまり嬉しくないんですよね(苦笑)。賞味期限が短そうじゃないですか? 細く長くやりたいと思っているので…(笑)。それぞれの作品のジャンル的な違いについて、比喩的な言い方をしますと、真ん中に僕が音楽を手掛けてきた“作品”があるとして、僕が“作り手”の側にいて、作品を挟んで反対の側に“視聴者・観客”がいるとします。“視聴者・観客”側から見ますと、作品ごとに異なる様々なジャンルの音楽に見えると思うんですよ。「ピンポン」のようなテクノ系もあれば『聲の形』のような繊細なもの、今回の『子供はわかってあげない』のように、音楽というよりも映像に合った“音”が並んでいるような作品まで、様々な見え方がしていると思います。でも作り手の側の僕からしたら、制作のプロセスというのはほとんど一緒なんですよ。つまり、もともとの僕が音楽をやる上でのベースになっている“思想・哲学”みたいなものがあって、ほとんどの作品はそのフィルタを通って作られているんです。簡単に言葉にできないけど、ある哲学や思想が最初にあって、それをベースに個々の作品に寄り添いながら「こういう音楽にしよう」「こういうフレージングをして…」という感じでそれぞれの作品ごとの音楽を作っていく感じなんですね。そういう意味で、あんまりジャンルの違いで戸惑うようなことはないんです。同じスタートラインから始まって、4小節を「ドン! ドン! ドン!ド ン!」という強いリズムで均等に分割にすればテクノになるし、そうではなく、作品のゆっくりした雰囲気に合わせて、4小節を均等にではなく、例えば「ドン! ドーン…ドッ」というリズムにして有機的な音を組み合わせれば、また違ったジャンルの音楽になるんですね。創作の最初の一歩目に関しては、同じ部屋で同じコンピュータに向かって同じソフトを使ってやっているので、僕にとっては同じなんですね。ただ、作品ごとに向き合っていく“角度”が少しずつ違っていて、その角度の違いは最初の時点では1°とか2°くらいのすごく小さなものなんだけど、それが劇伴として観客・視聴者のみなさんに届く頃にはすごく大きな差になって見えてくるんですね。――いまおっしゃった「哲学・思想」というのは、担当する各作品のということではなく、あくまでも“牛尾さん自身が、音楽を作る上での”ということですね?そうです。おこがましい言い方ですが、それが例えば今回、沖田監督が僕を選んでくださった理由の部分でもあると思います。“作家性”と言い換えてもいいと思います。――その作家性と関連するかもしれませんが、これまで劇伴のオファーが届いたときに「え? この作風の監督が自分に音楽のオファーを?」と驚かれたことはありますか?ビックリすることはあります。それこそ今回の沖田監督の作品は以前から大好きで、『南極料理人』が公開されたのはちょうど大学生くらいだったかな? 世代的にもドンピシャで、お声がけいただいてすごく嬉しかったです。白石和彌監督(『麻雀放浪記2020』)もそうですね。僕は電気グルーヴとご一緒させていただいてきて、ピエール瀧さんからも白石監督について話を伺っていて「すごいな」と思っていたので、そういう監督からお声がけいただいたのはビックリしましたし、嬉しかったですし、面白いですよね。あえて全ての効果音をミュートして書き上げた、上白石萌歌と千葉雄大の車のシーン その意図は…?――アニメーション作品と実写作品で劇伴制作に違いはありますか?それはありますね。実写は基本的には“ピクチャーロック”と言われる、CGや色はまだ粗い状態だけど、基本的な画が出来上がっている「だいたいこういう映画ですよ」というのがわかる状態の映像が送られてきて、そこから劇伴の制作がスタートします。実写であれば、その段階で登場人物たちは動いているし、色も乗っているし、生音の効果音が乗っているんですね。でも、アニメーションだと、最初に頂く映像はバラバラだし、最後の最後……試写の前日くらいまで出来上がってなかったり、なんなら試写も回せない状態だったりするんですね。――なるほど、音楽をつける段階での映画そのものの完成度が実写とアニメでは全然違うんですね。加えてアニメの場合、当たり前ですけど、生の効果音がなくて、足音も衣擦れの音も、全てつけない限りは無音なんです。その差による違いはすごく大きいですね。影響を受ける部分も多いです。映画の中にセリフや環境音といったロゴス(=論理・意味)的なものが存在するときに、それを「支えるのか?」、「邪魔するのか?」、それとも「引くのか?」 ということをこちらでやらないといけないわけです。だから、元の映像に効果音があるかどうかというのはすごく大きいですね。例えば怒っている人が机を叩いた「ドンッ!」という音があったとして、実写であればピクチャーロックの段階でその音が既に存在していて、聞こえるわけです。なので、音楽をつける際に、その音にかぶらないようにしたりするんですけど、アニメの場合、その効果音が最後のダビングの段階まで鳴らないわけで、それはこちらが仕事をする上ではすごく難しいんですね。今回の『子供はわかってあげない』だと、美波(上白石萌歌)と明(千葉雄大)が、お父さん(豊川悦司)の家に向かう途中の車に乗ってるシーンで、まさにいまお話したような音楽の作り方をしています。僕のほうから沖田監督にお願いして、あのシーンの実景の音や車の音を全てカットしてもらったんです。というのは、僕があのシーンの曲を書いた時、効果音をミュートして、完全に画に合わせて書いたんですね。そうしたら“夏の予感”みたいな、すごくメロウな雰囲気の曲ができたので監督に「もしよかったら、これを聴いてみてくれませんか? 僕自身が効果音のない環境で画だけを見て書いたので」と説明して、それでOKをいただきました。――ここからさらに今回の『子供はわかってあげない』に即して劇伴制作についてお聞きしていきますが、その前に映画そのものについて、牛尾さんの感想をお聞かせいただけますか?もう沖田さんらしい“間”とかが、すごく面白くて…。沖田さんって本当にこういう奇跡みたいなフィルムを作るんですよね。先ほども言いましたが、音楽を作る上で、ある程度の映像をいただいた上で曲を作り始めているので、ずっと自宅のサブディスプレイに映像を流し続けてたんですけど、(細田)佳央太くんがすごくかわいくて好きになりましたね(笑)。「みんな! とにかく佳央太くんを見てくれ!」って思いました。「音が並んでいる」――“何も起こらない”のが魅力の沖田修一監督作品に寄り添ってできた劇伴――今回の劇伴に関して、先ほどのお話の中で「音が並んでいる」という表現をされていました。実際、映画を観ると、牛尾さんの制作された音楽だけでなく効果音やセリフも含めて、“音”がすごく印象的でした。今回の劇伴の制作の過程について振り返っていただけますか?今回の作品で最初に沖田さんと顔を合わせたのは……渋谷の焼肉屋だったはずなんだけど…(笑)、何を話したかなぁ? あぁ、たしか最初に「ハバネラ」の話があったんじゃなかったかな?――序盤の美波ともじくん(細田佳央太)の会話の中で、ゆったりしたリズムで流れる「ハバネラ」(※オペラ「カルメン」で歌われるアリア。本作の予告編でも使用)ですね。ということは、あの「ハバネラ」は監督の提案で?そうなんです。すごく申し訳なさそうな顔をしながら沖田さんが「すいません、牛尾さん。なぜか頭の中に『ハバネラ』が鳴り響いていまして…』って(笑)。こちらは「???」という感じだったんですけど(笑)、いま考えると、言っていただけてよかったなと思います。監督の話を聞いて「ハバネラ」バージョンと、そうじゃないバージョンを作ってみたんですけど、「ハバネラ」のメロディって聴けば誰でもわかる強いメロディだけど、ゆっくりにするとスカスカになるんですよ。音が落っこちてくるような感じというか…本来はすごくハーモニー豊かな曲なんですけど、それが一音、一音に寄っていく感じになるんですね。最初にゆっくりの「ハバネラ」を聴いた時、音が“密”ではなく“疎”になっていくのを感じて、それが大きな発見だったというか「これを劇伴全体を通してやってみようかな」と思いついたんですね。こういう言い方が正しいかわからないけど、それってすごく沖田作品に合う気がしたんです――「ハバネラ」によって、劇伴の方向性が決まったと?この映画、もちろん美波をはじめ、何人かにとっては、人生におけるすごく大きなことが起きる映画ではあるんですけど、とはいえ、それでも沖田監督の映画って何も起きないことが魅力なんですよね。相対的に、例えば宇宙大戦争的な作品と沖田作品を並べたとき、沖田作品って格段に“何も起きない”じゃないですか(笑)? そういう何も起きないけど、でも繊細で些細なことがすごく意味を持ってくる――そんな視点・視野を持っているんですよね今回の映画の中でも、お父さんと美波がご飯を食べている時、食べ物が飛んじゃって「ごめん」「いいよ」ってやりとりがあったんですけど、あれはアドリブなんですよね。でも、あそこにちゃんと視点があるっていうのは、沖田さんの作品ですごく大事なことだと思うんです。あの関係性を描いているってことは、あらすじに太字で書くべき重要なところなんじゃないかって(笑)。それくらい本当に一見すると何も起きてないような状態であっても、でも注目したものが繊細な動きで情感豊かなものになるっていうのは、僕が沖田さんの作品の中でも大好きな部分で、そこに向けて、さっきお話した自分の“哲学・思想”を発射させると、結果ああいう音楽になるのかな? と思います。――他に音楽に関して、沖田監督からリクエストなどはなかったんですか?そこまで大きなリクエストみたいなものはなかったと思います。ただ、こまごまと「ここはどうしましょうか?」という話はいろいろとしましたね。例えば、美波とお父さんが浜辺で歩いているロングショットのシーンとか。あのシーンの劇伴は果たして音なのか? それとも音楽なのか――? 僕自身、あれが曲なのかどうかもわからないんですけど、あれが「ありやなしや?」という話なんかはたくさんしましたね。ドラムの音だけが響き渡るクライマックスの“挑戦”――終盤の美波ともじくんの重要なシーンで、ドラムの音だけをバックにドラマが進んでいくところも印象的でした。冒頭で美波がもじくんと出会ったシーンでは、2人が屋上から校舎を降りてくるんですけど、あの終盤のシーンは、逆にのぼっていくんです。沖田さんからは「もう、しっちゃかめっちゃかでワケがわかんなくなっている美波でありたい」と言われて、それはどんな感じなのかな? とずっと考えていたんですが「フリージャズみたいな」という言葉を沖田さんからヒントとしてもらって、それならドラムで、リズムもだんだんメチャクチャになっていくような感じがいいかなと思いました。それで、冒頭で2人が降りてくるところのセリフのやりとりを使用して、“ダブ(※)”というんですけど、ワーッとエコーを重ねていく手法でやってみたいなと沖田さんに相談したら、最初は「うーん…」と考え込んでいたんですけど、最終的には「それでいきましょう」ということになりました。※リズムを強調してミキシングし、エコーなどのエフェクトを過剰に施し、原曲とは全く異なる作品に作り変えてしまう手法。――沖田監督は、牛尾さんのそうしたアイディアを積極的に取り入れていってくれたんですか?いや、笑顔で譲らないんですよ、沖田さんって(笑)。何より作品のことを第一に考えて、ダメな時はダメとハッキリと言うので、その中で僕は「こんなのどうですか?」「じゃあこれは?」と次々と球を投げるというのを繰り返していました。――改めて今回の劇伴において、本作ならではの新たな部分、いままでにない挑戦をした部分はどういったところですか?やはり、先ほどお話した、ドラムのソロでセリフがグルグル回るという終盤の部分ですね。ダビングステージという映画館のようなスタジオなんですけど、そこで実際の映像を流しながら、ミキシング・コンソールという機材を使って、その場でDJのように卓を演奏して、あのシーンの音楽を聴いてもらったんです。あれはセッションみたいですごく面白かったですね。――最後に牛尾さんが感じる劇伴の魅力、面白さについて教えてください。なんでしょうね? 勝手口からこの世界に入っておいて、その視点で好き勝手なこと言うと、他のちゃんと劇伴を学んで活躍されている作家さんたちに失礼ですけど……でも劇伴って楽しいなって思います。やってて楽しいですよ(笑)。ミュージシャンってつい手癖でやってしまったりするし、アーティスト活動をやってても、結局、いつも同じことの繰り返しになっている部分もあって悩むんですけど、劇伴って自分にない引き出しや忘れていた引き出しを引っ張り出さないといけなかったりするんです。さっき「フリージャズのような」という話が出ましたけど、僕自身は電子音楽畑の人間なので、ジャズは全く通ってないし、フリージャズなんてできないんですよ。でも、おそらく沖田さんが「フリージャズ」という言葉で表現したものは、本当のフリージャズじゃなくて、もっと衝動的な何かだったり、グチャグチャになっていく何かだったんだと思うんですよね。そこで、自分の引き出しの中にあるものをあれこれと組み合わせて、沖田さんの求めるものを狙って曲を作っていくんですけど、そういうことをしていると、今度はアーティスト活動のとき、それまでの自分では思いつかなかったようなことを思いついたりするんです。例えば普段の音楽活動でもドラムの打ち込みをすることはあるし、それで生っぽいものを表現したり、先ほども話に出た“ダブ”という手法でエコーを重ねるようなこともするけど、それらを組み合わせて何かを作るっていうことは、リクエストがないと自分には思いつかないですよね。そういう意味で、劇伴の制作が自分の中の面白い発見につながるなと感じています。僕のような者がお名前を出すのも本当におこがましいんですけど、武満徹(※)先生が、「ノヴェンバー・ステップス」という世紀の名曲を書かれる前に、その着想を得たのは劇伴だったそうです。それは『切腹』(1962年/小林正樹監督)という映画で、そこでオーケストレーションの中に邦楽器を取り入れたことで、そちらに意識が向いたということをおっしゃっていたのを以前、拝見しました。※ほぼ独学で音楽を学び、西洋音楽に東洋の伝統的な楽器や手法を取り入れるなどして、映画や舞台の劇伴から電子音楽、オーケストラまで幅広いジャンルで名曲を残した世界的作曲家。代表作に「ノヴェンバー・ステップス」など。1996年没。そうやって劇伴での経験を自分の作品にフィードバックして、そこからまた新しいものが生まれていくというのはすごくポジティブなスパイラルだなと思いますし、楽しいです。「劇伴と普段の音楽は全く別物」と言いましたが、とはいえ、そんなことを意識せず、楽しめる素敵なお仕事だなと感じています。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:子供はわかってあげない 2021年8月20日より全国公開©2020「子供はわかってあげない」製作委員会©田島列島/講談社
2021年08月30日【音楽通信】第87回目に登場するのは、音楽界とお笑い界の才能が集結した、小籔千豊さん、くっきー!(野性爆弾)さん、中嶋イッキュウさん、川谷絵音さん、新垣隆さんからなる5人組バンド、ジェニーハイ!番組をきっかけに才能豊かなメンバーが集結写真左から、新垣隆(Key)、くっきー!(野性爆弾/B)、中嶋イッキュウ(Vo)、川谷絵音(Gt)、小籔千豊(Dr)。【音楽通信】vol.87バラエティ番組『BAZOOKA!!!』(BSスカパー! 2011年〜2019年)発のプロジェクトとして、2017年に誕生した小籔千豊(Dr)さん、くっきー!(野性爆弾/B)さん、中嶋イッキュウ(Vo)さん、川谷絵音(Gt)さん、新垣隆(Key)さんからなる5人組バンド、ジェニーハイ。お笑い芸人さん、ミュージシャン、現代音楽家と、さまざまなジャンルのジェニー(フランス語で天才の意)が集結。バンドの全面プロデュースを「ゲスの極み乙女。」や「indigo la End(インディゴラエンド)」などのバンド活動も行っている川谷さんが兼任する、才能豊かで個性あふれるメンバーが揃っています。そんなジェニーハイが、2021年9月1日に、2ndアルバム『ジェニースター』をリリースされるということでメンバーから、小籔さん、川谷さん、中嶋さんの3名にお話をうかがいました。――あらためて、それぞれ初めて会ったときの印象から、お聞かせください。小籔川谷P(川谷プロデューサーの呼称)のことは、すでに「ゲスの極み乙女。」の音楽を聴いて認識していました。いざ番組でバンドを作るとなったときに、曲を作っていただく先生を決めることになり、第一希望で「川谷さんが良い」と話していたんです。ご快諾いただいて、実際にお会いすることになったのですが、ミュージシャンではなく、例えば演歌歌手における曲を作ってくれる先生にお会いするような感覚でしたね。そこから初対面の感想は……意外と、普通やったなと(笑)。ミュージシャンて「僕は空がパープルのときじゃないと曲が思いつかないから」とか、もっと前衛的なことを言うのかと思ったらそういうこともなく(笑)。川谷わはは、普通ですよ(笑)。初めて会ったときは確か番組の収録現場だったので、深くは話さず、その後ご飯に行きましたね。小籔さんは、テレビで観ている印象よりも、だいぶん優しい人だと思いました。小籔それはよう言われます。この間は、坂下千里子さんに「小籔さんて飲んでいるときは全然怒らない、ジェントルマンですよね」と言われましたし(笑)。中嶋私は(川谷)絵音さんの第一印象をあまり覚えていなくて。昔、渋谷にあるライブハウスのeggmanで、私がボーカルとギターをやっているtricot(トリコ)というバンドとindigo la End la Endが対バンしたときが初対面なんです。覚えているのは、その後に全国ツアーを一緒にまわらせてもらったときのことですね。絵音さんはライブのMCがすごく長くて面白くて、淡々と話し続けるんですが、演奏しているときとのギャップがスゴイから、ユニークな人なのかなと感じました。――今日はご不在のくっきー!さんと、新垣さんの印象は?小籔ガッキー(新垣さん)は、いろいろな騒動後にメディアに初めて出たのがこの番組だったんですが、えらい上品な方やなと思いました。よく「僕は『BAZOOKA!!!』で救われました」と常々おっしゃるし、ジェニーハイに誘っても「恩があるのでやらせていただきます」と快諾する、何に対しても男気のある方です。マネージャーをされているお兄さんいわく、「『BAZOOKA!!!』のお話じゃなかったらバンドは組んでいないはず」と。それに、才能のある川谷Pの存在も大きかったようです。くっきー!は芸歴が一個下なんですが、吉本興業の養成所のNSCの同期に情報通がおって、「一番面白いのは野性爆弾です」と聞いていて。下には次長課長、チュートリアルやブラマヨとかおるんですが、「一番面白いの誰や?」と聞くと、ダントツ1位が野性爆弾。ただ、あの見た目だしと思ったけど、会ったら気のええやつでしたね。とにかく、ジェニーハイはいいバンドです。――そもそも川谷さん、小籔さん、中嶋さんが、プロになる前に憧れていた歌手やアーティストの方などと、初めて購入したCDなども教えてください。川谷これまで音楽の変遷はいろいろとあるんですが、もとは小学生のときに、T.M.Revolutionの西川貴教さんに憧れていました。初めて買ったCDは、EXILEです。中学1年生ぐらいのとき『EXILE ENTERTAINMENT 』(2003年)というCDを買いました。当時は楽器が弾けないので、鼻歌で曲を作っていて、最高のメロディが出来た! と思った鼻歌のメロディが完全にEXILEのアルバムの曲と一緒だったこともありました(笑)。聴きすぎていたんですね。「あっ俺、音楽の才能無いかも」って当時思いました。小籔まあ、子どもやったらそうなるわなあ(笑)。僕は、親が音楽を好きすぎて、母親は「大阪球場にマドンナのライブ行ってくるわ」「ジェームス・ブラウン行ってくるわ」とか。掃除機をかけるときもよくレッド・ツェッペリンとか、洋楽を爆音でかけていました。僕が小さいときにおばあちゃんから「ファミコンのカセットを買うたるからギターを習いに行け」と言われることも。うちは自転車屋やったんですが、自転車が好きと思ったこともないですが、すでに自転車に囲まれていたという状況に近いというか、無意識のうちに音楽のシャワーを浴び続けていたような感じです。車に乗るようになってからは、FMラジオを聴くようになって、TOKYO No.1 SOUL SET、ピチカート・ファイヴ、スチャダラパーとか、車に乗っていた時期に一番音楽を聴きましたね。中嶋小学校のときに、モーニング娘。にハマったのが最初ですね。中学高校とバンドをしたので、また好きな音楽も変わっていきました。一番好きなロックバンドは、システム・オブ・ア・ダウンです。川谷ギターが弾けなくて、コピーするのをやめたやつ?中嶋そう、難しくて、まだ全然弾けないんです(笑)。絶妙な曲がいっぱいある飽きないニューアルバム――2021年9月1日に2ndアルバム『ジェニースター』をリリースされますね。川谷前作が約2年前のリリースなのですが、僕がやっている各バンドでは毎年アルバムを出しているので、2年ぶりというととても期間が空いた感覚もあります。ただ、ジェニーハイはすごくレコーディングに時間がかかるので、そのぶん準備できて良かったなと。練習の時間もできるので、だんだんと曲のレベルが上がっていっています。そういう意味では、早く作らなくて良かったなって(笑)。いろいろなジャンルの曲が入っていて、バンドの成長記録としては、やっと世に出せるものになったかなという感じ。老若男女が聴けるアルバムになりました。――6月に先行配信された収録曲1曲目「華奢なリップ feat.ちゃんみな」では、実際にラッパーのちゃんみなさんと組んでみていかがでしたか。中嶋ちゃんみなさんとは今回初めてお会いしました。レコーディングは別々だったのですが、MV撮影のときに一緒になって、そのときに表現力が圧倒的だなと。コラボさせてもらって、刺激を受けました。川谷コラボ作品でも基本的に、いつもは僕が歌詞を書くのですが、この曲は最後のラップの歌詞をちゃんみなに書いてもらってコライトをして、新しい刺激をもらいましたね。こういう書き方もあるんだな、こういう譜割りもあるんだなと。歌もちゃんみなが自分で録ったものを1トラックのみ送ってきて、たぶんコレという歌のバランスやこだわりが強く本人のなかにあるようで。ジェニーハイって、良くも悪くもふわっとしているので、彼女のようにストイックな人が入ってくると、バンドの空気も良くなると思いました。小籔川谷Pもイッキュウさんも、ちゃんみなに刺激をもらったんですね。僕は、『BAZOOKA!!!』内の企画「高校生RAP選手権」にちゃんみなが出ていて、「あの子はみんなを惹きつける子」やなとその当時から言っていました。出演の翌年(2017年)にその子がデビューして、パーティに歌いにきてもらったり、彼女のミュージックビデオに出たり、ご飯に行ったり。高校生のときから知っているから、僕のなかでは東京の娘、親戚の子という感じ。うちの娘もちゃんみなが好きですし。ある日、突然、川谷Pが「ちゃんみなとコラボしようと思うんです、知ってますか?」と言われての今回です。みんなで串カツを一緒に食べに行ったら、ちゃんみなが串カツを上品に食べていたんですよ。僕は、そんな串カツの食べ方に刺激を受けましたね(笑)。――2曲目「夏嵐」は7月配信の軽やかなサマーナンバーです。川谷ジェニーハイの曲はシンプルな曲もあるんですが、わりと複雑な曲も多いので、この曲はシンプルに作ろうと思って。アルバムのスパイスになるよう、疾走感のある曲を作ろうと考えました。夏の曲にしようとは思っていなかったんですが、あとから歌詞で夏らしさを入れ、J-POPとして広く聴いてもらいたいので、イントロから耳なじみの良い曲を作りました。中嶋今作のなかで「夏嵐」が一番意外で、これまでになかった感じの曲でした。歌うときもどういう感じなのか想像できなかったというか、できあがって聴いてみたら、すごく爽やかでずっと聴いていられる曲に仕上がったと思いましたね。小籔イッキュウさんの声が一番可愛らしいな、合ってるんやろうなと。僕はドラムのところから聴いて、だんだんマスターして余裕が出たら、歌を聴いて、楽しくなってきました。たくさんの人に聴いてもらいたいなと思いますね。――6曲目「良いんだって」や、8曲目「ジェニーハイボックス」もみなさんで歌うラップ曲ですが、バンドの演奏曲とラップ曲とのバランスが絶妙ですよね。「ジェニーハイボックス」は自己紹介があって、聴いていて楽しくなります。川谷ラップを作っていると、自己紹介する感じになっちゃうんです。「良いんだって」は全然自己紹介の曲じゃないですが、こんな曲もラップでできたりしますし。新垣さんのソロラップも「ジェニースター」には入っていて、新垣さんは最初いやがっていたんですが、最近は「ラップの王になる!」と言うまでになっているので(笑)。わりとラップの曲は増えてはいますね。ジェニーハイにしかできないことがやりたいので、普通のバンドだったらこんなことやったらただ寒いだけかもしれないんですが、新垣さんは真面目にやっているだけで面白いじゃないですか。あれはもう天性のものですし、この5人のバランスだからできることです。小籔ライブではガッキーのラップがすごい盛り上がるんですよ。女の子からの声援のあとに、めちゃくちゃ下手なラップが聴けるという(笑)。僕が見ていても、この人がメンバーでいてくれて良かったです。ーーアルバムのタイトル曲となる11曲目「ジェニースター」は、一番今作を表すということでしょうか。川谷表すと言えば表すんですが、ちょっとふざけた曲なので(笑)。ジェニーハイがもともと、「天才を超える」という意味なので、まだまだみんなスターじゃないんですよね。だから本当はスターじゃないけれど、例えばいきなり自分が超人になる夢を見るような、「スターになったらいいな」という思いを自虐的に表している曲なんです。――川谷さんはindigo la End、ゲスの極み乙女。、ichikoro(イチコロ)その他複数のプロデュースにも携わっていますが、ジェニーハイの楽曲制作にあたり心がけていることや、他のバンド制作の際と違う面があればお聞かせください。ジェニーハイはインディゴやゲスのように、いい意味で深く考えすぎないというか。ゲスとかインディゴとかは「べつにわかりづらくなってもいいや」と作り込んでしまうことも多くて。でも、ジェニーハイは、わかりやすさ、ポップさみたいなものを優先しています。――小籔さんは「よしもと新喜劇」の座長として、そしてお笑い芸人さんとして活動されている一方、2003年にラップユニット「ビックポルノ」(2014年に解散)、2016年にバンド「吉本新喜劇ィズ(よしもとしんきげきぃず)」を結成、音楽フェスティバル『コヤブソニック』を開催など、音楽活動にも積極的な印象です。小籔お笑いに関しては、努力したことがないんです。ぐうたらなんで、新喜劇に入って最初の2年間だけです、努力したのは。新喜劇も、いまはそれほど気を張ってやらんでも、目配りをすることもないですし。台本はだいぶん手間をかけて真剣にやっていますが、それ以外はそうでもないから。でも、いまはそれ以外のお仕事をさせていただくことが多くて、ドラマに出演させていただくときも、セリフだけはきちんと入れます。役者さんのほうが絶対に芝居がうまいし、僕は絶対下手やけど、セリフは覚えているから許しといたろうか、と思ってもらいたいと。音楽をやるときも、新喜劇でデビューする前ぐらいに、最初はスチャダラパーを聴いたときに面白くてカッコいいけど、逆に芸人がラップやったら面白いかもと。それでふとしたきっかけでラップをやることになって。新喜劇ィズのメンバーには、いつも言うてることがあって、例えばフェスで僕らが出るとなったら、絶対に裏で舌打ちしてるやつはおると。なんでお前と一緒に出なあかんねんと思う人が、言ってけえへんだけでおる。そこで、芸人がフェスに出てすみませんと思うんやったら、あいつめっちゃ下手やけど練習はちゃんとしてるな、下手やけど音楽に対しては真面目やなと思ってもらうのが大切や、と言っているんですよね。――イッキュウさんは、2010年からロックバンド「tricot」としても活動されていますが、ジェニーハイのシンガーのときは意識の違いはありますか。中嶋 tricotでは、長い間自分で作って自分で歌うことしかしていなかったので、ジェニーハイのデビュー曲「片目で異常に恋してる」が地獄のように難しかったんです(苦笑)。絵音さんの曲は一筋縄ではいかないとは予想していましたが、レコーディングでもすごく苦戦した記憶があって。でも、最終的にはその作業が自分の実になっていて、他の人が想像するゴールに向かって考えるというのはとても楽しくて。自分のなかでまた違う扉が開いた感じがあって、tricotのときとは違う脳みそを使っている感じですね。川谷「片目で異常に恋してる」は、コンピューターが歌うようなメロディなんですよね、ボカロのような譜割りで。人間が歌うには限界の速さに近いんです(笑)。これが1曲目だったから、そのあとはスムーズに受け入れられるというか。この曲は変拍子だし、ドラムとギターも全然違う譜割りで弾いてもらうような難しい曲をやっていたから、あれ以上に難しいものはいまやってないですね。自分で演奏するのもいやだから(笑)。小籔難しいものばっかりになったら、こちとら、ヒィヒィ言わなあかんから、難しい曲をやりたいときはその気持ちだけにしておいてください(笑)。――では今回のアルバムをどんなふうに聴き手に聴いてほしいでしょうか。川谷楽しいアルバムですが、全曲に切なさもあって、ただ明るいだけのアルバムでもない。絶妙な曲がいっぱいあるので、好きなときにいつでも聴いてほしいですね。クリスマスの曲もありますし、飽きないアルバムになっています。中嶋私は家でも聴いていて、楽しくてワクワクする感じがわいてきます。歌詞自体は両手放しで楽しいです、という話ではないのもあるんですが、音がすごいワクワクするので、音楽を聴いて楽しんでもらえたらと思います。小籔全部通して聴いていただきたいですし、1曲だけ鬼聴きする感じでもいいですし。わりと長いこと、聴いていただけるようなアルバムちゃうかなと。ぜひ買っていただきたいなと思います。――9月25日には初のアリーナ公演が控えていますが、どのようなライブになりそうでしょうか。川谷けっこう効果的な演出にもなりそうで、かなりバラエティ豊かなステージになると思います。小籔芸人がおるバンドのライブじゃないような、「めっちゃアーティストやん」っていう感じのライブになります。曲がいいのはもちろんですが、きっと12回は笑うと思います、そのうち8回は、ガッキーで笑うでしょうけど(笑)。「65歳までジェニーハイを続けたい」(小籔)――よろしかったら普段のご様子もお聞かせくだい。みなさんはおうち時間をどのようにお過ごしですか?川谷以前は映画を観ることもありましたが、最近はずっと観れなくて。曲を作るときは集中しているんですが、きっと人間は脳の容量があって、いろいろな曲を作っているとそれ以外のことは端から忘れていくんじゃないかなと。映画を観た直後しか内容を覚えていないぐらい、集中できないんです。だから、2、30分で終わるようなアニメをずっと流して、部屋の掃除をしたりしていますね。(新旧のアニメが鑑賞できる)バンダイチャンネルで視聴できる『わがままフェアリーミルモでポン!』(テレビ東京系列シリーズは2002年〜2005年放送)という、ほのぼのアニメなんかを観ています。BGM代わりにちょうどいいんです。それ以外のときは基本曲を作ったり、あんまり休みという休みはないですね。前はご飯を食べに行ったりしていましたが、いまはできないですから。小籔よう働いてはりますもんね。1回、沖縄の砂浜を携帯も持たずに裸足で歩くような日が、1年に1回ぐらいは必要かもしれないですね。川谷そうかもしれないですね、デトックスしないと。デトックスといえば、いまは以前は飲んでいたコーヒーもやめて、お酒も飲まないので、寝起きもよくてすごく調子がいいですね。なんとなくやめてみたんですが、カフェインにおかされていたんだなと(笑)。曲を作っていても、以前とは違う気もします。小籔諸説ありますけど、昼の14時以降にコーヒーを飲んだら、夜の睡眠に影響があるって、言いますもんね。川谷一番長いと、14時間ぐらいカフェインがきいちゃうという説も。小籔僕はいま、ドラムと(オンラインゲームの)「フォートナイト」の2本をやっていますね。ドラムもゲームも、基礎練習が必要なものですが、ドラムで好きな曲を叩いているときと「フォートナイト」をやっているときが、何も考えなくていい楽しい時間です。それ以外は、社会の闇に怒っていたり、子どもたちの将来が心配だったりして……僕も沖縄に行って、裸足で歩かなあかんかな(笑)。中嶋私も家では、曲を作るか、服を作るか、絵を描くかですね。仕事でもあるけど趣味でもあるので、これをやっているときは一番癒されます。自分でブランドをやっているので、カバンなど持ち物にどういう機能をつけようかな、とか考えるのが楽しいので、家ではそういうことをしていますね。――美容面では気をつけていることは?中嶋健康的な生活が一番いいと思っていて、犬を飼っているので、早寝早起きを心がけています。川谷めちゃくちゃ早朝に散歩に行ってない?バンドマンぽくないよね。中嶋そうですよね(笑)。いま暑いので早朝に犬の散歩に行っています。散歩しているときは携帯も見ないですし、1時間ぐらい散歩するので、脳がクリアになりますね。それが一番美容にも、結果的に良さそうかなという気がします。――では最後に、バンドを代表して小籔さんから、ジェニーハイの今後の抱負をお聞かせください。小籔「紅白歌合戦」に出て、日本の三大フェスにも出て、全国ツアーも毎年開催して、それが65歳まで続けばいいなと思っています。僕が65歳になるまで、ジェニーハイを続けたいと思っていますので、目標を達成するために、みなさんさまざまなご支援をお願いします。取材後記まさにスターが集結した、ジェニーハイのみなさん。ananwebのインタビューの際は、川谷絵音さんの音楽の感性や秀逸さ、中嶋イッキュウさんのシンガーとしての魅力、小籔千豊さんの音楽や人生に対する真摯さを実感。とくに小籔さんは、筆者やスタッフの方にもお菓子を自ら配るなど、気配りが素晴らしい方。大阪出身の筆者としては、ジェニーハイの音楽もお笑いもたくさんの人たちに届いて、笑顔が広がることを祈っています。そんなジェニーハイのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりジェニーハイPROFILE小籔千豊(Dr)、くっきー!(野性爆弾/B)、中嶋イッキュウ(Vo)、川谷絵音(Gt)、新垣隆(Key)からなる5人組バンド。バラエティ番組『BAZOOKA!!!』(BSスカパー! 2011年〜2019年)の知名度をあげるため、2017年にプロジェクトとして誕生。音楽番組や音楽フェスなどへの出演を目標に、当初は番組MCの小籔千豊、レギュラー出演のくっきー!、中嶋イッキュウの3人で結成。その後、3人からのアプローチにより、川谷がプロデューサー&ギターに就任。さらに小籔の推薦で新垣をメンバーに迎える。2018年3月、1st配信シングル「片目で異常に恋してる」でメジャーデビュー。2021年9月1日、2ndアルバム『ジェニースター』をリリース。9月25日、ぴあアリーナMMにてアリーナ単独公演「アリーナジェニー」を開催。InformationNew Release『ジェニースター』(収録曲)01.華奢なリップ(feat.ちゃんみな)02.夏嵐03.バイトリーダー典子04.BABY LADY05.コクーンさん06.良いんだって07.ルービックラブ08.ジェニーハイボックス09.卓球モンキー10.クリスとマス11.ジェニースター12.シャンディー2021年9月1日発売*収録曲は全形態共通。*トールサイズデジパック仕様、オリジナル漫画掲載「ジェニースター」ZINEを封入。(通常盤 CD)WPCL-13323¥3,300(税込)(初回限定盤 CD+DVD)WPZL-31892/3¥4,950(税込)(初回限定盤 CD+Blu-ray)WPZL-31894/5¥5,500(税込)*初回限定盤2形態には下記公演映像を付属。・ジェニーハイ ONEMAN TOUR 2020「みんなのジェニー」(2020.2.18@Zepp Divercity Tokyo)・ジェニーハイ無観客ワンマンライブ「ベイビージェニー」(2020.10.27@Zepp Tokyo)・ジェニーハイ1stフルアルバム『ジェニーハイストーリー』リリース記念フリーライブ(2019.11.27@六本木ヒルズアリーナ)・ジェニーハイ ONEMAN TOUR 2020「みんなのジェニー」Behind the scenes取材、文・かわむらあみり
