少年団だけど、低学年の頃はテクニックに恵まれたメンバーばかりで大会も優勝か準優勝。みんなキラキラ楽しくサッカーしていたのに、クラブチームに移籍する子が出始めてチームが崩壊。Aチームの子が退団したらBチームから補充するけど、レベル差があってAチームの子たちが受け入れられず、失敗に罵倒したり仲間同士信頼しあってない。チームに失望して去っていく人も続出......。残された者たちであと2年サッカーを楽しむために、どうすればいい?とのご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとにアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<もっと真剣にサッカーして!仲間との温度差に悩む息子をどう支えるか問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。9歳の子どもを地元の少年団に通わせています。低学年の頃は、向上心も強く、テクニック共に恵まれたメンバーばかりで、大会は優勝もしくは準優勝と、みんながキラキラと楽しくサッカーをしていたように思います。しかし、中学年になって、Jクラブの育成組織や強豪クラブチームに移籍する者が出てきたころからチームが崩壊しだしました。残された子たちで新たにチーム作りをするはずでしたが、現実は......。上手いAチームの子が抜ければ、Bチームからの補充となるのですが、今までいた子との実力差があるので、Aチームのメンバーが補充メンバーを受け入れられず。仲間を信頼し合わないサッカーとなり、失敗に対して罵声がとんだり、言われた子は萎縮して思うように動かず自信をなくし再びBに落ちる......。そんなチームになってしまいました。誰もが楽しんでサッカーをしていない状況となり、このままこのチームにいたらダメになると、チームを去って行く者が多発し、完全に崩壊してしまいました。こういう状況を作ってしまったコーチへの不信感もありますが、残された者達で残り2年間サッカーを楽しんでいくために、どう親はフォローをしていけばいいのでしょうか?<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。いただいた相談文からしか類推できないので、事実の把握が100%合致しているかはわかりません。そのあたりはお許しください。■勝つ=楽しいという価値観だと、負け始めると崩壊することもご相談文を読んで最初に思ったのは、勝利を優先してきたチームにありがちな「歪み」だということです。「低学年の頃は、向上心も強く、テクニック共に恵まれたメンバーばかりで、大会は優勝もしくは準優勝」とあるように、息子さんの学年のチームは早熟な子がたまたま集まっていて、1、2年生の大会では勝てたのでしょう。似たようなケースはよく見受けられます。お母さんが「みんながキラキラと楽しくサッカーをしていた」と書かれているように、結果としてチームは勝利することで子どもをサッカーにつなぎとめていた傾向がありそうだと感じました。もしそうであれば、選手もコーチも「勝つこと=サッカーが楽しい」という価値観なので、負け始めるといとも簡単に「負ける=サッカーが楽しくない」に移行してしまいます。■Aチーム、Bチーム同等のほうが脱落したり辞める子がいなくなる私が少年サッカーを取材する中で、上記のことを理解しているコーチの方々は、自チームが低学年の大会で優勝したり勝ってしまうと危機感を募らせていました。お母さんの息子さんのチームのようなことが起きることを経験上知っているからです。例えば、Aコーチは、中学年まではなるべくチームをA、B同等にして大会に出場させるなど工夫していました。そのほうがチームの底上げになるし、脱落したり、辞める子もいなくなるからです。彼がそのように「4年生までAB同等」にしたのは、その数年前に3年生の途中でチームを去ったB君のことがあったからです。B君は3年生のはじめに入団。少し太っていましたが、頑張り屋さんでした。ただ、多くのチームメイトが1年生からサッカーを始めていたので、止める蹴るの技術の上達が少しみんなより遅れていました。試合には、チームがリードしていれば終わりごろに少し出場させる。それでもB君は満足しているだろうとAコーチは勝手に思っていました。でも、B君は3年生の秋くらいに突然チームをやめてしまいました。「試合にはほとんど出ていないので、ユニフォームがもったいないので使ってください」と母親から返されたAコーチですが「そのときは、まあ仕方ないか、サッカーにはまらなかったんだな」と思ったそうです。■全員出場のクラブで見違えるように成長ところが3年経って、子どもたちが6年生になったある日。他市も含めたカップ戦で、子どもたちが「あれ、B君じゃないの?」と騒ぎ始めました。背が高くなり体も締まって、足も速くなっていました。見違えるようにキビキビと動くB君はセンターバックを務め、危機察知能力が高く、チームのピンチをことごとくカバー。しかも、その腕にはキャプテンマークを巻いていました。あとで聞いた話では、チームをやめたB君はスクールでサッカーを続行。半年後に転校した先で民間クラブへ入団。そのクラブは全員出場させて、とてもいい指導だという評判のクラブでした。Aコーチは打ちのめされ、指導やチームの運営方法を見直しました。■子どもは勝つための駒ではないいかがでしょうか。お母さんはこのチームのやり方しかご存じないかと思います。「上手いAチームの子が抜ければ、Bチームからの補充となる」と書いていらっしゃいますが、子どもは勝つための駒ではありません。このやり方では、「今までいた子との実力差がある」のは当然です。だから、先述のAコーチは中学年まで同じ力でチームを編成したし、そのようなことを理解しているクラブは常にチーム編成を変えるなどして底上げを図っています。全員をうまくしようと努力しているのです。■補充メンバーを受け入れられない状況にしているのは指導者の責任それなのに「Aチームのメンバーが補充メンバーを受け入れらない」状況にしてしまっているのは、やはりコーチの責任でしょう。低学年のわずか1年か2年の間で勝ったり負けたりすることに意味があるかどうかを考えなくてはならないと思います。お母さんはこの状況をおかしいと感じて、ご相談してくださったと思います。何とかしたいという思いはよくわかります。「残された者達で残り2年間サッカーを楽しんでいくために、どう親はフォローをしていけばいいのか?」と問われていますが、ピッチで起きていることは指導者と選手の問題です。酷なようですが、ギスギスした関係が続き、そのことをコーチが問題にしない状況を親御さんが改革するのは無理でしょう。できるとしたら、お母さんがそのような不安を抱えていることを、コーチの方々や他の保護者と腹を割って話すことです。より良いチームにしていきたいことを訴えてはいかがでしょうか。ただ、残念ながら「保護者に意見されて考えを変えました」とおっしゃる少年サッカーの指導者を私は知りません。この世界を取材し始めて15年以上経ちますが、世の中的にもそう多くはない現状があるように感じます。■息子さんをフォローする方法(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)息子さんをフォローする方法があるとすれば、彼にすべてを委ねることです。「他のチームでやりたいなと思ったら、いつでも力になるよ。でも、このチームで楽しくサッカーをしたいと思うんだったら、どうしたらみんなで楽しくできるか考えてみよう」と言って、話し相手になってあげてください。そこで「何のためにサッカーをしているか」を話し合ってみてください。サッカー自体が楽しいから。今の仲間といるのが好きだから。さまざま出てくるでしょう。話しているうちに「今、自分はどうしたいか」が息子さんに見えてくるといいなと思います。決して良い環境とは言えなさそうですが、あくまで「息子が選んで在籍しているチーム」だと考えましょう。ここで悩んだり、どうしようかと考えたり、決断することは、あとで考えると良い経験になるはずです。そう考えて、親御さんは見守り役に徹してください。悩むのも、解決するのも、最後に決めるのも、息子さんなのです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年04月14日サッカー経験者であることを知るチームの保護者から、少年団の練習とは別に定期的な自主トレを頼まれた。監督がサッカー経験がなく、具体的なコーチングがないことなどで親たちからの信頼を失いかけているようで、自分が行う自主トレに保護者が求める要素がどんどん増えている。子どもたちが大会で結果を残していることもあって親たちの「もっとちゃんと教えてほしい」という要求が高まっている状態だが、ただのお父さんコーチがどこまで関わっていい?とご相談をいただきました。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、お父さんコーチの悩みにアドバイスを送ります。(取材・文島沢優子)池上正さんの指導を動画で見る>>(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<楽しい指導より厳しい指導が良いのでは。という保護者を説得する方法は?<お父さんコーチからの質問>春から小学2年の息子がいるお父さんコーチです。少年団のコーチではありません。息子が入団するとき、私がサッカー経験者であることを知る保護者の方々から、少年団練習とは別に、週2回の定期的な自主トレを行って欲しいと依頼を受け、試合のない週末に限り自主トレコーチをしています。私は、自主トレの内容が少年団で指導されるものと違うと、子ども達のプレーに迷いが生じたり、少年団コーチにご迷惑がかかっては本末転倒であると思い、あくまでも基礎的なトレーニングに留めて行っています。しかし、少年団のコーチはサッカー経験の無いご年配コーチで、試合中に具体的なコーチングもなく、普段の練習中も子ども達を野放しにしてご自身は居眠りをされたりと、保護者からの信用を失いかけています。そうしたこともあって、私が行う自主トレに保護者が求める要素が段々と多くなってきて、私もどこまで子ども達と関わって良いか悩んでいます。監督との関係性が悪いわけではありませんが、保護者の不満を監督へ相談するというのもなかなか難しいです。子ども達は、昨夏の地区サッカー大会で優勝、今冬の地区フットサル大会でも準優勝と、今は結果が全てではないのかも知れませんが結果を残していることもあって「もっとちゃんと教えてほしい」と保護者の期待も高まり、少年団に対するフラストレーションもあるようです。このような状況で私自身どこまで関わって良いものか、自主トレで行えるメニューなどとあわせましてご指導いただきたく思います。 どうか宜しくお願い致します。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。つまり、メインコーチのうかがい知れないところで、秘密の練習をしているということですね。結果が出たこともあって、保護者も「もっと練習して」と要求しているようですが、小学2年生からこのように期待して練習をたくさんさせるという状況がいいとは私は思えません。■クラブに預けたのならコーチに任せた方がいい結論から言いましょう。保護者に、チーム練習外のトレーニングを頼まれても、引き受けないほうがいいでしょう。そのクラブに預けたのだから、そこにいるコーチに任せたほうがいい。もし、保護者が担当コーチに不満を感じているのなら、話し合えばいいことです。もし、みんなでコーチに話したけど、その方自身が変わらないときは、その時点で親子で判断すればいいのではないでしょうか。例えば、移籍を考えた場合、近くに良いクラブがないという話は少なくありませんが、サッカーができる環境は間違いなくあるはずです。■自分たちで考えることで選手としての引き出しが広がる私が京都サンガに在籍しているとき、バドゥー監督がある時「ちょっと用があって30分ほど抜けるから、ちょっと見てて」とほかのコーチに指導を委ねることがありました。すると、ほかのコーチは「監督の指導方法もわからないのに、どうしたらいいんですか?」と戸惑うわけです。すると、彼は「いや、ただサッカーをすればいいんだよ」と涼しい顔で答えていました。任せたコーチがバドゥーと違うことを言ったとしても、そこで判断するのは選手です。選手からすると、監督と違うことを言われたら、そこに疑問も生まれますが、同時にそこに考える機会も生まれます。そして、そういうことは、彼らのそこから先のサッカーキャリアの中では起こりがちです。「監督はこう言ってる」「ヘッドコーチはこう言ってる」では、僕たちはどうする?そのような経路をたどることで、選手の引き出しは広がります。そう考えると、バドゥーの態度は何ら間違ったものではありません。「なんでもいいよ。サッカーやってくれれば」という言葉の裏には、「サッカーのトレーニングはどんなことをしようが、同じサッカーだ」という本質ともいえる考えがあるわけです。■自主練はコーチのいる状態でやるものなのか少年サッカーでは、いいコーチがいれば、これは受け入れ難いぞと思える指導者もいて、いろんなことに出くわします。したがって、お子さんが「ここでいい」「ここでサッカーするよ」と自分で決めて、楽しんでいるようなら、それでいいと私は考えます。そもそも、自主練は、みんなで集まって決まった時間と決まった場所で、しかもコーチがいる状態でやるものでしょうか。子どもたちに「勝手にやっておいで。やってもやらなくてもいいよ」と言って、自由にさせてあげてほしいと私は思います。■自主練することや他の子よりうまくなることより大事なことこの連載の相談にも「うちの子が自主練しないのですが、どうすればいいですか?」という質問が多いです。子どもが自主練をしないのは、サッカー以外に他にやりたいことがある、ということです。そんな生き方している子どものほうが私は素晴らしいと感じます。日本の教育は「相対評価」で、そこにいる他の子どもたちよりもうまくなると、親御さんは満足します。コーチはその地域の他のチームの子どもよりうまくなれば安心します。小さな枠の中の競争に、どんな意味があるのか。そこをぜひ一度、みなさんで考えてみてください。「みんなよりうまくなって」「他のチームより強くなって」よりも、子どもたちが自分で選んで、自分の時間をプロデュースする。そんな主体性を身につけて、サッカー以外のいろんなことを吸収していくことが大切です。■子どもたちが選ぶことが大事、大人たちも今の状況が不満なら話し合うこともうひとつ、日本のあまり良くない習慣に「一筋主義」があります。一度始めたスポーツは、最後までやり通せ。一度入ったチームで最後まで頑張れ――。どちらも、今の大人が子どものときの価値観であり、大人からの指示命令です。そうではなく、子どもが選ぶことが重要です。例えば、相談者様のチームのコーチについても、さまざまな見方ができます。「普段は居眠りしている」とありますが、逆に子どもは自由にサッカーができていいのではないか?とも受け取れます。怒鳴られたり、教え込まれるよりはずっといいと思いますが、いかがでしょうか。そのあたりもぜひ話し合ってみてください。■8歳前後は楽しく試合できればいい。自主練はやりすぎもうひとつ。「子ども達は、昨夏の地区サッカー大会で優勝、今冬の地区フットサル大会でも準優勝と、今は結果が全てではないのかも知れませんが結果を残している」と書かれています。しかしながら、この結果が自主練あってのものなのか。その効果かどうかは証明できません。年配のコーチの方は実は子どもたちの理解がよくて、ひょっとすると、とてもいいものを持っておられるかもしれません。ご相談文だけではわかりづらいのですが、そもそも8歳前後の年代は、楽しく試合をしていればいい時代です。自主練はやりすぎな気がします。私は、サカイクの兄弟サイトである指導者向けサービス「COACH UNITED ACADEMY」でもお話ししているので、よかったら参考にしてください。池上正さんの指導を動画で見る>>次ページ:ドリル的な練習より効果的な指導は......■ドリル的な練習より効果的な指導は......(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)最後に、自主トレで行えるメニューを教えてほしいとのことですが、場所はどのくらいで、人数がある程度わからないと何とも言えないところです。ご相談者様はサッカーの経験者のようなので、子どもと一緒に試合(ミニゲーム)をすればいいかと思います。ドリル的な練習をするよりは、試合の中でどんなところに動くと得なのかを考えてもらうほうが有意義な時間になりそうです。加えて、コーチがわざと強いボールを蹴ったり、強いパス出してあげるなどし、壁になってあげてください。チャレンジという壁ですね。小さいときから縦割りでプレーしている子どもが大人になってすごく上手くなるのは、上級生が壁になってくれるからです。池上正さんの指導を動画で見る>>池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2021年03月26日チーム内でサッカーへの意識が高い子と低い子との差がある。意識の高い息子は毎日の練習から真剣で、練習でのゲームでもあれこれ提案するも「いやだ」「うるせーなー」と言われ、上手くいかないし試合でもフォローもない。意識の低い子たちに「なんでサッカーしないの!」と憤り、練習帰りに涙することも。親としては年齢的にも意識にバラツキがあるのは当たり前だと思っているが本気でやっている息子にどんな声をかければいい?というご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとにアドバイスを送ります。お子さんを伸ばしたいなら参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<サッカーは楽しいが勉強できない中2の息子をどう支えればいいのか問題<サッカーママからのご相談>9歳の息子はサッカーを始めて2年なのですが、ここ一年程ますますサッカーが好きになり、意識が高くなっています。上手くなりたい、夢はプロサッカー選手と言って毎日練習に励みチームの練習も一回一回を大切に頑張っているようですしかし当然ながら、チームの中でもサッカーへの意識が高い子とまだそうではない子との差もでてきているようです。今回はその辺に関連するご相談です。最近練習でのゲームで、コーチがチーム分けをするのですが、息子にとっては「え?これはバランスがおかしい」と思うほど差をつけたチーム分けがあるようです。もちろんコーチのやり方があり、何らかの意図があってのことなのでそこに私も息子も何も言うことはないのですが、やはりゲームになると意識の差、というか考えてプレーしている子とボーッとしている子の差が出てきてしまっているようで。息子はどうやったら皆が動けてそして勝てるのか考え、「ああすればいいんじゃない」「次はこうやってみよう」と、ポジション等、みんなと話しあうのですが、当然「そこはやりたくない」など意見がでますよね。そんなときも息子はメンバーに「大丈夫、上手いしきっとできるよ」とも伝えるのですが、なかなか上手くいかず、試合でも誰もフォローに入らない、ボールがきても動かない、ということが多くて、練習帰りに「なんで!?」と涙を流すことが多くなってきました。ゲーム中でも指示を出したりしても、「うるせーなー」など文句を言われたりするようです。本人はただ「サッカーがうまくなりたい」、「練習のゲームでも手を抜かず勝ちたい!」そんな気持ちで指示を出したりポジションを考えたりしているのに、なんでもっとみんな真剣にサッカーしないの?と思っているようです。息子にはみんながあなたと同じ気持ちではないし、あなたがしたいサッカーをするのがゲームではないと思うよと伝えたりもしますが、それは本人もわかってはいるようです。息子本人も「うまい子だけのチームでやりたいわけではない」と言っています。「チームメイトの性格の問題ではなくて、なんで動かないの!?なんでサッカーしないの!」と、サッカーへの意識の高さと低さで悩み、辛い気持ちがあるようです。サッカーしないの!の部分が分かりづらいかもしれませんが、ボールが来ても動かない(動き方が分からない、良い場所で受けようとしたり攻撃につながるような受け方をしない)ことです。私はこんなにもサッカーが好きで本気でやっている息子を尊敬しますが、この本気度の違いはまだ小学3年生にはあって当たり前だとも思います。そんな息子にかけてあげる言葉や接し方がどうしたらいいかわかりません。こんな時どうすればいいでしょうか?<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。お母さんは、息子さんが大好きなのですね。懸命にサッカーに取り組んでいる息子さんを誇らしく感じるお気持ちが伝わってきます。さて、私からのアドバイスは三つです。■仲間とぶつかったり自分の思いを伝えるトレーニング期なので、ほっといて大丈夫この問題、基本的にほっとけばいいと私は思います。小学生から高校生、ティーンエイジャーの間は、仲間とぶつかったり、温度差が違う中で相手のことをわかろうとしたり、自分の思いを伝えるトレーニングをする時期です。とても大切な成長の機会を、サッカーというスポーツの中で得ているわけです。そういった意味では、お母さんがお書きになっている「考えてプレーしている子」も、「ボーッとしている子」も、息子さんが成長する糧になってくれる大切な存在です。私は以前、保育学が専門の大学教授に「子育ては、泥だらけのじゃがいもをバケツの水の中でごろごろと一緒に洗うようなもの」と聞きました。ぶつかったり、一緒にいることで互いの泥が取れてきれいになる、というわけです。■みんなの動きが良くなるように、自分はどんなプレーをしたらいい?と聞いてみるそう考えると、もし何か親として息子さんに伝えることがあるとすれば、それは「こうしてほしいと他者を変えようとするよりも、まずは自分がみんなのために何ができるかを考えよう」ということかと思います。もちろん、小学3年生にそういった正論をいきなり投げつけるのではなく、例えば、こんなふうに問いかけます。「だったらさ、動き方がわからないチームメートに、試合中にコーチングしたり、仲間が良い場所で受けられるようにするには自分はどんなプレーをしたらいいと思う?」お子さんが話し始めたら、聞き役に徹しましょう。そして「君のプレーやパスが親切になれば、きっと周りも変わってくるよ」とぜひ励ましてあげてください。それだけ利発で自分で物事を考えられる息子さんなのですから、お母さんが伝えようとする道理にすぐ気づくのではないでしょうか?■「だめなのは向こうなのに」と言ってきたときの返し方もし、そこで「なんで僕が......」とか「だめなのは向こうなのに」と抵抗したとしても、そこは叱らずに、「そうなの。お母さんは○○(息子さん)ならできると思うよ」と肯定してあげてください。他者を変えるより、自分が変わった方が早いといった道理に気づくのはずいぶん大人になってからでもいいとは思いますが、ベクトルを他者に向けるより自分に向けることを学ばせましょう。自分がどうすればみんなのためになるのか。どうすれば、自分も仲間も楽しくプレーできるのか。自分で考えたことをまずは実践してみる。そのうえで、コーチに相談してみたり、同じように一生懸命に取り組んでいる仲間と話し合ってみることを提案してみてください。本人が乗り気でなければ、それでいい。まだそこを学ぶ時期ではなかったということととらえてください。それでも、お母さんからのアドバイスはこころに残り、いつか「あのとき、お母さんが、他人よりも自分がどうするかを考えてみたら?って言ったなあ」と思い出すかもしれません。■「かわいそうに」と同情するのではなく話し相手になること二つめは、お母さん自身が、目の前の息子さんのありように一喜一憂しないことです。仲間から文句を言われる。練習帰りに、泣くこともある。さまざま嫌な思いをするときもあります。ですが、そこで「かわいそうに」「あなたが悪いんじゃないのに」と同情するのではなく、息子さんの話し相手になってあげればいいと思います。息子さんが「大丈夫だよ、できるよ」と勧めたポジション(もしくは役割)を「嫌だ」と拒否したチームメートには、その子なりの理由があるはずです。そのことを聞いてみたら?と勧めてもいいでしょう。もしくはすでに話しましたが、コーチがいるのですから、お子さんからコーチに相談することを勧めましょう。サッカーのことは、そこにいる選手と指導者で解決するのが一番です。なるべく問いかけて、自分で考えさせてください。もう春から4年生です。そんな力はついているはずです。■親はあまり感情を揺らさず、できれば離れてしまった方がいい相談文のなかに、お母さんが「みんながあなたと同じ気持ちではないし、あなたがしたいサッカーをするのがゲームではないと思うよ」と伝えたとありますが、そんなふうに答えを言ってしまうのは少し我慢してみましょう。お母さんご自身も「それは本人もわかっているようだ」と書かれていますが、わかりきっていることはきっと聞きたくないはずです。それよりも、どうしたら楽しくみんなでサッカーできるか、ということを考えさせましょう。チーム全体のことを考える経験は、リーダーシップ力を身につけることにもつながります。お母さんご自身が場面場面でなるべく感情を揺らさず、見守ってあげましょう。「こんなときどうすればいいか」「どんな言葉をかけてあげればいいか」とありますが、お母さんが操るわけにはいきません。その都度親が出てきて何でも解決してあげれば快適かもしれませんが、それでは子どもの成長の機会を奪うことになります。子どもの世界で起きていることなので、基本的には黙ってみている。できれば、もっと離れてしまったほうがいいくらいです。■子どもを伸ばしたいなら、期待をかけるより効果的なのは......(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめは、子どもに期待をかけ過ぎないこと。「こんなにもサッカーが好きで本気でやっている息子を尊敬します」と書いているように、他の子どもに比べてサッカーへの意識が高い息子さんを誇りに思う気持ちが伝わってきます。ただし、高学年になるにつれて、子どもたちは大きく変化します。身体の大きさや、足の速さの順番が変わるように、サッカーに対する意識や知識や認知度も徐々に上がってきます。たくさんの親子、少年サッカーファミリーを見てきましたが、意識が高く早熟なお子さんの場合、ここに親御さんの過度な期待が乗っかってくると、本人はしんどいです。早熟なため小さいときから結果が出てしまうので、結果を出すことをずっと期待されがちです。そこで親御さんが「ふーん。もっとできるんじゃない?」と自尊心をくすぐったり、前述したようにサッカーがチームでやるスポーツなんだと理解できた子は歩みを止めることなく伸びるようです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年03月24日今はサッカー部でレギュラーだけど、小学校の時はサブだったので親の方が力をいれてしまい過干渉だったからか、年齢の割に幼い息子。14歳まで家族と一緒の部屋で寝ていた。思春期だけど反抗もなく学校のこともよく話してくれる素直で真面目な子。自分で考えて試行錯誤してほしいけど、受験の年に失敗している時間はないと悩む。心配性で過干渉な母にアドバイスが欲しい、とのご相談をいただきました。思春期を迎えたサッカー少年へどう接するか、今から思案している保護者の方も少なくないですよね。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとにアドバイスを送ります。一つの参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<強豪チームに誘われたものの移籍をためらう息子の背中を押したい問題<サッカーママからのご相談>サカイクの対象年齢は小学生の子の保護者なので、対象年齢外ですみません。過保護かもしれませんが中学生の息子についてご相談させてください。息子は今中2(14歳)です。小学2年生からサッカーを始めて中学でもサッカーを続けています。部活ではレギュラーになり楽しくサッカーをしていますが小学校の時はサブでしたので、何とか息子の活躍する姿を見たくて親の方が力を入れてしまいました。今から考えると過干渉な親だったと思いますし、もっと楽しく自由にしてあげれば良かったと感じています。中学からはサッカーについても宿題や勉強についても一切口出しせず、本人に任せましたが、入学初めての定期テストは壊滅的で、私は夜も眠れないほどショックでした。それ以来、勉強についてはアドバイスしたり一緒に勉強したり、塾にも行っていますがなかなか成績はあがりません。その息子は、14歳の誕生日まで自室を持ちたがらず、寝るのもみんなで一緒で、勉強もダイニングテーブルでしていました。来年は受験なので、自立を願い自室で勉強してほしいと思い、無理やり冬休みに部屋を作りました。嬉しそうな様子に安心しましたが、私が部屋に行くと「来なくていい!」と強く言われてしまいました。少し寂しい気持ちもありましたが、まぁそう来るだろうなと予想してたので、その場を去り食事の用意をしてると、しばらくして「さっきは強い言い方してごめん」と言って来たので私も「今度からは勝手に入らないで声をかけるね」と言い、お母さんたちはあなたが勉強しているのか何をしているかは分からないけど、自分の行動には自分で責任をとってねと言いました。ただ、3年生になるまでは勉強については時々確認するよと言ったら、素直に分かったと言いました。