公開延期から1年を経て、現在絶賛上映中の劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』が、アンアンに再登場。世代だけでなく、今や国境を超えて愛される『名探偵コナン』の世界。主要キャラを解説しつつ、『緋色の弾丸』の見どころもチェック。POINT1主人公であるコナンは小学生。でも本当の姿は、17歳の高校生探偵!主人公の江戸川コナンの正体は、頭脳明晰な高校生探偵。〈黒ずくめの組織〉の取引を目撃したことで、口封じのために毒薬〈APTX4869〉を飲まされてしまい、その結果、今の姿&名前に。そんなコナンが元の正体を隠しながら、さまざまな難事件を解決していく物語。原作のマンガは’94年にスタート。全世界累計発行は2億3000万冊以上!主人公・コナン子供らしく振る舞うときと、大人びた態度をとるとき。そのギャップがキュート。現在は蘭の父・毛利小五郎が営む探偵事務所に居候中。ちゃんと小学校にも通ってます!工藤新一世界的推理作家の父、元女優の母の間に生まれたイケメン高校生。サッカーは全国レベル、推理力は大人顔負け。コナンになって以降、基本的には姿は現さず、連絡は声のみ。毛利 蘭新一の幼馴染みであり、めでたく彼女になった同級生の蘭。空手が得意で、関東大会で優勝経験も。なかなか姿を現さず、電話でしか連絡をくれない新一を一途に想い続ける。POINT2まるでジェットコースター!ハラハラのスピード感やアクションに鳥肌。劇場版の大きな魅力といえば派手なアクション!ハリウッド映画をも凌ぐといわれる迫力で、これまでもたくさんの爆破やバトルが描かれてきました。今回ももちろん、そこは大いに期待してください!アニメだからこその驚きのアクションは、さすがコナンシリーズ。息を呑む、あるいは口があんぐりと開く瞬間が何度も訪れます。POINT3大人も子供もみな考察。緊張が走る本格サイエンス・サスペンス。30分のテレビアニメも、劇場版も、「これ、本当に子供向け?!」と疑いたくなるほど、奥深いミステリーとおもしろい謎解きを提供してくれるコナンシリーズ。複雑に構築され、あちこちに伏線が隠されたストーリーは、推理小説好きの大人も舌を巻くほど。今回はそこに科学知識も加わり、ますます難解に!一度で理解できるかな…?POINT4本物と創造のハイブリッド芸術。ご当地再現度の高さとオリジナルの共演にも注目!劇場版ごとに、舞台になる街のご当地感も見どころの一つ。実在の建物や街並みの緻密な再現度には、毎作驚かされます。前作はシンガポールの描写が話題になりました。実在の街並みと、物語オリジナルの建物がミックスされた世界を、コナンなどキャラクターが疾走!それだけでワクワク。今回は東京と名古屋を中心に物語が展開。POINT5孤高のブレーン、赤井秀一とその仮の姿・沖矢昴が登場。コナンの世界では1位2位を争う色男の赤井秀一。現FBI捜査官で狙撃の名手。〈黒ずくめの組織〉への潜入捜査も経験しており、その際のコードネームは〈ライ〉。ミステリアスさでも群を抜いており、そこが女性ファンを引きつける秘密かも。特技はブルース・リーでおなじみの截拳道(ジークンドー)、好物はタバコとバーボン。大人!!『名探偵コナン 緋色の弾丸』4年に一度の祭典〈WSG〉が開かれる東京。開会式にはリニアの開通も。スポンサーを集めたパーティで企業のトップが相次いで拉致される。コナンの推理により、15年前米国で起きた拉致事件との関連性が浮かび上がり…。原作/青山剛昌監督/永岡智佳脚本/櫻井武晴音楽/大野克夫主題歌/「永遠の不在証明」東京事変©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会※『anan』2021年5月5日-12日合併号より。作画監督・須藤昌朋レイアウト・山本泰一郎原画・かわむらあきお仕上げ・藤原優実背景・福島孝喜(石垣プロダクション)(by anan編集部)
2021年04月29日ステイホームが呼び掛けられている今年のGW。いつもより長めのおうち時間に、ちょっぴり刺激的なウーマンエキサイトのコミック記事をイッキ読みしてみませんか?今回は、これまでに掲載した「夫婦問題」や「ママ友問題」をテーマにした完結済みコミック作品の中から、編集部おすすめの作品を一挙ご紹介!ぜひ楽しんでください!■夫へのイライラをスカッと退治してくれる3作品・やってもらうのが当たり前夫 記事はここから ・酒癖の悪い夫 記事はここから ・料理が苦手なママに小言を言う夫 記事はここから ■ママ友との付き合い方を考えさせられる4作品・おねだりしてくるママ友への制裁 記事はここから ・SNSでキラキラした投稿をするママ友との付き合い方 記事はここから ・「よそ者」を排除し続けるママ友との戦い 記事はここから ・ママ友がモラハラ被害を受けてる? 記事はここから ■こうやって乗り越えた、夫婦間の問題3作品・夫との温度差が埋まらず産後クライシスに 記事はここから ・信じてた夫がママ友と不倫!? 記事はここから ・結婚から7年、夫から告げられた離婚の意思 記事はここから 今回ご紹介した作品は、実際に起こった実話をもとにしたフィクションです。同じ境遇の方、似たような経験をした方の心に少しでも寄り添えるよう気持ちのこもった作品ばかりです。ゴールデンウィークのおうち時間にサクッと読めるので、ぜひ周りに方にもおすすめして頂けると嬉しいです。
2021年04月28日熊倉献さんの『春と盆暗』は、日常と不思議な現象の境界が薄れていくような世界観で、初コミックながら多くのマンガ好きを唸らせた。待望の新作『ブランクスペース』は、空白(ブランク)をめぐる物語だ。青春の波に乗れない少女たちが、空白から生み出すもの。「女の子ふたりの話は、以前から短編としていくつかアイデアがあって、それをまとめて長編にできないかなと思っていました」身も蓋もない言い方だが、熊倉さんのマンガの特徴は言葉で表現しにくい部分というか、説明しても理解しづらいところに宿っている。本人もそのことを自覚しているようで、「説明が難しいから」と本作の構想を8ページほどの予告編としてまとめて、担当編集者と共有したそう。「映画の予告編みたいな感じで、クライマックスも一応わかるものです。担当さんと打ち合わせた内容とは全然違ってしまったのですが(笑)」狛江ショーコは帰り道で偶然会った同級生の片桐スイが、不思議な力を持っていることを知る。左のコマがそのシーンで、スイは念じたモノを現実に生み出すことができる。ただしその物体は、目に見えない。「かわいい女の子を描くのが好きなんです。ショーコは明るいけれどトンチンカンなところがあって、『あの子ちょっと変だよね』みたいに見られている子。スイは優等生だけど学校があまり好きではなく、屈折した子というイメージです」そもそも本作を描くにあたってオーダーされたのは、青春モノ。皮肉なことに熊倉さんは、青春モノを読むのも描くのも苦手で避けてきた。「爽やかな青春っていうのがピンとこなくて…。自分の学生時代も楽しいことがあるにはあったけど、つらいことのほうが多かった気がするので。似たような人は一定数いるはずなので、そういう人でも楽しめる青春モノを描こうと思いました」ふたりの距離が縮まっていく前半に対して、後半は少々不穏な空気が漂ってくる。陰湿ないじめに遭うスイは次第に破壊衝動を抱くようになり、マイペースなショーコはクラスが分かれてしまったこともあり、彼女の変化にすぐに気づくことができない。そして読者も、独特な雰囲気をふわふわと楽しんでいたはずが、1巻を読み終える頃には、予想していなかった場所にいることに。「面白い絵が自分でも見たいんです。描きやすいけど退屈なものより、絶対に大変だとわかっていても、描いていて楽しい印象的な絵にしたい」想像力を掻き立てられる“空白”は、この先、何を生み出すのか。1巻にして早くも、名作の予感が!『ブランクスペース』 スイの不思議な能力を偶然知ったショーコ。空白からの無邪気なモノづくりは、いじめを機に暴力的な方向へ。「コミプレ・ふらっとヒーローズ」にて配信。ヒーローズ715円©熊倉献/ヒーローズくまくら・こんマンガ家。アフタヌーン四季賞「2012年夏のコンテスト」で佳作受賞。’14年デビュー。『春と盆暗』『生花甘いかしょっぱいか』など。※『anan』2021年4月21日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2021年04月19日シャネル(CHANEL)と、人気コミック『約束のネバーランド』を手がけた白井カイウ、出水ぽすかがコラボレーション。シャネルにインスパイアされたコミック『miroirs(ミロワール)』が2021年4月30日(金)に発売され、連動した展覧会を銀座のシャネル・ネクサス・ホールにて2021年4月28日(水)から6月6日(日)まで開催する。尚、展覧会は「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」に巡回予定だ。“ミロワール=鏡”がテーマのマンガ&展覧会シャネルと、『約束のネバーランド』の原作者・白井カイウ、作画家・出水ぽすかによる新プロジェクトが始動する。テーマは“鏡”を意味する「ミロワール」。パリ・カンボン通りにあるガブリエル シャネルのアパルトマンの、鏡張りの螺旋階段や、ガブリエル シャネル自身が語ったとされる「鏡は厳しく私の厳しさを映し出す それは鏡と私の闘い 私という人間をあらわにする」という言葉から着想を得ている。白井カイウがガブリエル シャネルについて調べていく中で感じ取ったガブリエル シャネルの多面性を、アパルトマンに連なる鏡に見立てたという。ガブリエル シャネルの人生や哲学から着想のオリジナルストーリーシャネルとその創業者、ガブリエル・シャネルの人生と哲学から着想を得たコミック『miroirs』では、現代の東京を舞台にしたオリジナルストーリーを展開。ガブリエル シャネルのユニークなフィロソフィーや強いパッションを体現する3人のキャラクターを中心にしたエピソードが描かれる。「世界を塗り替えるココ」をテーマにしたメインビジュアルでは、新しいビジョンを提示し、女性たちのスタイルを新たに塗り替えてきたガブリエル シャネルと鏡面のようなイメージを表現。リトル ブラック ドレスを着た女性の足元には、油彩の道具を思わせるフレグランスボトルが無数に置かれている。シャネル×マンガの出会いを追体験できる展覧会そして、シャネル・ネクサス・ホールで開催される展覧会「MIROIRS – Manga meets CHANEL / Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか」ではマンガ作品『miroirs』をもとに、ストーリーに込められたメッセージやシャネルの貴重な資料を立体的に表現。日本ならではの文化として認知されている「マンガ/MANGA」を、シャネル・ネクサス・ホール独自の視点で展覧会として構築する。『miroirs』の3つの物語を表現、アイコニックなアイテムにまつわる資料も会場に足を踏み入れると、東京のナイトスケープの映像と、マンガ『miroirs』に登場する3人の主人公を描いたイラストのインスタレーションを展開する「鏡のコリドー」がお出迎え。その先に、マンガ『miroirs』の3つの章に合わせて構成される3つの空間が続く。それぞれの空間には、マンガ作品とともに、フレグランス「シャネル N°5」、リップスティック、リトル ブラック ドレスといったアイコニックなアイテムにまつわる資料が登場。白井カイウ&出水ぽすかのマンガとシャネルの時代を超えた出会いを追体験することができる。第1章 Sorcières –魔女–本や空想の世界が大好きな少女の物語が描かれる第1章「Sorcières –魔女–」を表現したスペースでは、見えないものに対して神秘的な探求を行っていたガブリエル・シャネルを彷彿させる幻想的な空間を演出。フランク ホーヴァット、カール ラガーフェルドらによる伝説的な鏡張りの螺旋階段の写真や、風刺画家セムが「シャネル N°5」の誕生を記念して制作したリトグラフなどが展示される。第2章 Menteuse –嘘つき–第2章「Menteuse –嘘つき–」では、「シャネル N°5」にフォーカス。“女性そのものを感じさせる、女性のための香り”を生み出したいというガブリエル・シャネルの思いから生み出された「シャネル N°5」を、『miroirs』の原作を担当した白井カイウは、自由気ままに生きる主人公の謎めいた人物像や深層心理の象徴、もしくはアイデンティティを形作る香りとして表現したという。第2章の部屋では、出水ぽすかが描き出したイラストとともに、「シャネル N°5」にまつわる貴重な資料や、ジャン ドゥ ゲヌロンによるガブリエル シャネルの肖像画などを展示する。第3章 Corneille noir –カラス–出水ぽすかが構想段階で描いた“少年とリップスティック”のイラストから着想を得て生み出されたのが、ステレオタイプな価値観のなかで息苦しさを抱える少年の物語を描いた第3章「Corneille noir –カラス–」。第3章の部屋では、自らの道を切り開こうとする少年たちのイラストとともに、シャネルの反骨精神やパラドックスを表現した空間が広がる。1950年代当時のリップスティックやその広告ビジュアル、ガブリエル シャネルの手書きメッセージが添えられたジャン・モラルによるガブリエル・シャネルの写真などが勢揃いしている。尚、会期中はシャネル銀座ブティックのマロニエ通り側ショーウィンドウに展覧会のスペシャル展示が登場。『MIROIRS』の世界観が銀座の街を彩る。【詳細】展覧会「MIROIRS – Manga meets CHANEL / Collaboration with 白井カイウ&出水ぽすか」会期:2021年4月28日(水)~6月6日(日)〈事前予約制〉会場:シャネル・ネクサス・ホール住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F開館時間:11:00~19:30入場無料・要予約 ※詳細はウェブサイトに記載。URL: ※4月30日(金)~、会期後半となる5月17日(月)~6月6日(日)分のオンライン予約受付をスタート。※状況により開催日時等が変更となる場合あり。来館前に、ウェブサイトにて最新情報の確認を推奨。※会期終了後、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」に巡回予定。■書誌情報『miroirs(ミロワール)』発売日:2021年4月30日(金)レーベル:ジャンプコミックス定価:977円(税込)原作:白井カイウ作画:出水ぽすかISBN:978-4-08-882695-0発行:株式会社集英社【問い合わせ先】シャネル・ネクサス・ホール事務局TEL:03-3779-4001