2021年08月29日第74回カンヌ国際映画祭にて、日本映画初となる脚本賞をはじめ、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の4冠を達成した『ドライブ・マイ・カー』。本作のメガホンおよび、大江崇允氏と共に共同脚本を務めた濱口竜介監督に、制作秘話や作品へのこだわりなどを語った。短編の映画化、意識したのは「村上春樹さんの物語であること」原作は、村上春樹さんの小説集「女のいない男たち」に収録された一つの短編。長い原作を映像化する際は、そぎ落とす作業が必要だが、今回は付け加えていくことが必須となる。「意識したのは村上春樹さんの物語であること。その核となるものは踏み外してはいけない。村上春樹さんだったらどうするのか…ではないですが、原作はもちろんですが特に村上さんの長編作品を参考にしながら、脚本化していきました」村上さんに許諾を取る際、ほぼ映画化された脚本に近い、セリフも入ったプロットを送り、意図を伝えた。「かなり詳細なプロットを送ったので、そこで許諾をいただいてからは『自由にやってください』というスタンスでした。脚本段階になって、現実の撮影に即して変更せざるを得ない部分もあったのですが、その都度村上さんにもお送りしてお伺いを立てても、特に何も言われることはありませんでした」三浦透子には「撮影が決まってから免許を取ってもらった」以前のイベントで「車内での会話劇が物語のキーとなる」と話していた濱口監督。西島秀俊さん演じる主人公・家福と、ドライバーとして雇われた三浦透子さん扮するみさきの、微妙な距離感は、作品の肝となる。「みさきが運転席、家福が後ろの席という位置関係は脚本で指定していましたし、本読みの段階で、細かくコミュニケーションを取っていましたが、役の解釈や本番の演技に関しては役者さんたちにお任せしました。本番になれば役柄を理解している役者さん同士の相互反応が、もっとも信じられるものになる。その意味では、演出的にどうこうというよりは、二人が作り出した空気感が映像に出ていると思います」西島さんの作品を好きでずっと観ていたという濱口監督。「西島さんは、居住まいの力強さがある」と評していたが、そんな西島さんと相対するみさきという役を三浦さんに託した。「三浦さんとは『偶然と想像』という作品のキャスティングで初めてお会いしたのですが、そのときにこの映画の企画も進んでいて、みさきという人はどんな人がいいのか考えていたんです。三浦さんと会ってお話しするうちに『みさきがいた』と感じるようになりました」劇中、三浦さんは手慣れたハンドルさばきで真っ赤なサーブ900を操るが、オファーした段階では、運転免許を持っていなかったという。「実はこの作品のオファーをしてから、三浦さんには免許を取りに行ってもらったんです。そこから運転の特訓してもらいました。結果的にすごく上手くなったと思います。もともと三浦さんは運転が上手そうな顔だなと思っていたんですが(笑)」多言語演劇「ワーニャおじさん」に込めた思い舞台演出家である家福は、原作にも出てくるアントン・チェーホフの戯曲「ワーニャおじさん」を多言語演劇として演出するシーンがある。「人は意味を通じてコミュニケーションをするのが普通です。言葉を使って意味を細分化できるぶん便利ですが、意味の陰に隠れてしまうこともたくさんあるんです。相手の言語が分からないなかでお芝居すると、言葉の意味以外でやり取りをしようとする。それが大事であり、作品の本来の意味にも通じると思ったんです」「ワーニャおじさん」で登場する言語は、日本語、韓国語、韓国語手話、タガログ語、北京語と多種多様だ。演じる俳優さんたちも、強烈な個性を発揮する。「みなさん俳優として活動されている方たちを、オーディションで選ばせてもらいました。演技力というよりは、演じる役に合っているかどうかが大前提。あとは、20~30分と短い時間でしたが、人柄の良さと、会話をしたときの理解力が高いなと感じた方にお願いしました。みなさんとても魅力的なお芝居をしてくださいました」劇中、何度も何度も本読みのシーンが登場する。濱口監督自身も、映画監督として本読みは重視しているのだろうか。「ここ数年の作品はそうですね。本読みをしていくと、言葉の意味が希薄化していくんです。最初はセリフの意味をダイレクトに受け取り『このセリフを言うのが恥ずかしい』という気持ちが声のなかにも感じられることがあるのですが、本読みを繰り返すことによって、言葉の意味に囚われず、言葉が自動的に出てくるようになる。本番では予期せぬ思いが入ることもあり、言葉の多い映画を撮る上では、有効な方法であるのは確かだと思います。ただ、今後もこういう映画を撮り続けるかは分からないので、やり方は変わるかもしれません」良いものを作るために譲れない部分と、変化していく必要があるもの本作のカンヌ国際映画祭・脚本賞をはじめ、第71回ベルリン国際映画祭で短編集『偶然と想像』が審査員グランプリ(銀熊賞)、第77回ヴェネチア国際映画祭では共同脚本を務めた『スパイの妻<劇場版>』が銀獅子賞(監督賞)を受賞するなど海外でも高い評価を受けている濱口監督。作品を作る上で大切にしていることは、良いものを作るために妥協せず、こだわるところはしっかり“我を通すこと”。「この作品でもこだわった部分は二つありました。一つは本読みの時間をしっかり取ること。普通の映画作りのなかでは、なかなか時間をとれない部分であり、そこはスケジュールを組む人の理解が必要になります。あともう一つは、車をちゃんと公道で走らせるということ。街中で車に照明を付けて走らせるというのは、制作的にもかなり体力が必要な部分なんです。いまは室内で走らせて合成しても、多くの人は分からないほど技術は向上していますが、実際に走らせないと、俳優さんの演技に影響すると思うのでお願いしました」“良いもの”を作ろうという強い意志のもと、キャストとスタッフが強固な絆で作品に向かうことで珠玉の作品ができあがる。しかし、本作も撮影中断を余儀なくされたように、コロナ禍が映画界にも大きな影を落とす。「前向きに捉えるなら、根本的な作り方を考え直すいい機会かもしれません。これまで良いと思っていた慣習が、もしかしたら無駄なことかもしれない。いまできる状況で、一番良いと思うものを作るというシンプルな考えによって見えてくることもあると思います」濱口監督は「役者さんの演技に尽きると思います」と作品の見どころを語る。この言葉通り、179分という時間いっぱいに、俳優たちの見逃してはならない、言葉や仕草、吐息や空気が映し出されている。『ドライブ・マイ・カー』は全国にて公開中。(text:Masakazu Isobe)■関連作品:ドライブ・マイ・カー 2021年8月20日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
2021年08月27日【音楽通信】第86回目に登場するのは、今年“リアル中学生”メンバーを含む新メンバー3名が加入し、新9人体制となった「誰もが永遠に中学生」というコンセプトのアイドルグループ、私立恵比寿中学!アイドルやアニメの影響から“エビ中”の道へ写真後列左から、真山りか、安本彩花、星名美怜、柏木ひなた、小林歌穂、中山莉子。前列左から、桜木心菜、小久保柚乃、風見和香。【音楽通信】vol.862009年8月に結成されたアイドルグループ、私立恵比寿中学。真山りかさん、安本彩花さん、星名美怜さん、柏木ひなたさん、小林歌穂さん、中山莉子さんの6名に、2021年5月、応募総数約7,000人のオーディションを経て桜木心菜(ここな)さん、小久保柚乃(ゆの)さん、風見和香(ののか)さんの3名の新メンバーが加わりました。新9人体制となった通称「エビ中」が、2021年8月18日にニューアルバム『FAMIEN’21 L.P.』をリリースされたということで、メンバーから真山さん、桜木さん、小久保さん、風見さんにお話をうかがいました。ーー今回は真山さんと、新メンバーの方が3名いらっしゃいますので、まずはおひとりずつ自己紹介からお願いします。真山出席番号3番、真山りかです。声優さんと、アニメを観るのが大好きです。特技は声優の田村ゆかりさんの「イントロドン」のまねですが、披露したことはまだないです。桜木出席番号13番、桜木心菜です。特技はジャズダンスを踊ることと、I字バランスで、頭の横に足がつくぐらいに体が柔らかいこと。あとは辛いものを食べることも得意です。小久保出席番号14番、小久保柚乃です。特技は竹馬と長距離走と、公式プロフィールには書いてあるのですが、それほど特技ではないかもしれません(笑)。最近の特技はシャボン玉を上手に作ることができたことです。風見出席番号15番、風見和香です。一番の特技は、バースデーカード作りです。ーー自己紹介ありがとうございました。ではあらためまして、そもそもみなさんが音楽にふれたきっかけや憧れていたアイドルの方からお聞かせください。真山家庭では、父の趣味でジャズやレゲエぐらいしか聴いたことがなかったのですが、小さい頃にモーニング娘。さんをテレビで観て、「アイドルの音楽はこんなに明るくて楽しいんだ!」と惹きつけられました。そのモーニング娘。さんがきっかけで「歌を歌いたい」とアイドルを志すようになって、とくに初期メンバーの石川梨花さんが好きで、同じ「りか」という名前もうれしいですし、いまも憧れています。桜木小さい頃は、アニメのプリキュアに憧れていました。毎年プリキュアはシリーズとキャラクターが変わるのですが、私は『Yes!プリキュア5』(2007〜2008年テレビ朝日系)の世代だったんですが、なかでも「キュアレモネード」の春日野うららちゃんというキャラを推していました。うららちゃんは、学校に通いながら新人アイドルとしても活動するという設定なんです。いまの私たちと状況が重なって、学校とアイドルを両立しながら頑張っているから応援したいなって。実際のアイドルでは、AKB48さんも好きでよく曲を聴いていました。なかでも、板野友美さんが一番好きで、アイドルグループのなかでひとりだけ茶髪のギャルだったところに惹かれて、私もアイドルになりたいと思いました。小久保私もAKB48さんが大好きで、よく聴いていました。なかでも渡辺麻友さんに憧れて、アイドルになりたいと思いました。あとは、『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』(2009〜2013年NHK総合)のまいんちゃん役の福原遥さんにも憧れて、芸能界に入ろうと思いました。風見私も(桜木)心菜と一緒で、プリキュアに影響を受けました。私は『ドキドキ!プリキュア』(2013〜2014年テレビ朝日系)の世代です。アニメのエンディングに流れる歌を小さい頃はずっと歌っていて、プリキュアが踊っているのに合わせて踊っていました。姉がふたりいてチアダンスをやっていたので、姉の様子を見ていて、ダンスは面白いなって。あと、姉がカラオケでAKB48さんの「ヘビーローテーション」を歌って踊っていたので、そこでアイドルにも興味を持ちました。音楽が好きですし、歌って踊ることが仕事になったら楽しいだろうなと思って、エビ中に応募したんです。ーー2021年の今年は、病気療養中だったメンバーの安本彩花さんが復帰され、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で歌う姿が公開3日で120万回再生と反響を呼びましたね。そして新メンバーとしてみなさんが加入し、9人体制になって新たなスタートを切りました。真山3人が入って、早くも3か月経ちました。(安本)彩花も寛解をして、グループとしても、ようやく9人で歩き始められたという感覚があります。仕事によっては全員ではなく、何人かで動くこともありますが、9人でパンフレット撮影や生写真撮影をする機会があって、9人のグループになった実感がわきました。新しいかたちでの「FAMIEN e.p.」シリーズ最新作真山りか。1996年12月16日、東京都生まれ。身長154.2cm。A型。ーー2021年8月18日にニューアルバム『FAMIEN′21 L.P.』をリリースされます。2015年より配信限定でリリースされてきた「FAMIEN e.p.」シリーズの最新作となる、今作に込めた思いから教えてください。真山だいたい年に1度、夏の恒例野外ワンマンコンサート「エビ中 夏のファミリー遠足」略して「ファミえん」といって、ファミリー(ファンの方の呼称)が会場に遠足のようにバスツアーなどで集まってくださって「帰るまでがファミえん」ですと言って、楽しんでいただく大きなライブがあるんです。そこで毎年テーマソングを作っていまして、今回はいままでの楽曲と、9人での新曲も含めて、この『FAMIEN′21 L.P.』というアルバムでのCD発売になりました。「ファミえん」では明るい楽曲が多いので、そんな曲たちがまだCD化していなかったということにあらためて驚きましたが、こうして3人が入ってきてくれて新しいかたちでみなさんにお届けすることができて、とってもうれしいですね。初期から中期までの楽曲はわたしたち先輩メンバーも再レコーディングしまして、3人の歌声プラスいまの歌声が聴けるので、楽しめると思います。「THE FIRST TAKE」に出させていただいて知っていただいたファンのみなさんにも、エビ中といえばアイドルらしからぬ楽曲というイメージだとしたら、今作にはアイドルっぽい楽曲が詰まっているので、新しい発見もあるのではないかなと感じています。桜木心菜。2005年9月14日、茨城県生まれ。身長160cm。AB型。桜木わたしたち新メンバーは初めてレコーディングをさせていただいて、初めて自分たちの声が入っている楽曲を聴いて、新鮮でした。明るい曲もかっこいい曲もゆったりした曲も収録されていて、聴いていただける方に楽しんでいただける作品になっているんじゃないかなと思います。小久保いろいろな方に聴いてほしいですし、6人体制のエビ中で歌っていた曲にも、新たにわたしたちの声を再収録して入れているのですごくうれしいです。風見ボイストレーニングの先生にもたくさん教えていただいて頑張ったので、ぜひ私たち“新メンバーはこんな声だよ”というのも覚えてくださるといいなと思います。ーー収録曲についていくつかおたずねします。新体制初の新曲で、残念ながら中止となりましたが、2021年の「ファミえん」テーマソングでもあるキャッチーな11曲目「イヤフォン・ライオット」は、どのようなイメージで歌っていますか。真山初めて聴かせていただいたときに、エビ中ではデビュー曲「仮契約のシンデレラ」などを書いてくださっている作曲者の杉山勝彦さん、そして児玉雨子さんの歌詞がすごく心に突き刺さって。イヤフォンで音楽を聴くと、コロナ禍で溜まってしまうフラストレーションがパッと忘れられて発散できて、耳だけでモヤモヤが完結できるんだという感動を覚えました。その感動が、聴いてくださるみなさんにも伝わればいいなと思っています。桜木最初に聴いたときは、元気でパワーのある歌だと感じましたし、初めて9人で制作した「イヤフォン・ライオット」は思い入れのある曲なので、ぜひ聴いていただきたいです。いまはコロナ禍で不自由に過ごしている部分もありますが、それに打ち勝つぞー!壁を壊すぞー!という感じで、思春期だったり反抗期だったりするいまの学生時代のもやもやを発散したい意味でも、私たちにぴったりな曲だと思っています。レコーディングでも、思いをこめて歌うことができました。小久保柚乃。2007年3月20日、愛知県生まれ。身長157cm。AB型。小久保「イヤフォン・ライオット」は、明るくていい曲なのでたくさん聴いてほしいですし、私と同じ中学生の方や、高校生といった学生の方ならより共感できる歌詞だと感じました。風見「君らしさなんだった!」という歌詞があるのですが、ハッとさせられてとても心に響きました。聴いてくださるみなさんの心にも残る歌詞だと思いますし、気持ちを込めて歌いました。ーー歴代のファミえんテーマソングを完全網羅している今作ですが、みなさんの思い入れのある曲といえば、どの曲になりますか。真山私は収録曲最後を飾る「いい湯かな?(2021 ver.)」ですね。毎年「ファミえん」で歌い続けてきた曲で、8分もあって長すぎるということでワンマンライブのときしか歌えない曲なんです。「おじいちゃん いい湯かな?おばあちゃん いい湯かな?」と歌う、あったかい気持ちなれるすごくいい曲です。こんなにもたくさん曲があるなかで、今作の収録曲の最後がこの曲で、また歌えたという喜びが大きくて。最後にこの曲がくると、味わいがさらに深くなる、最高の配置になっています。ぜひいろいろな方に聴いていただいて、優しい気持ちになっていただきたいですね。桜木私は、2曲目の「ラブリースマイリーベイビー(2021 ver.)」という曲です。とてもかわいらしい曲で、自分の声が高くないから合わないんじゃないかと、レコーディングのときに少し苦戦しました。でも、苦手意識を持たずに楽しく明るく歌うよう意識して、完成したものを聴いてみたら、自分の声が明るく聴こえてきて「高い声も出せるんだ」とうれしくなって、頑張ったぶんの思い入れがあります。3曲目の「誘惑したいや(2021 ver.)」も、合宿で急遽覚えないといけなくなった曲で、聴くとその合宿を思い出しますね。ーー合宿というのは?真山新メンバーオーディションの最終の合宿審査がありまして、3泊4日の合宿をやらせていただきました。みんなが「誘惑したいや」を最終日に披露してくれまして、3人3組でチームを組んでもらって、わたしたちとレコード会社の人と事務所の人の前で、歌ってくれたんです。小久保合宿はすごく緊張しました。そして私の思い入れのある曲は7曲目の「朝顔 (2021.ver.)」です。私たちがセリフを言う部分があるのですが、新しいメンバー用に、作詞の(元チャットモンチーの)高橋久美子さんが朗読詩を加筆してくださって、今回9人全員の朗読詩が楽しめるようになりました。そのセリフ部分を録り終えたときに、レコーディングをしてくださった方が、「すごい」と言ってくださって、すごくうれしかったです。風見和香。2007年8月25日、東京都生まれ。身長158cm。風見真山さんと同じく「いい湯かな?(2021 ver.)」に一番思い入れがあります。サビの最後の部分を歌わせていただいたので、聴いてくださる方の印象に残るようにしないとと頑張りました。ボイトレの先生にもたくさん質問して、何テイクも録ったので、注目して聴いてほしいですね。3曲目の「誘惑したいや(2021 ver.)」では、合宿のときと同じ部分を歌わせてもらっていて、合宿で大変だったことを思い出しながら歌っています。レコーディングで苦戦したところもありましたが、できなくて悔しかったところはまた「ファミえん」などのライブでも、しっかり歌えるようになれたらと思っています。ーー5曲目「summer dejavu」のアップデートとミックスを、作曲、編曲、プロデュースを担当した大沢伸一さん自らが今回務めていますが、ハワイアンな印象でゆったりとした楽曲です。真山もともとオールユニゾン曲で、新メンバーは歌入れしていますが、今回はわたしたち先輩メンバーはレコーディングしていない、2016年の楽曲になります。4年前のわたしたちの歌声と、いまのみんなの歌声が合わさっていて。昔のわたしたちの歌声と新メンバーの歌声とのフュージョンという、不思議な感覚がありますね。新メンバーの3人の歌声が入ると、ユニゾンがどこか変わった気がしますし、いまの私たちが歌っても大人っぽい楽曲なので、この曲の魅力であるユニゾンと歌詞とのアンバランスさがさらに増しています。ーー以前の曲は先輩メンバーの方は新たに録り直していない曲もあるけれど、新メンバーの方は全曲録っているということですよね。真山 そうです。初期から中期までの楽曲を再レコーディングしていますが、わたしたち先輩メンバーが再録したのは、1曲目「ご存知! エビ中音頭(2021 ver.)」と2曲「ラブリースマイリーベイビー(2021 ver.)」と4曲目「ナチュメロらんでぶー(2021 ver.)」と12曲目「いい湯かな?(2021 ver.)」になります。あとはパートごとで、増えたところは録っていたりしますね。「9人のエビ中はいいね」となったら明治神宮球場へーーお話は変わりますが、おうち時間が長引く現在、みなさんがいまハマっていることを教えてください。真山けっこう前からなんですが、ピクルス作りをしています。もともと酢の物が好きで、いまの時期は夏バテもしますし体力を落とさないためにも、何かいい案がないかなと思っていたら「ピクルスがある」と気づいて(笑)。自分で漬けています。お酢の分量やスパイスなどの調味料の分量によって、味もいろいろと変わってくるので、どんなお野菜でも漬けられるんですよ。いま漬けているのは、オクラのピクルスです。一度湯通ししているので、多少ふにゃっとしていますが、ピクルスにすると粘り気と酸味がすごくおいしいです。桜木私は特技でも言ったんですが、激辛料理にハマっています。以前は全然食べられなくてカレーも甘口でしたし、歯磨き粉も辛いのはダメだったんですよ(笑)。でも、あるとき突然、辛い料理が好きになって、純豆腐を激辛にしたうえで、スパイシーな唐辛子の粉を入れて食べたりもできるようになりました。あとは小説を読むことにハマっています。とくに、お風呂上がりのゆったりした時間に小説を読むと、心も体もリラックスできますよ。最近だと『みんな蛍を殺したかった』(木爾チレン著/二見書房)という小説を読みました。ハッピーエンドではないんですが、後半にいくにつれてすごく盛り上がっていって、本当は小説を読むのに時間がかかるんですが、この小説はすぐ読んでしまいました。小久保私はアニメを観ることが多いですね。前は漫画のほうを読んでいて、いまはアニメのほうを観てハマっているのが、『魔法少女サイト』(2018年MBSほかアニメイズム枠/現在はアマゾン・プライムビデオでも配信中)です。すごく面白いです。あとは1年中ですが、入浴剤にもハマっていてバスボムがすごく好きなので、毎日湯船に入れています。石鹸の香りが一番好きです。お湯に溶けると、中から何かが出てくるバスボムも好きで、サンリオのキャラクターが中から出てくる大きな「キャラボム」というのも集めていて、昨日やっと好きなキャラクターが出てきたので楽しいです。風見私はバランスボールにハマっていると言いますか、バランスボールに乗りながら、テレビを観たりスマホを使ったりしています。そうすることで、知らないうちに体幹がついたりするので、遊んだり正座して乗ったりしていますね。あとYouTubeで、声優の花江夏樹さんがやっているゲーム実況にもハマっています。『バイオハザード ヴィレッジ』という最新作のゲーム実況を何本かにわけて実況されていて、怖いシーンもあるんですが花江さんの叫び声が聴けるので、どのシーンも楽しく観ています。ーー続いては、みなさんの美容法があればお聞かせください。真山実は、小学6年生からずっと体重が変わっていなくて、体型維持を心がけています。いま24歳で今年25歳になるんですが、大人の女性らしい体型になると思うので女性らしいラインは残しつつ、鏡を毎日見てどこが自分にとって余分かそうじゃないかちゃんと見極めて、自分に合ったストレッチや筋トレをするようにしています。あとは、お水をしっかり摂るようにしていて、普段のお水も常温にして、体を冷やさないように心がけていますね。桜木いま15歳にしては気を遣っているほうなのかなと思うのは、毎日こまめに日焼け止めを塗ったり、化粧水に混ぜて使うビタミンCの粉があるので使っていたら肌もきれいになって、思春期だとできやすいニキビもおさえられています。そして食後にも、ビタミン剤を飲むのですが、内側からも外側からもビタミンを摂っています。以前、無理な筋トレをして腰を痛めたことがあったのですが、真山さんも言っていたように、自分にあった筋トレをやって、腰痛にならない筋トレやストレッチを意識してやっていますね。小久保私はみんなほど美容に気を配ってはいないんですが、学校に行くときは長袖を着たり、通学で半袖のときは上にカーディガンを羽織ったりしています。スカートも脚が日焼けしないようにスカート丈を絶対折らずに、膝丈をちゃんと守って履いていますね。少しでも日焼けしないように、だいたい日陰にいます。風見けっこう食べ物には気をつけていますね。ついお菓子を食べちゃうので、食べる前に最初から「今日はこれとこれとこれしか食べない」と決めて、1回袋からお菓子を取ったら、取ったぶんしか食べないと決めています。ダンスのレッスンのときにいただくお弁当はお肉が多いので、そのぶん家では母がお魚のメニューを考えてくれたりと、バランスの良い食事をしています。あとは野菜も入っているし、味噌は塩分もあって良いことがたくさんあるので、お味噌汁は絶対飲むようにしています。ーーみなさん、いろいろとお話をありがとうございました。では最後に、代表して真山さんから、今後の抱負をお聞かせください。真山6人体制のときに、エビ中でどこに向かっていきたいのかという「目標会議」をみんなでしまして。そのときに、エビ中は(所属事務所の)スターダストプロモーションの中でもライブを多く行っているアイドルですし、私たちもライブを大切にしてきたアイドルグループですので「いつか明治神宮球場に行きたい」とそのときに決めました。そのためにも、今年も来年もできれば精力的にライブ活動やグループ活動を頑張って、「9人のエビ中はすごくいいね」と言ってもらえるようになった暁には、明治神宮球場でワンマンライブができたらいいなと思っています。取材後記新たに9人体制となった私立恵比寿中学から、今回は真山りかさん、桜木心菜さん、小久保柚乃さん、風見和香さんにリモートインタビューさせていただきました。先輩メンバーである真山さんはテキパキと、新メンバーのみなさんは一生懸命インタビューに応えてくださる姿が初々しく、こうしてみなさんが一丸となって、新たなエビ中を盛り上げていかれるのだなと実感。そんな私立恵比寿中学の魅力が伝わるニューアルバム、みなさんもぜひチェックしてくださいね。取材、文・かわむらあみり私立恵比寿中学PROFILE2009年8月結成。真山りか、安本彩花、星名美怜、柏木ひなた、小林歌穂、中山莉子、桜木心菜、小久保柚乃、風見和香からなる、9人組アイドルグループ。通称「エビ中」。初期活動イメージは「king of 学芸会」。「誰もが永遠に中学生」というコンセプトのもとに活動をスタート。2012年5月、1stングル「仮契約のシンデレラ」でメジャーデビュー以降、すべてのシングルがオリコントップ10入り。2013年12月、初のアリーナ単独公演をさいたまスーパーアリーナで開催。当時の日本人アーティスト史上デビュー最速記録を打ち立てる。2017年、4thアルバム『エビクラシー』を発売、自身初のオリコンウィークリーチャート1位を獲得。結成10周年の2019年は『MUSiC』『playlist』という怒涛の2枚のオリジナルアルバムをリリース。オリコン、Billboard両チャートで1位を獲得。2021年8月18日、ニューアルバム『FAMIEN’21 L.P.』をリリース。9月25日、26日に秩父ミューズパーク 野外ステージにてエビ中 秋声と螻蛄と音楽の輝き 題して「ちゅうおん」2021開催予定。InformationNew Release『FAMIEN’21 L.P.』(収録曲)01.ご存知! エビ中音頭(2021 ver.)02.ラブリースマイリーベイビー(2021 ver.)03.誘惑したいや(2021 ver.)04.ナチュメロらんでぶー(2021 ver.)05.summer dejavu(2021 ver.)06.HOT UP!!!(2021 ver.)07.朝顔(2021 ver.)08.イート・ザ・大目玉(2021 ver.)09.青い青い星の名前(2021 ver.)10.23回目のサマーナイト(2021 ver.)11.イヤフォン・ライオット(ファミえん2021 テーマソング)12.いい湯かな?(2021 ver.)2021年8月18日発売(初回仕様限定盤)SECL-2684¥3,300(税込)*トレーディングカード2種封入。スペシャル・ペーパーケース。取材、文・かわむらあみり
2021年08月26日【音楽通信】第84回目に登場するのは、とびきりの笑顔や元気とともに歌やダンス、圧倒的なライブパフォーマンスを届け絶大な人気を誇る、ももいろクローバーZの高城れにさん!アイドルを目指したのはテレビアニメの影響【音楽通信】vol.84歌はもちろん、アクロバティックなダンスも披露するライブパフォーマンスが絶大な人気を誇るガールズユニット「ももいろクローバーZ」、通称“ももクロ”のメンバー、高城れにさん。高城さんは、2015年から毎年ソロコンサートを開催し、2020年にはドラマで初主演を果たすなど、ももクロとともにアイドルシーンにおいて、トップを走り続けています。そんな高城さんが、2021年8月18日に1stソロアルバム『れにちゃんWORLD』をリリースされたということで、お話をうかがいました。ーーまずは、高城さんが幼少期に憧れていたアイドルや聴いていた音楽からお聞かせください。小さい頃から、いろいろな音楽を聴くことが大好きで、モーニング娘。さんに憧れていました。「アイドルになりたい」と思ったきっかけは、テレビアニメ『きらりんレボリューション』(テレビ東京系 2006〜2009年放送)です。アイドルを目指す主人公の月島きらりちゃんが大好きで、このアニメでアイドルという職業を知ったんです。でも、もともと歌がすごく得意だったわけでもなく、どちらかといえば苦手だったんですが、自分ひとりで歌うことは好きでした。そこから私自身もアイドルを目指すようになって、中学2年生のときにスカウトされて、その頃「月島きらりちゃんのようなアイドルになれたらいいな」と思っていたタイミングで、ももクロをやらせていただくことになりました。いまも音楽はジャンルにこだわらずに、アイドルソングやロック、洋楽も邦楽も聴いています。もともとソロコンサートを始めるにあたって新曲を作ったり、歌詞を作ったりする機会もあって、これまでに聴いてきたいろいろな音楽や歌詞から、影響を受けていると思います。ーーでは、ももクロとしての活動状況は現在、いかがでしょうか。2019年にリリースした5thアルバム『MOMOIRO CLOVER Z』以来、2年ぶりになるオリジナルアルバムを今年の冬にリリースすることが決まっていて、いまはそのアルバムの制作も始まっています。ソロ作は“心の味方”としてそばにおいてほしいーー2021年8月18日に、1stソロアルバム『れにちゃんWORLD』をリリースされましたね。実は今年、ソロアルバムが出せるとは思っていなかったんです(笑)。でも、ありがたいことに、ソロコンサートもたくさんやらせていただいていて、ソロ曲もアルバムが1枚できるぐらい作っていただいていて。昨年、うちのグループの佐々木彩夏がソロアルバムを出させていただいたんですが、ファンの方からちらほら「次はそろそろ、れにちゃんのソロアルバム出さないかな?」というお声をいだだいていました。「いつかみなさんのお声にお応えしたいな」とはずっと思っていて、自分でもアルバムを出せたらいいな、そしてソロ楽曲も増やしたいなと思っていたんです。ちょうど今年のソロコンサートが終わったタイミングで、今回のソロアルバムのお話をいただいて、本当に夢のようでしたね。普段はグループで活動しているので、ソロでアルバムを出すというのはまた違った感動があって、それこそアルバムは形として一生残るもの。ジャケットや楽曲など、いろいろなことにこだわって作りたいなと思い、制作しました。ーー今回、新曲が3曲あります。リード曲で1曲目となる「SKY HIGH」は爽快な夏曲ですね。自分自身で聴く曲はポジティブな歌詞と曲調のものが多くて、元気がないときはそういう曲に元気づけられてきたので、やっぱり自分で曲を出すときも明るい雰囲気にしたいと思って作ったものです。いまはとくにコロナ禍でみなさん元気がないときでもあるので、この曲で少しでも元気になってもらいたいということと、発売が8月で夏なので、夏らしい前向きな曲にしたくて。そしてイメージとしては、飲料系のCMソングに使われているような爽やかなものがいいなと、曲を作る段階でスタッフの方に相談しました。ーー新曲の7曲目「Voyage!」はシティポップ風な印象もあります。この曲は、「SKY HIGH」に比べたら、大人っぽい感じのかっこいい曲にしたかったんです。ポジティブな印象の曲というところは変えたくなくて、でもそれだとテイストが似てしまうので、ポジティブのなかにもみんなが少し持っているであろうネガティブな気持ちも入れてみました。歌詞でいうと、元気が出ない日もあるよねと落ち込む気持ちを肯定しつつも、どんなときも笑顔でいたいというニュアンスも入っています。みなさんにもきっと共感してもらえるような歌詞になったのではないかと思います。未来へ舵を切ろうという、人生を船旅にたとえたような感じで、この曲のミュージックビデオも航海風なものになっています。ーー新曲の11曲目「何度でもセレナーデ」は、アニメ『鬼滅の刃』主題歌「紅蓮花」を作曲した草野華余子さんが作詞作曲したミディアムバラードですね。そうなんです。他の新曲2曲がけっこうアップテンポな楽曲なので、この曲はしんみりしすぎない程度のバラードがいいなとお伝えして、いただいた曲です。恋人や友達、家族といった大切な人へ向けた、さまざまな状況の方に共感してもらえるような歌詞になっていて、それぞれの立場で受け取っていただければといいなと。そして歌詞の1番には、いまのコロナ禍で私が思ったことも入っていて。あまり会えないみなさんへ向けて、何度でも歌にのせて想いを奏でるよ、というメッセージや気持ちがこもっています。ーー過去のももクロのアルバムに収録されていた高城さんのソロ曲や、配信既発曲などもソロアルバムに収録されていますね。3曲目「恋は暴れ鬼太鼓」と4曲目「津軽半島龍飛崎」は、「-NEW RENI ver.-」となっていますが、以前との違いはどのあたりでしょうか。ニューバージョンになっている2曲は演歌なのですが、正直、そこまで変わってないんです。でも、もう10年以上前に録ったものですから、自分の中では声が変わっていたり、表現の仕方が変わっているんじゃないかなという意味で、新しく録り直したいと相談しました。自分自身でも未知なる挑戦でしたが、どんなふうに変わっているか、その成長過程の聴き比べも、みなさんに楽しんでいただきたいですね。ーージャケ写はどのようなコンセプトなのでしょうか。