思春期ですが、激しい反抗も今はありません。学校の事もよく話してくれるし、基本的に真面目で優しい性格です。今までは何もかも視野に入り把握出来てたことが出来なくなるのは当たり前の事ですが、勉強については心配でなりません。成績は下から数えた方が早いくらいで、勉強している割に結果に出てこないので、やり方を見直して計画した通りにやってほしいのですが、それをこれからどのように言っていけばいいのか悩んでいます。あまり言いすぎてはいけないし、でもキチンとやっているのか確認したいのです。出来る事なら、自分で考えて試行錯誤して勉強に取り組んでもらいたいのですが、もうすぐ3年生になるこの時期に、失敗している時間がないと焦っている私がいます。子どもの力を信じて見守る事が良いことは分かっていますがそこが難しい。サッカーに関しては口出しはしていないのですが、勉強となると人生に関わるという思いも強くて......。心配性で過干渉の親だと自覚しています。もっと強い母親になりたいです。こんな私にアドバス頂けたらありがたいです。サッカーの事ではなく子育ての悩みになってしまいましたが よろしくお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。お母さんが冒頭に「サカイクの対象年齢は小学生の子の保護者なので、対象年齢外ですみません」と書かれているのを見て、私はサカイクが小学生年代の保護者に向けて配信しているメディアであることを思い出しました(笑)。でも、そんなことは気にしないでください。中学生のサッカー少年を持つ親御さんの悩みを知ることは、小学生のお母さんやお父さんにもためになるはずです。サッカーしかやらず、勉強や他の経験をしないことの弊害は小さくありません。逆にお礼を言いたいくらいです。■親が鉄を打てるのは中1まで。あとは本人に任せて見守りましょう結論から言うと、息子さんに任せましょう。「勉強のこともサッカーのことも、君に任せるよ。わからないことがあって相談したい時や、欲しい情報があったり、お母さんがサポートできることがあったら頼ってね」そんなふうに伝えて、あとは黙って見守ってください。時折「調子はどう?」と表情を見てあげれば十分です。なぜなら、学習習慣や段取り力がついていない中学生のお子さんに対して、親御さんが寄り添ったり、勉強方法を教えることがある程度可能なのは中学1年生までだと私は考えています。これと類似したことを、私が取材した中学教師や塾の講師の方がおっしゃっていたからです。いうなれば「鉄は熱いうちに打て。ただし、親が鉄を打てるのは中1まで」。■思春期は感情が揺れたり一気に自我が芽生える時期なぜ中1までか。それは、本格的な反抗期が始まるからです。13~14歳である中学2年生にもなれば、ほとんどの子どもが思春期真っ只中。ホルモンの関係で、感情が揺れたり、一気に自意識が芽生えて他者の目を気にするようにもなります。そう考えると、息子さんにお母さんが深くコミットするのは、申し訳ないのですがもう手遅れです。すでに中学2年生であり、高校受験を迎える3年生はすぐそこです。お母さんのおっしゃる通り、早く何とかしなくてはいけません。■「正論はAだとわかっているけれど、本音はB」という考え方を変えましょうまず、お母さんご自身が、今ある「思考癖」を変えましょう。ご相談文を読むと「正論はAだと私はわかっているけれど、私の本音はBです」というパターンの記述が多く見受けられます。(A)今までは何もかも視野に入り把握出来ていたことが出来なくなるのは当たり前の事ですが、(B)勉強については心配でなりません。(A)あまり言いすぎてはいけないし、(B)でもキチンとやっているのか確認したいのです。(A)出来る事なら、自分で考えて試行錯誤して勉強に取り組んでもらいたいのですが、(B)もうすぐ3年生になるこの時期に、失敗している時間がないと焦っている私がいます。(A)子どもの力を信じて見守る事が良いことは分かっていますが(B)そこが難しい。(A)サッカーに関しては口出しはしていないのですが、(B)勉強となると人生に関わるという思いも強くて......。前述した(A)と(B)をもう少し具体的に言い表すと、こうなります。(A)子どものためにこんなふうにふるまえばいいと私は理解している。(B)でも、実際の私はこうです。これは以前の私も含めて、多くの親御さんが子育てするなかで、通る道かもしれません。こうしたほうがいいとわかっているけどできない。お母さんはきっと、時折(A)の態度を見せたかと思えば、(B)になったりしています。ところが、子どもには、お母さんができない(B)の部分しか見えていません。例えば、「自分の行動には自分で責任をとってねと言いました」とありますが、「ただ、3年生になるまでは勉強については時々確認するよ」と告げています。自分で責任を持てと言いながら、確認するという。監視するのなら、監視側にも責任は生じますよね。子どもの性質によっては「どっちやねん?」と親に突っ込めますが、息子さんは違うようです。■親から離れるのが不安なのかも。その不安をもたらしているのは......「思春期ですが、激しい反抗も今はありません。学校の事もよく話してくれるし、基本的に真面目で優しい性格です」と書かれているように、とても"いい子"のようです。ただし、何のストレスもなく心からそうしているのかはわかりません。例えば、「14歳の誕生日まで自室を持ちたがらず、寝るのもみんなで一緒」との記述があります。14歳であれば、夢精があったり、さまざまな第二次性徴が現れるはずです。それでも「自分の部屋が欲しい」と言わなかったのは、どうしてなのか。もしかしたら、親から離れるのが不安なのかもしれません。そして、その不安をもたらしているのは、お母さんの(A)(B)の相反する態度かもしれない。子どもに対し二つの相反する価値観を提示するのは、心理的な「ダブルバインド(二重拘束)」と言います。AとB両方に引っ張られて、息子さんはとても不安な状態にあるのではないでしょうか?■叱ったりするのではなく、サポートする姿勢を見せること(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)加えて、私はお母さんの、この一言に注目しています。「今から考えると過干渉な親だったと思いますし、もっと楽しく自由にしてあげれば良かったと感じています」そこで、「中学からはサッカーについても宿題や勉強についても一切口出しせず、本人に任せた」ところが、入学初めての定期テストは壊滅的で、お母さんは夜も眠れないほどショックを受けた、とあります。ということは、ずっと過干渉で育ててきているので、自分で考えて段取りをつけて学ぶ方法を身につけたり、自ら考える力を養う機会を奪われてきたのではないでしょうか。こういったピンチのとき、お母さんひとりで「何とかしよう」と思ってはいけません。早々に白旗を掲げ、周囲に助けを求めるべきです。まず、パートナー、つまり息子さんのお父さんがいるのなら、彼にも一緒に考えてもらいましょう。ただし、叱ったり、恫喝してはいけません。こういう場合、お母さんがお父さんに「ちゃんと勉強するようにパパからも言ってよ」と、なぜか"お願い"するケースが多いのですが、お父さんが突然「ちゃんとやれ」みたいな怒り口調で接してしまうと、火に油を注ぐことになりかねません。息子さんからすれば「僕のこと、どれくらい知ってるの?」と不快に感じるかもしれません。日ごろお父さんがあまり子育てにコミットしていないご家庭ほど、気を付けなくてはいけません。ご両親は一緒に「見守っているよ」と話せばそれでOK。中学校の担任の先生や、塾の先生に相談して、一緒に見守ってもらいましょう。一緒にサポートしてくれる仲間を増やすことが重要です。お母さんが変われば、息子さんもいい方向へ必ず向かっていきますよ。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年03月10日勝ったり負けたりが当たり前の、普通の少年団。最近は楽しませることが大事だとよく目にするので、自分なりにメニューを組んで実施しており、子どもたちには好評だけど、保護者から「もっと厳しくしてほしい」と......。厳しくされている方が「指導されている」感が出るからだと思うけど、どうしたら楽しみながら成長することを理解いただけるのか。どんな伝え方がいい?とのご相談。保護者への伝え方など、指導者の悩みですよね。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんがご自身が実践していることを踏まえ、保護者の皆さんへの伝え方をアドバイスします。(取材・文島沢優子)池上正さんの指導を動画で見る>>(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<U-8世代にも効率よく理解させる練習メニューが知りたい!いい方法はある?<お父さんコーチからの質問>池上さんこんにちは。私は3年前から地域のスポーツ少年団で指導をしています。地方在住なので情報が都市部に比べると遅かったり少なかったりするのは否めませんが、自分なりに本やネットなども使って勉強しています。指導しているチームはもともと県大会に毎回進出するようなレベルではなく、勝ったり負けたりが当たり前なので、歴代指導者もいわゆる厳しい指導はしておらず、サッカーの基礎を教え、練習最後に行う試合や大会などを通して学んでいくという感じです。よくある地方のチームだと思うのですが、最新のトレンドを抑えたトレーニングや、今現在「良い」とされている指導、チーム運営ができているかというと自信はありません。最近では、楽しませることが何より大事だということをよく目にするので、自分なりにネットや本などで情報を収集し実践しています。子どもたちには楽しんでもらえているようですが、保護者の皆さんに「楽しいのもいいけど、もっと厳しく指導してほしい」と言われます。親御さんたちも楽しむことが大事だと言われていることはわかっているようですが、それが結果や成長につながるかという点で完全に腹落ちしていないようなのです。分かりやすく結果が出ないと親が納得しないということと、厳しく指導されているのが目に見えるほうが「指導されている感」があって満足するようです。厳しい指導の部活などを経験している世代だからこそなのはわかりますが、そんな保護者を納得させるような伝え方や、楽しみながら上手くなることが伝わるメニューの例などがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。今の親御さんたち自身が部活動などで厳しい指導を経験しているため、厳しく指導されているほうが「指導されている感」があって満足する。ご相談者様がおっしゃる通りだと思います。これは保護者のみならず指導者も同様です。皆さん、「スポーツは勝負事なのだから勝つチームがいい」「強いチームをつくるのが、いいコーチ」という評価になっています。■誰かと比べて上か下かではなく、以前よりどれだけ伸びたかを見てあげよう一方で、教育の現場は一足先に変わり始めています。例えば、子どもへの評価の考え方のひとつが「相対評価」です。誰かと比べて上か下か、そこを見ます。そうなると、わが子が、勉強にしろ、スポーツにしろ、属するグループで一番にならないと満足しません。対岸にあるのが「絶対評価」です。子どもが、以前よりどれだけ伸びたか。サッカーであれば、同じ大会で去年は1回戦負けだったのに、今年は1勝して2回戦に進んだ。それはひとつの成長としてとらえることができます。そのように「絶対評価」に慣れてくると、スポーツや少年サッカーの姿は変わってくるかもしれません。自分たちのチームがどれくらい伸びたか。コーチはそのことをよく知っているはずです。以前はあんな練習しかできなかったけど、いまはこんな練習ができるようになった。ここをもう少し鍛えて、こう変われば、もっとうまくなる――そんなイメージはできているはずです。それは、試合に勝つか負けるかではなく、個々とチーム全体が以前より上手くなる。前の年より進化する。そういうとらえ方の説明を、指導者が保護者に対し具体的な例を挙げて話せるようになるとよいかと思います。■コーチが子どもたちに話す姿を保護者にも見てもらう私は、私自身のサッカー観や指導観を保護者に伝えるために、練習や試合で子どもたちに話す姿を保護者にも見てもらいます。コーチ側がどんなことを大切にしているのか。そのことをどう伝えているのか。話を聴いている子どもたちは、そのことを理解しているのか。そういったことを親御さんに見てもらうのです。また、保護者とも可能な限り話します。私が最近新たに始めたチームで、フニーニョ(※ドイツで発祥したミニサッカー。ミニゴールを4つ使い3対3で行うミニゲーム。近年ドイツサッカー連盟が9歳以下の試合に導入を推奨した)の交流会を開催しました。試合のあと、私は保護者にこう言いました。「真剣に守っているように見えないですね。皆さん、どうですか?」すると皆さん、一斉にうなずいていらっしゃいました。「そうですね。次はもっとしっかり追いかけるようになるといいですね」と話しました。そんなふうに、次のステップが何なのかをしっかり親御さんにも伝えます。それを続けていくと、親御さんたちの姿勢は相当変わります。■楽しむことがモチベーションにつながる、という解説もしてあげるそれと同時に、サッカーを楽しむことが子どもたちのモチベーションにつながるという解説を、保護者にしてあげたほうがいいでしょう。昔から「好きこそものの上手なれ」と言われますね。サッカーが大好きだからこそ、真剣にやる。そうすることで、技術は身につきます。そのことは、スポーツ心理学の学びの中でも証明されています。とはいえ、物事に対する子どものモチベーション(動機付け)は、最初の段階では外発的なものが必要です。楽しくなるために、熱中できるために、コーチがどんな活動環境を提供してあげられるか。そこが問題です。楽しいからこそ真剣に取り組むのですが、そのうち気づけば誰も笑っていません。集中します。■「楽しい」はワイワイキャーキャーすることではない。真剣に楽しむことを教えて「子どもはサッカーを楽しみましょう」そんな価値観が広まってきたのは悪いわけではありませんが、私からすると「楽しい」がまだ甘いように感じます。ワイワイ、キャーキャーと歓声を上げるのが楽しい、というレベルで終わってないでしょうか?さらにもっと楽しくなると、笑うことはなくなります。まさしく集中し、ゾーンに入る。練習の中で白い歯を見せて笑っている子がいなくなります。そこをぜひ目指してほしいのです。徐々に真剣になっていく。そんな空気を作るために、常に勝ち負けのあるメニューを考え、子どもたちと対話し、要求を高めていきます。そこを、「笑っている子をなくす」「真剣に取り組む」といった、姿勢というか「かたち」から入ってしまうと、態度への注意が増えます。集中しよう。真剣にやろう。最後まで頑張ろう――そう指示命令されれば、子どもは真剣にやろうとするでしょう。でも、サッカーも、他のスポーツも、そうやって「真剣にやれ」と叱ってやらせるものではありません。そのような管理され作られた空気は長く続きませんし、委縮させられた子どもは自由にサッカーを考えられなくなります。池上正さんの指導を動画で見る>>次ページ:サッカーが俄然楽しくなるきっかけをつくる■「次は、今日負けたところに勝とう」と言ってはいけない理由(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)選手が勝ちたいと思うのは当然です。だから、試合に勝ったら「勝ってよかったね」でいい。それなのに大人たちが「次はあそこに勝って優勝しようぜ」と、次の「勝利」を目標に掲げていないでしょうか?負けて悔しい、でいい。そのあとに「次は、今日負けたところに勝とう」と大人は言ってははいけません。負けたら「残念だったね。また頑張ろう。うまくなろうね」でいいのです。そこで「次は勝とう、相手にリベンジしよう、とは私は言いませんよ」と保護者に説明してもいいですね。コーチがあくまでも「絶対評価」で子どもたちをとらえていることを伝えてください。私が最近地元にチームを作ったのは、絶対評価で子どもたちを育てていくとどうなるのか。子どもたちが大きく成長することを証明したいと考えているからです。ぜひ、そんなふうに考えて、保護者とたくさん話してください。池上正さんの指導を動画で見る>>池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2021年03月05日サッカー経験は小学生の時だけ。小2の息子が入団するタイミングでコーチを引き受けたけど、昔と今ではいろんなことが変わっているのを知った。長時間練習を良しとする時代でないので、効率よく理解させたいんだけど何かおすすめはある?というご質問をいただきました。みなさんならどんな練習を組みますか?これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんがこの年代の指導で大事なことを教えます。参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)池上正さんの指導を動画で見る>>(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<8人制から11人制への移行。幅とスペースの使い方が分かってない子たちにどう教えればいい?<お父さんコーチからの質問>はじめまして。子どもがサッカーをはじめたことがきっかけでチームの指導に携わるようになりました。サッカーは小学生の頃にやったぐらいで、当時と今ではルールなどもかなり変わっているようでイチから勉強している状態です。指導に関わっているのは2年生以下のチームなのですが、効率よく教えたいと思っています。もちろん年代的にまだまだ理解力などが足りない部分はあるし、個人差も当然あるのですが、自分としては長時間練習すればいいとは考えていなくて、土日なども練習の後に友達や家族と過ごす時間を持ってほしいと思っています。なので、子どもたちが理解しやすく、上達につながる練習メニューがないものがと悩んでいるのですが、何か良い方法があれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。長時間練習を課すのではなく、土日など練習の後に友達や家族と過ごす時間を持てるよう指導者が考えてあげるのは、とても良いことだと思います。ただし、「効率よく教える」ことを念頭に置いても、いいものはなかなか出来上がらないと思います。相手は何しろ人間で、しかも個々で発達や成長の度合いがバラバラな子どもたちです。そこを少し考えましょう。■夢中にさせられれば、必ず上手くなるそんなに焦らずに、ゆっくり子どもと一緒にコーチも成長しいこう。そんな心づもりで取り組んでほしいと思います。まだ2年生以下ですから、サッカーが楽しく感じられることを第一目標にしてください。子どもたちが嬉々として取り組める。そんな練習を組み立ててもらえば、夢中にさせられれば、必ず上手くなるはずです。そんなふうに育成をとらえなおしてみてください。例えば、「今日の練習はこれで終わりだよ」とコーチが言ったときに、子どもからブーイングが起きるような楽しい練習、やり過ぎない練習が理想です。子どもたちが余力を残して「ああ、もっとサッカーをしたい!」「コーチ、やらせて」と言ってくるような練習にしましょう。■満足度が高い時間を提供しようジュニア時代は、試合が中心でいつも試合ができることが大事です。私は地元の大阪で「サッカープレーパーク」を週に1回行っています。1年生から中学生までが縦割りで一緒に行う、楽しく夢中になる練習です。90分の中で、60分が試合です。小学6年生にプレーパークの感想を尋ねると「試合がたくさんできるから楽しい」と口をそろえて言ってくれます。満足度が高いのです。試合と試合の間にトレーニングを30分挟みますが、それもみんな楽しそうにワイワイやっています。彼らが自由に自分自身で楽しさを見つけているように見えます。プレーパーク以外の場所でも、私は楽しいサッカーを心がけます。■難しすぎると面白くない、簡単すぎると飽きるそのバランス調整を!先日は小学校に招かれ、2年生の体育の授業を行いました。3対1の鳥かごをやってみました。中には、サッカークラブに入っている子もいれば、女の子も、サッカーをしていない子もいます。最初は、足で蹴らずに、手を使ってボールをパスします。取ったり、取られたりしながらみんなワイワイやっていました。途中で私が笛を吹いたら、手でやっていたのを足に変えます。同じ場所にいてもボールをもらえないので、みんな動き出します。最後までとても楽しそうでした。私の知っている学校では3年生で「ラインサッカー」をやるのですがラインサッカーは、ドリブルをしたらきちんとボールをラインのところで止めなくてはいけません。サッカーをしたことのない子どもがこんなことはなかなかできないだろうなと感じます。そのうえ「八の字ドリブル」もあります。大阪の小学生は「こんなん、サッカースクールやんけ」と言いながらやっていました。つまり、練習の難易度を大人のほうで調整してあげることが肝要です。難し過ぎると面白くないし、簡単すぎるとすぐに飽きます。■子どもたちの意見を聞いてみればいい練習メニューの本はいっぱい出ています。どんなものでもいいので、活用してみてください。子どもがそのメニューを楽しそうにやったなら、またやればいい。でも、食いつかないなと思ったら、やめて原因を考えます。動くグリッド(広さ)を考えるとか、まずは手でやってみるなど、手立てを考えてください。広すぎると疲れてしまい動かなくなるので、動く範囲を狭くしてみればいいのです。グリッドやコートのサイズを変えたり、行う人数を変えたりします。やってみてうまくいかなかったら、そのような微調整をしてください。そういった工夫をしても、なかなか楽しめないメニューもあります。それは「メニューがダメ」なのではなく、チームの成長の度合いにその時は合わなかった、ということ。そのように考えてください。実際のところはどうなのかという判断がつきかねたら、子どもたちに聞いてみればいいのです。「楽しそうじゃないように見えるけど、この練習、どう?」と。子どもがいろいろ教えてくれるはずです。池上正さんの指導を動画で見る>>■サッカーが俄然楽しくなるきっかけをつくる(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)サッカーが楽しくなる一つの要素として個人技を教えてもいいでしょう。例えば、ドリブルのフェイント。コーチが経験者であれば、やって見せてあげます。体を右左に動かし、相手を揺さぶって抜こうとする技術。横並びでドリブルしながら、相手を抜く。ちょっと止まるふりをして、スピードで抜く。それでも抜けないときはローリングターンがあります。アウトサイド、脚の外側からターンするものです。相手を抜かなくてもよく、視野を確保して他の人にパスができます。ローリングターンを覚えて、仲間にパスを出せば、ボールを相手に奪われず、自分たちでボールをつなげます。ボールがつながると、サッカーは俄然楽しくなります。低学年はサッカーの初心者です。トレーニングメニューを探して色々チャレンジしてみてください。どんどん勉強しましょう。池上正さんの指導を動画で見る>>池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2021年02月26日小3の息子が県の強豪チームからスカウトを受けた。体験に行ってみたら本人も楽しいと言い、親も「この環境なら成長する」と感じ移籍に乗り気に。だけど、本人が今のチームの仲間と離れたくないと移籍を決断できずにいる。最終的に決めるのは本人だけど、親としてはより良い環境に導くのも自分たちの役目だと思っている。すでに夫は「1日も早く移籍を!」と急いている。どうしたらいい?とのご相談。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとに3つのアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<気に入らぬなら辞めて結構!?コーチに無視される息子をどう支えるか問題<サッカーママからのご相談>現在小学3年生の息子の進路について助言をいただきたいです。地域のスポーツ少年団に所属しており、夏頃に県の強豪チームから監督を通してスカウトを頂きました。その時は考えた事もなかったので、はっきり答えないまま数か月たち、再度声をかけて頂きました。体験に行ってみた所、息子も楽しいと言い、特に自分の思うところにパスが通る事が凄いと興奮ぎみでした。親から見てもこの環境でやれば大きく成長するだろうなと感じました。しかし、本人がなかなか決断できずにおります。理由は、今のチームの子達と離れるのが嫌だと言う事でした。両方やる事はできないのか?と何度も聞かれます。私からは、楽しくやりたいならスポ少で続ける、もっと上手くなりたいなら強豪チームだよと伝えて、考えてみてと言っています。夫はチーム移籍を希望しており、1日も早く!と言う感じです。監督に相談したところ、先々を考えたら移籍したほうが良いと言われました。最終的には息子が決断することだと思います。ただ、より良い環境に導くのは親の言葉一つだとも思っており、どのように話し、決断させれば良いか迷っています。私自身も成長のためには移籍するのが良いと感じていますが、仲の良い子たちと一緒の今のままでも悪くはないとも思います。子どもに対して、何か良いアドバイスがあれば教えて頂きたいです。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。サッカーが上手くなるには移籍するほうがいいけれど、今の仲間と別れがたい息子の気持ちもわかる......。ひとつの分岐点に立つ息子さんとともに揺れ動くお母さんの葛藤が、メールの文章から伝わってきます。■移籍先のことをよく調べたうえで親の意見を伝えることは悪くない私からは三つアドバイスさせてください。ひとつめ。ご両親ともに移籍に前向きのようです。ただ、「なぜ、息子が移籍した方がいいと思うのか?」という理由を、もう少し二人で話し合ってみてはいかがでしょうか。お母さんは「楽しくやりたいならスポ少で続ける、もっと上手くなりたいなら強豪チームだよ」とおっしゃっているようですが、これを息子さんが額面通りに受け取ってしまうとどうでしょうか。「強豪チームでは楽しいサッカーができないのかな」と不安にならないでしょうか。私から見ても、ご両親がもし「強豪ならサッカーが上手くなる」という点のみをお考えであれば、少し心配です。そのチームのことはよく調べられたでしょうか?試合で、ベンチが大声で選手を怒鳴っていないでしょうか?指導者たちに「楽しくサッカーをする」という視点はあるでしょうか?そういった部分が全くなく、長時間練習で選手は同じメンバーが出ずっぱり、一部のうまい選手だけしか活動させてもらえない、指導してもらえないというような危険性はないでしょうか。もっといえば、移籍しても試合に出続けられそうでしょうか。そこはお子さんだけがジャッジできる部分です。上記のような視点で、お子さんとともにチームを研究。「ここならわが子が充実したサッカーライフが送れそうだ」と考えたのなら、なぜそう思うかをきちんと息子さんに説明しましょう。親御さんの意見を伝えることは決して悪いことではありません。ただ、伝えっぱなしではいけません。息子さん自身がどう感じているのかを聴いてあげてください。できれば順序としては、先に息子さんの意見を聴く。そのうえで、お母さんはこう思う。お父さんはこう思うと話してはどうでしょうか。■9歳で大きな決断を下す息子さんの意思を尊重することふたつめ。まだ9歳でこのような難しい選択をしたことを褒めてあげてください。勧誘のあった強豪クラブのことを調べ、家族で話し合ったあとは、息子さんに決めてもらえばいいと思います。そして、彼の決定が自分たちの意に沿わないものであったとしても、そこで難色を示さない方がいいでしょう。「もう一度考え直してごらん」とか「絶対、移籍した方がいいのに」などと誘導しないこと。あくまで彼の意思を尊重しましょう。「なかなか難しい決断だったね。でも、君が決めたことを、お母さんもお父さんも尊重するよ」と言ってあげてください。そのようにして決めたことは、結果が移籍であろうが、今のチームに残ることになろうが、いずれにしても息子さんは「お母さんにも、お父さんにも認められている自分」を感じることができます。これまで以上に自己肯定感が高まるはずです。これとは逆の親子の例を見たことがあります。息子さんは同じ小学3年生。チームでは上手な部類で、足が速かったその息子のチームを指導していたお父さんコーチの男性は、3年生の秋に息子さんを隣町にある当時JFLの下部組織のジュニアチームに入れようとしました。息子さんは「今のチームでやりたい」と泣いて抵抗したそうです。しかし、お父さんは泣く子を引きずるようにして、セレクション会場に連れて行ったそうです。結果的にセレクションは不合格。そのうえ、セレクションを受けたことが他の選手や保護者に伝わり、チーム内はぎくしゃくし始めました。しかし、無理やり連れて行ったお父さんは「今のチームにいても上には行けない」と言うばかり。お母さんは大変困っていらっしゃいました。ジュニアユースに進む6年生になると、他の選手のほうが伸びてきました。結果的にそのお父さんコーチの息子さんはセレクションがうまくいかず、他のコーチの方の口利きでクラブに入ったと聞きました。■親の一声でわが子を動かすのが良しとされたのは昭和まで(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめ。このように子どもが何かの岐路に立たされた時、親の態度が一転、二転しない、ブレないことがとても重要です。お母さんはメールに「最終的には息子が決断することだと思います。ただ、より良い環境に導くのは親の言葉一つだ」と述べておられます。さて、本音はどちらでしょう?私にはわかりませんが、子どもは親がいくら繕っても本音を見破るものです。親がツルの一声でわが子を動かすのが良しとされたのは、昭和までの子育てです。進学も就職もスポーツも選択肢が非常に狭く、社会的にも「上の言うこと素直に聞いて実行できる人間」が重宝された時代には、親が強権をふるっても何とかなったかもしれません。ですが、平成ではすでにそのような子育ては通用せず、すでに時代は令和です。息子さんに大きな救いがあるのは、現在所属しているチームの監督さんが、「先々を考えたら移籍したほうが良い」と言ってくれていることです。有望な子が移籍してしあうのを、日本では多くの指導者が止めてしまいます。とても信頼できる方だと思います。その監督さんとも息子さんが話して、最終的に決めてもよいでしょう。今回の分岐点が、息子さんにとって大きな糧になるよう、サポートしてあげてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年02月17日もうすぐ中学生になるので11人制の準備をさせたいけど、8人制とはコートの大きさも異なるので、どうしても中盤がぽっかり空いたり、自分でスペースを見つけることが出来ない子どもたち。11人制の動きを教えるにはどうしたらいい?とご相談をいただきました。実はこの時期よくある質問なのだそう。みなさんのチームではどうしていますか?これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんがアドバイスを送ります。参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)池上正さんの指導を動画で見る>>(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<サッカー初めての子たちに楽しく基礎を教えるメニューが知りたい<お父さんコーチからの質問>こんにちは。小6の子たちを担当しています。11人制への移行段階での指導についてご相談です。私が指導しているのは地域の少年団で、ほとんどの子が同じ中学で部活に進みます。サッカーを続ける子は中学に入ると11人制になるわけで、今のうちから準備をさせたいと思っているのですが、やはり8人制とは勝手が違うのでなかなかうまくいきません。どうしても中盤にスペースができてしまったり、ボールの受けどころなど自分でスペースを見つけることや、スペースを作る動きが難しいようです。11人制のプレーを理解させるためのおすすめの指導などはありますか。<池上さんのアドバイス>ご相談、ありがとうございます。まず最初に申し上げておきたいことがあります。8人制から11人制というように、人数が増えるとサッカーの理解が変わるわけではありません。幅と深さを理解して相手を崩していく、もしくは守る。そこは同じです。■8人制のうちから理解させてほしいこと攻撃にしても、守備にしても、コートのサイズが大きくなれば、動く距離は変わります。パスの長さも変わる。当然のことです。ただ、その成り立ちをきちんとわかっていれば、あとは距離に対応するだけのことです。逆に言えば、8人制のところでちゃんと理解させなくてはいけませんよ、ということです。例えばドイツは、11人の前に9人制でプレーさせます。コートの大きさも、縦はペナルティエリアのライン前まで両方のゴールを出し、サイド(横)も狭くします。コートは11人制とそんなには変わらないうえに、9から11と2人しか増えないので、やるべきことはほぼ変わりません。パスもちゃんとつながります。9人制の前は7人なので、そこも同じようにスムーズです。■味方同士の距離感を保つようにトレーニングする一方の日本では、少年サッカーの8人制が大人のコートの半分サイズになります。大人コートで2面とれて、ゴールも小さいわけです。ところが、11人制になると、コートのサイズが倍になる。練習の中で成り立ちを理解しプレーしてきたのなら問題ないのですが、クローズドスキルが多くなってしまうような練習が多かったのなら、なかなかうまくいかないかもしれません。そうならないためには、8人制で味方同士の距離感を保つようトレーニングする必要があります。例えば、守備。サッカーの世界でいう「アコーディオン」のように、味方との距離が長くなったり、短くなったりするのはよくありません。選手間の距離が伸びるとスペースができて、そこを相手に使われてしまいます。つまり、コンパクトにポジションを取る。これを少年の間に身につけてもらわなくてはいけません。逆に、攻撃では広がって、スペースを生むことが需要です。幅と深さを理解させてあげることです。攻撃では広がって、ボールを奪われたら広がらずにコンパクトに守る。これを8人制でも伝えていきます。■今のやり方は中学に行く前の「塾」のようなもの。先取授業する必要なしただ、いただいたご相談では、もっと大きな問題があるような気がします。11人制に備える練習が、中学に行く前の塾のように見えるのです。そもそも、子どもたちの成長は時間がかかるし、個々でその速度も異なります。大人はそこを理解したうえで、子どもが自由に自分から様々なものを学び取っていく環境を用意するのが最も重要な役割です。どう考えたほうがいいと思う?などと、常に問いかける。例えば試合で、スペースが生まれてしまい、そこを使われて失点したり、ゲームを支配される。そんな体験はすべきです。そのような失敗をしなければ、自分でどうしたらいいかを考える経験ができません。すべて一から十まで教え込んで、成功させるばかりでは、彼らが知らないことがでてきたときに、どうしたらいいかを考える力を養えません。転ばぬ先の杖を立てては、足腰が鍛えられないのです。まずは、6年生ならば、8人制のサイズの幅と深さのトレーニングをやってください。賢くサッカーをする仕組みを理解することが重要です。例えば左サイドにボールが動いたら、相手も警戒する。そうなれば、右に大きなスペースが開く可能性がある。そういう理解を6年生はできるようにしてください。狭いところから広いところに出て行く。守る側もそれが常識で狭い側はタイトに寄せる。広いスペースの選手はぴったりはつかず、間合いを開けておく。そうすれば、サイドチェンジされても、スライドして広くカバーできます。次のステージで困らないように、とご相談者様は考えておられるようですが、次のステージでやるべきことを前もってマスターする必要はありません。今の学年でやるべきことがちゃんとして入れば問題ないのです。■大人が形ばかり追いかけると、選手たちの自分で解決する力が育たない私がジェフの中学生をみたとき、中1は小学生のサッカーしかできなくて当たり前だと話しました。入ったらすぐに2年と試合をします。ジェフに受かった子はみんな小学生時代はエース級の選手なので意気揚々と臨みますが、5分で3点取られたりしました。ここで初めて「中学生のサッカーは小学生と違うよ。これからうまくなろう」と話すのです。ペップ・グアルディオラ(イングランドマンチェスターシティの監督)が2017-18のマンチェスターシティーで成功させた「5レーン理論」という方法があります。縦に5つのレーン、横に3つのゾーンを分けて説明しています。これはチーム戦術としてみんなが理解して、それぞれがこうしよう、ああしようと考えながらプレーするひとつのベースとなる考え方です。これをやったら上手くなるわけではありません。それなのに、日本の指導者には、言葉ばかりにとらわれてしまいがちです。大人が形ばかり追いかけると、選手たちに自分で解決する力が育ちません。基本的な指針はあっても、違う解決法を選手が取るかもしれない。それはそれでいいのです。選手がその時にやったことが、その選手の「正解」だと受け取ってください。それなのに、日本ではコーチが「さっき言ったでしょ」と自分の考えや見方、とらえ方を押し付けてしまう傾向があります。あくまでも、選手が選択したことが「そのときの答え」なのだ、トレーニングは選手を自立させるためにある、ということを覚えておいてください。池上正さんの指導を動画で見る>>■中学に備えて5号球を使うのもリスクがある(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)この季節、6年生のコーチの方々に「もうすぐ11人制になりますが、なにかやったほうがいいですかね?」とよく尋ねられます。「ちゃんと育てておけば、8人が11人になろうが問題ないですよ」と私は答えます。加えて、この時期、6年生の練習や試合でいきなり5号球を使い出す指導者がいます。これもいいとは思いません。日本はオスグッドになる子が多いです。無理させず、中学生になったら蹴ればいいんだよと伝えましょう。池上正さんの指導を動画で見る>>池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2021年02月12日フル出場の子は毎回同じ。高学年で試合経験をほとんど積めていない6年生。どうすれば試合に出れるか本人がコーチに聞いて、アドバイス通り努力しても報われず。最近では「辞めたい」と口にしたことも。春からは、今のチームの指導者が中学生のクラブを創設するけど、息子は構想に入っていない。だから別のクラブの体験に参加したら、指導者からの無視が始まった。もうすぐ卒業だし今更波風立てたくないけど、傷ついた息子をどう支えればいい?とのご相談。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<仲間からの暴言があるうえ試合に出られない5年生。移籍したほうがいいのか問題<サッカーママからのご相談>こんにちわ。もうすぐ卒団する6年の男児ですが、最近初めてサッカーを辞めたい、と口にしました。中学年の頃には試合もよくでていて、生き生きと頑張っていましたが、高学年になり出場時間が減り酷いときは2分位になりました。フル出場している子は毎回決まっていて、高学年になり試合経験というものをほとんど経験させてもらえません。練習時には、次の試合ではお前を......とか次、チャンスあるぞ、などと言われ子どもも「次」に期待し毎日トレーニングに明け暮れていましたが、結局「次」はありませんでした。そして今、息子は指導者に無視されています。以前、息子はどうすれば試合に出れるのか指導者に聞いたそうです。その時はボールを持っていないときの動き等のアドバイスをもらい、意識し取り組んでいました。しかし、出場時間は短くなるばかりか出れないという現実。そして、指導者が中学でクラブチームを設立するそうで今のスタメン組をそのまま引き寄せ指導したい考えだと知って、構想に入っていないであろう息子は最近、別のクラブチームの体験練習に参加したのですが、その事が気に入らなかったようで、あからさまな無視が始まりました。公式戦をあと一つ残している今、親としては荒波を立てたくない一方、子どもが不憫でなりません。息子にはあなたは何も悪いことはしてないのだから、堂々としていていいんだよ、と言っていますが、息子はそういった態度を指導者にとられたショックが大きく、サッカー自体に拒絶反応を示し始めています。以前から「自分の指導が気に入らないなら辞めて結構」というスタンスで親の話など全てクレーム扱いで、何を言っても改善される兆しはありません。早く親子で次のステップへ移行したいと思っていますが、本当に息子がサッカーを辞めてしまうのではないかと不安です。とりとめのないご相談になってしまいましたが、自信を失っている息子をどう支えればいいのかアドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。なかなか難しい環境に身を置く息子さんを救いたいというお母さんのお気持ちが、相談文から伝わってきました。まず最初にお母さんにお伝えしたいのは、息子さんにイニシアチブ(主導権)をとらせること。それが何よりも重要です。■主体性のある子なので、好きにさせましょうご相談文を読むと、息子さんは自分から「どうしたら試合に出られますか?」とコーチに尋ねるなどしており、決して主体性のない子どもではなさそうです。自分で考えて自分で決める力を持っているように感じます。したがって、いま息子さんが心の底からサッカーをやめたいというのであれば好きにさせましょう。ただ、今のクラブの練習に行きたくない、活動に参加したくないだけなのであれば、「無理にいかなくていいよ」と退団させて、中学になってサッカーをする場所を探せばいいのです。今もう2月になり、次のサッカーキャリアが始まるまではわずか2か月。サッカーをしなくても、他のことをして体を動かしてもいいですね。そうではなく、本当にやめたいというのであれば「じゃあ、中学になって他に何か見つけられるといいね」と言ってあげてください。「何をしてもいいよ。君が好きなように、やりたいようにしていいよ。お母さんはすべて支持するよ」と言ってあげましょう。■まずはわが子の気持ちに寄り添うこと息子さんが自分で動き出すために、お母さんが考えることを三つアドバイスします。ひとつめは、息子さんの気持ちに寄り添うことです。別のクラブチームの体験練習に参加したことは、何も悪いことではありません。現在所属するクラブのコーチが立ち上げるチームに進んだとしても、試合に出るチャンスはない確率が大きい。そう息子さん自身が判断したことは賢明だし、何より彼には選ぶ権利があります。ところが、コーチは「その事が気に入らなかったようで、あからさまな無視」が始まったわけです。最も自分を認めてもらいたい「コーチ」という対象に、無視をされる。このことの辛さをまずお母さんは心から理解しなくてはいけないと思います。どれだけ辛いか、どれだけ苦しいか。そんな思いを中高の部活動で味わった生徒が自死する案件は、近年もなくなりません。私はそういった案件をいくつも取材してきましたが、彼ら自身、息子さん同様最も認めてもらいたい、褒めてほしい相手に無視されたり、不当な扱いを受けたことに絶望し命を絶っています。もちろん息子さんにその危険性があるよなどと、脅したいわけではありません。「あなたは何も悪いことはしてないのだから、堂々としていていい」という言葉が息子さんを追い詰めないでしょうか。■今回のケースは親が介入してよい。子ども一人に戦わせないこと二つめは、可能であればコーチと話をすることをお勧めします。「公式戦をあと一つ残している今、親としては荒波を立てたくない」のであれば、堂々としていろと息子さん一人に戦わせてはいけないと思います。息子さんと話し合って、息子さんが精神的に活動を続けるのがきついのであれば、すでに申し上げたようにクラブは退団する。その説明をお母さんがしてもいいかと思います。お母さんが何かクレームを発したくらいではコーチの方の考えは変わらないでしょうが、子どもを無視する行為は今後やめてほしいと告げたほうが良さそうです。子どもにもおとな同様に人権があるのですから。不当な扱いをされたときに救ってあげるのは、保護者しかいません。無論、コーチ側の言い分はあるかもしれません。が、お母さんの書いたことがすべて真実であれば、他クラブの体験に行ったことで大事な選手を無視したりする指導者に、サッカーコーチを名乗る資格はないと私は考えます。この大人の理不尽を、わが子に背負わせるのはあまりに酷です。■頑張れ、というだけが親の役目ではない。傷ついているわが子の心のケアを!(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめは、息子さんのこころのケアをお母さんなりにしてあげてください。今、彼はとても傷ついています。苦難をはねのける強さも重要ですが、理不尽に立ち向かえと命じるのはわけが違います。弱い自分を乗り越えるとか、ある意味「正当な苦難」を克服する経験は後でいくらでもできるはずです。彼やお母さんの力でどうにもならないことにエネルギーを費やすのは無駄なことです。闘え、頑張れというだけが親の役目ではありません。戦う相手や、その苦難が乗り越える価値のあるものかを一緒に子どもと考える必要があります。最後に、私からお母さんへのエールです。何も悪いことはしてないのだから、堂々としていてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年02月10日1年の頃からボール拾い。練習したくても一部のメニューにしか入れてもらずチームメイトからも「下手だな」と言われてきた。それが苦痛でやめようとしたことも。それでもあるきっかけで気持ちを持ち直し、上達のためにかけもちで練習を頑張って、試合にも出られるようになっていたのに、県大会でメンバー入りできなかった。それを知ったチームの子たちから暴言が始まり、泣いて帰ってきた。5年生後半だけど移籍させるべき?ほかのチームでも同じことがある?というお悩みをいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<努力しないのに根拠のない自信だけはある息子に手を焼いてます問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。5年生の息子が市内の強豪クラブチームに通っています。サッカーのレベルはBチームでベンチ頻度が高い子です。大人しくて人見知りが強く、1年生から入部しているのですが似たタイプの子としか仲良くできません。1年の頃からずっとボール拾いで、練習をしたくてもパス回しのメニューしかさせてもらえない事も多々あり、チームメイトからも「下手だな!」などと言われ続けてきました。一時はその環境が苦痛となり、辞めるように話した時期もありましたが、ちょうどそのタイミングで小学校の同級生が入部してきたことで、現在は少しずつまわりとの距離感が縮まりつつありました。今では「下手だと言ってきたみんなより上手くなりたい!」と地元のチームの練習にも行って、掛け持ちで頑張っています。いまだに、クラブチームの練習になると周りからの反応に萎縮してなかなか本来の動きができずにいますが、地元のチームでは、周りの保護者から「この子が1番うまいね」と言われるくらい動きもよくなりました。練習試合でも、Bチームですが試合に長時間出れるようになってきて、本人も自信がついてきたようにも思えました。ですが、最近あった県大会の試合にレギュラー入りできず、ユニフォームさえも与えられませんでした。県大会に選ばれなかったことを知ったクラブチームの子たちから、またもや言葉の暴力が始まったと泣いて帰ってきました。今までそれを乗り越え頑張ってきてましたが、この環境ではやはり能力が発揮できないのでは?このままではサッカーが大嫌いになってしまうのではないか?と感じています。5年生も後半になりましたが、クラブチームの移籍を検討した方が良いでしょうか?高学年だとどのチームでも似た現象があるのではないかと心配してしまい、悩んでおります。何かいいアドバイスを頂けたら大変嬉しく思います。 よろしくお願い致します。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。ご相談文を読むと、お母さんが息子さんをどれだけ大切に思っているのかがよくわかります。また、息子さんがどのような環境でサッカーに取り組んでいたかなど、置かれた境遇は私なりに理解しました。5年生の3学期という今の時期に、クラブチームの移籍を検討した方が良いのか。まずは、この質問に答えます。■移籍するかどうかは当事者が決断すること結論から申し上げると、移籍を検討したほうがいいか、しないほうがいいのかは、私には意見できません。なぜなら、それは当事者の息子さんが決めることだからです。他人である私はもちろんのこと、お母さんが検討することではないからです。お母さんの相談文を読むと、息子さん本人が「こうしたい」「こう思っている」などと、彼が意思表明をした話が出てこないのが気になります。それをお母さんがメールに書かなかっただけで、彼が「移籍したい」「チームを移りたい」と自分の意見を述べているのであれば、一緒に考えてあげればいいと思います。■気をつけなければならないのは「移籍までのプロセス」ただし、ひとつ気をつけなければならないのは、移籍までのプロセスです。例えば、彼が移籍したいと希望する理由は、以下のものでしょうか?「試合に出たいから、出場機会を求めたい」「いじめがひどくて、もう我慢できない。いじめてくる友達にはいつも抗議しているし、コーチにも自分から話して相談したけれど、収まらない。違う環境でサッカーをしたい」「自分で移籍先も考えている。一緒に見学に行ってほしい」以上のように、自分自身で状況を打破するためにいろいろ努力していたけれど、変わらない。だから移籍したい。そんなふうに息子さんがしっかり意思を示しているのであれば、彼が率先垂範してチームを探し出してきた情報に対して、一緒に考えて意見を述べるなどして手伝ってあげればいいと思います。一方で、もし、息子さんがそういった意思を表明していないのであれば、特にお母さんが動く必要はないでしょう。あるとすれば、「あんまり辛いなら、チームを変わっていいよ。自分で探しておいで」と、環境を変える方法もあることを伝えればいいと思います。小学5年生とはいえ、最上級生の6年生はすぐそこです。コロナ禍でオンライン授業も受けているでしょう。ネットでも何でも使えるはずです。ここは、自分で道を切り拓く力をつけてほしいと考えます。したがって、お母さんは息子さんの好きにさせておけばいいのです。■今のままではお子さんがこの先嫌な経験をしたとき「お母さんのせいだ」となる可能性も私は、息子さんが移籍したほうがいいか云々よりも、お母さんが綴っている息子さんの身に起きるかもしれないことへの不安の強さが気になります。この環境ではやはり能力が発揮できないのでは?サッカーがこのままでは大嫌いになってしまうのではないか?高学年だとどのチームでも似た現象があるのではないかと心配してしまい、悩んでおります。ご自分で読んでみていかがでしょうか。「この環境」と書かれていますが、さまざまなことを他罰的にとらえてしまってはいませんか。例えば「息子がサッカーを上手くならないのはチームのせい」「楽しめないのは仲間のせい」と、こころの中で思ってはいないでしょうか。どれも、完全に息子さんのサッカーが完全に「自分事(じぶんごと)」になっていませんか。親が子どものネガティブなことに同化してしまうと、ついつい「転ばぬ先の杖」を用意してしまいます。転んでもいないのに杖を渡すので、足腰は鍛えられません。そして、親の選んだ方向にばかり引きずられると、そこで何か嫌なことが起きたときに「お母さんが移籍させたからだ」と、子どももまた"他罰的"になってしまいます。■良かれと思ってやったのちに「自分で考えさせれば良かった」と後悔する親たちサッカーの育成に関する取材を始めて15年以上経ちます。出会った何百組もの親子さんで、親御さんが先に先に杖を用意したり、道をこしらえてしまった人たちは、後でみなさん後悔していらっしゃいました。「自分で考えさせれば良かった」「選ばせればよかった」そうおっしゃるのです。その時は「良かれと思って」親が動いたことはほとんどの場合、子どものためになっていないことのほうが多いのです。子どもが何かに取り組む際のモチベーションに、「外発的動機付け」「内発的動機付け」があります。外発的動機付けは、親に言われたり、コーチに「こうやれ」と命令されること。内発的動機付けは、自分から「こうしよう」「こうしたい」と考えたものです。いわずもがなですが、内発的な動機付けのほうが、子どもは大きく成長します。息子さんのサッカーは「他人事」だと心得ましょう。彼がサッカーを大好きになれる環境はどんなものか。そんな提案をして、本人に選ばせることが重要です。そして、少しずつでいいので自分でさまざまなことを選べる人間にする。それがお母さんの役目だと思います。■子どもの不安で親が一緒に溺れないように(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後になりますが、前回の連載はきっと参考になると思います。『努力しないのに根拠のない自信だけはある息子に手を焼いてます問題』わが子の不安の海で、親が一緒に溺れないようにしてください。不安と戦う息子さんに「どうしたら楽しくサッカーができるか考えよう」と誘ってあげてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年01月27日職場でU‐8以下の子どもたちを指導することになったけど、自分自身はサッカー経験なし。初めてサッカーをする子たちばかりだけど、楽しんで基本が身に付くような練習はある?とお悩みのコーチよりご相談いただきました。長くサッカーを続けるためにも、サッカーに出会う時期の楽しさは大事ですよね。現在低学年や未就学児に指導されている方も池上さんのアドバイスを参考にしてください。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、この年代への指導で大事なことをお伝えします。(取材・文島沢優子)池上正さんの指導を動画で見る>>(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<何をやっても楽しそうじゃない子のテンションを上げる練習を教えて<お父さんコーチからの質問>こんにちは。職場の幼稚園、小学校低学年でボランティアコーチをしています。自身はプレーの経験は無く、元2級審判員です。今は3級で現役です。これまでも何回も聞かれているかもしれませんが、サッカーが初めてのこの年代に楽しみながら基本を教えるには、どうすれば良いでしょうか?<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。メールに「サッカーが初めてのこの年代に楽しみながら基本を教えるには、どうすれば良いか?」とありますね。ご相談者様がおっしゃる「基本」とは、ボールを蹴る、運ぶ、止めるといった主には個人スキルを想像されていると想像します。しかしながら、サッカーは自分以外の仲間がいますね。その仲間とパスをつなぎながら、相手にボールを取られずシュートまでもっていく。そしてゴールを狙う。それがサッカーです。たとえ幼児だろうと、指導はそこから入ってほしいと思います。ところが、未就学児や小学校の低学年にミニゲームをしてもらうと、団子になります。特定の子どもだけがドリブルをし、他の子が追いかけて行くような場面が多く、ボールを扱う子どもが限られてしまいます。そのため、ボールを扱えるように、止める、蹴るを体験できる対面パスやコーンドリブルの時間が増えていく。そんな傾向があります。■「まだ団子サッカーで仕方がない」ではダメ先日、千葉県柏市サッカー協会からの依頼で、セミナーを開きました。その際に町のクラブの方から、団子サッカーをどう解消したらいいか?といった質問がありました。多くの方が「まだ幼稚園だから団子で仕方がない」と考えているようです。しかし、そのままにしておかないでください。そこからどうサッカーにつなげるか。指導者の方に対策を立ててほしいのです。仲間とつないでいくのが当たり前のこと。それがサッカーだという認識を持てるよう子どもを育てる必要があります。団子サッカーを卒業させようと考えた場合、子どもたちに「団子にならないようにしよう」とか「団子にならないで広がって」と指示することが少なくありません。ところが、言っても、言っても、団子になってしまう。指導者は途方に暮れます。■団子サッカー解消のためにどうすればいいかでは、どうするか。まずは、子どもたちに、自分たちがどんな状況になっているかを理解してもらいます。「いま、どんなふうになってる?」問いかけると、子どもなりの意見が出てきます。「○○君は僕の味方なのに、僕のボールを取りに来る」「人がいっぱいいるから前に行けない」2、3人だけでなく、みんなに尋ねてみてください。そういうことを認識させることが大事です。そのあとで、「なるほど。みんなそんなことを感じているんだね。じゃあ、どうしたらいいかな?」とまた問いかけます。そして、それぞれが「みんな広がってみる」とか「空いてる人にパスする」と、対策が出てきたら、「じゃあ、そこに気をつけてやってみよう」とまたミニゲームをやらせます。子どもですから、もちろんすぐに「自分で気をつける」ことはできません。が、やりながら、コーチからも、考える材料になる問いかけをします。「味方の近くにいるのと、遠くにいるのとでは、どっちが相手からボールを取られないかな?」そんなふうに話し合いながら練習を進めてください。そのとき、決して答えを言わないでほしいと思います。■手取り足取り教えることが指導ではない以前、私が日本人コーチの佐伯夕利子さんが所属するスペインのビジャレアルの5歳児たちのミニゲームの動画を見せた時のことです。幼児でもパスをつなげることを見せて、「ここまでに育てるのに2~3年かかるそうです」と話したら、参加していた方がこうおっしゃいました。「私はそんなに我慢できません」日本の指導者は、どうも早く結果がほしいようです。コーチが我慢する、しないの問題ではないことを理解してほしいものです。子どもたちにサッカーがどんなスポーツかを教えるには、前述したようにやり取りしながら理解を深めていく「時間」が必要不可欠だということをわかってもらえないでしょうか。「コーチがこんなに言ってるのに、どうして君たちはやらないの?」「やらないから上手くならないよね」そんなふうに責めたり、手取り足取りして教えることが指導だと思っていませんか?子どもたちを「一日も早くうまくしなければ」と思っていないでしょうか?