2021年04月06日現代を生きる等身大の女性たちの悲喜こもごもをリアルに描いてきた東村アキコさん。『私のことを憶えていますか』で選んだテーマは、初恋だ。誰しもが甘酸っぱく、あるいはほろ苦く思い出すその記憶が、いまの自分の人生とつながったら…。主人公の遥はそんな偶然に直面する。遥は、ゴシップサイト編集部のライターとして仕事三昧な日々を送っている30歳のシングル女性。ある日、人気俳優SORAが初恋相手の少年〈こうちゃん〉に似ていることに気づくのだが……。「作中の設定は、ほとんど私の実体験を重ねています。たとえば、私はアイドルグループ『2PM』のチャンソンの大ファンなんですが、K‐POP好きな友人たちからも『あなたが好きだって言うアイドルはいつも同じ系統の顔をしているよね。パフォーマンスとか関係ないよね』と指摘されてすごく納得しました。私自身の初恋も小学6年生で、相手はよく遊んでいた3歳年下の男の子。記憶では、『ターミネーター2』に出ていた少年時代のエドワード・ファーロングみたいでした!臆して好きだと言い出せなかったことや、バレてはいけないとひた隠しにしていたことも同じ。『初恋の相手こそがその人の恋愛のベースになる』というのが私の恋愛持論のひとつで、実際、周囲に聞いてみても共感してくれる人が結構いたんです。ならば、そうした気持ちを織り込んで描いてみようと思いました」〈こうちゃん〉は家庭の事情で引っ越してしまい、その後の消息がわからない。遥にすれば、初恋相手が芸能人になって目の前に現れたのかもしれないわけだ。SORAは〈こうちゃん〉なのか否か。もしそうだとしても、自分はどうしようというのか。遥の気持ちは揺れる。「イケメン俳優さんたちの小中学生時代には、きっと彼らに恋していた女の子たちがたくさんいたはずで、自分の初恋相手がいま芸能界にいる女性って1万人くらいはいそうだなと(笑)。わりと現実味のあるストーリーではないかと思うんです」一方、遥には猫作という腐れ縁の幼なじみがいる。恋愛の機微に乏しい遥は、猫作が密かに遥のことを思っていることにも気づいていない。この奇妙な三角関係の行方も物語の牽引力。なにせ、猫作はイケメンでワイナリーの跡取りという高スペック男子なのだ。「猫作がマンガ用語でいうところの『スパダリ』、つまりパーフェクトな男の人ではあるんですが、まだ完璧なスパダリになるためのエピソードが見えていなくて思案中です。リアルな恋愛で考えれば、SORAは芸能人なので、遥とくっつくのはなかなか難しい。猫作とハッピーになるという展開も可能性としてはあるけれど、実際、マンガは描いてみないとわからない部分が多くて。寡黙で魅力的なハンサムと、憎まれ口を叩く気心の知れたハンサムに挟まれて悩む感じが、オーソドックスな少女マンガのようでもあり、懐かしくないですか?」ちなみに、本作は日本と韓国で同時連載。マンガ界初の試みも話題だ。「なので、たとえば町の風景や看板の文字などは日本版・韓国版で変えているんですね。身近な物語として感じてもらいたいし、と同時に、どこの国の人が読んでも違和感なく読んでもらいたいので、細部まで工夫しています」3巻では、いよいよSORAの正体を遥が知ることになるのか…。首を長くして続刊を待ちたい!『私のことを憶えていますか』3仕事でSORAにインタビューする機会がめぐってきた遥。しかし、問い詰めることもできず、もやもやした気持ちは高まるばかり…。電子マンガサービス「ピッコマ」にて連載中。4/7発売。文藝春秋1045円©2021,Higashimura Akiko,neostory,All rights reserved.ひがしむら・あきこ1975年、宮崎県生まれ。’99年『ぶ~けデラックス』増刊にてデビュー。『海月姫』で講談社漫画賞少女部門を、『かくかくしかじか』でマンガ大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。「東京タラレバ娘」シリーズ、『雪花の虎』など著書多数。衣装協力(ジャケット)・LOVELESS(LOVELESS青山 TEL:03・3401・2301)※『anan』2021年4月7日号より。写真・土佐麻理子(東村さん)スタイリスト・藤原わこヘア&メイク・後藤るみインタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年04月05日自分には卑屈なところなど一切ないと断言できる人なんて、はたしているだろうか。主人公の斎藤恭平は、ネガティブで存在感が薄いことを自覚している、いわゆる“陰キャ”の大学生。三浦風さんの初連載となる『スポットライト』は、デビュー作「ないものねだり」がプロトタイプとなっている。自分がかわいいのはみんな一緒!?まぶしくて辛辣な大学生群像劇。「その主人公も陰キャっぽかったのですが、もっと盛ってみようということになり、結果、かわいそうな感じになってしまいました(笑)」自分と他人との間の防護壁のように、首からいつも一眼カメラをぶら下げている斎藤は、大学に入学して早々、同じクラスのさばさばした美女・小川あやめに一目惚れする。といっても話しかける勇気はなく、彼女のことを密かに撮影……つまり盗撮して、笑顔を愛でる日々なのだが、あるときリア充グループから花見の記録係をしてほしいと頼まれる。しかし花見というのは口実で、真の目的は“一軍男子”があやめに告白をする決定的シーンの撮影だった。「陰キャの側から見ると陽キャって敵なんですけど、勝手に敵対心を抱いているだけで、実際はそれほど嫌な人でもなかったりしますよね。反対に陽キャといわれる人も、実は陰キャっぽいところがあると思うので、その辺りを意識して描いてます」斎藤を無邪気に振り回すのが、あやめと予備校が一緒だった逸崎元貴。ミスコン開催の夢を以前から持っていた元貴は、学園祭の実行委員として奔走。弱みを握ったのをいいことに、斎藤をミスコンのカメラマンに任命する。戦略的で自己評価の高いミスコン候補者の圧に斎藤は疲弊するものの、自分好きという根っこの部分は同じだったりして、陰キャ、陽キャでは単純に線引きできない人物像が浮かび上がってくる。さらに斎藤が表面的にしか評価していなかったあやめの素顔が、距離が近づくにつれて見えてくるのも生々しい。「どのキャラクターも自分が想像できる範囲内だと面白くはならなくて。考えすぎず、想像を超えていく塩梅を探りながら描いています。それってどうやるんだよ!?って感じですけど(笑)。とりあえず今の斎藤くんは友だちになりたくないタイプなので、なってもいいかなと思えるくらいにはちゃんとしてあげたいです」友だちになれるかどうかはさておき、自分のなかにもいる“ヘタレ斎藤”をなんとかしてやりたい!と前のめりになってしまう作品だ。『スポットライト』陰キャの大学生・斎藤恭平が恋をしたのは、周りも一目置く美女・小川あやめ。ミスコンをモチーフにもつれ合う人間模様を描く。第2巻が4月23日に発売予定。講談社660円みうら・かぜマンガ家。2019年「ないものねだり」(『コミックDAYS』に無料掲載中)で「アフタヌーン四季賞2019 春のコンテスト」四季大賞受賞。※『anan』2021年3月31日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2021年03月25日青春の甘酸っぱさを演出する、必須アイテムといえる交換日記。本作『交換漫画日記』はタイトルが示すように、同じ交換日記でもマンガを日々交換するのだが、著者・町田とし子さんの実体験に基づいた思いが込められている。あのときの友情はきっと永遠。ノートに綴った2人だけの世界。「女の子の日常マンガを描こうと思い、自分が高校生だった頃を振り返ってみたのですが、当時楽しみにしていたことといえば、マンガを好きな人たちが集まって交換マンガを描いていたことなんですよね」町田さんは4人でやっていたのに対して、本作で交換マンガをするのはアイコとユーカの2人。マンガを描くのが趣味という点では共通しているものの、やや閉鎖的な性格のアイコは少年マンガのようなバトルものが好き。一方、面白いことにはすぐに飛びつくユーカは少女マンガ的なラブストーリーがお好み。ゆえに共作マンガも、ラブシーンが始まるかと思いきや血がほとばしったりして、かなりちぐはぐな印象。「私たちの交換マンガもそうでしたが、描きたいものも、絵のうまさもそれぞれ違って個性が溢れていたんですよね。ここでは日々起こったことが2人の描くマンガに反映されて、現実と作品の世界がリンクしていく感じも意識しました」そんな日記を大切にひっそりと育んでいたのだが、さまざまな出来事に翻弄されて、マンガに対する熱量や関係性も少しずつ変化していく。「交換マンガをするくらいなので、一緒にマンガ家になろうっていう意識も出てきちゃうんですけど、楽しいことはほかにもいっぱいあるし、やりたいことはどんどん変わっていくものですよね。それが原因でケンカをしたり、疎遠になったりするかもしれないけれど、交換マンガをできた時代は永遠の瞬間であり友情なんだろうなって。ずっと一緒にいたい気持ちも大事だし、離れていってしまう友だちの気持ちも尊重してあげたいと思いながら描きました」記憶を掘り起こしながら、対照的な2人のキャラクターに寄り添い、感情を乗せていった町田さん。親友に置き去りにされるような焦りを感じたり、なぜか不機嫌になっている相手に戸惑ったり、器用に振る舞えず自己嫌悪に陥ったり……。友だちと過ごす時間が愛おしいからこそ、感じていた切なさが鮮やかに蘇る。「閉ざされた世界でキャッキャウフフするだけのきれいごとにはしたくなかったんです。だけど大人になるとなかなか築けない、あの時期特有の仲のよさだったとは思います。私もこの作品を描けたことで、いろんな思いが消化できた気がします」『交換漫画日記』1放課後、人知れずノートを交換していたアイコとユーカ。クラスの大人っぽい大沢さんが、秘密のやり取りに気がついて……。第2巻(完結)が4月8日に発売予定。講談社680円(C)町田とし子/講談社まちだ・としこマンガ家。長崎県出身。2008年「兄は珍獣」でデビュー。代表作は『おくることば』(全3巻)、『エンゼルゲーム』(シリーズ全4巻)※『anan』2021年3月24日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2021年03月22日野球部の練習を眺めていたオニくん。部を辞めたばかりのみのるのあとをついてきて、グラビアモデルのお母さんと3人で暮らすことに。ながしまひろみさんの『鬼の子』は、そんなユニークな設定で始まる。勇気を持って踏み出す大切さを教えてくれる、オニくんの物語。「節分にちなんで“鬼の子が訪ねてきて鍋を囲む”というイラストをSNSに上げたら、わりと反響があって。そこから、もし『桃太郎』のような昔話の中の鬼に子どもがいたら…とキャラクターから連想しました。前作で描いた主人公が小学生の女の子だったので、その子の友だちみたいなイメージがまず浮かびました」鬼の子であるオニくんは、最初、異端児扱いされる。自分だけにツノがあるのもコンプレックス。小学校でも浮いてしまう。「私自身も、社会でうまく折り合えている気がしないので、鬼の子どもならなお大変だろうなと」だが、〈ひとりじゃできないこと、ぼく(略)やりたいです〉と、野球を介して壁を壊し、仲間になっていく。