実は私のソロコンサートにしても“その年の等身大の私を見せる”ということが、しいて言えばコンセプトなので、ソロアルバムについても、いまの私をお見せする感じです。ポップな歌やかっこいい歌、演歌とジャンル問わずなので、そういう楽曲たちをおもちゃに例えて、おもちゃ箱をひっくり返したようなイメージ。夢の国があるとして、行けるとしたら、大人も子どもも関係なく、ワクワクした気持ちになるじゃないですか。そのおもちゃ箱とワクワク感をこのアルバムで表現したいと思っているんです。ーーボーナストラックに、お笑い芸人の永野さんと歌詞を共作され、ヒャダイン(前山田健一)さんが作曲された「ユーアノッアロン」も収録されています。以前、千鳥さんの番組で、永野さんと高城さんがコントをしている場面も観させていただきましたが、おふたりで組んだきっかけはなんですか。私がお笑い好きなことはもちろん、もともと永野さんが私たちの初期からやっているレギュラー番組『ももクロChan~Momoiro Clover Z Channel~』(テレビ朝日の動画サイトのオリジナル番組)に、ゲストとして来ていただいたことがきっかけですね。実はあまり覚えていないんですが、番組で永野さんがネタを失敗して凹んでいたときに、私が「元気出して、笑顔だよ」と話しかけたことで永野さんも私のことを気にかけてくれるようになって。永野さんからお誘いいただいて、アイドルと芸人さんのコントライブはいままでないですし、面白いんじゃないかと思ってコントをすることになりました。年に1回、永野さんとふたりでコントライブをさせていただいて、もう、4、5回になりまね。ーーお忙しいなかでコントに挑戦というのは、なかなかハードルが高そうな印象もありますが。でもすごく、普段とは違うことをやっていて新鮮ですし、もとをたどれば見せ方や表現の仕方の追求にもなって、永野さんとのライブは勉強になることばっかりなので、毎年私楽しみにしています。ーー―『れにちゃんWORLD』は、どのように聴き手に届いてほしいですか。いまはこういう時期なので、私自身もそうですが、凹むことやうまくいかないことが、例年よりあると思うんですね。そんなときに“心の味方”として、このアルバムがそばにあってほしいなって思いますね。「いろいろなお仕事に挑戦してお芝居もやりたい」ーーお話は変わりますが、普段、プロポーションをキープするためにしていることはありますか。スタイルキープは私自身、あんまりできていないところがあるんです。やっぱり食欲には勝てないじゃないですか(笑)。疲れちゃった、失敗したというような日はめちゃくちゃ食べちゃいますし、スタイルキープできているかいなかというと、ちょっとアヤシイところ。でも、一応気にしているのは、食生活です。カロリーをとりすぎないように、家では0カロリーのお砂糖を使っていたり、お米には「マンナンごはん」という、コンニャクのお米をとりいれていたり。お米を炊くときに、白米とマンナンごはんを半分ずついれて、カロリーハーフのごはんを食べていますね。ーー美容面ではいかがですか。私、美容が大好きで、情報を共有するのも好きなんです。いろいろなものを自分で試してみて、よかったもの、ちょっと合わなかったものと、確かめてみたり。私が合うものでも他の人には合わないことやその逆もあって人それぞれだと思うので、お友だちと美容情報を交換しています。でも、まわりから私に一番多い質問というと、髪の毛なんですよね。このロングヘアをどうやってキープしているのかという。本当に、髪だけは恵まれているなって感じるので、髪のケアにはこだわっています。ーーどのようにケアをされているのですか。自分に合うこだわりのシャンプーをずっと使っています。そのシャンプーをした後に、シャンプーとトリートメントの間にやるトリートメントがあるのでそれをやって、5分おいて。さらにそこからトリートメントをして、その後はさらにヘアパックをします。ーーそれを毎日?毎日やっています(笑)。お風呂から出たら、洗い流さないトリートメントを髪全部につけて、乾かしたあとに、さらにオイルをつけています。ーーすごいです、アイドルの鑑ですね。ちなみに、今回のアルバムは夏の発売ですが、高城さんが“夏に必ずすること”があったら教えてください。季節もの、王道なものは、必ずやっています。夏だと、花火や、おうちで家族でバーベキューしたり。昨年は、おうちで夏祭りごっこをするために、屋台みたいな雰囲気を出して、打ち上げ花火の音だけかけてみたり。外出自粛中でも楽しめますよ。もしコロナ禍じゃなければ、夏は海へ行ったり、それこそ小学校の頃は毎年、キャンプに行っていたり。でもキャンプに行く前は、必ず、熱を出すんですが(笑)。ーーかわいいです(笑)。高城さんはけっこうアクティブなんですね。わりとそうですね。小さい頃は、夏に登山もしていました。最近はYouTubeで、海の定点カメラを観ることにハマっています。おすすめですよ。ーーでは最近ハマっているものといえば、定点カメラの映像ですか?定点カメラと、映画やアニメ鑑賞ですね。映画は、おしゃれな『キューティ・ブロンド』とか『ココ・シャネル』、アクションスリラー映画の『イコライザー』とか『デンジャラス・ラン』とか、いろいろなジャンルを観ますね。観た作品はほぼ全部、ストーリーがどうだったか、一番印象的だったセリフは何かなど、メモをとっています。ーーそして、6月21日で28歳、おめでとうございます。この1年で今後、プライベートでやってみたいことはありますか。いっぱいありますが、美容について極めたい、勉強したいですね。あと介護福祉にも興味があるので、その勉強もしたい。これはプライベートになるのかどうかわかりませんが、モノノフ(ももクロのファンの方の呼称)さんの女の子たちと、ゆるっと美容のことについて、配信だったりチャットだったりしてみたいです。あとは御朱印帳を集めているので、緊急事態宣言があけたら、歩ける範囲のお寺や神社を全制覇して、御朱印を集めたいですね。ーーこれまでに参拝して印象深かった神社仏閣はありますか。私がずっとお世話になっている神社があって、神奈川県の江の島にある、芸能の神さまがいらっしゃる、江島(えのしま)神社です。地元が横浜で神奈川県なんですが、小さいときから江ノ島方面に行くことも多くて、いまの事務所に入る2、3年前から江島神社に行き始めたんです。そこからことあるごとに、例えば大きなライブの前などは、必ず江島神社に「成功しますように」とお参りに行っていて。ライブが終わったら、お礼参りに行くということを毎年恒例でやっています。ーーいろいろなお話をありがとうございました。では最後に、高城さん個人として、ももいろクローバーZとして、今後の抱負をお聞かせください。個人としては、いろいろなお仕事に挑戦したいですし、まずはこのソロアルバムをたくさんの方に聴いていただきたいなと思います。そして個人的には、お芝居のほうもやってみたいなという願望があります。グループとしては、私たちの売りでもあるライブが昨年はあまりできなかったぶん、今年はもっとやりたいなと。ももクロとして冬にアルバムもリリースする予定なので、いろいろな方に、私たちの想いを届けたいですね。取材後記国民的アイドルグループ、ももいろクローバーZのメンバーであり、初めてのソロアルバムをリリースされた、高城れにさん。今回はリモートインタビューをさせていただきましたが、その際につけていたマスクが高城さんのイメージカラーの紫色だったのでそのことをたずねると、「今日たまたま紫色なんですよ」と、(見えている瞳が)ニッコリ笑顔ではにかむ姿がとってもキュートで素敵でした。そんな高城さんの1stソロアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり高城れにPROFILE1993年6月21日、神奈川県生まれ。百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏、高城れにの4人によるガールズユニット「ももいろクローバーZ」、通称“ももクロ”の最年長メンバー。イメージカラーは、紫色。2015年から、毎年3月9日に高城のソロコンサートを開催。2016年より、文化放送のラジオ番組「高城れにの週末ももクロパンチ!!」(毎週土曜17:00)をレギュラー担当中。2020年、よるドラ『彼女が成仏できない理由』(NHK総合)で初主演(森崎ウィンとともにW主演)。2021年8月18日、高城の1stソロアルバム『れにちゃんWORLD』をリリース。ももいろクローバーZは、次世代の新人プロジェクトとして2008年春に結成。ストリートライブを出発点に活動を開始し、2009年8月にシングル「ももいろパンチ」でインディーズデビュー。2010年5月にシングル「行くぜっ!怪盗少女」でメジャーデビュー。以降もコンスタントに作品を発表し、メンバーの身体能力を活かしたアクロバティックなダンスやバラエティタレント顔負けのトークによってライブ会場を盛り上げ、次第に個性的なグループとして頭角を現す。2021年冬、6thアルバムのリリースを予定している。InformationNew Release『れにちゃんWORLD』(収録曲)01.SKY HIGH02.じれったいな03.恋は暴れ鬼太鼓-NEW RENI ver.-04.津軽半島龍飛崎-NEW RENI ver.-05.Dancing れにちゃん06.Tail wind07.Voyage!08.しょこららいおん09.まるごとれにちゃん10.『3文字』の宝物11.何度でもセレナーデ12.spart!13.everyday れにちゃん14.一緒に<ボーナストラック>15.ユーアノッアロン*以下、初回限定盤のみ収録。[Blu-ray]新曲MUSIC VIDEO「SKY HIGH」「Voyage!」2曲「CongratuRenichan~The 02 season 2020~」-LIVE VIDEO-01.Dancing れにちゃん02.Ride on time03.キューティーハニー04.ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)05.VALENTI06.タマシイレボリューション07.everyday れにちゃん「まるごとれにちゃん0202スプリングツアー2021」-LIVE VIDEO (Edit ver.)-01.一緒に02.まるごとれにちゃん03.春夏秋冬04.spart!05.しょこららいおん06.笑―笑 ~シャオイーシャオ!~07.GODSPEED08.全力少女09.未来へススメ!10.everyday れにちゃん11.Tail wind[れにちゃんWORLD SPECIAL BOOKLET(44P)]Special Photo100 Questions!!-Fromモノノフ-What’s in Renichan’s bag?DiscographyInterviewRenichan Playlist2021年8月18日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)KICS-4016(CD)¥3,080(税込)(初回限定盤)KICS-94016(CD+Blu-ray)¥9,000(税込)取材、文・かわむらあみり
2021年08月19日ABEMA新作オリジナルドラマ「酒癖50」が7月15日(木)より放送開始となった。小出恵介主演、全6話構成で酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや醜さをリアルに描く。本作の脚本を担当したのは、これまでもABEMAとタッグを組み話題作を世に放ち続けている鈴木おさむ。直接、本作に込めた想いを聞いた。「他がやってないもの、ドス黒く輝くものを作りたい」――なぜ今回「お酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや醜さ」をテーマに作品を作ろうと思われたのでしょうか?最初のABEAMとの会議で、「酒癖が悪い人ってどの会社にもいるよね」って話から「そんな人たちが観た時にとんでもなく後悔したり、ハッとしたりするような教習ビデオみたいなものが作れないかな」という話から始まりました。――なかなかエッジの効いたテーマで、“さすがABEMA”という内容に仕上がっていますもんね。ABEMAの方からの“他がやってないものを作りたい、ABEMAの中でドス黒く輝くものを作りたい”という気概を感じて、僕も振り切って作ろうと決めました。――今回、初めて小林勇貴監督と組まれてみていかがでしたか?『全員死刑』とか観ているとクレイジーだったり、寡黙で面倒くさい人なのかなと思ったんですけど(笑)、会ってみるとめちゃくちゃ社交的な人で。僕が1話ごとにプロットを出すと、物語の「背骨」になる部分を掲げてくれるので、対話しながら作っていくのが楽しかったです。小出恵介はじめ各話キャスティングの理由とは――鈴木おさむ作品と言えば、キャスティングも見どころの一つかと思いますが、今回特にどんな点を意識されてキャスティングに当られたのでしょうか?元々、主人公の酒野役を小出恵介さんにというのはABEMAの制作サイドから出てきたアイディアで、彼が演るからこその説得力が作品に宿ると思いました。ビートたけしさんが昔、昭和の実在する殺人者シリーズを演じていて、すごい怖さや説得力があったんですね。今回の『酒癖50』は小出くんが演ることに意味があると思いました。各回のキャストでは、お芝居が上手い人に演じてもらってドラマの質を高めていくことを意識しました。浅香航大さんは『見えない目撃者』のお芝居が半端なくて大好きなので、1話では彼に主演を演ってもらいたいと思っていました。――第3話では般若さんも出演されていてビックリしました。上司役で怖いイメージがありながらも、最後の展開を踏まえて一番ギャップがある人って誰だろうと考えた時に般若さんが思い浮かびました。僕も「フリースタイルダンジョン」からのお付き合いだったので、色々と無理を聞いて下さり愛を持って演じて下さったなぁと感謝しています。――キャスティングが一番難しかったのはどの回ですか?第4話は特に女性が観た時に胸糞が悪い内容になっているので、かなり気をつけて作りました。しずるの村上くんは芸人なので、胸糞の悪さよりもバカバカしさが出て、キャラクターにフィクション感が出るかなと思って決めました。結末も相まってざまあみろ感も出て、彼に演じてもらったことで生々しさは軽減されたと思います。――第5話からは小池徹平さんもゲスト出演されるようですね。小池徹平さんの役の名前が「武山」なんですけど、小出くんと小池くんが「ごくせん」(第2シリーズ)で共演していてその時の小池くんの役が「タケ」(武田啓太)と呼ばれていたので。それで「タケ」がつく名前にしました。作品がすごくバッドテイストなので相当キャスティングにも苦労したんですが、小池くんが心意気で引き受けてくれました。きっと小出くんの背中を押したいという気持ちもあったんだろうなと思います。“物語のうねり部分”を見せて物語に仕上げる――全6話いうことですが、鈴木さんとして一番思い入れが強いのは第何話でしょうか。全部思い入れは強いですね。第1話が方向性を示すという意味では手探りで作っていったので思い入れは強いです。第5・6話は、小出くんの人生と重なるところがあるからこそ、彼自身もすごい力を発揮してくれるんじゃないかと思いますし、見応えはあると思います。今回、第1話~第4話まで毎話バッドエンドが続いて、第5・6話で主人公の過去などドラマの主軸となるような物語のうねり部分を見せて作品全体の物語に仕上げるという構成上も新しい実験を試みることができました。――鈴木さんは飲酒を交えたコミュニケーション=“飲みニケーション”でないと成立しない関係性ってあると思いますか?人が気を抜いてリラックスしている関係性だからこそ生まれるものはあると思います。ただ、それは相手もお酒が好きでそれを望んでいる場合には、ですね。酒の力を利用して口説こうとしたり、付け込んだりするのはいけないよねっていうのが今回の作品のテーマですね。ゴルフや麻雀、旅行なんかの趣味で、自分の素が出るものであれば、何も飲み二ケーションに限った話でもないかなと思います。――最後に本作をどんな方に観て欲しいか、見どころと一緒に教えて下さい。仕事していてちょっと悩んでいたりムカつくことって誰にでもあるじゃないですか。入り口は酒なんですけど、酒を外したところでも会社でよくある辛いことや理不尽なことをここまで露わに表現した作品ってあんまりないんじゃないのかなと思うんです。そこがリアルで、皆さんに観てもらえるとスカッとすると思います。(佳香(かこ))
2021年08月19日「映画と人を繋ぐ」――。昨年公開され、インディーズ作品ながらも大きな話題を呼んだ青春映画『佐々木、イン、マイマイン』のプロデュースを行なったShake,Tokyo(シェイクトーキョー株式会社)代表の汐田海平。彼が仲間と共に昨年、結成した「uni(ユニ)」の活動内容について尋ねると、そんな簡潔な答えが返ってきた。「映画業界の同業者の方たちにもよく聞かれますよ。『uniって何やってるの?』って(笑)。謎の集団みたいに思われがちなんですけど、決して難しいことをしようとしているわけじゃなく、最終的に映画館に足を運ぶ人たちを増やすのが目的なんです」映画業界に携わる人々にその仕事内容について話を伺う【映画お仕事図鑑】。連載10回目となる今回は、映画の製作から宣伝、さらには「uni」を通じた映画にまつわる発信まで、多岐にわたって活躍する汐田さんに話を聞いた。母に勧められた黒沢清監督『CURE』の衝撃! 評論を学ぶため大学へ――まずは汐田さんご自身についてお話を伺ってまいります。ご出身は鳥取県だと伺いましたが、子どもの頃から映画がお好きだったんですか?鳥取県って映画館が少ないんですよ。いまは県内に3軒かな? 僕は米子市の出身なんですが、市内にあった映画館が子どもの頃につぶれてしまって、隣の日吉津村(ひえづそん)という村のイオンの中にあるMOVIX日吉津村が近くにあった唯一の映画館で、映画を観るなら自転車で30分くらいかけてそこに行くしかなかったんですね。だから映画館で映画をたくさん見るという体験はあまりしていなくて。ただ祖父と母が映画好きだったので、毎週のようにVHSやDVDを借りて、映画を観るというのはしていました。とはいえ“映画好きの少年”というよりは、同世代のみんなが好きなTVやゲーム、漫画といったエンタメ全般が好きな子どもでした。――その当時の忘れられない映画体験、衝撃を受けた作品などはありますか?映画に“捕まった”瞬間ということで言うと、黒沢清監督の『CURE(キュア)』を母の勧めでレンタルで観たことです。「怖いから観てごらん」と母に言われて観て、食らいましたね(笑)。当時は、映画専門雑誌というよりも「BRUTUS(ブルータス)」といったカルチャー雑誌の「泣ける映画特集」とかを読んで、そこに出てくる映画を借りて観ていたんですが、『CURE』はそういった雑誌では見つけられなかったんです。いままで観たどの映画とも違いました。それを解釈する言葉がないんです。なぜ面白いか? 理由はわからないけど、メチャクチャ面白いというのを初めて経験して、それをきっかけに、より映画が好きになりましたね。当時高校生だったと思いますが「映画ってすごい」と初めて体感として知りました。――お母さまの世代で、黒沢監督の『CURE』を息子に勧めるというセンスが素晴らしいですね!地元に「米子シネクラブ」という自主上映団体があって、東京で話題のミニシアター系に作品などを数か月遅れて公民館などで上映していて、母はそこにもよく行っていました。いまでも、西日本であればどこでも遠征するくらい、映画が好きみたいです。そうやって母に勧められてなかったら、仕事にするほど映画を好きになっていなかったと思います。――当時はいまのような配信サービスもなく、地方に住んでいて、映画は好きだけど、映画館が地元にない、レンタルすらままならない! という人間は多かったと思います。上京して、映画館が当たり前にある環境に感激したり、中学・高校時代から普通にミニシアターに行っていたという東京出身の同世代との“差”を感じたり…。あぁ、それはすごくよくわかります(笑)。僕も高校を卒業して上京して、ミニシアターとかに行くようになったけど、その時に思ったのは、周りにいる東京出身の人とは持ってる「文化資本」が全然違うってことでした。大学では映画評論をやっていましたが、映画評論家の梅本洋一先生のゼミだったんです。梅本先生自身が、横浜出身で原宿で育って、フランスに留学していたという人で、圧倒的に文化的な前提が違うってひしひしと感じていましたね。でも映画が好きは好きだし、他に何か負けない方法があるんじゃないか?みたいなことを思いながら、大学生活を送ってましたね。ただ、梅本先生に映画評論を教えていただいたことは、いまでもすごくよかったなと思ってて。同級生や先輩含めて都会の人に差を見せつけられ、早い段階で鼻っ柱をへし折られたのが、結果的に、いまやっている仕事にもつながっているんじゃないかなと感じています。――ご両親は医者だそうですが、ご自身も医者になろうという思いはなかったんですか?親が医者をしている人間がみんなそう思うのかはわかりませんが、将来のことを深く考えずに、なんとなく「医者になるんだろうな」と思って育った部分はありましたね。「医者になりたい」と強く思ったことは一度もなかったんですけど、何もなければ自分は医者になるんだろうと。昔からエンタメが好きで放送作家や文章を書く仕事をしたいと思っていた時期もあったんですが、それでも「医者になる」というのが勝って、現役では医学部を受けました。そこでも結局落ちて、浪人することになったんですが、予備校に通うために東京に出てきてしまったんですね(苦笑)。そこでいろいろと考えることがあり…。寮のある予備校だったんですが、市ヶ谷にあって、ミニシアターにも行けるようになり(笑)、田舎からでてくると楽しくて。そんな環境の中で「自分がやりたいのが映画なんだ」と思うようになりました。医者になるために上京して、医学部専門の予備校に入って、周りは全員、医者を目指している環境でどんどん「そうじゃない」という思いが強くなっていったんですね。――親御さんの反応は…?最初は反対されましたね。いや、そもそも反対されるのをわかっていたので、直前まで「医者にならない」とも言っていなくて…。結局、医学部を受けて、私立大の補欠合格までもらったんですが、国立大の受験は、映画評論が学べる横浜国立大を選びました。でも、そもそも横浜国立大にそういう学科があると教えてくれたのは、母なんですよ(笑)。――またしてもお母さまが(笑)!そうなんです。母も医者でしたが、昔からわりと自由な選択をさせてくれたんですね。――大学在学中から卒業後にかけてはどのようなことをされていたんでしょうか?大学在学中は、映画を作っていました。映画評論がしたくて大学に入ったんですが、同時に映画研究部にも入って、映画制作もするようになりました。ただ、どちらもやっていく中で、わりと早い段階で評論のほうは“壁”にぶつかったんですね。すごくズルい言い方ですが、評論の世界にはすごい人たちがたくさんいて「これは勝てないんじゃないか?」って。さきほどの文化資本、文化的な素養みたいな話なんですが、梅本先生をはじめ、大学の先輩や評論の世界で活躍されている方々の文章を読む中で「この差はどうにもならないんじゃないのか?」と思ってしまったんですね。それで、作るほうに力を割くようになって、それが楽しくなってきたんです。卒業後の進路に関しては、いわゆる就職活動はしていなくて、在学中から生意気にも忙しくなって、映像制作の現場の下っ端仕事だったり、業務委託を受けて映像を制作するといったことをやっていました。一応、大学院にも進んだのですが、僕が修士1年生の時に梅本先生がお亡くなりになって、そのまま大学院もやめて、フリーランスで働くようになったんです。20歳で見定めた“プロデューサー”という道――映画の自主制作というよりも、“仕事”として制作を請け負っていたんですか?最初はもちろん、学生の自主制作でした。当初は監督をやってたんですが、同級生に平田くん(平田大輔)という人がいて、彼の映画を観た時に「これは勝てないかも…」と思ったんです、また(笑)。――早い段階で(笑)。それで、平田くんの映画のプロデュースをしたいと思ったんです。だから1本だけ監督をして、その後は「プロデューサー」を名乗っていました。学生映画でプロデューサーを名乗る人間なんてあんまりいないんですけど(笑)、映画に関するいろんな役割を観たとき、いまから自分が始めて、将来成功するならこの道だなと。20歳くらいで決めたんです。――その年齢で、映画業界における自分の仕事をプロデューサーだと見定めるってすごいですね(笑)。あきらめは早いんですけど、昔から「これ」と決めたら徹底的にやり通す性格なんです。ちなみに平田くんは、いまは売れっ子のCMディレクターになっていて、その勘は正しかったなと思います(笑)。そうやって6年ほど、フリーランスで映像制作にまつわる仕事をやっていました。――その当時の“プロデューサー”という立場の仕事は、具体的にはどんなことをされていたんですか?いわゆるラインプロデューサーという、現場の制作進行管理を統括する仕事を主にしていましたね。ただ、小さな作品だと、自分でお金をどこかから引っ張ってくることも必要になったりして、そういう仕事もしていました。クラウドファンディングが出てきたのも10年ほど前ですし、YouTubeが注目され始めたのもその頃ですよね。いまは当時よりもさらにその傾向は強いと思いますが、“個人の時代”になっていく中で、個人でできることって実はたくさんあって、それこそ自分が初めて制作した作品ではクラウドファンディングでお金を集めたりもしましたし、やり方にとらわれず、作品を前に進め、公開まで持っていくという仕事ですね。その後、2017年に映像制作会社を共同で立ち上げて、そこでは広告系、企業系の映像の仕事を多くやっていました。CMであったり、企業の採用ページのWEB動画などですね。ただ、共同経営だと会社の代表者の名の下で動かなきゃいけないことが多くなります。映画を作るとなったら、自分以外の人にリスクや責任を負わせることになってしまう。それを僕自身が背負えるようにならなきゃダメだなと思いまして、昨年、自分で代表を務める「Shake,Tokyo(シェイクトーキョー株式会社)」を始めたんです。「uni」が導く映画と観客の出会い映画を伝えるための“オーディエンス・デザイン”――「Shake,Tokyo」でやられているお仕事について、詳しく教えてください。まず映画『佐々木、イン、マイマイン』が最初の製作作品となりました。映画製作に関しては、既存の枠組みでは作りづらいテーマの作品であったり、新人監督や若い才能を最大化したいという思いでやってます。そうするにはやはり、誰かリスクを強く背負う人間がいないとダメなんですよね。それなら自分でもできるかもなって思ったんです。リスクを負うだけならできるぞと思ってしまいました(笑)。それ以外には、広告などの映像制作の受託業務をやっていて、これが売り上げの大きな部分を占めています。会社が潰れないのはこれのおかげです。もうひとつ、「オーディエンス・デザイン」と僕は呼んでいるのですが、映画を伝えるためにお客さんと積極的に関わっていくような活動をやっています。――それが昨年、結成された「uni」と深く関わってくる活動ですね? 詳しく教えてください。『佐々木、イン、マイマイン』以前にもいろんな作品に関わらせてもらってきて、宣伝業務のお手伝いなどもさせていただいてきたんですが、その中で、映画の観客(オーディエンス)と作品の関係性をちゃんと考えたいなって思うことが増えてきたんですね。そのなかで始めたのが、松竹さんと共同で運営する、映画ファンのコミュニティ「SHAKE(シェイク)」で、コミュニティを中心に、もっと映画を楽しんでもらう仕掛けをしようという活動で、いまは100名ちょっとのメンバーがいます。そしてもうひとつ、「映画との出会いを作る」というコンセプトで仲間たちと始めたのが「uni」というチームです。――先ほど「オーディエンスと作品の関係性をちゃんと考えたい」とおっしゃっていましたが、具体的に何がきっかけで、どのような思いを抱かれたんでしょうか?きっかけはいろいろあったんですけど、いろんな作品に関わらせていただいたときに、いろんな手応えやリアクションを感じることもあった一方、映画祭の場ではものすごく受け入れてもらえても、劇場公開となると全然人が来なくて…みたいな経験もありました。そういうときは作品を届ける方法について考えてしまいます。加えて昨年、経産省のプロジェクトでロッテルダムやベルリンの映画祭に若手プロデューサーを派遣するというプログラムがあって、行かせてもらったのですが、そこで海外のクリエイターと話をする中で「全然、日本とは考え方が違うな」とすごくショックを受けたんですね。よく言われていますが、日本の映画ビジネスって特殊な部分が多くて、映画人口が約1億人いて、内需で全て完結できてしまうので、その1億人のパイをどう分け合って活用していくか?というビジネスモデルなんですね。そうすると何が起こるか――? 例えば『佐々木、イン、マイマイン』という作品を盛り上げようという時、そこに誰が宣伝のためのお金を出すかというと、もちろん作品側が出すことになる。つまり宣伝が作品に寄り過ぎてるんですね。そこは本来、メディア、劇場、映画ファンなど、それぞれの利益のためにもみんなで盛り上げていく必要があるはずなんですけど、疑問に感じている人が少ない。作品が自分で自分の宣伝をする以外の方法があまりに少ないんです。そうした状況が進むと、基本的に原作の知名度の高さか出演者の人気でしか、映画を広めるためのフックを作れなくなってしまうんです。そうなると映画を作る前から原作とキャストが決まった状態で企画がスタートして、監督の手に渡る頃には企画の概要が固まっていて、監督のクリエイティブの幅が狭くなってしまう。これは既に起こっている、ものづくりにとってよくない悪循環だと思います。本来は映画会社や映画館、クリエイター、レーベル、コミュニティなど、それぞれにファンがつくような状態で、彼らに「この映画なら観たいな」って思ってもらうような流れ、構造を育てていかないといけなかったのに、僕たちはそれをやってこなかった。そんな状況で、「とはいえみんな生活をしていかないといけないから…」と次から次へと新しい作品を回していかないといけない――。それって映画のコミュニケーションとしては速すぎるんですよね。そのコミュニケーションをもっとゆっくりにすることはできないか? と考えます。もちろん、映画をたくさん見てくれる人たちの存在はすごくありがたいんですけど、その一方で、日本は公開される作品の数はものすごく多いのに、映画を観る人の数は多くないというミスマッチが業界的な構造として発生してるんです。1本1本の作品を丁寧に選ぶカルチャーを作りたい――。そんな問題意識でこの活動を始めました。マス広告ではないやり方で映画を届けるために――人々に映画を届けるコミュニケーションの速度や形を変えて、届くべき人たちにきちんと作品を届けていこうと?言い方が悪いですが、いまってインディーズであっても、多くの作品がやっているのは“しょぼいマス広告”であって、やっていることのベースは、大衆に向けたマス広告なんです。でもそれでは大作と比べて予算も人も少ないので、露出量で負けて、興行収入でも勝てない…。一方でここ数年、小規模ながらに成功したと言える作品を考えた時、『カメラを止めるな!』も『愛がなんだ』もそうですが、これらの作品がマスに向けた広告を先立って打ったかといえば、そんなことはしていないんです。そうした前例も踏まえて、小規模な映画なりの“伝え方”がきちんと確立されるべきだと思っていて、プッシュ型ではない、プル型の形を作っていけたらと思っています。「PR」という言葉は「パブリック・リレーションズ」の略ですが、作品と観客の“関係性”をちゃんと作りたいし、それをやらないと、規模の大きな、宣伝費のある作品順にヒットするだけになってしまうと思います。先ほども言いましたが、いま現在のような公開本数とスピード感で回し続けていかないといけないというやり方って、自分たちの首を絞めることになっていると思います。それは僕自身、映画を“届ける”立場であると同時に、“作る”側の立場としても感じていることで、果たして本当にこれだけの作品数が必要なのか?と思います。日本が世界有数の公開本数を誇る、それ自体は素晴らしいことだと思いますし、多くの人に作品を作るチャンスがあるっていうのも大事なことです。一方、劇場、配給も含め「本当にこれだけの本数を掛ける必要はあるのか?」「そうでないと劇場が回らないというのは本当か?」ということは問い続けていきたいなと。映画館を人でいっぱいにするために――失われつつある“評論”の役割を別の形で果たしたい――特に「uni」の活動について、どのようなことをしているのか教えてください。「uni」は、基本的には僕を含めて映画関係者と映画インフルエンサーのチームで構成されていまして、デザイナーやWEBに強いメンバーもいるので、その気になれば宣伝含めても全部を自分たちでできるチームです。具体的な活動としては、決してWEBに特化しているというわけではなく、もともとはリアルなイベントをやるチームを作りたかったんです。でも昨年、それを始めようかという時期にコロナ禍が直撃してしまい…、そこでまずはオンラインでできることをやろうということになりました。いまは、SNS上でキャンペーンを行なったり、受託した仕事だけとしてではなく、自分たち発信でいろんな活動をしてるんですけど、全ての活動に共通するコンセプトは「同じような映画が好きな人同士を繋げる」ということです。人が繋がれば、そこにコミュニケーションが生まれるし、ひとつひとつの映画に対しての言葉も増える。そこでのやり取りを通じて、映画をより深く楽しんでもらえる状況になると思います。映画を観て、そして話すということが、映画をより立体的に楽しむことに繋がっていくと思うので、まずは、ある作品を「好き」だと言う人がいたとき、その人たち同士を繋げるためのキャンペーンや企画をやっていきたいなと思っています。基本的にはTwitterとLINEをメインで活用していて「ハッシュタグキャンペーン」というのをやってます。このハッシュタグを使っている人は、ある程度、同じような映画が好きだということで、映画好きの仲間を探せるようになっています。それ以外ではオンラインでのトークイベントなどをZoomやYouTubeなどでやっています。――宣伝活動というよりは、インフルエンサーによる自主的な発信をベースに繋がっているということでしょうか?自主的な発信も多いですが、宣伝会社、映画会社からの依頼を受けて、試写会をやることもあります。試写会って、宣伝さんからしたら、すごく重要な宣伝ツールで、そこで映画を観る人たちは、劇場公開前に最初に作品を観るお客さんなので、より多くの人に作品が広がるようないい口コミがほしいし、良いお客さんに観てほしいんです。「uni」は、Twitterや約8,500人が登録している公式LINE(7月26日現在)を通じて、その映画に合う観客、その映画にハマりそうな人を試写にお呼びするお手伝いをしたり、試写会でトークイベントなどを行ない、「uni」のメンバーとお客さんのコミュニケーションを生み出すこともできます。――ニュースなどを通じて、広く作品の情報を広めるのではなく、インフルエンサーらを通じて、その作品に合うファンに作品を“届ける”という、まさに従来のWEBメディアとは違う形でのコミュニケーションですね。