何かができたら、次はこれというふうに、進み具合を大人のほうで決めて、そこに当てはめようとしてしまう。そこに追い付けない子どものことを心の中で否定したり、成長をあきらめていないでしょうか?指導に決まったマニュアルはありません。いま、目の前の子どもは上手くできないかもしれません。ただ、大人の目には見えないけれど、前述したように考えさせる指導をしていけば、子どもは日々何かを獲得するはずです。ビジャレアルの子どもたちも、そのようにしてサッカーの認知度を上げたのだと考えます。■サッカー経験がなくてもできる、子どもたちが自分で考えるようになる「問いかけ」また、「上手くなってもらうには、どんな声がけをしたらいいですか?」という質問をよく受けます。すでにお伝えしたように決まったマニュアルはないので、こう声をかければ上達する、という魔法の法則はありません。あるとすれば、いまのどう?うまくいった?というような問いかけです。子どもが自分で考え始めるきっかけになる問いかけは、別にベテランでなくても、サッカー経験者でなくても、誰でも聞けます。考え方を理解してもらえれば簡単なことです。ただし、この問いかけを続けるには、そういうことが必要であることを大人のほうがきちんと理解していなくてはいけません。ミスパスを「それはミスだね」とだれにでも言えますが、それは指導ではありません。そういったことを理解してもらわなくてはなりません。■問いかけと対話を重ねて子どもたちの視野を広げてあげるミスパスがあれば、「いま、誰にパスしようと思ったの?」と聞くことができるコーチになってください。「だってあそこに味方がいたんだもん」「右に味方がいたから」と答えれば、「じゃあ、左にいたのは見えた?」と尋ねる。そうすれば、「じゃあ、右も左も見られるといいね」となります。その次に「両方見ました」と言ってくる日が来ます。そのときは、じゃあ、その選択はどうだった?となります。対話だけをみても、その子どもが進化しているのがわかるかと思います。選ぶのはその子の権利。コーチの役目は、視野を広げてあげることなのです。池上正さんの指導を動画で見る>>■「こっちでしょ」コーチが答えを教えると、ほかの可能性を見逃す(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)「こっちでしょ」と一つの答えだけをコーチが教えてしまうと、見逃すものがいっぱい出てきます。サッカーをより楽しくするためには、どこがいいかな?と子どもがワクワクしながら考えられること。それができる環境を指導者が保証してあげることが重要です。そうすると、よりサッカーを楽しむためには、視野を広げるんだ、という結論になります。より楽しくなるよね、という考え方をもって子どもに接してください。池上正さんの指導を動画で見る>>池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2021年01月22日どんな練習をしても楽しそうじゃない子。練習強度に物足りなさを感じているわけでもなさそう。練習についてこれなくてツライ、という感じでもない。頼まれて昨年からコーチを引き受けたばかりで、どんな対策をしたらその子たちのテンションを上げられるのかわからなくて......。楽しくボールを蹴ってほしいけど、どうすればいい?とお悩みのお父さんコーチ。みなさんならどうしますか?これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、楽しんでできる練習メニュー例や楽しめてない子への個々のアプローチをアドバイスします。参考にしてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<相手にボールを奪われると取り返しに行けない子、ボールの奪い方をどう理解させたらいい?<お父さんコーチからの質問>初めまして。これまで池上さんの本を何冊か読み、とても勉強になりました。ありがとうございます。私は10歳の息子をもつ父で、昨年から少年団のコーチを頼まれてチームに関わっていますが、指導方法で悩みがあります。私は細かい技術指導と言うよりも、楽しく、これから先ずっとサッカーを続けて欲しいと願い、子どもたちと一緒になってボールを追いかけてサッカーを楽しんでいます。ですが、1、2名全然楽しそうでない子がいます。ハッキリ言ってうまい子たちという訳でもないので、練習強度に物足りなさを感じているわけではないと思います。なので、練習内容のレベルを下げてみても楽しそうにボールを蹴ってくれません。そういった選手のテンションの上げ方や、楽しめる練習方法などアドバイスを貰えたらと思います。お忙しいところ恐れ入りますがよろしくお願いします。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。小学生は、いかにサッカーに興味をもってもらうか。そこが、その後も長く競技を続けてもらえる入り口だと考えます。その点から、ご相談者さまが、ひとりか二人の子どもについて「どうも楽しそうじゃないぞ」と気づいてくださり、そこをご自分で考えた末に私に相談してくださったことをうれしく思います。■一人ひとりがサッカーを始めたきっかけを知ることが大事子どもたちがサッカーを始めるきっかけは、さまざまです。自分から興味を持つ場合もあるし、友達に誘われたり。サッカー経験者やサッカーファンの親御さんから勧められることも多いです。ただし、親に連れてこられたから難しい、というわけではありません。入り口はそうだったとしても、そこからその子自身にサッカーを心から好きになってもらえるかどうか。そこがジュニアの指導者の腕の見せどころです。その点から言うと、コーチは子ども一人ひとりがどんなきっかけでサッカーを始めたのか、また、自分たちのチームを選んだのかを知っておく必要があるでしょう。■最初はシュート練習など初心者が楽しめるものをそのうえで、子どもたちの状況を踏まえながら、サッカーがどんなものなのかを伝えていきます。最初は鬼ごっこをしたり、ドリブル競争をしたりと、ボールを扱って遊ぶことを楽しんでもらう。そういったプログラムから入ってください。最初から技術練習から入ると、楽しくありません。初心者がサッカーをして、まず最初に「楽しい!」と感じられるのは、シュートが決まった瞬間だと思います。したがって、ボールをもらってシュートするような場面がたくさん出てくる練習をやらせてあげてください。ゴールを決めると楽しくなり、もっとサッカーをしたい、うまくなりたいと思うものです。フットサル日本代表元監督で、ジュニアの指導にも詳しいミゲル・ロドリゴさんと何度か話す機会があったのですが、彼は「ジュニアには、一日の練習で必ず全員が得点する状況をつくってほしい」と話していました。■楽しんでできる練習メニュー例いただいたご相談の中で「楽しめる練習方法などアドバイスを」とあります。実際にそのチームの練習を見ないとわかりませんし、こんな練習が楽しいですよと言っても、そこにいる子どもたちに合うかどうかわからないのが悩ましいところです。そのことを踏まえて、以下のメニューを参考にしてみてください。1.二人でドリブル競争・シュートゲーム皆さんにいつもお話ししていることですが、私の経験上、競争のあるメニューにすると子どもが楽しく取り組めると考えています。2.フニーニョドイツが育成段階でやろうとしている3対3。ゴールが4つあり、ボールを触る回数、シュートを打つ回数も増える。サッカー強国ドイツが導入を決めた3vs3のミニゲーム「フニーニョ」とは■子どもたちがサッカーを好きになるような指導を心がけましょう繰り返しになりますが、ご相談者さまが考える「子どもを楽しませる指導」はとても重要です。一国のサッカーを強くしたいと考えたら、プロや日本代表といったトップだけを鍛えようとしても実現しないでしょう。サッカーに出会う子たちが、いかにサッカーを好きになってくれるか。ファンをつくらなくてはいけません。そう考えると、ドイツのようなすでに4回もW杯を手にした(西ドイツ時代を含め)強豪国でも、子どもたちがより楽しくなる方法を模索しつつ普及への努力を惜しまない。その姿を見ていると、子どもたちみんなが上手くなること、底上げがいかに重要なのかがよくわかります。対する日本は、1993年にプロ化したばかりで、W杯も最初の出場は98年フランス大会からというサッカー後進国です。私たち指導者は、多くの子どもたちがサッカーを大好きになってくれるようにもっと努力しなくてはいけないと思います。もっと他のメニューや、詳しいやり方や他のメニューを知りたい場合は、手前みそではありますが、私の本を手に取ってみてください。練習方法に触れているものとしては、『池上正の子どもが伸びるサッカーの練習 』(池田書店)『「蹴る・運ぶ・繋がる」を体系的に学ぶ ジュニアサッカートレーニング』(カンゼン)の2冊があります。無論ですが、ネットその他でも情報は得られるはずです。■楽しそうじゃない子たちから好みの練習を聞きだすしつもん次に、子どもたち個々への接し方についてお話しします。私は基本的に、楽しくやっている子、集中できている子にはあまり声をかけません。その部類の子どもたちは、自分で勝手に上手くなっていく要素がすでにあります。したがって、楽しそうじゃない子や、難しい顔つき、困ったような様子の子どもに積極的に話しかけます。例えば、「こうしてみたら?」「こんなことはどう?」とかかわります。彼らとの時間を増やします。「こんな練習はどう?」「どんな練習が好き?」と彼らの好みや気持ちを聞きます。そうやって手厚いサポートをしてあげてほしいと思います。決して、「これは楽しい(はずだ)からやってごらん」と一方的に押し付けたり、「これができるようにならないと」など抑圧的にふるまってはいけません。■子どもたちのテンションの上げ方は......(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)技術面も丁寧に指導します。例えばキックが上手いけれどドリブルが下手な子には、ドリブル練習の時は一緒についてあげます。でも、キックが多く出てくる練習の時は、その子は得意なわけなので構わなくていい。キックが上手く蹴られない子のところに言って、一緒にどうやったらうまくできるかを考えます。最後に、選手のテンションの上げ方は?という質問ですが、周りがワイワイ言っても子どものテンションは上がりません。練習メニューを試しては、探っていくしか方法はないのです指導者は、子どもたちがハマりそうなメニューを見つけるためにも、たくさん引き出しをもてるよう勉強してもらえるとうれしいです。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2021年01月15日エースと呼ばれ、ほかのチームからも恐れられていたのに、強豪選手が集まるスクール、チームに入ったら下位クラスに。努力して上位クラスに上がっては落とされ......を繰り返すうちに、意欲より落とされる不安が大きくなっている。サッカーに前向きに取り組んでいるようにも見えないのに、「試合のメンバー入りしたい。できると思う」と自己評価が高い。現実を見つめられないわが子をどうサポートすればいいかわからない、とご相談いただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<飛び級で試合に出る息子が良く思われないのがつらいです問題<サッカーママからのご相談>悔しいのか、勝ち上がりたいのか、全くわからない息子にどう接していいのかわかりません。現在8歳の息子は幼稚園からサッカーを始め、スクール、チームではエースと言われ、相手チームからも恐れられていました。人よりも早くサッカーを始めたってだけだと思いますが、本人は自信も持ち、前向きに練習するなど楽しんで取り組んでいました。近隣の強豪選手があつまるスクールに通い、強豪チームにも入ったのですが、もちろん上には上の選手がいて、メンバー落ち、クラス分けでは下位クラスになりました。そこから半年かけ努力をして上位クラスまで這いあがりましたが、また落とされ......。それを繰り返しているうちに、だんだん本人の中に、なんとしてもメンバー入りしたいという気持ちよりも「また落ちるかも......」という不安のほうが先に来てしまっているようで、サッカーに前向きに取り組んでいるように思えません。しかし、話を聞くと、『なんとしてもメンバー入りしたい!入れると思う』と答えるのです。どこからその自信が生まれるのか、自己採点がとても高いのです。現実をうまく見つめることができてないのかなぁと思っているのですが、本人をどのようにサポートしていけばいいのかわかりません。自己採点が高いが、努力はしていない、でも、メンバーに入れると思っている。こういう感情にどのように対応してあげればいいのでしょうか?<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールありがとうございます。8歳といえば小学2年生か3年生。まだお母さんの膝の上に乗ってきたりと可愛い時期ですね。コロナ禍での子育てはさまざま大変だと想像しますが、二度と戻ってこない日々を抱きしめるように過ごしてほしいものです。息子さんについて、お母さんは「自己採点が高いが、努力はしていない」とあります。努力しないのに根拠のない自信があるということですね。恐らくこの記事をタイトルだけ見た読者の多くが「こういう子、いるなあ」とほほ笑んでしまうことでしょう。■その年代は楽しむのが一番、努力を強いるのはやめましょう私の息子も小学校低学年のころは、ミスをしたり試合に負けると「おれ、まだ本気出してないだけだから」と言い訳がましく訴えていました。それを私たち親は「はい、はい。いつか本気のプレー、見せてね」と笑って見ていました。特段自主練などしないし、練習でもおしゃべりばかりしてコーチに叱られていましたが、私たちはまったく気になりませんでした。なぜなら彼は子どもだからです。そもそも、それが子どもらしい姿なのです。お母さん、少年サッカーは「大人のサッカー」とは違います。大人のように11人制だったり、ヘディングをガンガンやらせないのと同じように、サッカーをする目的が異なります。とにかく楽しく、ご機嫌でサッカーライフを送ることが重要です。特に低学年はサッカーの入り口なので、サッカーを大好きになることを一番の目的にしてほしい。それは日本サッカー協会の四種(ジュニアカテゴリー)の育成目標に掲げられていることです。お子さんが常に上位クラスにいることや、たゆまぬ努力を続けることを強いるのはやめたほうがいいでしょう。取り組みの程度云々を、第三者(お母さん)が「努力していない」とジャッジしてしまうと、子どもにとってスポーツが苦しいものになります。親から、もっと努力しろ、もっと上を目指せと命じられたことがもとで、こころが折れ、燃え尽きてしまった子どもを何人も見てきました。■「こんなに心配しているのに」という思考になっていませんか文章でのご相談なので、すべて把握したうえではないのですが、変わるべきは息子さんではなくお母さんのほうだと考えます。半年かけて努力をして上位クラスまで這いあがったけれど、また落とされた。いつ落とされるかわからない不安のほうが先に来てしまっている、とありますが、その不安を息子さん以上に強く感じているのはお母さんのほうかもしれません。親が自分のことで不安を抱えていると、子どもは「心配ばかりされるダメな僕」という心理状態になり自己肯定感がどんどん下がります。お母さんたちは「親が子どもを心配するのは当たり前」「心配していることで愛情が伝わる」とおっしゃいますが、それは親御さん自身の感情や思考を「軸」にした考え方です。母子の関係を見直してみると、「私がこんなに心配しているのに」「私がこんなに熱心にサッカーのことをサポートしているのに」、頑張らないのは「ダメな息子」という思考になっていないでしょうか。■ポジティブな声かけに変えましょうそこで、私から三つアドバイスをさせてください。ひとつめ。息子さんへの声かけを、ポジティブなものに変えましょう。ご相談文に、「話を聞くと、『なんとしてもメンバー入りしたい!入れると思う』と答える」とあります。なんとしてもメンバーに入りたいという、努力を誓うような言葉が出てくるのですから、お母さんは「本気でサッカーやってる?」とか「本当にやる気あるの?」などと尋ねていないでしょうか?このように取り組みの姿勢を問う質問は、もっともっと大きくなって中学生や高校生になって、自分の意思でサッカーをやると決めたのに練習をさぼったとか、練習はないと嘘をついたといったときに、コーチが詰問する言葉です。ネガティブな声掛けではなく「今日もサッカー楽しかった?」とか「サッカー大好きなんだね。そういう姿見ているとお母さんも嬉しいよ」といった声掛けをしてください。■まだ8歳、きちんと「子どもとして」扱うことふたつめ。息子さんはたった8歳です。大人ではないのですから、「子どもとして」扱いましょう。ご相談文を読む限り、前向きに取り組んでいない、努力していない、現実をうまく見つめることができていないと、相手が大人であるかのような言葉が並びます。すでに触れましたが、大人のサッカーとは違います。その時々でお母さんは主観的な評価をせず、楽しんでやっているプロセスを眺める姿勢を持ちましょう。■クラス分けする強豪チームは本当に合っている?(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめ。クラス分けする強豪チームがお子さんに合っているのかどうか、そこでサッカーをして楽しめるのかどうか。そこを主題に、今一度息子さんと話し合ってはいかがでしょうか。ご相談文を読む限り、息子さんはサッカーそのものを楽しむのではなく、上位クラスに行くという競争社会のもと、非常に切迫した空気のなかでサッカーをしているように見えます。常にクラス分けの恐怖を感じながらサッカーをしていて、サッカー自体を果たして楽しめているでしょうか。彼が「できる」と言ってお母さんに見せる自信は、実はお母さんに見捨てられないために懸命に虚勢を張っているようにも見えます。子どもは本当にサッカーを好きになって、自分から上手くなりたい!と心底思えば取り組みは自然に変わることでしょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年01月13日今年ももうすぐ終わりですね。今週末から冬期休暇に入られる方もいらっしゃるのではないでしょうか。今年はコロナ渦ということもあり、帰省や当初予定していたことを取りやめてご自宅でゆっくりされる方も多いかもしれませんね。そんな時間に、お子さんのサッカーに関連する記事をじっくり読んでみませんか。ジュニアサッカー(少年サッカー)の保護者向け情報サイト「サカイク」で2020年に配信した全記事の中でみなさんの注目度が高かった記事をランキングでご紹介します。2020年に一番読まれたのは、小学生年代にも本格適用されることになった「新ルール」のほかに「判断力」や「運動能力」など保護者の皆さんの関心が高い記事がランクイン。ぜひいま一度ご覧ください。第5位育成の名門、三菱養和サッカークラブに聞いたサッカー上達につながる「判断力」の身につけさせ方お子さんに身につけてほしいスキルは?と聞くと必ず挙がる「判断力」。ですが、どうやって身につけさせればいいのかが分からないという声も。育成の名門、三菱養和サッカースクールの統括責任者を務める秋庭武彦さんに、子どもに判断力をつけさせるためにどうすればいいかをお伺いしました。記事を読む>>第4位「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは運動ができる子と苦手な子の違いはなに?運動苦手なのは遺伝だからしょうがないの?外遊びや自然の中で遊ぶなど、身体を自在に使って遊ぶ機会が少なくなっていることもあり、いまの子どもたちはサッカーをするための基礎的な運動体験から得られる体力運動能力が低いのだとか。いわきスポーツクラブアカデミーアドバイザーでドームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザーの小俣よしのぶさんに、家庭でできる身体機能を整える運動などを教えていただきました。記事を読む>>第3位高校サッカー選手権優勝の静岡学園が、部員が多く1日2時間半程度しか練習できないからこそ身につけたタイムマネジメント術子どもの年齢が上がってくると関心が高くなることの一つが、時間管理です。勉強にサッカーに趣味に、上手く時間を使って欲しいと思う保護者の方は多いもの。強豪校のサッカー選手がどんなタイムマネジメントをしているのか知りたいという声もたくさん聞かれます。部員数が多いのにグラウンドが少ない。練習時間が限られるなか上手くやりくりして近年は現役東大生も生んだ静岡学園のタイムマネジメント術をご紹介。記事を読む>>第2位相手をつかんでまで止める、競り合いで負けると「死ね」と暴言を吐く子、どう指導すればいい?負けん気が強いのは良いけど、「負けたくない」という気持ちが強すぎて良くない方向に向かっている。試合中興奮すると相手をつかんでまで止める、競り合いで負けた時相手に「死ね」など暴言を吐いてしまう子をどう指導したらいい?というコーチからのお悩みです。熱くなりすぎたり暴言は良くないですよね。どのように指導したらいいのか、池上正さんがアドバイスを送ります。記事を読む>>第1位新年度から8人制にも本格適用! 新ルールをおさらいしよう!! <前編>小学生年代にも本格適用されている新ルールは、これまでとどこが変わったのか。ハンドやゴールキック、交代の位置など、大きく変わったポイントを紹介します。これまで「審判は石と思え」と言われ、審判員にボールが当たってもプレーは続行されていましたが、これからはドロップボールとなるのです。ルールの変更点を今のうちに勉強しておきましょう。記事を読む>>■おしくもランク外だった記事昌平高校を全国レベルに引き上げた藤島崇之監督が行う技術と思考力ある選手育成の裏にある「組織」の存在10数年前までは全国的に無名だった昌平高校を今や全国レベルの強豪校に躍進させた藤島崇之監督。短期間での飛躍的成長の背景には何があったのでしょうか。昌平高校に選手を送る育成組織の存在、選手のケガが劇的に減った理由などをお話しいただきました。記事を読む>>コーチに隠れて仲間が「キモい」と言ってくる問題「きもい」「おまえは消えろ」とコーチがいない時に言ってくるチームメイト。「言い返せ」と言っているが相手は口が達者で「口では勝てない」という。中学に行っても同じチームなので同じようなことが続くのでは、という心配と、もう6年生なので自分で解決しないといけない年齢だなぁという感情で揺れているお母さんからご相談をいただきました。皆さんならお子さんがそのような状況にあったらどうされますか?いじめ、暴言などに悩んでいたり、心配している親御さんもいるかと思います。ぜひご覧になってみて下さい。記事を読む>>◇◇◇◇◇◇◇◇◇これからも様々な情報を配信していきますので、2021年もよろしくお願いいたします。2019年の人気記事ランキングはこちら>>
2020年12月24日飛び級している小3の息子。一人しかいない6年生の引退試合直前にケガ。痛みを押して試合に出て、6年生にパスを出そうと頑張ったけどどうしても足を引きずってしまい力が発揮できず。試合後そのこの親が息子に直接「足を引きずるな!」と怒鳴っていて......。どうして欲しいのか聞くと、うちの子からパスをもらってシュートを決めたい。でも足を引きずるぐらいなら試合に出るなと矛盾した回答。飛び級している息子にいい感情を持っていない上級生の親もいるし、保護者のマウンティングなんかにもうんざり。もはや試合辞退したい。どうすれば?とのご相談です。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<他の子が成長しないため上の学年でプレーできない。息子を伸ばしてくれないチームをやめたい問題<サッカーママからのご相談>うちのチームは6年生が一人しかいません。息子は6年生最後の試合の一週間前にケガをしてしまい、本当はケガが治るまで休ませるべきなのですが、3年生なのに抜擢してもらっているので頑張りたいという気持ちもあり、その試合に出ました。引退試合となる6年生の為に良いラストパスを出したい、という気持ちで頑張る息子でしたが、ケガが完治しておらずどうしても時おり足を引きずってしまったりパフォーマンスが発揮できず、結局1戦目は試合には勝てませんでした。試合後、その6年生の保護者から、「コートの中で足引きずらないで」「息子はこの試合にかけてるの」と言われました。息子にも直接「足を引きずるな!」と怒鳴り、それ以外にも「疲れてくると、足引きずるよね甘ったれてる」とか「痛いふりして逃げてる」などとも言われました。その方にどうしたいのかと聞くと、うちの子からパスをもらってシュートを決めたいと。でも足を引きずるな、足を引きずるぐらいなら試合に出てほしくない、とかなり矛盾した回答をされました。私としては、痛みがあるし足を引きずらないという約束は難しいと伝えたのですが、わが子の有終の美を飾る試合で周囲が完璧におぜん立てしないと納得できないようで......。その保護者は「自分の息子が怪我したときは...」と比べてきます。確かに優秀ですが、ケガを押して試合に出続けることが良いこととは思いませんし、美談ではないと思います。また、こういった保護者のマウンティングのようなものにもうんざりです。6年生は引退しますが、4、5年生の保護者にも似たような親御さんがおり、3年生で試合に出ているうちの子に対していい気がしない方もいるようです。私としては試合に出場して嫌な思いをするくらいなら試合も辞退したいくらいです。出場は監督が決めることなので辞退したいと監督にいうべきか迷っています。こんなときどうしたら良いでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールありがとうございます。まだ小学3年生なのに6年生の試合に出るなんて、才能のあるお子さんなのでしょう。お母さんとしては誇らしくもあるけれど、3学年飛び級で試合に出る息子さんへのやっかみも感じているようです。私から3つアドバイスさせてください。■ケガの時は監督ではなく医療従事者の判断に従ってひとつめ。「ケガをしたときは迷わず休ませましょう」監督やコーチではなく、ドクターや整骨院の先生など、かかった医療関係者の意見に従ってください。「3年生なのに抜擢してもらっているので頑張りたいという気持ちもあり、その試合に出ました」とありますが、このニュアンスだと抜擢されたため周囲にケガを隠して試合に出たように感じました。一方で、最後に「出場は監督が決めることなので」と書かれているので、監督さんが無理やり出場させたのかもしれません。ただ、監督さんが決めたことにすべて従わなくてはいけないわけではありません。近年、暴力や暴言を用いる指導が問題視されていますが、これらがなかなかなくならないのは保護者が「監督が選択した指導だから」と容認してしまうことも大きな要因のひとつです。■監督の判断がいつも正しい訳ではないよって、「監督さんと対等に付き合いましょう」をふたつめのアドバイスにします。監督さんのすべての言動を疑えと言っているわけではなく、監督さんに対しご自分が感じたことを伝えられる対等な関係性を築きましょう。監督さんがいつも正しい訳ではありません。スポーツの指導現場にはさまざまな課題があることを保護者自身が学び、賢く対応してください。子どもがケガや体調不良で試合に出られないときは、「ケガをしているので今日は休みます」と子ども自身が監督に話すよう促してください。そして、もし万が一、何でも言い合える対等な関係性を築けない監督さんであれば、クラブ(少年団)の代表の方に相談するなりしたほうがいいと思います。■本来の「飛び級」とは。飛び級は試合に勝つための手段ではない三つめ。ここが一番重要です。「自分の力が及ばないことにイライラするのはやめましょう」相談文のなかで、お母さんは「保護者のマウンティングのようなものにもうんざり」「3年生で試合に出ているうちの子に対していい気がしない方もいる」と書かれています。飛び級の本質を理解しているクラブは、選手を飛び級させるときにさまざまな配慮をしています。飛ばせた学年の選手や親に対しチームの方針を説明します。そして、配慮をするクラブは、試合に勝つために飛び級をさせるわけではありません。例えば、3年生のなかでプレーしていても物足らない子どもを上の学年とやらせることで力をつけるといった目的があります。そこを親御さんたちに理解してもらいます。ところが、息子さんが所属しているクラブは恐らくそういった配慮が足らないようです。試合に勝つために息子さんを上の学年の試合に出しているように見受けられます。だから、ケガをしていて足を引きずっていてもそのまま出場させたのでしょう。チームに問題があるのですから、保護者達が混乱するのは当然です。それに、他の親御さんがマウンティングしてくることをお母さんは止められません。■親が子どものプレーを決めて実行することなど不可能さらにいえば、6年生のお母さんとの会話を垣間見る限り、このクラブの保護者の皆さんは子どもを主体に考えていないようです。その親御さんにどうしたいのかと聞くと「あなたの子からパスをもらってシュートを決めたい」と言われたようですが、親がどうしたいかを決めて、子どもにそれを実行させるのでしょうか。どうしたいかは子どもが決めて判断することです。親御さんはただただ見守っていれば良いと思います。プレーするのは子どもですから、親がどんな声がけをしようが、どんな作戦を授けようが、そこに力は及びません。それについては、このコーナーにも質問が多く寄せられます。