「野球をさせる、試合はしようくらいは決めていたのですが、展開や結末など深く考えずに始めてしまい、『こうなったら面白いかもしれない』という思いつきの連続でした」描く上で大切にしたのは、そのときどきの感情をどう描くかだという。特に、登場人物の多くが言葉をめぐって抱えている「葛藤」を、巧みに掬い上げている。「どうしても言えなかった言葉があったり、言いたかったのとは逆の言葉を投げつけてしまったり。そういう経験って、誰もがあるんじゃないかなと思うんですよね」本作には、みのるの家族をめぐるサイドストーリーがある。みのるの父親は有名な元野球選手。妻子を置いて出奔していて、そのことがみのるやお母さん、いまや家族の一員でもあるオニくんをもモヤモヤさせている。そんな亀裂を変えるきっかけをくれるのも、オニくんだ。野球や仲間や家族を通して、子どもたちはもちろん、大人たちも成長していく。ひとコマひとコマに見惚れるほど繊細な画も、本作の大きな魅力。「鉛筆で描いたアウトラインをスキャンして、デジタルで着色。さらにアナログで水彩だけのレイヤーを足してテクスチャーをプラスし、デジタルで合成させています。ショートショートで描いていた前作では大丈夫だったんですけど、長いマンガでやってみたら、我ながらこんなに大変だったのか、と(笑)」愛らしいオニくんの優しさや勇気に否応なく励まされる、宝物のようなコミックだ。『鬼の子』「cakes」連載の書籍化。登場人物の目はほぼ「点」だけで描かれているのにそのときどきの喜びや悲しみがしっかり伝わるのもマジック。小学館各1500円なかじまひろみ1983年、北海道生まれ。マンガ家、イラストレーター。著書に『やさしく、つよく、おもしろく』(ほぼ日ブックス)、絵本『そらいろのてがみ』(岩崎書店)が。※『anan』2021年3月17日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年03月15日■長年のワンオペ育児に耐えかね夫婦で話し合った結果、早く帰ってきてくれるようになった夫。しかし…!!お風呂と寝かしつけをしてもらえるようになり7年間にわたる平日&土曜ワンオペからようやく解放された私。しかし!! 時を同じくして、夫は次々と災難に見舞われてしまったのです…。■生きがいを失った夫が見つけたもの、それは…!?石を砕くと痛みが増す可能性があったのですが、なんとか快方に向かい、一安心しています。まだまだ痛みが残ってはいるようですが、今ではすっかり、ライブ配信アプリ内でかなり頼りにされるポジションにいるんだとか。尿路結石にはなったものの、配信のおかげで全国にたくさんの知り合いができ、悪いことばかりではなかったようです。
2021年03月03日『地図にない場所』は、『町田くんの世界』で爆発的な人気を博した、安藤ゆきさんの最新刊。〈俺の人生、終わってるのかも……〉という、中学1年生・土屋悠人(ゆうと)のぼやきから、物語の幕は開く。兄は優等生で弟はイケメン。学校でも家庭でも居場所がないと感じている悠人の孤独を埋めてくれるのが、隣人のコハクさんこと宮本琥珀だ。世界的バレエダンサーだった琥珀だが、ケガにより引退と報道される。実は琥珀は母親とも死別したばかり。挫折を抱えているはずなのに、存外に明るい表情を見せる彼女に、悠人は最初とまどうが…。「自分にとって何が日常なのか、人はわりと認識できないもので、失って初めて気づくような部分があると思います。と同時に、失ったその状態が日常になっていくということもありますね。そのもろさや不思議さについて考えてみたかったんです」バレエ一筋できた琥珀は、いわゆる生活能力が皆無。そこで悠人は、倍も年上の彼女の部屋を訪ね、何くれとなく世話を焼く。琥珀の本心をつかみかねながらも、そんなひとときに悠人自身の寂しさも慰められる。「大人から見ると、悠人の悩みは絶望するほどではないと感じるかもしれませんが、中学生の閉じられた世界ではとても深刻な問題になります。そういった部分を繊細に描いていけたらいいですね。一方、琥珀は、天才ゆえに当たり前のことが何もできない人というところからキャラを肉付けしていきました。元天才は一種の使命を終えた人、という見方もできる。そんな天才を降りた人のその後を描きたいなと思ったんですね。琥珀がいつか当たり前の生活ができるようになればいいなと思います」ある日、琥珀は悠人に〈“地図にない場所”って知ってる?〉と問いかける。ふたりの住む地域の子どもたちの間で、かつて〈イズコ〉と呼ばれる地図に載っていない場所の都市伝説が流行ったのだ。「悠人と琥珀のキャラを作ってから、世代や性別を超えた特殊な共通認識があれば面白いなと考えました」かくて、ふたりは〈イズコ探し〉の小さな冒険を始める。まずは資料を求めて出向いた図書館で、悠人は幼なじみのすずと遭遇。バレエを習い、琥珀のファンでもあるすずが、悠人と琥珀の関係にさざ波を起こしそうで…。気になる2巻は、夏頃発売予定。『地図にない場所』1中間子の悠人が兄や弟、両親とどう関わっていくのか、家族関係が変化していくのも楽しみ。『ビッグコミックスペリオール』にて連載中。小学館591円©安藤ゆき/小学館あんどう・ゆきマンガ家。『町田くんの世界』(集英社)で第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第20回手塚治虫文化賞・新生賞を受賞。※『anan』2021年3月3日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年03月02日ストーリーの先が知りたいけれど、怖い、でも知りたい!!そんな緊張感あふれる心理系サスペンスマンガを7冊ご紹介。夜、ベッドの中で読むと、眠れなくなってしまうかも…。1、『秘密 ―トップ・シークレット― 新装版』(清水玲子/白泉社)舞台は近未来の科学警察研究所。死者の脳から記憶を映像化し、検証する〈MRI捜査〉を使い、未解決事件の真相に迫るというサスペンス。死者の脳から被害者や加害者の秘密を暴き出し、そこから心理や行動を読み解き、事件を解決へ導くのだが、“現実”ではないその映像の強烈さと影響力は、読者の心をも侵食する。全12巻¥640~©清水玲子/白泉社2、『SPY×FAMILY』(遠藤達哉/集英社)東西平和を脅かす敵に近づくために、結婚し子供を持てと命じられた、スパイの“黄昏”。孤児院からアーニャ(超能力者)を引き取り、市役所勤めのヨル(実は殺し屋!!)と疑似家族を築く。有能スパイ黄昏のプロファイリング能力はさすが!ホームコメディとしても読み応えがあり、ドキドキとワクワクが共存する!1~6巻各¥480©遠藤達哉/集英社3、『ミステリと言う勿れ』(田村由美/小学館)見た目はほんわり系なのに、冷静沈着、頭脳明晰、素晴らしい記憶力&観察眼の持ち主の大学生・久能整。なぜかよく事件に遭遇し、そのたびに、刑事や犯人、関係者と整は語るのだが、彼の言葉に人々はつい本心を吐露してしまい、それがきっかけで謎が解けていく。整の、無意識に相手の心を緩ませる力がスゴい。1~7巻¥429~©田村由美/小学館4、『予告犯』(筒井哲也/集英社)頭に新聞紙をかぶった男が犯罪予告をする動画が発見される。その後も犯罪予告を繰り返す彼らは、シンブンシと呼ばれるように。SNS上で炎上を起こした者たちを主なターゲットとする予告犯シンブンシと、警視庁サイバー犯罪対策課の刑事たちの攻防戦を描いた作品。ネットでの群集心理などを利用した心理戦に息を呑む。全3巻各¥600©筒井哲也/集英社5、『ヴェクサシオン ~連続猟奇殺人と心眼少女~』(湯川義弘/双葉社)河川敷で起きた猟奇殺人の捜査本部に、“ミスター猟奇”こと久留宮が招かれる。新人の緒方と久留宮は、視覚に障害がある、久留宮の妹・玲美の家へ。実は久留宮が解決したといわれていた事件は、すべて妹が解決してきた。聴覚や嗅覚、触覚を使い、相手の小さな変化から心理や行動を読み、推理する玲美に脱帽…。1~3巻各¥670©湯川義弘/双葉社(4巻以降は電子単行本で続刊予定)6、『憂国のモリアーティ』(原案:コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」シリーズ、構成:竹内良輔、漫画:三好輝/集英社)舞台は大英帝国全盛期のロンドン。貴族モリアーティ家に引き取られた養子の兄弟が、嫡男のアルバートとともに家を乗っ取り、国に根付く腐敗した階級制度を変えるべく、様々な“犯罪”を起こす。主人公のウィリアムが、敵の思いを先読みしながら、罠のように犯罪を仕掛けていく様子に読み応えが。1~13巻各¥480©竹内良輔・三好輝/集英社7、『MORTAL LIST』(小見川なまり/スクウェア・エニックス)警視庁捜査一課に転属してきた新人刑事・南郷千景。小学校時代のある経験をきっかけに、己の正義を執行するため、行動心理学を学んできた。犯人の心の闇に潜り、追い詰め、心理を読み解く千景の手腕は、強く、どこか悲しみも漂う。“蛇(くちなわ)”という二つ名で呼ばれる彼女が狂気をあぶり出し、事件解決へ導く。1~2巻各¥600©Naomi Omikawa/SQUARE ENIX※『anan』2021年2月24日号より。写真・中島慶子取材、文・河野友紀山縣みどり(by anan編集部)
2021年02月21日人気絵本作家のヨシタケシンスケさんがファン宣言をした、クリハラタカシさん。絵本作家としても、注目度急上昇中だ。タッチは癒し系、物語は非凡。一度読んだらクセになる無二の世界。2015年に出版されたクリハラさんの『冬のUFO・夏の怪獣』が、このたび新版になって登場。表題作のひとつ「冬のUFO」は、親子3人で宇宙博物館に出かける話だ。収蔵されているレトロさが漂う宇宙船や建物。よく見かける、ふつうの親子の様子や会話。そんな光景に、オトナ女子の心をくすぐる愛らしさとユーモアがある。「作中で描いたように、親が何かを見てふいに笑いだしたとき、子どもは意味がわからなくてしつこく『なぜ?』と聞いたりしますね。でも大人のほうは、子どもに説明してもどうせわからないと放っておく。よくある場面だと思うんです。『こんなことを考えたことがあるかも』『言われてみればそうだ』など、ひとつひとつでは形にならなそうな、小さな“あるある”を掬い上げたいなと」子どもの頃からいままでの、自身が見たり経験したりした断片。すぐに消えていってしまいそうな感情。名前のない感覚。それらを集めて描いているという。基本的に読み切りスタイルだが、同じ登場人物が活躍する「ひろしとみどり」や「私立探偵大町駿作の事件簿以外」などシリーズになっているものもある。読んでいるうちに、各編にちりばめられた小ネタのつながりや人物相関図が見えてきて、それを発見するのも楽しみのひとつだ。ストーリーの軸は、うそばなし。「うそとわかりきってしゃべっている、どうでもいいうそが好きなんです。『こうだったら面白いよね』といううそに、さらに他愛のないうそをかぶせていくとか。昔、同人用語に“やおい”というのがあって、いまはBL(ボーイズラブ。もとは男性同士の恋愛を描いたマンガや小説を指す)という言葉に変わりましたが、その語源である“ヤマなし、オチなし、意味なし”の世界が僕自身は理想。それで面白いなら最高という気持ちなんです」色使いの独特のセンスも、クリハラさんの画の大きな魅力だ。「完璧な湿度や心地いい風がシャツの中を通り過ぎる夏の空気感みたいなのは描きたいことのひとつです。ひなびた場所と海が好きで、自分なりのユートピアを描きたい欲もあるので、それをひろしとみどりの旅先に組み込んだりしています(笑)」未読の人は、書店へ走れ!『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』巻頭、巻末漫画を含む27編を所収。収録作「ひろしとみどり」のスピンオフ作品「日曜日のはじめちゃん」が『母の友』(福音館書店)で連載中。ナナロク社1200円©TAKASHI KURIHARAクリハラタカシマンガ、イラスト、アニメーションなどを制作。著書に『ツノ病』(青林工藝舎)、『ゲナポッポ』(白泉社)など。くりはらたかし名義で、絵本を手がける。※『anan』2021年2月24日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月20日宝石やアクセサリーが大好きな女子高生の谷川瑠璃(ルリ)。無謀にもひとりで水晶ハントに出かけた先で、鉱物学を研究中の大学院生・荒砥凪(ナギ)に出会う。かくて、ナギさんの手ほどきもあり、ルリもまた、鉱物採集の世界に足を踏み入れることに…。水晶、砂金、ガーネットなど、小さな鉱物が見せる大きな宇宙。『瑠璃の宝石』は、自然の中にある鉱物とのふれあいを楽しめるユニークなコミックだ。著者の渋谷圭一郎さんは、大学の研究室で学術的に鉱物を学んだそう。「水晶やその他の鉱物を採集しに行くというと、『私も行きたい』という女子学生もわりといるのですが、社会に出ると離れてしまう。やはり鉱物採集の現場には、年季の入ったおじさま方が多いです。実態を言えば、岩石ハンマーを手にして岩と格闘している泥くさい世界なんですが、そこはマンガ。