あくまでも個人の集団なんです。それぞれのメンバーが思っている課題への取り組みやこういうイベントがあったらいいんじゃない?ということを実際にやっています。――昨年、結成されてさらにこの6月に新たなメンバーが加わりました。メンバーについては汐田さんが勧誘を?もともと、映画アクティビストのDIZさんと「やりたいね」と話してたのがきっかけです。それ以前からイベントに出演していただいたりしてて、DIZさんが「映画好きの人を繋げたい」というピュアな思いを強く持っていることも知っていたので、実現できることがないかなと思っていたんです。当初、僕自身は、映画ファンが作るWEBメディアみたいなものをイメージしていたんですが、状況や過程を想定しながら話し合う中でイベントをやりながら人々を繋げていく方がいいという結論に至りました。DIZさんは既に映画のイベントをやっていて、そのメンバーにタカヒロさん(コネクター)、アリサちゃん(マーケター、プランナー)もいて、でも彼らだけではできないこともできるようにしたいということで、そこに映画宣伝のプロである琴美さん(PRコーディネーター)を誘って5人でスタートしました。そこに今回、新たにもっちゃん(プランナー)、harucaさん(デザイナー)、しんのすけさん(サポートプランナー)、キミシマユウキさん(パーティーメイカー)という、インフルエンス力もあって、クリエイティブも強いメンバーに加わってもらって、より大きなものを動かせるチームになったと思います。今回の新たなメンバーはひとりひとり「uniに入りませんか?」と勧誘しました。――インフルエンサーを通じて作品と人をつなげるとなると、ターゲットはやはり若者層となるのでしょうか?現在の「uni」のフォロワーさん、LINE登録者の75%は女性で、年齢層は20代前半が一番多く、その次が20代後半、10代後半ですね。おそらく既存の映画メディアだともう少し年齢層は高めなので、若い映画ファンとコミュニケーションを取れることは強みかなと感じています。ただターゲティングはそこまで重要視していなくて、あくまでもミッションは「映画が好きな人を増やす」ということだと考えているので、最初から「この層を狙って当てていく」ということを決めてはいないです。純粋に映画ファンを増やしていくとなると、新しく映画を好きになるのは若い人たちが多いのは当然ですけど、最初からターゲットを決めて、その層が喜ぶことをやっていこうとは考えていません。「uni」のメンバーが好きなこと、やりたいことをやって、それによって結果的に好きな人が増えていくということが大事だと思ってます。フォロワーや登録者を見ていると、年間に数百本も映画を観るような、かなり映画好きの人もいれば、地方に在住の方で、シネコンで年に数本観ているという方もいるし、本当にいろんな方がいますが、ポジティブに映画を楽しもうとするひとが多い気がしますね。――最初に大学での評論から映画の世界に入られて、その後、作品の制作なども手がけられてきて、いま現在、「uni」でやろうとしていることは、映画の仕事の中でもかなりタイプの異なることですね?評論から始まっているということで言うと、そもそもいま「評論」というジャンルそのものが、成立しにくくなっている現状があります。もともと、僕は評論が持っている機能ってすごく尊いもので、大事なことだと思っていて、お客さんに声を届けるだけでなく、作り手を育てていくという、両方に向けた言葉を紡いでいく仕事だと思っています。ただ、その評論がいまほとんどなくなってしまっている。これだけSNSなど、情報の出口が多様化し、点在化したことで、ひとつの強い言葉が短くなってしまって、まとまった長い言葉でインフルエンスするというのが難しい状況になってしまったんですよね。僕自身、大学の頃からそうなっていくのを感じていて、評論をあきらめたのはそれも理由のひとつです。この先、評論家をやっていくとなると、相当の頭の良さ、特殊な能力がないと無理だぞって。とはいえ、評論が持つ機能を果たすことは、いまやっているプロジェクトや事業を通してできるかもと思い、やっています。作品を作るということもそうだし、「uni」や「SHAKE」といったプロジェクト、事業など、いくつかのことをやっていく中で、結果的に評論しているのと近い役割を果たせる可能性があるのではないかなと。いろんな思いがあって、評論の道をあきらめて、いまこうした活動をやっていますが、改めて考えると、自分の中にやりたいことのある種の一貫性は存在していて、いくつもの「点を打つ」ということなんだなと感じています。「汐田ってヤツは、なんで映画を作ったり、uniをやったり、SHAKEをやったりしてるんだ?」って一見、バラバラなことをやっているように思えるかもしれませんが、実は僕の中で「映画業界がこう進んでいけばいいな…」と思っているものがあって、その流れを作るための僕なりの評論的な活動をしているつもりです。僕自身「評論の力」を信じていて、その役割はすごく大きいものだと思っているので、評論の持つ「お客さんを育て、作り手を育て、業界の流れを作る」という機能を別のやり方で挑戦しています。――新体制の「uni」として、今後どのような活動を行なっていく予定なのか教えてください。メンバーにSNSや新しいメディアに強い人が多いので、オンライン活動に重きを置いているように見えますが、僕らは「映画館で出会う」ということにすごく強い思いを持っていて、むしろそれができるならSNSも要らないと思っているんです。あくまでもツールとしてインターネット、SNSを活用してます。僕自身、同業のいろんな人に「で、uniって何やってんの?」ってよく聞かれます。謎の集団みたいに思われがちなんですけど、決して難しいことをしようとしているわけじゃなくて、映画ファンを増やし、映画館に来る人を増やす試みだと。いまはまだ、コロナ禍もあってなかなか難しいですが、自分たち発信のリアルなイベントも考えています。とはいえ、既に映画が好きな人に喜んでもらうことだけを考えてたら、全体数は増えてはいけないんですよね。素敵な文化やカルチャー、コミュニティが日本にはたくさんあって、そのうちの何割かが映画を好きになってくれたら、映画ファンが増えるかもしれません。もともと「あんまり映画は見ないけど本や音楽が好きな人」の何%かに映画館に来てもらえたらと考えて、コラボレーションで何かをやる。いままで映画業界に関わってこなかった人を巻き込む、映画をもっとソーシャルなものにしていくというコンセプトを突き詰めたいと思っています。映画業界に限らず、どの業界も内に内にと閉じてしまいがちです。それによってジャンルが強固になる部分もあるけど、いまは外に外にが必要な局面と思っていて、映画をソーシャルにつなげていく動き、きっかけを生み出せたらと思います。その一環として「uni」でやろうと考えているのが「子どもたちと映画を観る」ということ。映画好きを増やすコンセプトの一環でワークショップもやろうと思っています。子どもと映画を作るというワークショップはあっても、子どもと一緒に映画を観て、感想を言うというワークショップって実は多くないんですよね。「uni」のメンバーで言うと、しんのすけさんは、若い人に向けて映画を発信していて、専門学校の先生もやっているので、そうした素養もある人です。子どもたちに映画の楽しさを知ってもらうというのは、新体制になった「uni」でやりたいことです。――この記事で「uni」の活動について初めて知ったという読者も多いかと思います。最後に改めてメッセージをお願いします。何よりもみなさんに楽しんでほしいと思っています。映画館に来たら絶対に楽しいよ!という活動をやっているので、ぜひそれを知っていただければと思います。映画業界の同業者のみなさんには「よくわかんない存在」に見えているかもしれないですが(笑)、ちゃんと考えた上で、いろいろやりたいと思ってるので、どんどんコラボしていきましょうとお伝えしたいです。僕らはとにかくオープンに、ソーシャルでいたいと思っているので、一緒にやれそうなこと、お手伝いできそうなことがあればぜひお声がけください!――『佐々木、イン、マイマイン』に続き、「Shake,Tokyo」として新しい作品を作る予定はあるんですか?やります! 新作、動いています! ぜひお楽しみに!(text:Naoki Kurozu)■関連作品:佐々木、イン、マイマイン 2020年11月27日より新宿武蔵野館、渋谷シネクイント、池袋シネマ・ロサの3館にて同日公開©「佐々木、イン、マイマイン」
2021年08月02日小出恵介主演、全6話構成のオムニバス形式で酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや愚かさをリアルに描くABEMA新作オリジナルドラマ「酒癖50」が、7月15日夜10時より放送中。本作の第3話で主人公の口山憲治役を演じた犬飼貴丈に、撮影中の印象深いエピソードなどについて話を聞いた。新たな面が引き出されたラップシーン――本作の台本を初めて読んでみた感想はいかがでしたか?こんなにも攻めた内容で大丈夫なのかなと不安になりましたが、これをそのまま表現できたら面白くなりそうだなと思いました。鈴木おさむさんの脚本、小林監督の演出、そしてABEMAが掛け合わさったからこそ出来たことだと思います。――本作の出演を通して、自分の新たな面が引き出されたところはありましたか?初挑戦のラップシーンですね。しかも今だから言えるんですけど、前日に監督から「ここは変えよう」という指示が入ったりしてかなり大変でした(笑)。般若さんの前でそんな付け焼き刃のラップを披露して怒られないかなぁ~と緊張しましたし怖かったですね(笑)。――ラップはどうやって練習されたんですか?ラッパーのSAMさんが指導に入って下さりました。台本のラップを音に乗せて音源として送って下さって、それを聴きながら練習しました。――今回演じられた口山はお酒を飲む前後でかなり人格が変わる役柄だったと思いますが、その変化感はどう表現されましたか?お酒を飲むと別人格になる役柄なので、飲酒前の内向的な元のキャラクターと完全に切り離して飲酒後は“全くの別人”として見えるように演じました。――犬飼さん自身と今回演じられた口山は何か共通点はありましたか?自分も元々はお酒が弱かったので、そこは似ていますね。ただ、自分はお酒を飲んでもあまり変わらないので取り乱したりすることはないです。――ラップシーン以外で撮影中印象深いエピソードはありましたか?「アルハラは辞めましょう」というメッセージも込められた作品ながら、現場ではノンアルコールビールは結構飲みましたね(笑)。――特にここが見どころというシーンはありますか?最後に般若さんと一対一でラップバトルのような展開になるんですが、般若さんは敢えて“ラップっぽくなく”やられていて。そのハズし感が物語の中でスパイスになっていてエッジが効いているなぁと思います。本業ラッパーの方がラップをしない贅沢さと、それなのに俳優がラップをやっているっていう歪さが作風にも合っているかなと感じます。“職業:表現者”として「王道・正統派な役柄も」――今回の攻めた役柄もとても魅力的でしたが、今後演じられたいのはどんな役柄でしょうか?恋愛ドラマでキラキラした役をやったことがなくて。ジュノンボーイなんですけどね(笑)。こういう攻めた役柄だけじゃなくて、「王道・正統派」な役柄もやっておかないと、エッジが効いた役柄ばかり極めすぎたらもう戻れない気がしてちょっと心配しています(笑)。YouTubeなど発信する場所が増えたので、 「職業:表現者犬飼貴丈」としてもっと活動していきたいです。――最後に、本作をどんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えてください。自分がラップという新たなことに挑戦しているのでそこを観てもらいたいのはもちろんですが、作品に携わった全員の前のめりさが作品のテーマや狂気度とマッチしていて、「人間の業」が露わになるところも見どころだと思います。まだお酒を飲んだことがない10代の方には“お酒って飲み方を間違えるとこんな風になってしまうんだ”ってことと“こんな環境もあるんだなぁ”っていう怖さを知ってもらえると思います。実際に飲酒をする方にとってはお酒との付き合い方についての啓発にも繋がるかと思います。ただ恐怖を与えるだけでなくエンターテインメントとして昇華されていることにこの作品の意義があると思うので、そこは楽しんでもらいたいです。(text:佳香(かこ)/photo:Jumpei Yamada)
2021年07月30日ABEMA新作オリジナルドラマ「酒癖50」が7月15日(木)夜10時より放送される。小出恵介主演、全6話構成のオムニバス形式で酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや醜さをリアルに描く。本作の監督を務めるのは、映画『Super Tandem』、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリに輝いた『孤高の遠吠』、間宮祥太朗と組んだ商業映画デビュー作『全員死刑』などで知られる小林勇貴監督。直接、本作に込めた想いなどを聞いた。批判したいのは個人ではなく“社会”の方――脚本担当の鈴木おさむさんと初めて組まれてみて、いかがでしたか?大胆な展開や構成が魅力で、自分の演出したいこととも共通するところがあって共感しました。――本作のキャスティングにも小林監督は関わってらっしゃるのでしょうか?一部関わっています。第2話では、これまで一緒に演ってもらった前野朋哉さんや山中崇さん、濱正悟さんなどに出演してもらっています。また、最終話でも一部関わっている部分があるので、それは配信を観てからのお楽しみということで。――本作は「お酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや愚かさ」がテーマになっているかと思いますが、監督はどんな想いを込めて本作を作られたのでしょうか?作ったエンターテインメントが裁きになってはいけないと思いました。物語の構造自体が一見したところ人のことを論っている(あげつらっている)かのような部分もあるので、それが“裁き”に見えないようにと意識しました。お酒にまつわるトラブルって日々類似のニュースが報道されていると思うんですが、実際のニュースを想起させようとか、飲酒トラブルの時事ネタを放り込んで話題にしたいという意図は演出する私には全くなく、それより人が人に対して犯してしまうこと自体を描きたいなと思いました。ただ、それも個人を批判したいのではなく、私がいつも批判したいのは“社会”の方なんです。第1話で主役の酒野が過ちを犯した人に対して「でもあなたのような方が優れているとされる社会ですよね」という指摘をしていて、人を生きづらくさせている社会について描きたかったです。――確かに登場人物はみんな積極的に自分の意思で飲んでいるというよりは、仕事のために、場を盛り上げるために、仕方なく飲んでいるケースが多いように見えました。はい、それを美徳とする社会がその背景にあると思います。――お酒を強要されるような「アルハラ」は、小林監督自身の世代からするとあまりイメージが湧かないのかなと思いますが、いかがでしょうか?私自身は、お酒を強要されるというようなことは全く受けたことがありませんね。「お酒」というのはあくまでテーマを抽象化したものであって、「お酒を強要する」という行為自体は減っていたり、私のように世代によっては全くなかったりするかもしれませんが、「人が人に何かを強要する」という行為自体は必ず今もずっと起こり続けていることだと思うので、お酒に限ったこととしてではなく観てもらえると良いなと思います。――仰る通り、どの登場人物も“お酒”というツールを通して、その裏にあるもっと別の真意を強要させられているように見えました。ちなみに小林監督自身はお酒は飲まれますか?一人で飲むことはないんですが、皆とお酒を飲むような場では楽しく飲みます。誠実な人物ばかりの作品に危機感「ダメな人がいてもいい」――小林監督作品と言えば、嘘がない生々しい描写が特徴の一つかと思いますが、本作では酒癖が悪く醜態を晒してしまうキャラクターたちをどんな風に描くことを意識されましたか?私は、よく耳にする「作品に罪はない」という言葉が苦手です。それって“過ちを犯さないものものだけがこの世に存在していい”ってことにも聞こえるじゃないですか。罪を犯さないに越したことはないし、もちろん人を傷つけないに越したことはないですけど、どんどん誠実な人物ばかりが描かれるようになっている気がして。不誠実な社会や人間関係に対抗するために誠実な人物が登場するのはわかるし尊敬もするんです。でも、そんなことばかりを続けていると、今度は“正しい人だけが居てもいい”みたいな選民思想に繋がっていく気がして、それって娯楽の中では一番起きてはいけないことだと危惧しています。“ダメな人がいてもいい、登場してもいい”というのは私の中にずっとある思いで、許されない行為は許されないこととして向き合って描くものの、“でも何でだろう、君はいなくなってはいけない”ということを伝えたいんです。罪について反省したり向き合った上で、“罪を犯した者がいなくなってしまえ”とは絶対に思わないので、そんな思いを込めました。――撮影中、印象深いエピソードなどがあれば教えて下さい。第4話は、モラル面で時代遅れなことがどれだけ減らせるか、悩みに悩んで演出も考えました。あの中に「寄り添うくせに無理解な男」が出てくるんですが、自分に向けての戒めの意味もあります。寄り添ったり理解があるキャラクターはここ最近描かれるようになったと思うんですが、まだ描かれていないのは「寄り添おうとしても尚かつどこかに無理解がある不気味さ、心細さ」で、これは当事者側ではない人間、男性である自分だから入れられる演出なのかなと思って敢えて盛り込んでいます。第4話は撮影しては反省し、撮影しては反省しの繰り返しでしたが、今は撮れて良かったと思っています。“過激に作ってポイ”が一番嫌なので、少しでも何か問題提起が出来ていればいいなと思います。――全6話のオムニバス形式ということですが、小林監督として第4話以外に思い入れが強いのは何話でしょうか。第2話に道路を完全封鎖したカーチェイスを取り入れたんですが、自分の5、6年前のインタビューをたまたま読んでみたら「カーチェイスをやりたいです」って答えていたので念願が叶った作品になりました。実際に役者さんが運転してくれていて臨場感あるシーンになったと思います。あとは全体を通して言えることですが、お酒に酔っ払っている姿を描こうと思えば酒瓶片手に楽しく盛り上がっている姿がイメージしやすいですが、それ以外でどうやってお酒を楽しく飲んでいる姿を見せられるか考え、いろんな要素を取り入れました。むしろ飲酒以外のシーンで演出やカメラワークを工夫していくことで飲酒シーンに繋がり、引き立つようにしました。――本作を作ってみてお酒との付き合い方や、お酒に飲まれてしまう人への見方に変化はありましたか?役者さんたちが魅力的だからか、危険の淵にどんどん立っていく姿もまた魅力的で、落下していく直前の人間が持つ独特の色気をみなさん出していて、魔性の力というか、謎の誘惑を感じてしまいました。もちろんトラブルを起こしたいというようなことは全くないんですが。「社会にある嫌な面や問題を“面白く”取り上げる作品を“ちゃんと”作りたい」――小林監督と言えば“映画監督”のイメージが強いですが、ドラマ作りと映画作りの違いはなんだと思われますか?演出上テレビドラマになるとCMが入ることを見越してカットの構成も少し意識する部分があるんですが、ABEMAは尺の長さの自由度も高かったので、そうなってくるともう概念の問題かなと思います。ただ、本作は視聴者が若者になるのでわずかながらですがカット数が多くなり、自分が普段は撮らないような映像構成になっているかと思います。自分の間口が広がったかなと思います。――今後どんなテーマを取り上げていかれたいでしょうか?「寄り添おうとしても尚かつどこかにある無理解」については引き続き考えています。日本のエンタメ作品のモラル面での時代錯誤なところやモラルの低さが海外からも問われていると思うのですが、その現状は認めざるを得ない部分もある一方で非常に悔しくも思っています。人を傷つけるような作品ではなく、心細い思いをしている人に寄り添える作品でありたいといつも思っています。同じ志を持った人たちと不信感を解いた上で、社会にある嫌な面や問題を“面白く”取り上げる作品を“ちゃんと”作りたいです。――最後に、本作をどんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えてください。若い人たちに向けて“こんな風になっちゃうぞ”というよりは“あなたもきっとこうなるので、どうするか一緒に考えましょう”というメッセージを込めています。お酒を飲む・飲まないにかかわらず、この中の過ちのうちのどれかはきっと経験すると思うので。あとはまだお酒を飲めない年齢の方にこそ、未知の世界を探求するような気持ちで観ていただき楽しんでいただきたいと思います。(佳香(かこ))
2021年07月16日突如、仕事を辞めて単身ニューヨークへと渡り、大学での勉強を経て、エンターテインメント業界に飛び込んだ増田沙智さん。撮影現場で俳優が着用する衣装に関する全てを統括する「ワードローブ・スーパーバイザー」として活躍中の彼女に話を聞くインタビュー後編!ユニオンへの加入のメリット、英語力や給与事情まで、ニューヨークのエンタメ業界について、たっぷりと話を伺いました。食事の時間が遅れればペナルティも… ルールが厳格なアメリカの撮影現場――インタビュー<前編>では、ワードローブ・スーパーバイザーの具体的な仕事内容、増田さんが渡米してスーパーバイザーになるまでを伺いました。仕事に関する説明で、衣装に関する部門が、デザイナーらが属する「衣装」チームと、撮影現場で衣装の管理などを行なう「ワードローブ」チームにわかれるという話でしたが、部門全体の責任者となるのは…?部門全体の責任者は「デザイナー」ですね。現場の責任者は「ワードローブ・スーパーバイザー」ですが。ただ、これはあくまでもニューヨークの話で、ロサンゼルスになるとまた事情が異なるそうで、スーパーバイザーが部門全体を統括することもあるそうです。ロスとニューヨークではユニオン(組合)も異なるし、いろんな部分で違いはありますね。――映画やドラマの「衣装」の仕事というと、デザイナーやスタイリストを思い浮かべる人が多いと思いますし、そちらのほうがスポットライトを浴びる華やかなイメージはあるかもしれませんが、お話を伺っていると、現場で衣装にまつわる全てを統括し、撮影を滞りなく進めているのは「ワードローブ」チームのおかげなんですね。そう言っていただけると嬉しいです。やっていること自体は本当に地味なのですが…(笑)。例えば、撮影現場で俳優さんが衣装を着るタイミングについて、AD(アシスタント・ディレクター)と話し合わないといけないこともあります。スーツなどは長時間着ているとシワになってしまうので、先にメイクをしてもらって、こちらとしては撮影の直前に着てもらいたいと思っていても、ADさんから「後になると時間が取れないので、いまのタイミングで着せてほしい」と言われることもあります。必要であれば、こちらの意見を押し通さなくてはいけませんし、どんどん精神的にタフになっていきますね(笑)。加えて最近では、コロナの感染予防対策などもあります。コロナとは関係なく、普段から仕事の時間外で連絡が来て、対応しないといけないことも多いです。基本的に私も含めてこの仕事は時給なんですが、翌日の撮影のことなので、どうしても必要ということで時間外に電話やメールが来ることは多々ありますね。――話せる範囲で拘束時間やお給料事情など、現場の環境についてもお話しいただければと思います。基本的に「ワードローブ」のメンバーの就業時間に関しては、私が全部決めています。たまに、ものすごい遅刻をするスタッフもいます。最初のうちは、なるべく何も言いませんが、あまりに続くようなら、ちゃんと時給から引くようにしています。公平でなくてはいけないので。最近はタイムカードをオンラインで打刻するところも出てきましたが、基本的にはまだ紙に書くのが多いですね。――増田さんご自身(スーパーバイザー)も、作品ごとにいくらではなく、時給制なんですね?そうですね。デザイナー以外はみんな時給ですね。スーパーバイザーが最も高給ではあるんですけど、とはいえ(部下である)コスチューマーと比べても時給で5ドル多いくらいですから、割に合わないなぁ…って思いますけど(苦笑)。――お休みの日は決まっているんですか?ユニオンの仕事に関しては、基本的に土日休みです。ただ、映画の場合、あらかじめ全体の撮影期間が決まっていて、その間に全てを終わらせなくてはいけません。そうした場合に、週に6日、もしくは7日間出勤ということもありますね。テレビドラマでもそういうことはあるのですが、多くのプロダクションはちゃんと週末2日間を休みにしたいと考えています。というのも、人件費は先ほども言ったように時給ではあるのですが、時間外の労働となると、そもそもの時給の額が変わってしまい、膨れ上がってしまうんです。簡単に説明しますと、私たちの仕事は1日8時間が基本のギャランティとなっており、もしそれより早く現場が終わったとしても、8時間分の給料は保証されています。8時間を超える労働に関しては12時間までは時給が1.5倍に、それ以降は2倍になります。また土日休みの週休2日が基本の現場の場合、もし6日目も出勤となると、その日は最初から時給は1.5倍になるんです。以前、週7日間、働きづめだったことがあるんですが、それだけで当時の1か月分の給料に近い金額になりました。そのあたりの契約はきちんとしていますね。――増田さんの場合、スーパーバイザーなので管理職として、スタッフの出勤の管理も行なわなくてはならないんですよね?そうです。そのあたりも契約がかなりきちんとしていて、例えば「朝、入りの時間から1時間以内に朝食を摂らせないといけない」とか「ランチは始業から2時間以上が経ってから」とかそれぞれの契約でルールがあって、決まった時間を超えてしまうとペナルティが発生します。基本的に、食事に関するルールとして、6時間以上の仕事の場合、それを超えると“ミールペナルティ”が発生するんです。それも3回目までは5ドルずつの加算だけど、4回目になると1時間分の時給が支払われたり、そういうのも細かく決まっています。なので、指示を出す側はペナルティ分も計算しながら「このスタッフには何時までにランチを摂らせないといけないか?」と考えなくてはいけないし、ランチに行かせるか? それともディナーまで待つか? どっちのほうが安くつくかを考えたりもします。――お金に関して、増田さんがこの業界に入って、衣装の仕事で「食べていける」ようになるまでどれくらいかかりましたか?最初の頃、インディーズの映画で仕事をしていたことをお話ししましたが、当時でも、私が知る限りで日本のいわゆるスタイリストさんの平均的な給料よりは多くもらっていたのではないかと思います。大学を出てから2年くらいで「この仕事で食べていける」という状況にはなっていましたね。ただやはりフリーランスですから「次に仕事が来なかったらどうしよう?」という不安はありました。さすがにいまは、何とかなるだろうと思えますが…。とくにいま、ニューヨークは業界全体が年々、忙しくなっている状況です。実際、いま現在で50ほどの作品が既に決まっています。仕事の差配から健康保険まで ユニオンに加入することのメリット――ちなみにユニオンに加入しているか否かというのは大きいのでしょうか?契約で守られているという意味ではだいぶ大きいと思いますし、大きい仕事になると全てユニオンなので、加入していないとそもそもそういった仕事には就けません。ユニオンについて説明しますと、そもそもデザイナーたちの「衣装」チームと私たち「ワードローブ」チームでユニオンが異なるんですね。「衣装」のユニオンのほうが加入の際のイニシエーション・フィー(加入料)も高く35万円くらいですかね。場合によっては試験もあるし、推薦状やポートフォリオも必要だし、面接もあったりします。一方、私たちのワードローブ・ユニオンは、それと比べると信じられないくらい簡単で、3名からの推薦状、書類作成の手数料100ドルに履歴書だけでOKで仮加入ができて、その後30日間、ユニオンのプロダクションで仕事をすれば正規のメンバーとして認められて、健康保険などにも入れるようになります。正規の会員になる際には1000ドル必要となりますが。――ユニオンに入ってからのメリットはどのようなことが?やはり大きいのは健康保険ですね。とにかくアメリカは医療費が信じられないくらい高いです。ユニオン加入後の健康保険料もかなり高いんですけどね…。3か月ごとに払うシステムで、いくつかのプランから選べるんですが、私の場合は上から2番目のグレードのプランで、1か月あたりで換算すると10万円くらい、払ってます。そのあたりは、ニューヨークは物価も高いですし、日本の感覚とはかけ離れているというか、ちょっと金銭感覚が狂っちゃいますね(苦笑)。税金もメチャクチャ高くて、給料の半分くらい持って行かれる感じです…。独身だと特に高くつくので、それを理由に結婚を決める人も多いんですよ。ただ、やはりいざという時に保険でカバーされるというのはすごく大きいです。知り合いで、月に一家で3000ドル保険料を払っているという人がいるんですけど、彼女が出産時に感染症にかかってしまい、しばらく入院したら、医療費が1億円近くになったらしいです。保険でカバーされたので、10万円ちょっとで済んだけど、もし保険がなかったら…。――そういう意味で、ユニオンの存在はすごくありがたいですね。そうなんです。とはいえ、私もそうでしたけど、この仕事って「勉強して」なれるというものではないんですよね。じゃあ、アシスタントとして誰かの下に付いて、いろいろ経験すればいいかというとそういうものでもなくて、非ユニオンのアシスタントの立場だと、学べることって少ないんです。というのも、ユニオンのルールとして「アシスタントにさせてはいけない仕事」というのがリスト化されていて、アシスタントの立場だとできることが限られてしまうんです。自分で手を動かして、経験しないとできるようにならないことも多いので、最近は正直、仕事のできない若い子が増えていて、それはユニオンでも問題になっているんです。手縫いすら知らなかったり、ボタンのつけ方、アイロンのかけ方、洗濯の仕方から教えないといけなかったり。そういう講義の時間をユニオンで設けるべきだという議論もあります。ちょっと話がそれますが、時代に合わせたユニオンの動きとして、人種差別の問題に関連して、積極的に有色人種の人を雇おうという動きもあるし、プロダクションからそれを言われることもあります。皮肉だなと思うのは、そういう動き・変化がある中でも、各部門のトップが集う会議に出ると、私以外はみんな白人で、アジア系どころかアフリカ系の人さえいなかったりもするんです。――増田さん以外にアジア系のスーパーバイザーはいないんですか?スーパーバイザーではいないと思いますね。アメリカ育ちでアメリカの市民権を持っているアジアン・アメリカンは数人いるとは思います。他にテイラーさんで、10代の頃に日本から来たという人はいますし、コスチューマーで中国・韓国系の人たちはいますね。――ニューヨークのエンタメ業界全体で増田さんと同じようにスーパーバイザーをしている人間はどれくらいいるんでしょうか?おそらく多くても50~60人くらいじゃないかと思います。ただ、先ほども言いましたが、いまは仕事の量がどんどん増えている状況で、人が足りないんです。なので、経験が浅いけど「スーパーバイザー」の肩書になっているという人も多くて…。いまの状況や若い人たちを見ていると、私はインディーズでしっかりと経験を積んできてよかったなと思いますね。いろんな立場のことを知って、状況を把握できないとスーパーバイザーをするのは難しいと思います。――ちなみにスーパーバイザーとして仕事をする上で、英語力はどれくらいのレベルが必要になるんでしょうか?やはりそこは、指示を出す立場なので、仕事できちんとコミュニケーションを取るのに困らないレベルの英語力は必要です。とはいえ、いつも思うんですが、私自身、英語がすごくしゃべれているというわけではないんですよね。それでも自信を持って話すしかないんです。相手と対等に交渉しないといけないことも多いし、脚本を読んで考えなくてはいけないことも多いです。相手にお願いする上で「伝え方」も大事で、日本的に遠回しに言ってもわかってくれないし、かといって直接的に言い過ぎても動かない(苦笑)。また“最近の若い子”の話になってしまうんですが(笑)、日本でも「ゆとり」とか「さとり」とか言いますよね? こちらでも同じようなことはありますよ。「ミレニアル世代」という言い方をしますが「なんでこうなった…?」ということが時々、起きますよ。30分遅れてきて「先に朝食食べていい?」とか聞いてくる子とか…。――それは日本人の感覚だから「え?」と思うのではなく、アメリカ人の感覚としても「おかしいだろ、それ!」と思うんですか?少し年上の人と「こういうことがあったんだけど、私としては信じられないんですけど」という話をして「うん、同感だよ。おかしいよね」と言われることは多々ありますから、アメリカ人の上の世代から見ても「それはおかしい」と思うことは多いみたいです。自分自身、昔は色々とやらかしたこともあったでしょうし、いろいろと言われていたとは思いますけどね(笑)。――英語力の話に戻りますが、増田さんはどのようにして英語力を上げていったのでしょうか?日本にいた頃から英会話には少し通っていて、もともと読み書きは得意なほうでした。日常会話に苦労しなくなったのは、こちらに来て1年くらい経ってかな…? 当初は「完璧でなきゃ」と思ったり、間違えたら恥ずかしいという思いもあって、なかなか話せなかったです。それでも、現地の人の会話の中に積極的に入って行く環境を自分から作るようにしていたし、映画を観たり、テキストを聞いたり、あとはオンラインで語学勉強のために会話をする相手を見つけて話したりもしていましたね。とはいえ、ストレスを溜めすぎてもいけないので、こちらである程度、日本人と付き合う時間も作っていました。私の場合は、こちらで大学に通ったことが大きかったと思います。大学で相当、鍛えられましたね(笑)。ディスカッションをしないといけないし、プレゼンする機会も多いし、論文のために読まなきゃいけない課題の本も多かったです。あとは、専攻が「演劇」だったので、アクティング(演技)のクラスもあったり、とにかく話さないといけないという環境があったんですよね。大変な仕事だけど、多くの女性が活躍中! ニューヨークのエンタメ業界――この先、増田さんが仕事でやってみたいことは何ですか?これまで、テレビの仕事をやりつつ、たまに映画にも携わらせてもらってきましたが、もうちょっと映画の仕事をやりたいですね。映画は、やはりテレビドラマと比べると、準備期間がしっかりとあって、それが作品に反映されるし、デザイナーさんの決定権も強いんですね。テレビはどうしてもプロデューサーの力が大きいんですが、映画はディレクターをはじめとしたスタッフ、俳優、みんなで作り上げていく感じがより強いと思います。できればハリウッドの大きな作品、ビリオンバジェットの作品でワードローブ・スーパーバイザーをやってみたいですね。いまだに自分が何者で、ここで何をしてるんだろう? って悩むこともありますが、スーパーバイザーとして、常に作品を経験するごとに成長させてもらっているし、学ぶことが多いです。自分でこの仕事を「天職」と思ったことはないんですけど(笑)、声をかけ続けていただけるということは、やっぱり向いてるんだろうなと思います。とはいえ、どんな仕事でも自分の代わりっているんですよ。だからこそ、与えられた環境で、自分に何ができるのか? そこでできる限りのことをしたいなと思っています。ニューヨークのエンタメの世界で数少ないアジア系ということも含めて、私なりのスーパーバイザーの在り方を作ることができたらと思います。やっぱり、日本人がこんなにいないというのもおかしい! 拘束時間が長くて、一度現場に入れば12時間は拘束されますし、出産や子育てをしたい・している女性は特に大変です(苦笑)。それでもたくさんの女性が活躍している業界ですし、ニューヨークのエンタメの世界で、もっともっと日本人のコミュニティが広がってほしいです。コスチューマーでもヘアメイクでもいいし、照明、音響…いろんなポジションがあるので、ぜひ興味のある人にはこちらのエンターテインメントの世界にどんどん挑戦してほしいですね。(text:Naoki Kurozu)