試合前にどんな言葉がけをしたら、100%の力が出せるか?子どもがサッカーを上手くなるには親は何をしたらいいか?みなさん必死です。ですが、何度も言いますが、親の力は及びません。私たち親の役目は、以下のことだと私は伝えています。適度な睡眠と早寝早起き朝ごはんを定着させる。学校の勉強ときちんと両立しているか目を光らせる。子どもが楽しく伸び伸びサッカーができる環境を与えているかを常に振り返る。たった三つです。ここさえ整えれば、安心安全な環境で本人がどれだけサッカーを好きになるか。小学生時代はその気持ちを育てることをまずは考えましょう。■小学生のうちから痛みを押して試合に出るのは......(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)もちろん、ほかにもできることもたくさんあります。例えば、飛び級で試合に出る息子さんに、チームのためにプレーすることを話してあげる。何のためにサッカーをするかを一緒に話し合う。そんなふうに心に寄り添ってあげてください。加えて、まずはケガをしていたのに、出場を止めずに出してしまったこと、足を引きずるほどの痛みを味わわせてしまったことを息子さんに謝ってはどうでしょうか。成人すれば、痛みと付き合いながらプレーする時期もあるでしょう。ただ、それは今ではありません。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年12月23日ボールを奪われると取り返しに行けない子。ドリブルで前へ進むイメージはあるけれど、相手にボールを奪われるとどう動いていいかわからない様子。頭でサッカーを理解していないから、ボールの奪い方が分からない?どんな指導で理解させたらいいのか、というご相談をいただきました。池上正さんは、そういった事を講演などでもよく聞くそうです。また、そのような事象が起こるのは「大人の責任」であるとも。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、ボールを奪いに行く習慣を身につけるための指導をお伝えしますので、参考にしてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<目立たないけどいい選手、なのにセレクション全滅。受かるためにわかりやすい個性をつけさせるべき?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。学校の少年団(U-8)で指導をしている者です。チームの中に1人、足が速く身体も大きめな子がいるのですが、ボールを奪われると取り返す動作が出来ない子がいます。これまでの記事で、日本は技術から教えていて頭で理解できていない、海外では幼少期から頭でサッカーを理解しているといったことを提言されているかと思いますが、まさにそうだと思います。ドリブルで前進していくイメージはあるけれど、相手にボールを奪われるとどう動けばいいのかわからず、一瞬立ち止まってしまったり、振り返って眺めているといった感じです。一生懸命に追いかけてボールを奪うように教えているものの、追いついても並走するのみでボールの奪い方がまだ理解できていないようです。攻撃と守備は瞬時に入れ替わるものなので、今のうちから理解してほしいと思っているのですが、おすすめの練習法などはありますか。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。「ボールを奪われるとそこで諦めてしまい、自分で取り返しに行かないのです」講習会や講演で、指導者の方たちからよく聞く話です。ボールの奪い方が理解できていないというのもあるかもしれませんが、それよりも子どもたちが勝ち負けに注目していないから起こる現象だと感じています。そこは大人たちにも責任がありそうです。■「個を育てる」の意味を取り違えていないか少年サッカーにかかわる大人たち、コーチや保護者の皆さんは「誰が点を取ったか?」に注目しがちではないでしょうか。例えば練習中のミニゲームなどで、どちらかが負けているという場面があります。そこで、大人は「負けてるほうは、どうするの?」と問いかけて、考えさせなければいけません。この場合、「負けてるチームのみんなは、どうするの?」は、しっかりやれと発奮させるための言葉がけではなくてどうすればいいか?に注目してもらうのです。そうすると、おのずとボールを自分たちのものにしなくてはいけないことがわかり、子どもたちは動き始めます。ところが、大人は個人の評価ばかりしているように見えます。日本の育成では、長らく「個を育てる」ことが言われてきましたが、意味を取り間違えてはいないでしょうか?■みんなでボールを奪いに行く意識づけができない背景「個人の技術を高めるために、個人の技術を増やすと、チームを感じられない選手を育ててしまう」そんなことを、ドイツの体育学の学者が論文に書いています。日本では、子どもがボールを持つと「いけ!」「勝負!」と盛んに言われます。ひとりでやるプレーだけでなく、チームのために走る、みんなでボールを奪いに行くといった意識づけがなぜできないのかを考える必要がありそうです。私が考える「奪い返しに行かない理由」は、日ごろの練習がゲームやオープンスキルのメニューが中心になっていないから。点数をちゃんと数える、勝ち負けを子どもに理解させる、など彼らの「勝ちたい」という気持ちを育ててあげることが重要です。「どうしたら勝てるかな?」「点を取っても、取られると負けちゃうよね?」「相手に点を取られないようにするのは、どうしたらいいですか?そんなことを問いかけ続けてください。そうやって練習や試合で勝ち負けをたくさん経験し、負けたくない気持ちに火をつけてあげてください。■勝ち負けに執着する気持ち自体を育てないといけない時代。成功体験を積ませようしたがって、今実践している練習を変えたり、この選手の「大切な時間を潰してしまったのではないか」などと思い悩む必要はありません。この指導をぜひ続けてください。まずは賢い選手を育てることに軸足を置きましょう。それが私の指導の大前提でもあります。自分で考えられる子どもに育てていけば、カテゴリーが進むにつれて次々とハードルが現れても「チャレンジしよう。どんなふうにやればいいかな」と自分で考えられます。指導者の要求にも応えられる思考や創造力を発揮できるはずです。例えば、ここはドリブルで抜くよりもパスを選択しよう、と考えられる。その時々で最も選択すべきプレーを選べるようになります。ドリブルで抜いたり、ゴールを決めることよりも、その力を磨くことのほうが重要です。■個人の特長を伸ばすだけでなく、頭脳を育てるのが指導者の役目ひと昔前ならば、子どもは負けるとみんな泣いてしまい、勝ち負けに執着していました。が、今はそういう気持ちを育てないといけない時代になってしまいました。「あのチームとやってもどうせ勝てない」「あの子と1対1をしても勝つのは絶対無理」そう言う子どもたちには、ぜひ勝ち負けのあるメニューを与えてください。2対1や、3対2などの対人練習、つまり点を取り合うようなオープンスキルの練習を増やすことで変わってきます。勝つにはどうしたらいいか。そこを考えると、自然に自分が奪われたボールを追いかけるようになります。一度追いかけてみて奪い返せたなら、その成功体験をもとに「次も取れるかもしれない」と思うのです。そういった勝ち負けを味わうことなく中学生、高校生になってしまうと、自分がドリブルを止められてボールを奪われると、下を向いてしまいます。コーチから「取り返しに行けよ」と怒られるから仕方なく走る、という場面が多く見受けられます。しかし、この年代になって「自分が奪われたボールは取り返しに行かなくてはいけない」と理屈で教わっても、なかなか浸透しません。この習慣は、小学生時代に身につけておくべきものです。そのためにぜひメニューや指導の在り方を見直してください。■自分が点を取るのは好きだけど、チームの勝敗に興味がない子も先日も小学4年生の試合を観に行きましたが、子どもたちは自分が点を取るのは大好きです。ゴールするのは快感ですので理解できますが、それ以上に大人がそこに注目していることを知っているからかもしれません。積極的にシュートを打ちますが、相手が攻撃し始めると歩いて見ていることが多いのです。自分がシュートを入れると満足してしまい、自分のチームが勝ったか負けたかには興味がなさそうでした。ひとりでいろいろやらせすぎると、そうなってしまいます。■カウンターを食らうと足が止まってしまう子どもたち(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)もうひとつ、ボールを相手に奪われた。パスミスをしてカウンターを食らった。その際に、がくんと腰を落としたり、下を向いて足が止まってしまう子どもが多く見受けられます。けれども、ミスのスポーツといわれるサッカーでは、ボールを奪われたらすぐに取り返しにいかなくていけません。つまり、ミスにタフになる必要があります。そのため、子どもたちには「ミスしてもOKだよ」「できなくても大丈夫」といった声がけを、皆さんに勧めてきました。ミスを責めない。勝ち負けのあるメニューをたくさんやる。そこを心がけながら、子どもたちが「コーチ、もう一回やらせてよ!」と言ってくるように育ててほしいと思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年12月18日派手なプレーは好まず、スペースを見つけてパスを捌く、狙えたらシュートを打つような連係プレーが得意で判断力が高い子。単騎でドリブル突破したり対人プレーをどんどん仕掛けるタイプじゃなく、スペースを見つけて動ける「目立たないけどいい選手」。なのに、力試しで受けてみたトレセンでは「素人が混じっているレベル」と酷評。上の年代のトレセンに携わっているチームの代表は、「このまま成長すればトレセンメンバーでやれる」と言うけど、これまでの自分の育成方法が失敗だったのか悩む、というご相談をいただきました。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが今回もコーチにアドバイスを送ります。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<下級生との練習は上の子たちにメリットがないのでは。という上級者の親たちに年齢ミックスの良さを分かってもらうには?<お父さんコーチからの質問>いつも参考にさせていただいています。 U‐9、U‐10を指導していますが、どう育成したら良いのか悩んでいる3年生の選手がいます。私は日頃の指導の中で、試合で使える技術を大切にした練習などを行ってきました。例えば、昔からある対面での基礎練習やリフティング、1対1などには時間をかけず、1対2、2対1、4対4、ゲーム形式など、複数を意識したメニューを多めに実践しています。スター選手はいませんが、平均より少し上の選手が集まっていて、 個で勝負するよりもチームの連動性が良いチームです。その中で1人、この子は上のレベルでも十分やれるだろうなという子がいるのですが、 その子についての相談です。ドリブルや1対1など派手なプレーや対人プレーは好まず、スペースを見つけて動き、パスを捌いて、狙えたらシュートを打つような「あまり目立たないけどとてもいい選手」というタイプで、相手チームにスター選手がいても全然引けを取らないレベルではあります。本人は海外でサッカーをやりたいという夢をずっと持っていて、意識も非常に高いです。しかし、その子の父親が力試しを兼ねて強豪チームやスクールのセレクションを色々受けさせてみたところ、合格どころか「素人が混じっているレベルだ」と評価されたというのです。不合格の理由としては「基礎練習が他の受験生と同じように出来ない。ゲームでも、周りは1対1やドリブルで仕掛ける子ばかりで、どう動いていいか分からず終始あたふたした状態だった」という内容だったそうです。その父親からは「ドリブルや1対1に特化したスクールに通った方がいいかな?」と相談をうけていますが、個人技に傾倒していくと今の良さが消えてしまうのではないかとも危惧しています。正直、これまでの自分の育成方法が失敗だったのではないか、もっと違うやり方があったのではないかと悩んでいます。U-12地区トレセンの監督も務めているうちのチームの代表は「彼は目立たないけど、このまま成長すればトレセンメンバーでやれる」と認めてくれていますが、それは身内で特色を知っているからで......。知らない人が見たときに彼の良さに気づいてくれるのか、もっと分かりやすい特色を付けていくために練習を変えた方が良いのか、彼の大切な時間を潰してしまったのではないか、など葛藤している状態です。このような問題に正解はないと思いますが、指導者としてどのように考えたら良いのかアドバイスいただけると幸いです。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。いただいたメール文を読む限り、やろうとしている育成にまったく問題ないと思いました。対面での基礎練習やリフティングといったクローズドスキルに時間をかけず、1対2、2対1、4対4やゲームなどのオープンスキル、対人練習をたくさんやっているとのこと。まさしく私がみなさんにこうあってほしいと伝えている指導です。恐らくそのような練習によって、上のレベルでやれそうな子どもが育っているのでしょう。ドリブルや1対1など派手なプレーや対人プレーは好まず、スペースを見つけて動き、パスをさばき、狙えたらシュートを打つ。ご相談文に書かれているような選手をたくさん育ててほしいと願っています。■昨今のトレセンでは「今すぐ試合に勝つ」ための選手が選ばれることも少なくないが、強豪チームの中心選手やトレセンの選考でピックアップされるのは、私が見る限り「今すぐ試合で勝つために戦える選手」が多いようです。例えばドリブルが上手くて、スピードがあって、同学年の子どもを抜いて行ける子に、大人たちは「勝負、勝負」と声がけをしてドリブル突破を勧めがちです。その子が点を取ってくれれば、全国大会に行けたり、トレセンの地区大会で一番になったりできます。その一方で、サッカーを賢く考えられ将来性のある子どもが、ベンチに置かれたり、後回しにされてしまっているのが、強豪チームの現実だと感じます。Jリーグクラブで育成に携わった時期は、さまざまなセレクションに立ち会ってきました。そのときに、私が「この子、いいね」と指摘するのが、ご相談者様が育てている選手のようなタイプです。ところが、担当コーチは「うーん」と首をひねります。彼らが欲しいのは「今すぐ使える選手」なので、いいと思う選手像には常にギャップがありました。統計的にみても、トレセンに選ばれて、そのまま選ばれ続けて日本代表に上がっていく選手はゼロです。ひとりもいません。この結果を、私たち指導者は受け止めなければいけないと思います。トレセンに入っていたけれど、途中で落ちて、Jクラブに入った、育成期はまったく注目されなかったけれど海外でプレーした結果代表に選ばれた。それが今の選手たちの、日本代表までの通り道です。そう考えると、育成方法が変われば、日本の選手たちにはまだまだ成長できる余白がたくさんあると私は見ています。もっとうまくなる。もっとサッカーを熟知した、どのクラブでもどこの国でも通用するプレーヤーになれます。■トレセンに選ばれた子が必ずしも順調に伸びるワケではない逆に言えば、育成方法が古いままの指導者に出会ってしまうと、サッカーを学べません。コーチが育成の本質を知らないまま、海外のコーチたちがどんなところに注目し、どう育てているかを知らなければ、選手自身も「今勝負できる子」を選ぶトレセンに入ったり、チームが全国大会に出たりすることがいいと思ってしまいます。さらにいえば、そのようなやり方がいいと言われてしまいます。全国大会に出た全員が上手く伸びてプロに行くかといえば、それはあり得ません。無論ですが、ご相談者様が書かれているように、正解はないのかもしれません。しかしながら、全員がどこのステージに行っても楽しめるようなサッカーの学びかたがあるはずです。上のステージでもできる学びを経験させてあげたいと私は考えています。■今の指導を変えたり、思い悩む必要はないしたがって、今実践している練習を変えたり、この選手の「大切な時間を潰してしまったのではないか」などと思い悩む必要はありません。この指導をぜひ続けてください。まずは賢い選手を育てることに軸足を置きましょう。それが私の指導の大前提でもあります。自分で考えられる子どもに育てていけば、カテゴリーが進むにつれて次々とハードルが現れても「チャレンジしよう。どんなふうにやればいいかな」と自分で考えられます。指導者の要求にも応えられる思考や創造力を発揮できるはずです。例えば、ここはドリブルで抜くよりもパスを選択しよう、と考えられる。その時々で最も選択すべきプレーを選べるようになります。ドリブルで抜いたり、ゴールを決めることよりも、その力を磨くことのほうが重要です。■個人の特長を伸ばすだけでなく、頭脳を育てるのが指導者の役目現在Jリーグにいる選手で今後も生き残っていける選手は「僕のスタイルはこれしかない」ではなく、監督の要求に応えられるうえで、自分のやりたいこともできる。そんなタイプです。海外でプレーする選手は言わずもがなでしょう。例えば「これしかできない」という選手は、そのチームに自分と同じ武器で、より高性能でかつプレーの幅が広い選手が入ってくれば負けてしまいます。「一対一が強い」「ドリブルが上手い」は、個人の特長です。特長はあって然るべきですが、それがすべてでは困るのです。攻守においてチームとして連動するときに、イメージを分かち合える頭脳をもたなくてはいけません。その頭脳を育てるのが、私たち指導者の役目なのです。■トレセンに迎合する必要はない(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様が教えていらっしゃる子どもは、まだ9~10歳です。この先、高学年になればどの子も体が少しずつ大きくなって、パワーも増してきます。そこに「賢さ」を足せるようになれば、その後はどこに行ってもステップアップできるでしょう。トレセンに迎合する必要はありません。ここまで私が説明したことが世界基準だと自負しています。今の指導をぜひ続けてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年12月11日結婚は結婚式や育児など様々なことにお金がかかるため、収入が安定する正社員であることが望まれますが、現在の日本では非正規雇用が多いのが実情です。今回は正社員じゃなくても結婚生活を安定させるための条件について解説します。彼が役割の入れ替えを受け入れられるかどうか彼が正社員ではなく収入が不安定であるため、女性の方が収入が上になっているというケースもままあります。もしそういった状況であるなら結婚後に彼に主夫をやってもらう事で結婚生活のバランスを上手く取っていく方法を考慮してみても良いでしょう。この際に問題となるのは女性側の収入額ももちろんですが、男性が主夫になることを受け入れられるかどうかです。主夫になるということは家事全般や、子供が欲しい場合は育児にも適性が必要になります。そうした事が苦手で受け入れられないという場合は結婚は難しいと言わざるを得ませんが、もしチャレンジしても良いと言ってくれる彼であれば上手くいくかもしれません。頼れる実家が身近にあるか結婚後に子供が欲しい場合は育児に多額のお金が必要になります。もし正社員でないのが彼だけでなく、お互いに非正規で働いていて収入が安定していない場合は、共働きでフルで働いてカバーする必要があるかもしれません。しかしそうなると夫婦だけで子育てをするの時間的に難しくなることがあり、お金は足りても子育てに第三者の協力が必要になるでしょう。そんな状況をなんとかできるのが実家の存在です。家事だけなら共働きであってもなんとか合間を見つけて分担しつつ片付ければ良いですが、育児となると片時も目を離すことはできません。そんな時に育児に協力的な実家が近くにあれば、園へのお迎えや仕事に行っている間に預かってもらうことができ、急なトラブルなどにも協力してもらって乗り越えることが可能です。一般的な正社員と比べて収入はどう違うか正社員でないなら結婚が難しいというのはあくまで収入面の問題が大きいからです。しかし最近は正社員ではなくても大きく稼げる仕事があったり、正社員でなくても個人事業主という働き方があります。もちろん大きな企業の一因として働く方が収入のブレはなく安定感がありますが、結局の所、大事なのは最終的にいくら手元にお金が入るのかという点です。今の年収や貯金を合算して考えて、およそ3年程度暮らせる蓄えがあれば多少の収入のブレはカバーできますし、比較的安定した結婚生活を送れる可能性が高いです。お金が必要な部分を如何にカバーできるか正社員でないことの問題点はやはり収入面になります。しかしお金が必要になる部分をうまくやりくりでカバー出来る展望があったり、正社員でなくても収入が比較的高いのであれば結婚に対する障害は乗り越えることが可能です。正社員でなくとも副業で収入をカバーする方法などもあるのでじっくり検討してみましょう。
2020年12月07日人数が少なく全学年一緒に練習せざるを得ないこともあるが、上級生の保護者が納得しない。「低学年にしかメリットがない」「下の子たちと練習しても高学年はうまくならないのでは」「下の子たちのお世話係じゃない」など不満の声が。年齢ミックスで練習することで上級生も成長することをわかってもらうにはどうすればいい?とのご相談です。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、年齢ミックスで上級生にもたらされる5つのメリットをご紹介します。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<相手をつかんでまで止める、競り合いで負けると「死ね」と暴言を吐く子、どう指導すればいい?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。小学校のスポーツ少年団で全年齢を指導しています。これまで何度も紹介されているかもしれませんが、改めて異年齢やレベルがバラバラのチームで上級生(または上手い子)が、下の子たちと一緒に練習することのメリットを教えてください。所属人数が少ないのでどうしても年齢ミックスで練習をせざるをえないのですが、学年が上の子たちの保護者は、「小さい子たちと練習させてもメリットがあるのは下の子たちだけで、上級生にメリットがないのでは?」「レベルの違う(下手な)子たちと練習しても上手くならないのでは?」「小学生年代ではまだ指導者に与えてもらうことがメインなので、5、6年生も下級生のお世話係ではなく、ちゃんと指導してほしい(技術、戦術をコーチから与えてほしい)」という方も少なくありません。一人で全学年を見ているので、時間的にも限りがありますし、年齢ミックスで練習することで上の学年も伸びるということを理解していただきたいのです。異年齢と一緒に練習することで伸びるスキルなど、改めて具体的に教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。保護者の方々からなかなか理解を得られず、苦戦している様子ですね。でも、実践されている異年齢での活動は、とてもいいことです。ぜひ横割りに変えたりせずに粘り強く取り組んでください。■「僕らが言うと小学生が文句を言うから、言いたくない」という中学生例えば、私が地元の大阪で行っている「サッカープレーパーク」では、上は中学生から、下は小学校低学年の子どもも来ています。縦割りで一緒にミニゲームをすると、中学生が口をとがらせて苦情を申し立てます。「小学生がひとりで勝手にドリブルで行っちゃうから困る」「ボールをすぐに大きく蹴るから、やりたいサッカーができない」私が「小学生に自分たちから指示を出して動かせばいいじゃない?」と言っても、「僕らが言うと文句を言うから、言いたくない」と言うのです。少子化もあって、中学生、小学生の双方が、兄弟、姉妹やいとこ、親戚といった異年齢の子どもとのコミュニケーションの経験がありません。中学生には、どうやったら年下の小学生を動かせるかを考え、言い方やタイミングを工夫することができない。小学生は、お兄さんたちの言うことを聞いてサッカーをしたら、上手くなったり、いいことがあると思えないのです。経験していないからです。■年齢ミックスで練習すると上級生も確実に成長するそれぞれがもっと小さいときから私の指導を受けて育っていたら、もっと違う状況になるはずですが、一緒にサッカーをしてきていないため理解できません。「どうして小学校の低学年と一緒にやらなきゃいけないんだ?」と戸惑っている姿が見えます。例えばそんな姿を見かけたら、上級生の親御さんは心配になって「みんな同じ学年で能力が似通っている横割りのほうがいい」と思うのかもしれません。しかしながら、縦割り集団で上級生は確実に成長します。年上の子が異年齢で活動するメリットはたくさんあるのです。ここでは五つに分けてお話ししましょう。■コーチングスキルやカバーリングのスキルなどサッカーの技術も高まるまずひとつめ。上級生は、コーチングを覚えられます。「こういうとき、どこに動いたらいい?」と問いかけるコーチングができるようになります。ボールをもらいたいときは、「ほら、ワンツーやるよ」と声を出しながらパスをすればいいとわかります。二つめ。力の差が大きいと能力が高い子のほうが伸びないのではないかと思いがちですが、それは違います。足が速くて技術もある子が、足の遅い子が間に合うようなパスを出してあげたり、試合でその子のぶんもカバーしようと集中し懸命に走ったりするようになります。三つめ。サッカーのスキルも、異年齢集団で十分鍛えられます。例えば、高学年対抵学年のゲームは、高学年にペナルティをつけると白熱した戦いになります。小さなコートなら4対6、もう少し大きければ5人対8人でやるなど、上の学年の子たちに負荷をかけるといいでしょう。負荷のかかった状況で、3人に囲まれたりしてもボールをキープできたり、数的不利のなかで頭を使ってサッカーをするトレーニングになります。ペナルティは、人数以外でもつけられます。「ドリブルはダメ。パスしかできません」とか「すべてダイレクトプレーでやってください」などと厳しめな条件を付けます。技術も判断スピードも必要なので、体格やスピードに劣る下級生が相手でも「頭」が疲労します。どんなペナルティをつけるか、ルールにするかを、どんどん考えてください。何かを教え込むのではなく、そんなふうにルールや方法を工夫できるのが指導者の役目なのです。■高学年で周りに追いついてない子は成功体験を積んで自信をつけることができる四つめ。サッカーに対して、主体的に臨む姿勢が生まれます。低学年の子どもと一緒に練習する際は、いい意味で余裕があるので「自分たちがうまくなるためには、どうしたらいいのかな?」と考えてもらいます。例えば、低学年が保持しているボールを、体をぶつけて奪いに行くのではなく「パスカットでしか奪ってはいけない」という高学年ルールを自分たちで考え出すこともできます。考え出すために、指導者がヒントをあげてください。一から十まで大人が伝えるのが指導ではありません。技術や戦術を磨く方法を、高学年の子どもたち自身が生み出すこと。そういったことも、異年齢のなかで行うことで出てきやすくなります。五つめ。高学年でも能力がまだ同学年に追いつかない子どもにとっては、自分も対等以上にやれて自信がつきます。相手は年齢が下であっても、うまくできたプレーのイメージをつかんだことには変わりありません。そういった子たちは同学年の横割りだと、うまい子に遠慮したり、すぐパスをしてしまって頼ってしまう部分があるので、そういった遠慮の解消にもなります。■指導者が最初から答えを持ってなければいけないわけではない(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)サッカーのコーチングは、指導者があらかじめ答えを持ってやらなくてはいけないわけではありません。逆に答えを持たず、子どもたちの思考や活動に広がりを与えてくれる。それが、異年齢の集団での活動だと思います。こんなこともあるよね。答えはひとつじゃないよ。自分のコーチがそんな見方をしていれば、より多くの学びを子どもたちに授けられると思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年11月27日部活かクラブチームか、本人が悩んで決めた進路。学業との両立、努力を続けることを約束して進学したのに、テストは平均点よりずっと下、内申点は「2」。サッカーでもチーム練習以外ではやる気が感じられない。大事なことを伝えようとすると機嫌が悪くなり怒鳴って暴れる。シングルマザーで下の子はまだ6歳なのに、生活が長男中心に回っているのに意欲が感じられず、サポートがばかばかしいと思えてくる......。とのご相談をいただきました。子どもが思春期、反抗期を迎えた時どうすればいいのか、漠然と不安に思っている保護者も多いのでは?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<怒りっぽくチームで浮いてしまう息子を何とかしたい問題<サッカーママからのご相談>子どもは中学生なのですが相談させてください。サッカー中学年代を部活動で過ごすのかクラブチームで過ごすのか、本人が悩み考え、クラブチームで高校サッカー強豪校を目指すと決めました。学業とサッカーの両立が私との約束、努力を怠らないことがチームの代表との約束です。ですが、蓋を開けてみたらテストの点数は平均よりはるかに下で内申点は『2』。