女性キャラに活躍してもらい、広い読者に案外身近な世界なのだなと、楽しんでもらえたらと思いました」ルリは石は好きだが、いかんせん初心者。だが、ナギさんの解説を聞くうちにどんどん興味を深めていく。一方、ナギさんは自然を理解しようとするキャラクターとして描かれる。「もともと科学は、自然現象を理解しようというところから始まっているんです。雷は電気なのかとか虹はどうしてできるのかとか。そういうスタンスを持っている人物として、ナギは描きたいと思いました。現代では科学はお金になるかどうかが優先されがちですが、純粋にロマンを追いたいという思いもある。鉱物学や天文学など“地学”は科学が本来持っているそんな魂をいまも備えていると思うんです」作中では、鉱物がいかに生み出され、壮大な自然を見せてくれるかが随所で力説される。〈この景色を作るために自然はどれだけのエネルギーと時間と偶然を必要としたんだろうな〉〈人間の時間感覚とは全く違う(略)スケールで動いているからだ〉など、ナギさんの名言に心が揺さぶられずにはいられない。白黒の線で鉱石の輝きを表現するのは難易度が高そうだが、「むしろ、そういう宝石などの見せ場を描いているときがいちばん楽しいですね。山の中など自然を描くのも、自分がここにどんな樹や岩を置こうかと自由にデザインできるので、楽しいです」鉱物採集の魅力をルリやナギさんと一緒に楽しんでいる気分になれる。『瑠璃の宝石』1火山国で4枚ものプレートがひしめき合う日本は、種類が世界有数の鉱物産出国だそう。2巻は、サファイア採集を軸にしたストーリーになるらしい。KADOKAWA680円©渋谷圭一郎/KADOKAWAしぶや・けいいちろう群馬県出身。理科教員などを経て、リケジョの部活マンガ『大科学少女』(双葉社)で連載デビュー。現在、本作を『ハルタ』で連載中。※『anan』2021年2月17日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月13日漫画『スインギンドラゴンタイガーブギ』の物語の舞台は昭和26年、米軍占領下における日本のジャズシーン。ロックもポップスもない時代、まちにはジャズが鳴っていた。「自分がマンガを描く以前から興味のあったジャンルなんです。1巻の第2話で、新宿駅前に集まったミュージシャンを、いわゆる手配師が『おまえはあっちのクラブへ行け』などと振り分けてトラックに乗せていくのですが、そういうシーンを描きかったというのがまずあります」と、作者の灰田高鴻さん。主人公の少女“とら”こと於菟(おと)が圧倒されるのが、まさにその光景なのだが、於菟はある事件を機に正気を失ってしまった姉のために、彼女の想い人らしいベーシスト“オダジマタツジ”を捜して福井から上京。歌声を見込まれてジャズバンドに誘われ、米兵が集うEMクラブで歌うことに。「ジャズ自体は戦前から日本にありましたが、戦後の歌謡曲や芸能界の直接的な礎になっていったらしく。もともとはミュージシャンだったけれどマネージメントの側にシフトした芸能事務所の創業者や、三人娘と呼ばれた美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみのような歌手を立ち位置として参考にさせてもらいました」観客は下手な演奏に容赦なく、ときに殴り合いや流血騒ぎが勃発するほど荒々しいが、いい演奏には称賛を惜しまない。於菟は最初こそ恐る恐るステージに立つものの、上京した目的を忘れるくらい歌うことに夢中になっていく。臨場感のあるライブシーンは、見どころのひとつだ。「どうしたら盛り上がっている感じを出せるのかはいつも手探りです。興奮の表現がインフレ化すると、火を噴いたりレーザー光線が出たりするのでしょうが(笑)。とはいえ当時のパフォーマンスも凄まじかったようなのでその雰囲気は意識しつつ、ときどきあえて外したような動きを入れて、現実的な範囲内でうまく描ければと思っています」見つかったオダジマは記憶喪失になっていて、於菟は音楽を通して彼の記憶を取り戻そうとするのだが、ふたりの距離にも少しずつ変化が。「人間関係や立場などが、ふっと変わる瞬間はフィクションにおいて自分が最も興奮する部分だったりします。それと少女マンガがわりと好きで、付き合うまでの過程にカタルシスを覚えてしまう。放っておくとそんなことばかり描いて話が進まないので、担当さんに止めていただかないといけないのですが(笑)」本作に登場した楽曲などを集めた公式プレイリストも配信中。すべての人が戦争という癒えない傷を負いながら、たくましく、したたかに生きた時代の鼓動が響いてくる。『スインギンドラゴンタイガーブギ』すべてを失った戦後の日本。米軍キャンプからのし上がるジャズバンドを通して芸能界のルーツを描く。天然(?)ピアニストが登場して広がりを見せる第2巻。講談社640円はいだ・こうこうマンガ家。2018年、第74回ちばてつや賞入選。『スインギンドラゴンタイガーブギ』にて連載デビュー。3巻が2月22日発売予定。※『anan』2021年2月10日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2021年02月09日友人や同僚の何気ない言葉や態度、SNS上の無神経なメッセージに傷ついたり、もやもやするのはよくあること。7年ぶりの描き下ろし漫画となる益田ミリさんの最新作『スナックキズツキ』は、そんな「傷つくこと」をさまざまな視点からすくい取っている。傷ついた人だけが訪れる小さなスナックでのできごとは。「傷つき、くたくたになって帰宅する夜は誰にだってあるもの。家に帰ったからといって傷が癒えるわけでもなく、帰宅後も悶々とし続けるであろう自分を想像すると気が滅入ります。そんなときに、ふらっとひとりで立ち寄れるような場所を漫画の中に作りたかったんです。傷ついた人たちだけがたどり着ける店。それが『スナック キズツキ』でした」ここで描かれるのは、激しい怒りや悲しみを伴うような深い傷というより、ともすれば平気なふりをしてやり過ごし、だけど確実にストレスとして蓄積していくような、ざらりとした違和感だったりする。「はたから見れば『そんなことで?』と思うようなことでも、おのおの傷つきポイントは違うものです。抜け目のない同僚、顔も見ないで受け答えする後輩など、相手にいくら悪気がなくても傷つきます。そして、自分もまた悪気のない言葉で知らぬ間に誰かを傷つけている。“知らぬ間に”という部分をうまく描ければいいなと思っていました」自分を傷つける人や物事に対しては、誰でも敏感になれるもの。しかしそんな自分も他意なく、あるいは確信犯的に誰かを傷つけているかもしれない……。バトンを渡すようにして登場人物の視点が変わることで、ささやかな「キズツキ」の連鎖が生まれる構図にドキリとさせられ、我が身を振り返ってしまう。「最初に登場するコールセンターで働く女性がいるのですが、構想段階のときは、彼女を主人公にする物語を考えていました。彼女には自分本位の彼氏がいて『こんな彼となら別れたら?』と思いつつ描いていたのですが、ふと、彼もまた傷ついて生きているのではないかと思ったんです。いい人、悪い人ではっきり分けられない。いろんな角度から描かなければならない物語なのではないかと気づきました。そのためにもさまざまな登場人物と、その登場人物に付随する関係性も多様になるよう設定しました。恋人同士、父と息子、母と息子、母と娘、姉妹、兄弟、兄妹。それぞれがみな傷ついて、傷つけて生きているという点では共通しています。生まれた時代や環境によっては、どの登場人物も自分だったかもしれないと感じてもらえればいいなと思います」そうやって登場人物たちがたどり着く「スナック キズツキ」は、ママがひとりでやっているお店。スナックなのにアルコールが置いていないという少々特殊な事情には、益田さんの願望も込められている。「傷ついた人ならどんな人でも店のドアを開けられるよう、ノンアルコールの店にしました。私自身お酒が強くないので、夜、カフェやファミレスの他にも立ち寄れる店があったらいいなぁと思うことがあるので」スナックを訪れる人たちは、ママに促されて溜め込んでいた不満を言葉にすることで、気持ちを整理したり、「自分はこんなことで傷ついていたんだ」と改めて気がついたり。「友達や家族に話すことですっきりすることもあれば、話したせいで自分の弱さを知られたような後悔に似た気持ちになることも。些細なことで傷つくような弱い人間だと思われたくないのでしょう。人は心の中で自分を説得したり、なだめたりしてなんとかやっている部分が多いと思うんです。自分の“本音”を自分自身が聞く場を、意外に持っていないのかもしれません。だからこそ、まったく関係のない第三者に打ち明けられる場所を描きたかったんです。『スナック キズツキ』ではお客さんの吐露の仕方がバラエティに富んでいます。歌ったり、踊ったり、朗読したり。個人的には“エアギター”で言いたいことをぶちまけるサラリーマンの章は、描いていて楽しかったです。登場人物が意外なことを始めるので、私自身も『マジか!』と楽しんでいました。最初に決めていたわけではなく、描き進めるうちに自然に浮かんできましたね」一見くだらないアクションでも、効果てきめん。ママのちょっと強引な誘導に、登場人物も最初は「どうしてこんなことを?」と戸惑いつつ結果的にはノリノリになって、“キズツキ”をデトックスしている。芸達者で、飄々としたキャラクターのママあってこそのスナックなのだ。「ママは、なにも否定しない人にしようと決めていました。それから説教をせず、『今日もおつかれさま』と言ってあげられる人。傷ついた人しかたどり着けない店だから、やはりママもまたなんらかの傷を負ってここにいる人のひとりであることは意識して描きました」これまでの作品でもこのママのように、多くの人が抱えるもやもやをかたちにしてくれてきた益田さん。「今回は漫画のコマを横長にしようと最初に思いました。いつもはもっと小さなコマで描いているので、長いコマ割りは初めてなんです。傷つき、くたくたになった夜でもゆったり読んでいただけるような余白を意識しました」自分自身の“キズツキ”と向き合うだけでなく、他者の“キズツキ”にも目を向けて自分がそこに関わっているかもしれないことを意識できる場所。いつか「スナック キズツキ」にたどり着いたら……そんな想像もまた楽しい。『スナックキズツキ』都会の路地裏にあるらしい、傷ついた者しかたどり着けない「スナック キズツキ」。今宵もママに乗せられ、さまざまなかたちで不満を吐露する人が。くたくたな夜にじんわりしみる、7年ぶりの描き下ろし漫画。マガジンハウス1300円ますだ・みりイラストレーター。漫画に『すーちゃん』『今日の人生』、エッセイに『考えごとしたい旅フィンランドとシナモンロール』など著書多数。本誌で連載中の「僕の姉ちゃん」シリーズも好評発売中。※『anan』2021年2月10日号より。文・兵藤育子(by anan編集部)
2021年02月08日音楽と動く隊列で作られる“8分間の総合芸術”――それがマーチングだ。高校生の姫川美月は、母から強いられる勉強だけの毎日に倦み、思いあまって秋田の叔母の家へ。そこで偶然目にした光景に魅せられ、入部。美月がトランペットやマーチングに、部の仲間たちと共に情熱を注いでいくさまが描かれる『みかづきマーチ』は、胸を震わせる青春マンガだ。マーチングバンドに青春を懸ける高校生たちのまぶしく切ない日々。その著者が山田はまちさん。実は山田さんもマーチング経験者だ。「私とマーチングとの出合いも高校でした。美月のように、入部して1か月で大会に出たんです。楽譜以外にも覚えることがたくさんあって大変でしたが、みんなとひとつのものを作り上げるのはなんて気持ちがいいんだろうと。その分、達成感もすごいんです。マーチングバンドの強豪校に取材したり、ドキュメンタリーも参考にしていますが、基本的には自分自身や仲間が感じていたリアルな感情を軸に、熱い思いを伝えていきたいと思っています」士気の高い部員たちゆえ、和気あいあいとしているだけではない。3巻では、野球部応援や県大会などのハレの場で、誰がトランペットのソロパートを演奏するかのオーディションが行われ、それぞれが葛藤と向き合うことに。「3年生にとって最後の年なのだからという年功序列も、いちばん上手い人に任せるという実力主義も、どちらも正しいから悩ましいですよね。ただ部活も仕事も、勝ち続けられるものではないので、うまくいかないときにみなどうやって乗り越えていくのかも描きたいですね」デビュー前からマーチングのマンガが描きたかったという山田さん。「競技の面白さを描きたいけれど、どうしたら表現できるのか、キャラクターも含めなかなかうまくいかなくて。考える時間だけで2年くらいはあったので(笑)、美月たちに何が起きるか、吹奏楽のどんなイベントがあるかなどを一通り年表にして、それを参考に、展開を決めています」マーチングは一種の団体競技だという山田さん。「楽器も多いし、フラッグ(旗)を扱うカラーガードというパートもある。いろんな人のドラマがあるわけで、いわゆるモブみたいな人たちにも少しでもスポットが当たるような群像劇にしていきたい。読んだ人が元気になれる作品にしたいです」『みかづきマーチ』3生まれて初めて熱中するものを見つけた美月。