2021年07月10日神奈川県にある、横浜市立金沢動物園。世界の希少草食動物をはじめとする、さまざまな動物たちに会える場所として人気を集めています。横浜市立金沢動物園で撮影された、2枚の写真がネット上で話題になっているのをご存じですか。写真を撮影したのは、Twitterで動物の写真を公開している、おーあ(@kanazawakitecho)さんです。多くの人の心を和ませた光景がこちら!お口のチェック中……されるがままの信頼関係…かわいい… #金沢動物園 #オオカンガルー pic.twitter.com/OQAgI5iLoL — おーあ (@kanazawakitecho) May 29, 2021 オオカンガルーの口元を、優しい手付きで触りながらのぞきこむ、1人の飼育員。飼育員に対し、オオカンガルーは安心したような表情で、されるがままになっています。写真はネット上で拡散され、10万件を超える『いいね』を集め、「かわいすぎる」「信頼関係がないとできない」「飼育員さん、さすが!」といった声が相次ぎました。金沢動物園にインタビュー!カンガルーとは、普段からこういった表情を見せる動物なのでしょうか。金沢動物園の広報担当者にお話をうかがいました!――飼育員が、カンガルーの口の中を見ているのはなぜか。口のチェックは健康管理の一環です。口やアゴが腫れていないか、歯は欠けていないか、口臭はないかなどをチェックして、病気やケガの早期発見・治療に役立てます。――一般的に、カンガルーとは口の中を見られる時に、大人しくしているか。カンガルーは、草食動物なので凶暴な動物ではありません。繁殖期のメスがいると、オスたちがメスを巡って闘争をするので、そのイメージが先行しているのではないでしょうか。メス同士も争うことがありますが、小競り合い程度で致命傷を負うような闘争はしません。細かく健康確認できるように、日頃から体のあちこちを触り、飼育員に触られることに慣れてもらうようにしています。また、カンガルーの嫌がることはなるべく行わないよう心掛けているので、嫌なことをしない人という認識はあるかもしれません。個体の性格によって人慣れの程度は異なり、この個体は普段はあまり大人しく触らせてくれません。この時は晴天でいつも以上に落ち着いていたので、大人しく口のチェックをさせてくれました。写真に写るオオカンガルーは、普段はあまり大人しく触らせてくれないのだとか。そう考えると、この光景はいっそう貴重なものだったと思えますね。また、写っている飼育員は、このオオカンガルーの担当者です。「動物園の動物はペットではないため必要以上に触れたりしませんが、ケガや病気を早く発見し治療できるように、触られることに慣れてもらっている」といいます。オオカンガルーの表情について聞いてみると…。――カンガルーはこういった表情をよくするか。するとしたら、どういった時?この時は天候もよく、お客さまが少ない日だったため、特に落ち着いていました。人の多さが、動物の心身に影響を及ぼすのはイメージがわきますが、天候にもよるとは意外な発見です!普段から、担当者である飼育員をはじめとした、多くのスタッフが真摯に向き合い、適切な世話をしているからこそ、動物たちとの信頼関係は築かれるのでしょう。飼育員さんとオオカンガルーのやり取りは、多くの人の心を和ませました。[文・構成/grape編集部]
2021年07月08日“ワードローブ・スーパーバイザー”と聞いて、それがどんな仕事か想像できますか?「これまで、幾度となく家族や友人に説明してきたんですけど、なかなかわかってもらえないんですよ…(苦笑)」そう語るのはアメリカ・ニューヨークのテレビドラマや映画の現場で、この“ワードローブ・スーパーバイザー”として活躍する増田沙智さん。2007年に渡米し、現地の学校、大学を経て、ニューヨークのエンターテインメントの世界に飛び込み、自らの力で道を切り拓いてきた。映画にまつわるお仕事を紹介する【映画お仕事図鑑】。今回はこの増田さんのインタビューを2回にわたってお届け! ワードローブ・スーパーバイザーとは何をする仕事なのか?ということから、ニューヨークのエンタメ業界におけるスタッフワークの需要の高まりについてまでたっぷりと話を聞きました。俳優が休憩中に履くスリッパの素材リクエストにも対応! 撮影現場の衣装に関わる“何でも屋”――まずは“ワードローブ・スーパーバイザー”とはどんな仕事なのか? ということをお聞きします。“衣装”の分野に属する仕事であることは見当がつきますが、具体的にどんなことをする仕事なのでしょうか?まず、ニューヨークの映画やテレビドラマのプロダクションにおいて、衣装に関する「デザイン部門」(Costumes)には2つのグループがあります。ひとつは「衣装」(Costume)チームで、作品の中で俳優さんが着用する衣装を選び、調達するチームですね。デザイナーをはじめ、テーラー、それから染物やダメージ加工などを行なうエイジャー・ダイヤーといった人たちが属しています。もうひとつが、私が属している「ワードローブ」(Wardrobe)チームで、現場を円滑に回すためのチームであり、現場の俳優さんの衣装まわりのお世話や、トレーラーにある衣装の管理などを行います。衣装の製作や選定などには一切関わりません。「ワードローブ」チームの責任者がワードローブ・スーパーバイザーです。スーパーバイザーとしての具体的な仕事は、まず経費の管理ですね。例えば、現場で使用される靴下や下着、ワードローブ内で使うハンガーや衣装を運ぶガーメントバッグなどの総額を計算し、事前にプロダクションに必要な予算を提出しますし、人件費の管理もそこに含まれます。部下であるコスチューマー(※仕事の詳細は後述)、場合によっては現場で縫い子さんが必要になることもありますが、そうした経費もワードローブに含まれます。そうしたお金の管理に加えて、スタッフの管理も私の仕事です。現場に何人くらいのスタッフが必要で、拘束時間はどれくらいになるのか? 作品によってはユニット(撮影チーム)がメインとサブで2つにわかれることもあるので、それぞれの撮影スケジュールを見つつ、人員の配置を考えます。そして、衣装の手配と管理ですね。俳優さんが着る衣装は、衣装チームのデザイナーさんから渡され、細かい説明を受けます。「これとこれを上下で組み合わせて」とか、時には「これはオプションで、着けるかどうかは現場で俳優さんに決めてもらってください」ということもあります。「スクリプト・ブレイクダウン(script breakdown)」といって、台本を見ながら、どのシーンでどの衣装が必要かを把握し、詳細を部下に指示することも私の仕事です。テレビドラマでは直前に撮影のスケジュールや脚本の内容が変更されることも多いですし、それをきちんと把握し、必要な衣装を手配・管理しなくてはいけません。――撮影現場における衣装の管理をするのが「ワードローブ」チーム。そのチームを統括するのが「スーパーバイザー」ということですね?言ってみれば、現場の「何でも屋」です(笑)。例えば、俳優さんが現場で撮影以外の時に履くコンフォートスリッパを用意するのも仕事ですが、俳優さんによっては「UGGじゃなきゃ嫌だ」という人もいれば「オープントウのスリッパがいい」という人もいるし、「厚めの素材で」という人もいる。冬場の撮影だとウォーミングジャケットも用意しますが「カナダグースで」という人もいるし、靴下ひとつでさえ「コットン100%で」「このメーカーじゃなきゃ履かない」とかいろいろです(笑)。そういう要望にひとつひとつ、応えていかなくてはいけません。突然、仕事を辞めてアメリカへ!「とりあえず、いま行ってみよう!」――ここから、少し時間をさかのぼって、どのようにして増田さんがアメリカでこの仕事に就くようになったのかという経緯をお聞きしていきたいと思います。もともと、エンターテインメントやファッションがお好きだったんでしょうか?両親が洋画が好きで、私が子どもの頃、映画館に連れて行ってくれても、見るのが洋画ばかりだったんですよね。子ども向けのアニメに連れて行ってもらったのは1回か2回くらいで、字幕の漢字もろくに読めない頃から洋画ばかりで…(苦笑)。5歳くらいの頃かな? 『コーラスライン』の劇場版を観たんですけど、それが非常に印象に残ってます。キラキラの煌びやかな衣装を着たダンサーさんたちが楽しそうに踊っている姿に子どもながらに衝撃を受けたんです。「私もこの中に入りたい!」と思いました。実際、学生時代にダンスやチアリーディングをやったりもしたんですが、ダンサーになれるかというとそれはないな、と(笑)。でも衣装のことなら何かできるかもしれないと思い、大学時代もチアの学園祭やイベントの衣装を選んだりとか、作ったりしていましたね。――大学卒業後の進路は?大学はファッションとは関係ない学部だったんです。3年時に同時にファッションの専門学校にも通い始め、デザインやスタイリングを勉強しました。卒業後は、普通に国内で就職しました。ハンドバッグや企業が出すノベルティや雑誌の付録のデザインをしていたのですが、2年半ほどでその会社でできることはひと通りやれたかなという思いもありました。学生時代からずっと留学したいという気持ちも漠然とあって、当時は20代の半ばでしたが「行くならいましかないかな?」という思いもあり、会社を辞めて、アメリカに行くことにしました。少しずつ変化はしていますが、日本にいると、いまだに年齢ってずっとついて回るんですよね、女性は特に。アメリカに来てみると、こちらは実力社会で若い人もいれば、お年を召した方もいて、年齢に関係なく働いたり、学んだりしています。ただ、日本だと「20代でこれをして、30代は…」みたいなのってあるじゃないですか? そんなことを感じつつ「とりあえず、いま行ってみよう!」くらいの気持ちで、あまり深く考えずに留学を決めました。――留学のつもりでアメリカに渡って、その後、ずっと住み続けることになるとは…。思ってなかったですね(笑)。本当になんとなく…という流れだったので。2007年にこちらに来たのでもう14年になりますね。――当初、予定されていた留学期間は?2年ですね。語学とファッションの勉強ができる専門学校でした。卒業したら1年間だけ就労することができる「OPT(Optional Practical Training)」という資格を得ることができるということで、その学校に通い始めたんですが、こっちにいると、ビザに関する条件が突然変わることがあるんです。それで、その学校ではOPTを取得できないということになってしまいまして結局、こちらで大学に入り直すことにしたんです。日本の大学で獲得した単位を移行する形で2年ほどで卒業できるということだったんですが、そもそも入学するにはTOEFLを受けなくてはならず、そのために英語を勉強して、その後、無事に入学して2年ほど通って卒業してOPTを取得しました。ちなみに大学での専攻は「演劇(Theater)」で、照明、舞台装置、デザイン、衣装、ヘアメイクアップから演劇の歴史についてなど、演劇に関することをひと通り学びました。低予算インディーズ映画のスタッフから積み重ねたキャリア――その後、どういう経緯で現在のワードローブ・スーパーバイザーのお仕事をするようになったんでしょうか?大学在籍中も学内の「衣装部」でインターンのようなことをしたり、教授に付いて、学外で行われる舞台公演やファッションショーの手伝いなどをさせてもらっていました。ただ、舞台はなかなかお金にならないということ――好きではあるんですが、仕事にするとなるとちょっと難しいなということを思い始めて、それなら映像系のお仕事はできないか? ということを考えるようになりました。でもどうしたら映像の世界で衣装の仕事をできるのか? コネクションもないし、教授も舞台関係の人間は知っていても映像の関係者は知らないということで…。そこで、卒業の少し前の時期から、とにかくいろんな人にメールをしました。インターネットで映像関連の会社などを検索して、連絡先があった場合は「インターンでいいのでお仕事をさせてください」と。200通くらいはメールしたと思います。中には返信をくださる方もいたんですが、タイミング、それから何よりもビザの問題がすごく大きくて、なかなか仕事にはたどり着けなかったんですよね。いまにして思うと、先方からしたら、雇いにくい存在だったんだろうなと思います(笑)。先ほども話に出たOPTがあったので卒業後も一応、仕事をすることはできて、大学を出て1~2か月が経った頃かな? ほぼ無給なんですが、インターンのような形でインディーズ系のある映画の衣装デザイナーさんからたまたま声をかけていただいて、仕事をさせてもらったんです。ただ、その作品が急にバジェット(予算)がなくなって、シャットダウンしてしまい…(苦笑)。また仕事を探さなきゃと思ってたら、1か月後にその作品の撮影続行が決まりました。とはいえ、デザイナーやアシスタントは辞めることになったので、私の役割も終わりかなと思っていたら、その作品のプロダクション・デザイナーの方から「あなた、こないだまでよくやってくれていたから、引き続き衣装の仕事を、スーパーバイザーとしてやってくれないか?」とお話をいただいたんです。正直、私は実際の衣装の仕事について、まだほとんど何も知らない状態だったんですが、やる人が誰もいない状況で「あなたしか頼める人がいないから」と言われまして「引き受けますけど、現場でのアドバイスが必要です」と伝えました。彼女が「私も現場で指導するから大丈夫!」と言ってくれたこともあり、引き受けたんですが、現場に行くと彼女はいなくて…(苦笑)。もうどうしようかと毎日、半泣き状態の中で仕事をしてましたね。――いきなり映画の現場で仕事を任されて…。当然なんですが、映像作品の場合、シーンごとのつながりを理解しておかないといけないんですけど、そんな基本的なことすらちゃんとできなくて「どこまで撮影したの?」「今日はどこから?」みたいな感じで…。半ば、投げ出された状態で、資料を見つつ「間違ってたらどうしよう? いや、誰か何か言うだろう」という気持ちで手探りで進めていきました。最初の現場がそんな感じで、その後はまたアルバイトをしながら、次の仕事を探しました。この業界、コネクションが大事で、人の紹介で仕事を得ることが多いんです。衣装の仕事でいうと、事務所に所属してるのはデザイナーだけで、それ以外はほぼフリーランスなんですね。最初の2~3年は、インディペンデント系の映画やTV作品の「衣装」の仕事をやっていました。そこで自分なりにコネクションを増やしてやっていく中で、ユニオン(組合)に入ることができて、その後も徐々にコネクションを広げていきました。――当時は「衣装」として、具体的にどういったお仕事をされていたのでしょうか?インディペンデントの映画の現場では「スーパーバイザー」もしくは「デザイナー」という肩書でした。その方がビザが取得しやすいんですね。それでビザを取得し、ユニオンにも加入したんですが、ユニオンから請け負う仕事はまず「コスチューマー」というポジションから始めないといけないんですね。――「コスチューマー」という仕事は、最初に説明いただいた「衣装」チームと「ワードローブ」チームかという区分けで言うと…。衣装の管理をする「ワードローブ」チームに属している仕事ですね。「ワードローブ」を統括するスーパーバイザーの下で働いています。基本的にセットにいて、俳優さんの衣装に関するお手伝いをするというポジションですね。細かいんですが、あるシーンが終わって休憩に入って、役者さんが衣装のボタンを外したとして、次のシーンを撮る際にはちゃんとボタンを締めないといけない。そういう、シーンごとのつながりの管理・チェックもします。つながりに間違いがないように、衣装やモニターに映っている写真も撮ります。規模にもよりますが、大きなスタジオ、メジャープロダクションだとフルタイムで働いているコスチューマーは3人ほどいまして、1人がメインの俳優さんの担当をし、あとの2人がほかの俳優さんたちの衣装まわりを担当するといった感じで振り分けられるんですね。具体的な仕事としては朝、担当の俳優さんが着用する衣装を準備すること。たまに洗濯をすることもありますね。あとは現場で俳優さんが寒かったら、コートを持っていく。ヒールを履いている女優さんに休憩中に履くスリッパを渡したり…基本的に、衣装に関する身の回りのお世話をする仕事ですね。――増田さんも、ユニオンに加入してからは、まずは「コスチューマー」としてキャリアをスタートさせたということですね。そこからなぜスーパーバイザーを務めることに?あるシリーズ作品の現場にコスチューマーとして入っていたんですが、たまたまスーパーバイザーが解雇されるということが立て続けに起きたんですね。そこで「スーパーバイザーをやってくれ」と言われまして、仕方なくやることになったんです。そのときは現場でコスチューマーの仕事をこなしつつ、スーパーバイザーの仕事もしなくてはならず、セットにパソコンを持ち込んであれこれ仕事をしつつ、役者さんのケアもするという感じでした。――現場で俳優さんのお世話をしつつ、衣装、人、お金、スケジュールなどの管理・統括も行なうという…かなり大変そうですね!大変でしたね(笑)。そのまま2回ほどスーパーバイザーをやったんですが、私としては決してやりたくてやっているというわけでもなかったんです。ただ、デザイナーさんから「あなた、向いてる。やるべきよ」と言われまして…。自分としては「いや、私なんて全然です」と思ってたんですよね。もうちょっとユニオンの仕事でコスチューマーとして経験を積みたいなと。そうして、また新しいスーパーバイザーが来たんですが、その方もいろいろあって解雇となりまして…。――また解雇(苦笑)!?こっちはわりとすぐに人が入れ替わるんですよね。きちんとルールがあって「第一段階は口頭注意をしてそれをプロデューサーに文書で報告」みたいに手順を踏んでいくんですが、段階が進むと、容赦なく解雇となってしまうんです。結局、そのスーパーバイザーも辞めることになり、また私に「やってくれ」と声がかかったんです。ただ、その時はコスチューマーとして現場で役者さんとも密な関係性ができていて、役者さんの指名で仕事をしていたので、現場から「いま、サチを引き抜くのは無理だ」という声が出て、現場に残ることになり、結局、スーパーバイザーの下でアシスタント的な仕事をしていたトラック・コスチューマーというポジションの人間が、スーパーバイザーに昇格することになりました。ただ、それもなかなかうまくいかず…。それはあるドラマのシーズン2の撮影だったんですが、デザイナーから「お願いだからシーズン3はあなたがスーパーバイザーをやってくれ」と言われまして。そこで「もう逃げられないな…。そういう運命なのかな?」と思い始めましたね(笑)。これはきっと私に「やれ」ということなんだろうと引き受けまして、それが4年ほど前の話です。それから現在まで、スーパーバイザーとして仕事をしてきました。現場を止めるな! 次々と起こるトラブルにも臨機応変の対応!――これまで、どういった作品に携わられてきたのか? また思い出深い現場やエピソードなどがあれば教えて下さい。過去5年ほどでいうと、マーベル・コミックのテレビシリーズ、Netflixで公開されている「ジェシカ・ジョーンズ」のシーズン2&シーズン3、「デアデビル」のシーズン3、こちらもNetflixで公開されている、「POSE/ポーズ」シーズン2&シーズン3、映画だと今夏公開になる『Respect』という作品に携わりました。現在はアカデミー賞脚色賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督とチームと共に、オハイオ州シンシナティーで映画を撮影しています。どの現場でも、必ず何かしら忘れられないエピソードはあるのですが…だいぶ前になりますが、インディー映画の作品で、衣装トラックを運転するはずのPA(プロダクション・アシスタント)がトラックをピックアップしなければいけない時間になって突然「今日は疲れているから、運転したくない」と連絡をしてきたことがありました。私の家から衣装トラックまでは少なくとも車で30分、そこから必要な衣装を持ち出して現場まで行くとなると、少なくとも私の現場入り時間から1時間は遅れるなと思い、だいぶ焦りました。何とか時間を短縮して、現場には30分遅れて入り、ギリギリ衣装待ちという状況にもならずに済んだので結果オーライではありますが、自分たちのせいで全体を遅らせることになると思ったら、生きた心地がしませんでしたね。また別の現場では、当日の撮影1時間前になって、役者さんの代役(ドライビングダブル)を立てて運転をさせることになったから、その方の衣装を用意してほしいと要望を受けました。遠目からだし一瞬しか映らないということではありましたが、持ち合わせの衣装に似ているものが全くなかったので、代わりにその場にあった厚紙で作ったこともありました。何事もなく済んだので良かったですが、内心はだいぶ焦りました。今思えば、よくそんなこと許されたなと思いますけど(笑)、何があっても臨機応変に対応して、現場を止めてはいけないというのを肝に銘じています。この仕事は、大変なことのほうが多いように感じますが、それでも役者さんや自分のチームやスタッフさんたちに、「あなたがいてくれたから、この作品を完成させることができたよ。本当にありがとう」と言われた時には、やってきて良かったなと思います。インタビュー【後編】では、ニューヨークで仕事をする上での金銭事情や語学力の問題、ユニオンへの加入などについても語ってもらっています。(text:Naoki Kurozu)
2021年07月08日ABEMA新作オリジナルドラマ「箱庭のレミング」が6月17日(木)より配信される。磯村勇斗、見上愛、岡山天音、須賀健太がそれぞれ主演を務め、全4話構成のオムニバス形式でSNSから生まれる若者の社会問題をリアルに描く。過剰な承認欲求、間違った正義感、ネットストーキングなどSNSの魅力に囚われた若者たちの“心の闇”や“恐怖”を、圧倒的緊張感で描き出すミステリードラマ。本作の総監督を務める、『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』を手掛けたことでもお馴染みの藤井道人監督と、第4話の「Not Famous」でフォロワー数を増やすために過激な行動に走るライブ配信者の主人公を演じる磯村勇斗さんに本作に込めた想いなどを聞いた。SNSを取り巻く問題に「もう一度付き合い方を考え直す時」――まず、藤井監督にお伺いしたいのですが今回の磯村さんのキャスティング理由を教えていただけますでしょうか。藤井道人(以後、藤井):磯村くんのマネージャーに直電したんですけど、今回のテーマであるSNSというものを「若者代表」として誰に委ねて描きたいかと考えた時に、『ヤクザと家族 The Family』ですごく良い信頼関係が築けた磯村くんに演ってもらいたいと考えました。――磯村さんは今のお話を受けていかがですか。磯村勇斗(以後、磯村):藤井さんとまたご一緒できるのが嬉しかったですし、今回の題材であるSNSに自分も興味があって向き合い方について考えていたタイミングだったのもあり、演らせていただきたいなと思いました。――本作では、現代のSNSを取り巻く問題が描かれていますが、おふたりがSNSとの付き合い方について気をつけていることなどあれば教えて下さい。磯村:こういう職業柄、SNSを使って発信することは多いんですが、自分自身はあまりSNSに依存はしていなくて。SNSを使いすぎてその世界だけで生きていくとなると視野が狭くなるし、自分をいつか滅ぼしてしまうんじゃないかという恐怖があって“発信するだけ”にしています。自己承認欲求を持て余している人が増えているからか、SNSが社会的にプラスよりもマイナスの方に作用しているケースを目にすることが多いので、もう一度付き合い方を考え直す時に来ていると思っています。藤井:僕自体は全然SNSを使わないんですけど、酒飲んで呟いたりしない、とかですかね(笑)。便利な側面も多いと思いますが、まだ成熟し切っていないものだから、使い方の「ガイドブック」が人それぞれだと思うんですね。これから切っても切れない存在にはなっていくだろうし、人間同士がアナログだけじゃなくデジタルでもどう向き合っていくのかということはAIやテクノロジーの進化にも関連して今後ますます無視できないテーマになってくると思います。――ちなみにこの「箱庭のレミング」というタイトルにはどのような想いが込められているのでしょうか。藤井:このタイトルは別の方が付けてくれたものなんですが、SNSってまだ成熟し切っていない「スマホの中だけの空間=箱庭」で、その中に皆が喜怒哀楽や人生などいろんなものを入れているけれども、そこには明確なルールブックがなくて。「レミング」と言うとどこかで「ラット=ネズミ」、つまり「実験台」を連想させるので、ソーシャルの世界で生きる我々を「箱庭のレミング」と比喩しました。観客のことを考えての作品づくり「手を抜かない」――「自分の表現を追求していくこと」と「有名になる」ことは相反する部分があり両立が難しいこともあるのかなと思うのですが、どんどんキャリアを積まれて注目度も年々高まっているおふたりはこの両立をどう捉えてらっしゃるのでしょうか。藤井:20代の頃は「原作ものはダサい、オリジナルで自分が表現したいことをやるんだ」って尖っていた時期はあったと思うんですが、今はそれが洗練されたと言うか、売れるものが100%正しい訳じゃないってことは正直みんながわかっていることなんですが、でも自分がやりたいことだけが100%正しいかと言うとそうでもなくて、その全ては観る方が決めることであって。自分たちはちゃんと観客のことを考えて作品にどう向き合ってどう作るのかってことに誠実であれば、それは作品の大小は関係ないと思っています。だから「手を抜かない」ってことかなと思います。その結果、舞台に立って観客の皆さんの表情を観た時に“作って良かったな”と思えることが1つのゴールなのかなと思っています。磯村:もちろん僕も芸能界でデビューする前は「有名になりたい、人気者になりたい」という思いはあったんですけど、やっぱりそれだけではこの世界では通用しないと思って、「俳優」というものをやりたいって考えた時に「芝居ができないとダメだ」と原点回帰しました。そこからは単純に売れてやるってことではなく、ちゃんと自分でお芝居に向き合って一つ一つの舞台を積み上げていきたいなという方向に意識が変わったんですね。「有名になりたい、人気者になりたい」という気持ちはなくなって、向き合う作品一つ一つにどれだけ愛情を持って臨めるか、その時は苦しいかもしれないですが、その先に沢山の人に届くということがあれば良いなと思うようになりました。――磯村さんと言えば、台本を深く読み込み自分の中に人物像を落とし込んだ上で、現場ではそれをリセットしてセリフだけが入っている状態で臨むという“内面的なアプローチ”と、役柄にビジュアルも近づけることを意識される“外見的なアプローチ”をされているかと思いますが、本作での役どころではそれぞれどんなことを意識されましたか?磯村:外見については原作ものではないので、メイクさん、スタイリストさん、監督たちとイメージを擦り合わせて作っていきました。内面的には、ライブ配信者としての素人感や、ライブ配信で有名になりたいとただただ浅はかに思うちょっと危険な匂いもするキャラクターを演じられれば良いなと思います。――藤井監督は “総監督”という普段とは違った立ち位置で本作に携わられたかと思いますが、何か意識されたことはありますか?藤井:現場に「監督」と呼ばれる人は1人しかいらないと思っているので、それぞれの撮影現場には行かないようにしました。コンセプト決めや企画の打ち合わせはもちろんやりましたが、こちらの意見を押し付けたりはせず、それぞれの監督にSNSについて考えていること「SNSへのラブレター」を自由に表現してもらうようにしました。ドラマを通じて世代間を超えてのコミュニケーションに――藤井監督と言えばやはり映画監督のイメージが強いですが、映画とドラマ作りの違いはどんなところでしょうか?藤井:人間を描くということは一緒なんですが、それに対してのアプローチが、ある種ドラマの方が速い。映画だと企画してから公開するまで4年間かかってしまうようなものが3、4か月という短期間で出来るので、瞬発的に“今”の時代を映すことに長けているのがドラマだと思います。あとは観客のリアルな反応を、それこそSNSを通じてタイムリーに知れたりするのは映画とは違いますよね。映画はもう“作ってしまったもの”だから、どんな感想をいただいてもそれを受け止めるしかないけれど、ドラマはもっと生き物に近いと思います。面白そうだなと思うものはドラマや映画というジャンルに関わらず食わず嫌いせずに受けるようにしているのですが、ABEMA TVはさらに自由度高いのでありがたいですね。――演じられる磯村さんは映画とドラマの違いをどうお考えですか?磯村: 確かに「瞬発的」という意味では、ドラマは撮影スケジュールがタイトなこともあって、俳優に求められるスキルとして感情をすぐに出し、タイトな中でも高パフォーマンスをすることが大事になるのかなと思います。映画でももちろんそれは大切ですけど、芝居に向き合う時間がよりタイトな気がします。ドラマは短距離走、映画は長距離走って感じです。――本作、どんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えてください。藤井: ABEMA TVを視聴してくれている若い人たちにも、本気の映画人たちがSNSをテーマに作品を作ったらこんな風になります、ということを観てもらいたいです。それを観た若い人たちが「SNSを題材にこんな短編映画みたいな作品を作ってるんだ。私たちも撮りたいな。私たちの方がもっと面白い情報持ってるよ」と思ってくれて、この企画が広がっていってくれたら嬉しいなと思います。僕らが使う“SNS”と若い子たちが使う“SNS”はまた違うと思うので、ドラマを通じて世代間を超えてのコミュニケーションになって、こういう機会が続いていけば良いなと思っています。あとは磯村さんら俳優陣のお芝居に注目してもらえればと思います。磯村:今、SNSが日常生活の一部として当たり前になりかなり身近なものになってきていると思うんですが、SNSとの向き合い方・付き合い方を考えるきっかけになってもらえれば嬉しいなと思います。僕が演じる虹生みたいなライブ配信者もいるでしょうし、表現方法も広がっていて誰でも発信出来るという良い部分もあると思いますが、一歩間違えると自分の首を絞めてしまいかねない危険も持ち合わせているので、その辺をハラハラ楽しんでもらえたらと思います。(佳香(かこ))
2021年07月07日妻に先立たれた男が幼い息子を連れて日本を発ち、韓国に暮らす兄のもとへ。そんな彼らが出会ったのは、両親を早くに亡くした兄、姉、妹の三きょうだい。意思疎通にも少しの奮闘が必要な日本人3人と韓国人3人が、ひょんな巡り合わせから旅を共にすることになるが…。オール韓国ロケで作られた『アジアの天使』に、池松壮亮とオダギリジョーが兄弟役で出演。日本映画界を牽引する実力派2人が、韓国の撮影現場で感じたこととは…?オダギリジョー、池松壮亮の姿勢に「作品に対する誠意や本気度が見える」──兄弟役での共演はいかがでしたか?池松:実年齢からすると、ワケあり兄弟に見えないかなと心配で…。というのは冗談ですが(笑)、オダギリさんがリードしてくれるからこその高いレベルでのやりとりや駆け引き、画面に映らない部分も含め、瞬間ごとのセッションができました。兄弟のシーンはものすごく気に入っていますし、楽しかったです。オダギリ:印象的だったのは、池松くん、撮影現場では絶対携帯を見ないんですよ。池松:アハハハ!オダギリ:色んなところでこの話してるから、池松くんは今後、携帯を現場に持ち込めない事になっちゃうかも知れないけど(笑)。池松:大丈夫ですよ(笑)。オダギリ:池松くんと同世代の俳優の中には、待ち時間にゲームをしていたりする人もいるんですよ。それは時代の変化として受け入れてるつもりだけど、やっぱり正直なところどこかでイラッとするわけです(笑)。作品に真摯に向き合って無いように見えちゃって。でも池松くんは携帯すら見ないし、現場に台本も持って来ない。それって小さな事だけど、作品に対する誠意や本気度が見えますよね?そういう姿勢を見ると、僕も本気で向き合わないとヤバいという気持ちになりますよ(笑)。池松:(笑)。まだギリギリ若者の立場ではっきりと言うと、この国に、表に出てくる人に、真に格好いい大人ってどんどんいなくなっていると思うんです。そんな中、オダギリさんの品性と大切なものを見抜く力、思想とそれを表現し続けるセンスは圧倒的です。こういう方がいることの幸運に、もっとみんな気づくべきだと思います。「他の国の人たちと力を合わせてものを作るって、やっぱり素晴らしい」──そんなお二人で、95%以上が韓国のスタッフ・キャストという現場に臨まれました。池松:今の韓国を見られる機会は貴重でした。同時代を生きる隣の国の人たちが人生をどう生き、どう喜び、どんな痛みを負っているか。そして映画をどう捉えているか。ただし、撮影が大変だったのは確かです。意思を伝えるのにも、文化、言葉、ルール、歴史的な背景など、様々な違いに直面します。その分普段の何倍もの時間とエネルギーが必要でした。オダギリ:今回の場合、韓国映画のシステムとは言っても、韓国の常識的なシステムではなかったと思うんです。日本の方法論をお願いした形だったと思います。そんな中、心意気を持ったスタッフが集まり、作品をいいものにしようと心を1つにした事実はとても尊いもの。普段よりつらい現場だったとしても、この作品の為に身を削ってくれる姿は感動的でした。他の国の人たちと力を合わせてものを作るって、やっぱり素晴らしいですよね。何が起こるかも分からないけど、とにかく楽しい。池松:同じ物語を共有し、それを信じて、ご飯を一緒に食べて、ビールを飲んで、笑い合えていた。かけがえのない経験でした。──オダギリさんには韓国語の台詞、池松さんには英語の台詞もありました。オダギリ:母国語でない芝居だと、逆にシンプルにできたりもするんです。言葉のニュアンスにとらわれる必要がなく、気持ちを伝えるという原点に戻れるので。相手に感情が伝わるか伝わらないか、それだけの事です。海外の俳優を相手にするときのほうがむしろ純粋に芝居ができると僕は思っていて。だから、楽しめてはいます。その分、試されている気もしますし。──日本語、韓国語、英語が飛び交う台詞の中、ソル(韓国人きょうだいの長女)に英語で話すときの剛(池松さん)は声を張っていますよね。兄(オダギリさん)と日本語で話すときの声はゆるいのに。池松:それが人間ですよね(笑)。マスクをするようになってから声が随分と大きくなりました。相手に届けようとするからです。──まさに、剛の中にはソルに“伝えたい”という気持ちがあり、オダギリさんのおっしゃった「純粋な芝居」にもなっている気がしました。池松:あとは言葉自体の変な浮つきと浮遊しているような感覚。いくら日本語で喋っていても伝わっていないわけですから。そこが、この映画の圧倒的な面白さの一つだと思っています。言葉の意味や本来の価値を超越すること、縛られた概念を飛び越え、生き延びるために手を組んで本来あったはずの大きな心の自由に触れること。いつの間にか真実を見失っていたもの達が出会い、こびりついた価値を捨て、再生していく物語ですから。血のつながりだけではない「家族」──兄はビールと「サランヘヨ」で大抵のことは乗り切れるとも言っていますしね。池松:真理を突いていると思います。ビールとサランヘヨと天使は、この映画において奇跡を目撃するための魔法のようなものです。僕たちも今回の撮影中、物凄い数のビールを消費しました(笑)。オダギリ:海外の撮影では特に、お酒が大事なツールになりがちですね。撮影が終わった後の夕飯も、結局はどこかに食べに行かないといけないし。誰かを誘い、飲みながら喋ることで仲間意識が高まる。それに、韓国のビールってちょっと軽いからどんどん飲めちゃうんです(笑)。あの軽さが韓国特有のビール文化を作っているのかも知れないですね(笑)。──お酒を含め、食事のシーンからも登場人物たちの空気が伝わってきました。池松:この映画を観れば、韓国料理を食べたくなるはずです。食卓は直接的にその文化が映るものだと思います。美味しかったですし、とても心があたたかくなりました。最初は辛くてお尻が痛かったけど、慣れてくると平気でした(笑)。オダギリ:韓国映画の現場には「あったかい料理を食べよう」という意識があるみたいで、その点は本当に羨ましいですね。日本の現場だと当たり前に冷たい弁当ですから。撮影のときに利用した食堂がなんだか恋しくなってきて、いつかまた行きたいなと思っているくらいです。──本編では、池松さんのおっしゃった「概念を飛び越えた自由」が、家族のような関係を織りなす登場人物たちに託されています。お二人も芝居を通し、“兄弟”になったと言えますね。池松:劇中の兄貴にはどうしようもないところと、誇らしいところがあります。そういうキャラクターに懐の深さと目の奥の愛情深さと、韓国ビールを超えるような軽やかさをオダギリさんが反映してくれたと思っています。さらに映っているところ以外でも沢山助けられました。おかげで忘れられない疑似体験になりましたね。天使な兄貴でした。オダギリ:僕の場合、現実に兄弟はいないし、血のつながりを感じてきた相手は母親だけ。いま言っていても「血のつながり」って自分からは程遠いワードだなと思ったんですが、池松くんが弟であることで、何かを信じることができました。それって、家族に近づくということなんでしょうね。「信じる」ということが。家族や血のつながりをそんなに強く感じてこなかった自分が埋められる1つのピースが、「信頼」ということなのかもしれないです。(text:Hikaru Watanabe/photo:Maho Korogi)■関連作品:アジアの天使 2021年7月2日よりテアトル新宿ほか全国にて公開