サッカーも、チームの練習の時以外は全く意欲が感じられません。大事なことを伝えようと私が口を開けば、すぐに機嫌が悪くなり怒鳴って暴れます。ゆっくり休む・栄養を取る等の心掛けもゼロ。朝も起きれず、夜練の用意もギリギリまでやらない。とにかく様々な事にやる気が感じられません。私はシングルマザーで、まだ6歳の弟もいます。生活のあらゆる事が長男のサッカーを中心に回っており、家族の協力や我慢の元に成り立っているこの生活。協力や応援していること自体がバカバカしいとさえ思えてくる今日この頃です。思春期・反抗期を迎えた13歳の男の子にどう接したら良いのでしょうか?<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。シングルマザーで6歳と13歳の兄弟を育てているお母さんに頭が下がります。日々、大変なことがたくさんあるでしょう。■思春期は「四六時中誰かとけんかしたい状態」私のママ友もシングルマザーがたくさんいます。私自身はシングルではないけれど、新聞記者の夫は土日も不在のため子どもが小さいときはシングルのママとその子どもたちとよく遊んでいました。土日は他のご家庭はお父さんがいるからです。そんなこともあって、他に何かの取材でお会いした方を含めると多くのシングルマザーと知り合っています。みなさん時間がないため、子どもがきちんとやっているか気になります。忙しいので「あ、そういえば、テストの点はどうなったのかな?」とか「サッカーは?」と、時々思い出したように子どもに目が向きがちです。「面」ではなく「点」で見ているため、どうしてもマイナス面ばかり抽出してしまいがちです。そして、このことは兄弟であれば第一子に対して顕著です。仕事も育児も大変なので、お兄ちゃん(お姉ちゃん)、ちゃんとやってよ、と依存する感覚が少なからずあるように思います。これは共働きでも同じだと感じます。「しっかりやってほしい。お願いだから」という感覚は、自分の不安を解消したい、安心したいという思いではないでしょうか。それゆえに結果を求め、指示命令が多くなります。よって、最も重要な「気持ちを聴く機会」を逸してしまいます。特にご長男さんは13歳なので中学1~2年生でしょうか。お母さんがおっしゃるように「思春期・反抗期」です。この時期は急速な体格の変化もあってホルモンバランスが崩れます。以前、小児心理医の先生に「女の子であれば一年中生理の状態、男の子は四六時中誰かとけんかしたい状態」と聞き、納得したことがあります。■反抗できるということは、親を信頼している証拠そこで、私から三つアドバイスをします。ひとつめは、お母さん自身が自分に自信を持つこと。上記の話をされた先生は、思春期の子どもに反抗されると悩んで受診する親たちに向かって「よかったねえ。おめでとう」と祝福していました。なぜなら、親に対して自分の感情丸出しで反抗できるということは、親を信頼しているからです。どんな態度を見せても、親は自分を嫌わない、という自信がある。それは息子さんにとって、家庭が安全・安心な場所であるということ。それまでの子育てが悪くはなかった証だと、その先生はおっしゃっていました。つまり、私もよくセミナーで伝えていますが、「くそばばあ!」などとわが子に言われたら、子育ては成功。「ほほう、来たね、来たね、思春期おいでなすったね」と、どんと構えてください。お母さんの子育てが悪かったから荒れているのではないのですから。例えば、夏が過ぎるころ台風が訪れますが、豪雨強風が襲来することで、海水がかき混ぜられサンゴが生きていくのに適切な海中環境になるそうです。それと同じように、息子さんもプンプンすることでストレスを発散しているのです。■やきもきするかもしれないが、無駄に世話を焼かないことふたつめ。上記のように解釈したのち、心得てほしいのは「無駄に世話を焼かない」ということです。前述したように、思春期は人生で初めて自己認知、自己覚醒する時期です。大人から見れば些細なことが気になってきます。そのように、子どものほうが大人に近づき変化をしているのに、親のほうがいつまでも小学生のときと同じ対応をしていれば歪(ひずみ)がうまれるのは当然です。したがって、息子さんにかかわるあれこれを注視しないことが肝要です。内申点「2」も、練習のとき以外で意欲が感じられないことも、朝起きられないことも、練習の用意をギリギリまでやらないことも、見て見ぬふりをしてください。■大人の説教を素直に聞ける時期ではない。親は「言う」より「聴く」を意識して三つめは「伝えなければ(言わなければ)よりも、聴かなければ」を心がけてください。ご相談文に「大事なことを伝えようと私が口を開けば、すぐに機嫌が悪くなり怒鳴って暴れます」とあります。この時期の子どもたちは、大人のお説教を素直に聴ける精神状態ではありません。だって、四六時中誰かとけんかしてやっぞコノヤロー!と構えている(大袈裟ですが)状態なのです。無駄なことはやめたほうがいいでしょう。それに、お母さんのおっしゃる「大事なこと」を、すでに息子さんはわかっています。強豪校に行くのなら生活管理をきちんとしなくてはいけないこと、内申点が2のままではいくらサッカーがうまくても、推薦の範囲内の点数でなかったりすること。受験できる学校の範囲も狭まること。多少のずれや表現の違いはあるかと思いますが、お母さんが「ちゃんとしてほしい」と望んでいることは、息子さんもわかっています。何より、自分自身「ちゃんとしたい」と思っているはずです。でも、何かで心が乱れたり、サッカーや勉強がが上手くいかなかったりすれば、落ち込んだり、やる気をなくしたり、ゲームや友達とのおしゃべりに逃げたりします。前述したように、思春期は自分を客観視する最初の時代です。「ああ、おれって駄目な奴だ」「大してサッカー上手くないじゃん」とか「勉強もダメじゃん」と自分と向き合っています。大人でもダメな自分と向き合うのって怖くないですか?大人になっても向き合えない人、お母さんの周りにもいますよね?息子さんはそこに初めて直面している。よって不安定になるのは無理ありません。■ニコニコからプンプン、突然機嫌が変わる時期に親はどうすればいいか(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)わが家の娘が中学2年生の頃、私たち親は彼女を「いきなりプンプン」と陰で呼んでいました。ニコニコ笑っていたかと思うと、突然機嫌が悪くなるのです。ある日、夫、娘、私と3人で出かけたとき、夫が娘に話しかけても返事をせず、何回目かに振り向いて「うるさいっ!」と怒りました。私たちは(いきなりプンプン、出たね)と目くばせしながら知らん顔して歩いていると、娘は道端で立ち止まりシクシク泣き始めました。「自分でもわかってるの。でも、そうなっちゃうの。そういう自分が大嫌いなの」私は彼女の肩を抱き寄せ「大丈夫だよ。いま思春期だから仕方ないんだよ。ママたちはどんな○○でも大好きだよ」と話しました。息子さんも自分がどうするべきかわかっていいます。だから、ここは大人であるお母さんのほうが豪雨強風を受け止めてあげてください。去る子は追わず、来る子は拒まず。「いつでも話を聴くよ」ということのみ伝えたら、あとは一緒にプンプンしていていい。子どものほうから何か言ってきたときは話を聴きましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年11月19日チームメイトからのからかいを真に受け怒ってしまい、チーム内で浮いてる息子。すぐ大声を出して怒ってしまうので、成り行きを見てないコーチたちに息子だけが怒られることも。そんなことが続き、「おれだけが全部悪い」「おれがバカだから」と涙をこぼし自分で頭をゲンコツで殴ることも......。普段のちょっとしたことで過剰に怒られている感じがするものの、息子にも原因があるので指導者陣に相談しづらい、とのご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<スパルタ母のしごきで息子がやる気喪失。父はどうすりゃいいの問題<サッカーママからのご相談>こんにちは。現在小2(7歳)の息子は、1年前からスポーツ少年団でサッカーをしています。当初は息子を入れて学年3人だったのが、今では人数が増えて同学年7人になりました。人数が増えて嬉しい反面、仲間から浮いた存在になっている息子についての相談です。息子はちょっとしたからかいなども真に受けて怒ってしまうことが多く、チーム内で距離を取られてしまいがちです。怒って大声を出したり、からかいにすぐカッとなってしまうため、余計に面白がられて更にからかわれたり、その結果、指導者にきつく叱られることが多々あります。そんなことが何か月か続き、家にいるときに息子が「おれだけが全部悪い」「おれがバカだから」「おれは全然できてない」と涙をこぼし始めました。頭を自分でゲンコツで殴ることも数回ありました。いつも息子が騒ぎだすことで指導者が気付くため、その時点では息子ひとりが怒っていて、からかっていた子や周りではやし立てた子は特に叱られることはありません。それで、自分が全部悪いと言っているようです。本人は納得いかないけど、そうやって自分を納得させようとしているように感じます。息子自身も集中力がなく、よそ見や砂いじりをしていたり、他の子にふざけてちょっかいを出すときもあり、そこは直していかなければならないところだと思っています。すぐに怒ってしまうので、それで他の子から距離をとられてしまうのも大人としては理解できるところです。集中力が足りないのも、怒りやすいのも、息子自身も直さなければと思ってはいるようですがすぐには改善できず、同じことで注意を受け続けて「またできなかった」と失敗体験を積み重ねてしまう日々。サッカーも、自主トレを続けている割には他の子のようには技術が身につかず自信がないので引け目になっていて、色んなことを受け流す余裕がないんだろうと思います。チームの子とうまくいかないこと、サッカーがなかなか上達しないこと、指導者からも問題児と認識されていること、息子自身が自分をダメだと言い始めていること、色んなことが積み重なってしまってどこからどう手をつけていいのかわかりません。集中力がなくて試合でもベンチ態度が悪い(砂いじり、草いじり、よそ見など...)ことや、すぐに怒って輪を乱すことなど息子に非があることが多いので、普段のちょっとしたことで過剰に怒られている感じがするものの、指導者陣に相談しづらいです。何かアドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただきありがとうございます。よくぞご相談してくださいました。小学校で過ごすぶんはそこまで大変ではないけれど、サッカーチームという集団活動になると、さまざま難しい局面を迎えてしまう。そういったお子さんは決して少なくありません。さまざまなきまりやルールがその子にとってハードルが高かったり、サッカーのスキルの優劣に打ちのめされたりする。そのため自己肯定感が下がってしまい、せっかくの楽しいサッカーの時間が苦痛になってしまう――。息子さんは、まさにそんな状況ではないでしょうか。■心の成長がゆっくりなだけ。周りの子と同じように、と働きかけるのは逆効果私も長男がとっても個性的でしたので、それなりに状況を察することができます。すぐにカッとなって手を挙げる。試合で相手にファウルされると、すぐに報復する。小学5年生くらいまで、ほうぼうで謝ってばかりいました。お母さんも個性豊かな息子さんに少しばかり苦労されているようです。さまざまトラブル続きで、親のほうも疲れちゃいますね。でも、大丈夫。焦る必要はありません。息子さんは、ほかのお子さんよりもほんの少しだけ心の発達がゆっくりなだけです。一見すると短所ばかりと思えるかもしれませんが、このように個性的なお子さんには、まだ本人や親御さんが気づいていない「いいところや才能」を隠し持っていることが多いのです。そこに密かに期待を寄せながら、今はまずはリラックスして、息子さんをおおらかな目で見てあげてください。子どもの発達がのんびりしているのに、親や周囲の大人たちが「周りの子と同じようにしなさい」と働きかけてしまうと逆効果です。親の側は「これもひとつの個性だ」と受け取って、ここはのんびりいきましょう。■7歳ならベンチで砂いじりをするのはある意味自然なことそこで、私からは「のんびり子育てプラン」の3ステップをお伝えします。良かったら参考にしてください。その1。他のお子さんと少し異なる個性を、できる限りおおらかに受け止めましょう。すでに前述したことではありますが、ここが非常に重要です。一度、整理してみましょう。例えば、「集中力がなく、よそ見や砂いじりをしていたり、他の子にふざけてちょっかいを出すときもあり、そこは直していかなければならない」と書かれていますが、なぜこのような行動をしてしまうのでしょうか?息子さんが「性格の悪い子」だからでしょうか?「意地悪な子」だからでしょうか?どれも違います。息子さんは7歳です。この年齢で、試合に出ておらずベンチにいるときに、砂いじりをするのはある意味自然なことです。だって、暇なんですから。お母さんも電車に乗って、文庫本も読み終わってしまった、なんていうとき、スマートフォンをいじったりしますよね。コーチは仲間のプレーを見るようにと言うでしょうが、難しいことです。子どもの見方はいろいろあるかと思いますが、私がコーチなら「ベンチでも集中して試合を観なさい」と命じて、その通りやってしまう子がもしいたら、大人の言うことを聞きすぎるという面でその子のほうが心配です。ただ、ここで私が「できる限り」受け止めて、と書いたのは、受け止めきれないことがあってもいいよということです。腹が立ったり、情けなかったり、息子さんに「ちゃんとしないさい!」と怒りたくなる(もう怒っちゃってるかもしれませんが)瞬間もあるでしょう。そういうときは、少し息子さんのこの問題と距離を置きましょう。たまには、練習や試合を休んで二人でどこか遊びに行ってもいい。たまには、お父さんがおられれば、お父さんに、いなければ他の大人に任せてもいい。子育てをお休みする時間が必要です。常に頑張ったりしなくていい。とにかくぼちぼちいきましょう。■昔ながらの忍耐と根性ではなく、逃げ場を作ってあげてその2。母子とも自己肯定感を上げる。「おれだけが全部悪い」「おれがバカだから」「おれは全然できてない」と涙をこぼし、頭を自分でゲンコツで殴る、と書かれています。これはいけません。まだ7歳で、ゆっくりめの彼にとって、少々ハードな環境のようです。ここはぜひ「ダメなんだから頑張れ」と圧迫して、這い上がらせる昔ながらの手法で接するのではなく、まずは彼がそう感じることに心を寄せましょう。「辛いね。でも、気にしなくていいよ」「きつかったね。でも、大丈夫だよ」「バカとか誰が言ったの?お母さんは全然そう思わないよ」と慰め、励ましてください。無言で背中をさするだけでもいいです。そして、サッカーについては「一度始めたのだからやり通せ」などと言わず、「嫌だったらいつでもやめていいよ」「他のことをしてもいいよ」「他のチームを探そうか?」と逃げ場所を作ってあげてください。それとともに、お母さんも自信を持ってください。サカイクにメールを出してまで、成長がゆっくりめな彼と真剣に向き合っている。そんなお母さん、素晴らしいと思います。ピンチの時は、成長するチャンスの時間です。いつの間にか解決して、子どもは成長していきます。チームの子とうまくいかない。サッカーがなかなか上達しない。指導者からも問題児と認識されている。息子自身が自分をダメだと言い始めている。どこから手をつけていいかわかりません、とありますが、これらはすべて繋がっています。他者を変えるのはなかなか難しいので、まずは自分をダメだと思っている息子さんの心をほぐすことから始めましょう。■時には親が言葉で補ってあげることも大事(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)その3。コーチに相談する。サッカーの活動が始まれば、そこは選手とコーチたちの空間です。親御さんがさまざま口を出すことではありませんし、ただ見守っていれば良いのです。指導者の方については「すぐに怒って輪を乱すことなど息子に非があることが多いので、普段のちょっとしたことで過剰に怒られている感じがする」と述懐されています。であれば、そこはお母さんの言葉で補ってあげてください。「少し発達がゆっくりめなので、ご迷惑をかけることがあるかしれませんが、長い目でみてもらえませんか?」と。もしそれで迷惑がられたり、叱り飛ばすようなことが続くのなら、一度お子さんと相談してチームを替えたほうがいいかもしれません。以前に比べて、サッカーのコーチの方々は子どもについてとても勉強されています。子どもの発達は個人で大きな差があり、そこを受け止める重要性をご存知の方は多いです。担当コーチが難しそうなら、クラブの代表の方に相談してもいいでしょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年11月03日全国を目指すレベルなので、日々の練習や土日の遠征などいろんな面で過酷だからと親の判断で移籍させたが、退団したことを後悔し、前のチームに戻ったけど1年のブランクは大きく下の学年にも抜かれ試合に出られそうにない。自分が先導して移籍させた選択が良くない方向に行ってしまい、わが子を傷つけた。卒業まで2年半ぐらいあるけどどうすれば......。というお悩みをいただきました。親の判断で移籍させるかどうか、悩んだことがある方もいるのでは。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<スパルタ母のしごきで息子がやる気喪失。父はどうすりゃいいの問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。 このような相談できる場所があり、ありがたく思います。小4の息子はスポ少に所属しています。全国を目指すチームなので、まあまあレベルは高いです。1年生からサッカーを始めましたが、3年生から4年生までの1年間、毎朝学校が始まる前の1時間の練習と土日の県外遠征などあまりに過酷だと感じ他のチームに移籍しました。ですが、少年団を辞めたことを後悔し、4年生になった今年の春、また全国を目指す今のチームに戻りました。しかし1年のブランクは大きく、同学年の子どころか下の学年の子にも抜かされてしまっており今後も試合には出られそうにありません。それもこれも全て私が移籍を誘導をしてしまった結果だと思います。私が良かれと思って選んだ道が最悪な方向に行ってしまい、我が子を傷つけることになってしまいました。息子はまた頑張ったらみんなに追いつけると思っていますが、全国を目指すチームなのでそう甘くはありません。周りの子どもたちもみんな頑張っていて日々上達しているので、1年間緩い練習をしてきた息子との差が縮まるとも思えません。こんなにも厳しい現実が待っているとは気がつかず、またチームに戻してしまいとても後悔しています。辞めて後悔、戻っても後悔。あと2年半どのように過ごせばよいでしょうか。 よろしくお願いいたします。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。「あと2年半どのように過ごせばよいでしょうか?」お母さんは、私にそう問われていますが、2年半をどう過ごすかを決めるのは、息子さんご自身です。まず、その考え方を変えましょう。■サッカーも勉強も子どもが自分の意思で決めること、と胸に刻んでサッカーも、勉強も、進路も、もっと言えばその日をどう過ごすかも、息子さんの意思で決めることです。息子さんの人生は、息子さんのもので、お母さんのものではありません。そこをまずは自分の胸に刻んでもらえませんか?そうしなければ、過度な干渉をやめるスタート地点に立てません。この連載や、それ以外でも、子育てが上手くいかないケースの大きな要因は、親御さんの過干渉であることが非常に多いです。ぜひ、「過干渉な親からの脱却」を目指してください。いまは、非常にお辛いですね。自分が指図しなければ、とか、干渉しなければこうならなかったと後悔の日々かと思います。しかしながら、お母さんはご自分の力で、子育ての失敗にすでに気づいています。「私が移籍を誘導をしてしまった結果だと思います。私が良かれと思って選んだ道が最悪な方向に行ってしまい、我が子を傷つけることになってしまいました」とご自分で書かれていますね。このように、大人になって自分自身の行いを否定するのは勇気のいることです。ところが、お母さんはそれができている。お母さんは、人を育てる力があるのです。どうか自信を失わず「今から過去のダメ親だった自分にリベンジするのだ」という勇気を持ってください。以下、私から三つアドバイスさせてください。■まずは自分の行動の間違いを認め、お子さんに謝ることが重要まずは、息子さんに謝りましょう。●チームの移籍をお母さんが誘導し、振り回してしまったこと。●その際に、息子さんととことん話し合うなど、時間の余裕をもたなかったこと。●息子さんの意見をじっくり聞かなかったこと。●「このチームはあまりに過酷だ」とか「やはり元のチームのほうが」などと、お母さんの感覚や考えを基準に移籍を繰り返し、息子さんの気持ちを最優先してこなかったこと。●過干渉な母親だったこと。そのあたりをきちんと伝えましょう。その際は「許してね」などと許しを請うのではなく、とにかくご自分の行動の間違いを認め、謝ることが重要だと思います。二つめは、子育てを勉強してください。過干渉が子育てにどんな悪影響を及ぼすか、それを学んでください。ネットに「子育て、過干渉」と打ち込んでもいいし、そこに「サッカー」を入れてもいいでしょう。過干渉親についての本もたくさんあります。同時に、干渉せずに子どもを育てるメリットも学んでください。例えば、子どもは「選ぶ」機会を増やすことで成長していきます。そのためには、小学生段階で親は離れたほうがいいのです。例えば、私が十数年前に勉強した、イギリスの小児科医で臨床心理の専門でもあるウィニコットの教示をお伝えします。ウィニコットは、母親と子どもとの関係において「ほどよい母親(good enough mother)」であることが大切だと言います。「ほどよい母親というのは、初めは幼児の欲求にほぼ完全に応じ、やがて時間の経過につれて、母親がいなくてもひとりでいられるようになってきたら、子どもへの対応を少しずつ減らしていく」つまり、「初めはしっかりと子どもに関わり、だんだん離れる育児のできるお母さん」が「ほどよい」。このグッド・イナフ・マザーをぜひ心がけてください。■親の言う事を聞いていればいい、という育児は間違いまた、日本の著名な小児科医は、親が手をかけて子どもを「育てる力」と、子ども自身の中にある「育つ力」の関係性を以下のように解説しています。●0~3歳頃「育てる力」>「育つ力」(育てる力が上回る)●4~6歳頃「育てる力」=「育つ力」(両方の力が同じくらい)●7歳以上「育てる力」<「育つ力」(育つ力が上回る)この説明からわかるように、子どもが小学校に入学したら、「育つ力」を信じて、子どもの成長を見守るような親御さんが、子どもを成長させるのです。ぜひ、そういったことを学んで、過干渉親を脱却する糧にしてください。論理を根っこから理解せず、「干渉しないほうがいい」と他人から言われたところで、人はそうそう変われません。ぜひぜひ、子育てを学んでください。なんで今更子育てなんか勉強しなきゃいけないの?と思うかもしれません。が、私たちの多くが施された、圧迫して、厳しく言い聞かせて、お母さんの言うことを聞いていればいいのよ、という子育ては、実は間違っています。違う手法をぜひ身に着けましょう。■子どもが自分で考えて決める機会を与えてみようそして、三つめ。干渉をやめるには、まず、上記の考え方をご自分に刷り込んでいく作業が必要です。日常生活から、「どうしたい?」「どうする?」と問いかけます。お手伝い一つでも、あれやって、これやってと頼むのではなく、何か手伝えることがあるか自分で考えてやってみて、と伝えましょう。二度の移籍を、親御さんに従い、ついてこられた息子さんは、もしかしたら従順に育っていないでしょうか?よく言えば素直。違う見方をすれば、自分で考えられない、自分で決められないところがあるかもしれません。ただし、それは彼に能力がないわけはまったくありません。これまで、そういった自ら考える、悩む、決める機会を与えられてこなかっただけです。ここからが、子育てのやり直しの一歩です。■親としてのリスタートであり、大きなチャンスでもある(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)そして、最後に。私は、こうなって良かったとさえ思います。もし、2つ目のチームでうまくいって満足していれば、「ほら、お母さんの言ったとおりにしてよかったでしょ」ということになります。ママについて行けば大丈夫、私についてこさせれば大丈夫と、親子して間違った認識を持つところでした。これは、お母さんの母親としてのリスタート。大きなチャンスなのです。まったくもって落ち込まなくていいのです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年10月28日ボールを奪いに行ったり、近くの味方が抜かれた時は相手選手を追いかけるけど、それ以外の場面で連係プレーが少ない。DFとGKが連携してプレーできるようになってほしい、プレーのイメージを共有してお互いの声かけができるようになるにはどう指導したらいい?という質問をいただきました。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、今回も具体的なトレーニングの例を挙げてアドバイスを送ります。参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<相手やボールとの距離感が理解できない小6、中学入学までに幅と深さの意識を身につけさせる練習を教えて<お父さんコーチからの質問>いつも連載を拝見しています。指導年代は小学生年代全般ですが、今シーズンは主にU-12を見ています。相談したいのは主にDFとGKの連係イメージを共有させることと、お互いの声かけ(コーチング)についてです。ボールを奪いに行ったり、近くにいた味方が抜かれたときに一生懸命相手選手を追いかけるなどのフォローはできていますが、それ以外の選手の動きが連動できていません。もっと連動して守備ができるように指導したいと思い、いくつかのパターンを用意して練習しているのですが......。最近では小学生年代でも自分たちで戦術を決めて試合に臨むチームもあるようで、私たちもそうなりたいと思っています。何より、自分たちで考えられる力をつけてほしいのです。どんな時にピンチになるか、どんな時がチャンスなのかを理解して、お互いに声をかけあって欲しいのですが、その辺の理解を促進するトレーニングがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。ゴールキーパーとフィールドプレーヤーとの連携を高めるには、試合やミニゲームでの攻撃の際にキーパーにビルドアップに加わるよう指示することです。■まずは連携の感覚を養うキーパーはゴールキックを蹴ることなく、なるべくサイドバックかストッパーに出すように言います。そこで相手がボールを奪いに来たら、またすぐキーパーに返せば取られません。そして、キーパーはまた、センターバックやサイドに出せばいいのです。最初はゆっくりと回すようにします。まずはそういうことをして「連携している」という感覚を養ってください。それをやってくと、次に「守る時も同じだ」ということに気づきます。誰が誰がボール保持者に最初にディフェンスに行くのか。カバーはどうするのか。だんだん見えてくるので、最後尾にいるキーパーからもコーチングの声が生まれてきます。ところが、これを守備から入ってしまうと、どうして守ることに意識が向いてしまいます。したがって、必ず攻撃から入って相手の先手を取る方法さえ知れば、スムーズにできるようになります。■トレーニングでの状況設定のしかたでは、練習はどうするか。まずは2対1の状況をつくればボールを取られないことがわかります。相手トップがボールを奪いに来ても、サイドバックがいて、センターバックもいるので取られません。例えば4バックなら、守備4人とキーパーがいて相手2人という5対2の状況設定でトレーニングをします。逆にディフェンス側から見たら、数的不利の時にどう守るかをここで練習できます。6年生くらいになるとそんな練習をしていく必要があるのですが、このようなビルドアップトレーニングを実際に行う人は少ないようです。すぐ試合をしてしまい、そこでやろうとします。ところが、試合になると相手に取られたらいけないと怖くなるので、焦ったキーパーやバック陣がすぐに前線に大きく蹴ったり、ミスをしてしまいます。ですので、同じ状況が何度も出てくるような設定をつくって、練習をさせてください。■攻撃と守備どちらが先か、ではなく両方一緒に高める練習のスタートが2対1で、それをベースに考えていけると、問題なくビルドアップできるようになります。例えば、相手ボールでスタートする。さあ、どういうふうに守りますか?次にディフェンスをしていてボールを奪ったら、攻撃に転じます。前進できるようつながないといけません。ところが、つなぎ方を知らないと、また取られる。つまり、守り方を知っていても、奪ったボールをつなぐことを知らなければ、取られ続けることになります。よくコーチ同士で「攻撃を先に覚えるのか、守備が先か」という話になります。いい攻撃をしてくれると、守る側は守備力を磨けます。守備力がアップすれば、そこをこじ開けなくてはいけないので、つなぐ力やアタックのスキルは向上します。