1月28日発売の3巻では、トランペットのソロパートをオーディションで選ぶことになり部内がざわめく。双葉社620円©山田はまち/双葉社やまだ・はまち秋田県出身。会社員を経て、上京。独学でマンガ制作を始める。アシスタントの傍ら描き続け、2017 年に読み切り作品でデビュー。※『anan』2021年2月3日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月02日猫を抱えてなんとも優しげな表情でカメラの前に現れた草刈正雄さん。そんな草刈さんの胸の中で愛らしい顔でカメラに目線を送るのは、現在放送中のドラマ『おじさまと猫』で共演しているふくまるだ。「この役は俺がやらなくちゃ!」と思いました(笑)「僕が演じているのは妻を亡くした元ピアニストの神田冬樹。ある日たまたま立ち寄ったペットショップで猫のふくまると出会い、一緒に生活するうちに笑顔を取り戻していく…という、おじさまとふくまるの愛情物語なんですが、お話をもらったときに原作漫画の表紙を見て、“あ、この役は俺がやらなくちゃ!”と思ったぐらい神田の見た目が僕と似ていると感じたんです(笑)。台本には、神田のちょっとネガティブな考え方や、芸術家ならではの独特な感覚がちゃんと書き出されているのも面白いなって。あまり考えずに素直に役に入れたのは、そういう一風変わった性格もまた、僕に似ていたからかもしれませんね」ふくまるの声を演じている神木隆之介さんについても絶賛している。「撮影に入る前の本読みで神木さんが第一声を発したとき、共演者やスタッフたちから拍手が起きたぐらいぴったりで。相手が人間ではないところに最初は不安もあったんですが、神木さんの声やいろんな表情を見せてくれるふくまるが、撮影を重ねるごとに心ある猫ちゃんになっていくので感動しました。動きもとてもリアルなので、俳優同士で演じているのと変わらずに泣いたり笑ったりできて苦労なく演じています」「実はプライベートでもペットに癒されているんです」と頬を緩ませるが、芸能生活50周年を迎えた今でも若々しくいられる秘訣は、ペットたちの存在にもあるよう。「昔は猫も飼っていて、仕事で家に帰るのが遅いと、玄関を開けた途端に猫ちゃんが『ニャンニャー!』と鳴いて、それが僕には『なんでこんなに遅くなったんだ、早く帰ってこいよ!』って喋っているように聞こえるんです。疲れも吹っ飛んじゃうぐらい可愛くて、ついつい愛情を注いでしまうんですよね。そんなポジティブな感情や愛情はふくまると接していても自然に抱いているし、ふくまると一緒に成長していく神田の姿も見どころの一つになると思います。’21年の始まりは、おじさまと猫のコンビを見てほっこりしていただけるとうれしいですね。ふくまるブームもくる、と信じています(笑)」『おじさまと猫』原作は桜井海の累計170万部を誇る人気コミック『おじさまと猫』(SQUARE ENIX)。毎週水曜、深夜0時58分よりテレ東ほかにて放送中。またParaviでも独占先行配信中。©「おじさまと猫」製作委員会くさかり・まさお1952年9月5日生まれ、福岡県出身。’70年にモデルデビュー後、俳優の道へ。’74年『卑弥呼』でスクリーンデビュー。ドラマ『真田丸』『なつぞら』、映画『記憶にございません!』など話題作多数。ジャケット¥23,000スラックス¥6,900(共にORIHICA池袋東口店)シャツはスタイリスト私物※『anan』2021年1月27日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・九(Yolken) ヘア&メイク・横山雷志郎(Yolken) インタビュー、文・若山あや(by anan編集部)
2021年01月23日タイトルの風太郎とは、忍者ものなどで一世を風靡した戦後の娯楽小説家・山田風太郎のこと。本作は医学生だった山田青年が兵隊として召集されず、東京で細々と暮らしていた日々を綴った『戦中派不戦日記』のコミカライズだ。手がけているのは、これまで主に女性誌で作品を発表してきた勝田文さん。その意外性がまずもって興味深い。年表には記されないあの時代を生きた人々の姿。「基本的に楽しくてバカバカしいものを描きたいっていう思いがずっとあったので、コミカライズのお話をいただいたときは自分でも意外でした。だけど今まで描いたことのないジャンルなので、面白くできる可能性はあるかなと思ったんです」日記が始まるのは、日本の敗戦が決まる“運命の年”が明ける昭和20年1月1日。B29が連日来襲し、食料も日に日に手に入りにくくなる、不安と困窮を極めた暮らしではあるものの、原作を読んだ勝田さんは「時代の雰囲気そのものは、わりと今と変わらないのかも」と感じたそう。「上の人たちがやっていることを庶民はよくわかっていない感じが似ていると思いました。本当のところはどうなの?みたいな空気とかも」山田青年は田舎から出てきたインテリ青年なのだが、本気で医者を目指しているわけでもなく、かといって戦地に行くことも叶わない宙ぶらりんな状態。国の未来を憂えてはいるけれど、どこか達観もしている。「私は彼ほど屁理屈をこねませんけど卑屈なところは似ているので、その辺は描きやすいかもしれません。しょうもないダジャレもよく言っていて、ユーモアがあるんですよね」戦時中の物語は、どうしても悲惨さや理不尽さに焦点が当てられがちだが、それだけではないのが本作の異色なところ。ドブ川並みに汚れた銭湯で湯当たりした老人を助けたり、苦手な試験の日に空襲が来て無試験合格になって大喜びしたり、授業で女体の模型を見て興奮したり。年表に刻まれた史実の隙間で、名もなき人々がどんなふうに暮らしていたのかが見えてくる。そんな日々を経て、2巻のクライマックスとして描かれるのが、8月15日だ。「物語全体の山場だと思い、ここに向かって描いてきたところもあったので、今ちょっと燃え尽きちゃってるんです。だけど戦争が終わっても世界は続いていくので、このあとを描くほうがむしろ大事だと思って気を取り直しているところです」風太郎は、そしてあの時代を生きた人々は、いかにして終戦を迎えるのか。圧巻の2巻のラストを、ぜひそれぞれの目で確かめてほしい。原作・山田風太郎『風太郎不戦日記』2昭和20年5月、東京を焼け出され、山形の知人宅、故郷の兵庫、学校の疎開先である信州飯田に身を寄せる山田青年。やがて運命の8月がやってくる、第2巻。講談社680円かつた・ぶんマンガ家。1998年『YOUNG YOU』でデビュー。主な作品に『あのこにもらった音楽』『小僧の寿し』『マリーマリーマリー』など。※『anan』2021年1月20日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2021年01月16日ペットとは無縁だった王島家。長男が拾ってきた迷い犬がほどなく一家に受け入れられ、近所の犬たちとも交流を深めていく『横須賀こずえ』。その著者が、小田扉さん。NHKでアニメ化もされた『団地ともお』(全33巻)の原作者でもある。場所は横須賀。愛すべき天才犬と、飼い主一家のワン(犬)ダフルライフ。「『~ともお』が終わって次を練っているときに、王島家の話を描いてみたんですが、編集さんとも相談したら『犬がいちばんキャラが立ってるよね』となったんです。2年ほど前から僕も人生で初めて犬を飼い始めたというのもあって、犬を主役にする話に落ち着きました」心温まるコメディと思いきや、こずえと名付けられた〈小4男子程度の知能を持つ〉迷い犬の視点がたびたび入ってくるのがキモ。不思議現象や小さな発見を愉しむセンス・オブ・ワンダー的な要素が加わり、唯一無二の面白さになっている。「僕自身もそういうどこか不思議なお話が昔から好きで、藤子・F・不二雄先生や諸星大二郎先生のマンガには影響を受けていると思います。日常の出来事から話をふくらませて、摩訶不思議な味が出ればと、普段から思いついたことはメモしたりしていますね。僕の場合、ネームの段階ではほとんどセリフだけ決めていく感じで、コマ割りも状況も曖昧なんです。そのせいで他の多くのマンガ家さんのように、『ネームができたから山を越えたぞ』という気持ちにはなれず、毎回四苦八苦です」3巻では、なぜ「こずえ」という犬らしからぬ命名がなされたのか、の秘密が明かされる。「これも知人から聞いたエピソードがやけに記憶に残っていて。それを少しアレンジしたお話です」横須賀という具体的な土地をベースに描かれるのも、小田さんのこれまでの作品にはなかった魅力だ。「架空の街にすることも考えたのですが、『~ともお』と差別化したい気持ちもあって、縛りを入れました。取材も兼ねて街を歩くと、『なんだこれは!』と思う名所や建物などを見つけたりして楽しいですね」こずえは1巻で、潮の匂いを懐かしみ、おぼろげな記憶の中で、〈手〉の存在を思い出す。彼女は以前どこにいたのか。手は誰のものなのか。いくつかのナゾは残ったままだ。「4巻で明かすつもりなので、いま懸命に考えている最中です」という宣言も!来年春頃発売予定の続刊を、楽しみに待ちたい。『横須賀こずえ』3繁茂するゴーヤカーテン、小学生男子の冒険、ゴメスやニッキなどご近所犬さんたちと始めた犬の学校など、奇妙なのにほのぼのしてしまう小田扉ワールドが全開。小学館591円©小田 扉/小学館週刊ビッグコミックスピリッツ連載中おだ・とびら1974年、神奈川県出身。1999年、モーニング新マグナム増刊にてデビュー。『江豆町ブリトビラロマンSF』『団地ともお』など著書多数。※『anan』2021年1月13日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年01月08日次のうち、実在するミュージアムはどれでしょう?(1)ボタンの博物館(2)理科ハウス(3)容器文化ミュージアム実は、すべて本当にある。『博物館ななめ歩き』は、マンガ家の久世番子さんが、京都国立博物館副館長の栗原祐司さんと共にめぐった津々浦々の博物館を、マンガで読ませてくれる楽しいガイドブックだ。知られざる博物館がこんなに!?いざ、ディープな博学世界へ。「取材先は栗原さんの提案を踏まえ、規模は小さくても個性的なミュージアムを中心に選びました。たまに私が『古墳が見たい!』とリクエストを出すこともありました。東京中心になっているのは、取材費があまり出ないからです…」紹介のされ方もいろいろだ。たとえば、日比谷図書文化館は、各フロアの注目ポイントが細かく紹介されているのだが、世界のカバン博物館では、いろいろなデザインのバッグが描かれ、グッズ中心になっている。「建物や建っている場所が印象的なミュージアム、歴史が面白いミュージアム、コレクションが珍しいミュージアム、来館者が独特なミュージアム…。取材をしているとそれぞれの館の個性が見えてくるので、それを表現するように意識しました」連載は1ページ。そこに当該の博物館の成り立ちや魅力、ちょっとしたうんちくなど、これでもかというほど盛りだくさんな情報が詰め込まれている。読むこちらは楽しいが、「地の文で説明を、フキダシで感情をとなんとなくの描き分けはあるものの、絵とのバランスも考えるので、その時どきで自由に描いています。『文字が小さいよー(泣)』というご意見もいただくのですが、ついついみっちり書き込んでしまいます」相棒の栗原祐司さんは、これまでに全国6200館以上のミュージアムを訪問しているという猛者。「博物館愛がだだ漏れで、本当にミュージアムフリークだなと圧倒されました。取材時には『この間、あそこの博物館に行って~』『あの国のミュージアムは~』など延々自慢話を聞かされていましたね。半分くらいは聞き流していましたが(笑)」ちなみに、久世さんご自身が特に興味を惹かれた場所を、2つほど挙げてもらった。「小平市のふれあい下水道館は衝撃的で、取材後何度も下水道管の中の夢を見ました。ぜひ体験してほしいです!あと、熊本の装飾古墳館。初めて九州の色鮮やかな古墳を見たので非常に思い出深いです。2つとも私にとってちょっと怖い体験でした。怖いって面白いです」『博物館ななめ歩き』文化庁のWEB広報誌「ぶんかる」(旧・文部科学時報、文化庁月報)で、全国の博物館や記念館などをマンガで紹介。2009年から続く長期連載だ。文藝春秋1200円©久世番子/文藝春秋※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年01月02日上下巻同時にリリースされた須藤佑実さんの『夢の端々』は、まるで一本の美しい映画を観たような読後感だ。登場人物たちの人生にすっかり入り込み、物語が終わってもなお、心はその世界を漂っている。なぜ彼女たちは心中を選んだのか。“未遂”後の70年にわたる恋と人生。「百合マンガは読むのも描くのも好きですが、若い人同士の“百合のその後”を描いてみたかったんです」百合のその後として冒頭で描かれる時代は、2018年。認知症で一緒に暮らす家族のこともわからなくなりつつある85歳の伊藤貴代子のもとに、同い年とは思えないほど若々しい園田ミツが訪ねてくる。お互いの近況など他愛もない会話を楽しむふたりは、70年ほど前の女学生時代に心中を図り、世間を騒がせた恋人同士だった。