2021年06月28日6月25日(金)より公開される映画『Arc アーク』にて、夫婦役となった芳根京子&岡田将生。『蜜蜂と遠雷』、『愚行録』などで知られる石川慶監督が手掛けた初のSF作品は、人類初・永遠の命を得た芳根さん演じる、リナが主人公の物語。ストップエイジングの研究を完成させ、リナと共に終わりのない人生を選んだ黒田天音(岡田さん)。若い身体のままふたりで年を重ね、永遠の幸せを手に入れたかのように見えたが、残酷な運命が顔を出す。「不老不死」は、やはり禁断の果実なのか、それとも…。静かに迫る死生観、すべてを受け止めてくれるような壮大な画、豊かな映画体験が約束される本作では、浮かび上がったテーマや、身近な人を愛するということに、改めて思いを馳せることができる。出演した芳根さん&岡田さんは、本作をどう受け止めたのか?テーマから派生して、今思う様々なことをインタビューで聞いた。一筋縄ではいかぬ役に身を投じた芳根京子を岡田将生が絶賛「映画に覚悟が刻まれている」――非常に余韻が残る映画『Arc アーク』、ご出演の芳根さん、岡田さんは、完成作をご覧になって、どのように感じられましたか?撮影時に想像していた仕上がりとのギャップなどもあれば、教えていただきたいです。芳根:石川さんがどんな風に編集されるのかが楽しみだったので、撮影のときは何の予想も立てていませんでした!石川さんが撮る画を、「ああ、こういうのが必要なんだな」と受け止めながら、ずっと臨んでいたんです。完成作を観たときは、なんだか、すごくすっきりした気持ちになりました。新しいジャンルの映画が誕生したんだな、と思えたんです。そんな作品に参加させてもらえていることを、すごく嬉しく感じました。――「すっきりした」とは、とても面白い表現ですね。芳根:ほんとですか!岡田:芳根ちゃん、やりきったからね。完成作を観て、石川監督ならではの温かみのある画と、象徴的なラストシーンで「すごく包まれて終わったなあ」と思いました。生と死という壮大なテーマと、親と子の壮大な物語でもあるので、両方つきつけられて…なんか席を立てなくなりますよね。「うおお、すごいものを観せられた!」と。僕も参加できて、本当によかったです。この映画を観て、何より思うのは、芳根ちゃんのこの役をやる覚悟というか。おそらくどの俳優さんが見ても、「これは一筋縄じゃいかないよ」と感じられる台本だったので、やるにあたっての覚悟と、石川監督に身を任せ信じて戦っている姿が、この映画に刻まれていると思います。――もしも岡田さんがリナ役でオファーされることがあったら、やっていましたか?俳優としては惹かれる役どころでしょうか。岡田:絶対に行っていたと思います。でも、捧ぐにはものすごく覚悟がいるので、お返事の期限ぎりぎりまで「んー、どうしよう、どうしよう!」と、悩んでいるかも…。だからこそ、やっぱり芳根さんは本当に素晴らしいと思いました。芳根:そんな、ありがとうございます。――撮影現場では、お互いどのようにコミュニケーションを取っていらしたんですか?岡田:前も一緒にドラマをやっていたので、そのときと変わらなかったよね?芳根:そうですね!撮影中は、ずっと「まーさん」と呼んでいたんです。私、人と距離を近づけるのが下手なので、「呼び方から近づいていきます!」と言っていたんですが…現場で誰ひとり呼んでいませんでしたね(笑)。一向に浸透せず、今も「岡田さん」という気持ちです(笑)。岡田:石川監督だけ、低いいい声で、たまに呼んでくれてました(笑)。――香川でのロケと伺っていますが、おふたりならではの思い出も、ありますか?芳根:一緒にそうめんを買いに行きました。「どうしても、最後にそうめんだけは買って帰りたい!」と言って、開いているお店を調べて、慌てて買いに行った思い出があります。岡田:あと、小豆島で1回、石川監督と、寺島しのぶさんと一緒にごはんも食べたよね。今回、土地に助けられている部分もすごくあったなと思います。香川県庁の建造物も素晴らしかったし…あと、うどんもおいしいし(笑)。芳根:私、お昼休みや移動のときに抜け出して、うどんを食べてました(笑)。「せっかく香川にいるんだから、絶対に食べたい!」と思って、こっそり食べに行って何喰わぬ顔で現場に帰っていました、いい思い出です(笑)。もし永遠の命を授かったら…享受したい喜びとは?――本作において「不老不死」は、ユートピアでもディストピアでもないことが描かれています。永遠の命について、もしおふたりが授かったとしたら、享受したい喜びは何でしょう?芳根:わあ!その質問、新しいですね!でも、何だろう…どうしよう(悩)。岡田:ありきたりなことになっちゃいますが、生きていく中で限られたところにしか行けないから、せっかく不老不死なら、自分がまだ見ていない景色、行っていない土地とか、世界中全部回れたら面白いんだろうなって思います。その土地の人にお会いして知っていくことによって、自分の人生観も変わっていくだろうし、いいなあって。――ちなみに、岡田さんがこれまで行かれた国で印象的だった場所、もう一度行きたいところはどこですか?岡田:そんなにいろんな国に行っていないですが…スペインかな!街にアートが溢れているから、面白かったです。活気もあって、料理もおいしくて、美術館もいっぱいあるし。芳根ちゃんは、どこかある?芳根:ニセコ(北海道)です!実は、ニセコの近くに両親の実家があるので、しょっちゅう行っていたんです。本当に車も通らない、家もない、街灯もないような場所で、道にレジャーシートを敷いて、母とふたりで寝っ転がって、流れ星をずっと見ていたことがあって。岡田:いいね!芳根:「今、見た!?」、「見た!」みたいなのが、すっごく楽しくて。今、自由に外に出たりできなくなってしまったから、より一層、ああいうことをしたい!という願望が強いかもしれません。――すごく素敵なエピソードですね。芳根さんは、永遠の命を得たバージョンの喜び、ほかに何かありますか?芳根:えっと…皺ができない、とかは嬉しいかもしれない!と思います。言っても私は24歳なので、身体が老いていくことに、むしろまだちょっと喜びを感じているんですが。けど、もちろん、これから年齢があがったら、「うわー、年齢を止めたらこの皺がなかったのに!」とか、ポンポン出てくるんだろうなと思います。――そうですよね。ちなみに、岡田さんは老いを感じること、ありますか?岡田:やっぱりね…30超えると、ありますよ。芳根:え、あるんですか!?何が一番変わります?岡田:傷の治りが遅くなる(苦笑)。一同:(笑)。芳根京子&岡田将生の日々の幸せと喜び「最近、お芝居がすごく楽しい」――永遠の命とは逆に、限りある命だからこそ得られる喜びや幸せも、本作からは感じられます。おふたりの日々の中での喜び、俳優としての喜びを感じるときなどを、教えてください。芳根:私はこの作品に参加してというのもありますし、このご時世というのもあって、小さな幸せが、すごく大きな幸せに感じるようになりました。友達と会えるだけで、嬉しさが今までと違うんです。割と身近な、いろいろなところに幸せって落ちているんだなと気づけて、人生が豊かになった気がしました。だから、すごく得した気持ちになっています。美味しくご飯を食べられることも幸せだし、いろいろなことが大きな幸せに感じます。岡田:僕は、去年ぐらいから改めてお芝居が楽しくなりました。作品のめぐり合わせというか、素敵な監督や共演者の方々に恵まれたこともあるとは思うんですけど、最近、お芝居が以前に増してすごく楽しいんです。何だろうな。前よりテンション高くで現場に行くようになって(笑)。芳根:へぇー!岡田:仕事が充実していることもあるんでしょうけど、緊急事態宣言もあったので、より一層現場に行って、お芝居ができることのありがたみを感じているのかなと思います。例えば、「芳根さんとお芝居します」となって、芳根ちゃんとお芝居の呼吸が合ったりすると、「なんか今、良かったよね」みたいな。その空気は、その一瞬しか感じることが出来ないものなので、監督と一緒にカメラに収めていく作業や、そういう積み重ねで楽しく感じます。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:Arc アーク 2021年6月25日より全国にて公開©2021映画『Arc』製作委員会
2021年06月23日2013年秋、全米ネットワークNBCにて放送スタートし、高視聴率を獲得し続けているアクション・サスペンス超大作「ブラックリスト」。その日本上陸最新シーズンとなるシーズン8では、“レッド”・レディントンの真の正体を探るべく、エリザベスは母カタリーナと共に祖父・ドムらを巻き込み、レディントンを追い詰めていく。この度、今シーズンで究極の状態に陥るエリザベスを演じるメーガン・ブーンのインタビューがシネマカフェに到着した。ジェームズ・スペイダーが演じる、犯罪コンシェルジュと呼ばれる最重要指名手配犯レイモンド・“レッド”・レディントン。彼はFBI捜査官エリザベス・“リズ”・キーンを指名し、自分の持つ“ブラックリスト”からFBIも存在を知らない犯罪者“ブラックリスター”の情報提供を申し出る。シーズン8では、ついに“ブラックリスター”のNo.1が明らかになり、序盤から波乱と驚愕の展開が待ち受ける。自身でも、これだけ長く続くシリーズになるとは予測していなかったというメーガン。「パイロット版の脚本が素晴らしいということはわかっていましたが、契約時にはジェームズ・スペイダーがレイモンド・“レッド”・レディントンを演じることも知りませんでしたし、作品の流れを変えた他の多くの重要な要素もまだ謎のままでした。当時の私はリズを演じることがどのような意味をもつことになるのか予測できませんでした」とふり返る。「その年に読んだパイロット版の脚本の中では最高の出来だったので、勢いがついて、熱狂的なファンが増えるかもしれないと思いました」と、自身でもある程度の“予感”があったことを明かす。シーズン7の展開により、視聴者は再びレディントンの正体に関して様々な憶測を繰り広げているが、エリザベスは「まだ真実を知りませんが、ロシアのスパイであるN13に関する説を解明しようとしていて、それが今シーズンの波乱を生むことになるんです」と明かす。これまでのシーズンでも大変な状況が何度もあったエリザベス。演じるメーガンは現在の状況にも照らしながら、「この1年で学んだことは、人間は多くの苦しみに耐え忍ぶことができるということです。私たちは乗り越えないといけないことを乗り越えられる力があると思います」と話す。「リズが特に逆境に強いというわけではなく、選択肢がなかったり、良い選択肢が見つからないから、他の人よりも多くのことに耐えなければいけないだけなんだと思います。私は彼女の強さを軽視しているわけではなく、彼女だけが特別だというわけではないと言いたいんです。私たちのほとんどがそのような強さを持っているんです」と言葉に思いを込める。そんなエリザベスの性格や価値観と、自分が似ている部分や共感できるところがあるかを尋ねてみると、「そのような質問をされた時、私はいつも『彼女は私と同じ目をしている』と言っています。それはこの質問を避けるためのずるい言い方だとわかっているんですけどね。でも、この8年間、一日の大半を費やして演じてきたキャラクターと自分を比較するのは、とても難しいんです」と吐露。8年間という長い間エリザベスを演じてきたメーガンだが、「とても多くのことが変わりました。この役を得たとき、仕事を始めてまだ数年しか経っていなかったので、映画やテレビの仕事に全然慣れていませんでした。でも8年間撮影現場で過ごす中で、現場で心地よくいることができるかどうかで、自分の演技や今作に対するアプローチに大きな違いが出てきたんです。変わっていない事を特定するほうが難しいですね」と言う。また、2017年に日本で衣装や小道具を展示した展覧会が開催された際には、ファンから大好評となった。「シリーズが進むにつれ、私はエリザベスの衣装について少しずつ意見を言うようになりました。シリーズの後半では、彼女はローブーツ、ジーンズ、Tシャツなどの黒の衣装を着ることが多くなりましたが、これは私と衣装担当のクリスティン・ビーンの判断なんです」と言い、「私たちは決断が早く、常に同じことを考えています。私たちは詳細を伝えなくてもお互いの言いたい事が分かるんです」と話す。最後にメーガンは、「日本の皆さん、この作品をご覧いただきありがとうございます」とメッセージを送りつつ、シーズン8の見どころについて「これまでのどのシーズンよりも変化が起こるんです。本当に驚愕の展開になります」と言うものの、「でもネタバレにならない程度に言えることは、あまりないんです」と言葉を濁しており、ますます展開が気になりそうだ。「ブラックリスト シーズン8」は【二カ国語版】毎週火曜22時~【字幕版】毎週火曜24時~ほかスーパー!ドラマTV#海外ドラマ☆エンタメにて放送。(text:cinemacafe.net)
2021年06月21日いよいよ15日に最終話を迎える注目作「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレ・フジテレビ系)。本作は坂元裕二オリジナル脚本にプロデューサー・佐野亜裕美という「カルテット」コンビが再度タッグを組んでいることでも話題だ。佐野亜裕美氏に本作でのこだわりや最終話の見どころ、ドラマ作りへの想いなどについて話を聞いた。「観てもらう価値をちゃんと考えながら作っていきたい」――SNSでの盛り上がりや色んな考察記事、深堀記事などの反響をどう受け止めていらっしゃいますか?番組を愛してくださることはとてもありがたいことだと思っています。色々な考察記事も拝見していますが、そんな風に読み解くのかとこちら側が意図していないことももちろんあります。ただ、観ている人を無理やり誘導したくはない、あまり感情を規定したくないという思いがプロデューサーとしてはずっとあるので、その“余白”を大事にしてきたからなのかなと思います。観る人によって印象が違ったり響く部分が違ったりするのは、狙い通りという訳ではなく、自分がポリシーとしてやっていることがそういう結果を生んでいるんだなと思ってます。――ここ数年、インターネットの普及によって作り手に“よりわかりやすいもの”や“より反応しやすいもの”が求められやすくなっているように思うんですが、どのようにお考えでしょうか?テレビはどうしても“ながら見”が前提ということもあって、耳だけで聞いてもわかりやすいとか途中から観てもわかるというわかりやすさからは逃れられない宿命みたいなものがあると思っています。ただ一方で、集中して1時間番組を観てくださる視聴者の方もいるので、私は後者の集中して観てくださる方が楽しめるようなドラマにしたいなと思っています。それでも今回は、いろんな伏線を張ったり長い会話劇の中で読み解いていくようなことはあまりせず、1話完結型で観てもらえるようにしようと坂元さんとも話し合っていました。わからないものが素敵なものだとも思わないし、わざとわかりにくくするというようなこともないですが、情報の密度というか“1時間の密度”みたいなものは個人的には意識しています。「1時間あっという間だったし、1時間濃かったなぁ~」と思ってもらえるように、1時間、人の時間を使って観てもらう価値をちゃんと考えながら作っていきたいと思っています。――佐野さんは最近のドラマの特徴をどうお考えですか?ドラマ評論家ではないので俯瞰して語れる立場ではないですが、深夜帯や配信ドラマも含めて連続ドラマってかなり数が増えていて選択肢が多い分、早々に“すごく求心力の強いもの”と“ダメの烙印を押されてしまったもの”の二極化が進んでいると思います。連続ドラマって最終話まで観てもらうからこその連続ドラマなので、そこはジレンマを感じます。ただ、見逃し配信のプラットフォームが増えた分、リアルタイム視聴できなかった人にも観てもらえて、かつその指標が作品の評価の一助となるような空気感になってきているのは、作り手としてはありがたいなと思います。どうしてもリアルタイムの視聴率だけで判断されてきた過去に比べていろんな指標ができるようになるといろんなドラマがあって良いという自分のポリシーにも繋がってくるので。海外ドラマも参考に「もっともっと自由で良いんだな」――作品を制作する過程で、国外の作品を参考にされた部分はあるんでしょうか。海外ドラマは大好きで、毎日1本は観てから寝るようにしているんですが、テンポ感や音楽は参考になりました。例えば、泣けるシーンに泣かせるような音楽をかけない、笑いのシーンにいかにも笑って下さいっていうような音楽をつけなかったり。例えば韓国ドラマってオリジナルサウンドトラックがあって毎回曲が違ったりするじゃないですか。それも良いなと思って。今回エンディングを変えたのには色んな経緯があるんですが、多少なりとも影響は受けていますね。もっともっと自由で良いんだな、決まりみたいなことをもっと破っていけば良いんだなと思わせてくれた気がします。――その他にも、何か日本ドラマとの違いを感じられることはありますか?海外ドラマは衣装についてもキャラクターの年収設定や生活水準を気にせず割と自由だなと思います。「梨泰院クラス」でも、パク・セロイはお金を全部店に費やして這い上がっていく話のはずなのに、ダウンだけで何着持ってるんだろう?と思ったり。「サイコだけど大丈夫」でもコ・ムニョンはいつも寝るときにメイクを落としていなくて大丈夫かな?って思ったりするんですが、そういう細かい設定やリアリティーよりもキャラクターとしていかに魅力的に見えるか、素敵に見えることの方が大事っていう精神が特に韓国ドラマには強く見られるなと思います。繋がりやリアリティーよりも“エンターテイメントとして素敵に見える”ってことの方が大事なんだなと思って勉強になっています。印象的な食事シーン&話題のナレーション――本作では、食事のシーンもとても印象的です。フードスタイリスト飯島奈美さんとはどのようにイメージのすり合わせをされているのでしょうか。基本的には台本に詳細が書かれているので、そこから逆算してどんな形状の料理なのか話し合っています。おいしいご飯が並んでいるではなく、どんなご飯が並んでいるかイメージしやすいように坂元さんが書いて下さっています。奈美さんに対しては絶対的な信頼があるので、こちらから特に事細かに指定はしていないですし、奈美さんが台本をしっかり読んで下さり、とわ子像について考えて下さっています。第1話で脚本に “赤ワインを飲むとわ子”と書かれていて、演出陣がその後もずっと“赤ワインを飲む人”という設定で進めようとしてしまっていたのですが、奈美さんが「それは違いますよね。だんだん季節も変わるし、とわ子はキリっとした白ワインとかロゼが飲みたくなるときもあるだろうし」と提案して下さり、軌道修正して下さったこともあります。――本作では、伊藤沙莉さんによるナレーションも話題になっていますが、オファーされた理由を教えていただけますでしょうか。最初から坂元さんから「ナレーションを入れたい」という希望があって「ちびまる子ちゃん」のキートン山田さんのような“ツッコむ”ナレーションが良いというお話まで出ていました。ドラマのテイスト的に“女性の声が良いな”と話し合い、アニメ「映像研には手を出すな!」が坂元さんも私も好きで、浅草みどり役の伊藤沙莉さんの声がイメージしやすいですねとなり、彼女一択でした。「1人じゃないと思えるドラマにしたい」――本作は“1人で生きていく人を応援するようなドラマにしたい”という思いから作られたと伺いました。本作も終盤に差し掛かったところで佐野さんは“1人で生きていく”ということを改めてどのように捉えていらっしゃいますか?“1人で生きていく”と聞くと、どうしても独身男性、独身女性など、戸籍上、家族構成など物理的に捉えられがちだと思うんですが、特定のステータスや婚姻関係をイメージしての“1人”という意味に限定した話ではないですね。コロナ禍で家族がいても最期は誰とも会えず亡くなられたおじいさんの映像を観て、1人だけれども1人じゃないし、1人じゃなくても1人というような状況って誰しもに起こり得ることで誰でも最期は1人だし、人は1人で生きていて1人で死んでいくけれど、でも1人じゃないと思えるドラマにしたいと思っていました。1人で生きているようで、実は色んな繋がりの中で生きているということが伝わればと思っています。――最終話の見どころを教えて下さい。ドラマ放送初期の頃は「モテるとわ子が羨ましい」という感想の方が多かったんですが、今は「とわ子の4人目の夫になりたい」という声も聞かれるようになって良かったなぁと思っています。それくらい言語化できない魅力がある、ただただ魅力的、というのがとわ子だなと思います。松たか子さんが作って下さったとわ子の、とわ子なりの答えが見つかる回を見守っていただければ嬉しいです。(佳香(かこ))
2021年06月15日映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の公開を記念して行なってきたリレーインタビューもいよいよ最終回です。連載第1回に登場してくれた佐藤健に『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の公開初日に再びインタビューを敢行! 「佐藤健にいまだから聞きたいこと、言いたいこと」として武井咲、青木崇高、新田真剣佑、江口洋介、有村架純からの質問に全て答えてもらった。佐藤健の弱点、そして真夜中のストレス解消法とは…?ハードな仕事「なくなると追いかけたくなる」――ついに本日(6月4日)、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』が公開を迎えました。今朝のお目覚めはいかがでしたか?穏やかでしたね。「また雨か…」と思いつつ、穏やかに目覚めました。若干、まだ眠いです(笑)。――早速、ここまでのリレーインタビューで共演陣から寄せられた質問にお答えいただきます。武井咲さんからは佐藤健の“弱み”について「何かできないことはないの?」という質問が寄せられています。荷造りですね。あれが本当に苦手です…。整理整頓ができないんですよね。(旅行や出張に)何を持って行ったらいいのか? 苦手なくせに、完璧じゃないといけない! みたいな気持ちがあって、終わらないんですよ、テキトーにできないので。それで、なかなか手を付けられないし、終わらないという…(苦笑)。――ということは、部屋は散らかっているんですか?部屋は散らからないように、最初からとにかく物を置かないようにする戦法でやっています。逆に散らかったら、しばらくはキレイにならないですね(苦笑)。――武井さんからもうひとつ「10年経って、これだけビジュアルが変わらないのもすごいことだと思うんですよね。太ったりも痩せたりもないですし。なので、何か続けてやっている事とかあるのか?そのへんのコツも知りたいです(笑)」と。基本的に(継続的にやっていることは)なくて、次の作品の役作りに向けての身体づくりしかしたことないです。何かを維持したり、若い頃のままの肉体を保つために何かしているというのはないです。結果的に食事制限をしたり、ジムに通ったりというのはありますけど、あくまでも次の役に向けてですね。――昨年、コロナ禍でエンタメ業界全体がしばらくストップするという、普段は起こりえない事態もありましたが、もしも、次のスケジュールがない状態がずっと続いたら…。(昨年の緊急事態宣言の期間中)全く何もしてなかったんですよ。だから、それが続いていたらどうなっていたんだろう? って思いますね。まあ、そんなに太りやすい体質でもないんですけど、あのまま続いたらどうなったのか? 興味深くはありますね。――有村架純さんからは、肉体面ではなく精神体な面での質問です。今回『The Final』の撮影があり、続いて『The Beginning』を撮り、また『The Final』に戻るというスケジュールだったそうですが「気持ちをキープする方法、メンタルとか集中力、持続力はどこからわき出てくるものなのか知りたい、聞いてみたいです」とのことです。まず第一に「気合い」なんですけど(笑)、つらいときは楽しみに待ってくれている人たちの顔を思い浮かべることがモチベーションになりますね。――「もうダメだ」という気持ちになったり、メンタルが堕ちてしまう瞬間はないんですか?たぶん、これまでもあったんでしょうけど、そんなに深く記憶に残ってないんですよね。結局、終わったら忘れちゃうんです(笑)。だから、またやっちゃって「やんなきゃよかった…」ってなるんですけど…。――以前、佐藤さんは「ほとんどの問題は自分の考え方ひとつで解決できる」という意味のことをおっしゃっていました。実際、そう思います。変な例ですけど、どんなに「つらい」といっても、コンビニのご飯だっておいしいですし、食べるものがあって、好きなこと――僕だったら謎解きとかができていれば、人生幸せだなぁって思えるんですよね。――そこで十分に満足できるのに、なんでこんなにハードな仕事を…?本当ですよね(笑)。ただ、それ(=仕事)がなくなっても、僕は絶対に幸せに生きていける自信はありますね。僕の場合、「千鳥」を見て、謎解きができて、NETFLIXでも見ながら静かに暮らせたら幸せなんです。でもだからといって、この仕事をやらなくなったら、どこかで後悔する未来も見えるんですよ。「あぁ、やっぱりきつくても続けていればよかったな」って。人間ってそうやって突然やりたくなるものだから。なくなると追いかけたくなるものなんでね。その未来が見えているから続けている感じですね。『るろうに剣心』以上の作品に出会いたいという想い――青木崇高さんからも同様にメンタリティについての質問です。「いろんな現場を主演として背負ってると思うんですけど、ずっとクールに佇んでいるんですよ。それはとても大変なことだし、ストレスやプレッシャーも感じると思います。『ちゃんとバカやってる?』って聞きたいです」という質問です。…(笑)。そういう意味では最近は減りましたね、バカやる機会が。20代前半から半ばくらいまでは、しょっちゅう友達と遊びに行ったりしてましたけどね。とくにコロナ禍もあってこの1年ちょっと、みなさんも同じだと思いますけど、ずっと家にいますね。――ストレス発散という意味では、家で枕に顔を押し付けて叫んだり、甘いものを一気に食べたりとか、何か決まってやる行動はありますか?あるとすれば深夜のペヤング&ビールですね。――意外とコストがかからない方法で…(笑)安いですけど最強ですからね(笑)。甘いものよりは炭水化物ですね。いまでもたまにやりますよ。深夜のペヤング&ビールが一番ですね。あぁ、言ってると食べたくなってきたな…(笑)。本当に最高ですね。――新田真剣佑さんからはひと言「続編やりませんか?」と。やりません(笑)。いや、百歩ゆずって続編があっても、マッケン(雪代縁) は出ませんからね。――真剣佑さんは『The Final』だけの出演でしたが、メチャクチャ楽しかったんでしょうね?そうでしょうね(笑)。彼はこういうジャンルの作品が一番興味のある、好きな作品でしょうからね。――原作の漫画は現在「北海道編」の連載が続いています。左之助や斎藤はもちろん、過去のエピソードに出てきたキャラクター、さらには新選組の元隊士なども新たに登場するなどしていますが、佐藤さん自身はさらなる続編に興味は…?あのへんは熱いですよね。僕も漫画は楽しんで読んでます。でも、実写化は全く考えてないですね。もう、やることはないんじゃないかな…。もしやるなら、マッケンを主演にしたスピンオフで(笑)。――江口洋介さんからは「(役者として)ここからどっち側に振っていくのか? どっち側の役をやっていくのか? 同じことをずっとやり続けるのか、真逆なこと、例えばコメディなんかをやりたいって思うのか…今度はこれ(『るろうに剣心』のヒットのイメージ)を壊していく作業になっていくと思うので、そこで出てくる彼の表現は、とてつもないエネルギーを持っていると思うから、とても楽しみに、影響されながら見ていきたいなと思いますね」という質問、熱いエールが届いています。「いままでと同じで」とか「変えていこう」とかは考えたことはないんですよね。ただ『るろうに剣心』という作品が、ひとつ誇れるものであると同時に自分にとって“枷”にもなるであろうことは間違いなくて、今後、剣心以上の役、『るろうに剣心』以上の作品に出会いたいという想いはありますね。やっぱりみなさんにとって、(剣心という役の)印象は大きいでしょうし、「佐藤健の代表作と言えば…?」と聞かれて『るろうに剣心』と言う人が多いと思います。それは非常にありがたいことなんですが、同時にそれをぶち壊してやりたいなと思っています。剣心は「ずっと好きだし、切り離せない存在」――ここから改めて『The Beginning』について、お話をお伺いします。いまの質問をいただいた江口さんとは第1作からずっと共演されていますが、本作では時代をさかのぼって、幕末の人斬りと新選組隊士という、過去の作品とは異なる立場でした。実際に対峙されて、どんなことを感じましたか?やっぱりそこはシリーズ作品の醍醐味を感じましたね。同じ人物なんだけど、全然違う。そういう状況で対峙することができて、普通のひとつの作品では絶対に味わえない感覚があり、これが長く何作もシリーズを重ねてきた特別なものなんだなという思いを抱きながら芝居をしていました。――剣心と巴が一緒に暮らすことを決めるシーンは、原作でも印象的なシーンですが、映画の中で、殺伐とした幕末の空気を一瞬忘れ、温かさと愛情にあふれた現代のラブストーリーのようにも感じられました。あのシーンはどのように臨まれたんでしょうか?そういう感じになったのは、監督の演出の仕方がそういう方向だったのだと思います。僕もアニメを見たときから、あのシーンの剣心の申し出がすごく印象に残ってたんですよね。プロポーズというか、女性にそういうことを言うのって、照れくさいし勇気が要るし、できることなら逃げたいし、相手に言わせたいけど、それはズルいなと自分から言う――それは剣心らしい魅力的な部分だなと。だからこの『The Beginning』をやると決まったときから、あのセリフは絶対に言いたいセリフとして自分の中で決まっていましたね。すごくいいセリフですよね。――このリレーインタビューの1回目、『The Final』の公開前に佐藤さんにお話を伺った際、前回の『京都大火編』『伝説の最期編』から最終章までの数年の間の、剣心との距離感について「仲は良いけど会わない親友という感じですかね。そのくらいの距離感」とおっしゃっていました。今後、佐藤さんの中で剣心はどのような形で存在していくと思いますか?どうなんでしょうねぇ…?わかんないけど、変わんないと思いますよ。どこかにずっといて、ずっと好きだし、切り離せない存在ですよね。大人になるにつれて仲のいい友人と会う回数って減るじゃないですか? 若い時はいつも一緒だったのに。でも親友であることはずっと変わらない。そういう存在だと思いますね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年06月12日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! 今回、登場するのは、“人斬り抜刀斎”の人生を大きく変えることになる女性・巴を演じた有村架純。主演の佐藤健に言いたいor聞きたいこと、さらにアンケートで寄せられた読者からの質問にも回答してもらった。※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。出演の理由「一緒に挑戦させていただきたい」――本作からの参加となりましたが、映画『るろうに剣心』シリーズ、もしくは原作について、どのようなイメージを抱いていましたか?私は『るろうに剣心』は映画で初めて拝見させていただいて、アクションといえば『るろうに剣心』が一番という印象を持っていました。(1作目の)公開当時は既にこの業界には入ってましたが、まだ技術的なところに関しては知らないことがいっぱいあって、とにかく圧倒されました――技術的なことなんて考えることもなく、ただ圧倒された思い出があります。それぞれの役者さんが演じられているキャラクター像、インパクトも本当にすごかったですね。