鶏が先か卵が先かという話と似ていますが、両方を一緒に高めていくことを目指します。守備の場合、ファーストディフェンダーがまずはボールを奪いに行って、次はセカンドがいくというかたちで、全体で連動します。ところが、日本の少年サッカーの場合は、ファーストディフェンダーがボールを取りに行きません。このアプローチのところで、コーチの皆さんは「飛び込むな」と選手に言ってしまいます。でも、取りに行かないと取れません。相手は、プレッシャーを感じずに自由に何でもできてしまいます。これは、プロ選手でさえ同じ状況です。取りに出ていかないため、なかなかカバーリングを学べません。そこが大きな問題です。■相手に抜かれても追いかけてゆくように導いてあげる皆さんはドイツやスペインなど海外のサッカーをよくご覧になると思います。見ていると、プロたちが足を踏まれているシーンがよく出てきます。ボールを保持している選手が、寄ってきた相手に足を踏まれ倒れる場面があります。これが日本なら、体を寄せに行きます。子どもも同じようにやるので、体ごとぶつかってしまう場面が多くなるようです。それを考えると「相手にかわされてもいい。思い切って行け」と育成年代には言ってあげるべきだと思います。しかし、抜かれて失点して負けるのを避けるため、前述したように「飛び込むな」と命じてしまう。非常に根が深い問題です。このあたりの指導は、コーチの「生きざま」「生き方」みたいなものが現れるようです。取りに行って一度かわされると、日本の子どもは諦めてしまいます。かわされても、抜かれても、それでも追いかけてゆく気持ちが大切なのです。指導者がそこで「もう一回追いかけてごらん」と導いてあげてください。■日本の子どもは戦術理解に乏しい(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様が尋ねている「連携の声」は、戦術を理解することで出てきます。声ではなく、頭の問題といえます。相手が攻めてきた時に、どんなふうに守ったらいいのか。そういった戦術理解が、日本の子どもは乏しいようです。キーパーであれば、背後からディフェンダー全員を見て、相手が右から攻めてくるけれど、左のスペースはどうかな?と考えられる。つまり、ボールだけ見ていてはダメで、マークが外れそうな仲間に「そこケアしよう」「裏来るよ」などと教えてあげる。戦術眼やゲーム感を身に付けなくてはいけません。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年10月23日努力しろ、朝練しろ、やる気が見えないと言い、休日は朝から息子を公園に連れていき、いろんなメディアで集めたトレーニングを実践するスパルタで過干渉な妻を変えたい。というお父さんからのご相談をいただきました。うまくはないけど楽しくサッカーをしていたのに、母親のダメだしと強制練習でサッカーが嫌いになってしまうことが心配だと言っても「子どものためなの!あなたは甘い」と言われ話し合いができなくて......とお悩みをいただきました。今回のご相談に、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんは、ご自身も同じような体験があると言います。かつての体験と取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<サッカーチームでいじめ?親はどう振舞えばいいのか問題<サッカーパパからのご相談>このコーナーは母親からの相談が多いようなのですが、妻の過干渉などについて相談させてください。9歳の息子がサッカーをしています。監督からチームの方針などは事あるごとに言われているので、試合や、練習中は指示や大声を出すことはないのですが、帰ってからはダメだしばかりです。努力しろ、朝練しろ、やる気が見えないと言い、休日は朝から息子を公園に連れていき、サカイクをはじめとしたいろんなメディアで集めたトレーニングを実践しています。私の方は、プロになってほしいわけでもないですし、まだ3年生なのでコーチの言う事に耳を傾けたりチームメイトと仲良く協力できればいいのでは、と思っています。何より妻のスパルタで子どもがサッカーだけでなくスポーツを嫌いになってしまう方が嫌です。なので「子どものスポーツに熱くなりすぎだよ」と言うのですが、「息子のためを思ってやっているの。何が悪い。あなたの考えが甘い」と話を聞いてくれません。息子はレギュラーではなくチームの中では平均的か少し下手なぐらいです。それでも試合は楽しそうにしていたのですが、最近は妻のダメ出しと強制自主練でやる気が無くなってきているように思います。私自身は楽しんでいてくれればいいよ、と伝えているのですが、子どもにとって母の影響は大きいもので、このままサッカーが嫌いにならないか心配です。親の過干渉が子どもにとって良いことはないと思います。家庭で解決する問題なのかもしれませんが、先輩ママとして島沢さんのアドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>わわわ!デジャブかと思いました。奥様、十数年前の私とよく似ています。この度はご相談をいただきありがとうございます。私も息子が小学3年生くらいまで、試合中はぎゃんぎゃん叫んでいました。ただ、私はビデオでダメ出しをしたり、自主練させたりはしませんでした。それは、仕事で忙しく、息子のサッカーに分配するエネルギーが残っていなかったためで、余裕があればやってしまったかもしれません。ただし、そんなふうに「ダメなヤツ」だったので、奥様含めた多くのママやパパがついつい熱血になってしまう感覚や理由が理解できます。■息子がより幸せな人生を送れる基盤を作ろう、と夫婦で同志感覚を持つ立派な指導者の方々は、なぜあんなに熱くなるのかわかりませんねえと「僕らは君らとは違う感」を醸し出すのですが、私は心の片隅でホントかいなと疑っています。何の後悔も失敗もせず、最初からとても良くできた親など、ほとんどいません。特に、圧迫して子どもを奮起させる教育観が強い日本では、親たちもそうやって育てられています。よく言われることですが「育てられたように育ててしまう」のはある意味当然なのです。私は自分のライターという仕事のなかで、さまざまな子育ての専門家に出逢い、その方々の知見とエキスを呑んで、自分の子育てをある程度変えることができました。しかしながら、それと同様、あなたに奥様の子育てを変えるエキスになれとは言いません。ここで大事なのは「一緒に子育てを勉強して、少しでもいい親になろうね」という"同志感覚"です。われらの息子をよりよく、より幸せな人生が送れる基盤を作ろうぜ――そんなふうに奥様に寄り添う姿勢と心構えをまずはをつくってください。■考えが甘いのは過干渉しているほう。子どもの成長を阻害している以下、具体的なアドバイスを五つ贈ります。①子育てに関する本を読んで勉強するネットで「サッカー子育て本」と検索してみてください。書籍名でトップにあがるのは『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』と『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』です。これらは、今や「少年サッカーの神様」と言われる池上正コーチの書籍で、私が一緒に作った本です。少年サッカー親の子育てバイブルと言われているものなので、ぜひ参考にしてください。ほかに、脳科学者の林成之先生が著した『<勝負脳>の鍛え方』(講談社)という新書もお勧めです。子どもの発達が理解できます。②自分の自信を作るあなたが「妻のスパルタで子どもがサッカーだけでなくスポーツを嫌いになってしまう方が嫌」で、「子どものスポーツに熱くなりすぎだよ」とアドバイスすることはまったくもって正しい。正しいけれど、今のところ「息子のためを思ってやっている。あなたの考えが甘い」と一蹴されています(サッカーだけに。いや失礼!)。ところが、考えが甘いのは、実は妻のほうです。なぜなら、言うことを聞かせ、無理やりでも自主練をやらせていることは、こうしなさい、ああしなさいと働きかけているので、子どもは自分で「上手くなるにはどうしたらいいんだろう?」と考えることもしなくていいし、楽です。お母さんの言うとおりにして、それでも上手くならなかったら、思春期になって「お母さんのメニューが悪かった!ちっともうまくならないじゃないか!」と怒ってちゃぶ台をひっくり返したり、家庭内暴力に出ます。楽をした(させられた)分、こころ(脳)が成長していないので、自分で段取りして前進しなくてはいけない年齢になると、一気に成長が止まってしまうのです。一方で、わが子に主体性を持たせるような子育てをしている家庭の子どものほうが、中学、高校でスポーツも勉強も大きく伸びます。「もっと上手くなりたいなら自分で考えてごらんよ。ただ、ママもパパも楽しくサッカーしてくれればそれでいいけどね」子どもと距離を置き、その子に対し主体性を求める。それこそが、本当の厳しさです。そんなことに比類する事柄とその根拠が、ご紹介した本にたくさん書かれています。それを読んで、あなたのほうが自信をもってお母さんと向き合える態勢を整えてください。■過干渉な親は賢い人が多い。だからこそできる解決法③自分と向き合う本にこうこう書いてあるんだよと伝えるのが目的ではありません。まずは、ご自分に自信を持ってほしいと思います。なぜなら、ご相談の文章を読むと、あなたは息子さんのために何をすべきかをすでに理解しているし、行動も起こしています。全面的に正しい(拍手です)。しかしながら現時点では「妻のダメ出しと強制自主練でやる気が無くなってきている」状態で、このままサッカーが嫌いにならないかと心配しつつも、話が通じない妻に対しお手上げ状態。いつ順番が回ってくるかわからないこの相談コーナーにメールを書かれるのですから、メール文以上に深刻な状況と察しています。問題を解決するためには、まず、妻ではなく、あなたが自分と向き合い、変わることです。お父さんは、きっととてもやさしい方だと思います。そのやさしい性格のまま、一日も早く自信をつけてお母さんと話し合って下さい。④どんな子育てがいいかを話し合ういきなり過干渉はやめろと切り出すのではなく「最近、やる気失ってるみたいだよね。ちょっと話し合わない?」と二人でテーブルにつきましょう。ケーキとかお茶を用意して、世間話のように。最初に、妻の奮闘をねぎらってあげてください。子育てよく頑張ってるよね、と。子に過干渉な親は総じてエネルギーがあり、賢い方が多いようです。できる人だから、サッカーの練習方法など情報を集められるわけです。でも、ママ、どうもちょっと違うようだ。僕と一緒に、サッカー少年の子育てを勉強しようよ。少し違う頑張り方をしないか?と提案してみましょう。■相手を許しながら、少しずつ変えること(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)⑤干渉することをひとつずつ減らす・自主練は、息子さんから誘ってこなければやらない。・試合後のダメ出しはやめる。ひとつずつ、なくしましょう。「いや、ママ、上手くなってほしいという気持ちはわかるけれど、そこは譲れない。わが家では、こういう子育てにしようって話し合ったよね」奥様を許しながら、変えていく。そんなイメージです。お父さん、落ち込むことは何もありません。妻の過熱癖に早く気付いてよかったのです。たかが子どものサッカー。そこを忘れてほしくないので、文中に寒いシャレなど挟んでみました。ピンチのときは、大人も子どもも成長する時間です。ここを切り抜ければ、とても素敵な家族になれると思います。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年10月14日まだまだポジショニングの理解が浅く、相手選手やゴールとの距離感が上手くつかめていない小6の子どもたち。「幅と深さ」の意識が足りないという事だが、どう身につけさせたらいいのか。というご相談をいただきました。みなさんはどのように指導していますか?これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、幅と深さを理解するのにお勧めメニューをご紹介しますので参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<U‐10年代の運動能力を高めたい。サッカーの時間にできるお勧めメニューを教えて<お父さんコーチからの質問>こんにちは。学校のチームで6年生を見ることになったのですが、どのように教えてよいのか悩んでいます。年齢的にももう団子サッカーではないですが、まだまだポジショニングというか、相手選手やゴールとの距離感が上手くつかめていない子がいます。幅と深さの意識が足りない、という事だと思いますが、練習でどのように教えれば理解しやすいのか、どんな練習方法が良いのか、という部分で悩んでいます。子どもたちはみんな同じ学校に通っていて、小1から一緒にサッカーを始めたメンバーなので気心も知れているし、お互い言いたいことを言える関係性なので、サッカーの理解度が深まればプレーの質もお互いのコーチングなどの質も上がるのではないかと思っています。中学以降もサッカー部に入る子が多いので、今のうちに意識させた方が良いだろうと思っているのですが、何かいい指導方法はありますか?<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。距離感、サッカーで言うところの「幅と深さ」を理解する、させるメニューや明確な指導法が、日本ではあまり浸透していないようです。■幅と深さを理解する三つのステップ幅と深さを理解するには三つのステップがあります。横に広がると何が得か。深さがあると、どんなことが起きるのか。まずはここを子どもたちに説明してください。例えば、狭いエリアでボールをもらうと、相手のディフェンダーとも味方とも距離が近くなる。相手からすぐにプレッシャーを受けてしまって、逃げられない。要するに、ボールマンがプレーすりエリアが狭くなるわけです。混雑していて、相手ディフェンダーが塊になっているような状態なので、ドリブルやパスですり抜けられません。一方で、味方同士が広がっていれば、一人ひとりのプレーエリアが広いため、相手ディフェンダーがボールを取りに来ても交わしやすい(逃げやすい)。ボールを取られずにすむ。相手のディフェンダー同士の間隔が空いてくるので、間にパスを通しやすいし、ドリブル突破もやりやすくなりますね。それが「横」の説明です。この論理は、「縦」についても同じです。前に走ってボールを受ける。つまり、深くプレーすれば、ゴールに近くなります。ゴールに近いところにボールが入ったとしたら、そこにカバーリングにいける選手は少ないはずです。ディフェンダーと1対1の場面になりやすい。そうすると、チャンスになります。そして、これが、守備側の視点から教えるとすれば「ピンチになるよね」ということです。これをホワイトボードを使ったりして、まずは口頭で説明してください。■どうすれば幅が取れるか、プレーを止めて考えさせる二つ目は、ミニゲームです。説明を聞いて意識してプレーしようとしても、最初は狭くなりがちです。そういうときは、一度フリーズさせます。「はい、動かないで。そこにいて」と一度止めるのです。「今の状況を見てごらん。どうなってますか?」そんなふうに、問いかけます。選手たちが状況を理解しやすい場面でストップしているので、狭くなってプレーしづらい状態であることが可視化できます。実際、横に広がれず(幅を使えず)、真ん中に固まることが非常に多いです。「ほら、見てごらん?どうしたいいかな?」そこで選手と話し合います。「もっと、ぼくがタッチラインのほうに寄ったほうがいい」など、意見が出てきます。「じゃあ、何を考えると広がれるかな?」そのようなやりとりをしながら、時間をかけて伝えましょう。自分たちで気づいて、解決する時間を確保してあげることが重要です。私のこれまでの経験から言っても、6年生は相当時間がかかるでしょう。広がって、ボールもらうときに「次は何を考えるか。どう動くか」といったことがなかなか理解できません。狭い状況でも、自分ひとりでドリブルしてしまう場面が多いです。そうではなく、みんなが幅と深さを理解して、いいタイミングで動き出せば、ボールがサイドに渡って、一度真ん中のポストマンに当てて、ワンツーでもらったサイドの子が折り返す。ゴール前にポストマンや二線目から走り込んだ選手がゴールする。そんなイメージが持てるようにしたいものです。昔風にいえば「パターン練習」というのがあります。サイドに振って中に当て、逆サイドにまた振って折り返してゴールする。そんな練習です。それをすると、ひとつのパターンにとらわれてしまいます。それよりも、原理原則を伝えてください。広がると、こういうことが起きるでしょ?真ん中は、サイドに広がっているからこそ使える。そんな柔軟な理解です。これを理解すれば、真ん中に入れると見せかけて、サイド使うといった相手を欺くプレーができるようになります。■幅と深さを覚えるためにオランダが行うのは「5対2」三つめのステップは、幅と深さを覚える練習です。ひとりのプレーヤーが使うエリアを広くする。相手が寄ってきて狭くなったら、逆サイドにふる。そんな原理原則を学ぶために、オランダでは「5対2」を行います。その際、横長の長方形のグリッドを使います。正方形が二つ横に並ぶ感覚です。そこで、半分の正方形のなかで4対2をする、ひとりは逆の正方形で離れてポジションを取る。そんなイメージです。例えば、ゴールに向かって左側の正方形のなかで4対2を始めます。左の端のほうに寄せるイメージです。そこから、スペースを広げておいた右にパスをする。右の選手がドリブルでゴールに向かっていけば、守備の2人のうちひとりが寄ってきます。その状態で4対1の数的優位になっているわけです。ところが、6年生くらいになると反対に出せばいいと思うので、最初はすぐに逆サイドに蹴ったりします。2人も中間守備のままで、サイドから逆サイドへ渡るだけになりがちです。その場合はストップして、ゴールへ向かうなどして、相手守備をどちらかに引き寄せるのが重要だと伝えます。相手をしっかり引き付けてから逆に出す。その感覚を覚えてもらいます。そうすると、幅と深さが身につきます。■スルーパスとサイドチェンジの両方を学べる練習(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)オランダのこの練習が面白いのは、例えば左に引き寄せて守備2人がくると、その間を通して逆サイドに出せばスルーパスのイメージになります。一方、2人を引き寄せ、その外側から逆サイドにパスをすれば、それはサイドチェンジのイメージになります。オランダサッカー協会は、このトレーニングで、スルーパスとサイドチェンジの両方を学べると考えています。オランダでは1970年代から行われていた練習なのですが、低学年からそれをやっています。17歳以下のカテゴリーになると、前出の5対2をダイレクトパスでやらせます。私はこのトレーニングを、YMCA時代に6年生にやらせていました。そうすると、簡単に相手のプレッシャーを抜けられます。そうやって幅と深さを理解した子どもたちは、YMCAの全国大会でチーム全員が出場して優勝しました。最近スタートさせたアカデミーでも、小学3年生くらいからこの練習をやろうと思っています。また、拙書『サッカーで子どもの力をひきだすオトナのおきて10(DVD付き)】』で、最後の「サッカークリニック」の章で、これの参考になりそうなメニューの説明をしています。DVDでは、それらのメニューを私が実際に指導しています。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年10月09日優しいけど自己主張が上手くない小6の息子がチームメイトから意地悪を受けている。今のところイジメとまでは判断できないので、わが子にも「やり返せ」しか言えない。チームではサッカーが上手い子や、技術はそこそこでも口が達者な子が幅を利かせている。大人しく優しい子でもチームで評価され上手くなれればいいけど、放任主義のコーチたちには期待できない。親としてうまく立ち回ればいいけど、いい方法が思いつかない。どうすればいい?というご相談をいただきました。少年サッカーの保護者の悩みとして、いじめ問題を抱える親御さんもいらっしゃると思います。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<食トレだと無理やり食べさせられ胃潰瘍に。安全無視のクラブをやめたい問題<サッカーママからのご相談>子どもの人間関係に関しての悩みです。小学校6年生の息子が隣町のサッカー少年団に所属しています。息子の立場は、Aチーム(一軍)の控えといったところです。移籍したこともあり、学年内に同じ小学校の子はいません。優しい性格ですが自己主張やコミュニケーションが苦手な息子は、学年が上がるに連れて仲間から意地悪を受けることが増えました。悪質なイジメとまでは行かないので、親としてもその子たちに苦情を言うことができないし、コーチに相談するのも気が引けます。ですが息子も言われたことを気にしている時もあり、親としてもどかしいです。現段階ではイジメにつながらないことを祈ることしかできません。どこのチームでも同じだとは思いますが、サッカーが上手い子や、上手くなくても自己主張が強く口が達者な子が、幅を利かせると思います。中学以降は学区も違うしその子たちと同じチームになることはないので、最後まで続けさせようかと思っていますが、状況がひどくなるなら途中でも辞めさせようかと考えることもありますが、Bチームの子達とは割りと上手くやっていますので、辞めさせるのもためらわれます。私の方で何か上手く立ち回れたらいいのかもしれませんが、どんな風にすればいいのか思いつかず、「やられたらやり返せ」と息子に言うくらいしかできません。放任主義のコーチや、たまにしか来ない総監督は頼りになりそうにありません。大人しく優しい子でも、やる気さえあればサッカーが上手くなるようなチームが有るのが理想ですが、私の知る限りでは上記のように上手い子か、口が達者で上に気に入られる子たちが優位に立つチームが多いように思います。まるで社会の縮図のようにも思えますが......。義務教育の学校ではないので、「意地悪が気になるなら辞めろ。でなければ我慢しろ」が正しいのでしょうか。サッカーチーム内のイジメに関しての知見もないですし、何か今後の指針になるようなアドバイスを頂けたら幸いです。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。お母さんご自身「イジメにつながらないことを祈ることしかできません」と書かれているので、まだそこまでの段階ではないのかもしれません。どんな時に、どんなことを言われたのか、どういった扱いを受けたのか。そのことで、息子さんがどんなふうに傷ついたのか。ご相談のメールだけではいじめかどうかの判断はつきかねます。したがって、これといったアドバイスは特にはありません。一番いいのは放っておくことだと私は思います。小学6年生と最上級生ですし、あと半年で中学生になります。思春期、反抗期に差し掛かってきてもいるでしょうから、母親に何でも話す月齢は過ぎています。■ぶつかりながら成長する経験も大事、まずは見守る姿勢をいじめや、子ども同士のトラブルは難しい問題ではあります。が、親や教師、サッカーのコーチなど大人がいちいち介入するものでしょうか。無論、介入すべき酷いいじめもあります。毎日、トイレに連れていかれ、仲間の前でズボンをおろされ続け不登校になったケースを知っています。SNSで悪口を書かれたことがもとで、友人をあやめてしまった小学生も過去にはいました。まずは、お子さんによく話を聞いて、酷そうだと判断したらコーチに話してみましょう。そうでなければ、意地悪をしたり、されたりは、子どもの世界にはあって当然のことと理解してください。じゃがいもが一緒に洗われると、それぞれがぶつかって泥が取れてきれいになるように、子どもたちもぶつかりながら成長するものです。そんなことを経験することは人間形成に重要です。自分たちで解決するのを見守ることを考えてください。■お母さんの思考の中に子どもの意思が見当たらないそこで私からひとつ、ご提案します。今回の「いじめかも問題」をきっかけに、子離れしてみませんか?中学以降は学区が違うため、いじめらしいことをしている子たちとは同じチームにならない。よって「最後まで続けさせよう」と、お母さんは思っている。ただし、状況がひどくなるなら「途中でも辞めさせよう」と考える。一方で、Bチームの子と上手くやっているから「辞めさせる」のもためらう。続けさせる。辞めさせよう。辞めさせる。言葉の端々に、子どもに対し「○○させる」と話す方のほとんどが、過度に干渉する子育てに陥っていました。15年余りの教育やスポーツの育成現場を取材してきた知見からのお話です。子どものことを考えるとき、話すとき、お母さんは主語が自分自身になっています。「私は」サッカーを辞めさせたい。「私は」今のチームで続けさせる。この主語を、ぜひ「わが子」にしてください。君はどうしたい?どうしたらいいと思う?そんなふうに「問い」を立てられる母親になってほしいのです。主語が親御さん自身である限り、お子さんはその手から離れることはできません。「お母さんは、サッカーを辞めさせる」「お母さんは続けさせる」――この思考の中に、お子さんの存在や意思が見当たりません。サッカーをやるのは、お子さん自身なのに。この、子離れするために「主語を子どもにする」ことは、今の状況を変えるひとつの鍵になるでしょう。さらに、鍵はあと二つあります。■やられたらやり返せというのは有効なアドバイスではないもうひとつは、お母さん自身が「正しい大人」になってください。「私の方で何か上手く立ち回れたらいいのかもしれませんが、どんな風にすればいいのか思いつかず、やられたらやり返せと息子に言うくらいしかできません」と書かれています。本気でしょうか?やられたらやり返しなさいと伝えるのは、いじめられたらいじめ返せばいいと教えているわけです。恐らく、意地悪なことを言われたら言い返せばいいじゃないの、くらいな気持ちかもしれませんが、お子さんにとって有効なアドバイスになってはいないように思います。もちろん悪いのは、嫌なことや意地悪なことを言ってくる仲間です。ですが、これはお子さんの問題です。まずは、嫌なことを言われたお子さんの気持ちに寄り添いませんか。「嫌だったね。よく我慢したね。君は何も悪くないよ。大丈夫だよ。お母さんに何かできることはある?」そんなふうに尋ねてあげませんか。どうすれば、彼らがそういうことをしなくなるか。どんな解決法があるか。誰に相談すればいいか。そこを一緒に考えてあげてはどうでしょうか?■子どもが助けを求めていないのに先回りしている可能性(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめは、先回りしないこと。相談の文章だけで判断できませんが、お子さんが「お母さん、僕はもう限界だ。何とかしてほしい」とSOSを出しているわけではないように見えます。それなのに、お母さんは先回りしていないでしょうか?コーチは頼りにならないと言ってらっしゃいますし、チームや仲間の良し悪しも一存で判断(評価)されています。悪質なイジメであろうがなかろうが、チームメイトにお母さんが直接苦情を言うのはやめましょう。そして、お子さんが自分でコーチに相談することを勧めてあげてください。そこで相手にされなかったり、逆にお子さんが傷ついてしまったなら、そこで初めて一緒に話をしてはいかがでしょうか。お母さんは、コーチや、いじめらしいことをしている子どもたちに、自分がどう挑めばよいかを私に聞きたかったかもしれません。わが子がピンチを迎えると、親として何をしたらいいかと自分が動くことを考えがちですね。でも、子ども同士のトラブルは、親が出ていかないほうがいいケースがほとんどです。いつも話していることの繰り返しになりますが、覚えておいてください。「言わなければ」ではなく、子の話を「聞かなくては」と考えてください。見守ってあげましょう。親が見守ることで、子は成長します。結果的に、子の人生を護ることになるのです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年09月30日U‐10年代におすすめの、子どもたちの運動能力を高めるメニューを教えて。という指導者からのご相談です。自分の身体を自由自在に動かせるようになるほうが競技のスキルも伸びるとされていますが、忙しくて色んなスポーツや運動経験をすることが少ない現代の子どもたちに、サッカーの時間を使って運動能力を高めるメニューが知りたいとのこと。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、神経系、筋力系を刺激し瞬発力(アジリティ)や調整力を伸ばし、その年代に沿った体幹をつくるお勧めメニューをご紹介しますので参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<回数はそんなに重要か。リフティング信仰から目を覚まさせるアプローチを教えて<お父さんコーチからの質問>チームは小学生年代全般が所属しており、日にちや時間帯でそれぞれの学年を担当しています。今回はU‐10世代について相談です。過去にも「ボールを投げられない」など近い相談があったようですが、子どもたちの運動能力を高めるためにサッカーの練習時間の中で何かできることが何かあれば教えていただきたく思います。というのも、世間ではマルチスポーツが推奨されているのは知っていて、自分も賛成なのですが現代の子どもたちは、ほかのスポーツ、運動を体験する機会が少ないような気がするのです。