「最初に思いついたのは、時間が遡る設定です。だいぶ前のことなのですが、現代から過去に戻っていくお芝居を観て、いつか自分もマンガでやってみたいと思っていました」1話目で読者に明かされるのは、85歳の貴代子が鍵付きの日記帳のなかに“指”を大事に隠し持っていること。たしかに彼女の左手の小指は第一関節から先がなく、ひ孫には戦争で失くしてしまったと説明する。そしてミステリーのような雰囲気を漂わせながら、ふたりの間に何が起こり、どんな思いで心中に至ったのかが少しずつ語られていく。「認知症の方は最近のことから忘れていき、昔のことは比較的覚えているといわれるので、忘れる順に描きたいという思いもありました」時代を遡って描くにあたり、須藤さんは最初に年表を作成。彼女たちが出会った戦後間もなくから現代までに日本で起こったことと、ふたりの人生を一覧にしてプロットを組んだ。内気でどことなく影のある貴代子と、快活で男勝りなミツは、月と太陽のように呼応し合うキャラクターだ。女性は学校を卒業したらほんの少し外の世界を見て、ほどよい頃に結婚して家庭に入るのが一番の幸せと考えられていた時代。女性同士の恋愛はおろか、自立して生きることさえ大きな困難を伴う時代に、貴代子とミツはお互いを思い続けながらそれぞれの人生を選択していく。「未来を先に描いているので、過去をどう描くかかなり悩みました。心中するまでは、夢の中というか幻覚のようなイメージで、心中未遂後は社会に出て、現実が少しずつ見えてくるイメージで描いています」ふたりが見ていた長い夢と現実から、こぼれ落ちる記憶の断片。同時代を生きた女性たちの息づかいまで聞こえてきそうな作品だ。『夢の端々』上・下戦後の女学校時代、心中を図った貴代子とミツ。未遂後、見合い結婚をした貴代子と、起業して独身を貫いたミツ、それぞれの人生が離れては重なる一代記。祥伝社各880円©須藤佑実/祥伝社フィールコミックスすどう・ゆみマンガ家。『ミッドナイトブルー』『みやこ美人夜話』など短編に定評あり。初の上下巻となる本作では、新たな魅力を垣間見ることが。※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年12月30日2018年に第9回ananマンガ大賞を受賞した『セクシー田中さん』の最新刊が、ますます盛り上がっている。会社では超地味だけど、実は超セクシーなベリーダンサーの顔を持つ田中さんと、そんな生き方に憧れてファンと化す、朱里(あかり)。それぞれのキャラクターについて作者の芦原妃名子さんはこう語る。不器用、または器用貧乏なこじらせ男女の恋愛&人生模様。「田中さんは想定よりずっと素直でかわいい女性になりました。こじらせているはずなのに素直。偏見を持たない。クリアな目で人を見ようとする。他人を裁かない。それって人としての強さですよね。そんな40歳の田中さんに対して、朱里ちゃんは23歳なのに老成してます。女の子としてのスペックは高いのに、器用貧乏でなかなか生きづらい。鎧を脱いでもっと解放されたら生きやすくなるんじゃないかな。ある種、若さを取り戻してほしいです(笑)」ふたりに共通するのは、周りから見たら魅力がたくさんあるのに「自分なんか」と思っているところ。「日本人“あるある”かもしれませんが、自分に厳しすぎる人って多いですよね。誰かと出会って自分の魅力に気づいて、自己肯定力が上がっていく。そんな化学反応が起これば素敵だなと思っています」田中さんと朱里、異なるタイプや世代のふたりを通して、男性が求めるステレオタイプな女性像と、そこから逃れたくても大なり小なり囚われてしまう女性の姿がシニカルに描かれるのも見どころ。3巻では田中さんに「イタイおばさん」など数々の暴言を吐いてきた、見た目はイケメン、頭は昭和で止まっている偏見まみれの男・笙野に変化が起こる。「女性より男性のほうが変わるのが難しい気がします。他人に指摘されて内省するのって、なかなかプライドが傷つくと思うし。だから余計、変われる人はタフで魅力的。といっても笙野の今までの行動がチャラになるわけではないけれど(笑)」田中さんと朱里の一見不毛な恋の行方や新たな恋の予感、田中さんの敵と見なしている笙野に対する朱里の復讐、そして彼女たちは自分を好きになれるのかなど、絡みまくるさまざまな展開が気になるところ。「人と出会っていろんな価値観に遭遇して、相手を知ると同時に自分自身を知る。ひとりでは知り得ない、白黒グレー、いろんな自分が溢れ出てくるのが人間関係の醍醐味だと思っています。もつれて混乱して、影響されて変わっていく彼女たちを楽しんで観察していただけたら一番嬉しいです!それと恋愛部分も、もう一歩踏み込んでいきたいですね」『セクシー田中さん』3四十肩でダンサー生命の危機に陥る田中さん、朱里の思いに気づかぬふりをする進吾との過去、田中さんは自分を好きだと思い込む笙野の暴走…絶好調の第3巻。小学館454円©芦原妃名子/小学館姉系プチコミックあしはら・ひなこマンガ家。1994年『別冊少女コミック』に掲載された「その話おことわりします」でデビュー。『砂時計』と『Piece』で小学館漫画賞少女向け部門を受賞。※『anan』2020年12月23日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年12月23日ついに実写映画化された、大ヒットコミックス『約束のネバーランド』。随所に文学的エッセンスを感じることができる『約束のネバーランド』の世界を、英米文学者・戸田慧さんの考察で説き明かします。「文学」としての『約束のネバーランド』『約束のネバーランド』は、あらゆる点で「異色」の漫画だといえます。『週刊少年ジャンプ』という少年雑誌において、主人公が少女であること、巧みな心理戦やミステリー仕立ての物語の複雑さ、多彩な登場人物たちの秘められた感情や葛藤……。これらの要素は間違いなく『約束のネバーランド』が多くの読者を虜にした魅力の一つなのですが、もう一つ忘れてはならないのが、この作品の持つ「文学的」な深みです。「文学」とは何か、と問われると一言で説明するのは難しいのですが、ここでは仮に拙著『英米文学者と読む「約束のネバーランド」』で定義した「筋書きを超えた深い意味や象徴に満ち、現実世界や他の文学作品と深く結びついた物語」とさせていただきます。他の文学作品との結びつきという点では、まず『約束のネバーランド』というタイトルが大きなヒントになります。「ネバーランド」といえばイギリス児童文学の古典、ジェイムス・バリーの『ピーター・パン』に描かれる、永遠に大人にならない子供たちが暮らす楽園を意味します。『約束のネバーランド』の冒頭でも、子供たちが無邪気に暮らす孤児院グレイス=フィールドハウスの様子は、まるで子供の楽園のようです。しかし、エマをはじめとする子供たちは、やがてこの孤児院が「鬼」のための食料となる食用児を育てる「農園」であることに気づきます。その時、タイトルに込められた「ネバーランド」という言葉は子供の楽園ではなく、「子供が大人に“なれない”世界」、すなわち死の世界であるという残酷な事実が浮かび上がってくるのです。また、エマたちがハウスの秘密に気づくきっかけとなるのは、少女コニーが大事にしていた白ウサギのぬいぐるみ、リトルバーニーです。白いウサギを追いかけて少女が冒険へと誘い込まれる物語、といえば、ご存じルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』です。アリスが追いかける白ウサギは紳士らしくチョッキを着て、懐中時計を持っていると描かれますが、リトルバーニーもまたチョッキを着て、時計の形の蝶ネクタイをつけています(実写版ではどんな姿なのか、気になりますね!)。『約束のネバーランド』と深い結びつきを持つ『ピーター・パン』と『不思議の国のアリス』は、十九世紀のイギリス児童文学を代表する古典的傑作ですが、いずれも「常識に縛られた支配的な大人vs自由で無垢な子供」という対立構造が特徴的です。『ピーター・パン』では大人である海賊フック船長が、時計を飲み込んだワニ、すなわち老いをもたらす「時間」に追われ、永遠に子供のままのピーター・パンを妬み、常に戦いを挑みます。『不思議の国のアリス』では、答えのない謎々を出しては終わらないお茶会を続ける帽子屋と三月ウサギ、すぐに首をはねよと命じるハートの女王など、頭でっかちで横暴な大人を象徴するキャラクターがアリスを翻弄します。そんな大人たちの支配を逃れ、子供の無垢な心を守るべく、アリスやピーター・パンは大人たちに立ち向かうのです。『約束のネバーランド』でも、ママをはじめとする「大人」とエマたち「子供」の対立構造が描かれます。食用児を育成する立場にあるママは、子供たちを密かに監視し、外の世界への脱出を阻みますが、エマたちはママという「大人」の目をかいくぐり、自由を得るために知恵と勇気を振り絞ります。特にエマが提案する「子供たち全員での脱走」という無茶で突飛な考えは、一見すると「子供っぽい理想論」にも思えます。しかし、エマが持つ「子供っぽさ」こそ、ピーター・パンがフック船長を倒し、アリスがハートの女王に立ち向かったように、「大人」が囚われている常識を打ち破り、不可能を可能にする力なのです。さらに、「ジェンダー」(男らしさ/女らしさ)という現実的な問題が加わることで、物語は一層深みを増します。子供たちが暮らす孤児院は「ハウス」(家)と呼ばれ、子供たちを世話するイザベラが「ママ」と呼ばれることから、この孤児院が「家庭」を象徴していることは明らかです。森に囲まれた閉鎖的な「ハウス」における男女観は伝統的なものであり、男の子はズボン、女の子はスカートを制服としています。また原作コミックスでは、脱走を計画するエマに対し、ママは「大人になって、子供を産んで、能力が認められれば、飼育監(ママ)や補佐(シスター)としてまたこのお家(ハウス)に戻って来られるの」(四巻三十一話)と言い、「ママ」になることがエマが生き残る唯一の道であると述べます。その言葉はまるで、女の子はスカートをはき、将来は結婚して子供を産んでママになる以外に生きる道はない、という古典的なジェンダー観の中に子供を閉じ込めようとするかのようです。しかし、エマはこのような伝統的なジェンダーに抗う存在として描かれます。ショートカットのヘアスタイルに抜群の運動神経と学習能力、そして仲間を引っ張っていくリーダーシップを持つエマは、少年漫画において通常「少年」の特徴とされる要素を備えた少女であり、従来の少年漫画で描かれてきた「非力でかわいい女の子」という枠組みを超え、ママが示すような限定されたジェンダー観や常識を打ち破り、「ハウス」という狭い世界から外へ飛び出そうとするのです。ハウス脱出を試みる夜、子供たちが男女関係なくズボンをはいていることは、単に動きやすい服装だからというだけでなく、これまでママによって定められてきた古典的なジェンダーから脱し、新しい価値観のもとで生きようとする姿を象徴しているようにも見えます。本稿のこのような読み解きは『週刊少年ジャンプ』の許諾をいただいておりますが、漫画作者の意図を代弁するものではなく、あくまでもファン目線の考察です。しかし、『約束のネバーランド』を読む時、息詰まるサスペンスやどんでん返しといった「エンタメ」的な面白さだけでなく、「文学的」側面からも読み解くことができれば、この漫画の深さと広がりを何倍にも味わうことができます。これからアニメ第2期、実写映画、そして海外ドラマなど、さまざまな媒体で表現されることで、この物語の「解釈」も変化する可能性があります。漫画が完結した後も、まだまだ終わらない『約束のネバーランド』の世界から目が離せません。とだ・けい広島女学院大学人文学部国際英語学科准教授。主にアメリカ文学を専攻。近著に『英米文学者と読む「約束のネバーランド」』(集英社新書)。『約束のネバーランド』孤児のエマ、レイ、ノーマンは、ハウスきっての天才児。ある夜、ひょんなことからエマとノーマンは、里親が決まり旅立ったはずのコニーの無残な姿を目にしてしまう。それをきっかけに、彼らは孤児院の秘密を知ることに…。12月18日(金)全国ロードショー監督/平川雄一朗脚本/後藤法子原作/「約束のネバーランド」白井カイウ・出水ぽすか(集英社 ジャンプコミックス刊)出演/浜辺美波、城桧吏、板垣李光人、渡辺直美、北川景子ほか©白井カイウ・出水ぽすか/集英社©2020映画「約束のネバーランド」製作委員会※『anan』2020年12月23日号より。文・戸田 慧(by anan編集部)