作風も作品自体もキャラクターも。みなさんの熱量というか、インパクトや勢いがすごく強いというイメージでした。――ファンの間でも人気の高い幕末のエピソードで、しかも剣心の愛する存在である巴を演じることに決まった時の心境を教えてください。最初にマネージャーさんから話を聞いて、「はい、やります」とはすぐには言えませんでした。土足で足を踏み入れていいのか? などいろんなことを考えたんですけども、大友(啓史)さんと再びお仕事ができるという喜びのほうが自分の中で勝りました。健さんも共演したことのある方でしたので、一緒に挑戦させていただきたいなと思い、その覚悟の上でお受けしました。――巴を演じる上で大切にされたこと、意識されたことはどんなことですか?巴が清里(窪田正孝)と出会う前、出会ってからどういうふうに生きてきたのかなということを自分なりに想像して、清里のことを思いながらも、ただただ剣心に対する復讐心だったり、憎しみだったり、そういった微妙な気持ちの動きなどを常に思いながら撮影をしていましたね。あんまり余計なことは考えていなかったかもしれないです。巴は剣心に対する復讐心で生きているみたいな感じだったので、余計なことはあんまり考えず、剣心と過ごす日々を大事に生きていましたね。演じた巴役を回顧「苦しかったんじゃないかな」――有村さんから見て、巴という女性の魅力はどのようなところにあると感じますか?巴は決して強い人ではないと思うんです。けれども一輪の花のような美しさもあって、凛とした、凛々しい女性でもあって、すごく本当に言葉にするのが難しいんですよね。わかりやすいキャラクターでもないし、多面的な部分があるので。でも人としての危うさだったり、ツンっとつつけば崩れ落ちてしまうような脆さだったり、そういったところが、魅力なのかなって思ったりしましたね。――特に剣心と巴が一緒に暮らす日々の2人の様子がかわいらしくて印象的でした。あのシーンはどのような心境で臨んだのか? 撮影のエピソードなど教えてください。剣心と一緒に過ごせば過ごすほど、巴の中で自分を憎みそうになるというか、もともとはやっぱり清里を思って始めたことだったはずが、それが思いもよらぬ方向に行ってしまい、たぶん自分でも驚いていた日々だったのかなと思って…。剣心に対して想いを寄せても、清里への想いが消えるわけでもないし、かといってそれを美化することはできないし、常にずっと揺れ動いている日々だけど、人間ってずっとそういった嫌なことを考えて生きていないと思うんですよね。とある瞬間に忘れることってあって、それが2人で暮らす中でいっぱいあったんでしょうね、きっと。巴を演じながらも「あ、居心地がだんだん良くなってきたな」とか思う瞬間もいっぱいあって、だけど、ひとりになった時とか、ふとした瞬間にきっと清里のことが頭をよぎったりして、そういう葛藤の日々だったから、巴としては本当に剣心と一緒に過ごせば過ごすほど苦しかったんじゃないかなと思います。――クライマックスの剣心の頬に刃を立てるシーンは佐藤さんと打ち合わせなどはしたんですか?たしか前日にリハーサルだけやって、アクションを含めて2~3日かけて撮ったんですよね、場当たりをしただけで、全然打ち合わせとかは何もせずでした。――アニメとか原作漫画とかに近づけようとかそういう意識でもなく、2人でその場のやり取りの中で生まれたという感じでしょうか?そうですね。原作とはまたちょっと違いますもんね。そこは自然とそうなったっていう感じでしたね。佐藤健の意外な一面とは?――読者からの質問です。「巴の役は難しかったと思いますが、 撮影の合間、他のキャストの方と何をして過ごしていましたか?」とのことですが、基本的に佐藤さんとのシーンが多かったかと思います。現場でどんなことをお話されたんですか?夜遅くや、朝まで撮影することもあったので、お互いに眠気を誤魔化すように、合間に喋りながら過ごしていました…。でも、そんなに口数多くしゃべってはないですね。ぽつぽつお互い喋って…みたいな感じで。作品の雰囲気もありましたし、あんまりキャッキャッできるような感じでもなかったので、喋りたいときに喋っていた感じです(笑)。あと、お互いに食事制限をしていたのでお腹が空くんですよ。なんか嚙みたいなっていう時に、節分の豆、乾燥した大豆をジップロックに入れて持っていたので、それを2人でもぐもぐ食べてました。――もうひとつ、読者からの質問で、「『るろうに剣心』の共演者の方の意外な一面を見つけていたら教えてください!」とのことですが、これも佐藤さんになりますよね。そうですね。意外でもないかもしれないですけど、食事制限をしていたので、健さんは1日に1粒、2粒食べるチョコを楽しみに現場を過ごしていらっしゃったので、意外と甘いものというか、そういうものを食べるんだなって。あんまり甘いものを食べてるイメージが『何者』の時はなかったので、「あ、チョコレート好きなんだ」って思いましたね。その時だけかもしれないですけど。――「座長・佐藤健に今だから言えること、聞きたいこと」を教えてください。今作の撮影で健さんは、『The Final』を撮影してて、『The Beginning』を撮影した後て、また『The Final』の撮影に戻られてたんですよ。『The Final』の時の容姿と『The Beginning』では当然容姿も違いますし、そういう気持ちをキープする方法、メンタルとか集中力、持続力はどこからわき出てくるものなのか知りたいですし、聞いてみたいですね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年06月04日なかなか“映画館に行けない“コロナ禍。数ある動画配信サービスが勝負を賭け、それぞれの特徴を前面に打ち出してしのぎを削る中、この3月に映画館主導の配信サービス「おうちでCinem@rt」が誕生した。シネマートといえば、アジア映画、とりわけ韓国映画の紹介においては最も信頼のおける映画館の1つ。最新韓国ドラマやオリジナル映画ならNetflix、最近ではAmazon Prime Videoも力を入れ始め、U-NEXTでも独占配信作品を楽しめるが、シネマートが選んだ日本劇場未公開の映画や人気俳優の過去作品ならばお墨付き。そこで、「おうちでCinem@rt」の担当者に、サービスの魅力をたっぷりと語ってもらった。アジア映画に特化した動画配信サービス――「おうちでCinem@rt」はどんなサービスになりますか?おうちでCinem@rtは、アジア映画(韓国・中国・台湾 etc)に特化した動画配信サービスです。特に韓国映画をメインに、シネマート新宿・心斎橋に次ぐ第3の映画館としてオープンしました。また、劇場未公開作品をおうちでCinem@rt限定の先行プレミアム配信(毎月2本)としてお届けしております。検索機能としましては、タイトル・俳優名の他に国別表示、ジャンル(アクション・サスペンス・ラブストーリー・ホラー・ドラマ・コメディ etc)別に表示することも可能ですので、見たい作品がすぐに見つかるのも、他の動画配信サービスにない特徴の一つかと思います。料金は都度課金制、TVODのレンタル方式になります。先行配信1,200円(税込)※視聴可能時間、料金は作品によって異なります。新作550円(税込)(視聴可能時間:48時間)旧作440円(税込)(視聴可能時間:48時間)――「おうちでCinem@rt」を始めたきっかけを教えてください。シネマート新宿/心斎橋を営業する中、皆さまからのメール、Twitterなどのコメントで「なかなか映画館に行けなくなってしまった、行きたいんだけど…」というお言葉を頂戴する機会が増えました。「いつもあんなに通っていたのに…」「今はなかなかいけないんですよね」と…。そして同時にそのような状況の中、2021年でシネマート六本木(現在は閉館)、シネマート心斎橋とシネマート新宿の営業開始をしてから、15年が経ちました。この3館で上映されたアジア映画は、約3,000本以上。また昨今では、シネマート新宿/心斎橋のみで上映している作品が増えております。お客様の中には、遠方からわざわざお越し頂く方もいらっしゃいます。ですがやはり、このコロナの影響で劇場にお越し頂くことが困難な状況になり、どうすれば映像コンテンツを皆さまのもとへお届けができるのか?と考え、(株)エスピーオーは動画配信サービス「おうちでCinem@rt -いつでも・どこでも- 」を新たに運営開始することとなりました。ずばり、コンセプトは「第三の劇場」です。今後は、シネマート新宿/心斎橋のみで上映している作品をできるだけ早くにこの「第三の劇場」でも同時に配信をさせて頂く予定です。新宿や心斎橋には遠くてお越し頂けない皆さまや、おうちでの時間を楽しむ皆さまへ、「過去15年間で上映したアジア映画」や「もっと昔の作品たち」を、今後は少しずつ配信してまいりますのでお楽しみいただければと思っております。また、この動画配信サービスは日本で公開されていないアジア映画もご覧いただけます。配信と劇場運営は「相互で補っていく」――「おうちでCinem@rt」を開始して、どんな変化が起きましたか。サービス開始(3月12日オープン)して2か月が経ち、難しい状況が続く中、劇場にお越し下さるお客様がいる一方で、おうちでCinem@rtをご利用になるお客様もある一定数いらっしゃいます。数多く動画配信サービスがある中、おうちでCinem@rtは特定のジャンル(アジア映画)に絞ることでより身近にアジア映画を感じて頂けるのではないかと思います。もちろんご覧頂ける環境はお客様の自由ですので、昼下がりのカフェ、お風呂、トイレ、勉強の小休憩、電車の移動中など場所は問いません。お好きな時間、場所でご鑑賞いただけます。ただこのサービスを利用するにはミレールアプリをスマートフォンにダウンロードし、新規登録(無料)する必要があり、日頃から動画配信サービスを利用する方でしたら問題ないのですが、初めての方には難しいと思う方もいるようです。対策としてはTwitterにてご利用案内をお知らせ、ご利用ガイドチラシを劇場に設置、劇場でマンツーマンでご説明、ご案内するなどできる限りの方法で少しずつ解消できればと考えます。また劇場未公開作品を先行プレミア配信として行っております。劇場公開を迎えるまでに先行配信し、劇場にお越しになることが難しいお客様にご利用頂くことで、より多くのお客様にご覧頂けます。3月は『愛の終わり、私のはじまり』、4月『ガラスの庭園』『鬼』、5月は『消えた時間』『あなたの頼み』が先行配信に該当します。6月以降も続々配信予定です。――配信と劇場運営の両立について、お考えをお聞かせください。おうちでCinem@rtオープンから2か月が経ち、少しずつですが認知されご利用頂くお客様も増えてきております。最近では劇場が休館中に作品同時視聴会を実施し、お客様と一緒に作品の感想や実況を行ったところ、「休館中だからシネマートで観ている感覚を味わえた」という声も頂き、動画配信サイトからおうちでCinem@rtで一歩映画館に近づく感じになるかと思います。また配信で作品を鑑賞し、同時に作品の関連商品(パンフレット、DVD、その他オフィシャルグッズ)をオンラインショップCINEM@RT STOREでご購入頂くことで、実際に映画館に来ているかの様な感覚を体感して頂くことができます。劇場が存在することで、おうちでCinem@rtの告知が行えるという利点もあり、相互で補っていく存在で進めていければと考えます。おすすめ作品の見どころ――「おうちでCinem@rt」で視聴可能な作品で、ご担当者様の「これは必見!」というおすすめ作品があれば教えてください。『消えた時間』です。ベテラン俳優チョ・ジヌン初監督作品として、2020年に韓国で公開されました。田舎の村で謎の火災事件が発生し、刑事ヒョング(チョ・ジヌン)が捜査を行うにつれ、村人のある違和感に気付き始める…。ある日目が覚めると一瞬にして、家族、家、仕事が消え、自分の人生が全く別の人生に入れ替わっていた。ヒョングは自分の人生を取り戻せるのか。自分の存在、生きることの意味とは――。いままでにない韓国映画を是非体験してみてください。おうちでCinem@rtでは現在、609本のアジア映画を絶賛配信中。今後も定期的に、新作・旧作を配信予定。(text:cinemacafe.net)■関連作品:愛の終わり、私のはじまり 2021年4月23日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開© 2013 SOO FILM, DAISY ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVEDガラスの庭園 2021年4月9日より「おうちで Cinem@rt -いつでも・どこでも-」にて配信©2017 LITTLEBIG PICTURES. All Rights Reserved鬼 2021年4月30日より「おうちで Cinem@rt -いつでも・どこでも-」にて配信© 2010 Generation Blue Films. All Rights Reserved.
2021年05月28日70年代ロンドンのパンクムーブメントを背景に描かれる、エマ・ストーン主演『クルエラ』。その予告編が公開されると「エマ・ストーンのクルエラがかっこよすぎ」「エマだと分からなかった」と、ディズニー史上最悪といわれるヴィランへと見事な変貌を遂げたエマに注目と称賛の声が集まった。そんな彼女のヘアメイクを手掛けたのは、エマも出演した『女王陛下のお気に入り』(ヨルゴス・ランティモス監督)で英国アカデミー賞(BAFTA賞)やヨーロッパ映画賞のヘア&メイクアップ部門を制したナディア・ステイシー。本作で、エマ演じるエステラを白と黒が象徴的なヴィラン・クルエラに大変身させた彼女は、ヴィヴィアン・ウエストウッドやアレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノなど独自の感性を持つデザイナーたちに加え、ドラァグ・アーティストやドラァグ・クイーンたちからもインスピレーションを受けたことを語ってくれた。エステラからクルエラへ…同じジャーニーを辿るかつてグレン・クローズが『101』(1996)で演じたクルエラ・デ・ビル。ナディアは彼女について、「敬意を払う必要がありました。私も愛していますし。アニメーションや同作が、私たちの知るクルエラを作ったのです。けれど、それらのルックにこだわる必要はありませんでした。反抗的でルールを破るという雰囲気をとらえればよかったんです」と語る。「最初に出てくるときのクルエラは、かなりクラシックなクルエラと言えます。髪型はボブだし、グレン・クローズの全体像に近い。ネイルもグレン・クローズのネイルを真似しています」と言う。とはいえ、本作はクルエラ誕生までを描く“オリジンストーリー”。「クルエラが自分を見つけていく話で、グレン・クローズのルックに到達するときには、彼女は自分を完成させているのです」。また、変貌を遂げる前のエステラに関しては、「エマと話し合って、できるかぎりリアルなルックにすることにしました」と言う。「エステラは1970年のロンドンに育った若い女性。どこにでもいる、普通の女性だと、私たちは決めました。彼女には個性もあるけれども、ヘアとメイクアップはあの時代に則していて、ちょっとパンクっぽさを感じさせる程度。クルエラに変革していく時に、変革がはっきりとわかるようにするためです。私たちもクルエラと一緒にそのジャーニーを辿れるようにするため」と語る。「実際、私も、エステラと同じジャーニーを辿っているように感じました。エステラは自分自身を見つけようとしています。自分の中にいるクルエラを。彼女はレッドカーペットのイベントに行って大胆なルックスを披露してみせますが、私も同時に新しいルックス、肌触り、ジュエリー、ヘアスタイルなどを試して、クルエラというキャラクターのパーソナリティを見つけようとしていたんです」と続け、「私は、映画のクルエラと同じジャーニーを辿っていました」と明かす。また、ヘアとメイクが人を変身させるという意味で「すばらしい例」と名前を挙げたのが、デヴィッド・ボウイだ。「彼はヘアとメイクでデヴィッド・ボウイからジギー・スターダストになりました。クルエラも同じことをやっています」。ドラァグから「多くのことを学びました」さらにナディアは、「ドラァグのメイクも参考にしました。ドラァグのアーティストも。彼らも特定のパーソナリティ、違うバージョンの自分を創造していますから。あるシーンで彼女はエステラで、周囲に溶け込んでいて誰も注意を払わないのに、夜になると全然違うルックになってクルエラとして現れるというコンセプトが、私は好きでした」と語る。彼女は、エマと組んだ『女王陛下のお気に入り』ほか、アンソニー・ホプキンスが本年度アカデミー賞を受賞した『ファーザー』、80年代中頃の英サッチャー政権下を舞台にした『パレードへようこそ』、ソノヤ・ミズノ主演×アレックス・ガーランドのSFミニシリーズ「Devs」(原題)など数多くの作品を手掛けてきたが、ドラァグ・クイーンに憧れる高校生を描いたミュージカル映画『ジェイミー!』(原題:Everybody’s Talking About Jamie)でもヘアメイクを担当している。『ジェイミー!』舞台版の主演で、本作『クルエラ』ではアーティを演じているジョン・マクリーと仕事をしながら「『クルエラ』をやる直前に、ドラァグについて多くのことを学びました」とナディア。「イギリス人のドラァグ・アーティストでデヴィッド・ホイルという人がいますが、彼のドラァグにはパンクっぽい要素があって、大好きなんです。また、アクエリアというドラァグ・クイーンが大好きなんです。メイクが本当にすごく美しいんですよ」とも語る。アクエリアといえば、「ル・ポールのドラァグ・レース」シーズン10のウィナーで、いまやファッション界の新たなアイコン的存在となっている。「私は撮影中に、『ル・ポールのドラァグ・レース』をよく見ていました。彼らが、完璧なヘアとメイクで登場する素晴らしい瞬間があるんです。その後で彼らは部屋に戻って、すべてのメイクを取ります。そうすると、メイクの下の彼らがどれほど違うかということにいつも驚かされます。カリスマ・ファッションデザイナーのバロネスに、(クルエラが)エステラだと気づかれないよう、違ったキャラクターを見せるためにメイクを使うのは、とても合っていると思いました」。「勇敢になって、記憶に残るものを作りたかった」そうして完成していったクルエラ像。ナディアは撮影を「ものすごく大変でした」と振り返る。「(出てくる度に)まったく違うルックなんです。完全に違うヘアで、完全に違うメイク。だからチャレンジは、どこまで押すか、ということでした。どこまで大きくやるのか?そして、いつ止めるかをいつ知るのか?(笑)。なぜなら、あまりにたくさんの自由がありましたから。確実に信ぴょう性があるものにするのが大変でした。そして、いつもインパクトがあるものを作ることが大変でしたね。私は、勇敢になって、記憶に残るものを作りたかったんです」と明かす。シーンごとのルックによって違いはあるが、「ヘアとメイク全体で、多分1時間半くらいかかったと思います。ブラック・アンド・ホワイトの舞踏会のときの赤いドレスとマスクとフェザー、ジュエリーをつけているルックには、多分もう少し長くかかった」という。だが、ナディアを奮い立たせたのもまた、クルエラというキャラクターだったようだ。撮影中、「もっとも印象に残っているのは、私が初めて彼女をクリエイトした瞬間でした。私たちが、初めてクルエラのメイクをして、ウィッグをつけたとき。エマ(・ストーン)はイスに座っていました。そして、彼女の(クルエラの)声を試すために、違う話し方で話し始めたのです。あれは、本当にとても特別な瞬間でした。なぜなら、すべてはそこに向けて積み上げてきましたから。すべてのリサーチや、すべての準備とか、すべてをね」。何週間にわたり準備を綿密に重ねても「目の前にいる女優のヘアやメイクを実際に見るまでは、それが本当にうまくいくかどうかはっきりわかりません。だから、エマが突然クルエラに命を吹き込むのを見ることができて、とても素晴らしかった」と、記憶が蘇るかのように振り返る。そんなエマが命を吹き込んだクルエラについて、「彼女は勇敢だと思います。彼女は多分、自分の少し悪いところを積極的に受け入れるように努めていると思います。少し規則破りの側面をね。そういった強さやエンパワーメントがあると思います」とナディア。「トレイラーがリリースされたとき、人々の反応がそういうものでした。『ワオ。これはディズニー映画にしてはクレイジーだ』っていうものでしたから。彼らは、こういう作品だと予想していなかったんですよ。私はその点が大好きです。それが(クルエラの)魅力だろうと思います。人々は、(映画で)見るものに驚くことになると思いますよ」と、言葉に期待を込めて続けた。「誰にでもなりたい人になれるという自由があれば」特にお気に入りのルックを聞いてみると、「それはいつも変わります(笑)」と言いながら、「大きなレッドカーペットのシーンは大好きです。彼女がやって来て、レッドカーペット上でとても大きな注目を集めるところ。また、顔中にジュエリーをつけて、ゴミ収集車に乗っているところも」と応じる。「彼女がアニータのオフィスに助けてくれるように頼みに行くときのルックも大好きですね。あのルックは、衣装と共にとても簡潔だと感じます。あのルックのすべてが。彼女は、黒のチェックの衣装を着ていて、ヘアもメイクもすべてが…彼女は本当に素晴らしく見えると思います」と自ら太鼓判を押す。そして最後に、本作がコロナ禍に公開されることにも意味があるとナディアは語る。「私たちは、いろんな規則によってすごく抑えられてきました。だから、私たちが(コロナ禍から)抜け出し始めるとき、誰にでもなりたい人になれるという自由があればいいなと思いますし、それはクルエラにもうまく合っていると思いますね」。「私はすでに、インスタグラムで(クルエラを)再現したルックを見ています。人々がそういうことをしているのを見るのはとても楽しい。そうやって人々がメイクで遊んでいるのを見られるのはね。なぜって、私たちはノーメイクで、家にずっと閉じこもっていたから。この映画が、人々が外に出かけ始めるようになったとき、もっと勇敢なルックに挑戦してみることをインスパイアするといいなと願っています」と語り、日本の観客にも「何か勇敢なことをやりましょう」とアドバイスを送る。「勇気を出して、ルックに挑戦してみて。ルールブックは捨てて、何か違うことをやってみるんです。そして、アイメイクが濃すぎないかとか気にしないで。強烈なアイメイクでも、強烈なリップと合わせることができます。勇敢になって、実験してみて」と、“勇敢になることを恐れないで”というメッセージを伝えてくれた。(text:cinemacafe.net)■関連作品:クルエラ 2021年5月27日より劇場にて公開、2021年5月28日よりディズニープラスプレミア アクセスにて配信© 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
2021年05月28日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! シリーズ完結への思い、いまだから言える“あの”話、主演の佐藤健に言いたいor聞きたいことなどについて語ってもらい、さらにアンケートで寄せられた読者からの質問にも回答してもらう。今回、ご登場いただくのは斎藤一を演じる江口洋介。『The Beginning』で新選組時代の斎藤を演じての感想や、斎藤のトレードマークとなっているタバコへの熱い思いなど、たっぷりと語ってもらった。斎藤一は「死神のようなイメージ」――今回、これまでのシリーズから時間をさかのぼって、幕末の「新選組三番隊組長・斎藤一」を演じましたが、維新後ではなく、この時代の斎藤を演じるにあたって意識したことを教えてください。『The Final』までの4作は斎藤一ではあるんですけど、(維新後に)藤田五郎と名前を変えて、警察に身を置いているというスタンスで、そこで斎藤なりの「悪・即・斬」を貫いてやってきたんですが、今回の『The Beginning』では新選組というところに身を置いていた時代でして。新選組といってもいろいろ表現がありますけど、『The Beginning』では武士に憧れ刀を持ち、腕っぷしに自信のある人間がある思想の下で相手を斬りつけていくわけですからね。ものすごく残虐であり「悪」と「正義」というひと言では表せない、死への恐怖を感じさせない部分をリアルに考えてやっている部分はありました。斎藤は(維新後と)髪型も違いますし、衣装も新選組の(一般によく知られている)誠と書いてある水色に白みたいなものとはまた違ったデザインになったんですよね。「死」を覚悟してるというか、死神のようなイメージで自分ではやらせてもらいましたけどね。見たことがない新選組っていうのを意識していました。よくよく掘り下げていくとそっちがリアルじゃないかなと僕は思っていたんで、ちょっと全然違った気分で演じていましたね。いままでのシリーズはアクション映画っていう感じだったんだけど、これはもうちょっと“気配”の映画というかね、役作りも全然違う考え方をしましたね。同じシリーズとは思えない別の作品をやっている感じでした。――今回、新選組隊士として、敵同士の関係で佐藤健さん演じる剣心と対峙された感想を教えてください。ずっと一緒にやってきてるんですけど、今回の『The Beginning』での立ち位置がまた全然違うので、こっちは新選組、向こうは長州の用心棒みたいな感じで、お互いの思想が全く違う敵役ですよね。2人ともある種、その時代の最も底辺にいる人間だと思うんですね、戦という部分では。そういう意味では似た者同士という感じもあり、斎藤はそこで“同じ匂い”のする人間を確認してしまったんだろうなという感覚。それからは、剣心をずっと追い続けていくような人生で、斎藤は斎藤で新選組の時代が終わって、(維新後は)警察に身を置いていて、ちょっとスパイ的な要素もこの人間は持っていて、新選組時代もそういうエピソードがあるらしいですけど…。剣心も、ある意味で(かつての人斬りという姿を)カモフラージュしたような存在でもあって、そこから始まる2人の関係っていうのを噛みしめながらやってましたね。(維新後を描くシリーズ)4本が、ここから続くんだなっていうスタートとして。「タバコと刀」は「斎藤には切っても切れないもの」――2012年から10年近くにわたって(数年を間に挟みながら)ひとつの役を演じ続けてみていかがでしたか? シリーズを通じて、最も印象深い出来事、エピソードなどを教えてください。漫画原作の実写化ということで、最初はどういう世界観になるのかまったくわからずにスタートしてるわけです。立ち回りもこんなスピーディな映像になるとは知らずに。でもアクションのトレーニングをしてて、普通の時代劇にはならないなっていう、アクションをメインにした漫画原作なんだけれども、ある種リアリズムを持って、そこに存在するかのように俺たちがやらないと、これはうまくいかないんだろうなと思いながらやっていました。最初にやった剣心との立ち回りのシーンは覚えていますね、まだ。雨の中でね、(維新後に初めて剣心と斎藤が)出会った後なんですけども、剣心は「もう斬らない」という意思で、斎藤は「悪は斬る」という。一度、人斬りとして生きた人間は不殺には行けないはずだという、斎藤の思想があって。シリーズ冒頭ですれ違うシーンですね。そこは印象深く覚えてます。あとは、毎回強力な敵が出てきて、日本を揺るがすという。そういう意味では立場は違っても同じ正義という、立ちはだかるものを潰していくっていう意味では一緒だったんですけど。まあ“同志”のような感じでね、やってくんだけど。あとは『The Beginning』ですかね。最初に出会って剣を合わせなかったところのシーンが上手くつながっていれば、後は大丈夫だろうというような思いでしたね。そこは大事にやったつもりですし、いまでもやはり印象深いですね。――「るろうに剣心」シリーズがこれで終わってしまう、斎藤を演じるのが最後になってしまうことへの寂しさはありますか?そうですね、しばらくはタバコ吸わなくていいんだろうなっていう…(笑)。でも、もともと、ヘビースモーカーで、昔は自分のところに来たあらゆる役をタバコ吸う設定にしてもらって、ドラマでも映画でもバンバン吸ってましたね。タバコを吸う芝居に慣れてるっていうか、喋りながらタバコを吸うことはよくやってきてるんですよね。ある時期から(武士にとっての)刀じゃないけど、タバコを劇中で吸う事が難しい時代になって、(このシリーズで)また得意なタバコを吸えたんでね、俺としてはこの役はどんどん広げられたつもりではいるんですけど、「タバコと刀」というのは斎藤には切っても切れないものですね。そういう意味で芝居をするにしてもすごく印象的だったし、ここまで深く関わった作品も初めてだったんで、寂しさはありますよね。終わってしまった寂しさっていうのはありますけど、やり切った感もあります。――読者からの質問で「タバコを吸いながら戦っているところがカッコいいです。実際に吸いながらアクションをしてるのですか?」、「タバコを落とさずに演技する上で難しかったこと、困ったことなどがあれば教えて下さい」など、タバコに関する質問が多かったんです。あれは実際に本物の巻きタバコを使っていて、本当においしいタバコを自分で選んで、それを現場に持って行って巻いてもらって吸ってるんですけど。(普通、撮影では)ネオシーダー(※タバコと同じ形状で微量のニコチン・タールを含んだ、咳止めの医薬品)とか偽物のタバコとかをよく使うんだけど、煙の出方が全然違うし呼吸も変わっちゃうんだよね、火薬部分が多すぎて。ちゃんとゆっくりブレスして、本物のタバコを味わいながら芝居をするという、その味わい深さが斎藤の人を煙に巻くようなムードを出しているんじゃないかなと思って。本当に一本一本味わって吸いながら撮影していました。さっきも言いましたけど、自分でもタバコを吸いながらいろんなことをやっていたしね。タバコをくわえながら何か作業していたり、車とかバイクが好きだったんでバラしたり、掃除したり、料理したりとか。時代もあると思うんだけど、タバコ吸いながら何かをするっていうのが何の抵抗も難しさもなかったんですね。ただ「ここで捨てよう」とか「ここであれしよう」とか、そういう間はなんとなく自分で決めてやってはいましたけどね。『るろ剣』チームは“戦友”のような存在――「座長・佐藤健に今だから言えること、聞きたいこと」を教えてください。そうですね。デビューしてすぐの頃は、『仮面ライダー』をやってた男の子という、まだ色が付いていない俳優さんだったと思うけど、やっていくうちにどんどん主役として、座長としてね、成長する姿を見てきて…。俺なんかもそうだったけど、作品がヒットすると、それが自分にとってずっと枷となってしまって、それとの戦いになってくると思うんです。シリーズがヒットしたプレッシャーを感じながらずっとやってきていると思うし、たぶん、これから先も重圧となるし、また逆に彼の俳優としてのパワーにもなると思います。ヒット作があるっていうことはすごく怖いことでもあって、それをこれから噛みしめてやっていくんだろうなっていうような感じはすごくしますよね。本当に現場では、剣心と斎藤のような寡黙な2人なんで、そんなに雑談もせず、撮影の打ち合わせはしますけど、そういったようなことは撮影中に話すことはなかったですけど、彼を見ていてそういうふうに思いますね。聞いてみたいことは、(役者として)ここからどっち側に振っていくのか? どっち側の役をやっていくのか? 同じことをずっとやり続けるのか、真逆なこと、例えばコメディなんかをやりたいって思うのか…今度はこれ(『るろうに剣心』のヒットのイメージ)を壊していく作業になっていくと思うので、そこで出てくる彼の表現は、とてつもないエネルギーを持っていると思うから、とても楽しみに、影響されながら見ていきたいなと思いますね。――最後に改めてご自身にとって、映画『るろうに剣心』シリーズ、そして制作チームはどういう存在ですか?このシリーズを通じて江口さんが得たものを教えてください。10年、ほぼ一緒のスタッフで、『1』がヒットしたら次『2』、『3』とよりハードルを上げていかなきゃならない、もう追っかけっこみたいなことで、さっきの健くんの話じゃないけど、支持されればされるほど、その次はそれを超えていく事への戦いになるわけで…。毎回、全力でやってるんだけど、もっと全力でやらなきゃいけない、っていうことで最後までやってきた仲間なので、どの現場で会っても、そのときのモードになるというか、もう同じ映画作りの戦場を共にした、“戦友”的な感覚ですよね。そういう意味では、他の作品とはちょっとレベルが違うっていうか、大変さ、時間、制作費、能力、俺たちの熱量っていうものが、普通の作品づくりとはあまりにもかけ離れている『るろうに剣心』独特の熱があるんですよね。でも結局、みんなこの物語が好きなんでしょうね。この物語が好きで、この物語をどうリアルに現実化させて、どう届けるかっていう。映画を観た人が興奮して、夢にまで出てきちゃったっていう話を聞いたりするんだけど、ただのエンターテイメント、活劇で楽しいよっていうだけじゃなく、こんなふうに生きていた人間が昔はわんさかいたんだよっていうような、武士に対しての憧れみたいなものをもたらした作品なんだなと思います。でも『求める』ということは、そういうことであって、それは若い子たちにも通じていると思うんですよね。そんなふうに感じてね、楽しんでもらえたらいいなって思います。特にこういう時代ですからね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年05月28日世界で一番有名な日本人アーティスト、葛飾北斎の生涯を映画化した『HOKUSAI』。青年期を柳楽優弥が、老年期を田中泯が担当し、W主演を果たした本作では、北斎がその才能を開花させるまでのもがきと、人気絵師になってからがダイナミックに、肉厚に描かれている。北斎について、青年期についての資料はほぼ残されておらず、柳楽さんが演じる時代は、史実と照らし合わせながらも、オリジナル色の強い脚本に仕上がった。ゆえに、映画を観て「えっ」、「へ~」と多少の驚きと新鮮さを持って楽しめる。柳楽さんが演じたならではのスパイスも、たぶんに効いているのだが。「演じるにあたっては、監督と話し合って僕たちの北斎像を作り上げていきました。北斎は世界中にファンがいる日本を代表するアーティストなので、正直怖いという気持ちもありました(苦笑)。これまで過去に作らた葛飾北斎に関する映像作品を観た印象では、北斎は割と骨太で無骨な印象だったり、ワイルドなイメージが強かったんです。今回、演じさせていただくことが決まって、役柄を通して調べていくと、実は、知的で、情熱的な一面もあった人だったのではないかと思いました。“彼を突き動かしたその原動力は何なんだろう、すさまじいパワーを持つ人だな”と感じていました」。パワフルさは、柳楽さんが憑依したとも言いたくなる、北斎が一心不乱に筆を取る姿に現れている。実のところ、北斎は、当時人気を誇っていた歌麿(玉木宏)や写楽(浦上晟周)に追いつけず、嫉妬と自信喪失でさまよい、たどり着いた海で自らの才能と五感を呼び覚ましたのだ。柳楽さんの演技と北斎のアイデンティティが合体するような、強いインパクトを残す海のシーンは、必見だ。演じた海での出来事を、柳楽さんは北斎目線でやさしく言葉にした。「北斎は“今、すごくいい絵が描けるぞ” というモチベーションで、海に向かったわけではないのか、と僕は思ったんです。納得いかないとか、悔しいとか、ある意味、絶望的だったと思いますし、そこには、アーティストならではの感情がありそうな気がしたんです。監督と僕たちとで、“これだ”という気持ちを持って撮影しました」。「オリジナリティを大切にする」ことへの思い、と葛藤北斎を演じ切り、完成作を観て、ふと感じたこともあったと柳楽さんは話した。「以前、番組でアメリカの『アクターズ・スタジオ』に行かせていただいたのですが、演じる上で、自分自身が経験した哀しかったことや、少しネガティブな感情を引き起こして表現するという、メソッドアクティング(演技法)を勉強したことがあったんです。映画は、哀しい、淋しいという感情が共有されて、少しホッとする様なところがあって、それが良さでもあるのだと思うんです。アーティストや表現者たちは、一見ネガティブとも思える感情から、美しいものを生み出すことができるエネルギーを持っているんだなと、感じたんです」。そして、青年期の北斎は、「ただ描きてぇと思ったもんを、好きに描いただけだ」と言い、美人画が全盛の時代に、波と富士を主題にした「江島春望」で勝負に出て、結果、江戸を席巻していく。今の時代に望まれる、オリジナリティを大切にする、自分らしく、というワードとも通じている印象を受ける。「ニュースなどで“自分らしく生きるとは何か”という問いかけを見て、僕自身は、“自分らしく生きられている方なのかな…?”と思えることもありますが、俳優をやっていると、台本があって、セリフを読んで、そのキャラクターについて考えていく作業なので…日々、葛藤しています(笑)」。監督の望みに寄り添いながら、自分のオリジナリティを出すような演技も披露していく。一朝一夕にはいかない、高度な技術の話だ。「言われたことに応えるのは大事なことだと思っているので、僕は、 “演出されたい”と思うんです。その大切さを理解しながらも“AIのようにはなりたくない”と思うところもあって。2020年を機に、僕個人としての考え方をより明確にさせて、普段のインプットを充実させたいなと考えるようになりました」。そんな柳楽さんが今インプット、というよりも、気分転換にしていることといえば「ピアノ」だと即答した。「今月(※取材日、2021年4月)から始めたばかり。ピアノ教室に通っているんです。先生から“ここはもっと繊細に弾きなさい”と、指導していただいていますね(笑)」と、照れくさそうに微笑んだ。しかし、役者としての感覚を忘れないのも柳楽さんの特色。「俳優でよかったなと思うのは、(役として)いろいろ習う機会があることです。自分がどうステップアップしていくのかが、何となくわかるというか。“あ、できない…”という感じになると、“はいはい、きたきた、コレね!”と実感する瞬間があるんです!」、課題を課題とも思わず楽しそうに超えていく柳楽さんの話を聞くと、どことなく天才肌の北斎に通ずるところがあるような気がしてしまう。「褒められたらうれしい!」けど…引き締める気持ち、柳楽優弥の本音誰もが知る、実力派俳優と世間にも認識されている柳楽さんだが、20代の頃には、「どんな役であってもいただいた役を一生懸命やりきることで認められて、主演を勝ち取っていきたい。主演として呼ばれるようになりたい」という、強い意志も秘めていた。30代に入った今、有言実行を体現している。「10代のときは、ある程度の経験値と、想像力の引き出しを増やすことが必要だと思っていたので、“脇役をやりたい”と思う時期もありました」。「けど」と、柳楽さんは紡ぐ。「いざ、こうしてまた主演をやらせていただくようになってからも、怖いと思うことはあるので、あまり変わらないのだと思います」。演じるということに対して貪欲で、役や作品に対しての理解を突き詰めている、慣れないことへのプライドを持っていると、柳楽さんの言葉を聞いているとわかる。「もちろん、褒められたらうれしいです(笑)。でも、褒められて“ああよかった”と満足してしまうと、人って、怠けてしまうものじゃないですか?例えば、柔術の世界で帯の色が上がったとしても、改めて気を引き締めていきたいというか。自分の経験から常に気を引き締めないとていけないなと思っています」。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:HOKUSAI 2021年5月28日より全国にて公開©2020 HOKUSAI MOVIE