私のチームも週2日は休みを設けていますが、少年スポーツも何だかんだ練習が多いですし、小学校から塾に行っている子も増えてきているのでスポーツの掛け持ちをすること自体が難しいというのも理解します。中にはサッカー上達のために専門のスクールに通う熱心な親子もいますが、とにかく複数のスポーツを並行してやっている子は多くないと思います。やっているとして水泳などです。また、今年は夏休み自体が少なかったですが、例年は合宿や遠征、大会参加などもありサッカー漬けになります。好きで楽しんでくれるのはありがたいですが、やはり小学生年代からの競技への専門特化によるデメリットも気になるのです。なので、サッカーの時間のなかで全身を使って運動能力を高められるメニューなどがあれば教えていただきたく思います。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。10歳以下は小学3~4年生の子どもたち。スポーツのスキル習得など、さまざまなことを吸収しやすいゴールデンエイジと呼ばれる年代の前半です。■様々な運動が複合的に組み合わさったサーキットトレーニングがお勧めこの年代は、全身をバランスよく動かすことが大切です。よって、さまざまな運動が複合的に組み合わさったサーキットトレーニングをお勧めします。例えば、ジグザグで進む。走る。ジャンプする。でんぐり返る。そのような動きが入ったものを、練習やゲームのウォーミングアップでやってみてください。日本サッカー協会も、トレーニングに鬼ごっこなどを取り入れることを推奨していますね。これらは、神経系、筋力系を刺激していくものです。瞬発力(アジリティ)や調整力を伸ばし、その年代に沿った体幹(※胴回りの強さ)をつくります。子ども自身が、こうしたいとイメージしたとおりにスムーズに動けるようにすることを助けるメニューが、サーキットトレーニング。個々の運動能力をアップさせるためのものです。ここで気をつけるべきは、サーキットトレーニングが「サッカーのドリルトレーニングとは違う」ということです。じゃあ、いつもやっているジグザグドリブルの時間を増やせばいい、というわけではありません。コーンを置いてのジグザグドリブルを何か月も続けてしまうと、そのタイミングでしか曲がれなくなります。同一距離で曲がっていくのですから、それが試合で使える技術ではないことはおわかりいただけると思います。サッカーはその都度、状況に応じて選択するプレーは変化します。それを素早く認知する能力が重要です。理論的にいうと週二回。何か月か続けると向上していきます。すぐに目に見えて効果が出てくるものではありませんが、3か月くらい続けていくと変わってきます。ただし、個々に変化の速度には差があることと、あくまでも楽しく取り組むことを忘れないでください。■現代の子どもたちが苦手な「跳ぶ」は、空間認知にもつながるメニューについては、ネットで検索するとたくさん出てきます。例えば「サッカー協会・キッズ・トレーニング」などと打ち込んでみてください。歩く・走る・スキップする。人間の動きにはいろいろありますね。跳ぶ・ボールを受ける(キャッチする)・投げる・蹴る。様々な運動動作が入っているものを取り入れてください。なかでも、今の子どもたちが一番弱いのは「投げる」動作でしょうか。サッカーばかりやっていると、特にそうなってしまいます。あとは、ジャンプ系。昔の子どもは木登りをしたり、高いところにつかまろうとしたり、跳びついてぶら下がる、といった動作を野外の遊びのなかでやっていました。ジャンプする動作は重要で、空間認知にもつながっていきます。成長するにつれ、ヘディングが出てきますし、コーナーキック時など空中での争いも増えます。ところが、外遊びをしなくなった子どもたちは、日常の動作で「跳び上がる」がほぼありません。特に都市部の子どもたちに言えることです。縄跳びも学校によっては技を競わせてやったりするところもありますが、日常からは減りつつあります。女子のゴム跳びも跳躍運動につながるのですが、今はほとんど見ません。加えて、ご相談者様が「世間ではマルチスポーツが推奨されているのは知っていて、自分も賛成」と書かれているように、小さいときから複数のスポーツに親しむことで身体はバランスよく鍛えられます。■ほかのスポーツの動作を応用するなど、考える力がつくもうひとつ効果があるとすれば、マルチスポーツを選択している子どもは自分で考える機会が多いことです。例えば、スローイングの動作など、野球のときはこうだったけど、これはサッカーで使えるかな?と考えられるかどうか。ここが鍵になります。自分たちでスポーツが上手くできるようになるために、自分で考えて答えを導き出す。野球のコーチがこう言ってたなあ、などと関連付けることができます。野球とサッカーで考えると、サッカーのコーチが野球を並行してやっている子に期待するのは空間認知です。今、自分は一塁を守っている。相手の打球がこう飛んだ、こうしたらいいかな?内野ゴロだとダブルプレーになるからこうしよう。そんなふうに予測して、ポジションをとる。そういった頭の訓練もできます。そういった予測する力を、サッカーにも転化して活かせるはずです。マルチスポーツを経験している子どもは、成長するにつれてやりたいものが増えていきます。やりたいことを新たに始めることを躊躇しません。他のスポーツの楽しさも知っているからです。それはとりもなおさず、その子の生活そのものが豊かになるということに違いありません。■バッタを追いかける動作にもトレーニングの要素が満載(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)そして、最後にお伝えしたいのでは、休む重要性です。フィンランドの教育ビデオを観たことがあるのですが、この国には宿題がありません。脳を休ませないといけないことを、大人たちはわかっているからです。同じように、身体を休めるのも非常に大事です。ドイツで育成年代の指導をしているライターの中野吉之助さんによると、ブンデスリーガの育成組織は、子どもたちを夏は最低2週間休ませるそうです。そうすると、身体が大きくなってピッチに帰ってくるといいます。どんなことも、余裕がないといけません。「例年は合宿や遠征、大会参加などもありサッカー漬けになります」とありましたが、サッカーができないのなら休めばいいのです。空いた時間は遊んだり、他のことをすればいい。遊んでいても、神経系、筋肉系はいくらでも鍛えられます。そこを指導者がどう認めるか。日本の場合は、そこが重要です。幼稚園の子どもは、練習中にバッタを見つけると練習しなくなります。バッタを追いかけて帰ってきません。でも、彼らをよく見ていると、汗びっしょりになって走り回っています。バッタを見つけたら、しゃがんだり。転がったり、飛び跳ねたり。機敏に動いています。サーキットトレーニングの要素が満載です。ところが、日本では「サッカーをしないなら帰れ」と子どもを叱る指導者は少なくありません。そういうとき、私は「バッタ取りに行こう!」と呼びかけます。サッカー教室にきてバッタを追いかけることも、大切だと思っています。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年09月25日監督がリフティングの規定回数を設けていて、達成できない子は試合に出さない。リフティング回数より試合経験を積む方が良いと提案しているが聞き入れてもらえない。保護者の中にも回数を重視している方も多く、「できてないのに試合に出すのか」という声も。どうして日本はこんなにリフティングの回数を重要視しているの?と悩むコーチからのご相談です。既定の回数を設けて評価することは、本来のリフティングの目的から外れるのでサッカーのスキル向上が望めないことや、子どもの自信喪失につながると池上正さんは言います。ではどんな改善を行えばいいのか。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<6歳までに脳の神経系発達は90%に!?サッカーの時間にできる未就学児におすすめの脳を発達させるメニューはある?<お父さんコーチからの質問>U‐8年代の指導をしているのですが、リフティングの回数についてのご相談です。監督がリフティングの規定回数を設けていて、できない子は試合に出しません。既定の回数ができていなくても試合経験を積ませる方が良いのでは、と提案しているのですが、改善してくれません。確かにボールコントロールを身につけるのに役立つ練習ではありますが、同じ場所で回数を重ねるリフティングがサッカーの上達に大きく影響するとは個人的にも思いませんし、実際にプロ選手や指導者の方も回数は重要ではないと言っていますよね。監督もですが、保護者の中にもリフティングの回数を重視している方も多く、「できてないのに試合に出すのか」という感じの事を言う方もいます。子どもたちもリフティング練習が好きで、一人でやれる手軽さもあって家でもやっているようですが、海外では日本のようなリフティング練習は無いとも聞きます。プロ選手でも何十回もできない選手もいるようですし。どうして日本はこんなにリフティングの回数を重要視しているのでしょうか。根深い問題だと感じています。リフティング信仰から目を覚まさせるアプローチや、おすすめの練習などはありますでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。欧州や南米の子どもはリフティングをして遊びますが、回数を数えません。しかも、リフティングをするのは基本的に小学生くらいの年代、子どもの間だけです。有名な選手がやっていたリフティングの技を真似して遊びます。ロナウジーニョ(元ブラジル代表)やネルシーニョ(柏レイソル監督)などでしょうか。そして、それらを選手が試合で使っていることを知っているので、自分たちも実際に試合でやるために練習するのです。■規定回数での評価はスキル向上につながらないしたがって、回数を数えてリフティングをするのは日本だけです。コーチに「百回目指せ」とか「千回できた人から試合に出します」などと回数を定められ、その目標に向かって黙々とやります。規定回数があるため、失敗したくありません。失敗しないために、ずっと利き足だけでやる。もしくはずっと同じ蹴り方、例えば全部インステップでやるという状況になりがちです。ボールを扱うスキルを向上させるために始めたはずが、途中で「決められた回数をやる」という本来の目的とは違うものにすり替わっていきます。欧州や南米はそうならないのに、なぜ日本だけがこうなってしまうのか。それは教育が関係しているようです。学校教育の特徴として、テストであれば100点を取ることが求められます。何か数字的な目標があって、そこに向かって突き進む。よって、リフティングも回数が決められてしまうのだと考えられます。スポーツが「評価されるもの」というとらえ方を大人がするので、子どもにとってスポーツをする楽しさがどんどん半減していきます。しかしながら、そうなってしまうと、もとの目的からどんどん離れてしまう。もっと言えば、サッカーでなくなってしまうわけです。スキルの向上は望めないうえに、決められた回数に届かない子どもは「ぼくはダメだ」と自信を失います。回数というわかりやすい指標があるため、子ども同士で比べあってぎくしゃくすることもあります。■スキルを磨くのは試合で使うため例えば、少しボール扱いはスムーズでなくても、空間認知の能力が高くいいところでボールを奪えたり、危険察知能力があってポジショニングが上手な子など、目に見えづらい力を持っている子どもたちがいます。そういう子どもが意欲をなくしたり、悪くすればサッカーから離れるといったリスクも考えられます。先日、中学生が「ヒールリフトを練習したので、見てください」と言ってやってきました。実際、彼はとてもうまくなっていました。「せっかくうまくなったんだから試合で使ってごらんよ」私がそう言うと、彼は「え~っ?」と驚くのです。「いや、何のために練習したの。ヒールリフトってどうしても抜け出せないときに、使うと便利だよね。コーチも練習して使ったよ」彼の反応からは、使う気がないけれど練習したことが伝わってきました。そんな子どもをブラジルのコーチが見つけると、「君はサーカスに行くの?」と言います。練習はあくまでサッカーの試合に出てくる技術を磨くのが目的です。そうすると、リフティングをする場面はどのくらい出てくるでしょうか。百歩譲ったとしても、浮き球のコントロール程度です。それを何千回もできる必要があるでしょうか。フットサル指導者のミゲル・ロドリゴさんも「リフティングは試合で使わない」とおっしゃっていました。立ったまま動かずにボールを何度もリフティングするような場面は、試合にはありません。スキルを磨くのは試合で使うためです。日本の指導者や子どもたちはそこをもっと意識すべきです。■利き足だけでなく、身体のいろんな場所でのコントロールを心がけることよって、リフティング練習は基本、必要ないと思います。ただ、リフティングをさせるのなら、回数を目指すのではなく、試合で使うスキルを向上させることを念頭においてください。まずは、二人でボールを交換する練習をしましょう。パスを受けたらリフティングして返す。ダイレクトで返す。左右交互に使う。もも、肩、頭、胸など身体のいろいろな場所を使ってコントロールすることを心がける。二人でパス交換しながら移動してもいいし、ひとりでやるのなら壁に充てたボールをリフティングする。また、お母さんやお父さんに投げてもらったボールをコントロールして返す。それも可能なら移動してやる。このような練習は、ボールコントロールのスキルだけでなく、身体のバランスをよくするコーディネーションにもつながります。神経系を刺激して自分の思うように身体をスムーズに動かす力を養います。そのためにも右も左もバランスよく使うことが肝要です。私は大学時代、インステップを左右、アウトサイドで左右、インサイド左右からヘディング、そしてまたインステップに戻る練習をひとりでよくやりました。このようにさまざまな蹴り方、運び方を何周もするのは容易いことではありませんでした。ひとりでやるときは、そんな方法もあります。次ページ:指導者が制限をかけるとサッカーの楽しみが減ってしまう■指導者が制限をかけるとサッカーの楽しみが減ってしまう(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)もうひとつ、指導者の視点で言うと、ある意味自分が見てなくてもいいのがリフティング練習です。100回やるよと指示して、できない子にハッパをかける。言い方は悪いかもしれませんが、コーチが楽をできる練習です。そうやって指導者が子どもたちに制限をかけていくと、サッカーの楽しさが減ってしまうでしょう。指導の場面にそぐわないように思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年09月11日6歳までに脳の神経系統が大人の90%に発達すると知り、脳を発達させるメニューを知りたいコーチ。ですが、未就学児に集中させるのは難しいですよね。飽きて一人でほかの事をしだす子もいるし、この年代に教えるにはどうすればいい?というご相談です。今回のご相談に池上さんが提案する、子どもたちが楽しんで取り組める「遊び」の要素を取り入れたメニューとは。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にしてみてください。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<技術はあるのに「1対1を組み合わせた」単騎攻撃ばかり。連携のイメージをつけさせる指導法を教えて<お父さんコーチからの質問>スクールで未就学児を指導しています。6歳頃までに脳の神経系統は大人の90%にも達すると聞いたので、脳を発達させるためにいろんなことにチャレンジさせたいのですが、いかんせん集中が続かない年代なので、練習にあきたり、一人で違う事を始めることもあります。まだ始めたばかりの子たちで、中にはゲームでの接触を怖がったりして積極的にボールを追えない子もいるのですが、この年代におすすめの練習はありますか?<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。おっしゃる通り、脳の神経系統は6歳頃までにぐんと発達します。このあたりの概論は日本サッカー協会のB級ライセンスを取得する際に学びますね。では、6歳までに発達する90%とはどんなことでしょうか?■遊びの中で身体の動きをスムーズにすることもできる例えば、手の指が一本ずつ折れる。グー・チョキ・パーができる。そのような基本的な動きが該当します。そこから、例えば「右手がグーで左がパーをやってごらん」と言われると、ちょっと難しく感じる子どもが出てきます。さらに、その右手グー、左手パーと違うものを出している状態から「グー・チョキ・パーの順番で変えていこう」となったら、ひとつずつずれていくわけです。(大人でも難しかったりします)そうなると、左右違う動きがなかなかできません。そんな基本的な動きを、遊びのなかで行うだけで、身体の動きはスムーズになります。例えば、鬼ごっこ。鬼ごっこには、本当にいろんな動きが含まれています。鬼が来た。鬼が右に行こうとしたのを見定めて、左に動いてタッチを避ける。もしくはかわすためにしゃがむ。動いている場所に、石とか、椅子とか、何らかの障害物があればそれをよけたり、飛び越えて動く。そんなふうにたくさんの遊びの要素をもったものをメニューに取り入れると、スムーズな動きが自然に身についていきます。■サッカーボールを使った左右バランスの取れた発達を図る方法もまた、幼児期にできるものとしては、サッカーボールを手で使うメニューがあります。右手と左手、両方で交互に投げさせます。右で投げるときは右で投げる姿勢と動きに、左は左のそれになります。6歳くらいで始めると、利き手で投げる動作をたくさんやっていないので、左右どちらも簡単にできるようになります。利き手と逆の手で投げる不自由さを感じないので、子どもは抵抗なく交互に試るからでしょう。ずっと利き手ばかりで投げていると、利き手のほうがスムーズなので逆の手で投げたがらなくなります。これは大人もそうですね。これは、足でも同じことが起きます。6歳以下の幼児の頃から両方の足で蹴ることを遊びの中でたくさんやってみてください。そうすると、左右バランスのとれた発達が図れます。■あまり気負わないこと、大人が義務感をもってしまうと「遊び」が楽しめない少年サッカーでは、小学3年生くらいからコーディネーションのようなトレーニングをしていますね。そんなふうに考えてやってみてください。そして、気をつけたいのは「6歳になるまで90%成長してしまうから、今のうちにいろんなことをやろう」と大人が気負わないことです。あくまでも楽しく遊ばせてあげてください。何かの本に書かれている通りにやらせなくてはと大人が考えてしまうと、遊びでやっているはずが遊びでなくなってしまいます。もっと簡単に考えると、幼児期はスキップくらいで十分です。それより上、小学3年生くらいであれば、スキップしながら手を回す。手を叩きながらスキップする。身体全体をスムーズに動かすメニューですね。ほかにも、サイドステップをしながら手を回したり、道具を使う「ラダー」などさまざまあります。ネットで検索すればたくさん出てくるでしょう。ただし、そういった運動を長い時間やる必要はありません。ちょっと経験するくらいの程度でいいのです。足がクロスするような動きの入ったものも3年生くらいからやるといいでしょう。■遊びの要素はとても重要、「我慢」ではなく楽しくて続けられることを意識して「遊びの要素」はとても重要です。大阪教育大学の先生で「子どもの遊び」の研究をされていた方が、子どもが本当に楽しいと感じたものはいつまででもやると言われていました。ノコギリで丸太を切ることにハマってしまった子どもは、30分くらい一心不乱で切り続けます。幼児の集中力は、興味関心と関連があります。楽しくなれば、ずっとやります。大人は、小さい子はすぐ飽きてしまうと思いがちですが、彼らは集中力がないわけではありません。日本人の「集中力をあげる」というイメージですぐに浮かぶのは「我慢・忍耐力・根性」です。ここを改めなくてはいけません。子どもは楽しいものを提供すれば喜んで取り組みます。サッカーも、最初に一番楽しいはずの「試合」から入らないから、そんなことが起きるのだと思います。多少気が弱いとか、相手とぶつかりそうになったらやめるといった傾向があっても、試合はこんなことなんだよ、ボールの取りあいがあって、点が入るとうれしいよね、ということが伝えられたら子どもは変わっていきます。その点で、年齢が下がれば下がるほど、すべてが楽しいものになっている必要があります。指導者も同様の対象です。「あのコーチとやるのは楽しい」という評価が、コーチのありかたにつながってほしいと思います。ところが実際は「楽しい」よりも「勝たせてくれるかどうか」みたいなことがコーチの評価になりがちです。「積極的にやれ」「逃げるな!」と叱ったりする場面を見ることはまだ多いです。しかしながら、子どもにはそういう面があることを理解しておいてほしいのです。「いま、逃げなかったらどうなると思う?」と問いかけて、解決の方法を子どもと一緒に見つけ出すことが求められます。■「無理しなくていいよ」と言ってあげることが大事(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)じゃあ、どんな練習だったら、怖くないかな?こんなふうに一度やってみる?と、少し強度を下げたり、違う形でやるメニューを提供してみることで、子どもたちは克服できる。3年生、4年生になって、子どもがぐっと変わったりしませんか?そこまで待ってあげましょう。この子は弱気だと決めつけたり、無理やりやらせる必要はありません。サッカーが嫌いになってしまいます。「ぼく、できない」と言ったときに「無理しなくていいよ」と言ってあげること。何回かでできなからといって、その子の一生が決まるわけではありません。長い目で見てあげてください。6歳の子が何かができなければ「じゃあ、来年1年生になったらまたやるか」と言ってあげてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年08月28日帯同するコーチによって下の学年の起用機会、頻度が変わるチーム。積極的に起用してくれるコーチばかりなら経験を積めるけど、起用してくれないコーチの帯同が続くと試合に出られない。これが続くと、試合に出られる学年と出してもらえない学年の子たちで技術にもモチベーションにも差がつく。小学生年代なら均等に出場機会を与えてくれてもいいのでは?と悩むお母さんからのご相談です。出場機会の問題にモヤモヤしたり悩んでいる保護者の方も多いですよね。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<試合多すぎ!なのに上手な子ばかりが延々試合に出続ける不条理を何とかしてほしい問題<サッカーママからのご相談>こんにちは。息子(11歳)のチームの指導者についてご意見を聞かせて下さい。チームには10人以上コーチがいるのですが、監督がいません。コーチは、卒業生のお父さんや、在籍中の子の父親などのボランティアコーチです。子どもたちの人数が多くないので2学年で試合に行くことが多いのですが、下の学年の選手起用機会、頻度が試合に帯同するコーチによって違います。積極的に下の学年を起用するコーチだと、上の学年の試合でも必ず一度は出場させてもらえたりしますが、そうでない方だと、上の学年の試合ではベンチにいるだけ。練習試合でも、数分の出場のみ......ということもあり、試合当日のコーチが誰になるかによって考え方が変わる為、不公平が生じています。それが在籍中何年も続くとたくさん試合経験をした子(学年)と、そうでもない子(学年)に分かれてしまうのです。下の学年の起用に積極的なコーチが担当する学年の子たちはいつも楽しそうですし、たくさん試合経験を積めて上手くなっていますが、そうでないコーチが担当する学年の子たち(息子含む)は、モチベーションが上がらないようで淡々としていますし、出場機会の多い子たちに比べると上手くないです。機会の不公平さに、親の方も何だかモヤモヤした気持ちを抱えてしまいます。監督をたてない方針は構わないのですが、コーチたち全員のまとまった方針がないので育成の面で矛盾が生じていると思っています。まだ小学生なので、出場機会は均等にしてくれてもいいのでは。と感じているのですが、このような状態でも親は黙ってみているべきでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。毎回ご相談のメールだけでは判断が難しいものですが、今回は特に難解な事案ではあります。下の学年の選手を起用する機会や頻度が試合に帯同するコーチによって違っていて、試合当日のコーチが誰になるかによって変わる――という理解を私はしました。そうすると、下の学年の選手もたくさん出場させる人と、そうでない人が入れ代わり立ち代わり現れるわけで、均(なら)せば均等ではないかと感じます。違うのでしょうか。■黙って見守ることがマストではない。何をどう伝えるかがポイントいただいたご相談文だと、息子さんは現在「下の学年」ですね。そして、コーチは息子さんら下の学年を試合に出さないということですね。しかし、その方は今度は息子さんが「上の学年」になったときは、息子さんたちを出場させるということになります。例えば2年間くらいのスパンで言えば、試合の出場時間は同じになりそうな気もします。もちろん、このやり方がいいとは言いません。「小学生なので、出場機会は均等にしてくれてもいいのではと感じている」というお母様のご意見、もっともです。そして、親が黙ってみているべきか?という質問については、黙って見守ることがマストだとは私は思いません。このお母さんのケースでは、誰に対し、何を、どのように伝えるかが課題だと思います。クラブ(もしくは少年団)側が、例えば「みんなで作る、みんなのクラブ」をモットーにして、「みんなで意見を出し合っていいクラブにしましょう」と呼びかけているようであれば、意見はしやすい。しかし、息子さんが所属するクラブは、そんな感じでもなさそうです。では、どうするか。■一人で悩まず同じ意見を持つ保護者を集めようまずは、仲間を作りましょう。同じように、子どもたち全員に試合の出場機会を与えてほしいと考えている保護者を集めるのです。ひとつの要望として「こんなふうに考えてほしい」と話をまとめることが先決です。息子さん個人のことでとどまらないよう、チームの課題として考えてもらわなくてはいけません。次に、クラブの代表の方に要望を伝えましょう。監督は置かない慣習のようですが、ひとつの任意の集団なので一番上に立つ代表格の方はいらっしゃるかと思います。徒党を組むというイメージではなく、あくまでもひとり一人の子どもが楽しくサッカーをするために考えてほしいと伝えるのです。この連載の前回(91)で、『上手な子ばかりが延々試合に出続ける不条理を何とかしてほしい問題』を書いています。お母さんと同じように、子どもが試合に出られない不条理を訴えられています。私はこの記事の文中、「日本の少年サッカーの全員出場させない悪しき慣習には、四つのマイナス面がある」と書き、それを説明しました。サカイクのサイトからこの部分をコピーして渡してもよいかと思います。その際、絶対に感情的になってはいけません。まずは、日ごろボランティアでコーチを務めてくださることに感謝の意を伝え、できれば笑顔で主旨を伝えます。その際、当方の記事以外に、サカイクなどで報じられている他クラブや少年団の実践例や、池上正コーチの本なども添えて渡してもよいかと思います。そのように苦心されても、代表の方やコーチの方々からまったく話を受け付けず「クラブのことはクラブに任せて」と言われる可能性は高いでしょう。そもそも、日本サッカー協会のキッズ指導や、ライセンス取得の際に「試合に全員出場させる」ことは規定化されていません。ルールもなく、罰則もないので、コーチたちは技術が秀でた子どもの出場時間が長くなる傾向があります。したがって、全員を出場させるメリットや、逆に全員をプレーさせないリスクが伝えられていません。このため、多くのクラブにおいて、個人の育成やサッカーの普及、チームの底上げよりも、一つ一つの試合を勝つことにベクトルが向いているのが実情です。でも、だからといって、お子さんを他のクラブに移籍させるとか、サッカーをやめさせたりしないでください。■中学に入るまではなるべく楽しめるようにサポートしてあげること(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)11歳なのですでに上級生です。サッカーを遊びだととらえて、息子さんが中学生になるまでなるべく楽しめるようサポートしてあげてください。ゲーム形式の練習をたくさん行うスクールに通うことも一考です。国内でも海外でも、好きなチームの試合を親子でオンラインやテレビで一緒に観てもいいでしょう。試合に出られないことが、ダメだ、情けない。試合に出られないから上達しない。そんなネガティブな事柄を発信しないほうがいいです。試合に出られず一番残念なのも、焦っているのも息子さん本人です。子どもは親が思っている以上に、いろんなことを感じているし考えてもいます。試合以外の練習でサッカーを楽しむ。ミニゲームや紅白戦を目いっぱい楽しむ。そんな姿がお母さんはとても誇らしい。そんなことを伝えましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年08月19日