2020年12月20日コミックス全世界累計発行部数2500万部を誇る大ヒット漫画『約束のネバーランド』(以下、約ネバ)。その人気の理由とは、独特の世界観と魅力的なキャラクターのみならず、謎が少しずつ明かされるミステリー的要素や、緊迫感溢れる展開の面白さゆえ。知れば知るほど深みにハマる、作品の魅力を解説します。“約ネバ”を構成するCharacterEmma(エマ)浜辺美波さん演じるのは、高い運動能力と知能を持った天才児で、ハウスのムードメーカー。子供たち全員に等しく愛情を注ぐ優しい少女。Ray(レイ)ノーマンに匹敵する天才で、クールで冷静沈着。子供たちの輪から外れ、ひとりで本を読んでいることが多い。城桧吏さんが演じる。Norman(ノーマン)ハウスいちの天才児で、優れた分析力と冷静な判断力を持つ。子供たちのリーダー的存在で、優しい性格。演じるのは板垣李光人さん。“約ネバ”を構成するKeyword孤児院(ハウス)何不自由ない幸せな生活。夢は里親に引き取られ旅立つこと。グレイス=フィールドハウスは、親を持たない15歳までの子供たちと、彼らの母代わりのイザベラ(北川景子)の家。血の繋がりはないが全員が家族のように助け合い暮らしている。建物は広大な自然に囲まれており、敷地内を自由に駆け回れるが、その先には柵が設けられ、それを越えることは禁止。そして、知能を測るテストが毎日おこなわれている。子供たちは、いつか里親が見つかり外の世界に出ることを夢見ているが…。世界の秘密小さなほころびから見えてきたハウスの謎と、真実の世界。エマとノーマンは、あることをきっかけに、自分たちが食用児として育てられていることを知ってしまう。そこから、近づくことを禁じられていた門や、外の世界と自分たちとを隔離するように設置された柵の存在、里親の元に旅立ったはずの仲間から手紙が一度も来ないことなど、これまでに感じていた不可解な事実を繋ぎ合わせ、ひとつの推測を立てる。ある秘密を知るレイがそこに加わり、隠されていたこの世界の仕組みを知ることに。子供vs大人母のように慕っていたママたちと水面下で繰り広げられる頭脳戦。グレイス=フィールドハウスにいる大人はイザベラのみ。しかし、楽園だと思っていたこの世界にエマたちが疑問を抱き始めると、イザベラはそれをいち早く察知。表面的には普段通りの優しい笑顔を浮かべながら、あらゆる場面で管理者としての自分の力と、ハウスという楽園の外に出ることが不可能であることを示していく。そして、自分の補佐を務めるシスターの派遣を要請。クローネ(渡辺直美)という女性がハウスにやってくる…。こう見えてクローネはかなり俊敏。脱走のシミュレーションも兼ねて子供たちは鬼ごっこに興じるが、クローネの追跡は容赦なく、もはやホラーに近い。『約束のネバーランド』孤児のエマ、レイ、ノーマンは、ハウスきっての天才児。ある夜、ひょんなことからエマとノーマンは、里親が決まり旅立ったはずのコニーの無残な姿を目にしてしまう。それをきっかけに、彼らは孤児院の秘密を知ることに…。12月18日(金)全国ロードショー監督/平川雄一朗脚本/後藤法子原作/「約束のネバーランド」白井カイウ・出水ぽすか(集英社 ジャンプコミックス刊)出演/浜辺美波、城桧吏、板垣李光人、渡辺直美、北川景子ほか©白井カイウ・出水ぽすか/集英社©2020映画「約束のネバーランド」製作委員会※『anan』2020年12月23日号より。取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年12月20日大ヒットコミックス『約束のネバーランド』(以下、約ネバ)がついに実写映画化。主人公・エマ役を務める浜辺美波さんへのインタビューをお届けします!子供たちと、ママと呼ばれるイザベラが家族のように暮らす孤児院・グレイス=フィールドハウス。幸せに満ちて見えたその場所は、じつは鬼たちのための食用児を育てる農園だった――。そんな衝撃の展開で始まる『約束のネバーランド』。浜辺さんは、連載開始直後から原作ファンだったそう。「子供たちが主人公で、絵が可愛いのに、読み始めると結構ダークでグロいシーンもあって…そのギャップにまずハマりました。脱出不可能だと思えるような全然光が見えないところから始まって、そこから細い細い光を探しながら前に進んでいく。その先の見えない脱出劇に惹かれたんです。ダークファンタジーで、しかも特殊な世界観の作品ですし、実写化はできないんだろうと勝手に思っていたので、映画化のお話を聞いた時には、実写では難しそうなシーンがいくつか頭に浮かんで、どうやって描くんだろうと思ったくらい。しかも私がエマをやるというお話も同時に伺って、驚きました」主人公のエマは、抜群の運動神経と高い学習能力の持ち主。明るく正義感に溢れ、ハウスの秘密に気づいてからは、つねに全員で脱出する方法を探る少女だ。「実際のエマは11歳の可愛らしい女の子なんです。映画では年齢が15歳に上がっていますが、監督に声のトーンなどについて相談させていただいた時に、役に説得力があるほうがいいから高い声でやらなくていいと言われたんです。原作はかなりファンタジー要素が強いですが、今回の映画では少年少女たちが力を合わせて脱出計画を成し遂げようとする、その絆だったり苦しみだったりもがく姿を描きたいということかなと。だから可愛さや年齢のことより、脱出劇が茶番に見えないよう、汗や涙などをリアルに泥くさく演じたいと思って撮影に臨みました」もうひとつ心がけたのは、セリフに嘘がないようにということ。「原作を読んでいても、誰もがもう無理でしょという場面でもエマはマイナスな言葉を言わないんです。本当にまっすぐで、みんなの光みたいな存在。でも、ただ明るいとか天真爛漫なわけじゃなく、本気でできる、やれると思っているし、周りにそう信じさせる言葉の力を持っている。だから私も、みんなに元気を与えるようなセリフが言えたらと思っていました」これまでにも漫画原作の作品に数多く出演している浜辺さん。突拍子もない設定の作品であれば、漫画寄りの少し誇張したキャラクターに。一方、日常が舞台の作品ではリアリティのあるナチュラルなキャラクターに。その絶妙なバランス感には高い評価が集まる。「ハウスはただの孤児院ではなく、外の世界から隔離されているんですよね。草木に囲まれて、ママと子供たちしかいない世界のなかだけで伸び伸びと育ってきたという環境を考えると、ちょっと現実離れしたキャラクターにしたいなというのがあったんです。ただ、いろんな事実を知ってからのエマが、強くたくましくなっていく部分にはリアル感が必要かなと。また、エマの冒頭の『おっはよー!』というセリフは、監督が忠実に原作を再現したいという思いもあって…。それをひとつのキャラクターとしてどう落とし込むかは、かなり探っていましたね」撮影の前には、ハウスで暮らす子供たちとともに、なんと1か月近くリハーサルをおこなったとか。「全員のテンション感を合わせていくための時間だったんですが、それがあったのは大きかったです。このキャラクターはこんな感じの子で、この子としゃべる時のエマはこんな感じかなと探りながら役を掴んでいけました。子供たちだから、本番でリハーサルと全然違うものが出ることもあって…エマとして本当に心を動かされる場面もありましたし」エマは、ハウスのなかでも年上で面倒見がいい、みんなのお姉ちゃん的存在。子供たちに囲まれる日々のなかで、自身の持つ「長女っぽさを思い出した」そう。「レイ役の城(桧吏)くんと同じ年の弟がいるんです。実家を出てしばらく経つので忘れていましたけど、周りに目を配って、気になった子には声をかけるとか、現場で長女っぽさが発揮されて、そういや、お姉ちゃんだったなって」一見、変わらない日々を送りながら、水面下で脱出計画を進めていく子供たち。美しい映像のなか、大人たちとの緊張感溢れる駆け引きが繰り広げられていく。「心をえぐるような衝撃的な展開もありますし、壁を感じる方もいらっしゃると思うんです。でも、誰もが心のどこかに絶対持っている“少年の心”をくすぐる物語ですし、ぜひ観てみてほしいです」ポジティブな強さで自らの運命を切り拓いていくエマと、ポジティブに作品と向き合っていく浜辺さんの姿は、どこか重なる気も。「大きな意味で、私、自分の人生に対してすごく楽観的なんだと思います。先の見えない仕事ではあるけれど縁に恵まれてきて、どこかで“自分はなんとか大丈夫”みたいな根拠のない自信があるんです。それは作品との出合いとか、全部任せておけば大丈夫って思えるような信頼できる方たちとの出会いのおかげなんですけどね」はまべ・みなみ2000年8月29日生まれ。石川県出身。2021年1月クールのドラマ『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(NTV系)に出演するほか、公開待機作に『映画 賭ケグルイPart2』がある。ブラウス¥33,000パンツ¥39,000(共にソマルタ/エスティーム プレス TEL:03・5428・0928)ブーツ¥13,600(ウニサ/南青山 レヴィケーショップ TEL:03・3407・0131)イヤリング¥2,000(ゴールディ TEL:0120・390・705)リング¥4,000(ソムニウム TEL:03・3614・1102)『約束のネバーランド』孤児のエマ、レイ、ノーマンは、ハウスきっての天才児。ある夜、ひょんなことからエマとノーマンは、里親が決まり旅立ったはずのコニーの無残な姿を目にしてしまう。それをきっかけに、彼らは孤児院の秘密を知ることに…。12月18日(金)全国ロードショー監督/平川雄一朗脚本/後藤法子原作/「約束のネバーランド」白井カイウ・出水ぽすか(集英社 ジャンプコミックス刊)出演/浜辺美波、城桧吏、板垣李光人、渡辺直美、北川景子ほか©白井カイウ・出水ぽすか/集英社©2020映画「約束のネバーランド」製作委員会※『anan』2020年12月23日号より。写真・三宮幹史(TRIVAL)スタイリスト・有咲ヘア&メイク・鎌田順子取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年12月19日『プリンセスメゾン』や『雑草たちよ 大志を抱け』などで、さまざまな世代、境遇の凛とした女性を描いてきた池辺葵さん。最新作は4姉妹と母の物語なのだが、姉妹モノは「いつか絶対、というか最後に描きたいと思っていた」テーマだそう。罪悪感を抱えてまっすぐ生きる。4姉妹と母、それぞれの肖像。「女性が自立して、仕事を通して成長していく物語を最初にイメージしました。その仕事の場として流通、要は物がいろんなところに行き届く景色を描きたかったのです。でもそれだけだと話をつくるのが難しいので、自分の視点がもっと豊かになったら描こうと温めていた姉妹モノをくっつけることにしました」アパレル通販会社で働く末っ子の仁衣(にい)を通して描かれる流通のパートと、家族の物語をつなぐのが『ブランチライン』というタイトル。「コレクションで発表された服が、着やすくアレンジされて市場に行きわたる流れは、枝分かれして広がっていく川の支流のようだと思いました。家族もやっぱり流れていくもので、血がつながっていても同じ人生を歩むわけではなく、それぞれに枝分かれしていきますよね」三女の茉子(まこ)は喫茶店を営み、次女の太重(たえ)は公務員、長女のイチはシングルマザーで、夫と死別した母は山の上にある実家にひとりで暮らしている。それぞれが異なる支流を生きているのだが、家族を結びつけるかけがえのない存在が、長女の息子で大学院生の岳(がく)。8歳のときに両親が離婚して父親と自由に会えなくなってしまうのだが、イチを案じて離婚を後押しした姉妹たちは、結果的に岳の人生を大きく変えてしまったことに罪悪感を抱いている。自分の言動が他者に大なり小なり影響を与えることは、生きている限り続くもの。その罪悪感は家族のやり取りだけでなく、物を売って消費を促す仁衣の仕事観からも見えてくる。「仁衣ちゃんは罪悪感を抱えながらも自分ができること、やるべきことに全力を注いでいます。正しくばかりはいられないことを知るけれども、まっすぐ生きようとする姿を反映させていきたいです」ひとつ屋根の下で暮らして、宝物のように岳を育ててきた過去の記憶と、それぞれ離れて暮らしている現在を行き来しながら、影響を与え合わずにはいられない家族の喜びや悲しみに優しく光を当てる。「蓄積されていく記憶とどう付き合っていくのかも大事なこと。4姉妹の人生を追いながら、ときどき重なり合うことはあってもまたひとつの川にはならない家族の関係を、風景として表現できたらいいですね」『ブランチライン』1現在は離れて暮らす4姉妹と母、そして5人で育てた長女の息子。正しく生きようと思うほどに逃れられない罪悪感をそれぞれの生き様や家族のあり方から描く。祥伝社680円©池辺葵/祥伝社フィールコミックスいけべ・あおい2009年デビュー。『繕い裁つ人』が実写映画化、『プリンセスメゾン』が実写ドラマ化。そのほか『サウダーデ』『かごめかごめ』など。※『anan』2020年12月9日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年12月04日50周年記念映画『STAND BY ME ドラえもん 2』が公開中。大のドラえもん好きで、映画の脚本も手掛けたことがある小説家の辻村深月さんが、お気に入りエピソードと共にその魅力を語ります。マンガも、アニメも、劇場版も。幼少期から今までずっとドラえもんを愛してきた、作家の辻村深月さん。今年50周年を迎えたドラえもん。これだけ長く愛されてきた理由を伺うと、まずは物語としてとても面白く、読んだり見たりすると元気になる、作品としての圧倒的な魅力がある、と語ります。「特にそれは、原作のマンガを読んだときに強く感じます。