2021年05月24日「階段というものは、人が落ちるために作られている」――。映画に携わる様々な人たちに話を伺う「映画お仕事図鑑」。今回、登場いただくのは、冒頭の言葉に代表される凄まじいまでのアクションへの愛(※本人は著作にて“アクション脳“と表現。ちなみに本のタイトルは「アクション映画バカ一代」!)を持ち、日本を代表するアクション監督として世界をまたにかけて活躍する谷垣健治。谷垣さんといえば、スピードと迫力に満ちあふれたアクションを生み出し『るろうに剣心』シリーズを成功へと導いた立役者のひとり。大学卒業後に単身、香港へと渡り、現地でキャリアを積み、その実力を認められていったという谷垣さん。日本中、いや世界を熱狂させたあのアクションはどのようにして生まれたのか?『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の公開を機に話を聞いた。スタントマンに憧れ香港へ――そもそも谷垣さんがアクション監督を志すようになったきっかけ、経緯について教えてください。もともと、小学生の頃からジャッキー・チェンや新日本プロレスで活躍したタイガーマスクといったフィジカルな人たちが大好きだったんですね。ジャッキー・チェンをきっかけにいろんなアクション映画を見るようになって、それでスタントマンに憧れて香港に行って…。かいつまんで言うと、そんなことがきっかけですね。ただ“スタントマン”と言っても香港映画の場合、単にアクションをやるだけでなく、作品作りにコミットすることがすごく多いんですね。スタントマンでも編集室に連れて行かれて意見を求められたり、「カメラやれ」とか「この役をやれ」と言われたりするお国柄なんです。僕は、スタントですごいことをやって「おぉっ!」と言われるのも好きだったんですが、やっていくうちに自然と「(アクションそのものを)作る」ほうが面白いなと思うようになったんですね。ロールモデルとなる存在もたくさんいました。ジャッキー・チェンはもちろん、サモ・ハン、ユエン・ウーピン、それからドニー・イェンもそうですね。名前を見ただけで、撮る画が想像できるくらいの“色”を持っている人たちがいました。映画監督でそれぞれに色やスタイルを持っている人はたくさんいますが、それと同じくらいの“濃さ”を持っていて、彼らを見ながら僕はキャリアを築いていくことができて、アクション監督というものに面白さを感じることができたんですよね。――著書「アクション映画バカ一代」では突然、香港に渡ってジャッキー・チェンの撮影現場に行った時の様子もつづられています。何のツテもないままに言葉も通じない外国でスタントマンを目指すという谷垣さんの行動力に驚かされますが、不安や恐怖はなかったんでしょうか?香港にはスタントマンやアクション監督になるための養成学校みたいな、そういうシステマチックなものが存在していなかったんでね。なかったからこそできたのかな(笑)。行くしかない、みたいな。日本では大学に行きながら大阪で「倉田アクションクラブ」(※俳優・倉田保昭が主宰するアクションの養成所)に3年半ほど通っていて、アクションにはそれなりに自信はあったんですね。当時、京都の撮影所の時代劇の撮影にも参加したりもしてたんですけど、やっぱり香港のアクション映画のアクションとはタイプが違うわけです。じゃあ、自分が(倉田アクションクラブで)やってきたことをどう活かしたらいいか? という話です。ちょうど大学3回生の頃、周りはみんな就職活動をしてたんですけど、僕はそこじゃなくて、やっぱり一度、香港でやってみたいって気持ちが強かったんですね。それで1991年の9月に勝手に香港に行ったんです。それ以前に1989年にも一度、香港には行ってたんですが、ただのファンとして行って、撮影現場を見て「すげぇっ!」って言って、帰ってきた感じでした。日本でアクションクラブに入るのはその直後の話です。二度目の時は、ここに住んで働くにはどうしたらいいのか? ということをリサーチしに行ったんですね。現地のイエローページを見て「こんな仕事があるのか」と「映画の制作会社ってこんなにあるのか!」とか、実際に家の賃貸物件を見て「こんなに高いのか」と驚いたり。そこで、たまたまジャッキー・チェンに会う機会があって、自分の技を見てもらったりもしたんですけど…(苦笑)。結局、93年になって本格的に現地に渡って住みはじめるんですけど、道筋がないので、やってみないとわからないというのはありましたよね。まあ、客観的に見たらおかしな人ですよ。アクションをやりたいってだけで、何のツテもないのにいきなり香港行くって(笑)。ただ、ちょうどその当時、サッカーではカズさん(三浦知良)が活躍してて、あの人は自分でブラジルに渡って現地でプロになって、日本に戻って来たんですよね。それから野茂(英雄)さんもアメリカに渡ってメジャーリーガーになって活躍していました。おそらくみなさん、そういう人たちの気持ちは理解できるんじゃないですか? 野球選手がメジャーリーグに憧れたり、サッカー選手がプロを志したりするという。僕からしたら、香港行くということは彼らと同じベクトル、目線だったんですよね。自分がやってきたアクションというのは香港が本場だったので、そこで自分を試してみたいという。とはいえ、(働くための)システムみたいなものは何もないし、言葉も広東語という中国語の中ではローカルな言語で、日本では学ぶところもなくて、そこは現地に行ってからの部分だったので、とりあえず行ってみたという感じですね。そしていまに至る(笑)。――本場に渡って、そこで現地の人々に実力を認めさせるというのは本当に凄いことだと思います。それだけ追い詰められていたというところもあったと思いますね。そのまま国内でスタントマンをすることもできたかもしれないけど、周りの同級生たちが就職活動をしている中で、ちょっと河岸を変えるじゃないけど「環境を変えて挑戦する」というのを、自分の中の就職しないエクスキューズにしていたところもあったのかな…といま振り返ると思いますね。当時の日本の映画の状況を見ていて正直、このまま国内でやってもスタントマンという職業に未来はないなという思いもありました。それならまだ22歳なので、香港で挑戦してみて、ダメだったとしても、現地の言葉くらいは覚えたら、なにかしら生きてはいけるんじゃないかなと(笑)。『るろ剣』は転機となった作品――その後、香港の名だたるアクション監督、スターたちの現場で研鑽を積まれて、スタントマン、アクションコーディネーター、そしてアクション監督、監督として活躍されるようになります。ご自身の中でアクション監督として“一人前”になったという手応えをつかんだのはいつ頃ですか?単に「生活していける」ということなら2000年代初期でしょうが、アクション監督として「自信」が持てたという意味では『るろうに剣心』ですよね、やっぱり。――大学卒業後に本格的に香港に渡ったのが1993年で、『るろうに剣心』の公開が2012年ですから、約20年を経てですね。それまでにも数々の作品に携わられてきたかと思いますが…。自分でどんなによくできたと思っても、世間の反応や評価がないとなかなか自信にはつながらないですよね。おっしゃるように、それまでもたくさんの作品に関わってきて、その都度、いろんな形で満足を感じることはあったんですけど、第三者から認めてもらうという部分も含めて言うとやっぱり『るろ剣』なのかな?「生活できる」というのとはまた違って自分の中で満足するものができて、それを周りからも認めてもらえたという意味でね。もちろん、満足というのも、あくまでもその時点での満足に過ぎないんですけど。――『るろうに剣心』というのはそれだけ特別な作品なんですね。自分にとっての良い“名刺”になったというのかな?自分の中で「イケてる」と思えるものを作り、それを見た人たちにも「イケてる」と感じてもらえたという幸福な交わりがあって、それは自信につながりましたね。実際、『るろ剣』があったからこそ、その後、いろんな国からオファーがあり、たくさんの大きな作品に関わらせてもらえるようになりました。それ以前にも中国やアメリカで仕事をしたことはありましたが、それは誰かの下についての仕事でしたから。香港映画でドニー・イェンの主演作を監督するようになるなんていうのは、93年当時の自分にとっては考えられなかったことです。この間気づいたんですけど僕は、『るろ剣』以降のこの10年間で、邦画の仕事は『るろ剣』シリーズ以外では『新宿スワン2』しかやってないんです。それは、日本以外のいろんな国から呼んでもらえたということ。なぜかというと、みんなきっかけは『るろ剣』を見てくれたからなんですよね。それくらい転機となった作品なんです。――谷垣さんがやられてきたのは、香港のアクション映画の系譜のアクションですが、『るろうに剣心』で主に描かれるのは、日本の剣術ですよね? そこにズレや難しさはなかったんでしょうか?それはあまり感じなかったですね。大友啓史監督がもともと香港映画を面白がって見てくれていたというのもありましたしね。日本の映画界においての僕の印象って一般的に「香港でアクションをやっていたカンフーの人でしょ?」という感じだったんですよ。ちょっとバカにするというか、ニヤニヤしながら亜流のものに対する目線というか。日本の映画人はそういう時にすごく意地悪になりますから。そんな中で、大友監督は僕のことをすごく理解してサポートしてくれたんですよね。おかげでやりやすかったし、香港でも中国でも時代劇はあるので、あまりそこでアクションそのものに差を感じることもなかったですね。アクションに対する“理屈”さえ合っていれば全然、問題ないんですよ。僕の言うアクションの理屈というのは、単純です。・ちゃんと相手を狙う・相手の攻撃を待たない・“パワー”をしっかりと表現するこの3つです。シンプルですけど、これができてるアクション映画はそんなに多くないです。これがしっかりとできているなら、日本映画でも香港映画でもハリウッド映画でも変わりません。最初に大友監督に言ったのは、日本のチャンバラでよくある“つばぜり合い”っておかしいよねっていうこと。相手の頭を狙って剣を振り下ろすんじゃなくて、2人の間の空間で剣と剣を合わせるだけのつばぜり合いはおかしい。そもそも当たらないとこ狙いに行ってるんだから避けなくてもいいじゃん、って(笑)。(自身のスマホを手に取り)携帯が鳴ったら、自分の耳元に持ってくるのが自然でしょ? わざわざ(顔の前にスマホを突き出して)こうやって、額に携帯を持ってくるなんて動きはしないでしょ? それくらい不自然なことが日本のアクション映画では行なわれていて、「何だこりゃ?」って思ってました。そうじゃなくて、常識的な動きで剣を振り下ろし、相手を攻撃しに行く――僕がやったのは、そういうことをちゃんとするということ。それだけです。その意味では日本映画だろうと香港映画だろうと変わりません。――2014年の『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』を見た子どもたちが、剣心の壁走りをマネするようになったという話もありました。主演の佐藤健さんが舞台挨拶で「練習すればできるようになります」と壁走りの練習のコツを熱く語っていて、子どもたちがマネしたくなるアクションというのは、この映画の持つ大きな魅力だなと改めて感じました。そこなんですよね。見た後に思わずやりたくなるという。その要素がないといけないと思うし、そのために剣心のトレードマークとも言える動きだったり、ちょっとしたクセ、大人が見てもその気になるようなことをアクションでも入れたかったんです。壁走りやドリフトもそうです。そう感じてもらえるのはありがたいですね。「アクション部のスタッフって、トレーナーというよりはカウンセラーに近い」――ここから、具体的に映画のアクションシーンの作り方についてお聞きしていきたいと思います。制作側から谷垣さんにアクション監督としてオファーが来たら、その後、どのようにしてアクションシーンを作り上げていくのでしょうか?『るろ剣』を例に説明すると、アクション練習にも2種類あるんです。いわゆる“アクション練習”と“リハーサル”なんですが、前者は俳優たちとコラボレーションをする上で、その人がどういうことが得意でどんなことが苦手かを見させてもらうための時間ですね。俳優の個性を理解し、同時にこちらの考え方を理解してもらうための時間でもあります。演技における“本読み”に近いものかもしれません。まずは基本的な動きを練習しつつ、そのキャラクターの特徴的な動きを再現してみます。僕らの言葉で“おかず”という言い方をするんですが、そのキャラクターに合ったちょっと派手な動きを探ってみたりするんですね。もちろん、そこでフィジカル能力を上げてもらうことも大事ですが、とはいえ、フィジカルの能力なんてそう簡単には上がりませんから、むしろその人を理解し、得意な部分をすごく伸ばしてもらうというのがここでの主な目的ですね。「身体がやわらかい」「ジャンプ力がある」「以前、こんなスポーツをやっていた」――そういったことを踏まえて、剣を持ってもらっていろんな動きをしてもらい、それをカメラに収めます。1日で2時間くらいやったとして、それを1分か2分くらいの動画に編集して監督や俳優本人に見てもらいます。僕らがあれこれ言うより映像に写ってるもの、それが全てですから。そうすると、それを見て自分がイケてるかイケてないか? もっと言うと、自分がそのキャラになれているか否かがわかるわけです。それを受けて、本人も次の練習の機会までにいろいろ考えて、練習してきて、そうすると次の練習の機会が発表の場になるんですね。そこでまた新たなことを試して、考えて…というのを繰り返していきます。監督からも「この動き、いいね」「カッコいい」「すげー!」とかダイレクトな反応が返ってきます(笑)。それを受けて、こちらも「じゃあ、この動きを取り入れよう」「この動きをもっと伸ばしてみよう」となるわけです。そうやって、徐々に立ち回りも長くなっていくんですけど、そうすると当然、ミスも出てきます。そのミスをした瞬間に本人のクセや個性が見えてきて、それがまた面白いんですね。こっちで全てを決めてしまうと、決め事にしかならないけど、その人から何気なく出てくるものがキャラクターに活きてきたりするんです。例えば左之助(青木崇高)であれば、楽しくなると舌を出すんですけど、そういうクセや個性を見つけて取り入れるようにしています。そうしているうちに、そろそろロケハンも終わって、セットの図面もできてきて、徐々に立ち回りも固まってきます。それを役者さんに移していく作業がリハーサルですね。アクション練習からやっている動きではあるんですけど、それをきちんとした立ち回りとして前後を作り上げていく。微調整しながらしっかりと形にしていきます。よくある勘違いで、アクション練習というと、役者さんたちが一列に並んで素振りをして…という図を想像する人が多いんですが、そういうことじゃないんです。別に剣道の大会に出場するわけじゃないんでね。大友監督がよく言ってたのが「アクション部のスタッフって、トレーナーというよりはカウンセラーに近いよね」ということ。俳優がキャラクターに近づくための相談を受けつつ「じゃあ、ここまでできたので、次回はこんなことをしてみましょうか?」と処方せんを渡すという感じですよね。もちろん、本読みであったり、衣装合わせであったり、役者が役に近づいていく機会はいくつもあるんですけど、『るろ剣』に関してはまずアクション練習を通じて、役者それぞれがキャラクターにアプローチしていきます。――『るろうに剣心』の場合、原作の漫画があり、剣心であれば「飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)」という流派の剣術を使い、龍槌閃(りゅうついせん)、九頭龍閃(くずりゅうせん)などの必殺技が登場します。リアリティとの兼ね合いなども含めて、そうした必殺技の存在はどれくらい意識されてアクションを作っていったんでしょうか?意識しつつ、意識しなくなることもあったりします。ひと通りは試してみるんですよね。ただ漫画なので、実際にやってみると、ほとんどは“言葉負け”してしまうんですよね。――原作では文字で「飛天御剣流 龍槌閃」と情報が出てきます。技としては、大きく飛んで斬るという感じですよね。動き自体は「龍槌閃!」と言わなきゃ、立ち回りの中で普段から普通に使われてしまってる要素なので、そこは少し見せ方を変えるようにしました。龍槌閃であれば、必ず「POV(=Point of View)」――つまり、相手側の目線で撮るようにしました。画としては、剣心がこちら側(=カメラ)に向かって高いところから飛び降りて斬り伏せてくるイメージですね。そうすることで、映画を観るお客さんは、そのアングルも含めて「龍槌閃」として認識してくれるんですよね。子ども向けの番組で毎回、必殺技のシーンは同じ画が使い回されるのと同じです。そうやって“見せ方”で工夫していかないといけない部分は多かったですね。実際にアクションで素で再現できるのはこの「龍追閃(りゅうついせん)」と「龍巻閃(りゅうかんせん)」くらいじゃないですかね? あれは相手の攻撃をかわして打ち込む技なのでできますけど。「九頭龍閃」は大変でしたね(苦笑)。漫画では「一、二、三、四、五…」って漢字で出ますけど、そういう漫画やアニメからのアダプテーション(脚色)、落としどころを探るというのはひとつ、大きなテーマでした。漫画、アニメ、小説、映画…それぞれのメディアの特性によって、同じシーンでも描き方は当然、変わってくるわけです。漫画では「一、二、三、四、五、六、七、八、九」と描かれていますけど、もしかしたら漫画というメディアで伝えられる“動き”の限界があったのかもしれないし、それは原作者の和月伸宏先生が実写化したとしても、漫画とは違う表現になっているかもしれない。最終的には「九頭龍閃」は実直に九方向に打ち込むのをやってますが、実写ではそれが力を持つんですね。実写版『るろうに剣心』で大切にしたのは、原作に敬意を払うと同時に、原作のコマとコマの間に存在するであろう細かな動きをこちら側で補い、作っていくということでした。原作と実写が補完し合うのが、一番幸せな関係なんじゃないかと思いますね。原作を大切にしつつ、とはいえ原作に引っ張られ過ぎないで、きちんとフィジカルで見せる。そうすることで、原作を読んでいる人も「これは九頭龍閃かな?」とか感じてもらえるんじゃないかと。――『るろうに剣心』シリーズを見て、アクションに関わりたいと考える若い人たちも多いと思います。今後、日本の若い人材に期待することなどはありますか? 谷垣さん自身、今後、やってみたいことなどがあれば教えてください。アクションというのは、どこの国の人が見ても伝わるという強みがあります。もちろん、日本映画でもいろんな人材が出てきてくれたらいいなと思いますし、僕が出会ったような個性豊かなアクション監督――それぞれがカラーを持って、観客が「このアクション監督の映画なら観たい!」「このアクション監督なら信用できるから観よう」と思ってくれるような存在が育ってきたらいいなと思います。ただ、映画界全体の話で言うなら、“日本映画”という枠にとらわれずに、どこにでも行ってほしいなって思います。僕自身、ちょっとカッコつけて言うと「お金とカメラがあるので撮ってください」というところに身ひとつで行けたらいいなと思っています。実際、この10年、身ひとつでいろんなところでやってきて、そうするといろんなところにネットワークができるんですね。互いの交流が深い分、意外とスタント、アクションの世界なんて狭いんですよ。実際、今回の映画でやってたチームはいま、別の作品のためにベルリンに行ってるし、僕もこれから中国、バンクーバーでの撮影が控えてます。日本映画はもちろん大切ですけど、そういうボーダーにとらわれずに、どこにでも行ってできたらと思っています。【プロフィール】谷垣健治(たにがき けんじ)1970年生まれ。奈良県出身。倉田アクションクラブでアクションを学び、1993年に香港に渡る。ドニー・イェンら現地のアクション監督の下で学び、アクション監督となる。「香港動作特技演員公會Hong Kong Stuntman Association」に所属する唯一の日本人。主な参加作品に『るろうに剣心』シリーズ、『モンスター・ハント王の末裔』、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021年7月全米公開)など。2020年には監督作『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』が公開された。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年05月21日取材現場にて、無造作に配置された椅子を眺め、松坂桃李は「おっ、椅子がたくさんですね~」と微笑んだ。そっと腰をかけた後、カメラマンから「ひとりの時間を感じてください」とリクエストされる。すると松坂さんは了承したような笑みを向けた後、すっと表情を抜いた。表現者の顔になるスイッチの切り替えはごく自然で、ひとりだからこそのけだるいムードが瞬時にあたりに漂った。やがて、どことなく色気も宿した松坂さんが、ファインダー越しに切り取られていく。ごくわずかな時間でも仄見える、「相手の望むことに応えたい」という思いは、スチール撮影であろうと、インタビュー取材であろうと、変わらない。だからこそ、作品に出演する際、その姿勢はより顕著になり、全身全霊を懸けた演技が、私たちの心を感動と衝撃でいつも揺さぶり離さないのだろう。松坂桃李が再会したい俳優は、役所広司、樹木希林、菅田将暉…「挙げるとキリがない!」本人が望むか、望まないかは別として、松坂さんは今や賞レース常連の俳優だ。20代で「がむしゃらに」積み重ねた作品群は、実となり、32歳の自身の背中を押すものとなった。第44回日本アカデミー賞授賞式では新人俳優賞のプレゼンターを務め、「ひとつひとつを積み重ねていくことで、再会も増えてくる仕事。現場での再会を望みます」と、実感がにじむメッセージを伝えていた。そんな松坂さんこそ、今、作品で再会したい人は誰なのか、聞いてみた。「いやあ、いっっっぱいいます!まず、役所(広司)さん。あと、(樹木)希林さんとは、もう1回ご一緒したかったですね。年齢は違いますけど、ほぼ同じ時期に事務所に入った菅田(将暉)とも、『キセキーあの日のソビトー』以来、映画をやってないからまたやりたいですし。同世代で言えば、岡田将生、濱田岳ともやりたいですし、本当にいっぱいいますねえ。もちろん、『いのちの停車場』で関わった俳優部の皆さん、吉永小百合さんをはじめ、またご一緒したいです」ここまで一気にしゃべると、「挙げるとキリがないですよね(笑)」と頭をかく。中でも、最初に名前が挙がった役所さんは、『孤狼の血』におけるバディが記憶に新しい。劇中の継承よろしく、プライベートでもつながっているのかと思いきや、「実は連絡先は知らないんですよ」と松坂さん。「『孤狼の血 LEVEL2』の方言指導の沖原一生さんが、役所さんのお付きをやられている方なので。沖原さんが役所さんとやりとりをしているので、経由で写真を撮って送ったりしまして。“楽しみにしとるけぇ!!”みたいな感じのやりとりは、ありましたね」と、何とも幸せそうに交流を伝えてくれた。充実のキャリアのあとは、こうした何気ない会話の端々からも、うかがえるものだ。30代からのキャリアプラン「役や作品に対しての深掘り、もっとしっかりしてみたい」かつて自身がそうだったように、若い世代の波や勢いといったものを、松坂さんも感じているのだろうか?「いや~、もう、めちゃめちゃ感じます。それこそ、新人賞を受賞された皆さんも、本当に魅力的だし、エネルギッシュだし、透明感もあれば鮮度もあるし、素敵だなあって」と目を細める。「だからこそ、自分も本当にそうした素敵な方々に負けないように…というか、同じ作品で出会ったときに、しっかりとその作品を一緒に作られるだけの実力を、ちゃんと自分も備えていかないといけないと思いましたね」。奢る姿勢が0なのも、まったくもって松坂さんらしい。とりわけ20代後半はチャレンジングな役と作品を選び取っていた松坂さんだが、30代に入った今は、どのような備えをしているのか、していくつもりなのか。未来のプランが気になるところだ。「自分の中で、役や作品に対しての深掘りを、もっとしっかりとして作品に入っていくのを少しずつ増やしていきたいと思っています。だから、時間がかかったりするので、たぶん…本数としては少なくしていくと思うんですね。でも、それは30代のうちにやっておくべきことだと思って。ひとつ、ひとつの作品に対してじっくりと向き合っていくのが、30代の10年の過ごし方ですかね」。これまでも正面から作品に向き合ってきた松坂さんだが、時間をかければ、何かが変わる?もっと、もっと見えるものがある?「どうなんですかねぇ。時間をかけたからいいお芝居につながるかと言うと、100%そうでないかもしれませんけど、試す時期でもあるというか。やってみたら、また違う何かが見えてくるかもしれないですし。向き合う期間があればあるほど、どういう風に自分はこの役に対してアプローチを仕掛けるかとか、物理的な時間を費やしてみたら、選択肢が増えるのかなと思っています」。「何が一番自分にとっての核なのかを見つめ直す瞬間が、大事なんだなと思います」松坂さんの最新出演映画は、吉永さん主演のヒューマン医療巨編『いのちの停車場』。在宅医療を行う「まほろば診療所」に勤める、元大学病院の救命救急医・白石咲和子(吉永さん)を追って、同じ診療所で運転手として働き始める野呂聖二を演じた。「野呂は、咲和子先生がいた病院で迷惑をかけてしまったので、どこかでやっぱり恩を返したい思いもあり、背中を追いかけていくんです。咲和子先生を通して在宅医療を見て、物事に向き合っていきたいと変わっていく…そのグラデーションを丁寧に積み重ねていければいいなぁ、と思いながらやっていました」。大学病院の状況とは異なる在宅医療の現場に、四苦八苦しながらもくらいついていき、患者との心の距離を縮めていく。責任感が芽生えていくその姿は、野呂の成長物語にも映る。中でも、トレーラーでも流れる、末期の膵臓がんを患う元高級官僚の宮嶋一義(柳葉敏郎)とのシーンは印象的だ。松坂さん自身も、感慨深いものがあったと話す。「柳葉さんが僕の手を握るんですけど、急に強く握ったり、弱く握ったり、だんだんだんだん力強く握ったりして…言葉ではないやりとりが、なされていました。そこから、いろいろなプレゼントをもらえた気がしたんです。だから、自分が想像していた以上の、野呂の中で何か感情が沸き上がったのかもしれません。本当に、お芝居ってひとりじゃできないことがたくさんあるし、想像“外”のところで成り立っていく面白さがあるといいますか。対人(たい・ひと)とやることによって、心のやりとりとか、言葉だけじゃないものが人をつなげていく感じが、あのシーンでは起こった気がしましたね」。このように、本作では様々な患者の人生が描かれており、「いのちのしまい方」について思いを馳せるきっかけにもなる。イコール、どうやって生きていきたいか、自身の生き方を今一度考えたくなる映画でもある。本作に携わったことで、松坂さん自身がどのような生き方をしていきたいか、感じたりもしただろうか?「日々当たり前の日常、小さな幸せの積み重ねが、いのちをしまうときに、どれだけたくさんしまえるかどうかを、改めて自分の中で向き合うきっかけになった作品でした。自分が今までしていた当たり前の小さな日常が、やっぱり幸せなことだってちゃんと思える作品ですね。僕にとっての小さな幸せは、本当に、毎日朝を迎えることができる、ごはんを作って食べることができる、眠ることができる、ドライブすることができる、とかですかね(笑)」。健やかな表情で、松坂さんは続けた。「本当に、人間は、ほかの生き物と違っていろいろな感情が芽生えるし、考えることができるし、立ち止まることも、進むこともできる。生きやすいように頑張ってみたものの、結果、生きづらい世の中にしているのも人間だったりしますしね。だから、何が一番自分にとっての核なのかを見つめ直す瞬間が、大事なんだなと思いますね」。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:いのちの停車場 2021年5月21日より全国にて公開©2021「いのちの停車場」製作委員会
2021年05月17日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! シリーズ完結への思い、いまだから言える“あの”話、主演の佐藤健に言いたいor聞きたいことなどについて語ってもらい、さらにアンケートで寄せられた読者からの質問にも回答してもらう。第4回は、本作からの出演となる、剣心の前に立ちはだかる最強の敵・雪代縁を演じた新田真剣佑!今作のアクションは「ひとつひとつが挑戦的」――今回、雪代縁を演じることが決まった時の気持ちを教えてください。最初にお話をいただいたのは撮影の2年前でした。当時は、本当に続編があるのか半信半疑でしたが、2年後、本当に話が進み始めたので「いよいよか」と思い、身が引き締まる思いでした。――演じる上で、縁の内面に関して、どういう部分を大切に演じられましたか? 特に大切なセリフ、やり取りなどがあれば教えてください。縁はもともとすごく心優しく、お姉さん思いで正義感の強い青年でした。角度を変えて見てみると、剣心と縁、どちらが悪なのか、決めつけることができないです。とにかく自分の信念を貫き「これが正義だ」と信じて生きてきた男を演じようと思いました。――佐藤健さん演じる剣心と剣を合わせてみて、どんなことを感じましたか? これまでもいろんな作品でアクションは披露されていますが、今回、アクション監督を務めた谷垣健治さんによるアクション演出はいかがでしたか?とにかくアクションシーンは楽しかったです。日本映画の最高レベルのアクションができて幸せでした。撮影中、谷垣さんのアイディアにはいつも驚かされました。迫力のある数々の動き、そしてひとつひとつのかっこよさ。できなかったことはなかったですが、ひとつひとつが挑戦的で、いつもワクワクしながら演じていました。座長・佐藤健に「続編やりませんか?」――現場で共演者のみなさんとどんな話をされたんでしょうか? 現場でのエピソードや思い出深い出来事などを教えてください。アクションシーンを撮影中、元号が平成から令和に変わる瞬間を、みなさんと一緒に見ていたのを覚えています。そしてその後、アクションシーンを撮影しているうちに疲労が溜まり、みなさんがだんだんと無口になっていったという思い出があります。――「座長・佐藤健さんに今だから言えること」を教えてください。続編やりませんか?――読者から寄せられた質問です。縁は、剣心の住む平和な世界を破壊しようとしますが、いま真剣佑さんが良い意味で壊してみたいなと思うものはありますか?毛根(笑) 「AMサロン」というサロンを始めたので通って美肌になりたいです。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年05月14日結婚3年目に夫婦の危機!?
たかり屋義母をどうにかして!
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