たった10数ページの長さにもかかわらず、起承転結がしっかり詰まっていて、しかも少しシリアスな作品でも、最後の1コマでちゃんと笑いに落としてくれる。どれも物語のお手本のような構造なんです。ほとんどのお話が、日常の中でのび太が感じた小さな不満や望みがきっかけになり、ドラえもんがひみつ道具を出し、話が展開していくわけですが、ひみつ道具によって生み出されるさまざまな“不思議”や“異世界”が、日常のすぐ隣にある、という設定も魅力的。例えばそれは、タイムマシンの入り口が偉い博士の研究室ではなくのび太の学習机の引き出しだったり、畳の裏が宇宙につながっていたり…。誰もが子供のときに妄想したであろう、“あったらいいな”な世界が描かれているところも大好きです。私の好きなお話の『天の川鉄道の夜』で描かれる夜空をSLが駆けるというシーンは、そんなドラえもんの世界観の象徴的なエピソード。きっぷにハサミを入れるとSLが迎えに来てくれるという展開も、ロマンが溢れていて心が躍ります」また、大人になってから読み返すと、幼い頃には読み取れなかったメタファーやメッセージに気が付くことも多々ある、とも。「子供のときはただただ展開が面白かったマンガでも、今読むと、ひみつ道具の持つ強い社会性や、風刺、また“こんな意味があったのか!”と驚かされることがたくさんあります。最近改めて、強くそう思ったのが、『おそるべき正義ロープ』と、『悪魔のパスポート』の2つ。『おそるべき~』は、自分の正義が絶対で、他人の正義は許さない、という、昨今の世の中の風潮にとても近い物語。また『悪魔の~』は、どんな悪いことでも許されてしまう権力を持ったらどうなるか…という内容です。いずれのひみつ道具も、最初はのび太がいい気になって使うのですが、途中で罪悪感に苛まれたり、道具の持つ怖い側面に気が付いたりして、自ら濫用を止めようとします。寛容さや、“過ぎる正義”とは何か、考えさせられる名作だと思います」日常にある不思議の面白さと、SF的な恐怖が共存する物語。『天の川鉄道の夜』ドラえもん20巻スネ夫からSLに乗った自慢話を聞かされ、「僕もSLに乗りたい~」と泣きつくのび太。断られたものの、ドラえもんがうっかり落としたSL型宇宙船のきっぷを勝手に使い、裏山に鉄道を呼ぶ。のび太たち4人と車掌だけを乗せた鉄道は、宇宙に向け出発するが…。正義が暴走すると、手がつけられなくなる…!!『おそるべき正義ロープ』ドラえもん23巻「いつでも俺が正しい!」と暴力を振るうジャイアンに泣かされるのび太。そこでドラえもんは、悪者は絶対許さないという、つる草のサイボーグ〈正義ロープ〉の種を蒔く。罪の重さで縛られ方が変わるというこのロープ、果たして街の平和が保たれるのか?!悪いことへの憧れと罪悪感。その戦い、どちらが勝つ?『悪魔のパスポート』ドラえもん13巻欲しいマンガが我慢できず家のお金を盗もうとしたのび太に、ママは「泥棒!ろくなものにならない!」と激怒。「ならば世界一の悪人になってやる」と宣言。どんな悪いことでも許されるひみつ道具〈悪魔のパスポート〉を使い、悪事(でも規模は小さい)を重ねる。ドラえもん全45巻藤子・F・不二雄22世紀からやってきたネコ型ロボットのドラえもんと、勉強もスポーツも苦手なのび太くんの物語。’70年より連載がスタート。絵のかわいらしさに悶絶!各¥454(小学館)©藤子プロ・小学館つじむら・みづき小説家。1980年生まれ、山梨県出身。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(’19年)の脚本を担当。現在、原作映画『朝が来る』が公開中。『STAND BY ME ドラえもん 2』原作:藤子・F・不二雄監督:八木竜一脚本・共同監督:山崎貴声の出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、宮本信子、妻夫木聡全国東宝系で公開中。※『anan』2020年12月2日号より。(by anan編集部)
2020年12月01日2020年に連載開始から50周年を迎え、現在『STAND BY ME ドラえもん 2』が公開中。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(’19年)の脚本も担当した小説家の辻村深月さんが、「アラサー女性に響くのでは?」とオススメのエピソードを選び、その魅力を語ります。辻村さんが選んだのは、『右か左か人生コース』。曲がった道の先に何があるか、予想をしてくれるひみつ道具の話だ。「大人になってくると、“あのときあの選択をしていたら…”と思ったことは、誰でも1度や2度はあるかと思います。選択しなかったほうの人生のことが、いつまでもいつまでも気になったりもしますよね。でもこの物語は、どっちが正解、不正解ということではなく、単純に、今自分がいる場所は選択の連続の先にあり、正解にするも不正解にするも自分次第であることを教えてくれます。『ぼくよりダメなやつがきた』も、自分の過去を振り返りたくなるエピソード。今の自分は、さまざまな選択と同時に、出会いと別れの積み重ねの結果でもある。これを読むと、劣等感や優越感を乗り越えられず疎遠になってしまった友達のことが思い起こされたりして、大人になった今なら、友達でいられたかもしれない…と胸が少し痛くなります。どちらのエピソードも、いい気になっているのび太を見つめるドラえもんの無表情さが素晴らしい。頭ごなしに怒るでもなく、かといって突き放すでもなく。その上での、無表情。はしゃぐのび太とのコントラストが利いていて、本当にすごくいい」どっちに行っても障害が?!それでも行くか、行かないか。『右か左か人生コース』ドラえもん42巻テレビで、運命の大きな分かれ道について語るボクサーを見たドラえもんとのび太。「道に迷ったとき、正しい方向を教えてくれる機械が欲しい」とねだるのび太に、ドラえもんは、右に行くとこうなって、左に行くとこうなって…と予想を見せてくれる道具〈コースチェッカー〉を差し出した。自分の心の優越感や劣等感、それとどう向き合うか…。『ぼくよりダメなやつがきた』ドラえもん23巻のび太のクラスに転校生の多目(ため)くんがやってきた。「僕よりパッとしないし、僕より0点を取る!」と、成績が自分より劣っている多目くんを見下して優越感に浸るのび太。ドラえもんは、そんなのび太を見て、とあるひみつ道具を出し…。ドラえもん全45巻藤子・F・不二雄22世紀からやってきたネコ型ロボットのドラえもんと、勉強もスポーツも苦手なのび太くんの物語。’70年より連載がスタート。絵のかわいらしさに悶絶!各¥454(小学館)©藤子プロ・小学館つじむら・みづき小説家。1980年生まれ、山梨県出身。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(’19年)の脚本を担当。現在、原作映画『朝が来る』が公開中。『STAND BY ME ドラえもん 2』原作:藤子・F・不二雄監督:八木竜一脚本・共同監督:山崎貴声の出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、宮本信子、妻夫木聡全国東宝系で公開中。※『anan』2020年12月2日号より。(by anan編集部)
2020年11月28日大のドラえもん好き小説家・辻村深月さんが「ただただ大好きな話だから、読んでほしい!!」というイチオシのエピソード、『ドラえもんに休日を!!』をご紹介。50周年を迎え映画『STAND BY ME ドラえもん 2』の公開を記念して、お送りします。「“ドラえもんを休ませてあげよう”という、のび太のまるで雇用主のような上から目線がなんともいえませんが(笑)。今でも、疲れた日の終わりにこれを読むと、特に最後の1コマが胸にグッときます。きっと皆さんの心にも響くと思います」いつ出会い、なぜ好きになったのか。その時期や理由も思い出せないくらい、いつの間にか日常に存在し、大事な存在になっていたというドラえもん。「そこにあることが、そして一緒にいることが当たり前すぎて、“好き”という思いがいつ明確になったのか、正直今でもよくわかりません(笑)。でも、自然にアニメや漫画を繰り返し見ていて、気が付いたら家の柱にシールが貼られていた。初めて観に行った映画もドラえもん。私だけでなく、きっと多くの人にとって、ドラえもんってそういう存在だと思うんです。ドラえもんという物語は、藤子・F・不二雄先生が描いたストーリーと、私たちがドラえもんと過ごした想い出という物語、この2つで構成されているような気がします。自分の家族の記憶や、友達との経験などを思い出すと、きっと誰でも1つや2つは、ドラえもんとつながった想い出があると思います。その“私とドラえもん”のストーリーをみんなで語り合えるのは、大人になった今だからこそ味わえる幸せなのではないでしょうか」よくある日常の一日だけど、のび太は確実に成長しました。『ドラえもんに休日を!!』ドラえもん35巻「僕なんか年中無休だぞ」と言うドラえもんに、1日休日をあげるのび太。ドラえもんは万が一のために〈よびつけブザー〉を預け、仲良しのネコちゃんと島へおでかけ。1人になったのび太はさまざまな困難に遭遇するものの、ドラえもんを呼び出さずに一日を終える。ドラえもん全45巻藤子・F・不二雄22世紀からやってきたネコ型ロボットのドラえもんと、勉強もスポーツも苦手なのび太くんの物語。’70年より連載がスタート。絵のかわいらしさに悶絶!各¥454(小学館)©藤子プロ・小学館つじむら・みづき小説家。1980年生まれ、山梨県出身。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(’19年)の脚本を担当。現在、原作映画『朝が来る』が公開中。『STAND BY ME ドラえもん 2』原作:藤子・F・不二雄監督:八木竜一脚本・共同監督:山崎貴声の出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、宮本信子、妻夫木聡全国東宝系で公開中。※『anan』2020年12月2日号より。(by anan編集部)
2020年11月26日テーマも発表時期も異なる3つの短編が収められた、山中ヒコさんの最新作『クラスで一番可愛い子』。表題作は、整形手術を繰り返す女性の心理を掘り下げている。「私は整形手術をしてみたかったけどできなかったタイプなのですが、今の10代、20代の子たちはわりとそういう感覚を飛び越えたところにいるような気がしたんです。自分ができなかったぶん尊敬の念もありますし、苦しみや痛みを伴うチャレンジをして道を切り拓いていく女の子を描いてみたいと思いました」主人公のえりは、推しのイケメン俳優にいわゆる塩対応をされたことで、容姿さえよくなれば振り向いてくれるはず、という思いにとらわれてしまう。整形手術というハードルだけでなく、芸能人に“ガチ恋”をするという一線も越えてしまうのだが、やがて自分自身を傷つけ続けてきた代償を払うことに……。転じて「怪物の庭」は、中世イタリアが舞台。奇怪な石像や傾いた家など摩訶不思議な空間が広がる「ボマルツォの怪物公園」を訪れて、その誕生エピソードを芸術家の情熱と悲恋の物語に昇華させた。「イタリアの彫刻が好きなのですが、作中でも描いたミケランジェロの『ピエタ』は本当に美しくて。一方この奇抜な公園の作者は、ミケランジェロの弟子だったピッロ・リゴーリオという人。そのギャップが面白かったし、ピッロのほかの作品とも異なるので余計興味が湧きました」最後の「バジリスクの道」は、シリアで内戦が激化していた2013年に発表した作品。「シリアで起きていることをそのまま描いても興味を持ってもらいにくいと思ったので、自分ごととして読んでもらえるように工夫をして、筋を練っていきました」そして舞台になったのが、シリアではなく現代の日本。通った道に毒を残して人を殺すバジリスクという想像上の蛇をモチーフに、平和な日常が脆く崩れてしまう様を描く。「3作品、本当にバラバラですが、どれも私が興味を持って描かずにはいられなかった物語。『クラスで一番可愛い子』は読者さんに向けて描いた気持ちが強いですし、『怪物の庭』は旅の思い出に描いた作品。『バジリスクの道』はシリアの惨状をニュースで見て、何かできないかという思いから生まれました。自分の中で何かしら引っかかる“描きどころ”さえあれば、私の場合はどんなテーマでもいいのだと思います」こう来たか!と想像を軽々と超えてくる感覚が、癖になるはず。『クラスで一番可愛い子』推しに認識してもらいたい一心で、整形手術にのめり込む女性を描いた「クラスで一番可愛い子」ほか、2編を収録。本書の印税の一部がシリア難民への寄付に。祥伝社880円©山中ヒコ/祥伝社FEEL COMICSやまなか・ひこマンガ家。2008年「初恋の70%は、」で商業誌デビュー。主な著作に『新装版 森文大学男子寮物語』『イキガミとドナー』など。※『anan』2020年11月18日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年11月11日